●はじまり
26にもなってアルバイト店員、明日も知れないその日暮らしの俺。
そんな俺が、いつもの様に仕事帰りの夜道を歩いていた時の事
??「コイ……ツカ……」
身の毛もよだつような気色の悪い声が聞こえ、振り返ると『ヤツ』はそこに居た
元スレ
魔法少女ダークストーカー
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1414330789/
真っ黒な芋虫の先に巨大な口が開き、人の手足を何本も取って付けたような奇怪な姿の何か
その正体を考えるよりも早く足は動き、本能のままに駆け出す俺。
俺『保健所?警察?自衛隊?どうすれば良い?いや、とにかくどこかに逃げ込まないとダメだろ!?』
がむしゃらに走って走って、行き着いた先は工事現場。
思慮の浅さを悔やむ暇も無く、迫り来る『ヤツ』壁際に追い詰められた所で、俺は両腕を掴まれた。
掴まれた手が焼けるように熱い。いや、多分実際に焼け爛れている。
『ヤツ』の口が大きく開き、鼻が捩れるような異臭が周囲を覆う。
俺『ヤバい…死ぬ』
そう思った次の瞬間『彼女』が現れた。
彼女「貴方は絶対に守ります」
機能性を無視してフリルやリボンがふんだんにあしらわれた服。先端にハート型の装飾が付いた杖…
いわゆる『魔法少女』の格好をした女の子だ。
そして『彼女』が現れてからの出来事は、非常に淡々としていた。
『彼女』の持った杖の先からビームサーベルのような光が現れ、ものの数秒で『ヤツ』を解体。
その血飛沫を浴びた俺は全身に苦痛を感じてフェードアウト。
そう言えばこんな言葉が聞こえていた気がする
??「無理だよ…ダークチェイサーの瘴気に侵食されてしまった人間は助からない…」
彼女「そんなのダメ!彼は絶対に私が………」
●そのあと
―――という夢を見た
なんてオチを期待していたんだが、現実は非常に非情なようだ。
まるで歯医者に神経を弄られている時みたいに全身から激痛が走り、否が応でもそれが現実だと主張してくる。
??「たかが人間一人、今まで通り放っておけば良かったんだ。なのに君はどうして…」
彼女「だって…彼は…彼だけは」
そして、耳に入って来る不穏な会話。何だこれ、どういう状況だ?
俺「…っ!!」
あ、ダメだ。声もまともに出せない。でもまぁ、こんな声でも俺の覚醒を知らしめる事くらいは出来たようだ
彼女「あ、目が覚めましたか!?無理に喋らないで、今少しだけ楽にしますから!」
??「なっ…ここに来てキミはまた!」
瞼の上からでも判るような暖かい光を感じ、眩しさに身を捩る俺
………と、そこで気付く
俺「あれ…?少しだけど痛みが…いや、それより俺、普通に喋れてる?」
完全にとは行かないまでも、大分薄らいでいく身体の痛み。恐る恐る目を開けると、そこには…
俺の部屋に、声の主…『ヤツ』を解体した女の子と、動物?ぬいぐるみ?何かのキャラクターかと思えるような存在が居た
彼女「あ…完全に癒えた訳じゃなくて、痛みを消しているだけです。無理しないで下さい」
??「…一命は取り留めたようだね。こうなってしまっては仕方ない、その命を僕達の役立つよう使って貰うよ」
彼女「ディーティー、何て事言うの!」
ディーティー…と言うのがこのキャラクターの名前らしい。ここまで定番が過ぎると、否が応でも展開を察せてしまう自分が憎らしい。
俺「よし…じゃぁお互い自己紹介をしよう、俺は…言うまでも無くこの世界の住人だ。そっちの二人はどこの世界から来たんだ?よかったら説明して貰えるか?」
彼女・ディーティー「「………」」
二人とも目を合わせて沈黙している。質問が先走り過ぎていたのだろう?失敗したか?
ディーティー「やっぱりコイツ事情を知っているみたいだね。消去しておこう」
彼女「ディーティー!!」
失敗したようだ。と言うよりも大変物騒な事を言われている。
俺「いや、あくまで推測だ。お前みたいなのが普通にこの世界に居てたまるか。と言うか、説明出来ないなら出来ないで諦めるから良い」
彼女「あ、いえ…私から説明します」
ディーティー「ハル!!」
女の子の方の名前はハルというらしい。ディーティーが止めようとするが、ハルの方は説明を続けてくれる
ハル「かいつまんで言うと…ディーティーは、異世界からさっきの魔物…ダークチェイサー達を追いかけて来たんです」
俺「キミはどっちの世界の子??」
ハル「私はこっちの世界の人間です」
良かった、それなら問題なく話が通じそうだ。
俺「それで、キミはディーティーに協力させられている…と」
ハル「はい…そんな所です」
俺「で…その、ダークチェイサーって言うのが人を襲うには何か条件があるのか?………ぶっちゃけ、俺また襲われるのか?」
ディーティー「ハルのような狩猟者を襲うならまだしも、特定の一般人を襲う条件は不明だね。再現性を見出すためにキミを助けたと思っても良いくらいだ」
狩猟者…それがこのタイプの魔法少女の名称か。と言うか、お前さっきは助けるなとか言ってなかったか? いや…それよりも
読みたくない言葉の裏が見えてくる。未だにって事は何回かあって、それらは再現性を確認できなかった…確認できていないではなく過去形
ついさっきも「たかが人間一人、今まで通り放っておけば良かったんだ」とか言ってたよな
つまり…恐らくは皆死んだって事だろう。
俺「ダメダメじゃねぇか…この無能マスコット。ってか、こんな娘に自分の尻拭いでそんな危ない事をやらせんなよ」
思わず呟いてしまった言葉にディーティーが押し黙る。落ち込んでいるというよりは、俺に対する敵意をどう処理するべきか悩んでいるようだ。
ハル「あの…それに関しては、私の力不足も原因なんです。私がもっと早く駆けつけていれば、貴方がこんな事には…」
対してハルはとても良い子のようだ。手が動けば、頭でも撫でていただろう
俺「いや、ハル…ちゃん?は、気にしなくて良い、キミが居なければ今頃俺は死んでただろうしね。命の恩人だ」
ハル「いえ…そんな。あと……ハル…で、良いです」
何とも奥ゆかしい良い子である。あっちのダメマスコット、略してダスコットとは大違いだ。
俺「―――で、これから俺はどうすれば良い?勿論この怪我が治るまでは何も出来ないだろうけど…」
ハル「そうですね…あ、私の携帯番号入れておきます。何かあったら連絡して下さい」
俺「…俺の方から自発的にする事は無い感じか?…んじゃ、それ以外は今まで通りの生活でいいのか?」
ハル「はい、ダークチェイサーさえ現れなければ…あ、怪我の方は心配しないで下さい。明日のシフトまでには間に合うように、治療できると思いますから」
ディーティー「ハル!!またそうやって魔力の無駄遣いを…!!」
ディーティーがまた横槍を入れるが、何ともありがたい話である。
そして…安心に浸った俺の意識は、自然にまどろみの中へと落ちて行った。
●つぎのひ
俺「で…………」
俺「昨日の今日でこの有様かよ!!」
胴体に目玉が付いた、巨大で真っ黒な鳥…もう疑うまでもない、ダークチェイサーが現れた。
バイト帰り、時刻は昨日と同じくらい…午前2時。待ち構えていたかのように俺の前に現れるそれ。
あの後ディーティーの言った言葉を思い出す
ディーティー『奴等はその名の通り、闇の中から現れて対象を追跡する。精々夜道の一人歩きには注意する事だね』
ディーティー『ま…いっそ襲われてくれれば再現性を確認できて、今後の対策に役立てられるから…僕としてはその方が嬉しいんだけどね』
喜べディーティー、再現性は今この瞬間確認されたぞ。いや、そんな事を考えている暇があったらハルに連絡しなければ。
俺はすぐさま携帯を手に取り、電話帳を開く。そして登録されたばかりのハルの番号を選び、決定を押―――
しまった、携帯をダークチェイサーに弾き飛ばされてしまったぞ。押せたか?押せなかったか?ヤバい、非常に不味い。
昨日と違い、逃げ回るだけの距離はある…だが、スピードで絶対に追い付かれる。今度こそ詰む…そう思った瞬間だった
ハル「はぁぁぁぁぁ―――!!!」
上空から現れたハルの一撃がダークチェイサーにヒット!翼を屠って機動力を奪うが、惜しくも絶命には至らない。
ハル「大丈夫ですか!?」
俺「お陰様で大丈夫だ。それより気を付けろ、まだ生きてるぞ!」
ハル「はい!」
そこから始まるハルの猛攻。光の刃を展開してジャベリンのような形状になった杖は、光の刃で敵を切り刻み…瞬く間にその命を削いで行く。
俺「危ない!避けろ!」
だが、そんな敵さんも一方的にはやられて居ない。関節の無い首が大きくしなり、その凶暴な嘴をハルの腹部へと突き刺した
………かのように見えたのだが、ハルに外傷は見られない。
俺「大丈夫…なのか?」
ディーティー「彼女のような狩猟者は、奴らへの耐性を持っているからね。奴らが放つ瘴気は勿論。魔力によって物理的干渉もある程度軽減できるのさ」
と、いつの間にか現れたディーティーが解説する。なるほどそういう事と納得できてしまう俺もどうかと思うが、疑問を持っても仕方ない。
そうしている間に、ついに絶命するダークチェイサー。どうやら昨日よりも手強い相手だったようだ。
俺「お疲れ様、ハル」
ハル「あ…ありがとうございます」
俺が労いの言葉を向ける俺、心なしか嬉しそうな顔をするハル。
俺「あ、この後はどうするんだ?何か事後処理とか…」
ハル「いえ、特にする事はありません。倒せば自然消滅するみたいですから」
俺「そっか…んじゃ、改めてこの後はどうする?何なら飯でも食いながら作戦会議でも…」
ハル「あ…いえ…一応まだ見回りをした方が良いと思うので、その…また今度」
俺「そっか、残念。それじゃ頑張れよ」
上手く行けば変身前のハルの姿を見れるかも知れないと思ったのだが、そこまで上手く事は運ばないようだ。
夜空に向かって去るハルを見送った後、俺は弾き飛ばされた携帯を拾い上げる。駄目だ………案の定壊れている。
そして俺はこの時気付くべきだった…ハルの行動、そしてハル自身に起きた事に。
●ふたりは
俺「待ったか?」
ハル「いえ、今来た所です」
あれから二ヶ月…俺達は何かある度に落ち合って作戦会議を行うようになった。
作戦会議とは言っても、普通に食事をしたり買い物をしたりしながら今後の対策を話し合うだけ…まぁ、ぶっちゃけデートのような物だ。
そして、ここまで言ってしまえば察して貰えるとは思うが…実質上、俺はハルと付き合っているような形になっている。
プライベートで会うのは勿論、手を繋いでキスをして………まぁあれだ、男女の関係になるに至っている訳だ。
今日もそうしていつものように俺の部屋にハルが泊まり………
寝付いたハルをベッドに残し、ベランダに出る俺。そこでディーティーの姿を見つけた
ディーティー「そう言えば、以前ダークチェイサーにやられた怪我の調子はどうだい?」
こいつが俺の心配をするなんて珍しい。悪い物でも食ったか?
