ある日、某大掲示板にとあるスレッドが立った。
スレタイは『【悲報】俺氏、明日童貞で30歳の誕生日を迎える』。
そのスレッドには様々なレスが付き、面白い>>1のおかげか勢いは凄まじかった。
レスの中には賛辞を贈る声や、極めて煽り性能の高い画像やAAを投げるものもあった。
その中の一つを紹介しよう。
元スレ
『童貞が許されるのは小学生までだよねー』男「マジだった」
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1407932035/
『あなたは完全に包囲されています!大人しく出て来なさい!』
男「……なんだ?うるせえな」
男はスピーカーから放たれる警告で目を覚ます。
男「朝から回収車のアナウンスか?うるせえな本当に」
男は寝起きの気分の悪さを押し切って入口ドアの近くについた窓の外を見た。そこには、
男「なんだ……こりゃ」
女警官『201号の男!お前は完全に包囲されている!』
女警官『武装を解除し、両手を挙げて外に出て来なさい!』
男「201号って……」
男「俺じゃねえか!!!?!?!」
女警官『あなたは著しく風俗を乱し、周辺住民を危険に晒したとして罪に問われている!』
男「なんだ!?どういうことだ?!」
女警官『30秒後、突入する!それまでに出て来なさい!30……29……』
男「待て待て待て?!俺は何もやってないよな?!どういうことだ……」
部屋の中からの問いかけが誰かに届くはずもなく、男はただただ頭を抱えるしかなかった。
男「くそっ!あんなクソアマに身に覚えのない罪で捕まってたまるかよ……!」
男「と、とりあえずなんとかして逃げないと……」チラッ
男は期待はできないがドアの反対側、つまりベランダ側の窓の外を見る。ベランダの向かいにはそこそこ大きな川があり、昨日の雨のせいか水位はかなり上がっていて、流れも速くなっていた。ベランダからうまく飛べば川に落ちることができなくもない。完全にアパートの設計ミスである。
男「完全に包囲されてるって言ってたのにベランダ側の川の方には人があまりいないな……」
男「俺が警官なら普通、包囲するなら100%どこからも逃げられなくするが……まあいいや」
男「窓から脱出して川に飛び込むしかないみたいだな」
ふとカレンダーを見ると、今日の日付に赤い丸がつけてある。
男「なんせ俺は今日で魔法使い(笑)。どうせこれから先の人生良いこともないだろうし、飛び込んで溺れて死んでも構うもんか」
『10!9!』
男「さあ、じゃあいっちょ行くか」
男「あっ、窓ぶち破らなくても開けて出れば良」ドボーン
女警官「しまった!逃がした!」
女警備員A「でもやっぱ汚い川の方に行くのは嫌だったししょうがないよね」
女警官「ごめんね、私がちゃんとしないから」
女警備員B「ううん!いいよいいよ!次、頑張ろ!」
***
『おい!大丈夫か、あんた!』
男「う……」
男「げほっげほっ!」
?「おい、大丈夫か!」
男「あ、あんたは……?」
リーダー「俺はリーダー。あんた濁流に流されてきたが……何があったんだ?」
男「ああ……助けてくれたのか、ありがとよ」
リーダー「いや、気にすんな。そもそも助けたのは俺だけじゃない。そこの二人もだ」
男「ん?」
そこには中学生ぐらいのガキンチョと20代くらいのイケメンがいた。
リーダー「それで、あんたはどうして流されてたんだ?」
男「あー……なんかよくわからんが身に覚えのない罪のことで女の警察官どもに囲まれて、思い切って川に飛び込んだんだ」
リーダー「身に覚えのない罪……」
男「たしか『風俗を乱した』とか『周辺住民を危険に晒した』とか言ってたな」
その言葉を聞くと男を助けてくれた三人は顔を見合わせた。
男「なんだ、わかるのか?」
リーダー「あんた、いきなり変なことを言って悪いが」
リーダー「童貞か?」
(命の恩人ではあるが)怪しい三人組に連れられて、男は街の地下……つまり下水道に入っていた。
リーダー「下水は汚いから警官どもは近づかないんだ」
男「……おいおい、何言ってるんだ?」
イケメン「……お前、本当に何も知らないんだな」
男「なんだと?」
