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――――【 次の日・早朝 】
チチチ…
錬金術師「おはよう」
女店員「おはよう♪」
錬金術師「朝から元気だねぇ…」
女店員「そりゃ色々見に行けるのは楽しいし」フンッ
錬金術師「あぁ、そう…。女の人は買い物が好きだからねぇ」フワァ…
女店員「それにもう週末も近いし、鉱石が売れてくれればやれることが増えそうだし♪」
錬金術師「確かにな」
女店員「今回の市場でいい商品が見つかれば、今後も手に入るし~」
錬金術師「今日の目的は薬品の素材だし、そこまで金はかからないだろ」
女店員「そうなの?」
錬金術師「薬品調合はどっちかっつーと、素材の知識とその技術に金が支払われてるって言っても過言じゃない」
錬金術師「1本200ゴールドで販売されてるドリンク類の原価は50ゴールドだ」
錬金術師「まぁ人件費や雑費絡んで200だし、俺らの販売だと100とか150で売れるかもしれんな」
女店員「それで利益出るのかなぁ?」
錬金術師「原価より少しでも高ければ利益は出る」
錬金術師「それに大手販売店とかと比べたら、俺らみたいなのはそうしていかないと売れないんだよ」
女店員「逆のイメージもあるんだけどな。大手だと安いっていうイメージもあるんだよね」
錬金術師「確かに人件費を削ったり、卸値を目玉としてそのまま販売したりはするな」
女店員「利益ってあがるのかな?」
錬金術師「大手っていうブランド力もあり、販売物の多さ、まぁ儲けの手段は色々ある」
女店員「うちもそのくらい大きくなったりしないのかなー」チラッ
錬金術師「小さくチマチマやってても利益は充分にあがるから良いの!」
女店員「むぅ…」
錬金術師「だけど前に言った通り、この周辺にライバル店みたいなのはないし、ポーションは貴重だ」
錬金術師「その分、それを逆手にとって高値でも売れるんだがな」
女店員「なるほどねぇ…」
錬金術師「さぁ市場の朝は早い。馬車に乗っての少し遠出になるし、さっさと行こうか」クルッ
女店員「うんっ!」
…………
………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 大型馬車 】
パカッ…パカッ…
女店員「早朝だといつも込んでる馬車も空いてるね~」
錬金術師「…」
女店員「でも早起きって気持ちいいなぁ」ウーン
女店員「店長もそう思うでしょ?」クルッ
錬金術師「…」グー…
女店員「寝てるー!!」
錬金術師「んおっ!?な、なんだどうした!」ビクッ!!
女店員「い、いえ。早起きは気持ち良いなぁと思ったら、横でダウンしてたので」ゴホンッ
錬金術師「朝早く起きたって何にもなんねぇよ」フワァ
女店員「早起きは三文の徳っていうでしょ」
錬金術師「…」
女店員「だから、起きたら起きたで今後の事とかしっかり話し合うとかー…」
錬金術師「早起きは三文の徳ってさ、元々は"早起きしても三文の徳"にしかならない」
錬金術師「そういう意味なんだぜ?」
女店員「…そうなの?」
錬金術師「そうなの」
女店員「…」
錬金術師「ってなわけで、寝たほうが徳なのだ」
女店員「はぁ…」
錬金術師「どうせ大金持って行くワケじゃないし、市場に行ってもいまいちなぁ」
女店員「20万って大金だと思うんだけどな~…」
錬金術師「そうか?市場だと普通に数百万ゴールドの取引もあるし…」
女店員「出来る所から、買える素材から一歩一歩が大事!」
錬金術師「まあ…そうだな」
女店員「どんなのが売ってるんだろぉ…。私、そういうところ行った事ないし少しワクワクする♪」
錬金術師「賑やかで、安く素材が売ってるただの広場って感じだ」
女店員「楽しそうだなぁ」
錬金術師「別に薬品関係じゃなくても、何か良い物が売ってたら買えばいいとは思うし」
女店員「うんっ。…あ、そうそう」
錬金術師「ん?」
女店員「今から行く場所は山の中なの?…どんどん山奥に行ってるっぽいけど」
錬金術師「海が近くて、山のふもと」
女店員「ふむふむ…」
錬金術師「どっちの素材も手に入る、"麓村"っていう場所だ」
女店員「あ、聞いたことあるかも。ここから1時間くらいだっけ?」
錬金術師「そう」
女店員「ちょっとした遠出で、いつもと違うからワクワクする♪」
錬金術師「景色でも楽しんでてくれ。俺は寝る…」グー…
女店員「…もうっ!」
………
……
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 麓村・市場 】
…ストンッ!!
錬金術師「ふわぁ~…着いたぁ~…」グググッ
女店員「う~ん朝日が気持ちいい!」
ザワザワ…ガヤガヤ…!!
錬金術師「おーっ、朝から盛況なことでなぁ」
女店員「うわっ、凄い人の数!」
錬金術師「こんなもんだ。さて、何かないか探しに行くか」
トコトコトコ…
女店員「すっごーい…!見たことない物とか沢山ある!」キラキラ
錬金術師「気になったモンがあったら教えれ。寝ぼけ半分でよく見えん」ゴシゴシ
女店員「…」
トコトコ…
青年「いらっしゃい!いらっしゃいませ!そこのお嬢さんとお兄さん!」
女店員「!」
青年「何をお探しで?山の幸に海の幸、うちは安いですよ~!」
女店員「へぇ~、どれどれ♪」
青年「これとか見てくださいよ!」スッ
女店員「わっ、お花?」スッ
青年「アカノミのお花ですよ!調合すれば回復薬になるんです、お安くしますよ~!」
女店員「へぇ~綺麗だなぁ…。店長、これとかどう?」
錬金術師「…」スヤスヤ
女店員「…ちょっと!!」
錬金術師「!」ハッ
女店員「この花とかどーうーでーすーかー!!」
錬金術師「…ッ!」キーン
青年「はは…」
錬金術師「う、うっせぇなぁ!!見せてみろ!!」グイッ
女店員「あっ!」
錬金術師「…」ジー
錬金術師「…おいアンタ」
青年「はい?」
錬金術師「これは一輪幾らだ?」
青年「一輪、2000ゴールドです!」
錬金術師「たけぇ」
青年「これでもギリギリですよ?一般販売だと5000ゴールドはくだらないんですから!」
錬金術師「じゃあ聞くが、これはいつ採った花だ?」
青年「えっ」ドキッ
錬金術師「お前この花の特徴知らないだろ」
錬金術師「3日たったアカノミの花は茎の部分に染みが出る。見ろ、ハッキリ出てるじゃないか」グイッ
青年「あっ…」
錬金術師「これで2000ゴールド?ぼったくりもいいところだ」
青年「…」
錬金術師「アカノミの花は新鮮さが命。安くすれば買わない事はないぞ?」
青年「…」
青年「わ、わかりました。一本1000ゴールドでかまいません…」
錬金術師「それなら頂こう。全部欲しいな、幾らだ?」
青年「30輪ありますので、3万ゴールドになります」
錬金術師「…ほい」チャリンッ
青年「はい、確かに。ありがとうございました」ペコッ
錬金術師「あとアカノミはあるのか?」
青年「ありますよ。1つ3000ゴールドになります」
錬金術師「そっちはそのままでいいや、2つくれ」
青年「はいっ。ありがとうございます」
ゴソゴソ…スッ
錬金術師「ありがとさん。じゃ、また今度」
青年「ありがとうございました!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
トコトコトコトコ…
女店員「店長、さすが…。花にも精通してるなんて…」
錬金術師「ん?」
女店員「やっぱり知識は身を助けるってことなんだな…」
錬金術師「アカノミの花はエキス抽出が必須なのに、腐りかけの花を買っても仕方ねーしな」
錬金術師「俺みたいなのにかかれば、そのレベルからでも抽出できるが」
女店員「知識と技術の差の勝利ってこと…か」
錬金術師「そーいうこと。それと、ほれっ」スッ
女店員「これって…アカノミ?」
錬金術師「そう。歩きながらでも食っとけ」
ガブッ…シャリシャリ…
錬金術師「おっ、こりゃ上等なアカノミだ。甘くてうめぇ」
女店員「美味しいの…?」
錬金術師「食ったことないの?」シャリシャリ
女店員「このまま丸ごとってのは余りないかな…」
錬金術師「アカノミはフルーツの1つで、栄養満点でな。弱い毒ならこれで解毒できるし」
錬金術師「朝に食べると、朝食の代わりになり得るくらいのパワーはある」
女店員「へぇ~…!でも、花のほうもポーションに使えるんだよね?」
錬金術師「そう。実と花は効能が違うからな。実はこのままでいいが、花は抽出が必要ってことだ」
女店員「へぇ…」モグモグ
錬金術師「…」シャリシャリ
トコトコ…ピタッ
女店員「…あっ!」
錬金術師「ん?」ゴクンッ
女店員「店長、ちょっと欲しいものがあったかも…」
錬金術師「何よ」
女店員「あれなんだけど…でも、アレは自費で買ってくる!」ダッ
錬金術師「あっ、おい!」ダッ
タッタッタッタッタッ…
女店員「すいませーん!」
初老の爺「んむ?はいはい」
…タタタッ
錬金術師「はええよ足…」ハァハァ
錬金術師「何が欲しくて、どれを見つけたって…?」ゼェゼェ
女店員「この本を見つけたから!」
錬金術師「ん~?」
女店員「"錬金術入門"!」ズイッ
錬金術師「あ~…」
女店員「おじいさん、この本幾らですか?」
初老の爺「あーそれは安くして5000ゴールドだったかなぁ…」
女店員「買います!」チャリンッ
初老の爺「はいはい、毎度~」
錬金術師「…」
初老の爺「はい、ではこちらの本をどうぞ。ありがとうございました~」ペコッ
女店員「ありがとうございます♪」
錬金術師「お前…そんなに本気で勉強したかったのか?」
女店員「だから、少しでも役に立てるようにしたいって!」
錬金術師「…」
女店員「今まで、ほとんど営業ばっかりで、働いてる身なのに錬金術に関してほとんど知らなかったし…」
女店員「出来る事なら手伝いたいし、少しでも店長がやる気出したなら手伝うしかないでしょ!」フンッ
錬金術師「…はは」
女店員「何笑ってるの」
錬金術師「いや何でも。んじゃさ…ちょっと予定変更だ、お前馬車乗り場に先に戻ってろ」
女店員「もう帰るの?」
錬金術師「ちょっと予定変更なだけだ。すぐ戻るから、先に行っててくれ」
女店員「そうやってサボる気じゃ…」ゴゴゴ
錬金術師「ちげえって!本でも少し嗜みながら待っててくれ!」
女店員「…わかった。さぼったらダメだからねっ!」
錬金術師「はいはい!」
女店員「じゃ、またあとで~」
タッタッタッタッ…
錬金術師「…行ったな。さて、探すか」
…………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 30分後 】
錬金術師「…お待たせっ!!」
…ドサッ!!ガシャァン!!!
女店員「きゃあっ!」ビクッ
錬金術師「重かったぁぁ!」
女店員「お、お帰りなさいって…今の凄い音は何!?」
錬金術師「はぁ…はぁ…。この袋だよ…」ポンッ
女店員「この袋に何入ってるの?」
錬金術師「いいものだよ…」ゼェゼェ
女店員「いいもの…?」
錬金術師「戻ったら分かるって。あと、もう持ってきたお金ないから」
女店員「」
錬金術師「お、怒るなよ!!必要投資なんだから!!」
女店員「本当に…?」
錬金術師「本当本当!ほら馬車も来たし、店に戻ろう!」
女店員「怪しい…」ジー
錬金術師「いいから馬車に乗って帰るぞ!店に行ったら見せてやるよ!」
女店員「むぅ~…」
…………
………
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 1時間後 錬金術師の店 】
錬金術師「…よいしょっと」ドサッ!
女店員「はぁ~、結構歩いたなぁ」
錬金術師「アカノミの花くらいしか成果なかったなぁ」
女店員「あっ!そういえば、さっき買ったの見せてくれる!?」
錬金術師「いらねえもんじゃねえよ!袋を開けて見てみろ!」
女店員「…」
ゴソゴソ…、ガシャガシャッ!
女店員「こ、これって金属?鉄か何か?」
錬金術師「鉄じゃねえし、ただの金属じゃねえぞ。火炎に耐性のある特別な金属だ」
女店員「?」
錬金術師「簡単に言えば、火を通さないのよ」
女店員「火を通さない金属?これをどうするの?」
錬金術師「これを炉に融解させて張り合わせて、新しい炉を作ってやる」
女店員「!」
錬金術師「いくら火を強く放っても、これで炉が壊れたり暴走したりすることはないはずだ」カチャカチャ
女店員「もしかして…私のために?」
錬金術師「お前以外に使う奴がどこにいるよ」
錬金術師「もうじき、鍛冶屋に大量に精錬して渡さないといかんし、手伝ってもらおうかとな」
女店員「あ、ありがとう…!」
錬金術師「本まで買って勉強とは、そこまで本気とは思わなかったしな」
女店員「私、一生懸命頑張る!!」
錬金術師「炉が出来たら、隣で見ながら教えてやるよ」
錬金術師「あと聞きたい事があったら適当に聞け。答えられる範囲で答えるから」
女店員「うんっ!」
錬金術師「ただ、出来ない事もあるからそれは教えられんぞ」
女店員「出来ないこと?」
錬金術師「前に言った、階級とその制限技術の覚えてるか?」
女店員「確か、階級毎に研究できる対象が限られてるとか…」
錬金術師「そう。それもあるから教えられるのはえーと…ちょっとその本見せてみろ」
女店員「あっ、うん」スッ
錬金術師「…」
ペラペラペラ…パサッ
錬金術師「あ~…この本少し古いな。機関に属しないと研究できない対象も入ってるぞ」
女店員「え、本当に?」
錬金術師「このページにある、銃以降のページの一般人の研究は、今は禁止事項だ」
女店員「えーとじゃあ…このページの前まで出来るってこと?」
錬金術師「そういうこと」
女店員「ふむふむ…」
錬金術師「客も少ないし、軽く錬金術の勉強とでもいくか」
女店員「是非っ!」ズイッ
錬金術師「や、やる気だな。えーと…今の錬金術は、基本となる術式の流派が4つあるのは知ってるか?」
女店員「ううん知らない…。4つもあるの?」
錬金術師「"アレキサンドリア錬金術"」
錬金術師「"アラビア錬金術"」
錬金術師「"スコラ錬金術"」
錬金術師「そして一般生活に欠かせない"イアトロ化学"の4つだ」
女店員「へぇ!そんな流派があるんだ」
錬金術師「まぁ歴史みたいなもんだから知らなくてはいいがな」
錬金術師「唯一、精通しなければならないのは"アレキサンドリア錬金術"の基礎になる」ビシッ
女店員「基礎?」
錬金術師「アレキサンドリア…もとい、アレク錬金術において四大元素というものがある」
錬金術師「それは今の錬金術のアルケーとなっているわけで…」
女店員「待って待って待って!わかんない!」
錬金術師「あぁスマン…。錬金術の基本は、四大元素と繋がりがある。それは知っているか?」
女店員「魔法の事よね?」
錬金術師「少し違うが、そう思ってもらっていい。火、地、風、水がアレク錬金術の四大元素になる」
女店員「火、地、風、水…」
錬金術師「そして、"ストックホルム・パピルス"という本が存在するんだが…」
錬金術師「それは73種類の宝石と、金属変性法が7種類、着色方法が70種類記載されている」
錬金術師「いずれ、その方法を少しずつ覚えてもらう事にはなるかもな」
女店員「頭痛い…」
錬金術師「まぁそういう風に、各4つ基本のアレク、アラビア、スコラ、イアトロ…」
錬金術師「その基本に、更に基礎があって成り立っているのが錬金術だと思ってもらっていい」
女店員「4つの基本に、更に基礎があって、その技術も違うってことー!?」
錬金術師「そうなるな」ハハハ
女店員「覚えられないよ…」
錬金術師「今は覚えなくていい。ただ、こういうものだと認識だけしておけ」
女店員「わ、わかった」
錬金術師「そして話は変わるが、錬金術が発展していく中で、最大の目標としていた物は知っているか?」
女店員「目標?」
錬金術師「そう。人ってのは、研究が進むと欲が出るもんでな」
錬金術師「過去の錬金術を学んだ者達は"ある2つ"の目標を見出した」
女店員「それって…?」ゴクッ
錬金術師「あらゆる物質から黄金を作り出す技術。そしてエリクサーの生成だ」
女店員「あ、金は知ってる!でも、エリクサーは知らないかな」
錬金術師「エリクサーってのは、不老不死になると言われる伝説の霊薬だ」
女店員「不老不死!?」
錬金術師「黄金の生成においては、発展した技術のおかげで現実的になった」
錬金術師「だが、エリクサーは夢物語のままって感じかねぇ…」
女店員「エリクサーは作れないってこと?」
錬金術師「さぁな。俺でもそれに関しては俺でもよく分からん」
錬金術師「つーか、エリクサーは世界共通で研究を禁止されている事項の1つだ」
女店員「禁止されてるって、マスターとかの地位に関係なく?」
錬金術師「そうだ。理由が分かるか?」
女店員「ん~…技術が発展してきて作れそうになってきたから、不老不死になると問題だから?」
錬金術師「ははは!確かに、出来たら出来たで問題だわな!」
女店員「じゃあ出来てないってことか…。う~ん…」
錬金術師「じゃあヒントをやろう。不老不死だと確認する為には、何が必要だと思う?」
女店員「そりゃ、人が死ぬかどうかで…。あっ!」
錬金術師「…わかっただろ?」
女店員「人体実験!?」
錬金術師「せいか~い。でもな、表向きは禁則事項だが、裏じゃ普通に行われてるって話だ」
女店員「…!」
錬金術師「まぁ…エリクサーに限らず、ポーションや薬品研究は100%人体実験は絡んでいる」
錬金術師「今は人体といかなくとも、生物実験は行われているという事実があるには違いないがな」
女店員「それが錬金術の顔の1つなんだね…」ブルッ
錬金術師「と、怖い話もあるが、基本的には錬金術は人の為の技術。そう思って触れ合う事だ」
女店員「うん…」
錬金術師「さてと!お話は一旦終わりで、少し店番を頼むぞ。俺は炉を作ってくるわ」クルッ
女店員「わかった、看板出してくるね!」
錬金術師「おうっ」
……………
………
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 お昼過ぎ 】
錬金術師「おーい!」
女店員「はいはーい!」
タッタッタッタッ…
女店員「なになに?」
錬金術師「…見ろ、新しい炉の完成だ!」ビシッ!!