俺「ハルのお陰で全く問題無しだ。さすがに痕は残ってるが、後遺症みたいな物は無さそうな感じだな」
ディーティー「成る程…ハルの魔力は予想以上だね。まさか、肉体に染み込んだ瘴気をここまで浄化するとは…本当なら今頃は……」
前言撤回。こいつは俺の身体じゃなくてハルの力の方に興味があったようだ
俺「なぁ…ところでディーティー、一つ聞いても良いか?」
ディーティー「内容によるね」
俺「お前ってさ…俺達がしてる最中どうしてるんだ?ってか、俺達のって、異世界のお前らから見てどうなんだ?」
ディーティー「………下品な事を。まぁ良い、答えてあげるよ。最中はこうやって気を利かせて姿を消して外に居るのさ。それと…今はこんな姿をしているけど、元はこの世界の女と同じような姿だからね、別に違和感とかそういうのは感じないよ」
その言葉に俺は驚愕した
俺「…………」
ディーティー「…どうしたんだい?」
俺「お前!女だったのかよ!?」
ディーティー「…君は僕を何だと思って居たんだ。よく考えてもみたまえよ…ハルと日常生活も一緒に居る僕が、男だとでも思っていたのかい?」
俺「それも…そうか。んじゃ次、ハルの事なんだが…込み入った事を聞いて良いか?」
ディーティー「内容によるね」
もはや定番と化したディーティーの相槌である。
俺「ハルってよぉ…来て無いよな?アレ。って事は…出来てんのか?それとも、まだ…なのか?」
ディーティー「………曖昧過ぎてとぼけたくなる質問だが、あえて察してあげよう。僕としても、君自身が気付かない事に苛立ちを覚えていたからね」
俺「って事はやっぱり…」
ディーティー「違うね。そもそも機能していないんだよ」
俺「………は?」
予想だにしなかったディーティーの言葉に、頭が真っ白になる。
機能していない…キノウシテイナイ…つまりはあれがアレで………妊娠その物が出来ないという事だ。
俺「それはまた…何で……」
好奇心とは恐ろしい。聞いてはならない事、聞かない方が良い事も、全ての思慮がその欲求に塗り潰されてしまう。
ディーティー「負傷したからだよ」
俺「いや、待てよ…負傷したからって…治せるんだろ?現に俺の怪我だって…」
ディーティー「技術と魔力さえ足りていればね。ただ治療は手術と同様に精密作業なんだ。その行使には膨大な魔力を使い、足りなければマトモな治療をできない」
………察してしまった。
俺「…………大掛かりな治療を行った後は、それに比例した魔力が失われ…防御にまで影響が出る……って事だよな」
ハル「気にしないで下さい。全部私が決めてやった事ですから」
俺「ハル!?起きて……」
話し声で起こしてしまったのか、会話に加わってくるハル。その表情は穏やかながらも、どこか影を持っていた…
ディーティー「すまないハル。僕の口から言うべきでは無かったかもしれないのだけど…」
ハル「ううん、良いの…私からは言い出せなかったけど、隠しておくのも辛かったから」
俺「ハル……その…」
ハル「さっきも言いましたけど、気にしないで下さい。貴方が悪いんじゃありません。これも私が決めた行動の結果ですから」
結果…ここに至るまでの何が悪かったのだろうか。俺を助けた事?俺を治療した事?そもそもディーティーの尻拭いをしている事?
ダメだ、責任転換にばかり気が向いてしまう。でもそうせずには居られない。そんな俺の心中を察したのか、ハルは後ろから俺を抱きしめ…
ハル「じゃぁ……もし貴方がその事を気にして、自分を責めてしまいそうになるなら…代わりに、その分私を愛してくれませんか?」
俺「……あぁ…勿論だ……」
ハルの言葉に、そう答えるくらいの事しか出来ない俺。そんな俺達を見るディーティーの瞳が、何故か無感情で無機質な物に見えた。
…その夜はハルを何度も何度も愛し……そして、意識を失ってからは夢を見た。
雨の日のバス亭…面接帰りの俺は、帰りのバスを待っていた。
今回も駄目そうだな…俺に向いてる仕事なんてあるのか?
そんな事を考えながらため息をつき、ふと隣の人物が視界に入る。
この雨の中、傘も差さずにずぶ濡れの女の子。髪はセミロングのストレート、前髪に隠れて顔はよく見えない。
夏服の制服は雨に濡れてびったりと張り付き、エロいと言うよりも、その様子が心配になってくる。
…とか考えて居ると、俺の待ってたバスがやってきた。
この女の子のバスはまだのようだ。
まぁ、降りてからは家まで近いし…この子もこれだけずぶ濡れだったら今更なんだが…
俺『俺、もう使わないからやるよ』
そう言って女の子に傘を押し付け、バスに乗る俺………
●くろまく
俺「最近あんまり奴等に遭遇しないよな」
ハル「そうですね…私としては助かっていますけど」
ディーティー「僕としてはあまり喜ばしい事では無いね。襲撃が少ないと言う事は、奴等を殲滅する速度が落ちているという事だからね」
俺「それと関係してるのかどうか判らないんだが、最近何かここら辺の治安が悪くなってないか?」
ハル「気付かれないように活動してる可能性…ですか」
ディーティー「何とも言えないね。奴等の中には、そういう活動を出来る物が居るかもしれない」
俺「そう言えば、奴等って…何匹居るんだ?まさか、無限に増えたりしないだろうな?」
ディーティー「確認されている個体数は126体…内78匹は殲滅済みで、生殖能力は有していないからその点は心配要らないと思う」
俺「と思う…か、頼りないな」
ハル「あ、もうこんな時間…すみません、そろそろ失礼しますね」
いつも通りの作戦会議…いつも通りの会話。ただ今日はハルの補習が重なり、途中でお開き。
ちなみに、ここまでの経緯を軽く説明すると
……話を遡る事二週間前。それはハルが学校を休んでいると知った日の事だった。
ダークチェイサーの出現頻度も落ち、ハルと過ごす日が多くなったある日の事…平日にも関わらず一緒に居て大丈夫かと、聞いたのが事の始まり。
狩猟者としての活動が忙しい事を理由に休んではいたが、今ではそれの頻度も下がっている。ので…登校を促してみた。
最初はあまり乗り気ではなかったが、学歴はやはり大事だと言う俺の説得…それと、俺の言う事だからと唆したディーティーの甲斐あって
今では勉強の遅れを取り戻すため補習に出る程になってくれた。
ただ…俺はと言うと。
今までハルと一緒に過ごして居た分、一人の時は何をしていたかさえ忘れてしまっているこの有様。
改めて自分の中のハルの大きさを実感しながら、アイスコーヒーを口に含み……
女子校生「オニーサン、ハルの彼氏だよね?」
そのコーヒーを、今度は一気に噴出した。
女子校生「うわっ、危なっ!いきなり何すんの!?」
俺「いや、それはこっちのセリフだ!何なんだいきなり!?」
改めて声の主を見てみる。
金髪のツインテールに青い瞳。制服は…ハルの学校と同じ制服だ。おまけにタイが青い所を見ると、ハルと同学年という事が判る。
女子校生「オニーサンってハルの彼氏でしょ?一緒に居る所よく見たから、声かけてみたの。でも、いきなりコーヒーシャワーが来るとは思わなかったわー」
俺「いや…一緒に居るからって彼氏とは限らないだろ。親戚の叔父さんかもしれないだろ?」
ハルの世間体もある以上、下手な事は言えない。ここははぐらかす事にしようと決めたのだが…
女子校生「叔父さんとラブホ入るってのはちょっと問題じゃない?」
無駄だった。携帯にバッチリ俺達がホテルに入って行く姿が映されている。
しかし、よりにもよって数回しか使ってない内の一回を目撃されていたとは…
俺「……何が目的だ?金なら無いぞ」
女子校生「やーだー、そんなのじゃ無いって。ちょっと聞きたいだけー。ねね、ハルとはどこで出会ったの?どんなきっかけで付き合うようになったの?」
俺「そんなの俺じゃなくてハルに直接聞けば良いだろ」
女子校生「それがさー、ハルってあんまりそういうの話そうとしないんだよねー。だから彼氏なら話してくれるかなって」
これは…俺から情報を聞き出して、ハルを陥れようという魂胆だろうか?とも考えたが、それならさっきの写メだけで十分だ。
俺「んー…俺達の馴れ初めって特殊だったからなぁ…」
女子校生「何それ、興味ある」
俺「俺がちょっとした事故に逢って、そこをハルに助けて貰ったんだ」
即興で考えた設定だが、こんな所だろう。嘘は吐いて居ないので、ボロも出ない筈だ
女子校生「へぇー…………じゃぁついでに聞きたい事があるんだけど。ちょっと場所変えない?時間ある?」
俺「それは大丈夫だが…」
女子校生「じゃ、行こっか」
人間、二つ返事でホイホイと着いて行く物では無い。もしかしたら行き先が地獄の可能性もあるのだから…by俺
連れて来られた場所は写メの場所…ホテルの中である。
無人受付なせいで途中で止められる事も無く、俺自身も逃げ出す事も出来ずにここに居る。
女子校生「で、オニーサン…さっき言った質問なんだけど…」
と言いながら、おもむろに服を脱ぎ始める少女。一瞬それを見てしまうも、罪悪感から目を背ける
俺「何だ!?というか、何で服を脱ぎ始める!?」
女子校生「ぇー?服着たままシャワー浴びるとかありえなくない?」
俺「何 故 い ま 浴 び る ! ?」
女子校生「汗かいたし」
ダメだ、完全に弄ばれている。こいつは一体何をしたいんだ。
俺「お前は一体何をしたいんだ!質問があるんじゃなかったのか!?」
もう我慢できずに、怒鳴り声で言葉を投げつける。
女子校生「あぁうん、質問あったね。質問。あのさー………ハルじゃなくて、アタシの物にならない?あと、アタシの事はレミって呼んで?」
レミは俺の後ろに回り込み。背中に身体を押し当てながらそう問いかける。だが
俺「名前呼びは良いとしても、お前の物になるのはダメだ」
ここはキッパリと言い放つ
レミ「何で?ハルのどこが良いの?何でそんなに頑ななの?」
俺「ハルだからだ。俺とハルの絆が絶対の物だからだ」
譲らない。
レミ「ハルに助けて貰ったから?」
俺「そうだ」
レミ「ハルが子供産めなくなった事に負い目を感じてるから?」
俺「それも…………いや、何…?」
ん?どういう事だ?何を言っている?何故知っている?俺が言ったのは、助けられた事だけの筈
レミ「本当に?本当にそう?オニーサンが思ってるそれ、どこからどこまでが本当なのかな?」
何を言っている?何を知っている?何を吹き込もうとしている?
