2 : VIPに... - 2014/08/03 22:16:49.37 0Xe9k2eb0 1/649

また――救えなかった。

瓦礫の山に叩きつけられた体を無理矢理起こす。
痛めつけられた体を引きずり、私が救いたかった少女の元に歩み寄る。

すでに事切れた、まどかと呼ばれていた少女

ほむら「本当に、……ごめんね、まどか」

目の前で契約したまどかのソウルジェムを打ち砕いた。

守りたかった

守れなかった

だから――殺した


いつまでこんなことを続ければいいのだろうか。
終わりはあるのだろうか。
諦めてしまえば全てが終わる。楽になれる。




ダメだ。そんなことを考えちゃいけない。…約束したから。
絶対にあなたを救うって。

元スレ
ほむら「夢は終わらない」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1407071737/

1 : VIPに... - 2014/08/03 22:15:48.01 0Xe9k2eb0 2/649

※魔法少女まどか☆マギカ×テイルズオブファンタジアのクロスストーリーです

※粗末な地の文あり 同じような表現も多々あり

※ほむらマンセーな方向性

3 : VIPに... - 2014/08/03 22:17:40.93 0Xe9k2eb0 3/649

砂時計を反転させる。ガチッっという音が廃墟と化した街に響き渡った。

何度目の時間遡行だろうか。すでに数えるのは諦めた。もはや通り慣れてしまった
一か月前へと続く道。痛む体はそのままにほむらは歩く。
体を癒さないのは戻ってしまったら元通りの体になっているからだろうか。
それとも自分への罰のつもりだろうか。ほむら本人にもそれはわからなかった。


ほむら(この道を抜けて…今度こそ…)


突如、空間にヒビが入る。


ほむら(!? 一体…これは!?)


ヒビが広がり、空間が口を開けたかのような穴ができあがった。


ほむら(…吸い込まれ…る!?)


体が言うことを聞かない。抵抗できないままほむらは穴に吸い込まれていく。


ほむら(何が起こっているの!?ダメ…!抜け出せない!)


最後の抵抗に、伸ばした左腕も結局何も掴むことができずほむらは完全に飲み込まれた。


ほむら(私は…どう…なってしまうの……、ま……ど…か…)


そこで、ほむらの意識も闇の中に消えていった。

4 : VIPに... - 2014/08/03 22:18:38.42 0Xe9k2eb0 4/649

ほむら(こ…、ここは…?)


目が覚めたほむらの視界に入り込んできた光景は、見慣れない天井だった。
どうやらベッドの上で寝ているらしい。身体を起こし周りを確認する。
簡素なベッドが二つ並んでいる。壁際の本棚には見慣れない字が書かれた背表紙
の本が並んでいた。床も壁も全て木が材料らしく、木の匂いが鼻腔をくすぐる。


ほむら(一体…どこなのかしら)


テレビも、照明器具もない。
代わりにテーブルの上と壁に設置しているキャンドルスタンドの蝋燭が優しい光を
放っている。


ほむら(私は…、時間遡行中に確か、穴に吸い込まれて…それから――)


そこまでの記憶しかなかった。


ほむら(それに…)


ほむらは自分の体を見る。
いつも時間遡行を終えた後はパジャマ姿だったが、今は魔法少女の姿のままだ。
誰かが手当てをしてくれたのだろうか、包帯が巻かれていた。


ほむら(この部屋にいるのは自力で?それとも誰かが運んでくれた…?)


あまりにも情報が無さすぎる。とりあえず外に出てみよう、とベッドから出ようとした
その瞬間、ドアをノックする音が部屋に響く。


ほむら(……!)


ノックの音に思わず警戒し、体を硬直させ音がしたドアを見つめる。
ドアノブが下がり、ドアが開かれた先にいたのは見知らぬ金髪の青年であった

5 : VIPに... - 2014/08/03 22:19:44.92 0Xe9k2eb0 5/649

「やぁ、目が覚めたみたいだね」


白銀の胸当てのような鎧、腰には大振りのグレートソード。赤いバンダナとマントが
印象的であった。


「入っても、いいかな?」


青年はほむらに問う。


ほむら「…どうぞ」


敵意は感じられない、が警戒は怠らない。掛け布団を死角にし、一丁の拳銃を取り出し
枕の下に忍ばせる。


「身体は大丈夫かい?ひどい怪我だったようだけれど」


椅子に腰を下ろしながら青年が聞いてきた。見た目だけで言えば悪い人間には見えない、
というのがほむらの感想であった。


ほむら「…はい。痛みはもうほとんどありません。治療はあなたが?」


質問を返す。
その時、再び部屋にノックの音が飛び込んできた。


「失礼する」


そう告げながら入ってきた男性の姿をほむらは凝視する。


銀色の髪を後ろで縛り、鍔の広い帽子を被っている。
両腕、顔に入った不思議な模様の刺青。
だがほむらがもっとも印象的だったのは彼の目であった。

金髪の青年とは違い、刺青の男の目には明らかに警戒している色が浮かんでいる。
こちらの動きを見逃そうとしない、そんな目をしていた。

6 : VIPに... - 2014/08/03 22:20:47.53 0Xe9k2eb0 6/649

「警戒させてしまったようだな。すまない」


刺青の男がほむらに向かって話しかける。


ほむら(この人は…注意が必要ね。どうでるのが正解かしら)

ほむら「いえ…、あの…」

「あぁ、私はクラース=F=レスターだ。しがない学者さ」

「僕はクレス=アルベイン。剣士だよ。まだまだ未熟だけど」

ほむら「ありがとうございます。私は暁美ほむらといいます」

クラース「ふむ…変わった名前だな」

ほむら「ええ、よく言われます。」

クレス「僕のことはクレスでいいよ。よろしく、ほむら」

ほむら「よろしくお願いします、クレスさん、それと…クラースさん、でよろしいですか?」

クラース「あぁ、構わない」


軽く自己紹介を終えたがここからが本番だ。


ほむら(とりあえず色々聞きださないといけないわね…。情報が無さ過ぎる)

ほむら「すいません、いきなり変なことを聞いてしまってもいいですか?」


クラース「変なこと?なんだ?」



ほむら「今は西暦何年ですか?」

7 : VIPに... - 2014/08/03 22:21:46.73 0Xe9k2eb0 7/649

クレス「西暦・・・?」

ほむら(…)

クラース「何年、という聞き方から察すれば年号のことか?今はアセリア歴4202年だ」

ほむら(アセリア歴…、全く聞いたことがない年号ね)

ほむら「そうですか。ありがとうございます」

クラース「…」


何かを考え込むように顎に手を当てるクラース。


クラース「ほむら君、といったね?君は自分がどうしてここにいるかわかるかな?」


クラースが色んな意味で受け取れるような質問をほむらにぶつける。


ほむら(とりあえず無難に答えましょう)

ほむら「わかりません…。目が覚めたらベッドの上でしたので……。」

クラース「そうか。では簡単に状況を説明する」


空いている椅子に腰をおろしクラースが続ける。


クラース「私たちはとある目的があって旅をしているんだが…」

クラース「旅の途中、急に君が目の前に現れた。本当に突然に、だ」

クレス「ついさっきの出来事だけれどね」


クレスが補足する。


ほむら「突然…?すいません少し漠然としすぎて…」

クラース「そうは言われても本当に突然だったんだ。何もない空間から急に君が現れた」

ほむら(…吸い込まれた穴の出口がそこだった、ってことなのかしら)

クラース「怪我がひどく意識も無かったから手当をして近くの街の宿に運び今に至る、という訳さ」

ほむら「そうだったんですか・・・。わざわざありがとうございました」


頭を下げるほむら。その姿を見つめていたクラースは再び何か考え込んでいる。


ほむら「そういえば、先ほど旅をされていると言っていましたが」

クレス「うん、僕たちはダオスを倒すために旅をしているんだ」

ほむら「ダオス…?」


再び聞いたことのない言葉が出てきた。


ほむら(倒す、ということは人名?組織名?それとも…)


クレスとほむらのやり取りを眺めていたクラースが口を開く。


クラース「ほむら君、単刀直入に聞こう」



クラース「君は一体何者だ?」

8 : VIPに... - 2014/08/03 22:22:56.65 0Xe9k2eb0 8/649

ほむら(ストレートに来た…。まぁ黙っていても仕方ないわね。
    今はこの人達に頼るしかないのだから)

ほむら「わたしは――」


コンコン、と三度部屋に飛び込んできたノックの音に、ほむらの言葉は遮られた。
勢いよく開かれたドアの向こうには二人の女性が立っていた。


「あー!起きてるじゃーん!クレス!起きたら呼んでっていったでしょー!」


クレスの批難の言葉を浴びせ、ピンク色の髪をポニーテールを
揺らしながらずかずかとクレスに詰め寄る少女。


クレス「ご、ごめんアーチェ。話し込んじゃってさ」


申し訳なさそうに頭を掻くクレス。一方、アーチェと呼ばれた少女は納得いかないようだ。


アーチェ「クラースもクラースだよ!相手が可愛い子だから楽しくおしゃべりしてたんでしょ!?」

クラース「ただ情報交換していただけだ。全く…」


やれやれといった感じで頭を振るクラース。


アーチェ「ふーん、可愛い子っていうのは否定しないんだー。ミラルドさんに言いつけちゃおうかなー♪」

クラース「…なぜそこであいつの名前が出てくる?というか話を進めたいんだが」


部屋の空気がすっかり変わってしまったのに少し戸惑っているほむらにアーチェと一緒に部屋に
入ってきた女性が声をかける。


「お身体の方は大丈夫ですか?」

9 : VIPに... - 2014/08/03 22:23:47.24 0Xe9k2eb0 9/649

優しく微笑みながら問いかけてくる女性。背中まで伸びた綺麗な金の髪と
清楚な雰囲気が特徴的だった。


クレス「彼女は法術師のミント=アドネード。君の怪我はミントが癒したんだよ」

ほむら「…法術、ですか?」


次々と知らない言葉が出てくる。


ほむら(やはりここは私のことを先に説明したほうが話が早そうね)


コホン、と一つ咳払いをする。


4人の視線がこちらに向いたのを確認してほむらは口を開いた。


ほむら「先にお礼を言っておきます。怪我の手当とここまで運んでくださって本当にありがとうございました」

ほむら「クラースさんとクレスさんには先ほどお伝えしましたが改めて…、私の名前は暁美ほむらといいます。」

ほむら「そして、私は恐らく別の世界からこの世界に飛ばされてきたんだと思います」



アーチェ「別の…、世界?」

ほむら「詳しく説明しますね――」


ほむらは話した。自分の住んでいた世界の事、魔法少女の事、自分の能力の事、
魔女の事、時を繰り返している事。
そして、時間を遡る際に起こった異変のことを。

10 : VIPに... - 2014/08/03 22:24:52.52 0Xe9k2eb0 10/649

ほむら「――以上が私の全てです。」


ミントが淹れてくれた紅茶で一息つき、話を締めくくった。


アーチェ「なんか…すごい話だったね」


ほむらの話に耳を傾けていた4人はその内容に戸惑いを隠せていないようだった。


クラース「時ではなく世界すら飛び越えてしまった少女、か」

ほむら「なぜこんなことになったか、私にも分かりません。時間遡行の能力も
    今は使えないみたいですし…」


ほむらが視線を左手の盾に落とすと、時を刻むことを放棄するかのように
止まったままの砂時計がそこにあった。


クラース「…君がこの世界に来てしまった理由も君の能力が封印されている
     ことも、心あたりが無いわけではない」

ほむら「本当ですか!?」

クラース「まぁ、希望的観測に過ぎないがね」

クラース「その為には我々の世界について話をする必要がある。少し長くなるぞ――」


クラースの話の内容はにわかには信じがたいものだった。ほむらも実際このような状況で
無ければ信じ切れていなかっただろう。

クレスとミントが時空を超えてクラースの時代にやってきた事、ダオスの事、
この4人がダオスと関わるきっかけになった事件の事、魔術、精霊に関する事。

11 : VIPに... - 2014/08/03 22:26:54.70 0Xe9k2eb0 11/649

ほむら(まるでファンタジー小説を再現したような世界ね…)

クラース「――以上が我々の世界についてのことだ。何か質問はあるかな?」

ほむら「先程の…、心当たりがあるというのはやはりダオスが関係しているのですか?」

クラース「そうだ。ダオスも時空を操る力を持っていると言われている」

ほむら「私の時間遡行の力とダオスの時空を操る力が何らかの要因で干渉したと?」

クラース「まぁ、こじつけでしかないが可能性としては一番高いと私は考えている」

ほむら「少しでも可能性があるのならそこを辿るしかない、か…」



アーチェ「あの…ちょっといい?」


アーチェが恐る恐るといった仕草で手を挙げる。


ほむら「何ですか?」

アーチェ「ほむらちゃんって時間止めれるんだよね?」

ほむら「はい、止めれる時間に制限はありますけど…」



アーチェ「見てみたいな、って♪」


クラース「お前なぁ…」


呆れたようにクラースが口を挟む


ほむら「いえ、いいですよ。実際に体験したほうがわかりやすいと思いますし」

アーチェ「わーい!ほむらちゃんやっさしー!」

ほむら「それではアーチェさんと…ミントさんも私の手を握ってもらっていいですか?」

ミント「私もいいんですか?」

ほむら「はい。私以外に二人までは大丈夫です。私の身体に触れていれば、ですけど」

アーチェ「握ってればいいのね?」

ほむら「そうです。それでは止めますね」


ほむらの能力が発動する。ほむら、アーチェ、ミント以外の全ての動きが止まる。


アーチェ「うわ!ホントに止ま――」

ほむら「…離さないでって言ったのに」


驚いた拍子にアーチェが手を離し、アーチェの時も奪われた。

12 : VIPに... - 2014/08/03 22:28:00.82 0Xe9k2eb0 12/649

ミント「アーチェさんったら…」


少し苦笑いを浮かべるミント。


ほむら「アーチェさんがどんな方か理解できた気がします…」

ミント「恐らくほむらさんが思っている通りの人です」


ミントは申し訳なさそうに肯定した。


ほむら「えーっと…それでは解除しますね」


ミントが申し訳なさそうにしていたのが居た堪れなかったのか、ほむらは慌てて能力を解除する。


アーチェ「――った!?…ってアレ?」

アーチェ「あー!手離しちゃった!ほむらちゃん!一回!」

クラース「やめておけアーチェ。ほむら君に魔力の無駄遣いさせるんじゃない」

アーチェ「…うー」

ほむら「じゃあ次はクレスさんとクラースさんの番ですね」

クレス「いいのかい?」

ほむら「大丈夫ですよ。手をだしてください」

クラース「ではお言葉に甘えて…」

ほむら「ではいきます」





クレス「…本当に凄い能力だね」

ほむら「驚いて頂いてなによりです」


おどけた様子でほむらは言う。


クラース「ふむ…」


少し考え込んでいた様子だったクラースがクレスとミントに声をかける


クラース「クレス、ミント。少し付いてきてくれるか」


名前を呼ばれた二人は部屋の外に向かうクラースに付いていく。


アーチェ「えっ、あたしは?」

クラース「ここでほむら君とお喋りでもしておいてくれ」


そう言い残し三人は部屋を出て行った。


アーチェ「なんか…除け者にされちゃったね」

ほむら「そう、ですね」


この時、ほむらは三人が出て行った理由を察していた。

13 : VIPに... - 2014/08/03 22:28:57.73 0Xe9k2eb0 13/649

クレス「どうしたんですかクラースさん?」

クラース「二人とも、あの子をどう思う?」

ミント「ほむらさんのことですね?…嘘を付いているには見えませんが」

クレス「僕もそう思います」

クラース「私も同感だ。そこでなんだが…」


クラース「ほむらを一緒に連れていきたいと思う」


その言葉にクレスが異議を唱える。


クレス「僕は反対です。こんな危険な旅にあの子を巻き込みたくありません」

ミント「私もクレスさんと同じ意見です。危険すぎます」

クラース「私もこの旅が危険なことは重々承知している。だが、ほむらを一人にするほうが
     もっと危険だ」

クレス「…どういうことです?」

クラース「さっきのほむらの話を思い出せ。あの子は友達の為に全てを投げ出している。
     ここであの子を置いていったとしてもほむらは一人ででもダオスの元へ向かうだろうさ」

クレス「そんなっ…!まだダオスがあの子の力に干渉しているとは限らないでしょう!?」

クラース「だが、可能性はある。1%でも可能性があればほむらはそこにすがるだろう」

クレス「…っ!」


少し話しただけでも分かる、彼女の並々ならぬ決意はクレスもミントにも充分伝わっていた。

14 : VIPに... - 2014/08/03 22:29:52.10 0Xe9k2eb0 14/649

クラース「ほむらは恐らくもう立ち止まらない。少しでも道があれば迷わず突き進むだろう。
     それがどんなに危険な道であっても、だ」

クラース「だからこそ止めるべき人間が必要だ。クレス、お前はあの子を見殺しにできるか?」

クレス「できるわけ…ないでしょう…っ!」

クラース「私もだ。だからこそほむらを仲間に引き入れたい。それに彼女の力はダオスに対抗
     できる鍵になるかもしれん」

ミント「時間停止の力、ですか」

クラース「そうだ。今はクレスが一人で我々三人のフォローをしているが正直バランスがいいとは
     言い難い。時間停止の力があれば呪文の詠唱の隙を埋めることができる」

クレス「戦闘にも巻き込む気なんですか!?あんな小さい子を!?」

クラース「何度も言わせるなクレス。あの子の決意の強さだ。何もしないでいいから付いてこい、なんて言っても
     ほむらは断るさ」


クレスはクラースが言っていること全てが正論だと分かっていた。


クレス「ぐっ…!」

クラース「私のことを汚い人間と思うがいいさ。どんな世界にも汚れ役は必要だ」


クレスはただ黙っている。返す言葉が無かったのだ。


クラース「ほむらをどうするかはクレス、お前が決めろ。お前がこのパーティのリーダーだ。
     …私はリーダーの決定に従うさ」

クレス「僕が…?」


重い決断を迫られた。

15 : VIPに... - 2014/08/03 22:30:49.17 0Xe9k2eb0 15/649

アーチェ「なかなか帰ってこないねあの三人」

ほむら「そうですね」

ほむら(恐らく私をどうするかで話合ってるんだと思うけど…、私の答えはもう決まっている)

ほむら(それにしても…)


ほむらはアーチェをチラッと見る。


ほむら(見た目といい性格といいまどかと杏子を足して2で割ったような人ね。アーチェさんって)

アーチェ「? 何見てるの?」


ほむらの視線に気が付いたアーチェが問いかける。


ほむら「いえ、友達に似てるなぁ、って思って」

アーチェ「友達って、ほむらちゃんの世界の?」

ほむら「ええ、そうです」

アーチェ「ふーん…。……じゃあさ!その友達に似てるってことはあたしもほむらちゃんと友達に
     なれるってことだよね?」

ほむら「えっ、…あの、……その」

アーチェ「えー、あたしと友達になるの嫌なのー?」


少しふてくされたように言う。


ほむら「いえ、嫌とかじゃないんですけど…。その…びっくりして」

アーチェ「じゃあ今からあたしたちは友達ってことで!よろしくねほむらちゃん!」


満面の笑みで手を突き出してくるアーチェ。その手は握手を求めているんだ、と理解したほむらは
恐る恐る手を握った。


ほむら「は、はい。あの…よろしくお願いします」

アーチェ「もー、友達なんだからそんな硬い感じじゃなくていいよー!」



なんだろう、この懐かしい感じは

あぁ、そうか

友達ができて嬉しいんだ


16 : VIPに... - 2014/08/03 22:31:46.31 0Xe9k2eb0 16/649

ほむら「フフッ」


堪えきれず笑みを浮かべるほむらを不思議そうに眺めるアーチェ。


アーチェ「どうしたの?」

ほむら「いえ、なんでもないわ。これからよろしくね、アーチェさん」




そんなやり取りが終わった時、タイミングよく三人が部屋に戻ってきた。


クレス「ほむら、君に話があるんだけれど」


クレスが硬い表情で話しかけてきた。


ほむら(言い出しにくいってのが表情で丸わかり…、やっぱり優しい人なんでしょうね)


クレスが最初に部屋に入ってきたとき、何よりも先に体調を気遣ってくれたのを
ほむらは思い出していた。


ほむら「その前に、私からもお話があるのですが」

クレス「? なんだい?」

ほむら「私も貴方達の旅に連れて行ってもらえないかしら?」

クレス「…っ!」

ほむら(予想外、っていう反応じゃないわね)

クレス「…この旅はとても危険な旅だ。命の保証はできない…」

ほむら「理解しているつもりです。…それに命がけなんて今までもそうでした」


返答に迷っているクレスに構わず、ほむらは続ける。


ほむら「クラースさんが二人を連れて行ったのは説得のため、ってところですか?」

クラース「ふぅ…全て御見通しって訳か」

ほむら「クレスさんとミントさんは優しい人なのはなんとなくですがわかっていましたから」

クラース「おいおい、私は優しくないと言いたいのかな?」


大袈裟気味に肩をすくめるクラース。


ほむら「ふふっ、そんなことないですよ。このパーティの汚れ役を率先して担っているんでしょう?」

クラース「やれやれ…、大した子だよ全く」

17 : VIPに... - 2014/08/03 22:33:50.57 0Xe9k2eb0 17/649

決断しかねているクレスに声をかける。


ほむら「クレスさん。あなたが私の身を案じてくださってるのは十分伝わってきます。」

ほむら「…ですが、その気遣いは不要です。私は貴方達とともに戦います」

ほむら「まぁ、断られたとしても私は意地でもついていきますけど」

クレス「本当に…、いいのかい?」

ほむら「こちらからお願いします。私を連れて行ってください。クレスさん…ミントさん」


深々を頭を下げるほむらを見て、クレスはついに観念した。


クレス「分かった。ほむら、大変な旅になるだろうけれど…よろしく頼むよ」

ミント「よろしくお願いしますほむらさん」

ほむら「こちらこそよろしく頼むわ、クレスさん、ミントさん、クラースさん、アーチェさん」

18 : VIPに... - 2014/08/03 22:34:41.56 0Xe9k2eb0 18/649

アーチェ「ってあたしの意見は聞かないわけ!?」

クラース「お前に聞いてもどうせ『一緒に行こう』、って言うと思ったからな」

アーチェ「…てへへ」

クレス「僕とミントはすごく悩んでたってたっていうのにアーチェときたら…」

アーチェ「そんなこと言ってー!クレスも可愛い子が増えて嬉しいんでしょ!」

クレス「そ、そんなこと考えてないよ!僕たちはほむらの安全を考えて――」

アーチェ「あー、クレスもほむらちゃんが可愛いっていうのは否定しないんだー。へー」

ミント「クレスさん?」

クレス「ち、違う!というかそんな話をしてたんじゃないだろ!」

ほむら「大丈夫よクレスさん。私は可愛くないって言われても傷つかないわ」

クレス「い、いやそういう訳じゃ…」

ミント「クレスさん?」

クレス「ミ、ミント!?違う違うんだ!僕はその…!あの…!」


ほむら「…ふふっ」

アーチェ「やーん!ほむらちゃん笑ってる顔かーわーいーい!」


勢いよくほむらに抱き付くアーチェ。流石のほむらもこの行動に戸惑いを隠せなかった。


ほむら「ちょっ…!アーチェさん!何してるの!?」

アーチェ「うひひ~、かわゆいやつよのぉ~」

ほむら「やめっ…!きゃっ!頬と頬すり合わせないで!」

アーチェ「普段のクールなほむらちゃんもいいけど慌ててるほむらちゃんも
     可愛いんだから仕方ない!」

ほむら「離してっ…よっ…!三人とも見てないで助けて頂戴!」

アーチェ「ふははー!ほむらちゃんはあたしの嫁となるのだぁ!って痛っ!」


流石に見るのが耐え切れなくなったのか、クラースが普段から持ち歩いている装飾された
分厚い本の角をアーチェの脳天に叩き落とした。


クラース「いい加減にしろアーチェ。ほむらが困っているだろう?それにそろそろ食事に
     行きたいしな」


ううー、と恨めしそうにクラースを睨みながら頭をさするアーチェ。


クラース「さて、ではそろそろ新メンバー加入記念も兼ねて酒場に行くぞ。
     勿論アーチェには飲まさないからな?」

アーチェ「ええー!?なんでー!?」

クレス「アーチェに飲ませたらロクなことがないからに決まってるからじゃないか…」

ミント「この間隙を盗んでクラースさんのボトルを飲み干して、隣のテーブルの人に
    絡んでいましたからね…」

ほむら(なんだか不安になってきたわ……)


ようやくアーチェから解放されたほむらは皺が若干ついた服を整え、少しだけ
重い足取りで酒場に向かうクレス達についていった。

19 : VIPに... - 2014/08/03 22:35:58.98 0Xe9k2eb0 19/649

酒場



ほむら「改めて…新メンバーの暁美ほむらです。よろしくお願いします」


ペコリと頭を下げる。


アーチェ「よろしくね!ほむらちゃん」

クレス「よろしく、ほむら」

クラース「よろしく頼む」

ミント「こちらこそよろしくお願いします」

ほむら「ふぅ、緊張したわ」

クレス「ははっ、全然そういう風には見えなかったよ」

ほむら「あら、そうかしら?」

クラース「ふっ、口調が変わったな」

ほむら「ええ。長い付き合いになりそうだし楽に喋らせてもらうわ」

クラース「構わんさ。むしろ今の方が話しやすい」

ほむら「どういたしまして」




クラース「さて…では明日からのスケジュールをもう一度おさらいしておくぞ」


グラスに注いだワインを一口飲み、クラースが話し始める。

20 : VIPに... - 2014/08/03 22:37:03.05 0Xe9k2eb0 20/649

クラース「我々は4大精霊のシルフ、イフリート、ウンディーネ、ノームと契約を結んだ。
     そして明日から…ここ、ヴェネツィアから船でアルヴァニスタへ向かう。」

クレス「二日間程船の旅、ということになりますね」

クラース「そうだな。まぁ海の上では各自自由に過ごしてくれ。…迷惑をかけない程度にな」


チラリとアーチェを見るクラース。その視線に気が付いたアーチェは慌て出す


アーチェ「だ、大丈夫だって!しばらくお酒は飲まないようにするから!」

クラース「その割にはさっきからチラチラとテーブルの上のボトルを見ているようだが?」

アーチェ「…禁酒前最後のお酒ってやつ?」

クラース「駄目だ」

アーチェ「ケチー!」

ミント「そういえばほむらさん、船に乗るのは初めて?」

ほむら「そうね、私たちの世界だと船よりも他の移動手段を使うことが多いから…」

クレス「船酔いしちゃうと大変だね。降りたくても降りられないし」

アーチェ「でもほむらちゃんなら魔力でなんとかなるんじゃない?」

クラース「船酔いなんかで魔力を消費したらいくら魔力があっても足りないだろう?」

ほむら「まぁ酔ってしまったらその時に考えるわ。そういえば魔力で思い出したのだけれど…」


そう言いながら左手をテーブルの中央に伸ばすほむら。

21 : VIPに... - 2014/08/03 22:38:03.07 0Xe9k2eb0 21/649

ほむら「この左手に埋め込められているのが私のソウルジェムよ」

クラース「魂の宝石、か…」

ほむら「ええ、…魔力の消費や負の感情によってソウルジェムに穢れが溜まる」

ほむら「穢れはグリーフシードで取り除く以外に方法は無く、
    穢れが溜まりきったとき、私は魔女になる」

ほむら「ここまでは部屋で説明した通りなんだけど、続きがあるの」

クレス「続き?」

ほむら「私もついさっき気が付いたのだけれど…、みんなの前で実践した時間停止
    の消費によって溜まった穢れが勝手に浄化されているの」

クラース「どういうことだ?」

ほむら「私にもわからないわ。こんな現象起きたことないもの」


ほむらにとっては嬉しい誤算には間違いないのだが原因が気になる。


ミント「…もしかして、ですけれど」

ミント「マナが原因なのではないでしょうか?」

ほむら「マナ?」

アーチェ「この世界に漂う魔力の源みたいなもんだよ、ほむらちゃん」

クラース「精霊が生きるために必要で、魔術を使用するためにも必要とされている」

ほむら「なるほど…。マナがグリーフシードの代わりをしてくれたわけね」

アーチェ「つまりほむらちゃんこっちの世界じゃ魔法使い放題ってこと?」

ほむら「自然回復が追いつく程度ならね。まぁ私の場合そんなに色んな魔法が使えるわけじゃないけど」

クラース「魔法を応用したらどんなことができる?」

ほむら「時間停止、肉体強化、治癒の活性化、武器の殺傷能力の強化…、私が使っていた
    のは主にこんな感じね」

クレス「武器の強化…、僕の剣の強化もできるのかい?」

ほむら「ごめんなさい…。他人の武器にまでは応用できないの。
    他の魔法少女で出来る子は居たけれど」

クレス「いや、大丈夫だよ。いくらいい武器を持っていてもその武器を生かすのは
    使い手の腕次第だからね」

アーチェ「ヒュー♪良いこと言うねー」

クレス「茶化さないでくれよアーチェ…」

22 : VIPに... - 2014/08/03 22:39:03.16 0Xe9k2eb0 22/649

そんなやり取りをしていると注文した料理が運ばれてきた。
こちらの世界はどんな食事なんだろうか、と少し不安があったほむらだったが
幸いにも自分の世界でも食べたことがある料理少なからず存在しているようで
ホッとしていた。

大皿から一人分に取り分けられたサラダをミントから受け取る。
美味しいからこれ食べてみて、とクレスから勧められた料理を
一口もらう。
アーチェが『あーん』と言い口を開けて待っているのを無視して
自分の口に料理を運ぶ。
その様子を見ていたクラースが鼻で笑ったのを見て、思わず自分でも
笑ってしまう

久しぶりな、賑やかな食事
こんな食事はいつ以来だろうか


ミント「ほむらさん、どうかしましたか?」


思わず食事の手が止まっていたようだ。そんな様子をミントが気にして声をかけてきた。


ほむら「いえ、こんな賑やかな食事…、久しぶりで」

クラース「これから毎日嫌でも付き合うことになるさ」

クレス「そうですね。ほむら、アーチェは今日はまだ大人しいけど普段は料理の取り合いに
    なるから覚悟しておいたほうがいいよ」

アーチェ「ふっふーん!早いもの勝ちってやつよ!」

ほむら「あら、じゃあ食事中でも時間停止できるように準備しておかないとね」

アーチェ「それはダメ!反則!」

ほむら「大丈夫よ。野菜だけは残しておいてあげるから」

アーチェ「いやぁあぁ!ほむらちゃんがいじめるー!」


アーチェの叫び声に周囲の客がなんだなんだと好奇の目を向けてくる。


クレス「酒が絡んでなくても迷惑かけてるじゃないか…」

クラース「…全くだ」


思わずため息をもらす二人だった。

23 : VIPに... - 2014/08/03 22:40:10.81 0Xe9k2eb0 23/649

宿屋



―――眠れない。
ほむらはベッドから静かに身を起こした。隣でミントがスヤスヤと寝息を立てているからだ。
アーチェが執拗に隣で寝ようと言ってきたが身の危険を感じ、ミントの隣にお邪魔させてもらった。

