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―――― PM 7:30 ――――
――― ほむホーム ―――
ゆま「おねえさん。なにか手つだえること、ない?」
ほむら「んー、でしたらこの野菜をリビングまで運んでもらえますか?」
ゆま「うん、わかった!」
ゆま「よっこいしょ、っと」
ほむら「大丈夫ですか? 重たいなら、無理しないでくださいね?」
ゆま「だいじょうぶ! 早く、みんなのとこにもっていこう!」
ほむら「では、私はお肉と調味料を持って……」
ほむら「はーい、皆さんお待たせしましたー」
ほむら「お鍋の主役、お肉の登場ですよー♪」
ゆま「おやさいもだよーっ!」
「「「いえーいっ!」」」
マミ「……まさか鍋パーティに誘われるなんてね」
ゲルト「まぁ、なんだかんだ全員集合って感じになりましたから……」
ゲルト「でも大勢でつつく鍋というのは、ワクワクしませんか?」
マミ「確かに、そうね」クスッ
エリー【……………】ソワソワ
まどか「エリーちゃん、どうかした?」
エリー【へ? あ、いや、その……み、みんなで食事って、慣れてなくて……】
エリー【私は……ご飯って、何時も一人で食べてたから……】
まどか「……そっ、か」
まどか「うん。難しく考えないで、楽しめばいいんだよ!」
エリー【そ、そう? ……うん……頑張る……】
さやか「それより肉だぁーっ! 肉を食わせろーっ!」
ゆま「ゆまも、お肉たべたい……」
杏子「? なら食えばいいじゃん」
ゆま「いいの!?」
杏子「お、おう。たくさん食え。お前、食い盛りだろうしな」
シャル「水炊きと言ったらポン酢醤油よねー」
ほむら「当然。ちゃんと用意してありますよ」
シャル「あんがとー」
旧べえ「……緊張感がないなぁ」
旧べえ「本来この集まりは、今日あった出来事……僕らインキュベーターの襲撃について話すものだった筈だ」
旧べえ「なのに今からやろうとしているのは、今後の相談ではなく鍋パーティ」
旧べえ「しかも僕を拘束から解き食事の席に座らせるなんて、危機感に欠けているとしか言えない」
シャル「ゆまちゃんにねこさんを自由にしてあげてって頼まれちゃったからね。仕方ないでしょ」
シャル「それに鹿目さんや巴さん、ゲルトちゃんとさやかはアンタを敵だとは思えないみたいだし」
シャル「だったら私一人が反対したってしょうがないじゃない……ああ、あとエリーちゃんも反対していたか」
旧べえ「しかし……」
シャル「それにほむらのペースを覆すなんて誰にも出来ないわよ」
シャル「実際、軽くだけどほむらには今日の出来事」
シャル「インキュベーター達との戦いについてはもう伝えてあるわ」
シャル「その上で、アイツは鍋パーティを始めたんだから」
旧べえ「……やれやれ。接触した時から薄々感じていたけど、彼女はなんというか」
旧べえ「訳が分からない」
シャル「あー、そうね。分からないわよね、アイツの言動は」
シャル「多分だけど、幼少期に妖精さんの影響をもろに受けた結果じゃないかしら」
シャル「妖精さんが居なかったら根暗人間だったーって、よく言ってるし」
旧べえ「妖精さん、ね……」
旧べえ「記憶にはない筈なんだ。出会った事はない筈なんだ」
旧べえ「でも……」
ほむら「ゆまさん、これが妖精さんですよー」
妖精さん「あわ、あわわわわ……」
ゆま「ほ、本当に妖精さんなの!?」
妖精さん「ぴっ!?」
ほむら「大きい声を出してはいけません」
ほむら「妖精さんはとってもシャイで、大きい音が苦手なんです」
ゆま「あ……ご、ごめんなさい……」
ほむら「はい、手に乗せてあげますねー」
妖精さん「きゃー」
ゆま「ふわぁ……か、かわいい……」
旧べえ(何故かあの姿に、見覚えがあるんだよね……)
シャル「? どうかした?」
旧べえ「……いや、なんでもない」
旧べえ「確かに、暁美ほむらの提案に心惹かれるのは事実だ」
旧べえ「今はこの鍋に舌鼓を打つとしよう」
さやか「そーそー。難しい話はお腹がいっぱいになってからで良いよ」
さやか「それに、あたし等以上にアンタと話をしたそうな人が居るからね」
旧べえ「え? ……ああ、成程」
旧べえ「確かに、君とは一番話をしなければならないんだろうね」
旧べえ「……マミ」
マミ「……隣、座るわね」
マミ「……」
マミ「最初に一つ確認させてもらうけど……あなたは……私と一緒に暮らしていたキュゥべえ、よね?」
旧べえ「……ああ、そうだ」
旧べえ「君と契約し、君と行動を共にしていた」
旧べえ「そのキュゥべえだよ」
マミ「あなたには聞きたい事がたくさんあるの」
マミ「何故私を魔法少女にしたのか、何故私と一緒に暮らしていたのか、私と一緒に暮らしていて何を思っていたのか」
マミ「そして……居なくなっていた間、あなたが何をしていたのか」
旧べえ「……そうだね。話そう」
旧べえ「僕の全てを、君に」
杏子「ほれ、お前細いから肉を食え、肉を」
エリー【私お肉嫌いなんだけど……】
杏子「テメェ、食い物を粗末にする気か? ああん?」
エリー【勝手に盛られたのに何で脅されてるの私!?】
旧べえ「だから緊張感がないってば」
……………
………
…
旧べえ「酷な言い方になるが、君との生活に僕は何も感じていなかった」
旧べえ「そこにある温もりも、君の優しさも、僕にはなんの意味もなかった」
旧べえ「こういう言葉を使っていいかは分からないけど……」
旧べえ「酷く、勿体ない事をしていたと思う」
マミ「……そう」
マミ「ありがとう。教えてくれて」
旧べえ「礼を言わないでくれ」
旧べえ「それが一番、辛い」
マミ「……………」
ほむら「ほっちのはなひはほわひはひは?」
旧べえ「このシリアスな流れを全力でぶった切る頬袋顔は止めてくれないかい?」
ほむら「んぐんぐんぐ……ごくん。良いじゃないですか。シリアスより笑っている方が」
旧べえ「その決して否定出来ない言い方は卑怯だよ」
旧べえ「それに、さっきは一時的に納得したけど」
旧べえ「本来はこんな鍋パーティを楽しんでいる場合ではない筈だ」
さやか「そうは言うけど、なんやかんやどうにかなったじゃん」
さやか「そりゃあたし達は大怪我したけど、それだって杏子ちゃんの天使パワーで完治したし」
ほむら「……………」
旧べえ「美樹さやか。君は僕達の事をまだ甘く見ているようだね」
旧べえ「どのような手法を使ったかは分からないけど、暁美ほむらは、妖精は僕達の艦隊を打ち破ってしまった」
旧べえ「それは僕達に確かな”損害”を与える行為だ。失敗しても”損害”は出ない、魔法少女の契約を邪魔するのとは訳が違う」
旧べえ「次の攻撃は、今日とは比較にならない規模で展開されるだろう」
旧べえ「自らの生存を脅かす存在を野放しにするほど、僕達は能天気じゃないからね」
シャル「……それは、不味いわね」
杏子「今回はこのキュゥべえのお陰で助かったけど、あの戦闘用個体って奴の強さは出鱈目だったしな」
マミ「宇宙戦艦も動員されたら、私達は本当に手も足も出ない」
ゲルト「ええ、正に技術力の差を思い知らされました。正直、どうすれば彼らと戦えるのかすら分かりません」
ゆま エリー「?】←状況をよく知らないコンビ
まどか「ほむらちゃん……私達は、これからどうしたら良いと思う?」
ほむら「?」
まどか「なんでそこで首を傾げるの? 何言ってんだコイツみたいな目で見ないでよ?」
ほむら「いや、だって皆さん何をそんなに恐れているのやら……って感じですし」
ゲルト「だ、だって……」
ほむら「妖精さんは無敵です。何が来ようと敵じゃありません」
ほむら「そもそも、何故皆さんそこまで慌てているのですか?」
ほむら「戦闘用個体、宇宙戦艦、魔法の無効化……」
ほむら「どれもこうなる前に予想出来た事態じゃないですか」
ま マ さ 杏 シ ゲ「!?」
まどか「よ、予想出来たって……」
ほむら「そりゃ、相手は恒星間航法が可能な宇宙人です」
ほむら「宇宙空間で遭遇した脅威に対抗するための武装を持った艦船……宇宙戦艦はまず必要でしょう」
ほむら「それにインキュベーター(孵卵器)が居るのですから、別の専門職の存在は容易に想像出来ます」
ほむら「あとマジックキャンセラーについては最初から想定済みです」
ほむら「奴等からすれば魔法少女なんて羽虫レベルの脅威でしょうが、それでも一応は武力を持った存在」
ほむら「常識的に考えて、魔法少女が謀反を起こした時のセキュリティがある筈です」
ほむら「持ってなかったらその程度の連中という事で、色々やり易かったんですけどね。残念」
マミ「そ、そこまで分かっていながらなんで黙っていたの!?」
ほむら「これぐらいなら容易に思いつくと思って……」
マミ「さりげなく馬鹿にされた!?」
ほむら「そもそもインキュベーターが百万隻もの大艦隊で来ようと脅威でもなんでもないんです」
ほむら「と言うか、さやかさんとシャルロッテさんには以前お話したじゃないですかー」
ほむら「やろうと思えば、インキュベーターの存在を宇宙の歴史から抹消する事も可能だと」
マ ま ゲ 杏 旧「!?」
シャル「あ、あー、そんな事言ってたわねー」
さやか「なんだっけ? 辞書のページを燃やせばいいんだっけ?」
ほむら「正確には違いますが、まぁ、大体そんな感じです。他にもより取り見取りで方法はありますよ」
杏子「でも、だったらなんでそうしないんだ?」
杏子「マミとコイツには悪いが、そうすりゃ全部解決するじゃん」
マミ「……」
ほむら「んー、尤もな意見……と、言いたいところですが」
ほむら「可能である事とやりたい事は別問題でして。個人的には武力行使は避けたいんですよね」
さやか「面白くないから?」
ほむら「一番の理由はそれですね」
ゲルト「そんな理由で……」
ほむら「あ、勿論それだけじゃないですよ?」
ほむら「例えば宇宙の中でも巨大な文明を築いているであろうインキュベーターの根絶は」
ほむら「宇宙のパワーバランスを乱す可能性もあります」
ほむら「インキュベーターの影響力がどの程度かは分かりませんけど、曲がりなりにも宇宙の寿命を管轄する者達です」
ほむら「地球で例えると、アメリカが突如消え去る並の影響があるかも知れません」
ほむら「そしてその影響が、地球に及ばない保障はない」
ほむら「何が起きるかは分かりませんが……まぁ、どう考えても面倒事にしか発展しないでしょうね」
マミ「それは、確かに困るわね……」
ほむら「でしょう?」
ほむら「それに何より……」
旧べえ「……なんだい?」
ほむら「ちょっと確信がないので、直接あなたに聞いておきたい事があるのを思い出しまして」
旧べえ「? まぁ、なんでもとはいかないけど、答えられる事なら」
ほむら「でしたら遠慮なく」
ほむら「あなた方、人類の文明にどの程度干渉したんですか?」
旧べえ「……!」
まどか「え? 干渉って……」
ほむら「妖精さんアイテムでインキュベーターの事を調べた際、十三万年前に地球を訪れたとありましてね」
ほむら「諸説ありますが、それからたった五千年後……凡そ十二万五千年前って」
ほむら「人類が火を日常的に使うようになった頃と言われているんですよねぇ」
旧べえ「……………」
ほむら「勿論それ以前に火を使っていた形跡というのも発見されていますが」
ほむら「十二万五千年というのは、火を日常的に使うようになった」
ほむら「つまり、生活面で火が密接に関わるようになった時代だそうです」
ほむら「はい、巴先輩。火を使う事によって人が受けられる恩恵はなんですか?」
マミ「えっ!? えーっと、その」
マミ「獣避けとか、明かりを確保するとか……あと、道具の加工が出来る、かしら?」
ほむら「二十点。百点満点で」
マミ「低っ!?」
ほむら「正解ではあるんですけどね。しかしそれらは”真の恩恵”の後から手にしたものでしょう」
まどか「真の恩恵?」
ほむら「火がもたらした最大の恩恵は――――”食べ物”の絶対量が増えた事です」
ほむら「今、私達がこうしてお鍋パーティが出来るのも、全ては加熱という調理方法のお陰です」
ほむら「豆もキノコも穀物も、本来毒があったり消化出来なかったりで人が食べられるような物ではありません」
ほむら「ですが加熱すれば毒は分解され、繊維は柔らかくなって人間にも食べられるようになります」
ほむら「生食が可能なお肉や魚にしても加熱した方が消化しやすく、加熱による殺菌で食べられる期間も伸びます」
ほむら「火によって食生活は一気に変わりました。今までの何倍もの種類と数の食べ物を」
ほむら「季節や場所を選ばずに確保出来るようになった。高いカロリーの持続的な供給が可能になったのです」
ほむら「そして有り余るエネルギーは、最もエネルギー効率の悪い器官」
ほむら「脳の肥大化を後押ししたと言われています」
マミ「つまり、人間の知能が高まったって事?」
ほむら「その通り」
ほむら「火のお陰で我々は文明を持つ事が出来た。逆に火を使えなければ文明は成り立たたなかった」
ほむら「火を使っていなければ、我々は今でも洞窟暮らしをしていたでしょう」
まどか「……」
ほむら「と、まぁ、長々と語ってしまいましたが」
ほむら「私としては、年代的にインキュベーターが火の効率的な扱い方を人類に伝授したんじゃないかなーと」
ほむら「ああ、ちょっと遠回しな言い方でしたね。ストレートに言いますと」
ほむら「インキュベーターによって人類の文明は作られた」
ほむら「てな感じに思っている訳ですが、そこのとこどうなんでしょう?」
旧べえ「……あえて訂正する点はないね」
旧べえ「強いて付け足すなら、君達の文明をここまで発展させたのは」
旧べえ「僕らと魔法少女達だ」
ゲルト「私達が……?」
ほむら「ほほう?」
旧べえ「僕達は有史以前から人間の文明に干渉してきた」
旧べえ「しかしその方法は直接的ではなく、あくまで間接的になんだ」
旧べえ「火に関して言えば、僕達と契約したある魔法少女が」
旧べえ「焔を操る魔法の使い手であり、その魔法の研究をしていく中で、火のコントロール方法を見つけた」
旧べえ「それが後の技術発展につながったと聞いている」
旧べえ「そしてその魔法少女の祈りは、僕達が誘導したもの」
旧べえ「”この暗闇の生活から解放されたくないかい?”」
旧べえ「彼女の家族が必死になって確保していた火を、魔女や使い魔を誘導して消させた状態でこう言ったらしいよ」
マミ「なんて事を……!」
まどか「酷い……」
ほむら「回りくどいですねぇ」
旧べえ「一応僕達は強制という行為を嫌うからね」
旧べえ「今でこそ卑劣だと思うけど、少なくとも昔は、こんな方法でも人間の意思を尊重したと思っていたよ」
旧べえ「……話を戻すとね、僕達は君達の文明ステージの進み方をある程度コントロールしてきた」
旧べえ「幾つか確認されていた地球以外の感情保有生物のデータから」
旧べえ「文明が発達している方がより感情的、つまり回収出来るエネルギー量が増えるという数値が出ていたからね」
旧べえ「かと言って無秩序に文明を発達させると異常気象や世界大戦で絶滅しかねないし」
旧べえ「理想的な進歩をさせると、今度は生活が満たされ過ぎて絶望の生じにくい世界になってしまう」
旧べえ「だから過去に観測した文明データを元に」
旧べえ「人間社会を観察し、適切な場所と時期に、好ましい願い事を抱いている少女と契約する」
旧べえ「そうやってこの星の文明を、僕達にとって都合のいい世界にしてきたのさ」
旧べえ「欲望と絶望に満ち溢れた、どうしようもない世界にね」
ほむら「実に面倒で陰湿なやり方です事」
ほむら「それに……予想通りとはいえ、あなた方が我々の文明に深く関与しているのは都合が悪いですねぇ」
マミ「どういう事?」
ほむら「簡単な話です。奴等の存在を歴史レベルで消去してしまった場合」
ほむら「必然的に、奴等からもたらされた現在の人類文明も消滅してしまう事になります」
まどか「そ、そうか! キュゥべえが居なくなったら、人類に文明を伝える人達も居なくなっちゃうから……」
ゲルト「歴史が変わってしまう訳ですね……」
ほむら「まぁ、文明がごっそり消えてなくなるぐらいならまだ良いのですが」
ほむら「文明が消えるという事は、その恩恵によって生き延びた人が死んでしまう事になります」
ほむら「逆もまた然りですが、文明無しで七十億まで増えるとは思えませんし、圧倒的に死ぬ人の方が多いでしょう」
ほむら「では、自分の直系の祖先の誰かが死んでしまったら?」
ゲルト「……私達は、産まれてこなくなる」
ほむら「それはねぇ、いくらなんでもお断りしたいですよねー」
ほむら「妖精さんならその矛盾もどーにかこーにかしてくれるでしょうけど」
ほむら「宇宙レベルの歴史改変の修正は流石に大変だそうなので、完璧な仕事はちょっと期待出来ません」
ほむら「問題が生じてからでは手遅れな以上、インキュベーター歴史上から根絶作戦は取れない訳です」
ほむら「なので代わりに、愉快で楽しい解決策を実行中だったりしますが」
まどか「解決策?」
ほむら「ええ。妖精さんを五十万人動員し、全力でとあるアイテムを開発しています」
マミ「ご、五十万人の妖精さん!?」
ゲルト「エリーさんのパソコンですら、数十人で一分もせずに完成させた妖精さんが……」
まどか「な、何を作っているの?」
ほむら「秘密です」
ま マ ゲ「……」
ま マ ゲ「え?」
ほむら「秘密です」
まどか「な……なんで?」
ほむら「え? なんでって……」
ほむら「折角だからサプライズって感じに完成発表をして、皆さんを驚かせたいので?」
ま マ ゲ「おおおおおおおおおおおおおおいっ!?」
ほむら「別に良いじゃないですかー……どーせ皆さんに発表してもしなくても計画に変更はありませんし」
ほむら「だったらビックリドッキリして楽しんだ方が得ですよ?」
ゲルト「いやいやいやいやいや!? どこまで楽しさ重視なんですか!?」
マミ「これからの戦いの行方を決める、一番肝心な話じゃない!」
ほむら「皆さんノリが悪いですねぇ」
ほむら「どーせ勝利は決まっているのです。だったら楽しさ重視で良いじゃないですか」
まどか「だけど……」
ほむら「むー……そこまで言うなら、大まかな計画の流れは教えてあげましょうかね」
ほむら「簡単に言いますと、妖精さんの圧倒的テクノロジーによってこの星を
インキュベーターにとって利用価値のないものに変えます」
マミ「利用価値が、ない?」
ほむら「元々連中は人類を資源程度にしか見ていません。地球の分化や文明なんて、連中にとっては無価値ですからね」
ほむら「故に人間に資源的な価値が無くなれば、向こうはこの星に居る理由がなくなります」
ほむら「いくら高度な文明といえども、宇宙艦隊を維持するには莫大な量のエネルギーを使います」
ほむら「資源的にかつかつな彼等の事。穀潰しを養う余裕はないでしょう」
ほむら「ついでに技術力の差も見せつけてやれば、攻撃しようという意欲も削げます」
ほむら「結果、奴らはいそいそと撤退する筈です」
ほむら「まるで、逃げ帰るように」
ほむら「真っ向から敵対して屍を築くより、そうやって追い払う方がずっと面白おかしいでしょう?」
まどか「でも、具体的にはどうするつもりなの?」
まどか「魔法少女と魔女をどうにかするつもりなのは分かるけど……」
ほむら「そこを言ったら秘密にならないので自分で考えてください。まぁ、当てられるとも思いませんけど」
マミ「何をするつもりなのかは分からないけど、とんでもない事をしようとしているのは分かったわ」
ゲルト「妖精さんの超科学で何をしようとしているかなんて、想像する事も出来ませんよね……」
マミ「そうよねぇ。もうなんでもありだもん、あの科学力」
まどか「……………」
まどか「……あの、すごく……すごく今更な事を聞くようなんだけど……」
ほむら「はい、なんでしょうか?」
まどか「……妖精さんって、なんなんだろうって……」
ほむら「……………は?」
まどか「あ、その反応は傷付くよ!? というかなんでちょっぴり馬鹿にした風なの?!」
まどか「この際だから言っちゃうけど妖精さんって可笑しいでしょ! 非常識だよ!」
まどか「それにあの出鱈目な科学力!」
まどか「言っとくけど私最強の魔女だよ!? 地球ぐらい簡単に滅ぼせちゃうんだよ!?」
まどか「そんな私をノリで真っ向勝負挑んだ挙句倒すとか可笑しいでしょーっ!?」
マミ「か、鹿目さん落ち着いて! あなたの言いたい事は分かるから!」
マミ「確かに、あの子達が出鱈目なのは私も常々思っているから!」
ゲルト「なんというか、考えないようにしていましたけど……」
ゲルト「改めて考えると、本当に訳の分からない存在ですね」
ゲルト「暁美さんは、彼等の事を何処までご存じなのですか?」
ほむら「何処までと言われましてもねー……ぶっちゃけ殆ど分からないです」
ほむら「出鱈目科学も、妖精さんが科学だと言っているから私も科学だと言っている訳で」
ほむら「何故楽しいと増えるのかとか、何故彼等が居るだけで世界が明るく楽しくなるのか」
ほむら「あまりにも分からないので、そういうものだとしか思っていませんもん」
ほむら「そもそもこっちの世界の住人じゃないですし……存在の世界観がずれているのは仕方ないかと」
ゲルト「こっちの世界?」
ほむら「あれ? 言ってませんでしたっけ?」
ほむら「妖精さんは元々こちらの世界の住人ではなく、別の世界……」
ほむら「いわゆる並行世界、正確にはそれよりも”遠い”世界のそのまた深淵からやってきた方々らしいのです」
マミ「……異世界の住人って事かしら?」
ほむら「大体そんなところかと。一応地球の並行世界ではあるようですけどね」
まどか「……あまり驚きはないよね。異世界から来たと言われても」
マミ「正直、妖精さんならお茶の子さいさいのような気がするし」
ゲルト「でも、どうしてこちらの世界まで来たのでしょうか?」
ほむら「以前聞いた時は、お勉強のためだそうですよ」
まどか「お勉強?」
ほむら「ええ。主に、人間の命と心について」
マミ「……? 人間の事を研究しにきた、という事?」
ほむら「まぁ、そんなところです」
まどか「……あの、ほむらちゃ」
マミ「あら?」
ゲルト「? 巴さん、どうしました?」
マミ「……ちょっと待って」
マミ「これはどういう事かしら……どうして……」
マミ「何時の間にか、お鍋の中身が汁しか残っていないのかしら」
ゲルト「……」
まどか「……」
まど ゲル「はい?」
杏子「お。お前らやっと話が終わったのかー?」
さやか「いやぁ、美味かった美味かった」
シャル「ごちそーさん」
ゆま「ご、ごめんなさい……おなべ、おいしかったから……」
旧べえ「きゅっぷい」オナカパンパン
エリー【もー食べられないわー……】
マミ「……いや、ちょっと待って」
マミ「今、暁美さんが大切な話をしていたわよね? 今後について大事なお話だったわよね?」
マミ「なんでその間みんなお鍋をもりもり食べてる訳?」
エリー【なんか私には関係ない話だったから、最初からお鍋に熱中してました】
ゆま「ゆま、こんなおいしいごはんはじめてで……つ、つい……」
杏子「あたしの頭じゃよー分からんので、途中からどうでも良くなって」
さやか「杏子ちゃんが食べ始めたのを見てこのままじゃヤバいと思って」
シャル「さやかが食べ始めたし、後の事はほむらと妖精さんに任せときゃ大丈夫だろって思って」
旧べえ「みんな食べ始めて僕の分が無くなりそうだし、話を聞くだけなら食べながらでも出来るので」
ほむら「皆さん食べ始めてましたけど、作った身としては皆さんが美味しく食べてくれれば満足なので」
まどか「ほむらちゃん気付いてたなら教えてよ!?」
ゲルト「私、全然食べてないんですけど!?」
マミ「私もお肉一枚しか食べてないわよ!?」
シャル「ほら、肉ならまだ余ってるし……これとか」
マミ「パックの隅にある千切れた油身を余ってると申すか!」
マミ「きしゃーっ!!」
さやか「巴先輩が両腕上げて歯をむき出しにしながら奇妙な叫び声を上げた!?」
杏子「あ、あれはマミが友人だと思っていた人の事を信じられなくなった時の威嚇ポーズ!」
さやか「何その酷く限定的な行動!? というか巴先輩あんなキャラだっけ!?」
杏子「普段先輩ぶってるくせにある程度親しくなるとやたら子供っぽくなるんだよあの人!」
さやか「めんどくさっ!」
ゲルト「私も怒りましたよ! きしゃーっ!」
シャル「面倒が増えたわよ。アンタの友人なんだからなんとかしなさいよ」シーハー
さやか「お前の友人でもあるだろうがーっ!!」
旧べえ「ゆまはあんな醜い大人になっちゃ駄目だからね」
エリー【こんな詐欺師にもね】
ゆま「う、うん……(このもやもやした人は何を言っているんだろう……)」
\ギャーワーギャーッ/
ほむら「……さて、私はデザートを食べるとしますかー」
まどか「ほむらちゃん、ナチュラルに酷いね」
ほむら「シャルロッテさん達は私達に無断でお鍋を食べ、巴先輩達は学習しなかった」
ほむら「だったらこっそりデザートを食べたとしても、私に非はありませんよ」
まどか「そういうところがナチュラルに酷いって言ってるんだよ」
ほむら「気にしない気にしない」
ほむら「それで、どうです?」
まどか「? どう、って?」
ほむら「先程、何か聞きたそうにしていましたからね」
ほむら「一緒に、うちの屋根の上でジェラードでも食べませんか?」
……………
………
…
―――― 暁美家 屋根の上 ――――
ほむら「んー、屋根の上で食べるジェラードは別格ですねー」
ほむら「夜風も気持ちいいですし」
まどか「……そう、だね」
まどか「……………」
まどか(さ、誘われたから一緒に来ちゃったけど……)
まどか(屋根の上で二人きりって、すごく恋人っぽくてドキドキする!)
