58 : VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] - 2010/08/12 00:12:09.64 DJMI6tM0 1/51

さて新刊規制も解除されたので投下します。

時系列は第三次世界大戦がハッピーエンドで終結した翌年の四月上旬あたり。

カップリングって訳でもないけど、絡みは、

浜面×打ち止め+ゲスト 一方通行×滝壺+ゲスト

です。

あと話の都合上、超ご都合展開となっておりますのでそのへんはご容赦ください。

では前編・49レスもらいます。

元スレ
▽ 【禁書目録】「とあるシリーズSS総合スレ」-12冊目-【超電磁砲】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1281510545/
59 : Boy_Meets_Girl_Another(×2+α) the first part 1/49[saga] - 2010/08/12 00:14:04.58 DJMI6tM0 2/51

春の暖かい日差しが燦々と降り注ぐ学園都市のおやつ時。
無能力者の浜面仕上と大能力者の滝壺理后は第七学区のとある大通りを歩いていた。

「なあ滝壺。俺たちは一体どこに向かってるんだ?」

と浜面は疑問の言葉を、彼の少し前を歩く滝壺に伝える。

「とにかく、今はついてきて」

若干顔を下に向けて滝壺は返した。

何だろう? と浜面は頭に疑問符を浮かべて首をかしげる。
昨日、滝壺から連絡があり『明日少し付き合ってほしい』と言われて大変舞い上がっていたのだが、どこに行くのかわからないというのは思いのほか不安だ。
もちろん、滝壺と一緒ならどこへでも行く。

(何だか滝壺の耳が少し赤いような気がする。ももも、もしかしたら。滝壺は俺と一緒にほ、ほほほホテ……。いかん、いかんぞ滝壺ォ! お前も高校生だしそういうのに興味を持つお年頃だというのはわかる。でも俺は、滝壺にはもっと健全な生活を送って欲しいんだっ。……いやでも、やっぱりそういう展開もいいか……な?)

不埒な妄想をフルに発揮し、ニヘラニヘラと顔をにやけさせながら滝壺について行く浜面。
その光景は第三者から見れば、即通報即現行犯逮捕即ブタ箱行きになっても決しておかしくないものであった。

それから十分ほど歩いたところで滝壺は足を止めた。
妄想全開で前が見えていなかった浜面はその事に気付かず、滝壺に軽く衝突した。

「っとと、悪い。大丈夫だったか?」

「大丈夫。それよりはまづら、ここ」

滝壺はそう言うと、大通りにある様々なショッピングモールの中から一つの建物を指差した。
浜面は滝壺の指差す方へ顔を向ける。

「ここが滝壺の来たかった場所なのか?」

「うん。そう」

浜面が見たのは衣服店だ。
服のブランドには疎い浜面でも、店前のショーウィンドーに服が展示されていれば嫌でもわかる。
店の入り口と思われる自動ドアの上には『Seventh mist』と書かれた看板があった。

「? 滝壺はいつもジャージだろ? 何でわざわざ服屋なんかに……」

「私もおしゃれをしてみたいから」

「ッ!? ど、どうした滝壺。確かにお前の服装は年頃の女の子が好んで着るようなものではない事はわかる。それでも滝壺はジャージ一本から離れなかっただろ。そんなお前がどうして……」

60 : Boy_Meets_Girl_Another(×2+α) the first part 2/49[saga] - 2010/08/12 00:15:06.23 DJMI6tM0 3/51

滝壺は顔を軽く下げ、手を前に組んでややもじもじしながら、

「私、はまづらにかわいいって言われたい」

直後、ぶばッ、と浜面の鼻から勢いよく血が吹き出た。
浜面にとっては核爆弾など比べ物にならないほどの衝撃的発言をしたのだ。
彼がこうなってしまうのも無理はない。
ボタボタと垂れ落ちてくる鼻血を両手で必死に抑えながら、ほんの僅かに頬を赤く染めている滝壺に言う。

「たた、滝壺っ!? そう言った発言は破壊力がありすぎるから少し控えてくれッ! 頼むッ!!」

「? わかった」

浜面はひとまず鼻血を止めるためにも高まった興奮を『うォォおおおおおおおおおおおおおっ!!』と叫びながら気合で静める。
こんな奇異な行動をしても滝壺は怪訝な表情一つ浮かべない。
それは彼女の感情表現が乏しいというのもあるのかもしれないが、それ以上に彼女は浜面の事を理解し、信頼しているからなのだろう。

何とか流れ出る鼻血を止めた浜面は、

「……で、俺は滝壺が試着した姿を見ればいいのか?」

「それもそうだけど、私の着る服も選んでほしい」

またしても浜面の鼻から血が滴り落ちる所だったが、すんでで止める。

「そうか。でも俺、服のセンスはそんなにないぜ?」

「私ははまづらの選んでくれた服なら何でも嬉しい」

ドロッとした感触が鼻の中に広がった。
これ以上店の前で滝壺と話し続けるのは周囲の視線的にも俺の血液的にも精神的にも色々マズイ、と感じた浜面は、滝壺に『よしっ、それなら早く行こう』と言って何気なく彼女の手を握り、店の中に入った。

61 : Boy_Meets_Girl_Another(×2+α) the first part 3/49[saga] - 2010/08/12 00:15:42.89 DJMI6tM0 4/51

――

店に入ると服屋独特の繊維の匂いが浜面の鼻についた。
店内は明るすぎない程度の丁度良い光度で照らされている。
広々とした通路の左右には頭に被る帽子から、足に履く靴まで多種多様な衣服が並べられていた。

浜面のスキルアウト時代はこんなこじゃれた服屋には入った事がない。
(今も大して変わらないが)基本貧乏な浜面は古着屋で服を揃えていた。
なので数多くのマネキンに服を着せているような服屋は珍しかったりする。

ほえー、と初めて都会に来た田舎者みたいなため息を吐き出す浜面。
すると、パッと滝壺が浜面に握られていた手を離した。

「ああ。悪い。強く握りすぎたか」

「ううん、違う。……ちょっと、ごめんね」

滝壺はそう言うと浜面から離れ、どこかへ立ち去ろうと浜面に背を向けた。

「お、おい。どこに行くんだよ」

「はまづら、こういうときは察してほしい」

「? ……あ、そうか! トイレか」

「……はまづら、女の子の前でそれは言わない方がいいよ」

『え?』と素の返答をした浜面の腹に、振り向いた滝壺の鋭い右ストレートが突き刺さった。

ドスッ!

と鈍い音がした。
浜面は突然の出来事と、想像以上の威力を誇っていた滝壺のパンチによりガクンと膝をつく。
その場にうずくまる浜面。そんな彼から離れる滝壺。
会話を聞いていない人が見れば、『可哀想な場面を見てしまったな』と思うことだろう。
浜面は色んな意味で、しばらく動けないでいた。

62 : Boy_Meets_Girl_Another(×2+α) the first part 4/49[saga] - 2010/08/12 00:16:54.78 DJMI6tM0 5/51

――

そんな二人が『Seventh mist』に入る少し前に、とある二人がその店の中にいた。
学園都市の第一位である一方通行(アクセラレータ)と妹達(シスターズ)の上位固体打ち止め(ラスト―ダー)だ。
彼らは第三次世界大戦後から今朝までずっと病院にいたので、久々の外出であった。

「こんな帽子なんてどうかな? ってミサカはミサカは展示品を取って被ってみたり」

棚に置かれている前つばの長い白い帽子を被って一方通行に尋ねる。

「あァ。いいンじゃねェの? もォ何でも」

「もっとちゃんとした評価を出してよっ!! ってミサカはミサカはあなたのぞんざいな態度に憤慨してみたり!」

そう言うと打ち止めは被っていた帽子を元の棚に戻して、別の衣類コーナーへと姿を消した。
軽いため息を吐いた一方通行はこんな事態になった経緯を思い返す。



戦後、『禁書目録(インデックス)』の協力により打ち止めの体調の悪化を防ぐ事ができた。
それでも身体は極度に衰弱していたので、一方通行はすぐさま学園都市のとある病院へと足を運び、あのカエル顔の医者に打ち止めを任せたのだ。
何とか命を取りとめた打ち止めは数週間の意識不明状態からようやく目を覚ました。
それから打ち止めは長い長いリハビリを重ねて、そしてこの春にようやく退院できたのである。

久しぶりの外出にテンションの上がった打ち止めはスキップをしながら両腕を大きく開いて、

「やっと退院できたっ! ってミサカはミサカは外の空気を思いっきり吸ってみたり!」

「大袈裟過ぎンだろ」

「えへへ、これもあなたがずっとそばにいてくれたおかげだよ、ってミサカはミサカは感謝してみたり」

打ち止めは一方通行の方を向いてニコリと笑う。

「そォかよ。で、これからどこに行くンだ?」

「えっとね、まずはヨミカワの家に帰ろうと思うの、ってミサカはミサカはこれからの予定を報告してみたり。もちろんあなたも来るよね? ってミサカはミサカは確認してみる」

彼女の誘いに一方通行は一瞬迷ったが、

「……そォだな」

「じゃあ早く帰ろうっ! ってミサカはミサカはあなたの手を引っ張ってみたり!」

「おい! 急に引っ張るンじゃねェ!」

63 : Boy_Meets_Girl_Another(×2+α) the first part 5/49[saga] - 2010/08/12 00:17:37.08 DJMI6tM0 6/51

――

一方通行たちは黄泉川の住むマンションの近くまで来た。
そこで、ふと疑問を浮かべる。
そういえばこのマンションはオートロック式の出入り口ではなかったか?
一方通行はカードキーのようなものは持っていない。
となると打ち止めが持っているのかと思ったが、彼女は病院から出るときに服以外は特に何も所持していなかったはずだ。
打ち止めが能力を使って(不法)侵入でもするのだろうか、と犯罪チックな事を考えていた一方通行にマンションの出入り口から聞き覚えのある声が聞こえた。

「一方通行! 打ち止め! 待ってたじゃんよー」

そこには緑ジャージ姿の黄泉川愛穂と白衣姿の芳川桔梗が出入り口で二人の方を向いて立っていた。
打ち止めは黄泉川の声を聞くと、両手を広げてバンザイをするように黄泉川に向かって走る。

「ヨミカワー! ただいまっ!! ってミサカはミサカは感動の再会シーンを演出してみたり!」

そう口にしながら黄泉川のお腹に抱きついた。

「お帰りじゃんよー打ち止め。それと、一方通行もな」

「ふン、俺はソイツについてきただけだけどなァ」

「まあ細かいことは追い追い話すとして。まずは家に入るじゃん」

黄泉川はにこやかな笑顔を見せながらラミネート加工されたカードを取り出した。

64 : Boy_Meets_Girl_Another(×2+α) the first part 6/49[saga] - 2010/08/12 00:18:10.09 DJMI6tM0 7/51

――

「さてと。久しぶりに一方通行と打ち止めが来たんだから、今夜はパーッと盛り上がろうじゃん!」

自分の部屋の扉を開けながら黄泉川は言った。

「わーい! パーティパーティ!! ってミサカはミサカはテンション急上昇!!」

「そうね。四人揃うなんてご無沙汰だし、いいアイデアじゃないかしら」

肯定の意見を述べる打ち止めと芳川。
突然のイベント発生フラグに一方通行は目を見開く。

「はァ? 何で俺が参加することになってンだよ」

「お前がいないと始まらないじゃんか。あ、そうそう――」

黄泉川は言葉を切ると、ズボンの後ろのポケットから財布を取り出して、中から数枚の万札を一方通行に渡した。

「それで今夜のパーティの材料を買ってきてほしいじゃん。あっ、あと打ち止めの退院祝いもよろしくー」

「ふざけンなッ! 何で俺がそンなめンどくせェことをしなきゃなンねェンだよッ!!」

「だって私はこれから学校に行かなくちゃいけないんだもーん」

「ッ! ……なら芳川に行かせりゃいいじゃねェか」

一方通行は芳川の方を指差して言った。

「いやよ。今日は休日だから、わたしは家で休んでいたいの」

相変わらずの自分に甘い性格の言葉にブチ切れそうになった一方通行だったが、その前に黄泉川が口を挟んだ。

「いいよなー桔梗は。私なんてこれから単位の足りない生徒の補習に付き合わなきゃならないのに」

「あら、面白いバカは好きだって言ってなかった?」

「まあ確かにそうだけどさー。こうも毎週毎週駆り出されると疲れるじゃん」

彼は自分を無視して二人の会話が始まったことに舌打ちしていると、自分の腕が誰かに引っ張られているのに気付いた。

65 : Boy_Meets_Girl_Another(×2+α) the first part 7/49[saga] - 2010/08/12 00:18:43.83 DJMI6tM0 8/51

