●あらすじ
バイトの帰り道、謎の黒い怪物…ダークチェイサーに襲われた俺。
それを助けてくれたのは…変なマスコット、ディティーを連れた魔法少女…ハルだった。
こんなベタな展開から始まり、恋人になった俺達。
しかしそこに現れたのは、ハルの親友でありダークチェイサー側の魔法少女、レミ。
ダークチェイサー側と和解をしたり、実はハルが俺のストーカーだった事を知ったり…
何だかんだのいざこざを挟みつつも、力を合わせて…真の黒幕であるディーティーを打ち果たした俺達。
最後の最後で奇妙な三角関係になりながらも、とりあえず平和な日々を過ごしていた。
関連
魔法少女ダークストーカー
http://ayamevip.com/archives/41905131.html
元スレ
魔法少女ダークストーカー
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1414330789/
~魔法少女ディヴァインシーカー~
●いつもの
草木も眠る丑三つ時…闇夜を駆ける影が二つ。
一人は金色の髪を横で纏めた少女…
一人は黒き獣の姿をした…………俺
描写に力が入ってないのは勘弁してくれ…バイト帰りで正直眠いんだ。
と…脇道に逸れてしまったので本筋に戻すが、今はレミ…この金髪ツインテールの女の子と、深夜のパトロール中だ。
今まで深夜中心だったシフトを夕方から深夜半ばまでに変えて貰い…その後はこうして街の平和を守るのが俺の日課である。
レミ「居た!あそこ!!」
と、ナレーションをしている内に早くもレミが対象を見つけたようだ。
俺「女の子に対して、男が三人……やばいな、もう襲われかけてる」
レミ「急ぐわよ!」
と言うか否か、現場に向けて飛び降りるレミ。
ちなみに……レイプと言うのは、レミにとって許せない犯罪ベスト3らしい。
まぁ、レイプを許せないと言うのは俺も同感なんだが………
俺「そのくらいにしといてやれよ。まだ未遂なんだから、半身不随…じゃなかった、半殺しで許してやるんだろ?」
レミの場合…放って置くと本当に殺してしまうので、気が気では無い。
そして…獣の姿で喋ったためか、恐れをなして逃げ出す残りの男達…
あ、いや…喋らなくてもこのサイズの動物を見たら逃げ出すか。
助けた筈の女の子まで怯えさせてしまったようだ。
俺「んじゃ、俺はあいつ等を追いかける。レミはその子を頼んだぞ」
レミ「判ったわ。ギッタンギッタンにしてやりなさいよ!」
俺「おう、任せとけ」
と言っている間に追い付き、男達の進行方向へと先回りする俺。
なぁに命までは取りはしない。そうだな…両足でも折って全治一ヶ月って所か。
仕事の早さには自信がある。コンビニ店員から逃げられると思うな!!
レミ「はーい、ご苦労様」
俺「そこはお疲れ様だろ」
レミ「良いのよ、今のアンタはアタシの眷属なんだから」
そう…今の俺は、かつてレミの眷属だったダークチェイサー達の代わりだ。
何故そんな事をしているかと言うと…まぁ、先の戦いでディーティーという悪人を倒すためにそいつらを取り込んでしまったのが原因なんだが…
レミ「あ、ちょっと待って。この声………」
おっと、そんな事をしている場合じゃなかったみたいだ。レミはまた新たな事件を見つけた様子。しかもこの反応は……
あ、そうそう…先にレミの事を説明しておこう。
コイツはレミ。ハーフの外国人で、ハル…俺の恋人の親友だ。
先の戦いでは、悪の黒幕かと思いきやサポートキャラだったというオチを叩き出してくれた美少女である。
結構面倒見が良くて、フランクながらも人当たりは良い。
ちなみに…本人曰く、俺の二号らしい。
あと付け加えておくと…好きな物は動物とダメ男。
嫌いな物…と言うか、嫌いな犯罪は…ベスト3がさっき言ったレイプ、ベスト1が殺人。
そして今回の反応を見る限りは、ベスト2の………
レミ「アンタ達!何してんのよ!!!」
ゴロツキA「あぁん?何だこのアマァ」
ゴロツキB「何そのカッコ。痴女?痴女なの?」
いや、素肌に見えるそれはただの肌色の強化皮膜だ。ダークチェイサーのな
レミ「アタシの事なんてどうでも良いのよ!それよりアンタ達、何してるのかって聞いてんのよ!」
おっと、また話しがずれたな。レミの嫌いな犯罪…そのベスト2は………
ゴロツキA「見て判んねぇのか?」
ゴロツキB「ストレス発散だよ、ストレス発散。何?お前もヤりてぇの?」
動物虐待だ。
汚い口から反吐のような言葉を出しながら、子犬を蹴飛ばすゴロツキ共。
当然ながら俺の胸には怒りの感情が沸き起こる……のだが
それすらも、レミの前では…とてもささやかな物らしい。
あぁ…目が完全に本気だ…キレちまってるよ、久しぶりにな………
レミ「一つだけ選ばせてあげるわ………二ヶ月かかるのと、二ヶ月残るの…どっちが良い?」
結果だけ言えば……ゴロツキは二人とも両手両足複雑骨折、歯が全損。ゴロツキAはそれに加えて右肺破裂に、ゴロツキBは肋骨全損。
救急車は呼んでおいた。
良かったなお前達…命だけは助かって。
さて、問題は虐待に遭っていた子犬の方だ。
俺「そいつ…大丈夫そうか?」
レミ「結構危ないかも…あんなヤツ等なんかのせいで、こんなに酷い目に………」
俺は携帯を取り出し、ハルに連絡する
俺「寝てた所だと思うんだが…悪ぃ。子犬が危ない状態なんだ」
ハル「はい、判ってます。大丈夫…今治療していますから」
気付けば既に子犬の治療を始めている、ハル。
何時の間に……いや、多分最初から居たんだろうな。
