関連
固法「あなたが……《未元物質》……?」【パート1】
固法「あなたが……《未元物質》……?」【パート2】
固法「あなたが……《未元物質》……?」【パート3】
527 : ツンギレ彼氏 ◆r4vICyDKLo - 2011/06/26 03:25:12.19 QCFCHYWO0 371/694レスありがとうございます。1です。
前回の更新で
「素直にラブコメ書いてりゃよかったのに…」とか思った人、
正 解 。
というわけで今回はラブコメ番外編。
前回の更新など無かったかのようなギャグ回です。
では投下します
番外 とある一夜の柳迫通行(アオミラレータ)
柳迫「うわーどうしよう……カラオケでお金使っちゃったからホテルにも泊まれない……」
一方「オイ三下ァ、オマエ例のミュータント教師紹介してやればァ?」
上条「人の担任の先生を人外扱いすんな!!」
柳迫「担任の先生?」
上条「ああ、俺の担任の先生っていうのが生徒の世話を焼くのが趣味、みたいな人で、
行くところのない学生を保護したりしてるんです。一晩くらいなら泊めてくれるかも………あ」
一方「どしたァ?」
上条「………今日は駄目だ」
柳迫「え!?どうして?」
一方「………あのシスターか」
上条「ああ、インデックスがいる。それに結標もいるのに
『宿なしの女のひとを保護したので泊めてあげてください』なんて言ったら……」ブルブル
一方「ならオマエの部屋でイイじゃねェか」
上条「インデックスがいきなり帰ってこない保証がどこにある」
一方「なるほどねェ………」
柳迫「……ねえ、いんでっくすって、誰?」
一方「……コイツン家の居候だァ」
柳迫「何それ!?同棲ってコト?」
一方「まァあンまり突っ込ンでやるなァ」
柳迫「そ、そう………」
上条「いやだ………もうすけすけみるみるはコリゴリだ………」ガタガタ
柳迫「何かスイッチ入っちゃったけど」
一方「とりあえずコイツはアテにならねェよォだ」
柳迫「うう、ダメか……しょうがないからネカフェかなぁ。ちょっと持ち合わせ厳しいんだけど」トホホ
一方「…………しょォがねェ。ちょっと待ってろォ」ピッポッパッprrrr
柳迫「へ?」
一方「………おォ、オレだ。……あァ………でよォ……」
柳迫(誰と話してるんだろう………)
一方「………じゃ、そンな感じでェ」ピッ
柳迫「どこに掛けてたの?」
一方「おォ、オマエ今晩ウチに来い」
柳迫「ふえええ!?」
上条「はぁ!?」
一方「ウチの家主も教師でよォ。生徒が一人路頭に迷ってるっつったらアッサリOKだったぜェ」
上条「黄泉川先生ェ………」
柳迫「上条くんも知ってるの?」
上条「……ウチの学校の教師です」
一方「マンションのクセにやったらデケェ家だから一晩ぐれェどォってこたァねェよ」
柳迫「いや、でも今日会ったばっかりの男の人の家に泊まるっていうのは、ちょっと……」
一方「ンなこと言ってる場合かァ?行くアテねェンだろォ?」
柳迫「うっ!」ギクッ
一方「ワケあって一晩締め出しくらったとしか言ってねェから言い訳はテメェで考えろよ」
柳迫「………」
一方「返事ィ!」
柳迫「は、はいぃ!お世話になります!!」ペコリ
一方「チッ、最初からそう言やァイインだよ。オラ、行くぞ」ツカツカ
柳迫「う、うん……あ、上条くん!またね!」タタタタ…
上条「相変わらず強引だな、一方通行………」
上条「………俺も帰ろう」
--------------------------------------------------------------------------------------
18:55 第7学区 黄泉川のマンション
一方「帰ったぞォ」
柳迫「おじゃましまーす………」
トテテテテテテ
打止「おっそーい!どこ行ってたの!?ってミサカはミサカは空中ミサカチョップを……」ッピョーン
一方「ウゼェ」ヒョイ
打止「あ、ちょ、避けちゃダメ…きゃあ!」
柳迫「きゃっ」ボスッ
打止「ご、ゴメンナサイ!ってミサカはミサカは謝意を表明したり……?アレ?」
一方「黄泉川から話は聞いてンだろォ。ソイツを今晩泊めることになった」
打止「あ、ウン!聞いてるよ!初めましてお姉さん!打ち止めです、ってミサカはミサカは子どもらしさをアピールして
さっきの粗相をなかったことにしてみたり!」
柳迫「これはこれはご丁寧に。初めまして、柳迫碧美です。今夜一晩お世話になります。よろしくね、打ち止めちゃん」ニコッ
打止「よろしく、碧美お姉ちゃん!ってミサカはミサカは親愛の情をハグで表現してみたり!」ギュッ
柳迫「うわー何この子超かわいい!頭なでていい?」ナデコナデコ
打止「うにゃー、もうなでてるよお姉ちゃん、ってミサカはミサカはモジモジしてみる」
柳迫「なっはっは、ごめんごめん。でもホントにお邪魔しちゃっていいのかなあ?」
打止「全然大丈夫だよ!どうせあの人が半分無理やり連れて来たんでしょ?
ってミサカはミサカは見透かしたようなことを言ってみたり!」
柳迫「ははは…………」
打止「強引な人でごめんね。でも悪い人じゃないから、ってミサカはミサカはわざとらしいフォローを入れてみる!」
一方「くだらねェこと言ってねェで黄泉川呼ンで来い」
打止「はぁーい」トテテテテ…
柳迫「…兄妹ってワケじゃないよね。全然似てないし」
一方「……オレと同じ居候だァ。それ以上突っ込むな」
柳迫「わかった……」
黄泉川「おかえり、一方通行。夜遊びついでに女連れて帰るなんていい度胸じゃん」
一方「うるせェ、そンなンじゃねェよ。行くトコねェって言うから連れてきただけだ。
大体夜遊びって何だよ。まだ7時前だろォが」
黄泉川「冗談じゃんよ。んで、その子がそうじゃん?」
柳迫「は、ハイ!柳迫碧美です!」
柳迫(え、何あの胸!?美偉より大きい!!)
黄泉川「……いち教師としては、女子生徒の外泊はあんまり褒められたことではないじゃん」
柳迫「う、すみません………」
黄泉川「…って建前上お説教してないとマズいじゃんか?」
柳迫「へ?」
黄泉川「あんまり堅っ苦しいことは言ってもしょうがないじゃんよ?
学生生活なんてあっという間なんだから満喫しないと損じゃんか」
柳迫「はぁ……」
黄泉川「という訳で今夜はここをウチだと思ってゆっくりするじゃん」パタパタ
柳迫「……言い訳どころか理由すら訊かれなかったんだけど」
一方「見た目通り適当な教師だからなァ。とりあえず上がれェ」
柳迫「う、うん。じゃあ、改めてお邪魔します」ヨイショ
一方「ン」
芳川「おかえりなさい。遅かったわね」
一方「おォ」
番外「どこで何してたのぉ?ベッドの上で運動会?」ギャハハ
一方「死ね」
柳迫(何だか影と幸の薄そうな女の人と、大きい打ち止めちゃん?)
黄泉川「碧美ぃー。よかったら夕飯の支度手伝ってほしいじゃん」
柳迫「あ、はい!」トタタタ
芳川「ふふ、あなたも隅に置けないわね、一方通行」
打止「ね!ヒーローさんの影響かな?ってミサカはミサカは勘ぐってみたり!」
一方「ケッ、そンなンじゃねぇよ。メルヘンの尻拭いみてェなモンだ」
番外「えっ!?あなた第2位とそんな関係だったの!!?☆」
一方「尻の一文字だけに反応するンじゃねェよクソビッチが」
芳川「………でも、本当に珍しいわね」
一方「あァン?」
芳川「あなたが『あの顔』以外の女の子に優しくするなんて。どういう心境の変化?」
一方「………別に。困ってたから助けたンだよ。文句あるか」
芳川「……もうその言い訳が既にあなたらしくないってわかってる?」クスクス
一方「そう思うンならそれはテメェの認識不足だ。今までもこれからもオレはオレだ」
番外「出たー!厨ニ発言!!カッコイーッ!!惚れちゃいそーだぜ一方通行ァ!!」ニヤニヤ
一方「オイ打ち止め、裁縫道具持ってこい。この女の目と口と鼻と耳を縫合してやる」
打止「何だか絃の花月みたいだね!ってミサカはミサカは今時十中八九伝わらない喩えを持ちだしてみたり!」
芳川「………研究所にゲッ○バッ○ーズなんて置いてたかしら?」
打止「病院で読んだの!」
一方「っていうかオマエらも手伝えよ。ナニ客こき使ってテメエらだけ寛いでンだよ」
打止「はぁーい!」トテテテテ
一方「………イヤ、オマエらも行けよ。っつーかオマエらに向かって言ったつもりなンだけどォ」
芳川「昼間買出しに行って疲れちゃった」
一方「仕事探せよ」
番外「なぁーんか体がダルくてぇー。一歩も動けなーい」
一方「黄泉川ァー!コイツら晩飯塩水だけでイイってよォー!」
リョーカイジャーン
番外 桔梗「「ちょっ!!」」
--------------------------------------------------------------------------------------
19:21 ダイニングキッチン
黄泉川「今日のおかずはブリ大根じゃん」
一方「肉ゥ」
芳川「魚だって立派な動物性タンパク質よ。日本酒がほしくなるわね」
黄泉川「働かずに飲む酒は大層美味そうじゃんか、桔梗?」
芳川「」
打止「この大根ね、ミサカが皮むいたんだよ!!」ミテミテ
柳迫「…………」
一方「どしたァ」
柳迫「……どうやったら炊飯器でブリ大根が作れるの?」
一方「オマエ手伝ってたンじゃねェのか?」
柳迫「自分の目で見ても信じられないものくらいあるわ」
一方「確かに………いくらなんでもジェラートはないよなァ…」
柳迫「ジェラート?」
一方「いや、コッチの話だァ」
黄泉川「さぁ、早速食べるじゃんよ。手を合わせるじゃん」
『いただきます』
柳迫「じゃあ打ち止めちゃんとワーストさんは御坂さんのはとこなんだね」
打止「そうだよ!碧美お姉ちゃんは固法お姉ちゃんのお友達なんだよね?」モグモグ
柳迫「そうよ。美偉と一緒に住んでるの」
打止「知ってる!『るーむしぇあ』って言うんだよね!ってミサカはミサカは最近仕入れた知識を披露してみたり!」モグモグ
柳迫「うーん、ウチは寮だからちょっと違うかなー。どっちかっていうと相部屋かな?」
一方「クチにモノ入れたまましゃべンじゃねェ」モグモグ
打止「はぁーい」モグモグ
柳迫(……お父さんみたい)
番外「何ソレ?父親気どり?気色悪っ」ガツガツ
一方「あァ?」ギロッ
黄泉川「はいはい、食卓でケンカはナシじゃん」
番外「はーい☆」
一方「チッ」
柳迫「仲がいいんだね」
番外「はぁ?冗談はやめてよね、ミサカはこんなモヤシと馴れ合うつもりなんてないし」
一方「それはこっちのセリフだァ」モグモグ
柳迫「ふぅ~ん?」ニヤニヤ
一方「なァにニヤニヤしてやがりますかァ?」
柳迫「べっつにー?」
打止(仲がいいのはどっちだろうね、ってミサカはミサカはヨミカワに耳打ちしてみる)ヒソヒソ
黄泉川(確かにじゃん)ヒソヒソ
--------------------------------------------------------------------------------------
19:45
『ごちそうさまでした』
黄泉川「さってと、片づけるじゃん」ヨイショ
柳迫「あっ、手伝います」ガタッ
黄泉川「ありがと。じゃあ食器をまとめてほしいじゃん」
打止「ミサカも手伝うー!」
芳川「気が利く子ね」ズズー
一方「イヤだから手伝えよ。ナニ当り前のように食後のコーヒーすすってンだよ」
芳川「……立ち上がったら負けかなって」
一方「それすらかよ。オマエホントに自立する気あンのかァ?」
黄泉川「手際いいじゃんか、碧美」ガチャコガチャコ
柳迫「本当ですか?ありがとうございます」ガチャガチャ
打止「うん!ヨシカワや番外個体より頼りになるかも、ってミサカはミサカはあえて辛らつな言葉を選んでみたり!」フキフキ
柳迫「そうかなー?じゃあ私もここに住もうかな?なーんちゃっ…」エヘヘ
打止「そうだ!碧美お姉ちゃんがあの人のお嫁さんになってウチに来ればいいんだよ!」
柳迫「!」ポロッ
ガシャーン!
柳迫「ご、ごめんなさい!」
黄泉川「いーじゃんいーじゃん気にしなくて。番外個体にやらせたら毎回1枚や2枚じゃ済まないじゃんよ」
一方「オイ、騒がしィぞ」
柳迫「今片づけ……いつっ…」
打止「お姉ちゃん、血が出てるよ!」アワアワ
一方「………チッ、世話の焼ける」スッ
柳迫「え?」
一方「」チュパ
柳迫「!!?」
打止「わお!」
黄泉川「見せつけてくれるじゃんか」
柳迫「ちょ、ちょっと!」
一方「」ヂウー
柳迫「ちょっと、ヤダ………」
一方「」ヂウー
柳迫「うう………」カァァァァ
一方「……ヨシ、止まった。打ち止めァ、救急箱ォ」
打止「もう準備してあるよ、ってミサカはミサカは光の速さで差し出してみたり!」ハイ
ペタペタ
一方「………ホレ、終わりだァ」
柳迫「あ、ありがと………」
一方「フン………オイ芳川ァ、オレの分もコーヒー淹れろォ…あァ!?メンドくせェって何だこのクソニートがァ!!」
--------------------------------------------------------------------------------------
20:11 リビング
~♪
黄泉川「風呂が沸いたみたいじゃんよ。ガキども、さっさと入るじゃん」
打止「はーい。碧美お姉ちゃん、一緒に入ろ?」ニパー
柳迫「うん、あっ………そういえば着替えが…」
一方「芳川ァ。テメェの貸してやれ」
柳迫「え、いや、そんな申し訳ないです!」
芳川「私は構わないわよ……それに…」チラッ
黄泉川「私の顔に何かついてるじゃん?」
バイーン
芳川「……愛穂のじゃ大きいでしょ?」ヒソヒソ
柳迫「………ハイ、スミマセン」シクシク
黄泉川「?」
一方「あと寝間着は……」
番外「ミサカは貸さないよ。ってか持ってないし」シレッ
一方「わァーってる。ハナから期待なンざしてねェ。……おい打ち止め、オレのジャージ出せ」
柳迫「え!?」
打止「はーい」
柳迫「いや、ホントに申し訳ないから…」
一方「まァ、このクソ寒いなか下着で寝てェってンなら止めねェけどォ?」
柳迫「あう……」
打止「お姉ちゃん、早く入ろ!」クイクイ
柳迫「あ、うん………」
芳川「ふふふっ、打ち止めもすっかり懐いちゃったわね」クスクス
一方「いいンじゃねェの?普段周りにニートと人格破綻者しかいねェンじゃ教育上よろしくねェからなァ」ズズー
番外「っていうかさぁ、アナタあの子に優しすぎるんじゃないの?ハッキリ言ってちょっとヒクよ?」ケラケラ
一方「うるせェ」
番外「………ひょっとしてホレちゃった、とか?」ククク
一方「だったら何だよ」ズズー
番外 桔梗「「!?」」ガタガタッ
一方「あンだよ?」
芳川「え、あ、いや………あまりに予想外の答えが返ってきたから…」
番外「は?何それ意味分かんないし。え?アナタそんなキャラだったっけ?」
一方「うるせェっつってンだろ。大体『だったら何だ』っつっただけでホレたとは言ってねェし」
芳川(ほぼ言ったようなものじゃない………)
番外「いいのかにゃー?上位個体泣いちゃうよ?」
一方「打ち止めはそンなンじゃねェよ。それはアイツも分かってる」
芳川「ふーん………?」
番外「何それ?もっと焦るかと思ったのにつまーんなーい」プイッ
一方「言ってろクソガキが」
--------------------------------------------------------------------------------------
20:15 バスルーム
カポーーーーーーーーーーーーーーーン
打止「ふいーーー生き返るぅー、ってミサカはミサカはオバサン臭い感想を吐露してみたり~」ゴクラク
柳迫「ふふふっ、誰のマネなの、それ?」
打止「ヨミカワとヨシカワだよ!ってミサカはミサカはバレたらブッ飛ばされそうな事実を暴露してみたり!」
柳迫「……それは本当に秘密にしておいた方がよかったね」
打止「うーん………」ジーッ
柳迫「なあに?そんなに見られたら恥ずかしいよー」チャプ
打止「えっとね、碧美お姉ちゃんってすっごくキレイだなって思ってたの!」
柳迫「どうしたの、急に?」クスッ
打止「固法お姉ちゃんも美人さんだったけど、お姉ちゃんはこう、スラッとしててほれぼれするな、
ってミサカはミサカは羨望のまなざしで見つめてみる」
柳迫「もぉー、そんなおだてたって何にも…」テレテレ
打止「つくづくあの人にはもったいないかな!ってミサカはミサカはようやく核心をついてみたり!」
柳迫「ぶっ!!!」バッシャア!