俺「レミ…君はどこまで知っている?それに…」
レミ「何者なのか…でしょ?」
そう言って手を離すレミ。それと同時に感じる寒気……そう、覚えのあるこれは………
俺「ダークチェイサーの瘴気………!?」
レミ「大正解ー」
言い終わると同時に俺は視線をレミに戻し、その光景を見る。
脱がれた制服がダークチェイサー特有の瘴気を持った塊へと代わり、今度はその塊がレミの身体や顔を覆って服を形成して行く。
俺「お前…人間じゃなかったのか!? 人型の…ダークチェイサー…!?」
失策だ、完全に失念していた。多種多様な形状を持つダークチェイサーの事。人間の姿をしていてもおかしくは無い。
レミ「ブッブー、それは不正解」
俺「……どういう事だ?」
外れだったようだ。ならば一体どういう事なのか。多分答えが帰って来るだろうから、問い質してみる事にした。
レミ「私は人間だよ?ちゃぁんとこっちの世界生まれの日系ハーフ」
カラコンと髪染めかと思っていたら天然物だったようだ。いや、今はそんな事はどうでも良い
俺「だったら何故こっちの世界の人間がダークチェイサーなんかと一緒に居るんだ。レミ自身は危なくないのか!?」
レミ「あ、そこで心配してくれんだ…やっさしー。でも大丈夫、元々この子達は人を襲ったりしないから」
俺「………………は?」
何を言っているんだこいつは。人を襲わない?そんな筈があるか。現に俺は襲われているし、他の被害者も聞いている
俺「嘘を吐くな、俺や他の人間にも被害者は居た筈だぞ!」
レミ「ぁー…それね。…………ゴメン!」
俺「………はっ!?」
何が起きている?何を言っている?謝罪?俺に謝罪?つまりレミに非があるという事か?それは判るが何故謝る!?
レミ「あんまりハルの近くに居るもんだから…さ、てっきりハルと同じでアタシ達を殺そうとしてるのかと思って…つい」
俺「ついで人を殺そうとするな!!!」
レミ「でもね…ここ数ヶ月貴方を観察してて、間違いだって判ったわ。ディーティーの手先として脅威になるどころか、一般人としてもダメな分類だもの」
俺「いや待て、今何か物凄く失礼な事言われた気がするぞ?」
レミ「事実でしょ?大体、最初の頃にハルと一緒に居た時だって………あれ?…もしかして…」
突然言いよどみ、一人だけ納得したような様子を見せるレミ
レミ「そっか…今でもハルが一緒に居るのって、そういう事……?でも、だとしたら……」
俺「おい、一人で納得してないで説明をしてくれ」
質問をすれば返してくる素直な子…そういう印象を持っていた。ただそれだけに、レミの返答は以外な物だった。
レミ「ゴメン…答えられない…」
俺「なっ…」
レミ「えっと…どうしよう…でも下手な事言うと邪魔されそうだし…………あ、そうだ」
俺「何だ」
レミ「えーと…まず、今日私に会った事は言わないで。でもダークチェイサーの親玉に会った事だけは伝えて」
俺「………それはまた随分と無茶な」
レミ「仮面してたから正体までは判らなかったって言えば良いでしょ」
意外と頭が回る子のようだ。
レミ「それで…ここからが本番。これはありのまま伝えてくれれば良いわ。ちゃんと聞いてて」
俺「おう」
レミ「以前貴方の身体をダークチェイサーの瘴気が侵食したでしょ?」
俺「あぁ、ハルに治してもらったけどな」
レミ「でもそれ完全に除去し切れて無くて、脳に残っているわよ」
俺「何ぃ!?」
レミ「で…万が一私の正体がばれるような事になったり、私が死んだりした場合はそれが爆発して貴方を殺せるようにしたわ」
俺「…………はぁぁっ!?」
レミ「これをハルに伝えて。そうすれば上手く事が運んでくれると思うから」
俺「上手くねぇよ!?何?俺一気にそんな危ない立場に立たされたのか!?」
レミ「その危ない事態にならないようにすれば良いのよ。頑張って」
無責任に言い切るレミ。そして俺の動揺など気にする事無く、衣服を元の制服へと戻し…
レミ「私はやる事ができたから先に帰るわ。貴方はしばらくしてから出てきてね?」
と、マイペースのまま部屋を出て行った。
そして、その後の俺はと言うと…
ハル「どうしたんですか!?ずっと探していたんですよ!家にも居ないし、探知魔法にもかからないし…もしかしたらって…」
物凄い勢いでハルに心配された。そして当然、起きた事をそのまま伝える訳には行かず……
レミという少女に会った事、ホテルに行った事はぼかし…伝えるように言われた内容だけを伝える事になった。……のだけど
●げきへん
ディーティー「成る程…それは由々しき事態だね。彼の命が係っているとなれば下手な行動は起こせない」
おかしい…明らかにおかしい、俺の知っているディーティーの口ではありえない言葉が展開されてる。
しかも、俺に向かって声を出しているにも関わらず視線はハルを向き、アイコンタクト…いや、テレパシーでも送っているようだ。
………嫌な予感しかしない。
ハル「うん…判ったわ、仕方ないわね」
ディーティー「判って貰えて嬉しいよ。もしこちらの動向まで知られているんだとしたら、大問題だからね」
あぁ、やっぱり微妙にずれた受け答えが発生してる。これは間違い無く水面下の会話があって
更に言えばディーティーの意見にハルが同調を見せているようだって事が判る。
俺の安否が危うくなるのは判ったけれど、一体どこが妥協点になったのか…ただ見殺しにされるのか、それとも……
ハル「………」
いや、今処分されるようだ。ハルの手には光の刃が発生した杖が握られている。
どうする?どうすればハルから逃げられる?…いや、逃げるべきでは無いのか?
足手まといになるくらいなら、このまま大人しく殺された方が男らしいんじゃないか?そんな考えが頭を過ぎった瞬間……
ディーティー「馬鹿な………念話で嘘を吐くなんて……」
ディーティーの腹部に突き刺さる光の刃。俺は一瞬その光景を飲み込めず、ただ息を飲んだ。
ハル「ごめんねディーティー…仕方ないの、こうするしか無いみたいだから…」
ディーティー「契約を破るのかい…?いいさ…それなら僕にも…考えがある。彼に全ての真じ…」
ハル「黙って」
次々と突き刺さる光の刃。臓器こそ無いようだが確実にダメージは蓄積し、もう言葉を発する事も出来ない様子。
俺にとっては命拾いの機会…僅かに見えた光明だった。…にも関わらず、どうしても好奇心という物は命知らずのようだ
俺「どういう事だ…?俺に全ての真実って……?」
つい口に出てしまうその疑問。そしてそれが失敗だった。
ハル「それ……は……あ!」
動揺を隠せないハル。その隙を突いて逃げ出すディーティー。手負いとは思えない程の速さで窓から飛び出し、夜の闇へと消えて行く。
俺「………」
ハル「………」
訪れる沈黙…そして静寂。それに耐え切れなくなった俺は口を開き、問いかける
俺「俺には言えない事なのか?」
保身のための嘘もあれば、相手の事を思えばこその嘘もある。現に俺は保身のためにハルに黙っていた事があり
恐らくはそれが原因で今の状態に陥っている。
ハルを責める事は出来ない…いや、それどころか、ハルは俺のためを思って黙っているのかも知れない。
そしてその疑問の答えは紡がれる事無く、ハルが頷く事で一幕を終えた。
俺「ディーティー…あれで良かったのか?その、契約とか…魔法が使えなくなるとか…」
ハル「魔法は…まだ使えます。ディ-ティーは、見つけてちゃんと決着を付けないと」
契約の事はやはり話さない。だからそれ以上の事は俺からも聞かない
それで良いと思っていた………その時は
●しんゆう
レミ「オジャマしまーす。ここが二人の愛の巣かー」
ハル「そんな、愛の巣だなんて…」
あれから三日後…ハルがクラスの友達を俺の家に連れて来る事になった。
ちなみにその友達と言うのが………レミである。
俺「敵の魔法少女がクラスメイトで親友とか、ベタ過ぎにも程があるだろ…」
同じ学年である事は知っていたが、まさかここまで近しい存在だった事は予想外である。
しかも聞いた所によると、お互いに今の立場になる前からの親友だったと言う。
とりあえずは夕飯を一緒に食べる事になり、ハルが買出しに行くという流れになったのだが…
俺「レミ…お前、よくもノコノコと…」
レミ「良いじゃない。ディティーが居なくなった今となっては、そんなにギスギスした関係な訳じゃないんだし。」
俺「お前は良くても、こっちは全然良くない。頭ん中に爆弾入れられてて、気が気じゃ無いんだぞ!?」
レミ「あ、ゴメン。あれ嘘」
俺「……はっ?」
レミ「だから嘘だって。脳幹にちょっと残ってるのは本当だけど、爆発とか害は無いわよ。むしろ貴方に適応しちゃってるんじゃない?」
俺「…………」
いや待て、つまりはあれか?俺達はレミにいいように踊らされてディーティーを排除させられただけか?