女店員「あっ!」
キラキラ…
錬金術師「この速さに加え、完璧なまでの仕上がり…。出来すぎる自分が怖いぜ…」フラッ
女店員「…」
錬金術師「何だよその目は」
女店員「…」
錬金術師「その目はやめてくれ、その目は。俺が悪かった」
女店員「…」
錬金術師「さ、さて!ちょっとそこの前に座ってくれ!」
女店員「うん」
錬金術師「そこの上に、鉄鉱を乗せて下から魔法を放ってみろ」
女店員「威力の調整とかは…」コロンッ
錬金術師「自分の感覚でいいが、少し強めで大丈夫だ」
女店員「う、うんっ。小火炎魔法…!」パァッ
…ボォンッ!!ゴォォ…!!
女店員「あ、あれ…。中々鉄鉱の周りが剥げないね…」
錬金術師「…少し弱い。もっと強くしていい」
女店員「でもこれ以上強くしたらまた…」
錬金術師「それに耐えるように作ってある。思い切ってやれ」
女店員「わかった…知らないよ…?」
錬金術師「とにかくやってみろ」
女店員「…えぇいっ!!」パァァッ!!
カッ…ボォォォォォオ!!!シュウウ…
女店員「!」
錬金術師「…」ニヤッ
女店員「いつもみたく炉が壊れたり、火花が散ったりしない!」
錬金術師「中に魔法を吸収するような仕掛けも作っておいた」
錬金術師「外に漏れないし、目いっぱいやっても問題はなさそうだな」
女店員「…ありがとうございます、店長」
錬金術師「気持ち悪い」
女店員「」
錬金術師「もう敬語はいいよ…なんか変だ」
女店員「折角人が店長に敬いを持ったのに!」
錬金術師「はは…」
女店員「えーと、それでどのタイミングでやめればいいんだろう?」
錬金術師「もうちょっと輝く艶色になったらだな。タイミングを自分で見極めてみろ」
女店員「うん」
ボォォォッ…トロッ…
女店員「こ、ここっ!」ピタッ
カツーン!カツンカツン…コロンッ…
錬金術師「…」
…ヒョイッ、ジー
女店員「出来たっ!ど、どうかな…?」
錬金術師「精錬純度は75%ってとこだな、早すぎた」
女店員「うーん…少し溶け出して光ったから、そのタイミングだと思ったんだけど…」
錬金術師「光るタイミングは、本当にキラリと光る。一度俺がやってみせるから見てろ」
女店員「うん」
ゴソゴソ…コロンッ
錬金術師「鉱石をセットしたら、小火炎魔法っ!!」パァッ
カッ…ボォォォオッ!!!
錬金術師「ここまでは一緒だが、溶け出した後に一瞬、キラっと光る。そこを目安とするんだ」
女店員「…」ジー
ボォォォ…、トロッ…
錬金術師「溶け出したな。この次の瞬間だ」
…キラッ
女店員「!」
錬金術師「ここだ!」ピタッ
カチーン…コロンッ…コロコロ…
…ヒョイッ
錬金術師「…うむ。これが精錬純度はほぼ100%だ」
女店員「今の見てわかった…と思う…」
錬金術師「鉄鋼はもっとも簡単な部類。全ての基本になるわけだし、練習として何度もやるんだ」
女店員「うんっ」
錬金術師「今回は俺がしっかり見ててやる。つーか隣でやることあるしな」
女店員「やること?」
錬金術師「せっかく市場で花を買ってきたんだから、エキス抽出してポーションにするわ」
女店員「なるほど♪」
錬金術師「どこに道具しまってたっけなぁ…」
ゴソゴソ…ガサガサ…
女店員「…そういや店長」
錬金術師「ん~?」
女店員「いつも道具を出すけど、どれくらいの物が常備されてるの?」
錬金術師「あぁ、教えてなかったっけか?」
女店員「そこまで詳しく聞いてないかも」
錬金術師「えーと…精錬用品、薬品生成キットとその調合キットだろ…」
錬金術師「あと、上級練成術用の素材を知るための本を含めた情報本に、魔法の増幅用具…」
錬金術師「そんなもんだな」
女店員「それだけ?」
錬金術師「あとは勉学してきた知識と技術で何でも生み出す」トントン
女店員「もっと知らない物もあるのかなーと思ってた」
錬金術師「欲しいと思った道具、物は造る。そうすりゃいいだけだしな」
女店員「…」
錬金術師「何だその"最初からやる気を出していれば"という目は!」
女店員「よくわかってますね」ニコーッ
錬金術師「はい」
女店員「でも、凄いとは思ってるんだからね、店長のこと。何でもこなせるっていうイメージがついたしね」
錬金術師「何でもって訳にはいかんが、一般的に錬金術に求められる事は出来るつもりだ」
女店員「だよねー…凄いなぁ…」
錬金術師「お前はその右腕となる為に、今から勉強するのだ!!」ビシッ
女店員「が、頑張る!!」
錬金術師「…あ、あら?」
女店員「え?」
錬金術師「いや、"何で私が店長なんかの右腕に"とか言うのかなと…」
女店員「今までは何も出来ないと思ってたり、出来ても自分から動いてくれなかったから…」
女店員「でも、最近の店長はやる気になってくれてるし、ちょっとカッコイイなとか…」ブツブツ
錬金術師「…」ピクッ
女店員「能ある鷹は爪を隠すじゃないけど、普段が普段だったし、今は何をしても凄いと思うし~…」
錬金術師「…」ピクピクッ
女店員「今は、少しだけだけど、店長がうちの店長で良かったなって思ってる!」
錬金術師「ふん…ほめても何もでねえぞ…」クルッ
女店員「うっ…」
錬金術師「ただ、いつもより頑張って最高クラスのポーションでも造ってやるだけだからな!!」
錬金術師「ふん~♪ふんふんふ~ん♪」
女店員(さすが店長…。ちょ、ちょろい…)
……………
………
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 数十分後 】
コポコポ…コポコポ…
女店員「うわっ、何それ怪しい」
錬金術師「怪しいて。薬品生成キットの普通だっての」
女店員「なんか物語に出てくる、悪い魔法使いみたいな…」
錬金術師「…」
女店員「それで花のエキスを採るの?」
錬金術師「そっ。お前はいいから練習しとけ」
女店員「うん…、火炎魔法っ!」パァッ!!
カッ…ボォォォ…!!
女店員「…」
ゴソゴソ…カチャカチャ…
錬金術師「えーと…後は清水が必要だった筈だけどないんだよな…」
錬金術師「仕方ない、別の調合で先に作ってから…」ブツブツ
女店員(調合に夢中になってる間に、純度100%を造って驚かせてやる!)
トロッ…キランッ!!
女店員「…ここだっ!」ピタッ
…カツーン!!コロコロ…
女店員「うーん…」
錬金術師「…純度90%くらいか。さっきのよりは全然いいぞ」
女店員「えっ」
錬金術師「えっ?」
女店員「…調合に夢中で、こっちを見てないのかと」
錬金術師「音とか、少し見れば出来は分かる」
女店員「むぅ」
錬金術師「自分でやるのもいいが、少し気になった所は聞けよ」
女店員「うん。じゃあもう1回…小火炎魔法っ!」パァッ!!
ポッ…ボォォォ…!!
錬金術師「とにかく回数だ。自分で感覚をつかまない事には、どうにもならんしな」
女店員「むむむ…」
ボォォ…トロッ…
女店員「…」
トロトロ…キラッ…!
女店員「…ここだっ!」ピタッ
…カチンッ!!コロコロ…
女店員「これで…どう!」
錬金術師「…いい音だったな。ギリギリ合格点ってところか」
女店員「やったあ!どんどん100%に近づけちゃうんだから!」
………
……
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 1時間後 】
女店員「はぁ…はぁ…」
錬金術師「…少し休め」
女店員「もう少しで出来そうな気がするから…もうちょっとだけ…」ハァハァ
錬金術師「体に負担かけてもいいことねーぞ」
女店員「あと1回だけ…」
錬金術師「…」
女店員「…小火炎魔法っ…!」パァッ
ポッ、ゴォォォ!!
女店員「…ッ」
ゴォォォ…トロッ…
女店員「…」
トロッ…キランッ…!!
女店員「こ、ここぉっ…!」ピタッ
カチィンッ!!!コロンッ…コロコロ…
女店員「こ…これでどう…」ゼェゼェ
錬金術師「…おめでとう。今の音は純度はほぼ100%だ」
女店員「や…やった…」フラッ
錬金術師「おっと」ダッ
…ダキッ!!
女店員「なんか眩暈が…」
錬金術師「魔法の使いすぎだアホ。倒れるまで使う奴がどこにいる」ハァ
女店員「でも、感覚を覚えたから…!」
女店員「これで少しは役に立てるかなぁ…」
錬金術師「あぁ、そうかもな。いいから少し休め」
女店員「うん…ごめん…」
女店員「…」スヤッ
錬金術師「…本当に最高純度をわずかな時間で叩き出すとはな」
錬金術師「少しだけ見直したぜ」フッ
女店員「見直されるのはアンタでしょ!!」
錬金術師「ゴメンなさい!」ビクッ!!
女店員「全く…」ムニャムニャ
錬金術師「なっ…!」
錬金術師「…ね、寝言かこんちくしょ~!!謝っちまったよ!!」
女店員「えへへ…」スヤスヤ…
錬金術師「本当に寝てるのかコイツ!くっそ、布団出してやるか…」
錬金術師「ちょっとだけ地面に置かせて貰うぞ」
スッ、ゴロンッ…
錬金術師「えーと…あったあった。布団敷いて…」
ゴソゴソ…パサッ
錬金術師「ふんぬっ!よいしょっと!」グイッ
女店員「…」スヤスヤ
錬金術師「おいしょっ!」
…ドサッ!!
女店員「…」クゥクゥ
錬金術師「さて、俺は調合の続きでもするかねぇ」
錬金術師「…静かにな」
……………
………
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 しばらくして 】
女店員「ん~…」パチッ
…ムクッ
女店員「…」
女店員「…あっ!」ハッ
錬金術師「…起きた?」
女店員「わ、私あのまま寝ちゃってたの!?」
錬金術師「元気そうで何よりです」
女店員「ごめんなさい!今何時!?店番とかもあったのに…!」
錬金術師「いいから少し休んでろ。魔力を使って枯渇ギリギリだったんだ」
女店員「うぅ…」
錬金術師「つーかほれ。これを飲みなさい」スッ
女店員「これは?」
錬金術師「アカノミの花のポーションだ。マナの回復にも効果がある」
女店員「出来たんだ!っていうかうわぁ…紫色だ…」トプンッ
錬金術師「ライフポーションは赤。マナポーションは青」
錬金術師「どっちの効果もあるポーションは紫になる。それだけだ」
女店員「怪しい色だなぁ…」
錬金術師「そんな言うなら飲まなくてもいいし!」
女店員「いただきまーす」グビグビ
錬金術師「」
女店員「ん?」
錬金術師「いきなり飲むのかよ!」
女店員「だって店長のポーションだし、大丈夫でしょ」
錬金術師「む…」
女店員「お~…なんか沸きあがってくる感じがする…」パァァ
錬金術師「即効性もあるが、少しそのまま休んどけ」
女店員「うん…ごめんね…」
錬金術師「いいさ。つーか、お前が寝てる間にポーション出来たし店に見本品置いてくるわ」
女店員「どれくらい出来たの?」
錬金術師「一輪の花から出来るのは2本分。60本出来たし、上等だろ。あ、今飲んで59本になったか」
女店員「1本いくら?」
錬金術師「一般価格では高級品だし、3000ゴールドはくだらないな」
錬金術師「だけど周辺にはここまでの高級ポーションをそろえる店もないし、5000ゴールドで置いてみるわ」
女店員「高っ!!」
錬金術師「売れなきゃ値段下げるし、いいんだっつーの!」
女店員「っていうか私、5000ゴールドもするの一瞬で飲んだの…」
錬金術師「役得役得。いいからお前は休んでろって」
女店員「役得…」
錬金術師「ふわぁ…。つーか眠いわ…。休むっていうか、お前そのまま寝ちまえ。泊まってけ」
女店員「え?」
錬金術師「もう深夜2時なの…。夜道は危険だし、泊まれってこと」フワァ
女店員「し、深夜2時!?」
錬金術師「近所に迷惑なので声を荒げないでぇ…」キーン
女店員「だ、だって私が練習してたのまだ昼過ぎとかその辺で…」
錬金術師「魔力をなくす寸前まで練習してたら、そりゃそんくらい倒れこむわ」
女店員「って、まさか私のことずっと介抱してくれて…?」
錬金術師「さぁ~な。いいから休んでろって…」
女店員「ち、ちょっとまって…。って、あれ…?」フラッ
女店員「なんかまた眠気…が…」
…ドサッ
女店員「…」クゥクゥ
錬金術師「まだ疲れは取れてないし、慣れないポーション飲んだ副作用で眠くなったのよ」
錬金術師「…お休み。俺は今日は24時間開店コースかなぁ…。明日の朝の店番は任せるからな…」
カツ…カツ…カツ…
………
……
・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
【 現時点でのお店の経営収支 】
■収入
・販売関連140万ゴールド
■支出
・バターピーナツ生成器40万ゴールド
・倉庫拡張費用70万ゴールド
・鉱山のバイト代10万ゴールド
・ポーション素材(アカノミの花/アカノミ)3万6000ゴールド
・火魔法耐性の金属片16万4000ゴールド
■収支合計
・0ゴールド
【 現時点でのお店の経営情報 】
■お店
・平屋1階建て
・少し広い倉庫
■販売物
・採掘道具20万ゴールド
・鉱石類(鉄鋼1000、銀5万、エレクトラム20万ゴールド)
・ライフマナ回復ポーション5000ゴールド
・バターピーナツ(サービス)
・装備類の修理等(時価)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 次の日 】
チチチ…チュンチュン…
女店員「…」
女店員「…」
女店員「…はっ!」ガバッ!!!
女店員「あ…あれ…」キョロキョロ
女店員「ここは…」
カツカツ…
錬金術師「…起きましたか」
女店員「店長っ!」
錬金術師「よっぽど薬を飲みなれてないのか、魔力枯渇がいたかったのか…」
錬金術師「もうお昼前ですよ、お嬢様」
女店員「う、うそっ!」
錬金術師「はは…」
女店員「ご、ごめんなさい!本当にごめんなさい!!」
錬金術師「いやいいよ…。つーか俺がもう眠いっす…」フラフラ
女店員「ま、まさかずっと店番しながら私の看病を…」
女店員「えとっ、私が店番するから、休んで!もうこのまま店番するから!!」
錬金術師「お前、風呂とかシャワー浴びたいっしょ…?その間の時間くらいはまだ頑張るからよ~…」
女店員「そんな事言ってる場合じゃっ!」
錬金術師「お前なぁ…徹夜とか俺には普通なの。それに何のためのポーションだと思ってるんだ…」ククク
女店員「!」
錬金術師「一本は高いが、自分のためだ。一本くらい飲んで、今日1日を乗り切るぜ…!!」
女店員「…!」
錬金術師「頂きます…」スッ
グビッ…グビッ、グビグビッ・・・
錬金術師「ぷはぁっ!!」
女店員「げ、元気になった?」
錬金術師「くくく…この全身を駆け巡る力っ…!!見ろ!もう疲れなど吹き飛んで…!」
フラッ…ドサッ!!
女店員「」
錬金術師「う、うお…体が重い…!?」
女店員「あのー…まさかとは思うんだけど、副作用に当たったとか…」
錬金術師「な…何だと…!そんな訳がない…、俺は割りと昔は飲んで徹夜しててポーションには…」
錬金術師「慣れて…い…て……」
錬金術師「…」グオォォ…
女店員「」
錬金術師「…」フガフガ…
女店員「…交代ですね。店長、ありがとっ。おかげですっかり休めちゃったよ…」
錬金術師「…」スヤスヤ
女店員「迷惑かけてごめんなさい。しっかり店番するから…」
スッ…
女店員「風邪ひかないように、布団かけて…と。さっ、私が頑張る番だっ!」フンッ
女店員「よぉっし、店番だぁぁ!」
…………
………
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 夕 方 】
カァ、カァ…
錬金術師「む…」パチッ
錬金術師「…」
錬金術師「お、俺としたことが寝ていただと…!?」
錬金術師「いかんっ、お客が来て、女店員がてんやわんやに!」バッ
ダダダダダッ…
錬金術師「女店員、客はどうだ!?」
女店員「誰も来ませんでした」
錬金術師「ですよね」
女店員「あはは…」
錬金術師「ふわぁ~…、すっかり寝ちまってたか…」コキコキ
女店員「私も寝てたし、迷惑かけたし…ごめんなさい…」
錬金術師「いやいいんだ。ただし、もう無茶はするんじゃないぞ」
女店員「うん…ごめん」
錬金術師「いいっつーの。つーかもう夕方とか、店閉める時間じゃねーか」
女店員「今日もお客はゼロ、か」
錬金術師「仕方ないのかねぇ。看板も立てたし、少しずつ規模も拡大したんだが…」
女店員「何ていうか、きっかけがないなと」
錬金術師「きっかけ?」
女店員「お店が流行るイメージとしては、何か大きなきっかけがあってヒットするイメージがあって」
錬金術師「あ~…」
女店員「独自性というか、何ていうんだろ…」ウーン
錬金術師「確かに、言いたい事はわからんでもない」
女店員「この辺で、何か大きく変わるきっかけがないとー…」
…ウ~!!!!ファンファンファン!!!
錬金術師「…!?」
女店員「な、何の音!!外から聞こえる!?」
錬金術師「外に出てみるぞ!まさかとは思うが…!」ダッ
女店員「一体何!?」
ダダダッ…ガチャッ!!
ウゥゥゥ…!!ファンファンファン…ウ~…!!!
女店員「何なのこの音!」
錬金術師「サイレンだ…。こりゃ鉱山で何かあったな!」
女店員「鉱山で!?」
錬金術師「緊急的なサイレン…。恐らく落盤の類じゃないか」
女店員「えっ…ど、どうするの!」
錬金術師「いやどうするも何も、俺らじゃ出来ることが」
女店員「ないの!?」
錬金術師「…」
錬金術師「…なくは、ないか」
女店員「!」
錬金術師「お世話になってる場所だし、行ってみるぞ」
女店員「うんっ!」
………
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 鉱 山 】
ファンファンファン…!!!
