魔王(………コイツ、今、俺に言った……?)
魔王(……俺が、誰、だって……?)
第一A「……うわぁ、マジかよ……、」
第一B「おいおい、我らが魔王様の目が死んでるじゃねーか………」
第一「わー、目が死んでるのは魔王様だけじゃないやー」
側近(……少年と植物は守れた、けど、)
側近(……何時もと違う、感じがする)
第一弟「…………側近様じゃ、ない、ですよね」
植物「ぐおっ?」キョロキョロ
蔓×5「くおっ?」キョロキョロ
植物蔓×5「?」キョトン
相棒(長く意識を失ったつもりは無いが、)
相棒(この違和感は、いったい……)
第三1「相棒さんやたらキリっとしてるな」
第三4「あの眉間の皺滅茶苦茶見覚えあるんだけど」
第三2「--あ、見ろよ。最後の一人がようやくお目覚めだ」
勇者()「……………」ユラリ
勇者()「魔力の制御が上手く出来なくなったのは、これが原因ってわけね」ザワザワ
勇者()「……まぁ、やけに雰囲気の変わった二人と、自分の姿を見れば大体察しがつくけど、」ザワザワザワ
第三3(………ノーコメントで)
第三5(……笑うな俺。笑うな俺)
勇者(魔王)「アテが外れたのなら好都合。全力で反撃させてもらうわ」ザワザワザワザワザワ
第三2(笑っていいかな。だって威厳たっぷりに女口調で男が喋ってるわけだし)
第一(やっばい笑いそう。ごめん旅人さんごめん)フルフル
第一(すごく面白い絵だよこれどうしようこれ)フルフル
勇者男「反撃される前に撤退させてもらうがな」フォン
勇者(魔王)「させるとでも?」フォン
瞬間展開、発動した魔法が激しくぶつかる。
余波が暴風となり吹き荒れた。
勇者(魔王)「跡形もなく消し飛ばしてあげるわ!」
勇者男(チッ……魔法の押し合いでは部が分が悪い)フォン
第三4「2、3!!お前らは俺達の後ろに!」フォン
第三1「障壁前提の威力だなこりゃ!」フォン
第三5「身体が変わっても魔法の強さは変わらないか、」フォン
第三2「ぷぷっ」
第三3「2くん……緊張感は大事にしようよ」
魔王(勇者)(俺って分裂出来たっけ、)ヒュン
剣士「--っ、その姿でも殺意は変わんねぇのな、」
剣士(勇者のやつ、頼むから早く発動させろよ!これ相手に避け続けるのは無理だって!!)
側近(相棒)(何で私が二人いるんだろう)」
僧侶「うう……」パチッ
僧侶(私……負けた……?竜族、に、)
側近(相棒)「寝とけばいいのに。……でも、起きたなら、警告」
側近(相棒)「動いたら、足からもらう」ザワッ
僧侶「!?」
第一弟「植物、魔法の余波が凄いけど、平気?」
植物蔓×5「?」キョトン
第一弟「平気みたいだね。良かった……」ホッ
第一弟「…………、」チラッ
第一弟(……入れ替わったのなら、このヒトはきっと、相棒さんなんだ……)
相棒(側近)(…………、これは、いや、考えるのは後だ、)
相棒(側近)「第一!!魔法使いの捕縛は任せた!!俺は転移を妨害する!!」フォン
第一A「了解!」
第一A(相棒さんがキリっとしてる!)
第一B「魔法使い、放心状態みたいだし捕縛は簡単そうだ」
第一B(相棒さんがキリっとしてる!)
第一「相棒さんがキリっとしてる!」
第一(任せて下さい!)
第一(あ、言っちゃった)
側近(相棒)(私がキリッと?)キョトン
側近(相棒)(--あ、ほんとだ。あっちの私がキリッとしてる!)
側近(相棒)「勇者、大変あっちの私が……って、勇者お取り込み中だった」
側近(相棒)(おまけになんだか勇者が変だ。魔王様みたい。好きすぎて口調が移ったのかな)
側近(相棒)「側近さんも、どこ行っちゃったんだろう……」
第一弟「……、あのっ、相棒さん!」
側近(相棒)「なに?少年」
第一弟(うう、中身は相棒さんってわかってるけど見た目は側近様だから正直気味悪い……)
第一弟「……相棒さん。側近様、いますよちゃんと。あっちに」
側近(相棒)「あっちにいるのは私だよ?二人いるのも変だけど」
第一弟「中身は側近様なんです」
側近(相棒)「中身?」
第一弟「えっと、中身というか魂というか、」
蔓「くお?くおっ!」
蔓(見た目は側近様なのに、中身は相棒さん、不思議!)
側近(相棒)「え、植物、今なんて……」
蔓「くおっ!」フォン
蔓(姿を映せば、わかるよね!)
ぱかりと開いた口。
その口内はすぐに鏡面へと姿を変える。
映ったのは一人の男。
鏡であることを証明するように、背後の景色まで完全に映っていた。
側近(相棒)「……………」クルリ
振り返れば鏡の中の男も振り返る。
どう確認しても、映る物は自分の周りにある物ばかりだ。
側近(相棒)(あっちの私、中身が側近さん。なら、こっちの私は?)アワワ
側近(相棒)(中身が私なだけで、映る、姿が本当なら、私、私今、)アワワワワワワ
第一弟「植物……!魔法使えたんだね!すごいよ!!」
蔓「くおっくおっ!!くおおっ!」
蔓(えへへ!弟が褒めてくれた!嬉しい!)
側近(相棒)(側近さんの、中身に、なってるってこと?」
側近()「~~~」フルフル
側近(相棒)「ひゃわああああああああああああああ!!!?」
魔王(勇者)「!!?」
魔王(勇者)(相棒?--いや、この声は側近さん?)
魔王(勇者)「どうしたんだろう……」ヒュン
剣士「…………いっ、」
剣士(くそっ、またかすった。両腕そろって飛ばされるのも時間の問題、)
剣士(野郎の情けない悲鳴聞いてる場合じゃねぇのに、)
魔王(勇者)「……………」チラッ
魔王(勇者)(分裂した俺といい、やけにキリッとした相棒といい、)
魔王(勇者)(……相棒っぽい側近さんといい、なんだろう、この違和感)
剣士(……こいつ、もしかして)
剣士(現状の把握が全く出来てないんじゃないか?--いや、この場にいて俺があれだけ言ったのにわからないなら、ただの馬鹿だろ)
魔王(勇者)(俺の身体、こんなに動かしにくかったっけ、)
剣士(--だが、馬鹿に賭けるしかない)
剣士「よお、勇者」
魔王(勇者)「……………」
剣士「魔王の……女の身体に入った気分はどうだ?」
魔王(勇者)「……あ?」
剣士「お前、勇者なんだろ?女の身体動かしてる気分はどうだって訊いてんだよ」
魔王(勇者)「--、」ピタッ
剣士「黒髪に金目、かなりの上物だよな。その身体は、」
魔王(勇者)(……俺の髪、黒だっけ。……服、黒い、ドレス?魔王様が着てた、……え、俺今スカートなの?あれ?気付いたら突然下半身スースーするようになった!!)
魔王(勇者)(いやいやいや何で!?何で何で何で!?おかしい、身体がおかしい!おかしいよ!!だって胸ある!俺男なのに!男なのに!!)
魔王(勇者)(え、え?ってことは、俺、俺--)
剣士「中身がお前ってのが勿体無--」
魔王(勇者)「うわああああああああ!!俺が女の子になってるー!!?」
側近(相棒)「ひゃわああああああああああああああ!!!?」
第一ズ「ぶふっ」「ぷっ」「ひっ、く」
第一ズ(駄目だ笑うな笑うな俺笑……)(いくら中身が相棒さんでもこれは……!!)(側近様がひゃわあ言った!凄い悲鳴あげた!)
第三ズ「ぷ、」「っぶっ、」「……っ」「ひゃひゃひゃひゃ!」「少しは……我慢、しなよう、2くん……」
勇者(魔王)「っ!?--な、なんて声上げるのよ側近!力抜けちゃうじゃない!」
相棒(側近)「俺じゃないわ馬鹿!というかお前も勇者の身体でその口調はなかなかエグいとわかれ!」
魔王(勇者)「うわああああああああ!!俺が女の子になってるー!!?」
相棒(側近)「お前は最初から女だろうってああ違う!中身は勇者か!!」
勇者(魔王)「なに!?勇者今気付いたの!?遅すぎるわよ!!」
勇者(魔王)(あ、自分が喋ってる声改めて聞いたらこれは酷い。勇者に悪い気がしてきた………)
勇者男(--混乱してきたな!これは好機!!)フォン
キュイイイイン
勇者男「逃げさせてもらう!!」フォン
瞬間、閃光。
光に紛れ輝く魔法陣は、術者の勇者の男を含め侵入者達の足元で輝く。
強い光に辺りが満たされてもなお、魔王は攻撃の手を緩めない。
相殺はせず、勇者の男は障壁で防ぎ続ける。
待つのは数秒後の、発動。
勇者(魔王)「残念だけど転移魔法はしっかり妨害してるのよ!」
勇者男「悪いが転移魔法ではない!」
キィィイイイン
相棒(側近)(転移の反応ではない、--面倒な方法を使う、)
そして、魔法は発動した。
侵入者達の足元に広がる魔法陣がぐにゃりと歪む。
次の瞬間には、その対象を包むように渦巻き出した。
勇者男「転移と召還を同時に妨害するのは、その性質上、不可能」
勇者男「さらばだ」ヒュン
僧侶「…………、」ヒュン
剣士「……馬鹿で良かったわ」ヒュン
発動した召還魔法は、召還に応じた侵入者三人をこの場から連れ去った。
魔法使い「………へ?」
妨害され応じ損ねた、一人を残して。
第一A「まぁ、一人だけならなんとか妨害出来るよう対策はするよな」
第一B「召還魔法を無理やり転移に応用して乗り込んで来た二人を知ってるわけだし」
第一「うんうん。その二人を知らなかったら、寂しく一人置き去り状態には出来なかったかなぁ」
魔法使い「……あ、あわわわわわわ………」ガクブル
第一B「とりあえず、あれだ。周り見てわかるだろ?完全に敵地だって」
第一A「怪獣も怖いがヒトはもっと怖いぜ。だからさ、使った魔法について全部話そうか」
第一「おとなしく全部話せば手荒に扱わない。けど、話してくれないのなら……そうだなぁ……」
第一「特に俺は、あんたに何しちゃうかわかんないやー」ニコリ
城内。
第一副隊長「まったく、ヒトをこんな所に連れてきて。どういうつもり?」
第二隊長「すまん。だがお前がいなくても大丈夫だと判断した」
第二隊長「魔王様達も、魂が抜けた割には気配が濃かったからな。あのレベル相手なら大事には至らない」
第二隊長「--ほら、合ってただろ?」
第一副隊長「あなたがあの場から連れ出す前までは大丈夫だったけれど、もし戦力が足りないとなれば問題よ」
第二隊長「第一の。それをお前が言うか?」
第一副隊長「…………理由を聞かせてちょうだい。魔王様達を放って私を連れ出した理由」
第二隊長「--むかついたからな」
第二隊長「…………あの男は、言った通りお前にもこの城の者にも手を出さなかっただろう」
第二隊長「だが、お前を絶えずマークし続けたのはいただけない。とてもむかついた」
第二隊長「状況と相性がよろしくない。下手したら連れていかれるかもしれんと考えたら、つい」
第一副隊長「…………、」
第二隊長「悪かった」
キィィン
第一副隊長(庭園から、強い魔力。転移?にしては、)
第二隊長「…………、」フォン
第一副隊長(--通信回線、)
第二隊長「壱弐参、任務続行。逃がすな」
第二隊長「肆伍、そのまま僧侶につけ」
第二壱弐参『了解』
第二肆伍『了解』
第二隊長「例え転移が成功しようにも、この国から出ることはないだろう。--」ピクッ
第一副隊長「………成功、したようだけど。……あなたも行くつもり?」
第二隊長「あの男には私がつく。変だしむかつくからな」
第一副隊長「…………」
第二隊長「行ってくる。帰ったらお茶が飲みたい」
第一副隊長「……私ね、あなたのそういう所が好きじゃない」
第二隊長「お茶をねだるのは駄目か」
第一副隊長「違うわよ」
第二隊長「…………、これでも隊長だ。冗談を言える分私はマシな方だ」
第二隊長「それに、私はポジティブだからな、他は好きだと考えることにするよ」
第一副隊長「なわけないでしょう」
第二隊長「だがめげん」ヒュン
第一副隊長「……………、」
第一副隊長(行ったか、)
第一副隊長「これだから好きじゃないのよ。あの脳筋馬鹿」
第一副隊長(仕事になるとすぐああなるんだから、)
第一副隊長(……魔法の第一、脳筋の第二、器用貧乏の第三、なんて言うけど、)
第一副隊長(馬鹿が集まってるから脳筋部隊、だなんて。そりゃあ、脳筋の方がまだ印象良く聞こえるけれど。本来は、)
第一副隊長(……第二部隊は、一つの事しか考えられない、ヒトとして一部欠けた者達が集まる、)
第一副隊長(相手を殺すとだけ考え、許可の命令を待つ、殺し特化の戦闘部隊)
第一副隊長(……犬みたいにまとわりつかれる方が断然マシよ。それに、)
第一副隊長「この私が、魔法を封じられて、むかついてないとでも思ってるの?」ザワッ
第一副隊長「あの馬鹿男……一撃、必ずぶち込んでやるんだから……!!」
魔法使い「うわぁあああん!!勇者様のばかぁ!ちゃんと連れてって下さいいい!!」ポロポロ
魔法使い「怖いよ怖いよふええええん!ちゃんと話すから痛いことしないで下さいー!!」ガクブル ポロポロ
一同「………………」
勇者(魔王)「実質殺されかけたもの。同情は出来ないわね、」
第一「魔王様すみませんホント申し訳ないんですけど、その姿で魔王様やられるの辛いです。俺達辛いです」
一同(同意)コクコク
勇者(魔王)「しょ、しょうがないじゃない入れ替わっちゃったんだもの!」
相棒(側近)「……口を閉じるだけでいい。俺からも頼む」
勇者(魔王)「うう………わかった」シュン
相棒(側近)「まずは入れ替わった魂を元の身体に戻す方法だな。--この類の魔法は初めて見る、俺にはさっぱりわからん。魔王もな」
勇者(魔王)「……」コクン
第一「知ってるのはボロクソに泣いてる魔法使いと俺だけ、か」
第一「といっても俺はちょっと知ってるだけでこの魔法使えないし、魂を戻す魔法構成もさっぱり」
第一B「本人にまた同じ魔法使わせるのは危険だよな、けども俺達にもどうにもならない」
魔王(勇者)「」プシュー
側近(相棒)「」プシュー
第一B「あっちももうすぐ復活するだろうが、知ってるようには思えねぇな」
第一A「こりゃ俺達が魔法の構成見て再現するしかないな。--4、5。お前ら魔法得意だろ。手伝え」
第三4「了解」
第三5「おーけー。正直このままの方が面白いんじゃないかって」バキッ
相棒(側近)「…………」ゴゴゴゴゴ
第三5(……やだ、相棒さんの顔でゴミ虫を見るような目をされるのかなりイイ)ゾクゾク
第三1「5、真面目にやんないとお前の班の奴らに言いつけるぞ」
第三5「ごめんなさい」
第一A(……ああ、わかるぜ側近様。今まさに自分が相棒さんで相棒さんのたわわに実りすぎたおっぱい様がもう近すぎて辛抱たまらんって感じででもここでおっぱい様に手を出すにはプライドがって苛ついてるんだろここは勇気をだしてそのおっぱい様を)
相棒(側近)「例えお前でも殴るぞ」
第一A「すみませんでした」
第一B「止める奴がいないんだから自重しろよ」
第一A「反省」
第一B「ったく……、--で、話を戻すと。再現するには魔法の構成式を出してもらわないとな」
第一B「出してくれるよな、魔法使いさんよ」
魔法使い「あ、え………っと、」
第一「嫌って言える立場?」
魔法使い「うう……で、出来ないんですう……ごめ、ごめんなさいい……」ポロポロ
魔法使い「わたしっ、魔法使いとしては、全然ダメダメで、構成式とか、理解してっ……魔法、使ってなくて……!」
第一「あんたの理解はいらない。展開までの流れを出せって言ってるんだよ」
魔法使い「出来ないんですってばぁ!!例え出来たとしても、再現は不可能ですっ……!!!」
魔法使い「だって、目が違うんです……!私の魔法は、見たヒトの魂に合わせて、調節して初めて発動するんです……!いきなり発動なんて無理だし、そもそも魂が見えないと駄目だし……!」
第一「んー流石に目玉ちょうだいは無いなぁ」
魔法使い「ひぃいいいい!?いや、嫌ですうう!!私の目だから見えるんですっ……私だから見えるんですうう……!」
第一「取りはしないって。落ち着けよ」ケラケラ
第一B「再現不可能、となると。こりゃ、危険なんて言ってられないか?」
相棒(側近)「……同じ魔法をもう一度使わせるしかないな」
相棒(側近)「身体から出しさえすれば自身の身体に勝手に戻る、と認識しているが」
第一「……あってます。けど、いまいち信用がなー」
魔法使い「あ、あの……」
魔法使い「大変、申し上げにくいの、ですが、」
魔法使い「私、もう、あの魔法使えそうにありません……」
第一「何で?」
魔法使い「元々、余裕の状態じゃなかったのに、情報が手には入らなかったから、魔力を沢山使いすぎて、」
魔法使い「魔王と竜族と近しい、魔族の女の魂探って、目標の魂情報を抜き出して、……そうやって、時間をかけて準備する魔法なんです……これ……」
第一「…………あのさ、」
第一「魂弄られんの凄い辛いし、傷でもついたら治癒魔法なんてもんは一切効かない死ぬかぶっ壊れるかの2択なんだけど」
魔法使い「そうです、けど……、どっちでも良いって……、駄目になったら捨てて次を探せば良いって、皆さん言ってましたし……」
第一A「っ、」ザワッ
第一B「A。抑えろ」
第一「…………部下ちゃんが狙われた訳がよーくわかった。確かに、戦闘向きには見えないもんなぁ、魔王様達の近くにいるにしては」
勇者(魔王)「…………」
相棒(側近)「…………」
第一「部下ちゃんに辿り着くまでに誰かに同じ事やってきたってことも、わかった」
魔法使い「で、でも、そのヒトは結局ハズレで、多分死んでると思いますけど、私が殺したわけじゃあ……!」グスッ
魔法使い「そもそも、魔族の女も、上手く攫えていれば……、失敗なんかしたから、私がこんな目にあっちゃっぶ!!」ブニッ
第三5「はいはーい、魔法使いちゃーん、喋るのは訊かれたことだけにした方が身のためよー」フニフニ
魔法使い「むむむむ」ムニムニ
第三5「魔族の出生率は知ってるだろー?一人っ子でよくやった二人っ子はホントよく頑張った三人っ子なんてもう滅多にいないんだぜー」フニフニ
第三5「でー、君が今話していた魔族の女は二人っ子で、兄妹なんだ。おまけにその兄妹と同郷でずっと一緒に育ってきた野郎が三人もいるわけだけど」フニフニ
第三5「君は目の前のその三人に喧嘩を売る勇気はあるわけ?」フニフニ
魔法使い「!!!!」ビクッ
第一A「……………」
第一B「……………」
第一「……………」
魔法使い「……!!」ガクブルムニムニ
第一「……止めなくて良いのにー」
第三5「聞いてて楽しいもんじゃないだろ?」フニフニ
魔法使い「…………、」ガクブルムニムニ
勇者(魔王)「……怒ってる?部下を秘書扱いしてる事」
第一A「まさか。アイツが望んでやってることですし」
魔法使い「…………」ムニムニ
第三5(あれ?震えが止まった)フニフニ
魔法使い「」カクン ムニムニ
第三5(おっとー?意識がないぞー?)フニフニ
勇者(魔王)「……そうね、馬鹿な事を訊いたわ」
勇者(魔王)「……皆に言うわ。嫌になったらすぐに離れなさい。離れたとしても、罰はない」
勇者(魔王)「けれど、離れない内は……好きでやってると見なすから。覚えておきなさい」
第三5「はい、って元気良く答えたいシリアス風味な雰囲気で言うのも悪いんですけど」フニフニ
第一「いや、いくら魔王様でもやっぱり旅人さんの身体だからどう頑張られても笑いを堪えるのに必死で」フルフル
勇者(魔王)「なっ……私だって、私だってね……!!」
相棒(側近)「諦めろ。今のお前は勇者なんだから」
勇者(魔王)「うう……」シュン
第三5「じゃあ報告してオーケーってことね、」
第三5「魔法使い、意識無いんだけど」フニフニ
第三5「まったく、お前等が脅すからだぞ。気絶しちゃったのは」
第三4「……違う原因だろ」
第三4「呼吸は浅いし顔色悪いし……体温も低い。魔力の使いすぎで意識飛ばす典型的な症状だ」
第一A「…………大当たり」キュイン
第一A「魔力枯渇寸前ってぐらいだな。さっきまでペラペラよく喋れたなってぐらい」
第一A「気になるのは、空間視野で見るコイツの存在が、前に確認した時よりさらに薄くになってるって事だな。すすいだらキュキュッと落ちそう」
第一「すすいでみる?」
第一B「キュキュッと落ちたらそれはそれで問題だろ」
第三4「魔力ぶち込んでやればすぐに目覚めるだろ。ここは俺がやる」
第三4「部下さんをああ言った相手に治癒魔法かけるの嫌だろうし」
第一「良い奴だよなお前。……掘られるんじゃないぞ」
第三4「一言多いよ馬鹿野郎」
第三4「もうお前等第一は、魔法使いが目覚めるまであっちの面倒をみてろ」
側近(相棒)「側近さんになってしまった」
魔王(勇者)「女の子になってしまった」
側近(相棒)「あ、やっぱり勇者なんだ」
魔王(勇者)「女の子になってしまったが、一応俺は勇者です。……やけに相棒っぽいと思ったら、本当に相棒だったんだな」
側近(相棒)「うん。そうだよ」
側近(相棒)「でも勇者、女の子になったとか言ってるけど、正しくは女の子で魔王様になってるんだよ」
魔王(勇者)「え?」
側近(相棒)「ほら、鏡」フォン
魔王(勇者)「…………、相棒」
側近(相棒)「なに?」
魔王(勇者)「これマジ?」
側近(相棒)「マジ。さっき一瞬意識飛んだでしょ?アレで私達魂入れ替わっちゃったんだって」
魔王(勇者)「そっかー、」
魔王(勇者)「…………、」
魔王(勇者)「~~~~、」
魔王(勇者)「うひゃあああああああああ!!?」
第一ズ「……………、」
勇者(魔王)「……そんなに嫌なのかしら。私の身体……」
第一B「嫌じゃなくて、アレは確実に別の理由が……」
第一(側近様もそうだけど、男が突然女の子になっちゃうとなぁ、)
第一(しかもベタ惚れしてる相手となると、)
第一A(突然自分におっぱい様が爆誕したようなもんだからなぁ……しかも美乳。相棒さんよりは小さいとはいえ、細い身体には充分--いや、立派に私はおっぱいだと主張している素晴らしいおっぱい様が)
相棒(側近)「三度目は警告なしだぞ」
第一A「すみませんでした」
魔王(勇者)「俺達は入れ替わったと」
側近(相棒)「うん。魔王様が勇者で側近さんが私で私が側近さんで」
魔王(勇者)「俺が、魔王様…………」
魔王(勇者)「……………。」
魔王(勇者)(俺が、今、魔王様……)
魔王(勇者)(この身体は魔王様のもので)
魔王(勇者)(中身は俺だけど身体は魔王様で……)
魔王(勇者)(……魔王様の手、綺麗だなぁ。あ、俺よりちょっと小さいかも)ジー
魔王(勇者)(ってことは、この黒髪魔王様のか。うわぁこんな近くにあるよどうしよう指でくるくる出来る出来ちゃった)クルクル
魔王(勇者)(んー、やっぱり身体が軽い。当然だよな、魔王様細いもん。俺より軽いのは当然で、そもそも身体の作りが違うわけだから、!)
魔王(勇者)(身体の作りが、違う……!!そうだよ、この身体は……ってことは、ってことは……!!)