改めて紹介しよう。この子はハル…俺の恋人だ。
先の戦いで………何と言えば良いんだろうか。ディーティーに騙されて利用されていた魔法少女だ。
内気な性格で引っ込み思案。ちょっとヤンデレに入るスイッチを持っている……
…………まぁうん、ストーカーだ。多分…今日も不可視の魔法で隠れつつ、付いて来てたんだろうなぁ…
ちなみに、ハルもレミも俺のダークストーカーを自称している。その辺りの説明は省かせてくれ
以上が…魔法少女ハルとレミの説明である。
俺か?俺は………ダークチェイサーという闇の獣に襲われて、最終的にそれら全員と融合したただの一般人だ。
●あるひの
という訳で………先に説明した通りの日課を終えて、絶賛朝帰りの真っ最中。
…ふと視界に入ったのは、近所のバス亭。
バス亭…思えば、バス亭でハルに傘をあげた事で始まった今の関係。
もしあの時、バイトの面接が長引かなかったら…もし雨が降っていなかったら。もし………
そんな事を考え初めても、切りが無いのは判っているのだが…ついつい考えてしまう。
本当、人生何があるか判らない。
色んな偶然が重なって今の俺があり、今のこの世界がある…そう考えると、こう…色々感慨深くなる。
そして、感慨深くなると言えば…バスの向かい側にあるこの大学。
色々あって中退したこの大学………そう言えば、それまでずっと一緒に通っていたアイツは………
マイ「おや、久しぶりだね」
噂をすれば現れた。
俺「お、亜門教授じゃないか。久しぶり」
マイ「何だねその他人行儀な呼び方は。昔のようにマイと呼び捨てにしてくれても良いのだよ」
俺「いやー…一介のフリーター風情である俺が、恐れ多くも天下の大学教授様にそんな」
マイ「わざとらしい謙遜は止めたまえ。文面通りの尊敬など微塵もしていない事くらい判っているんだぞ」
会話から察して貰えているとは思うが…こいつは幼馴染
俺がダラダラとフリーター生活を満喫している間に、26の若さで大学教授にまで登り詰めた天才だ。
俺「だよなー。にしても調子はどうだ?何でもまたナントカ細胞とか言うのを発見したらしいじゃないか」
マイ「キミの言っているのがどれの事を指しているのか判らないね。そのテの研究はもう飽きるほどやったのだから…」
俺「うへ…さすがは天下の亜門教授」
マイ「だからその呼び方は止めたまえ」
俺「はいはいっと…と、じゃぁ今は何の研究をしてるんだ?」
マイ「今かね?今は特に何もしてはいない。強いて言うなら……趣味の並列世界の研究かな」
俺「それってあれだよな?こっちの世界じゃなくて、あっちの世界の…―――」
と言った所で慌てて口を閉ざす俺。
いけないけない。ディーティーやダークチェイサー達が居た世界の事は一般には知られて居ないんだった
マイ「何だねその、さも自分の身近にある物を指すような口ぶりは…」
そして、そこを鋭く突いて来るマイ。さすがは教授。
俺「いや、ただの三人称間違いだ。気にするな。って言うかその研究は進んでるのか?」
マイ「進むも何も、机上の空論を頭の中で構築しているだけだよ。いち大学の施設程度では検証以前の問題だからね」
俺「ごもっとも」
と、そこでふとした事に気付く俺。
俺「あ、じゃぁ暇なんだよな?それなら……ちょっと、本職の方の事で質問したいんだが、良いか?」
マイ「何だね、言ってみたまえ」
俺「再生医学…って、お前の専門だよな?」
マイ「専門では無いが、一通り齧っては居る。今の専門は遺伝子工学だからな」
俺「じゃぁ……不妊治療、損傷した子宮の再生なんかも……」
マイ「相談に乗る事は出来るな」
俺「ありがたい。じゃぁ早速なんだが……俺の知り合いの女の子で、その…妊娠が出来なくなって困ってる子が…」
マイ「それは播磨…ハルくんの事だね」
俺「そうそう…って、何でマイがハルの事を知ってるんだ!?」
マイ「以前ハルくんから相談を受けた事があるのだよ。ついでに言うなら、キミの部屋から出てくる所も何度か目撃した」
俺「何で目撃してんだよ!?」
マイ「ボケたのかね。私の実家はキミのアパートの隣だぞ」
そうだった
マイ「さて、話が逸れてしまったので戻すが…結論から言って、ハルくんのケースはかなり難しい」
俺「何でだ?」
マイ「原因は判らないが……あれは何と言うか、かなり特殊なんだ」
俺「どういう事だ?」
マイ「例えるなら…割れたパソコンを木工用ボンドでくっつけたら、何故か電源が入るようになった…けれどもOSが起動しない…そんな感じなのだよ」
物凄い判り難い例えだが、物凄い判り易い理由だった。
ハルは魔法で無理矢理子宮を治した…その結果が今マイが言った事なんだろう。
俺「つまり………」
マイ「うむ…残念ながら力になれそうには無い。可能性で言えば、子宮を全摘出した後に新たに再生した子宮を移植…という手段も無いでは無いのだが…」
俺「さすがにそこまで大掛かりな事になると…」
マイ「移植の段階でリスクを伴い、正常に機能しなくなる可能性すらある。そして……」
俺「あぁ、いや…そこから先は言わなくても良い。ともかく、相談に乗ってくれてありがとう」
マイ「いや、それは構わないのだが………そう言えばハルくんの件で思い出した事がもう一つ」
俺「ん?何だ」
マイ「ハルくんの他にもう一人連れ込んで居るだろう。金髪ツインテールの子を」
俺「――――!!?」
俺は盛大にむせた
あぁ、レミの事まで知られていたか…それはそうだよな、ハルの事を知られている時点で当然だ。