こいつは一体何を企んでいる?
俺「お前の望みは何だ?さっぱり判らん」
レミ「ダークチェイサーの子達と大人しく暮らす事。出来れば悪人を懲らしめつつね」
俺「悪人…?まさか、俺以外の被害者って言うのは」
レミ「そ、全員悪人。と言っても、命まで奪ったのは本当に許せないような奴等ばっかりだけどね」
俺「…被害者は全員死んだみたいに聞いたんだが?」
レミ「そんな事無いわよ。ちょっと悪い事しただけの悪人なら、それ相応のお仕置きをしただけだもの」
つまりはあれか?明らかに被害者な死者なんかはカウントしているが、軽度の被害は見逃していたのか?ザルにも程があるぞディーティー
俺「…何か、正義の味方みたいだな」
レミ「私はそのつもり…だったんだけど。やっぱり、正義って一つじゃないのよね。私の正義も他人から見たら悪になるって思い知ったわ」
俺「当然だな」
レミ「だから…私は正義の味方じゃなくて、私の正義の味方になる事にしたの。あんまり変わってないけどね」
俺「いや、認識の違いを認めるのは大きな進歩だろ」
そう言ってわしわしと頭を撫でてやる。何かこう、こいつ思って居たよりも…
俺「思って居たよりも良い奴なんだな、お前…」
レミ「ちょっ、髪型がみーだーれーるー。それに、思ってたよりって何よー」
まんざらでも無い様子なのが可愛らしい。
俺「で、話は戻るんだが…今日は一体何をしに来たんだ?本当に俺達の愛の巣を見に来たって訳じゃ無いだろう?」
レミ「うん……ディーティーも居なくなった事だし、ハルに全部話そうと思って来たの。あ、貴方にも一部は教えてあげるわよ」
俺「…一部だけかよ」
レミ「全部は………まだ話すべきか迷い中。ハル次第では私から話す事になるかも」
俺「そっか…」
それ以上の事はその場では聞けなかった。そしてレミとの会話が終わってしばらく後、ハルが戻ってきて…
ハル「二人とも…」
俺「ん?」
レミ「何?」
ハル「何で髪、乱れてるの?何があったの?ねぇ?ねぇ?」
ヤバい、ヤンデレモードに入った。
そしてこの後、説明をして納得して貰うのに30分を要し、中々本題に入れなかったのは言うまでもない。
●うちあけ
レミ「ごちそうさまー」
俺「ご馳走様…相変わらずハルの料理は美味かったな」
ハル「その…お粗末様でした」
夕飯が終わり、食器を片付け始める頃…満腹になった腹を摩り、至福のひと時を感じる時間。
ただ、そこで終われない…その幸せをかみ締めたからこそ、活力にしてこの先の話へと進めなければならない
俺「じゃぁ………本題に入るか」
レミ「…そうね」
ハル「え?何…?二人して…え?」
ハルの目がヤンデレモードに入っている。あぁ、これは完全に勘違いしている
俺「いや、そうじゃない、そうじゃないから包丁を仕舞って落ち着いて聞いてくれ。ダークチェイサーに関わる事なんだ」
ハル「あ、何だ…私てっきり……って、え?ダメだよ!レミちゃんが居るのにその事は…!」
俺「だからこそ話すんだ」
ハル「…どういう…事?」
レミ「私から話すわね?…って言うか、見せた方が早いかしら?」
そう言って立ち上がるレミ。程なくして着ていた制服が黒く染まり……あぁ、こいつアレをやる気だ。俺は咄嗟に視線を逸らして横を向く
ハル「え………レミちゃん…だったの?何で?どうして?何でレミちゃんが私達の命を…」
レミ「違うの、まずはそれが誤解…」
俺「誤解だったらしい。聞いてくれ」
レミが色直しを終え、始まった会話…そこで狼狽するハルを抑え、俺が話しの舵を取る
レミ「順番はちぐはぐになっちゃうけど…まずは彼の事について謝罪するわね」
ハル「…うん」
レミ「私はあの時、てっきり彼もディーティーの手先…もしかしたらあいつ同様に私達を殺したい側の人間だと勘違いしてた。理由は…」
ハル「…彼との距離…だよ…ね」
ん?どういう事だ?俺とハルの仲の事を言ってるなら、順番がおかしいんじゃないか?
レミ「そう…それで次に、他の被害者…と言っても悪人ばかりなんだけどね。あれも理由があって…独断だけど、裁いてたの」
ハル「うん…それも今なら判る。て言う事は…だよね。その…一番最初の…」
レミ「………そう、あいつ等も殺すに値するだけの事をしていた…だから殺したの。でもそこで一番大事な食い違いが起こってしまった」
ハル「真っ黒な恐ろしい怪物が現れて、あの時居た人達を食い殺して………このまま私も殺される。そう思った矢先に…」
レミ「ディーティーが現れ、契約を持ちかけた。断りようが無いのを判っていて、その上でね」
ハル「それで私、契約してダークチェイサーの狩猟者になって…知らなかったとは言え、レミちゃんに……」
ぼろぼろと涙を流し始めるハル。それをなだめるようにレミが胸を貸す
レミ「それは良いの…それより私の方こそ、この子達を守るためとは言え…ハルに辛い思いさせて…」
辛い思い…と言うのは恐らくあの事だろう。俺という足かせが居たせいでハルは魔力を消耗し、次の戦闘では女として癒えない傷を負った。
辛い思いなんて言葉で片付けられる事では無いが、レミにその責を追求するのはまた筋違いだろう。
もし俺が居なければ、牽制で終わった…そう考えるとどうもやるせない。
俺「それで…割って入るようで悪いんだが、ダークチェイサー達は結局の所何なんだ?」
我慢できなくなって言葉を放つ。内容は、以前から耳に入れる事が無かったそれ。
ハル「私がディーティーから聞いた話だと……あっちの世界で殺戮の限りを尽くした危険生物で、それが逃亡してこっちの世界に来たって…」
レミ「やっぱり…成る程、あいつの良いように捻じ曲げられてるわね。私があの子達から聞いた話とは全然違うわよ」
俺「…って言うと?」
レミ「あの子達は、元々ディーティーに作られたの。生物兵器としてね」
俺「はぁっ!?」
ハル「ぇ………」
思わず声を上げる俺とハル。価値観が丸々反転した瞬間なのだから当然だ
レミ「複数の個性を持ちながらも核に意識の中心を持ち、各々の状況に分化した個体で殺戮行動を行うように作られた兵器…それがあの子達よ」
新事実のオンパレードだなおい。
俺「大本があるからこそ、多少は個体を使い捨てられる…だからあぁいう戦い方ができたのか」
レミ「そういう事。続き良い?」
俺「あぁ、頼む」
レミ「で、ある日問題が起こったのよ。と言っても一方的な酷い話なんだけど…この子達って、あっちの世界では違法の存在らしいのよね」
違法とか以前に法律がある事も少し驚きだ
レミ「それで、研究…この子達の存在がばれそうになったの。そうしたらディ-ティーはどうしたと思う?」
俺「抹消…いや、証拠隠滅しようとした…って事か」
レミ「その通り。だけどこの子達にだって命がある。生きたいって思うのは当然。だからディーティーの手を離れてこの世界に逃げてきたの」
俺「成る程…そして更にそれを追ってディーティーがこの世界に現れ、ハルを利用して抹殺しようとした…って訳か」
レミ「そういう事よ。全く、命を作り出しておいて、わが身可愛さにそれを消し去ろう何ておこがましいにも程があるわ」
ハル「一つ…聞いても良い?」
レミ「何?」
ハル「ダークチェイサーって…元々は生物兵器なんでしょ?その…こっちの世界で危険は無いの?」
俺「無い…と言えば嘘になるだろうが、何のために生まれたかと、何をするために生きるかは別問題だろう」
悪人とは言え人を襲った手前、レミ自身は答え辛いだろうから…レミより先に俺が答える。
俺「現にレミとは上手く共生出来ているみたいだしな」
人を殺す事自体は褒められた事では無いが…暴走の結果でないのならば、一先ずここは不問にして良いだろう。
レミ「貴方…結構物分り良いのね。この子達と上手くやれそうじゃない」
それは褒められているのか?しかし…俺がこいつらと戯れている図は、あまり想像したくないな。
●いえない
レミ「以上が私の知ってる…多分一番信憑性のある真実。私からはこれ以上言う事は無いんだけど…ハルからは、彼に言っておく事は無い?」
レミにそう言われ、一目見て判る程に強張り狼狽するハル。明らかに俺だけが知らない事がそこにあり、ハルを中心にそれが隠されている。
ハル「わ……私からも………言う事は…無い………かな?ほら、レミちゃんが…全部…………教えてくれたし…ね?」
追求するのも可哀想な程の狼狽ぶり。それを見たレミは明らかに不機嫌そうな表情を浮べ…
レミ「そう………そうなのね、じゃぁ…」
何故か俺の方へと歩み寄るレミ。そして俺の襟を掴み……ズギュゥゥゥゥ~~~~ンという音と共に、俺の唇を奪い去る。
レミ「このままじゃあまりにもフェアじゃないわよね。と言う訳で、私も彼を奪いに行かせて貰うわ」
意味不明な事を言いながら舌なめずりをするな。明らかに男女の立場が逆だ。
ハル「え?え!?ぇ…えぇ!?」
あぁ…ハルの瞳がヤンデレモードと驚愕を交互に繰り返して収拾がつかない。
レミ「それじゃ、今日はもう帰るから。二人ともご馳走様」
余分な事を言ってこれ以上場を掻き回すな。
レミ「あ、そうそう…」
俺「何だ…これ以上ややこしくするような話はするなよ」
レミ「ややこしくは無いわよ。むしろ、色々有耶無耶になりそうだから言っておくの」
俺「だから何をだ…」
レミ「貴方の事…冗談じゃなくて本気だから。アンフェアなまま今の関係で居るのだけは、親友でも絶対に許せない」
言って捨てて帰路に着くレミ……だから俺の知らない範囲で話をするのは止めてくれ。
それに……もし本当に俺に好意を持ってくれていて、あぁ言っているのだとしても…
そう…その責任の殆どが俺にあるとしても、ハルの身体の事に、レミが絡んで居ない訳では無い。
レミもハル自身もその事は判っている筈なのに、何故あんな事を言えるのか…俺には理解出来ない。
そう…この時には理解できなかった。
●ついせき
俺「ディーティーが見つかったって、本当か?」
レミ「正確には痕跡だけだけどね…この周辺を移動してるみたい。移動予測範囲は合流してから教えるわ」