「もう二人の世間話は放っといて早く行こうよ、ってミサカはミサカはあなたを促してみたり」

「だから俺は行くなンて言ってねェっつゥの」

「行かないとあなたへの代理演算を切っちゃうよ? ってミサカはミサカは怪しい笑顔を見せて強迫してみたり」

「……チッ、わァったよ。ンじゃあさっさと行くぞ」

そう言うと、大人二人の顔も見ずに外へと向かって歩き出す。
彼の急な方向転換と行動の速さに打ち止めは遅れをとった。

「ちょっと、置いていかないでよッ! ってミサカはミサカは慌ててあなたの横に並んでみる」

タタタッ、と打ち止めは一方通行に駆け寄った。
エレベーターに向かってマンションの廊下を歩いていると、

「暗くなる前には帰ってくるんだぞー」

黄泉川が自分の子どもが遊びに行くときに言うようなことを言ってきた。
打ち止めはそれに反応し、

「はーい、ってミサカはミサカは返事をしてみたり!」



こうして今に至る訳だ。
打ち止めは『何か服がほしいなー』と言うとわき目も振らずにこの衣服店へと入っていった。
打ち止めくらいの年齢向けの服もあるみたいなのだが、彼女が選ぶのは見た目には合わないような大人っぽいものばかりだった。
選び始めたころは一方通行もそれなりに評価をしていたものの、そう何度も何度もどうかななんて尋ねられると、飽きてくる。
つまるところ、今の一方通行は『何でもいいからさっさと選ンで決めてくれ』状態なのだ。

66 : Boy_Meets_Girl_Another(×2+α) the first part 8/49[saga] - 2010/08/12 00:19:25.20 DJMI6tM0 9/51

そこへ、打ち止めが新しく服を持ってやって来た。
彼女はベージュ色のレースのワンピースを自らの身体に重ねて、

「どうかな? ってミサカはミサカは尋ねてみたり」

「あァ。いいンじゃねェの」

「…………」

突然無言になった打ち止めに一方通行は眉をひそめる。

その瞬間、全身の力が抜けて、一方通行は地面へと倒れこんだ。

何が起きたのかわからなかった。
今自分が何をしているのか、どうなっているのかわからない。
こういう感覚を彼は何回か体験したことがある。
自分で自分の代理演算を切ったときやチョーカーのバッテリーが切れたときにこうなった。
目の前で見えている文字や絵を見ることはできても、認識することができない。
今の一方通行は四十度を軽く超えた熱にうなされながら、フルマラソンを走りきったときのような思考しかできない。
簡単に言えば何も考えられないのだ。

どこかから言葉が聞こえてきた。

「わずかの時の長さを指示する地の表面で過去の行為を考察そうすれば優れると期待する」

おそらくは打ち止めが言った言葉なのだろう。
このとき打ち止めは『ちょっとはそこで反省すればいいと思う』と言っていたのだが、一方通行は何を言っているのか理解できていない。
打ち止めは地面でもぞもぞと蠢いている一方通行を置いて、どこかへ行ってしまった。


一分後、一方通行への代理演算が復活した。
あらゆる機能が思い通りに動くことを確認した彼はゆっくりと立ち上がる。
一分という短時間で済ませたのは打ち止めの優しさなのか、店に迷惑をかけないためだったのかはわからない。
普段の一方通行を知る者なら、こんな事をすれば死よりも恐ろしい結末が待っていると思うだろう。
しかし、彼は何故か憤りの気持ちを感じなかった。
彼自身にもどうしてあの少女に対してそのような感情が出ないのか不思議に思う。

「……捜すか」

一方通行はどこかへと去ってしまった打ち止めを捜しに歩き始めた。

彼が冷静な気持ちを保っていられたならば、ここで捜し歩くことはなかっただろう。
案外、人を捜すときは下手に動かない方が見つかったりするものなのだ。
後に一方通行が倒れていた場所に打ち止めがやってくることを、彼は知る由もない。

67 : Boy_Meets_Girl_Another(×2+α) the first part 9/49[saga] - 2010/08/12 00:20:30.18 DJMI6tM0 10/51

―― 浜面 Side ――

浜面は滝壺に殴られてから五分ほどその場でうずくまっていたが、だんだんと周りの人が不審に思い始めたのか、彼の周囲に人が集まりだした。
ヒソヒソと浜面の事を指差しながら内諸話をするギャラリー。
そんな騒ぎを聞きつけたのか、この店の店員さんまで来るほどにまで事態が発展してきた。

これは、ヤバイ。

心の中で三、二、一、ドーン! と鉄砲を鳴らして擬似クラウチングスタートをもって飛び出し、浜面の周りを囲んでいた人の間をすり抜ける。
アメフト選手顔負けのダッシュを魅せた浜面は、その勢いのまま滝壺が向かったであろう『婦人化粧室』へと駆け出した。



浜面は女子トイレの前に立っていた。
語弊があると彼の人間性が疑われる可能性があるため弁解しておくが、正面に堂々と立っている訳ではない。
しっかりと女子トイレの中が見えないような位置に浜面は立っている。

(滝壺がおしゃれ、か。あいつもちょっとは普通の女の子みたいになってきてるんだろうなあ)

滝壺くらいの歳の子がおしゃれに興味を持つのは自然の事だ。
今浜面の目の前を通り過ぎたやや濃い化粧をした女子高生と、滝壺はほとんど違わない。
違っているのは、滝壺がちょっとだけ、裏の世界を知っているという事だけだ。
浜面は滝壺を裏の世界から表の世界に帰らせるために今まで様々な事をやってきた。
事の発端は『アイテム』という組織から始まり、突然起きた組織の崩壊、襲来してきた麦野の撃退、学園都市からの逃亡、第三次世界大戦、ロシアで交渉材料の情報収集、そして学園都市との交渉、と今思い返せば霧がない。

でも、その甲斐もあってか、今の滝壺は表の世界で普通に暮らしている。
体調の回復はカエルのような顔をした医者が全面的にバックアップしてくれた。
住居の面は心配したが、どうやらどこかの高校教師が住んでるアパートの一室に居候させてもらっているらしい。
ボロアパートだと言っていたが、その教師は信用できるとも彼女は言っていたので大丈夫だろう。

(しっかし、滝壺が俺に服を選ばせるとは。俺の選んだ服なら何でも嬉しい、って言ってたよな……ということはバニーも……。いいいい、いやいやいやいや。流石にそれはまずいだろっ! 滝壺にドン引きされながら蔑むような目で見られたくないし。そもそもこんな清純系の服が揃っているような店にバニーなんかある訳がないよな――)

そこまで考えを巡らせた所で、

「ねえねえ、ちょっと聞きたい事があるんですけど、ってミサカはミサカはやや砕けた丁寧語であなたに声をかけてみたり」

と、いきなり小さな少女からマシンガントークを投げつけられた。

68 : Boy_Meets_Girl_Another(×2+α) the first part 10/49[saga] - 2010/08/12 00:21:08.63 DJMI6tM0 11/51

その少女は見た目は十歳くらい。
茶髪のショートカット、理屈はわからないが頭のてっぺんの毛がミョンと立っている。
そして服装は水玉模様のキャミソールの上に男物のワイシャツを着たちょっと特殊な格好をしていた。
まあ特殊といっても滝壺の上下ジャージに比べればまだまだ普通である。

(んん? ちょっと待て、この子どこかで見たような……)

浜面の思慮はともかく、あまりに突然の事だったので何を言っていたのか浜面には聞き取れなかった。
なのでとりあえず首を横に傾けることにする。

「ミサカの声聞こえてなかった? ってミサカはミサカはもしかしたら聴覚障がい者に話しかけちゃったかなって不安になってみたり」

「少なくとも俺は聴覚障がい者じゃないぞ。で、何か用か嬢ちゃん」

「えっとね、捜してる人がいるんだけど――」

そう言うと小さな少女は、彼女が着ているキャミソールのポケットから可愛らしい携帯電話を取り出した。
そしてその携帯をポチポチと数回操作すると、携帯の液晶画面を浜面の顔に向けた。

「この人見たことある? ってミサカはミサカは尋ねてみる」

浜面が『んー?』と目を細めて画面を覗く。
そこには白い髪の人がソファの上で寝ている画像が表示されていた。
ただ、暗い部屋で撮ったのかぼんやりとした大体の輪郭しか見えないため、性別がわからない。
さらには顔も横顔しか見えていない状態だ。
よりにもよって何でこんな画像なんだ、と思って少女を睨む。
それでも少女はきょとんとした顔で小首をかしげた。

……ていうか、この白髪の人。どっかで見た気がする。

「何か見たことあるような気がするけど……。悪い、わからねえや」

「そっか……ってミサカはミサカはしょぼくれてみたり。でもこの人を見たことがあるんだよね? ってミサカはミサカはあなたに確認をとってみる」

「まあ確かに見覚えがあるんだけど……正直いつどこで見たか覚えてねえんだよな」

「じゃあ一緒に捜そうよっ! ってミサカはミサカはやや強引にあなたの手を引っ張ってみたり!」

いきなりの一緒に捜して発言にびっくらこいた浜面だったが、突然の事にはもう慣れた彼は少女の手を振りほどく。

69 : Boy_Meets_Girl_Another(×2+α) the first part 11/49[saga] - 2010/08/12 00:21:43.45 DJMI6tM0 12/51

「ちょ、ちょっと待った! 今俺は人を待ってんの。だからお前の知り合い捜しには付き合ってやれないぞ」

「ならその人も混じえて一緒に捜そう! ってミサカはミサカは相手の都合も考えずに無理難題を押しつけてみる!」

「おい! 無理難題ってわかってるんならわざわざ言うんじゃねえよ!」

「えー、ってミサカはミサカはぶーたれてみたり」

そう言って頬を膨らませる少女。
幼女が好きな人ならたまらない光景だろうが、生憎浜面は幼女愛好者(ロリコン)ではない。

「じゃああなたは一体誰を待ってるの? ってミサカはミサカはお手洗いの前にずっと立ってるあなたに不審者の匂いを嗅ぎつけてみたり」

「不審者じゃねえ! やめろ、そんな『こういう人が変態っていうんだ』みたいな目で俺を見るな!」

「ふむふむ、ミサカの予想だと彼女さんがお手洗いから出てくる所を待っているのかな、ってミサカはミサカは某名探偵ばりの鋭い目つきで推理してみたり」

「な、何故わかったッ!?」

「真実は裏切らない! ってミサカはミサカはあなたの彼女さんと直接交渉に持ち込むためにお手洗いに直行っ!!」

少女がそんな台詞を言ったと思えば、目にも止まらぬ速さ(小さいと言う意味)で女子トイレに入っていった。

一体何なんだあの子どもは。
彼女の話を聞けば聞くほど頭が痛くなってきそうな口調。
どんな育て方をすればあんな子に育ってしまうのだろう、と浜面は少女の親御さんへの不満を通り越して興味が湧いた。

すると、もうあの少女が女子トイレから出てきた。
早い。まだ十秒も経っていないんじゃないだろうか。

「随分早かったな。もうネゴシエーションは終わったのか」

「あの、お手洗いには誰もいなかったよ? ってミサカはミサカは見てきた光景をありのままに話してみたり」

「は? そんなばかな。確かに滝壺はこのトイレに入ったはずだぞ」

滝壺はこのトイレの方角に向かっていたはずだ。
それに今浜面がいる一階にトイレはここしかない。
つまり、ここにいなければおかしいのだ。

70 : Boy_Meets_Girl_Another(×2+α) the first part 12/49[saga] - 2010/08/12 00:22:25.67 DJMI6tM0 13/51

「ちょっと待ってくれよ。お前本当に中に誰もいなかったのを確認したのか?」

「ミサカは嘘はついていないよ、ってミサカはミサカは真面目な気持ちで答えてみる」

「……なあ、中には誰もいないんだったよな」

「うん、そうだよ、ってミサカはミサカは頷いてみたり」

「なら俺が確かめに行っても問題はないよな?」

「えっ!? それは男性としてどうなんだろう、ってミサカはミサカは動揺してみたり」

「とにかく入る。誰もいないんなら別にいいだろ」

「あ、ちょっと待って、ってミサ――」

少女の静止も振り切って女子トイレの中へと入る浜面。
彼は滝壺のためなら冗談抜きで火の中水の中でも入る男だ。
女子トイレなど怖くない。
入る瞬間に二人組の女子中学生に見られた気もしたが、浜面は気にせず中へと入る。
中に入るとピンク色の壁が四方八方を囲っていた。
そして、個室トイレが左右に三つずつ、計六つある事を確認する。

その個室の扉は、全て開いていた。
つまり、誰もいないことを示していた。

浜面は目を疑った。
彼は一つ一つの個室を扉の裏側まで細かく調べた。
それでも、女子トイレの中には誰もいなかった。

何故? という疑問が浜面の頭の中に浮かんだ。
今すぐこの状況について深く考察したかったが、場所が場所だ。
ひとまず浜面は女子トイレから出ようとして、出口に身体を向ける。
すると、目の前にあの小さな少女が立ち塞がっていた。

少女は両手を腰に当てながら、軽い笑顔を作ってこう言った。

「それじゃあ、一緒に捜してみようよ、ってミサカはミサカは提案してみる」

71 : Boy_Meets_Girl_Another(×2+α) the first part 13/49[saga] - 2010/08/12 00:22:56.86 DJMI6tM0 14/51

