キョン妹「この中にキョン君以外の人がいたら今すぐあたしの前から消えて。以上」
元スレ
キョン妹「ただの人間には興味ありません」
http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1256395505/
キョン君と一緒にいるときに感じるこの気持ち。
キョン君がハルにゃん達と一緒にいるときに感じるこの気持ち。
くすぐったいような、痛いような、よくわからないこの気持ち。
この気持ちに気がついたのは少し前。
この気持ちが何なのか、自覚したのはつい最近。
きっかけは学校での給食の時間中のおしゃべりだった。
「そういえば、キョンさんは元気?」
あたしが給食のパンにビーフシチューを付けてかぶりついているとミヨキチが聞いてきた。
ミヨキチはパンを小さく千切って口に運んでいる。ミヨキチの食べ方は漫画に出てくる上品なお嬢様みたいだった。
…あたしとは正反対だ。
「ん?キョン君は元気だよ~」
あたしはハムスターみたいに両頬にパンをため込みながら勢いよく牛乳を流し込む。。
「昨日もハルにゃん達とお出かけしたみたい。帰ってきたら『だぁ~、疲れた~~~!!』って言ってすぐ寝ちゃったし…」
「ふふ、キョンさんらしいね」
「キョンって誰?」
ミヨキチとの会話に割って入ってきたのは同じ班のトモちゃんだった。
メガネをかけたおさげのおっとりした女の子で、あたしやミヨキチとも仲がいい。
「外国の人?」
「ううん。妹ちゃんのお兄さんだよ」
ミヨキチが答える。
「え!?でも、妹ちゃんのお兄ちゃんだったら日本人じゃないの?」
あはは、キョン君が外人さんになっちゃった。
少しだけ『ハロー』なんて言ってる金髪のキョン君を想像してみる。
「…ぷっ!あははは」
突然笑い出したあたしに2人が不思議そうな顔を向ける。ごめんごめん、急に笑い出して。
…とりあえず、キョン君に金髪は似合わないや。
混乱しているトモちゃんにミヨキチがキョン君のことを説明する。
「へぇ~、そうなんだ。妹ちゃんってお兄ちゃんがいたんだね」
「うん」
「でも、何で『キョン』なの?」
トモちゃんが不思議そうな顔で聞いてくる。そういえば、なんでだっけ?
おばさんがキョン君にそう言ってたのを聞いて、気に入ったから使ってたんだけど…。
改めて考えると、理由はわからない。
「あぁ、それわね。キョンさんの名前を漢字で書くと…」
「あっ、ホントだ~!おもしろいね~」
ミヨキチがトモちゃんにキョン君のあだ名の由来を説明している。
なるほど。そんな理由だったんだ。確かに、それなら『キョン』君だ。
トモちゃんも納得がいったような表情で頷いてる。
でも、ちょっと待って…
「……ミヨキチ、何でそんなこと知ってるの?」
--- チクッ ---
あれ?なんでだろ。胸の奥が少し痛い…。
「あぁ、前にね。私がキョンさんと一緒に映画を見に行ったことがあったじゃない?あのときにね、聞いたの」
確かにあった。あれはキョン君が高校に入る少し前。
ホラー映画を見たいというミヨキチが、キョン君と一緒に映画を見に行ったのだ。
ふと、キョン君とミヨキチが2人で仲良く映画を観ている光景があたしの頭に浮かぶ。
--- チクッ ---
まただ。さっきと同じ、胸の奥に針で刺されたような痛みが走る。
どうしちゃったんだろう…あたし病気になっちゃったのかな?
