ミョウジョウ学園
10年黒組・教室
溝呂木「よーしみんな、今日の生物の授業はDVDを見ながら勉強するぞー」
晴「晴、でっかいスクリーンでビデオ見るの初めてです!」ワクワク
兎角「そうか」
溝呂木「……あれっ」
晴「先生、どうしたんですか?」
溝呂木「授業に使う資料を職員室に置いてきてしまったみたいだ…」
溝呂木「ちょっと取ってくるからみんなは先にDVDを見ててくれ!」ダッ
伊介「ラッキー、今のうちに寝ちゃおうっと♥」ゴロン
春紀「伊介様、まーたサボりかよ」
香子「おい犬飼、寒河江、真面目に見ろ」
晴「あっ、はじまるみたい」ワクワク
画面『明日から高校生かぁ…私、ちゃんと友達できるかなぁ』
兎角「……ん?」
鳰「アニメ?」
元スレ
兎角「悪魔trick」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1399984093/
柩「アニメですね」
千足「アニメだな」
純恋子「アニメでお勉強だなんて…先生は私達を少し子供扱いしすぎなのではなくて?」
伊介「なーにこれ、つまんなそーう♥」
涼「香子ちゃん、このアニメの子達も高校生らしいぞ!おそろいじゃのう」
香子「…高校生向けの教材?なのか?」
鳰「それにしちゃーちょーっと絵柄が萌え~な感じっぽすぎる気がするッスけどねえぇ」
乙哉「『桜trick』だって、これって生物のDVDなの?」
しえな「……………」
画面『キス、キス、キス!もう夢中なのー♪』
みんな「!?」ビクッ!
画面『どーきどーきーしちゃうのよー♪』
鳰「……え、何スか今の、なんかめっちゃすっごいの映った気がするんスけど」
真昼「……………あぅ」カアァ
鳰「あっれぇ…?いやでも、うちの見間違いッスかねぇ?まさかそんな…」
春紀「いや…私も見たぞ、髪の毛ハネてる子と背低い子がキ……」
伊介「やだぁ気持ち悪い、止めてよそういうの」
春紀「えぇー…だって今!伊介様見てなかった!?」
晴「………?」
兎角(何だ今の…)
乙哉「……ある意味生物の授業、なのかな?」
しえな「保健体育じゃないか?」
春紀「なんでお前らそんな冷静なの?」
『私達は、他の子たちとは絶対にしない事をしようよ』
『じゃ、じゃあ……キス?』
『わ、分かった!しようじゃないかっ!!キス!!』
みんな「……………」
兎角(状況が掴めないな)
晴(はわわ…!?き、キスしてる!?女の子同士で!?)
鳰(あーぁ…やっちゃったッスねえぇ、溝呂木先生)
香子(ふ、不潔だ…)
涼(周りに誰もいないからって、最近の子は大胆じゃのう)
春紀「…………」チラッ
伊介「…………」Zzz
真昼(な、なに……これ…)ドキドキドキ
純恋子(ふむふむ!なるほど!こうすれば!)
しえな(二期まだなのか?)
乙哉(キス……ねぇ)
柩(すごい…これって、舌いれてるのかな…?)ドキドキ
千足(こういうのはまだ桐ヶ谷には刺激が強すぎるんじゃないか?)
溝呂木「みんな、お待たせー!じゃあ今から資料を配……」ガラッ
画面『こーのーひろーいせーかーいーであえたきーせーきー♪』
溝呂木「あ」
みんな「……………」
溝呂木「……………」
みんな「……………」
溝呂木「Noooooooooooooooooooooooooooo!!!」
溝呂木「なんて事だ、教材と趣味のDVDを間違えてしまうなんて…!」
兎角(趣味なのか)
晴(趣味なんですか)
鳰(趣味だったんッスねぇ)
溝呂木「いや違うんだみんな、これは…」
鳰「何が違うんッスかねぇ」
春紀「せんせー、言い訳はみっともないと思いまーす」
溝呂木「………」
溝呂木「……先生はこういうのが大好きだああああああああああああああああああ!!!」
鳰(言った…!)
伊介(うるさい…)Zzz
兎角(その後、溝呂木が改めて教材のDVDを取りにいっている間に授業は終わった)
金星寮C棟
1号室
晴「うぅ~…」ゴロゴロ
兎角「どうしたんだ、一ノ瀬」
兎角「帰ってきてからずっとそんな調子で…体調でも悪いのか?」
晴「あ、うぅん!大丈夫だよ…」
晴「でも…」
兎角「なんだ?」
晴「なんていうか…その、あのアニメが衝撃的すぎて…!」ゴロゴロ
兎角「…そういうものなのか」
晴「そ、そういうものなのかって…!兎角さんは何とも思わないの?あぁいうの」
兎角「………」
兎角「よく分からない、な」
兎角「キスとかそういうの、した事無いから」
兎角「一ノ瀬はあるのか?」
晴「えぇ!?無いよそんなの…!」カアァ
兎角「そうか」
兎角「………」
晴「……」ドキドキ
兎角「…友達同士でも、特別な関係だったらキスするのか?」
晴「そう…なのかなぁ…?」
兎角「…お前と私は、友達?」
晴「え…?」ドキッ
兎角「………」
晴「な、なんでそんな事…聞くの?」
兎角「お前と私はターゲットと守護者だ」
兎角「普通に考えたらこれって、特別な…」
晴「………!」
兎角「………いや」
兎角「やっぱり、なんでもない」プイッ
晴「兎角さん…」
兎角「変な話して悪かった、あんなのフィクションだ」
兎角「……私はもう寝る」ゴロン
晴「う、うん…」
…
晴「………」
兎角『…お前と私は、友達?』
晴「………」チラッ
兎角「………」Zzz
晴(うん)
晴(晴と兎角さんは…友達だよ)
晴「おやすみなさい、兎角さん」ゴロン
つづく
金星寮・C棟
5号室
しえな「ふふ…」ニヤニヤ
乙哉「……しえなちゃん、顔気持ち悪いよ」
しえな「気持ち悪いとかいうな!!ただニヤけてるだけだろ!」
乙哉「いやそれが気持ち悪…まぁいいや、何してるの?」
しえな「本を買ってきたんだ」
乙哉「本……『桜trick』?あれ、これって…」
しえな「うん!あのアニメの原作だ!!」
乙哉「………え」
しえな「既刊全4巻!今から5巻が待ち遠しい…!」ワクワク
乙哉「え…ちょっとまってしえなちゃん、いつの間にそんなにハマったの」
しえな「いつの間にじゃない、ボクは最初からファンだぞ」
乙哉「……そうなんだ」
しえな「原作もアニメも、家に置いてきたけど…1話を見たらまた読みたくなっちゃって」
しえな「授業が終わってすぐ本屋にダッシュしてきた!」グッ
乙哉「もう持ってるのにまた買ったの…?キモ、いやすごいね」
しえな「………」ギロッ
しえな「…まぁいいさ、ポピュラーな趣味じゃないことくらい分かってる」
しえな「誰に分かって貰えなくったっていいよ、ボクは一人で楽しむから……ふへへ」ニヤニヤ
乙哉(あたしの知ってるしえなちゃんじゃない…)
乙哉「はぁ…花でも刻もうかな」ジャキジャキ
しえな「すみはる……」ブツブツ
乙哉「…………」ジャキジャキ
しえな「それはそれで……」ニヤニヤ
乙哉(集中できない……)ジャキジャキ
乙哉「しえなちゃん、あたし外出てくるね……」ガチャ
しえな「うん」ニヤニヤ
ミョウジョウ学園
植物園
乙哉「…………」ジャキンジャキン
乙哉「……はあぁ、やっぱり切り刻むのって快感…!!」ゾクゾク
乙哉「そろそろ女の子も刻みたいなぁ…晴ちゃんとか、泣かせたい……!!」
真夜「なんだあの変態」
純恋子「触らないほうがいいですわね」
乙哉「ん…?なんだ、番場ちゃんと英ちゃんかぁ」
乙哉「昼のほうじゃなくて残念、真昼ちゃんとか結構あたしのタイプで…」
純恋子「ちょっとおやめなさい、番場さんが怖がるでしょう」
真夜「ビビらねーよ、真昼と一緒にするんじゃねー」
乙哉「で?二人はこんな時間にこんなとこで何してんの?」
純恋子「別に…散歩ですわ、ここは空気が綺麗で私の体に良いものですから」
乙哉「ふーん、そういえば体弱いんだっけ」
真夜「で?お前はここでなにしてるんだよ」
乙哉「なんか部屋に居づらくてさー…しえなちゃん、気持ち悪いんだもん」
純恋子「気持ち悪い…?」
乙哉「今日の授業で変なアニメ流れたでしょ?あれの原作の漫画読んでニヤニヤしてるの」
真夜(今日の授業…?何の話だ…)
純恋子「……原作!!あのアニメには原作がありますの!?」バッ
乙哉「!?」
乙哉「え?う、うん…そうらしいけど…?」
純恋子「……番場さん、ちょっと私用事を思い出しました!先に部屋に戻りますわっ!」ダッ
真夜「おう」
乙哉「………?」
純恋子「くっ!走ると息が苦し………!負けませんわああああああ」スタタタタタタ
真夜「…………」
乙哉「なにあれ」
真夜「わからん」
金星寮・C棟
5号室
純恋子「失礼しますわ!!」バターン
しえな「!?」ビクッ
純恋子「け、剣持さん…少し、お話が…っ!!げほっ」ゼェゼェ
しえな「英…?珍しい客だな」
純恋子「貴女が…桜trickの原作本を持っていると聞いて」ハァハァ
しえな「!」ピーン
しえな「うん、あるぞ…4巻まで全部ある、読みたいのか?」
純恋子「……是非」
しえな(まさかこれは……そうなのか、そういうことなのか?)
しえな(今、黒組の中に桜色の風が吹こうとしている!)
しえな(こんな機会絶対に見逃せない!布教してやる…!黒組を百合色に染めてやる!)
しえな「ふふふ…!」ニヤリ
純恋子「早く……出来れば私が倒れる前に…」ゼェゼェハァハァ
次の日
10年黒組・教室
晴「ふわぁあ……あふ」
晴(昨日はあんまり眠れなかったな…)
晴(兎角さんが変な事言うから…ターゲットと守護者で特別だ、なんて…)
晴(晴と兎角さんは友達で…それで、特別で)
晴(そうだったらなんだっていうの…!!)ドキドキ
兎角「おい一ノ瀬」
晴「はいっ!?」ビクッ
兎角「…顔が赤いな、風邪か?」
晴「えっ!?うぅん、大丈夫!何でもないから…」ソワソワ
兎角「……………」
兎角(明らかに様子がおかしい、まさか予告票が…?)
兎角(…いや恐らく違うな、昨日の放課後から朝まで一ノ瀬は外出してない…私の知らないところで予告票を受け取るのはありえない)
兎角(それにおかしいのは一ノ瀬だけじゃないみたいだしな)
兎角「………」チラッ
しえな「フフフフ……」ニヤニヤ
乙哉(相変らずしえなちゃんが気持ち悪い…)
柩「…………」ドキドキ
千足(昨日から桐ヶ谷の元気がないな、やはり昨日のは刺激が強すぎだったんだ…)
伊介「………」Zzz
春紀「………」ソワソワ
涼「なぁ香子ちゃん、わしと香子ちゃんって友達?」
香子「…?質問の意味が分からないんだが、多分そうじゃないか?」
純恋子「ふふふ…!すごい、画期的ですわ…!」ペラペラ
真昼「……?」
鳰「プチメロおいしいッスー」モグモグ
兎角「…………」
兎角(おかしいな…うんおかしい、明らかにおかしい)
純恋子(まさかこんな世界があったなんて…!世の中は本当に広いですわ!)
純恋子(他の子とは絶対にしない、秘密を共有した特別な友達…)
純恋子(ただの友達を超えた関係!これこそ私の求める形ですわ!)
純恋子(よし、思い立ったが吉日…さっそく行動にうつしましょう)ガタン
純恋子「……こほん、番場さん?少しよろしくて?」スタスタ
真昼「あ……え、えっと…あの、お茶会は…その…」オドオド
純恋子「ふふ、今日はお茶会の誘いではなくってよ…それもいつかしたいですけどね」ニコニコ
真昼「あ、あの…英さん…その、私は…お茶会は出れなくて…」オドオド
純恋子「番場さん、放課後の予定はあるかしら?」
真昼「え………な、ないです」
純恋子「そう、なら時間を空けておいて欲しいのですけど」
純恋子「……授業が終わったらまっすぐ寮に帰ってくること、約束ですわよ」ニヤリ
真昼「………?」
trick1「真昼と純恋子の桜色」
つづく
金星寮C棟
6号室
純恋子「………」
純恋子(遅いですわね、番場さん)
純恋子(授業が終わったらすぐに戻って、と言ったのに…)ハァ
純恋子(早くしないと日が暮れてしまいますわ!そしたら明日まで真昼さんには会えなくなってしまう…!)
純恋子「もどかしいですわ!いっそ探しに…!」
真昼「お、遅くなりました…」ガチャ
純恋子「あら、噂をすれば…ですわね」
真昼「すっ、すいません…!」
純恋子「うふ、お帰りなさい番場さん」
純恋子「早速ですけど…番場さんに見て欲しいものがありますの」
真昼(見て欲しいもの…?)
純恋子「これですわ」スッ
真昼「漫画……?」
『桜trick』
真昼「………え」
真昼(こ、これって昨日の…!えっちなアニメの…!?)ビクッ
真昼「え……わ、私にこれを…!?」ビクビク
純恋子「えぇ!さ、これが1巻ですわ」スッ
真昼「無理です…!ほんとに、むり…!!」カアァ
純恋子「まぁまぁそう仰らずに…119ページまででいいですから」
真昼「わたすには早すぎて…!」オロオロ
純恋子「……番場さん、貴女何か勘違いしてませんこと?」
真昼「え…?」
純恋子「これは別にいかがわしい漫画ではありませんわ」
純恋子「昨日の授業中もずっと顔を伏せて…ロクに見てなかったですわね」
真昼「だって…」オドオド
純恋子「まぁ読んでみれば分かりますわ、はいっ」ヒョイ
真昼「は、はい……」オロオロ
真昼(四コマ漫画……)ペラッ
…数分後
純恋子「さぁ番場さん!次のページへ!さぁさぁ!!」ハァハァ
真昼「いやああぁ…!!無理です、だめです、やめてぇ…!!」
真昼(な、なんでこの漫画…!女の子同士でキスなんて!?)ドキドキ
真昼(昨日のも見間違いじゃなかった…やっぱりえっちな漫画です…)
純恋子「キスくらいなんてことないですわ!ほら春香さんと優さんもやり放題でしょう!?」
真昼「で、でも胸とかも揉んでるます…!!」
純恋子「胸くらいなんですの、それくらい生田目さんだって桐ヶ谷さんのを揉んでましたわ」
真昼「!?」ガーン
純恋子「きっと他の方たちも、番場さんが知らないだけでその漫画に載ってるような事をしてますわ」
真昼(え…そ、そうなの…!?)ガーン
真昼(他の子…一ノ瀬さんや、東さん……走りさんも、みんな…?)ドキドキ
純恋子「…………フフフ」ニヤリ
純恋子(私は気づいたのです……番場さんとお近づきになるには、押すだけでは足りない…)
純恋子(お昼に誘っても、お茶会に誘っても…誘うだけでは断られてしまう…)
純恋子(なら!誘うのではなく巻き込む!押してダメなら押して押して押しまくる!これしかないですわ!)