ハル「………あれだけ切り刻んだのに…しぶとい」
病みモード一歩手前で呟くハル。この状態の扱いは非常に難しくて困るのだが…何故こんな状況になっているのかと言うと―――
遡る事20分前。俺はハルからの電話で目を覚まし、それを聞いた
ハル「大変です!レミちゃんからの連絡で…ディーティーが、見付かりそうみたいなんです」
俺「…本当か!?今すぐ行く。場所は?」
ハル「えっと…まずはカフェで落ち合う事になってます。準備をするので、今から20分後に来て下さい」
という経過を経て、今に至っている。
レミ「それじゃ、まず現時点で見付かってる痕跡を教えるわね?まずはここ…それからここ…」
集合した喫茶店で地図を広げ、赤いペンでその軌跡を書き込んで行くレミ。
俺の部屋を始めとして、少し歪みながらも西へ向かう痕跡が見て取れる。
俺「西へ向かってるな…この先に何があるんだ?」
ハル「判りません、何か特殊な施設がある訳でも……」
不意に…途中で言葉を止めるハル。その表情は明らかに強張り、顔中に汗を浮かべて硬直している。
……明らかに異常。何か心当たりがある様子。
俺「ハル……何か気付いたのか?」
ハル「い…いいいい、いえ…そ、そんな何も……」
最近気付いた事なのだが、ハルは俺に対して嘘を吐くのが下手なようだ。
こんな風にどもりながら返答する時は、大抵何かを隠している。
だが…それが判ったからといって、ハルを言及するだけの勇気も厳しさも持っていない。ので、レミに聞いてみる事にする。
俺「レミは何か知っているか?」
レミ「………」
こちらもまた沈黙…しかしハルの浮かべる恐怖のような表情とは異なり、何か決意を胸に秘めているような面構え。
確実に何かがある…だがそれを二人とも明かそうとはしない
その場に流れる沈黙…だが、その沈黙を破るようにレミが口を開く
レミ「これは憶測だけど……ここがディーティーの目的地ね。多分ここで、私達が来るのを待ち構えてると思う」
その言葉を聞いて我に帰るハル。そのまま勢い良く立ち上がり、この場を立ち去ろうとするが…そんなハルをレミが止める。
レミ「言ったでしょ…待ち構えてる筈だって。急ぐ必要は無いし、万全の状態で行くべきよ」
ハル「だって…このままじゃ…あの場所に…あの場所に彼も行く事になって………もしかしたら、知られるかもしれない…」
前言撤回。全く我に帰っていない。本人を前に隠し事を隠す事すらも忘れている。
レミ「だったらハルの口から直接言えば良いじゃない」
ハル「無理…それ無理。無理、私には…無理…!!」
いまいち状況が掴めないが…ハルの狼狽がディーティーの策略であるなら、間違いなく成功している事だけは判る。
だが、どうするのが最善のか判らない。レミに助け船を求める。
レミ「行くわよ、三人で。魔力を温存するためにもバスで行きましょう」
答えは至ってシンプルだった…
しかし何故だろう。一つだけ…レミの発した言葉『バス』という単語が気にかかった。
●けっせん
俺「……此処、この廃工場が目的地か。此処にディーティーが居るのか?」
レミ「多分…ね。アイツの嫌な気配がプンプンしてるわ」
ハル「…………」
相変わらず落ち着かないハル。出発前と比べて外面での様相は大人しくなっている物の、内面の動揺は隠し切れていない。
俺「そう言えば……痕跡ってどんな物なんだ?血痕とかだと、さすがにそう長い距離は残らないだろ」
レミ「……言ってなかったわね。痕跡って言うのは、私たちには結構馴染み深い物………そう」
喋りながら脚を進める俺達三人。そうして辿りついた扉の前で、俺達は足を止め…レミがその扉を押し開く。
そして………そこから現れたのは―――
レミ「ダークチェイサーの瘴気よ。それも、私の所に居る子達とはまた異質のね」
マスコットのようだった生物の身体を巨大に肥大させ、更に様々な部位から手足…
それも人間のような物から昆虫のような物まで多種多様な物を生やし、顔の中心には見た事の無い少女の体躯が埋もれている…という奇怪な姿。
辛うじてディーティーの面影を残した塊だった。
ディーティー「やぁ…キミ達…よく来たね。驚いただろう?この身体……見てくれは悪いけど、なってみると中々使い勝手が良い物だよ。ふふふふ…」
腕程の長さの舌を伸ばし、語り始めるディーティー。これは気持ち悪い意外の表現が思いつかない。
レミ「そんな姿になってまぁ…元の世界に帰るのは諦めたようね?」
ディーティー「減らず口を叩かないでくれないかなぁ!?誰のせいだ!誰の!キミが大人しく殺されていてくれていれば、こんな事にはならなかったんだ!」
俺「逆恨みも良いところだな…自分が蒔いた種が大輪の花を咲かせただけだろうに」
ディーティー「黙れ!黙れ黙れ黙れ!良いさ、僕はポジティブなんだ!あの世界に戻れないなら、この世界を僕の好きなように変えるだけの事さ!」
ハル「………あっちの世界の調査隊が来たら、その無駄な足掻きも終わる筈」
ここに来て初めてハルが話す言葉。単語自体は初耳だが、その語調から察するに…ディーティーを追い詰めるに足る存在なのだろう。
ディーティー「ハハハッ、そんな物殺せば良いんだよ。調査隊もその次の調査隊も、実行隊も国軍も、全部全部殺せば良いんだ!」
あえて言うまでも無いが、完全に狂ってるなこれは。まぁ…だからと言って何がどう変わるという訳では無いが
とりあえずは宣言しておくか。
レミ「それは出来ないわね…私たちが…」
俺「俺達が…」
俺・レミ「「今ここで、お前を倒すんだから」」
レミと俺は声を合わせるが、ハルは声を発さない。恐らく戦力としても期待できない事を考えると、厳しい戦いが予想される
…と言うかまず俺も戦力ではないから、実質上レミ一人に任せてしまう形式になるのだが
俺「レミ…何とかなりそうか?」
レミ「正直判らない。悪い予感が当たらなければ良いんだけど…」
俺「…そういう事は言うな、当たるフラグだろう」
ディーティー「どうだろうねぇ?とりあえずはかかっておいでよ。さぁ!さぁさぁさぁ!!」
お前は会話に入って来るな。
制服、影、バッグ…レミのありとあらゆる周辺の物から姿を現すダークチェイサー達。
様々な生物の形どころか、形容する事さえ難しい物まで、多種多様のそれら。そして召還を終えたレミは、大きく息を吸い込み…
レミ「行けーーーー!!!!!」
と、大きな声で一言。それを合図にしたダークチェイサー達は、文字通り解き放たれた獣のようにディーティーへと襲い掛かる。
巨大な爪、幾つもの牙…甲殻の足に角。生物の持つありとあらゆる武器を用いて繰り出される攻撃は、正に一撃必殺の集中豪雨。
…にも関わらず、其れ等は一向にディーティー本体へと届く事が無い。
攻撃の一つ一つを確実に四肢で受け流し、致命傷どころか有効打すら当てられる気配が無い。
俺「…どういう事だ。数では圧倒的にこっちの方が優勢の筈だろう?」
レミ「悪い予感的中…って所かしらね。腐っても生みの親…あの子達の行動ルーチンを全部把握してるみたい」
俺「それは不味いな…他に手は無いのか?」
レミ「やってみる。ちょっと集中するから、話しかけないでね」
そう言ってまたレミは息を大きく吸い込み…
「アイン!右側面に回り込んでパターンA!ツヴァイン!サードのサポートに回ってパターンD!」
ネーミングと思わしき部分はスルーするとして……レミが司令塔になって戦う戦法がある事を見せ付けられる。
ダークチェイサー達はレミの指示に従って動き、それにより今までに無い善戦を見せた
…かに思えたのだが、これも打破される。
作戦指示のパターンも無限では無く、それらもすぐに看破された。加えて指令という行動により動作がワンテンポ遅れてしまう。
ダークチェイサーでの戦闘に勝機は無し…ハルに至っては戦闘を行えるような状態ですら無し。
いや、それ以前の問題だ。何が原因なのかは判らないが、ここに来てからはハルの状態は悪化する一方。
今では足元さえおぼつかずに、その場にへたり込む始末。非常に不味い。こんな状態を狙われたら…狙われたら……そう
そういう事を考えている時に限って、悪い予感は当たる。ダークチェイサー達の猛攻を凌ぎ、尚余裕を持った脚が、ハルへと向けられる。
同じ事に気付いたのか、ハルを庇うべく飛び出すレミ…だが、その身体には一体のダークチェイサーも纏っておらず…
文字通りの肉壁にしかならない。あの攻撃を受けたら確実に死ぬ
だったら…同じ肉壁になるなら、より戦力にならなくて分厚い肉壁の方が良いだろう。
ただ…その結論に到るまでに余分な事を考えていたせいで、出遅れてしまった…
間に合うか?間に合ってくれ。頼む、間に合え。間に合って欲しい…いや、意地でも間に合う!!
意思の力が作用したのか、奇跡でも起こったのか…自分でも驚くほど身体が俊敏に動き、突き出されたディーティーの足の軌道を変える程の体当たりに成功。
レミにもハルにも怪我は無く、正に大成功とも言えるファインプレーだ。
これだけの成果を出せたんだから……俺の腕とか、わき腹くらい、安い物だよな?
●ぜつぼう
「嘘…嫌……いやぁぁぁぁぁーーーーーー!!!!」
ハルの声なのかレミの声なのかも判らない悲痛な叫び。しまった、これは考慮していなかった。ゴメン。
ディーティー「何勝手な事してるんだい。今のは庇ったレミから死ぬ所だろう?君の出番はまだの筈だったんだよ?」
勝手な事を言うなこの肉塊。
ハル「あぁ……ぁ……ぁ…ぁー…あ………」
ハルの声だ、壊れたラジオみたいに音にならない声が響いているのが判る。悲しませてゴメン。
せめて俺の死に怒って立ち上がってくれれば…というのは、高望みが過ぎるようだ。逆に気力が削がれてるのが判る
レミ「死なないで!起きて!ねぇ!」
レミの声だ。いや、起き上がってもこの様では戦いようが無いだろう。
ディーティー「仕方が無いなぁ…予定は狂ったしもう良いや、二人とも一緒に死んでよ」
何を言ってるこのケダモノ野郎。お前はダークチェイサー達と戦ってろ。…いや、戦ってないのか?
