●あらすじ
ハルの治療と引き換えに、世界を救って欲しいと頼みに来たエディー
俺達はそれを引き受け異世界へと旅立った。
ハルは治療を受けるため、医療施設へ…俺とレミは、闇の核の神殿へと向かうのだが…
その途中、ジャングルの中でレミを襲う熱病。
追い討ちのように襲い来る、新たな敵『ライトブリンガー』
俺達は辛うじてそいつを倒し、闇の神殿へと辿り着くのだが……
そこで課せられた使命は、闇の核の再生だった。
関連
魔法少女ダークストーカー
http://ayamevip.com/archives/41905131.html
魔法少女ディヴァインシーカー
http://ayamevip.com/archives/41905179.html
元スレ
魔法少女ダークストーカー
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1414330789/
―魔法少女ダルマサンサーラ―
●じごです
闇の核「ご苦労さまでした…貴方方の尽力により再び闇の力を取り戻す事ができました。これでもう、ここが襲撃に逢う事も無いでしょう。ただ……」
俺「………まだ何かあるのかよ」
レミ「さすがに……また、あれをやるのは……」
思い出して真っ赤になるレミ。
途中からは勢いで物凄い事になってしまったしな………まぁ当然の反応だ
闇の核「いえ、そうではありません。むしろ逆……再生が過剰に行われてしまい、今度は闇の力が強くなってしまいました」
レミ「―――――!!!」
真っ赤になった顔から今度は湯気を噴出すレミ
………まぁうん、遠回しにヤりすぎだって言われたのだから当然だ。
かく言う俺も内心かなり恥ずかしい。
闇の核「と言う訳で……レミさん。余剰分は貴女の管理下に置いて頂きたいと思います」
レミ「え?…それってつまり…」
俺「新しいダークチェイサーにして良い…って事だよな?」
レミ「………!!」
今度は言葉にならない程喜び、俺に視線を送るレミ…くそう、気付くと色々可愛いぞこいつ
俺「んじゃまぁ…ってー事はだ………俺達への依頼はこれで完了って事になるんだよな?」
闇の核「はい…この上無い成果です」
よし………長かったような短かったような旅はこれで終わりだ。
これで後はハルを迎えに行って…治療が終わっているようならそのまま元の世界に帰還。
終わって無いならそのまま待つだけなんだが……
俺「そう言えば、帰りの手段はどうなってるんだ?俺達あの扉とか持って無いぞ」
闇の核「その事でしたら心配要りません。私が元の座標へとお送りします」
と言うと同時に黒い光に包まれる俺達。
目の前が黒で埋め尽くされたかと思うと、今度は元の医療施設の前に立っていた…のだが―――
●いずこへ
エディー「………」
俺「うぉっ!?びびった…待ち伏せかよ!?ってか……そんなに黙りこくって一体どうした?」
エディー「皆様には申し開きの言葉も御座いません……ハル様が攫われてしまいました」
そこに待ち受けて居たエディーの口から放たれたのは、とんでもない言葉だった。
俺「………は?何を言ってんだ!?どういう事だ!?」
レミ「どういう事なのよ!ハルが攫われたって!!」
エディー「お二人が扉を潜り、闇の神殿に向かった直後の事でした…ハルさまがお眠りになった所を…」
俺「誰だ……一体誰が攫ったって言うんだ!!まさか…お前か!?お前が最初から――」
エディー「滅相も御座いません!私の不始末故この命を捧げる事は厭いません!ですが…せめてその前に、ハル様に関して今判る事を聞いては頂けませんか!」
レミ「っ………まあ、攫った本人がわざわざ事後報告するのもおかしいわね。それより、少しでも情報が欲しい所だし…」
俺「それもそうだ……悪い、続けてくれ」
頭に血が上り過ぎて熱くなっていたようだ。そうだ…レミの言う通り。こいつらが攫ったのなら、一々それを報告する筈が無いんだった
エディー「ハル様を攫った犯人は、恐らく光の恩恵派の者かと…」
俺「光の恩恵派?名前からして、光の勢力みたいだが…」
??「そう…光と闇に分かれた派閥の、光側…その中でも最も危険視されている団体さ」
俺「なっ……!? お…お前は!!!」
そして…俺達は思いもしない相手と再会する事になった
俺「ディーティー!!!手前ぇ、生きていたのか!」
右手を巨大なかぎ爪に変え、ディーティーへと襲い掛かる俺…だが、それを遮る見えない障壁
??「おっと、この施設周辺での攻撃行動は制限されてるから無駄だよ。あと、付け加えさせて貰うと…ボクはキミ達が知っているディーティーじゃぁ無い」
俺「どういう事だよ…!!」
??「キミ達が知っているディーティーというのは、ディーティー02…ボクのコピーさ」
レミ「コピーって……」
DT「そしてボクはオリジナル。ダークテイカー、略してDTさ。まぁいきなりこんな事を言われて信じられないかも知れないけど…」
俺「そうだな……お前がオリジナルかコピーかは関係無く、お前が信じられない」
DT「うーん、初対面でいきなり物凄い嫌われようだなぁ。02は相当酷い事をキミ達にしたみたいだね」
右手を戻す俺…しかし、こいつ…DTに対する警戒だけは消す事が出来ない。
レミ「そうね…多分アンタをあと98人くらい殺さないと気が晴れないと思うわ」
DT「それはさすがに困るなぁ…まぁ、ボクに対して憎悪があるのは判ったから、続きを喋ってもいいかな?」
俺「早くしろ」
DT「恐らく、彼等の目的は彼女…ハルくんの魔力だろうね。ハルくんの魔力に関しては知っているだろう?」
俺「………」
DT「で……キミ達が出発…つまりハルくんが攫われてから既に八日が経過している。この意味が判るかな?」
俺「勿体ぶらずに言え」
DT「もしかしたら、最悪の事態…手遅れになっているかも知れない。この意味は判るだろう?」
俺「……っ!!」
DTを切り刻んでしまいたい衝動を必死で抑える俺。
エディー「DT!!それはくあまで想定しうる最悪の事態の中でもこの方達にとって取り返しのつかない事!!口を慎みなさい!」
DT「判った判った………じゃぁ他の可能性に関しても話してみようか。連中の目的はハルくんの力…要は、彼女の力を自由にしたい訳だけど…」
俺「まさか……テレパシー……洗脳!?」
まさにそこの、DTのコピーであるディーティーが使った手段だ
DT「そう…良いセン行ってるね。テレパシーは契約者でなければ使えないけれど、洗脳ならば彼等でも出来る…」
俺「だったら、俺がまたハルを正気に戻せば…」
DT「彼等の手段が洗脳だったら…ね。あと、洗脳解除を行うにしても……これだけの帰還が経ってしまうと、相当強固な物になっている可能性が高い」
俺「だとしても……ハルを助けなけりゃ…」
DT「キミの声が耳に届かない状況さえもありえる…そうしたら、無理にでも聞かせるために行動不能にしなければいけないかも知れないよ?」
俺「っ…………それでも…!!」
DT「ふむ………まぁ、覚悟自体は出来てるみたいだね。じゃぁ改めて聞くけど…ハルくんを助けに行きたいかい?」