魔王(勇者)「…………………、」グスッ
側近(相棒)「ど、どうしたの勇者。魔王様の顔が泣きそうになってるよ心苦しいよ」
魔王(勇者)「…………ぅぅ、」フォン
側近(相棒)「魔法?黒い布なんか出してどうしたの、--目の上に巻いて、……目隠し?」
魔王(勇者)「…………うん」メカクシ
側近(相棒)「何で?目隠ししたら何も見えなくなっちゃうよ?」
魔王(勇者)「……………いいんだ、見えない方が」グスッ
魔王(勇者)「だって俺は……」
魔王(勇者)「…………不埒なことを、考えてしまったのです……」
側近(相棒)「…………勇者……」ホロリ
第一A(旅人さん……!)ホロリ
第一B(旅人さん、お前……!)ホロリ
第一(魔王様の身体じゃなきゃ抱きしめて慰めてたぐらい……!)ホロリ
勇者(魔王)「側近、勇者は何て?耳塞がれたら聞こえないんだけど」キョトン
相棒(側近)「いいんだ、聞くな」
相棒(側近)(勇者、お前って奴は………)ホロリ
第一弟(…………旅人さん、)ホロリ
植物「ぐおっ?」キョトン
蔓×5「くおっ?」キョトン
第三1(それが正しい反応だって……)ホロリ
第三4(間違ってないよお前は……)ホロリ
第三2「……正直な話、とりあえず揉むよな」
第三3「そうだねぇ、とりあえず揉むねぇ。流石に入れ替わった本人を目の前にしてはやらないだろうけど」
第三2「そこで思ったんだけどさ、」
第三2「女もやっぱとりあえず触ってみようとか思うのか?だって股からちんこ生えてんだぜ?」
第三3「うーん、どうだろう。少なくとも、魔王様や相棒さんはそんな素振り全く見せてないねぇ」
第三2「よく考えたら今ここにいる女って魔王様と相棒さんぐらいじゃねぇか。あと植物」
第三2「植物は論外として今の相棒さんは側近様の身体だからなぁ、側近様怖いし流石に訊けないか」
第三3「だからと言って魔王様に訊いたりしたら、2くん側近様にぶっ飛ばされちゃうよ~」
第三3「だよなぁ……仕方ないから今度5の班の奴らに訊いてみるわ」
第三5「うちの俺女と痴女とヘタレに何てことを訊こうとしてるんだお前6と痴女は真顔でとりあえず握る言うに決まってるだろ!」
第三5「そして俺はとりあえず揉んで何すんのよ馬鹿!って顔真っ赤にした身体の持ち主にビンタされるが良いのかこれお前の身体だろ!って言い返しつつまた色々触りだした俺の鳩尾に一撃入れた彼女に私の身体だからいいのよこのクズって睨まれたい」
第三3「2くん、それってドストレートにセクハラ発言だってことわかってるよね?」
第三3「あと5、お前は喋るなもう喋んな」
第三4「旅人さんがああだというのにコイツ等ときたら……」
第三1「汚れきってんじゃねーか……」
勇者(魔王)「ああもうっ、いったい何だっていうのよ!」ジタバタ
相棒(側近)「ちょ……暴れるんじゃない!--あ、こら待て!」
勇者(魔王)「勇者!」タタタッ
側近(相棒)「あ、勇者が来た、じゃなくて魔王様が来た」
魔王(勇者)「!!」ビクッ
勇者(魔王)「目隠しなんてしてどうしたって言うのよ!何か言ってたみたいだけど、側近が私の耳塞ぐから聞こえなくて……」
勇者(魔王)「ねぇ、私の身体って私が知らないだけで不備があるとか?私の身体って泣く程辛いの?」
魔王(勇者)「………違う、そうじゃなくて……俺が、悪いんです……」フルフル
勇者(魔王)「どうして?あなたが何をしたって言うの」
魔王(勇者)「~~~~~~~!」フルフルフルフル
側近(相棒)「やめて魔王様!これ以上は……これ以上は勇者が……!!」グスッ
相棒(側近)「やめなさい!頼むから訊くのはやめてあげてくれ…!」グスッ
勇者(魔王)「二人がそこまで言うなら……」
勇者(魔王)(気になりはするけど……)
第一A(二人共良い子や……)ホロリ
第一B(4人揃うとカオスさが増すな……)
第一(何か話を振らないと……魔王様絶対まだ気になってる……)アワアワ
第一「あ!そうだ。……旅人さん達ー」
魔王(勇者)「……………?」
側近(相棒)「なに?」
第一「この類の魔法について知ってたりする?」
魔王(勇者)「……ごめん、知らないや」
側近(相棒)「魔法が発動した時のあの感覚も初めてだった」
第一「魂云々の話は?」
魔王(勇者)「……一般的な知識ぐらいかな。入れ替わりとか、こういう事象が存在するなんて知らなかった」
側近(相棒)「同じく。これって戻れるのかな、色々とまずいよ特に勇者が」
相棒(側近)(正直俺も相当まずいことになるがな)
第三4(……出さないだけで側近様も相当まずいことになってるんだろうなぁ、)
第三1(相棒さんの身体ってある意味凶器だしな……)
第一「よし、じゃあ、うちの隊長受け売りのぷち魂講座といきますか。どうせ魔法使いに目覚めてもらわないと、元に戻る方法はさっぱりのままだし」
勇者(魔王)「……あまり時間はかけたくないのだけど。いざとなったら、この身体借りさせてもらうわよ。勇者」
魔王(勇者)「相棒、いざとなったら俺を縛ってくれ。俺が何も出来ないように」ボソッ
側近(相棒)「……わかった、任せて」ホロリ
第一「んー、すでにガンガン使っておいて言うことでも無いけどさ。いくら同質の魂って奴でも本当は魔法使う事も推奨出来ないだよね」
勇者(魔王)「何故?」
第一「やっぱり自分の身体じゃないから、というか……」
相棒(側近)「同質の魂というのもな……そもそも、ヒトを人形に--生体を操作する類の魔法であるように、生きたヒトの身体を他の誰かが動かすことなど……」
第一「通常じゃ有り得ない。けれど有り得てしまうのが、同質の魂ってやつ」
第一「自分のそっくりさんは世界に三人いるって言うけど、アレ本当なんだよ。魂の話になるけど」
第一「そっくりなのは魂の形質。身体はその主の魂に合うように作られてるから、同じ形質なら別の魂でも問題なく動かせる。一応は」
勇者(魔王)「一応は、って?」
第一「やっぱり、ヒトの身体だから。自覚があろうと無かろうと、身体の持ち主は限界を知ってる」
第一「例えば、旅人さんは自分の身体の限界と自分がやってはいけないことを知っている。知っているから、無意識にでもやらない」
第一「でも、今旅人さんの身体にいる魔王様はそれを知らない。魔法って身体より魂で使ってるから、言い方が悪くなるけど、使った魔法が身体の自爆スイッチを押すことになるかもしれない」
魔王(勇者)「自爆スイッチ怖い」
側近(相棒)「自爆スイッチ怖い」
相棒(側近)「確かに……魔法には相性がある。……悪かったな、この身体で考え無しに魔法を使った」
勇者(魔王)「私も……ごめんなさい。自分の身体と同じように魔法を使ってしまったわ」
側近(相棒)「謝らなくて大丈夫だよ。だって爆発しなかったし、緊急だったんだし」
魔王(勇者)「そうだよ。俺達も武器出すぐらいは魔法使ったし、」
魔王(勇者)「なにより俺の身体のせいで魔王様が吹き飛んだら、もう立ち直れないよ」ヘラリ
勇者(魔王)「もう……見た目は私のくせに、」
勇者(魔王)「……あなたに無用な心配をかけないためにも、ちゃんと戻らなきゃね。元の身体に」
勇者(魔王)「それにしても、」
勇者(魔王)「私ってヒトの目からこう映っていたのね。なんか新鮮」ジー
勇者(魔王)「うーん、」ツンツン
魔王(勇者)「えっと……俺の頬……じゃなくて魔王様の頬だ、……つついたりなんかしてどうしっ!?」ゾクッ
魔王(勇者)(あああ!?今魔王様が首ツツツーってやった!ゾクッときた!)アワワワワ
勇者(魔王)「私、昔からくすぐったがりでね、」ツツツツ-
魔王(勇者)「ひゃあああ!?」ゾクゾク
勇者(魔王)「やっぱりくすぐったがりなのは身体のせいか……ふむ、」コチョコチョ
魔王(勇者)「ちょ、ひゃ、ままま魔王様待って駄目だって駄目くすぐっ……ひゃああああ!!」ゾクゾク
勇者(魔王)「そこまでくすぐったいの?……そういえば」
勇者(魔王)「私、誰かに全力でくすぐられたことなかったわね……」ワキワキ
魔王(勇者)(--わ、わかる。見えなくても、この気配は……!!)
魔王(勇者)(だ、誰か助けて……相棒……!)
側近(相棒)「うわぁ……大きい方だとは知ってたけど、私の胸ってこんなになってるんだ、」ジー
相棒(側近)「…………、あの、だな」タラリ
側近(相棒)「………………」ワキワキ
魔王(勇者)(相棒ぉおおお!!?側近さん逃げて!逃げてぇえ!!!)
第一ズ(……面白くなりそうだから黙っておこう)
第三ズ(……面白くなりそうだから黙っておこう)
第一弟(……ここからは、俺や植物が見てはいけない展開になりそうだ)
第一弟「--植物、今日はもう疲れただろ。そろそろ休もうか」
第一弟「とりあえずさ、移動しよう。みんなも城も、大丈夫だから。ね?それに、ちゃんと俺も一緒に行くから」
植物「……?ぐおっ、ぐおっ!」コクン
勇者(魔王)「勇者、少しの間で良いから、ちょっと付き合ってくれない?」
魔王(勇者)「ひっ、すみませんごめんなさい待って下さい魔王様!!」ジタバタ
勇者(魔王)「もうっ!暴れない!別に痛い事するわけじゃないんだから!」グイッ
魔王(勇者)「うわっ!?」グラッ
魔王(勇者)(まずい、バランスが崩れて--)
勇者(魔王)「あっ…!」グラッ
魔王(勇者)(魔王様を下にするわけには!)グイッ
ドサッ
勇者(魔王)「……倒れたのは私のせいなのに、あなたが私をかばうことないじゃない」
魔王(勇者)「……えへへ、身体が勝手に、」ヘラリ
勇者(魔王)「それ、私の身体なのに?」クスッ
魔王(勇者)「あ!……ごめん、俺、」シュン
勇者(魔王)「ありがとう。おかげでどこも痛くないわ。あなたは平気?」
魔王(勇者)「うん。大丈夫」
勇者(魔王)「ならば続きといきましょうか!」ニヤリ
魔王(勇者)「!!」
魔王(勇者)(まずい……この状況、魔王様が俺の上にいるから、)
魔王(勇者)「だ、駄目です!絶対駄目!」アワワワワ
勇者(魔王)「あ!--ごめんなさい、そうよね。これじゃ駄目だったわね」
勇者(魔王)「さっき指摘されたばかりだというのに、忘れてたわ。今は勇者の身体、男の身体でこの口調はおかしい」
勇者(魔王)(そう、今の私は勇者なんだから、男……一般的な男の口調なら勇者もきっと納得してくれるはず)
勇者(魔王)「悪いな勇者。これで良いか」ニヤリ
魔王(勇者)(そ、そうじゃなくてー!!!!)アワワワワ
第一A(あかん。これはあかん)
第一B(おー、あんな顔も出来るんだな。ふにゃふにゃしてるかヤンデレのどっちかな旅人さんが悪そうだ)ケラケラ
第一(見た目だけなら魔王様に馬乗りになってる旅人さん。どう見ても魔王様襲われてます)ケラケラ
勇者(魔王)「じゃあやるか」ワキワキ
魔王(勇者)「何を!?……あ、う、あああああ駄目ホント駄目だよこれぇえええ!!」
勇者(魔王)「何が駄目なんだよ!」
魔王(勇者)「いやだってみんなもいるんだよ!?」
魔王(勇者)(この状況ヤバいこの状況ヤバい!服乱れてる気がする!これ魔王様の身体なのに……!)
勇者(魔王)「なんだそれ、誰もいない所だったら良いって言うのか?」
勇者(魔王)(くすぐるだけなのに……)
魔王(勇者)「~~~!!」グイッ
勇者(魔王)「きゃ!?」ドサッ
魔王(勇者)「駄目」キリッ
勇者(魔王)「さっきと位置が逆……」
勇者(魔王)「…………確かにこの位置はちょっと恥ずかしいかもね」クスッ
魔王(勇者)「…………、」ドキドキドキ
魔王(勇者)(友達友達俺達は友達。じゃれてるだけ。俺達友達!)
第一A「今の魔王様の声はモロ自分の声なのに完全に魔王様認識出来るのが凄い」
第一B「声は脳内変換。逆に自分の顔見なくて済む目隠しの効果が大きかったんじゃねーの」
第一「それにしても好きって偉大だなー」
側近(相棒)「……………、」ジー
相棒(側近)「……………、」
側近(相棒)「女の子には、羨ましいってよく言われるんだ。部下さんにも少し分けろって言われて、」
側近(相棒)「こうやって、」ガシッ
相棒(側近)「ひっ!」ビクッ
側近(相棒)「すっごい揉まれたんだー」モミモミモミモミモミモミ
相棒(側近)「うう……!」カァァア
相棒(側近)(この身体はコイツのものだしどうしようとコイツの勝手だだがしかしだがしかし……!)フルフル
第三1「すげぇ……相棒さん側近様羞恥で殺そうとしてるんじゃね?」
第三4「あの凶器を本気で揉みにかかった部下さんもすげぇよ……」
側近(相棒)「……側近さんの手、大きいね、同じ竜族なのに」モミモミモミモミ
側近(相棒)「にも関わらず手から余る私の胸。もう……何でこんなに大きくなっちゃったんだろう………」モミモミモミモミ
相棒(側近)「………………」グスッ
側近(相棒)「そういえば女の子にはよく揉まれたなぁ……だからかな、いやでもよく揉まれるようになったのは勇者と旅するようになってからだし」モミモミモミモミ
側近(相棒)「動きにくいし重いし、……いらないとは言わないけどこんなに大きくなられてもなぁ……」モミモミモミモミ
相棒(側近)「……………頼む、」
側近(相棒)「?」モミモミモミモミ
相棒(側近)「……頼む、から……もう勘弁して下さい…………」フルフル
第三2「新兵時代、女子更衣室の前を通った時さ」
第三2「『きゃー○○胸大きいー!揉ませてよー!』『や、やめてよぉ!』『私にも揉ませろー!』とか女の子がきゃっきゃうふふしてる声が聞こえるわけよ」
第三2「で、思うわけだ。何で女って躊躇いなく人のおっぱい揉めるんだ?そんで何で揉ませるんだ?やっぱり同性だからか?」
第三2「更衣室の会話聞いたあの時、俺は心底女に生まれたかったとも思った」
第三3「2くんが男の子してる事がよくわかるエピソードありがとう。気持ちはわかるし確かに不思議だよねぇ」
第三3「今回の相棒さんは自分の胸ってこともあるし、魔王様も………あれは姿が自分だから出来る事だろうし一概には言えないけど」
第三3「女の子って何であんなに大胆なんだろうって思っちゃうよねぇ」
第三4(……アレ見た目だけなら、顔真っ赤にして動けないでいる相棒さんに側近様がただただセクハラしてるだけだしなぁ)
魔法使い「……………ぅ、」
第三4「あ、」
魔法使い「……………」
第三4「目、覚めたみたいだな。気分はどうだ?」
魔法使い「……私、魔力、切れてたのに」
魔法使い「あなたが治癒魔法を……?」
第三4「まぁ、うん。君の魔力性質に変換して補充したつもりだけど……その様子じゃ上手くいったみたいだな」
魔法使い(私……人間なのに……、この魔族、私に治癒を……)
魔法使い「どうして、助けたんですか……?」
第三4「どうしてって……助けるだろ普通」
第三4(早く目覚めてもらわないと困るわけだし)
魔法使い(え、普通?助けるのが普通?私人間なのに……!)
魔法使い(みんな、怖いけど、このヒトは怖くない……!)キュン
第三4「目覚めてすぐで悪いけど、魔法は無理そう?」
魔法使い「ご、ごめんなさい……」
第三4「そっか、どうしたもんかな」
魔法使い「……怒らないんですか?」
第三4「出来ないんだろ?なら仕方ないじゃんか」
第三4(魔法以外の他の方法があればいいけど、)
魔法使い(優しい……)キュン
第三4「入れ替わった魂を戻す方法、何か知らないか?」
魔法使い「あのっ、魔法以外でですか?」
第三4「魔法以外でも、もう何でもいい。知ってたら教えてくれないか?」
魔法使い「魔法以外でいいなら、ありますっ!」
魔法使い「魂は本来の身体を、身体は本来の魂をちゃんと覚えています。ですから、」
魔法使い「魂に本来の身体を教えてあげれば、魂は勝手に本来の身体に戻っていきます!」
第三4「その方法は?」
魔法使い「体液の直接交換です!」
第三4「…………へ?」
魔法使い「体液の直接交換です!!」
第三4「……直接?」
魔法使い「はい。そうじゃないと認識出来ないんです!」
第三4「………………、わかった。ありがとう」
第三1「なぁ、今の俺の聞き間違いとかじゃないよな」
第三4「おう、聞き間違いじゃないぞ」
第三4「1、2達呼んでくれ」
第三4「おーい第一ー、ちょっと来てくれー。相談したいことがある」
第一ズ「おー」「何だー?」「何かわかったー?」
第三1「2、3、5……は口に何貼り付けてんだ怖いな三人まとめてちょっと来い話がある」
第三235「おう」「なあにー?」「むむー」
第三4「……………集まったな、」
第三4「魔王様達の魂を元の身体に戻す方法が、わかった」
第一「……………、魔王様、旅人さん、じゃれるのも良いけどちょっとこっち来て下さい魂を戻す方法がわかりマシタ」
第一A「側近様、魂を戻す方法がわかりましたよ」
第一B「相棒さん胸揉むの止めてちょっとこっち来てくれ」
勇者(魔王)「わかったの!?」
魔王(勇者)(友達友達友達友達俺達友達……え、わかったの?)
側近(相棒)「わかったの!?」パッ
相棒(側近)(やっと解放されたもう嫌だ……)グスッ
第一「落ち着いて聞いて欲しいんだけど」
第一「魂は自分の身体を覚えていて、身体も自分の魂を覚えている」
第一「だから、魂に自分の身体を認識させれば、この身体は自分の身体じゃないと魂に認識させれば」
第一「勝手に戻る、と」
勇者(魔王)「その方法は?」
第一「…………、体液の、直接交換」
勇者相棒魔王側近「…………え?」
第一「体液の直接交換。直接じゃないと駄目なんだってさ」
相棒(側近)「……それは、お前、まさか……」アワワワワワ
勇者(魔王)「あ、あのそそそれって、」カァアアアア
側近(相棒)「~~~」カァアア
魔王(勇者)「」フラッ パタッ チーン
第一「……ご想像通り、というか、……」
相棒(側近)「」
勇者(魔王)「」
側近(相棒)「ゆ、勇者起きてよ一人にしないでよー!」ユサユサ
魔王(勇者)「……………、」
コソッ
第一A「……魔王様も側近様も色恋沙汰とは無縁に生きてたわけだし、少しはさ、って思うんだよ」
第一A「勇者さんと相棒はちょっとアレだけど悪い奴らじゃないし、正直応援してた」
第一A「でもこれは……早すぎだと思うの。もう少し段階を踏んでさ……」
第一B「……初めてが中身は違うとはいえ自分とか、」
第一「……くそっ…ニヤニヤ出来る状況のはずなのに……ニヤニヤする状況のはずなのに……複雑だ俺」
勇者(魔王)「そ、そうよ!」
勇者(魔王)「きっ……きす、というのは、どこかの国では、そのっ、挨拶みたいなものだって、いうし……!」フルフルフルフル
相棒(側近)「あ、ああそうだな!元に戻るためだ、キスなんて挨拶だと、考えたら……!」
第三2「いやでも体液の直接交換なんだし、挨拶レベルじゃ駄目だろ」
第三2「絶対アレじゃん。舌入れる方。ディープキス。所謂ベロちゅー」
勇者(魔王)「ひぅっ!!」
相棒(側近)「ひうっ!!」
魔王(勇者)「相棒」
側近(相棒)「なに?」
魔王(勇者)「俺もう駄目かもしれない」
側近(相棒)「そうなんだ私もだよ」
魔王(勇者)「」チーン
側近(相棒)「」チーン
第三1「お前って奴はちょっとぐらいオブラートに包んで言えないのか!」
第三2「でもベロちゅーしないと戻んないんだろ?」
第三4「ベロちゅー言うな言う度にダメージ受けてるんだぞ魔王様達!」
第三2「--あ、違うか。もう一つあるじゃん。ベロちゅー意外の方法」
第三4(全く気にしちゃいねぇ……!)
第三2「上が無理なら下があるだろ。セッ
相棒(側近)「」フォン
ぶふぉ!!」ドサッ
第三2「げほごほっ……っう、ああ……、……涙と、鼻水が……とまんね……」ダラダラボロボロ
相棒(側近)「続きを口にするならば、花粉症の症状ではすまさないからな」ゴゴゴゴゴゴ
第三2「うう……側近、様、ひっ……で……」
第三3(側近様に魔力の塊ぶち当てられたのか、2くん魔力耐性低いから……)
第三3「……でも、これは2くんが悪いよう」セナカ ナデナデ
第三3「僕2くんのこと好きだけどそのデリカシーの無さは問題だと思うなぁ」ナデナデ
第三4「同感。だから治癒は使わないぞ。ちょっと苦しんで反省しろ」
第三2「……うう…………」ダラダラボロボロ
勇者(魔王)(あうう……まさか、……し、舌を入れなきゃいけないなんて、)
勇者(魔王)(初めてなのに、キス自体、初めてなのに、いきなりそんな高難易度……!)
勇者(魔王)(……でも、)
勇者(魔王)「……戻れる方法がわかったのに、悠長に悩んでる場合じゃない」
勇者(魔王)「あの勇者達は第二が追ってる、逃がす気はない」
勇者(魔王)「そして、そろそろ隣国へ行った密偵からなにかしらの情報が届いても良い頃」
勇者(魔王)「私の国に手を出した馬鹿をぶん殴りに行かなきゃならないのに、こんな……こんなことでっ……迷ってられない!」キッ
相棒(側近)「…………!!」グッ
相棒(側近)「ああ、そうだな……俺達は、やらねばならない大事な仕事が残っている、」キッ
魔王(勇者)(……そうだ、誰も傷付かない安全な方法で戻れるってわかったのに!)
側近(相棒)(……うん、そうだよ。私の気持ちぐらいで、躊躇ってる場合じゃないんだ!)
魔王(勇者)「…………」キッ
側近(相棒)「…………」キッ
勇者(魔王)「………側近!勇者!相棒!私が何を言うか、わかるわね?」
相棒(側近)「ああ。俺は大丈夫だ」キッ
魔王(勇者)「ごめん。でも俺、もう大丈夫。いける!」キッ
側近(相棒)「私も平気。何時でもいけるよ!」キッ
勇者(魔王)「ありがとう。良い返事よ」
勇者(魔王)「……外見は自分、鏡相手にやっていると思えばいい!」
勇者(魔王)「だから、やるわよ。やってやろうじゃない!!」
勇者(魔王)「ベロちゅーとやらをね!!」
第一「あ、ごめん俺泣けてきたわ」グスッ
第一A「初めてなのに、少なくとも魔王様と側近様は初めてなのに……!」グスッ
第一B「あの反応見る限りあの二人もだろ」グスッ
第一A「初めてなのに鏡相手とか言うなんてさ……!旅人さんと相棒さんなんてベタ惚れなのに何の因果でベタ惚れの相手が中身の自分と初めてのキスしなきゃいけないんだよ……!」
第一「Cがいなくて良かったのかもな、アイツ号泣しそう」
第一AB「同感……!」
視界は黒一色。
目隠しにと形成した黒い布は光すら遮り、暗闇だけを与え続けていた。
視覚で得られる情報は皆無。
だが、気配と声は、彼女がすぐ目の前にいると知らせていた。
勇者(魔王)「……まだ目隠し?」
魔王(勇者)「……ごめん。俺、魔王様の事好きだから、色々見ちゃうんだ。だから目隠し」
勇者(魔王)「見ちゃうものなの?」
魔王(勇者)「見ちゃうものなの。やっぱ男だからね、俺」
勇者(魔王)「……………、」
魔王(勇者)「やっぱり、軽蔑したかな」
勇者(魔王)「しないわよ、それぐらいで。そりゃあ、色々見られたら困りはするかもしれないけど……私、そこまで、無知じゃないわ」
勇者(魔王)「それに、目隠しまでして、私に気を使ってくれてるじゃない。……ふふっ、こうして見ると、目隠ししてる私って笑えるわね」
勇者(魔王)「……ねぇ、見えないって不便じゃない?」
魔王(勇者)「意外といけるもんだよ。気配とか、声と、か……」
肩に手が置かれた。その感覚に言葉が詰まる。
勇者(魔王)「触れられる感覚とか?……少し、驚かせてしまったみたいだけれど」
魔王(勇者)「ははっ、緊張してるからかな。上手く察知出来なかったみたいだ」
勇者(魔王)「そうよね。ふふっ、ドキドキしてるのは私だけじゃないのに」
魔王(勇者)「…………、」
勇者(魔王)「…………、」
魔王(勇者)「……ごめん、こんな形になって」
勇者(魔王)「……何故謝るの?巻き込んだのはこちらなのに」
魔王(勇者)「なんか、俺だけ得した感じだから。友達相手にそう思うのは駄目なのに」
勇者(魔王)「私は、」
勇者(魔王)「あなたの事は嫌いじゃないの。友達として、凄く仲良くなれそうで、寧ろ好き」
勇者(魔王)「でも、異性としては、まだわからないわ。あなたが私に向ける好きと、私があなたに向ける好きは、違うかもしれない」
魔王(勇者)「…………、魔王様、」
勇者(魔王)「けれど、」
勇者(勇者)「嫌じゃないの。凄く恥ずかしいけど、嫌悪感は無いわ。だからあなたも気にしないで、犬にでも噛まれたと思いなさい」
魔王(勇者)「……犬って……あはは、了解。これはノーカウントってことで」
勇者(魔王)「……勇者、口開けなさい」
魔王(勇者)「……ここは俺からいくべきじゃないのかな」
勇者(魔王)「馬鹿。お互い緊張して震えてるのに、ここは巻き込んだ私から行くのが筋ってものよ」
魔王(勇者)「えー」
勇者(魔王)「えー、じゃない。やり方とか知らないから、やりやすいようにするの」
勇者(魔王)「だから、おとなしく従いなさい。ほら、さっさと口開ける。魔王命令なんだから」
魔王(勇者)「魔王命令ね、--わかった、従うよ。これで良い?」
勇者(魔王)「……そのまま、口開けたまま。喋らず、動かないで、良いわね?」
頷くと、肩に置かれた手に力が入るのを感じた。
勇者(魔王)「いくわよ、」
気配が近付く。
吐息を感じた。
不思議な気分だ。くらくらする、何も考えられなくなる。
唇が合わさるまで、舌が絡み合うまで、
あと、一秒。
目の前にあるのは紛れもなく自分の顔のはずだが、
それが全く別人の顔に見えてしまうのは、やはり中身が違うからなのだろう。
耳まで赤い自分の顔を見て、さて私はと思う。
彼の顔を同じく真っ赤にさせているのだろうか。
側近(相棒)「ぷくくっ……」
相棒(側近)「何がおかしい、」
側近(相棒)「私の顔、真っ赤だなーって。ただでさえ目も赤いのに、」
相棒(側近)「……仕方ないだろ、慣れてないんだ。こんなこと」
相棒(側近)「……お前は、割りと平気そうに見える」
側近(相棒)「そうかな?……ふへへ、気を抜くと足がっくがくになりそうだから頑張ってるよ、一応」
側近(相棒)「--証明すると、」
相棒(側近)「お、おい……!」
取った手を胸に当てると、彼は慌てたように手を引こうとした。
側近(相棒)「これ、側近さんの身体なのに。そう慌てなくても、」
相棒(側近)「だがな、…………って、お前、これ」
伝わる鼓動に気付いたらしい、
側近(相棒)「……証明、出来た?」
相棒(側近)「ああ。……お互い、凄い事になってるな、」
側近(相棒)(--あ。側近さん、笑った)
相棒(側近)「!……どうした?鼓動、また一段と早くなったぞ」
側近(相棒)「……自分の顔なのになぁ。……側近さんが笑った、って思ったら、」
相棒(側近)「~~~!!」
側近(相棒)「あははっ、まだ赤くなれるんだね。顔」
相棒(側近)「お前が、そういうこと、言うから……!」
ごめん、と言う代わりに笑ってみせた。
すると彼は、迷うように口をもごもごと動かした後、
相棒(側近)「……………俺は、」
相棒(側近)「……こういった、色恋沙汰とは、無縁に生きてきた」
相棒(側近)「だから、正直な所、まだわからないんだ。好きとか、どうとかは」
相棒(側近)「……お前は、不可思議で変な奴だと思ってはいるが、その……嫌いではない。友人としてなら、良い関係を築けそうだと、はっきりと言える」
相棒(側近)「--すまんな。俺がこうなのに、こんなことになってしまって」
相棒(側近)「これは、お互いが好意を持つ仲でする事だろう、」
側近(相棒)「ごめん、はこっちの台詞だよ。私が相手じゃ嫌かも--」
相棒(側近)「嫌じゃない!」
側近(相棒)「!!」
相棒(側近)「……あ、……というか、その、とても、それこそ死ぬ程恥ずかしいが、嫌悪感は一切無い。それだけはわかってくれ」
側近(相棒)「………………了解、」
相棒(側近)「それと、だな。頼みがある、……目を、閉じてくれないか」
側近(相棒)「…………うん、わかった」
目を閉じた。
躊躇うように迷った手が、そっと、肩に置かれる。
相棒(側近)「……………、」
近付く気配。
吐息を感じた。
不思議な気分だ。くらくらする、何も考えられなくなる。
唇が合わさるまで、舌が絡み合うまで、
あと、一秒。
魔法使い「……はわわわ……そ、そんな関係だったのですね、」
魔法使い「私が見てきたヒト達は皆傷口を合わせる事で元に戻っていたから……」
一同「」
魔王勇者「」ピタッ
側近相棒「」ピタッ
第一「--え、直接ってそれもアリなの?」
魔法使い(さっきの怖いヒトだ……ちゃんと答えなきゃ痛いことされちゃう……!)
