錬金術師「面倒だけど経営難に立ち向かう事になった」【前編】
錬金術師「面倒だけど経営難に立ち向かう事になった」【後編】
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 1週間後 】
…ボー
錬金術師「…」
錬金術師「…」
錬金術師「…」
錬金術師「暇…だな」
元スレ
錬金術師「面倒だけど経営難に立ち向かう事になった」
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1396693939/
錬金術師「経営難に立ち向かう事になった」女店員「その2!」
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1399980352/
ポリポリ…モグモグ…
錬金術師「ふーむ…」
錬金術師「とりあえず店員らが帰ってくるか、客来るか…それまで暇だな」
…ポリポリ
錬金術師「この美味いバターピーナツが、今の俺のささやかな楽しみか」ポイッ
ポリッ…ゴクンッ
…ガチャッ!!
錬金術師「おっ!?客ですか!?いらっしゃいませー!」ガタッ
女店員「私でした」
銃士「ただいま」
新人鉱夫「ただいまです!」
錬金術師「あっ、君らでしたか…。で、どうだった?」
女店員「一週間もかかったけど、私がやってきた基本業務の説明は一通り終わりかな?」
錬金術師「1週間も説明がかかるくらい俺の知らない所で営業してたのに、この客足だ」プッ
女店員「バターピーナツ作るやつ、壊そうかな♪」
錬金術師「女店員さん、さすがですわ。俺の知らないところでの営業努力、賞賛ものですわぁ…」スリスリ
女店員「よろしいっ」
錬金術師「…」
錬金術師「まぁいいです…。でさ…銃士と新人鉱夫、ちょっと来て」
銃士「ん?」
新人鉱夫「何でしょう?」
錬金術師「今更なんだけど、これ雇用契約書。目通しといて」ペラッ
銃士「やっとか!どれどれ…」
新人鉱夫「えーっと…」
錬金術師「ぶっちゃけ、今のうちじゃソレが最低金額。あとは歩合制にするつもり」
銃士「最低15万…、充分だよ」
新人鉱夫「もっと少ないのかと!」
錬金術師「あ、よーく見て。営業厳しいとき色々変動するような契約書だから。"今のうち"ってのは、本当に今のこと」
銃士「何…」ペラッ
銃士「…」
銃士「な、なるほど。最低金額の誤差が起きるが、その誤差はゼロまであると…」ピクピク
錬金術師「まぁ逆に、伸ばす時も無限大って考えくれ」
錬金術師「適当な経営な部分もあるし、君らが働いた分、還元はするつもりだし」
銃士「ふふっ、なるほど。今までの私の仕事とそう変わらないわけだ」
新人鉱夫「僕もそうですね」
錬金術師「君らにやってもらう事も今までと変わらないつもりだ」
銃士「わかった。素材収集だな?」
新人鉱夫「僕は鉱石採掘…と」
女店員「私は店長の補佐かな」
錬金術師「ま、そうだな。俺が欲しい物があるときはそれをメインで集めてもらうことになると思うが」
錬金術師「あと、えーと…そうだ。君たちに渡すものがある」ゴソゴソ
銃士「渡すもの?」
女店員「変なのじゃないでしょうね」
新人鉱夫「なんでしょうかっ」
錬金術師「まずは新人鉱夫。自由採掘許可証はお前に預けとく」ポイッ
新人鉱夫「あ、はいっ!」パシッ
錬金術師「あと、このパーツを自動採掘機に繋げろ。前の時間の1,5倍、採掘の魔力が持つようになる」
…ゴトンッ!!
新人鉱夫「本当ですか!?」
錬金術師「パワーも微量にあがるし、使いやすくなると思うぜ」
新人鉱夫「わかりました!ありがとうございます!」
錬金術師「んじゃ次は銃士。これ、作っといたぞ」
ゴソゴソ…、カチャカチャッ
銃士「これは?」
錬金術師「氷結弾、火炎弾、雷撃弾。それぞれ100ずつ準備したから遠慮なく受け取っちゃって」
銃士「おぉ…ありがとう!」
錬金術師「あと、足りなくなりそうなら幾らでも作るから」
女店員「無駄に準備いいんだから…」
錬金術師「無駄て」
女店員「いい意味でね♪でも、そういう所は店長の良いところだと思うよっ」
錬金術師「ふっ…もっと褒めろ。敬え、わが前にひれ伏すがいい!!」
女店員「バターピーナツ生成のやつを壊…」
錬金術師「申し訳ございませんでした。あとな、お前にはこれをやるよ」ゴソゴソ
女店員「えっ、私にも何かっ?」ウキッ
錬金術師「くく…これだ!店長補佐のネームカード!」バッ
女店員「いらない」
錬金術師「…」
銃士「おぉう、一刀両断…」
新人鉱夫「…ひぃぃ!」
女店員「…」ハッ
女店員「う、うそうそ!ありがとう!きちんと付けるから!」
錬金術師「まぁ…これは冗談なんだけどな」ポイッ
女店員「」
錬金術師「ははっ!さすがにこんなの使い道ねーしな!」
女店員「やっぱりバターピー…」
錬金術師「ごめんってば!!本当はこっち、これだから!」スッ
ジャラッ…キランッ!
女店員「何、これ…?ネックレス…?」
銃士「うわっ、キレイな石が付いてるな」
新人鉱夫「それは、ロッククリスタル!…ですよね?」
錬金術師「新人鉱夫、正解。よっぽど高いもんじゃねーが、俺が精錬したやつだ」
錬金術師「ボーナスとまではいかんが、新しい店員も迎えて、その何だ…、初代店員記念で一番力をいれた」ハハッ
キラキラ…
銃士「凄いな…、さすがの腕前だ店長」
新人鉱夫「ロッククリスタルは透明度が高い分、割れやすくて難しいんですよ…」
女店員「これ、私がもらってもいいの…?」
錬金術師「お前の為にだっつーの。正直、使い道のあるプレゼントが思い浮かばなかったから、アクセにした」
錬金術師「普段お前はネックレスとかつけねーし、どうしたもんかと悩んだんだが…どうだろうか」
女店員「嬉しい…ありがとう…。大事にするね…」ギュッ
錬金術師「ネームプレートはいらない?」
女店員「うん、いらない…」
錬金術師「」
銃士「…あははっ!」
新人鉱夫「はは…」
錬金術師「…無理やり付けてやる!」グイッ!!
女店員「きゃーきゃー!」
錬金術師「ぐっ、この!」グイグイッ
女店員「ちょっ、どこ触ってるの!!変態!!ばかぁぁ!!」ブンブン
ギャーギャー!!
銃士「…仲のいいことでね」
新人鉱夫「…」
銃士「…」
新人鉱夫「…いいなぁ」ボソッ
銃士「…」
銃士「新人鉱夫クン、お姉さんにも同じことやってみる?」ニヤッ
新人鉱夫「え、えぇぇ!?」
銃士「赤くなって、ウブだねぇ!」
錬金術師「ん?ウブ?」ピタッ
銃士「ん?」
錬金術師「銃士、お前さ…そう言ってるけどさ」
錬金術師「あの時、服を脱がさないでーとか暴れ…」
銃士「わーっ、わーっ!!今後はお姉さまキャラで通すつもりなんだから!」
錬金術師「くくく…」
女店員「もーっ!!何なんですか、このお店はぁぁ!」
錬金術師「…こんな感じが俺の店、なんじゃねーの?」ハハハ!!
女店員「…はぁ。賑やかで、楽しくていいとは思うんですけどね…」
錬金術師「ん~…まぁ、仕事は仕事でやるけどな。さて、一息いれたところで早速の業務でも言い渡すかねぇ」ペラッ
銃士「…おっ、いよいよ仕事だね」
新人鉱夫「何でも言ってください!」
女店員「…」
錬金術師「では、仕事の内容のはっぴょ…!!」
…コンコン!!
錬金術師「…」
錬金術師「…」
…コンコン!!
銃士「…お客じゃないのかな」
女店員「何てタイミングの悪さ」
新人鉱夫「こういうのを、持っているっていうんですよね!」
錬金術師「ぐ…」ブルブル
錬金術師「はい、どうぞ!開いてますよ!!」
…ガチャッ!!
???「失礼します~」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 1週間後 】
…ボー
錬金術師「…」
錬金術師「…」
錬金術師「…」
錬金術師「暇…だな」
ポリポリ…モグモグ…
錬金術師「ふーむ…」
錬金術師「とりあえず店員らが帰ってくるか、客来るか…それまで暇だな」
…ポリポリ
錬金術師「この美味いバターピーナツが、今の俺のささやかな楽しみか」ポイッ
ポリッ…ゴクンッ
…ガチャッ!!
錬金術師「おっ!?客ですか!?いらっしゃいませー!」ガタッ
女店員「私でした」
銃士「ただいま」
新人鉱夫「ただいまです!」
錬金術師「あっ、君らでしたか。で、どうだった?」
女店員「一週間もかかったけど、私がやってきた業務の説明は一通り終わりかな?」
錬金術師「1週間も説明がかかるくらい俺の知らない所で営業してたのに、この客足だ」プッ
女店員「バターピーナツ作るやつ、壊そうかな♪」
錬金術師「女店員さん、さすがですわ。俺の知らないところでの営業努力、賞賛ものですわぁ…」スリスリ
女店員「よろしいっ」
錬金術師「…」
錬金術師「まぁいいです…。でさ、銃士と新人鉱夫…ちょっと来て」
銃士「ん?」
新人鉱夫「何でしょう?」
錬金術師「今更なんだけど、これ雇用契約書。目通しといて」ペラッ
銃士「やっとか!どれどれ…」
新人鉱夫「えーっと…」
錬金術師「ぶっちゃけ、今のうちじゃソレが最低金額。あとは歩合制にするつもり」
銃士「最低15万…、充分だよ」
新人鉱夫「もっと少ないのかと!」
錬金術師「あ、よーく見て。営業厳しいとき色々変動するような契約書だから。"今のうち"ってのは、本当に今のこと」
銃士「何…」ペラッ
銃士「…」
銃士「な、なるほど。最低金額の誤差が起きるが、その誤差はゼロまであると…」ピクピク
錬金術師「まぁ逆に、伸ばす時も無限大って考えくれ」
錬金術師「適当な経営な部分もあるし、君らが働いた分、還元はするつもりだし」
銃士「ふふっ、なるほど。今までの私の仕事とそう変わらないわけだ」
新人鉱夫「僕もそうですね」
錬金術師「君らにやってもらう事も今までと変わらないつもりだ」
銃士「わかった。素材収集だな?」
新人鉱夫「僕は鉱石採掘…と」
女店員「私は店長の補佐かな」
錬金術師「ま、そうだな。俺が欲しい物があるときはそれをメインで集めてもらうことになると思うが」
錬金術師「あと、えーと…そうだ。君たちに渡すものがある」ゴソゴソ
銃士「渡すもの?」
女店員「変なのじゃないでしょうね」
新人鉱夫「なんでしょうかっ」
錬金術師「まずは新人鉱夫。自由採掘許可証はお前に預けとく」ポイッ
新人鉱夫「あ、はいっ!」パシッ
錬金術師「あと、このパーツを自動採掘機に繋げろ。前の時間の1,5倍、採掘の魔力が持つようになる」
…ゴトンッ!!
新人鉱夫「本当ですか!?」
錬金術師「パワーも微量にあがるし、使いやすくなると思うぜ」
新人鉱夫「わかりました!ありがとうございます!」
錬金術師「んじゃ次は銃士。これ、作っといたぞ」
ゴソゴソ…、カチャカチャッ
銃士「これは?」
錬金術師「氷結弾、火炎弾、雷撃弾。それぞれ100ずつ準備したから遠慮なく受け取っちゃって」
銃士「おぉ…ありがとう!」
錬金術師「あと、足りなくなりそうなら幾らでも作るから」
女店員「無駄に準備いいんだから…」
錬金術師「無駄て」
女店員「いい意味でね♪でも、そういう所は店長の良いところだと思うよっ」
錬金術師「ふっ…もっと褒めろ。敬え、わが前にひれ伏すがいい!!」
女店員「バターピーナツ生成のやつを壊…」
錬金術師「申し訳ございませんでした。あとな、お前にはこれをやるよ」ゴソゴソ
女店員「えっ、私にも何かっ?」ウキッ
錬金術師「くく…これだ!店長補佐のネームカード!」バッ
女店員「いらない」
錬金術師「…」
銃士「おぉう…一刀両断…」
新人鉱夫「…ひぃぃ!」
女店員「…」ハッ
女店員「う、うそうそ!ありがとう!きちんと付けるから!」
錬金術師「まぁ…これは冗談なんだけどな」ポイッ
女店員「」
錬金術師「ははっ!さすがにこんなの使い道ねーしな!」
女店員「やっぱりバターピー…」
錬金術師「ごめんってば!!本当はこっち、これだから!」スッ
ジャラッ…キランッ!
女店員「何、これ…?ネックレス…?」
銃士「うわっ、キレイな石が付いてるな」
新人鉱夫「それは、ロッククリスタル!…ですよね?」
錬金術師「新人鉱夫、正解。よっぽど高いもんじゃねーが、俺が精錬したやつだ」
錬金術師「ボーナスとまではいかんが、新しい店員も迎えて、その何だ…、初代店員記念で一番力をいれた」ハハッ
キラキラ…
銃士「凄いな…、さすがの腕前だ店長」
新人鉱夫「ロッククリスタルは透明度が高い分、割れやすくて難しいんですよ…」
女店員「これ、私がもらってもいいの…?」
錬金術師「お前の為にだっつーの。正直、使い道のあるプレゼントが思い浮かばなかったから、アクセにした」
錬金術師「普段お前はネックレスとかつけねーし、どうしたもんかと悩んだんだが…」
女店員「嬉しい…ありがとう…。大事にするね…」ギュッ
錬金術師「ネームプレートはいらない?」
女店員「うん、いらない…」
錬金術師「」
銃士「…あははっ!」
新人鉱夫「はは…」
錬金術師「…無理やり付けてやる!」グイッ!!
女店員「きゃーきゃー!」
錬金術師「ぐっ、この!」グイグイッ
女店員「ちょっ、どこ触ってるの!!変態!!ばかぁぁ!!」ブンブン
ギャーギャー!!
銃士「…仲のいいことでね」
新人鉱夫「…」
銃士「…」
新人鉱夫「…いいなぁ」ボソッ
銃士「…」
銃士「新人鉱夫クン、お姉さんにも同じことやってみる?」ニヤッ
新人鉱夫「え、えぇぇ!?」
銃士「赤くなって、ウブだねぇ!」
錬金術師「ん?ウブ?」ピタッ
銃士「ん?」
錬金術師「銃士、お前さ…そう言ってるけどさ」
錬金術師「あの時、服を脱がさないでーとか暴れ…」
銃士「わーっ、わーっ!!今後はお姉さまキャラで通すつもりなんだから!」
錬金術師「くくく…」
女店員「もーっ!!何なんですか、このお店はぁぁ!」
錬金術師「…こんな感じが俺の店、なんじゃねーの?」ハハハ!!
女店員「…はぁ。賑やかで、少し楽しくていいとは思うんですけどね…」
錬金術師「ん~…まぁ、仕事は仕事でやるけどな。さて、一息いれたところで早速の業務でも言い渡すかねぇ」ペラッ
銃士「…おっ、いよいよ仕事だね」
新人鉱夫「何でも言ってください!」
女店員「…」
錬金術師「では、仕事の内容のはっぴょ…!!」
…コンコン!!
錬金術師「…」
錬金術師「…」
…コンコン!!
銃士「…お客じゃないのかな」
女店員「何てタイミングの悪さ」
新人鉱夫「こういうのを、持っているっていうんですよね!」
錬金術師「ぐ…」ブルブル
錬金術師「はい、どうぞ!開いてますよ!!」
…ガチャッ!!
???「失礼します」
???「失礼する。ここに銃士という女性がいるはずなんだが」
錬金術師「銃士?確かにいますが…銃士!」
銃士「私?どなた…って!あぁっ!!」
錬金術師「知り合いか?」
銃士「し、知り合いというか…。ギルド長というか…」
錬金術師「…ギルドマスター!?」
新人鉱夫「もしかして銃士さんが所属してた、中央国のですか?」
ギルド長「初めまして、みなさん」ペコッ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
女店員「お茶をどうぞ」コトッ
ギルド長「有難うございます」
銃士「ギルド長、一体どうしてここに…」
ギルド長「誰かがギルドを抜ける際は、こうして私が挨拶に伺うんですよ」グビッ
銃士「わざわざ私のために…」
ギルド長「というかギルドルールにもあったはずなんですが…。本来ならそちらから一声欲しかったです」
銃士「うっ…申し訳ありません…」
銃士「ですが、所属していたグループやギルドリーダーに話をした時に、ギルド長が不在だったもので…」
ギルド長「あぁ、それなら仕方ないですね」
銃士「…」
ギルド長「聞きましたよ。鉱山での失敗で、ケジメのためにも脱退したと」
銃士「…」
ギルド長「銃士さん」
銃士「…はい」
ギルド長「戻ってきなさい。別に、貴方がうちに迷惑をかけたなんか思っていません」
銃士「!」
ギルド長「貴方は善意で事故に巻き込まれたと聞きました。それを責める事なんかしませんよ」
銃士「で、でも!」
ギルド長「そこまでうちは心は狭くありません。それに、親の道を継ぎたいと願っていたのは貴方でしょう?」
銃士「うっ…」
ギルド長「この場所が悪いと言っているのではありません」
ギルド長「貴方が目指す夢に一番近いのは、冒険者ギルドだった。それを一時の感情に身を任せていいのですか?」
銃士「そ、それは…」
ギルド長「すぐに答えが出るとは思っておりません。自分で、しっかり考えて決めてください」スクッ
銃士「あ…も、もう行くんですか?」
ギルド長「要件は済んだので。あ、お茶有難うございました。美味しかったですよ」
女店員「い、いえいえ!」
ギルド長「そうだ…それとあと1つ。銃士さんの行きつけだった、東部の喫茶店わかりますよね?」
銃士「そ、それはもちろんです。最後に一杯も飲んで、もうしばらく来れないかもと伝えました」
ギルド長「あそこのマスター、店員共々"『いつでも来てくれ、いつでもあの味で待っている』"だそうです」
銃士「…」
ギルド長「では、失礼します。皆さんもお元気で」ペコッ
錬金術師「あ、どうも…」
ガチャッ…バタンッ!!
