コウモリ「らしいぜ。オレの仲間たちの間じゃその話でもちきりだ」
スライム「本当なの?」
コウモリ「姫を見たやつもいるって。城のどこかに閉じ込めたとか」
スライム「すっごいなあ!」
コウモリ「だよな! さすがは魔王さまだ」
スライム「どうやってさらってきたんだろう」
コウモリ「そりゃあ正面から乗りこんで人間たちをけちらしけちらし、だろ」
スライム「かぁっこいい!」
コウモリ「まったくだぜ!」
元スレ
スライム「魔王さまが姫をさらってきた?」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1331201655/
スライム「姫ってどんなやつかな」
コウモリ「えらい人間だからな。きっとこわくていやなやつだ」
スライム「そうだね、こわくていやなやつだ!」
コウモリ「お前、今日もお城でそうじの仕事だろ。もし見かけたらつばかけてやれ」
スライム「がんばる!」
コウモリ「それじゃあオレはいくぜ」
スライム「じゃあね!」
魔王城
魔王「ふふ……部屋の居心地はどうかね、姫?」
姫「……」
魔王「そう睨むでない。凛々しい表情もまた似合ってはいるがな」カツ……
姫「近付かないで! 舌を噛み切るわよ!」
魔王「……くくっ。これは困った」
姫「わたしを一人にしなさい。これは命令よ」
魔王「おやおや。まだオヒメサマ気分が抜けないと見える」
姫「二度言わせる気? 出てって」
魔王「ふふ。ははは……まあゆっくりしてくれたまえ」ギィ……
姫「……」
……バタン
……
…
スライム「ふうふう……おそうじは大変大変」ゴシゴシ
「どけ! 邪魔だ!」
スライム「うわあ!」ポヨン!
スライム「……らんぼうだなあ」
「こら休むな!」
スライム「ご、ごめんなさい!」ゴシゴシ!
「ここが終わったら次はあっちだ!」
スライム「はーいっ」
姫「"開け"」ポゥ……
カチッ!
姫「開錠成功ね。魔法の勉強が無駄にならずに済んだわ」
姫「……」
姫(問題は。この扉の向こうに誰かいるかどうか、だけど)
姫「こればっかりは覚悟するしかないわね」
姫「……」スー ハー
姫「ん」ギィ……
スライム「あれ?」
姫「……」
――スライムにそうぐうした!
姫「っ……!」
ガシ! ヒョイ
スライム「ひゃ――!?」
パタン
「ん。あれ? スライムのやつどこ行きやがった?」
スライム「――! ――!」
姫「静かになさい!」
スライム「……」
姫「……素直ね?」
スライム「うるさくしたらいたくする?」
姫「大人しくしてくれるならなにもしないわよ」
スライム「わかった。静かにする」
姫「ありがとう」
スライム「でもおろしてほしい」
姫「暴れないでね? はい」
スライム「よいしょ」ピョイ
スライム「……」ジー
姫「なに?」
スライム「人間だあ」
姫「ええ」
スライム「もしかして、きみが姫?」
姫「そうよ」
スライム「思ってたのとちがう」
姫「? どんな想像してたのよ」
スライム「んとね」
『キシャアアァァッ!!』
『我はヒメ! 魔界に終焉をもたらす者なり!』ギラギラ!
『跪け愚かな魔物ども! ギャオオォォン!』カッ!
姫「ちょっと待ちなさい」
スライム「え?」
姫「何よそれ」
スライム「えらい人間はすごくつよいって聞いたよ」
姫「そんなことないわよ」
スライム「そうみたいだね。きみはかわいいし」
姫「まあね」
スライム「でもごめん」
姫「え?」
スライム「ペッ!」
姫「きゃ!?」サッ
姫「何するのよっ」
スライム「姫を見かけたらつばをかける約束なの」
姫「約束?」
スライム「うん。友だちとの約束」
姫「ろくな友達じゃないわね」
スライム「悪口はだめ!」ピョン!
姫「おっと」サッ
スライム「ぷぎゅ!」ビタン!
姫「あ」
スライム「いたい……」
姫「あの。ごめんなさいね?」
スライム「……ゆるす」
姫「ありがとう。ところで」
スライム「なに?」
姫「わたしここから逃げたいのだけれど」
スライム「それはムリじゃないかなあ」
姫「お願い。手伝ってちょうだい」
スライム「バレたらぼく、おこられちゃう」
姫「そこをなんとか。ね? ほら飴ちゃんあげるから」
スライム「アメ!? ちょうだい!」ピョン!
