ジュン「え?」
元スレ
金糸雀「しあわせかしら?」
http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1262059591/
ジュン「いきなり何を言い出すんだよ」
金糸雀「だーかーらー、しあわせかしら?」
ジュン「僕のこと言ってんのか? こんな引篭もり生活が幸せな訳n」
金糸雀「そーじゃなくて!」
ジュン「誰のこと言ってるんだよ…」
金糸雀「ジュンの事かしら!」
ジュン「はぁ? 一体何を…」
金糸雀「ジュンはジュンでも巻かなかったジュンかしら」
ジュン「巻かなかった僕…?」
金糸雀「そーかしら! 巻かなかったジュンはしあわせかしら?」
ジュン「そんなこと僕に分かるはずが…」
金糸雀「巻かなかったジュンとやりとりするジュンは何だか楽しそうかしら?」
ジュン「だからってしあわせかどうかなんて分かる筈ないだろ?」
金糸雀「でも、もう一つの可能性の自分の姿を見て微笑むって事は少なくとも不幸じゃ無いって分かるかしら」
ジュン「そんなに楽しそうに見えたか?」
金糸雀はコクリと大きく頷いた
ジュン「…そうだなあ、大検とって大学に通っているなんて今の僕からじゃとても考えられなかったし」
ジュン「巻かなかった僕っていうのは未来の僕、つまりこれから選択肢のうちの一つでもあるから」
ジュン「僕にもそんな力が…可能性があるって思ったら、ニヤニヤしててもおかしくないな」
金糸雀「つまり巻かなかったジュンは、引篭もりのジュンから見てうらやましく…幸せそうに見えるのかしら?」
ジュン「引篭もりってゆーな! しょうがないだろ、雪華綺晶のせいでこんな所に留まるしか無いんだし…」
ジュン「少なくとも今の僕よりは…幸せなんだろうな、巻かなかった僕は」
金糸雀「そう…かしら…」
ジュン「急にどうしたんだ?」
金糸雀「ううん…何でもないかしら」
金糸弱は表情を気取られないように首を大きく左右に振った
ジュン「おかしな奴」
金糸雀(巻かなかったジュンは幸せ…)
悲しげな顔でポソリと呟く
―――<巻かなかった世界>―――
prrrrr
携帯の着音がメールの受信を告げる
ビッグジュン「おっ、僕からのメールだ」
ビッグジュン「えっと、何々?」
ビッグジュン「…」
真紅「どうしたの? ジュン」
ビッグジュン「い、いや…何でもない。ただのイタズラメールだったよ」
真紅「そう」
ビッグジュン「…ちょっと出かけてくるよ。今日は遅くなるから先に寝てろよ」
真紅「夜は眠りの時間よ、なるべく早く帰りなさい」
ビッグジュン「あぁ…」
自宅のアパートを後にし駆け出しながら携帯のメールを見つめる
ビッグジュン(なんなんだよ、これは…)
# 草笛みつを探せ 真紅には知らせるな #
ビッグジュン(宛先が僕ってのは間違って無いし…大体この草笛みつってのは誰なんだ?)
ビッグジュン(それに…何で真紅に知らせちゃいけないんだ?)