純恋子(この勢いで今日こそ、番場さんとレッツコミュニケーションですわ)
純恋子「……ねぇ?番場さん?」スッ
真昼「あ、は…はい…?」
純恋子「思うに、私達にはこういったものが足りないと思いますの…」ピトッ
真昼「え?あ、あの英さん…近……」
純恋子「せっかくのルームメイトなのに、交流が少ないと言うか…夜になったら真昼さんは寝てしまうから仕方ないですけど…」
真昼「あ、あのっ…ちょっと、近いです…」ドキドキ
純恋子「番場さん、『特別』には興味ありません?」
真昼「近………えっ?」
純恋子「………ふふ」
真昼「は、英……さん?」
真昼「特別って…どういう…?」
純恋子「いやですわ、今読んだばかりでしょう?」
純恋子「他の子とは絶対にしない事をする関係」
真昼「………」
純恋子「………番場さん、目を閉じて」
真昼「えっ…!?ちょ、ええぇ…!?」
純恋子「………」スッ
真昼(ち、近いっ…!英さんの顔がこんなに近くに……)
真昼(……綺麗、それにいい香りがする……)ドキドキ
純恋子「……目は開けたままのほうがお好み?」ニコッ
真昼「英さん…こういうのって…よくないと思う、ます……」ドキドキドキ
純恋子「大丈夫…何の問題もありませんわ」
純恋子「だって私達、お友達でしょう?」
真昼「…………」
純恋子「……………」
真昼「友達……なんですか…?」
純恋子「」ピシッ
真昼「………」
純恋子(………それって)
純恋子(友達とすら、思われてなかったってことですの?)
純恋子「ふ……ふふ、ふふふふ……」
純恋子「わ…私としたことがとんだ道化でしたのね…!」
真昼「英さん…?」
純恋子「一人で、こんな……調子に乗って、舞い上がって…」
純恋子「押せばきっとどうにかなるなんて思いこんで……その実、私は」
純恋子「貴女の隣にすら、立てていなかった……そういう事なんですのね」
真昼「え………あっ、ち、違っ…!そうじゃないです…!!」
純恋子「お気遣いは結構ですわ番場さん、悪いのは私ですから」
真昼「違うます…!は、英さんっ」
純恋子「……今までしつこくお誘いしてごめんなさい」
真昼「………!」
純恋子「………私、少し外に出てきますわね」
真昼「………」オロオロ
純恋子「ちょっと頭を冷やしてきますわ、帰りは遅くなりそうなので…先に寝ていてください」
真昼「あ、あの………待って……」
純恋子「それでは」スタスタ
真昼「英さん……」
純恋子「…………」ガチャッ
真昼「………ッ!!」ダッ バンッ!
純恋子「なっ…!?ば、番場さん?そこをどいて…!」
真夜「………」ギロッ
純恋子「!」
純恋子「し、真夜さん……ですの?」
真夜「待てって、言ってんだろ…!」
つづく
真夜「待てって、言ってんだろ…!」
純恋子「真夜さん…」
純恋子「…待ちませんわ、そこをどいてくださる?」
真夜「あぁ?」
純恋子「今は真夜さんと……番場さんと一緒にいたくありませんの」
純恋子「私…今日ほど自分を愚かしく思った事はありませんわ、だって…」
真夜「うるせぇ」ガッ
純恋子「え?」
真夜「ふんっ!!」ゴチーン
純恋子「っ!?」
純恋子「なっ……!!い、いたいですわっ!!いきなり頭を叩くなんて…!何するんですの!?」ジーン
真夜「お前が人の話も聞かないで出ていこうとするからだよ…」
真夜「ったく…二人とも、揃いも揃って大バカだな」
純恋子「二人…?」
真夜「真昼も、お前も…バカすぎて見てらんねぇんだよ」
純恋子「……見てましたのね」
真夜「まぁ…そろそろ起きようかと思ってたところだったしな」
純恋子「……私が愚かだったことくらい、言われるまでも無く自分が一番分かってますわ」
純恋子「私は真昼さんの事を一方的に友達だと思い込んで、調子に乗って…」
真夜「おらっ」ベキィ
純恋子「たっ…!!なんでぶつんですの!?」
真夜「はあぁー……」
真夜「まぁ、確かに…お前は少し頭冷やしたほうがいいかもな」
純恋子「……?」
真夜「お前は人の話を聞かねぇし、真昼は大事な事をしゃべらねぇ」
真夜「見ててイライラするくらい相性悪いな、お前ら」
純恋子「……………」ズキッ
真夜「…………」ニヤニヤ
真夜「仕方ねぇから…今回だけは俺が特別に手を貸してやる」
真夜「真昼には俺からキツく言っといてやるよ、だからお前はちゃんと頭冷やしとけよ」ガチャ
純恋子「どこへ?」
真夜「さぁ?どこだろうな?」
真夜「んじゃ…また明日な」バタン
純恋子「………?」
…
純恋子「…………」
純恋子(頭を冷やす……)
純恋子(自分で言っておいてアレですが…どうすれば)
純恋子「……先生にかけあって、部屋を変えて貰おうかしら」
純恋子「……ふふ」
純恋子(そんな事をしても意味なんてないのに)
純恋子(黒組にいる以上嫌でも毎日顔を合わせることになる)
純恋子(これからずっと、番場さんとの間に気まずさを抱える事になるのかしら)
純恋子「…………」
純恋子「嫌ですわ、そんなの…」
…
純恋子「………ん」チュンチュン
純恋子(朝…?いつの間に寝てしまったようですわね…)ムクリ
真昼「………」
純恋子「………あ」
真昼「お、おはようございます……英さん」ペコリ
純恋子「番場さん、戻ってらしたのね…」
真昼「は、はい…」
真昼「あの、私…英さんに、言いたい事があって…」モジモジ
純恋子「………私もありますわ、聞いてくださいます?」
真昼「はい…」
純恋子「えっと…昨日は、ごめんなさい」
純恋子「いきなり『特別』だなんて…私、ちょっとおかしかったみたいですわ」
純恋子「番場さんには嫌な思いをさせてしまって、本当に…」
真昼「…………っ」グッ
真昼「い、いやじゃないです…」
純恋子「……え?」
真昼「英さんが…私の事、友達だって…言ってくれて、嬉しかったです」
真昼「私、ずっと…英さんのお誘いを断ってばっかりで…」
真昼「だから…そんな私を友達だと思っててくれてたなんて、知らなかったから…」
純恋子「………」
真昼「…真夜に言われました、私がちゃんと喋らないのが悪いって」
真昼「だからっ、ちゃんと…言うます」
真昼「私は、その…英さんの言う『特別』なのはまだちょっと恥ずかしいけど…」
真昼「これからも…英さんに仲良くして欲しい、です…!」
純恋子「………!」
純恋子「そう…そういう事でしたのね」
真昼「ほんとに、ごめんなさい…私がすぐに言わなかったから…」
純恋子「いえ、私のほうが…番場さんの話も聞かずに一人で話を進めて…」
純恋子「私達、もっと互いにゆっくり話し合う事が必要だったんですわね」
真昼「はい……」
純恋子「………番場さん、手を握ってもよろしくて?」
真昼「は、はい……」
純恋子「………」ギュッ
真昼「………」ドキドキ
純恋子「……これからは、一緒にお昼ご飯食べたいですわ」
真昼「ダイエット中なので、控えめでよかったら……」
純恋子「ふふ、そうでしたの」
純恋子「じゃあお茶会も…甘さ控えめの茶菓子を揃えますわ、来てくださいます?」
真昼「行きたいです…」
純恋子「……大好きですわ、番場さん」
真昼「私も……です」
純恋子「…………」
真昼「…………」
純恋子「番場さん」
真昼「はい…」
純恋子「………ほっぺにキスまでならよろしくて?」
真昼「ええぇっ…!?」ビクッ
純恋子「……嫌かしら?」
真昼「えぅっ…!あ、あの、そのっ…!」アタフタ
純恋子「………」ギュッ
真昼「嫌、じゃない…ですけど…!その、恥ずかしいので…!!」プルプル
真昼「………頑張りますっ」グッ
純恋子「………番場さん、目を閉じて」
真昼「…………!」パチン
純恋子「………」スッ
純恋子「…………んっ」チュッ
純恋子「…………」
真昼「…………」
純恋子「……物足りませんわね」ハァ
真昼「ご、ごめんなさい…?」
純恋子「ふふ、でも…今はここまででいいですわ」
純恋子「私と番場さん、どっちが逸りすぎても…迷いすぎてもいけない」
純恋子「これからは二人で一緒に…同じ速さで歩いていく」
純恋子「それが私と番場さんの『特別』」
純恋子「ここから先はまたいつか……ね?」
真昼「……はいっ」
夜
金星寮C棟・6号室
純恋子「~♪」ニコニコ
真夜「な、なんだよ……」
純恋子「ふふふ、私…真夜さんには本当に感謝していますのよ」
純恋子「私が部屋を出ていく時に、真夜さんが起きてくれなかったら…きっと私、未だに誤解しっぱなしでしたもの」
真夜「………まぁ、真昼が泣くとうるせーからな」
純恋子「…本当にそれだけ?」
真夜「あぁ?」
純恋子「実は私の事も心配で…とか、そういうのはありませんの?」
真夜「ねーよ、寝言は寝て言え」
純恋子「そう…残念ですわね」
純恋子「私は真夜さんの事も特別に思っているのに」
真夜「……………あ?」
真夜「え…?ちょ待っお前……それはどういう…?」
純恋子「嫌ですわ、言ったじゃ……って、そうでした」
純恋子「朝だったから真夜さんは寝てらしたのね」
真夜「朝?お前真昼に何言って……」
純恋子「大好きですわ、番場さん♪」
純恋子「……って言ったんですのよ」
真夜「え……?」
純恋子「んもぅ、にぶいですわね!」ププンスカ
純恋子「真昼さんと真夜さん!!……どっちも番場さんでしょう!?」
真夜「…………!」
純恋子「ひとまず…真昼さんはほっぺまで」
純恋子「真夜さんは……どこまでOKですの?」ニコニコ
真夜「え、えっと……!お、俺はだな……」ドキドキ
真夜「そういうのはまだ早……いや、くそっ!俺は何言ってっ…!!」
純恋子「うふふ♪」
真夜「~~~~!!」
真夜「……ほっぺまでだっ」
trick1「真昼と純恋子の桜色」 おしまい
昼
10年黒組・教室
純恋子「はいっ真昼さん、あーん♪」
真昼「あ、あーん…」
純恋子「おいしい?」
真昼「おいひいでふ…」モグモグ
柩「……」ジーッ
鳰「何ッスか、アレ」
晴「な、なかよし…だね」
春紀「あいつらあんなに仲良かったっけ?いや、悪くはなかったろうけど…」
しえな「ふふん、半分僕のおかげだな」
晴「そうなの?」
真昼「あ、あの…純恋子さん、私のも…」ヒョイ
純恋子「いただきますわ♪あーん♪」
兎角「一ノ瀬、食堂にいかないのか」
伊介「ちょっとぉ、なにやってんの?伊介もうおなかペコペコなんだけど…」
晴「あ、はいっ!今行きます!」ダッ
春紀「へいへい、それじゃあ行きますか」バッ
純恋子(みなさん食堂に行くみたいですわね、これで教室は私達二人っきり)
純恋子(食べさせあいだけじゃなくて、もっと他の事も……)ニヤニヤ
真昼「………」チラッ
純恋子「?」
柩「…………」ジーッ
純恋子「……何かご用かしら?」
柩「へっ!?あ、す…すいません…!特に用は…」ビクッ
千足「桐ヶ谷、こんなところにいたのか」スタスタ
柩「千足さん!」
千足「姿が見えなかったから先に食堂に行ったのかと思って…探したぞ」
千足「じゃ、行こうか」
柩「はいっ」
純恋子「…あの二人も仲が良さそうですわねぇ」
真昼「そう…ですね…」
純恋子「………キスとかしてるのかしら?」
真昼「………」カアァ
純恋子「私達もしてみます?」
真昼「ご、ごめんなさ……まだ、その…!」ドキドキ
純恋子「ふふふ、冗談ですわよ」ナデナデ
純恋子「それにしても、桐ヶ谷さんはどうかしたのかしら?」
真昼「わたすたちのお弁当……見てたんでしょうか?」
純恋子「お弁当を?そうね、確かに…真昼さんのお弁当おいしそうですものね」
真昼「お、おいしそうなら…純恋子さんのお弁当のほうが…」
純恋子「まぁ真昼さんったらお上手♪もう一口いかが?」スッ
真昼「あ、あーん…」
金星寮
金星食堂
柩「………」ボーッ
千足「桐ヶ谷…?」
柩「あ…はい、なんですか?千足さん」
千足「なんだか…最近元気がないみたいだな」
千足「何か悩み事でもあるのか?」
柩「そんな事…ないですよ」
千足「…その割には箸が進んでないみたいだが」
柩「え…あ、ほんとだ…」
柩「すいません、僕食べるの遅くて…」ムシャムシャ
千足「…………」
千足(明らかに様子がおかしいのだが…話してはくれなそうだな)
千足「なぁ、桐ヶ谷」
柩「はい?」
千足「……一ノ瀬のことか?」
柩「……?」
千足「前も言ったけど私は、一ノ瀬や桐ヶ谷みたいな子がこんなところにいるのは心配だ」
千足「出来れば何事も起こらず全て終わって欲しいと思ってる」
千足「…でも、桐ヶ谷がやるって言うんなら私は何も言えない、けど……」
柩「ぷふっ」
千足「?」
柩「違いますよ、予告票を出すつもりはないです……まだ」クスクス
千足「そ、そうか…すまない、早とちりしてしまって…」
柩「千足さん、ありがとうございます」
柩「僕のこと心配してくれてるんですね…嬉しい」
柩「でも、本当になんでもないから心配しないでください」
千足「桐ヶ谷……」
千足「ならいいんだ、余計なお世話だったな」
柩「…………」
柩(ごめんなさい、嘘です)
柩(でも僕の悩み、千足さんには言えないから…)
千足「そろそろ授業が始まるな…」ガタッ
柩「行きましょうか」ガタッ
千足「あぁ、行こう」ギュッ
柩「………」
柩(こうやって、千足さんはいつも手を繋いでくれる)
柩(あったかくって、優しくて……とっても嬉しい)
柩(でも……本当は、僕はそれだけじゃイヤなんです)
柩(もっともっと千足さんに触れてみたい)
柩(手だけじゃなく、もっと色んなところに……)ポッ
千足「………本当に大丈夫か?」
柩「あっ、すいませんボーッとしちゃって…」
放課後
金星寮C棟・4号室
柩「………」ボーッ
千足「桐ヶ谷?」
柩「あ…なんですか?千足さん」
千足「いや、食事に行こうと思って声をかけたんだが…」
柩「ごめんなさい、またボーッとしちゃって」
柩「僕はもう少しあとでいいです、千足さんはお先にどうぞ」
千足「そうか、じゃあ行ってくる」スタスタ
千足「…調子が悪いなら、今日は風呂は止めておいて早く寝た方がいいぞ」ガチャ バタン
柩「いってらっしゃい…」
柩「…………」
柩「………はあぁ」
柩(千足さんは、本当に優しいなぁ)
柩(初めて会った時からそうだった…)
柩(手を引いてくれて、僕を導いてくれた)
柩(……でもきっと、優しいのは僕が弱いから)
柩(体が小さいから…道に迷いやすいダメな子だから…)
柩(だから世話を焼いてくれるだけなんだよね…)
柩(そこに、それ以上の気持ちなんて…)
柩「…………」
柩(もし、僕が本当の事を言ったら……千足さんはどんな顔をするだろう)
柩「…………」
柩(本当の気持ちを晒して、今の関係を壊してしまうくらいなら)
柩(それなら僕は今のまま…優しくしてくれるだけで、いい)
柩「…………千足さん」
柩(大好きです……)
trick2「柩と千足の桜色」
つづく
千足「桐ヶ谷、桐ヶ谷」
柩「むぅ……」Zzz
千足「桐ヶ谷、起きろ」ユサユサ
柩「……ちたる、さん?」Zz
千足「そのままじゃ風邪をひく、着替えてから……」
柩「ん……」ギュー
千足「?」
柩「ちたるさん……」Zz
千足「…………よしよし」ナデナデ
柩「……すきです」Z
千足「…………」
柩「………んっ?」パチン
千足「あ……」
柩「………」ポケーッ
千足「お、おはよう…桐ヶ谷」
柩「あ…おはようございまふ、ちたるさん…」
柩「……………」
柩「………!?」ボッ
柩「ひゃあああっ…!な、なんでぼくっ…!千足さんにだ、抱き着いてっ…!?」バッ
千足「おぉ!?落ち着け桐ヶ谷!」
柩「ごめんなさいっ!僕、こんなつもりじゃ…!」カアァ
千足「ははは…寝ぼけてたんだな」
柩(いつの間に寝て…!そうだ、部屋で考えごとしてて、それで…!)