管理人「急げ!!人数が足りてない!!」
管理人「エレベータもストップしている!旧洞入り口から頼む!」
ザワザワ…
鉱夫「し、しかしあそこも落盤の危険が…」
管理人「大きく回れば安全な道があったはずだ!急いでくれ…!」
鉱夫「は、はいっ!」
タタタタッ…
管理人「くっ…なんてことだ…」
ザッザッザッザッ…
女店員「…管理人さぁん!」
錬金術師「やはり、事故か…」
管理人「お、おふた方っ!!」
女店員「凄いサイレンの音が聞こえてきて…。一体どうしたんですか!?」
管理人「地下5階で落盤か事故があったようで…」
管理人「事実確認を急いでいますが、まず間違いないでしょう…」
錬金術師「そんなフロアで事故が…」
管理人「冒険者と鉱夫も何名か巻き込まれたようで、エレベーターも事故の影響で停止…」
管理人「旧洞の入り口からしか道がなく…。一刻の猶予も許さない状況だというのに!」
女店員「管理人さん、新人鉱夫さんとかは巻き込まれたり…」
管理人「…」
女店員「まさか…」
管理人「…」
女店員「新人鉱夫さんも…巻き込まれたんですね…」
錬金術師「…」
管理人「本来なら行くべきレベルではありませんでした。ですが、今日は人手不足でどうしても…」
管理人「どうなっているか全く把握できないし…どうしたらいいのか…!」
錬金術師「…管理人さん、落ち着いてください」
管理人「お、落ち着けられる状況じゃ!!」
錬金術師「私を誰だとお思いで?エレベーター、見せて頂けますか」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 1階・坑内エレベーター 】
ザッザッザッ…
管理人「こちらです。完全に明りの部分も消え、動かない状況でして…」
錬金術師「…ふむ」
管理人「落盤の影響か、なぜか動かないんですよ…」
錬金術師「地下5階が崩れたんでしたよね?このエレベーターは地下5階まで続いているんですか?」
管理人「そうです。6階以降はエレベーターは設置出来ませんでした」
錬金術師「じゃあ恐らく、地下5階の緩衝器が壊れて停止したのかもしれませんな…」
管理人「緩衝器?」
女店員「…緩衝器?」
錬金術師「本来はエレベーターが停止する際、オーバーランという状態が起きないようにするものですが…」
錬金術師「ここの緩衝器は、乗ってるカゴの部分が過大な衝撃を受けないようにする物のようです」
錬金術師「それが落盤か何かで外れたか、壊れたか…」
錬金術師「いずれにせよ、恐らくそれのせいでしょう。安全装置が作動し、完全に作動停止したんじゃないでしょうか」
管理人「直せませんか?」
錬金術師「さすがに地下5階にある物をここから確認したり直すのは…」
管理人「…っ」
女店員「店長、何とかならないのかな…」
錬金術師「ん~…」
管理人「何か手があれば是非、教えて頂きたい!」
錬金術師「…乗るカゴ自体はどこにあるか分かりますか?」
管理人「恐らく、地下5階にあるかと…」
錬金術師「カゴが目と鼻の先にあったなら、イジってどうにか出来たかもしれませんが…」
錬金術師「制御装置自体が見たところ、完全に停止していますし、ここでどうこう出来る問題じゃなさそうです…」
管理人「そうですか…」
錬金術師「…申し訳ない」
管理人「いえ…」
…キラッ
錬金術師「…ん?」
管理人「え?」
錬金術師「あれは…。ちょっと待ってください」ダッ
タタタタッ…ヒョイッ
錬金術師「エレベーターの予備のパーツ…。滑車とブレーキングか…」
錬金術師「これはいつのですか?見たところ新品ですよね?」
管理人「それはいつも必要になる可能性があると言われ…」
管理人「予備として、エレベーターを設置の際にそこに置いておきました」
錬金術師「なるほど。ふむ…」
女店員「何か思い浮かんだ?」
錬金術師「エレベーターの制御するケーブルにコレを括り付けて…」
錬金術師「一番下まで手動で降りることが…いや、無理か…」
女店員「無理なの?」
錬金術師「ん~地下5階か…。管理人さん、どれくらいの深さがあるんですか?」
管理人「かなり深いです。坑道が広がる部分をワンフロアとして、1つの階層が30から50メートル」
管理人「合間での天然洞窟を突貫させた部分もあり、深さでいえば500メートルはくだらないかと…」
女店員「ご…500メートル…」
錬金術師「参ったね…。さすがに俺の手も体力も、そこまでは持たないわ…」
管理人「鉱夫に頼めば体力もあるし、いけるのでは!」
錬金術師「ダメだ。技術がないし、いざとなった時に対応できる力がない。危険すぎる」
管理人「…そ、そうか」
女店員「いい案だと思ったのに…」
錬金術師「冒険者クラスがいれば何とかなったろうに…くそっ…」
管理人「あの…わざわざ考えて頂いて有難うございました」
管理人「道がないなら、やはり旧洞から回り、エレベーターの再起をかけたいと思います」
管理人「その時の為に、再起の方法をー…」
錬金術師「いや、少しお待ちを。必ず今すぐ方法を考えて…」
ザッ…ザッ…ザッ…
管理人「おや?」
女店員「ん?」
錬金術師「…足音?」クルッ
ザッザッザッ…ピタッ
銃士「…クエストついでに鉱山に訪れたら、何やら厄介なことになってるようですね。店長さん」
錬金術師「…銃士さん!?」
女店員「銃士さん!」
管理人「ど…どなた?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
錬金術師「…というわけです」
銃士「なるほど、そういう状況でしたか」
錬金術師「はい。あなたはなぜここに?」
銃士「えと…一旦は町を離れたのですが、依頼がありまして…」
銃士「鉱山付近に討伐に来た時に、サイレンを聞いたもので訪れた次第です」
錬金術師「ふむ…。内容は先程話しした通りですが、いかんせんここで手詰まりです。情けない…」
銃士「…」
管理人「少し前に、本部に伝えたので救出には向かっているはずですが…」
管理人「遠すぎる上に、現状が把握できていない…。今も苦しんでいるかもしれないというのに!」
錬金術師「…一旦、管理人室に戻って状況の整理等をしたほうがいいかもしれません」
管理人「そうですね、戻りましょうか」
カツカツカツ…カチャカチャ、ガチャン!!
銃士「えっと、この滑車とブレーキングはこうして使うんですかね?」
錬金術師「ちょっ!」
女店員「!」
管理人「銃士さん!?」
銃士「これでもハンターですし、大丈夫ですよ。一番下まで行ったら何をすればいいんですか?」
錬金術師「…危険ですよ」
銃士「そこに助けられる可能性があるなら、この身体を使っても惜しくはないです」
錬金術師「…素直にお願いしたい状況ではあります。本当に、いいんですか?」
銃士「はい、もちろん」ニコッ
錬金術師「…」
女店員「店長、どうするの…?」
銃士「時間がないんでしょう?どうすればいいか教えてください!」
錬金術師「い、一番下に着いたら恐らく暗闇の可能性が高いです。灯りはありますか?」
銃士「ライターによる、小さな火なら」
錬金術師「それで充分です。では、エレベーターのカゴの下に、恐らく大きなバネが数個あるはず…」
錬金術師「破損している場合は、それを銃で弾いて、完全に吹き飛ばしてください」
錬金術師「ただ外れているか、落盤した岩等が塞いでいた場合はそれを取ってください」
銃士「わかりました」
錬金術師「最後に、どちらかの処理が終わったら制御装置のオレンジ色に光るスイッチがあるはず」
錬金術師「それを押して頂ければ…動くはずです」
銃士「万が一、完全に電源が落ちていた場合は…?」
錬金術師「地下5階に閉じ込められる。他の面子と同じように」
銃士「…」
錬金術師「だから、危険を犯してまでやることは…」
銃士「行って来ます。期待せず待っていてくださいね」バッ
ピョンッ!!…ギャギャッ…ギャアァァッ!!!
…ガキィン!!バチバチ…
錬金術師「ちょいっ!!」
女店員「飛んでったー!!」
管理人「えぇぇぇっ!!」
ガチィン……ギギッ…ギャッ……!!
錬金術師「…音が離れていく。うまくブレーキを利用しているか」
女店員「この弾けるような音は?」
錬金術師「ブレーキングを直接動かしてるから火花が散ってるんだ」
錬金術師「ワイヤーは頑丈だし、それくらいじゃ切れる事はない。だが、手の負担が…」
女店員「じ、銃を使ってる人だもん!大丈夫だよ!」
錬金術師「…」
管理人「…」
ギャッ…バチバチッ…カチィン…
カチン……
……
…
錬金術師「…音が止んだ。火花も見えなくなったか」
管理人「竪穴(たてあな)式に伸びているので、音が聞こえなくなるというのは…」
錬金術師「恐らく一番下に着いたんでしょう」
錬金術師「無事に着いている事と…あと、エレベーターが動いてくれるのを願うのみ…!」
…シーン
女店員「…何も聞こえないね」
錬金術師「銃の音も聞こえないな。岩で緩衝器が塞がれていただけだったのか…それとも…」
管理人「…」ゴクッ
…ヴン…
錬金術師「むっ」
女店員「今、エレベーターが少し動いたような…」
ヴ…ヴゥゥゥン…!!!
錬金術師「…動いた!上手くやってくれたんだ!」
女店員「銃士さんも無事だって事だよね!?良かったぁ!!」
管理人「や、やった!!これで助けに行ける!」
グォオオオン…!!!ガコンッ!
錬金術師「エレベーターが来ましたね。自分たちも下まで行きましょうか」スッ
管理人「その前に私はエレベーターが動き始めた事を伝えてきます!」
錬金術師「それがいいでしょう。では、自分はエレベーターの調整を行うため、先に下に行っています」
管理人「わかりました!」
女店員「店長、急ごう!」
錬金術師「いやお前はココにいろ」
女店員「えっ?」
錬金術師「ダメだ」
女店員「…何で!」
錬金術師「危ないからだ。分かるだろ?」
女店員「わ、私だってやれる事が!」
錬金術師「お前にエレベーターの仕組みは分かるのか?」
女店員「うっ…」
錬金術師「これからどういう展開になるのか分かるか?救出の方法は?」
錬金術師「俺と一緒で体力はないんだろ?何かあった時に自分で身を守れるのか?」
錬金術師「知識はあるのか?いざという時に、動けるか?」
女店員「…」
錬金術師「…分かるだろ」
女店員「店長…」
錬金術師「それに管理人さんにはアシスタントもいるんじゃないんですかね?」チラッ
管理人「あ…あぁそうです!ちょっと人手不足で、アシスタントとして手伝ってくれませんか!」
女店員「…はい」
錬金術師「ってなわけで、早速お前は管理人さんの手伝いにいってきなさい」
錬金術師「俺は地下5階まで行って来ますよっと」
…カチャンッ、ポチッ
錬金術師「…ではでは」
グォォォン…!!
女店員「店長、気をつけて!!」
錬金術師「はいはーい」フリフリ
グウォォォ……ォォォ………
…ォォ…………
…………
女店員「…行っちゃった」
管理人「では、一旦管理人室に戻って本部への連絡と現状を改めて伝えましょう!」
女店員「あ、はい!」
ミシッ…
管理人「…ん?」
ミシミシ…グラグラグラグラッ!!!
管理人「うわっ!」
女店員「きゃあああっ!」
管理人「地震…!?そこから離れて!早く外に!」
女店員「で、でも店長が!!」
グラグラッ…!!
管理人「自分の身を守れずして、どうにもなりませんよ!!」
女店員「で、でもっ!!」
ズズズゥン!!!
女店員「何の音!?」
管理人「また落盤…?洒落になってないです、早く離れ…っ!!」
…バチンッ!!!
女店員「きゃあっ!明かりが消えた…ど、どうしたんですか!?」
管理人「…停電!?最悪だ…、これじゃ鉱山としての機能が…!」
女店員「え、エレベーターはどうなってるんですか?店長は!」
管理人「エレベーターは動きませんし、私たちも危ないです!早く逃げないと!」
女店員「店長~~っ!!!」ダッ
管理人「危ないです!」ガシッ
女店員「で、でも店長が、エレベーターが!」
管理人「少しの時間があったので、無事に下にはいるはずです!」
女店員「で、でもぉ…!」
管理人「今は落ち着いて行動することです!それに、下に行った彼らが何かをしてくれるかもしれない!」
女店員「うっ…で、でもぉ…」
フラッ…ドシャアッ…
管理人「…とにかく落ち着きましょう。貴方まで何かあったらどうするつもりですか!」
女店員「うぅっ…」
ザッザッザッ…
管理人「…んっ」ピクッ
女店員「足音…?」
管理人「だ、誰ですか!まさか魔物…!?」
女店員「…」
ザッザッザッザッ…ポウッ
女店員「えっ…あ、明かり…?」ハッ
ザッザッザッザッ…ピタッ
???「事故、地震の火災の連鎖とは不幸なものだ」
???「…何やら面倒なことになっているようだな、全く」
管理人「…あ、貴方は!」
女店員「!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 鉱山・地下5階 】
モクモクモク…
錬金術師「げ…ゲホゲホッ!!」
銃士「店長さん!大丈夫ですか!」
錬金術師「危ねぇ危ねぇ…、地震もセットで来るとはな…」
銃士「別の場所で落盤がまた起きたようですね。オマケで停電ですか」
錬金術師「完全にエレベーターは停止だな。補助電源すら落ちやがったみたいだな」
銃士「どうしましょうか。助けに来たはずなのに、まさか助けられる側になるとは…」
錬金術師「参ったね。まさかワイヤーを伝って数百メートルも昇れんしなぁ…」ウーン
銃士「…しかし暗いですね。小さな明かりじゃ足元もおぼつかない」
錬金術師「空気を燃焼させるわけにもいかんし、火は控えましょう」
銃士「そうですね。一旦消します」フッ
錬金術師「うおっ、真っ暗だ」
銃士「それに、遠くで地響きがする。落盤が続いてるのか…」
錬金術師「エレベーターを動かす魔石があったはず。それを取り出して、明かりにしましょう」
銃士「できるのですか?」
錬金術師「元々明かり用に変換されているはずなので、すぐに明かりになりますよ」
錬金術師「えーと、どこだったかな」
フラフラ…コケッ
錬金術師「!」
…ドシャッ!
銃士「うわっ!?」
錬金術師「も、申し訳ない。一緒に転ばせてしまったか…暗闇で分からなかったもので」
銃士「いえ、お気になさらず…」
錬金術師「えーと、どこかな」
モゾモゾ…
銃士「!」
錬金術師「この辺だったかな、何だこの布は…」
銃士「そ、それは私の服で…ちょっ、ちょっと!」
錬金術師「んん?」ゴソゴソ
銃士「待って…ちょっと、ちょっ…!」
錬金術師「あぁ銃士さんの服でしたか、申し訳ない。じゃあこっちか」
ゴソッ…グイッ!!
銃士「!!」
錬金術師「あったあった!これだ、今明かりを点けますね」
銃士「…ま、待って待って!!」
錬金術師「?」
銃士「そ、その…あの…」
錬金術師「どうしました?」
銃士「待って下さい、今は明かりは…!」
錬金術師「何を言ってるんですか、暗いままでは危険です。点けますよ~」カチッ
…パァッ!!
錬金術師「ほーらほらほら、明るいほうがいい感じで」クルッ
銃士「…」
錬金術師「…」
銃士「…」カァァ
錬金術師「…」
銃士「…」
錬金術師「…ごめんなさい」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
錬金術師「…女の方だったとは。思いっきり服を引っ張ってしまって申し訳ないです」
銃士「いえ…気にしないで下さい」
錬金術師「う、う~む…」
銃士「…」
銃士「お、男に近い格好をしていた訳などは聞かないのですか?」
錬金術師「あ、そうだ。それなら一つ…」
銃士「は、はいっ」
錬金術師「謝りたい。あなたに、危険な役をさせてしまったことを」ペコッ
銃士「えっ」
錬金術師「女性だと分かっていたらあんな事、絶対にさせませんでしたから」ハァ
銃士「ですが、やれる人がやるべきでした。今更謝ることもありませんよ」
錬金術師「…結果として、こうなってしまいましたがね」ハハ…
銃士「そ、そうですね。男性の格好について等は…」
錬金術師「大体分かっておりますよ。別に女性だからといってどうもありません」ハハハ!
銃士「…!」
錬金術師「ま、とりあえず今は動かないほうがいいんでしょうけど…どうしたもんか」ウーン
銃士「…」
錬金術師「ちなみにですが、ちょっともう1つご質問してもよろしいですか?」
銃士「な、何でしょうか?」
錬金術師「実力の程はどれくらいでしょうか。気に障ったら申し訳ない」
銃士「実力ですか?」
錬金術師「地下5階は、恐らく魔物の出現するエリア。腕がなければ探索は難しいでしょう」
銃士「あぁ…なるほど」
銃士「これでも中央国のギルドに属するので、出来るほうだとは思っております」アハハ
錬金術師「ふむ!」
銃士「幸い武器はこの間、新調して頂きましたので戦いやすく、実力もアップしたかなと!」
錬金術師「…では、少しだけ行きたい場所があるのですが」
銃士「どこでしょう?」
錬金術師「この5階フロアにあるであろう、構内事務所です」
錬金術師「そこならば、明かりの確保やフロア自体の制御装置がある可能性が高いので」
銃士「なるほど、向かってみますか。魔物はお任せください」
錬金術師「宜しくお願いします。恥ずかしながら、体力には自信がないもので」ハハ…
銃士「はい、任せてください!」カチャンッ
ザッザッザッザッザッ…
ザッザッザッ…
ザッザッ…
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 一方、少し前・女店員サイド 】
ザッザッザッザッ…ピタッ
???「事故、地震の火災の連鎖とは不幸なものだ」
???「…何やら面倒なことになっているようだな、全く」
管理人「…あ、貴方は!」
女店員「!」
親父「…」
管理人「し、社長さん!」
女店員「社長さん、どうしてここに!」
親父「うちにも連絡が入った。隣町まで用事で来ていたものでな」フン
女店員「…」
親父「状況を察するに、俺の息子が地下へ閉じ込められた、そういうことか?」
女店員「は、はい…」
親父「…」
女店員「無事なのかどうか、エレベーターは動かないし…一体どうしたら…」グスッ
親父「俺の息子はくえない奴だ。これくらいで死ぬ奴じゃない」
女店員「社長さん…」
親父「身内の心配より今は、最短のルートを再び確保し、全てのフロアにエネルギーの供給が必要になる」バサッ
管理人「しかし、その救出を行う面子が到着するまでに時間が!」
親父「うちの会社も支援させて頂こうと思う。ここは大事な取引相手なのでな」
管理人「ほ、本当ですか…!」
親父「最高クラスのギルドに所属する冒険者を派遣させていただこう」
管理人「た…助かります…!助かります…!」
女店員「社長さん…」
親父「それともう少しで到着するが、フロアの復旧に一役買う奴をココへ呼んだ」
女店員「この状況で復旧をさせる…?一体誰が…」
親父「"妻"の女錬金術師だ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 錬金術師サイド・構内事務所 】
…ガチャッ!!