リーダー「まあそういうなイケメンよ。少し話を聞こうじゃないか」
中学生「ここが僕たちのアジトだよ」
男「……下水道に無理やり小屋を作ったのか?」
リーダー「そういうことだ」
***
男「昨日までも俺は童貞だったけど何も言われなかったぞ」
リーダー「おかしいな……この国の法律で『童貞が許されるのは小学生まで』と決まっているんだ」
男「そんな馬鹿げた法律があってたまるか!」
イケメン「……だが事実だ」
中学生「本当に馬鹿げてる。しかも国民は誰もそれがダメな理由が知らされてないんだ」
リーダー「これは仮説だが……」
リーダー「男はかなりよく似た別の世界からこの世界へ送られてきたのかもしれない」
男「……?」
リーダー「もしそうだとしたら全てつじつまがあうんだよ」
リーダー「この国では中学生以上の童貞は処刑されている。30歳まで生き延びている童貞がいただなんて俺達も知らなかったしな」
中学生「実際みんな捕まって殺されてきたんだ」
リーダー「俺達の過去の仲間で食糧調達に行ったまま帰らなかったやつもたくさんいる」
男「oh...」
リーダー「お前の世界の日本の大統領の名前は?」
男「大統領はいないぞ、そんなこと厨房でも知ってる。総理大臣は安倍ちゃん。安倍慎之助だよ。ちなみに野球がうまい」
リーダー「総理大臣……イギリスみたいだな」
男「それで、大臣がなんだ?」
リーダー「うちの国の大統領は水沢 薫。女性だ」
男「女が政治ねえ……」
リーダー「それだけじゃない。この国の国家権力は女性だけで賄われている」
男「なん…だと…?」
リーダー「どうやら、俺達とお前の住む国……いや、世界はだいぶ違うらしい」
リーダー「ここまで見ても、今日の朝に突然男が別の『童貞が許されている世界』からやってきたという仮説が正しく見えるだろう?」
イケメン「これまで生き延びていたことも、この国を知らな過ぎることもつじつまがあう、か」
男「なるほど……」
中学生「普通は小学校のうちに学校で女の子に頼んで卒業するんだけどね」
男「それなんてエロゲ?」
中学生「え?」
リーダー「ここにいる面々は様々な事情があってこの法律を否定し、政府に抗う童貞達……いわば『童テスタント』なんだ」
男「なるほど……待て、処女ならともかく童貞を見分けることなんてできないだろ?どうやって警官どもは童貞を見分けてるんだ?」
リーダー「確かに物理的にはな。でもこの国には『童貞メーター』と言う機械があるんだ。実は俺達も奴らの目を掻い潜って盗んでくることに成功した。そいつがこれだ」パシン
リーダーは自身の後ろにあった黒い鉄の箱を叩いて示した。箱には何やら小さな画面とボタンやランプがついている。
中学生「その機械の原理がわかれば童貞であることを隠す手段が見つかるかもしれないってね」
リーダー「まあ、結局わからなかったがな」
男「へえ……」
リーダー「そうだ、お前の『童貞指数』を調べてやろうか」
男「なんだそれ」
リーダー「まあようするに『どれだけ童貞らしいか』を数値化したものだ。これもこのメーターで測れる」
男「なんだそれめちゃくちゃ悲しいじゃねえか」
リーダー「それじゃあ、スイッチオンっと……」
メーターと呼ばれるその機械の小さな画面に数字が表れる。200、300。少しずつではあるが数字があがっている。1000。
イケメン「まだ上がるのか……」
リーダー「おいおい、やっぱだてに30年も生きてねえな……」
男「え?何?なんなの?」
中学生「さ、3000……!」
リーダー「とんでもないやつを連れて来てしまったみたいだな」
男「何?世界一不名誉な数値がうなぎのぼりなのに崇められてるの?俺?え?」
リーダー「止まったな。童貞指数:5140……まぎれもなく観測史上最強だ」
男「」
リーダー「ちなみに俺は910。中学生とイケメンは503だ」
中学生「なんて童貞らしい人なんだ!すごいよ!」
イケメン「認めたくないが、こいつは『ホンモノ』だな」
男「なに言ってんだこいつら」
リーダー「童貞指数は童貞力とも呼ばれ、小さいころから女の兄弟がいなかったり女の子と遊ぶ機会がなかったりすると高まるらしい」
男「あの時大人しく捕まって死ねばよかった」