柩(うわああああ、よだれとか出てないよね…?寝言とかも…!)
柩「ちっ、千足さん…!僕、変な寝言とか言ってないですよね…!?」
千足「寝言…?」
柩『ちたるさん……』Zz
柩『……すきです』Z
千足「………」
千足「いや、何も」
千足「それより桐ヶ谷、寝るなら着替えた方がいい…風邪をひくからな」
柩「あ、いや…ちょっとうたた寝しちゃっただけだから…」
柩「…僕、ご飯食べてきますねっ」スタタ ガチャ バタンッ
千足「…あぁ」
金星寮
金星食堂
柩「はぁ…」
晴「柩ちゃん、どうしたの?」ヒョコ
柩「あ…一ノ瀬さん、東さんも」
兎角「生田目はいないのか…珍しいな」キョロキョロ
柩「…僕だって、いつも千足さんと一緒なわけじゃないですよ」
晴「そうなの?二人はとっても仲良しに見えるけどなぁ」
柩「確かに仲良しですけど、だからっていつも一緒なわけじゃ…」
柩「東さんだって、いくら好きだからってカレーばっかり食べてるわけじゃないでしょう?」
晴「兎角さんいつもカレーだよ」
柩「マジですか」
兎角「何が悪い、カレーは完全…」
晴「もう聞き飽きたよっ、それっ」
兎角「むっ……」
晴「でも気持ちは分からないでもないけど…好きな物は好きなだけ食べたいもんね」
兎角「そうだろ、カレーは完全食だから好きなだけ食べてもだいじょ…」
晴「野菜っ!!」
兎角「むぅ……」
柩「………いいなぁ」
とかはる「?」
柩「僕も好きな物、好きなだけ食べたいです」
兎角「食べればいいだろ、別に誰が怒る訳でも……」
晴「…………」ゴゴゴゴ
兎角「……まぁ、好きにしろよ」
柩「えへへ、好きにしたいです」
兎角「……?」
晴「兎角さん、ちょっと来てっ!」グイッ
兎角「な、なんだ…」
晴「せめてサラダも一緒に食べて!ほら買いに行こうっ!」グイグイ
兎角「くっ!離せ…一ノ瀬…!!」ズルズル
柩「………」
柩「………はぁ」
柩(現実は好き放題なんてできない、我慢しなくちゃいけないこと…いっぱいある)
柩(さっきだって千足さんに抱き着いたりして…つい、気が抜けてたから…)カアァ
柩(あのアニメの女の子達みたいに、どこでだって、いつだって千足さんに触れられたら……)
柩(好きにできたら、どれだけ幸せで……どれだけ楽か)
柩「…………」
柩(こんな事考えちゃうの…あのアニメのせいだ)
柩(あんな、恥ずかしいシーンなんて見せられたら…そういうこと考えちゃう……)
柩(いや、違う…そうじゃない)
柩(そう考えてしまったのは……僕の心の中に最初から千足さんがいたから)
柩(あの時、僕は…背の高い女の子を千足さんに、低い女の子を僕に当てはめて見てた…)
柩(アニメのせいなんかじゃない、僕は最初から……)
柩「…………」
柩「いっそ、離れたら楽になるのかな」ボソッ
柩(いつも一緒だから…ずっと隣にいてくれるから、つい触れたくなる)
柩(でも最初から手を伸ばしても届かない距離にあるのなら…まだ諦めて我慢できるのかもしれない)
柩(そうだ、どうせ言えないなら…そうしたほうがいい)
柩「……よしっ」グッ
兎角「桐ヶ谷が何かを決意している…」モグモグモグモグ
晴「兎角さん、サラダも食べて」
兎角「……………」モグモグモグモグ
晴「兎角さんっ!」
つづく
次の日
金星寮C棟・4号室
千足「………」Zzz
柩「………」ガチャ バタン
千足「……ん?」パチン
千足「朝……か」ムクッ
千足(今、扉の開く音がしたような…)キョロキョロ
千足「あっ」
千足「……桐ヶ谷がいない」
千足(先に行ったのか?)
千足(こんな早い時間に、何か用事でもあったのか)
千足「…………」
千足「…久しぶりだな、一人っきりの朝は」
10年黒組
教室
千足「……おはよう」ガラッ
千足「……あ」
鳰「それでー、兎角さんったらサラダ食べないで晴に怒られたんスよ」
兎角「…なんでお前が知ってるんだ?」
柩「結局食べなかったんですね…」
兎角「余計な栄養は必要ない、カレーは完全食だからカレーだけあればいいんだ」
柩「って言ってますよ、一ノ瀬さん」
晴「もう知らないもんっ」ププンスカ
千足「桐ヶ谷、やっぱり先に行ってたのか」
柩「あっ千足さん、おはようございます」
鳰「あれー生田目さん?桐ヶ谷さんが先に来たからてっきりお休みなのかと思ったッスよ」
晴「調子でも悪いんですか?」
千足「いや…そんな事はないが」
千足「起きたら誰もいないから心配したぞ…」
柩「ごめんなさい…一言置いていくべきでしたね」
千足「何かあったのか?」
柩「え……えっと」
千足「?」
柩「…東さん達と、食生活についてお喋りしたくて早起きしちゃいました」
千足「そ、そうか」
鳰「ほら兎角さーん、桐ヶ谷さんにも心配されちゃってるッスよぉ」
兎角「なんでだ…カレーの何が悪いんだ?」
晴「悪いのは兎角さんだよ…?」
柩「ふふふ」クスクス
千足「ならいいんだ、何かあったんじゃないかと心配してしまった…」ホッ
柩「…………」
柩(心配かけてごめんなさい、千足さん)
柩(でも、このほうがいい…お互いのためなんです)
…休み時間
千足(ふぅ、終わった)
千足(のどがかわいたな、桐ヶ谷と一緒にお茶でも…)
千足「桐ヶ谷、一緒に…」クルッ
鳰「しかし兎角さんのカレー好きは異常とも言えるレベルッスねぇ」
柩「そうですね」
兎角「別に好きなわけじゃない、私は効率を重視してるんだ」
晴「じゃあ定食でもいいよね?兎角さん、今日は晴と一緒にバランス定食食べよう?」
兎角「……いや、カレーだ」
晴「なんで!?」
鳰「最早中毒ッスね」
兎角「そんな事はない」
柩「もう止められないんじゃないですかね」クスクス
千足(…話題に入れない)
千足(まぁ、こういう時もあるな)
…お昼休み
食堂のおばちゃん「いらっしゃい」
兎角「……チキンカ」
晴「バランス定食2つください!」
兎角「一ノ瀬!!お前…!」ガーン
鳰「おーっとぉ!晴がここで強硬手段にでたぁーーっ!!」
柩「チキンカレーください」
鳰「あ、うちはプチメロ!」
兎角「おい一ノ瀬…!走りもメロンパンばっかり食べてるぞ…いいのか?」
晴「まずは兎角さんの食生活を矯正します」ゴゴゴゴ
鳰「あれ…?『まずは』って事はうちもそのうち矯正されちゃうんスか…?」
晴「………」ニコニコ
柩「カレーおいしそうです」ニコニコ
兎角(くっ…!私の目の前でカレーを…!!)
千足「………」ポツン
千足(食堂のテーブルは四人掛け…か)
…放課後
溝呂木「よーし、じゃあ今日はここまで!」
柩「………」
千足「………」
柩(しまった…放課後のこと、考えてなかった…)
柩(このまま部屋に帰ったら千足さんと二人っきり…どうしよう…)オロオロ
千足「……なぁ、桐ヶ谷?」
柩「は、はい…なんですか?千足さん」
千足「その…放課後は何か、予定はあるのか?」
柩「………」
千足「無いなら少し、私に付き合って欲しいんだ」
柩「………」
千足「……忙しいか」
柩「そ、そんなことは…ないです」
柩(どうしよう)
金星寮C棟
4号室
千足「………」ガチャ バタン
柩(寮?)
柩「あの…千足さん?」
千足「ん?」
柩「どこかへ行くんじゃないんですか?付き合って欲しいって…」
千足「あぁ…うん、そんな大した用じゃないんだ」
千足「二人で部屋で、ゆっくりしたくて」
柩「………」
千足「なんだか今日はなかなか桐ヶ谷と一緒にいれる時間がなかったからな」
千足「一日時間が取れなかっただけで…なんだかすごく長い時間会えなかった気分だ」
千足「それに…桐ヶ谷に聞きたいことがあって」
柩「僕に…?」
千足「………やっぱり何か悩んでないか?」
柩「………!」
千足「余計なお世話かもしれないけど、最近の桐ヶ谷は何か抱えてるように見える」
千足「私でよかったらなんでも助けになる、だから…」
柩(なんで…!)
柩(なんであなたはそんなに、優しい)
千足「……桐ヶ谷?」
柩「………っ」
柩「…悩み事、あります」
千足「やっぱりか、なら…」
柩「もう僕に優しくしないでください」
千足「………え?」
柩「……辛いんです、千足さんに優しくされるのが」グスッ
柩「千足さんが僕の事を思ってくれるほど、僕は辛い」
柩「きっと僕の想いは千足さんには伝わらないから…だから…!」ポロポロ
柩「だから、しばらく一人にしてください」
千足「きりが…」スッ
柩「……っ」ダッ ガチャ バタンッ!
千足「桐ヶ谷っ」
千足「………」
千足(想い、か……)
千足「………」
柩『ちたるさん……』Zz
柩『……すきです』Z
千足(きっと、あの時の寝言のこと……だよな)
柩『……辛いんです、千足さんに優しくされるのが』グスッ
千足(つまり…それは、そういうこと……か)
千足(そうだとしたら…)
千足「…大丈夫だ、桐ヶ谷」
千足「君の想いが伝わらないなんてこと、ない」
千足(行かなくては、桐ヶ谷を探しに…!)ザッ
つづく
ミョウジョウ学園
屋上
柩「うぅっ……ぐすっ」メソメソ
柩(言っちゃった……千足さんに)
柩(我慢するって決めてから、まだ一日も経ってないのに…!)
柩「僕は……ダメな子だ」
柩「弱すぎる……」
千足「そんな事ないんじゃないか?」
柩「………ちたる、さん」グスグス
千足「意外と早く見つけられたな…さ、帰ろう」
柩「イヤです」
千足「………」
柩「もう放っておいてください…僕に優しくしないで…」
千足「それは出来ない相談だな」
柩「………」
千足「なぁ、桐ヶ谷……」
柩「………」
千足「実は、昨日の夜の事なんだが」
千足「……桐ヶ谷の寝言を聞いてしまったんだ」
柩「……?」
千足「桐ヶ谷は寝言で…私の事を好きだと言ってくれた」
柩「!?」
柩「な、なんでっ…!!そんな…!?」
千足「桐ヶ谷の、想いって言うのはつまり…そういうことだろう?」
柩「うぅっ……!」バッ
千足「…………」
柩「…………」
千足「……顔を上げてくれ、桐ヶ谷」
柩「…………」
千足「…………」
柩「もう、帰って下さい……」
千足「…………」
柩「お願いですから、僕に構わないで…!」
千足「構うさ、桐ヶ谷が泣き止むまでそばにいる」
柩「なんで……どうして……」グスグス
千足「…私も、桐ヶ谷の事が好きだから」
柩「!!」
千足「優しくされるのが辛いと言われても…私は桐ヶ谷に優しくせざるをえない」
千足「桐ヶ谷の事が好きだから優しくしたくなってしまうんだ」
千足「好きな人をこんなところに置いて一人で帰るなんて私には出来ないよ」
柩「ほんと……ですか…?」
千足「本当だ」
柩「…………」
柩「考えていたんです…なんで千足さんが僕に優しくしてくれるのか」
柩「それはきっと僕が弱いからで…放っておけないから、だから優しくしてくれるんだと思ってました」
柩「それはただ純粋な優しさで…僕だけが特別なわけじゃないって」
柩「だから僕が…千足さんの事を好きになっても、想いは届かないって…そう思ってたんです」
千足「それで、優しくされるのが辛いって……」
千足「……大丈夫だよ桐ヶ谷、私は特別桐ヶ谷にだけ優しいんだ」
千足「それと、私は桐ヶ谷のこと…弱いだなんて思ってない」
柩「……?」
千足「たった一人で、泣くほどに苦しいのを我慢する桐ヶ谷が弱いわけないだろう?」
柩「…………!!」
千足「……おいで」スッ
柩「…………」スタスタ
千足「………」ギュッ
柩「………ふぐっ」
柩「うっ……うぅ、うわあああああああん!!」ギュー
千足「………よしよし」ナデナデ
柩「ひっぐ、ぐすっ…!ふえぇ…!!」
柩「すきです、ちたるさん…!!」
柩「だいすきですっ…!」
千足「……私も大好きだ、柩」
柩「………」グスッ
千足「………」ナデナデ
柩「……泣いたらすっきりしました」
千足「そうか、それはよかった」
千足「戻ろう、日も暮れた……じきに冷える」
柩「………」ギュ
千足「柩?」
柩「あ、あの…千足さん」
柩「僕……千足さんにお願いしたい事があるんです」
千足「なんだ?」
柩「……キス、しませんか」
千足「…………え」ドキッ
千足「き、キスって…!あの、あれか?マウストゥマウス?」アタフタ
柩「はい」
千足「そうか……困っ…いや困りはしないが……」アセアセ
千足「………」
柩「…………」ジー
千足「わ…分かった、しようか…」ドキドキ
柩「!」パアァ
千足「ただ……あの、その……なんだ」
柩「?」
千足「私は…その、そういう経験が無くて……だな」モジモジ
千足「うまく出来るか分からないというか…歯と歯がぶつかったら痛いって言うし…」
千足「もしかしたら柩を傷つけてしまうかもしれないというか…だからだな…」
柩「……ふふ、いいですよ」
柩「千足さんになら僕、何されたって平気ですから」
柩「だから…いっそ、千足さんがしたいなら乱暴にされたって……」ポッ
千足「そ、そんな事できるわけ……」
柩「ふふっ」ワクワク
千足「………出来るだけ、丁寧に出来るように気を付ける」スッ
柩「はい……」
千足「…………」ドキドキ
柩「…………」ドキドキ
千足「んっ………」チュッ
柩「ん………」ビクンッ
千足「こ、これでいいのかな……」スッ
柩「………」ドキドキ
柩「もっと、して欲しいです……」ギュッ
千足「分かった……」
千足「………」チュッ
柩「ん………」
千足「ん……くっ」
柩「ん、んむっ……あっ…」
柩(嬉しい……)
柩(千足さんの唇に…体に触れてる)
柩(本当に、幸せ……)
柩「……ずっと、千足さんとこうしたいって思ってました」
千足「そうか…」
柩「千足さんの『特別』になりたいって…」
柩「でも、最初から僕は特別だったんですね」
千足「うん…初めて出会った時から、そうだった」
柩「ふふ…やっぱりこれって、運命ですかね」
千足「……そうだと嬉しいな」
柩「……これからもずっと、こうしていたい」
柩「千足さんと手を繋いで、一緒に…」
千足「…それくらい、お安いご用だ」ギュッ
柩「…………」ギュー
(それから…僕たちはしばらく、二人っきりで屋上で星を見上げていた)
(静かに…黙ったまま、時折キスをしながら…手を繋いで)
trick2「柩と千足の桜色」 おしまい
千足「…………」
柩「…………」
晴「……………!」ジーッ
晴「は、はわわ……!」プルプル
つづく
土曜日
金星寮C棟・1号室
晴「……………」
兎角「…一ノ瀬?起きてるのか?」
晴「……………」
兎角「……寝てるのか」
晴「……………」
兎角「…………」
兎角「…………」スタスタ ガチャ バタン
晴「…………」モゾモゾ
晴「………はぁ」ゴロン
晴(うぅ…ごめんなさい、兎角さん)
晴(今はどうしても兎角さんと顔を合わせられなくて…)
晴(……晴はすこし、おかしいんです)
晴(昨日、あんな事があったから…)
trick3「晴の桜色」
…昨日
放課後
ミョウジョウ学園・10年黒組教室
晴「あれ?あれー…?ないなぁ…?」ガサゴソ
晴「晴のふでばこ…机の中に入れっぱなしかと思ったのに」ガサゴソ
晴(早く戻らないとまた兎角さんに怒られちゃう…)
晴(って言っても、今は予告票も来てないし大丈夫だと思うけど)
晴「う~ん…やっぱり部屋のどこかかなぁ?」ガサゴソ
晴「一旦寮に戻って…」
柩「…………っ!!」ズダダダダ
晴「?」
晴(今…廊下を走ってたのって、柩ちゃん?)