―― 滝壺 Side ――

時は少し遡る。

浜面の女の子への気遣いの無さに呆れ、軽い鉄槌を下した滝壺はお手洗いにて用を足していた。

(はまづらはやっぱりはまづら。でも、そんなはまづらが……)

そこまで考えた所で、滝壺は首を横に振って頭の中の思考をなくす。
顔が赤くなっているのが自分でもわかったからだ。
といっても、滝壺の顔が赤くなっているなんて、傍から見ても判別がつかない。
薄化粧で少しだけ赤くしているようにしか他人には見えないのだが、滝壺にとってそれは真っ赤と同じ意味を表している。
何度か深呼吸をして顔の火照りを静めた滝壺はお手洗いから出た。

もしかしたら彼がお手洗いの前で待ってくれているかもしれない、と淡い期待を胸に抱いていた滝壺だったが、それは無残にも打ち砕かれた。

彼はいなかった。

滝壺はちょっぴり気持ちを沈めたが、すぐに気持ちを持ち直した。
ここじゃなくて分かれた場所で待ってくれているのかもしれない、と思ったからだ。
さっそく滝壺は彼と別れたお店の出入り口に向かって歩き出した。

お店の出入り口に近づいてきたとき、滝壺は謎の人ごみを見た。
何だか妙に人が集まっている。
お店の出入り口には激安のセール品や限定の有名ブランド物のような目玉商品は置いていないはずなのに。
不思議に思った滝壺はやや急ぎ足で人が集まっている場所、彼と別れた場所へと急ぐ。

滝壺はパラパラと散りつつある人ごみの中心に立った。
そこから周りを見回す。
見えるのは、小学生くらいの男の子、セーラー服を着た女子中学生、お店の店員。

彼の姿は、なかった。

どうしよう。彼とはぐれてしまった。
突きつけられた現実に多少の焦りが心の中を駆け巡るのを感じた滝壺だったが、目を閉じて今できる事を考える。
しかし、考えれば考えるほど頭の中が真っ白になっていった。

まずい。想像以上に焦っている。

滝壺はいつもなら一人になったとしても全然平気だ。
暗部にいたころは一人になるなんて事もよくある事であった。
しかし、彼と離れて一人になっている所為なのか、どうにも動揺が治まらない。
とにかく捜そう、と滝壺は閉じていたゆっくりと目を開ける。

72 : Boy_Meets_Girl_Another(×2+α) the first part 14/49[saga] - 2010/08/12 00:23:22.37 DJMI6tM0 15/51

すると目の前に見覚えのある男がいた。
色の抜けた白い髪に紅い瞳。そして灰色をベースとした衣服を着ているが、白灰のV字の縞模様のシャツが特に目を引く。
首には黒いチョーカーを付け、そこからイヤホンのような物が男の耳にはまっている。
そして右手に現代的な杖をついていた。
個室サロンのときに助けてくれた(?)男だ。
その男は独り言をブツブツと呟きながら誰かを捜すように首を回していた。
滝壺は男に近づいて呟きを聞いてみた。

「ったく、あのクソガキ。どこに行きやがったンだァ?」

どうやら本当に捜している人がいるようだ。
確かこの男は彼を見た事があったはず。
滝壺は声をかける。

「あの」

「あァ? ……オメェは確かエリザリーナ独立国同盟でぶっ潰れてたやつか」

「うん、多分そうだよ。私も人を捜してるの。茶色い髪で上にジャージ、下にジーンズの格好の人見てない?」

「知るか。それになンで俺も人を捜してるって事になってンだよ」

「あなたは私の捜してる人を見た事があるはず。そしてさっきの独り言は誰かを捜していたんだよね?」

「盗み聞きとはいただけねェなァこのクソ女。大体オマエの知り合いなンざ見たことねェよ」

「あるよ。あなたは私のことも見たことがあるはず。それに私はあなたを見たことがある」

「……もしかして、オメェが捜してるやつはあの悪党のことか?」

「? とにかく、あなたの知り合いも捜してあげるから。一緒に捜そう」

滝壺はそう言って、白髪の少年の空いている手を掴んで歩き出した。

「……ッ! オイ! オマエ人の話聞いてンのかよ!! ちょ、待ちやがれッ! こっちは杖で歩いてンだよッ!!」

73 : Boy_Meets_Girl_Another(×2+α) the first part 15/49[saga] - 2010/08/12 00:25:50.89 DJMI6tM0 16/51

―― 浜面 Side ――

浜面は少女と一緒にこのお店のサービスカウンターへと向かっていた。
認めたくはないが、どうやら二人とも迷子らしい。

「しっかし、俺もお前も迷子になっちまうなんてな」

「ミサカは迷子になんてなってないよ、ってミサカはミサカは否定してみる」

「いや、今現在お前迷子だろ」

「迷子になったのはあの人でミサカは迷子じゃないよ、ってミサカはミサカは至極当然のことを言ってみる」

小学生かっ、と突っ込もうとしたが実際見た目が小学生だったので寸前のところで言葉を飲み込む。

「まあ迷子だろうが迷子を捜している人だろうがどうでもいいんだけどな」

「どうでもいいわけない! ってミサカはミサカは明らかな違いもわからないあなたに憤慨してみたり!」

少女の感情に合わせているかのようにくるくると暴れ回るアホ毛。
浜面は『あーはいはいわかったわかった』と適当に受け流す。

「それよりお前の名前、何て言うんだ? さっきから『ミサカ』とかよく言ってたけど、それ名字だよな?」

「ミサカの名前は打ち止め(ラストオーダー)だよ、ってミサカはミサカは軽い自己紹介をしてみたり」

ちょっと待ってくれよセニョリータ。
ラストオーダーという響きは確かに聞いたことがある。日本ではなく、外国でだ。

(まさか……まさかね。もしそのまさかなら俺は発狂するぞ☆ いやでもまだわからない、とにかくここは穏便に事を進めていこう)

そう誓った浜面は打ち止めという明らかな偽名にも怪訝な表情を顔に出さずに、

「ふーん、そうか。打ち止めって言うのか。可愛い名前じゃないか」

「何でいきなりそんな気持ち悪いことを言うの? ってミサカはミサカは急変したあなたの態度に怯えてみたり」

「ハハッ。何を言っているんだい打ち止めちゃん? あ、ほら。サービスカウンターが見えてきたよ。あそこで打ち止めちゃんの保護者を呼び出してもらおうね」

「ぎゃーやめてー、その気色悪い口調で話しかけないでー、ってミサカはミサカは耳を塞ぎながら叫んでみたり。わーわー!」

74 : Boy_Meets_Girl_Another(×2+α) the first part 16/49[saga] - 2010/08/12 00:26:32.23 DJMI6tM0 17/51

傍から見れば兄妹のようなやりとりをして、浜面たちはサービスカウンターについた。

とりあえず浜面は店内放送をかけてもらおうとカウンターに佇んでいる若い女性店員に声をかける。

「あのー、ちょっと人を呼び出してほしいんだけど」

「はい。迷子のご相談でしょうか?」

「そうです。迷子なのが俺とこの子なんすけど……」

浜面は人差し指を立てて自分へ指を指した後、そのまま打ち止めに指を動かす。
その事に怒ったのか打ち止めは、

「むっ。ミサカは迷子じゃないって言ってるのにっ! ってミサカはミサカは人の話を聞いていなかったあなたに膝かっくんしてみたり。えい」

打ち止めの言葉が終わると同時に、浜面の視線が一気に下がった。

カクン。

そこで浜面は本日二度目の膝をついた。
倒れる勢いのまま手を床につける浜面。
その様はまさにジャパニーズゴメンナサイのDOGEZAであった。

そんな浜面の格好にアハハハハッ! と笑う打ち止めと、クスクスと笑いを堪える女店員。
流石の我慢強い浜面でもこれにはキていた。
頭の中でプチッという音が聞こえた気がした。

「こんのチビガキッ!! ちょォおおおっと大人しくしててくんねえかなァァあああああああああああッ!!」

両手を広げながら迫り、打ち止めを取り押さえようとする。
しかし捕まえようとした手は空を切った。
打ち止めがヒラリとステップを踏むように華麗に避けたのだ。

「あなたなんかに捕まるほどミサカは低スペックではないのだよ、ってミサカはミサカはミサカの方が優位である事をアピールしてみたり!」

打ち止めは浜面から数メートルの距離を取ってあっかんベーをした。

「上等だこのクソガキ! 無能力者の負け犬根性を見せてやるよォォおおおおおおおおおおおおッ!!」

「へっへーん。捕まえられるモンなら捕まえてみろー! ってミサカはミサカは捨て台詞を吐いて全力逃走ッ!!」

こうして、逃げる幼女と追うチンピラの追いかけっこがスタートした。

75 : Boy_Meets_Girl_Another(×2+α) the first part 17/49[saga] - 2010/08/12 00:27:49.81 DJMI6tM0 18/51

―― 一方通行 Side ――

一方通行はピンクのジャージに身を包んだ少女と一緒に(少女がやや強引に)、打ち止めを捜すことになった。

「それで、あなたの捜している人はどんな人なの?」

「クソガキ」

「あなたの捜している人はどんな人なの?」

「…………」

なかったことにされた。
なんか、こんなことが以前にもあった気がする。

「つゥか、オマエはあのときの砦の中で見てねェのか?」

「何を?」

「俺の捜してるガキだよ」

「……あのときのことはよく覚えてない」

「…………」

一緒にいてめンどくさくなるタイプだな、と一方通行は思った。
これはさっさと打ち止めのことを話して、クソガキを捕獲次第直ちにこの女から離れよう。

「十歳くらいの茶髪の女で、水色のキャミソールにワイシャツを着たヤツだ」

「小さい女の子が好きなの?」

「そォか、そンなに死にてェのか。なら俺が真っ赤で綺麗な花を咲かせてやるよ」

一方通行は首につけてあるチョーカーのスイッチへ手を伸ばす。
しかしスイッチに手が触れる前に彼女が付け足す。

76 : Boy_Meets_Girl_Another(×2+α) the first part 18/49[saga] - 2010/08/12 00:28:21.49 DJMI6tM0 19/51

「別に責めてる訳じゃないよ。人が人を好きになるのは当然のことだから。あなたが好きになった人が、たまたま小さな女の子だっただけ」

彼女の言葉に一瞬考えさせられた一方通行。
だがいやちょっと待て。

「どォして俺があのクソガキを好きってことになってンだァ?」

「そうじゃないの?」

「違ェよ!」

何だこの疲労感。
一方通行は何を考えてるのかわからない彼女の言動により、殺す気が一気に失せた。

そうして軽く店内を一周したが一方通行の捜し人、彼女の捜し人は見つからなかった。
一方通行たちは彼女と出会った場所に戻っていた。
彼女は『これからどうするの?』といった目つきで一方通行を見ている。
彼は離れても離れてもついてくる彼女に少しうんざりしてきていた。
能力を使って一気に距離をとってみるか、と本気で考える。

その時、店の外から誰かに向かって何かを叫んでいる声が聞こえた。
一方通行はふと声の聞こえた方へ首を回す。
彼は声の主を見た瞬間、ヒュンッと空気を切り裂くほどの速度で首を元の位置に戻した。
彼女は一方通行の不自然な行動に首をかしげる。
『別の場所を捜すぞ』と一方通行は彼女に言おうと口を開く。
だが、彼の声は別方向から放たれた声に打ち消された。

「あーくーせーらーれェえええたァァあああああああああああああああ!!」

77 : Boy_Meets_Girl_Another(×2+α) the first part 19/49[saga] - 2010/08/12 00:29:27.06 DJMI6tM0 20/51

―― 浜面 Side ――

追いかけっこの結果を簡潔に説明すると、浜面は負けた。
計算し尽くされたかのような逃走ルートで逃げる打ち止めに浜面は手も足も出なかった。
十分ほどその膠着状態が続き、もう諦めようかと思い始めていたそのとき、打ち止めが浜面の姿の確認をするため後ろを振り向いた瞬間、打ち止めは客とぶつかったのだ。
これは偶然が生んでくれた奇跡的なチャンスッ! と思った浜面は尻餅をついて倒れている打ち止めに跳びかかる。
打ち止めは迫ってくる浜面に対して恐れを生したのか目をぎゅっとつぶった。

もらった。
浜面は心の奥底でにやっと笑った。
両手で打ち止めの両肩を掴む。

「打ち止め捕まえたりィィいいいいいいいいいいいいッ!!」

勝利の余韻に浸りながら敗北者の無様な泣き顔を見てやろうと、俯いている打ち止めの顔を覗く。

そこで浜面が見たのは捕まえられたのが悔しくて泣きじゃくっている顔でも、腹を立てて怒っている顔でもない。
そこには、口角を上げてにやっと笑っている打ち止めの顔があった。

「勝負の切り札は最後までとっておくものだよ? ってミサカはミサカは勝利宣言をしてみたり」

打ち止めがそう言った刹那、浜面の身体に電流が走った。
浜面はスタンガンを受けたかのような衝撃を受け、地面へと倒れこんだ。
打ち止めはご丁寧に、刷いていたサンダルを脱いで素足で彼の頭を軽く踏む。
頭を床につけるチンピラ。そのチンピラの頭を踏みつけて悪女のような笑みを浮かべる幼女。
それはとても普通の衣服店で見られるような光景ではなかった。