銃士「…」
錬金術師「…」
銃士「はぁ…まさか、ギルド長自らが来るなんて思わなかった」
錬金術師「自分が思ってるより、ギルドにとってよっぽど大事な存在なんじゃないのか?」
銃士「ううん。あの人は、ああいう人なだけだと思う。ギルド長の中じゃ異質って言われてるから」
錬金術師「異質?」
銃士「あの人が率いるのはかなりの人数を誇る、中央東ギルド」
銃士「私みたいな下っ端一人を気に掛けるなんて、普通はあり得ないんだよ」
錬金術師「…へぇ。"長"っていえば、当たり障りなく普通にこういう事するもんだと思ってた」
銃士「人数が少ない所だと普通なんじゃないかな。でもうちは大所帯っていうか…ね」
錬金術師「ふーん…」
女店員「銃士さん、喫茶店のあの味とか言ってましたけど、どういう事なんですか?」
銃士「あぁ、ギルドのある東部側には"冒険者が訪れる喫茶店"っていうのがあってさ」
銃士「よく仲間と一緒に、ギルドに戻るついでによく足を運んでたんだ」
女店員「へぇ~冒険者の喫茶店かぁ」
錬金術師「うちだって、万人の為の錬金用品店だぞ」フンッ
女店員「その結果が親に弱みを握られたと」
錬金術師「ソウデスネ」
銃士「まぁとにかく!私は私が決めて辞めたまで。今更、戻りたいと駄々はこねない!」
錬金術師「…それでいいならいいんだが」
銃士「ほら、いいからさっさと仕事を教えてよ!」
錬金術師「ん、んむ。えーっとな…」
ペラッ…
錬金術師「とりあえず、銃士には付近の自然で適当な素材集め」
錬金術師「倒せる物なら倒して、採取できそうな物は採取。出来るだけ"モノ"を残してきてくれ」
銃士「あいっ、了解!」
女店員「…モノってなんですか?」
銃士「オブラートに包んでいえば、魔物の中身のこと」
女店員「」
錬金術師「血肉はやはり、新鮮かつカタチがそのままのほうが色々使えるしな」
錬金術師「あっ、でも…その場で崩したほうがいいものやらは分かってると思うし、その辺は任せる」
銃士「わかった。今はまだ、魔物や自然採取の種類に関しては特に指名はないってことでいいの?」
錬金術師「この付近での探索のお願いだし、そこまで強いのはいないし素材は限られてる。任せるよ」
銃士「わかった。周辺で自由に採取して来いって事ね」チャキンッ!
錬金術師「そういうこと。時間に関しては、できれば17、8時くらいまでに戻ってきてくれれば嬉しいかな」
銃士「把握したっ。それじゃあ…行ってきます!」
ガチャッ…バタンッ!
錬金術師「えーと次は、新人鉱夫」
新人鉱夫「はいっ!」
錬金術師「さっきの許可証使って、自分の判断で17,8時までに採れる鉱石とってきて。以上!」
新人鉱夫「わぁ~シンプルですね…」
錬金術師「鉱石に関しては、やっぱりお前のほうが目利き出来るし、どうにも言えん」
錬金術師「それに銃士は別の業務任せたし、深い階層もいけないだろう?」
新人鉱夫「自分の判断で、いける場所で採掘しろって事ですか?」
錬金術師「そうそう。いいだろ?」
新人鉱夫「わかりました。目に適う原石を、採掘してきてみます」ペコッ
錬金術師「うむ、気を付けてな」
新人鉱夫「はいっ。いってきます!」
ガチャッ、バタンッ…
錬金術師「…ふぅ」
女店員「な…何だかんだで、きちんと店長と店員ぽくなってきた気はする!」
錬金術師「気を使うのは好きじゃないんだが」
女店員「私にも、もっと気を使ってもよろしいのでは!」
錬金術師「気を使うくらいなら、雇ってなど…」
女店員「ちょっと」
…コンコン
女店員「!」
錬金術師「っと、今日はよく来客がいらっしゃる。どうぞ~」
ガチャッ
郵便屋「ちわーっス。お手紙預かってますので、お届けに参りましたー」
錬金術師「手紙?」
郵便屋「はい。こちらになりまっス」スッ
錬金術師「はいどーも。ハンコは?」
郵便屋「普通の手紙なんでいらねッス。ではこれでー」ペコッ
ガチャッ…バタンッ…
女店員「お客さんかと思ったら、郵便屋さんか」
錬金術師「つーか俺に手紙なんて珍しいな。誰だ?」ペラッ
"錬金術研究機関"
錬金術師「…ふむ」
女店員「あれ?この機関って…」
錬金術師「出した場所も隣町みたいだし、俺のいたところだな。錬成師いたとこだよ。行っただろ?」
女店員「うん」
錬金術師「錬成師からの手紙じゃなくて、研究機関としての手紙だな」
錬金術師「一体何の手紙だ。良い予感はしねえんだが…」
女店員「とりあえず開けてみたら?」
錬金術師「そうだな…」
ビリッ…ビリビリッ…、パサッ
錬金術師「えーと何よ…」
錬金術師「…」ジー
錬金術師「…」
錬金術師「…えっ」
女店員「何て書いてあるの?」
錬金術師「…ま、前さ…俺らが仕事ないか聞きにいったじゃん」
女店員「うん」
錬金術師「仕事出来たから来いっていうんだけど…」
女店員「えっ!いいことじゃない!」
錬金術師「いえ、いいことじゃないの」
女店員「えっ」
錬金術師「ん~となぁ…どっから説明するべきか…」
女店員「…?」
錬金術師「まず、研究機関ってのは世界にいくつも存在する」
錬金術師「それのトップが"中央国"にある"中央軍"の直属である"中央錬金術研究機関"なんだ」
女店員「ふむふむ」
錬金術師「中央にあるエリート学校を卒業すると、研究機関には滑り込んで入ることができる」
錬金術師「んで、そこの先生が1人倒れたから、教諭として手伝ってほしいらしい」
女店員「…はぁ」
錬金術師「…お前、意味わかってる?」
女店員「とりあえず、先生が倒れたから、代わりに入る的な…」
錬金術師「そう」
女店員「仕事なら、するっきゃないでしょ!」フンッ
錬金術師「店はどうするのよ」
女店員「あっ」
錬金術師「いつまでするかわからねーし、長いことやることになったらどうする?」
女店員「お店の経営が…」
錬金術師「さすがに店の面倒見つつ、先生の仕事なんかできねーぞ」
女店員「しかも中央国なんだよね…。かなり遠いし…」
錬金術師「悪いが今回の仕事はお断りだ。それに先生なんてガラじゃないもんね」
女店員「あはは…」
錬金術師「んーと、とりあえず…16時くらいまではアイツらも戻らないし」
錬金術師「ちと高いが、高速移動の馬車借りて断りをいれてくるわい」
女店員「そんな急いで返事出すの?」
錬金術師「こういうのは早いほうがいいの。そうした方が、機関としてもすぐに他の人にも連絡いれられるっしょ」
女店員「うん」
錬金術師「んじゃ店番頼むわ。サっといってくる」
女店員「はーいっ」
ガチャッ…バタンッ…
女店員(…先生、かぁ)
女店員(確かに腕だけ見たら超一流だし、向いてるとは思うんだけど…)
女店員(お店の切り盛りもあるし、店長がいなかったら"ただの雑貨店"になっちゃうからなぁ)
女店員(…上手く断れればいいんだけど)
女店員(まっ、店長がやりたいっていうなら…うん…)
…………
………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 隣町・錬金術研究機関 】
…ガチャッ!!
錬金術師「うーっす」
錬成師「こんにち…って、先輩!」
機関長「おう、久しぶりだ」
錬金術師「機関長サマまでいらっしゃいましたか。っつか、アンタの手紙で来たんだけど」
機関長「あぁ、そうだったな」
錬成師「…手紙?」
錬金術師「あぁ、お前は知らないのか。えっとな…」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
錬金術師「…っていうわけ」
錬成師「なるほど、中央のエリート学校錬金科の臨時講師ですか…」
錬金術師「俺には無理だから断りに来たの」
機関長「断るのか?報酬金…賃金も中央軍、つまり政府から出るし、悪くない仕事だぞ?」
錬金術師「俺には店があるっしょ。それにもう公的機関に属してないんですよ俺は」
機関長「短期間らしいし、経営に困ってると聞いたから悪くないと思ったんだがな」
錬金術師「すんませんね。他ぁあたって下さい。錬成師とかどうだ?」ハハハ
錬成師「か、勘弁してくださいよ、下手したら僕が教わる立場かもしれないんですから!」
錬金術師「ははっ」
機関長「ふーむ、てっきり受けてくれるとばかり思ってたが」
錬金術師「アンタがいくのはダメなのか?」
機関長「俺は俺で、政府に別途仕事がある。普段から留守にしてるだろう」
錬金術師「副機関長とか、上級錬成師とかもいるんじゃないのか?」
機関長「あいつらに勤まると思うか…」
錬金術師「無理っすわ」キッパリ
機関長「…だろ」
錬成師「やっぱり、先輩がやるしかないんじゃないですか!」
錬金術師「だから別に仕事あるだから無理なんです!断っといてね機関長」
機関長「ふーむ…困った」
錬金術師「人がいなくて困るのは、向こうの都合だし知らん」
機関長「いや、そうじゃなくてだな…」
錬金術師「ん?」
機関長「実は、お前の経営がひどすぎると聞いたので」
機関長「二つ返事で、君を推薦して、来ると伝えてしまっていてな…」
錬金術師「…何だって」
機関長「すまん!」
錬金術師「…一度、引き受けてしまったと」ピクピク
機関長「うむ…」
錬金術師「手紙で断りを済まそうとしたけど、直接出向いて断るべきですな…」ハァ
機関長「時間を取らせるようなマネをして本当にすまん…」
錬金術師「はぁ~…。まぁ、機関長も俺の事を思ってですし、仕方ないっすな」
機関長「本当にすまんかった…」
錬成師「先輩みたいのが先生なら少し面白い気もするんですけどねぇ」
錬金術師「無理無理。俺面倒くさがりなの知ってんだろ」
錬成師「はは、確かに」
錬金術師「つか、直接中央に行くとなると…だいぶ時間もとられるな」フゥ
錬成師「その間、お店は一時クローズですか?」
錬金術師「それなんだが…。少し前に改装工事で一旦閉じてるし、店員増えたし、閉めたくないのよ」
錬成師「店員も増えたんですか!それじゃ閉めるのも厳しいですね…。どうするんです?」
錬金術師「…」
錬金術師「機関長、錬成師を2日に1回、こっち側に貸してもらえませんかね。費用は機関もちで」
錬成師「へっ?」
機関長「な、なぬっ?」
錬金術師「もとはといえば、機関長がオーケーしてしまったこと。いいでしょ?」
機関長「ふーむ…そうだな…」
錬金術師「錬成師、悪いんだが2日に1回くらい、店に顔出してくれるか?」
錬金術師「店員が増えて、精製物やら錬成モンが増える予定なんだ。出来る事なら、手伝ってくれないか」
錬成師「えぇ、僕は構いません。機関長、よろしいですか?」
機関長「仕方なかろう。いいぞ」
錬成師「はいっ。では、お店のお手伝いに顔を出させていただきますね」
錬金術師「うむ、すまん」
錬成師「いえいえ」
錬金術師「んじゃ、俺はさっさと戻って店員らに報告するかなぁ」ウーン
錬成師「はい。一応、明日の朝からご挨拶には伺いますよ」
錬金術師「ん、頼んだ」
機関長「はぁ…、すまなかったな」
錬金術師「いいですって。それに中央本部とか久々ですし、錬金術の研究がてら行ってきますよ」
機関長「うむ…気を付けてな」
錬金術師「へいっ。では自分は店に戻るんで」ペコッ
錬成師「はい、気を付けてください~」
錬金術師「おう」
ギィィ…バタンッ!