晴「ど、どうしたんだろ…あんな柩ちゃん、見るの初めて…」
晴「何かあったのかな…?」
千足「こっちか…!?」スタタタタタ
晴「わっ」ビクッ
晴「い、今のは千足さん…速いっ!」
晴(柩ちゃんを追いかけてた…のかな?)
晴「やっぱり何かあったのかな」
晴「どうしよう、追いかけた方が…?」
晴「でも何があったのかよく分からないし、晴が行っていいものか…う~ん」
晴「…………」
晴「行こうっ」ダッ
晴(何か困ったことがあったんなら、晴だって力になりたい)
晴(きっと兎角さんなら晴が困ってたら、助けてくれる)
晴(だから晴も友達の助けになろう!)スタタタタ
…
晴「はぁ…はぁ…!」ゼェゼェ
晴「二人とも…足、速っ…!!」ハァハァ
晴「どこ行ったんだろ、見失っちゃったな」
晴「……ん?」
柩『………!……!!』
千足『…………!』
柩『………!!』
晴(柩ちゃんと、千足さんの声?)
晴(階段の上から…そっか、屋上だ!)ダッ
ミョウジョウ学園
屋上前・階段
晴(二人の声聞こえる…やっぱりここだ)
晴(何してるんだろう?もしかしてケンカしてたりとか…)
柩『……キス、しませんか』
千足『…………え』
晴「…………えっ?」
千足『………出来るだけ、丁寧に出来るように気を付ける』
柩『はい……』
晴(えっ、ええぇ!?二人とも何してるの!?)ドキドキ
晴(そんな、まさか…柩ちゃんと千足さんが…!)
晴(あのアニメの女の子達みたいなこと…)
晴(見ちゃだめだ、早く帰らなきゃ…!)
晴(……でも)ドキドキドキ
柩『もっと、して欲しいです……』
晴「…………」ドクンドクン
晴(ふ、二人とも……)
晴(……ごめんなさいっ)コソコソ
千足『ん……くっ』
柩『ん、んむっ……あっ…』
晴「……………!」
晴「は、はわわ……!」プルプル
…
晴(……その後の事はあんまり覚えてない)
晴(なんとか二人に気づかれる前に寮に戻ってきた……んだと、思う)
晴(気付いたら晴は部屋にいて……)
金星寮C棟
1号室
「……瀬!返事しろ、一ノ瀬!!」
晴「………」ハッ
兎角「しっかりしろっ!……晴!!おいっ!!」
晴「あ…とかく、さん?」
兎角「どうした!?何があった…!誰にやられた!?」
晴「……へ?」
兎角「予告票が届いたのか?いつだ、どこで受け取った!?」
晴「よ、予告票?」
晴「予告票なんて来てないけど……」
兎角「…………え?」
兎角「……はあぁ」ガクッ
晴「と、兎角さん!?大丈夫!?」
兎角「なんなんだ、まったく…!」
晴「どうかしたの…?」
兎角「どうかも何もあるか!いきなりお前が部屋に飛び込んできたと思ったら…!!」
兎角「しゃがみこんで、動かないで…一言も喋らない…!!」
兎角「誰かに襲われたのかと…心配するだろ」ハァ
晴「え、あ……あぁ」
晴「ごめんなさい、でも大丈夫だから…」
兎角「そうか、それならいいが……じゃあ何があった?」
兎角「あんなに切羽詰ったお前は初めて見たぞ」
晴「…………」ドキドキ
兎角「?」
晴「な、なんでもないよ…何にも、なかったから」
晴「晴は平気…心配してくれてありがとう、兎角さん」ニコッ
兎角「…………ふぅ」
兎角「まぁ……いい、何もなかったなら」
晴「………」
…今
金星寮C棟・1号室
晴(晴の隣で、冷や汗をたくさんかいて溜め息をつく兎角さん)
晴(その姿を見た時…何故か晴は、顔が熱くなるのを感じていた)
晴(兎角さんが、晴のためにこんなに必死になって心配してくれているんだって分かったら)
晴(…兎角さんがこの前言った言葉が頭に浮かんできて)
兎角『…友達同士でも、特別な関係だったらキスするのか?』
兎角『…お前と私は、友達?』
兎角『お前と私はターゲットと守護者だ』
兎角『普通に考えたらこれって、特別な…』
晴(……晴は忘れてた)
晴(晴は、忘れようとしていた)
晴(忘れたふりをして、なかったことにしようとして、そして…思い出した)
晴(晴の内側から、身体を叩き揺らす鼓動)
晴(兎角さんの横顔を見つめていると響くそれが、確かに胸の中にあることを)
晴(あれ以来、晴の中で兎角さんは…とても特別な存在になっていたことを)
trick3「晴の桜色」 おしまい
月曜日
10年黒組・教室
香子「…………」
鳰「神長さーん、おはよざいあーッス」
香子「………あぁ」
香子「………」チラッ
真昼「純恋子さんのお弁当…楽しみです」
純恋子「うふふ、真昼さんったら…まだ朝ですわよ?」
香子「………」チラッ
しえな「コトしずの薄い本…ふへへへへへ…!」ハァハァ
香子「………」チラッ
乙哉「はあぁ…!足りない、もっとぉ…!」ジャキンジャキンジャキンジャキンジャキン
香子「………」チラッ
柩「千足さん……」ピットリ
千足「教室じゃダメだよ柩…」
香子「…………」イライラ
…昼
溝呂木「よーし、じゃあ午前はここまでー」キーンコーンカーンコーン
春紀「はー、終わった終わった……ほら、伊介様起きろって」ポンポン
伊介「んむぅ…♥」Zzz
千足「食堂に行こうか」ギュッ
柩「はいっ♪」ギュ
香子「………」イライライラ
涼「さて今日のお昼は何を食べようかの…だいぶ暑くなってきたし蕎麦でも…」
涼「香子ちゃんはどうする?」
香子「………」イライライラ
涼「…香子ちゃん?」
純恋子「待ちに待ったお昼ですわ、はい真昼さん♡あ~ん♪」
真昼「あーん…♪」
香子「」ブチィ
香子「いいっ……加減にしろぉ!!お前らぁ!!」バーーン!!
すずにおはるひつちたおとしえすみまひとかはる「!?」ビクッ
伊介「……うるさぁい」ムクッ
香子「はぁ…はぁ…!!」ゼェゼェ
涼「ど、どうしたんじゃ香子ちゃん…いきなり…」
香子「いきなりじゃない…最近ずっと思っていたんだ…」
香子「黒組の風紀が…乱れている!!」ドーン
晴「風紀?」
しえな「そうかな?ボクはそうは思わないけど」
香子「お前も乱れの一部だぞ剣持しえな!!」ビシィ
しえな「えぇっ!?なんで!?」ガーン
香子「教室で漫画を読むな!!」
しえな「うっ…べ、別にいいだろ……休み時間しか読んでないし…」オロオロ
乙哉「しえなちゃん怒られてるー、かっわいそー」
香子「武智、お前は教室で鋏を振り回すのを止めろ」
乙哉「え゛っ…!?」ガーン
乙哉「な、なんで…!?」オロオロ
香子「危ないからだ!いいか、お前が鋏を持っている手の高さは桐ヶ谷の目線の高さで…」
鳰「それ煙草じゃないッスか?」
春紀「まぁどっちにしろ危ないな」
柩「僕そこまで小さくないですけど…」
千足「大丈夫だ、柩は私が守る」
柩「千足さん…!」キューン
香子「そういうのも風紀の乱れの一部だ!」ビシィ!
千足「何…?」
香子「なんだか知らんが最近…よく教室の中で必要以上に密着している奴が何人かいる」
純恋子「………」ピクッ
香子「この際だから言っておく、学校とは勉強するための場所だ」
香子「イチャイチャしたり漫画を読んだり花を切り刻んだり…ましてや寝る場所ではない!」
伊介「………」ピクッ
香子「みんなにはもっと学生としての自覚を持って行動してもらいたいものだな」
伊介「なにそれ?伊介にケンカ売ってるわけ?」ガタンッ
春紀「お、おい…伊介様、やめとけよ」
純恋子「聞き捨てなりませんわね、個人の行動にまでとやかく言われる筋合いはないですわ」ガタン
真昼「す、純恋子さん…」オロオロ
乙哉「ふーん、そんな事言うんならさぁ?神長さんが代わりに切り刻まれてくれるの?」ジャキッ
しえな「武智!」
香子「…………」ギロッ
いすおとすみ「…………」ゴゴゴゴゴ
晴「や、止めようよみんな…ケンカってよくないよ…」
兎角「一ノ瀬、私の後ろにいろ」バッ
香子「文句があるんなら……」
涼「ていっ」ベシィ
香子「痛っ」
涼「一ノ瀬の言うとおりじゃな、ケンカはよくないぞ香子ちゃん」
香子「なっ…!?なにするんだ首藤!」
涼「落ち着けと言ってるんじゃ、ほれみんなも」
乙哉「チッ……」スタスタ
春紀「ほら伊介様、メシ食いに行こうぜ…な?」
伊介「……フン、やる気なくなっちゃったぁ♥」プイッ
真昼「………」グスッ
純恋子「ごめんなさい真昼さん、お見苦しいところを…」
香子「…………」
涼「香子ちゃん、委員長として頑張ってるのは分かるが…もう少し肩の力を」
香子「別に、そんなんじゃない…私はただやるべきことをやっているだけだ」プイッ
涼「どこへ?」
香子「お昼ご飯だ」スタスタ
涼「………」
涼「ふーむ……ピリピリしてるみたいじゃの」
涼「……ここはひとつ、お姉さんが揉みほぐしてやるとするかの」ニヤリ
trick4「涼と香子の桜色」
つづく
放課後
金星寮C棟・3号室
香子「………はぁ」ガチャ
涼「おっ?香子ちゃん、遅かったの」
香子「あぁ…少しね」
涼「…その様子だと何かあったようじゃな」
香子「………」
香子「ちょっと武智に追い掛け回されてた」
涼「そ…それは災難じゃの…」
香子「まったく、なんなんだあいつは…!危なすぎるぞ」
涼「んーまぁ、あやつはあの性分じゃからの…溜まっとるんじゃろ」
香子「溜まるって…何が」
涼「…自分で言っといて何じゃが、乙女の口から言わせる気か?」
香子「……?」
涼「武智は快楽殺人者じゃろう、だから…」
香子「…………」
香子「………っ!」カアァ
香子「ふ、ふざけるなっ…そんな理由で殺されてたまるか!!」
涼「んーむ…難儀な性分じゃの、武智…」
香子「はた迷惑な奴だな…自制とか出来ないのか…?」
涼「…まぁ無理じゃろうな、人の欲とはそう簡単に抑えきれないモノ」
涼「特に自分のなら尚更…本能には抗えんものじゃ」
香子「………私は、違う」
涼「ほう?」
香子「みんなみたいに色恋で浮かれたりしない、やるべき事があるから…」
涼「……ま、それも大事なのは分かるが」
涼「時には息抜きも必要だと思うぞ、香子ちゃん」
香子「…大きなお世話」
涼「まぁまぁ、今日はちょっと一休みと行こうではないか」
涼「香子ちゃんのために素敵な物を用意してあるでの」
香子「素敵な物…?」
涼「そうじゃ、さ…こっちに」
涼「っと、その前に…言い忘れておった」
涼「おかえり、香子ちゃん」
香子「……?ただいま」
涼「ご飯にする?お風呂にする?それとも……わし?」
香子「………は?」
…
涼「と言うわけで、お風呂をたてておいたぞ!」ジャーン
香子「はぁ」
涼「わしお気に入りの入浴剤入りじゃ、さっ!存分に日頃の疲れを落としてくれ」
香子(まぁ…確かに今日は疲れたな)
香子「じゃあ、お言葉に甘えて…ありがたく浸からせてもらうとしよう」
涼「ふふふ、ごゆっくり」
香子「うん」スタスタ ガチャ バタン
涼「…………」ニヤリ
涼(作戦成功!面白くなってきたの!)ニヤニヤ
香子「………ふぅ」カポーン
香子(いい気持ち……流石首藤一押しの入浴剤なだけある)
香子「特にこの香りが…落ち着く」バシャ
涼「ふふん、そうじゃろ?そこがわしのお気に入りでの」ガチャッ
香子「あぁ…」
涼「いい事があった日に使うと決めてるんじゃが…今日は香子ちゃんのために特別じゃ」ペタペタ
香子「そうか、それはありがたいな…」
涼「ちょっと詰めてくれ、入りにくいでの…」
香子「あぁ、すまない」バシャ
涼「ふう……」ザバー
香子「………」カポーン
涼「………」カポーン
香子「………なんで首藤まで入ってるんだ!?」ザッバーン
涼「お約束の反応、流石香子ちゃん」
香子「くっ…!鍵を閉め忘れたか…!!」
涼「たまには裸の付き合いも、って事でここは一つ」
香子「まぁ……いいけど」
香子(でもなんだか落ち着かないな…)
香子(一緒に入るって言っても、大浴場と部屋の風呂じゃ勝手が違うし…)ソワソワ
涼「まぁまぁ香子ちゃん、そう硬くならずに」モミュモミュ
香子「ひゃあぁっ!!」ビクッ
涼「む…やはり、結構こってる…」モミュモミュ
香子「んっ…!な、何してるんだ首藤!」ビクッ
涼「肩もみ…香子ちゃんを労ってやろうと思って」モミュモミュ
涼「言ったはずじゃ、息抜きも必要だとな」モミュモミュ
涼「ほれほれ、わしの腕はなかなかじゃろ」モミュモミュ
香子「ん~…!」ビクッ
涼「遠慮せず声を出してもいいぞ、どうせわししか聞いておらんしな」モミュモミュ
香子「だ、だめだって…!首藤…!」
涼「ほれほれほれほれ」モミュモミュ
香子「あっ、や、んっ…!あっ…!」
香子「うぅ……」ゼェゼェ
涼「こ、香子ちゃん……大丈夫?」
香子「ちょっと、まって…!ほんとに…」ヒィヒィ
涼「敏感なんじゃの、これはいい事を知った」
香子「首藤!お前なっ…!」ザバァ
涼「うおっ!?ちょ待っ香子ちゃん落ち着け!」