手早く質問のメールを打つ
そして数刻の間をおいて返事が返ってくる
# 草笛みつはローゼンメイデンに深く関わる者だ お前は会って話を聞かなければいけない #
# そしてこの話は雪華綺晶に悟られないために誰にも話さず心にだけ留めておくんだ #
ビッグジュン「…重要な機密事項って事か? 巻いた僕と僕だけの…」
ビッグジュン(名前だけでどーやって探せというんだ? 住所とかないのか、住所)
ポチポチと手早く質問のメールを投げかける
そして数刻の間を置いて来る返信
# 住所・・・? #
ビッグジュン(いくら中学生でも住所の意味ぐらい分かるだろ! 住んでるとこだよ)
# 大きな建物 #
ビッグジュン(そーじゃなくて! ※※区~って奴だよ)
こーいった何度かのやり取りのうちになんとか住所を知りえた
ビッグジュン(…中学生の僕ってこんなに幼かったっけ…)
―――翌日
真紅「おはようジュン。今日は学校というところに行くのでは無くて?」
ビッグジュン「あぁ…」
眠い目を擦りながら昨夜のやり取りを思い出す
ビッグジュン(結局、住所を聞き出すのに深夜までかかった……)
ビッグジュン(携帯のメールって結構疲れるんだな)
学校に行くフリの準備をし、昨日聞き出した住所の付近をプリントアウトする
ビッグジュン(さて…草笛みつに会いにいくか)
真紅「いってらっしゃい、ジュン」
ビッグジュン「あぁ、いってきます」
真紅の見送りを後にし、学校とは反対の駅の方角へ向かって歩き出す
ビッグジュン(いってらっしゃいなんて久々に聞いたな…)
ビッグジュン(昔はねえちゃんの送り出しなんて、うっとおしかったもんだけど…)
少し頬の端を吊り上げ昔のことを思い出す
ビッグジュン(巻いた僕は幸せだな、こんな気分を味わえるのだから)
そして券売機で切符を買い草笛みつの街へ向かう電車に乗り込んだ
ガタンゴトン ガタンゴトン
電車に揺られながら、この先のことを想像する
ジュン(草笛みつって何者なんだろう? 名前からすると女の人っぽいけど)
ジュン(それにこの住所、僕の実家に近いところじゃないか…)
ジュン(おまけに住んでるところはマンションの一室らしいし)
ジュン(本当にローゼンメイデンとって重要な人物なのかな…)
そう考えている内に目的の駅に到着し、実際に会ってからという考えようという結論に達した
住所通りのマンションに着きエレベーターで草笛みつの住む部屋の階へ上がる
ビッグジュン(えーと、○○○号室はっと)
そして目的の部屋の前に立った
ビッグジュン(よ、よし…押すぞ)
高鳴る鼓動を押さえ、ゆっくりとインターホンへ指を伸ばす
ビッグジュン(……)ドキドキ
人と話すことは苦手だし、初対面の人物とあっては緊張するのも無理は無い
ビッグジュン(えい!)
ピンポーン
「はーーい!」
扉の向こうから若い女の声がした
ドタドタドタ
「ちょっと待ってくださーい」
扉の向こうから足早にこっちに向かってくる音が聞こえる
ビッグジュン(く、来る…)
ガチャン!
チェーンの付いた扉が半開きになり、化粧途中のだらしない顔がこちらを除きこんだ
「どちらさまですかー?」
化粧中に呼び出したようで若干不機嫌な顔をしている
歳は20代半ばであろうか、染めたと思われる金色の髪に
薄手の派手な衣装から、そっち系の仕事の人間と容易に想像ができた
ビッグジュン「えっと…」
「ちょっとぉー、何の用事なのぉ?」
想像とは違う姿に困惑し、女性からの質問にうまく答えが出てこない
ビッグジュン「あ、あの…」
咄嗟に答えることが出来ず、口篭るビッグジュンに疑惑の眼差しを向ける女性
「…なんの用事ですか?」
先程より強い口調で質問を反芻する
ビッグジュン「えっと…」
ビッグ「……ろろろ、ローゼンメイデン!」
「……」
ローゼンメイデンという単語に黙り込む女性
ビッグジュン(僕のことは分からないにしろ、ローゼンメイデンという言葉は分かる筈だ)
咄嗟に出た言葉ではあったが、効果的と確信する
ビッグジュン「わ、分かりますよね。ローゼンメイデン」
「…ですか?」
ビッグジュン「え?」
「…一体何の宗教ですか?」
ビッグジュン「……は?」
「何ですか? そのろーぜんめいでんとかいう呪文は!」
「私はそーゆーのに一切興味は無いんで!」
強い口調で攻め立てる女性
ビッグジュン「え? え? え? 何で…」
ビッグジュン「し、知らないんですか? ローゼンメイデンを…」
「知らないわよ! それが最近の勧誘方法なの?」
自己の興味外と知るや、扉を閉めようとする女性
ビッグジュン「ま、待ってください! 草笛さん」
ビッグジュン「本当に…本当に知らないんですか? ローゼンメイデンを!」
「しつっこいわね! 知らないって言ってるでしょ」
ビッグジュン「そんな…」
「それにね、私はくさぶえじゃなくて田中っていうの!」
バタン!
