時系列は、御坂が絶対能力進化実験に気付くよりも前です。
時期的には七月くらい。実験はまだ10000人到達していません。
よって一方通行は全盛期です。打ち止めとも会っていません。さらに、黒翼覚醒していません。
一方通行の衣装は夏服、つまり実験当時の服です。一応。
言うまでもないですが、二次創作なのでいろいろ(SF的な)独自解釈がありますし、東方に関してもコレジャナイ感を覚えた人は精神衛生上閉じることをお勧めします。
追伸。初投稿です。それが免罪符になるとは思いませんが、生暖かい目で見てください。
元スレ
一方通行が幻想入り
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1300927662/
今日は休日、朝方の学園都市。人通りが少ない街にも、活気溢れる場所があった。
御坂「待ちなさいっていってんでしょー!」ビリビリ
上条「待てって言われて誰が待つか!」
御坂「勝負しないあんたが悪いの、よ!」バチバチ
上条「だからビリビリすんなって! う、おっ!」
後ろを向いて電撃に対応していた黒髪ツンツンの男子高生が、隙を見て前を向き、あわよくば全力疾走しようとしたところで不幸にも石に躓いてしまった。
上条「ちょ、そこの人!避けてー!」
彼の目の前には、黒い服に白い特徴的な模様の入った白髪の男性が、コンビニ袋を提げて悠然と歩いている。
後ろの悲鳴を無視するからには、彼はもしかすると能力で防御しているのかもしれないが、彼の右手はそれをぶち壊してしまう。彼の善意の叫びは、しかし、届かなかった。
一方通行「うおァ!!」ベチーン
上条「へぶっ!」キュイーン
御坂「ちょ、あんた大丈夫?」
上条「ああ、俺は大丈夫なんだが……今何か打ち消したような……」ボソ
御坂「さっきの人は?」
上条「いや……気付いたらいなかった……」
御坂「ホログラムか何かだったのかしら……それとも空間移動?」
上条「ま、これでわかったろ?他人に迷惑かけるようなことはやめろ、ビリビリ中学生」
御坂「ビリビリって言うなって……いってんでしょうが!!」ビリビリ
一方通行「ツ……何だってンだ……一体」
一方通行(誰かが反射を破って攻撃してきた……?いや、それなら威力がなさ過ぎる。そンなことが出来るヤツならもォ殺されてておかしくねェ)
一方通行「ったく、こン野郎!!テメェ一体どォいう了見で……ア?」
顔を上げた彼がまず見たものは、鬱蒼と茂る樹林だった。どこまでも続きそうな森。その中に、彼はいた。
一方通行「どこだァ此処……」
一方通行(何者かのホログラムか?それとも何かの実験……いや、ねェな。俺に通知無しで実験が始まるなンざ……あァ、あの頭のイカレた研究員共ならやりかねねェから困る……)
一方通行「とりあえずこっから出るか……」
重力を上に向けて大ジャンプしようとしたその時、彼の耳に妙な音が入った。
蛙の鳴き声のような声……なのだが、それにしては音が大きすぎる。思わず周りを探してしまう。地面から伝わる振動から逆算すれば……あっちか。
大蝦蟇「……」
一方通行「……」
一方通行「……」ビュン!
一方通行「俺は何も見てねェ!体長3m超の蛙なンて見てねェぞコラァ!」
一気に木々を飛び越え、数10mの高さまで飛び上がった彼は、ようやく自分のいる世界の全貌を把握する。
一方通行「なンだァこりゃ……ホントにどォなってやがる」
彼がいた森は、山の中腹だったようだ。後ろに少し煙が上がっている山が見える。その中には木製の住宅のようなものが見えるが、どう考えても人間が入れるような立地条件ではない。
眼下には、同じく木造の家々が、塀と堀に囲まれて固まっている。少し離れたところに、霧のかかった大きな湖、そして悪趣味な色をした赤い洋館が建っていた。
村……というより里、というような規模の家屋群の近くには竹林と森も在る。此処の森と比べて、どうも湿度が高そうだ。
彼が一番気になった点は。
一方通行(一定距離以上の先が見えねェな……どォ考えても故意だ。円形に切り取られたよォな形してやがる)
一方通行(やっぱりなンかの実験か? 学園都市の外縁部、壁までの距離もあンなもンだ……一種のホログラムと考えるのが無難だな。他の可能性は……フン、馬鹿らしィ。俺を移動させられるヤツがいねェ以上、ココはさっきいたところと同じはずだ)
一方通行「さて、と。どォすっかな」フワリ
一方通行「……」
一方通行は少し考えた後、山の頂上に向かって歩き出した。
初めて見る自然。一応写真では見たことがあるし、生態系の理論も理解している。それにたいていの生物の形態や動き、体内の化学反応回路も理解している。
それでも、物心ついてからこのかた、コンクリートに包まれて生きてきた一方通行にとっては、舗装されていない土の地面や、湿っぽい木と土の匂い、遠くから聞こえる川のせせらぎ、それら全てが新鮮なものだった。
一方通行(くっだらね……何で俺ァこンなところをゆったり歩いてンだァ?いつから俺ァ馬鹿になっちまったンだよ)
一方通行「……」
?「げげっ、人間?」
一方通行「あァ?」
一方通行(何だァ?確かにあそこででけェ物体が動いてるハズだってのに、何も見えねェ)
一方通行「光学迷彩【オプティカルカモフラージュ】ってやつか。光学系LEVEL3以上は確定だなァ……だがよォ……俺にその手は、きかねェンだよ!」
一方通行は手近にあった石ころをとり、何も無い空間に投げつける。カン、といい音がして、彼の目の前に青い服を着た少女が現れた。
少女「ああ、私の光学迷彩スーツが壊れちった」
一方通行「あァ、確かにお前の能力は完璧だったわ。だがなァ……何が悪かったって、相手が悪かったっつーこった」
少女「人間の癖によく私の姿が見えたね」
一方通行「……テメェは人間じゃねェってのかよ」
少女「あれ?何も知らない?もしかして外から来た人間かい?」
一方通行「一応俺は学園都市の人間なンだがなァ……」
少女「どこ、それ」
一方通行「この人間ごと洗脳にでもかかってるって訳か……クソッタレが」
少女「とにかく、ココから奥には行かないほうがいいよ。外来人ならとっとと帰りな。博麗神社を訪ねればいいから」
一方通行「フーン……ココから奥に何かあるンだァ?」ニヤリ
一方通行「なァら行くしか、ねェよなァ。クヒヒッ!」
少女「聞き分けの無い人間だね。最近そういうの増えたって聞くよ」
にとり「私の名は河城にとり。人の忠告は聞くもんだよ」
一方通行「人じゃねェンじゃなかったンかよ」
にとり「はぁ……会話は無用っぽいね。水符「河童のポロロッカ」!」
にとりが小さなカードを取り出し、何かを叫ぶと同時に、一方通行の両側から巨大な水の塊が飛んできた。
一方通行(なンだ?こいつの能力は光学系じゃなかったって訳か。水流操作……つってその程度かよ)
一つ直径1mはあろうか。そんな大洪水の中にありながら、一方通行は動かない。
水玉が当たる。避けられる状況ではない。にとりが勝利を確信した瞬間、水が自分の方向に向かってきた。
にとり「くっ……」
にとり(何今の?跳ね返った?それがこいつの能力……?)
自分の弾幕で負けるなんて馬鹿な真似は出来ない。これでも自分は大妖怪なのだ。
一方通行「なンだよ……でけェ口叩いといて、この程度かァ?」
にとり「しょうがないね……洪水「デリューヴィアルメア」!」
一方通行「ハッハァ!テメェ光学迷彩スーツなンか支給されてやがるくせに、肝心の能力は駄目駄目ですってかァ?水流操作程度で俺に敵うと思ったら、大間違いだってェの!」
木々を打ち倒しかねない程の水量と勢いで発射された水の束も、一方通行の体に当たった瞬間拡散し、生きているかのように戻ってくる。
あらゆる方向から包み込むように降り注ぐ水を避けきれず、にとりは川岸まで押し返された。
にとり「まさか……弾幕を跳ね返されるどころか……自分の弾幕に当たるなんて……」
一方通行「くず折れてる暇なンて、ねェンじゃねェ?」
一方通行がにとりに肉薄する。驚きに顔を上げたにとりの首をつかみ、片腕一本で宙に浮かべた。
一方通行「さて、と……この奥に何があるかと、今のこの状況を洗いざらい教えやがれ」
にとり「いったい何の……?」
にとり(妖怪の私が人間であるこいつに、よりによって腕力で勝てないなんて……それにさっきの防御、化け物か!)
にとり(こんなのが山に、ひいては幻想郷に来たら均衡が崩壊する……多少無茶でも、撃退しないと。外来人だから死んじゃっても賢者達も見逃してくれる……)
一方通行「吐いちまえって……状況わかンねェのかァ?」
にとり「ふん!」
にとりが一方通行の右手を掴む、と同時に、彼女の指がおかしな方向に曲がった。
にとり「あぐ……」
にとり(今の……やっぱり跳ね返された?いや、もっとおかしなことが……それにしても今の、人間だったら骨折れてるだろうね……)
一方通行「逃げらンねェよ、テメェは。俺はチョット聞いてるだけだァ……此処はどこだ、テメェは何してンだ、ってなァ」
にとり「ここは、幻想郷だよ……私は水棲の技師、河童の河城にとり」
一方通行「なンだそりゃァ。この科学の世界で河童なンてふざけた事言ってンじゃねェよ」
にとり「さっきの私の能力を見ても、信じられないっての……?」
一方通行「あァ見たぜ見た見た。水流操作のLEVEL4ってとこかァ?結構なお手前だが、その程度じゃ俺には敵わねェな」
にとり「LEVEL?私の能力は水を操る程度の能力だけど」
一方通行「あァ?……コリャ駄目だな、カンッペキに洗脳されてやがら」
一方通行が手を離す。浮いていたにとりの足が、地に着いた。
にとり「うーん、でもあんたも妖怪だったりしないの?私の弾幕跳ね返すわ、腕力が桁違いだわ、十分人間じゃないよ?」
一方通行「ケッ……」
にとり「あんたみたいのが山で暴れてくれちゃ困るんだよね……」
一方通行「そンなに大事なもンがあるってのかよ……いいねいいねェ、その御神体、拝ンでやろォじゃないの」
にとり(山の神社の参拝客……?でもイマイチ話がかみ合ってないし)
にとり「まあ暴れないんなら行ってもいいけど。どの道私の攻撃は効き目なさそうだしね」
椛「文さん、見てました?今の」
文「見えませんよっと。千里眼使ってたでしょ?」
椛「外来人っぽいのににとりさんがボッコボコにされてました」
文「なに?新しい妖怪?異変?……スクープ?」
椛「ありえない速度で川を上ってきますね。文さんより早いんじゃないですか?」
文「それは許せませんねぇ。此処まで後どれくらいでしょうか」
椛「2秒くらいですか」
一方通行「おーやおや、俺ァ幼稚園の参観に来たつもりはなかったンだがなァ。何だァ?目の前にカーワイイ犬耳つけた連中が遊ンでやがるンだが」
文「はーい、笑ってー」パシャ!
