1999年放送のTBSドラマ「天国に一番近い男」とクロスして
ワルプルギスの夜を乗り越えようとする、そんな誰得ssです。
元ネタがわからない人は「天使と名乗る変なオッサンがやってきた」と
思ってもらえれば十分です。
地の文あり。心理描写は台詞にできるものは台詞に、あとは省略。
手足がちぎれたり、マミるような描写、展開はありません。
以上、説明終わり
元スレ
天国に一番近いほむら
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1350171650/
天国に一番近いほむら 巴マミ編
【ショッピングモール】
ほむら「まどかたちはファーストフードの店に入ったわね」
ほむら「インキュベーターも近くまで来ているはず。始末しなければ」
おばさん「時計台の修理に寄付をお願いしまーす」
ほむら「ビラを押し付けられてしまった……。興味なんてないのに」
ビラにはなぜか、時計台と関係のなさそうな見出し。
――“お前の人生、それでいいのか?”
ビラを見もせずに折りたたむと、近くのゴミ箱に捨てるほむら。
家電量販店に陳列されたテレビがニュースを報じている。
ほむらがその前を通ると、四台並んだテレビが別の映像に切り替わる。
“お前の”、“人生”、“それで”、“いいのか?”
テレビには目もくれず、エスカレーターを下りるほむら。
ほむら「アレは人には見えないけど、人気のあるところで接触をはかったりはしないはず」
ほむら「駐車場か、……フロア改装?こっちの方が都合がよさそう。私にとっても」
【ショッピングモール・改装中フロア】
鎖で出入りを禁止した階段の前に、「店内改装のお知らせ」と書かれた看板。
ほむら「改装作業は行われていない。間違いなく、ここね」
???「君」
背後から肩を叩かれる。
振り向くほむら。意外そうな表情で相手を見つめる。
警備員か何かだと思っていたのに、いたのは黒一色の服装の男。
薄暗いフロアなのにサングラスをかけている。
ほむら「何かしら」
???「失礼。わたくし、こういう者です」
気取った動作で名刺を取り出す男。
名刺には“天使”とだけ書かれている。
ほむら「そう」
近くにゴミ箱がないか、あたりを見回すほむら。
仕方なく名刺を持ったまま、鎖を飛び越える。
天使(仮)「――暁美ほむら」
名前を呼ばれて、足を止めるほむら。
天使(仮)「暁美ほむら、14歳。心臓に持病があり、手術後見滝原中学に転校」
天使(仮)「休学していたとは思えない頭脳と身体能力を発揮してクラスの注目を浴びる」
ほむら「何のセールスか知らないけど、何も買う気はないわ」
振り返ることもなく、階段を駆け上がって奥へ進むほむら。
天使(仮)「あっ、そっち、行かない方がいいと思うけど?よぉ、よぉ!」
ほむらを追う、自称天使。
キュゥべえ「?君は……」
無人のフロアを徘徊していたキュゥべえが立ち止まる。
ほむらは変身するとすかさず時を止め、盾から取り出した拳銃でキュゥべえを撃つ。
時間が流れると、銃弾が命中したキュゥべえが破裂する。
それを見つめるほむらの背後を、別個体のキュゥべえが駆け抜けていく。
ほむら「まどかには近づけさせない」
キュゥべえを追いながら、執拗に撃ち続けるほむら。
紙一重で、しかし確実にかわし続けるキュゥべえ。
フロアに放置されていた在庫のダンボールに、跳弾が穴を開ける。
同じく床を跳ね返った一発の弾丸がマネキンの足を撃つ。
改装で誰も見ていないから、とスタッフの誰かが悪ふざけで「シェー」のポーズをさせていた
不安定な姿勢のマネキンは、足が折れて倒れる。
それは偶然、商品の自転車を倒し、さながらドミノのように隣の、そのまた隣の自転車を
倒していく。
そして、やはり「偶然」、攻撃に気をとられて周囲に注意を払っていなかったほむらに向かって
自転車が倒れかかる。
ほむら「えっ……!」
衝突。
自転車の下敷きになるほむら。右手がハンドル、右足が車輪に絡まる。
足を抜こうとするが焦ってうまくいかない。
不快な臭いが鼻をつく。
跳弾によって穴の開いた洗剤が、ほむらのそばに水溜りを作っていた。
これも「偶然」、二つの「種類の異なる」洗剤が、ほむらのそばで混じる。
ほむら「嘘っ……!」
たまらず手で鼻と口を覆う。
天使(仮)「あーあ、言わんこっちゃない」
自転車をどけてほむらを助け起こす、自称天使。
天使(仮)「チラシとか、テレビに映った謎の文字。スルーしたうえに聞く耳も持たねえ、ってか」
天使(仮)「でもこれでわかったろう、俺が正真正銘、天使だってことが」
自称天使が恩着せがましく言うのを無視してほむらが姿を消す。
振り返ったときには遠くで足音が聞こえるだけだ。
天使(仮)「あーっ、もう!悔しかー!ゲホッゲホッ、まずっ、ゴホン」
【ほむらのアパート前】
ほむら「今日は散々だったわ」
ほむら「インキュベーターは取り逃がすし、魔女は現れるし」
ほむら「どうやら巴マミは敵に回した感じだし」
ほむら「おまけに変な男のせいで、まどかと会って早々に死ぬところだった」
天使(仮)「変な男って?」
ほむら「黒い服にサングラスの、って、――あなた」
ドアのわきにいつの間にか立っていた自称天使に驚くほむら。
天使(仮)「命を助けられてもお礼の言葉もない。こりゃ重症だ」
天使(仮)「ひょっとして、お前の前世、『見ざる・言わざる・聞かざる』?」
ほむら「とても感謝しているわ。満足したら立ち去りなさい」
天使(仮)「何だよその言い方。人が一生懸命やってるのによ」
天使(仮)「それに、俺の話を聞かないと、お前、7日後に、死ぬぜ?」
ほむら「霊感商法だったら間に合ってるわ」
ほむら「もっとたちの悪い奴を知ってるから」
ドアを開けるとほむらは素早く身をドアの隙間に入れ、最小の動作で扉を閉じ、鍵をかける。
天使(仮)「だからよ、俺の話を聞けって」
入れたはずがないのに、ほむらの背後に立っている自称天使。
ほむら「……自分がやられてみると、結構癇にさわるものね。あなたもアレの同類?」
天使(仮)「お前って、ホント会話がかみ合わねえな」
天使(仮)「転校生ってのは興味を引くから生徒たちが寄ってくる」
天使(仮)「今日はそれも無視して、会話らしい会話といえば保健係とだけ」
天使(仮)「それだって、内容は意味不明」
天使(仮)「これじゃクラスで孤立して、一人寂しく中学生活をやり過ごすのは目に見えてるぜ」
天使(仮)「お前の人生、それでいいのか?」
ほむら「とやかく言われる筋合いはないわ」
ほむら「これ以上つきまとう気なら、それなりの覚悟をすることね」
コトリ、と新聞受けが音を立てる。
天使(仮)「おっと、来たな」
新聞受けに投函された封筒を開くほむら。
――7日後の17:30までに、
巴マミのスカートをめくらなければ即死亡
ほむら「……何これ」
天使(仮)「神様からお前に与えられた『命題』だ。クリアしなければお前は死ぬ」
ほむら「これが?」
いぶかしげな表情でほむらは自称天使に命題の手紙をつきつける。
天使(仮)「スカートをめくらなければ?あら、エッチ」
ほむら「あなたの神様、色欲でも司ってるの?」
天使(仮)「そんなことはどうだっていいだろ」
天使(仮)「それにもうわかってんだろ?俺が死ぬと言ったら、冗談でなく死ぬぞ」
堂々と上がり込む自称天使。
ほむら「図々しい、とか思わないの?」
天使(仮)「しょうがねえだろ。今日のお前を見た感じじゃ命題のクリアなんておぼつかないからな」
天使(仮)「期限までは面倒みてやるよ」
冷蔵庫からジュースを取り出し、勝手に飲む自称天使。
天使(仮)「ああ、喉が潤ったらお腹が空いてきたな」
天使(仮)「飯にしようぜ。何か作ってくれよ」
ほむら「……あなた、名前は?」
天使(仮)「天童、天童世死見。世の中の死を見る、天の童」
携帯電話を取り出し、通報するほむら。
ほむら「家に見知らぬ男がいて、台所を物色しているんです。名前は――」
天童「何ばすっと!」
通話を切る天童。
天童「そんなことよりよ。命題をクリアすることを考えようぜ」
天童「はい注目」
スケッチブックを片手に、金八先生を気取る天童。
表紙をめくると、『マミちゃんと仲良くなる』と書かれている。
天童「まずは、マミちゃんと仲良くなります」
天童「残念なことに、このバカチンとマミちゃんの仲は険悪です」
一枚めくると『マミちゃんと仲直り』と書かれている。
天童「そこで、仲直りをします。人という字は――」
スケッチブックを取り上げるほむら。
次の一枚には『スカートをめくる』と書かれている。
天童「あっ、テメー、コンチクショウ。いいところだったのに」
ほむら「途中経過が見事に飛ばされてるわね」
天童「仲良くなりゃ、多少のことぐらい許してもらえんだよ」
ほむら「七日程度で?」
天童「友情は時間だけで計るもんじゃねえだろうがよ」
天童「そもそも、嫌われてちゃスカートに手が届くとこまで近づけねえ」
天童「そういう意味でも、お互いの距離ってやつは大事だぜ」
天童「じゃ、作戦も決まったことだし、メシだ、メシ」
天童「あっ、目玉焼きには醤油ね」
ほむら「あなたとは、一光年ほど離れていたいわ」
【翌日/廃ビル】
薔薇園の魔女を撃破し、結界を消したマミ。
魔女の落としたグリーフシードを取る。
マミ「これがグリーフシード。魔女の卵よ」
さやか「た、卵」
マミ「運がよければ時々魔女が持ち歩いてることがあるの」
マミの手のひらにあるグリーフシードに、身構えるまどかとさやか。
キュゥべえ「大丈夫。その状態では安全だよ」
二人の前で、グリーフシードを使ってソウルジェムを浄化するマミ。
マミ「これで消耗した私の魔力も元通り」
グリーフシードを放り投げるマミ。
その先にいたほむらがグリーフシードを受け止める。
マミ「あと一度くらいは使えるはずよ。あなたにあげるわ。暁美、ほむらさん」
ほむらがマミたちに近づいてくる。
マミ「それとも、他人と分け合うんじゃ不服かしら」
ほむら「あなたの獲物よ。あなただけのものにすればいい」
グリーフシードを投げ返すほむら。受け止めつつ、不快な表情でほむらを睨むマミ。
マミ「そう、それがあなたの答えね」
背を向けて去っていくほむら。
さやか「くうーっ!やっぱり感じワルイ奴」
まどか「仲良く、できればいいのに……」
マミ「お互いに」
ほむら「あっ」
天童「仲良く!そう仲良く!」
どこから現れたのか、ほむらの腕を引っ張ってマミたちの前に連れ戻す天童。
まるで、歯医者を怖がる子供を連れて行く親のように。
マミ「そう思えれば……ね?」
天童「いやー!ご学友の皆さん、うちのほむらがお世話になってます」
さやか「この人……誰?」
あっけにとられて天童を見る三人。
天童「申し遅れました。九州から出てきた、ほむらの叔父ですばい」
ほむら「誰が」
天童「いやーこの通り、人見知りが激しくて友達の輪に入れないから心配して出て来たっちゅうわけで」
まどか「叔父、さん……?」
マミ「友達?」
対応に困る二人とは裏腹に、なぜか一人だけ目を輝かせているマミ。
天童「ほれっ。ほむらも挨拶しんしゃい」
天童が強引にほむらの頭を押さえつけて下げさせる。
天童「暁美ほむら。暁美ほむらをよろしくお願いします」
清き一票を、と言い出しかねない口ぶり。天童の目がマミの胸に留まる。
天童「おーっ!これは中学生とは思えない抜群のスタイル!」
天童「それに比べてうちのほむらときたら、とても同い年には……」
マミ「わ、私は同い年じゃなくて、一つ上の三年なんです」
天童「ほれっ。ほむらもあやかりんしゃい」
ほむらの手を取ったかと思うと、無理やりマミと握手させる天童。
天童「いやー、マミちゃんみたいに、ほむらも出るとこ出てくれれば」
天童「ボン、キュッ、ボン。くーっ、たまらーん」
マミ「よろしく……」
握手しながら、マミの目は天童をうかがう。
天童「そうだ!握手ついでに」
ほむらに何かを持ち上げるようなゼスチャーを送る天童。
ほむら「……」
天童「ほら一発、ぱーっと!」
ゼスチャーを繰り返す天童。
天童「ぱーっと」
マミが手を放す。
マミ「ごめんなさい。下に、人を待たせてるものだから。暁美さん、また今度ね」
【廃ビル・外】
魔女の口づけによって飛び降りた女性を介抱するマミ。
何度も礼を述べて、女性が帰っていく。
マミ「鹿目さん、美樹さん。私のこと、暁美さんに話した?」
まどか「えっ?いいえ」
さやか「口をきいたのも、屋上だけだし」
少し考え込むマミ。
マミ「――そう」
【廃ビル】
ほむら「どういうつもり?」
天童「そりゃこっちの台詞だよ。何であのときスカートめくらなかったんだよ。ぱーっと」
先程のゼスチャーをもう一度見せる天童。
天童「そうしたら命題クリアだったじゃねえか」
ほむら「巴マミは愚かではないわ。少なくとも、あなたよりは」
天童「どういう意味だよ」
ほむら「あなたが『マミちゃん』なんて言うものだから、彼女は警戒したわ」
ほむら「どうして昨日会ったばかりの自分のことを叔父に話しているのか」
ほむら「知らないはずの巴マミの名前があなたの口から出たのか」
天童「あっ!」
今さらのように、手で口を覆う天童。
ほむら「私も、あの三人の中から的確に巴マミを見分けることができたあなたに驚いたわ」
天童「あっ!」
手で口を押さえているのでくぐもった声。
ほむら「おそらく、彼女の驚きはそれ以上。叔父さんなんかじゃないことには気づいたでしょうね」
天童「人間、誰にだって過ちはあるものだな……」
ほむらを背に、ありもしないブラインドの隙間から夕陽を眺める天童。
ほむら「あなた天使でしょ。それと」
天童「何?まだ失敗してた?俺」