魔法使い「は、はい!傷口を合わせる事はありです!でも少しとはいえ痛みを伴いますから今のこの方法の方が……!!」
魔王勇者側近相棒「」ザシュ
第一A(ひぃ……!滅茶苦茶深く切った音がした……!)
魔王勇者側近相棒「」ボタボタボタ
第一B(絶対切りすぎてる!絶対深くいきすぎてる!)
魔王勇者側近相棒「」ギュ
魔王「戻ったわね」
勇者「うん、戻った」
側近「戻ったか、」
相棒「戻った戻った」
側近「--みんな手出せ。まとめて治癒魔法をかける」フォン
勇者「俺はいいや。すぐ治るし」
勇者「あ、そうだ魔王様ごめん。手怪我させた」
相棒「私も。ごめん側近さん、かなり深くいったかも」
魔王「……私もごめんなさい。でも、お互い様よ。痛みなんて治ったらすぐ消えるわ。傷だってね」
側近「俺からも、すまないと言わせてくれ。傷跡は絶対に残さない」フォン フォン
側近「--これでよし」
相棒「ありがとう。もう痛くない」
魔王「ありがと。……勇者は?治った?」
勇者「うん。この通り」ヒラヒラ
魔王「早いわね。でも、治ったのなら良かったわ」
魔王「じゃあ私と側近は一度執務室に戻るから」
側近「悪かったな、人間との戦いに巻き込んで。あとはこちらでやるから休んでろ」
勇者「好きでやってるからいいのに。な」
相棒「うん、そうだよ。……でも、お言葉に甘えてちょっと休んでる」
側近「そうしてくれ」
側近「--第三。魔法使いは任せた。処遇は追って伝える」フォン
魔王「じゃあ、またね」
ヒュン
相棒「うん、」
勇者「またね」
勇者「………………」
相棒「………………」
第一B「お、おい。あの二人微動だにしないぞ大丈夫か」
第一A「大丈夫じゃない気がする!これは絶対に大丈夫じゃない気がする!」
勇者「…………」フラッ パタッ
相棒「…………」フラッ パタッ
第一「やっぱりそうだよな!!」
勇者(うわあああああああああああ!!うわああああああああああああああ!!)ゴロゴロゴロゴロ
相棒(ひやああああああああああ!!あああ!うわああああああああああああ!)ゴロゴロゴロゴロ
第一B「お、別パターンきた。悶えてるのか!これ悶えてるんだな!」
第一A「やっぱりこれで良かったんだと思うけど少し惜しい気もしたのが正直な感想」
第一「とりあえず落ち着くまで見守ってやるか」
執務室。
魔王(私っ……私今!今ああああああ!きゃあああああああああ!!ああああああ!!)
側近(うわあああああああああああ!あああああ!俺は今、今、……あああああ!!)
密偵新人(班長に頼まれてとんぼ返りしてみたら)
密偵新人(魔王達がうずくまって動かない。何があったんだろう……)
密偵新人(とりあえず落ち着くまで待っていよっと)
勇者相棒(--あの、時、寸前で止まった、けど、けど……!!)
魔王側近(……寸前で止まった、はず、だった、けど……!!)
勇者相棒魔王側近(あの時、確かに、)
勇者相棒魔王側近(唇は、触れてた……!!)
庭園。
第三1「…………」ジー
第三2「…………」ダラダラボロボロ
第三3「…………」ジー
第三4「…………」ジー
第三5「…………」ジー
魔法使い「……………」ガクブル
魔法使い(いやああああ!囲まれてるう!怖いよ怖いよー!!)
第三1「やらかしたな、あんた」ボソッ
第三2(……魔法使いこの野郎魔法使いこの野郎)ダラダラボロボロ
第三3「あそこで言うタイミングじゃなかったよね」ボソッ
第三4「あれは余計だったな」ボソッ
第三5「せっかく全力でバレないように映像記録してたってのにさ」ボソッ
魔法使い(みんな私を睨んで……優しかったあのヒトまで……!!)
魔法使い(うわあああああああああああん!!やっぱり魔族なんて嫌いですうう!!)
第三1「俺達魔法使いを牢屋ぶち込……連れて行くから、そっちよろしくなー!」
第三3「はーい、いくよぉ~」グイッ
魔法使い(いやああああああ……)ズルズル
第一「おー、任せたー」
勇者「」ゴロゴロゴロゴロ
相棒「」ゴロゴロゴロゴロ
第一B「……ま、よく考えりゃそうだよな。血もアリだって」
第一A「うーん、やっぱ二人の事はどうしても贔屓して見ちゃうからな。おかげでこっちまで冷静でいられなくなる」
第一「……あー、わかったこれ。手のかかる下の兄妹が出来た感じだ」
第一「兄貴担当はCなのになー、部下ちゃんのせいだこれ」ウンウン
第一「--よし、なんか悔しいから追い討ちかけてくるわ!」タタタタッ
第一A「は?」
第一B「へ?」
第一「旅人さーん、相棒さーん」タタタタッ
勇者「」ゴロゴロゴピタッ
相棒「」ゴロゴロゴピタッ
第一「----」ボソボソ
勇者「………~~~!!!」ボフッ
相棒「………~~~!!!」ボフッ
勇者「」チーン
相棒「」チーン
タッタッタッ
第一「ふぅ、満足、」スッキリ
第一B「何言ったお前何言ったお前ー!!」
第一A「落ち着くまで見守る言ったじゃんかー!!」
第一「通称を教えてたんだよ。同質の魂の」
第一「なんせ、世界で4つしか無いんだ。こんなだだっ広い世界で、出会うことすら奇跡に近い」
第一「そんな奇跡の出会いを、世間様は、『運命の人』なんて言うよな」
第一A「……………、」
第一B「……………、」
第一A「……隊長らしい教えだよソレ」ケラケラ
第一B「あのヒト、そういうの好きだったからなー」ケラケラ
第一「いやぁ、あの二人こんなのに弱いかなと思って。さらに意識させてみました」ケラケラ
第一「……でも、一応間違ってはいないらしいんだ。隊長曰わく、だけど」
第一「とりあえず、やたら縁深くなるのは確かなんだってさ。魂が同じな分色々似てるから、出会えばすぐに滅茶苦茶仲良くなるか、同族嫌悪で滅茶苦茶仲悪くなるかのどちらかで」
第一「男女均等に生まれるわけでもなく、出会えないまま先に死ぬことが多いんだ、全部が全部ゴールインとはいかない」
第一「--類は友を呼ぶってのもホントらしくてさ。例えば第一、第二、第三部隊。集まる奴らの魂の形質はよく似てるって言ってたよ」
第一A「わかるってことは、隊長は魔法使いと同じ目を持ってたってことか」
第一「いや、魔法で視える目に出来るだけで、常時とはいかないんだってさー。で、使うと倒れると」
第一B「変な魔法使う度に倒れてたもんなー、隊長ー」ケラケラ
第一A「確かに、そうだったわー」ケラケラ フォン
パキン パキン
第一「--お、空間隔離?傍受防止ってやつ?」ケラケラ
第一「あーあ、第三がいなくなった途端、コレだよ」
第一A「……………、」
第一A「お前、一人だけ発動に気付いてたよな」
第一A「どこかであの魔法が発動されるのに立ち会ったってことだよな」
第一B「目が特別どうこうとはいえ、魂を身体から強制的に弾き出す魔法が存在する。そんな魔法がどれだけ危険かは馬鹿でもわかる」
第一B「魔力の行使は魂がやってるものだからな、強力な魔法を使う者程、魂の重要性は熟知している」
第一B「うちの隊長はお喋りで馬鹿の変人だったが、遊びで魂を弄ぶような真似はしないヒトだった」
第一A「隊長は俺達四人によく構って、それぞれ資質にあった魔法を教えてくれた。--これがお前の資質にあった魔法だって言うならそれで納得したよ」
第一A「でも、違うだろ。お前はこの魔法を知ってはいるが、使えない。なら、お前は隊長に魔法自体を教えてもらったわけではない、」
第一B「となると、だ。お前、俺達に言ってないことあるだろ。例えば、お前自身が、あの魔法を受けた事がある、とか」
第一(………やだやだ、これも部下ちゃんのせいだ。余計な事までつい言っちゃってさー)ハァ
第一「残念。半分外れ。言ってない事はそりゃあ山ほどあるけど、それはお前らも同じだろ?」
第一「そもそも俺は、あの魔法を受けたことはない。魂が入れ替わる不思議現象も、魂が身体から放り出される危険現象も、俺はどちらも経験してない」
第一「でも、あの類の魔法を実際に目にしたことはある。使ったのは隊長。もちろん、遊びで使ったわけじゃない」
第一B「じゃあ何で」
第一「これ以上は俺の権限じゃ喋れないな。隊長命令だし」ケラケラ
第一A「……………」
第一B「……………」
第一「これで納得してくれないと、こっちの様子に気付いた二人がデレデレモードからヤンデレモードに切り替わっちゃうだろー?」
第一A「……納得することにするわ。隔離、解除する」フォン
バシュン
第一B「まったく……秘密主義も大概に--」
勇者「……………」ジー
相棒「……………」ジー
第一B「っお!?」ビクッ
第一A「ひぃ!」ビクッ
第一「……あー、ほら言ったじゃん切り替わっちゃったじゃん」ケラケラ
第一B「ああもう!何でもないからその目やめろ!」
第一A「うああ怖い流石に死んだ目に真っ直ぐ見られるのはマジ怖いって!やめてホントやめてー!!」
第一「もったいないなー、せっかくのデレデレモードだったのに」ケラケラ
第一「…………………、」
第一隊長『--今、俺がお前に何をしたとしても、気にすんなよー』
第一隊長『これはもうお前の命だからさ、好きに使っていい。ホントだって』
第一隊長『ただ、俺がやったことは口外禁止な。これ、隊長命令』
第一隊長『理由は、わかるだろ?この魔法はマジで危険だからな。世界が変わるぐらいに』
第一隊長『ほら、何をしてでも死人を生前そのままに生き返らせたいと思う輩なんて、世界にはわらわらーっと沢山いるだろ?だから、な?』ケラケラ
第一(俺、魂かじられて一度死んでますー、んで、ちょうど同質の魂だった隊長の魂削って貰って生き返りましたー、なんて)
第一(言えないよなー)ケラケラ
とある町。
剣士「ああああ!くっそ、」
剣士「こうなったら、町の一つぐらいぶち壊してやらないとと気が済まねぇ!」
僧侶「同感です、任務は失敗とはいえ、私達にはまだやれることがある」
僧侶「少しでも多くの魔族を……殺さなきゃ、」
勇者男「………………、」
勇者男(どうせ、止めても勝手にやるのだろう、)
勇者男「……いいだろう。好きにしろ」
勇者男「ところで、」
勇者男「剣士、お前の頭に乗っている虫は何だ」
僧侶「気持ち悪いペットですね」
剣士「--は?」
勇者男「羽音が煩わしくないのか、耳元で飛ばれて」
剣士「……………、」
剣士「これ、耳元で虫の羽音がする、ひたすら嫌がらせにしか使えない魔法だと思ったけど」
剣士「え、なに?本当にいるわけ?虫」
僧侶「あなたの顔の前を平然と飛んでますけど、見えないんですか」
剣士「な……どこだよ!」
僧侶「……へぇ、視認は出来ない、そういう魔法なんですね」
剣士「取ってくれ」
僧侶「いやです気持ち悪い」
剣士「勇者、取ってくれ」
勇者男「…………術者をなんとかすれば消滅する魔法だ」
剣士「いや、今すぐどうにかしたい」
僧侶「今、頭上を斬れば殺せますよ、虫」
剣士「…………」ヒュ ベチャ
剣士「……手応えあった。仕留められたんだよな」
勇者男(…………汚い、)
僧侶「汚い……寄らないで下さい。頭が虫の欠片でべちゃべちゃ」
剣士「…………」スッ ネチョ
剣士「術者許さん絶対殺す」
隣国魔王城。
隣国兵士Ⅰ「おーい、ひび割れ眼鏡ー。通信回線復旧したぞー」
密偵班長「誰がひび割れ眼鏡だ」
隣国兵士Ⅰ「あ、悪い。もうひび割れしてないな。眼鏡替えた?」
密偵班長「ああ。一度城に戻ったからな」
隣国兵士Ⅰ「いやー、しかしアレだな。アンタ結構丈夫だねぇ。瀕死だったくせにすぐに動けるようになれるんだから」
密偵班長「治癒魔法使ってくれたそっちの術者の腕が良かったんだよ」
隣国兵士Ⅰ「まぁそれもあるけどさー」ケラケラ
隣国兵士Ⅰ「……しっかし、大変だよなー、そっちの国は変に人気があって」
密偵班長「……………」
隣国兵士Ⅰ「魔法回廊だけじゃないからな、国内に仕掛けられてるのは。余程のお気に入りだったってわけだ」
密偵班長「言っとくけど、俺からアンタらに情報渡すことは無い」
隣国兵士Ⅰ「悪い悪い。俺、一般兵のくせに、国がこんなんなるから極秘事項ーとか他国の秘密ーとかに触れちゃったわけだから」
隣国兵士Ⅰ「知っちゃったことにはその国のヒトに真偽を確かめたくなっちゃうわけで」
密偵班長「……………、」
隣国兵士Ⅰ「人形とかの魔法ってさ、身体に染み着いてる記憶をベースに動くわけで。一般人より戦い慣れしてる奴の方がやっぱり強い」
隣国兵士Ⅰ「だから、キミ等の魔王様が狙われたのはわかる。強いから」
隣国兵士Ⅰ「でもまさか、強さに理由があったなんてなー。そりゃ欲しくなるか、」
密偵班長「口が軽いと長生き出来ないぞ」
隣国兵士Ⅰ「ははは、ご忠告どうも。言いふらしたりはしないから安心してくれ」
隣国兵士Ⅰ「あーあ、今頃キミ等の魔王様はアレか?乗り込もうとしてるのかな?」
密偵班長「………………」
隣国兵士Ⅰ「うちの国とまさかのタッグを組んだ、」
隣国兵士Ⅰ「人間領のお国さんに、さ」
魔王城。
庭園。
勇者「空気が重かった」ズルズル
相棒「お兄さんを問い詰めてた」ズルズル
第一「大丈夫だって。気にしない気にしない。んな大事じゃないからさ」
勇者「ほんとに?」
第一「ほんとほんと」
相棒「なら良かった」ヘラリ
勇者「だな」ヘラリ
第一B「何でほふく前進で近寄ってくるんだ」
第一A「しかも早いやたら早いおまけにヤンデレ顔だからリアルホラーを間近で見ちゃった俺くらっときた」
勇者「お兄さん、俺達、これからどうしたらいいかな」
第一「これから?」
相棒「休んでろ、って言われたけど、私達元気だし何か出来ること無いかなって」
第一「…………んー、どうしたもんかな。魔王様達や俺達はさ、人間領側の奴らとお前等が戦うのはあまりよろしくないって考えてるんだよ」
勇者「俺が勇者だから?」
第一「まぁ、それもあるかな」
勇者「…………、」
第一「でも、一番の理由は……二人が戦っちゃうとさ、俺達の代わりに手を汚した事になるからだな」
相棒「私達は自分の意志で動いてるのに?」
第一「二人は俺達側だってのはわかってるけど、なんか良いように使ってる感じで……それが嫌なんだよ」
勇者「……わかった、おとなしくする」
相棒「うん。私も、おとなしくする」
第一B「----あ、」ピクッ
勇者「?」
相棒「?」
第一B「俺の蟲死んだわ」
第一A「やっとか。あの剣士結構粘ったな。お前の嫌がらせ魔法をここまで放置するとか」
勇者「?虫?」
第一「ほら、あのクソ剣士の周り飛び回ってた奴」
相棒「あれBさんの魔法だったんだー」
第一A「対象の耳元でずっと羽音聞かせてるんだよ。時々童謡っぽく飛んだりする地味でも精神的に辛い嫌がらせ」
第一B「嫌がらせだけじゃねぇよ。取り付かせた瞬間から、あの剣士が考えてた事全部記録してる。……ま、死なないと術者の俺の所に情報持って来ないけどさ」
勇者「Bさん怖い魔法使うねー」
第一B「お前に言われたかねぇよ」ケラケラ
第一A「こいつ、普通の攻撃魔法より毒とか麻痺とか状態異常系の嫌がらせ的な魔法が得意。あと変な蟲作る」
第一「ここだけの話、Bは腐海の環境を再現出来るんだぜ」コソッ
勇者「腐海ってあの!?」コソッ
相棒「あの腐海!?」コソッ
第一「範囲はかなり狭められての完全にプチ状態だけど、あいつ何時か王○も作っちゃうと思う」コソッ
勇者「Bさんすごい」キラキラ
相棒「Bさんすごい」キラキラ
第一B「おい、お前は二人に何吹き込んでんだよ」
第一「Bはこういう魔法の資質があるんだーって説明」
勇者(青目の○蟲静かに眺めていたい)キラキラキラキラ
相棒(実寸大がいい沢山いると尚良い)キラキラキラキラ
第一B(……何言ったらあの怪獣植物見るような目で見られることになるんだ)ハァ
勇者「あのさ、資質ってことは、Bさんはこういう類の魔法が生来的に得意ってこと?」
相棒「治癒魔法とかも生来的な資質だもんね。魔法って得意不得意あるし」
第一B「そうみたいだな。ま、俺も隊長に教えられるまで自覚なかったんだけどさ」
勇者「じゃあ、Aさんは空間把握系で、Cさんは治癒系?」
第一A「正解。Bと違ってわかりやすいと思うけどさ」
第一「ちなみにCのステータスはユニコーンと同じ」
第一B「また訳わからんことを」
相棒「じゃあ、」
第一「あ、そうだ。B。蟲からゲットした情報まとめなきゃいけないんだろ?」
第一B「そうだけど、……まとめた情報魔王様んとこにあげる前に、」
フォン ヴゥン
魔王『第一、』
第一A「お、通信きた。やっぱ密偵側の方が情報早いよな。Bはサブみたいなもんだし」
魔王『私達少しの間城を開けるわ。ちょっと殴り込みに行ってくる』
第一A「了解です」
第一B「了解」
第一「はいはーい、了解ですー」
魔王『勇者、相棒。そこにいるわね?』
勇者「はい」
相棒「いるよ」
魔王『私達について来ちゃ駄目よ。絶対に。殴り込みに行くのは人間領の国だから』
勇者「……駄目なのは、俺が勇者だから?人間だから?」
魔王『友達だから。……もう巻き込んでるけど、私の敵を消すのにこれ以上あなたの手を汚したくないの』
勇者「……うん、わかった」
魔王『…………相棒も。返事は?』
相棒「わかった。行かない。……ちゃんと無事に、二人で戻って来てね」
魔王『ふふっ、わかってるわよ。安心して、私達強いから』
魔王『じゃあ、留守は任せたわ』プツッ
勇者「--行ったな、魔王様達」
相棒「そうだね。反応、城から消えたし」
勇者「……ねぇ、お兄さん達。俺達おとなしくしてるから、訊くだけはいい?」
第一B「魔王様達が何で人間領に行くのかとかか?」
相棒「それもあるけど。……何で人間領側魔王様と側近さんの身体を欲しがるのか、とか」
第一A「……人間領に行くのは、今回の事が人間領の国と隣国がタッグを組んだってわかったからだろうな」
第一「側近様を欲しがるのは、強いから、としか答えようがないよなぁ。でも、」
第一B「魔王様を欲しがる原因の心当たりはある。……けど、それは魔王様本人から言うのを待ってくれ」
勇者「………………、強さだけが目的じゃなく、強さの元が欲しいのかな。そうなら、…………俺がついてく理由になってしまう」
第一「行くなよー、振りじゃないからなー」
勇者「わかってるよ」
相棒(……もしかしたら、私が知らないだけで黒の竜族は、)
フォン
ガガッ ガッ
勇者「通信回線……俺達に?」
相棒「誰だろう、こっちから繋げないと繋がらないぐらい、不完全……」フォン
『たすけて』
『たすけて、お兄ちゃん、お姉ちゃん』
勇者「!!--この声、」
相棒「あの町で、友達になったちびっ子達の……!」
ちびっ子『お兄さん達、お城の人達と知り合いで、魔王様達とも友達なんでしょ!?助けてって言って、おねがい……!』
ちびっ子『町のっ裏山に……怖い人……いてっ、』
ちびっ子『あいつ死んじゃうよ、殺されちゃう……!町の兵士さん達みんなやられちゃった、血がでてる……!』
第一「……あの町の子か」
第一B「おいおい、何があったって……」
第一A「俺あの町の兵士に通信入れて」
剣士『おいおい、マジかよ。穴だらけ傍受し放題の通信回線あると思ったら、繋がる先はお前等か』
剣士『え、なに?このガキお前等の友達?マジで?年齢考えて友達作れよ』
勇者「--お前、何してんの?」ザワッ
剣士『ガキ人質にとって町を魔物だらけにしてぶっ壊そうとしてんの』
剣士『ほら、まさかこれだけされて何もせず帰るとか、出来ないじゃん』ケラケラ
相棒「…………」ザワザワ
剣士『なぁ、もしかして、もしかしてさ!お前等にも効いたりするの?』
剣士『こういう、人質とか。小さなお友達が人質になりましたーとか、はは、なぁ、』
剣士『もしさ、こういう手が効いてくれるんなら、』
剣士『今度こそ、ちゃんと遊ぼうぜ。勇者さんよ』
剣士『お友達の命と町の命運、賭けてさぁ!!!』ケラケラケラケラ
第一B(何やってんだよ第二……まさかやられたっていうんじゃ、)
第一A(第二をつかせた時点ですでに仕留めているもんだと、)
第一(まずいな……仮にまだついていたとしても第二の奴らに救出は出来ない)
勇者「--うん。効くよ。だって俺友達少ないし」
勇者「だからさ、ちゃんと待ってろよな。お前の遊びに付き合ってやるから」
剣士『はは……はははっ!!マジかよ、ひゃはははは!!わかった、待ってるよ、すぐに来いよ!!来なかったら、』
剣士『この通信回線繋げてる馬鹿なガキ共を、探しに行くからな?』
プツッ
勇者「…………お兄さん達、ごめん。おとなしくしてるつもりだったけど、出来ない」
相棒「勇者。すぐにでも転移出来るよ。あの町に」フォン
勇者「頼む。行こう」
相棒「----」フォン
ヒュン
第一「城は第三に任せるか」
第一B「通信入れた。了解だってよ」
第一A「転移魔法陣は展開済み、いつでもいける」
第一「じゃあ行くかー」
第一「事の次第……どう転ぶかによっては、本気で魔法ぶっ放すからな。第二」ボソッ
とある町。
付近の山。
剣士「お早い到着で嬉しいよ」
人質の少年「……旅人っ!」
剣士「おっと、間違っても動くなよちびっ子。お兄さんコイツに片腕落とされて、今腕一つしかないから」
剣士「首飛ばすしか、お前をおとなしく留めておく方法無いんだ」ニヤニヤ
略少年「--!!」ガクブル
勇者「必ず助けるから、安心してよ。な?」
少年「………!」コクン
第一(人質は子供一人。あの時仲良くしてた町の子か)チラッ
町の常駐兵「すみません、我々の力不足で……子供を人質に」
第一「いや、アレ相手に死人出してないですし、元はといえば逃がした俺達に責任があります」
相棒「負傷者は全員安全圏に運んだよ。子供も全員保護したって通信あった」
第一「じゃああの子救出して、剣士の足元の……クソの旧魔王印召還魔法陣をなんとかすれば問題解決ってことか」
相棒「--くそっ、私まで接近したらさらに魔力濃度上がるから、」
第一「Bはアイツの前に出せないな。恨みもってそうだし」
相棒「スキを見て必ず……助ける。せっかく出来た、小さな友達なんだから」
剣士「なぁ、お前何でこの国の味方してんだ?マジで人間に愛想つきたってか?」
勇者「…………」
剣士「教えろって。俺が訊いてるんだからさ?」ニヤニヤ
少年「っ……」ビクッ
勇者(剣を、子供の首に触れさせて……脅しか、)
勇者「……別に愛想がつきたわけじゃない」
剣士「じゃあ何だ?まさか魔王に惚れたとか言うんじゃないよな」
勇者「…………」
剣士「まさか、とか言ったけどよ。見てればわかるって。お前魔王に惚れたんだろ。美人で金持ち。最高の逆玉だからな」
勇者「………………、」
剣士「ははっ!逆玉っても笑えるよ!人間で、勇者協会に登録された正真正銘の勇者のくせに!よくもまぁ魔王なんかに惚れられるよな!!」
少年「!!?」
常駐兵「!!?」
少年「……旅人、お前……勇者だったのか……?」
勇者「………」コクン
少年「………………っ」
勇者(……畏怖の対象を見る、目。……慣れてるだろ、そんな目で見られることは)
常駐兵「……本当なんですか?」
相棒「……うん」
第一「本当。魔族にとって勇者のイメージは最悪ですから……混乱をさけるために伏せていました。魔王様の判断です」
常駐兵「…………」
相棒「勇者は、勇者だけど……信用してほしい。あの子を必ず助けるから、あの子は友達だから」
常駐兵「……信用します。魔王様の客であることに変わりない」
相棒「ありがとう」
第一(……そりゃあ大人は、しかも兵士は、魔王様の客とわかれば切り替えは可能だろう。でも子供は……)
第一(身分を隠さず最初に出会ったのが俺達で、次が魔王様達や城の奴らだ……特殊なのは俺達の方)
第一(あんな目で、まして子供に、見られてほしくなかったから伏せた事なのに……あのクソ剣士、)
常駐兵「正直魔王様に惚れてるっていうのが最も聞き捨てならないんですが本当ですか」
第一「そこスルーするかと思ったこの国の兵士みんな魔王様の事好きなの忘れてた」
常駐兵「本当ですか魔王様に色恋沙汰ですかまさか公認ですかどこまで進展してるんですか我々が知らないうちに大人の階段上ってらっしゃったということですかくそっ!くそっ!!」
第一「話が一気に飛躍したぞおい、好きというかこの人が特殊すぎるだけだ」
常駐兵「会員No.0036」
第一「うわやべぇ魔王様ファンクラブの人だ500以内はロリ時代からの会員って話なのに何そのナンバー真性ガチの人じゃねぇか」
相棒「と、友達ですからまだ友達ですから!」
剣士「この国の魔王も兵士も馬鹿じゃねぇの!?勇者と仲良くお友達ごっこかよ」
常駐兵「魔王様を馬鹿にしたクソは斬ってきます」ユラリ
第一「勝てない相手なんだからやめて下さいあんた死ぬって」
剣士「……いいのかね、人間で勇者だ。ここは魔族領だぜ?どんなやましいこと考えてここに来たかもわかりゃしねぇ」
勇者「……………」
剣士「ああ、そうだ。きかせてくれよ」
剣士「魔王の身体は、良かったか?戻ったとはいえ、さっきまで女の身体に入ってたんだもんなぁ」
常駐兵「…………」キッ
第一「誤解だって性的な意味じゃないから無言で俺の胸ぐら掴んで揺らすのやめて下さい」グラグラ
相棒「……あいつ、」ザワッ
剣士「良いよなぁ、お前。どうせ、ヤることはヤらせてもらってんだろ?」
常駐兵「!!」クワッ
第一「いやだから誤解だってまだそんな関係じゃないしなんだかんだで魂入れ替わってたんだよ魔王様とアイツ。だから、」グラグラ
剣士「相棒の女もエロい身体してるし、二人旅はさぞかし楽しかっただろうな。なぁ、俺にどっちの身体が良かったか教えてくれよ」
相棒「」ブチッ
相棒「言わせておけばこの野郎!!」
剣士「あ?女がしゃしゃり出てく」
相棒「何がやることやっただ!!勇者をてめぇみたいなゲスを一緒にするな!!」
相棒「ああそうだよ二人旅は最高に楽しかったよでも勇者は一度たりとも私に手を出したことなんてなかった!」
相棒「私と勇者はな!混浴のお風呂で水遊び出来るぐらいの関係だ!!勝手に決めつけるな!」
第一(……いや、わかるけど。言いたいことはわかるけどそれなんか違うよ相棒さん……)
常駐兵(混浴で水遊び……!?素っ裸でこの身体相手に水遊びだと?)