そうか…あいつらもやられちまったのか……さぞ無念だったろうな。
いや、待て…だったら誰がハルとレミを守る?どうすれば守れる?何をすれば守れる?
ディーティーを殺せば守れる
ディーティーを殺すにはどうすれば良い?
ディーティーを殺す手段を使うしかない
ディーティーを殺す方法はどんな物がある?今何ができる?
最短ルートで思い出せ、全速力で考えろ
来いよ走馬灯。俺の脳細胞よ、焼ききれるまで回転しろ
『コイ……ツカ……』
『彼女のような狩猟者は、奴らへの耐性を持っているからね。奴らが放つ瘴気は勿論。魔力によって物理的干渉もある程度軽減できるのさ』
『確認されている個体数は126体…内78匹は殲滅済みで、生殖能力は有していないからその点は心配要らないと思う』
『やぁ…キミ達…よく来たね。驚いただろう?この身体……見てくれは悪いけど、なってみると中々使い勝手が良い物だよ。ふふふふ…』
『そんな姿になってまぁ…元の世界に帰るのは諦めたようね?』
『だから嘘だって。脳幹にちょっと残ってるのは本当だけど、爆発とか害は無いわよ。むしろ貴方に適応しちゃってるんじゃない?』
『あの子達は、元々ディーティーに作られたの、生物兵器としてね』
『複数の個性を持ちながらも意識の中心を核に持ち、各々の状況に分化した個体で殺戮行動を行うように作られた兵器…それがあの子達よ』
『ダークチェイサーって…元々は生物兵器なんでしょ?その…こっちの世界で危険は無いの?』
『無い…と言えば嘘になるだろうが、何のために生まれたかと、何をするために生きるかは別問題だろう』
『現にレミとは上手く共生出来ているみたいだしな』
多すぎる。もっと厳選しろ
『やぁ…キミ達…よく来たね。驚いただろう?この身体……見てくれは悪いけど、なってみると中々使い勝手が良い物だよ。ふふふふ…』
『だから嘘だって。脳幹にちょっと残ってるのは本当だけど、爆発とか害は無いわよ。むしろ貴方に適応しちゃってるんじゃない?』
『複数の個性を持ちながらも意識の中心を核に持ち、各々の状況に分化した個体で殺戮行動を行うように作られた兵器…それがあの子達よ』
これだ…そうだ、あるじゃないか
●はんげき
ディーティー「さぁお別れだ…何だかんだ色々あったけど………うん、碌な事が無かったや。さよなら」
ハルとレミ、二人に向けて狙いを定め、振り下ろされる二本の前足。
空を切り裂き二人の眼前へと迫る先端。だが、そうはさせない。
レミ「え…?」
ハル「……ぇ?」
ディーティー「なっ……そんな馬鹿な。何なんだよ君…その姿は!」
ディーティーの前足二本を根元から切り裂くのは、ダークチェイサーで形成した俺の右腕。
少ない体積で形成したせいか、殆ど糸のような物だが…切る事に特化するならこれで十分だ。
失ったわき腹もダークチェイサーの組織で止血を行ったおかげで、当面は死なずに済むだろう。
そしてそれらの部位は、思い通りに動く…と言うよりも、思った瞬間には動いている。脳幹から直結しているおかげか?
成る程、確かにこれは使い勝手が良い。
『ディティーコロス』『無闇に殺しちゃいけない』『アイツハ殺シテ良イ』『ヨシコロソウ』
ちょっと物騒な事を頭の中で呟くのが難点だが…レミの教育なのか、それもしっかりと判別ができているようだ。
ディーティーに比べて俺の保持しているダークチェイサーの組織は、ほんの僅か…にも関わらず、不思議と負ける気が微塵も沸いて来なかった。
ディーティー「元の肉体を保ちながらのダークチェイサーとの融合だって…?ありえない…ありえないありえないありえない!」
うるさい。お前はもう少し現実を見ろ。
ディーティー「創造主の僕でさえこんな事になっているって言うのに、何で赤の他人の君がそんな姿でいられるんだ!?おかしいだろう?!」
懲りない奴だ…今度は背中から生やした8本の腕で掴みかかってくる。そうだ、今度はあれを試してみよう
俺「アイン、来い!」
瀕死ながらも、俺の声を聞き駆け付けるアイン。そして俺はそのアインに右手を沿え……同化。
鋭い爪を持った巨大な手を形成し、一瞬の間にディーティーの腕を全て切り落とす。
それと、ついでにわき腹の器官も再構築しておく。以前侵食された際に俺の臓器の形状も記憶してくれていたようで、難なく修復完了だ。
レミ「嘘…攻撃が通じてる?そっか…あの子達の動きじゃないからディーティーは先読みできないのね」
解説ありがとう、要はそういう事らしい。俺の攻撃は面白いようにディーチーの身体を削ぎ落とし、今までの劣勢を覆す。
俺「ツヴァイン!サード!クィンテット!来い!!」
さぁ、この茶番に幕を引く時だ。
ディーティー「ふふ………ふふふふ…」
何がおかしい。
気でも触れたのか、追い詰められたディーティーが急に笑い出す。
ディーティー「驚いたよ…正直凄く驚いた。正直この身体でここまで追い詰められるとは思って居なかったよ」
俺「遺言はそれで良いのか?」
俺はディーティーの本体と思われる部位に爪を向ける。
ディーティー「いやいや…これは対話だよ、君と僕のね。悪足掻きだと思って聞いてくれて構わない、聞くだけなら損は無いだろう?」
俺「………」
ディーティー「キミも知りたい筈だと思うんだ…あの子達が何を隠しているのか。何故此処を選んだのか…此処で何があったのか」
ハル「殺して!ディーティーを早く殺して!!」
下品な笑いを浮かべるディーティー、執拗なまでに急かすハル。
ディーティー「簡単に言うとね…騙されてたんだよ、キミ。ハルにね」
俺「…どういう事だ?」
ハル「止めて!止めて止めて止めて!!!」
ハルの悲痛な叫びが木霊する。だが…ディーティーの言葉を裏付けする根拠には心当たりがある。俺はその言葉を遮れない。
ディーティー「ハルが子供を産めない身体になったのって、ダークチェイサーとの戦闘が原因じゃないんだよね」
何を言っているんだコイツは
ハル「お願い!止めて!!」
ハルまで何を言っている。何故否定しない
レミ「………」
レミまで口を閉ざし、沈黙を守っている。
本当…なのか?
●しんじつ
ディーティー「いやぁ、色々と口裏を合わせるのは大変だったよ…事前に行った発言を撤回せずに、捻じ曲げて設定を作るのは大変な物だね」
ハル「………」
ディーティー「確かにあの時、腹部へのダメージはあったけど…実はもっと前…キミと出会う前からあの身体だったんだよ?」
俺「出会う前…?」
ハル「止めてディーティー…お願い………」
一瞬の閃光と共に変身するハル。動揺こそ残る物の、瞳には固い決意の色が見て取れる。
手元の杖には既に巨大な剣のような光の刃が形成され、今にでもディーティーに襲い掛かりそうな勢いだ。
ディーティー「おっと、いきなりこれを言ってしまったら他の部分が面白く無いか。じゃぁ先に別の隠し事から暴露して行こうか」
…何?、他にもまだ隠し事があったのか?いや、こいつの口車に乗るべきじゃない、乗るべきじゃないのは判っているのに…
ディーティー「ハル………彼女ね、キミのストーカーだったんだ。いや…ここは洒落を利かせて…」
ディーティー「闇に潜んでキミをストーキングする者…ダークチェイサーならぬ、ダークストーカーとでも呼んでおこうかなぁ!!」
…………は?何を言っている?言うに事欠いて俺のストーカー?自慢じゃないが、俺は美形でも何でもないただのフツメンだ。
おまけに、ダークチェイサーに襲われるまでハルとは何の接点も持ってなかったんだぞ。そんな俺が、何でハルみたいな女の子に…
その頭の中での否定を否定するかのように、ハルがディーティーへと襲い掛かる。
だがその手を、ディーティーの身体から生えた腕が抑え………ハルの刃は寸での所で届かない。
俺「何だよその話…そんな無茶苦茶な話が本当なのか?何でだ?何で俺なんかに?」
ディーティー「キミは覚えてないかも知れないけど、バス亭で傘をあげただろう?実はあの時、ハルは初陣直後でね…身も心もボロボロだった所に…」
あぁ、覚えてる…そうだ、忘れかけてたけど確かに覚えてる。そうか…あの時の女の子がハルだったんだ…
ディーティー「で、そこまでだったら美談だったんだけど…そこからのこの子の行動がまた見物だったんだよね」
ハル「黙って!お願いだからもう何も言わずに死んで!」
ハルの刃が大鎌のような形に変わって、束縛していたディーティーの腕を切り落とす。
ディーティーに至ってはそんな事など気にする事も無く、新たに生やした腕で応戦しながら言葉を続ける。
ディーティー「ハルが家に帰って…まず何をしたと思う?キミもご存知の探知魔法を使って、キミの住処を調べ上げたんだよ。キミの傘を便りにね」
俺「はっ………?」
絶句…あまりにも突拍子の無い言葉に、俺は言葉を失った。
ディーティー「それから先はもっと凄いよ?遠隔透視で私生活を覗き見たり、不可視化してキミの近くに付き纏ったり…」
ぞくり…と、背筋に寒気が走る。あの時から見られて居た?部屋で一人の時も?バイトの時も?