ほむら「今度、胸の話に触れたら追い出す」
【6日経過・夜/公園】
魔女を探してパトロール中のマミ。
ソウルジェムを指輪に変化させ、帰ろうとする。
音もなく、その背後に現れるほむら。
ほむら「わかってるの?」
振り向くマミ。
ほむら「あなたは無関係な一般人を危険に巻き込んでいる」
マミ「彼女たちはキュゥべえに選ばれたのよ。もう無関係じゃないわ」
ほむら「あなたは二人を魔法少女に誘導している」
マミ「それが面白くないわけ?」
ほむら「ええ、迷惑よ。――特に、鹿目まどか」
マミ「ふーん、そう。あなたも気づいてたのね、あの子の素質に」
ほむら「彼女だけは契約させるわけにはいかない」
マミ「自分より強い相手は邪魔者、ってわけ?いじめられっ子の発想ね」
二人の間を風が駆け抜け、ほむらが髪をかき上げる。
ほむら「あなたとは戦いたくないのだけれど」
マミ「なら二度と会うことのないよう努力して」
マミ「話し合いで事が済むのは、きっと今夜で最後だろうから。――ついでに、あなたの『叔父さん』も」
マミ「魔法少女、じゃなさそうだけど、何者?」
ほむら「九州から出てきた叔父よ。本人がそう言ってなかった?」
マミ「それを私が信じると思うの?」
ほむら「私には関係ないわ」
マミ「『叔父さん』にも容赦しないから、そのつもりでいてね」
ほむら「そうでしょうね。無関係な一般人を巻き込むのは、あなたの専売特許だもの」
マミ「……あなたに対しては手加減は無用のようね」
マミが背を向け立ち去る。
入れ違いに駆け寄ってくる天童。
天童「おい、どうして命題やらなかった?あと24時間もないぞ」
ほむら「巴マミとの交渉は決裂したわ」
ほむら「おそらく命題の期限には、私と彼女が戦っているはず」
ほむら「そして、私に敗北はない。命題はそのときに――」
天童「そんなことわかるかよ!」
いつになく強い語調で言い、ほむらの肩に手を乗せる天童。
天童「たとえマミとお前とを比べてお前が強かったとしても」
天童「いや、だったらなおさらつまんねえ理由で戦いをやる必要なんてねえじゃねえか」
ほむら「……あなたには、わからないわ」
天童「ああそうだよ!わかんねえよ。でもな、手っていうのは人を叩くだけの道具じゃねえんだよ」
天童「この間みたいに、手はつなぐことだってできるんだよ」
天童「周囲の人間を叩いて、叩いて、叩き伏せて。あとに何が残るっていうんだよ」
天童「そんな生き方、絶対に後悔する」
ほむら「私は、目的のためなら誰であろうと、何度でも叩き伏せる」
ほむら「そのことに、――後悔なんて、あるわけない」
天童「そうかよ。じゃあ死ねよ。死んじまえよ。明日、17:30。お前には絶対命題はクリアできねえ」
鼻息も荒く公園をあとにする天童。
天童「チクショー、何だってんだよ。この、バカチンがぁ」
【命題期限の日/学校】
中沢「暁美さん。部活は決まった?」
ほむら「いいえ。まだ決めてないわ」
中沢「だったら『商品開発部』に入らない?」
ほむら「『商品開発部』?会社の一部署みたいな名前ね」
中沢「当たりそうなら実際に商品化する部なんだ」
中沢「もっとも商品化されたものはまだないんだけど」
中沢「でも今回の『モテモテスプレー』はいい線行くかもしれないな」
ほむら「どんな品物なの?」
中沢「あっ、興味持ってくれた?これなんだけど」
中沢がラベルのないスプレー缶を渡す。
ほむらは手の甲に軽くスプレーを噴きつけてみる。特に臭いはしない。
すると、なぜか羽虫が数匹ほむらの手のまわりに集まってくる。
ほむら「どういうことかしら」
中沢「昔からよく言うだろ?モテる子には『悪い虫が寄ってくる』って」
ほむらがスプレーを大量に中沢に浴びせる。
とたんに羽虫の群れが中沢の顔が見えなくなるぐらい集まってくる。
中沢「うわーいこんなに虫が寄ってくるなんて僕はモテモテだー」
【結界―お菓子の魔女―】
恭介の入院している病院で孵化間近のグリーフシードを見つけたまどかたち。
さやかとキュゥべえが結界の奥へ向かう一方、まどかはマミの元へ行き協力を取り付ける。
まどか「間に合ってよかったー」
マミ「無茶しすぎ、って怒りたいところだけど、今回に限っては冴えた手だったわ」
マミ「これなら魔女を取り逃がす心配も――」
足音に気づいて振り返るマミ。
そこへやってくるほむら。
マミ「言ったはずよね。二度と会いたくないって」
ほむら「今回の獲物は私が――」
自分の手を見つめるほむら。
――手はつなぐことだってできる――
ほむら「私が協力するから、二人で倒しましょう」
マミ「どういう心境の変化かしら」
ほむら「今度の魔女は、これまでの奴らとは訳が違う」
マミ「そう?じゃあ、あなたはこの魔女と戦ったことがあるんだ?」
マミ「そして尻尾を巻いて逃げ出した、と」
まどか「マミさん……」
明らかに挑発的なマミに、不安を覚えるまどか。
ほむら「どう解釈しようが自由よ」
手を差し伸べるほむら。
まどか「ほむらちゃん……」
小さな、喜びの入り混じった声。
マミも右手を差し出し――
ピシャリ。
マミの手がほむらの手を払いのける。
マミ「信用すると思って?」
ほむら「……」
マミを一瞥すると、素早く踏み込んでマミのスカートをめくり上げるほむら。
マミ「キャッ!」
予期しない反撃に驚くマミ。
涙をためた目で、きっ、とほむらを睨む。
後方に跳び下がると、開いた手をほむらに向ける。
直後に、ほむらの足元からリボンが伸びてきて拘束する。
カラン。
金属音とともに、スプレー缶がほむらの足元に転がる。
マミはおもむろにスプレー缶を拾い上げると、軽く噴射してみる。
続いて自分の手のひらにもう一度。
マミ「催涙スプレー、というわけでもないみたいね。これがあなたの魔法の武器かしら?」
マミが地面にスプレー缶を投げ捨てる。
ほむら「馬鹿っ、こんなことやってる場合じゃ……!」
マミ「大人しくしていれば帰りにちゃんと解放してあげる」
マミ「行きましょ、鹿目さん」
まどか「は、はい……」
【結界最深部】
まどかとの魔法少女コンビ結成に浮かれるマミ。
さやか、キュゥべえとの合流を果たしたのも束の間、魔女が誕生してしまう。
脚の長い椅子にちょこんと座ったお菓子の魔女。
マスケット銃を振り回して椅子を倒し、魔女を落とすマミ。
マミ「せっかくのところ悪いけど、一気に決めさせて――もらうわよ!」
一方的な攻撃に足元に転がった魔女をさらに撃ち抜き、リボンで吊り上げる。
とどめの一撃は言うまでもない。巨大な銃身が現れ魔女に狙いをつける。
獲物を狙うハンター。今のマミはまさしくハンターだ。
が、マミも、まどかも、さやかも、獲物を狙う別のハンターが存在していることに気づかない。
それはお菓子の魔女よりもっとちっぽけで、醜いもの。
台所の深淵に潜む名状しがたき黒い六つ脚。
核戦争にさえ耐えると言われた最強の生物。
適度な温度と湿度、それに食料があればたとえ結界であろうとも棲息を阻むことはできない。
“それ”は孤独であったが、ついさっき“人間には感じ取れないフェロモン”が近くに
発生していることに気づき、仲間に出会えると思った。
人間が見れば忌み嫌うであろう翼を広げ、“それ”は飛んできた。
マミ「ティロ・……!」
ぺたり。
“それ”がマミの左手にとまる。
マミ「きゃあああっ!」
混乱して、必殺の一撃はあらぬ方向へ飛んでいく。
音に驚いた“それ”もどこかへ消えた。
さやか「はずした?……危ない!」
小さな魔女から、どこに収納されていたのかと思うような大きな体が飛び出した。
【結界】
天童「ほむら!」
マミのリボンに拘束されているほむらを見つけ、駆け寄る天童。
天童「何だこりゃ。はずれやしねえ」
ほむら「その前に、ここがどこか疑問に思ったりしないの?」
天童「どこだっていいじゃねえか。住めば都って言うしよ」
ほむら「私は疑問だわ。ここに、あなたがいること自体が」
ほむら「……前に、巴マミとの仲は険悪と言っていたわね」
ほむら「まさか、あのときも結界の中まで尾行していたの?」
天童「オメー、俺を置いてとんずらしたじゃねえか」
天童「それより、もうすぐタイムリミットだ」
天童「早くマミちゃんのスカートめくって命題クリアしようぜ」
ほむら「……いけない。見つかったようね」
天童「あん?」
天童が振り返ると、ネズミをふくらませたような使い魔の群れが二人に近づいてくる。
天童「何じゃあこりゃあ!」
ほむら「逃げなさい。ここは魔女の棲家。天使のいる処ではないわ」
天童「馬鹿野郎、ぐるぐる巻きになってるお前を置いて逃げられっか」
ほむら「私なら自分で何とかする」
天童「まだそんなこと言ってんのかよ!お前はプリンセス天功か?」
天童「チクショウ、はずれねえ。何でできてんだ?こいつは」
ほむら「……手をつなぐことができるって言ってたけど、結果はこの有様よ」
ほむら「差し伸べた手は払いのけられ、こんなところに縛られて」
ほむら「結局、誰かと一緒になんて綺麗事にすぎないわ」
天童「払いのけられたらその手を掴めばいい。また払われてもまた掴んでやったらいい」
天童「手で不足なら体でしがみつけ。俺はそう信じてる」
天童「だから、わざわざここまで来たんだろうが」
ほむら「こんなことになるなんて……生きたかった」
天童「な、泣くな!こうなりゃこの俺が雑魚どもを片づけて――」
一斉に群がる使い魔。
二人の姿はあっという間に埋もれてしまった。
【結界最深部】
マミ「こいつが本体?」
混乱しているとはいえ、仕損じた自覚がマミに隙を生じさせなかった。
別のリボンを壁に打ちつけ、掃除機のコードが収納されるように壁に引き寄せられるマミ。
やや遅れて、魔女が頭から突進する。
まどか「マミさん!」
マミ「大丈夫!伏せて!」
無数の銃身による斉射を浴びせながら、まどかたちの方を見るマミ。
すぐに決着がつけられる。そう思っていたから、魔女に対する防御壁を彼女たちに張っていない。
――無関係な一般人を巻き込むのは、あなたの専売特許だもの――
マミ「油断したわね。これじゃ、あいつの言うとおりになっちゃう」
顔を上げた魔女が、たちまちもう一度口から別の本体を吐き出す。
マミが手をぴんと伸ばして独楽のように回転すると、その軌跡にマスケット銃が展開される。
向かってくる魔女に六発。ジャンプで回避しながらさらに二発。
ダメージをものともせずに魔女がマミを狙う。
マミ「――今!」
魔女の足元からリボンが絡みつき、動きを封じる。
脱皮しようとするその口にリボンがバツ印のように貼りつき、魔女は目を白黒させる。
マミ「ティロ・フィナーレ!」
巨大な銃身から放たれる圧倒的なエネルギーを受け、魔女の体が爆発四散する。
さやか「やった!」
【病院・駐輪場】
魔女の消滅で、結界そのものも消失する。
天童たちに群がった使い魔もかき消すように逃げ散ってしまった。
天童「……助かったのか?」
天童「……ほむら?」
マミのリボンに拘束されたままのほむらが地面に横たわっている。
天童が抱き起こすがほむらはぴくりとも動かない。
天童が時計を見る。17:31。
天童「おい……嘘だろ?だから昨日、済ましときゃよかったのに……」
ほむらの顔をぴしゃりと叩くが、何の反応もない。
呼吸もしていない。
天童「まさか……脈は」
ほむらの腰のあたりを覆うリボンに手を突っ込んで、ほむらの手首に触れる。
天童「何でだよ。まだ一つ目の命題じゃねえか。一つ目でしくじるなんて、そんな話があるか」
ほむら「ひどい話ね。命題が複数あるなら、先にそう言えばいいのに」
天童「ほむら!」
驚いた表情でほむらを見る天童。
ほむら「死んだふりよ。コツは教えられないけど、特技の一つと言ってもいいわね」
ほむら「私も言ってなかったけど、命題はとっくにクリアしてたから」
ほむら「それと、さっきのは嘘泣き」
天童「て、テメー、コンチクショウ、悔しかーっ!悔しかーっ!」
【病院・女子トイレ】
魔女を撃退し、グリーフシードも手に入れたマミ。
洗面台で、執拗に手を洗っている。
不安そうに見つめるまどかとさやか。
さやか「あの……マミさん?」
マミ「何?」
さやか「さっきから、随分熱心に手を洗ってるみたいですけど」
マミ「こ、これはね。きわどい勝利のときに自分を見つめ直す……」
マミ「そう、滝に打たれて修行するようなものよ!」
まどか「滝、ですか」
マミ「そういえば鹿目さん、願い事は決まった?」
まどか「えっ?ま、まだです」
マミ「そう。でもこの話はまた今度にしましょう」
まどか「どうしたんですか?」
マミ「今日は、どんなご馳走を見ても食欲がわかない気がするの」
【病院・駐輪場】
結界が消えても解けないほむらの拘束。
リボンをほどこうと四苦八苦している天童。
そこに通りかかるマミ、まどか、さやか。
マミ「魔女は退治したわ」
ほむら「そのようね」
マミ「でも、あなたの言っていることも正しかった」
マミ「一歩間違えば、鹿目さんや美樹さんを危険にさらすところだった」
マミ「そういう意味では、あなたに教えられたことになるのかしら」
ほむら「気にする必要はないわ」
マミ「私、借りを作るのって嫌いな性分なの」
マミが手をかざすとほむらの拘束が解ける。
立ち上がったほむらに、手に入れたばかりのグリーフシードを投げてよこすマミ。
さやか「えっ?どうしてコイツに」
マミ「私はこの間の分でソウルジェムを浄化したから、それは使ってないわ」
グリーフシードを見つめるほむら。
小さくうなずいてポケットにしまい込む。
マミ「今度魔女がかち合ったら、そのときは二人で倒しましょう」
手を差し伸べるマミ。
天童と顔を見合わせるほむら。
親指を立てる天童。
ほむらは差し出された手を取ろうとし――