一方通行「……何してやがる」
文「取材にご協力ありがとうございまーす。見出しはえーっと、『突如として妖怪の山に現れた怪人!其の正体は白き聖人か黒き悪魔か!』って感じですか。ちょっと冗長かな」ムムム
一方通行「人の話無視してンじゃねェぞコラ」
文「おお怖い怖い。インタビューには答えてもらえそうにありませんね」
一方通行「生憎と俺ァ学級新聞に載せてもらうために使う時間は持ち合わせてねェンだ……通してもらうぞ」
文「何故でしょうか?一応山は余所者は入れられないんですがねぇ」
一方通行「そンなこと関係ねェよ。どけ」
文「じゃあですね……賭けましょう!弾幕ごっこであなたが勝てば通っていいですよ」
一方通行「あァ?何だそのごっこ遊びは。いよいよ幼稚園児ってわけですかァ?」
文「私達大妖怪が本気出したら人間なんて吹き飛んじゃうでしょ?そんな妖怪たちの考え出した縛りですよ。お互いに弾幕を打ってですね……」
一方通行「ハ!本気出したら吹き飛ンじまうのはテメェだよ。そンな気遣い無用だクソッタレ。本気で来い。ぶっ潰してやるからよ!」
文「聞き分けのない人間ですね……まあいいでしょう。お姉さんが優しく追い返してあげますよ」
そう言った文の背中から、黒い羽が伸びる。同時に放たれる妖気と殺気に気付いているのかいないのか、一方通行は不適に笑っていた。
文「かかってこないんですか?」
一方通行「レディファーストってヤツゥ?いいから来いよ、俺ァいつだって準備万端だぜェ?」
文「すごい自信ですね。メモメモっと。じゃあ行きますよ。『天狗烈風弾』!」
一方通行(今度は空力使い……LEVELは4以上、どォいう原理か飛行も可能か……)
一方通行「ま、反射するだけなンだがな」
ポケットに手を突っ込んだまま微動だにしない一方通行に文は眉をひそめるが、次の瞬間理解できた。
彼の戦闘に回避の概念が存在しない理由が。
文「!?」バッ
一方通行「へェー、自分の攻撃とはいえあの速度でも避けちゃうンだァ。よく出来ましたねェー」
文「……あまり私を怒らせないほうがいいですよ」
一方通行「泣いちゃうってかァ?」ヒャハッ
文「……魔獣「鎌鼬ベーリング」」
一方通行「ギャははッ!馬鹿正直に攻撃するだけじゃ負けてやれねェって、いつになったら理解するンですかァ!?」
文「遅い!!」
一方通行「!テメェ 文「風符「天狗道の開風」!!」
文は初撃を放ち終わると同時、一方通行の後ろに回りこんでいた。彼の反則気味な能力には、それなりの準備と心の余裕が必要だと判断した末、ならば認識できない状態で攻撃すれば届くだろうと。
無駄だった。
一方通行「スピードだけは認めるぜェ?この俺の背後を取ったってンだから、早ェことには間違いねェ……だがよォ、この俺様に勝つには、百年遅えンだよなァ!」ヒュン
文「消えっ……はぁ!」
一瞬前まで一方通行がいた場所に、周りの空気が流れ込む。あまりの速さに、風の向きで移動経路が読めてしまうことが文にとって幸いした。
一方通行の拳に向かって、人間なら吹き飛ばされて見えなくなってしまうほどの風を叩きつける。
一方通行「おおゥ、さっすが動きが早いだけあって反応も間に合うか。なら、こンなのどォよ」
一方通行が、己の拳を受け止めている気流を四方に流す。しかし、扇がほんの少し動いただけで風は元通りになる。
乱し乱され、もはや一方通行の演算速度と、文のが風を操るまでのラグ、そのスピード勝負になった。
一方通行「チッ……」
一方通行(どォなってやがる……こいつの能力は、明らかにLEVEL5級だ。だがLEVEL5に空力使いがいるなンて話は聞ィたことがねェ。それにこいつの翼、それとこの扇、原理が理解できねェ)
一方通行(さっきの青いクソガキは何てってた?幻想郷……だったか。河童とか何か言ってたなァ。そういやこいつもさっき天狗とか叫ンでたか)
一方通行「じゃ、そろそろ……終わりにするとすっかァ」
文「くっ……!?」
文(息が……どころか肺から空気が抜けていく!まさか……)
一方通行「コマンド実行……ってなァ!)クウキナイカラコエデナイ
一方通行と文を中心とした球状に、空気が消え去る。重力制御で浮いている一方通行と違い、文の翼は叩くべき大気を失い、バランスを崩した。
文に生じた一瞬の隙を見逃さず、一方通行は彼女を地面に叩き落した。片手で彼女の動きを制しながら、一方通行は言う。
一方通行「一瞬だけだが……周りの空気を全部押しやった。操る対象がなけりゃァテメェの能力も持ち腐れだろ。さて、色々教えてもらおォか。何者だテメェ」
文「伝統の幻想ブン屋、射命丸文」
一方通行「誰がテメェの職業聞いたンだよ。最初のやり取りでテメェがクソ新聞の情報やくざってこたァ理解してンだよ」
文「情報やくざとは失礼ですね!これでも里では人気No.1なんですよ!」
一方通行「下から数えてNo.1ってかァ?そンなこと聞いてンじゃねェンだよ……人の質問には迅速に答えよォぜ」
文「里に一番近い天狗、風を操る程度の能力……これでいいですか?」
一方通行「天狗、ねェ……俺が知ってる天狗とはずいぶン違うなァ。ご丁寧にもカラスがおめかしですってかァ?」
文「天狗にも色々あります。伝承では大抵誇張されますから、鼻高天狗の鼻もあんなに高くはないんですよ?」
一方通行「にしても低すぎンだろォが」
文「私は鴉天狗ですっ!」
一方通行「……此処は幻想郷ってところであってンだよな?」
文「そうですが。……そろそろ離してくれません?」
一方通行「……雀の子を逃がしたらクソガキが泣くンだよ」
文「いいんですか?仏罰が下りますよ?それに、犬君はもう行っちゃいましたし」
一方通行「ンなこたァどォでもいいンだよ……この幻想郷とか言うくっだらねェ箱庭のことを洗いざらい教えやがれ」
文「話せば長くなりますよ?」
一方通行「要点だけまとめろ」
文「そうですねぇ……ここは、外の世界で幻想となった者達の、最後の楽園です。この世界では、人間と妖怪が互いに協力し合って生きています」
一方通行「ンなメルヘンな話信じろってのかよ」
文「ホントのことですからね。この幻想郷は、結界によって外界との接触を絶っていますが、たまに迷い込む人がいます」
一方通行「……迷い込む条件を教えろ」
文「その人のことを覚えている人、知っている人が誰もいなくなった人、あるいは妖怪や神、それに準ずるものは結界を通って入ってきます。極稀~に結界が不安定になると普通の人も入ってきますが、大抵は妖怪に食われていなくなっちゃいますね」
一方通行(俺の場合、忘れられたってこたァねェだろ。俺に恨みを持ってンのは幾らでもいらァな。しかし、妖怪チックな人間とはいえ、俺は結界を通り越そォなンて思っても見なかった……偶然って線が強ェのか)
一方通行「それで全部なのかよ」
文「私が幻想郷に来てからこの方、例外は……内部犯が面白がって連れ込んだ以外ないですね。あと食料と」
一方通行「そォいう場合は連れ込ンだクソッタレが目の前にいンだよな?」
文「まあそうでしょう」
一方通行「余計わかンなくなってきやがった……チクショウ」
文「ようやく開放してくれましたか……そうそう、山の上に最近幻想入りしてきた人たちがいますよ?話を聞いてみたらどうですかね。今結界の専門家は遠出してるもんで、取り次げないんですよ」
一方通行「……そォかよ」
そういい残して、一方通行は山の頂上まで飛び立っていった。
文「お礼もお詫びも無しですか……ま、怪我はしてないしいいですかね。スクープのネタも出来ましたし」
寝転がったまま文は、さっきの戦闘中に人間には気付かれない速度で激写しておいた写真を満足そうに眺めた。
山の頂上、湖に面した神社で、二柱の神がくつろいでいる最中だった。
そこに切羽詰った様子で一人(?)の妖怪が駆け込んでくる。
諏訪子「およ?何?そんなに急いで」
椛「山に侵入者が現れました。頂上に向かっている様子です」
神奈子「え?あんた一緒に文がいたんじゃ……」
椛「……文さんの攻撃は全く通用せず……恐らくは」
諏訪子「大天狗とやらには報告した?」
椛「これから行くところですが、通っている道からこちらのほうが危険かと思いまして」
神奈子「はぁ。わかったよ。追い返せばいいんだろ?」
椛「危険を伝えに来ただけです……何も依頼に来たわけでは」
諏訪子「はいはい、いいから行った行った。あんたの仕事は見張りでしょ?ここより行くところがあるじゃないの」
椛「はい……御武運を」
神奈子「ったく……誰に向かって武運とか言ってんのかわかってんのかしらね、あの子は」
諏訪子「そんなことより、準備したほうがいいんじゃない?」
神奈子「……その暇はなさそうね」
一方通行「テメェらか……最近ここに来たって奴らは?調子ン乗って丸太ン棒の天辺で胡坐かいてっとこ悪ィが、少し話を聞かせてもらうぞ」
神奈子「あーらら、見張りの話じゃもっと狂暴って聞いたんだけどね。こんだけ山の妖怪に手を出しておきながら平和に話し合いって、信じられると思う?」
一方通行「テメェが拒否しようが、俺のするこたァ変わらねェ。吐いてもらうぞ、知ってること全部」
諏訪子「何もそんなに喧嘩腰になる必要はないんじゃないかな……」
神奈子「人間って聞いてたのに、湖の上で普通に立ってるってコトは、臨戦態勢ってコトでしょ?あんたはそんなに油断してるから私に負けんのよ」
諏訪子「怒るよ?」
一方通行「……交渉決裂ってかァ?ったく、平和に話し合いで収めてやろォって提案してやってるってのに、どうしてこォも人の話を聞かねェかねェ」
神奈子「あんたが倒してきたって二人、一応知り合いなもんでね。そんな奴と平和に話し合いなんて出来ないよ」
一方通行「……そォかよ」
諏訪子「じゃ、いくよ。開演「二拝二拍一拝」!」
一方通行「見張りから話聞いたって割には、全く理解してねェなァ。テメェらこンなチンケな攻撃で、俺の反射ァ破れると思ってンじゃねェぞコラ!!」
神奈子「御柱「メテオリックオンバシラ」!」
彼の周りに無数の御柱が降り注ぐ。しかし、彼の脳天に直撃するかというところで全て逸れていってしまう。
一方通行「ヒャヒャヒャ!無駄だっつってンだろうがよォ!ちょうどいいわ、この丸太ン棒使わしてもらうぜェ?」
当たらないどころか御柱を打ち返されると来た。折れない御柱だからこそ出来る芸当だが、当然神奈子に御柱はヒットしない。
しかし一方通行の攻撃の矛先を逸らすことは出来た。今のうちに作戦を立てねばならない。このままではジリ貧だ。
神奈子「……何が起こってるんだろうね?」
諏訪子「……妖力に近いものは感じるけど、違う……ちゃんとはわからないけど、攻撃が相手に当たる瞬間に打ち返してるのかな?」
神奈子「いや……ちょっと違うかな。飛んだり水の上に立ったりする理由がわからない」
諏訪子「じゃあ何よ?」
一方通行「何何?何の話してンの?俺も混ぜてくれるかなーァ?」
神奈子「!?」
諏訪子「土着神「御射軍神さま」!!」
一方通行「ド派手に決めてくれるねェ……さっきは柱、今度は剣か……でもよォ。テメェら根本を理解してねェンだわ」
一方通行が飛んできた剣を素手でつかむ。そしてそのまま振りかぶり、投げる。
一方通行「ドンだけ攻撃力【エネルギー】が大きかろォが、この一方通行【アクセラレータ】様には敵わねェンだってなァ!!!」
その瞬間、一方通行のいたところが、爆ぜた。
神奈子「やるじゃない、あんた」
諏訪子「これで沈んでくれりゃあありがたいんだけどね……止め、頼んだよ」
一方通行「ヒャヒャヒャ!いいねいいねェ、さいっこォだねェ!!剣に意識を振りつつ、0距離で爆発ですってかァ?考えたじゃねェの……確かに酸素がなくなりゃ俺の頭も鈍っちまうかもなァ!?」
神奈子「ホントだね……儚道「御神渡りクロス」!」
一方通行「おォ?」
一方通行(湖が凍りやがった……何も考えず戦ってたが、こいつの能力がカンッペキにわかンねェな。もう一人の方もそォだ……学園都市の能力LEVELじゃ測れねェぞ)
神奈子「動きは封じられなかったか……それでもいい。沈んでもらうよ」
一方通行(何だ……?あいつの足の下の氷が割れてやがる?)
神奈子が氷を踏みつけると、一瞬にして湖の氷が割れた。神奈子の足元から一直線に裂け目が走り、両側の氷がせり上がる。氷山の欠片のような鋭い氷の切っ先と、急になくなった足場に、一方通行は戦慄した。
一方通行(まじィ!氷がこォも簡単に砕け散るたァ思わなかったなァ……出て行く熱も反射してるから凍死の心配はねェが、水中に入っちまったら氷を叩き割る為にタイムラグが発生する。飛び上がるか)
諏訪子「お、沈んだかな?」
神奈子「もう一度凍らせるから、ちょっと退きなさい」
諏訪子「おっとごめんよ」
一方通行「ハッハァ!そンなこったろォと思ったぜ!あいにくと俺ァ寒さで凍えちまうことなンてねェンだ……これで手仕舞いだよなァ?」
神奈子「く……間に合わなかったか」
一方通行「間に合ってたぜ?ただなァ……テメェが俺の能力を見誤ってたのが問題だ。俺ァ別に来た攻撃にその都度対応してるわけじゃねェ。俺は俺に害を為すもンをぜーンぶ反射しちまうンだよォ!」
諏訪子「自動防御術式……?」
一方通行「ンな大層なもンじゃねェよ。ただ飛ンできた何かに反転変換してるだけだァ」
一方通行「さ、テメェらの負けだよなァ……洗いざらい知ってることを、吐いてもらうぜェ?」
早苗「まだ負けてません!」
一方通行「へぶっ!」
超高速で飛んできた緑と青の物体がぶつかって、一方通行は吹き飛んだ。
早苗「神奈子様、諏訪子様、大丈夫ですか?」
神奈子「ああ、私達は……」
諏訪子「でも、早苗今のどうやって……」
一方通行「おおおおおおおああああああァァァァァ!!!!!」
立ち上がった一方通行の周りで、湖の水と氷が吹き上がった。
一方通行「いいねいいねェ……愉快に素敵に決まっちまったぞォ……テメェはァ!!!」
早苗「守矢神社に害を為すものは、許すわけには行きません!聞けば山で異変を起こしてるとか!私がそれを解決してやります!」
一方通行「何しやがったか知らねェが、この俺相手にいィ度胸だなァ……ご褒美に、全力でかかってってやらァ!!」
一方通行が腕を振るう。それにあわせて、湖のおよそ半分はあるかと思われる量の水が、東風谷早苗に向かっていった。
早苗「開海「モーゼの奇跡」!」
しかし、その水は全て横に逸れ、一方通行の管理から逃れて湖に戻っていった。
一方通行「あァ……?フ……クヒッ……クヒヒフフハハハハハハァ!」
一方通行「いいじゃねェか三下がァ……きっちり俺の敵やりやがって……後悔すンじゃねェぞ!?」
ヒュン、という風斬音と同時に、一方通行の姿が水面から消える。
次の瞬間、触れるだけで全てを壊す悪魔の白い手が早苗の前に迫っていた。
間一髪で避け、通り過ぎていった一方通行の方を向き直って早苗が言う。
早苗「早いですね……」
一方通行「テメェが遅すぎンだよ……そンな速度じゃ、肉塊になっても文句言えねェよなァ」
一方通行「おらァ!」
一方通行が手を前に突き出すと同時に、彼の手から竜巻が発生した。竜巻は水を巻き上げながら早苗に向かう。
早苗「この程度の風が、私に通ると思わないでください!」
しかしそれは、彼女のお払い棒の一振りで霧消してしまった。
一方通行「ほォ……退屈しねェなァ……飛び道具が駄目なら、もォ肉弾戦しかねェよなァ?」ビュン
早苗「坤神招来 盾!」
一方通行「もうそいつの力は、見切ってンだよォ!」
一方通行が距離をつめたところに、諏訪子が鉄輪の盾を持って割り込む。しかし、一方通行が打ち付けるだけで、鉄輪ごと諏訪子は湖のほうに落ちていった。
早苗「準備「サモンタケミナカタ」!」
一方通行「きかねェってのが、わかンねェか!」
再び距離をとった早苗が、スペルカードを展開する。しかし、弾幕は全て一方通行にあたる寸前で軌道を変えてしまう。
早苗に勝ち目は無いかに思われた。だが。
早苗「まんまと正面に来てくださって、ありがとうございます」
一方通行「はァ?」
早苗「大奇跡「八坂の神風」!!」
一方通行「!?」
確かに演算は終了した。しかし何だ……この圧力は?