錬金術師「ふぅ…魔物が出なくて助かった」
銃士「そうですね」
錬金術師「制御装置はあるはこれか…。補助装置も完璧に落ちてやがる…適当な仕事を」ブツブツ
銃士「銃のこともですが、結構色々詳しいですよね」
錬金術師「はは、これでも色々と勉強してきましたから」
銃士「私の父が冒険者だったように、親も錬金術の勉強などを?」
錬金術師「父親は違いますが、母親の血筋がそうなんですよ」
銃士「血筋ですか?」
錬金術師「母方がですね、女が生まれると、代々同じ名前を引き継いで来た錬金術師の一家で…」
錬金術師「親父を嫌ってた俺は、母方と同じ道を選んだわけです」
銃士「すごいですね…道理で物知りのはずだ」
錬金術師「俺からしたら、銃士さんも冒険者…ハンターの血筋としては羨ましいですよ」
銃士「羨ましい?」
錬金術師「親父も母親も内勤派で、ずっとそうやって育ててこさせられました」
錬金術師「自分は冒険にも憧れもあった時期がありまして、そしたらどんな人生だったのかなと」アハハ
銃士「…まだ若いですよね?これからじゃないですか!」
錬金術師「はは、銃士さんはおいくつですか?」
銃士「私は24です」
錬金術師「今年で自分は25になります。もうこのまま生きていく事を決意した歳ですよ」ハハ
銃士「…全然若いじゃないですか!」
錬金術師「いえいえ。さて、制御装置はあったので魔石を外して…と」グイッ
…ガチャンッ!!コロンッ!
錬金術師「ふーむ…制御装置のメインはやはり1階に繋がってる…か」
錬金術師「ここじゃ直接いじっても意味ないか。フロアの明かりだけでも確保したかったんだが」
銃士「フロアの明かりは確保できませんか」
錬金術師「…残念ながら。1階にあるメイン装置を復旧してもらえれば、何とかなるかもしれませんが」
銃士「…この合間にも、このフロアで苦しんでいる人がいるかもしれないというのに!」
錬金術師「時間は待ってくれない…か。ちょっと手伝ってほしいことが」
銃士「いいですけど…何でしょうか?」
錬金術師「この飛び出てるケーブル、銃で壊しちゃってくれます?」
銃士「壊すって…い、いいんですか?」
錬金術師「ケーブルが欲しいのですが、鍵がないと取り外しできないので…」
銃士「わかりました。兆弾に気をつけてください!」カチャッ
グイッ…ガォンガォン!!バキィン!!
錬金術師「うひょー音が響く!ありがとうございます、これで取れたっと!」グイッ
ブチブチッ!!ペリペリッ…
錬金術師「この魔石を、引っ張り出したケーブルを合わせて…」
錬金術師「置いてあるピッケルに巻きつけて…っと!」
カチャカチャ…クルクルッ…
銃士「…?」
…ビシッ!!
錬金術師「よっし!出来た!」
銃士「それは?」
錬金術師「もう明かりには困りませんな、ここを押せば…」パチッ
…パァァッ!!
銃士「うっわっ!!眩しい!!」
錬金術師「はははっ!制御装置の魔石を使った明かりなので、凄い明かりですね!」
銃士「エネルギーは結構時間も持つのですか?」
錬金術師「大きさから言って、点けっ放しでも数週間持ちますよ」
銃士「おぉ!」
錬金術師「さて、これで洞窟を進めますね。落盤の兆候は見極めますので」
錬金術師「もう少しだけ付き合って頂けますか?」
銃士「…当たり前です」ニコッ
……………
………
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 地下5階・深部 】
ザッザッザッ…
錬金術師「…」
銃士「…」
ザッザッザッザッザッ…
錬金術師「魔物はまだ出ないか…、いい事だけど逆に不気味だな」ゴクッ
銃士「それに落盤した現場が見えてこないですね。結構歩いたハズなんですが」
錬金術師「そうですね…んっ?」
ピチャン…サァァ…
銃士「…水?」
錬金術師「地面を少しだけ流れている…。もう少し先が事故現場かもしれないですね」
銃士「!」
錬金術師「急ぎましょう。嫌な予感がする!」ダッ
銃士「はい!」ダッ
タッタッタッタッタッタッ…ズザザァ…
錬金術師「…!」
銃士「!」
ザァァァ…ザバァンッ!!
錬金術師「こ、これは…」
銃士「な…何てこと…。こんな地下に川!?」
ザバァンッ!!サァァ…ジャボジャボッ…
錬金術師「恐らく地下水の壁を叩き割って、地下水が一気に染み出したんじゃないでしょうか」
錬金術師「そして坂になっていた坑道を一気に落ちている…」
錬金術師「まるで巨大な川だ…。これに巻き込まれたら…」
銃士「じゃ、じゃあこの辺で採掘をしていた人たちは…」
錬金術師「流されたのでは…。この水量、とてもじゃないが耐えられる代物じゃない…」
銃士「落盤と地震の原因はこれってことですか?」
錬金術師「恐らく。地盤も緩んだんでしょう。しかもこの流れた先は…」チラッ
…ゴォォォッ!!!ザバァンッ!!
錬金術師「流れが途切れているように見える…。恐らく竪穴でしょう。真下へと落下しているようだ」
錬金術師「これ以上は進めない…、俺らがどうなるか分からないですよ…」
銃士「…っ」」
錬金術師「残念ですが…戻りましょう。この周辺も危険だ」
銃士「仕方ありませんね…」
錬金術師「事務所まで戻り、この事を伝える策かいい案でもー…」クルッ
イービルアイ『…カァッ!!!』
錬金術師「!!」
銃士「なっ!!」
錬金術師「魔物!?」
銃士「い、いつの間に!このフロアに上級の魔物がいるなんて!」カチャッ
イービルアイ『カァァッ!!』パァッ
ビュッ…ブワァァッ!!
錬金術師「…風魔法!?いかんっ!!」
…フワッ
銃士「!」
錬金術師「か、身体が浮いたって…これじゃ川に落ちっ…!!」ハッ
ジャアァ…ザボザボォンッ!!
銃士「うぷっ!」ザバァン!!
錬金術師「ぷはぁっ!やべえ!!銃士さん、手を!」ジャバッ!!
銃士「店長さん!」
…ガシッ!!
錬金術師「あの竪穴に落ちたら終わりだ!」
銃士「で、ですがこのままでは!!」
錬金術師「…ゴツゴツした岩なら、さっき作ったライトで!!」バッ!!
…ガキィン!!ガガガガッ!!!
銃士「そ、そうか、ピッケルでしたか!」
錬金術師「止まったが…す、水圧がぁ…ぐううぅっ…!!」グググッ
銃士「そこに上がれる場所があります!そこに店長さんからあがってください!」
錬金術師「お、俺はダメだ…。力が持たない…」ギリギリ
銃士「…ッ!」
錬金術師「俺を伝って、上がってくれ!早く!」
銃士「で、ですが!」
錬金術師「どっちも流されちまう!早くっっ!!」
銃士「くっ…失礼っ!」グイッ
錬金術師「ッ!」ミシミシ
銃士「うぐぐっ…」ググッ…
…フヨフヨ
イービルアイ『…』
銃士「!」
錬金術師「最悪だ…くっそ!!」
銃士「店長さん、少しだけ衝撃に耐えてください…火弾を放つ!うらぁぁっ!」カチャッ
カチッ、ガォンガォン!!
イービルアイ『!』
ブチュッ!!ベチャッ!!!ボォンッ、ボォォンッ!!!!
イービルアイ『…』
ヨロッ…ザボォンッ…
銃士「…よし!」
錬金術師「銃士さん…早く…ッッ!」ミシミシ
銃士「あっ、今すぐに!ぐうぅっ!」ググッ
ガシッ!!ヨジヨジッッ…ゴロンッ!!
銃士「はぁ…はぁ…!上りきった…!」
錬金術師「よ…よし…」
銃士「店長さん、手を!」
錬金術師「…っ!」ガバッ
…ガシッ!!
銃士「おりゃああっ!!」グイッ!!
錬金術師「っつぅ…!」
銃士「もっと力を入れて!!死にたいの!?」
錬金術師「わかってる…よぉぉ…!!」グググッ
…………
………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
…ドサッ!!
錬金術師「はぁ~…はぁ~…」
銃士「ごほっ、ごほごほっ…!はぁ、はぁ…」
錬金術師「た、助かったぜ…ありがとうさん…」ゼェゼェ
銃士「こちらこそ…」ハァハァ
錬金術師「はぁ、はぁ…。くそっ、川を移動しちまった。戻るに戻れない状況になったか…」
銃士「気づかなかった私のせいか…申し訳ない…」
錬金術師「こんな状況じゃ、誰のせいもあるものか」ハハッ
銃士「…店長さん」
錬金術師「堅苦しいのはナシ!生死を切り抜けた仲なら、店長でいい!なんてな!」
銃士「じゃ、私も銃士で!っていうか年下だから別に構わないのか…」
錬金術師「くくっ…」
銃士「あはは!」
…ザッ
錬金術師「!」ピクッ
銃士「物音…そこの陰か!何者だ!」カチャッ
???「…ひっ!」
銃士「人か…?魔物か!出てこなければ撃つ!」
ザッ…ザッ…
新人鉱夫「あ…あの…」ビクビク
錬金術師「…新人鉱夫!?」
新人鉱夫「あぁ!店長さん!?」
銃士「むっ、店長の知り合いか?」スッ
錬金術師「お前、この川に飲まれたんじゃ…」
新人鉱夫「向こう側に休憩室代わりの中継所があって、そこで休んでる間に…こんな…」ブルブル
錬金術師「…そうだったか。新人鉱夫、生きていてくれて本当に嬉しいぞ」
新人鉱夫「た、助けに来てくれたんですか…?」
錬金術師「そのつもりだったが、生憎こんな状況でな」グッショリ
銃士「戻ろうと思っても戻れない状況。情けない話だよ」ハハ…
錬金術師「って待て。新人鉱夫、お前が休んでいる間って…他に鉱夫か冒険者の助かった奴はいるのか?」
新人鉱夫「い、いえ…。その…」ガタガタ
錬金術師「…落ち着いてくれ。ここで何があったか説明ができるのはお前だけなんだ」
新人鉱夫「…っ」
錬金術師「一旦、その休憩室とやらに連れてってくれるか?このままでは風邪を引いてしまうからな」
新人鉱夫「あ、はいっ…」
………
……
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 中継所 】
ゴゥンゴゥン…パァァッ…
新人鉱夫「…」
錬金術師「…驚いたな。ここは僅かだが明かりが点くのか」
新人鉱夫「ち、地下6階も近いので…、独自の装置で設定していて…。狭いですが…」
錬金術師「なるほど。山小屋みたいな存在ってわけか」
新人鉱夫「はい…。施設というより、明かりと椅子と机しかありませんが…」
錬金術師「あぁ、待て。話す前にそうだ…銃士」
銃士「ん?」
錬金術師「このままだと体力を奪われるだけだ。服を脱ごう」
銃士「…」
錬金術師「あ…」
銃士「い、いや。ハンターたるもの、恥かしさより体力だし…大丈夫だ、うん…」
錬金術師「そ、そこの棚にある、布を引いて隠してくれ」
錬金術師「俺の作ったこの魔石の近くに置いておけばすぐに乾くはずだ」
銃士「わ、わかった…」
ゴソゴソ…
新人鉱夫「…?」
錬金術師「ん、不思議そうな顔してるな」
新人鉱夫「隠すとか何やらとか…何の話かなと…」
錬金術師「…新人鉱夫、ちょっとそこのカーテン代わりにした布、ゆっくりと覗いてみ」ボソボソ
新人鉱夫「え?」
錬金術師「いいからいいから」
カツカツ…
新人鉱夫「一体何が…」パサッ
銃士「…」
新人鉱夫「…」
銃士「え…ちょっ!やだっ!」
新人鉱夫「えぇぇっ!!」
銃士「き、着替えてるんだから待っててよ!」
新人鉱夫「ご、ごめんなさいぃぃ!」
ダダダッ、ズドォン!!ゴロゴロ…!!
錬金術師「くくく…」
新人鉱夫「じょ、女性の方だったらそう言って下さいよ!!」
錬金術師「何だしっかりしゃべれるじゃないか。少しだけ、元気出たか?落ち着けたか?」
新人鉱夫「あ…」
錬金術師「辛い現状かもしれないが、話をしてくれないか」
錬金術師「今、ここで起こっている事を知っているのははお前だけなんだ」
新人鉱夫「…」
錬金術師「頼むぞ」
新人鉱夫「…はいっ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
銃士「全く、人の着替えを何だと思っている!」
錬金術師「はは、すまなかった。だが、新人鉱夫は元気が出たようだ。ありがとう」
銃士「む…」
新人鉱夫「あはは…す、少しだけ…」
銃士「…人の体を見といて、"少し"だけ元気というのも微妙な気分だが」
錬金術師「大丈夫だ、俺も見たが、凄い元気になった」
銃士「…セクハラ!」
錬金術師「…す、すまんっ!」
銃士「まぁ見られたモノは仕方ない。さっさと何が起きたか話を聞こうか」ストンッ
錬金術師「…いい性格してるよなー」
銃士「このくらいではないと、世界を旅なんてしてられないからな」ハハハ
新人鉱夫「はは…。じゃあお話してもいいでしょうか」
錬金術師「頼む」
新人鉱夫「えっと…僕らは冒険者3人、先輩2人と5階で採掘をしていました」
錬金術師「あそこの水流が発生している場所か?」
新人鉱夫「はい。ですが、崩れる可能性はあったと知っていたので、修復作業も行っていたんです」
錬金術師「…知っていただって?それなのにあんな水流を発生させたのか」
新人鉱夫「…見ませんでしたか?イービルアイのせいなんですが」
錬金術師「!」
銃士「!」
新人鉱夫「最近、このフロアにも上級の魔物が発生するようになって…」
新人鉱夫「だから冒険者も多く付き添ってもらいました。ですが、修復作業中に大量に現れ、襲われ…」
新人鉱夫「魔法によって壁が粉砕し、みんな流されたようでした…」ブルブル
銃士「その時、君は中継所にいたのか?」
新人鉱夫「はい。さっき言った通り、僕は体力がないもので休むように言われて…」
新人鉱夫「窓越しに、起きた事を見ていました。見ていたけど…隠れてるしかなくて…!」
銃士「…仕方ないことだ。命あっただけでも、儲けモノと考えるべきさ」
新人鉱夫「そうでしょうか…」
銃士「命がけの仕事をしているには変わりない。君には運があった、そう考えたほうがいい」
新人鉱夫「…っ」
錬金術師「それともう1つ聞かせてくれ。あの水流の落下している竪穴はどこに繋がっている?」
新人鉱夫「あそこから地下6階に下りる梯子があったのですが、アレで流されてしまって」
新人鉱夫「あの水圧だと、恐らく未探索の地下7階ないし…天然洞窟まで流されたのでは…」
錬金術師「竪穴の下に向かう他の道はあるのか?」
新人鉱夫「この中継所を更に進んだ場所に、天然洞窟があり、遠回りではありますが…」
錬金術師「救出に向かう時はそのルートになりそうか」フゥッ
新人鉱夫「そうですね…って、行く気ですか!?」
錬金術師「おいおいバカ言うな…。6階以降はそれなりの装備がないと無理に決まってる」
錬金術師「今後、救出隊が来た時に伝える為に聞いたんだよ」
錬金術師「あーそれと、あの水流…とても戻れるモノじゃない」
新人鉱夫「…そうですね」
錬金術師「そして、今の俺らは生きてここを脱出すること。地上への道はないのか?」
新人鉱夫「旧洞を通れば行く事はできます。ですが、かなり遠い上に危険ですよ…」
錬金術師「危険?」
新人鉱夫「この辺はある程度整備されたフロアですよね。旧洞は全く手付かずなので、魔物の住処になってるんです」
錬金術師「…なるほど」
銃士「ある程度なら倒しきれるけど、数が多いと厳しいかもしれないな」カチャッ
錬金術師「銃弾の残りは?」
銃士「実弾が200、魔法弾が火炎が49、氷結が50」
錬金術師「魔法弾がこころもとないか」
銃士「どれくらいのペースで魔物と会うか分からないけど、ちょっと不安な要素かも…」
新人鉱夫「このまま、ここにいれば助けは来るのでしょうか?」
錬金術師「正直分からん。エレベーターが完全に停止している可能性が高い」
錬金術師「復旧する時間も分からないし、前に進んだほうが堅実かもしれない」
銃士「進むとしても、旧洞の道が分からないがどうするつもりなんだ?」
錬金術師「あっ、そうか。新人鉱夫は分からんのか?」
新人鉱夫「僕自身は分かりません。ですが、恐らくそこの棚に…」
錬金術師「ん?」
新人鉱夫「何かあった時の為に、地図などを残しているはずです。探してみます」スクッ
ゴソゴソ…
銃士「じゃあ…旧洞を進むってことでいいのかな?」
錬金術師「それしかないだろうしな。気乗りはしないが」ハァ
銃士「わかった。全力で支援するよ」チャキッ
錬金術師「…頼む。今、戦いで頼れるのは銃士だけだからな、命を預けるぞ」
銃士「!」ピクッ
錬金術師「ん?」
銃士「あ、いや…」
錬金術師「どうしたんだ?」
銃士「そ、その…ギルドに入ってるとはいえ、周りは優秀な人ばかりで…」
銃士「私を少しでも頼る!って余りなくてさ…」
銃士「こう正面で言われると少し恥ずかしいなーなんて」アハハ…
錬金術師「おいおい、頼むぞ。銃士を信じるしか俺らは道がないんだからな」ククク
銃士「…うん。頑張るよ」
ゴソゴソ…バサバサッ!!!
新人鉱夫「ごほっ、ごほっ!あったあった、ありましたよ!」パサッ!!
モワモワッ…!!
錬金術師「げほっ!狭いから埃がたつと酷いな!」
銃士「げほげほっ!」
新人鉱夫「えっと、これを見てください」
…バサッ!!モワァッ
錬金術師「なんだ、随分と古い地図だな。大丈夫なのか?」
新人鉱夫「確か旧洞が使われなくなったのは6年前の6月6日」
新人鉱夫「この地図の記載された日付、旧洞が閉鎖される半月前のようですね」
新人鉱夫「大丈夫だと思われます」
錬金術師「…ろ、6年前の6月6日ですか」
新人鉱夫「はい。それが…何か?」
錬金術師「いや何でもない…。んーと、それじゃ、地図と道はお前に任せたぞ」
新人鉱夫「えっ」
錬金術師「えっ?」
新人鉱夫「ぼ、僕が案内するってことですか!?」
錬金術師「当たり前だろ。何を言ってるんだ」
新人鉱夫「で、でもでも!まだ未熟で、道も滅茶苦茶に案内しちゃうかもしれないんですよ!」
錬金術師「それならそれまで。ここにいる中で、一番熟練しているのはお前だ」
銃士「その通り」コクン
新人鉱夫「い、いやいやいやいや!絶対に店長さんのほうが長けてますよ!!」
錬金術師「…あん?」
新人鉱夫「絶対に頭もいいですし、地図も読めますよね!僕に命をかけることはないですよ!」
錬金術師「…」
新人鉱夫「銃士さんも、未熟な僕よりは絶対に店長さんのほうが安心してー…」
…グイッ!!!
