ハルヒ「えっと。こ、この中に宇宙人や未来人。超能力者の方がいらっしゃいましたら、私のところまで来ていただけませんか?お、終わりです(////)」
キョン「(なんだあの子、なんかの罰ゲームか?」
元スレ
ハルヒ「ごきげんよう・・・・」
http://takeshima.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1230437180/
キョン「なぁ」
ハルヒ「は!はひっ!」
キョン「なあ、お前のさっきの自己紹介は一体何?入学早々虐めにでもあってるのか」
ハルヒ「・・・・(////)」
キョン「え?マジ?本気と書いてマジ?あのな、何か悩み事があったら俺に相談してみろ・・・」
ハルヒ「その、ですね。あなたはもしかしてエイリアン?未来人?超能力者?」
キョン「違うけどさ・・・」
ハルヒ「そうなんですか」
キョン「それだけか?」
ハルヒ「えぇ!」
そして俺達は何事も無く、無事に高校三年間を満喫した。
キョン「おーい!ハルヒー!」
ハルヒ「キョンくぅーん!まってー」
来年から俺達は同じ大学に行く そしてこの物語は終わる
おわり
別パターン
ハルヒ「この中に宇宙人未来人異世界人超能力者はいらっしゃるかしら? いるのならわたくしの所にいらっしゃいなさいな」
振り向いておどろいた。
金髪、縦ロール、フリフリのレースが付いた特注と思われる制服。
物凄いお嬢様がそこにいた。
キョン「あの、自己紹介のアレ、どこまで本気だったんでございますか?」
口調がおかしいが気にしないでくれ。誰だってこんないかにもなお嬢様と話したらこうなるだろうよ。
ハルヒ「どこまで、とは?」
キョン「いや、あの宇宙人とかなんとか……」
ハルヒ「あなたは宇宙人?」
キョン「いえ、違いますが」
ハルヒ「あら、そうですか。残念ですわ」
そう言うと、涼宮ハルヒは俺に興味を失ったようで本を読み始めた。
どこまでも優雅なお姿だ。
前を見ると何故だか俺に視線が集中していた。
…………そうですか、俺みたいな庶民丸出しな人間はお嬢様と会話してはいけませんか。
谷口「なあ、キョン」
キョン「なんだよ」
谷口「お前、涼宮様にちょっかいだすのはやめておけよ」
いきなり何を言い出すんだ、この野郎は。
て言うか様付けかよ。まあ分からなくもないが。
谷口「俺は恐れ多くも涼宮様と同じ中学だったから言っておくが、お前はあの方とは釣り合わないぜ」
本当になんなんだ、コイツ。
今時身分が違うとか言い出すか。まあ俺だってそんな事分かりきっているさ。
谷口「あの方は俺達一般庶民とは違うのさ。例えば、七夕の日……」
俺は谷口が何か言っているのを無視して教室へと向かう。
……しっかし、涼宮様、ねえ。
谷口「……てな事があってだな……ん、キョン?」
毎日、涼宮は遅刻ギリギリに登校してくる。
うむ、なんかこういうのはお嬢様っぽいな。なんとなく。
キョン「おはようございます」
ハルヒ「あら、ごきげんよう」
今日の縦ロールの数は四本、つまり水曜日か。
涼宮はなぜか毎日縦ロールの数を変えていた。
月曜日は二本、火曜日は三本、といったように。
…日曜日とか大変なことになってそうだな。
キョン「毎日縦ロールの数が変わるのは宇宙人対策ですか?」
ふと思い付いた事を聞いてみた。
涼宮が俯いてしまって……え、何? 俺やっちゃった?
ハルヒ「その事に気づいたのはあなたが初めてですわ!」
……え?