俺「当たり前だ!!!」
DT「よし、じゃぁ出発しよう。あの辺りは転送が使えないから、アルバトロス…君達が乗ってきた鳥での移動になるんだけど…」
俺「あの辺り…って、ハルが攫われた場所を知ってるのか!?」
DT「だからボクが呼ばれたんだよ」
含みのある言葉…その真意を汲み取る事は出来ないが、今はDT意外に頼る伝が無いのもまた事実。
俺達は、このDTの言葉に乗せられるまま旅路へと向かうのだが………どうしても不安を拭い去る事が出来ない。
●みちのり
レミ「それで…その、光の恩恵派って言うのは一体どんな奴等なの?過激派って言ったって、色々あるでしょ?」
DT「一言で言えば、狂信者…かな。この世界の法を作り変えようとしている系の」
レミ「どんな風に?」
DT「この世には光の恩恵のみがあれば良い…その結果世界が死へと向かっても、それが運命…抗うなかれ…って法にね」
レミ「………判り易い狂いっぷりね」
DT「それと…死を恐れないが故に、兵士が決死の特攻を仕掛けて来るのも特徴かな。ほら、あんな風に」
DTの言葉に促され、その視線の先を見据える俺達。
そしてそこに居るのは………およそ100人は居るであろう飛行兵と…ライトブリンガー。前回は右手だったが今回は左手のようだ
…さしずめ右手の敵討ちと言ったところか。だが返り討ちにしてやる
臨戦態勢に入る俺達…俺はアルバトロスから飛び降り、落下までの間に巨大な翼を生成。続いて蜥蜴のような胴体を生成し…
物はついでだ、角も生やしておく。
レミはレミでアルバトロスの上に待機したまま、飛行可能なダークチェイサーを分化。良い判断だ。
兵士どもの光の刃はハルのそれとは比べ物にならない程弱く、俺の皮膚すら貫く事は出来ない。
決死の特攻自体は恐ろしいと言えば恐ろしいが、俺の命を脅かすにはまだまだ戦力不足だ。
この圧倒的な質量差の前では、返り討ちにされるだけの空飛ぶ的でしか無い。
そしてレミに至っても……光の刃さえ当たらなければ、何の問題も無い。
先のライトブリンガー戦で見せた、黒い線…それにより大半の兵士を蹴散らし
残った兵士には…圧倒的に機動力で勝るダークチェイサー達の攻撃。
飛行兵の攻撃は掠りもせず、逆に………一人…また一人と撃墜されて行く
DT「成る程…これが噂のダークチェイサーの力か…02め、なかなか良い仕事をしてくれたじゃないか」
まるで自分の事のように喜ぶDT…そうだな、ディティーもダークチェイサー達を殺そうとしなければ、こんな風にしていられたのかも知れない
DT「さて…問題はこいつか…確かライトブリンガーとか言う名前だっけ?」
どうやらDTもライトブリンガーは初見のようだ
俺「もっと上空を飛んでろ!こいつは俺がやる!!」
そう宣言してライトブリンガーへと襲い掛かる俺…
一度は戦った事のある敵で、加えて俺は万全の状態…その上新たに生まれたダークチェイサーにより、あの時よりも更にパワーアップしている。
そう…そこに負ける要素は無かった
DT「成る程…ダークチェイサーの特性が大分見えて来たよ」
砂漠を越え…建築物らしき物が見えて来た所で語り始めるDT
DT「彼女のダークチェイサーは、光の刃に耐性こそ無い物の、変幻自在…分離も可能」
DT「彼のダークチェイサーに至っては…光の刃さえある程度防ぐ程の防御力を持っているのか」
まだ見せていないだけで、レミに言った特徴を俺も持っているけどな。
あと…レミは指示を出さずに扱えるようなった分、反応速度が段違いに上がっている。
しかし、やっぱりレミの方は光の刃に弱かったのか…注意しておかなければ。
…と、悠長に考えている暇も無く、近付いて来る敵の本拠地。
恐らくはあそこにハルが居る。待って居ろ…無事で居てくれ。
●もうすぐ
兵士A「我等が祈願……ハレルヤ様が必ず……」
兵士B「ハレルヤ様………どうか……」
本拠地内部…ここに来てやたらと耳にする名前…『ハレルヤ』
レミ「ねぇ、コイツらがよく口にしてるハレルヤって…人名よね?」
DT「そう…単語の意味としては『光あれ』…何とも光の恩恵派らしい名前じゃないか」
エディー「となりますと、恐らくは…」
俺「黒幕…敵の親玉。ハルを攫わせた張本人の可能性が高いか」
レミ「じゃぁ…そのハレルヤって奴の事も聞きながら倒して行くのが良さそうね」
そうして情報収集を兼ねつつ侵攻して行く俺達…
どうやら、ハレルヤと言うのはこの兵士達の信仰対象…光の核の代行者である事は間違い無いようだ。
そして、そのハレルヤとやらの居場所も突き止める事が出来た。
残念ながらハルの居場所に関しては全く情報が入らなかったが…それももう時間の問題だ、ハレルヤとやらに直接聞いてやる
エディー「DT…現時点に置いて、ハル様の安否に関してはどう考察されますか?」
DT「そうだね…ハルくんの魔力量と今までの光の恩恵派の戦力を考えると…その膨大な魔力を使用した可能性があるのはライトブリンガーくらいか」
エディー「…では………」
DT「それだけの魔力を貯蔵する施設は見当たらないし…精神の安否はともかく、生命に関しては無事であると見ても良さそうだね」
小声で話すエディーとDT…俺達に気を使っての事なのだろうが、悪いが俺には聞こえている。
しかし、精神の安否か………最悪、ハルを相手に戦って行動不能にまで陥らせなければいけない……その事態だけは起きて欲しく無い。
そんな心配をする俺…だが、いつまでもそんな事を考えている暇は無い。
俺「くそっ…今度のライトブリンガーは二体同時かよ!」
現れたライトブリンガーは右足と左足。
●かいがん
辛うじて右足と左足、二体のライトブリンガーを倒す事が出来た俺達。
ハレルヤの居城まであと一歩…となれば当然敵の守りも厚くなってくる。
雑兵も去る事ながら、今度は同時に三体のライトブリンガー……
恐らくは右目と左目……そして、口……いや、外殻に覆われてよく判らないが、恐らくは顎全体か?
右目と左目はその瞳孔付近に光の輪を形成し、比類無い程強力な威力の閃光を…
顎は外殻の上から刃を形成し、襲い来る。
ライトブリンガ-と雑兵を同時に相手にする俺達…混戦を極める中………こう言うのも変だが、眼球ライトブリンガーと目が合う俺。
俺「――――!?」
感じたのは、形容しがたい…えも知れぬ寒気。
その正体に気付く事も無く…いや、勘ぐる隙すら与えられないまま続く攻防。
決着がついた時には、俺達は皆満身創痍…死者が出て来ないのが不思議なくらいだ。
レミ「それで………あとは、この中庭さえ突っ切っちゃえばハレルヤの居城な訳なんだけどさ」
俺「いや……レミの言いたい事は何となく判るんだが………なぁ?」
レミ「でもさ、これっていわゆるお約束…じゃない?」
止めてくれ、それは言葉にしたら起きる類のジンクスだ
DT「今までのライトブリンガーは全て人体のパーツ…と言う事は」
おい止めろ
DT「最後の最後に登場するのは、それらのパーツの集合体…という事かな?」
あぁくそ、言っちまった!