「…ちゃん………妹ちゃん!?」
「………えっ!?」
突然、すぐ近くでミヨキチの声が聞こえ、あたしはハッとする。
「大丈夫?急に下を向いてしゃべらなくなっちゃったからビックリしたよ…」
トモちゃんが心配そうに顔を覗き込んでいる。ごめんね、心配しくれてありがとう。
「具合悪いの?保健室行く?」
ミヨキチが不安げに聞いてくる。本気で心配してるみたいだ…。
ありがとうね、ミヨキチ。
「うん、大丈夫だよ」
でも、ごめん。何でかわからないけど…
「あたし、ちょっとトイレ行ってくるね」
今はミヨキチの顔は見たくないんだ。
トイレから戻る頃には、胸の痛みもなくなった。
帰りの会も終わって、あたしは放課後の教室でミヨキチとトモちゃんと一緒におしゃべりをしている。
「へぇ~、妹ちゃんのお兄ちゃんって『えすおーえす団』っていうをやってるんだ」
トモちゃんがキョン君のことをもっと知りたいと行ってきたので、キョン君についてイロイロ教えてあげた。
朝はあたしが起こしに行かないと、いつまででも寝てること。
いっつもダルそうで、何をするんでも面倒くさいって文句ばっかり言うこと。
いつもはあたしのこと邪魔者扱いするのに、あたしが本当に困ってるときはいつだって助けてくれたこと。
あと、高校に入ってからは毎日疲れた~っていう割には、どこか楽しそうな顔をしていること。
「ふふふ、妹ちゃんって本当にキョンさんのこと好きなんだね」
「うん、キョン君は大好きだよー」
「…………そっか。私はひとりっこだから、キョンさんみたいなお兄ちゃんって憧れるな」
ミヨキチがどこか羨ましそうに言った。
「ワタシも羨ましいな~。そういう優しいお兄ちゃんが良かった…」
トモちゃんは机に突っ伏してブツブツ言っている。
話を聞くと、トモちゃんにもお兄ちゃんがいるけど、いつも怒っててすごく怖いんだって。
「でも、キョン君、最近はなんだか冷たいんだ~」
あたしは机の上に座って足をブラブラさせている。
「そうなの?」
と、あたしを見上げながら首を傾げるのはミヨキチ。ミヨキチはキチンとイスに座っていてる。
今度はミヨキチがやけに大人に見える。お姉さんみたいだ。
「うん。最近は学校から帰ってきてもスグに寝ちゃうし、休みの日もハルにゃん達と遊びに行っちゃうんだ」
「…そうなんだ」
「たま~に、あたしも連れてってくれるけど、ほとんどはシャミとお留守番だし」
「……それに、前みたいに一緒に寝てくれないだ」
そんなあたしの呟きをミヨキチ達以外にも聞いていた子がいた。
「えぇ~、妹ちゃんって小6にもなってお兄ちゃんと一緒に寝てるのwwwww」
「えっ!?」
慌てて振り返るあたしの目に飛び込んできたのは、お腹を抱えて笑い転げている同じクラスの田中さんだった。
「マジウケるんですけどwwwwwwwwwww」
この人の名前は『田中樹茶(キティ)』さん。初めて聞いたときは耳を疑ったけど、本名だって。
髪を茶髪に染めていて、いつも化粧をして何とかってブランドの洋服を着て学校に来てる。
先生たちには内緒だけど、実はピアスも開けてるんだって。
あたしは田中さんがちょっと苦手だ。
初めて会ったとき、あたしがかわいい名前だね?って聞くと
「でしょwwww!かわいいっしょwwww!!ウチのママがキティちゃんがちょーーー好きでさぁ!!だからウチに『キティ』ちゃんって名付けたんだってwww」
あたしもキティちゃんは好きだけど…。自分の名前が『キティ』ちゃんだったらヤダなぁ。
そのことをお母さんに言ったら
「そういうお母さんもいるのね」
って、ため息をついてた。
そういえば、この間はこんなことも言ってた。
「ミテミテwwwまた、ピアスあけちゃったwww」
ある日の休み時間に、田中さんが自分で開けたというピアスの穴を見せてくれた。
「耳に穴をあけるって…。い、痛くないの?」
ミヨキチが不安そうに聞く。
「まぁ、初めはちょっと痛いけどね~。慣れればどうってことないし」
