悪魔「天使さんと俺」 勇者「なんだろう、この胸の高鳴り」
側近「好きなどと、突然言われても困る」
勇者「なんだろう、この胸の高鳴り」の続編。
元スレ
魔王「ど、どうやら勇者は私のことが好きらしい」
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1376994280/
魔族領。某国。
とある町。中央広場。
ワーワーキャーキャー
第一部隊所属兵士「おー、ちびっ子沢山、楽しそうだなー」
第一部隊略「にしても……群がられてるなぁ、……」ファァ
第一略(やべ、眠い。とりあえずセルフビンタで起きよう)バチン
第一「……いたい」ヒリヒリ
第一A「ちょ、何やってるのお前」プッ
第一B「自分にビンタとかおま、第三の変態じゃあるまいし」ケラケラ
第一「眠気覚ましにやってみたら加減ミスって痛いマジ後悔」ヒリヒリ
第一「でもこれで痛いのが嫌いな俺は第三の変態と同じ土俵にはいないと証明されたのです」ヒリヒリ キリッ
第一C「頬押さえてキメ顔すんじゃねぇよ」ハァ フォン
第一「お、治癒魔法?あんがと」フワッ
第一B「戻ったか、C」
第一A「町の資料室行ってたんだろ?収穫は?」
第一C「そこそこ。それより不味いのは魔物の侵入が増えてる事だな。ここ一年で右肩上がり」
第一「角度にすると?」
第一C「六十度ぐらい」
第一「なにそれまずい」
第一B「小物合わせてって言っても多すぎ」
第一A「防壁の劣化が原因じゃないか?小型なら空いた穴から入り込めるだろうし」
第一C「当たり。特に魔物が多い山側の壁と柵はもうボロボロ。原因ははっきりしてるんだがいかんせん人手がな、」
第一B「この町だけじゃないからな、こうなのは。兵の派遣は修復より討伐優先だし」
第一「壁かぁ……障壁で代用出来れば手っ取り早くすむけど、維持が大変だし魔力は大型の魔物引き寄せちゃうからなー」
第一A「壁の修復はほとんど人力になるだろし、時間がかかりそうだな」
第一B「一応魔王様にも伝えておくか」
第一C「ああ。常駐兵の奴らや町の役人は『魔王様の耳に入れるような状態じゃないから』って言ってたけど」
第一B「……この国、自分の町ぐらい自分達でなんとかしてやるよ精神強い奴多いよな。--ま、旧政権であんだけヒトが死んだらそうなるか」
第一「魔王様達ってやっぱ国の最高戦力だし、もしもの事態に備えて出来るだけ頼らないようにしてるだろなー」
第一A「あの魔王が死んで二年しか経ってない今、平和ボケするには早すぎるか」
第一「つい最近もちょっとした修羅場だったわけだし」ケラケラ
第一B「--で?その魔王をぶっ殺した英雄コンビは、」
第一A「この国最高戦力に惚れたコンビは、」
第一C「寧ろこの国の最高戦力に数えられそうなコンビは、」
第一「見ての通り、広場のど真ん中で町のちびっ子達に群がられてますが」ケラケラ
ワーワーキャーキャー キャッキャ キャッキャ
相棒(半竜化)「がおお!たべちゃうぞお!」
ちびっ子達「怪獣だあ!」「怪獣がきたぞ!」「倒せー!」ピョイピョイピョイ
相棒「うひゃあ!飛びついてきた!いくらちびっ子でも複数は卑怯だぞー」ケラケラ フリフリ
ちびっ子達「みんなー!振り落とされるなよー!」「しがみつけー!」「わぁ、竜族さん力持ち!」
ちびっ子達「援護だ援護!」「いくよー!」「僕達もいこう!旅人さん!」ピョイピョイピョイ
勇者「よしきた!」ピョイ
相棒「ちょ、何で来ちゃうの!」グラッ ドサッ
ちびっ子達「怪獣を倒したぞ!」「俺達でやってみせた!」「わたし達は強い!」「やったあ!」「怪獣撃破っ!」「がおお!」ワーワーキャーキャー
相棒「むぅぅ、動けないー」バタバタ
相棒「負けたー、命だけは助けてくれー」ケラケラ
ちびっ子達「いいぞ!」「いいよっ!」「もう悪さするんじゃないぞ!」「じゃあこれから怪獣は俺らのともだちな!」「ともだちともだち!」「竜族さんとともだちかぁ、えへへ!」ワーワーキャーキャー
相棒「わかったー、ともだちになるー」ニコニコ
勇者「相棒にちっちゃなお友達が一気に出来た。羨ましい」ニコニコ
ちびっ子「ちっちっち!間違いだ!」
ちびっ子達「旅人さんはもうともだちだ!」「なんせ一緒にたたかった仲!」「戦友と書いて」「ともと呼ぶ!」「よって旅人もともだち!」「ともだち!」ワーワーキャーキャー
勇者「わー、俺にも一気に出来たー」ヘラリ
ちびっ子達「ねーねー、旅人さんは怪獣にならないの?」「白いお姉ちゃんは怪獣だろ!ってことは兄ちゃんも怪獣なんだろ?」「怪獣なんだろ!?」「変身して変身!」「フードかぶってないでさ!」「へーんしん!へーんしん!」
勇者「うーん、俺も怪獣に変身するのは憧れるけど、竜族じゃないんだ。ごめんね」
相棒「ポロッとバラしちゃ駄目だよ」コソッ
勇者「わかってる」コソッ
勇者(村人さん達……本当は第一部隊ってとこに所属してたお兄さん達に言われてるもんなぁ)
勇者(極力人間だってバレない方が良いって。魔族領では、人間は怖い存在って認識だから)
勇者「本当に、変身出来たら一番良いんだけどなぁ」シュン
ちびっ子達「そっか、怪獣にはなれないのか」「気にするなよ、俺達だって怪獣になれないんだから」「変身は誰だって憧れるものだよ」「だいじょうぶ!旅人さんだって変身できるよ!」「?」「どうやって?」
ちびっ子「へんっしんっ!」ピョイ
勇者「」バサッ
ちびっ子「ほら!旅人さんの髪きれいな金色でしょ!一度ちゃんと見てみたかったんだっ!」ニコニコ
ちびっ子「--あれ?、でも……耳が、」
勇者「」
相棒「」
勇者「あ、あ、っと……これは、その、」
相棒「えっとこれは……」
ちびっ子達「耳が、尖ってない」「まさか、」「うそ、」「そんな、」「こんなことって、」「旅人さん……!」
勇者「…………」シュン
第一「あ、バレた」
第一A「バレたな」
第一B「まぁバレないとは思ってなかった」
第一C「一応ここの兵や町の役人には魔王様の客だって伝えてるし」
第一C「--でも、ちょっとした騒ぎにはなるだろうし助けにいくかな」
ちびっ子「っ!」
ちびっ子「待て!これはパターンDだ!」
ちびっ子達「!!!」ハッ
ちびっ子「まさか人間?」
ちびっ子「え、でも人間がこんな所にいる?」
ちびっ子「じゃあアレだよ!気のせい!」
ちびっ子「耳の尖り成分が少ない家系かもしれないよ?」
ちびっ子「確かにそうかも」
ちびっ子「沢山間違われて大変だったろうなぁー」
ちびっ子「僕達だけでもふれないでいてあげようよ」
第一「」ジー
第一A「」ジー
第一B「」ジー
第一C「そ、そんな目で見るな!村での会話がこんなところで再現されるとか思うか!!つかパターンDって、え?これ有名なの!?この流れ有名なの!?」
勇者「…………」
勇者「ありがとうみんな」
勇者「でも俺魔族でもないよ」ポロッ
ちびっ子達「え?」
勇者「」
相棒「ポロッとバラしちゃ駄目だよって言ったのに」
勇者「」シュン
ちびっ子「え、魔族じゃない、って、ことは……」
ちびっ子達「うおお!すげぇ!」「魔族じゃない!」「ってことは!」「人間!」「種族人間!」「初めて見た!」ワーワーキャーキャー
勇者「………がおお、たべちゃうぞー」
ちびっ子達「ふおお人間ヤバい!」「ヤバいぞ!」「デストロイだ!」「どうしようどうしよう!」「私達おかされちゃうんだ!」「えろどうじんみたいに!」ワーワーキャーキャー
勇者「……ちょっと今」
相棒「聞き捨てならない言葉が」
ちびっ子達「えろど?」「おかされるって何?」「餌炉導陣?」「必殺技名?」「わかんない」「知らないおじちゃんが言ってたの」
勇者「……詳しく」
相棒「……詳しく」
ちびっ子(ロリ)「えっと、さっきね、こっちに来る途中」「知らない変なおじちゃんが話しかけてきたの」「よくわからないことばっか言ってたの」「健康診断だって体さわられたね」「うん。それで、ちょっと怖くなったから」「走って逃げたの」
勇者「」グルリ
相棒「」グルリ
第一「あ、瞳孔ガン開き顔でこっち見た」
第一「言いたいことはわかるめっちゃわかる」ウンウン
第一C「ちょっと俺常駐兵に通信いれるわ」フォン
第一B「まだ近くにいるかもな。探せるか?」
第一A「探したるわ」キュイン
第一「頑張れAー」
第一「即滅してやるからー」カッ
第一C「気持ちはわかるがあの二人みたいに狂気系の目つきするのはやめろ」
ちびっ子達「あれ?あのお兄さん達、お城の兵士さん達だよな」「何してるのかな?」「なんか怖いね」「……なぁ、さっきの話って」「不審者、ってやつでは」「お母さんや先生に言わなきゃいけないタイプの」
勇者「怖くないよ、あのお兄さん達は悪いヒトを捕まえようとしてるんだ」
相棒「あのね、そのおじちゃんは変態っていう種族でね、魔族や竜族、人間なんか比べものにならない程危険なんだよ」
勇者「だから近付いちゃ駄目だよ。もし近付いてきたら、すぐに逃げなきゃ駄目なんだ」
ちびっ子達「やっぱりそうだ、不審者だ!変態なんだ!」「お前ら他に何かされなかったか?」
ちびっ子達(ロリ)「えーっと、……思い出した!パンツぬぎぬぎしてたね!」「あ、そうだね!お風呂じゃないのにね!」
勇者「」
相棒「」
第一「」
第一C「よし、絶対捕縛する」
第一B「こりゃ捕まえるまで町から出れないな」
第一A「将来その胸いっぱいに夢を持つ可能性のある少女達に手ぇ出すクソは絶対許さん」
第一C「……意味に気付いて殴りそうになったが我慢する」
第一B「そうしろ」
第一A「--あ、」キュイン
第一A「いたかも。……わー、マジか下半身丸出しのままだわ」
第一B「露出狂とかないわー」
第一C「アウトー」
第一A「この時点で即捕縛ものだけど、こともあろうにコイツ民家の窓に張り付いてる」
第一B「……視線感じて窓見たらおっさんと目があった。しかも下半身丸出し」
第一C「トラウマになるわ」
第一A「転移の座標は、」
第一「俺に。行ってくる」フォン
第一A「はいよ」フォン
第一「悪い変態は滅すべし」ヒュン
勇者「」ザワッ
相棒「」ザワッ
第一B「ちびっ子達がビビるぞ魔力出すな。こっちの声拾ってるのお前らだけなんだから」
第一C「お前らまで行ったらあの変態冗談抜きに消し飛ぶじゃねぇか。変態は俺達に任せてちびっ子達と戯れときなさい」
勇者「はーい」ポソッ
相棒「はーい」ポソッ
ちびっ子達「見たか今!あの兄ちゃん転移したぞ!どこ行ったんだろう!」「早かったな魔法陣の展開!すげぇ!」「いいなぁ、私も魔法上手くなりたい」「練習あるのみだって町の兵士さん達が言ってたよ」「僕、精一杯練習して魔法使うの上手くなって!いつかはお城の兵士になるんだ」「俺も俺も!」ワーワーキャーキャー
勇者「あのお兄さんは変態を倒しに行ったんだよー」
相棒「また一人変態が消え、町は平和になるのであったー」
ちびっ子達「マジか!」「やるなあの兄ちゃん達!」「頑張れ転移した兄ちゃん!」「どうか変態を倒して下さいっ」「怖いね、私達変態さんに会っちゃったんだね」「ねー」ワーワーキャーキャー
ちびっ子「あ!」
ちびっ子「コイツ等が変態に遭遇してたってことでうっかり忘れてたんだけど!」
ちびっ子「人間!旅人さん人間なんだぞ!」
勇者「耳の尖り成分が欲しい」シュン
相棒「分けられるなら分けてあげるんだけどね」
ちびっ子達「そ、そうだ!」「そうだった!」「にんげん!」「人間は怖い!」「怖いっていうあの人間だ!!」ワーワー
ちびっ子「そうだぞ!俺達はあの人間のともが出来たんだ!いろんな奴に自慢出来るぞ!」
勇者「!」
ちびっ子達「一日で怪獣と人間を友達にするなんて!」「なんて日だ!」「今日は良い日だ!」「お兄ちゃんホントに人間なの?」「全然怖くないよ?」「尖り成分が少ない家系じゃなくて?」ワーワーキャーキャー
勇者「人間だよー。ともだちには怖いことしないよー」ニコニコ
ちびっ子達「ともは良い人間だ!人間だけど怖くない!」「人間かぁ、ねーねー、この町には何しに来たのー?」「竜族さんと一緒に観光?」「探検?」「あ、そうだ!お城には行った?」「魔王様や側近様には会った?側近様も竜族なんだよ!」
勇者「この町にはね、あっちにいるお兄さん達のお供で来たんだ。あと、観光で合ってる」
相棒「せっかくこの国に来たんだから色々見て回れって、魔王様と側近さんに言われたんだ、私達」
ちびっ子達「あっちにいるお兄さん達は、お城の兵士さんで」「そのお供で」「魔王様達に言われたってことは」「知り合い!?」「もしかして魔王様達とお友達!?」「すごいよすごい!」ワーワーキャーキャー
勇者「うん、お友達になったよ」ニコニコ
相棒「今はお友達やらせてもらってるねー」ニコニコ
ちびっ子達「うおおマジか!」「すげぇ!魔王様達と友達すげぇ!」「お城のヒトなんだ、お姉さん達はお城から来たんだ!」「お兄ちゃんとお姉ちゃんは魔王様と側近様好き?私は大好きだよ!」「私だって好き!」「僕だって!大好きだよ!」「魔王様格好良くて強いもんな!」「側近様も格好良くて強くて変身できるもんな!」「憧れるよな!」「な!」ワーワーキャーキャー
勇者「俺も好きだよ。魔王様のこと」
相棒「私も好きだよ。側近様のこと」
勇者「しかもこれからもっと好きになると思う」
相棒「おまけに上限が見えないよね」
ちびっ子達「おお!とも達とは良いさけが飲めそうだ!」「酒って、僕らはまだ飲んじゃ駄目だよ」「ジュースと書いてさけと読むんだ!」「……あ、そう」「好きなんだってー!」「私達と同じだねー!」「魔王様達ってお城ではどんな感じ?」「ききたい!」「ききたいききたい!」「格好良いだろやっぱ!」ワクワク ワーワー
勇者「何から話そうかな、」ニコニコ
相棒「といっても、私達も出会って間もないから語れることは少ないけどね」ニコニコ
第一B「堂々と好きって言えるようになったんだな」
第一C「感慨深いものがあるな……」シミジミ
第一B「保護者の顔になってっぞお前」
第一A「うええ……誰かアイツ止めて」
第一A「変態縛って吊しあげてなんかもう視覚的にえぐいアブノーマル的な意味でキツいんだけどおお」
魔王城。
第三所属兵士5「」ニヤニヤニヤニヤ
魔王『--で、あるからして。い、いくら好きだと言われても、出会ったばかりの相手と……その、こここ交際する、というのは』
勇者『……………』
相棒『……………』
魔王『もう何言えば良いかわかんないよ、あなたからも何か言ってよ……』コソコソ
側近『う……』
側近『…………、突然言われても、交際は、出来ない。が、こういうことは、その、』
側近『お友達から始めるのが、筋では、ないのだろうか』
勇者『…………』コクン
相棒『…………』コクン
魔王『……あなた達には恩があるわ。今回のことも、あの魔王を倒してくれたことも』
勇者『……恩だと、思わなくて良い、です』
相棒『……今回のことも、やりたくて、やったわけだし』
魔王『……お父様が言っていた通りの事を言うのね』
魔王『じゃあ私達もやりたいようにさせてもらうわ』
魔王『あなた達二人を正式にこの国の客として迎えます』
魔王『あなた達には、お父様や皆で作ったこの国を見てほしいの』
側近『先代様も、そう望んでいた』
魔王『だから……その……好きなだけこの城にいてもいいわ』
勇者『…………』
相棒『…………』
魔王『……お嫌かしら』
勇者『……嫌じゃないです!寧ろ、』
相棒『……散々迷惑かけたのにこんな好待遇で良いのかな、って』
側近『国のトップが良いと言っているんだから、良いに決まっている』
勇者『………うん、』
相棒『………それじゃあ、』
勇者『よろしくお願いします!』ペコッ
相棒『よろしくお願いします!』ペコッ
第三略5「」ニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤ
第三6「お前凄まじくニヤニヤしてるな気色悪いぞ」
第三3「でも5くんが気色悪いのはデフォだもんねぇ」
第三2「な」
第三4「何の記録映像見てたんだ?」
第三5「びしょ濡れ魔王様達と勇者さん達、正座での座談会in庭園」
第三4「あー」
第三6「それはニヤニヤ許すわ」
第三5「だろだろ?」
第三3「でも気色悪いよねぇ」
第三2「な」
第三5「このコンビ俺の扱い酷すぎだと思うの」
第三6「理由は自分の胸にお訊き」
第三4「同感」
第三2「そういやぁ1どこ行った?」
第三3「近くにいるんじゃないかなぁ」
第三3「僕らもお喋りはほどほどにして、真面目にお掃除頑張らなきゃね~」
第三4「あの一件で城内は滅茶苦茶だもんな。血痕は残ってるしあの魔王関連の事だから民間の業者呼ぶわけにもいかないし」
第三6「無いとは思うけど何か残ってたらそれこそ厄介だからな。結局、魔法でのチェックより俺達みたいのがやる視認での確認が一番確実か」
第三1「うひゃああああああああ!!助けて、助けてぇえええへぇぇえるぷ!へるぷぅうううう!!ああああああああ!!!」
第三ズ「」ビクッ
第三6「……おー、1がパニクってる。さては蜘蛛が出たな」
第三4「え、マジでああなるの?」
第三2「虫怖いって冗談だと思ってた。俺達が一緒の時は顔がひきつるぐらいだったし」
第三3「おまけに涙目だったね。悲鳴まではあげてなかったはずなのに」
第三5「一対一での遭遇だとああなるんだよ、どんまい1」
カサカサカサ
第三1「無理無理無理デカいデカすぎやめて来ないでうわああ誰かぁあああああ!!いやぁあああああああああああ!!」
第三4「……助けに行ってやろうぜ」
第三ズ「おー」
魔王城。
執務室。
魔王「隣国の馬鹿王、逃げたそうね」
側近「ああ。……あの宰相が死んだからな。空いた王座を巡って争いが起こる所か、幹部はほとんど姿をくらましたらしい」
側近「……おそらく、次は自分だと思ったのだろう」
魔王「……確かに、……あの様子じゃ、次何かあれば勝手に行っちゃうわね」
側近「……そうだな」
魔王「………………」
側近「………………」
魔王「…………今、あの二人は?」
側近「第一の四人と共に町の視察だ」
魔王「そう……」
魔王「…………、ねぇ、」
側近「わからんぞ。わからんからな。俺に訊くなよ」
魔王「何よ私のお兄様ポジションのくせに!可愛い妹の相談ぐらい聞きなさいよ!!」
側近「そっちこそ可愛い妹ポジションなら兄のこの複雑な気持ちもわかれ!こっちが相談したいぐらいなのに!」
魔王「むううううう!!」プクッ
側近「いい年して膨れっ面するのは止めろ!」
コンコン
魔王「!!」
側近「!!」
部下「失礼します」
魔王「あら部下。何か報告でも?」キリッ
側近「…………」キリッ
部下「はい。密偵から通信が入りました」
部下(……会話が外に筒抜けだったってことは言わない方が良いんだろうな)
部下「勇者一行についてとなります」
魔王「」ビクッ
側近「」ビクッ
部下「…………、」
部下(あの日以来、魔王様と側近様、勇者さん達のことすごく意識してる)
部下(対して勇者さん達は、言いたいこと言ってすっきりしたのかけろっとしてたけど)
部下「確認のため一応言っておきますが、勇者さん達の方ではなく、先日人間領から魔族領へ入った勇者一行についてとなります」
魔王「え、ええ。そうよね。話してちょうだい」
部下「勇者一行は隣国へ入ったようです。進行方向から、向かう先は王都かと」
魔王「そこにはもう魔王なんていないのに。……人数の調べはついた?」
部下「はい。勇者の男、剣士の男、賢者の女と魔法使いの女、計四人です」
側近「強さは?」
部下「密偵の接近を許さない程には。--確定情報ではなく、あくまで個人的な意見との言い分でしたが、」
部下「魔法は第一、武術は第二のレベルを有している、と」
魔王「警戒すべき対象のようね、」
魔王「--思えば、あの二人、こちらに何の情報も与えず乗り込んできたってことね」
側近「第一が絡んでいたとしても、見かけぬ者がいたとあれば何かしら知らせがあるというのに」
部下「その点はついては激しく落ち込んでいました。気付いた時には城に侵入されていたと」
魔王「あの実力なら、うちの密偵にバレず城を目指すことは可能でしょうけど」
部下「『私の悪者センサーにかからないから、きっと悪いヒトではない』、と言っていましたが」
部下「本当に、その通りのようで。良かったですね」クスッ
魔王「……からかってるわね?部下のくせに生意気よ」
部下「いいえ。『ここ数日の魔王様達は見てるだけでニヤニヤ出来る』とか城の者に言われているお二方に、そんなたいそれた真似しませんよ」クスクスッ
側近「…………、」
側近「第二部隊がそろって城に戻るそうだが、」ボソッ
部下「!」ビクッ
魔王「……勝負パンツ」ボソッ
部下「~~~!!」カァァ
部下「ひ、卑怯ですよそのネタを出すのは!!」アセアセ
魔王「身近に良い相談相手がいたようで助かるわ」フォン
部下「……え?」
ガチャ
部下「なっ……扉に鍵を!?」
側近「…………」フォン
ピシピシッ
部下「転移魔法の妨害まで……!」
魔王「……ええ、そうよ。実はと言わなくてもわかる通り、私達、色恋沙汰に疎くて困ってるの」ニッコリ
魔王「まずは参考に、貴女の話、詳しく聞かせてくれないかしら」
部下「ひ卑怯です横暴です職権乱用です!」
側近「安心しろ」フォン パキン
側近「妨害は万全だ。声が外にもれることは無い。この部屋は完全に隔離されている」
側近「だから長居は進めないぞ。なんせ空気も遮断しているからな」
部下「通りで部屋の外から何も聞こえなくなったと思いました!何でそんな面倒で高度な魔法使っちゃうんですか!」
側近「…………、やるからには何事にも全力でを信条に生きて」
部下「嘘ですよねそれ!側近様基本は真面目ですけど手抜く時はこっちが心配するぐらい抜いてくるじゃないですか」
魔王「観念なさい。伊達に数年前まで戦闘馬鹿と言われてないし下手したら脳筋族の仲間入りを果たしていた私達よ」
魔王「……そうね、もし貴女が話してくれないのなら、『ムキッ☆何でもアリだよ!国の最強決めようぜ選手権』なんて頭の悪そうな大会主催するわよ」
側近「もちろん俺達も参加するからな。立場なんて考えないぞ。負けたら通信回線全開で恋愛遍歴語ってもらうからな」
部下「私が考えていた以上に動揺され尚且つ切羽詰まっていることに心底驚いています!」
魔王「自分で言いながらアレ?これ本当に面白そうだな、なんて思ってたりするからね」
側近「今まさにルールはどうしようかと考えていたりするぞ」
部下「わかりました!わかりましたから止めて下さい考え直して下さい!」
部下(ああもう!目が本気すぎて!!二人同時に変なこと言い出しておかしくなるのやめてほしい!)