マミ「それっ!」
マミの手がほむらの手をかわし、両手でほむらの胸にタッチする。
ほむら「な……!」
マミ「これで本当に、貸し借りなしよ!」
マミを除く全員が呆気に取られる。
マミ「鹿目さん、美樹さん。行きましょ」
マミ「暁美さん。さっき言ったことは本気だから。そのときはよろしくね」
まどかとさやかを連れて去っていくマミ。
天童「……はっ、忘れてた」
われに返った天童、両手でカチンコを鳴らす真似をする。
天童「カーット!『スキンシップ』クリアだ!」
天童「例え意見が一致しなかったり、好きじゃない相手だったとしても」
天童「避けるんじゃなく体で、全力でぶつかる!これが命題の本当の意味だ!」
天童「くーっ。いいこと言った、俺。メモしとこ」
天童は手帳を取り出し、何やら書き込む。
ほむら「命題をクリアした、といっても、このどうしようもない悔しさは何かしら」
天童「子供同士じゃれ合ってかわいいもんじゃねえか」
天童「昨日の敵は今日の友、ってか。あっ、またいいこと言った。メモメモ」
ほむら「結局、命題はいくつあるの?」
天童「四つだ。つまり残りは三つ、ってわけだな」
ほむら「……それはまとめて挑戦してしまえるものではないの?」
天童「無茶言うなよ。大体、今の命題だってこの俺のフォローでやっとクリアできたんじゃねえか」
ほむら「足を引っ張っただけじゃないの?」
ほむらがスプレー缶に気づく。
拾い上げ、天童に手渡す。
ほむら「助けにきてくれたお礼よ。『モテモテスプレー』ですって」
天童「モテモテ?まさに、俺を言い表したようなスプレーじゃねえか。どれ」
天童がスプレーを噴射すると、羽虫の群れがまとわりつく。
天童「おい、ほむら!話が違うじゃねえか!」
ほむら「ただでさえまどかの保護と、ワルプルギスの夜対策の両方で忙しいのに」
ほむら「こんな変てこな人につきまとわれるなんて」
ほむら「ホント、災難もいいところね」
ほむら「これからどうなるのかしら」
天国に一番近いほむら 巴マミ編「後悔なんて、あるわけない」 終わり
天童「こちらスネーク。『天国に一番近いほむら』の楽屋裏に潜入した」
ほむら「あなたは出演者だから誰はばかることなく入ってこれるじゃない」
天童「いいんだよ。こういうのは気分」
天童「補足説明を俺とオメーの二人でやってみたらよ、なんつーか、その」
天童「MGSの無線通信みたいな感じになっちまったからな」
天童「仕方なく、前フリしてやってんじゃねえか」
天童「それもこれも、オメーの説明が淡々としすぎなせいだ」
ほむら「説明というのは伝えたいことが伝わればそれでいい」
ほむら「余計な脚色は必要ないわ」
ほむら「今回は、『天国に一番近い男』から、インチキ天使の天童世死見と」
ほむら「商品開発部の瀬戸口克陽について説明するわ」
天童「誰がインチキ天使だ、ダメ人間」
補足その1・天童世死見について
天童「俺のことか」
天童「天使の中の天使。頭脳明晰、才色兼備」
ほむら「あなたは黙ってて」
ほむら「天童世死見はそもそも偽名で、名前を聞かれたときにテレビで映っていた天童よしみからとった」
ほむら「名乗る名前さえ決めていないくせに居座ろうとするあたり、いい加減な性格がうかがえるわ」
ほむら「性格に関しては、これ以上触れない」
ほむら「ここで紹介した性格で脳内補完しろ、というのは手抜きだから」
天童「確かに、設定紹介で『最強の剣士』とかやられても読む方は困るよな」
天童「相手の行動を読む洞察力が鋭い、とか、動体視力を活かして紙一重でかわす、とかよ」
天童「ちょっとでも詳細に触れていりゃまだ納得がいく」
天童「そういう説明のないやつに限って、強敵を倒した理由は『最強の剣士だから』」
天童「それじゃ軍人将棋と同じじゃねえか」
天童「登場人物のデコに階級貼っとけよ」
ほむら「辛口なのは結構だけど、あなたもドラマの中で何度か『なぜなら、僕は天使だから』と言っているわ」
天童「一緒にすんな。それは四郎が人間相手の命題を俺に対してやろうとしたからだろうが」
ほむら「四郎、というのは主人公の甘粕四郎のことね」
ほむら「彼が命題をクリアしたことが、こうしてつきまとわれる原因の一つなのだけど」
ほむら「天使、というからには常人にはないアドバンテージがある」
ほむら「天使としての特殊能力は三つ」
ほむら「《神出鬼没》《スーパー情報収集/情報収集》、それと今は明かせないもう一つ」
ほむら「命名は>>1が勝手につけたものよ」
天童「センス悪いにもほどがあるだろ。スーパー情報収集、って」
天童「これじゃチラシ見て、今日はこの店のにんじんが安いとか言ってそうじゃねえか」
ほむら「名前の挙がった《スーパー情報収集》だけど、他人の経歴、家族構成その他を瞬時に取得できる」
ほむら「甘粕四郎はもとより、偶然乗り合わせたタクシーの運転手の情報も入手している」
ほむら「娘に仕送りするため頑張っている、という事情を言い当てているわ」
ほむら「もしかすると、『あっ、そっち行かない方がいいと思うよ』もこの能力に含まれるのかも」
天童「善意で言ってやってるのに、大抵無視されるんだよな」
天童「まっ、家の中じゃせいぜい画鋲を踏むぐらいですむけどよ」
ほむら「個人情報を手に入れる意味での《スーパー情報収集》は便利すぎるせいか、あまり使っていない」
ほむら「《情報収集》にシフトしていったと考えられるわ」
ほむら「《情報収集》は、欲しい情報が書かれた『紙』をどこからか調達してくる」
ほむら「柔道対決のときはメンバー表。銀行の見取り図を手に入れてきたこともあったわ」
ほむら「いずれの際も、『拾った』と言い張っている」
天童「拾ったんだからしょうがねえだろ」
ほむら「銀行に侵入した回ではピッキングでロッカーの鍵を開けていたけど」
ほむら「特技が盗みに特化されている天使なんてほかにいないでしょうね」
ほむら「《神出鬼没》。自分が知っている人物の近くに突然現れることができる」
ほむら「『いつの間にか車の後部座席にいた』なんてホラーっぽいこともやってるけど」
ほむら「あなたじゃ怖くもなんともないわね」
ほむら「性質的に主人公のピンチに颯爽と現れることができるはずなのに」
ほむら「暴力沙汰に巻き込まれた甘粕四郎を助けに来たことは一度もない」
天童「うるせえ。それも含めて神様の試練なんだよ」
天童「だいたい、助けに入ってたら話が盛り上がらねえじゃねえか」
天童「主人公にはときにはピンチも必要なんだよ」
ほむら「身体能力は一般人と変わらない。一般人の尺度でせいぜい『中の上』」
ほむら「戦闘、特に魔女相手となると、ほとんど無力ね」
ほむら「ワルプルギスの夜はともかく魔女程度なら単独で倒せるのがクロスキャラの相場」
ほむら「これはつまり、『これは何と読む? ハズレ』みたいなものかしら」
天童「かーっ、腹立つー!せっかく来てやったのにハズレ呼ばわりかよ」
天童「そもそも、それの元ネタやってたとき、お前生まれてねえだろ」
天童「ただでさえ十年も前のドラマとクロスして記憶に残っている読者も少ないのに」
天童「さらにふるいにかけるような真似しやがって」
ほむら「名作は時間を超越して存在する」
ほむら「『天国に一番近い男』が現在においてなお支持されているのも、そういう理由だと思う」
天童「おっ、いいこと言った。それ使えるな。メモしとこ」
ほむら「本編からもわかるとおり、風貌に言動にと、とかく天使と思えない要素が揃っている」
ほむら「それを活かして甘粕四郎が『あんた本当に天使なの?』と疑う掛け合いが何度も繰り返された」
ほむら「毎週死と隣り合わせの生活をしていながらまだ疑っているなんて、愚かなのか鈍感なのか」
ほむら「誰かさんの影響で神経が図太くなった、とも考えられる」
天童「神経なんて太い方がいいんだよ。どんな環境でも明るく前向きに生きていける」
天童「いいことじゃねえか」
ほむら「……それ、私のジュースだから後で買って返しなさい」
補足その2・瀬戸口克陽
天童「瀬戸口なんて、本編に出てたか?」
ほむら「本編では中沢が代役をしているわ」
ほむら「瀬戸口克陽。甘粕四郎の勤める『MONOカンパニー』社員」
ほむら「流行の波を読むアンテナには大いに問題があり、彼の扱う商品はおよそ売れそうにないものばかり」
ほむら「『熊ブームが来ると思って』なんて、どういう経緯で思いついたのか教えてもらいたいものだわ」
ほむら「彼が披露した品は、ドラマ中で効果的に用いられることが多い」
ほむら「トランポリンが転落した甘粕四郎の命を救ったかと思えば、毒蛇に噛まれて死に瀕したこともある」
ほむら「多くの場合、甘粕四郎にとってプラスの効果をもたらしている」
ほむら「そのため、地味ながら登場シーンや小道具を覚えている視聴者もいるのではないかしら」
ほむら「本編では『モテモテスプレー』が巴マミの命を救うことになったけど」
天童「あんな半モブみたいな奴が生き死にを分けるなんて、ドラマ未見だったらわけわかんねえよな」
天童「マミちゃんをかっこよく救出するのは俺の役どころじゃないのかよ」
ほむら「巴マミはクロスキャラにお菓子の魔女を倒してもらうまでもなく勝てる実力があった、そういうことよ」
天童「俺があと10歳若けりゃ白馬の王子様だったのによ」
ほむら「ちなみに、本編ではこれ以降中沢が瀬戸口を演じることはないし、小道具も出てこない」
ほむら「美樹さやか編を読めば理由がわかる人もいるはず」
ほむら「あと、伏線を張ってそれを回収するのにボリュームを取られると私や天童の行動が制限される」
天童「確かに、俺のありがたい説話に心打たれて変わった、ってところがないよな」
天童「オメーは原作とほとんど一緒の行動しかしてねえし」
天童「まだ最初の命題だから大目に見といてやるが、次からは俺の活躍でちょっとは成長しろよ」
ほむら「私には、あなたの無駄話が一番ボリュームを圧迫しているように思えるのだけど」
ほむら「今回の補足説明は以上ね」
天童「だいたい、ドラマはDVDで観ろ。掲示板で知った気になるなんてダサー」
ほむら「ドラマ未見の人には喧嘩を売っているようにしか聞こえないわ」
ほむら「裏番組の『もののけ姫』について、『映画は映画館で観ろ』と言った台詞の改変よ。他意はないわ」
ほむら「本編じゃ裏番組なんてないからネタを消費しておいただけ」
ほむら「とはいえ、ドラマに興味がわいた読者はなるべく早く視聴することをお勧めするわ」
天童「この補足説明の中でもネタバレがあるしな。本編なんて、この先もっと……ムグッ」
ほむら「一つ忠告しておくと、『天国に一番近い男』には続編にあたる『教師編』が存在する」
ほむら「命題をクリアできなかったら即死亡、というコンセプトは同じだけど天童世死見の性格が大きく異なる」
天童「眼鏡をかけていた頃のほむらと今のほむらぐらいは違うな」
ほむら「本編で関心を持ったのなら『教師編』ではない方から観て」
ほむら「それでは、本編の続きを、どうぞ」
天国に一番近いほむら 美樹さやか編
【???】
崩壊した街に雨が降り注ぐ。
水溜りの中に倒れているほむらとまどか。
二人のソウルジェムは濁り、二人に限界が近いことを示している。
まどか「私たちも、もうおしまいだね」
うなずくほむら。
ほむら「グリーフシードは?」
首を横に振るまどか。
ほむら「……そう」
ほむら「ねえ、このまま二人で怪物になって、こんな世界メチャクチャにしちゃおっか」
ほむら「ヤなことも、悲しいことも、全部なかったことにしちゃえるくらい」
ほむら「壊して、壊して、壊しまくってさ」
ほむら「それはそれで、いいと思わない?」
こらえきれず、涙を流すほむら。
ほむらの手の中にあるソウルジェムを、グリーフシードで浄化するまどか。
まどか「さっきのは嘘」
まどか「一個だけ、取っておいたんだ」
微笑むまどか。
ほむら「そんな……!何で私に!」
まどか「私にはできなくて、ほむらちゃんにできること、お願いしたいから」
まどか「ほむらちゃん、過去に戻れるんだよね」
まどか「こんな終わり方にならないように、歴史を変えられるって、言ってたよね」
まどか「キュゥべえに騙される前の、バカな私を助けてあげてくれないかな」
ほむら「約束するわ。絶対にあなたを救ってみせる」
ほむら「何度繰り返すことになっても、必ずあなたを護ってみせる」
まどか「よかった……」
まどかが苦しみだす。
まどか「もう一つ、頼んでいい?」
まどか「私、魔女にはなりたくない」
【ほむらのアパート】
ベッドの中。ほむらが目を覚ます。
ほむら「……約束」
ほむら「……ごめんなさい。今度こそ」
天童「うーっ、UNKO!」
天童「チャッ、チャッラッチャッチャ、チャッ、チャッラッチャッチャ」
ほむら「……」
顔をしかめて起き上がるほむら。
天童「……チャチャチャッ、チャチャチャッ!ウー!」
天童「朝から快腸、快腸で、思わず歌も出る、ってんだ」
ブッ、という音。
天童「いけね、屁も出た」
天童「臭かーっ、臭かーっ。たまらーん!」
ほむら「あなた、本当に天使なの?」
天童「そうとも、僕は天使さ」
胸に手を当て、さわやかな口調で言う天童。
ほむら「随分、イメージが違うわ」
天童「ひょっとして、惚れた?」
天童「くーっ、迷える子羊を、恋に迷わせる。なんて罪作りな俺!」
ほむら「……絶望した天使が悪魔を生み出すとしても、こいつは絶対絶望しそうにないわね」
コトン。
新聞受けの方から物音。
天童「おっ、命題か?」
ほむら「朝から気が沈むことばかりね」
ほむらが新聞受けから封筒を取る。
ほむら「こんな封筒に紙切れ一枚。普通だったら信じられるはずがない」
ほむら「でも魔法少女が存在するのなら、神様がいてもおかしくはない……」