錬金術師「…おい」
新人鉱夫「ひっ!?な、何をするんですか!く…苦しい…」ググッ
錬金術師「お前は、いつまで未熟なつもりなんだ」
新人鉱夫「えっ…」
錬金術師「お前は、経験の蓄積というものを全く分かっていないんだな」
新人鉱夫「い、いやいや。僕に経験なんて…。少し専門に詳しいくらいで…」
錬金術師「お前はずっと未熟なままでいいのか?こういうのを一つのチャンスと思わないか?」
新人鉱夫「思えませんよ!!」
錬金術師「…未熟なままでいいということか」
新人鉱夫「そうも…思いません…。いつか、大きく、頼りがいのある人間になりたいと思っては…!」
錬金術師「あん?お前の未熟じゃないっていう考えは、"頼りがいのある人間"なのか?」
新人鉱夫「は、はいっ。先輩方や、管理人さんのように…」
錬金術師「あぁ…、じゃあ、お前は意外と未熟じゃなかったわ」パッ
新人鉱夫「うわっ!」ドサッ!!
錬金術師「俺はお前を頼りにしている所があるからな」
新人鉱夫「…店長が?まさか!」
錬金術師「ほらなんだ…お前が持ってきたあの鉱石覚えてるか?」
新人鉱夫「は、はい」
錬金術師「俺はあそこまで良い品を久しぶりに見た」
新人鉱夫「ぼ、僕の鉱石?」
錬金術師「そうだ。あの輝く原石…、お前が選んで採掘したんだろう?」
新人鉱夫「そ、そうですが…」
錬金術師「お前は、自分で未熟だと思っているだけだ。持ってる実力は相当なもんのはずだ」
新人鉱夫「…」
錬金術師「確かに体力はないかもしれないし、臆病かもしれん」
錬金術師「だが、俺から見たら羨ましい選眼力がある上に、お前自身気づいてないだけで勇気もある」
錬金術師「まぁ…言い換えれば考えないバカなのかもしれないが」
新人鉱夫「ゆ、勇気…?」
錬金術師「暗闇の中、得体の知れない俺に近づいてきた事もだし、この状況で旧洞の案を見出せたこと」
錬金術師「そもそもこの地下へきている時点で相当なモンだぜ」
新人鉱夫「…っ」
銃士「なぁ…新人鉱夫クン」
新人鉱夫「は、はい」
銃士「私はさっき言った通り、冒険者ないしハンターではあるが、君と同じ未熟だとは思っている」
銃士「だが、君らを守ろうと思っている。君は、私らを守ろうと思ってくれないのか?」
銃士「全員が助かってほしい、生きてほしいとは思わないのか?」
新人鉱夫「い、いえっ!それは違います!!全員で助かりたいと!」
錬金術師「…俺は確かに地図は読める。だが、お前ほどの専門的な技量はない」
錬金術師「重い依頼ですまないと思うが、ここにいる3人、それぞれが踏ん張る所なんだよ」
新人鉱夫「…」
錬金術師「頼む。お前の力が必要なんだ…」スッ
新人鉱夫「あ、頭なんて下げないでください!!」
錬金術師「…」
新人鉱夫「…わ、わかりましたから!!わかりました!!」
錬金術師「…いいんだな?」
新人鉱夫「は、はい…。そこまでいわれたら…やるしかないですよ…。いえ、やらせてください!」
錬金術師「ありがとう。あぁ、それとな…」
新人鉱夫「はい…?」
錬金術師「俺はお前の事、認めてるのは本当だ」
錬金術師「今後、店の為に、お前を採掘要員として指名し続けるつもりだったからな」ククク
新人鉱夫「…!!」
銃士「はははっ!それじゃ、お願いするからね!」
錬金術師「3人、力を合わせるぞ!」
新人鉱夫「はいっ…!任せてください!」
錬金術師「さて、出発するか!!絶対に生きて脱出するぞ!!」
銃士「あぁっ!」
新人鉱夫「はいっ!!」
…………
………
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 旧 洞 】
ゴォォ…ポチャンッ、ポチャンッ…
ザワザワザワッ…
錬金術師「…」
銃士「…」
新人鉱夫「…」
ザッザッザッザッ…
錬金術師「道が酷いな…」
新人鉱夫「整備されてないだけじゃなく、長い年月で洞窟の質も変わってるようですね」
ザッザッザッ…ドロッ…
錬金術師「泥っぽくて、少し何か臭うな」
新人鉱夫「鉱石の一部が酸化しているんでしょう。上を見てください、面白い物もあります」
錬金術師「ん?」チラッ
銃士「何?」チラッ
…キラッ!!
錬金術師「…山サンゴか!」
新人鉱夫「あはは…さすがです。説明は不要ですね」
銃士「いや私には説明がほしいのだが…」
新人鉱夫「あ、そうでしたね。炭酸塩鉱石の霰石といいまして、圧力があれば鉱石化します」
新人鉱夫「つまり、鉱石の赤ちゃんみたいなものですよ。厳密には違うんですが」
銃士「ほぉ…初めて見たぞ…」
新人鉱夫「それと…この辺は、6階、7階への天然洞窟が発見される前までは最下層でした」
新人鉱夫「それなりの鉱石もまだ眠っているはずです」
錬金術師「どこらへんの鉱石があるんだ?」
新人鉱夫「ダイア、クォーツ系、アンバー…希少鉱石もゴロゴロしてるはずです」
錬金術師「なら、見つけたら教えてくれ。少し持って帰ってもバチはあたらんだろう」
新人鉱夫「えぇ、もちろん。例えばそこにも、クォーツの頭が見えてますね」
錬金術師「なぬっ!」バッ
キラキラ…
銃士「ふむ…これか?」コツン
新人鉱夫「はい。採掘できると思いますよ」
錬金術師「くくく…ここであったが100年目。クォーツ、ゲットだ!」グワッ
ブンッ…ガキィンッ!!!
錬金術師「いてぇっ!!硬っ!!」
銃士「凄い音がしたね…。そんなに硬いの?」
錬金術師「いってぇぇ…手がしびれた…。この硬さは、俺の自動採掘機がないと…」ビリビリ
新人鉱夫「…ちょっとそのピッケル貸して頂けます?」
錬金術師「あ、あぁ」スッ
新人鉱夫「少し古いピッケルですが、充分使えますよ。周りを削るようにして、そぎ落とすんです」ブンッ
ガキィンッ!!ガキンッ!!ガキッ、ガキガキガキィン!!!パラパラ…
新人鉱夫「よし、あとは手で引っ張るだけです」グイッ
…バキィンッ!!
新人鉱夫「ふぅ。どうぞっ」スッ
錬金術師「お…おう…」
銃士(…へぇ)
新人鉱夫「今の相場だと結構しますね。」
錬金術師「まっ、一応こうして採掘出来るものはしながら行こう」
新人鉱夫「手伝えることなら手伝いますからっ」
…ザザザザッ!!
錬金術師「…む」ピクッ
銃士「この音は…いけない!下がって!」バッ
錬金術師「!」
新人鉱夫「どうかしたんですか?」
銃士「新人鉱夫くん、耳をすませてみて」
ザザザザ…ゾゾゾ…!!!
銃士「洞穴の中でこの音…いきなりクライマックスかもね」タラッ
錬金術師「これは集団音か?」
銃士「うん。1匹じゃない、2匹、3匹…。銃弾が限定されてるってのに厄介な敵が出たか…」
新人鉱夫「集団の音…、まさか、ファイアーアント…!?」
銃士「…そのまさかだろうね」
錬金術師「ふぁ、ファイアーアント…巨大な化物蟻か!」
新人鉱夫「…早く逃げないと!敵いませんよ!!」
銃士「かなり近い。逃げて間に合うか…?」
新人鉱夫「集団で襲われたらひとたまりもありませんよ!!」
ザザザッ、ゾゾゾゾゾッ!!!!
新人鉱夫「た、食べられてしまいます!!」
銃士「乱射しつつ下がるべきか、店長!一旦下がってー…」
錬金術師「ふーむ…」カチャカチャ
銃士「な、何のんきにライトいじってるの!!」
錬金術師「銃士、ちょっと銃を貸してくれる?」
銃士「使えるの!?」
錬金術師「いいから早く!もう目の前にいるんだから!」
ザザザザッ!!!!
銃士「…わかったよ!信じるからね、はいっ!」スッ
錬金術師「ありがとさん」カチャンッ
ゾゾゾゾゾッ!!!
ファイアーアント『キィィッ!!』
新人鉱夫「姿が見えましたよぉぉ!!!」
銃士「でっかっ!!気持ち悪っ!!店長、早くぅぅ!!」
錬金術師「お前ら目を閉じて、耳ふさげよ~」ガチャンッ
銃士「え?」
新人鉱夫「え?」
錬金術師「いっせーの…」カチッ
…バァァンッ!!!!!パァァァッ!!!ビリビリビリ!!!
銃士「ま、眩しいっ!!」パァッ!!
新人鉱夫「み、耳がぁぁぁ!!」キーン!!
ファイアーアント『!!!』
錬金術師「…自分でやっといてスゲー強烈」クラクラ
銃士「一体何をしたの!?」
錬金術師「まぁ、見ろよ。ファイアーアントの集団は逃げてくぜ…」フラフラ
ザザザゾゾゾ…
ザザ…
…
銃士「本当だ…」
新人鉱夫「今の音と光は一体何をしたんです!?」
錬金術師「ライトにつけてた魔石を、銃の魔弾のシリンダー部分にケーブルで繋げて」
錬金術師「思いっきり威力をあげつつ、ライトの発光と銃弾を発射したんだ」
錬金術師「アント系の魔獣は、暗闇だろうが何故か"目"を持って感知する失敗した種族だからな」
銃士「光で脅したってこと?じゃあ、音をあげた意味は?」
錬金術師「そりゃお前、独自の進化してたら困るからだよ」
銃士「そ、それをあの一瞬で判断して行動を…?」
錬金術師「結構時間あったじゃないか。音がした時点で少し浮かんでたけど」
銃士「…!」
新人鉱夫「す…凄い…」
錬金術師「あ、銃返すよ。ありがとさん」スッ
銃士「あ、うん」カチャッ
…ジュゥゥゥ
銃士「あ…熱~~っ!!」ポイッ!!
錬金術師「あ、すまん」
銃士「何かめちゃくちゃ発熱してるんだけど!」ジンジン
錬金術師「無理やり底上げしたから、中身黒こげかもしれん…」
銃士「」
錬金術師「まぁ使えるし、あとで無料メンテナンスします…」
銃士「お願いします」
新人鉱夫「と、とりあえず進みますか?」
錬金術師「んだな。この辺はアントもいるし、さっさと抜けよう」
新人鉱夫「はい。こちらです」
銃士「また今の敵が出ない事を願うよ…。また同じことをしたらバラバラになりそうだ」
錬金術師「っていうか、もう1度出たら今の技効かないし、俺ら死んじゃうよ」ボソッ
銃士「…早く抜けよう!!」
新人鉱夫「急ぎましょう!!」
錬金術師「はは…」
…………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 同時刻・女店員サイド 】
…グビッ
親父「うまい珈琲だな。気分が落ち着く」フゥッ
女店員「」
管理人「」
女店員「…の、のんびり珈琲飲んでる場合ですか!」
親父「じゃあ、お前はできる事があるのか?」
女店員「そ、それは!」
親父「俺らの今の立場をわかっているのか?」
女店員「立場…?」
親父「君は仮だが、俺と管理人は指示する立場だ」
親父「落ち着いて行動出来ないリーダーが、人助けを出来るか?」
女店員「た、確かに…」
親父「それに珈琲は頭が冴える。落ち着く為にも、君も飲んだほうがいいんじゃないか」
女店員「…」
管理人「し、社長さん…。しかし、女店員さんの気持ちも察してあげてください…」
親父「それは俺に対する意見と取っていいのか?」ギロッ
管理人「うっ…」
親父「…どうなんだ?」
管理人「…も、申し訳ありません」ペコッ
親父「それでいい」
女店員「…」イラッ
親父「二人とも立っていないで、一杯どうだ。俺が淹れてやろうか」
女店員「それでも…ですか…」ボソッ
親父「うん?」
女店員「それでも、あなたはお父さんですか!!もっと心配してあげてもいいんじゃないですか!!」
親父「…息子のことか?」
女店員「地下に閉じ込められているのと一緒なんですよ!!」
女店員「魔物だっているのに、何かあったらどうするとか…色々考えないんですか!」
親父「君が、信頼できるハンターと一緒にいるはずだと言っていたではないか」
女店員「それとこれは!」
親父「それに、何かあってほしいからそう考えるのか?」
親父「それとも心配する自分に酔っているのか?」
親父「何が変わる訳でもない。今は最善の為に落ち着くべきだと言ったまでだ」グビッ
女店員「…ッ」ブルッ
管理人「社長さん…その辺で…」
女店員「あ…貴方なんか頼らない!!私一人で何とかするんだから!!!」ダッ
管理人「あっ、女店員さん!」
親父「…やれやれ、困った娘だ。だからクビにするべきだと言ったのだ」
ダダダダッ、ガチャッ!!!
女店員「今行きます、店長っ!!」
…ドンッ!!!
女店員「きゃあっ!?」
???「…おやおや、ごめんね。大丈夫?」
女店員「いたた…ご、ごめんなさい」
管理人「おや、どなたでしょうか?あっ、救出隊の方でしょうか!?」
???「ごめんなさいね、私は救出隊じゃないんだ」
???「あそこにドカ座り社長の知り合いだよ」ハァ
女店員「え…社長さんの知り合い?」クルッ
親父「来たか、女錬金術師」
女店員「!?」
管理人「!!」
女錬金術師「アンタに偉そうに名前を呼ばれる覚えはないね」
親父「お前は俺の妻だろうが」
女錬金術師「いつの話を。まだ離婚してないだけで、もうアンタのことは何とも思っちゃいないよ」
親父「離婚していないということは、夫婦だろうが」
女錬金術師「…そんな事はどうでもいいんだ。息子のことを聞かせてくれないかね」
親父「…ふん」
女錬金術師「相変わらず…。あっ、それよりすまなかったね。大丈夫かい?」
女店員「あ、ありがとうございます。大丈夫です…」
女錬金術師「話は少し聞こえていたよ。意地の悪い事を…ごめんね」
女店員「いえ…」
親父「そんな奴との話はいらん。今は俺の大事な取引相手を助ける為に手を貸せ」
女錬金術師「息子はどうでもいいっていうのかい」
親父「大事じゃないとは言わん。だが、取引相手を助ける事はアイツを助けるのと一緒のことだろう」
女錬金術師「…息子を助けたいんだって言いなよ」
親父「同じ事だとしか言わん」
女錬金術師「…」
親父「…」
女店員「…」オロオロ
親父「早く手を貸すと言え。お前が息子を放っておく事はないはずだ」
女錬金術師「息子を助ける事は手を貸す。だが、アンタに手を貸す気はならないね」
親父「息子を助けるというなら、復旧に手を貸すことだぞ。同じだ」
女錬金術師「私を誰だと?息子を助けたら手を切る事だって出来るんだよ」
親父「他の生きているかもしれない面子を切り捨てるというのか?」
女錬金術師「昔の私じゃないよ」
親父「…貴様」
女錬金術師「あんなバカは放っておこう。管理人さん、息子を助け出す手段を教えてくれるかい」
管理人「あ、は…はい…」
女錬金術師「文句を言うなら、そこの能無しの分からず屋に言ってくれるかい」
女錬金術師「悪いけど、他の人らの為に手を貸す気はなくなったよ」
管理人「…」
女店員「そんな…」
…スッ
女錬金術師「なんて、そう聞こえとけば、少しは苦しむだろうからね」ボソッ
女錬金術師「普通に助けには協力するよ、安心しておくれ」ボソボソ
管理人「!」
女店員「!」
女錬金術師「さぁ、案内してもらおうか。"息子を助け出すまで"復旧を手伝うよ!」
管理人「…はいっ!」
女店員「お願いします!」
親父「…ッッ」ギリッ!
…………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 錬金術師サイド・旧洞 】
…ガォンガォンッ!!!
バッド『キィィッ!!』
ドシャッ、ドサドサッ…
銃士「はぁっ、はぁ…!凄い数…」
錬金術師「大丈夫か?」
銃士「全然余裕!というか、連射式にして貰ったお陰で助かったかな」
錬金術師「連射式もだが、その腕前…安心して見てられるな」
銃士「ふふっ、ありがと♪」
新人鉱夫「えと、少しずつですが鉱石も増えてますし、道も地図の通りだし問題はないですね」
錬金術師「このまま脱出できればいいんだがな」
新人鉱夫「そうですねぇ…」
銃士「弾丸の残りも現時点ではそこまでの問題はないかな」
銃士「でも歩き通しで結構疲れてきたかも…」ハァッ
錬金術師「俺は余裕だぜ」ジンジン
銃士「さっきから足のマッサージを繰り返している人が何を」
新人鉱夫「うーん…僕は歩きなれてますが、二人は不慣れですからね…」
新人鉱夫「途中で休める場所があればいいのですが」
錬金術師「旧洞には、中継所だの構内事務所っていうのはないのか?」
新人鉱夫「詳しくは分からないのですが、この地図を見てください」ペラッ
錬金術師「うん?」
新人鉱夫「この三角のマークは、構内事務所ないし中継所地点のマークなんです」
新人鉱夫「現存してるかは分かりませんが、この付近にもあるようなので、確認しましょう」
錬金術師「頼む。もしかしたら素材か何かもあるかもしれないしな」
新人鉱夫「ですね。行きましょう」
………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ガチャッ、ギィィ…
錬金術師「…ひどいな」
銃士「屋根も、ガラスも割れている。この散らばっているのは保存食を食べ散らかした後ね」
新人鉱夫「魔物か何かの仕業ですか?」
銃士「恐らくね。それと…余り休めるという場所でもなさそうだよ」スッ
新人鉱夫「え?」
銃士「見て。魔物の足跡…、それに排泄物。恐らく縄張りにしてるみたい」
錬金術師「…人が来なくなった場所によく起こる現象だな。自然の摂理か」
銃士「うん…。離れたほうが良さそうだね」
錬金術師「次の休憩できそうなスポットは地図でどれくらいだ?」
新人鉱夫「えっと…意外と近いですね」ペラッ
錬金術師「わかった。そっちまで行ってから一息つこう」
新人鉱夫「そうですね…そっちのほうが良さそうです」コクン
銃士「賛成だ」コクン
錬金術師「っと、何かないか調べてから~っと♪」ゴソゴソ
ガサガサ…ポロッ、ゴトンッッ!!