魔王「……え……?部下が話してくれるなら恋愛遍歴語るのは無しでいいから、その……開催自体も考え直さないと駄目?」
側近「きっと楽しい」
部下「考え直して下さいね絶対!!!」
魔王「…………」シュン
側近「…………」シュン
部下「悲しげな顔をするのはやめて下さいっ!!」
数分後。
部下「--それで?私は何を話せばいいんですか?」
魔王「異性として好きな相手は第二の副隊長ということで間違いないな?」
部下「!!ど、ド直球にもほどがありますよ!!というか誰から聞いたんですか私まだ誰にも……!!」
側近「『だってバレバレなのよ?若いって良いわね』、と、にこやかに話してくれた者がいてな」
部下「庭師さぁぁああああん!!?」
魔王「有り難いことに庭師も兼任しつつ第一部隊の副隊長に復帰してくれるそうよ」
部下「それはそれは良かったですぅうう!!!」ヤケクソ
部下「ああもうっ!そうです!私第二部隊の副隊長さんのことが異性として好きです!大好きです!」
魔王「…………」チラッ
側近「…………」コクン
魔王(あの時彼女が話していたのは第二の副隊長のことだ)
側近(よくよく思い出してみれば、奴はよく部下の動向を訊いていた)
魔王(そういえば、部下の視線はよく第二のに向いていたっけ)
魔王(ふむ、そうか、)
側近(これが、巷でいう、)
魔王(両想い、というやつか)ウンウン
側近(両想い、というやつか)ウンウン
部下「なんですか、二人して視線合わせて頷いてぇ!」
魔王「気にしないで。……まずは、そうね、キッカケを教えて。何事にも始まりがあるでしょ?」
部下「……キッカケといっても……気付いたら好きになっていたとしか、」
側近「そうも簡単にヒトを好きになるはずがないだろう。必ず始まりがあるはずだ」
部下「……始まり、」
部下「……えっと、最初は好きとかじゃなく、ただ気になって見てただけなんです」
魔王「何が気になった?」
部下「…………、」
部下(何が気になった、って……)
部下(………………、確か、)
回想。
第二部隊所属兵士『ふくたいちょー!おーなーかーすーいーたー!』『何か食べないと死んじゃう』『発狂しちゃう』『むごごががが!』『あ、発狂した』チマチマワラワラ
第二部隊副隊長『はいはい、ご飯にしましょうね。あ、発狂した子には無しですからね』マッチョマッチョ
第二『むごっ!完治です僕は空腹ですご飯と少しの休息と副隊長との組み手を所望します』『俺も俺もー』『私も私もー』
第二副隊長『わかりました。明日は非番ですし、好きなだけ付き合ってあげますよ』ニコニコマッチョ
第二『わあい!』『わーい!』『やったー!』
テクテク
第二副隊長『--おや?』
第二副隊長『そっちの二人はどこへ?』
第二『……あ、副隊長……俺ですか……?むしゃくしゃしたので外走りにいこうかと』『俺はむしゃむしゃしたから走ってくる!食後の運動!』
第二副隊長『そうですか。外は雷雨です。くれぐれも、』
第二『……大丈夫です……、ちゃんと避けます』『心配しなくてももう自分から当たりにはいかねぇよ!』
第二副隊長『それなら安心ですね。では、風邪をひかないよう注意して下さい』
第二『了解……』『はいよー!』
部下『……驚きです。ここまで体格と性格が合わないなんて……』
現在。
部下「最初は、不思議なヒトだな、と思ったんです」
部下「それからは見かける度に視線で追っていて、」
部下「ある日、彼の笑顔につられて笑ってしまったことがありました。凄く楽しそうで、私まで楽しい気持ちになれました」
部下「多分……それが始まりです。私が彼を好きだと自覚し始めたのもその頃でしたから」
部下「誰かを好きになるって、案外簡単に起こり得ることなんだと思います」ヘラリ
魔王「興味深いな、」
魔王「第二のと二人っきりで話したことは?」
部下「無いです。大人数でも緊張しちゃうのに、二人っきりなんて……」
側近「…………、好きにも種類がある。俺にも笑えばつられて笑ってしまう相手はいるし、緊張して上手く話せない相手もいた」
側近「それをふまえると、ますますわからなくなるな。異性として好きっていったい何だ?」
部下「ううう、そう言われると、何と答えていいのやら……」
魔王「難しいわね、好きって」
魔王「鍛錬ばかりやってないで、少しはそちらの方面も経験しておけば良かったわ」
側近「それもそれで難しいな、」
魔王「何故?」
側近「………………」
部下「………………」
部下(あー……)
部下(先代様、子煩悩だったからなぁ……)
魔王「だから、何故ってば」
側近「………、何故かというと、」ピコーン
側近「経験しようにめ相手がいないだろう。なんせ身近にいた外見年齢が近い男は俺しかいなかった」
魔王「……確かにそうね」
魔王「でも悔いは残るわ。男友達というものを作っていればこうも悩まなかったはずなのに」
魔王「まぁ過去を嘆いても仕方ないわ」
魔王「部下、率直に訊くわよ?」
部下「は、はい。なんですか……?」
魔王「勇者達って私達のこと異性として好きってことで間違いはないのかしら」
部下「間違い所かベタ惚れじゃないですか」スパッ
部下「誰がどう見ても勇者さんと相棒さん、魔王様と側近様のこと大好きですよ」
魔王「……………」
側近「……………」
魔王「だって、前と違って、今は顔合わせても、その……普通よ?皆と同じように対応しているように見えるけど」
部下「え、皆と同じように見えるんですか……?」
側近「いや、第一の四人には違うな。あちらの方に好意を持っているように見える」
部下「………………、」
部下「兄さん達への好きと、魔王様と側近様へ向けられる好きは全くの別物だと思いますが」
部下「……あの、ですね。そもそも、前提から疑問だったんですが」
部下「友達から始めよう、って話し合って決めたはずなのに、何故今になってそう悩んでるんですか?」
魔王「………………」ザワッ
側近「………………」
部下「え、あ、私、何かマズいことでも、」
魔王「……………ないのよ、」ボソッ
部下「?」
魔王「…………領主の娘で、自分で言うのもなんだけど、私はお嬢様だったわ。おまけにあの情勢。挙げ句の果てに趣味は鍛錬……」
魔王「そんな私に……友達なんているわけないじゃない!」ジワッ
部下(ちょ、え、泣っ、えぇぇええええ!!!?)
側近「忘れてたんだ……、知識はあった、が……いつも一緒だったからその……全く寂しさを感じなくて、」アワワワワ
魔王「今となっては魔王よ、国の代表よ……!皆良くしてくれるわ、でもそれは友達としてじゃない!そうでしょ!?」
部下「」アワワワワ
魔王「そんな私なんて、私達なんて!自分を好きと言ってくれるヒトにどう対応するか以前に!」
魔王「お友達にどう接していいかすらわからない残念なぼっち野郎なのよ!!」ブワッ
側近「」チーン
部下「」
とある町。
第一C「!」ピクッ
相棒「んー?Cさんどうしたー?」
第一C「妹に助けを求められた気がしたんだ。けど同時に、」
第一C「多分俺の手に負えない気がすると思った」
第一B「今日もシスコンセンサーは絶好調だな」
相棒「部下さんどうかしたのかな?……大丈夫かな、」
第一C「大丈夫だろ。今日は休みとか聞いてないし、魔王様達が執務室に閉じこもってる日にアイツが城から出るわけないし」
第一B「側近様が魔王様の補佐なら、部下は二人の補佐みたいなもんだもんな、」
相棒「良かった。じゃあ発動はしないね」
第一C「……発動?」
相棒「うん。部下さん攻撃系の魔法苦手だって言ってたから、勇者と一緒に自動攻撃型の魔法作ったんだー」
第一C「え、ちょ、」
第一B「……おいおい、」
相棒「でも一回限りだし、牽制しか出来ないから本当に危ない時は役に立たないかも」
第一B「部下に魔法仕込んだってことか?」
部下C「それ、アイツは知ってんの?」
相棒「知ってるよ。お詫びもかねておまじないかけさせてって頼んだんだ」
第一C「……発動条件は?攻撃型って、どんなの?」
相棒「初めて作った魔法だから威力は無いよ。本当に、牽制しか出来ない」
相棒「発動条件は、部下さんが怖がること。あと敵意。怖がった部下さんがその対象に敵意持ったら、自動攻撃するようになってる」
相棒「大きさは恐怖心に比例するように設定したんだ。だから、」フォン
ピョコン
相棒「小さな恐怖と少しの敵意だったら、これぐらいの小さなトゲしか出ないよ」ピコピコ
相棒「急所は絶対に外すようにしてるし……やっぱりもう少し頑張って作るべきだったかも」シュン
第一C「いや、ありがとう。その手の魔法は高度過ぎて出来ないから助かるわ」
第一B「しかし器用だよな。俺達も魔法には自信あるけど、お前等は別格だな」
相棒「でも、どちらも治癒魔法が苦手ってことが……勇者は私より魔法の扱い上手いのに、」
相棒「お互い、ちゃんと治癒魔法が使えるようにって練習してるんだ」
相棒「だって、みんなが怪我したらすぐに治してあげたいから」ヘラリ
第一C「お前らって奴は……」ジーン
第一B「誰にも向き不向きが、ってか。治癒魔法自体、上達は生まれもっての素質だからな、」ケラケラ
第一B「ま、無理はすんなよ?お前らには治癒魔法使える友達がいるんだから、存分に頼れ」
相棒「えへへ、ありがとう!」ニコニコ
とある町。
兵士詰め所前。
勇者「みんな良いヒトだ!」
第一「流石に勇者ってバレたら怖がるかもしれないけど、今の旅人さんは魔王様が正式に客って認めた無害な人間の旅人さんだからねー」
第一A「一応、勇者だって言うのは控えろよー?俺達も城の奴らも旅人ってことで通すからさ」
勇者「構わない。……勇者なんて、もう辞めようと思ってたから」
第一A「え、何で?勇者って人間領じゃちやほやされるんだろ?」
第一「勇者様勇者様ーって崇められるんじゃないの?」
勇者「いや、俺達は特殊だったからさ」
勇者「寧ろ指名手配犯かってぐらい恐れられてたかも。だから好意的に対応されるのが嬉しくて」
勇者「おまけに、あっちでは俺達、二年前に死んだことになってるんだ」
第一A「死ん!?」
第一「また何で、」
勇者「問題ばかり起こしてたからかな。あの魔王を倒してピンピンしてる俺達みたいな勇者一行は、普通のヒト達にはもう恐怖の対象にしかならないんだよ」
勇者「だから俺達は、命を賭けて魔王と戦い、見事相討ちに持ち込んだ勇者一行として、勇者協会に記録されてる」
第一A「じゃあ人間領で旅人さん達は、公式に死んでるってわけか」
勇者「うん、そう」ヘラリ
第一「だからあの時宰相も本気で驚いてたわけか……」
勇者「せっかく勇者になったからって名乗り続けてたけど、この際正式に勇者の称号取っ払ってもらおうかなって」
勇者「問題はそれが勇者協会でしか出来ないってことで。人目につかないようあそこまで行くのが面倒だからなぁ、」
第一A「いいのか?勇者になるって結構大変なんだろ?人間領では特権階級だってきくし」
勇者「一応、相棒にも相談してみる」
勇者「けど、俺達似てるし、意見は同じだろうなぁ、」
勇者「……どうせおじさん……先代様が助けてくれなかったら死んでたんだ。生き残ったって言っても公式では死んだことになってる、」
勇者「勇者一行だった俺達は、あの時、死んでしまった。それで良いんじゃないかって、思うんだ」
第一「……………」
第一A「……………」
勇者「ごめん。俺、暗い話しちゃ--」
第一「もう住んじゃえよこの国に!」
第一A「もういいよこの国の子になれよ!」
勇者「えー、そりゃ魔王様達には好きなだけ城にいて良いって言われたけど、流石にずっとは迷惑になるし、」
第一A「市民権下さい言えばいいのに」
勇者「いやいや、それは無理だよ。相棒は側近さんがいるからいけるかもとしても、俺は……この国のヒト達が怖がっちゃう」
第一「良い考えがあるよ」
第一「旅人さんが魔王様と結婚」
勇者「」ボフッ
勇者「け、けけけ結婚、って!まだ俺その、友達になったばかりだし……!」アワワワワ
第一A「お、真っ赤。やっぱり外面だけだもんな、魔王様前にして普通でいられるの」ニヤニヤ
第一「魔王様も鈍い所あるしさ、ちゃーんとおさないと、伝わらないぜー」ニヤニヤ
勇者「うううう、」
第一「ごたごたが片付いたら隙だらけになるだろうし、そこが狙い目だな」
第一A「旅人さんを応援するためにも早いとこ片付けないとなー」
勇者「……うん、そうだよな。俺も、頑張って力になるよ」
勇者「……もうみんなに、怪我してほしくないし」
第一「…………」
第一A「…………」
第一A(確かに目が死んでる事多いけど何で穏やかな顔で目が死んじゃうの。なんですぐヤンデレ顔になっちゃうの)
第一(下手に死にかけたら大変なことになりそうだなぁ)ケラケラ
第一「ま、旅人さん心配させないためにも気をつけないと、だよな」
第一A「おう」
第一C「おーい!」
第一A「お、」
第一「んー?」
勇者「あっ!」
第一B「そろそろ城に戻るぞー!」
相棒「戻るぞー!」
第一「だってさ、」
第一A「じゃあ戻るか。報告も有るし」
勇者「了解ー!」
勇者「……………、」
勇者「お兄さん達と情報収集に出るのは楽しいけど、やっぱり早く見つかってほしいな、」
勇者「あの宰相に手を貸してた悪いヒト達はさ、」
魔王城。
庭園。
第一副隊長「~~♪」ルンルン フォン
ドバッシャァァァア!!
第一弟「!!?」
第一弟「庭園に滝!?ちょ姉ちゃん!水あげすぎだって!!」タタタタッ
第一副隊長「大丈夫よ~。ほら、この子も嬉しそうでしょ?」
植物「ぐおぉ」ルンルン
第一副隊長「お水だけじゃなく、あなたの好きな弟くんも来たことだし、良かったわね~」
植物「ぐおー!」ズルズル
第一弟「…………、」
植物「ぐおぉ!ぐおぉ!」スリスリベチョベチョ
第一弟(意志のある巨大植物……)
第一弟(大きな赤い花は綺麗だし懐かれてることに悪い気はしないけど)ベチョベチョ
植物「ぐおぉ!」アーン
第一副隊長「いくら好きだからってお口に入れちゃダメよ~」
植物「……ぐおぉ」ションボリ
第一弟(俺はこの子にとってただの食べ物なのかなぁ……)ハァ
第一弟「姉ちゃん、さっき通信が入ってさ……第三部隊隊長権限で、この子が根をはる一帯が正式に立ち入り禁止になったんだ」
第一副隊長「余計な事をするんだから」
第一弟「余計どころか必要なことだよ」ポンポン ナデナデ
植物「ぐおぉぐおぉ!」ルンルン
第一弟「柵で囲って、この子にもちゃんと状況を教えてやらないと」
第一副隊長「危ない子じゃないのに……」
第一弟「そうだけどさ。知らないヒトから見たら立派な赤い花の茨怪獣だよ」
第一弟「魔物の残骸を全部養分にして、そりゃ掃除の手間が省けたけど、」
植物「ぐおぉぐおぉ」スリスリ
第一弟「この子、成長早すぎだし、やっぱり普通じゃないよ。苗はどこから取ってきたのさ」
第一副隊長「死んだあのヒトの遺品よ」クスクスッ
第一弟「あー……」
第一弟「まったく、変なものばっか持ってるんだから」ハァ
植物「ぐおぉ……」シュン
第一弟「!あっと……変ってのは言葉の綾で……、酷いこと言ったね、ごめん」
植物「……ぐおぉ!」スリスリ シュルルル
第一弟「巻きつくのはほどほどにしてくれよなー」
第一副隊長「懐かれてるわね。ふふっ、弟を選ぶなんて見る目のある女の子ね」クスクス
第一弟「この子女の子なの?」
第一副隊長「ええ、多分」
第一弟「多分、って。まぁいいや」
第一弟「第一の先輩達、戻るって連絡あった。勇者さん達も一緒」
第一副隊長「--そう。美味しいお茶を用意して、報告、聞かなくちゃ」
第一弟「あと、第二のみんなも戻ってくるよ」
第一副隊長「…………、」
第一副隊長「……第二の隊長も?」
第一弟「隊長も」
第一副隊長「…………」ハァ
第一副隊長「いやね、暑苦しくなっちゃうわ……」
第一副隊長「でも、第二が戻れば部下ちゃんが喜ぶし、いっか……」ボソッ
第一弟「え?」
第一副隊長「なんでもないわ」クスクス
植物「…………」アーン
第一副隊長「--あ、こら駄目でしょ?お口に入れちゃあ」
第一弟「ん?……って牙ぁ!?やめろってヒトは喰うなぁ!!」
植物「ぐおぉぐおぉ!」ルンルン
魔王城。
第三部隊隊長執務室。
第三副隊長「ということで、第二が戻ってきます」
第三隊長「だろうな。……だって俺ここ数日通信回線全部閉じてるし」
第三副隊長「……ご愁傷様です」
第三隊長「悪い奴じゃないんだが、アイツにも喧嘩ふっかけるから厄介なんだよ」
第三副隊長「……仲直り、されたんですね。良かったです」
第三隊長「?」
第三副隊長「第一の副隊長さんとです。……あれからずっと、ぎくしゃくしてたじゃないですか」
第三隊長「ああ、それか。……勇者の奴らのおかげだろうな、お互い、第一の馬鹿の存在はそれなりに大きかったし」
第三副隊長「同期だったんですよね」
第三隊長「おう。……『奴は同期だから』なんて言うけど、何でそんな理由で喧嘩ふっかけちまうのかね、第二のは」
第三隊長「まったく……、アイツは穏やか気取ってるけど、根は負けず嫌いで激情家なんだよ。苛つかせると面倒になるってのに」
第三副隊長「よく知ってるんですね」
第三隊長「そりゃ付き合いだけは長いんだ、お互いの性格ぐらいは把握してるさ。顔見りゃ何企んでるかわかるし」
第三副隊長「…………、」
第三副隊長(そんな所に第二の隊長は嫉妬してるんだと、教えた方が良いのだろうか)
第三副隊長「見てて面白いので言いませんけど」ボソッ
第三隊長「何か言ったか?」
第三副隊長「いいえ、何も」ニコッ
翌日。
魔王城。廊下。
第一B「んじゃ報告行ってくるわ」
第一C「そっちは適当にぶらぶらしときなさい」
勇者「はーい」
相棒「はーい」
第二肆「……………あ、第一だ」
第二伍「マジで!?ってことはやべぇ!向かう先は第一んとこの執務室か!?そうなのか!?よし足止めだ!行くぜ肆!!」
第二肆「……あっちが話に聞く勇者とその相棒……強そうだ……お手合わせお願いしますって言えば受けてくれっかな……」
第二伍「なに!?勇者だと!?」カッ
第二伍「--あ!アレか!あの金のと白いの!強そうじゃんか!くぅう!!闘いてぇ!!」ブンブン
第二肆「……でも、今回は足止めに回るか……副隊長のためにも」
第二伍「あっちは何時でも闘ってくれそうだしな!!それだってのに副隊長には今しかねぇ!!おまけに本番はこれからだ!」
第二肆「……でさ、足止めって、どうする……?」
第二伍「そりゃお前簡単だよ!何時も通りに決まってるじゃんか!まずは挨拶!!」
第二肆「……何時も通り、ねぇ……そうするか」
第二伍「おう!じゃあさっそく行こうぜ!!」
ズダダダダダダダッ!!
第二伍「だーいーいーちー!!」ダダダダッ
第二肆「……………」ダダダダッ
第一A「うわ、」
第一B「げっ、」
第一C「あー、」
第一「脳筋が走りよってくる。逃げますか?」
第一「はい」フォン
第一C「いやいや、流れるように逃げようとするな。用事があるからこっち来るんだろ?」
第一B「どうせろくな用じゃねぇよ」
第一A「同感」
第一C「話ぐらい聞いて、」
第二肆「……暇だろ、暇だよな……」ドンヨリキラキラ
第二伍「久々に模擬戦しようぜ!!」キラキラ
第一C「よし逃げるぞ」フォン
第一B「賛成」フォン
第一A「賛成」フォン
第一「大賛成」フォン
第一「さらばだ脳筋共」
ヒュン
第二肆「……甘い、」フォン
第二伍「……わたあめより甘いぜ第一!!」フォン
魔王城。大広間。
スタタタッ
第一B「この距離ならすぐ来やがるな、」
フォン
第一A「あの察知力で空間把握系の魔法使ってるわけじゃないことが怖い」
フォンフォン
第一C「一応空間把握(物理)だろ。身体能力上げて対象の気配探知すんだから」
第一A「いやただの野生のカンだから空間把握系使う奴らはみんな違うって言うから」キュイン
フォン
第一「よし、完成」
第一A「--来るぞ」
ズダダダダダダダッ
ヒュン ピョイ
第二肆「……みいつけた……」
第二伍「逃げるにしては近過ぎだぜ第一よお!!!って、」
第一「そして発動」フォン
ガコン!