涼「もうしないから…ほれ、深呼吸深呼吸」
香子「まったく…」スーハー
香子「…………」スーハー
香子「……ふぅ」
涼「落ち着く香りじゃろ」
香子「うん……これは何の香りなんだ?」
涼「桜じゃ」
香子「桜……」
涼「香りの効果は主に気分の鎮静…今風に言うとリラックスかの?」
香子「…桜はこんな香りがするんだな」
香子「私の育った施設の周りには桜は無かったから、知らなかった…」
涼「うん…まぁ植わっていたとしてもきっと知らないままだったと思うがの」
香子「え?」
涼「今日本でよく見る事の出来る桜……主に染井吉野じゃが」
涼「それらは香りが弱いでの、普通に見ていて香りを感じられる事はまずない」
涼「嗅ぎたいならそれなりに強い香りの品種を探さなくてはの」
香子「…詳しいんだな、桜が好きなのか?」
涼「………」
涼「香りは好き…だけど、花は」
涼「複雑じゃの」
涼「たくさんの桜の季節を数えて、今まで生きてきた」
涼「その間には楽しい事も、辛い事も…色んな事があったから…」
涼「……ま、それは何も桜の季節に限った話じゃないが」
香子「たくさんって、せいぜい十数回くらいだろうに」
涼「ふふふ」
香子「?」
涼「まぁ春は好きじゃよ、うん」
涼「出会いの季節だからの、寂しがり屋のわしにはありがたい」
香子「……出会い、ね」
香子「出会いは…あまり好きじゃない、みんな浮かれて…騒がしくなる」
涼「…そのみんなと言うのは黒組のみんなのことかの?」
香子「………」
涼「人と人との出会いはいつだってそう、騒がしいものじゃと思うがの」
涼「加えて、この前の授業の事件は衝撃的だったからの…みんなが触発されるのもまぁ、無理はない」
涼「少なくとも、仲がいいのはいい事だとわしは思う」
香子「案外、肯定的なんだな」
涼「剣持じゃないが、見てて可愛いからの」
涼「番場と英、桐ヶ谷と生田目なぞ、もう見たまんまじゃな」
涼「一ノ瀬と寒河江もなにやらそわそわしておるし…ふふ、青春じゃの」
涼「いい時代になったと思うよ、自由とはすばらしいものじゃ」
香子「……そんなの、一時の気の迷いだ」
涼「?」
香子「好奇と蔑みの目に晒されて、幸せになれるはずがない…」
香子「女と女じゃ、一緒にだってなれないのに…籍だって…」
涼「香子ちゃん…」
涼「…そんなに自分を責めてもいい事なんて無いぞ」
香子「!」
涼「………」
香子「…なんで」
涼「……長く生きているとつい、どうでもいいことでも知ってしまいたくなるでの」
香子「調べたのか…?」
涼「…ごめん」
香子「………」
涼「…養護施設クローバーホームの職員が巻き込まれた爆発事故」
涼「その事故の実態は…」
香子「……そうだ」
香子「イレーナ先輩は、私が殺したんだ」
涼「……」
香子「好きだった…!先輩の存在だけが私の居場所だった…」
香子「でも、先輩は私のせいで……!!」グスッ
涼「………のう、香子ちゃん」
涼「わしは一時の迷い、なんて恋はこの世に無いと思う」
涼「遠い昔を振り返って、あの恋は一時の迷いだった…と思う事はあるかもしれない」
涼「それでも、恋をしていた間に抱いた想いは間違いなく本気のはず」
涼「香子ちゃんがその先輩に抱いている思いも、そうじゃろ?」
香子「………」コクリ
涼「…自分の気持ちに嘘をつくのはよくない」
涼「……辛かったの」ナデナデ
香子「首藤…!」
涼「おいで」スッ
香子「………っ!」ギュッ
涼「………」ナデナデ
香子「……辛かった、みんな…幸せそうなのに、どうして私は…!」
涼「うん」
香子「私のせいだったと分かっていても、どうしても…やり場のない怒りが湧いてくる」
涼「うん」
香子「忘れたかった、けど…忘れられない…」
香子「自分の気持ちに嘘をついて『幸せになれるはずはなかったから』と言い聞かせても」
香子「ダメなんだ…どうしても忘れられなかった…」
香子「私はまだ、こんなにも…先輩の事を愛している…!!」
涼「…それでいいと思う」
涼「忘れなくても、いい…むしろ忘れてはいけない」
涼「そんな風に自分を捻じ曲げたら、絶対に幸せになんてなれないからの」
香子「でも…辛いんだ」
涼「……分かるよ」
香子「首藤、私はどうしたらいい…?」
涼「…そのままの香子ちゃんでいればいい」
涼「居場所はわしが作る」
涼「わしが香子ちゃんの、新しい居場所になる」
涼「辛いのは辛いままで…その代わりに、それ以上に香子ちゃんを幸せにしてみせる」
涼「それじゃ…ダメかの」
香子「………」
香子「本当か…?」
香子「本当に、私を受け止めてくれるのか」ポロポロ
涼「うん…香子ちゃんさえよければの」
香子「首藤……」
香子「…………」
香子「……ありがとう」
涼「香子ちゃん」
香子「ん…?」
涼「…目を閉じて」
香子「えっ…」ドキッ
涼「………」
香子「ちょ、ちょっと待ってくれ…その、心の準備が」ドキドキ
涼「………」
香子「あの、嫌ってわけじゃないんだ…でも、初めてだから…!」
涼「なら、お姉さんに任せておけばいい」クスッ
香子「お姉さんって…お前一体いく」
涼「黙って」スッ
香子「つ…」
涼「ん……」チュッ
香子「………!」
涼「んっ…、香子ちゃん…」
香子「あっ…んむ、ちょっ…しゅとう…!」
涼「ん…?なんじゃ?ん…」チュッチュッ
香子「んっ…ちょ、ちょっと待っ…!首藤っ」
涼「……涼、って呼んでほしい」
香子「う……す、涼…」
涼「……香子ちゃん」チュッ
香子「んっ……あっ、んくっ…!」
香子「すずっ…、待って、これ以上はだめ…」
涼「……どうして?」
香子「そ、その…アレだ」ドキドキ
香子「……は、はじめてはベッドの上がいいから…!」カアァ
涼「……香子ちゃん」
涼「いや、別にそこまでしようとは思ってないがの」
香子「!?」ガーン
涼「わし、香子ちゃんのそういうお堅いところ、大好きじゃよ」
香子「からかうなっ!ばか…!」カアァ
涼「ふふふ」
金星寮C棟・3号室
香子のベッド上
涼「どうじゃ?ちょっとは色々ほぐれたかの」
香子「うん…心が軽くなった気がする」
香子「ありがとう、涼」
涼「……ふふ、どういたしまして」
涼「これからはわしに思う存分甘えていいぞ」
涼「わしは香子ちゃんの全部を受けとめてあげるから」
香子「……うん」
香子「……じゃあ、早速なんだが」
涼「おっ?なんじゃなんじゃ!?」ワクワク
香子「……今日は、一緒のベッドで寝ないか?」
涼「うん、いいぞっ!どっちのベッドがいい?」
香子「じゃあ、涼のベッド」
涼「了解じゃ」
涼「一緒だと、暖かいの」ゴソゴソ
香子「そうだな…」
涼「香子ちゃん、桜の香りがする」クンカクンカ
香子「そういう涼こそ、桜の香りだ」
涼「お揃いじゃ」
香子「うん……」
香子「……涼」
涼「ん?」
香子「私、涼に出会えてよかった」
涼「…わしも、香子ちゃんに出会えてよかったよ」
香子「…おやすみ、涼」
涼「……ふふ」
涼(今年の桜は、文句なしに…いい思い出じゃの)
涼「おやすみ、香子ちゃん」
trick4「涼と香子の桜色」 おしまい
金星寮C棟
5号室
乙哉「………」ジャキンッ ジャキッ ジャキジャキ
乙哉「…………」ジャキンジャキン ジャキッ ジャキィン
乙哉「足りないよ…花なんかじゃ、全然……足りない」グシャッ
乙哉「もう何日もしてないんだもん…!我慢の限界…!!」
乙哉「刺したい、切り刻みたい…殺したいよ…!!」
乙哉「…………」
乙哉(性、と言うものを意識し始めたのはいつだったっけ)
乙哉(周りのみんなが、少女漫画の主人公のキスにきゃーきゃーと悲鳴をあげている時)
乙哉(あたしは…人の体から流れ出る赤い血に魅せられていた)
乙哉(…誰かと付き合うとか、キスとか、セックスとか、あたしにはどうでもいいことにしか思えない)
乙哉(胸がどきどきして、身体が熱くなって、とっても気持ちいいこと)
乙哉(それを求めるなら人を切り刻めばいいのに…みんながそうしないのが、よく分からなかった)
乙哉(……今でも、よく分からない)
乙哉「はぁ、はぁ…!」
コンコン
乙哉「………?」
純恋子「失礼いたしますわ」ガチャッ
乙哉「あぁ、英ちゃん…どうしたの?」
純恋子「あら…剣持さんはいらっしゃいませんのね」キョロキョロ
純恋子「……これ、は?」
乙哉「しえなちゃんなら今いないよ、どっか行ってるみたい」
乙哉「……あぁこの部屋?ごめんねー、散らかっててさ」
乙哉「ちょっと花…切ってたところなんだ」
純恋子「……そうでしたの」ニコニコ
純恋子「武智さん、これを剣持さんに渡して頂きたいのですけど」スッ
乙哉「…本?」
純恋子「お借りしていたものですの、読み終わりましたから…返しに」
乙哉「うん、いーよー」ヒョイ
純恋子「それでは、失礼いたしますわ」
乙哉「………」
乙哉「ねぇ、待ってよ英ちゃん」
純恋子「………」
乙哉「もっとゆっくりしていけば?お茶くらい出すよ?」
純恋子「……あいにくですが、真昼さんが部屋で待ってますから」
純恋子「それでは、また」ガチャ バタン
乙哉「うん、まったねー」
乙哉「…………」
乙哉「…………チッ」
乙哉「本かー…しえなちゃん、何貸してたんだろ?」ペラッ
乙哉「……『桜trick』」
乙哉「あたし、こういうの本当によく分からないなー」
乙哉「しえなちゃんは好きみたいだけど…面白いのかな」
乙哉「…………」
乙哉「読んでみよっかな」
trick5「しえなと乙哉の…色」
つづく
『すっ、好きって言いながらキスしたら何か分かるんじゃないかと思って』
『もう一度してみよう、今度は私から』
『優ちゃん……好き……』
乙哉「…………」ジーッ
しえな「ただいま」ガチャッ
乙哉「しえなちゃん…おかえりー」
しえな「ん?なんだこの部屋…っておい武智、それ」
乙哉「あー…この本?英ちゃんが持ってきたよ」ペラッ
しえな「勝手に人の本を…あと、花を切ったら片付けろっていつも言ってるだろ」スタスタ
乙哉「んー」ペラペラ
しえな「……面白い?それ」
乙哉「………」ペラペラ
しえな「お、面白いならアニメのDVDもあるけど…」ゴソゴソ
乙哉「つまんない」ポイッ
しえな「!?」ガーン
しえな「投げるな!!」プンスカ
乙哉「だってさ…意味分かんないんだもん」プイッ
乙哉「しえなちゃん、そんなの読んで面白いの?」
しえな「前にも言ったと思うけど、ボクは…誰にも分かってもらえなくても」
乙哉「だからさ、教えてって言ってるの」
乙哉「キスって何か意味あるのかな」
しえな「……?」
乙哉「みんな、好きな人とはキスしたがったりエッチしたがったりするけど」
乙哉「それって、なんで?」
しえな「え……っと」
しえな「そ、そんなのボクに聞かれても…困る」
乙哉「なんで?」
乙哉「女の子同士の本とか好きなんでしょ?教えてよー」
しえな「…………」
乙哉「…?」
しえな「ふんっ」プイッ
乙哉「えーなにその態度ー!教えてよー!」ギャーギャー
しえな「う、うるさいっ!離せ!そんなの自分で考えろ!」
乙哉「そんな事言って、本当はしえなちゃんも分からないんじゃないの?」
しえな「っ!」ビクッ
乙哉「…………あれ?」ニヤリ
乙哉「あれあれあれあれ?どうしたのしえなちゃん」
乙哉「もしかして…図星?」
しえな「……し、仕方ないだろ」
しえな「だってボク、そういうのした事……ないし」
しえな「百合は好きだけど、誰かと付き合ったりとかの経験もないし…そんな事聞かれても…」
乙哉「ふーん…そうなんだ、しえなちゃん……かわいい♪」
しえな「かっ!?かわいいってなんだ!自分だってした事ないクセに!」
乙哉「え?あたしはあるけど?」
しえな「えっ」
乙哉「経験だけなら豊富だよー、今まではえーっと…1人、2人、3……あー、たくさん」
乙哉「黒組に来る前に付き合ってたおねーさんは『乙哉はキスが上手ね』って褒めてくれたし」
乙哉「………全員切り刻んだけどね」
しえな「……」ポカーン
乙哉「……みんな、あたしと付き合うと同じ事してきた」
乙哉「二人っきりになりたがって、抱き着いて、キスして、エッチするの」
乙哉「それが普通だってことは分かるんだけど…あたしはイマイチ興奮できなくて……」
乙哉「これってやっぱり、あたしがおかしいだけなのかな…」
しえな「そ…そうなんじゃないの、たぶん」プイッ
乙哉「ふーん…そっか……」
しえな「…………」ドキドキ
しえな(な、なんだろ…ボクおかしいぞ)
しえな(なんでこんな、武智なんかにドキドキしてるんだ)
しえな(話聞いたら…急にあいつの顔見れなくなって…!)
しえな(しっかりしろ、相手は殺人鬼だぞ!)