姫「で、どうすれば逃げられると思う?」
スライム「ムリだと思う」モゴモゴ
姫「……」グリグリ
スライム「いたいいたいっ」
姫「どういうことよっ。手伝ってくれるんじゃないのっ?」
スライム「アメのお返しはしたいけど。でも」
姫「もしかして監視が厳重なの?」
スライム「城にはいっぱいなかまがいるよ」
姫「困ったわね。どうにかならない?」
スライム「思いつかない」
姫「こっそり行けば」
スライム「きみ、いいにおいするよね」
姫「そう?」
スライム「ぼくのなかまには、すごくハナがいいのもいるよ」
姫「……そっか。それじゃあ見つかっちゃうわね。ハァ……」
姫(この子は見たところ下っ端だから人質にはならなさそうだし)
姫(開錠魔法封じがなかったのはどうせ逃げられないと踏んでいるせいね……)
スライム「ごめんね?」
姫「いいのよ。あなたのせいじゃないわ」
スライム「……」ジー
姫「なに?」
スライム「もうない?」
姫「なにが? ……って、もしかして飴のこと?」
スライム「うん!」
姫「仕方ないわね」ゴソゴソ
スライム「♪」
姫「……」
スライム「?」
姫「やっぱりだめ」
スライム「なんでっ? まだあるんでしょ!」
姫「そうね」
スライム「いじわるしないでよお」
姫「意地悪じゃないわ。ちゃんとあげるわよ」
スライム「……どういうこと?」
姫「条件があるの。毎日ここにきてわたしの話し相手になってちょうだい。その時に一つずつあげる」
姫(情報源は確保しておかないとね)
スライム「……」
姫「これでどう?」
スライム「うーん。一度にたくさん食べたいなあ」
姫「でもそうしたらすぐになくなっちゃうわよ? 少しずつ楽しむのもいいんじゃない?」
スライム「そっかあ……それもそうだね」
姫「じゃあわたしたちの間だけの約束よ? 他の奴には秘密だからね」
スライム「わかった」
姫「ちゃんと守ってよ?」
スライム「そっちもね!」ギィ
パタン
スライム「♪」
「あ。この、どこいってやがったスライム!」
スライム「!」
「てめえサボってたな!」
スライム「あわわ……」
「お前は掃除箇所の追加! あとげんこつ一発だ!」
スライム「ご、ごめんなさーいっ」
ガチャ
側近「姫。私は魔王さまの側近職を務めさせていただいている者です」
姫「……」
側近「何か不都合はありませんでしたか?」
姫「……別に」プイ
側近「なにかご入用のものがあればお持ちしますが」
姫「何もないわ。早く消えて」
側近「そうですか……では」ギィ
姫「あ。待って」
側近「?」
姫「飴が欲しいわ。出来るだけたくさん」
側近「飴、ですか? はあ。分かりました」
姫「なくなったらその時は言うから追加しなさいね」
側近「……は。ではごゆっくり」
……パタン
次の日
ガチャ
スライム「おじゃましまーす」
姫「いらっしゃい」
スライム「アメちょうだい」
姫「はいどうぞ」
スライム「わーい!」
スライム「おいしい」モゴモゴ
姫「良かったわね」
スライム「なんのお話する?」
姫「そうねえ」
姫(脱出のために必要な情報……となると)
姫「魔王のことについて聞きたいわ。どんな奴なの?」
スライム「つよくてかっこいい!」
姫「いや、そうじゃなくて」
スライム「あと背がたかい! うらやましい!」
姫「えっと」
スライム「でもお顔がこわいよね」
姫「……そうね」
姫(あまり有益な情報は期待できないそうにない、か……)
姫「他には?」
スライム「かっこよくてつよい!」
姫「それもう言ったわよ」
スライム「あれ?」
姫「……」
スライム「……えへへ」
姫「……ハァ」
スライム「ごめんね?」
姫「いえ、別にいいけれど。魔王が強くて格好いいというのはどうかしらね」
スライム「?」
姫「あれは卑怯者だわ」
スライム「悪口?」ムッ
姫「事実よ。わたしを誘拐した手口を思い出す限り、少なくとも格好いいとは思えないわね」
スライム「さらった方法?」
姫「あなたは魔王がどうやってわたしをさらったと思ってるの?」
スライム「ええと。まっすぐすすんで、人間たちをけちらしけちらし!」
姫「もしそうだったなら、まだ魔王らしいんでしょうけど」
スライム「……ちがうの?」
姫「ええ」
姫「魔王は老婆に化けてたわ」
スライム「おばあさんに?」
姫「ええ。遠方の名のある占い師だと嘘をついてパパに謁見を求めたのよ」
スライム「ふうん?」
姫「パパは大の占い好きだからころっとだまされてね。魔王を城に招き入れてしまったの」
スライム「……」
姫「でも、魔王の汚い手口はそれにとどまらなかった」
スライム「え?」
姫「城に入った魔王は次にわたしの友達を人質に取ったわ」
姫「その友達は大人も顔負けに強かったけれど。でも不意を突かれてはひとたまりもない」
スライム「じゃ、じゃあ」
姫「わたしはその友達にひどいことをしてほしくなかったから。魔王の取引に応じてここまで連れられて来たの」
スライム「そんな……」
姫「分かった?」
スライム「……」
姫「あなたは信じたくないでしょうけれど」
スライム「……」プルプル
姫「?」
スライム「嘘だ!」
姫「っ!」ビクッ
スライム「魔王さまはかっこいいんだ! そんなずるいなことしないもん!」
姫「……」
スライム「出まかせだよ。そうだ、姫ちゃんがウソついてるんだ!」
姫「嘘じゃないわ」
スライム「信じるもんか!」
姫「……」
スライム「うう……わーん!」
バタン
姫「しまった。泣かせちゃったわね……」
……
…
スライム「……」
コウモリ「お。どうしたんだよお前、こんなところで。そうじの仕事はもう終わったのか?」
スライム「……」グス
コウモリ「え?」
スライム「ねえ。魔王さまはかっこよくてつよいよね?」
コウモリ「あ? そりゃ当たり前だろ!」
スライム「うん……でも姫ちゃんがね」
コウモリ「……姫?」
スライム「あ」
姫「もうあの子からの情報は見込めないかしらね……」
ドンドン!
姫「窓? 何かしら」
ガチャ
「うらっしゃあああぁぁぁいッ!」
姫「え?」
ドンガラガッシャーンッ!
姫「いたた……なんなのよぉ」
「お前か! オレのダチに変なこと吹き込みやがったのは!」
姫「……蝙蝠?」
コウモリ「おう! お前が姫だな!?」
――コウモリにそうぐうした!