一方通行(この俺が……反射し切れねェだと?)
計算式に狂いは……無い。代入する数字を間違えて……いない。観測ミスも……無い。
一方通行(何だよ何だこの女ァ?奇跡?何だそりゃァ。メルヘンもいい加減にしやがれ!)
自分の能力が発現してからこの方、息が出来ることと同じレベルで自分にとって当たり前だったことが、この一日だけで何度崩壊しかけたかわからない。
しかし、この程度で自分だけの現実【ココロ】を折られるようでは、絶対無敵など夢のまた夢だ。
一方通行「この俺に操れねェもンなンて、あっていいわけねェだろォがクソッタレェェェェ!!!」
早苗「……このスペカが破られた以上、私の負けですね……」
一方通行「……」
早苗「何が目的ですか?」
一方通行「まず聞こォ。テメェはどうやって俺を殴った?テメェの能力は一体なンだ」
早苗「奇跡を起こす程度の能力、祀られる風の人間、東風谷早苗」
一方通行「奇跡、ねェ……」
一方通行(信じらンねェな……つい昨日の俺なら噴き出してるところだが、あいにくと証拠がある。ガチで俺を殴れたってコトだ)
一方通行「聞きゃァテメェら、最近ここに来たそォじゃねェか。この幻想郷とやらの結界のシステムを教えやがれ」
早苗「……まず、この結界は博麗大結界といいます。先代の博麗の巫女と、八雲紫が創ったと聞きます」
一方通行「……」
早苗「今は紫さんは出張してるそうですが、代わりに式の藍さんが結界の管理をしているので、結界に乱れは無い筈です」
一方通行「しっかしよォ……現に俺ァここにいるンだよ」
早苗「ここの存在は知らなかったんですね?」
一方通行「あァ」
早苗「皆に忘れられるということもないんですね?」
一方通行「これでも学園都市第一位だからなァ……流石にねェよ」
早苗「じゃあ誰かが面白がって引き込んだとしか……」
一方通行「チッ……じゃあそいつを探して絞めねェとな」
早苗「来る時、何かおかしなことはなかったんですか?」
一方通行(……そういえばあの時、俺は反射中だったのになぜか転ンだ……しかし、あの時は外で躓いたはずで……)
一方通行「ねェな」
早苗「そうですか……」
一方通行「もォ一個聞くぞ」
早苗「どうぞ」
一方通行「湖のほとりに立ってた趣味悪ィ洋館、アレには大妖怪ってのが住ンでンのか?」
早苗「はい。吸血鬼姉妹の館です……けど、関係ないと思いますよ?もう少しゆっくり調べるか、博麗神社に行って素直に帰るかしたほうが……」
一方通行「そォいうわけにはいかねェな……俺ァ今最っ底に機嫌が悪くて、最っ高に気分がいィンだよ」
早苗「?」
一方通行「テメェにはわかンねェだろォなァ」
一方通行(ここには俺が考えもしなかったよォな物理法則の欠片が散らばってる……最近10000も同じ様な戦闘ばっか繰り返してっからなァ、いい刺激になる上に、新しい分野に能力が伸びてってンのが自分でも判る)
一方通行「絶対無敵……か」ボソッ
早苗「え?」
一方通行「じゃァな」
神奈子「お詫びの一つもいれずに行っちゃったのかい、あのガキは」
諏訪子「てゆーか何で私は早苗を手伝ったのに神奈子は何もしてないわけ?」
神奈子「何言ってんの、あの子の風の奇跡は全部私の力だよ?」
早苗「あはは、もうそんなこといいじゃないですか、彼も御柱、立て直して行ってくれたみたいですし」
諏訪子「ほえ?」
神奈子「あ、ホントだ」
早苗「思ったより片付けが早く終わりそうですね。神奈子様も諏訪子様も、ゆっくり休まれてはいかがですか?」
一方通行(霧ばっかで前が見えねェ)
一方通行(何度払っても払ってもどこからともなく沸いてきやがる)
一方通行「なーンなンですかァ、俺に喧嘩売ってンですかァ?」
?「アンタがさっき山を荒らしまわってたって人間ね?」
一方通行「あ゛ァ?」
チルノ「あたいはチルノ。最強の氷精よ!」
一方通行「最強……だァ?とてもそンな風にゃァ見えねェが……」
チルノ「あたいはさいきょーなんだから!」
一方通行「しっかし俺を差し置いて最強とは許せねェな」
一方通行「残念だなァ、テメェの最強の座は今日が賞味期限だわ」
チルノ「何言ってるのかよくわかんないけど、しょーぶするわよ!」
一方通行「そォか。じゃァ死ね」
一方通行が右手をチルノのほうに向けた。彼の右手の周りで霧が旋回し始める。
一方通行の手から成長した竜巻が、チルノの体を飲み込んだ、かに見えた。
いつの間に避けていたのか、霧の中から出てきたチルノが、スペルカードを宣言する。
チルノ「凍符「パーフェクトフリーズ」!」
途端、一方通行の周りで揺らめいていた霧が、その水滴が凍り始める。それは彼の肌についていた水滴も例外なく凍りつかせた。
一方通行(熱量が……全部あいつの方にいってンな。もし、今俺の前にいンのが科学を超えた存在なンだとしたら……)
一方通行(自分よりも温度の低い物から熱を奪って、生命維持に必要なエネルギーを補ってるって可能性もあンのか)
一方通行「何だっていい。吹き飛べ」
一方通行を中心に、天に向かう柱のように上昇気流が吹き上がる。霰が空へ吹き上げられていく。
クリアになっていく視界の中に、さっきの少女が現れた。
一方通行「ついでにテメェも吹き飛ンでな!!」
チルノ「「フリーズタッチミー」!」
一方通行「そンな程度じゃ、俺の反射ァ破れねェンだよ!」
そう叫んで目いっぱい伸ばした一方通行の腕は、あろうことか空を切った。
一方通行「なにィ?」
チルノ「凍符「コールドディヴィニティ」。さっきのはあたいのげんえいさ!」
一方通行(氷の粒を利用した蜃気楼か?俺ともあろォ者が、まさか入ってきた光の経路の計算を誤った!?)
一方通行(違う……蜃気楼なンて単純なもンじゃねェ。これは普通の光の反射なンかで説明がつかねェぞ?何か別の力が……)
チルノ「そしてとどめ!凍符「マイナスK」!」
一方通行(熱エネルギーが消失し、全ての分子運動が停止する温度、0[K]【ケルビン】……それより低い温度なンざ、あるわけねェってのに)
一方通行(この世界では俺の持ってた常識が崩れ去る!もしかすると、普通じゃ考えもつかねェ “止まっているより動いていない状態” ってのが存在すンのかもしンねェ)
一方通行(それでも一つだけ言える……こいつを反射、解析できりゃァ、俺ン中の熱力学の概念を一新できる!)
一方通行「来いやァ!全部解析して丸裸にしてから、ふっ飛ばしてやっからよ!」
チルノから放たれた氷塊が、周りの空気を昇華させながら一方通行に迫る。
一方通行の右手が触れた。
一方通行(分子運動を解析……なンだこりゃ、全部カンッペキに停止してやがる!こンな状態……そもそも、熱力学第三法則に反してやがる上に、零点振動すらも無しかよ!エネルギーはどォなってンだ!?)
一方通行「テメェら揃いも揃って……物理法則無視してンじゃ、ねええええェェェェ!!」
一方通行の操作で、周りの空気からありったけの熱量がねじ込まれる。無限回の操作を繰り返さないと起こりえない絶対零度状態の固体は、もろくも昇華した。
一方通行「フ、フフ、アハハ、アハハハハハハハァ!」
一方通行(操りきった!操作しきった!“理論上不可能”な物質も、俺の敵じゃねェ!)
一方通行「感謝しろォクソガキ。礼として殺さねェでおいてやるよ。半日ぐらいおねンねしてな」
瞬時に肉薄した一方通行が、チルノの頭に触れた。
美鈴「」グー
一方通行「寝てやがる」
一方通行「なーンなンですかァ、こいつは。寝てる門番なンて画期的過ぎらァ。学園都市にいた頃は思いもつかなかったわ」
美鈴「ハッ!ね、寝てませんよ!」
一方通行「寝てたぜェ?ぐっすりとな」
美鈴「」
一方通行「おィ、この門開けやがれ」
美鈴「はーい……って、開けられる訳ないでしょう!この門は通しませんよ!」
一方通行「ほォ……この俺に逆らおォってのか」
美鈴「これでも不肖、紅魔の門番!紅美鈴は人間一人くらいに負けたりはしません!」
美鈴「華符「彩光蓮華掌」!!」
人間には見切れない速度で、美鈴が一方通行に突進する。
美鈴は一瞬疑問に思った。彼は笑っている。何故避けない?何故構えない?何故……1mmたりとも動かない?
その迷いと不気味さが、彼女の拳から威力を奪った。
美鈴(く……私としたことが、技の最中に考え事とは!)
一方通行「おやァ?威勢よく突っ込ンできた割には、弱っちィパンチじゃないですかァ?」
美鈴「パンチじゃなくて掌底です。しかし、人間万事塞翁が馬。それが幸いしましたよ……只者じゃありませんね?」
一方通行「せェーかい。おとなしく通してりゃァ俺にぶちのめされなくて済ンだのによ……お前、ツイてないわ。滅茶苦茶ツイてないわァ」
美鈴「貴方を通せば、主人からぶちのめされますんでね。止めさせていただきますよ」
一方通行「俺にボコられた挙句、主人にもボコられるたァテメェもつくづく運がねェなァ」
一方通行「そンな日は昼寝の続きをしてりゃァいいンだよ!」
一方通行が地面を踏みつける。大量の土砂が舞い上がり、巨大な岩の塊が、美鈴に向かって落ちていく。
美鈴「熾撃「大鵬墜撃拳」!」
立った美鈴の背中から、鳳凰のような炎が上がる。掲げた美鈴の拳から、七色の奔流があふれ出る。
巨岩が砕け散り、その瓦礫が一方通行に降り注ぐ。一方通行に当たった砂礫が、再び打ち上げられ天に向かう。
一方通行「嫌な名前を思い出したぜ……俺に拳が届くって言われてる野郎をな」
背後で上がる爆煙。距離を無視するかのような掌撃。……七、という数字。
美鈴「ほう、あなたを殴れる人は少ないのですか?」
一方通行「外では一人居るかどォか……ここでも一人だ」
美鈴「じゃああたしが三人目ですね」
一方通行「あァ?」
一方通行(何考えてやがるこの馬鹿……さっきは反射されてやがったじゃねェのか。俺に反射される程度の能力じゃ、何をしても俺には届か……)メキッ
一方通行「ぐ、は!」
美鈴「小石を反射するのではなく、受け流しておくべきでしたね。アレで気付きましたよ。攻撃が反転してるんだって」
美鈴「安心してください、急所は外してあります」
美鈴「とはいえ、ダメージは十分に大きいでしょうが……」
一方通行「げはっ」ビチャ!
美鈴「おや、血を吐かせてしまいましたか……すみませんね」
一方通行(何だこりゃァ……どォなってやがる……しかし考えてる暇はねェ、今すぐ傷口の血管を塞いで、破れた組織をつながねェと……死ぬ!)
美鈴「しかし意識を保っているとは流石です……そろそろ立ち去ってもらわないと、二撃目を打ち込まねばなりません」
一方通行「うおおあァ!」
一方通行「さっさと二撃目をぶち込ンどくンだったな……復活完了しちまったぜェ?」
美鈴「……貴方の能力は、向きを変える程度の能力ではないのですか?」
一方通行「程度とは言ってくれるねェ……世の中のあらゆる物の方向【ベクトル】を操れるってコトは、どンなものでも操作できるってコトだ……違ェか?」
美鈴「つまり、貴方はさっき自分の体内の気の流れを操ったと。親近感が沸いてきましたよ」
一方通行「こっちもテメェの攻撃は見切ったぜェ?ホントは強がり言うのも辛ェンじゃねェのかよ」
美鈴「というと?」
一方通行「反射が始まった瞬間、引き戻そうとしてただろォ? 引き戻そうとするベクトルを俺が勘違いして自分に向けちまうから、テメェの腕は俺のほォに引っ張られてきて、俺は極普通に殴られちまうってわけだァ」
一方通行「ところがテメェは俺の反射がどこで始まるかわかンねェから、自分の拳が痛むまでは直進するしかねェ。テメェの骨、折れてンじゃねェのか」
美鈴「妖怪の治癒力をなめてもらっては困りますね。骨が欠けるかどうかなんて、そんな傷、妖怪にとってはあってないが如しです」
美鈴が不敵に笑いながら、手の指をボキボキと鳴らした。一方通行はそれを見て舌打ちする。
一方通行「しょォがねェなァ……ちっとばかし、本気で行くとするわ」
一方通行の姿が消える。しかし、美鈴はその研ぎ澄まされた感覚で、一方通行の拳をかわしきった。
美鈴「甘いんですよ!構えも動きも!黄震脚!」
一方通行「テメェこそ甘いってンだ!もう反射設定は変更してンだよォ!」
一方通行(とはいえ、踏ンだ地面に残る凹み……威力半端ねェな。まともに食らったら今の体調じゃ死ぬ。反射設定をコロコロ変えるべきだなァ)
美鈴「隙あり!華符「破 山 砲」!」
一方通行「反射ァ!」
一方通行(何だ今の?未知のエネルギー形態の塊じゃねェか。世の中にはまだまだ常識外のことが散らばってンだなァ……ドキドキするぜ、こンな高揚感を覚えたのはいつ以来だ?)