打止「ねぇねぇ、あの人のどこがいいの?顔?声?それともお姉ちゃんツンデレ萌えとか?」ネェネェ
柳迫「ちょっと、打ち止めちゃん、声が大きい……」
打止「どこで知り合ったの?もうチューした?ねぇねぇ教えてよー、ってミサカはミサカは……」
柳迫「……で、音楽の話で盛り上がって、ちょっとイイなー、なんて思ったりして…」
打止「なるほどー。で、さっきの指チュパでクラッときたってわけだね」
柳迫(結局洗いざらい吐かされた……幼女に凌辱された…主に精神面を)
打止「碧美お姉ちゃんって案外単純なんだね!ってミサカはミサカは突然毒を吐いてみたり!」
柳迫「ヒドイ!散々言わせておいて!」
打止「そのままだとお姉ちゃん絶対悪い男に引っかかるよ。気をつけておいた方がいいかも!
ってミサカはミサカはお昼のワイドショーの受け売りを偉そうに語ってみたり!」
柳迫「子どもになんてもの見せてるの芳川さん!!」
打止「………でもね」
柳迫「?」
打止「あの人は悪い人じゃないから安心していいよ、ってミサカはミサカは太鼓判を押してみる」
柳迫「………///」ブクブクブクブク
打止「それにお姉ちゃんだったらあの人を任せられるかなって思うから。
ホントは『お前なんぞに娘はやらん!』みたいなセリフが言ってみたかったんだけど、
ってミサカはミサカは小姑プレイを所望してみる!」バシャバシャ
柳迫「………あーく…あの人は、打ち止めちゃんにとっても大切な人なんじゃないの?」
打止「そうだよ。だからあの人とお姉ちゃんが一緒にいてくれたらミサカもうれしいかな!」
柳迫「さびしくない?」
打止「何で?大事な人が増えるってすごくうれしいことじゃない?」
柳迫「そういう……ものかな」
打止「きっとそうだよ!」ニコッ
柳迫「……打ち止めちゃんは大人だなぁ」
打止「でっしょー?あの人も番外個体もお子ちゃまだからさー、ミサカが大人にならないとねー、
ってミサカはミサカはドヤ顔で薄い胸を張ってみたり!」フンス
柳迫「ふふふっ………」
打止「っていうかお姉ちゃん」ザブ
柳迫「何?」
打止「多分あの人もお姉ちゃんのこと嫌いじゃないと思うよ、ってミサカはミサカは乙女の第六感を働かせてみたり!」
柳迫「え」
打止「だってあの人がいくら困ってるからって女の人連れてくるなんてありえないもん!
ましてや何とも思ってない人なんか絶対相手にしないよ。
そういう好き嫌いハッキリしてるから、ってミサカはミサカはあの子ピーマンダメなのよーみたいなノリで言ってみる!」
柳迫「へぇ……」
柳迫(誰にでもああなんだと思ったけど……冷静に考えたらそんなわけないよね)
柳迫(………///)ブクブク
打止「だからチャンスだよ!」グッ
柳迫「へ?チャンス?」
打止「だって気になる人と一晩とはいえ一つ屋根の下ですごすんだよ?チャンスと言わずに何というの!?」
柳迫「言われてみれば確かに………」ハッ
打止「だから今夜、決めちゃいなよ!ってミサカはミサカはヨシカワに教えてもらったハンドサインをキメてみたり!
ところでこれってどういう意味?」ビシッ
柳迫「子どもになんてこと教えてるのあの人!?」
--------------------------------------------------------------------------------------
20:49 リビング
打止「上がったよー」ホケホケ
柳迫「お先にお湯いただきましたー」パタパタ
一方「おォ」
芳川「随分長風呂だったわね。何だか話しこんでたみたいだけど」クスクス
打止「乙女の秘密だもんねー、お姉ちゃん♪ってミサカはミサカは無駄に意味深な返事をしてみたり!」ギュッ
柳迫「ね、ねー」ヒクヒク
一方「フーン……ンじゃ、オレも入りますかァ」ヨッコイショ
番外「えー次はミサカが入るー」ヤダヤダ
一方「オマエや芳川みてェに家でダラダラしてただけのヤツが2番風呂なンかもらえるとか思ってンじゃねェぞ!」
芳川「今の流れで私も罵倒されるのはおかしくないかしら?」
番外「そんなの上位個体だって一緒じゃーん!!ひいきだー、ひーいーきー!」ブーブー
一方「ウッゼェ………ン」チラッ
柳迫「?な、何……?」
一方「……別にィ。サイズは大丈夫かァ」
柳迫「え、ええ、おかげさまで。というか寧ろピッタリなのが色々悔しいんだけど」ショボーン
一方「あっそォ」テクテク
柳迫「……?」
芳川「ふふふっ……いいことを教えてあげるわ」チョイチョイ
柳迫「え?な、何ですか?」
芳川「湯上りの女の子にときめかない男子高校生はいないのよ」ビシッ
番外「まぁヨミカワとヨシカワはもう賞味期限切れ……」
ビュン ドスドスッ!
ビィーン……
黄泉川「あーゴメン、手が滑ったじゃんか。で、何の話じゃん?」
芳川「あらごめんなさい。護身用のメスしまうの忘れてたわ」
番外「」
打止「ヨミカワとヨシカワすごーい!ドクタージャッカルみたい!」
柳迫「そんなに好きなの?ゲ○トバ○カーズ……」
--------------------------------------------------------------------------------------
22:45 リビング
番外「」スコー
芳川「……もう飲めない……」スピー
黄泉川「じゃあそろそろ寝るじゃんよ」
打止「うん………もう眠いって…ミサカはミサカはまぶたをゴシゴシ……」ネムネム
黄泉川「じゃあ碧美の布団をだすからちょっと待つじゃん」
一方「メンドくせェからオレの部屋で打ち止めと寝ろォ。
オレは週明けまでに仕上げなきゃならねェ論文があるから適当にソファーで寝る。
黄泉川ァ、毛布だけ出しといてくれェ」
黄泉川「わかったじゃん」
柳迫「そんな、そこまでしてもらうワケには…」
打止「お姉ちゃあん……一緒に寝ようよぉ……」クイクイ
柳迫「クッ、良心が痛む!良心と良心の板挟みにあってる、何コレどういう状況?」
黄泉川「じゃあ悪いけど碧美、打ち止めを寝かしてやってほしいじゃんか?
一方通行もああ言ってるし」ネッ
柳迫「……はい、すみません」
一方「謝ってばっかりだなァオマエ」
柳迫「!……あ、ありがとう」
一方「ン」
--------------------------------------------------------------------------------------
23:52 リビング
一方「………」カタカタカタカタ
ガラッ
一方「ン?……なんだよオマエか」カタカタカタカタカタ
柳迫「ちょっと眠れなくて……邪魔しちゃった?」
一方「別にィ……打ち止めはもう寝たかァ?」カタカタカタカタ
柳迫「ええ、あれからすぐに」
一方「あっそォ………」カタカタカタカタ
柳迫「………眼鏡」
一方「はァ?」
柳迫「眼鏡するんだ」
一方「あァ、コレか。視力が悪いワケじゃねェンだが刺激に弱くてな。
パソコンイジる時だけ着けてンだよ」
柳迫「へぇ……」
柳迫(ちょっとときめいたかも………私、眼鏡属性ないのに)
一方「………」カタカタカタカタカタカタカタカタ
柳迫「………」ジー
一方「……………」カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ
柳迫「……………」ジー
一方「………………あァもォ!」ガタッ
柳迫「えっ!」ビクッ
一方「ちょっと待ってろォ!」ドスドス…
柳迫「……キッチン?」
ゴソゴソ ボッ コポコポ トクトクトク…
一方「……ほらよォ」コトッ
柳迫「…………ココア?」
一方「牛乳と粉だけで作ったからよく眠れンだろォ。それ飲んでさっさと寝ろォ」ズズーッ
柳迫「あ、ありがと………」
一方「べっつにィ…自分のコーヒー淹れるついでだァ」
柳迫「………おいし」コクン
一方「そりゃどォもォ………」カタカタカタカタカタカタカタカタ
柳迫「……それ、何書いてるの?論文って言ってたけど…」
一方「『11次元空間におけるベクトル変換に付随する影響の規模と波及する範囲』」キパッ
柳迫「」
一方「…まァわかんねェわな。オレ以外の人間にはコイツを理解することすらできないだろォぜ」
柳迫「誰も読めない論文を書いてるの?」
一方「この街にはそういうのをありがたがるバカが多いンだよ」カタカタカタカタカタ
柳迫「ふぅーん……」
一方「まァ、別にいいけどよォ。奨学金〈カネ〉にはなるし。オレのことなンざ必要なヤツが知ってればイイし」カタカタカタカタカタカタカタカタ
柳迫「………」コクン
一方「……………だが」ピタッ
柳迫「?」
一方「もしオレのことを理解できるヤツが増えるとしたらそれは………悪くねェかもな」カタカタカタカタカタ
柳迫「フフッ…」
一方「……何が可笑しい?」ギロッ
柳迫「ごめんごめん……打ち止めちゃんと同じこと言ってるから」
一方「へェ………?」
柳迫「『大切な人が増えるのはすごくうれしいことじゃない?』だって。
カワイイのに大人だね、あの子」ニコッ
一方「………確かに」カタカタカタカタカタカタカタカタ
柳迫「……………ごちそうさま」コトッ
一方「おゥ」カタカタカタカタカタ
柳迫「カップ片づけるね」ガタッ
一方「流しに浸けとくだけでイイ。後で自分の分とまとめてやる」カタカタカタカタ
柳迫「でも………」
一方「寝る前に体冷やすモンじゃねェ」カタカタカタカタ
柳迫「…………わかった。じゃあ……」
一方「…………」カタカタカタカタ
柳迫「………」ジッ
一方「……」カタカタカタカタカタ チラッ
柳迫「…………」シュン
一方「………ジャマしねェなら」カタカタカタ
柳迫「……えっ?」
一方「…………オレのジャマをしねェなら、もう少し居ろォ」カタカタカタカタカタカタカタカタ
柳迫「!……うん!」パァァ
一方(あ、ヤベェ、今のコイツちょっとかわいかったかもォ)
--------------------------------------------------------------------------------------
25:48
一方「………ま、こんなモンかァ」カタカタカタッ!
柳迫「ン………終わったの…?」
一方「一応なァ。後は体裁とフォーマット整えりゃ終わりだァ」ホゾンシテシュウリョウ!
柳迫「……おつかれさま」ニコッ
一方「ホント、つっかれたぜェ」セノビーーーッ
柳迫「……じゃあ、私もそろそろ寝るね」
一方「………オイ」
柳迫「ん?なぁに?」
一方「ちょっと耳貸せェ」チョイチョイ
柳迫「?」ナニナニ
チュッ
柳迫「!!!!????」バッ
一方「じゃ、オレは寝るぜェ。おやすみィ」ノソノソ
柳迫「ちょ、ちょっと待っていただけないでしょうか!?」アタフタ
一方「ンだよ、うるせェなァ…連中起きンだろォが」
柳迫「イヤ、そうやって冷静に返されると逆に焦るんだけど…え!?何?
今私、何されたの!?」ヒソヒソ
一方「はァ?キスに決まってんだろォ?」
柳迫「何でキスされたのかを訊いたつもりなんだけど!?」
一方「したかったから、じゃダメかァ?」
柳迫「いいわけないでしょ!?」
一方「あァもォまどろっこしィ……」ツカツカ
柳迫「え、ちょ、近…」
ギュッ
柳迫「!?!?!?」
一方「……コレで分かったかァ?」ボソッ
柳迫「///」コクコクコクコク!
一方「よろしィ。じゃあ今度こそおやすみィ…」
柳迫「待って待って最後に一つだけ!」
一方「なァンだよもォ。眠いンだけどォ!」プンプン
柳迫「その……何で私、なの?」
一方「何でって言われてもなァ……打ち止めが懐いてたから悪いヤツじゃなさそォだしィ?
話合うし面白ェし、あと表情がクルクル変わってぶっちゃけカワイイし。あとはァ……」
柳迫「わかった!もういい!おなか一杯っていうかコレ以上は嬉し死にするから!!///」
一方「そォ……あ、コレは言っといた方がイイのかァ?」
柳迫「ふえ?」
一方「…好きだから付き合ってくれねェ?」
柳迫「色々順番間違ってない!?」
--------------------------------------------------------------------------------------
翌日 10:28 玄関
柳迫「何から何までお世話になりました」ペコリ
黄泉川「今回みたいなことは立場上感心しないけど、遊びに来る分には大歓迎じゃん。またな」
打止「バイバーイ、碧美お姉ちゃん!ってミサカはミサカはちぎれんばかりに手を振ってみる!」ブンブン
柳迫「またね、打ち止めちゃん」フリフリ
一方「じゃ、コイツ送ってくっからァ」ツカツカ
打止「いってらっしゃーい」フリフリ
バタム
黄泉川「いやー、ゆうべのアレはさすがの私もビビったじゃんか」
打止「ミサカもお姉ちゃんにチャンスだよ、とは言ったけど、まさかあの人から仕掛けてくるとは思わなかったなー、
ってミサカはミサカは驚愕しながら情報をガッツリネットワークに垂れ流してみたり!」
黄泉川「あの一方通行がねぇ……」
打止「キレたナイフっていうか抜き身の日本刀みたいだったあの人がねぇ……」
黄泉川 止め「「ま、面白いからいいけど(じゃん)」」クスクス
一方「あァーやっぱダメだァー。ハムごときじゃ昨日の分の肉分補給出来ねェ」
柳迫(えぇーこの人何でこんな普通なの!?ゆうべは結局あのまま寝ちゃったし、
今朝、顔合わせても何も言ってこないし…)
一方「……なァ、そォ言えばよォ」
柳迫「へ!?な、何?」ビクッ
一方「ゆうべの返事まだ聞いてねェンだけどォ?」
柳迫「何で今ここで聞くの!?道の真ん中だよ!?」
一方「ンだァ?黄泉川やクソガキどもに聞かれた方が良かったかァ?」
柳迫「そ!それは………」
一方「で?どうなンだよ?」ズイッ
柳迫「うぅ………ゎ」
一方「わ?」
柳迫「私で、よければ………///」
とある一夜の柳迫通行 終わり
562 : ツンギレ彼氏 ◆r4vICyDKLo - 2011/06/26 04:07:28.72 QCFCHYWO0 405/694以上です。
読んでくださってありがとうございます。
………………………
「どうしてこうなった」って思ってる人、
正 解 。
思いついたはいいが本編中で使えなさそうなネタを全部突っ込んだらこうなった。
反省は………して……いない!
っつーか柳迫通行とか誰得だよ………
------------------------------------------------------------------------------------------
金曜日 21:05 固法・柳迫の部屋
ガチャ
固法「………やっと解放されたわ」
あの後すぐにやってきた風紀委員たちに状況を説明し、
被害者の少女と共に詰所で事情聴取を受けた固法はようやく自宅へ帰りついた。
普通ならば合わせて30分ほどで終わるはずなのだが、ここまで時間がかかったのには理由があった。
固法「垣根さん………どこに行ったの?」
現場となったあの路地には、垣根がいた痕跡がまったく残っていなかったからである。
路地の壁や被疑者の男の服、さらに少女の制服まで徹底的に調べたが、
それらから指紋は一切検出されなかった。
少女の肩にかかっていた上着も垣根が姿を消すと同時に、
得体のしれない素材でできた白くて大きい布にすり替えられていた。
断定はできないが、十中八九垣根の能力によるものだろう。
その布も少女が風紀委員の用意した車両に乗り込むと同時に消滅したため、
垣根につながりそうな手掛かりは一つも残っていない。
つまり記録の上では、あのとき路地裏にいた人間は被疑者の男と被害者の少女、
そして偶然居合わせた固法の3人だけということになっている。
しかしそうなると困った事態が起こる。
容疑者の不良を半殺しにした人間は誰なのか、という問題だ。
もちろん被害者にそんなことができるわけもなく、
消去法的にその場にいた固法に疑いがかかったために事情聴取が長引いた、というわけである。
固法(結局自分たちは見てない、ってことで押し通したけど……)
被害者の少女は襲われたショックで記憶が混乱しており、十分な証言が得られなかった。
そういうわけで固法の証言が唯一の手掛かりだったのだが、
「現場にもう一人いた」と証言しても証拠がないのでは信じてもらえるとは到底思えず、
余計な誤解を招く恐れもあったので不本意ながらしらを切ることにした。
固法(まぁ、私の素性を明かしたら信じてくれたし、いいよね………?)