姫「ええと。確かにわたしが姫だけど」
コウモリ「まずは土下座」
姫「は?」
コウモリ「それから魔王さまへの謝罪を述べること!」
姫「……あなたもしかしてスライムの友達?」
コウモリ「ペッ!」
姫「おっと」サッ
姫(……間違いないわね。あの子、話しちゃったのか)
コンコン
「側近です。すごい音がしましたが、大丈夫ですか?」
姫「何でもないわ! さっさと消えなさい!」
「……わかりました」
コウモリ「……」
姫「……行ったわね」
コウモリ「オレを突きださないのか?」
姫「突きだしてほしいの?」
コウモリ「……フン! そんなことより早く土下座しろィ!」
姫「お断りよ」
コウモリ「んだと!?」
姫「だって謝る理由がないもの」
コウモリ「この小娘が!」
姫「そういうあなたも、声を聞く限りじゃまだまだ子供のようだけど?」
コウモリ「ムッ!」
コウモリ「うっせえうっせえ! オレはガキなんかじゃねえやい!」
姫「はいはい。ちょっとこっち来なさい」
コウモリ「誰が行くか――ってうお!?」
姫「はい捕まえた」
コウモリ「放せ!」バタバタ
姫「暴れると怪我が広がるわよ」
コウモリ「!」
姫「さっき飛び込んできたときにやっちゃったのね。翼の皮に傷がついちゃってる」
コウモリ「そんなの別にいだだっ!」
姫「はい、これで大丈夫」
コウモリ「……」
姫「あとこれ飴ちゃんね」
コウモリ「ムグ!」
姫「そしたらまた明日、スライムと一緒にいらっしゃい」
コウモリ「あ、待てよ!」
姫「じゃあね」
ポイ! バタン!
コウモリ「っとと。ちくしょう。あの女め!」パタパタ
コウモリ(しかし。思ってたよりなんというか)
コウモリ「! いやいや! とにかく明日だ。明日もう一度リベンジだ!」
コウモリ「……」
コウモリ「アメ、おいしいな」
翌日
姫「ごめんなさい」
スライム・コウモリ「え?」
スライム「やっぱりウソだったの?」
コウモリ「ほれ見ろ!」
姫「違うわよ。嘘はついてないわ」
スライム「え? じゃあなんで謝るの?」
姫「なんて言ったらいいのかしら。あなたたちにいやな思いをさせちゃったから、ってとこね」
コウモリ「……?」
姫(純心な子供たちの気持ちを傷つけるのは、さすがに良心が痛むもの)
スライム「なんだかよく分からないけど……謝ってくれるならもういいよ!」
コウモリ「あ、お前! だまされてるぞ多分!」
姫「いえ騙しては、ないけど」
コウモリ「だってこいつ、魔王さまを馬鹿にしたことにはかわんねーし!」
スライム「でも姫ちゃんはウソついてないよ。きっと」
コウモリ「証拠はあるのかよ」
スライム「ないけど。ぼくだってあたまがすっきりすればウソかちがうかぐらいわかるよ」
コウモリ「でもよ!」
姫「あなたはキーキーやかましいわね。男らしくないわよ?」
コウモリ「うっせブス!」
姫「……」ピキ!
スライム「……落ちついた?」
姫「思う存分暴れたらなんだかすっきりしたわ」
コウモリ(うう、翼の傷が……)
姫「ごめんなさいね。手加減できなくて」
コウモリ「オレのほうが手加減してたし!」
姫「あーはいはい。もうそれでいいわよ」
スライム「ふふ」
姫・コウモリ「?」
スライム「姫ちゃん、なんだか重しがとれた顔してる」
姫「……」
スライム「さらわれてきて心細かったんだよね」
コウモリ「……」
スライム「ぼくたちでよければ、これからも話し相手になるよ」
姫「……ふふ」
姫(まさか、モンスターに気を使われるなんてね)
コウモリ「何笑ってんだ気持ちわりい」
姫「……」ツネリ
コウモリ「あいだだだっ!」
姫「はい、飴ちゃん」
スライム「まいどー!」
コウモリ「あ。オレにもよこせ!」
数日後
スライム「今日はコウモリ君は来られないんだ」
姫「そう。うるさいのがいなくてせいせいするわ」
スライム「でも姫ちゃんちょっと残念そう」
姫「そんなことないわよ」
スライム「ふふ」
姫「今日は何か聞かせてもらえる?」
スライム「うん。北の森のオオカミ王の話」
姫「楽しみね。聞かせて」
スライム「んーとね」
姫「! 誰か来るわ。隠れて」
スライム「わわ!」
ガチャ
魔王「ご機嫌いかがかな、姫」
姫「愚問ね。ここに来てからわたしの機嫌がいいことがあると思って?」
魔王「はは。それは失礼した」
姫「分かったらさっさと消えて。目障りよ」
魔王「しかし……最近の姫は心なしか上機嫌に見える」
姫「あら、魔界に目の医者はいないのかしら」
魔王「我の目はこの上なく冴えわたっておるよ……出てこいスライム」
スライム「!?」ビク!
姫「っ!」
スライム(あわわ……)
魔王「……二度言わせる気か?」
スライム「ご、ごめんなさい! すぐに出ますっ」
魔王「……ふふ」
スライム「……」オドオド
姫(なんとなくまずい、わね……)
魔王「お前は一体ここで何をしていたんだ、スライム?」
スライム「え、ええと……」
姫「……わたしが側近に頼んで、話し相手を用意してもらったのよ」
魔王「ほう……なるほど。側近が」
姫(すぐバレるでしょうけれど、この子が逃げるだけの時間は稼げるはず……)
魔王「ふうむ」カツカツ
姫「近付かないで!」
魔王「スライムがどうなってもいいのか?」ボソ
姫「っ!」
魔王「ふふ」ガシ
姫「つっ! 放しなさ――んむ!」
スライム「あっ……!」
魔王「――ん」
姫「……っ」
魔王「美味なる唇であった」
姫「……くっ」
スライム「あわわ……」
魔王「侍女に湯浴みの用意をさせている。身体を隅々まで清めておけ」
姫「……!」
魔王「ふふ。数刻後を楽しみにしておるよ」
姫(この下衆が!)