ディーティー「当然キミの趣味も調べていたよ。髪はセミロングのサイドテールが好き、あと処女厨。好きなコスプレとか他にも色々……ね」
足が震える…今まで無条件に信じて居た、ハルの偶像が崩れ去る。…そして、気付いてしまう。
『あんまりハルの近くに居るもんだから…さ、てっきりハルと同じでアタシ達を殺そうとしてるのかと思って…つい』
俺「つまり…俺がダークチェイサーに襲われたのは…」
ディーティー「そう、ハルが原因だよ」
あの時レミが言っていた言葉は、どこもおかしな所が無かった。勘違いでも嘘を吐いていた訳でも無かった。
いや…待て。例えハルが原因だったからと言って、ハルがそれを望んだ訳じゃない。現に危ない橋を渡って俺を助けてくれたじゃないか。
ディーティー「更に付け加えると…あの時、本当は怪我を負う前に助けられたんだよねー…」
俺「え………?」
ディーティー「だって、不可視の魔法で近くに居たんだよ?やろうと思えばすぐにでも助けられたんだけど…折角だから、ピンチを助けて恩を売る事にしたんだ」
何を…なにを言っている?ナニヲ?あの時近くに居た?肉が焼け爛れ、瘴気に侵食されて行く俺を…機会を見計らいながら見ていた?
俺「嘘だろ…ハル……嘘だと言ってくれよ。なぁ?」
ハル「嘘に………う、嘘に決まってる…じゃ、ないですか………」
あぁ…相変わらず何て嘘が下手なんだ。俺の望みに必死に応えようとしてくれてるのに、その言葉が嘘だって丸判りだ。
俺「それじゃぁ……治療には膨大な魔力を使うって言うのは」
ディーティー「それは本当さ」
俺「いや、でも…俺を治療するかしないかで言い争ってたじゃないか、あれは…」
ディーティー「うん、演技。前もってやり取りを打ち合わせてあったんだよ」
え……?あれ?何だこれ?俺が信じてた物って何だ?俺があの時ハルに感じた物って何だったんだ?
駄目だ、この感覚は不味い。
ハル「ぁ………あ………ゃ………」
おいおい、頼むからハルまで被害者面しないでくれよ。そんな顔されたら…俺は…
ディーティー「あぁうん、二人とも絶望するのはまだ早いよ。ここからがメインディッシュなんだから」
何だよ…もう止めてくれ。何も聞きたくなんて無い
●うらぎり
ディーティー「ハルが子供を産めない身体になった理由…それがダークチェイサーとの戦闘が原因じゃないって事はさっき言っただろう?」
そうだ…俺はてっきりそうだと思い込んで居たんだ。いや、思い込まされていた?
ディーティー「きみがハルに傘をあげた日が初陣だって言ったけど、あれって狩猟者としての初陣って意味だけじゃないんだよね」
ハル「ゃ……それ…は………お願い……それだけは…………言わないで」
くそっ…話の先が読めない。もう良い、早く言ってくれ。俺を楽にしてくれ。
ディーティー「あの日は…『女性』としての初陣でもあったのさ。僕が『魔法少女』と呼ばずに『狩猟者』と呼んでいる理由もそれなんだけど」
………はっ?
ディーティー「ハルはね…あの日、この場所で。複数の男性との性交渉を行って居たんだ」
ハル「―――――――」
糸が切れたように膝を突くハル。
頭の中が真っ白になる俺。
何だよそれ
ディーティー「それで、その時に大分無茶をしたせいで子宮に甚大なダメージが残り、後はキミも知っての通り…」
俺「いや…おかしいだろ……それこそ治療魔法で治せば良いんだし…いや、ハルの初めての時だって現に……」
ディーティー「ふっふっふー、後者は自分で答えを言ってるのに気付いてないのかな?」
俺「ぁ………」
ディーティー「そう、キミを騙すためにわざわざ治癒魔法で処女膜を再生したのさ。流石に子宮の方は複雑で、治癒魔法でも機能回復までは出来なかったけど」
騙すため…?騙されてた…?ずっと騙されてた?
駄目だ…もうハルの事を信じられない……
俺「だ……めだ…駄目だ………信じられ…ない、誰も………」
ハル「…………………………」
ディーティー「うんうん、二人とも中々良い感じに仕上がったみたいじゃないか。それじゃぁ……そろそろ終わりにしようか」
ディーティーがそう言い切るか否か、不意に…そして不自然に引き攣ったように跳ねるハルの身体。
およそ人のそれとは思えないような動きでもがいたかと思えば、今度は静かに立ち上がり…刃を、俺へと向けてきた。
俺「……ハル?」
俺は問いかける。
だが返事は無い。
●こころは
ディーティー「無駄だよ。この身体は僕が貰ったからね」
ディーティーのような口調で話し始めるハル……いや。ハルの身体を使って話し始めるディーティー
俺「………そうか、テレパシーか」
ディーティー「察しが良くて助かるよ。キミを切り捨てようとした時は、無茶苦茶な芸当で邪魔をされたけど。本来は契約者としてこんな事もできるんだ」
レミ「………何それ…そんなの聞いてない」
今更話しの渦中に戻ってくるレミ。明らかに動揺している。
ディーティー「とは言え…ここまで完全に乗っ取るのは大変だから、色々と準備が必要だったけどね。そう…傷を深く抉るために、この場所を用意したりね」
さっきはレミと一緒に殺そうとしたくせに、何を調子の良い事を…だがまぁ…
俺「もう、どうでも良い事だ…」
ディーティー「そうだね…キミが恩義も責任も愛情も感じるハルはこの世に居ない…いいや、最初から居なかった。だから僕がこの身体を使おうとどうでも良い」
違う…どうでも良いのは俺の方だ。このまま殺されたってどうでも良い。もうどうにでもなれ…
そうこう考えている内に、俺の腹部へと突き刺さるハルの刃。
痛みは勿論ある…あるけれども、そんな事はどうでも良い程に絶望が俺を塗り潰す。
ディーティー「堪えて無いね…よし、確実に頭に行っとこうか」
そうしてくれ。頭が無くなれば考えなくても済む。
眼前まで迫る刃…死へと踏み込む感情。無という名の安堵に踏み込もうとしたその時…
レミ「クィンテット!こっちに来て!」
不意に…俺の意識とは関係無く、地を蹴る足…いや。足と同化したクィンテット。
紙一重の所でハルの刃をかわした俺は、そのままレミの前に降り立ち……レミがそれを睨み付ける。そして…
レミ「馬鹿!」
罵倒、同時に平手打ちの一閃。
レミ「アンタ本当にそれで良いの?本当にそれで良いと思ってんの!?」
余計なお世話だ。あとお前も隠して居たんだから言われる筋合いは無い。
レミ「ハルが…本当にあいつの言う通りの子だと思うの?」
それはハル自身も肯定してただろ…
レミ「うぅん、もし本当にあいつの言う通りの事をしてたとしても…」
今度はお前まで肯定かよ。何が言いたいんだ
レミ「アンタは、それを許せないの?ハルの事が嫌いになっちゃったの!?」
………はっ?許す?何を言っているんだこいつは。許すも何も、俺は絶望しているんだ。
そう………ただ、今までのハルの偶像が崩れ去って………
………ん?
いや…………
………………あれ?
そうだ
○わたしの
私『それで………魔法少女…狩猟者になれば私生き残れるの?』
ディーティー『勿論、キミはそれだけの資質を持っているからね。仮契約でも構わないから、まずはやってみるかい?』
私をレイプした人達は、変な黒い化け物達に食べられた。
もう何もかもを諦めて、死を覚悟した瞬間にディーティーが現れた。
彼『俺、もう使わないからやるよ』
犯されて…ダークチェイサー達と戦って…傷は治したけどボロボロになった私に、あの人は優しくしてくれた。
凄く嬉しかった…また会いたいと思った。
私『傘を…あの人に返したいんだけど。魔法少女になれば、そういう事も出来るの?』
ディーティー『勿論さ。それどころか、相手の事をもっとよく知ることだって出来るよ』
私は言葉の意味を深く考える事無く、ただただその甘い誘惑に乗った。
私は魔法少女になった。
私『あの人、また後輩のミスを助けてる。今度はお年寄りに優しくしてる…やっぱり優しい人なんだね』
ディーティー『…もっと近くで彼の事を見たいかい?』
私『出来るの?』
ディーティー『勿論さ。恥ずかしいんだったら、ハルの事は見られないようにも出来るよ。君と僕は契約者…知恵も力も貸すとも』
私『大変!彼がダークチェイサーに襲われちゃう!』
ディーティー『待って!これはチャンスだ!』
私『何言ってるの?そんな事言ってる暇…』
ディーティー『良いかい?よく考えるんだ。生きてさえ居れば傷はいくらでも治す事が出来る。それより、その傷の治療を口実に彼に近付くんだ』
私『そんな…絶対駄目だよ!彼に痛い思いをさせるなんて…!』
ディーティー『おっと、そうこう言っている間に丁度良い頃合じゃないか………しかし見事に侵食されたね、これは中々の大仕事になりそうだ』
ディーティー『さぁ、彼が目覚めたら僕が言った通りに口裏を合わせて。そうすれば必ずハルに好意を抱くはずさ』
私『………』
私『彼…またエッチな本読んでる。あぁいう子が好みなのかな』
ディーティー『彼は、この辺りの俗称で言う所の処女厨と言う趣向みたいだね』
私『じゃぁ…やっぱり……私じゃ、駄目………なのかな』
ディーティー『そんな事は無いよ。治癒魔法を使って処女膜を再生すれば、ばれっこないさ』
私『……………はふぅ…』
ディーティー『その様子だと、上手く行ったみたいだね』
私『うん………凄く優しかった………この幸せが、ずっと続けば良いのに』
ディーティー『大丈夫さ』
私『でも…私のこの身体じゃ……』
ディーティー『僕にいい考えがあるんだ、多分近い内に機会は来るから、口裏を合わせておこう。多分この方法しか無いよ』
ディーティーがそう言ったから…それを言い訳にして、ずっと私は甘えて来た。
でも、その言葉に乗って彼を騙してきたのは他でも無い私…
私は許されない罪を幾つも犯してしまった。
本当は、どうすれば良かったんだろう…どうしてこんな事をしてしまったんだろう。
そう…彼に付き纏ったりなんてしないで……ただ傘を返して立ち去って居れば、彼をこんな目に合わせる事は無かったのに………
●ことのは
俺「ハハ………ハハハハハハ………アハハハハハハハハハハ!!!!」
レミ「な、何なの!?」
ディーティー「ビックリした。何がどうしたんだい。気でも違えたの?」
俺が高らかに笑い声を上げ、二人が驚愕の声を上げる。
まぁ当然だろう。俺が逆の立場だったら確実に正気を疑う。それは判るが、判ってもこの笑いを止められない。
何故か?可笑しいからに決まってる。
何が?俺の馬鹿さ加減がだ。
俺「そうだな…あぁ、確かにハルが処女じゃなかったってのはショックだ」
俺「子供が産めない原因が俺にあるって思い込まされてたのもショックだ」
俺「ストーキングされてたのもショックだ」
俺「痛め付けられてる所を傍観されてたのもショックだ」
俺「もうショックな事ばかりで、ハルに対するイメージがメチャクチャになったのも事実だ!」
心の奥から、止め処なく言葉が溢れ出て来る
俺「だが! そ れ が ど う し た !!」
ディーティー「な…何を言っているんだい?ハルの事を信じられなくなったんじゃないの?どうでも良くなったんじゃないのかい!?だったら…」
俺「それは間違いだった!」
ディーティー「…………は?」
俺「その上で…その上で尚、俺はハルの事が好きだ!むしろ、弱みを握って優越感まで溢れ出て来るぐらいだぜ!」
ディーティー「何だコイツ………自分を騙していた相手に対して………っ…何?ハルの意識が」
ハルを指差し、ポーズを決めて言い切る俺。普段なら絶対しないような恥ずかしい事だが、こうなればもうとことんやってやる。
俺「ハル!俺はお前が好きだ!俺の所に戻って来い!」
今更ながら、何て恥ずかしい愛の告白だ。
いや………でも、これは俺が言いたいだけだな。ハルが今言って欲しいのは…
俺「ハル…お前にスト-カー気質があって良かったと思ってる!お陰でお前と恋人になれたんだからなぁ!来いよ…俺は全部許してやる!」
ディーティー「……!!!そんな馬鹿な…嘘だろ?…こんな…こんな言葉だけでハルの意識が………!!」
また糸が切れて崩れ落ちるハルの身体。今度はそれをしっかりと受け止め、抱き締める
ハル「…私…私……」
俺「大丈夫だ…判ってる…まだ判ってない事があっても、後で許す…」
俺の胸の中で声にならない泣き声を上げるハル。俺はただ、その頭をぽんぽんと軽く撫で……そして立ち上がる。
俺「さぁ…それじゃぁさっさと決着をつけようぜ」
ハル「………はい!」
●さいごに
ディーティー「ふざけるな…ふざけるなふざけるなふざけるな!何なんだよそれ!どうして僕の計画が何一つ思い通りに行かないんだよ」
自身の身体に戻り、悲痛なまでの叫び声を上げるディーティー。
聞かれたならば答えるべきだろう。俺は教えてやる
俺「これが何か?それは、愛だ!愛の力だ!」
レミ「………うわー……」
レミ、そこでお前がテンションを下げるような声を出すな
ディーティー「…………もう良いよ。そんな物に付き合ってられない。今度こそ本当に全部終わらせてあげるよ。君達もそう望んでるんだろ?」
吹っ切れたように言葉を紡ぐディーティー。そして…次の瞬間、変異を起こす。
肥大するディーティーの身体…
手足はより強靭な物となり、頭部には巨大な角を生やしていく。
おかしい…こんな奥の手を隠し持っていたのなら、何故もっと早い段階で使わなかったのだろうか?