第二肆「あ」ゴン
第二伍「おあああ!?」ゴン
第二肆「頭打った………」
第二伍「いてえ!なんだこれ檻じゃねぇか!!!?即閉じ込めな魔法は卑怯だぞ!!」ゴンゴンゴンゴンゴンゴン
第一C「卑怯もくそもあるかよ。出会い頭に闘い挑んでくるくせに」
第一B「戻ったばかりのくせに何でそんなに血気盛んなんだよ」
第一A「だから脳筋部隊って言われるんだよ」
第二肆「……いやだって……アレが俺達の挨拶だし……」
第二伍「なんだお前等!ちょっと会わない内に久々の再会で挨拶一つしない寂しい奴らになっちまったのか!!」
第一ズ「…………」ハァ
第一「お久」
第一A「久しぶり」
第一B「ひさ」
第一C「久しぶり。相変わらず元気そうだな」
第二肆「……大変だったみたいだな……無事で良かったよ……」ヒュ ドゴン
第二伍「四人で軍勢相手にするとかやるじゃねぇか!!かっこいいぜお前等!」ヒュ バキン
第一「……あーあ、せっかく作ったのに。物理で魔法壊すのは相変わらずだな」
第二伍「気がのらねぇなら良いけどさ、模擬戦」
第二肆「……とりあえず、最大目標は達成したしな……」
第一C「目標?」
第二伍「訊くなよ。俺達嘘つくのド下手だから」
第二肆「副隊長……、そっちの副隊長に用がある……」
第二伍「お前肆言うなよ!ちょっとした相談らしいからすぐ終わるだろうけどそのちょっとぐらい誰かに邪魔されずにゆっくり相談してほしいんだよ!!」
第一B「嘘がつけない以前の問題」
第一A「正直すぎることに定評のある第二」
第一C「言っちまうなら最初から言えば良いのにって思う」
第一「仕方ないよ馬鹿だもの」
魔王城。
第一部隊執務室前。
第二壱「へくちっ」
第二弐「くしゅん」
第二参「っしょい」
第二壱「誰かが噂してるんです。断じて風邪ではありません」
第二弐「そうだよだって馬鹿は風邪ひかないんだよ」
第二参「何言ってんだ。俺達は馬鹿だから風邪ひかないんじゃないぞ。第二所属だから風邪ひかないんだ」
第二壱「そうですその通りです」
第二弐「参ちゃんすごい!それ盲点だったよー!!」
第二参「へっへーん!」
ガチャ
第二副隊長「では、失礼します」
第一副隊長「ふふっ、頑張って、ね?」
第二副隊長「はい!」
第二副隊長「--おや?」
第二ズ「ふくたいちょー!!」
第二副隊長「三人そろって、どうしました?」
第二弐「いくよみんな!」
第二壱「せぇ、」
第二参「のっ!!」
フォン ボフン ファサッ
第二副隊長「これは、花……?どうしたんですか、こんな大量に」
第二壱「種類は用意したです!」
第二弐「みんなで走り回って集めたんだよ!楽しかったよ!」
第二参「行くんだろ副隊長!!俺達にはこんなことしか出来ないけど!」
第二壱「僕達、応援してますから!」
第二弐「だから、好きなお花、選んで、ね!」
第二副隊長「みんな……」
第二壱「いってらっしゃい!です!」
第二弐「いってらっしゃい!だよ!」
第二参「いってらっしゃい!だぜ!」
第二副隊長「……ありがとう。これ、貰ってくいくね、」ファサッ
第二副隊長「じゃあ、いってきます!!」
魔王城。
庭園。
勇者「!!!」
相棒「!!!」
植物「ぐおぉ」ズルズル
勇者「かかか、怪獣だぁああああ!」キャッキャ
相棒「怪獣だ!赤い花の茨怪獣だぁあああ!」キャッキャ
植物「ぐおお?ぐお!」ペコッ
勇者「!!--うん、初めまして!」
相棒「初めまして!」
勇者「意志がある!植物なのに!」キャッキャ
相棒「魔物というわけでもないみたいだ!喋ってるし!」キャッキャ
植物「ぐおっ、ぐおー?」
勇者「弟……?あ、少年のことか。……ごめん、今日はまだ見てないや」
植物「………ぐお」シュン
勇者「う……悲しそうだ」
相棒「任せて」フォン キュイン
相棒「…………あ!大丈夫、近くにいるよ。きっと君を捜してる」
タタタタッ
植物「!!!」ピクッ ズババババッ
勇者「地面から蔓が出てきた!!太い長い凄い!!」キャッキャ
相棒「見た見た!?この蔓の先口になってるみたいだよ!小さな牙があった!」キャッキャ
第一弟「うわあああああ!!?なにこれなにこれっ!?」グルグル ヒョイ
第一弟「え、これ植物!?何で植物なのにこんなに動き回れるの!?」ブラーン
植物「ぐおっぐおっ!ぐおおっ!!」スリスリ
勇者「ふむふむ。少年に会いたいと思ってたら自然と動けたんだって」
第一弟「勇者さん!?--あ、っと旅人さんで通すって決まったんだっけ、」
第一弟「ああもうそんなことより!この子が何言ってるかわかるんですか!?」
勇者「うん」
植物「ぐお……」シュン
相棒「少年、その子に声かけてあげてよ。迷惑だったかなって凹んでる」
第一弟「相棒さんもわかるんですか!?」
相棒「うん」
第一弟「うう……」
第一弟「ごめんな、言葉がわからなくて。成長が物凄いから付き合いとしては短いけど、俺はキミが苗の時から一緒なのに」ナデナデ
植物「ぐおお!ぐおぐおっ!!」ブルブル
第一弟「うわああ!?揺れる揺れる!!」グラングラン
勇者「私が悪いって言ってる。頑張ってあなたと話せるようになりたいって」
相棒「あ!蔓で少年掴まえたままだよー、揺らしすぎると目、回しちゃうよ」
植物「!!!」シュルルル
第一弟「……うあ、目眩が、する、」ストン
植物「………ぐお」シュン
第一弟「……今のはわかるよ、ごめんなさい、だね?」
植物「…………ぐおぉ」
第一弟「大丈夫だよ。--でも、危ないからヒトを掴まえたまま振り回すのは気をつけること。いいね?」
植物「ぐおっ!」スリスリ
第一弟「体は大きいのに、甘えん坊なんだよなー。やっぱり植物としては若いからなのかな、」ナデナデ
勇者「少年少年。この子どこから来たの?いつから庭園の子になったの?」キラキラ
相棒「ちょっと前まではいなかったよね。ここ数日気配が大きくなったように感じたんだけど」キラキラ
第一弟「少し前に姉さんが苗を持ってきて。植物の一種だと思うんですけど、詳しくはわからないんです。すみません」
第一弟「魔物の残骸を養分にしたからか成長が早くて、今はこの通りです」
勇者「初めて見るなぁ。人間領でもこんな植物がいるなんてきいたことないし」
相棒「魔族領だからかな魔族領って凄い」
植物「…………、」ジー
植物「……ぐお?」
勇者「ああ、うん。そうだよ、違う」
相棒「頭の良い子だね。もう種族差に気付いたみたいだ」
勇者「俺が多分人間って種族。相棒が竜族で、少年は魔族」
植物「ぐぉっ、ぐお……」
勇者「大丈夫。これから学んでいけばいいよ」
相棒「私達だって知らないことが沢山あるんだから」
植物「ぐおっ!」
第一弟(……俺も、早くキミの言葉をわかるようになりたいな)ナデナデ
植物「ぐおっ」ルンルン
植物「!!」ハッ
植物「ぐお!ぐおおっ!!」ブルブル
勇者「--え?そういえば?約束破っちゃった?」
相棒「ここから出ちゃ駄目って言われてたのに、って?」
植物「ぐおっ……」シュン
第一弟「ああ、そうだったね」
第一弟「でも、今回は説明不足な所もあったし、お咎め無しってことで」
第一弟「まずは戻ろうか。それでいい?」
植物「ぐおっ……ぐおぉ」ワサワサ
勇者「あ、眠いの?」
相棒「心無し花の色が薄く見えるよ」
第一弟「戻ったらまずは休息だね。お水も用意するから、もう少し頑張ろうな」
植物「ぐお!」ズルズル
第一弟「旅人さん達はどうします?暇なら一緒に、」
相棒「ついてく!」
勇者「俺達ピクミ○!」
魔王城。
庭園。立ち入り禁止区域。
植物「」zzz
勇者「寝ちゃった」ゴロゴロ
相棒「寝ちゃったね」ゴロゴロ
第一弟「疲れてるんですね、」
第一弟「植物なのにあんなに動けば、そりゃ疲れると思いますけど」
勇者「第一の隊長さんなんだっけ、この子の苗持ってたの」
第一弟「はい。……不思議な物ばかり持ってる変なヒトだったんです」クスクス
相棒「あの時のお兄さんかぁ……ちゃんと話してみたかったなぁ、」
勇者「この植物本当に植物なんですかとか訊きたい。こんな格好いい植物が存在するなんて」
相棒「この子が沢山群生してる地域とかあるのかな。凄く行ってみたい」
勇者「わらわら出てくるってことか?なにそれそんな場所わくわくが止まりそうにない」
第一弟(…………さすがにそれはちょっと怖いかもなぁ)
相棒「あ、そうだ少年。第二部隊のヒト達が戻ったって聞いたけど」
相棒「挨拶、しにいこうと思うんだけど。ほら私達、居候の身だし」
勇者「そうだよな、特に隊長さんと副隊長さんの所には早めに行かなきゃ」
第一弟「第二部隊、ですか……?」
第一弟「あー、多分第二のヒト達は自分から旅人さん達の所に来るというか、その……」
第一弟「すごく、好戦的なヒト達なので、ちょっとお手合わせお願いしますとか、言われちゃうかもしれません」
勇者「」
相棒「」
勇者「どうしよう相棒俺この城に永住したい」
相棒「なにこの城私達の好み把握しすぎ」
第一弟「……え、あ、え……?」
勇者「お手合わせお願いしますとか長い事言われたことない」
相棒「ほとんどお願いします言う側だったからねー」
第一弟(あ、そうか)
第一弟(旅人さん達、魔王様達と闘いに来たんだった)
第一弟(脳筋って言われてる第二のヒト達だけど、きっと仲良くなれるだろうな)ウンウン
勇者「わくわくしてきた、」
相棒「挨拶がてら行っちゃう?」
勇者「行っちゃう!」
第一弟(殺すとか倒すとかが目的じゃなくて、ただ純粋に闘う事が好きなんだろうなぁ、)
勇者「じゃあ少年、俺達挨拶に行ってくるよ!」キラキラ
第一弟「はい。この子の事、いろいろ手伝ってくれてありがとうございました」
相棒「いえいえ。好きでやったんだし楽しかったから、また誘ってほしいな」
勇者「!」ピクッ
第一弟「はい!」
第一弟「って、あれ?旅人さん?」
相棒「どしたの?」
勇者「あっち、魔王様がいる」ジー
勇者「どこ行くんだろう……」
相棒「ほんとだ。庭園の奥……あっちはまだ行ったこと無いね」
第一弟「あの方向は……、霊園です」
第一弟「お墓参り、みたいですね」
勇者「……………、」
相棒「……………、」
相棒「勇者ごう!」
勇者「!!?」
相棒「お話チャンスだ!」
勇者「いやいやいや!忙しいかもだし!」
第一弟「半分息抜きに出てると思うので大丈夫かと」
勇者「息抜きなら尚更ゆっくり……!」
相棒「いいじゃん、おじさんのお墓参りも出来るし」
勇者「お墓参りならお前も一緒に……!」
相棒「うん、次、一緒に行こうよ。花持ってさ」
勇者「うう、」
第一弟「行って下さい。魔王様も、良い気分転換になると思いますし」
勇者「…………、」
勇者「わかった、行ってくる」キリッ
相棒「いってらー」
第一弟「頑張って下さいねー」
勇者「おー!」タタタタッ
第一弟「行っちゃいましたね」
相棒「うん」
相棒「じゃあ私は、一人でぶらぶらしてみようかなー」
相棒「またね少年ー」
相棒「植物にも、また来るよって伝えておいてねー」
第一弟「了解です!」
魔王城。
第三部隊執務室。
ズダダダダダダダ!!
騒々しい足音に、第三部隊の隊長は立ち上がった。
第三隊長「…………」ハァ
第三副隊長「あ、来たようですね」
第三隊長「ああ、来たな」フォン
歩み寄った扉に手をかざし、瞬時に障壁を形成。赤い光が扉を包んだ。
第三副隊長「そこまでしっかりやらなくても」
第三隊長「また壊されたらたまらんからな」
第二部隊隊長「第三のぉぉおおお!!」ズダダダタッ
ドゴン
足音の主は、その勢いのまま扉へとぶつかったらしい、
第二隊長「あれ!?開かない!?何でだ!何でだああああああ!!」ドゴン
ビリビリビリ
連続での衝撃に障壁が揺れた。
第三隊長「障壁無しだったら粉々じゃねぇか……」
第三副隊長「隊長の障壁越しでこの威力……相変わらずの馬鹿力」
第二隊長「むむっ!?これはまさか第三のの障壁か!!?そこにいるのか第三の!!いるんだな第三のおおお!!!」ゴンゴンゴゴゴゴッ
ビリビリビリビリ
第二隊長「言いたいことがある!聞いてくれ第三の!!」ゴゴゴン
第三隊長「…………」ハァ
第三隊長「副隊長、転移の用意頼めるか?」
第三副隊長「はい」フォン
形成された転移魔法陣が、二人の足元へ広がる。
第二隊長「第三の!私はっ……!!」
第二隊長「お前の子を産みたいぞぉおおお!!!!!!!!」
第三隊長「…………」フォン
第二隊長「障壁が消えた!!!おおおっ!!ついに私の想いに応えてくれるんだなぁ!!好きだ第三のぉお!!」
第三隊長「お前のことは同僚以上には見れないって前に言ったろ」
第三隊長「副隊長、転移」
第三副隊長「お任せあれ」フォン
ヒュン
ドゴン!
転移魔法陣が発動したのと同時に、執務室の扉は砕け散った。
第二隊長「なに!!?何故だ第三の!!」
第二隊長「ぬおっ!いない!!!む、魔法陣の痕跡……さては転移したな!!恥ずかしがり屋さんめ!」
第二隊長「…………、」チラッ
第二隊長「また扉を壊してしまった。直さねば」ガチャガチャ
第二隊長「………………、」
第二隊長(うう……直すの、無理かも)シュン
砕け散った扉の破片を手に、うなだれるしかなかった。
第二隊長「……おまけに、また逃げられちゃった……」
第二隊長「どうして逃げちゃうかなぁ……あたしって、やっぱり女の子らしくないからかな、」スッ
服の上から自身の腹部に触れれば、思っていた通りの感触が返ってくる。
第二隊長「腹筋だってバキバキに割れてるし……、力も強いし………」
第二隊長(…………駄目だよね、弱気になっちゃ)グッ
第二隊長「ええい!!めげぬ!!なんのこれしき!!めげてたまるかぁあああああ!!!!!」
第二隊長「愛してるぞ第三のぉおおお!!!」
霊園。
魔王(…………勇者の、気配)クルリ
魔王「……ついてきたの?」
勇者「……すみません、お姿を見かけたもので。…………迷惑ならすぐに、」
魔王「迷惑じゃないわ。だからその……せっかくだから、こっち来て少し話さない?」
勇者「はい」タッタッタ
魔王「…………、」
勇者「…………、」
魔王「……この墓石の下に、お母様とお父様が眠っているの」
魔王「……周りは、全部。この領……この国を守るために死んでいったヒト達が眠っているわ」
勇者「……沢山、死んだんですね」
魔王「そうね。沢山、沢山死んだわ」
魔王「……見てわかると思うけど、うちの兵、皆若いでしょう?若すぎるぐらいに」
勇者「そうですね。--兵士だけじゃない、町でも、一定の年齢層のヒトはほとんど見かけませんでした」
魔王「みんな、女子供……若者を優先して生かせたから」
魔王「……特に、兵士はね。自分が何時死んでも良いようにって、新兵の育成に余念が無かった」
魔王「『明日、自分は死ぬかもしれない』。それが、皆の口癖だった。だから、自分がいなくなった後、お前達がなんとかするしかない、そう言って」
魔王「その口癖を聞かない日は無かったわ。それが何時しか日をあけるようになって……気付いたら、誰一人口にしない言葉になってしまった」
魔王「必死だったからかもね、残った私達は、思ってた以上にあっさりその事実を受け入れた」
勇者「…………、」
勇者(強いな、みんな。俺は、今もきっと、受け入れる事は出来ない)
魔王「悲しむ暇なんてなかったから、すぐに受け入れるしかなかったの。私達には、繋いでくれた今を未来へ繋げる義務がある」
魔王「……受け入れたつもりでも、本当は、悲しむ事も悼む事も、まだちゃんとしていないだけかもしれないわね」
勇者「…………、」
魔王「……おまけに、私は若すぎる上に女魔王。おかげで他国にはナメられるわ喧嘩を売られるわで、ふふっ、自国だけでも大変なのに、」
魔王「それでも、魔王をやめたいだなんて思ったことは無いわ。私は、この国を、この国に住む人々を、この手で守りたいから」
魔王「……ねぇ、勇者」
魔王「貴方の目には、私達の国がどう映っているの?」
勇者「…………、俺の目から見て、」
魔王「--ごめんなさい。無理に答えなくても良いわ。全部見たわけじゃないだろうし、何より魔王の私がこの質問をするのはフェアじゃないわね」
勇者「相棒といろんな国を渡り歩きました。いろんなヒトを見てきたつもりです。--もちろん人間領内での話、ですけど」
勇者「ここに住んでるヒト達は、ちゃんと楽しそうに笑えていました」
勇者「だから、良い国と映ります。もう不幸を感じさせない、良い国になると思います」
勇者「少なくとも、俺は好きですよ、住みたいくらいには」
魔王「…………今、住みたいって、言った?」
勇者「!!」
勇者「あ、い、いやその!冗談!今の冗談ですからっ!もちろん良い国って言った事が冗談ってわけじゃなくて住みたいって言ったのが……!とにかく気にしないで下さい!!!」
魔王「え、気に入ってくれたのなら市民権あげるけど」
勇者「すみません生意気言ってすみま……え?」
魔王「だってお父様、貴方達がこの国を気に入ったらすぐに住めるようにって色々手を回していたもの」
魔王「ほら、この国のヒト達、人間って聞いてもそこまで敵視しないでしょ?そりゃ中には敵視するヒトもいるし怖がるヒトもいるけど」
魔王「兵だって、勇者とわかっても問答無用で切りかかったりしないし」
勇者「……比較的緩い国民性なんだと思ってました」
魔王「貴方に緩いだなんて言われたくないわよ」クスクスッ
勇者「えー、俺、緩いですかー?」
魔王「緩いわよもう連れも一緒にゆるゆるよ」ケラケラ
勇者「俺達がゆるゆるなら、ここの兵のヒト達も負けず劣らずゆるゆるかと」ケラケラ
魔王「くっ、否定は出来ないわね……!」
魔王「--!!」ピコーン
魔王(まさか、この会話の流れは、)
魔王(でも待って!まだこの会話には足りないものがある!)
勇者「…………、」
勇者(魔王様が突然百面相……)
勇者(どうしたんだろう、俺何かしたかなー)
魔王「--そう、敬語よ」
勇者「?」
魔王「……ねぇ、私達って、…………お友達、よね?」
勇者「はい」
魔王「お友達なら、その……敬語とか抜きに、遠慮なく普通に喋るものじゃ……ないの?」
勇者「いいんですか?」
魔王「だってそれがお友達なんでしょう?良いに決まってるじゃない!」
勇者「そっか、魔王様がそう言うならそうするよ」ニコニコ
魔王「遠慮もいらないわよ!さぁ!私に何を言っても良いし、何をしたって構わないわ!!!それがお友達!」
勇者「………………、」ニコニコ
勇者(絶対何か勘違いしてるよな、)
勇者(うん、勘違いしてる。してるって、絶対。何をしたって構わないって……何を、したって、構わない、って……!!)
勇者「ちょっとごめん」クルリ
魔王(後ろ向いてどうしたのかしら。私何かしたっけ、)
勇者(…………、落ち着け。平常心平常心)
勇者(顔、赤くないよな。うん、友達に赤くなるのは違う。違うから、うん)
勇者「……………」クルリ
勇者「あの、親しき仲にも礼儀ありという言葉がありまして、」
魔王「!!!」
魔王「……そ、そうよね!ごめんなさい!」
魔王(失敗した…!そうじゃないのね友達って、)
魔王(あああ難しいわ友達!いったいどんな付き合い方をしたらいいのよ……!?)
勇者「……あの、魔王様。もしかして何か勘違いしてない?」
魔王「」
勇者「!?」
勇者(魔王様が固まった!?やっぱ駄目だったんだ!口に出しちゃ駄目な話題だったんだ!!)アワワワワ
魔王(どうしようどうしようどうしよう図星よこれは誤魔化すべきなの正直に言うべきなの!?)アワワワワ
勇者(どどどどうしようどうしようとりあえず何か言わないと!)
魔王(とりあえずそう何か言わないとあああここはもう腹をくくって!)
勇者「あのっ」
魔王「あのっ」
勇者「……………、」
魔王「………、私から、いいかしら」
勇者「……」コクン
魔王「…………私は、その、実は、お友達っていう関係のヒトがいたことないの」
魔王「だから、少しおかしなこと言うと思うわ、ごめんなさい」
勇者「……なんだ、」ヘラリ
勇者「もっと重大なすれ違いか、魔族独特の文化なのかと思った!」ケラケラ
魔王「笑わないでよ!」カァァ
勇者「ごめんごめん、」
勇者「でも、俺もこんなんだから友達っていう友達は少ないかなー」ケラケラ
勇者「あ、となると、俺達が魔王様の初めての友達か。それはそれで嬉しいかも」
魔王「ううう!そうよ、貴方達が私の初めてのお友達よ!」
魔王「だから、ちゃんと責任とりなさいよね!お友達と、どう接していけばいいか私に教えること!いい!?」
勇者「あははっ、うん!いいよ!!友達だもんな俺達!!」
魔王「そうよ、私達は、お友達、なんだから!」モジモジ
魔王「……その、あの、ね、まず、こんな感じで合ってるの?話し方とか、話す内容とか、距離とか、」
勇者「良いんじゃないかな、話し方とか内容とか、おかしくはないと思う。一緒にいて楽しいのが友達だし、」
勇者「でも距離は--」
魔王「距離は?」
勇者「これ以上近いと、ちょっとまずいかもしれない、です」
魔王「どうして?」ズイッ
勇者(………近い、)ドキドキドキ
勇者「……俺達、友達は友達ですけど、」
勇者「一応、俺が魔王様のこと大好きだってことには、変わりない、ので……」
魔王「~~!!」カァァァ
ヒュン ササッ
魔王(落ち着きなさい、私!)ドキドキ
魔王「こ、こここれぐらいなら良いかしら!!!?」ヒョコ
勇者「…………、」
勇者(誰の墓石の後ろに隠れているんだろう……)
勇者「遠すぎだと思う。この距離は普通に会話する距離じゃないよ」ヘラリ
魔王「そ、そうね!」オソルオソル
テクテク ピタッ
魔王「こ、これぐらいかしら!」
勇者「……二歩進んだぐらいじゃさっきと変わらないよ!えっと……側近さんより少し遠いぐらいの距離だと思う」
魔王「は、把握したわ!」スッ
勇者「…………、」
魔王「…………、」
勇者「あ、」
魔王「な、なに?」
勇者「今度ここに相棒連れてきて良いかな?」
勇者「今度はお花もって、ちゃんと挨拶したいんだ。来たよ、って」
魔王「!!…………ふふっ、ありがとう」
魔王「もちろんいいわ。自由に出入りしてもらって構わない」
魔王「きっと、皆も喜ぶだろうし」ニコッ
勇者「!!!」クルリ
魔王「--え?ど、どうかした?」
勇者「不意打ちの笑顔は心臓に悪いと思うのです」ドキドキドキドキドキドキ
魔王「~~~っっ!!そういうこと言うの禁止ー!!」ドキドキドキ
魔王城。
三階庭園側廊下、
第二副隊長「っ……、部下さん!!」
部下「え?」クルッ
部下「!!--第二の、副隊長さん!国境への遠征お疲れ様です」ペコッ
部下(どうしよう、魔王達があんなこと言わせるから、いつも以上に意識しちゃう。顔、赤くないよね、)ドキドキ
第二副隊長「…………、」キッ
第二副隊長「--これほど、副隊長の肩書きを邪魔に感じたことは無かった、」
部下「--え?」
第二副隊長「あなたが危ない時、私は何も出来なかった。副隊長として任された場で、皆をまとめる責があると、自分の気持ちを必死に押し殺して、」
第二副隊長「でも、もう駄目だ、次は我慢出来ない、」
部下「副隊長……さん?」
第二副隊長「部下さん!」
部下さん「は、はい!」
第二副隊長「正式にあなたを守る権利を私に下さい!!」
部下「え、え……?」
第二副隊長「……結婚を前提に、私と交際してくれませんか」スッ
部下(今、何が起こってるの、)
部下(副隊長さんが、私に花を差し出して、)
部下(真っ赤な顔で、私を見つめてる……!?)カァァァ
部下(まさか、そんな、嘘、副隊長が、私に交際を申し込んで、え……?)
部下「わたし、私で、その、あってますか、違うヒトじゃなくて、」
第二副隊長「違いはありません、ずっとあなたのことが好きでした」
部下「」ボンッ
第二副隊長「立場などお気になされず、その、断るなら、っ、すぱっと、断っていただいても、」フルフル
部下「私も、」スッ
第二副隊長(部下さんが、花を、受け取って……!!?)
部下「ずっと、あなたのことが好きでした」ニコッ
魔王城。
三階庭園側廊下、
--その曲がり角の先。
側近(えらい所に居合わせてしまった……!!)ドキドキドキ
側近(まずいぞこの状況……!!どうする、思わず全力で気配を消してしまったが、)
側近(今更、この真っ只中に出て行くのはもってのほか!!物音一つどころか、指先すら動かそうと思えない!)
側近(転移など、放出される魔力で確実に存在がバレる!!)
側近(くっ……事が過ぎ去るのを待つしかないか……!!)
魔王城のどこか。
第一C「!!!」
第一「どうした?」
第一C「今、何か重大なことが起きた気がする」
第一「何関連?」
第一C「妹」
第一「はいはい今日もシスコンセンサーは絶好調」
数分後。
魔王城。
二階庭園側廊下、曲がり角の先。
側近(………………、)
側近(…………、行った、か)フゥ
側近(しかし、俺は、何て所に居合わせてしまったんだ。……ヒトの……こ、告白現場になど、)
側近(……会話の内容を思い出せないのは、それほどまでに動揺していたということか……)
ユラユラ
側近(--ん?窓の外で何かが揺れている。--白い…髪?まさか!)
側近「…………………、」スタスタ
相棒「!!」ビクッ
側近「なんて所にいるんだ。壁の装飾を足場になんかして」
相棒「あ、えっと、これには訳がありまして」
側近「話してみろ」
相棒「庭園にいた私は部下さんの姿を発見。暇だったので驚かそうと進行方向上にあり尚且つ足場がしっかりしたここで待機中--」
側近「ああなったと、」
相棒「はい」ヘラリ
相棒「思わず全力で気配消しちゃいました。--実は側近さんも、だったり?」
側近「ああ。--まさか俺以外にも居合わせてしまった間の悪い奴がいたとは」
相棒「あははっ、そうだね」
側近「……………、」ジー
相棒「……………」
相棒(……あ、あれ?側近さんが無言で私を見てる。何でだ)ドキドキ
側近(--これは会話のチャンスなのではないだろうか、)
側近(俺達は友人関係として落ち着いたはずだ。友人ならば、何か会話があるはずだ)
側近(しかし、直前の出来事を話題にするのは……俺が耐えられそうにない)
相棒(おまけに眉間に皺寄せて。睨まれてるのかなこれって。やっぱり壁登ったこと怒ってるのかな。ここはすぐに謝っておこう)
側近(せっかくの機会だ、付き合い方を知るためにも、)
側近「…………ひ、暇か」
相棒「壁登ってごめんなさい!」
側近(あ、え?壁登ってごめんなさい?)