魔王「くれぐれも妙なことを考えぬように。自分の身、そして友の身のことを考えたまえ」ギィ
……バタン
姫(初めてが……)ゴシゴシ
スライム「ごめん……ごめんなさい」
姫「あなたが謝ることじゃないわ」
姫(この子を利用しようした罰が下った……というのは考え過ぎかしらね)
姫「……」
スライム「ど、どうしよう」
姫「どうしようもないわ」
スライム「でもきっと姫ちゃんがひどいことされちゃう……」
姫「それは。それは……」
『姫、俺からのプレゼントです。受け取っていただけますか?』
姫「……」
スライム「……」
姫「あなたは逃げて」
スライム「そんなことできないよ!」
姫「時間がないの。急いで。こっそり行くのよ」ギィ
スライム「でも、でもぉ……」
姫「ありがとう。この数日間、楽しかったわ」
スライム「……」
姫「早く」
スライム「……」プルプル
姫「?」
スライム「姫ちゃん!」
姫「な、なに?」
スライム「姫ちゃんはぼくの友だち?」
姫「……あなたはどう思う?」
スライム「ぼくは友だちだと思う。いや、今決めた。姫ちゃんはぼくの友だち!」
姫「ふふ……ありがとう」
スライム「だから」
姫「……?」
スライム「ぼくは友だちを助けるよ!」
……
…
ヒュウウウゥゥゥ……!
姫「――ッ!」
スライム「っと!」
ボイン! ボイン! ボイン……
スライム「うん。着地成功! できるとは思わなかったけど!」
姫「す、凄いわねあなた。あの窓の高さから着地できるなんて……」
スライム「ご褒美にアメちょうだい!」
姫「いくらでもあげるわよ!」
「ん、あれは……」
「姫だ! 姫が逃げた!」
「スライムも一緒だ!」
姫「気付かれたわね」
スライム「逃げるよ姫ちゃん! 掴まって!」
姫「どうするの?」
スライム「こうする!」プクー!
姫「わわ!? 膨らんだ!?」
スライム「きのう姫ちゃんが教えてくれたボールのマネ! 行くよ!」
ググ……ビョンッ! バイン!
姫「速い!」
スライム「どんどん引き離すよっ!」
姫「いっけー!」
……
…
洞窟
コウモリ「で。なんでオレのとこ来るんだよ」
スライム「疲れた……」
姫「ありがとうね」ナデナデ
コウモリ「聞けよ! っていうか一大事じゃねえか姫が逃げたなんて!」
スライム「でも、あのままあそこにいたら姫ちゃんが」
コウモリ「ちょっとは考えてこうどうしろよな! オレまでとばっちりじゃん!」
姫「……ごめんなさい」
コウモリ「うっ。そう素直に謝られると……」
コウモリ「……チッ!」
スライム「コウモリ君は、ぼくの友だちだよね」
コウモリ「絶交したくなってるけどな」
スライム「姫ちゃんとも友だちになってあげてほしいんだ」
コウモリ「ぐ……そ、それとこれとは話がべつだ! オレは巻き込まれるのはごめんなんだ!」
姫「……すぐに出ていくわ」
コウモリ「そ、そうだ。さっさと行っちまえ!」
スライム「……じゃあね、コウモリ君」
コウモリ「あばよ!」
コウモリ「……」
コウモリ「お、オレは悪くないかんな」
コウモリ「魔王さまに逆らうやつがいけねえんだ!」
コウモリ「だから」
姫『翼の皮に傷がついちゃってる』
コウモリ「だから……」
姫『はい、これで大丈夫』
コウモリ「うう……」
姫『あとこれ飴ちゃんね』
コウモリ「くっそくっそ!」バサッ!
森の中
スライム「急いで! すぐそこまで誰か来てる!」
姫「はぁ、はぁ……」
……
…
大鼻豚「フゴッ、フゴッ!」
側近(連れてきた豚どもの反応が活発だな。近いか)
側近「……姫! いらっっしゃるのでしょう!」
側近「魔王さまがひどく心配してらっしゃいます! あの方をこれ以上困らせる前に戻るのが得策かと!」
側近「でないと、"帰ってから身が持ちません"よ!」
姫「帰るって、何よ……! わたしの帰るべき場所はあそこじゃないのに!」ゼィ ゼィ
スライム「早く早く!」
「まあ、私がすぐにお迎えに上がりますのでご心配なく!」
姫「くっ……!」
スライム「追いつかれちゃうよぉ……!」
ガサガサ!
姫・スライム「!?」
側近(この茂みの向こうだな)
――ガサ!
コウモリ「ん? これはこれは側近さま!」
側近「……?」
コウモリ「どうかしましたか。そんな変な顔して」
側近「いや……ここに不審なやつが来なかったか?」
コウモリ「不審? って、どんな?」
側近「……」
コウモリ「ん?」
側近「……いや、なんでもない」
大鼻豚「フゴ……」
側近(豚どもの反応も鈍い……逃げられた?)
コウモリ「用がなければオレ、ちょっと忙しいんで失礼しますよ?」
側近「ああ」
コウモリ「……」パタパタ
側近「待て」
コウモリ「っ!」ドキィッ!
側近「お前は確か……伯爵家の息子だったな」
コウモリ「は、はひ……そうですが……」
側近「いや、それだけだ。行け」
コウモリ「失礼しました……!」パタパタ!