まどか(こ、こんな状況で名前を呼ばれたら……)
――――まどかちゃん♪
まどか「うぇっひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
ほむら「っ!?」ビクッ
まどか「あ、ごめん。ほむらちゃんに名前を呼ばれる妄想をしたら、つい」
ほむら「そ、そうですか……って、随分素直に言いますね……」
まどか「ふられたからね。今更好意を隠しても仕方ないので」
ほむら「……襲わないでくださいね?」
まどか「善処するね」
ほむら「……まぁ、善処してくれるなら良しとしましょう」
ほむら「それで? 先程何を聞きたがっていたのですか?」
ほむら「答えられる事なら、答えます」
まどか「答えられない事もあるの?」
ほむら「ええ。スリーサイズや体重は秘密です」
まどか「残念」
まどか「……じゃあ、別の事を聞かせてもらうけど」
まどか「妖精さんは、人間の命と心を勉強しにきたんだよね?」
ほむら「ええ、そうです」
まどか「マミさんはそれを、研究しにきたと解釈していたけど……」
まどか「でも勉強ってそういう事じゃないよね」
まどか「勉強って、自分にないものを自分のものにしようとする時に使うよね?」
まどか「それじゃあ、まるで……」
ほむら「妖精さんが、生きていないかのよう?」
まどか「……」
ほむら「半分正解、ってとこですかねー」
まどか「!? は、半分正解って、どういう事?」
ほむら「昔……それこそ妖精さんと出会って、一年かそこらの時でしょうか」
ほむら「私も鹿目さんと同じ疑問を、つまり妖精さんとは何者かという疑問を持ちました」
ほむら「そこで彼等に尋ねたところ」
ほむら「彼等の故郷、こことは違う世界に、一度だけ連れていってもらった事があるんです」
まどか「妖精さんの、故郷……」
ほむら「とは言っても地球なんですけどね。違いがあるとすれば」
ほむら「人類が絶滅して、妖精さんが地球を支配しているという事でしょうか」
まどか「えっ!? ぜ、絶滅って……」
ほむら「調べる時間がなかったので、原因については分かりかねます」
ほむら「別段放射能とかウィルスによる汚染が酷いとかもないので、比較的穏やかに衰退したとは思いますが……」
ほむら「またあの世界に行って調べようにも、あちらに行くと」
ほむら「『まざる』から、妖精さんはあまり長い事居られないみたいなんです」
ほむら「正直なんのこっちゃですけど、嫌がる妖精さんに無理強いは出来ません」
ほむら「なので私もその世界についての詳しい知識はない訳です」
ほむら「知っているのは人間の代わりに妖精さんが地球を支配している事」
ほむら「そして、そこの妖精さん達は」
ほむら「人間と変わらない姿と暮らしをしている事ぐらいなものです」
まどか「人間と同じ姿? あの妖精さん達が大人になったら、人間みたいな姿になるの?」
ほむら「私も同じ事を疑問に思い、彼等に尋ねました」
ほむら「結論から申しますと、彼等は大人になっても人間の姿にはならないとの事です」
ほむら「あちらの地球……そうですね、仮にA地球と呼びましょう。私達の住む地球がB地球です」
ほむら「A地球の妖精さんと我々の知るB地球の妖精さんは、元は同じですが今では大きく異なる存在――――」
ほむら「推論になりますが、亜種のような存在に分かれたのだと思います」
まどか「亜種……種を分けるほどの違いはないけど、部分的な違いが見られる?」
ほむら「ええ。混ざるというのが何を意味するのかは分かりませんが」
ほむら「彼らが生まれ故郷の世界に長期滞在出来なくなった理由は、そこにあると私は考えています」
ほむら「……遥か昔、妖精さんはただの”力”……命や心以前の、もっと根源的な存在だった」
ほむら「だけどある日、命と心を持った存在、その中でも特に”楽しそうに”生きている人間に憧れ」
ほむら「人間の模倣を始めた……のでしょう」
ほむら「で、色々な人間を見た方が模倣する上で都合が良いと思ったのかは分かりませんが」
ほむら「数千年、或いは数万年前、一部の妖精さんがB地球にやってきた」
ほむら「それから長い時間をかけて」
ほむら「A地球の妖精さんは人と同じ姿と心を手に入れ、B地球の妖精さんは素敵な愛玩系生命体になった」
ほむら「……私に分かったのは、いいえ、推測出来たのはそこまでです」
ほむら「何故二つの世界で妖精さんの姿にここまで違いが生じたのかは、残念ながら私にはよく分かりません」
ほむら(それに、A地球の至るところに存在するあの”妖精さん”の事も――――)
まどか「……ほむらちゃん? どうしたの?」
ほむら「――――ああ、失礼」
ほむら「結局のところ、妖精さんについて知っている事は私もそんなに多くないのです」
ほむら「正直に言えば、今の彼等を命の範疇に収めて良いのかも分かりません」
まどか「そんな事……」
ほむら「だから、私はもっと妖精さんの事を知りたい」
ほむら「妖精さんの秘密を解き明かせたら、きっと毎日を……いいえ、世界をもっと楽しく出来ると思うのです」
ほむら「そして、いずれは――――」
「ほぉーむぅーらっ!」
ほむら「っ!」バッ
「え、ちょなんで躱しぎゃああああああああああああああああああああああああ!?」
まどか「ほ、ほむらちゃんの背後から誰か来たけどほむらちゃんが回避したからその人が屋根から落ち……!?」
まどか「あ。なんださやかちゃんか」
さやか「なんだとはなんだ!? なんだとは!」
杏子「さやか様ご無事ですかーっ!!」
さやか「って、なんで杏子ちゃんまで屋根から飛び降り」
どんがらがっしゃーん < ギニャーッ!?
シャル「何やってんのアイツ等……」
ほむら「あら、シャルロッテさん。何時の間に此処に?」
シャル「ついさっき。部屋からアンタ達が居なくなったのに気付いて」
シャル「なんとかと煙は高い所が好きって言うから、ここに居るかなーと思って」
ほむら「あらあら。失礼ですねぇ、鹿目さんを馬鹿呼ばわりするなんて」
まどか「私、ほむらちゃんに誘われたから此処にいるんだけど?」
ほむら「それはさておき」
まどか「おかないでよー……」
ほむら「わざわざ呼びに来たという事は、家で何かありましたか?」
シャル「うん。ゆまちゃんが妖精さんに何かお願いしちゃったみたいでね」
シャル「妖精さんが作った玩具のお城の中に、ゆまちゃんが囚われてしまったの」
シャル「で、キュゥべえと巴さんがすぐに助けに行ったけど」
シャル「三分後に二人とも、実家の農業を継がないといけない呪いにかかり家の中で桃の無農薬栽培を始めたのよ」
シャル「これは私達の手には負えないと判断して、アンタを呼びに来たって訳」
まどか「今更だけど全然意味分からないね」
ほむら「んー、大方ゆまさんがお伽噺のお姫様みたいになりたい、とか言ったんじゃないでしょうか」
ほむら「とりあえず、お城には私一人で出向きましょう」
ほむら「他の皆さんは、巴先輩達がこれ以上畑を広げないよう阻止でもしていてください」
シャル「ん? 一人で良いの?」
まどか「何人かで行動した方が良いんじゃ……」
ほむら「今日の風邪で体力の無さを実感しましたからね。鍛錬がてら久しぶりに一人で童話災害を解決しようかなーと」
ほむら「ま、愛用のナイフ一本あればアメリカンなクリーチャーだって倒せますし。なんとかしますよ」テクテク
シャル「……本当に行っちゃった」
シャル「愛用のナイフ一本あればって、アイツ今までどんな経験してきたのかしらね?」
まどか「うん……」
まどか「……………」
シャル「? 鹿目さん、どうしたの?」
まどか「え、あ、なんでもないです。うん」
シャル「そう?」
まどか「……」
まどか(ほむらちゃん、さっき何を言いかけたんだろう……)
ほむら(良いとこが話が途切れてしまいましたね……)
ほむら(まぁ、でも今になって考えてみると、話をするには時期尚早だったかも知れません)
ほむら(この星を妖精さんで満たすという、私の夢を語るには)
ほむら(……A地球には、どういう訳か妖精さんが”二種”存在する)
ほむら(先程鹿目さんに教えた、人と同じ姿になった”妖精さん”)
ほむら(それから、私達が知る妖精さんと同じ姿の”妖精さん”)
ほむら(私をあの世界に連れて行ってくれた妖精さん曰く「どちらもぼくら」で)
ほむら(その二種類の”妖精さん”に満たされている地球は、楽しくて、穏やかで、面白くて)
ほむら(とても、あたたかかった)
ほむら(……私は知りたい)
ほむら(何故A地球は妖精さんのものとなったのか。何故A地球の妖精さんは人の姿まで至れたのか)
ほむら(A地球を満たすほど増えたあの妖精さんはなんなのか。何故人型の妖精さんには不思議な力がないのか)
ほむら(何故――――B地球は、妖精さんのものとならないのか)
ほむら(妖精さんは楽しい事があれば増える。それはA地球の、小さな妖精さんと変わらない)
ほむら(なのに、何故かB地球では妖精さんは私の周りにしかいない)
ほむら(どうしてこの地球は妖精さんで満たされない?)
ほむら(A地球は妖精さんでいっぱいなのに、どうしてB地球はそうならない?)
ほむら(その秘密を解き明かせた時、きっとこの地球も妖精さんで満たせる筈)
ほむら(悲しみがあっても、苦しみがあっても、最後は笑顔になれる)
ほむら(あのあたたかい世界を作れる筈)
ほむら(……そして、あの秘密を一発で解き明かす方法もある)
ほむら(その方法は今まで決心が付かなくて、出来なかった。少しだけ怖くて、臆して、やれなかった)
ほむら(でも、今は違う)
ほむら(私の大切な友達が怪我するなんて、そんな世界は認めない)
ほむら(友達が理不尽に殺されそうになる世界なんて、必要ない)
ほむら(覚悟は決まった。私がどうなろうと、もう構わない)
ほむら(こんな世界、変えてやる)
ほむら(アイツ等に思い知らせてやる)
ほむら(妖精さんの楽しいパワーと人間のいじめっ子パワー……それが合わさった時に何が起きるかを……!)
―――― 見滝原某所 ――――
疾患QB「くそ……くそっ、糞糞糞糞糞ッ!」
疾患QB「まさか跳ね返された余剰次元砲が運悪く命中して、戦艦が落ちてしまうなんて……」
疾患QB「あの程度の戦力では駄目だ。今回動員した戦力では全然足りない」
疾患QB「しかし余剰次元砲すら無力化するような相手。恐らく通常戦力をいくら導入しても被害が増えるばかり」
疾患QB「単独で、今回動員した戦力の数十倍の効果を上げられるような超兵器……」
疾患QB「最終兵器プランを使う以外にない……」
疾患QB「そうだ。あれさえ、あれさえ稼働すれば……」
「あらあら、キュゥべえじゃないですか」
疾患QB「! 誰だ……!」
疾患QB「……って、なんだ君か」
「……随分と失礼な態度ですね」
「偶々見つけたから、グリーフシードの処理を頼もうと思ったのに」
疾患QB「ん? ああ、そうかい」
疾患QB「じゃ、こっちに投げてくれ」
「はいはーい」
疾患QB「よっと……回収完了」
疾患QB「じゃ、僕は帰るね」
「ふーん、随分と淡泊な反応ですね」
疾患QB「生憎今は忙しいんだ。この見滝原に居る連中のせいでね」
「連中? 魔法少女ですか?」
疾患QB「いいや、ただの人間だ。暁美ほむらって言う奴だよ。あと――――」
疾患QB「妖精さ」
「はぁ? 妖精ぃ?」
疾患QB「そいつらが中々厄介でね。手こずっているんだ」
「ぷっ。このご時世に妖精だなんて、随分とファンシーな答えですね」
「しかも妖精って呼ぶからには、そいつはお伽噺に出てくる小さな虫けらみたいな奴って事ですよねぇ?」
「そんなのに手こずるなんて……ぷぷっ」
疾患QB「……君なんかが妖精に挑んだところで秒殺されるだろうけどね」
「……なんですって?」
疾患QB「そうだねぇ。僕に出来るのはもうグリーフシードをより多く集める事ぐらいだし」
疾患QB「暇なら、妖精と暁美ほむらを始末してみないかい?」
「はぁ? そんな事して、私に何か得があると?」
疾患QB「ああ、勿論」
疾患QB「色々あってね。この町の魔法少女は魔女狩りを止めたのさ」
疾患QB「だからこの街で魔女を狩る者は、今や誰も居ない」
疾患QB「完全な空白地帯だ」
「あら。なら見滝原全域を私の狩場にしても問題ない訳ですね?」
疾患QB「ところがそうはいかない」
疾患QB「暁美ほむらと妖精が、魔女を保護しているからだ」
疾患QB「彼女達は君が魔女を退治し、グリーフシードを手にする事を全力で妨害するだろう」
「成程。つまり、暁美ほむらって奴と妖精を始末する事で」
「見滝原に巣食う大量の魔女は、ようやく私の物になるという訳ですかぁ」
「面倒ですけど、見返りとしては十分過ぎますね」
疾患QB「ま、どうせ無理だろうけど」
「……あなた、そんなやさぐれキャラでしたっけ?」
疾患QB「色々あってね」
「ふーん……ま、いっか」
「そういう事ならちょちょいっと、このわたし」
沙々「優木沙々が、暁美ほむらと妖精をやっちゃいますっ!」バンッ
えぴそーど にじゅうさん 【優木沙々さんの、もぎとれみたきはら】
優木沙々。
それはキュゥべえに「自分より優れた者を従わせたい」と願い、魔法少女になった者。
その祈りから生まれた魔法は「洗脳」であり、魔女を操り、魔女を用いて魔女を狩る戦い方を主にしている。
そして彼女の魔女は人を襲わない――――なんて事は、ない。
何故なら魔法少女の使命は魔女を狩る事であって、人間を守る事ではないのだから。
彼女は己の欲望に正直で、そのためなら他者の犠牲すらも厭わない。
それはかつて巴マミ達が嫌悪した『悪の魔法少女』であり、佐倉杏子が最後までなれなかった『魔法少女の正しい姿』。
これは、『本来の時間軸』には現れなかったそんな魔法少女の
理不尽で不条理でハートフルな一日の話である……
―――― 見滝原駅 ――――
沙々「くふふふ……ついにやってきました見滝原」
沙々(キュゥべえの話によれば、ここに暁美ほむらと妖精がいて、たくさんの魔女を保護しているとの事)
紗々(そして、この見滝原の縄張りを収めているのも彼女達)
沙々(そんな彼女たちを潰せば晴れてこの縄張りはわたしのものとなり)
沙々(同時に、大量のグリーフシードがわたしのものとなる訳です♪)
沙々(キュゥべえはやたらとわたしを煽ってきましたが……全く問題ありません)
沙々(わたしの魔法は『洗脳』)
沙々(わたしより優れている者、わたしが嫌いな奴を従わせたい――――その願いから生まれたわたしの魔法は)
沙々(わたしが憎たらしいと思った相手なら、どんな奴でも効力を発揮する)
沙々(まぁ、全てに劣っていれば効力はないのですが、そんな奴は恐れるに足りません)
沙々(魔法で洗脳し、わたしへの警戒心を失わせ)
沙々(隙を見せたところで後ろから……どんっ)
沙々(これでお終い。楽なもんです♪)
沙々(仮に、そう仮にですが)
沙々(キュゥべえ曰く『厄介な』相手。なんらかの方法でわたしの魔法を無力化したとして)
沙々(それすら問題じゃありません)
沙々(だってわたしには下僕である、十匹の魔女が支配下にある)
沙々(どれも使い魔から育てた魔女で、その実力は折り紙付き)
沙々(普通の魔法少女なら魔女を一匹相手にするのも大変です。それが十匹も現れたら一方的に嬲られるだけ)
沙々(更に、いざとなったら備蓄として持ってきた四つのグリーフシードを魔女にする事も出来る)
沙々(暁美ほむらがどれだけ強かろうと、わたしの勝利は揺らがない……)
沙々「さぁ、面倒はさっさと片付けて、早いところお楽しみタイムに入りたいものです」
沙々「この街の全てを洗脳し、わたしの下僕にするというお楽しみを、ね」
沙々「くふふふふふふふふふふ」
……………
………
…
―――― 暁美家・外側 ――――
沙々「ふむ。キュゥべえから聞いた住所通りなら、此処が暁美ほむらの家ですかぁ……」
沙々「こんな立派な一軒家に住むなんて、ああ憎らしい……」
沙々「……ふふ。早速魔法が利く条件を満たしてしまいましたねぇ、暁美さん」
沙々(さて。今日は休日だから学校は休み。朝も早いですし、暁美ほむらはまだ家に居る筈です)
沙々(インターホンで呼び出し、玄関から出てきたところを不意打ちで魔法を食らわせる……と行きたいところですが)
沙々(キュゥべえからの情報によると、暁美ほむらは三人の同居人と共に暮らしているとか)
紗々(呼び出しで暁美ほむらが出るとは限りませんし、仲間の前で洗脳しても、呼びかけとかで魔法が解けかねない)
沙々(しかも同居人の一人は佐倉杏子)
沙々(風見野で活動をしていた魔法少女の中では最も力を持っていたベテラン)
沙々(噂でしか聞いた事のない相手ですが、ベテラン魔法少女と共に居るのは厄介です)
沙々(勿論、魔女を保護する暁美ほむらと共に暮らしているのなら、彼女も魔女狩りを止めている筈)
沙々(グリーフシードが枯渇し、今頃”魔法が使えなくなっている”可能性もありますが)
沙々(流石に、ベテラン相手にそこまで油断しちゃう訳にはいきません)
沙々(まずは情報収集。家の中での会話を盗み聞きし)
沙々(誰かが一人になった瞬間を狙い、そいつに洗脳魔法を掛ける)
沙々(一人成功すればあとはとんとん拍子です。その一人に、暁美ほむらをここまで連れてきてもらい)
沙々(わたしを友達だと紹介させた上で、暁美ほむらと二人きりになるよう取り計らせる)
沙々(そうなればもうわたしの勝利は確定です)
沙々(さあ、壁に耳を当て、魔法で神経を尖らせて中の音を聞けば――――)
きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!