相棒(あれ?今、側近さんが何か言ったような)
側近「………………」
相棒「……あの……さっき、何て」
側近「………………暇か、と訊いたんだ」
相棒「あ、はい。部下さん見かけてイタズラしかけるぐらいは暇です」
側近「そうか、なら、その……」
側近「……お前が良しとするなら……少し話さないか」
相棒「!!喜んで!」
側近「……よし、じゃあ」ピョイ
側近「歩きながらでも、どうだ?」スタッ
相棒「あっ、側近さんが窓から飛んだ」ピョイ
相棒「意外だー、壁登ったり窓から飛んだりしたら怒るタイプだと思ってた」スタッ
側近「俺だって壁は登るし窓からは飛び降りる。だから、さっきのごめんはいらん」
相棒「そっかぁ、睨んでたから怒ってるのかと思った」
側近「……俺は、睨んでいたのか」
相棒「眉間に皺よせてじーっと見られてた、ってのが正しいのかな」
側近「…………睨んでるつもりは無かったのだが……すまんな。考え事をしている時はどうもこうなってしまう」
相棒「じゃあ、眉間に皺寄せてる時は考え事してるってことなんだね。覚えておくよ」ニコニコ
側近「………………」ジー
相棒「……えっと、また考え事?」
側近「--俺はそうすぐに指摘される程表情に出るのか」
相棒「うん」
側近「………気をつけることにする。--いや、な。竜族か、と思って」
側近「同族に会うのは初めてだ」
相棒「竜族の里で生まれたんじゃないの?」
側近「先代様に拾われるまでの記憶が無いんでな、生みの親も生まれた場所も全く覚えてない」
相棒「そっか」
相棒「でも、良い家族に巡り会えて良かったね」
側近「ああ」
相棒(記憶が無いから、知らないから、白い私を気持ち悪がらなかったのか)
相棒(しかしまぁ、側近さん強いんだよなぁ、竜族ってこんなに強かったっけ)ジー
側近(何故俺はこうもまじまじと見られているのだろう)
相棒「あ、わかった」ピコーン
相棒「黒い竜族見たこと無いや」
側近「……黒い竜族?」
相棒「側近さんレア種かもしれない。おかしいと思ったんだ、竜族にしては魔力強すぎるし。竜族って、身体能力はずば抜けてるけど、魔法の扱いは基本下手なんだよね」
側近「待て、黒い竜族、それ以前に、」
側近「本当に色とりどりのカラフルなのか竜族というのは」
相棒「まぁ、うん。人間や魔族だって十分カラフルだと思うけどね」ケラケラ
側近「レア種云々は置いといて、もし俺が黒髪じゃなければ、」
側近「魔王の奴は自分も変身出来るなんて思わなかったのか……!」
相棒「え、変身って、え……?」
側近「俺はアイツが幼い頃からの付き合いでな、髪といい目といい同じ色だったものだから、」
側近「いつか自分も竜化出来ると思っていたらしい」
相棒「」ブフッ
側近「今でも竜化すると年甲斐もなく物欲しそうな視線を向けてくる」
相棒「なにそれ!あははっ!似てる、似てるよ。変な所に凄い憧れ持ってる所とか、そっくりだ!」
側近「誰に?」
相棒「勇者に!私もよく羨ましい羨ましい言われるんだ。変身にも憧れてるし!」
側近「出来たばかりの友達にしては、おかしな共通点がある」クスッ
相棒「友達、かぁ……えへへ、おじさん、じゃなかった、先代様が言ってたんだ」
相棒「『私の子供達を紹介しよう。きっと仲良くなれる』って」
相棒「私達、良い友達になれるかもね」ヘラリ
側近「そうだな」クスッ
隣国。
魔王城。王の間。
剣士「穴だらけの警備に弱い兵士。仮にも魔王城がこれでいいのかよ」
僧侶「良いじゃないですか、楽で」
剣士「でも欲求不満でさ。ここむさ苦しいんだよ、男しかいなくて」
僧侶「十分楽しんでいたようですけど、男でも」
視線を向けた先には、物言わぬ兵士が転がっていた。
隣国兵士「」「」「」「」「」
剣士「まぁちょっとはな。もうすこし粘ってほしいってのが本音だが……よっ」ザンッ
戯れに振り下ろされた剣が、死体をさらに傷付ける。
隣国兵士「」グチャ
剣士「中身はあまり変わらないんだな」ケラケラ
僧侶「神に仕える身として、遺体を虐げるのは止めて下さいと一応言うのですが、」
僧侶「魔族ならヒトではないですし、ご自由にどうぞ、って感じですね」
剣士「……同じパーティメンバーながら、アンタみたいな僧侶ってどうかと思うぜ」ケラケラ
僧侶「ゲスに言われたくないです」ケラケラ
剣士「言ってくれるよなー」ケラケラ
剣士「あーあ、良い感じにいたぶりがいのある奴とか転がってないかなー」
王の間、近くの一室。
コソッ
隣国兵士(やばいやばいやばいアイツ等はやばい)
勇者一行の襲撃から逃れた兵士達は、一室にまとまり身を潜めていた。
隣国兵士(この前の勇者とおっぱいよりやばい)(性格の悪さが滲み出てる)(バレたら惨殺されるな。かじられる所じゃねぇぞ)(私達じゃ勝てないな、残りの二人が何時戻るかわからないし)
少女(…………)ガクブル
隣国兵士(大丈夫、君だけは必ず生きて逃がすから)(安心しろよ、俺達意外とやるんだぜ?)(最後の王族の護衛か、燃えるな)(ロリ少女ってことがまた燃える)(王族にロリ少女言うな)
ロリ少女(……よろしく、おねがい、します……)
隣国兵士(おう)(任せろ)(ロリのために)(ロリのために)(だからロリ言うな)
王の間。
勇者男「今戻った」
魔法使い「ちゃんと成功しましたよぉ!予定通り、みんな人形です!」ルンルン
僧侶「じゃあもうこの国に用はありませんね」
剣士「次は本命のお隣さんかー」
魔法使い「はいっ!承った任務は隣国の魔王と竜族の身体を奪うことですから!」
剣士「せっかく協力してやったのに、この国マジ弱いよな。普通追い返されるかー?」
剣士「あの宰相も死んでやがるし、ホントにあの魔王んとこで幹部してたのかよ」ケラケラ
僧侶「対等でいようと嘘をついていたんでしょう?魔物風情が人間様と対等でいようなんて、考える自体おこがましいことなのに」
勇者男「気になるのはこの国が負けた原因だな。何かイレギュラーな存在があったと見える」
魔法使い「そうですね!皆さん何故か異常に怯えてましたし!」
剣士「まぁイレギュラーでも何でもいいや。からかいがいがある奴なら大歓迎!」
僧侶「ふふふっ」
僧侶「どうせなら、どうやって人形にするのか話した方が良いのでは?」
僧侶「物陰で必死に耳をそばだててるネズミは、一番ソレを聞きたがってる」
「!!!」
王の間、近くの一室。
隣国兵士(やべ、バレてるのか!?)
隣国兵士(--いや、違う)(私達じゃない)(なら、)
物陰。
密偵班長「逃げろ新人、」
密偵新人「何故ですか班長?」
密偵班長「わざわざ聞かせるように話してる」
密偵班長「近付きすぎたんだ。くそ、俺達の存在はもうバレてる」
密偵新人「了解、逃げます」
密偵新人「あ、でも班長は?アイツ等悪いヒト達っすよ。私の悪者探知センサーがずっと警告音鳴らしてますもん」
密偵班長「死体いたぶる時点で誰の悪者センサーにでも引っかかるよ」
密偵新人「じゃあ確実に悪者っすね。ならさっさと逃げましょうよ、班長も」
密偵班長「……いいから行け。集合場所には寄るな。そのまま真っ直ぐ城に報告」
密偵班長「傍受の恐れがあるから通信回線は開くなよ。あと、うちの兵士でも信用するな。あの様子じゃどこに人形が紛れてるかわからない」
密偵新人「確かに、あの人形にしてしまう魔法は普通じゃないです。けど、班長は、」
密偵班長「俺は後から行く。必ず合流するから、早く行け」
密偵新人「……わかりました」ヒュン
新人が走り去ったのを確認し、班長は深く息を吐いた。
密偵班長(--これは、退き際を見極められなかった俺のミスだ)
密偵班長(身体能力は新人の方が上、一人だけなら逃げ切れるかもしれない)
密偵班長(そのために、俺は、)
--こちらに近付く足音が聞こえる。
密偵班長(真っ先に新人を追わない分、状況は最悪じゃない)
密偵班長「なんとかひきつけて、囮になるしかないよな……」
剣士「ネズミさんよ、隠れてないで遊ぼうぜ」ニタリ
密偵班長(どうせ惨殺が決定されてるなら、出来るだけ長く、時間を稼いでやるさ)
僧侶「時間を稼ごうなんて馬鹿な考え、まさかしてないですよね」
密偵班長(そんなの、してるに決まって、っ!?)ゾクッ
密偵班長(背後に気配!?)
隣国兵士「」ブンッ
反射的に振り返れば、今まさに振り下ろされようとしている剣、
密偵班長(避けきれな--)
ザシュ
密偵班長「くっ、」ボタボタ
密偵班長(やられたのは肩か……くそっ、相手は人形にされたこの国の兵士、)
密偵班長(人形にされたことには同情するが、また眠ってもらう、)フォン
ドスッ
剣士「魔法はやめろよ。死んでる相手をさらに傷付けるって、酷い事だと思うぜ」
密偵班長「----、」ゴポッ
剣士「可哀想な奴らなんだよ。俺達にさくっと殺されさらっと身体を再利用され」
剣士「せっかくキレイな状態で死ねたんだから、大事に扱ってやれよな」
剣士「まぁ俺は好きなようにするけど」ニヤニヤ
密偵班長「 、」フォン
バシュン
密偵班長(!?……なんで、魔法が、使えない、)
僧侶「悠長に喋る前に、まずはその魔物の魔法を無効化することが先でしょう」スタスタ
剣士「それはお前の仕事だろ?」ケラケラ
剣士「--で、お前は後ろから思いっきり胸刺されてるのに、まだ頑張るつもりだったと」グリグリ
密偵班長(……ああ、くそ、まずい、)ボタボタボタボタ
剣士「いいね、好きだぜ。諦めない奴。でももう少し強い方が好きなんだよな」ニヤニヤ
ズルッ
密偵班長(確かに、時間を稼ぐなんて考え自体、甘かった……)ドサッ
倒れた彼の周りを、勇者一行が囲む。
勇者男「まだ殺してないよな」
魔法使い「そうですよ!今死なれたら困ります!」
剣士「大丈夫だって」ガシッ
密偵班長「…………、」
髪を掴まれ、無理やり顔を上げさせられた。
剣士「あと5分ぐらいは頑張れるよな。そうだろ?」
密偵班長「…………」キッ
剣士「おいおい、やめろよ。死にかけで虚ろのくせに、いっちょまえに睨んでくれると、もっといたぶりたくなるだろ?」ニタリ
勇者男「あとで好きなだけ遊べばいいだろう。--魔法使い」
魔法使い「了解です!」フォン
密偵班長(……いったい、何を、)
魔法使いの手が、班長の額へと伸び、
魔法使い「少し痛いですよ、我慢して下さいね?」
触れた。
密偵班長「ぅ、あ、ああああああああああ!!!」ビクン
魔法使い「うーん、どれでしょうか」
密偵班長(何だこれ、痛い、頭の中を、直に、かき回されているような、痛みが、)
勇者「早くしないとショック死するぞ」
僧侶「たかが魔物一匹、死んだら次を探せば良いじゃないですか」
魔法使い「うーん、うーん……」
密偵班長(……俺、は……何を、されて)
魔法使い「惜しいですが、外れですね!」パッ
剣士「だってさ、お疲れ」
密偵班長「……ぅ、く、」
密偵班長(……新人、……ちゃんと、逃げてる、よな……)
剣士「放っておいても死ぬだろうけど、俺はお前の事好きだからな」スッ
班長の首には、剣が添えられていた。
剣士「同じようにお前の事が好きな奴に、届けてやるよ」
密偵班長(頼むから、無事で--)
剣士「お前の首、」
ザンッ
剣士「おっと、危ね」ヒョイ
僧侶「……」フォン
ザシュ
密偵新人「--っ!!」フォン
放たれた魔力は、閃光となって弾ける。
辺りが白い光で染まったのは、一瞬。その一瞬で、乱入者は血溜まりの主を連れ去った。
剣士「--で、逃げられたわけだけど。仕方ないから追っていい?」ワクワク
僧侶「追いたいからわざと逃がしたんでしょうに」
魔法使い「はうう、目がチカチカします」
勇者男「--追うな。どうせ長くは生きられないんだろう?」
剣士「まぁ、うん。そうだけどさ」
僧侶「遅延性とはいえ、かする所か刺さってますし」
勇者男「魔法使い、」
魔法使い「了解です!城内の人形さん達には、老若男女問わず、魔族だけを殺すよう設定します!」フォン
勇者男「瀕死と手負いを逃がす程、この城の警備は甘くない」
剣士「なぁいいだろ?あとで好きなだけ遊べって言ったじゃねぇか。すぐに済ますからさ、絶好のシチュエーションなんだよこれって」
勇者男「駄目だ。あの魔族は外れだが、奪った記憶に当たりの候補はいるはずだ。そうだな?」
魔法使い「はい!魔王と竜族に近い魔族の候補は出ています!大本命は直属の部下ですね!兵士と言うより文官の女で、とても弱そうです!」
勇者男「上手く攫えば仕事は格段に楽になる。まずは仕事だ。済み次第好きなだけ楽しめばいい」
剣士「……仕事仕事って、ま、受けた以上優先しなきゃいけねぇか。おとなしく諦めますかね」
僧侶「勇者様、すぐに隣国へと向かいます?」
勇者男「ああ。……お前も、そうだな、嫌がらせぐらいなら、許す」
僧侶「それはどうも」ニコッ
剣士「いいよな、魔法が得意な奴は」ブツブツ
魔法使い「ではでは!お隣りの国へ、出発ーしんこー!」ニコニコ
隣国。魔王城内。
タタタタ、タッ
密偵新人「っ……は、はっ……っぐ、」ゲホッゲホッ
その足は、激しい咳に負け止まった。
密偵新人「うう、っ」ゴポッ ケホッ
止まらない咳に伴い零れた血をきっかけに、新人は抱えた班長ごと倒れ込んでしまう。
密偵新人「ううう……、班長、」
密偵班長「」
密偵新人「班長、すみません、私、」
密偵新人「もっと、早く、行っていれば、」グスッ
密偵班長「」
密偵新人「班長の班長が、傷付かないで、すんだかもしれないのに、」
密偵新人「班長の班長、ごめんね……!」ポロポロ
密偵班長「……あのさ、俺の眼鏡を下ネタみたいに呼ぶの、やめてくれない……?」
密偵新人「うわぁああん!はんちょー!ごめんなさいー!!」
密偵班長「……眼鏡を掴むな、ヒビ入ってるだけだから、ああもう、乱暴にするとヒビが広がっちゃうでしょうが……」
密偵新人「班長、班長。私、命令違反しました。本音と建て前二つの理由があります、どちらから聞きますか?」
密偵班長「……じゃあ本音」
密偵新人「思いの外人形になった兵士が多かったのと、方向音痴の私がたった一人で国に帰るのは難しいと判断しました」
密偵班長「……建て前」
密偵新人「嫌っすー!!班長が死ぬのは嫌っすよー!!班長絶対私逃がすために死んじゃいますもんー!!そんなのやだー!!」ポロポロ
密偵班長「…………お前、それ……ちょっと嫌な奴だぞ……」
密偵新人「!」
密偵新人「ひ、酷いっすよ班長!普通建て前から訊くじゃないですか!意地悪だ、班長の意地悪!」ゲホッ
密偵新人「」ゲホッゴホッ ボタボタッ
密偵班長「……傷、見せてみろ」
密偵新人「……そ、そんな、その、服脱げってことですか?待って下さい私まだ心の準備が、ああでも班長になら、見せても、良いかなって、思うんですけど……!」
密偵班長「……こんな時に、ふざけるな」
密偵新人「じゃあ真面目にお断りします」
密偵新人「きっと班長は、死にかけのくせに、私に治癒魔法をかけようとする」
密偵新人「使う元気があるなら、自分に使えば良いじゃないですか」
密偵班長「……俺はもう、保たないよ。だから、おとなしく言う事をきけ」
密偵新人「やです。だって私も、」ケホッ
密偵班長(--まさか、)
密偵班長(俺を助けるために、乱入して受けた傷は、)
密偵新人「……毒、なんですかね。あはは、傷だけじゃなく、体中痛くて、視界も、歪んでるんです、」
密偵班長「………お前ってやつは、………馬鹿だよなぁ……」
密偵新人「班長、私新人なんです。新人は馬鹿なミスをするものっすよ」
密偵新人「言われた事だけをやれば良いのに、独自の判断で結局馬鹿をやる、私って手がかかる新人なんです」
密偵新人「だから、あんまり怒らないで下さいね。私って、アレです、褒めた分だけ伸びるタイプです、きっと。班長が褒めてくれるんだったら私、木に登って空だって飛んでみせますから」
密偵班長「……あの状況で、俺を連れ出せた事は、結果はどうあれ、評価する。すごいよお前、よくやった」
密偵新人「…………、」
密偵新人「えへへ、へへへへ、」ニコニコ
密偵新人「やったぁ、班長が、褒めてくれた……」ゲホッ ボタボタ
密偵班長「……………、なぁ、一つ、訊いていいか?」
密偵新人「うへへ……何ですか……?」
密偵班長「何で、こっち側を選んだ?お前の実力なら、兵士として、上を目指せるだろ……?」
密偵新人「ふへへ、それを訊いちゃいます?へへへへ、訊いちゃうんすね……?」
密偵班長「…………、お前が答えられる内容なら、ききたい」
密偵新人「……じゃあ言いますよー。理由は、班長がいるから、です」
密偵班長「……へ?」
密偵新人「班長の側にいたくて、私、密偵になったんです」
隣国兵士「…………」
隣国兵士「…………」
動けないでいる二人に、複数の人影が近付こうとしていた。
密偵新人「だって私、班長のことが--」
魔王城。
第一C「」ブツブツブツ
相棒「何でCさんは壁にすがりついてぶつぶつ言ってるの?」
第一「それはね、妹を持つ兄に訪れる試練が、ついに来てしまったからだよ」
第一A「そうそう、部下もついに嫁に」
第一C「黙れ!!まだ決まってねぇよ!!!」
勇者「Cさんが荒れてる……」
第一B「年頃の妹が兄を食事に誘って『話があるの』なんて言ったら、答えは一つしかないだろ」
第一C「あああああああああ!!」
第一「今度の休みだっけ?もう数日もないな」
第一C「あああああああああ!!」ゴンゴンゴンゴン
相棒「そそんなに壁に頭打ちつけちゃ駄目だよ!」
第一A「覚悟を決めろよシスコン」
第一C「あああああああ!!少なくとも俺より強くなきゃ、絶対認めてやらんからな……!!」
一同「……………」
第一B「いや、お前兵士だしおまけに第一部隊所属だろうが」
第一A「民間人は全てアウトに」
第一「部下ちゃんは兄貴を嫌いになっていい」
第一C「……うわああああああああ!!!」ダダダダダッ
勇者「Cさんが走り去ってく!」アワワワ
相棒「ちょっと泣いてた!」アワワワ
第一B「確かその日非番なのはCだけか。俺達は討伐任務入ってるし」
第一A「索敵任せろー」
第一「狩るぜ狩るぜー」
勇者「……俺達もついてって良い?その討伐任務」
第一B「え、別にいいけど、楽しくはないぞ?山に入ってひたすら増えた魔物狩るだけだし」
相棒「……私達、頑張るから。もし早めに終わったら、Cさんの様子こっそり見に行こうよ」
第一「討伐に参加しなくても、二人でこっそり見に行けばいいじゃんか」
勇者「ハラハラするから無理」
相棒「絶対あわあわする自信がある」
第一A「--ま、正直、同郷だからな。チビっ子時代から見てる部下がどんな男連れてくるか心配ではあるけど」
第一「変なの連れてきたらちょっと無言になっちゃうぐらいには気になる」
第一B「……さくっと済ませて隠れて様子見に行くってのもアリか」
勇者「じゃあ、決まりで?」
第一B「決まりで」
第一(…………そういえば、)
第一(最近、第二の連中がそろってマスクして顔を合わせる寸前で逃げてくけど、)
第一(何か関係があったりして、--なんてな)
数日後。早朝。
とある山。
第一「グーっとパーっで別れましょ!」グー
グー! パー! パー パー
第一「よし、決まり!俺、相棒さんペアと、旅人さんABグループに決定!」
勇者「おおっ!別れたな相棒!しっかりやれよ!」キャッキャ
相棒「らじゃー!そっちもね!」キャッキャ
第一B「朝っぱらから何でそんなにテンション高いんだ」ファァ
勇者「爽やかな朝。魔力溢れる山!」
相棒「そうだ気分はピクニック!」
第一A「ピクニックにしてはやけにピリピリした山だよな」フォン
ピリリリ
第一A「反発強いな、通信乱れるぞこりゃ。転移も、目的地と大幅な誤差出るかも」
勇者「走るから平気!」
相棒「飛ぶから平気!」
第一「ぶっちゃけ戦力過多だし、結構な何事あっても午後には終わるんじゃないかな。--で、お二人さんはその午後のイベントを楽しみにしているわけで」
第一B「ああ、だからこのテンションね」
勇者「どんなヒトかな」
相棒「きっと優しいヒトだよ。部下さんがそうだから」
第一B「これで部下が悪い男連れてきたら最悪だな」
第一「相手が?」ケラケラ
第一A「そりゃあ、もれなく兄貴分とセコムがついてきますもの。騙される奴も悪いが、騙す奴はさらに、だろ」ケラケラ
第一B「……散々からかってきたくせに、お前も大概だよな」
第一A「いやだって……一応俺も、弟みたいに思ってるからさ」テレワライ
午後。
とある町。喫茶店。
部下(A後ではっ倒す!)
第一C(A後で殴る!)
部下「…………、」
第一C「…………、」
部下「今、兄さん一瞬怖い顔したね」
第一C「お前もな」
部下「…………」
第一C「…………」
部下(何でだろう、会話が上手くできない)
第一C(何時切り出すかヒヤヒヤして上手く話せない)
部下(……どうしよう、話があるって言ったのに、雑談しかしてないや)
部下「…………」チラッ
第一C「…………、ど、どうした?」
部下(お兄ちゃんの喋りがぎこちないのは、やっぱり私の話を気にして、)
部下(先に、言うべきなの?でも、彼との約束の時間はまだ先だし、)
部下「…………」モジモジ
第一C「………………、」
第一C(俺、なんかもうこの緊張感で死にそう)
第一C(…………まるで走馬灯のようだ。妹ととの記憶が、脳内を駆け巡る)
第一C(おにーちゃんおにーちゃんって、俺の後をついて回った妹)
第一C(大きくなったら、お兄ちゃんと結婚するって言っていた妹)
第一C(怪我して帰ると、涙目で覚えたての治癒魔法をかけてくれた妹)
第一C(回廊の一件に怒って、俺の腹に拳をぶち込んでくれた妹)
第一C(そうだよな、昔も、今だって可愛い妹は、こうも立派に成長したんだ。もう子供じゃない。可愛らしい、大人の女性に……)
第一C「……成長早い」グスッ
部下「!!あ、え、ど、どうしたの……?」
第一C「……ごめんな、お兄ちゃん、酷いこと考えてた」
第一C「どんな奴でも良い……お前が、選ぶ奴なら、誰だって……」
部下「お兄ちゃん……やっぱり、何の話か、わかってたの……?」
第一C「おう……わざわざ話があるなんて、もう男しかないだろ……」
第一C「……最初は、俺より強くないと認めないって思ってた、……けどさ、ヒトの良さなんて、強さが全てじゃないもんな……」
第一C「いざとなったら、お兄ちゃん頑張るからな……二人まとめて守ってみせるからな……」
部下「……お兄ちゃん……」ウルッ
部下(……うう、言えない。お兄ちゃんよりずっと強いから大丈夫だなんて、今は言えないよ……)
第一C「……今日は、話だけじゃないんだろ?」
部下「……うん、紹介するつもりだったの。彼も、ちゃんと挨拶したいって」
部下「……その……会ってくれる、よね?」
第一C「おう。もちろん、だ……!」
部下「……良かった。もしかしたら、会ってくれないんじゃないかって、」ホッ
第一C「……会うさ、会うに決まってる……」
部下「……あの、ね、約束してる時間はまだ先だけど、……私、お兄ちゃんが会っても良いって言ってるって、彼に伝えてきて良いかな?」
部下「今日のこと、決めた日からずっと、緊張してるみたいだったから」
第一C「……うん。いいぞ」
部下「すぐ戻るから、待ってて」
タタタタッ カランカラン
第一C(……外に、出たのか)
第一C「………………、」
第一C(……今の内に、心の準備をしておこう)
第一C(どんな奴でも、受け入れられるように……)
喫茶店の前。
部下「--はい。私、待ってます、」
部下(……通信は済んだ、けど……すごく、緊張してたなぁ)
部下(でも、『……部下さんとの、結婚を前提にしたお付き合い、お義兄さんに認めてもらえるよう、私頑張りますから』、だなんて……)
部下(……夢じゃないよね、……ああ、もう、緊張もするけど、やっぱり、嬉しい)
部下(ああ、駄目、私、顔緩んでないかな。--平常心、平常心。彼もお兄ちゃんも凄く緊張してるのに、私だけ笑ってちゃ、駄目)
「お、アレって……」
「うん、そうだよな。ついてるなぁ、俺」
「ねぇ、そこのお姉さん!」タタタタッ
部下(……え?誰?周りには誰もいないし、)キョロキョロ
部下「……私、ですか?」
「うん、そう。君」
剣士「今、時間ある?良ければ俺と、お茶しない?」ニコッ
部下「ごめんなさい。連れがいるので」
部下(……これってナンパ、ってやつだよね。うわぁ……初めてナンパされちゃった)
剣士「お連れさんは女の子?」
部下「いえ、兄です。中で待たせているので、もう行きますね。ごめんなさい」
剣士「待って」ガシッ
部下「あ、あの……」
剣士「せっかく出会えたんだ、このまま別れたくない」キリッ
部下「……すみません、手を離して下さい」
剣士「離したくない」グイッ
掴まれた腕が強く引かれ、剣士の胸に収まる形となってしまった。
部下「や、やめて下さい!離して!」バタバタ
第一C「……何を、している、か」ザワザワ
部下「あ、お兄ちゃもがっ」
剣士「はーい、ちょっと黙ってようか」
部下「むーむー!」バタバタ
口を塞がれた上に、拘束から逃れることが出来ない。
第一C「遅いと思って、様子を見に来てみれば、」ザワザワ
第一C「嫌がる妹を、無理やり、抱きすくめるとは、どういう、つもりだ」ギロッ
剣士「どういうつもりかと訊かれても、こういうつもりとしか」チュ
部下(やだっ、今頭にキスされた!)バタバタ
第一C「っっ!!きっさまああああ!!!」ブチッ
剣士「怒るなよ、おにいさん」
第一C「誰がお義兄さんだ!!!」
第一C「認めん!妹が何を言おうと貴様なんぞに大事な妹を任せられるか!!」
部下「むーむー!!」
部下(お兄ちゃん違う!!このヒトじゃないよ!!このヒト初対面でナンパしてきたただの変なヒトだよ!!)