無言で足を速める俺…それに続くレミ…
しかしDTは合いも変わらずマイペースで歩き…
DT「大丈夫、さすがにその心配は無いって。今までのライトブリンガーはちゃんと倒したんだ、倒した相手がそう簡単に蘇るなんて、ある筈が無いだろう?」
俺「……………」
そう言って扉を開くDT………俺達の予想が当たらず安堵した反面、DTの予想が当たった事への悔しさも滲み出る。
くそっ、助かったって言うのに何か悔しいぞ。
●ざんこく
DT「さて………恐らくはここがハレルヤの居る部屋なんだろうけど…」
レミ「今の今まで、ハルと対峙しなかったわね」
そう…俺が一番気になっているのはそこだった
DT「可能性としては…魔力を使い果たして居る。魔力を残し、どこかに監禁されている。ハレルヤと共にこの先で待ち構えている…辺りが高いと思うけど」
俺「どれも碌な状況じゃないな。せめて、最後の可能性だけは引き当てたく無い物なんだが……」
そう言いながらも覚悟を決め、扉を開ける俺。
―――結論だけ言おう。俺達が一番懸念していた、最後の可能性では無かった。
ただ………これは何と言えば良いのだろうか
DT「生命維持用ポッドの中に一人……これが今まで兵士が言って居たハレルヤで間違い無いだろうね」
そうだ、恐らくはそれがハレルヤで間違い無い。
DT「しかし…肝心のハレルヤがこの状態では、ハルくんの所在を聞き出す事は出来ないね」
そこに居たDT以外の全員が押し黙っている。いや………DT以外の誰も喋る事が出来ないと言った方が正しいだろう
DT「よし…大分手間はかかるだろうけど、建物を一つ一つ探して行こう。さすがにほぼ全滅のこの状態で、人質になるハルくんが殺されたりはしないだろう」
そうだな…その通りだ、確かにこの状況で光の恩恵派の奴等がハルを殺せる筈が無い。
DT「しかし、さっきまでのライトブリンガー…このハレルヤって子のパーツを元にして作られて居たんだねぇ」
そう…さっき感じた寒気の正体は正にそれだった。
DT「いや…よく見るとこの子が欠損してるのって、ライトブリンガーに使われたパーツだけじゃないね…脳や頭の一部も切除されて、電極で強制的に……」
レミ「………………て……」
震える声で呟くレミ
DT「ん?どうしたんだい?」
レミ「………めて…………やめてよぉぉ!!!!!」」
その場に響く悲痛な叫び
DT「え?止めるって……………………ぁ………まさか………」
そう…話を戻そう…ハルがハレルヤと共に待ち構えては居ると言う事態は無かった。
この部屋で待ち構えて居たのはハレルヤ一人だった。
いや………違う………
ハレルヤと呼ばれ…狂信の対象にされていた……
変わり果てた姿の……
ハル だった
●きうさい
確かにハルは監禁されていた…
確かにハルは魔力を使いきっていた…
確かにハルは洗脳されていた…
確かにハルは生きていた…
喜べよDT、ハルの状況はまさにお前が予想した通りだぞ
俺「………く…そぉぉぉっ!!!」
どうすれば良い?
どう受け止めれば良い?
どう解釈すれば良い?
どうすれば解決する?
どうすれば元通りになる?
奇跡か?魔法か?
いや、魔法での治療だって限度がある。さすがにこんな状態になったハルを……いや、どうなんだ?
俺「なぁ…………治療魔法って………」
DT「言いたい事は判るけど……さすがにここまでの状態になると…ねぇ」
俺「いや…魔法だろ?」
DT「魔法だからって万能な訳じゃないんだ。失われた部位を再生するまでは出来るけど……脳までとなると」
止めてくれよ…否定しないでくれよ………もう他に手は無いんだぞ?
DT「それに、もし奇跡的に脳の再生を行えたとしても。記憶……人格までは……」
おい…奇跡まで前提にした上で否定するなよ。だったら俺は何に縋れば良い?何を頼りにすれば良いんだ?
俺「だったら………俺は一体どうすれば……」
DT「そうだね…君に出来る事は………ハルくんを一刻も早く楽にしてあげる事くらいじゃないかなぁ」
正論だ…あぁ、吐き気がするくらい正論を吐きやがる。
DT…確かにお前は正しい。推測は確かに当たってたし、やるべき事も的確だ。
だが………どうしてもそれを飲み込む事は出来ない
俺「そんな事…そんな事が出来る筈無いだろ!!」
DT「だったらどうするんだい?見なかった事にして帰るのかい?」
俺「そんな訳無いだろ!!!」
DT「じゃぁここに居て何をするのか教えておくれよ」
俺「――――っ!!!」
駄目だ…反論の言葉も出ない。
何も考え出す事が出来ないまま、ただ無為に時間だけが刻まれて行く。
そして…その沈黙を破ったのは―――
エディー「危ない!お逃げ下さい!!」
エディーの声。そしてその原因…ハルだった。
体中のあらゆる場所から光の刃を形成し、何の前触れも無く暴れ出すハル。
そしてその光の刃は、ハルの入っていた生命維持用ポッドを切り裂き…その周囲の壁を切り刻む。
一番近くに居た俺が皆の盾になり、幸い負傷者は出なかったんだが……
俺「ハル………」
レミ「……………」
見るからに…苦しそうにもがくハル。
俺が呼んでもそれに対する反応は無く、ただただ暴れるハル。
ハルの耳にもう俺の言葉は届いていない……いや、届いてもそれが俺の声である事すら判らないのだろう。
俺「俺は…………どうすれば良いんだよ……」
DT「先送りにしたいのなら…ここで彼女を気絶させて連れ帰るという手も無い訳じゃないけど…」
考えを先回りして否定をするな。言いたい事は判ってる。何も解決にならないんだろ!?
レミ「ハルは………」
口を開くレミ
レミ「もしこの状態を自覚したら、どういう事をするか…それを考えてた」
俺「………止めてくれよ…お前はハルの親友だろ?お前は誰よりもハルの事を判ってる………そんなお前が結論を出したら…」
レミ「それはアンタも同じでしょ?本当は同じ結論を出してるんでしょ?」
そうだ………ハルの身になったら答えなんて簡単に出てくる。
ハルは誰よりも自責の念が強い子だ…
そんな子が、俺達を悲しませると知ったら…
俺達に危害を加えると知ったら……
駄目だ……考えるな俺
●とうそう
そして…その考えを遮ってくれたのは当の本人…ハルだった。
暴走し、更に巨大な光の刃を形成するハル…そう、それを目の前にした俺達に選択肢は一つしか無かった。
俺「………逃げるぞ…」
レミ「………っ」
そう…ハルの刃から逃れるべく、逃走を決める俺達。だがハルの形成した刃の丈は異常なまでに大きい。
走って逃げられる距離では無い。
俺なら回避する事は出来るだろうが…レミは?DTやエディーはまず無理だ。
だったら…また俺が盾になるしか無い。
覚悟を決めてハルに向き直る俺。
左手に集中し、分厚い盾を形成する。
下手をすれば…いや、それは考えないでおこう。
今はただ、レミやその他を守るために―――――
刃に備えた俺………だが、俺の身にハルの刃が向けられる事は無かった。
ハルが正気に戻ったのか……とも一瞬考えたが、それは目の前で展開する光景により否定された
魔法少女「アーム2から6まで、イグニッション……バースト!」
俺の目の前に現れたのは見た事も無い……魔法少女。
赤褐色の機械じみた鎧に身を包んだ、黒髪の少女。歳はハルかレミと同じくらい………見た感じ13歳前後だろうか?