沙々「ほげぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
沙々「ぎぃやあああ!? み、耳が!? 魔法で神経尖らせ過ぎて耳が、耳がああああああああああ!?」
沙々「な、なんなんですか今の悲鳴は……中で、一体何が起きたんですか……!?」
沙々(ぐっ……出鼻を挫かれたが……しかし、これはチャンス)
沙々(ただならぬ事態が起きたのなら、混乱に乗じて洗脳魔法を掛けやすいかも知れない)
沙々(何が起きたか知っておかねば――――)
―― 暁美家・内側 ――
ほむら「きゃあああああああっ! 嫌あああああああああああっ!!!!?」
杏子「……ほむらの奴、なにをそんなに叫んでんだ?」
シャル「ああ、アレが出たのよ。アレ」
杏子「アレ?」
シャル「台所の黒い帝王」
杏子「ああ、ゴキブリね」
ほむら「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!? その名前を出さないでくださいぃぃぃぃ!?」
ゲルト「あらあら。暁美さんが随分と可愛らしくなっちゃって……暁美さんにも苦手なものってあったんですね」
ゲルト「……でも、サバイバル経験が豊富なら平気であるべきなんじゃ?」
ゲルト「森の中だと結構たくさんいますよね?」
ほむら「野生種は平気なんです! あちらの餌は落ち葉とか枯れ木で、こっちの食べ物には集らないですし!」
ほむら「で、でも台所に出る奴は……」
シャル「ひゅー、おっとめー♪」
ほむら「うう……台所のあちこちに病原菌をばら撒かれたらと思うと……」
ほむら「サバイバルで一番怖いのは下痢による脱水なんです……あれは……マジで死にます……!」
シャル「……怖がる理由に乙女らしさはなかったわね」
杏子「ある意味安心したけどな」
杏子「でもゲルトが怖がらないのは意外だなぁ」
ゲルト「そうですか?」
杏子「いや、お前、あたしらのメンツじゃ一番乙女っぽいと思うし。なんつーか、ゴキブリ見たらきゃーきゃー可愛く叫びそう」
シャル「あー、確かに。そんなイメージ」
ゲルト「私ってそんなイメージなんですか……」
杏子「で? なんで平気なんだ?」
ゲルト「うーん、平気というか……」
ゲルト「昔、ハエの悟り遺伝子について調べていたら、なんかゴキブリの見た目って大した事ない気がしまして」
ゲルト「それに薔薇を育てていると虫と出会う機会も多いですし……ハバチの群れとかアブラムシの大群とか」
ゲルト「アレらに比べれば、まだゴキブリはマシな部類だと私は思いますね。私は、ですけど」
杏子「ふーん(悟り遺伝子ってなんだろ?)」
ほむら「ひぃぃぃ!? 何処に、何処にぃぃぃぃぃぃ!?」
シャル「あーもう、五月蝿いわねぇ……妖精さんにゴキブリホイホイでも作ってもらえば良いじゃん」
ほむら「そんな悠長な方法取ってられません! いえ、そもそも何匹居るかも分からないのですよ!?」
ほむら「確実に根絶しなければ安心出来ません!」
シャル「じゃあどうすんのよ」
ほむら「この『問答無用根こそぎ害虫ニュークリアボマー』で全てを破壊し尽くします!」ヒョイ
シャル「え?」
杏子「うわぁ。黒い球体に導線って、もろに爆弾だアレ……」
ほむら「これは半径300メートルに特殊な爆風を生じさせ」
ほむら「あらゆる生命体を吹っ飛ばす、究極の爆弾なのです!」
ゲルト「何それ怖いんですけど」
ほむら「これを使い、あの黒い悪魔を根こそぎ追い払ってやります……ふ、ふふふふふふ」
杏子「いやいやいやいやいや、落ち着け。兎に角落ち着け」
杏子「そんなもの使ったらあたしら死んじゃうから。絶対死ぬから」
ほむら「ご安心を。吹っ飛ぶだけで死にはしません。安心安全、優しさがモットーの妖精さんアイテムですから」
ほむら「まぁ、死ぬほど痛いんですけど」
シャル「死ぬほど痛いの!?」
ゲルト「あの本当に止め」
ほむら「起動っ!」
シャ ゲ 杏「あ」
ちゅどおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおんっ!!
―――― 外側 ――――
沙々「え」
ちゅどおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおんっ!!
……………
………
…
ほむら「……えー、半径300メートルを吹き飛ばすと言いましたが、実は例外がありまして」
ほむら「使用者の安全を守るため、爆弾を中心にした半径2メートルは爆風の影響を受けない仕組みとなっています」
ほむら「ですから私の傍に居た皆さんは心配せずとも良かったんですよ♪」
シャル「ふっざけんなあああああああああああああああああああああああ!!」
杏子「マジで死ぬかと思ったぞ!?」
ゲルト「し、心臓止まるかと思った……」
ほむら「いやいや。皆さん大袈裟ですねぇ」
ほむら「さっきも言いましたけど、直撃を受けても死ぬほど痛いだけで、死にはしないんですから」
杏子「でも死ぬほど痛いんだろ!?」
シャル「言っとくけど魔法少女って痛み慣れしてないんだからね!? 痛覚のコントロールが出来るから!」
ゲルト「そもそも慣れていても痛いのは嫌です!」
ほむら「あ、今日は買い物に行きたいので、皆さん支度の方お願いします」
シャ ゲ 杏「聞けよ!」
ほむら「昨日は鍋パーティで食材大放出しちゃいましたからねぇ。冷蔵庫の中がすっからかんなんですよ」
シャ ゲ 杏「だから聞けって!」
ほむら「ちなみに買い物を手伝ってくれなかった悪い子のお昼は抜きになります」
シャル「ちょっと着換えてくる」
杏子「歯磨きしてくらぁ」
ゲルト「携帯(妖精さん製)の充電しとかないと……」
ほむら「そうそう、それで良いのです」
ほむら「暁美家の胃袋を誰が握っているのか、それさえ分かればねぇ」←ゲス顔中
シャ ゲ 杏(くっ、逆らえない……!)
―――― 暁美家・外側 ――――
沙々「」プスプス
沙々(うぎ、おぐおぉあぁああぁぁ……!? し、死ぬほど痛ぇぇえぇぇぇぇぇ!)
沙々(な、何をされたか分からないが攻撃か……!?)
沙々(い、いや、落ち着けわたし!)
沙々(そうだ。中での会話で、ゴキブリ退治って言ってたじゃないか)
沙々(キュゥべえが厄介だと言っていたから、多少力があるのは想定内)
沙々(その力の使い方が……ちょ、ちょっとダイナミックだっただけです)
沙々(むしろあの力を洗脳で手に入れれば、今後のわたしにとって大いに役立ちます!)
沙々(くふ、くふふふ……このわたしをコケにした報い、受けてもらいますよぉ……)
沙々(……………)
沙々(でもその前に全身が痛くて堪らないので、魔法で回復しとこう……)
沙々(……回復魔法、苦手だから魔力使うなぁ……)
沙々(……グリーフシードのストック、あと三つになっちゃった……)
……………
………
…
―――― 見滝原商店街 ――――
ほむら「えーっと、人参、ジャガイモ、ベーコンにニンニクに……」
ほむら「うん、買い物はこれぐらいで良いですね」
シャル「や、やっと終わった……?」
杏子「おーもーいー……」
ゲルト「暁美さん、手ぶらじゃないですか……少しは持ってくださいよ……」
ほむら「私は朝昼晩で皆さんの料理を作っているのですよ? そのぐらいは楽させてくださいよ」
ゲルト「それは、まぁ、そうだとは思いますけど」
シャル「ちなみにお昼と晩ご飯はなんの予定?」
ほむら「お昼は親子丼、晩ご飯は野菜たっぷりのミネストローネをメインにしようかと」
ほむら「ミネストローネはバートリ・メルジェーベトが喜びそうな、色鮮やかなやつに仕上げてみせますのでご期待ください」
ゲルト「鮮血じゃないですかそれ」
シャル「そこでツッコめるゲルトちゃんも大概よね」
杏子「意味が分かっているお前もな」
沙々「……」コソコソ
沙々(家から四人揃って出てきたので後を付けてきましたが……買い物のようですね)
沙々(見たところ四人の仲は割とクールな感じ)
沙々(わたしの周りにいた馬鹿どもみたいにべたべたしていないのは好感が持てますし)
沙々(一人になるタイミングが多い、という意味でも喜ばしい事ですねぇ)ニタァ
沙々(まさかトイレまで一緒に行く、なんて事はないでしょう)
沙々(その時を狙い、誰かを仲間に引き入れれば――――)コソコソ
ほむら「ああ、そうだ……郵便局行ってお金下ろさないと」
シャル「たくさん買ったからねー」
杏子「つーかさ、わざわざ食材を買う必要ってないんじゃないか?」
杏子「妖精さんに頼めば食材ぐらいいくらでも持ってきてくれるだろ」
ほむら「お金とは経済における血液のようなものです。巡らせれば全身に栄養が行き渡り、活力が漲ります」
ほむら「しかし留まらせれば、エネルギーは巡らない。周りが徐々に壊死していく」
ほむら「ましてや不必要に貯め込めば、他が必要としているエネルギーの循環すら止めかねません」
ほむら「私のようにお金がなくても生きていける者こそ、積極的にお金を使うべきなのですよ」
杏子「ああ、金は天下の回りものってやつね」
ほむら「まぁ、あと何から作られたのか分からないってのもありますが」
ゲルト「え」
ほむら「安全性はバッチリですから気にしませんけどね、少なくとも私は」
ほむら「さて、郵便局に行くにはこっちの道を曲がって……」
\ワイワイガヤガヤ/
ほむら「むむ? なんですかこれ……野次馬だらけじゃないですか」
シャル「うわ、この人ごみを掻き分けるのは大変ね……何? 事故?」
ほむら「みたいですけど、一体なんの――――」
ほむら「あ」
シャル「ん? どうし……ああ」
ゲルト「そう言えばコレ、今まで触れずにいましたけど」
杏子「まぁ、日曜八時のアニメじゃあるまいし、勝手に消える訳がないんだけど……」
【エリーのパソコン(全長500メートル)の残骸】<デーン
ほむら「……どうしましょうかねぇ、これ」
< ッテ、ナンジャコリャアアアアアアアア!?
シャル「ん? なんか悲鳴が……」
ほむら「どっかの誰かが初めてこれを見たんじゃないですか?」
ゲルト「確かに、初めてこれを見れば誰でも叫びますよね……」
杏子「うわ、なんかどっかの研究所の博士みたいな奴が破片を調べてるぞ」
シャル「そりゃ調査員みたいな連中も来るわな」
ほむら「……ふむ」ゴソゴソ
ほむら「妖精さんアイテム『でっかい蚊』~」
シャル「うわ、体長2メートル近いでっかい蚊が……何それ?」
ほむら「モスキート音ってありますよね? 若い人にしか聞こえない音ってやつで」
ゲルト「あ、昔テレビで見ました」
ほむら「あれを使って人を追っ払うという着想の元、私が妖精さんを唆し」
ほむら「彼等の遺伝子工学によって、人間が恐怖を感じ逃げ出す羽音を出せるほど巨大な蚊を生み出してもらいました」
ほむら「それがこの『でっかい蚊』です」
シャル「遺伝子工学ってレベルじゃない大改造だと思う」
杏子「つーかモスキート音、もう関係ないじゃん」
ほむら「良いんです。彼等に望むものを作ってもらうには、こういう面白さ重視の発想が大事なのです」
ほむら「さ、あのパソコンの残骸に群がる人々を追い払ってくださいな」
蚊【ブブブブブブブッ!】ギューン
野次馬「ん? う、うわぁ!?」「巨大な蚊が!」「ひぃー! 血を吸い尽くされるー!」
「な、なんだありゃあ!」「退避! 退避ーっ!」「助けてくれぇーっ!」
ドタバタ……
シャル「……呆気ないほど簡単に全員追い払えたわね」
ゲルト「野次馬は兎も角、調査をしている人はもう少し奮闘してほしかったです」
杏子「で? 追い払ったって事は、中に入るんだよな?」
ほむら「当然です」ヒョイ
ほむら「一応アレ、妖精さんアイテムですし、片付けられるのなら片付けた方が良いでしょうからね」
ほむら「人間は勿論、インキュベーターにも解析出来るとは思いませんが」
ほむら「万一流用する形でこの技術を使われたら」
ほむら「悪い事にはならないでしょうが、しっちゃかめっちゃかにはなるでしょうからね」
ゲルト「ああ……確かにそうなりそうですよね……」
杏子「しかしこんなでっかい破片、どうやって回収するんだ?」
ゲルト「小さいやつでも三メートルぐらい、大きいものは百メートルぐらいありそうですよ?」
ゲルト「特別大きなあの破片なんて、まるで塔みたいにそびえてますし」
ほむら「問題はそこですよねぇ……」
シャル「別に無理して回収しなくても良いんじゃないかしら。どーせ解析出来ないし、応用されても困らないんだし」
シャル「見滝原の新しい観光名所にしちゃえばいいじゃん」
ほむら「いやー、観光名所にするのはちょっと……これ、結構バランス悪そうですよ」
ほむら「こんな感じに突いたら簡単に倒れちゃいそうで……」ツンツン
――――グラッ
ほ シャ ゲ 杏「あ」
沙々(暁美ほむら……まさか巨大な怪生物まで使役しているとは……)
沙々(癪ですが、キュゥべえの言い分を少しは認めないといけませんね)
沙々(一対一に持ち込んでも、果たして魔法を掛けるチャンスがあるかどうか――――)
沙々(ん?)
沙々(なんですか? 空が急に暗くなりましたが……)
沙々(嫌ですねぇ。今日の天気予報は晴れだったのに、もし雨でぬれたらテレビ局に魔女を送ってや)
沙々(……あれ? なんか塔みたいな塊が段々大きくなってきて)
沙々(あ、こっちに倒れてきてるのか)
沙々「って、なんで倒ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
< ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
ほむら「……………」
シャル「……倒れたわね」
ほむら「……ええ」
シャル「……どうなさるおつもりで?」
ほむら「逃げましょう」
シャル「グッド」
ゲルト「グッド、じゃないでしょおおおおおおおおおおおおおおお!? 大惨事ですよ大惨事ぃ!?」
ゲルト「あれ軽く数百人死んでいても可笑しくない規模の大崩落じゃないですかーっ!?」
ほむら「大丈夫です! あんな状態でも妖精さんアイテムですから死者は出ません!」
シャル「退却よ! たいきゃああああああああああくっ!」
杏子「ちょ、お前らマジで逃げるのかよ!?」
ゲルト「え、え、ぁ、うわぁぁぁぁぁんっ!?」
沙々「ご、っぱぁ!?」ズガンッ
沙々「ごほっ、げほげほ……! な、なんとか瓦礫の山から這い出る事が出来た……」
沙々「瓦礫が軽くなかったら生き埋めだったぞ……つーかめっちゃ軽いんだけどなにこれ? 発泡スチロール?」
沙々「いや、なんにせよ魔法少女じゃなかったらマジで死んでいた……そのぐらいには重かった……!」
沙々「ぐぎぎぎぎ……! じ、事故とはいえ、こんなダメージを追う事になるとは!」
沙々「……まずは魔法で怪我を治して……」
沙々「ちっ! グリーフシードをまた一つ使ってしまいました……あと、二つ……」
沙々「いや、消費した分は奴等を消せばいくらでも取り返せるとして」
沙々「このわたしが嘗められっぱなしだなんて、認められるか!」
沙々「アイツ等全員、必ずぶっ潰してやる……!」
沙々「滅茶苦茶に、心が壊れるまでねぇ……!」
……………
………
…
ほむら「ごひゅー……ごひゅー……ごひゅー……!」
シャル「相変わらず体力ないわねぇ……言い出しっぺのくせに、真っ先にダウンしちゃって」
ゲルト「少しは身体を鍛えた方が良いのでは……?」
ほむら「ひゅ、げほっ、げほげほ、ごほっ! げほげほげほ!」
シャル「何言ってんのか分かんないわよ」
ゲルト(何か言おうとしているのは分かるんですね)
杏子「……と言うかさ、がむしゃらに逃げていたら」
杏子「どっかの廃工場に来ちまったな」
シャル「そうねー……あれ?」
ゲルト「? どうしました?」
シャル「いや、なんか此処見覚えが……ああ、思い出したわ」
シャル「此処、以前地底探検をする事になった工場だわ」
ゲル 杏「地底探検?」
シャル「あの時はまだ二人とも、私達と知り合ってすらいなかったからねー」
シャル「簡単に言うと――――」クイクイ
シャル(ん? 裾を引っ張られた……ほむらに?)
シャル「どうしたの、ほむら?」
ほむら「げほ! げほげほ! がっ、げほっ!」
シャル「何? あっちを見ろって言いたいの?」
シャル(何処かを指さしてるみたいね。えっと、指が向いている方にあるのは……穴?)
シャル(随分と大きい穴、って、あれは……)
シャル「……そう言えば、あの後塞いだ訳じゃなかったわね」
ほむら「げほげほっ! ごほっ!」
シャル「確かに、向こうから出てこないとも限らないか。あまり長居しない方が良さそうね」
シャル「みんな、早くこの工場から出ましょう」
ゲルト「え? え、ええ……そうですね。廃工場みたいですし、不法侵入ですもんね」
杏子「……あとで理由、説明してくれよ」
シャル「それはほむらに聞いてよ。私はコイツに”言われて”逃げ出すんだから」
スタスタスタ……
沙々「ぶはっ! ようやく追いつきました……!」
沙々(って、誰も居ないじゃないですか……すれ違ったか、それとももっと奥に行ったのか)
沙々(取り巻の魔法少女達の魔力を追わないと……)
――――ガラッ
沙々「!」
沙々(なんの音……って、工場のど真ん中に開いた穴が崩れた音のようですね……)
沙々(……いやいや、なんですかあの穴は?)
沙々(軽く五メートル以上ある大穴じゃないですか。めっちゃ危険ですよアレ)
沙々(なんなんですかこの街……)
沙々(確かに噂で変なデザインの学校があるだとか、やたらでかい病院があるとか聞きましたが)
沙々(でもあんな超巨大な塔というか瓦礫? があるとか)
沙々(廃工場にでっかい穴が開いているとか)
沙々(そういう非常識な噂は聞いた事なかったのですけど……何? 暁美ほむらが魔女を保護した事による影響?)
沙々(魔女の数が増えればそりゃ奇妙な事件も増えるでしょうけど、でもだからってこれは……)
――――ガラガラ……
沙々(……あの穴、崩落しませんよね? さっきからどんどん崩れてるみたいなんですが)
沙々(いえ、ここまで離れていれば大丈夫だと思いますし)
沙々(万一ここまで崩落が広がっても、魔法少女の身体能力なら離脱可能な筈)
沙々(何も恐れる必要はありません)
――――グルルルルル……
沙々「ちょっと待て」
沙々「え? 何? 何なの今の鳴き声? 獣?」
沙々(あの穴に犬でも落ちているのでしょうか? まぁ、助けてやる義理もないのですが)
沙々(……そうですねぇ。その憐れな面を拝んでおくのも良いかも)
沙々(暁美ほむらのせいで大分ストレスが溜まってますし、ここらでスッキリとした気持ちになりたいところ)
沙々(さーて、どんな奴が落ちたのかなーっと)
グリフォン【グルルルルル……】
沙々(へぇー、鷹の頭と翼を持ちつつ、下半身はライオンと言われているグリフォンそっくりな犬ですねぇ)
沙々「……………」
沙々「ぐ、ぐぐぐぐグリフォンんんんんんんんんんんんんんんんんんん!?」
グリフォン【ギャアアアアアアアアアアアアアアスッ!!】バッ
沙々「ぎょえーっ!? 穴からグリフォンが飛び出してきたぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
沙々「というかなんでグリフォンがリアルに実在しちゃってるんですか!?」
沙々「そりゃ魔女とかキュゥべえとか妖精とか居ちゃうこんな世の中ですけど」
沙々「それでもグリフォンは非常識過ぎるでしょおおおおおおおおおお!?」
グリフォン【ガオンッ!】
沙々「ひっ!? つ、爪で攻撃してきた!? あわわわわ……!」
沙々「そ、そうだ、変身すれば……!」ヘンシン
沙々「く、くふふふふふ……そうだ、変身すればこんな怪物、恐れる必要はない」
沙々「一対一なら魔法で洗脳しちゃえばいいんです! なんの問題もない!」
グリフォンB【ギィオオオオン!】
グリフォンC【ガルルル】
グリフォンD【オオオンッ!!】
グリフォンE【ギャアアアアアアアスッ!】
沙々「言った傍からいっぱい出てきたあああああああああああああああああ!?」
沙々「なんなんですかこれぇ!? ちょ、無理無理!」
沙々「そ、そうだ魔女! 私の育てた魔女を戦わせましょう!」
沙々「ま、魔女ども行け! いけぇ!」
魔女*10【オオオオオオオ】
グリフォン*5【ギャオオオオオオオオオオンッ!】
沙々「ひぃっ!? なんかちょっとした怪獣決戦みたいになってるぅ!?」
魔女【オオッ!】
沙々「ぐぇ!? 魔女の攻撃の流れ弾がみぞおちにっ!?」
グリフォン【ギャオンッ!】
沙々「げふっ! 吹っ飛んできたグリフォンがわだじの上にっ!?」
魔女【オ――――!】
グリフォン【ギシャアッ!】
魔女【オオッ!?】
沙々「ほげっ!? わ、わたしを押し潰しているグリフォンの上に、他のグリフォンの攻撃を受けた魔女が積み……」
――――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
沙々「!? な、何この音!?」
沙々「まさか工場が崩れようとしているんじゃ……」
――――ベキ、ガラガラガラ、ズドーン!
沙々「まさかじゃなくて現在進行形だったァ――――――――!?」
沙々「ひぃぃぃ!? だ、脱出、脱出……!」
沙々「ぎぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
ズズーンッ……
……………
………
…
沙々「う、うぅ……げほ、げほ……」
沙々「い、命、からがら……崩れゆく廃工場から、脱出、出来ました、が……」
沙々「服は、ボロボロ……治療で、グリーフシードは、使い果たし……」
沙々「魔女は、回収する暇がなく、全部、廃工場に、置き去り……」
沙々「死んではいない、でしょうが……しかし、グリーフシードがない、今……」
沙々「洗脳、魔法も……ろくに、使えず……回収は、不可能……」
沙々「こ、んかい、は……引き上げないと……」
沙々「家に、二個だけ、グリーフシードのストックが、あります……」
沙々「あれを使って、魔力を回復、し、て……」
沙々「地元の、魔女を洗脳、し、て……」
沙々「それから、戦力の再編と……グリーフシードの、備蓄を作って……」
沙々「うう……地元に籠ってた方が良かった、かも……」
沙々「なんなんですか、この街ぃ……魔境ですかぁ……」
沙々(もう、精神的に疲れ、た、です……おうち、帰って、寝たい……)
沙々(そうだ……平穏に暮らせればいいじゃないですか……下手に縄張りを奪わなくても、今のままで十分楽しいですし……)
沙々(うん、そうだ……家族と一緒に笑って暮らせれば、それで良いじゃあないですかぁ……)
沙々(優木沙々は静かに暮らしたい……植物のように……平穏な、日々を……)
「はふぅー……今日は疲れましたねぇー」
沙々「!?」ビクッ
沙々(な、なん……!?)
沙々(今の声は、まさか!)
ほむら「ただ買い物にきただけなのに、やたらとドタバタしてしまいましたよー」
沙々(あ、あああああ暁美ほむらあああああああああああ!?)
沙々(な、なんで此処に!? 偶然遭遇しちまったのか!?)
沙々(い、いや、ここまで来て偶然だと思えるか?! いや、偶然だと思うべきじゃない!)
沙々(まさか、わたしの存在に感付いている……!? だとしたら、今までの出来事は……)
沙々(しかしどれも事故みたいなものだし、そう決めつけるのも……)
沙々(と、兎に角、様子を窺いましょう!)