剣士「大事な妹、ねぇ……」
剣士(うーむ、察するに、彼氏と間違われてる?)
剣士「これはまた、面白いシチュエーションだな。……でも、まぁ」スッ
部下「むーむー!!ぷはっ!お兄ちゃん違う!このヒトは彼じゃないよ!!」
第一C「じゃあ何だ!誰だこの野郎!」
部下「知らないヒト!ナンパされてそれで、」
第一C「よしわかった!殴っていいってことだな!」グッ
部下「民間人殴っちゃ駄目だよ!ここは穏便に、」
剣士「穏便には、すまないだろなぁ」フォン
剣士の手には剣があった。その刃は部下へと向けられている。
部下「!!」
第一C「!!」
第一C「--目的は、」
剣士「この子を攫おうと思ってね、」
部下「…………あなた、魔族じゃないですね」
剣士「やっぱ近くで見られたらバレるよな。確かに俺、ちょっと耳尖ってるように見せる魔法かけてるよ」
第一C「人間か」
剣士「--なぁ、兄妹っていいよな。しかも、仲の良い、兄妹って」
第一C「…………、」
剣士「迷うんだよ。今もさ、ずっと考えてる」
部下「…………」フォン
剣士「おとなしくしてろよ、な?」スッ
首の皮が浅く切られ、血が滲んだ。
剣士「うっかり殺しちまうかもしれない、だろ?」
部下「…………」キッ
剣士「良い目だな、絶望した泣き顔は、きっと、さらに良い」ニヤニヤ
狂った愉悦が、部下の目を覗き込む。
部下(--この、ヒト、)ゾクッ
剣士「よし、決めた。目の前で、兄貴が殺されるの、見せてやるよ」ニタリ
部下(--怖、い、)
その瞬間、部下に仕掛けられた魔法が発動した。
とある山。
勇者「----、」ザワッ
第一B「ん?どうした旅人さん、そんな魔力出して」
勇者「最大出力、」
勇者の足元に魔法陣を形成される。
第一A「ちょ、待てって!ここからの転移は、」
勇者「近くまで行ってあとは走る。部下さんが危ない」
第一A「え、」
第一B「!!部下に、仕掛けた魔法が?」
勇者「うん」ヒュン
転移魔法が発動、その場から勇者の姿はかき消えた。
第一B「討伐は終了、あとは合流だけよな。--合流する暇はないけど」フォン
第一A「二人に通信は、」
第一B「一応、頼む。--町の座標はわかってるんだ。近くまで飛べりゃあいい」
第一A「了解」
第一B「……最大出力、ね。大事になってなければいいが」
とある町。
発動した魔法は鋭い棘となって剣士を襲う。
ドスッ
剣士「うおっ!?」
第一C(二人が仕込んでくれた魔法か!)
第一C「部下!」フォン
部下「っ!!」
黒い棘は確かに剣士の腕を貫いた。
怯んだその隙に部下は拘束から逃れ兄の元へ駆け出す。
剣士「--!」
その背を剣士の手が追う--が、動いたのはCもだ。
第一C「させるか、」
駆け寄り伸ばした左手は妹の手を掴む。
空いた左手に収束した魔力は衝撃波となって剣士を襲った。
剣士「」チッ
避けられず、剣士は吹き飛び壁へと叩きつけられる。
部下「ごめなさい……私、捕まっちゃって、」
第一C「いいよ、無事だったんだし。首、見せてみろ。今治癒を--っ」
部下「!!」
お互いその場から飛び退いた。二人の間を斬撃がかすめ行く。
剣士「ははっ、吃驚した。察知出来ない魔法とか初めてだよ」
第一C(--無傷?いや、血痕は残っている)
部下(魔力反応は無かった、治癒魔法じゃない)
剣士「見てくれよ、腕に穴開いちまった」
見せつけた腕には確かに傷があった。
だがそれは貫いたにしては浅く--血痕だけを残し、
部下(--治った?これは治癒魔法じゃない!)
剣士「あ、穴見せる前に治っちまったか」
第一C(自己治癒能力……?早すぎる、このスピードは、)
第一C(旅人さんと、同じ……!)
剣士「むかついたからさ、とりあえずおそろいにしようと思ったのに、よっ!!」ヒュン
第一C「さがってろ部下!」フォン
バチバチバチッ
展開した障壁が、剣を受け止めた。
第一C「」フォン
間髪入れず風の刃が剣士を、
剣士「障壁、堅い、」ヒュン
かすめることもせず、地面を抉る。
第一C(くそっ、ちょこまかと!)フォン
剣士「魔法の展開は早いくせに、ちゃっちい魔法を使う」ブン
剣の一振りで魔法はかき消された。
剣士「ああ、そうか。周りにいる魔族を気にしてるわけか」
第一C(畜生、その通りだよ。こんな町中で広範囲高威力の魔法は使えない)
部下(巻き込む可能性と……何より高威力の魔法は周囲の魔法濃度を一気に跳ね上げる……もし近くに耐性の低いヒトがいるのなら、余波だけで、)
剣士「おかげで、楽が出来そうだ」ニタリ
部下(駄目、このヒトは、加減なんかしちゃ駄目な相手だ……!!)
部下「--っ、お兄ちゃん!魔法使って!!」フォン
部下を中心に魔法陣が広がる--形成、展開されたのは、
第一C「オーケー、でかいのいくわ」キュィィィイン
高音が空気を震わせる。溢れ出した魔力を遮るのは部下の障壁だ。
剣士「…………へぇ、やっぱサポート系が得意だったか」スッ
切っ先は二人でなく部下が形成した障壁に向けられていた。一度、二度と斬りつける。
第一C「妹の障壁強度をなめんな」キュィィィイン
剣士「でも、何時まで保つかね」ボソッ
部下「」ケホッ
部下(--え、私、どうして、血を、吐いて)ボタボタ
第一C「!!?」
部下「あ、うっ……」ゴポッ
第一C(--首の傷、まさか毒を!)
剣士「おやや、術主がこれじゃ魔法に障壁は耐えられないねー」ニヤニヤ
第一C「…………やれるか」キュィィィイン
部下「やれる、」キッ
第一C「さすが、俺の妹」フォン
--無音が世界を支配した。
そんな気がしたのも、その一時のみ。
剣士「--へ?」
ズドォォォオオン!!!
轟音と閃光。放たれた魔法は空間破壊。攻撃系魔法の最上位に位置するそれは、指定された空間、その場にいる何もかも砕き、弾け飛ばす。
第一C「二段目」フォン
ゴォォオオオオ!!!
剣士がいた、はずのその周辺が吹き上げた業火に包まれた。
第一C「…………、」
剣士「」
業火の中の人影を確認し、Cは部下へと視線を向けた。
部下「はっ、っ、はぁ、うぅ……」
膝を折り、倒れた部下は苦しげに喘ぐ。
第一C「障壁の展開、代わる。だからもういい、休め」フォン
部下「……うん、……ごめんね、お兄ちゃん、」
揺らめきだした障壁の内側に、新たな障壁が形成されていった。
第一C「治癒もかける、解毒も、任せろ。お兄ちゃんは治癒系が一番得意だ」ヘラリ
部下「……そこに心配はないよ、だって私のお兄ちゃんだもん、」ニコッ
剣士「典型的な魔法使いタイプはやりやすいよな」
第一C「--!!!!」フォン
ドスッ
剣士「こんなに接近してんのに、魔法が剣より早いわけないだろ」
部下「おまえっ……!!」フォン
第一C「--、」フォン
Cは腹部に刺さる剣を無視し、剣士へと手を伸ばす、触れ、魔法を発動、
剣士「わかってないな、」フォン
バチバチッ
障壁が弾いたらしい、火花が散った。
第一C「……………、」ボタボタ
部下「うぐっ……お兄ちゃ……」ケホッゲホッ
剣士「まず、俺だって魔法が使える。おまけに多少の怪我はすぐ治る」フォン
部下「きゃうっ!!」バチバチバチッ
第一C「て、め、ぇ……!!」ボタボタ
剣士「相性が悪かったな。お前みたいな魔法使いタイプは、すぐ標的から意識をそらす。接近戦も弱いし」
剣士「ま、今回は場所も悪いし足手まといもいたからな。うん、強いよお前。あの魔法、かなりキいたぜ?」
第一C「………っ、」キッ
剣士「……やっぱ兄妹だな。目がよく似てる」ニヤニヤ
剣士「なぁ、どっちがいいと思う?」
剣士「このままお前の心臓かっさばいて妹ちゃんを泣かせるか」スッ
剣士「妹ちゃんの首をはねてお前が泣くか」
第一C「…………」ギリッ
剣士「お前ら、運が悪かったんだよ。ちょうど彼女が魔王と竜族に近い魔族だったから、俺達に狙われた」
第一C「--!!!」
剣士「だからさ、選ばせてやる。どっちを泣かせるか」
第一C「…………すな、」ボソッ
剣士「あ?」
第一C「……殺すな、」
剣士「何言ってんだお前」
剣士「『殺さないで下さい』、だろ?」
第一C「……お前に言ったんじゃねぇよ」
剣士「は?--っ」ゾクッ
剣士(何だ、この寒気は!?)
「--なんで?」
剣士「--っ!!」
--声が聞こえた。驚く程の至近距離から。
「なぁ、どうして、」
突如現れたその乱入者は、ゆっくりと、剣士を振り返った。
勇者「殺しちゃ、駄目なんだ?」
純粋な憎悪がその瞳に宿っていた。
剣士(……コイツは、ヤバい、)
剣を握る手に力がこもる。すぐさま引き抜き応戦するつもりだった。
剣士(おいおい嘘だろ。剣が、動かない、)
第一C「……頼む、我慢、しろ、」
勇者「…………、」ボタボタ
剣士(たかが、掴まれてるだけだろ、素手で、刃を)
強く握りしめているのは一目でわかった。手からは滴り落ちる血液の量は浅くは無い傷を作ったことを示している。
剣士(ふざけんな、相手は同じ、)
勇者「……嫌だ」ザワッ
剣士「!!!」
考えるより先に身体が動いていた。剣は放棄し、後ろへ飛び退く。
勇者「…………」
剣士(今離れなかったら、確実に身体のどこかを、持って行かれていた、)
勇者「……、なんて、な。言うことは聞くよ。理由があってのことなんだろうし」
第一C「……、情報を、引き出さなきゃならない。頼めるか?」
勇者「治癒は、」
第一C「自分でやる」
勇者「わかった。死なないで」ヒュン
剣士(来る!!)フォン
ガキィン
腕を狙って振り下ろされた剣をなんとか受け止めた。
剣士(手ぇ怪我してる割には、強い押しだな!)
急場しのぎで生成した剣だ、長く刃を合わせるには強度が足りない。
剣士「お前、人間のくせに、魔族の味方かよ……!!」
勇者「………それは、悪いことか?」
剣士「ああ、悪い、ね……!!」
剣士(チャンスはある。殺す気は無いに加え、コイツは馬鹿だ。剣の刃を握った。仕込んだ毒効き始めるのも、--!!)
柄を握る手を見て気付いた。血が、止まっている。治癒を使ったようには見えなかった。そもそもあの毒は、治癒魔法を妨害するように出来ている。
剣士「まさか、」フォン
勇者「!」
放った魔力は棘となり、勇者の頬をかすめた。細い切り傷は一瞬にして消える。
剣士「……お前、俺と同類だろ」
勇者「…………、」
剣士「その自己治癒能力。そして、治癒魔法が効きにくい身体、してんだろ?身体能力や魔力も高い」
勇者「……何を、知って、」
剣士「対魔族として作られた人間兵器が、ここで何してんだ?」
勇者「!!!」
剣士「図星かよ!!」
剣を跳ね上げれば、あっけない程に、剣は勇者の手から弾き飛ばされた。
剣士「ははっ!!死ねよ!!」
第一B「死なねぇよ」
掌底が剣士の顎に叩き込まれる。
剣士「がはっ…」
その一撃が決め手となり、剣士は地に付した。
勇者「……殺したら、駄目なんだってさ」
第一B「じゃあ死なない程度に縛るか」
勇者「それなら俺にも出来る、から、Cさんと部下さんの所に行ってくれ、」
勇者「絶対、死なせないで」
第一B「わかった」
第一B(--合流してみれば、こうだ。こんな事になって、ブチギレしてると思ったら……その上でもいったか?)
第一B(ヤンデレ顔にしても、もう少し感情はあった。だが、あの目はどうだ)
第一B(まるで感情がない。冷たく、暗い……それこそ人形みたいじゃねぇか)
第一A「B!!手伝え!」
第一B「!!!」
Aの治癒魔法を使いこなす能力は決して低くはない。むしろ高い部類に入る。そのAが、手伝えと言った。
第一B「おいおい、間に合わないとか、言うんじゃねぇよな」
駆け寄れば、血溜まりはさらに広がっていた。
第一A「……治癒魔法が、効かないんだよ」
第一C「………毒、の、効果だな、こりゃ……」
第一A「面倒な物食らってんじゃねぇよお前!!」
第一C「……部下は?」
第一A「軽度。お前と違って死にはしない」
第一C「……なら、いいか」
第一A「なら、いいか。じゃねぇよ、何死ぬ気でいるんだよ」
第一C「……はは、悪い……実は、かな、りヤバい。……俺、死ぬかも」
第一B「だから死なねぇよ、って」
第一B「第一の嫌がらせ担当なめんな。すぐに解毒してやるから根性出せ。--で?噂の彼氏は見たか?」フォン
赤い雫のような光が、傷口へと入り込む。
第一C「……見てない」
第一A「無いと思うけど部下が変なの連れてきたらどうすんだよ。根性出せよ馬鹿兄貴」
第一C「よし、俺頑張る」キリッ
グォオオオオオオオ!!!
第一ABC「!!!?」
何かが吼えたらしい轟音、翼を広げた影が彼らに接近していた。
第一A「なにあの白い竜、」
第一B「すっげ、」
第一C「………マジか」ケホッ ボタボタ
第一「落ち着け!落ち着けって相棒さん!!ほら見ろ生きてる!!なんかズタボロだけど生きてるから!」
白い竜「…………、」
竜の暗い赤の瞳が、確認するようにCと部下を見た。
第一A「なに?背中に乗ってんのアイツ?」
第一C「白、の竜ーの、背にー、のってぇー」ゲホッ ボタボタ
第一B「お前結構余裕だな」
相棒「Cさん!!部下さん!!」スタッ タタタッ
一瞬にして、竜は一人の女へと姿を変えた。見慣れた姿が四人へと駆け寄る。
第一「ちょ、いきなり姿変えたら落ちる、って!!」スタッ
第一「ナイス着地!俺!」キリッ
相棒「死んじゃ嫌だ!死んじゃ嫌だよー!!」
第一C「……大丈夫、妹も俺も、死なないって」
第一A「治癒得意な奴が三人いるんだ。安心しろよ、必ず助ける」
第一B「……相棒さん、旅人さんの所に行ってやってくれ。アイツ、様子がおかしかった」
相棒「……勇者が?」
相棒が振り返った先に、勇者はいた。
相棒「……縛られてる知らないヒトの上でひたすらジャンプしてるけど、一応様子がおかしいに入るのかな」
第一B「……悪い、気のせいだったわ。いつもの目死んでる顔だわ」
第一「なに?あのトランポリンが部下ちゃんとCこんなにした犯人?」
第一A「そうだな」
第一B「当たり」
相棒「……じゃあ私も踏んでくるね」ザワッ
ゆらりと歩き出す背に、
第一C「……いや、ほんとに……殺しちゃ駄目だからな……?」
剣士の上。
勇者「……二人は大丈夫?」ピョン
相棒「大丈夫だよ。死なないって、言ってた」ピョイ
勇者「……そっか」ピョン
相棒「……Bさん、気付いてたよ」ピョン
勇者「マジか、気をつけないとな、」 ピョン
相棒「何か言われたの?」ピョン
勇者「言われた。俺、対魔族として作られた人間兵器らしいよ」ピョン
相棒「ふーん、対魔族ってことは魔族を殺すためにー、ってやつ?」ピョン
勇者「だろうね」ピョン
相棒「人間兵器かー、じゃあ変形とかするのかな」ピョン
勇者「……出来るかな変形。そうだよな俺兵器なんだろ?なら変形合体とか出来るんじゃないかな!」ピョン キラキラ
相棒「可変機?可変機?」ピョン キラキラ
勇者「うおお!!たまらん響きだ!何時かの日のためにイメージトレーニングを積んでおこう!」ピョン
相棒「えへへっ!そうだね!」ピョン ケラケラ
勇者「ふへへへっ!」ピョン ケラケラ
相棒「…………」ピョン
勇者「…………」ピョン
相棒「……勇者は、昔の事、思い出しちゃ駄目だと思う」ピョンピョン
勇者「……うん、俺もそう思う」ピョンピョン
第一(あの二人、ひたすらピョンピョンしてるなぁー)
第一C「…………」
第一A「おい、寝るなって、死ぬぞー」
第一C「………………、」
第一B「意識ある方が効くんだから、間違っても寝るなよー」
第一C「……………………、」
第一「……部下ちゃんの彼氏かぁ」ボソッ
第一「……クッチャクッチャーッス部下の彼氏させてもらってるチャーッス。俺達ィぶっちゃけ愛し合ってるんでぇ、邪魔しないでほしいってーかぁクッチャクッチャ」
第一「むしろあんた邪魔?みたいなチャーッス死んで万々歳ってやつみたいなクッチャクッチャーッス」
第一C「……………いやだ、そんな、何か食いながら挨拶する彼氏、絶対、嫌だ……」
第一C「チャーッスとか、そんなカタカナ過ぎる挨拶してくる彼氏、認めたくない……」
第一「意外と良い奴かもよ?」
第一C「嫌だ……嫌だ、やっぱり、認めたくない……彼氏とか、そんじょそこらの男に、妹を任せたくない……」ケホッ
第一「じゃあどんな彼氏なら認めるんだ?」
第一C「……俺と同じか、それ以上に妹の事が好きで、真面目で、包容力があって、聞き上手で、一定の収入があって、優しくて、それでも時には厳しくて、人望があって、いつも穏やかで、」
第一B「理想高すぎる女子か」
第一C「なにより、一番に……俺より、強くなきゃ、認めたくない」
第一A「…………お前なぁ」
第一C「妹を守れる男じゃなきゃ、認めたくない……!」
第一「はいはい、死にかけでもシスコンは絶好調」ケラケラ
第一「そんな彼氏、そうそういるわけないし。こりゃ見つかるまで生きるっきゃないな。お前が部下ちゃん守るしかないよな」
第一C「……だよな……妹を、安心して任せられる男が現れない限り、死ぬわけには、」
「部下さんっ!!」
第一ズ「!!!?」
駆け寄ってくるその人は、紛れもなく、
第一A「第二の、副隊長?」
第一B「なんでこんな所に、」
第一(!!!おいおい、まさか、)
第一C「…………」
第二副隊長「どうして、こんなことに……」
抱き起こした部下が意識を失っているだけだとわかると、安堵したようにため息をつく。
が、Cの方へ視線を向けると、その表情はまた青ざめた。
第二副隊長「C、さん……」
第一C「…………、」
--わかってしまった。
部下を心配するその顔が、同僚や友人に対するそれと違う事を。
第一C「……妹の彼氏?」
第二副隊長「はい」
第一C「……遊びで付き合ってるわけじゃないよな、」
第二副隊長「真剣に、結婚を前提にしたお付き合いをさせて頂いています」
第一C「……妹のこと、好きか」
第二副隊長「愛しています」
第一C「そっか…………」
血溜まりの中にあった手が、副隊長へとのばされる。
第一C「第二の、副隊長、」
第二副隊長「はい」
握った手は冷たい。
その事実に驚く前に、爪が食い込む程強く、握り返された。
第一C「認める、」
虚ろだが、確かな意志を持った視線と、重なる。
第一C「……妹のこと、任せた……幸せにしてやらないと、祟るから、な、」
かくんと、手から力が抜けたのを感じた。
第二副隊長「C、さん?」
まるで最初からそうであったかのように、瞼は堅く閉じられていた。
第二副隊長「そ、んな……Cさん……、お義兄さん!!!」
第一A「わぁああああああ!!やめろ耐えろ死ぬなCー!!!!!」アワワワワ
第一B「うわああああ!!!諦めんな馬鹿野郎ー!!!」アワワワワ
第一「あああああ!!理想の彼氏きちゃったから!理想の彼氏きちゃたからー!」アワワワワ
第一A「真面目、包容力抜群、聞き上手、優しくて時には厳しい、いつも穏やか!」
第一B「通称第二部隊の良心!人望厚いわ副隊長職だわそして滲み出る部下への愛!」
第一「Cの俺より強いという大人気ない条件を楽にクリア出来るその実力!!全兵士の中で最高物件の一人に数えられるガチムチマッチョ!!」
第二副隊長「え、……え?」
第一「これは任せちゃう!!」
第一A「そして諦めちゃう!!」
第一B「よって死んじゃう!!!」
第一B「--ってことで、副隊長。何かCを心配させる事言って起こせ。でないとコイツマジで死ぬ」
第二副隊長「なっ……!!」
第一「冗談抜きに早く。部下ちゃんに対する下ネタ系だとキレて飛び起きるかも」
第二副隊長「そんな、私は……部下さんと、お義兄さんと、仲良く三人で暮らしていきたいとしか、それが今の最大の願いなのに……!!」
第一「ごく自然に兄も家族計画に含まれていてびびった」
第二副隊長「だって、最愛の部下さんのお兄さんですよ!?好きになるに決まってるじゃないですか!!側にいてほしいじゃないですか!大好きなお兄さんと一緒なら、部下さんだって喜んでくれるはずです!!!」
第一「なんてこった」
第一B「やっぱり満点の男なんていないんだな」
第一A「ああああ!んなこと言ってねぇでさっさと『俺が揉みしだいて部下のまな板のような胸を少しは大きくしてやるよ!』とかぶはっ!!」バキッ
第一C「…………!!危ねぇ、綺麗な川渡りそうになってた……」
第二副隊長「お義兄さん!!」
第一(よくやったよA)ナムナム
第一B(お前偉いよA)ナムナム
第一A「」チーン
剣士の上。
相棒「あ、Aさんが殴り飛ばされた」ピョン
勇者「さすがAさん」ピョン ナムナム
相棒「これでCさんは大丈夫だね」ピョン ピョイ
相棒「ちょっと功労者を介抱してくるよ!」タタタタッ
勇者「おう、いってらー」ピョン
勇者「………………」ピョン ピョン
勇者「……あ、膝枕してもらってる」ピョン
勇者「なんて幸せそうな顔をしているんだろう」ケラケラ ピョン
魔王城。
病室。
城門兵後輩「よう、従兄弟がお見舞いに来たぞ」
密偵新人「なんだ、後輩じゃないっすか面白くない。あー、やだやだ、班長に会いたい、報告長い。早く帰って来て下さい班長ー!」
後輩「班長班長言いやがってくそっ!!俺だって早く先輩の所に戻りたい!!」
後輩「先輩が行ってきなさいって言うから!どうせ元気なのに案の定元気だし!」
新人「そのせんべいだけ置いてお戻り!あとで班長と食べる!」
後輩「こちとら班長によろしくって言伝頼まれてんだ!任務を遂行するまで帰れん!」
新人「面倒だな!」
後輩「おうさ面倒!だからせんべい食べながら待ってる!」ガサゴソ
後輩「ほら!新人もお食べよ!」
新人「うむ!頂こう!!」
後輩「………」パリポリ
新人「………」パリポリ
後輩「よく生きてたな」モグモグ
新人「まぁ、うん。死ぬかと思ったけど、隣国の兵士に助けられた」モグモグ
後輩「良かったな、班長も一緒に戻れて」パリポリモグモグ
新人「うん、良かった」パリポリモグモグ
新人「……でもマジ告白の邪魔された」
後輩「……どんまい」