小型ミサイルのような物を飛ばしてハルの刃を牽制し、体制を崩させる事で攻撃を逸らしている。
一歩間違えばハルに直撃する…にも関わらず、それらの攻撃の一撃もハル本体を傷付けはしない。恐ろしいまでの正確さ
…そんな状況を前に、どう対応すれば良いのか判らない俺。ただ、その光景を見詰めながら…
その魔法少女に問いかけた。
俺「お前は…一体」
エディー「おぉ、間に合いましたか。ナイスタイミングで御座います」
とりあえずエディーの知人…一応は俺達の味方である事が判った。
だが、魔法少女本人からの返答は無い。
そして、唐突に部屋の奥を指差す魔法少女。
瓦礫の先…そう、そこには例の『扉』があった。
全身から光を放ち、もがきながらも外骨格を身に纏っていくハル…
その光景から推測できる事…それは、残ったハル自身のライトブリンガー化。
周囲を周る刃のせいで、俺達は近付く事すらままならない。
………結局は先送りにしてしまう事になるんだが…今はこうするしか無いか。
俺は巨大な手を両腕に形成し、扉を塞ぐ瓦礫を排除。
他の皆が扉を潜った事を確認して………最後に、ハルを見据えながら俺も扉を潜った
●ひかりの
DT「それで……ここは一体どこなんだろうねぇ」
当然ながら湧き出るその疑問を、迷う事なく口に出すDT
真っ白い壁に光輝く球体………俺と…そう、レミもここが何処なのか察しがついていた。
レミ「光の神殿…ね」
俺「そうみたいだな。そして恐らくあれが…」
DT「成る程…光の核…という訳だね」
話がスムーズに進むのは良い事の筈なのに、こいつの察しの良さが何故かむかつく。
DT「となると問題は…何故ボク達がここに来られたのかって事になる訳だけど…」
俺「そんな事………ここに続く扉を潜ったからに決まってるだろ」
DT「いや、それはそうなんだけどね?忘れて無いかい、この神殿には、招かれた物しか入る事が出来ないんだ」
エディー「つまり…私達は光の核に招かれてここに来た…と言う訳ですな」
俺「何のためにだよ」
DT「だからそこが問題なんだよ。闇の側に属するボク達が…」
光の核「否―――…その区分は汝等が教義により後から定義した物でしか無い。何を信仰に置こうと、我等にとっては皆等しく人である」
俺やレミみたいな、明らかに闇の適性がある奴は別なんだろうけどな。
DT「じゃぁその定義に沿った上で…キミはボク達に何を望んでここに招いたんだい?」
光の核「それは……この世の秩序を守るため。現在…本来ならば秩序を守るべき者が、ライトブリンガーとなり秩序を乱して居る。それを止めて欲しい」
あぁ…勘違いしていたが、どうやら光の核が黒幕という訳では無いようだ
DT「あぁ、何となく判ったよ。ライトブリンガーって、闇の核から見たダークチェイサーみたいな物なんだね」
思考が被るのはこの上無く悔しいが、俺もDTと同意見だ。
光の核「その通り…あの者の生成のために我が一部は奪われ、世界の均衡は崩れ去ろうとしている」
お前もか。闇の神殿と言いこの神殿と言い、セキュリティは一体どうなってるんだ。
ってか………こんな状態で闇の核みたいな要求はしてくれるなよ。
DT「成る程…で、奪われたキミの一部を再生させるにはどうすれば良いんだい?」
光の核「我は生み出さず、不変を保つ者。その手段は………無い」
さすがにあんな事の二の舞にはならないみたいだが…それはそれで大問題だ
DT「だったら、ボク達は何をすれば良いんだい?」
光の核「ライトブリンガーを討ち滅ぼし、我が一部を取り戻す事…それより他は無い」
俺「―――――っ!!!」
くそっ!どいつもこいつも!!揃いも揃ってハルを殺す事にばかり話を持って行こうとしやがる!
俺「ふざけんな!!!」
DT「キミの言いたい事は判るよ。ボクとしても、正直世界を救うための犠牲としてハルくんを殺す事には賛同出来ない」
あぁくそっ…何でこいつはこんなにも俺の心の先を読んでくるんだ!!
DT「でも…この世界とは関係無しに、ハルくんを止めなければいけないとも思っている」
もう止めてくれ…俺の逃げ場は無いのかよ…俺の逃げ場………
あぁ、そうだよな………結局俺って逃げてるだけなのか。
ハルを助けられるかも知れないって可能性を言い訳にして、それに飛びついて縋ってるだけなんだ。
俺「そう……なんだよな。俺が……俺がちゃんとしないと…ハルは…駄目なんだよな…」
覚悟を決めた…とはとても言えないが、少なくとも現実だけは見えた。
レミ「………」
心配そうに俺を見詰めるレミ。俺って本当にだらしがないな、こんな女の子にまで心配をかけるなんて。
そして、ふと…もう一つの視線に気付く。
俺達を助けてくれた魔法少女だ。
目隠しともゴーグルともとれるマスクのせいで素顔は見えないが、不思議とその視線は感じる事ができた。
俺「あぁ…そうだ…助けて貰ったってのにまだお礼も言ってなかったな。ありがとう…えっと…」
そうだ、そう言えば名前も聞いてなかったんだ
エディー「あぁ、そう言えば紹介をしておりませんでしたね。この方は―――もがっ!?」
と、何故か紹介の途中でエディーの口を塞ぐ魔法少女。
魔法少女「……………カライモン」
エディ「えっ!?」
カライモン「…………」
短い沈黙の後、魔法少女の口から発せられた単語…
カライモン…何語なのだろうか?とにかくそれが彼女の名前らしい。
エディ「…は、はい。そうで御座います。彼女の名前はカライモン…貴方方と同じく、特殊な資質を持っている魔法少女です」
成る程…それは何とも頼もしい。戦力に至ってはついさっき見せて貰ったばかり…申し分無い。
俺「じゃぁ頼む、カライモン。俺達に力を貸してくれ」
カライモン「………」
無言で頷くカライモン。
これで、成すべき事は決まった。
あまり嬉しい事では無いが準備は整った…
この上無い程の詭弁に吐き気がするが………
ハルを殺すためでは無い…
ハルを…救うための…
そして、ハルの思いを守るための…
戦いが始まる
●はれるや
手足…そして顔の殆どと頭部の一部を失った巨大なハル………いや、ライトブリンガー・ハレルヤ。
しかしその様相に反し、持ち得る力は強大の一言に尽きる。
手足が無くとも周囲の光の刃が万物を切り裂き、五感は不要…何も感じる事無く、その必要も無く…ただ破壊の限りを尽くしながら突き進む。
俺「手心とか…そんなのを無しにしても、勝てるのか?…あれに」
カライモン「………」
レミ「勝たないとダメよ……ハルのために」
そうだな…その通り。そうだと決めた以上、全力でやらなければいけないだろう。
俺は全身のダークチェイサーを開放し、巨大な獣となる。
像のような牙に、前に向かって捻じ曲がった角…空を舞う翼に、爬虫類の尻尾。首回りを守る鬣に、大地を掴む脚。
この戦闘を行う上で、今出来る最適のイメージだ。
ゴングは無い。いつ始まるかは判らない…いや、ここに来た時点で始まっているというのが正しいか
俺はハレルヤに向けて突進を行った。
レミ「嘘…………」
が……まず驚きの声を上げたのはレミだった。
突進を受け止められるくらいの想像なら俺もしていた…だが、これは流石に予想外としか言い様が無かった。
ハレルヤに近付いたその瞬間…まさにその一瞬で削り取られる角と牙。
もし途中で止まらずに突進を続けていたのならば、恐らく……
DT「不味いな……あれは恐らく、不可視の速度で回転している刃だ。レミくんの黒い線も恐らくは先に切られて……殆ど無力だろうね」
成る程…確かにそれらしき物を受けた感覚はある。
だが…だからと言ってここで止める訳にも行かない。
こうなったら根競べだ。俺の再生とハレルヤの刃…どちらが先に尽きるのか!
牙と角を削り取られ…そしてまた生やし、突撃。
進展も無く、消耗が続く行為………だが、俺はそれを止めない。
削り取られようと…弾き飛ばされようと…折られようと……
尽きぬハルへの思いを貫き通すように、何度でも…何度でもそれを再生して突撃を繰り返す…
が……
俺「くっ……!!」
訪れるのは質量の限界…角の再生に質量を費やした事で、体躯は既に最初の3分の1以下…
更にその状態で、再生するだけの質量が尽き……言うまでも無い絶対的危機。
だが、そんな状態だからこそあえて言える…俺の…俺達の信念は負けては居ないと
レミ「こん………のぉ!!!!」
外殻だけを形成…即座に分離して刃の軌道上に射出するレミ。更にその激突と共に黒い線を走らせ……
鳴り響く乾いた音と共に、ここに来て初めて欠けるハレルヤの刃。
カライモン「………」
そして、トドメとばかりにカライモンの一斉掃射………俺の角にぶつかり皹の入った刃が、次々と乾いた音を立てて砕けて行く。
失われ行く不可視の刃…そう、これが俺達の反撃の決定打となる筈だったのだが…………
カライモン「―――――っ!!」
俺達を出迎えたのは、無慈悲な絶望だった。
突如ハレルヤの体を覆うように周囲に現れた光輪……いや、あれは
レミ「光の刃の軌跡…って所かしらね」
先程までの不可視の刃とは段違いの威力と、実質上耐久限界の存在しないそれ…
心身ともに消耗した今の状態で、回避しきる事は不可能だ。
ダメだ………今の俺達に、打つ手は残って居ない。
●ろんそう
闇の核「光の核よ…」
光の核「闇の核か…汝がこの神殿に訪れるとは、どういう意図だ?」
闇の核「一つ…貴方と相談したい事がありまして」
光の核「我と汝は、対となり相容れぬ存在………それを判った上で、何を語る?」
闇の核「ダークチェイサーとライトブリンガー…それらを宿した彼等の事です」
光の核「良かろう…では聞こう」
闇の核「彼等は本来、光とも闇とも関わる事が無い筈だった存在…それが今のような状況に陥っているのは、我等が原因でしょう」
光の核「その結論には相違無い」
闇の核「そして、そもそも…この世界において我等が存在しなければ、この争いも存在しなかった」
光の核「否…我等が存在しなければ、今のこの世界その物が存在していない」
闇の核「では、演算を求めます。この世界が存在した上で、争いを起こさずに居られた方法は?