その言葉を捨てセリフに勢いよく扉を閉める
ビッグジュン「……え?」
ビッグジュン(どういうことだ? 住所はここで間違いないし)
ビッグジュン(最近じゃ表札のかかってない家はザラだけど)
ビッグジュン(本人が違うって言ってたし、あの顔は嘘をついていないように思える)
ビッグジュン(あーもー、どういうことだよ、僕!)
そしてビッグジュンは混乱した頭を抱えながら家路に付いた
真紅「お帰りなさい、ジュン」
ビッグジュン「…ただいま」
真紅「どうしたの? ジュン 随分疲れているようだけど」
ビッグジュン「そうか?」
真紅「えぇ、顔だけでなく言葉からも伝わってくるわ」
真紅「今日は紅茶をいれなくてもいいから早く休みなさい」
ビッグジュン「……そか、なら休ませてもらうよ」
布団を頭から被り体を横たえる
ビッグジュン(あーもー、何だったんだよ今日は…)
prrrrr
ビッグジュン(メールだ…)
布団の中で真紅に気づかれないようにメールのやりとりをするビッグジュン
# 草笛みつは見つかったか? #
ビッグジュン(見つかったか? じゃないだろ! 住所が間違ってるじゃないか!)
# 住所が…? そんなことは無い○○○であってる筈だ #
ビッグジュン(現に住んでる人間が違ってたんだぞ。草笛みつはいなかった)
# いない筈は無い ジュンが巻く選択をした時点で枝分かれした世界だ #
# それまで存在していた草笛みつが居なくなる事はない #
ビッグジュン(…ひょっとして中学校時代の僕の世界じゃそこに住んでても、こっちの世界じゃもう引っ越してたりするんじゃないか?)
# 引越し? なら、どうすれば #
ビッグジュン(そんな事聞かれても答えられる訳が無いだろ)
# どうしよう #
ビッグジュン(どうしようって、お前が分かんなきゃ僕だって)
# お願い 探して #
ビッグジュン(…分かったよ、可能な限り草笛みつの特徴を教えてくれ)
# ありがとう #
ビッグジュン(僕ってこんなにしおらしかったっけ…?)
ビッグジュン(草笛みつの容姿は?)
# 綺麗 #
ビッグジュン(そうじゃなくってぇ! 丸顔とか切れ目とかそういう特徴だよ!)
# 眼鏡をかけてる #
ビッグジュン(そうそう、そういう情報だよ!)
こういったやり取りをしながら草笛みつの情報を蓄積していった
ビッグジュン(ふう… いろいろ情報が分かったけどふつーのOLって感じだな)
ビッグジュン(ほかに有用な情報は…まさちゅーせっちゅ? なんだこれ?)
ビッグジュン(趣味は人形の服作りと写真とオークションか)
ビッグジュン(特に特徴的な部分もないし、ありきたりすぎてこれだけの情報じゃとても…)
ビッグジュン(……)
ビッグジュン(そうだ!)
布団から外を覗き込み、真紅が寝ていることを確認する
ビッグジュン(さすがにこの時間なら真紅も寝てるか)
布団から体を起こし、パソコンの机に向かうビッグジュン
ビッグジュン(かすかな望みだけど、今もオークションをやってるなら出品してることもあるかもしれない)
インターネットのオークションページで”人形””服””手作り”で検索を始めるビッグジュン
ビッグジュン(好きな色、趣味から割り出せばどんな服を作ってるかは絞り込めるはず!)