乙哉「はー…考えたらおなか空いちゃったな…」
しえな「………」
しえな(あの唇で、誰かとキスしたんだ…)
しえな(武智が、おねーさんとやらの前で服を脱いで…キスして、それで……)ドキドキ
しえな(って、なに変な妄想してるんだボクは…!)カアァ
乙哉「しえなちゃん、ごはん食べに行こっか」
しえな「へっ?あ……うん!」ビクッ
乙哉「………」ジーッ
しえな「な、なに…?」
乙哉「しえなちゃん、顔赤いよ」ピトッ
しえな「っ!!」
乙哉「熱いね……風邪ひいた?」
しえな(ち、近い近い近いっ!)ドキドキドキ
乙哉「…………」
乙哉「…………」ニヤリ
乙哉「んっ♪」チュッ
しえな「!!!!!」ビクッ
乙哉「えへへ…奪っちゃった♪」
しえな「お、おまっ…!なにしてっ…!!」ガタガタガタガタ
乙哉「いや、しえなちゃんとキスしたら何か分かるかなーって」
しえな「この……!馬鹿ッ!!」ベキィ
乙哉「おうっ!?」ズドン
しえな「武智の変態!!もう近寄るなっ!!」ダッ
乙哉「痛…!!ちょ、おなかはキツいよ…!!しぬ……」プルプル
しえな「死ね!!」ガチャ バタン
乙哉「……………」プルプル
乙哉「……………」
乙哉「……………ふぅ」スクッ
乙哉「……ふむ」
乙哉「……なんとなく分かった、かも?」
金星寮
金星食堂
しえな「はぁ……」
しえな(武智のやつ…悪ふざけが過ぎるぞ!!)
しえな(……はじめて、だったのに)
鳰「どもっ、こんばんわーッス!」ヒョコッ
しえな「……走りか」
鳰「鳰ちゃんッスよぉ、一緒に座っていいッスか?」ガタン
しえな「えー…」
鳰「兎角さんに席追い出されて他にいくとこ無いんスよおぉ、お願いしますっ」
しえな「……何したのさ」
鳰「うちは何もしてねーッスよ!うち、兎角さんに嫌われてるんスかねぇ…とほほ」
しえな「まぁいいけど、座りなよ」
鳰「恩に着るッス!」ガタンッ
鳰「剣持さんはいつも一人なんスか?」
しえな「まぁ…一人の事が多いかな」
鳰「武智さんとごはん食べたりしないんスか?同室なのに」
しえな「シリアルキラーと一緒にご飯食べたいと思うか…?」
鳰「まぁそれもそーッスね」モグモグ
鳰「プチメロうんまー…!」パアァ
しえな「………」
鳰「でもせっかく同じ部屋なんだし、仲良くしたほうがいいんじゃないッスか?」
しえな「嫌だ、大体僕はここに仕事をしに来たんだ…そんな必要ないだろ」
鳰「でも最近、黒組のみなさん…すっごい仲良くなってると思いません?」
しえな「………思う、けど」
鳰「生田目さんと桐ケ谷さん、英さんと番場さん、それと首藤さんと神長さん!」
鳰「仲睦まじくて羨ましいかぎりッスねえぇ」
しえな「……お前、ぼっちだもんね」
鳰「言い方ひでーッス!!」ガーン
鳰「ふー、おなかいっぱいッス」
しえな(こいつメロンパンしか食べてないな…)
鳰「うちは行くッス、それじゃまたー」ヒラヒラ
しえな「あぁ、またな」
鳰「~♪」ダッ
鳰「あっ、晴ー」シュタタ
兎角「近づくな!」バッ
しえな「………」
しえな(武智と仲良く、か)
しえな「いやいや、無理…付き合いきれない」
しえな「鋏振りまして危ないし、部屋片付けないし、そもそも殺人鬼だし…!」
しえな「…………」
しえな(絶対無理、やっていける気がしない)
しえな(……だけど)
しえな(今、ボクの心の片隅にあいつがいるのはなんでだろう?)
金星寮C棟
5号室
しえな「………」ガチャ
乙哉「あっ、おかえりー」ジャキジャキ
しえな「また花…」
乙哉「ちゃんと片付けるってば」シャキンシャキン
乙哉「最近溜まってるんだよねー」ジャキンッ ボトッ
しえな「…………そう」
乙哉「しえなちゃん、お風呂行く?」
しえな「もう入ってきたよ、っていうかもう寝るから」ゴソゴソ
乙哉「ふーん、じゃあ静かに切るね」チョキチョキ
しえな「お前、寝る前に絶対片付けろよ」
乙哉「わかったー、おやすみー」チョキチョキ
しえな「……おやすみ」ゴロン
しえな「…………」Zzz
乙哉「…………」
…朝
時計「ピピピピピピピピピピピ」
しえな「………うぅ」Zzz
乙哉「しえなちゃーん、朝だよー」ユサユサ
しえな「んー…」Zzz
乙哉「ほら起きて起きて」バサッ
しえな「んぅ…」Zz
乙哉「しえなちゃん、おはようっ」
しえな「………あぁ」Z
乙哉「ん♪」チュッ
しえな「…………」パチン
しえな「…………は!!?」ビクッ
乙哉「早く着替えないと遅刻するよー?」
しえな「た、武智…!お前、今…!何…!?」アタフタ
乙哉「ん?おはようのキスだよ?」
しえな「な、なんで……」オロオロ
乙哉「あたしさー…昨日、しえなちゃんとキスしたでしょ」
乙哉「その時、少しだけ何か分かったんだ」
しえな「何、か?」
乙哉「うん、しえなちゃんとのキスは今までのキスと何か違う感じがしたの」
乙哉「なんで人はキスしたがるのか、もしかしたら分かる気がして…」
乙哉「だからさ、しえなちゃん」グイッ
しえな「…………!」ビクッ
乙哉「あの漫画みたいにさ、あたし達もキスする仲になろうよ」
しえな「……!」
乙哉「しえなちゃんこういうの好きでしょ?あたしは何か分かるかもだし、一石二鳥だよね」
しえな「ぜ……!」
乙哉「ぜ?」
しえな「絶対イヤだ…!!」
つづく
ミョウジョウ学園
10年黒組・教室
千足「おはよう」ガラッ
柩「おはようございます」スタスタ
涼「おはよう二人とも、相変らずお熱いのう」
鳰「そうッスねぇ、朝っぱらから手繋いで登校だなんて見てるこっちが恥ずかしいッス」
千足「茶化すな」キリッ
涼「茶化してなどおらん、ただ少し羨ましいだけじゃ」
香子「………羨ましい、のか?」
涼「朝から手を繋いで登校…正に青春って感じでいいと思うがの」
香子「そ、そうか…涼は、あぁいうのが」
純恋子「……真昼さんはお熱いのはお好き?」
真昼「純恋子さんの、なら…」
純恋子「あらそう、嬉しいですわ♪」
真昼「………♡」
春紀「なんか、このクラス……暑いな」
兎角「あぁ…そうだな」
晴「………」ドキドキ
乙哉「毎朝毎朝似たようなことして、よく飽きないよねーホント」
鳰「いつの間にやら首藤さんと神長さんも熱々ッス、どーなってんでしょーねー」
春紀「……まぁ一部、なんか冷えてるやつもいるみたいだけど」チラッ
しえな「…………」ズーン
しえな(なんてことだ、黒組に百合色の風が吹き抜けているって言うのに…)
しえな(今日は純粋に楽しめない……)
しえな(唇に、さっきの感触が残っていて……)ドキドキ
乙哉「どしたのしえなちゃーん、いつもみたいにハァハァしないの?」
しえな「ハァハァなんてしてない!」バーン
兎角(してる)
しえな「大体っ…!だ、誰のせいだと…!」
伊介「うるさぁい…」ムクッ
鳰「伊介さんのお目覚めッスー」
伊介「人が寝てる横で騒がないでくれなぁい?」ムニャムニャ
晴「い、伊介さん?もうちょっとで先生来るよ?」
伊介「知らなぁい♥眠いからもうちょっと寝る…」ゴロン
伊介「…………」Zzz
晴「また寝ちゃった」
兎角「よく寝る奴だ…」
鳰「寝る子は育つ!兎角さんもたまには居眠りしてみたらどうッスか?胸が…」
兎角「………あ?」ギロッ
鳰「……冗談ッスよ、冗談」
晴「春紀さん、伊介さんって夜更かしさんなの?」
春紀「伊介様?寝てるよ、夜は」
しえな「………はぁ」
乙哉「しえなちゃん、元気出して!」
乙哉「あたし、しえなちゃんが元気ないとさみしいなー」
しえな「………」イラッ
…お昼
キーンコーンカーンコーン
溝呂木「よーし、それじゃあ午前はここまでー」
伊介「ふわぁあ…♥」
春紀「メシになると起きるんだな」クスクス
伊介「うるさいわね…」
兎角「行くぞ一ノ瀬、早く行かないと混むからな」
晴「う、うん……」
鳰「うちも行くッスよー」
乙哉「あたしは何食べよっかなー…」ガタン
しえな「……おい、武智」
乙哉「ん?なぁに?しえなちゃん」
しえな「…ちょっと来い」
ミョウジョウ学園
空き教室
しえな「………」キョロキョロ
乙哉「何?こんなところまで連れてきて」
乙哉「みんなの前じゃ出来ない話?あ、もしや恥ずか…」
しえな「武智っ」
しえな「お前は……一体、何がしたいんだ」
しえな「ボクにあんなことしておいて、なんでそんなに普通にしてられるんだ」
乙哉「あんなこと?」
しえな「とぼけるなっ!」
しえな「ボクはお前にキス、されて…こんなに普通じゃなくなってるのに」
しえな「なんでお前はそんなに普通に、ボクに話しかけるんだ」
乙哉「……言ったでしょ?あたしは知りたいだけだよ、キスの意味をね」
しえな「じゃあボク以外の奴とやってくれ、ボクは…」
乙哉「え?やだよ」
乙哉「流石に他の子は、手出したら殺されてもおかしくないのが何人かいるし」
乙哉「黒組には、あたし好みの子もいるけどさ…余計な事して痛い目見るのはごめんだもん」
乙哉「それに…」スタスタ
しえな「な、なに…」ビクッ
乙哉「あたしは、しえなちゃんがお気に入りだからね」ニコッ
しえな「………っ」
乙哉「……空き教室か、見覚えあるシチュエーションだよね」
しえな「知らないっ…!」バッ
乙哉「あたしは知ってるよ?昨日読んだもん」クスクス
乙哉「しえなちゃん、顔上げて」
しえな「い、嫌だ」
乙哉「上げて」クイッ
しえな「あっ…!?」
乙哉「んっ…」チュッ
しえな「んっ…!?ん、んんっ」グイグイ
乙哉「…………」チュー
しえな「やっ、やだっ、たけちっ…やだぁっ」グイッ
乙哉「…もうちょっとだけ、我慢して」チュッ
しえな「う、うぅんっ…んむっ…!」
乙哉「……ぷはっ」
しえな「…………」ドキドキ
しえな(やだ……)
乙哉「…どうだった?」
しえな「なに、がっ…」ドキドキ
しえな(こいつ、ほんとに……上手い)
乙哉「ふふ」ニコニコ
乙哉「あたしはまた、何か分かった気がするな」
乙哉「やっぱりしえなちゃんとのキスは今までのとは違う」
乙哉「………ごはん行こっか」
しえな(ごはんは、のどを通らなかった)
しえな(ボクの体の中は武智で埋められてしまったみたいだった)
しえな(胃の中も、頭の中も…心の中も)
しえな(武智を見る度にキスを思い出すようになった)
しえな(ボクの目の前でクラスメイトがイチャイチャしているのを見ると、キスがフラッシュバックするようになった)
しえな(百合漫画を読んでもそうなるようになっていた)
しえな(……しばらく、桜trickは読めそうになかった)
ミョウジョウ学園
屋上
乙哉「…………」
しえな『ボクにあんなことしておいて、なんでそんなに普通にしてられるんだ』
乙哉「普通なんかじゃ、ないよ」
乙哉(だってこんな気持ち初めてだもん、しえなちゃん)
乙哉(キスなんて、今までたくさんのおねーさんや女の子としてきたよ)
乙哉(でもこんな気持ちは知らない)
乙哉(キスをしてる時のしえなちゃんを見てると湧き上がってくるこの気持ちはなんだろう?)