美鈴「飛び道具は完全に無効ですか……なら、もう一度この拳を叩き込むのみ!」
一方通行「出来るもンならやってみろってのォ!」
一方通行が地面を踏む。紅美鈴が地面を蹴る。
美鈴の拳は横に逸らされ、一方通行の拳は美鈴の体に突き立った。
美鈴「……やられましたね」
一方通行「ハッ……約束通り、通してもらうぞ」
美鈴「仕方ありません……かね」
咲夜「あら、美鈴があの二人以外を通すなんて珍しいわね」
一方通行「何だァテメェは。テメェも妖怪って奴か」
咲夜「私は人間ですけど?ところで貴方はどんな御用で?」
一方通行「人間には興味ねェな……俺ァここの大妖怪ってのを絞めに来たンだ」
咲夜「お嬢様は……最近は暴れておりませんけど?」
一方通行「そンなこたァ関係ねェ。俺がぶちのめしてェからぶちのめすンだ。簡単な理由だろォが」
咲夜「ほう……つまり今回は、貴方が暴れているということですね?」
次の瞬間、咲夜の姿が消える。
咲夜「それなら、貴方を通すわけには行きません」
その声は一方通行の背後から、首筋に当てられたナイフと共に現れた。
一方通行「あァ……?ヘヘヘヘァ、フー、アヒャヒャヒャハハァ、ハー……アァハハハハハァ!」
一方通行「おォォらァァァ!」
一方通行の周りの地面が弾け飛んだ。当然、一方通行に今にも触れそうな位置でナイフを押し付けていた人間は、同じように弾け飛ぶはずだ。
人間なら。
咲夜「中々危険な人ですね……美鈴を倒しただけありますか」
一方通行「テメェがそれを言うンですかァ?時間みてェな高尚なもン、テメェの一存で操っていいわけねェじゃねェか」
咲夜「もう解ってしまったんですか?どうやら、ただの馬鹿でもないようですね」
一方通行「俺に向かって馬鹿たァ何事だよ。そンなこと一瞬でも思われてたことが驚きだわ」
咲夜(柄の悪そうな見掛けに、だるそうな言葉遣い……どうみても馬鹿の不良でしょう……)
一方通行「さて、とォ……」
一方通行(時間にも最小単位は存在する……プランク時間だ。正確には物理現象にかかる時間の最小単位。5.39×10^-44秒だったか。少数なら0.0000000000000000000000000000000000000000000539秒だ)
一方通行(こいつを変更出来れば、倍速で動けるが……かわりにほとンど全部の物理定数が変わっちまう)
一方通行(……ゴチャゴチャ考えンのは止めだァ、もォいっぺン見りゃ解る。ホントに止まってンのか、一万倍速くらいで動いてンのか)
一方通行が咲夜に向かって疾走する。咲夜は、溜息を一つついて周りの時間を止めた。
咲夜(さて、どうしましょう……か?)
時の止まった暗い世界が、なぜか明るくなった。聞こえないはずの周囲の音が耳に入ってくる。
一方通行「言ってンじゃねェかよ……こンなこと、テメェの一存でしていいことじゃねェってなァ!」
咲夜「な……何者ですか、貴方は?」
一方通行「学園都市230万人の頂点……最強の能力者、一方通行【アクセラレータ】だ!」
虚を衝かれて呆然としていた咲夜の首を、一方通行は掴む。掴んだ瞬間、咲夜の体はピクリとも動かなくなった。
一方通行「さて……テメェ、能力からしてこの館の上のほォに居るンじゃねェか?案内しろよ、お嬢様って奴のところに」
咲夜「……何をしたんですか、今」
一方通行「これかァ?テメェの脊椎通って出てくる電気信号を、全部動かしたことにして脳に戻してるだけだァ。簡単だろォ?」
咲夜(時間のことを聞いたつもりだったんですが……)
咲夜「あなたの、能力は……?」
一方通行「そォだな……“向きを変える程度の能力”だよ」
レミリア「あら?」
一方通行「テメェがお嬢様って奴か……何だ、まだクソガキじゃねェか」
レミリア「クソガキとは失礼ね。これでも500才なのよ?」
一方通行「おやおや、盛大にサバ読ンでくれやがって。吸血鬼ってのは数字も数えらンねェンですかァ?」
レミリア「咲夜、こいつは何なの?」
咲夜「……それが」
レミリア「時間でも何でも止めて、追い出しちゃいなさい」
一方通行「駄目なンだよなァ」
レミリア「……なんですって?」
一方通行「こいつの能力はもォ解析済みだ。時間を止めよォが何しよォが俺の敵じゃァねェ。テメェもとっとと俺にぶちのめされちまいな」
レミリア「つまり、美鈴も咲夜も、貴方に負けたということね」
一方通行「その通りだ」
レミリア「……ハァ。いつかのことを思い出すわ。違うことは、今回私が何もしてないってことなのよね」
一方通行「ここで戦闘おっぱじめていいのかよ。壁とかめっちゃくちゃになンぜ?」
レミリア「いつものことよ。天罰「スターオブダビデ」」
レミリアが座ったまま、気だるげにスペルカード宣言する。
レミリアから放たれたレーザーが、一方通行を掠める。溢れ出した弾幕が、一方通行に向かう。
一方通行「敵の能力確かめずに攻撃するってのは、自殺行為だぜェ?」
レミリア「……何?」
一方通行「反射ァ!」
先端が一方通行に触れたレーザーが、レミリアの方へ返っていく。
レミリアが腕を振るうと、帰ってきた弾幕は全て霧となって消える。
レミリア「ふふふ……面白い能力を使うのね」
咲夜「お嬢様、この者の能力は“向きを変える程度の能力”です。およそあらゆる攻撃は、彼の体表面で反射されて意味がありません!」
レミリア「いいのかしら?言わせておいて」
一方通行「構わねェよ。どォせ俺が圧勝すンだからな」
レミリア「いいわね……面白いわ。私が勝ったらフランの相手でもしてもらおうかしら」
一方通行「どォせ全員ぶちのめそォと思ってたンだ、願ってもねェな」
レミリアの手から赤い光が迸る。噴き出すそれはだんだんと形を変えていき、身長の倍はある槍の形で固まった。
レミリア「神槍「スピア・ザ・グングニル」!」
一方通行「槍とかナイフ投げとか派手なのはいいけどよ、そンなもン俺に通じるとか思っちゃってンのかァ?」
槍投げの要領で放たれた真紅の光は、今までのものと同様に一方通行の体に当たって反転する。
レミリア「ふふ……あはは!素敵に愉快ね貴方!」
レミリア「久しぶりに全力で戦っても、よさそうね!」
レミリアが駆ける。その速さはもはや弾丸のようで、紅魔館の壁は豆腐のように崩れていく。
レミリア(向きを変えてるなら……逆向きの力を当てれば、内側に引っ張られるはず。さっき美鈴もやってたわよね)
レミリア(幸いこいつは能力以外は普通の人間。吸血鬼である私の攻撃を一撃でも食らえば千切れ飛ぶ!)
レミリアが攻撃する。高速で移動しつつ回転し、伸ばした腕が一方通行の体表面から外側に回転するようなラリアットを放つ……が、
一方通行「駄目なンだよなァ」
一方通行は何事もなかったかのように平然と立っている。
レミリア「……あらら、これじゃ肉弾戦じゃ勝てないわね。見た限り美鈴のは効いてたみたいだけど……」
一方通行「俺が何の対策もせずにいると思ってるたァ、とンだ脳内フローラだなオイ。もォあンな無様なことにはなンねェよ。反射するための演算回路をいじってなァ、反射条件を上書きしたンだよ……自分のほォ向いてる奴だけってなァ!」
レミリア「じゃあ私も、能力全開で戦いましょうか。運命「ミゼラブルフェイト」」
一方通行「ンだァ?……ただの弾幕じゃねェか」
一方通行は期待はずれだ、という顔でてきぱきと弾幕をかわし、反射していく。
その中に一つ、異質なものがあった。無防備な一方通行の背に向けて、意思があるかのように飛び込んでくる。
一方通行「ぐっ!?」
その光球は、一方通行の反射をものともせず彼を吹き飛ばした。
レミリア「あら……貴方不幸ね。“偶然”、ミスするような“運命”だったんでしょうね。あきらめなさい」
一方通行(今……何が起こった?ミス?この俺が?するわけねェじゃねェか!)
一方通行「テメェの、能力って訳か……」
一方通行は多少ふらつきながらも立ち上がる。何が起きたのかは解らないが、どうも敵には自分の能力に干渉できるらしい。
一方通行「長期戦は、不利だなァ」
言って一方通行はレミリアの後ろに回りこむ。部屋の隅においていた燭台を手に取り、思いっきり振りぬいた。
間一髪で避けたレミリアの左腕が飛び散る。レミリアは一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに不敵な笑みに戻った。
レミリア「ふふふ……面白いわ、あなた。本当に……。私の腕を吹き飛ばせた人間なんて、いつぶりかしらね」
一方通行(えらく余裕だな……痛くねェのか?)
どこから湧いてきたのか、黒い影がキィキィという鳴き声と共にレミリアに群がる。その黒い影は、レミリアの左手にくっつき……腕になった。
一方通行「蝙蝠か……いいねェ、吸血鬼らしいメルヘン見せてくれンじゃねェか。やっぱ幻想ってからには、こンくらいファンタジックでなくちゃァなァ!」
レミリア「でも、いいのかしら?私を倒すことなんて出来ないわよ?」
一方通行「頭吹き飛ばせば、」
一方通行の右手が、レミリアの頭に触れる。
一方通行「流石に死ぬだろォ!」
一方通行(何だ……実際コイツの頭は吹き飛ンでるのに、感触はねェ……自分から分解したみてェだ)
レミリア「あーあ、まさか本当に吹き飛ばそうとしてくれちゃうなんて……頭はなくなるわけにいかないからね」
今は何もないはずの、レミリアの頭のあった位置から声が響く。蝙蝠が彼女の頭部を包んだかと思うと、彼女の頭は再生していた。
一方通行「ったくよォ……テメェ何すりゃ死ぬってンだ?」
一方通行(吸血鬼……十字架にニンニクに……太陽光、木の杭に銀のナイフだったかァ?)
一方通行(科学的な根拠なンざ何にもねェが……ニンニクはねェし十字架は飾ってあるから効かねェンだろ、日光だな)
一方通行が紅魔館の壁に大穴を開け、太陽の下へ飛び出す。窓一つ開いていなかった紅魔館の一部に日差しが入りはじめた。
レミリア「あら?日傘を差さなきゃだめかしら」
一方通行「ハン、そンなモン、焼き尽くしてやらァ!」
一方通行の周りが暗くなり、まるでスポットライトのようにレミリアの方に日光が集まる。明らかな指向性を持った光の束は、レミリアの持つ日傘にこげを作り始めた。
一方通行「日焼けで死ぬ気分はどォだァ、吸血鬼?」
レミリア「……しょうがないわね、降参よ降参。流石に日傘がなくなればどうしようもないし……」
一方通行「で、テメェの妹とやらはどこに居やがる」
レミリア「このスポットライト切りなさいよ、日傘も限界よ……地下牢にいるわ。待ってなさい、すぐに案内させるから」ハァ
フラン「貴方が新しいお人形さん?」
一方通行「人形はテメェだよクソッタレ」
フラン「今度はあなたが遊んでくれるのね?」
一方通行「さっきの質問と同じ意味だろォが」
フラン「やったー、じゃあ始めるよ。今度は丈夫だといいんだけど」
一方通行「人の話を聞きやがれクソガキが」
フラン「禁忌「レーヴァテイン」!」
一方通行(ったくよォ……少しばかり気がふれてるってのはマジだったのかァ?自己完結してやがるなァ)
一方通行(炎の剣……剣形の炎?何であれ、燃焼なら熱エネルギーの反射と反応物質の撹乱で十分だ)
一方通行の手が炎剣に伸びる。解析が始まった。
一方通行(反応物質が無ェ?純粋な熱エネルギーと光エネルギーの放射なのかァ?)
一方通行(まあいい。向かってくる一定以上のエネルギーは反射できる。この現象の根本を解析すりゃァ仕舞いだ)
一方通行「解析完了、っと」
一方通行が呟いた瞬間、巨大な炎の剣は簡単に四散してしまった。フランが驚きに目を見張る。
フラン「もしかして同じ能力の人?こんなことも出来るのかな?」
フランが両手を握ると、地下牢に飾ってあった十字架、わずかな家具が音をたてて壊れる。
爆散するものもあれば、ひしゃげて潰れるものもあり、粉々に崩れるものもあった。
一方通行「俺に出来ねェことがあるとでも思ってンのか」
一方通行が床をつま先でほんの少し蹴ると、地面が揺らぎ、壁がひび割れ、柱と天井が崩れ落ちた。
フラン「おぉー、じゃあもしかしたら初めて直接血を吸えるかも!」
フランが一方通行のほうに手を伸ばす。
一方通行は違和感を覚えていた。さっきから彼女がしている破壊行為は、自分の考えるような破壊と一線を画しているように思える。
一方通行は物体に基点を設定し、結晶構造や電荷、重心など考え得る全てのファクターを探し、最も効率のよい破壊方法を計算し、
撃力、電磁力、圧力、熱、その他あらゆる方法で物体に力を掛け、あるいは物体間の相互作用でもって破壊してきた。
彼女が使用しているエネルギーは、ほんの少しの圧力と、ほんの少しの運動だけ。
一方通行(明らかにおかしいだろォがよ……もし俺と同じよォに最も効率のいい方法を見つけてるンなら、洗練されすぎだ。何かあるよな)
彼女が手を向けた時、自分の中の何かが引っ張り出されるのがわかった。
一方通行(何だ今の?正体不明のベクトルが……具体的な物体にかかってねェベクトルが……俺の中の、何か物じゃねェものを……引っ張り出してる?)