ビッグジュン(宅配で荷物を受け取れば名前も住所も分かる)
ビッグジュン(……お金が持てばいいんだが)
人形の服のオークションを検索しそれらしいアタリをつけていく
―――数日後
ビッグジュン「外れか…」
数日前オークションでmitsu2009というユーザ名を発見し、これはアタリと踏んだのだが
届いた荷物の宛名欄には草笛みつでは無く禾心みつという名前が書き込まれていた
ビッグジュン「あーあー、いいアイデアだと思ったんだがなあ…」
真紅「この服はどうしたの?」
ビッグジュン「ん? インターネットで買ったんだよ」
真紅「まだくーりんぐおふとかいうものに凝ってるの?」
ビッグジュン「そういや、昔は通販ばかりやってたっけ。これもクーリングオフしてみるかな? ははっ」
服を手に取り、小さな手で生地を撫でる真紅
真紅「決して上手とはいえないけれど、心を込めて作られているのが分かるわ」
ビッグジュン「そうだな、素人にしちゃ上出来だよ。よかったら着てみてもいいぞ」
真紅「ふふっ、ありがとう。でもあなたの作った服で十分なのだわ」
ビッグジュン「そっか… ん?」
ふと、人形の服が収められていた箱の中の紙に目が止まる
ビッグジュン「ドールイベント?」
紙には小さなイベント会場で行われる即売会の案内が書かれていた
真紅「ドールイベントって何かしら?」
ビッグジュン「ん? あぁこの服の作り手さんや他の作り手が服を持ち寄って売る市場みたいなもんだよ」
真紅「まあ、素敵。他にもいろんな服が見られるという訳ね」
ビッグジュン(ひょっとしたら草笛みつの情報が手に入るかもしれないし)
ビッグジュン(この服のクーリングオフが直交渉できるかもしれないし行ってみるか)
真紅「ジュン、この市場に行くつもりなの?」
ビッグジュン「え? うん…い、いや行くわけないだろ」
真紅「そうなの?」
ビッグジュン「あぁ…(真紅には草笛みつのことを悟られるわけには行かないしな。内緒で行くか)」
真紅「……」
―――ドールイベント当日
ビッグジュン「じゃあ、学校に行って来るよ」
真紅「ジュン」
ビッグジュン「ん?」
真紅「何か私に隠し事は無くて?」
ビッグジュン「え!? な、無いよ。何を急に言い出すんだ?」
真紅「…そう」
ビッグジュン「じゃ、じゃあ行って来るから…」
真紅「待って!」
ビッグジュン「何だよ…」
真紅「窓を少し開けておいて頂戴」
ビッグジュン「そんなの自分で…」
バシッ
ビッグジュン「いたっ」
真紅「下僕が口答えしないの!」
ビッグジュン「わ、分かったよ…」
玄関から踵を返し部屋に戻るビッグジュン
ガラガラッ
ビッグジュン「おーい開けてきた…っと、どこに行ったんだ? あいつ」
玄関に真紅の姿は無くバッグだけがそこに鎮座していた
ビッグジュン「人に命令しておいてしょうがない奴だなあ…」
ビッグジュン「ま、いっか。いってきますっと」
バッグを背負いドールイベント会場へと向かうビッグジュン
少しばかり重くなったバッグには気づかずに…
□ドールイベント会場
ビッグジュン「まあイベント会場っていってもこんな規模だよなあ…」
目の前には小学校の体育館ほどの建物があり、ドールイベントの看板が立っていた
「へぇ、ここが市場なの?」
ビッグジュン「なっ…」
背後のバッグから声の主がひょっこり顔を出した
真紅「主人を騙そうとは酷い下僕ね」
ビッグジュン「し、真紅!?」
ビッグジュン「お、お前…いつの間に」
真紅「そんな事はどうでもいいの。さあ早く中に入りましょう」
ビッグジュン「どうでもよくなーい!」
真紅「騒がしいわね、あなたが私を欺こうとするから悪いのよ」
ビッグジュン「お、お前が他の人に見られたら大問題になるだろ!」
真紅「あら? ここは人形市場でしょ。あなたが人形を背負っていても誰も疑問に思う人はいないのだわ」
ビッグジュン「そうかって…そんな訳あるか!」
こうした押し問答の後、真紅はバッグから出ないことを条件に隙間から会場を閲覧する権利を得た
真紅「へぇ~随分小さな市場なのね。でも活気があって楽しそうだわ」
ビッグジュン「お、おい…あまり声を出すなよ」
会場を端から見て回るビッグジュンと真紅
ビッグジュン(はぁ…こんな感じじゃ草笛みつの事を聞いて回るなんて無理だな・・・)
半ば草笛みつの情報収集を諦め真紅の小間使いを勤めるビッグジュン
ビッグジュン(そういやオークションで買った服を返品できないか交渉しようとしたんだっけ?)