魔王城。
執務室。
魔王「隣国の上層部はほぼ全滅、ね」
密偵班長「はい。城は勇者一行により落とされ、兵士も総じて人形化。現在隣国の魔王城は人形の巣窟となっています」
魔王「……隣国も、終わったわね」
班長「終わらせたくない兵士達に、俺達は助けられたわけです」
魔王「協力はしないわ。確かにあなた達を助けてもらった恩はある。けれど、その恩一つであの馬鹿魔王がやらかしたを水に流すなんて出来ない」
班長「……俺達が受けた恩は、魔王様に直に意見を届けるという事で返します」
班長「あちら側もわかってますよ、こちらがそう甘くはないことは。だから、回廊の件、隣国の裏にいた--協力関係にあった人間領の一国についての情報は、全て渡すと言ってきました」
魔王「一兵士の権限で?」
班長「いえ、次期魔王の権限で、です。末席とはいえ、唯一の生き残りと聞いています。血を重んじる隣国、彼女が魔王の後釜に座るかと」
魔王「……ぶん殴りにくい国になるってわけね」
班長「そうですね」
魔王「……要は丸投げでしょ?わかったわよ」
魔王「どうせ本命はこの国、狙いは私達。隣国の敵はこの国の敵でもある。まとめてぶん殴ってやるわ」
班長「まずは勇者一行ですね。あの剣士が捕縛されたのことですが、側近様は今そちらに?」
魔王「ええ、部下が狙われたみたい」
班長「……魔王様と側近様に近しい魔族。確かに、俺が知る範囲では部下さんが一番近い」
班長「魔法使いの使う魔法は、普通の魔法とは違います。あの時見られていたのは、おそらく俺の記憶。部下さんの記憶から探り出すのは、魔王様達についてと考えるのが妥当」
班長「ならば、あの魔法使いが使う人形の魔法は、俺達が知る物と全くの別物かもしれません」
班長「気をつけて下さい。あの勇者一行は強い、特に勇者は相当な手練れです。魔法使いが使う魔法もある、絶対にお一人で行動するのはお止め下さい」
班長「戦う時も、必ず何人かはお側に。側近様も、です」
魔王「わかった、覚えておく」
班長「……やはり、魔王城で迎え撃つおつもりで?」
魔王「魔王城も一種のシンボルよ。城主の私がいる方が、勇者一行を真っ直ぐこちらへ向かわせることが出来る」
魔王「下手に場所を変えて民間人に手を出されたら、たまったもんじゃないわ」
班長「わかりました。--では、俺は通常任務に戻らせて頂きます」
魔王「…………隣国へ?」
班長「はい。魔法回廊と今回の件は、隣国に核心の情報があると見ています。……隣国の通信妨害は酷い--原因はあの勇者一行でしょうが--こうなれば自分の足を使うしかないので」
魔王「…………、」
班長「ご安心を。もうヘマはしません。ですが、新人は休ませたいので置いていきます」
魔王「怒ると思うわよ」
班長「そうならないよう、すぐに戻ります。早急に叩かねばならない相手ですから」
魔王「無理させるわ。……お願いね」
班長「はい」
とある町。
勇者男「剣士が捕まった」
魔法使い「わぁ!それは大変です!」
僧侶「……とんだ間抜け」
勇者男「だが、剣士のおかげで手に入れた物が二つある」
僧侶(一定時、剣士の視界を奪ったというわけね。……さすが、勇者)
勇者男「一つは、大義名分。捕らわれた仲間を救うため、魔王城に乗り込む。勇者らしい、立派な行為だ」
僧侶「魔物の駆除に、大義名分だなんて」
魔法使い「勇者様にもいろいろあるんですよ!怒らないで下さい、僧侶さん!」
僧侶「怒ってなんか……」
勇者男「もう一つは、情報。イレギュラーの存在がわかった。--人間に愛想が尽きたのか。こんな所にいるとはな」
勇者男「この国には、あの勇者と女竜族がいる」
僧侶「!!」
魔法使い「!!」
魔法使い「勇者と女竜族ですか!?魔王と相討ちになったっていう!うわぁー、生きてたんですね~!」
僧侶「……人間を裏切るなんて、最低」
勇者男「相手にするな。奴らは強い。そもそもこちらは戦う事が目的ではない」
勇者男「近しい者を捕らえることは失敗した。が、最も楽な手段が潰されただけだ。--出来るな?魔法使い」
魔法使い「うう~、アレをやるんですね……了解です。あと二人ぐらいならまだ保ちますし!」
勇者男「明日、早朝。魔王城に突入する。人形の操作は全て依頼主に委譲しろ。無駄な魔力消費を抑えたい」
魔法使い「はいっ!では主様に委譲しますっ!」
勇者男「僧侶。お前には撹乱を任せる、好きにしろ」
僧侶「わかりました」
勇者男「こちらが突入したとわかれば剣士も動くだろう。魔王と竜族を魔法使いの前に引きずり出せさえすれば、勝ちも同然」
勇者男「勇者がいるからといって、計画に変更はない。やるぞ」
魔王城。
牢屋。
剣士「……………、」ブゥゥウン
剣士「…………、」ゥゥウン
ブゥゥウウウウウン
剣士「……ああ、あああああ!うるせぇええええ!!耳元!耳元に虫の羽音がああああ!!!」バタバタゴロゴロ
ブブブブブブ
剣士「ふっざけんな拷問でもされると思ったら滅茶苦茶変な魔法かけやがってぇええ!!耳元で虫の羽音がする魔法とか嫌がらせにしか使えねぇじゃねぇかぁあああ!!」バタバタゴロゴロ
剣士(くっそ、誰だ、俺に変な魔法かけたやつは、)ゥゥウン
剣士「く、っそお……」ブブブブ
剣士(…………、)ゴロン
剣士(縛られた上に目隠し。自由なのは口だけか。今は喋るか転がるかしか出来ねぇ……、)ブブン
剣士(……ここは、おそらく魔王城。敵の本拠地ど真ん中ってことか)
剣士(アイツ等は今頃侵入の準備か。……そりゃあ、急がないとマズいよな。仕掛けに感づかれても困る。なにより、あの勇者とその相棒がいるのがマズい)ブン
剣士(噂じゃ生きてるって話だったが、こんな所にいやがるとはな。……アレはさすがに俺の手には負えねぇ)ブン
剣士(あの勇者は俺達と同類だ。……人間に複数の魔法を同化させ、身体能力、魔力を飛躍的に高める研究、その--被験体)ブン
剣士(一部を除き、人間は魔族に比べ魔力の保有量、身体能力共に劣る。対抗手段として作られたのが、俺達)ブブブブブン
剣士(人間に無理やり魔法を同化させるわけだ、拒絶反応で死ぬのが普通。死なないでも廃人。苦しみながら生き残った一握りの成功例のために、どれだけの人間が死んだことか)ブブブブ
剣士(死にすぎた、いや、殺されすぎたからな。元々同化率の高い子供を対象に行われていた。今となっては禁忌の実験)ブブブブ
剣士(あの勇者もその被験体。あの実力からすると最高傑作と言っても良い。それが今や勇者協会の鼻つまみ者になっているとは。面白いな)ブブブブ
剣士(……通りで毒も効いた様子がない。治癒系魔法全般の同化に成功してるのか。同化した魔法が外部からの治癒を阻害し効きが悪くなるのが難点だが、)ブブブブ
剣士(治癒魔法が補助ですむ程の自己治癒能力を会得出来る。俺と同じだ、俺以外でこのタイプの成功例は初めて見る)ブン
剣士(僧侶でさえ、治癒魔法の同化には成功していなかった)ブン
剣士(成功例は誰しも精神に異常をきたし、誰しもが自分がおかしいと自覚がある。--が、あの勇者は群を抜いて異常だ。あの目はこの俺でさえ異常に感じる)ブン
剣士(確かに最低最悪と言われるだけはある。あんなもん、ただの化け物じゃねぇか)ブブブブブン!
剣士「………………、」
剣士(人の上でひたすら跳び続けるあの執念も異常だった。むかついたが、相手にしたくはない)
剣士(となると、さっさと仕事終わらせて逃げるのが上策ってわけだが)
剣士(……………、)
剣士(一度助かったと思わせて、また絶望させるのも良い)
剣士「ああ、楽しみだなぁ」ニヤニヤ
第二壱「…………」ジー
第二弐「…………」ジー
第二参「…………」ジー
翌朝。
魔王城。城門。
城門兵先輩「…………、」パリン
半分に割ったせんべい、一つは自分の口へ、もう一つは後輩へ。
先輩「ん」
城門兵後輩「ありがとうございます」
手渡されたせんべいを口に入れる。
半分でさえも大きいソレは全て入らず、口から一部が飛び出る形になっていた。
後輩「………む、」モゴモゴ ピクッ
察知した気配に、後輩は愛用の銃を手に取る。
視線は堅く閉められた門。
先輩「きちゃみたいれ」モゴモゴ
後輩「ふぁい」モゴモゴ
構えた銃、照準は門。
先輩「…………」ゴクン
先輩「来る、」
ドゴン!
瞬間、門が弾け飛んだ。
後輩「いひらす」フォン
巻き起こる砂埃。
その中心に弾丸が連続して撃ち込まれる。
後輩「…………」モゴモゴ
ドパパパパパ!
射撃音に終わりはない。
後輩の左右に浮かぶ魔法陣から、同じく魔法で形成された弾丸が撃ち出されていた。
後輩「…………」ゴクン
手応えは無い。
全て障壁で防がれているらしい。赤い壁が見える。
後輩「じゃあ、違うの、撃ち込んでみますか」フォン
わずかに途切れた射撃、その間を狙うように巨大な火球が二人へと迫る。
先輩「任せて」フォン
展開された障壁へとぶつかり、爆発。
四方に広がる爆煙に視界は遮られる。
先輩「嫌ね、曇り空に煙まで。朝なのに暗いじゃない」
後輩「まぁ、見えてはいるんすけどね」フォン
後輩の目は、煙の中を駆ける人影を確かに捉えていた。
左右に展開された魔法陣は広がり、銃口と共に方向を空へと向ける。
後輩「…………、」
撃ち出された弾丸は空へ昇った。
絡むように三つは重なり一つの大きな球体変化する。
それも、すぐに破裂した。
降り注ぐはまるで霧雨。
先輩「雨にしては、よく追うわよね」
後輩「一つ一つが追尾型の弾丸ですから」
連射以上の破裂音が響き渡る。
長く続くはずだった、
が、突如、その音は何かに飲み込まれたかように消え失せる。
先輩「--やるじゃない、」フォン
ドゴォオオオン!!
瞬間的に広がる衝撃波。
障壁が激しく揺れた、弾かれた弾丸が周囲で破裂する。
先輩「!!避けて!」
後輩「!!」
その場から転がるように飛び退いた直後、障壁に剣が突き刺さる、
だけでなく、障壁を突き抜けたその剣は、二人をかすめ地面に深々と刺さった。
先輩「ごめん、これは防げなかった」
後輩「……本気でないとはいえ、先輩の障壁を通過出来る魔法剣。これは得るべき情報っすよ」
追撃はこない。
視界は晴れないが、視認せずともわかる。
先輩「………こちら城門」フォン
繋げた通信回線に呼び掛ければ、すぐに複数から応答があった。
先輩「突破されました。二手に別れ城内に侵入したと思います」
後輩「気を付けて下さい。相手は障壁を通過する魔法剣を使います」
その言葉に、侵入者の力量を悟ったらしい。応答した面々の声音が真剣な物へと変わる。
先輩「手筈通り、私達は待機。城内を頼みます」
後輩「……………、」
風に流され消えた煙。
晴れた視界に、破壊された城門や大きく抉られた地面が映る。
後輩「……修繕費、どうなっちまうんだろう」
魔王城。
庭園。
植物「…………?」
好きな気配は覚えている。
どれも違う、感じたことのない知らない気配が近付いていた。
植物「ぐお?」
赤い花がぐるりと振り返った。
茎--というより幹と言った方が正しい--に絡みついた茨の蔓がわさわさと揺れる。
植物「…………、」
見たことのない女のヒトが歩み寄ってくる。
そう理解した。同時に、
弟〈出会ったら、まず挨拶〉
大好きな弟がそう言っていたのを思い出す。
上手に出来ると、彼は褒めてくれた。
植物「ぐおっ!」ペコッ
ヒトで言う頭を自身の赤い花に見立て、植物はお辞儀して見せた。
僧侶「……なんて、」
感じる視線は嬉しくなかった。
初めての感情に戸惑う。
僧侶「汚らわしい、化け物」フォン
魔法陣がきらめくのを、見た。
魔王城。
第三部隊詰め所前。
第三2「おーおー、始まったみたいだな」
第三3「騒がしくなるねぇ」
第一弟「…………心配だ、」ポツリ
第三2「あの赤いのが?」
第三3「植物ちゃんには少なくとも数日、庭園の隅で隠れるよう言ってあるんでしょ?」
第一弟「はい。何時戦闘が始まるかわかりませんし、おとなしくしているようキツく言い聞かせてます」
第一弟「でも、何が起こるかは理解していないと思うんです。あの子は敵意や殺意……悪意の類をまだ知らない」
第三3「そうだねぇ……ここで植物ちゃんにそんな感情抱くヒトなんかいないもん」
第三2「まぁ怖がられることはあってもソレは無いよな」
第一弟「それに……あの子は目立つ。距離があっても、庭園の隅に咲いた綺麗な赤い花には目がいっちゃうんです」
第三2「赤い花の怪獣だからな、あの大きさは」
第三3「綺麗だけど怪獣の領域だよね、あの大きさは」
第一弟「…………やっぱり、心配だ。何かあってからじゃ遅いし、いやでも……」
第三3「いいよう、行っておいで」
第三2「他の奴らにはちゃんと言っておくからさ。周りじゃドカンドカンやることになるんだし、流石のアイツもビビるだろ」
第三3「戦力が足りてないわけでもないんだし。植物ちゃんの側にいてあげなよ、ね?」ニコッ
第一弟「……すみません。俺、行きます!」タタタタッ
第三2「おう」
第三3「植物ちゃんによろしくー!」ニコニコ
第三2「…………あ、やべ。弟に通信回線繋げとくの忘れた」
第三3「あちゃー、困ったねぇ。弟君回線繋げるのちょっぴり下手だもんね」
第三2「……合流して、こっちに侵入者が来なかったら……様子見に行くがてら回線繋げに行くか」
第三3「賛成~」
魔王城。
庭園。
第一弟(……庭園が、燃えている?)タタタタッ
焼け焦げたにおい。
激しい戦闘音は城内だ、ちゃんと耳に届いている。
どちらかと言えば騒がしいはずだが、何故か静かに感じてしまう。
第一弟(さっきから、胸騒ぎがする。)
あちらこちらで燃えているのは、戦闘で流れた魔法がそうさせたと考えた。
第一弟(今、庭園には植物しかいないのに……わざわざ狙われるわけ、ない)
自然と足は速まっていた。
第一弟(どうして、あんなに目立つ赤い花がどこにも見えないんだろう)
第一弟(……大丈夫だ、またどこかに移動しているだけだ、もしかしたら戦闘音に驚いて隠れているのかもしれない)
第一弟(早く探してあげないと、)
庭園の奥、開けた場所に出る。
出迎える植物がいるはずだった。
第一弟「--あ、」
そこには女が一人、立っていた。
植物「」ゴォォオオオ
そして、炎に包まれているのは。
僧侶「--またゴミが」フォン
女が振り返る。
人間だ。
第一弟「植、物……」
植物「」ズシン
魔法を形成する女の背後で、植物だった物は崩れ落ちた。
僧侶「一緒に燃えなさい」フォン
放射される炎に手をかざした。
触れた、瞬間。魔法は発動。
第一弟「…………」フォン
溢れた出た濁流が炎を消し去り、
僧侶「!」
僧侶を飲み込む。
一瞬にして辺りは水浸しになった。
僧侶(……油断していたとはいえ、この私をずぶ濡れに……!魔物が、よくも……!)
僧侶「許さない、」
第一弟「許、さ、ない……?」
僧侶「!!」
声は後ろから。
第一弟「それは、こっちの台詞だ、」
跪くその手には亡骸があった。
湿ったそれは、軽く握るだけで崩れる。
僧侶(ガキだと思ったけれど、随分な目をする)
第一弟「絶対、許さない」
僧侶「自ら進んでゴミ片付ける、この善行を理解出来ないなんて、やはり、ヒトの姿は形だけなんですね」
第一弟「…………、」キィイイイン
魔力が溢れ出す。
高威力魔法形成時特有の高音が、広がっていく。
第一弟「殺してやる」
僧侶「殺す、ですって」キィイイイン
僧侶「口だけは達者なこと」
第一弟「」ヒュン
先に踏み込んだのは弟。
殺意を持ったその手は僧侶へ向かう。
バチバチバチバチバチバチッ!!!
高威力魔法同士の衝突。
激しい火花が散る、余波は暴風となり吹き荒れる。
第一弟「--、」
空いた左手が僧侶の魔法に触れた、一瞬にして無数の切り傷が刻まれる、
第一弟(魔法、消去)
僧侶「なっ、」
同時に僧侶の魔法は消滅。
すぐに魔法を展開しようとするが、
第一弟(威力増加、)フォン
さらに威力を増した魔法が僧侶に襲いかかった。
僧侶「!!」フォン
障壁すら半端のままに、僧侶は弾き飛ばされる。
第一弟(追撃、)キイイイン
第三2「魔力濃度高いわけだよな、弟がマジになってる」
第一弟「!!」
第一弟(第三の……、)
第三4「とりあえずさ、落ち着けよ弟。らしくないぞ」
第一弟「…………皆、さん……」
僧侶(新手、来た!また、駆除すべき魔物が増えた!!)
第三3「こっちを睨んでる女が侵入者ってやつかなぁ?」
第一弟「は、い」
第三3「ねぇ、弟くん、どうしたの?4くんの言うとおり、らしくないよ」
第一弟「俺の、せいで……植物が……!俺がちゃんと、側にいてあげなかったから……!!」
第三3「植物ちゃんが?」
第三4「まさか、あのべちゃべちゃの黒い塊って植物?」
第一弟「…………はい」
第三2「見事にフラグ回収して襲われたってか」ウンウン
第一弟「…………」グスッ
第三2「--で、本体は?隠れてるんだろ?」
第一弟「……え?」
第三4「一部がああなら、怪我してるよな。……植物に治癒魔法って効くのかな」
第一弟「一部って、え?」
第三3「戦闘は僕達に任せて、弟くんは植物ちゃんについててあげなよ」
第一弟「それって、どういう、こと、ですか?だって、植物は!」
第三4「?見当たらないし、隠れてるんだよな?」
第一弟(何を、言って……?)
第三3(弟の様子が変、心当たりがあるとするならば、)
第三3「--あ、そっかぁ!第一の副隊長さんが、弟くんにはまだ秘密にしてるって言ってたねぇ!」
第三2「え、なに?お前一番懐かれてるくせに知らなかったのか?あの黒こげは植物の一部に決まってるじゃねぇか」
第三「だってアイツの本体さらに馬鹿でかいんだから」
第一弟「」
第三3「死んじゃったと思ってたの?」
第一弟「」コクン
第三3「大丈夫だよ。あの黒こげの下、よく探してごらん?きっと、いると思う」
第一弟「……!!」タタッ
駆け出す弟--に襲いかかる魔法は
第三4「危ないな」フォン
障壁によって遮られる。
僧侶(--むかつく、むかつく、)
第三2「じゃあ、いっちょやるか、」フォン
第三3「そうだねぇ」フォン
愛用の武器は手に、その切っ先を僧侶へと向けた。
僧侶「むかつく」ザワッ
溢れ出した魔力が黒い淀みとなり、漂う。
第三4(視認出来る魔力を持つか、城門組の報告通り)
第三4「弱い相手じゃなさそうだ」
第一弟(--これが、一部?)
燃えた亡骸をかき分ける。
第一弟(この下に、いるかもしれない、って、)
ピョコン
第一弟「--あ、」
見覚えのある蔓が飛び出した。
どうやらそれは地面に繋がっているらしい。
第一弟「う、うぅ……」グスッ
鋭い牙が覗くその先端は、蛇に似ている。
第一弟「植、物……」
声に反応したらしい。
伸ばした手に、こつんと当てられた。
第一弟「ごめん、ごめんな……怖かっただろ……もう大丈夫だからな……!」
植物「…………くおっ!」
第一弟「でも、本体が地面にいるなんてきいてないんだからな……!」
魔王城。
牢屋。
剣士(……始まったか)
ヴゥウウウン
剣士(……俺の適応能力を褒めたい。たかが虫の羽音、もう気にならない。どうせしばらくたったら自然消滅する魔法だろうし)
剣士(さて、勇者の奴は……お、ちゃんと繋げてるな。何時でも人の視界もってく代わりだ、魔力、持ってくぜ)フォン
剣士(この場そのものを一気に吹き飛ばしたい所だが、形成に時間がかかる魔法は、外にいるだろう看守に気付かれるかもしれない)
剣士(まずは適当な場所に転移。そこで拘束と目隠しをなんとかして、参戦)
剣士(こちとらストレスたまってんだ、暴れさせてもらうぜ……!)ヒュン
第二壱「標的の逃走を確認」
第二弐「追尾開始」
第二参「任務続行を報告」
魔王城。
病室前。
剣士(さぁて、拘束具は勇者の魔力使ってぶち壊した)
剣士(勇者の魔力は……もういらねぇな、拘束具を外したことで俺自身の魔力も回復するし)
剣士(目隠しも外して、と)スルッ
剣士「あ」
密偵新人「あ」
新人「何でこんな所に、……ああ、そうか、逃げ出したってわけっすね」
剣士「なんだよ、生きてたのかお前」
新人「とりあえず、アレです」
新人「班長の仇、とらせて頂きます」
剣士「お、もう一人はちゃんと死んだか。良かった良かった」
剣士「じゃあ安心して後を追わせてやるよ」ニタリ
新人「後?今すぐ追いたいに決まってるじゃないですか。班長ってば私を置いて一人でさっさと行っちゃうし」
剣士「へぇ……なら、」
新人「というか、『もう一人はちゃんと死んだか』って何のことですか。もう一人って班長の事ですか失敬な、班長は生きてますよピンピンしてますよ」
剣士「は?」ポカーン
剣士「……いや、お前さっき仇って言ったじゃん」
新人「…………」
新人「その場のノリですよ、言葉の綾です。そりゃつい言っちゃいますよ大怪我させた張本人が目の前なんすから」
剣士「………なんだそりゃ」
新人「とにかく私忙しいんです。さっさと死ぬかおとなしくお縄について下さい。仇よりも私班長の所に行きたい」
剣士「……あー、うん。じゃあ行かせないことにするわ」
剣士「馬鹿言ってるのも今の内--ってな、」ピクッ
剣士の動きはピタリと止まった。
剣士(………………、)
凝視するのは、新人の後ろ。
廊下の曲がり角。
剣士(………なんだ、突然寒く)
新人「あ、息白い」ハァー
立ち込める白いもや。
足元から這い上がる冷気。
それは間違いなく曲がり角の先から流れ出していた。
「逃げたみたいだ」
「探さなきゃね」
剣士「!!」ビクッ
剣士の耳は、はっきりとその会話を拾った。
「あ、大変だ。殺していいか許可もらってない」
「うっかりしたね。仕方ないからそのまま生体トランポリンとして使おうよ」
「ひたすら跳ぶか。どれだけ高く跳べるか勝負しようぜ」
「いいよ。ついでにどっちが先にバランス崩してトランポリンから落ちるかも、勝負しようよ」
「それいいな」
剣士「うあ、ああ……」
剣士(感じる……歪みきった魔力を……!)