沙々(逃げるにしてもどうするにしても、情報が無くては……)コソコソ
シャル「いや、ドタバタの原因は大体アンタのせいでしょうが」
ゲルト「暁美さんがあの瓦礫をつつかなければ……」
杏子「いや、でもつついただけで倒れたって事は、あれ、本当にヤバかったんじゃないか?」
杏子「ほむらのお陰で人が居ない状態になってたんだし、そう責めるなって」
ほむ シャ ゲ(佐倉さんマジ天使)
ほむら「はぁー……それにしても疲れました……」
ほむら「お金を下ろすのはまた今度で……別にすっからかんでもありませんし」
ほむら「このまま真っ直ぐお家に帰りましょう」
シャル「さんせーい。こっちはもう買い物袋を持つのもしんどいし」
ゲルト「走り回ったからか、お腹が空いてきましたよー」
杏子「だな。さっさと帰って……」
杏子「ん?」
ほむら「? 佐倉さん、どうしました?」
シャル「ちょっとー、面倒事とか見つけないでよー?」
杏子「いや、悪い。もう遅いわ」
杏子「あれって……ナイフ、だよな?」
シャル「え? ……うわ、本当だ。ナイフが落ちてるじゃん。気持ち悪いわねぇ」
ゲルト「誰かの落し物でしょうか?」
ほむら「うーん、刃渡りは凡そ15センチ、ですか」
ほむら「法律上刀身が6センチ以上の刃物は正当な理由なしでは持ち運べません」
ほむら「また理由があって持ち運ぶ時も梱包などの安全対策が必須ですから、もろに銃刀法違反な代物ですね」
ほむら「落し物、というよりも証拠品と言うべきでしょうか」
シャル「いや、そんな詳しい解説求めてないから」
ゲルト「というか、なんでそんな事知っているのですか……」
ほむら「これでもナイフ愛好家ですので……ナイフ一本あれば狩りも護身も道具作りも出来ますからね」
ほむら「流石に平時は持ち歩きませんけど」
シャル「ふーん。アンタの事だから、刀身6センチ以下のナイフを持ってくると思ったわ」
ほむら「いえ、刀身6センチ以下でも正当な所持目的がない場合軽犯罪法違反になります。護身用は認められませんし」
ほむら「それに使い慣れたナイフが12センチのやつなんで、あまり小さいと手に馴染まないんです」
ほむら「ま、何度も死線を潜り抜けた相棒の代わりはいないってところですよ」
シャル「……ガチっぽい解答されると反応に困るわ」
ゲルト「死線を潜り抜けたって、今まで本当にどんな経験してきたんですか……」
杏子「それよりさ、あのナイフどうすんの? 警察とかに通報した方が良い訳?」
ほむら「ああ、そうですね。そうした方が良いでしょうね。もしかすると、銃刀法じゃ済まない事件の証拠かも知れませんし」
ほむら「一応警察に通報しておきましょう」
カサッ
ほむら「……………」
シャル「ん? 木になんか黒いものが――――」
シャル「あら」
杏子「ああ、ゴキじゃん。夏が近くなると、外でも偶に見るよなー」
杏子「……そういやコイツ、ゴキブリ駄目なんだっけ」
シャル「野生種は平気って言ってたし、大丈夫なんじゃない?」
ゲルト「……いや、あれチャバネじゃないですか。屋内種、というか外来種だから日本の野生には棲んでないやつです」
シャル「って、事は――――」
ほむら「ほみゅうううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううっ!?」
シャ ゲ 杏(ほみゅう?)
ほむら「ご、ごき、ごき、チャバネ!?」
ほむら「ひぃぃぃぃ!? げ、下痢は、下痢は嫌ああああああああああああああ!」
シャル「何がアイツをあそこまで駆り立てるのだろうか」
ゲルト「発言が発言だけに、あまり知りたくはないですね……」
ほむら「な、なに、何か武器……」
ほむら「!」
ほむら「これ……!」
ほむら「――――妖精さんアイテム『筋力アップダンベル』!」
シャル「うわっ!? なんかダンベルを取り出した!?」
ほむら「そして――――」
杏子「空いた手で落ちてたナイフを拾って――――」
ほむら「どりゃああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
――――ブンッ!!
シャ ゲ 杏「投げたあああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
杏子(つーかなんてスピードだ!? あたしの目でも追えねぇ速さだぞ!?)
シャル(絶対あの妖精さんアイテムの効果だ!)
ゲルト(ダンベルなのに鍛える前にパワーアップって順序が可笑しいですよ!?)
杏子(などと時間制限を限りなく無視した事を思っている間に、猛烈な速さで放たれたナイフがゴキブリに――――)
G【】スッ
シャ ゲ 杏「避けたああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
――――カッ!
ほむら「ちぃっ! 外した!」
ほむら「何処だ!? 何処に逃げたあああああああああああああああ!」
シャル「ちょ、ほむら口調変わってる!? 別人みたいになってるから!?」
杏子「……アイツの事はシャルに任せるか」
ゲルト「投げましたね」
杏子「お前もな」
杏子「……つーか、ナイフどっかに飛んでいっちまったな。木に刺さらず、弾き返されちまったから」
杏子「マジで弾丸並の速さで飛んだから、すっげー遠くに飛んじまっただろうなー」
ゲルト「探すのもなんか面倒臭いですし……ほっときますか」
杏子「指紋出てきてもほむらのだしな。それでトラブっても、アイツならなんとかするだろ。多分」
ゲルト「ですね」
杏子「……しかし妖精さんアイテムで腕力アップさせてから投げたみたいだし」
杏子「あれ、何処まで飛んでいくんだろうな」
ゲルト「隣町まで吹っ飛びそうな速さでしたよねー」
ほむら「ほぎゃああああああああああああああああああああああああああ!? 足、足元にぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」
沙々(……どうやら、わたしの存在には気付いていないみたいですね)
沙々(なんか今はゴキブリに気を取られているみたいですし)
沙々(このままこっそり逃げるとしましょう)
沙々(ええ、そうです。もうこの街には近付かない……)
沙々(わたしは地元に引き籠ってひっそりと――――)
カッ
沙々(ん?)
カッ
カッ
沙々(なんですか、この音……)
カッ カッ カッカッカッ
沙々(何かが、跳ね返っているような……?)
カッカッ カッ カッ カッ
沙々(近付いているような……?)
カッカッカッカッカッカッ
沙々(というかこの音って)
沙々(さっき暁美ほむらが投げたナイフが木に弾かれた時の音――――)
カッ!!
沙々「って、なんかナイフがこっちに飛んできどうふっ!」グサッ
沙々「うぎゃあああああ!? な、ナイフが、額に!? 額にぃぃぃぃぃ!?」
沙々「ぐ、ぐ、ぐぉぅふっ!?」ズルリッ
沙々「な、なんかめっちゃ深く突き刺さりましたけど、なんでわたし生きてんの!? いや死にたくないですけど!」
沙々(というかどういう事だオイ!?)
沙々(このナイフ、遠目で見ていたから確信は出来ないが……)
沙々(間違いなく、暁美ほむらがぶん投げたナイフ!)
沙々(つまりあの猛烈な速さで投げたナイフが、壁とか電柱とか木とかで跳ね返り続け)
沙々(そして最後はわたしの頭にクリーンヒット!?)
沙々(ふざけんな! 跳弾したナイフに当たるって、B級映画でも見ないシーンだわっ!)
紗々(狙ってやったとしたらあまりにも馬鹿馬鹿し過ぎて逆に偶然を疑うっつーの!)
沙々(仮に狙ってやったとしたら、あっちがこっちを完全に把握してなきゃ無理――――)
沙々「……!?」
沙々(まさか、奴等は本当にわたしの存在に気付いている!?)
沙々(いや、でもわたしの姿はアイツ等にはまだ見られていない筈! 知りようがない!)
沙々(知りようが……)
沙々(で、でも、知っていると考えたら、全て辻褄が合う……?)
沙々(そうだ、今朝からずっと可笑しいじゃないか!)
沙々(家に近付いたら爆発に巻き込まれ!)
沙々(暁美ほむらがつついた巨大な瓦礫がわたしの方に倒れてきて!)
沙々(後を付けて入った廃工場で怪物に襲われた挙句!)
沙々(投げナイフの跳弾でこっちの頭を正確に射抜きやがった!)
沙々(あんな事が全部偶然起こるなんて……あり得ない! 少なくとも暁美ほむらは、わたしの存在に気付いてる!)
沙々(しかし一体どうやって!? どうやってわたしの事を知った!?)
沙々(いや、それよりも一体何処まで知っている!?)
沙々(いくら後を追ったからって、いきなり殺しにくるぐらいだ……間違いなく、わたしの魔法は調べている筈)
沙々(わたしの魔法が調べられるのなら、もう何を調べる事が出来ても可笑しくない……)
沙々(わたしの縄張り、行動パターン、生活サイクル……それら全てを知っていても不思議じゃない)
沙々(そして、す、住んでいる場所も……!?)
沙々(あり得る! わたしの魔法を知っているのなら、家を知るぐらい余裕だ!)
沙々(家を知っているのなら、わたしが眠った隙に暗殺する事が出来る!)
沙々(ここで家に帰ったら、殺される……いや、そもそも帰れるのか?)
沙々(もうグリーフシードのストックはない。魔女も居ない。新たな魔女を洗脳する余力もない)
沙々(そんな状態で、何時攻撃されるか分からない中、家に帰る……)
沙々(出来る訳がない!)
沙々(……今日、今ここで暁美ほむらとはケリを付けなければならない)
沙々(あの強大で、こちらの全てを見透かしているであろうアイツを……)
沙々(……もう、あの手を使うしかない……)
沙々(最後の、あの手段を……!!)
……………
………
…
―――― 見滝原公園 ――――
まどか「あ、ほむらちゃん、みんな。やっほー」
さやか「よーっす」
ほむら「あら、こんにちは」
杏子「よぉ、まどか。それからごきげんよう、さやか様」
シャル「相変わらずさやかにだけ態度違うわね」
ゲルト「今日はお二人でお出かけですか?」
さやか「うん。映画見に行ってた」
まどか「出来ればほむらちゃんと二人きりでラブストーリーな映画を見たかったけどね」
まどか「今日はさやかちゃんで我慢です」
さやか「おうおう、言ってくれるな」
ほむら「私、ラブストーリー系とか退屈で寝ちゃうタイプなんですよねぇ」
まどか「ウェヒー……」
さやか「そしてこの結果である」
マミ「あら。みんなこんなところに集まってどうしたの?」
ゲルト「あ、巴さん。こんにちはー」
杏子「別に集まっていた訳じゃないけどな。そういうマミは?」
マミ「私はキュゥべえとゆまちゃんの家に寄ってて……」
ほむら「ゆまさんのお家ですか?」
マミ「ええ。詳しくは聞けなかったけど、あの二人って今、二人だけで暮らしているみたいでね」
マミ「キュゥべえは兎も角、ゆまちゃんはまだ小学生だから色々大変でしょ?」
ほむら「大変というか、児童相談所に通報すべきレベルだと思いますけど」
マミ「……キュゥべえがゆまちゃんから七時間以上かつ三メートル以上離れると、発作を起こしてしまうらしいから……」
ほむら「了解。細かい事は気にしない事にします」
マミ「えっと、それでね? どんな場所で暮らしているのかとか、ご飯はどうしているのかとか」
マミ「そういうのを見てきたの」
ゲルト「それで、巴さんの意見としては?」
マミ「うーん、本人がそれで幸せならいいんじゃない……ってレベルかしら」
ほむら「つまり、傍目にはあまりよろしくない環境だと」
マミ「ええ。本当は無理やりにでも児童相談所に連れて行くべきなんでしょうけど……」
ほむら「まぁ、事情がありそうですし、今回は特別という事にして、今度みんなでお邪魔するとしましょう」
ほむら「妖精さんアイテムも使えば、現状よりずっとマシな生活環境に出来るでしょうし」
マミ「そうしてくれると助かるわ」
シャル「話は終わった? なら、そろそろ帰りたいんだけど……」
杏子「両手の買い物袋が重い……」
マミ「あ、ごめんなさい! 引き留めちゃったわね」
ゲルト「いえいえ」
ほむら「それじゃあ、そろそろ帰らせていただきますね――――ん?」
さやか「? どうかした?」
ほむら「……誰か、こっちに来ますね」
さやか「へ? 誰かって……」
シャル「……確かに、誰か来たわね。まっすぐ、こっちに向かって」
まどか「……?」
沙々「……く、ふ、くふ、くふふふ……」フラフラ
マミ「……何かしらあの子。ちょっと……不気味……?」
ほむら「……そうこうしていたら、まぁ、向き合う形で対峙する事になった訳ですが」
ほむら「えーっと、何かご用でしょうか?」
沙々「……くふ、くふふ」
沙々「くふふふふふふ」スッ
まどか「!? あ、あれは――――」
シャル「ソウルジェム!?」
ゲルト「という事は、魔法少女!?」
ほむら「……穏やかじゃありませんね。いきなりソウルジェムを見せてくるとは」
ほむら「我々の前に姿を現したという事は、恐らく私達の事はキュゥべえから多少は聞いている事でしょう」
ほむら「目的はなんですか? この見滝原の魔女を狩りたいとかでしょうか?」
ほむら「もしそうなら、こちらも相応の対応をさせていただきますが――――」
沙々「……く、くふ」
沙々「くふ、くふふふふふ」
沙々「くふふふふふふふふ」
ほむら「……笑ってばかりで埒があきません」
ほむら「仕方ありません。みなさん、少々強引ですが、あの方を気絶させてもらえませんか?」
ほむら「妖精さんに頼んで記憶の抽出を」
沙々「くふふふふふふふふふふふふふふふふふふふっ!」ダッ
ほむら「っ!?」
ほむら(突然走り出してきた!? まさか、直接攻撃!?)
杏子「ちっ! 出遅れた……が、遅ぇ!」
シャル「その程度の速さでどうにか出来ると思って――――」
沙々「マジ、すいませんっしたぁ……!」ドゲザ
全員「……え?」
沙々「命だけは助けてくださぃ……!」プルプル
全員「……え?」
最終手段 ザ☆命乞い
沙々「殺さないでぇぇ……!」ガクガク
全員「……………」
ほむら「……なんで皆さん私の事を見るのですか」
シャル「いや、どう考えてもあんたが原因でしょ」
さやか「魔法少女をこんな震えるまで怖がらせるとか……」
ゲルト「暁美さんならあり得ると言いますか」
まどか「ほむらちゃん以外にこういう展開を起こせる人は居ないと思うし……」
ほむら「いやいやいや!? 濡れ衣ですよ!」
ほむら「私は今回何もしていませんよ!? この人が勝手に謝ってきただけですから!」
さやか「あ、普段はトラブルの原因って自覚はあるのね」
ほむら「そういう時はわざとやってますので」
杏子「おい」
マミ「でもねぇ……」
ほむら「むぅ! そこまで言うなら確かめましょう!」
ほむら「そこのあなた、一体誰に対して命乞いをしていると言うのですか?」
ほむら「怒りませんし、怒らせませんから、正直にお答えください」
沙々「……あ……」
沙々「あなた様でございます……ほむら様ぁ……!!」
ほむら「ぶぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!?」
全員「……………」←軽蔑の眼差し
ほむら「え、あ、いや、ちが……」
沙々「な、なんでもしますから……命だけは、命だけはぁぁぁぁぁ……!」
ほむら「ええええええええええええええええええええええええ!?」
暁美ほむらに虐められ、逆らってはいけない存在を知った沙々にゃんは悪の魔法少女から足を洗いました。
しかし機嫌を損ねたら殺されるという強迫観念で、ほむらに媚びずにはいられない体質になっており、
沙々にゃんは心の傷が癒えるまで実家に帰れなくなっていました。
無論責任は虐めた側にあるので、ほむらが責任を持って沙々にゃんの心の傷を癒す事になりました。(賛成7:反対1で)
こうして暁美家には新たな居候が増え、ますます賑やかになったのです(注:ハートフル要素)。
めでたしめでたし。
ほむら「いや何一つめでたくないですよね!? というかなんで私が虐めた事になってるんですか!?」
沙々「ほむら様ああああああああああああああ!」
ほむら「ちょ、は、離れ……!」
まどか「……不潔」
ほむら「うぇぇぇええええええええええええええええっ!?」
ほむら「な、なんでこんな事になってるのおおおおおおおおおおおおおおおお!?」
疾患QB(……やはり、優木沙々も駄目だったか)
疾患QB(まぁ、結末自体は予想通りだ……暁美ほむらの仲間になるという結末だけは)
疾患QB(それでいい。問題ない)
疾患QB(あんな脆弱な下等生物が一匹増えたところでこちらの勝利は揺らがない)
疾患QB(……く、くくく、くひひひひひひひ)
疾患QB(ああ、もう少し。もう少し)
疾患QB(あとほんの数日で、暁美ほむらと妖精も終わりだ)
疾患QB(最終兵器プラン……)
疾患QB(『ワルプルギス(魔女達)の歴史』が完成するんだからね――――)
妖精さんメモ
『ほっぷすてっぷ洗面台』※オリジナル※
妖精さんが地底から脱出するためだけに作ってくれたアイテムです。外観は正に洗面台ですね。
その効力はこの洗面台の水で手を洗った人間を『もこもこ』に変え、特殊な空間を経由させる事で任意の場所に
移動させるというもの。妖精さんはその空間を生身で移動出来るようですが、人間は『もこもこ』にならないと
素粒子レベルでバラバラにされてしまうそうです。これだけ聞くと安全性に疑問を抱くかも知れませんが、
しかしそこは妖精さんアイテム。「ほどけたいなー」と思いながら通らない限り、大丈夫だそうです。
……ところで解けたいってどういう意味でしょうね? こっちの人間はそう思わない、とかなんとか……
そもそもこっちの人間の意味が――――(以下考察を殴り書きしている)
『ペーパークラフト生命体』※原作設定 メイドさんはオリジナル※
妖精さんテクノロジーの中で、飛び抜けて人を驚かせてくれるのがこのペーパークラフト生命体でしょう。
文字通り彼等は紙で出来ており、動力は輪ゴムとなっています。
しかしそれだけなら精巧なだけの、人間でも作れる図画工作。
妖精さんテクノロジーで生み出された彼等は、紙でありながら恒常性や新陳代謝機能を持ち、
搭載したスペックによっては自己増殖機能や世代交代・自然淘汰による進化すらも成し遂げる。
つまり妖精さんは人間では出来ない生命の創造を、有機物という枠すらすっぽ抜けたレベルで実現しているのです。
我が家のメイドさんはお手伝いとして生み出していただいたので、生物的機能の一部は持ち合わせておりません。
しかし自らの意思で考え、食事(何故か普通の食べ物で大丈夫だったりします)もし、睡眠や休息を必要とする。
そんな彼女達は誰がどう見ても生物であり、地球よりも重いと言われる命だと私は思っています。
『なんでも大百科』※オリジナル※
この世のあらゆる『できごと』『ものごと』の方から記載してくれる、究極の大百科です。
あまりにも情報量が多く、全てを記載した状態だととても持ち運べないサイズなので、検索した言葉が紙に映る
仕組みとなっています。
『できごと』『ものごと』自身が記載しているので事実をありのまま書いてあり、議論の予知のない真実を
知る事が出来る……と言いたいのですが、何分『ご本人』が書かれているので、他の『できごと』『ものごと』に
関する記載に関しては大雑把、或いは稀にですが事実と異なっていたりするのが難点です。
ちなみに検索した言葉が表示されているページを破壊すると、その『できごと』や『ものごと』が無かった事になります。
所謂歴史・法則の改変であり、とんでもない事のような気がしますが、妖精さんアイテムでは珍しいものではありませんね。
『お悩み相談空間』※オリジナル※
妖精さんが私の悩みを解決しようと思い、作ってくれた特別な空間です。
並行世界に存在する自分を呼び込む事で、相談に乗ってくれる人を増やしてくれる……という、
実に妖精さん的な発想で成り立っています。ちなみに入る事は出来ても出口は存在せず、恐らくは
ちゃんと悩みを相談しないと外には出られない仕組みとなっているのでしょう。
残念ながらそれを確かめる前に定員オーバーで空間が壊れてしまい、調べる事が出来なくなってしまいました。
ちょっと残念。
『記憶ホームランバット』※オリジナル※
すっきり爽快! これで頭を一発殴れば脳髄と一緒に記憶が吹っ飛びます!
……初めてこのバットの説明書を見た時、使うのを躊躇ったのを今でも覚えています。
あの時は私もまだ妖精さんに慣れていませんでしたからねー
今では面倒臭い時、何かをもみ消したい時、憂さを晴らしたい時に重宝している、素敵なアイテムです♪
『問答無用根こそぎ害虫ニュークリアボマー』※オリジナル※
ゴ■■■(ペンで塗り潰されている)……台所の黒い奴に困っていた私に、妖精さんが送ってくれた便利グッズです。
スイッチを押すとその瞬間大爆発。生命体だけに有効である特殊な爆風によって周囲300メートルのあらゆる害虫、
ついでに犬とか猫とかネズミとかアライグマとか人間とかを根こそぎ吹っ飛ばしてくれる最強防虫アイテムとなっています。
それだけだと単なる兵器なのですが、しかしそこは心優しい妖精さん。
あくまで吹っ飛ばすだけで、爆風を受けても死ぬほど痛いだけで死にはしない素敵仕様。
更に使用者とその身近な人を守るために爆弾の半径2メートルには効果が及ばないようになっています。
さぁ、皆さんもこの爆弾を使って清潔で安全な生活を送りましょう!
『でっかい蚊』※オリジナル※
とにかくでっかい蚊です。妖精さんのバイオテクノロジーによって生み出されました。
……あまり書く事ないです。血も吸わないですし……というかベースになったのがユスリカだし……
強いて言えば、見た目が気持ち悪い、でしょうか?
『筋力アップダンベル』※オリジナル※
ああ、筋肉が欲しい。だけどトレーニングは面倒臭い。
そんな時に便利なのがこのアイテム。なんと持つだけで、見た目は変わらないけど途轍もないパワーが身に着きます!
……と、筋トレ全否定の便利アイテムです。ダンベルなのに筋トレ不要とはこれ如何に。
まぁ、それが妖精さん的に面白かったのでしょう。
ちなみに具体的にどれぐらいパワーアップするかは分かりませんが、以前使った時は片手で大人のゾウを持ち上げる事が
出来ましたので参考までに。
えぴそーど にじゅうよん 【人間さん達と、わるぷるぎすのよる】
―――― 祈りの魔女の結界 ――――
エルザマリア(以下エルザ)【――――――――】
――――シュババババッ!