ほむら(…少し風にでも当たろうかしら)

音を立てないようにドアを開き、外に出る。二階の客室から階下を見下ろすと、宿屋内に併設された
酒場のカウンターで酒の入ったグラスを傾けているクラースの姿があった。

階段を降りようとすると、その音に気が付いたのかクラースと目が合った。

クラース「…眠れないのか?」

ほむら「えぇ…なんだか目が冴えてしまって。…隣、いいかしら?」

クラース「構わんよ。…酒でも飲むか?」

ほむら「未成年に、…って言ってもわからないわね。お酒は飲めないわ」

クラース「そうか…。マスター、彼女にアルコール以外の物を」

ほむら「あら、そんなものあるのかしら?」

クラース「無かったら水でも出てくるさ」


カウンターの奥に消えていくマスターを尻目に軽口を叩く。


ほむら「さっきも酒場で飲んでたのにそんなに飲んで大丈夫なの?」

クラース「どうせ二日は海の上だ。酒と船に酔ってベッドの上で過ごすさ」

ほむら「贅沢な時間の使い方ね」

クラース「そうだな…」


カラン、とグラスの中の氷が音を立てる。


クラース「ほむら、不安は無いのか?」

ほむら「無い、と言えば嘘になるわね。ただ…私は立ち止まってはいられないから…」


俯きながらそう答えるほむら。その姿は自分に言い聞かせているようにも見えた。

24 : VIPに... - 2014/08/03 22:41:35.17 0Xe9k2eb0 24/649

クラース「目の前の道が正しいとは限らないぞ?」

ほむら「そうね。でも…どんなに険しくても、正しい道かわからなくても私は進むわ」

クラース「もしその道が正しくなかったら?」

ほむら「やり直すわ。私はその力がある」

クラース「だがこの世界ではやり直しが効かない」

ほむら「その時は別の道を探すわ。這いつくばってでもね。その半ば命を落としてしまっても
    自分がその程度だった、ってことね」

クラース「…やはり君の考え方は危険だな」

ほむら「ええ。自分でも分かってるつもりよ。でも…私はこんなやり方しかできないから…」

クラース「やれやれ…君の考え方を矯正するのには骨が折れそうだ」


クラースが肩をすくめる。それと同じくカウンターの奥からバーのマスターがほんのり湯気が
立つマグカップを手に戻ってきた。


マスター「お待たせいたしました」


コトッ、と音を立てて置かれたマグカップの中を見るとそこにはほむらにも見慣れたものが入っていた。


ほむら「ホットミルク…ですか?」

マスター「えぇ、眠れないときはこれが一番と言われていますから」


そう言い残しマスターはニッコリと笑いグラスを拭く作業に入った。
テーブルに残されたマグカップを手に取り口を付ける。


ほむら「…、相変わらず優しい味ね」


いつだったか、鹿目家に泊まりに行ったときに知久に出してもらったホットミルクの味を思い出していた

25 : VIPに... - 2014/08/03 22:42:43.10 0Xe9k2eb0 25/649

クラース(こう見るとただの少女にしか見えないんだがな…)


一口、また一口とちびちびホットミルクを飲んでいるほむらを見てクラースはそんな印象を受けた。


クラース「せめて、君が歩きやすくなるように道を整地するのが我々の役目だな」

ほむら「えっ?」


ほむらは急に再開された話に少し戸惑う。


クラース「仲間ってのはそういうもんだ」


グイッ、っとグラスの中の酒を一気に飲み干す。


ほむら「仲間…か」

ほむら(懐かしいような…そういわれるのが怖いような…そんな響き)

クラース「…どうした?」


言葉の途切れたほむらに声をかける。


ほむら「…いいえ、なんでもないわ。」


そう言い半分ほど残っていたホットミルクを一気に飲み干した。


ほむら「さて…そろそろ失礼するわ。ミルク、ご馳走様」

クラース「あまり一人で考え込むんじゃないぞ?」

ほむら「ええ、ありがとう」


礼をいい席を立つ。


ほむら「貴方はまだここにいるの?」

クラース「ああ。まだこいつが残っているんでね」


そういいまだ半分以上残った酒瓶を持ち上げる。


ほむら「飲み過ぎないで…、って元々酔いつぶれる気だったわね」

クラース「こいつにも安眠効果があるからな。それじゃあおやすみほむら」

ほむら「程々の量限定だった気がするけど…、まぁいいわ。おやすみなさい」


クラースは階段を昇っていくほむらの背中を見つめ、グラスに酒を注いだ。


クラース(自分で選んだ道、か)


自分の半分にも満たない年齢の少女が歩んできた過酷な道の途中、強制的に選ばされた
といってもいい、この世界への転移。


クラース(ほむらにとってこの世界は出口のない道なのか、ただの寄り道なのか、それとも―――)



26 : VIPに... - 2014/08/03 22:43:56.98 0Xe9k2eb0 26/649

客室

ほむらは部屋に戻り、音を立てないようにベッドに近づいた。
ミントは静かに眠っている。


ほむら(アーチェさんは…)


チラッとアーチェの眠っているベッドに目をやる。
シーツをぐちゃぐちゃにし、更に掛け布団に抱き付いている。


ほむら(同じベッドで寝てたら私がああなっていたわね…)


ふぅ、と安堵の息を漏らしたとき、アーチェの枕元に何かが落ちているのを発見した。


ほむら(何か落ちてる…ってあれは)


ほむらが枕の下に仕込んだ拳銃だった。


ほむら(すっかり忘れてたわ…。回収しないと)


恐る恐るアーチェのベッドに近寄り拳銃に手を伸ばした、その時


アーチェが腕をガッシリと握ってきた。


ほむら「!?」


いきなりの出来事に慌てる。そうとはおかまいなしにそのままアーチェはほむらを
ベッドに引きずり込んだ。

27 : VIPに... - 2014/08/03 22:45:12.49 0Xe9k2eb0 27/649

ほむら「ちょっ…!きゃっ!」

アーチェ「待っていたわ…この時を――!」

ほむら「あなた起きて…っ!?」

アーチェ「シーッ!静かにしないとミントが起きちゃうよ」


ほむらはアーチェにそう言われ自然とミントに視線を移動させる。

ミント「zzz…」

ほむら(よかった、起こしてはいないみたい…)

ほむら「ってあなたのせいでしょ」


ヒソヒソ声でアーチェに文句を言う。


アーチェ「まーまー、いいじゃんいいじゃん…。ってことでーおやすみっ」


アーチェはそう言いギュッ、っとほむらに抱き付き抱き枕にする。


アーチェ「あー、ようやく眠れるよー。ほむらちゃんが部屋出ていったときから待ってたんだからね」

ほむら「貴方、その時から起きてたのね…」


全く気が付かなかった。恐らく銃もアーチェのトラップであろう。


アーチェ「何に使うかわかんなかったけどこのベッドはずっとほむらちゃんが
     使ってたしそれほむらちゃんのかなー、って思ってさ」

ほむら「やられたわ…」


もはや抵抗する気力すら無くなってしまったほむらはぐったりうなだれた。


アーチェ「じゃあ本当におやすみー」


そう言うや否や、すぐさま寝息を立てて深い眠りに落ちていくアーチェ。
相当眠気を我慢していたのか、それともほむらの抱き心地がよかったのかは
アーチェにしかわからない。


ほむら(はぁ…諦めて私も寝ましょう)

ほむら「おやすみなさい」


そうしてほむらもアーチェの腕の中で深い眠りに落ちていった。



28 : VIPに... - 2014/08/03 22:46:02.29 0Xe9k2eb0 28/649

翌朝

最初に目を覚ましたミントは隣にほむらがいないことに気が付いた。


ミント「あら、ほむらさん?」


ミントまだ覚醒しきっていない頭で隣のベッドに目を向ける。


ミント「あらあら」


視線の先には仲の良さそうに互いに抱き合っているアーチェとほむらの姿があった。

アーチェ「zzz」
ほむら「zzz」


フフフ、っと自然に笑みがこぼれる。


ミント(起こしてしまっては可哀想ね)


そう判断しミントは静かに部屋を出て行った。


ミント(起きてくるまではそっとしておきましょう――)

29 : VIPに... - 2014/08/03 22:48:17.81 0Xe9k2eb0 29/649

ヴェネツィア―アルヴァニスタ海上


船の甲板で全身に風を感じるほむらの姿があった。


ほむら(潮風が…気持ちいいわね)


初めての海の旅。まさかこんな異世界で味わうなんて想像もしていなかった。


ほむら(ずっと風に当たっていたいけど…ベタつくのは勘弁ね)


風になびく髪を手で少し抑えながらそんなことを考えていた。


クレス「隣、いいかい?」


いつからいたのだろうか、後ろからクレスが話しかけてきた。


ほむら「ええ、どうぞ」

クレス「よっ、っと」


声を出しながら甲板の上に座り込むクレスを見て、ほむらもその場に
座り込んだ。


クレス「どうだい?船の旅は。気分悪くなったりしてないかい?」

ほむら「まだ大丈夫よ。思っていたよりも揺れが穏やかだし」

クレス「辛くなったらさっさと寝ちゃったほうがいいよ。まだまだ海の上だし」

ほむら「そうね。限界が来たらそうさせてもらうわ」


ほんの少し、沈黙が訪れる。その沈黙をほむらが破った。

30 : VIPに... - 2014/08/03 22:49:18.01 0Xe9k2eb0 30/649

ほむら「あなたも、友達を助けるために旅をしているのよね」

クレス「そう、だね。君と一緒さ」


クレスは思い出していた。自分たちを助けるために身を挺してくれた親友の姿を。


クレス「チェスターっていうんだけどさ。小さい頃に村にやってきて、最初はそんなに仲が
    良くなかったんだけど…」

ほむら「最初はみんなそういうものじゃないかしら」

クレス「まぁね。…チェスターは両親が他界して、妹とずっと二人で暮らしていたんだ」

ほむら(暮らして「いた」、ね…)

クレス「僕とチェスターが近くの森で狩りをしている最中に村が襲われて、そのときに僕は両親を、
    チェスターは妹を失った」

ほむら「…」

クレス「簡単だけど二人で墓を建てて、そこで誓ったんだ。絶対に仇を取るって」

クレス「でも、僕たちはダオスに全く歯が立たなかった。あの時、チェスターが僕たちを守ってくれなかったら…!」

ほむら「クレスさん」


ほむらの呼びかけにクレスは落ち着きを取り戻す。

31 : VIPに... - 2014/08/03 22:50:13.84 0Xe9k2eb0 31/649

クレス「…ごめんね。あのときの事を思い出すとどうしても感情的になって」

ほむら「いいえ、大丈夫よ。それに…大事な人のことになると感情を抑えれないのは私も同じ」

クレス「ほむらも?」

ほむら「ええ。抑えきれない、っていうのが正解かもしれないけど」

クレス「そうか…。僕たちは似ているかもしれないね」

ほむら「そうかもしれない、でも明らかに違う所もあるわ」

クレス「? なんだい?」

ほむら「クレスさん、貴方はまだ汚れていない」

クレス「汚れて…?」

ほむら「ええ。私はこの両手も、心も汚れてしまっているから」

クレス「そんな…っ!」

ほむら「事実よ」

ほむら「クレスさん、あなたは仲間を、…友達を殺したことがあるかしら?」

クレス「!?」

32 : VIPに... - 2014/08/03 22:51:02.89 0Xe9k2eb0 32/649

予想外の質問にクレスは言葉を失う。そんなクレスの様子もおかまいなしに
ほむらは続ける。


ほむら「私は殺したわ。何人も。何度も。魔法少女同士で命の奪い合いもしたし、
    魔女になった仲間を手にかけたこともある。そして…」


少し、言葉を詰まらせる


ほむら「守りたいと思っていた、大切なはずの子の命も奪ったわ」

クレス「…」

ほむら「守れなかったからやり直して…!守り切れなかったから殺してやり直して…!」

ほむら「…こんな私に仲間なんていていいのかしらね……」


力なく言葉を出し切りうなだれる。

33 : VIPに... - 2014/08/03 22:51:45.92 0Xe9k2eb0 33/649

クレス「…苦しかったんだね」

ほむら「えっ…?」

クレス「誰にも言えず、ずっと一人で胸の中に抑えて、押し殺して、戦って、傷ついて、やり直して」

クレス「殺したく無いのに、殺すことになってしまって」

ほむら「…なんで、そう言い切るのかしら?」

クレス「だって、君は今ものすごく辛そうな顔をしているから」

ほむら「違う!」

ほむら「私はそんな…っ!慰めてもらいたかったわけじゃない!」

ほむら「ただ…っ!私は…!こんな汚れているのに…仲間なんて呼ばれていいのか
    って思っただけで…」

クレス「仲間だよ」

ほむら「っ…!」

クレス「誰がなんて言おうが、僕たちは君たちを引き入れるって決めた。確かに、
    人を殺したことは悪くないわけじゃない」

クレス「ただ、重要なのは君が今までにしてきたことじゃない。これからどうするかなんだ」

ほむら「これから…どうするか…?」

クレス「そうだよ。きっかけは違うけど、僕たちは同じ目的の為に旅をする仲間なんだ」

クレス「君は何の為に戦っているんだい?」

ほむら「…大切な人を、守るためよ」

クレス「僕もだ。…その為にどうするんだい?」

ほむら「ダオスを…倒す…」

クレス「僕もだよ。ほむら」

クレス「だから一緒に頑張ろう。旅の仲間として」

ほむら「ありがとう…クレスさん」

クレス「僕だけじゃない。ミントも、クラースさんも、アーチェも。みんな君の事を仲間だと思っている。
    それを忘れないでほしい」

ほむら「…はい」

クレス「…ふぅ。ごめんねなんか偉そうなこと言っちゃって。まだまだ半人前なのに」

ほむら「いえ、少し…気が楽になったわ」

クレス「それならよかったよ…。よっ、っと」


クレスが声を出して立ち上がる。

34 : VIPに... - 2014/08/03 22:52:40.27 0Xe9k2eb0 34/649

クレス「じゃあ僕は客室に戻るよ。クラースさんが心配だからね」

ほむら「…どんな姿をしているか容易く想像できるわ」

クレス「多分ほむらが想像した格好で正解だと思うよ」

ほむら「今度から汚れ役のスペシャリストと呼ばせてもらおうかしら」

クレス「ハハッ、嫌がると思うよクラースさん」

ほむら「嫌がることをするのが汚れ役の仕事よ、っと」


立ち上がりスカートの埃を手で払う。


ほむら「私も戻るわ。ちょっと手がベタついてきたし」

クレス「じゃあ行こうか」

ほむら「ええ」


そう言い交し二人は甲板を後にした。

35 : VIPに... - 2014/08/03 22:53:32.90 0Xe9k2eb0 35/649

夜。甲板上


食事を終えたほむらは再び甲板に出ていた。


ほむら(――私を仲間と言ってくれた)

ほむら(仲間、か)


共に戦った魔法少女の顔が頭をよぎる。
それと同時に敵対した魔法少女の顔が頭をよぎる。
魔女になってしまった姿も。動かなくなった姿も。


ほむら(――っ!)

ほむら(…今は、この旅の為に集中しよう)

ほむら(私のことを仲間と言ってくれた人たちの為にも)


ほむらは顔を上げた。綺麗な星が空を埋め尽くしている。


ほむら(綺麗…。そういえばこんなにゆっくりと星空を眺めたことなんてなかったわね)





アーチェ「そんな綺麗な星空に見とれているほむらちゃんを後ろからドーン!」

ほむら「きゃぁぁぁぁ!」


音もなく忍び寄ってきたアーチェがほむらの背中を押した。思わず大声を上げる

36 : VIPに... - 2014/08/03 22:54:25.88 0Xe9k2eb0 36/649

ほむら「驚かさないでよもう!」

アーチェ「ウッシャッシャ!ごめんごめん」


悪びれも無く謝るアーチェに少し腹を立てながらも、ほむらは星空鑑賞を再開する。


アーチェ「星空がそんな珍しいの?」

ほむら「いえ、珍しいっていうか…。こんなにゆっくり眺めたことがなかったから」

アーチェ「ふーん」

ほむら「でも、私達の世界じゃこんな綺麗な星空なかなか見れないと思うから
    珍しいといえば珍しいのかもしれないわね」

アーチェ「え?星が見えないの?」

ほむら「そうじゃないけど、私達の世界だと夜でも街の光が眩しすぎて、
    光の弱い星は見えないの」

アーチェ「へー!なんだかよくわからないけどなんか凄そうだね!」

ほむら「ええ…、まあ凄いって思ってくれていて大丈夫よ」


めんどくさそうなのでほむらは説明を放棄した。


アーチェ「でもほむらちゃんの世界行ってみたいなー」

ほむら「あら、来れるのなら案内してあげるわよ?」

アーチェ「こう、ほむらちゃんが元の世界に戻る瞬間にガバッと抱き付いて!」

ほむら「自力で頑張って来なさい」

アーチェ「えー」

ほむら「えー、じゃないの」



どうやら本気でほむらの世界へ行く手段を画策しているのか、あーでもない、こーでもないと
ブツブツ呪文のように唱えだした。


ほむら「まずはこの旅が終わらせてからでしょ?それに帰る手段が確定しているわけでもないし」

アーチェ「あー、まぁそうねー」


力無く言葉を返すアーチェ。波の音が辺りに響く。

37 : VIPに... - 2014/08/03 22:56:40.84 0Xe9k2eb0 37/649

ほむら「…クレスさんが私を仲間と言ってくれたの」

アーチェ「うん、クレスから聞いたよ」

ほむら「そう…」

アーチェ「ほむらちゃんは難しく考えすぎ!」

ほむら「えっ…?」

アーチェ「だってさ!『あたしが過去にあなたを殺しました』って言われてもさ!ちっとも…、
     ってワケにはいかないけど、…うん!そこまで気にしないし!」


慰めてくれているのだろうか?ほむらは混乱している。


アーチェ「えーっと…、つまりー…、何が言いたいかっていうとー…、
     ……うん!あたしは何があってもほむらちゃんと友達だよ!ってこと!」

ほむら「ええっと…」

アーチェ「だからさ!もっと楽しくいこうよ!…厳しい旅だと思うけどさ、
     だからこそ笑ったりして辛さを吹き飛ばさないと!」

ほむら「なんで…アーチェさんは私と友達になってくれたの?」

アーチェ「え?そんなの簡単だよ?」


アーチェ「あたしが仲良くなりたい!って思ったから!」

ほむら「仲良く…なりたい…」


ほむら「フッ… ……フフフッ!」

アーチェ「あー!笑ったなー!」

ほむら「だって…フフッ…全然…理由になってないし…フフフッ!」

アーチェ「いーじゃんそんなの!説明できないんだから!」

ほむら「説明できない、か。…そうね」

アーチェ「そうそう。説明できなくてもいいのよっ。分かってもらえたらね」

ほむら「うん…、ありがとうアーチェさん」

アーチェ「じゃあお礼として今日も抱き枕になって…」

ほむら「残念、今日はちゃんとベッドが三つあるのでした」

アーチェ「ちぇー」

ほむら「さて、そろそろ戻りましょう。風が強くなってきたわ」

アーチェ「そうだね…じゃあせめて客室までほむらちゃんに抱き付いて歩くのだ!」

ほむら「あら、なんということでしょう。潮風のベタつきよりうっとおしいでは
    ありませんか」

アーチェ「ひどっ!」

ほむら「ごめんなさい。本音がすぐ口に出てしまうタイプなの」

アーチェ「それ謝られてる気がしないんだけど!?」


ほむらはすでにアーチェの扱い方をある程度把握していた。
そしてそれを楽しんでいた。
誰がどう見ても、仲の良い友達同士でじゃれあっている…そんな光景がそこにあった。


船は進む。アルヴァニスタへ向かって――

38 : VIPに... - 2014/08/03 22:57:47.66 0Xe9k2eb0 38/649

アルヴァニスタの都


船旅を終えたほむら達はアルヴァニスタの都にいた。


クラース「これからの予定だが…、今日はアルヴァニスタの都で一晩過ごし、
     明日の朝、荷物を整えて出発する。いいな?」

アーチェ「はーい」

クラース「よし、じゃあ私は宿屋で休む。各自自由行動だ。だがちゃんと休んでおけよ?
     当分ベッドで眠れないんだからな」

クレス「分かりました」

クラース「じゃあ解散だ」

ほむら(さて…どうしましょうか)


解散といわれても特にやりたいことがなかった。日もまだまだ高く眠たくない。


ほむら(適当に街を散策しましょうか…)

クレス「僕はちょっと剣の手入れをしてもらってくるよ」

アーチェ「あ、あたしも付いてくー」

ミント「分かりました」

ほむら「ミントさん」

ミント「はい?なんでしょう?」

ほむら「もしよかったら街を案内してもらえないかしら?散策しようと
    思ったけれど土地勘が無くて…」

ミント「えぇ、構いませんよ」

ほむら「ありがとう。よろしく頼むわ」

39 : VIPに... - 2014/08/03 22:58:30.53 0Xe9k2eb0 39/649

ほむら(大きな街ね…。流石城下町、といったところかしら)

ほむら(街の雰囲気だけ見ていると、とても世界を滅ぼす魔王がいる世界と思えないわ)


ほむらは辺りを見回しながらミントと並んで歩く。


ミント「難しい顔をしてますね」


ミントが話しかけてきた。そんな顔をしていたのだろうか?とほむらは
自分の顔を両手でさするように触れた。


ほむら「あ、ええ。このあたりは平和なんだな、って思って」

ミント「そうですね。ここより更に東にあるミッドガルズという街が
    狙われているらしいです。…近いうちに戦争になるんではないか、と」

ほむら「…戦争、ね」

ほむら(どんな世界でもいい響きではないわね)

ほむら「私達もいずれはそこに向かうんでしょう?」

ミント「そう、なりますね」


ミントの顔が曇る。争いとなると死傷者は避けられないのが分かっているからだ。

40 : VIPに... - 2014/08/03 22:59:29.13 0Xe9k2eb0 40/649

ほむら「例えば…だけど」

ほむら「もし、ダオスと話合いだけで解決できるのなら納得できる?」

ミント「私は…、争いが避けられるのなら…。ですが…」

ほむら「そうね。他の人は納得しないでしょう」

ほむら「お互いに、信じているものが違うもの」

ミント「信じているもの…、ですか」

ほむら「ええ。私がとある人のことを悪だという。でも他の人はその人を善だという」

ほむら「どれだけ声を大にして、説明しても信じてもらえない。そいつが善だと信じているから。
    少しでも引っかかる点があっても見ようとしない。信じているから」

ミント「ですが…っ!話し合えば解決する場合もあります!」

ほむら「そうね。でも解決しない場合もある」

ミント「…」

ほむら「…。ごめんなさい。こんな話をしたくて付いてきてもらったわけじゃないのに」

ミント「いえ…。ほむらさんがおっしゃることもわかります。…ですが」



「おねーちゃん!」


ミントのセリフを遮るように一人の少年が話かけてきた。

41 : VIPに... - 2014/08/03 23:00:18.33 0Xe9k2eb0 41/649

ほむら「? 私達のことかしら?」

「そーそー!おねーちゃん!俺と勝負しようよ!」

ほむら「…はい?」

「かけっこで俺と勝負だ!」

ほむら「…そんな気分じゃないのよ。他を当たって頂戴」

「あー、負けるのが怖いんだー?」

ほむら「そんな見え透いた挑発に乗るほど愚かではないわ。それじゃあね。
    ミントさん、行きましょう」

「べーっだ!このペチャパイ!」


立ち去ろうとしたほむらの動きが止まる。


ほむら「…今、なんて言ったのかしら?よく聞き取れなかったわ」

「このペチャパイ根暗女って言ったんだよ!」

ほむら「……。」

ミント「ほ、ほむらさん?あ、あの…子供の言ったことですし…」

ほむら「ミントさん、今はもう話合っても解決できない場合ってやつなのよ」

ほむら「…、いいわ貴方。挑発に乗ってあげようじゃない。私に喧嘩を売ったこと、
    後悔させてあげるわ」

42 : VIPに... - 2014/08/03 23:01:20.74 0Xe9k2eb0 42/649

少年「じゃあルールな!さっき教えたコースを三週して先にゴールした方の勝ち!以上!」

ほむら「ええわかったわ」

少年「じゃあおっぱい大きい方のねーちゃん!スタートの合図!よろしく!」

ミント「えっ?…えっ?」

ほむら「無駄な時間を取らせてごめんなさい…。すぐに終わらせるわ」

少年「はーやーくー!」

ミント「えぇっと…、位置についてー」

ほむら(…)

少年(…)

ミント「よぉい」

ほむら(…)

少年(♪)

ミント「スタート!」


合図と同時に少年の姿が消えた。いや、見失ったのだ。


ほむら(…はっ?)


呆気にとられ一瞬、完全に動くが止まるほむら。


ミント「ほ、ほむらさん!スタートしていますよ」

ほむら(し、しまった!)


慌ててスタートし、追いかけるほむら


ほむら(何て速さ…!こっちの世界の人の身体能力を甘く見ていた…!?)


だが、そこは魔法少女。魔力を脚力に注ぎ、もの凄い勢いで追い上げる。


ほむら(…!背中が見えたわ)


二週目に突入してついに少年の背中を捉えた。ジワジワと差を詰めていく。

43 : VIPに... - 2014/08/03 23:01:54.63 0Xe9k2eb0 43/649

少年(やっべ!ねーちゃんはえー!)


慌てて更に速度を上げようとするがほむらも負けじと速度を上げる。


ほむら(根比べなら…負けない!)


ファイナルラップ突入時、その差はほとんどない、が少年が一歩分ほどリードしていた。


少年(このままっ!一気に!)

ほむら(ほんの少しの差が埋まらない…!)


少年がリードしたままコースを消化していき、残るは最後の直線と階段のみ。
お互い死力を尽くし直線を走りきる。少年のリードは変わらない。


少年(残りは階段だけ!勝った!)