………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 夜・錬金術師の店 】
錬金術師「…っていう事になった。突然の話ですまん」
銃士「…なるほど。中央に一回行かないとダメ、と」
新人鉱夫「本当にお話、受けなくていいんですか?」
女店員「はは…」
錬金術師「お話受けなくてイイも何も、店があるし、無理なモンは無理」
錬金術師「明日の朝、中央国に出発して、1週間くらいの期間を目安にして直接断りをいれてくるわ」
女店員「1週間か…結構かかるけど、戻るまでのお店はどうするの?」
錬金術師「まぁ店番だけならお前ができるだろうし、いいんだけど…」
女店員「だけど?」
錬金術師「修理やら錬金術の専門的なことに関しては未熟だし、何より免許すらねェ」
女店員「うん」
錬金術師「俺が留守の間、錬成師のやつが2日に1回くらいのペースで来てもらうことにした」
錬金術師「わからないことがあったら、そいつに聞いてくれ」
女店員「なるほど。うん、わかった」
銃士「錬成師?」
錬金術師「俺の属してた錬金術研究機関の後輩」
錬金術師「腕はそれなりだし、採取してきたもんも基本は保存とか製錬できるし。安心してくれ」
銃士「わかった。じゃあ、店長が離れている間…私は何をしていれば?」
新人鉱夫「僕も何をすればいいんでしょうか」
錬金術師「今日とやることは変わらないな。さっき言った通り、錬成師は基本なら商品クラスのものは作れるし」
銃士「わかった」
新人鉱夫「了解しました!」
錬金術師「じゃあ、よろしく。んでさ、今日採ってきた獲物とか見せてくれ」
銃士「私は外にあるよ。見に来て」
新人鉱夫「僕のは基本、鉄鉱石をメインにとってきたので倉庫にいれときました」
錬金術師「んじゃ、銃士のだけチェックしておくか」
ガチャッ、ギィィ…
銃士「えーとこれだね。小型のアウルベアがいたから、仕留めてきた」
銃士「あと、群生したのを見つけたんだけど…使えるかどうかは分からないから、アカノミとアオノミが1個ずつ」
錬金術師「群生した天然のアカノミとアオノミだと?」
銃士「山を切り分けて進んだんだけど、小さな水辺があって。そこに生ってたんだ」
錬金術師「…まじか。ただ、問題は味と質だな。条件によっては質が大きく落ちる」
銃士「だから1個ずつ。食べてみてよ」
錬金術師「そうだな。どれどれ」スッ
カリッ、シャリシャリ…
錬金術師「…」モグモグ
錬金術師「んぐ…ふむ…」ゴクンッ
銃士「どう?私も1個食べたんだけど、悪くはないかなって」
錬金術師「最高級品とまではいかないが、甘みは強いな」ペロッ
銃士「使えそう?」
錬金術師「充分。少しずつこれを精製して、ポーションやらにするのにもいいな」
銃士「よしっ!」
錬金術師「それじゃ今日は一旦、ここで解散。明日からいないが、各々よろしく頼むぞ」
銃士「うんっ」
新人鉱夫「はいっ!」
女店員「わかった!」
錬金術師「では、お疲れ様でした。俺はこのアウルベアの保存できるようにしてから帰るから」
銃士「手伝う?」
錬金術師「いや、いい。すぐ終わるしな」
銃士「そっか」
女店員「えーとそれじゃ、銃士さん、帰りましょうか?」
銃士「う、うん。シェアに少しずつ慣れてきたけど、少しまだこそばゆいな」ハハハ
女店員「えへへ、私も少しなんか変な感じです」
新人鉱夫「店長さん、僕は晩ごはんでも作っておきますよ」
女店員「あ、そっか。新人鉱夫くんは店長とシェアだもんね」
新人鉱夫「はいっ」
女店員「じゃあ…店長、新人鉱夫くん、また明日~!」
新人鉱夫「はーい!」
錬金術師「うい~」
…………
……
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 次の日・早朝 】
錬金術師「んじゃ、朝早いけど行ってくるわ。みんなによろしく言っといてくれ」
新人鉱夫「はい。気を付けて行ってきてくださいね」
錬金術師「うむ…」
タッタッタッタ…
女店員「はぁ…はぁ…、待って~!」
銃士「おーい!」
錬金術師「…おう?」
タタタタッ…ピタッ
女店員「はぁ~はぁ~…」
銃士「よかった、間に合ったな」
錬金術師「お前ら、朝早くわざわざ見送りに来てくれたんか?」
女店員「…当たり前でしょ!店長補佐の私が、見送りしないでどうするの!」
銃士「新人たるもの、店長が出かけるとなれば朝の早起きは当然…」
錬金術師「ははは、確かにそうだな!ありがとさん!」
女店員「それと…はいっ」ズイッ
錬金術師「ん?」
女店員「お弁当!朝ごはん!作ったの!」
錬金術師「…まじで」
女店員「どうせ朝ごはんも、バターピーナツとコーヒーとかで済ませようとしてたんでしょ!」
女店員「しっかり食べて、身体に気を付けてね!」
錬金術師「お、おう。悪いな…ありがとう」
女店員「うんっ」
錬金術師「んじゃ、行ってくるわー!」
女店員「いってらっしゃい!」
銃士「いってらっしゃい!」
新人鉱夫「いってらっしゃいませ!」
ザッザッザッザッザッ…
ザッザッザッ……
……………
………
……
…
…
………
……………
銃士「ふむ…行ってしまった、か」
女店員「うん」
銃士「はてさて、どうなることやら」
女店員「店長のことだし、うまく口車に乗せられて臨時職員とかになりそうだけど…」
銃士「そうなったら、しばらく会えなくなるんじゃないか」
女店員「まぁ店長だから…」
銃士「あぁ…」
新人鉱夫「僕は僕のできる事をしてるだけですっ」
女店員「私もかな。錬成師さんとやらも来るみたいだし、二人とも素材集めとか色々任せたからねっ!」
銃士「わかってるさ。日々鍛錬のもと、もっともっと凄い素材を採ってきて店を盛り上げようじゃないか」
新人鉱夫「少しずつ強くなって、一人で鉱石採掘も深く潜れるようになりたいなぁ」
女店員「少しでも成長して、お店を頑張って、店長を驚かせよっか!」アハハ
新人鉱夫「そうですね、頑張りましょう!」
銃士「そうだなっ!」
女店員「うん!」
…………
………
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 2日後・中央軍直属・特待制 錬金師 養成学校 】
キーンコーンカーンコーン…
ザワザワ…ガヤガヤ…
錬金術師「さぁて、遠い道のりでしたが、やってきました特待学校!!」
錬金術師「…でけぇ!!」
錬金術師「けど…」チラッ
生徒たち「今日の授業難しかったな。製錬学自体は楽だけど、実践になるとなぁ」
生徒たち「生物学よりマシだろ。未だに生き物のエキスの抽出とか慣れねぇわ…」オエッ
生徒たち「金属加工は、下級鉱石と上級鉱石だとやっぱり差って大きく出たりしちゃうよなぁ。そこの差をさ…」
ザワザワ…ワイワイ…
錬金術師「…少し懐かしい気もするな。さっさと教員室探すかぁ」ウーン
トコトコトコ…
錬金術師「しかし広いな。道に迷う前に、仕方ねぇが…すいませーん!そこの君~!」
生徒「はーい?」
錬金術師「ちょっと聞きたい事があるんだけど、教員室はどこかな」
生徒「職員室ですか?それなら、北校舎の入口から入ってすぐ右ですよ」
錬金術師「おっ、ありがとう」
生徒「いえいえ。それではこれで」ペコッ
タッタッタッタッ…
錬金術師「北校舎ねぇ…」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 北校舎 教員室 】
…コンコン
先生「どうぞー」
ガチャッ
錬金術師「失礼します。えーと…」
先生「はいはい、どうしましたか?」
錬金術師「臨時職員の件に関してなんですが、分かる方はいらっしゃいますか?」
先生「あぁ!校長室なら隣です!」
錬金術師「なるほど…、すいません失礼しました」
先生「いえいえー」
…バタンッ
錬金術師「校長室ね…えーと…」
トコトコ…ピタッ
錬金術師「ここね」
…コンコン
校長「どうぞ」
…ガチャッ
錬金術師「失礼します」
校長「おや、どなたですかな」
錬金術師「臨時職員の件について、お話をさせていただこうと思いまして」
校長「…あぁ、それじゃあなたが機関長のおっしゃっていた!」
錬金術師「そう…だと思いますけど、話を受けにきたわけじゃないんです」
校長「受けにきたわけではない?」
錬金術師「えぇ、今回のお話、お断りさせていただこうと」
校長「…お座りください」
錬金術師「失礼します」
………
……
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
錬金術師「…というわけです。お店もあり、お話はお受けできません」
校長「なるほど…そういうことでしたか…」
錬金術師「申し訳ない」
校長「いえいえ、そういう事情なら全然かまいません」
錬金術師「そうですか、ご理解頂きありがとうございます」ペコッ
校長「しかし参ったな…」
錬金術師「やはり人手不足と?」
校長「いえ、国に申請を出して職員をもう1度募集してくるのが1週間前後かかるんですよ」
校長「先生はそれなりにおりますが…」
錬金術師「1週間か…。ちなみに、自分が担当するのは何でしたか?」
校長「総合分野を担当していた方だったので、ほぼ全ての分野を網羅しておりました」
校長「ですので、そこまでの人材となると募集にも時間がかかり…」
錬金術師「確かに全分野を抑えるには錬金師としてもそれなりのグレードが必要ですね」
校長「…1週間だけ、どうかお手伝いをしてもらえませんか」
校長「その後は別の臨時職員が来るよう手配しますので、どうか…」
錬金術師「1週間か…しかし…」
校長「そちらの機関長に聞いた話では、あなたは素晴らしい方で、右に出る者はいないと聞いていました」
錬金術師「…」ピクッ
校長「ぜひ、働いてほしかったのですが…。本当に誰よりも、美しい腕を持つと聞いていたので…」
錬金術師「…」ピクピクッ
校長「…お願いできませんでしょうか。どうか、1週間だけでも」ペコッ
錬金術師「い…1週間程度なら構いませんよ?」フフン
校長「本当ですか!」
錬金術師「…ですが!こほんっ、確認したいことがいくつか」チラッ
校長「何でしょうか」
錬金術師「自分はもう公的機関には属しておりません。それでもいいですか?」
錬金術師「もう1つは労働費用について。店の経営も考え、やや多めに費用も請求したい」
校長「機関長が推す人物ですし、国から認められたのも一緒、問題ないです」
校長「2つ目は、1週間で100万…いかがでしょう」
錬金術師「300万」
校長「!」
錬金術師「元とはいえ、マスターランクの遠征講演での1回の平均費用は100万」
錬金術師「それを考えれば安いこと、どうですか」
錬金術師(高いっつって止めてもらってもいいし、ふっかけとこ)
校長「…」
校長「…わかりました」
錬金術師「えっ」
校長「国からもお金が出ていますし、元々1か月300万の支払い予定でした」
校長「1週間では痛手ですが…、せっかく来ていただきましたので、お支払いします」ペコッ
錬金術師「…そ、そうだとも。そのくらいの心意気があってこそだと思います」
校長「いえいえ、マスター様があってこそです」
錬金術師「…あっ、そうそう。もう1つ条件があります」
校長「はい?」
錬金術師「俺がマスターだったって事は伏せて紹介してください」
錬金術師「国に認可されて特別に総合授業をできるみたいな紹介でいいんで」
校長「しかし、それは…」
錬金術師「機関に属していないマスターなんて、マスターじゃない」
錬金術師「それを飲めないなら、引き受けられません」
校長「…そうですか。わかりました、マスターとしては紹介はやめましょう」
錬金術師「頼みます」
校長「いえ、そのくらい」
カチッ…キーンコーンカーンコーン…
錬金術師「おっ」
校長「始業開始のベルですね。先ほどまで生徒は外にいましたでしょう」
錬金術師「あぁ、なるほど」
校長「本来、来てくれた日から授業は請け負う事になってたので…」
校長「今日から早速紹介、授業に入ってもらってもよろしいでしょうか」
錬金術師「いきなりですね。ん~…、っていうか、そうだ!!」ガタッ
校長「!?」ビクッ
錬金術師「俺、先生とかしたことないですよ!」
校長「あぁ…」
錬金術師「挨拶だのなんだの、授業開始とかわかりませんし!」
校長「それなら、サポート役の先生も付けます」
校長「授業の開始、終了はその方に従い、あとは教科書通りに進められるようにしましょう」
錬金術師「…なるほど、それなら出来そうだ」
校長「では早速。次の授業から担当して頂きましょうか」
校長「今、サポート役の方をお呼びしてきますので、授業内容について聞いてください」
錬金術師「わかりました」
校長「では、少しの間、お待ちください」ペコッ
ガチャッ…バタンッ!!
錬金術師「…」
錬金術師「どうして、こうなった」
…………
………
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
…ガチャッ!
校長「お待たせしました!」
術士先生「こ、こんにちわです」ペコッ
錬金術師「あ、どーも」
校長「こちらが貴方をサポートして頂く術士先生です」
校長「中央機関に属し、現在のランクは高位錬金術師になりますね」
錬金術師「ほぉ、高位ですか。女性ではあまり見かけませんよ、素晴らしいですね」
術士先生「い、いえいえ!そんな!」パタパタ
校長「術士先生、こちらは錬金術師の位をもつ…えー…」
錬金術師「店長です、よろしくお願いします」ニコッ
術士先生「店長さんですか?よろしくお願いします」ペコッ
校長「位は貴方より低いですが、国には認められた方です」
校長「総合の担当をして頂きますので、短い期間ですが仲良くやってください」
術士先生「はいっ、よろしくお願いします!」
錬金術師「よろしくおねがいします」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 北校舎2階 】
カツ、カツ、カツ…
錬金術師「きれいな校舎ですね」
術士先生「そうですね、生徒も素晴らしい子ばっかりで。私なんかすぐ抜かれちゃいそうです」
錬金術師「やはり特待生ということで、エリートばかりが?」
術士先生「はい。世界から集まってますが、2年生になると残っているのは20名くらいでしょうか」
錬金術師「…残る?」
術士先生「錬金師だけに限らず、冒険者や鍛冶の分野なども、中央特待学校はありますよね」
術士先生「全て蹴落とし式なので、万年1年生の子や、辞める子も大勢いるんです」
錬金術師「あぁ…」
術士先生「ですが2年生になると、選び抜かれた子たちですからねぇ…」
錬金術師「知力共々高い、と」
術士先生「そういうことです!」
錬金術師「2年生で合格点を貰うと、卒業なんですか?」
術士先生「そうですっ」
カツカツカツ…ピタッ
術士先生「えっと、ここが担当の教室になります。アシスタントはしますので、頑張りましょう!」
錬金術師「"総合学"の教室ねぇ…」
錬金術師「ってことは、俺は基本的にここにいて、来た生徒に教えればいいんですかね」
術士先生「総合は、実践から普通授業からありまして」
術士先生「他の教室に赴くこともありますが、日割り担当はえーと…こちらになります」ペラッ
錬金術師「…」
錬金術師「上位製錬学、上位生成学、属性理論、歴史学、実践Ⅱ、Ⅲ…」
術士先生「総合学教室ですからね、あとヘルプで呼ばれる事もあるかも…」
錬金術師「ちょっと待って、総合学科の担当する先生って、学校の地位だとどんくらいなんですかね」
術士先生「学校での地位ですか?」
錬金術師「校長が一番偉いなら、次に副校長とか、教頭とか…そういうやつです」
術士先生「政府に属している学校ですからねぇ…」
術士先生「総合学は、機関でもエースクラスが必要ですし、校長くらいありそうな…」
錬金術師「だと思った…。かなり、責任重大な立場な気が…」
術士先生「多分そうじゃないでしょうか」
錬金術師「…」
術士先生「ま、まぁ大丈夫ですよ!それじゃ、生徒も待ってますし教室に入りー…」
錬金術師「ま、待って待って!もう1つだけ!」ガシッ
術士先生「わわっ、何でしょうか?」
錬金術師「授業は、基本的な進め方とかあります?」
錬金術師「それとも…完全に俺任せですかね」
術士先生「1年生や2年生毎に授業と、今までやってた内容は違います」
術士先生「どこまでやってたかは、そのつど教えますので、あとは店長さんに任せますよっ」
錬金術師「そうですか、わかりました」
術士先生「では、入りますね。今の時間は2年生…エリートな子たちですよ~」
…ガラッ!!
錬金術師(一体俺は、ここで何をしてるんだろうか…。断りに来たはずだったんだが…)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 教 室 】
術士先生「こんにちわー」
錬金術師「ちわー…」
生徒「起立!礼!」
ガタガタッ!!
生徒たち「…よろしくおねがいします!!」
生徒「着席!」
…ストンッ!
錬金術師「おふっ…」
術士先生「はい、えーとですね。先日、この総合教室を担当していた先生が抜けましたが」
術士先生「短い期間だけ、こちらの先生が担当することになりました」
術士先生「ご挨拶してください」
生徒たち「よろしくお願いします!」
錬金術師「よ、よろしく~…」
術士先生「私はサポートにつきますので、授業はこちらの先生に進めてもらいます」
術士先生「先生、ご挨拶を」
錬金術師「あ、えーと…」
生徒たち「…」
錬金術師「名前は…まぁ、店長先生とでも呼んでくれ…とか…?」
生徒「て、店長…ですか?」
錬金術師「うむ。あ~…そうだな、店長さんとでも呼んでくれ。先生とか堅苦しくなくていい」
生徒「し…しかし…」
錬金術師「つーか、重い空気は苦手なんで、軽い感じで!」
生徒たち「…」
錬金術師(…)
錬金術師(…この空気、なんとかしてくれ)
術士先生「て、店長先生とでも、店長さんとでも、自由に呼んでくださいね!」
術士先生「店長先生、今の授業は、こちらの教科書にありますこのページの…」
???「ちょっと待ってください!」ビシッ
術士先生「どうしました?えーと…」
白学士「白学士です。店長先生とやらに、ご質問したいことがあります」
術士先生「白学士さん、どうしました?」
錬金術師「俺に質問だ?」
白学士「…あなたは、本当に総合学担当なのでしょうか」
白学士「総合学は、"先生"として教える立場の少なさを補うために設けられた場所」
白学士「あらゆる分野に精通してこそ、できると存じます」
白学士「ですが、その…軽すぎる挨拶。そこまでの実力はあるように思えませんが…?」
錬金術師(はぁ~面倒くせぇ。どこにでもいるんだねぇ、こういうやつ…)
術士先生「こ、こら白学士さん!先生に向かって…」
白学士「貴方には聞いておりません」
術士先生「なっ、それが先生に…」
錬金術師「まぁまぁ術士先生。確かに俺への質問みたいだし、俺が答えましょう」
白学士「…よろしくお願いします」
錬金術師「まぁ、ぶっちゃけ俺の錬金師としての公式ランクは、公的機関じゃ存在しない」
錬金術師「あえてあげるなら…"錬金術師"だ」
…ザワッ!!
生徒たち「!」
白学士「なっ、れ…錬金術師!?ただの…ですか!?」
錬金術師「そうそう。そこのおっとりした術士先生より下なの」
白学士「ふ…ふざけてるんですか?」
錬金術師「あん?」
白学士「少なくとも、高位錬金術師クラス以上じゃないと授業は出来ないはずです!」
白学士「それをただの中位錬金術師が…出来ると思ってるんですか!」
白学士「人手不足とは聞いていましたが、まさか中位程度で総合学の担当なんて!」
錬金術師「…中位程度で悪かったですね!」
白学士「術士先生、本当にこの人が総合学の担当なんですか!?」ビシッ
術士先生「え、えぇ…。校長先生からも認可されて…」
白学士「あ…あり得ない…」
白学士「中央軍の、政府から直属を受けているこの特待学校で貴方のような…!」
錬金術師「じゃあみんな、教科書をひらいてー。次の項目これっすよね、術士先生」
術士先生「え、あ…そ、そうですけど」
白学士「は、話を聞いていない!!ちょっと!!」クワッ!
錬金術師「…はいはい。何よ今度は」ハァ
白学士「先生と認められません!術士先生に授業進行の立場を代わってください!」
錬金術師「いや無理だろ。確かに代ってもらいたいほど面倒だけど、仕事だもの」
白学士「め、面倒くさい!?」
錬金術師「あ、やっべ。…聞こえた?」ナハハ
白学士「み、みんな聞いたか!?今、僕らの授業を面倒くさいと!!」
ザワザワ…ガヤガヤ…
生徒たち「聞こえたぞ…俺らの事なんだと思ってるんだよ…」
生徒たち「やっぱり臨時講師なんてろくなもんじゃない…」
ワイワイ…
錬金術師「あらら…」
術士先生「ど、どうするんですかぁ~…」
錬金術師「はぁ…」
白学士「すみませんが、貴方の授業という限り、我々は授業を受けたくなど…!」
錬金術師「まぁ~待て。落ち着け。わかった」
白学士「…むっ」
錬金術師「面倒といったのは謝る。だから、授業としてやらせてくれ」
錬金術師「これでも仕事は仕事、やるときはしっかりやらせてもらうつもりだ」
白学士「…やる気があっても、所詮中位では授業の内容を把握出来ないんじゃないですか」フン
錬金術師「うん…そうだ、うん、そうか。わかった」
白学士「?」
錬金術師「この中で一番、今日の授業内容の"上位製錬学"、出来る奴は誰だ?」
ザワザワ…
生徒たち「一番出来るやつ…?」
生徒たち「やっぱ白学士かねぇ…」
白学士「…僕だと思いますよ、それが何か?」
錬金術師「白学士クンな。わかった。上位製錬学における質問を、俺にぶつけろ」
白学士「はい?」
錬金術師「全部答えてやる。その代わり、俺を先生と認めて、全員で授業を受けろ」
白学士「ふふん…答えられなかったら?」
錬金術師「今すぐ授業をやめて、出てってやるよ」
白学士「…いいでしょう」
生徒たち「おぉ、いいなそれ!倒しちまえよ白学士!」
生徒たち「ボロボロにしてあげたら!」
白学士「…これでも上位製錬学は、1年の頃に先に勉強をしていて…」キラッ
錬金術師「いいから早く言えよ」
白学士「…」
白学士「じゃ、じゃあ!製錬学において、1.12硝酸塩に分類されている鉱石は!」ビシッ
錬金術師「重晶、天青、硫酸亜鉛、硬石、石膏、タンバン、シャリ」
錬金術師「アントレライト、ミョウバン、鉄ミョウバン、グリヴ、ポリィ」
白学士「ぐっ…正解です…」
錬金術師「ほら、次っ」
白学士「ギリシアにて生まれた、四大属性の相互変換理論と、もう1つの理論は何!?」ビシッ
錬金術師「"星と金属との照応思想の成立"」
白学士「…正解です」
錬金術師「基本じゃねえか。つーか上位精錬学関係ねえぞ」
白学士「むむ…」
錬金術師「しかしまぁ、お前…口だけじゃなくてそれなりに勉強はしてるみたいだな」
白学士「当たり前です!というか、ここにいる全員が基本という基本はやりつくしていますよ」
生徒たち「…」ゴゴゴ
錬金術師「ん~そうか。基本が出来てるか…」
錬金術師「…ふむ、よし」
…パンッ!!