シャル「くっ! たくさんの触手が……いや、これは、使い魔!?」
まどか「だとしたら切ったりする訳にはいかないよ!」
まどか「だって私達は、あの人達を助けに来たのだから!」
シャル「でも攻撃が激し過ぎるわ!」
シャル「せめてあの使い魔の攻撃をどうにかしないと!」
さやか「どうすればあの魔女に、誰も傷付けずに近付けるんだ!!」
ほむら「そんな時はこれ」
ほむら「妖精さんアイテム『何時の間にかコード』~」テッテレー
シャル「はい、暁美さん。それはどのような道具なのかしら?」
ほむら「家電のコードって、気を付けて使っていても、何時の間にかぐっちゃぐちゃになってたりするじゃないですか」
まどか「はいはい。確かによくなってますねー」
ほむら「その原理を応用し、このコードをゆらゆら~と揺らす事で」
ほむら「ひも状の物体の誰もが持っている『あ~なんか絡みたい~』という気持ちを誘発」
ほむら「その結果!」
エルザ【私の使い魔達ががんじがらめのしっちゃかめっちゃかにーっ!?】
使い魔【タスケテゴシュジンサマー】
エルザ【キィヤアアアアアアアアアアシャベッタアアアアアアア!?】
妖精さんA「つかいまさん、もみくちゃがおすき?」
妖精さんB「にんげんさんのてでもてあそばれたい」
妖精さんC「ゆびでころころされたいですなー」
妖精さんD「なにそれかちぐみやんけ」
エルザ「ギョエアアアアアアヘンナイキモノガワタシノアタマノウエニィィィィィ!?」
さやか「妖精さんのお陰で魔女も使い魔も正気に戻った!」
ほ シャ ま さ「これにて一件落着!」
沙々「ほむら様凄い! ほむら様カッコいい!」<紙吹雪を撒いている
マミ「何この茶番」
……………
………
…
エルザ「助けてくれてありがとうございます……」キラキラ
まどか(美少女だ)
エルザ「狂っていた自分を正気に戻してくれただけでなく」キラキラ
さやか(正統派清純系美少女だ)
エルザ「人間だった頃の姿を、私の古い記憶から呼び起こし」キラキラ
シャル(見ていると心が洗われるような美少女だ)
エルザ「再び、人としての生を与えてくれるなんて……!」キラキラ
マミ(同性なのに見ていると涎が出てくる美少女だ)
エルザ「もしかしてあなたは、神の使いでは……!?」キラキラ
沙々(嫉妬心を覚えるよりも感動してしまうレベルの美少女だ)
ほむら「神様なんかより凄い妖精さんのお友達ですよー」
ほむら「まぁ、当の妖精さんは(電波がある外に出たので)今はいませんが」
ほむら「それより、これからどうされます?」
ほむら「妖精さんが私の頭の中にお帰りになる前に、世界の記憶とやらをお話したところ」
ほむら「あなたが魔女になったのは今から凡そ半年前との事」
ほむら「両親はご存命のようですし、帰宅してあげた方が宜しいのではないでしょうか?」
ほむら「多分、毎日眠れない日々を送っていると思いますよ?」
エルザ「はい……今すぐにでも、家族の元に帰りたいのが本心です……」キラキラ
ほむら「了解です。妖精さんに頼み、お家を探してもらいます」
ほむら「居なくなっていた半年間の事も妖精さんパワーで穏便かつ円滑に解決しましょう」
エルザ「何から何まですみません……」キラキラ
ほむら「んー、私は謝られるより、褒め称えられる方が好きなんですよねぇ」
エルザ「……ありがとうございます。何から何まで」キラキラ
ほむら「いえいえ♪」
杏子「うーす。そっちも終わったようだなー」
ゲルト「どもー」
旧べえ「やれやれ……」
まどか「あ、杏子ちゃん。ゲルトルートさんとキュゥべえも」
さやか「そっちも終わったみたいだねー」
杏子「ええ。魔女の結界が二つあったからって、二手に分かれて大丈夫なのかと心配しましたが……」
杏子「妖精さんのお陰でなんとかなりました」
杏子「そんな訳でさやか様、あたし頑張ったから頭なでなでしてください」
さやか「……まぁ、それぐらいならしてあげよう。うん」
杏子「えへへー♪」
シャル(……着実に飼いならされている気がするわ。双方とも)
ゲルト「えーっと、こちらが私達が……まぁ、やったのは妖精さんですが……人間に戻した、パトリシアさんです」
パトリシア「ど、どうも……」
シャル「あ、委員長」
パトリシア「?!」
さやか「え? 知り合い?」
シャル「いや、全然知らない人だけど……」
シャル「ただ、なんとなくそんな風に呼びたくなったので」
パトリシア「うう……ここでも委員長呼びだなんて……」
パトリシア「私、本当は保険委員なのに……」
さやか(あ、昔から委員長呼ばわりなんだ……)
まどか(保健委員……ちょっと親近感)
ほむら「えーっと、いいんちょさんはこれからどうされるおつもりですか?」
まどか(そしてほむらちゃん、保健委員さんと呼んであげるつもりはないのね)
ほむら「家族の元に帰りたいという事なら、妖精さんパワーでお家を探します」
ほむら「仮に……”帰りたくない”というのであれば」
ほむら「我が家の居候として迎え入れる事も出来ます」
ほむら「どうします?」
パトリシア「え、えと……どう、と言われましても……」
パトリシア「私、もう何年も前から魔女になってますし……家族の事とかよく思い出せないし……」
パトリシア「仮に帰るとしても、いきなり帰ると騒ぎが大きくなりそうですし……」
ほむら「ふむ。確かに」
ほむら「でしたら……一週間前後で、ご家族の元に帰すとしましょう」
まどか「? 一週間って、何かあるの?」
ほむら「実は頼んでいた妖精さんアイテムの完成が見えてきたのです」
シャル「それって、五十万人の妖精さんを導入して作ってるやつ?」
ほむら「いえーす! それさえ完成すればパトリシアさんがお家に帰っても大した騒ぎにはならない筈です!」
マミ「? どういう事?」
ほむら「それを言ったらサプライズになりません。なので秘密です」
ほむら「でも、まぁ、一言で言うなら……」
ほむら「あのアイテムが完成すれば、世界が変わります」
ほむら「魔法少女と魔女だけではない。人類の歴史が根底から覆るのです」
ほむら「その結果、世界はより良くなる」
ほむら「……と、良いなぁ」
シャル「うわっ、一気に信用出来なくなった……」
ほむら「ふふふ。もう手遅れです。私を始末しようとアイテムは問題なく完成するでしょう」
ほむら「最早インキュベーターが何をし、どんな結果を出そうと無駄です」
ほむら「勝利は既に我々の手の内にあるのですよ」
ゲルト「完全に悪人の台詞ですね、これ」
シャル「伏線と言うべきかフラグと言うべきか……」
まどか「悪ぶったほむらちゃんカッコいいなぁ」
さやか「お前はいい加減目を覚ませ」
ほむら「まぁ、連中をぎゃふんと言わるのもパトリシアさんをお家に帰すのも」
ほむら「全てはそのアイテムが完成してからです。それまでは今までと変わりません」
ほむら「当面は見滝原の魔女さんの安全を確保。余裕があれば風見野などの他の街にも行きましょう」
ほむら「他の魔法少女と交戦になるかも知れませんが、そうなったら妖精さんアイテムで捕獲しちゃいましょうか」
さやか「捕獲って……まぁ、捕獲した方が良いか」
マミ「簡単には説得出来ないでしょうからね……経験者は語らせてもらうわ……」
ほむら「まぁ、皆さん、今更そこらの魔法少女に負ける事もないでしょうし。交戦しても些末な問題ですよね」
シャル「……そう言えばさ、質問なんだけど」
ほむら「はい?」
シャル「グリーフシードから、人間に戻す事は出来ないの?」
シャル「グリーフシードってソウルジェムとかから穢れをある程度吸うと、また魔女が生まれるんだけど」
シャル「だったらグリーフシードを孵化させて魔女にしてから人間に戻せば」
シャル「魔女を倒されちゃっても、どうにかなりそうじゃない?」
シャル「今更だけど、それが出来れば急がなくても良いんじゃないかなーって思って」
ほむら「ああ、それは無理です」
シャル「……断言したわね」
ほむら「妖精さんが唯一出来ない事。それが死者の蘇生ですから」
まどか「でも、なんで? グリーフシードって元々魔法少女の魂なんだし……」
ほむら「皆さんを人間に戻せたのは魂だけでなく、精神も残っていたから出来た事です」
ほむら「”専門家”の前でこういう事を話すのも難ですけど」
ほむら「妖精さん曰く、魔女というのはグリーフシード、或いはソウルジェムに留めておけなくなった精神のようですからね」
ほむら「”最初”の魔女さんは文字通り魔法少女の心及び絶望な訳ですが」
ほむら「そこに改めて注ぎ込んだ呪いが元の心と同じ訳ないじゃないですか」
ほむら「再度魔女さんを誕生させても、それは良く似た別人……」
ほむら「いえ、姿形以外別物と言っても良いでしょう。人間の身体を与えても『元に戻した』とは言えませんよ」
さやか「なら、尚更魔女退治を止めないとね……」
ほむら「そういう事です」
ほむら(……ただ、妖精さんが気になる事を言っていましたけどね。「たましいはごほんにんのですがー」って)
ほむら(そりゃそうでしょうけど、わざわざ言うってことは何かあるのかなー)
ほむら「……ところでさっきから悩んでいる様子ですが、何か意見でもありましたか?」
ほむら「キュゥべえさん」
旧べえ「……いや、意見というほどではないんだけど……」
旧べえ「何か、こう……忘れているような……」
ほむら「忘れるなら大した事ではないのでは?」
旧べえ「うーん……そう、なのかなぁ……割と重要な事だった気がするんだけど……」
ほむら「そうに違いありませんよ」
ほむら「――――さて」
ほむら「沙々さんが私達の……まぁ、メンツに加わり、三日が経ちました」
ほむら「学校も始まりましたので、放課後に魔女探しを行うようになりましたが……」
ほむら「一昨日はズライカさんとギーゼラさん、昨日はウアマンさんとイザベルさん」
ほむら「そして今日はエルザマリアさんとパトリシアさん。六名の救出と、かつてない大成果です」
沙々「流石ほむら様! よっ! 日本一!」
シャル「まぁ、今までサボり過ぎというか、ドタバタしていたと言うか……」
マミ「……ドタバタの原因ですみません……」
まどか「魔女探しの邪魔してごめんなさい……」
シャル「……ほじくり返してごめんなさい」
ほむら「はいはい、謝罪の連鎖は面白くないですから」
ほむら「この調子で見滝原の魔女さんを可能な限り人間に戻していくとしましょう」
ほむら「そりゃあれが完成すればその必要もないのですけど……魔法少女が魔女さんを倒しちゃうかもですし」
ほむら「魔女さんによる犠牲者も減らさないといけません」
ほむら「皆さん、ここからが正念場です!」
ほむら「魔女さんを、人間を、魔法少女を!」
ほむら「みーんなまとめて、楽しさで巻き込んでやりましょう!」
全員「おーっ!!」
旧べえ「……うーん……何を忘れているんだったかなぁ……?」
「暗証番号を入力してください……照合中……承認されました」
「システム起動。各部チェック……異常なし」
「感情エネルギー充填率97%」
「第二承認を要求……照合中……承認確認」
「第二起動シークエンス開始。各部署への起動申請開始」
「資源開発部への起動申請……承認」
「技術開発部への起動申請……承認」
「軍事部への起動申請……承認」
「政治部への起動申請……承認」
「女王への起動申請……承認」
「全部署の承認確認。第三起動シークエンスへと移行」
「各部封印を順次解除しています。第一封印解除まであと――――」
……………
………
…
―――― 三日後・ほむホーム ――――
妖精さん「いじょーで、けいかほうこくです?」
ほむら「……うん。ありがとうございます」
ほむら「説得が完了していない区画は、あと此処だけ……」
ほむら「立ち退く訳ではないのですから、もう少し協力してくれても良いのに」
妖精さん「みなさん、けっそくつよいですからなー。よそものははぶにするです?」
ほむら「結束と言うか融合じゃないですかねぇ……まぁ、良いです」
ほむら「そこの説得を終えたら、どれぐらいで起動出来ますか?」
妖精さん「にじかんぐらいでは?」
ほむら「頑張って一時間にしてください」
妖精さん「あひーん。にんげんさんののるま、おきびしー」
ほむら「流石に私が現場で指揮を執りますよ。無駄を……適度に省けば、行程を半減出来るでしょうから」
ほむら「説得は今日中に終わりそうですか?」
妖精さん「あとひとおしってかんじ」
妖精さん「けっそくつよいので、くうきよまぬのはきらわれますし?」
ほむら「でしたら今日は私も行くとしましょう。そんでもって、今日中に完成させます」
ほむら「妖精さん、残った区画に案内してもらえますか?」
妖精さん「それではまずぼーごふく、よういせねばですな」
ほむら「ああ、そう言えば交渉現場は危険地帯でもありましたね……お願いします」
妖精さん「おっまかせー」テテテ・・・
シャル「おふぁよー……」
ほむら「あ、シャルロッテさん。おはようございます……今日は随分と早いお目覚めですね」
シャル「アンタと妖精さんの話し声が聞こえたからね」
シャル「それで? どっか出掛けるつもりなの?」
ほむら「ええ」
ほむら「事ある毎に言ってきましたが、妖精さんを総動員して作っているアイテムがありましたよね?」
ほむら「どうやらアレの完成が間近らしいので、私が現場指揮を執ろうと思いまして」
ほむら「ここまでやればほっといても大丈夫かと思いますが、すんなり出来ればそれに越した事はありませんからね」
シャル「すんなりいかない前提なのね」
ほむら「すんなりいく訳がないでしょう?」
シャル「それもそっか」
妖精さん「にんげんさーん、ごよういでけたー」
ほむら「あ、はーい! 今行きまーす」
ほむら「そんな訳ですので、ちょっと行ってきます」
ほむら「出来れば午前中には帰りたいですけど、そう思惑通りにいくとも思えません」
ほむら「学校は休ませてもらいます」
シャル「あいあい……って、休むつもりなら私服で行けばいいじゃん。なんで制服着たままなの?」
ほむら「いや、万一汚れたら困りますし」
シャル「アンタの中で制服は汚れてもいい服なんかい……」
ほむら「割とみんなそんな感じに着ていると思いますけどねぇ……話を戻しますけど」
ほむら「もう出ないと行けませんから、お弁当を作っている時間はありません」
ほむら「お昼は申し訳ありませんが、コンビニで買ってください」
シャル「ん。分かった。朝も適当に冷蔵庫漁って良いわよね?」
ほむら「それでお願いします。晩ご飯は……作業が終わらなくても、一度こっちに帰って支度しますね」
ほむら「では、いってきます」
シャル「いってらっしゃーい」
――――とたとた
シャル「……行った、わね。行ったと言っても家の中のドアを潜っただけなんだけど」
シャル「アレって以前、ほむらが入る手順を間違えて家を爆破した時のドアなのよねぇ」
シャル(で、その危険なドアはほむらと妖精さん以外立ち入り禁止で)
シャル(尚且つ五十万人の妖精さんが働いている現場につながっている、と)
シャル(しっかし、まぁ……アイツは妖精さんに何を作らせているのかしら)
シャル(完成したら世界が変わるらしいけど……)
シャル(あれ? でもあれって、地球をインキュベーターにとって無価値に変えるアイテムって前に言ってたわよね?)
シャル(そりゃ、今まで地球を支配していたインキュベーターが居なくなったら世界が変わったと言えるけど……)
シャル(……そもそもアイツは、どうやってインキュベーターを追い払うつもり?)
シャル(ハッキリしているのは武力じゃない、面白おかしい方法って事)
シャル(それ以外なら割となんでもありだから、想像しようがないんだけど)
シャル(しかも妖精さんを五十万人も動員し、半月以上掛けて準備するほど大規模な――――)
シャル(いや、待って)
シャル(そもそもそのアイテム、何処で作ってるの?)
シャル(エリーちゃんの壊れたパソコンは、しっかり第三者に見られている)
シャル(と言うより、妖精さんアイテムは魔女や使い魔、結界やキュゥべえと違い、誰にでも見えている)
シャル(だったらなんで、五十万人の妖精さんが今も作っているアイテムは誰にも見つからない?)
シャル(インキュベーターはなんだかんだ妖精さんを警戒しているみたいだし)
シャル(妖精さんアイテムが半月も掛けて作られていたら、妨害工作ぐらいしてきそうなものよね)
シャル(なのに何もしないって事は、まだ見つかっていない? 五十万人でえっさほいさと作っている物が?)
シャル(……考えろ。妖精さんは一見出鱈目で、実際思っている以上に出鱈目だけど)
シャル(出鱈目なりに筋道を通している)
シャル(誰にも見つからず、世界を変えるアイテムを仕掛けられる場所は――――)
シャル「って、そんなの分かるかーっ!」
杏子「朝から元気だなぁ、お前」
シャル「へ? あ、ああ、佐倉さん、おはよう」
杏子「はよー」
杏子「で? なんでそんなに元気なんだ?」
シャル「元気と言うか、ちょっと知的な遊びに興じていただけよ。ちなみに負けたわ」
杏子「誰にだよ……」
ゲルト「おはようございます。皆さん、今日は早いですね」
シャル「ゲルトちゃん、おはよ」
杏子「よー。他の連中は?」
ゲルト「エルザマリアさん達ですか? 皆さんまだ寝ていますよ。昨日は大騒ぎでしたから、疲れたみたいです」
シャル「あー、そういやそうだったわね……最近体験した騒ぎの規模が大き過ぎて感覚が可笑しくなってるわ」
杏子「妖精さんを巻きこんでガチの戦争だったもんなぁ……」
ゲルト「結局どっちが勝ったんでしたっけ……」
シャル「……あまり思い出したくないわ」
ゲルト「……時に、暁美さんは?」
杏子「ああ、そういや居ないね」
シャル「用があって出掛けたわ。帰りは、今日中の予定」
ゲルト「つまり学校はお休み、と」
ゲルト「あの人、出席日数大丈夫なんですかね……」
シャル「ダメな時は多分妖精さんパワーでなんやなんやする気がする」
ゲルト「なんやなんや……しそうですね」
杏子「まぁ、今日に関しては気にしなくて良さそうだけどなー」
シャル「? どゆこと?」
杏子「ほれ、テレビ見てみなよ」
テレビ【現在××県、○○県全域に避難指示が発令されています。該当地域にお住まいの方は近くの避難所に避難を……】
シャル「……××県って、見滝原がある県じゃん。避難指示?」
杏子「なんか台風が来るみたい」
シャル「ふーん。随分と季節外れな台風ね」
ゲルト「いや、台風じゃなくてスーパーセルってテロップに……まぁ、良いですけど」
ゲルト「それで、どうします? テレビを見る限り、大きな被害を出しかねないようですけど」
シャル「んー……間違いなく避難所よりもこの家の方が安全でしょうけど……」
シャル「鹿目さん達は避難所に行くだろうし、どうせならみんなでわいわいしたいから」
シャル「家の事はメイドさんに任せて、私らは避難所に遊びに行きましょうか」
ゲルト(限りなく不謹慎な発言ですけど、家の耐久値としては確かにそんな気分)
杏子「じゃあ、なんか持ってくか? トランプとか」
シャル「ボードゲームと花札も持っていきましょ」
ゲルト「いや、曲がりなりにも避難なんですから文庫本ぐらいにしておきましょうよ……」
――――チャラララチャッララランラ
シャル「おう? 私の(妖精さん製)携帯が」
シャル「はい、もしもし?」
まどか【あ、シャルロッテさん? まどかです】
シャル「ああ、鹿目さん。どうしたの?」
まどか【あの、実はほむらちゃんに話があって……】
まどか【でもいくら電話を掛けてもつながらないから】
シャル「こっちに掛けてきた、と」
シャル「悪いけど、ほむらの奴はさっき出掛けちゃったわ。多分通話出来ないぐらい遠くに」
シャル「午前中に帰ってくるつもりとは言ってたけど」
まどか【そうなんですか……うーん、どうしよう……】
シャル「何か緊急の用事?」
まどか【え? あ、そんな緊急ってほどじゃ】
まどか【居なくても大丈夫ですけど、でもほむらちゃんが居たら心強かったと言いますか】
シャル「いや、アイツが居たら心強いじゃ済まないと思うんだけど」
まどか【……それならそれで良いんじゃないかな。平和、だし】
シャル「ちょっと言い淀んだわね」
シャル「で? 結局要件ってなんなの?」
まどか【えーっと、実はキュゥべえ、あ、仲間になってくれた方の子からの伝言で……】
シャル「キュゥべえから?」
まどか【はい】
まどか【ワルプルギスの夜が出現した、との事です】
……………
………
…
沙々「……いや、まぁ、ぐっすり寝ていましたよ?」
沙々「でもそれってつまりわたしに反対する暇がなかった訳で」
沙々「つーか魔法が危険で犯罪臭いって理由で没収された今のわたしは文字通り一般人ですよ?」
沙々「戦力どころか完全に足手まといのお荷物な訳でして」
杏子「ぐちぐち言ってないでハッキリ言えよー」
沙々「じゃあ、そうします」
沙々「――――なんでわたしもワルプルギス戦に参加させられてるんですかぁぁぁぁぁぁぁ!?」
沙々「他の魔女ズはみんなお家でお留守番なのに! 何故わたしだけ!?」
杏子「お前、監視しとかないと絶対ろくな事しないだろ? ほむら、家に居ないし」
沙々「わたしあの人が視界に居ないと逆に精神不安定になるんですけどぉ!? つか今まさにそんな状態だし!」
ゲルト「その不安定な精神で何かされても困りますからね」
沙々「だったら家に閉じ込めておけばいいじゃないですか!? 連れて回るってアグレッシブ過ぎでしょ!?」
ゲルト「え? 閉じ込められたいのですか? もしかして、M?」
沙々「最強最悪の魔女と戦うぐらいならその方がマシって話です!」
まどか「ほ、ほむらちゃんの家に監禁なんて……は、破廉恥だよぅ……///」
沙々「監禁って本当は破廉恥なもんじゃないですからね!? あとなんで嬉しそうなんだ!?」
巨大さやか『まどかは相変わらずほむら大好きだなー』
沙々「大好きで済むの!? つーかでかっ!? 100メートルぐらいあるし!? あと黒い!」
巨大さやか『ん? ああ、沙々っちにはまだ見せていなかったっけ?』
巨大さやか『これが一応、あたしのフルパワーモード』
巨大さやか『ちなみに腕からスペシウムな光線が撃てます』
沙々「光の巨人!?」
まどか「あ、ちなみに私も今日はフルパワーモードだよ」
まどか「射撃特化だけど、多分さやかちゃん5人分ぐらいの力はあるんじゃないかな」
沙々「あれの五倍!?」
杏子「あたしはぶっちゃけ抜け殻みたいなもんだからなー」
杏子「精々普通の魔法少女10人分の力しかないよ」
沙々「十分過ぎますよね!? それ十分過ぎますよね!?」
マミ「そうよ、佐倉さん。あなたの力は十分頼りになるじゃない」
マミ「私達なんて魔法が撃ち放題ってぐらいしか長所ないし」
ゲルト「ですよねぇ」
沙々「だから十分強いって言ってんだろゴラァ!」
沙々「なんだよこの戦えなきゃ役立たずみたいな雰囲気! わたしをハブしてんのかああん!?」
シャル「……すみません」
沙々「え」
シャル「無力ですみません……役立たずです……」
沙々「え、いや、アンタ魔法使えるし……」
シャル「私、近接戦闘タイプ。さやかとか佐倉さんも、近接タイプ」
沙々「ぁ(察し)」
シャル「遠距離攻撃は……お菓子を投げつけます……」
沙々「……………」
沙々「……その……」
沙々「な、仲間ダヨ?」
シャル「同情すんなああああああああああああああああああ!」
沙々「コイツめんどくせええええええええええええええええ!」
旧べえ「……真面目にやってよ……」
巨大さやか『いや、実際問題相手の強さが分からないからいまいち真面目になれないんだよねぇ』
旧べえ「それは、そうかも知れないけど、だとしても気が緩み過ぎだと思わないかい?」
旧べえ「というか上条恭介はどうした」
旧べえ「聞いた話だとそこそこ力があるらしいから、可能なら彼も戦力に加えたいと伝えた筈だけど」
巨大さやか『中沢といちゃついてこっちの話を聞かなくてムカついたから、巨大化して踏み潰しといた。あと埋めといた』
旧べえ「……さいですか」
ゲルト「暁美さん、あの人達の事、結局今の今までほったらかしですからね……グッド」
杏子「ぶれないな、お前」
まどか「……それで、ワルプルギスの夜って結局どんな魔女なの?」
杏子「あ、話題戻すんだ」
まどか「いや、この話題は流石にやりっぱなしには出来ないから……」
マミ「ワルプルギスの夜に関しては、私も噂でしか聞いた事がないわね」
マミ「さっき優木さんが言っていたように、最強最悪の魔女らしいけど……」
旧べえ「僕も実際に顕在化した瞬間を見た訳ではないけど」
旧べえ「まず、非常に巨大だ」
巨大さやか『ふむふむ』
旧べえ「一度この世に実体化すれば、数千人が犠牲になると言われている」
まどか「そんな!」
旧べえ「……当然その力も強大で、並の魔法少女では歯が立たない」
杏子「へっ、やりがいがあるじゃん」
旧べえ「……それで、えーっと……魔女だからいくらでも魔法が使える」
マミ「当然ね」
ゲルト「でしょうね」
旧べえ「……えーっと、えーっと……」
シャル「つーかさ、ぶっちゃけ鹿目さんで倒せないの?」
旧べえ「……ぶっちゃけ倒せるんじゃないかなー、多分一撃で」
全員「じゃあ余裕じゃん」
まどか「魔法が封じられていなければ私、地球を滅ぼせちゃうし」
巨大さやか『時間的に余裕があったから、あたしも最強モードに変身出来たし』
マミ「魔法使いたい放題だから何も考えずに全力出せるし」
杏子「いざとなったら天使の奇跡でなんとか出来るし」
旧べえ「……あれぇ……わ、ワルプル戦ってこんなんじゃ……あれぇ……?」
シャル「楽勝なら良いじゃない」
杏子「むしろ倒さないように気を遣わなきゃなぁ」
巨大さやか『まどか、気を付けなよ?』
まどか「その言葉そっくりそのままお返しするよ、さやかちゃん」
ゲルト「作戦としては弱らせたところを私と巴さんの魔法で拘束。暁美さんが帰ってくるまで抑えておく、ですかね」
マミ「そうね。まぁ、魔法が封じられてなければどうとでもなるでしょ」
沙々「なんなのこの化け物集団……って、向こうの雲、なんか変じゃありませんかぁ?」
まどか「え? 雲……」
まどか「!」
ゲルト「……いえ、あれは雲じゃない……視認出来るほど強大な、魔力の塊です!」
巨大さやか『つまり、あの向こうにその魔力を出してる奴がいると』
マミ「そしてそれだけ巨大な魔力を生み出せる存在と言ったら……」
杏子「此処に居るメンツを除けば、『一人』だけだな」
シャル「……来るわ」
マミ「みたい、ね――――さっさと終わらせて、お茶会といきましょう!」
⑤
旧べえ「確かに。ゆまも待たせているし、早く片付ける事に異論はないね」
④
杏子「そんじゃあ、いっちょやりますか!」
まどか「うんっ!」
②
ゲルト「……あれ?」
□
シャル「ちょっと待って……なんか、様子が――――」
死
マミ「!? な、何、この魔力……!?」
死ね呪われろ
杏子「おい、どうなってんだよ!?」
死ね消えろ呪われろ死ね見るな黙れゲルト「な、なんなの、なんなんですかアレ……!?」
死ね消えろどうして黙れ死ね失せろ潰れろわたし見るな殺す死ねこんな馬鹿死ね殺す死ね邪魔死ね
事に死ね殺す呪う呪うなって殺す死ねなんで気持ち悪いどうして死ねクズ死ね呪ってやる死ね死ね
巨大さやか『ちょっと、まどか一人で楽勝な相手じゃなかったの!?』
嫌だ死ねこんな死ね殺す死ね場所死ね呪ってやる怖い死ねキモいシネ消えろ死ね呪ってやる死ね死ね殺す死死ね
死ね誰か死ね死死殺す死ね死ね死ね死ね死ね殺す殺す殺す死ね殺す死ねお願い殺死ね死ね殺す死ね死ね死ね死ね
旧べえ「馬鹿な……こんな、こんな事が……!?」
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死
まどか「く、る――――」
死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死
―――― たす死て ――――
――――黒い感情。呪いの濁流。殺意の形。
――――全てが、初めて経験するものでした。私が、世界を滅ぼす魔女になった時よりもずっと強い”力”でした。
――――未体験の力の塊は雲……そう見えていた、或いは無意識にそう思おうとしていた黒い魔力の向こうから感じます。
――――願わくば、晴れないで欲しい。
――――この期に及んでそう思ってしまうほど圧倒的な力は、私達の願いを聞き入れてはくれず。
――――魔力の塊はやがて霧のように消え、そして、それが姿を現したのです。
―――― 巨大な、グリーフシードが ――――
えぴそーど にじゅうご 【ほむらさんと、むてきのともだち】
まどか「な、何……なんなんですか、アレ……!?」
マミ「何処からどう見ても、その……グリーフシードだけど……」
ゲルト「ちょっと大き過ぎますよね……」
巨大さやか『パッと見、あたしの何倍もあるみたいなんだけど……』
杏子「デカいだけならまだ良かったんですけどねぇ……」
シャル「で、出鱈目過ぎる魔力だわ……!」
シャル「鹿目さんの比じゃない……あんな魔力、そんな、あり得な……」
シャル「!?」
――――ゴオッ!!
