商人「ここに勇者認定証があります」
戦士「ほー」
商人「これは南の国で発行された正式なものでして、ボクが独自のルートで入手しました」
戦士「ふーん」
商人「これを見せびらかして、勇者のフリをしてお金を稼ぐんです!」
戦士「偽勇者ってやつか」
商人「しーっ! ちょっとした商売ってやつですよ!」
戦士「勇者詐欺だな」
商人「商売です!」
元スレ
戦士「あ? 勇者のふりをしろって?」商人「そうです」
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1404912929/
戦士「しかし、そんなもん、自分一人で使えばいいじゃねぇか」
商人「さすがに鎧も装備できないやつが勇者は無理がありますよ」
商人「それに、戦士さん、お金に困ってるでしょう?」
戦士「おお、酒のツケが溜まってクビが回らんぞ!」
商人「……。腕が立つことは調べたんですよ」
戦士「照れるな」
商人「だから、ぜひ、勇者のフリをしてですね」
戦士「そうか……おーい、姉ちゃん!」
バニー「はーい♪」
戦士「俺、実は勇者だったんだよ!」
商人「!?」
バニー「そうなんだ~、すごーい!」
戦士「だから、もういっぱい頼むわ!」
バニー「……」ちら
商人「あ、あー、ほら、これが本物です。お金もあります」
バニー「一杯はいりまぁす♪」
戦士「わはは、勇者金額にしといてくれ!」
バニー「いやーん♪」
商人(人選ミスったかな……)
――翌朝。
戦士「ういー」ボリボリ
商人「……おはようございます」
戦士「おう」
商人「昨日はお楽しみでしたね」
戦士「ああ、勇者効果だな。あのバニーちゃん、なかなかガードが硬かったんだぜ」
商人「一晩中パコパコと……」
戦士「はっはっは、その代わり財布まるごと持ってかれた」
商人「アホですか!」
戦士「英雄色を好む」
商人「英雄になってから言ってください」
戦士「で、どうするんだ?」
商人「そ、そうですね。それじゃあ、やっぱり王宮に行くんですよ」
戦士「ほうほう」
商人「で、勇者のフリをして王様に挨拶をする」
戦士「それで?」
商人「で、褒美をもらうわけです」
戦士「ん?」
商人「勇者だし、支度金かなんかもらえるんじゃないかと」
戦士「何もしてないのにもらえるわけねーだろ」
商人「……と、とにかく、勇者のフリをするんですよ!」
商人「まず、カッコイイ鎧とか格好をします」
戦士「モヒカンだな」
商人「それから、なんといっても勇者なら剣!」
戦士「山賊刀でいいか?」
商人「そして、勇者っぽい決め台詞を」
戦士「『血の海に沈めてやるぜ!』」
商人「違うでしょ!」
戦士「うるせーやつだな」
戦士「俺が思うにだな、勇者が救った村とかに行って、そこで飲み食いすりゃいいんじゃねぇか?」
戦士「タダでよ」
商人「!」
戦士「まあ、顔がバレてちゃ意味ないんだけど」
商人「そ、それですよ!」
商人「確か、街道沿いに、勇者が付近の魔物を倒した洞窟があったはず」
戦士「おー」
商人「そこで無銭飲食をするんですよ!」
戦士「食い逃げか何かか?」
商人「商売ですよ!」
――街道沿いの村。
村長「おお! 勇者様!」
村人「勇者さ……ま……?」
商人「はいはい、勇者ですよ、本物ですからね、この認定証がありますからね」
村長「以前よりも体つきが大きくなられたような気が……」
戦士「成長したからな」
村人「それに、お連れは一人だけなんですかい?」
戦士「前にいたやつらには裏切られたんだ」
村長「それはそれは」
村人「大変でしたな」
商人「……勇者さん、ナイス機転です」
戦士「お前って間抜けだよな」
商人「はい?」
戦士「なんでもねぇ」
村長「それで、今日はどのようなご用件で?」
商人「いやー、近くを通りましたからね! それはもう歓待していただこうと!」
村人「はあ……」
戦士「お前アホだろ?」
商人「え?」
村長「……」
戦士「はっはっは、まあ、魔王討伐の途中で寄っただけです」
村長「そ、そうでしたか」
戦士「ですが、どうも路銀が乏しくてですね」
村人「それなら、村の宿屋に言っておきますよ、タダでお泊めします」
戦士「どうもどうも」
村長「……時に、勇者様」
戦士「はい?」
村長「実は、ですな。以前にも救って頂いて申し訳ないのですが……」
商人「ははは、そんな、大したことじゃありませんよ!」
村人「また魔物が洞窟に住み着いたんです!」
商人「!?」
戦士「ああそう」
村長「なんとか倒していただけないでしょうか?」
戦士「いいよ」
商人「!?!?!?」
村長「ありがたい! それではお願いしますぞ!」
戦士「大船に乗ったつもりで任せてください」
村人「ありがてぇ!」
商人「ちょ、ちょちょちょ」
戦士「それで、お礼をせびるようでなんだけど……」
村長「そうですな、村一番の酒とおなごを届けましょう」
戦士「おー」
商人「ちょっ、戦士さん!?」
戦士「勇者な」
商人「勇者さん!?」
商人「何考えてるんですか!?」
戦士「勇者の仕事だろ?」
商人「いやあの……」
戦士「んじゃ、とりあえず宿行ってますよ」
村人「おお、お願いします」
戦士「はーい」
商人「し、失礼します」
――宿屋。
商人「何考えてるんですか!?」
戦士「うるせぇなー。別に請けるだけ請けて、とんずらするって手もあるだろ」
商人「あっ……」
戦士「それをその場で目を白黒させて、お前素人かよ」
商人「そ、そういうことでしたか」
商人「ほいほい言うこと聞いちゃうからびっくりしましたよ」
戦士「まあ、倒しにいくけどな」
商人「はい?」
戦士「倒しにいかねぇと怪しまれるだろ」
商人「そういう問題じゃないでしょ」
商人「たった二人で魔物を倒せるわけないじゃないですか」
戦士「倒しに行くふりをして、そのままとんずらこくって手もあるだろ」
商人「そ、そういうことでしたか」
戦士(まあ、倒しに行くけどな)
商人「……いいですか、勇者さん。勇者のふりをして、楽して儲けるのが大事なんですよ」
商人「楽をしないと」
戦士「どうやって楽をするんだ?」
商人「そりゃあ……」
戦士「ダメだこいつ」
村娘「こんばんはぁ」
戦士「おー、かわいこちゃん」
村娘「あなたが勇者様ですかぁ?」
戦士「おお、そうよ」
村娘「やだー、あまりイケメンじゃない」
戦士「はっきり言うなぁ。俺、はっきり言う娘は好きだぜ」
村娘「え~」
商人「……あのぉ」
戦士「お前は酒でも集めてこいよ。樽で10個くらいな」
商人「ひどい!」
――翌朝。
戦士「ふわぁ」ガリガリ
商人「……おはようございます」
戦士「おう」
商人「昨夜はお楽しみでしたね」
戦士「おお、あの娘、なかなか器用だったからな」
商人「そういう問題じゃないですよ!」
戦士「じゃあなんだよ」
商人「ボクに酒樽を集めさせて置いて!」
戦士「お、マジで集めてきたのか、えらいえらい」
商人「村一番の酒って持ってきてくれたのを、酒樽にしてくださいって言うのめっちゃ恥ずかしかったですよ」
戦士「ついでに油樽も持って来てくれや」
商人「あのですね……」
商人「せ、勇者さん、ちょっといいですか?」
戦士「なんだ?」
商人「こんなにお酒を集めてどうする気なんです?」
戦士「そりゃお前、飲むに決まってるだろ」
商人「え、飲むために? 売るとかじゃなくて?」
戦士「ああ」
商人「ボク、結構お金はたいちゃいましたよ」
戦士「お前、そういう時こそ勇者印を使うべきだろ。売るにしても」
商人「……はっ」
戦士「やっぱアホだろ」
ガラガラガラ。
商人「勇者さん」
戦士「おー」
商人「馬車の中でぐーたらしないでください」
戦士「着いたら言ってくれ」
商人「どこにですか?」
御者「洞窟でしょ」
商人「え、ちょっと」
御者「たった二人で魔物退治とはたまげたもんですワ」
商人「!?」
戦士「実際は俺一人で十分だ」
商人「何言ってるんですか!?」
戦士「お前な、偽勇者だろうと冒険者なら魔物くらい倒すだろ」
商人「いや、その……」
戦士「むしろアレよ、こんだけ飲み食いして女の子をあてがってもらって、格安冒険出来るとか満喫中よ」
商人「そ、そうかもしれませんけど」
戦士「それとももっと悪いことやれってのか?」
商人「だってこれじゃあ、普通の勇者じゃないですか!」
戦士「何かまずいのか、ソレ」
商人「なんかもっと楽できると思ってたんですよ!」
戦士「詐欺師も大変なんだよなぁ」
商人「詐欺じゃなくて商売です」
戦士「商売ならもらったら対価払わんとな」
商人「あ、ああいえばこう言う」
――洞窟。
御者「そんじゃ、荷物はここに置いときますよ」
戦士「おお、ありがとう」
御者「がんばってな」
戦士「ああ、さいなら」
ガラガラガラ。
商人「あの、この酒は……」
戦士「そらお前、定番だよ。酔わせて隙をうかがうのさ」
商人「なーるほど、だまし討ちってやつですね!」
商人「さすが偽勇者らしい、卑怯な戦法です!」
戦士「伝統と言え。神話にもあるんだぞ」
戦士「たのもう」
大蛇『誰だ』
戦士「勇者です」
大蛇『ほう』
戦士「実はある村に頼まれまして、貢ぎ物を……」
大蛇『では、そこに置いていけ』
商人「の、飲まないんですか?」
大蛇『昼間から飲めるか』
大蛇『それとも何か文句でもあるのか?』
商人「い、いえ、味見とかそういう……」
戦士「そういや俺も味見するの忘れてたんだ」ぺろり
商人「」
大蛇『おい!』
大蛇『それはわしへの貢ぎ物だろう』
戦士「せっかくのもらい物を味見もせずに済ませては酒に申し訳ない」ズズ
商人「ゆ、勇者さん……」
戦士「どうした?」
商人「あんた本当に口つけてどーするんです!?」
戦士「お、マジでうまいわこれ」
大蛇『貴様!』バシィ
戦士「文句があるならさっさと飲めよ」さっ
大蛇『おお、飲んでやるとも』
商人(……なるほど、これは高度な作戦!)
戦士「お前も飲んどけ」ごくー
商人「!?」
戦士「うめぇうめぇ」
大蛇『はー、良い酒だあ』
商人「こ、こいつら、本当にただの飲んべぇじゃないですか!」
戦士「何いってんだ?」
商人「あの、せ、勇者さん」
戦士「おお」
商人「魔物を倒す気はあるんですか……?」
戦士「そらお前、大ありだよ」
戦士「けどな? 村一番の酒って言われて、飲まずに済ませるとか、それは冒涜だろ?」
商人「帰ってから飲むのでもいいじゃないですか!」
戦士「おっ、正論」
商人「正論じゃねぇえええええええ!」
大蛇『くくく、貴様ら、目の前でわしを倒す算段とは良い度胸よ』
商人「はっ」
戦士「算段すらしてねぇけどな」
大蛇『だが、甘くみたな』
戦士「ほう」
大蛇『わしは酔えば酔うほど強くなる!』オロロロ
戦士「吐いてる吐いてる」
大蛇『酒は好きなんだが……』
戦士「深呼吸して水でも飲んでこいよ」
商人「水より、果汁がいいとかなんとか」
大蛇『くく、貴様らは健康を心配せんでもいいがな』バッ
大蛇が尾でなぎ払った!
商人「うわあ!」
戦士「ああ! 酒樽が割れてしまった!」
戦士「もったいない!」
商人「そういう問題じゃないですよ!」
大蛇『しまった』
商人「しまったじゃねーよ!」
大蛇『貴様ら、さてはこれを狙って酒樽の近くに……』
戦士「お前が暴れなければいいんだぞ」
大蛇『くっ』
商人「勘弁してくださいよ」
戦士「もう一つ方法がある、こぼれる前に飲み尽くしてしまうのだ」
大蛇『!』
商人「勘弁してください」
戦士「どちらが先に飲みきれるかな?」
大蛇『く、こうなれば頭から飲み尽くしてくれるわー!』
大蛇『ぐばばばっ!』バコンバコン
大蛇『ごぼごぼ』
大蛇『ぐほっ!』
大蛇『な、なんだ、この油くさい酒は』
戦士「油だ」
大蛇『なんだと』
戦士「おい、たいまつ」
商人「あっはい」
戦士はたいまつを投げ込んだ!
――
商人「はあ……」
戦士「洞窟も塞いだし、これでしばらくは魔物も拠点を作れないだろ」
商人「勇者さん、実に卑怯でしたね……」
戦士「はっはっは、自分より強い相手にあれこれ手を尽くすのは当然だろう」
戦士「それとも手を抜いて負けた方が良かったか?」
商人「良くはないですけど」
戦士「ほれ、そしたら次の町いくぞ」
商人「えっ」
戦士「下手に居着いちゃうとボロが出るからな」
商人「いやでも、御礼をもらわないとですね」
戦士「酒と女の子もらったんだから、また次に来たときでいいだろうが」
商人「い、いやでも」
戦士「ふぁー、腹減ったなぁ」
――となり町。
商人「せん、勇者さん」
戦士「どうした?」
商人「わかりましたよ」
戦士「お前もそう思うか」
戦士「あの踊り子……胸に詰め物してるよな」
商人「ち、違いますよ!」
戦士「じゃあなんだ?」
商人「まっとうな偽勇者の商売方法ですよ!」
戦士「まっとうな詐欺?」
商人「そうじゃなくてですね……ほら、このお酒!」
戦士「ああ」
商人「あの村でもらったお酒を、売りだすんです」
商人「勇者が認めた酒として」
戦士「ほう」
商人「どうですか! いいアイデアでしょう」
戦士「勇者が認めたからって売れるかなぁ」
商人「じゃあ、見ていてくださいよ!」
商人「あっ、一緒に宣伝してくださいよ」
戦士「はいはい」
商人「さあさあ皆さん、寄ってらっしゃい見てらっしゃい」
戦士「おお、商人っぽいぞ」
戦士「そういやお前、一応商人だったな」
商人「……ボクのことなんだと思ってたんですか?」
戦士「アホガキ」
商人「ほあっ……! えー、ここに取り出したる無銘の酒は!」
なんだなんだ どうした
商人「かの、南の国に認められた、ここにおわす勇者様!」
商人「世界を旅して見つけ出した、美味で秘密の魔酒でぇございます」
ほー
戦士「うまいぞー」
商人「さあさあ皆さん、どうぞお手に取って!」
商人「本日、この秘酒、たったの三瓶!」
商人「一つ金五千をくだらないところを、格安五百!」
商人「一人一瓶! 一人一瓶でのご販売!」
商人「ここにあるこれっきりだよ!」
戦士「実際安い」
商人「さ、さあ、どうだい、どうだい!」
戦士(うーん、さすがに値が張るかな)
戦士(物珍しく見てはいるが、金を出すには至らんか)
商人「さあ、たったの三つだよ! それ以上は出せと言われても売れないよ!」
戦士(……しかし、こいつもこうしていればまともな商人だな)
金持ち「よし、じゃあ、ワシが一本もらったぞ」
商人「毎度あり~!!」
商人「さあ、一本売れたよ、もう二本しか残ってないよ!」
戦士「俺が認めた」
商人「勇者様の認めた発言でたよ!」
商人「さあ……!」
男「……待ちな」
商人「な、なんだい、あんたは」
男「その酒、ちょっと匂いをかがせてもらおうか」
戦士「おう」さっ
商人「あ、あの~、勇者さん」
男「……」くんくん
男「くっ……やっぱりか」
商人「し、商売の邪魔なら出てっとくれ」
男「こいつは秘密の酒なんかじゃねぇ、となり村の名産酒だ」
なんだと? だましていたのか!