チラシで禾心みつの場所を確認し、そちらへ歩みを向ける
真紅「あら? まだこっちの端を見ていないわ」
ビッグジュン「先に用事を済ませてからな」
真紅「ちゃんと元の場所から戻って見ていくのよ」
ビッグジュン「はいはい」
背中の荷物をなだめて禾心みつの場所へ向かう
真紅「用事って何かしら?」
ビッグジュン「あの服を作った人のところへ行くんだ」
真紅「まあ、是非私もお話をしたいわ」
ビッグジュン「駄目に決まってるだろ!」
ドカッ
ビッグジュン「いたっ!」
バッグから背中を蹴りつけられる感触が伝わる
ビッグジュン「お、お前…」
真紅「大きくなっても心はあまり変わらないようね」
ビッグジュン「まったく…」
「こんにちはー」
テーブルの向こうに腰を掛けた、売り手らしき女性が声をかけてきた
ビッグジュン「え? こ、こんにちは…」
「ゆっくり見ていってくださいね」
その女性は人懐っこい笑顔で自分のテーブルの上に広げられた服の説明をし始めた
「それでですね~ぜーんぶの服は私が丹精込めて作ったんですよ」
ビッグジュン(まいったなぁ…とても返品なんて言い出せそうな空気じゃ…)
鞄の中から外の様子を伺う真紅
真紅(この声、どこかで聞いた記憶が…)
真紅「そうだ! みっちゃんさん!」
ビッグジュン「ちょっ!?」
「え…?」
背後のバッグから発せられた言葉に正面の女性はきょとんとした顔でこちらを見つめている
「どうして私の名前を…?」
ビッグジュン「あはっあははは…じ、実はオークションで落札したジュンって者なんですよ」
そういって同封されたチラシを女性の前に差し出す
「あー」
少し思案し思い出したようで、こちらに向かって屈託の無い笑顔で手を叩く
みつ「この間オークションで私の服を落札してくれた人ね!」
笑顔でビッグジュンに握手を求めるみつに戸惑いながら手を差し出すジュン
みつ「ありがとう~私の服って中々売れなくってさ、オークションで売れた時はすっごく嬉しかったわ」
ビッグジュン「え、えぇ…(これはもう返品できないな…)」
真紅「ジュン…ジュン…」
ビッグジュンの背後で真紅は小声で囁いた
ビッグジュン(なんだよ、気づかれちゃうだろ!)
真紅(ジュン、この人間がどういう素性か知っているの?)