「どこだろな」
「どこだろね」
「でも近いよな」
「うん、近いよ」
剣士(嘘だろ、早すぎだろ、何ですぐに来ちゃうんだよ、)
ひたり、ひたり。
足音が近付く。
新人「ひんやり涼しいなぁ」
「いるね」
「いるな」
「この先に、」
「この曲がり角の先に、」
「いるよね」
「いるよな」
剣士(ヤバい、ヤバいヤバいヤバいヤバい!!)
剣士(逃げないと、そうしなければいけないのはわかってる、だってのに!)
剣士(足が……震えて動けない……!)ガクブル
足音が止まった。
声が聞こえない。
不自然な静寂。
剣士(……く、る……)
そして、現れたのは腕だった。
ゆっくりと伸ばされるそれ、動く指先は角をとらえる。
みしりと壁が軋む音がした。
剣士(いる、曲がり角の先、アイツが、いる……!)
瞬きすら躊躇う。
現れるであろう、その曲がり角から目が離せない。
剣士(出てくるなら、早く、出てきやがれ……!)ドッドッドッ
剣士(ああくそ、心臓がうるさい)ドッドッドッドッドッ
この静寂、自分の心臓の音が周りに聞こえるのではないかと錯覚する程だ。
剣士(--落ち着け、落ち着け……返り討ちにしてやれば、いい話だ……)
深く息を吸い、吐いた。
瞬き、その一瞬。
剣士「ひぃ……!」
その一瞬で、それは姿を現していた。
見開かれた目が、
光の感じない赤い目が、こちらを見ていた。
半笑いの口が、
勇者「 み い つ け た 」ニタリ
剣士「ひっ……ぎゃあああああああああああああ!!!!」ダダダダダダッ
新人「あ、逃げた!」
勇者「………………」
相棒「………………」ヒョコ
勇者「逃げちゃった」シュン
相棒「逃げちゃったねー」
新人「あっ、例の勇者さんと相棒さんですよね。登場がプチホラーで誰かと思いました」
新人「ついでに初めまして、ですよね。ゆっくりと自己紹介したい所ですが、」
新人「逃げたあいつ、頼めますか?」
勇者「合点」ヒュン
相棒「承知」ヒュン
新人「よし、あいつの件はよしとして。私は班長を追いかけるぞー!」
走る、全力で。
足音は無い、
が、接近する気配はあった。
剣士(なんで、なんでなんでなんで!!)ズダダダダダダダ
相棒「遊ぼうよ」
そして、聞こえる声は不自然に近く感じる。
勇者「遊ぼうって、」
剣士「さっきまでひたひた足音たててたくせに何で無音で走れるんだよ!!」
剣士(振り返れねぇ!絶対!笑ってる、あの目が、笑ってる!!)
勇者「遊ぼうって!なぁ!俺達とさぁ!!!遊ぼうって!ひゃは、ひゃはははははっ!」
相棒「楽しいって!だからさぁ!遊ぼうよ!!なぁ!ははっ!あははははははは!!」
剣士(しかも二人っ!!なんだよコイツら二人そろってキチガイ属性かよ!)
相棒「はは、あはっ!いいよ、追いかけっこか!捕まったら負けでいいんだな!!それでいいんだよなぁ!!」
勇者「追いかけっこ!?追いかけっこか!ひゃは!追いかけっこならさぁ!!」
勇者「足だけあれば、充分だよな」
剣士「!!」ゾクッ
直感が身体を反転させる、
ガキィン
防いだ斬撃、剣は弾き飛ばされた。
剣士「…………、」
剣士(今、防がなければ……右腕を、持ってかれてたな……)フォン
形成した剣は手に。
勇者「…………」ザワザワ
相棒「……なんだ、追いかけっこは終わり、かぁ……」ザワザワ
剣士(鏡なんて見ないからな……俺も、こんな顔で笑ってたのかね、)
勇者「じゃあ、手も、いらないな」
剣士「ははっ、んなの、違うだろ」
相棒「安心しなよ……絶対、死なせない」
剣士「勇者一行の顔じゃ、ねぇよ」
魔王城。
王の間。
剣士『勇者一行の顔じゃ、ねぇよ』
第一「何であんなに歪んだんだろうな、って考えちゃうよなー」
第一A「映像越しでも溢れ出る狂気。……確かにさ、人間に向けて良い勇者一行の顔じゃないよな」キュイン
第一B「何考えてるかわからない時あるよな、」
第一B「剣士の上でぴょんぴょんやってた時はこうじゃなかったけど」
第一B「ぶちギレとか、そういう類のものじゃないと思うわ、これは」
第一「……何を重ねてるんだろう」
魔王「………状況は?」カリカリ
第一A「はい、侵入者は三人……逃げ出した剣士を含め四人としておきます」
第一(……二人そろって机持ち込んで執務か……)
第一(そうだよな、執務室で待ち構えるわけにはいかないし、狙われてるってわかってる以上先陣切って迎え撃つわけにもいかないし、仕事はたまるしで)ウンウン
第一A「--僧侶の女は庭園にて弟、第三と交戦中。剣士の男は旅人さん達と……交戦中」
魔王「……勇者だし、人間側だから、交戦するのだけは止めたんだけど」
魔王「やっぱり、行っちゃったみたいね。有り難いんだけど、これで良かったのかしら」
魔王「あんな顔までさせて、」
第一「ドン引き、しないんですねー」
魔王「理由があるもの。あなた達に懐いてたじゃない、あの二人は」
側近「それに、俺達もヒトの事を言えない」ボソッ
側近「……侵入が確認された四人がいるなら、協力者が他に存在しない限り、部下達の方には行ってないと考えていいか」カリカリ
第一A「あちらからの通信は無いですし、なにより第二の副隊長がついてますから」
第一A「一つ、危惧することが。魔法使いの女ですが、存在が希薄すぎます。捉えられないわけではないですが、あの希薄さはおかしい」
第一B「ヒトじゃないのかもな」
第一A「交戦せず物陰で震えているようです、が……無視は出来ないかと」
側近「わかった。誰かそちらに回そう」
魔王「それで、侵入した勇者は?」
第一A「!!……あ、今、ちょうど。この広間へ続く扉の前で」
第一A「うちの副隊長と……第二の隊長が、遭遇しちゃったみたいです……」ウワァ
少し前。
魔王城内。
勇者男「剣士は逃げたか、」
魔法使い「あ、勇者様、魔力貸してあげたんですね~」
魔法使い「僧侶さん、中心で騒ぎを起こすと思ったら、何故か城の隅に行っちゃいましたし、」
魔法使い「剣士さんはちゃんとやってくれると良いですね!」
勇者男「……所詮同類だ。期待はしていない」
魔法使い「私もですかぁ?」
勇者男「ああ」
魔法使い「えへ、ですよね~!」
勇者男「だが、やるべきことはやってもらう」
魔法使い「わかってますよぉ!では、私は勇者様の邪魔にならないよう、こっそり隠れてますね!」タタタタッ
勇者男「…………」
勇者男(人形を作り出すあの者も、また人形)
勇者男(……面倒極まりない。勇者協会も、回りくどい事をする)
「む!!どうやらここに来たようだぞ第一の!!」
「もう少し静かに話せないのかしら」
勇者(女の声、二人分の気配)
勇者(魔王は近い。おそらく、この先の扉の向こう。ここで姿を現すとなれば)
勇者「相当出来ると見て良いか?そろそろ退屈していた所だ」
第二隊長「おおっ!貴様だな!侵入者というのは!!」
第二隊長「よくもこんな時に来てくれたな!!タイミング悪すぎだぞ!!」
第二隊長「ヒトがせっかく我が永遠のライバル第一のから女子力とやらを盗んでやろうと企んでいたのに!!」ビシッ チャプン
第二隊長「見ろ!!お茶会の最中だったんだぞ!!」チャプン
第一副隊長「いつまでティーカップ持ってるつもりなのかしら。気を付けないと零れるわよ」アキレ
第二隊長「ならば飲むしかあるまい!!」グイッ
第二隊長「ぷはー!!なかなかの味だ!!第一の!誉めてやろう!!--それで、茶菓子はないのか!?」
第一副隊長「…………走って取ってきたら良いじゃない。ついでにティーカップ置いてきなさい。割ったら怒るわよ」
第二隊長「持ってないのか!むう!侵入者を前にこの場から離れる事などできん!仕方ない、茶菓子は諦めよう!」
第一副隊長「……はぁ、」
第二隊長「何だ!?ため息か!?ため息一回事に女子力が1ポイントずつ減ると誰かが言っていた気がする!」
第二隊長「ふははは!第一の!貴様の1ポイントは私がいただいた!」スウゥゥゥ!
第一副隊長「燃えればいいのに」ボソッ
第二隊長「なにっ!?怨嗟だと!?そんなもの吸い込むわけにはいかん!吹き飛ばしてくれる!」フウゥゥ!
第一副隊長(爆散すればいいのに)
勇者男「………………、」
勇者男「……美しい、」
勇者男「そこの、美しいお方!私と結婚し、生涯共にいてはくれないだろうか!」
魔王城。
王の間。
第一A「扉の外は正直カオスな展開です」
第一B「勇者ってなんなんだろうな」
第一「勇者って基本アホなのかな」
魔王「…………、」カリカリ
側近「…………、」カリカリ
第一(見なかったことにしてる……)
王の間、扉の向こう。
第二隊長「結婚だと!?私とか!?」
勇者男「すまない顔は好みだが腹筋に興味はない」
第二隊長「」シュン
第一副隊長「ってことは……私、かしら?」
勇者男「はい。美しい、貴女。貴女さえいればいい。魔王や竜族など、もうどうでもいい」
勇者男「俺と一緒に、来てくれないか?」
第一副隊長「ふふっ、お気持ちは嬉しいんだけ」
第二隊長「第一の、第一のっ。やっぱり腹筋割れてる女ってダメなのかなぁ…?」クイクイッ
第一副隊長「……………」
第二隊長「需要ないのかな……、腹筋女って需要ないのかなぁ……」クイクイッ
第一副隊長「子供みたいに服の裾を引っ張るのはやめなさい」
第二隊長「だってだって、初対面の人間に興味無いって切り捨てられちゃったし、」
第一副隊長「ああ、もう。大丈夫。腹筋だってどこかしらに必ず需要があるわよ」
第一副隊長「それに、顔は好みって言われたでしょ?黙ってれば可愛いんだから永遠に黙ってれば良いのにって、私ずっと思ってたわ」ニコリ
第二隊長「なんだと!私可愛いのか!?第一のから見て私は可愛いのか!!ふふっ……ふはははっ!さすが私っ!!」
第一副隊長「口を開いた瞬間から爆散したら良いのにってずっと思ってるわ」ニコリ
第二隊長「」シュン
第二隊長「だがめげん!!」キリッ
第一副隊長(うざい)
勇者男(ふむ、邪険にしながらも結局構ってやるS系お淑やか美女と腹筋元気っ娘の絡みか、悪くない)
王の間。
魔王「……………」カリカリ
側近「……………」パラパラ カリカリ
第一A「……第二の隊長だけだよな、副隊長にああして絡めるのって……」
第一(あの勇者今真面目な顔してアホなこと考えたな)
第一B(……需要ならここに)
王の間。扉の向こう。
第一副隊長「……それで、返事の続きだけど」
第一副隊長「お気持ちは嬉しいんだけど、お断りさせていただくわ。だって私達、まだ出会ったばかりじゃない」
第一副隊長「おまけにあなたは勇者で、狙いは私が大好きなこの国の魔王様とその側近様」
第一副隊長「私がいれば、なんて、まるで脅しじゃない。私が身代わりになれば魔王様達には手を出さない、そう聞こえるわ」
第二隊長「なんだと!?ならん!それはならんぞ!!魔王様達や第一のには」
第一副隊長「あなたは黙ってて」
第二隊長「」シュン
勇者男「……確かに、そうともとれる。使う言葉に誤りがあった、すまない」
勇者男「だが、俺は本気だ。貴女が否と言うだけで魔王様には手を出さない。この城の兵や、民にだって」
第一副隊長「そう。じゃあ、この国で誰かを傷付けるのはやめて下さらない?」
勇者男「了解した。武装は解除する」フォン
第一副隊長(へぇ……言葉通り、本当に手持ちの武器を消してみせるのね)
勇者男「君の姿を近くで見たい。もう少し側に寄っても」
第一副隊長「駄目ですわ」ニコリ
勇者男「ふっ……身持ちが堅いな」
第二隊長「なんだ!?戦わないのか!?」
第一副隊長「うるさいから黙ってて」
第二隊長「」シュン
第一副隊長「でも、そうね。情報を提供してくれるのなら、一歩だけ、近付くのを許すわ」
勇者男「この俺を釣るか。……ますます貴女が欲しくなった」クスッ
勇者男「貴女なら、俺の妻達ともすぐに仲良くなれるだろう」
第二隊長「!?」
第一副隊長「………………今、妻達、と仰いました?」
勇者男「ああ。言ったが」
勇者男「貴女は……実に好みだ。そうだな、第三夫人として迎えたい」
第一副隊長「…………正妻ではなく、愛人として?」
勇者男「面白い冗談だ。確かに貴女は美しいが……」
勇者男「すまない。私は勇者協会を支える格式高い家の出身でな。妾にとるならまだしも、魔族を正妻にとるなんて有り得ないことなのだ」
第二隊長「…………」ザワッ
勇者男「安心してくれ、例え魔族とはいえ、貴女を奴隷のようには扱わない。扱わせない。地位の高い者は美しい魔族を飼う事が多い。私の妾とあれば、貴女はそれなりの地位につくことになる」
勇者男「私の一生をかけて、貴女を全力で愛でよう。何一つ不自由はさせない」
第一副隊長「この話、お断りさせてもらうわ」
勇者男「やはり、住み慣れた場所を離れるのは辛いか。同族が恋しいのなら、魔族の奴隷を好きなだけ側につけよう」
勇者男「寂しいのなら、友人を共に連れても良い。見目麗しいのが条件となるが、そこの貴女なら、合格だ。体つきが許容範囲内なら求婚していた。本音を言うと二人セットで欲しい」キリッ
勇者男「……美しい貴女が思っている以上に、俺に求婚されるということは、この上なく名誉な事なのだ」
勇者男「どうだろうか、受け入れてくれる気に--」
第一副隊長「とりあえず死ねよ、と思いました」ニコッ
勇者男「辛辣だな……だが、美女に吐かれる毒というのも、悪くない」
第一副隊長「ごめんなさい。あなた、不快なの」
第一副隊長「だから、お喋りはもう終わりにしましょう」ザワザワ
第二隊長「…………」ザワザワ
勇者男「待ってくれ。俺は貴女と争う気は無い。美女を傷付けるなど出来ない。魔力を抑えてくれないか?」
勇者男「抑えてくれるのなら、そうだな。欲しくないか?情報が」
第一副隊長「!!」
第二隊長「!!」
勇者男「元々、乗り気では無い任務だ」
勇者男「美女とお茶が出来るなら、私は口が軽くなるだろう」
第一副隊長「…………、」
第二隊長「第一のっ、第一のっ、どうするんだ?」
第二隊長「お茶するのか?私はお茶の続きがしたいぞ!でもコイツの参加はなんか嫌だ!」
第二隊長「だってコイツ変だもん!」ビシッ
第一副隊長「お願いだからちょっと黙ってて。あとあなたも大概だから。変だから。面倒だから」
第二隊長「……………」シュン
王の間。
第二隊長『だがめげん!』クワッ
第一A「第二の隊長揺るがないな……」
第一「こりゃ勇者の方は安心かなー」
第一B「魔王様達を除けば、魔法で城内最高火力叩き出す副隊長と、拳で最大火力叩き出す第二の隊長だ」
第一B「何かあっても大丈夫だろ、うん」
第一「俺達の出番は無さ、」ピクッ
魔王「…………、」
側近「…………、」
第一A「--庭園。ちょっとマズいことになったかもしれない」キュイン
第一「出番、くるかー?」
第一B「………、剣士も、あの進行方向だと件の庭園についちゃうな。--で、魔法使いは?」
第一A「来ないで下さいって泣き叫びながら城内逃げ回ってる」
第一B「何しに来たんだそいつ……」
呆れて言った、その瞬間。
グオオオオオオオオオオッ!!!
地響き、そして咆哮が城を揺らした。
側近「……俺じゃないぞ」
第一A「いや、わかってますって」
ちょっと前。
庭園。
第三2「もう少しやると思った、」
と、欠伸。
第三3「キミ、期待以下だねぇ」ニコニコ
と、笑う。
僧侶「………………、」ズタボロ
その差は歴然だった。
外見、全く乱れの無い二人に対し、
僧侶は傷だらけで立ち上がることも出来ない。
第三4「結構早かったなー、」
第三4(まぁ、本調子の二人に一人で勝てるなら相当だけど、)
第三4(弱くはないのレベルなら、善戦はした方か?)
僧侶「く、そ……!」フォン
第三4「はい、妨害」フォン
魔法は展開の段階で潰される。
力でも、魔法でも、勝てない相手だった。
第三2「おとなしくしてろって。馬鹿でもわかるだろ。この力の差はよ」
僧侶(--馬鹿、ですって、)
第三3「そうだよぅ。まぁ、その強さで城に乗り込む時点で結構なお馬鹿さんだけど」
僧侶「……っざ、けんな……」ザワッ
第三4(……ん?魔力の質が……変わった?)
僧侶「……の、……みが……」ザワザワ
第三2(魔力濃度、また上がるか)ピリッ
第三3(へぇ……まだ底じゃなかったわけね)ピリッ
第一弟(…………あの魔力、構成、)
僧侶「世界の、ゴミがああああああ!!!」フォン
第三4(速い、妨害出来ない!)
僧侶の身体が淡く発光する。
弾かれるように飛びかかった、
第三2「よっと、」ヒョイ
僧侶の手は宙をかく。
なりふり構っていられないのか、それは人の動きというより、
第三3「獣みたい。悪あがきにしてはもう少し速く--」
第一弟「そいつに触れないで下さい!」
第三3「え、」
僧侶「……………、」
第一弟「とにかく離れて!今そいつが使っている魔法は危険です!」
第三2「お、おう」
僧侶から距離をとった二人。
依然発光したまま、僧侶は動かない。
第三2「で、弟。何?あの魔法」
第一弟「あれは、」
第三4「第一の専売特許ってやつだろ?」
第三4「共倒れ道連れ、第一が使うえげつない魔法」
僧侶「………、ふふ、ふふふ」
僧侶「そう、そうよ、ゴミに教えてあげる、この痛みを、」ヒュン
第三2「あ、やべ」
第三3「4くんそっち行った!」
第一弟「解除して下さい!触れた瞬間発動します!」
僧侶「まずはお前だ!」
第三4「こんなんばっかだと人間が怖くなるよなー」フォン
触れようとした右手は合わされ、
バシュン
発動していた魔法は無効化される。
僧侶(解除--出来ないとは思っていない)
僧侶の左手が鋭く尖る、
魔法は無効化された--が、左手は別の魔法が展開発動されている。
僧侶(やれる!)
第三4「……………」ユラリ
刃物へと変わった左手が、4へと迫--
「やっと出番かー」
僧侶「え、」ザシュ
鮮血が散る。
斬りつけられたのは僧侶だ。
僧侶(どこから、出てきた、)フラッ
何が起きた、この状況が理解出来ない。
一人だったはずだ、それが今、二人に増えている。
僧侶(--ああ、そうだ)
4の姿が揺らめくのを見た。
その瞬間だ、斬られたのは。
僧侶(そうか、そうか……!!)
覚えがある、そんな魔法。
僧侶(ずっと、その影に、潜んでいた!!)パタッリ
第三1「いや、出番無いと思って焦ったわ」
第三4「カウンター係なんだから無い方が良いだろ。俺の安全的に」
第三2「おー、見事に決まったなー」ケラケラ
第三3「1くんカッコイー!!」ケラケラ
第一弟「あ、やっぱり後ろにいたんですね!」
僧侶(…………ああ、あ、身体が動かない)
僧侶(--私が、負ける?死ぬ?)
僧侶(世界のゴミ、魔族に、負け……)
僧侶(て、たまるか……!!)フォン
フォン フォン フォン フォン
第三4「お、まだ動くか」
第三1「下手に動くと出血で死ぬぞー」
第三2「しつこいとモテんぞー」
第三3「僕より可愛くない子はタイプじゃないなー」
第一弟「……これは、召還……魔法陣?こんなに、大量に、」
フォン フォン フォン フォン フォン
第一弟「えっと、和やかに話してる場合じゃあ、」
僧侶「みんな死ねえええええ!!」ザワッ
第三5「呼ばれてないけどじゃっじゃじゃーん!!!」フォン
僧侶「!!?」シュルン
第三5「よいっと!!縛られる方が好きだが、縛る方もまぁ嫌いじゃないぜ!!」キリッ
第三1「変態きた」
第三2「なんで来た」
第三3「うざいきもい」
第三4「もう喋るなよ」
第三5「ありがとう」ゾクゾク
第一弟「……えっと、あの、召還魔法陣、発動しちゃってます……」
僧侶は拘束されている。
だが、召還魔法は完全に発動していた。
第一弟「庭園に魔物に溢れちゃいます……」
僧侶(今に見てろ。私の魔物は、そこらの魔物とは違う、)
僧侶(私の代わりに、必ず、駆除して)
第三5「ああ、大丈夫。わざとわざと」ケラケラ
軽い足取りで5は弟へと近付く。
第三5「植物ちゃーん」
いや、正しくは、植物だ。
第三5「そろそろ弟に本体見せちゃって良いんじゃない?」
弟「え……?」
植物「くぉ……、」
第三5「地上はこれから魔物で溢れるぞ。それはそれは、美味しそうな感じのが」
植物「くおっ!?」フリフリ
第三5「お、乗り気だな。じゃあ、」
第三5「食事の、時間だ」
同時刻。
廊下。
剣士「やっぱ無理だってえええええ!!!!」ズダダダダダダッ
勇者「…………」シュタタタタ
相棒「…………」シュタタタタ
長い廊下を全力で駆ける。
追走する二人は、ただ一点、剣士の背中を見ていた。
剣士「あああ無理無理無理無理!!なんなんだお前ら!!俺何もしてないじゃん!!ここでは俺まだ何もしてないじゃん!!!」ズダダダダダダダッ
剣士(無理、絶対無理。一瞬応戦しようかと考えたこの一瞬すら無駄すぎる!)
剣士(つか勝てるわけだいだろなんだこのキチガイズ人間領にいる時からひたすら悪名高かったけどなにこれマジなにこれ!)
剣士(ああくそっ初めて!こんなに怖いの俺初めて!恐怖心とかもうとっくにぶっ壊れてると思ったけど普通に大丈夫だったやったね畜生!)
剣士(どうするどうする、逃げるだけじゃ駄目だ、捕まる--いや、誇張無しにだるまにされるのも時間の問題、)
剣士「もうどこかに体の良い人質とか転が--っ」ザシュ
かすめた刃は首の皮を深く抉りとった。
勇者「何て言った、」ザワザワ
相棒「今」ザワザワ
剣士「ちょっと口が滑っただけだろうが本気にしてんじゃねぇー!!」
剣士(俺みたいな自己治癒能力持ってる奴じゃなかったら死んでる!今の絶対死んでる!!)
全力疾走しているにも関わらず、身体は冷え切っていた。
特に背は、刺さる視線が痛いほどに冷たい。
剣士(マジもうどうするよ、)ピクッ
剣士(--お、近くに僧侶がいるな。この先、外か?魔力を感じる)
剣士(なんだよ、キレてるのか?召還魔法なんて使って……ん?召還魔法?)
剣士(いける、魔物に紛れて逃げきってみせる!!)
この先、一直線。
前方はガラス窓。その下には庭園が広がっている。
剣士「うおおおおお!!」
走る、走る、走る。
目前に迫るガラス窓を、
剣士(最後のガラスをぶち破れ!!)
突き破り、庭園へと落ち、
剣士「なっ!!?」
グオオオオオオオオオオ!!
鼓膜を震わせたのは咆哮。
地面を突き破り現れた巨大な何かが身体をかすめる。
剣士(なんだよこれ……!!)
