勇者が主人公の物語はよくありますが、それ以外の登場人物にだってドラマはあると思います。
そんな思いで作ってみました。
名も無き戦士と魔法使いが勇者に出会うまでの前日譚です。
元スレ
少女「あなたは勇者じゃない」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1397565781/
「えい!」
ブン!
「やあ!」
ブン!
「せい!」
ブン!
「…ねえ?」
「とりゃ!」
ブオン!
「ねえったら!」
カッ!
「……なに?」
少女「聞きたいんだけど」
少年「なにを?」
少女「あなたは勇者じゃないのに、なんで今から剣の練習をするの?」
少年「…別に」
少女「まだ軍に入れる年齢でもないじゃない? 今やってることが軍に入ったときに役に立つの?」
少年「…知らないよ」
少女「どうして軍に入りたいの? 父親のようになるため? それとも本当に世界を平和にしたいの?」
少年「うるさいな」
少女「あら、ごめんなさい。だって、どうしてこう毎日一人で剣を振り続けられるのか不思議でならないんだもの」クス
少年「きみだって、どうして毎日ぼくの練習を見に来てるのさ?」ブン!
少女「だって、街にいたってつまんないんだもの」
少年「僕と一緒に居るほうがつまらないと思うけど?」ブン!
少女「あら? そうでもないわ」ポウ
少女「えい!」ビ!
ドガ!
少年「うわ!」ヒョイ
少女「ふふふ♪ だってこうやってあなたのことからかうの楽しいんだもの♪」ニコ
少年「あぶないな! 魔法を人に向かって使うなよ!」
少女「あら? でも避けるのがだいぶ上手くなってるじゃない? これって良い練習だと思うけど?」
少年「その分魔法強くしてるでしょが」プクー
少女「私は楽しい。あなたは魔法を避ける練習。これで五分五分でしょ」クスクス
少年「もー。やめろと言ってもやめないからでしょ」
少女「そりゃあね。選ぶ権利はわたしにある。あなたの命令は聞けないのだよ」エヘン
少年「ひねくれ少女」
少女「本当にぶつけるわよ?」
少年「……スミマセンデシタ」
少女「ふふふ、あなたって本当にからかいがいがあるなあ。楽しい♪」
少年「……はあ。まあ、きみが楽しいのならもうそれでいいよ。だから邪魔だけはしないでください」ペコ
少女「ふむ…。頭を下げられてはこちらもわがままは言えないな。じゃあ今度からは、
わたしの魔法が当たった時には稽古の邪魔にならないように回復してあげるね」ニコ
少年「そっちですか…」
少女「わざと当たった方が元気になれるかもよ?」
少年「きみの回復魔法の凄さは知ってるけど、攻撃魔法の凄さも知ってるので遠慮しておきます」オコトワリ
少女「つれないなあ。強くなるためにはドーピングも必要じゃない?」ピ
少年「うわ! なにす…え…? か、体から力が沸いてくる…!?」ググ
少女「凄いでしょ? こないだ本見て覚えてみたんだ♪」
少年「本って…、一体どこからそんな本持ってきたんだよ…」
少女「そんなことはどうでもいいの。ほら、試してみなさいな♪」
少年「ゴク……」ギュ
少年「えい!」
ブオン!!
少年「!!」
少女「お~!? すごいすごい!!」
―――――
――
少年「……ねえ少女」
少女「ん? なに?」
少年「きみはやっぱり魔法使いになるべきだ。こんなに才能があるのにもったいないよ」
少女「…またそれ? あなたには関係ないでしょ」
少年「何度でもいうさ。きみほどの才能をもった魔法使いは僕が王都にいたときにも見たことがないよ」
少年「ふつうは術式や詠唱によって魔力を練り魔法をつかうのに、きみはそれを必要としない。それがどういう意味だかわかるかい?」
少女「あら、よく知ってるのね」
少年「勉強したから。でも僕には魔法は使えなかった」
少年「それよりも、きみが詠唱なしで魔法をつかえるってことは、それだけきみの秘めた魔力が膨大なものだということだよ?