マイ「一回りも歳の違う女の子を連れ込んでいる時点で問題なのに、更に二人目にまで手を出すなど…よもや二人合わせて同年代などと言うつもりでは…」
俺「いや、レミの方には手を出してねぇよ!」
当然の事ながら弁明する俺。
マイ「ほう、あの子はレミと言うのか…そして、レミ『には』か…」
が、それは物凄い自爆だったようだ。
俺「……………」
マイ「まぁ何だ…男なのだから性欲は持て余し、若い方が良いと言うのはわかるが…程ほどにしたまえよ?」
俺「………ハイ」
そこに反論の余地など全く無かった。
まぁ、ここで…手を出して居ないならば何をしているのだと聞かれなかった事だけがせめてもの救いか
ダークチェイサーとのお喋りや、俺の体調管理……そもそもこの世界に存在して居ない物を説明など出来やしないのだ。
マイ「所で…」
俺「はい!?」
慌てて返事を行い、敬語になる俺
マイ「どうしたのだね?まぁ良い…話は変わるのだが、あの噂は聞いたかね?」
俺「あの噂ってのは?」
マイ「カマをかけたが引っかからなかったか…いや、最近この街で起きているという妙な噂なんだが…」
どんなカマのかかり方を期待したんだこいつは
俺「何の事だよ、噂なんて全然聞かないぞ」
まぁ、ダークチェイサーやディーティーの件で手一杯だったからな。
マイ「黒い靴を履いた少女通り魔の噂…街を徘徊する猫のぬいぐるみの噂…羽の生えたピンク色の少女の噂……」
スミマセン、多分それ全部に心当たりありました。でも言う訳にはいきません。
マイ「後は…そうそう、変な宗教団体が形成されつつあるらしいな」
俺「宗教団体が形成されつつ…?」
マイ「うむ、妙な話だが言葉の通りだ。新興宗教が設立されたのではなく、形成されつつあるらしい」
通常、宗教団体という物は誰かの手によって作られる物である。
教祖が居て、そこに教義が存在し、信者が集まって宗教団体が出来上がる。
しかし、形成されつつある…と言うのは、どうも順番がおかしい。
教祖が正体を隠して居る?何かを象徴として人が集まっている?
…そんな事を考えても、今ここで真実に辿り着けるはずがない。
俺「そりゃまた………うーん、まぁ何か耳にしたらお前にも伝えるよ」
と、そこで話しは区切り…軽く挨拶をして別れる俺達。
そして今回は………この直後から全てが始まって居た。
○できごと
久しぶりの幼馴染との再会…こちらから一方的に見る事はあったが、やはりあちらは気付いていなかった様子。
正直少し腹が立った。
昼休みとなった今でもまだ思い出して愚痴っているくらいなのだから、その立腹度がどのくらいの物なのかはお察し頂きたい。
気分転換に…と屋上に来ては見た物の、この季節の風は思った以上に肌に突き刺さる。
これ以上ここに居ても仕方が無い以上、戻ろうか…そう考えた矢先の事だった
ふと視界の隅にそれが入ったのは、正に偶然…
本来ならば、そんな所にはある筈の無い『それ』
私は目を疑い、再びそれを見据える………が、確かに『それ』はそこにあった。
よりによって何故あんな所にあるのか……いや、場所だけなら幾らでも仮説は立つが、問題はその状態だ。
そう、知的好奇心に駆られた私は走り出していた。
階段を下り、廊下を走り…門を抜けて、その先に進み………『それ』…アイツのアパートの庭に浮ぶ『扉』の前に辿り付いた。
私「何なんだこれは…何故こんな所に扉が?…いや、問題はそれどころでは無いな。何故倒れない?何故浮いている?」
好奇心に促されるまま、門を調べる私。
装飾…材質…そして、取っ手。扉である以上開くのは当然の事……当然開いても、扉の向こうが見えるようになるだけで何も無い事は判りきって居るのだが…
好奇心には勝てない。
私はその取っ手を握り、扉を一気に開け広げた。
●らいほう
少し寄り道をして、午後一時頃に帰宅した俺…明日と明後日は休みなので、ぐっすり睡眠を取る予定だった…そんな俺を、ある来訪者が俺を待ち受けていた。
本来の可能性として言うのなら、ハルかレミ。若しくはその両方………そのくらいしか俺の部屋に来る人物は居ない筈だった、のだが…
俺「…誰だお前は。ディーティーの仲間か?」
何と言えば良いのか…そう。ディーティーのように、マスコットのような姿をした何か。
強いて言うなら、猫型ではなく犬型なのだが…
エディー「失礼。外に居ては目立つため、勝手ながら中で待たせて頂きました。私の名はエディー…」
俺「電子マネーみたいな名前だな」
エディー「ディーティーと同じ世界から来ては居ますが、今となっては仲間に属する者ではありません」
スルーしやがった
俺「………まーた、あっちの世界からの干渉かよ…いい加減にしてくれ」
エディー「申し訳ありません。ですが…我々は、貴方達を無理に巻き込むために来た…と言う訳ではありません」
俺「どういう事だ?」
さて…その言葉が一体どこまで信用できるやら…
エディー「それを話すにあたって、ハル様とレミさまをここにお招き頂きたいのですが…宜しいでしょうか?」
得体の知れない相手の言う通りにするのも癪だが…俺一人で対応するよりは、あの二人が居てくれた方が心強いのも事実。
俺は携帯を取り出し、ハルとレミを呼んだ。
エディー「では改めまして…私の名はエディー。此度は、貴方様とレミ様に助力を乞うため参りました」
レミ「あっちの世界の住人が…私と彼にねぇ………」
内容を聞いて不信感を露にするレミ。当然の事だ。
俺「ハルじゃなくて俺達…って事は、ダークチェイサー絡みって事だよな。で、更にその上でハルまで呼び出したって事は」
罠…想定していたその可能性に備え、警戒心を高める。