錬金術師「ぬおっと、落としちまった」
銃士「凄い音、何を落としたの?」
錬金術師「ん~…?何だこれ?」ヒョイッ
…トプンッ
錬金術師「瓶詰めの緑の液体?」
銃士「それは?」
錬金術師「分からん。ってよく見たらこの棚、奥の方は全部そればっかじゃねえか!?」
ドロッ…トプンッ…
銃士「!」
新人鉱夫「!」
銃士「…何これ、気持ち悪い」ゾクッ
錬金術師「一部は割れてるな…。明かりを少し強めよう」クイッ
パァァ…ドロッ、ポタッ、ポタッ…
銃士「うわっ!」
錬金術師「なんじゃこりゃ!」
新人鉱夫「一部が割れて地面に染み出してる…。棚の下が緑色に染まってるじゃないですか!」
銃士「店長、これが何か分からないの?」
錬金術師「瓶詰めの液体ってのは専門だが、こりゃ見たことないタイプだ」
銃士「店長が分からない液体って…」
錬金術師「ビンが少し特殊だな、普通の閉め方じゃない」キュッキュッ
銃士「無理やりねじってるように見えるね」
新人鉱夫「聞いたことないですよ、こんなの…」
錬金術師「…とにかく離れたほうがいい。次の場所へ向かおう」
銃士「うん」
新人鉱夫「急ぎましょう」クルッ
…パキッ!!
新人鉱夫「ん?」
錬金術師「どうした?」
新人鉱夫「なんか白いの踏みました。何でしょうこれ」ヒョイッ
錬金術師「気にするな。とにかくココを離れよう。気味が悪い」
新人鉱夫「はいっ。一応持って行こう」ゴソッ
銃士「地上までは確実に進んでいるし、安全第一に進んでいこう」
錬金術師「うむ、当たり前だ」
新人鉱夫「…いきましょう」
ザッザッザッザッザッ…
…………
……
…
…
……
…………
…ゴトンッ!!トプンッ…
ゴトッ…ゴトゴトッ…ガチャンッ!!!
…ドロォッ…ズズッ…ズズズ…
……ベチャッ…
ズズ……
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 女店員サイド・坑内エレベーター1階 】
カチャッ、カチャカチャッ、カチッ!!
女錬金術師「~♪」
チャキンッ!!ポチポチ…
女店員「す、すごい」
女錬金術師「主回線が完全に落ちてたから、部品の取替えだね」
女錬金術師「魔石のエネルギーヒューズが飛んでるねぇ」
女錬金術師「普段、どんな部下にエレベーターの作業をさせてるんだか」フン
親父「…」イライラ
女錬金術師「管理人さん、もうすぐ直るよ」
管理人「ありがとうございます、ありがとうございます…っ」
女錬金術師「だったら、エレベーターの稼動と共に救出に向かわせる鉱夫に連絡でもとってきなよ!」
管理人「あっ、そうですね!いってきます!」ダッ
タッタッタッタッ…
女錬金術師「さて、もう少しだ」カチャカチャ
女店員「店長も凄かったけど、女錬金術師さんも凄いですね…」
女錬金術師「ははっ、ありがとうよ」
親父「…取引相手だ。全員を救うように復旧させろ」
女錬金術師「それはアンタが"息子を救う"と言ったらだと言っただろう」
親父「だから息子を救うことも、鉱夫たちを救うのも一緒だろうが!」
女錬金術師「息子を息子と思わない人の手助けなんかしたくないね」
親父「…本当に他の命を見捨てる事ができるというのか?」
女錬金術師「できる」
親父「くっ…」ギリッ
女店員「じょ、冗談なんですよね?」ボソボソ
女錬金術師「他の人も救うように復旧はするさ。安心しとくれ」フフッ
女店員「はい♪」
タッタッタッタッタッ…
管理人「みんな、こっちだ!」
カチャカチャッ
鉱夫たち「はい!」
鉱夫たち「ようやく動けますね」
鉱夫たち「鉱夫長、装備の準備は万全です!」
鉱夫長「女錬金術師さん、有難うございます。これで救出にいち早く駆けつけられますね」
女錬金術師「うんむ。もう少しだけ待っておくれ」
親父「…」
親父「…ん?」ハッ
親父「おい、女錬金術師」
女錬金術師「なんだい」
親父「お前、俺にウソをついたな?」
女錬金術師「何のことか分からないね」
親父「これだけの鉱夫を向かわせるという事は、少なくとも他の面子の救出にもなるはずだ」
親父「貴様、、俺をだましたな」
女錬金術師「ふん」
親父「貴様ぁ…」
女錬金術師「バレちゃ仕方ないね。少しはいい薬だったろう」
親父「…ッ」
鉱夫長「女錬金術師さん、社長さん、息子さんの話も聞かせて頂きました」
鉱夫長「下手に動いたりしてなければいいのですが」
女店員「店長のことですし、色々動いてそう…」
女錬金術師「あの息子だからね…」
管理人「店長さんですしねぇ…」
親父「バカ息子だからな」
鉱夫長「み、皆さん口をそろえて…」ハハ…
女錬金術師「どんな状況かは分からないけど、きっと大丈夫さ」
鉱夫長「下手に落盤やらで、旧洞に逃げ込んでなければいいんですが」
女錬金術師「あっちも危険なのかい?」
鉱夫長「落盤の危険だけでなく、魔物の住処になってますしね」
管理人「鉱夫長は俺がココの担当になる前から長くここに勤めていたから詳しいんだよな」
鉱夫長「そうですね。一番キャリアは長いですよ」
管理人「今更だが、旧洞からの救出はやっぱり難しかったか?」
鉱夫長「難しいなんてもんじゃないですね。"アレ"もありますし」
管理人「…アレ?」
鉱夫長「あっ!いや、何でも!」
管理人「…俺が知らない事があるようだな」
鉱夫長「き、気にしないでください!」
女錬金術師「鉱夫長サン、そういう不安要素は埋めておきたいんだけどね」
鉱夫長「し、しかし今更関係のない話じゃないですので!」
女店員「店長のことですし、もしかしたら旧洞なんかから脱出を試みてるかも、なーんて」
女店員「さすがに店長は頭がいいから、危険なことはしませんよねぇ」アハハ
管理人「…」
親父「…」
女錬金術師「…」
女店員「…」
鉱夫長「…」
女店員「…しそうですね」ボソッ
女錬金術師「鉱夫長、話を聞かせてくれないかい。アレって何か、大至急ね」ギロッ
鉱夫長「…」
女錬金術師「頼むよ」
鉱夫長「じ…時効にしてくれますか?」
女錬金術師「時効?」
管理人「お前、犯罪でもしたっていうのか!?」
鉱夫長「ち、違いますよ!俺が直接関係あるわけじゃないし、問題になるなんて思わなかっただけで…!」
管理人「一体何をしたんだ!」
鉱夫長「時効にしてくださいよ…」
鉱夫長「い…今から十数年前、地下5階で暴れていた魔物がいました」
鉱夫長「余りにも強力な相手だったので、有名だった騎士に頼んで討伐してもらったんです」
管理人「それで?」
鉱夫長「ですが、完全に消失することが無理だったので、バラバラにして魔力の瓶に封じ込めたんです」
鉱夫長「封印の効力は十年そこらで切れるので、その時は改めて別の冒険者に封印してほしいと言われました」
鉱夫長「しかし、そこは使われなく封鎖されることになり、放置されることになったんです」
管理人「…そんな話きいたこともないぞ」
女錬金術師「その効力が切れて、魔物が解き放たれている可能性は?」
鉱夫長「高いです…」
女店員「ちょっ…それじゃ店長がもし旧洞にいっていたら!?」
鉱夫長「襲われているかもしれません…」
女店員「…」フラッ
親父「その魔物とは一体なんだ」
鉱夫長「す…」
鉱夫長「スライム…ですよ…」
親父「!」
女錬金術師「!」
管理人「!」
女店員「え?」
管理人「す、スライム!?そんな魔物がこの洞窟にいるのか!?」
女店員「え…スライムってゲームとか絵本に出てくる可愛い魔物じゃないんですか?」
管理人「そりゃ物語に書かれてるだけのものですよ!!」
女店員「えっ?」
女錬金術師「…スライムは打撃が効かない、かなり厄介な相手」
女錬金術師「属性によっては魔法も無効。特に地下深い洞穴なんだ…無敵に近いんじゃないかね」
女錬金術師「食する時は、相手を覆うようにして体を引き伸ばし、体内に引き込む…」
女錬金術師「捕らえられた生物は、もがき苦しみ、溶かされ…骨だけが残る…」
女店員「え…」
女錬金術師「こりゃ悠長なこと言ってられないね…」
管理人「洒落になってないですよ…」
鉱夫長「申し訳ありません…黙っていて!!!」
親父「スライムなんて滅多に見ない魔物、あのバカが知っているはずはないな…」
女錬金術師「私だってほとんど見たことないからね」
女錬金術師「自分の液体を体に付着させ、その匂いを追ってチャンスと同時に捕食する」
女錬金術師「万が一、匂いが付着していても襲われるまでは時間がある…まだ、きっと大丈夫…きっと」
女店員「て…店長…」
ヘナヘナ…ドサッ
管理人「あっ、女店員さん!」
女店員「ど…どうなっちゃうの…」
女錬金術師「…よし、一時的だけどエレベーターはこれで動くはずだよ!」ポチッ
グォンッ…パッ、パッパッ!!!
管理人「明かりがついた!」
女錬金術師「急いで、息子がどういうルートを進んでいるか把握してきておくれ!」
管理人「お前たち、頼んだぞ!鉱夫長、わかってるな」
鉱夫長「…はい」
鉱夫たち「急ぎましょう!仲間の安否が心配です!」
グオォォォ…グォングォン…チーン!!
女錬金術師「エレベーターが来たよ!頼んだからね!」
鉱夫長「行ってきます、皆さん」ビシッ
鉱夫たち「いってきます!」
管理人「気をつけて…」
女錬金術師「…」
親父「…」
…………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 錬金術師サイド 】
ザッザッザ…ピタッ
錬金術師「ふ~…はぁ、はぁぁ…」ゼェゼェ
銃士「結構…歩いてきたよね…」ハァハァ
新人鉱夫「さすがに僕も疲れてきました…」ハァハァ
…グチュッ…
錬金術師「結局ここまで、まともに休憩できる場所もなく…」
錬金術師「その場その場で腰を落としただけだったしな…」
銃士「また腰を下ろす?」
錬金術師「んー、あとどれくらいなんだ…?」
新人鉱夫「地図によればもう直ぐ、地下3階付近地点…でしょうか」ペラッ
錬金術師「いつになったら地上が見えるんだ…」
…クチュッ……
銃士「でもそこまで歩いたんだから、頑張ろうっ!」
錬金術師「うむ…」
新人鉱夫「ゴールは近いですから!」
錬金術師「それは分かってるんだながなぁ…」ゼェゼェ
銃士「でも、スタミナが奪われてるだけで良かったね」
銃士「これが敵に攻撃を受けてたら、本当に動けなくなってたんじゃないかな」
錬金術師「…かもな。もう少しだけ頑張るか」
銃士「その意気っ!」
錬金術師「あぁ頑張るよ」スクッ
銃士「さっ、出発だ!」
…グチュッ………
銃士「…ん?」ピクッ
錬金術師「どうした?」
銃士「今、何か音が聞こえたような…」
錬金術師「音?」
…グチュッ……
銃士「ほら、また!」
錬金術師「いや聞こえないぞ。新人鉱夫は聞こえたか?」
新人鉱夫「いえ…」
錬金術師「ほら、気のせいじゃないのか?」
銃士「気のせいなのかな…」
錬金術師「…いや、銃士が俺らよりそういう事に敏感なのは分かる」
錬金術師「一応、調べるか」
銃士「わかった。でも歩き回るのは危険だし、ちょっとみんな静かにして」シッ
錬金術師「…」
銃士「…」
新人鉱夫「…」
シーン…
……
…
……グチュッ…ドロッ…!
錬金術師「!」
銃士「今、聞こえたよね!」
新人鉱夫「ぼ、僕も聞こえました!」
錬金術師「何の音だ?また水か何か近くを流れてるのか?」
銃士「…水の音じゃないよ。この音、まさか…」
新人鉱夫「まさか?」
銃士「いや、あり得ないか。でも…」
錬金術師「…何の音だと思うんだ?」
銃士「ずっと前にギルドで上級討伐クエストを受けに行った時に聞いた音なんだけど…」
銃士「スライムの音にすっごい似てた気がする…」
錬金術師「…スライム?ま、まさかそんな訳ないだろ」
銃士「だよね。こんな場所にいるわけないよね」
ドロッ…
新人鉱夫「ん?」ピクッ
新人鉱夫「…」
…ビチャアッ…
新人鉱夫「…ちょっ」
錬金術師「きいっとただの水の落ちる音だって!さっさと進もうぜ!」
新人鉱夫「ちょっ…ま、待って…」
銃士「うん、出発しよう!」
錬金術師「さぁ行こう!」
銃士「うん」
ザッザッザッ…グイッ!!
錬金術師「おわぁっ!!」ドシャア!!
銃士「店長!?」
錬金術師「いって…何かに引っ張られてコケたんだよ!」クルッ
新人鉱夫「…て、店長…待って…」ギュウウッ
錬金術師「ってお前かよ!俺の服を掴んで何してんだよ!」
新人鉱夫「ご、ごめんなさいでも…」ブルブル
錬金術師「何よ!」
新人鉱夫「そ、そのあの…た、助けてください…」ガタガタ
錬金術師「何が!」
新人鉱夫「あ、あああ…あの…下…」ビクビク
錬金術師「下?」チラッ
銃士「下?」チラッ
ドロォッ…グチュッ…、グチッ
スライム『…』
ベチャッ…
錬金術師「…」
銃士「…」
新人鉱夫「ぼ、僕の靴を掴んで…動けないです…」ブルブル
錬金術師「…銃士、どうすればいい」
銃士「新人鉱夫、落ち着いて。下手に刺激させちゃだめだ」
新人鉱夫「は、はい…」
銃士「恐らく、靴から捕食しようとしてる。物理は効かないから、魔弾の処理になるんだけど…」
新人鉱夫「ど、どうすれば…」
銃士「魔弾で燃やしたり、凍らせたりしたら伝導凍結で新人鉱夫まで凍っちゃうから…」
新人鉱夫「えぇっ!」
スライム『!』ピクッ
銃士「声を出しちゃだめだ…!」
新人鉱夫「は、はい!うぅっ…」
銃士「まずはゆっくりと、靴を脱いで…」
新人鉱夫「はい…、は、早く抜け出したい…!」ゴソゴソッ!
銃士「ば、ばかっ!慌てて脱がないで!」
スライム『!』ピクピクッ
…ドロッ、グワッ!!
銃士「あっ!」
スライム『ッ!』
ドロォ…ジュゥゥゥ…!!!
新人鉱夫「…あ、熱い!!!うわぁぁっ!!」バババッ!!!
銃士「だめだ!そんなに暴れたら!!」
スライム『…ッッ!!』
ドロォッ…ガバァッ!!!
新人鉱夫「ひっ、の、飲み込まれるぅぅ!!うわぁぁぁ!!」
銃士「くっ!!」ダッ
錬金術師「ま、待て銃士!!」
…ドンッ!!
ドサッ…、ズザザザァ…
ジュウゥゥ…!!!
…ボトッ
新人鉱夫「うわああっ!」
銃士「うあっ!」
ズザザッ…!!
新人鉱夫「あ…、足がついてる…よかったぁ…」ヒクッ
銃士「いたた…あれ?私、新人鉱夫を突き飛ばしたはずなのに、何で私まで吹き飛んでるの」
銃士「…」
銃士「!」ハッ
錬金術師「…ッッ!!」
銃士「店長!?」
新人鉱夫「え…店長!?」
錬金術師「参ったぁぁ…、右足を思い切り削られた…」
ズキン…ズキン…
銃士「店長、私をかばって…!?」
錬金術師「お前がケガしたら倒すもんも倒せないだろが…」ジンジン
銃士「…っ」
錬金術師「右足を落としはされなかったが、代わりに右足の肉の一部と、装備の一部を食いやがった…」
スライム『…』
…ペッ!!ボトボトッ!!
錬金術師「俺の装備はスライムさんの口には合いませんでしたか…はは…」ズキズキ
銃士「しゃべらないで、血が出てない分まだいいけど、ひどい傷…」
錬金術師「俺よりも先に、あのスライムを…」
スライム『…』トプッ
ドロッ…グワッ!!!
銃士「くっ、凍結弾っ!!」ババッ
ガチャンッ!!カチッ、ガォンガォンッ!!!!
…ブチュッ!!
スライム『!』
銃士「凍れぇぇ!!」
ガォンガォンガォンッ!!!ブチュブチュッ!!
スライム『…ッ!!』
カキッ…キキィン…
銃士「効いてる…、うらぁぁっ!」
ガォンガォンッ!!カキィンッ…!!
スライム『…』
ビキッ…ビキビキ…パキンッ…
銃士「はぁ…はぁ…」
錬金術師「凍結したか…」
銃士「…これくらいで倒せる相手だとは思えない。早く離れよう!」
錬金術師「わかってるんだが…くそっ!」ズキズキ
銃士「歩けないか…。肩を!」グイッ
錬金術師「情けない…」
銃士「…守ってくれてありがとう。情けなくなんかない」
錬金術師「…」
新人鉱夫「僕は右肩を。僕のせいですよね…ご、ごめんなさい…」グスッ
錬金術師「この状況だ、誰が悪いもないから気にするな…。まずは離れるぞ」
新人鉱夫「は、はいっ!」
ポロッ…コロンッ
銃士「ん、新人鉱夫のポケットから何か落ちたぞ」
新人鉱夫「あっ、さっき拾った石みたいなやつ…」
…ヒョイッ
銃士「…これ、魔物の骨だぞ」
新人鉱夫「ひぃっ!?」
銃士「あそこがスライムの巣になっていたんだな。そこで食べかすを吐き出していたんだろう」
新人鉱夫「そそ、そんな物捨てちゃってください!」
銃士「やれやれ、すっかりスライム恐怖症だな」ポイッ
新人鉱夫「うぅ…」
銃士「じゃ、行こうか」
錬金術師「上手く歩けねぇや、情けない」
ヒョコッ、ヒョコッ
銃士「情けないばっか言わないの。情けなくなんかないんだから」
錬金術師「はは…こんな足じゃ歩くのも面倒くせえな…」
錬金術師「平和にバターピーナツを食って過ごしてたはずの俺が、大冒険だ」ククク
銃士「夢が叶ってるんじゃないの?」フフッ
錬金術師「冒険ってのは、いつもこんなピンチなもんなのか?痛いんだな冒険は…」ズキズキ
銃士「はは、冒険者なら当たり前だよ」
錬金術師「そうなのか…、なら俺は店で静かに過ごしてるほうで充分だ」ハハハ
銃士「店長は、やっぱりお店にいてこその店長なのかもね」
錬金術師「そうかもなぁ。ぐっ!」ズキンッ
銃士「大丈夫!?」
錬金術師「大丈夫大丈夫…。さぁ、行こう…」
…………
………
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ザッザッザッ…
錬金術師「はぁ、はぁ、はぁ…」
銃士(あれから大分歩いたが…。顔色が悪い…早く医者に見せねば…)
銃士「新人鉱夫、あとどのくらいで地上なんだ?」
新人鉱夫「待ってください…」ペラッ
新人鉱夫「えと…、ここはもう地下200メートル付近ですので…」
新人鉱夫「この辺に今の洞窟と、本洞と繋がる場所があります!」
銃士「そうは言っても復旧していなければエレベーターも使えないだろう」
新人鉱夫「そ、そうか…」
錬金術師「待て…あれからかなり時間がたっている。もしかしたら復旧も進んでいるかもしれん…」
新人鉱夫「…行ってみますか?」
銃士「そこまで行って、復旧していなければ無駄足。店長の衰弱が進むだけだ!」
錬金術師「…ち、近くまで行って明かりがないか見よう」
錬金術師「明かりが確保されていればエレベーターは稼動しているはず…」
銃士「…わかった」
新人鉱夫「はい、案内します」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
新人鉱夫「えっと、あそこを曲がった先が本洞があるはずです」
ザッザッザッ…
銃士「頼む…復旧していてくれ…」
…パァッ!