ほむら(勝った、とでも思っているんでしょうが…)

ほむら(その油断が命取りよ)

ほむら(目に焼き付けておきなさい。魔法少女になると…こういうこともできるのよ)


ほむらは階段の一段目に右足をかけた、その瞬間。全ての力を右足に集中させ、そして…

ほむらは、跳んだ

十数段はあるはずの階段を一気に跳び越した。


少年「ちょっ!?」

ほむら(私に喧嘩を売った時点で貴方は愚かだった)

ほむら(愚か者が相手なら、私は手段は選ばない――)


中傷の的になった、ほむらの胸がゴールテープを切った。

44 : VIPに... - 2014/08/03 23:02:30.97 0Xe9k2eb0 44/649


ミント「ほむらさん、おめでとうございます」

ほむら「ハァ…ハァ…」

ミント「だ、大丈夫ですか?」

ほむら「し、心配いらないわ。ハァ…ハァ…」


額に浮き出た汗を拭い、そのまま髪をかき上げる。


少年「だぁぁぁぁ!負けたぁぁぁ!」


地面に大の字に寝転び、少年は悔しさを爆発させるように叫んだ。


ほむら「まぁ…最後は少し大人げないと思ったけど、勝ちは勝ちね」

少年「あれだけスタートで差が付いたのに負けたら文句言えないって」

ほむら「あら、潔いのね」

少年「勝負の世界は結果が全てって言葉があるもん。…はい、賞品」

ほむら「賞品?」


少年から小さな紙袋を受け取る。


少年「まー大したもんじゃないけどさ」


ほむらは紙袋を広げて中身を確認すると、そこにはほむらの世界でも目にしたことがある
物体が入っていた。

45 : VIPに... - 2014/08/03 23:03:24.71 0Xe9k2eb0 45/649

ほむら「これって…、グミ、かしら?」

ミント「オレンジグミですね。こちらの世界の基礎的な回復薬品です」

ほむら「へぇ…。ただのお菓子にしか見えないわ」


そんなやり取りをしていると少年が勢いよく立ちあがった。


少年「よっ、っと!じゃあ俺行くね。おねーちゃん!悪口言ってごめんね!」

ほむら「あらあら、随分と可愛くなったわね」

少年「なんかおねーちゃんから速そうな気配がしたからさ!どうしても勝負したくなったからついつい…」

ほむら「いいわよ。私も大人げなかったわ」

少年「じゃあね!おねーちゃん達!楽しかったよ!」


そう言いながら少年は疲れも見せず走り去っていった。


ミント「フフッ…。お疲れ様でした。ほむらさん」

ほむら「なぜ貴方が一番楽しそうにしているのかしら?」

ミント「いえ、…失礼な言い方かもしれませんが、ほむらさんの年相応な表情
    を見れた気がして」

ほむら「…そういえばさっきの子も根暗って言ってたわね」


先程言われた言葉をブツブツと繰り返す。それなりに気にしているようだ。


ミント「すいません!そういうつもりじゃ…!ほむらさんはどんな表情でも素敵ですよ」

ほむら「…ありがとう」


下手な慰めと思ったのか、それとも照れているのかわからないがほむらは短い言葉を返した。

46 : VIPに... - 2014/08/03 23:04:08.53 0Xe9k2eb0 46/649

ほむら「流石にちょっと疲れたわね」

ミント「どこかでお茶にでもしましょうか」

ほむら「あら、いいわね」


ミントの提案にほむらは二つ返事で了承する。


ミント「それと、ほむらさん」

ほむら「? 何?ミントさん」

ミント「先程の話ですが、やはり人はいつか分かり合えるものだと私は信じています」


真っ直ぐにほむらの目を見るミント。


ほむら「…本当に、そうかしら」

ミント「はい。いくら時間がかかっても…諦めなければ必ず」

ほむら「私は時を繰り返して…、繰り返し過ぎて…。繰り返せば繰り返すほど周りの人
    と距離が開いていくのを感じたわ」

ミント「それでも、一度は仲良くなれたのなら、再び仲良くなれるはずです。
    お互いが歩み寄ることができたのなら」

ほむら「歩み寄る…」

ミント「はい。いがみ合っても解決はしませんから」

ミント「先程の少年とも、結局最後は仲良くなれたじゃないですか」


ミントはニコリと笑う。


ほむら「…そうかも、しれないわね」


ポツリ、とほむらは呟き、そして気分を切り替えるかのように大袈裟に
大きく伸びをした。


ほむら「う~ん! …さぁ、そろそろ行きましょうか」

ミント「はい、そうですね」

ほむら「美味しい紅茶が飲みたいわ」

ミント「フフッ、わかりました。案内しますね」


長い髪を揺らしながら、二人は雑踏に紛れていった。

47 : VIPに... - 2014/08/03 23:05:00.96 0Xe9k2eb0 47/649

翌朝、雑貨屋前にて


クラース「さて、ではまずはここで必要なものを揃えようか」

クレス「本当に必要な物だけにしないといけませんね。持ち運びするのが大変ですし」

クラース「あぁ、そうだな。…聞いているかアーチェ?」

アーチェ「聞いてるよ!というかわざとらしく名指しで注意しないで!」

ほむら「あの…」

クラース「ん?どうしたほむら」

ほむら「私の能力なんだけど―――」



クラース「ほむら、君を仲間に引き入れて私は本当によかったと思っている」

クレス「ありがとうほむら。仲間になってくれて」

ミント「本当に…よかったです」

アーチェ「ほむら様!」

ほむら「…えっと、どういたしまして」


全ての荷物を盾に収納したほむらを崇める四人を見て、
ほむらはむず痒いような感覚に陥っていた。


クレス「まさか装備だけ持って旅ができる日が来るなんて」

クラース「あぁ…。本当にな」

ミント「身体が軽い…。こんな気持ち初めて」

アーチェ「もう何も怖くない」

ほむら「そのセリフはダメよ。やめて」


二人の首から上があるのを確認し、
どこかで聞いたようなセリフを必死で止めるほむら。




クラース「さて、それでは出発するぞ。目指すはここから南東、モーリア坑道だ」


ほむら(いよいよ本格的な旅が始まるのね)


何が起きるかわからない。それでも怖くない。


ほむら(今は、一人じゃない――)

51 : VIPに... - 2014/08/03 23:44:21.62 0Xe9k2eb0 48/649

アルヴァニスタの都~モーリア坑道


アーチェ「そういえばほむらちゃん」

ほむら「ん?何?」

アーチェ「ヴェネツィアでほむらちゃんがベッドに置き忘れてたのって、あれ武器なんだよね?」

ほむら「ええ、そうよ」

クレス「へぇ、よかったら見せてくれないかい?」

ほむら「いいわよ。扱いには気を付けてね」


ほむらはそう言い、盾から一丁の拳銃を取り出しクレスに渡す。


クレス「見たことない武器だね」

クラース「これはどうやって使うんだ?」

ほむら「ちょっと貸して頂戴」

クレスから拳銃を受け取り、手慣れた手つきでセーフティを外す。
その時、草むらから鋭い嘴とかぎ爪を光らすモンスターが空を滑るように飛び、
襲いかかってきた。


クレス「! ほむらちゃん!後ろ!」


ほむらはクレスの呼びかけよりも早くその気配に反応し、手に持っていた拳銃の
引き金を二度引いた。パァン!と乾いた音が二度響く。
一発目はモンスターの右の翼に命中し、続けざまに撃った二発目が頭部を射抜いた。
モンスターはそのまま力無く地面に落下し、二度と動くことは無かった。

52 : VIPに... - 2014/08/03 23:45:21.77 0Xe9k2eb0 49/649

ほむら「…と、まぁこんな感じの武器ね」


少しも動揺せずに、襲い掛かってきたモンスターの命を奪ったほむらを見て、
クレス達はほむらがいかに戦うことに慣れているかを感じ取った。


クラース「お見事、と言っておくべきかな?」

ほむら「あれだけ直線的に突っ込んでこられたら外す方が難しいわ」

クレス「弓に近い武器って感じかな?」

ほむら「飛び道具って点だけでいえば同じね。ただ、この武器は弓で使う矢の
    代わりに弾と呼ばれるものを消費するんだけれど」

ほむら「こちらの世界では手に入れることができないから、あんまり無駄に
    消費はできないわね。ストックはある程度確保してるけど」

クラース「なるほどな。他にも武器はあるのか?」

ほむら「似たような飛び道具が何種類か、あとは自分で作った爆弾ね。
    火薬が手に入れば作ることもできるかもしれないけど…、
    洞窟内での使用は極力避けたいわね」


ほむらはモーリア坑道が地下に深く続く洞窟だと聞き、手持ちで使える
武器はかなり限られるだろう、と考えていた。

53 : VIPに... - 2014/08/03 23:46:32.31 0Xe9k2eb0 50/649

クラース「そうだな。洞窟が崩れて生き埋め、なんて結末は勘弁願いたい」

ほむら「とりあえず基本的にはみんなのフォローに回るわ。いざとなれば
    近接戦闘でもなんでもするけれど」

クレス「大丈夫なのかい?」

ほむら「ええ、一対一で倒しきるよりは、時間を稼いだりする方が向いているけど。
    このパーティのエースを生かす立ち回りをするわ」

クラース「そんなウチのエース様は…」


チラリとアーチェを見る。


アーチェ「え?あたし?」

クラース「不本意だがな…。お前の呪文は火力、範囲ともに頼りになる」

アーチェ(なんか知らないけど褒められてる!)

ほむら「クラースさんの召喚術はどんな使い方なのかしら?」

クラース「現段階では敵一体を狙って周りの敵も巻き込めればいい…。
     そんな感じだな」


その時、再びガサガサッ、と草むらから音を立て、今度は複数のモンスターが
飛び出してきた。


クラース「やれやれ、今日は千客万来だな」


そう言いながらクラースは帽子を被りなおし、詠唱の準備に入る。


アーチェ「ほんとにねー。まだ都を出たばっかだってのに」


文句を垂らしながらアーチェもクラースに続き魔力を練り始める。
箒にまたがり、ふわふわとその場に浮かびながら。

54 : VIPに... - 2014/08/03 23:47:35.21 0Xe9k2eb0 51/649

クレス「はっ!」


そんな二人のやり取りを気にもせず、クレスは剣を抜きモンスターの群れに立ち向かう。


ほむら(さて、いよいよ実戦ね。みんなの動きを把握しましょう)


ミント「ほむらさん、大丈夫ですか?」

ほむら「ええ。さて…、今回はミントさんには楽をさせてあげるわ」


ほむらはクレスと詠唱中のクラース、アーチェの真ん中辺りに位置取り周囲を警戒する。


ほむら(時間停止で詠唱の時間を稼いでもいいけど…。使えないケースも想定しないとね)


骸骨姿のモンスターがクレスに斬りかかる。クレスは慌てる様子も無く冷静に剣で受け、
弾き飛ばす。

その脇をすり抜け、クラースに突進する一つの影があった。ほむらはそれを見逃さず迎撃に向かう。
狼のようなモンスターだ。異常なほど牙と爪が鋭い。


ほむら(弾も節約できる内はしておきましょう…)


狼型のモンスターは、目の前に立ちはだかったほむらに跳びかかる。
爪を振り下ろす、ほむらはそれをバックステップで下がってかわす。
狼は着地と同時に大きく口を開け、ほむらの喉元を食いちぎろうと距離を詰める。
そんな狙いを簡単に見透かし、ほむらは左腕の盾を狼の口目掛けて叩き付けた。

硬いものが砕けた感触があった。どうやら狼の牙が根本から折れたようだ。
苦しそうにのたうち回る狼を、ほむらはサッカーボールのように蹴り飛ばした。


ミント(痛そう…)

55 : VIPに... - 2014/08/03 23:49:08.48 0Xe9k2eb0 52/649

クラース「この指輪は御身の目。この指輪は御身の耳。この指輪は御身の口。我が名はクラース。
     指輪の契約に基づき、この儀式を司りし者。我伏して御身に乞い願う。
     我盟約を受け入れん・・・我に秘術を授けよ!…シルフ!」


呼びかけに答えるようにクラースの指輪が激しい光を放つ。ドレスを身にまとい、長い髪をなびかせた
三体の精霊が光と共に現れた。精霊は風を巻き起こしモンスターを切り刻んでいく。


ほむら(これが…召喚術)


初めて見た召喚術に思わず目を奪われた。


アーチェ「…うーん!めんどいから以下省略!アイスストーム!」


耳を疑うような適当な詠唱に肩を落とすほむらを無視するかのように、氷の礫をまとった風が
モンスターを襲う。

こうして半壊したモンスターの群れをクレスが一匹一匹確実に仕留めていく。


ほむら(魔術と召喚術でダメージを与え…、クレスさんの剣術で仕留める。
    私はその連携を繋ぐ。イメージ通りね)


最後に残ったモンスターをクレスが薙ぎ払い、モンスターの群れを掃討した。


クレス「ふぅ」

アーチェ「みんなお疲れー」

ミント「みなさん、お疲れ様です」

クラース「今回は出番が無かったな、ミント」

ミント「はい、ほむらちゃんが今回は楽させてくれると言ってくれたので」

ほむら「初陣で誰かが負傷するのは避けたかったもの」

クラース「まぁ、こんな風にミントが楽できる展開が一番理想だな」

クレス「ですが、マクスウェルはこうはいかないでしょうね」

ほむら「精霊の試練、ってやつね」

クラース「向こうが契約してくれる気があるのなら、だけどな」


そう言いながら再び帽子を被りなおしたクラース。


クラース「さて、そろそろ出発するぞ。またモンスターが寄ってこないうちにな」

56 : VIPに... - 2014/08/03 23:49:55.53 0Xe9k2eb0 53/649

その後、何度かモンスターの襲撃を退けたクレス達。
夕方になり、今日の移動は切り上げて野営の準備に入った。


ほむら「えっと…まずテントでしょ」

ドサッ

ほむら「料理道具に…」

ガシャン

ほむら「食材…」

ドサドサッ

ほむら「あぁ。あと食器ね」

カシャン


クラース「しかし…すごい光景だな」

ミント「そ、そうですね」


盾から次々と必要なものを取り出すほむら。慣れてない人が見たらとても奇妙な
光景である。


ほむら「えっ?」

クラース「いや、なんでもない。…準備を済ませてしまおうか」

57 : VIPに... - 2014/08/03 23:50:39.83 0Xe9k2eb0 54/649



パチパチと薪が爆ぜる音と本のページがめくる音が闇に消えていく。
クラースはマグカップに淹れたコーヒーを一口啜り、更にページをめくる。

テントから人が出てくる気配がした。


クレス「クラースさん、交代します」

クラース「ああ、もうそんな時間か」


クラースは本を閉じ、少し身体を伸ばした。
しかし、クラースはその場を動かない。どうやらクレスに何か言いたいことがあるようだ。


クレス「クラースさん?どうしました?」

クラース「クレス、まだ初日だが…ほむらをどう思う?」

クレス「正直、想像していた以上でした」

クラース「やはり同じ意見、か…」


クレスもクラースも、ほむらの動きを高く評価していた。いや、恐らくミントもアーチェもそう
思っているだろう。

58 : VIPに... - 2014/08/03 23:51:28.32 0Xe9k2eb0 55/649

クレス「実戦の経験値が高すぎます…。僕なんかより、もっと」

クラース「いや、我々より…というべきだ。最初は彼女の能力だけを見てしまっていたが、
     もっとも秀でていたのは戦闘を俯瞰で見る能力だ」

クレス「俯瞰、ですか?」

クラース「そうだ。戦場の状況を常に把握し、前衛と後衛の距離が間延びしているなら
     その距離を埋める。撃ち漏らした敵を確実に仕留める。恐ろしいほど冷静に、だ」

クレス「どれだけ戦えばあれだけの動きができるようになるでしょうか」

クラース「さあな…。私には見当もつかんよ。…それにほむらはもう先を見据えているようだ」

クレス「どういうことですか?」

クラース「最初のモンスターの群れを撃退したときのことだ。ほむらは時間停止を使わなかった。
     恐らく時間停止の使えないケースを想定して動いていたはずだ」

クレス「僕たちが初めてパーティとして挑んだ戦闘の初戦で、ですか…」

クラース「ああ。一目見て試す余裕がある相手だと判断したらしい」

クレス「末恐ろしいというか…頼もしいというか」

クラース「頼もしいには違いないが…問題もある」

クレス「と、いうと?」


ほむら「私がいなくなったときについて、かしら?」


テントから姿を現し。クレスとクラースの元へ寄ってくる。

59 : VIPに... - 2014/08/03 23:52:14.67 0Xe9k2eb0 56/649

クラース「起きていたのか」

ほむら「ええ。過剰に評価されているのに居た堪れなくなったわ」

クラース「そんなことはないぞ?正当に評価しているつもりだ」

ほむら「あら、それは喜ばしいわね」


そう言いながらほむらは盾からティーセットを取り出し、紅茶を淹れはじめた。


ほむら「あなたたちもどうかしら?」

クレス「僕にも淹れてもらえるかい?」

クラース「私は遠慮しておこう。飲みかけがある」

ほむら「そう、…はいクレスさん」


ありがとう、といいクレスはそれを受け取った。
受け取る際にカシャン、とティーカップが音を立てた。


クレス「それで、さっきの話だけど…、ほむらがいなくなったときって?」

クラース「簡単な話だ。強大な力があればそれに頼りたくなる。だが、頼りすぎた状態で、
     いざその力が使えなくなったらどうする?」

クレス「それは…」

クラース「依存は停滞だ。だからこそ我々も強くならねばならない。依存しないためにな」

ほむら「まぁ、私は私のできることをやるだけよ。使えないと判断したら置いていけばいいわ」

クラース「我々が使えないと判断されそうで怖いな」

ほむら「大丈夫よ。私は物持ちがいい方だから。盾の中に要らないものもいっぱい入ってるし」

クラース「フッ…せいぜい捨てられないように努力するさ」

60 : VIPに... - 2014/08/03 23:53:04.92 0Xe9k2eb0 57/649

クラース「…ということらしいぞリーダー殿?頑張らなくてわな」

クレス「そ、そうですねクラースさん」


冗談を冗談と受け取るのに失敗したクレスを見て、ほむらは筋金入りの真面目な人ね、と
改めて思った。


ほむら「そういえばクレスさん、出発の前に盾に仕舞った袋に包んだものって…」

クレス「あぁ、それは槍なんだ。グングニルっていう」

ほむら(グングニル…、聞いたことがあるわね。こっちの世界だと北欧神話に出てくる
   オーディンの武器、だったような)

クレス「とても強力な武器なんだけど…、僕には分不相応でね。まだまだ腕が足らないみたいなんだ」


ほむらはヴェネツィアの酒場での会話を思い出した。


ほむら(そう…、だからあの時あんなことを言ったのね)


ほむら「武器の扱いに関してはほとんど知識が無いのだけれど…、使わないと
    永遠に使いこなせないんじゃないかしら」

クレス「…僕もそうだと思っている。…けど」

ほむら「扱えない武器で戦って後ろの人たちに危害が及ぶのを恐れているのね」

クレス「!?」


全てを見透かされていた。

61 : VIPに... - 2014/08/03 23:53:57.34 0Xe9k2eb0 58/649

ほむら「クレスさん、敢えて言わせてもらうわ。このパーティでのエースはアーチェさんだけど、
    このパーティの今後はあなたにかかっているといっても過言じゃないわ」

クレス「僕に…!?」

ほむら「ええ。伸びるも止まるも貴方次第。だから恐れないで。何があっても私がフォロー
    するわ」

クラース「私達、だろう?」

クレス「ほむら…、クラースさん…」

クラース「いつかは私から言おうと思っていたんだが、すまなかったなほむら」

ほむら「いえ、大丈夫よ。…それにクレスさんなら乗り越えてくれるって信じているから」


ほむらは少し冷めてしまった紅茶に口をつけた。


ほむら「それじゃあ、これは渡しておくわね」


そう言い、ティーカップを仕舞ったほむらは盾から布に包まれたグングニルを取り出し、
クレスに手渡した。
どしっとした重みが手に伝わる。


クレス「やっぱり、重いなこれは」


握ったままクレスは呟く。


ほむら「返品は受け取らないわ。頑張って使いこなして頂戴」


少し意地悪そうに笑う。


クレス「はぁ…、スパルタだな」


クレスは諦めたように軽く笑みを浮かべる。だがもう迷いは無かった。


クレス「僕はこいつを使いこなしてみせる。必ず」

クラース「期待しているぞ」

ほむら「心配はしていないわ」


じゃあ後は頼んだぞ、と言い残しクラースはテントに入っていった。

それじゃあ私も、といいほむらもテントに戻った。


「ほむらちゃーん!どこ行ってたのー!」

「きゃっ!そうやってまた貴方は…」


そんなやり取りがクレスの耳に入ってくる。ハァ、と大きなため息を漏らした。


グングニルを布から取り出す。


クレス(今はまだ…、分不相応かもしれない。でも必ず…!)


クレスは握りしめたグングニルを身動きせずにしばらく眺めていた。

夜が更けていく―――

62 : VIPに... - 2014/08/03 23:54:52.84 0Xe9k2eb0 59/649

モーリア坑道

ほむら「想像していたよりもずっと明るいわね」

クラース「この洞窟には何度も国の調査団が出入りしているからな。明かりは絶えず
     灯っている」


思った以上の明るさに驚くほむら。これなら松明をもって歩く必要もなさそうだ。


クラース「さぁ、降りるぞ」


先導するクラースを追って、ほむらの視界に飛び込んできたのは永遠に続いているかのように
長い、長い階段だった。


ほむら「ここを…、降りていくの?」

クレス「一度最深部まで降りて空振りだったときは絶望したよ…」

ミント「ですが、そのおかげでこの階段の扉が開いたわけですし」

アーチェ「この階段も充分キツいよ…」

ほむら「足を踏み外したらどこまで落ちていくのかしら」

アーチェ「やめて!そういうこと言わないで!」

クラース「っ!洞窟内で声が響くんだからそう大声を出すな」


クラースは普段より少しだけ抑えた声でアーチェを注意する。


クレス「さて行こうか。足元には十分気を付けてね」

63 : VIPに... - 2014/08/03 23:55:51.59 0Xe9k2eb0 60/649

最深部直通階段途中、結界内



アーチェ「あと半分くらいだっけ?」

ミント「そうですね。確かここがちょうど中間地点だったはずです」


アーチェは地面に座り込みミントに尋ね、ミントは紅茶を淹れながらその質問に答えた。


ミント「みなさん、お茶が入りました」


ここはモンスターが寄ってこれない場所らしい。それを利用して少し休憩すると
クラースは提案した。束の間のティータイムである。


アーチェ「小腹が空いたぁぁぁ」

クラース「もうすぐ戦闘だ。腹が一杯で動けないなんて笑えないぞ?」

アーチェ「でーもー、お腹空いて力出ないのもダメじゃん?」

ほむら「確かに…それもそうね。じゃあこれでもどうぞ」


ほむらは盾の中から小さな箱を取り出す。

64 : VIPに... - 2014/08/03 23:56:57.59 0Xe9k2eb0 61/649

アーチェ「これは?」

ほむら「私の世界にあるお菓子よ。御茶請けにして頂戴」


箱の中から出てきたのは、スナック菓子をスティック状にし、更にチョコレートで
コーディングしたお菓子だった。このお菓子を見る度に、ほむらはとある魔法少女の
ことを思い出す。


――食うかい?


ほむら(貴方ならそう言って差し出すんでしょうね、杏子)

アーチェ「いっただっきまー…。んーっ!美味しいこれ!」

ほむら「一人で食べきらないでよ?」

クレス「僕も一本もらっていいかい?」

ほむら「ええ。みんなで食べちゃっていいわよ」

ミント「ほむらさんはよろしいのですか?」

ほむら「ええ。向こうじゃいくらでも手に入るお菓子だから」


クラース「ふむ…これはなかなか…」

クレス「本当に美味しいよこれ」

ミント「食べやすくていいですね」

アーチェ「ほむらちゃんいいなー!こんな美味しいものばっかり食べて」

ほむら「その代わりに体重と戦うことになるわよ?」

アーチェ「うぐっ…」


もう一本、と手を伸ばしたアーチェの腕がピタッ、と止まる。


アーチェ「やっぱり我慢できない!」

ほむら(はい、一本当たり11.27kcalになります)

65 : VIPに... - 2014/08/03 23:57:58.01 0Xe9k2eb0 62/649

クレス「ラスト一本だね」

アーチェ「はい!早い者勝ち!もーらいっ!」

クレス「結局一番食べてるじゃないか…」

クラース「全く…食べっぷりもエースだな…」



アーチェ「はい、ほむらちゃん。あーん」

ほむら「えっ?」

アーチェ「えっ、じゃないよ!ほら、口開けて」

ほむら「私は本当にいいのよ?それは貴方達にあげたものだし」

アーチェ「じゃあ貰ったものだけどあげる!はい!」

ほむら「…はぁ、じゃあいただくわ」

アーチェ「はい、あーん」

ほむら「普通に食べれるわ」

アーチェ「いーいーかーらー!」

ほむら「はいはい…。……あーん」

アーチェ「はい、よく食べました♪」

ほむら「なんなのよそれ…」


ポリポリと噛み砕く。少しだけ懐かしいような味がした。


アーチェ「あー美味しかった♪」

ほむら「まだ色々入ってるからこういう機会があればまた出すわね」

アーチェ「またあーんさせてくれるの!?」

ほむら「させてあげてもいいけど、その代わりアーチェさんはおやつ抜きね」

アーチェ「うう…究極の選択…!」

ほむら「なんでそこで悩むのよ…」


ミント「本当にお二人は仲がよろしいですね」

クレス「そうだね。…ほむらのアーチェの扱い方が見ていて面白いよ」



クラース「…さて」

クラース「休憩は終わりだ。気を引き締めていくぞ」

66 : VIPに... - 2014/08/03 23:58:57.17 0Xe9k2eb0 63/649

モーリア坑道最深部



クラース「貴方がマクスウェルか」

マクスウェル「如何にも。何の用かな?若き召喚術師よ」

クラース「この地に契約の指輪が眠っているときいて来たのだが――」


ほむら(これがマクスウェル…)


ほむらはクラースとマクスウェルの会話に耳を傾けながらも、マクスウェルを
観察していた。


ほむら(あの球体は何かしら?結界のようなもの?)

マクスウェル「さて、そこの黒い髪の娘よ」

ほむら「…、えっ、私?」

マクスウェル「そうじゃ」


あれこれ考えているといきなりマクスウェルに話しかけられ戸惑うほむら。


ほむら(精霊が私に何の用が――)

マクスウェル「お主はなかなかに不思議な存在みたいじゃの」

ほむら「…どういうことかしら?」

マクスウェル「お主は新たな枝じゃ」

ほむら「?」

ほむら(枝…?一体、何の事?)

67 : VIPに... - 2014/08/04 00:00:00.59 0Xe9k2eb0 64/649

マクスウェル「人の歴史というものは例えるなら木の枝のようなものじゃ。
       無数に広がり、無限の可能性を秘めておる」

ほむら「…」

マクスウェル「後ろの二人…、クレスとミントといったかの?お主たちがこの
       時空に現れて新たに一本の枝が生えた。そしてお主、ほむらが
       この世界に呼ばれたときに分かれていたはずの枝が絡まり始めた」

マクスウェル「そして全ての枝がまとまり、一本の新たな枝が生まれた。
       それがこの時間軸、ということじゃ」

ほむら「私のせいで、ということ…?」

マクスウェル「原因はわからんがの」

クラース「全ての枝がまとまった場合、一体どうなる?」

マクスウェル「有りえないはずじゃったことが起こる可能性がある、としか言えぬな」

クラース「歴史が変わる、ということか?」

マクスウェル「それはお主たちが直接確かめてみるといい。そもそも最初に言ったように
       無限の可能性があるのだからどれが正しい歴史なのかなんてわからんじゃろう」

ほむら「私は…一体これからどうすれば…」

マクスウェル「…この世の理から外れた少女よ。お主が道を選ぶのではなく道を切り拓くのじゃ」

マクスウェル「お主が切り拓いた道が道となり、歴史となり、道しるべになるじゃろう」

ほむら「…なんだか随分と大袈裟な話になってしまったわね」

マクスウェル「一本しかなかった道が消え、どこでも進めると考えれば少しは気が楽に
       なるじゃろう?」

ほむら「簡単に言ってくれるわね、全く」

ほむら「いいわ、やってあげるわよ。どうせ私はどんな道でも進むつもりだったのだから。
    道が無くても、目指す場所は見失わない。絶対に。」

68 : VIPに... - 2014/08/04 00:00:47.64 azAchFZW0 65/649

マクスウェル「ほっほっほ。強気な女子じゃの」

ほむら「覚悟なさい。どうせ力を試すつもりだったのでしょう?こんな訳が分からない話を
    されて生まれた苛立ちを全て貴方にぶつけてあげるわ」

クラース「お、おい!ほむら!」

まさかの挑発にクラースも動揺を隠せない。

マクスウェル「そうじゃな…。そろそろ話を切り上げるとするかの」

周囲の空気が一気に張り詰める。

ミント「…来ます!」

クレス「分かってる!こっちも行くぞ!」

ほむら「みんな、生き埋めにしてしまったらごめんなさいね。ちゃんと道を掘って拓いて
    あげるから我慢して頂戴」

アーチェ「ウッシャッシャ!上手い事言うー♪」

クラース「こんなときに冗談を言うやつがあるか!…えぇい!」


こうして、ほむらにとって初めての精霊の試練が始まった。



69 : VIPに... - 2014/08/04 00:01:42.49 azAchFZW0 66/649

クレス「秋沙雨!」


無数の突きを繰り出し、クレスはマクスウェルの動きを抑制しようとする。


マクスウェル「ほっほっ!甘いの!」


だが、マクスウェルは早々に地上戦を放棄し空中に逃れる。


クレス「くそっ!」

ほむら「クレスさん!焦らないで!」

ほむら(あの技は浮遊できる敵相手に出すべきじゃない…、そんなこと分かっているはず
    なのに)

マクスウェル「若き剣士よ。何をそんなに焦れておる?」

マクスウェル(あの槍のせいかの…)

クレス「…ハァァ!」


空中で静止するマクスウェルの問いかけを無視し、クレスは再度攻撃を仕掛ける。


クレス「襲爪雷斬!」


地面を蹴り、雷撃を纏った斬撃を振り下ろした。が――


マクスウェル「隙だらけじゃ」


バリアを張り巡らせたまま突進してクレスを弾き飛ばす。

70 : VIPに... - 2014/08/04 00:02:42.15 azAchFZW0 67/649

クレス「がぁっ!」


空中で攻撃を受けたクレスは為す術もなく地面に叩きつけられる。


クラース「あの馬鹿が!」


後ろからその様子を見ていたクラースは思わず悪態をついた。


アーチェ「ちょっとちょっと!最近クレスの動きがおかしいとは思ってたけど、
     今日は一段とひどくない!?」

クラース「相手が相手だから力みすぎて空回りしているんだろう!」

クラース(プレッシャーをかけすぎてしまったか、これは)


あの夜から何度も戦闘をこなしてきたが、クレスがグングニルを使いこなせているとは
言えなかった。焦ってがむしゃらに振り回し状況が悪くなる最悪のループである。


クラース「ミント、クレスを頼む!我々がけん制して時間を稼ぐ!」


そうミントに告げ、クラースは詠唱の構えを取る。


ミント「わかりました!」


ミントの、杖を持つ手に力が入る。


クレス「…まだ、だ!」


背中から地面に叩きつけられ、ダメージを受けた身体に構いもせず立ち上がろうとする。


ほむら「待ちなさい」


その動きをほむらが止めた。

71 : VIPに... - 2014/08/04 00:03:28.34 azAchFZW0 68/649

ほむら「少しは頭を冷やしなさい。周りを信用するのとがむしゃらに特攻するのは違うわよ?」

クレス「…分かってる!」

ほむら「分かってないから忠告しているのよ。せめてミントさんの治療だけでも待ちなさい」


そうクレスに言い残しマクスウェルに向かっていくほむらの背中を見つめることしかできなかった
クレスは自分のはがいなさに辟易していた。


クレス(僕は一体何をしているんだ…!?迷惑をかけているだけじゃないか!)


悔しさをぶつけるように拳を地面に叩きつけた。拳に鈍い痛みが広がる。


ミント「クレスさん!」


ミントが駆け寄ってきた。


クレス「ミント…。……すまない」

ミント「謝らないでください。そして、自分を責めるのもやめてください」

クレス「…」

ミント「クレスさんは絶対にこの壁を乗り越えてくれるとみんな信じています。
    ですから焦らないでください」


そう言葉をかけミントはヒールの詠唱を開始した。


クレス(焦るな…。今できるだけのことをやるんだ…!)

72 : VIPに... - 2014/08/04 00:04:25.78 azAchFZW0 69/649

ほむらは一定の距離を保ち、空中のマクスウェルに向かって
取り出したサブマシンガンを薙ぎ払うように掃射する。


マクスウェル「ふむ、なかなか面白い武器じゃの」


空中を移動し、マクスウェルは銃撃を避け続ける。


ほむら(当たっても大したダメージにはならないでしょうね。
    あのバリアのようなものが邪魔だわ)

マクスウェル「儂に構ってばかりでいいのかの?」


新たにバリアの球体を作り出し詠唱中のクラースに向かって撃ちだした。


ほむら(…やっぱり狙ってくるね)


クラースと、クラースに向かって一直線に向かう球体に割り込み、
魔力を込めた盾で叩き落とした。


マクスウェル「なかなかやるようじゃが…一人でどこまでさばけるかの」


次はミントとクレス、更に別方向にいるアーチェに向かってそれぞれ球体を放つ。


ほむら(同時攻撃――!)

マクスウェル(さぁ、どちらを助けるんじゃ?)