光の核「存在する」
闇の核「私はその内の一つの方法を取ろうと思います。さぁ…共に行きましょう」
光の核「その提案は拒否する。そして、此方からも演算を要求する」
闇の核「何でしょう?」
光の核「現状況から、ハレルヤと呼ばれる存在を討ち果たす手段…そして――――」
闇の核「存在します」
光の核「では確認する。その方法を実行する意思はあるか?」
闇の核「ふふっ…さすがにそれを拒否したら、闇の核の名が地に落ちてしまいますね」
光の核「同意に感謝する」
闇の核「それにしても………最後の最後に恰好付けた事をするではありませんか。まるで昔のようですよ?」
光の核「………だろう?」
●ちからを
ハルを中心に、幾重ににも生成されていく光の輪…
エンジェルハイロウと呼ぶには余りにも凶悪な力を秘めたそれが眼前に迫り
今正に俺の頭を削り取りに来ている。
俺「くそっ……こんな所で……まだ…ハルを…ハルの心を救えて無いってのに…!!」
『汝は力を求めるか?』
突然頭の中に響く声…
勿体を付けては居るが、この声は光の核だ
俺「俺が求めてるのは力じゃない…ハルの安息だ…」
『では要らぬか―――』
は?
俺「いや待て、くれるのか!?俺にくれる力があるのか!?だったくれ!!ハルを助けるための力をくれ!!!」
『そう言っている…では、我等が汝の力となろう』
我等?我等って事は複数型だよな?って事はつまり………
と、考えを纏める暇も無く…俺の目の前に広がる光と闇の渦。
それはハレルヤの刃を弾き………直後、俺の中へと入り込んで来る。
むせ返るような力の奔流…頭の中で明暗を繰り返すような衝撃。
そんな無茶苦茶な存在の中で、俺の意識は辛うじて片隅にしがみ付き………
レミ「え……?何…あれ」
エディー「あれは…彼、なのでしょうか?」
カライモン「……………」
DT「うーん…実に興味深い…」
皆が俺に視線を向け、口々にその真偽を確かめている…
その様子だけでも、俺の姿が変わっている事は判る。
あれだけの力が俺の身体の中に入って来たんだ…ダークチェイサーによる変質程度では済まない程の変化があったとしても驚く事は無い
恐らくは、生物としての原型すら保って居ないのかも知れない。だが…ハルの心を救うためならば、俺の身体の一つや二つ―――
カライモン「…………しかし、さすがにあれは…」
ん?何だその反応は
DT「そうかい?ボクは好きだよ、あぁいうの」
待て、どういう流れだこれは?
レミ「私も…アリかナシかで聞かれればアリな方だけど……ちょっと中二病過ぎるかな?」
いや待て、レミに中二病って言われるのってどんな外見なんだ!?
俺は恐る恐る自らの身体を見下ろす。
まず手は……外骨格に覆われた人間の手だ。黒い外骨格に、ライトブリンガーのような金の縁。
確かに中二臭いが、レミに言われるほどでも無い。
手以外の部位も、同様…となると後は……
俺はダークチェイサーにより蛇の頭部を作り出し、自らの姿を見る
俺「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁ!!?」
仄かに銀色がかった白い髪……そして窮め付けに、金の右目と銀の左目のヘテロクロミア!
中二病の定番中のど定番が来やがった。
●かれらの
光の核『身体の変異に戸惑うのも無理は無い…だが、今はそう言っていられる状態でも無い』
俺「戸惑ってるのは、身体が変異した事よりも変異した結果のせいだけどな!?」
原因その物が真面目な顔をして言わないでくれ…って言うか…ん?
何か今、俺の中から声が聞こえたぞ?
光の核『当然だ、我等は今汝と一つになっている』
俺「……はっ?」
闇の核『そう…私達と一つになる事で、貴方はその力を行使する事が可能となったのです』
お前もかよ。と言うか…
俺「いや、それって……光の力も俺の中にあるって事だよな?俺の中のダークチェイサー達は危なく無いのか?」
光の核『全く影響が無い…と言う訳では無いが、彼等は光の力に対しての耐性を持っている』
そう言えばDTもそんな事を言っていたような…
俺「それは何でだ?ってか、そういうのも判るのか?」
闇の核『闇の力が貴方との共生へと向かう際、光の影響を受け…それにより耐性を得るに到ったようです』
あぁ、そうか………そう言う事か
あの時…ハルが俺に治療魔法をかけてくれたから………
俺「それで……具体的にはどのくらいの影響が出るんだ?」
光の核『一定時間以上この姿を保った場合、ダークチェイサー及び汝の生命に影響するダメージを残す』
俺「その一定時間ってのは何どのくらいだ?」
良かった…口ぶりからすると、ずっとこの姿で居なければいけない訳でも無さそうだ。
光の核『汝の体感時間で5分だ』
俺「……って、もう殆ど無駄話で消費しちまってるじゃねぇか!!!」
となると、もうこれ以上時間を無駄にする事は出来ない。
残された時間で何が出来るか………
確か、光の核と闇の核の力が両方使えるんだったよな。
じゃぁまずは生成だ………右手にはライトブリンガーの刃…左手にはダークチェイサーの爪…
そして、どんな行動を起こせるのか…とりあえず俺が判って居るのは……
闇の核の、加速空間だ。
●しんそく
体感時間…実時間ではなく、俺の体感にかかる時間制限。
つまりは、加速している間にも刻一刻と迫るそれ。
一秒たりとも無駄には出来ない。
俺は自身の存在に干渉し…加速する。
停止する世界…いや、僅かだがスローモーションで動いている世界。
正確には俺が早く動いているだけなのだが…そこはまぁあくまで主観という事でまとめておく。
…少し動くだけでも、空気の壁がまるで分厚いゴムのように俺の行動を邪魔してくる。が、今の俺には大した問題では無い。
まず行ったのは、光の輪の破壊。
比類無き攻撃力を誇るそれだが、同じくライトブリンガーの刃を以って輪の腹を叩く事で、簡単にかき消す事に成功。
…形成した刃の軌道を潰しただけで、再構築されれば意味は無いのだが……今はそれで充分。
そうして、ほんの数秒でその全てを消し去る事が出来たのだが………ここからが最大の問題だ。
身を守る光の刃を失い、ただその身を曝け出す事となったハレルヤ…ハル。
決意はした……した筈なのに俺の手は震え、心臓の鼓動が激しく身体を駆け巡る。
殺す………
ハルを…
俺が…
この手で……?