・
・
・
空の上
姫「あの。ありがとうございます蝙蝠の皆さん」
スライム「ありがとー!」
「いいってことよ。伯爵家の坊ちゃんたってのお願いだしな」
姫「でも……わたし、魔王のところから逃げてきてて」
「あーあー。聞こえねーなー」
「俺たちは何も見てないし聞いてない」
「たまたま集団で飛びたくなって、たまたま荷物を運んじまった。それだけだな、うん」
姫「……ありがとう」グス
「おっと、涙はまだとっときな。俺たちにできるのは少し運ぶことだけだからな」
「この先は嬢ちゃんたちだけでなんとかしな」
スライム「りょーかい!」ビシッ!
コウモリ「――はひぃ、なんだかどっと疲れた……」パタパタ
「お。坊ちゃんお疲れっス!」
スライム「ありがとうコウモリ君!」
姫「あなたのおかげで助かったわ」
コウモリ「……べつにお前のためじゃねーし。友だちのスライムのためだし!」
姫「あら。じゃあわたしとは友だちになってくれないの?」
コウモリ「な、なってやるよ。ただし義理だからな。いいか、義理だぞ!」
姫「ふふ。ありがとう」
コウモリ「……フン!」
……
…
夕方 死火山の山腹
「俺たちが運べるのはここまでだ。ここからは嬢ちゃんたちで頑張れよ!」
姫「ありがとうございました」
スライム「助かったよ!」
「どういたしまして!」
「坊ちゃんも行くんですかい?」
コウモリ「まーな」
「お父さまが心配してらっしゃいましたよ。あまり無理しないでくださいね」
コウモリ「しばらくしたら帰るからよろしく言っといくれ」
「新しい燕尾服を用意して誕生日を楽しみにしてらっしゃるんですから、気をつけてくださいよ。それでは」
姫「そろそろ日が沈むわね」
スライム「今日はここで野宿かなあ」
コウモリ「こっちに洞窟があるぜ。ここでなら安心して過ごせるだろ」
……
…
姫「なんだか……」
スライム「ひろーい!」
コウモリ「なんだここ? 自然にできたもんじゃないっぽいけど」
姫「……っ」ブル!
姫「いやな予感がするわ。引き返しましょう」
姫(……? こんなところに岩なんてあったかしら?)
コウモリ「っ!?」
スライム「姫ちゃん危ない!」
ズン!
「……避けたか」
姫「な……?」
スライム「うわあ!?」
「うるさい侵入者どもめ。儂の眠りを妨げた罪は重いぞ」
コウモリ「こいつは……火竜だ!」
火竜「礼儀がなっておらんな若いの」ギロ
――火竜にそうぐうした!
火竜「久々に目覚めて調子が悪いわい」
スライム「まずいよ姫ちゃん。プライドがたかくてゆうめいな火竜だよ」ヒソ
姫「怒らせるとよくなさそうね……ここはわたしにまかせて」ヒソ
火竜「ふわぁぁ……」
姫「火竜さま!」
火竜「ん?」
姫「わたくしは人間界の姫です。
このたびは知らなかったとはいえ、無礼にもあなたさまのお住まいに踏み込んでしまい申し訳ありませんでした」
火竜「ふむ」
姫「そのことにつきましては謝罪したうえで速やかに退出いたしますので、どうかお許しいただけないでしょうか?」
火竜「……」
スライム「……」ドキドキ
コウモリ「……」
火竜「よかろう」
姫「ありがとうございます!」
火竜「しかし、だ」
スライム「?」
火竜「勝手に踏み込んだ上で安眠を妨げたことへの償いが不十分ではないかね?」
コウモリ(……まずいな)
姫「その点については丁重に謝罪させていただき――」
火竜「お主、なかなか良い指輪をしておるな」
姫「……それが何か?」
火竜「謝罪の印にそれを渡してもらおうか」
姫(くっ……)
姫「これは、友人からの頂き物です」
火竜「渡せないと言うのかね?」
姫「いえ……ですから大事にしていただきたいのです」
火竜「よかろう。さっさと外せ」
姫「……」
火竜「それから」
コウモリ「!? まだ何かあるのかよ」
火竜「……」ギロ
コウモリ「う……」
火竜「指輪は謝罪の印。償いはまた別だ」
スライム「そんな!」
火竜「儂のものになれ、女」
姫「……!」
姫「それは、一体どういう意味で?」
火竜「儂は、美しいものを集めるのが好きだ。集めたものを並べてずっとずっと眺めていたい」
姫「……」
火竜「お主は美しい。だが、時間がたてばその美貌も醜く衰えていくだろう」
姫「話が見えません」
火竜「お主を水晶に閉じ込め、それを儂のものにする」
スライム「ええ!?」
火竜「お主にとっても悪い話ではないぞ。なにしろその美しさを永遠に保っていられるのだからな。ははは!」
姫(この……!)
コウモリ「ちょっと待てやこの変態爺! 黙って聞いてりゃ――」
火竜「うるさい」ヒュボ!
コウモリ「!?」
ドゴオッ!
スライム「コウモリ君!」
姫「"光矢"!」ビシュッ!
火竜「ふん」ピシ
スライム「姫ちゃん! 怒らせちゃ――」
姫「もうそんなこと言ってる場合じゃないわ! あなただけでも逃げなさい!」
火竜「愚かな……」
姫「もう一発行くわよ!」ポゥ
火竜「遅い」ヒュボ!
姫「あ――」
ドゴォッ!
スライム「あ……」
火竜「ふんっ」
スライム「……」プルプル
火竜「どうした逃げないのか? 今なら見逃してやってもよいぞチビ」
スライム「チビっていうな」
火竜「ん?」
スライム「よくも……よくもぼくの友だちを殺したな! ぜったいにこうかいさせてやる!」
火竜「命はもっと大事にすべきだよ」フゥ
スライム「行くぞ!」ググ
火竜「好きにしろ。そして死ね」ヒュボ!
ドゴォッ!