一方通行「その手を……放しやがれェ!」
急遽一方通行は自分の“目”にかかっていたベクトルを反転し、彼女の“手”を払いのけた。
一方通行「クソガキが……」
一方通行(今のは何だ?あの操作が、物を破壊することに関わってンのか?わかンねェ……最初こいつが能力使った時もっと見てりゃァよかったなァ、解析できたかもしンねェのに……)
フラン「すごいすごい!久しぶりにこんなに長い間遊べるよ!」
一方通行(まァいい……こいつがやる気ならまた見る機会もあンだろ。そン時解析すりゃいいさ。2,3回見れば演算パターンなンざ割り出せらァな)
一方通行「ハッ……テメェがばてるまで相手してやっからかかって来いやクソガキがァ!」
魔理沙「ん……?」
性懲りもなく紅魔館に魔導書を借りに来たいかにも魔女という格好の白黒金髪少女は、上空から箒越しに目的地を見下ろし、首をかしげた。
魔理沙「何で天井に穴開いてるんだ?私以外にあそこで暴れそうなのっていないし、隕石とかは……フランが壊すしなぁ」
美鈴「」アセアセ
魔理沙「おーいめいりん、何があったんだ?」
美鈴「いやー、久しぶりに侵入者がありましてね。この前貴方が本を盗みに来てから3日ぶりくらいですか」カタヅケ
魔理沙「私も侵入者なのか」
美鈴「それ以外なんだって言うんですか?とにかく、本を借りてきたなら降ってきた瓦礫を片付けるの、手伝ってくれません?」
魔理沙「もう殆ど終わりそうじゃないか。妖精メイドでも使えばいいだろ」
美鈴「あの子達は天井の修復をしてるんです!吸血鬼の館におっきな天窓なんて洒落になりませんからね」
魔理沙「にしても、誰なんだ、そんなに暴れてるの?」
美鈴「外来人ですよ」
魔理沙「外来人!?人間でお前らと渡り合えるのがいるのか?」
美鈴「いたんだから仕方ありません。私の攻撃も跳ね返されましたし、咲夜さんが時間をとめても時間をまた動かしちゃいました」
魔理沙「そいつはなんだった?仙人?魔法使い?方士?」キラキラ
美鈴「たしか……学園都市最強の能力者とか言ってましたが。その類ではないですね」
魔理沙「そうか……どんな奴なんだ?」
美鈴「白髪赤眼でしたね。肌も白くて体も細かったですが、声は男の声でした。能力は、“向きを変える程度の能力”です」
魔理沙「そいつの名前は?」
美鈴「たしか……」
美鈴が言いかけた途端、地面が弾け飛び、白い影が飛び出してきた。
一方通行「何だ何だよ何ですかァその様ァ!?最初ン時の威勢が影も形もありませンよォ?」
フラン「もう私疲れちゃった……貴方壊れないんだもん。こんなに遊んだの久しぶりだよ」
一方通行「ハハハァ!丈夫じゃねェのはテメェだったみてェだな!」
ヒャハハ、と声をあげる一方通行を見て、魔理沙は知る。
魔理沙「……あれか」
美鈴「あれです。にしても、片付けたばかりだというのにまたこんなことに……」
美鈴が溜息をついて眺める先には、美鈴が普段手入れしている花壇があった。赤い花が咲き誇る赤レンガに包まれた優雅な風情はどこにもない。
魔理沙「はーあ、こんなとこ見せられちゃ、ちょっと我慢ならないな」
帽子の中から八卦炉を取り出し、スカートのポッケからスペルカードを取り出す。
魔理沙「喜べ美鈴。私も手伝うぜ、この庭に振ってきた災難の、片付けをな!」
一方通行「あァ?」
座り込んでしまったフランから目を逸らし、一方通行はみなぎる魔力の源を向く。
そこには、ニヤリと笑う魔法少女がいた。
魔理沙「お前が外来人だな?私は霧雨魔理沙。魔法使いだぜ」
一方通行「名乗った方がいいか?俺ァ一方通行だ」
魔理沙「そうか。一方通行、弾幕ごっこを始めるぜ?」
一方通行「ちゃンと相手できンのかよ。コイツより弱けりゃ、容赦しねェぞ」
魔理沙「そりゃよかったな。私は初めてフランを倒した人間だ」
一方通行「ほォ……自信は十分ってわけですかァ?いいねェ……退屈させてくれンなよォ?」
魔理沙の周りで星が周回し始める。初めは彼女の周りを回るだけだったそれは、だんだんと素早さを増し、渦状に外側に溢れ始めた。
魔理沙「先手必勝!魔砲「マスタースパーク」!」
魔理沙が掲げた八卦炉の中心から光が噴出し、一方通行の方に向かう。
一方通行「何だァこりゃ。パワー一辺倒で俺をどォこォ出来ると思わねェ方がいいぞ」
一方通行の手が光の束に触れる。魔法のシステムが解らなくとも、この物理空間に現れているのがどういった現象なのかさえわかれば、強引に変換できるのだ。
ちょうどプログラミングの知識がなくとも、パソコンで色々なソフトを使うことが出来るように。
ちょうど科学の知識がなくとも、料理で生体高分子を変質させることが出来るように。
魔理沙「なっ……」
一方通行「で、今ので7割方解析完了だ。次で大詰めってなァ」ケラケラ
そうして表層のことを知っていくにつれ、それが何を意味するのかを考えるにつれ、より深いところで何が起こっているのかがわかるようになっていく。
熱した気体を入れた風船が上空に上がっていくことを切っ掛けに、気体の状態方程式が弾き出されたように。
たくさんの英文を読み、暗記した結果として英語の文法を自由自在に扱えるようになるように。
魔理沙「く……魔符「スターダストレヴァリエ」!」
一方通行「何だよ何だ何ですかァその攻撃はァ?言ったとこじゃねェかよ、まともな方法は駄目だってよォ……」
一方通行「浅ェンだよ、底が。浅すぎらァ……悪ィが、いちいち掴むまでもねェよ」
降り注いだ星の欠片が、一方通行にひとつ当たっただけで全て動きを反転し、逆再生のように全て魔理沙の方へ向かう。
魔理沙「っとと」
魔理沙は弾幕の全てを最小限の動きで回避していく。圧倒的な密度の弾幕の只中にいながら、冷や汗一つたらさない。
一方通行「ほォゥ、うまくかわすじゃねェの」
魔理沙「私からすりゃこんな弾幕、止まって見えるぜ!恋符「ノンディレクショナルレーザー」!」
一方通行「無駄だっつってンだろォがよ」
一方通行は微動だにしない。ポケットに手を突っ込んだまま、ただ眼下を飛ぶ魔理沙を眺めている。
地上から放たれたレーザーは、全て帰ってくる。狙い澄ましたかのように魔理沙の飛ぶところを目指して。
気がついたらsagaを入れ忘れていた。
何を言ってるのかわからねェと思うが(ry
魔理沙(まずいぜ……私の攻撃の殆どは効果がない。フランに勝ってるってことは魔法の扱いはうまいんだよな。予想してたつもりだったんだが)
魔理沙(仕方ない。アレを使おう。私が撃たれてるみたいで嫌だったんだが、使うしかないな)
魔理沙「そのためにも……星符「ドラゴンメテオ」!」
一方通行「おォ?」
魔理沙が急上昇する。一方通行は彼女の飛んでいった方を眺め、頭をかいた。
一方通行「何だァ?頭いかれちまったかねェ。逃げたンかも知ンねェけど……っと」
魔理沙のいる辺りで流れ星が光った。大量の燃え盛る隕石が、一方通行のほうに飛んでくる。
一方通行「物理攻撃は無意味ってわっかンねェのかあのクソガキは?」
魔理沙「彗星「ブレイジングスター」!」
その中に一際輝く星があった。燃焼の炎ではなく、もっと異質な炎。星の光を凝縮したかのようなその炎は、他の隕石と違い軌道を修正しながら動き続ける一方通行に迫る。
一方通行「おっせェなァ……それがテメェのトップスピードなのかよ?やめてくれよそンな冗談。笑えねェよ」
一方通行にひらりとかわされたそれは、少し過ぎたところで歩を止める。魔理沙が振り向きざまに唱えた。
魔理沙「星符「ケスラー・シンドローム」!」
魔理沙の放った小さな星屑が、降り注ぐ隕石に衝突し砕け散る。砕け散ったその破片が更に多くの隕石と衝突する。
一方通行「スペースデブリの自己増殖……そォか、さっきの攻撃はこの布石って訳か。ふざけやがって」
一方通行の周りは隕石の欠片で前が見えないほどになっている。
魔理沙「いいだろ?新技だぜ」
一方通行「礼を言っとくぞ。攻撃手段増やしてくれてアリガトォってなァ!」
魔理沙(やっぱり来た!あいつは攻撃されれば完全に無効化しようとする。本来ならあんなものほっといて出てこれるってのに)
魔理沙(私にとっちゃこんな弾幕、意識しなくとも避けられる。全部自機狙いだからな)
魔理沙(本手は別!これの全てが囮!本命はさっき上空で宣言、準備しておいた攻撃「シュート・ザ・ムーン」だ!)
魔理沙(幾ら優れた魔法使いでも、認識外の攻撃は避けられない。ちょうど私とあいつを結んだ延長線上、奴の背後からビームが来る)
一方通行「チッ……テメェちょこまか避けやがって……」
魔理沙(まずい、動かれるか……いや来た!)
一方通行の背後から、針のようなビームが何本も降り注ぐ。
一方通行「なンだ、こンなチャチな攻撃するためにここまでやったのかよ」
振り向かずに目さえ瞑って、一方通行は溜息した。同時に全てのビームは軌道を変える。
呆然とする魔理沙に、それらを避ける術はなかった。
魔理沙「く……」
一方通行「回避に優れてる代わりに打たれ弱いンですってかァ?ああ面倒くせェなァ。どォせテメェアレだろ?あのフランとか言うクソガキに勝ったってのもそォやってちょこまか避けた結果なンだろ?」
魔理沙は必死に起き上がろうとしているが、落下した時に足を挫いたらしく中々うまく立つことが出来ない。
一方通行「テメェの攻撃の中にこれはってもンはねェし……スピードも、もっと速い奴はいたぜェ?」
そんな魔理沙に一方通行の辛辣な言葉が突き刺さる。
一方通行「大抵の奴が何か面白ェ力見せてくれたってのによォ、テメェだけなンでもねェンだよなァ」
一方通行「人間でも早苗とか言うアホは文字通り奇跡を起こしてくれやがったし、ここの咲夜とか言うのは時間を止めるなンて荒業披露してくれた」
一方通行「文とか言うのはあろうことか普通の風で俺のスピードに食いついてきた。美鈴とか言うのは既存の物理法則の中で俺の反射破りやがったし、フランとか言うのは俺より物を壊すのが上手かった」
一方通行「しかしお前は何だァ?全く届いてねェじゃねェか。テメェから学ぶことなンざ、何一つねェンだよ」
一方通行「ったく、何なンですかァ?法則一個に頼りっきりで、頭の固い人間なンてよォ……どォしよォもねェじゃねェか」
一方通行「つまンねェ人間だ」
魔理沙「ふざっけんな……だぜ」
箒を杖にした魔理沙が起き上がる。
魔理沙「普通の人間ってのはなぁ、なにも、変な能力なんか、持ってないんだよ」
隣に落ちていた八卦炉を握り締めながら、魔理沙は続ける。
魔理沙「それでも、人間は、何かを極めることが出来るんだ」
魔理沙「極めれば……神様とだって肩並べられるんだぜ」
魔理沙「私が魔法を極めようとして、何が悪いって言うんだ」
魔理沙「ちょっとばかし私より先行ってるからって、ふんぞり返ってたら……」
魔理沙「その鼻、ポキっと折っちゃうぜ」
魔理沙から見て天頂に当たる青空の中心点から、円形に光が輝き始める。
その光は渦を巻き、太陽の光を奪いながら紺の空に幾何学的な模様を描き、全天に広がっていく。
魔理沙が静かに、しかし力をこめて宣言する。
魔理沙「……魔砲「ファイナルマスタースパーク」」
天に輝く魔方陣が回転し始め、同心円に内外接する正多角形達がカタカタと回り始める。
外側の文字列が各々違う速度で回転しながら、アナグラムとして単語を、意味を変えていく。
一方通行「ほォ……接点やら接線やら、連続的に変わる図形同士の角度、円や図形の方程式……二次元的な図形の回転が魔力とやらの計算式を意味してンのか」
魔理沙「これが私の、全開だ」
初撃とは比べ物にならない太さの光の奔流が、一方通行に向かって発射される。
一方通行(どォせただの魔法って奴の上位互換だろ……同じこった)
一方通行の伸ばした右手が触れる。演算を開始して、その奥で何が起こっているかを探し始める。
光の束は、日が沈み始め赤みがかってきた空に吸い込まれていった。
一方通行「ン……?」
右手に違和感を覚えて、一方通行は指先に視線を移す。
火傷していた。
魔理沙「……」
右手を握りしめ、気絶した魔理沙を見ながら、一方通行は考える。
一方通行(ほンの少しだけ、演算が間に合わなかったか……まァあンだけの計算打ちたててたンだ、そンなもンだろォな)
一方通行が後ろを向いたところに、紅白の衣装を着た少女が立っていた。
霊夢「逢魔が時、ね。いや、大禍時かしら」
一方通行「なンだテメェは」
霊夢「博麗の巫女、博麗霊夢。仕事は、幻想郷の異変を解決することよ」
一方通行「ほォ、それで俺ンとこに来たってか。確かにそンぐらいの事したかもなァ」
霊夢「幻想郷の有力妖怪たちが次々倒されてってるみたいね。一応聞くけど、どうしてこんなことをしているのかしら?」
一方通行「どォしてって、そりゃァ……」
一方通行「強くなりてェからだよ」
霊夢「もう十分強いんじゃないの?」
一方通行「駄目なンだよ、こンなンじゃ……全然駄目だァ。俺が目指してンのはこの先なンだよ」
一方通行「最強を超えて無敵になる。戦おォって思うことすら許されねェ程の、絶対的な強者にな」
霊夢「……それが何で幻想郷の有力妖怪と戦うことにつながるのよ」
一方通行「俺の能力はな、世界の仕組みを、物理法則を理解することで成り立ってンだ」
一方通行「ここで起きてることを見逃す手はねェだろ」
霊夢「?」
一方通行「こういうこった」
突如として消えた一方通行が、霊夢の背後に現れる。霊夢の前に大量のナイフを残して。
霊夢(これ……咲夜の?)