《一七七支部の固法》という名前は風紀委員達の間でそれなりにとどろいているらしく、
担当の風紀委員とは面識はなかったものの
自分の名前を明かすなり立ち上がって敬礼されてしまった。
本来、風紀委員に階級は存在しないのだが。
固法(複雑な気分だわ………)
とはいえ、そのおかげで解放されたのだから文句は言わないことにしよう。
それよりも今現在、固法の心に重くのしかかかっていることが一つ。
固法「………垣根さん……どうして……?」
夜の闇に消えたあの青年のことだ。
あの時の垣根は明らかに正気ではなかった。
心神喪失というよりも、理性のタガが外れたような状態。
内から湧き上がる衝動にしたがって暴れているように見えた。
固法(思えば初めて会った時もその次の時もそうだった……)
最初は、男子中学生を脅迫していた不良。
二度目は、自分を羽交い絞めにしていたその仲間たち。
固法と垣根の出会いは、垣根の『怒り』、いや、『殺意』とともにあった。
固法(どうしてそこまで………)
最初はただのフェミニストだと思っていた。
だがそれだけではあそこまで痛めつける理由にはならない。
何がそこまで垣根を掻き立てるのか。
固法は垣根の言葉を反芻する。
以前出せなかったその答えを見つけるために。
『…弱えヤツを力でねじ伏せるのは楽しかったかって訊いてんだよ!!』
『わかるか?頭蓋を割り、脳髄を切り開き、神経を掻き分けたその奥の奥に刻み込まれた根元的感情こそが恐怖なんだよ!!』
『他人を恐怖で踏みにじるヤツは、必ず別の恐怖によって踏みつぶされる』
『力』、そして『恐怖』
垣根の口から出たキーワードはその二つのようだった。
そして、もう一つ。
『許されるワケねえだろうが!!!!』
垣根はあのとき、『許される』という言葉を使った。
会話の流れから考えるにそこは『許す』と言う方が自然だろう。
些細なことだが、どうにも引っかかって仕方がなかった。
なぜならまるで―――――――――
固法(まるで、自分に向かって言ってるみたいだった)
――――――――結局、何も答えなど出るはずもない。
ただ一つだけわかったのは、垣根が自分の想像もつかないほど重い十字架を背負っているらしい、ということだ。

不意に、ぬいぐるみと目が合った。
初めて出かけたときにゲームセンターで垣根がとってくれた猫のぬいぐるみ。
固法(垣根さん……………)
ギュッ
なぜだか急にその猫がいとおしくなった固法は、
そっとそれを抱き寄せた。
垣根とは、もう二度と会えないような気がした。
――――
――――――――
――――――――――――――
その夜、夢をみた。
どこまでも真っ白な空間で、男の子がうずくまって泣いている。
どこかでみたような、金色に近い、色素の薄い髪をした男の子だった。
どうしたの? 何で泣いてるの?
少年は答えない。
近くに行こうとしても、前に進むことができない。
突然、水の音がした。
足元をみると、いつの間にか赤い水たまりができていた。
再び少年に目を向けると、その水たまりは少年を中心に広がっていた。
もう一度少年に歩み寄ろうとしたが、水たまりがバシャバシャと音を立てるだけで一向に近づくことはできない。
結局自分にはどうする事もできず、少年はいつまでもその真っ赤な水たまり―――――――――
血の海の真ん中で泣き続けていた。
――――――――――――朝目覚めた時、固法は夢の内容を全く覚えていなかった。
------------------------------------------------------------------------------------------
同日 19:01 垣根のマンション
ガチャッ
バタンッ
垣根「…………」
バサッ
垣根は帰ってくるとすぐに血まみれのシャツを脱いでゴミ箱へ放り込んだ。
ここまで汚れてしまったら洗っても落ちないだろうし、
なにより下衆の血が付いた服など二度と身に着ける気にはならなかった。
洗面所で鏡を見ると、顔や髪にも血が飛んでいた。
垣根(ちっ、手だけ洗ってさっさと寝ちまおうと思ってたら、こうなったら風呂に入った方が………っ)
垣根「くっ、ハハハ……」
そこまで考えて、あまりの可笑しさに吹き出してしまった。
垣根(何考えてんだろうな、オレは)
垣根(どれほど見てくれだけ小奇麗にしたって、オレの手はとっくに血みどろじゃねえか)
垣根(今更洗い落とせるわけ、ねえだろうがよ………)
垣根「クククッ、ケッサクだなぁ、オイ」クククク…
そうやって、垣根はしばらく笑っていた。
------------------------------------------------------------------------------------------
ジャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
キュッ
垣根「ふぅ」ドサッ
結局、間を取ってシャワーで済ませることにした。
寝間着に着換え、ソファーに身を投げる。
夕飯は食べそこなったが、食欲はまったくなかった
垣根(……………また、やっちまったな)
あの手の連中を見ると抑制が利かなくなる。
力で他者を踏みつけにする輩――――――
それはまぎれもなくかつての垣根自身の姿だった。
垣根が憎んでいるのは街にはびこる不良たちでも、ましてや『悪』などという抽象的な概念でもない。
垣根が殺したいほど憎んでいるのは、自分の『過去』以外の何物でもなかった。
『力』、そして『恐怖』。
それが昔の自分が持っていたすべてだ。
それしか、もっていなかった。
だから垣根は拳を振るう。
そんなものを振りかざす連中を薙ぎ払うために。
―――――――――過去の幻影を振り払うように。
垣根(…………………固法………)
そして垣根の胸に去来するのは、あの少女の顔だった。
凛々しく毅然とした顔。
顔を赤らめ恥じらう顔。
年相応に屈託なく笑う顔。
そして――――――――
肩を震わせ怯える顔。
いずれこうした形で破滅が訪れるであろうということは予想していた。
結局のところ、『垣根帝督』という人間は何一つ変わってはいないのだから。
それが彼女に出会って、つかの間の夢を見ていただけだ。
優しく暖かい胡蝶の夢を。
それを垣根は自分で壊してしまった。
それも、『力』と『恐怖』という、垣根が最も憎む方法によって。
垣根(心理定規の言うとおりになっちまったな………)
垣根は、常に人を小馬鹿にした笑いを顔にはり付けた少女の言ったことを思い出していた。
『過去を切り捨てた気になってるなら、それはステキな勘違いよ』
『力加減を間違えればあの子、あっという間にひき肉になっちゃうかもね』
垣根(もう会えねえ、よな)
またこんなことになった場合、垣根は固法の前から消えようと心に決めていた。
そんな資格はないと思ったし、垣根自身も彼女の怯えた顔を見たくはなかった。
彼女にはずっと笑っていてほしかったから。
その笑顔を奪うのが自分なら、自分などいない方がいい。
そういう覚悟があったからだろうか、意外に冷静な自分に垣根は内心驚いていた。
そう、覚悟していたことだ。
悲しくはない。自分の前から誰かが居なくなるのには慣れている。
さびしくはない。幸いなことに、今の自分には自分なんかよりずっと強い友人がいる。
ただ少し、
ほんの、少しだけ―――――――――――
垣根(名残惜しいけどな……………)
垣根は、その感情に名前をつけることなく、
そっと鍵をかけることを決めた。
ブルッ
垣根「寒ぃ……………」ゴソゴソ
ソファーに敷きっぱなしになっている毛布にくるまるようにして、垣根は床に就いた。
手足を折り曲げて眠る様は、まるで泣きつかれた子どものようだった。
------------------------------------------------------------------------------------------
数日後 12:51 第13学区 喫茶『Freedom』
店員「お待たせしましたー♪こちらチョコレートムースとブレンドコーヒーでーす♪」コトコトッ
店員「ごゆっくりどうぞー♪」
打止「いっただっきまーす!」
垣根「どうぞ」
打止「…んーおいしー!ってミサカはミサカは未知の味覚体験に驚きを隠しきれなかったり!」
垣根「そりゃよかった」
打止「垣根のお兄ちゃん、こんなおいしいお店よく知ってるね!ってミサカはミサカは
お兄ちゃんの意外な女子力に複雑な気持ちになってみたり!」
垣根「ああ、ダチ……知り合いに教えてもらったんだ」ズズッ
打止「それって固法お姉ちゃん?」
垣根「っ!な、何でわかった?」ゲホゲホ
打止「だってこんなお店女の子と一緒じゃないと来ないでしょ?お兄ちゃん、女の人の知り合い少ないし、
さらにその中でこういうお店知ってそうなのは固法お姉ちゃんくらいかな、ってミサカはミサカは鮮やかな論理的推理を披露してみたり!」フンス
垣根「……打ち止めちゃんにはかなわねえなぁ」クスッ
打止「………何かあったの?」
垣根「どうして?」
打止「垣根のお兄ちゃん、さっきから愛想笑いしかしてないよ、ってミサカはミサカは子どもらしからぬ観察眼で指摘してみる」
垣根「………ちょっとヘコむことがあってな。なあに、些細な事さ」
打止「それに学校はどうしたの?今頃はまだあの人と学校に入ってる時間なんじゃないの?
ってミサカはミサカはおサボりさんのお兄ちゃんを叱ってみたり」メッ
垣根「ああ、いいんだよガッコなんて。オレくらいになるともう単位は足りてるから登校しなくても卒業できるし。
学校は行きてえから行ってるだけだ。だから行きたくねえ時は行かない」ズズー
打止「もーへ理屈ばっかりこねてー、ってミサカはミサカはプリプリしてみたり」プンプン
垣根「フッ…………」
打止「……同じだよ」
垣根「は?」
打止「垣根のお兄ちゃん、昔のあの人と同じ目をしてるよ、ってミサカはミサカはお兄ちゃんをまっすぐ見て言い放ってみる」
垣根「一方通行と?オレが?冗談だろ?」クククッ
打止「冗談なんかじゃないよ」
垣根「?」
打止「あの人もそうだった…………いつも何かを諦めたような眼をしてたよ、
ってミサカはミサカはしんみりしながら思い出してみる」
垣根「…………」
打止「ねぇ、お兄ちゃんは何を諦めたの?」
垣根「……オレが悪いんだ。自業自得なんだよ。だからもういいんだ」
打止「それがわかってるなら……」
垣根「違うんだ。謝って済むとか、そういう問題じゃねえんだよ」
打止「………お兄ちゃんは、それでいいの?ってミサカはミサカは……」
垣根「いいんだよ。オレがそう決めたんだから」
打止「…………」
垣根「さて、くだらねえ話は終わりにしよう。それよりもっと面白ぇ話をしようぜ!」ニッ
打止「お兄ちゃん……」
垣根「あっ、そうそう!なあ、モヤシに彼女ができたって話あれマジか?
この間クソうぜえメールがきてよ、ぜってーウソだと思って無視してんだけど。ウソだよな?」
打止「あっ、ううん、本当だよ」
垣根「は?マジで?アイツと付き合うとかどんな聖人君子だよマジで」ケラケラ
打止「とってもキレイでいい人だよ。碧美お姉ちゃんっていうの、ってミサカはミサカはあっさり白状してみたり」
垣根「はぁ!?碧美って、まさか柳迫碧美か!!?」ガタッ
打止「あれ?知ってるの?」
垣根「知ってるもなにもオレが紹介したようなモンだし……」
打止「え?え??どういうこと!?ってミサカはミサカは詳細キボンヌしてみたり」kwsk
垣根「それがさぁ………」
------------------------------------------------------------------------------------------
14:15 第7学区 路上
打止「ごちそうさま!ってミサカはミサカは笑顔でお礼を言ってみたり!」
垣根「経緯はどうあれ、約束だったしな……どうせ支払いはオレじゃないし」ボソッ
打止「?」
垣根「何でもねえ。うまかったか?」
打止「とっても!」ニコッ
垣根「それはなによりで」
打止「今度は休日限定スイーツっていうのが食べてみたいかも!ってミサカはミサカは調子にのっておねだりしてみたり!」
垣根「あー、あれな………」
打止「え?食べたことあるの?」
垣根「ああ、フツーにうまかったけど色々とアレな代物だったな……」
打止「えーどんなのどんなの?ってミサカはミサカは期待に胸を膨らませつつ質問攻めにしてみたり!」
垣根「まぁ……オレの口からはちょっと。今度はモヤシにでも連れてってもらいな」
打止「えぇー?もったいぶらないでよーってミサカはミサカは……」
ナイテル、マダナイテルヨ ッテシランカオシヤガッテ♪
オイテカレタシンショウフウケイモ トンデユケジダイノカナター♪
垣根「あん?電話……上条からか。ちょっとゴメンな」
ピッ
垣根「おお、オレだ。………おお…………は?……………ああ………ああ、わかった。あと15分くらいで行く。じゃあな」
ピッ
打止「ヒーローさん?」
垣根「ああ。なんでもテレビが映らなくなったから直してほしいとかなんとか……
後ろでシスターちゃんがわめいてたな」
打止「あー!そういえば今日カナミンの再放送があるんだった!ってミサカはミサカはシスターさんと聞いて思い出してみたり!」
垣根「なるほどな。それでシスターちゃんが騒いでたのか……」
打止「っていうか垣根のお兄ちゃん、テレビなんか直せるの?」
垣根「こう見えても手先は器用でね。
それに上条んところの旧式くらいならウチの学校の連中なら誰でも直せる」
打止「でもあの人は黄泉川が炊飯器壊れた!って騒いでも知らんぷりしてるよ?ってミサカはミサカは不満をあらわにしてみる」ムゥ
垣根「…………さすがのアイツも得体のしれないテクノロジーの産物には触りたくないだろうぜ」ボソッ
打止「何か言った?」
垣根「別に何も?」
打止「ふーん……でもテレビの修理なら電機屋さんに頼めばいいのに、ってミサカはミサカは至極まっとうな疑問をていしてみたり!」
垣根「今から修理に出したんじゃ間に合わねえだろうな。再放送今日なんだろ?
上条が歯形だらけになるビジョンしか見えない」
打止「それはそうかも………」
垣根「それに……」
打止「それに?」
垣根「……修理代なんか支払ったらアイツは年を越せなくなる」
打止「」( ´;ω;‵) ブワッ
垣根「まあアイツには色々借りがあるし、ちょっと行ってくるわ」
打止「うん…3時半から始まるから急いであげた方がいいかも、ってミサカはミサカは涙をぬぐいながら教えてあげてみたり」グスッ
垣根「じゃあ家に工具取りに帰らねえといけねえから、悪いんだけど打ち止めちゃん、ここまででいいかな?」
打止「うん!垣根のお兄ちゃん、今日はありがと!ってミサカはミサカはヒーローさんのことは一旦棚上げしてお礼をしてみたり」
垣根「こっちこそ暇つぶしにつきあってくれてありがとな。また遊んでくれ」ナデナデ
打止「うん!」ニコッ
垣根(…………………どうしてこの子は、オレなんかに笑ってくれるんだろうな)
垣根(……………自分を殺そうとした野郎によ)
打止「お兄ちゃん?」
垣根「………何でもない。じゃあ打ち止めちゃん、またな」ツカツカ
打止「………お兄ちゃん」
垣根「?」
打止「……人は、変われるよ」
垣根「……え?」
打止「言ったでしょ?あの人もそうだった。いつも何かを諦めたような眼をしてたんだよ」
垣根「………」
打止「………でも、戻ってきた。あの人はミサカたちのところに戻ってきてくれたよ、
ってミサカはミサカはあの日のことを思い出してみる」
垣根「………」
打止「だから、お兄ちゃんも変われるよ。あの人が変われたように、ってミサカはミサカは……」
垣根「それは違うな、打ち止めちゃん」
打止「えっ?」
垣根「アイツとオレはまるっきり違うって言ってるんだよ」
打止「どういうこと?」
垣根「アイツにはまず、何よりも守りてえものがあった。それこそ何を犠牲にしても、おのれのプライドをかなぐり捨ててもな
だからアイツは『悪党』って矜持さえも捨てた。守りたいもの―――打ち止めちゃんのためにだ」
打止「……………」
垣根「逆なんだよ打ち止めちゃん。アイツはこの街の『闇』―――暗部から這い上がって帰って来たんじゃない。
打ち止めちゃんのところへ帰るために死ぬ気で這い上がって来たんだよ」
打止「……それのどこがお兄ちゃんと違うの?」
垣根「ここまで言えば分かるだろ?」
垣根「オレには………そうまでして守りたいものが、ない」
打止「!」
垣根「もっと言おうか?芯がねえんだよ、オレには。上条や一方通行みてえに一本通った芯がねえ。だから、簡単に揺らぐし、ブレる」
打止「で、でも、お兄ちゃんだって帰ってきたじゃない、ってミサカはミサカは……」
垣根「それは運が良かっただけだ。アイツらがいなかったらオレは今も冷蔵庫に繋がれたままか、
とっくに電気炉でDNAマップも残らねえ灰になってるところさ」
打止「あ………」
垣根「そう、一方通行や上条のおかげで日常に帰ってこれた。打ち止めちゃんやシスターちゃんとも仲良くなれた。幸運なことにな。
けどよ、オレを構成するものは何一つ変わっちゃいねえんだよ。『怒り』と『恐怖』。それがオレの全てだ」
垣根「『表』の生活に戻っても、オレは何も変わってねえんだよ。
―――――――――ずっと甘ったれたクズのままだ」
打止「お兄ちゃん……」
垣根「……っと、話しこんでる場合じゃなかった。上条やシスターちゃんが待ってるからそろそろ行くわ。
じゃあな、打ち止めちゃん。気をつけて帰れよ」スタスタ
打止「……………クズなんかじゃないよ!!」
垣根「!」
打止「垣根のお兄ちゃんはクズなんかじゃない!!ってミサカはミサカは精一杯叫んでみたり!」
垣根「………」
打止「だってお兄ちゃんはこんなに優しいじゃない!お兄ちゃんは……」
垣根「………もういい」
打止「お兄ちゃん!」
垣根「いいって。
…………………ありがとな、打ち止めちゃん」スタスタ
------------------------------------------------------------------------------------------
同時刻 第7学区 風紀委員活動・第一七七支部
固法「…………」
初春「どうしたんでしょう、固法先輩。さっきから、っていうより来た時から心ここに在らずって感じですけど」ヒソヒソ
黒子「作業も捗っていないようですし………どうされたのでしょう」ヒソヒソ
佐天「やっぱり恋煩いじゃないですか?」ヒソヒソ
初春「佐天さんってばこの間からそればっかりですね」
固法(あれから全然連絡が取れない………メールも届いてないみたいだし……)
固法(…………垣根さん…………)
固法「…………ハァ」
初春「今度はため息ついてます」ヒソヒソ
黒子「……………心配ですわね」ヒソヒソ
佐天「うーん、絶対恋の病だと思うんだけどなー」ヒソヒソ
初春「佐天さん、それしか考えてないんですか?」ヒソヒソ
佐天「女子中学生なんて基本オシャレと恋愛のことしか考えてない生き物なんだよ、初春」ヒソヒソ
初春「私も女子中学生なんですけど………」ヒソヒソ
オーリオンヲナーゾル コンナーフカイヨール♪
ツナガリターイハナサレターイ ツマリハンシンハンギアッチコッチ♪
初春「電話…?誰の携帯ですか?」
黒子「私ではありませんわね」
佐天「私のでもないよ?」
佐天(でもこの曲……?)