ビッグジュン(どういう素性かって…服の製作者だろ)
真紅(いいえ、違うわ。この人間は巻いた世界の第二ドールのマスター)
真紅(草笛みつよ)
ビッグジュン「くさぶえ!?」
みつ「え?」
ビッグジュン「い、いえ 何でも…」
みつ「…どうして私の苗字を?」
ビッグジュン「え? みつさんの苗字は禾心じゃ…」
みつ「それは結婚して変わった苗字よ。以前は草笛という苗字だったの」
ビッグジュン「え? え? え?」
みつ「ねえ、私と会うのは初対面の筈よね…どうして私の昔の苗字を知ってたりするの?」
ビッグジュン「そ、それは…」
みつ「それに君、どこかで…いえ、なにかこう言葉ではうまく言い表せないけども」
先程の歓迎ムードとはうって変わって疑惑の眼差しをビッグジュンに向けるみつ
ビッグジュン「えっと…」
みつ「ねえ、答えて! 君は誰なの?」
ビッグジュン「……」
真紅(困ったことになったわね…)
二人の間で時間が止まったかのように沈黙が流れた
「おぎゃあ! おぎゃあ!」
みつ「あっ!」
みつは咄嗟に声の方へ振り返った
ビッグジュン「赤ちゃんの声?」
真紅「何をぼっとしてるの? 今のうちに逃げるのよ!」
真紅の声で我に返り、慌てて会場の外へ向かって駆け出すビッグジュン
みつ「あっ まって!」
ビッグジュンが駆け出し、みつとの距離が瞬く間に離れて行った
真紅はビッグジュンの背後で赤ん坊を抱きかかえるみつの姿を
視界から消えるまでずっと見つめ続けた
真紅(そう…彼女は母親になったのね)
そういって真紅は静かに微笑んだ
□会場の外
ビッグジュン「はぁ…はぁ…」
真紅「まったく、これくらいで息が上がるようじゃ体力も昔と同じようね」
ビッグジュン「はぁ…はぁ… お、お前が声を上げなきゃこんな目には…はぁ…」
真紅「さて…」
ビッグジュン「はぁ…はぁ…?」
真紅「もう、本当の事を話してもいいんじゃないかしら?」
ビッグジュン「なっ!? 本当の事ってなんだ…」
真紅「シラを切るのもその辺にしておきなさい。私が下僕の嘘を見抜けないとでも思って」
ビッグジュン「だ、だれが下僕d」
バシッ
ビッグジュン「痛っ!」
真紅「いい加減に学習しなさい」
真紅「あなたが何かを探しているのは知っていたけれど、それが草笛みつだったのね」
ビッグジュン「ち、違う。僕は何も探してやしない」
真紅「ジュン…あなたが何で私に隠し立てをするのかは分からないけれど」
真紅「この世界のマスターになったかも知れない人達にまで影響が及ぶかもしれないのよ」
真紅「あなたは草笛みつが…あの母子が私達の戦いに巻き込まれるのを良しとするの?」
ビッグジュン「……」
真紅「お願い…ジュン」
ビッグジュン「……」
真紅「ジュン」
ビッグジュン「……分かったよ」
ジュンはこれまでの経緯を詳細に真紅へ話した
真紅「そう、雪華綺晶に悟られない為にね…」
ビッグジュン「……なあ、草笛みつのみが知る情報ってなんだ?」
真紅「彼女は何も知らないわ」
ビッグジュン「え…?」
真紅「巻かなかった世界でのマスター達とローゼンメイデンの接点は0の筈よ」
真紅「巻いた世界でも知りえなかったのに、接点の無いこの世界でローゼンメイデンの秘密を知っているなんてありえないわ」
ビッグジュン「じゃ、じゃあ、何で…」
真紅「おそらくメールの主は巻いたジュンではなくて、別の…」
真紅「そうね、メールの主は…。いいわジュン、巻いたジュンにメールを送って頂戴」
ビッグジュン「メールを?」
真紅「そう、草笛みつと会ったと…彼女が母親になったという事も付け加えてね」
ジュン「そ、それだけでいいのか?」
真紅「えぇ、多分メールの主は草笛みつの情報が知りたかっただけ…巻かなかった世界のね」
真紅の進言どおりメールを送信するビッグジュン
そして数刻の間を置いて返信が帰ってくる
# しあわせかしら? #
ジュン「え? これだけ?」
メールの返信内容に困惑するビッグジュン
ジュン「これは…どうしよう真紅?」
真紅「どうって、そのまま聞かれたことを返答すればいいんじゃないかしら?」
ジュン「えっ、だって…そんなの分かるわけ…」
「ねぇ、君!」
ビッグジュン「げぇ! みつさん!?」
みつ「酷いよ、人が止めるのを聞かずに走ってっちゃうんだもの」
ビッグジュン「ししし、しあわせかしらーーー?」
狼狽し咄嗟に口に出たのはメールの内容だった
みつ「へ?」
ビッグジュン「あっ、こ、これは違う…」
みつ「ぷっくくっ…」
ビッグジュン「え?」
みつ「あっーっはっはっ…」
みつ「くくっ…面白いね、君」
ビッグジュン「えっと…僕を捕まえに来たんじゃないんですか?」
みつ「えー、なんで?」
ビッグジュン「てっきりストーカーかなにかに間違えられたんじゃないかと…」
みつ「そうねえ…最初はあやしい人かなって思ったんだけど」
みつ「昔の苗字を知ってるくらいならもっと昔から付きまとってもおかしくないもの」
みつ「ずーっとストーカーさんになんて縁が無かったしね♪」
先程と同じように屈託の無い笑顔をむけるみつ
その胸には無邪気に笑う赤ん坊の姿があった
ビッグジュン(能天気な人だな…後から昔の苗字を調べたかもしれないのに)
みつ「それにね!」
ビッグジュン「えっ?」
みつ「なんだかまったくの初対面って気がしないの! 初対面な筈なのにね。あははっ」
真紅(平行世界での無意識内の共鳴かしら?)