商人「あ、あう……」
戦士「あんた一体何者だ?」
男「俺はそこの酒場のマスターだ。酒に関しちゃ聞き捨てならないからなぁ」
マスター「こいつも確かに秘蔵酒かもしれねぇ」
マスター「だが、この匂い、馴染みのある俺には、魔酒だなんだと持ち上げられるのは許せねぇ」
ザワザワ…… なんてやつらだ……
勇者だってのも嘘じゃないのか! 金返しやがれ!(払ってない)
商人「い、いやその」
戦士「実際うまいじゃん」
マスター「くっ……! たしかにな」
マスター「だが、俺の酒場には、こいつよりももっとうまい酒を眠らせてある」
マスター「それを飲まないで認めただのなんだの……!」
戦士「えっ、じゃあ、飲ませてくれるのか?」
マスター「なに?」
戦士「だって飲まないとわからないだろ。これより旨いかどうか」
マスター「」
商人「そ、そうですよ! 勇者様が認めたかどうか! それが」
戦士「うるせぇな」
商人「もがもご」
戦士「それとも何か? まさか味比べさせないで信用しろってのか?」
マスター「し、しかし、アレは希少な酒で」
戦士「そんなの、俺が持ってるのだって希少だぜ。あと二本しかない」
マスター「くっ……!」
戦士「おい、商人」
商人「は、はい……?」
戦士「ぼそぼそ」
商人「……! な、なるほど」
マスター「どうするつもりだ」
商人「みなさァん! マスターが持っている秘蔵の酒、飲みたいですよねェ!」
ざわっ
マスター「おい、俺は別に……」
商人「ここにある、勇者が認めた酒と、どっちがおいしいか比べたいですよね!」
おーっ! そうだそうだ!
隠し持ってたなんて、ズルいぞマスター!
戦士「ニヤニヤ」
マスター「お前ら……!」
商人「ここに先ほど頂いた金五百があります!」
商人「ですが、本来、このお酒は五千をくだらない値打ちの貴重なお酒!」
商人「この貴重なお酒よりももっとおいしいお酒、ぜひみんなで出し合って飲みませんか!?」
うおおおおおおおおおおおおお!!!
戦士「勇者と一緒に、舌の肥えたマスターのオキニを判定しようぜー!」
うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!
戦士「ほれ、商人、金を集めてけ」
商人「はいはい! それじゃこちらは手持ちを全部突っ込みますからねッ!」ジャラジャラ
商人「みなさん、飲みたい方だけ、入れてくださいよ~」
戦士「そーゆーわけだ」
マスター「ちっ……!」
戦士「金が一万くらい集まったところで締め切り、後は折半じゃなくてもどっちも儲かるだろ」
マスター「……」
戦士「それとも、最初から飲ませる気もないのに難癖つけてきたのか?」
マスター「……」
マスター「やるじゃねぇか」
夜。
商人「ひぃ、ふう、みぃ……う、うわあ」
戦士「どうした?」
商人「こんなにお金を数えるのは初めてです!」
戦士「そうか、さっさと数えろよ」
商人「えへ、うへ、うへえへへ」カチャカチャ
戦士「……。いやしかし、ホントにうまかったな、コレ」
マスター「……」
戦士「でも一応、こいつもとびきりのをもらってきたんだぞ」
マスター「ああ、たしかにな。ここまで丁寧に仕上げたやつは初めてだった」
戦士「だろ?」
マスター「お前らには参ったぜ」
戦士「マスターが話の分かるやつで良かったわー」
マスター「ふん、気になったから声をかけただけさ」
戦士「はっはっは」
マスター「しかし……お前ら、本当に勇者なのか?」
戦士「ああ」
マスター「嘘をつけ」
戦士「ちゃんと認定証もある」
マスター「ラベルさえあれば銘酒になるわけじゃねぇ」
戦士「しかしありゃ本物だ」
マスター「……俺は本当の勇者にあったことがある」
戦士「ふーん」
マスター「だが、そいつは剣の腕や見極めは鋭くても、酒に関してはまったく鈍かった」
戦士「成長したんだよ」
マスター「くっ……! お前みたいに老練でもなかったぜ」
戦士「若いつもりなんだけど」
マスター「勇者は死んだという噂も聞く」
戦士「……」
マスター「一時は衰えていた魔物の勢力が、最近になって強まっているのがその証拠だ」
戦士「勇者は死なねぇよ」
マスター「なに?」
戦士「なぜなら、精霊の加護を受けているからな。魔王を倒すまで、殺しても死なねぇんだ」
マスター「……笑い話か?」
戦士「お前が見た勇者ってのは、なんか殺したら死にそうだったか?」
戦士「だとしたらあれだ、そいつは偽物だったのさ」
マスター「……いや、死ななそうだったぜ」
戦士「ふーん」
マスター「俺が勇者だ、とは言わねぇのか」
戦士「俺は殺したら死にそうに見えるか?」
マスター「酒に溺れて死にそうだ」
戦士「はっはっは!」
商人「数え終わりましたよ!」キラー
――翌朝。
商人「どうですか、勇者さん!」
戦士「あー?」
商人「この調子なら、もっと稼げるんじゃないですか!?」
戦士「んー」
商人「ボクたち、いいコンビになりそうじゃないですか!」
戦士「うー」
商人「……どうしたんです?」
戦士「飲み過ぎてアタマいてーわ」
商人「……」
商人「あのですね」
戦士「なんだ」
商人「ツケでクビが回らなくなるくらい酒で身を滅ぼしているのに」
商人「ちょっと儲けたら、アタマ痛くするまでまた飲むってかなりひどいですよ」
戦士「うるせー」
商人「これは苦言ですよ、なにせ……ほら……」
商人「ボクたちは偽勇者一行のベストパーティになるわけですから」
戦士「なるかよ」
商人「な、なに言ってるんですか!」
戦士「あんなん、マスターが好意を示してくれただけで、長引けば無許可露天で捕まってたかもしれねーし」
商人「えっ」
戦士「行き当たりばったりすぎんだよなー」
商人「そ、そうかもしれませんがね」
戦士「偽勇者で儲けるっつったって、基本やることは、勇者を騙って飲み食いするだけだろ」
戦士「そこらの汚い冒険者より、国に認められた勇者ならーってだけだし」
商人「お酒はうまくいったでしょ」
戦士「今度は何売るんだよ。ふんどしとか?」
商人「買わないでしょ、そんな汚いもの」
戦士「勇者ご愛用! 聖なるふんどし!」
商人「いらないですよ!」
戦士「逆にいけそうな気がするんだが……」
商人「そんなら、せん、勇者さんはなにかアイデアがあるんですか!」
戦士「うーん……」
商人「ほら!」
戦士「本物の勇者を探して、その近辺でお礼をもらう」
商人「……ボクと変わらない気がしますけど」
戦士「だってほら、勇者死亡説とか聞いたぞ」
戦士「実際、勇者が活躍してなかったら、儲けにならんのじゃないか?」
商人「そ、それは……」
商人「はっ、でも、本物の近くにいたら……バレるじゃないですか!」
戦士「気づいたか」
商人「そんなのダメですよ、ダメダメ」
戦士「しかし、本物の情報を入手するのは大事だろー?」
商人「えーっと……」
商人「そうですよ! 一発逆転を狙うんです!」
戦士「ん?」
商人「つまり、いっぺんに多額の儲けを上げればいいんです」
商人「それで一生遊んで暮らせる金をゲットすれば、もう偽勇者をやり続けなくてもいいでしょう」
戦士「……そして酒の飲み過ぎで死ぬ」
商人「休肝してください!」
戦士「そしたら、魔王を倒して褒美をもらうのが一番だなあ」
商人「そ、それは無理でしょ?」
戦士「他になにかあるのか?」
商人「えーっと、そしたら、ですね……」
戦士「ふんふん」
商人「こう、何か大量のお金が必要になると言いくるめて……」
戦士「ほうほう」
商人「つまり……」
戦士「なるほど」
戦士「絶対無理だろ」
商人「ど、どうしてですかっ!」
戦士「さすがにそのウソは無理があるって」
商人「ウソじゃないですよ、本気で行くんです」
戦士「まあ、いいけどよ」
――お城。
王様「よくぞ来た! 勇者よ!」
戦士「ははっ」
王様「……本当に勇者か?」
商人「ここに認定証があります!」バッ
王様「どれ……うむ、確かに南の国の正確な刻印」
王様「よくぞ来た! 勇者よ!」
戦士「ははっ」
商人「このやりとり頭からやらないとダメなんですか?」
王様「最近、また隣村の洞窟に住み着いた魔物を倒したとか」
商人「さすがお耳の早い!」
戦士「……」
王様「うむ、して、何用じゃ」
商人「ええ、実はですね、魔王のいる島が判明したのです」
王様「ほう」
商人「ただそこに行くためには特殊な船が必要でして」
王様「ほほう」
商人「船に加えてですね、特殊な加工をするために……」
商人「き、金を三千万ほど、用立てしていただきたいと」
王様「さんぜんまん!」
戦士「そうなんですよ」
商人「も、もちろん一国に全てお願いするというわけではありません」
商人「しかし、ここは海に面した船の国でしょう」
商人「ですので、やはり腕利きのですね……」
王様「……」
戦士「半分とは言わず、三分の一でもなんとかなりませんかね」
王様「ふーむ」
王様「それではその前に、ひとつ頼みたいことがあるのじゃが」
戦士(そらきたぞ)
商人「え、ええ! そりゃもう、なんでもしますよ!」
戦士(何するか聞いてから応えろよ)
王様「真か! では灯台の魔物全討伐、頼んだぞ!」
商人「え」
王様「実は我が国の船舶産業は危機に瀕しておるのじゃ」
王様「灯台を乗っ取られてしまってな」
王様「おぬしらにはぜひともそれを解決してもらいたい」
商人「は、はは、お、お安い御用ですよ……」
王様「すでに送り込んだ部隊は何度も全滅を繰り返しておる」
商人「そ、そうですか」
王様「だが勇者なら間違いないじゃろう、死んでも悔いはあるまい!」
戦士「はっはっは、勇者は死にませんよ」
王様「それは頼もしい!」
商人「ゆ、勇者さん……」
王様「ちなみに、腕に自信がある傭兵団も皆殺しにされたのじゃ」
王様「よほど強い魔物と見ておる」
商人「」
王様「……それとじゃな。最近、勇者の名を騙る盗賊がいるとの噂でな」
戦士「へー、悪い奴がいるもんですね」
王様「監視役というか、先導役をつけさせてもらう」
商人「えっ」
王様「女騎士!」
女騎士「ここに」すっ
王様「全滅と言ったが、誤りがあったな。この女騎士は唯一生き残った強者じゃ」
戦士(んほおして帰されたんじゃ)
女騎士「よろしくお願いします」
戦士「一人だけですか?」
王様「そうじゃ。女騎士に先導してもらい、見事灯台の魔物を倒して見せよ!」
王様「そうしたら褒美を与えてもいいじゃろう」
戦士「いや、一人しかついてこないのかっていう」
王様「そうじゃ」
戦士「それじゃ無理があるんじゃないですかね」
王様「なんでもすると言ったじゃろ」
戦士「ええ、こいつがね」
商人「やばいやばいやばい」
戦士「……ま、いいか。やりますよ」
王様「くくっ、ではゆけい、勇者よ!」
戦士「ははーっ」
王様「ほれ、お前もゆけい、女騎士よ」
女騎士「……かしこまりました」
――城下町。
商人「やばいやばいやばい」
戦士「まだ言ってんのか」
商人「だ、だだだだって、軍隊が出動して皆殺しって……!」
戦士「落ち着け、全員じゃない」ちら
女騎士「……」
商人「余計怖いじゃないですか!」
戦士「そうかぁ?」
商人「しかも、ずーっとついてきますよ、あの人」
戦士「そら監視役だからな、逃げられないぞ」ハハハ
商人「笑ってる場合じゃない!」
女騎士「勇者殿」
商人「う」ビクッ
戦士「おう」
女騎士「失礼だが、私はあなたを疑っている」
戦士「ふーん」
女騎士「手合わせを願いたい……よろしいだろうか?」
戦士「セックス合わせじゃダメなのか?」
女騎士「は?」
商人「ち、ちょっと勇者さん!」
戦士「いやーほら、たくましい体してるけど、そこそこ美人だしさ」
女騎士「……わ、私は女を捨てた身だ!」
戦士(んほお確定)
女騎士「剣を抜け、一手で十分だ!」スラッ
戦士「俺は剣が苦手なんだよ」
女騎士「ふん、行くぞ!」ザッ
戦士「おっと」バチーン
女騎士は戦士の剣をはじき飛ばした!
女騎士「くっ……!」
戦士「はい降参」
女騎士「本気でたたかえ!」
戦士「なんで? 本気を出すのはセックスか魔物を倒すときで十分だろ」
商人「お酒の時は入らないんですか……」
戦士「おお、うまいもの飲み食いするときも本気出さないとな」
女騎士「き、貴様、それでも勇者か!」
商人「勇者さん、もしかして以前別の職業についてました?」
戦士「ああ、遊び人にな」
商人「納得」
女騎士「そんな勇者がいるかっ!」
戦士「ふはは、地元じゃ『夜の勇者』とも呼ばれたもんだぜ!」
商人「それってただのドスケベですよね?」
戦士「タダじゃないぞ。気持ちよかった時は、女の子がいっぱいお金を請求してもちゃんと払ったし」
商人「酒代は?」
戦士「ツケ」
女騎士「……くっ」
女騎士「もういい」
戦士「お?」
女騎士「灯台を占拠している魔物は凶悪だ」
女騎士「私程度に手こずる連中が、討伐できるはずもない」
商人「で、ですよね~」
戦士「そうだな」
女騎士「さっさと逃げるがいい。陛下にはそのように報告させていただく」
商人「!」ヨッシャ
戦士「あんたはどうするんだ? 帰るのか?」
女騎士「私一人でも……討ち取ってみせる」
戦士(陵辱シーン独り占めかよ)
戦士「まあ、別行動するならそれでもいいけど、どんな魔物かくらいは教えてくれよ」
戦士「あと、灯台への経路」
商人「い、いやいや、勇者さん。あの人は心配して逃げろと言ってくださってるわけですからね?」
商人「ここは逃げましょうよ、ね、ね」
戦士「大丈夫だよ」
商人「その根拠のない自信はなんなんですか?」
戦士「勇者は死なないからな」
商人「……いや、あなたは、っていうかどのみちボクは死んじゃいますからね!?」
戦士「お、そうだな」
女騎士「ふざけているのか?」
戦士「何がだ?」
女騎士「私は逃げろと……」
戦士「めんどくせーな、俺は大体分かってるんだから、さっさと魔物の特徴を教えろよ」
女騎士「な、なんの話だ」
戦士「海の国で騎士って珍しいよな~」
女騎士「!」
戦士「ここで魔物を倒せば地位が上がるよな~」
女騎士「お、お前……」
女騎士「しかし、あの魔物は本当に強いのだ! お前の剣の腕では……!」
戦士「ああ。だから罠を仕掛けるから」
商人「勇者さん、また卑怯な手を使う気ですね」
戦士「そりゃお前、自分より強い相手を倒すのになんで正々堂々たたかう必要があるんだ」
商人「じゃあ、勇者っぽく魔物を倒さなくてもいいじゃないですか!?」
戦士「この国で金をせびろうって言ったのはお前じゃんかよ」
女騎士「おい」
――灯台付近の森。
女騎士「……なんだこれは」
戦士「うむ。商人に買い集めさせた」
女騎士「そうじゃなくて、鳥の餌なんだが」
戦士「鳥の魔物だろ?」
女騎士「こ、こんなものに引っ掛かるかっ!」
戦士「おい、商人」
商人「ご安心ください、ただの餌じゃなくて毒入りの餌です」
女騎士「だあああっ」
戦士「うるさいぞ」
女騎士「やつは身の丈が山の程もある怪鳥だぞ!」ヒソヒソ
戦士「量は?」
商人「象もくたばるくらい盛りました」
女騎士「そんなの、ひとくち含んだら吐き出されるだろうが!」ヒソヒソ
戦士「待て」
女騎士「なんだ」
戦士「餌をつつくと、自動的に網が被せられる仕掛けになっている」
女騎士「……」
戦士「勝ったな」
商人「さすが勇者さんですよ。この卑怯勇者め」
女騎士「帰っていいか?」
戦士「お、来たぞ」
商人「騎士様、お静かに」
女騎士「むう……」
女騎士(これで本当に退治できたら、あ、あの惨劇は一体何だったのか)
――
隊長『くっ、女騎士! 君だけでも逃げろ!』
女騎士『そんな、隊長ッ!』
隊長『すまない……』
女騎士『隊長! あの悪王が騎士団だけでたたかえなどと煽るから……!』
隊長『言うな。国に仕える身がそのようなこと。我々が無力だったに過ぎない』
隊長『……行けっ、女騎士。この魔物を倒せる誰かを探せ。うぉおおおおっ!』
女騎士『隊長ォ――!!』
――
商人「あ、騎士様。なんか妄想しているところ悪いんですけど」
女騎士「ど、どうした?」
戦士「こっち見つかったぞ、逃げるぞ」
女騎士「おいお前ら」
怪鳥『ケケケ―ッ! 性懲りもなく!』
戦士「ずいぶん知能の高そうな鳥だな」
商人「だ、大丈夫なんですか!?」
戦士「ああ、あの大きさでは森のなかを自由には飛べないだろう」
怪鳥は真空の刃で木々を切り裂いた!