一方通行「ここに来て俺の能力はありえねェ程進化した。今なら時間を止めることすら可能なンだよ」
霊夢「あら、私にはそんなこと関係ないわよ」
霊夢が振り向きながら、見もせずに飛び交うナイフの中を避けつつ一方通行に迫る。
霊夢「なんてったって私は、博麗の巫女になった時から、全ての妖怪より強くあることを運命付けられているんだから」
霊夢「神霊「夢想封印・瞬」」
一方通行の視界から霊夢が消える。しかし彼は慌てない。
一方通行「……零時間移動、か。でもな、俺にそォいう弾幕って奴は効かねェのよ」
霊夢「霊符「夢想封印・集」!」
一方通行「毛色が違うだけだろォが!妖力だか魔力だか霊力だかしらねェが、俺には届かねェンだよ!」
一方通行の腕から、圧縮された空気の塊が噴き出す。衝撃波を伴うそれは一直線に霊夢に向かう。
霊夢「夢境「二重大結界」!」
霊夢から飛び出した弾幕の塊が、霊夢の前に壁のように立ちふさがった。
それと同時に空間が歪む。光の経路が折り曲げられ、方向が乱れる。
一方通行「なンて事してくれンだよテメェは。こンなエネルギーどっから取り出したンだクソッタレ」
一方通行がエネルギーを変換し、逆に霊夢に向かって弾幕を打ち出す。しかし霊夢は普通に歩いているような素振りで弾幕を回避していく。
霊夢「神技「天覇風神脚」!」
飛び道具では無駄だと悟った霊夢が体術を繰り出す。当然のことながら、一方通行は避わす素振りを見せない。
一方通行「ごふっ!」
避けなければ当たるのは自明の理。しかし、一方通行は全く違うことを考えていた。
一方通行(今日だけで……何度目になるンだよ。一人目は、殴るっつーより圧縮した空気、風が当たった様なもンだった。風の奇跡って能力だった)
一方通行(二人目は、俺の反射を逆手にとって攻撃してきた。俺の処理が甘かったから起こったことだ)
一方通行(今回は全く違う。ただただ、当たった。反射が出来なかったころの遠い過去、そのころの記憶と何も変わらねェ)
一方通行「テメェ……」
霊夢「あら、直接攻撃すれば当たるのかしら?」
一方通行「当たらねェハズなンだよクソッタレ……テメェの能力は一体なンだ」
霊夢「空を飛ぶ程度の能力……というより、どんなものにも縛られない能力」
一方通行「ふざけンなよ……面白ェぞテメェ……さっきのクソガキの100万倍面白ェよ」
霊夢「あんたね……」
霊夢の渾身のストレートが一方通行に入る。
一方通行が崩壊しかかっている紅魔館の壁まで吹き飛び、ずり落ちた。
霊夢「魔理沙はね……一生懸命生きてきたのよ。人外妖鬼の跋扈するなかで、一人人間のまま、必死で努力して妖怪や神と肩を並べるまで登りつめたのよ」
霊夢「そんな子が、必死で努力してきた人間が、どうしてあんたみたいなのに“つまンねェ人間だ”なんて言われなきゃなんないのよ!」
一方通行「……必死に頑張って生きてきたァ……精一杯努力して生きてきたァ……?ギャハハ!何だよそりゃァ!」
一方通行「凡人は気楽でいィよなァ……考えたことがあンのかよ!物心ついたころには化けモンだった俺の気持ちを!」
一方通行「俺の周りには誰もいねェ。向けられンのは恐怖だけ。テメェだってそォだろォが!違うのかよ!」
霊夢「……」
一方通行「チカラで頂点に立っても、いいことなンて何一つねェ。凡人は凡人らしく、上見上げて夢見てるだけのほォが幸せなンだよ!」
一方通行「必死に努力して、あろォことか目指す地点が此処かよ!ふざけてンじゃねェぞ!!」
一方通行「こンなところに立って、独りになンのは俺だけでいィンだよ!そンなに素晴らしい人間だってンなら、好き好ンで俺の居場所になンざ来ンじゃねェェェェ!」
立ち上がった一方通行の背後から、光り輝く線が延びる。
霊夢「……?」
一方通行「ク……クク……クカカココキキカカコカキキケケココカカカカカカカカァ!」
一方通行「コロセ」
光り輝く高電離気体【プラズマ】が、霊夢のもとへ飛んでいく。
霊夢「……熱いわね」
最小限の動きで避ける霊夢の横を、原子が原型を留めないほどの超高温の流体が掠め飛ぶ。
まともな人間ならその圧倒的な光と熱で焼かれてしまうものなのだが。
一方通行(今俺は幻想郷中の風の動きを掌握してる。今なら世界の天候すら操れそォだ……ここまでやったってのに……なンでコイツは……コイツは、涼しい顔して俺に楯突いてやがンだァ!)
霊夢が近づいてくる。どんなに狙っても、どんな不規則な動きでも、まるで放った弾が自ら避けているかのように悠々と避わしていく。
霊夢の蹴りが演算に気をとられていた一方通行を捉えた。
一方通行「がっ!」
一方通行(チクショウ……一体どォすりゃいいンだよ……何すりゃコイツに勝てるンだ!)
姿勢を立て直した途端、霊夢の拳が一つ、また一つと打ち込まれる。
一方通行(こンなクソガキに……しかも女に力で負けてるってンなら、無敵なンて夢のまた夢、最強だって無理だろォが!)
一方通行(……、何だったンだろォな、俺の今までの人生……)
頭の中で記憶がフラッシュバックする。
学園都市に行く前は、俺も普通の子供【ガキ】だった。他人と比べて少し肌が白い程度だった。
能力が発現した瞬間、俺は人間じゃァなくなった。だンだンと外見は幽鬼見てェに白くなり、目は血ィ見てェに赤くなってった。
俺は研究所ン中で暮らしてた。どこに行っても灰色の研究室の中で、聞こえンのは機械の音と、研究者の意味不明な専門用語、それからガキの泣き声だけ。
ある日、研究所の傍の公園に出かけた。たまの自由時間に、ふと思いついて外に出た。本当に気紛れだった。今思えばあの研究所の縛りは緩かったなァ。木原数多はクソッタレのド外道だったが。
公園では俺と同じぐらいのガキ共が、楽しそォに遊ンでた。ずっとそンなことがなかった俺には、何が楽しィのか全く理解できなかったンだが、あそこまではしゃいでンだ、面白ェンだろォなと思ったンだ。
ちょォどそン時、俺の方にボールが転がってきた。俺は良かれと思ってボールを拾ってやった。
いや、拾っちまったンだ。
そのころには反射演算は完成してた。あの木原のクソ野郎が組ンだ演算式をマスターして、無意識にも反射を使える状態だった。
つまり、俺は既に「化物」だったンだ。
どこの馬の骨かもわかンねェ、しかも真っ白な髪して目ェ赤い奴にボール拾われちゃァそりゃ焦るわなァ。
ボール返せよ、と突っかかってきたあのガキに、俺は反射を切ってやるのが間に合わなかった。
研究所から来た黒服が俺を取り押さえよォとした。だがあいつらは俺の反射で逆に吹き飛ンで行った。
危険だと判断されたンだろォ、今度は発砲してきやがった。当然、死ぬわけにはいかねェ。俺は手を出さなかったが、解ってるはずだったあいつらは自爆して大怪我を負った。
警備員に包囲され、戦車やヘリに取り囲まれ、俺は晴れて妖怪【モノノケ】の仲間入りを果たしたって訳だ。
俺が悪ィのか?
止めに来た黒服は俺の能力を知ってたはずだ。
俺は怪我させる気なンざ無かった。俺なりの防御をしただけだ。
ガキに怪我をさせてしまったとしても、そンなこと普通のガキ同士の喧嘩でも置きることだろ?
力が強いガキが相手を一方的に殴っても“喧嘩”として処理されるってのに、何で俺のときだけ軍が動く騒ぎになったンだよ?
俺が何かしたか?
俺の力が悪いのか?
……俺が望ンでこの能力になったと、本気で思ってやがるのか?
「……くっだらねェ」
それから、研究者も同ィ歳の能力開発中のガキも、老若男女問わず俺にビクビクヘコヘコするよォになった。
自分から俺に話しかけるのは研究者くれェで、しかも最小限の言葉を交わせばそそくさとどっか行っちまう。
俺は一人だった。
そンな日々が数年続いた後、あのクソッタレな実験の誘いが来た。
最も強い、から敵が無い、に進化【シフト】する実験。
“戦った末の強者”から“戦うまでもない強者”になる方法。
最強を超えて無敵になれば、何かが変わるかもしれない。
この実験で無敵になれば、何かを変えられるかもしれない。
認めてもらえるかもしれない。
誰かに。
俺はそンな夢物語を追って、もォ10000近い人間を殺した。
自らをモルモットと断言して、死ぬことに疑問をもたねェあいつらを、殺してきた。
無敵になった後の具体的な計画【プラン】も何も持たないまま、いつの間にか俺の中で目的と手段がすり替わってた。
ああ、気付いてンだよ。ただ見たくねェンだ。
あの実験は手段であって、俺の目的じゃねェってこと。
じゃあ何だってンだ、俺が無敵にならなかったら、今まで俺が撃ち抜いて、引き裂いて、へし折って、切り刻ンだあいつらは、一体何のために死ンだって言うンだ?
俺は無敵になンなくちゃなンねェンだよ、俺の目的が別のところにあったって気付いても、もォ後には引けねェンだ。
俺のために死ンだ妹達や、その他のあらゆる実験動物のためにも、ここで負けるわけにはいかねェンだ!