そんなお店側からしたら『迷惑だから外でやれ』と言われそうなマジ追いかけっこ(と謎のプレイ)をした浜面と打ち止めは、再び先ほどのサービスカウンターの前にいた。

「あの、迷子になっちゃったんすけど……」

「は、はい。それではお名前を教えていただけますか?」

「えっと、迷子になったのは俺で浜面仕上っていいます。呼んでほしい人は滝壺理后です」

「はい。かしこまりました」

「それともう一人迷子がいるんだけど――」

78 : Boy_Meets_Girl_Another(×2+α) the first part 20/49[saga] - 2010/08/12 00:30:33.12 DJMI6tM0 21/51

そこまで言ったところで、浜面の後ろからパチッと静電気の音が聞こえた。
『わかってるよ……』と浜面は心の中で愚痴を呟きつつ、

「迷子を捜しているのがこの子、打ち止めっていうんすけど、この子が探している人の名前はー……あ、あせろらすーぷ?」

「一方通行(アクセラレータ)っ! ってミサカはミサカは覚えの悪いあなたにストレスを感じてみたり!」

――やっぱり、俺の嫌な予感は的中してました……。

「……そのあくせられーたって人も……呼んでほしいんです」

「はあ。かしこまりました。滝壺理后様に一方通行様ですね。ではこちらの席に掛けながらお待ちください」

女店員はカウンターの中へと浜面たちを案内して、クッションの乗った鉄パイプの椅子に座らせた。
その後浜面から聞いた名前をメモ用紙に書くと店内アナウンスをする。
ピンポンパンポンという軽いお知らせ音が店内に鳴り広がった。

『お呼び出しを致します。第七学区よりお越しの、滝壺理后様。お連れの浜面仕上様がお待ちです。お心当たりのある方は、一階、サービスカウンターまでお越しください』

『くり返し、お呼び出しを致します。第七学区よりお越しの、一方通行様。お連れの打ち止め様がお待ちです。お心当たりのある方は、一階、サービスカウンターまでお越しください』

さらに『くり返します』と言ってもう一度浜面の連れの呼び出しのお知らせをする女性店員。
店内に響くアナウンスを耳にしつつ、浜面は横で足を交互にブラブラと振りながら座っている打ち止めに話しかける。

「なあ。何で俺なんかに尋ねてきたんだ? 自分で言うのもなんだけど俺、結構ガラ悪いだろ?」

「ミサカにもよくわかんないんだけど、なんだかあなたはあの人とあの人とどことなく雰囲気が似てるの、ってミサカはミサカは根拠のない言葉で返事をしてみたり」

「いや何言ってんのかよくわかんないんだけど!」

「ミサカにもよくわかんないっ! ってミサカはミサカは自暴自棄になってみたり!」

はあ、と浜面はため息を吐く。
どうにもこのチビッコと絡んでいると疲れる。
別に嫌いとかそういうのではないのだが、とにかく疲れるのだ。
彼女のお連れ様であるあの最強も意外なところで苦労してるんだなと思った。ご冥福をお祈りする。
でもそんなチビガキともこれでオサラバだと思うと、自然と笑みがこぼれる。

「よかったな。これでお前の連れも絶対にここに来るぞ」

「うん! ってミサカはミサカは頷いてみたり!」

79 : Boy_Meets_Girl_Another(×2+α) the first part 21/49[saga] - 2010/08/12 00:31:56.01 DJMI6tM0 22/51


――……一時間後。

「た、多分お前の連れは来ると思うぞ? あ、トイレじゃないのかな?」

「ううー。おトイレにしては長すぎるよ、ってミサカはミサカはあの人に捨てられちゃったのかなって絶望してみたり」

と見れば一目瞭然とまでに落ち込む打ち止め。
彼女の落ち込み具合は、椅子に座りながら前屈でもしているんじゃないかと思うくらいうな垂れていると言えばわかってもらえるだろう。
とてもじゃないが見ていられない。

「大丈夫だって! ……そ、そうだ。携帯で呼び出せばいいじゃねえか!! 何で気付かなかった俺!」

浜面のヒラメキ意見を耳にした途端、打ち止めはガバッと起き上がりそのまま立ち上がった。

「そうだよ、何でこんな当たり前のことに気付かなかったんだろう! ってミサカはミサカはミサカの思いつきの悪さに自責の念を浮かべてみたり!」

「よし、それじゃあ早速電話だっ!」

浜面と打ち止めはそれぞれ自分の携帯を取り出した。
電話帳から浜面は滝壺の、打ち止めは一方通行の携帯番号を見つけるとほぼ同時に発信した。

プルルルルルルルル。

という音が二人の耳に入ってくる。
数回のコール音。
そして何の因果なのか、二つのコール音は同時に途切れて電話が繋がった。

「「もしもし」、ってミサカはミサカは電話で相手に呼びかける言葉を言ってみたり」

80 : Boy_Meets_Girl_Another(×2+α) the first part 22/49[saga] - 2010/08/12 00:33:16.69 DJMI6tM0 23/51

―― 一方通行 Side ――

白髪の少年、一方通行は衣服店『Seventh mist』から外に出ていた。
彼は今、その衣服店のニ、三軒離れた場所にあるファストフード店にいる。
とある少女を捜していた彼が何故こんな所にいるのかというと、

「もぐもぐもぐもぐ、もがもぎゅ。わふはっはんはよあふへはえーは!!」

「口ン中の食いもン飲み込ンでから喋りやがれ! 何言ってンのかわかンねェだろォが!」

そう、非常に不幸なことに衣服店の出入り口付近であの暴飲暴食シスターに見つかってしまったのだ。



衣服店でシスターに見つかり『お腹空いたんだよー』と言いながら迫ってくるシスターを、一方通行は能力を使って跳ね返した。
あうっ、と呻き声をあげて仰向けに倒れるシスター。

「ひどいんじゃないかなあくせられーた!!」

シスターは上半身だけを起き上がらせて言った。

「俺はただ迫ってきた脅威に対して防御をしたまでだがなァ」

「? 脅威って?」

「自覚ナシかよ、もォ救いよォがねェな」

そこでピンクのジャージの彼女が彼に質問をする。

「あなたはこのシスターさんとは知り合いなの?」

「知らねェ」

即答した。

「ちょっと!! 私がしてあげたことをもう忘れちゃったのあくせられーた!」

もちろん、忘れる訳がない。
目の前で怒っているシスターは打ち止めを救ってくれた。
おそらく一生忘れることはないだろう。
いつかは借りを返そうとも思っている。
だが、彼はこれからこのシスターが口走るであろうこととあらば、話は別だと考えている。

81 : Boy_Meets_Girl_Another(×2+α) the first part 23/49[saga] - 2010/08/12 00:34:16.94 DJMI6tM0 24/51

「あのね、あくせられーた。実は――」

「メシならやらねェぞ」

「どど、どうして私の考えてることがわかったの!? まさかあくせられーたって秘境的諸技術の中の占星術を使った未来予知ができ――」

「あァもォうるせェ! オマエの考えてることなンざ猿でもわかンだろォが」

「ごはん食べたいんだよ食べないと空腹で倒れちゃうんだよ倒れちゃうと死んじゃうんだよ死にたくないからごはんが食べたいんだよここにくる途中とってもジューシーな匂いが漂うお店を見たんだよそこのごはんが食べたいなでも私おかねを持ってないから食べれないんだよだからごはん食べさせてくれると嬉しいな」

シスターの一息おねだり攻撃に危うくまたチョーカーのスイッチに手が伸びそうになった。
だがこのシスターは自分の気まぐれで殺していいような存在ではない。
打ち止めを助けてくれたこともあるが、シスターの背後には強大な組織が控えていることを一方通行は知っている。
そんな二人の言い合いにジャージ姿の少女が無表情で自分の意見を言った。

「この子可哀想。何か食べさせてあげた方がいいよ」

少女はシスターの側につく主張をしてくれやがった。

「はァッ!? 何で俺がそンな」

そこまで言ったところで一方通行は声を詰まらせた。
白いシスターが前に手を組みながら、うるうるとした瞳で一方通行を上目遣いで見ている。
その仕草や顔はおねだりをする打ち止めと酷似していた。
シスターの行動に彼はウザさほとんど、気まずさわずかの気持ちで目を逸らす。

だが一方通行は目を逸らしたことをすぐに後悔する。
何故ならそこには『あなたはここまで懇願しているこの子に優しさの一つもかけてあげられないの?』という目をしたジャージ姿の少女が、非常に冷静な顔つきで一方通行を見ていたからだ。

一方通行はジャージ姿の少女を睨む。
学園都市最強の能力者のガン飛ばしをもってしても女はまったく怯まない。
彼のすぐ横ではシスターが『ごはんごはん!』と連呼パレードをしている。
一方通行はさらに睨んだ。
その顔は子どもが見たら発狂する確率百二十パーセントを軽く超えてしまうような怖さを誇っていた。
それでも、ジャージの少女は怯まない。
あまりの表情の変化の無さに一方通行は、彼女が自分の後ろを見ているのではないのかと本気で思う。

五分ほどの睨み合い(?)の結果、一方通行は折れた。

「わァったよ! このシスターにメシ奢ってやりゃイインだろ!?」

すると彼の言葉を聞いたシスターがぱあっと後光が見えてしまうほどの笑顔を見せた。

82 : Boy_Meets_Girl_Another(×2+α) the first part 24/49[saga] - 2010/08/12 00:34:47.09 DJMI6tM0 25/51

「本当に!? 助かったんだよあくせられーた!! じゃあ行こうよ! 今すぐ行こうよ!」

シスターは一方通行の手をシュバッと素早く掴んで引っ張る。

「ッ! だァかァらァ! 俺は杖使って歩いてンだよ、ちったァ気遣えよ!」

「急ぐんだよあくせられーた。私の胃袋はもう悲鳴を上げてるんだから!!」



そして今、一方通行はファストフード店の屋外設置された丸いテーブルの一つの椅子に座っている。
対面にはあの白いシスターが両手にハンバーガーを携えてがつがつむしゃむしゃばくばくと節操なく食い散らかしている。
何故かちゃっかり一方通行の横でジャージの少女がハンバーガーをハムスターのようにむぐむぐと食べているが、彼はもう気にしない。
いちいち相手にしてたら精神的にオーバーヒートしてしまうと予感したからだ。

一方通行は口の周りをケチャップでドロドロに汚しているシスターにポケットティッシュを投げて言う。

「しっかし、オマエもよく食うよなァ。どォなってんだオマエの胃袋」

「む、さっきからオマエオマエって失礼かも!」

そこで一つのハンバーガーをようやく半分まで食べたジャージの少女がシスターに尋ねる。

「あなたのお名前教えてくれる?」

「私? 私はインデックスって言うんだよ。あなたの名前は?」

「私は、滝壺理后」

「りこうっていうんだね。よろしくなんだよりこう!」

それぞれが自己紹介を終えると、再び食事を再開させた。
二人の食べる姿を見ていて小腹が空いてきた一方通行はテーブルに山積みになっているハンバーガーを一つ取って包装を開く。
一方通行は乱暴に一口頬張る。
なんてことはない。よくあるジャンクフードの味だ。

「ンで? どォしてオマエがこンなトコにいンだよ」

「私の名前はインデックスッ! えっとね、とうまは今日午後まで補習なのに、私の分のお昼ごはんが用意されてなかったから、となりの部屋のまいかにごはんを作ってもらおうとしたんだけど、まいかがいないから外へごはん探しの旅に出てたら、偶然あくせられーたを見つけたんだよ」

「…………」

83 : Boy_Meets_Girl_Another(×2+α) the first part 25/49[saga] - 2010/08/12 00:35:29.44 DJMI6tM0 26/51

つまり、アレか。
俺は三下の準備不足のおかげでこのクソシスターの餌係をさせられたって訳か。
今度会ったらぶっ殺す、と一方通行は誓った。

一方通行は『とうま』という人物が誰なのか知っている。
打ち止めを助けてもらった際にインデックスから聞いていたのだ。
以前インデックスにメシをたかられたときはご冥福をお祈りしたが、その情報を得たときには純粋にざまァみろ、と思った。

そうこうしている内にインデックスは山のように佇んでいたハンバーガーを平らげていた。
それでも彼女はまだ食べたりないのか『おかわり!』と言いながら一方通行の財布を持って再注文しようと席を立つ。

「おい、オマエどンだけ食うつもりなンだよ! こっちはそンなに金持ってねェんだぞ!」

「財布の中にゆきちさんがいる時点で既にお金持ちなんだよ。とうまの財布はひでよさんすらほとんど顔を見せないんだから」

そう言ってインデックスはお店の中に消えていった。

ふと一方通行は滝壺の方を見る。
彼女の手には綺麗にたたまれたハンバーガーの包装紙が握られていた。
口のすぐ横にケチャップが付いているのには気付いていないようだ。

「オマエはもォいいのか?」

「うん、もう大丈夫」

一方通行は『そォか』と言いながらテーブルの上に置かれている結局使われなかったポケットティッシュを取って、滝壺の口元に付いたケチャップを拭う。
彼女はピクッ、と身体を震わせたが一方通行が何をしているのかを理解したらしく、それからじっとしていた。