「大人はみんなやってるじゃん?ウチも大人だからさwwww」
大人になるには耳に穴を開けなくちゃいけないのかな?それは、痛そうだからあたしはやりたくないなぁ。
「マジ、ウケるwwwwwww」
田中さんは、まだ笑い転げている。教室に残っていた他のみんなも田中さん異常に気がついたらしい。みんながあたしの周りに集まってくる。
…ちょっと、聞かれたくない相手に聞かれちゃったな。
「冗談でしょ?ウチにもお兄ちゃんいるけど、あんなのいつも死ねばいいって思ってるよwwww」
「で、でも、妹ちゃんのお兄さんってすごく優しいんだよ?」
ミヨキチが隣からフォローを入れてくれる。
「いや、お兄ちゃんとかマジありえないからwwwこの歳でお兄ちゃんと一緒に寝るとか普通にキモイしwwwwww」
そう言うと、田中さんはまた笑い出した。
他のみんなもあたしは見て何かヒソヒソ話してる。
「あはは、ヤダな。冗談に決まってるじゃん」
ミヨキチが驚いた顔をしてあたしを見てくる。
自分でも驚いてる。何を言ってるんだろ、あたし。
「ミヨキチ達をからかうのにちょっと言ってみただけだよ!キョン君と一緒に寝るとかないよwww」
そんなことないのに。あたしは田中さんに話を合わせる。
「えっ!?でも、さっきはお兄ちゃんのこと大好きだって…」
トモちゃんが困惑しながら聞いてくる。
「あ~、それも嘘だよ~。ごめんね、騙しちゃって!」
「ですよねwwwなんだよ、やっぱりそうかよwwwww」
田中さんは、またお腹を抱えて笑いだした。
「キョン君なんかウザいだけだしさwww」
違う、そんなことない。ダメ、これ以上は言っちゃダメ……!!
「あたしもキョン君なんて死ねばいいと思ってるよwwww」
--- ズキン! ---
--- ズキン ---
また、あの痛み。いや、それ以上だ。
…胸の奥がすごく痛い。
「ウチもウチもwwww」
「だよねwwww」
--- ズキン ---
…痛い……痛いよ…キョン君。
…キョン君に『死ね』なんて言ったから天罰があたったのかな?
「あはは…は……はは…」
あれ?
「…い、妹ちゃん!?」
ミヨキチがあたしの顔を覗き込む。
「はは…キョン…君なんて……」
………なんで、あたし泣いてるんだろ。
「いけない!目にゴミが入ったみたい!!私、妹ちゃんを保健室に連れていくね」
「ふぇ?」
「擦っちゃダメ!目って傷が付いたら失明しちゃうかもしれないんだよ!!いいから、早く保健室に行くよ」
まるで周りに説明するかのように大声でそう言うと、
突然泣き出したあたしをミヨキチが半ば抱えるようにして教室から連れ出した。
クラスのみんなはそんなミヨキチとあたしをポカーンとしながら見送っている。
「え…えと…ミヨキチ?」
あたしを抱えたまま廊下を早足で歩くミヨキチ
困惑しながらも、あたしはミヨキチに話しかける。
「あの…」
「………バカ」
ミヨキチが呟くように言う。
「み、ミヨキチ!?」
今度はハッキリと…
「バカ!妹ちゃんのバカ!!」
正直、かなり驚いた。ミヨキチがあたしに向かって悪口なんか言ったのは初めてだった。
そして、それ以上に驚いたのが…
「…グス…妹ちゃんの……スン…大バカ……」
いつもしっかりしてて大人びているあのミヨキチが泣いていた。
保健室に着いたあたしたちは中に入ったけど、あいにく…じゃなくて幸いかな?
保健室の先生はいなかった。
「あ…あのね、ミヨキチ」
「………」
あたしたちは空いてるベッドに並んで座る。
それから暫く、ミヨキチは黙ったまま下を向いていた。
「あの…ごねんね?ミヨキチ。あと、ありがと…」
何分くらい経っただろう。沈黙に耐えられなくなったあたしは口を開く。
「………」
ミヨキチはまだ怒ってるみたいだ。
「自分でもよくわからないけど、急に涙が出てきちゃって…」
「………本当に?」
ミヨキチは下を向いたまま言葉を続ける。
「本当に何で泣いたか心当たりはないの?」
「………」
今度はあたしが黙る番だった。
あたしが泣いた理由?