モクモクモク……
火竜「……む?」
「まったく。弱いのに無茶しやがって」
スライム「うう……」
火竜「お主、何者だ?」
「オレ? 礼儀がなってない若いのだけど」
火竜「先ほどの蝙蝠? いや……」
「合ってるぞ? でもちょっとだけ違う。へへへ……」
吸血鬼「夜はオレの時間だぜ!」
――コウモリは吸血鬼にへんしんした!
姫「いつつ……」
スライム「あれ……?」
吸血鬼「間一髪だったけど。なんとか助けられたな」
火竜「……吸血鬼一族。伯爵家の者か」
吸血鬼「その通り! 今更吠え面かくなよ!」バッ
火竜「ふん……」ヒュボ!
吸血鬼「おっと」
火竜「チィ……!」ヒュボ! ヒュボ!
ドゴォッ! ドゴォッ!
吸血鬼「当たんねーよバーカ!」
火竜「この……!」
吸血鬼「よ!」ビュッ!
火竜「ぐあッ! 目がァッ!」
吸血鬼「今だスライム!」
スライム「うん!」ビュン!
スポッ!
火竜「もごッ!」
スライム「お口に着地しましたー! 続いてふくらみまーす!」プクー!
火竜「もごごッ!」
吸血鬼「これで火弾は撃てねえだろ!」
火竜(この……!)
吸血鬼「そしたら仕上げだ! 姫、やっちまえ!」
火竜「!」
姫「行くわよ! "溜撃光矢"!」ギュォッ!
――ズドン!
……
…
火竜「ぐぐ……」
吸血鬼「おっし。これでしばらくは安全だろ」
姫「あなた吸血鬼だったのね……」
スライム「あれ? 言ってなかったっけ?」
姫「聞いてはないわね。まあそれはともかく」
吸血鬼「もちっと傷めつけとくか?」
姫「……」ツカツカ
火竜「儂を殺すか……」
姫「"癒しよ"」ポゥ
火竜「ぬ?」
吸血鬼「おい!?」
姫「ここに勝手に踏み込んだのはわたしたち。となれば元はといえばわたしたちのせいよね」
吸血鬼「でもこいつ、変態だぜ!」
姫「それとこれとは話が別」
火竜「……」
姫「大丈夫。暴れられない程度にとどめとくから」
火竜「図に乗るなよ小娘……」
姫「……」
火竜「儂はそういう余裕が気に食わん……!」
スライム「♪」ポヨン
火竜「……?」
スライム「ムリしちゃだめだよ? まだ治したばっかりだから」
火竜「何のことだ? ……あ」
スライム「歯、ちょうしいいでしょ? ぼく、そういうのとくいなんだ」
火竜「……」
スライム「さいきんぐあい悪くなかった? きっと歯がよくなかったんだよ」
火竜「……」
スライム「ごきげんが悪かったのもそのせいだよね」
火竜「小僧……」
スライム「これでかってに入ってきちゃったおわびにならないかな?」
火竜「あー……」
姫・吸血鬼・スラ「?」
火竜「儂は疲れた。寝る」
姫「え?」
火竜「zzz……」
吸血鬼「なんだこの爺?」
スライム「……ふふ」
次の日
姫「じゃあ出発しましょうか」
スライム「おー!」
コウモリ「この爺、まだ寝てるのな」
火竜「ウウム……」
姫「まあいいじゃない。起こさないように行きましょう」
火竜「ムニャ……洞窟の奥、左。抜け道」
姫「……?」
火竜「zzz……」
姫「寝言、かしらね」
スライム「ありがとうおじいちゃん!」
コウモリ「チッ、素直じゃねえの」
姫「あんたがいうの?」ウリウリ
コウモリ「やめろっ」
数刻後
スライム「うわあ……!」
コウモリ「こいつは……」
姫「海ね」
スライム「すっごーい! おっきーい!」
コウモリ「ひゃっほーい!」バシャバシャ!
姫「朝日があっちから出ていて、東に人間界があるから。海沿いに行けばいいはずよね」
スライム「うわーい!」
コウモリ「とりゃーい!」
姫「追手は掛かっているはずだから急がないと」
スライム「姫ちゃん助けてえ! コウモリ君がおぼれたあ!」
コウモリ「ブクブク」
姫「あーはいはい! 今行くわよ!」
姫(服が冷たい……)
コウモリ・スライム「キャッキャ!」
姫「……もういいでしょ! そろそろ行くわよ」
コウモリ・スライム「もうちょっとだけー!」
姫「はあ、まったく」
「いやはや、元気のいいことですな」
姫「元気がいいのはいいんだけれど。それが過ぎると困りものよ、ね……?」
側近「ふふふ」
――側近にそうぐうした!
姫「――ッッ!」ダダダ!
スライム「どうしたの、ってうわあ!」
コウモリ「掴むな!」
姫「いるのよ!」
スライム・コウモリ「?」
側近「やあ」
スライム・コウモリ「――ッッ!」
姫・スラ・モリ「うわああぁぁぁッ!」ダダダ!
側近「そんなに急いで逃げられるとちょっとショックです」
姫「"光矢"!」ビシュッ!
側近「ふうむ。そこまで嫌われてますか」カキン!
姫「効かない!?」
側近「やっぱりショックですな」
姫(いつの間に前に回り込んで――!)ズザッ!
スライム「掴まって姫ちゃん!」プクー!
姫「ええ!」ガシ
スライム「ん!」ビョン! バチャン!
側近「海に逃げますか」
コウモリ「ここまでならさすがに追ってこれないだろ」
側近「困りましたねえ」
側近「こんなに嫌がられるとは」
側近「繰り返しですが。ショックです」バサ!
コウモリ「げげっ! あいつも飛べるのかよぉ!」
側近「待っててくださあい。すぐ行きますからねえ」
コウモリ「くんなああぁぁ!」
姫「"光矢三連"!」ビシュシュシュッ!