「……ありがとう」

「ハイハイ、良かったなァ」

拭ったティッシュを適当に丸めてテーブルの上に放り投げる。

しかし、その丸まったティッシュはテーブルの上にドシンッ! と新たに置かれたトレイがひき起こした風によってテーブルから零れ落ちた。
トレイには先ほどと負けず劣らずの量のハンバーガーが積まれていた。
そしてトレイを持ったシスターはキラキラと目を輝かせ、よだれを垂らしながらハンバーガーを見つめている。
いや、キラキラ、というよりはメラメラ、と言った方が正しいかもしれない。

一方通行は思った。
やっぱり、三下にはご冥福をお祈りする。

84 : Boy_Meets_Girl_Another(×2+α) the first part 26/49[saga] - 2010/08/12 00:36:50.02 DJMI6tM0 27/51

―― 浜面 Side ――

「もしもし」

浜面は滝壺の携帯に繋がったことに安堵する。

『はいはーい。こちら滝壺さんの携帯なのですよー』

――……誰だコイツ。

第二次成長期前の甘ったるい声が携帯のスピーカーから放たれた。
掛け間違えたかな、と浜面は耳に当てた携帯の液晶画面に表示された通話相手を確認する。
そこには確かに『滝壺理后』と表示されている。
ヘリウムガスでも吸ったのか? と無い知恵で在りえないことを考える浜面。
彼の沈黙の意図を読み取ったのか、通話相手が静寂を破った。

『えーと、あなたが浜面さんですか?』

「そうだけど……アンタ誰だ? 俺は滝壺に電話をしたはずなんだけど」

『合ってますよー。これは滝壺ちゃんの携帯ですからねー』

「いやだからアンタは誰なんだ!?」

『おっと、忘れていました。私は滝壺ちゃんを居候させている月詠小萌先生ですー』

「はあ?」

いやいやいやいやちょっと待ってくれ。
滝壺は高校教師のアパートに居候しているって言っていた。
うん、それはわかってる。
でもスピーカーから聞こえてくる声はどう聞いても小学生の声にしか聞こえない。

「えっと、アンタもしかして高校教師だったり?」

『よくわかりましたねー。あっ、もしかして滝壺ちゃんから聞いていたのですかー?』

「し、信じらんねえ……」

『な! ちょっとそれは酷いと思うのですよー!』

85 : Boy_Meets_Girl_Another(×2+α) the first part 27/49[saga] - 2010/08/12 00:37:36.23 DJMI6tM0 28/51

声を聞けば聞くほど信じられない。
もし仮に高校教師の年齢だとして、容姿は一体どうなんだ? と浜面は思う。
モデル体型の女だったり、肥満体型の女だともうドン引きするしかない。
滝壺、この女は本当に信用できるんだろうな。

「まあいいや。それで、滝壺の携帯はアンタの部屋にあるのか」

『そういうことになりますねー』

ということは滝壺は携帯を置いて外に出てしまったということだ。
仕方がないので切ろうとする。
だがその前に電話から声が聞こえた。

『あなたが浜面さん、ですよね。滝壺ちゃんから色々と聞いているんですよー』

「滝壺が俺のことを?」

『そうですー。あなたと話したいことは多々ありますが、これだけは言わせてください』

一拍置いてから電話の声は言う。

『滝壺ちゃんはとっても良い子なので、これから大切にしてあげてくださいね』

「……ああ、もちろんだ」

浜面は携帯を通話を切る。
悪い人じゃあなさそうだな、と浜面は思った。

86 : Boy_Meets_Girl_Another(×2+α) the first part 28/49[saga] - 2010/08/12 00:38:05.62 DJMI6tM0 29/51

―― 打ち止め Side ――

「もしもし、ってミサカはミサカは電話で相手に呼びかける言葉を言ってみたり」

『あら、ごめんね最終信号(ラストオーダー)。彼は今この携帯を持っていないわよ』

男の声が返ってくると思ったら女の声が返ってきたので、打ち止めは一瞬困惑した。
しかし、その女の声には聞き覚えがある。

「あれれ、その声はヨシカワ? ってミサカはミサカは疑問を口にしてみたり」

『ええ、そうよ』

「何でヨシカワがあの人の携帯を持ってるの? ってミサカはミサカは質問してみたり」

『一方通行はロシアに行った際に携帯を破壊したらしいのよ。それでわたしたちが勝手に彼の新しい携帯を用意したんだけど、彼はずっと貴女に付きっきりだったから渡す機会がなかったの。だから、今は愛穂の家に置いてある訳よ』

芳川の説明は特におかしなところはない。
破壊した、という自発的な行動に少しだけ引っ掛かったが、彼なりの事情があったのだろう。
打ち止めは『ふーん』と素直に納得した。

「じゃああの人との連絡手段は無いんだね、ってミサカはミサカはしょんぼりしてみたり」

『どうかしたの?』

トーンの下がった打ち止めの声に芳川が心配するような声をかける。

「ちょっとあの人とはぐれちゃってるの、ってミサカはミサカは現状を報告してみたり。でも今ミサカと同じように誰かとはぐれちゃった人と一緒に捜してるの、ってミサカはミサカは追加報告をしてみる」

打ち止めは説明の途中、横で電話をしている彼の方を見る。
彼は何故か電話相手に突っ込んでいる。傍から見れば気持ち悪い。
頼りになるとも思えないが、何となく信頼はできる気がする。

『そう。でも一方通行なら必ず貴女を見つけてくれるから大丈夫よ。安心なさい』

「うん! ミサカも信じてる!! ってミサカはミサカは確信を持ってみたり! それじゃあもう切るね、ってミサカはミサカはお別れの挨拶をしてみる。じゃあね」

打ち止めは携帯の通話を切った。
横にいる彼を見る。
どうやら彼の電話も終わったようだ。

87 : Boy_Meets_Girl_Another(×2+α) the first part 29/49[saga] - 2010/08/12 00:38:42.14 DJMI6tM0 30/51

―― 浜面 Side ――

浜面は携帯をポケットにしまう。
収穫なしだったことに軽く息を吐く。
すると打ち止めがこちらの電話が終わったことに気付いた。

「どうだった? ってミサカはミサカは尋ねてみる」

「駄目だ。携帯を家に忘れてる。打ち止めは?」

「ミサカもあなたと大体同じだったよ、ってミサカはミサカは電話の結果に落ち込んでみたり」

眉をハの字にして打ち止めは俯いている。
どうしたもんかな、と浜面は考える。

(呼び出してから一時間も経ってるのに何の音沙汰もない。アイツが本当にトイレとかだったらいいけど、もしかしたらもうこの店にはいないって可能性も視野に入れといた方がいいかもな)

そこまで考えると、打ち止めに『大丈夫だ』と元気付けてから質問する。

「打ち止めって自分が住んでる家がどこにあるかわかってるか?」

「うん、わかってるよ、ってミサカはミサカは頷いてみたり」

「打ち止めの捜してる人もその家に住んでるのか」

「えーっと、住んでたっていうのかな? ってミサカはミサカは暗に住んでないって言ってみたり」

「でもそれはお前の連れはお前の住んでる家を知ってるってことだよな?」

「そうだけど、それがどうかしたの? ってミサカはミサカは疑問に疑問で返してみる」

「もしここでお前の連れが見つからなかったら、俺がお前の家まで送ってやるよ」

「えっ、ちょっとあなたの言っていることがよくわからないんだけど、ってミサカはミサカは動揺してみたり」

打ち止めは身体をほんの少し仰け反らせた。

「お前の連れだって当然お前のことを捜しているはずだ。ここで見つけられなかったら、そいつはお前の居そうな場所を捜すと思う。だから最悪家に帰っていればお前を見つけられるかもしれない」

「そ、それはわかったけど、あなたが一緒じゃなくても大丈夫だよ、ってミサカはミサカはストーカーのあなたについてきてほしくなかったり」

「俺はいつからストーカーになったの!? 違うっつうの、お前まだガキじゃねえか。一人で送り出しといて何かあったら寝覚めが悪いだろ」

「うーん、じゃあもし見つからなかったらそうさせてもらうね、ってミサカはミサカは素直に受けとめてみる」

88 : Boy_Meets_Girl_Another(×2+α) the first part 30/49[saga] - 2010/08/12 00:39:40.30 DJMI6tM0 31/51

それでもまだ半信半疑の様子な打ち止め。
まあそこら辺にいるスキルアウトなら能力で追っ払えそうなんだけど、不安なことは不安なのである。
見た目は普通の小さな女の子だし、如何わしい気持ちで攫っていくヤツもいないとも限らない。

それにここで打ち止めと別れて滝壺を捜しても、滝壺は喜ばない気がするのだ。
迷子の子を放っておいてまでして滝壺を捜していたなんてことがバレたら引っ叩かれるかもしれない。

浜面は『よし』と呟いて立ち上がる。

「それじゃあまた捜しに行こうぜ。呼び出しもしたし、もし俺たちの連れがここにきたらまた呼び出してもらえばいい」

次いで打ち止めも立ち上がった。

「うん、わかった! ってミサカはミサカは答えてみたり!」

カウンターにいた店員に事情を話して、打ち止めと一緒にカウンターの中から出る。

「さてと、どこから捜すかな」

キョロキョロと店内を見回す。
休日の午後のおかげということもあるのか学生らしき人がちらほらと服選びを楽しんでいる。
大抵の学生は私服である。
だが浜面はやや遠くで制服を着ている女を見つけた。
確かあの制服は……お嬢様学校の常盤台中学の制服じゃなかったか?
この衣服店って結構有名なんだなーなんて思っていたら、妙に視線を感じた。

何やら、その常盤台の子がこちらを見ている。

浜面は常盤台中学の友達なんて当然ながら存在しない。
打ち止めの知り合いか?
とりあえずその常盤台の子に首をかしげてみる。
するとまるでふと気になった物が見えただけ、というような素振りで常盤台の子は視線を逸らしてどこかへと消えてしまった。

(何だったんだ……?)

浜面は首をひねる。
まあとにかく捜索を再開しよう。
特にどこかを目指すわけでもなく彼は歩き始める。

しかし数歩歩いた所で異変に気付く。
浜面は視線を下に向ける。
誰もいない。

――あれ、あのチビガキはどこ行った?

89 : Boy_Meets_Girl_Another(×2+α) the first part 31/49[saga] - 2010/08/12 00:40:13.60 DJMI6tM0 32/51

―― 一方通行 Side ――

結局、一方通行と滝壺はインデックスの食事に一時間以上付き合わされた。
インデックスはたらふく食いましたと見せつけるようにお腹をさすると、

「ごちそうさまなんだよあくせられーた! それじゃあ私は家に帰るね」

と言って身に付けている修道服を引きずりながら走って帰っていった。

まるで台風だな、と一方通行は思った。
天災にも対抗できうる力を持つ彼でも、あのシスターには敵わなかった。
主に精神的な面で被害を被ったのだが、一番の被害地域はお財布だ。

一方通行はインデックスから引ったくりかえした財布を開く。
黄泉川から受け取ったときより、万札が一枚減っている。
学園都市一の演算能力を持つ一方通行でもこの結果は予想外だった。
一体何個食ったのか計算するのも嫌になる。
これ以上あのシスターと係わっていたらろくなことにならない。
もう絶対に会わないようにしよう。

チッと舌打ちをしながら中身が見えていた財布を閉じ、ポケットへとしまう。
長い間座っていたファストフード店の椅子から立ち上がって軽く伸びをする。
となりにいた滝壺も彼の動作に従って席を立った。

一方通行の次の行動を待っている滝壺を無視して、彼は打ち止めと逸れた衣服店へと歩き始める。
歩いている途中、一方通行はボソリと呟いた。

「……打ち止め、無事なンだろォなァ?」

「きっと大丈夫だよ」

突如、彼の背後から求めてもいない回答をされた。
一方通行は背後にいる誰かを確認せずに深いため息を吐く。

「なァ、いつまで付いて来る気なンだよ」

「はまづらとあなたの捜し人を見つけるまで」

「電話で確認とかしてみたのかァ?」

カサカサと布の擦れる音が後ろから聞こえた。
おそらく携帯を取り出そうとしているのだろう。

90 : Boy_Meets_Girl_Another(×2+α) the first part 32/49[saga] - 2010/08/12 00:41:48.09 DJMI6tM0 33/51

「……忘れた」

「ホント使えねェな」

「でもアクセラレータも人のこと言えないよね」

「はァ?」

「私に確認を促してあなたがしないはずがないもの。つまり、あなたも忘れ――」

「おい、オマエと一緒にすンじゃねェぞ。俺は携帯をぶっ壊しちまってるから無ェだけだ」

「それってつまり超屁理屈ってことですよね」

いきなりジャージ少女でない声が一方通行と滝壺の会話に入りこんできた。
一方通行は聞いたこともない声に反応して振り向く。

向いた先には二人の少女がいた。
一人はピンクのジャージを着た滝壺だ。
だらんと腕を垂らして何を考えているのかわからない顔をしている。
もう一人は滝壺の身体に後ろから抱きついていた。
外見は小学生か中学生くらいの年齢。
茶色い髪で髪型は肩までかかるかかからないかくらいのボブであった。
巷では後ろから抱くこの抱き方をあすなろ抱きと言うらしい(情報元・打ち止め)。