真紅(ジュン、今ならあなたの聞きたかったことが聞けるんじゃないの?)
ビッグジュン「え?あっ」
みつ「ん?」
ビッグジュン「あっあの…」
ビッグジュン「今…あなたは幸せですか?」
みつ「また、それ? そんなことばっかり言ってると宗教の勧誘と間違われちゃうよ? あはっ」
ビッグジュン「す、すいません…」
みつ「まあ…でもいいわ。何だか赤の他人って感じもしないしね」
みつ「とっても幸せよ。結婚もして子供もできて大好きな服作りも続けてるしね♪」
―――<nのフィールド>―――
「うっ…うっ…」
パソコンのモニターの前で黄色い衣装に身を包んだドールが
その大きな瞳に涙を滲ませじっとモニターに浮かんだ文章を見つめていた
# 草笛みつは幸せだ 僕の知りうる限りの最高の幸せを掴んでいる #
金糸雀「みっちゃんが…巻かなかった世界のみっちゃんがしあわせ…」
金糸雀「ジュンも…巻かなかった世界のジュンがしあわせ…うっ…うっ…」
ぽろぽろと涙をこぼし声を殺し泣き続ける金糸雀
金糸雀「カナ達が…ローゼンメイデンがこないほうが…みっちゃん達は幸せになれるの?」
金糸雀「うっ…うっ…今だってみっちゃんは雪華綺晶に狙われて危ない目にあってるし」
金糸雀「ジュンもこんな狭くて暗い部屋に家族にも会えずにいるし…」
金糸雀「ローゼンメイデンに関わった人間は皆、しあわせではいられないの? うえ~~~ん…」
堪え切れず大声で泣き出してしまう金糸雀
そしてその声で目を覚ますジュン
ジュン「うーん、なんだよ…大声で」
ごめんなさい、携帯の電源がきれたんでPCに変更しました
ジュン「あっ! こら! 勝手にパソコンに触るなって言っただろ」
金糸雀「うっ…えぐっ…ジュン」ダッ
ジュン「わっ!」
ジュンの胸にすがりつき大声で泣き始める金糸雀
金糸雀「うぇえ~ん、え~~~~ん」
金糸雀はこれまでの経緯をジュンに包み隠さず話した
ジュン「まったく…なにかコソコソやっていると思えば、僕のパソコンを勝手に使って…」
金糸雀「だって…だって…」
ジュン「だってじゃない!」
金糸雀「ひっ…ぐすっ…」
ジュン「片方が幸せになったら片方が不幸になるなんて決まりは無いだろ」
金糸雀「だけど…ローゼンメイデンのいない世界のマスターはみんなが幸せそうかしら…」
金糸雀「ローゼンメイデンのいる世界はみんなが大変な目にあっているかしら…」
ジュン「……はぁ」
金糸雀「ひゃ?」
ジュンはやれやれと頭をかくと、真紅達を抱きかかえるように金糸雀を抱っこした
そして金糸雀の涙を服の袖で拭ってやった
ジュン「なぁ、知ってるか? 雛苺や蒼星石のマスターの事を」
金糸雀「雛苺と蒼星石のマスター?」
ジュン「そう」
金糸雀「少しだけ話は聞いたかしら…雛苺のマスターはドールと一体になってしまう所だったって」
金糸雀「そして蒼星石のマスターはアリスゲームの最中、心の半身を失ったって…」
ジュン「あぁ、両方ともドールのせいでえらい目にあったんだ」
金糸雀「やっぱり…」
ジュン「でもな、柏葉は…雛苺のマスターは自分が消えてしまうかもしれないって時でも雛苺が生きてくれることを望んだんだ」
ジュン「蒼星石のマスターがただの人形になった蒼星石を、今でも傍らに置いているのは