エディー「誤解をなさらないで頂きたい。ハルさまをお呼び頂いたのは、助力頂くためではなく、助力への対価がハルさまに支払われるからです」
俺「………説明して貰おうか」
エディー「では…説明の順番が逆になってしまいますが、報酬のお話です。私達は、助力頂いた場合の報酬としてハルさまのお身体の治療を申し出ます」
レミ「お身体って……え?それってつまり…………」
俺「ハルの……妊娠出来なくなった身体を直せる……そういう事なのか!?」
エディー「左様で御座います。我が国の医療魔法使いの治療を受ければ、まず間違い無く完治されるかと」
俺「いや、待て……話が美味過ぎる。それに、ハルってあっちでも稀なくらいの強力な魔法使いなんだろ?それでも治せなかったってのに…」
エディー「失礼ながら、それはハルさまの治療魔法の腕が及ばなかっただけと思われます」
レミ「…どういう事?」
エディー「ハルさまの持つ力はとても大きな物で御座います…こちらの世界で例えるなら、都市一つを賄える程の発電機のような物」
俺「………」
エディー「しかし、医療魔法と言う物は力だけでは無く技術と知識を要する物……例えそれが器用な細工師であっても、手術が上手いかと言えば別問題かと」
俺「確かに」
エディー「逆を申し上げれば、ハル様が貴方様に施した瘴気の浄化…あれだけの魔力を使う治療を行える魔法使いは我が国にも居りません」
レミ「…一応筋は通ってるわね。でも、貴方達が本当にハルの治療をしようとしているって証拠は?」
エディー「御座いません。私共はただ信じて頂く意外の手段を持ちません」
俺「ならその話は置いといて……ハルの治療をする条件は何だ?」
エディー「私共の世界を………救って頂きたいのです」
俺&レミ&ハル「!?」
●ほうかい
俺「世界を救うって………いや、そもそも一体何がどうなってそんな事になってるんだ?」
エディー「私共の世界は、光りと闇…秩序・節制・不変等を司る光と、混沌・例外・変質等を司る闇がバランスを取り合い形成されています」
レミ「うわ、物凄くファンタジーっぽい」
同感だが、そんな見も蓋も無い事を口には出さないぞ。
俺「で、それが世界を救うのとどう関係してるんだ?」
エディー「現在…光の力が闇の力を大きく上回った状態にあり、そのバランスが崩れようとしているのです」
レミ「光の力が大きくなると、具体的にどうなるの?」
エディー「まず、ハルさまの使われるような光の魔法が強くなり…闇の力が衰退。やがて世界は一切の変質を持たぬ、停滞した死の世界となるでしょう」
俺「逆に闇の力が強くなると?」
エディー「闇の力が増し、光の力が衰退…無秩序の混沌により世界は崩壊…闇が全てを飲み込んだ死の世界になります」
俺「………どっちにしても死の世界かよ」
エディー「はい…ですので、双方のバランスを取る事が必要なのですが…」
レミ「バランスが崩れかけてる、その原因は?」
エディー「ディーティーで御座います」
俺&レミ「えっ」
エディー「ディーティーがダークチェイサーを作成する折に…あろう事か禁忌を侵し、闇の核の一部を奪って材料にしてしまったのです」
俺「………………」
レミ「………………」
成る程、理解した。レミも理解できたようだ。
俺「ぁー………それを聞いたら放っておく訳にはいかないよなぁ…」
レミ「そうね…この子達の生まれ故郷がピンチってだけでもアレなのに…その原因が………」
ハル「でも……」
ここに来て初めて口を開くハル
ハル「私のために、二人が危ない目に逢うのは嫌…」
あぁ、やっぱり。ストーキングの件の負い目もあって、こういう所では過度なまでに引っ込みがちなんだよな
レミ「ねぇ…」
俺「あぁ……」
ハル「………?」
俺「気にすんな。順番が逆になったらからそう聞こえるだけで、最初にこの事を聞いた時点で俺達は行く事を決めてたぜ」
レミ「そうそう。これは私達がそうしたいから、しに行くの。ハルの治療はそのついで…と言うか、報酬として貰える分タナバタ?」
俺「それを言うならタナボタだ。変な所でハーフ設定を活かそうとするんじゃない、この日本育ちめ」
レミ「てへぺろ♪」
エディー「では皆様…私共の依頼を聞き届けて頂けたとと考えても…」
俺「あぁ」
レミ「オッケーよ」
ハル「あ……うん」
エディー「ありがとうございます…それでは、皆様の準備さえ宜しければ……」
俺「あ、そだ」
レミ「何?どうしたの?」
俺「ハルもレミも、来週には春休みが終わって新学期だろ?それまでに終わるかどうか…」
レミ「アンタねぇ…あっちの世界の危機って時に何を…」
エディー「その点でしたら心配は御座いません。私共の世界と此方の世界は時間の経過速度が違います故…」
俺「具体的には?」
エディー「此方の1日が私共の世界の10日…10倍の差が御座います」
俺「実質60日の猶予か……まぁ、さすがにそこまでの時間はかからないと思いたいな…」
そして…所変わって、アパートの庭。
エディー「…こちらが、私共の世界へと通じる扉となっております」
レミ「文字通り扉ね…」
ハル「扉だね…」
エディー「因みに…私からあまり離れすぎてしまいますと、どこに出るか判りません。ご注意を……んん?」
俺「どうした?故障か?」
エディー「いえ、何者かがこの扉に触れた痕跡が…まさか」
レミ「どうしたの?」
エディー「すみません…現時点では私の杞憂に確証は持てません。取り敢えず続きはあちらの世界に到着してからでも宜しいでしょうか?」
おいおい本当に大丈夫か?