この少女は誰だ。
一方通行が見ただけで殺せそうなその紅い瞳で見知らぬ少女を睨む。
滝壺に抱きついた少女は彼のガン飛ばしに臆することなく、そして警戒するように言った。

「どうしてあなたが滝壺さんと一緒にいるんですか」

「知るかよ。大体オメェは誰だ?」

一方通行の問いにその少女は滝壺から手を離し、答えた。

「私は絹旗最愛です。あなたとの係わりも超無きにしも非ずなんですけど、『暗闇の五月計画』ってご存知ですか?」

「俺の演算パターンから各能力者の『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』を最適化するとかなンとかっていうくっだらねェ実験のことかァ?」

「そうです。私はその被験者という訳なのですが、今はそんなこと超どうでもいいです。どうしてあなたが滝壺さんと一緒にいるんですか」

「そこで突っ立ってる女に聞きゃァいいだろォが」

91 : Boy_Meets_Girl_Another(×2+α) the first part 33/49[saga] - 2010/08/12 00:42:53.65 DJMI6tM0 34/51

そう言って一方通行は滝壺に向けて指を指す。
絹旗と名乗る少女は彼の指差す先を一瞬だけ目で追い、すぐに一方通行へと視線を戻した。
相当警戒しているのだろう。
今まで普通じゃない連中ばかりを相手にしていたからか、こういう反応は見るのは久しく感じられた。
絹旗は一方通行から瞳を逸らさずに横にいる滝壺へと問い掛ける。

「滝壺さん、私は今日浜面とデートをされると超聞いていたのですが。何故この男と一緒に?」

「えっと、少し前にはまづらと逸れて、はまづらを捜していたら同じように誰かと逸れちゃったこの人を見つけて、一緒に捜そうってなった」

「一方通行が誰かを……ですか?」

「うん、小さい女の子を捜してるって」

一方通行の額にビキィッ! と青筋が立った。
彼はわなわなと身体を震わせながら、

「オマエはどンだけ誤解を招くよォな発言をしたがるンだよ!」

「? でも本当の事だよね?」

「ストレート過ぎンだろォが! もォ少しオブラートに包ンだりとかできねェのかよッ!」

滝壺を乱暴に怒鳴り散らすも当の本人はほとんど表情を変えずに、『私、何か悪い事言った?』的な態度で小首をかしげている。
その横では絹旗がちょっぴり青ざめた顔、いわゆる引いている顔で一方通行をチラチラと目を逸らしたり合わせたりしている。
とても動揺している所為なのか、何だかもう焦点が合っていない。

「ま、まさか第一位がロリコンだったなんて超意外です。というか超キモいです」

「このクソアマ、とびっきりイイ声で鳴かせてやろォか?」

「少なくともロリコンで超もやしっ子のあなたでは一生かかっても超無理ですよ」

「よォしわかった。ならご希望通り――」

首に付けているチョーカーへと手を伸ばそうとするも、その前に絹旗が呆れた顔でやれやれと両手を上げた。
彼女の不可解な行動に伸ばす手の動きが鈍る。
絹旗は一方通行を見下すような目つきとニマァとした不敵な面で、

「能力を使わなければ女の一人も超襲えないなんて、とんだチキンですね」

92 : Boy_Meets_Girl_Another(×2+α) the first part 34/49[saga] - 2010/08/12 00:43:28.50 DJMI6tM0 35/51

またしても一方通行の額にビキリッ! と青筋が立った。
彼は普段ならこんな安い挑発にはのらない。
せいぜい適当に罵倒をして受け流すか、キレていたとしても能力を使わないなんて選択は取らないだろう。
だが今は打ち止めの不在によるストレス、ジャージ少女との迷子捜しによるストレス、大喰らいシスター登場によるストレスなどが重なり、いつもの冷静で冷徹な性格の彼はちょっとばかり変わってしまっていた。

チョーカーへと伸ばしていた手を引っ込めると、ギラリと目を光らせて拳を握る。

「クカカカカッ! 確かにそりゃァそォだ、女一人襲うのに能力使うなンて馬鹿馬鹿しいよなァ」

「随分と安い挑発に引っ掛かるんですね。私があなたの能力を用いた実験の被験者だという事を超忘れてはいませんか?」

「俺の欠陥能力なンざ役に立つのかァ? オマエの方こそこっちには武器があるって事を忘れてンじゃねェだろォなァ?」

カツッ、とわざと彼の身体を支えている杖を地面へと叩いて鳴らす。
そんな動作を見ても絹旗はものともせずに、

「その妙な杖でも超振り回すっていうんですか。だとしたらもはやサル並の知能ですね」

「ならそのサル並の知能に負けるオマエはミジンコレベルって訳だなァッ!!」

一方通行の叫びと共に二人は同時に動き出す。
能力を封じられた(?)第一位と一人の大能力者が一瞬の内に激突した。

そんな中、滝壺が『二人とも喧嘩はよくないよ』と言っていたのだが、奇妙なテンションに盛り上げられたお二方の耳には残念ながら届かなかった。

93 : Boy_Meets_Girl_Another(×2+α) the first part 35/49[saga] - 2010/08/12 00:45:23.88 DJMI6tM0 36/51

―― 浜面 Side ――

浜面は打ち止めが忽然と姿を消した事に、心臓の奥からぞわっとした焦燥感が溢れ出すのを感じた。

(え、あれっ!? まさかまさかの迷子の迷子!? いやちょっとこれは洒落になんねーぞ!)

慌てて首をブンブンと振り回して打ち止めを捜す。

いた。
打ち止めは浜面に背を向けて離れるように走っていた。
いや、どちらかというと離れているというより、誰かに向かっているという方が正しい。
打ち止めが走っている先へと目を移してみると、浜面から二十メートル弱の位置に二人組の中学生くらいの女の子がいた。
その内の一人は私服だったが、もう一人がセーラー服を着ている。
私服の子は黒髪の長髪で花飾りを付けている子だ。
もう一人のセーラー服の子は黒髪の短髪、私服の子と同じく花飾りを付けているのだが、それはむしろお花畑と言った方が適切かもしれない。

走る打ち止めが二人組に手を振り始める。
それと同時に打ち止めがお花畑の子に向かって、

「初春のお姉ちゃああああん、ってミサカはミサカは呼んでみたり!」

あっと言う間に初春と呼んだ女の子の下にたどり着いた打ち止めはガバァと抱きついた。

「わわっ、誰ですか!? ってアホ毛ちゃん?」

「ミサカはアホ毛ちゃんじゃないよっ! ってミサカはミサカは否定してみたり!」

抱きつく打ち止めをお花畑の子は困惑した様子で眺める。
長髪の子も異変に気付いて、お花畑の子にくっついている打ち止めをひょいと覗いた。

「どしたのー初春? んんん? 何だかこの子御坂さんにそっくりだね」

「あー確かに似ていますね」

「お姉様のことを知ってるんだ! ってミサカはミサカは喜んでみたり」

遠巻きで眺めていた浜面は彼女らの会話こそは聞こえなかったが、雰囲気から察するに知り合いだろうと思った。
このままの流れであの二人組が打ち止めと話しこんで少女が浜面という人物を忘れてくれれば、フェードアウトできるかもしれない。
先ほど打ち止めを見捨ててまで捜す訳にはいかないと思った浜面も、これならセーフだろうと一人で納得する。
これは見捨てている訳じゃない。託しているだけだ。
浜面はやや彼女らから離れた位置で『打ち止めをそのまま引き取ってくれ!』と他力本願全開の念を送った。

94 : Boy_Meets_Girl_Another(×2+α) the first part 36/49[saga] - 2010/08/12 00:45:58.60 DJMI6tM0 37/51

お花畑の子が口を開くのが見えた。

「ところでアホ毛ちゃんは一人で何をしているのですか? もしかしてまた迷子捜し?」

「よくわかったね! ってミサカはミサカは賞賛してみたり! でも前と違って今はこの人にも一緒に捜してもらってるんだよ、ってミサカはミサカは指を指してみたり。って、あの人はドコ?」

打ち止めが突然空を指差した。
しかしそこに誰もいないことに拍子抜けした顔をすると、キョロキョロと誰かを捜し始めた。

……これはマズイかもしれない。

咄嗟に身を翻して距離を取ろうとした。
だが、あと一歩遅かった。
打ち止めがこちらの姿を認めてしまったのだ。

「あっ、いたいたあの人だよ、ってミサカはミサカは今度こそ指を指してみたり」

おーい、と『早くこっちへ来い』と言わんばかりに打ち止めは手をブンブンと振っている。
あわよくばみたいなことを考えていた浜面は落胆の色を出しながら、打ち止めの呼びかけに軽く手を振って答えて少女に近づく。

「はあ、何だよ打ち止め。もうお前の知り合いが見つかったんだからそれでいいじゃねえか。俺はもう御役御免でもいいだろ」

「えーでも折角一緒に捜してくれてるんだから紹介くらいはしないとね、ってミサカはミサカは要らぬ世話を焼いてみたり」

「お前なあ」

子どもの純粋な笑顔で言われると反論しようとする気持ちも憚れる。
妙に蟠った気分を晴らすために先ほど打ち止めが話していた中学生の二人組を見る。
浜面の視線を感じ取った二人は何故か顔を引きつらせた。

(警戒でもされてんのかなあ)

浜面は愛想笑いをしながら打ち止めが抱きついていたお花畑の子に声をかける。

「えっと、君たちは打ち止めのお知り合いサンとかだったりすんの?」

「私はちょっとした知り合いですけど……」

まだおどおどとした表情で浜面の問いに答えるお花畑の子。
彼女は何かを言いたそうだが、口をもごもごとさせて中々開かない。
浜面が腕を組むと、長髪の子が痺れを切らしたように彼女に代わって浜面に言った。

95 : Boy_Meets_Girl_Another(×2+α) the first part 37/49[saga] - 2010/08/12 00:46:29.24 DJMI6tM0 38/51

「あの! ちょっと聞きたいことがあるんですけど」

「何だ」

「あなたってさっき女子トイレに入ってましたよね?」

「ぶふぅっ!!」

浜面は口をタコにして思いっ切り吹き出した。
その反応を見た二人は数歩後退りして浜面から離れる。

「その反応はやっぱり……」

「ちょ、ちょっと待ってくれ! あの奇怪行動には色々と理由があったんだ! そうだよな!? 打ち止め?」

「そうだよ、この人は彼女さんを捜すためにお手洗いに入ったんだよ、ってミサカはミサカは説明してみる」

「えっ、それってもうストーカーじゃ……」

またさらに数歩後退りする二人。
前よりも退く速度が上がっているのは気のせいではないだろう。

「だァあああっ!! おい打ち止め! お前あのときの状況を端折って説明してんじゃねえよ!! 見ろ、もうあの二人は俺のことを第一級危険人物を見ているような怯え方をしてんじゃねえか!!」

「でもミサカは本当のことを言っただけだよ? ってミサカはミサカは――」

「誰が結果を説明しろと言ったんだよ!? 俺はそこに至るまでの過程を言ってほしかったの!」

「ぶー、あなたのワガママっぷりはあの人にそっくりかも、ってミサカはミサカはふてくされてみたり」

打ち止めは怒ったような、そして呆れたような声色でまた頬を膨らませた。
もっと打ち止めに言ってやろうとも思ったが、今はそんなことをしている暇はないことを知る。
只今絶賛敬遠中のあの二人の誤解を解かなければ打ち止めを預ける交渉ができないのである。
浜面は打ち止めを無視して、遠くでこちらの様子を窺っている二人に大きな声で清く正しい説明をした。



「――という訳で、俺は止むを得ずあの女子トイレに入ったんだ」

「はあ、大体の事情はわかりました」

浜面の必死の弁明により、二人は彼に対する警戒を解いていた。
誤解も解いたところで本題に入る。

96 : Boy_Meets_Girl_Another(×2+α) the first part 38/49[saga] - 2010/08/12 00:47:20.63 DJMI6tM0 39/51