錬金術師「うむ!わかった、戦いっつーのは疲れるし、ちょっと面白い話でもするか!」
白学士「面白い話?っていうか、勝手に話を変えないでー…」
錬金術師「…三原質、四大元素、七金属…お前らは知ってるよな?」
白学士「全く聞いてない!!」
白学士「それは…ギリシアにおいて思想し、現在の錬金術にも多大な影響を与えている流派の基本ですね」
錬金術師「正解。確かに、その3つは、ギリシアにおけるヘルメス学流派となって、今の基本だ」
錬金術師「だが…それが生まれた事で大きな問題も生じているんだ」
白学士「…問題ですか?」
錬金術師「ヘルメス学は基本と始祖にして最高峰。これが今、新たなカタチとして生まれ変わろうとしている」
白学士「新たなカタチ?」
錬金術師「"王者の法"というものは、聞いた事がないだろう」
白学士「王者の…」
術士先生「法…?」
錬金術師「王者の法というのは、現代における新たな"流派"の1つなんだ」
白学士「…聞いたことないですね」
術士先生「私も知りませんよ、何ですかそれ…?」
錬金術師「"エリクサー"、"黄金変換"」
錬金術師「この2つは錬金師としての最大の禁則事項…これは知ってるな」
白学士「当たり前です。人体実験が絡み、黄金の練成は著しく市場を破壊する。禁術ですよ!」
錬金術師「この禁術は、今も研究している団体がいる。」
白学士「は?そんなバカな…そんな団体が存在するわけ…」フン
錬金術師「"アルス・マグナ"」
白学士「…アルス・マグナ?」
錬金術師「現代錬金術としてエリクサーと黄金変換の2つを目標にし」
錬金術師「あらゆる非道を繰り返してきた思想団体、それがアルス・マグナだ」
錬金術師「そのアルス・マグナの考案した、エリクサーを含む現代錬金術…」
錬金術師「その新たなる思想と、技術の基本を示した流派こそ"王者の法"!」
白学士「…で、でたらめもいいとこですね!」
白学士「禁術の目標とした団体、アルスマグナ?その基本流派の王者の法?」
白学士「あはは…そんなものあるわけない、聞いたことないです!」
錬金術師「くく、そりゃ当たり前だ。表舞台にゃ絶対に出ない団体だしな」
白学士「…それが本当だして、なぜ貴方がそんな事を知っているんですか」
術士先生「私も、そんな話聞いたこともないですよ…」
錬金術師「だってこれ、基本的にマスターランクの技術を持つ人間しか参加できない機密事項でな…」
錬金術師「…」
錬金術師「…あっ。やべぇ、そうだった!!…ごめん、みんな。今の忘れて…」ハハ…
白学士「え…えぇぇっ!」
…ザワザワッ!!
生徒たち「な、なんだって!?」
生徒たち「聞いたかよ今の!」
術士先生「そ、それは言っちゃいけない話だったんじゃ!!」
錬金術師「だから忘れてって!俺、本当に追放されちゃうから、こんな話したってバレたら!!」
白学士「待ってください、マスターとか、本当に追放とか、あなた一体何なんですか!」
錬金術師「え、えっとそれは~…」タジッ
ガヤガヤ…
生徒たち「…本当なのか今の?」
生徒たち「あの人がマスター!?それにアルスマグナとか…一体…」
ザワザワ、ガヤガヤ…
錬金術師「あ~…やばいかね」ポリポリ
術士先生「…店長先生…。店長…錬金術師…、店長…」
術士先生「…!」ハッ
ゴソゴソ…、ペラペラペラッ!!
術士先生「!」ピタッ
術士先生「…」ジー
術士先生「…ッ」
術士先生「そ、そういうことでしたか…っ」
術士先生「…て、店長先生っ!!」プルプル
錬金術師「ん?」
術士先生「握手してください!!!」ギュウッ
錬金術師「おふっ?」
術士先生「まさか店長先生があの、最高純度96%のオリハルコンの精錬をし…」
術士先生「最年少でマスターになった、あの方だったなんて!!」
錬金術師「な、なんでそれをっっ!?」
術士先生「精錬学の教科書、150ページ!精錬学の歴史!!」ズイッ
錬金術師「な、なに!?」
錬金術師「ん~…?」シー゙ッ
"オリハルコンの最高純度の精錬を行った記録は、96%であり、とある青年が行った記録である"
"天才として名高く、最年少マスターとなった彼だったが、今は小さな錬金術の店をどこかで…"
錬金術師「…俺のことだーーー!?!?」
術士先生「すごいです!すごすぎます!!」
…ザワッ!!ガヤガヤ!!
白学士「ほ、本当にあの伝説が、店長先生なんですか!?」
生徒「まじかよ!!本物!?」
生徒「すげぇぇ!最初っから只者じゃねえなとは思ってたんだ…」
錬金術師「はは…やべえな」
白学士「…信じられない」
…………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 校 長 室 】
ザワザワ…ガヤガヤ…
生徒「見える?あそこに座ってる人がそうなんだって!」
生徒「すげぇぇ…俺らにとって神様じゃん…」
生徒「凄いよね、あとでサインもらっちゃおう!」
ワイワイ…
錬金術師「…不味った…」ハァァ
校長「あなたが、まさかあのオリハルコンの方だったとは…」
校長「素晴らしい腕前をお持ちだったとは聞いておりましたが…」
校長「こうしてお会い出来て、本当に光栄です」ペコッ
錬金術師「いやそんな堅っ苦しい挨拶せんといてください」
術士先生「も、もう一度握手してください!」
錬金術師「はは…」
ギュッギュッ
校長「写真など見たことありませんでしたから、言われるまで気づきませんでした」
錬金術師「そりゃそうでしょうね、自分は極力、表に出ないようにしてましたから…」
校長「貴方のような方が臨時職員とは…、非常にうれしく思います」
錬金術師「いえいえ。でもこの騒ぎ…、うるさいのは苦手なんですがねぇ…」
校長「…そうですね。それぞれの先生方に、落ち着くように言うように指導してもらいましょうか」
錬金術師「んー…。いや、一々そんな事も言わなくていいでしょう」
錬金術師「そのうち収まるとは思いますし、1週間程度しかいませんからね」
校長「そうですか…」
錬金術師「はは、気にしないで下さいな。それじゃ、次の授業に行きますか」クルッ
術士先生「あっ、はい!」
錬金術師(やれやれ、どうなるんだか…)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
カツ、カツ、カツ…
術士先生「…」キラキラ
錬金術師「…」
術士先生「…」キラキラ
錬金術師「…」タラッ
術士先生「…」キラキラ
錬金術師「…術士先生、そこまで見られると恥ずかしいんですが…」
術士先生「あっ、す、すいません!」
錬金術師「はぁ~不味い騒ぎになっちまった…」ブツブツ
術士先生「でも、尊敬しますよ!凄い方なんですから!」
錬金術師「…別に凄くなんかないですよ。それに、実質…社会的地位は貴方より下ですし」
術士先生「マスターさんが謙遜しないでください!」
錬金術師「もう、ただの中位錬金術師ですから」
術士先生「実力があれば、元とはいえ、マスターさんには変わりません!」
錬金術師「…」
錬金術師「…やっぱり、術士先生もいつかマスターランクを狙っているんですか?」
術士先生「出来る事なら、なりたいですよねぇ」
錬金術師「…いいもんじゃないですよ」
錬金術師「見えなくていい物も見える。いや、知ってしまう…見えない幸せだってある…」ハァ
術士先生「…え?」
錬金術師「あ、いや何でもないです!」
術士先生「…?」
錬金術師「はは…」
術士先生「…そういえば、さっき言ってた、アルスマグナって本当に存在するんですか?」
錬金術師「…」
術士先生「でも店長先生の言うことだし、本当なのかも…」
錬金術師「…術士先生。噂になるのはいい。ですが、貴方のような力のある人が、表であまり口にしちゃいけない」
術士先生「えっ?」
錬金術師「…」
…カツカツカツ…
術士先生「あ、待ってください!」
カツカツッ…
錬金術師(…くそっ、調子に乗りすぎた…)
………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 17時 】
キーンコーンカーンコーン…
生徒「起立!礼っ!」
生徒たち「ありがとうございましたっ!!」
錬金術師「はい、お粗末サン」
術士先生「皆さん、これで最後の授業でしたね。気をつけて帰るんですよ」
生徒たち「はいっ!」
生徒「さすがの授業でした、明日もよろしくお願いします!」
生徒「店長先生、タメになるお言葉の数々…ありがとうございましたぁっ!!」
錬金術師「へいへい」
ザワザワ…
ガヤガヤ…
………
……
…
…
……
………
…ストンッ!
錬金術師「はぁ~…全員帰ったか。一日終わった…。慣れないことしてドっと疲れた…」
術士先生「お疲れ様でした♪」
錬金術師「えーと…明日は何時にどこに来ればいいんです?」
術士先生「校長先生に挨拶をしたら、あとはココで待機でいいんじゃないでしょうか」
錬金術師「了解っす」
術士先生「店長先生、初めての授業とは思えないくらいに生徒の心を掴んでましたねぇ…」
錬金術師「多少有名だからって、面白がってるだけですよ」
術士先生「いえいえ!授業内容もしっかりわかりやすくて、独特の観点というか…」
錬金術師「実践は好きでしたけど、こういう頭に入れるのは嫌いでしてねぇ」
錬金術師「面倒くさくて、どうすれば楽に覚えられるかってのだけに絞ってたんで」ハハハ
術士先生「それって凄いことのような…」
錬金術師「って、あぁっ!!もう17時か…やばっ!!」ガタッ!
術士先生「!?」ビクッ
錬金術師「校長によろしくいっといてください!ちょっと急いで外出ます!」
術士先生「ど、どうしたんですか!?」
錬金術師「用事を思い出しました!では、明日もよろしくお願いします!」
術士先生「あ、は…はいっ!」
錬金術師「それでは!」
タッタッタッタッタッ…、ガラッ、バタンッ!!
術士先生「…」
…タタタタッ、ガラッ!!
錬金術師「…ただいま!」
術士先生「お、お帰りなさい?」
錬金術師「…忘れもの!!」
術士先生「あはは…何か忘れたんですか?」
錬金術師「…今日は有難うございました!サポート役が凄い楽で助かりました!」
錬金術師「その言葉を忘れてました!ありがとう!…ではっ!」ビシッ
術士先生「えっ!」
ガラッ、バタンッ!!タッタッタッタッタッ…
術士先生「…」
術士先生「素敵な、人…」ホウッ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 中央都市 】
タタタタタッ…
錬金術師「はぁ…はぁ…。やばいやばい、もう夕方じゃねえか!」
錬金術師「泊まる場所…宿泊施設とか何も考えてなかった!」
錬金術師「今から泊まれるところあるか…、宿場はどこじゃああ!」
タッタッタッタッ…
錬金術師「学校から近いほうがいいし、連泊できる場所探さねぇと…」
錬金術師「くっそ、校長にでも聞いてきたほうがよかったか」
タタタタッ…
錬金術師「えーと…どこかいい場所は…」キョロキョロ
カツカツカツ…スッ…
???「…」
…チャキンッ
錬金術師「…ん?」
???「振り向かないで。動かないでください」
錬金術師(この感じ、銃か)
錬金術師「…何の用かな。金でもほしいのか」
???「まさか、中央に来ていただけるとは。だが、思ってた事とは違うようですね」
錬金術師「…何のことですかね。人違いでは」
???「てっきり、仲間になると思ってたんですけどね」
錬金術師「…だから、何のことだ」
???「まさか特待学校で、我々の存在を表に出すとは思いませんでした」
錬金術師「…お前、アルスマグナの下っ端か。情報が早いことで」ハァ
???「別に言われたからといって、どうもしませんけどね」
錬金術師「じゃあ背中に向けてる銃は何よ。怖いんだけど」
???「念のためですよ。我々は、貴方を決して軽く見たりはしませんから」
錬金術師「あぁそうですか。じゃあ早く銃をおろしてください。早く宿場見つけたいんで」
???「…」
錬金術師「…まだ、俺を仲間にしたいのか?」
???「貴方の腕と知識があれば、"エリクサー"は必ず出来る」
錬金術師「…アルスマグナに入会するのは断ったはず。その為に、マスターの地位も返還したはずだぞ」
錬金術師「つーか、そんな事に誘われるなら元々マスターの地位なんか断ってたんだけどね」
???「気は変わりませんか」
錬金術師「…気は変わらん。人体実験なんざ、気持ちが悪くてヘドがでる」
???「ふふ…この状態で強気な口を聞けるとは、さすがですね」
錬金術師「いいから宿場探させてくれ。今日のは悪かった、口が滑っただけだ」
???「もし、貴方が全てをしゃべっていたら問答無用で殺していた。その性格、直したほうがいいのでは」
錬金術師「余計なお世話だ!」
???「…中央に来た、それだけで我々は貴方を常に監視している」
???「下手な動きはしないことです。何もしなければ、命は保障する」
錬金術師「俺は本当に、特待学校の先生の手伝いをしにきただけだ」
錬金術師「お前らに手を貸すつもりもなければ、何をする気でもない。信じろ」
???「…信じますよ。貴方ほどの人間、殺すには惜しいですから」
錬金術師「銃を向けながら言うセリフですかね」
???「…まぁいいでしょう。それでは…」スッ
錬金術師「…」
錬金術師「…待て。お前、考えたら…」クルッ
街人「えっ?な、何ですか?」ビクッ
錬金術師「…人ごみに消えやがったか。すまん、何でもない」
街人「…そうですか。では…」
錬金術師「…」
錬金術師「うーん。穏やかじゃないねぇ…」ポリポリ
…カァ、カァ…
錬金術師「…やべっ!マジで暗くなってきた、早く宿場見つけねえと!」ダッ
タッタッタッタッタッタッ…
タッタッタッ…
……
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 宿 場 】
…ドサッ!!
錬金術師「はぁ~!」
錬金術師「…」
錬金術師「疲れた一日だった…」
ゴソゴソ…トクトク…
錬金術師「お茶でも淹れて、少し休むか…」
カチッ、ゴォォォ…グツグツ…
錬金術師(しかし…、余計なことしてしまったな…)
錬金術師(調子に乗るの悪い癖、直さねぇと…本当に殺されかねん)
グツグツ…
錬金術師(…)
錬金術師(なんだか…火を見てると落ち着く…)
錬金術師(…眠ぃなぁ…)
錬金術師(ふぁ…)
錬金術師(…)
………
……
・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
…
……
………
……………
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 数年前・錬金術機関 】
マスター(店長)「…おい、早くもってこい!」
見習師(練成師)「先輩、待ってくださいよぉ!」
機関長「おいおい、大切な新人なんだから丁重に預かってくれよ」
マスター「見習師とか、適当に扱ってなんぼだろ」
マスター「そうじゃねえと、成長するもんもしねえっしょ」
機関長「しかしな…」
見習師「でも先輩…僕、最近…あまり寝てなくて辛いんですが……」
マスター「あぁっ!?」
見習師「ひぃっ!なんでもないです!」
マスター「さっさと言われたの持って来いっての!」
見習師「は、はいぃ!」
タッタッタッタッ…ガチャッ、バタンッ…
マスター「ふん」
機関長「…」
機関長「なぁ…」ハァ
マスター「何すか」
機関長「お前だって、何も知らない時期があったんだ。もっと優しくしてやれないのか?」
マスター「…」
機関長「どことなく、親父に似てきたな」
マスター「…はぁ!?あんなクソ親父と一緒にするんじゃねえよ!」
機関長「一緒じゃないか。下の者には厳しいばかりで」
マスター「親父とは違うだろうが!あいつは、厳しいばかりで…下に必要なことは教えないんだぜ!」
機関長「…それを見てきたのに、同じように騒ぎ、こき使うのか」
マスター「だから、違うっつってんだろ!俺は必要な事は教えてる!」
マスター「早く持ってくるのは当然のこと…、後輩に必要な技術を教えてるだろうがよ!」
マスター「親父は出来ない奴は切り、その間違えも教えなかった!俺とは違うだろ?な?」
機関長「…お前が俺の下についた時、あんな風に怒鳴り散らしても平気だったか?」
マスター「あ?」
機関長「お前が機関に入って2、3年足らずでマスターの地位まで上り詰めた」
機関長「親の血もあるんだろうが、悪いほうも引いているようだな」
マスター「…んだと」
機関長「俺から見れば、お前も親父も変わらん。お前の声…姿勢…全てが親父にそっくりじゃないか」
マスター「あ…あんなクソ野郎と一緒にすんなつってんだろうが!!この野郎!!」
ダダダダッ…、ブンッ!!!
???「…待ってください!」
…バキィッ!!
???「う゛あ゛っ!」
ドォンッ!!
マスター「…」
マスター「…!」
機関長「お、お前…」
見習師「…いたた…」
見習師「…」タラッ
見習師「あ、鼻血…」
機関長「だ、大丈夫か!何で出てきた!」ガバッ
マスター「…」
見習師「機関長が僕の代わりに殴られることなんてありませんから…」ニコッ
見習師「少し前から聞いてまして…ご、ごめんなさい…」
機関長「…っ」
マスター「…」
見習師「き、機関長、先輩には…教えてくれることは教えてもらってます」
見習師「僕がトロいのが悪いんですし…、そんなに先輩を咎めないでください…」アハハ…
機関長「お前ってやつは…」
マスター「…」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
親父「口答えするな!」ブンッ!!