新人鉱夫「あっ!」
銃士「あっ!」
錬金術師「ど、どうだ?目が霞んでよく見えないんだ…」
銃士「明かりがある!!復旧してるよ!」
錬金術師「お、おぉ…」
新人鉱夫「急ぎましょう!」
錬金術師「おう…!」
銃士「これで地上に戻れる、早く店長の治療をしなければ!」
錬金術師「注射痛いんだろうなぁ…」ハハ
銃士「何言ってるんだか…」
ドロッ…チュプンッ…
銃士「!」
新人鉱夫「えっ…」
銃士「ま、まさか今の音は…」クルッ
モゾモゾッ、ドチュッ…
スライム『…』
新人鉱夫「で、出たーーー!?」
銃士「こ、ここまで来てまた!」
錬金術師「洒落にならねえぞ…」
銃士「…また凍らせてやる!凍結弾装填っ!」ガチャンッ!!
銃士「食らえっ!!」
カチッ、ガォンガォン!!
スライム『!』
ブチュブチュッ!!カキカキン…!!
銃士「ふん、またそうやって凍っていろ」
スライム『…』
スライム『…』ブルブル
…バキャアンッ!!!
スライム『…』トプンッ
銃士「!」
新人鉱夫「ちょっ、今度は一瞬で砕かれましたよ!?」
銃士「まさか耐性を持ったのか!?」
錬金術師「ずっと地下深くで生きてきた猛者だ…、違う成長を見せているんだろう…」
銃士「新人鉱夫、店長を連れて早くエレベーターに!撃って凍らせながら時間稼ぎをする!」
新人鉱夫「わかりました!」
錬金術師「い、急ぎたいんだがな…足が動かないんだ…」ズキンッ
銃士「食らえぇぇ!!」カチッ!!
ガォンガォン!!カキィン!!
スライム『…』
銃士「うらあぁっ!」
ガォンガォンッ!!カキン…バキャアンッ!!
銃士「…耐性が高くなってる!凍結時間がどんどん短くなっていく!」
錬金術師「ぐっ、目の前だっつーに…!」
銃士「くそっ!凍って!!」
ガォンガォン…カチッ、カチッ!!
銃士「あっ…!」
錬金術師「弾切れか、火炎弾はあるか…?」
銃士「あるけど、意味があるかどうか…」
錬金術師「属性攻撃があるだけマシだ、使ってくれ」
銃士「…わかった」
スライム『…』トプンッ
銃士「火炎弾装填っ!」カチャンッ
銃士「凍結がだめなら、燃え尽きてくれ!」
カチッ、ガォンガォンッ!!…ボン、ボオンッ!!!
スライム『!』
ボォォォッ…ジュルジュル…!!
銃士「…効いてる?」
スライム『…ッ』ブルブル
銃士「わずかながら燃えて動きが止まってる…どんどん撃つよ!」
ガォンガォンッ!!!ゴォォッ…ボォンッ!
スライム『…ッ』
ドロッ…ブチュッ…!!
錬金術師「新人鉱夫、復旧は完全にしているか?エレベーターまではどのくらいだ…!」
新人鉱夫「復旧はしているようです!キョロキョロ
錬金術師「エレベーターまでの距離は!」
新人鉱夫「このペースで歩けばすぐです、がんばって下さい!」
錬金術師「わかった…!」
銃士「くっ…店長、スライムがもう耐性が付いてきてる!!何て早さなの…!!」
ガォンガォンッ!!ブチュブチュッ!!
スライム『…』
モゾモゾ…ドロドロッ、トプンッ…
銃士「元々銃弾のダメージはないし、早くエレベーターに!」
錬金術師「…ッッ!!」
ヒョコッ、ヒョコッ
新人鉱夫「死にたいんですが、早く立って、しっかりしてください!!」
銃士「店長!!」
錬金術師「く、くそおぉぉ…!!」
スライム『…』
ズリッズリッ…
錬金術師「もうダメだ、お前らが早くエレベーターに逃げてくれ!」
新人鉱夫「何を言っているんですか!」
銃士「ここで弱気になるなっ!!もう目の前で逃げられるんだ!!」
錬金術師「俺が食われれば多少の時間稼ぎになんだろ、負傷を犠牲に冒険者が生きるための術だろ…?」
銃士「それはそうだけど!」
錬金術師「1人の犠牲で2人が助かるんだ、それで充分だ」
銃士「わ、私は店長も一緒に助かってほしいんだ!!早く立てっ!!」
錬金術師「痛みを通りこしてもう動かねーんだ…。捨て置いてくれ、頼む…」
銃士「…ッ」
新人鉱夫「…っ」
スライム『…』
ズリッ…グチュッ、ズリッ、ズリッ…
錬金術師「…早く行けって!!」
銃士「す…捨てるくらいなら、最後まで一緒に逃げる!新人鉱夫、肩を支えて!」
新人鉱夫「そうですね…店長を死なすわけにはいきませんよね!」
グイッ!!
錬金術師「お前ら…!」
銃士「私たちを巻き込みたくないなら、自分の足でしっかり歩いて!」
錬金術師「む、無茶いいやがるな…。人生をかけた決断を何だと思ってやがる…」ハハ…
銃士「…グダグダ言ってないで、歩く!」ググッ
新人鉱夫「行きますよ、店長ぅ…!」ギリギリ
ザッザッザッ…!!
ズリッ…ズリッ…
ザッザッ…!!
…ズリッ…
ズリッズリッ、ズリッ!!…トプンッ…
スライム『…』
銃士「くっ、追いつかれた…もうだめ…!」
錬金術師「だから逃げろと言ったんだ!」
銃士「冒険者たるもの、覚悟はあったんだけどこんな場所とはね」ハハッ
新人鉱夫「…うぅっ!わかっていたけど怖い!!」
スライム『…』
グニュグニュ…クワッ!!!
錬金術師「ちっ…ゲームオーバー、か」
ビュンッ!!…ドゴォンッ!!!バキバキィンッ!!!
スライム『!?』
パラパラッ…
錬金術師「…へ?」
銃士「ど、どうしたの?」
新人鉱夫「スライムが大きく吹き飛ん…だ…?」
錬金術師「一体何が…」ハッ
ザッ…ザッ…ザッ…!
鉱夫長「…無事でしたか!」
鉱夫たち「おーい、こっち側に生存者!店長さんたちだぞー!!」
ワイワイ、ガヤガヤ…
新人鉱夫「鉱夫長、皆さん!」
鉱夫「おー、新人鉱夫!無事でよかったな!」
新人鉱夫「いえ…」グスッ
鉱夫「早くエレベーターで救助者を上に逃げろ!後は任せてくれ!」
錬金術師「お、お前ら一体何をした?属性抵抗の高いスライムを吹き飛ばすなんて…」
鉱夫長「スライムの存在に気づいた我々に、到着した錬金師さんが武器をその場で準備してくれました」
鉱夫長「抵抗力が高いをの考えられるから、錬金用品で特殊な加工を施したのをすぐに作るからと」
錬金術師「…見せてくれ!」グイッ
カチャカチャッ…
錬金術師「こ、これを短時間で!?何て完璧な仕上がり、魔石を利用した魔力を放つ装備か…」
錬金術師「ここまでのものを作り上げる錬金師…いるのか…」
鉱夫長「"女錬金術師さん"が早急に準備して下さったんです」
錬金術師「…」
錬金術師「母が…ここに?」ピクッ
鉱夫長「はい」
錬金術師「…マジ?」
鉱夫長「はい」
錬金術師「…」
銃士「?」
新人鉱夫「?」
錬金術師「なぁ、あとはその武器がありゃスライムは倒せるよな?」チラッ
スライム『…』グニグニ
鉱夫長「え、えぇまぁ…」
錬金術師「…新人鉱夫くん、銃士さん」ポンッ
銃士「?」
錬金術師「死闘をしてきた中、また悪いがあと少し…母が来る前に、俺をここから逃がしてくれないか」
銃士「へ?」
新人鉱夫「お母さんに会わないんですか?」
錬金術師「そ、それは別に気にしないでくれ。早く逃げねば!」ガタガタ
銃士「急にどうしたの?」
錬金術師「ま…待てっ!母がいるっつーことは…それを伝えた奴がいるな…」ピーン
錬金術師「まさかとは思うが、親父も一緒に来たり…じゃなかったら俺がここで事故に巻き込まれたなんて…」ブツブツ
銃士「一体どうしたの?落ち着いてよ!」
錬金術師「まじで逃げよう、早く…いででっ!」ズキズキ
ググッ…
銃士「あっ、ちょっと無理しないの!傷がひどいんだから!!」
錬金術師「親父もだが、母親も俺は苦手なんだよ!!優しいのは優しいんだが、ちょっと違う優しさっていうか!!」
錬金術師「嫌いじゃないが、今の俺を見たら絶対に…」
…ザッ!!
女錬金術師「"俺を見たら絶対に…"なんだい?」ニコッ
錬金術師「で、でたー!!!」
タッタッタッタッ…
女店員「あ…あぁぁっ!店長ぅぅ~!!」
錬金術師「あっ!」
女店員「ぶ、無事だったんですね、良かったぁぁぁ~!!」
ダダダッ、ダキッ!!
錬金術師「おふっ」
女店員「し…死んじゃったのかと、思って…うぅぅ…」
錬金術師「人を勝手に殺すな!」
女店員「無事でよかった…店長…」グスグス
錬金術師「いつっ…」ズキンッ
女店員「?」
銃士「女店員さん、足を見てやって」
女店員「え?」チラッ
…ジクジク…ドロッ…
女店員「!?」
錬金術師「ちょっとバカやってなぁ、さっきまで痛みすら通り越していたんだが…」
錬金術師「助かったと安心したら、また痛みがぶり返してきたわ」ハハハ
女店員「ちょちょちょ、笑いごとじゃないでしょこれ!」オロオロ
錬金術師「大丈夫だって。すぐ死ぬわけじゃないし」
女店員「そういう問題じゃないぃ!」
ザッザッザッ…
親父「随分な事故に巻き込まれた割りには、生きていたようだな」
錬金術師「はぁ…傷の痛みが増しそうな方までいらっしゃる」
親父「ふん」
銃士「…何だかんだで心配してみんな来てくれてるじゃない」
銃士「いい家族に見えるけどね?」
錬金術師「どうだかな…。っていうかそれより早くここから逃げー…」
…ガシッ!!
錬金術師「ひぃっ!」
女錬金術師「忙しそうなところ悪いんだけど、ちょっといいかい?」ニコッ
錬金術師「えっ」ドキッ
女錬金術師「見たところ、その傷はスライムにやられたもの。応急処置をなぜしてないんだい?」ゴゴゴ
錬金術師「そ、それはココに辿りつくまでの時間を考慮しつつ、応急処置を行う場面ではないと判断して…!」
女錬金術師「日本語がバラバラだねぇ。応急処置を出来る道具は十分にあったはずだよ?」グイッ
錬金術師「ひ、ひぃぃ!」
女錬金術師「銃士さんといったかい。その銃の火炎弾、ちょっと1発もらえるかな」
銃士「へ?あ、いやいいですけど…どうぞ」スッ
女錬金術師「これを使えば、スライムの溶解による感染症を防ぐ効果もあることを知ってたはずなんだけどねぇ」
カチャカチャッ…サラサラッ…
錬金術師「ま、待て!話せば分かる!それだけはやめ…母さん力つえぇ!!」グググッ
女錬金術師「毒による化膿が始まってるじゃないか、早く傷口に処置しないと」
ググッ…ミシミシッ!!
女店員「あわわ…」ガタガタ
銃士「な…なな…」ブルブル
新人鉱夫「ひぃぃ…!」
親父「…」プイッ
女錬金術師「火炎薬莢の中身を開けて、傷口に落として火をつけて…と」
女錬金術師「気絶したら運んであげるからね」ニコッ
錬金術師「や、やめ…!」
…カチッ…
錬金術師「あぁぁぁっ!!」
ボォンッ!!!ジュウウウッ…!!!
錬金術師「」
ドサッ…!
女錬金術師「あら…本当に気絶しちゃったよ」
銃士(そ、そういう事だったか店長…。安らかに眠ってくれ…)
女店員(合掌…)
新人鉱夫(地獄から抜け出したのに、地獄にいってしまわれた…)
…………
………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
…パチッ
錬金術師「…」
錬金術師「どこだ、ここは…」ムクッ
女店員「あっ、店長!」
錬金術師「お?」
女店員「目が覚めたんだ…良かった…」
錬金術師「…俺は気絶してたのか。ここは…どこだ?」
女店員「鉱山の怪我人が運ばれる治療室。一等室なんだって」
女店員「足には痛み止めを塗ったから、少し落ち着いてると思うんだけど…大丈夫?」
錬金術師「大層な扱いでございますな。足は今までほど痛くないが…俺はどれくらい眠ってたんだ」
女店員「3、4時間かな?女錬金術師さんが、すぐに目覚めるから大丈夫だって言ってたんだけど…」
女店員「心配だったから傍にいたんだ」
錬金術師「…そうか。ありがとな」
女店員「ううん」
錬金術師「他の人らはどうした?」
女店員「事故に巻き込んだ人らの補償とか、地下の状態とか、色々話があるみたいで管理人室だよ」
錬金術師「あれからずっとか!?」
女店員「なんか色々問題があるとかなんとか…」
錬金術師「仕方ない、俺らもいくか」ググッ
女店員「まだ動いちゃだめでしょ!」
錬金術師「…当事者がいたほうが話も進むかもしれんだろ」
女店員「そ、それはそうだけど…」
錬金術師「銃士やらを巻き込んじまったのは俺の責任もある」
錬金術師「勝手に動いて迷惑かけたのもな。とりあえず肩貸してくれ。管理人室にいこう」
女店員「う~ん…わかった」
………
……
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 管理人室 】
コンコン…ガチャッ
錬金術師「失礼します」
管理人「あっ、店長さん!」
錬金術師「長く寝ていたようで、気分がすっきりしたぜ」フッ
女錬金術師「あのくらいの痛みで気絶していた子が何を言ってるんだい」
錬金術師「…」
銃士「店長、傷のほうはもう大丈夫なのか?」
錬金術師「大丈夫大丈夫。もう余裕で歩けるぜ」フッ
女店員「私に肩貸してくれと悲願した人が何を言ってるの」
錬金術師「…」
新人鉱夫「店長さん、改めてこんな事に巻き込んですいませんでした」
錬金術師「気にするなよ、無事でよかったぜ」フッ
親父「こいつは自分から足を突っ込んだんだ、いちいち謝ることはない」
錬金術師「…」
管理人「ま…まぁまぁ!こうして無事に会えたんだから良かったってことで!」
錬金術師「はは…。で、今はどういう話になってたんです?」
管理人「それが…」
親父「事故を起こしたのは管理人の不届きだ。管理人と現場の人間の解雇の話になっていた」
親父「それと、救出に向かうといって問題を起こしたハンターのギルドの脱退に関してだな」
錬金術師「はっ!?」
銃士「…。」
新人鉱夫「…。」
管理人「…。」
錬金術師「ちょ、ちょっと待ってくれ。それは…」
親父「おかしいことを言っているか?」
錬金術師「おかし…くは、ないけども…」
親父「管理人が前もって魔物の情報や、水量の調査を行っていれば被害は出なかったはずだ」
親父「その銃士とやらも、自らの行動で被害を増やしたのには代わりないだろう」
親父「もちろん、お前にも責任はあるのは分かっているな」ギロッ
錬金術師「か、管理人は仕方ないとしても、銃士の救出に関しては善意だろうが!」
錬金術師「それに新人鉱夫も、あんな状況じゃ仕方なかっただろう!」
親父「善意で起こした問題だから、責任はないというのか」
親父「新人鉱夫も、他の仲間が流されるのを黙ってみていたという。責任はゼロか?」
錬金術師「…そ、それは…」
管理人「いいんですよ、店長さん。自分の管理の不届きが事故につながったんです」
銃士「…私の起こした問題だもの、仕方ないよ。それに自分で辞めようと思ったんだ」
新人鉱夫「僕もです」
錬金術師「…自分で?」
銃士「うん。今回のようなミスがあったら、ギルドに迷惑かけちゃうから…」
新人鉱夫「僕も、僕がもっとしっかりしていれば皆を救えたかもしれないと思ったので…」ブルッ
錬金術師「…そんな事する必要ないだろう!銃士は次に間違いのないようにすればいい!」
錬金術師「新人鉱夫は、お前のせいじゃないと認識するべきだ!事故は事故、防ぎようがなかった!」
新人鉱夫「…いいんですよ」
銃士「大失敗には変わりないからね」
錬金術師「…っ」
親父「自分から責任を感じて辞めるといってるんだ。別に気にすることはないだろう」
錬金術師「…地下で水に流された他の人らはどうなったんだ」
親父「全滅だ。軍から応援で調査したが、無残にも魔物に荒らされていた」
親父「元々、毒ガスが充満してるような天然洞窟で生き残れというのが無理な話だがな」
錬金術師「…っ」
親父「俺は仕事に戻る。それとお前の店だが…必ず結果を出せ」
親父「出せないのなら、あの時の賠償を全てお前に被せ、店にいれないようにする事も可能だ」
親父「その店に働いている、その大事な女店員も悪評でどこにも就職できないかもしれんな」
親父「では、失礼する」
ガチャッ…バタンッ…!