戦士「うわっと」
女騎士「やつにはこれがあるのだ!」
商人「ひいいい」
戦士「早く言えよ」
商人「あ、あの……ゆ、勇者さん」
戦士「どうした?」
商人「今気づいたんですけど」
戦士「おう」
商人「網で動きを封じても、切り裂かれちゃうんじゃないですかね?」
戦士「はっはっは」
女騎士「笑っている場合かっ!」
戦士「落ち着けって」
女騎士「落ち着いていられるかっ!」
戦士「ふた手にわかれるぞ」
女騎士「ど、どうするつもりだっ」
戦士「商人、囮になれよ」
商人「あああああ、逃げる気ですね!? 絶対逃げる気ですね!?」
戦士「騎士、お前、商人を守りながら灯台に来い」
女騎士「ちっ、信じるぞ!」
戦士「ああ、じゃーな」ダダッ
商人「うわああああ」
怪鳥『ケケッ、二兎に別れたとして、逃げられると思うか?』
怪鳥『わが部下たちが貴様らの目玉を突き殺してくれるわっ』
商人「あああああああ、やっぱこっちが弱そうだからこっち来たああああああああ」
女騎士「商人殿! いかに奴とて真空の刃は連発できない!」
女騎士「森の中を走るのだ!」
商人「あああああ、恨む、恨んでやるぅうううう」ダダダッ
女騎士「よし、こっちだ、こっち」
商人「ひいいいいい」
怪鳥『ケーケッケッ、逃げろ逃げろ』
怪鳥『いつまで逃げ続けられるかな』
女騎士(くっ、力を溜めている……)
女騎士(しかし、灯台まで行けば真空の刃を振るえば、建物が壊れてしまうはずだ!)
女騎士「むっ、見えたぞ、灯台だ」
商人「うおおおおお」ダダダッ
女騎士(そういえば、やつの部下たちの姿が見えない……)
女騎士「!」
女騎士(ど、毒の餌と網の罠に、引っ掛かっている!)
女騎士(まさか、親玉以外を封じるために……)
怪鳥『ケケケ―ッ』
女騎士「どうした、羽根が生えている割には足が遅いな!」
怪鳥『ぬかせ、小娘!』
女騎士(よ、よし、敵を引きつけたぞ!)
女騎士「しかし、勇者殿は?」
商人「逃げたくさい……」
女騎士「くっ、灯台に逃げ込むぞ!」
商人「逃げ道がないんですけど……」
女騎士「しかし、他に道はない!」
商人「ちくしょう、何やってんのあの人!」
怪鳥『逃すかーっ』 バサーッ バチンッ!!
怪鳥『グエッ』
商人「へ?」ハァハァ
戦士「よし、引っかかった」
女騎士「……門にバネを仕掛けていたのか」ハァハァ
怪鳥『ぐ、グエッグエエエッ』バサバサ
戦士「灯台の入り口なんて大きいもんじゃないからな」
戦士「普段は空から灯台に登ってたんだろう」
戦士「だから、地面に近い方の門の仕掛けには油断があったってわけだ」
怪鳥『グエッ』
商人「はぁはぁ、あ、あのですね」
戦士「おい、商人、毒矢」
商人「はぁはぁ、は、はいはい」ゴソゴソ
女騎士「……どうするつもりだ」
戦士「そら念には念を入れよってことさ」ビュバッ
怪鳥『ケーッ!!』
――
商人「はああああ、疲れた」
女騎士「怪鳥め、毒を食らわせたのになんという体力だったのだ」
商人「ホントですよ! ボクまで殴らされましたよ」
戦士「これけっこうな量の鳥肉取れるよな」
商人「毒打ち込みましたよね?」
戦士「冗談だよ」
商人「けど、これで……よっしゃあ! 大金ゲットー!」
戦士「それはどうかな」
商人「えっ」
女騎士「……」
商人「はっ、こ、これはその」
女騎士「いや……感服した」
女騎士「私では、このような戦法は思いも寄らなかったろう」
女騎士「……こんな簡単に」
戦士「あー、そういうことじゃねぇ」
戦士「あの王は、『褒美を与えてもいい』と言ったんだ」
商人「はあ」
戦士「いくらとは言ってない」
商人「そんな馬鹿な」
女騎士「し、しかし、我が国の騎士団が全滅させられた相手を」
戦士「騎士団が重要じゃなかったんだろ」
女騎士「!」
商人「え? え?」
戦士「普通に考えて、海の国で強いのは海軍だろう」
戦士「それに馬にも乗ってない騎士様ってなんかおかしいし」
商人「言われてみれば……」
女騎士「……くっ」
商人「もしかして、嫌われてるんですか?」
女騎士「ち、違う!」
戦士「昔は陸方面にも領土があったんだろうが、魔物が増えてきただろ?」
商人「まあ、そうですね」
戦士「で、海に強い国が、少ない資源をどこに振り分けると思う?」
商人「まあ……海ですね」
女騎士「わ、我々は、剣の腕を必死に磨いてきた!」
商人「まあ、大砲とかありますからね」
戦士「今回の魔物討伐は、肩身が狭い騎士団の最後のチャンスだったんだろう」
商人「はー、そういうことですか」
女騎士「……」ワナワナ
戦士「まあ、だから、いくら灯台を抑えられていたとはいえ、大金がもらえる可能性は少ないってこった」
商人「そんな~……」
女騎士「わ、私が! 掛け合うから!」
戦士「いや、それよりもだな」
商人「なんですか?」
――
王様「よくぞ魔物を倒してきた!」
戦士「ははっ」
商人「それで、褒美なんですが」
王様「うむ。しかしのう」
商人「な、なんですか」
王様「わしは灯台の『魔物全討伐』と言ったのう」
商人「……言いましたっけ?」
戦士「言いましたな」
王様「しかし、海側から偵察させたところ、まだ生き残りがおったのじゃ」
商人「ええ~?」
王様「首級を上げたとはいえ、約束は約束じゃ」
女騎士「陛下! しかし!」
王様「そう、我が配下の女騎士は、我が国でも随一の剣の使い手じゃった」
王様「つまり、ほぼ我が軍が制圧したようなもの、そうじゃろう?」
商人「いやいやいや!」
戦士「それはさすがに無理がありますな」
王様「ほう」
女騎士「陛下、この者達はもっと強力な敵を討ち倒したのです!」
王様「黙れ」
女騎士「しかし……」
戦士「確かに女騎士殿の功績は高いかと思います」
女騎士(う、来たか……)
戦士「そこで提案なのですが、我々は今後も魔王討伐で戦わなくてはなりません」
王様「ふむ」
戦士「だから褒美に女騎士殿をください」
王様「ほほう」ニヤ
戦士「女騎士殿は自分よりも剣の腕が高いのでね。報奨金よりも価値がある」
王様「しかしのう、先程も言ったように、女騎士は我が国随一の剣の使い手」
商人「びた一文払わない気ですよ、こいつ!」ヒソヒソ
戦士「お前もこういう腕を磨け。駆け引きってやつだ」ヒソヒソ
商人「えーっ」
王様「女騎士はどうじゃ?」
女騎士「……私は」
王様「もう我が国には騎士はその方しか残っておらん」
王様「お主に出て行かれては困るのう」ニヤ
女騎士「あ、出ていきます」
王様「な、なんだと」
女騎士「魔王討伐の大義に殉じます!」
商人「よし!」
戦士「商人、アレが表向きはイイコト言って、相手を言いくるめる話法だ」ヒソヒソ
商人「そのくらい知ってますよ!」ヒソヒソ
戦士「いや、ちょっと形式張った場所では、大義とかそういう言葉が聞くんだ」ヒソヒソ
商人「なるほどな~」
王様「むむ」
王様「ま、まあ、仕方あるまい。その代わり、他に褒美はやらんぞ」
戦士「ははっ」
王様「ではゆけい! 女騎士よ! 世界に平和を取り戻してみせよ!」
女騎士「ははーっ」
――女騎士の部屋。
女騎士「すまないな」
戦士「うん?」
女騎士「もうこの国には私の居場所はない。だから、申し出てくれたのだろう?」
戦士「おい、商人。持てるもの全部詰め込めよ」
商人「もちろんですよ! あ、下着」
女騎士「おい!」
戦士「女騎士以外の褒美はやらないって言ってたけど、持ち物はオッケーだよな?」
商人「そう思います」
女騎士「お前たち、話を聞け!」
――
商人「はふう、すばらしい……」
女騎士「むう」
戦士「どうだった?」
商人「売れましたよ。かっちょいい鎧、剣、エロ下着」
戦士「ほう」
女騎士「し、下着はっ、貰い物だ」
商人「旅に出るのにそんなに荷物は要りませんからね、美術品もなかなか売れましたぜ」
女騎士「……。船を買う金には足りそうなのか?」
商人「船?」
戦士「足りるわけないだろう」
商人「あっ、あー……そ、そそそりゃそうですよ!」
商人「っべー……勇者さん、この人がいたら、何も出来ないじゃないですか……」
戦士「そうか?」
商人「ど、どうしてこんな人を仲間にしようとしたんですか!」
戦士「そりゃエロいし、長旅で女の子が不足しがちだからだろ」
商人「欲望丸出しじゃないですか!」
戦士「むしろ、勇者のふりを押し通せばいい」
商人「絶対バレますよ!」
戦士「主にお前の態度でな」
女騎士(なんとなく聞こえてくるんだが……)
戦士「分かった分かった、俺に任せておけ」
商人「だ、大丈夫なんでしょうね」
戦士「ああ。おい、女騎士」
女騎士「ああ、どうした?」
戦士「ちょっとこっち来い」
女騎士「あ、ああ」
戦士「……実はお前に言わなくちゃならないことがある」
女騎士「うむ」ゴクリ
戦士「俺は、本当の勇者じゃないんだ」
女騎士「そうなの、か?」
戦士「商人の方が勇者なんだ」
女騎士「嘘つけ」
戦士「本当だ! つまりな、本当は勇者で、精霊の加護も受けているんだが……」
戦士「剣の腕も、魔法もからっきしダメでな」
女騎士「……それで?」
戦士「その上、一度パーティーに裏切られたので、疑心暗鬼になってな」
戦士「俺に勇者のふりをさせて、魔王討伐のために金を集めているのさ」
女騎士「……そうか」
戦士「信じてないだろ」
女騎士「当たり前だっ!」
商人(何話しているんだろう……また怒らせてる……)
女騎士「私はっ、お主こそ剣の腕はともかく、知略に長けた勇者殿と思っているのだ」
戦士「そりゃ買いかぶりすぎだ」
女騎士「さては味方から欺くというやつか?」
戦士「いやー、俺は酒と女が好きなだけの元遊び人だ」もみっ
女騎士「きゃー!」バシィ
戦士「かなり巨乳」
女騎士「うるさい黙れ!」
商人「あのぉ……」
女騎士「うるさい! 私は女を捨てた身だ!」
戦士「そういうタイプもそそるな」
商人「あー、いわゆる麗人系ってやつですね」
女騎士「やかましい!」
戦士「……まあ、とにかく、魔王討伐って目的には変わりないぜ」
女騎士「ふーっ! ふーっ!」
戦士「猫かなんかか?」
女騎士「と、とにかくだ、とにかく、私は褒美で貰われたのも確かだ」
女騎士「この剣の腕なら存分に振るうのみだ」
戦士「ベッドの上でも?」
女騎士「剣を振るってほしいのかっ!?」
商人「そこは腰を振るって言わなくちゃ」ハハハ
女騎士「ふんっ!」メゴスー
商人「ぶげぇ」
――
女騎士「馬車か」
戦士「ああ。御者を雇うのもいい加減、飽きてな」
女騎士「ふう、馬の口取りは騎士の仕事ではないのだがな」
戦士「でも、扱いには慣れてるだろう?」
女騎士「うむ。任せてくれ」
戦士「よし、じゃあ、あとはこいつを放り込んで、と」どさっ
商人「きゅう」
女騎士「……」
戦士「こんな本気で殴らなくてもいいじゃねぇかよな」
女騎士「気絶するとは思わなかった」
女騎士「それで、どうするつもりなのだ」
戦士「そりゃもう、金稼ぎよ」
女騎士「金か」
戦士「騎士様には縁がないことかな?」
女騎士「いや、心当たりがないではない」
戦士「ほう?」
女騎士「要は洞窟や塔や、魔物の住処から金品を漁って売りさばけばいいのだろう?」
戦士「それじゃただの冒険者だろ」
女騎士「いや、世界平和の大義がある」
戦士「しかしなぁ、こいつが魔物退治は嫌がるんだよ」
女騎士「……お主、確か彼を勇者と」
戦士「なんか楽して稼げないか?」
女騎士「うむ。エルフの隠れ里を知っているか?」
戦士「お、エルフか」
女騎士「ああ、そこには珍しい魔法の道具があると聞く」
戦士「エロいエルフを捕まえて」
女騎士「は?」
戦士「奴隷市場に売りさばけと」
女騎士「おい」
戦士「どうした?」
女騎士「どうしたじゃないっ!」
戦士「エルフは軒並み高値で売れるって聞くぜ」
女騎士「おまっ……! 世界平和の旅じゃなかったのか!」
戦士「魔王討伐だぜ」
女騎士「同じことだろう!」
女騎士「大体、積極的に平和を乱してどうする!」
戦士「そうか……!」
女騎士「ああ、分かってくれたか?」
戦士「売って他の人間に味わせるなんて勿体無いな」
女騎士「」
商人「なんかお金の話してませんか!?」ガバッ
女騎士「寝ていろ!」ガシッ
商人「どうして……」
戦士「まあ、そんなに冗談で興奮するなよ」
女騎士「お主は本気と嘘の区別がつかない」
戦士「本気で嘘をついている」
女騎士「一番悪いやつだろ、それは」
戦士「はっはっは」
エルフの里。
エルフ「きゃー! 人間よー!」
戦士「おお、逃げていくぞ」
女騎士「エルフは人間嫌いだからな……」
戦士「なら、俺に任せろ」ガチャッ ボロン
女騎士「!?」
商人「あの、勇者さん」
戦士「ここは武器をつけずに敵意を持っていないことを示すべきだ」
商人「♂してたら敵意持ちまくりな気がしますけど」
戦士「装備してても叫んで逃げられるから同じだ」
女騎士「お前それでも勇者か!」
長「……どうやら騒ぎを起こしているのはここウワァー!!」
戦士「ちょっと待ってくれ」カチャカチャ
長「汚らわしい! 葬ってくれる!」
女騎士「長老殿! どうかお待ちいただきたい!」
長「なんだ、お前たちは!」
女騎士「この者はそういう風には見えないかもしれませんが、勇者なのです!」
女騎士「魔王討伐のため日夜たたかっておりまして!」
長「半裸で?」
戦士「夜はな」
長「弓矢を構えよ」
エルフ「はい!」
女騎士「くっ」
戦士「いや、悪い悪い」
戦士「ちょっとツッコミが増えて、芸人魂が湧いてきてしまって」
長「何の話だ」
戦士「商人、アレを見せてやれ」
商人「は、はい! ほら、エルフの皆さん!」ササッ
商人「南の国で正式に発行された、勇者認定証です!」
長「そんな紙切れはしらん」
戦士「ですよね」
商人「ど、どうするんですか」
戦士「そうだな、提案がある」
長「提案だと?」
戦士「ああ。俺達は見ての通り汚らわしい人間どもだ」
長「わかっているようだな」
戦士「そんなわけで、あんた方が触れない汚れた道具を引き取りたい」
戦士「つまり、呪われた装備ってやつだな」
商人「え……」
長「ほう」
商人「ち、ちょっと!」
戦士「どうした?」
商人「の、呪われた装備って全然値段なんか付かないんですよ!」
戦士「うん、そうかもな」
商人「そんなの儲からないじゃないですか!」
戦士「まあ、任せとけ」
戦士「で、もちろんそれもタダとは言わない。ほら、女騎士」
女騎士「は、はい」
長「なんだこれは」
女騎士「我が国に伝わる、エルフが作ったナイフです」
女騎士「元々、これらとあなた方の何か物品を交換したいと思いまして……」
長「ふむ、なるほど」
長「そこまで言うなら交換してやってもよい」
エルフ「長老!」
長「弓矢をおろせ」
エルフ「よろしいのですか?」
長「どうせ我らにとってはゴミのようなものを、わざわざ貢物して引き取りたいとの申し出だ」
長「特に断ることでもないだろう」
戦士「ありがとうございます」ペコリ