剣士「え、勇者お前不能なの?」
勇者「……」
相棒「よくも勇者の気持ちを汚しやがって!!勇者と魔王様はまだ友達だし手すら緊張して自然に握るだなんて出来ないだろうしそもそも勇者が魔王様にほいほい触れられる程の度胸があると思ってるのか!!」
剣士「えっ」
少年「えっ」
常駐兵「えっ」
勇者「」
第一「あー、その、相棒さんちょっと、」
相棒「魂が入れ替わって魔王様の身体に勇者の魂が入っちゃった時も!!勇者だって男だ、少しぐらいやましい事考えて当然なのに、それぐらい誰も軽蔑なんかしないのに!!魔王様だって許してくれるはずなのに!勇者は、勇者は……!!」
相棒「やましい事考えた自分を責めて、見ないようにってすぐに目隠しして!挙げ句の果てには!--触れられないようにって、私に縛ってとまで………言ったんだからな……!!」
剣士「えっ」
少年(勇者………)
常駐兵(勇者……そうか……君は……)ホロリ
勇者「」
第一「もうやめて相棒さん君の相棒君の言葉で死んじゃう」
相棒「わかったかこの野郎!勇者はてめぇみたいな汚れじゃない!!」
剣士「汚れじゃないな。ただのへたれだな。訂正するわ」
勇者「」
第一(……言葉ってヒトを殺せるよなー)シミジミ
とある町。
郊外。
炎の柱が天に向かって伸びていた。
その業火の中心に、男が一人。
勇者男(この火力は……辛いな。俺の障壁越しでここまでの熱量を、)
勇者男(ふっ……これで本気でないという事が恐ろしい)
第一副隊長「…………」フォン
勇者男(!!火力が増していく。このままでは……洒落にならんな)
ヴゥヴヴ
勇者男「?」
勇者男(--ふむ、通信か。……人間領、あの国の王か?十中八九、要件は、)
勇者男(……とりあえず、繋げてはやるか)フォン
人間領国王『勇者か!?すぐに戻ってきてくれ!!魔王と竜が……!!』
勇者男「…………襲ってきたのか」
略国王『そうだ!転移でも何でもいい!早く戻れ!!協会へ要請したが間に合わない!このままでは……!!』
勇者男「悪いが、すぐには戻れない」
国王『!?何故だ!!国の一大事だぞ!?』
勇者男「忙しいんだ。こっちは、」
勇者男「美女に、身も心も焼き焦がされそうでね」キリッ
国王『--は?』
勇者男(おっと、美女の炎に気分が高揚したか、つい本音が)
勇者男「失礼。通信回線に乱れがあるようだ。切らせてもらう」フォン
国王『お、おい勇者!おいっ!!』プツッ
勇者男(--さて、ずっとこのまま、というわけにもいくまい)スッ
構えた剣が輝き出した。
勇者男(斬る、)
「今の相手、件の国王とやらか?」
炎の遮る障壁の向こうに、人影を見た。
勇者男「……………」ピタッ
勇者男(……恐ろしいヒトだ。薄い被膜状の障壁でこの炎の中を)
第二隊長「あとさっきの美女云々、第一のにも聞こえてるぞ。舌打ちしてたぞ。ざまぁみろというやつだ」
勇者男「……本当に、顔と強さだけは実に好みだ。君は」
第二隊長「お前は変だが実力は認めてやる。第一のに楽々こんがり焼かれなかったからな」
勇者男「身まで焦がされればいくら俺でも死んでしまうんでね」
第二隊長「隙を見せなかったことも褒めてやる。見せたら殺してやろうと思っていた」
勇者男「可愛い顔をして苛烈な事を言う」
第二隊長「可愛いだと?……第一のに可愛い言われたからもういいもん。お前の可愛いなんかいらん」
勇者男(…………もういいもん、だと……)
第二隊長「……そろそろ時間だ。それに、お前が炎を斬ったらなんか第一のの炎が負けたみたいで癪だ」
第二隊長「私が突入したから第一のは自ら魔法の展開を治めるだろう。話はそれからだ」
勇者男「話、ね……。いったい何の話かな」
第二隊長「お前は変でふざけた奴だが、喧嘩を売ってきた人間領の国側ではない。国王側の勇者ではない」
第二隊長「お前は何故この国に来た。本当の目的について話してもらおうか」
勇者男「……………」
数分後。
ゴォオオオオオオオ
勇者男「炎、火力を増しただけのようだが」
第二隊長「何でだ!?何でだ第一のおおおおおおおお!!!!!?」
さらに数分後。
ゴォオオオオオオオオオオオ
勇者男(剣の手入れでもするか)フキフキ キュッキュ
第二隊長「何でだ?私がいることわかってるよな!?何で魔法の展開を止めない?もしかして第一の怒ってる?まさか前に茶菓子を盗み食いしたのバレてる?」
第二隊長「……ううう……だ、だって、美味しそうだったんだもん!目の前にあったんだもん!!」
またさらに数分後。
ゴォオオオオオオオオオオオオオオオ
第二隊長「ごめん……ごめんよ第一のぉ……出来心だったんだ……もうしないからぁ……」グスン
勇者男(……膝に顔を埋めている……泣いているのか……?)
勇者男(ちょっと可哀想になってきた……)
さらに数分後。
第一副隊長「…………」
第二隊長「……許してくれ第一の……」
第一副隊長「…………」
第二隊長「お詫びに第一のが見ていた情報誌に載っていた一日限定5斤のふわふわ食パン朝から並んで買ってくるから……」
第一副隊長「今後私に気付かれるような盗み食いは控える事ね」
第二隊長「はい……」
勇者男(この二人をセットで眺めていられるこの国の者が本気で羨ましい)
第一副隊長「--さて、本題に入るとしましょうか」
勇者男「……………、」
第一副隊長「あなたは国王側で動いているわけではない」
勇者男「肯定しよう。美女の問いだ。正直に応えるしかあるまい」
第二隊長「お前ほんとに嫌な奴だな」
勇者男「俺は国王側というより、協会側の人間だ。勇者協会の依頼を受け、国王の計略に乗った」
第一副隊長「その依頼の内容は?」
勇者男「すぐにわかるさ」
第二隊長「----」ピクッ
第一副隊長(……通信か、)
第二隊長「わかった。肆、伍。殺せ」
勇者男「…………」
第一副隊長「…………」
第二隊長「--そうか。よくやった。--処理は第一部隊の者に任せろ」
第二隊長「第一の。一人借りるぞ」
第一副隊長「ええ」
第二隊長「ああ、一応お前にも言っておくが、」
第二隊長「僧侶は死んだぞ」
とある町。
付近の山。
一瞬だった。
第一B「…………」
僧侶「」
僧侶の女は、一瞬にして殺された。
第一B(喉を裂かれ心臓を一突き)
第一B(……違うか。きっとコイツは、殺されてから存在に気付いた。じゃないと、)
第一B(なす術なく殺される怒りも、死に行く絶望もない。こんな……戸惑った顔の死に顔には、ならない)
第二肆「B」
第一B「……何」
第二肆「隊長はお前が適任と判断した」
第一B「………、」
第二伍「お前の上官の許可は取った。処理は任せる」
第一B「……了解」
答えた。
瞬間には、二人分の気配は消えていた。
第一B(処理ね……、)フォン
僧侶を中心に小さな魔法陣が展開される。
第一B(……発動)フォン
僧侶の身体に灯った小さな炎はすぐに広がり、僧侶の身体を包んだ。
第一B(……確かに、俺の方がきれいに処理出来るよな)
フォン
第一A『……俺、第二の隊長が何考えてるのかわからないけど』
第一A『すぐに仕留めなかったの、お前に追わせて死体の処理の手間を省くためとかに思えてくる』
第一B「なわけないだろうけど、その可能性が0じゃないってのがなー」
第一B「……A、剣士の方はどうなってる?」
第一A『シリアスがサヨナラした。安定して馬鹿が始まってる。映像と音声繋げる』
フォン ヴヴン
相棒『「私と勇者はな!混浴のお風呂で水遊び出来るぐらいの関係だ!!」』
第一A『……………』
第一B「……………ほんとだ。始まってるな」
第一A『……いくら仲良い兄妹でもその年でそこまでは出来ないと思うの』
第一B「確かにある意味勇者だな相棒さんの身体に何も感じないとか」
第一B「…………はは、多分、第二がああだからだろうな。二人のヤンデレモードに慣れたのは」
第一A『いや俺慣れてないから。そもそもあの二人は目死んでても意志はあるだろホラー的な意志が。……第二は、意志すら無いけど』
第一B「……あー、くそっ。何時ものアイツ等知ってる分、現場で会うとキツいんだよなー……」
第一A『……オンとオフが半々で混ざるとちょうど良いんだけどな』
第一B「はは。確かに」
第一B「……なぁ、第二のチビ達は剣士についてるだよな」
第一A『ついてる。けど、動かない。何してんだか、--仕留められるはずなんだよ、動かないのはおかしい』
第一B「……子供が人質になる前にやれたはずだ。人質がいた方が命令を遂行しやすい、なんて考える程アイツ等は腐ってない」
第一B「人質の可能性は報告したはず、それでいて命令を下さなかったのは第二の隊長……」
第一B「…………………、」
第一B(蟲から得た--剣士の思考情報から察するに、僧侶を泳がせたのは国内の魔法陣の在処を確認するため)
第一B(--僧侶が発動する直前に仕留めたのは、発動後の処理が面倒だからか)
第一B(密偵組から得た、旧魔王政権が仕掛けた魔法陣の在処の情報。それを元に破壊に動いているのは城内にいる奴らを除いた第三部隊)
第一B(在処が全くわからなかっただけで、存在すると確定出来れば探し方はある。それに、この程度の魔法陣なら破壊に問題は無い)
第一B(……剣士だけなんだよな、剣士さえどうにかなれば、一段落)
第一A『--何か考え中の所悪いけど、マズい展開になった』
剣士『じゃ、人質解放の条件な』
剣士『勇者、剣くれてやるからガキの代わりに死んでくれよ』
第一B「!!!」
第一B(やらかすよな、このクソ剣士)
第一A『B、お前は現場に来るな。ってさ。顔知られて恨み買ってるし俺も同意見。巻き込まれるだけだ』
第一B「行く。見つからなければいいだろ。どんなチャンスがあるかわからない」
第一A『……間違っても出て来るなよー』
第一B「わかってる」
第一B(--蟲から得た思考情報には、旅人さんについてもあった)
第一B(アイツはただの緩いアホの子で、馬鹿みたいに純情で、)
第一B(……人間でも、勇者でも、対魔族として作られた存在だとしても--魔王様達や俺達の、友人なんだ)
第一B(簡単に死なせる程、どうでも良い存在じゃねぇんだよ」
とある町。
付近の山。
剣士「勇者、剣くれてやるからガキの代わりに死んでくれよ」
勇者「…………、」
少年「--!!」
相棒「!!」
第一「……っざけんなよあのクソ」
常駐兵「なっ、」
剣士「ほらよ」フォン
勇者「…………」パシッ
魔法によって生成された短剣が勇者の手元に現れた。
逆らわず、手に取る。--短剣の刃は黒く濁っていた。
なんらかの仕掛けがあることは、わかっていた。
剣士「ソレでさ……そうだなぁ、首、ざっくりいってもらおうか」
剣士「ちょっと血が滲むとか、そんなんじゃ駄目だからな。やるなら派手に、周りを真っ赤に染めるぐらいにな?」
剣士「お前がやってくれなきゃ、コイツがそうなるだけだけど」ケラケラ
少年「……っ」ガクブル
勇者「………………、やれば、その子は解放するのか?」
剣士「おう。派手な自殺を見せてくれた礼にはちゃっちいけどな」
勇者「……わかった」
少年「……え、」
第一「お前何言って!」
剣士「外野は口出すんじゃねぇぞ!!」
第一「……このっ、」
相棒「…………勇者?」
お互いだけがわかる、怯えが混ざったその声。
勇者は、剣士から相棒へと視線を移した。真剣なそれが、彼女の視線と重なる。
勇者「俺は、俺なんかより、この子の方が大事なんだ」
相棒「………そっか。……ごめん、とは言わないんだね」
勇者「ああ。言わない」
少年「っ……何言ってんだよ、だめだろ…、それは、駄目だろ、勇者……!!」
剣士「黙ってろって、死にたいのかよ」
少年「--っ、」ビクッ
少年「……それでも、嫌だ……友達なのに、ともなのに……俺のせいで、嫌だぁ……」ボロボロ
勇者「泣くなって。……必ず、助ける。約束する」
少年「……勇者ぁ……」
勇者「だから……目、閉じて」
短剣を自身の首へ。
刃を当てる、触れただけで浅く切れたのだろう。血が滲み出した。
剣士「マジで?マジでやってくれんの?」
剣士(はははっ!やっぱり馬鹿だ、自己治癒でどうにかなると思ってんのかよ!)
剣士(ネタは上がってんだ。俺と同類ならやり方はある!)
剣士(早くやれよ!その剣でつけた傷は、)
剣士(絶対に、治らない!!)
少年「……なんで、目……」
勇者「……見て、いい気分になる物じゃないから」
勇者は、自ら首を掻き切ろうとしてなお、穏やかに笑ってみせた。
少年「!」
勇者が短剣の柄を握り直したのを見て、少年が感じたのは強い恐怖。
自らの死の恐怖よりも強い。本気だとわかったからだ。
少年(怖い、嫌だ……!!)
初めて直視する、誰かの死。自分のために友人が死ぬ。恐怖と自責で見ていられず、言われるがままに目を閉じてしまった。
勇者「----」スッ
少年が目を閉じたのを確認し、勇者は、
躊躇いも無く、自らの首を、深く深く掻き切った。
勇者「…………」フラッ
吹き出すように溢れる血は、傷の深さを示す。血濡れた手から短剣が落ちた。
剣士「ははっ……、」
勇者「」ドサッ
よろめき、勇者は俯せに倒れた。
誰の目から見てもわかる。致命傷どころではない、即死の傷だ。
第一(なぁ、違うよな、何か考えがあるんだよな、何か仕掛けが、)
勇者はピクリとも動かない。
血だけが溢れ、広がる。
第一(何で、血、止まらないんだ)
第一(おかしいだろ、あんなに強いんだ。自己治癒力なんて、治癒魔法がいらないぐらいなのに、)
第一(こんな形で終わるとか……無いだろ……!)
剣士「治ると思ったか?ばーか!!治らねぇよ!お前が何なのかわかってるのに、剣に何も仕掛けないとか有るわけ無いだろ!!」
剣士「--はは、ははははは!!おら、歩けよガキ!!近くで見てやろうぜ!お前のために死んだ馬鹿をよ!!」
少年「ひっ……」
剣士に押された衝撃で目を開けてしまった少年は、血溜まりの中に倒れる勇者を見た。
少年「う、あ……勇者……」
無理やり前進させられる、勇者に近付く。剣士は笑っていた。
少年「やだ……いやだ……ひっ……っ、ゆ……しゃ……」ボロボロ
踏み入れた血溜まり、これは勇者の血だ。
死んでしまったと理解した。自分のために、死んだと。
少年「うあ、ああああああ!」
剣士「マジで死んでるよ!ははは!!馬鹿じゃんコイツ!!あの勇者が!死んでやがる!!」
勇者の頭を踏みつけた。
動かない、勇者の反応は無い。
第一「----」ザワザワ
相棒「待って」
剣士「最高だ!最高に笑える!!」
少年「--!!」ゾクッ
突如襲った寒気に少年は身を震わせた。
剣士は気付かない。
相棒「今だ」ヒュン
第一「!!」
常駐兵「……!!」
剣士だけが気付かない。
剣士「ははは!!はははははははははは----あ?」
血溜まりが不自然に揺らめいた。
瞬間、少年の足元から身体を伝い滑るように上るのは赤。
剣士「なに!?」
相棒「離れろ!」
割り込んだのは相棒。
反応した剣士の剣から、幾筋ものそれが重なり、少年を守った。
剣士「--は、はは、嘘だろ、」
血溜まりの中、指先が動く。
人質は相棒の手によって奪われた。少年は抱えられ、常駐兵へと預けられる。
常駐兵「大丈夫か?」
少年「----」
少年の呆然とした視線は血溜まりから離れない。
指先が動いただけではない。手の平は地面を弱々しく押し、上半身を起こした。
相棒「立てる?」
勇者「……………」
相棒が差し出した手を借り、勇者は立ち上がった。
相棒(……勇者、傷口を押さえている。血は止まってない……治癒が追い付かないんじゃない、治癒が行われていないのか)
剣士「いや、死んでただろ……!何で生きてんだよ!!」フォン
剣士は魔法を発動。
輝く魔法陣、
第一「させるか!」フォン
その中心に光の刃が刺さる。
破壊された魔法陣は崩れ消えた。
剣士「お早い破壊だなおい!」
第一「次はテメェだよくそが……」ザワザワ
相棒「勇者は休んでて。私が殺す」ザワザワ
剣士「ああくそっ、意味わかんねぇよ。なんなんだよお前等……」
剣士(分が悪い--が、やるっきゃねぇよなぁ……)
第二隊長『動くな。ここは我々第二部隊に任せてもらう』
突然割り込んだ女の声。ここにはいない第二部隊隊長の物だ。
第一「は!?人質も取られて今更何言って--っ」
ヒュン
第二参「隊長命令だ。動くな」
ヒュン
第二弐「…………」
相棒「……………」
相棒(この女の子……第二部隊か、)
現れた小さな影は第二部隊。
命令のままに二人の前に立ち、制した。
剣士(これはチャンス、)
第一「逃げ、」
第二参「動くな第一。動けば実力行使も辞さない」
剣士(逃げる、)ヒュ
第一「…………逃げられたんだけど」
第二隊長『壱、弐、参、戻れ』
第二弐参「--了解」ヒュン
第一「説明もしないまま消えるのかよ!第二!!」
フォン
第一副隊長『落ち着きなさい。第二の事情はちゃんと説明するわ』
第一「副隊長……何なんですかあれ、」
第一副隊長『……とにかく、追わない事。旅人さん達も……Bも、ね』
第一「なんだあの野郎来るな言ったのに近くにいるじゃんか」
少し離れた木陰。
第一B「……了解」
第一B(第二の壱のやつはこっちに来やがったし、お見通しってか、)
第一副隊長『ここは第二に任せるわ』
第一「今度はちゃんと仕留めるんですか?」
第一副隊長『ええ。……仕留め損なうなんて、彼に限って絶対に無いわ』
とある町。
郊外。
第二隊長「知っての通り、うちの部隊は特殊だからな」
第二隊長「所属している者はヒトとして欠けている。または欠けていた。この私であっても」
第二隊長「欠けているのは感情。倫理。心が無いと同じだ。心が無いのなら、それはもうヒトではない」
第二隊長「私は、第二所属する者を皆、ヒトにしたい。日常でのみヒトになるだけでは足りない」
第二隊長「任務では感情など不用と言うが、それは元々感情を持っている者だけに言えることだ」
第二隊長「感情論で物を語れないとなると、土壇場で犯す間違いはもう取り戻せない」
第二隊長「ヒトを好きになれない我々が国を守るなど……出来るわけが無いからな」
第二隊長「それにしても、部下の存在には助かった。おかげでうちの副隊長の成長は目まぐるしかったぞ」
第二隊長「奴は最もヒトに近かったからな。誰かを好きになれる程には」
第二隊長「あとは、日常だけではなく任務に感情を持ち込めれば、晴れて奴はヒトになれる」
第一副隊長「……だから剣士を泳がせてたわけ?」
第二隊長「ああ。時間を稼いでいた」
第二隊長「任務に感情を持ち込むのは是としない奴が、憎しみで吹っ切れる時間をな」
第一副隊長「民間人の子供が巻き込まれたのに?」
第二隊長「怪我をしたとしても、死なせるつもりはなかったさ。一応はな」
第一副隊長「………私自身も、子供を巻き込んだ事は許せないんだけど」
第二隊長「許さなくても良い。私はそんな考え方をするお前が好きだからな」
第二隊長「好きだが、私はそうは考えられん。目的のためなら、子供を危険にさらす事など厭わない」
第二隊長「--奴がちゃんとしたヒトになれれば、隊長を任せられる器になったと同じ」
第二隊長「奴ならば、間違わずにこの部隊を率いる事が出来るだろう」
第一副隊長「…………まるで、自分がもうすぐ死ぬみたいに言うのね」
第二隊長「常にそのつもりだからな」ケラケラ
第一副隊長「…………」
第二隊長「副隊長はな、きっと、第二所属とは思えない程に出来た隊長となる」
第二隊長「安心してくれ、命は軽いと考える隊長は、私で終わりだ」
勇者男「……君をそうさせたのが、旧政権……あの魔王か」
第二隊長「…………、」
第一副隊長「国王との話は終わりかしら?」
勇者男「いや、そちらはタイミングを見計らっている段階でね。終わったのは、私にとっては国王より偉い、協会の人間との話だ。聞いていたからわかるだろうに」
第一副隊長「そりゃあ、筒抜けだったからね」
勇者男「美女相手に内緒話などサプライズ以外にする気はない」キリッ
第二隊長「お前凄まじくうざい奴だな」
勇者男「いやしかし、不思議なものだ。あの魔王に狂わされた者は多いと聞く。それでいて、この国の魔王によく仕える気になったものだ」
第一副隊長「あの子はあの魔王とは違う。関係なんて、」
勇者男「無いなどとは言えないだろう。--あの勇者と白い竜族は知っているのか?」
勇者男「お前達が殺したあの魔王と、この国の魔王は、」
人間領。
とある国。王城。王の間。
国王「そん……な、私の計画が……!あの魔王の……唯一残った血縁を……!この手に……!!」ガクブル
魔王「……やっぱり、欲しいのは血だったってことね」
魔王「あの魔王に子はいない。両親は死んだ。存在したのは、姉が一人」
魔王「その姉--私のお母様も、もういない。魔王は死んだ。姪に当たる私だけが、唯一の血縁」
魔王「悪いけど、あんなクソ魔王、一度も叔父だと思った事は無いわ。そして、大嫌いなその男の血縁だから私の国に喧嘩を売ったとあっては……もう、わかるわよね、」ザワザワ
国王「ひぃ……!」ガクブル
魔王「私をここまで怒らせたこと、死んで後悔しなさい」
とある町。
付近の山。
勇者「…………」ボタボタ
第一「血、まだ止まってないじゃん。傷押さえてる手真っ赤だし」
相棒「勇者、顔色もまずいよ。血の気ないよ」
第一A『馬鹿お前反応消えたからマジで死んだと思ったぞ!』
勇者「…………」ボタボタ シュン
第一B「………………、」
第一B「自己治癒、出来そうか?」
勇者「…………、」フォン
フヨフヨ
血文字:わからない。治らない事はないと思うけど、まだ治癒始まってない
第一「赤い文字がふよふよって……旅人さんの血ってのがまた……」
相棒「……ちゃんと治るんだよね」
勇者「……」コクン
血文字:大丈夫。治らなくなったのは初めてじゃない
相棒「喋れないぐらいなんて、初めてだよ」
勇者「……」ヘラリ
血文字:自分でやったことだけど、損傷が激しくて。ほんと大丈夫だから
第一B「……ちょっと傷口見せてみろ。治癒魔法が駄目でも手当てぐらいは出来る」フォン ポンッ
第一「あ、包帯ですね。白いですね」
勇者「……」スッ ダラダラダラ
第一A『いやあああ血ぃ出過ぎいい』
第一B「ざっくりやりすぎだろ……」クルグルベチョベチョダラダラ
第一「あらやだ、巻いた側から真っ赤にぐっちょり」
相棒「勇者、もう少し我慢しなさい」
勇者「…………」エー
血文字:そんな無茶なー
第一B「……」ズルズルダラダラポイッ ベチョ
第一A『あ、包帯解きましたね。真っ赤でぐっちょり正直グロいですね』
第一B「…………」フォン
第一A『諦めたかに見えましたが出したのは新品。再チャレンジか?』
第一B「………………」パシッ
勇者「…………」ダラダラ
相棒「…………」ドキドキ
第一B「………まぁ、あれだ」ジー
第一B「全力で絞めれば止まるだろ」
第一「息の根がな」ケラケラ
勇者「」ダラダラ アワワワワワ
血文字:すすすみません我慢しますなんかその我慢します許して下さい
相棒「許して勇者は出来心だったんだ許してあげてぇえ!!」アワワワワワ
第一A『待て待て目が本気!!Bお前目が本気!!!』
第一B「冗談だって」
第一「その割りには笑わねぇのな」ケラケラ
勇者「」
血文字:あわわわわわわ
相棒「」アワワワワワ
第一B「冗談だって言ったのによ、」フォン
ズボッ バチッ
勇者「」
相棒「」
第一「」
第一A『ぎゃあああああ!!おまB何して何傷口に指突っ込んであああ痛い痛い痛い!』
第一B「………」ズルッ ベチョ
勇者「」
第一B「……」ホウタイ クルクル
勇者「…………」キョトン
血文字:あれ?自己治癒始まった
第一B「そりゃ良かったなー」クルクル パチン
第一「え、治癒魔法?」
第一B「かけてない。自己治癒始まったのはただの偶然だろ」
相棒(…………違う、Bさんは何か目的を持って魔法を使った)
第一「じゃあ今のズボッ!は?」
第一B「嫌がらせ。捨て身の作戦に腹が立ったから」
第一A『やだこいつ旅人さんに対する遠慮がなくなっちゃってる……!』
勇者「……」ヘラリ
血文字:ごめん。捨て身って言っても無事だったわけだし、許して
第一B「…………」
血文字:手当ても、ありがとう
第一B「……どういたしましてー」
相棒「とにかく、さ。良かったね勇者。治るよー」
勇者「…………」
血文字:うん。出血は止まったし、いやでも喋るまでにはもう少しかかるかなー
相棒「そっかー、大変だねー」
勇者「…………」
血文字:……実はこれちょっと楽しい
第一「双子吸血鬼の父であり色白美女な婚約者までもいる吸血鬼子爵を思い出した」
第一B「またわからない事を言い出して」
タタタタッ
常駐兵「待ちなさい、君っ!」
少年「勇者っ!」タタタッ
勇者「…………、」
常駐兵「すみません。避難させるはずが……どうしてもときかなくて」
第一A『ちびっ子組心配してるぞ、早く戻ってやらないと』
第一「あ、お前今町にいるんだっけ」
第一A『おう。状況状況って囲まれてますが一部シーンにつきましてはカットしております』
第一「ですよねー」
少年「…………」
相棒「怪我はなさそうだね。良かった」
勇者「…………、」
少年「…………、」フルフル
相棒「ごめんね、勇者、今喋れないんだぁ」
少年「……首………傷……」
勇者「……………、」ヘラリ
少年「……ごめんなさい……!」グスッ
勇者「!」
少年「ごめんな……さい…!!俺のせいで……!!」
勇者「…………」
血文字:謝らなくていいよ。無事ならそれでいい。俺だって無事なんだし、な?