レミ「ま、判らない事でモタモタしてても仕方ないし…行きましょうか」
そうだな…ここに居ても判らないのなら仕方ない…
俺「あぁ…あっちに行って確認出来るなら、まずは行くか」
俺達は異世界…ダークチェイサー達の生まれ故郷である、あちらの世界へと旅立つ事となった。
●いせかい
俺「と言っても……普通に扉を潜るだけだったな」
レミ「あんまり実感わかないわね」
ハル「それより…心配してた事はどうだった?」
エディー「周囲に転送反応は無し…問題御座いません、やはりただの杞憂だったようです」
どんな杞憂だったかは気になるが…あえて聞かない方が良い事かも知れない。俺はそのまま流す事にした。
レミ「にしても……辺り一面荒野よね」
俺「そうだな…この状態から一体どうすれば良いのやら…」
ハル「そもそもここが目的地なの?」
エディー「いえ…最初の目的地は医療施設で御座います。そちらでハル様の治療を開始して頂き、次なる目的地へと向かいます」
俺「んじゃぁ、俺がダークチェイサーになって皆をその医療施設まで運べば…」
エディー「いえ、それには及びません。迎えが参りました」
そう言って空を指差すエディー
その先には、巨大な鳥が空を舞って居る……かと思えば
その鳥は、瞬く間に………暴風のような羽ばたきと共に、俺達の目の前へと降り立った
ハル「じゃぁ二人とも…絶対に無茶はしないでね?」
俺「心配するな。ちょっとやそっとの事で俺達が危険な目に逢うと思うか?」
レミ「そうそう。私達の事は心配しないで、ハルはちゃんと治療に専念してなさいね」
ハル「………うん」
治療施設…俺達の居た世界の、病院によく似た雰囲気のそこにハルを預け、次なる目的地へと向かう事になった俺とレミ。
エディー「では…こちらに」
そう言って案内された先は、此方の世界に来る時に使った『扉』………
俺「ん?これからこの世界を救いに行くんじゃないのか?」
レミ「別に帰るような用事も無いわよ?」
エディー「いえ…これから皆様に向かって頂く先は、あちらの世界では御座いません。此方の世界に存在する別次元…闇の神殿に御座います」
俺「あぁ…成る程、そういう事か」
レミ「って言うか、闇の核の所に行って具体的には何をすれば良いの?あと、私達だけでこの扉を潜っても大丈夫なの?」
エディー「お二人のなさるべき事は私にも判りかねますが…闇の核が導いてくれる事と思われます」
闇の核の導き…か。つまりはその闇の核には意思があるって事だな。
と言う事は多分…
俺「俺とレミを選んだのも、闇の核の意思…って事か」
エディー「左様に御座います。そして、この扉の先は闇の核の領域…お二人は無事辿り着く事が出来るのでしょうが、逆に私めは…」
レミ「成る程、招かれざる者は立ち入ることさえ出来ない…って訳ね」
となれば、後は……
俺「よし…レミ、行くか」
レミ「そうね、行きましょう」
エディー「では…貴方達、ディヴァインシーカーに幸運のあらん事を…」
覚悟を決め…固く手を握りながら扉を潜る俺とレミ。
ここから先は闇の神殿………さぁ、鬼が出るか蛇が出るか
157 : ◆TPk5R1h7Ng - 2014/11/20 03:34:11.30 nvoooxU8o 18/32
●まよいご
蛇が出た。
具体的に言うなら、全長10メートルはあろうかと言う巨大なアナコンダ。
俺は咄嗟にダークチェイサーの腕を形成し、アナコンダを捕縛。間髪入れずに遠くへと投げ捨てた。
俺「な…………何なんだよここは!?」
レミ「いやいやいやいやいや、私が聞きたいわよ!何ここ、ジャングル!?」
そう……実際に行った事は無いが、多分アマゾンとかその辺りのジャングルがこんな感じなんだろう。
周囲には背の高い木々が生い茂り、到る所から聞こえてくる生き物の鳴き声。
そう……ジャングルだ、まさにジャングルだ!!
レミ「私達…闇の核の神殿に来る筈だったのよね?」
俺「あぁ…その筈だ」
となると……転送に失敗してジャングルに迷い込んだ?
あるいは、このジャングルのどこかに闇の核の神殿があるのか?
最悪のパターンは、エディーに騙された…という場合だが………
見れば、俺達が潜って来た筈の扉は無くなっている。
これはまさか…最悪のパターンか?
いや…もしそうだったとしても、それに対して何も出来ない事に変わりは無い。
レミ「進むしか…無さそうね」
俺「…そうだな」
同じ結論に達し、ジャングルの中を進む俺達…
何があるか判らない以上、ダークチェイサーの使用は最小限…
少し多めにレミの身体を覆うダークチェイサーを形成し、俺は有事の際まで通常形態。
食物に関してはまず俺が毒見をして、食べられそうならレミに。食べられない物だった場合は、消化前にダークチェイサー達に分解して貰う
こうしてると実感するが、本当に便利だよな…ダークチェイサーの身体って。
そして…ジャングルの中を進む事三日目。
サイバイバルの手管にこそ馴れては来た物の、目的地が見えない事は多大なストレスとなって襲い掛かる。
いや…正確にはストレスによるものだけでは無いかも知れないが……その可能性はあまり考えたくは無い。
レミが熱を出し、倒れた。
●かいほう
俺「くそっ…何てこった」
レミ「ゴメン…アタシ………足引っ張っちゃって…」
俺「そんな事を言うな、って言うか無理に喋るな」
どうする…どうすれば良い?