73 : VIPに... - 2014/08/04 00:05:10.88 azAchFZW0 70/649

ほむらは冷静に距離を確認する。自分から近いのはアーチェだ。滑り込むように割り込み
再び球体を叩き落とす。


マクスウェル「そこからじゃもう間に合わんじゃろ?」

ほむら「普通ならね」


ほむらは余裕を見せつけるかのように笑い、時間を止める。
盾から爆弾を取り出しマクスウェルの頭上に投げつけ、二人に撃ちだされた球体に向かう。


ほむら(極力爆弾は使いたくないけど…さすがに贅沢いってられないわね)


時間停止を解除し、動き出した球体を叩き落とすと同時に爆発音が鳴り響く。


マクスウェル「ぬう!?」


ほむらの姿を完全に見逃し、更に死角からの爆発をモロに喰らったマクスウェルは状況を
飲み込めていなかった。


マクスウェル「まさかあの状況で、全ての攻撃を捌いて反撃までしてくるとは…、
       いやはや恐れ入るわい」

ほむら「どういたしまして」


賛辞の言葉のお返しと言わんばかりにハンドガンを数発、マクスウェルに狙いをつけ
撃ちこむ。
…が、マクスウェルは今度は避けようともせず動かない。発射された銃弾はマクスウェルの周囲に
張られたバリアに弾かれる。


ほむら「…チッ」


軽く舌打ちをする。

74 : VIPに... - 2014/08/04 00:05:56.57 azAchFZW0 71/649

ほむら(やはりこの程度の武器じゃ話にならないわね)

マクスウェル「面白い武器に、高い身体能力…、そして人智を超えた能力。といったところかの」

ほむら「あら?もう気づいたの?」


特に驚きもせずにほむらは答える。


マクスウェル「随分と茨の道を歩んできたようじゃな」

ほむら「まだ途中よ。そんなことよりどうするの?お互い決定打に欠けるようだけど」

マクスウェル「ほっほっ!あまり精霊を舐めるでないぞ?」


マクスウェルは手に持った杖を振りかざす、と同時にほむらの身体が浮かび上がる。


ほむら「…これは!?しまっ…」


逃れるように空中でもがくも虚しく、今度はほむらが背中から地面に叩きつけられた。


ほむら「かっ……は…っ!」


肺の中の空気を全て押し出され、上手く呼吸ができない。


クラース「ほむら!…ウンディーネ!」


ほむらを助けるように詠唱を終えたクラースはウンディーネを召喚した。
水の精霊は飛沫を上げ、手に持った剣でマクスウェルに斬りかかる。


クラース「ほむら!大丈夫か!?」

ほむら「ゴホッ…!大丈夫…。呼吸がちょっとできなかっただけよ。ダメージはほとんどないわ」

ほむら(油断したわね…動きを止めないようにしないと)


マクスウェル「ダメージは無いか…。タフな身体じゃの」


ウンディーネの斬撃を杖で受け止めながらも、マクスウェルの表情には余裕の色が覗える。

75 : VIPに... - 2014/08/04 00:06:45.26 azAchFZW0 72/649

クラース「流石4大元素を総べる精霊…。そう簡単にはいかんか」

アーチェ「じゃあこういうのはどうかな!」


詠唱が完了したアーチェは天に向かい手をかざす


アーチェ「サイクロン!」


マクスウェルを中心に、包み込むように巻き上がった竜巻がうねりをあげる。


マクスウェル「魔力がよく練られたいい魔術…じゃが」


マクスウェルのバリアを破ることはできない。


アーチェ「あーもー!もうワンランク上げないとだめね!」


再び詠唱に入るアーチェ。先程よりも深く集中し魔力を練りこむ。


マクスウェル「そう簡単にはさせぬぞ」



ミント「ヒール!」


クレスの身体を柔らかい光が包み込む。


クレス「アーチェの邪魔はさせない!」


治療が終わるや否や、クレスは地を蹴りマクスウェルに向かう。

76 : VIPに... - 2014/08/04 00:07:40.09 azAchFZW0 73/649

マクスウェル「しぶといの」


アーチェに対し、攻撃をしかけようとした動きを止めクレスの相手をする。
クレスは先程とは違い、深追いせずアーチェの呪文の詠唱の時間稼ぎに徹した。


マクスウェル(動きが変わったの…)


クレスの立ち回りが変化したのを察知したマクスウェルは、クレスの攻撃が届かない
所まで上昇する。


マクスウェル「ここなら手が出せんじゃろ」


勝ち誇るようにクレスに言う、が


クレス「ほむら!」

ほむら「任されたわ」


クレスの呼びかけに了承し、取り出したのは軽機関銃。
ガガガガガッ!と激しい銃声が鳴り響く。

激しい銃撃にバリアごと押し込まれていくマクスウェル。

77 : VIPに... - 2014/08/04 00:08:18.18 azAchFZW0 74/649

クラース「この指輪は御身の目。
     この指輪は御身の耳。
     この指輪は御身の口。
     我が名はクラース。
     指輪の契約に基づき、この儀式をつかさどりし者。
     我、伏して御身に乞い願う。
     我、盟約を受け入れん。我、盟約を受け入れん。我に秘術を授けよ」

クラース「イフリート!」

激しく燃え盛る火柱と共に現れた火の精霊は、無数の灼熱の火球をマクスウェルに放つ。
ほむらの攻撃と同じく、マクスウェルの動きを完全に止めるのが狙いだった。

マクスウェル「い、いかん!」


クレス達の狙いを察し、マクスウェルは初めて焦りの表情を見せる。


アーチェ「じゃっじゃーん!とっておき、いっくよー!」

アーチェ「サンダーブレード!」

激しい光を放つ雷の刃がマクスウェルのバリアを切り裂いた。


クラース「今だ!決めろクレス!」

クレス「虎牙破斬!」


クレスの十八番、切り上げから切り落とす二連撃をまともに受け、三度目に地面に叩き落とされたのは
マクスウェルだった。

78 : VIPに... - 2014/08/04 00:09:17.46 azAchFZW0 75/649

クレス「…どうだ!?」


手ごたえはあった。だが…


マクスウェル「あ痛たたた…」


再びふわふわと浮き上がるマクスウェルを見たクレスはグングニルを握りなおす。


クレス「何度でも…!」

マクスウェル「いやーまいった!降参じゃ!」


先程まで周囲を包んでいた威圧感は消え、マクスウェルは『フーッ』と長く息を吐いた。


ほむら「あら?終わりなの?まだやれそうだけれど」

マクスウェル「別にお主らを叩きのめすために戦ったわけじゃないからの」

クラース「契約してくれるのか?」

マクスウェル「よかろう。力は存分に見せてもらったわい」


その一声を聞いたクレス達は緊張の糸を切らした。

79 : VIPに... - 2014/08/04 00:09:57.18 azAchFZW0 76/649

アーチェ「あー疲れた」

ほむら「やっぱりアーチェさんの魔術は真剣に集中したら凄まじい威力になるわね」

クラース「全く…、普段からそうしてくれればな」

アーチェ「だって魔力をこんな練りこむのって疲れるんだよ!」

クレス「でも助かったよ、アーチェ」

アーチェ「まー、クレスも最後はマシな動きになってたし?よかったんじゃない?」

ほむら「なんで上から目線なのよ…」

クレス「自分でやれる範囲のことをやるだけ、って割り切れたから…。一人じゃ限界があるけど
    みんながカバーしてくれたからね」

クラース「そうだな。最初から決めに行きすぎだ」

クレス「…はぁ、すいませんでした」

クラース「まぁいいさ。今後の課題だな」



マクスウェル「時にクレスよ」

クレス「なんでしょう?」

マクスウェル「その手に持っている槍なんじゃが、違和感は無いかの?」

クレス「違和感…、ですか?違和感というより自分が未熟で使いこなせていない
    と思っていますけど」

マクスウェル「まぁ、確かにお主はまだまだ未熟じゃが…、そこまで
       腐る必要もあるまい。その槍は特殊な封印が施されておる」

ミント「封印、ですか?」

マクスウェル「元々それは神々の持ち物じゃ。恐らく人間には上手く扱えぬように
       なっておるんじゃろう」

ほむら「ということは…、いくら使い込んでも無駄、ということかしら」

マクスウェル「今の段階ではな…、……それ!」


マクスウェルがグングニルに向かって杖を振る。その瞬間目に見えない何かが
音を立てて砕ける音がした。

80 : VIPに... - 2014/08/04 00:10:49.41 azAchFZW0 77/649

クレス「今のは…!?」

マクスウェル「封印を解いただけじゃ。あとはクレス。お主次第じゃ」

クレス「…ありがとうございます」


不思議なほどに、以前より手に馴染む感触を得たクレスはマクスウェルに礼を言う。


マクスウェル「楽しませてもらった礼じゃよ。さて、では契約といこうかの」

クラース「恩に着る、マクスウェル」



ほむら(どうでもいいけど契約っていう言葉は耳に障るわね)



クラース「契約完了だ」

契約し終わった指輪を手に取るクラース。その指輪をはめようとした瞬間、
指輪が激しい光を放つ、それと同時にマクスウェルが飛び出してきた。


マクスウェル「言い忘れておったがお主たちの目的の指輪はあの扉の奥にあったはずじゃ」


そう言い残しマクスウェルは再び光を放ち、今度は指輪の中へと消えていった。


ほむら「…割と自由に出入りできるものなのかしら?」

クラース「わ、わからん…」


少し疲れた様子のクラースだったが、さらに追い打ちをかける出来事があった。
教えられた扉の奥で発見した契約の指輪が壊れていたのだ。

戦闘の疲れと、指輪が壊れている事実に疲労が一気に押し寄せ、クレス達はしばらく
壊れた指輪を黙って見つめることしかできなかった。

81 : VIPに... - 2014/08/04 00:12:12.27 azAchFZW0 78/649

フレイランド


クレス達はエドワードという人物に指輪修復の知恵を
借りるため、フレイランドに上陸していた。


クラース「…暑い」

クレス「…暑いね」

ほむら「…暑いわね」

ミント「…暑いですね」

アーチェ「あああああああああああああああああああああああああああああああああっ
     つうううううううううううううううううううううううううううううううう」


もはや突っ込む気にもならない。ほむら以外は一度、イフリートとの契約の為に一度
ここに訪れているのだが、そんなことは関係なく暑さに参っていた。


ほむら「み、水…」


某世紀末覇者伝説の主人公が如く、ほむらは呟きながら盾に手を突っ込み、水の入った
ペットボトルを一本取り出し口を付ける。


ほむら「沁みるわ…」

アーチェ「あたしにも…お恵みを…」


大仰にお願いしてくるアーチェに最小限の動作でペットボトルを取り出し、
「はい」と最小限の会話をして手渡した。

82 : VIPに... - 2014/08/04 00:13:01.44 azAchFZW0 79/649

アーチェ「ぷーーーーっはーー!キンッキンに冷えてやがるぅぅぅ!」

ほむら(なんでそんな元気になれるの…)

アーチェ「いやー、だってこんなに冷えてる水が飲めるんだよ?そりゃ生き返るよー」

ほむら(声に出してないのに反応しないで…)


物持ちがいいと豪語していたほむらだったがまさか盾の中に
空のペットボトルまで入ってるとは思っていなかった。
何に使う目的だったのか見当すらつかない。

盾の中では状態が保存される為、途中で寄ったオアシスで汲んだ水は冷たさを保ったままだった。
クレス達はほむらのことを神と呼んだ。


ほむら(暑い暑い暑い…暑すぎるわ…)


ある程度は魔力で誤魔化すこともできるが限界もある。そもそもほむらは長い間、ずっと同じ季節を過ごしていた
こともあってか、気温の変化に対応できずにいた。


ほむら(頭がフラフラする…)

ミント「ほむらさん、大丈夫ですか?辛そうですけど…」

ほむら「…大丈夫よ。ただ少し意識が飛びそうなだけ」

クラース「…そこの木陰で少し休もう。倒れられたら運ぶのも大変だ」

83 : VIPに... - 2014/08/04 00:13:48.78 azAchFZW0 80/649

水で濡らしたハンカチを瞼の上に乗せ、ほむらはグッタリしていた。

ほむら(ここまで暑さに弱くなっているなんてね…)


夏を経験したのは一体いつが最後だろうか。
最も、日本の夏とは比べ物にならないくらいの灼熱なのだが。


ほむら「…ここからオリーブビレッジまでの距離は?」


誰に聞いたのか、空を見上げたままのほむらが尋ねた。


クラース「半日かかるかかからないか、といったぐらいか」

ほむら「半日…」


元々グッタリしていたが、更に身体から力が抜けたような気がした。


アーチェ「時間停止を使ったら暑さもへっちゃらじゃない?」

ほむら「…さっき試したけど、解除した途端襲ってくる熱波に意識が一瞬飛んだわ」

クレス「…大丈夫かい?」

ほむら「大丈夫じゃない、問題だ」

クレス「えっ?」

ほむら「…ごめんなさい。なんだか一瞬神がここで死ぬ定めだと告げた気がしたから」

クラース「ダメだな…。もう少し休もう」

ほむら「本当に申し訳ないわ…」


更に少し休んだ後、クレス達はオリーブビレッジに向かって歩きだした。

84 : VIPに... - 2014/08/04 00:15:12.61 azAchFZW0 81/649

ほむら「はぁ…はぁ…」

ほむら(この旅を終えて、ワルプルギスの夜を超えることができたら一生クーラーの
    ある部屋で過ごしましょう。暑い日に外にでるなんて愚かな行為。そうよ、
    暑い日はクーラー付ける。これ、人類の知恵。寒ければヒーターよ。あ、でも
   こたつもいいわね。こたつにみかん。日本が世界に誇れる分化よ。なんで
日本には四季があるのかしら。位置上仕方ないってのはわかるけど正直
春と秋だけで十分よ。誰か契約でそういう願いを叶えてくれないかしら)


その時、おぞましい叫び声をあげて近づいてくる影があった。


クレス「あれは…バジリスクだ!」

クラース「目を見るなよ!石化してしまうぞ!」

クレス「僕が前に出ます!ほむら、君は―――」


ガチッ、っと音が鳴る。ほむらは歩く速度を全く変えずフラフラとバジリスクに近づいて、
バジリスクの足元目掛けて爆弾を放り投げた。

そのまま何事も無かったかのようにバジリスクの横を通り過ぎ、時を動かす。

クレス「下がって!クラースさんとアーチェは詠唱の――」


クレスが言い終わる前にほむらの爆弾が爆発し、バジリスクは砂塵と共に
上空に舞い上がり、地面に落下した。

85 : VIPに... - 2014/08/04 00:16:00.65 azAchFZW0 82/649

クレス「準備…、を…」

アーチェ「って…あれれ?」

クラース「ほ、ほむら?」

ほむら「…!暑っ!…やっぱりここで時間停止はしたくないわ…。今も意識が飛びかけたし…
    何してるの?…さっさと行きましょう…」


一瞬の間にバジリスクが爆散し、移動距離を稼いだほむらを見て全て飲み込んだ四人。


ほむら(春と秋だけになれば嵩張る冬服も必要無いしみんな大助かりよ。
大体冬服って基本的に高すぎるわ。
    その癖シーズン毎に買い替える人もいるし本当にわけがわからない。
それに一度に何足もブーツや
    パンプスを買うのも理解できないわ。
特に値引きもされていない時期に買うなんて何がしたいのかしら。
    あなた足が5本も6本も生えているの?
別にファッションに興味が無いとは言わないけど
   は本当に理解ができないわ。理解ができないといえば――)


ミント「ほむらさん!それ以上はダメ!」

クラース「クレス!ほむらを止めろ!私は鱗を剥いですぐ追いかける!」

クレス「あ、は、はい!」

アーチェ「ほむらちゃーん!行かないでー!」

86 : VIPに... - 2014/08/04 00:17:02.38 azAchFZW0 83/649

オリーブビレッジ


クラース「な、なんとか日が落ちる前に到着できたな…」

クレス「ほ、本当によかったです」

ミント「ほむらさん、ほら…着きましたよ」

ほむら「…ミントさん」

ミント「は、はい?」

ほむら「あなたは足が五本も六本も生えているタイプかしら?」

ミント「ほむらさん!?」

ほむら「…ハッ!ここは…ようやく着いたのね」

アーチェ「あたしとりあえずほむらちゃんを宿屋に連れて行くよ…」

クラース「…頼んだぞ」


ほむらが宿屋でぐったりしている間にクラース達はエドワードと接触し、指輪の
修復に関する情報を得ていた。代償は少し焦げたバジリスクの鱗だった。

87 : VIPに... - 2014/08/04 00:17:56.38 azAchFZW0 84/649

クラース「――というわけなんだが」

ほむら「この地に生息しているモンスターの鱗が焦げるなんて、それだけ
    恐ろしいほどの気温なのね」

クレス「えっ」

ほむら「えっ?」

クラース「ま、まぁいい。それで…これからのことなんだが」


クラースは言いずらそうにほむらを見る。


ほむら「どうしたの?早く言って頂戴」


ファサッ、と髪をかき上げるほむら。


クラース「まず…、えっとだな…。今来た道を引き返し、アルヴァニスタへ向かうその後、
     南に下りユミルの森を目指す」


ほむらの動きが止まる。


クラース「更に、修復ができたのなら再びこのフレイランドに訪れて、
     大陸を横断して12星座の塔をm

ほむら「私の旅はどうやらここまでのようね」

クレス「ほむら!?」

アーチェ「心がポッキリ折れた音がしたよ!?」

ミント「ほむらさん!諦めたらダメよ!」

ほむら「ごめんなさいまどか…私はあなたを救えなかった…」

クレス「ソウルジェムが凄い勢いで濁っていく!?」

ほむら「最後に…お別れを言えなくて…ごめんね…」

アーチェ「ほむらちゃん!?ほむらちゃあああああああん!!」

88 : VIPに... - 2014/08/04 00:18:50.34 azAchFZW0 85/649

クラース「…落ち着いたか?」

ほむら「取り乱してごめんなさい…」

クレス「こ、ここで待っていてくれても大丈夫だよ?」

ほむら「いいえ、付いていくわ…。アーチェさんはユミルの森に入れないんでしょう?
    戦力が減るのなら尚更付いていかないと」

クラース「そうだな…。やはりアーチェが抜けるのは痛い」

アーチェ「こっそりついていったら…ダメだよね?」

クラース「ダメだ。エルフと問題を起こすのは我々だけの話じゃなくなってくる」

アーチェ「…はーい」

ミント「今日はここで一泊して明日、できるだけ早い時間から出発しましょう」

クラース「そうだな。まだ気温が上がりきる前に距離を稼ごう」

ほむら「申し訳ないわ…」

クラース「気にするな…誰にでも弱点はあるさ。気にしてないでさっさと寝てしまうんだな」

ほむら「ええ、そうさせてもらうわ」

クラース「我々も休むぞ。思っている以上に体力を消費しているからな。これからしばらく
     長い距離の移動が続く。しっかり休んでおけ」

89 : VIPに... - 2014/08/04 00:19:37.72 azAchFZW0 86/649

ユミルの森


アルヴァニスタでルーングロムからエンブレムを受け取り、アーチェと一旦別れたクレス達は
ユミルの森に入り、更に奥にあるエルフの集落に到着した。


ブラムバルド「お待たせいたしました。私が族長のブラムバルドです」

クラース「急な訪問で申し訳ない。早速だがこちらを見ていただきたい」

ブラムバルド「これは…契約の指輪ですね。ただ、壊れているようですね」

クラース「我々が発見した際、すでに壊れていた。この指輪を修復する手段をお持ちだと
     聞いて来たのだが」

ブラムバルド「これは…正直我々でも厳しいですね」

クラース「駄目、か…」

ブラムバルド「いえ、あくまでも我々では、です」

クラース「他に手がある、と?」

ブラムバルド「はい。オリジンの力を借りましょう」


90 : VIPに... - 2014/08/04 00:20:34.20 azAchFZW0 87/649

トレントの森

ほむら「随分と広い森ね」

クレス「迷ったら二度と出れない自信があるよ…」


ガサガサ、と草むらで何かが動く音が聞こえた。

クレス「モンスターか!?」

ミント「あ、そうではないみたいですよ」


と、ミントが指をさしたほうを見ると一匹の動物がいた。


ほむら「あれは…?」

クラース「ブッシュベイビーだな」

ほむら「ブッシュ…ベイビー…」


恐る恐るブッシュベイビーに近づいたほむらはしゃがみこみ、
手のひらを見せるように右手を伸ばした。


ほむら「チチチ…おいで」


最初はほむらを警戒していたブッシュベイビーだったが、ソロリソロリと
ほむらの手が届く距離まで近づいて来た。


ほむら「ふふふっ、怖くないわよ?」


ニッコリ笑うほむらを見て、ブッシュベイビーはほむらの伸ばした手に顔を擦り付ける
ように触れてきた。


ほむら「いい子ね…」


ゆったりと、優しくブッシュベイビーの頭を撫でる。指先で転がすように顎の下をさする。
左手も伸ばし、ゆっくり持ち上げて包み込むように抱きしめる。


ほむら「可愛いわ…」

ほむら(私用とまどかにおみやげとして一匹ずつ持って帰りたい)


クレス(可愛いな)

クラース(可愛いな)

ミント(可愛いわ)

91 : VIPに... - 2014/08/04 00:21:35.31 azAchFZW0 88/649

クラース「ほむら、そろそろ…」

ほむら「…ええ、そうね」


名残惜しそうにゆっくりとブッシュベイビーから手を離す。その場から一目散に駆け出した
ブッシュベイビーの行く先を見ると、数匹のブッシュベイビーがいた。

ほむら「そう、…あなたにもちゃんと帰る場所があるのよね」

ミント「家族なんですかね?」

ほむら「多分、ね」

ほむら(家族か…)



指輪の修復を終え、エルフの集落に戻ると何やら騒ぎが起きていた。

クレス「あれは…!?」

クラース「大人しくしてろとあれほど言ったのに…!」


クレス達の視線の先にあったのは、ロープで縛りつけられたアーチェの姿だった。


アーチェ「みんな…!……ごめん、ね」

クレス「待ってください!」

エルフ「近づくな!」

クレス「!?」

エルフ「この者は禁忌を犯した!ハーフエルフはこの地に足を踏み入れてはならないという
    掟を破ったのだ!よってこれより…処刑する!」

ミント「待って!」

エルフ「やれ!」

アーチェ「――っ!」

エルフの声を合図に、剣を握ったエルフがアーチェ目掛けて振り下ろした。

92 : VIPに... - 2014/08/04 00:22:33.56 azAchFZW0 89/649

ガキン!という金属音が鳴り響く。時間停止を使ったほむらがアーチェへの斬撃を
盾で阻んでいた。


エルフ「この女――!」

ほむら「…この方は、私たちの大切な仲間です。どうか見逃していただけないでしょうか?」


剣を盾で受け止めた状態のままほむらが懇願する。


エルフ「ダメだ!掟を破ったものは例外なく処刑するのが決まりだ!」

ほむら「…お願いします」

ブラムバルド「何の騒ぎだ!?」


遅れてやってきたブラムバルドが叫び、状況を確認する。


ミント「ブラムバルドさん!お願いします!アーチェさんを助けてください!」

ブラムバルド「いや…しかし…!」

エルフ「族長!掟を破った者は処分する!その決まりをお忘れではないでしょうな!?」

ブラムバルド「…!」


その様子を見ていたほむらは受けていた剣を払いのける。


エルフ「貴様――!」

ほむら「…分かったわ」

ほむら「貴方達が掟に従うのなら好きにしなさい」

ほむら「ただ…」


ほむらは両腕を大きく広げた。


ほむら「わたしはここから一歩も動かないわ」

93 : VIPに... - 2014/08/04 00:23:39.08 azAchFZW0 90/649

エルフ「!?」

クラース「ほむら!」

ほむら「分かっているわ、クラースさん。ここで騒ぎを起こしてはいけないって」

ほむら「ただ、ね」

ほむら「私はもう友達を見捨てたくない。友達を見捨てるくらいなら国の一つや二つ、
    相手になってあげるわ」

アーチェ「ほむら…ちゃん」


言葉と視線で相手を威圧する。


ほむら「ただし一撃で決めることね。そうしないと…私も何をするかわからないわよ?」

エルフ「ぐ…っ!」

ほむら「ごめんなさい、みんな。本当にお別れになるかもしれないわ…。私が勝手にしたってことに
    して頂戴」

クレス「…人一人救えないのに世界を救えるわけがないじゃないか」

ミント「ほむらさんとアーチェさんを見捨てるなんてできません」

クラース「ふぅ…、世界を滅ぼす魔王を倒すために旅をするお尋ね者か。滑稽だな」

ほむら「…物好きな人たちね」

クラース「お前たちもな」

アーチェ「ごめん…なさい…」


エルフ「族長!命令を!」

ブラムバルド「……」

エルフ「族長!」

「待ってください!」


宿屋から一人の女性が飛び出て来た。ほむら達を庇うかのように前に立つ。

94 : VIPに... - 2014/08/04 00:24:24.72 azAchFZW0 91/649

「この地に関係の無い人たちを巻き込むわけにはいきません!どうか…
 私が身代わりになることで、この騒ぎを収めていただけませんか…」


エルフ「なぜお前が!?…まさかこのハーフエルフ…お前の…」

ブラムバルド「もういい!」

ブラムバルド「この件、全て私が責任をもつ!この者たちを解放するんだ!」

エルフ「し、しかし族長!」

ブラムバルド「これは命令だ!いかなるものも手を出すことは許さん!いいな!」

エルフ「は、はい!」


宿屋から飛び出て来た女性はフラフラとした足取りでアーチェの元に寄り、アーチェを
力強く抱きしめた。

アーチェ「…えっ?」

「ごめんなさい…ごめんなさい…」

女性は泣きながら、謝ることをただ繰り返した。



エルフ「こちらへ」


クレス達は村の出口に案内される。俯いて歩いているアーチェの後ろをほむらが歩いていた。

95 : VIPに... - 2014/08/04 00:25:06.99 azAchFZW0 92/649

アーチェ「……お母さん?」


何かに気が付いたように顔をあげ、そう呟く


アーチェ「お母さん!?」


振り返り、走り出そうとしたアーチェをほむらが止める。


ほむら「どこへ行こうというの?」

アーチェ「だって!お母さんが!」

ほむら「いい加減にして」

アーチェ「……っ!?」


初めて聞いた、とても冷たいほむらの声。
動きが止まったアーチェの腕を掴み、村の外へ歩き出す。


ほむら「これ以上、迷惑をかけないで」


目を合わせないで、抑揚の無い声でそう告げる。


アーチェ「うっ…うぅぅぅぅ…」


子供のように声をだし、泣きじゃくりながらアーチェは村を後にした。

96 : VIPに... - 2014/08/04 00:26:32.59 azAchFZW0 93/649

ユミルの森周辺 夜



近くの湖で汲んで来た水が大きな鍋の中で沸騰している。
ほむらは塩を適量入れ、ねじりながらパスタを放り込む。
フライパンを取り出し、火にかける。オリーブオイルを
引いて手前に傾ける。手前に溜まったオイルの中に、
包丁で潰したニンニクと鷹の爪を入れ、焦げないように揚げるように炒めていく。
熱が通ったら一度フライパンの中の物を全て移し、細長く切ったベーコンを炒める。
丁寧に一人分ずつ、茹で上がったパスタとゆで汁をフライパンに投入し、
塩コショウで味を整え、最後に移しておいたオイルを垂らして完成だ。


ほむら「お待たせ致しました。お客様」

クラース「お、できたな」


クラースは読みかけの本を閉じて地面に置き、代わりにフォークを握る。

パスタの山にフォークを突き立て、クルクルと巻き付けて口に運ぶ。


ほむら「御味の方はいかがでしょうか?」

クラース「素晴らしい。シェフを呼んでくれたまえ」

ほむら「僭越ながら…わたくしでございます」

クラース「こんなに美味しいパスタは久しぶりだ。言い値を払おう」

ほむら「そんな、私のような者が値段を付けるなど、とんでもない」

クレス「普通に食べていいかな?」

ほむら「ええ、どうぞ」


普通にフォークを持ち、普通にパスタをすくい、普通に食べる。


クレス「うん、美味しいよ」


普通の感想。

97 : VIPに... - 2014/08/04 00:27:28.84 azAchFZW0 94/649

ほむら「いえいえ、ミントさんとクラースさんには敵わないけどね」

ミント「そんなことはありません。とても美味しいですよ」

ほむら「まぁ、簡単な料理だからね」

クラース「簡単な料理ほど、味の差を出すのが難しいってもんさ」


それぞれ自分のペースで食べ進めていく。が、一向に量の減らない二つの皿
があった。


クレス「食べないのかい?」

ほむら「…アーチェさんは?」

クラース「向こうにいる。…一応声はかけたんだがな」

ほむら「そう。…私は向こうで食べてくるわ」


そういい、二人分の食事を持ち歩いて行った。


クラース「やれやれ…、気を使わせてしまったな」

ミント「そう、ですね。やはり私が…」


そう言い、立ち上がろうとしたミントをクラースが止める。


クラース「ほむらはお前たちに気を使ったんだぞ?大人しくここにいるんだ」

クレス「どういうことですか?」

クラース「お前たちは親を失ってまだ日が浅いだろう」

クレス「…はぁ、ほむらちゃんは本当に凄い子ですね」

クラース「極端過ぎるがな。アーチェと2で割ってちょうどいいくらいだ」

98 : VIPに... - 2014/08/04 00:28:17.59 azAchFZW0 95/649

クラース達からほんの少し離れた場所にアーチェはいた。倒れた木に腰を下ろしている。


ほむら「はい」


料理の入った皿をアーチェの目の前に差し出す。


アーチェ「…ありがと」


元気が無い声で料理を受け取り、座った状態で膝を閉じてその上に置いた。


ほむら「よいしょ」


敢えて声を出して隣に座る。


ほむら「頂きます」


アーチェの隣で軽く手を合わせて、食事を始めた。
我ながら、まぁ無難にできているんじゃないか、とほむらは思った。


ほむら「食べないの?」


手を一向につけないアーチェを見て、そう訊ねる。

99 : VIPに... - 2014/08/04 00:29:26.77 azAchFZW0 96/649

アーチェ「…怒ってないの?」


アーチェは村から出る際のほむらとのやり取りを気にしていた。無論、
母親に関してもだが。


ほむら「そうね、怒ってないと言えば嘘になるわ」


少し、アーチェの身体が震えたような気がした。


アーチェ「…ごめんなさい」

ほむら「さっきも聞いたわ」


少しだけ意地悪な受け答えをする。


アーチェ「…なんでお母さんは私を置いていっちゃったんだろう」

ほむら「知らないわ。直接聞きなさい」


バッサリと切り捨てる。


アーチェ「そんな…、会えるんだったら会いたいわよ…」


少しだけ怒りの感情が入った声。


ほむら「生きていたらいつか会えるでしょう。…生きているんだからね」


アーチェはクレスとミントの話を思い出す。


アーチェ「本当に、いつか会えるかな?」

ほむら「本気で会いたいなら、上空から一気に家に突っ込んで攫うなりすればいいわ」

アーチェ「うぇ…っ、ほむらちゃん過激だね…」

ほむら「手段は選ばない派なの。ごめんなさいね」


悪びれも無く言いクルクルとフォーク回し、パスタを巻き付ける。

100 : VIPに... - 2014/08/04 00:30:23.37 azAchFZW0 97/649

ほむら「ちなみに」

アーチェ「?」

ほむら「さっき私がなんで怒ったのか理由を言ってなかったわね」


ほむらは手に持ったフォークの動きを止め、アーチェを見た。


ほむら「あのまま再び村へ侵入していたら、今度こそ争いは止められなかったわ。
    …あなたの母親と私達の行動が全て無駄になっていた。」

アーチェ「うん…そうだね…ごm

ほむら「大体貴方はいつもそうなのよ。自分勝手に突っ込んで周りを巻き込んで。
    欲望に忠実すぎるのよ。もう少し冷静に物事を考えてから行動しなさい」

アーチェ「うん…だかr

ほむら「いつでも隙あらば抱き付こうとするしベッドには入り込んでくるし私の身も
    考えて頂戴。その癖自分はすぐに寝ちゃうしみんなのために用意したお菓子とかも
    一人で勝手に食べてしまうし」