リーダー「頼む、男……俺達と一緒にこの国を変えてくれ!!お前の童貞力を貸してくれ!」
***
結論から言うと男は童テスタントの一員となった。
というのも、これまで通りの生活は無理だし、安全な生き方は間違いなくこの怪しい3人組の方がよく知っているからだ。男はこの世界では安全に一人でご飯を食べることすらもできないのである。
男「だが俺が納得いかないのは、いくらでも女のできそうなイケメンがここにいることだな」
リーダー「まあ……こいつらにも色々あるんだ」
男「こう言うのは良くないのだろうが、俺はあまりお前らを信用できんぞ」
リーダー「その気持ちはわかるが……」
イケメン「おい、てめえ。ずいぶんと態度がでかいじゃねえか」
男「ヒッ」
イケメン「」ギロッ
リーダー「おいおい、やめろ!これから一緒にやってく仲間なんだから!」
中学生「そうだよ!」
リーダー「……さて、話を戻そう」
リーダー「男が元の世界に帰る術はもちろんわからんが……ひとまずは俺達の革命に協力してもらいたい」
男「お、おう」
リーダー「次の日曜日、国会議事堂に突入し、大統領水沢を人質にとる。そして俺達の願い……童貞解放を訴える」
男「(なんて馬鹿っぽい革命なの)」
リーダー「中学生はアジトで無線やらの管理とかだ。特別な無線を使ってるからマシントラブルが起きたら遠くの仲間と連絡が取れなくなるからな」
中学生「了解です」
リーダー「男とイケメンは武装して突破口を開き、警備兵を撃破しながら俺を大統領室まで連れて行く」
イケメン「わかった」
男「待って待って待って待って」
リーダー「なんだ?」
男「俺が武装?撃破?はい?」
リーダー「危険ではあるが童貞指数の高いお前なら大丈夫なはずだ。さて……」
男「いやいやいやいやいやいやいや」
男「どれだけ童貞っぽいかで大丈夫もだいじょばないもあるかよ!!」
リーダー「じゃあどうするんだ?」
男「…………………」
リーダー「よし、じゃあ頼むぞ」
男「はあ……」
リーダー「これはなんとか手に入った数少ないライフルやナイフだ」
男「まじかよ……物騒すぎる」
イケメン「革命だからな」
リーダー「当日までにイケメンに習って使い方を覚えておけ」
男「ナンテコッタイ」
***
***
大統領「やめて!お願い!!」
男「うおおおおお挿入れるぞ!」ニュプ
大統領「んっ……痛っ!」
男「うっほおおおおお童貞卒業だぜえええええええええ」パンパンパン!!
男「FLY!!!!」パン!
男「MY!!!」パン!
男「DO!!!!」パン!
男「TE!!!!」パン!
大統領「ひぎいいいいい痛いいいいい」グチュグチュ
男「飛翔せよ…………我が聖剣…………生命を降り注げ……!」ドピュドピュッ!!!
***
男「……おう」
男「やっぱり夢だったか」
イケメン「よう、どうした?」
男「(この世界も夢だったらよかったのによ……)」
男「童貞卒業する夢を見た」
イケメン「はっ、童貞力5000でも夢で卒業するんだな」
男「童貞力で見る夢変わるわけないだろ!」
***
それから数日間、男はライフルの扱いや格闘技などを付け焼刃ではあるが習得するための修行をした。これまでの男はゲームと仕事だけの人生だったはずだが、どういうわけかスイスイと能力は身について行ったのだった。
イケメン「流石は童貞の中でも最強……そう、”童帝”と言ったところか」
男「向こうの世界で何度も目にした言葉なのに恥ずかしくて仕方ないんだけど」
イケメン「さあ、今日はいよいよ本番だ。まあ足を引っ張られることもなさそうだし頼むぞ」
男「へいへい」
イケメン「それから、一日目は怒鳴って悪かったな」ニコリ
男「」ズキュン
男「(あぶねえ、女だったら落ちてた)」
リーダー「みんな、集まってくれ!」
中学生「リーダー、準備できてるよ」
リーダー「よし、みんないるな。今日は作戦決行の日だ。特に言うことは無いが、まあそうだな。童貞の自由のために!」
中学生・イケメン「童貞の自由のために!」
男「ネタだよな?」
リーダー「さあ、地上に車を用意した。そいつに乗り込んでくれ。中学生はここに残って無線をつないでおいてくれ」
中学生「了解です!みんな頑張って!」
***
ぶるるるる
ガシャーン!!