女騎士「すみません、こちらになります」
長「……うむ。確かに」
長「では、ゴミ捨て場まで案内してやれ」
エルフ「はあ。分かりました」
戦士「頼むぜ」
女騎士「それでは、失礼します」
長「ふふふ、まあよいまあよい」
商人「……あの、勇者さん」
戦士「おう、どうした」
商人「ボク、勇者さんが何を考えているのか読めないんですけど」
戦士「読まなくていいぞ」
商人「そして嫌な予感がしますね」
戦士「あたりだ」ボソリ
商人「ん?」
エルフ「ほら、ここだ」
戦士「おう」
商人「はあ……」
女騎士「そう気を落とすな、掘り出し物があるかもしれないじゃないか」
商人「ボクはもう少し、スマートにやってほしいなって思っただけですよ」
戦士「あー、エルフのお嬢さん」
エルフ「なんだ、人間」
戦士「この腕輪なんかどうだ?」
エルフ「それか。それはだな……」
商人「う~ん、ろくなものがないですね」
女騎士「根気よく探せ、地道に歩けば道は開ける」
――ドサッ
商人「どうしました?」
戦士「おう、商人。この腕輪、つけると立ちどころに痺れて意識を失うらしいぞ」
商人「はあ」
女騎士「なぜそのエルフにはめた」
戦士「効果を試したんだ」
商人「えーと……」
戦士「アー、コレ腕輪外せないわー」
戦士「汚らわしいからまとめて持っていかないとー」
商人・女騎士『!?』
戦士「よし! 急いで運ぶぞ!」
商人「ちょ、ちょちょちょ勇者さん」
女騎士「お、お主、本気だったのか!?」
戦士「一度警戒を解いた後の方が、逃げやすいからな」
商人「アカン、この人本物だ」
女騎士「お主、本当に勇者か!」
戦士「誰も付属品まで持って行ってはいけないと約束していないじゃねぇか」
商人「……確かに」
女騎士「!?!?!?」
戦士「よっこいせ」がしり
商人「さあ、騎士様も一緒に行きましょう!」
女騎士「おま、これは誘拐だ!」
戦士「女騎士に一つ言いたいことがある」
女騎士「な、なんだ」
戦士「俺はエルフとやったことがないんだ」
女騎士「やかましいわ!」
商人「何事も経験ですよ、さあ、今のうちに!」サササッ
女騎士「おま、これ、わたし、うおおおおおお……!」サササッ
戦士「よーし、森を抜けるぞー」
宿屋。
エルフ「くっ、殺せ!」
女騎士「……」
商人「どうしました?」
女騎士「いや、なんか聞き覚えのあるセリフだなと」
商人「まあ、ありふれてますからね」
女騎士「そうかな……」
戦士「くっくっく、それでは尋問を開始する」
商人「ノリノリですね」
戦士「当たり前だろ」
女騎士「勇者殿、考え直さないか」
戦士「何がだ?」
女騎士「このようなこと、正義に適うことではない」
戦士「とは言うがなぁ」
女騎士「え、エルフの魔法の道具を交換するのではダメだったのか」
戦士「それな」
商人「何かまずいんですか?」
戦士「いや、エルフの魔法というのは古くて難しいからな、道具にしても大金になるようなものはねーんだよ」
商人「え、そうなんですか?」
女騎士「そ、それなら最初から……」
戦士「だが、エルフは未来を占ったり呪いをかけるすることに関しては長けているからな」
商人「なるほど! つまり魔王に呪いをかけてもらうんですね!」
戦士「そんなのがかかったら魔王はとっくにハゲてるだろ」
女騎士「ハゲ……?」
戦士「エルフの呪いと言えば髪の毛にかかるのが定番だ。あと水虫」
商人「なんて恐ろしい」ゴクリ
エルフ「勝手な言いがかりはやめて!」
戦士「まあ、つまり、金になりそうなエルフからの情報を聞き出せばいいってことだ」
商人「それから、奴隷市場に……」
女騎士「ダメに決まっているだろう!」
戦士「ま、とにかく、商人、あれは準備できているだろ?」
商人「もちろんです」
エルフ「何をする気?」
戦士「くくく、穢れた人間たちの麻薬のような食物を無理矢理食わせてやるのさ」
エルフ「そ、そんな……」
女騎士「……」
戦士「これを口にした女性は立ち所にその麻薬性に蝕まれ、月に一回が週に一回となり、挙げ句の果てには、毎夜自分へのご褒美にしてしまうという……」
エルフ「なんてこと……」
女騎士「……」
戦士「そしてそれを続けていく内にいつしか醜い腹を晒してしまうことになるのさー!」
エルフ「いやああああああ!!」もぐもぐ
女騎士「……うん」
商人「ショートケーキだけじゃなく、モンブランもありますからね~」
エルフ「くやしいっ……! でも食べちゃうっ……!」もぐもぐっ
エルフ「ああ、おいしい、これもおいしい」もぐもぐ
戦士「すっかり虜になってしまったようだな」
エルフ「こ、この程度で私を籠絡したなどと思わないことね!」
戦士「まだベリータルトも残っているぞ」
エルフ「あひい!」ビクン
女騎士「かなり買ってきたんだな」
商人「余ったら一緒に食べましょう」
女騎士「う、うむ」
戦士「さーて、それでは順次聞いていくぞ」
商人「じ、じゃあ、まずボクから。金目のものを寄越せと」
女騎士「ただのチンピラではないか!」
エルフ「ふん。人間たちに渡すモノなどない」
戦士「じゃあ、別の質問だ。長老が最近言ってることで気になることはないか?」
エルフ「長老が? そうね」
エルフ「ここのところ魔物が増えて……里を捨て、妖精の国に移住しようという話も聞いたことがある」
商人「へえ、妖精の国なんてあるんですね」
戦士「エルフは長命種というだけでなく、精霊的な属性を持つからな。妖精に近いんだろ」
女騎士「……詳しいな」
戦士「前に妖精でエロいことしようとしたら、怯えていろいろ教えてくれたんだ」
女騎士「この変態野郎!」
商人「けど、エルフが集団移動するのって面白いですね。旅しているエルフなんて見たことがないですけど」
エルフ「ふふん、人間たちが知らないのも無理はない」
エルフ「我々は独自の遠隔地へ移動するワープ空間を知っているのよ」
女騎士「なんだと?」
商人「へー、それはすごい!」
エルフ「穢れた危険な土地を歩くのは大変よ。しかしここを通れば、神聖な森のみを歩くことが出来る」
戦士「森から森へわたれるというわけだ」
エルフ「その通り!」
戦士「それで、それはどこにあるのかな?」
エルフ「う、そ、それは」
戦士「ケーキ」
エルフ「らめぇ! おいしすぎりゅよぉ!」もぐもぐ
戦士「なるほど、あの辺りに三箇所へ飛べる空間があると」
エルフ「ううっ、おいひいよぉ……」もぐもぐ
商人「ほー、これは便利じゃないですか!?」
女騎士「しかし、それが何の役に立つというのだ?」
商人「馬車も通れるなら、物品の大量輸送に役立ちます!」
戦士「森の中だけどな」
商人「うっ、そうか」
女騎士「なるほど……魔王城に近ければ、戦略にも活用できるな」
戦士「攻め込まれる危険もあるけどな」
女騎士「む……」
戦士「だが、俺たちだけが知っていれば、いろいろ使い道はある」
戦士「さて、他に何か言っていなかったか?」
エルフ「ほか……? いや、特にそういうことは……」
戦士「精霊の加護を受けた男のことについては?」
エルフ「うーん、人間の話は聞いたことがない」
戦士「……そうか」
商人「どうしたんですか、勇者さん」
戦士「なんでもねぇよ」
エルフ「けど、そうだな。確か長も言っていた」
エルフ「光っぽいものは失われていないと」
戦士「ボケてるだろそれ」
戦士「よし、エルフのお嬢さん」
エルフ「なんだ、人間」
戦士「あんたは暴れ出した人間を追いかけたが見失ったということにして帰るんだ」
エルフ「う、うん」
戦士「それで、何かあったら俺たちに協力してくれ」
エルフ「どうしてお前たちに協力しなくてはいけないの」
戦士「ケーキ買ってくるから」
エルフ「ゴクリ」
エルフ「ふ、ふふ。エルフの誇りを舐めてもらっては困るわ」
商人「余ったから食べちゃいましょうか」
女騎士「そうだな」
エルフ「らめぇ!」
――
戦士「よし、どうだ?」
女騎士「うーむ、馬車は難しいな、やはり」
商人「ダメですかー……」
戦士「ま、次の土地でちょちょいっと美女を堪能して戻ってくればいいさ」
女騎士「お主は本当に困ったやつだな」
商人「まあまあ! 向こうで珍しいものをゲットして、売りさばけばいいわけですよ!」
商人「あわよくば秘密の交易ルート開拓しちゃったり?」
女騎士「強力な魔物がいるかもしれんからな」
女騎士「困っている世人を助けることは必要だ」
商人「そういうのはいいです」
戦士「よし、飛び込むぞ」ひょいっ
女騎士「う、うむ。とぉっ!」ばっ
商人「ていっ!」ぴょんっ
あたりの景色が歪んでいく――
戦士「……」
女騎士「どうだ?」
商人「お、成功みたいですね?」
戦士「ふう。空が暗いな、こりゃ魔物がいっぱいコーナーに来たのかもな」
商人「うわあ、ちくしょうい」
女騎士「ふむ。なにか瘴気のようなものが渦巻いているように見える」
戦士(とりあえず言ってみたい単語、『瘴気』)
戦士「いやでも、あっちの方に村があるぞ」
女騎士「本当だ。灯りがないようだが」
商人「あ……」
戦士「とりあえず、あそこで泊めてもらうか」
商人「あ、あー。おふたりさん」
戦士「ん?」
女騎士「なんだ」
商人「あそこはおそらく、魔物に乗っ取られた村ですよ」
女騎士「なに!?」
商人「ですから、あそこには近寄らない方がいいと思いますよ!」
戦士「そうか」
女騎士「本当なら、解放しなくては!」
戦士「そうだな。女の子がいるかもしれない」
商人「え!? あ、いやいや」
商人「生きている人間はいないかもしれないですし……」
女騎士「なんだと」
戦士「ゾンビ娘とやったことはなかったな」
女騎士「おい罰当たり」
商人「と、とーにーかーく!」
商人「あそこに行くのは辞めたほうがいいですよ!」
女騎士「なぜ止める? そんなに危険なのか?」
戦士「……」
商人「で、ですからね?」
戦士「騎士、騎士」クイ
女騎士「う、どうした」
戦士「おそらく、あれは商人の故郷に違いない」
女騎士「なに」
戦士「そして、多分商人はあそこで恥ずかしい……全裸で村の広場でオナニーしたとかやらかしたんだ」
女騎士「……」
戦士「それがトラウマになって近づきたくないのさ」
女騎士「おい勇者」
商人「あの……オナニーとかなんとか……」
戦士「すまない、お前のトラウマを刺激してしまったようだな」
商人「ち、ちげーし! トラウマとかじゃねーし!」
女騎士「無理やり性的な話題に結びつけるのはやめろ」
戦士「違うのか?」
商人「何の話か分かりません!」
戦士「じゃあ、とりあえず近づいて」
商人「おうわああああああああ!!!」ぐいぐい
戦士「なんだよ」
商人「別に行かなくてもいいじゃないですかー! あんな辛気臭いところー!」
商人「他にエルフの渡り口二つくらいあるわけですしー!」
戦士「商人」
商人「は、はい?」
戦士「俺は人の嫌がることはしない主義だ」
商人「そ、そうですか」ホッ
戦士「けど嫌よ嫌よも好きのうちって言葉もあってだな」ずんずん
商人「ああああああああ!!!」
女騎士「む、待てっ」
戦士「お?」
商人「ひぃっ」
女騎士「魔物だ、近いぞ」
戦士「よし、森に隠れろ」
商人「うう、怖い……」
…
魔物A「どうやら、灯台を攻めていた鳥がやられたらしいな」
魔物B「ぐふふ、所詮奴は魔界十二貴族の末席ヨ」
魔物A「貴族がそんなにいるのもどうかと思うが」
魔物B「あと貴族がわざわざ最前線に出るってのもナ」
魔物A「まあ、しかし、勇者とやらを倒したらしいというのに、全然攻めきれんな」
魔物B「今度の侵攻作戦、損害が大きすぎるゾ」
…
女騎士「……なんて言っている?」ヒソヒソ
戦士「うーん、よく聞こえないな」
商人「……」
戦士「行ってしまったな」
女騎士「うむ」
商人「はあ」
戦士「じゃあ、あの村に」
商人「ち、ちょっと!」
戦士「なんだよ」
商人「だから、あいつらはあの村を住処にしてますよ、きっと!」
女騎士「いや、村とは違う方角に行ったぞ」
女騎士「むしろ、村の様子を見に行くべきでは?」
商人「あ、う、う~」
戦士「大丈夫だ大丈夫」ぽんぽん
商人「な、何がですか」
戦士「いざって時は全力で逃げるから」
商人「……」
女騎士「よし、それじゃあ、暗くなる前に村へ!」
戦士「ほれ、行くぞ」
商人「……はい」
――廃墟の村。
女騎士「む……」
戦士「灯りがないと思ったら、完全に潰れていたのか」
商人「……」
女騎士「これはひどい」
女騎士「おそらく、かなり前に、魔物の襲撃にあったのだろう」
戦士「なるほど」
商人「ええ、まあ。そうでしょうね」
女騎士「まさか商人……」
商人「まあ」
女騎士「い、生き残りなのか? 唯一の」
商人「唯一かは知らないですよ、よく分かんなかったんで」
商人「でも、まあ、多分調べても生きてる人なんていないですよ」
戦士「うん」
商人「あ、あー、そうですね。魔物が取り忘れた財産とか、あるかもしれないですね」
戦士「そうか」
商人「でも、どうせ貧乏な村だったんで」
女騎士「……」
商人「多分探してもなんもないです」
商人「はいはい、終わり! ここでの探索は終了!」
商人「でも、ここは魔物に近いところみたいなんで、魔王に近づいているのかもですね!」
商人「ワープ装置の場所的にはいいのかも……」
戦士「まあ、待て」
商人「な、何を」
戦士「死んだ人達が野ざらしだが、見ろ」
戦士「座ったり寝転んだりしている」
商人「それが……なんなんですか」
戦士「アンデッド化、人によっちゃ魔物化してるってことだ」
商人「!」
戦士「しっかり葬ってやらないとな」
女騎士「そ、そうだな」
女騎士「私は聖職者ではないが、埋葬に聖印を授ける方法くらいは知っている」
女騎士「そうすれば、夜な夜なに魂が彷徨うこともないだろう」
商人「……」
戦士「金にならないけど、どうだ?」
商人「う」
戦士「やらないか?」
商人「……やります」
――
商人「別にね、大したことじゃないですよ」ざっざっ
商人「ボクは小さかったし、よく分かんなかったし」ざくっ
商人「ただ魔物に村が襲われて、母と逃げて」ざくっ、ざくっ
商人「助けを求めたんです」
商人「でも、となり町に行ってもだーれも助けてくれなかった」
商人「みんな金ですよ、金」
商人「……」ざくっ
商人「だから商人やってるとかじゃないですよ」
商人「結局、母は村に引き返すなんてバカなこと言い出して」ざくっざくっ
商人「……」
商人「ま、となり町も全滅したんですけどね!」ハハハ
商人「それで、なんとか食っていこうと思って……」
商人「いろんなもの売りましたよ、土地も何も持ってなかったんで」
商人「体とかも」
戦士「エロいっ!」
女騎士「勇者殿!」バシィ!
商人「……」
商人「そういう時にね、勇者の噂を聞いたんです」
商人「魔王を倒すんだっていう」
商人「笑っちゃいますよ、そんなの本当にいるなら――」
商人「――なんでボクらのことは助けに来てくれなかったんだろう」
.