そんな事を考えていると、俺の中のダークチェイサーがチリチリと焼け焦げるような警戒を伝えてくる。
俺「成る程……脳までダークチェイサーになる事で、リミッターを解除したって事か」
これまでに無い強大な敵…そんな奴を眼前に置きながらも、俺の精神は至極落ち着いていた。
何故か?それは………
そんな奴が相手でも、負ける気がしないからだ
俺「皆!俺の所に来い!」
俺の掛け声と共に集結するダークチェイサー達。
俺の身体は瞬く間にこいつらに包み込まれ、一匹の獣のような身体を形成する。
今や全身がこいつらであり、こいつらこそが俺である。
根幹と一体化した俺は、掛け算式にこいつらの力を引き出せる。思い込みでは無く、本当にそれが出来る。
俺「さぁ行くぜ、キモマスコット!」
そして、宣言すると同時の体当たり。ディーティーの巨体はいとも容易く吹き飛び、廃工場の支柱にぶつかって互いに捻じ曲がる。
だが俺は攻撃の手を緩めない。緩める必要も緩める気も無い。いや、緩めたくない。
右、左、右、左。巨大な爪が相手を引き裂き肉片を飛び散らせ、尖った牙が噛み千切る。
その猛攻にディーティーは成す術も無く………いや、あったようだ。
突如背中から翼を生やし、それを大きく広げた。
何をするかは手に取るように判る。
次の瞬間には予想通り、屋根を突き破って空へと逃げるディーティー。
その速度は凄まじく、瞬く間に豆粒のようなサイズになっていく。
だが…問題は無い。相手は翼を生やしたが、俺にはその必要すら無い。
ただの一度の跳躍で頭上に回り込み、一蹴で地面に叩き落す。
今は俺こそがダークチェイサーだ!闇の追跡者から逃れられると思うな!
俺「さぁ…最後はお前が決めるんだ。ハル!」
俺の掛け声と共に巨大な目を見開き、視線を向けるディーティー。そして、その視線の先にあるのは……
杖を構えたハルの姿。
その杖の先端には、光の刃ではなく光の輪が形成され、更にその中心からは眩い光が放たれている。
ディーティー「いや…だ……イヤダ、イヤダァァ!!!」
ディーティーの中の、辛うじて残っている知性がその危機を感じ取り…逃げ出そうとする。
だが俺はその頭を掴み、天へと掲げる。
俺「一つ教えてやるよ…自分がされて嫌な事は、他人にもしちゃぁいけないんだぜ。やられたくなけりゃぁ、やるんじゃねぇよ!」
それを言い終るか否か、ディーティーを貫く一筋の閃光。
…それは一欠片も残す事無く、その存在を消滅へと導き……
ディーティーとの戦いに終止符を打った
●おしまい
レミ「いっやー…本当、一時はどうなる事かと思ったわ」
俺「一時だけか?常時ハラハラしてたように見えたぞ?」
レミ「言わないでー…でもまぁ、ハルの方の問題もちゃんと解決できたみたいだし。一件落着かな?」
俺「あぁ、そうだな……ここに辿り付くまで…長い道のりだったぜ」
折角なので、ちょっと格好良い事を言って決めてみる
レミ「あ、ゴメン。全部解決した訳じゃないわ」
が、台無しだ。
ハル「え?何?レミちゃん…まだ問題があるの?」
気が気では無いハル。まぁあれだけの事があってまだ続きがあるとなれば当然の反応だろう
レミ「ダークチェイサー達の事よ。あの子達、彼と完全に一体化しちゃったでしょ」
俺「…あ」
言われてみればそうだ。元の人間の姿に戻ったから忘れていたが、分離していない…いや
俺「……分離…出来ない?いや、分化は出来るけど、根幹が俺から離れない?」
ハル「えぇ………」
レミ「って事で…返してって言っても、返せる状態じゃない訳よね?」
俺「すまん………そういう事みたいだ」
困った、調子に乗りすぎてやり過ぎた。考えてみればこいつらはレミの眷属なんだから、返せなければ色々と問題だ。
…つまりだ
レミ「じゃぁこうしましょうか。貴方、あの子達の代わりをして」
俺「………はぁ!?」
正直予想出来た範囲だが、大袈裟に驚いておこう。
レミ「別に四六時中とは言わないわよ。アタシが必要な時だけ」
よし、演技の甲斐あって譲歩してきた。
レミ「そうね…例えば、欲求不満の時とか」
ハル「え?……それって………つまり。レミちゃんが…彼と………」
レミ「うん、そういう事。あの子達で出来なくなったった事を、ちゃぁんとしてもらわないと…ね?」
勘違いだった。色んな意味でぶっ飛んでいる。
ハル「駄目!駄目駄目!そんなの絶対だめ!」
レミ「あら、何で?ハルにそこまで束縛する権利があるの?」
ハル「それは……わ、私は彼の彼女だから!」
レミ「じゃぁ私は二号で我慢するわ」
ハル「え…えぇぇぇ……!?」
おい、俺を置いてきぼりにしたまま話を進めるな。
レミ「ま、最終的な決定権は彼にあるんだけどね?」
その通りだ。俺の事なんだから俺に決めさせろ。……ん?いや、それって俺の決定に責任が圧し掛かって来るんだよな?
レミ「ほら、ハーレムって男の浪漫でしょ?嫌?」
しかも、これは誘導尋問じゃないのか!?
俺「……嫌じゃぁ無い。そりゃぁ当然な」
ハル「!?」
俺「だが、俺はハルの恋人だ!」
ハル「………!!」
レミ「うん、勿論それで良いわよ。ハルは彼の恋人で、私は二号。何なら、お試し期間してみる?」
ダメだコイツ、そこから一歩も譲る気が無い。こうなると俺も突き放しきれないぞ
…よし
俺「いや………それは……………そうだ、ハルが許すんならって事で」
うん、逃げた。正面から戦っても押し負けるに決まってるんだから仕方ないだろ?なぁ!?
ハル「…………」
あぁ…ハルがジト目で見て来る………さすがにこの状態では勘弁してくれ…男だとどうしようもないんだ
ハル「ねぇ…レミちゃん…やっぱりレミちゃんが彼を好きになった理由って…」
レミ「うん、ハルが…一目惚れした理由じゃなくて、依存しちゃった理由も…」
ハル&レミ「「ダメ男、だからだよね」」
………え?
え――――…………何?何か俺の立場が酷い事になってないか?いや、むしろ最初から酷かったのか?
ハル「そう言えば…大分話は戻るんだけど。レミちゃんも、彼の正体を探るために何ヶ月も観察してたんだよね?」
レミ「え?あ、うん」
ハル「じゃぁ…レミちゃんも私と同じ、ダークストーカーだね。お揃い」
レミ「えぇっ!?ま……まぁ、それはそれで良いかもね」
良くないだろ…
こうして二人に増えたダークストーカー。
俺の受難はまだまだ継続…と言うか、悪化する事が約束されたようだ………
魔法少女ダークストーカー ―完―
と言う訳で…
ここまでお付き合い下さった皆様、ありがとうございました。
マオウシステムから来て頂いた方、今回もありがとうございます。
そんな訳で、今度はレミとの仲が進展していく続編を構想中です。
ユウシャシステムを執筆しながら、ある程度本筋が纏まったらまったり進行で書き込んで行こうと思います。
それでは皆様 改めて、お付き合い頂きありがとうございました!!