なんでだろう、田中さんに笑われて、それがイヤで、あたしも一緒になってキョン君のことバカにして、それで…
『あたしもキョン君なんて死ねばいいと思ってるよwwww』
--- ズキン ---
まただ。胸の奥のほうがすごく痛い。
「………」
「………」
お互いに押し黙ったまま時間は過ぎる。
「…あたし、そろそろ帰るね」
そう言うと、ミヨキチはこちらを振り返ることなく保健室を出て行ってしまった。
「…ただいま」
結局、あのままミヨキチと会うことはなく。あたしは1人で家まで帰ることにした。
「おっ、おかえり」
階段を上がって2階へ行くと、廊下でキョン君と会った。
キョン君、今日は帰ってくるの早いんだね。
「ああ、今日はハルヒが風邪で休みでな。団活がなかったんだ」
そうなんだ。と返して自分の部屋に入ろうとすると、何やらキョン君が怪訝そうな顔でこっちを見てくる。
「ひょっとして、お前まで風邪ひいたんじゃないだろうな?」
「????」
「それとも、学校で何かあったか?」
「!!!!!」
なんでキョン君はそんなこと分かるんだろう。
「いまのお前の顔見りゃ誰でもわかるっつーの」
はぁ…と、ため息をつきながらキョン君がこっちに近づいてくる。
「キョン君?」
「ほれ」
そう言うと、キョン君はあたしの頭を優しく撫でてくれた。
「どうした、ミヨキチとケンカでもしたか?」
ビクッ!と、体が震える。本当に何でそんなことまでわかるんだろう。
「…図星か。まぁ、お前がそんだけ落ち込む理由なんて、そのぐらいだしな」
「何でケンカしたかは知らないが、さっさと謝って仲直りしろよ」
それだけ言うと、キョン君はまた自分の部屋に戻ってしまった。
「ミヨキチになんて謝ろう」
自分の部屋のベッドの上に横になりながら考える。
「…あたしが泣いた理由か」
幸い今日は金曜日だ。月曜日にミヨキチと顔を会わせるまで考える時間はいっぱいある。
「にゃあ」
あたしが枕に顔を埋めていると、いつの間にかシャミがあたしの顔のすぐ横で座っていた。
いつもだったら、自分からあたしに近づいてくることなんか絶対ないのに…。
「にゃあ」
もう一度鳴くと、シャミはそのまま眠たそうに瞳を閉じ、動かなくなってしまった。
どうやら、添い寝してくれるみたいだ。
「…ありがとう」
シャミにお礼を言うと、あたしも目を閉じる。
今日はもう寝よう。そして、明日また今日のことを考えてみよう。
翌日、あたしは誰かに起こされて目を覚ました。
「ん~~、まだ、寝る」
「なに言ってんだ!早く起きろ!!遅刻する」
「…今日、学校だっけ?」
「まだ寝ぼけてんのか?今日は土曜だから学校は休みだぞ」
いつもと立場が逆転し、なぜか今日はキョン君があたしのことを起こしに来てくれた。
あたし、そんなに寝ちゃってたのかな?
「そんなこといいから、早く起きろ!出かけるんだから!!」
「…うん…う……ん?」
「キョン君出かけるの?」
「あぁ、そうだ」
「どこ行くの?」
「さぁな、おれも知らん」
「…また、ハルにゃんたちと遊びに行くの?」
「そうだな」
「…おやすみなさい」
それを聞いて、あたしはまた布団の中に潜り込む。
「だぁ~、せっかく起きたのに寝るな!」
…だって、どうせまたあたしはお留守番でしょ!
「違う違う!今日はお前も一緒に行くんだよ!!」
寝起きの頭が急激に覚醒していく。
「ホントッ!!」
ゴチン!!