錬金術師「ぐっ…!」
女店員「店長…」
錬金術師「何が結果を出せだ、出してやるっつーんだよ!!」
…ガチャッ
親父「あぁ、そうだ。1ついい忘れたことがあった」
錬金術師「っと、戻ってくるのかよ!なんだよ!」
親父「お前らがもし、新人鉱夫を旧洞に逃がさなかったら…全滅していたかもしれんな」
錬金術師「あん?」
親父「あそこの場所、今やイービルアイの巣でな。救助隊が苦労したらしい」
親父「…そこの判断は少しだけ褒めてやろう。ではな」
ガチャッ、バタンッ!!
錬金術師「…ふん」
ガタッ…ゴソゴソ
女錬金術師「じゃ、私も自分の店に戻ろうかね。錬金術師、頑張るんだよ」
錬金術師「…わかってるよ」
女錬金術師「そういえば自動採掘道具も少し見せてもらったが、精進はしているようだね。安心したよ」
錬金術師「当たり前だ」
女錬金術師「それと…アイツの言葉は嫌味のようだけど、正しい」
女錬金術師「アンタは立派な大人だし、責任に関しては私がどうこう言う問題じゃない」
女錬金術師「だけど私はアンタの母親…、困った時は来ていいんだからね」
錬金術師「あぁ…」
女錬金術師「じゃあ…またね」
錬金術師「…じゃあな」
ガチャッ…バタンッ…
錬金術師「…」
管理人「じゃあ自分も辞表を書かないとなぁ…。次はどこに転職するか」ハハ
管理人「では、ちょっと本部や幹部に説明してきますので。失礼します」
ガチャッ、バタンッ
新人鉱夫「ぼ、僕は勢いよく辞めると言ったものの、どう親に顔を出していいか…」
銃士「…ギルドを脱退か。素材の売買は安くなっちゃうけど、生活はまだ腕があるから大丈夫…なのかな」
錬金術師「本当にやめるつもりなのか?これからどうするつもりなんだ」
新人鉱夫「寮も出ないといけませんし、どうするから少し考えます。鉱員としては再就職できると思いますし…多分」
銃士「元々家なき子だし、いいんだけどさぁ。どうするかは風の吹くところかな…」アハハ…
女店員「…」
女店員「店長、ねぇねぇ」
錬金術師「あん?」
女店員「あのさ…」ボソボソ
錬金術師「ん…」
女店員「これで…これだから…」ボソボソ
錬金術師「…」
女店員「…っていうのはどう?」
錬金術師「…い、いやいや。無理だって」
女店員「でも、見殺しにするのといっしょだよ?」
錬金術師「そりゃそうなんだが、いくらなんでも無理だ」
銃士「?」
新人鉱夫「?」
女店員「でも彼らがいれば、来月末には安定した収支が出るかも」
錬金術師「…それまでの金はない。週末に入るのは200万前後だが、純益とは違うだろう」
女店員「初月無料とか…」
錬金術師「労働とわりにあわねーだろ!」
女店員「だめかな…あはは…」
銃士「…何の話をしてるの?」
女店員「いっそのこと、うちで雇えないかなーって思いまして」
銃士「えっ、私たちを?」
女店員「はい。ハンターさんがいれば素材も集まるし、新人鉱夫くんがいれば鉱石も安定するし」
新人鉱夫「僕は、目の前の働き先があれば飛びつきますが…」
銃士「別にいいけど、住むところもないし…」
女店員「どっちも店長と一緒の倉庫とか…」アハハ…
銃士「そ、それはさすがに恥ずかしいかなー…」
女店員「恥ずかしい?」
銃士「あっ、そうか。私は女だと知らないんだっけ」
女店員「えぇっ!?」
錬金術師「そうそう。そいつ女性だぞ」
女店員「そ、そうだったの!?」
銃士「男装っぽいけどね。さすがに男に囲まれて住むのは恥ずかしいかな」ハハ…
錬金術師「それにお金も来月末まで出せないし、生活できないだろう」
女店員「む、むぅ…」
銃士「お金は別に貯蓄があるから、来月末まで待てるけど…」
新人鉱夫「僕も忙しかったですし、大丈夫ですよ」
錬金術師「金はあっても、安定して住むところがないだろう。宿暮らしという訳にはいかんし」
女店員「女性同士なら、私の一緒のアパートとかどうでしょ♪」
銃士「えっ」
女店員「別にかまいませんよ、シェアみたいなの少し夢だったりしたんです♪」
銃士「か、構わないならいいが。私も少しそういうのには興味があるし…」
新人鉱夫「そしたら僕は、店長と一緒に…?」チラッ
錬金術師「…店の少し広くなった倉庫だぞ寝る場所」
新人鉱夫「僕が一緒に寝ても構いませんか…?」
錬金術師「おい、誤解の生まれるような言い方はやめてください」
新人鉱夫「あっ、すいません!」
女店員「じゃあ決まりじゃないの!?」
錬金術師「…本当にいいのかよ」
銃士「行き場がない以上、面倒を見てくれるなら構わないよ。店長なら身を任せてもいいと思う」
新人鉱夫「同じです。僕でも、やれない事がないわけじゃないですし」
女店員「…ねっ?」
錬金術師「はぁ…。仕方ないな…」ポリポリ
女店員「そ、それじゃあ!」
錬金術師「はいはい。新しく店員、2名様をご案内…ですか」
女店員「…皆さん!」
銃士「うんっ。よろしくね、店長!」
新人鉱夫「一生懸命がんばります、よろしくお願いします!」
女店員「皆さん、よろしくお願いします!」
錬金術師「ふっ…これでバターピーナツを食べてサボる生活に戻れるな」ボソッ
銃士「…店長?」チャキッ
新人鉱夫「店長さん?」
女店員「店長?」ギロッ
錬金術師「あれっ、なんか雇ったの失敗だった気がする」
銃士「へぇ~…新しい店員の前で堂々とサボるんだ…」
銃士「暗闇で無理やり服を脱がされ、女性だとわからせるような行動をとっ…」
錬金術師「わーっ、わーっ!!」グイッ!!
銃士「もがもが!」
錬金術師「さぁみんな、頑張ろうな!」
銃士「ぷはっ、それでよろしい!」
女店員「…何かあったのね。あとで聞かせてもらおうっと…」ギロッ
錬金術師「さぁ皆さん、僕もやる気を出すのでドンドン頑張りましょうネ!!」
銃士「えっと…じゃあ、今日から何かするのか?」
錬金術師「いや、手続きだの引越し作業だの、休みたいとか色々あるしなぁ…」
錬金術師「週末明けに来てくれないか。来週の月曜日なんかがいいな」
銃士「それでお願いするよ。私は一旦ギルドに戻って、今回のを報告したりしてくるしね」
新人鉱夫「僕も色々ありますし、では月曜日にもう1度来ますね」
錬金術師「うむ。ではご苦労さん。またっ」
銃士「またっ!」
新人鉱夫「はいっ!」
ガチャッ…バタンッ…
錬金術師「…」
錬金術師「はぁ~全員行ったか。何かすげー面倒なことになってきたな」ポリポリ
女店員「まぁまぁ、これで規模も大きくなるし♪」
錬金術師「そりゃそうなんだが…」
女店員「あ、週末までに仕上げる鉱石も早くやらないといけないね」
錬金術師「決死の生還後に、もう仕事の話っすか」
錬金術師「あ~でも時間もないし、今日からやるか。新しい鉱石も手に入ったし」
女店員「うんっ」
錬金術師「じゃっ、店戻るぞ!」
女店員「…あ、待って」
錬金術師「うん?」
女店員「肩、貸すから」グイッ
錬金術師「くく…ありがとさん」
女店員「じゃあ、さっきの銃士さんの話をじっくり聞かせてもらいながら帰ろっか♪」
錬金術師「えっ」
女店員「銃士さんの暗闇の服とか全部聞こえてたからね♪」
錬金術師「ちょっ、まっ…」
………………
…………
……
・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 週 末 】
…ガチャッ!!
鍛冶屋「お久しぶりです。おりますか?」
モゾモゾッ、ヒョコッ、ヒョコッ…
錬金術師「いらっしゃいませ、お待ちしておりました」
鍛冶屋「あれ、足を引きずってますね…。どうかしたのですか?」
錬金術師「はは、恥ずかしながらケガをしてしまいまして」
鍛冶屋「あら…、大丈夫ですか?」
錬金術師「大丈夫ですよ」ハハ
鍛冶屋「そうですか、それならいいのですが…」
錬金術師「えっと、鉱石の件に関してですよね?」
鍛冶屋「はい。週末にご用意して頂けているということで、来てみたのですが…」
錬金術師「もちろん準備しておりますよ。女店員ー!」
女店員「はーい!」
モゾッ…ドサッ!!
錬金術師「このケガのせいで、全部自分がやり切れませんでした」
錬金術師「ですが、この店員も相当な腕前なので手伝っていただきました。問題はないと思います」
鍛冶屋「ほぉ!店長さんがそういうなら大丈夫でしょう、お幾らでしょうか?」
錬金術師「それがその、一部稀少鉱石も入手しまして…」
鍛冶屋「!」
錬金術師「詳細はまとめたので、こちらをご覧ください」ペラッ
鍛冶屋「どれどれ…」
鍛冶屋「…」
鍛冶屋「…ほう、これは…」
錬金術師「高額なものもあるので、全てを買っていただくと250万ゴールドになります」
鍛冶屋「はは、これじゃ持ってきた現金じゃ足りませんね」
錬金術師「選んでいただいた物だけ買い取っていただいても結構ですので」
鍛冶屋「小切手での支払いが可能なら、買わせて頂きますよ」
錬金術師「おぉ、それは有難い!」
鍛冶屋「いえいえ、それじゃあちょっと準備しますので…」
ゴソゴソ…
錬金術師「…」
女店員「♪」
…コンコン
錬金術師「おや?」
女店員「鍛冶屋さんに次いでお客さん?」
ガチャッ、ギィィ…
銃士「やっ、店長!」
新人鉱夫「こ、こんにちわ~」
錬金術師「…お前ら!来るのは明日だろ?」
銃士「早く用事も終わって暇になったし、今日から働こうかなと思って」
新人鉱夫「同じくです。迷惑でしたか…?」
錬金術師「いや迷惑じゃねーけど、明日からの準備で進めてたんだが…」
銃士「今日からでも大丈夫よ。私のする事は冒険者やハンター系の、今までと一緒のことでしょ?」
新人鉱夫「僕は僕で、鉱石関係とかでしょうし」
錬金術師「ん~…まぁ待ってくれ。今の取引が終わったら言うわ」
銃士「ほい」
新人鉱夫「はいっ」
鍛冶屋「よし…これでサインは終わりました。急にお店が賑やかになりましたね?」
錬金術師「恥ずかしながら、規模を少し大きくすることに"なってしまいまして"」
鍛冶屋「…なってしまいまして?」
錬金術師「まぁ気にしないでください」ハハ
鍛冶屋「はは、そうですか」
錬金術師「あ、そうそう。店員の増員で、鉱石のルート供給の確保が現実的になってきました」
鍛冶屋「おっ!」
錬金術師「この新しいメンバーで、色々試すつもりです」
錬金術師「ですから、もう少しだけお待ちください。出来る限りルート供給を確保するつもりですので」
鍛冶屋「よろしくお願いします!」
女店員「では、こちらが今回の鉱石になります」
ゴソッ…ドスンッ!!
鍛冶屋「おっとっと…ありがとうございます。では、次はいつ頃に来れば宜しいでしょうか?」
錬金術師「そうですねぇ、こちらから早い段階で連絡をいれるのでお待ち頂ければ」
鍛冶屋「わかりました。頑張って下さいね」
錬金術師「ありがとうございます」
鍛冶屋「それじゃ、失礼します」ペコッ
ガチャッ…バタンッ…
錬金術師「ふぅ~…。取引は何かと疲れるよなぁ。見てただけのお前らもそう思うだろ…」
女店員「ありがとございましたっ!」
銃士「ありがとうございました」
新人鉱夫「あ、ありがとうございましたっ!」
錬金術師「…」
錬金術師「…」
錬金術師「…」
錬金術師「…ありがとう、ございました」
…ペコッ
女店員「…」クスッ
銃士「ふふっ」
新人鉱夫「あ、そういえば店長さん。管理人さんが、今の職場を自主退社になったじゃないですか?」
錬金術師「うむ」
新人鉱夫「別の鉱山で、補助からですけど働けるかもしれないとかなんとか言ってました」
錬金術師「へぇ、よかったじゃないか」
新人鉱夫「だから、是非そのうち挨拶にでもって」
錬金術師「ま、そのうちな」
銃士「さて…じゃあ、仕事でも教えてもらおうかな!」
錬金術師「どうするかねぇ…。つかその前に、今日の帳簿をつけておくわ」
女店員「帳簿?まだ店は開けてるでしょ?」
錬金術師「んー…折角だし、歓迎会を開こうかと」
銃士「へぇ、嬉しいね」
新人鉱夫「優しいですね!」
女店員「ちっちっちっ…皆さん…」
銃士?」
新人鉱夫「?」
女店員「店員の先輩として教えておきます。これは…」
…グイッ!!
錬金術師「おふっ!」
女店員「ただサボりたい、店長の間違った美学です」
錬金術師「ちょっと女店員さん」
銃士「なるほど、メモをしておこう」
新人鉱夫「覚えておきます!」
錬金術師「ちょっと君たち」
女店員「というわけで、歓迎会は夜!今は仕事、仕事!」
錬金術師「仕方ねえなあ…じゃあ、全員が揃ったのを簡易に祝して…ほいっ」
…ドンッ!
女店員「これってこの間、店長が造ったポーション?」
錬金術師「これから宜しくってことで、少し手を加えた、美味いポーションにして準備しといたんだよ」
錬金術師「副作用は出来るだけ抑えておいたから、ただ元気が出るポーションにしたから安心しろ」
女店員「無駄に準備がいいんだから」ハァ
錬金術師「…それって褒めてるの?」
女店員「もちろん、いい意味で♪」
錬金術師「くく、そうか。じゃあ、それぞれ持って、乾杯するか」
銃士「いいね!」スッ
新人鉱夫「こういうのは初めてですよっ」スッ
女店員「じゃあ私はコレッ♪」スッ
錬金術師「じゃ、俺はこれで。みんな、いいか」スッ
女店員「うん」
銃士「いつでも」
新人鉱夫「はいっ!」
錬金術師「まぁ…その、色々あると思うが…」
錬金術師「これからよろしくな!乾杯っ!」
女店員「乾杯!」
銃士「乾杯!」
新人鉱夫「乾杯っ!」
…カァンッ!!
女店員「♪」グビッ
銃士「ん~」グビグビ
新人鉱夫「…」ゴクゴク
錬金術師「…」ジー
女店員「ぷはっ!美味しい~!」
銃士「ブドウかな?すごい美味しい…店長は料理にも長けてそうで羨ましいよ」プハァッ
新人鉱夫「これで元気になれるとか、美味しくてすごいです!」
錬金術師「…え、お前ら"全員美味しいの?"」
女店員「だって美味しく仕上げたんでしょ?」
錬金術師「ま、まぁな。それじゃ、俺はちょっと全員の仕事の準備を」ガタッ
女店員「…待って」ガシッ
錬金術師「ひぃっ!」
女店員「"全員美味しいの?"って、どういう意味か説明してもらおうかなぁ…」
錬金術師「うまかったら、うまかったでいいじゃないの!」
女店員「気になりますよねぇ、銃士さん」
銃士「…確かに気になる物言い。教えてもらおうか」チャキッ
新人鉱夫「…じょ、女性の皆さんが怖いです!」ガタガタ
錬金術師「何でもないです!本当に何でもないです!」
女店員「…銃士さん、拷問の手段って知ってます?」
銃士「最初から激痛がいいか、徐々に激痛がいいか」
錬金術師「痛いのしかないじゃない!ちょっと待ってぇ!は、話すから!」
女店員「なぁに?」ニコッ
錬金術師「そ、そのな…素材を手に入れる際に…」
錬金術師「一つだけ、想像しがたい味のがあって…ポーションの強化練成したんだけど…」
錬金術師「味見したら、とてつもない酸味で、かつ緑くさい…もう、想像できない物が…」
女店員「それが、店長の目の前にあるコレね…」
錬金術師「はい」
女店員「それを黙って、私らの誰かに飲ませようとしてたわけだ」
錬金術師「はい」
女店員「…飲んで」
錬金術師「はい。…えっ?」
女店員「飲んで」ニコッ
銃士「男らしさを見せるんだ、店長」ニコッ
錬金術師「助けて新人鉱夫!!」
新人鉱夫「頑張って下さい…」ブルブル
女店員「さぁ…どうぞ…」ググッ
錬金術師「あっ、ちょっと待って、そんな近づけないで、あっ…ちょっ…」
女店員&銃士「召し上がれ♪」
錬金術師「…いやぁぁっ!!」
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面倒くさがりの店長が経営する、とある町の小さなお店。
今日も明日も経営難で、お客は1人来れば万々歳。
店長は今日も、お店でのんびりバターピーナツをポリポリ頬張る。
そして店員たちに怒られる…。
新たなメンバーたちと繰り広げる経営劇は、どうなっていくのか。
…それはまた、次のお話で…。
【 現時点でのお店の経営収支 】
■収入
・販売関連340万ゴールド
■支出
・バターピーナツ生成器40万ゴールド
・倉庫拡張費用70万ゴールド
・鉱山のバイト代10万ゴールド
・ポーション素材(アカノミの花/アカノミ)3万6000ゴールド
・火魔法耐性の金属片16万4000ゴールド
■収支合計
・250万ゴールド
【 現時点でのお店の経営情報 】
■お店
・平屋1階建て
・少し広い倉庫
■店員関連
・店長補佐1名
・ハンター1名
・鉱石採掘師(鉱員)1名
■販売物
・採掘道具20万ゴールド
・鉱石類(鉄鋼1000、銀5万、エレクトラム20万ゴールド)
・ライフマナ回復ポーション5000ゴールド
・バターピーナツ(サービス)
・装備類の修理等(時価)
It is not time to close a shop!
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【錬金術師「面倒だけど経営難に立ち向かう事になった】
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Continues to the next story....Don't miss it!
【 E N D 】
830 : ◆qqtckwRIh.: - 2014/04/30(水) 20:44:29 E9bD5X3w 617/617
■あとがき
読んで頂きまして、有難うございました。
打ち切りのように終えましたが、毎回"1000"以内の書き込みに抑えようとしていることで、
区切りのいい部分で「一旦終了」という形で最終回とさせて頂きました。
現行中、何度か書かせて頂きましたが最近とても多忙になり、満足な更新が出来ない状況でした。
それでも読んで下さった方々に、改めて感謝致します。
前作にも言えることですが"1000以内"の終了を目安としてしまっていることで、
後半の展開が加速気味になったりしているのは、読んで下さる方々に申し訳ないと思っております。
続編: 錬金術師「経営難に立ち向かう事になった」女店員「その2!」