どうも、古泉です。只今不思議探索の真っ最中なのですが、少々困ったことになっています。
大袈裟に言うわけではありませんが、世界が危険に晒されている状況だったりします。
何のことはありません、涼宮さんがご機嫌斜めだということです。その原因についてですが、痴話喧嘩です。
涼宮さんの機嫌が悪くなる原因の9割は彼との痴話喧嘩に因るものですから。痴話喧嘩なんて言ったりすると、
二人ともきっと必死で否定するでしょうが、端から見ている第三者からすると痴話喧嘩以外の何ものでもないのです。
「…ったく、ハルヒのやつはいちいち細かいんだよ。別に待ち合わせ時間に遅れたわけじゃないってのに――」
くじ引きによる班分けで、彼と僕がペアになったわけですが、先程からこの調子で涼宮さんに対する文句を呟き続けています。
今日の喧嘩の原因は、彼が涼宮さんより集合が遅かったということです。そのことを涼宮さんがいつものように注意したところ、
極稀なことですが彼が反論しました。そこから二人の痴話喧嘩が始まったわけです。かなり微笑ましいモノを感じますが、当人にしてみればそうでもなさそうです。
彼の真似をするわけではありませんが、やれやれと肩を竦めたいところです。
毎回毎回お二人の仲を取り持つ役割は僕に回ってくるわけで、気苦労は絶えません。彼は常々損な役回りをさせられているとこぼしていますが
、はてさて僕と彼ではどちらが損をしていることやら。
まぁ、そんな思考はひとまず置いておきましょう。
「涼宮さんはあなたにもう少しキチンとしてほしいから、ああやって小言を仰るのですよ」
「ふん、余計なお世話だ」
涼宮さんの感情の変化を敏感に読み取った結果を素直に述べたところ、彼に一蹴されました。
まったく、二人とも人の話を聞かないと言いますか、自分に絶対的な自信とプライドをお持ちのようで。
さらに、そのプライドがことさら発揮されるのが二人が一緒にいる時ですから、これも悩みの種となっています。
「そもそも、どうして俺がハルヒにキチンとしろと注意されなくてはならんのだ。どうせSOS団の面子に関わるだとかなんとか言うんだろうけどよ…」
僕はあからさまにため息を吐きます。本当に鈍感なのもいいところでしょう。彼はもう少し夢を見てもいいのではと思います。
全てを頭から否定し、自分の都合の言い様に解釈するのが彼の悪い癖であり、長所でもあります。
客観的意見は時として意味を為さないモノだということを彼に学んでもらいたいものです。
「だいたいだな、やることなすことアイツはいつも無茶苦茶なんだよ。もっと計画性を重んじろ言ってやりたいね」
それでも何だかんだで彼は涼宮さんの後を追い掛けます。無茶苦茶なら無茶苦茶な割に道を踏み外さないように手綱を握ってやる。
文字通りじゃじゃ馬を乗りこなすと言ったところでしょう。そう伝えると、彼はまさかという表情をして全力で否定の意を唱え始めました。
本人も無自覚というわけで無い証拠です。
「まったく、憶測で物事を言うのはやめろ」
「憶測、というわけではありませんよ。お二人の御様子をつぶさに観察した結果を基に意見を述べているだけですが。
お気に召しませんでしたか?」
「ああ、召さないね。大いに気分を害されたよ」
どうしてこうも素直になれないんでしょうか。先程も言いましたように、やはりプライドが邪魔をしているからなのでしょうか。
ここはそのプライドを刺激しつつ涼宮さんの方へ仕向けてやるしかないでしょう。
「では、話を変えましょう。例えば涼宮さんが誰かに告白されたとしましょう。あなたは涼宮さんがどうすると思いますか?」
彼はわけが判らないといった顔をしましたが、しばらく迷った挙げ句こう答えました。
「俺はハルヒの思考回路を理解できるわけじゃないが、きっとアイツは断るだろうよ。
そんじょそこらの連中にアイツを満足させることなんか土台無理な話だからな」
あまりに的確過ぎる回答に、僕は思わず笑ってしまいました。彼が如何に涼宮さんのことを気に掛けており、
如何に観察しているかがよくわかります。そして、同じような質問を涼宮さんにすると、きっと彼なんかを好きになるやつなんていないと答えるでしょう。
お互いに信頼しあっているという証拠です。
「で、今の質問の意図は?」
「特にありませんよ。単なる好奇心から来るものといっておきましょうか」
「くだらん」
照れ隠しからか彼はそう吐き捨てて、さっさと先へ行ってしまいます。本当に分かりやすい性格をしています。
おっと、朝比奈さんからメールです。
『涼宮さんは一応機嫌が良くなりつつあります』
それは何よりです。きっと朝比奈さんが色々と気を遣ってくれたに違いありません。
後は、本人たちに任せておけば大丈夫でしょう。
『了解です。長門さんに、午後は彼と涼宮さんをペアにしてもらえるように頼んでおいてくれませんか?』
これで良し、送信。
しつこいようですが、お二人がもっと素直になってもらうしか解決方法はありません。我々はそれを手助けするだけ。
やれやれ。まったくもって損な役回りです。
終わり