封筒から手紙を取り出し、文面に目を通す。
――5日後の16:43までに、
美樹さやかに美しい音楽を聞かせなければ即死亡
ほむら「美しい音楽って、具体的にはどういうこと?」
天童「まあアレだな。うーっ、Uっ……!」
命題の手紙を天童の口に突っ込むほむら。
ほむら「少なくとも、それは違うことだけはわかったわ」
天童「俺はヤギかよ!」
【学校】
ほむら「一応聞いてみるけど、美しい音楽に関する品物って開発してる?」
中沢「えっ、俺の美しい歌声が聞きたい?」
中沢がマイクを取り出す。
それを見た生徒たちが一斉に逃げ出す。
中沢「ボエー♪」
破壊力抜群の歌に、ガラスの仕切りが音を立てて割れていく。
耳をふさいだほむらも苦しそう。
ほむら「……田舎者でもスター気分の音痴矯正マイク、通販になかったかしら」
【学校・屋上】
さやか「何、こんなところに呼び出して。果し合いでもしようっての?」
ほむら「いいえ。それとも果し合いを望んでいるの?」
さやか「……用って何さ」
ほむら「CDショップに行きたいけど、ここに来て間がないから店がわからないの」
ほむら「あなたが知ってる、美しい音楽が聴ける店に連れて行ってもらえないかしら」
さやか「美しい音楽?何それ。でもまあ、CDショップなら心当たりあるからいいけど」
ほむら「そう。じゃあ今日の放課後。お願いするわ」
ほむらが去っていくその後姿を、不審そうに見送るさやか。
さやか「わかんないヤツ。何か企んでるの……?」
【CDショップ】
さやか「暁美さんってどんな曲が好きなわけ?」
ほむら「私、音楽聴かないの」
さやか「はあ?」
ほむら「転校する前は入院していたし」
ほむら「だから誰それの曲聴いた?なんていう話題に合わせる必要もなかったわ」
さやか「じゃあ話題の曲がいいの?」
ほむら「美しい音楽」
さやか「だからさ、美しい音楽って、せめてジャンルぐらい言ってよね」
ほむら「あなたは、美しい音楽と言われたら何を連想する?」
さやか「……ヴァイオリン」
ほむら「じゃあクラシックの曲にしましょう」
クラシックのCDを購入するほむら。
さやか「これ、二枚とも同じ曲じゃない」
ほむら「そうね。これはお礼よ。できれば明日、曲の感想を聞かせて欲しいわね」
CDの一枚をさやかに手渡すほむら。
ほむら「ありがとう。これから用事があるので帰らせてもらうわ」
さやか「ちょっと、ねえ、……ホント、わかんないヤツ」
【深夜/ほむらのアパート】
帰宅するほむら。
天童「遅かったじゃねえか。日付が変わっちまったぞ」
天童「健全な女子中学生の生活から足を踏み外すと、しまいにゃ人間の枠からも足を踏み外すぞ」
ほむら「生活指導の先生みたいなことを言うのね」
天童「当たり前じゃないか。君の行く末を心配して言っているんだよ」
さわやかな人物気取りの天童。
天童「なぜなら、僕は天使だから」
ほむら「羽根もなければ輪っかもない。奇跡の一つも起こせない」
ほむら「そこまで自信たっぷりに言い切れる図太さには呆れるわ」
天童「あっ。人が心配してやってるのにその態度」
天童「それに、お前にはクリアしなきゃならねえ命題だってあるだろうがよ」
ほむら「それなら問題ないわ。多分、もうクリアしていると思うから」
天童「多分?」
コトリ。
新聞受けから物音。
天童「ってことは、次の命題か?」
新聞受けから封筒を取り出し、手紙の文面を読む天童。
天童「ほむら」
ほむら「今日は疲れたの。次の命題の話なら――」
天童が黙ってほむらに手紙を渡す。
――4日後の16:43までに、
美樹さやかに美しい音楽を聞かせなければ即死亡
ほむら「まだCDを聴いていないのかしら」
天童「CD?」
天童「まさか、CDの音楽を聴かせてクリアした、なんて言うんじゃないだろうな?」
きょとんとするほむら。
大げさに天を仰ぐ天童。
天童「もう、馬鹿ーっ。馬鹿ーっ」
天童「わっ、箱から音が、って驚く石器時代の人間じゃあるまいし、そんなので心が動くかよ」
天童「美しい音楽ってのは、心を揺さぶるんだよ」
ほむら「じゃあコンサートにでも誘うわ。心が動いてくれればいいけど」
天童「そうじゃねえよ。心を動かすんだったら、お前自身が歌なり演奏なりすればいいんだ」
天童「心を込めた演奏だからこそ心が動く。おっ、今いいこと言った、俺」
天童「メモしとこ」
ほむら「それには大きな問題があるわ」
天童「何だよ」
ほむら「私、楽器の演奏なんてできない」
【夕方/病院・恭介の病室】
ほむら「そういうわけで、あなたにヴァイオリンを習いたいの」
恭介「……」
ほむら「私の情報では、あなたは怪我をする前天才ヴァイオリン奏者だったと聞いている」
恭介「それ、嫌がらせ?」
ほむら「私はヴァイオリンで人の心を動かしたい」
ほむら「だから、実際にそれができる人から教わるのが一番だと思っただけ」
ほむら「3日、いいえ、4日でそういう演奏ができるようになる」
ほむら「そのために力を貸して」
恭介「ヴァイオリンの話なんて、もう聞きたくないんだよ!」
恭介「自分で弾けもしない曲、ただ聴いてるだけなんて!」
ほむら「あなたの手はもうヴァイオリンを弾けない」
恭介「……誰が、そんなことを。先生から聞いた?」
ほむら「さあ、どうかしら。でもそんなことはどうでもいい」
ほむら「私は、頼る人を間違っていたみたいだから」
ほむら「あなたは人の心を動かす演奏ができると思ってたけど見込み違い」
ほむら「そういう意味では、怪我を口実にできるあなたは幸せね」
恭介「君が女の子だからって、言っていいことと悪いことがあるぞ」
ほむら「あなたがヴァイオリンを弾けたとしても、人の心を動かすことはできない」
ほむら「演奏を繰り返して繰り返して、そういう結論に到達してしまう」
ほむら「その方が――よっぽど、残酷」
恭介「そこまで言うんだったら弾き方を教えてやるよ」
恭介「4日?それで人の心を動かす?」
恭介「ヴァイオリンがそんな甘いものじゃないことをわからせてやる!」
恭介「明日、ヴァイオリンを持ってここへ来い」
【病院・駐輪場】
ほむらの携帯電話が鳴る。
ディスプレイに“まどか”の文字。
ほむら「もしもし、――」
マミ「暁美さん?魔女を見つけたわ。今から言う場所に来てくれる?――」
【結界―委員長の魔女―】
地面が見えない高高度に無数の洗濯ロープが張り巡らされている。
洗濯ロープに袖を通された無数のセーラー服が風を受けて揺れている。
マミ「鹿目さんがあなたの携帯電話の番号を聞いてくれていて助かったわ」
まどか「この間、マミさんに連絡できなくて遅くなっちゃったから」
まどか「マミさんの番号聞いたときに、ほむらちゃんの番号も知っておいた方がいいかなって」
照れ笑いするまどか。
さやか「それにしても、これじゃ先に進めないよ」
何もない空間に、ぽっかり空いた穴。最深部入り口にいる四人。
マミ「暁美さん、行けそう?」
問われて、マミとまどかを交互に見るほむら。
ほむら「ええ、大丈夫」
身を躍らせ、洗濯ロープの一本に器用に着地するほむら。
続いて、マミも別のロープに優雅に着地する。
マミが展開した防御壁ごしに、二人の様子を覗き込むまどかとさやか。
二人の到着を待っていたように、机や椅子が降り注ぐ。
マミ「とりあえず、各自の判断で対処しましょう」
ほむら「わかったわ」
ほむらが洗濯ロープの上を駆けていく。
まどか「ほむらちゃん、凄い」
さやか「見ているだけで足が震えるよ」
マミ「見たところ、彼女、あの盾で戦うようだけど」
マミ「どんな能力なのかしら」
ほむらの挙動に注意しつつ、リボンを洗濯ロープに絡めてスパイダーマンの要領で
ロープからロープへ伝っていくマミ。
魔女のスカートの中から二人を目がけて飛び出す、無数の使い魔。
ベレー帽を脱いで投げるマミ。
直後に自分もリボンにぶら下がってそれを追う。
ゆっくりと舞うベレー帽が二丁ずつマスケット銃を落とす。
キャッチするや即座に使い魔を撃ち落とし、次の銃に持ち替えていくマミ。
最後にベレー帽を取り、洗濯ロープの上に立つ。
胸にベレー帽を当て、もう一方の手でスカートの裾をつまんで一礼するマミ。
マミが使い魔を撃墜していく一方でほむらはただ駆けるだけだったが、
不意にその姿が消えたかと思うと、別の洗濯ロープの上に移動している。
さやか「消えた!……あれっ?」
マミ「……瞬間移動、と、あれは……?」
盾から機関銃を出し、六本の手に向かって撃つほむら。
さらに時間停止を発動させ、ロープを飛び移りながら魔女に接近する。
今度は盾から日本刀を出して魔女を支えるロープを切断していく。
元の位置に戻り、機関銃を手にしたところで時間停止が解除される。
一本を残して、魔女を支えるロープが切断される。
一本のロープにぶら下がるだけの無防備な状態になる魔女。
ほむら「とどめを!」
マミ「機関銃でロープを切断?……いいえ、そんなはずはない」
戸惑いながらも、巨大な銃身を出現させるマミ。
マミ「ティロ・フィナーレ!」
避ける術を持たない魔女に直撃し、魔女は落ちていきながら消滅する。
【夜/工場】
魔女を倒したことで結界が消える。
グリーフシードを拾い上げるマミ。
髪をかきあげるほむら。
マミ「あなたが先でいいわ」
ほむらにグリーフシードを渡すマミ。
ソウルジェムを浄化して、ほむらはそれを返す。
マミ「なかなか不思議な武器を持っているのね」
ほむら「あれは魔法じゃなくて本物の機関銃よ」
さやか「えっ、そんなのどうやって手に入れるのさ?」
マミ「それだけじゃないわ。多分、あなたの武器は、『目に見えない』」
ほむらとマミの間に沈黙が流れる。
マミ「まあ、まだ手の内を全部明かせる関係じゃないけど」
マミ「いつか話してくれることを期待してるわ」
ほむら「そうね」
立ち去るほむら。
まどか「ありがとう、ほむらちゃん」
ほむらの背中に向かって声をかけるまどか。
さやか「……あっ、面会時間終わってる」
マミ「上条くん、だっけ?ごめんなさい、引き止めちゃったわね」
さやか「いえ、いいんです」
さやか「マミさんみたいに直接魔女をやっつけてるわけじゃないけど」
さやか「こうして少しでも魔女から町を守れば」
さやか「その分、きょ……周りの人たちが犠牲になる確率が減るわけだし」
【翌日/病院・屋上】
恭介「この人は?」
天童「どうも、九州から出てきたほむらの叔父ですばい」
ほむら「勝手について来たのよ。飼い犬か何かだと思って無視してくれればいいわ」
天童「飼い犬って何だよ」
恭介「曲はこれ。『アメイジング・グレイス』」
恭介「難しい曲じゃないから、センスがあれば3日で弾けるかもしれない」
恭介「もっとも、心が動く保証はないけれど」
天童「あっ、俺知ってる。『白い巨塔』のテーマ曲。『お前の余命はあと三日だ!』」
ほむらに向かって指をつきつける天童。
ほむら「財前教授はそんなことを言わないわ。それと、病院で言う台詞じゃないわね」
恭介「もっとも、君が家に帰ってからもきちんと練習する、ということが前提だけど?」
ほむら「心配には及ばないわ」
恭介「とりあえず、今日は使う分だけ音の出し方を教えるから、それだけは覚えて」
【病院・恭介の病室】
がらんとした雰囲気の病室。
さやか「……また、リハビリ中なのかな」
【夜/ほむらのアパート】
帰宅早々、ヴァイオリンを手にするほむら。
天童「早速練習か。マメなんだな、お前」
ほむら「練習してもうまく弾けるかどうかはわからない」
ほむら「それに、練習したくてもそれどころではなくなる可能性もあるから」
ほむら「限られた時間なら、有効に使うしかない」
天童「へっ。わかってんじゃねえか」
天童「大事なのは、今やるべきことをやることだ」
天童「その積み重ねが、いつかでっかいことを成し遂げる」
天童「オリンピックの金メダリストだって、才能だけであんなに速く走ったりできるわけじゃない」
天童「持って生まれた才能を努力で磨いて磨いて、結果表彰台の真ん中に立っている」
ほむら「茶化すと思ってたら、真面目なことも言えるのね」
天童「あら?心外だなあ」
天童「こう見えても天界界隈じゃ『インテリ天ちゃん』で通ってるんだぜ?」
天童「数学者をさんざん悩ませたファルコンの定理だって、俺が解いたようなもんだしよ」
天童「あっ、そうだ。この問題解ける?旅人が人食いライオンに――」
ほむら「いいから邪魔しないで」
【深夜/ほむらのアパート】
壁一面に、音階とそれに対応する弾き方を書いた紙が貼られている。
部屋の真ん中でヴァイオリンを弾くほむら。それを聴く天童。
弦を押さえるのが間に合わず音を外してしまうほむら。
【さらに深夜/ほむらのアパート】
毛布をかぶって高いびきの天童。
意に介さず練習を続けるほむら。
【翌朝/ほむらのアパート】
土曜日で学校は休み。
練習をひたすら続けるほむら。
【夕方/病院・屋上】
恭介の前で演奏するほむら。
恭介が首を振り、何か大声で言っている。
【夜/ほむらのアパート】
コンビニの袋を手に提げて帰ってくる天童。
ヴァイオリンを横たえ、ソファで眠っているほむらを見つける。
毛布をかけてやる天童。
【明け方/ほむらのアパート】
やはり練習を続けているほむら。
いい夢でも見ているのか、ニヤニヤしながら寝ている天童。
【期限前日/病院・屋上】
動かない手で楽譜を押さえて、右手で納得のいかない箇所を指摘する恭介。
楽譜を叩いて、ほむらに突きつける。
受け取った楽譜を見て、演奏をはじめるほむら。
真剣な表情で見つめる恭介。
【夜/ほむらのアパート】
演奏を終えるほむら。
拳をぐっと握りしめ、笑みを浮かべる天童。
照れたようにうつむくほむら。