命を賭してまで自分の影から解放してくれた感謝からだというよ」
金糸雀「雛苺…蒼星石…」
ジュン「なあ、酷い目にあってるっていうのなら、マスター達がドールを手放したくないって思うのは何でだろうな?」
金糸雀「えっ…」
ジュン「それはな、お前達がいなくなってしまう事が一番酷いことだと思ってるんだ」
金糸雀「ジュン…」
ジュン「ま、まあ僕はあいつらがいないと姉ちゃんが悲しむからしょうがなくだな…」
金糸雀「ジューン!」
ジュン「わっ…こらっ」
抱っこされた状態でジュンにすがりつく金糸雀
金糸雀「カナは…ドール達はマスターにこんなに思われてしあわせかしら…ぐすっ」
ジュン「そうだな、マスターの中でも飛び切り幸せなのがみっちゃんさんだと思うぞ」
ジュン「金糸雀が一緒にいない幸せなみっちゃんさんを想像するほうが難しいもんな」
金糸雀「あはっ…」
金糸雀「そうかしら!」
ジュン「ん?」
金糸雀「ジュン、最後に巻かなかったみっちゃんに謝りたいかしら!」
ジュン「謝る…?」
金糸雀「カナ悪い子だったかしら…例えこっちのみっちゃんがしあわせなることを願ったとしても」
金糸雀「巻かなかったみっちゃんがしあわせでなければいいとか思ってしまったことを…」
金糸雀「だから、もう一度巻かなかったみっちゃんに伝えたいかしら! カナの…気持ちを!」
―――<巻かなかった世界>―――
prrrrr
ビッグジュン「着た!」
# みっちゃん ごめんなさい #
ビッグジュン「な、何なんだこれは?」
ビッグジュン「幸せだって知らせてやったのに…」
みつ「ねーねーそのメールで私の事で返事が着たんだよね。見せてよ」
ビッグジュンから携帯をひったくるみつ
ビッグジュン「あっ! ちょっと…」
みつ「……」
ビッグジュン「みつさん、これは…」
みつ「……」
ビッグジュン「あの…その…」
みつ「なんだろ…こんな訳のわからないメールだけど、何だか…古い友達と再会したような…」
♪~♪♪~~
みつ「え… 着メロ?」
―――<nのフィールド>―――
金糸雀「ピチカート! もっと音を! もっと高く! もっと響かせて! more! more! more!」
パソコンの前でバイオリンを奏でる金糸雀
金糸雀「地の果てまでも、このnのフィールドを、世界の壁を通り越して、みっちゃんの元まで届けて!」
♪~♪♪~
金糸雀「祝福あれ!」
―――<巻かなかった世界>―――
♪~♪♪~~
みつ「これって…」
みつの頬を涙が伝う
ビッグジュン「これは…」
真紅(あの子らしいわね。どっちの世界でもマスターが大好きなんて ふふっ)
ビッグジュン「この着メロは…」
みつ「私に幸せにって…」
♪~♪♪~
・・・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
―――<巻いた世界>―――
金糸雀「ただいまかしら~」
みつ「カナァーーーーー!」
金糸雀に抱きつき火が出る勢いでほお擦りするみつ
金糸雀「み、みっちゃん…まさちゅーせっちゅ」
みつ「ごめんね…今日は遅くてご馳走を作れなかったの…」
金糸雀「そんなの気にしてないかしら」
みつ「え? 玉子焼きもないのに」
金糸雀「カナはねみっちゃんと一緒にいられるだけで…」
金糸雀「しあわせかしら!」
おしまい