社員「うあっ!」
親父「貴様が悪いのは明白、俺の会社に傷をつけやがって…。お前がトロいのが原因だ!」
社員「…も、申し訳ございません…申し訳ございません…」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
マスター「…」ギリッ
マスター「…ちょっと外に出てくるわ。機関長、見習師のこと頼んだ」クルッ
見習師「あっ、先輩!」
機関長「いいんだ」
ガチャッ…バタンッ…
見習師「先輩…」
機関長「見習師君は、もう少し怒ってもいいと思うんだがな」フム
見習師「尊敬する先輩ですし、さっき言った通り、教えてもらう事は教えてもらってます!」
見習師「僕のせいだというのなら、僕が殴られるくらいが丁度いいんです」
機関長「…やれやれ、大物になるぞお前は」
見習師「えへへ…」
…………
………
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ヒュウウッ…カァ、カァ…
マスター「…」
マスター「教えてるだけ、違うと思ってたが…まるで一緒じゃねえか…」
マスター「…」
マスター「…情けない」
マスター「手が出るまで、気付けなかったのか。何がマスターだ、親父と違う道に進んだというのに!!」
…ヒュウウッ!!
マスター「所詮、蛙の子は蛙ってか!」ハハハ!
マスター「はぁ…」
カツ、カツ、カツ…
マスター「ん…」
???「隣、いいですか」
マスター「…どーぞ」
???「ありがとうございます」
マスター「…見ない顔だな。客か何かか?」
???「まぁ、そんな所です」
マスター「ふーん…」
???「…用事があるのは貴方なんですけどね」
マスター「俺?」
???「はい」
マスター「何の用事だ」
???「ぶっちゃけて言いますと、スカウトです」
マスター「スカウトだ?」
???「はい」
マスター「錬金関係か」
???「貴方の出来る事といえば、それしかないでしょう」
マスター「失礼な奴だな。…どこのスカウトだ?いくつか来た事はあるが、お前は初顔だろ」
???「はは、そりゃ私は表舞台には顔を出しませんからね」
マスター「…表舞台だ?」ピクッ
マスター「何者だ、お前…」
アルス副機関長「…失礼。私は、機関"アルス・マグナ"に属し、副機関長をやっているのですが…」
マスター「アルスマグナ?」
アルス副機関長「ご存じないのも無理ありません。先ほど言った通り、表には出ない機関ですからね」フフッ
マスター「あぁ、全く聞いた事がないな」
アルス副機関長「…話、聞いて頂けますか」
マスター「いいぜ、話せ。暇つぶしくらいにはなりそうだ」クイッ
アルス副機関長「ありがとうございます。単純にいえば、我々の目的は"禁術"に挑むこと」
マスター「…何?」ピクッ
アルス副機関長「どうです?この一言で、興味がそそられるでしょう?」
マスター「…冗談だろ。闇魔術じゃあるまいし、監査の厳しい今、禁術を研究するのは無理だ」ハハハ!
アルス副機関長「無理なのは、"一般の機関"の話でしょう?」
マスター「…詳しく話せ」
アルス副機関長「…ふふ、興味をお持ちになったようだ」
マスター「一般機関の言い回しはどういう事だ。禁術の研究とは、黄金とエリクサーのことか!」
アルス副機関長「まぁまぁ、落ち着いてください」
マスター「…全部、聞かせてもらおうか」
アルス副機関長「勿論、そのつもりでしたから」
アルス副機関長「…我々アルスマグナは、実は…」
マスター「…」
……………
………
…
・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・
・・・
・・
・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 中央都市・宿場(学校生活2日目) 】
モゾモゾ…ガバッ!!
錬金術師「…アルスマグナ、この野郎ぉっ!!」
錬金術師「ん…」
錬金術師「…」
錬金術師「夢、か…」
錬金術師「…くっそ、嫌な事思い出させやがって…」ハァ
シュウ…シュウ…
錬金術師「…」
錬金術師「お茶飲むためにお湯かけっぱなしで寝ちまってたのか」
錬金術師「安全装置がなかったら、大火事だったところだ。くそ…」
錬金術師「…」
錬金術師(つうか、よく考えたらおかしいんだよな。俺の情報が教科書に載ってるなんて…)
錬金術師(確かに機関の殿堂入りはしたが、名前も残さないように申請していたはず)
錬金術師(んーむ…)
…コンコン
錬金術師「あん?はーい、どーぞ…宿の人かね」
スッ…ペラッ…
錬金術師(ドアの隙間から、手紙?)
トコトコ…スッ
錬金術師「えーと…」
"神の手を持つ、錬金術師様へ。"アルス・マグナ...副機関長""
錬金術師「!」
ダダッ、ガチャッ!!
錬金術師「アルスマグナ…!そこか、この野郎!!」クワッ!
お客「!」ビクッ
錬金術師「…あっ」
お客「ひ、ひぃ…、な、なんでしょうか…」ビクビク
錬金術師「…」
錬金術師「ごほん。という、お芝居の練習です。迫真の演技でしたでしょう?」ニコッ
お客「は、はぁ…」ビクビク
錬金術師「失礼しましたぁ~…」
…バタンッ!!
錬金術師「…恥かかせやがって、アルスマグナの野郎!!」クワッ!!
錬金術師「…」
錬金術師「手紙とか…何だっつーんだよ!くそっ!」
ビリッ…
錬金術師「つーか、夢の次は現実かよ。悪夢の続きだわ…」ハァ
ビリビリッ…
錬金術師「えーと…」
"お久しぶりです。午後18時に、3丁目西側にある地下カフェにて待ちます"
錬金術師「…」
錬金術師「ちっ…、面倒くせぇな…」
錬金術師「…」
錬金術師「…そうじゃねえ。違うだろ、今の俺は」
錬金術師「あらら、面倒くさいことになっちゃって…」
錬金術師「くく…そうだな、うん」
モゾモゾ…パサッ
錬金術師「…とりあえず、学校に行きますかぁ…。すっかり仕事人だな、俺」
…………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 特待錬金術学校 】
ガヤガヤ…ワイワイ…
術士先生「はいはーい、みなさん静かにしてください~」
錬金術師「まぁ多少うるさいくらいが丁度いいんですって」
術士先生「そ、そうなんですかね?」
錬金術師「いえ…冗談ですよ…」
術士先生「あ、じょ、冗談ですか!あはは…、みなさん静かにしてくださーい!」
生徒たち「はいっ」
錬金術師「えーと、今日の授業は…どこからでしたっけ術士先生」
術士先生「今日のは製錬実践ですね。簡易かまどがありますし、店長先生のはこちらです」グイッ
…ドスンッ!
錬金術師「なるほど。製錬する鉱石は?」
術士先生「それぞれ既に配布は終わってます。今日はクォーツですね」
錬金術師「ふむ。えーと…クォーツを製錬したことある人、挙手~」
生徒たち「…」シーン
錬金術師「…」
錬金術師「…いねぇの?」
???「…」スッ
錬金術師「おっ、なんだいるじゃん。えーと…」
白学士「…はい」
錬金術師「お前かよ!」
白学士「な、何ですかお前かよって!」
錬金術師「あ…いや。お前、クォーツを製錬したことあるのか?」
白学士「はい。少しですけど自分で準備して…」
錬金術師「製錬密度は?」
白学士「70%前後だと思われます」
錬金術師「なるほど。はーい、みんな拍手ー。さぁ白学士くん、前に出て製錬の手本おねがいしまーす」
白学士「ちょ、ちょっと!」
錬金術師「…できないのか?」
白学士「い、いえ出来るとは思いますけど…」
錬金術師「じゃあやってくれ」
白学士「こういうのは普通、先生が見本でやるもんじゃないんですか!」
錬金術師「えー…」
白学士「何て先生だ…。確かに僕がやってもいいですが…」
錬金術師「…が?」
白学士「元とか関係なく、マスターであった貴方がやる事で、もっと皆はやる気出すと思います」
白学士「…僕も、店長先生の製錬実践を見てみたいですし」
錬金術師「…そうなの?」
白学士「だと思います」
生徒たち「見てみたいです!先生!」
術士先生「店長先生、ここは是非!」
錬金術師「マジで」
術士先生「マジです!」
錬金術師「え~…、俺の製錬見たい人~」
生徒たち「はいっ!」
生徒たち「ぜひ!」
生徒たち「当たり前じゃないですか!」
白学士「…はい。見たいです」
錬金術師「…俺のこと、尊敬してる人~」
生徒たち「はいっ!」
生徒たち「当たり前です!」
生徒たち「目標の一人です!」
白学士「…悔しながら」
錬金術師「…」ピクピク
錬金術師「いいかお前ら。俺のことを幾ら尊敬し、褒めたとしても!!」
錬金術師「滅多に本気の製錬なんざ、見られないんだから、心して見ろよ!この野郎!」
術士先生「店長先生、嬉しそうな笑みが溢れんばかりの顔になってます…!」
生徒たち「ぜひ、見させて頂きます!!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
錬金術師「…まず、火をつけます。火炎魔法っ」ポウッ
ボォンッ!!ゴォォ…
錬金術師「クォーツの製錬は、その質によって最初に放つ火量が大きく違う」
錬金術師「教科書には"大きい物ほど火量は強くしろ"とあるが、原石の大きさじゃなくて"質"で変える」
生徒「質とは、その鉱石に含まれている、不純物と比べた時のクォーツ自体の割合でしょうか?」
錬金術師「正確にいえば、純度から大きさから、あらゆる観点から考察してこそなんだが…」
錬金術師「この鉱石は、お前の言った通り、大きさよりも"原石に含まれているクォーツ自体の割合を重視"で良い」
生徒「はい!」
錬金術師「さて、普通は"光るタイミング"によって製錬を終えるのは知ってるな?」
錬金術師「だが、この鉱石の場合は、光るタイミングまで待つと、脆く…崩れてしまう」
錬金術師「光る寸前を見極めること。それは体で覚えるしかないんだが…」
錬金術師「個体の大きさで、鉱石がとろけ出す瞬間を見定めろ。例えば俺のコレなら…」
…パチンッ
錬金術師「ここだ」
コロンッ…コロンコロン…、キランッ
錬金術師「…これで純度95%前後の製錬だ。キレイなもんだろ」
ザワザワ…
生徒たち「おぉ…すげぇ!」
生徒たち「でも、溶け出す前ってかなり難しくねえか…聞いたことねえよ…」
白学士「溶け出す前だったのか…。道理でいつも失敗してたと思った…」
錬金術師「この教科書にも、"溶け出して輝く瞬間"と、基本にあるが」
錬金術師「無限に存在する鉱石に、その全ては当て嵌まらん」
錬金術師「どうせこれも、この教科書を作った団体が、その答えに気づくかどうかの試験のつもりで書いて…」
術士先生「…店長先生?じゃあ、これって"生徒への問題"ですよね」
術士先生「言っちゃいけない事だったんじゃ?」
術士先生「っていうか、教員用の教科書には、ここは"問い"として出題しろって書いてありますが…」ペラッ
"クォーツの製錬に関し、課題として教授する"
錬金術師「…あっ」
術士先生「」
生徒たち「」
錬金術師「…教科書が間違っておる!こんな教科書なぞ役にたたんっっ!!」ビシッ
術士先生「教科書の存在を、根本から否定した!!」
生徒たち「すげえな、店長先生!」
生徒たち「さすがの生きる伝説だ!」
ザワザワ…!!
白学士「はは…むちゃくちゃだ…」
錬金術師「あ~…まぁ、問題の解答しちゃったし、コレも教えるか」
錬金術師「溶け出す前、見定めるのは難しいが、実は慣れるのに少し簡単な方法がある」
白学士「あるんですか?」
錬金術師「本来ならダメだが、棒か何かでつついて、柔らかさを見ろ」
錬金術師「そうすりゃ、タイミングもおのずとつかめてくる。色合いとか、そういうのもな」
白学士「いいんですか?つついたりしたら、製錬純度落ちますよ」
錬金術師「どうせなぁ…元々お前らは何も知らない状態だし、失敗しまくるんだろうが…」
錬金術師「だったら答えを見つけるために、犠牲をとってもいい」
錬金術師「意味のある犠牲を作ればいいんじゃないの、ってね」
術士先生「失敗は成功の母、ですね」
錬金術師「そうさな。一番やっちゃいけないのが、無駄に労力やらを使うことかねぇ」
錬金術師「最初から何でも出来る奴なんかいねえし…」
錬金術師「1回の失敗で覚える奴もいれば、1000回やっても覚えねえ奴はいる」
錬金術師「1000回全部を意味のある失敗にしろっていうのは変だが、」
錬金術師「自分の集中が続く限り、自分がどうすれば覚えるかって事を考えながらやることだな」
生徒たち「はい!」
錬金術師「実技でも、勉強でも、その中でどう上手くやれるかを考えつつやるといいんじゃねえかな」
白学士「…でも、先生」
錬金術師「はい、白学士クン」ビシッ
白学士「上手くやれる考えが簡単に出たら、苦労はしないと思うんですけどね…」
錬金術師「…バカか?」ハァッ
白学士「なっ!」
錬金術師「だから、俺らがいるんだろうが」
白学士「え?」
錬金術師「お前らの目の前にいるのは、術士先生やら、機関に属した"実績のある先輩"だぞ?」
錬金術師「何の為に学校にいる。何の為に先輩がいる。何の為に先生がいる」
錬金術師「アシストしてやるために、俺らはいるんだ。どう考えればいいか分からなかったら、聞けよ」
白学士「…」
生徒たち「…」
錬金術師「俺ぁ面倒くさがりで、少しできると粋がってたような人間でな」
錬金術師「まぁ人間らしい人間だと思う。だから、教えられると思う。面倒なことがわかってるから」
錬金術師「あっ…全員が面倒臭がりだとは思わないし、俺より立派な人間もいるのは分かってるがな」
術士先生「…」
錬金術師「ん~とな、まぁ、俺らを頼れ!ってことだ」
錬金術師「だけど、自分で考えるのはやめるな」
錬金術師「自分で考えるのをやめた時、そこで成長は終わる」
錬金術師「誰かの下について命令通り動くのは簡単だし、"学業"と"働く"ってことは、命令を聞く事だが…」
錬金術師「先生の言う事聞いて、ただ言われるがまま勉強する」
錬金術師「上司の命令を聞いて、ただ言われるがまま働く」
錬金術師「だけどな、そういう命令を聞くだけなら誰でもできる。だろ?」
錬金術師「命令に従っていれば、人は慣れるし、慣れも成長とは言える」
錬金術師「だが…」
錬金術師「"慣れ"だけの成長と、"慣れと自分の考え"を持った人間には、絶対に成長の差が生まれる」
錬金術師「当たり前の事を言ってると思うが、その当たり前に気付けないんだぜ、人間は」
術士先生「…当たり前の幸せには気付けないってことと一緒ですね」
錬金術師「まぁな。あと、成長するには…行動を起こさねばダメだ!という話をよく聞くが…」
錬金術師「ぶっちゃけ俺は、意識してるかしてないかだけでも、成長の度合いはすげー違うと思う」
錬金術師「あっ、今までのは全部、俺の考えだからな?適当に聞けよ?」
錬金術師「"実行してなんぼだ!"っていう人もいるが、実行するためには意識がいるべ?」
錬金術師「だから俺は、その"自分で考える事を常にどこかで意識する"ことが一番大事だと思う」
錬金術師「まぁ…お前ら全員、無意識にでも、その当たり前に気付いたから…」
錬金術師「この場所で、俺の話をこうして聞けているんだろうがな」ハハハ
生徒たち「…」
術士先生「…」
錬金術師「まっ、当たり前を意識して行動できるかどうか。今一度考えてみたらいいかもな」
錬金術師「だけどさぁ…もう1回いうけど、お前らも凄いと思うぜ。こうしてここで、俺の話を聞けていることとか…」
錬金術師「胸を張ってもいいんだぜ!?…なんてな」ハハハ
錬金術師「…っつーか、俺は何を言ってるんだ!!いってる俺もワケわかんなくなってきた!」
錬金術師「本題本題!ほら、さっさと実践しろ。自分で考えて、わかんねーことは聞け!」
錬金術師「…開始っ!」
生徒たち「…」
生徒たち「…はいっ!よろしくおねがいします!!」
錬金術師「!?」ビクッ
錬金術師「…ど、どうしたんだみんな…」
術士先生「…」クスッ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
生徒たち「…小火炎魔法っ!」
生徒たち「もっとゆっくりやってみよう…」
ザワザワ…ワイワイ…
錬金術師「…」
術士先生「さすがですね、店長先生」
錬金術師「いや、俺は何もしてないんですけどね。適当にしゃべっただけで」
術士先生「…すごいですよ。羨ましいくらいの才能です。人を惹きつけるその才能…」
錬金術師「いえいえ!」
術士先生「店長先生、本当に素敵だと思います」
錬金術師「ははは!お世辞でもうれしいです、ありがとうございます!」
術士先生「…」
…………
………
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 放課後 】
キーンコーンカーンコーン…
ガタガタッ…
生徒たち「お疲れ様でした!」
錬金術師「ういー」
術士先生「気を付けて帰ってくださいねー」
錬金術師「あ゛~…今日も1日が終わった!」
術士先生「店長先生はもう、完全に生徒たちの心はつかんでますね!」
錬金術師「いやいや。ん~、しかし…」
術士先生「どうしました?」
錬金術師「1年も2年も授業やりましたけど、ここから何人も蹴落として卒業なんですよね?」
術士先生「そうですね…」
錬金術師「…勿体ねぇな」ハァ
錬金術師「才能の差とか、できない子が現れるのは仕方無いとは思いますけど…」
錬金術師「選ばれた子供から更に選び、落とすなんて勿体ないお話ですわ」
術士先生「はい、私も本当にそう思います…」
錬金術師「まぁ抜けた子たちは抜けた子たちで、どっかに入れる実力あるんで大丈夫でしょーけどね」
術士先生「はい、そうですね…。心配も尽きませんが、仕方ないことですし…」
錬金術師「はは…、それじゃ俺もこれで帰ろうかな」ガタッ
術士先生「…」
術士先生「あ、あのっ!」
錬金術師「んあ?」
術士先生「この後、お暇なら、色々お話聞かせて頂きたいので…その…どこか…」モジモジ
錬金術師「あ~…」
術士先生「や、やる事があったり何か用事があったらいいんです!」
術士先生「あっ、やる事も用事も一緒ですね…あはは…」
錬金術師「…すんません。俺もお話したいんですけど、ちょっと用事がありまして」
錬金術師(これからアルスマグナの奴とお茶会なんていえるわけねぇ)
術士先生「あっ…そ、そうですよね…。すいません…」シュン
錬金術師「いえいえ、こちらこそ申し訳ない。ではっ」
術士先生「お疲れ様でした…」
カツカツカツ…
ガチャッ…バタンッ…
術士先生「…」ハァ
…ガチャッ!!