杏子「ぐあっ!? こ、攻撃か!?」
ゲルト「風とか、衝撃波の類……?」
マミ「違う! これは……魔力……」
マミ「魔法という形にしなくても物理的干渉力を持つほどの、圧倒的出力の魔力だわ!」
沙々「」ゴロゴロゴロー
まどか「あ、沙々さんが魔力の余波で吹っ飛ばされてる」
巨大さやか『ああ、なんかあのグリーフシードが現れた瞬間気絶してたね』
シャル「プレッシャーに耐えられないとか、マジで小物だったわね……」
巨大さやか『助け……なくても良いか』
巨大さやか(この状況だと、ここに居るより遠くに吹っ飛ばされた方が安全だろうからね……)
マミ「キュゥべえ! あれがワルプルギスの夜なの!?」
巨大さやか『どう考えてもあたしらで楽勝な相手じゃないよね、アレ……』
まどか「一体どういう――――」
旧べえ「……馬鹿、な……そんな、馬鹿な……」
まどか「――――キュゥ、べえ……?」
旧べえ「あり得ない、あり得る筈がない。こんな、だって、それは……」
旧べえ「それは、最終兵器プランだった筈だ!」
旧べえ「こんな一辺境惑星の、ましてやたった一種族を根絶やしにするために動員するものじゃない!」
旧べえ「段階を飛ばし過ぎている! たった数隻の艦隊が潰されただけでこれを動員するなんて馬鹿げている!」
マミ「ど、どうしたのキュゥべえ!? 何か分かったの!?」
旧べえ「分かるも何もあれは――――」
「全く。精神疾患を患うと冷静さというものを損なうから嫌だね」
まどか「!? こ、この声は――――」
シャル「……キュゥべえ……と言っても、仲間になった奴が此処にいる以上」
巨大さやか『またアンタか、ってやつだね』
疾患QB「そういう事さ」スッ
杏子「っ!」チャキッ
疾患QB「おっと、その物騒な物はしまってほしいものだね」
疾患QB「以前も言ったけど、今はボディのスペアがないから潰されると色々面倒なんだよ」
疾患QB「ま、僕の話を聞きたくないのなら、それも構わないけどね。所詮”これ”は端末なんだし」
マミ「……佐倉さん」
杏子「ちっ……分かったよ」
疾患QB「やれやれ。やっと落ち着いて話が出来る」
疾患QB「暁美ほむらは存在自体が腹立たしいが、彼女の冷静さだけは評価に値するよね」
疾患QB「君達みたいに、感情で行動を起こすような原始的生物を見ているとさ」
杏子「御託はいい……目的はなんだ」
疾患QB「何って、前と同じだよ。君達の散り際を、今度こそ見に来たのさ」
疾患QB「まぁ、前回と違って暁美ほむらがこの場に居ないのは、こちらとしても予定外だったけどね」
疾患QB「何しろ今回の攻撃目標は君達じゃなくて、暁美ほむらと妖精なのだから」
シャル「……!」
疾患QB「しかし弱ったなぁ。直接的な識別が出来ないからなんとも言えないけど」
疾患QB「観測結果からの推測では、妖精は常に暁美ほむらの傍に現れているようだから」
疾患QB「彼女がこの場に居ないのなら、きっと妖精も居ないのだろう」
疾患QB「わざわざ探すのも面倒だし、彼女達が何処に居るのか教えてもらえないかい?」
疾患QB「そうしたら、今回は君達に手を出さないからさ」
まどか「ふざけないで! ほむらちゃんを売るなんて真似、出来る訳ないでしょ!?」
シャル「まぁ、アイツの事だから売ったところでへらへらしながら切り抜けそうだけど」
シャル「生憎私達の誰もアイツの居場所を知らないし」
シャル「何より、アンタのメリットになる事をするなんて反吐が出るわ」
巨大さやか『それに今まで何度も邪魔してきたあたしらを放置する気なんてないんでしょ。今回は、なんて言ってるし』
巨大さやか『いくらあたしが馬鹿でも、それぐらいは想像付くっての』
疾患QB「そうかい。残念だね」
疾患QB「ま、そういう事なら遠慮なく君達も排除させてもらうとしよう」
疾患QB「”ワルプルギスの歴史”を使ってね」
ゲルト「ワルプルギスの歴史ってのは、あの巨大なグリーフシードの事ですね……」
疾患QB「そうさ。本来この町を襲撃したであろう”ワルプルギスの夜”とは、別物と言っていい」
疾患QB「それに”ワルプルギスの歴史”というのは僕達が使用しているコードネームだし」
疾患QB「単純にワルプルギス(魔女達)と呼称する方が本質を言い表しているだろうね」
疾患QB「っと、御託が長くなってしまったか。そろそろ――――」
シャル「悪いけど、先手は譲らないわ」
シャル「さやか!」
巨大さやか『おう! 先手必勝!』
巨大さやか『スペシウムっぽいビーム……フルパワー!!』
―――― ビガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア ――――
まどか「さ、さやかちゃんの腕から、青白い光が……!」
マミ「前が見えない……!」
ゲルト「これが、美樹さんの本気……す、凄まじい力です……!」
杏子「流石さやか様だ! あの巨大なワルプルギスを飲み込むほどの光を発射するなんて!」
疾患QB「ふむ。流石は妖精のテクノロジーによって改造された身だと誉めるべきか」
疾患QB「あんな威力の光線、以前僕達が関与して生まれさせた鹿目まどかの魔女でも、直撃を受けたら倒されかねないね」
疾患QB「しかし、魔女を救い出すのが君達の目的だったんじゃないのかい?」
シャル「……感情を持ってないのなら、意味のない質問をするんじゃないわよ」
シャル「アンタに言われるまでもなく、私も……躊躇わずにやったさやかにも、分かってるんだから」
疾患QB「――――成程。一理ある」
巨大さやか『だ、駄目、だ……!』
杏子「さやか、様……?」
巨大さやか『コイツ……対峙した時から何となく思っていたし』
巨大さやか『ぶっちゃけ怯ませられたらいいなぁーぐらいな気持ちでの攻撃だったけどさぁ……』
巨大さやか『全然効いてないってのは、流石に想定外っ!!』
全員「!?」
ワルプルギス(WP)【――――■■■■■■■■■■■!!】
――――カッ!
巨大さやか『っ!? あ、あたしの光線が押し返され……ぐああああああああああああっ!?』
杏子「さ、さやか様ぁ!?」
マミ「う、嘘!? あの攻撃を受けて無事なだけじゃなくて、一瞬で押し返すなんて……!?」
まどか「私でも難しそうなのに……!」
疾患QB「やれやれ。今ので無駄だと分かってくれればいいんだけどね」
疾患QB「ワルプルギスに君達は勝てない」
疾患QB「個である限り、それは決して覆せない不変の定理さ」
マミ「……どういう意味?」
疾患QB「僕の口から語るより、そっちのインキュベーターから聞いた方が君達は信頼出来るんじゃないかな?」
疾患QB「ワルプルギスは止めといてあげるから、じっくり話を聞いておくといい」
疾患QB「その上で、再度選択させてあげよう。僕達に降伏するかどうかをね」
疾患QB「ま、今の彼がちゃんと話せる”精神状態”かは甚だ疑問だけど」
マミ「え……?」
旧べえ「……」ガタガタ
シャル「ちょっと、何震えてんのよアンタ……」
旧べえ「……駄目だ……勝てる訳がない……」
旧べえ「あれは……僕達の、我々の最終兵器なんだ……」
旧べえ「この宇宙に、アレを倒せる者なんて存在しない……!」
マミ「どういう、事……?」
旧べえ「……君達は、何故僕達がグリーフシードを回収しているか知っているかい?」
シャル「それは……確か、そのままだと危険だから……?」
シャル(……危険だから、何が問題なのかしら……コイツらは人間の事をエネルギー源としか思っていない筈)
シャル(絶対に人類の身を案じてはいない)
シャル(それにグリーフシードを回収しなければ、魔法少女は危険な物を身近に置くことになる)
シャル(精神的負担は大きくなり、魔女化を促せる筈)
シャル(……つまり、回収した方が自分達の益になるから、という事ね)
マミ「……あなた達に、メリットがある?」
旧べえ「そう……その一つが、エネルギーの回収」
旧べえ「ソウルジェムから発生した穢れも、希望と絶望の相転移反応ほどではないけど感情エネルギーとして使える」
旧べえ「また、グリーフシードは周囲の呪いや負の感情を吸収し、再度魔女として孵化するためのエネルギー」
旧べえ「つまり絶望の感情エネルギーとして蓄える性質を持つ」
旧べえ「だからこそグリーフシードにソウルジェムの穢れを吸わせる事が可能であり」
旧べえ「グリーフシードは適当に置いておくだけで、魔女として孵化する危険物なんだ」
旧べえ「とは言え一度空になったグリーフシードが孵化するために必要な呪いを、ソウルジェム以外で集めようとしたら」
旧べえ「日本のような豊かな国なら数十年、紛争地帯のような負の感情溢れる環境でも十年以上の歳月が必要だ」
旧べえ「しかも生きているだけで魔力を消耗する関係上、魔法少女はグリーフシードを遅くても一月ペースで消費するし」
旧べえ「大抵の魔法少女は、一年以上生きてはいられない。十年も生きていられたのは数えるほどだ」
旧べえ「だからこれは、不本意な言い方になるけど君達が”知らなくても問題無い”話なんだ。本当にね」
シャル「お得意の嘘じゃないって訳ね」
杏子「……それがどうつながるのさ」
旧べえ「立場が変われば見方も変わる。君達にとっては重要でなくとも、僕達にとっては重要という事だ」
旧べえ「実を言えば僕達は全く感情がない訳じゃない……本当に無かったら、そもそも疾患なんて存在しないし、
感情からエネルギーを取り出す技術なんて開発出来る訳がない」
旧べえ「ほんの僅かな感情。自覚出来ない程度だけど他人を恨むし、不快にも思う」
旧べえ「契約が成功すれば喜ぶし、魔法少女が魔女化すれば達成感もある」
旧べえ「僕たちは、感情の有無を行動選択の影響で判別しているだけなんだ」
旧べえ「”感情的行動”をしないのなら感情を持っていない、という具合にね」
旧べえ「宇宙の他の知的生命体も同様だ。感情を持たない、というのは程度の話に過ぎない」
旧べえ「宇宙全体で産まれる呪いの総量は、ハッキリ言って地球の比ではない」
旧べえ「ここでグリーフシードの、周囲の呪いを吸収する性質が役に立つ」
旧べえ「それら宇宙全ての呪いもグリーフシードに吸わせれば、エネルギーとして使えるんだ」
旧べえ「勿論単独では出力不足だけど、幸いにもグリーフシードは」
旧べえ「数をそろえる事が出来る。魔法少女からだけでなく、使い魔からも生まれるからね」
旧べえ「だから、僕達は”全て”のグリーフシードを確保しているんだ。重要な、エネルギー源とするために」
旧べえ「……メリット2が生じたのは、ワルプルギスの夜が出現してからだ」
まどか「ワルプルギスの夜が……?」
旧べえ「ワルプルギスの夜は、他の魔女を吸収し、自らの力にする性質があった……」
シャル「つまり、魔女を吸収するほど強くなる訳ね……お約束っちゃお約束なのかしら」
旧べえ「勿論、それだけなら特別視する理由はない。倒して、確保したグリーフシードを利用するだけだ」
旧べえ「だけど……それ以外の用途を、僕達は見つけてしまった」
ゲルト「用途?」
杏子「電池以外にどんな使い道があるってんだ?」
マミ「……まさか……兵器?」
まどか「え? 兵器って……」
旧べえ「……そのまさかだよ」
まどか「!?」
まどか「ど、どういう事!?」
シャル「……グリーフシードを吸収させればさせるほど、ワルプルギスの夜は強くなる」
シャル「こいつ等の科学力を考えると、ちょっとやそっと強くなっても使えないでしょうけど」
シャル「でも、今までに貯め込んだグリーフシードを全て注ぎ込めば」
シャル「十万年以上かけて貯めた、何百万……いえ、数百億にも上るであろうグリーフシードを使えば」
シャル「――――何物にも負けない、最強の魔女が完成する」
疾患QB「その通り。よく出来ました」
疾患QB「しかも呪いによって動くからわざわざエネルギーを用意しなくて良いし」
疾患QB「暴走したとしても僕らは魔力を無効化する技術も持っている。コントロールは容易だ」
疾患QB「兵器として、これ以上ないほど理想的な存在だとは思わないかい?」
まどか「ひ、酷い……みんなを燃料しただけじゃなくて、兵器にまでするなんて……!」
まどか「こんなの、許せない!」
疾患QB「可笑しな事を言うね。人間は、骨の髄までしゃぶり尽くす事こそが資源に対する供養になると思っているんだろう?」
疾患QB「なら、僕のしている事は魔法少女の供養じゃないか」
疾患QB「こんなにも君達に対し理解ある行動を取っているのだから、君達も僕らを理解しようと努力してほしいものだよ」ケタケタ
まどか「こ、の……!」
旧べえ「し、しかし、可笑しいじゃないか!」
旧べえ「無数のグリーフシードは今や、僕達の文明を支える重要なエネルギー源の一つだ!」
旧べえ「宇宙の延命には足りなくとも、文明を保持するためには最早欠かせない!」
旧べえ「全てを終えた後もう一度燃料に出来るとはいえ、使用中は文明の一部機能を停止せざるを得ない筈だ!」
旧べえ「その全てをこうして辺境惑星の攻撃に使用するなんて、常軌を逸している判断じゃないか!」
旧べえ「何故本星はアレの使用許可を出したんだ! 訳が分からない!」
疾患QB「……本当にそう思うかい?」
疾患QB「君にとって妖精は、その程度の存在なのかい?」
旧べえ「……!」
杏子「……どういう意味だ」
疾患QB「どのような理論に基づいてかは分からないが、妖精は僕達に精神疾患」
疾患QB「具体的には、感情の肥大化を引き起こす技術を持っている」
疾患QB「合理性によって成り立つ僕達の社会において、感情保有個体の増加は文明崩壊をも起こす危険要素だ」
疾患QB「そして曲がりなりにも知的生命体となってしまった僕達に、最早文明の庇護のない生活は送れない」
疾患QB「文明の後退は、そのまま種としての後退を意味する」
疾患QB「……早い話、妖精は僕達を滅ぼしかねない存在という訳だ」
疾患QB「確かに僕達に感情はない。個体レベルでの生き死にの概念も理解出来ない」
疾患QB「しかし社会性生物であるがために、種の存続に対しては君達以上に敏感だ」
疾患QB「もう手は抜かない。全力を持って僕達の繁栄の障害となり得る……いや、”障害である”妖精を排除する」
疾患QB「これは、そのための戦争だよ。最終兵器が運用されるのは当然じゃないか」
まどか「戦、争……」
シャル「話が長い。保身のために妖精さんと全力で戦うとだけ言えば十分じゃない」
疾患QB「ふむ、確かにそうだ。それだけ分かってくれれば十分だ」
疾患QB「……さて、同じ事を二度も言うのは癪だが、もう一度尋ねよう」
疾患QB「暁美ほむらと妖精の場所を教えてほしい」
疾患QB「ワルプルギス……元を辿ればワルプルギスの夜には弱点があってね」
疾患QB「あまりにもその出力が強大過ぎるために、吸収量や生成量と、放出量が釣り合わず」
疾患QB「力を使えば使うほど、内包する呪いの量が減ってしまう」
疾患QB「つまり、燃料切れが起こり得るんだ」
疾患QB「ワルプルギスの夜が休眠と覚醒を繰り返していた理由がそこにある訳なんだけど」
疾患QB「ないとは思うけど、妖精とぶつかる前に燃料切れ寸前なんて嫌だからね」
疾患QB「可能なら妖精と暁美ほむらには全力を持ってぶつかりたい」
疾患QB「本音を言うとね、君達如きに余計な魔力を使いたくないのさ」
シャル「答えはNO。アイツの居場所は知らないし、アンタ達にYESと答えるのはもう懲り懲りよ」
杏子「言っとくが、それはあたしらの総意だからあしからず」
マミ「仲間割れは期待しない事ね」
疾患QB「……残念だ」
疾患QB「――――ワルプルギスの歴史、出力0.2%。自動反撃は必要ない」
疾患QB「無くても十分だ」
―――― ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!! ――――
まどか「?! う、きゃあ!?」
巨大さやか『な、なななん、なんだこれぇ!?』
WP【■■■■■■■■■!!】
杏子「おいおいマジかよ……さっきの比じゃねぇ魔力だぞ……」
杏子「魔力の放出分だけで、地面が揺れ始めてるじゃねぇか……!」
ゲルト「め、滅茶苦茶です!? こんなのがちょっとでも暴れたら、見滝原どころか地球が滅茶苦茶にされちゃいます!」
シャル「流石インキュベーターが十万年好き勝手やった歴史ね……ウォーリアーの時が難易度easyに思えてきたわ」
巨大さやか『いやぁ、チュートリアルじゃないかなー……或いはトレーニング』
マミ「……キュゥべえに今まで何個グリーフシードを渡したかしらね……」
まどか「私、多分五個ぐらい渡しちゃってます……」
杏子「あたしは好き勝手魔法使ってサイクル早かったからなぁ……五十ぐらいか」
マミ「あら、そんなもの? 私は三年もの間、頻繁に戦っていたから百は使ったわね」
マミ「……そんな訳だから、ここは一番多く献上しちゃった人が責任を取るって事で――――」
シャル「おっと、魔女化した先輩を忘れちゃ困るわね。アンタが百なら、こっちは二百よ」
マミ「っ!」
シャル「……何処に逃げても一緒よ。それにあの子達を余所に逃がしたところで、アイツが見逃すとは思えない」
シャル「あの化け物を産んじゃった責任は全員にあるって事で……全員で、やるとしましょう」
シャル「各個撃破されるより、みんなでフォローし合った方がトータルの生存時間は伸びるでしょうし」
マミ「シャルロッテさん……だけど……!」
シャル「別に勝たなくて良いのよ、勝たなくても」
巨大さやか『……ああ、そうだね。勝つ必要はない』
杏子「……時間稼ぎしかあたしらには出来ないし」
ゲルト「時間を稼ぐ事でしか、勝機は見出せない」
マミ「……そう、ね……最初から負けるつもりじゃ駄目よね」
マミ「どんな困難にも、全力で抗わないとね!」
旧べえ「み、みんな……何を言っているんだい!? 早く逃げるんだ!」
旧べえ「アレには絶対敵わない! この宇宙の誰も!」
シャル「そうかも知れない……だけど、そうじゃないかも知れない」
シャル「逃げるなら、とりあえずアイツらがボコボコにされてからにしましょう」
旧べえ「アイツらって……まさか」
杏子「そういう事」
ゲルト「現状の私達が持ちうる、無敵の”戦力”……」
巨大さやか『自称……いや、他称? この世の誰にも勝てない存在』
まどか「……待ってるからね、妖精さん」
まどか「……ほむらちゃん!」
……………
………
…
―――― ?? ――――
妖精さん「にんげんさん、ついにかんせいです」
ほむら「……ようやくこの時が来ましたね」
ほむら「効果が現れるのは、今から凡そ八分後」
ほむら「地球全体に行き渡るまでには……原理の詳細が分からないのでなんとも言えませんが」
ほむら「最長で十二時間でしょうか。まぁ、規模が規模だけに十分な早さでしょう」
妖精さん「ひかりのはやさでおっとどけー」
ほむら「あとはのんびり待てばいい、と言いたいところですが……」
妖精さん「あっちのぼくらからつーほーされましたな?」
ほむら「やれやれ、面倒なタイミングでやってきたものです。まぁ、早く来られたらもっと困っちゃいましたけど」
ほむら「しかし、その内何かしらの対抗手段を使ってくる事は予測していましたが」
ほむら「よもやこれほどの物を持っていたとは予想外でした」
ほむら「あと十分もしないで使用不能になる不良品ですけど、十分あれば地球を三度滅ぼせそうですよね、アレ」
妖精さん「どうされますので?」
ほむら「どうもこうも……既に私達は勝っていますからねぇ」
ほむら「ぶっちゃけインキュベーター達が今から私と妖精さんをどうにかこうにか皆殺しにしても結果は覆りませんし」
ほむら「だったら隠れているのが合理的。最適解でしょう」
ほむら「――――が、それでは面白くない」
ほむら「どうせ迎えるエンディング。面白おかしくしなくちゃ勿体ない」
ほむら「それに、あれをやるのなら……スケールの大きい相手の方が楽しそうですからね」
妖精さん「さよかー」
ほむら「それじゃ、参りましょうか」
ほむら「――――世界を面白おかしくしに」
……………
………
…
巨大さやか『ぐあああああああああああああああっ!?』ズズーンッ
杏子「さ、さやか様が吹き飛ばされた!? すぐに回復を……」
シャル「駄目! 今は持ち場を離れないで!」
シャル「あなたが離れたら、援護射撃をしている巴さんを誰が守るの!?」
杏子「っ……!」
マミ「シャルロッテさん、気遣いしてくれた上でこう言うのも難だけど……」
WP【……………】ドン、ドドド、ズガン
マミ「ワルプルギスにこっちの攻撃は全然効いてないわ!」
マミ「待機状態で放出される魔力が強過ぎて、それだけでこっちの攻撃が届かない!」
ゲルト「こっちもです! 茨で拘束しようとしてますけど、魔力に阻まれて届きません!」
ゲルト「あれじゃ、まるでバリアです!」
杏子「バリアになるほど濃い魔力って、一体なんの冗談だよ……聞いた事もないぞ」
シャル「さっきからワルプルギスがやってるのは、魔力の放出を一定間隔で行う事だけ」
シャル「尤も、その放出だけでこっちは結構ボロボロになってるんだけど」
シャル「余剰分の放出か、それとも何かの準備かは分からないけど……まともに戦ってないのは確かね」
シャル「ウォーリアーと戦った時も思ったけど、ほんっとシンプルな強さってのが一番厄介っ!」
ゲルト「せめてあの魔力の壁さえ無くなれば……!」
まどか「なら、私がそれを剥ぐ!」
まどか「全力全開! 一点集中させた私の魔法を――――」
まどか「受けてみて!」
――――ドシュッ!!