【期限当日・放課後/病院・屋上】
ほむらがヴァイオリンを弾いている。
それを聴いている恭介、天童、病院スタッフ。
演奏を終え、恭介を見るほむら。
恭介「ミスはしなかったね」
恭介「でも、それだけだ。機械にデータを打ち込んで演奏をさせるのと変わらない」
天童「何だと、テメー、コンチクショウ」
ほむら「天童」
天童が身を乗り出しかけるのを制止するほむら。
恭介「原因は、同じ音符に同じ音を合わせていることだ」
恭介「曲の流れをみて、同じ音符でも強弱や硬さ、リズムを変化させるんだ」
恭介「その微妙な違いが演奏に深みを与える。オーケストラに指揮者がいる理由と同じさ」
恭介「さあ、もう一度」
天童「今頃になってそんな事言うんじゃねえよ」
ほむら「いいの」
ヴァイオリンを構えるほむら。
天童「命題はお前が演奏をものにすることじゃねえ」
天童「さやかちゃんに聴かせなきゃクリアできねえんだぞ」
天童「あと30分と少しで、それができるのか?」
ほむら「彼にヴァイオリンを習うことにしたのは私」
ほむら「それに、彼の言っていることは理解できる」
ほむら「美樹さやかの心を動かすような演奏、そのレベルに到達しなければ、これまでの努力が水の泡」
ほむら「できる限りのことはやってみる」
【病院】
がらんとした病室。
さやか「今日も空振りか……」
廊下から、看護師たちの話す声が聞こえてくる。
看護師A「それにしても、最近の中学生って進んでるわね」
看護師B「彼のこと?」
看護師A「まさか、病院で二股なんて見られるとは思わなかったわよ」
看護師B「二股って、そんな大げさな」
看護師A「絶対二股よ。屋上で彼女のヴァイオリンに付き合ってるのよ。今日で四日連続」
看護師B「そのおかげで彼、足のリハビリを投げ出したりもしないで頑張ってるじゃない」
看護師A「だから、多分今日の子が本命だと思うの」
看護師A「一番本人にとって辛い時期に一緒にいてくれるなんて、コロッと参っちゃうわよ」
看護師B「でも、その意味ではもう一人の子だって同じじゃない」
看護師A「わかってないわね。今の子が来たちょうどその日に先生が宣告したのよ」
看護師A「『もうヴァイオリンは弾けない』って」
看護師A「自分の存在価値を否定されたようなものじゃない。知らされる前とでは状況が違うわ」
看護師B「そりゃ、今日の子の方が励みになっているのは確かよ」
看護師B「本当ならヴァイオリンなんてもう見たくないはずなのに」
看護師B「毎日上達している彼女のおかげでそんなことも忘れてる」
看護師B「結構、家で特訓してるんでしょうね」
廊下に駆け出すさやか。
【病院・屋上】
屋上に到着したさやか。
足音も荒くほむらに近づく。
さやかに気づいて手を止めるほむら。
さやか「泥棒猫!」
さやかがほむらの頬を叩く。
さやか「CDショップとか言い出したのも全部恭介が目当てだったんだ」
さやか「音楽なんて聴かないくせに!クラシックの曲だって知らないくせに!」
さやか「何で、よりにもよってあんたが恭介を……!」
さやかの瞳から涙が一筋頬を伝う。
さやか「恭介も恭介だよ。そんなヤツの一体どこがいいわけ?」
さやか「転校生に騙されてるんだよ」
さやか「手が治らないって言われて落ち込んでいるところにつけ入っただけよ!」
恭介「さやか、なぜ手のことを……?」
さやか「キュゥべえと契約してなくてよかった」
さやか「どうして自分の願いで転校生を幸せにしなきゃなんないのさ!」
さやか「もう絶対、契約なんてしない。恭介の手なんてこうすればずっと治らないんだ!」
駆け出し、柵を乗り越えるさやか。
天童「な、なぜに?……ほむら!」
戸惑う天童にヴァイオリンを押しつけ、ほむらが追う。
建物の縁ぎりぎりに立つさやか。
さやか「邪魔するな!転校生」
ほむら「頭を冷やしなさい、美樹さやか」
ほむら「感情に身を任せて状況を見つめられなくなるのはあなたの欠点」
さやか「うるさい!たった二週間で、あんたにあたしの何がわかるのさ!」
歯を食いしばるほむら。
ほむら「じゃああなたは私の何がわかるというの?」
時計を見る天童。16:33。
天童「やべえ、タイムリミットまであと10分。……そうだ!」
柵によじ登る天童。
天童「ほむら!」
片手で柵につかまりながら、天童がヴァイオリンと弓をほむらに渡す。
天童「もう時間がねえぞ」
うなずいてヴァイオリンを構えるほむら。
――曲の流れをみて、同じ音符でも強弱や硬さを変化させるんだ――
ほむらがイメージするのは今日という一日。
日付は同じなのに、時を遡るごとにさまざまな過ごし方をしてきた。
杏子と張り合って魔女退治にかまけている間に恭介が仁美と交際してしまい、心のすさんでいくさやか。
濁ったソウルジェムを見せられて、それでも何も言えなかった自分。
まどか、マミと三人で魔法少女トリオを結成し、戦いを終えた後のお茶会に自分の居場所を
見出したように思っていた自分。
魔法少女になる前、魔女と戦う過酷な宿命を課せられているにもかかわらず明るさを失わない
まどかとマミに強い憧れを抱いていた自分。
そして。
約束を果たすために、まどかの契約阻止とワルプルギスの夜を撃破するための準備をしなければ
ならないはずなのに、なぜかヴァイオリンを弾いている自分。
ほむらの演奏から硬さが抜けていく。
詰め将棋の正解を求めるように緻密に音を合わせてきた窮屈さが消え、音の幅が広がっていく。
聴衆の見守る中、演奏を終えるほむら。
さやか「そ――それが、何だっていうのさ」
恭介「暁美さん。もしかして、『心を動かしたい友達』って、さやかのこと?」
さやか「えっ?」
恭介「さやか。暁美さんは、友達に美しい音楽を聞かせたいからって僕に教わりに来たんだ」
恭介「はじめはヴァイオリンの持ち方だってわかっていなかった」
恭介「でも練習を繰り返して。一日ごとに上手になっていって」
恭介「聴いただろ?たった四日でここまで弾けるようになった」
恭介「これはセンスなんかじゃない。君に聴いてもらいたかったから、やり遂げたんだ」
恭介「今の演奏に、僕の心は動いたよ。さやか、君は?」
さやか「あたしのため――?」
見つめられてほむらの目が泳ぐ。
さやか「じゃあ、恭介を横取りするつもりなんかじゃなかったってこと?」
黙ってうなずくほむら。
さやか「そんな。だったらあたし、勝手に誤解して、勝手に恭介が取られると思い込んで」
さやか「あたしって、ほんとバカ」
さやかが大泣きしてほむらにしがみつく。
戸惑う表情の恭介。
天童「よーし、カット!」
前回に続き、カチンコを鳴らすゼスチャー。
天童「友達のために努力を惜しまない。『献身』クリアだ!」
看護師「二人とも、そこは危ないから。向こう側が扉になってるからそっちへ回って」
うながされて、歩き出す二人。
突風が吹き、背後の柵が外れて落ちていく。
歩き出すのが遅ければ、直撃して二人とも転落してしまったに違いない。
偶然できた隙間を通ってみんなのところに戻る。
看護師「いたずらでも二度と柵を越えようとしてはダメよ」
ほむら「はい」
さやか「……はい」
さやかを支えたまま恭介の前に立つほむら。
ほむら「この間、あなたに人の心を動かす演奏なんてできないと言ったけれど、撤回するわ」
恭介「ううん。あのときの僕は暁美さんの言うとおりだった」
恭介「暁美さんがひた向きに練習する姿を見て、それに比べて僕は、って思い知らされた」
恭介「もう演奏はできないって知って、何もかもあきらめようとしてた」
恭介「でもそうじゃない。演奏ができなくても僕はくじけない」
恭介「演奏だけじゃなくて、音楽が好きだっていうことがわかったから」
恭介「――それに」
恭介がさやかを見る。
恭介「それに、焼餅で飛び降りようとするぐらい僕のことを想っている人がいるってわかったから」
さやか「恭介……」
天童「おっ、熱いねえ!ヒューヒュー」
さやか「もう、からかわないでくださいよっ!」
ほむらを除く一同が笑う。
天童「若者の恋を取り持つ。さすが天使。くーっ。かっこよか、俺」
天童「メモしとこ。俺はハンサム、ナウでヤングなハンサム」
天童「どうした?友達の恋がまとまったんじゃねえか。祝福してやれよ」
天童「それともアレか?お前も、レッスン受けてるうちに惚れちまったのか?」
ほむら「そういうことではないわ」
ほむら「ただ、何となく」
ほむら「いつもより明るい道を歩いている、……今回は。そういう気がするだけ」
【病院・駐輪場】
キュゥべえ「契約はしないということでいいんだね?」
キュゥべえ「彼の怪我は、君の願いの力で元通りにできるのは確かだよ」
さやか「うん」
さやか「マミさんにも言われてた」
――あなたは彼に夢を叶えて欲しいの?それとも、彼の夢を叶えた恩人になりたいの?――
――そこをはきちがえたまま先に進んだら、あなたきっと後悔すると思うから――
さやか「願い事は、恭介のためだって決めてた。けど、そうじゃなかった」
さやか「かっこ悪いけど、本音が出ちゃった。これじゃ確かに、いつか後悔すると思う」
さやか「それに、願い事の力に頼ったら、きっとアイツに勝てない気がするから」
キュゥべえ「暁美ほむらのことかい?」
さやか「そう。アイツ、一歩引いたところからこっちの様子だけ見ているような感じなのに」
さやか「ぶつかってくるときはあたしよりも行動力があって」
さやか「まずはあたしも、願い事の力じゃなく恭介の助けになりたいんだ」
キュゥべえ「君の気持ちはわかった」
キュゥべえ「お別れだね。ボクはボクとの契約を必要としている魔法少女を探しに行かないと」
さやか「えっ、まどかは?」
キュゥべえ「今のところ、鹿目まどかに願い事はなさそうだしね」
キュゥべえ「マミに伝えておいてもらえるかな。ボクがよその町に行くこと」
さやか「うん。わかったよ」
立ち去るキュゥべえ。
【ほむらのアパート】
ほむら「命題が『献身』ってどういうことなのかしら」
天童「アレだな。けーん、しん!トウッ!」
ほむら「それは変身」
天童「ちょっとはツッコミができるようになったじゃねえか」
天童「そうだ、いっそ二人で漫才の星でも目指すか?」
天童「ヴァイオリン夫婦漫才のほむら・ダンディなんてよ。ゲッツ!」
ほむら「ダンディのカラーは黄色で黒じゃないし、そもそも夫婦じゃない」
天童「でも俺がダンディなことは認めてくれるんだ」
ほむら「ギャグがつまらないところは、まさにそうね」
天童「そっちかよ」
ほむら「話を戻すけど、献身だったら私はずっと続けてるわ」
ほむら「神様に試練を出してもらわなくてもいいぐらいには」
天童「だったら方向性が違うんだろう。お前の思ってる献身と、今回の命題と」
天童「ま、命題をクリアした今となっちゃ、その違いもおいおいわかるんじゃねえか?」
うつむいて何かを考えるような表情のほむら。
一瞬、ソファの上の毛布に目をやる。
ほむら「天童」
名前を呼ばれたことに驚く天童。
天童「何だよ」
ほむら「次の命題も頑張りましょう」
かすかに笑みを浮かべるほむら。
天童「バッ、命題をやるのはオメーだよ。まるで俺が命題やらされてるみたいに言うな」
天童「もう、馬鹿ーっ、馬鹿ーっ」
【???】
キュゥべえ「暁美ほむら」
キュゥべえ「イレギュラーの魔法少女。鹿目まどかとの契約を阻止したいみたいだけど」
キュゥべえ「イレギュラーにふさわしい、予期しない行動で絶望を打ち消してまわってる」
キュゥべえ「それに彼、叔父を自称する男」
キュゥべえ「彼らの干渉は、ボクにとって都合の悪い方向へ物事が進むみたいだ」
キュゥべえ「美樹さやかなら二人を牽制する役割を果たせると思っていたけれど」
キュゥべえ「別の魔法少女を連れてくるしかなさそうだ」
キュゥべえ「最適なのは、やはり――」
天国に一番近いほむら 美樹さやか編「あたしって、ほんとバカ」 終わり
補足その3・鮫島春樹
ほむら「今回中沢が代役を務めたのは甘粕四郎の上司、鮫島春樹」
ほむら「通販の売り上げ実績が社内で一番。トップセレクターとして辣腕を振るう」
天童「ついでに暴力も振るう」
ほむら「ついたあだ名は『ジャイアン』。これで、中沢の挙動にピンときた人もいるんじゃないかしら」
ほむら「当初、鮫島の特徴といえば暴力と出身の栃木訛りだった」
ほむら「物語が進むにつれ、音痴、実はヘタレと欠点がどんどん増えていく」
ほむら「これは鮫島という登場人物をMONOカンパニーになじませるという点では成功だった」
天童「トップセレクター。課長の大和田よりも優れたリーダーシップを発揮」
天童「さらには演じるのが袴田吉彦という、俺には及ばねえけどルックスも良好」
天童「ジャイアンプラス出来杉という感じだったからな」
天童「欠点を追加して、ようやく入社したての四郎でも手が届くレベルになったってところだ」
ほむら「実際には甘粕四郎より瀬戸口との絡みが多く、珍商品に対するツッコミ役」
ほむら「あとは上機嫌に音程もリズムも外した歌を歌っているか、怒っている場面と両極端」
ほむら「田舎者呼ばわりされるとすぐカッとなり、訛りが出る」
天童「俺の場合、四郎の出身が福岡だからそれに合わせて方言を混ぜてる感じだな」
天童「もっとも、陣内孝則が福岡出身だから、という方が的を射ているかもしれねえ」
天童「だってよ、四郎が兄貴たちと会話してるとき、誰も訛りが出ないんだぜ?」
天童「大河ドラマみたいに方言指導の先生がいるわけじゃないし、しょうがねえけどよ」
天童「その大河ドラマにしたって、標準語でしゃべっていた主人公が訛りを指摘される回で急に『じゃっどん』とか」
天童「言い出すのは、あれは笑うところだったのかな?」