「ぐはぁ!!」
「キョン君、いた~い!!」
あたしが急に体を起こしたので、あたしを強引に布団から引きずりだそうと屈みこんだキョン君の顔面へ
思いっきり頭突きをしてしまった。
「お…お前な、急に起きるなよ」
「だって、いつもは一緒に連れてってくれないから…」
「今日は特別だ」
キョン君は鼻をさすりながら答える。
「なんてったって、団長様のご指名だからな」
自転車の荷台に座り、必死にキョン君にしがみつく。
そうしないと、振り落とされてしまいそうだからだ。
「キョン君早いよ~」
「スマン、もうちょっと我慢してくれ!電車に乗る前に俺の財布の中身が空になってしまったら困るからな」
「今日、電車に乗るの?」
「あぁ」
「でも、さっきはドコ行くか知らないって…」
「…気のせいだ妹よ。ほら、もうすぐ集合場所に着くぞ」
キョン君が駅前の駐輪場の前で急ブレーキをかける。
「よし、なんとか間に合ったな」
汗をシャツの袖で拭いながら自転車の鍵を閉めて改札の方へ歩き出す。
その先には、いつもキョン君と一緒にいるメンバーが揃っていた。
「遅い!キョン、罰金よ!!」
両手を腰に当てて駅の改札の前に仁王立ちしているハルにゃんがキョン君を睨みつける。
「いや、こいつがなかなか起きなくてな…」
「なにアンタ!まさか、妹ちゃんのせいにするつもりじゃないでしょうね!!もし、そんなこと言うつもりなら死刑よ!死刑!!」
「…勘弁してくれ」
キョン君はやれやれといった感じで肩を竦める。
ハルにゃんは今日も元気だな~。
そんな2人を眺めていると…
「妹ちゃん、おはようございます」
みくるちゃんがニッコリしながら抱きしめてくれた。
みくるちゃんの体はフワフワしてやわらくてとっても気持ちいいんだ。
「………」
ふと、後ろから視線を感じる。
「あ、有希ちゃんオハヨー!」
「………」コク
有希ちゃんは小さく頷く。いつも無口で笑ったところなんて見たことないけど、
あたしは知ってるんだ。キョン君とあたしを見る目がすごく優しいって…。
「んふ。妹さん、おはよ…」
「妹ちゃんオハヨーーー!」
ニヤケ顔した男の人が話しかけてきたと思ったらハルにゃんが間に入ってきた。
「相変わらず、妹ちゃんはチンマリしててかわいいわね」
ハルにゃんはあたしの頭を撫でながらニコニコしている。
「今日は呼んでくれてありがとねー」
あたしがお礼を言うと、ハルにゃんはキョン君の方にチラリと目をやった。
「キョン君がどうかしたの?」
「え!?いや、なんでもないのよ」
なぜかハルニャんは慌てて答える。
「うん、妹ちゃんにお礼を言われる筋合いはないわ。だって、今日は私が妹ちゃんと遊びたかったんだもん!」
「そういうわけで、今日は遊園地に行くわよ!!」
「ホント!?」
「えぇ、ホントよ。ちなみに遊園地までの電車代は遅刻した罰として、キョン!アンタが全員分払いなさい!!」
「何ですと!?」
キョン君が一生懸命ハルにゃんに抗議をしたけど、結局、電車代はキョン君が全部払うことになった。
今月のおこづかい大丈夫なのかな?
みんなで行った遊園地はとても楽しかった。
ハルにゃんとは5回もジェットコースターに乗った。
キョン君は3回目で「…俺はもういい」って青白い顔してトイレに行っちゃった。トイレ我慢してたのかな?
みくるちゃんとはいっしょにメリーゴーランドに乗った。
馬車に乗ってるみくるちゃんは、まるで本物のお姫様みたいでとってもきれいだったな。
…あたしも将来、あんなふうになれるのかな?