固法「あっ、いけない、私だわ」
ピッ
固法「はい、固法です。……碧美?ええ大丈夫……………え?……」
初春「固法先輩の着うたってあんな曲でしたっけ?先輩って基本的に西川さんの曲しか聴かないのに」
黒子「気分転換ではないですの?お姉様は2週間に1回は変えますわよ」
佐天「……ちょいと失礼♪」コソコソ
固法「………わかったわ。じゃあね」
ピッ
固法「もう……勝手なんだから。でも何でかしら、『今日は炊飯器使わないで』って?
試したいことがあるとか言ってたけど……」ハテ
佐天「こーのーりーさん♪」
固法「佐天さん……どうしたの?」
佐天「さっきの着うた、ユニゾンの新曲ですか?」
固法「着うた?ええ、友達に教えてもらっていい曲だから落としてみたんだけど……
佐天さんも知ってるの?」
佐天「もっちろんですよ!ユニゾンを知らないなんてモグリです!」
固法(垣根さんは知名度はイマイチって言ってたけど……)
佐天「他の曲聴いたことありますか?1stフルアルバム最高ですよ!」
固法「聴こうと思ったんだけどどこにもCD置いてなくて…」
佐天「ああ!それだったら………」
------------------------------------------------------------------------------------------
15:09 第7学区 上条の学生寮
垣根「………」カチャカチャ
上条「……直りそうか?」ドキドキ
禁書「ていとく、はやくしないとカナミンが始まっちゃうかも!」ハラハラ
垣根「ちっと黙ってろ………これでどうだ?」
プチッ
ジャンッ!デンキハタイセツニネ、ビリビリ!
幻想 目録「「おぉー、直った(んだよ)!!」」
垣根「中身の基盤がダメになってたから洗浄して強引に回路を繋いだ。
応急処置だからもって3カ月だ。その間に修理するなり買い換えるなりしやがれ」ゴソゴソ
禁書「ありがとうなんだよ、ていとく!これで今日のカナミンの再放送見れるかも!」
上条「垣根………オレは何と礼を言っていいか……」ウッウッ
垣根「やめろ気色悪ぃ」
上条「いや……今日直らなかったらオレは20分後に歯形だらけになるところだった……」シクシク
垣根「……今度ファミレスで何かおごれ。それでチャラにしてやる」
上条「ファミレスか………これはマジメな話だけど。垣根、お前どうしたんだ?
最近学校来てないらしいじゃないか」
垣根「なんだよ、お前にもバレてたのか。どうせモヤシが喋ったんだろ?」
上条「ああ……一方通行も、口では言わないけど気にしてたぞ」
垣根「……やれやれ、なんでオレの周りはオレの出席日数の心配ばっかりしてんだかな」ヘラヘラ
上条「垣根」
垣根「………悪い。だけど心配すんなって。大したことじゃねえから。ちょっと一人になりたいだけだ。じゃあな」ガチャッ
禁書「………ていとく、辛そうな顔してたんだよ」
上条「ああ………一体何があったんだ?」
禁書「………ちょっと行ってくる!!」ダッシュ!
上条「お、おい!インデックス!!」
垣根「さーてこれから何して時間つぶすか………上条んトコで茶でもたかってくればよかったな」ツカツカ
禁書「……………ていとく!」
垣根「……シスターちゃん?」
禁書「ちょっと………きいてほしいことがあるんだよ」ハァハァ
垣根「銀髪碧眼の美少女シスターに追いかけられるってのはなかなかステキなシチュエーションだが、
はやく帰らないと始まっちまうぜ?えーと……マナミン、だっけ?」
禁書「それを言うなら…カナミンなんだよ」
垣根「そっか」クスクス
禁書「………ていとく、なにを後悔してるの?」
垣根「!……どうして、そう思う?」
禁書「見くびらないでほしいかも。わたしはシスターなんだよ」
垣根「知ってるけど?」
禁書「教会にはいろんな人たちが来るけど、そこで今のていとくとおなじ顔をした人たちをたくさん見てきたんだよ」
禁書「いまのていとくの顔はその人たち、自分の罪を懺悔しにきた人たちとそっくりなんだよ」
垣根「………打ち止めちゃんといいシスターちゃんといい、どうしてみんなそう勘がいいんだ……?」フッ
禁書「やっぱり、そうなんだね?」
垣根「ああ、大当たりだ。15ラウンド確変の大当たりだぜ」
禁書「ていとく、どんな罪も、悔い改めれば主はおゆるしになるんだよ」
垣根「あー悪いんだがシスターちゃん、あいにくオレは無神論者でね。
どこにいるかもわからねえカミサマなんざ信じちゃいないんだ。
『信じる者は救われる』ってんなら、オレは救いようのない不信心者だぜ」
禁書「そうじゃないんだよ」
垣根「………何だって?」
禁書「……立場上こういうことを言うのはあまりよくないんだけど、ていとくが言うところの『カミサマ』は私たちに何もしてくれないんだよ」
垣根「それはまた思い切った発言だな」
禁書「でもだからって神がいないってことじゃないかも。神は人々のこころの中にいるものだから。
わたしたち聖職者は人がじぶんのこころにいる神を見つけるおてつだいをするのがしごとなんだよ」
垣根「………何もしてくれねえカミサマが見つかったとして、一体何の役に立つってんだ?」
禁書「それはね、『許す』ことなんだよ」
垣根「許す…………?」
禁書「さっき言ったよね?どんな罪も悔い改めれば主はお赦しになるって。
それはつまりじぶんの罪を受け止めて、背負って、そしてじぶんを許してあげるってことなんだよ」
垣根「………」
禁書「『信じる者は救われる』っていうことばのほんとうの意味はね、
悔い改めているじぶんを、変わりたいと思えたじぶんを信じてあげなさいってことなんだよ」
垣根「だったらなおさらだ、シスターちゃん」
禁書「ていとく?」
垣根「信じる?一体何を信じるってんだ?シスターちゃん、オレはな、カラッポなんだよ」
禁書「からっぽ?」
垣根「ああそうさ。オレには何もない。上条みてえな揺るぎない信念も。一方通行みてえに命をかけられる位大切なものもな
唯一あるとすれば…………このクソ忌々しい『能力』だけだ」ギリッ
禁書「なら今から探せばいいんだよ!ていとくのたいせつなものを!」
垣根「簡単に言ってくれるぜ……………いや、そうでもないか」
禁書「え?」
垣根「実はさ、見つかった気がしたんだよ。大切にしたいもの…………したかったものがさ」
禁書「だったら……」
垣根「……だけどオレは、ソイツを自分でブチこわすところだったよ」
垣根「オレの手は、今更何かを抱えるにはヨゴレすぎてんだ」
垣根「………結局さ、オレは変われねえんだよ。オレにできるのは壊すことだけだ」
垣根「オレには…………何も守れない」
禁書「ていとく…………」
垣根「そんな顔すんなよシスターちゃん。カワイイ顔が台無しだ。
別にオレは人生悲観してるワケじゃねえんだぜ?」
禁書「どういうこと?」
垣根「オレはすっげえラッキーだってことさ。こんなクズが人並みの生活送れてんだからな。
昔のクソみてえな暮らしからは考えられねえくらい幸せな人生だぜ?」ニッ
禁書「でも………」
垣根「そうなんだって。オレは幸せモンだ。
だから………………コレ以上は何も望まねえ」
禁書「そんな……………」
垣根「ほら、カナミンとやらが始まっちまうぜ。早く帰んな」ツカツカ
禁書「ていと…」
垣根「…………じゃあまたな、シスターちゃん」ツカツカ…
禁書(ちがうよ、ていとく)
禁書(しあわせなひとは、そんな悲しそうな顔で笑わないんだよ)
------------------------------------------------------------------------------------------
15:42 第7学区 噴水公園
垣根「あー、やっぱアイツらとつるまねえとヒマだなーオイ」
上条の寮を辞去した垣根は公園で盛大に暇をもてあましていた。
時間が中途半端なせいなのか、垣根のほかに人の姿はない。
だれもいない公園で垣根は噴水の正面にあるベンチにだらしなく腰掛けている。
そこが“あの夜”二人で座っていたベンチであることに垣根は気付いていなかった。
垣根(学校サボっただけでここまでヒマとは、オレも大概だな)
そんな自虐的なことを考えながら時間つぶしている垣根であったが、
何の目的もなくここへ来たわけではない。
垣根(………………そろそろ来るか)
垣根は待っていた。
自分を必ず『追ってくる』であろう男を。
ザッ
「…………ここにいたか、垣根」
垣根「……よお、遅かったじゃねえか、上条」
上条当麻。
先ほど別れた黒髪の英雄〈ヒーロー〉がそこに立っていた
上条「探したぞ」
垣根「わかりやすい場所だと思ったんだがな。待ち合わせ場所といえば公園だろ?」
上条の言葉に軽口で答える垣根。
上条は意に介さず続ける。
上条「……お前を追いかけていったインデックスが泣きながら帰ってきた。
『自分じゃていとくを助けられない。ていとくをたすけて』ってな」
垣根「………まいったな。泣かすつもりはこれっぽっちもなかったんだが」ガリガリ
垣根は弱ったとでも言うように頭を掻いた。
上条「なぁ、垣根。お前本当にどうしちまったんだ?」
垣根「言っただろ、大したことじゃ……」
上条「インデックスを泣かしておいて今更そんな言い訳が通ると思うなよ」キッ
上条は垣根の言葉を遮り、キツく睨みながら低い声でそう言った。
垣根「わお、おっかねえな。そんなにらむなよ」
上条「あの日、何かあったのか?」
垣根「っ……」
上条「……そうなんだな」
――――コイツらは何でこうそろいもそろってカンがいいんだろうな?
垣根はそんなことを考えながら観念したように薄く笑った。
上条「何があったのか全部話せ。イヤとは言わせねえぞ」
垣根「………分かった。話すからそんなコワイ顔すんなって」
垣根「…………っと、まあザッとこんなもんさ」
上条「………」
垣根はあの日あったことを一つ残らず話した。
路地裏で暴漢に襲われている少女を見つけたこと。
その暴漢を半殺しにしたこと。
そして、その場面を固法に見られたことを。
垣根「クソつまんねえオチだろ?ジョークにしたって出来がいいとは言えねえ」
上条「…………」
垣根「まあ兎にも角にもそんな感じで、もうアイツには会えねえのよ」
上条「………………」
上条は、口をはさむことなく垣根の話を聞いていた。
垣根「惜しいことしたと思わねえこともねえが、自業自得だしな。仕方ねえよ」
上条「…………………」
垣根「オイオイ、黙ってねえで何とか言えよ。反応がねえとちょっと悲しいだろ」
上条「…………何だよそれ」
垣根「あ?」
そこで上条は初めて口を開いた。
そしてその言葉は、
上条「……そんなの、お前は全然悪くねえじゃねえか!」
垣根が全く想像しないものだった。
垣根「オイ、話聞いてたのか上条?」
上条「聞いてたよ。お前はその襲われてた女の子を助けただけだろ?
それと固法さんと何の関係があるって……」
垣根「大事なのはそこじゃねえよ」
それは単なるきっかけであり、本質ではない。
重要なのは、自分がその暴漢を怒りにまかせて半殺しに、いや、殺そうとしたこと。
そしてそれを固法に見られてしまったこと。その2点だけだ。
垣根「わかるか?オレが固法のそばにいてもアイツを怖がらせるだけなんだよ。
オレはそれを見たくないわけ。だから会わない。論理的だろ?」
そう。論理的で、合理的だ。
いささか単純ではあるが、
論理構造とブービートラップはシンプルな方が破られにくいというのが垣根の持論だ。
――――――いくらテメエでも、コイツは崩せねえだろ?
目の前の黒髪の少年はの最大の武器は不可思議な右手でも、強靭な精神でもなく、
“言葉”であると垣根は常々考えていた。
上条の放つ言葉は理屈や正論を軽々と飛び越え、相手の心に突き刺さる。
だがそれは余計なことをゴチャゴチャ考えているからだ。
目的と手段の間で『回り道』をするから、そこに付け込まれる。
だからこそ、この少年を黙らせるにはこれくらいの動機でちょうどいい。
垣根はそう思っていた。
しかし、
上条「…………んな」
垣根「………何だと?」
垣根は一番肝心なことを忘れていた。
上条「ふざけんな!!!そんなもん全部お前の思い込みじゃねえか!!!」
垣根「!!」
――――この少年が『幻想殺し』と呼ばれる、その本当の理由を。
上条「怖がらせる?もう会えない?決めつけてんじゃねえよ!!」
垣根「………」
上条「少なくとも俺が見た固法さんはな、お前といる時すげえ楽しそうに笑ってたぞ!!」
上条のはげしい言葉に垣根は押し黙る。
上条「固法さんだけじゃない、お前だって幸せそうに笑ってたじゃねえか!!」
垣根「……………………やめろ……」
上条「それをたった一度間違えたからって、全部ウソにしてしまっていいのかよ!?
いいわけないだろうが!!」
垣根「…………うるせえ…」
垣根は震える声で上条に反駁する。
だが上条は追及の手を緩めない。
そして―――――――、
上条「お前が大切にしたかったのは、守りたかったのはその笑顔だったんじゃないのか、垣根!!」
垣根「うるせえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!」ガッ
垣根の咆哮が、無人の公園に響いた。
完全に激昂した垣根は、上条に詰め寄りその胸倉をつかみ上げた。
垣根「お前に何が分かる!!」ギリギリ
上条「な……に……?」
垣根「初めから正しかったお前に、最初からヒーローだったお前に!!
一体オレの何が分かるってんだ!!あ゛ぁ!!?」
それは、あまりに悲痛な叫びだった。
垣根「オレはお前とは違う!オレはお前みたいに何かを守ることなんざ出来やしねえんだよ!
オレの手は血みどろだ!そんな手で今更何かを守ろうなんざ虫がよすぎんだよ!!!」
上条「だけど………それでもお前はあの人を……」ギリギリ
垣根「それ以上言うんじゃねえ!!!」
上条には、その叫びは命令ではなく寧ろ嘆願に聞こえた。
垣根「…………初めてだったんだよ」
上条「何だって………?」
絞り出すような声で垣根は語り続ける。
垣根「………誰かに笑っててほしいなんて思ったのは、生まれて初めてだったんだよ」
上条「垣根………」
上条の制服の襟をつかんでいた垣根の手はいつの間にかほどかれ、
垣根は俯き加減でぽつぽつと言葉を紡いでいた。
垣根「アイツの笑った顔見てるとよ、何かすっげえムズムズすんだけど、全然イヤな気分じゃなくてさ。
上手く言えねえけど、ずっと笑ってりゃいいのに、とかガラにもねえこと思ったりしてよ」
上条「……………」
垣根「だけどオレは、ソイツを自分で全部台無しにしちまった」
垣根「わかるか!?生まれて初めて大事にしてえと思ったものをぶっ壊したのは他でもねえ自分だったんだよ!!
一番ほしかったものは、オレが触れちゃいけないものだったんだよ!!
そんなのってあるかよ!!
垣根「オレはもう見たくねえんだよ!アイツの怯えた目も、震える姿も!
その原因がオレなんだったらもうアイツの前から消えるしかねえじゃねえか!!
全部ウソにして、フタをしてなかったことにするしかねえだろうが!!
それでアイツが笑ってくれるなら上等だろ!!」
垣根「結局オレみてえなクズには!!何も守れやしねえんだよ!!!!
オレはお前らのようにはなれない!誰かを守れるヒーローになんかなれねえんだよ!!!!」
それは垣根の心からの叫びだった。
永い間この街の『裏』に生きてきた彼は、今まであまりに多くのものを失ってきた。
それが上条と一方通行に助けられ、インデックスや打ち止めと知り合い、
そして固法と出会って、失ってきた何かを埋められるような気がした。
――――――――――だが、その幻想を砕いたのは、他でもない自分だった。
人は変われない。
垣根の失意の大本はその『現実』だ。
『守る』ことは『ヒーロー』の役目であり、特権であって、
『クズ』であるところの自分にそんな資格はない、という『現実』だ
しかし――――
上条「…………関係あるかよ」
垣根「あぁ!!?」
垣根の前に立ちはだかる少年は、
上条「誰かを大切にしたいって思いに、ヒーローもなにも関係ねえだろうが!!」
その『現実』すらも、幻想だと言い放った。
上条「お前がクズであろうと何であろうと、お前がその笑顔を守りたいって思った気持ちはまぎれもなく本物だったはずだろ!」
垣根「テメエ、勝手なことを……!」
上条「勝手なのはどっちだよ!!」
上条は垣根の反論を一蹴する。
上条「……固法さんはどうなる?」
垣根「!!!」
上条「言っただろ。お前といる時の固法さんは楽しそうに笑ってたって。いい顔で笑ってたって!