女騎士「商人殿……」
戦士「……」
商人「あっ、勇者さんのことを批難しているわけじゃないですよ!」
商人「だって別に勇者さんは、ほら……」アセアセ
戦士「悪かったな」
商人「あーっ! 違いますって」
女騎士「その……すまない」
商人「別にいいんですよぉ、嫌な記憶しかない話だし」
商人「だから、その……」
戦士「……勇者認定証とやらを手に入れて、精神的に復讐を果たそうとしたわけだな」ボソリ
商人「……はい」
戦士「まあ、あれが流れているってことは、認定された勇者は死んだか手放したか、ということだからな」ヒソヒソ
商人「……でしょう?」
商人「どうせ、あんな紙切れで認められたやつなんか、大した事ないんですよ」
商人「どこか野垂れ死んだか、重荷になって逃げ出したか……」
戦士「ま、紙切れは紙切れだからな」
商人「……」
戦士「ん?」
商人「うっ、うー」グスグス
戦士「おいおい、泣くなよ」
戦士「おい、女騎士」
女騎士「な、なんだ」
戦士「ちょっと二人だけにしてくれや」
戦士「泣くところはそんなに、大勢には見られたくないだろ?」
女騎士「うむ、そうだな」
女騎士「他に遺骸がないか、探してこよう」
戦士「おう」
商人「う、ううう」
商人「うああああ……」
戦士「よしよし」ぽんぽん
――
商人「あー、恥ずかしい……」
戦士「何がだ?」
商人「人前で泣くとか、そんなの金にならないじゃないですか!」
戦士「泣きながら蛇や鳥に追いかけられていたような」
商人「そら恐怖で泣くのとは別ですよ!」
商人「勇者さん、涙代くださいよ! 飾りじゃないんですよ! ほら!」
戦士「うるせーなー」
戦士「むしろ胸を貸してやった分、俺の方が涙代をもらうべきだろ」
商人「ちっ、抜け目ない」
戦士「金じゃなくて酒でいいぞ」
商人「こうなったら徹底的に偽勇者を貫いてやりますよ!」
商人「そしてゆくゆくは金に任せて魔王を倒すんですよ!」
商人「勇者が来たら? 『あいつの方が偽物だ(笑)』 こんなかんじで!」
戦士「ほー、そりゃ結構だ」
商人「どうですか!?」
戦士「ところで、魔王軍ってあの蛇や鳥みたいなのが何体もいるんだが」
商人「う」
戦士「しかも魔王はあいつらよりずっと強いわけだが」
商人「お」
戦士「どうするんだ?」
商人「そ、それじゃあですね、勇者にやらせるんです!」
戦士「ほう」
商人「真の勇者に魔王討伐! だけど報酬はボクらの手に!」
商人「どうです?」
戦士「あの紙切れの勇者は死んだくさいけど?」
商人「ふぎゃー!」
戦士「はっはっは」
商人「笑ってないで考えてくださいよ!」
戦士「ま、本当に精霊の加護を受けた勇者なら、死なないのさ」
商人「はあ」
商人「そういえば、そのう……勇者さんっていうか、戦士さんは」
戦士「ん?」
商人「どうして引き受けてくれたんですか?」
戦士「ツケを払ってくれただろ」
商人「いやいやいや!」
商人「そのためだけに、蛇を倒したりなんだり……」
戦士「実は俺は極度のバトルマニアでな」
商人「アルコールマニアかガールズマニアなら分かりますけどね」
戦士「そいつが手に入るなら、十分だと思うが?」
商人「そうかなぁ」
女騎士「はぁっ、はぁっ! お前たち! 敵襲だ!」
商人「うぇっ」
戦士「そうか、逃げるぞ」
女騎士「い、いや、すぐそこまで迫ってきていて……!」
戦士「何体来ている?」
女騎士「い、一匹だ!」
商人「あの」
戦士「……まあ、アレだ。簡単に人も魔物も死んじまうもんなんだよ」
戦士「俺達はそういうのに引っかからないように、大事なところで気をつければいい」
女騎士「な、何を言っている?」
\プギィーッ/
戦士「落とし穴だ。重量があるやつ用に」
女騎士「なんと、そんなものを……」
戦士「すれ違った魔物は軒並み鎧をつけていたからな」
戦士「踏み抜くと外れないようになっちゃう」
商人「あくどいですね~、勇者さんは本当にあくどい」
戦士「魔物相手ならいいだろ」
女騎士「……エルフにもやってたぞ」
商人「誘拐しましたもんね」
戦士「はっはっは」
女騎士「ああ、たとえコレが世界平和のためだとしても、我々は神には許されまい……」
戦士「そうかな?」
――
商人「さぶっ!」
女騎士「うむ……ここの渡り口は、い、行かなくても良いのではないか?」
戦士「ん? 寒いの苦手なのか?」
女騎士「う、うむ」
戦士「はっはっは、そういう時は酒を飲んで体を温めればいいんだぜ」
女騎士「あのな……」
商人「もしかして……勇者さん、寒いところ出身?」
戦士「さー、結構前からあちこちふらふらしてるからなぁー」
女騎士「む、酒臭い!」
戦士「ぶはあ」
女騎士「勇者殿! その、アルコールは控えては……」
戦士「週一でしか飲んでないのに」
女騎士「そ、そうではない。もっと気を張ってだな」
戦士「商人」
商人「はい、とりあえずコレきりにしてくださいね」さっ
女騎士「おい」
戦士「ああ~、五臓六腑に染み渡るのう」
商人「……勇者さん」
戦士「どうした?」
商人「そのぅ、ボクも飲んでもいいですかね」
戦士「……」
商人「へへへ」
戦士「ダメ」
商人「ひどい!」
商人「勇者さん、ボク、頑張りますよ、ほらほら」
商人「だからいろいろ許して下さいよ」
戦士「え~、だったらお金をもっと稼げ」
商人「任せて下さい!」
戦士「……」
戦士「よし、じゃあ、案を出してみろ」
商人「うーん、こう寒いとですね。温まりたいと思うんですよ」
戦士「ほう」
商人「とくれば、やっぱり、温泉を探すのとかどうでしょう!?」
女騎士「魔王討伐にわずかにもかすってないではないか……」
戦士「温泉、いいね」
商人「そうでしょう!?」
戦士「でも許可がいるよな」
女騎士「なんのだ」
戦士「掘るのに」
女騎士「ほ、掘る? 温泉というのは、地面に埋まっているのか」
戦士「そらそうよ。がっつり掘った土で山ができるくらいいかないと出てこないぜ」
女騎士「何ヶ月かける気だ!」
戦士「だそうだ」
商人「いやいや! 今あるものをゲットすればいいじゃないですか!」
戦士「温泉強奪か」
商人「商売です!」
戦士「まあ、温泉を買うかどうかは置いといて、温泉に入るのはいいかもな」
女騎士「それでいいのか?」
戦士「いい」
商人「ですよ」
戦士「温まるぜ、混浴だと女の子と入れるし」
女騎士「……」
戦士「どのみち長旅の疲れを癒やす意味もある。損はないんじゃないか」
町人「温泉なら魔物に占拠されたよ」
商人「」
女騎士「な、なんだと!」
戦士「ほう」
商人「ちょっと魔物に占拠されすぎですよ!」
戦士「そりゃまあなあ」
女騎士「魔王がいるのだ。無理もない」
町人「だが、気にすることはないよ。お城の兵士たちが魔物退治に派遣されたからな」
町人「強いぞ、ここの兵士は」
女騎士「そうなのか」
商人「な、なんだ。それはしょうがないですね」
戦士「確かに、ここ出身の冒険者は強いよなー」
女騎士「お、詳しいのか?」
戦士「ああ。ほれ、雪に囲まれるから、戦闘訓練くらいしかやることがないんだ」
戦士「あとはセックスだな! 他にやることないし」
商人「はあ」
町人「あ、お兄さん、好き者なのかい?」
戦士「女の子は好きだぞ!」
戦士「ここの女の子は、肌白くてもちもちで、おっぱい大きいし」
町人「よく知ってるねぇ!」
女騎士「まったく勇者殿は……」
町人「実は俺、女の子のサービスやってるんだ。いい娘紹介するぞ」
戦士「いいね」
商人「勇者さん、一つ言っておきます」
戦士「なに?」
商人「お金は出ません!」
商人「お金は出ません!」
戦士「二回言ったぞ」
女騎士「勇者殿。私からも言わせていただく」
戦士「なんだ?」
女騎士「……商人殿の故郷、お主も見たであろう」
戦士「ああ、見たな」
女騎士「アレを見て、その、なんだ、まだ女に溺れていられるのか」
女騎士「私はあえて苦言を呈そう」
戦士「えー、じゃあ、宿を借りるだけでもいいのか?」
町人「いいよ、もちろん」
女騎士「……分かってくれたか?」
戦士「騎士が相手してくれるんだろ」
女騎士「するかっ!」
戦士「分かった。あえて言おう」
商人「な、なんですか」
戦士「俺は女の子と気持よくプレイしたい」
戦士「そして女の子もお金がもらえてうれしい。ウィンウィンだ」
女騎士「……」
商人「あえて言うことでもなんでもないじゃないです」
戦士「いや、つまりよ、俺が仮に騎士とやったとするだろ?」
女騎士「……」
商人「嫌そうな顔しないでください」
戦士「だが、そこで金を払うと言っても嬉しくないだろ、気持ちよくても」
女騎士「……。それで?」
戦士「だが、商売をしている娘なら、厚めに渡されたら嬉しいだろう」
戦士「つまり、俺が気持ちよくても、対価がなければお互い楽しくないだろう」
戦士「俺は嫌がる娘とセックスはしない主義だからな」
女騎士「あああああああああああああああ!!!!」
戦士「なんだよ」
女騎士「散々! 散々じっくり聞いたのに、アホな話しかしてないじゃないかっ!」
商人「騎士様落ち着いて」
女騎士「落ち着いていられるかー!」
戦士「待て」
女騎士「まだあるのか!」
戦士「俺が騎士を買ってるのは、剣の腕だぞ」
女騎士「そ、そうか」
戦士「あと巨乳」
――酒場。
戦士「思いっきり剣で突いてきやがったぞ」
店主「大丈夫かい、あんた」
戦士「ああ。ちょっと傷は出来ちゃったけど、酒と女の子はいる?」
店主「……いや、表で大騒ぎしてたが、控えた方がいいんじゃないか?」
戦士「やれやれ。客の注文も受けねーのか」
店主「代金をトラブルの種で支払われても困るさ」
戦士「仕方ないな、水でももらおう」
店主「はいよ」
戦士「あー、ありがたい」
店主「旅の戦士とお見受けするがね」
戦士「勇者さ」
店主「ふーん、そうは見えないが」
戦士「本当さ、認定証もある……今はないな」
店主「はっはっは、証明書をぶら下げている勇者なんて、聞いたことがないね」
戦士「そりゃそうだよ。だから持ってないと間違っちゃうだろ?」
店主「ふっ」
戦士「……ゴクゴク」
店主「どこを旅してきたんだい?」
戦士「そりゃあ、世界中だ」
店主「へえ」
戦士「ドラゴンも倒したし、悪の大魔法使いも倒したことがあるぜ」
店主「それはそれは」
戦士「なー、だからよー、ちょっと酒をまけてくれよー」
店主「何を言っているんだね」
戦士「温泉の魔物ってどんなやつだい?」
店主「恐ろしく武闘派な、虎の魔物だそうだ」
戦士「ほう」
店主「だが、大丈夫さ、ここの兵隊たちは強い」
戦士「へええ」
店主「あんたも女子どもと旅してドラゴンを倒したくらいだ」
店主「よほど腕前に自信があるんだろうが」
戦士「いやあ、ドラゴンを倒した時は別のメンバーだったよ」
店主「そうなのかい?」
店主「それじゃあ、でも、どうして?」
戦士「うーん、ドラゴンよりも強いのと戦ったからなあ」
店主「それで次は女子どもとかい」
戦士「まあ、あいつらもいいところがあるんだよ」
戦士「ただ、ほら、ちょっと最近やる気を出して、逆に困ってるわ」
店主「ははあ……」
女騎士「ここかっ!?」バン!
戦士「お、来たか」
女騎士「お前、この……!」ツカツカ
店主「ここで騒ぎはご法度だよ」
女騎士「む、うむ。失礼した」
戦士「マスター、それじゃあ、もう一人来るから料理を振る舞っちゃってちょうだい」
女騎士「ゆ、勇者殿!」
女騎士「さすがの私も怒り心頭なのだぞ!」
商人「ここですかぁ!」ギギィ
店主「ご飯ものでいいかい?」
戦士「よろしく」
商人「はぁ、はぁ、そうですね」
戦士「よーし、温泉に入る前に、食べるか!」
商人「女の子も食べる気ですね」ハァハァ
戦士「女の子も一丁!」
女騎士「勇者殿!」
――
「うわあああああああ!!」
「退避しろ! 退避ー!」
戦士「……」
女騎士「……」
虎『ぐははははっ!! この程度か人間よ!』
「ちくしょう! 助けてくれっ」ぶぎゅっ
「死にたくねぇ! 死にたくねぇ!」
虎『くっくっく、他愛のない連中だ』
虎『歯ごたえがなくてつまらん』
商人「……やられてますね」
戦士「そうだな」
商人「ど、どうするんですか?」
戦士「温泉入りにきただけって言ったら入れさせてもらえるんじゃねぇか?」
商人「そんなわけないでしょ」
女騎士「勇者殿! ここはひとつ、助太刀を!」
戦士「えー?」
商人「そうですよ! ボクらの力を見せてやりましょう!」
戦士「主に俺だろ?」
商人「そうですよ!」
戦士「んー」
女騎士「いや、まずいぞ。もう全滅してしまう!」
虎『がっはっは! よし、お前ら、後は好きなように嬲り殺せ』
魔物『ふしゃー!』
虎『よしよし、いっぱい暴れろよ~』
女騎士「勇者殿!」
戦士「パス」
女騎士「な、なぜ?」
戦士「あいつ強いから」
商人「え?」
女騎士「何を言うのだ、黙って見ているつもりか!」
戦士「ちゃんと作戦練らないとダメだと思うぜ?」
「助けてー! お母さん!」
女騎士「くっ……! もう見ておれん!」ダッ
商人「あっ、騎士様!」
戦士「あーあーあー」
商人「ゆ、勇者さん」
戦士「爆発物用意しておけ、煙幕を張るのがまだマシな手だな」
商人「あの……そんなに強いんですか?」
商人「ちょっと大きいですけど、鳥やら蛇やらよりは小さいですし」
戦士「逆なんだよな。速くて強いと、罠を仕掛けても引っかからない」
戦士「強引に突破される」
商人「はあ」
戦士「……まずいな」
商人「あ、あの、でも騎士様頑張ってますよ」
戦士「そうなんだよな~」
戦士「……よし。ま、行くか」
戦士「ちょっとこそこそしながら裏に回って用意しとけ」
商人「はい!」
戦士「んー、あ、ちょっと待て」
商人「はい?」
戦士「我慢できたな、よしよし」なでなで
商人「は?」
戦士「行くぞ」ザッ
――
女騎士「しっかりしろ! 生きて帰るのだ!」
兵士「あ、あなたは?」
女騎士「私は勇者の一行の騎士だ!」
女騎士「助太刀いたす!」
兵士「うぐっ、すまない!」
魔物『ふしゃー!』
女騎士「ふんっ!」 ズバッ
魔物『ぎにゃー!!』
兵士「つ、強い」
女騎士「しかし、この数では相手に仕切れない」
女騎士「中央を突破するぞ!」
女騎士「歩けるものは先頭、楯が残っているものは後方を!」
女騎士「ほか、けが人を抱えて走るのだ!」
兵士「お、おう!」
虎『あ~ん? 何を手こずっている』
女騎士「……くっ!」
虎『ほう、新手か』
虎『いいね、こういうサプライズがないと面白くない』
女騎士「貴様……!」
虎『女か、まあ、力の差は比べるべくもないだろうが』
女騎士「私を狙うというのなら、他のものには手を出すな!」
バキッ!!
痛恨の一撃! 女騎士が吹き飛んだ!!
女騎士「ぐはあっ!」
虎『なんだ、何か話すことでもあったのか?』
虎『俺は最初から強そうなやつを狙って闘いを挑んでいるだけだ』
女騎士「くっ!」チャキ
虎『おー、立った立った』
女騎士(くっ、勇者殿、せめて兵士たちを導いてくれればいいが!)
虎『正拳突きと回し蹴り、どっちの方がいいかな~』
女騎士「……こ、来いっ!」
戦士「俺は正常位か側位で言えば後背位がいいと思うな~」
女騎士「ゆ、勇者殿!」
虎『なんだ、お前は』
女騎士「ふ、不意をつけそうならついてしまえば良かったのに!」
戦士「まあまあ」
戦士「どうも、勇者です」
虎『……勇者?』
戦士「そうだ。よろしく」
虎『はっはっは! 勇者ってやつは何人いるんだ?』
虎『そう名乗るやつらなら、俺は何人も殺してしまったよ』
戦士「ほう。そりゃ、偽物だ」
虎『言うじゃねぇか』
戦士「何故かと言うとだな、真に精霊の加護を受けた勇者は死なないのだ」
戦士「必ず蘇る」
虎『ふーん』
虎(なんだこいつ、妙に隙がないな)
虎『それで? お前は勇者だから、死なないってのか?』
戦士「違う違う。交渉に来たのさ」
虎『交渉だと?』
戦士「俺、疲れてる。温泉入りたい」
戦士「お前、強いやつと戦いたい」
虎『……』
戦士「オーケー?」
虎『知るかボケ』ビュッ
戦士「おっと、やめろ」さっ
虎『それがなんだって言うんだ』
戦士「つまり、俺が温泉を経営していれば、湯治に強い冒険者が訪れる」
戦士「お前はそいつと闘う、ウィンウィンだ」
虎『何も勝ってねぇよ』
虎『大体、俺は強い奴とは戦いたいが、別にそいつが万全じゃなくてもいい』
虎『闘いとはそういうのものだ』
戦士「よく知ってるぜ」
虎『だったらお前が今すぐ俺を打ち負かせ』
虎『力ずくで俺を黙らせれば、お前だけが勝利者だ』
戦士「ノー、今の俺ではお前には敵わないだろう」
虎『ふんっ!』
大虎は正拳突きを繰り出した!