少年「……死んじゃ……た……って、思った……」
少年「せ……かく、とも、友だちに、なったのに……!」ボロボロ
勇者「………」スッ
少年「!!」ビクッ
少年「ご、ごめん……おれ……!!」ボロボロ
勇者「…………」
血文字:ごめんは俺の方だ
相棒「勇者……」
勇者(--泣くなー、って、頭撫でようとした、)
勇者(怯まれたのは、俺の手が血で汚れてるからか……はは、忘れてた)
勇者(勇者でもあるもんな、俺は)
勇者「………」
血文字:怖いもの、沢山見せた。ごめ--
第一「ちょいと手を借りまして」ヒョイ
フキフキ
第一B「……」
勇者「」
血文字:--いや、あの、
相棒「いや、あの、その、お兄さんちょっと」
第一B「許すけど、何で俺の服で勇者の手を拭いたのか訊かせろ」
第一「血濡れNGだからtake.2行こうかーと思って。AかCいたらそっちで拭いたけど残念ながらいないし」
第一A『お前酷いな』
第一B「許すけど、許すけどさ!」
相棒「ふふっ、」
勇者「……」クスッ
少年「…………っ、」グッ
少年「勇者っ!」
勇者「…………」
血文字:なに?
少年「言い訳、させてほしい……!」
少年「俺は……子供だ!かあさんが怖いし、雷が怖い……ピエロも怖い!」
第一A『ピエロ怖いの気持ちはわかるわー』ボソッ
少年「さっきも、怖かった……血も、怖い……お前が勇者ってきいた時も……怖かった、」
勇者「…………」
少年「けど……それは、俺が子供だからだ……俺、すぐ大きくなるから、必ず、大きくなって、そして……!」
少年「何があっても、ともを怖がらなくなる!絶対に、お城の兵士さん達みたいに、俺も!!だから……!!」
少年「待ってて、ほしい……すぐ、だから、勇者も、相棒だって……俺のっ……友だちでっ……」グスッ
少年「っ……ひっ……ごめん……怖がってごめんなぁ……ゆうしゃあ……すぐだから、まっててぇ……!!」ボロボロ
勇者(……はは、そっか)
相棒(待ってて、か)
相棒「うん、わかったよ」ナデナデ
勇者「…………」ヘラリ
血文字:待ってる。ずっと、待ってるから
少し前。
とある町。療養所。
第一C(--意識、飛んでたみたいだな)パチッ
第一C(あー、確か城は戦いになるからーって、部下と一緒にここに放り込まれたんだっけ)
第一C(どれぐらい寝てたんだか……とりあえず起きて、通信--)ムクッ
第二副隊長「…………」ジー
第一C「ひいっ!!?--ちょ、な、何で床で正座してるんですか副隊長!」
第一C(何なのこの威圧感!至近距離にガチムチマッチョ………って、ああ、そうだ、)
第一C(妹の彼氏だったわこの人……)
第二副隊長「……もう少し、寝ていて下さい」
第一C「いや、怪我自体治ったようなもんですし」
第二副隊長「この国屈指の治癒魔法の使い手である貴方に、私が、治癒魔法は万能ではないと説明させたいのですか」
第一C「あー……っと、了解。安静にします……」
第二副隊長「……………」
第一C「……………」
第一C(気まずい……どうしよう、凄く気まずい……!!)
第二副隊長「……部下さんは今、寝ています。治療は全て終わりました」
第一C「じゃあ……妹についてやってくれ。その……彼氏、なんだし」
第二副隊長「了承は得ています。お義兄さんと二人きりで話がしたい、そう言いました」
第一C「……もしかして、正座のまま俺が目覚めるのを待ってた、とか、」
第二副隊長「はい」
第一C(ま、マジか……)
第二副隊長「本題に入ります。--Cさん、貴方も、」
第一C「?」
第二副隊長「第二部隊の異常性についてはご存知のはず。……そうですね?」
第一C「……任務となるとヒトが変わるってのは、知ってる。普段の顔を微塵も感じさせないぐらいに……切り捨ててますよね、色々と」
第二部隊「切り捨ててはいません。欠けているだけです、最初から」
第二部隊「自分の命も、仲間の命でさえも駒と見なし、任務を遂行する。それが第二部隊です」
第二副隊長「第二部隊に所属する者は、ヒトとして欠けています」
第二副隊長「それは、この私もです」
第一C「…………、今も、か?」
第二副隊長「……私もヒトとして欠けて--いました。今のこの考え、感情が……ヒトとして正常だそうです。隊長が……そう言っていました」
第二副隊長「任務外ならまだしも、任務中でさえずっと部下さんの事を考えてしまって」
第二副隊長「気付いたら--ヒトの命が軽いとは、思えなくなっていました」
第一C「…………何で、そんな話を俺に?」
第一C「まともになったんなら、わざわざ話さなくていいだろ。今は違うと言っても、昔そうだったって言われたら、」
第一C「……実の兄としては、そんな男に大事な妹任せたくないって思う」
第二副隊長「フェアじゃないと思ったので。あの時は何だかんだの成り行きで認められたみたいなものですし」
第一C「真面目だな。さすが、第二部隊の良心」
第二副隊長「ありがとうございます。貴方は生きて、どうか私が部下さんを任せるに値する男か見極めて下さい」スッ
第一C(……目つきが変わった、)
第二副隊長「私はこれから、初めて任務に私情を挟みます」
第一C(……第二のこれを知っているから、旅人さん達があんな目をしてもすぐに慣れることが出来たんだろうな、)
第二副隊長「任務に私情を挟むなど、やってはならない事だとは十分承知しています。ですが私は、」
第一C「……逆の立場なら、俺も、」
第一C「大好きな彼女傷付けられて、私情を挟むなってのは無理だろうな、」
第二副隊長「……………、」
第一C「……すみません。部隊は違うとはいえ、上官に色々言ってしまって」
第二副隊長「……いえ、確かに立場は私が上ですが、ヒトとしてはCさんの方が格段に上です」
第二副隊長「私には、感情のコントロールというものはまだ難しく感じるので」ニコッ ザワザワ
第一C「…………、」
第二副隊長「最後に一つ、確認させて下さい。貴方が剣士との戦いで使ったあの魔法は、もう解除されてますよね」
第一C「……してる。もう剣士が死んでも俺は死なないし、俺が死んでも剣士は死なない」
第二副隊長「わかりました。……言える立場には無いですが、捨て身の作戦はお控え頂きたいと思っています」
第一C「善処するよ」
第二副隊長「あなたが死ねば部下さんが悲しみます」
第一C「…………了解、気を付ける」
第二副隊長「……私は、少しの間、ここから離れます」
第二副隊長「安静にしていて下さい。不必要に動けばわかります、魔法を使用してもわかります。私は第二部隊所属です」
第一C(…………第二の超感覚怖い)
第二副隊長「私ではCさんを怒れないので、部下さんと第一部隊副隊長さんと第一の皆さんに怒ってもらいます」
第一C「おとなしく寝ます」
第二副隊長「お願いします。--では、失礼します」フォン
ヒュン
第一C(……転移したか)
第一C(にしても……似てるようで、やっぱり違う)
第一C(任務時の第二と同じに見える目つきをしていても、旅人さん達はどこかが壊れてる感じがするもんな、)
第一C(…………、)
第一C(いやでもいくらなんでもガチムチマッチョなヤンデレ笑顔は怖いです)
現在。
とある町。付近の山。
第二副隊長「…………、」
剣士「」ハンブン
第二隊長『副隊長、憎しみのままにヒトを殴った気分はどうだ?』
第二副隊長「力の加減が上手く行かず、一撃で半身を飛ばしてしまいました」
第二副隊長「気分は晴れません。……足りません」
第二副隊長「この男が、片腕を失っておらず、逃げ切ったとでも思ったのか油断もしておらず、」
第二副隊長「万全の状態で戦いたかったと考えてしまいます」
第二隊長『そうか、考えているのか』ケラケラ
第二副隊長「私はおかしいでしょうか」
第二隊長『いや、それでいい』
第二副隊長「…………、」
第二隊長『副隊長、』
第二副隊長「何でしょうか」
第二隊長『お前の命は軽いか?』
第二副隊長「……いいえ。昔と違い、自分の命を捨てて任務を遂行しようとは考えられません」
第二隊長『他人の命は軽いか?』
第二副隊長「いいえ。……しかし、皆が皆等しく重いとは思えません」
第二副隊長「……私が来るまでに、子供が一人、人質になったと報告を受けました」
第二副隊長「私に殺させたかった隊長の意向は理解します。が、その判断には賛成しかねます」
第二隊長『そうか……よく言った。よく言ったな、副隊長』
第二隊長『お前はそれでいい。それでいいんだ』
人間領。
とある国。王城。王の間。
国王「く、くるなぁ!」バタバタ
魔王「……追い回すのは趣味じゃないのだけれど、」
国王(まだだ!相手は魔族、それも魔王だ!魔王が人間領に攻めてきたとあらば、勇者協会は必ず動く!それも迅速に!)
国王(例え国が滅び、何人、何十人、何百人--どれだけ人間が死んでもいい!私だけ生き延びれば……!)
ドスン
黒い竜「…………」グルルルルル
国王「ひいっ!!何故竜が……!兵士共は何をやっている……!!」
魔王「あら側近。あなたがここにいるという事は、獲物はコレしか残ってないのね」
黒い竜「…………」フォン パシュン
側近「--そうなるな、」チミドロ
魔王「そのままでも良かったのに」
側近「もうあの姿で脅す相手はいない。それに、コレはお前の獲物だろう」
魔王「そうね」
国王「……魔王が人間領に侵攻か……はは、戦争になるぞ……!」
国王「いいのか!?私を殺せば勇者協会も黙ってはいない!!貴様等のちっぽけな国などすぐに滅ぼされるぞ!」
魔王「……侵攻……戦争、だなんて。先に仕掛けたのはそっちでしょうに」
魔王「私は、この国が欲しいわけでもない、領土を広げるつもりもない。私の国は、お前がちっぽけと言ったあの世界だけ」
魔王「だから、これは報復よ」フォン
バチバチッ
国王「!!か、身体が動かない……!」
魔王「何人、死んだと……思ってるの。お前が味方した隣国との戦い……国境で死者が出てないとでも思っているの、」
魔王「民間人にまで手を出して……下手したらさらに死んでいた可能性もあった」
国王「違う!確かに手を組んだが……実際手を下したのはあの宰相だろう!私のせいじゃない!!」
国王「そもそも魔法回廊や国内の魔法陣はお前の叔父が!」
魔王「そうね。仕掛けたのはあの魔王。でも、利用したのはお前達よ」
魔王「……勇者一行を使って隣国を乗っ取りにかかったのは正直驚いたわ」
魔王「本命は私の身体……確かに、私と掛け合わせれば……それなりに、ね」フォン
国王「!!」ギリギリギリ
国王(突然息苦しく……!!魔王の魔法か……!?)
魔王「生体操作……ヒトを操り人形のように操作する魔法も、人間領ではこんなに盛んなのね」
魔王「倫理に反するからって、魔族領では禁忌扱いなんだけど……この城ではよく見たわ。--私達、この魔法が大嫌いでね」
魔王「ヒトをヒトとも思わない……そんな魔法を平気で使う……これじゃ人間を種族ごと嫌いになりそうよ」
国王「……かっ……はっ……」ギリギリギリ
国王(息が……!)
魔王「……勇者がいてくれなきゃ、嫌いになってた」
フォン
勇者男『それは有り難い。人間が皆醜い阿呆だと思われては困る』
国王(映像と通信……勇者か……!助け……!!)
魔王「--あなた、どういうつもり?どうしてもコレ側で動いているとは思えないんだけど」
国王「!?」
勇者男『協力しているようにと見せろと勇者協会に依頼されていた。--頃合いだからな、ネタバラシといこう』
国王(……は?)
勇者男『旧政権……あの魔王は我々も脅威と認識していた。--まぁ、あの勇者と竜族によって打ち倒されたが』
勇者男『平和というのは素晴らしいな。あの魔王が倒れたおかげで、人間領への侵攻は格段に減った。無くなったと言える程に』
勇者男『国境に接する地に出来た国々が非交戦的なのも幸いしたな』
勇者男『無論、一国を除くが』
勇者男『美しき魔王、貴女の国のお隣がそれに当たる。隣国には……あの魔王の元で宰相を務めた魔族がいたらしいな、』
勇者男『魔族領での小競り合いなら無視しよう、だが、事も有ろうに人間領と繋がった』
勇者男『ただの貿易ではない……そうだろう、国王よ』
国王「っ……さかっ、きっ…さま!私をっ、騙したのかっ……!!」
勇者男『ほう、統一性に欠ける矛盾した文書での依頼を勇者協会が真面目に受理し、尚且つ私のような勇者に話が行くとでも思ったのか?』
勇者男『勇者協会上層部からの正式な依頼で無ければ、貴様のような小汚い男と顔を合わせる所か通信回線すら繋げるのも御免だ』
国王「お……のれっ……!!」ブルブル
勇者男『勇者協会の基本指針を知っているか?--現状維持だ』
勇者男『貿易ならまだしも一国の転覆を狙い、あの魔王の手の者と関係する。人間領にまで余計な火種を振り撒かんとする貴様のような王は、協会にとって邪魔以外の何物でもない』
勇者男『計画が成功すれば、そうだな、甘い汁は協会が存分に啜ろう』
魔王「…………」
勇者男『貴様の末路は決まっていた。成功すれば我々協会が、失敗すれば……このように、美しい魔王と竜族に殺される事になる』
国王「~~~!!」ブルブル
勇者男『ところで竜族、男なのが悔やまれ顔をしているな。女性ならさぞ美しい顔をしていただろうに。姉か妹がいないか?』
側近「死んでくれないか」
勇者男『悪いが男の暴言は受け付けていない』
魔王「死んでくれない?」
勇者男『やはり毒は美女から受けるに限るな』ウンウン
勇者男『--さて、魔王と竜族よ。もうすぐ城を勇者協会による軍が囲むだろうが、その者達へと手を出すことは推奨しない』
勇者男『もし手を出せば、勇者協会は貴女の国を敵と認識する』
勇者男『国王を殺した後は、そうだな。勇者協会による軍勢に圧倒され、おとなしく自国に逃げ帰った。という筋書きになるか』
魔王「!!」
側近「……俺達は、お前達人間の都合の良いように踊らされていたというわけか」
勇者男『貴女は一国の主としては若い。……若すぎる。これも経験だ、わかってくれ』
勇者男『美女がいるこの国が滅ぶのは俺としても困る』
魔王「……わかった。城の外の者には手を出さない」
勇者男『ありがとう。--ところで、竜族。まだ姉か妹がいるかの返答をもらってないのだが』
側近「……本当に、死んでくれないか」
勇者男『ふむ、否定と受け取ろう』
側近(なんなんだコイツは……)
勇者男『--要件は以上だ。邪魔して悪かったな』プツッ
魔王「……………」
側近「……………」
魔王「……馬鹿、みたい」フォン
国王(--!?息苦しさが無くなって--え?)
国王「ああ……火、火があああ!!」ボォォ
魔王「…………」フォン
ゴォオオオ
国王「あああ!!燃える!この私が、燃えてえええあああ!!!」
国王「おのれぇえ!悪しき血と滅びの黒よ!!地獄にっ……落ちろおおお!!!!」ゴォオオオ
国王「」ゴォオオオ
消し炭「」ゴォオオオ
魔王「…………、」
側近「…………、」
側近「……国に戻る前に……少し、話せるか?」
魔王「……私も、あなたと……二人だけで、話したいと思ってた」
とある町。
郊外。
第一副隊長「……現状維持、ね。人間領は余程豊かなのね」
勇者男「そう嫌みを言わないでくれ。貴女の予想通りだ。人間領では魔族領以上に貧富の差が激しいだろう」
勇者男「協会が言う『現状維持』とは、協会に属し関連する富裕層の生活だ。それ以上望まない程に満ち足りている、だからこの現状を維持したい」
第二隊長「……腐ってるな」
勇者男「ああ、腐ってる。私もその一員だ」
第二隊長「死ねばいいのに」
勇者男「妻達や沢山の奴隷達が待っている。死ぬわけにはいかない」ケラケラ
第一副隊長(このヒト……)
第一副隊長「ねぇ、あなたが魔族領に来たのは……本当に、協会の依頼を受けたからなの?」
勇者男「……ああ、そうだ」
勇者男「それにしても、貴女は心から欲しく思ってしまうな。どうだ?俺の妻となり一緒に人間領へ」
第一副隊長「死んでちょうだい」ニコッ
第二隊長「第一のはやらんぞ!」
勇者男「いいさ。考えておいてくれ。後悔はさせない」
勇者男「さて、任務は完了した。美女とも出会い、最高の仕事だった」
勇者男「名残惜しいが帰るとするか」
第二隊長「ああ帰れ!隠れて居座られるのは困るから国境までついていってやる!!塩をくれ第一の!!」
第一副隊長「魔法使って自分で呼び寄せない」
第二隊長「わかったぞ!!」フォン シオシオー
勇者男「これはいい。腹筋にさえ目を瞑れば好みの顔に送ってもらえるのか。しかし俺としては貴女の方が」
第一副隊長「死んでちょうだい」ニコッ
第二隊長「第一のはやらんと言ったはずだ!!」シオアタック
勇者男「塩を投げないでくれ。食物で遊ぶな」
第二隊長「お前が正論吐くと無性に腹立たしいな!!」シオアタック
第一副隊長「連れは、協会側では無かったって事かしら」
勇者男「--ああ。国王側だ。……魔族領にも『戦闘奴隷』という言葉は存在するのか?」
第二隊長「…………」
第一副隊長「ええ」
勇者男「剣士と僧侶はまさにそれだ。戦う事でしか生きられない。危険な者達だ」
第一副隊長「だからあなたは、一人、町の近くにいた。召還魔法陣の事は知っていたんでしょう?」
第一副隊長「最も被害を受けるであろうこの町を守るつもりで、この場に立った」
勇者男「買い被らないでくれ。この国の兵は強い。僧侶と剣士如きに被害など出させるわけがない」
第一副隊長「私に嘘をつくの?」
勇者男「まだ見ぬ美女やこれから成長し立派な美女になる可能性を持つ少女、いずれ美女の親になるかもしれない可能性に溢れた者達をそう簡単に死なせるわけにはいかない。この国では美女をよく見る。別荘を持ちたいぐらいだ」
第二隊長「お前は揺るがないな」シオアタック
第一副隊長「疑問に思わなかったら本気で燃やしてたわ」
勇者男「あなたの情になら喜んで燃やされよう」
第一副隊長「魔法使いはどうするの?」
第二隊長(おお、ついにスルーしたか!)シオアタック
勇者男「魔法使いか、あれはもう保たん。元より一度は死んだ女だ」
勇者男「いや、正しくは死ぬ間際に生かされた人形だ」
勇者男「能力の使用を条件に、人形となり生きている。延ばされた命とはいえ、能力の仕様上長くは保たない。そろそろ死ぬだろう、そうでなければ術者が死ぬ」
第一副隊長「どういう事かしら」
勇者男「どうやらこの類は人間領の方が進んでいるらしいな」
勇者男「生体操作の類は表上禁忌とされているが、秘密裏に研究は進んでいる。魔法使いの人形化は生体操作の発展型……と言えるかは方向性上疑問だが」
勇者男「魔法使いは術者の命を食らって生き延びている。そんな魔法だ。術者が魔法使いを切り離せば、魔法使いは死ぬ」
勇者男「逆に、長らくその魔法を続けると術者が疲弊し死ぬ。意志を持つ人形の負担は大きい」
第一副隊長「それは、生体操作……人形の魔法というより、もっと別の……」
勇者男「死者蘇生に近いな。死者を生前のまま繋ぎとめる事が出来る」
勇者男「死した最愛の人を命を削り自分に繋ぎとめる事も出来る。……人間が編み出した、最高で最悪の魔法だと思っている」
第一副隊長「魔法使いの術者の目的は?」
勇者男「さあな。国王側ではなく、協会側でもない。独自の目的で動いているようだ」
勇者男「……私利私欲を貪る醜い者共に力を貸しその恩恵を受け……多くの者を狂わせてきた魔法使いなど生かす価値は無いと言ったんだがな」
第一副隊長「知り合い?」
勇者男「妻候補の一人だ。なかなか首を縦に振ってくれないがそこがまた良い」
第一副隊長「…………」ハァ
第二隊長「…………」シオアタックシオアタックシオアタックシオアタック
勇者男「やめてくれしょっぱい身体になってしまう」
第二隊長「帰れ」シオアタック
勇者男「ふむ、確かに喋りすぎたな。帰るとしよう。魔法使いは好きに処分してくれ」
勇者男「……最後に訊くが、やはり妻には--」
第一副隊長「死んでちょうだい」ニコッ
第二隊長「もう帰れ」シオシオバシャーン
少し前。
魔王城。牢屋。
第三4「」モクモク
第三1「え?トランプタワー?」
第三3「わぁ~、4くん器用だねぇ~」
第三2「すっげ、障壁で振動と完全シャットアウトか」
第三4「……昔5箱使って作ったトランプタワーの時もこうして、」
第三1「え、5箱?」
第三3「……えっと、一人遊びも楽しいしね~」
第三2「は?5箱?大丈夫かお前かなり引きこもった遊びしてたんだな、ちゃんと友達いたか?」
第三4「」パタパタパタパタパタパタパタパタパタパタ パタン
第三1(か、完全崩壊……)
第三4「」グスッ
第三3「も~、駄目だよ2くん。そんなヒトを傷付けるようなこと言っちゃ~」ナデナデ
第三2「すまん。気になったからつい口に出しちまった」
第三2「で、4お前小さい頃ちゃんと友達いたか?やっぱりぼっちだったのか?」
第三4「」
第三3「もうっ!2くん!!」
魔法使い「嫌ですっ!!」
第三2「あ?」
第三134「?」
魔法使い「まだ死にたくない……!!だって私、ずっとヒトに使われ続けて……!!約束したじゃないですか!この任務が終わったら解放してくれるって!!」
魔法使い「あなたの命をくれるって!!」
第三2「なんだ?一人芝居か?」
第三3「……違う。でも、通信じゃない」
第三1「おい4、しっかりしろ。何か見えるか?」ツンツン
第三4「!!」ハッ
第三4「……ま、待ってくれ」ジー
第三4「……なんだ、これ……魔法使いの身体から糸みたいな--生体操作?でも、」
魔法使い「嫌、やです……やめて、…………いやああああああああ!!あ」
魔法使い「」パタン
第三ズ「!!!?」
第三1「おいおい、まさか死んで?」
第三4「--死んでる。絶対。脈も呼吸も……確認しなくても皆わかるだろ?」
第三123「……………」
第三4「魔力を一切感じない、さっきまで動いて、叫んでたのが不思議なくらいに」
第三4「かなり時間の経った死体と、同じ気配だ……」
とある町。
付近の山。
勇者(……んー、暇だなぁ、)
勇者(みんな戻れって言ったけど、一人で先にー、ってのも何か寂しいし、)
勇者「…………、」
勇者(俺だって、あのレベルの魔法陣すぐに壊せるのに、)
勇者(あのクソ魔王が仕掛けた召還魔法陣……密偵さん達の情報で全ての位置が特定出来たから、各自潰していこうって話になった、)
勇者(町が近いからか、この山に仕掛けた魔法陣の数が尋常じゃなくて、ぷちぷち潰していかないとで……でも俺は怪我してるからってそのぷちぷち潰す手伝いすらさせてもらえず、)
勇者(一人、ぽつーん。……見かけたらすぐ手出すからって相棒にすら一緒にいるの拒否されるし)
勇者(先に戻るか安静待機とか、寂しいし暇なだけじゃんか……)
勇者「……」ピクッ
勇者(気配、誰か後ろに……)クルッ
魔法使い「……………」
勇者「…………、」
血文字:誰だ?お前は、魔法使いじゃない
魔法使い「当たり。最後に身体を借りているだけ。私は魔法使いじゃない」
勇者「…………、」
血文字:俺に、何か用?