それをお前は、たった一度取りこぼしただけであの人の分まで勝手に諦めるのかよ!!
そんな資格がお前にあるのか!!」
垣根「資格だ!?資格っつーんならそもそもオレにはアイツのそばにいる資格がねえんだよ!!
オレがアイツの笑顔を奪う限りよぉ!!!」
上条「だったら取り戻せよ!!!」
垣根「!!」
上条「泣いているならその涙を拭ってやればいい。
震えているならそれが止まるまでそばにいてやればいい。
仮にあの人の笑顔を奪ったのがお前なら、お前がそれを取り戻すのがスジってもんだろ!
お前の手にはそれができるはずだろ!!
だって、お前はこんなにも優しいじゃねえか!!」
垣根「!!」
上条は失意に沈む垣根に向かってそう叫んだ。
その言葉は奇しくも、打ち止めが投げかけたものと全く一緒だった。
上条「お前はこんなに苦しんでるのに、それでも固法さんのことを思いやれてるじゃねえか。
会わないって決めたことだって、やり方はどうあれあの人のために、それこそ身を切るような覚悟で出した結論だったんだろ!」
垣根「うる……せえ……」
上条はやめない。
上条「それならどうして同じ覚悟で笑わせてやろうと思わない!
どうしてその笑顔を守りたいと思えたことを誇りに思わない!!」
垣根「やめろ…………」
上条は次々に言葉の矢を放つ。
上条「そんだけの覚悟があるなら、こんどこそお前の大事にしたかったものを守って見せろよ!」
この青年を、今一度地獄から引きずり上げるために。
垣根「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
ゴバッ!!
垣根の背中から白銀の奔流が上条に向かってあふれだす。
だが、その攻撃は強度も照準もメチャクチャだった。
上条はとっさに右手を前方に構え、垣根に向かって大きく踏み込む。
バキィン!
と、ガラスが割れるような音とともに垣根の翼は消滅する。
上条「――――いいぜ」
上条はそのまま垣根の懐へ飛び込む。
上条「それでもまだ、お前が何も守れないって言うんなら、」
上条「まずは………」
一度構えた右手を戻し、大きく振りかぶる。
垣根は蛇に睨まれた蛙のように全く動くことができなかった。
上条「そ の 幻 想 を ぶ ち 殺 す ! ! ! ! ! 」
上条の渾身の右ストレートが垣根の顔面に突き刺さった。
650 : VIPに... - 2011/07/07 00:38:15.67 Bcjo9xmEo 450/694その頃一方さんは……
654 : ツンギレ彼氏 ◆r4vICyDKLo - 2011/07/08 02:29:12.60 bfhbDsr10 451/694レスありがとうございます。>>1です。
>>650
知 り た い ?
という訳で投下です。
------------------------------------------------------------------------------------------
番外 とある男女の花嫁修業(アルケミー)
同日 15:50 固法・柳迫の部屋
一方「で、なンでオレはこンなところに呼び出されたのでしょォか?」
柳迫「もうちょっと待ってて!」ゴソゴソ
一方「っつーかここ一応寮なンだろォ?男がホイホイ入ンのはマズくねェ?」
柳迫「それは大丈夫。私か美偉のIDで一緒に入れば問題ないから!訪問者の映像記録も取ってないしね」
一方「…………余計心配だなァオイ」
柳迫「だから大丈夫大丈夫!あーくんって意外に小心者なんだね♪」ニッ
一方「違ェよ!あとあーくンって言うなっつってンだろ!………心配なのはオマエだよ」ボソッ
柳迫「えっ?」
一方「何でもねェよ。それよりまだですかァ?いい加減帰ンぞ」
柳迫「あと20分!」
一方「ガッツリ待たせる気満々じゃねェかコノヤロォ……帰る」スクッ
ハシッ
一方「!」
柳迫「お願い……」ジッ
一方「」
柳迫「……………」ウルウル
一方「ハァ………20分だな」ドサッ
柳迫「うん!」
一方(ヤレヤレ………大概甘ェよなァ、オレもよォ)
一方「ところで今日ツレはどォしたァ?」
柳迫「美偉のこと?今日は風紀委員の仕事があるからまだしばらく帰ってこないはずよ」
一方「あっそォ……」
柳迫「………こ、コーヒーでも飲む?」スクッ
一方「あァ、悪ィ」
柳迫「じゃあ、少し待ってて」トテトテ
一方(どォも様子がおかしい………何なンだァ、一体?)
柳迫「……どうぞ」コトッ
一方「おォ………ウメェ」ズズー
柳迫「タダのインスタントだけど」
一方「インスタントもバカには出来ねェンだぜ?」
柳迫「そうなの?」
一方「『コーヒーメーカーには最大の欠点がある。インスタントコーヒーの味を再現できないことだ』
って言いきった物理学者がいるらしいぜ?」
柳迫「それは好みの問題じゃ……」
20分後
一方「オイィもう20分経ったンですけどォ?」
柳迫「もうすぐだから……」アワアワ
~~~♪
一方「あン?何の音だァ?」
一方(ってか、この電子音のメロディ…………)
柳迫「できた!」スクッ
一方「はァ?」
柳迫「すぐもってくる!」
一方「オイ………まさか……」
ドンッ
一方「オイ、これは一体何だ」
柳迫「えーと…………一応、シフォンケーキ」テヘ
一方「見りゃァ分かる。オレが聞きてェのはそォいうことじゃねェ」
柳迫「な、なーんのことかしら?」
一方「………どォやって作った?っていうか、何を使って作ったァ?」
柳迫「!」ギックゥ
一方「答えろ」ギロッ
柳迫「………………………………す、炊飯器」
一方「」
柳迫「こ、この間黄泉川先生に教えてもらってね?炊飯器料理の中でも一番簡単なものの一つだって聞いて、
私にもできるかなーと思って試しに作ってみたの!」
一方「ホォ…………」
柳迫「それでね、せっかく作るなら誰かに食べてもらいたいなー、っていうか…………
」
一方「?」
柳迫「…………あ、あなたに食べてもらいたいなー、なんて」カァァァ
一方「…………」
一方(えェー、何コイツ超カワイイ。抱きしめてェ…………………言わねェけど)
一方「なるほど、毒味か」
柳迫「せめて味見って言ってよ!」
柳迫「もういいもん…………美偉と二人でモソモソ食べるもん…………」
一方「誰が食わねえっつったァ」
柳迫「ふえ?」
一方「ホラ、速くよこせ。腹ァ減ってンだ」
柳迫「…………うん!」
一方「」モグモグ
柳迫「ど、どう?」
一方「………」カチャ
柳迫「……………」ドキドキ
一方「………………………56点」
柳迫「微妙に低い!!」
一方「何だァ?このボッソボソのスポンジはァ。シフォンはフワフワ・サクサクが基本だろォが」モグモグ
柳迫「うぅ…………しかもやたら具体的だし……」
一方「だがちゃンとダージリンの香りがきいてるのは、まァ合格だな」モグモグ
柳迫「やめて!その優しいフォローが心に刺さる!!」
一方「フン………」モグモグ
柳迫「も、もう食べなくていいから!おいしくないでしょ?」
一方「残念でしたァ。出された食いモンは全部食べる主義なンですゥ」モグモグ
柳迫「うう、イジワル……」
一方「ってかよォ」
柳迫「?」
一方「オマエが一生懸命作ったモン残すワケねェだろ」モグモグ
柳迫「!」
柳迫(この人は……ホンットにもう!)
一方「………ごちそォさま」カチャ
柳迫「……お粗末さま」
一方「味は悪くねェ。やっぱ問題はスポンジだな」
柳迫「…………精進します。うーんやっぱり普通に作るのとは勝手が違うなー」ポリポリ
一方「ちょっと待て…………今何つった?」
柳迫「え?普通にオーブンで作るのとは違うなって」
一方「普通に作れンのかよ!なら最初っからそうしやがれェ!」ビシッ
柳迫「だめよ!炊飯器で作れるようにならないと!」
一方「意外に強情だなオマエ!何でそこまで炊飯器にこだわンだよ!」
柳迫「!…………い、言えない」
一方「ホホォ……このオレに隠し事たァイイ度胸だなァオイ」スクッ
柳迫「これだけはホントにムリ!お願い!」
一方「聞きませェン。今日の分のオマエのオネガイは終了でェす」ズイッ
柳迫「うう、そんな殺生な……………………わ、笑わない?」
一方「あァ笑わねェ。だからサッサと吐いてラクになりやがれェ」
柳迫「…………あ」
一方「あ?」
柳迫「あなたのか、家庭の味だから…………」
一方「ハイィ?」
柳迫「あなたは普段黄泉川先生の炊飯器料理を食べてるでしょ?だから私も覚えなきゃって思って……」
一方「何でェ?」
柳迫「………………そこまで、言わせるの?」ジッ
一方「………………あァ、言わなきゃ分かンねえからな」ニヤッ
柳迫(ウソ!絶対ウソ!分かってるくせに!!)
一方「で?どうしてオマエがあの得体の知れねェ錬金術みてェな料理覚えなきゃいけないわけ?」
柳迫「うううぅ……………じゃあ……耳、貸して」
一方「あァ?仕方ねェ」
ギュッ
柳迫「ふぁ!!?」
一方「ホラ、耳貸したぞ。早く話せ」ギュー
柳迫「いや、これは私の知ってる『耳を貸す』体勢ではないような………」
一方「相手の口元に耳を寄せればどんな体勢だろォが関係ねェだろ」ギュー
柳迫「だからって、コレは…………」///
一方「あァもォうるせェうるせェ。……―――――」
柳迫「え?」
チュッ
柳迫「!!!!!」
一方「ハイ時間切れェ」
柳迫「…………またやられた……」カァァァ
一方「ハッ、オレから一本取ろォなンざ10年早ェ」
柳迫「!…………どうしてわかったの?」
一方「どォしてでしょォねェ」シレッ
柳迫「イジワル…………」
一方「心配すンなァ、自覚はある」キリッ
柳迫「もう、キライ!」
一方「オレは好きだけどォ?」
柳迫「!!!…………ズルイよ」///
一方「それも知ってる」ニッ
------------------------------------------------------------------------------------------
16:15 女子寮・エントランス
一方「じゃァな」
柳迫「うん、またね」
一方「…………なァ」
柳迫「うん?」
一方「また今度ウチ来い」
柳迫「え?」
一方「オマエにホンモノのシフォンケーキってヤツを食わせてやるよォ」
柳迫「やめて!コレ以上私のプライドを傷つけないで!!」
一方「違ェ。打ち止めが会いたがってンだよ。『碧美お姉ちゃン、今度はいつ来るの?』ってうるせェから顔出せ。アイツも喜ぶ」
柳迫「………そっか。わかった。私も打ち止めちゃんに会いたいし、またお邪魔するね」
一方「まァ一番喜ぶのはオレですけどォ」
柳迫「またそういうこと言う!」
一方「じゃ、また来るわ」ツカツカ
柳迫「もう来んな!!」プンプン
一方「フン…………」ニヤッ
柳迫(…………………あのとき)
――――花嫁修業ならオレが仕込ンでやるよ―――
柳迫(どどどどどどどういう意味!?っていうか花嫁って!!)
柳迫「…………やっぱり、ズルイよ」クスッ
------------------------------------------------------------------------------------------
16:23 第7学区 黄泉川のマンション
一方「戻ったぞォ」ツカツカツカツカ
打止「おかえりー!あのね、今日垣根のお兄ちゃんにね!」
一方「悪ィ、晩飯まで部屋にこもるから話しかけンな」ツカツカツカツカ
打止「もう、ちゃんと聞いてよー!ってミサカはミサカは杖持ちとは思えない早歩きのあなたに食いさがってみたり!」
一方「」バタムッ
打止「あ」
打止「…………顔が真っ赤っかだけど何か……あったみたいだね」ニヨニヨ
とある男女の花嫁修業 終わり
667 : ツンギレ彼氏 ◆r4vICyDKLo - 2011/07/08 02:42:19.70 bfhbDsr10 464/694以上です。
読んでくださってありがとうございます。
この二人を書くときだけ異常に筆の滑りがいいです。
っていうか誰これ。
このスレも残り3分の1になりました。
2スレ目行くか……?
------------------------------------------------------------------------------------------
同日 17:13 垣根のマンション
(♪ 目を覚ませば 三十本の光の束の ♪)
(♪ 言い訳たちをただもてあそぶ 時間がゆるす限り ♪)
垣根「いっつ………あの野郎、本気で殴りやがって。ちょっと腫れてんじゃねえか」ペタペタ
公園での一件の後、フラフラになりながらも何とか自宅に帰りついた垣根は、
上条に殴られた顔の傷を自分で手当てしている。
同時に、上条からぶつけられた言葉の数々を反芻していた。
上条『ふざけんな!!!そんなもん全部お前の思い込みじゃねえか!!!』
上条『お前がクズであろうと何であろうと、お前がその笑顔を守りたいって思った気持ちはまぎれもなく本物だったはずだろ!』
上条『そんだけの覚悟があるなら、こんどこそお前の大事にしたかったものを守って見せろよ!』
垣根「クソッ、勝手なことばかり言いやがってよ」
(♪ 何百回繰り返した後で もう一回始まっていく ♪)
(♪ 泣いてるの? 笑ってるの? ってもうたくさんだよ ♪)
部屋の中では先ほどからCDがずっとリピート再生されている
同じナンバーを再生し続けるプレイヤーのように、
垣根の思考は堂々めぐりを繰り返していた。
垣根(今更どのツラさげて会えばいいんだよ…………)
上条の叱責と拳は確かに垣根のよどんで凝り固まった妄執に楔を打ち込むことに成功した。
しかし垣根はいまだに踏ん切りをつけることができない。
その理由は―――――――
垣根(…………アイツの顔を見るのが、怖ぇ………)
脳裏を彼女の顔がよぎる。
そのたびに、垣根は言い様のない胸の痛みに襲われる。
時に刺すように。時にしめつけるように。
正体のわからない疼痛が、垣根を苛んでいた。
今まで誰にも頼らず、たった一人で生きてきた垣根には、まだ分からない。
その痛みの意味するところも、自分が何をなすべきなのかも。
(♪ 僕らは声が枯れるまで 存在し続けるんだよ 太陽に背を向けながら ♪)
(♪ あなたの声が痛いほどに突き刺さるから ♪)
(♪ どうにも思い通りに進まない 少し黙ってよ ♪)
垣根(チッ、こっちまで知ったようなことを…………)
歌詞の内容を今の自分にだぶらせ、思わず悪態をつく垣根。
そのとき、
グゥ
垣根「……………腹減った」
そういえば遅めの昼食を喫茶店で打ち止めと済ませてから何も口にしていない。
どこか適当なところへ食べに行こうかと一瞬思ったが、いまから外出するのはおっくうだ。
何よりこのみっともない顔で人前に出るのは憚られる。
垣根「……買い置きが何かあんだろ」スクッ
ありもので何か作ることに決めた垣根は台所へ向かった。
しかし、
垣根「…………………………ウソだろ、何もねえ」
冷蔵庫の中身はおろか、普段絶対に切らすことのないマカロニなど各種パスタさえも底をついていた。
こもりがちだったここ数日の間に食料のストックを使いきってしまっていたようだ。
残っているものといえばペットボトルの緑茶や牛乳といった飲み物類と調味料くらいだ。
垣根「マジかよ……どっちにしろ買い物行かなきゃなんねえじゃねえか。
朝の食パンもねえとか………」ハァ
垣根は、冷蔵庫が空になるまで気づかなかった自分に呆れるやら、
買出しにすら出られなかったことが情けないやらで思わずため息をついた。
垣根(仕方ねえ………メンドくせえが買い物行くか。ついでにアンカバ2買ってこよ)ゴソゴソ
意を決した垣根はいそいそと支度を始める。
久しぶりにいつものCDショップへよって帰ることにした。
垣根「じゃ、誰もいないけどいってきまーす、っと」
バタムッ
…………………………
(♪ 世界が 変わる夢をみたよ ♪)
(♪ だけど今日も ひとりぼっち ♪)
(♪ 救済の 崇拝は 粉砕で こぼれおちた ♪)
垣根はステレオを消し忘れたまま家を出てきてしまった。
そうして入れっぱなしのアルバムは、またはじめからトラックを再生し始める。
垣根自身の『物語』のように。
リピートは、まだ終わらない
------------------------------------------------------------------------------------------
17:42 第7学区 路上
垣根「卵、ケチャップ、マカロニ、スパゲッティ、ベーコン、その他日持ちのしそうな保存食………よし、コレで当分大丈夫だろ」スタスタ
垣根は左手に下げた買い物袋の中身を確認しながら例のCDショップに向かっていた。
第7学区の大通りの片隅にその店はある。
『本物の音楽をとどける』をモットーにするその店は、
最新のヒットチャートから売り出し中のバンドまで幅広く取りそろえており、
音楽好きの一部学生の間ではそれなりに知られた店であった。
だがその店を知る学生たちは、場所は知っていても
『あの店』とか『例の店』などと名前をぼかして呼ぶ。
というよりも、その店の「現在の」名前を正確に知る学生の方が少ないのだ。
その理由は―――――――――――
垣根(………着いた)
オーディオショップ『Smile of Darkness』
垣根「なるほど、今度はそういう名前ね」
定期的にその店の名前が変わるからである。
垣根(つーか何だよ『暗黒微笑』って。厨ニ病じゃあるまいし……いや、そうとも言い切れねえな)
垣根は常に胡散臭さを漂わせている店主の顔を思い浮かべた。
普段はアルバイトにまかせっきりでほとんど店にいない癖に、
突然ふらりと帰ってきたかと思ったら
『名前なんかに縛られてたら本物のミュージックは届けられねえ!』などとワケの分からないことを言いながら、
新しい看板を自分で描いて勝手に掛け替え、そしてまた忽然といなくなるのだ。
たまたま店にいるときに買い物に来ると、やたらフレンドリーに絡んできて鬱陶しいことこの上ない。
そう言う訳で、この店の名前が学生の間で定着することはない。
定着する前に店名が変わってしまうからだ。
垣根(営業許可とかどうなってんだ………?)