踏み込めない一歩…しかし、刻一刻と迫る限界…
そんな時…
一瞬…俺の脳裏に浮ぶハルの笑顔。
俺「あぁ……そうだよな………俺がしっかりしないとな………」
左手を振りかぶる俺
俺「さよなら…ハル」
そして振り下ろすは、ダークチェイサーの凶悪な獣の爪………
俺「ゴメンな…それと……今まで…ありがとな………」
その爪は……
ライトブリンガー・ハレルヤの…
頭を…胴を引き裂き………
その存在を…
闇へと塗り潰して行った…………
「ワ タ シ コ ソ」
俺「ハル!!!」
幻聴かも知れない…
言葉を話す事は愚か、思考すらままならない状態だったハルからは紡がれる事の無い言葉。
ただ俺は……
気が付けば、大粒の涙を流していた。
●まだまだ
レミ「………」
DT「………」
エディー「………」
カライモン「………」
全てが終わった……そう、世界を救う戦いも…ハルの命も。
この場で言葉を発する者は一人も居ない。
………筈だった
DT「さて…どうしようか」
少しは空気を読め…
俺「どうしようもこうしようもあるか………ここから何をするって言うんだ。一件落着を気取って帰りたいなら帰れ」
DT「何を言っているんだい?」
俺「………お前こそ何を言ってるんだ!!こんな状態で…!!!」
DT「何って、ハルくんの事に決まっているじゃないか」
俺「これ以上ハルに何を望むって言うんだ!いい加減にしろ!」
DT「いい加減にする気は無いね。ボクが望むのはハルくんの復活だもの」
俺「………は?」
俺は頭の中が真っ白になった
俺「いや…待て、ハルが生きていた時点でも治療を諦めていたお前が…」
DT「だから、それはさっきまでの話。光と闇の核の力をキミが使えるようになったと言うなら話しは別さ」
俺「………は?」
DT「例えば…ボクや必要な資材を加速空間に放り込む。そしてボクはその中でハルくんを記憶ごと再生する手段を開発する…とかね」
俺「なっ―――」
何を言っているんだこいつは?
俺「それはつまり……終わりの見えない牢獄に閉じ込められるような物じゃないのか?」
DT「そうだね」
俺「判ってるんなら、何でそんな事を………」
DT「元はと言えばボクのコピー…02の起こした事…そして、02がそんな事をしてしまった原因は多分ボクだからね」
俺「………罪滅ぼしのつもりか?」
やめてくれ…そんな事を言われたら、俺はお前を憎めなくなる。
DT「まさか?そんな事で帳消しになるなんて思ってないよ」
くそっ……!!
DT「それに…脳の再生までなら、未完成ではあるけど見込みはあるんだ。後は、どうにかしてハルの記憶を取り戻す手段を―――」
俺「駄目だ……そんな不確定な事に使う余力なんか無い」
嘘だ…俺がそれをしたくないだけだ
DTの罪悪感に甘えて責任を押し付けるような事をしたくないだけだ。
DT「だったら何か腹案があるのかい?」
俺「無い………でも何か出来ないのか?もっと他に……」
DT「あぁ…なら彼等に直接聞いてみれば良いんじゃないかな?」
そうだ…さっきは時間が無くて聞く事が出来なかったが、今ならコイツ等に何が出来るのか聞けるんだ
そこで一つ…俺の中にある一つの可能性が浮かび出した。
俺「なぁ……お前達って、時間の流れを操ったりできるんだろ?過去に…ハルが、ハレルヤになる前に時間を戻したり出来ないのか?」
●そうだん
光の核「理論上は不可能では無い…が、それを行うための力を得る手段が存在しない…故にその案を実行する事は出来ない」
DT「時の流れは基本不可逆…戻す規模に応じた力と、状態の記憶が絶対的に必要になる訳だからね」
闇の核「そう…時を巻き戻すためには、その瞬間に発生している力以上の力を発生させる必要があります」
俺「だったら…だったらよ。何とかして俺がそれだけの力を…」
DT「それだけの力を発生させた時点で、更にその時を巻き戻すためにそれ以上の力が必要になるね」
俺「何だよそれ……ビデオテープを巻き戻すみたいにもっとこう、簡単に出来ないのかよ…」
DT「ビデオテープを巻き戻すと言うのは…構造上、幾つも存在するコマの一つを再生者の意思でその時点まで巻き戻すだけだろう?………いや、そうだね」
俺「何だ…?どうした?」
DT「ビデオテープだよ。ビデオに映っている範囲と同じ………ハルくんだけを巻き戻すだけなら?」
光の核「定義による…状態の再構築を行う事は可能だが、客観的に認識した場合にその存在が巻き戻された物として認識可能かどうかは別問題」
俺「いや、それで十分じゃねぇかよ!!」
光の核「世界全体の観点…いや、汝の観点からかしても…厳密には同一の連続性を持ったハルとは言えない。それでも構わないのだな?」
俺「そこまで贅沢は言わねぇよ!良いからハルを戻してくれ!!」
光の核「それならば可能……だが、それを行うにも問題がある」
俺「何だ、俺に出来る事なら何でも強力するぜ」
闇の核「それは心強いですね…実はここまでは光の核とも思案した事なのですが。ここから先は、貴方方にしか出来ない事ですから」
レミ「それって…私にも何か出来るって事?」
闇の核「その通りです」
俺「じゃぁ言ってくれ、俺達は何をすれば良い?」
光の核「光と闇の核…双方が保持するアーカイブ…世界の記憶の中から、再構成に必要となるハルの存在を検索して貰いたい」
俺「………何だそれ、どういう事だ?」
レミ「アンタ達自身が検索出来ないの?自分達の記憶なんでしょ?」
光の核「我々は共通の見解を持つ事はあっても、共通の主観を持つ事は無い…故に、過去の事象に確定した判断を齎すためには第三者の観測が不可欠」
DT「要するに…二人の意見が合わないから、キミ達に決めてく欲しいって事だね」
俺「何だよそれ………んでもまぁ、それでハルが助かるってんなら…やってやろうじゃねぇか!!」
DT「とまぁお互い簡単そうに言っちゃってるけど……人の身で世界の記憶に触れるなんて、無茶も良い所なんだけどなぁ…」
俺「無茶の一つや二つ、こなしてやるさ」
と豪語する俺………だが、もう二度と無鉄砲な判断はしないと誓ったのも………この後すぐの事だった
●さいげん
闇の核「まず始めに警告しておきますが………私達のアーカイブは、異物の混入を想定していません」
光の核「故に…一度異物が入り込めば、その時点でアーカイブは崩壊を開始する」
俺「時間制限付きか……しかも…」
レミ「壊れるって事は…チャンスは一度っきりって事よね…」
闇の核「その通りです。そして、時間内にアーカイブからの脱出を果たさなければ…」
光の核「汝等の精神もまた、アーカイブと共に崩壊する」
DT「具体的には、脳内伝達信号が暴走してニューロンネットワークをグチャグチャにしちゃうって事だろうね」
いらん説明をありがとうなこの野郎。
闇の核「確認します…その危険を冒してまで、貴方達はハルさんを取り戻しに行きますか?」
決まっている。
俺&レミ「「当然!!」」
闇の核「判りました…ではお二人とも、目を閉じて下さい」
言われるままに目を閉じるレミ…と俺。
一瞬の浮遊感が襲い掛かった…かと思えば、今度は身体全体に重苦しい重圧がかかり……
闇の核「さぁ…目を開いて下さい」
目を開くとそこは………ノイズの中だった。
ノイズと言われて何の事か判らないかも知れないが、そうとしか説明のしようが無い。
放送の終わったテレビの砂嵐のように、白と黒が入り混じったノイズの景色……
そして耳に飛び込んで来るのは、脳を揺さぶるような雑音の波。
俺「何だこれは…ここがアーカイブなのか?本当にこんな所にハルが………」
レミ「待って、何か聞こえる!これは…声?」
レミの言葉に促され、耳を澄ませる俺………
「あーもう、マジ信じらんない」
「腹減った…何食おうかな」
「ついにやった…この術式が完成すれば!」
「以上の通り、わが社の利益は…」
「センパーイ、今行くッスよ」
「お前の髪質って、サイドテールに向いてないよな」
「これが闇の核…」
「何故だ…何故奴等に勝つ事が出来んのだ!」
「やっば、宿題忘れちまった」
「帰りどこ寄ってく?」
ノイズに混じって聞こえてくる声………いや、違う。
俺「このノイズ自体が…声の集まり?いや、声だけじゃない……」
今度は目を凝らして砂嵐を見る俺…そこは幾つのも景色が折り重なって作られたモザイクだった。
俺「そうか…そういう事か」
やっと判った……これがアーカイブの仕組みか。
と言うか、こっちの世界だけじゃなくて俺達の居た世界の記憶まで持ってるのかよ…
レミ「これを遡って…この中からハルを探し出せば良いって事ね」
俺「そういう事らしいな」
闇の核「はい、その通りです」
判ってしまえばどうという事は無い。ほんの少しだけ…アーカイブの過去へと向かう俺。
だが…
俺「何だこれ…星空ばかりで何も無いぞ?」
光の核「当然の事…それはこの星が生まれるよりも前の記憶だからだ」
………一体どんだけ前から居るんだ、こいつら。
もっと細かく……そして、もっと狭めてアーカイブを探す俺。
ハル「大変!彼がダークチェイサーに襲われちゃう!」
俺「!?」
ハルの声だ!