シャル(魔力を一点に集中させて威力を高めた一撃! あれならごく狭い範囲だけど魔力の壁を吹き飛ばせるかも――――)
疾患QB「おっと、そうはいかないよ」
WR【――――】バッ
シャル「!?」
マミ「わ、ワルプルギスから靄のような腕が出てきて……」
――――ばちんっ!
巨大さやか『まどかの攻撃を、叩き落とした!?』
杏子「――――テメェ! 今アイツに何か指示したな!?」
疾患QB「おっと、ちょっと待ってくれ」
疾患QB「確かにさっきの防御は僕が指示したものだけど」
疾患QB「基本的なコントロールは、衛星軌道上の艦が行っている。僕を潰したところで結果は変わらない」
疾患QB「むしろ潰さない方が君達にとって得策だよ?」
疾患QB「ワルプルギスがこの程度の出力しか出さないのは、僕が直接現場の状況を観測し」
疾患QB「この場に暁美ほむらと妖精が居ない事を伝え、出力の調整を行っているからだ」
疾患QB「僕からの報告が途絶えたら、船は正確な状況を把握出来ない。大まかな判断をせざるを得ない」
疾患QB「万が一にも”不意打ち”で倒されないよう、出力を向上させる事になるだろうね」
疾患QB「それは妖精に使えるエネルギーが減る事を意味するから、僕達にとってはマイナスな訳だけど」
疾患QB「現時点で傷一つ与えられない君達の勝機が完全になくなっちゃうんじゃないかな? まぁ、元々ないとは思うけど」
杏子「ぐっ……こ、コイツ……!」
シャル「そんな雑魚に構ってる暇はないわ!」
シャル「どの道、魔力を放出しただけで叩き落とせるって事は直撃でも大したダメージにはならないでしょうし!」
マミ「なら一体どうすれば良いのよ! 鹿目さんの魔法が通じない以上、私達がいくら攻撃しても……!」
旧べえ「――――ああもう! 見てられない!」
マミ「っ!? きゅ、キュゥべえ……?」
旧べえ「時間稼ぎをすると言いながら、殆どアイツにダメージを与えられないとか情けないにもほどがある!」
旧べえ「おちおちいじけてもいられないじゃないか!」
杏子「テメェに言われたくねぇよ! 大体お前さっきから何も……」
旧べえ「まどか、さやか! 十五秒後に攻撃を開始する!」
旧べえ「僕に合わせてくれ!」
シャル「一体何をす、る、気……!?」
巨大さやか『きゅ、キュゥべえから凄い力が……!?』
まどか「わ、私よりも、凄い……!」
旧べえ「……宇宙の寿命を延ばすほどのエネルギー……それが希望と絶望の相転移」
旧べえ「落ちる際に膨大なエネルギーを生じるのなら、逆でも同量のエネルギーが得られるのが物理法則の常」
旧べえ「ワルプルギスの歴史の圧倒的強さを知るが故に落ちた”絶望”から」
旧べえ「君達の諦めない姿を見て駆け上った”希望”の感情……」
旧べえ「その相転移反応によって生じた全エネルギーをぶつける!」
マミ「な、なんて力……!?」
杏子「アイツ、ウォーリアーの時はマジで本気じゃなかったのかよ……!」
旧べえ「全員僕から離れていてくれ! 宇宙の延命すらも可能なエネルギー量だ!」
旧べえ「可能な限り集束させるが、近くに居るだけで原子崩壊すら起きかねない!」
巨大さやか『なんだか分からんけど……兎に角アンタの攻撃に合わせて全力でぶっ放せばいいって事ね!』
まどか「任せて! 今度こそ、本気の本気をお見舞いするから!」
旧べえ「――――今だ!」
旧べえ「食らえ! これが、感情エネルギーの濁流だっ!」
巨大さやか『さやかちゃん必殺、全力全開フルパワーの、スペ○ウム玉ああああああああああっ!』
まどか「いっけええええええええええええええええええっ!」
――――ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!
ゲルト「きゃあああああああああああああああああああああああっ!?」
シャル「ひ、光が強過ぎて前が見えな……」
マミ「だけど……!」
マミ「ワルプルギスの辺りから嫌になるぐらい感じていた魔力が、消えたわ!」
杏子「つー事は少なくとも魔力の壁は吹っ飛ばした訳だ!」
シャル「ええ! そうなるわね!」
シャル(勿論、アレはキュゥべえ達の最終兵器。魔力の壁を貫いたぐらいでどうこうなるものじゃないでしょうけど)
シャル(でもそれなりのダメージを与えられれば――――)
まどか「……嘘……だよね……」
巨大さやか『……いやぁ、ちょっとは期待していたんだけどなぁ……』
ゲルト「そ、そんな、そんな、だって……」
杏子「冗談キツイなぁ……」
シャル「な、んで……よ」
シャル「なんでワルプルギスの奴、無傷なのよ!?」
マミ「そんな!? 確かにあの攻撃で魔力の層は吹き飛ばされた筈よ!? 今だって魔力は感じられない!」
マミ「今のワルプルギスは鎧が剥がれた、丸裸も同然なのよ!?」
旧べえ「……あらゆる魔女のグリーフシードを取り込んでいるから、もしやと思っていたが……」
旧べえ「ワルプルギスには物理攻撃に耐性がある……!」
旧べえ「それも単純なエネルギー量では突破出来ない、出鱈目な物理耐性だ!」
シャル「なっ……!?」
巨大さやか『物理無効って事!? そんなの反則でしょ!』
疾患QB「ついでに言うと、魔力にも耐性を持っているよ。そういう魔女のグリーフシードも取り込んでいるからね」
疾患QB「まぁ、どちらも完全無効ではなくて99%カットなんだけど」
疾患QB「攻撃するなら物理と魔法以外の手法がオススメだよ。次元干渉系が最も有効かな?」
疾患QB「君達にそんな攻撃手段があれば、だけどね」
シャル「……沙々ちゃんでも起こそうかしらね……洗脳してなんとか……」
杏子「ありゃ魔法の一種だろうが、畜生!」
マミ「そんな……どう、すればいいのよ……」
マミ「魔法も駄目、物理も駄目」
マミ「どうにもならないじゃない!」
旧べえ「ま、まだだ! まだ負けていない!」
旧べえ「無傷だったアイツを見た瞬間、僕は絶望に飲まれた! ならばその相転移反応を利用した攻撃が出来る!」
旧べえ「鎧が剥がれたあの状態なら、さっきよりも大きなダメージを……」
疾患QB「おっと。魔力の壁を破られたし、そろそろ遊んでばかりもいられないね」
疾患QB「本艦、攻撃の方お願いするよ。出力はそのままで良いから」
杏子「!? 攻撃だとテメェ――――」
巨大さやか『杏子ちゃん危ないっ!』
杏子「え――――!?」
杏子(ちょ……な、なんでビルが空に浮いて……!?)
杏子(ワルプルギスが魔法で浮かせてんのか!? 一体なんの冗談だよ!)
杏子(だ、駄目だ、あんなのどう避ければ――――)
巨大さやか『うおりゃああああああああああああああっ!』
杏子「さ、さやか様!?(あたしとビルの間に割って入って……)」
――――ズガッ!!
杏子(ビルを片手で受け止めて……!)
巨大さやか『こん、のぉっ!』
――――ゴシャアアアアアアアアアアアッ!!!
杏子(もう片方の拳を振り上げて砕いた!? 滅茶苦茶だけど凄いよさやか様!)
巨大さやか『たくっ! とんでもない攻撃してくるじゃん!』
巨大さやか『だけどいくら高層ビルったって高々100メートルもないコンクリートの塊!』
巨大さやか『他のみんなは兎も角、地球最強モードのあたしにそんな”普通”の攻撃は通じないよ!』
―― ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ――
巨大さやか『あ、でも流石に見滝原中のビルを叩きつけられるのはキッツイかなぁ……』
シャル「ちょっとちょっと、あんなの放たれたら逃げ場なんてないわよ!」
巨大さやか『くっ! 仕方ない!』
杏子「さ、さやか様!」
巨大さやか『あたしが全部――――受け止める!!』
――――ドドドドドドドドド!!
マミ「きゃああああああああああああああっ!?」
ゲルト「び、ビルがたくさん落ちてきましたぁ!?」
巨大さやか『ぐ、あ、がっ……こん、のぉっ……!!』
シャル「さ、さやか! 大丈夫!」
巨大さやか『あ、あたしは平気……ちょっと痛いだけ……!』
巨大さやか『でも、何時までも立ってられない……』
巨大さやか『このままだとそのうち衝撃で倒れちゃう! 多分最後まで盾にはなれない!』
巨大さやか『みんな! 悪いけど万一に備えて防御を固めて!』
杏子「わ、分かりました! 全力で結界を展開します!」
杏子「みんな! あたしの傍に来てくれ!」
ゲルト「私はその内側に植物を生やして支えにします!」
マミ「なら、私はその植物にリボンを絡めて補強を――――」
まどか「それじゃ駄目! 攻撃して援護した方が良いです!」
マミ「!? な、何を言ってるの! 今外に出たら危ないわ!」
マミ「みんなで耐えれば……」
まどか「私の魔法は防御に向いてないから、皆さんの援護が出来ません!」
まどか「マミさん達だけの力で、さやかちゃんでも受け止めきれない攻撃を耐えられるんですか!?」
まどか「一発だけじゃなくて、何発も、何十発も!」
マミ「そ、それは――――」
まどか「だから私がさやかちゃんを援護します!」
まどか「そうすれば、さやかちゃんもきっと耐えきれる!」ダッ
マミ「か、鹿目さん!? こっちに戻って!」
まどか「大丈夫! あれぐらいなら、何個来ても壊せます!」
まどか「いっ……けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」バシュンッ!!
杏子「なっ……まどかの奴、一度に何十発も凄い威力の魔力弾を撃って……」
――――ドドドドドドドドドドドン!!
ゲルト「巨大なビルを、一撃で粉砕している……!」
巨大さやか『まどかのお陰で攻撃の手が緩んだ……これならなんとか、持ち堪えられるよ!』
旧べえ「流石だね……僕は感情エネルギーという莫大な出力を誇る反面、力を出すのに逐一感情の振れ幅が必要だが」
旧べえ「魔法少女にはそれが必要ない。こういう断続的な攻撃には、魔法少女の力が最適だ」
旧べえ「まどかなら、この攻撃を迎撃出来る……これなら切り抜けられる……!」
ゲルト「……確かに、鹿目さんの言うとおりです。私達だけの防御では」
ゲルト「肉体面で最強であるさやかさんすら転倒させる攻撃を、防ぐ事は叶わなかったでしょう」
杏子「一番のルーキーのくせして、一番状況を見ていたのはアイツか……あたしとした事が、情けない」
マミ「……いえ、これは……!」
シャル「ちっ! 世話の焼ける新人ねっ!」
ゲルト「あ、しゃ、シャルロッテさん!? どうし――――ッ!?」
杏子「ああ、そういう事か……不味いな……」
杏子「ビルが壊れて――――」
まどか「えいっ! えーいっ!」ドドドドドッ
まどか(くっ……本当に見滝原中のビルを持ってきているのか、いくら迎撃しても切りがないよ!)
まどか(ビルを浮かせるなんてとんでもない魔力を必要とするのに、これでもまだ本気じゃないなんて……)
まどか(でもキュゥべえのお陰で魔力は剥がれた。今なら攻撃を直撃させられる!)
まどか(ひたすらビルを壊して、攻撃のチャンスを――――)
――――ゴオオオオオオオオオオオオッ!!
まどか「っと、横からなら反応出来ないと思った!?」
まどか「残念だけど、使ったビルが他のよりも随分と大きいよ!」
まどか「そんな大きいの、見逃す訳ないんだから!」バシュッ
――――ズドオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!
まどか「けほっけほ……粉塵が……でも粉々に出来た!」
まどか「こっちに飛んできているもう一個のビルも撃ち落として……」
――――ゴオッ
まどか「え」
まどか(なんで……なんでさっき壊した筈のビルが無傷でこっちに飛んできて……)
まどか(あ、違う)
まどか(このビル、さっきの奴よりずっと小さい……)
まどか(あの大きなビルの後ろにこの小さい奴を隠してたんだ! 壊した事で出来た粉塵に紛れさせて、私の目を晦ませた!)
まどか(げ、迎撃しないと……で、でももう)
まどか(間に合わ――――)
「鹿目さんっ!」
まどか「!? シャルロッテさ――――」
まどか(シャルロッテさん、私のすぐ傍まできて)
まどか(それで、私の腕を掴んで……)
シャル「どっ――――りゃあああああああああああああああっ!!」
まどか「な、投げ……うぐっ!」
マミ「か、鹿目さん!」
まどか(シャルロッテさんに皆の近くまで投げ飛ばされた! そう言えば、本来身体強化系の魔法少女だったって言ってたっけ)
まどか(お陰で飛んできたビルの下からは移動出来たけど、で、でも!)
まどか「シャ――――」
シャル「あ、これ無理だわ」
グシャアアアアアアアアアアアアアンッ!
旧べえ「ぐぅっ!?」
杏子「な、なんつー衝撃波……何万トンもあるコンクリートの威力、正直嘗めてたわ……」
杏子「こんなの受けたらあたしの結界なんかいくら補強しても関係無くぶち破られていたぞ……!」
ゲルト「そ、それより……」
マミ「シャルロッテさんが、ビルの下敷に……!?」
まどか「あ、あ、ぁ」
まどか「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
まどか「いやああああああああああああああ! しゃ、シャルロッテさんが、シャルロッテさんが、ああああ!」
ゲルト「だ、駄目です! まだ攻撃は続いています! 美樹さんの影に隠れないと……!」
まどか「だって、だって私が、私が!」
マミ「鹿目さんのせいじゃない! あなたがビルを落としてくれていなければ、私達は今頃下敷だった!」
マミ「あなたは悪くない、悪くないから……!」
まどか「嫌、また、また私のせいで……」
まどか「嫌あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
「妖精さんアイテム『鏡の国のアリス体験版』~」
まどか「え……」
「一見普通の手鏡ですが、中には不思議な不思議な王国が広がっており」
杏子「こ、この呑気で……」
「私達も中に入る事が出来てしまいます」
マミ「緊張感が欠片もなくて」
「と言うか鏡に映った人を手当たり次第中に取り入れてしまう、困った道具なんですよねぇ」
ゲルト「底抜けに明るい声は……!」
「まぁ、お陰で緊急避難アイテムとして使えるのですけどね。本来の用途と全然違いますけど」
巨大さやか『やっと……やっと戻って来たか……』
「ですから……」
旧べえ「――――暁美ほむら!!」
ほむら「シャルロッテさんは無事ですよ、鹿目さん」
まどか「ほむら、ちゃん……」
まどか「ほむらちゃん……ほむらちゃん……!」
マミ「ほ、本当にシャルロッテさんは……」
ほむら「はい、こちらの中に」スッ
ゲルト「あ、手鏡……」
杏子「本当だ。あたしらが映らない代わりに、中にシャルの奴が居るぞ」
シャル『……うん、見事に鏡の中に囚われたわ』
シャル『……マジで死ぬかと思った……』
ほむら「ご冗談を。妖精さん密度Fの私と暮らしているあなたがこんな些事で死ぬ訳ないでしょう」
シャル『何処から沸いてくんのよその自信……まぁ、今回は信じてあげましょうか。理不尽なほどのラッキーだったし』
シャル『それで、どうすれば出られるの?』
ほむら「こうして鏡をひっくり返してー」
ほむら「力いっぱい振ります!」ブンブン
シャル『ちょ、ぐえ!? ゆ、揺れがマジで伝わってあだっ!?」
巨大さやか『あ、出てきた』
シャル「いたた……もうちょっと優しくしてくれないものかしら……」
まどか「シャルロッテさああああああああんっ!!」
シャル「わぷっ!? か、鹿目さん!? ちょ、抱き着かないで、苦し……」
まどか「ごめんなさい、ごめんなさい、私……!」
シャル「……ああもう……抱き着くのは私じゃなくてほむらにやってほしいものね」
ほむら「全力で避けますけどね」
シャル「おい」
ほむら「……さて、半端なお遊びはここまでにしてっと」
ほむら「いやぁ、好き勝手やってくれちゃったものですねぇ。見滝原、すっかり壊滅じゃないですか」
ほむら「見渡す限り廃墟だらけ。冒険心がそそられる光景です」
ほむら「インキュベーターであるあなたが、そんな風に思うとは言いませんけど」
疾患QB「……ふふ……ついに姿を現したね。暁美ほむら」
疾患QB「君の事だから、この状況をなんらかの方法で観測していた筈だ」
疾患QB「よく、あのワルプルギスの前に姿を現そうと思ったね」
ほむら「そりゃ派手に遊べそうなアスレチックがあれば誰だってやってきますよ」
疾患QB「アレをアスレチック呼ばわりか。奢りなのか自信なのか、今では判別が付かないね」
疾患QB「妖精も近くに居るのかい?」
まどか「えっ、と……(妖精さんは電波があるところだと活動出来ない筈……)」
ほむら「勿論。妖精さん、おいでやすー」
妖精さん「はーい」ポーン
まどか「えっ!? どうし……」
まどか(そうか! 町が滅茶苦茶になったから、電波が何処からも出ていないんだ!)