側近「効きませんな」キキキン
姫(ここまで、かしら……)
スライム「……ねえ」
姫「安心して。あなたたちに痛い思いはさせないから」
スライム「ええと、そうじゃなくて」
姫「?」
スライム「前。何か来る……!」
姫「え?」
バシャシャシャシャシャシャ!
「あれは間違いない……姫!」
「そして上のは、敵か!」チャキ!
姫(すごい速さでこちらに向かってくるあれは……舟?)
姫「誰……?」
「姫――!」
姫「……まさか」
「お迎えに、あがりました!」
姫「勇者……!」
勇者「今助けます!」
――勇者があらわれた!
側近「あれは、まさか……!」
勇者「おおおおおッ!」ダンッ!
側近(な!? 一瞬でこの高さまで!)
側近「くっ!」ジャキ!
勇者「シッ!」ビュッ
側近「が――ッ!?」ドス!
側近(勇者……か……)
ヒュルルル……バシャン!
勇者「……」スタ!
スライム「……すごーい」ポカーン
コウモリ「……化け物かよ」ポカーン
姫「勇者……!」
勇者「……姫。お待たせして申し訳ありませんでした」
海岸
姫「遅すぎ!」
勇者「すみません……」
姫「誰のせいでこんなことになったと思ってるの!?」
勇者「あの日人質に取られた俺のせいです」
スライム「え? もしかして……」
姫「そうよ! 勇者が不意をつかれたからこんなことに!」
勇者「面目ない……」
コウモリ「あんなに、つよいのにか?」
勇者「人はいつも百パーセントじゃいられないからね」
姫「偉そうにしないでよ!」ペシペシ!
勇者「すみません……」
勇者「でも、無事でよかった。君たちが姫を守ってくれたのかい?」
スライム「うん! がんばった!」
コウモリ「オレは別に……流れでなんとなくだよ」
勇者「そうか。ありがとう」
姫「……」
姫(無事……じゃないわよ)
勇者「どうしました、唇が何か?」
姫「……なんでもないわ」
姫「……そんなことよりあなたねえ!」
勇者「はい……」
姫「あなたねえ……!」
スライム「姫ちゃん」
姫「……」
スライム「ちょっとだけでいいよ。甘えちゃおう?」
姫「……」
スライム「姫ちゃんはがんばったからさ」
姫「……グス」
スライム「ね?」
姫「ヒック……う……グス」
勇者「……」ギュッ
姫「怖かった……怖かったよぉ……!」
勇者「……」ナデナデ
スライム「よかった」
コウモリ「……」ムス
スライム「コウモリ君はちょっと残念かもだけど……」
コウモリ「あ!? 何がだよ!」
スライム「だいじょうぶ。コウモリ君も十分かっこいいよ」
コウモリ「ったりめーだろ!」
スライム「すぐにいい子が見つかるさ!」
コウモリ「なにいってんのかわかんねー!」
スライム「ふふふ」
……
…
姫「じゃあ魔王城に突撃よ」
スラ・モリ・勇者「えっ」
勇者「今……なんと?」
姫「魔王城に行くわよ」
スライム「ええ!? なに言ってるのさ!」
コウモリ「頭おかしいんじゃねえの?」
姫「……」グリグリ
コウモリ「いたたた!」
姫「やっぱりやられっぱなしってのは性に合わないわ! やり返さないと!」
勇者「つまり……魔王をさらうので?」
姫「あ、えっと。そうじゃなくて、ただ単にぶちのめさないと気が済まないってこと!」
勇者「危険です! 俺が一人で……!」
スライム「ぼくも行く!」
コウモリ「お、オレも行ってやってもいいぜ」
姫「わたしも」
勇者「……」
勇者(姫はこうなるとテコでも動かないんだよなあ……頭が痛い)
魔王城
魔王「側近からの連絡が途絶えた?」
「はっ。そして申し上げにくいのですが……」
魔王「申してみよ」
「勇者が……こちらに向かっています」
魔王「ぬ。あの小僧か」
「若干名の連れがいるとの事です。数刻後にここまで」
魔王「分かった。我が直々に相手をしよう」
「な!? で、ですが!」
魔王「所詮あの時人質にできてしまう程度の小僧だ。倒すのに苦はあるまい」
「それでも!」
魔王「くどい!」
「っ……! わ、分かりました……」
数刻後 魔王城前
魔王「ふうむ」
勇者「……」チャキ!
スライム「……」プクー
コウモリ「……」バサバサ
姫「……」ポゥ……
魔王「何しに来たのだお前らは?」
勇者「汚い手口で姫をさらって愚弄したこと、今ここで償わせてやる」
姫「右に同じ」
スライム「上におなーじ!」
コウモリ「下に同じだぜ!」
魔王(こいつらは阿呆なのか?)
魔王「まあいい……我の力、思い知らせてやろう」ゴゴゴ!
――魔王がたたかいをいどんできた!
姫「……! すごい魔力」
魔王「もう逃げる気も起こせぬぐらいに叩きのめしてやる」
スライム・コウモリ「うう……」
勇者「行くぞッ!」ダン!
魔王「来いッ!」
勇者「やあああッ!」
魔王「ふはははは!」
キィン! ガキン! ドゴ! ドゴオッ!
スライム「ち、近寄れないよ!」
コウモリ「どうする!?」
姫「わたしたちは機を待ちましょう」
コウモリ「でもよ!」
姫「今行っても勇者の足を引っ張るだけよ」
スライム「チャンスを待てってことだね。分かった!」
勇者「くっ!」ギギギ!
魔王「どうした。おい、どうした勇者!」グググ!
勇者「この……!」
魔王「このままでは我が競り勝つぞ。分かるだろう、死が刻々と近付いているのが!」
勇者「ぐ、ぬ、ぬ……」
姫(まずい……!)