レミは俺と違い、適性があるとは言えダークチェイサーを纏っただけのただの人間だ。こんな風に内側からやられたら、打つ手が無い。
俺「俺と同じように、ダークチェイサーを内部に……いや、ダメだ。こんな状態で試すにはリスクが大きすぎる」
考えろ…考えろ俺。病気になったらどうする?専門的な事は無理だが………
出来る事はある…ただ、本当にそれは基本的な事でしか無い上に、実行するためのコストも大きい。
だが、そんな事で迷っている暇は無い。
俺「皆…頼むぞ」
俺の内に残る47体のダークチェイサー全員を分化し、総動員で行う。
周囲に展開し、まずは水辺の確保…続けて風避けを兼ねて、材木による家屋の設置。
人間ならば何日もかかる作業を、ものの数分でやってのけるダークチェイサー達。
改めてレミとの絆の深さを感じさせる。
食料の確保と飲料水の確保を完了し、最低限安静に出来るだけの環境は確保したのだが…
俺「まだ油断は出来ない……」
原因が判らない以上は楽観視する事なんて出来ない。
もし原因が判ったとしても、対策を取れるかどうかすら判らない。
今の俺に出来る事は、信じる事とレミの自然治癒を助ける事だけだった………
四日目……
レミの熱が上がり、意識が朦朧としているのが見て取れる。危険な状態だ。
体温を下げないために、俺の服を重ね着させた上で身を寄せる。
ダークチェイサー達も、大分消耗しているにも関わらずミツバチの要領で室温を上げてくれた。
五日目……
先日よりは安定して来たが、まだ予断を許さない
六日目……
レミの容態に変化は無し…だが、それとは異なる問題が発生。暴風雨だ
ダークチェイサー達の頑張りで、何とか凌ぐ事は出来たが、それによる消耗も甚大…
倒壊しかけた家屋の修理すら追い付かない
七日目……
レミ「ゴメン………アタシの事は……もう良いから………」
俺「弱音を吐くな。レミらしく無いぞ」
レミ「……でも…………」
俺「良いから、少しでも体力を温存しとけ」
レミ「………」
俺「それに………仮にお前を見捨てたって、他に何かするアテも無いしな」
冗談めかして言う
レミ「………バカ」
少しは元気の素になれたようだ
八日目……
ここに来て劇的な変化が起きた…それも、良い方向ではなく悪い方向に。
レミの身に直接起きたのでは無いのが不幸中の幸いだが………ここでどうにかしなければ、結局レミが危ない。
俺達の前に敵が現れた。
●げきとつ
獲物の取り合いでぶつかるような野生動物とは異なる。明らかな敵意を持った『敵』だ
その姿を形容するなら……巨大な『手』
白い板金の上に金の装飾をあしらった鎧のような外殻。
手全体から見れば細いと思われる指も、俺達人間からしたら大木と変わらない。
そんな化け物みたいな手が宙を舞い、俺達に襲い来る。
俺「くそっ…どっかのゲームで見たぞ、こんなラスボス」
押し潰しにかかる平手…横から迫り来る拳………
紙一重で避けるだけでも精一杯な上に、風圧だけでも吹き飛ばされそうになる。
これは………出し惜しんでどうにかなる相手じゃない。
俺「皆!来い!!」
全てのダークチェイサーを集め、獣の巨大な姿を取る俺…
レミとのパトロールで人間サイズの獣になる事はよくあったが、このサイズの獣姿になるのはディーティー戦以来だ。
体積を増し、正面衝突を覚悟する俺…これだけやってもまだ向こうの方が圧倒的に上…にも関わらず、手は抜いてくれない。むしろ……
俺「嘘…だろ……」
奥の手まで出して来やがった。
爪の先から発せられる、光の刃……ダークチェイサーの天敵である、狩猟者の光の刃だ。
迫り来る刃…距離と軌道からして、回避はギリギリ……
いやダメだ、出来ない。
回避したらレミの居る家屋に直撃する。
俺は爪の一本を牙で受け止め………残りの止められない刃はその身で受ける。
噛んだ爪は死ぬ気で捕まえたまま…
対して手の化け物は残りの指を振り上げ、止めを刺しに来る……が、そこで一つ閃いた
出来れば多少はマシになる…出来なければ死ぬ……だったらやるべきだろうな。
俺「おぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
爪に噛み付いた頭…そしてその横から新たな頭部を形成し、化け物の指の根元に齧り付く。
もがく手の化け物…だが、暴れれば暴れる程俺の牙は深く深く食い込み……
遂にはその指を根元から噛み千切る!!
俺「どうだ…!名付けてオルトロスアタックだ!!」
窮鼠猫を噛み…いや。窮獣指を噛み、痛恨の一撃を与える事に成功……
しかし問題は、倒しきれて居ないという事。
手の化け物は、爪から展開していた光りの刃を今度は拳に纏い…あぁ、これは不味い
案の定その握り拳のまま突撃を行って来る。
…だが知っての通り、俺の背にはレミの居る家屋…これも正面から受けて立つしか無い。
………が
俺「ぉ……うおぉぉぉぉ!!!!」
正面から受ければ、当然のようにその質量の差が顕著に現れる。
ジリジリと押し退けられる俺の身体…加えてそれを切り刻む光りの刃。
そしてその一本が、俺の体を貫き………
俺「――――――レミ!!!!」
レミの居る家屋をも貫いた。
●ぼうそう
そう…レミの居る家屋を貫いた……中に居るレミごと……
レミを貫いた……レミを殺した………レミをコロシタ………
レミが死んだ?