錬金術師「あっ、術士先生!そうだそうだ」
術士先生「ひあっ!?は、はい!」
錬金術師「今のところ、明日の放課後は予定ないんで、明日ならお付き合いしますよ」
錬金術師「…ではっ!」ビシッ
…バタンッ!!
術士先生「…」
術士先生「素敵な人…」ホウッ
…………
………
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 18時・中央都市 3丁目 地下カフェ 】
ガチャッ、ギィィ…
錬金術師「こんちわー。今、開いてるか?」
店主「いらっしゃい。と、言いたいけど…ここは20時からだよ」
錬金術師「…えっ?」
店主「すいませんね。あと2時間潰して、また来てください」
錬金術師「…」
店主「…どうしたんだい?」
錬金術師「…ここに、先に客人が1人来ていないか」
店主「何?」
錬金術師「いるはずなんだが」
店主「…どんな人物だい」
錬金術師「…錬金術師機関に属してる、副機関長だ」
店主「なるほど。もしかしてアンタ、店長サンかい」
錬金術師「…」ピクッ
店主「わかった、聞いてるよ。入りな、奥の扉だ」クイッ
錬金術師「まいったな、俺は有名人になっちまったのか」
店主「…ここはそういう場所だ。気にしなさんな、周りには漏らさんよ」
錬金術師「そうしてくれ」
カツカツカツ…
錬金術師「…ここだな?」
店主「あぁ」コクン
錬金術師「…」
…コンコン
「どうぞ」
ガチャッ…
錬金術師「…」
アルス副機関長「やぁ、待ってましたよ」ニコッ
錬金術師「…」
アルス副機関長「ふふ…嫌だな。久々に会ったのに、そんな顔しないでくださいよ」
錬金術師「こんな場所に呼んで、何の用事だ」
アルス副機関長「とりあえず座ってくださいよ。何か飲みます?」
錬金術師「…」
トコトコ…ストンッ
錬金術師「んじゃコーヒー。あと腹減ったからつまめる物、メニューどこよ」キョロキョロ
アルス副機関長「…相変わらずですね。肝が据わっている」
錬金術師「いやー内心ビクビクだわ。俺のこと調べ過ぎだろ」
アルス副機関長「…少し、丸くなりましたか?以前のトゲトゲしさがない気がします」
錬金術師「年取ったんじゃねえかな」
アルス副機関長「絡みやすくていいですけどね。以前の貴方は、いつも他人を寄せ付けないオーラがあった」
錬金術師「いいから腹減ったからメニューよこせ。おーい、店主!ドア開けて入って!」
…ガチャッ
店主「…ずいぶんな客人だな」
錬金術師「サンドイッチとか何かくれ。あとコーヒーね」
店主「わかったよ」
バタンッ!
錬金術師「ふん…」
アルス副機関長「ふふっ」
錬金術師「で、何の用事なの。俺は忙しいの」
アルス副機関長「久々に近くまで来てたようですし、会いたくなっただけですよ」
錬金術師「あっそ。で、本題は何」
アルス副機関長「…本当に会いたくなっただけですよ。それと…」
錬金術師「…それと?」
アルス副機関長「あなたのお店、立派でしたね。可愛い店員さんがいて…」
錬金術師「…」ガタッ
アルス副機関長「お店の切り盛り、大変そうでした。ですが、他の2人と力を合わせて、頑張ってるようでしたよ」
錬金術師「…調べたのか。何もしてないだろうな」グイッ
アルス副機関長「ただ、貴方の現状を知りたかっただけです。何もしませんよ」
錬金術師「てめぇ…あいつらに手出したら、本気でころ…」
アルス副機関長「おや?やっぱり、貴方の気の強さはそのままのようですね」
錬金術師「…っ」
アルス副機関長「落ち着いて座ってください」
アルス副機関長「ふふ、無駄ですって。自分の性格なんか、簡単に変わるもんじゃないんですから」
錬金術師「…そうかもな」ストンッ
アルス副機関長「親の血を嫌い、己を憎み、抑え、我々アルスマグナに翻弄されてマスターを降りた」
アルス副機関長「あなたの人生は、前途多難…、暇のしない人生そうです」
錬金術師「余計なお世話だっつーの」
アルス副機関長「ふふっ、申し訳ありません」
錬金術師「そのクソ機関は、まだ…禁術に挑んでるんだろ」
アルス副機関長「当然です。我らの目的は、それ以外にありません」
錬金術師「…」
アルス副機関長「でも、良かったですね」
錬金術師「あん?」
アルス副機関長「いえ、貴方が我らの機関名を漏らした話です」
錬金術師「…それの何が良かったんだ」
アルス副機関長「貴方が、我々の"根本"をうっかり口にしていたら、今、この世にはいなかったかもしれませんね」
錬金術師「"ねもと"…ね」
アルス副機関長「まだ覚えておりますか?私が貴方に会って、言ったこと」
錬金術師「なぜ監査が厳しい今の世界で、お前らが禁術が出来るのか…だろ」
アルス副機関長「考えれば簡単な話なんですけどね」
錬金術師「…まさか、アルスマグナが"中央政府の軍"の直接傘下だとは思わなかったぜ」
アルス副機関長「世界の中心である、政府の直属だったら…我々の思想も禁術ではない」
アルス副機関長「そういうことです」ニコッ
錬金術師「…何言ってやがる!人体実験も、金の生成も、社会を崩すだけだ!」
アルス副機関長「その社会を作っている中央政府の方針です」
錬金術師「腐ってるな…」
アルス副機関長「必要悪なんじゃないですか」
錬金術師「勝手に言ってろ」
アルス副機関長「まぁ少し話は変わりますが…」
アルス副機関長「我々の仲間になると思ってた貴方が、まさかマスターの地位を捨てるなんて思いませんでした」
錬金術師「…世界中に設けられた機関、地位の確立」
錬金術師「錬金術を安全に使う為、錬金術をもっと世に出す為の存在。嘘っぱちもいいとこだったな」
錬金術師「本来の目的は、政府が考案した、禁術を研究するのに優秀な錬金師を探すための手段だったってわけだ」
錬金術師「その真実を聞いたから、俺はすぐに機関をやめたんだ。…どうせ知ってるんだろ?」
アルス副機関長「…あなたが今教えている、その学校の生徒もいつか入るかもしれませんねぇ」
錬金術師「さぁな。俺は入らない、それだけだ」
アルス副機関長「…残念です。あなたほどの腕がありながら」
錬金術師「…」
錬金術師「機関長だから、マスターの地位だからと言って、アルスマグナに誘われるわけじゃないんだろ?」
アルス副機関長「…そうですね。実力さえあれば、地位には関係なく引っ張りますよ」
錬金術師「俺の実力は当時からそれなりだったはずだが、お前らはスカウトに来なかったな」
アルス副機関長「貴方の実力を知り、駆け付けた頃にはマスターだった…」
アルス副機関長「それだけです」
錬金術師「…」
アルス副機関長「…」
コンコン…ガチャッ
店主「ほらよ、コーヒーとサンドイッチだ」コトンッ
錬金術師「うい、有難うさん」
店主「…ごゆっくり」
ガチャッ、バタンッ!
錬金術師「愛想わりぃ店主だな。潰れるんじゃねえの」
アルス副機関長「ご心配なく。我々の行きつけのカフェですので。それに一般人にも人気もあるんですよ?」
錬金術師「…」グビッ
錬金術師「…なるほど、うめぇ」プハッ
アルス副機関長「…でしょう」ニコッ
錬金術師「まぁ俺はこれ食ったら帰るぜ」モグモグ
アルス副機関長「…あなたは今、こちらの手の中にいる事を忘れないでください」
錬金術師「脅しだな。わかってるよ」
アルス副機関長「貴方がそこまで間抜けとは思いませんが、貴方の存在は本当に怖いのです」
錬金術師「消そうとはしないのか」
アルス副機関長「怖い以上に、その腕は消すのに勿体ないということです」
錬金術師「だったら自由にさせろっつーの。何回言うんだよ」ハァ
アルス副機関長「…それとこれは別ですから」
錬金術師「あぁそう。んじゃ…食べ終わったし…ごちそうさん」ペロッ
アルス副機関長「…気が変わりましたら、いつでもココへ」
錬金術師「変わらねぇよ」
アルス副機関長「ふふっ、まぁいいですよ」
錬金術師「それじゃ。もう俺に構うんじゃねぇぞ…」
ガチャッ…バタンッ…
アルス副機関長「…」ニコッ
……………
………
…
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 次の日(学校生活3日目) 】
錬金術師「3日目か…、ふわぁ…眠っ…」
…ガチャッ
術士先生「あっ、おはようございます!」
錬金術師「あ、おはようございます。早いっすね」
術士先生「この時間にはいるかなと思って。朝の授業の準備、お手伝いします♪」
錬金術師「お~助かります」
術士先生「このくらいっ」テレッ
錬金術師「…えーと。今日の放課後、どこかで話をしたいんでしたっけ?」
術士先生「えっ、あっ、じ…時間があれば!」
錬金術師「えーと…予定もないですし、行きましょうか。ただ、この辺の店とか俺、知らないですよ」
術士先生「じゃあ私が決めても、い…いいですか?」
錬金術師「あぁ是非。期待してますよ、なーんて」アハハ
術士先生「ひえっ!は、はいっ!」
ガチャッ…
錬金術師「ん?」
白学士「おはようございます」
錬金術師「白学士か。どうした、お前の今日の授業は6時限目だったはずだし…まだまだだぞ」
白学士「…聞きたいことがありまして」
錬金術師「聞きたいこと?」
白学士「この間、言ってくれたじゃないですか。"頼れ"って」
錬金術師「あぁ…。そうだったな、どうした」
白学士「その通り、先生に教えてほしい事が。どうすればもっと勉強ができるか、聞きに」
錬金術師「なんだって?」
白学士「…今の自分では、到底、貴方のような腕もなく、知識も持てないと思います」
白学士「貴方のように、何でも出来るような知識と腕が欲しいんです!」
錬金術師「ふむ…」
白学士「だから、どうすればもっと勉強がうまくいくのか」
白学士「どうすればもっと、貴方のようになれるのか。…頼らせてください」
錬金術師「俺のようになりたいって?」
白学士「…はい」
錬金術師「はっはっは、そりゃやめとけ。俺なんて適当に生きてる、面倒な人間だ」
白学士「でも、その実力は、誰もが認めるところじゃないですか!」
錬金術師「実力だけは俺みたくなりたいってか」
白学士「…は、はい」
錬金術師「ん~…。ん゛~…」ムムム
白学士「…どういう勉強をすれば、あなたの様に…なれるのでしょうか」
錬金術師「じゃあ…そうだな」
白学士「は、はい!」
錬金術師「…」
錬金術師「…やっぱ思い浮かばねーわ」タハハ
白学士「」
錬金術師「…俺の実力って言っても、人より少し知識があって、技術があるくらいだ」
錬金術師「そんなに敬うような存在じゃないと思うんだがなぁ」
白学士「…あなたのような実力があれば、僕も夢に近づけると思うんです」
錬金術師「夢?」
白学士「人の為に、役に立ちたいモノを作ってみたい」
錬金術師「…へぇ?」
白学士「そ、その…」
錬金術師「ん?」
白学士「う、うちの家系って、本当に出来る人が多かったんです」
錬金術師「…?」
白学士「僕には、2人の兄がいるのですが、兄は中央政府の部署で働いています」
白学士「…母、父ともに共働きで、同じく政府の部署で働くエリートで…」
白学士「物作りが好きで、よく家族にバカにされてました」
錬金術師「…」
白学士「だけど、僕は好きな道を進みたくて…家族の反対を押し切ってココへ来ました」
白学士「…友達には才能あるよと言われてますけど…。才能なんかないんですよ」
白学士「店長先生にも、よく出来ていたと褒められましたが…見てくださいコレ…」スッ
錬金術師「あん?」
術士先生「…?」
ボロッ…
白学士「…ッ」
ズキン…ズキン…
錬金術師「!」
術士先生「あっ…!」
錬金術師「な、なんて手だ…。これは火傷か…」
白学士「好きなことを続けるには、人よりも努力するしかなくて…」
錬金術師「…」
白学士「こんな僕ですけど…、僕は、僕の道で、人の役にたち…家族に認めてもらいたい!!」
錬金術師「…っ」
白学士「店長先生、お願いします。僕に、教授してください!」
錬金術師「…」
錬金術師「…焦らなくていいんじゃないか。お前には、あと1年近くの時間がある」
白学士「でも、店長先生はもう5日もいないじゃないですか!」
錬金術師「…お前さ」
白学士「はい!」
錬金術師「実力ってのは、すぐに身につくものじゃない。わかってるだろ?」
白学士「…そ、そうですけど」
錬金術師「焦らなくていいと思うぞ」
白学士「…」
錬金術師「それに、俺以外に優秀な先生はいるんだぜ?」
白学士「え?」
…ポンポン
術士先生「ひゃっ!」
錬金術師「この術士先生な、おっとりしてるが実力はあるし、生徒もよく見てると思う」
錬金術師「何事にも真剣に答えてくれると思うぞ」
術士先生「っ…」ヘナヘナ
錬金術師「あら?」
白学士「…術士先生は、確かに凄い方だと思いますけど…」
錬金術師「どうしても俺に教授願いたいってか?」
白学士「…」
錬金術師「失礼な奴ですねぇ、術士先生?評価下げちゃいますか?」ハハハ
術士先生「そ、そうなんですか?」
錬金術師「い、いや冗談ですよ…」
術士先生「あっ…あはは…」
錬金術師「ま、まぁ…白学士」ゴホンッ
白学士「はい」
錬金術師「実は俺もさ、お前と似たような境遇でな。家族はエリートなんだ」
錬金術師「だが、大嫌いだった父親と違う道を進むために、母親の錬金師としての道を選んだ」
白学士「…!」
錬金術師「だから、気持ちはわからんでもない」
錬金術師「そして、だからこそ焦るなといっているんだ」
白学士「…」
錬金術師「ハッキリ言って、お前と俺の違いは、"経験の差"があるだけだ」
白学士「経験の差…」
錬金術師「こればっかりは埋まるもんじゃない。学生の道なら、まずはしっかり学生としての仕事を果たせ」
錬金術師「あとな、俺もよく火傷を作るくらい熱中してたし、俺とお前は似てるかもしれんな」
錬金術師「いずれ俺のようになるかもしれんぞ?」
白学士「…」
錬金術師「…火傷することが良いとは言わないが、その努力で充分だ。お前は成長するぜ、きっと」
白学士「本当ですか…?」
錬金術師「…」
錬金術師「…さぁ」
白学士「!?」
術士先生「!?」
白学士「ちょ、ちょっと!?そこは普通、"あぁ、そうだ"とかじゃないんですか!」
錬金術師「よく考えたら、努力は嘘をつかないって言い切れないし…」
術士先生「ちょっ、店長先生!」
白学士「」
錬金術師「どっちかっつーとさ、"努力は人を裏切らない"っていうのが俺は好きなんだなぁ」
白学士「努力は人を裏切らない、ですか」
錬金術師「すっげー努力してさ、誰よりも努力したとして…だ」
白学士「はい」
錬金術師「それでも、それでも自分より凄い奴が出てきた。そしたらお前はどうする?」
白学士「自分の努力が足りなかったんだなと思います」
錬金術師「そう、納得するか?」
白学士「それしかないでしょうし…」
錬金術師「…努力は嘘をついたな。負けたんだから」
錬金術師「だけど、納得できた。次のステップアップの階段の道は開いた、だろ?」
白学士「あ…」
錬金術師「人の考えによっては"努力に裏切られた"かもしれんが」
錬金術師「少なくとも、次の自分のレベルアップへの道は開かれた。決して裏切ってはいない、そう思える」
錬金術師「まぁ、俺理論だから勝手な解釈だけど」
白学士「努力は人を裏切らない…か」
錬金術師「…俺だって、学校は少し悪くないなとは思ってるよ」
錬金術師「だけど、店には大事な仲間がいる。戻らなくちゃいけないわけだ」
白学士「そうですよね…。わかってたんですけど、どうしても教えてほしくて…。我侭言ってごめんなさい…」
錬金術師「…上手く言えたもんじゃねぇが、お前はお前自身、努力でそのまま進めば良い」
錬金術師「それは裏切ることはないはずだからな」
錬金術師「俺が見た限り、お前は結果は伴っている。俺も認めてるよ」
白学士「…はいっ」
錬金術師「じゃ、そのペースで頑張れ。俺は授業の準備すっからよ。早朝は俺らも大変なの!」
白学士「お時間取らせました。失礼します」
錬金術師「おう」
ガチャッ…バタンッ…
術士先生「…な、なんか、凄いやり取りでしたね」
錬金術師「いやいや、何を言ってるんですか。あんなの誰かの受け売りですって」ハハハ
術士先生「凄いと思います。でも、彼が納得する答えをよく導きましたね」
錬金術師「まぁ…」
術士先生「私なんか、教科書出して…どこがわからないの?って聞きそうでした」
錬金術師「問題がわからなかったら教科書を持ってくるでしょう」
錬金術師「それに表情が硬すぎた。何か真剣に相談してるなって思いましたし」
術士先生「なるほど…」
錬金術師「あ~、でも!アイツじゃなかったら、将来の展望まで…きちんと、答えてたかもしれないですね」
錬金術師「あんな投げやりな答えじゃなくて」ハハ
術士先生「えっ?白学士クンにも、将来的な部分まで答えてあげてもよかったんじゃないですか?」
錬金術師「だから、答えなかったのはアイツだからですよ。アイツ、バカなところあるんですよ」