少女「でしょうね。あなたの父親にも言われたわ」
少年「きみの才能は世の中の人のために使うべきだ」
少女「……あなたには関係ない」
少年「せめて、その回復魔法で街の診療所の手伝いとかさ」
少女「うるさいな。わたしはわたしの好きなように生きるの! 今はあなたの邪魔をするためにしか魔法は使わないから!」プン
少年「そんなのずるい! 僕は望んでも得られなかった才能なのに、不公平だ!」
少女「それは残念でした。あーあ……、しらけちゃった。わたしもう帰る!」タッ
少年「あ! ごめん! 言い過ぎたよ! 待って!!」ッタッタ
少女「ついてこないで! ついてきたらもうここにも来ないから!!」プン
少年「ごめん…、あやまるから! ごめん少女!」…テクテク
少女「……っ! 知らない!」タッタッ
少女(あやまらないでよ……、私が馬鹿みたいじゃない!)
―――――
――
ガチャ
少年「…ただいま」ガチャン
?「おう、帰ったか。…ん? お前また一人で稽古してたのか?」
少年「父さんが教えてくれないからだよ。だから自分で練習するしかない」
父親「まだ言ってるのか? 前も言ったが、お前は子供だ。子供が戦いのことを学ぶのはまだ早いんだよ」
少年「僕は早く父さんみたいな立派な兵士になりたいんだ。だからあきらめないよ?」
父親「無駄だね。俺はスパルタじゃないからな。子供の未来は自分で決めさせる。だから入隊できるようになるまでは何も教えないぞ」
少年「それこそもう決まりきってるじゃないか。ぼくの意志はかわらないよ」
父親「母さんがいたら怒られるぞ?」
少年「…む! 母さんをひきあいに出すなんてひどいや」プイ
父親「悪かった。…でもな、これは母さんの願いでもあるんだ、だからさ、彼女の意志を汲んでやれないかな…」
少年「……わかったよ」
父親「ふ、いい子だ。まあ、人生は長いんだ。この先お前の考えも変わるかもしれないさ」ポンポン
少年「そうかなあ…?」ゴシゴシ
父親「そんなもんだ。さあ、ご飯にしよう!」
少年「うん!」ニコ
カチャカチャ
父親「そういえばお前、今日も彼女といたのか?」パク
少年「え!? なんでわかるの??」モグモグ
父親「お前に魔法の痕跡が見られるからな。何か掛けられたろう?」モグ
少年「…ううん! なんでもないよ! ちょっと怪我したから回復してもらったの!!」ドキ
父親「嘘はいけないな。筋肉が痙攣したあとがあるぞ。回復魔法じゃないことは確かだ」
少年「う……。ごめんなさい、……彼女が強化魔法を覚えたって言ったから、ぼくが無理やり頼んだんだ…」シュン
父親「……はあ、そうか、まあいい。しかしあの子は強化魔法まで覚えたのか? …すごいな」
少年「う、うん。そうだね。アハハハ…」カチャカチャ
父親「もともと魔法を使えたみたいだが、最近のあの子の魔法習得の速さは驚異的だぞ」
少年「…やっぱりそうなの?」
父親「ああ。あの年齢であそこまで多くの魔法を使いこなせる人間なんて聞いたことがない」
少年「すごいね。彼女」
父親「ところで今回も魔法を使ったときに彼女は詠唱か何かしたのか?」
少年「ううん、なにも。いきなりだった」
父親「…やはりそうか。まいったね、こりゃ」ゴシゴシ
少年「?」
少年「…ねえ?」
父親「ん?」
少年「なんでぼくは魔法が使えないの?」
父親「そりゃあ我が一族に魔力を秘めた人間が一人もいないからだよ。血筋だ血筋」パク
少年「彼女の両親も魔法は使えなかったよ? 聞いたんだ」