『東玄関よ!急いで!』
『総員、武装して東へ!』
リーダー「うおおおおお」ブウウウン
男たちはキャンピングカーで国会議事堂の門につっこんでぶち壊し、そのまま突入することに成功していた。玄関も破壊し、大きなフロアに出る。
リーダー「よし、ここからはイケメンが前、真ん中が俺、男は後で走るぞ!水沢に逃げられる前に大統領室に突入する!」
イケメン「了解!」
男「うわあああ、もう後から来てるって!早く走れよ!」
リーダー「俺は武装が小さなナイフしかない、頼むぞ2人とも!」
イケメン「できるだけ誰にも接触せず行きたいところだ」
応じるように前方から二人の武装女警備員が現れた。何やらこちらに向けて声を出しているが一番後ろの男には聞こえない。
イケメンがライフルを向ける。
イケメン「どけえええええ!!!」パン!パン!
男「すげえ!一発で倒した!ってか死んでないよね?!大丈夫?!」
リーダー「革命に犠牲はつきものだ。男!ちゃんと後を見ていろよ!」
男「うおおああ、走ってこっちキタアアアア!!銃こっちに向けてるぞおおお」
リーダー「そこの影に飛び込め!応戦しろ!」
男「死ぬなよ!」パン!
男の放った弾は女の狭い肩に命中した。女は右肩を抑えて倒れ込む。
リーダー「(こいつ……初めて人に向けて当てただって……?)」
リーダー「(さすがは童帝……だな)」
ザザッ
中学生『あーあー、聞こえる?』
リーダー「よく聞こえる!」
中学生『監視カメラのパソコンにハッキングしたから国会議事堂の状況を話すね』
男「今さらっとヤバいこと言わなかったか」
中学生「この先、100メートルからこちらに向かって4人が向かってるよ。後はほとんどいないからしばらくは大丈夫」
イケメン「よし、それは助かる。男も前に出てこい」
男「うおう」
すると本当に少し先の曲がり角から顔をのぞかせる影が見えた。
イケメン「こいつをくらえ!」ポイ
男「なんだ今の袋?」
リーダー「あれは下水が入っている特殊な袋で、強い衝撃を受けると破裂するのさ」
パァン!ビチャビチャ
『ちょっとー!キモーい!』
『うわあ、濡れたんだけどありえないし』
『大丈夫?』
『うん、大丈夫!』
リーダー「未だ!ねじ伏せろ!」
混乱している隙にリーダーとイケメンが次々と警備員をなぎ倒していく。男は何もできずただ見ていた。
男「なんだ、すげえな」
リーダー「まあここまで近づいたら銃弾使うよりも殴ったほうが楽だしな。女はちょっと強く衝撃を与えてやれば大抵落ちる」
男「(普通ちゃんと鍛えてたらそうもならんだろ……)」
中学生『大変だ!次の曲がり角で大統領室だけど、部屋の前に10人以上の警備員が盾を持って待ち構えてる!』
リーダー「大統領は?!」
中学生『安心したからかまだ部屋で仕事してるよ!』
男「アホすぎだろ!いくら安全でも逃げるわ!」
リーダー「まあでも好都合だな。あとは10人をどうやって突破するか……」
男「そうだ、さっきの下水爆弾は?」
イケメン「どうせ盾持ってちゃ効かないだろうし、投げてる隙に後ろのやつに撃たれてしまいだ。どうする?リーダー」
リーダー「…………突入するしかねえさ。平和主義の俺達の国に一撃で人を殺せるような武器はないはずだ。多少撃たれても大丈夫」
男「ええぇぇぇぇえええええ」
リーダー「男!お前は右だ!イケメンは左を!」
イケメン「了解した」
男「帰りたい……」
パン!パン!
大統領室のある廊下の手前の曲がり角から様子を見る。数は12人、盾を持った4人と後ろに銃を持った8人がいるようだ。
リーダー「よし、とつげ」
イケメン「ちょっと待ってな」サッ
リーダーの突撃命令を制し、イケメンが突然飛び出した。一斉に発射される弾丸。『8人が同時に』撃っている。
リーダー「待て!イケメン!」
パン!パン!パン!
イケメンも走りながら撃つが盾に阻まれた。
リーダー「イケメン―――――!!」 パン!パン!