「お前らはこのチビガキと知り合いなんだろ? 引き取ってくんねえかな」

「うーん、できることならそうしてあげたいんですけど……」

お花畑の子が言葉を濁すと、長髪の子が彼女の言葉を引き継ぐ。

「これからあたしたちは友達とお茶しに行くつもりなんです」

「用事があって無理ってことか……」

「い、いえ。そういうことではないんです」

長髪の子は慌てて両手を顔の前で振って否定を示した。
『ただ』、と彼女は苦笑いをしながら付け加える。

「この子の容姿的に白井さんに近づかせたらマズイかなーって」

「あー確かにそうかもしれませんね」

長髪の子の意見にお花畑の子は素直に同意する。
何のこっちゃわからない浜面は、

「え、何。どゆこと?」

「この子を連れて行ったらこの子自身に危険が迫ってしまうかもしれないんです」

「そういう訳ですのでアホ毛ちゃんを引き取ることはできません」

「危険!? 君たちは一体全体これからドコに行くつもりなんだよ!?」

「こっちにも色々事情があるってことなんですよっ。じゃ、あたしたちそろそろ行きますんで。行こう、初春」

「あ、わかりました。じゃあねアホ毛ちゃん。頭のアホ毛でビビッと捜し人をヒットしてくださいね」

お花畑の子が打ち止めにそう言うと、先に行ってしまった長髪の子を追いかけていった。

浜面はポカーンと口を開けて呆然と立っていた。
あの二人があっと言う間に去ってしまったことにではない。
あまりの事態の急変の速さに彼の頭がついていけなかったからだ。
数秒後、浜面の意識は打ち止めの呼びかけによって覚醒させられた。

「どうしたの? ってミサカはミサカは尋ねてみたり」

「――あ、いや、何でもないんだ。……うん、何でも……」

ハハハ、と物寂しげな表情で笑いながら答える。

97 : Boy_Meets_Girl_Another(×2+α) the first part 39/49[saga] - 2010/08/12 00:48:17.60 DJMI6tM0 40/51

そもそもここの衣服店には何しに来たんだっけ?
当初の予定では滝壺と一緒に嬉恥ずかしのお買い物イベント真っ最中だったはず。
なのに今いるのは迷子のオチビちゃん。
この子の保護者様、一方通行は今どこで何をしているのだろうか。

浜面はふと店内に取り付けられていた時計を見る。
午後五時ジャスト。
既に日が暮れ始めている時間帯だ。
打ち止めを捜しているであろうアイツも本気で焦り始める時間かもしれない。
こりゃ探し当てるのは諦めるか、と見切りをつけた浜面は、

「打ち止め、もう時間も時間だ。一旦家に帰ろうぜ」

「えっ、ミサカはまだ――」

「時間的には後少しで最終下校時刻だ。お前くらいの歳だと暗くなってからじゃ遅いだろ?」

「……うん、わかった、ってミサカはミサカはしぶしぶ了承してみる」

頭のアホ毛が萎れているのを見ると明らかに残念な気持ちであることが窺える。
浜面は頭をボサボサと掻き毟りながら意気消沈している打ち止めを何とか励まそうと声を出す。

「大丈夫だって。きっとお前の捜し人もすぐ見つかる。……そうだ。帰りに何か奢ってやるよ」

別に物で釣るつもりはなかったのだが、今の浜面にはこれが限界だった。

「それって誘拐犯の常套文句? ってミサカはミサカは警戒してみる」

「……なあ、もういいじゃねえか。どうしてお前はそこまでして俺を貶めようとするんだ?」

「うーん、あなたとの言葉のキャッチボールはこんな感じの方が盛り上がるかな、ってミサカはミサカは思ってみたり」

「もう駄目だ! 俺にこの子は扱いきれない!!」

あまりの傍若無人っぷりに浜面は思わず頭を抱える。
いや、見ず知らずの人に警戒するのは至極当然のことであって、打ち止めはある意味それに沿っているのかもしれない。
それでも打ち止めは何か違う。
根本的な部分の何かが違う。
おそらく彼女の魅力はそこにあるのだろう。
浜面からしたら疲れることこの上ないのだが。

「パフェでもクレープでも何でも買ってやるからさ、もう行こうぜ」

そう言って浜面は歩き出す。

98 : Boy_Meets_Girl_Another(×2+α) the first part 40/49[saga] - 2010/08/12 00:49:29.72 DJMI6tM0 41/51

「ま、待ってよー、ってミサカはミサカは呼び止めてみたり」

「あ? 何だ」

「ミサカはあの伝説のクレープが食べたいな、ってミサカはミサカはお願いしてみたり」

「伝説のクレープ? まあいいんじゃねえの」

「やったーっ!! ってミサカはミサカはバンザイで喜びを表現してみたり!」

バンザーイバンザーイと本当に嬉しそうに喜んでいる。
こういう素直な反応を見せられるのも意外に悪くない。

そこでふと滝壺の顔を思い出す。
滝壺にも何かサプライズなプレゼントでもしてみようか。
打ち止めほどの喜びっぷりは見られなくとも、滝壺の笑顔くらいは見れるかもしれない。
浜面ははしゃぎまわる打ち止めを大人しくさせると、どんなプレゼントが良いか考える。

(一番は服なんだろうけど滝壺の服のサイズなんて知らないからなあ。フリーサイズの物もあるけど正直自信が無い。サイズうんぬんで靴も同様。となると無難に帽子とかがいいか)

正直女の子のおしゃれなんてほとんどわからない。
下手に人を選びそうな帽子だと失敗してしまいかねない。
それに滝壺の服装は実用性重視だ。
今回はおしゃれな服を買いに来たが、毎日おしゃれをするのも大変だろう。
数分考えて浜面は帽子が展示してあるコーナーへと行き、白いリボンの付いた麦わら帽子を買った。
これから暑くなってくるこの時期に麦わら帽子なら大失敗はしないはずだ。
浜面は買った帽子をそのまま首にかける。

「待たせたな。それじゃあ行くか」

「全然待ってないよっ、ってミサカはミサカはあなたの行動を微笑ましく思ってみたり」

顔の口角が上がってしまっていることに気付いた浜面は照れを誤魔化すようにぽんぽんと打ち止めの頭を軽く叩く。
打ち止めも彼の心境を読み取ったのか浜面の行動にえへへと微笑を作っていた。

浜面と打ち止めはは衣服店から出ようと出入り口へ向かった。
すると浜面の視界の端でキラリと光るモノが映った。
ふとそれに目をやる。
その光るモノを数秒凝視した浜面は、

「悪い打ち止め。ちょっと待っててくれ」

「またプレゼント? ってミサカはミサカは尋ねてみる」

「……そうだな。とっておきのプレゼントだ」

そう言い残して、彼は光るモノが置いてあるアクセサリーコーナーへと姿を消した。

99 : Boy_Meets_Girl_Another(×2+α) the first part 41/49[saga] - 2010/08/12 00:49:55.83 DJMI6tM0 42/51

―― 一方通行 Side ――

『Seventh mist』とファストフード店のちょうど中間辺りの通りで一方通行と絹旗最愛は激突した。

猛スピードで迫ってくる絹旗に対し、一方通行は右腕に装備している杖に身体の重心を預け、滑らかな弧を描きながら器用に後方へ半回転して彼女の突撃をかわす。
そして回転の動作を終えた直後に左手でズボンのベルトに挟まれている小型の拳銃を引き抜き、絹旗に向けて構えた。

絹旗の方はズザザッ! と突撃のスピードを靴の裏で殺している。
まだこちらを向いていない。

勝負があまりにも早く、そして呆気なく終わりそうな状況に自然と笑みがこぼれた。

「終わりだ」

一方通行は躊躇いもなく引き金を引く。

パァンッ!

銃声が通りに鳴り響いた。
時が止まった。
僅かな静寂が街中を支配した。

そして静寂はすぐさま喧騒へと変わる。
ただ、それは突然の銃声による恐怖の悲鳴や慌てふためいて逃げ回る雑踏のものではない。
普通に友達同士で喋ったり子どもたちが追いかけっこではしゃいでいる、極々一般的日常の喧騒であった。

周りがいつもの空気に変わっても、一方通行ら三名は未だ動けずにいた。
一人は大変驚いた顔で。
一人は驚きながらもまたもう一つの意味で驚いた顔で。
一人は銃声に驚いた顔で。

(なンなンだよ……)

一方通行は今目の前で起きている現象を信じられず、絹旗に銃口を向けたまま立ち尽くしていた。
何故なら銃声こそはあったものの、銃弾が発射されなかったからだ。
だが本当に彼らが動けない理由はそこではない。

彼の持つ拳銃の銃口からは、なんか運動会とかで見かけそうな世界各地の国旗が連ねられた小さな万国旗がだらりと情けなく垂れ下がっていた。
発砲した瞬間にはとても綺麗に満遍なく放射された、様々な色彩で彩られた紙吹雪も今は桜が散ってしまったかのように彼らの足元に散らばってしまっている。

その光景はもはや色が存在せず、三人の周囲だけ宇宙空間となってしまったかのように『外』のあらゆる音が遮断されて空気の揺れすら感じさせないほどの静けさを作っていた。

100 : Boy_Meets_Girl_Another(×2+α) the first part 42/49[saga] - 2010/08/12 00:50:27.60 DJMI6tM0 43/51

と、そこへ紙吹雪とは違う白いメモ用紙らしき物がひらひらと左右に揺れながら一方通行の目前を通り過ぎた。
彼は傍から見れば玩具みたいな拳銃をポイと捨て、ゆっくりと落ちてくるメモ用紙を身体を捻って掴む。
一度体勢を立て直し、手に握ったメモに書かれていた一文を絶体絶命の状況から救われる新たな情報を求めるような無駄に真剣な表情で読み取った。
そこにはこう書かれていた。

『モノホンの拳銃は危ないから没収じゃん♪』

グシャリッ!

一方通行は脳からの信号を待つ間もなく、ほぼ反射的に手に持っていたメモ用紙を握り潰した。

(黄泉川ァ……)

よくはわからないが、彼の知らない間に本物の拳銃は今地面に転がっている玩具の拳銃と入れ替えられてしまったらしい。
いや、ロシアから学園都市に帰ってきてからはずっとあの病院にいたので、おそらく自分が転寝をしている時でも狙ったのだろう。
一般人的にはそもそも病院にまで拳銃を持ち込んでる時点でアウトなのだが、一方通行はただの一般人ではない。それは黄泉川も知っているはずだ。

なら何故入れ替える必要がある?
そう思いながら彼は落ちている拳銃を拾う。
ズシリ、と玩具とは思えない重量が一方通行の腕に相応の負担を掛けた。

(ここまでリアルにする必要があンのかよ)

銃口から飛び出している万国旗を強引に引き抜く。
その際に生じたポンッ、と愉快な音が彼を無性に腹立たせた。
見た目と重さだけは無駄に精巧なので放っておいたら面倒くさい事になるかもしれないと予感した一方通行は、とりあえず拳銃を元々しまっていた場所に戻した。

その時、ふと凍え死ねるほどの冷たい視線を感じた。
それが誰によるものなのか、彼には即座に理解できた。
売った喧嘩がご購入された直後に放置プレイをさせられた人物は一体ドコの誰だろうか。

「さて、この超冷めた空気がホットになるような超気の利いたジョークを言ってもらえますか?」

「……うるせェ」

「うわ、ギャグすら超言えないだなんて、学園都市第一位の頭脳が超聞いて呆れますね」

「大丈夫だよ、アクセラレータ。私はそんな頭の回らないアクセラレータを応援してる」

目の前が真っ暗になった気がした。
一方通行は、色んな意味で負けた。

101 : Boy_Meets_Girl_Another(×2+α) the first part 43/49[saga] - 2010/08/12 00:51:40.84 DJMI6tM0 44/51

――

「私も一緒に超捜してあげたいのですが、これから私は超気になっていたC級映画を観に行かなくてはならないのでここで失礼します」

絹旗は二人に別れを告げてポケットに手を入れてその場から立ち去ろうと歩き出した。
しかし彼女は何かに気付いたように『あ、そうそう』と口にすると、踵を返すように二人のいる方へ振り向いた。

「お二人に超お土産です。入場者プレゼントとして貰った物ですが、どうぞ」

絹旗のポケットから差し出してきたのは、いかにも小学生以下向けの可愛らしい向日葵の花があしらわれた髪留めであった。

「ありがとうきぬはた。でも私にはちょっと合わないかな」

相手の機嫌を損ねない対応でやんわりと断る滝壺に対し、

「オメェ俺の性別わかってるよなァ? もしわかっててやってるンだったら人間ロケットで地球裏側への旅片道チケットをプレゼントしてやる」

挑発する気満々、敵意剥き出しで答える一方通行。ここまでくるともはや子どもだ。

絹旗は滝壺には『そうですか、超残念です』と素直に残念そうな顔を浮かべながら、滝壺に差し出した、髪留めをのせた手を引っ込めた。
そして何を思ったのか引っ込めた手の平に収まっている髪留めを、一方通行へ差し出している手の平に加えた。

「滝壺さんはいらないそうですのであなたが貰ってください」

「…………ッ」

「勘違いしてもらっては超困りますので言っておきますけど、これはあなたが超捜している女の子に渡してあげてください。私もこういうのはあまり付けないタイプですので」

そう言い終えると一方通行の下がっていた左手を強引に引っ張り寄せ、彼の手の中に髪留めを入れて握らせた。

「それでは今度こそ私はここで超失礼します」

絹旗はぺこりと頭を下げると二人に背を向けて、近くにあった小さな路地へと入り姿を消した。

左手に入っている向日葵の髪留めを忌々しそうに見ながら一方通行は呟いた。

「……めんどくせェ」

そう毒づきながらも、彼は髪留めをポケットへと閉まった。

102 : Boy_Meets_Girl_Another(×2+α) the first part 44/49[saga] - 2010/08/12 00:52:37.24 DJMI6tM0 45/51