乙哉(たとえしえなちゃんが嫌がっても、もっとしてあげたい…もっとしたいって思うんだよ)
乙哉「………嫌がってるのに、したがるなんて」
乙哉「これってしえなちゃんが大っ嫌いなイジメってやつかな?」
乙哉「…………」
乙哉(いや、たぶん違うな)
つづく
…数日後
金星寮C棟
5号室
時計「ピピピピピピピピピピピ」
しえな「………うぅ」Zzz
乙哉「しえなちゃーん、朝だよー」ユサユサ
しえな「んー…」Zzz
乙哉「ほら起きて起きて」バサッ
しえな「んぅ…」Zz
しえな「ん……」ムクリ
乙哉「おはよう、しえなちゃん」
しえな「………」Z
しえな「………ぐー」バタッ
乙哉「ちょっと!?なんで起きたのにまた寝るの!」
しえな「………」Zzz
乙哉「まったく…しょうがないなぁ」スッ
乙哉「ん……」チュッ
しえな「!」
乙哉「起きないと……んむ、こうだよ…」チュー
しえな「ん、んっ…む…」ビクッ
乙哉「しえなちゃ……むぐっ」ガッ
しえな「…もう起きた」
乙哉「痛た…舌噛んだよ、しえなちゃん」
しえな「ってもうこんな時間か、着替えなきゃ」ダッ
乙哉「聞いてる?」
しえな「お前も早く支度しろよ」
乙哉「………」ムカッ
しえな「早くしな……うわっ」グイッ
乙哉「……しえなちゃん」
しえな「……なに?」
乙哉「おはようっ♪」チュッ
しえな「…………」
しえな(武智とはじめてキスした日から何日か経った)
しえな(ボクの日常は、変わった)
しえな(隙あらばキスをしてくる武智と、付き合わされるボク)
しえな(それこそ漫画の中の世界みたいな事を毎日、隠れてやっている)
しえな(最初こそ嫌で、武智を拒絶したりもしたけれど)
しえな(何回も何回も、舌を武智の口の中で転がされているうちにボクはどうやら言葉を食われたみたいで)
しえな(『嫌だ』って言葉が使えなくされてしまったみたいだった)
しえな(抗えなくなってからは体が諦めてしまったようで)
しえな(気付けば僕は武智のされるがままになっていた)
しえな「…………」
しえな(なんとも思わなくなっているのは、ボクがとっくに諦めてしまったからなのか)
しえな(それとも武智の毒に侵されて、頭の中が麻痺してしまったからなのか)
しえな(ボクにはもうよく分からない)
…夜
金星寮
大浴場
千足「そろそろ出ようか」ザバァ
柩「はいっ」ギュ
千足「それじゃお先に」ペタペタ
しえな「うん」
ガララ ピシャッ
春紀「…風呂でまで手繋いでるのね、あの二人」
伊介「はぁーぁ♥お風呂の温度が上がってイヤになっちゃう」ザバァ
伊介「伊介もあがる♥それじゃーね」ヒラヒラ
乙哉「まったねー」
春紀「しかし…武智が大浴場来るなんて珍しいな」
乙哉「あたしだっておっきいお風呂くらい入るよー」
乙哉「でもあんまりここ来ると…さ」
春紀「え、何かあんの?」
乙哉「みんなの事斬りたくなっちゃうからさ…!」ハァハァ
春紀「出るわ」ザッバァ スタタ ガラガラッ ピシャッ
乙哉「あっ!?待って待って!今は大丈夫だからー!」
真夜「なんだぁアイツ、あんなに急いで…」ガラッ
乙哉「あっ」
真夜「…………あ」
真夜「…………」ガラガラ ピシャッ
乙哉「ひどくない!?」ガーン
しえな「いや…今のはどう考えても武智が悪いよ」
乙哉「ちょっとショックだよ今のー…」
しえな「そりゃあんなこと言えば誰でも逃げるって…」
乙哉「………じゃあさ」
乙哉「しえなちゃんはなんで逃げないの?」
しえな「……!」
乙哉「ん?」
しえな「それ、は…」
乙哉「…しえなちゃんもさぁ、なんか慣れてきたよね」ガシッ
しえな「お、おいちょっと待って…」
乙哉「大丈夫だよ、他に誰もいないもん」
乙哉「それに誰か来ても足音で分かるし…ほら、目閉じて」
しえな「…………」パチッ
乙哉「ふふ…」
乙哉「かわいいなぁ、しえなちゃん」チュッ
しえな「はぁ……ん、ふぅ…」
乙哉「んっ…く、ん…」
しえな(……なんかボク、ほんとに流されてるなぁ)
しえな(こんなとこ誰かに見られたらヤバいのに…)
金星寮C棟
5号室
しえな「はぁ……」
乙哉「どうしたの?のぼせちゃった?」
しえな「いや…そうじゃないけど…なんかだるくて」ゴロン
乙哉「もう寝ちゃうの?つまんないなー、遊ぼうよ」ユサユサ
しえな「暇なら一人で遊んでろよ…」
しえな「…………」
しえな(そういえば、こいつ最近…花切らなくなったな)
乙哉「ねぇしえなちゃん…?本当に寝ちゃうの…?」
しえな「あー…」
乙哉「ねぇねぇ」ポンポン
しえな「…んー」
乙哉「………」グイッ
しえな(あ)
しえな(これ、またキスされる……)
コンコン
しえな「!」ビクッ
乙哉「あ、はーい」
香子「武智、剣持…二人ともいるか?」ガチャッ
涼「点呼じゃ」
乙哉「うん、いるよー」
しえな「…………」ドキドキ
香子「…剣持はどうしたんだ?」
乙哉「んー、なんかだるいって言って寝てるよ」
香子「風邪か?」
涼「よくないの…こういう時はねぎを首に」
乙哉「なんかおばあちゃんみたい…」
涼「おばあちゃん…ふふふ…」
香子「まぁ…とにかくお大事にな」
乙哉「はーい」
しえな「…………」ドキドキ
乙哉「………」
しえな「………」
乙哉「じゃ、あたしも適当に寝よっかな」
しえな「………え?」
乙哉「おやすみー、しえなちゃん」ゴロン
しえな「た、武智…?」
乙哉「ん?なに?」
しえな「えと、あの……その」
しえな「…しないのか?」
乙哉「何を?」
しえな「何をって…!」
乙哉「?」
しえな「………」
しえな「…………キス」
乙哉「………したいの?」クスッ
しえな(う、うわ…!何聞いてるんだ、ボク…!)カアァ
しえな(しないならしないで、それでよかったのに)
しえな(わざわざ聞くなんて、そんなの)
しえな(まるでボクがキスされたいみたいな…!)ドキドキ
乙哉「しえなちゃん」
しえな「っ」ビクッ
乙哉「…………ごめん、今日は止めとくよ」
乙哉「しえなちゃん風邪っぽいし、あたしに移ったら二人ともダウンしちゃいそうだしさ」
乙哉「今日はゆっくり休んだほうがいいよ、おやすみ」スタスタ
しえな「あ……」
しえな「お、おやすみ…」
しえな「…………」
しえな(そうか)
しえな(みたいな、じゃない…)
しえな(ボク、武智にキスされたがってたんだ)
しえな(次の日の朝、ボクは本当に風邪をひいていた)
しえな「げほっ…ごほっ」
乙哉「…大丈夫?」
しえな「だ、大丈夫じゃない…かも…」ゼェゼェ
乙哉「うん…なんかもう見ただけで分かるよ」
しえな「じゃあ聞くなよ…!」ハァハァ
乙哉「こりゃ今日はお休みだねー、無理だよそんなんじゃ」
しえな「うん、起きたくない…休む」ハァハァ
乙哉「先生にはあたしが言っとくよ」
乙哉「寝なきゃ治らないからねー…お大事にね」ナデナデ
しえな「ん……」ゼェゼェ
乙哉「何かあったらあたしに電話してね、すぐ行くから」
しえな「………」ゼェゼェ
乙哉「それじゃ、行ってくるね」ガチャッ バタン
しえな「…………うっ」ドサッ
しえな(あぁ、頭痛い……鼻詰まって苦しい…暑い…)ハァハァ
しえな(風邪なんて引くのいつぶりだろう……)ハァハァ
しえな(……とにかく寝るしかない)
しえな(武智の言うとおり寝なきゃ治らないからな……)
しえな「うぅ……」Zzz
…
「……じゃな」
「……なのか」
「……だよ!……なのに…!」
「……にしろよ」
しえな「………?」パチン
しえな(人……だれ…?)
しえな「たけち…?」ゼェゼェ
晴「あっ、剣持さん…!起きちゃった…?」
兎角「だから、静かにしろって言ったんだ」
香子「大丈夫か?」
涼「ほんとに風邪とはたるんどるのう」
しえな「…………?」
しえな「…なんでお前らが」ムクッ
香子「私は委員長だからな、お見舞いだ」
涼「ねぎを持ってきてやったぞ」ニョキッ
晴「晴はお手伝いに来ました!」
兎角「………」
しえな「そうか、ありが…げほっ」
香子「寝てた方がいい…薬は?何か食べたか?」
しえな「なにも……」
晴「そうだと思って晴がいろいろ買ってきたよっ」ガサガサ
涼「辛そうじゃな…今ねぎを巻くからの」グルグル
兎角「………臭いな」
しえな「うん……くさい」
香子「…涼、それご飯のあとじゃダメか?」
晴「あはは……」
香子「…うん、ご飯も食べたし水分も摂ったし薬も飲んだ、これで平気だと思う」
涼「ねぎも巻いたぞ!」バーン
しえな「あ、ありがと……う…?」
晴「剣持さん、早く元気になって学校来てねっ」
しえな「……うん」
兎角「……終わったんなら帰るぞ、一ノ瀬」
晴「う、うんっ」ドキッ
香子「そうだな、剣持も寝かせてあげたほうがいいし」
涼「もうこんな時間か…おなかすいたのう」
しえな「………あ、あのさ」
兎角「……なんだ」
しえな「……武智は?」
晴「武智さん?」
しえな「あいつ、帰ってこない…」
しえな「どうかしたのかな?」
香子「武智……見たか?」
晴「さぁ…?」
涼「知らんのう」
兎角「…あいつなら授業が終わってすぐ出ていったぞ」
しえな「え…」
兎角「てっきり寮に帰ったんだと思ったが…帰ってきてないのか」
しえな「……多分」
しえな「あっ、でもいいんだ…別に用事あるわけじゃないし」
しえな「今日はありがとう……ボク、もうちょっと寝るよ」
兎角「そうか」
涼「じゃ、わしらは帰るとしよう」
晴「お大事にね、剣持さん」
しえな「うん…」
香子「それじゃ、また明日」ガチャッ バタン
しえな「……………」ゴロン
しえな「……………」ゴロゴロ
しえな「…………」
しえな「…………」
しえな「…………」
しえな「…………」
しえな「……」
乙哉「ただいまー」ガチャッ
しえな「!!」
乙哉「あれ?しえなちゃん起き……なにそれねぎ?」
しえな「た、武智」
乙哉「誰か来てくれたんだ?よかっ…くさっ!ねぎくさっ!!」
しえな「!?」ガーン
乙哉「そんなの首に巻いて寝てたの!?ヤバいよ!しえなちゃんの枕ヤバいって絶対!」
しえな「う、うるさいな!!あんまりくさいくさい言うな……げほっ!げほ!!」
乙哉「ちょっとしえなちゃん!ダメだよ暴れちゃ」
しえな「誰のせいだよ…!!」
乙哉「ほら寝た寝た、よくなったっぽいけどまだ顔赤いよ」ポンポン
しえな「うん…」
乙哉「……ね、しえなちゃん」
しえな「なに?」
乙哉「…じゃーん!はいこれっ!!」バッ
しえな「何これ…花?」
乙哉「うん、植物園で見繕って…活けてきたんだよ」
乙哉「しえなちゃんにあげる、お見舞いって言ったら花だよね」
しえな「……ボクに?」
乙哉「うんっ、そうだよ」
しえな「……ボクのために、今まで?」
乙哉「……あーうん、いや帰りに溝呂木先生に捕まっちゃってさぁ」
乙哉「なんか植物の話いっぱいされちゃったよ…」
乙哉「…遅くなってごめんね、しえなちゃん」
乙哉「ただいまっ」
しえな「……おかえり、武智」
しえな「………」プイッ ゴロン
乙哉「あれ?寝る?」
しえな「うん……」
乙哉「じゃあ花は飾っとくねー」スタスタ
しえな「……うん」
しえな(どうしよう)
しえな(すごく、嬉しい…)
しえな(武智がボクのために活けてくれた花が、嬉しい)
しえな(武智が帰って来てくれたことが嬉しい)
しえな(心臓がすごくうるさくなって、顔がニヤける)
しえな(こんな顔武智には見せられない…!)
しえな(どうしよう、まさか、こんな)
しえな(いつの間にボク、こんなに)
しえな(武智の事を好きになってたんだ)
つづく
…朝
金星寮C棟
5号室
しえな「………」Zzz
乙哉「………」Zzz
時計「ピピピピピピピピピピピ」
しえな「ん……」パチン
しえな「朝か…」ムクリ
しえな「……風邪は、よくなったみたいだな」
乙哉「ふわぁ…朝かぁ」ムクリ
しえな「あ…」ドキッ
乙哉「ん?おはよっ、しえなちゃん」
しえな「うん…おはよう」
乙哉「風邪治った?」
しえな「うん…」
乙哉「そっか、よかった」ニコッ
乙哉「でも念のためにもう一日休んだほうがいいよ、病み上がりが一番危ないって言うし」
しえな「………武智」
乙哉「ん?」
しえな「あ、あの…その」
しえな「ボク、風邪治ったぞ」
乙哉「…?そうだね?」
しえな「もうせきも出ないし熱もない」
しえな「だから…う、移らないと思うんだけど」
乙哉「…………」
しえな「………」
乙哉「ふぅん、そっか」ニヤリ
乙哉「そうだよね、おととい…おあずけにしっぱなしだったもんね」
乙哉「でもちょっと意外だな、しえなちゃんから誘ってくるなんて」
しえな「……!」カアァ
乙哉「いいよ、しよっか」
しえな「………」グッ
しえな(武智がキスしてくる時は、ボクは絶対顔を上に上げさせられる)
しえな(そして、上から覆いかぶさるように唇を重ねてくる)
しえな(もう何回もキスしてるから、する前はどうすればいいか体が覚えてるんだ)
しえな(でも…)
乙哉「しえなちゃん……」スッ
しえな(何回キスしても胸のどきどきは収まらない)
しえな(むしろ…どんどん鼓動は早くなっていってるみたいだった)
しえな「…………」ドキドキ
しえな「…………」ドキドキ
しえな「…………?」パチッ
しえな「武智?」
乙哉「…………」
乙哉「………しえなちゃん、ねぎくさいよ」
しえな「なっ…!!」ガーン
乙哉「ごめん、流石にそれだとちょっと…」
しえな「あっ…!ねぎ巻きっぱなしだった…!」バッ
乙哉「またおあずけだね」
しえな「……」シュン
乙哉「…そんなにあたしとしたかったの?」
しえな「!」
しえな「そ、そんなわけ」
乙哉「あるよね?」ニコニコ
しえな「……ある」
乙哉「いいよ、帰ったらいっぱいしてあげる」
乙哉「だからそれまでにねぎ取っといてね」
しえな「もう取ったよ!」ポイッ
乙哉「そのうち匂い取れるよ!多分おそらくきっと」
乙哉「だから、安静にしてなきゃダメだよ」
しえな「分かってるよ…」
…昼
しえな「………」ポケー
しえな(健康なのに休みって、ヒマだな)
しえな(…安静に、か)
しえな(食堂行ったりするのは安静の範囲に含まれるのかな…?)
しえな(…いや、たぶんダメだな)
しえな(仕方ない、大人しく寝て……)ゴロン
しえな「…くさっ!ボクの枕ねぎくさっ!!」ツーン
しえな「あぁもう…!これ、布団ごと干しとかなきゃダメだな…!」
しえな「おのれ首藤…!」
…
しえな「………」
しえな(さて、布団は干したし…)
しえな(どうやって寝よう)
しえな(流石に布団なしのベッドで寝るのはまた風邪ひきそうだし)
しえな「…………」
しえな「…………」チラッ
しえな(……武智の、ベッド)
しえな「………」ドキドキ
しえな「し、仕方ない…よね、うん」
しえな「だってボク病み上がりだし、寝てないとまた風邪ひくし」
しえな「布団がこれしかないなら仕方ない」
しえな「元はと言えばねぎ持ってきた首藤が悪いんだし…」
しえな「だから…」
しえな「…ボクが武智のベッドを使うのは、別に悪いことじゃない」
しえな「………」
しえな(誰に言い訳してるんだろ?ボク…)
しえな「………」ゴソゴソ
しえな(こ、ここで武智が毎日寝てるんだよな…)ドキドキ
しえな「………」モゾモゾ
しえな(なんか…すごい落ち着かない)
しえな(布団の中、全部武智の匂いで…)
しえな(こんなんじゃ逆に寝られない…!)