ほむら「方言はその地方の発音と異なるとクレームの対象になるから使用が難しいというわ」
ほむら「『篤●』は、あれが大河ドラマだったこと自体が笑うところよ」
ほむら「レスを見た限りでは『教師編』を観ていた人もいるようね」
ほむら「>>1の個人的な感想では、『教師編』は続編・リメイクを期待するようなできではなかった」
ほむら「あまり例を挙げて叩いてしまうとこれから『教師編』を観ようとしている人の気が変わるかもしれない」
ほむら「だから、こんな風に表現することにする」
ほむら「もし、ドラマのコンセプトが違っていて一週ごとにゲストが命題に挑む形だったなら」
ほむら「『MONOカンパニー編』で命題のクリアに失敗する話はなくても」
ほむら「『教師編』にならあるかもしれない」
天童「とはいえ、加藤あい演じる黒沢雛子のキャラクターはよくできているし、命題の発表方法も豪華になった」
天童「それに、友人ではない同僚が命題クリアの要因になる、というのも脇役にうまくスポットが当たっている」
天童「だから『教師編』から入った人がそっちの方が好きだ、と言っても、別に不思議じゃねえ」
天童「まっ、要はどっちが好みでもみんな俺の魅力にハートがメロメロってわけだ」
ほむら「確かに、『教師編』で天童の正体が判明した場面では、多くの視聴者が落胆したと思うわ」
ほむら「裏を返せばそれだけ天使・天童世死見が好感の持てる存在だったということ」
ほむら「美樹さやか編が終わって物語も後半になるけど、その人気者はこれから出番がどんどん減っていくわ」
天童「何でだよ」
ほむら「この先はバトル重視。特にラスボスのアレに、非戦闘員であるあなたの出る幕なんてないわ」
天童「えーっ。戦ってみなきゃわかんねえじゃねえかよ」
天童「そりゃもう、ちぎっては投げ、ちぎっては投げの大活躍間違いなしだぜ?」
天童「ドラマの柔道対決でもよ、豪快に大将をぶん投げて。あれ見りゃ考えも変わるぜ?」
ほむら「それは甘粕四郎の話で、天童はメンバーにも入っていなかったでしょ」
ほむら「……それに、私、暁美ほむらに変化が見られなければ天童がやって来た意味がない」
ほむら「その変化を表すには、天童がそばにいると都合が悪い」
天童「漫才師目指すんなら相方は別にまどかちゃんじゃなく俺でも構わねえだろ?」
ほむら「そういう変化じゃないから」
天国に一番近いほむら 佐倉杏子編
【夜/鉄塔】
クレープをパクつく杏子。
杏子「ふーん。キュゥべえにもよくわかんない魔法少女なんているんだ」
キュゥべえ「間違いなく、彼女はこの世界のイレギュラーだ」
キュゥべえ「ボクとしては、不確定要素がもたらす影響が気にかかる」
杏子「でもさ、そいつをやっつけたとしてもこの町にはマミがいるんだろ?」
キュゥべえ「巴マミ一人なら、きっと長くは保たない」
キュゥべえ「現にこの間、彼女は得意技を撃ち損なって危うく魔女に倒されるところだった」
杏子「ま、正義の味方気取りの、甘ちゃんだしね」
キュゥべえ「いずれこの町を守る魔法少女はいなくなる」
キュゥべえ「少し来るのが早まった分、イレギュラーを見極めてもらいたいんだ」
杏子「ま、絶好のナワバリ。拒む理由はないね」
杏子「ちょっと、お手並み拝見といこうじゃん」
【ほむらのアパート】
ほむら「今日も武器を集めてきたけど……ワルプルギスの夜を倒すには足りない」
ほむら「今までの経験からいって、拳銃や機関銃はそもそも届かない」
ほむら「でも重火器になると、時間を止めないと反撃で潰される」
天童が帰ってくる。
天童「たっだいまー、って、何じゃこりゃ?」
部屋中を占拠する武器の数々。
銃、刀、砲。
手榴弾、スタングレネード、爆弾。
なぜかピコピコハンマーやバールのようなものまで。
ほむら「数をチェックしていただけよ。すぐ片づけるわ」
ソウルジェムから盾を取り出し、手際よくしまっていくほむら。
天童「いーけないんだ、いけないんだ。かーみーさまにー、言ってやろ」
ほむら「自衛のためよ」
天童「自衛って、戦場でもあんなに武器は必要としねえだろ普通」
天童「それに、何だよその四次元ポケットは」
ほむら「ドラえもんからのプレゼント」
天童「かーっ。腹立つーっ!」
天童「オメーはよ、その、適当にお茶を濁しておこう的な答え、改めろよ」
天童「言っても無駄とか、そういう見切りをつけるのが早過ぎんだよ」
天童「それじゃ周りの奴らが置いてけぼりになっちまうじゃねえか」
ほむら「……魔法よ。天使がいるなら、魔法があっても不思議じゃないでしょ」
天童「でも魔法つったらよ、普通アレだ。アレ。コンパクトとかステッキ」
ほむら「世代の違いを感じるわ」
天童「あっ今バカにしたな。昭和生まれ、とか思ったな」
天童「ドラえもんだって昭和なんだぞ。空き地に土管に鈴木義司も昭和なんだぞ」
ほむら「何か変なのが混じってるわね」
天童「こんな盗みば平気でするような子になってしまうなんて。悲しかー」
ほむら「こればかりはあなたの指図は受けない」
ほむら「私の戦場を戦い抜くのに、武器はいくらあっても足りない」
天童がため息をつく。
天童「確かによ、21世紀ともなると天界では想像もつかねえことがごまんとある」
天童「最初の命題のときは妙ちくりんなヤツに襲われたしな」
天童「でもよ、一番頼れる力なんてものは物じゃないんじゃねえか?」
天童「おっ、『もの』『物』。これもメモしとこ」
ほむら「私も一つ、気になっていることがあるわ」
天童「何だよ」
ほむら「もし、私が残った命題をクリアしたとして――」
ほむら「そこは私が生きる価値のある世界かしら」
天童「もう、馬鹿ーっ。価値なんてオメー次第だろ?」
天童「今日晴れてるからって、傘が何の価値もないってことはねえ」
天童「いつか雨が降ったときには鞄や新聞紙よりよっぽど役に立つ」
天童「『お嬢さん、一緒に入りませんか?濡れますよ?』」
天童「『ありがとうございます。あら、ハンサムな方』」
天童「ってな具合に恋も始まるかもしれないだろ?」
天童「これが新聞紙だったらよ、ダサダサだぜ?」
天童「『お嬢さん、一緒に入りませんか?濡れますよ?』」
天童「『うわっ、何この人。脳みそ入ってないんじゃないの?』ってな感じだ」
天童「まっ、オメーが世の中に価値を見出すしかないってこった」
ほむら「私にとって、生きる価値は一つしかない」
ほむら「私はそのために戦うのだから」
【翌日・昼/学校】
さやか「暁美……さん?一緒にお弁当食べようよ」
まどか「さやかちゃん?」
ほむら「……ええ」
【学校・屋上】
さやか「――そういうわけだから、暁美さんは私のライバルなのだ!」
ほむら「ライバル……」
まどか「お友達じゃなくてライバルなの?」
さやか「んーんー、わかってないなあ。強敵と書いて『とも』と読む」
さやか「つまり、馴れ合うだけじゃなくてときには競い合う関係こそ」
さやか「真の友情なのだよ」
まどか「じゃ、じゃあ私もさやかちゃんと競い合わなきゃならないのかな?」
頭を抱えるまどか。
仁美「まあ。暁美さんのお弁当、もしかして自分でお作りになったの?」
ほむら「ええ」
まどか「ほむらちゃんって、料理も得意なんだ」
ほむら「……慣れれば難しいことでもないわ」
まどか「私も時々晩ごはんを手伝ったりするけど、全然上達しなくて」
さやか「せっかく料理の得意なパパがいるのに、味を盗めないなんてねー」
まどかの弁当に箸をつけるさやか。
さやか「うん。やっぱり美味しい」
仁美「さやかさん、盗み食いはよくありませんわ」
さやか「フフフ、あたしの箸が獲物を求めているのだー」
仁美「暁美さんのライバルを主張なさるのでしたら、さやかさんもお料理できるようにならないといけませんわね」
さやか「うっ。あたしには得意分野じゃないっていうか、その」
まどか「でも、少しずつでも挑戦していかないと、来年のバレンタインも同じことになるよ」
仁美「ああ、手作りチョコの試作品をいただきましたけど、確かにあれでは……」
さやか「心の傷をえぐるなあああ」
まどか「ほむらちゃんは一人暮らしなのに、誰に味を教わったの?」
さやか「違うよ。まどかも一度会ってるじゃん。九州の叔父さんと暮らしてるんだよ」
まどか「そっか」
さやか「あの叔父さん、何をしてる人?」
ほむら「よくは知らないわ」
さやか「結構気さくな人だよね。私たちみたいな子の扱いに慣れてそうだし」
さやか「学校の先生だったりして」
仁美「私もいつか、お会いしてみたいですわ。どんな方なのかしら」
天童「こんな方です」
突然の乱入に、全員が驚く。
ほむら「天童」
天童「いやー、ご学友の皆さん。ほむらが誰かと一緒のランチなんて見ることができて幸せですばい」
天童「ほんのこつ、この子は内気で」
ほむら「何の用なの」
天童「ちょっとほむらばお借りするばってん」
ほむらを連れ出す天童。
ほむら「学校にまで来てどういうつもり?」
天童「それよりもよ、来たか?命題」
首を振るほむら。
天童「遅いな。すまねえけどよ、俺二、三日ほど外すわ」
ほむら「どこへ行くの?」
天童「ちょっくら『天国』へな」
ほむら「昨日の件を、神様に告げ口?」
天童「そんなことしなくても、神様はすべてお見通しだ」
天童「じゃ、命題が来たらよろしく頼むわ」
ほむら「そう。これまでもどうにかクリアしているから、次も大丈夫でしょう」
天童「いや、それがな」
ほむら「もったいぶる必要はないわ」
天童「次の命題なんだが、恐らく次のが一番難しい」
天童「今まで担当してきた奴も、後半に一つ人生の壁っていうかよ」
天童「そいつにとって絶対に乗り越えなきゃなんねえことが命題に絡んでる」
ほむら「それが次の命題、ということ?」
天童「ああ。だから心してかかれよ。お前の敵は、お前自身だ」
ほむらの肩をぽん、と叩く天童。
力強くうなずくほむら。
まどかたちのところへ戻る二人。
天童「ほんならちょっと旅ばしてくるばってん、ほむらをよろしく」
さやか「旅?だったらお土産欲しいなー」
仁美「さやかさん、それはいくらなんでも不躾なのでは……」
まどか「そうだよ」
天童「お土産。ん。任しときんしゃい!」
ドンと胸を叩く天童。
【展望台】
杏子「ふーん。あれがイレギュラーの魔法少女ねえ。親父が来てるのかな。参観日?」
学校の様子を覗いている杏子。
ワッフルを一口かじる。
キュゥべえ「彼女の叔父さん、ということらしいけれど、ボクにもよくわからない」
キュゥべえ「彼はもちろん魔法少女ではない」
キュゥべえ「しかし、不思議なエネルギーを感じる」
杏子「エネルギー?」
キュゥべえ「これ以上はうまく言えない。君たちの言葉で表すなら、ただ者ではないというところかな」
杏子「でもイレギュラーの方はチョロそうじゃん。瞬殺っしょ、あんな奴」
キュゥべえ「彼女は甘く見ない方がいい」
杏子「文句あるってえの?あんた」
キュゥべえ「巴マミによると、彼女は現実の武器を使って戦う。拳銃や機関銃の類だね」
キュゥべえ「それと、どうやら目に見えない攻撃手段を持っているらしい」
杏子「目に見えない、か。昔のあたしとは正反対の性質だね」
杏子「でも、飛び道具なら間合いを詰めさえすればどうってことない」
キュゥべえ「それが、彼女は瞬間移動も使えるらしいんだ」
キュゥべえ「君の戦法に、即座に対応して自分の間合いに変えられることを意味する」
杏子「上等じゃないの。退屈すぎてもなんだしさ」
ワッフルの残りを一口で食べる杏子。
杏子「ちっとは面白味もないとね」
立ち去る杏子を見送るキュゥべえ。
【放課後/ファーストフード店】
まどか「そういえば、ほむらちゃんはどんな願い事をして魔法少女になったの?」
さやか「あーっ、あたしもそれ気になる」
ほむら「……それは言えない」
ほむら「できることなら、二人には魔法少女になってもらいたくない」
まどか「それは……。どうして、なのかな」
さやか「そーよそーよ。まどかなんて、もう魔法少女の衣装まで考えてるんだから」
まどか「ひどいよさやかちゃん!」
ほむら「魔法少女になるということは、たった一つの希望と引き換えに、すべてをあきらめるってことだから」
ほむら「巴マミの場合は、契約をしなければ生きていること自体難しい状態だった」
ほむら「でもあなたたちは違う。失って、後悔するものを持ってる」
さやか「そりゃ、確かに魔女と戦うのが危険なのはわかるけどさ」
さやか「でも、マミさんに暁美さん、それにあたしとまどか」
さやか「四人で戦えば、大抵の魔女なんてやっつけられるんじゃないの?」
ほむら「魔女と戦って死ぬことだけが、魔法少女が支払う代償ではない」
ほむら「私には、これ以上のことは言えない」
ほむら「真実を知れば、あなたたちが私や巴マミに対する態度が変わってしまうから」
まどか「変わらないよ。ほむらちゃんはほむらちゃんだよ」
さやか「そうそう」
ほむら「ごめんなさい」
ほむら「こんなに居心地がいいのは随分と久しぶり」
ほむら「――だから、私はそれを失いたくない」
まどか「ほむらちゃん……」
【ショッピングモール】
まどか「福引所はこっちだよ」
さやか「一等は温泉旅行に、最新ゲーム機?これはゲーム機を狙わないわけにはいかないでしょ」
まどか「さやかちゃん、随分気合入ってるね」
さやか「だってさ、このゲーム機、片手でできるソフトが結構あるんだもん」
まどか「それって上条くんと?」
さやか「残念だけど一等はあたしがもらっちゃうよ!」
ガラガラから転がる白い玉。
まどか「――結局、三人ともこれだったね」
残念賞の「コイノボリくんストラップ」を手にまどかが言う。
ショッピングモールのマスコットキャラクターだが、鯉のぼりに手足の生えた
シュールなデザインが不評だ。