魔法使い「ずっと疑問だったから、訊いてみたくて」
勇者「…………、」
勇者(なんでだろう。心がざわつく、なんだ、これ……)
魔法使い「やっぱり、知っている人間の目には気付くのかな、」
勇者「…………、」
勇者(よくわからない、けど……とりあえず相棒に相談、)フォン
魔法使い「ねぇ、勇者」
魔法使い「あなた、何で生きてるの?」
魔法使い「××のくせに」
勇者「----」パキン
とある町。
付近の山。
第一A『--第三から通信があった。魔法使いが死んだらしい』
第一B「殺したのか?」
第一A『いや、何もしてない。突然死んだそうだ。死因は不明。牢屋でいきなり叫んでいきなり死んだんだと』
第一B「なんだそりゃ」
第一A『これから副隊長にも通信入れる』
第一B「そこは先に副隊長からだろう」
第一A『もう一つあるんだ。お前が一番近い』
第一B「?」
第一A『旅人さんの反応が消えた。……俺の空間視野から逃れるようにしてるだけならいい。……けど、なんか胸騒ぎというか』
第一A『旅人さんの近くで変な反応を感じたんだ。確認しようと思ったら旅人さんの反応が消えた』
第一B「相棒さんには?」
第一A『もう言った。……私が様子見てくるから大丈夫、気にしないで、探さないでってって言ってたよ』
第一B「……俺も行く。旅人さんの件はもう言うな。あいつにも、Cにも。お前も探さなくていい」
第一A『……了解。頼んだ』プツッ
第一B「…………………、まさか、な」タタタッ
とある町。
付近の山。
魔法使い「いや、違うか。何で生きてるの、じゃない」
魔法使い「ただの魔法のくせに、何故存在し続けているの?」
勇者「----、」
勇者〈--せっかく封じた記憶を抉り出そうとするのは、やめてくれないかな〉
魔法使い「はは、なにそれ、喋ってるの?あなたは目の前にいるのに……音みたいな声ね」
勇者〈…………〉
魔法使い「雰囲気も、いつもの勇者と違う。勇者はもっと馬鹿っぽくて緩い……どこか壊れた感じがしていたのに」
魔法使い「あなたこそ、誰?二重人格というより、防衛本能?」
勇者〈……はは…、本、能?俺が魔法だと知っているくせに、そんな言葉を使うのか〉
魔法使い「…………」
勇者〈……俺に本能なんてもんは無いよ。あるのは……そうするようにした、仕掛け、だ〉
勇者〈今の俺は……弱い俺が全部思い出さないように作った、最後の障壁って所か〉
魔法使い「全部思い出したら、消えるわけ?」
勇者〈知ってるくせに、決定打を言わないのは何で?〉
魔法使い「質問してるのは私よ」
勇者〈……ヒトってのはわからないなぁ。俺を壊したいから接触してきたと思ったのに〉
魔法使い「……一緒にいるって約束したヒトがいるのに、好きなヒトも出来ているのに、」
魔法使い「それが存在し続ける理由にはならないってわけ?」
勇者〈何、言ってるのさ。俺はヒトじゃない。生物でもない。ただの魔法なのに、〉
勇者〈この感情が、報われるわけがない〉
魔法使い「あんたは……!」
勇者〈それに、〉
勇者〈ヒトは、嘘つきだからな〉
勇者〈俺が、一緒にいたいって、一緒に連れて行ってくれって、〉
勇者〈……一人にしないでって、言っても、言ってくれても、〉
勇者〈どうせ、俺だけを置いて、どこかに行っちゃうんだろ、〉
勇者〈彼女も、魔王様も、みんな、〉
勇者〈……だから、望まない〉
魔法使い「あなたが何時までもそうだから……あの人は……!」
勇者〈誰かの死を思い出してしまった俺は……いや、俺達は、きっと、〉
勇者〈そう長くは……保たない〉
魔法使い「……似てると思った、けど、やっぱり同じってわけ」
魔法使い「どちらも、生きていたくない意志を、隠して……」
魔法使い「……いいえ、違う」
勇者〈……………?〉
魔法使い「あなた達はお互いを好きにならなかった、別のヒトを好きになった」
魔法使い「あなたが彼女を好きになったら、一緒に堕ちるだけだもの」
魔法使い「自覚しなさい、あなた達はまだ」
勇者〈やめてくれ、やめろよ〉
勇者〈俺はもう、生きたくないんだ!〉
『勇者、』
勇者〈!!〉
相棒「ゆーうーしゃー」
勇者「………」
相棒「どうしたの?ぼーっとして」
勇者「俺、今何してたんだろう」
相棒「……何って、ぼーっとしてたんじゃないの?」
勇者「いや、何か……誰かと話してたような、」
相棒「……誰もいないよ?勇者、一人だったし」
勇者「……ま、まさか……俺はついに白昼夢とやらを見て……!?」
相棒「なんてこった……!まさか首の傷が原因!?
勇者「そ、そんな……!あれいやでも俺もう喋れてる気がする!」
相棒「気がするじゃないよ!喋れてるよ!」
勇者「…………」
相棒「…………」
勇者「完治いえーい」
ハイターッチ
相棒「完治いえーい」
勇者「--さて、完治したわけですが、首の包帯どうしよう。あとこの会話用に維持してる血の塊も!」フォン
血文字:どうしようこれ!
相棒「包帯は巻いたままだとみんな心配するもんねぇー。血の塊は……」
勇者「Bさんありがとう。包帯外しまーす」クルクル
血文字:あとこれ、血だからやっぱり血のにおいが凄い!
相棒「そりゃあ血だし、水じゃないんだし。もう放棄するしか」
勇者「だよなー」フォン
血文字:さらばだ! バチョン
勇者「これで憂いは無くなったな」
相棒「そだねー」ケラケラ
勇者「………………」
相棒「………………」
勇者「相棒、」
相棒「なにー?」
勇者「俺、おかしかったろ」
相棒「…………、」
勇者「隠さなくていい」
相棒「……うん。なんか、勇者が勇者じゃないように見えた」
勇者「そっか。気を付けないとなぁ」ヘラリ
相棒「……ねぇ、勇者」
勇者「なに?」
相棒「私と組んだ時の事、覚えてるよね」
勇者「忘れないよ。竜の里の御神木の枝折った事カミングアウトしてくれたんだから」
相棒「やめて思い出した良心が痛む」
勇者「ごめんごめん。ちゃんと覚えてる。出会いや、闘った事、相棒が相棒になってくれた時の事も、全部。全部覚えてる」
相棒「ずっと一緒だ、って言ってくれたよね」
勇者「言った」
相棒「……もう一度、約束しよう」
相棒「私を置いて、どこかに行かないでね、勇者」
勇者「……うん、わかった」
勇者「約束、だ」
近くの木の陰。
第一B「…………、」
第一B(これ以上……詮索出来るわけ、ないだろ……)
--少し前。
とある町。付近の山。
相棒「やっぱりそうだ。止めてもBさんは来るって思ってたんだー」
第一B「……旅人さんを探さなくていいのか?」
相棒「大丈夫だよ。勇者は死んでない。気にしないで」
第一B「んなこと、出来るかよ」
第一B「……俺の蟲は、当時の思考を伝える。旅人さんと遭遇した後の剣士の思考を、俺は全部見た」
第一B「相棒さん……、何であいつが、死なないってわかった」
相棒「……………勇者は、『ごめん』って言わなかった」
相棒「だから、死なない。そう信じられたんだ」
第一B「……前に話してくれたな。お前等の出会いの話」
相棒「そうだね。ずっと一緒だって、勇者は言ってくれたから」
第一B「……でもな、違うだろ。死んでるはずだ、死んでたはずだ。あの傷で生きてるわけが……ない」
第一B「一番近くで見たのが剣士だ。その剣士が死んだと認識した」
第一B「見ていた俺達も……死んだと思った」
相棒「でも、死んでなかった」
第一B「剣士の思考を全て見た。さっき、言ったろ。剣士はあいつを自分と同じ戦闘奴隷だと考えていた」
第一B「……戦闘奴隷ってのは魔族領にも存在する。人間領に存在することも驚かない」
第一B「人間領出身だ、対魔族を目的に身体を弄られてる事も、驚かない」
第一B「旅人さんの自己治癒能力は剣士と同じだと思った。最初は。--だが、剣士は……治癒魔法は効きにくいだけで、効果はあるらしい」
第一B「治癒魔法が効きにくいと、全く効かない、それどころか魔法を弾くってのは意味が全く異なる」
第一B「前者は、先に発動した同一魔法が遅れて発動した魔法を阻害し、効果を減退させる。剣士の速すぎる自己治癒力は、治癒魔法を身体に同化していたから」
第一B「同化した魔法が阻害するから、効きが悪い」
第一B「治癒魔法の同化自体信じがたいが、剣士という実例がある。確かに、理論上、可能だしな」
第一B「旅人さんは、それに当てはまらない。旅人さんは治癒魔法自体を……弾く」
相棒「……………、」
第一B「……確信は無い。それ以外に考えつく、これなら有り得ると思う可能性の方が現実的だ。俺も、そっちであってくれと、」
相棒「Bさんが、」
第一B「…………」
相棒「……Bさんが、勇者に使った魔法、ちゃんと効いてた、ね」
相棒「治癒魔法じゃないんでしょ?」
第一B「……俺が、旅人さんの傷に指突っ込んで使った魔法はな、」
第一B「構築された魔法を破壊、し続ける魔法、その、無効化だ」
相棒「……剣士は勇者に同化した治癒魔法の破壊を狙ったわけか」
第一B「……だろうな」
相棒「私、Bさんの言いたい事、わかるよ」
相棒「基本的に、治癒魔法は生物にしか効かない。それを弾くのなら、」
第一B「効かなくても、弾きすらしても、原因の可能性はすぐに思い付く。いくつもだ」
相棒「--勇者は、人間じゃないかもね」ヘラリ
第一B「----、」
相棒「魔族でもない、竜族でもない……天使だったらどうしようか、精霊だった、ってオチかもしれない」
相棒「私さ、勇者が何であっても、一緒にいてくれたらそれでいいんだ」
相棒「私、気付いたら一人ぼっちだったから。誰かがずっと一緒にいてくれた気はするけど、誰だかわからなくて」
相棒「誰かはもういないし、寂しいって口にすることも駄目な気がしてた」
相棒「私も勇者も、記憶が無いんだ。昔の記憶。生まれてから一定の期間、小さいから忘れてるだけ、なんて言えない期間」
相棒「きっと、思い出しちゃいけない記憶なんだ。私はきっと、思い出せない。誰かが封じてくれたんだと思う」
相棒「勇者は、時々思い出しそうになる。自分で封じた記憶だからだろうね、」
相棒「思い出しそうになった勇者は、勇者だけど勇者じゃないように思えて、少し、怖い」
相棒「おまけに、勇者は思い出しそうになった時の自分を覚えてないから、」
相棒「もし完全に思い出しちゃったら、勇者が消えちゃいそうで……凄く、怖い」
第一B「……旅人さんの反応が消えたのは、本当に大丈夫なのか」
相棒「私は、Bさんが勇者本人に疑問をぶつける事の方が危険だと、判断した」
第一B「……悪かった、思慮が足りなかった」
相棒「……謝らせたいわけじゃなかった。私こそ、ごめん」
第一B「…………、なぁ、相棒さん」
相棒「……なに?」
第一B「俺は、あいつが何であっても、構わない。接し方を変える気はない」
相棒「……Aさんが『勇者に対する遠慮が無くなってるー』って、言ってたけど」クスッ
第一B「それはそれ。これはこれだ。心配させた旅人さんが悪い」ケラケラ
相棒「あはは、そうだね」ケラケラ
第一B「…………、」
第一B「……行ってやれ。旅人さんの所に」
第一B「俺は言わない。誰にも。……俺も、何も知らない事にする」
相棒「……わかった。ありがとう、Bさん」
人間領。とある国。
王城。王の間。
魔王「…………」ズルズル
側近「……その二脚の椅子、どこから持って来た」
魔王「近くの部屋から。ほら側近、あなたはそっち。私はこっちに座るから」ストン
側近「広間のど真ん中に椅子が二脚。不自然極まりない配置だな」
魔王「いいじゃない。どうせ全部燃えちゃうみたいだし」
側近「--城は外の者共に火をかけられた。最上階のここも……いずれ燃えるか」ストン
側近「不自然な配置の椅子に他国の魔王と側近が並んで座る--なんて構図、端から見たら笑えそうだな」
魔王「いいじゃない。私達しかいないんだから、誰も見ちゃいないわよ」
魔王「……下が燃えてるから、温度上がってきたわね。熱いのは嫌だし、最上階だけ少し冷やしておこうかしら」フォン
パキパキパキパキ
側近「冷やしすぎだ。一面に氷を張らせてどうする」
魔王「いいのよ。これで」
魔王「少しは見栄えが良くなるでしょ?赤くないんだから」
側近「………確かに……もう赤くはない、か」
魔王「…………、」フゥー
魔王「……けど、確かに冷やしすぎたかも。息、こんなに白い」クスッ
側近「…………、」
魔王「話、あなたからどうぞ」
側近「………わかったことがある。俺の血筋についてだ」
側近「竜族にも……と言うのはおかしいな、ちゃんと血統があった。俺と同じ黒の竜へと変化する者達が、いた」
側近「黒の竜族……その一族は滅んだらしい」
魔王「あなたは……その一族の最後の一人ってこと?」
側近「わからない。一番古い記憶は拾われた日の物だからな」
魔王「……私に兄が出来た日、ね」
側近「はは、そうだな」
側近「…………、」
側近「……黒だから、」
魔王「?」
魔王「黒だから、滅んだそうだ」
側近「黒の竜族は滅びを招く。一族はまとまって、隠れるように暮らしていたらしい」
側近「まぁ、全部人間から聞いた話だ。真実かは知らん」
魔王「黒の竜族か……、強そうね。私のおまけじゃなかった、って事で良いんじゃない?」
魔王「滅びを招くー、とか、そんな信憑性の無い話信じるようなヒトじゃないでしょ、あなたは」
側近「そうだな。滅びなんぞ知るか、と言った所だ。ただ、」
側近「俺の一族は……死んだか、と思ってな」
魔王「…………、」
側近「お前がいてくれて良かった」
魔王「ふふっ、妹との有り難みをしかと噛みしめなさい」クスクスッ
側近「そうだな。--では、お次は妹殿の話を聞こうか」
魔王「……あー、そうだったわね、……愚痴になる、かも……」
魔王「……その通り、なのよね。私、若いし、経験なんて無い……変に力があるから、結局力押しでどうにかって考えてしまう」
魔王「……今回の事は、良い勉強になったわ、なんて言えればいいんでしょうけど、」
魔王「……………、」
側近「…………原因は、俺にも半分あるな」
魔王「あああああ!!もう!!悔しいわよ、凄く!ヒトが死んでるのに!!負傷者もいっぱい……何で私……、策士とか……なんというかその……理知的な、魔王じゃないのよ」
魔王「何で最終的に思考停止して『よし、殴ろう』とか思っちゃうのよ!!馬鹿じゃないの!?この脳筋!!私の馬鹿っ!!」
側近「…………すまん多分いや確実に俺の役目だ。策とか……なんかこう……力でごり押ししないで済む方法を考えるのは」
魔王「……私も、あなたも……そろって向いてないのはわかってるわよ。だって私達……完全に武官タイプじゃない……」
側近「………………」
魔王「……でも、やらなきゃいけないのはわかってる。……やりたくないなんて思わない」
魔王「あなたもそうでしょ?私達がやるの、私達の国は、私達が守るの」
側近「ああ。それだけは絶対に揺るがない」
魔王「それが聞けて良かった。けど、…………私達にはもう一つ……結論というか、方向性を決めなきゃいけないことがある」
側近「……………だな。いずれ変わる可能性があるにしても、このままでこのままの関係はフェアじゃない」
魔王「--思えば、綺麗な所しか見せてなかったな、って」
側近「……返り血、凄いぞ」クスッ
魔王「あなたもね」クスッ
魔王「よし、本人と面と向かって何も言えなくなるっていうオチは嫌だし……国に帰る前に話つけるわよ!」スクッ
魔王「とりあえず隅に行くわ!いくらあなたでも近くにいられると、私何言い出すかわからないし恥ずかしい!なんかこう……恥ずかしいものがあるわ!!」
側近「お、おう」
魔王「よし、気合い入れて通信よ!!映像付けて顔見ながら話してやるわ!!」ツカツカツカ
魔王「待ってなさい勇者!今通信回線ぶち込んでやるからっ!」スミッ
側近(隅っこに座り込んで通信か……まったく、)クスッ
側近(まぁ俺も……恥ずかしいのには変わりない)
側近(ここは魔族領に近い。……問題無く、繋がるはずだ)
側近(……繋げる先は--相棒)フォン
魔族領。
とある町。付近の山。
第一A『なんだよ旅人さん!さっきの今で結構心配したんだからな!倒れてるかもってさ!』
勇者「ごめんAさん。……治癒したばかりで魔力が安定してなかったから、うっかり反応消えちゃったんだと思う」
第一A『……ならいいけどさ、』
第一B「--傷、治ってるな」
勇者「あ、Bさん。完治した!手当てありがとう!」
第一B「おー」
第一B「--で、相棒だけか?あいつはまだ戻ってきてないのか?」
相棒「……お兄さんはまだだねー、私が1番で、通信だけならAさん2番Bさんは3番目に合流ー」
フォン
第一『マジか、皆合流済みってか』
第一『あらかた潰し終えたし、俺も合流しようかなー』フォン
第一『エンタングル!!』
第一B「何の掛け声だ何の」
勇者「あ、これは知ってる」
相棒「転移に一票」
第一B「は?」
ヒュン
第一「んじゃ、お仕事も終わったしみんなでぶらぶら山降りる?」スタッ
第一「それとも一発転移?」
第一B「ほんとに転移して……まぁいいや」
第一B「A、現在の状況は?副隊長から何か連絡あったか?」
第一A『勇者の男は第二隊長につつかれて国外へ』
第一A『--この場所以外の召還魔法陣は、第三の隊長達がぷちぷち潰して回ってたみたいだな』
第一A『あとは魔王様達の帰宅を待つばかりーって状況だな。ほぼ全部、終わったって所』
第一A『ってことで、皆様。そろそろ城に戻って--』
ヴヴヴヴヴ
勇者「!!!」ビクッ
相棒「!!!」ビクッ
第一A『おやおや、通信魔法か?』
第一B「おい誰だー?通信繋げてやらないのはー」
第一「せんせー!2つ分の通信回線を繋げないヒト達がいまーす」
勇者「つ、繋げます!ちょっと魔王様から個人直通で来たから吃驚しただけで!」
相棒「そ、そうだよ!突然側近さんから個人で通信来たら吃驚するじゃんか!!」
第一B「邪魔者はとっとと消えるか」
第一「転移いきまーす」フォン
ヒュン
勇者「早い!!行動早いよお兄さん達!!」
相棒「一瞬だった!一瞬で消えたよ!」
第一A『安心してくれ!ちょっと距離を取ってやっぱり見てる!!じゃあな!!』ブツッ
勇者「な、ななななな……!!」
相棒「い、いきなりすぎるよ、でも何か大変だって事なら早く繋げなきゃだし、」
勇者「」アワワワワ
相棒(……なんだろう、自分以上に慌ててるヒトいるとちょっと落ち着く)
相棒「勇者、私少し離れるからね」
勇者「え、」
相棒「何の話か知らないけど、魔王様からの直通で来てるんだ。勇者だけに話があるってことだよ」
相棒「……私にも、側近さんからきてるし。何だかんだで今日色々あったから何の用だろうってドキドキするし」
勇者「…………、わかった、」
勇者「……通信、繋げる。離れる。寂しくないぞ!」
勇者「ぐ、ぐっとらっく、相棒!」グッ
相棒「うん。ぐっとらっく、勇者ー」クスッ
勇者から少し離れた木陰。
フォン
相棒「……あー、っと、映像付きか」
側近『……………、』
相棒「側近さん、繋げるの遅れてごめんね」
側近『……いや、こちらも突然通信を、しかも複数ではなく個人宛だからな……その……一瞬、拒否されたのかと、』
相棒「拒否じゃないよ!ちょっと色々あって……」
相棒「とにかく拒否じゃないから!」
側近『そ、そうか……』
相棒「…………元気そうで良かった。--返り血だよね、それ」
側近『ああ』
相棒「はは、血みどろだ。派手に暴れたね」
側近『…………少し、派手にやりすぎた感はある』
相棒「口の端、血がついてるよ」
側近『………食い千切ったからな』
相棒「竜族であることを最大限に利用したわけだね」ケラケラ
側近『……引かないとは思っていた。が、正直に言おう、』
側近『俺は戦いを楽しんでいる節がある。血を浴びるとそれが顕著に現れてな』
側近『その一瞬、自分が何を考えてその行動に出たのかわからなくなる』
側近『何が言いたいかと言うと、だな……俺は、清廉潔白ではない。綺麗じゃない』
相棒「……………、」
側近『それに、だな……俺の一族……黒の竜族は、滅びを招くと人間が言っていた』
側近『他にも、見せていないだけで俺は、』
相棒「側近さん、」
側近『な、なんだ?』
相棒「どうしたの?突然、そんな事言い出して、」
側近『----、今回の事で、お前達は戦ったから、』
側近『お前の好意を、利用しているようで、』
相棒「?私、側近の事はもちろん好きだけど、魔王様も好きだし、第一のお兄さん達も好きだし……」
相棒「城の皆や、町で知り合った子達も好きだから、勝手に動いただけ」
側近『……好きか、この国が』
相棒「ずっと来たかった、おじさんの国だ。好きなヒトも沢山出来た」
相棒「大好きに決まってる」ヘラリ
側近『……………、お前は、その……俺を、』
相棒「?」
側近『す、………き、と、言ったから、』
側近『あの時は、少々、心の整理というか、そのだな、慌てていたからというか、』
側近『真剣に、俺の事が……すきと、この国が好きと、言ってくれたから、俺も真剣に応えようと思う』
側近『ちゃんと、考えた。友達以上婚約者未満でどうだ!』
相棒「」ブフォ
側近『嫌か!?』
相棒「あ、ちょ……ままま、待って下さい、側近さん……」アワワワワ
側近『い、嫌なのか……?』シュン
相棒「あのっ……その……こ、婚約者って、お友達の次が婚約者って……いいん、ですか、それ……!」
側近『何故だ。男女交際=結婚だろうに!』
相棒「なんだろう、なんっ……私が間違ってる!?ああでも、ううう……」
相棒「私だって!側近さんに見せてない所とか、言ってない事があるのに!」
相棒「そ、そもそも、私黒の竜族が滅びを招くなんて聞いたことない。竜の里では、私の方が……白の方が、不吉だって言われてて……」
側近『…………、』
相棒「黙ってて、ごめんなさい。みんなに嫌われたくなくて、」
側近『悪いがそういう俗説は欠片も信じない質でな』
相棒「!」
側近『黒の滅びがどうのも、俺自身は全く気にしていないが、お前が気にすると思って……』
相棒「……あの、じゃあ……側近さんも、気にしない?私が白でも」
側近『綺麗だと思うぞ、その髪。竜の姿も』
相棒「……嬉しいよ、ありがとう」
側近『……先に、言っておく。俺は……お前に好感を抱いているのは確かだが、まだ、その……この感情についてよくわかっていない部分もある』
側近『俺は国が大事だ。なんとしても守りたいと思っている。だから、』
相棒「いいと思う。それで」
側近『…………、』
相棒「優先する物の話、でしょ?」
相棒「私だって、出来ることなら……おじさんや、魔王様や側近さんの、みんなの、この国を……守る手伝いが、したい」
側近『…………いいのか、』
相棒「利用されてるつもりはないよ」
側近『現段階、友達以上結婚未満の話も』
相棒「けっ………!?っ、……うん。友達から始めよう、って前に話したわけだし、」
相棒「急ぐつもりはなくて、ゆっくり、仲良くなれると嬉しいな、って……その、思って……」
側近『……わかっ、た。……あの、だな、魔王を連れてすぐに帰る、から』
側近『落ち着いたら、また、話せるか。俺と』
相棒「……もちろん。大歓迎!」
側近『……そうか。……話は終わりだ。通信を切る。じゃあな、城で、また』
相棒「うん。また、ね」ヘラリ
相棒から少し離れた木陰。
魔王『つ、繋げてくれないから……拒否されたのかと思ったじゃない……!』ウルッ
勇者「ご、ごめん!ちょっとその……色々あって!拒否じゃないんだ!本当に、拒否じゃなく!」
魔王『……拒否じゃ、ないなら……少し話しがしたいんだけど……良いかしら、』
勇者「う、うん」
魔王『その前に……あなた、血痕凄いけど、大丈夫?』
勇者「ああ、うん。ちょっと首、怪我して。もう治ったから大丈夫だよ」ヘラリ
魔王『……そう、ならいいんだけど、』
魔王『……………、』
勇者「あの、魔王様。何か話があって通信、」
魔王『話はある!話はあるのっ!』キッ
魔王『っ、勇者!正直に答えなさい!』
勇者「はい!」
魔王『今の私を見てどう思う!?』
勇者「可愛いです!」
魔王『~~~!!!そ、そうじゃ、そうじゃなくて!』カァァ
勇者「魔王様って何時も凛としててカッコ良くて綺麗だけど、ちょっと焦ったりすると途端に可愛くなるよね」
魔王『ううう~!そんな、そんな事訊いたわけじゃ……!』
勇者「ごごごごめん……!正直にって言われたから、……どんな事、俺は言えば、」
魔王『……ほら、私……赤いじゃない、血みどろじゃない……!返り血凄いじゃない……!』
勇者「うん、赤いし返り血凄いね。でも殴り込みに行ったんだし、仕方ないよ」
勇者「怪我、無さそうだし。魔王様が無事元気そうでで良かった」ヘラリ
魔王『…………な、なによ……、もう……、こんな、可愛いとか、カッコ良いとか綺麗とか……、その後は私が無事で良かったとか……笑って、』
魔王『……………、』
魔王『私、綺麗じゃないの……』
勇者「?」
魔王『私、あなたに見せてない所、沢山あるの、』
魔王『言ってない事も、ある』
魔王『……あなた達が殺した旧政権の魔王は、私の叔父。私の母の……実の、弟だった』
魔王『私は、この世界で唯一残った、あの魔王の血縁。あの魔王と同じ血を持ってる。だから、』
勇者「……………」
魔王『隠してたわけじゃ……いや、隠してたのかもしれない。口にしないようにしてた、』
魔王『お母様は好きよ、大好き。でもあの魔王を叔父とは認めない。認めたくない!--私は…………』
勇者「身近に最低最悪の困ったさんがいたってわけか。大変だったんだね」
魔王『……驚かないの?私とあの魔王の関係を聞いて』
勇者「驚いたよ。でも、魔王様がアイツと同じなら、俺はこの国を好きになっていない、」
勇者「俺は、君を好きになっていない」
魔王『!!』
勇者「相棒だってそうだ。気にしないと思うなー」ヘラリ
魔王『…………うぅううう、』キッ
勇者「な、え、ど、どうかした?」
魔王『あなた達を巻き込みたくなかった……!お父様の恩人で、この国の恩人でもある、それなのに……!』
魔王『結局戦わせちゃうし、怪我までさせちゃうし…!私がこうだから、利用してるみたいで……嫌!やっぱり嫌よ!』
魔王『勇者!』
勇者「なに?」
魔王『この国、好き!?』
勇者「うん、好き。まだここに来て短いけど、毎日が凄く楽しいんだ。みんなもいる、魔王様もいる」
魔王『……わ、わた……私のこと、好き…なのよね……?』
勇者「うん、大好き。……だから、利用とかじゃなく、……許しがほしい」
勇者「俺に、君やみんな、この国を守る手伝いをさせてほしいんだ。……駄目かな?」
魔王『うううう……!』
勇者「……えっ、と……」
魔王『……市民権、』
勇者「へ?」
魔王『市民権、あげるから……!相棒にもよ!この国のヒトになって、それで……!』
魔王『おかえりって言いなさい!私達が戻ったら、おかえり、って……!』
魔王『この国のヒトで、私と友達、以上なら……それぐらい言ってもいいでしょ!?』
魔王『それが、答え!あなたが、この国と、私を!好きだって言ってくれた答え!』
勇者「--!」
魔王『まだ、付き合うのは、わからないけど、でも、私も……好きよ、ヒトとして、あなたのこと、』
魔王『だから、権利を、交換。私が私の国の者であるあなたを守るから、あなたは……協力、してほしい。この国を守る手伝いを』
魔王『これで、利用とかじゃなくなる、から……』
勇者「ありがとう、」ヘラリ
魔王『ううう……!聞きたいのはお礼じゃないの!ありがとうはこっちで……ああもうっ!はいか了解しか認めないから、いいわね!?』
勇者「は、はい……!」
魔王『すぐ戻るわ!本当に、すぐ戻るから!城で待ってなさい!』
魔王『そして、私達におかえりって言うことっ!わかった!?』
勇者「了解っ!」
魔王『通信終わり!