術士先生「ば、ばか?」
錬金術師「何か指南したら、俺に全部従いますよ、アイツ。バカに素直なんですよ」
術士先生「!」
錬金術師「俺が禁術は良いぞ、すばらしい!…とか言ってみたら、どうなると思います?」
錬金術師「"なるほど、じゃあ目指します!"ってなるでしょうよ」
錬金術師「ああいう技術を持ち、立派な志がある人間には、俺は深く干渉したくないだけです」
術士先生「でもやっぱり、店長先生のような方が干渉してあげたほうが…」
錬金術師「…はは、どうしても指南したいなら、心から彼に向き合って、そうしてあげて下さい」
錬金術師「俺は、自分の駄目さも分かってるからこそ、深くまでは入りたくない。距離を置きたい」
錬金術師「今、先生としての仕事をしている身ですから…生徒のことも考えてそうしたんです」
術士先生「…」
錬金術師「ま、機関に属せなかったとか、万が一のことがあったら…」
錬金術師「俺が手助けするかもしれませんが」ハハハ
術士先生「白学士クンのこと、お気に入りなんですね」クスッ
錬金術師「いや苦手です」
術士先生「」
術士先生「そ、それにしては気にかけてらっしゃいますね?境遇が一緒だったから…ですか?」
錬金術師「いえ…確かに俺と境遇は一緒で、心にくる部分はありましたが…」
錬金術師「それとは別に、ある種、俺と間逆だから…ですかね。気にしたくないのに気にしてしまうのかも」
術士先生「え?」
錬金術師「気にしないでくださいな!…さっ、今日も1日頑張りましょう!」
術士先生「え…、あっ、はいっ!よろしくお願いします!」
…………
………
…
…
………
…………
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 放課後 】
キーンコーンカーンコーン…
ザワザワ…
術士先生「はーい、今日もお疲れ様でした。気を付けて帰ってくださいねー!」
生徒たち「はい、また明日よろしくお願いします!」
錬金術師「ういうい、お疲れサン」
ガチャッ、バタンッ…
錬金術師「はぁ~終わった終わった!」
術士先生「今日もお疲れ様でした」
錬金術師「そうですなぁ…。んじゃ、約束してましたし、行きますか?」
術士先生「!」
錬金術師「約束してたでしょ、放課後。どこかに一緒に行くって…してましたよね?」
術士先生「そ、そうですね!してます、してますしてます!!急ぎましょう!」
錬金術師「あ、いや…そんな急がなくても…」
術士先生「急いで荷物まとめたり、書類しまってきます!外で待っててください!」
術士先生「れ、レストランの予約をとったので…!」パタパタ
錬金術師「はは…了解っす」
…………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 中央都市 中央通り 】
ガヤガヤ…ザワザワ…
錬金術師「ふわぁ~…眠い…。しかし、1日はあっという間ですねぇ」
術士先生「私は今日は落ち着きませんでした…」
錬金術師「どうしてです?」
術士先生「こうして一緒に歩いたり、食事とか、話出来るとか、本当に楽しみで…」
錬金術師「はは!そんなに緊張しなくていいですよ!」
術士先生「き、緊張しますよ~っ!」
錬金術師「俺なんか、ただの適当な人なんで。軽くいきましょ、軽く」
術士先生「うぅ…」
錬金術師「…えっと、どこに行くんですか?」
術士先生「あ、えーと…さっきも言いましたが、あそこの料理店の2階の予約をとっておいたんです」
錬金術師「あそこ?…あの、でかくて高そうなレストラン!?」
"Ristorante country town"
術士先生「だ、だめでしたか…?嫌ならすぐにでもキャンセルを…」アワワ
錬金術師「あっ、術士先生には似合いますけど、俺みたいなのに似合うかなーってことです」ハハハ
錬金術師「全然嫌とかじゃなくて、めっちゃ楽しみですよ、行きますか!」
術士先生「あっ…はい!」パァッ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 レストラン カントリータウン・2階 】
ウェイター「どうぞ、こちらの席になります」ペコッ
…ストンッ
錬金術師「うおっ、窓際か。きれいなところですねぇ」
術士先生「ですねぇ…」
錬金術師「なんか立派に写真とか飾ってあるし。すげえな」
ウェイター「恐縮ながら説明させて頂きますと、あちらの写真は初代コック料理長になります」
ウェイター「今は2代目の名前を継いだコック料理長が務めておりますが」
ウェイター「元は小さな田舎町から始まり、現在は世界でも有名な料理店まで成長致しました」
ウェイター「隣に飾られてます写真が、初代料理長と2代目、そして最初の料理店になります」
錬金術師「田舎町…、だからカントリータウンって店名なのか」
ウェイター「…」ペコッ
錬金術師「すげぇ歴史ある店なんだな」
術士先生「高級そう…」
ウェイター「最高の味と、最高の時間を楽しんでいただきたくは思っておりますが…」
ウェイター「何を隠そう、当時は大衆食堂として開店をしておりました」
ウェイター「値段も当時のままですので、ぜひ、メニューをご覧になってください」スッ
309 : ◆qqtckwRIh. - 2014/05/27 21:22:19 G1KKOsYI 214/615<Tips!>
今回、「アルスマグナ」という名称が出てきておりますが、
こちらは実際に『神秘的錬金術』の思想や、自らを神になるという思想のもとの錬金術です。
神話にしろ、史実にしろ、賢者の石と密接な関係にあり、
こちらを原案として使用してるため、他作品と類似してくる部分があります。
また、アルスマグナは
コンピュータの基礎になったという話や、ファンタジーには色濃く残る秘密結社の存在等が関連したりしています。
失礼しました。
錬金術師「どれどれ」ペラッ
錬金術師「…ほう。確かに優しい値段だ」
術士先生「…わっ、難しい料理ばっかりなのに値段が優しい」
錬金術師「えーと、何を頼みます?」
術士先生「店長先生が好きなものに合わせたいです」
錬金術師「えーと…んじゃ、ウェイターさんおすすめのコース料理とかあります?」
ウェイター「本日はこちらにありますディナーコースがお勧めになっております」
錬金術師「んじゃそれで。術士先生、ワインはどうします?」
術士先生「あ、お…お任せします!」
錬金術師「それじゃ、このコースの値段以下のワインでオススメあったらお願いします」
ウェイター「かしこまりました。少々お待ちください」ペコッ
カツカツカツ…
術士先生「…慣れてますね」
錬金術師「いやー全然ですよ。マナーというか、こういうのも叩き込まれたし…はは…」
術士先生「?」
錬金術師「あ、いやコッチの話です。で、何かお話しましょうか」
術士先生「そ、そうですね!えっと…」
錬金術師「…」ジー
術士先生「その…」
錬金術師「…」ジー
術士先生「あの…」
錬金術師「?」
術士先生「…っ」ボンッ!
錬金術師「ど、どうしました?」
術士先生「ちょっと恥ずかしすぎます!え、えっと、えっと…生徒とかで気になってる子とかいますか!」
錬金術師「生徒ですか?」
術士先生「こ、こんな時まで仕事の話とか花ないですよね!ごめんなさい!」
錬金術師「ははは、いえいえ。いやー生徒か…。思った以上に皆、出来る子ばっかでスゲェなぁと」
術士先生「店長先生から見ても、やっぱり出来る子が多いですか」
錬金術師「平均年齢15から17歳くらいですよね?若いのに凄い子ばっかですよ」
術士先生「そうなんですよねぇ…。店長先生はそのくらいの年齢の時、何してました?」
錬金術師「機関に属して、丁度マスターになったくらいだったかな~…」
術士先生「」
錬金術師「?」
術士先生「あはは…。そうでしたね、マスターさんになったくらいでしたね…。やっぱりすごいです…」
錬金術師「いや、すぐに辞めちゃったし、すごくもなんともないですよ」
術士先生「なぜ、お辞めになったんですか?」
錬金術師「…色々ありましてね。まっ、面倒くさいからが一番合ってるでしょうが」ハハ
術士先生「面倒くさいから地位を捨てるって…」
錬金術師「その頃はもっと、何ていうだろ…」
錬金術師「こう、喧嘩上等!みたいな熱血…いや、ただのバカか。そんな感じでしたね…」
錬金術師「もう社会なんて俺を中心に回ってるんだろっていう考えしか持てなかったっつーか…」
術士先生「若い頃から実力があったら、仕方無いと思いますよ」
錬金術師「仕方ないで済めばいいんですけどね。まぁ、機関をやめてから…」
錬金術師「機関のあった町から引越して、小さなお店を作ったんです」
術士先生「お店を?あぁ、だから店長さんでしたね!」
錬金術師「そうです。錬金術を生かした生活用品とか売ったり、たまたま来た冒険者の武器防具の修理をしたり」
術士先生「わぁ…楽しそうですね」
錬金術師「立ち上げのも理由があったんですが、女性を一人雇って、二人でのんびり2、3年くらいやってました」
術士先生「女性…ですか」ピクッ
錬金術師「俺が面倒くさがりで、外回りとか営業全部任せてたりしたら、よく怒られて」ハハハ
術士先生「…仲、いいんですね。お付き合いなんか…とか…ですか…」
錬金術師「はっはっは!まさか!俺のこと邪険にしてるような奴ですよ!」
術士先生「えっ、じゃあただの店長と店員の関係ですか?」パァッ
錬金術師「可愛らしい所も結構ありますけど、お互い、そこまで意識してないんじゃないですか」
錬金術師「っていうか…そんな事になったら雇った理由も話す事になるし、俺の事を恨むだろうし…」ボソッ
術士先生「えっ?」
錬金術師「あ、いや…何でもありません。まぁ…そんな感じで、お店も経営してる~ってことです!」ハハハ
術士先生「な、なるほど」
錬金術師「…術士先生も、凄いと思いますよ」
術士先生「えっ、私ですか?」
錬金術師「ここで先生をやって、しかも高位錬金術師とか…マスターも視野に入るじゃないですか」
術士先生「いえいえ、好きな事として、一生懸命やってきたら…この立場にいただけですよっ!」
錬金術師「充分、凄いことだと思います」
術士先生「そ、そうでしょうか…えへへ…」テレッ
錬金術師「術士先生は中央国出身なんですか?」
術士先生「あっ、えーと…そうですね。幼い頃からずっと中央国の中央都市に住んでます」
錬金術師「錬金術を始めたきっかけは?」
術士先生「昼間の白学士クンと一緒で、昔からモノを作るのが好きで、錬金術という技術があるのを知って勉強を…」
錬金術師「ってことは、今まで独学ですか?」
術士先生「子供の頃はそうでしたけど、途中でこの特待学校に入学したんです」
錬金術師「!」
術士先生「実は、この学校は母校で…。恩返しをしたくて、先生として入ったんです」エヘヘ
錬金術師「なるほど。尊敬致しますよ」
術士先生「そんな…」テレッ
錬金術師「ははっ」
術士先生「…そうだ、店長先生」
錬金術師「はい?」
術士先生「昼間に言ってた、白学士クンと"間逆"ってどういう意味ですか?」
錬金術師「あぁ…」
術士先生「急にお話が変わってしまって申し訳ないですが、少し頭に残ってて」
錬金術師「簡単ですよ。真っ白だからです」
術士先生「真っ白?」
錬金術師「俺は少なくとも、元々別の色に染まっていた人間だった」
錬金術師「その上で、技術や知識を得た。だから、他の事に興味が持てなかった」
錬金術師(…親父に従いたくなくて、一心不乱に前だけを目指した)
錬金術師(性格は真っ黒になって他人に関心も持てず…、挙句に後輩を殴りましたなんて言えねぇ)
術士先生「彼が真っ白、ですか」
錬金術師「あぁそうです。俺とアイツは違う」
錬金術師「確かに境遇は似てます。ですが、あいつは真っ白な状態のまま、技術と知識を得ている」
錬金術師「誰かが声をかけて、影響を与えたらすぐにその色に染まるでしょう」
錬金術師「…俺色に染めたくないだけですよ」
術士先生「そういう意味だったんですか…」
錬金術師「これでご理解頂ければ有難いです」ニコッ
術士先生「はいっ…」
カツカツカツ…スッ
ウェイター「失礼します。お待たせいたしました」
コトッ…コトッ…
トクトクッ…
錬金術師「ワインか。ありがとう。さっ…術士先生」スッ
術士先生「…はい」スッ
錬金術師「こんな素敵な場所に招待してくれて、有難うございます」
術士先生「私のほうこそ、色々聞けて本当にうれしいです」
錬金術師「俺たちも、素敵な夜になりますように…乾杯」
術士先生「乾杯っ…」ホウッ
…チィンッ…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 その頃・錬金術師のお店 】
女店員「は…はっくしょん!」
女店員「さ、寒気が…」ゾワッ
銃士「風邪?今日は早くあがったほうがいいんじゃない?」
女店員「大丈夫です。今日はお客さん来てくれましたし、売り上げも上々ですし、頑張らないと」フンッ
銃士「店長がいなくなってから、妙にお客さんが増えたよねぇ…」
銃士「でもさ、忙しい時こそ、身体は資本なんだから…辛かったら休んでいいんだよ?」
女店員「このくらいっ!」フンッ
ゴソゴソ…
錬成師「僕にも、手伝える事があったら言ってくださいね」
銃士「充分役立ってくれてるよ。ライフポーション、マナポーションの生成もしてもらったし」
錬成師「これでも、先輩に比べてまだまだなんですけど」ヘヘッ
銃士「はは、確かに店長は凄いもんね」
タッタッタッ…
新人鉱夫「えっと、みなさん!」
女店員「どうしました?」
錬成師「?」
銃士「?」
新人鉱夫「勝手に店長さんの道具使ったんですけど、鍋をご用意したので食べませんか?」
錬成師「!」
銃士「へぇ、鍋か」
女店員「お夕飯代が浮く…じゃなくて、いいんですか?」
新人鉱夫「店長さんがいない間、力入れて頑張ろうって意味で作ったんですけど…生意気でしたかね…」アハハ…
銃士「何が生意気だ!嬉しいに決まってるじゃないか!」
グイッ…ポンポンッ
新人鉱夫「あわわ…」カァァ
女店員「皆さん、有難うございます。皆さんがいなかったら、どうなってたか…」
銃士「…これも縁のあるところ。みんな店長に惹かれたんじゃないかなぁ」
錬成師「きっと、そうじゃないでしょうか」
新人鉱夫「ですねっ…」
女店員「う~ん…じゃ、私も休憩しようかなぁ…」ググッ
女店員「よ~っし、いただこうかな!新人鉱夫くんの手料理♪」ガタッ
女店員「うん…」ハッ
女店員「…」
銃士「…ん?」
女店員「あ、いえ…。私がここに座っていても、やっぱりなんか変な感じですね」
女店員「立ち上がって周りを見渡す時、もう3日にもたつのに、まだ慣れませんよ」
銃士「…私もやっぱり、店長がいないとな変な気がするよ」ハハ
女店員「あはは、そうですね…マスコットですもんね」クスッ
新人鉱夫「早く帰って来るといいですね!」
錬成師「先輩…、何してるんだろうなぁ」
女店員「早く戻ってこーい、店長~!…な~んて…」
銃士「ふふっ、じゃあ倉庫側で食べようか」
新人鉱夫「お肉いっぱいですよ!」
女店員「楽しみですねぇ…」
錬成師「わぁ…」
………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 中央国・中央通り 】
錬金術師「へ…へっくしょん!!」
術士先生「風邪…ですか?大丈夫ですか?」
錬金術師「まだ梅雨前だというのに…夏風邪でも引いたかね。まぁ大丈夫ですよ」ズズッ
術士先生「そうですか…。なら、いいんですけど…」
錬金術師「それにしても、美味しかったですね。最高の時間でした」
術士先生「…お支払いとか、良かったんですか?私が予約したり、お願いしていたのに…」
錬金術師「その手間をとらせた分ってことで」ニカッ
術士先生「店長先生…」ホウッ
錬金術師「さて、俺の宿泊してるのはこっちなので…」
術士先生「あっ…は、はい。お疲れ様でした」
錬金術師「いえいえ。それじゃあ、明日もまた頑張りましょうね」
術士先生「はいっ!」
錬金術師「では~」ペコッ
術士先生「お疲れ様でした」ペコッ
トコトコトコ…
錬金術師「…」
トコトコ…
錬金術師「…」
錬金術師「…あっ」ピタッ
錬金術師「やっべ、明日の実践に必要な道具聞くの忘れてた…。術士先生、まだそこまで遠くに行ってないよな」クルッ
タッタッタッタッタッ…
錬金術師「どこにいった、術士先生…」
錬金術師「えーと…」キョロキョロ
術士先生「♪」
錬金術師「あ、いたいた。術士先生~!」
術士先生「…」
トコトコ…
錬金術師「…声届いてないのかね。仕方ねぇな…」
タッタッタッタッ…
術士先生「…」
トコトコ…スッ…
錬金術師「あっ…やべっ!裏通りに入ってったら見失う!」ダッ
タタタタタタッ!!