男「おい、どうする!?リーダー!」 パン!
リーダー「ちくしょおおおおおおお!!」
リーダー「……?」
突然。本当に突然。
銃撃が止んだ。理由はわからなかったが、リーダーと男は合図も無しに飛び出していた。
飛び出すと廊下に血を流して仲間が倒れていた。それには目もくれず、二人はひたすら直進する。何故か動きが止まっている武装集団のもとへ。
一気に距離を詰め、男は飛んだ。童帝の名にふさわしい飛翔であった。
男の飛び蹴りは盾を持った女を吹き飛ばし、後ろの女たちもふっとんでいった。
リーダー「チェックメイトだ」
全員の女を気絶させ、完全に制圧しきった。
残るは大統領、ただ一人。
リーダー「さあ、行こう。男よ」
男「イケメン……」
イケメンは地面に這いつくばったまま、二度と動くことは無かった。
イケメンは幼いころ、恵まれた環境にあった。
お金持ちなイケメンと美女の両親の間に一人息子として生まれ、愛情を注がれて育ち、可愛い幼馴染もいた。
学力は小学校の頃からいつもクラスでもかなり優秀で、学校のクラブ活動の野球部では3番ショートのレギュラーで、更に友人にも恵まれていた。
イケメンと幼馴染は小学生ながら深く愛し合っていた。お互いのことを尊重し、まさに最高のカップルであった。
間違いなく、イケメンは幼馴染と結ばれるはずであったのだ……あの事件が起こるまでは。
小学校も卒業を控え、次々と童貞を卒業していく同級生たち。イケメンもそろそろ……と思ってはいたが、踏み出せない。
小学校の卒業式。その日、幼馴染はイケメンの家に泊まる約束をした。
その約束は破られた。何時間たっても彼女は来なかった。翌日、イケメンは幼馴染が死んだことを知った。事故死だったそうだ。
周りの人間は幼馴染の死を惜しむ反面、イケメンの童貞のことばかり気にしている。それがイケメンには許せなかった。
葬式の翌日、彼は彼女の遺影の前で生涯童貞を貫くことを誓う。
それから10年、彼は生きる理由がわからなくなっていた。
5年前巡り合ったリーダーと革命のために運動してきたものの、童貞を解放されてどうするというのか?
いつしかイケメンは誰かのために死ぬことを考えるようになっていた。
イケメン「(最高の舞台じゃないか、革命のために死ぬだなんて)」
薄れゆく意識の中、イケメンは小学校の頃からの自分の人生を振り返った。
イケメン「(あとはうまくやれよ、リーダー……)」
汚い下界で過ごした彼の人生。
世界を敵に回し想い人への愛を貫き続け、死へ臨むに至ったその道程。
何も残さない童貞のそれらは美しかった。
***
中学生『……えぐっ』
リーダー「泣くな、中学生。仕方なかったんだ」
男「(俺はイケメンのことを悪く言ってしまったまま謝れなかったな……)」
男「にしても、こいつらバカだったな。信長ばりに交互に撃ってれば弾が尽きて隙を作ることもなかったのに」
中学生『信長が誰か知らないけどここの警備がひどいのは確かだね』
リーダー「よし大統領室、開けるぞ」
ガチャ
大統領「…………」
リーダー「水沢だな」
大統領「なぜこんなことを……」
リーダー「それはこっちのセリフだ。なぜ童貞をこんな目に合わせる!」
リーダー「俺達は……俺達はただ!」
リーダー「いつか出会う好きな人と順序を追って、ちゃんと童貞を卒業したかっただけなのに!」
大統領「…………」
水沢は落ち着いて紅茶を口にしている。高そうなカップからわずかに湯気が立っていた。
大統領「……以前からあなたがた組織のことは耳にしていました」
リーダー「ほう」
大統領「中学生が一人と20代が二人と聞いていましたが……そこのあなた」
男「えい」
男「(緊張して声変になった……)」
大統領「初めて見ます」
リーダー「……そいつは新入りだからな」
リーダー「そうだ、こいつの童貞力はいくつだと思う?」
大統領「…………」
リーダー「5000だ」
大統領「」
カラン
リーダーの言葉に彼女はカップを落としてしまった。
その整った顔がだんだん青ざめていくのがわかる。
大統領「なんてこと……」
リーダー「(いくらなんでも動揺しすぎじゃないか……?)」
大統領「今すぐッ!」
大統領「今すぐにその男を殺さなくては!」
男「ファッ!?」
リーダー「おい、お前今自分がどういう状況かわかっているのか!」
リーダーが警備員の懐から取ってきた拳銃を向ける。
大統領は目もくれず机の引き出しをあけた。
パン!