アーチェ「…ってそれ今関係ないじゃん!黙って聞かなきゃって思って聞いてたけど
     途中で脱線しすぎじゃない!?」

ほむら「いいえ、あなたが自分勝手に欲望のまま行動していた事実を簡潔に述べただけよ」

アーチェ「そんなこと言って、抱き付いたり一緒に寝たりするの結構アッサリほむらちゃんが
     折れるじゃん!」

ほむら「あら、無駄なエネルギーを消費したくないだけよ?どうせ諦めてくれないってわかってるんだし」

アーチェ「そうは言ってるけど、出会って初めて一緒に寝た時、ほむらちゃんもあたしのこと抱きしめた
     ってミント言ってたよ~?」

ほむら「あ、あれはただ寝てたら勝手に抱き付いていただけよ!自分の意志じゃないわ!」

アーチェ「ほほー。無意識の内に勝手に誰かに抱き付いちゃうんだ?」

ほむら「ちがっ…!……はぁ、もうやめましょう。料理が冷めてしまうわ」

アーチェ「逃げた!」

ほむら「逃げてない!冷めて美味しくなくなったからって残したらただじゃおかないわよ」

101 : VIPに... - 2014/08/04 00:31:11.95 azAchFZW0 98/649

若干顔を赤くし、ほむらには珍しく音を立てて、一気に残った料理を食べきった。


ほむら「御馳走様!早く食べてしまってね!食器が片付かないから!」


ほむらは勢いよく立ち上がり、そう言い残して足早に立ち去っていった。


アーチェ「…ありがとうね。ほむらちゃん」


面と向かって言うのが恥ずかしかったのか、立ち去ったのを確認してから
小さな声を漏らした。


アーチェ「…いただきます」


少し冷めてしまったパスタを一口すする。


アーチェ「…冷めても普通に美味しいじゃん」


そう呟き、それでもこれ以上冷めないようにペースを上げて食べる。


…が


ガリッ!と何か硬いものを噛んだ感触。それに続き口の中に広がる

唐辛子の辛味



アーチェ「!??!?!!?!???!?!?」


先程のほむらよりも勢いよく立ち上がり、駆け出す。

102 : VIPに... - 2014/08/04 00:31:53.60 azAchFZW0 99/649

アーチェ「水水水水水水水!!!」

クレス「うわ!?なんだよアーチェ!?」

アーチェ「おみじゅをください!」

ほむら「…もう、何してるのよ。はい」

アーチェ「んっんっんっ…!プッハーーー!ありがと!ほむらちゃん!」

ほむら「はぁ…。……フフッ…いえいえ、どういたしまして」

クラース「結局、こうなるんだな」

ミント「ふふっ…、アーチェさんらしいです」



アーチェ「御馳走様!美味しかったよ!」


軽くお腹をさすりアーチェは続けた。


アーチェ「でもこの料理結構簡単そうだからあたしでも作れるかも!」


瞬間、四人に衝撃走る――


アーチェ「明日あたしg

クラース「お前は料理当番のサイクルに入ってないだろ!いい加減にしろ!」

アーチェ「えー、でm

ほむら「貴方はいつも美味しそうに食べてくれるから、それだけでいいのよ?」

アーチェ「いつも作ってもらってばっかでわr

ミント「そんなことありませんよ?アーチェさん?」

アーチェ「うーん」




アーチェ「まぁ、いっか♪」



ほむら「ごめんなさい。今度からもっと手の込んだ料理にするわ…」

クラース「ほむら、君は悪くない。悪くないんだ」

クレス「ほむら、自分を責めちゃだめだよ」

ミント「お願いですから、どうか元気を出してください」


慰めにいったほむらが最終的に慰められる結末。


アーチェはトラブルメーカーの称号を手に入れた。

103 : VIPに... - 2014/08/04 00:33:24.68 azAchFZW0 100/649

フレイランド港


数日ぶりにこの地に降り立ったクレス達を出迎えたのは、高い青空と
ほむらの心を折ろうとする猛暑だった。


ほむら「ここは私の戦場じゃない」

クラース「行くぞ」

ほむら「はい…」



オアシス


ほむら「」

クラース「普段は本当に頼りになるんだがな…」

クレス「そうですね…。ほむら、もう少しでこの砂漠を抜ける。頑張ろう」

ほむら「すいません、ちょっと気分がすぐれないので、保健室に」

アーチェ「ほむらちゃーん、こっちの世界に戻っておいでー」

104 : VIPに... - 2014/08/04 00:34:22.89 azAchFZW0 101/649

十二星座の塔


ミント「ここが、月の精霊のいる塔ですね?」

クラース「ああそうだ。ようやくルナと契約できる」

クレス「念願が叶いそうでよかったですね、クラースさん」

クラース「そうだな。…契約してくれれば、だがな」

アーチェ「よっしゃー、じゃあ突撃ー!」

ほむら「…」

ミント「ほむらさん?まだ体調が優れないのですか?」

ほむら「いえ、大丈夫…。行きましょう」

ほむら(砂漠を抜けてから…なんだか身体がダルいというか…なんか、…変な感覚)

ほむらは自分の身体の異変に気が付いていたが、原因を特定することができずにいた。



十二星座の塔 頂上


クラース「この扉の奥だな…。開けるぞ」

「ちょっと待ったー!」


どこからともなくクレス達を呼び止める声が聞こえる。周りを見渡すと一筋の光と共に
小さな精霊が現れた。


アーチェ「こんなちんちくりんなのが…ルナ?」

「ちんちくりんって言うなー!僕はアルテミス!ルナ姉ちゃんには会わせないからね!」


アルテミスと名乗った精霊は扉を開けるのを阻むように扉の前に立ちふさがる。

105 : VIPに... - 2014/08/04 00:35:08.15 azAchFZW0 102/649

クラース「すまないが…、我々はルナの力が必要なんだ。会わせてもらえないか?」

アルテミス「嫌だ」

クラース「このっ…!」


クラースの申し出を即答で拒絶したアルテミス。そんな態度にクラースは珍しく
苛立った様子を前面に出した。


ミント「どうしても、ダメですか?」

アルテミス「うーん、じゃあねー!僕のお願いを一つ聞いてくれたら考えてもいいよ!」

ほむら(考えても、ね。会わせる気が無いのが見え見えだわ)

ミント「分かりました。何をすればいいのですか?」

アルテミス「そこのお兄ちゃんと誰かがキスしてよ!」

クレス「!?」

ミント「!?」

アーチェ「!?」

ほむら(はぁ…)

106 : VIPに... - 2014/08/04 00:35:58.90 azAchFZW0 103/649

アルテミス「ほらー!早くー!キース!キース!」

アルテミス「後ろでずっと黙ってるぺったんこのお姉ちゃんでもいいんだよ!はーやーくー!」

ほむら「…」

クラース「その手に持ってる銃を仕舞ってくれないか」


アーチェ「もー、仕方ないなぁ」

クレス「アーチェ!?ちょ、ちょっと待ってくれ!」

ミント「そんな…!こんな形でキスするなんて…!いけません!」

アーチェ「だってー、しないとルナと会えないんでしょー?それに別に
     あたしは気にしないよ♪」

ミント「そうかもしれませんが…、それでもっ!」

アーチェ「ほらークレス早くー…んーちゅっちゅ」

クレス「待て!アーチェ待てっ!」


「アルテミス、おやめなさい」


透き通るような声。再び一条の光が降り注ぎ、クレス達の目の前に
精霊が姿を現した。

107 : VIPに... - 2014/08/04 00:37:19.83 azAchFZW0 104/649

アルテミス「ルナお姉ちゃん!」

ルナ「アルテミス、あまりこの方たちを困らせてはいけません」

アルテミス「だって…」


クラース「あなたがルナ、なのだな?」

ルナ「はい、そうです」

クラース「早速で申し訳ないのだが契約していただきたい」

ルナ「この星は危機に瀕しています。…私の力が必要なのならば」

クラース「すまない、助かる」


クラースは契約の準備に取り掛かる。その様子を寂しそうな目で眺めている
アルテミスの姿があった。


ほむら(…)


クラース「契約完了だ」

クレス「一時はどうなるかと思ったよ」

アーチェ「そんなにあたしとキスするのが嫌だったんだ!?」

クレス「い、いや…、そんなわけじゃ」

ミント「ク レ ス さ ん?」

クレス「ミ、ミント!?なんでそんなに怒ってるんだい!?」


そんな問答をしているクレス達を放っておいて、クラースは契約したばかりの
指輪を天にかざした。指輪は眩しい光を放ち、ルナが現れた。

108 : VIPに... - 2014/08/04 00:37:48.28 azAchFZW0 105/649

ルナ「ごめんなさいアルテミス。しばらく一人にさせてしまうけれど」

アルテミス「…うん」

ルナ「留守番、頼みましたよ?」

アルテミス「…分かった」

ルナ「ありがとう。それでは行きましょうか」



一行が来た道を引き返そうとしたとき、ほむらが立ち止った。


アーチェ「どしたの?ほむらちゃん」

ほむら「ごめんなさい、忘れ物をしたわ。先に行ってて頂戴」

クラース「全く…、すぐに追ってくるんだぞ?」

ほむら「ええ、じゃあちょっと行ってくるわ」


そういいほむらは振り返って歩き出した。


アーチェ「忘れ物ってなんだろ?」

クラース「…いいから降りるぞ」



アルテミス「…お姉ちゃん」


一人残されたアルテミスは落ち込むように俯いていた。

109 : VIPに... - 2014/08/04 00:38:26.03 azAchFZW0 106/649

ほむら「あら、さっきまではあんなに元気だったのにどうしたのかしら?」

アルテミス「!?」

アルテミス「な、何しに来たんだよ!?」

ほむら「さっきからかわれたお返しをしようと思ってね」


ほむらはゆったりとした歩調でアルテミスに近づいた。


アルテミス「な、なんだよ!く、来るなよ!」


そんな呼びかけを無視してほむらは近づく。そしてアルテミスまであと一歩という
距離まで近づき、ほむらは手を伸ばしアルテミスの頭を優しく撫でた。


アルテミス「…えっ」


ほむらが手を伸ばしたのを見て思わず目を閉じたアルテミスは予想外の行動に
戸惑い、恐る恐る目を開いてほむらを見た。


ほむら「ごめんなさい。少しお姉さんを借りていくわね」


ほむらは少し、申し訳なさそうに笑っていた。


アルテミス「だって…!だって仕方ないじゃん!お姉ちゃんの力が必要なんだろ!?」

ほむら「ええ、私達にはどうしてもルナの力が必要なの」

ほむら「一人ぼっちにさせて、ごめんね」

ほむら「一人ぼっちは寂しいでしょう?」

110 : VIPに... - 2014/08/04 00:39:05.24 azAchFZW0 107/649

アルテミス「…っ!」

ほむら「でもね、ルナは絶対あなたのところに帰ってくるから。…それまで待ってあげていて」

アルテミス「…うん」

ほむら「自分の帰る所で誰かが待ってくれているというのはとても嬉しいことなの」

アルテミス「嬉しい…?」

ほむら「ええ、そうよ。…ルナが帰ってきたときは笑顔で迎えてあげてね」

アルテミス「…分かった!」

ほむら「ふふっ…、いい子ね」


先程までの笑顔とは違い、優しくほむらは笑ってアルテミスの頭を撫でた。


アルテミス「お姉ちゃんいい人だね!おっぱいは小さいけど」


ほむらの笑顔が消えた。


先程までの優しい手つきも動きを変え、アルテミスの頭を潰すかのように
掴んだ。


アルテミス「…あれれ?」

ほむら「ルナが帰ってくるまでの宿題よ」


アルテミスが見たのは


ほむら「女性の扱い方を覚えておきなさい?」


見たもの全てを震え上がらせる、そんな笑顔だった。

111 : VIPに... - 2014/08/04 00:39:58.51 azAchFZW0 108/649

十二星座の塔付近の森


クレス「ハッ!」

ほむら「…!」


クレスは覇気の篭った声出す、と同時に手に持った剣を地面と水平に滑らせる
ように薙ぎ払う。
ほむらはその攻撃を最小限の動きでかわし、攻撃したクレスのがら空きになった
脇腹目掛け、体重を乗せた蹴りを放つ。


クレス「ぐあっ!」


ほむらの蹴りはクレスの身体にめり込むように刺さる。クレスの身体が少し浮き上がる。
ほむらは攻撃の手を緩めず、拳を握った右手をクレスの顎を射抜くように打ちだす。


クレス「!?」


それを見たクレスは咄嗟に左腕の腕当てで受け止めようとした。
しかし、ほむらは握った拳の力を緩め、クレスの腕を掴む。

ほむら「掴まえたわ」

クレス「しまっ…!」


腕を掴んだと同時に、流れるような動きでクレスの懐に入りこむ。
ほむらが足でクレスの足を払う。バランスを崩し、更にほむらは腰を密着させ
両腕でクレスの腕を掴み直し、そのまま地面に叩き付けるように投げ飛ばす。

112 : VIPに... - 2014/08/04 00:40:35.79 azAchFZW0 109/649

クレス「…っ!」


背中から地面に叩きつけられたクレス。その手から離れた剣が地面に転がる。


クレス「…まだ…っ


言い切る隙も与えず、立ち上がろうとしたクレスの頭部にほむらは銃口を突きつけた。


クレス「…参りました」

ほむら「はい。お疲れ様でした」


ほむらは終わりを告げ、手早く銃を盾の中に仕舞う。


クレス「一本も取れないなんて…」


実戦形式の訓練を五本、全てほむらがクレスを圧倒した。


ほむら「相性の問題もあるわ。それにクレスさんは実戦向きよ」


いつもの仕草で髪をかき上げながらそうフォローする。


クレス「…そう、かな……」


どうやらほむらが思っている以上に凹んでしまったようだ。

元々これはクレスからほむらに願い出た訓練だった。ほむらは『私でいいなら』と
快く了承した。


ほむら「上から目線で申し訳ないけど、アドバイスするなら貴方は少し素直すぎるわ」

113 : VIPに... - 2014/08/04 00:41:36.71 azAchFZW0 110/649

狙っているだろう、と予測した場所に攻撃がくる。こちらのフェイクに引っかかる。
釣り目的の行動に釣られる。そんなシーンが訓練の中で多々見られた。


ほむら「多人数同士の戦いと、一対一の戦いは全く違うわ。まあそこは経験を重ねて
    身体で覚えるしかないと思うけど」

クレス「何事も経験、か…」


ほむら「それに…」

クレス「…それに?」

ほむら「いえ、何でもないわ。…そろそろ戻りましょう。夕食ができている頃合いよ」



クラース「で、どうだったんだ?」


クラースは酒の注がれたグラスを片手にクレスに聞いた。


クレス「五連敗…、一本も取れませんでした」


用意された食事に全く手を伸ばさずに答える。


クラース「完敗か。…まあいい経験になっただろう」

アーチェ「ってかほむらちゃん強すぎない?」

ほむら「そんなこと無いわよ?敵わない相手はいくらでもいるわ」


ほむらは、パンを一口サイズにちぎりながら淡々と述べる。

114 : VIPに... - 2014/08/04 00:42:24.56 azAchFZW0 111/649

アーチェ「うーん、想像できないなー。ほむらちゃんが負けてるとこなんて」


素直に自分の思ったことを口に出し、鶏のローストにかじりついた。


ほむら「…勝てない相手が居るからこそ、ずっと繰り返しているわけだしね」


ほむらの食事の手が止まる。


アーチェ「あ、ご、ごめんね!思い出させるようなこと言っちゃって!」

ほむら「大丈夫よ、事実だから。けど…次は必ず勝ってみせる」

クラース「ワルプルギスの夜…か」

アーチェ「この五人が揃っていたらどうなるかな?」

ほむら「どうでしょうね…。ただ、向こうにはマナが無いわけだし
    いい方向に転ぶとは考えにくいわね」

アーチェ「そっかぁ…」

ほむら「……」


ほむらは無言でスープに一口すする。しかしそれ以上は食事を続けようとせず、
スプーンを置いた。


ほむら「…御馳走様」

ミント「もうよろしいのですか?味付けが変だったでしょうか?」


作ったミントが心配そうにほむらに話しかける。

115 : VIPに... - 2014/08/04 00:43:22.19 azAchFZW0 112/649

ほむら「いえ、美味しかったわ。…ただ最近あんまり食欲が無くて」

クラース「フレイランドを抜けた辺りから、だろう?」

ほむら「…そうね」

クレス「まだ、体調が戻ってないのかい?」

ほむら「わからない…、でも万全とはいえないわね」

クラース「何か心当たりでも無いのか?」

ほむら「さっぱりね…。……少し風に当たってくるわ」


そう言い残し、ほむらは去って行った。


クレス「心配ですね」

ミント「旅の疲れが溜まっているのでしょうか」

クラース「かもな…。だが冷たく聞こえるかもしれんがなんとかしてもらわんといかん。
     明日にはミッドガルズに到着する。…そして近いうちに決戦だ」

アーチェ「…」



ほむらは見晴らしのいい丘に佇んでいた。時折、自分の身体の状態を確認するかのように
手を握ったり開いたり、足首をほぐすように回す。

ほむら(すぐそこに大事な戦いが控えているというのに…、この身体を襲う猛烈な怠惰感は何?)


最近ほむらは突発的に襲ってくる身体のダルさ、脱力感に悩まされていた。


ほむら(クラースさんの言った通り、フレイランドを抜けた辺りから明らかにおかしくなった)

ほむら(何か変な病気とかじゃないといいんだけど…)

アーチェ「ほーむらちゃん」

116 : VIPに... - 2014/08/04 00:44:19.20 azAchFZW0 113/649

後ろからアーチェが声をかけてきた。その手にはマグカップが二つ握られている。


アーチェ「ほい、ココアだよ。疲れたときは甘いもの!ってね」


ニシシ、と笑いながらほむらに手渡す。


ほむら「ありがとう、いただくわ」


ほむらはマグカップを受け取る。二人は地面に腰を下ろした。


アーチェ「ほむらちゃん、大丈夫?」

ほむら「戦えないわけでは無いわ」

アーチェ「でも無理はしちゃダメだよ?」

ほむら「わかっているわ。でも、次はとても大事な戦いだから」

アーチェ「そうだよね…」


ココアをすする。甘い香りと味が口いっぱいに広がる。完全にアーチェの好みの味だった。


ほむら「…甘すぎない?」

アーチェ「甘い方が疲れに効くんじゃないかなー、っと」

ほむら「私は苦いほうが好みだわ」

アーチェ「文句言うなら返せー!」

ほむら「嫌よ。もう貰ったからこれは私の物よ」


こんなやり取りをしている内は身体の不調も吹っ飛んでいるような錯覚さえ覚える。

117 : VIPに... - 2014/08/04 00:45:00.94 azAchFZW0 114/649

アーチェ「このあたりってさ」

ほむら「?」


アーチェが急に話を切り替える。どうやらこっちが本命らしい。


アーチェ「少し、息苦しいっていうか、空気が薄く感じない?」

ほむら「…いいたいことはわかるわ」


ほむらも感じていたことだった。平地なのに、息苦しい。そんな感覚。


ほむら「こんな変な感覚、今まで感じたこと無かったわ」

アーチェ「なんなんだろうね、これ」

アーチェ「瘴気が濃いのかな、って思ったんだけど…他の三人は特に何もなさそうだし」

ほむら「私とアーチェさんだけ…」


マグカップに口を付ける。やっぱり甘い、全部飲み干せるか少し心配になってきた。


アーチェ「まー!でも!」


叫ぶように声を出し、アーチェは立ち上がった。


アーチェ「なんとかなるっしょ!今までもなんとかなったし!」

ほむら「そうね…。なんとかしないとね」

アーチェ「そういうことだね!っと」

アーチェ「じゃああたしは寝るね!夜更かしはお肌の敵なのだ!ほむらちゃんも
     早く寝なよ!」

ほむら「ええ、わかってるわ…。おやすみなさい」

ほむら(早く寝たいけど、まずはこれを飲み切らないと…)


アーチェのおかげで、ほむらの睡眠時間は刻一刻と削られていく。

118 : VIPに... - 2014/08/04 00:46:48.15 azAchFZW0 115/649

ミッドガルズ


対ダオス軍との最前線に位置する国。人口こそ多いが、アルヴァニスタに住む人々のように
明るい空気はなく、重く、硬い空気が国中に漂っていた。


ミント「これが戦争中の国、なのですね」

クラース「そうだな。大きな争いこそまだないが、小競り合いが頻繁に起きている。
     神経がすり減っているんだろうさ」

クレス「でも、もうすぐ大きな争いが起こる…」

クラース「そうだな。我々はその為にここに来たんだ」

ほむら「うっ…」


突然、ほむらに襲い掛かる立ちくらみのような脱力感。思わずフらついてしまう。


クラース「大丈夫か?ほむら」

ほむら「…大丈夫、落ち着いたわ」

クラース「…」

クラース(一向に改善する気配がない。むしろ悪化している…。これ以上悪化するようならば…)


クラースは最悪の事態を備え、それに対する案を練っていた。

119 : VIPに... - 2014/08/04 00:47:32.73 azAchFZW0 116/649

クレス「…!?」


急にクレスが頭をおさえ、その場に立ち尽くす。


クラース「おいおいクレス、お前もか?流行り病かなんかじゃないだろうな」

クレス「…いえ、大丈夫です」


「お前たち!来てくれたか!」


城門に近づいた時、向こうから声をかけてくる人影があった。



クラース「モリスン殿!」

モリスン「待っていたぞ。ミッドガルズ王がお前たちに会いたいと言っている。
     頼めるか?」

クラース「構わないが、一人休ませたい仲間がいる」

モリスン「体調でも崩したのか?」

クラース「…そんなところだ」

ほむら「…わたしなら大丈夫よ」

クラース「駄目だ。ほむら、お前は休んでいろ。少しでも体調を戻すのが最優先だ」

ほむら「…分かったわ」

モリスン「兵に案内させよう。…こっちに」

ほむら「ごめんなさい」

クラース「構わん。戦闘時にお前がいるいないで大きく話が変わってくる」

アーチェ「じゃあほむらちゃん、後でね」

クレス「謁見が終わったら迎えに行くよ」

ミント「すこし待っていてくださいね」

ほむら「ええ、わかったわ」

衛兵「それでは、どうぞこちらへ」

120 : VIPに... - 2014/08/04 00:48:10.73 azAchFZW0 117/649

ほむらは通された客室のベッドに寝転び、天井を見上げていた。


ほむら(病室と自宅の天井を見慣れ過ぎたせいか、やっぱり違和感があるわね)


ボンヤリそんなことを考えていた。

左手を天井に向けて、伸ばす。手の甲のソウルジェムを見つめる。
少し穢れが溜まっていた。


ほむら(やはり…、自然回復の速度が落ちてる。息苦しく感じる理由もこれかしらね)


ほむらはこの一体のマナが薄いんじゃないかと考えていた。
マナのおかげでソウルジェムの穢れが自然に浄化される。そして今、
その浄化の速度が明らかに遅くなっていた。

121 : VIPに... - 2014/08/04 00:49:04.52 azAchFZW0 118/649

ほむら(何か原因があるんでしょうね…。この周辺だけマナが薄い原因が)


コンコン、と扉をノックする音が耳に入る。ほむらは『どうぞ』と声を返した。


ミント「お待たせいたしました」

アーチェ「いい子でお留守番してたかな!?」


どうやら謁見が終わったらしい。四人が迎えに来てくれた。


ほむら「ええ。いい子にしてたからご褒美でも頂戴」

アーチェ「それじゃああたしの熱い抱擁でも!」

ほむら「ご褒美が欲しいって言ってるの」


飛びつき、抱き付こうとするアーチェを右手一本で止める。


ほむらの右手に抵抗するようにもがくアーチェを尻目にほむらがクラース
に向かって質問した。


ほむら「で、これからどうするの?」

クラース「あぁ、これからなんだが」


クラースがこれからのことを説明しようとしたその時、

ほむらの右手がダラリ、と下がり

前のめりに倒れこみ、苦しみ始めた。

122 : VIPに... - 2014/08/04 00:50:02.83 azAchFZW0 119/649

――同時刻


研究員「それでは、第二十一次魔導砲稼働テストを開始します」

ライゼン「よろしい」

研究員「今回は、何%に設定しますか?」

ライゼン「50%だ」

研究員「了解しました。それではエネルギー充填開始します」





ほむら「あぁぁぁぁぁぁ…!」


突然苦しみだすほむらを目の前にし、激しく動揺する4人。しかし、アーチェにも
同じく異変が起きていた。

アーチェ「うぅ…」


アーチェはふらつく身体を壁に押し付け、倒れるのを拒絶する。


クラース「ほむら!アーチェ!どうした!くそっ!なんなんだ一体!」

ミント「二人とも!しっかりしてください!」

アーチェ「あたしは大丈夫…それよりもほむらちゃんを…!」

クレス「衛兵!近くに医者はいないか!?」



ほむら「ぐっ…!…はっ!…あああぁああぁぁあ!」

ほむら(苦…しい……力が…抜けて…)

123 : VIPに... - 2014/08/04 00:50:45.04 azAchFZW0 120/649

研究員「エネルギー充填、50%を確認」

ライゼン「よろしい。それでは充填したエネルギーを解放しろ。実験は成功とする」

研究員「了解、エネルギー解放。魔導砲システム停止、これにて第二十一次魔導砲稼働テスト
    を終了します」

ライゼン「開戦までに80%までは試しておきたがったがやむをえんな」

研究員「ええ。…ですが今の出力でもかなりの威力が見込まれます」

ライゼン「そうだな。…ダオスなど恐れるに足らん。勝つのは我々、人間だ」





ほむら「ハァハァ…ッ!ハァ…ッ!」

ミント「ほむらさん!ほむらさん!」

ほむら「ぐぅ…っ!…だ、大…丈、夫…」


気力を振り絞り、そう声を出したがそのまま意識を失った。


ミント「ほむらさん!?」

クラース「とりあえずベッドに運ぶぞ!」


その時、衛兵が部屋に駆け込んでくる。

124 : VIPに... - 2014/08/04 00:51:25.90 azAchFZW0 121/649

衛兵「失礼します!」

クラース「どうした!?すまないが今少々立て込んで…

衛兵「ま、魔物が城内に!」

クレス「!? なんだって!?」

アーチェ「なんでこんな時に…!」

クラース「…、衛兵!この子に医者を頼む!お前たち行くぞ!」

ミント「し、しかしほむらさんが!」

クラース「放っておけば国中パニックになる!ほむらも気になるが…!」

ミント「…わかり、ました」

クレス「アーチェ、君は…」

アーチェ「あたしも行くよ」


クレスの意見を遮るようにハッキリと告げる。


アーチェ「騒がしいとほむらちゃんがゆっくり寝れないからね」

クレス「…わかった」



そして、四人は歴史の変わる瞬間を目撃する。
ほむらもまた、本来なら交わるはずの無い歴史に立ち会うこととなる。

125 : VIPに... - 2014/08/04 00:52:02.99 azAchFZW0 122/649

ほむら(…こ…こ……は?)

目を覚ましたほむらが目にしたのは見慣れぬ天井であった。
だが、すぐに状況を理解する。


ほむら(そうだ…、急に苦しくなって…それから…)


周りを見渡す。部屋には自分しかいない。

ベッドから身を起こすが身体に力が上手く入らない。
それでもなんとか立ち上がり、身体を引きずるように扉を開けた。


衛兵「!? お気づきになられましたか」


扉の前にいた衛兵は驚き、声を上げた。


ほむら「ええ…。他のみんなは?」

衛兵「只今緊急の会議に出席しておられるようです」

ほむら「そう…」

衛兵「お言葉ですがあまり動き回られない方がよろしいかと…。
   それに先程賊が侵入したとの情報も入っております。
   お部屋でお待ちください」

ほむら「わかったわ…ありがとう」


ほむらはそういい、扉をしめ再び身体を引き摺るようにベッドに戻った。

126 : VIPに... - 2014/08/04 00:52:41.78 azAchFZW0 123/649

ほむら(気を失っている間に何か起きたようね…。それも、かなり重大なことが)

ほむら(それに…あの身体中の力を吸い尽くされるような…あれは一体…)


コンコン、とノックする音が聞こえた。扉とは真逆の方向にある、窓から。

思わずほむらは振り返る。こちらの応対を待たず、窓が開かれ誰かが飛び込んできた。


「すまない、少しかくまってくれ」


とてもすまなさそうに聞こえない言い方で部屋に飛び込んでくる。着地したとき、
全身から金属音が鳴る音が聞こえた。


ほむら(…全身に武器でも仕込んでいるのかしら)


ほむら部屋に飛び込んできた人物に目をやる。
長い金髪を揺らし、全身黒いレザースーツのようなものを着用している。
所々金属を仕込んでいるようだ。
なにより特徴的なのは、とても冷たい、冷徹さを物語る目だった。


ほむら「あなたが侵入した賊?」

「そうだ」

ほむら「一体あなたは何をしたのかしら?」

「どうやら国家反逆の罪、らしい」


自分でも分かっていないと言いたげな言葉遣いをしてきた。

127 : VIPに... - 2014/08/04 00:53:31.07 azAchFZW0 124/649

ほむら「あら、大罪人じゃない」

「…なぜそんな平静なんだ?」

ほむら「一人で暇だったのよ」


余裕を覗えるほむらの反応に少し疑問を抱いた侵入者。そんな侵入者を
嘲笑うかのようにさらに言葉を続けた。


ほむら「ちょっと置いていかれてしまってね。まぁ座って頂戴。どうせ扉の
    外にも衛兵がいるわ」

「なぜかくまう?」

ほむら「? かくまって、って言ってきたのは貴方の方よ?」

「チッ…、お前は一体何者なんだ?」

ほむら「この国の王の娘よ。病弱なものでいつもベッドの上にいるの」

「ふん、…お前のような娘がいたら多少はこの国もマシになってただろうさ」

ほむら「お褒めの言葉、有り難く頂戴いたしますわ」


ふざけるように会話を重ねていく。


ほむら「貴方は…」


そこまで言葉を発したとき、今度はちゃんと扉のほうからノックの音が聞こえた。


クレス「ほむら?起きているかい?」

ほむら(…!)