--側近!帰るわよ!即帰宅よ直帰よ!!直帰直帰!!私達はすぐに帰って『ただいま!』って言わなきゃいけ』ブツッ
勇者「……通信、ちゃんと切れてないのに」クスッ
相棒「--魔王様との話、終わった?」
勇者「終わった」クルッ
勇者「……相棒、何か言われたな、顔にやけてるぞ」
相棒「ふへへ、勇者こそ」
勇者「……俺、今嬉しすぎて死にそうでさ」
相棒「これは深く話を訊くべきですね」ケラケラ
勇者「お互いな」ケラケラ
勇者「でも今は、城に戻ろう」
勇者「言わなきゃならないんだ。帰ってきた魔王様達に」
勇者「おかえりなさい、って!」
数日後。
魔族領。とある町。
パン屋の前。早朝。
第二隊長(約束の限定食パン一斤……必ずゲットし第一のの機嫌を良くしてやるのだ!)
第二隊長(これがあればまた第一のとお茶が出来る!ふはは!いける、この作戦、いけるぞ!)
第二隊長(…………でも、開店時間まで暇だなぁ)
第二隊長(………………)
第二隊長(……しかし、変な事を言う男だった、)
--数日前。
--国境。
勇者男「ああ、名残惜しい。彼女は特に欲しかった。強さと美しさを兼ね備え……淑やかさの裏にある気の強さ、弱さ」
勇者男「彼女は、凄く良い」
第二隊長「第一のはやらん!やらんぞ!!」シオシオ
勇者男「羨ましいよ、彼女といられる事が」
第二隊長「ふんっ!この権利はやらん!」
第二隊長「それに、お前はまだ見てないからな!戦う第一のの美しさを!」
第二隊長「戦場の第一のはそれはそれは美しかった!炎を纏い敵を焼き尽くしていくその姿!赤く照らされた目が、髪が、きらきらと輝いて見えて、」
第二隊長「目を奪われた。ずっと見ていたいと思った。優先すべきは任務のみだったこの私がな」
第二隊長「まぁ……本当にずっと見ていたら、第一のが私に気付いて声をかけてくれた。構ってくれた。第一ののおかげで第三のにも出会えたし……ふへへ」
第二隊長「どうだ!羨ましいだろう!!」
勇者男「……想い人がいるらしいが、それは、」
第二隊長「第三ののことか!?第三のは良い男だぞ!貴様は強いがキモい!第三のは強くてカッコイい!」
勇者男「彼がヒトにしてくれたというわけか?」
第二隊長「む」
勇者男「もしや、彼女に出会ってヒトになれたのではないのか?」
第二隊長「むむ、私いつからマシになったんだっけ?」
勇者男「あの言い分だと、彼女に一目惚れしたように聞こえる」
第二隊長「一目惚れ?まさか、何を言うかそれは無いだろうに。現に私は女で、第一のも女だぞ」
第二隊長「確かに第一に構ってもらってマシにはなったが、別に異性に惚れることだけがマトモになれるわけでもなし、」
第二隊長「なにより私は第三のが好きだ。第三のは第一のと仲が良い。第一のは我が永遠のライバルとなるのだ!!」
勇者男「なんてことだ……百合は素晴らしいぞ!」
第二隊長「いきなり何だ、キモいぞお前!早く帰れ!!しっしっ!」シオシオバシャーン
勇者男「百合だ!その気持ち!まさしく愛!気付け!気付いてくれ!!」
第二隊長「はぁ?訳がわからんぞ。もう帰れ!!帰れっ!」シオシオシオシオシオシオシオシオバシャーン
勇者男「くっ、仕方ない。帰るとする……行く末を見れない自分が憎い!!くそっ!!くそっ!!!」
--現在。
--パン屋の前。
第二隊長(意味がわからん。なんだ、百合百合言って)
第二隊長(私が第一のを好きということか?確かに好きだぞ?しかしあの言い分、その好きは、愛の方だ)
第二隊長(馬鹿言え、私が愛しているのは第三のだぞ、私は女だし、第三のは男だ。……第一のは女だというのに、まったく)
第二隊長(だが、もし私が第一のまでも愛しているのなら、)
第二隊長「えっ、とー」
第二隊長(私→(愛)第三の。私→(愛)第一の。第三の(友)→第一の。だから、図解にすると)
第二隊長「さ、三角関係だと……!?」
パン屋の青年「!」ビクッ
パン屋の青年(三角関係ってなんだろう……)
パン屋の青年「あ、あのお客様……本日は定休日でして、」
第二隊長「」
パン屋の青年「こんな早朝から並んで頂いて申し訳ないのですが、店は……」
第二隊長「」
パン屋の青年「開かないのです……」
第二隊長「」チーン
人間領。
勇者協会。本部。
フォン
受付の女性「……お父さん、私今仕事中」
商人『……連続して有給取ったって聞いたから、てっきりパパとママに会いに来てくれると思ったら、お前、お前は……!』
商人『危ない事、してたんだろ……!』
受付「危なくない。無事だから今事務処理の傍らお父さんの通信の相手してやってるんじゃない」
商人『…………もうあの戦闘奴隷に関わるのやめろよ……』
受付「戦闘奴隷じゃない。勇者よ。間違えないで」
商人『…………』
受付「いいじゃない。私は一切関わりがなかったんだから、好きにしても」
受付「それに、仲良くして損は無いわ。お父さんも知ってるでしょ、あの二人の実力。利用価値で考えたら、最高じゃない」
受付「強いし裏切らない。浅く付き合っていく分には悪くない性格」
商人『だが、爆弾抱えてるみたいたものだろ。アイツ等どんだけ敵がいるんだと』
受付「浅くって言った、深い付き合いをするつもりはないわ」
商人『……勇者協会勤務もさ、パパとママやっぱりまだ反対でさ。とっとと辞めて戻って』
受付「来ない。嫌」
商人『……結婚とか、良い話沢山来てるんだぞ……お前ママに似て可愛いから、イケメン金持ちから縁談の話がだな、』
商人『……あの勇者からも求婚されてるって、パパ知ってるんだぞ』
受付「あの勇者は論外。絶対嫌。続けていいと思えるのは友人関係だけ」
受付「それに、ずっと言ってるでしょ?私には好きなヒトがいるの」
商人『アイツだけはやめとけって何度も言ってるのに……年だって、』
受付「お父さんこそ、年下を嫁に取ったじゃない。言える立場?」
商人『だってママ可愛いから……』
受付「諦めるつもりはないわ。絶対私に振り向かせてみせる」
商人『……無理だって。アイツは過去に縛られてる。もう前は向けない。そりゃあ表は吹っ切れたみたいに生きてるけど、中身は、』
受付「お父さんは言った通り最後まで味方してくれてればいいの!私は私のやりたいようにするの!」
商人『でもな、お前……』
受付「忙しいから切るよ」
商人『あ、おい……!』ブツッ
受付「……………、」
受付「なによ、馬鹿じゃないのあの勇者……」
受付「さっさと自分もヒトだって認めて、吹っ切れて、…………」
受付「……畜生、どうして私には上手く助けられないのよ」
魔王城。
城門横、詰め所。
城門兵先輩「あー、やっと終わったってわけね」
密偵班長「ああ。回廊関連の一件は解決と見ていい」
先輩「んじゃ、お疲れ煎餅をどうぞ、お茶付き」コトン
班長「どうも」
先輩「お向かいに失礼して、と」ストン
先輩「今回は危なかったじゃない、眼鏡割れそうになったし」
班長(何故みんな俺の安否を眼鏡中心で考えるんだろう……)
先輩「昔馴染みだし、割れたらどうしようかと思った。気を付けてよね」
班長「同じ失敗はしない。……新人も怒るし、」
先輩「鈍感なふりして、悪い男よねー。新人の気持ちに気付いてるくせにー」ケラケラ
班長「……だってお前、新人と付き合うって……今後に支障出るだろ」
班長「今の俺じゃ仕事に私情挟みまくりそうだし……そもそもあいつ可愛いし、俺みたいな地味な男じゃなくてもっとイケメンな良い男とかさ……」ブツブツ
先輩「……なーんか、気持ち、わからなくもないけど。ずっとこのままは駄目よ」
班長「……わかってるよ……」パリパリモグモグ
先輩「……隣国、どうなるの?」パリッ
班長「一人だけ、王家の血を引いた女の子が生存してる。流石に魔王として立てるには幼すぎるから、」
班長「地方に飛ばされたおかげで無事だった、まともな将軍殿を指導者にするんだと」パリッ
班長「あの宰相と争って国の隅に飛ばされたらしいが、城にいたら死んでただろうし。結果的に良かったんだろうな」
先輩「まともなら、国境での隣国との争いも無くなるってことね」モグモグ
班長「将軍殿もそうだけど、兵士もまともな奴が残ってる。……結局、魔王様は制裁も報復もしないみたいだから」
班長「立ち直った隣国とは友好的な関係を築けそうだよ」モグモグ
先輩「そっか、良かった」
先輩「あと、もう一つ」
班長「…………」
先輩「扉の外、どうするの?」ニヤニヤ
班長「…………どうしようか、俺としては聞かなかった事にしてほしいんだけどな、」
詰め所。扉の外。
密偵新人(ああああああおのれ班長この眼鏡野郎!!鈍感だと思ってたらしっかり気付いてるんじゃないっすかあああああ!)
新人(あああああどうしようどうしよう行くべき!?突撃するべき!?今すぐ中へ!班長の胸へ飛び込みたいよおおお!!!)
城門兵後輩「お前……扉に耳当てて何やってんだ」
新人(班長班長班長班長班長班長班長!)ハァハァハァハァ
後輩「なにこの子怖い」
魔王城。
とある一室。
第一「部下ちゃんのセ○ムがグレードアップした件について」
部下「……いや、その……有り難いんですけども、」
第一「その1!犬笛!!吹くとガチムチマッチョが駆けつけます!」
部下「犬笛だなんて…!彼は犬じゃないです!」
部下「……ただの護身用の魔法具ですもん。吹けば音が衝撃波になるっていう……」
第一A「第二の超感覚なら一瞬で察知後即ガチムチマッチョの全力ダッシュの流れ……来ます副隊長来ます」
第一「その2!勇者さん相棒さんプレゼンツ自動型攻撃魔法!」
相棒「私は主に魔力の提供ですが……前回の反省点を踏まえ勇者と作ってみました!」
勇者「棘で刺すだけじゃ足りない……周りを巻き込むわけにもいかない……かといって部下さんが危ないのは嫌だ!」
第一A「その効果は!?」
勇者「刺してからの溶かします」
相棒「刺してからの溶解です」
勇者「発動スイッチはそのままに、その対象をさくっといき、」
相棒「でろっと溶かします」
勇者「場所に寄りますが、ものの数秒で」
相棒「腕ぐらいは落ちます。最終的には」
勇者相棒「「でろでろぐっちゃ!!」」キリッ
第一C「」
第一B「普通に怖いな」
第一A「そしてその3!今回の件で部下の身の安全について考えた魔王様と側近様」
第一「作るそうです自動型攻撃魔法」
第一B「効果は」
第一A「空間破壊。予定では発動後部下の周囲半径5mが消し飛びますね」
部下「…………そ、それは初耳というか」
第一B「うん。これはアウト。完全にアウト」
第一C「…………何というか、さ」
第一C「俺が一緒にいたのに、妹を危うく死なせる所だった。部下が無事でいられるなら、有り難いだけなんだよなー」
第一C「護身用の魔法作るのは高度すぎて流石に無理だし、お兄ちゃんホント駄目だわ……ごめんな部下……」
部下「そんな……こと、言わないでよ!お兄ちゃんのばかっ!」
バキッ
第一C「げふっ!?」
勇者「鳩尾に一発!?」アワワワワ
相棒「キレイに入った!?」アワワワワ
第一「止めないで下さい部下ちゃんは昔からCの自虐発言に対しクリティカルな一撃を入れてきたのです」
第一A「ぶっちゃけCより部下の拳の方が痛い」
第一B「魔法無しの単純な腕力なら兄貴より妹が上なのは秘密」
部下「私が怪我する度に自虐的になるのやめて!お兄ちゃんはちゃんと守ってくれたでしょ!」
第一C「……守り切れてない、可能性も……あった……だろ……」ヒンシ
部下「私がお兄ちゃんの足手まといになってたのは知ってる、私がいなければ上手くやれた!」
部下「だってお兄ちゃん……近接戦闘まるで駄目じゃない!」
第一C「」チーン
部下「近付かれたら終わり、だから中、遠距離で仕留めるのがお兄ちゃんの戦い方で……」
部下「お兄ちゃんは私が守る、なんて言えないけど……守って、は言わないから、」
部下「油断しない、自分の身は自分で守るようにする。自衛の魔法もかけてもらったし、だから、」
部下「……だから、お願い。自分の命を捨てる魔法は使わないで……!」
第一「部下ちゃん、なんか申し訳ないんだけどCの奴落ちてるから聞こえてないと思う」
第一C「」チーン
部下「え!?あ、お、お兄ちゃん!?」
第一A「もろに入ったからなぁー」ウンウン
第一B「少しの間耐えてたけどやっぱ気絶か」ウンウン
部下「ごめんなさい!私やりすぎて……!」
勇者「確かに、Cさんが近接まるで駄目なのは見ててわかる。典型的な魔法使いタイプっていうかさ」
相棒「うん。ヒトには向き不向きがあるってのがホントそれ。Cさんは完全に後衛って感じ」
第一「見てるんだな、ちゃんと」
勇者「考えた事あるから、お兄さん達四人を同時に相手にする場合の、落とす順番」
相棒「Cさんと……Aさんも。どう見ても近接戦闘が得意に見えない--きっと、民間人より少し動けるぐらいだと思う」
第一A「……否定は出来ないわー……」
勇者「でも、どちらも魔法が厄介。特に厄介なAさんを最初に落とす。前にも言ったかもしれない、Aさんの捕捉は俺達でも避けられないぐらいの性能。防ぐか相殺を狙うしか無い」
相棒「だからすぐ近接一撃で落とさないと、って思って。魔法だと防がれるし、……Cさんが剣士に使った魔法の類を使われる可能性もあるし」
勇者「あれは困るよな。同化魔法の一種。その同化の一瞬がただ傷付けるだけの怪我ならまだマシ。それが死の瞬間なら、」
勇者「俺が間に合わなくても、Cさんは部下さんを守りきったんだなーって」
部下「…………」
相棒「剣士がCさんを殺せは剣士も死ぬ。剣士が部下さんを先に殺そうとすれば自分で死ねばいい」
相棒「死の瞬間は連動して剣士に伝わる。部下さんが何かされる前に、剣士は死ぬだろうね」
勇者「まぁCさんも一緒に死んでるけど」
第一A「やべぇ目が死んだ二人の目が死んだ」
部下(何で穏やかに目が死ぬの……)
第一B「おいC起きろ。お前のせいで二人が目に光が無い病みモードになっただろうが」ペチペチ
第一C「……う、……今回のは効いた……」パチッ
第一C「ひぃ!二人の目が死んでる!」
第一「ちなみに二人にCの魔法について喋ったのは俺です!」テヘペロ
勇者「俺がもっと早く合流出来たらCさんや部下さんも怪我しなかったよなぁ、とか」
勇者「もし俺が剣士を殺してたら、Cさんも死んでたのかー、なんて考えるとさ、」
勇者「なんか、凄く、辛いよなーって」ドンヨリケラケラ
相棒「だよねー」ドンヨリケラケラ
第一C「…………、悪かった」
第一B「お前が二人にバラした理由がわかった」
第一「慣れきった俺達より、二人に病みモードでつつかれた方が効くだろ」ケラケラ
第一A「確かに、最終手段を使うには少し早かったな。やっぱシスコンだからか」
第一B「一番似てるお前が言うなよ」ケラケラ
部下「…………、私、」
第一「部下ちゃんはさ、良い経験になったーぐらいに思っておけばいいんだよ」
第一「護身の魔法、しっかり仕掛けられたわけだし。勇者さんと相棒さんに懐かれてるって自覚、あるだろ?」
第一「そう簡単に怪我すら出来なくなるぜー、なんせ、ヤンデレモードが怖い」ケラケラ
部下「……そう、だね。私のために作ってくれた魔法だもの。あの威力で怪我なんてしてられない」
部下「怪我出来ない理由--死ねない理由も、沢山あればある程……良いと思うし」
第一「おー、よく言いました。今後とも怪我しないようよろしく頼むぜー」
第一「シスコン兄貴レベルには全く届かないけど、幼なじみな兄貴分達も心配になるのよー」ケラケラ
部下「……うん、わかった」ヘラリ
魔王城。霊園。
墓前。
魔王「……お母様、」
側近「…………」
魔王「お母様が護ってくれていたのね、この国を」
魔王「国内に仕掛けられた全ての召還魔法陣……それらがまともな発動をする事は有り得なかった」
魔王「お母様の力で全てを封じてくれていたから」
魔王「そうね、恐ろしい事だけど……範囲は国内、あの魔王の魔力にだけ反応するような魔法を--自室にいながら発動するなんて」
魔王「封じても正確な場所はわからない。それに、破壊へと動けばあの魔王がまた仕掛けてくるかもしれない。だから表沙汰にしなかったの?」
魔王「それとも、そんな魔法を使ったからお母様は死んでしまったの?」
魔王「………………」
側近「………………」
魔王「…………魔王は死んだわ。魔法回廊はどうにかなった、国内のも……」
魔王「国内の魔法陣は全て……魔力の塊に近い物になってた。きっと、どちらの術者もいなくなったから」
魔王「その塊が周囲の魔物を引き寄せていたみたい。あれからちょっと、各地の魔物の襲撃率上がってたのよ?」
魔王「--あ!勘違いしないでね!お母様もせいじゃないし!それに、みんなで全部ぶち壊したから!」
魔王「だから……ね?もう大丈夫。この国は、あの魔王から完全に逃れた」
魔王「えっと、だから、だからその……お母様……。お父様と、安心して、眠っていてね」
側近「…………」
魔王「…………」
側近「魔王」
魔王「……わかってるわよ!絶対心配してる!安心して眠ってないと思う!お父様なんか絶対ハラハラした顔でウロウロしてるわ!」
側近(そっちじゃないんだが、まぁ、)
側近「……ハラハラ、ウロウロ、か。失礼だが……確かに」クスッ
魔王「私!失敗したばかりだし今はそりゃあ頼りない魔王よ!?でも必ず立派な魔王になるから!側近もいるしみんなもいる!!……気になるヒトも出来たわ!!」
魔王「私、ちゃんと成長してるんだから!……えっと……その……少しずつ安心してよね!!」ビシッ
勇者「…………」フルフル
相棒「勇者ー、ここ来て最初に聞こえた言葉が『気になるヒトが出来た!』だったからって今更墓石の後ろで恥ずかしがらないでよ」
魔王「え!えっ!?ゆ、ゆゆ勇者!?相棒!?いつの間に!」
側近「俺は声をかけたぞ。一応な」
魔王「もっとちゃんと言いなさいよ側近!」
側近「いや、良い表明だな、と思って」
魔王「~~~!」
相棒「ホント、勇者は不意打ちに弱いよねー」ケラケラ
勇者「あー、落ち着け俺、落ち着け俺」ブツブツ
魔王「~~~、勇者!」
勇者「は、はい!」
魔王「お墓参りに来てくれたんでしょ!早く来なさい!相棒もよ!!」
相棒「ほら勇者。お墓参りと、私達で言わなきゃならない事があるでしょ」
勇者「そうだ……よし、言うぞ相棒!」シャキン
勇者「魔王様!」
相棒「側近さん」
勇者相棒「「おかえりなさい!!」」
魔王「…………」キョトン
側近「…………」キョトン
魔王側近「!!」ピコーン
魔王「……ふふっ、良いわね、これ」ニコニコ
側近「まぁその……城に帰る度にやられるのもまた照れるというか、」
魔王「口元。にやついてるの隠せてないわよ」
側近「……わざわざ指摘するな」
魔王「むふふふー」ニコニコ
魔王「ただいま!勇者!」
側近「ただいま、……相棒、」
魔王「これ、いいわ。凄くいいわ!恒例にしましょう!」ニコニコ
勇者「俺は賛成。楽しいよ」ヘラリ
相棒「私も。楽しいよ、言うの」ヘラリ
側近「…………まぁ、悪くない、というか」ボソッ
魔王「性懲りもなく口元隠してんじゃないわよ」ニヤニヤ コソコソ
側近「うるさいっ!」コソッ
勇者「二人が帰ったって聞いて、探しにきたんだー」
相棒「ここにいるって知ったから、おじさんにも報告ー、って思って」
魔王「報告?」
側近「?」
勇者「俺達、この国を出るよ。人間領に戻る」
魔王城
庭園
第一弟「蕾、大きくなった。赤い花は燃えちゃったけど、」ナデナデ
第一弟「また綺麗な花、咲かせられそうで嬉しいよ」ポンポン
植物「ぐおっ!」スリスリ
第三5「よう植物!もう少しで開花か、楽しみだ」
第三5「そして弟は相変わらず懐かれてるなー。羨ま羨ま!」
第一弟「5さん」
植物「ぐお!」シュルル
第三5「あああ、ありがとう植物ちゃん!挨拶代わりの軽い締め付けがイイ!このギリギリ痛くない感じが素敵!」ハァハァ
第一弟「植物……それ絶対5さん以外にやるんじゃないぞ…………」
植物「ぐおおっ!」コクン シュルリン
第三5「ふぅ、満足」キラキラ
第三5「いやー、ちょっと植物ちゃんの様子見たくてさ。蕾、どうなってるかなって」
第三5「あと、弟とも話したいなー、って思ってたし」
第三5「弟がキレたー、って聞いた」
第一弟「…………はい」
第一弟「……ギリギリ理性が残ってたから良かった。下手したら俺、地中にいた植物を巻き添えにする所だった」
第一弟「--俺、第一部隊で一番年下で、姉さんの弟でもあるから……自分で言うのも何ですけど、可愛がられる方だったんです」
第三5「そうだな、お前顔可愛いもんなー」
第一弟「あの、そういう見た目の可愛いとかじゃなくて、そもそも可愛くないですし、その……話はですね、」
第一弟「俺は、必ず誰かに可愛がられる方で、必ず誰かを慕う方で……慕われるなんて事は、植物が初めてなんです」ナデナデ
植物「ぐっおっ!」スリスリ
第一弟「だから……植物が殺された、って思った瞬間、かーっとなって、……気付いたら手を出していました」
第一弟「第三の皆さんが来てくれなかったら、俺……」
第三5「なぁ弟、うちの部隊に来ない?」
第一弟「と、突然、何ですか……!?」
第三5「保有魔力に魔力耐性は高水準。見た目も良いに加え城内屈指の常識人ポジション」
第一弟「じょ、常識人ポジション……?」
第三5「そんな君が欲しいと思ってた!おいでませ第三部隊!かもん俺の班!6もいるよ!痴女とへたれ含め癖有るお姉さん三人と俺は弟を待ってる!」