本来ならば垣根もこういったエキセントリックな人種との付き合いは御免被りたいのだが、
ほしいCDは必ず発売日1日前に手に入る貴重な店であるため、
あの胡散臭いオヤジのことは「仕入担当兼看板職人」だと思って割り切ることにしていた。
ウィーン
店員「いらっしゃいませー。………あ、お久しぶりです」
店に入るとアルバイトの店員が棚の補充をしていた。
普段店にいないバカ店長の代わりに店を回している彼とはすでに顔なじみだった。
垣根「あ、ども。オヤジはいないんスか?」
店員「………ええ、いつも通り」
やはりあのバカ店長はいないらしい。
おそらくいつもの通りどこかのライブハウスで将来有望なバンドの青田買いに励んでいるのだろう。
胡散臭いが、音楽に対しては真剣な中年である。
垣根「そっスか。そりゃよかった………………で、今度の看板はいつ?」
店員「3日前に。何でもインターネット掲示板の過去ログを見て閃いたとか」
垣根「何やってんだか………………」
逆に言えば、音楽以外のことは恐ろしく適当なのだが。
店員「まあ、店長ですから」ニコッ
何でもないことのように微笑む店員。
そこには何か達観のようなものすら浮かんでいた。
その境地に至るまでどれほどの苦労があったのか、あえて垣根は考えないことにした。
その方が互いのためだと判断したからだ。
店員「それより、何かお探しですか?」
垣根「あ、ああ。TMのアンカバ2ってもう出てると思ったんだが……」
店員「T. M. Revolutionの『under; cover 2』ですね?多分まだ在庫があったと思いますけど……
あ、いけない。レジにお客さんが…ちょっと失礼します!」タタタ
店員は並んでいた別の客に応対するためにレジの方へ行ってしまった。
あとで在庫を調べてくれるらしい。
垣根「マジかよ………予約しときゃよかった……」トホホ
店員「申し訳ありません。お取り置きしておこうかとも思ったんですが、店長があまり一部の客を特別扱いするなというもので………」
垣根「あの不良中年、余計なところで商売人の鑑だなコノヤロー………」
店員「今からですとご注文と言うことになりますが、よろしいですか?」
垣根「んじゃ、それでお願いします」
店員「かしこまりました。ではレジまでお願いします」
店員に促されてレジへ向かう垣根。
店員「……そういえばさっきのお客様、UNISON SQUARE GARDENのアルバムもおさがしでしたよ」
垣根「へぇ………オレみたいッスね」
店員「ええ、私もそう思いました」
―――――――――――――ホントに妙なめぐり合わせだ
垣根は一人ごちる。
まさか最後の一枚をタッチの差で他の客に持っていかれるとは思わなかった。
しかもその客が探していたもう一枚がユニゾンとは。
聞けばそのアルバムは垣根が先ほどまで自宅で聴いていたものだった。
奇妙な符合もあったものである。
垣根(ひきこもってる間に売り切れとかだったら笑えねえぜ……)
この店は個人経営の店としてはケタ違いの品ぞろえを誇っているが、店舗の規模に対して
取り扱う商品の種類が多すぎるため、結果1種類当たりの入荷量を抑えざるを得ない。
またこの店では新譜ならば確実に発売日の1日前には店頭に並んでいる。
そのため油断してるとすぐ売り切れてしまうのだ。
以前にもCDの発売日を3日間違えて覚えていたために初回限定版が手に入らなかったことがあった。
垣根「…………さっきの客が持ってたヤツが最後の一枚だったりしてな。もしそうなら恨むぜカミサマ。
…………………らしくねえか」ククッ
繰り返すが、垣根はこの科学の庭の住人の大多数と同じく無神論者だ。
垣根にはすがる神も、ましてや呪う神もいない。
だが、
店員「…………申し訳ありません!先ほどのお客様にお買い上げいただいたのが最後の1枚だったみたいで……」
垣根「やっぱりな!!」
自分のめぐりあわせの悪さに思わず叫びたくなることくらいある。
垣根「で、そっちも買っていったんスか?」
店員「それが今ちょうど売り切れてまして。とても残念そうにしておられました」
垣根「………………そっスか」
―――――――――――ツイてねえのはお互い様だったか。
垣根は顔も知らないその客に心の底から同情した。
結果的に、互いに自分のほしかったものを取りあう形になってしまった。
世の中は皮肉に満ち溢れている。
やはりこの世にカミサマなんかいない、いてたまるかと、垣根はとりとめのないことを考えていた。
店員「ではこちらの用紙にご記入お願いいたします」スッ
レジカウンターに案内された垣根は渡された注文用紙に記入を始める
控えを受け取り、出口へ向かう。
―――――――――――今日は厄日だな。
上条には思い切り殴られ、食料はなくなり、挙句の果てに目当ての商品は手に入らなかった。
半分以上は自業自得とはいえ、不平の一つも言いたくなる。
こんな自分を見ても、あの銀髪のシスターは『信じる者は救われる』と言うのだろうか。
いや、きっとそう言い切れるからこそ、彼女は強く、そして優しいのだろうと垣根は結論付けた。
―――――だが、
同時に、垣根は考える。
―――――――――シスターちゃんは否定してたが、
―――――もしも、人の運命をこねくりまわす『カミサマ』ってヤツがいるのだとしたら………
固法「垣根……………さん………?」
―――――――――――――ソイツはよっぽど性格の悪いヤツに違いねえ。
垣根は一瞬振り返ることができなかった。
否、動くことができなかった。
背後からかけられたその声は、もう二度と聴くことはないと思っていたものだったからだ。
垣根はゆっくりと声のした方へ振り返った。
すると、
固法「今までどこで何してたの!?」
いつの間にか眼前に詰め寄った固法が垣根の視界を独占していた。
垣根「よ、よう。久しぶり…」
固法「久しぶりじゃないわよ!あの日から電話もつながらないし、メールも帰ってこないし……!」
固法は大声で垣根を問い詰める。
余りの迫力に、店内にいた他の客の視線は垣根たちに集まり始めている。
垣根は興奮している固法を何とかなだめようとした。
垣根「わ、悪かった。ちょっと携帯の調子が悪くてよ。連絡無視したのは謝るから落ち着けって…」
固法「落ち着けるわけないでしょ!?」
結果は、全くの逆効果だったのだが。
状況はますます悪化する一方だ。
店員「」ニコニコ
垣根(……やべえ!店員の兄ちゃんがこっち見てる!)
顔はいつも通りニコニコ笑っているように見えるがよく見ると目が笑っていない。
彼があの顔をしているときは怒りが爆発する一歩手前だ。
『以前店内で大声で騒いでいたチンピラ達を、笑顔のまま眉ひとつ動かさずに畳んで縛って燃えないゴミの日に出しやがった』
とバカ店長から聞いたことがある。
あのいい加減な中年の言うことを真に受けるわけではないが、
それくらいはやりかねない、と思わせる剣呑さが感じられた。
垣根(このまま店内で騒いでたら………最悪殺される!)
生命の危機を感じた垣根は、
固法「私がどれだけしん……ッ!」ムグッ
垣根(すまねえがちょっと静かにしてくれ)シーッ
実力行使に打って出た。
固法(………ッ!)ムグムグ
固法はいきなり口を手でふさがれ、目を白黒させている。
垣根はコレ以上店員を刺激しないように固法に語りかける。
垣根(コレ以上騒いだら殺され……店に迷惑だろ?とりあえず外に……な?)ヒソヒソ
固法(…………ッ!!)コクコク
垣根(よし。じゃあ一旦出ようぜ)ソソクサ
垣根は固法を連れて足早に店を出る。
ウィーン
店員「ありがとうございましたー♪」ニコニコ
店員のにこやかな挨拶が、やけに空々しく聞こえた。
------------------------------------------------------------------------------------------
同日 17:56 第7学区 路上
垣根「……落ち着いたか?」
固法「……ええ。取り乱してごめんなさい」
垣根(………………ビビったのはこっちだっつーの………)
垣根「あ、ああ。しかしめずらしい所で会うモンだな。そこまで有名な店じゃねえはずだが」
固法「後輩の友達の女の子に教えてもらって……」
垣根「なるほどね……ソイツか?さっき買ったのは」
固法「え、ええ」
固法の手元にはあのCDショップの紙袋があった。
ご丁寧に3日前に変えたばかりの店名のロゴまで入っている。
相変わらずいい加減なクセに芸の細かいオヤジだ。
垣根「あの店ならたいていのモンは手に入るからな。何買ったんだよ?」
固法「これ?」
ゴソゴソ
固法「先週発売したT. M. Revolutionの『under; cover 2』を」
垣根「アンタだったのかよ!」
固法「えっ?」
垣根「あっ、いや………それ、最後の一枚だったらしいんだよ。オレもそれを買いに来たんだがあと一歩で……」
垣根(さて、これからどうする……)
垣根(っていうかこのタイミングでコイツと鉢合わせるとか運悪すぎだろオレ。上条のこと言えねえじゃねえか)
垣根(うわーやべえ。今顔が引きつってない自信がねえ。ってか帰りてえ……ん?)
垣根「っつーことは、ユニゾンのアルバム探してた客ってのもアンタか?」
――――――何フツーに会話続けてんだ!!さっさとバックレろよオレ!
固法「ええ、そうだけど……どうしてそれを?」
垣根「いや、店員の兄ちゃんが言ってたから。在庫なかったんだろ?」
固法「ええ……あそこならあるって聞いてたんだけど」ショボーン
――――――ああ、そいつは残念だったな。それじゃ適当なところで切り上げて………
垣根「………そのアルバムならウチにあるぜ」
固法「え?」
――――――オイィ!何を口走ってんだオレは!!
脳内の思考と口から飛び出すセリフがかみ合っていなかった。
店を出た時から、垣根は早く話を終わらせてこの場を立ち去ることばかり考えている。
しかし口を衝いて出る言葉は、話を打ち切るどころか彼女を引きとめるようなものばかりで。
垣根「ああ。さっきまで家で聴いてたし。聴きてえなら今度貸してやるよ」
固法「本当?」
垣根「オレがアンタにウソついたことがあるか?」
固法「ありがとう!」
彼女の顔を見るのもつらいはずなのに、もっとこうやって話していたいと思う自分が居たのも事実だった。
――――――どうしちまったっつーんだよ…………
それでもまだ、垣根は気付かない。
常識の通用しないその感情の、本当の名前に。
固法「ところで垣根さん、その荷物は?」
固法は垣根がぶら下げている買い物袋を指差した。
垣根「これか?食料の買い置きが無くなったから買出しに行ってきたんだよ」
固法「何だかやけにパスタ類が多いような気がするけど」
垣根「米より調理時間がかからねえからな」
固法「偏食してると体調崩すわよ?」
垣根「あいにく料理は得意じゃなくてな。腹が膨れりゃ何でも食うさ。
誰かが作ってくれんなら話は別だけどよ」
固法「………」
――――――――――――潮時だな。
垣根「じゃあオレはここで失礼する」クルッ
そう言って垣根は固法に背を向けて歩き出した。
垣根「悪いな、送ってやれなくて。腹が減って死にそうなんだ」スタスタ
思えば、
この瞬間に全速力で、
たとえ袋の中の卵が全滅しても走って立ち去るべきだったのだ。
固法「待って!!!」
呼び止められた。
もう何度目だろう。
彼女に背中から呼び止められるのは。
垣根「…………何だ?」
垣根は振り返ることなく答える。
固法「あっ、いや、その…………」
垣根(まさか今更この間の件でしょっぴくつもりじゃねえだろうな?)
垣根の脳裏を、路地裏の一件がよぎった。
結局自分はあの一件の落とし前をつけていない。
あの後どう処理されたかは垣根の知るところではないが、真面目な彼女のことだ。
逮捕とまではいかなくても事情聴取くらいは求められるかもしれない。
――――仮にそうだとして、どんな手を使ってでも逃げ切るつもりだけどな。
――――しかし最初からそのつもりなら悠長に世間話なんかするか?
垣根はあらゆる答えを想定し、シミュレートする。
だが彼女が次に放った言葉は、
固法「わ、私が作ります」
垣根「…………は?」
固法「だから、私が作ります!垣根さんの晩御飯を!」
垣根「はぁ!!!?」
垣根の予想の遥か斜め上を行くものだった。
垣根「いきなり何言い出すんだアンタ!?」
固法「だって垣根さん言ったでしょう?『誰かが作ってくれればいいのに』って」
垣根「アレはそういう意味で言ったんじゃねえ!それならどっか適当な店に入るわ!!」
固法「買い物袋をさげて?」
垣根「うっ!」
涼しい顔で痛いところを突いてくる固法。
ただでさえ予想外の展開に泡を食っている垣根は冷静に対処することができなかった。
垣根「いや、でも申し訳ねえし……」
固法「それじゃあ、代わりにさっき言ってたCD貸してくれない?それでおあいこってことでいいでしょ?」
垣根「だけどよぉ……………」
固法「…………」ジッ
垣根「うぐっ!!」タジッ
突然固法は言葉を切ってまっすぐ垣根を見つめていた。
二人の間には結構な身長差があるため、自然と固法が垣根を上目遣いに見上げる形になる。
心なしか頬が上気し、その目はうるんでいるようにも見えた。
垣根(ここでその顔は反則だろ…………)
垣根はこれまでの経験上、固法が狙ってこういうことができる人間ではないことを知っている。
それゆえに、彼女は常に真剣だ。
恐らく、垣根がこれ以上何を言っても彼女は自分の意見を曲げないだろう。
だからこそ、
垣根「……………………わかった。そこまで言うなら、頼む」
固法「!……ええ!」ニコッ
垣根は、ようやく負けを認めた。
------------------------------------------------------------------------------------------
18:12 垣根のマンション
ガチャガチャ
垣根「んじゃ、上がってくれ」
固法「お、お邪魔します」
固法は垣根に案内されるまま、垣根の自宅に足を踏み入れた。
(♪ 見つからないよ絶対に 僕の隠し事は絶対に ♪)
(♪ 夢の中ではいつも 伝えられるんだけど ♪)
垣根「あ、やべ。ステレオ消すの忘れてたぜ」
固法「…………」
垣根「……ん?どうした?」
固法「……広すぎじゃないかしら、この部屋?」
タワーマンションの25階。
そこが垣根の住居である。
間取りにして5LDK。
学生の一人暮らしには贅沢すぎる代物だった。
固法「一体家賃とかいくらするのかしら………?」
垣根「あまり考えたことねえな。悩むような金額でもなかったしよ」
固法「絶対に間違ってるわ、その金銭感覚」
学園都市では、学生たちの能力強度(レベル)によって奨学金の支給額が大きく異なる。
この街の頂点に位置する超能力者ともなれば、その額は相当なものになるのだろう。
強能力者である固法もそれなりの額を支給されているが、恐らく垣根のそれの足元にも及ばないだろう。
固法「あまり若いうちから贅沢するものじゃないわよ?」
垣根「金は天下の回りものって言うだろ?大体オレの一個下だろ、アンタ」
固法「そういうこと言ってるんじゃないの」
垣根「ヘイヘイ、分かりましたよ」
固法「もうっ………じゃあ、キッチンお借りするわね」
垣根「ああ」
固法は荷物を持った垣根の後ろについてキッチンに向かう。
こちらも部屋のグレードに見合った豪華なシステムキッチンだったが、あまり使われた形跡はない。
固法(料理が得意じゃないっていうのは本当なのかしら)
しかし、作りつけのガラス棚に納められた食器や調理器具はどれも外国製の高級品ばかりだ。
どれも『料理が苦手な』人間の持つようなものではない。
固法「ル・クルーゼのホーロー鍋にゾーリンゲンの包丁…………垣根さん、料理は苦手なはずじゃ……」
垣根「う、うるせえ!オレは何事も形から入る主義なんだよ」
固法「そして入っただけで満足するタイプね……」ポソッ
垣根「何か言ったか?」
固法「いいえ、何も?……そうだ、冷蔵庫の中のものも少し使っていいかしら?」
垣根「いいぜ。使えるモンがあったら使ってくれ」
固法「ありがとっ」
垣根の了解を得た固法は冷蔵庫の扉に手をかけたところであることに気がついた。
固法(本当に黒いんだ……)
垣根がいつか言っていた通り、冷蔵庫の外装は一般的なそれとちがい真っ黒に塗られていた。
気になって部屋を見渡すと、他の家電製品も白いものは一台もなかった。
固法(すごいこだわり方ね……)
最近は白物家電といっても様々なカラーリングが展開されてはいるが、
ここまで徹底されていると何か執念めいたものを感じざるをえない。
そういえば、垣根は白くて大型の家電が好きではないようなことを言っていた。
…………一体何が彼をそこまで駆り立てるのだろうか。
固法(………いつか話してくれるかな)
あの時の垣根も、あまりそのことについて多くを語ろうとしなかった。
垣根の意思を尊重し、固法も無用な詮索をしないことにした。
垣根「ロクなモンがなかったはずだが…………ん?まてよ………?あっ!」
リビングの片づけをしていた垣根が何かつぶやいた。
そのつぶやきが固法に届くことはなく、彼女が冷蔵庫の扉にかけた手に力を込めたそのとき。
垣根「ま、待て!やっぱそこは……!!」
血相を変えた垣根がキッチンに駆け込んできた。
が、時すでに遅く。
固法「~♪」ガチャ
………確かに冷蔵庫の中には、ほぼ空と言っていいほど物が入っていなかった。
特に生鮮食品は、先ほど補充した卵以外何も入っていない。
しかしそのなかで、ドアポケットに入っていたあるものに固法は思わず目を奪われた。
なぜなら、
固法「…………………ムサシノ牛乳?」
その2本並んだ1リットル入りの紙パックには、彼女にとってあまりにもなじみ深いロゴがプリントしてあったからだ。
垣根「っ~~~~~~~~~~~~~~~!!!」バターン!
