「やぁ、キョン。偶然じゃないか」
ある日の帰り道のことである。ハルヒと2人で帰宅していたら懐かしい顔に出会った。
顔を合わせるのは中学を卒業して以来なので、かれこれ1年振りくらいか。
だというのに、佐々木は相も変わらず涼しい微笑みを浮かべている。俺と佐々木はいつもこんな感じだ。
年月なんか関係なく、会えば昨日も顔を合わせたかのような距離感。
近すぎず、かといってよそよそしいわけではない。俺と佐々木の絶妙な距離感がそこにあった。
「元気そうでなによりだ」
「それはお互い様だよ、キョン。それより、そちらの見目麗しい女性は紹介してもらえないのかな?」
そう言われて隣のハルヒに目をやる。いつもは喧しいのに、何故か妙な表情で黙りこくっている。
普段からこれくらい大人しいとありがたいんだがね。それはさておき。
「ああ、クラスメイトの涼宮だ」
「そうかい。涼宮さん、キョンのことよろしくね」
柔らかい表情の佐々木。そういえば同性相手にはそんな顔するんだったな。
別に俺といる時に仏頂面であるとかそういうわけではないのだが、どちらかと言うと悪戯っぽい表情をすることのほうが多い。
だからといってどうというわけでもないが。
「まぁ、積もる話もあるけど、時間がある時にゆっくり話そう」
「そうだな。夜買ったら今度家に遊びに来いよ。妹も喜ぶだろうしな」
「是非ともそうさせてもらうよ」
じゃあ、またと佐々木と別れた。別れ際に例のごとく悪戯っぽい笑みを浮かべ、
「楽しそうで何よりだよ」
くつくつと喉を鳴らしていた。一体全体なんのことやらさっぱりである。
「ねぇ、どういう関係なのよ」
佐々木の姿が見えなくなってからようやくハルヒが口を開いた。
俺と佐々木の関係ねぇ……。やはり、1番しっくりくる言葉としては『親友』でなかろうか。
「ふーん……」
質問に答えたというのに、ハルヒの表情は一向に晴れない。晴れないどころか、ますます釈然としないものになっていく。
ハルヒのことなので、その心情は推し量ることは出来ないが、どうも納得しているようではなかった。
「今からキョンの家に行くから!」
「はぁ?」
ハルヒからの思わぬ宣言に驚いて立ち止まる。何がどうなってそうなった。
「さっき観たい番組があるからさっさと帰るとか言ってなかったか?」
「うるさいわね!行くったら行くの!録画してあるから問題ないわ」
むきーっと言い放つハルヒ。ハルヒがいいなら別に構わないのだが。俺の家に来たところで面白いものなど何もないと思うのだがね。
「ほら、さっさと歩く!」
時間は有限なんだからと、ハルヒはずんずん歩いていく。軽く嘆息してその背中を追いかけた。
さてさて、家までやってきたハルヒなのだが、あれだけ張り切っていたにも関わらず、俺の部屋でごろごろしている。
やはり、ハルヒの考えていることはさっぱりである。
「佐々木さんもキョンの部屋に来たことあるの?」
「ん?ああ、何度かな」
中学受験の際に、俺に勉強を教えるために何度か訪れたはずだ。まぁ、俺が勉強をしている横で妹と遊んでいたり、
哲学地味た会話を繰り広げただけなのだが。
「……ずるい」
何がだ?
「知らない」
ハルヒは答えずに、枕に顔を埋めて足をばたばたしている。健康的な御身足が見え隠れしていささか扇情的である。
「スカート捲れるぞ」
俺の忠告を無視して尚も足をばたつかせる。まったくなんだってんだ。
「こっち来なさいよ」
足を止めたハルヒが、枕から少し顔を上げてこちらをじとーっ睨みつける。
そんな風に睨まれたところで躊躇してしまう。普段、寝起きしている我がベットとはいえ、
流石に「はいそうですか」というわけにはいかないのである。
「いいから!」
更なる催促。これ以上機嫌をそこねると、どこぞのニヤケ面した超能力者が過労死する可能性が上昇してしまう。
「へいへい」
腹を括る。いや、別にそんな大層なものではないとは思うのだがね。
せめてもの抵抗とベットの端にちょこんと腰掛けた。
「えい!」
ハルヒに引き倒される。いやいや、ちょっと待て。
「うるさい。黙ってて」
非難の声をあげようとするも黙殺される。哀れな俺はハルヒの抱き枕と化すのであった。
力一杯抱きしめられる。そんなに強くしなくても逃げ出しはしない……たぶん。
「なんかもやもやするのよ」
ハルヒにもふもふと匂いを嗅がれる。気恥ずかしい気持ちでいっぱいだが、俺の鼻腔もハルヒの匂いで満たされていく。
「しばらくはこのまんまよ」
「さいですか」
そんなわけで、ハルヒの心行くまで俺は抱き枕に徹するのであった。
終わり