父親「もともと魔力があっても魔法として練るのに力がなかっただけじゃないか」モグモグ
少年「魔力があっても誰でも使えるわけじゃないの?」モグモグ
父親「ああ、でもたまに才能に恵まれて、魔法が使える子供が生まれたりもする。めずらしくもないさ」モグモグ
少年「でも、それじゃあおかしくない? 彼女の魔力が説明できない」
父親「"だったら両親もかなりの魔力を秘めてたはず。それが魔法が使えないのはおかしい…"というか? 我が子ながら知恵が回るな」ポン
少年「うん///」
父親「まあ、そうだ…、実は俺も彼女のことが気になったから調べたんだが…、
そしたら両親とも一族代々この街に暮らしていて、だれもそんな片鱗を見たことがないらしい」
少年「じゃあ……、どういうこと?」
父親「ふふ、難しい話だったな。お前もわかるように結論から言うと、『神の神託を受けた』これしかあるまい」
少年「しんたく…?」
父親「要は神様に特別な力を与えられたっていうことだよ」
少年「へえ、じゃあやっぱり少女は本当にすごいんだ!!」
父親「…そうだな。だが、それはあの子が望んで得たものなのか…、それとも…。…すでに気づき始めてるやつもいるし…」ボソ
少年「?」
父親「いや、なんでもない。さあ、食事だ食事。おかわりは?もっと食え」グイ
少年「もう食べてるよお…」ゲプ
――――
――
次の日の朝―
コンコン
少年「少女~! 起きてる~?」コンコン
ガチャ
少女「もう! 朝からうるさい! もっと寝かせてよ!」ゴシゴシ
少年「昨日はごめん! はい、これ!」ズイ
少女「ジャムとパン…。朝食はいらないっていつも言ってるでしょ…」フア~
少年「だって、最近うちにご飯食べにこないじゃないか。夜一人でなに食べてるんだよ? 料理できないでしょ?」
少女「うるさいな…、女の子だから大したもの食べなくても生きていけるの!」
少年「ん…? ああ! またリンゴだけしか食べてない! 栄養とらなくちゃ病気になっちゃうよ!」
少女「果物ダイエットって知ってる?」フフン
少年「そんな年頃でもないでしょ。僕たちの年ごろはたくさん食べて大きくなること。それが一番重要なんじゃないか!」
少女「はあ…、あんたの朝食が多すぎて一日中満腹なんです。もっと量減らしなさいよ…」
少年「え? そうだったの!? ごめん、きみのことも考えずに勝手な量もってきちゃって…、明日から半分にするよ!」シュン
少女「え…? い、いいわよそんなことしなくて! 食べなくちゃダメなんでしょ? だったら食べるわよ!!」プイ
少年「ふふ…。良かった! じゃあ、今日はうちで夕飯食べてってね! いやでも連れてくから!」ニコ
少女「…はいはい。しょうがないな」
少年「よし! はあ…、良かった~。少女に嫌われたかと思ってドキドキしてたんだよ~」ニコニコ
少女「はい? 昨日何かありましたっけ??」シラ
少年「ふふ。そうか、だったら何でもない! これからまた稽古しに行くんだけど、少女も来る?」
少女「あんたから誘ってくるなんて珍しいわね? まあいいわ、暇だからついて行ってあげる」
少年「いつも暇なくせに」ケラケラ
少女「な!? むかつく! 覚悟なさい!!」バ
少年「おっと!」ヒョイ
少女「ぐ…! ちょこまかと動き回って…! 待ちなさい!!」ダッ
少年「へへーんだ。だったら捕まえてみな~。あの丘まで競争だ♪」ダダッ
少女「待ちなさい!! この! くっ…魔法が使えたら!!」ダダッ!