垣根は冷蔵庫に駆け寄り、力の限り扉を閉めた。
垣根「ちっ、違うぞ!断じて違う!!コレはたまたま近所のスーパーで一番安かったヤツを買ってきただけで………!」
固法「…………」
垣根「決してアンタのために用意したとか、そんなんじゃねえからな!!」カァァァ
何も言っていないのに、顔を赤くしながら言い訳を始める垣根。
固法「……ふふふっ」クスッ
そんな垣根が可愛くて、似合わなくて。
固法は思わず吹き出してしまった。
垣根「………なにがおかしい!?」
固法「ごめんなさい……かわいいなあって思ってつい」クスクス
垣根「はぁ!!?」
固法「さ、すぐできるからあっちで待ってて」ニコッ
垣根「お、おぅ………」
ガチャッ
固法「……垣根さんって粉チーズ冷蔵庫に入れる派なのね」
垣根「もうそこは開けるな!」
―――――――――どうしてこうなった。
固法が料理をしている間、垣根は思い切り散らかったリビングの片づけをしながら
この意味のわからない状況について考えていた。
他人をこの部屋に入れたのは今日が初めてでは、ない。
上条や一方通行は何度も来ているし、その二人と一緒にインデックスや打ち止めがついて来たこともある。
だが、この家で異性とふたりきりになったことなど今まで一度もなかった。
そんな重大イベントをこのような形で迎えることになろうとは、さすがの垣根も想像していなかった。
しかもその相手が固法とは一体何の因果なのか。
垣根(っつーか普通にあり得ねえだろこの状況……何でコイツ当り前のようについて来るんだよ……)
垣根(公園で説教したこと覚えてねえのか…………?)
「あの日」、夜の公園で垣根は固法の無防備さをたしなめた。
他人をむやみに信用するな、特に男には気をつけろと釘を刺したはずだったのだが、
現在彼女はなぜか我が家のキッチンで自分の夕飯を作っている。
固法「……あっちこっち♪」ジュー
垣根(なんか鼻歌まで唄ってるし)
垣根の心中を知ってか知らずか、
彼女は変わらずに笑っている。
――――「あの日」の路地裏を忘れたかのように。
垣根(マジで何がしてえんだこの女………)
垣根(………このオレが、怖くねえのか…………?)
今の垣根には、フライパンに向かう固法の背中を黙って見守ることしかできなかった。
------------------------------------------------------------------------------------------
15分後
固法「お待ちどうさま」
垣根「お、おう」
一足先にテーブルについて待っていた垣根のところへ、固法が二人分の皿をもってやってきた。
食堂にはすでに美味そうな匂いが漂っている。
固法「どうぞ」コトッ
垣根「おお、サンキュ…………おっ、カルボナーラか」
固法「卵と粉チーズがあったから作ってみたの。垣根さん、お腹空いてるみたいだから、これならさっと作れるしね」
垣根「……何か悪いな、そこまで気ィ遣わせて」
固法「気にしないで。さぁ、温かいうちに食べましょう」
垣根「あ、ああ」
垣根 固法「「いただきます」」
垣根「…………」モグモグ
固法「どう、かしら?」
垣根「…………………美味い」
固法「本当!?」
垣根「……世辞は言わない主義だ」
固法「よかった。本当はね、スパゲッティは飽きてるだろうから別のものにしようと思ってたの。
せめて小麦粉があればマカロニグラタンくらい作れたんだけど……」
垣根「いや、カルボだけで十分すげえよ。家でこんなまともなパスタ料理食ったことねえ」
固法「そうなの?」
垣根「普段のオレの食生活ナメんなよ?昨日なんかゆでたマカロニにケチャップかけて食ってたし」
固法「マカロニケチャップ!?」
垣根「イタリア人みたいだろ?」
固法「垣根さんは今すぐイタリア人に謝るべきね」クスッ
食卓で繰り広げられるとりとめのない会話。
垣根がおどけてみせると、固法は柔らかい笑顔を向けてくる。
変わらない笑顔を向けてくる。
そしてそのたびに、
―――――――――おかしいだろ、やっぱり。
垣根の心は、ざらりと波立つのだ。
なぜならその笑顔は垣根が何よりも大切にしたかったもので、
そして大切にしたかったがゆえに手放したものだったからだ。
―――――――無様ったらねえよなぁ、垣根帝督。
その彼女が今、自分の目の前で笑っている。
――――――自分(テメエ)の覚悟はこんなもんかよ。
垣根には、その状況がどうしても納得できなかった。
――――この程度で揺らぐほどのもんだったのかよ。
何より、その笑顔に安堵している自分が許せなかったのだ。
『もう何も望まない』
それが、自らを「クズ」と断じた垣根に残された最後の矜持だ。
この血にまみれた両手は、何も抱えることなどできない。
何も守ることなどできない。
だから垣根は逃げだした。
あの路地裏から。そして、彼女から。
あの時の垣根には、そうする以外の方法が見つからなかった。
二度と会わないつもりだった。
その覚悟も決めたつもりだった。
それが、それだけが、
欠けている自分に、「クズ」である自分にできる全てだと思っていた。
しかし。
彼女はそんなこと構うものかと言わんばかりに垣根の背中を追いかけてきた。
その結果、彼女は今も垣根の目の前にいる。
垣根は情けなかった。
偶然鉢合わせただけで揺らいでいる自分が。
固法の変わらぬ笑顔に、すがりつきそうになっている自分が。
それだけではない。
彼女を見ていると、感情の抑えがきかなくなるのが自分でも分かった。
あの日フタをしたはずの、なかったことにしたはずの感情。
だが垣根は同時に、
その感情がパンドラの箱であることを理解していた。
そのフタを開いたが最後、
飛び出した災厄と絶望が間違いなく固法を押しつぶす。
もしそうなってしまったとき、垣根には耐えられる自信がなかった。
――――――テメエの言うとおりだ、上条。
―――――どうやらオレは、どうあってもコイツには笑っててほしいみたいだ。
結局のところ、垣根の行動の指針となっているのはその一念だけだ。
それだけが、自分を「カラッポ」と称した垣根が手にした唯一の「本物」だった。
―――――――だから、今度こそ守る。
――――――クズにふさわしい、最っ低の方法でな。
------------------------------------------------------------------------------------------
20分後
垣根「………ごちそーさん」
固法「はい、お粗末様。食器片付けてもいい?」
垣根「いい。自分でやる」
固法「えっ?でも……」
垣根「自分で食ったものくらい自分で始末するさ。それにココ、オレん家」
固法「そう……じゃあお願いするわね」
垣根「ああ……あとリビングのソファにでも座っててくれ。コーヒー淹れるからよ」
固法「いえ、何もそこまで……」
垣根「いーからいーから。コイツの礼ぐらいさせろよ」
垣根は綺麗に平らげられた皿を指差しながら努めて明るく言った。
固法「……わかったわ」
それまでの口調と打って変わって急に声のトーンが明るくなった垣根を怪訝に思いながらも、固法はうなずいた。
そしてリビングに向かおうと振り向き、ダイニングの垣根に背を向けた瞬間、
垣根「――――――スキあり」
ガシッ
と、いきなり垣根が固法の腕をつかんだ。
固法「えっ?」
垣根「」グイッ
固法「きゃっ!」ドン!
そのまま垣根は固法を引き寄せ、壁に押し付ける。
固法「垣根さん、痛い……ムグッ」
垣根は片手で固法の両腕を拘束し、もう片方の手で口をふさぐ
垣根「アンタさぁ、ホント学習しねえのな」ボソッ
何が何だかわからない固法に垣根は耳元でそっと囁いた。
それは、ゾッとするほど冷たい響きだった。
------------------------------------------------------------------------------------------
―――――これでいい。これでコイツが、オレから離れれば。
それが、垣根の出した結論だった。
おそらくこのマジメな少女は、逃げ回るだけでは離れてはくれない。
ならば、彼女が自分から離れていくように仕向ければいい。
垣根「このマンションはな、全室完全防音になっててよ」
固法「…………!」
垣根「どんな大声を出したってだーれも気づかねえ。……どういう意味か分かるよな?」
固法「……」
垣根「たとえアンタが泣き叫んだって誰も助けに来ねえ」
固法「…………!!」ムグムグ
公園の時とは違う、これは本気の脅しだった。
これくらい脅しておけば、もう自分に寄ってくることはないだろう。
それが垣根の書いたシナリオだ。
―――「恐怖」という、よりにもよって垣根が最も忌み嫌う方法によって幕を引く最低の戯曲だ。
―――――――我ながら見事なまでのクズっぷりだな。泣けてくるぜ。
何より卑怯だと垣根が思うところは、選択の余地がない状況に追い込みつつ、
相手に決断を委ねるという点だ。
自分では終わらせることができないから。
この優しくもあたたかいうたかたの幻想〈ゆめ〉を。
垣根「オレ言ったよな?男は狼だって。オレも例外じゃねぇぞって」
固法「…………」
垣根「それだってのに人ン家に誘われるまま入ってきてよぉ……バカじゃねーのか?」
固法「………………」
垣根「……こうやってオレから襲われる可能性とか考えなかったワケ?」
固法「…………」ムグムグ
垣根「何とか言ったらどう……ああ、口を塞いでんのはオレか」ククッ
垣根は固法の口をふさいでいた左手を下す。
その口から飛び出す言葉は虚勢か嘆願か。
垣根にとってはどちらも同じことだ。
本気で抵抗してきたら離してやればいい。
それで、自分の『物語』はオシマイだ。
固法「…………どうして」
垣根「あ?」
しかし、固法が発した言葉は、
固法「どうして、そんな人を試すようなことをするの?」
そのどちらでもなかった。
垣根「試す……だと?」
固法「そう。垣根さんの恫喝は、人の反応を見て値踏みしてるような気がするわ」
垣根「オイオイ、アンタ自分の置かれた状況分かってる?」
固法は全くひるむことなく、まっすぐ垣根を見てそう言った。
思わぬ反撃にあい、垣根はかろうじて言い返したものの、声が裏返ったのが自分でも分かった。
だが、固法の態度は変わらない。
固法「まず第一に、私が男の人だったら、本当に乱暴するつもりなら壁に押し付けずに床に押し倒すわ」
垣根「……」
固法「そして第二に……」スルッ
垣根「あっ、てめ……っ!」
固法は、垣根が押さえていた手を振りほどいた。
固法「ほら、簡単に抜けられる。本気でおさえられたらこうはいかないわ」
垣根「………………」
全て図星だった。
床に組み伏せなかったのはそうしてしまうと彼女を逃がせないからだ。
腕を本気で押さえなかったのは抵抗したらすぐ解放出来るようにするためだ。
――――コイツ………
垣根は思わず唇を噛んだ。
垣根「………随分と見透かしたような口をきくじゃねえか。
さすがは透視能力者ってトコロか?」
動揺していることを悟られないよう、精一杯の軽口をたたく。
だがそれは無駄な抵抗だった。
固法「そういうわけじゃないけど……」チラッ
垣根「………………けど、何だよ?」
固法「…………人を見る目には自信があるの」
垣根「!!」
それは、いつか垣根が固法に言ったセリフだった。
―――――――何だ。
固法「……どうしたの?」
――――――何なんだコイツは。
固法「ひょっとして、この間のことを気にしているのかしら?」
――――――――どうしてコイツは、オレを恐れない?
固法「そりゃあ、垣根さんはいつも意地悪で、自信満々で、時々よくわからなくなるけど……」
―――――――やめろ。
固法「こんなの……」
―――――――ヤメロ!!
固法「こんなの垣根さんらしくないわ」
ブチッ、と。
垣根の頭の芯で、何かが切れる音がした。
垣根「…………!!」ガタッ
固法「痛っ……!」
垣根は無言で固法の肩をつかみ、力任せに床に押し倒した。
今度は手加減なしに、本気で襲いかかった。
垣根「…………えよ」
固法「えっ……?」
垣根「アンタまでそんな分かったような言うんじゃねえよ!!!」
固法「!」
垣根「何がオレらしくねえだよ!!アンタがオレの何を知ってるって言うんだ!あぁ!?」
垣根「アンタ知らねえだろ!オレが何をしてきたか!!オレがどんな人間か!!!」
そして、どれだけ血にまみれているか。
ひた隠しにしてきたのは、他でもない自分なのに。
垣根の叫びは続く。
垣根「それで何が『オレらしくねえ』だ!!ふざけんなよ!!!」
オレは……!アンタが思ってるような人間じゃない!!オレは…………!!」
―――――――オレはアンタのそばにいちゃいけないんだ!!!
固法「…………確かに」
垣根「あぁ!?」
固法「確かに、私は垣根さんの全部を知ってるわけじゃない。でもね、何も知らないわけでもないわ」
垣根「何を……」
固法「少なくとも、私の知ってる垣根さんは理由もなく女の子に手を上げない」
垣根「…………」
固法「理由もなくウソをつかない」
垣根「……」
固法「私は人の言葉より、自分の目で見たものを信じる」
そこで固法は言葉を切り、最早力の入っていない垣根の手に自分の手を重ねた。
固法「私の見てきた垣根さんは、不器用だけどとっても優しい人よ」ニコッ
限界だった。
垣根「くっ……そぉ……」ポロッ
固法「…………」
一度あふれた涙は止まることはなくて。
垣根「オレは…………!オレはっ…………!」ボロボロ
糸が切れた人形のごとく、垣根はうなだれて泣いていた。
固法は、そのそばを離れることはなかった。
------------------------------------------------------------------------------------------
19:07 リビング
垣根「さっきも言ったけどさ…………オレはアンタが思ってるような人間じゃねえんだ」
固法「……うん」
垣根と固法は、二人でリビングのソファに腰掛けていた。
普段垣根が寝台代わりに使っているそれは二人で座ってもかなりのゆとりがあり、
垣根は出来るだけ端に座って固法から顔をそむけていた。
泣いた顔を見られたくないからだ。
垣根「オレは……この街のドロドロした部分をイヤっつーほど見てきた。
オレ自身、ヨゴレ仕事に手を染めたこともあった」
固法「…………」
この期に及んでも、ハッキリと『人殺し』と口に出すのは憚られた。
だが固法は言葉のニュアンスで察してくれたようで、黙って垣根の話に耳を傾けていた。
垣根「クソみてえな生活だったよ…………文字通りこの街のどん底だったからな」
垣根「オレには何もなかった。夢も希望も、生きる意味ってヤツも。
あったのはクソ忌々しいこの『暴力』だけだ」
固法「………………」
垣根「オレにはコレしかなかった。この『暴力』と『恐怖』で相手を支配することしか知らなかったんだ」
固法「…………だから、あの時?」
垣根「!……ああそうだ。あの手合いを見ると未だに抑えが利かなくなる。
頭に血がのぼって、ソイツをぶちのめすことしか考えられなくなる」
垣根「自分より弱ぇヤツを力でねじ伏せる…………それはまぎれもねえオレ自身だからだ」
固法「…………」
垣根「オレは一度死んだ。正確には死んだも同然、っていうか、死んだ方がマシって状態だったんだけどよ。
オレはこのまま死んでも構わないと思ってた。それが、こんなクズにふさわしい末路だと思った」
だが、何の因果か垣根は生き残った。二人の『ヒーロー』によって。
手に入れた平穏は実に心地よかった。
今までの生活とは真逆の世界。
しかし。
垣根「でもさ、オレ自身は何も変わっちゃいねえんだよ。
いつまでもカラッポで、甘ったれたクズのままなんだ」
垣根「結局オレには、人を傷つけることしかできない。
…………それが今、たまらなくイヤなんだよ……」ギリッ
垣根には分かっていた。
力を振りかざす連中を薙ぎ払うが、八つ当たりの憂さ晴らしでしかないことが。
そしてその結果、本当に大事なものさえも傷つけてしまった。
だから、幕を下ろそうと思った。
その大事なものを壊してしまう前に。
垣根「オレのやってきたことは全部『逃げ』でしかねえんだ。
オレは自分の過去から逃げて、罪から逃げて………………」
固法「…………」
垣根「挙句の果てに……アンタからも逃げだしたんだ」
ひと時の静寂が二人を包んだ。
垣根は今度こそ全てを話した。
その結果出てきた言葉は情けない泣きごとだ。
垣根(ま、今更カッコつけても意味ねえしな……)
既に思い切り情けない姿を晒した後だ。
何を取り繕うことがある。
そう思って自嘲気味に薄く笑う垣根。
そこで、今まで余計な口をはさまず耳を傾けていた固法が口を開いた。
固法「…………逃げてなんかいないわ」
垣根「……え?」
その言葉は、垣根が全く予想しないものだった。
驚いた垣根は、思わず固法の方へ向き直った。
固法「だったら、垣根さんは何でそんなに悩んでるの?どうしてそんなに苦しんでいるの?」
垣根「………」
固法「申し訳ないけど、私には垣根さんの背負っている過去がどれだけ重いのかは分からない。
だけど、垣根さんがその重みを受け止めてるのは分かるわ」
何だろう。
この感じは。
この満たされていくような感覚は。
固法「自分の過去とキレイに折り合いをつけられる人なんていないわ。
私にも覚えがあるから、それだけは分かる」
固法の言うことは綺麗事だ。
少なくとも、垣根はそう思った。
なのに、
固法「だったら、その重さに付き合ってあげましょう?