――

絹旗と別れた一方通行と滝壺は、今、『Seventh mist』の中にいる。

ようやく、戻ってこれた。
これが一方通行のこの店に入って最初に思った事だ。
事の発端は打ち止めとの喧嘩から始まった。
その後妙な女に付きまとわれ、シスターに見つかってメシを食わせろと外に放り出され、食後はガキにおちょくられてと、散々な時間を過ごした。
それはもう、とにかく疲れるの一言に尽きるものである。
この疲労感は『グループ』の仕事をしている時間と比べても引けを取らないかもしれない。

店内の一つの柱に掛けられた時計で時間を確認すると、既に午後五時を回り、長針が六の場所にあった。
太陽も落ち始めるこの時間はそこら辺にいる小学生だったらそろそろ寮か家に帰らないと危ないのだろうが、打ち止めに関してはその心配は無用だろう。
なにしろあの性格と口調だ。口説く方も大変苦労をされるはずだ。
それに加えて能力としてレベル3程度の電撃使いでもある。
軽い気持ちで手を出しては返り討ちに遭うのがオチだ。
打ち止めを誑かす事ができる人がいるのなら、是非とも拝見してみたい。

と、このように安全とされるような理屈をどんなに並べても、一方通行は打ち止めを捜すのを止めない。
レベル6シフト計画で第三位のクローン体である妹達を大量虐殺した彼は、今後絶対に打ち止めを含む妹達を傷つけないと誓っている。
しかし、その誓いは時の経過と共に変化していた。
傷つけないのはもちろん、『傷つけさせない』、と。
それは妹達の中でも打ち止めはもはや特別な存在となっていた。
特別な存在と言っても慕情などというものではない。愛情によるものだ。

だから、一方通行は打ち止めを捜すのをやめない。

103 : Boy_Meets_Girl_Another(×2+α) the first part 45/49[saga] - 2010/08/12 00:53:25.59 DJMI6tM0 46/51

「(まだ買わなくちゃいけねェ物も大量にあるンだ。さっさと見つけてやらねェとな)」

連絡先も無いこの状況で確実に捜している人を特定するのなら、呼び出してもらうのが手っ取り早いだろう。
何でこンな簡単な事も思いつかなかったンだ? とこの店を出る前の自分に苛立ちを覚える。

「……クソったれが」

「どうかしたの?」

「何でもねェよ」

もう一緒にいる事に何の違和感も持たなくなった滝壺に返事を返すと、

「さっさと行くぞ。呼び出しとかすりゃあすぐに会えるだろ」

「……うん、わかった」

カツカツと杖をつきながら彼は今いる一階のサービスカウンターへと向かった。

104 : Boy_Meets_Girl_Another(×2+α) the first part 46/49[saga] - 2010/08/12 00:54:49.82 DJMI6tM0 47/51

――

「かしこまりました、お呼び出しですね」

一方通行と滝壺はカウンターの女性店員に呼び出しをしてほしいと頼んだ。
もちろんここに来るまでの道中も打ち止めを捜していたのだが、結局見つけ出すことはできなかった。

「ではお客様とお呼び出しをする方のお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」

「俺は一方通行だ。呼び出してほしいのは打ち止め。……で、オマエは?」

ぼーっと後ろで立っている滝壺にバトンを渡す。

「私は滝壺理后。呼び出してほしいのは浜面仕上っていう人」

「一方通行様に滝壺理后様……」

女性店員はそこまで言うと、ハッとした挙動で目と口を開き、片手でその開いた口を覆った。
まさかッ、みたいな顔をしたと思ったら、急にカウンター内に設置されていた小さなゴミ箱を漁りだした。
意味不明な店員の行動に目を丸くする二人。
そんな彼らを尻目に店員はゴミ箱からくしゃくしゃに丸められた一つのメモ用紙を掘り出して内容を確認する。
そこでできればあってほしくないといった疑いの顔から嫌な予感が的中した確信の顔へと変化した。

「大変申し上げにくい事なのですが……」

「何か問題でもあンのか?」

「お客様方がお捜しの打ち止め様と浜面仕上様は、先ほどこちらに来られてお客様方をお呼び出ししております」

絶句した。
彼らは何ともまあ絶妙なタイミングで外へと出てしまっていたらしい。
沸々と湧き上がってくるあのクソシスターへの憤りと店を出る前の自分にもう一つの意味での苛立ちを表現するように、力強く握った拳でカウンターをドンッ! と叩く。
ビクッと身体を跳ねらせる女性店員。
本当に申し訳なさそうな表情でビクビクと彼の態度に怯えて小さくなってしまった。

「入れ違いかよ、クソ! なら今からでもいいからさっさと呼び出しやがれッ!」

「は、はいっ! かしこまりましたぁっ!」

一方通行のなまじ強迫ともとれる言動に、店員はガチガチと緊張したように頭を下げると、素早く呼び出しの準備を整えた。

105 : Boy_Meets_Girl_Another(×2+α) the first part 47/49[saga] - 2010/08/12 00:55:49.94 DJMI6tM0 48/51

『お、お呼び出しを致しますっ。第七学区よりお越しの、打ち止め様。お連れの一方通行様がお待ちです。お心当たりのある方は、一階、サービスカウンターまでお越しください』

『くり返し、お呼び出しを致します。第七学区よりお越しの、浜面仕上様。お連れの滝壺理后様がお待ちです。お心当たりのある方は、一階、サービスカウンターまでお越しください』

何故か初めの方では声が裏返っていたが、確かに打ち止めと滝壺の捜し人と呼び出すアナウンスが店内に流れた。
店員は放送をし終えると、一方通行と滝壺の元へと戻り、

「それではお連れ様が来られるまでこちらの席に掛けながらお待ちください」

二人をカウンターの中へと案内すると、たたまれた鉄パイプの椅子を横に二つ並べて展開した。
一方通行は不満そうにドサッと鉄パイプの椅子に座る。大きな衝撃に椅子がミシと嫌な音を立てた。
続いて滝壺も用意された椅子に座る。こちらは彼と違い、女の子っぽく静かに座ったので不快な音は出なかった。

「ねえ、アクセラレータ」

今日初めて会った時よりやや暗い顔つきで視線を前に向けたまま、滝壺が話し掛けてきた。

「何だよ」

「あなたの捜している子はどんな子なの?」

暗部関連の調査か? と一瞬疑いの目を滝壺に向ける。
しかしすぐに、今日の彼女の行動パターンでその線は薄いだろうと頭の中によぎった敵意を振り払う。
そうなるとどう伝えようか。
馬鹿正直に『絶対能力進化』の実験で第三位のDNAマップから大量に生み出されたクローン体の中の一人だなんて口が裂けても言えないので、無難に、

「バカみてェにキーキー騒ぐ鬱陶しいガキだ」

と答えた。

「……アクセラレータはその子を大切にしてるんだね」

「どォ解釈したらそンな結論に至るンだよ」

「だってその子のことを本当に大切に思って、理解しているから紹介する時に悪態をつけれるんだよ。それに文句で説明したってことは、その子には悪い部分以上に良い部分が溢れているって思っているからなんだよね?」

「…………」

106 : Boy_Meets_Girl_Another(×2+α) the first part 48/49[saga] - 2010/08/12 00:56:42.09 DJMI6tM0 49/51

呆れたもンだな、と一方通行は思った。
どうして自分をそこまで美化できるのだろうか。
そういう考え方もあるかもしれないが、根っからの悪人を説明しろと言われたら悪いことしか思いつかないはずだ。
もっとも、滝壺が自分のことを悪人を大切にしていると思っていたのならば、そんな矛盾も全くなくなるのだが。

「……何か変なこと言った?」

一方通行の返答がいつまで待ってもこないことに疑問を抱いたのか、滝壺は視線を彼の方へと向けた。

「別に変なことは言ってねェよ。……まァ、そォなのかもな」

前の質問を含めて同時に答える。
実際に打ち止めの良い部分を挙げろと言われても、一方通行はそう簡単には思いつかないだろう。
むしろ悪い部分ばかりが洪水のごとく挙げられる。
だがその悪い部分が打ち止めの魅力であり、一方通行が好きな所でもあるのだ。
無論、一方通行自身は気に入っているとは微塵にも思っていない。

「そォいうオマエはどォなンだ。まァ大体の雰囲気は知ってるが、めンどくせェオマエと付き合ってくれている可哀想なアイツはどんな野郎なンだァ?」

皮肉交じりにケラケラと笑いながら同じ質問を滝壺にぶつける。
そこで何故か彼女は頬を僅かに赤く染めた。

「はまづらは私を助けてくれた人。私を暗い闇から救い出してくれた、大切な人」

「暗い闇……? まさかオメェ、暗部組織の人間か?」

一方通行の重苦しい問いかけにも拘わらず、滝壺は『あなたは女性ですか』とさも当然のことを聞かれたみたいに頷いた。

「でも、正確に言うと『元』暗部だけどね。私が暗部にいたころはそこにしか居場所がないと思ってた。私を受け入れてくれる場所は暗部だけだったから」

でもね、と言うと滝壺の表情は明るくなった。

「あるとき、そのはまづらが私の所属する暗部組織に下働きとして異動してきたの。その後すぐに『未元物質(ダークマター)』に組織は潰されちゃったけど、はまづらは私の傍にいてくれた。護ってくれた。私の居場所を作ってくれた。それにね――」

そうして淡々と嬉しそうにはまづらという人物の武勇伝を語ってくれた。
無能力者でレベル0のソイツがレベル5を撃退したと聞いたときには素直に、ほォ、と驚いた。
学園都市第一位の一方通行からでも、その結果は珍しいと思える。
彼自身もとあるレベル0の少年に敗北しているが、アレは能力が無い訳ではないので別問題だ。

107 : Boy_Meets_Girl_Another(×2+α) the first part 49/49[saga] - 2010/08/12 00:57:51.78 DJMI6tM0 50/51

ただ、そんな彼の武勇伝も次第に愚痴へと変わっていくのにそう時間はかからなかった。

「はまづらはもう少し相手の気持ちを――」「何回言っても――」「未だにあんな動画を――」

ついさっき自分で言っていた『文句で……』の話が綺麗に当てはまってしまっている。
そのことに滝壺自身が気付いているのかどうかは定かではないものの、おそらく、いやもう完璧にホの字だろう。
第三者から見ても、一方通行から見てもそれは明らかだ。
数時間しか一緒にいなかった彼でも、滝壺はあまり積極的に話していくタイプではないとわかる。
そんな彼女がここまで口数が多くなっている所を見れば、よほどの鈍感バカでない限り何かしらを察するはずである。

しかし、滝壺の愚痴(惚気話)を長々と聞いていられるほど、一方通行は温厚な性格ではない。
某ボクシング漫画のラストシーンのように真っ白になってうな垂れながら、片手をひらひらと振り、

「わかった、わかったからもォその辺で勘弁してくれ。オメェの捜してる野郎がどンな野郎かはもォわかったから」

「――、そ、そう? うん、わかった」

ようやく自分の世界から戻ってきた滝壺はちょっと恥ずかしそうに目を泳がしている。
そこで彼女は座っている一方通行のすぐ後ろへ目を向けた。正確には後方上空へだ。
一方通行から見れば完璧に明後日の方向である。

「どォした?」

一方通行が素朴な疑問を伝えても、滝壺は彼の方を見ずに言った。

「あなたは確か……あの時の電撃使い(エレクトロマスター)?」

電撃使いは能力としては比較的ポピュラーな部類に入るので多くの人が発現しているが、一方通行は電撃使いと聞くと嫌な予感しかしない。
少なくとも超電磁砲(レールガン)という事はないはずだ。彼女がここにいたら思う存分電撃をぶっ放してきて、既にこの衣服店は店としての機能を失っているだろう。
それだけのことを一方通行はしてきたのだから。

まあ、もしもの話だが。
もし滝壺が誰かを超電磁砲と間違えているとしたら?
もし間違えるとしたら誰が一番間違えられやすい?

一方通行が答えを導き出すのと、彼の背後から声が聞こえてくるのは同時だった。

「お迎えにあがりました、とミサカは迷子の一方通行を見てほくそ笑みます」

108 : VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] - 2010/08/12 00:59:24.43 DJMI6tM0 51/51

以上です。
元ネタはタイトルの通り、12巻のアレです。

本当はこんなに長くなるはずじゃなかったんだ……
ただ、>>78の「ミサカにもよくわかんないんだけど、なんだかあなたはあの人とあの人とどことなく雰囲気が似てるの、ってミサカはミサカは根拠のない言葉で返事をしてみたり」を言わせたかっただけなんだ……

その二人を会わせるために一方さんを出して、そしたらヒロイン入れ換えとかいいんじゃね? みたいになって、そしたら一方さんと滝壺だと話のキャッチボールが上手くいかないってことで色んなキャラ出して、そしたらこうなってた。もっとまとめた方がいいね、うん。

てか21巻で浜面と一方さんが出会うとは想定外だった。



続き
Boy_Meets_Girl_Another(×2+α) the latter part
http://ayamevip.com/archives/41203529.html


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