戦士「おっとアブねぇ」
虎『けっ、ちょこまかと』
戦士「これでも昔はダンサーだったんだ」
虎『は?』
戦士「遊び人の修行の一環でな。客からのおさわりを躱す訓練を」
女騎士「やああああああっ!!」ズバッ
虎はひらりとかわすと、女騎士を力任せに殴りつけた!
女騎士「ぐああああああっ!!」
虎『ちっ、うっとうしいぞ』
虎『けっ、そうだ。お前』ふみっ
戦士「ん?」
虎『こいつを人質にする代わりに、お前が殴られろ』
女騎士「ゆ、勇者殿……」
虎『ちょこまか逃げまわる相手は腹立たしいからな』
戦士「よかろう」
女騎士「!?」
虎『よーし、こういう時は人質に限るな』
虎『こないだ殺した連中も、人質に取るとすぐに動きが鈍った』
虎『バカな連中だぜ』
女騎士「や、やめろ……!」
虎『うるせーなー。不意打ちで失敗した時点で、もうお前の力量は底をついたんだよ!』
女騎士「くっ、殺すなら私を先に殺せ!」
虎『……』ぐりぐり
女騎士「ぐあああ!」
戦士「いいから早くしろよ」
虎『……あ、そうだ。なんなら、俺以外のやつに殺させればいいんだな』
戦士「じゃあ先手を打って近づいてやろう」スタスタ
虎『おい待て、近づくな』
戦士「ほら、早く人質を解放しろよ」
戦士「それとも、自分から持ちだした条件も守れないのか? ん?」
虎『ちっ!』ケリっ
女騎士「あうっ」
虎は戦士を思わず鷲掴みにした!
虎『てめぇ、その、不敵な顔、どこかで見たことがあるぜ』ぎゅううう
戦士「ひ、人違いだな」
虎『雑魚のくせに、なぜ堂々としている!?』
戦士「下半身は……今日は堂々としていない……」
虎『あ?』
戦士「温泉が、混浴だから、やる気出して……」
虎『何言ってんだ??』
ドォォォン!!!
――その時、後ろから火柱があがった!!
虎『何!?』
商人「さあ、みなさ、げっほげーっほ!」
商人「今のうちに逃げて、逃げまくって! うえぇっほ!」
商人「喉、入った!」
兵士「うおおおおお、逃げるぞおおおおおお!!!」
「カーチャン! 待ってて!」「ちくしょー! 漏れてるよ、俺!!」
虎『……ちっ、もう一人いたのか!』
虎『おい、お前らぁ!! うろたえるな!!』
戦士「そのとおりだな」パチン
虎『!?』
戦士「うろたえるな。ただ、呪いの効果で痺れて気絶するだけだ」
虎『こ、の、腕輪ああああああああ!!!』
戦士「よし、騎士!」
女騎士「ああ!」
虎『く……』
女騎士「我が剣技を喰らえ!」
戦士(あ……技名とか言うのかな?)
女騎士「はああああああ!!!」
虎『ぐわあああああああ!!!』
戦士「良かった」
女騎士「裁きの雷光(ジャッジメント・スパーク)!!」
戦士「あちゃー」
虎『……く、そ』バンバン
女騎士「い、生きている!」
戦士「今のうちに畳み掛けろ」
虎『ふんっ!』ブチィッ
女騎士「!?」
女騎士「こ、こいつ、手首を腕輪ごと引きちぎった……」
虎『覚えとけよ!』ササーッ
戦士「あ、まずい」
女騎士「ゆ、勇者殿! 追わなくては!」
戦士「いや、俺もガシッと絞られて動けねぇ」
女騎士「何をしておるのだ!」
戦士「待ってくれ、緊張したわ」ぺたん
女騎士「緊張したって……」
戦士「ふう。嵐のような魔物だ、罠を仕掛けてもあんな調子でぶち破られてしまう」
女騎士「……」
戦士「騎士が横槍を入れなければ、もう少し打つ手もあったんだがな」
女騎士「しかし!」
戦士「あー、わかっている」
戦士「それより、一撃食らってそれだけ動けるなら、兵隊たちを指揮したらどうだ?」
女騎士「む……」
戦士「さ、ほら」
女騎士「分かった。しかし、その……」
戦士「分かっているよ。たまたま今回は相手が悪かっただけだ」
女騎士「うむ。すまない」
女騎士「私もアタマに血がのぼってしまった」
商人「……お二人さぁ~ん」
戦士「おーう! 今いくー」
――温泉。
戦士「あ゛ー。いい気持ちじゃー」
商人「あー、そうですねぇー」
女騎士「……」
戦士「どうしたんだ? 湯酒は嫌か?」
女騎士「違う!」
商人「どうしたんですか?」
女騎士「なぜ一緒に風呂に入らねばならないのだ!」
商人「全員水着じゃないですか」
戦士「怪我しているのに、余計血がのぼるぞ」
女騎士「そういう問題じゃない!」
商人「せっかくただで入れるんだからいいじゃないですか」
戦士「そうだそうだ」
女騎士「くっ、しかしだな」
商人「大体、嫌なら一緒に入らなければいいじゃないですか」
戦士「だよなー」
商人「裸の付き合いがしたかったんですねぇ」
戦士「そういうことだなー」
女騎士「お前たちがわざと怒らせるような真似を!」
戦士「待て」ジーッ
商人「はっ」ジーッ
女騎士「な、なんだ……?」
女騎士(くっ、傷だらけの体が珍しいのか!)
商人「この水着、かなり高価ですね」
戦士「騎士、まさかこないだよりも胸が大きくなっている?」
女騎士「……」
商人「い、いつ買ったんですか? 売れますよ、高値で!」
戦士「すげぇなぁ。鍛えていると、その分乗っかるボリュームも桁違いになるんだなぁ」
女騎士「おい」
商人「あ、いやいや、もちろんボクは安物なわけで」
戦士「悪かった、尻も褒めないとな」
女騎士「ちょっとそこに直れ」
――しばらくして。
商人「きゅう……」
戦士「……まあ、さすがに俺たちのものにはならなかったが、温泉にタダで入れてよかったじゃないか」
女騎士「話をそらすんじゃない!」
戦士「そらしてなどいない」
女騎士「だ、大体、屈強と呼ばれた兵士たちがアレほど苦戦した相手を追い払ったのだぞ!」
戦士「退治できなかったけどな」
女騎士「それだ」
戦士「おう」
女騎士「勇者殿の口ぶりでは、まるでやつの力量を初めから知っているかのようだった」
女騎士「まさか……」
戦士「おう、戦ったことがある」
女騎士「やはり!」
戦士「当時、俺は駆け出しの芸人で……」
女騎士「そういう嘘はいい」
戦士(本当なんだが……)
戦士「とにかく奴は、力任せなだけではなく、危ういと見ればさっさと逃げ出す戦況眼も持っている」
戦士「下手に追い詰めても倒しきれず、力不足な相手は、本気を出させる前に踏みつけてしまう」
女騎士「なるほど、宿敵、というわけか」
戦士「だが、やつには決定的な弱点がある」
女騎士「な、なんだ、それは」
戦士「セックスに興味がないことだな」
女騎士「……」
戦士「いやな、性に興味が薄いから、執着心も薄いんだ」
戦士「だから、ビビってすぐ逃げちゃう」
女騎士「あ、ああ。そういう」
戦士「全力でかかってこられたらこちらも勝てるか分からんのになぁ」
女騎士「そこまで分かっているなら、一度成敗してしまえばいいだろう」
戦士「簡単に言うぜ」
女騎士「で、どうする」
戦士「なにがだ?」
女騎士「アレほどの魔物、放置しておくわけにもいくまい」
戦士「執着心の強いやつだな」
女騎士「それほどでもない」
戦士(性欲も強いのかな?)
女騎士「とにかく、いっそのこと、やつらの根城に乗り込んで……」
戦士「全滅するのか?」
女騎士「叩き伏せるにきまっているだろう」
戦士「あーダメダメ。そういう猪突猛進がダメなんだよ」
女騎士「なんだと」
戦士「実際、突撃して全滅しかけただろう」
戦士「人間、逃げ腰が大事なんだよ」
女騎士「そ、それでも勇者か!」
戦士「商人を見習えよ。お前が飛び出しても、我慢して俺と作戦を相談してたぞ」
女騎士「ぬぐ」
商人「……なんか今褒められた気がする」ザバァ
戦士「おー、褒めたぞ」なでなで
商人「へへへ」
戦士「行き当たりばったりのアホから、ちょっと我慢して空気が読めるように……」
商人「ほ、褒めてない!」
女騎士「はい」
戦士「どうした」
女騎士「行き当たりばったりはお主も大概」
戦士「大丈夫だ」
商人「……本当ですか?」
戦士「そら何も考えずに乗っかるわけないだろ」
商人「え? マジのマジで?」
戦士「しかし、アレだな。勇者は死んだと思われているようだな」
女騎士「そうだ、これだけ退治してきた勇者がいるのだ」
女騎士「いっそ、希望の光、ここにあり、と宣伝したらよいではないか」
商人「……目立ち過ぎるとヤバイんじゃないですかね」
戦士「そうだな」
女騎士「あの、私が指揮した部隊も、すっかりお主に惚れ込んでいたぞ」
戦士「同性愛?」
女騎士「違う!」
商人「ボクは騎士様の巨乳に惚れ込んだんだと思います」
戦士「異議なし」
女騎士「お前たち!」
――
商人「良かったんですか?」
女騎士「何がだ」
商人「せっかく騎士様、騎士団を再結成できるチャンスだったのに」
女騎士「ふん、私は勇者殿に貰われた身」
女騎士「いくら兵士たちに請われたとしても、外国に留まるわけにも行かぬ」
戦士「視線がギラついてたなぁ、兵士たち」
商人「女性の、しかも強い団長とかご飯何杯もイケますもんね」
女騎士「な、何を言う」
戦士「副団長が、『よし、団長にご奉仕して差し上げろ』」
商人「ああ、ありそうですね」
女騎士「アホか!」
商人「で、この洞窟を越えると、魔王城にぐっと近づくわけですか……」
戦士「そうだな」
商人「くう~」
戦士「どうした?」
商人「ボク、本当は偽勇者で荒稼ぎするつもりだったのに、すっかり普通の冒険者に……」
戦士「なってるか?」
商人「……お酒を売って、騎士様の持ち物を売って、あとは温泉にタダで入りましたね」
商人「冒険者じゃなくて、観光客なのでは」
戦士「はっはっは、物見遊山で魔王城に行くのもいいな」
商人「よかないですよ!」
女騎士「む、崩落だ」
商人「うわ……」
戦士「なるほどな、これで通れなくなっていたわけか」
商人「これに魔物もいるんじゃあねぇ」
戦士「よし、商人」
商人「掘りませんよ」
戦士「こないだ掘ったろ」
商人「そ、それはその、魂を慰めるためだから……」
………うう
女騎士「なんだかうめき声が聞こえるが」
戦士「魂」
商人「ひいい! 成仏成仏成仏!」
女騎士「いや、これは、本当に人の声なのでは!」ダッ
戦士「ちょっと待て」
女騎士「な、なんだ」
戦士「この崩落、昨日や今日のものじゃないだろ」
女騎士「ど、どういう意味だ」
戦士「いや、マジで魂なんじゃないかな~って」
商人「」ガタガタ
女騎士「不吉なことを……」
戦士「魔物かもしれないが」
女騎士「いずれにせよ、助けを求めている人を放ってはおけぬ!」ダッ
戦士「なぜ反省しないのか」
商人「ゆ、勇者さん」
戦士「ああ、とりあえず悪霊退散用に聖水を用意しておけ」
商人「ま、マジでヤルんですか」
戦士「そりゃあ、悪霊タイプの魔物を相手にすることもあるだろう」
商人「ま、魔物なら、大丈夫ですよね? ね?」
戦士「大概、こういう魔物に物理攻撃は効かないから、魔法で倒すんだ」
商人「……」
商人「全然ダメじゃないですか!」
戦士「そうか?」
女騎士「……おーい! 人だ! 本当に人がいたぞ!」
戦士「人だってよ」
商人「絶対罠ですよ!」
女騎士「手を貸してくれ!」
戦士「おっ、本当だ」
商人「ほっ」
女騎士「何を見ているのだ、早く!」
戦士「うむ、カワイイ、いや、イケメン、かな?」
商人「あ、勇者さんの股間が反応している!」
戦士「よせよ」ハハハ
商人「えへへ」
女騎士「いいかげんにしろ」
?「も、もう、体力が……」
戦士「しょうがないな」
?「ありがとう、助かった」
女騎士「いや、お互い様だ」
商人「なんかいい人みたいですね」
戦士「そうだな」
女騎士「ところで、お主は」
?「……」
戦士「……」
商人「どうしたんですか? あ、お忍びの方だったり」
?「いや、信じてもらえないかもしれないが……」
勇者「私は勇者なんだ」
戦士「ほう」
商人「」
戦士「へー、奇遇だな。実は俺も」
商人「ほげええええええええ!! 違うんですよ!」
戦士「何が違うんだよ」
勇者「実は南の国で認められた勇者なんだが……」
女騎士「南の国で」
商人「そーですかそーですね勇者認定証というのがあるはずですよねッ!」
勇者「仲間に裏切られて、認定証は奪われてしまった」
商人「がふっ」
勇者「そして、こんなところで生き埋めさ」
戦士「よく生きていたな」
勇者「我ながら呆れるよ。食料が手元に残っていたとはいえ……数ヶ月か?」
女騎士「確か勇者殿も認定証とやらを……」
勇者「うん?」
戦士「はっはっは」
商人「いやその騎士様これは違うんですよ決して偽物だとかそういうことではなく裏切ったとかそういうことでもなく!」
戦士「落ち着け」ポカリ
商人「はうっ」
戦士「よし、勇者君」
勇者「ああ。どうした?」
戦士「ちょっとこっち来てくれ」
戦士「……これ」ピラッ
勇者「あっ、これ」
戦士「どうだ、参ったか」
勇者「参らないよ……どういうことなんだ?」
勇者「まさか裏切った連中が転職して、戦士になったとかそういうことじゃないよな」
戦士「そんなわけねーだろ」
勇者「だよな。生き埋めにしたやつを助け出すはずもなし」
戦士「そういうこと。ちょっとした茶目っ気だ」
勇者「茶目っ気ねぇ」
戦士「それで本題だ」
勇者「なに?」
戦士「ああ。お前は裏切られて勇者と名乗りづらいだろう」
勇者「そうだな」
戦士「そして俺達は勇者の名前を利用したい」
勇者「……」
戦士「ウィンウィンだ」
勇者「……うーん、まあ、そうだな」
戦士「よし、じゃあそういう方向でいこう」
勇者「簡単に決めるなぁ。でも、もうお腹空いて頭がまわらないんだ」
勇者「なんでもいいから、もう少し食料がほしいよ」
戦士「よし、商人!」パンパン
商人「……はっ」
戦士「この……『剣士様』に食料を分けてやれ」
戦士「そして女騎士」くるり
女騎士「う、うむ」
戦士「実は俺は勇者じゃなかったんだよ」
女騎士「前にも聞いたぞ」
戦士「俺達は消息を経った勇者の後を追いかけ、探しだす密命を帯びた特使だったのさ!」
女騎士「嘘つけ」
戦士「行く先々で勇者を名乗り、勇者健在のアピールと勇者の捜索を同時に進めていたのだ!」
女騎士「絶対に今考えただろう」
戦士「……これじゃダメだったか?」
女騎士「だあああっ!」
女騎士「そんな取ってつけたようなことを言われて信じるアホがいるか!」
勇者「そうだったのか、君が……」
女騎士「幽霊扱いしていたぞ!?」
女騎士「とにかく! そんな優男よりも、これまで幾度も魔物を撃退してきたお主を信じるにきまっているだろう」
勇者「……やさおとこ」
戦士「優しい男ってことだろうな」
勇者「ちょっと食料足りなくて筋肉落ちてるだけだし……」もぐもぐ
女騎士「……とにかく!」
女騎士「今更、行き倒れを勇者扱いされても困る!」
戦士「だから、剣士ということで」
女騎士「ことで、じゃない!」
商人「……美味しいですか、剣士様」
勇者「あー、うまい。簡易スープとか、こんなの作れるんだ」ズズズッ
勇者「ふー、腹一杯になったら眠くなってきたな」
勇者「すまんが一眠りする。その間に洞窟を掘ってくれればいいだろう」
商人「えっ」
勇者「ぐーすか」
女騎士「ほ、本当に寝てしまったぞ!」
戦士「そら、体力が尽きたらそうなるだろう」
商人「そうかもしれませんけど、この人が裏切られた理由、なんとなく分かる気がします」
戦士「ああ、俺もなんとなく分かる」
女騎士「むう」
戦士「ま、とにかく悩むことはない。騎士はついてきてくれればいいさ」
女騎士「もちろん、それはそうだ。私はお主に貰われた身」
女騎士「だが……」
勇者「すぴー」