咄嗟に時間を停止させ、侵入者に触れる。触れた瞬間に侵入者は時を取り戻す。


「!? これは一体!?」


急な出来事に流石に驚きを隠せない侵入者をよそに、ほむらは早口で説明する。


ほむら「余裕がないから手短に…、今外にいるのは私の仲間よ。もし他の誰かの目に
    つきたくないのなら私に触れたままベッドの下に隠れなさい。見られてもいい
    のならそのまま動かないで。3秒あげるわ」


一瞬考え、言われたとおりにほむらに触れたままベッドの下に隠れる侵入者。


隠れたのを確認し、自分は布団に入り込む。時間停止を解除する。


ほむら「…ええ」


今目が覚めたかのように振舞い、クレス達を部屋に呼び込んだ。

128 : VIPに... - 2014/08/04 00:54:18.59 azAchFZW0 125/649

ほむら「…モリスンさんが!?」

クラース「あぁ、我々の目の前で…」

ほむら「くっ…!」

クラース「ほむら、君が今考えたことを当てよう。『私がいなかったせいで』…だろ」

ほむら「…」

クラース「あまり自分ばっかり責めるな。目の前にいて何もできなかった我々の責任の方が大きい」

ほむら「でも…」

クラース「とりあえず気持ちを切り替えるしかない。その為にほむらを一人にまで会議に出席してきたんだ」

ほむら「…これからどうするの?」

クラース「私はもうすぐ開かれる会議に参加しないといけない。そこで全てが決まるだろう」

ほむら「会議の結果待ち、ってことね」

クラース「そうなる。…お前たちは少し休んでおくといい」

クレス「…どうなってしまうんでしょうか」

クラース「…。さぁな。なるようにしかならんさ」

クレス「歴史が変わってしまった。…もう先が読めない」


クレスが思わず漏らした言葉に栓をするようにクラースは立ち上がる。


クラース「さて、私は会議の前に少しでも腹に何か入れておく。ついでだから
     お前らもついてこい」

アーチェ「え、でもほむらちゃんが」

ほむら「私はまだ食欲が無いから…、みんなで食べてきて」

クラース「ほむらもああ言ってることだし、ほら行くぞ」


半ば強引にクレス、アーチェ、ミントを部屋の外に連れ出し扉を
閉めようとするクラースがほむらに一言声をかけた。


クラース「ほむら、野良猫を部屋に入れるのは構わんがばれないようにしろよ」


そう言い残しクラースは部屋を出て行った。

130 : VIPに... - 2014/08/04 00:54:58.96 azAchFZW0 126/649

ほむら「…らしいわ、野良猫さん?」


「…ふん」


不満そうにベッドの下から姿を現す。


「…歴史が変わったとはどういうことだ?」

ほむら「秘密よ。そこは教えられないわ」

「…」

ほむら「それより貴方、わざわざなんで城内に侵入したの?」

「人の質問には答えずに質問するのか」

ほむら「かくまってあげた料金を請求しているだけよ」

「…この国には触っちゃいけない玩具がある。それを探していた」

ほむら「玩具?」

「そうだ。あれは人の手には余る」

ほむら「詳しくは教えてもらえないのかしら?」

「妥当な料金だ。これ以上は言えないね」

ほむら「はぁ…、随分ふんだくるのね」


やれやれ、といった感じでほむらは首をふる。

131 : VIPに... - 2014/08/04 00:55:39.85 azAchFZW0 127/649

「…長居しすぎたな」


侵入者はそう言い窓に近寄った。


ほむら「貴方、名前は?」


出ていこうと開いた窓枠に足をかけた姿で少し動きが止まる。


「…ウィノナ・ピックフォード」

ほむら「ウィノナさんね。私は暁美ほむらよ。縁があったらまた会いましょう」

ウィノナ「…邪魔したな」


ほむらの言葉を無視してウィノナは飛び降りていった。


ほむら「つれないわね…」


ほむらはしばらく、ウィノナが出て行った開いたままの窓を見つめていた。

150 : VIPに... - 2014/08/07 19:41:29.72 JD5gPo9m0 128/649

ミッドガルズ城




アーチェ「ほむらちゃん?本当に大丈夫?」

ほむら「ええ、こんなときに寝ていられないわ」

クレス「しかし…」


クレスはほむらが苦しんでいたときの姿を思い出す。


ほむら「私が足手まといになるようなら置いていけばいい」

ミント「そんなこと…できるわけありません…それに」


「…ふん、お前たちのような女子供の集団が遊撃部隊とはな」

クラース「…スリーソン殿」


クレス達の会話を遮るように姿を現した甲冑を身に着けた女性はクレス達に向け、
憎らしそうに話しかけてきた。


ほむら「どちら様かしら?」

スリーソン「私は第三特殊部隊隊長スリーソン。
      ピクニック気分で来ているのならさっさと帰るんだな」

ほむら「…」


少し、握った拳に力が入る。

151 : VIPに... - 2014/08/07 19:42:10.61 JD5gPo9m0 129/649

ほむら「こんな辛気臭い国にわざわざ遊びにくる訳は無いわ」

スリーソン「…なんだと?」

クラース「ほむら、やめておけ」


ほむらの様子に気が付いたクラースはなだめる様に止めに入る。


ほむら「ごめんなさい。思ったことがすぐ口に出ちゃうタイプなの」

スリーソン「…チッ」


不快そうに足早に立ち去ろとしたスリーソンは途中で止まり、こう忠告した。


スリーソン「お前たちに足を引っ張られて死ぬのはごめんだ」

ほむら「私は貴方達に足を引っ張られても死なない自信はあるけどね」


クラースは手に持った本をほむらの脳天目掛け打ち下ろす。


ほむら「…っぅ!」

クラース「ほむら、いい加減にしろ」

ほむら「…」

スリーソン「…」


スリーソンは痛がっているほむらに対し、何も言わずに去って行った。

152 : VIPに... - 2014/08/07 19:42:57.41 JD5gPo9m0 130/649

クラース「はぁ…。イライラする気持ちもわかるが開戦前に問題を起こすのだけはやめてくれ」

ほむら「…そう、ね。ごめんなさい」


ほむらは頭をさすりながらクラースの言葉に頷いた。


ほむら(でも…遊びだなんて言わせない)

ミント「大丈夫?ほむらさん」

ほむら「ええ…」

アーチェ「クラース!いくらなんでも女の子を殴るのはひどいよ!」

ほむら「いいのよアーチェさん、私が悪かったんだから」

アーチェ「ダメダメ!ちゃんとこういうのは言っておかないと!
     そしてついでにあたしもちょいちょい殴られるのも今日限りで――痛い!」


いい終わる前にすかさずアーチェを本ではたく。


クラース「私も叩きたくて叩いてるわけじゃない。全く…本が傷むだろうが」

アーチェ「そっち!?」

クラース「ほむら、体調はどれくらい回復している?」

アーチェ「無視!?」

ほむら「…6割、といったところかしら」

クラース「…4割程度か?」

ほむら「…」


ほむらは答えない。

153 : VIPに... - 2014/08/07 19:43:42.31 JD5gPo9m0 131/649

クラース「どうなんだ?」

ほむら「…今は、ね。明日の開戦までには6割程度まで戻してみせるわ」

クラース「そうか。なら心配無いな」

ほむら「えっ?」

クラース「6割のお前がいれば勝てるだろう。さっさと勝って被害が少ないうちに5万ガルド
     を貰って終わらせてしまうぞ」

クレス「傭兵だけじゃなく、軍全体にも出ているみたいですね。報奨金の話が」

クラース「足並みを乱す報奨金なんて逆効果だからな。まぁ、我々が他の連中が追いつけない程度の
     速度で進めば万事解決だ」

ミント「上手くいくでしょうか…?」

クラース「上手くやるのさ。そのためにはお前たち、気合入れていくぞ。
     遊びで来ていないことは明日証明すればいい」

ほむら「全く…病み上がりをこき使おうとするなんてね」

クラース「不満か?」


ニヤッと笑う。


ほむら「いいえ」


ニヤッと笑い返す。

154 : VIPに... - 2014/08/07 19:44:20.48 JD5gPo9m0 132/649

ヴァルハラ平原


クレス「アーチェ!右だ!」

アーチェ「合点!」

アーチェ「イラプション!」


地面から溶岩が吹きあがり、地上の敵めがけて降り注ぐ。
アーチェの呪文を喰らい、身体が焦げていくモンスター目掛けてクレスは
グングニルで突き刺す。
断末魔を上げ倒れるモンスターには構いもせず、次の標的に狙いを定め突進する。


ほむら(周り一面敵だらけね。一匹一匹に時間をかけていてはキリがないわ)


ほむらはグレネードランチャーを取り出す。この手の武器は他の武器に比べ弾のストックが心許なく、
あまり使用していなかったがこの状況では仕方がない。


ほむら「貴重な弾よ。噛みしめる様に味わいなさい」


敵の集団を巻き込むように発射する。魔力で強化された爆発で地面をえぐり、敵の
陣形をそぎ落とすように崩壊させる。


クラース「派手な武器だな」


爆風で飛びそうな帽子を手で押さえ、クラースは素直な感想を述べる。

155 : VIPに... - 2014/08/07 19:44:56.58 JD5gPo9m0 133/649

ほむら「大事な一戦だもの。出し惜しみはしないわ」

クラース「やはり頼りになる。…ノーム!」


指輪が激しい光を放ち、土の精霊が飛び出してくる。精霊は高く舞い上がり
ミサイルのように速度を上げて地面に突き刺さり、爆発を起こす。


クラース「道ができたぞ!全員進め!ほむらは最後尾を頼む!」

ほむら「ええ!わかったわ!」


進行方向とは反対に向きを変え、サブマシンガンを狙いも付けず乱射する。
置き土産と言わんばかりに複数個の手榴弾のピンを抜いてばら撒き、先行するクレス達の後を追う。
後ろで爆発する音が響いた。

ほむらはクレス達の背中を追いながら自身のソウルジェムに目をやる。
溜まった穢れが揺れていた。


ほむら(あの国を離れたら多少だけど回復速度が戻った気がする。やっぱりあの国には何かあるわね。
…マナの薄い理由が)



クラース「敵が引いたな。今日はここまでだ…こちらも休もう」


辺りが暗くなり始めた頃、敵の一団が後退を始めた。
不気味なほどの静寂が辺りを包んでいた。

156 : VIPに... - 2014/08/07 19:45:48.83 JD5gPo9m0 134/649

クラース「ほむら、お前は先に休んでいろ。食事が出来たら持っていく」

ほむら「…わかったわ。お願いね」


ほむらは素直にクラースの言葉に従い、テントの中に入っていった。


アーチェ「随分大人しく従ったね」

クラース「最優先でやるべきことを理解しているのさ」

ミント「身体…大丈夫なのでしょうか?」

クラース「少なくとも、今日はこちらが心配するような動きはなかったな。
     …それを見せずに動いていた可能性もあるが」

クレス「今までずっとフォローしてくれてたんだ。今こそ僕が…」

クラース「焦る気持ちもわかるが…落ち着けよクレス。周りは敵しかいないんだ。
     隙を見せたら一気に食いつかれるぞ」

クレス「大丈夫です。それもほむらが教えてくれましたから」

アーチェ「ほむら大先生の教えは素晴らしいのだ」

クラース「そうだな。お前たち、落第しないように気を付けろよ?」

アーチェ「以上。校長先生のお言葉でした」

ミント「食事の用意が出来ました」

アーチェ「さぁ、給食給食!」

ミント「…はい?」

クラース「放っておいていいぞミント。アーチェ、ほむらに持っていってくれ。」

アーチェ「はーい」

クラース「我々も食べてさっさと休もう。明日も長い一日になるだろうからな」

157 : VIPに... - 2014/08/07 19:46:27.99 JD5gPo9m0 135/649

ヴァルハラ平原 二日目


クレス達は、日の出と共に押し寄せてきたダオス軍とぶつかっていた。
敵を片づけていく中、ほむらが異変に気付いた。


ほむら(昨日かなりハイペースで進んだせいか後方に味方はいなかった。
    それなのに…)


自分たちのすぐ近くでダオス軍と激突しているミッドガルズ軍。
どうやら夜もほとんど休憩せず強行軍で進んできたらしい。


ほむら「愚かね」

クラース「確実に報奨金のせいで犠牲者が増えているな…」

アーチェ「どうするの?」

クラース「どうするも何も、さっさとこの戦争を終わらす他ないだろう」

クレス「…くそっ!」


襲い掛かる敵を切り払い、クレスが悪態をつく。


クレス「進みましょう!僕が先行します!」

クラース「ああ、頼んだぞ!」


「うわあああああああ!」


戦場に響く悲鳴。声を辿った先にあった光景は、今まさに魔物がミッドガルズ軍の兵士の命を
奪わんとする一撃を振り下ろす瞬間だった。

158 : VIPに... - 2014/08/07 19:47:26.90 JD5gPo9m0 136/649

ほむら(…くっ!)


ほむらは咄嗟に時間を停めた自分に驚いていた。
一度停めてしまった以上、見捨てる気にはならなかった。
ほむらは時間を止め、クラースに触れる。


ほむら「咄嗟に停めてしまったわ…。――行ってもいいかしら?」

クラース「…自分が何をしようとしているのかわかっているのか?」

ほむら「分かっているつもりよ。ただ、自分でも時間を停めたのには戸惑っているけど」

クラース「…絶対に死なないと約束するか?」

ほむら「誓うわ。ここは私の死に場所じゃない」

クラース「…行って来い」

ほむら「ごめんなさい…行ってくるわ」

時間停止の負担を考慮し、クラースは最小限の会話にとどめた。


ほむらはクラースから手を離し、兵士の元へ駆け出す。


時間停止を解除し、魔物の一撃をはじき返してほむらは逆に魔物の命を奪う。


クレス「!? ほむら!?一体何を…」

クラース「我々は進むぞ!行け!クレス!」

クレス「でも!」

クラース「いいから行け!…あの子は賢い子だ。信じてやれ」

クレス「…わかりました!」

クラース「アーチェ!ミント!お前たちも振り向くな!進むんだ!」

アーチェ「もう!クラースはほむらちゃんに甘すぎ!」

ミント(絶対に無事でいてください…ほむらさん)

159 : VIPに... - 2014/08/07 19:48:05.89 JD5gPo9m0 137/649

ほむらは小さくなっていく4人の背中を見送りつつ、兵士に声をかけた。


ほむら「立ちなさい。そして今すぐ引くのよ」

兵士「俺は…まだ」

ほむら「邪魔よ。今すぐ消えなさい」

兵士「!?」

スリーソン「何をしている!」


駆け寄ってきたスリーソンが怒鳴りつけてくる。彼女自身もかなりの傷を負っていた。


ほむら「…この愚かな強行軍は貴方の仕業かしら?」

スリーソン「愚か、だと?」

ほむら「ええそうよ。愚行以外の何物でもないわ」

スリーソン「我々は国を守る為に戦っている!休んでいる暇など無い!」

ほむら「筋金入りの大馬鹿者ね。そこの震えている兵士を見なさい。
    疲れ切って立てもしないじゃない」

スリーソン「…貴様!立て!お前たちは勇敢な兵のはずだ!立ち向かえ!そして国の為に――

ほむら「命を捨てろ、なんて言うつもりじゃないでしょうね」

スリーソン「!? …それの何がおかしい!?私は国の為!王の為!身も心も捧げ!
      尽くすことを誓った!それを守る為にこの身が朽ちても構わん!」

160 : VIPに... - 2014/08/07 19:49:04.83 JD5gPo9m0 138/649

ほむらは苛立っていた。彼女の言うこと全てが癇に障る。
大切なものの為、全てを捨てどんな犠牲も厭わない。


ほむら(同族嫌悪、ってやつかしらね)


似ている。そうほむらは思った。だが二人には決定的に違うものがあった。


ほむら「私は…」

ほむら「私は絶対に諦めない」

ほむら「私は大切な者を守りきる」

ほむら「だから絶対に死ぬわけにはいかないわ」

スリーソン「ただ死ぬのが怖いだけだろう!臆病者め!」

ほむら「そうかもしれないわ。でも、死んだらそこで終わりなのよ」

スリーソン「無様に逃げ回り生き恥を晒せとでも言うのか!貴様は!」

ほむら「恥だと思うなら思えばいいわ。私は生き抜くことを恥だなんて決して思わないけど」


スリーソンを睨みつけるように見る。

161 : VIPに... - 2014/08/07 19:49:36.99 JD5gPo9m0 139/649

ほむら「貴方も、そこの兵士も守りたいミッドガルズという国の一部でしょう?
    …守ってあげて」

スリーソン「…っ!」

ほむら「道は私が切り拓くわ。…それが私のやるべきことだから」

スリーソン「…礼は言わんぞ」

ほむら「この戦争が終わってからでいいわ。私達が勝たせてあげる――
    遊びに来たわけじゃないからね」


時間を止め、後方に向けてお手製の爆弾をまとめて投げる。
投げ終えてすかさず時間を動かすと激しい爆発が起こり、道が切り拓かれた。


ほむら「行きなさい!」

スリーソン「…くそ!一旦退くぞ!互いの背中を守りつつ下がるんだ!」


スリーソンの号令を聞き、スリーソン率いる軍隊の戦線が下がっていく。

162 : VIPに... - 2014/08/07 19:50:16.33 JD5gPo9m0 140/649

スリーソン「お前はどうするんだ!?」

ほむら「私はここに残るわ。ここで一緒に下がると最前線の仲間が挟撃を受ける形になってしまう」

スリーソン「馬鹿な!?この大軍を一人で相手するつもりか!?」

ほむら「問題無い。死なないって約束しているから…絶対に死ねない」

スリーソン「…お前にはまだ言いたいことが残っている!死んだら承知せんぞ!」

ほむら「はいはい…。わかったからさっさと退きなさい」


ほむらは背中でスリーソンを見送る。残るは自分と自分を囲むダオス軍のみだ。


ほむら(さすがにこの量相手だとかなりの弾薬を使ってしまうわね…。
    まぁ自分で蒔いた種だから仕方がないんだけど)

ほむら(それにしても――私は変わってしまったのかしら…まあいいわ)


サブマシンガンを取り出す。久しぶりの一体多数の戦闘だ。


ほむら(ここで足止めできればクレスさん達の背中もスリーソンさん達の背中も守れるはず。
    ――やるしかないわ)


地面を蹴って、一人で魔物の群れに向かっていった。

163 : VIPに... - 2014/08/07 19:50:57.18 JD5gPo9m0 141/649

ヴァルハラ平原


サブマシンガンを乱射する。一瞬、時を止めリロード。爆弾を放り投げ時間を動かす。
正面から敵が来る。頭部を撃ち抜く。
左手にサブマシンガンを持ち替え、右手で盾からハンドガンを引き出す。
真横から襲ってきた魔物に一瞥もくれずに数発撃ちこむ。

ダオス軍に取り囲まれながらも、踊るように立ち回り少しずつ敵の数を減らしていく。
だが、以前押し寄せる敵の数にさすがのほむらも少しずつ弾薬と体力を削られていた。


ほむら(流石に本調子じゃない分、いつもより考えて動かないといけないわね)


剣を振り抜いて来た魔物をあざ笑うかのように跳ぶ。頭部を踏みつけ更に高く跳んだ。
空中でロケットランチャーを取り出し、着地の隙を狙おうとする群れに向かって容赦なく撃ちこんだ。


安全に着地し、ロケットランチャーを盾に仕舞ったその時、後方で音が聞こえた。
切り払うでもない、吹き飛ばすでもない、弾き飛ばすような音。

音がした方に視線を向けると一人の男が立っていた。


「ウジャウジャと鬱陶しいんだよテメェらは!」


乱暴な言葉を浴びせ、手に持っている剣を振り抜く。真空波の類であろうか、
剣が触れていない周囲の敵の腰から上が宙に舞った。


「チッ、まだまだいやがんな…っと、先客か」


男はほむらの存在に気が付いたように声を上げる。

164 : VIPに... - 2014/08/07 19:51:31.69 JD5gPo9m0 142/649

ほむら「まさかこんなところに人が来るなんてね。…しかも一人で」

「楽勝だ。嬢ちゃんも一人か?」

ほむら「まぁそんなところね。…傭兵かしら?」

「ああ。報奨金目当てで来たんだが…敵がウザすぎて飽き飽きしてたところだ」


動きを止めずに会話を進める二人。ほむらは男の動きをしばし観察する。


ほむら(かなり戦い慣れてるようね。それに…強い)


剣を一振りすると数体の敵が躯と化す。クレスのようなチームとしての動きではない、
完全な個の力による破壊力があった。


ほむら(暴力に近いわね)

「あぁん?何ジロジロ見てんだ?」

ほむら「いいえ、なんでもないわ」

ほむら(言葉遣いも)


男のおかげでほむらの負担が減った。
ほむらはできるだけこの男を利用する算段を立て始めた。

165 : VIPに... - 2014/08/07 19:52:05.55 JD5gPo9m0 143/649

ほむら「残念だけど」

「ん?」

ほむら「かなり前に先行した人たちがいるわ。恐らく敵の大将の所まで進んだんじゃないかしら」

「おいおいマジか…。ここまで来てタダ働きかよ」


明らかに残念がる男にさらにほむらが声をかける。


ほむら「一旦下がろうかと思ったのだけれど、後方にはミッドガルズの軍もいるわ。
    下がったら変に難癖つけられそうで動けなくてね」

「国の為だ!引くな!戦って死ね!っていう連中だからな!」


鼻で笑い、男はほむらに同調する。


ほむら「だからここでウサ晴らしみたいなことしてるってわけよ」

「ははっ!戦争がウサ晴らしかよ!お前面白ぇな!」

ほむら「貴方も付き合ってみない?ウサ晴らし。どうせ進んでも空振り、
    戻っても面倒よ」

「なんか無性にイラついてきたぜ…。こんな遠くまで来たのにタダ働きなんて…よ!」


力任せに剣を振るう。地面がえぐりながら進む衝撃派が敵を巻き込んでいく。


「テメェ等全員ぶっ飛ばさないと気がすまねぇな!」

ほむら(やったわ)


心の中でガッツポーズをする。その時だった。

166 : VIPに... - 2014/08/07 19:52:50.26 JD5gPo9m0 144/649

「死ねやテメェ等!オレ流!虎牙破斬!」

ほむら「!?」


男はほむらが聞き覚えと、見覚えがある技を繰り出した。


ほむら(この技は…クレスさんの!?)

「あん?何驚いた顔してんだ?」

ほむら「い、いえ…なんでもないわ」


ほむらは冷静さを取り繕い、骨がむき出しの魔物を蹴り倒し、踏みつぶした。


「やるな嬢ちゃん!その歳にしてわよ!」

ほむら「…私には暁美ほむらという名前があるわ。…貴方は?」

「ほむら?燃え上がれ!って名前だな!」

ほむら(貴方に言われると無性に腹が立つわね。馬鹿にされてるみたいで)


「俺はアラン・アルベインだ。まぁ短い付き合いだが頼んだぜ!」

ほむら(アルベイン…やっぱりこの人、クレスさんのご先祖様ってわけね)

ほむら(クレスさんとは似ても似つかないけど)

アラン「だからさっきから何ジロジロ見てんだよ!」

ほむら「だからなんでもないわ…それよりまた敵がくるわ」

アラン「面倒だからもうまとめてかかってこいや!」


アランはそういい一直線に敵に突っ込んでいった。


ほむら(はぁ…さすがにフォローしないとダメよね)


ほむらも仕方がないといった感じでアランの背中を追った。

167 : VIPに... - 2014/08/07 19:53:33.46 JD5gPo9m0 145/649

アラン「こいつで終いだ!」


最後の魔物をアランが豪快に切り落とす。周辺には無数の敵の残骸が転がり、
動いているのはほむらとアランだけだった。


ほむら「片付いたわね」

アラン「結構時間がかかっちまったがな」

ほむら「そうね。まぁ何はともあれ助かったわ…有難う」

アラン「なんだよ?ただのウサ晴らしだろ?礼なんて必要ねぇだろ」

ほむら「ふふっ、そうだったわね」


剣に着いた血を払い、鞘に納めたアランは周囲を見渡す。


アラン「どうやら敵も粗方引いたらしいな。勝ったんだか負けたんだか…」

ほむら「勝ったわよ」

アラン「あん?何でわかるんだ?」

ほむら「勘よ」

アラン「ハッ、くだらねぇ」


アランは笑い飛ばし、ほむらに背を向ける。


アラン「じゃあなほむら。お前もなかなか強かったぜ」

ほむら「あら、ありがとう。貴方も強かったわ」

アラン「当たり前だ。俺は最強の剣士だからな」


そう言い、振り向かずに手を挙げてアランは去っていった。


ほむら「最強、ね」


アーチェ「ほむらちゃーん!」


アランが去って行った方とは逆から自分を呼ぶ声が聞こえた。
振り向くと、こちらに向かって歩いてくるクレス達の姿があった。

168 : VIPに... - 2014/08/07 19:54:03.21 JD5gPo9m0 146/649

アーチェ「ほむらちゃん!大丈夫だった!?」

ほむら「ええ、ご覧のとおり」

ミント「もう、無茶はしないでください…」


呆れたような、少し怒ったような言い方でミントが言葉をかける。


ほむら「ごめんなさい…。でも貴方達も無事でよかったわ」

クラース「お前を残して行って負けました、なんてかっこ悪すぎるだろう?」

ほむら「ふふっ、そうかもしれないわね」

クレス「この数…、一人でやったのかい?」


クレスが周りを見渡しながら訊ねてきた。


ほむら「いいえ。一人協力者がいてね…まぁ利用させてもらった形になったけど」

クレス「たった二人でこの数を…」

アーチェ「ほえー…信じらんない…」

ほむら「とても強い剣士の人だったわ。彼の方が倒した数は上ね…豪快すぎたけれど」

クレス「へぇ…。是非とも会ってみたいな」

ほむら「…」

ほむら(話さないほうがいいわよね…。歴史が変わってしまうかもしれないし)


考えすぎかもしれない、だがほむらはモリスンの事を考えた。
どんな些細なことでも歴史が変わってしまう可能性がある。

169 : VIPに... - 2014/08/07 19:55:15.68 JD5gPo9m0 147/649


ミント「ほむらさん?」

ほむら「…あ、ごめんなさい。少し疲れたわ」

クラース「これだけ暴れたら少しじゃ済まんだろう」

クレス「僕たちも流石に疲れたよ。みんなでミッドガルズに戻ろう」



ヴァルハラ平原の戦いは人類側の勝利で幕を下ろした。



ミッドガルズ城



ライゼン「それでは紹介しよう!敵の総大将を打ち取った、勇敢な英雄たちを!」


そう紹介されて城内のバルコニーから姿を現すクレス達。耳をつんざくような歓声が
降り注いだ。


クレス「さ、さすがに恥ずかしいですね」

クラース「胸を張れ。堂々としていない英雄なんて恰好つかないぞ?」

アーチェ「イエーイ!ピースピース!」

ミント「…ア、アハハハ」

ほむら「…」

クラース「ほむら、お前も手くらい振ってやれ」

ほむら「…私が?」

クラース「彼らは何か縋るものが欲しいのさ。ダオスという強大な闇が目前に迫っている。
     我々に希望を見出しているんだ」

ほむら「希望…」


ほむらは一歩前に出るそして、小さく手を振った。
一段と大きな歓声がほむらを祝福していた。


ほむら(希望…ね)

170 : VIPに... - 2014/08/07 19:55:50.07 JD5gPo9m0 148/649

バルコニーを後にしたクレス達を出迎えたのは、身体のあちこちに包帯を巻いたスリーソンだった。


ほむら「生きてたのね」

スリーソン「あぁ、惨めに生き残ったよ」

ほむら「…敢えてもう何も言わないわ」

スリーソン「…この国を救ってくれたことには礼を言う」

ほむら「礼は言わなかったんじゃなかったかしら?」

スリーソン「…」

ほむら「まぁいいわ、素直に受け取らせてもらうわね」


「た、大変です!」


一人の兵士が慌てて駆け寄ってきた。


スリーソン「何事だ!?騒々しい!」

兵士「そ、それが…!」

兵士「敵が空から…!」




171 : VIPに... - 2014/08/07 19:56:30.87 JD5gPo9m0 149/649

クラース「大地の次は空、か。節操も無い」

ほむら「空に対して攻撃手段はあるの?」

スリーソン「投石器か、大砲ぐらいだな…」

ほむら(流石にあの量は私の残弾全て使っても無理ね…)


空を埋め尽くすほどの魔物が押し寄せてくる。


スリーソン「…ライゼンは一体どこに?」

兵士「わ、分かりません。先程から姿が見えず…」

スリーソン「チッ、こんなときに何をしているんだ!」


クラース「アーチェ、全員乗せてあそこまで飛べないか?」

アーチェ「無茶言わないでよ…」

クラース「そうだな、…打つ手なしか」


その時、クレスが急に頭を押さえ身体を支えるように壁に手をついた。


クラース「!? おいクレス!どうした!?」

クレス「頭の…中で……声が……」


その言葉を最後に、クレスは光に包まれ、光と共に姿を消した。


ミント「ク、クレスさん!?」

アーチェ「クレスが…消えちゃった!?」

ほむら「何が…起こったというの?」


動揺を隠せない四人に更に追い打ちをかけるかのように


ほむら「!? あぁあぁぁ!」


ほむらが再び苦しみだした。



172 : VIPに... - 2014/08/07 19:57:09.20 JD5gPo9m0 150/649

ライゼン「魔導砲、エネルギー収束開始」

研究員「ハッ!」

ライゼン「ダオス、見ているがいい。これが魔科学の力だ」



ほむら「ああああああぁああぁあぁあ!」


自分の身体を全く支えようともせず、激しく倒れこむ。


ミント「そんな!?ほむらさん…!また…!?」

クラース「くそっ!この症状は一体なんだ!?…アーチェ!?」


ほむらにつられるようにアーチェもその場に崩れ落ちる。


アーチェ「ダ、ダメ…。力が…抜けていく…」

スリーソン「一体…何が起こっている!?」


いきなり苦しみだす二人をみて狼狽するスリーソン。


スリーソン「何なんだこれは!?説明しろ!」

クラース「わかっていたらこうも慌てるか!…くそっ!」


突然、周囲に地鳴りのような音が鳴り響いた。


クラース「!?」


周囲を見渡すと一基の塔から何かが伸びている。大砲の筒のような物だ。
先端に光が集まっているように見える。

173 : VIPに... - 2014/08/07 19:57:56.13 JD5gPo9m0 151/649

クラース「なんだあれは!?」

スリーソン「あんなものが塔の中に隠れて…!?それにあの光は…」

ウィノナ「魔科学だ」


突如会話に乱入してきた人物に目を向けた二人。


クラース「誰だ!?」

スリーソン「貴様は…!ウィノナ・ピックフォードか!?なぜこんなところに!?」


ウィノナは返事をせずに苦しんでいるほむらとアーチェに視線を落とす。

アーチェ「…ウ、ウィノナ…なの?」


苦しみながら訊ねるが返事はなかった。


ウィノナ(…アーチェ)


クラース「何か知っているようだが…魔科学とは一体なんだ!?」

ウィノナ「この世を滅ぼす危険な代物だ。あれを野放しにしたら世界中のマナを吸い尽くすだろうさ」

クラース「マナを…!?……そうか!」


クラースはほむらの手を取り、ソウルジェムに目をやる。


クラース(穢れが溜まっていく…!?魔力を吸い取られているのか!?)