少年(少女は街中で魔法を使わない… まあ、それが今のぼくには有利なんだけどね♪)タタッ
――――
――
少年「も゙うしわ゙けあ゙りまぜんでした…」ボロ…
少女「どうやら頭は人並み以下だったみたいね」フフン
少年「いや、も゙う勝でるかと…」グス
少女「私が魔法を使ったらこうなるに決まってるでしょ♪」
少年「いや、もう、まさかあそこまで本気で魔法を使ってくるなんて…」
少女「いや~、だいぶ差をつけられちゃったからね。本気だしちゃった♪」
少年「でもぼくが負けてからの仕打ちはひどくない……?」グス
少女「はいはい。ちゃんと反省できてるようだから許してあげる。えい♪」キュイン
少年「お…、おお! 治った!!」グイグイ
少女「私の魔法で回復できることを光栄に思いなさい」エヘン
少年「ありがとう!」ニコ
少女「な、なんで被害者のあなたが謝るのよ! 本当に謝る必要なんてないの!!」
少年「でも、僕はきみのおかげで怪我が治った。だからさ」
少女「///」
少年「?」
少女「…いいの! わかったわかった。ほら、練習するんでしょ? さっさとはじめなさいよ」プイ
少年「そうだった!」
――――
――
……
少女「?」
少年「えい!」
ブン!
少女「…ちょっと」
少年「やあ!」
ブオン!
少女「ねえってば!」
カッ!
少年「もう! なに!?」
少女「…今、なにか聞こえなかった?」
少年「え…?」
――…
少女「ほら! なにか聞こえる!」
少年「? うん、なんだろう…?」
ドガーン
少女「ばく…はつ?」
少年「え? だって向こうは街のほうじゃないか。砲撃訓練はもっと別の場所じゃ…」
ヒュー…
ドガーン!!
少年「うわ!!」
少女「きゃ!!」
少年「近かくに!? これはさすがにおかしい!! もしかして街が!?」ゾク
少女「そ、そんなわけないじゃない!! と、とにかく戻りましょう!」
少年「うん!」ダッ
少女「違う!! 私に捉まりなさい!!」グイ
少年「え!? うわ!!」
パシューン!!
―――
「きゃー!」
「逃げろー!!」
ウワー!
少年「…な、なんだよこれ…」ガクガク
少女「そんな…、街が…」ゾク
兵士1「君達!! あぶないから今すぐここを非難するんだ!!」
少年「!! 兵士さん!? ねえ! 父さんは? 父さんはどこにいるの!?」
兵士1「ん? !? 君は兵士長殿の!! 」
少年「何があったんですか!? 父さんはどこ!!?」グイ
兵士1「知らないのか?! ここは今魔物の襲撃にあってる! おそらく魔王軍だろう。兵士長殿は無事だ。今向こうの方で救助を行っている!」
少年「あ、ありがとうございます!!」ダッ
兵士1「あ!! ダメだ!!! そっちには魔物がいるぞ!!! 待つんだ!!!」
少女「私が守ります!」ス
兵士1「君は!?」
―――
―
ガッ! バキッ!
兵士長「大丈夫か!? 今助けるぞ!」グイ
兵士2「隊長! もうすぐそばまで魔物が迫ってます!!!」
兵士長「落ち着け! 我々が街のみんなを守らねばならんのだぞ!! 戦いに備えろ!!!」
住民「う…、うう…」
兵士長「おい! この人を今すぐ避難場所に!!」
兵士3「は! 了解しました!!」ダッ
「父さーん!!」
兵士長「ん?!」
少年「父さん!! ああ! 良かった!! 父さん!!」ダキ
兵士長「お前か!? くそ! 戻ってきてしまったか!!」ギリ
少女「おじさま!」ッタ
兵士長「少女もいたか!! なら…! 少女、君に頼みがある…!」
少女「は…い?」
兵士長「今から俺の息子を連れて、家の地下室まで逃げろ。今すぐにだ! あとはきみにまかせる。わかるか?!」
少女「は…はい! わかりました! 絶対に…、絶対に少年を守ります!!」ギリ
少年「そんな! 戦う!! ぼくも戦うよ!!」ジャキ
兵士長「無理だ!! お前に敵う相手ではない!! いいか! この街は危険だ! 今すぐ逃げるんだ!!」
少年「やだ!! 逃げるものか!! 僕だって戦え」
ドス!