………ふざけるなよ…
…レミヲコロシタ…
そんな奴が生きていて良い筈が無い。
『コロス』『コロス』『コロス』『コロス』『コロス』『コロス』
『コロス』『コロス』『コロス』『コロス』『コロス』『コロス』
『コロス』『コロス』『コロス』『コロス』『コロス』『コロス』
『コロス』『コロス』『コロス』『コロス』『コロス』『コロス』
『コロス』『コロス』『コロス』『コロス』『コロス』『コロス』
『コロス』『コロス』『コロス』『コロス』『コロス』『コロス』
『コロス』『コロス』『コロス』『コロス』『コロス』『コロス』
『コロス』『コロス』『コロス』『コロス』『コロス』「殺す」
満場一致で可決だ。
さぁ行くぞ皆………
俺の中で雄叫びを上げ、我先にと表層に現れ出でるダークチェイサー達。
俺が形成出来る質量の限界をゆうに超え、各々がその本性たる姿を形成して行く。
手の化け物に、噛み突く牙…牙……牙……
48種の頭全てが手の化け物に噛み突き
…抉り
…噛み千切り
…引き裂き
俺達は…
手の化け物を…
―――――カミコロシタ
だが………その成果に何の意味も無い。
レミが死んだ……
もっと早くこの力を出せて居れば、レミが死なずに済んだかも知れない。
いや、レミが死んだからこの力が出せて………
俺「あぁぁぁぁ!!くそっ!!!!」
何だ…何なんだよこれは!ふざけるな!!!
俺「レミが居なければ…レミが生きてなければ、倒せたって何も意味が無いんだぞ!!!」
力を使い切り、完全に無力化して俺の中へと戻るダークチェイサー達。
しかし…意識を失って尚俺の中で渦巻き続ける喪失感と怒り。
そして…俺の中で何かが欠ける感覚……
そう………欠けるだけの何かが俺の中にあった事を思い知った。
俺「そうか………俺、何だかんだ言ってもレミの事が………」
向ける相手の居ない言葉…それが空しく響き………
レミ「アタシの事…………何……?」
俺「え………レ…ミ……?」
レミ「何…幽霊…でも、見た……ような顔してる………のよ」
俺「どう…して…………」
困惑する俺…だが、レミのその姿を見て思い出す。
あぁ、そうか……レミに纏わせていた一体…こいつがレミをギリギリで退避させてくれてたのか
レミ「この子のお陰…でも、私の代わりに……攻撃を受けて、今は………気を失っちゃってる」
悪い…満場一致じゃ無かったな。頑張ってくれてたお前を数に入れなくて悪かった。
レミの安否を確認し…どっと襲い来る疲労感。
無茶を超える無茶をした反動だろう…
指一本動かそうとするのにも全力を絞り出さなければいけない始末。
もしもこんな所を襲われたら、ひとたまりも無い……そのくらいの……
あぁ…しまった。考えちゃいけない内容だった。
外殻の殆どが剥がれ…内部の骨が露出した上で、まだその生命に終止符を打って居なかった
………手の化け物。
俺「悪ぃ…レミ………逃げてくれ……お前だけなら………」
ただ不幸中の幸いか、あちらも慢心相違で機敏な動きは出来ない様子。
俺が最後の力を振り絞って、囮になれば………
レミ「馬鹿……そんな事、出来る筈…無いじゃない。アタシだって……アンタを見捨てたって…他に何かする…アテ…無いのよ…?」
レミ…お前はそんなに男らしく無くても良いってのに…
俺を抱き起こし、手の化け物を見据えるレミ。
したくも無い覚悟…死を覚悟したその瞬間。
そう、まさに一瞬の出来事だった。
●かくせい
レミが身に纏っていたダークチェイサーが、脈動と共に変貌した。
その外殻はより鋭利で強固に…そして、より攻撃的な形状へ
強化皮膜は幾重にも分かれ、服のような形状を織り成して…
背中の甲殻は跳ね上がり………その下からは…大きな羽が生まれた。
二段階変身?そんな言葉が頭を過ぎったのとほぼ同時に………
視界を駆け巡る黒い線。
手の化け物の動きが一旦止まり、そこから僅かに動いた…かと思えば
その身体が駒切れになって崩れ去った。
そう……今度こそ……レミの手により手の化け物を倒す事ができたんだ。
理由は判らないが、俺と同様に限界を超えた変化を起こしたレミ………
勝利を称えて抱きしめでもしたい所なんだが…そんな事をする余裕は無い。
レミはレミで、目が虚ろ…そして吐く息も荒く顔も赤い。
そうだ……まだ熱があるってのに無理しやがって………
安堵感と疲労感……
不味い………気を失いそうだ。
俺は動けず、レミは完治していない…こんな状況で無防備になるのはどう考えても不味い
レミ「ぁ…………」
ダメだ……更に…レミまで気を失う寸前のようだ。せめて安全な場所を確…保………
くそっ…無茶を…させ……過ぎ………た…………―――
こうして俺は意識を失った
●しんでん
のだが………目覚めは不思議と安らかだった。
ジャングルの喧騒も無く、寝込みを襲われた感じも無い。
目を開けて周囲を見渡すと、そこは………
薄暗い部屋の中……いや、部屋と言うよりは神殿の中のようだった。
俺「レミ………」
は、俺の隣でまだ寝ていた。
熱も大分引いたのか、その寝顔は少しだけ安らかそうだ。
俺「ここは…どこだ?見た感じ神殿みたいだし、やっぱりここが………」
闇の核「そう………ここが闇の神殿です」
俺「!?」
驚きの声を出しそうになるのを堪えながら、声のする方向へと視線を向ける俺。
そこにあったのは、真っ黒な球体……黒い光りを放ちながら浮遊する球体だった
俺「…って事は、あんたが闇の核で………いつの間にか闇の神殿に辿り着いていた…いや、あんたがここに連れて来てくれたのか?」
闇の核「そうです……」
俺「そうか…それじゃ、あんたに助けられたんだな。ありがとな」
闇の核「いえ…礼には及びません。むしろ私から貴方方にお礼を言わなければいけないでしょう」