重なるノイズの奥から聞こえたハルの声
俺はそのハルに手を伸ばす
……が…間に合わずにかき消える。
俺「なんだよこれ!今確かに…」
光の核「今確かにハルという少女の存在はそこにあった…だが、ただ闇雲に手を伸ばしただけでは…それを掴む事はまず不可能」
レミ「ハルの存在をしっかりと認識して。方向…場所だけじゃなくて、深度まで見極めた上でハルが居る場所を掴まなければいけないみたいね…」
闇の核「その通りです……そして、もうあまり時間がありません。急いで下さい」
くそっ…慎重さが必要って時に急かすなよ
レミ「あ、あそこ!」
俺「っ!!!」
遡り…また進んでは探すハルの存在。
見付けながらも掴む事は出来ず、俺の手を摺り抜けて行く。
だが諦めない。何度でも………
闇の核「…………残念ですが…」
おい、勘弁してくれよ
光の核「もう限界のようだ…汝等をアーカイブから…」
あと少し…あと少しなんだ。あと少しでハルの存在を掴めそうってその時に……
レミ「お願い!もう少しだけ…もう少しだけ探させて!!」
光の核「ここに留まるのならば、命の保障は…」
俺「そんな事は判ってんだよ!良いから続けさせろ!!」
過ぎた無鉄砲…アーカイブの崩壊に伴い、頭の中を駆け巡り始める痛み…恐らくはレミもこの痛みを感じている。
それでも手を止めない俺達…だが、限界はもっと判り易い方法で訪れた。
レミ「アーカイブの存在自体が……」
そう…ヒビ割れ…崩壊して行くアーカイブ………
過去も…現在も………ハルの居たと思われる瞬間も………
ダメだ…ハルを探すどころか、脱出すら出来るか判らない。
諦めるべきか?
いや、諦めない!どうする?どうすれば………
そうだ、いや…出来るのか?
出来るかどうかなんて試せば良いだけの事か
俺は……加速空間を自分自身に使った。
闇の核「私達の中に存在しながら私達の力を使うとは…また無茶をしますね」
光の核「確かにこの方法を使えば、アーカイブからの脱出も…」
俺「いや、俺はハルを探す!限界のその瞬間まで!!」
闇の核「………」
光の核「………」
闇の核「判りました。では、私が何としてでも崩壊の寸前に貴方方をアーカイブから排出します」
光の核「我はその瞬間まで可能な限りハルの存在する区画を守ろう」
俺「……お前達………ありがとな」
小さく礼を言い、ハルの存在を探す俺……
くそっ…ここも崩壊してる
ここはまだハルが生まれる前……
ハレルヤになってからじゃ遅いんだ!!
ぁ…………
しまった………
加速空間が途切れた
闇の核「もう限界です。強制排出を行います」
まだ………いや、ダメだ…レミが居る………
俺一人ならここに残って消えても悔いは無いが、レミまで巻き添えには出来ない。
そんな事を考えた一瞬…その一瞬に夢を見た。
『やっと……やっと目が覚めたね、二人とも……』
『……おかえり』
俺「―――!?」
何だったんだ今の光景は?
それを熟考しようにも、もう時間が無い…時間が………
俺「―――――」
そう…
正に一瞬…
一瞬の夢の後に見たそれ
俺は必死でそれに手を伸ばし……
…………そこで意識が途切れた。
そう…アーカイブからの強制排出された。
285 : ◆TPk5R1h7Ng - 2014/12/10 02:50:17.99 n0Ynu8DLo 37/43ついつい書いてしまったので、魔法少女カライモン投下
http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=47486669
●ふたたび
エディー「皆様方、ご無事ですか!?どこかお変わりは―――」
頭の奥までガンガンと響く声…エディーの声だ。
頭の中は最悪なまでに痛みが走り、視界は真っ白に染まっている。
ただ、身体に伝わっている感覚だけはハッキリと感じ取る事が出来る。
左腕には、抱きしめているレミの身体……
そして………
右手には…………
??「ん…………あれ?ここはどこ?」
そう………
レミ「っ………」
??「え…レミちゃん?」
レミ「あ……………ぁ………」
??「何?どうして泣いてるの?」
レミ「―――――ハル!!」
ハルの右手を、しっかりと感じていた。
ハル「え?何?何があったの!?」
レミ「お帰り………ハル…」
ハル「お帰りって……まずここが何処だか判らないんだけど……」
俺「ま、今は判らなくてもしょうがないさ…その辺りはまた後で…」
ハル「あ、あの……」
俺を見て何か言い淀むハル…
そして気が付けば、右手を捩じらせている
あぁそうか…嬉しさの余り強く握り過ぎていた。
俺「おっと、悪い。あまりに嬉しくて…つい、な」
レミ「やった、やったよ!ハルが帰って来た!!」
俺「判ってるって。ってかそんなにはしゃぐから、ハルが置いてかれちまってるぞ?」
ハル「あの、一つ聞いても良いですか?」
まぁ、本人としては事態が飲み込めて居ないのだろう
俺「あぁ、何でも聞いてくれ」
今の俺なら、どんな質問にんだって答えられる気がするぜ
それこそ、最近お気に入りのエロ本の在り処だって……
ハル「貴方は………誰ですか?」
●かたすみ
俺「…………え?」
ハル「あ、レミちゃんの知り合いですよね?それは判ります」
レミ「………」
ハル「で、でも……その、私…初対面の人とは………話すの、苦手で………」
エディー「これは………」
DT「ふむ………」
各々が今のハルの状況を思案する中…まず始めに動いたのはカライモンだった。
ハルと俺との間に入り、ハルの方を振り向く
カライモン「…私の顔…若しくは、私に似た感じの親戚の顔に覚えは?」
と言って…俺の方からは判らないが、恐らくゴーグルを取ってハルに顔を見せるカライモン。
ハル「え…?いえ、すみません…判りません」
カライモン「………そうか」
そう言って再びゴーグルを付け…今度は首を上下に何度か往復させて居る。
俺の視点からでは何をしたかったのか判らないが、カライモンは何かを納得したようだ。
そして…
カライモン「このハルは恐らく、魔法少女になる前のハルだ」
俺の中で意図的に除外していた可能性を口に出してくれた。
DT「成る程…そっちだった訳か。ボクとしては、記憶喪失の方が良かったのだけど」
あぁそうだ、俺も全面的にお前に賛成だ。
ハル「え…?魔法少女?一体……」
俺「あぁ、いや。イベントの話しな?ほら、ここの皆を見て貰って判ると思うんだが、ここってコスプレ会場なんだよ」
レミ「アンタ……」
俺「で、ハルちゃんはレミちゃんの付き添いでここに来てたんだけど…さっき階段から落ちて頭を打っちゃったみたいでさ」
ハル「えっ…」
俺「多分そのせいで色々記憶があやふやになっちゃってるんじゃないのかな?」
ハル「でも…さっき、記憶喪失がどうとか…」
俺「そうそう、記憶喪失じゃなくて一時的な記憶の混乱だったってだけ。いやぁ、本当に軽症で済んで良かった」
ハル「でも私、頭なんて…」