有希ちゃんとは一緒にお化け屋敷に入った。
あたしがキャーキャー言って怖がってるのに、有希ちゃんは表情ひとつ変えない。
途中で、あたしの足が止まると手を繋いで一緒に歩いてくれた。やっぱり有希ちゃんは優しい。
あと、だれか居たような気がしたけど…誰だっけ?
…すごく、すごく楽しかった。
でも、なんでだろう。なにか…モヤモヤするものがあたしの胸の中で渦巻いてる。
チラリとキョン君の方に目をやる。
「長門、6段重ねのアイスなんかホントに全部食べられるのか」
「………問題ない」
今は有希ちゃんと一緒にアイスを食べてる。
あたしは、ハルにゃんとたちと一緒に空中ブランコに乗りながら
一周するごとにその光景を眺めていた。
「ハァハァ…もう少し、もう少し態勢を下にズラせば幼女のおパンチュが……」ブチ
「あっ!空中ブランコで誰か落ちたぞ」
「…不快な電波をキャッチしたので鎖の情報連結を解除した」
今日、キョン君を見るたびに感じていたこの感じ。
なんだか、すごくイヤな感じ。
まるで、自分の感情じゃないみたいな…。
「はい、朝比奈さん。これ、あげますよ」
「えぇ、キョンくん、これくれるんですかぁ~?」
今も、遊園地にあるゲームコーナーでみくるちゃんとUFOキャッチャーをやってる2人。
いいなぁ、みくるちゃん。あたしもあのクマさん欲しかったのに…。
「………2人きりが良かったな」ボソ
「ん?どうしたの妹ちゃん?」
「え!?うんん、なんでもないよ」
「そう?ならいいけど…」
何を言っているんだろうあたしは。みんな大好きなハズなのに…。
「………」
あたし、なんであんなこと思ったんだろう。
「なぁ、ハルヒ!これ一緒にやらないか?あの人形の口に全部のボールを入れれば賞品もらえるんだってよ」
「ハン!この私に勝負を挑むとはなかなかキョンにしてはなかなかいい度胸じゃない。負けたらどうなるか分かってんでしょうね!!」
…今度はハルにゃんと一緒か。
遊園地に来れたことは素直にうれしい。
みんなと一緒に遊ぶのも楽しい。
それは本当。
でも…
でも、なんでだろう。
キョン君の隣にはいつも誰かいる。
…なんで?ちょっと前までは、そこはあたしの特等席だったのに。
……つらいよ…苦しいよ……
あたしの胸のモヤモヤはドンドン大きくなる。
この気持ちは何なんだろう?
なんだろう。たしか昨日もこんなことがあった。
『あぁ、前にね。私がキョンさんと一緒に映画を見に行ったことがあったじゃない?あのときにね、聞いたの』
そうだ、ミヨキチだ!ミヨキチがキョン君と2人でいるところを考えたら…
キョン君と2人?
ハルにゃんとキョン君
みくるちゃんとキョン君
有希ちゃんとキョン君
「…そんなの………ヤダ」
気が付いたら、あたしはまた泣き出していた。
その後は大変だった。
泣き出したあたしにキョン君が気づいて「どうした!?」と駆け寄ってきたんだけど、
ハルにゃんが「あんた、妹ちゃんになにしたのよーーーー!!」と言ってキョン君にドロップキックをかましたり、
みくるちゃんはオロオロして一緒に泣き出しちゃうし、有希ちゃんがニヤケ面した人に「………許すまじ」っていって
何語かわからなり言葉を呟いたと思ったらニヤケ面した人が悲鳴をあげながら消えていっちゃうし…。
結局、泣き疲れて寝てしまったあたしをキョン君がおんぶして家まで連れて帰ってくれたらしい。
「明日、ちゃんとお兄ちゃんにお礼言いなさいよ」
夜中、目を覚まして2階から降りてきたあたしにお母さんが言った。
「うん」
あたしはまた自分の部屋に戻り、ベッドに横になる。
『本当に何で泣いたか心当たりはないの?』
ミヨキチの言葉が脳裏を思い出す。
そうだね、ミヨキチの言うとおりあたしは大バカだ。