しえな「はぁ…」
しえな「………武智」
しえな「早く帰ってこないかな…」
しえな「………」
しえな(武智は、ボクの事どう思ってるのかな)
しえな(あいつはあくまで、人がなんでキスとかしたがるのか知りたいだけで)
しえな(ボクは都合のいい相手ってだけ…なんだよね)
しえな(もしあいつが納得する答えが見つかったらその時は)
しえな(ボクとの関係は……たぶん)
しえな「………はぁ」
しえな「こんな事考えちゃうなんて、もう…ヤダな」
しえな「辛いよ…武智」
しえな「お前のせいだ…」
乙哉「しえなちゃん、ありがとね」
しえな「……何が?」
乙哉「……あたし、分かったよ」
乙哉「人がなんで人に触れたがるのか」
乙哉「×××××××だったからなんだね」
乙哉「分かってみれば簡単だったって言うか…そりゃそうだよね、って感じだけど」
乙哉「でも前までのあたしじゃ…絶対に分からなかった答えだよ」
乙哉「全部しえなちゃんのおかげ、ありがと」フフッ
しえな「………」
乙哉「……でもやっぱりあたしは切る方が好きだなぁ」ジャキッ
しえな「え」
乙哉「みんなは分からないだろうけど、切るのって最高に気持ちいいの」
乙哉「あたしって×××だからさ、へへっ」
乙哉「だからしえなちゃん、あたし行くよ」
しえな「行くって…どこへ?」
乙哉「……晴のとこ」
しえな「…!」
乙哉「予告票も書いたよ、もう出しちゃったけど」
しえな「それじゃ、お前…!」
乙哉「うん、兎角さんと戦うよ」
乙哉「きっと強いんだろうなー…勝てるかなー、あたし」
乙哉「でも…そういう子を叩きのめして、涙でぐしゃぐしゃになった顔を切るのも…好きだよ」ニヤァ
乙哉「…しえなちゃんとはお別れだね」
しえな「…待ってよ、武智」
乙哉「勝っても負けても、あたしはここからいなくなる」
乙哉「それじゃあまたね、しえなちゃん」
しえな「待って…!」
乙哉「さようなら」
しえな「待ってよ…!武智、待ってって…!」
しえな「行くなよっ…!そんな、なんで…!」
しえな「武智いいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!」
…夕方
金星寮C棟・5号室
しえな「………はっ!!」パチンッ
しえな「はぁっ…!はぁ…!!」ガバッ
しえな「…………!!」キョロキョロ
しえな「………夢?」ハァハァ
乙哉「たっだいまー♪」ガチャッ
しえな「!」
乙哉「しえなちゃん、いい子にし」
しえな「武智っ!!」バッ
乙哉「わっ!?」
しえな「………!」ギュー
乙哉「ちょ、ちょっと…どうしたの、しえなちゃん」オロオロ
しえな「………」ギュー
乙哉「……?」
乙哉「ど、どしたの本当に…汗、すごいよ?」
しえな「………」ハァハァ
乙哉「……調子悪いの?」
しえな「………」ドキドキ
乙哉「しえなちゃん、心臓の音すごいよ…どくどく言ってる…」
しえな「…………!」ドキドキドキドキ
乙哉「え、ちょっとこれ…大丈夫?」
しえな「……大丈夫じゃない」
しえな「夢、みたんだ」
乙哉「……?」
しえな「すっごいリアルな夢、本当に起こりそうな……怖い夢」
乙哉「な…なんだ夢かぁ、あたしどうしたのかと思っ」
しえな「でも、それだけじゃないんだっ…!」
しえな「武智…ボク、おかしいんだ」
しえな「お前のせいだ、お前のせいでおかしくなっちゃったんだ」
乙哉「………」
しえな「お前なんか、嫌いだったはずなのに」
しえな「勝手に人のファーストキス奪って、しかもシリアルキラーで…最悪だって思ってた」
しえな「嫌いなとこならもっと言えるぞ、部屋散らかすし、いじめっ子だし!」
しえな「その後も、ところ構わずキスしてくるようになってボク本当に嫌だったんだ」
しえな「……でもそのうち、嫌じゃなくなってった」
しえな「最近じゃ、もっとキスして欲しいって思っちゃうんだ」
しえな「ボク、お前のこと好きになっちゃったんだ…」
乙哉「………嘘」
しえな「う、嘘でこんな事…言わないっ」グスッ
しえな「武智、ボクどうすればいいんだよ」ポロポロ
しえな「お前がキスばっかするからこうなったんだ」
しえな「お前がキスしてくれないと…お前がいないと、ボク…!」
乙哉「………しえなちゃん」
しえな「責任とってよ…!」
乙哉「なんか…ごめん」
しえな「………」ポロポロ
乙哉「な、泣かないでよしえなちゃん…!あたしのせい?だよね…?」オロオロ
しえな「そうだって言ってるだろ!!!」
乙哉「………」オロオロ
乙哉「うー…しえなちゃん?顔上げて?」
しえな「………っ」グスッ
乙哉「………」チュッ
しえな「……!」
しえな(武智の、唇…)
しえな(……柔らかくて、それで…あったかい)
しえな(それに武智の香りもする…)トロン
乙哉「ふふ…泣き止んだね?」
しえな「………たけ、ち」
乙哉「……その顔、好きだな」
乙哉「ねぇしえなちゃん、あたしね…ちょっとだけ分かったよ」
しえな「何が…?」
乙哉「人は、なんで人にキスしたがるのか」
しえな「………」ビクッ
乙哉「キスされてる時の…人の顔、キスした人に夢中になってる顔」
乙哉「たぶんみんな、好きな人のそんな顔が見たくてキスするんじゃないかなって…思うよ」
しえな「………」
乙哉「あたし、しえなちゃんがあたしに夢中になってくれてる顔が好き」
乙哉「ここ何日かずっとしえなちゃんとキスして…そう思うようになったよ」
しえな「……!」
乙哉「……あたしも好きだよ、しえなちゃん」
乙哉「だから……これからもキスして、いいかな」ギュッ
しえな「………うんっ」ギュッ
乙哉「………」
しえな「………」
しえな(ボク達は、ちょっと間何も言わずに見つめ合った)
しえな(そして、いつもみたいにボクがちょっとだけ顔を上げると武智の顔が近づいてきた)
乙哉「……好き、しえなちゃん」チュッ
しえな「ん……」
乙哉「んっ、ふ、ぅ……」チュッチュッ
しえな「はぁ……ん、あ…んっ」ビクッ
乙哉「……へへ、その顔」
乙哉「すごい顔してるよ、とろけてる…」
しえな「だから、武智のせいだって…」ハァハァ
しえな「……武智は、とろけてないね」
乙哉「そうかな?結構これでもかなりヤバいテンションになってるんだけど…」ハァハァ
乙哉「ほら、触ってみて……胸…」スッ
しえな「あ……」ドキドキ
しえな(心臓の音、すご…)
乙哉「………」ドキドキ
しえな(……でっかいな)ゴクリ
乙哉「………ね?」
しえな「……ん、すごい」
乙哉「……しえなちゃん、あたしもっとしえなちゃんの事とろけさせたい」グッ
しえな「え、えっ…?武智?」ビクッ
乙哉「……いいよね?」グイッ
しえな「だっ…ダメに決まってるだろ…!何考えてっ…!!」
乙哉「……ダメ、なの?」シュン
しえな「……だって、ボク汗かいてるもん」
しえな「下着だって変えてないし…汚いよ」
乙哉「あたしはそんなの気にしないよ!」
乙哉「ね?いいでしょ?お願いっ」
乙哉「一緒に気持ちよくなろ?しえなちゃん」
しえな「………」
しえな「……分かった」
しえな「………いい、よ」
つづく
しえな(夕焼けが射しこむ、薄暗い部屋の中)
しえな(ボクは武智のベッドの上で寝転んでいた)
しえな(…上から武智が覆い被さってボクの顔を覗き込んでいる)
しえな(真っ直ぐにボクの瞳を射抜く視線が、部屋の暗がりの中で青く光って見えるような気がした)
乙哉「それじゃ…脱がすよ」シュルッ
しえな「………っ」ドキドキ
乙哉「……汗すごいね」
しえな「だ、だだだからっ…言ったのにっ…!」
乙哉「……ぷっ、しえなちゃん声震えてる」クスッ
しえな「ししし仕方ないだろ…!ボク、はじめてだもん…!!」ガクガク
乙哉「よしよし♪じゃあ、あたしが優しくしてあげるからね」
しえな「ほ…ほんとに優しくしろよ…?」
乙哉「分かってるよ」
乙哉「……」シュルシュル
しえな(うぅうう…!恥ずかしい…!!)ドキドキ
しえな「た、武智…」
乙哉「………」ジーッ
しえな「あんまり見ないで、恥ずかしいから…」ドキドキ
乙哉「…なんで?しえなちゃん、綺麗だよ」
乙哉「白くて、すべすべで……柔らかくて」
乙哉「しっとりしてて……すごく、素敵」スリスリ
しえな「ひゃんっ…!」ビクッ
しえな(な、なに…!今の…!)ゾクゾク
しえな(ぞくってなって、勝手に声出て…)
しえな(自分で触るのと全然違う…!)
乙哉「……♪」ハァハァ
乙哉「その顔もっとよく見せて…!」バッ
しえな「ひゃ…!」
乙哉「すごいよ、キスしてるときよりずっとかわいい顔…!」モミュモミュ
乙哉「あは…なんだか楽しくなってきた…♪」
しえな「あ、ちょ待っ…!はげしぃ…!」ビクッ
乙哉「しえなちゃん…可愛いよ」
しえな「あ…はぁ…んっ……!」ギュゥッ
乙哉「…っと、しえなちゃん?そんなぎゅってされたら動けないよ」
乙哉「力抜いて…ね?」ニヤッ
しえな「だ、だってっ…!声でちゃうし…!」ハァハァ
しえな「ぎゅってしてないと、気持ちよすぎて…怖い…!」
乙哉「…じゃあ、布団の中に潜っちゃおう?そしたらちょっとくらい声出したって平気だよ」
乙哉「それで、キスしてあげる♪そしたらきっと怖くないよ」
しえな「たけ……うわっ」バサッ
乙哉「えへへ……暗いね」
乙哉「んっ…」チュ-
しえな「ん…!はぁ…!んっ……く…!」
乙哉「………」ゾクッ
しえな「………」ハァハァ
乙哉「……しえなちゃん」
乙哉「下、触るよ…?」
しえな「………ん」コクン
乙哉「……」ゴソゴソ
しえな「………ん」ビクッ
乙哉「……ふふ、まだ触ってないって」
しえな「な、んか…腰のあたりが、もう……だめ…」ガクガク
しえな「武智が触っただけで、びくってなる…」
乙哉「じゃあ、直接触ったらどうなっちゃうのかな……っと」グイッ
しえな「っ!!」ビクンッ
しえな「あっ……!!た、たけちっ…だめぇ…!!これ…」
乙哉(すご…超濡れちゃってるよしえなちゃん……)ゴクリ
しえな「やぁっ…!たけちぃ、きっ…!キス、して…!」
乙哉(顔もとろとろになっちゃってるし…エロすぎでしょ、ちょっと…)
乙哉「……痛くない?」チュッ
しえな「へいき…がまんする…」
乙哉「………」ゴクリ
乙哉「……ねぇしえなちゃん」
乙哉「あたしも……いいかな…」
しえな「へ……?」
乙哉「……あたしも、したい」モジモジ
乙哉(しえなちゃんのとろけちゃった顔が、好き)
乙哉(キスしてる時ですら危なかった、その顔だけでもっとキスしたくなっちゃうから)
乙哉(だから…今はもっとヤバい)
乙哉(こんな顔を見せられちゃったら、あたしはもうあたしを抑えられない)
しえな「す、するって……ボクが?」ドキドキ
しえな「その、ボクが……たけちに、するの…?」
乙哉「い…一緒に気持ちよく、なりたい」
乙哉「しえなちゃんはそのまま寝てればいいよ、あたしがするから…」
乙哉「一緒に気持ちよくなろ、って言ったよね?だから…」
しえな「………」
しえな「…うん、いいよ」ニコッ
乙哉「………………」
乙哉「………やったあ」
乙哉「ずっと、ずっと我慢してたんだよ」ガサゴソ
乙哉「でももう我慢できなかったの」
乙哉「しえなちゃんがいいよって言ってくれなかったら…きっと無理やりにでもしてたかも」
しえな「…そんな事言わないよ」
しえな「正直、かなり恥ずかしいけど…武智が一緒なら、大丈夫」
乙哉「しえなちゃん……」キュンッ
しえな「きて、武智……」
乙哉「………」コクリ
乙哉「……しえなちゃん」
乙哉「大好きだよ」ヒュッ
ドスッ
しえな「…………え」
乙哉「……………あは♡」
しえな「…………っ!!」ブシュッ…
しえな「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああっ…!!」
しえな「あっ…!ぐ、うぐううぅ…!!」ドクドク
しえな(な、なに…!?)
乙哉「…………やっぱ最っ高♡」ペロッ
しえな(刺された……!)
しえな「武…!!」
乙哉「あはははははははははははははははははは!!!」ヒュッ!
しえな「あっ!」ザクッ!
しえな「うっぐ…!!うあああっ…!!」
乙哉「ダメだよしえなちゃん、そんなに大きな声出しちゃ」
乙哉「この寮…鍵ないんだからさぁ」
乙哉「あんまりうるさくしてると誰かが様子見に来ちゃうかもよ?」
乙哉「今ドアが開いたらどうしようか?困っちゃうよね?あははははは」
乙哉「あははははははあははははははははははあははははは」
しえな「げほっ…がふっ…!」ドシャッ
乙哉「…………誰もこない」
乙哉「…みんなご飯かなぁ?それともお風呂かな?どっちでもいいけどね」
乙哉「しばらく二人っきりみたいだよ、しえなちゃん」
しえな「はぁ、はぁ…!」ゼェゼェ
しえな「武智、なんで…!」
乙哉「……ごめんね、しえなちゃん」
乙哉「でもやっぱりあたしはこうじゃなきゃダメなんだよ、切るのが最高に気持ちいいの」ジャキッ
乙哉「あたしってちょっと変わってるからさぁ、えへへ…!」
乙哉「……続き、しよっか!」グイッ
しえな「あっ!?」
乙哉「……しえなちゃんのここ、ぬるぬるしたのと血でわけ分かんなくなっちゃってるね」ヌルッ
しえな「あんっ…!?」ビクンッ
乙哉「えいっ!!」ジャキンッ!
しえな「ぎゃあああっ!!」ブシュッ
乙哉「はぁああぁあぁあ…!!しえなちゃん、すっごく素敵…!」キュンキュン
乙哉「刺したり入れたりするたびに、痛そうな顔ととろけた顔…両方見せてくれる」
乙哉「楽しすぎ…!最っ高!!しえなちゃんかっわいー…!!」ジャキンジャキンッ
しえな「あ゛っ…!!た、たけち、やめてっ…!!」
乙哉「あははははははあははははははははは」
乙哉「大丈夫、殺さないよ……一緒にって言ったもんね」
乙哉「しえなちゃんのして欲しいこと…なんでもしてあげる」
乙哉「だから、しえなちゃんはあたしのしたい事させて?」
乙哉「それで、一緒に気持ちよくなろ?ね?」
しえな「………」ハァハァ
しえな(………武智)
しえな(今まで見たこと無い顔だ…)
しえな(目がギラギラしてて、頬が真っ赤で…)
しえな(すごく、気持ちよさそうな……)
しえな(………これが)
しえな(とろけた顔ってやつか)ゾクッ
しえな「………いいよ」
しえな「武智がしたいなら、ボクのこと…切り刻んだっていい」
しえな「……だから」
しえな「だから…お願い」スッ
しえな「もっとその顔を見せて」ギュッ
しえな「いっぱいボクのこと抱きしめて、たくさんキスして…」
しえな「ボクを離さないで」
乙哉「……うん」
乙哉「絶対、絶対離さないよ」ギュッ
乙哉「これからもずっと一緒だよ」
しえな「…………」
乙哉「……お風呂場いこっか、しえなちゃん」
乙哉「ここよりかは声も出せるよ」
乙哉「後処理も楽だしね」
金星寮C棟・5号室
風呂
乙哉「…………」
しえな「…………」
しえな「……ボク、生きてる?」
乙哉「殺さないっていったじゃん、急所は外してあるよ」
乙哉「……かなり貧血になるだろうけど」
しえな「じゃあボクまた学校休み?」
乙哉「そうなるかなぁ…」
しえな「勘弁してよ…またねぎ巻かれるかも」
乙哉「いやきっと今度はレバーとか持って来てくれるかも、あはは」
しえな「生臭いものばっか」
乙哉「……今だって十分生臭いよ、血だらけだもん」
しえな「……悪かったな」
乙哉「あっ嘘嘘!嘘だよー、すねちゃった?」
しえな「別に、そんなんじゃないけど…」
乙哉「………」
しえな「………」
乙哉「ね、しえなちゃん?顔あげて」
しえな「………」スッ
乙哉「んっ♪」チュッ
しえな「……なに?」
乙哉「大好きだよ、愛してるよ」
しえな「……ボクも」
しえな「………」
乙哉「………」
乙哉「今日どこで寝ようか、あたしのベッドも血だらけだよ」
しえな「……そういえばボク、布団干しっぱなしだった」
乙哉「よし!じゃあ今日は二人で一緒にしえなちゃんの布団だね」
しえな「こんな時間まで出しっぱなしだし…冷たいだろうなぁ」
乙哉「大丈夫大丈夫、二人一緒ならきっと暖かいよ」
しえな「………それもそうか」
trick5「しえなと乙哉の…色」 おしまい
つづく
【 後編 】 に続きます。