錬金術師「…いつっ!」ズキンッ
錬金術師「くそっ、スライムの傷も完治してないっちゅうに…」ズキズキ
タタタタタッ…クルッ
錬金術師「えっと、この通りに入ってったな…。つーか見覚えある通りだな…って」ハッ
"3丁目"カランッ
錬金術師「さ…3丁目…。嫌な場所に入ってくな、おい…」
ボソッ…
錬金術師「ん…」
ボソボソ…
錬金術師(術士先生の声か?ずいぶん小さな声でしゃべってるな…)スッ
術士先生「…で、…だから…」ボソボソ
???「ふむ、なるほど」
錬金術師(あれは術士先生と…誰だ…?随分とコソコソと…)
術士先生「…で、はい。そうです」
???「ありがとうございます」
術士先生「…入手はしていません」
???「しかしまぁ、上手く聞き出せないものですね」
術士先生「…」
コソコソ…
錬金術師(あんま聞こえねぇな。だけどなんか妙に聞き覚えのある声が…。って!!)
術士先生「…かもしれませんけど」
アルス副機関長「ふふっ、そうかもしれませんね」
錬金術師(…あ、アルス副機関長!!)
術士先生「はい…そう、ですね」
アルス副機関長「ふむ…」
錬金術師(な、なんで術士先生とアルス副機関長が一緒に…)
錬金術師(…)
錬金術師(まさか…、まさかとは思うが…)
アルス副機関長「それじゃ、まだ引き続き頼みますよ」
術士先生「はい」
アルス副機関長「何としても、彼の情報をもっと引き出してください」
術士先生「…はい」
アルス副機関長「そうですね、彼をあきらめるには惜しい存在だ…ふふっ…」
術士先生「店長先生は本当に凄い方です。で、でも…」
錬金術師(っ~…!!)
錬金術師(やられた、迂闊だった…!まさか、学園内部までスパイがいるとは…!!)
錬金術師(そうか、考えたらおかしいはずだ。何で俺がアルスマグナの機関名を言ったのが初日にバレていたか…)
錬金術師(…待て、あの時間とあの速度…、あの日の俺を襲ったやつは…もしかして…)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
…チャキッ
術士先生「…動かないでください」
錬金術師(この感じ…銃か…)
術士先生「アルスマグナです…」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
錬金術師(そういうことか、そういうことか…!?)ドクンッ
錬金術師(い、いつからだ?これはいつから仕組まれていた…)
錬金術師(あのクソ機関は、あれでも副機関長を含めて頭がいい…)
錬金術師(…)
錬金術師(恐らくかなり前、俺がここに来るように考えて行動していたはず…)
錬金術師(と、すると…あいつらの作戦が始まったのは…)
アルス副機関長「貴方を、臨時講師として呼んだ時からですよ…先生」フフッ
錬金術師「!!」ゾワッ
ダダダダッ、コツッ、ズザザザァ!!ドシャア!!
アルス副機関長「うっわ、嫌ですね。そこまで驚かなくても…泥だらけじゃないですか」
術士先生「て、店長先生!?」
錬金術師「くっ、貴様ら…!」スクッ
アルス副機関長「…騙すつもりはなかったんですけどね」ハァ
術士先生「うっ、あう…」ブルッ
錬金術師「何が騙すつもりがないだ!!…俺としたことが、上手く乗せられてきたみたいだな」
アルス副機関長「貴方のお人好しは究極的だ。面倒面倒と言っても、やってくれますからね」
アルス副機関長「臨時講師のお話もこちらで準備したこと。あっ、貴方の機関長はそのことは知りませんよ」
アルス副機関長「…機関の研究で詰まって進めない所があったので、どうしても来てほしかったんです」
錬金術師「その事より、術士!今日のや、いつも積極的に話をしてきたのは、俺の弱みを握る為の策か!」
術士先生「そ…その…」グスッ
アルス副機関長「そりゃそうですよ、ねぇ?この人も忠実な、我らの仲間なんですから」ニコッ
錬金術師「…見損なったぞ、術士。学校への恩返や、生徒への思いは全部ウソだったんだな!」
錬金術師「くそっ…、自分が情けねえ…」
錬金術師「調子に乗って、こんな事にすら気づけなかったなんて…!」
術士先生「…っ」ダッ
タッタッタッタッ…
アルス副機関長「はぁ、申し訳ありません。ですが、やっぱり諦めきれないのです!」
アルス副機関長「貴方の弱みを握り、こちら側に従わせたかった!」バッ
錬金術師「…ぜってぇに俺は従わんぞ。反吐が出る…」
アルス副機関長「あと1歩…あと1歩なんです。貴方の力があれば、それができる!」
錬金術師「やらねぇよ!!」
アルス副機関長「女店員、新人鉱夫、銃士、錬成師…。ふふっ…」
錬金術師「…ッ」
アルス副機関長「…どうしますか」
錬金術師「…」
アルス副機関長「最近、貴方のお店は少し繁盛しているみたいと言いましたよねぇ?」
アルス副機関長「お客さんもいて、売り上げもあるみたいだし…ふふっ」
錬金術師「…」
アルス副機関長「いかがなさいますか?答えは分かっているでしょうが」
錬金術師「…」
アルス副機関長「…さぁ、どうしますか!」
錬金術師「…」
錬金術師「…俺はやらない。それだけは変えるつもりはない!!」
アルス副機関長「…残念です」
錬金術師「悪いな。人質だとか、そういうのに縛られる俺じゃねえんだよ」
アルス副機関長「…」
錬金術師「…」
アルス副機関長「本当に、残念ですよ…」クルッ
錬金術師「…待て」
アルス副機関長「なんでしょうか」
錬金術師「今回の先生の話、全部お前らが仕組んだことだったなら…降りても問題ないな?」
アルス副機関長「仕事を途中で降りるというのですか」
錬金術師「お前らが何する気かは知らないが…、仲間がピンチになりそうな時に先生をやると思うか?」
アルス副機関長「…強がりを言っても、やはり仲間は心配の様子ですね」
錬金術師「心配はするに決まってるだろうが。だが、お前には従わん」
アルス副機関長「…カマをかけただけです。何もしません。我々は、美しさをモットーに立ち回っておりますから」
錬金術師「何言ってやがる…犯罪集団が…」
アルス副機関長「本当に何もしません。残りの時間で、生徒たちを精一杯教えてあげてください」
錬金術師「…」
アルス副機関長「だから、何もしませんてば。貴方を動かせるかとカマをかけただけです」
錬金術師「…」
アルス副機関長「あと3,4日ですよね。がんばってください」
錬金術師「…ねぎらいの言葉、ありがとよ」
アルス副機関長「…では。失礼します」
アルス副機関長「ッッ…」ギリッ
カツカツカツカツ…
カツカツ…
錬金術師(…悪いが、お前らが一般人に手を出さない、出せないのは知っている)
錬金術師(カマなんかに乗らねぇよ。そして、残った時間、先生の仕事もしっかりさせてもらう)
錬金術師(術士先生…、残念だ…)
…………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 次の日・担当教室 】
…ガチャッ!
錬金術師「おはようございまーす」
錬金術師「…」
シーン…
錬金術師「やっぱり、いないか」
…コンコンッ
錬金術師「はい、どーぞ」
ガチャッ!
校長「どーもどーも!」
錬金術師「あっ、おはようございます」
校長「ちょっとお伝えすることがありましてね」
錬金術師「何スか?」
校長「今日から、術士先生は休暇を頂くそうなので、残りの日数は一人でやってもらっても?」
錬金術師「…」
校長「…」
錬金術師「…構いませんよ。まぁ、こうなるとは思ってましたし」
校長「そうですか!」ニコッ
校長「ありがとうございます、それでは残りの日数もよろしくお願いしますね!」
錬金術師「うい」
ガチャッ、バタンッ…!
錬金術師「…」
錬金術師「…"そうなると思っていた"って言葉に、反応はなしか」
錬金術師「真っ黒だな。笑えてくるくらいに」ククク
…ガチャッ!!
校長「あっ、そうでした言い忘れてました」
錬金術師「ふぁいっ!?」ビクッ
校長「残りの日数、頑張ってくださいね」ニコッ
錬金術師「…は、はぁ」
校長「…別にこちらから大きく仕掛ける事はありませんから」
錬金術師「…」ピクッ
校長「と、伝えてくれと言われましたので」ニコニコ
錬金術師「…そうかい」
校長「では、先生として貴方の腕を期待しておりますよ」ニコニコ
錬金術師「はいよ」
校長「ではっ」
ガチャッ…バタンッ…
錬金術師「…」
…………
………
…
――結局、最後まで術士先生が姿を現すことはなかった。
だが、それからは何が起きるわけでもなく…
店長の学園生活の日々は、静かに、静かに過ぎていった。
そして、すべてが終えた8日目の朝…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 中央国 8日目 】
ガチャッ…ギィィ…
錬金術師「失礼します」
校長「おおっ、店長先生!今日まで本当にお疲れ様でした!」ニコッ
錬金術師「…いえ」
校長「それでは約束の300万ゴールド…準備させて頂きました。どうぞ」
…ドンッ!
錬金術師「どーも」スッ
校長「…」ニコニコ
錬金術師「…ところで、術士先生はまだ休暇を?」
校長「あぁ、彼女ですか!彼女は家の都合で、しばらく休んでいるそうですよ!」
校長「お伝えしていませんでしたっけ?」
錬金術師「…そうでしたね」
錬金術師(適当なこと並べやがって…。ま、彼女をどうするわけでもないんだがな)
校長「…」ニコニコ
錬金術師「んじゃ、これで失礼します」ペコッ
校長「いやはや、また縁があれば、是非、我が校においでください!」
錬金術師「…」
カツカツカツ…ガチャッ…
バッ…バババッ!
生徒たち「…ありがとうございました!!」
錬金術師「おふっ」
生徒「本当に短い時間でしたが、店長先生との授業はとても分かりやすかったです」
生徒「僕らも将来、先生のように立派な錬金師となってみせます!」
生徒「ありがとうございましたぁ!!」
白学士「…ど、どうもでした…」ペコッ
錬金術師「…おう。励んで頑張れよ」
カツカツカツ…
白学士「…」
白学士「あ、あの…店長先生!!」
錬金術師「あん?」クルッ
白学士「先生はもう先生じゃなくなりますけど、分からない事が出来たら…また、聞きにいってもいいですか…」
錬金術師「お前それは面倒…」
生徒たち「…」ジッ
白学士「…」ジッ
錬金術師「なんかじゃねーわな。俺の店ぇいつでも来いよ!」バッ
白学士「!」
生徒たち「!」
錬金術師「待ってるぞ、生徒諸君。プロになって、俺の最高の後輩となれ…なぁんて…」
生徒たち「…はいっ!!」
白学士「はいっ!!」
錬金術師「…」
錬金術師「ま…先生も悪くなかったかな…」
錬金術師「ははっ…」
…………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
その日…
店長は複雑な思いを噛みしめつつも、馬車に揺られて自分の店へと戻って行った。
そして―――…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 朝 錬金術師のお店 】
…ガチャッ!
錬金術師「ただいま~」
女店員「!」
銃士「!」
新人鉱夫「!」
錬金術師「…ん?」
女店員「お帰りなさい、店長っ!!」ワッ!
銃士「お帰り、店長」
新人鉱夫「お帰りなさいです、店長さんっ!!」
錬金術師「お、おう」
カツカツカツ…ポンッ
女店員「…お帰りなさい。店長♪」ニコッ
錬金術師「…うむっ」
女店員「1週間くらいって話は聞いてたけど、少し長かったね。でも、先生の話はきちんと断ったんだ?」
錬金術師「え?」
女店員「え?」
錬金術師「…」
女店員「…」
錬金術師「…あぁ!!そうか!!」ポンッ
女店員「?」
錬金術師「いや、俺さ…。臨時講師やってきたんだよ」
女店員「!?」
銃士「!?」
新人鉱夫「!?」
女店員「ちょ…えっ!?先生をしたの!?」
錬金術師「1週間だけやってくれって言われてさ。金も積まれたし」
女店員「…そ、そんな気はしてたけど」
錬金術師「ほいっ」
ゴソッ…ドサッ!!
女店員「なぁに、これ?」
錬金術師「300万ゴールド」
女店員「…え?」
錬金術師「300万ゴールド」
女店員「さっ…」
錬金術師「袋に入って少ないように見えるけど、金貨だし大丈夫」
女店員「す、凄い…」
錬金術師「結構大変だったしなぁ…」ポリポリ
女店員「先生って、本当に店長が生徒教えたりしたの?ちゃんと出来たの?」
錬金術師「…どういう意味でしょうか」
銃士「はは…驚いたな」
新人鉱夫「でも、こうして戻ってきてくれてよかったです」
錬金術師「おう。新人鉱夫、俺の留守の間に店の開け閉めとかはやってくれたのか?」
新人鉱夫「鍵は女店員さんも管理してましたけど、寝泊りしてる倉庫の掃除とかはしておきました」
錬金術師「ふむ…」
女店員「みんなで鍋食べたり、楽しかったよ。ね~?」
銃士「うむ」
新人鉱夫「練成師さんも混ざって、楽しかったですよね」
錬金術師「何それずるい!俺には!」
女店員「へへーん!」
錬金術師「く、くそ~!」
新人鉱夫「今度つくりますからっ!」
錬金術師「ぜひ!」
新人鉱夫「任せてくださいっ!」
錬金術師「くそ~…。あっ、そうそう、話は変わるけど、今回手に入ったお金の使い道なんだけどさ」
女店員「何に使うんですか?」
錬金術師「ピーナツのさ…」
女店員「何に使うんですか?」
錬金術師「改造を…」
女店員「何に使うんですか?」
錬金術師「…」
女店員「…」
錬金術師「つ、使い方の予定は、新人鉱夫の為に少し倉庫イジって…」
錬金術師「ちゃんと休めるように、寝やすくするのも有りかなーと…ね?」
錬金術師「ぺったんこの布団だし、硬いし、寝にくいだろ」
新人鉱夫「そ、そんな事しなくても!」
錬金術師「だってさ、鉱員って疲れるし…寝泊りできる場所とかはしっかりほしいだろ?」
新人鉱夫「そ、それは~…」
錬金術師「はっはっは、任せとけ!」
女店員「うん、それがいいんじゃないかなっ」
女店員「…」
女店員「…あっ、そうだ!店長!」
錬金術師「ん?」
女店員「…見て、これ!」ズイッ
錬金術師「あん?」
女店員「収支!店長がいない間、お客さん来てくれて、売り上げも伸びたんだから!」
錬金術師「あ~…それは…」
女店員「…」キラキラ
錬金術師「…すげえな!俺じゃここまでのお客呼び込めないわ~」
女店員「えへへ、でしょおっ!」
錬金術師(アルスマグナがスパイの為に訪れてたんだろうが、この笑顔じゃ言えないわなぁ)
銃士「凄い頑張ってたよ、女店員」
新人鉱夫「毎晩遅くまで出納帳を書いたり、錬成師くんが使う道具の準備を進めたりしてましたね」
銃士「途中で風邪ひいたりしちゃってたけど、私たちも凄く楽だったなぁ」
新人鉱夫「全部仕事の分担を決めてもらってたし、店長は改めて凄い事してたんだなって褒めてましたよ!」
錬金術師「…」
女店員「ちょ、ちょっとみんな…」
錬金術師「…すげぇ頑張ってくれてたんだな。ありがとな、女店員」ポンッ
女店員「い、いえ!」
錬金術師「頭ナデナデしてやろうか」
女店員「な、なんでっ!」
錬金術師「まぁ、だが!俺が戻ってきたからには、安心してお前らも働くがよい!うははは!」
銃士「…」
女店員「…」
新人鉱夫「…」
錬金術師「…なんだお前ら、黙るなよ」
銃士「いやなんか…」
新人鉱夫「…ですね」
女店員「やっと、お店が戻ってきたって感じがしただけ♪」
錬金術師「…そ、そうか」
女店員「そうだっ。今回の先生のお話とか色々聞かせてよ!」
銃士「おっ、それは面白そうだね」
新人鉱夫「何かつまめるもの用意して、少しお話しましょうか!」
錬金術師「…久々にバターピーナツが食いてぇな。用意してくれるか?それと、話はあまり面白くないぞ?」
女店員「それでも聞きたいの!」
錬金術師「お、おう」
錬金術師(つっても、アルスマグナの事とかは言えねぇし、生徒との事とかさくっと話すかねえ)
女店員「…」ワクワク
錬金術師「んーとな、俺が最初に担当した生徒の中に、白学士ってやつがいてな…」
新人鉱夫「あっ、僕も聞きたいんですから、バターピーナツ準備してる間はまってくださいよう!」
錬金術師「それが面白いやつで…」
新人鉱夫「うぅ~っ!」
女店員「あはは…!」
銃士「ははっ…」
錬金術師「んでな…」
…………
………
……
・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
【 現時点でのお店の経営収支 】
■収入
・販売関連400万ゴールド
・臨時講師300万ゴールド
■支出
・バターピーナツ生成器40万ゴールド
・倉庫拡張費用70万ゴールド
・鉱山のバイト代10万ゴールド
・ポーション素材(アカノミの花/アカノミ)3万6000ゴールド
・火魔法耐性の金属片16万4000ゴールド
■収支合計
・710万ゴールド
(前回よりプラス360万ゴールド)
【 現時点でのお店の経営情報 】
■お店
・平屋1階建て
・少し広い倉庫
■店員関連
・店長補佐1名
・ハンター1名
・鉱石採掘師(鉱員)1名
■販売物
・採掘道具20万ゴールド
・鉱石類(鉄鋼1000、銀5万、エレクトラム20万ゴールド)
・ライフマナ回復ポーション5000ゴールド
・バターピーナツ(サービス)
・装備類の修理等(時価)
【 後編 】 に続きます。