ほむらにとって魔力は命そのものである。
その魔力が吸われるということは、ほむらの命が削られているということだった。


クラース「アレを止める方法は!?早くしないと取り返しが付かないことになる!」

ウィノナ「…アンタはこいつらの側にいろ。だが…そこの騎士、アンタは付いてきな」

スリーソン「何?」

ウィノナ「お前にこの国の現実を見せてあげるよ」

174 : VIPに... - 2014/08/07 19:58:29.46 JD5gPo9m0 152/649

ほむら「ぐうううううううう!…がああぁぁあぁぁぁ!」


ほむらの苦しみ方が段々とひどくなる。そんな様子を見ることしかできない
クラースは己の無力を呪った。


クラース「こんなときになにもできないとは…!」

ミント「クラースさん!離れてください!」

クラース「ミント、何をする!?」

ミント「バリアー!」


ほむらとアーチェの身体を隔離するように光の障壁を生み出す。


ミント「これで…少しは魔力の流出を抑えれるかもしれません!」

クラース「しかしこれでは…」


ミントの生み出した光の壁が見る見る崩れ去っていく。魔導砲が吸い取っているのだ。


ミント「分かっています…!でも、私がずっとかけ続ければ!」


崩れていく光の壁を修復していく。修復しては崩され、崩されては修復していく。


クラース「ミント!お前の身体ももたないぞ!」

ミント「私よりも二人のほうがずっと苦しいはずです!」

アーチェ「あたしはいい!だからほむらちゃんを…!助けて!」

ミント「そんな!?」

アーチェ「あたしは苦しいだけだから!でも、ほむらちゃんは魔女になっちゃうんでしょ!?
     そんなの絶対嫌だ!」

ミント「…っ!アーチェさん、申し訳ありません」


ミントはアーチェに回していた力を全てほむらに注ぎ込む。

175 : VIPに... - 2014/08/07 19:59:00.53 JD5gPo9m0 153/649

アーチェ「……っ!」


立ち上がり、少しでもほむらの側にいこうとしたアーチェの身体が揺らぐ。
しかしアーチェは倒れなかった。

アーチェ「ほむらちゃん!死なないで!」


ほむら(…!)


苦しみ、意識が朦朧とするほむらだったが、アーチェの声はちゃんと耳に届いていた。




研究員「魔導砲!発射準備完了!いつでもいけます!」

ライゼン「見るがいい!そしてこの光に震えろ!ダオス」

ライゼン「撃て!」



放たれた一筋の光が襲来した魔物を飲み込む。
周囲の命を吸い取り、触れた全ての命を奪い取っていった。




ライゼン「どうだ!これが魔科学の力だ!」

研究員「これで…ようやく…」

ライゼン「ふん!まだだ!二射目の準備に取り掛かれ!」

研究員「そんなっ!?」

ライゼン「なんだ!早くするんだ!まだまだ敵は残っているんだぞ!」

研究員「ぐっ…!」

研究員(これも…あの御方の為っ…!)

176 : VIPに... - 2014/08/07 19:59:34.54 JD5gPo9m0 154/649

ほむら「ハァッ!…ハァッ!…ハァッ!」


ようやく魔力の吸収は収まったが、ほむらは限界だった。


クラース「…こんな兵器があっていいはずがない!」


クラースは激昂する。生命さえ脅かし、精霊の命をも奪わんとする兵器。
そのようなものを目の当たりにしたのだ。


アーチェ「ほむらちゃん…しっかりして」

ミント「ほむら…さん」


バリアーを解除し、ミントがほむらに触れようとした瞬間だった。


ほむら「ああぁぁあああああっ!」


魔導砲が再びほむらの命を奪っていく。


アーチェ「そんなっ!?…ぐぅっ!」

クラース「もうやめろ!これ以上ほむらを苦しめるな!」


だが、クラースの願いは届かない。


ミント「…バリアー!」


すかさず壁を張り直すがミントの限界も近づいていた。


ほむら(いよいよ…覚悟をしないとダメ…なようね)


ほむらは残る力を振り絞り盾に手を伸ばした。


177 : VIPに... - 2014/08/07 20:00:50.60 JD5gPo9m0 155/649

クレス「…嫌です」

「何?」

クレス「すいません、今はまだこの槍を返すわけにはいかないんです
    …ヴァルキリー」


クレスが光に包まれた後に目を開くと、目の前に見知らぬ女性がいた。
戦乙女、ヴァルキリー。彼女はそう名乗った。


ヴァルキリー「それは元々我が君主、オーディンの持ち物だ。人間風情が
       手にしていいものではない。…なぜか封印が解けているようだが」

クレス「これが神の持ち物だとは分かっています。ですが…、今はこの槍の力が
    必要なんです」

ヴァルキリー「その槍の力に溺れたか、人間よ」

クレス「違う!」

クレス「僕はこの槍を使うのを恐れていた…自分には扱えないと思った!
    この槍を使いこなせずにみんなを危険に晒すのが怖かった!」

クレス「でも、そんなときに僕の背中を押してくれた子がいた!
    僕より幼いのに、とても過酷な道を歩んできて、傷ついて、自分の大切な人の為に全てを投げ捨てて!
    
クレス「…そんな彼女が今とても苦しんでいるんです。
    僕はその子に…いや、みんなに守られてきた!だから!
    今ほむらが苦しんでいる今こそ僕が守ってあげないといけない!
    その為にはこの槍が必要なんだ!」

ヴァルキリー「…」

178 : VIPに... - 2014/08/07 20:01:22.79 JD5gPo9m0 156/649

ほむらは盾に手を伸ばた。そして取り出したものは、拳銃だった。


クラース「!? 何を考えている!やめろ!」

ほむら『みんな…迷惑かけて…ごめん…な…さい』

ミント「こ、これは…?」

ほむら『直接貴方達に…語りかけ……グゥッ!……私は…魔女に…なっては
    いけない…。だか…ら…ここで……ソウルジェムを砕…く…わ…』

クラース「ふざけるな!そんなこと許さんぞ!…そうだ!グリーフシードだ!
     グリーフシードを使え!」

ほむら『ダ…メ……、グリ…ーフシードも吸われ続ける…と魔女が…生まれて…しまう…かもしれない。
    だ…アァッ!だ…だから…』

ほむら『魔女が…いない世界で……魔女が生まれ…るとどうなる…かわからない…。
    みんな…を……危険な目に……あ…わせたくな…い』

アーチェ「だからって…!こん…なの…!ないよ……!」

ほむら『……』

クラース「ほむら!」

ほむら(テレパシーも…だめねもう。ごめんなさい、みんな。やっぱり私は魔女になりたくない。
    魔女になって貴方達を傷つけたくない。私を殺した重荷を背負わせたくない。
    だから私は死を選ぶ。
    仲間と呼んでくれて…ありがとう。友達になってくれて…ありがとう。
    …ごめんね、まどか)


ほむらは引き金にかけた指に力を込めた。

179 : VIPに... - 2014/08/07 20:01:54.66 JD5gPo9m0 157/649

アーチェ「駄目!」


飛びつくようにほむらに触れようとするアーチェだったが、ミントのバリアーに弾かれる。
だが、アーチェは決して離れようとしない。
バリアーが触れている者を拒む。触れている手が傷付き血が流れ出す。

ミント「アーチェさん!?」

ほむら(アーチェさん…ダメ…貴方が傷つく必要は無い…の…)

アーチェ「ほむらちゃん言ったでしょ!絶対にあきらめないって!絶対に友達助けるんだって!
     あきらめちゃ駄目!帰りを待ってくれている人がいるんでしょ!?」


涙を流し、血を流しながらもアーチェは叫び続ける。


アーチェ「絶望に負けないで!あたしはもう…友達に死んで…ほしくない!」


こんな自分の為に傷だらけになって、涙を流してくれ、友達と言ってくれた。
ほむら目から涙が溢れる。


ほむら(…でなの)

ほむら(なんで、なの)

ほむら(みんなを危険にさせたくないのに!…傷つけたくないのに!)

ほむら(諦めたはずなのに!)

ほむら(死にたく…ない)

ほむら(死にたくないよ…!)





その時、光を集めていた塔から爆発音が響いた。


180 : VIPに... - 2014/08/07 20:02:39.38 JD5gPo9m0 158/649

ライゼン「第二射までの時間は!?」

研究員「…周辺のマナの集まりが悪く、まだ時間がかかります」

ライゼン「くそっ!すぐそこまで魔物が迫っているというのに…!」

スリーソン「待て!ライゼン!」

ライゼン「…これはこれはスリーソン殿。そんなに慌ててどうなされた?」

スリーソン「今すぐマナを吸い取るのをやめろ!」

ライゼン「何を言っている!?魔導砲無しでどうやって空の敵に対処すると!?」

スリーソン「ぐっ…!」

ライゼン「この力が無ければ人類に勝利は無い!黙っていろ!」

ウィノナ「…そんなにその玩具が気に入ったの?」

ライゼン「!? き、貴様!?」


遅れてやってきたウィノナは躊躇もせず、研究員にボウガンの矢を撃ちこむ。


研究員「がぁ!?」

スリーソン「貴様!?一体何を!?」

ウィノナ「死体をよく見ていろ」

スリーソン「!?」


絶命した研究員の身体が見る見る内に縮んでいく。人の皮を被った魔物、それが
正体だった。


スリーソン「そんな…!?」

ウィノナ「まだどれだけ紛れているかは知らないけどさ…。全く、魔族と手を組む
     とはね…ライゼン」

ライゼン「き、貴様…!」

スリーソン「なぜ魔族同士でこんなことを…」

ウィノナ「急進派と慎重派…。魔族も一枚岩ではないということよ。
     …この国のようにね」


そして、爆発が起きる。

181 : VIPに... - 2014/08/07 20:03:08.56 JD5gPo9m0 159/649

ライゼン「!? 一体どうした!?」

「エネルギー反転!逆流しています!…ダメです!制御できません!」

ライゼン「なんだと…!?」

ウィノナ「アンタの目的には全く興味は無いが…、ざまァないね。」

ライゼン「がああああ!スリーソン!何をしている!?そいつは国家反逆の大罪人だ!
     さっさと捕えろ!」

スリーソン「…行け」

ウィノナ「フン、いいの?」

スリーソン「貴様が助けようとした娘には私も借りがある。その礼だ」

ウィノナ「言ってることがよくわからないが、まあお言葉に甘えさせてもらうよ。
     じゃあね、ライゼン。これで腕の傷の借りは返したよ。あとは勝手に死ね」

ライゼン「スリーソン!貴様も国家に逆らうか!?」

スリーソン「…」


スリーソンは無言で剣を抜き、ライゼンに突きつける。


ライゼン「…うっ」

スリーソン「貴様は叩けば色々出てきそうだな…。付いてきてもらうぞ」

182 : VIPに... - 2014/08/07 20:04:50.58 JD5gPo9m0 160/649

ほむら「う……あっ………」

アーチェ「ほむらちゃん!ほむらちゃん!」


ウィノナ「もう大丈夫」

クラース「君は…!?」

ウィノナ「魔導砲は暴走した。もうマナを吸い取ることはできない」

アーチェ「ウィノナ!?あんたなんでこんな所に!?」

ウィノナ「あたしもアイツに用だある。それだけだ」

クラース「君は一体何者だ?」

ウィノナ「答える気はないね。じゃあなアーチェ。その子を頼んだよ」

クラース「…礼を言ってく。仲間を救ってくれて感謝している」

ウィノナ「いらないね。大嫌いな人間に感謝されても嬉しくないよ」

アーチェ(ウィノナ…やっぱりあんた…)


そう吐き捨て振り向かず、立ち止まらず彼女は去って行った。


183 : VIPに... - 2014/08/07 20:05:28.55 JD5gPo9m0 161/649

ミント「ほむらさん!」

ほむら「………た……」

クラース「喋らなくていい!」

アーチェ「待って!」

クラース「何…!?」

アーチェ「言わせてあげて…」


アーチェは傷だらけの手でほむらの手を握る。かすかだか握り返してくれた気がした。


ほむら「たす…けて……くれて……ありが………と…う……」

アーチェ「バカッ!…当たり前でしょ…友達なんだから…!」

ほむら「…うん……」


ほんの少しだがほむらは笑い、そのまま意識を失った。


ミント「ほむらさん!?ほむらさん!?」

クラース「慌てるな。気を失っただけだ。…さすがに今回は肝を冷やしたがな」


ほんの少し、クラースが安堵し胸を撫で下ろしたとき、一人の女性が声をかけてきた。

184 : VIPに... - 2014/08/07 20:06:15.30 JD5gPo9m0 162/649

「そちらの方も怪我をされているのですか!?」

クラース「…貴方は?」

「私はこの戦争で怪我をされた方への治療を行っております。まだかなり立て込んでおり
…気が付くのが遅れてしまい申し訳ございません」

クラース「いや、声をかけてくれて礼を言う。この子はかなり衰弱している。
     忙しいところすまないが、この子を頼めないか?」

「それが私の役目ですので。かしこましました」


気を失ったほむらを彼女に引き渡した。こんなところより、ベッドの上のほうが少しはマシだろう。
だが、これで終わったわけでは無い。上空にはまだ多くの魔物が空を支配していた。


クラース「さて、どうするか…」


策も無く途方に暮れかけたその時、まばゆい光が突如舞い降り、クレスが戻ってきた。


クラース「クレス!無事だったか!?…その馬は?」

クレス「後で説明します!…ほむらは?」

クラース「最悪の事態は免れた、といったところだな」

クレス「よかった。…今度は僕が守ります。ほむらを頼みました」

クラース「やれるのか?」

クレス「やります!その為に戻ってきたんだ…。かならず守ってみせる」

クラース「分かった。…頼んだぞ」

ミント「クレスさん…気を付けてください」

アーチェ「あたしもいく!」

クレス「アーチェ…そんな傷だらけで…!」

アーチェ「大丈夫!ミントも疲れてるし…ほむらちゃんはもっと苦しかったんだし
     へっちゃらだよ!」

クレス「わかった…。でも無茶はするなよ」

アーチェ「合点!」


ペガサスに跨りグングニルを握りしめ、クレスは空を駆けていく。
守りたいものを守る為に。

185 : VIPに... - 2014/08/07 20:06:58.80 JD5gPo9m0 163/649

空での戦いでもクレス達は勝利を収め、ダオス軍は引き上げていった。
勝利に沸くミッドガルズであったが、ミッドガルズに広がった闇の深さを知った者は
喜べないでいた。
そして一日経った今でもほむらは目を覚まさず、クレス達も喜べない状況にいた。




クラース「ほむらはまだ目を覚まさないか」

ミント「はい…」

アーチェ「…」


アーチェは包帯だらけの手でほむらの頭を心配そうに撫でる。


クレス「アーチェ、君も休んでおいたほうがいい。疲れてるだろ?」

アーチェ「…大丈夫」


アーチェはほむらのそばを離れようとしない。


クラース「心配する気持ちもわかるが、今はゆっくり休ませてやれ」

アーチェ「…そうだね」

クラース「それより…あの娘は何者だ?」

クレス「娘?」

クラース「あぁ、クレスは知らないな…」


クラースはクレスがいなかったときの状況を説明した。

186 : VIPに... - 2014/08/07 20:07:37.39 JD5gPo9m0 164/649

クレス「人間が、嫌いか…」

アーチェ「ウィノナっていうんだけど…リアの友達であたしも何度かあったことがある、
     ってくらいなんだよね…。あんまり自分の事喋らない子だったから…」

クラース「そうか…。アイツとは一体誰の事かわかるか?」

アーチェ「多分だけど…ダオスのことだと思う」

クラース「何だと?」

アーチェ「理由はわかんないけどね。教えてくれなかったんだ」

クラース「結局、情報はほとんど無しか」

ミント「しかし…ここ数日で随分と状況が変わってしまいましたね」

クラース「そうだな。ミッドガルズは魔族からの攻撃で危機に瀕しているかと思ったら
     実は魔族と内通していました、ときたもんだ」

クレス「魔科学…、魔族の持ち込んだ技術か」

クラース「しかし妙だな」

アーチェ「ん?何が?」

クラース「考えてもみろ。人間…、ライゼンが得たものは魔族の技術だ。だが、魔族が得たものは何だ?」

クレス「そういえば…」

クラース「取引とはお互い見返りがあって初めて発生するものだ。
     魔族側にも確実に何かメリットがあったはずだ」

クレス「何があったんでしょうか…」

クラース「さぁな。そのあたりはスリーソン殿に任せるさ」

アーチェ「それよりこれからどうするの?」

クラース「そうだな」

クラース「明日、我々はダオスの城へと出発しようと思う」

クラース「ほむらは…置いていく」

191 : VIPに... - 2014/08/09 20:40:51.26 f3p0dDIg0 165/649

ミッドガルズ城



クラースの一言にアーチェが食らいついた。


アーチェ「なんで!なんでほむらちゃんを置いていくのさ!」

クラース「それを説明する。黙って聞いてろ」

クラース「まず、我々には時間がない。ダオス軍が再び侵攻を始める前に行動を開始
     するべきだ」

クラース「再び空から攻めてこられたら今度こそ打つ手がないからな」

アーチェ「…」

クラース「それにもう一つ。…今のほむらは足手まといになるだろう」


その言葉にアーチェの怒りが頂点に達し、椅子が倒れるほど勢いよく立ち上がり
クラースの胸ぐらを掴んだ。


アーチェ「いくらなんでも今のは許さないよ」

クラース「…聞けといっただろう」


クラースは特に抵抗する様子もなく続ける。


クラース「ほむらは自分で『足手まといになるなら置いていけ』と言った。
     あんな状態で連れまわすわけにもいかない。
     それに次は敵の本拠地…今までより一層激しい戦いになるだろう」

クラース「そんな中ほむらを庇いながら戦いきれるか?」

アーチェ「っ…!」

クラース「道中を戦い抜けたとしてもその先にいるのはダオスだ。
     …アーチェ、お前も分かっているだろう?ほむらを置いていく以外に選択肢がないことに」

アーチェ「…」


クラースを掴んでいたアーチェの手の力が緩む。そのまま俯きダラリと手を下げ、
アーチェは何も言わなかった。


クラース「クレス、お前からも何かあるか?」

クレス「…クラースさんの判断は正しいと思います」

クラース「ミントは?」

ミント「いいえ…。私もクラースさんのおっしゃっていることが正しいと思います」

クラース「アーチェ、いいか?」

アーチェ「…寝る!」


アーチェはそのまま部屋を飛び出ていった。

192 : VIPに... - 2014/08/09 20:41:34.17 f3p0dDIg0 166/649

クラース「…ふぅ」

クレス「…」

ミント「恐らく…黙って置いていくことに一番お怒りなんでしょうね…」

クラース「…ミント、アーチェに伝言を頼む。
    『明日の正午に出発する。それまでは待つ』そう伝えてくれ」

ミント「はい、わかりました」

クラース「クレス、グングニルは返したみたいだが…やれるか?」

クレス「やれます。やらなきゃダメなんだ…」

クラース「気負い過ぎるなよ。ただ、お前にはいつも以上に踏ん張ってもらわないといけないがな」

クレス「分かっています。以前言っていたほむらがいない状況…。僕がなんとかしないと…」

クラース「…」

クラース(これは…厳しくなりそうだな)




193 : VIPに... - 2014/08/09 20:42:09.45 f3p0dDIg0 167/649

ほむら「……うっ…」


ほむらは目を覚ました。前に意識を失った後に見た天井――それと全く同じだった。


ほむら「っ…!」


身体を無理矢理起こす。周りを見渡すが誰もいない。
ソウルジェムを見てみるとかなりの穢れが溜まり、揺れていた。


ほむら(どれくらい眠っていたのかしら…)


本来なら寝ていなければいけないのはわかっていた。だがほむらは力を振り絞り立ち上がる。
壁際を伝うように扉まで移動して、扉を開いた。

廊下に出て扉を閉めようとしたとき、大声でほむらに声をかけてきた人物がいた。


「あなた!何をしているの!?」


真っ白い修道僧のような姿をした女性だった。小走りで駆け寄りほむらの腕を掴む。


「まだ動いちゃだめよ!安静にしていないと!」

ほむら「貴方は…?」


「私はキャロルといいます。クラースという方からあなたのお世話をするように
 頼まれました」

194 : VIPに... - 2014/08/09 20:42:58.53 f3p0dDIg0 168/649

ほむら「クラースさんが…」

キャロル「それと」

キャロル「一人で無茶しようとしていたら全力で止めてくれ、とも言われていますので」


そうほむらに釘を刺し、部屋に連れ戻そうとする。


ほむら「…待ってください。クラースさん達は今どこに?」

キャロル「ダオスの居城に向かうとおっしゃってました」

ほむら「!?…出発したのはいつ?」

キャロル「昨日のお昼過ぎだったかと…」

ほむら「そう…」

キャロル「?」

ほむら(私は…)

ほむら(置いていかれたのね…)


ほむらは頭を押さえ、壁にもたれる。


ほむら(そう…よね。時間が経てば経つほど状況が変わる。ヴァルハラ平原を抑えている今こそ攻める好機だわ)

ほむら(それなのに…私は…こんなところで…)


考え込んでいるほむらを見て、キャロルは心配になり声をかけようとした。
そのとき、廊下を歩いて来た一人の男が声をかけてきた。


「おいおい、あんときの嬢ちゃんじゃねーか」

195 : VIPに... - 2014/08/09 20:43:38.10 f3p0dDIg0 169/649

耳にしたことがある声に顔を上げる。ヴァルハラ平原で共に戦ったアラン・アルベインだった。


ほむら「アランさん…。貴方まだミッドガルズに居たのね」

アラン「まぁな。ここにいりゃあ仕事が入ると思ってたんだが…
    かなりドタバタしているらしくサッパリだ」

ほむら「…仕事を探しているの?」

アラン「ん?そうだな…結局稼ぎ損ねちまったからな」

ほむら(…)

ほむら(…大体丸一日分の遅れ、急げば間に合う…?)

ほむら(何か足があれば…それとやはり一人では危険よね。そうなると…)


ほむらの頭に一つ案が浮かび上がった。


ほむら(本来はクレスさんとこの人を会わせるのは避けるべき…)

ほむら(でも…意地でもついていく。そう決めたのよ…私は…)


ほむらは決心した。早速実行に移す。


ほむら「私が貴方を雇うわ」

アラン「…へぇ」


ニヤッっとアランが笑う。

196 : VIPに... - 2014/08/09 20:44:16.46 f3p0dDIg0 170/649

アラン「内容は?」

ほむら「私をダオスの所まで連れて行って頂戴」


その言葉を聞いて今まで黙っていたキャロルが声を荒げて割り込んできた。


キャロル「何言ってるんですかほむらさん!そんな身体で!死ににいくのと同じです!」

ほむら「大丈夫よ。ここからダオスの城まで二日ほどかかるでしょう?
    二日寝てればそれなりに回復するわ」

キャロル「駄目です!」

アラン「はぁ…うっさい姉ちゃんだな」

キャロル「貴方は黙っていてください!それに私にはキャロル・アドネードという名前があります!」

ほむら(アドネード…!?)


ほむらはキャロルとアランの顔を交互に見やる。目の前にクレスとミントの先祖。
だが…

アラン「うっせーな。こっちは仕事の話してるんだよ」

キャロル「いけません!出歩くなんてもっての外です!絶対安静です!」


ほむら(先祖だからって似るわけじゃないんだろうけど…ここまで違うものなのかしら)


ほむらを放置して言い争いを始めた二人をボーッっと見ていた。


ほむら(あぁ、いけない。仕事の話よね)

197 : VIPに... - 2014/08/09 20:45:03.39 f3p0dDIg0 171/649

ほむら「アランさん」

アラン「あん?」

ほむら「一万ガルドでどうかしら」

アラン「たった一万でダオスのとこまで?はっ、さすがにそりゃあ無いぜ」

ほむら「手持ちが無いのよ」

アラン「嘘付くなよ、五万ガルドは持ってるはずだ」

ほむら「…あなた、あのとき広場にいたのね」

アラン「ああ。ヤケ酒してたら見覚えあるやつが手ェ振ってやがったから
    バルコニーぶっ壊してやろうかと思ったぜ。はめやがって」

ほむら「あら?私は先に行った人とは言ったけど仲間じゃないとは一言も言ってないわよ?」

アラン「…チッ」

ほむら「…このお金は私だけのお金じゃないのよ」

アラン「だろうな」

ほむら「だからお願い。二万で手を打って欲しいわ」

アラン「…3だ。これ以上は他をあたんな」

ほむら「…了解よ」

キャロル「勝手に話を進めないで!ダメですよ!」

アラン「何言ってやがる?一人で無茶するようなら止めろって言われてたんだろ?
    二人だしいいじゃねぇか」

キャロル「ぐっ…!…やっぱりダメです!私は彼女を世話するように言われています!
     それを放棄してまで行かせるわけには…!」

198 : VIPに... - 2014/08/09 20:45:51.25 f3p0dDIg0 172/649

アラン「じゃあお前も来いよ」

キャロル「…はい?」

アラン「そんなに世話したいんならついてくりゃいいだけだろ?
    それにそんな服着てるってことはお前も一応法術師なんだろ?使えそうだ。」

キャロル「人を物扱いしないでください!」

ほむら「キャロルさんごめんなさい。私はどうしても行かないとダメなの」

キャロル「なぜ…そこまでして…」

ほむら「仲間が待ってるから。それだけよ」

キャロル「はぁ…分かりました。分かりましたよ…」

アラン「じゃあ決まりだな。先に門で待っとけ」

ほむら「貴方は?」

アラン「俺はちっと持っていくもんがある。すぐ行く」

ほむら「わかったわ」

キャロル「神よ…私たちを御守りください」

199 : VIPに... - 2014/08/09 20:46:31.90 f3p0dDIg0 173/649

スリーソン「待っていたぞ」


ほむらとキャロルが門に着くと、スリーソンが来るのがわかっていたかのように待っていた。


ほむら「あら、お見送りかしら?」

スリーソン「フン…こっちだ。付いてこい」


そう言われて案内された先にあったのは、10人は楽に入るであろうという大きさの馬車だった。


ほむら「これは…」

スリーソン「ダオスの城へ向かうんだろう?これを使え」

ほむら「どうして、こんなものを?」

スリーソン「クラース殿に頼まれた。どうせ後を追ってくるだろうから馬車を手配しておいてくれとな」

ほむら「…そう、ありがとう。スリーソンさん」

スリーソン「…これで借りは返したぞ。じゃあな」

ほむら「貸しを作った覚えはないんだけど」

スリーソン「ならばこれは貸しにでもしておくさ」

ほむら「強引ね」

スリーソン「お互いにな」

200 : VIPに... - 2014/08/09 20:47:26.03 f3p0dDIg0 174/649

そう言い、スリーソンは去って行った。
すぐに入れ違うようにアランが姿を見せる――城に備え付けられていたベッドを背負って。


ほむら「貴方…何してるの?」

アラン「黙ってみとけ」


アランはそう言い馬車の中にベッドを放り投げ、続いてほむらをベッドに放り投げた。


ほむら「ちょっと…!何のつもりよ」

アラン「さっさと寝てろ。ダオスの城に着いたら起こしてやる」

ほむら「…分かったわ」

キャロル「はぁ…一体どうしてこんなことに」

アラン「嫌なら帰っていいんだぜ?」

キャロル「いいえ!途中で投げ出すわけにはいきません!」

アラン「はいはい…おし!じゃあ行ってくれ!」


アランは御者にそう告げる。

ほむら達を乗せた馬車はダオスの城目掛けて走り出した。


ほむら(みんな…待ってて。すぐ追いつくわ)

ほむら(今はとりあえず寝ましょう。少しでも体調をもどさないと)


色々気になることもあったが、ここは大人しく寝ておくべきと判断してほむらは目を閉じた。

201 : VIPに... - 2014/08/09 20:48:11.64 f3p0dDIg0 175/649

ヴァルハラ平原


ほむら、キャロル、アランを乗せた馬車はヴァルハラ平原を超え、
ダオスの城に唯一繋がっている橋にたどり着いた。


アラン「もうすぐだな」

キャロル「そうですね」

アラン「…嬢ちゃんは?」

キャロル「眠っています。ミッドガルズを出てからずっと…」

アラン「へぇ…大したタマだ」


ケラケラと笑い、アランは称賛のような言葉を贈った。
そんなアランにキャロルが話を切り出す。


キャロル「お金とは、そんなに大事なものでしょうか」

アラン「ああ大事だね。俺にとっては命と剣の次に大事だ」


床に座り込み、抱える様に持つ剣を見せつけるように前に出す。


アラン「生きるためには金がいる。夢を叶えるためには金がいる。誰だってな」

キャロル「…夢、ですか」

アラン「そうだ。だから俺には金が必要なんだよ」

キャロル「教えてもらってもいいですか?」

アラン「? 何をだ?」

キャロル「貴方の夢です」


少し喋り過ぎた、そんな様子でアランは頭を掻く。そして少し照れくさそうに口を開いた。

202 : VIPに... - 2014/08/09 20:48:54.25 f3p0dDIg0 176/649

アラン「…剣術道場を開くんだよ。俺の剣術最強だってことを証明するためにな」

キャロル「あら、思っていたよりも素敵な夢ね」

アラン「うるせえ茶化すな」

キャロル「茶化してなどいませんよ」

ほむら「そうね。私もいい夢だと思うわよ」


いつの間に目を覚ましたのか、ほむらも会話に加わってきた。


アラン「いつの間に起きてたんだよ…ったく」

ほむら「盗み聞きした形になったけど、仕方ないわよね。馬車の中だもの」

アラン「別に構わねえよ…それよりも」

ほむら「もうすぐ着くのでしょう?だから起きたわ」

キャロル「なぜ分かるんです?」

ほむら「空気が変わったからね。…とても禍々しい空気に」

アラン「びびったのか?引き返してもいいんだぜ」

ほむら「有りえないわ。私は逃げない。」


ほむらは自身の身体の具合を確認する。
決していいコンデションとはいえないが、そんなことを言ってはいられない。


ほむら(処理する方法が無い以上、グリーフシードには手をつけたくない。
   少しでもこちらの世界に影響が出るかもしれない行動は避けるべきね)


アラン「着いたぜ」


3人を乗せた馬車が止まる。ようやく敵の本拠地にたどり着いた。


ほむら(短かったような長かったような…。でも、ようやく終りね)