ハルヒ「今まで誰も気付かなかったですのに……もしかして、やっぱりあなたは宇宙人?」
お、おいおい、顔が近いよお嬢様。
涼宮はその大きな瞳をキラキラ輝かせて俺を見つめてくる。
キョン「あの、以前も言いましたが、ただの一般人です」
ハルヒ「そう……」
そこまでしょんぼりする事はないだろう。まいったな……。
谷口「おい、キョン! お前朝涼宮様に何言ったんだよ!」
キョン「は? いや、俺は宇宙人じゃないって」
谷口「それだけで涼宮様があんなに」
国木田「まあまあ、落ち着きなよ谷口」
谷口「国木田……」
国木田「しっかし、キョンも凄いよね。あの涼宮様に話し掛けられるなんて」
キョン「そうか?」
国木田「そうだよ。中学の時だって、スケバンの佐々木さんと会話してたしさ」
谷口「スケバンんんん!?」
キョン「だからあいつはそんなやつじゃないって何度言えば……」
まあそんなこんなで、毎朝涼宮と会話するのが日課になった。
やはりお嬢様らしく、世間知らずな所が多々見受けられるが、話すのは楽しいものだ。
キョン「それで、全部の部活に仮入部したんですよね。何かお眼鏡にかなう部活はありましたか?」
ハルヒ「それが、なかなか無くて……やはり宇宙人未来人超能力者と仲良くなれる部活はないんでしょうか」
まあ流石にバレー部や陸上部等では無理だろうが……。
そう、この純粋過ぎるお嬢様はとにかく宇宙人等を探そうと必死なのだ。
キョン「そうですねえ、なかなかそんな部活は無いでしょうね」
ハルヒ「やはり……」
ああ、またそんな風にしょんぼりしちまって……。
キョン「まあ、無いものを無理やり探そうとしなくても……流石にそんな部活を作る学校も無いでしょう」
ハルヒ「………………作る…………」
そんな会話をした日の授業中。
ハルヒ「そうですわ! 無ければ作ればいいんですわ!」
キョン「!?」
ハルヒ「ちょっといらっしゃって!」
キョン「ちょ、今授業中」
ハルヒ「いいから!」
涼宮はお嬢様とは思えない力で俺を引き摺る。
ちょ、マジ首締まる……。
キョン「あ゛の゛……ぐびが……」
ハルヒ「あ……わたくしったらはしたない事を……」
キョン「げほげほ……」
ハルヒ「あの、大丈夫ですか?」
キョン「あ、大丈夫ですよ、ほら」
ハルヒ「良かった……」
キョン「それで、一体何なんですか?」
ハルヒ「ええ、わたくし、部活を作ろうと思うんですの。わたくしの気に入る部活が無いなら、気に入る部活を作ってしまえばいいんですわ!」
……流石お嬢様。俺達に考えつかない事を平然とやってのける。
ハルヒ「と言うわけで、手続き等をお願いしますわ。わたくしは部室をどうにかしますので」
んで放課後。
まあ涼宮に言われた部活の件は明日でもいいだろう。
俺は荷物をまとめて帰ろうと……
ハルヒ「さあ、キョンさん! 行きますわよ!」
キョン「へ? ちょ、涼宮さん?」
ハルヒ「さあ早く!」
昼間の様に首を引っ張られる事は無かったが、今度は手首を掴まれ引きずられる。
だからなんでこんなに力があんだよ!
ハルヒ「ここですわ!」
キョン「文学部?」
ハルヒ「ごきげんよう、長門さん」
長門「…………涼宮さん」
なんだ、この娘は。
涼宮とはタイプが違うが……いかにも深窓の令嬢って感じだな。
うん。実際窓辺で一人読書してるなんてまさにそうだろ。
長門「……そちらの殿方は?」
ハルヒ「こちらが昼間話したキョンさんですわ。キョンさん、こちら、文学部の長門さん」
キョン「あ、ああ、初めまして」
長門「……」
え、何、俺何かした?
ハルヒ「長門さん、そのように怯えなくともよろしくてよ?」
長門「……そう」
ハルヒ「すいません、キョンさん。長門さんはあまり殿方と接した事がないらしいので……」
キョン「ああ、別に構いませんよ」
長門さんとやらはもう俺には興味もないらしく、読書を再開している。
ハルヒ「まあ、そういう訳で今日からここがわたくし達の部室ですわ」
へ? わたくし『達』?
長門「……このままだと文学部が無くなってしまうので……」
つまり、部室を貸す代わりに俺達に文学部に入れと言う事らしい。
人数不足で部活が無くなるかもしれなかったから渡りに船といった所だったとか。
しかし、何故お嬢様方はフリルの付いた制服をお召しになられるのかねえ。
ん? あれ? 涼宮がいない?