勇者「……あっ、そうだ」ぱちり
商人「ど、どうしました?」
勇者「穴を掘るのにいい道具があるのを忘れていたよ」
戦士「ほう」
勇者「ほら、こいつさ。壁を壊す魔法の玉というアイテム」ひょい
商人「壁を壊す……?」
勇者「そう、邪魔な壁をぶっ飛ばしてくれるやつさ」
勇者「こいつを使えば楽に掘れると思うぜ」
女騎士「また崩落させる気かっ!」
商人「っていうか、もしかしてこれを使ったから……」
勇者「大丈夫だって……ほら、壁に仕掛けるだけで……」
商人「ひいいい、なんか光ってますけど!」
戦士「危ない、脱出するぞ!」ダッ
女騎士「ゆ、勇者殿!」
勇者「おお? 眠いから後に……」
女騎士「あああ、お主のことではないっ!」
商人「こんな近くで寝ちゃダメですってば!」ずるずる
戦士「こっちだこっち」
ずどおおおおおおおおんんんんん……――
――街道の村。
商人「疲れましたね」
女騎士「ああ」
戦士「おいおいお前ら、先に行くなよ」
勇者「ぐー」ずるずる
商人「置いて行きたくもなりますよ! こんな迷惑極まりない人!」
女騎士「そうだ! その、剣士殿、自分でやらかしたのに一向に目を覚まさなかったではないか!」
戦士「よく考えてもみろ。先走って何かやらかすのはお前らも一緒だろ?」
女騎士「なんだと」
商人(心当たりがある……)
女騎士「こ、こないだの戦闘を根に持っているのか」
戦士「違う違う」
商人「えーっと、どうせいつも迷惑かけられているから気にならないと……」
戦士「そう」
商人「なんかすみません……」
女騎士「ゆ、勇者殿!」
戦士「大体、生き埋めだったやつに、いきなり起きろ働けというのもな」
女騎士「む、そ、それはそうだが……」
商人「その、勇者さんは……」
戦士「どーした」
商人「本気でこの人のことを本物だと思ってます?」ヒソヒソ
戦士「割りと思っているぞ」
戦士「まあ、こいつが本物かどうか、まずゆっくり休んでから事情を聞いたらいいじゃないか」
商人「うーん……」
戦士「ほら、宿屋で休んでいこうぜ」キィ
「さあ、お集まりの方々! こちらにおわすのが、かの魔王討伐を目指す勇者様でございます!」
「ふははは、その通りだ!」
女騎士「!?」
商人「え、え?」
戦士「ほーう」
勇者「ぐー」
僧侶「どうぞ勇者様ご公認の魔除けの御札を受け取りなさい!」
僧侶「そして浄財を捧げるのです!」
偽勇者「うむ! 聖なる力を込めたありがたい御札であるぞ!」
村人A「本当に効くのか~?」
僧侶「信心が足りないと、その効力は薄れるでしょう」
僧侶「しかし、大蛇やドラゴン、そしてその他大怪獣を倒してきた勇者様のご威光を持ってすれば。たとえ不信心者でもある程度の力は得られます!」
村人B「き、聞いたことがあるぞ! こないだも雪国で温泉街を荒らす魔物を追い払ったとか……」
偽勇者「ふははは、もちろん、俺のおかげだ!」
村人A「はあ~、すごい人なんだな」
僧侶「そう! そして、次なる魔物を防ぐために、この御札がいるのです!」
「おお~」「すごそうだな」
女騎士「あ、あの連中……何を言っているのだ!」
商人「しまったー!」
女騎士「どうした、商人殿!」
商人「御札売るって手は考えてなかった……」
女騎士「おい」
戦士「まあ、僧侶っていう面子がいなかったからな」
商人「考えてみれば脳筋ばっかりじゃないですか!」
商人「うわあ、宗教心をくすぐって売るって作戦があったのに」
戦士「典型的な心霊商法だなあ」
女騎士「し、心霊……?」
戦士「詐欺商売だ」
女騎士「犯罪ではないか!」
商人「詐欺じゃないです。商売です」
女騎士「何をバカな!」
戦士「うーん、でも、あれ、多分本当にわずかでも効くと思うぜ」
戦士「僧侶は清める仕事が得意だからな」
村人B「よし、買うぞ!」
僧侶「はいはい、浄財を捧げるのですよ。はい、大金なら、二つ三つつけますよ!」
偽勇者「はっはっは! 遠慮するなよ」
女騎士「勇者殿!」
戦士「ん?」
女騎士「あのような悪行放っておいてよいのか!」
戦士「別にいーじゃん、害があるわけでなし」
女騎士「風評被害が!」
商人「それに、認定証ならありますよ」さっ
戦士「うーん、しかしな。ほれ、今背中にお疲れ野郎が一匹いるから」
勇者「すぴふー」
女騎士「それこそ、彼の方が偽物かもしれないではないか!」
戦士「いやそういうことではなくてだな」
商人「まあ、休ませた方がいいとは思いますけど」
戦士「そうそう」
女騎士「しかし!」
商人「僕らがゲットできるはずのお金を放置するのは悔しいですよ」
戦士「ゲットはできないだろ?」
女騎士「勇者殿!」
戦士「はっはっは」
「勇者……?」「おい、今、勇者って言ったぞ」
女騎士「ああ。ここにいる方こそ、真の勇者なのだ」
戦士「おいおい」
偽勇者「ああん?」
僧侶「に、偽物です! そいつらは偽物なんです!」
偽勇者「そうだ。俺がしばらく怪我をして動けない時期に、偽勇者が現れたってな」
偽勇者「そいつらはその偽勇者に違いないぜ!」
商人「うっ」
戦士「おお、よく知っているな」
女騎士「戯言を!」
商人「で、ですけど、こっちには南の国で正式に発行された認定証があります!」ひらひら
偽勇者「その紙っきれは奪われたんだよ」
偽勇者「むしろ、そんなものを見せびらかしているやつの方が怪しいぜ!」
商人「うわっ、言われた」
「どういうことだ」「どっちが本物なんだ」ざわざわ
僧侶「私達の方が本物に決まっています!」
女騎士「勝手なことを!」
偽勇者「へっ、見てみろ、この剣の傷を」
偽勇者「切り傷どころか、土で薄汚れている連中が魔物と戦ってきたわけねーだろ」
戦士「お、よく見ているな」
商人「確かに、剣の腕は騎士様くらいですもんね、一線級は」
女騎士「……だったら試してみるか!」
偽勇者「おいおい、こんなところでやりあうつもりかよ」
僧侶「暴力的な……最低な人たちです!」
女騎士「ぬぐぐ……!」
戦士「それより、宿屋の女将さん」
宿屋「はいはい」
戦士「こいつ、疲れてるからとりあえず寝かせてもらっていいかな?」
勇者「ぐーすかー」
宿屋「あいよ」
戦士「勇者料金で頼むぜ」
宿屋「うちにはないよ」
女騎士「勇者殿!」
戦士「なんだよ」
勇者「ふわい?」
女騎士「この、こいつらにナントカ言わないのかっ!」
戦士「人間同士で争っていて、魔王が倒せるのかね?」
女騎士「くっ」
僧侶「女将さん、こんな失礼な人達、叩きだしてやってください!」
宿屋「もうお金もらってるし……」
戦士「だよねー」
偽勇者「まあ、僧侶、そして村の皆さん。まずは彼ら偽物を許してやってくださいよ」
偽勇者「彼らもいい思いをして、いい気になってきたんだろうが」
女騎士「ギリギリ」
商人「大丈夫ですか……?」
偽勇者「けが人もいる集団をそう邪険に扱うこともない」
偽勇者「また勇者だなんだと言い出したら叩きだしてやればいい」
村人A「その通りだ!」
戦士「まあ、放っておけよ」
戦士「じゃ、女将さん。二階借りるぜ~」トントン
宿屋「はいはい」
偽勇者「よーし、それじゃあ、俺のファンにはサインしてやるぜ!」
僧侶「はい、ありがたい勇者様のサインですよ!」
女騎士「ぐぬぬ」
商人「もう放っておきましょうよ。っていうか、放って置かれているのはこっちですけど」
女騎士「勇者殿は何を考えているのだ」
女騎士「いつもならしきりに勇者を名乗っていたのに……」
商人「儲からないからじゃないですかね」
――しばらくして。
勇者「ん」ぱちり
戦士「よう、目が覚めたか」
勇者「腹減ったな」ぐー
戦士「飯でも食うか?」
勇者「お、いいね!」
戦士「だが、その前に質問がある」
勇者「なんだ?」
戦士「あんた、どんなやつと旅をしていた?」
勇者「あ?」
勇者「んー、そうだな。魔法使いと、武闘家と……」
勇者「まあ、それなりに気のいい連中だったよ」
戦士「あんたをおいて行ったのに?」
勇者「そうなんだよな。なんでだろ」
戦士「まっ、愛想が尽きたんじゃねぇか」
勇者「そうかなぁ」ぐー
戦士「ずいぶんと腹ペコだな」
勇者「まあな! 丈夫さがウリの俺でもさすがに堪えたわ」
戦士「もう一つ質問がある」
勇者「おお、いいぞ」
戦士「自分がいつ勇者だと気づいた?」
勇者「妙なことを聞くな。そりゃもう、十六の誕生日よ」
勇者「母さんに言われて、お前は勇者だって」
戦士「なるほど」
戦士「……うん。間違いなさそうだ」
勇者「あー?」
戦士「なんでもねぇ。じゃあ、ちょっくら下で飯食うか」
戦士「はっはっは、女と酒もおごってやるぞ」
勇者「マジで?」
戦士「もちろんだ、もちろん」
勇者「おお、気前がいいな!」
勇者(待てよ、こいつ、なんだか会った時からやけに親切だな……)
勇者(も、もしかして俺の身体を狙って!?)
勇者「おい、一応言っておくぞ」
戦士「なんだよ」
勇者「俺にそっちの趣味はない!」
戦士「そっち……?」
戦士(酒と女が嫌いってことかな?)
戦士「いや、嫌なら別に俺だけ楽しむが」
勇者「一人で楽しめるのか!?」
戦士「別に一人で注文したっていいだろう」
勇者「注文……!?」
商人「あのう、イチャついているところ悪いんですけど」
戦士「おう、どうした?」
商人「ええと、お食事の用意ならもう頼みましたよ」
商人「さすがに、あの、ニセモノのせいで、勇者価格とは行きませんでしたが」
勇者「勇者価格?」
商人「知りませんか? 勇者だし、魔王討伐で頑張ってるから食事代を安くしてくれと――」
勇者「はあ?」
商人「あっ……」
戦士「まじめにお金払ってたっぽいな」
勇者「おい、マジでなんなんだよ」
商人「うーん、この人かなりの大食漢っぽいですよね」ヒソヒソ
戦士「そうだな」
商人「もしかして、毎回大量に食べてるせいで、仲間からウザがられていたのでは……」
戦士「なるほど」
商人「く、空気を読まずに居眠りしますし……」
戦士「確かに」
商人「ボクなら即行で同行お断りですよ!」
勇者「おい、聞こえてるぞ」
商人「あ、け、剣士様のことじゃないですよ」
酒場。
勇者「ほう、このちっこいのが商人か」モグモグ
商人「は、はい!」
戦士「戦闘ではあまり役に立たないんだ」
商人「もっと褒めてくださいよ! 罵倒してないで!」
勇者「なんか得意技とかないのか?」ゴキュゴキュ
戦士「ないな」
商人「ひどい!」
戦士「じゃあ、何かあるのか?」
商人「ど、道具を買うのが得意です……」
勇者「……」パクパク
商人「何か言ってください」
戦士「実は偽勇者をやろうって言い出したのはこいつなんだ」ハハハ
商人「ちょっ」
勇者「へー、すごいじゃん」
商人「シーですよ! シー!」
戦士「だってここじゃ俺達が偽物扱いだろ?」
勇者「ああ。たしかにな」パリパリ
勇者「ごくん。じゃあ、認定証とかも誰からもらった?」
商人「……ま、魔法使いのお姉さんから買いました」
勇者「かーっ、マジかよ。あいつ容赦ないな」
商人「有り金全部、振り落とされました……」
戦士「お前本当に商人向いてなさそうだな」
勇者「おばちゃん、ご飯おかわり!」
宿屋「はいはい。よく食うわね、あんた」
勇者「うへへ、食いっぷりだけは一人前と褒められたもんさ!」
商人「褒められてませんよ」
戦士「他はどうだったんだ?」
勇者「食欲だけで戦っていると」
商人「褒められてませんよ!?」
戦士「なるほど、食欲と睡眠欲の剣士か」
商人「性欲と酒欲にまみれた人もいますよね……」
戦士「金銭欲もな」
勇者「おっ、欲望をコンプリートか?」
勇者「ふー、ひとまず落ち着いたぜ」
商人「なんか丼で8皿くらいぺろりしませんでした!?」
戦士「食後に一杯やるか?」
勇者「いや、寝る。と言いたいところだが」
女騎士「おい、お前たち!」バタン!
勇者「ほら来た」
戦士「よく飛び込んでくるな」
女騎士「何を言っているのだ! それどころではない!」
女騎士「魔物が攻めてきたぞ!」
宿屋「ほ、本当かい?」
女騎士「ああ、ほら、早く避難を!」
勇者「あのユウシャサマに任せればいーじゃん?」
女騎士「そうだ、女将さん、あの連中は……!」
宿屋「や、夜分に出かけていったよ」
女騎士「なんだと!」
戦士「まあ、落ち着けよ」
女騎士「落ち着いていられるか!」
商人「あ! 魔物除けを売りまくっていたじゃないですか」
商人「アレを使えば」
女騎士「それを村に貼り付けて突破されているから、呼びに来たんだ!」
勇者「あちゃー……全然ダメじゃねーか」
戦士「まっ、ろくに信仰心の篤くない神職が作った魔除けなんてそんなもんだ」
戦士「とりあえず飲んでいよう、な?」
女騎士「飲んでる場合かっ!」
戦士「うるせーな。じゃあ、どんな魔物なのか確認してきてくれよ」
女騎士「頼むぞっ! 勇者殿!」バッ
商人「元気ですねぇ」
戦士「溜まってんだろ」
勇者「何? あの人エロいの?」
戦士「ニセ勇者に出会って何も出来ずにやり込められたからカッカきてるのさ」
宿屋「あ、あんたたち、勇者なのかい? 本物の?」
勇者「ああ! ……えーっと、こっちが」
商人「ボクじゃないですよ! こっちの人です!」
戦士「はっはっは」
宿屋「なんでもいいよ、助けておくれ」
戦士「うまい酒を頼むよ」
勇者「よっしゃ、腹ごなしに魔物でも退治すっか」
戦士「おい商人」
商人「な、なんですか」
戦士「これで勇者の真の力が見れるかもしれんぞ」
商人「なるほど!」
勇者「それじゃ、剣、剣……あれ?」
勇者「おい、俺の剣は?」
商人「……」
商人「洞窟に、埋まっているんじゃないですかね」
勇者「おいおい。え?」
戦士「はっはっは、こりゃ剣士でもないな。ただの無職だ」
勇者「おい、やめろよ」
勇者「しようがない。お前、なんか武器になりそうなものはあるか?」
戦士「弓矢ならあるぜ。毒矢を打ち込むための」
勇者「弓か。まあいいだろう」
商人「扱えるんですか!?」
勇者「ふっ、これでも野宿の時はウサギやスライムを捕って食ったもんだぜ」
商人「ゲロゲロ」
戦士「スライム食べて飢えをしのぐとか、やっぱり仲間に逃げられて当然……」
勇者「い、いいだろ、別に」
バン!!
女騎士「猪だぞ! 猪の魔物だ!」
戦士「よし、飛び込まずに戻ってきたな」
戦士「騎士。とりあえずこの酒場兼宿屋まで、魔物を導いてこい」
女騎士「ほ、本気か!?」
宿屋「だ、大丈夫なのかい?」
戦士「大丈夫だ」
勇者「お、なに? 『勇者』サマが仕切るのか」
戦士「ああ、任せてくれよ」
勇者「オッケー、何でも言え」
戦士「よし、商人。とりあえず扉の前に油を撒け」
商人「仕方ないですね」
戦士「猪の魔物で超巨大化する例というのはあまり多くない」
商人「そ、そうなんですか?」パシャパシャ
戦士「そうだ。だから、大抵知能タイプか、突進タイプの中クラスの魔物に落ち着く」
勇者「ほう」
戦士「だが、逆にこの手のタイプは、先日の虎のようにやりにくい」
戦士「端的に言えば、筋肉モリモリの戦士が知能をつけたようなものだ」
戦士「動きも素早いし、機転もきく」
勇者「弱点ないじゃん」
戦士「ところがだ。知能をつけるとくだらない罠に引っ掛かる」
商人「そうなんですか?」
戦士「ああ。鳥もそうだったろう?」
戦士「つまりだな」
女騎士「つ、連れてきたぞおおおおおおお!!!」ダダダッ
商人「あ、騎士様、危ない」
女騎士「ほっ」つるっ
女騎士は油ですっ転んだ! どんがらがっしゃん!