俺「どういう…………あぁ、もしかして、あの手の化け物の事か?」
闇の核「その通りです。あれは、光の核を信奉する者達から私に差し向けられた刺客…ライトブリンガーです」
俺「ライトブリンガー…それがあいつの名前か。いや…まさか、あいつ………等…?」
闇の核「はい…貴方の考える通り、あれは一体ではありません。今もこの次元に向けて、新たなライトブリンガーが迫り来ている所でしょう」
俺「なっ……!?」
闇の核「先程の者は、私が作り出した空間により一時的に封じ込める事が出来ましたが…それも結局は時間稼ぎにしかなりませんでした」
俺「あぁ…やっぱりあの空間を作ったのはあんただったのか」
闇の核「はい…侵入者に備えて、この神殿に入る前の関門として作ったのがあの空間。本来ならば三日目が終えた時点でこの神殿に招き入れる筈でしたが…」
俺「あのライトブリンガーがここに来たせいで、それが出来なくなった…と。ん………?」
あの空間が闇の核により形成されていた物だと言う事…そして、レミが熱を出した三日目…
俺「もしかして…俺やレミに現れた変調って、あの空間と何か関係してるのか?」
闇の核「その通りです。あの空間の中では闇の力との親和性が高まり、より強く結び付くためのきっかけとなる…筈だったのですが…」
成る程…その影響で、急激な変化に絶えられずレミは熱を出した…と言う訳か。しかし…
俺「運悪く…ライトブリンガーの乱入で、逆にその途中で危険に晒される事になっちまった訳か」
闇の核「はい。不測の事態とは言え結果として貴方方の命を危険に晒してしまった事、申し訳なく思います」
俺「まぁ…その辺りはレミも無事だったみたいだから結果オーライだ、新しい力も手に入ったみたいだしな。で、話は戻るんだが…」
闇の核「これ以降…襲来が予想されるライトブリンガーの事ですね?」
俺「あぁ、そうだ。何か手はあるのか?」
闇の核「あります……そのためにも貴方方を此方の世界へお招きしたのですから」
レミ「………ん…………?」
と、そこでタイミング良く目覚めるレミ
俺「起こしちまったか?悪い。今闇の核から話を聞いてる所なんだ」
闇の核「ライトブリンガーの襲撃に備える方法…そして光と闇の均衡を保つ方法…それは、奪われた私の一部を取り戻す事です」
俺「なっ…………!?」
レミ「えっ…………それってつまり………」
つまり………俺達からダークチェイサーを―――
●こづくり
闇の核「いえ、多分誤解をされているようなので解いておきますが、貴方達からダークチェイサーを取り上げようとしている訳ではありません」
あ、違ったらしい。俺とレミは同じタイミングで安堵のため息をついた。
闇の核「彼等は、闇の一部からそれへと変わった時点で既に別物…そして、今では貴方達の一部です。共存する物を引き離すのは本位ではありません」
中々話しが判るじゃないか。だが、それだと…
俺「だったら、どうやってあんたの一部を取り戻すんだ?」
闇の核「失った部分を取り戻すためには…それを新たに作り出すしかありません」
レミ「具体的にはどうやって?」
闇の核「新たに命を作り出す方法…貴方方が命を生み出すに足ると確信する方法で、闇の核を作り出すよう願うのです」
……………ん?
俺「いや……待て?待ってくれ?それってつまり………」
レミ「こ…こっここっこ こっこ……」
落ち着け、どこかの県の銘菓みたいになってるぞ
俺「俺達に子作りしろって事か!?」
よーし言ってやったぞ。どストレートに言ったんだから、誤解も変な言い回しもせずに否定してくれ
闇の核「その通りです(ドンッ)」
はーい、背後で太鼓の音が聞こえました。ドンドンうるさいんだよ!!!
レミ「えーっと………それって、どうしても私達じゃないと…」
闇の核「はい…唯一、同種族の雌雄一対で闇に適応する事が出来た貴方達にしか出来ない事です」
俺「…………」
レミ「…………」
俺「あ、でも……」
闇の核「時間の心配ならば要りません…先程の空間とはまた別の、専用の加速空間を形成しました」
先回りして答えやがった。と言うか、手回しも早いなおい。
そうして次の言葉を紡ぐ間も無く、切り替わる景色…先程のジャングルとはまた違った山奥の森の中。
闇の核「重圧を与えるようで申し訳ないのですが…今この世界の命運は貴方達の双肩にかかっています。どうか、善戦を……」
と、言い残して消える闇の核……
俺「………なぁ、レミ」
レミ「ひゃっ!?ひゃい!?」
顔を真っ赤にしてキョドりまくるレミ。
そう言えば前々から気にはなって居た物の、あえて聞きはしなかったのが………
いやまぁうん、ダークチェイサー達に聞いても無反応だった時点で察するべきだったんだろうが…
俺「お前………ただの耳年増で、実は処女だろ?」
レミ「しょ…しょしょしょ処女ちゃうわ!!」
……………判り易い反応をありがとう。
俺「ちなみに俺…処女厨だけどな」
レミ「ひぇっ!?そ、そそそそそそそれって!?」
不謹慎ながら、珍しく余裕の無いレミを弄りまくる俺。
正直楽しくなって止まらなくなってきたぞ。
しかしまぁ………この場合は何と言えば良いのだろうか。
覚悟を決める…と言えば男らしいんだが
実際は…流される………ってだけだよなぁ
えぇい、もうどうにでもなれ
こうして………俺とレミの、子作りと言う名の闇の核再生作業が始まるのであった
魔法少女ディヴァインシーカー ―完―
と言う訳で再び…
魔法少女ダークストーカーに引き続きここまでお付き合い下さった皆様、ありがとうございました。
さて、都合により前後編に分かれてしまいましたが
引き続き後編に移りたいと思います。