キョン「あの、長門さん?」
長門「……?」
キョン「えっと……涼宮さんは?」
長門「……他のメンバーを連れて来るそうですわ」
キョン「あ、そうですか」
…………会話が持たねえええええ!!
無理無理無理無理!なんでそんなに無表情なの!
なんでさりげなく距離とるの!?
コンコン。
長門「……どうぞ」
ハルヒ「連れて来ましたわ!」
涼宮が連れて来た人はあまりにも普通過ぎる人だった。
みくる「こ、ここどこですか? 私なんで連れて来られたんですかぁ?」
え? 何涼宮さん、何の説明も無しに連れて来たんですか?
いくらなんでもお嬢様過ぎますよ?
んで、そのお嬢様と言えば、マイペースに部室の鍵をかけている。
みくる「な、なんで鍵をかけるんですかぁぁ」
ハルヒ「え? 扉には鍵をかけますでしょう?」
流石お嬢様。
キョン「あの、涼宮さん? 何故この方を?」
見ればなんか普通っぽいが、二年生っぽいし。
胸が普通に大きいし。
身長は普通に小さい方だし。
しかも、この人はフリルも付いていない、普通の制服を普通に着ているし。
つまりはお嬢様らしくない、普通の一般人っぽいのだ。
ハルヒ「え……? ……なんとなくですわ」
キョン「へ?」
みくる「ふぇぇ、私、なんとなくで連れて来られちゃったんですかぁぁ」
ハルヒ「ええ。まあこれも何かのご縁ですし、わたくし達の部活にお入りなさいな」
なんという強引な。
この方は間違いなくお嬢様。
みくる「あ……でも、私書道部に入ってて……」
ハルヒ「あら、そう? まあいいじゃありませんか」
いや、強引過ぎるだろう。そんなやり方で入る訳が……。
みくる「あの、あちらの方もこの部活に入ってるんですか?」
そう言って長門さんの方を見る普通の人。
ハルヒ「ええ、そうですわよ」
みくる「……そうなんだ……」
なんだなんだ? なんかいきなり雲行きが怪しくなってきたぞ?
みくる「あの、私もこの部活に入ります!」
へ?
キョン「あの、書道部の方はどうするんですか?」
みくる「あ……」
ハルヒ「別に掛け持ちでも構いませんわよ?」
みくる「あ、ならそれで!」
なんてこった。こんな無茶なやり方で部員をゲットしやがった。
これがお嬢様パワーか……。
みくる「私、朝比奈みくると言います。よろしくお願いします!」
ハルヒ「ええ、こちらこそよろしく」
長門「……よろしく」
谷口「おい、キョン!」
キョン「なんだよ」
谷口「お、おおおおお、お前」
国木田「涼宮様と部活やってるって本当?」
キョン「ん? ああ、本当だが」
谷口「しかも、お前、あの長門様も一緒だと!?」
キョン「長門様って……ああ、本当だが」
谷口「なんでお前ばっかりお嬢様方と……」
国木田「キョンはちょっと一般人からかけ離れた女が好きだからねえ」
キョン「だから佐々木は普通だって」
国木田「またまた」
ハルヒ「みなさん、ごきげんよう」
谷口「す、すすすす、涼宮様!」
国木田「(谷口キメェ)涼宮様、おはようございます」
キョン「(谷口キメェな)涼宮さんおはよう」
ハルヒ「あ、キョンさん、今日も部活にいらっしゃいますわよね?」
キョン「ええ、まあ部員ですし」
ハルヒ「それもそうですわね」
谷口「キョンめ……キイイィィー!」
国木田(ハンケチ噛み締めるとかキメェ)
そんなこんなで部活の時間。
ハルヒ「さ、部室へ参りましょうか」
キョン「そうですね」
ハルヒ「あら? 手を取ってエスコートして下さらないのかしら?」
キョン「え!?」
ハルヒ「くすくす、冗談ですわ」
谷口「キョンの野郎!」
国木田(なんで僕こいつの友達やってるんだろ)
部室に着くとそこにはメイドさんがいた。
ハルヒ「ごきげんよう」
長門「……ごきげんよう」
みくる「あ、涼宮様!」
あの、なんでメイドの格好してるんすか、朝比奈さん。
んでなんで部室が模様替えされてるんすか。
なんすかこのいかにもな貴族趣味は。壁に掛かってる鹿の頭とか違和感無さ過ぎだろう。
みくる「えへ、ちょっと徹夜でがんばっちゃいました」
ハルヒ「なかなか素敵ですわ」
いいのか、これ。
もうなんか長門さんなんか、紅茶飲みながら読書とかハマりすぎだろ。
……ん、紅茶?