第一弟「あ、あの……俺、最近は庭師が本業みたいになってて、実戦の経験とか実績も少ないですし、」
第一弟「そんな……真っ正面から引き抜きみたいな事言われるの始めてで……や、やっぱり困ります!俺は第一がいいんです!」
第三5「そうか?俺、弟は第三向きだと思うんだけどな、基本姿勢というか、考え方がさ」
第一弟「第三向き、俺が……?」
第三5「ほら、魔法回廊で城が大騒ぎだったあの日。俺聞いちゃって、」
第三5「弟は相手の力量を見極めるのが上手い。上の奴が相手なら、生き延びる優先で動く」
第三5「あ、この子第三向き。そう思ったのです」
第一弟「わかって、ます……俺はきっと、決めなきゃいけない時に、間違ったことをする」
第三5「いやいや、俺ら的には合ってる合ってる」
第三5「つかBもホントは第三向きなんだよ。アイツ6と仲良いみたいだし、6餌に引っ張れねぇかなーとも考えてたり」ケラケラ
第一弟「餌って……」
第三5「AとCはもう典型的な第一部隊だし。アイツは……ちょっと第二入ってるよな。幼なじみ組いなかったら絶対第二コースだって」ケラケラ
第三5「ああ、そうそう。俺、第一部隊嫌いなんだよね」
第一弟「--え?」
第三5「だってあいつ等、自分の命と引き換えに何かをやり遂げようとしたがるから。回廊ん時もそう」
第三5「第二部隊はもっと嫌いだな。だってあいつ等、自分の命をなんとも思ってねぇんだもん」
第三5「それに、そうだな……弟が言う決めなきゃいけない時、とか」
第三5「第一は、仲間が倒れても、倒れているのに気付いた上で無視して目的を達成しようとする」
第三5「第二なんか、倒れてることすら気付かない。戦況を動かす駒が減ったな、ぐらいの認識で」
第三5「全部終わって気付いたら、隣の奴がいなくなってるんだ。--滅茶苦茶嫌だよな、それ」
第三5「ということで、味方が死ぬのは嫌だよねー?ねー!とか頷きあっちゃう奴らが集まるのが第三部隊」
第三5「死ぬ覚悟を決められない奴らが集まってます。君も私も死にたくなーい」ケラケラ
第一弟「そんな言い方、」
第三5「まぁ、みんなが同じ考えだったら、とっくに滅んでるよな、この国」
第一弟「…………」
第三5「犠牲に出来ない奴と、犠牲に出来るやつがいて」
第三5「犠牲に出来る奴を恨む俺は、甘えてるんだろうな」
第一弟「5さん…………ガラじゃないですよ」
第三5「やだー、真面目な話してるのにー、弟ひーどーいー」
第三5「ま、いいけど。ガラじゃないのはあってるし!」
第三5「弟、今までお前は弟で後輩だから完全に生かされる側だった。--これからは違うぞ」
第三5「植物ちゃんがいるからな。きっとお前は、植物ちゃんを優先するようになる。だから、第一の覚悟を見習ってほしくないなーってさ」
第三5「一緒にいて楽しい誰かが出来たなら、ちゃんと最後まで一緒にいるべきなんだよ。……以上、重い話でなんとか誤魔化し騙してうちの部隊に引き抜き出来ないかなと考えた話でした!」
第一弟「最後はいらないです。けど……ありがとうございます。……そうですね、俺も違う覚悟を決めないといけません」
第一弟「同じ第一部隊所属として、いざとなったら、先輩を殴り落として連れ帰る覚悟を」
第一弟「回廊の件で思ったんですけど、うちの先輩ってちょっと勝手なんですよ。なに格好良く死のうとして、」
第一弟「AさんとCさんなら近接で勝てますし、次、何かあったら……考えてみます」グッ
第三5「もー、弟ー、かぁっこいいー!やっぱ欲しい、第三に欲ーしーいー」
第一弟「いや、そもそもそう簡単に異動とか出来ませんし」
第三隊長「それが簡単に出来るもんなんだよな」ノシノシ
第一弟「!お疲れ様です」
第三5「隊長、お疲れ様でーっす。今戻ったんですか?」
第三隊長「おう、今戻った。よう植物!大変だったらしいな、元気か?」
植物「ぐおお~!」コクコク
第三隊長「相変わらず弟好きだなお前」ケラケラ
第三隊長「--で弟、どうする?言ってくれたらすぐ異動するが」
第一弟「……すみません、俺はまだ第一部隊所属でいたいです」
第三隊長「わかった。--5に絡まれたみたいだが、あまり悪く思わんでくれよな」
第三隊長「コイツは性癖に問題はあるが、それ以外は優秀だ。お前がうちに向いてるのは間違ってない」
第三5「きゃー、褒められちゃったー」クネクネ
第三隊長「ははは、くねくねすんなよ気色悪いっての」ケラケラ
第三5「我ながら見境ない!」ゾクゾク
第一弟(……5さんはやっぱり変態だ……)
第三5「実際俺も、第一から第三に異動して今に至る。気が変わったら何時でも言ってくれ」
第一弟「はい、わかりました。……あの……それで、隊長。隣の方は?」
老人「…………」
第一弟(変な感じだ、民間人に見えるのに、俺では勝てないような)
第三隊長「おお、悪い悪い。忘れてた。コイツは」
老人「--少年、君はもしやあの美女の弟か?ならば、将来君の義兄になもしれない、よろしく頼む!」キリッ
第一弟「!!?まさか……あの時の勇者の男……!?」
第三5「……何連れ込んでるんですか隊長。こいつ変人ですよ」
老人「やめろ。貴様に変人と言われると何故か物凄く腹がたつ」ザワザワ
第三5「なんなのこのヒト凄く失礼」
第一弟「何であの勇者がここに……!?」
第三隊長「へぇ、侵入してきた勇者ってコイツか。まぁ、今は操作の類で中身だけみたいだし、ご本人の面は映像記録で確認するか」
老人「いいだろう。貴様は俺のライバルだ。発売開始3秒で売り切れた5時間に渡る俺のPV集を特別にくれてやる」
老人「記録媒体はただの本……に見せかけた高性能の魔法具だ。限定物だからな、凄いぞ」
老人「日替わりで変わる俺の一枚画……ふっ、恥ずかしいが、もちろん俺の裸体も収録されている」
第三隊長「そうか、じゃあ参考がてら貰うわ」
老人「いいか、美女達には見せるんじゃないぞ!?恥ずかしいからな!……だがな、いや、どうしたものか……」ワクワク
第三隊長「わかってるって。見せりゃいいんだろ」
老人「ほう!見せるか!良いだろう!!待っていろ、すぐにそちらに届ける算段をつける!」キラキラ
第一弟(……俺、置いてけぼりな気がする)
第三5「隊長、変人の扱い馴れてますねー」
第三隊長「まぁ、どっかの隊長のせいだろうな」
老人「だから貴様に変人と言われたくはないと」ザワザワ
第三5「マジなんなのお前」ザワザワ
第一弟(…………なんなんだろう、この空間)
第三隊長「そういえば、あの勇者、さんよ。時間が無いんじゃなかったのか?」
老人「そうだな。時間はない、要件を済まそうか」
老人「本当はこの国の兵に託して終わりだったんだがな、事もあろうに出会ったのは美女を巡る闘いで最大のライバルになるだろう男」
老人「これは再度城まで連れて行ってもらうしかないと思い今に至る。下手に城に出向くと美女と羨ましい百合の彼女にど突かれるんでな」
第三隊長「俺から言わせてもらうと、発言は8割わからんが面白そうだったんで連れ来た」
第一弟「…………」
第三5「いや、流石の俺もコイツには引きますって。話聞くとコイツド変人ですよ」
老人「貴様も懲りん奴だな、美女がいる国の兵士じゃなかったら消しているぞ」
第一弟(……面倒なヒトだなー)
老人「まぁ良い。弟よ、手を出せ」
第一弟「…………」スッ
老人「婚約指輪だ……美女に渡してくれ」ソッ
第一弟「…………」ドシャア
第三5「あ、貰った指輪振りかぶって地面に叩きつけた」
老人「ふぅ、流石美女の弟。姉とよく似て苛烈な……妹でないことを悔やむよ」フゥ
第三隊長「……あー、コレに皆引くのか」ナットク
第一弟「ああ、すみません、つい。庭師なのに庭を汚しちゃいました。すぐ片付けます」
第一弟「ところで5さん、アレ質屋で換金出来ますかね」
第三5「金だけはかけてそうだし高く売れると思う」
第三隊長「似てほしくない所が似るよなー……」ハァ
老人「まぁそう言うな、お茶目な冗談だろう。これは売るより価値がある、」
老人「有効活用出来るのは魔王か、また人間領と面倒な事になったら使ってくれ。大概の相手は黙る」
老人「俺としても美女がいる国を相手にするのは本意で無かった。迷惑料だと思ってくれていい」
第一弟「……どうしましょう、婚約指輪って言えば側近様が塵にすると思います」
第三5「俺も塵にするに一票」
第三隊長「使えるんなら俺から適当に言っとくわ」
老人「さぁ、要件は果たした。名残惜しいが、俺は行く」
第三隊長「……待てって。うちの副隊長をつける。こちらとしても、お前の状態を視てもらいたいんでね」
老人「……気が進まんな」
第三隊長「うちの副隊長、美人だぞ」
老人「頼もう!」キリッ
第三隊長「決まりだな、すぐ呼ぶ」ケラケラ
フォン
第三隊長「--ああ、副隊長?俺俺。……そう、その件。じゃあ後は頼むな」
第一弟(隊長は何を……?)
第三隊長「通信終わり。よし、弟。その指輪、俺が預かっとく」
第一弟「あ、はい!」
第三隊長「確かに預かった、って事で。これから俺は、副隊長にコイツ引き渡してくるな」
第三5「任せまーすお願いしまーす」
老人「まだ見ぬ美女か……ふふっ、楽しみだ」ワクワクドキドキ
老人「--!!」ハッ
老人「挨拶を忘れていた、さらばだ義弟君!お姉さんによろしく!」
第一弟「気安く呼ぶな死んで下さい」
第三隊長「…………似てほしくないんだけどな、特に暴言は……」
第三5「えー、弟の口から出るから良いんですよ」ドキドキ
第三隊長「……………」ハァ
とある村。
丘。
老人「--そうか、ここか。お前の故郷は」
第三副隊長(通常の視界では老人の背中が見え、)キュイン
第三副隊長(魔法を使うと……薄すぎて、捕捉も難しい)
第三副隊長(これはおそらく、報告にあった生体操作の魔法。術者は勇者の男、あの老人は……魔族)
第三副隊長(隊長に頼まれた通り、老人に成り代わった勇者の男をこの村へ連れて来た。けれど、)
第三副隊長(……確かに、私が視ておくべき対象。初めて見る、死んでいるのに、意志は生きている。なんて……危険な、魔法)
老人「……ふむ、驚く程のど田舎だな。……だが、良い場所だ。この村にもきっと、まだ見ぬ美女が……っ、ごほっ、げほっ」ポタポタ
第三者副隊長「!」
老人「……ああ、気にするな。好きでやっている。……うるさいな、奴隷が口出しするな」グイッ
老人「…………う……余計なお世話だ、昔からお前は、口うるさい」
キュイン
第三副隊長(……老人から繋がる、か細い糸……死が繋がり伸びていくのが見える。限界が近いせい、と見ていいか)
第三副隊長「!!」ハッ
第三副隊長(……!…………、わかりました)
老人「--わかった、……わかったと言っている、………………、いつまでも子供扱いするな、奴隷が」
老人「……………………、そうだ、お前が知る領主の息子が嫁を貰い、娘をもうけた。その娘があの城で、魔王となった」
老人「ああ、美女だ。もう少し年齢を重ねた頃に、求婚しようと思う。……ちょっとお人好しにも思えるが、良い国だ」
老人「…………そうだな、わかっている」
老人「…………世話になった。お前が望んだ故郷で……安らかに眠れ」ポタポタ
老人「…………美女よ、」
第三副隊長「……………」
老人「見苦しい所を見せたな。悪かった。そして、ありがとう。この村までの転移は助かった」
老人「重ね重ね申し訳ないが、頼みがある」
老人「この身体の主は、俺の魔法で生き長らえている。展開し続ける魔法を閉じれば、この身体はすぐに朽ちるだろう」
老人「恥ずかしながら、限界でな。もう、魔法の一つ、使えやしない」
老人「…………この身体を、燃やしてやってくれないか」クルリ
第一副隊長「いいわよ」
老人「--!!」
第一副隊長「ちょうど、火の扱いには自信があるわ」
第三副隊長「……そうですね。私より彼女が適任かと」
老人「………………、ふっ、」
老人「良かったな奴隷よ。美女が見送ってくれる。二人の美女がだぞ。お前は幸せ者だ」
老人「--そうか、幸せだったか。…………、良かった」
老人「……ああ。……ありがとう、さようなら」
老人「--彼を、頼む」
第三副隊長(……糸が、途切れた。術者の反応は……無い)
第一副隊長「…………」フォン
老人「」 ポツリ
第三副隊長(老人の足元、灯った炎……身体を包んでいく)
老人「--坊ちゃんは、」
第一副隊長「…………」
第三副隊長「…………?」
老人「--坊ちゃんは……一人一人の奴隷を、自分の所有物として大切になさいました」
老人「醜いこの私でさえも……命を削ってまで生き長らえさせ、……せめて故郷で、と」
老人「気の乗らない、嫌な仕事だったでしょうに、引き受け、この魔族領で私の故郷を探し……ついには、死人である私をこの場所へ」
老人「坊ちゃんは、あなた方に、沢山のご迷惑をかけたことでしょう。申し訳ございません」
老人「ですが……、ははは、」
老人「特殊な人間です、面倒な人間です、おまけに、少々うざったい。……ですが、根は悪くない」
老人「友人とは言いません。うざったいですから。それでも、知り合い程度の関係でも、続けて下さると、嬉しい」
老人「……爺の、最期の戯言です。…………ご静聴、ありがとう、ございました」
老人「…………」
老人「--」
老人「」
第三副隊長「……灰は、風に乗って」
第一副隊長「そうね、この小さな村に溶けて、消える」
第三副隊長「…………、突然いらっしゃったので、驚きました」
第一副隊長「……性懲りもなく戻って来たって聞いたから、燃やしてやろうと思って、ね」
第三副隊長「……変なヒトだったみたいで……いえ、変なヒト、でした」クスクス
第一副隊長「……ふふっ、死んでほしい相手よ。心から、そう思ってる」
第一副隊長「……もう、会いたくはない。けれど、」
第一副隊長「一万歩譲って、知り合いぐらいなら、許してやってもいいかも」クスッ
--数日前。
--魔王城。
--霊園。
勇者「俺達、この国を出るよ。人間領に戻る」
魔王側近「!!」
勇者「……今回の事は協会が絡んでた。俺達がこの国にいるって情報も、すでに知られていると思う」
勇者「だから、戻る。協会に行って……調べてみようと思うんだ。また何か企んでたら困るし、何か知っておくべき情報があるかもしれない」
勇者「これは、俺達にしか出来ない。だから、戻る」
魔王「……わかったわ」
魔王「で、何時帰って来るの?長くはないでしょうね?さくっと行ってさくっと帰って来なさい」
魔王「あなた達がいないと、私と側近は寂しいわよ!!」
魔王「もちろんみんなもね!」
勇者「!!!」
側近「!!?」
相棒「」プッ クスクス
相棒「--凄いなぁ、魔王様。切り返しが早くて、それだけで凄く嬉しいのに」
相棒「続けて勇者と側近さんを撃沈させて、あははっ」
魔王「!!?わ、私間違った事なんて言ってないわよ……?だって、側近……あなたも寂しいでしょ?寂しいって素直に言いなさいよ」
側近「…………お前は、何故こうも………いや…その……俺も……しい、と、おもう」ボソボソ
相棒「ふへへ、私も。寂しいよ。だから、早くも用事済ませて帰ろう、勇者」
相棒「あと、多分ね。戻るのもここでいいんだと思う。私達、ここに帰って来ていいんだから」ヘラリ
勇者「……………だな、」ヘラリ
側近「--話を、戻すぞ。人間領にいる期間の予定はどうなっている?」
勇者「長くはならないようにする」
勇者「……勇者の名も、捨てられるなら捨てて、ただの人間になって、帰りたいとも、思ってる」
魔王「私達、あなたが何であっても気にしないけど」
勇者「勇者を怖がるヒトがいるのは事実だ。俺は……もう、この国のヒトに出来るだけ恐怖の感情を与えたくない」
魔王「そう……でも、その事で気に病む事は絶対にやめて。みんな、あなたが思っている以上に順応早いわよ」
勇者「うん、わかった。ありがとう」
側近(…………言うべきか、あの事を)
相棒(あ、眉間に皺。側近さん何か悩んでるのかな)
側近(剣士に人質に取られていた少年の一件……あの時の光景は、Aを通じて常駐兵や町の住人に見られていた)
側近(…………俺は話しか聞いていない、が……相棒による、暴露大会があったそうじゃないか……!!)
側近(完全生中継……公衆の面前に晒された内容が内容だ)
側近(止める間も無く、話は広がった)
側近(勇者……お前はこれから、あの町の常駐兵や住人に生暖かい目で見られることになる。あの町だけじゃない、暴露話は国中に広がる。いずれは国中の……)
側近(すまん勇者……今のお前は、おそらく恐怖心など一切与える事はない……寧ろ同情か励ましの目で……)ホロリ
相棒「側近さん、何か考えてる?」
側近「相棒……」
相棒「勇者のこと?」
側近「…………くっ、俺の力が足りなかった。許せ、勇者」
勇者「え、な、何が?」
側近「実はあの時--」
現在。
魔王城。
城門前。
勇者「…………」ズーン
相棒(あわわわわ!勇者が地面に手と膝をつけたまま動かなくなった!)
相棒(思い出したんだ!側近さんが言ったこと!勇者がこうなった、その原因、犯人は……)
相棒「私のせいだ……!ごめん勇者!ごめん……!!」
勇者「…………いいんだ、相棒。お前は悪くない。生中継実行中だったAさんも、悪くない……だって……全部……事実だもの」グスッ
勇者「気にしないでくれ……もう少しだけ、こうやって精神を落ち着けたいんだ…………」
相棒「そんな……ほとんど土下座みたいな格好なのに……!!」
魔王「勇者、いったいどうしたのかしら」
側近「触れないでやってくれ。頼むから、頼むから……!!」
魔王「そ、そう。わかったわ」
勇者「……ふぅ、落ち着いた」フラリ
相棒「だ、大丈夫?いける?」
勇者「……いける」
相棒「その……羞恥に耐えられなくなったら言ってね。勇者は目を閉じて耳を塞いで、私竜化して、勇者乗せて飛ぶよ!」
勇者「ありがとう、正直そこまでの羞恥味わいたくないよ……」
魔王(何の話かしら?)キョトン
側近(話を変えねば、魔王が興味を持つ前に、話を!)アワワワワ
側近「あー、あー、その……忘れ物は無いか?旅に必要な物は揃ってるか?」
勇者「大丈夫。旅は慣れてるからさ、結構なんとかなっちゃんだ。一番大事な物さえちゃんと持ってれば」
相棒「うん、大事な物、お土産リストと定期通信用の魔法石は確認済み。面白い物があったら必ず通信するよ」
勇者「お土産、楽しみにしてて。生物は無理だけど、美味しい食べ物は人間領にもあるんだー」
魔王「ええ。楽しみにしてる!」グッ
相棒「問題は第二のみんなのリクエストだよね。正式名称が不明。魔族領には存在しないみたいで、誰も知らない」
側近「?何だ、それは……」
相棒「ぴゅーって吹いてクルクル戻る、ぴゅーが一つだったり三つだったりな、人間領の祭などで手に入る玩具」
魔王「?」
側近「?」
勇者「あれ、人間領にしか無かったんだなぁ……そう思いました」
相棒「私達は知ってるから探せるんだけど……第二のみんなはどこで知ったんだろう」
勇者「沢山模擬戦付き合ってもらったしな、ぴゅー、くるくるが夢らしいし頑張って探そう」
相棒「うん。他のみんなのリクエストはどれも無難だもんね、第三の某お兄さんを除く」
側近「よしわかったシメておこう」ザワザワ
相棒(ごめん5さんでも名前は言ってないんだ許して……なむなむ)
勇者(三角木馬って言ったのバレて結構な人数にシメられてたのに……なむなむ)
魔王「……なんかごめんね、お土産お願いしてるのに、見送りが私達だけで」
勇者「いや、嬉しいよ。みんなから見送り行けなくてごめんって謝られたし」
相棒「そうそう。魔王様や側近さんも、忙しいのに、ごめんね」
側近「いや、こちらがやりたいからやっているだけだ。気にするな」
魔王「そうよ、気にしないで」
勇者「ふへへ、ありがとう」ヘラリ
相棒「うん、本当に、ありがとう」ヘラリ
勇者「…………」
勇者(……実は、見送り……『四人だけにしてやるよ!』とキラキラした笑顔で言われたり、)
勇者(『いってきますのちゅーぐらいしてやれよ!』とニヤニヤした顔で言われたり、した)
勇者「無理。うん、出来ない」ボソッ
魔王「何か言った?」
勇者「!?な、なんでもないです!」
魔王「……んー、そうよね。長く引き留めても帰りが遅くなるだけか」
魔王「勇者、相棒。道中、気を付けて」
側近「必ず無事で、帰って来るんだぞ」
勇者「うん、」
相棒「わかった」
魔王「あと……今度は私達が言う方ね」
側近「そうだな」
勇者「?」
相棒「?」
魔王「勇者」
側近「相棒」
魔王側近「いってらっしゃい」
勇者相棒「!!」
勇者相棒「~~~!!」
勇者相棒「いってきます!!!」
おわり。
694 : 以下、名... - 2014/05/23 01:12:23 Hgh5NZq2 448/448
復活詐欺した。何も言わず長期離脱した。
おかげで終わらせるの遅れた、そもそも話長い。
その長さすら正確に把握出来てなかった、ごめん。勇者なんだろうと同じぐらいかなーとかのんびり考えてた。
原因は何十レスある場面を一行で終わらせてる箇所が多々あったこと。シスコンがピンチでヤバい。とか。
気を付ける散々言ったのに誤字含めたミスも多い。すまん。恥ずかしい。
やりたい物を自分の好みのままに作った話。これが暇潰しになってついでに少しでも楽しんでくれたなら嬉しい。
ここまで付き合ってくれてありがとう。