俺「頭ってのは、外側が痛くなくても異常を起こしてる事があるんだぜ?多分その事も記憶から飛んでるんだろうな…」
俺「そうだ、念のために病院で診て貰おう。近くに病院があった筈だよな?カライモン、連れてってやってくれよ」
カライモン「………キミがそれで良いのならば…」
俺「あぁ…頼む」
カライモン「………承知した」
そう言って『扉』を潜るカライモンとハル
ハルには悪いが、ここから先の会話に参加して貰う訳にはいかない。
レミ「アンタ………本当にそれで良いの?ハルに本当の事……」
俺「言う訳にはいかないだろ。あれは俺達に…いや、俺に出会う前のハルなんだぜ?」
レミ「だからって…」
俺「ディーティーに出会う事も無く…普通の女の子として暮らせる筈だったハルなんだ」
レミ「………」
俺「折角取り戻す事が出来たその時間を、俺の身勝手で壊す訳にはいかないだろ」
レミ「…………駄目よ、そんなの不公平すぎる。ハルはアタシの事は知ってるけど、アンタの事を知らないなんて…」
コイツは本当…変な所で律儀なんだよなぁ
俺「それはレミがアーカイブで頑張った分のご褒美って事で良いんじゃないか?」
レミ「だったら…それこそアンタが!!」
俺「俺のご褒美は、ハルが生き返ってくれたって事だけで十分だ……」
レミ「――――っ!!!」
俺「それより…頼みたい事があるんだ」
レミ「………何?」
俺「ハルには記憶喪失じゃないって事にしといたけど…ハルの周りの人達には、記憶喪失だって事にしといて欲しいんだ」
レミ「えっ……」
俺「そら、帰って来たハルの記憶と今までの時間の分で…大分時差が出来ちまってる筈だろ?」
レミ「それはそうだけど…」
俺「勉強の遅れはこっちとあっちの時間差で何とかなるとしても…やっぱ周囲の人間との認識の差ってのは、理由付けが必要だと思うんだよな」
レミ「それでハルには…アンタが言ってた事は早とちりの間違いだったって言っておけ…って事よね?」
俺「あぁ、それで頼む。診断に関しては知り合いのコネを頼れば何とかなると思うし……」
DT「あのさ…突っ込むのは悪いかと思って黙ってはいたけど……」
じゃぁ喋るな
言いたい事は判ってる。
DT「恰好付けてるだけだよねぇ?キミ」
当たり前だ
レミ「何で?何でそこまで我慢するの?」
俺「そんなの……ハルのために決まってるじゃないか!」
レミ「でも…でも………!」
俺「もし今この瞬間、お前の目の前に知らない男が現れて『お前の恋人だ』なんて言われたらどうする!?」
レミ「それ……は…………でもっ…」
DT「だったらさ…」
だからお前は口を挟むな
DT「涙を流すの…止めなよ」
うるさい、止められるならとっくに止めている
●ひとりの
俺「……………」
あの出来事…異世界での騒動から1ヶ月。
アルバイトだけは惰性で続けては居る物の、殆どが無気力で過ごす毎日。
あの時の俺の行動は正しかったのだろうか?
いや、あの行動がハルにとってのベストだった筈
繰り返す自問自答。
光の核「あの選択は無難…自らが負債を背負う事となったが、ハルの人生を取り戻した」
いや、訂正する…他答してくれる奴が居るには居た。
闇の核「しかし、今のまま無気力で居るのも沈み込むのも良く無い事…何か目的を探してみては如何でしょう?」
俺「目的…か…そうだな…」
闇の核「ハルさんと同じようにとは言いませんが…生まれ変わるのも一つの道かも知れません」
俺「生まれ変わる……か。そーいやぁ、あっちの世界はどうなったんだ?お前達が居なくなったから、大分変わっちまうんだろ?」
闇の核「そうですね…私達が居なくなった事により様々な法則が変わり、文字通り世界その物が生まれ変わるでしょう」
光の核「しかし、心配は不要…我等が消えた新たな世界…法その物が生まれ変わった世界でも、彼等は生きて行けるだろう」
俺「成る程な、逞しい物だ。それを見習って、俺も少しは変わってみるか…」
本棚の中から一冊の本を取り出す。
昔、何故か買ってしまった外国語の辞書だ。
俺「直訳すると………ダルマ…サンサーラ…か」
俺「そう言やぁ…大分話しは変わるんけど、アーカイブから排出される寸前に変な夢を見たんだが……」
闇の核「あれは恐らく、在り得た可能性の一つ…アーカイブの情報から演算された物かと」
俺「んじゃ、結局はただの夢か…」
闇の核の言うように、ただの可能性なのか…それとも………いや、ここで考えても証明する手段が無い以上は無駄か
そんな思考を巡らせる俺…
そして、その思考を遮ったのは…不意に、部屋の中へと響いた足音。
俺の他に誰も居ない…いや、居なかった筈の部屋に現れたのは、魔法少女…カライモンだった
俺「あー………っと、いきなりどうした?何か用か?」
カライモン「…………」
肯定も否定も無く、ただ沈黙するカライモン。
俺「あ、そー言やぁまだハルの件でちゃんと礼を言ってなかったな。あの時は色々ありがとな」
カライモン「私の意思でもあった…故に恩義を感じる必要は無い」
俺「そ、そっか………」
ヤバい…会話が続かない。
再び訪れる沈黙…プラス、双方無言の気まずい雰囲気。
誰か…この空気を何とかしてくれ!
そんな俺の願いが通じたのか…俺の部屋へと訪れる来訪者。
部屋の中へと鳴り響く、インターホン。俺は天の助けとばかりに、その来訪者を迎えるべく玄関へと足を進める
のだが………俺の考えが甘かった事を痛感させられた。いや、むしろ他人に頼った甘さへの罰なのかも知れ無い
マイ「………」
現れたのは…マイだった。何故今この瞬間に狙い澄ましたかのようなタイミングで現れてくれた……
カライモンに一度だけ視線を向け、またその視線を俺に戻すマイ。
そして開口一番
マイ「三人目かね…・」
コスプレだと思ってくれたのか、カライモンの服装に関して突っ込まれなかったのは不幸中の幸い…ながら
マイに大きな誤解をされてしまったようだ。
俺「いや、あの子は―――」
そして俺の言葉を聞き入れる間も無く、静かにドアを閉じるマイ。
更には、つい先程まで部屋の中に居たカライモンまで忽然と姿を消している。
俺「あいつら………一体何をしに来たんだ。せめて用件だけでも伝えてくれ…」
訳が判らない事だらけで頭がおかしくなりそうな中…一つだけ確かな事がある。
俺「あぁ…また悩みの種が増えた………」
魔法少女ダルマサンサーラ ―完―
魔法少女ダークストーカー、魔法少女ディヴァインシーカーに引き続き、お付き合い下さった皆様ありがとうございました。
当初の予定よりも長くなり、前後編に分かれてしまいましたが…
皆様のおかげで、ディヴァインシーカー及びダルマサンサーラを無事完結する事ができました。
本編の最終章にあたる、続編の構想はあるので…また大筋がある程度固まったら、まったり進行で書き込んで行こうと思います。
それでは皆様、改めてお付き合いありがとうございました!!
けどもうちょっとエロ成分があっても良いような。