ハルヒ「あら、美味しい」
みくる「あ、ありがとうございます!」
キョン「なんで紅茶があるんですか?」
ハルヒ「みくるさんが煎れて下さったんですわ」
みくる「キョンさんも飲みます?」
キョン「あ、お願いします」
つまり、いかにも普通の人っぽかった朝比奈さんも普通じゃ無かったってことか。
…………メイドだもんなあ。
長門「……おかわり」
みくる「はい、ただいま」
谷口「なあ、キョン」
キョン「なんだよ」
国木田「なんか噂に聞いたんだけど、メイドさんもいるんだって?」
キョン「ああ」
谷口「なんでお前ばっかりお嬢様方と仲がいいんだよ……」
キョン(泣くなよ……)
朝倉「あ、それ私も気になるな」
キョン「朝倉」
朝倉「おはよ」
キョン「おう、おはよう」
朝倉「それで、どうして?」
キョン「さあな、よく分からん」
朝倉「ごまかさないで教えてよー」
キョン「だから知らんって」
谷口「キョンの野郎、今度は朝倉かぁぁぁ!」
国木田(号泣すんなよ)
ハルヒ「ごきげんよう」
朝倉「あ、涼宮様、おはようございます」
キョン「おはよう」
ん? なんか今日は機嫌悪そうだな。なんかあったのか?
朝倉「そろそろ授業始まるから行くわね」
キョン「ん、おう」
ハルヒ「………………」
何故かその日は放課後まで涼宮と話す事は無かった。
まあこんな日もあるかもしれんが、一体何があったんだろうな。
ハルヒ「部員の勧誘でもしましょうか」
みくる「勧誘、ですか?」
部室で紅茶を飲んでいると、いきなり涼宮がこんな事を言い出した。
一体なんで? 今までそんな事をするそぶりさえなかったのに。
まさか今日一日の無言はこれを考えていたから?
ハルヒ「すっかり忘れていましたけど、あと一人部員がいなければ廃部になってしまいますわ」
長門「…………あら」
みくる「まあ」
ハルヒ「それで……どうしましょう?」
長門「……入りたい方が来るのを待つのがよろしいかと」
だから廃部寸前なんだと思います。
ハルヒ「それもいいですわね」
あんたも何を言ってんだ。
みくる「あの……」
お、なんだ? まさか突っ込むのか?
ハルヒ「何かしら?」
みくる「紅茶のおかわりはよろしいですか?」
ハルヒ「いただくわ」
長門「わたくしも」
みくる「はい!」
うん、分かってた。
だってティーポット持ってるもんね。
そりゃ紅茶も暖かいうちに飲んで欲しいよね。
でも、でも……!
キョン「あの……勧誘はどうするんですか?」
ハルヒ「……まあ、明日にしましょうか」
なんたるマイペース。流石お嬢様。
長門「…………」
ぱたん、と長門が本を閉じ、今日の活動が終了した。
いつもながら一体なにをしてるんだか分からない部活だな、我ながら。
ハルヒ「それでは皆さんごきげんよう」
長門「ごきげんよう」
みくる「私、掃除してから帰りますので、先にどうぞ」
キョン「あ、でも……」
みくる「これもメイドの仕事ですから」
あんた、いい笑顔で言ってますけどメイドじゃありませんよ? 学生ですよ?
まあでも本人もこう言っている訳で、俺は帰ろうと……。
………………忘れてた。
今朝、下駄箱に手紙が入っていたんだった。
『放課後誰もいなくなったら教室に来て』
なんかこの文面だけ見たらラブレターみたいだな。
まあ俺に対してんなことするような物好きもいないだろう。
谷口辺りのイタズラか?