「…明日、ミヨキチに謝ろう」
翌日、あたしはミヨキチの家に電話をした。
「はい、吉村ですけど」
「あっ、ミヨキチいますか?」
「………」
「………ミヨキチ?」
「………うん」
「あ、あのね。あたし、ミヨキチに言わなきゃいけないことがあるんだ」
「………」
ミヨキチはまた黙ったままだ。
「だからね、これからちょっとでいいから会えないかなって…」
「…わかった」
「じゃあ、このままミヨキチの家に行ってもいい?」
「うん」
電話を切ったあたしは大急ぎで玄関を出る。
ミヨキチの家に着くまでの間、あたしの心は不安でいっぱいだった。
ミヨキチはあたしのことを許してくれるだろうか。
これからあたしが言うことに、ミヨキチはどんな反応するだろうか。
彼女の家の前に到着し、緊張で震える指をどうにか抑えてインターホンを鳴らす。
ドアはすぐに開き、中からミヨキチが姿を見せた。
「…いらっしゃい」
「うん」
「あがって」
あたしは重い足取りで家に上がると、ミヨキチの部屋がある2階へと足を進める。
「オレンジジュースでいい?」
部屋に待っていると、ミヨキチがジュースを持って入ってきた。
「うん」
それを受け取り、一口だけ口をつける。
「………」
「………」
また、あの沈黙が2人にのしかかる。
「ごめんなさい」
決心して、あたしはミヨキチに頭を下げる。
「妹ちゃんは、なんで謝るの?」
「それは…」
ミヨキチの質問にあたしは答える。
「…嘘をついたから」
「……そうね」
「あなたは嘘をついた。絶対に言ってはいけない言葉を使って嘘をついた」
「…うん」
ミヨキチはあたしの目をじっと見ながら、言葉を続ける。
「その言葉で、私の気持ちを傷つけた。キョンさんの妹ちゃんへの気持ちを傷つけた。そしてなにより、自分自身の心を傷つけた」
「…ごめんんさい」
「だから…」
そう言って、ミヨキチはあたしのすぐ横に座った。
パシン
乾いた音が部屋に響く。
「…これで、許してあげる」
思ってたより痛くはなかった。なかったけど…
「うわあぁぁぁん」
またあたしは泣いた。今度は、うれしくて。
あたしが泣きだしたことで、ミヨキチはかなり焦っていた。
「ご、ごめんね!そんなに痛かった?ど、どうしよう」オロオロ
「ち…違う。そうじゃないよ」
あたしはミヨキチに笑いかける。涙で顔をクシャクシャにして…。
「ミヨキチが許してくれたと思ったら。安心しちゃって…」
「………バカ」
ミヨキチが笑い出す。その瞳には涙をためて。
それから、しばらくの間、2人で笑って泣いた。
「ねぇ?」
あたしはミヨキチの背にもたれかかっている。
「なに、妹ちゃん」
ミヨキチもあたしの背にもたれかかっている。
「昨日、保健室でミヨキチが言ったこと」
「………答えは出た?」
「うん」
「あたしが泣いたのは、キョン君に…たとえ嘘でも……あんな言葉を言っちゃったこと」
「うん」
「直接、キョン君に言ったわけじゃないのに…」
「あのとき、あたしの頭の中では、とても悲しそうなキョン君がこっちを見てた」
そのとき、なんだかすごく胸が痛くなって…
キョン君があたしを見る目がだんだん苦しくなって…
「気がついてたら、泣いてたんだ」
「たぶん、この気持ちの存在にはそのとき気がついてた」
「でも、これがなんなのか。そのときはまだハッキリとはわかってなかったんだと思う」
「…そっか」
「でもね?」
「あの後、家に帰ったらキョン君に会ったんだ」
「そしたらキョン君、『お前、学校で何かあったのか?』って…」
「それで?」
ミヨキチはどこか楽しそうにあたしの話を聞いてくれる。
「…頭を撫でてくれた。それでケンカしたんだったら早く謝って仲直りしろって」
「ふ~ん」