驚きのあまり、追跡者の存在を忘れてしまった。
降ってきたのは並んだ両足。
剣士「ぐえっ!!」
勇者「生体ートランポリーン!」
勇者と相棒が、その背を踏みつけ、落ちた。
相棒「踏ーみつーけた!」
踏みつけたことに満足したのか、
二人はようやく、変わってしまった庭園の光景に気付く。
勇者「あ、」
まず、庭園に魔物がいた。
召還魔法だとはすぐにわかった。
宙に浮かぶ魔法陣から、魔物が今まさに出ようとしていた。
相棒「あ、え、」
魔物「」グシュ
だが、魔物は魔法陣から完全に抜け出る前に潰された。
喰い潰された。
勇者「……うあ、」
立派な木の幹といった太さの見覚えのある茨の蔓が、
魔物を次々と喰い潰していく。
相棒「……ああ、」
蔓の先は裂け、覚えのある可愛らしい牙が並んでいるはずのそこは、
蔓の太さに比例し鋭く大きな牙が並んでいた。
勇者(蔓は、一つじゃない、)
相棒(全部で、五つ、)
蔓、その先、口というべきそこから滴り落ちるのは、魔物の赤い体液。
庭園は真っ赤に染まり、魔物の断末魔と咀嚼音だけが響いていた。
その断末魔も、咀嚼音の大きさに負けている。
グチュ、ベチャ、グチャ、
勇者「」
相棒「」
蔓「…………」ズルリ
大きさに見合わず素早い動きをするそれ。動きは蛇に似ている。
鎌首をもたげるように、それは二人へと向いた。
外見からは目が存在するようには思えない、だが、見ている。
食いちぎられた魔物の一部が、口から零れ、べしゃりと音を立てた。
剣士の上。
目を見開いたまま固まる二人の頭上で、大きく口は開かれる。
蔓「くおっ!」ルンルン
勇者「~~~!!!」
相棒「~~~!!!」
そして、五本の蔓の中心。
幾多の茨に包まれた丘というべき巨体が振り返った。
それは、ドラゴンと大樹が同化したような、異形の姿をしている。
口から覗く牙は、蔓とは比べものにならない程大きく凶悪に尖っていた。
その、つぶらな瞳が、
蔓と同じく、二人を認識する。
植物「ぐおっ!!」ルンルン
勇者「きゃああああああああああああああああああ!!!!!」ピョピョピョピョン
相棒「きゃああああああああああああああああああ!!!!!」ピョピョピョピョン
剣士「」ビクン
勇者「怪獣だあああああああ!!!」キラキラキラキラキラキラキラキラキラ
相棒「怪獣だあああああああ!!!」キラキラキラキラキラキラキラキラキラ
剣士「」チーン
第三5「植物ちゃん、またデカくなったなー」
第三5「こりゃまた、甘噛みされたい口に成長しちゃってー」
第三3「ふふふ~、今すぐ食いちぎられて来いよ」
キャーキャーキャー!!!
キャーキャーキャー!!!
第三4「うわ、すげぇ……前見た時より大きくなってるじゃんか……」
第三1「魔王様の許可取ってるよなこれ……植物の域越えたぞ」
第三2「なぁ、」
カッコイイカッコイイカッコイイウワァアアアア!!
カッコイイカッコイイカッコイイウワァアアアア!!
第三4「植物無双……、でもま、城のセコムには最適だと思う」
第三1「確かに。こんなのがいる城俺なら絶対侵入しないわ」
第三2「なぁってば、」
アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!
アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!
第三1「つかさ、どうするあれ。そもそもどうしたんだあれ。テンション振り切れてるぞ」
第三4「物凄いキラキラしてるなー。……誰か踏みつけながら」
第三1「侵入者じゃねーの?」
第三4「ならいいか」
第三2「1、4」
第三1「?」
第三4「え?」
第三2「さっきから呼んでるのに、無視するなよ」
第三4「あ、悪い!あまりの光景にちょっと驚いてて、」
第三1「すまん。見入ってた。--で、どうした?」
第三2「ちょっとやばいかも」
第三4「何が?」
第三2「弟が息してない」
第一弟「」チーン
第三2「植物が本体見せた辺りから息してない」
第三1「」
第三4「」
第三2「こんなに吃驚するとは思わなくてさ。どうしよう、これ」
第三1「どうしようこれじゃねぇえええ!!!!ああああ弟ー!!!」
第三4「うわああああ!!!生きろ弟!!生きて弟ー!!!!!」フォンフォンフォン
第三2「治癒頼むなー」
第三2「……いや、うん何治癒するのかはわかんないけどさー」ケラケラ
王の間。
植物『ぐおっ!』ルンルン
魔王「側近!」ガタッ
側近「なんだ!」ガタッ
魔王「じゃんけんするわよ!」
側近「いいだろう!恨みっこ無しだからな!」
魔王「ええ!--じゃあいくわよ!最初はぐー!」
第一A「いやいやいや、ちょっと待って下さい。何で突然じゃんけんだなんて」
第一B「……………、」
第一「…………魔王様ー、側近様ー」
第一「表向きの理由は?」
魔王「……城主として、庭園の様子は気になるわ」
側近「あのような巨大生物の存在を俺達が認知していないのは問題だろう」
第一「正直な話?」
魔王「なにあれ凄い生で見たい」キラキラ
側近「とても興味深い」キラキラ
第一A「………………、」
第一B「………………、」
第一A「なぁ、庭園にも巨大生物にテンション上がってる二人組いるんだけど」コソッ
第一B「なんか変な所は似てるよな」コソッ
魔王「……だからじゃんけん……勝った方が先に見に行こうって、」
側近「恨みっこ無し……公平なじゃんけん……」
第一B「いや、王の間なのに側近しかいなかったらおかしいだろ」
側近「俺は魔王戦前の前座というか、」
第一(前座がラスボスと同じ強さとか嫌だなぁ……)
魔王「チラッと見たらすぐ戻るようにするから!!交代で見に行けば……!」
第一A「そもそも狙われてるのが二人だから、念の為に俺達がここにいるんですけど」
第一B「不用意に別れられちゃ困るよな」
第一「結構な人数にとりあえず離れるなって言われてるのにな」
魔王「…………ごめん」シュン
側近「…………すまん」シュン
第一ズ(目に見えて落ち込むなよ……)
第一「………んー、でも、よく考えたらさ」
第一「侵入者は全員誰かしからが対応してるんだし、魔王様達がここにいる必要も無いんじゃない?どうせ誰一人ここにはたどり着けないよ」
第一A「……まぁ、一番強いであろう勇者の男はちょっと頭おかしいに加え副隊長達が対応してますし」
第一A「僧侶の女は動けない、剣士の男は……B、生きてるか、あれ?」
第一B「生きてる。まだ魔法生きてるから確実だな」
第一「しぶといなぁ」ケラケラ
第一A「同感」ケラケラ
第一A「で、ネックなのが魔法使いの女なんですけど。逃げ足だけは早くてまだ捕縛には至ってない」
第一B「行きたい場所には侵入者の二人がいるって言っても、戦力が集中した庭園。--この際もう良いんじゃねーの?見に行っても」
魔王「……いいの?」
第一「俺達も一緒に行けば良い話だからねー」
第一A「副隊長には俺から連絡しておきますよ」
魔王「…………」チラッ
側近「…………」コクッ
第一B「転移はちょっと危ないな、僧侶の魔法で空間変に歪んでるし。ここはのんびり歩いて、」
魔王「さあ行くわよ!しっかりついて来なさい!」キリッ
側近「少し走るぞ!!」キリッ
ヒュン バタン ピョイ
第一ズ「………………」
第一A「……あーっと、奥の扉から出て窓から二人そろって飛び降りて、」
第一「最短コースですねー、少しの走りじゃなかったですねー」
第一B「……まったく、あの二人の全力疾走にしっかりついて行けるかよ」ハァ
庭園。
植物「ぐおっ、」スリスリ
第一弟「……………、」
第一弟「植物、えっと……この姿が、本体?」
植物「ぐおっ!」コクコク
第一弟「そ、そっか……じゃあ、今までずっと一部だけ地上に出して、本体は地下にいたってこと?」
植物「ぐおっ」
第一弟「こんなに大きいのに、……辛くなかった?……ごめんな、俺、赤い花の方が本体だと思ってたから」
植物「ぐおぐおっ、」フリフリ
植物(--辛くはなかった。私、土の中が好きなの)
第一弟「辛くはなかった、ってことかな」
植物「ぐおっ、ぐおっ!」スリスリスリスリ
植物(でも、あなたがいるから地上も好き。大好き。みんなもいる。好き)
第一弟「ははっ、くすぐったいって」
植物「…………ぐお……ぐおっ」スリスリ シュン
植物(……でも、この姿は大きすぎて、あなたに絡みつけない。うっかり絞め殺してしまいそう)
植物「ぐおお……、ぐおぐお……」
植物(それに、この姿だと私は私自身の唾液無力化出来ないの……これじゃ、あなたをべちょべちょにすることも出来ない)
植物(べちょべちょにしたら、きっとあなたはでろでろになっちゃう。それはやだぁ……)
第一弟(落ち込んでるな、やっぱり初見で俺が倒れたこと気にしてるのかな)
第一弟「……植物、確かに、お前の姿見て一時意識手放したけど、本当に吃驚しただけなんだ」ナデナデ
第一弟「この姿でも、植物は植物だ。……一部だけでも、怪我させた。守ってやれなくてごめん」
植物「ぐおっ……」
植物(弟……)
第一弟「本当に、嬉しいよ。生きててくれてありがとう。--赤い花も綺麗だったけど、今の植物も好きだよ」ナデナデ
植物「!!」グパッ
第一弟「…………でも、」
大きく開かれた口が迫る。
ヒト一人簡単に丸呑み出来そうだ。
--いや、丸呑みどころか、
第一弟(牙、一つ一つが俺の身長より少し小さいぐらいじゃないか)
この牙によって、獲物はすぐに刻まれるだろう。
植物「…………」ダラダラ ボタボタ
第一弟「……………」
植物「ぐおっ!」アーン
第一弟「食べちゃうのは駄目だからな!!絶対駄目なんだからな!!!」
第三4「事情を考えれば微笑ましいシーンなんだけどな、あれ」
第三1「怪獣の捕食シーンにしか見えないのが辛い」
第三2「まさに絶対絶命喰われる一瞬って感じだよな」
勇者「~~!!」ピョピョンピョン
相棒「~~!!」ピョピョンピョン
第三3「あ、楽しそうだねぇ。僕も踏みたいなぁ」
相棒「いいよ!」ピョイ
勇者「全力でどうぞ!」ピョイ
第三3「ふふ~、ありがとう~」ピョイ
第三「よいしょ、っと!」ドスン
剣士「」チーン
第三4「ゆ……旅人さん達は植物見てキラキラしてるしひたすら跳ぶし」
第三1「ああ……混ざっちゃったよアイツ……爽やかに悪意こめまくった踏みつけだな……」
第三2「面白そうだから俺も混ざってくるわ」タタタタッ
第三4「………………、」
第三1「………………、」
第三1「ま、いいんじゃね?アイツCと部下さん殺りかけたって話だし」
第三4「だな。もっとやれもっとやれ」
第三5「んー、どうしたもんか、一応あっちも縛っとくべきなのかねー」
第三1「なんだ、食いちぎられに行ったんじゃないのか」
第三5「行ったんだけどさ、自信無いからって植物ちゃんに甘噛み拒否された」
第三4「マジで行っちゃう所がいっそ清々しいよ。多分お前は自分の性癖が原因で死ぬと思う」
第三5「本望だ。死んでからもお前ってホント馬鹿なんて言われそうで嬉しい!」キリッ
第三4「もうやだお前」ハァ
第三1「はぁ………で?剣士の方も縛るって?」チラッ
キャッキャ キャッキャ ピョンピョコピョン
剣士「」チーン
第三1「僧侶より瀕死なんだし必要無いんじゃねーの?」
第三5「俺もそう思うんだけどさー、念のためっていうか」
第三5「なんせ魔王様達、来ちゃったし」
第三1「は!?」
第三4「へ!?」
第三5「ほら、あっちあっち」
魔王「…………」キラキラキラキラキラキラキラキラキラキラ
側近「…………」キラキラキラキラキラキラキラキラキラキラ
第三1「うわぁ……」
第三4「……あんなに輝いてる二人見るの俺初めて……」
第三5「植物ちゃん可愛いからな、見とれる気持ちはわかる」
第三1「……………」
第三4「……………」
第三1「感性の違いって凄いな……」
第三4「…………そうだな」
王の間。
扉の向こう。
勇者男「美女とお茶をする!この最高の時間をくれるなら俺自身のトップシークレットを教えてやってもいい」キリッ
勇者男「ふっ……少し恥ずかしいがそれほどまでに俺は貴女を評価しているというわけだ」
第二隊長「第一の、第一のっ。やっぱり私嫌だ。アイツなんか気持ち悪い!」クイクイ
第二隊長「それにお前から女子力を盗むのに不都合だ!」
第一副隊長「はいはい凄い凄い」
第二「え、私って凄い!?何が凄いんだ第一の!私の何が凄いんだ!?」
第一副隊長「はいはい凄い凄い」
第二隊長「だから何が……!」
勇者男「会話を放棄したか……、うむ、まとわりつく姿がまるで主人に構ってほしい犬のようだ」
勇者「これもまた良し」
第一副隊長(……帰りたい、)
フォン
第一副隊長(--通信?Aからね、)
第一A『副隊長。魔王様と側近様が庭園に向かいました』
第一A『……俺達も聞いてませんよ。あんな巨大生物庭園で飼ってたなんて』
第一副隊長「可愛いでしょう?」
第一A『…………ノーコメントで』
第一A『とりあえず俺達も庭園に向かいます。……えっと、頑張って下さい』
第一副隊長「………………ええ」ハァ
第二隊長「通信か?」
第一副隊長「そうよ」
勇者男「魔王の件と見たが。扉の向こうの気配が全て消えたからな」
勇者男「--剣士と僧侶にトドメをさしにでも行ったか?」
第一副隊長「だと言ったら?止めるの?」
勇者男「いや、殺したければ殺せ。止めはしない」
第一副隊長「あら、仲間を見捨てるの?」
勇者男「所詮仕事上のみの関係だ」
勇者男「それより、良いのか?魔王の元へ行かなくても」
第一副隊長「……どうして?」
勇者男「魔法使いは魔王と竜族がいる方向へ向かっているのだが、」
勇者男「……俺も行かねばならんな。--安心してくれ。貴女が良しとするまでこの城の者には手を出さない。神に誓う」
第一副隊長「…………」
勇者男「これも仕事だ。俺は見届けなければならない。どうだ?一緒に行かないか?」
勇者男「俺との散歩に付き合ってくれるのなら、魔法使いが使う魔法について教えてやろう」
第一副隊長「……いいわ。行きましょう」
第二隊長「私も行くぞ!お前なんかと第一のを二人きりにしてたまるか!」
勇者男「良いだろう。腹筋女とはいえ君もアリに思えてきた」
第二隊長「なに……?いやだが私には想い人がだな……」アワアワ
第一副隊長「……………」
第一副隊長(……どうしてこんなに疲れるのかしら)ハァ
庭園。
魔王「……小さい頃、」
魔王「怪獣が欲しいと父様にねだったことがあるわ」
側近「覚えている。あの時、俺が竜化出来るから我慢しろと誤魔化されていたな」
魔王「ええ。あの頃は私もいつか竜化出来ると思ってたから見事に誤魔化されたけど。今思えば根本的におかしいわ」
魔王「竜と怪獣は同ジャンルではないの。燃える方向性が違うの」
魔王「まったく、お父様ったら……許すけど」
第一弟「植物、前にも会ったよね。あちらが魔王様と側近様」
植物「ぐおっ!」ペコッ
魔王「許すけど!」キラキラ
側近「…………」キラキラ
第一弟(……あ、喜んでる。大きいから少し心配したけど、植物、ずっとここにいても良さそうだ)
魔法使い「…………」コソッ
魔法使い(うう……ここのヒト達しつこいし、怖いです……)
魔法使い(逃げ切ったかな……こんな所まで来ちゃったけど、どこだろうここ……)キョロキョロ
魔法使い「!!」ビクッ
魔法使い(あわわわわわ……化け物が、います……)ビクビク
魔法使い(それに、剣士さんと僧侶さん、ズタボロってやつじゃないですか)
魔法使い「!!」
魔法使い(あ、あれは魔王と竜族!)
魔法使い(うう……魔法なんか使ったら絶対私の存在バレちゃいます……)
魔法使い(でも、でも、やらなきゃ……勇者様も、すぐ近くにいるし……)
魔法使い「……いきますよー!」フォン
キィイイイ
魔王側近「!!」ザワッ
勇者相棒「!!」ザワッ
第一ズ「…………」フォン
第三45「…………」フォン
第三123「…………」ギロッ
第一弟「…………」キッ
植物「ぐるるるるるる」グワッ
蔓×5「くるるるるるる」グワッ
魔法使い「ひぃぃい!」キィィン
魔法使い(みんな一斉にこっち見たあ……)ガクブル
庭園。
勇者男「--この国は、平和なんだな」
勇者男「敵が魔法を使おうとしてもまずは妨害や相殺を一番に考える」
勇者男「すぐに術者を殺しはしない。戦場では通用しない甘い考えだ」
第二隊長「お前は好かんが同感だ!でも違うぞ、ここは戦場では無い」
勇者男「……そうだな、殺せば良いだけの話ではない」
勇者男「そして、魔法使いが庭園にいる今、貴女や君がこうして歩いているのは、」
勇者男「余程信頼している。庭園にいる者を、」
勇者男「確かに、信頼に値するレベルの者が集まっているようだ」
キィイイン
第一副隊長「!!」ピクッ
第二隊長(……魔法か、)ピクッ
勇者男「--だが、」
勇者男「魔法使いが使う魔法は、少々特殊でな」
魔法使い「あわわわわ!こ、ここ怖いよぉ……」グスッ
魔王「…………」ギロッ
側近「…………」ギロッ
魔法使い(怖いけど、視線を外しちゃダメ)ガクブル
第一B「代表して警告しておくが、発動した瞬間一斉攻撃だからな」
魔法使い「ひっ………」ビクッ
魔法使い「でも、やらなきゃいけないんですぅう!!」ガクブル キッ
第一副隊長「--特殊、というと?」
勇者男「初見で防ぐのは不可能だ」
第一副隊長「そんな魔法あるわけ、」
勇者男「……美しい貴女、何度でも言うが、俺はこの城の者を傷付ける気は、ない!」フォン
第一副隊長「!」
第一副隊長(魔法!?速い!)
男の魔法は、宣言通り誰も傷付けない。
ただ、魔王と側近を分けるように、
その間に巨大な障壁を出現させただけだった。
魔王(障壁、--あれが侵入した勇者ね!?)
側近(無意味とは思えない。壊す、)フォン
勇者男「すぐに殺さないここでは、初見で防ぐことは不可能。その訳は、」
勇者男「魔法使いの視界に入ってさえいれば、魔法は発動するからだ」
第一副隊長「!!」フォン
勇者男「……」フォン
バシュン
第一副隊長(私の魔法を妨害した!?)
勇者男「やめろ、間に合わない」
魔法使い「いきます!」フォン
魔法形成時の高音が止まった。
同時に、魔法使いの背に浮かぶ魔法陣が溶けるように消える。
攻撃的な魔法は、展開の終わり、発動その一瞬前ですら判断出来る程に空気が変わる。
だが、この魔法は違った。何も変わらない。
この系統の魔法を知る者以外、魔王や勇者達でさえ不発を疑った。
生温い風が--
第一(!!この感覚、知ってる!)ゾワッ
第一「魔法は発動してる!!!!!」
吹き抜けた。
魔王「っ、」クラッ
側近「う、」クラッ
ぐらりと、身体が傾ぐ。
勇者「!」
相棒「!」
倒れた。
勇者男「起きろ!剣士!僧侶!!」フォン
第一副隊長(治癒魔法……!!)
ブチブチッ
第三5(俺の拘束が破れた!?)
第三5「みんな、気をつ」
僧侶「どけぇ!!」フォン
第三4「なっ!?」
第三23「4っ!!」ガキィン
5が魔法で形成した僧侶を縛る縄は、完全に千切れていた。
牽制にしては重い一撃は二人の剣によって防がれる。
第三1「ホントしぶといな!!」フォン
放たれた火球はかすりもしない。
俊敏に距離をとった僧侶は身を翻し、向かうは。
第三1(おかしいだろ、今の何の魔法だったんだよ、)
第三1(何で魔王様達倒れたんだよ……!)
第一副隊長「あなた……やってくれるわね……!!」
勇者男「貴女は美しいから、治癒魔法を一瞬で妨害する事など出来ないと思っていた」
勇者男「そして、これから貴女の魔法のみ、妨害させてもらう」フォン
第一副隊長「っ、何を考えて」バシュン
勇者男「貴女は見ていてくれ。どうなるのかを、」
勇者男(……これで義理は果たした。あとは………成功しようがしまいが、手を貸すのは撤退時のみ)
第二隊長「………………」ザワザワ
勇者男(……まさか、このタイプだとはな、)
剣士「仕返しは後できっちりやるからな!!」ヒュン
第一A「ふざけんな、何で倒れた!?何の魔法だよ今の!!」
第一B「くそっ!あのクソ剣士ちょろちょろ動きやがって!!」フォン
第一「あの魔法!俺が知ってるやつと同じなら!」
第一「強制的に身体から魂を弾き出す魔法だ!」
第一「二人は動けない!!守れ!!敵を近付けさせるな!!!」
一同「!!!?」
第一(--!!あの二人、何で倒れて……、まさか!!)
魔法使い「長くは保ちません!早く殺して下さい!!」
魔法使い「欲しいのは身体です!」
第一A(やばい、側近様は間に合う。けど、)
第一B(障壁が邪魔だ、魔王様まで手が回らない!!!)
僧侶(敵の人数が多い。--狙うは、勇者様が障壁で孤立させた、)
蔓「ぐおおお!!!」グワッ
第一弟「させるか!!」フォン
地面から突き出した植物の蔓、そして弟が二人を止めようと迫り駆ける。が、
僧侶「邪魔をするなぁああ!!!」フォン
踵を返した僧侶が吠えた。
燃やしたはずの植物、自分に膝をつかせた魔族。
その存在は、酷く彼女の癇に触る。
僧侶(殺す、殺す殺す殺す殺す殺す!!!)
剣士「頼むぜ僧侶!」
剣士「俺は、」フォン
側近--竜族は障壁を隔てた向こう側だ。
この状況、二人を狙うのは難しい。
狙うは一人。勇者の男は、その一人を上手く孤立させた。
魔王「…………」
魔王、そして側近。
二人は強い。
だが、いくら強くても意識が無ければ--
魔王は動かない。
魂の抜かれた身体は動けない。
--動かなければ、その命を狩り取ることは容易い。
剣士はとっては、さらに。
剣士「死んでもらうぜ!魔王様よぉおお!!!」
形成された剣が、突き刺さった。
そのまま、切り上げる。
剣士「--あ、」
宙を舞う腕、握られたままの剣は、紛れもなく剣士の物。
魔王()「……………」
飛び散った血は魔王の顔を赤く染めた。
見開いた目、その金色の瞳に光は無い。
剣士(うそ、だろ……?)
金色ながら暗い闇を思わせるその目に、見覚えがあった。
魔王()「三度目は、外さない」
剣士「うあ、あ……」
剣士(なんでだよ、しばらく動けないはずだ、そんな魔法だ、)
剣士(弾かれた魂は、すぐには戻れない。そんな、魔法だろ……!!)
魔王()「お前……魔王様を斬ろうとしたのか、」
ゆらりと魔王が立ち上がる。
魔王()「魔王様を殺そうとしたのか、」
剣士「……お前、魔王じゃねーな、」
声が震える。
だが、確信はあった。
ついさっきまで、この背筋が冷える視線と声から逃げようと全力で走った。
剣士(あの馬鹿魔法使い……失敗してんじゃねーか!)
視界の隅で勇者の男が作り出した障壁が崩れ落ちるのを見た。
僧侶の悲鳴が聞こえる。
魔法使い「そんな……だってちゃんと、対策はしてました……!!」
魔法使い「抜け出た魂はすぐに身体を探す!!身体だって魂を探すから、すぐに戻らないように!!」
魔法使い「確かに術の性質上同質の魂を持つ二人がすぐに入れ替わり、目覚める可能性はありました!!だからちゃんと遮断した!勇者様の障壁で!」
魔法使い「それなのに、こんなの……おかしいです!!」
魔法使い「世界に四人しかいない同質の魂を持つ者が!四人そろって同じ場所に存在するなんて、そんなの!有り得るはずがない!!!」
勇者男「有り得たからこのような短時間で立ち上がり、動けるんだろう」
勇者男「……運はこの国に味方したか。ははっ、この任務は、失敗だ」
【 後編 】 へ続く。