そんな結論に至り、手紙の事を忘れてしまっていたのだ。
……もう下校時間だが……イタズラにしろ、もしまだいるなら谷口がかわいそうだな。
気が進まないが……行くとしようか。
教室の扉を開けると、そこには予想もしていなかった人物がいた。
…………谷口はいないな。イタズラじゃないのか?
俺を呼び出したと思われる人物は、席に座り俯いている。
机には水滴が落ちていて、なんだか肩を上下させて……まあ、なんだ。
つまり、泣いているらしい。
キョン「……どうしたんだ?」
俺が教室に入って来たことにも気付かなかったらしい。
驚いた表情で振り向いたそいつは、慌てて涙を拭い、俺を睨みつけてきた。
朝倉「よくもどうした、なんて言えるわね」
キョン「お、おい……」
朝倉「あなたに私の気持ちが分かる? 一人っきりで教室に残る私の気持ちが?」
朝倉「そりゃ誰もいなくなったら、って条件にしたのは私よ? でもね、まさかこんな時間になるなんて思わないじゃない?」
朝倉「もう来ないのかな、とか、嫌われてるのかな、とか」
朝倉「周りはどんどん薄暗くなってくるし……」
そこまで言って、そいつはまた俯いてしまった。
悪い事をしちまったな。
キョン「……すまん」
朝倉「…………」
まあ、そうだよな。なんの用で呼び出したかは知らないが、こんな教室で一人きりなんてキツいよな。
……俺も隠された靴を探して学校中走り回った時とかツラかったもんなあ……。
朝倉「まあいいわ」
朝倉「色々聞きたい事もあったけど……頭にきたし……」
顔を上げた朝倉の手には、女の子の手には似合わない程巨大なナイフが握られていた。
あの、朝倉さん、なぜそんな物騒なものをとりだすのですか?
包丁にしては凶悪過ぎる外見ですし、切るべき食材もありませんよ?
朝倉「あなたを殺して涼宮ハルヒの出方を見る」
そっちかー。
なぜここで涼宮の名前が出てくるか分からんが……とにかく命の危険が危なくてデンジャーって事には違いない。
ああもう、女泣かせて刺されるとか、俺どんな女たらしだっつーんだ。
むしろ俺が何をした!
キョン「意味が分からないし笑えない。とりあえずその物騒なもんをしまってくれ」
朝倉「うん、それ無理」
うっわ、いい笑顔。
こんな状況じゃなけりゃマジ惚れそう。
朝倉「死ねええええええ!!!」
誰かボスケテー!
朝倉のナイフが今まさに俺に達しようとしたその時。
どこからともなくクラシックなミュージックが流れてきた。
朝倉「これは!?」
キョン「うおおーい!」
朝倉が気を取られている内に必死に間合いを取る。
ナイフを奪えだと?んな事出来る訳無いだろうが!
いいから見てみろ! あんな凶悪なトゲトゲが付いたナイフ、触っただけで刺さりそうだろうが!
あれだぞ!? 痛いんだぞ!?
切れたり刺さったりしたら泣いちゃうんだぞ!?
一先ず安全を確保した俺は、先ほどのBGMの出どころを探る。
一体どこから……。
未だにBGMはなり続いており、それは教室の出入り口から流れて来ていた。
どうでもいいが、録音には聞こえないのだが……。
朝倉「そんな……私が情報封鎖しているこの空間に……」
朝倉はおかしな事を呟いているが気にしないことにして、教室の出入り口を見た。
そこには、なんと長門さんが紅茶を飲みながら優雅に佇んでいた。
長門「一つ一つの情報封鎖が甘い」
長門「さらに、情報封鎖に対するこだわりもない。ただ情報を操作すれば良いという考え」
長門「美しくない」
長門「だから私に気付かれる。侵入を許す」
朝倉「あなたは……!」
朝倉「あなたはいつもそう! あなただけが特別!」
朝倉は長門の言葉を聞くと髪を振り乱して叫ぶ。
まあ、美しくないとまで言われれば当たり前か。
朝倉「同じインターフェースなのに、私の家はアパート、あなたの家はマンションの最上階のフロア全部!」
朝倉「私のお小遣いは五千円、あなたは二十万!」
朝倉「私の好物はおでん、あなたはカレー!」
朝倉「だから、だから私は! キョン君を殺して涼宮ハルヒに影響を与え!」
朝倉「その功績で、せめて布団からベッドに替えてもらうのよ!」
朝倉がナイフを構え、長門さんへと突き進む。
危ない、長門さん!