リーダーが天井を撃つ。威嚇目的だったがそれでも大統領は引き出しから白い箱を取り出した。
大統領「そんなことを言ってる場合じゃあないんです!」
大統領「今すぐ私ごとこの部屋を吹き飛ばします!」
リーダー「おい……お前」
大統領「どうせこれが最後になりますから、あなたたちに全てを話してあげましょう」
大統領「この星で『童貞が何故許されないか』を……」
***
***
男「は?」
大統領「ですから、童貞のまま30歳を迎えると魔法の力で世界を滅ぼすことさえできる力を手にしてしまうのです!」
リーダー「…………」
大統領「13歳から魔法の力は強くなり、30歳になると力が完全に解放され、あらゆる魔法が使えるようになります」
大統領「30歳を超えた童貞を殺す方法……それは肉体を跡形もなく破壊する以外にありません」
男「えっ」
大統領「あなたたちもこの男のすさまじさをどこかで体験しているのではないですか?」
中学生『そういえば……』
リーダー「だったら……」
リーダー「だったら、俺達はただのテロリストじゃないか……」
リーダー「俺達が正義じゃなく、お前達が本当の正義だったのか……?」
中学生『そんな……』
大統領「…………」
男「(好きで童貞じゃないのに……)」
大統領「最後に何か言いたいことはありますか?」
リーダー「中学生、聞こえるか」
中学生『……』
リーダー「お前はさっさと保護されろ。お前はまだ若いから童貞さえ卒業すれば生きられるはずだ」
中学生『そんな!』
リーダーは無線を踏みつけて破壊した。
中学生は女子にいじめられていたので誰も相手をしてくれなかった。女子が怖い彼が童貞を卒業できるとは思えないが。
大統領「あなたさえいなければ……」
男「そんなこと言ったって仕方ないだろ!俺だって好きでこの世界に来たんじゃない!」
大統領「世界?」
男「第一、あっちの世界でも好きで童貞だったわけじゃない」
男「風俗はなんか負けた気がするから行かなかったけどさ」
男「昔っからこの顔だから彼女どころか男友達すら作るの大変だったんだ」
男「その俺がどうして悪者のまま死ぬんだよ?」
男「そもそも俺はこの世界の人間じゃないんだからこの世界のルールで死にたくない!」
男「理不尽だろ!」
大統領「………………………………」
大統領「言いたいことはそれだけのようですね」
男「おい!ちょっと待て!」
男「リーダー!」
リーダーは放心状態で何かぼそぼそと呟いている。こちらの声はどう見ても届いていなかった。
男「くそっ!!なんで!!!なんでだよ!!!」
大統領が白い箱―――近くのものを跡形もなく吹き飛ばすであろう爆弾―――のスイッチを入れた。
箱の表面、液晶に現れる数字の「3」。
「2」。
男「うおおおおおおお死んでたまるかあああああ!!!」
男の身体が光輝く。
「1」。
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『あなたのこと!完全に包囲しちゃったから!』
男「……うるせえな」
『すぐに起きないと……現行犯逮捕しちゃうゾ★』
男は目覚ましから放たれるロリボイスで目を覚ます。
男「はぁー……なんかすごい夢を見たような……」
男「ん?」
男が枕元の携帯を見ると、一通のメールが来ていた。
―――――――――――――――――――
件名:おめでとう!☆
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今日誕生日だよね!?
誕生日おめでとー!
にしても私達も30かあ。
ってか最近全然会ってないよねー
今度みんなで飲みに行く?
薫
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男「薫って誰だっけ……」
男「ってか今日は誕生日だったっけか」
男「ふむ、たまには誰かと話すのもいいかもしれんな」
ベッドから体を起こした拍子に、黒い鉄の何かが落ちたことに彼は気付かなかった。
…………男が気付いていないのはそれだけではない。
完
71 : 以下、名... - 2014/08/15 14:56:31 KD4GhlDk 53/53やりたかった事はわからんでもないが、如何せん