シャル(これなら妖精さんパワーは100%発揮出来る……)
疾患QB「……僕には見えないけど、そこに居るのかな?」
ほむら「ええ。見えないのは、きっとあなたの魂がこちらにないからでしょう」
疾患QB「ふふふ……そうかい……居るのなら、遠慮はいらない訳だ!」
疾患QB「本艦! 妖精を”確認”した! 出力リミッター限界まで解除だ!」
WR【■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!】
まどか「ひっ!?」
マミ「こ、これが、わ、ワルプルギスの……!?」
疾患QB「本気ではないよ。本気を出したら、それだけでこの星の環境すらも変えかねない」
疾患QB「精々50%……さっきまでの、ざっと250倍さ」
旧べえ「本気を出したら、確か十分と持たないからね。エネルギー」
疾患QB「……否定はしないよ」
疾患QB「ま、これでも一発攻撃が地表に当たったら……地軸がずれてしまうかも知れないね」
ゲルト「なっ……!?」
ほむら「ちょっとちょっとー、風とかゴミとか凄いじゃないですかー」
ほむら「妖精さんアイテム『静電気バリアー発生下敷き』で予め身体を擦り、埃を寄せ付けないようにしとかなかったら」
ほむら「あの方の姿がろくに見えないところでしたよ」
疾患QB「やれやれ。これでもまだ自信を崩してくれないか。こっちの自信が崩れそうだよ」
ほむら「自信なんてありませんよー」
ほむら「ただちょっと――――わくわくしているだけです」
シャル「……ほむら……?」
疾患QB「わくわく、ね……つまり君にとって、僕達の最終兵器は本気になる必要もない存在という訳だ」
疾患QB「――――嘗めるな、下等動物が」
疾患QB「僕達の力を見くびった事、後悔するが良い!」
WR【■■■■!!!】
シャル「く、黒い魔力の塊が幾つも放たれ……」
シャル(あれ。全然怖くない。物凄い魔力を感じるのに、なんで……)
シャル(ああ、そうか。あまりにも強過ぎて、もう、怯える事も出来ない)
シャル(諦めるという考えが過ぎる前に、心の根っこが折れちゃったんだ)
シャル(だからこうして、逆に冷静でいられる訳ね)
ほむら「ぽーいっと」
シャル(……まぁ、コイツが冷静なのは私、達とは違う理由なんでしょうけど)
シャル(というか、一体何を投げて……)
ぽんっ☆
シャル(あ、なんて出てきた。これは――――)
まどか「……タヌキの置物?」
タヌキ【あ―――――――ん】
ゲルト「あ、口を開いて」
タヌキ【すぅ――――――】
杏子「吸い込んで」
タヌキ【ぱくんっ】
巨大さやか『……ワルプルギスの攻撃、全部飲んじゃったよ』
――――ぼいんっ
マミ「……なんか、私の胸が一回り大きくなったみたいなんだけど」
ほむら「妖精さんアイテム『マミサン置物』~」
ほむら「あらゆる攻撃をばくんと食べて吸収!」
ほむら「そのエネルギーを巴先輩の胸の脂肪に変換し送り届けるという代物です!」
マミ「何そのピンポイントでのいじめ!?」
ほむら「いやー、タヌキの置物で何か便利なアイテムを作れないかと思いまして」
ほむら「どうせならマミ繋がりで巴先輩をどうこうしたかったので」
ほむら「あ、ほっとけばそのうち空気みたいに抜けますのでご安心を」
妖精さん「あんしんせっけーですなー」
マミ「何からツッコめば良いのか分からないけど兎に角ふざけんなーっ!」
妖精さん「ぴ――――――――!?」
ほむら(あ、巴先輩の大声で逃げちゃった……まぁ、良いや。あとで集めますし)
疾患QB「ぐ、ぐぎ……まさかこんな方法で攻撃を無効化するとは……!」
ほむら「とりあえず、これで時間的猶予は作れましたね」
シャル「仕掛けるなら今のうちって訳ね」
杏子「それで、どんな手を使うんだ」
まどか「どうやって、あのワルプルギスを倒すつもりなの!?」
ほむら「倒しませんよ?」
まどか「……え……」
ほむら「まぁ、倒せないと言うべきかも知れませんけど」
杏子「た、倒せない……?」
ほむら「だってあの方、滅茶苦茶強そうじゃないですかー」
ほむら「妖精さんは誰かを直接虐げるタイプの発明って苦手なんですよ」
ほむら「まぁ、並の相手ならどうにか出来ますけど」
ほむら「ああも出鱈目ではどうにもなりません。倒すのは無理です」
まどか「そ、んな……」
シャル「じゃ、じゃあどうするつもりなの!?」
シャル「妖精さんアイテムでどうにもならないなら、私達に勝ち目なんて……!」
疾患QB「く、くくく……そうさ、最初から勝ち目なんてない」
疾患QB「いくら妖精の力が強大でも、宇宙で最大最強の力を持つ僕達に倒せない訳がないんだよ!」
ほむら「? 何をおっしゃっているんですか?」
ほむら「私はそもそも――――あの方を倒すつもりなんて毛頭ないのですけど」
疾患QB「……何?」
旧べえ「どういう、意味だい……?」
ほむら「どういうも何も……私は魔女さんを助けたいから、このドンパチ騒ぎに参加しているのですよ?」
ほむら「なら目の前の魔女さんも助ける。倒す訳がないでしょう?」
巨大さやか『で、でも、前言ってたじゃんかっ!?』
巨大さやか『妖精さんは魔女の絶望を追い払える、だけど絶望の量が多いなら、その分たくさんの妖精さんが必要になる!』
巨大さやか『まどかの時ですら千人も必要だったんだ! あの魔女じゃ何万人居ても足りないよ!』
旧べえ「それに、あれは魔女と言うよりもグリーフシードの集合体と言うべきだ」
旧べえ「なんらかの方法で絶望を取り除いたとしても、正気と呼べるものがあるとは思えない……!」
ほむら「ああ、成程。道理で眼鏡に表示される意訳が意味不明なものだったのですね」
ほむら「確かに凡そ真っ当な意思は存在しないようです」
旧べえ「なら!」
ほむら「それでも助けてあげたい」
ほむら「……この眼鏡に映る字幕からでも伝わる、誰にぶつけて良いかも分からない呪いから引っ張り出したい」
ほむら「そう思うのは、可笑しな事でしょうか?」
まどか「……ほむらちゃん……」
シャル「だ、だけどどうするつもりなの!?」
シャル「妖精さんの科学力でどうにもならないなら、どうすれば……」
ほむら「最後の手段を使います」
シャル「さ、最後の、手段……?」
ほむら「ええ。いざと言う時、とっておき」
ほむら「妖精さんパワーをフルパワーかつ、フル活用する方法です」
ほむら「ああ、先に言っときますけど自爆技じゃないですよ? もっと楽しい事です」
ほむら「ただまぁ、いざやるとなると中々踏ん切りがつかなくて」
ほむら「こういう”きっかけ”が欲しいとは思っていたところなんですよ」
ほむら「――――元に戻れる保証もありませんから、出来れば派手に楽しみたいですしねー」
まどか「!? ほ、ほむらちゃん、何を……」
ほむら「さぁ! ラストステージに相応しい盛り上がりといきましょう!」
ほむら「妖精さん! 八時じゃないけど、全員しゅーごーっ!!」
「よばれた?」「にんげんさんのごうれーだー」「ついついあつまっちゃうよねー」
「ぼくらゆーわくによわいからー」「いわれるがままです?」「そんなえさにつられますが?」
「つられるつられるー」「ふつーつられるー」「だってにんげんさんだもん」「しかたないなー」
「たのしいことはじまります?」「にんげんさん、あいであほーふだから」「あたまよろしいですし?」
「ちょーずのうは」「いじめっこぱわーすごし」「ひかれますー」「あやかりたーい」
ぞろぞろぞろぞろぞろ……
まどか「よ、妖精さんがたくさん……!」
杏子「百人ぐらい来たぞ……」
ほむら「さぁ、妖精さん。もしかしたら最後のお願いです」
ほむら「”私を妖精さんにしてくださいっ!!”」
全員「!!!?!?!??」
妖精さん「……にんげんさん、そのおねがい、ほんとによろしい?」
ほむら「ええ。仮に人間に戻れなくとも、後悔はしません」
妖精さん「せっかくにんげんさん、すてきなのに?」
妖精さん「すてきないのち、おもちなのに?」
ほむら「命に、良いも悪いもありません。みんな等しく尊いものですよ」
ほむら「人間だろうと魔女だろうと」
ほむら「妖精さんだろうと」
妖精さん「……ですが、ぼくら、にんげんさんとちがいますです……」
ほむら「飢えや窒息といった死から無縁で、消えたいと思ったら消えてしまう」
ほむら「確かに私達の知る命では想定出来ない生き様。確かに、我々の命の定義には当て嵌まらないかも知れません」
ほむら「それでも私は思うのです」
ほむら「あなた達はこの世界を……楽しく生きようとし、楽しく生きている」
ほむら「ならそれは、十分に命と呼ぶべきではないかと」
妖精さん「……」
ほむら「卑屈にならないで。あなた達はもう、十分に生きている。命として、私達の傍に立っている」
ほむら「だから、私にもっと……あなた達の事を教えて」
ほむら「あなた達が私達人間の命に憧れるように」
ほむら「私もあなた達の――――素敵な命に憧れているのです」
妖精さん「……!」
ほむら「私は、あなた達のようになりたい」
ほむら「あなた達みたいに、世界の全てを楽しみたい」
ほむら「どうかこのお願い、叶えてはもらえませんか……?」
妖精さん「にんげんさん……」
妖精さん「にんげんさんにそこまでいわれたら、がんばるざるえませんな!」
妖精さん「そーいんしゅーごーっ!!」
妖精さん達「ぴ――――――――――――――――――――!!」
「どうするどうする?」「やっちゃうやっちゃう」「どうやっちゃう?」
「ぼくらをまぜて」「うすめてうすめて」「きゅーわりぐらいならー」
妖精さん「それではそのほうこうで!」
妖精さん「にんげんさん、ぼくらのなかまいりーっ!!」
妖精さん達「ぴ―――――――――――――――――!!」
巨大さやか『ああ!? 妖精さんがほむら向って走っていって……』
杏子「群がってる……?」
シャル「ち、違う……群がってるんじゃない……!」
シャル「妖精さんが……ほむらの中に”入って”いってる……」
シャル「いえ、溶け合ってるみたい!」
マミ「どういう事!? 何が起きようとしているの!?」
シャル「そんなの分かる訳ないでしょ!」
―――― カッ!! ――――
まどか「うっ!? ほ、ほむらちゃんが光って――――」
ゲルト「ま、眩しくて何も見えません!」
杏子「う、ぐぅぅぅぅ……!」
旧べえ「なんだ!? 何が起きて……いや、この光は一体!?」
疾患QB「……? 光? 君達は何を言って――――」
まどか「う、く……?」
巨大さやか『光が……弱まって、きた……?』
まどか「一体何が起きて……」
まどか「っ!?」
――――目を開けた時、私が見たのはほむらちゃんの姿であり、そして、ほむらちゃんではない姿でした。
――――見ると胸が高鳴るあの可愛くて、だけどちょっぴり凛々しい顔はそのまま。
――――スレンダーで、きっと女神よりも美しいに違いないスタイルもそのまま。
――――だけど、変わっている部分も幾つかありました。
――――三つ編みだった髪は解かれ、先にはくるんと癖がついていました。
――――制服はリボンなどで飾られた可愛らしいワンピースになっていました。
――――吸い込まれそうになる綺麗な瞳は、翡翠のような色になっていました。
――――そしてその身体は、ちょっぴり……ぼやけて見えました。
――――そんなほむらちゃんを見て、私はこう思ったのです。
――――妖精みたい、と。
ほむら「……………」
まどか「……ほむら……ちゃん……?」
ほむら「……………」
シャル「ほむら? ど、どうしたの……?」
マミ「まさか妖精さんとその、何かやってたけど失敗して、体調が悪いとか……」
ほむら「……凄い」
巨大さやか『え?』
ほむら「嘘、なにこれ……こんな、ああ……!!」
旧べえ「ど、どうしたんだ暁美ほむら! そんなに取り乱して!」
旧べえ「まさか今更ワルプルギスに当てられて……」
杏子「……いや、よく見ろ。アイツ……」
杏子「アイツ……見ているこっちが楽しくなるぐらい……」
杏子「笑ってる……!」
ほむら「そんな、信じられない!」
ほむら「世界がこんなにも楽しそうだったなんて!」
ほむら「ああ! これならもっと早くお願いしていれば良かった!」
まどか「ほ、ほむらちゃん! どうしたの!?」
ほむら「え? ……ああ、ごめんなさい。ちょっとはしゃいじゃいました」
ほむら「あまりにも世界が賑やかで、つい」
まどか「に、賑やか……?」
ほむら「ええ、とっても賑やかです」
ほむら「こんなにも『イキモノ』が居るなんて、思いもしませんでした!」
ほむら「それに、この身体に宿った力……」
ほむら「予想はしていました。きっと素晴らしいものという予想は」
ほむら「だけどこんなにも素敵なものだったなんて!」
ほむら「この力ならどんな方が相手でも、楽しくなるしかないじゃないですかっ! 知ってましたけど!」
まどか「??」
ほむら「……っと、あんまり遊んでもいられませんね」スッ
巨大さやか『ほむら? なんで眼鏡を取って……』
ほむら「これはもう、必要ありませんから」
ほむら「……さて、準備運動も兼ねて」
ほむら「あの魔女さん達を助けるとしましょうかっ!」テテテッ
シャル「あ、ほむら!」
巨大さやか『スキップ交じりの足取りで行っちゃった……』
疾患QB「――――はっ!? な、何があったんだ……!?」
疾患QB「何故、暁美ほむらの姿が……急に、殆ど見えなくなったんだ?」
まどか「え?」
巨大さやか『ちょっと、アンタ何を言って……』
疾患QB「くっ! まさか妖精の道具を使ったのか! なんとか目視で確認出来るが……」
疾患QB「センサーでは捉えられない! ジャミング系の道具を使ったと見るべきか!」
マミ「え……演技じゃ、ない……?」
ゲルト「みたい、ですね……」
シャル(本当にほむらの姿が見えてない? どういう事?)
シャル(それじゃ、まるで本当にほむらが……)
疾患QB「本艦! 暁美ほむららしきものがワルプルギスに向かっている! 攻撃を――――」
疾患QB「え? ……目標をロスト、した? あ、ああ、そうだ、そうだな。うん」
疾患QB「と、兎に角攻撃してくれ! 僕の現在地点からワルプルギスを直線でつないだ方向に移動している!」
ゲルト「! そうはさせませ――――」
シャル「駄目! 間に合わない!」
WR【■■■■■■■■■!!】
シャル(ワルプルギスが攻撃してきた! ああ、魔力弾の雨が……)
シャル(いくら滅茶苦茶に撃っても、あれだけの魔力が込められていたら爆風でこの辺りも吹き飛ばされる!)
シャル(そうなったら――――)
ほむら「はーい、皆さん駆けっこをしましょー。一番速かった子には、ご褒美上げますよー」
ギュゥ―――――――――――ン
シャル「……え……(今、魔力弾が曲がった……?)」
シャル(妖精さんアイテム……じゃない!?)
ほむら「うふふ、皆さん結構素直ですねぇ」
ほむら「ああ、そう言えばゴールを決めてませんでしたけど……ま、いっか♪」
シャル(アイツ、一体何をしたの!?)
マミ「きゅ、キュゥべえ、暁美さんが何をしたか分かる?」
旧べえ「い、いや……分からない……」
旧べえ「何かしらの方法で魔力……いや、エネルギーの軌道を変えたのか……?」
旧べえ「しかし暁美ほむらがエネルギーを発していた様子は――――!?」
マミ「……キュゥべえ?」
旧べえ「ば、馬鹿な……そんな事はあり得ない!」
旧べえ「直接的な干渉なしでエネルギーを、万物の根源を操ったと言うのか!? それが妖精さんの力だと!?」
旧べえ「それが可能なら……そしてその方法が……」
旧べえ「……ふ、は」
旧べえ「ふ、はははははははははははははははははははっ!!」
マミ「キュゥべえ!? ちょっと、どうしたの!?」
旧べえ「これが笑わずにいられるかい!?」
旧べえ「ああ、僕達はなんてものに喧嘩を売ったんだろう! あまりにも滑稽だよ!」
旧べえ「こんなの――――”勝てる訳がない”じゃないか!」
旧べえ「君もそう思わないかい!?」
疾患QB「……………君が何に気付いたのか、或いは夢想したのかは分からないが……」
疾患QB「関係無い!」
疾患QB「ワルプルギスは最強の魔女だ! 妖精の力がどれほどのものだろうと関係ない!」
疾患QB「そうだ……妖精相手に手を抜く方が間違っていたんだ!」
疾患QB「リミッター解除! 全出力を解放し、この星ごと消し飛ばす!」
疾患QB「それなら、如何に妖精といえども終わりだ!」
まどか「!?」
杏子「なっ……なん、だと!?」
巨大さやか『ちょ、そ、そんな事したら、もう二度と魔女からエネルギーを取れないんだぞ!?』
疾患QB「知った事か! たかがこんな辺境惑星一つ消えてもなんのデメリットもない!」
疾患QB「君達ほどではないが、感情を持つ生物は他の星でも確認している!」
疾患QB「いくらでも替えは利くんだ! この星に執着する理由はない!」
マミ「なんて事……!」
疾患QB「ふ、ふははははははははははははははは! 僕達の勝利だ!」
疾患QB「ふははははははははははははははははははははははは!」
シャル「……ところで」
シャル「そのリミッター解除って、何時やるの?」
疾患QB「は? 何時も何ももうやって――――」
疾患QB「……!?」
マミ「……あら?」
ゲルト「……全然強い魔力を感じない……」
杏子「と言うか……」
まどか「魔力自体、感じない……?」
ほむら「感じる訳ないですよー。あちらの方々、もう戦うつもりはないみたいですからー」
旧べえ「……随分離れた場所にいるのに、よくこっちの話を聞き取れるものだ」
旧べえ「いや、それすらも妖精さんの力という訳か」
疾患QB「ど、どういう事だ!? 何故ワルプルギスの魔力が停止している!?」
疾患QB「本艦! リミッター解除はどうなった!?」
疾患QB「ああ!? 解除し、フルパワーモードにしている!? 何を言ってるんだ! 現に今……」
疾患QB「……何?」
疾患QB「あらゆる方法で攻撃指示をしているのに……命令が全て、拒否されている……!?」
ほむら「えーっとですねーっ! その理由はーっ……って、遠くから話すのしんどいなぁ……」
ほむら「ここをこうして……」
ほむら【あーあー、皆さん聞こえますかー?】
全員「!?」
まどか「頭の中でほむらちゃんの声が……」
杏子「な、なんだこれ!? テレパシーか!?」
ほむら【魔法じゃないですよ。脳内の電位差を弄って音声を認識させているだけです】
ゲルト「……あの、それってもしかしなくてもイオンチャンネルを掌握しているって事じゃ……」
ほむら【もしかしなくてもその通りです】
ゲルト「……あの、それってもしかしなくても私達、命の手綱を握られているようなものじゃ……」
ほむら【もしかしなくてもその通りです】
ほむら【まぁ、あまり気にしないでください。単にお喋りするために干渉しているだけですし】
ほむら【それでですね、あちらの魔女さん……皆さんがワルプルギスと呼んでいるあの方々はもう攻撃してきません。安心してください】
まどか「そ、そう……?」
疾患QB「糞! こっちからの指示も受け付けない! どういう事だ!?」
マミ「……それ、こっちのキュゥべえには教えてあげないの?」
ほむら【あげません。私、結構意地悪ですから】
ほむら【仮に教えても、理解出来ないでしょうし】
まどか「どうやってワルプルギスを止めたの?」
ほむら【別に何も? 向こうがインキュベーターの指示にNOを突きつけただけですよ。説得はしましたけどね】
ゲルト「説得って……」
ほむら【例え魂が燃え尽きようと、そこにある想いは消えない】
ほむら【例え異形に成り果てようと、命への嘱望は変わらない】
ほむら【私はそんな彼女達に方法を提示しただけ。そして彼女達は私の話に興味を持っただけ】
ほむら【私はまだ何もしていませんよ。さっきの魔力弾も、この会話も、魔女さんにも……まだ何も】
シャル「……………」
ほむら【――――さぁ、皆さん見ていてください】
ほむら【今からやる事が本当の】
ほむら【”妖精さんの力”です】
まどか「あ……」
巨大さやか『ほむらの奴、一体何をする気なんだ……?』
シャル「……………」
ほむら「遅くなってすみません。ええ、今からやりましょう」
ほむら「え? 本当に出来るのかだって?」
ほむら「大丈夫。今の私は、妖精さんの全てを理解しています」
ほむら「……世界は考えるものたちで溢れている」
ほむら「機械、電気、酸素や素粒子のような形あるものだけじゃない」
ほむら「電気的な行き来で生じたネットワークそのものにも、感情の振れ幅によって作られたエネルギー……魔力にも」
ほむら「グリーフシードも、心はある」
ほむら「精神が霧散しようと、全く違う呪いを押し込まれようと、魂に刻まれた想いまでは変えられない」
ほむら「命への憧れは、決して消えない」
ほむら「そんな心に”万物に干渉する力”が結びつけばどうなるか?」
ほむら「それがA地球の”妖精さん”。力の顕在化であり、新たに生まれた『命』だった」
ほむら「そして”こちらの妖精さん”はその方法で命を模倣しようとした訳です」
ほむら「そりゃ似たような存在になりますよ。原理的には同じなんですもの」
ほむら「……途中から何を言ってるかよく分からない? それは失礼しました。ちょっと自分の世界に入っちゃって」
ほむら「簡単に言えば、あなた達はやり直せます。生きたいという想いだけは叶えてあげられます」
ほむら「どうですか? お返事を聞かせてください」
WR【……………】
WR【■■■■……】ズズズ
まどか「! ワルプルギスが……」
疾患QB「か、勝手に動き出した!? こちらはそんな指示出してないのに!」
マミ「あの巨大なグリーフシードが迫ってくる……」
巨大さやか『本当ならビビっちゃいそうな光景の筈なのに、なんでだろう……』
ゲルト「全然、怖くありません」
旧べえ「それどころかむしろ――――」
シャル「何故かしらね。見守っていたい気分にさせられるわね」
旧べえ「こんな感情は初めてだ……だが、悪くない」
疾患QB「な、何がどうなっているんだ!?」
ほむら「分かりました――――さぁ、私の手に触れて」
疾患QB「暁美ほむらが、暁美ほむらがワルプルギスの動きを制御しているのか!?」
ほむら「……本当に、ごめんなさい」
疾患QB「だけど制御系になんのエラーもないのに、どうやって!?」
ほむら「私にはこれが限界。元の精神がないから、”あなた”としてもう一度生まれさせてあげる事は出来ません」
疾患QB「どうやってワルプルギスを支配している!? どうしてコントロールを奪っている!」
ほむら「それでも、この命がとても楽しい生き方を送れる事は保証します」
疾患QB「そ、そこに居るんだ! 攻撃しろ!」
ほむら「苦しさも悲しさも絶望も、全てを塗り潰す虹色の日々を約束します」
疾患QB「どんな攻撃でもいい! その一帯を攻撃するんだ!」
ほむら「だからもう一度こっちに……」
疾患QB「なんで、どうして、どうして……」
ほむら「この眩しい世界に、戻ってきて!」
疾患QB「どうして僕らの言う事を聞かないんだああああああああああああああああっ!!?」
――――ほむらの奴が触れた瞬間、ワルプルギスは光の粒へと変わった。
さやかや鹿目さんの攻撃ではどうにもならなかったワルプルギスを、アイツは触っただけで倒してしまった。
……いや、倒してなんかいないのだろう。
ワルプルギスから生まれた光の中にあったのは、グリーフシード達。
そして、妖精さん達だった。
光はどれも空へと向かった。妖精さんだけでなく、グリーフシードも一緒に。
真っ直ぐではなく、迷うようでもなく……スキップするように、天高く駆け上っていった。
アイツは一体『何』をしたのだろうか。私が今目の当たりにしている光景とはなんなのだろうか。
私には真実味のある言葉は何も思いつかない。さっぱり分からない、と言うべきか。
だけど心にふっと浮かんだ言葉が正しいのなら――――きっと、こういう事なのだ。
―――― 空に、命が花咲いた ――――
910 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/09/24 21:59:51.84 iaPx5EvQ0 381/381
3スレ目作ってきました。こちらになります。
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1411563456/
最終回は来週月曜日の午前中に投下予定です。
ボーボボみたいに
何でもありっていう予想がつく展開に慣れたあと飽きる
結構楽しめてたのも事実だしもったいないからもうちょい短く纏めて欲しかった