さやか「ちぇっ。それに何だかこれ、魔女とか使い魔っぽくない?」
まどか「言えてる……」
さやか「こんなダサいの、つける気にならないよね」
まどか「でも……でもさ、これって三人お揃いだよね」
ほむら「お揃い」
手の中のストラップを見つめるほむら。
さやか「じゃあ、三人でこれつけちゃう?あっ、裏切ってはずすのはナシだからね」
まどか「うん。いいよ」
うなずくほむら。
【路地】
一人になったほむらが歩いていると、足元に槍が突き立つ。
変身した杏子が姿を現す。
杏子「噂のイレギュラー。どれほどのもんか、見せてもらおうじゃないの」
ほむら「あなたが来るのは予想外だったわ。佐倉杏子」
名前を知られていることに苛立ちを覚える杏子。
ほむらが変身する。
杏子「どこかで会ったか?」
ほむら「さあ、どうかしら」
杏子が高くジャンプして槍を突き下ろす。
槍が命中するかと思われた瞬間、ほむらの姿が消える。
背後に現れるほむら。が、杏子が振り向きもせずに槍を突きつける。
杏子「ここじゃ瞬間移動も二択しかないもんな」
余裕の表情でたい焼きを口にする杏子。
背を向けて立ち去るほむら。
杏子「おい、逃げるのか?」
ほむら「もうわかったから」
ジャンプしてほむらの正面に回り込む杏子。
杏子「何がわかったんだよ」
ほむら「キュゥべえが、あなたを焚きつけた」
ほむら「この町を餌にまんまと釣られたんでしょうけど、それはお門違い」
杏子「マミだろ?どうせ長くは保たないって話だ」
ほむら「巴マミのことではないわ」
杏子「じゃあ何だってんだよ」
ほむら「あなたの役割は、陽動。本命は――」
舌打ちするほむら。
盾から携帯電話を取り出して、まどかを呼び出す。
通話を切り、メールを打ち込むほむら。
杏子「何一人で納得してるんだよ」
ほむら「結界が発生した。アイツの考えそうなことね」
杏子「どういうことだよ?……くっ!」
手榴弾のピンを抜くほむら。
衝撃の代わりに閃光が杏子を襲う。
視界が回復したときにはほむらの姿はない。
杏子「くそっ!」
悔し紛れに地面を槍で叩く杏子。
【夜/ほむらのアパート】
ほむら「結局、まどかは無事だった」
ほむら「巴マミが間に合って使い魔を撃退していなかったらどうなっていたか」
ほむら「私とまどかを引き離して、その間に契約を強要する」
ほむら「インキュベーターらしい、汚いやり口」
ほむら「せっかくいい一日だったのに」
携帯電話を見つめるほむら。
今日手に入れた「コイノボリくん」ストラップがつけられている。
ほむら「余韻に浸っていられないわ」
コトリ、と新聞受けで物音。
届いた手紙を開封するほむら。
――2日後の21:00までに、
佐倉杏子のソウルジェムを手に入れなければ即死亡
ほむら「ソウルジェムは魔法少女にとって命そのもの」
ほむら「それを奪うことは、佐倉杏子の死を意味する」
ほむら「そして命題がソウルジェムを指定しているということは」
ほむら「魔法少女の概念を天界が理解しているということ」
ほむら「もしかすると天童も知っていて隠している?」
ほむら「この命題に限っていなくなるなんて都合がよすぎる」
ほむら「一番難しい命題……人生の壁」
ほむら「天童……この命題は何を意味してるの?」
【翌日/学校】
中沢「焼きそばパン食べたいなあ」
中沢「あれっ。細かいのないや。一瞬、貸してくれる?」
中沢「って、おーい!無視するなよ!まるで独り言言ってるみたいじゃないか!」
【学校・屋上】
ほむら「あなたたちにとって、乗り越えなければならない人生の壁って何かしら」
さやか「な、なんかいきなり難しい話題だよね、それ」
まどか「何かあったの?ほむらちゃん」
ほむら「……そう、こんな質問に答えがすぐ出せるはずがない」
さやか「よくわかんないけど、悩みとかあるんだったら言ってみなよ」
さやか「ライバルのさやかちゃんが力になってあげるからさ!」
さやか「まどかだってそうだよね。ね?」
まどか「……」
さやか「まどか?」
まどか「私、昨日使い魔に襲われそうになったとき思ったの」
まどか「マミさんや、ほむらちゃんに助けを求めるだけで、私は何もしてない」
まどか「二人だけじゃない。世の中にはたくさんの魔法少女がいて、私たちを守ってくれているの」
まどか「たとえグリーフシード目当てでも、それは変わらなくて」
まどか「それに比べて私は、って思っちゃう」
まどか「人生の壁かどうかはわからないけど、今は、それが答えかな」
さやか「そんなの魔法少女になれば即解決じゃん!って、暁美さんは契約には反対だったよね……ハハ」
苦笑いを浮かべるさやか。
さやか「あたしは、今のところ壁はないと思うな」
さやか「恭介だってヴァイオリンじゃなくても音楽を続けられたらいい、って言ってるし」
さやか「それって恭介の壁か。……だとすると……」
さやかが考え込む。
さやか「あたしの壁は、暁美さん!」
ほむらを指さすさやか。
まどか「えっ……?」
さやか「恭介が壁を乗り越えられたのはあたしじゃなくて暁美さんの力だったし」
さやか「あたしも、ライバルにふさわしい何かを成し遂げたい」
さやか「だから、暁美さんが壁」
ほむら「バ、馬鹿……」
言いかけて、ほむらは口をつぐむ。
――馬鹿ーっ。馬鹿ーっ。――
まどか「ほむらちゃんはどうなの?」
ほむら「私……まだ、よくわからない」
【命題期限の日・朝/まどかの家】
まどか「行ってきまーす」
ドアを閉めるまどか。
その背中に槍が突きつけられる。
杏子「ちょっと話があるんだ。顔貸してくれる?」
【学校】
休み時間。ほむらの携帯電話が鳴る。
ディスプレイに“まどか”の文字。
電話を受け、廊下へ歩き出すほむら。
ほむら「もしもし」
杏子「――よう、イレギュラー」
ほむら「まどかを、どうしたの」
携帯電話を握る手に力の入るほむら。
杏子「とりあえずは無事さ。この間の続きをやりたい」
杏子「20:00に、建設中のビルで。目印は……」
場所を告げる杏子。
杏子「言っとくけど、マミを連れてきたりしたら人質がどうなるかわかんねえぞ」
杏子「それと、今度はきっちり決着をつけようじゃないか」
杏子「この前みたいに、逃げるってのはナシだ」
ほむら「望むところよ」
杏子に通話を切られる。
ほむら「決闘が20:00。タイムリミットが21:00」
ほむら「問題は、人生の壁。まだ何を乗り越えなければならないのか見えていない」
ほむら「何が起こるというの?」
【夕方/ホテル】
杏子「食うかい?」
ハンバーガーを突き出す杏子。
首を振るまどか。
まどか「どうしてあなたはほむらちゃんと戦うの?」
杏子「ムカつくからさ」
杏子「どういうわけかあたしのことも知ってやがった」
杏子「そのくせ手札は見せやがらねえ」
杏子「あのすました仮面を引っぺがさなきゃ気がおさまらないのさ!」
まどか「そんなことって」
まどか「そんなことで戦うって、ないよ」
まどか「魔法少女は、みんなを不幸にする魔女と戦ってきたんだよ」
まどか「あなたも、きっとそう思って戦ってたはずだよ」
まどか「やり方は違っても、魔女を退治したいと思う気持ちは同じでしょ?」
杏子「その様子だとあんたもマミの影響を受けた口かい?」
杏子「まさか魔法少女になっちまってるってことはないだろうね?」
フライドチキンを頬張る杏子。
杏子「あたしは二度と他人のために魔法を使ったりしない」
杏子「この力は、すべて自分のためだけに使い切る」
杏子「マミの奴もいずれ気づく。最後に愛と勇気が勝つストーリーなんてしょせんは作り話」
杏子「あんたがマミみたいな寝ぼけた理由で魔法少女になるっていうんだったら」
杏子「そんなの、あたしが許さない」
杏子「いの一番に、ぶっ潰してやるさ」
【19:55/建設中のビル】
木箱や棚が無造作に放置されている開けた空間。
ほむらが足を踏み入れると、組まれた足場にロッキーを口にくわえた杏子が立つ。
杏子の腕の中にはまどか。
杏子「来たね、イレギュラー」
ほむら「その子を放しなさい」
杏子「慌てなくても、決着がついたらそうするさ」
まどか「きゃっ」
杏子がまどかを持ち上げて落とす。
まどかを縛るロープが手すりまで延びていて、地面への激突を免れる。
手すりから吊るされている、てるてる坊主のようなまどか。
ほむら「先に断っておくわ」
ほむら「私が勝てば、あなたは死ぬ」
杏子「やれるもんならやってみな!」
足場から飛び降り、槍を突き下ろす杏子。
ほむらの姿が消える。
杏子「また後ろ――!」
足元にアイスホッケーのパックを思わせる小さな物体。
杏子の突進に合わせて爆発する。
杏子「くっ!」
爆風にあおられ、よろめく杏子。
その背後に現れるほむら。
振り向きざまになぎ払うが、またしてもほむらが消え、足元に爆弾。
爆風を受け、飛ばされる杏子。
起き上がった杏子の手元で槍がいくつもの節に分かれる。
鞭のように振り回すが当たりそうになると別の場所に移動されてしまう。
ほむらが拳銃を撃つ。杏子の足元で火花を散らす銃弾。
槍が節でちぎれ、半ばが飛んで床に転がる。
杏子「見えない武器か!」
多節棍になってしまった武器をほむらに投げつける。
盾ではじくほむら。
その間に、杏子は木箱の上に移動している。
木箱に機関銃を浴びせるほむら。
まどか「ほむらちゃん!やめてよ!」
まどか「その子も魔法少女なんだよ!」
ほむらがまどかに気を取られた隙に壁を蹴って跳び、天井を蹴って襲いかかる杏子。
またも姿を消すほむら。
仕留め損ねた槍が地面に深く刺さって抜けず、舌打ちする杏子。
杏子「てめえ、チョコマカと」
突き立てた槍はそのままに、杏子がほむらに向かって跳躍する。
腕を振ると別の槍が出現するが、これもほむらをとらえられない。
ほむら「戦場の選択を誤ったようね」
杏子「あいにくと、あたしにもまだ手札があってね!」
杏子が槍を振るとその方向に格子状の防御壁が組み上げられる。
さらにもう一振りで、ほむらは左右を防御壁に阻まれた形になる。
防御壁に挟まれた一本の道を突進する杏子。
姿を消し、木箱のそばに現れるほむら。
杏子の足元に爆弾。
杏子「くらえっ!」
立っている槍を蹴って方向転換する杏子。
普通に反転していたら巻き込まれていたであろう爆風が後押しする。
反撃の速度を読み損なったほむらの肩を槍がかすめる。
棚に叩きつけられるほむら。
勢い余って切り裂いた棚がほむらの背中に落ちる。
ロッキーを口に放り込む杏子。
槍を逆さに構え、ほむらの頭上に打ち落とす――が、またしてもほむらが消え、地面を打つ。
杏子「なっ……!」
背後のほむらが拳銃で杏子を殴り倒す。
ひざから崩れ落ちる杏子。
ほむらもよろめいて肩を押さえる。
傷を負った箇所からにじみ出る血。
杏子「まだ……まだ終わってねえ……」
なおも戦おうと振り返る杏子。
平衡感覚を失い、地面に倒れる。
杏子「くそっ……」
突然、周囲の景色が変化する。
ほむら「魔女の結界……!」
周囲に積み上げられるたくさんのテレビ。
その中から白いマリオネットのような使い魔が片方しかない翼で飛び出す。
拳銃で応戦するほむら。
まどか「ほむらちゃん!」
ほむら「――まどか」
吊るされていたまどかに使い魔が群がり、バラバラにしてテレビの向こう側に運び去っていく。
まどかが連れ去られたテレビに手のひらを当てるほむら。
ガラスの感触に阻まれ、通り抜けることができない。
その間に、使い魔が杏子にまとわりつく。
ほむら「佐倉杏子!」
見る間に杏子の体はバラバラにされ、テレビの向こう側に取り込まれる。
そのとき、胸元のブローチがはずれてソウルジェムになって転がる。
それも回収してテレビの向こう側へ持ち去る使い魔。
ほむら「狡猾な奴。じっと機会をうかがっていたようね」
ソウルジェムをかざし、道を切り開くほむら。
作り出した通路に飛び込んでいく。
【結界―ハコの魔女―】
メリーゴーランドのような模様がロール状に周囲を覆う。
ロールの縁は映画のフィルムのよう。
空気の代わりに液体で満たされている。
ゆっくりと沈んでいくほむら。
メリーゴーランドの馬にまたがった使い魔がテレビを持って飛び回っている。
まどかが死ぬ。
まどかが魔女に変わる。
さやかが魔女に変わる。
マミが杏子を撃って銃口を向ける。
まどかに銃口を向ける。
ワルプルギスの夜。
それを一撃で倒す強力な魔法少女が魔女に変わる。
テレビが映し出す、ほむらの記憶。
ほむらの機関銃が、使い魔ごとそれらを粉砕していく。
その表情からは何も読み取れない。
ゆっくりと沈んでいくほむら。
ただようロープ。
その下方で、使い魔がまどかの手足を引っ張っている。
面白いように伸びるまどかの手足。
時間を止め、日本刀で使い魔を切り払う。
まどか「ほむらちゃん……」
ほむらは黙ったまま機関銃を撃つ。
馬や屋根を壊しながら、使い魔を蹴散らしていく。
その表情からは何も読み取れない。
ゆっくりと沈んでいくほむらとまどか。
ただよう槍。
その下方に杏子が沈んでいる。
胸元にブローチはない。
そばには白いモニターを運ぶ使い魔。
モニターにはなぜか左右に髪の毛が生えている。
さらにその下方で光が生じ、別の空間がつながる。
現れるマミ。
モニターに気づいてマスケット銃を出し、撃つ。
ほむらの姿が消え、現れたときにはマミの銃撃を盾で弾いている。
襲われたことに気づいてモニターごと逃げ出す使い魔。
マミ「暁美さん?どうして」
使い魔、それに魔女をかばったほむらの行動が信じられないマミ。
マミに群がる使い魔。
マミ「何、これ……!」
テレビに映るほむらの記憶に驚愕するマミ。
マスケット銃を持つ手が震える。
マミ「どうして、鹿目さんが魔法少女に……?」
マミ「それに、……美樹、さん……?」