しかし、さっきから気になっていたが、何故教室がおかしな空間になっているのだろう。
まあ先程から鳴り響くBGMの方が不思議だからどうでもいいが。
一体どうなっているんだ……。
長門「まったく、そのようなナイフなど……」
朝倉「きゃ!?」
長門「お嬢様の前には無力と知りなさい」
な……。長門さんは向かってくる朝倉に対し、後ろ回し蹴りでナイフを叩き落とした。すげえぜお嬢様。
しかし、後ろ回し蹴りの時にスカートの中が…………純白とは、流石お嬢様。
朝倉「く……この!」
な、朝倉の腕が槍みたいに!? あれは痛そうだ!
長門「この期に及んで……まったく、美しくないですわ」
朝倉「このぉぉぉ!!」
長門さんがぱちん、と指を鳴らすと、朝倉の体が光の粒子になって消えていく。
……なんだか分からないが、とても綺麗だ。
朝倉「……この教室に入る前から、崩壊因子を仕込んでいたのね?」
長門「……ええ」
朝倉「ふふ……まったく、お嬢様には適わないわね。……キョン君!」
キョン「は、はい!」
朝倉「涼宮様とお幸せにね」
……だから、その笑顔は反則だと言っている。
長門「あなたはとても優秀でしたわ。だから……」
長門「だから、もし次があれば、その時はお嬢様に……」
朝倉「……ありがとう、長門さん。またね」
朝倉は笑顔で消えていった。彼女もまた、お嬢様に憧れた一人だったのだ。
キョン「あの、長門さん……これは一体……」
長門「彼女は、情報統合思念体に作られた対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェース。私のバックアップ、だった」
なんだ、そりゃ。
つまり、朝倉も長門さんも、人間じゃ……ない?
長門「そう。ただ、私は朝倉涼子とは少し違う」
キョン「へ?」
長門「私は、情報統合思念体によって作られた、対有機生命体コンタクト用お嬢様インターフェース」
違いがよく分かりません。
まあ、つまりは貴族と一般人みたいな違いか? どうでもいいが。
命の危険も去り、俺は教室を出ようとした。
……ああ、そう言えば分け分からないが空間にされてましたね。
出口ドコー?
長門「今空間を復元しますわ」
また指を鳴らす長門さん。
お嬢様って凄い、俺はこの時初めてそう思った。
キョン「さ、帰りますか」
長門「……エスコートして下さらないのかしら?」
な、長門さん?
長門「冗談ですわ」
お嬢様の冗談は分かりにくいぜ……。
谷口「wawawa忘れ物~、……ごゆっくりなさって下さい、お嬢様」
谷口……なんなんだ、その無駄な美声は。
あの後、俺は誘われるままホイホイ長門さんのお宅にお邪魔した。
そこでさらに詳しい話を聞く事になったのだが……。
正直言って難しすぎて分からなかった。
まあなんとか理解したことは、
・涼宮は願い事が叶う神様みたいな存在
・長門さんは宇宙人
・カレーは美味しい
って事くらいだ。
とりあえず今日はもうゆっくり眠ろう。
谷口「キョン、お前昨日の放課後……」
キョン「お、谷口、昨日の歌、長門さんが誉めてたぞ」
谷口「マジかよ!? やったぜ! ららら~!」
国木田(いい声だ……)
ハルヒ「ごきげんよう。キョンさん、聞きましたか?」
キョン「おはよう、涼宮さん。なんの事ですか?」
なんだか今日は機嫌がいいみたいだな。
本当に昨日はなんだったんだか。
ハルヒ「他のクラスですが、転校生が来るんですってよ」
キョン「今の時期に転校生、ですか?」
ハルヒ「ええ、不思議ですわよね!」
んで放課後。
涼宮は転校生を見てくる、とか言って行っちまった。
そんなに転校生が気になるかねえ。
みくる「お茶がはいりましたよ」
キョン「ありがとうございます」
長門「…………」
紅茶をすすりながらのんびりしていると、ドアがノックされた。
朝比奈さんが急いでドアを開けに行く。
長門「……どうぞ」
ハルヒ「みなさん、ごきげんよう」
長門「ごきげんよう」
みくる「涼宮さん……後ろの方は?」
ハルヒ「ええ、この方は、転校生の古泉一樹さんですわ」
古泉「どうも初めまして、古泉と申します」
ハルヒ「部活の話をしたら、彼も是非入りたいと仰って」