垣根さんが、自分で納得できる日がくるまで」
彼女の言葉は、こんなにも胸に響くのだろう。
垣根「…………何にも解決してねえだろ、それじゃ」
固法「どうして?」
垣根「結局オレは、ずっと苦しまなきゃならねえ。
ずっと一人で、十字架を背負っていかなきゃならねえんだからよ」
固法「……一人じゃないわ」
垣根「!!」
固法「垣根さんの周りには私たちがいるわ」
垣根「………」
固法「だから、もう一人で抱え込むのはやめて。
人は、誰かに頼っていいの。ずっと一人でがんばる必要はないんだから」
なんて。
なんて月並みな結論だ。
だがその月並みでありふれた言葉こそ、
垣根が求めたものだった。
垣根「…………オレは、変われるのか………?」
固法「垣根さんの痛みや苦しみが、その証拠よ。
だから…………」
固法「その痛みや苦しみと一緒に、少しずつ前に進めばいい。
少なくとも私はそう思うわ」
垣根「…………!」
と。
それまで視線だけを固法からそらしていた垣根は、
今度は体ごと彼女に背を向けるように座りなおした。
固法「…………?どうしたの、垣根さ……」
垣根「……あんまり、見ないでくれ…………」
その肩と声は、小さく震えていた。
固法「今日は珍しいものが見れたわ。しかもニ回も」クスッ
垣根「テメエ…見るなっつってんだろ……」グスグス
固法「ハイハイ。じゃあ…………」
トンッ
と、垣根の背中に何か温かいものが触れた。
垣根「…………?」
固法「垣根さんが見るなって言うから。これなら、問題ないでしょ?」
固法は、垣根の背中に自らの背中を合わせて座っていた。
固法「垣根さんが帰れ、出ていけって言うまで、私はここにいるから」ニコッ
垣根「………………勝手に、しろ」
固法「ええ、そうさせてもらうわ」
二人は、ずっと背中合わせで座っていた。
何も言わず、何も語らず。
垣根の涙が止まるまで。
------------------------------------------------------------------------------------------
19:58 玄関
垣根「あー………だっせー」
固法「何が?」
垣根「テメエいけしゃあしゃあと……」
固法「フフフ……」クスクス
垣根「なあ、アンタ何かキャラ変わってねえ?」
固法「そうかしら?」
垣根「まあいいけど……そんなことより時間大丈夫か」
固法「残念だけど最終のバスはもう出てるわね。
でも歩けない距離じゃないし、問題ないわ」
垣根「………悪かったな、こんな時間までひきとめて。……!そうだ、オレが送ってやるよ」
固法「えっ?」
垣根「靴もってベランダまで来い」スタスタ
固法「え?え??」
ガラガラッ
垣根「……風はないな」
固法「垣根さん、私今猛烈にいやな予感がするんだけど……」
垣根「ヨイショ」ヒョイ
固法「ひあっ!?」
垣根「暴れるな。落ちんぞ」
固法「そんなこと言っても……」
固法(だってこれ……いわゆるお、お姫様抱っこじゃ……!)
垣根「しっかりつかまってろよ」バッサァ
固法「ま、待って!」
ダンッ
固法「イヤーーーーーーーーーっ!!!!」
------------------------------------------------------------------------------------------
20:05 第七学区・路上(固法・柳迫の学生寮前)
固法「怖かった…………」ドキドキ
「死ぬかと思った」と言わんばかりの面持ちで固法はそうつぶやいた。
垣根「いい眺めだっただろ?」
固法「それどころじゃないわよもうっ!…………でも、ありがとう」
垣根「!……あ、いや、礼を言うのはこっちだって。
ありがとな、今日は。あと……ごめん」
固法「……もう謝らないで。それじゃあ、またね」
そう言って寮へと歩き出す固法。
垣根「固法!」
気がついたときには、声を張り上げていた。
自分を何度も何度も呼び止めてくれた彼女を、垣根は初めて自分から呼んだ。
固法「?」
振り向く固法。
垣根「え、あ、その、何ていうか…………」
しかし呼び止めてはみたものの、うまく言葉が出てこない。
伝えたいことは、いくらでもあるというのに。
垣根は自らの内でどんどん大きくなる「ある感情」に戸惑っていた。
自分でひきとめておきながら垣根に、固法は微笑みながらこう切り出した。
固法「また……」
彼女にとってはいつもの約束のつもりだったのだろう。
だが、その言葉で十分だった。
固法「また作るから」ニコッ
垣根が閉ざした「フタ」を開くには、それで十分だった。
固法「じゃあおやすみなさ……」
ギュッ
気が付いた時には、抱きしめていた。
固法「!?」
垣根「」ギューッ
固法「かっ、垣根さん……?」
一度開いたフタはもう戻らない。
もう、この気持ちはごまかせない。
だがその全てを今この場で言葉にするには、
垣根はあまりに遠回りをしすぎてしまった。
固法(何?何何何!?どういうことなのコレ!?)
垣根「………………固法」
固法「ふえ!?」
だから垣根は固法を抱きしめたまま、絞り出すような声で一言だけささやいた。
「ありがとう」
抱擁とその短い言葉に、思いのすべてをこめて。
固法「か、きねさ……」
垣根「………………じゃあ、またな」
そう言うと垣根はすぐに踵を返して立ち去った。
表情は見えなかったが、その長めの金髪からのぞいた耳は真っ赤だった。
------------------------------------------------------------------------------------------
20:12 固法・柳迫の部屋
ガチャッ
固法「」
柳迫「美偉?」
固法「」フラフラ
柳迫「遅かったじゃない?めずらしいわね、美偉がこんな時間まで一人でフラフラしてるなんて」
固法「」
柳迫「…………ひょっとして、一人じゃなかったとか?」ニヤニヤ
固法「!」
垣根『オレは…………!オレはっ…………!』
垣根『……あんまり、見ないでくれ…………』
垣根『 ありがとう 』
固法「っ~~~~~~~~~///」ペタン
柳迫「美偉!?急にへたり込んでどうしたの!?」
固法(抱きしめられた…………)
固法(初めてではないけど………でもショッピングモールの時より優しかった)
固法(それに最後………)
垣根『………………じゃあ、またな』
固法(またな、って言ってくれた…………)
固法(また会おうって言ってくれた………///)
柳迫「美偉ホントに大丈夫!?顔赤いよ!?」
------------------------------------------------------------------------------------------
20:17 垣根のマンション
垣根「誰もいないけどただいまーっと」ガチャッ
ボスッ
垣根「ふぅ……………」
固法を寮の前まで送り届けた垣根は、帰り着くや否やソファに身を投げた。
ついさっきまで、二人で腰かけていたソファだった。
垣根(………ホントはわかってたんだよなぁ………)
最初は「変な女」としか認識していなかった。
だが顔を合わせるたびに違う表情を見せる彼女に、いつの間にか興味がわいた。
そして、彼女の笑った顔が嫌いじゃないということに気が付いた。
『嫌いじゃない』
考えてみればおかしな話だ。
その時点でもう答えは九分九厘出ているというのに、垣根はそれに気づけなかった。
長くこの町の暗がりに身を置いていた垣根は知らなかった。
その感情の名前を。
自覚したのは路地裏で別れた時だ。
彼女の声が、表情が、すべてが、垣根の胸に深々と突き刺さった。
皮肉なことに、垣根はこの時ようやく気が付いたのだ。
自分が守りたかったものに。
そして、それが自分の手から滑り落ちてしまったことに。
だからこの感情に鍵をかけようと決めた。
だけど。
垣根(アイツは………またオレに笑ってくれた……)
壊れてなんていなかった。
上条の言うとおりだ。
自分は勝手に絶望して、彼女の分まで勝手に諦めていただけだったのだ。
うれしかった。
それ以上に救われた気がした。
自分のこの両手は、何かを抱えてもいいのだと気付いたから。
誰かを抱きしめてもいいのだとわかったから。
――――それを教えてくれたのが、彼女だったから。
垣根(………そうか…………)
垣根(オレは………………)
垣根「固法のことが、好きだったのか…………」
垣根は初めてその感情の名前を知った。
第2部「接近編」 了
------------------------------------------------------------------------------------------
オマケ とある深夜の恋人会話(ストロベリートーク)
同日 21:48 固法・柳迫の部屋
柳迫「……うん、今はもう寝てる。なんかポーッとしてたみたいだけど」
一方『そォか』
柳迫「でも結局何があったのか教えてくれなかったのよねー。何を訊いても上の空というか」
一方『……大方見当はついてるンだろ?』
柳迫「まぁね」テヘ
一方『チッ、相変わらず食えねェ女だ』
柳迫「あら、その食えない女が好きなのはどこの誰?」
一方『フン、さァてな』
柳迫「もぉ~素直じゃないんだからー」
一方『言ってろ』
柳迫「…………でもそんなあなたが好き」
一方『!テメェ………』
柳迫「今ドキッとした!?やーい!」
一方『……オマエも言うようになったじゃねェか』
柳迫「いつまでも負けっぱなしってワケにはいかないもん」
一方『そォかよ……ン?あァ今電話して、ってオイやめろォ!』
ガッチャンガッチャンドンガラガッシャーン
柳迫「あ、アレ?もしもーし。あーくん?」
??『もしもーし!こちら碧美お姉ちゃんの携帯ですかー?ってミサカはミサカは絡んでみたりー!』ヒック
柳迫「この声……打ち止めちゃん!?」
打ち止め『そうらよ~』ヒック
柳迫「ろれつが回ってないような気がするけど……」
打止『あのね~、ヨシカワにもらったジュース飲んだら何だか体が軽いの~、ってミサカはミサカはぶっちゃけてみたりー』
柳迫「打ち止めちゃん!それ違うから!それ絶対ジュースじゃないから!!」
打止『え~?でもヨシカワはジュースみたいなものだってヒック、言ってたよー?』
柳迫「あぁ、もうどこからツッコんでいいやら……」
一方『芳川ァァァァァァァァ!!!テメェまた打ち止めに飲ませやがったなァ!!』
芳川『たまには若いのと飲みたい時もあるのよ』
一方『若すぎンだろォが!!大体打ち止めの体がほかのヤツらと違うの知ってンだろォがァ!!』
芳川『大丈夫よ、誤差の範囲に留めてあるから』
一方『そォいう問題じゃねェェェェ!!今日という今日はぜってェ許さねェ!』
芳川『オホホホホ、捕まえてごらんなさーい』ダッシュ!
一方『待ちやがれこの酔っ払いニートがァ!!!』
………! ……!? …………!! ……… ‥ ‥ ‥ ‥ ‥
一方『ハァ……ハァ……あの酔っ払いマジありえねェ』
柳迫「だ、大丈夫……?」
一方『あのクソニートぜってェシメる……起きたら必ずシメる……』ゼェゼェ
柳迫「騒ぐだけ騒いで結局寝ちゃったんだ……」
一方『本当だったらたたき起こしてるトコだが、打ち止めも寝ちまったからなァ』
柳迫「………打ち止めちゃんが?」
一方『おォ。アイツ一回起きるとまた寝付くのに時間がかかンだよ。芳川に説教かまして起こしちまったら面倒だからなァ』
柳迫「………………」
一方『あン?オイどォした?』
柳迫「ねぇ……」
一方『あ?』
柳迫「打ち止めちゃんと私だったら、どっちが大事?」
一方『ハァ?』
柳迫「あなたが打ち止めちゃんを大事に思ってるのは知ってる。
今も打ち止めちゃんのために怒ってるんでしょ?」
一方『…………』
柳迫「だからね、すこし不安になったの。
―――――この人は私のためにここまで必死になってくれないんじゃないかって」
一方『……………オマエ』
柳迫「!……ヤダ、私ったら何言ってるんだろ。
あーやっぱり今の話はナシナシ!なかったことに……」
一方『オマエはなンにも分かってねェな』
柳迫「え?」
一方『オレにとって他人から与えられた選択肢は何の意味もねェ。
何かを手に入れるために別の何かを犠牲にするなンざ二度とゴメンだ』
柳迫「…………そういう答えは、ズルイよ」
一方『はン。今更なァに分かり切ったことを言ってやがりますかァ?』
柳迫「…………」
柳迫(…………最低だ、私)
柳迫(自分と打ち止めちゃんを秤にかけてる)
柳迫(「こんな答えが欲しかったんじゃない」って、がっかりしてる)
柳迫(………………打ち止めちゃんに嫉妬してる)
柳迫(バッカみたい……)
一方『………………わかった。それでもオマエが不安だってンなら一つ約束してやるよ』
柳迫「?」
一方『オレの心は、全部オマエにやる』
柳迫「!」
一方『オレはこの通りの人間だからよォ。
知らねェオマエのことを後回しにしたり蔑ろにしちまうかもしれねェ。
だけどオレの心は、オレの『スキ』は全部オマエにやる』
柳迫「え?え??」
一方『そのかわり』
柳迫「……こ、今度は何?」
一方『オマエの『スキ』は全部オレにくれ』
柳迫「!!!」
一方『……それでプラスマイナスゼロだ。異存は?』
柳迫(え、ウソ、何コレ……)
柳迫(うわー、うわーヤバい。顔が熱い)
一方『返事ィ!』
柳迫「えっ!?あっ……ない、です」///
一方『よろしィ』
柳迫(ズルイ。ズルイズルイズルイ)
柳迫(えー何コレ。もう意味わかんない……)
一方『……っつーかよォ、オマエ何か勘違いしてねェ?』
柳迫「な、何をでしょうか……?」
一方『打ち止めのことだァ』
柳迫「うっ!」ドキッ
一方『言っとくがあのガキだってお前が気に入ってンだ。
元々人見知りはしねェンだが勘のイイガキだからよォ。初対面であそこまで懐くのは珍しィンだ』
柳迫「そう、なんだ……」
一方『まァ何が言いてェかってェとオレもあのガキもオマエが大切だってことだ。
わかったらもォくだらねェコト言うンじゃねェぞ。
……じゃ切るぜ』
柳迫「……あっ、うん、おやすみなさい」
一方『あァ。
…………―――――』
柳迫「!?」
一方『じゃァな』ピッ
ツー…ツー…ツー…
柳迫「………………何、今の」
――おやすみ、碧美―――
柳迫(うぁぁぁぁぁぁぁ反則だぁぁぁ反則だよぉぉぉぉぉぉ!!!///)ジタバタジタバタ
柳迫(何で最後の最後でサラッとそういうこと言うかなぁぁぁぁぁぁ!!///)ゴロゴロ
柳迫(それにそれに!!)
一方『オレの心は、全部オマエにやる』
一方『そのかわりオマエの『スキ』は全部オレにくれ』
柳迫(あんな武器持ってるなんて聞いてないよぉぉぉぉぉぉ!!)
柳迫(あんなこと言われたら一人で悩んでた私がバカみたいじゃない!!)
柳迫(何なの!!ホントに何なの!!?)ジタバタゴロゴロ
柳迫(ホントに………)ピタッ
柳迫「ホントに、バカみたい」クスッ
とある深夜の恋人会話(ストロベリートーク) 終わり
802 : ◆r4vICyDKLo - 2011/09/08 01:13:25.82 2gA3BWDv0 533/694ここまでです。
読んでくださってありがとうございます。
これで第二部「接近編」が無事終了しました。
これも皆さまの応援のおかげです。本当にありがとうございます。
次回の更新から第三部に入っていくわけですが、
これからも応援していただけるなら幸いです。
あと主役二人をほったらかして勝手に動き出すこのバカップルどうにかなりませんか。
P.S.ウチの一方さんは去り際に爆弾投下するのが好きみたいです。
続き
固法「あなたが……《未元物質》……?」【パート5】