ミヨキチはニヤニヤしながら、あたしに話の続きを促す。
「キョン君は、いつもはあたしのことなんか全然気にかけてくれないのに、あたしが困ってるときはいつもそばにいてくれる」
「そうだね」
「それでね。次の日はキョン君と一緒に遊園地に行ったんだ」
「い~な~」
ミヨキチは、今度はブーブー文句を言っている。でも、やっぱりドコか楽しそうだ。
「そのときはね。キョン君の他にもハルにゃんがいて、みくるちゃんがいて、有希ちゃんがいて…」
「みんなでいっぱい遊んだ。すごく楽しかったんだよ。本当に楽しかったんだ」
「でもね、あたしはまた泣いちゃったんだ」
「それはなんで?」
「…キョン君が他の女の子と一緒にいるのを見てたらね。なんだか胸の奥がモヤモヤーってするんだ」
「みんなのこと大好きなハズなのに『みんないなければいいのに』って思ったり」
「それで、気がついたんだ。あたしはキョン君と2人でいたい」
「うん」
「キョン君が他の誰かと2人でいるところなんて見たくない。…たとえそれが、ミヨキチでも」
「あらあら」
「そこで初めて理解したんだ。この気持ちがなんなのか…」
「それで気が付いたら、やっぱりあたしはワンワン泣いてた。だって、キョン君、いつも他の女の子とばっかり一緒にいるんだもん」
「困ったキョンさんだね」
ミヨキチはクスクス笑いながら
「でもキョン君はやっぱり優しくて、そんなあたしをおんぶして家まで連れてってくれた」
「…キョンさんらしいね」
どこか楽しそうに、そして、どこか羨ましそうに呟いた。
「帰ってからお母さんに聞いたんだけどね」
「うん?」
「昨日はハルにゃんがあたし一緒に遊びたいから呼んだんだって言ったんだ」
「…でもね、お母さんに聞いたの」
「あれはキョン君がハルにゃんに頼んで遊園地に連れて行ってくれようにしてもらったんだって」
「お母さん、キョン君がハルにゃんに必死にお願いしてるの聞いちゃったんだって」
「あたしがミヨキチとケンカして落ち込んでるからって…」
「…そうなんだ」
「それであたしは決意した。ミヨキチに謝ろうって、早く仲直りしてキョン君を安心させてあげようって」
「うん」
ミヨキチが頷く。
「それでね?仲直りして、あたしの本当の気持ちをミヨキチに聞いてもらおうって思ったんだ」
「本当の気持ち?」
「そう!」
あたしはクルリと体をひねってミヨキチに向き直る。
「うぁ!?わっわっわ…」
いきなり背中の支えがなくなったミヨキチが、そのまま後転するみたいにして正座しているあたしの膝の上に頭を落とす。
キョトンとしているミヨキチの顔を見下ろしながらあたしは続ける。
「あたしはキョン君が好き」
「それは家族としてでも、お兄ちゃんとしてでもない」
「あたしはキョン君が好き。大好き」
最初は呆気にとられてたミヨキチだったけど、その顔は徐々に笑顔になっていく。
「…そっか」
「うん。だからね」
「…ミヨキチにだって負けないよ?」
「!!?」
「…ふふ、私だって!」
この日は、久しぶりにミヨキチの家にお泊まりした。
ねぇ、キョン君は気づいてる?
ハルにゃんがキョン君の姿を見つけるたびに、目を輝かせて嬉しそうにしてること。
みくるちゃんがキョン君と手を繋ごうとして、手を出したり引っこめたりしてること。
有希ちゃんがキョン君の背中を見つめて、いつも微笑みかけてること。
キョン君は気づいてる?
ミヨキチが映画に誘ったのが、ホラー映画が目的じゃないこと。
そして、あたしがキョン君を本気で好きになったこと。
「キョ~~~~ン君」
「どうしたんだ?」
「だ~~~い好き」ダキ
「なっ!?いきなり何を言いだすんだお前は!!ていうか、抱きつくな!!!」
「てへっ!」
-- Fin --