一方通行「ああああああァァァァァァァァ!」
一方通行の背中から黒い翼が現れる。
強風の中噴き出す炎のようにゆらめくそれは、人間の作り出すものとは思えないような禍々しさをたたえている。
霊夢「やっぱり今日の夕暮れ時【オウマガトキ】は、大禍時【オオマガトキ】であってたみたいね」
一方通行「jemsktnelwamdnel」
一方通行の口から、とても人間の口から吐かれたとは思えないようなおどろおどろしい言葉が紡がれる。
空間が歪む。その圧倒的な圧力に、幻想郷の生き物は、人妖問わず恐れ戦いた。
一方通行の黒翼が振るわれる。黒翼が触れた部分は、まるで元から何もなかったかのように綺麗に抉り取られていく。
霊夢「「夢想天生」」
霊夢が静かに発声する。
黒翼が彼女に触れた。しかし、それは何ももたらさず、ただ霊夢を通り抜けていった。
一方通行「……gkmnslpd」
まだ駄目なのか。ここまで能力を広げ、新たな定義【スキーマ】を手に入れて、空間の変換すら行えるようになっても、それでもまだ足りないのか。
激情と頭痛に苛まれながら、飛んでしまいそうな理性を必死に押し留める。自分の頭がこれほどまでにフル回転していたことなど今までにない。
自分ではまともに話しているつもりでも、自分の耳に入る音はとても自分の思う内容とは程遠い。
一方通行「テ……メ……e」
霊夢「無駄よ。実体を空に溶かし、自らを夢想と為す、それが私の奥義、夢想天生。どんな攻撃も私には干渉できない。それがこの世界全体を左右するほどの力でも」
霊夢が話している間も、間断なく一方通行の黒翼が霊夢の体を通り過ぎていく。
しかし、自分の能力が全く効かないにもかかわらず一方通行は笑っている。人間が普通浮かべるような笑みではない。
夜中、悪夢に出てきそうな笑み。暗闇の中、ぼうと浮かんできそうな笑み。邪悪さを抽出すればこうなるのではないかというような笑み。
一方通行「余裕bkosいてっとklrmwls悪ィけmednalsよォ、」
一方通行の口から、人間の言葉のようなものが漏れる。
自分の中で暴れまわる本能に鎖をつけ、新しい力の制御に慣れてきたおかげで、言語を紡ぐ余裕が生まれてきたのだ。
一方通行「そろslrk、掴まyetmwぜ?」
一方通行の右手が、触れられないはずの霊夢の首筋を捕らえる。
霊夢「な……何?一体どうなって……」
一方通行「種helms割れlsmekンだよ。テメzqxnrその技、要kgmntlsp存在確率波動関数をhk延bst自分の体を偏在lmrnksfて触れねェ状態kmnlrk成してンdろ?」
一方通行「量子nskrqinyマクロ世界の常識はmwwnkeねェもンな。テmlehr今どこnyでもいてどこにもいねェ」
一方通行「だgn、それgmばれちまttnkら俺の敵じゃなくnrqldンだ」
霊夢「な、何言ってるのかわかんないわよ」
一方通行「テmlencm負けだ。寝tろ」
霊夢の首を掴んでいる一方通行の手に力がこもる。少しずつ、霊夢の視界が白く塗りつぶされていく。
霊夢「く……そうは、いかないわよ……私が止めなかったら、他に誰が止めてくれるって言うの……」
一方通行「死nmdz?」
霊夢「私が死んでも、次の博霊の巫女が現れるのよ。幻想郷がある限り、博霊の巫女は滅びないわ」
一方通行「……」
一方通行の羽がピクと動いた瞬間、一方通行の握っていた手から霊夢が消えた。そして一方通行の前の空間がぱくりと開き、無数の目が一方通行を睨み付けた。
この世に開いた空虚な穴から、妖絶な声が響いてくる。
紫「あらあら、ちょっと遠出してた間になんでここまで荒廃してるのかしら?」
一方通行「誰dmtメェは」
紫「幻想郷の賢者の一人、境目に潜む妖怪、八雲紫」
開いた隙間の上に座るようにふわりと現れた八雲紫は、気絶した霊夢をその膝に寝かせていた。
一方通行「そnnxq力hgcv何だ」
紫「境界を操る程度の能力。物と物の間【スキマ】を操る能力」
一方通行の放つ殺気と圧力にも眉一つ動かさず、飄々とした空気をまとったまま、どこまでも冷静な声で紫は言う。
一方通行「……」
一方通行の目の淵が黒く染まる。
黒くなっていく白目の中、赤い虹彩だけがギラギラと輝く。
新しい獲物を見つけ、観察している野獣のような目に、新しい法則【オモチャ】を見つけ、歓喜する科学者【コドモ】のような光を湛えて。
一方通行「qwmdsk奪psm」
一方通行の翼が振るわれる。霊夢が紫の膝から消え、遠巻きに見ていた紅魔館勢の中心に落ちてきて、咲夜と美鈴が慌てて支えた。
紫「ふふ……どんなものにも境目というのがあるわ。貴方の力も例外ではない。いいえ、貴方の力の本質は、この世界と違う世界を取り出して、その不可解さに触れたこの世界のものを崩壊させる能力」
紫「つまり、貴方の力も私にかかれば児戯に等しい」
紫は指一本動かしていないにも関わらず、紫に向かっている黒翼は消え去った。
黒翼を失った一方通行が人間の言語で話す。
一方通行「……そォだ。俺はベクトル変換行列式に、俺のAIM拡散力場が広がる空間全体を代入して、プランク単位ごとこの世界を折り曲げたンだ」
紫「プランク単位が違う宇宙は物理定数の全てが違う。もはやこの世界とは違う世界よ」
一方通行「……その境界面に触れた原子は、突然の電子軌道の変更に耐え切れず、プラズマ化するか圧壊する」
紫「光子の運ぶエネルギーは、光の波長とプランク単位で決定される。境界面で光子のエネルギーが変われば、エネルギーは別の波長の光子として帰ってくるわ」
一方通行「……それが可視光波長域外の紫外、赤外線になりゃァ、暗黒の部分になって、それが可視光域なら虹色に光って見える。黒翼中の光の渦はそれなンだな」
一方通行は理解する。自分が辿り着いた地点、そこに立つ意味を。
学園都市が18万×2万円、更に諸々の機材を合わせた値段を費やしても、自分を導きたかった境地を。
一方通行「ク、クク……まさか俺がここまで出来るたァなァ!教えてくれてありがとォよ、礼と言っちゃァなンだが、テメェの能力もコピーしてやるよ」
紫「貴方にそれが出来るかしら?私の操る方程式は、人間には一生かけても計算し終わらないわ」
一方通行「人間様なめてンじゃねェよ……俺は、人間の中で唯一“神ならずして天上の意思に辿り着くもの”と言われたンだぜェ?」
一方通行「たとえそれが神様って奴の奇跡だろォと、俺が全てを操ってやらァ!」
一方通行の背中からもう一度翼が生える。しかし、今度はゆらめかない。完全な出力を保ったまま、一方通行の意志の力に制御されている。
黒翼の通り道に、裂けた空間の隙間が当たる。どのような力が働いているのか、黒翼はそこから先に一歩も進めなくなってしまう。
紫「ほら、ここで何が起きてるかわからない限り、乗り越えるのは不可能よ」
一方通行「クソッタレが。ワームホールかと思やァ違うじゃねェか」
紫「そんな単純なものじゃないわ。貴方知ってる?」
一方通行「何をgtyよ」
紫「水面【ミナモ】ってなにか、わかるかしら?」
一方通行「水面は水面じゃねェkrkwsソ野郎……俺に攻撃さlrngrがらお喋りとは舐め腐っtwyeくれるなァどこまでも」
紫「貴方は水面がどこにあるか示せるかしら?示せないでしょう?そこに確かにあるはずなのに、水面に触れるまでは空気だし、水面に触れてしまえばもうそれはただの水」
紫「ミクロの視点で見てもそう。空気の分子と水の分子が存在している中で、水分子の中の一番上のいくつかは水面なのかしら?違うわ、それも水よ」
紫「なら水面とはどこにあるのかしら?確かにそこにあるのに、誰もここにあると指し示すことはできやしない。こういうことは人間には考えられないのよ。人間はこういうことがあると知的痙攣を起こしてしまう」
紫「なら、水面をより抽象化した境界とは?物事の境界って、貴方何かわかるかしら?」
紫「空気と水とを分ける面、この場所とあの場所との境界、貴方と世界の境目。何一つ、ここと定義できるものはないわ」
紫「そんなあいまいで流動的なものを、操れないほうが不思議よね」
一方通行「噛み合ったぜ……歯車が!」
一方通行の黒翼の中で渦を巻いていた光の流れが、次第に形を変えていく。それは赤い、目となった。
スキマの目と同じ色をした目が一つ、黒翼の中に現れる。それを待っていたかのように、黒翼のなかのいたるところでパチリと目が開いた。
一方通行の黒翼が、スキマに食い込み始める。それに従ってだんだんとスキマが小さくなり――消えた。
一方通行「ハ……ハハハ……アハ……ギャハギャハハハハハハハハ」
一方通行(そォだ!境界なンてねェ!この世界で学ンだことは全てそこに帰着する!)
一方通行(俺ァ量子論の基礎すら、今まで理解しきれてなかったンだ。不確定性原理、素粒子の動きの重なり合い、存在不確定な電子で作られた原子、それで出来たマクロ世界の構造物……人間)
一方通行(そォなンだ!不可能も可能も存在しねェ!何一つ確実なものなンてねェンだ!物質はここにもあるし、同時にそこにもある!霊夢とか言ったか、あいつだけじゃねェ。俺だってどこにでもいるし、どこにもいねェ!元々掴み所なンてねェンだ!)
一方通行「ご丁寧に解説してくれてありがとォなァ、教師の才能あるンじゃねェの?」
紫「まさか本当に乗り越えてしまうなんて、貴方やるわね。人間にしては」
紫がそういった瞬間、一方通行の黒翼が消える。
一方通行「そォ何度も同じ手は食わねェよ……人間様なめてンじゃねェぞクソッタレ!」
そして一方通行の背から出てきたのは、真白に輝く翼。
揺らぐことなくこの世に顕現したそれは、この世のどんなものよりも神々しく輝く。
紫「ふふ……それでも、貴方が世界の一部であることには何も変わりはない。その翼にも境界はあるわ」
一方通行「俺は、存在確率波動関数に従って空間にほンの少しだけ滲み出してる。元々俺と世界の分かれ目はあいまいなもンなンだ」
一方通行「もはや俺が世界との境界を消し去られることなンてねェ。それどころか、今度は俺がテメェの存在を薄く引き延ばして、世界と一緒に混ぜちまうことも出来るンだぜェ?」
紫「甘いわよ」
紫の言葉を境に、一方通行の意識は途絶えた。
一方通行「……ンァ」
霊夢「あ、起きた?」
布団を跳ね除け、いきよいよく上半身を起こして一方通行は言う。
一方通行「あンのクソババァ!俺ァまだ負けてねェぞ!」
紫「あら、誰がクソババァなのかしら?」
一方通行の背後に浮かぶスキマから身を乗り出した紫が、扇で顔を半分隠しながら言う。明らかに怒っていた。
一方通行「テメェに決まってンだろォが!人の意識いじくりやがって!意識も波動関数で記述できるからって調子乗ってンじゃねェぞ!」
紫「お仕置きが必要のようね。それに私がいじったのは意識と無意識の境界よ」
一方通行「同じこった。人の意識散々捏ね繰り回しやがって、覚悟は出来てンだろォなァ?」
紫「……」ゴチン
一方通行「いってェェェェェっ!」
紫「貴方の中の危害と安全の境界なんて、私にはあってないようなものなのよ?」
一方通行「こ、のボケババァが!テメェ一体どォいう了見で痛ェ!」ゴチン
紫「霊夢、宴会は中止にしてこの子を皆で虐めない?」
霊夢「そんな事言ったら暴動が起きるわよ?」
一方通行「お前……」キラキラ
霊夢「宴会の余興として楽しめばいいじゃない」
一方通行「ふざけンなァァァァァァ!」
なにやら瓶らしきものの入った風呂敷包みをもって神社の縁側を歩いていた霊夢が、角を曲がった時賽銭箱の隣に座っている魔理沙を見つけた。
霊夢「魔理沙、いたんなら準備手伝ってよ」
魔理沙「いやいや、私はお客さんだからな」
霊夢「まったく……魔理沙にはこの秘蔵のお酒は注いでやらないわね」
霊夢が開いた風呂敷の中には、「白嶺【ハクレイ】」と書かれた酒が入っていた。
溜息をついて酒を仕舞いにいこうとする霊夢の巫女服のすそに魔理沙が取りすがって叫ぶ。
魔理沙「ちょ、霊夢、ちょっと待ってくれ!手伝うから!手伝うからぁぁ!」
一方通行「なンだあの馬鹿共」
紫「あら、それにしては頬が緩んでいるようだけれど」
一方通行「テメェ、舐めくさンのもいい加減にしやがれ。この俺が何であンな馬鹿共に顔をほころばせなきゃなンねェンだ!?」
紫「あらあら、顔が赤いですわよ?」
一方通行「チクショウ……」カァ
霊夢「紫ー、まだ中にいるんでしょ?酒の樽出してくれる?」
紫「えーと……」
紫が少し扇を振ると、境内のほうでドスン、という音が聞こえた。
一方通行「便利な能力だなホント」
紫「貴方もマスターしたでしょう?」クスクス
一方通行「……いちいち癇にさわる女だ」
夕暮れ時、宴会の準備が整った博麗神社の境内に、わいわいと人妖が集まり始める。
今回の異変に直接関わったものも、何故来たのかそうでないものも、一様に思い思いの相手と話しながら呑んでいる。
一方通行「……ふゥ」
霊夢「あら、意外ね。今回の異変の主人公【ハンニン】が、まだ宴会にいってないなんて」
一方通行「悪ィかよ。あンまり人ごみは得意じゃねェンだ」
霊夢「あなた、あの時言ったわよね。強くなりすぎた自分の周りには、もう誰もいてくれないって」
一方通行(畜生……なンで俺ァあの時あンなこっぱずかしい台詞を吐いちまったンだァ?)