女騎士「ひぎゃー!」
猪『ぐははははっ!』
猪『見よ、どうやら我を罠にハメるつもりだったらしいな……』
戦士「失敗したようだな」バタン
猪『おい、開けろ!』ドンドン
戦士「分かった分かった」ガチャ
猪『おっ』どてっ つるりっ
戦士「射て」
勇者「おう」 ヒュバッ
猪『』 グサアーッ
戦士「こうなる。扉が入り口だと認識してしまうから、引っ掛かる」
商人「こりゃひどい……」
戦士「女将さん、火を点けてもいいかな?」
宿屋「こ、困るよ!」
猪『き、貴様ら、コケにして』
勇者「なら、滅多射ちだ!」ヒュババッ
猪『』 ブスブスブスッ!!
商人「なんかしゃべりかけてましたよ!」
勇者「こいつ、息があるな」
戦士「背骨をねらえ。転んでいる内に容赦をしないのが勇者流だ」
勇者「なるほど。俺はてっきり相手の動きを見ないといけないのかと思っていたぜ」ヒュバッ
猪『ぐふっ』ビスッ
商人「この人達、淡々としすぎてコワイ」
勇者「さて、息の根を止めたところで、いよいよ肉を捌く時間だな!」
商人「なんかイキイキしてる!」
勇者「肉系の魔物は捌くまでが一流のハンターです」
商人「いつからハンターになったんですか!?」
戦士「お前、立派な猟師になれるぜ」
猟師「やっぱりそう思う?」
宿屋「ほっ……とりあえず、なんとかなったのかね」
戦士「ああ。悪いな、血なまぐさくしてしまって」
宿屋「とんでもない、あんたたちは命の恩人だよ」
宿屋「口先だけの勇者なんかよりよっぽどいい男じゃないか」
猟師「複雑な気分だぜ」
商人「ボクはもっと複雑です……」
戦士「まあ、いいじゃねぇか」
女騎士「……よくないぞ」グスッ
――
商人「猟師さん」
勇者「……」
商人「猟師さん」
勇者「あのな、せめて狩人とかにしてくれよ」
商人「え? だけど、剣は得意じゃないんでしょ?」
勇者「得意ではないというだけで、下手だとは言ってねぇ」
商人「騎士様に挑んで負けたじゃないですか」
勇者「うるせぇー! あいつが女のくせに異様に強いだけだ!」
勇者「大体アレだゾ。あいつの上腕筋やべーぞ!」
商人「ボクのアレくらいありますもんねぇ」
勇者「そっちがオドロキだわ」
商人「アレってアレですよ。太もも」
勇者「ああ、そう」
勇者「どちらにせよ、おっぱいのある白いメスゴリラだ」
商人「とにかく、さすがに剣の腕が大したことない人を剣士様と呼ぶわけには」
勇者「お前って自然に人を傷つけるのな」
商人「そんな滅相もない!」
勇者「……」
商人「勇者さんが体がブレないいい射撃だって褒めてましたけど……」
商人「それだけじゃ心配じゃないですか。破壊力的に」
勇者「任せろ。俺、実は魔法も使えるんだ」
商人「へえ。ホントですか?」
勇者「ああ。まず肉を柔らかくする火の魔法だ」 パチッ メラリ
商人「……」
勇者「そして肉を保存する氷の魔法だ」 カキーン
商人「……」
勇者「最後に肉包丁をしっかり研げる土の魔法だ」 ゾリゾリ
商人「……で、威力のほどは?」
勇者「肉がうまい」
商人「料理人に転職すると良さそうですね」
料理人「ははは、何言ってんだ」
商人「では、本当は鉄の弾を火薬で射出する、北の国の武器があったんですが」
料理人「マジで?」
商人「ここは包丁3点セットをお求めやすい価格でご用意させていただきましたッ!」ジャラッ
料理人「おい! 秘密の武器もよこせよ!」
商人「さらに、不思議な錆びない鉄で作られた鍋もセットで、なんと金一万ぽっきり!」
料理人「お前、俺から金を取る気か」
商人「なんか問題があるんですか」
勇者「あと俺を料理人扱いするな!」
商人「じ、じゃあ……やっぱり、猟師さん?」
猟師「そうそう」
勇者「そうじゃない。そうじゃないぞ、俺」
戦士「……仲が良さそうだな」
女騎士「妬いているのか?」
戦士「うーん、どっちもカワイイからなぁ」
女騎士「頼む、お主の性趣向を知りたくはないから、コレ以上はやめてくれ」
戦士「まあ、おっぱいが一番かな」もにゅ
女騎士「ひっ……!」
戦士「お?」
女騎士「……離せ」
戦士「おう」
女騎士「し、失礼な態度を取るんじゃない」
戦士「我慢したのか?」
女騎士「ふん。いつも前のめりだのなんだのうるさいからな」
戦士「何だ、じゃあ、触り放題か」モニュモニュ
女騎士「」 \バシーン!/
戦士「そう怒るなよ」
女騎士「怒るわああああああ!!」
戦士「俺は相手の嫌がることはしない主義だ」
女騎士「そ、それでは私がセクハラを望んでいるとでもいうつもりかっ」
戦士「違うだろ」
女騎士「はあ……?」
戦士「セクハラされてビンタを張るまでが騎士のやりたいことだろ」
戦士「王宮暮らしでは上司には一撃することも出来なかっただろうからな」
女騎士「ま、まさか、あえてツッコミを入れさせることで、私のストレスを発散させようと……?」
戦士「その通り」
女騎士「よーし、じゃあ、セクハラの必要はないから思う存分張り倒してくれよう」
戦士「ついさっき張ったばかりじゃねぇか」 \ズバシーン!/
女騎士「お主は……! 本当に……!」
戦士「ここまでされる覚えはないんだが」
女騎士「やかましい!」
戦士「で、話ってのはなんだ?」
女騎士「う、うむ」
女騎士「……あの男は本当に勇者なのだな?」
戦士「猟師のことか?」
女騎士「猟師!?」
戦士「ああ、剣士ってほど剣の腕前が強くなかったし」
女騎士「それだ」
女騎士「私は、その、勇者というものは、剣は超一流、魔法も得意で、美形の心優しい正義感だと思っていた」
戦士「ハードル高すぎるぞ」
戦士(さすがに乙女すぎる)
女騎士「うるさい! しかし、だ。お主を見て、考えを改めた」
戦士「ほう」
女騎士「勇者、いや真の強者とは、自らの力量を知り尽くした上で、自分よりも凶悪な魔物に対しても冷静に勇気を持って闘う者なのだと」
戦士「ふーん」
女騎士「お主のことだぞ」
戦士「はいはい」
女騎士「褒めているのに、嬉しくないのか」
戦士「俺が冷静に勇気を持って戦っている男に見えるんか?」
女騎士「そうだ」
戦士「買いかぶりとは言わんが、俺は力量を知り尽くしているわけじゃないぞ」
女騎士「じゃあ、なんだと言うのだ?」
戦士「お前らよりもちょっと知識量が豊富なだけだ」
女騎士「そこが重要なのだ」
戦士「……で、それが何だって?」
女騎士「うむ。あの男も、お主が見込んだ以上、私の知らない何かを秘めているのだろう」
戦士「だから、精霊の加護がだな」
女騎士「私には分からん」
戦士「騎士は数ヶ月生き埋めになっても生き残れるの?」
女騎士「いや……まあ、それはなんとも言えないが」
戦士「壁に尻が挟まってレイプされても」
女騎士「は?」
女騎士「とにかく、まあ、あの男を勇者としよう」
戦士「おう」
女騎士「……このメンバーで魔王を倒せるのか?」
戦士「まあ、普通には無理だな」
女騎士「やはりそうか」
戦士「具体的に言うと、お色気が足りないのがキツい」
女騎士「……」
戦士「こう、騎士もおっぱい揉みやすい鎧を着けているところはポイント高いんだけどな」
戦士「もう少しきわどいギリギリを攻めるビキニアーマー的なやつを」
女騎士「いいかげんにしろ!」 \バッシーン!/
戦士「実際に、魔王の傍には人間のエロ衣装に反応する魔物がいてだな」
女騎士「絶対ウソだろう!」
戦士「嘘だけど」
女騎士「嘘じゃないか!」
戦士「怒るなよ。分かってるって」
女騎士「ほ、本当に分かっているんだろうな?」
戦士「ああ。つまり、修行をしろとかそういうことを言うつもりだろう」
女騎士「その通りだ」
戦士「無駄だぞ」
女騎士「だからっ!」
戦士「いや、冗談じゃなくってな」
戦士「魔王軍と本気でやりあうには条件が悪すぎる」
女騎士「どういうことだ?」
戦士「まず圧倒的に物量の差、兵員の差がある」
女騎士「そ、それは」
戦士「それを賄うには金が必要なんだが、なんだかんだでそれも揃っていない」
女騎士「う、うむ」
戦士「ぶっちゃけ個々の肉体を鍛えても金と物量はひっくり返せない」
女騎士「やってみなければわからないだろう!」
戦士「分かるぞ」
女騎士「しかし!」
戦士「あの手のビッグサイズの魔物が10体以上いるとしよう」
女騎士「う……」
戦士「あいつらアホだし、強いから、一体一体バラバラで襲いかかってきているが」
戦士「さすがに何匹もまとめて倒すというのは少人数では無理だろう」
女騎士「じ、じゃあ、どうすればいいのだ!」
戦士「そらもちろん、騙くらかすのさ」
女騎士「だ、騙くらかす?」
戦士「そ」
女騎士「しかしだな」
戦士「大体、騎士が俺たちの中で一番強いんだぞ」
女騎士「そ、そんなことはない」
戦士「いや、身体能力や腕っ節という意味ではな」
戦士(実際メスゴリラ並だと思います)
女騎士「まあ、いい。何か考えがあるならそれに従おう」
戦士「おう、よろしく」
女騎士「……本当に地獄の特訓とかはいいのか?」
戦士「まあ、旅の途中でやるならいいけど」
女騎士「分かった。絶対だぞ!」
戦士「商人にな」
女騎士「……」くるり
商人「ひっ、こっちを見ましたよ!」
勇者「落ち着け、ただ気配を察知しただけだ」
勇者「なんだ、猥談してんのかと思ったら魔王討伐の話か」
戦士「真面目だよな」
勇者「な」
女騎士「お主らが不まじめ過ぎるのだ!」
商人「大丈夫です。マジでアタマおかしいだけですから」
女騎士「し、商人殿?」
勇者「しかし、魔王討伐ということなら、俺にいい考えがあるぞ」
女騎士「な、なんだ」
勇者「ああ。魔王の闇の結界を破壊する、光のランプというのがあってだな」
商人「すごい、すごい売れそうですね」
戦士「こらこら商人、それは売れないものだぞ。多分」
商人「ボクなら売ってみせますよ! 何しろ勇者認定証まで買いましたからね!」
女騎士「それは勇者一行でない時だったから買えたのでは……」
勇者「立場的に売れない道具だな」
商人「そんな」
戦士「もう少し売れそうなすごい道具とかないのか?」
勇者「うーん……光のビキニ、とか?」
商人「ほう」
女騎士「……」イライラ
戦士「ああ。アレか」
勇者「お、知っているのか?」
戦士「あれはすごいぞ。魔を払う力が、恥辱によって高められる魔法がかかっているのだ」
勇者「らしいねー!」
商人「なんかこう、見てもお得、着てもお得、売ってもお得ですね!」キャッキャ
女騎士「……誰に着せるつもりだ?」
戦士「そういや騎士ってエロ下着を貯めこんでたんだぜ」
勇者「マジー? 猥褻ー」
女騎士「あれはッ! もらったものなの!」
商人「でも一度は着たんですよね」
商人「それで、とにかくそのエログッズはどこにあるんですか?」
勇者「なんでエロ優先なんだよ」
商人「そ、そうでしたね。その金目の物は」
女騎士「商人殿!」
勇者「ああ。妖精の国に隠されているって、魔法使いが言ってた」
勇者「ただ行き方がどうしても分からないからさー」
戦士「ほう」
商人「妖精の国」
女騎士「……聞いたことがあるな」
――
エルフ「こ、これは……」
エルフ「オレンジタルト!」
エルフ「どうやらただの落とし物のようだな……」キョロキョロ
エルフ「いただきま」
戦士「よし、いまだ」
商人「罠作動!」
エルフ「ほぎゃー!!!!」
戦士「拾い食いはやめろってアレほど言ったのになぁ」
エルフ「き、貴様らは!」
勇者「何やってんだアレ」
女騎士「うむ……説明したくない」
エルフ「離せ! 離してください!」
戦士「安心しろ。妖精の国への道を教えてくれれば、解放する」
商人「それだけではありません! 月一のご褒美として、ケーキをホールで買ってきました」
エルフ「ホール……?」
戦士「いつもは何個かにカットしてあるんだ」
戦士「カットする前のまるまる一個ってことだよ」
エルフ「!」
商人「じゃじゃーん」
エルフ「ふぐぅ……! こんなことしたって、喋らないんだからぁ……!」
商人「まず一口」
エルフ「イグゥ!」モグモグ
勇者「何やってんだアレ」
女騎士「うむ……説明したくない」
戦士「しかし、まだ移住してなかったんだな」
エルフ「ふっ、私は腕利きだ。皆が移住して以後も、この辺りの警戒を任されているのよ」モグモグ
商人「へぇー、お強いんですね」
エルフ「まあね。今日とて、このような罠でなければ」モグモグ
戦士「体よく追い出されたんじゃねぇかなぁ」
商人「ああ」
エルフ「そんなことはない」モグモグ
戦士「じゃあ、妖精の国行きを教えてくれるか?」
エルフ「いいだろう、あっ、このもこもこっとしたのも食べたい」
商人「はい。イチゴのムースですね」
エルフ「ふー。それにしてもお前たち、なんだか数が増えたな」
勇者「どうも。勇者です」
戦士「猟師だ」
猟師「そうそう、熊さ退治しに来たんだで」
商人「料理人さんですよね」
料理人「オイラの料理は一級品よォ!」
エルフ「は?」
勇者「……だから初対面のやつには通じねーネタをやらせるなよ」
戦士「やらなきゃいいじゃねぇか」
女騎士「我々の仲間だ」
エルフ「まあ、なんでもいいけれど。こんなにたくさんの人間を近づけるのは嫌だわ」
勇者「だったら、光のランプを持ってきてくれよ」
戦士「ああ。別に無理して国に入るつもりはないしな」
エルフ「お前ら、私を何だと思っているの?」
戦士「ケーキ奴隷かな」
商人「実はアップルパイも用意しておりまして」パカッ
エルフ「んあーっ!」ビクビク
女騎士「バカじゃないのか、こいつ」
エルフ「おい、聞き捨てならない!」ドッキンドッキン
エルフ「それに、光のランプなんて物は私も知らないしな」
勇者「そうなのか? しかし、確かに魔法使いが……」
戦士「じゃあ光のビキニでいいよ」
女騎士「良くない!」
エルフ「光のビキニか……」
女騎士「そっちはあるのか!?」
エルフ「確かにアレは素晴らしい魔力を秘めている」
エルフ「しかし、アレは淫猥というか……伝説の痴女エルフが身につけていたという装備で……」
商人「ますます譲ってもらったほうが(お金に)活用できるじゃないですか!」
女騎士「ええい、それしかないのかお前たちは!」
商人「それ(金)?」
戦士「それ(エロ)?」
勇者「なんでもいいが、持ってきてもらえないなら入れてくれ」
勇者「それがダメなら持ってきてくれ。対価も用意しているんだから悪い話じゃないと思うんだが」
エルフ「だけど、こないだ一人訪問者を入れたばかりだし」
戦士「なに? 人が入ったのか?」
エルフ「ああ。貢物を持ってきたということでね」
女騎士「エルフってバカなのか?」
エルフ「あ?」
商人「まさか、先に取りに来た人がいるんじゃ」
戦士「ああ、ありうるなぁ」
勇者「おい、そりゃ面倒だぞ。どこかに流出したら困る」
戦士「ふむ。エルフ」ずいっ
エルフ「あ、ああ。わかったよ」
エルフ「協力すると約束したしね。その代わり、あまり派手に動いたりしないでほしい」
戦士「よし、頼んだぞ」
商人「うまく行ったらチーズケーキ用意しますよ!」
エルフ「そこまで言うなら案内するしかあるまい!」ニッコニコ
勇者「糖尿病になりそうだな」
女騎士「たまに食べてるからいいんじゃないか……」
続き
戦士「あ? 勇者のふりをしろって?」商人「そうです」【後編】