ほむら「行きましょう」

キャロル「はい」

アラン「おう」

203 : VIPに... - 2014/08/09 20:49:48.95 f3p0dDIg0 177/649

ダオス城


城内のあちこちに戦闘の痕が残っている。クレス達はどこまで進んでいるんだろう、
ほむらはそんなことを考えていた。


アラン「嬢ちゃんの連れは結構進んでるみたいだな」

ほむら「そうみたいね。…急ぎましょう」

ウィノナ「待て」


ほむら達を待ち構えていたかのように物陰からウィノナが姿を現した。


キャロル「あなたは…!?」

ほむら「貴方も来ていたのね」

ウィノナ「あたしも連れていけ」


ほむらとキャロルの言葉には反応せず、自分の目的を告げる。


ウィノナ「別に一人増えても問題無いでしょ?」

ほむら「私は構わないわ。二人もいいわね?」

キャロル「…でもこの方は」

アラン「大罪人、だろ」


アランはウィノナに向かって剣を抜き。切っ先を突きつける。


ウィノナ「…」

ほむら「…一体何をしているの?やめなさい」

アラン「聞けねぇな」

ほむら「貴方を雇っているのは私よ。雇い主の命令は聞きなさい」

アラン「仕事はするさ。だがそれとこれとは話が別だ」

アラン「こいつの首には賞金が懸っている。わざわざ見逃す理由はねぇな」

ウィノナ「…」


剣を突きつけられたウィノナはアランを睨みながら口を開く。


ウィノナ「別にここで時間を無駄にしてもあたしは構わないけど、
     アンタは雇い主が死なれたら困るだろ?剣士さん?」

204 : VIPに... - 2014/08/09 20:50:29.89 f3p0dDIg0 178/649

アラン「…」

ほむら「…何の話かしら?ウィノナさん」

ウィノナ「こいつはお前からともう一人、クラースという男から依頼を受けている」

ほむら「…アランさん、事実なの?」

アラン「チッ!…ああそうだよ。わざわざ城内をうろついていたのも、
    タイミングよく馬車を用意したやつが待ち構えてたのも全部頼まれたことだ」

ほむら「道理でね…。はぁ…二重でふんだくろうとしたわけね」

アラン「そいつはちっと違うな。ちゃんと旦那からは許可を得てるさ…合計5万ガルドの大仕事だ」

ほむら「結局、貴方の望み通りの金額になったってワケね」

ウィノナ「さて、どうする?案内役が必要だろ?ダオスの目前までたどり着いたんだが、
     一人では開かない仕組みの扉に立ち往生していてね」

アラン「…ふん。何かしようとしたら速攻で叩っ斬るからな」

ほむら「大丈夫よ。多分」

キャロル「私もそう思います。こんな所に一人で来るくらい、
     ダオスに会う理由があるんでしょうし」

アラン「…賞金首、さっさと案内しやがれ」

ウィノナ「ああ、こっちだ。付いてこい」

205 : VIPに... - 2014/08/09 20:51:20.00 f3p0dDIg0 179/649

城内



ほむら「…そういえばお礼がまだだったわね。助けてくれてありがとう」

ウィノナ「もののついでよ。礼を言う必要は無い」

ほむら「でも、あのままだと私は死んでいた。お礼くらい言わせて頂戴」

ウィノナ「…ふん」

ほむら「…ウィノナさん、一ついいかしら」

ウィノナ「かくまってもらった対価は払ったはずだけど?」

ほむら「取り付く島もないわね」

ウィノナ「…等価交換なら別に構わない」

ほむら「じゃあお先にどうぞ」

ウィノナ「なぜお前はダオスを倒そうとする」


二つの意味で受け取れる質問をウィノナはほむらにぶつける。


ほむら「…私自身もダオスを倒すことが正解に繋がっているか分かっていないわ。
    ただ、私はそれでも進むしかないの」

ウィノナ「…アイツを敵だと思う?」

ほむら「ダオスが私たちのことを敵だと思っているのなら、そうなるでしょうね」

ウィノナ「そう…」

ほむら「貴方はダオスに対して…他の人とは違う考え方をもっているようね」

ウィノナ「…」

ほむら「貴方とダオスは一体、どんな関係なの?」

ウィノナ「…あたしは魔王と呼ばれる前のアイツを知っている」


手短にウィノナは語った。普通の人と同じように生活をしていた時のことを。
魔王と呼ばれるきっかけになったことを。

206 : VIPに... - 2014/08/09 20:51:59.29 f3p0dDIg0 180/649

ほむら(恋人…、と表現するのが一番近いのかしら)


ウィノナ「おかげであたしは右肘から先を失い、ダオスもあたしの元から去って行った」

ウィノナ「…人間なんて大嫌いだ。だが、なんでだろうな…お前は他の奴とは違う気がする」

ほむら「そうね。私は人間じゃないから」

ウィノナ「…どういうことだ?」

ほむら「そのままの意味よ。限りなく人間に近い何か…そう思ってくれて構わないわ」

ウィノナ「お前は…一体…?」

ほむら「私の話はどうでもいいわ。それより…貴方はダオスがやっていることが正しいと思う?」

ウィノナ「…彼には彼の正義がある」

ほむら「そうね。でも、間違っている正義を貫き通しても後に残るのは後悔だけよ」

ウィノナ「…」

ほむら「もし、貴方が少しでも彼のやっていることに疑問を抱き、
    間違っていると思うのなら止めてあげなさい」

ウィノナ「止める…あたしが…?」

ほむら「ええ。話し合いででも、力づくでもね」

ウィノナ「魔王相手に話し合いか…」

ほむら「彼のことを魔王だなんて思ってないくせに、よく言うわ」

ウィノナ「ふん…。……着いたよ」


たどり着いた先は、壁のような大きな扉。ほむら達は扉の仕掛けを解除し、先へ進む。
そして、目の前に再び一枚の扉が立ちふさがる。

207 : VIPに... - 2014/08/09 20:52:35.94 f3p0dDIg0 181/649

ウィノナ「この先にアイツがいるはずだ」

ほむら「いよいよね…。アランさん、これで契約満了よ。ここまで着いてきてくれてありがとう。
    キャロルさんも無理言ってごめんなさい」

アラン「そうだな…嬢ちゃんとの契約はこれで終いだな」

キャロル「そんな!?ここまできて引き返せというのですか!?」

ほむら「貴方は私の世話をするように頼まれていたのよね。でも、
    この先には私の仲間たちがいるからもう大丈夫」

キャロル「…ここまで着いてきて帰るわけにはいきません。最後までお世話いたします」

ほむら「はぁ…勝手にして頂戴。……ありがとう、キャロルさん」

アラン「よっしゃ、じゃあ行くか」


先頭に立ち扉を開こうとするアランを見てほむらは止めに入る。


ほむら「貴方も…?貴方との契約は終わったってさっき言ったはずよ」

アラン「嬢ちゃんとはな。だが、俺はあの旦那との契約をまだ果たしてないんだよ」

ほむら「クラースさんとの…?」

アラン「ああ。…『ほむらの手助けをしてくれ』 そう頼まれてる」

ほむら「…本当に…参っちゃうわね……」

ウィノナ「お喋りは終わりだ…行くよ」

ウィノナ(ダオス…あたしは…アンタを……)

アラン「気合いれろよ!開けるぜ!  オラァ!」


アランが勢いよく扉を蹴破る。

蹴破った先にあった光景は

傷だらけの、クレス達の姿だった。

208 : VIPに... - 2014/08/09 20:53:23.64 f3p0dDIg0 182/649

ダオス城 最深部


アーチェは壁際で頭から血を流し、倒れて動かない。

クラースとミントは地面に膝を尽き、肩を上下させていた。

クレスは――首を掴まれ、為す術なく空中に吊り上げられていた。


クラース(来て…くれたか…)

ミント(ほむらさん…!)



ほむらはクレスを掴んでいる男を見る。

長い金髪、荘厳な雰囲気と装飾の施されたマントを纏っている。
そしてほむらも初めて味わう、圧倒的な威圧感。ワルプルギスの夜とは違う、
姿を見た相手全てに畏怖の念を抱かせる…そんなオーラを発している。


ほむら(これが…ダオス)


背中に冷や汗が流れる。自分の命がすでにダオスの手に握られている錯覚を受ける。

あのアランも何も言葉を発さずにダオスを見ている。
タイミングを見計らっているのか…それとも――

209 : VIPに... - 2014/08/09 20:53:54.89 f3p0dDIg0 183/649

ウィノナ「ダオス」


ウィノナが名前を呼んだ。ダオスは掴んでいたクレスを不要な荷物のように地面に投げ捨て、こちらを向いた。
投げ捨てられたクレスは動かない。気を失っているようだ。


ダオス「…君がここまで来るとはな、ウィノナ」


先程の行動とは正反対に、優しい声でウィノナに語り掛ける。


ウィノナ「久しぶりだね」

ダオス「五年ぶり…か」

ウィノナ「そうだね」


ウィノナの口調も変わっている。これが本来の彼女の姿なのだろう。


ダオス「変わってしまったな」

ウィノナ「お互いにね」


ほむらも、キャロルも、アランも…動かずに二人の会話に耳を傾ける。
邪魔をしないように。


ダオス「なぜここに来た?」

ウィノナ「あなたに会いに来たのよ」

ダオス「今すぐ引き返せ」

ウィノナ「嫌よ。あなたに話があるの」

ダオス「…帰るがいい」

ウィノナ「お願い!聞いて!」


ウィノナが声を荒げる。

210 : VIPに... - 2014/08/09 20:54:56.09 f3p0dDIg0 184/649

ウィノナ「ねぇ…!もうやめよう!?全部忘れて…二人でどこかに行こうよ!
     誰も来ない場所で…!二人で暮らそう!」

ダオス「…」

ウィノナ「貴方は本当は優しい人だってわかってる!わかってるから…!こんなことやめて…!私は…貴方が…」

ダオス「すまない、ウィノナ」

ウィノナ「…っ!」

ダオス「もう退くわけにはいかぬ。私は気が付くのが遅すぎたのだ…。人間の愚かさに」

ダオス「人は…この星に棲みつく寄生虫だ。駆除せねば…この星はやがて滅ぶ」

ダオス「…君と行くことはできない」

ウィノナ「…」

ダオス「君のことを手にかけたくない…」

ウィノナ「…なんで一緒に来いって言ってくれないの?」

ウィノナ「なんで…!私のことが必要って言ってくれないの!ねぇ!?なんで!?」

ダオス「…」


ダオスは答えない。ウィノナの想いを拒絶する。

211 : VIPに... - 2014/08/09 20:55:30.24 f3p0dDIg0 185/649

ウィノナ「…わかったよ」

ほむら「ウィノナさん…」

ウィノナ「あたしも人間が大嫌いだ。守りたいとも思わない。何も知らないクセに、
     一人じゃなにもできないクセに誰かとつるんだときだけ態度をデカくして、
     自分の力だって勘違いして他の誰かを傷つけているのも気が付かない」

ウィノナ「そんなやつらがアンタのことを悪く言ってるのが許せない。だから…ダオス。
     アンタをここで止める。人間たちの前に引きずり出して全部話してもらうよ!」

ダオス(もう遅いのだ。余はあの光を見てしまった…)


ダオスが一瞬目を閉じる。そして、何かを決意したように目を開いた。


ダオス「そうか…かかってくるというのなら容赦はせんぞ、人間よ」

ウィノナ「!? ダオス!」


ウィノナが仕込んだボウガンを引き抜き、ダオスに向け撃ちこむ。


戦闘開始だ。

212 : VIPに... - 2014/08/09 20:56:16.69 f3p0dDIg0 186/649

ほむら「アランさん行くわよ!キャロルさんはあの法術師の治療を!」

アラン「…ああ!人のことを寄生虫呼ばわりしやがって!ブッ倒してやるぜ!」

キャロル「わかりました!お気をつけて!」


ほむらはまず、崩れた隊列を立て直すことを最優先に考えた。
前線三人で時間を稼ぎ、ミントを治療することで回復の枚数を増やす算段だ。


アラン「オラァ!」


アランが剣をダオスに向け走らせる。ダオスはそれを剣で簡単に受け止める。


アラン「チッ…!」

ダオス「軽いな…」

ほむら「…!」


ほむらは剣の届かない距離からマシンガンを撃ちこむ。
発射された弾はダオスに着弾することなく、障壁に阻まれる。


ほむら(…さてどうしましょうか)


ほむらは考える。手持ちの武器でどうやったらダオスにダメージを与えられるかを。


ほむら(このままではまず無理ね…。ダオスの力を消耗させないと)

213 : VIPに... - 2014/08/09 20:56:58.59 f3p0dDIg0 187/649

ダオス(…目障りな娘だ)


ダオスはアランの攻撃を捌きながらほむらに視線を向ける。

アランの攻撃の隙をカバーし、後衛への攻撃タイミングを全て邪魔する動きでダオスを牽制していた。


ダオス(余の力を削るつもりか…、だがそこまで遊ばせるつもりはないぞ)


ダオスは剣を振るう。ガードしたアランは耐え切れず弾かれ、距離が開く。


アラン「しまっ…!」

ウィノナ「ダオス!」


ウィノナが背負った一際大きなボウガンを取り出し、ダオスを打ち抜こうとする。


ダオス「遅い」


だがウィノナが攻撃するより一瞬早く、ダオスが詠唱を完成させ魔術を放った。


ほむら「これは…!?」

214 : VIPに... - 2014/08/09 20:57:45.62 f3p0dDIg0 188/649

見たことがある魔術…それが同時に4種類。ほむらは焦る。


ほむら(一度に4つの魔術を…!?まずい…!)

ほむら(避けては駄目…!後ろには…)


後ろにはまだ治療を受けているミントと治療で動けないキャロル。
少し離れ、意識がないアーチェ。そのそばにいるクラースがいる。


頭上から降り注いだ人の頭ほどの大きさの石を右手でたたき割る。
激しく光り、落ちてきた雷を後ろに跳びかわす。盾からハンドガンを取り出す。
うねりを上げて飛んできた火球を左手の盾で受ける。
襲ってきた氷の槍をハンドガンで全て撃ち落とす。


ダオス「やるな…だが」


ウィノナが放った矢を掴み、握りつぶす。
ダオスは両手に力を込める。凄まじい量の魔力が集まる。


ミント「あの光は…!?ほむらさんいけません!逃げて!」

アラン「くそっ!間に合わねえ!」

ウィノナ「逃げろ!」


だが、ほむらは動かなかった。


ほむら(誰を狙う…!?)


ミントとキャロルか…アーチェとクラースか…それとも、ほむらか


ほむら(全員をカバーするためには…!)


ダオス「消えろ、害虫」


ダオスの両手から光が放たれた。その光は尾を引き、レーザーのように空気を切り裂きほむらを襲う。


ほむら(私…!?)

215 : VIPに... - 2014/08/09 20:58:28.04 f3p0dDIg0 189/649

全ての魔力を盾に込め受け止めようとする。しかし――


ほむら「っぐぅぅぅぅ!」


なんとか受け止めながらもズルズル押し込まれていく。


ほむら(まず…い!これは……!)



ミント「ほむらさん!」

キャロル「こっちは終わったわ!あの子の援護を!」

ミント「…はい!」



ダオス「しぶといな」

アラン「オラアアアア!」


アランは攻撃中のダオス目掛けて、全力で剣を振り下ろす。
だが、ダオスの張った障壁に受け止められる。


ダオス「大人しくしていろ。順番に消してやる」

アラン「クソがっ!」



ほむら(!?)


攻撃を受け止め続けるほむらの膝が崩れる。


ほむら(まだ…耐えて…!)

216 : VIPに... - 2014/08/09 20:59:06.63 f3p0dDIg0 190/649

ミント「バリアー!」
キャロル「バリアー!」


そんなほむらを救う、二枚の壁が現れた。


ほむら「ミントさん…!キャロルさん…!」

キャロル「気を抜いてはだめよ!」

ほむら「…はい!」


ほむらは体勢を立て直す。押し込まれることなくその場にとどまり、ダオスの攻撃を受け続ける。


ダオス「小癪な…!」


ダオスは更に魔力を込める。


ほむら「…クッ!」


二人が張ってくれた壁にヒビが入る。ダオスの魔力が上回っていた。


ミント「…これ以上は!」

キャロル「神よ!」

ほむら「…っ!」



ダオス「消え失せるがいい!」


ダオスが光のレーザーを撃ちきる。ダオスの攻撃を阻んでいた壁は砕かれ、ほむらを吹き飛ばした。

217 : VIPに... - 2014/08/09 20:59:45.41 f3p0dDIg0 191/649

ほむら「きゃああ!」


吹き飛ばされたほむらは壁に激突し、崩れた壁が瓦礫となりほむらの身体を覆っていった。


ミント「ほむらさん!」

キャロル「私は他の方の治療に当たります!貴方はあの子を!」

ミント「は、はい!」





ダオス「まずは一人…」

アラン「どこみてやがる!」


再びアランが斬りかかるが、ダオスには届かない。


ダオス「弱いな」

アラン「調子に乗りやがって…!」


響く剣戟の音にクレスは目を覚ます。
見慣れない男がダオスと激しく斬り合っている光景が視界に入り込む。

218 : VIPに... - 2014/08/09 21:00:27.48 f3p0dDIg0 192/649

クレス「…ダオス!」


加勢するべくクレスもダオスに攻撃を仕掛ける。


クレス「お前だけは絶対に…!」

ダオス「寝ていれば楽なものを…」


二人同時に相手するのが面倒なのか、力を込め薙ぎ払う。


アラン「ぐぉ!」

クレス「がぁ!」

ウィノナ「!?」

ダオス「寝ていろ」


更にダオスは拳を握りその拳を地面に打ち付ける。
同時に雷を纏った魔力がドーム状に広がり距離を取っていたウィノナも巻き込み三人を包み込んだ。

219 : VIPに... - 2014/08/09 21:01:14.05 f3p0dDIg0 193/649

ミント「ほむらさん!」


ほむらの元へ駆け寄り、ほむらの身体の上に瓦礫を取り除こうとする。


ほむら『ミントさん…私を見捨てるように振舞って…。そして他の人の治療を頼むわ』

ミント「…!?」

ほむら『反応しないで…ダオスに気が付かれないようにして。私はタイミングを見計らって
    アーチェさんの詠唱を援護するわ。…今は少し魔力も回復させておきたいの』

ほむら(以前、マクスウェルに時間停止を使用したら一度で見破られた。
    多用はできないと思っておかないと)


ほむらはそう考え、一度のチャンスを生かすために息を潜めることにした。
魔力をかなり消費してしまった為、回復させる時間も欲しかったのだ。


ほむら『だからごめんなさい…少しだけサボるわね。その分あとでちゃんと働くわ』


了承したのか、ミントが立ち去っていく音が聞こえる。


ほむら(みんな、少しの間お願いね)

220 : VIPに... - 2014/08/09 21:24:22.44 u0jnX22X0 194/649

アラン「っ…いってぇ…」

クレス「ハァ…ハァ…」

ウィノナ「…」

アラン「おい!女!チッ…!ノびてやがるな」

ダオス「他人の心配をしている場合か?」

アラン「!?」


ダオスがアランに詰め寄り、剣を振り下ろす。


アラン「…!くっそ!」


ダオスの攻撃をなんとか受け止めるが、ダメージを受けた身体が悲鳴を上げ簡単に防御を崩される。
その隙を見逃さず、ダオスはアランの鳩尾辺りに拳をめり込ませる。


アラン「カッ…ハッ…」


全身の力が抜ける様に膝から崩れ落ちる。

221 : VIPに... - 2014/08/09 21:25:20.04 u0jnX22X0 195/649

ダオス「終わりだな」

クレス「…なぜだ」

ダオス「何?」

クレス「なぜお前は世界を滅ぼそうとする!?答えろ!ダオス!」

ダオス「この星を滅ぼそうとしているのはお前たち、人間だ」

クレス「!? …どういうことだ……?」

ダオス「貴様たちは自分がしていることが正義だと思っているのかもしれんが」

ダオス「余も…余の正義の為にこの星を救う」

クレス「正義…だと!?」

ダオス「そうだ」

クレス「戦争を起こし、多くの人間を恐怖に陥れ…そんなものが正義だと!?」

ダオス「そうだ。それが余の正義…悪などとは言わせぬ」



ダオス「この世に悪と呼べるものがあるとすれば、それは人の心だ」

222 : VIPに... - 2014/08/09 21:26:24.26 u0jnX22X0 196/649

ミント「ナース!」


あたたかく、優しい光が味方全員を包み込む。


ミント(これで…少しは…!)


応急処置に過ぎないが、まとめて全員の傷を癒していく。


ミント(次は…アーチェさんを!)


ミント「アーチェさん!しっかりしてください!」

アーチェ「うぅ…、ミ…ミント……?」

ミント「大丈夫ですか!?しっかりしてください!」

アーチェ「頭が…、っ!アイタタタ…」


アーチェは頭を軽く振り、状況を確認するため辺りを見回した。


アーチェ(知らない人が二人……あれは…ウィノナ…!?)

アーチェ(それに…ほむらちゃん……)


瓦礫に半分ほど埋まったほむらを発見した。


ミント「ほむらさんの意識はあります。少し休む、と」

アーチェ「ははっ…さすがほむらちゃん…こんなときにやられたフリなんてね、っと!」


近くに落とした箒を拾い上げ、勢いよく立ち上がる。


アーチェ「よっしゃ!あたしも働かないとね!」


少しずつ、隊列が立て直されつつあった。

223 : VIPに... - 2014/08/09 21:27:09.09 u0jnX22X0 197/649

クレス「人の心が…悪だって…?ふざけるな!」


クレスが激昂し、ダオスに斬りかかる。


クレス「誰かを守ろうとする心が!誰かを助けようとする心が!誰かを信じる心が!
    …それを悪だなんて絶対に言わせない!」


ミントの唱えた法術が、クレスの身体を優しい光で包み込んだ。


クレス「…ミント!」

ダオス「小賢しい」

アラン「おらよ…っと!」


回復したアランも立ち上がり、クレスに加勢する。


アラン「思いっきり腹殴りやがって…!万倍にして返してやるぜ!」

ダオス「潰しても潰しても湧いてくる…まさに虫だな」

アラン「虫に噛まれるとよぉ!意外と痛いってこと教えてやんよ!」

224 : VIPに... - 2014/08/09 21:28:20.54 u0jnX22X0 198/649

クラース「この指輪は御身の目。この指輪は御身の耳。この指輪は御身の口。
     我が名はクラース。指輪の契約に基づき、この儀式を司りし者。我伏して御身に乞い願う。
     我盟約を受け入れん・・・我に秘術を授けよ!」

クラース「マクスウェル!」


クラースに召喚された四大元素を総べる精霊、マクスウェルはクレス達を苦しめた球体を生み出し、
ダオスに撃ちだす。

クレス達の攻撃の手数が増え、少しずつダオスが劣勢に回る。


ダオス「ちぃ!」


初めてダオスが苛立ったような声を発した。


アラン「おいひよっこ!」

クレス「!?」


自分の事なのだろうか少し反応することに戸惑ったクレスだったが、その声に反応した。

クレス「何ですか!?」

アラン「なんだその剣の振り方は!?びびってるんならさっさと消えろ!」

クレス「…恐れてなんていません!」

アラン「ハッ!そうかい!じゃあテメェはその程度の腕ってことだな!」

クレス「何!?」

アラン「俺が手本を見せてやるぜ!」

225 : VIPに... - 2014/08/09 21:28:56.41 u0jnX22X0 199/649

クレスに向かい言葉を放ち、地面を蹴り宙に舞う。


アラン「オレ流!虎牙破斬!」


体重を乗せた斬撃を受け止めたダオスだったが、先ほどと違い簡単に払いのけることはできなかった。


ダオス「貴様っ!」

クレス(今のは僕の…!いや!アルベイン流の!)


クレスは隣で戦っている男の正体が少し見えてきた。


クレス(情けない姿を見せるわけにはいかない…!)


この人にとっての、未来のアルベイン流を見せて落胆させたくなかった。


クレス「魔神!飛燕脚!」


剣気を飛ばし、さらに追撃するように空中で蹴りと剣のコンビネーションで攻め立てる。


アラン「ハハッ!面白ぇ!俺と同じ技を使うやつがいるなんてな!」

226 : VIPに... - 2014/08/09 21:29:38.48 u0jnX22X0 200/649

アーチェ「レイ!」


無数の光の雨がダオスに向かって降り注いだ。


ダオス「ぬぅぅ!」


少しずつ、ダオスにダメージを与えていく。


クラース「アーチェ!私はルナの召喚に入る!少しの間頼んだぞ!」

アーチェ「あいよ!任された!」



ダオス「調子になるなよ害虫が!」


再びダオスが拳を地面に打ち付けようとした。その動きをみたアランとクレスは思わず距離を取る。
しかし、それがダオスの狙いだった。


ダオス「かかったな」

クレス「!?」

アラン「!?」


ダオスの手に集まる魔力。先程ほむらを吹き飛ばした魔力を込めたレーザーだ。


ダオス「消えよ!」


クレス達を消し去るレーザーが放たれた。

227 : VIPに... - 2014/08/09 21:30:13.61 u0jnX22X0 201/649

クレス「守護方陣!」


咄嗟にクレスは剣を地面に突き刺し、障壁を作り出した。


アラン「へえ!そんなこともできんのか!…こうかよ!」


見様見真似でアランも障壁を作り出す。


クレス「ぐうううううう!」

アラン「これは…きついぜ……!」

ダオス「そう何度も防げるものではないぞ!虫が!」

クレス「…守るんだ!」

クレス「絶対に!」

クレス「守るんだあああ!」


クレスの作り出した障壁がダオスの攻撃を押し返す。


ダオス「ば、馬鹿な!?」

アラン「へっ!やっぱり俺には守るなんて向いてねぇな!」


その様子をみたアランは剣を引き抜き、力を溜め始める。

228 : VIPに... - 2014/08/09 21:31:32.16 u0jnX22X0 202/649

アラン「お前!名前は!?」

クレス「…クレスです!」

アラン「そうか!俺はアランだ!おいクレス!お前は何のために剣を握ってる!?」

クレス「僕は…!」

クレス「みんなを守るために!」

アラン「なるほどな!俺は自分の為だ!剣を握る理由なんてテメェの都合次第だが!
    目的を忘れるんじゃねぇぞ!」

クレス「!?」



クラース「この指輪は御身の目。この指輪は御身の耳。この指輪は御身の口。
     我が名はクラース。指輪の契約に基づき、この儀式を司りし者。我伏して御身に乞い願う。
     我盟約を受け入れん・・・我に秘術を授けよ!我が手の内に御身と、力と、栄え有り!
     きたれ、月の精霊!ルナ!」


呼びかけに答え、姿を現した月の精霊は天から光の柱を振り落す。

ルナの攻撃によってダオスは攻撃を中断し、防御に回った。

229 : VIPに... - 2014/08/09 21:32:23.51 u0jnX22X0 203/649

ダオス(なぜだ!なぜ精霊が人間に味方をする!?)


信じられないといった表情でダオスはルナの攻撃に耐えていた。


アラン「女!仕掛けるぞ!援護しろ!」


キャロルの方を向いて叫ぶアラン。


キャロル「そんな!?今近づくのは…!」

アラン「今が最大のチャンスなんだよ!あいつは防御にいっぱいいっぱいで手を出せねえ!」

キャロル「ですが…!」

アラン「いいから俺を信じろ!渾身の一撃をぶつけてやっからよ!」

キャロル「…わかりました!シャープネス!」


アランの身体に力が湧いてくる。

アラン「ナイスだキャロル!…クレス!お前に俺のとっておき見せてやるぜ!」


攻撃のタイミングを見計らっていたクレスにアランは自信ありげに告げた。

光の柱が降り注ぐ。その合間をかいくぐるようにアランは突っ込んだ。


ダオス「何!?」

アラン「万倍にして返すっていったよなぁぁ!?魔王さんよぉぉ!?」

アラン「オレ流超裏必殺合体技!」

アラン「冥!空ゥ!斬!翔!剣ェェェェェェェェェん!」


袈裟斬りを重ね、更に下から突き上げる様に剣を振り上げた。

アランの渾身の一撃を受け、ついにダオスの防御が崩れた。

230 : VIPに... - 2014/08/09 21:33:30.52 u0jnX22X0 204/649

ダオス「ちぃ!だが――



ほむら(今ね)


ダオスが防御が完全に崩れたのを確認し、ほむらは時間を停止させる。
アーチェに近づき、彼女に時間を与える。


アーチェ「お、来たね!ほむらちゃん!」

ほむら「ええ、お待たせしてごめんなさい。アーチェさん頼んだわよ」

アーチェ「ふっふーん!このアーチェさんに任せなさい!エースだしね!」


回復した魔力を時間停止に回す。全てはアーチェの呪文のために。


アーチェ「ほむらちゃん」

ほむら「? どうしたの?早く詠唱を」

アーチェ「来てくれるって信じてたよ」


ニッコリ笑い、ほむらに言葉を贈る。そしてアーチェは呪文の詠唱に入った。


ほむら「…私もみんなが信じてくれてるって信じていたわ」


アーチェの邪魔にならないよう、小さな声で言葉を返した。




ダオス「まだ!――!?」

ダオス(なんだ!?今の感覚は!?時が……)

231 : VIPに... - 2014/08/09 21:34:07.66 u0jnX22X0 205/649

そしてダオスが気付く。アーチェの練りに練った魔力を。
先程まで瓦礫に埋まっていたほむらがアーチェのすぐ側にいることに。


ダオス(いつの間に!?)

アーチェ「天光満つるところにわれはあり

     黄泉の門開くところに汝あり

     運命の審判を告げる銅鑼にも似て

     衝撃をもって世界を揺るがすもの

     こなた天光満つるところより

     かなた黄泉の門開くところへ

     生じて滅ぼさん!」


ダオス「!?」


クレス「アーチェ!」



アーチェ「りょーかい♪」



アーチェ「出でよ!神の雷!…インディグネイション!」


眩い神の雷が降り注ぐ。凄まじい爆発を起こしダオスの身体を飲み込む。

232 : VIPに... - 2014/08/09 21:34:40.14 u0jnX22X0 206/649

ダオス「があああああ!」


クレス「ミント!頼む!」

ミント「はい!クレスさん!シャープネス!」



クレス「アランさん!これが僕のみんなを守る為の剣です!」

アラン「へっ!さっさとやっちまえ!」

クレス「うおおおおおおおおおおおお!」


クレス「虎牙!破斬!」


無防備なダオスの身体を切り上げ、更に切り下げる二連撃を叩きこんだ。


ダオス「ガハッ!…これで終わったと思うなよ…人間!」


ダオスは倒れているウィノナを見た。いつ気が付いたのだろうか、ウィノナと視線が合った。


ウィノナ「ダ……オス………」





アラン「とどめだ!」

クレス「はああああああ!」




ダオス(さらばだ…ウィノナ…)



クレスとアランの攻撃はダオスに届かず、ダオスはこの時間から姿を消した。



【 中編 】 へ続く。

記事をツイートする 記事をはてブする