古泉「よろしくお願いします」
キョン「ちょっと待った。なあ、古泉君、君はこの部活がなんだか分かっているのか?」
俺でさえ何の部活だか知らないのに。
そんな事は口には出せなかったが。
古泉「ええ、もちろん」
ハルヒ「この部活は」
ハルヒ「宇宙人未来人超能力者など、不思議なものを見つけ、一緒に遊ぶ部活ですわ! ついでに文学部」
なんだそりゃ。
世間知らずなお嬢様だとは思っていたがここまでとは……。
ほら、みんなも呆れて……
長門「素敵」
みくる「最高です!」
……ああ、そうだった。ここのみなさん、普通じゃないんだった。
みくる「そうですね、素敵な お嬢様達と 過ごす 団」
みくる「SOS団、なんてどうですか?」
……みんな、笑っていいぞ。
ハルヒ「あら、いいですわね」
長門「……そうですわね」
笑った奴出て来い。殴ってやる。
しかし、宇宙人未来人超能力者ねえ。そのうち宇宙人はもうここにいるしなあ。
流石お嬢様だぜ。
そんなこんながあって一カ月くらいたった。
この間に、朝比奈さんは未来人、古泉は超能力者だとか聞いた。
実際、んな事聞いても信じられる訳がない。
俺は適当に話を合わせる程度だった。
未来人とか超能力者とか……これがお嬢様が言うなら信じられるが、メイドと一般人だもんなあ。
あ、古泉はバイトしてる一般人だそうだ。
好物は牛丼でご馳走と言えばすき焼き。うむ、まさに一般人。
いくら今いる場所が閉鎖空間で、目の前で巨人が暴れていようが、一般人の言う不思議な事など信じられるか。
これがお嬢様に説明されるなら話は別だがな!
キョン「うん……」
俺は違和感を感じて目を覚ました。
なんだ、背中が固い。俺はベッドで寝てたはずなんだが。
ハルヒ「あら、ごきげんよう。よく眠れまして?」
キョン「あ、おはようございます、涼宮さん」
寝ぼけ眼で当たりを見渡す。
なんで涼宮がいるんだ?
そしてここはどこだ?
ハルヒ「学校、ですわ」
ハルヒ「わたくしも何故ここにいるのか、心当たりが無いのですが……キョンさんはどうなのですか?」
キョン「いえ、ちょっと分からないですね」
ハルヒ「そうですか……」
一応、そんな返事をするが、俺はここを知っている。
閉鎖空間。
昨日、古泉と行った場所だ。
お嬢様と来たとあっては信じざるを得ないようだな。
ハルヒ「とりあえず部室へ行きましょうか」
キョン「ええ……しかし、こんな状況でよく落ち着いていられますね」
ハルヒ「淑女たるもの、醜く取り乱すなどあってはならないのですわ」
そう言って微笑む涼宮。
だがな。
膝が震えているのを俺は見逃さなかった。
そうだよな。怖いに決まってるよな。
キョン「申し訳在りませんでした。さ、お嬢様お手をどうぞ」
ハルヒ「あら、あなたがエスコートして下さるのかしら?」
キョン「お嫌でなければ」
部室へ着いたが、あまり事態は変わらなかった。
むしろ、ここに来るまで、人気のない校舎を歩かなければならず、不気味なものだった。
ハルヒ「とりあえず、紅茶でも飲みましょうか」
キョン「ええ、でも僕は紅茶を煎れられませんし……ここには朝比奈さんもいませんよ?」
ハルヒ「ふふ、安心なさって」
キョン「え?」
ハルヒ「わたくし、こうみえても紅茶を煎れるの得意なんですのよ。朝比奈さんほどではありませんが」
そう言うと涼宮は水を汲みに行ってしまった。
この状況で、流石お嬢様だ。
椅子に座って涼宮が戻って来るのを待とうとすると、窓の外に赤い玉が飛んできた。
古泉「かくかくしかじかの」
キョン「まるまるうまうま、って訳か」
古泉「おや、もう時間のようです」
古泉「朝比奈みくると長門有希お嬢様から伝言があります」
古泉「朝比奈みくるからは、すいません、私のせいです、と。長門様からは、パソコンの電源を入れるように、との事です」
キョン「そうか。ご苦労様、古泉」
古泉「いえいえ。それじゃあ僕はこれで。世界を頼みます。来週のヤンジャンが楽しみですので」
キョン「俺もだ」
古泉の伝言のとおりに、俺はパソコンの電源を入れる。
いつものようにOSが立ち上がる事なく、何故か黒いままの画面だ。
壊れたか?