一方通行「ンなこと言ったかァ?」シレッ
霊夢「そのとき、私にも言ったわよね。独りで寂しくないのかって」
一方通行「そンな事言ってねェよ。曲解してンじゃねェ」
霊夢「まあまあ。……少なくとも私は、独りだとは思ってないわよ」
一方通行「……」
霊夢「あなたも行ってきたら?本当に貴方を受け入れてくれる人たちがいないかどうか、わかるかもしれないわよ?」
一方通行「あそこにいンのは、俺が散々罵倒して、叩きのめした奴らばっかだ。そンな所に俺ァ……」
霊夢「いけるわよ。そんな事いってたら、私と会話してくれる人はいなくなっちゃうわ。それに事実私はあなたに負けたけど、こうやって話してるじゃない」
一方通行「……でもよォ」
霊夢「私は自分と似たような境遇だから話を聞いてくれる、とか思ってる?それなら問題ないわよ。あそこにいるのって、皆強すぎる力を人に恐れられ続けた奴らだから、気持ちはわかってくれるわよ」
一方通行「……」
霊夢「それに、謝らないといけないのが何人かいるでしょう?」
一方通行「ったく……」ヨッコラセ
霊夢「あら?行く気になったかしら」
一方通行「違ェよ。ここにいたらテメェが話しかけてくるから逃げるだけだ」
霊夢「……素直じゃない奴」
紫「あら、貴方が言うかしらね?」
霊夢「な、あんたいつから聞いてたの?」
前からは宴会の喧騒が、後ろからは霊夢の怒声と紫の笑い声が聞こえる。
一方通行「何だってンだうっせェなァ」
溜息をつきながらも、一方通行はさほど自分の機嫌が悪くなっていないことに驚いていた。
神社の境内に一方通行が姿を現しても、何人かは全く気にせず呑んで騒いでいる。
よってたかってこっちにくるかと思っていた一方通行は少し安心しながらも、何処か寂しさを感じていた。
そんな自分の中に湧き上がる感情を全力で否定しつつ、宴会の座を見渡す。まず謝らないといけないのは……見つけた。
丁度彼女が話していた赤い服を着た姉妹が別の所に行ったところだった。
一方通行「よォ」
にとり「あ、件の外来人」
にとり「まあ呑みなよ。こんなところで素面で居る理由なんてないからね」
にとりが勧める杯を受け取って一方通行はその水面を見つめる。
にとり「あ、毒なんて入ってないよ?ほら」
にとりが同じ瓶から注いだ酒を飲み干す。
一方通行「いや……そンなこと疑ってねェ。ただ……」
にとり「まあまあ。素面じゃ話しにくいことでも呑めば話せるよ」
一方通行「ン……」ゴクリ
にとり「いやー、あの時会った外来人がまさかここまでことを大きくするとはねぇ」
一方通行「……すまなかったなァ」
にとり「え……ええぇ!?」
一方通行「その……なンだ、キチガイ呼ばわりしちまってよォ」
にとり「いやあいやあ気にしてないよ、外来人に信じてもらえないのはいつものことだし」
一方通行「それに……あれだ、俺の勘違いで攻撃しちまって……」
にとり「あのときの怪我なんてもう治ってるさ。大丈夫だよ、心配しなくても。それに、人間は河童の盟友だからね」ニッ
一方通行「……」
にとり「顔が赤いのは酒のせいかな?」
一方通行「チクショウ」スッ
にとり「あれ、もう行っちゃうのかい?」
一方通行「他にも、会わなきゃなンねェやつが沢山居るからな」
にとり「そうかい……じゃあ、またね」
一方通行「……じゃァな。……、……ありがとォな」
文「ほら、暴れない!写真撮るだけだから!」
椛「服返してくださいよぉ!“だけ”じゃないじゃないですか!」
一方通行「なァにやってンだかこの酔っ払い共は」
文「あ、今回の異変の主犯格じゃないですか」
一方通行「ったく……ちょっとしンみりしてたってのによォ」
文「そうそう、山での私との戦いと紅魔館での一件を記事にしてばら撒いちゃいましたけどいいですよね?」
一方通行「はあああァァァ!?もォいい、テメェには謝ンねェといけねェかと思ってたが、これで貸し借りなしだ」
文「えー、謝ってくださいよぉ」
一方通行「誰がテメェみたいなクソ記者に頭下げるかァ!……おォ、そこの犬耳。迷惑かけて悪かったなァ」
椛「犬走椛です。気にしてませんよ。呑みます?」
一方通行「ああ」
文「ちょっと、無視しないでくださいよ!……」パシャ
一方通行「テメェ何撮ってやがるこのアマ!」
文「“服のはだけた椛にお酒を注いでもらう一方通行”。いいですねぇ、熱愛発覚!?って感じで新聞に載せられますよ」
一方通行「ふざっけンなァァァァ!」
神奈子「あ、あの時の」
諏訪子「外来人?」
一方通行「まァな」
早苗「何ですか?リベンジマッチをさせてくれるんですか?いいですね、もう一度戦いましょう」
一方通行「……」ペカー
神奈子「そこで全力出しちゃう?」
諏訪子「正直霊夢に勝っちゃったのは衝撃だったよね」
早苗「えー、霊夢さんに勝った?じゃあ貴方を倒せば幻想郷の信仰を守矢神社が一手に握ることに」
神奈子「ごめんね、この子まだお酒に弱いのよ」
一方通行「かまわねェよ。それと……なンだ、すまねェなァ、色々ぶっ壊しちまってよォ」
諏訪子「あの無礼な外来人が謝った!?」
一方通行「テメェはもォ一度叩いた方がいいみてェだな」
神奈子「まあまあ。私達はもう気にしてないよ。元々あんたも話し合いで解決しようとしてたのを、私が戦おうとしたようなもんだから」
一方通行「……そォかよ」
神奈子「そうそう、あんた学園都市の人間でしょ?うちの早苗も“最大級の原石”とか言われてスカウトされたんだけど、色々考えて送らなかったんだ。どんなところなの?」
一方通行「クソッタレの集まる吐き溜めだ」
神奈子「……酷いとは聞いてたけど、そこまでなのかい?早苗を送らなくて正解だったかな」
一方通行「そりゃァ大正解だな。あンな所に送ったら頭がイカれちまうよ」
神奈子「アンタみたいに?」
一方通行「あンまり俺を怒らせねェほォがいい」ピキピキ
大妖精「この人がその外来人なの?」
チルノ「そうだよ!さいきょーの氷精であるあたいを倒しちゃったにっくき外来人!」
一方通行「テメェが最強の氷精なら俺は最強の能力者なンだよ。脳みその出来が違ェンだ」
チルノ「むーっ、ならもう一度勝負しなさい!」
一方通行「何度でも来いよ、全部熨斗つけて送り返してやらァ」
文「あやや?チルノさんが一方通行さんに挑むようですね」
椛「どうなると思います?」
にとり「まあ瞬殺だろうね。賭けるかい?私は一方通行に賭けるけど」
椛「成立しませんよ賭けなんて」
文「えー、皆さんただいまのオッズは一方通行さんが0.99999999で、チルノさんが0.00000001です。チルノさんに一銭賭ければ100万円になって返ってきますよ~賭方いませんか~?場代はたったの1銭ですよ~」
にとり「ほら、払い戻し倍率もおかしいし、チルノに賭けてるのいないでしょ?」
椛「というかあんなことしても無意味なんじゃ……」
にとり「そこが文の怖いところだよね」
天使通行【エンジェラレータ】「……」ペカー
チルノ「ぐはっ」
大妖精「チルノちゃーん!」
にとり「ほらやっぱり」
椛「でも、どこがすごいんですか?文さんは無駄手間しただけじゃ……」
にとり「いやいや、たとえ100円(10000銭)賭けてたとして、払い戻しって10000/0.99999999[銭]≒10000[銭]でしょ?端数がなくなるからね。場代分が丸儲けになって、人数×1銭のお金が酔って頭の回らないお客から文の懐に入ってくることに……」
椛「お酒って怖いですね……」
にとり「怖いのは文だと思うけどなぁ……」
一方通行「ったく、無駄な手間つかっちまった」
美鈴「おやおや、災難でしたね」
レミリア「災難だったのは紅魔館よ。主に私」
咲夜「仰る通り」
一方通行「……悪かったなァ」ボソ
レミリア「謝るより修理を手伝ってくれないかしら?」
一方通行「要は落ちてる瓦礫を持ち上げて割れ目を塞げばいいンだろ?」
一方通行が一呼吸置き、地面を思いっきり踏みつける。
一方通行「……俺が計算間違えてねェ限り直ったはずだぜ」
美鈴「嘘!?」
レミリア「ホントかしら……ちょっと信じられないわ。咲夜」
咲夜「はい。見て参りましたが、修復は99パーセント終了しておりました。細かい瓦礫と埃を払えば終わりです」
一方通行「そォか……テメェ時間止められるンだったな。その能力どォやって手に入れたンだ?」
咲夜「聞きたいですか?」
一方通行「あァ」
咲夜「……秘密です」
一方通行「あ゛ァ!?」
咲夜「A secret makes a woman woman.」
一方通行「テメェなンざ魅力的でも何でもねェンだよ!」
咲夜「ほらほら、怒ってるとしわが増えますよ?ほら眉間にこんなにしわが……」
一方通行「誰のせェだと思ってやがンだァァァァ!!」
フラン「あ、あくせられーただ!また遊んでくれるよね?」
一方通行「……今からとか言うなよォ」
フラン「うん、今日はいっぱい遊べて楽しかった!また遊ぼうね!」
一方通行「ああ、そォだな」ナデナデ
咲夜「」ヒソヒソ
美鈴「」ヒソヒソ
一方通行「……なンだテメェら」
咲夜「私には魅力がなくて」
美鈴「妹様には優しくする」
二人「ロリコンか……」
一方通行「」
レミリア「一方通行、私の足を舐めなさい」
一方通行「死ねやボケェェェェェェ!」
最後に、酒宴の場を離れ一方通行は人を探している。彼女は神社の賽銭箱の横に座っていた。
魔理沙「おっ、来たな」
一方通行「……よォ」
魔理沙「そんな辛気臭い顔すんなよ。酒がまずくなるぜ?」
一方通行「あー……なンだ、その、悪かったなァ」
魔理沙「そんな強面で謝られても気味悪いぜ」
一方通行「テメェ……せっかく人が」
魔理沙「勇気を振り絞って謝ってやったのによォってか?」
一方通行「本気で死にてェよォだな」
魔理沙「まあそんなに怒るなよ。これでも呑もうぜ?」
一方通行「また酒か」
魔理沙「お前酒宴を一周してきたのに酔ってないのか?酒に強いんだな」
一方通行「大抵の薬物には耐性高いンだよ。外では毎日ぶち込まれてたからなァ」
魔理沙「そうか。酔いにくいなんて非経済的で可哀想だな。まあ呑めよ。私の酒が飲めないのか?」
一方通行「それ霊夢とか言うのが持ってた奴じゃねェか。テメェの酒じゃねェだろ。それともなンだ?ワカメ酒でもしてくれるってンですかァ?」
魔理沙「なんだそれ?」
一方通行「知らねェのかよ……いじりがいのねェ奴だなァ。言ったこっちが恥ずかしくなっちまうじゃねェか」
魔理沙「で、せっかく謝ってくれたのに仲直りの杯も受けてくれないのか?」
一方通行「……ン」
魔理沙「……」
すっかり日も暮れた紺色の空に、満天の星々が輝いている。
満月に少し届かない大きさの月が、ほぼ南中しかかっていた。
そしてその夜空に焚き火の灰が吸い込まれていく。
学園都市では絶対に見られない光景。
一方通行「テメェに謝ったのはなァ」
魔理沙「ああ」
一方通行「ぶちのめして怪我させちまったことにじゃねェンだ」
一方通行「つまンねェって言っちまったろ。アレを撤回したくてなァ」
魔理沙「……」
一方通行「最後な、俺があのババァのスキマを破った時、テメェの魔方陣の応用を使ったンだよ」
一方通行「流石に平面じゃねェけどよ、あの時俺ァ超球と多胞体を考えて、テメェの魔方陣と似たよォな事したンだ」
一方通行「サヴァン症の人間の一部も特殊な立体を考えて他の人間には及びもつかねェ計算してるって聞いたことがあってな」
一方通行「……悪かったな、学ぶことなンか何にもねェとか言っちまって」
魔理沙「……サヴァン症って何だ?」ハテナ
一方通行「ハァ?……そォか、ここは外の知識とか入って来ねェンだな。サヴァン症ってのはなァ、脳に障害を負っているにもかかわらず、ある特定の分野にのみ、人智を超えた能力を発揮する症状のことだ」
魔理沙「……具体的には?」
一方通行「ハァ……例えばな、ァー、一桁の足し算掛け算も出来ねェのに、年月日を言われた瞬間曜日を言える奴とか……何十桁同士の掛け算を暗算で出来たり……楽譜が読めねェのに一度聴いた曲を完璧に弾けたりとかな」
魔理沙「ふーん、外にはやっぱり面白いことがいっぱいあるんだな」
一方通行「本人にとっちゃ面白くもねェだろォよ。障害がある上に研究材料にされてンだ」
魔理沙「本人を治すための研究なんだろ?」
一方通行「……そォじゃねェ場合もある」
一方通行(人為的に計算能力を跳ね上げるためにそれをまねて脳に電極ぶっ刺すとかな……)
魔理沙「やっぱり、外の世界にも魔法があったほうがいいのにな……」
一方通行「それはわかンねェよ。どンな力だろォと、それを初めて考えた奴は、みンなの幸せを考えてたはずなンだ」
一方通行「でもそれが広がったら、悪意を持った人間が現れて、元の使い道とは真逆の方向に力を使っちまう」
一方通行「……みンな人類にな、夢を見すぎるンだよ。聖人君子ばっかじゃねェンだ。むしろクズのほォが多い。でもなァ……理想に燃えた人間は、そこンとこが曇っちまうンだよな」
一方通行「チッ、話が逸れすぎだボケ。……何の話してたンだったか」
魔理沙「ん?あれだよ、私にごめんなさいするって話」
一方通行「ハッピーな捏造はやめてくれませンかァ?もォ仲直りの杯とやらを受けたと思うンですがねェ?」
魔理沙「……お前の力も、いつかみんなの幸せに繋がればいいな」
一方通行「……そォだな」
翌日。
霊夢「帰るのね?」
一方通行「……あァ」
霊夢「そう……寂しくなるわね」
一方通行「心にもねェ事言ってンじゃねェよ」
魔理沙「ホントのことなんだけどな」
一方通行「はいはいそォですかァ」
霊夢「みんなには言わないの?」
一方通行「言ってどォなるモンでもねェだろ」
霊夢「そうね。じゃあ結界を開くわよ」
一方通行「いい。自分で出来る」
魔理沙「いいなーその能力」
一方通行「ハッ、気が向いたらこっち来て色々教えてやらァ。楽しみにしとくンだな」
霊夢「今度は私達の世話にならないようにね」
一方通行「こっちから願い下げだ。じゃァな」
一方通行の背から翼が生え、頭上に光の輪が浮かぶ。その羽がなぞった通りに空中に穴が開き、その向こうに学園都市のきらめくビル群が見えた。
もう一度ちゃんと別れを言おうかと思った一方通行が振り向くと、もうそこは何の変哲もない学園都市の一風景だった。
一方通行「……長ェ一日だったな」
「被験者、一方通行ですか、とミサカは問いかけます」
一方通行「……何号だ」
9982号「ミサカの検体番号は9982です、とミサカは答えます」
一方通行「早ェぞ。まだ9800番台だと思ってたンだがなァ」
9982号「このミサカは貴方を見つけるために学園都市中に派遣されたミサカの一人でしかありません。貴方が実験を無断欠席したことにより、計画【プラン】に影響が出る可能性があります、とミサカは懇切丁寧に説明します」
9982号「早急に、9879次実験を開始してください、とミサカは伝言します」
一方通行「……研究所まで案内しろ」
9982号「9879次実験は屋外実験ですが?とミサカは被験者の言動に疑問を提示します」
一方通行「席空けてる間にな、進化【シフト】しちまったンだよ。もォ実験は終わりだ」
9982号「な……証拠はあるのですか、とミサカは驚愕の念を顕にします」
一方通行「……」ペカー
9982号「おおう……まぶしいです、とミサカは迷惑だと暗に述べます」
一方通行「暗に述べられてねェよ」
9982号「では、研究所まで案内します。しかし今は量産能力者関連の研究員しかいないと思われますが、とミサカは怠慢な絶対能力計画の研究者に悪態をつきます」
9982号「……しかし、実験が終わってしまったらミサカ達は一体どうなってしまうのでしょう、とミサカは己の未来を危惧します」
一方通行「救ってやるよ。俺の力で、テメェらの幸せをもぎ取ってやる」
一方通行「今の俺に出来ねェ事なンざ、ねェンだからな」
霊夢「……あ」
魔理沙「何だ?」
霊夢「あ、の、馬鹿!あいつが今勝手に結界を開いたせいで、森付近の結界が乱れたわ。あいつと同規模、同系統の力を持ったのが入れ替わりに入ってくるわよ」
魔理沙「……AIM拡散力場ってのか?」
霊夢「どこまでも迷惑をかけていってくれちゃって……」ピキピキ
?「……あれ?」
?「俺は学園都市を歩いてたはずなんだが……確か急に何かをくぐったような感触がして」
?「で、ここは何だ?終に学園都市も緑に溢れるようになっちまったのか?」
アリス「あら?魔法の森に外来人がいるなんて珍しいわね」
?「なんだお前。魔法?おいおい、常識が通用しねえのは俺だけで充分だと思うがな」
おしまい