スライム「あわわ……!」
コウモリ「……」ゴクリ
「ずいぶんと、楽しそうではないか」
勇者・魔王「?」
火竜「儂も混ぜろ」ヒュボ!
ドゴオッ!
魔王「くっ! お前は火竜!」
火竜「久しぶりだな魔界の長よ」バサッ バサッ
魔王「なにをしに来た!」
火竜「なに、空の散歩をしていたらお主が困っておるようでな。加勢に来た」
魔王「要らぬ! 去れ!」
火竜「遠慮するな」ヒュボ!
ドゴオッ! ドゴオッ! ドゴオッ!
魔王(あやつめ、明らかに我を狙って!)
火竜「久しぶりのせいか、上手くいかんわい」ククク
魔王(しかしやつも竜族の実力者……下手に機嫌を損ねるわけには)
魔王「チッ! ならば!」カッ!
――ブワ!
魔王「来い! 闇夜の使いたちよ!」
勇者「くっ、辺りが暗く……まだ日が出ているはずなのに!」
火竜(これでは儂も手が出せんな)
魔王「ふふふ……この魔法は限定空間内に夜を導くものだ。我は全てを把握しておるが、お前たちには何も見えん!」
勇者「まずい……」
魔王「覚悟しろ!」
「いいや」
魔王「……?」
吸血鬼「覚悟するのはそっちの方だぜ! 魔王さまよお!」
魔王「しまった、吸血鬼が!?」
吸血鬼「おそいぜ!」ビュン!
魔王「がッ!」ドゴゥ!
吸血鬼「夜は俺の住処だっつーの!」
魔王(くぅ……術を解かねば)グッ
シュウゥゥン……
姫「待っていたわよこの時を!」
魔王「何!?」
姫「"特大溜撃光矢"ッ!」
ズ――ドンッ!
魔王「ぐおお……」ドサ
姫「やったわ!」
スライム「すっごーい!」
コウモリ「へへ!」
勇者「……いや。まだだ」
姫「え?」
魔王「……。くくく……」ビキビキ!
スライム「な、なに?」
魔王「この姿になるのハどれくらいぶりだったカ……」ビキビキビキ!
コウモリ「ひっ……」
魔王「ふ、ふフ……」ムクリ
魔王「ハーッハッハッハッハッハッ!!」ズゴゴゴゴッ!
魔王「お前たちは運がいイ。痛みを感じる暇もなく死ねるのだからナ」フワ
――ビュン!
勇者「! 一瞬であんな上空に!」
魔王「全力ダ! 全力で無に帰してやル!」ヒュイィィィィン!
勇者「くっ……」
スライム「勇者くん! ぼくがきみをあそこに届かせる!」
勇者「え?」
スライム「だからきみは魔王を倒す手段を用意して! 時間がない!」
勇者「……よし分かった!」
勇者「姫! 申し訳ありませんが指輪をこちらに!」
姫「どういうこと!?」
勇者「剣と指輪はもともと一つのものなんです!」
姫(それをわたしに預けてくれてたんだ……)
姫「分かったわ!」シュッ!
勇者「……」パシ! カチ!
――剣に指輪をはめこむことによって、真の力がひきだされた!
スライム「いくよ! ぼくに乗って!」プクー!
勇者「ああ!」
スライム「……!」ググ!
スライム「それぇッ!!」ビュンッッ!
魔王「グオオオオオオッ」カッ!
勇者「うおおおおおおおッッ!!」シュッ!!
……
…
・
・
・
「それから!?」
子スライム「それからどうなったのさ!?」
少女「ふふ。聞きたい?」
子スライム「もちろん!」
子コウモリ「オレも!」
少女「ええとね。勇者は邪悪な魔王を倒して、世界に平和が訪れましたとさ」
子スライム「え?」
子コウモリ「それ、だけ?」
少女「そうよ? 案外呆気ないでしょ」
子コウモリ「面白くねー」
子スライム「うーん……」
少女「物語のおしまいって、結構そんなものよ?」
子コウモリ「でもなー」
子スライム「いや、ぼくは面白かったよ。ありがとね!」
少女「そう、よかったわ。そしたら飴ちゃんどうぞ」
子スライム「わーい!」
子コウモリ「うめえ!」
少女「これから竜おじいちゃんのところ行くんだっけ?」
子スライム「うん! おじいちゃん優しいからだーいすき!」
子コウモリ「ちょっとガンコだけどな」
少女「おじいちゃんによろしくね」
子スライム「うん! じゃあね!」
少女「ふう」
「あら、あの子たちは帰ったの?」
少女「ええ」
「なんのお話してたの?」
少女「えへへ。ママたちのこと」
「ふふ……そう」
少女「あの子たち喜んでたわ。全部本当の事だなんて信じないでしょうけど」
「そうね」
少女「あーあ。わたしもママたちみたいな冒険してみたいなー」
「馬鹿なこと言わないで。あなたがさらわれたらママはどうしたらいいか……」
少女「冗談よ冗談」
「ふふ。じゃあ食事にしましょう。先に行ってるわね」
少女「ええ」
「――大変だー!」
少女「?」
子スライム「大変大変!」
少女「どうしたの?」
子コウモリ「りゅ、竜のおじいちゃんが、悪い人たちにつかまっちゃった!」
少女「どういうことよ?」
子スライム「助けに行かなきゃってこと!」
少女「え? え?」
子スライム「行くの行かないの!? 急がないと手遅れになっちゃう!」
少女「……行く! もちろん行くわ!」
子コウモリ「じゃあ早く行こうぜ!」
少女「ママ、ごめんね。ちょっとだけ行ってきます!」
ギィ……
……バタン!
……ここからのお話はいつか、語られるかもしれません
でもとりあえずは、ここでおしまい
支援保守に感謝