yuki.n>見えてる?
長門さん? まさかパソコンを使って連絡が取れるなんて。
俺は人差し指を使い、恐る恐るキーボードをタイプしていく。
み・え・て・い・ま・す
っと。しかし、えらく時間がかかるな。
長門さんもそう思ったらしく、俺に返事しなくていいと言ってきた。
相変わらず長門さんの言うことは難しかったが、ようはこういう事らしい。
・長門さんの力でもどうにもならない
・白雪姫、すりーぴんぐびゅーてぃー
・カレーは美味しい
そしてパソコンの画面は消えた。
長門さん……ありがとう。俺、頑張るよ!
んで。
部室に戻ってきた涼宮の紅茶を飲み、窓の外を見ると青い巨人が暴れていた。
そういやいたな、あんなの。
ハルヒ「どうしましょう、キョンさん」
怯えるハルヒの肩を掴み、俺は目を見つめる。
まったく、進化の可能性だったり時空の揺らぎだったり神様だったり。
大変だな、お前も。
それでも。
それでも、俺にとっちゃ、こいつはただの世間離れしたお嬢様でしかなくて。
キョン「ハルヒさん」
ハルヒ「キョンさん……? わたくしの名前を……?」
キョン「紅茶、とても美味しかったです。朝比奈さんのより、ずっと」
キョン「元の世界に帰りましょう。長門さんや古泉にも紅茶を飲ませてあげましょう。朝比奈さんに煎れかたを教えるのもいい」
ハルヒ「何を言って……」
俺はハルヒの唇を塞ぐ。
白雪姫、すりーぴんぐびゅーてぃー。
つまりはこういう事なんだろう? 長門さん。
次の瞬間、俺は自分の部屋のベッドで目を覚ました。
……お嬢様と一緒に怪物から逃げて、お嬢様にキスをするだって? フロイト先生も爆笑だっぜ!
その日、俺は一晩中悶えてしまい、寝ることが出来なかった。
谷口「大丈夫か? キョン。顔色悪いぜ?」
キョン「ああ、朝っぱらからお前のツラ見たからだよ」
谷口「なんだとー!」
だからなんで無駄に美声なんだよ。
教室に着くと俺は珍しいものを見た。
ハルヒが既に教室に来ていたのだ。
一体どうしたんだ? いつもなら時間ギリギリの登校なのに。
キョン「おはよう、ハルヒさん」
ハルヒ「ごきげんよう、キョンさん」
キョン「今日はどうしたんですか? こんなに早い時間に来るなんて珍しいですね」
ハルヒ「今日はいい夢を見たものですから。……そうですわ。わたくし、紅茶を煎れてきましたの。お飲みになります?」
ハルヒはそう言うと水筒を取り出す。
朝から教室で紅茶、ねえ。流石はお嬢様。
キョン「ええ、勿論」
終わり
みくる「あの……今回私何もしてないんでしゅけど」
古泉「僕も似たようなものですよ」
みくる「いや、古泉君は後半出てたじゃないでしゅか」
みくる「私なんて後半空気どころかヘリウムみたいな存在でしゅよ」
みくる「てかなんでしゅか、お茶の腕しゃえしゅじゅみやしゃんに負けるとか、いいとこ一つもないじゃないでしゅか!」
みくる「なんなんでしゅか、この扱いは!」
古泉「いや、僕に言われましても」
みくる「いいから早くビール持ってこいでしゅ!」
古泉「はい! ただいま!」
今度こそ終わり