ほむら「惑わされないで!」
まどか「ほむら……ちゃん?」
マミ「暁美さん……?」
明らかに、これまで見せてきた態度とは異なる声音。
それに戸惑うまどかとマミ。
マミ「あなた……偽者ね!」
マミ「本物の暁美さんは、そんな風に取り乱したりしないわ!」
ほむらを撃つマミ。
一瞬早く気づいて回避するほむら。
まどか「あっ!」
まどかに使い魔が群がる。
上方のまどか、下方のマミ。二人を見比べるほむら。
時間を止める。
静止した世界で、さらに沈んでいくほむら。
マミの背後から羽交い絞めにする。
マミ「……えっ、これは……?」
停止した時間に驚くマミ。
ほむら「よく聞いて」
ほむら「一つ、少しの間だけ時間を止めている」
ほむら「二つ、私が触れている間はあなたも動ける」
ほむら「三つ、さっきの白いモニターが魔女」
ほむら「結界だけでなく、さらにモニターで身を守らなければならない最弱の魔女」
ほむら「弱いから、私たちの戦意をくじいて弱らせないと襲ってこない」
ほむら「四つ。佐倉杏子のソウルジェムが奪われた」
ほむら「魔女より先に、それを見つけないとまずいことになる」
マミから離れ、まどかを救出に向かうほむら。
刀を振るって使い魔を退ける。
マミ「今のを……信じろ、ですって……?」
マミが胸元のリボンを解く。
リボンは膨れ上がったかと思うと無数に分裂して結界中に張り巡らされる。
その一本がほむらの腕を絡め取る。
次に足。
まどかにもリボンが絡みつく。
まどか「マミさん!」
刀でリボンを切断しようとしたほむらが手を止め、まどかに目をやる。
次に見たのは、ほむらに向け、マスケット銃を構えるマミの姿。
マミ「さようなら、偽者さん!」
マミのマスケット銃がほむらを撃ち抜く。
がっくりとうなだれるほむら。
まどか「ほむらちゃん!」
マミ「まさか、偽者じゃなかった……?私……、私……!」
リボンの侵食がさらに激しさを増す。
うろたえているマミ自身をも拘束する。
まどか「どうしよう、そんな、そんな……!」
弱った獲物にありつこうと、使い魔に運ばれながら魔女がほむらに近づいてくる。
モニターを拘束するマミのリボン。
マミ「かかったわね!」
マミの目にははっきりとした意志が宿っており、先程の混乱は見る影もない。
あちこちに絡みついたリボンが収束されていく。
今やリボンは魔女と、別のテレビを持った使い魔を縛っているだけだ。
その使い魔が持つテレビが映しているのはほむらの記憶ではなく、丸い宝石。
――ソウルジェム。
使い魔を締め上げながらテレビに入り込んだリボンがソウルジェムを取り出す。
リボンが伸びていき、マミの手元にソウルジェムを落とす。
マミ「ソウルジェム、確かに頂いたわ」
リボンを縦横無尽に展開したのはソウルジェムを見つけるため。
ほむらを撃ったのは弱らせて魔女をおびき出すため。
マミの心を読んだ魔女が悲鳴を上げる。
マミ「ティロ・フィナーレ!」
巨大な銃身から放たれる膨大な量のエネルギー。
モニターごと魔女を焼き尽くす。
魔女の死によって消滅する結界。
【建設中のビル】
ほむら「……うう」
マミの治癒魔法でいくぶん力を取り戻したほむらが目を覚ます。
マミ「ごめんなさい。お芝居とはいえ、実際に撃ったわけだし」
マミ「――痛かったでしょ?」
ほむら「佐倉杏子は?」
首を振るマミ。
マミ「残念だけど、彼女は亡くなっていたわ」
ほむら「彼女のソウルジェムを……貸して」
マミから杏子のソウルジェムを受け取るほむら。
仰向けに手を組んで横たわる杏子にソウルジェムを握らせる。
杏子「うっ……あたし、どうしたんだ……?」
杏子「どうなってるんだよ……」
マミ「そんな!確かに死んでいたはず」
ほむら「正確には、死体ではなくて『佐倉杏子の抜け殻』よ」
ほむら「私たち魔法少女の本体は――このソウルジェムの方だから」
マミ「嘘……」
ほむら「願いと引き換えに、私たちはソウルジェムを得て魔法少女になる」
ほむら「でも真実はこう。『願いと引き換えに、私たちはソウルジェムになる』」
ほむら「ソウルジェムの力が及ばないほど体との距離が開いた場合、体は機能を停止する」
ほむら「そうなると、ソウルジェムを直接触れさせるまで何もできなくなる」
杏子「何言ってやがる。そんなこと誰にも――」
ほむら「そうね。誰も教えてはくれないわ」
ほむら「最初から知っていれば、あなたは契約したかしら」
ほむら「知らされないのは、その程度の理由」
杏子「ふざけんじゃねえ!それじゃあたしたち、ゾンビにされたようなもんじゃないか!」
体を起こしてほむらにつかみかかる杏子。
杏子「それにどうしてお前は、そんなことを知って平気でいられるんだよ」
まどか「そんな……。ほむらちゃんたち、もう、人間じゃないの?」
杏子「くっ……」
マミ「鹿目さん……」
ほむら「この前、私が言ったことを覚えてる?」
杏子を無視してまどかに語りかけるほむら。
ほむら「真実を知れば、あなたたちが私や巴マミに対する態度が変わってしまう」
ほむら「でも、ソウルジェムの秘密はそれだけじゃない」
ほむら「この宝石が濁りきって黒く染まるとき、私たちはグリーフシードになり、魔女として生まれ変わる」
ほむら「私たちが倒してきた魔女も、魔法少女のなれの果て」
まどか「そんなのって……そんなのってないよ……」
杏子「あたしは、魔女になる、のか……?」
ほむら「あなたが憧れていたものの正体がどういうものなのか」
ほむら「これで理解できたわね」
マミがほむらにマスケット銃を突きつける。
マミ「ねえ、お芝居はもう終わりでしょう?冗談だと言ってよ」
マミ「それともあなたはやっぱり偽者だったの?」
手を差し出すほむら。
ほむら「私は二度、あなたに手を差し出した。でもあなたの手が触れることはなかった」
ほむら「それでも。――それでも私は手を差し出す」
――払いのけられたらその手を掴めばいい。また払われてもまた掴んでやったらいい――
ほむら「やがて魔女になる私たちを今始末してあなたも死ぬか」
ほむら「それとも真実を受け入れた上で暗闇を振り払い歩き続けるか」
ほむら「あなたが決めなさい」
ほむらの手を見つめるマミ。
銃口がぶれはじめる。
マスケット銃がリボンに変わってマミの手に収まる。
ほむらの手をとるマミ。
マミ「正直なところ、心の整理がつかない」
マミ「けれど、こうして手を差し伸べてくれる暁美さんを信じる」
まどか「マミさん……」
安堵するまどか。
杏子「お前ら、何だってんだよ」
杏子が槍で地面を突く。
杏子「魔女だぞ。魔女になっちまうんだぞ。いいのかよ」
マミが杏子に意味ありげな視線を向ける。
マミ「あなたも混ざりたいんでしょ?」
杏子「な、なに言ってんだ」
マミ「はいはい。独りぼっちは、さみしいもんね」
強引に杏子の手をとって握手に重ねさせる。
マミ「これまで何度も死と隣り合わせの経験をしてきたし」
マミ「いつか私も、魔女との戦いで命を落とすんじゃないかってずっと思ってた」
マミ「でも、今は生きる目的ができたような気がする」
マミ「もしあなたたちが魔女になったら、そのときは私が狩ってあげる」
杏子「な……!逆にあたしがあんたのグリーフシードをもらってやるよ」
天童「カーット!」
急に現れる天童。
天童「よくやったぞ、ほむら。最大の壁『協調性』クリアだ!」
杏子「あんた誰だよ。っていうか、いつからいたんだよ」
天童「杏子ちゃんにも、はい、お土産。温泉饅頭」
紙袋からお菓子の箱を取って手渡す天童。
杏子「……もらっとくよ」
天童「これはマミちゃん。これはまどかちゃん」
手際よくお土産を配る天童。
ほむら「天国に帰ったんじゃなかったの?」
天童「たまたま福引したらよ、これが一等当たっちまって。温泉旅行。くーっ、さすが俺。これも日頃の行いがいいからだな」
写真を見せる天童。
福引所で一等の祝儀袋を手にピースしている天童が、憎らしいほどの笑顔で映っている。
天童「ああ、思い出しても本当にいい湯だったなあ。天使なのに思わず『極楽、極楽』って言っちまってよ」
天童「もちろん、『天国、天国』って言い直したけどな」
ほむら「でも、お土産を買うお金なんて持ってないでしょ」
天童「二段目の引き出し」
てへっ、と笑う天童。
ほむら「……それ、私のお金じゃない!」
天童「いいじゃねえかよ。俺の働き、時給に直したら安いもんだろ?」
ほむら「かーっ。腹立つーっ!」
マミ「暁美……さん?」
まどか「ほむらちゃん?」
あっけにとられるマミとまどか。
マミ「今日は暁美さんの意外な一面ばかり目にしているわね」
ほむら「これは……こいつの、せいで……」
口ごもるほむら。
【工場・外】
魔女との戦いも終わったので、魔法少女たちは変身を解いている。
天童「それにしても、素直じゃない奴ばかり面倒見て、マミちゃんも大変だねえ」
杏子「それって、あたしも含んでるってことかよ」
マミ「佐倉さんも、私と組みはじめた頃は素直だったんですけどね」
杏子「くっ。もうアネキ面はやめろよ」
天童とほむらが右へ、マミと杏子、まどかが左へ進もうとする。
杏子「イレギュラーの奴、ちゃっかりお前にしゃべってやがったんだな」
マミ「暁美さんは何も言わなかったわ」
マミ「ただ、魔女の使い魔に襲われて日が浅いのに学校を欠席するなんて、何かあったに違いないと思っただけ」
杏子「それで捜索活動ってか。ホント変わんねえな」
杏子「あー畜生。晩飯食ってないから腹が減った」
マミ「私もあなたが鹿目さんをさらったせいで夕飯の準備もしていないわ」
マミ「そうだ。暁美さん!」
マミがほむらと天童を呼び止める。
マミ「お腹も空いたし、どこかで食べていかない?」
ほむら「そうね。かまわないわ」
天童「おっ、何食うんだ?うな重なんかいいなあ」
ほむら「温泉で海の幸やら山の幸やらを食べてきたくせにまだ贅沢言うの?」
天童「いいじゃねえかよ。時給に直したら――」
ほむら「今回はゼロのはずよね」
天童「ま、まあアレだ。出世払いで」
ほむらと天童、マミが杏子、まどかと合流する。
マミ「叔父さんと暁美さんは仲がいいんですね」
天童「これが手のつけられんじゃじゃ馬で。マミちゃんのように優雅なおしとやかさを――」
背後で轟音。
タクシーが運転を誤って工事中のフェンスに突っ込んでいた。
食事の誘いがなければほむらと天童が巻き込まれていたかもしれない。
天童が時計を見るとちょうど21:00。
天童「危ねえな!命題クリアしてなかったら、俺まで巻き添えかよ!」
ほむら「天使だったらまず人命の心配をしたらどう?」
マミとほむら、それに遅れて残り三人がタクシーに駆けつける。
杏子「勘弁してくれよ。こっちは腹の虫が鳴ってるのに」
ドアを開けて運転手のシートベルトをはずす杏子。
意識を失っている運転手を天童と一緒に引っ張り出して地面に寝かせる。
まどかが救急車を呼ぶ間に治癒魔法で応急手当を施すマミ。
やがて救急車が駆けつけ、運転手を搬送していく。
天童「文句言ったわりに、お前は見てるだけかよ」
ほむら「うるさい」
握っているバールを見つめるほむら。
――でもよ、一番頼れる力なんてものは物じゃないんじゃねえか?――
ほむら「私の魔法は、時を止めることと戻すこと」
ほむら「そのどちらも、運転手を助ける役には立たなかった」
ほむら「ドアを壊す道具を持っていても誰も救えない」
ほむら「このままで私は――まどかを救えるの?」
天国に一番近いほむら 佐倉杏子編「そんなの、あたしが許さない」 終わり
補足その4・大和田政雄
ほむら「今回中沢が代役を勤めたのは大和田政雄」
ほむら「甘粕四郎の上司で役職は課長。たかり癖があり『一瞬貸しといて』と頼むが金は返さない」
ほむら「自分より立場の強い者にはゴマをする。何事も仕切りたがるが相手にされないことが多い」
ほむら「特徴を挙げれば典型的なダメ人間だけど、MONOカンパニーでは一際輝いている人物」
天童「無駄にテンション高いからな」
ほむら「ウザキャラであるところも含めて、天童とよく似ている」
天童「『も』って何だよ。俺が無駄にテンション高いか?失敬だな」
ほむら「ウザキャラなのは認めてるのね」
ほむら「根は一本筋が通っているようで、柔道対決の回ではよい面がところどころクローズアップされた」
ほむら「対戦チームを率いる社長に率先してかかっていく。対決に間に合わない甘粕四郎をかばう」
ほむら「さらには番狂わせ的な勝利」
ほむら「けれど、そういった見せ場がなくとも大和田が出てくると何かしら笑いを期待させる」
ほむら「結城社長に毒づいてはそれを聞かれたり、後半では鮫島に田舎者ネタで絡む」
ほむら「『お前の所属はMONOカンパニーじゃない』」
ほむら「『田舎MONOカンパニーだ』、となかなか口も達者」
ほむら「ゴマすりだけの人物でないことをうかがわせるが、仕事ではその片鱗も見られない」
天童「まあパソコンでオセロばっかやってるからな」
ほむら「髭を生やしていないのに、よく『チョビ髭』と呼ばれる」
ほむら「最終回で念願の部長になったときには実際にチョビ髭を生やした」
天童「セコい所は相変わらずで娘の鉛筆代をたかってたな」
ほむら「色々説明してみたけど、大和田の魅力は実際にドラマを観てもらわないと伝わらないと思う」
ほむら「演じた渡辺いっけいが大和田ベースで天使役をやるならキャスト一新リメイクでも観てみたい」
ほむら「>>1はそう思っているわ」
天童「けどよ、そうなると誰が大和田ちゃんのポジションやるのかってことになるよな」
ほむら「難しいところだけど、これ以上の話はキャスト妄想スレになってしまうから控えることにするわ」
【 後編 】 に続きます。