少年「う…!」…グテ
兵士2「隊長!! 魔物が来ました!! もうやるしかありません!!!」ググ
兵士長「…すまない。さあ! 今すぐ避難するんだ! いいか? 絶対に地下から出るなよ!!!」
少女「おじさまも絶対に…、絶対死なないでください!!!」ポウ
兵士長「頼んだぞ!! 息子を…息子を頼む!!」
パシューン!!
兵士2「!?」
兵士長「ふ…、移動魔法とは凄いな。本当に安心して戦えそうだ…」ジャキ
魔物「グオオオオオオオオ!!」
兵長長「おい、魔物ども。これからが本当の戦いだ…。覚悟しろ…!!!」ダッ
「ウオオオーーーーー!!」
「ーーーー!」
「 」
―――
―
――「ねえ? なんで彼女はみんなの前で魔法を使わないのかな?」
父親「ん?」
少年「あの子が街のなかで魔法を使うのを見たことがないんだ」モグモグ
父親「そうなのか? ふむ…、確かに。俺も彼女の魔法を見たのは、ここでお前の怪我を治したときが初めてだったしな」
少年「うん」
父親「それまではお前から話を聞くだけだったからな。実際に目の当たりにするまでは信じられなかったよ」
少年「せっかく魔法が使えるのに……、彼女は魔法使いになりたくないのかな」モグ…
父親「……ひとついいか?」コト
少年「ん? なに、父さん?」
父親「もし、お前が勇者として選ばれていたらお前は勇者になるのか?」
少年「え? どういうこと? そんなの決まってる。やるしかないじゃないか」
父親「そうだろうな。じゃあ、実際は? お前は彼のことを知っている。彼は望んで勇者になろうとしてたか?」
少年「え? それは…、わからないよ。だって始めからあそこには彼を勇者と呼ぶ人しかいなかったじゃないか」
父親「そうだよ。お前が初めて勇者に会ったとき。すでに彼は勇者だったんだ。当時のお前にそんな選択できたか?」
少年「そんな小さな頃の話なんか覚えてないよ!」
父親「……すまない。質問を変えよう。彼女は今、魔法使いになりたいのか?」
少年「!?」
少年「え…、なりたくないの…?」
父親「少なくとも今は…な」
少年「そんなのずるいよ!! じゃあなんで彼女が魔法を使えるの!?」
父親「……それが運命だからだ」
少年「じゃあ…、じゃあ彼女はわざと隠してるってことじゃないか!!」
父親「……」コク
少年「父さんはそれでいいの!? あの子の魔法はすごいって、いつも言っていたじゃないか!」
父親「あの子の人生だ」
少年「なんで!? 神様に力をもらったんでしょ?! ならその力をみんなのために使うべきじゃ!!」
ガシ!
少年「!!」
父親「…いいか? 世の中の人間が全て望んだどおりに生きられるとは限らないんだ」
少年「……!」
父親「お前みたいに魔法を使いたくても使えない人がいれば、勇者や彼女みたいに望まずに力を得てしまう人もいる」
父親「運命に逆らいたくとも逆らえない人間が、この世にはいるんだ」
少年「それって…、不公平だよ…」グス
父親「…お前はまだ幼い。そして彼女も。…でも彼女は、かなりの知恵を持っているようだ」
少年「……」
父親「それでも、あの力は隠し通せるものではないだろう…。いずれ見つかり、軍が拾いに来るだろうな…」
少年「そんな…!」
父親「だからさ、今は彼女の好きなようにさせてやらないか? お前といる時が一番楽しいみたいだしな」ニコ
少年「……うん、そのとおりだ…。 ぼく、間違ってたよ! ありがとう父さん!!」ゴシゴシ
父親「そんな深く考えなくてもいいさ。それにあの子は俺が守ってやる。そう簡単には軍に引き渡さんよ」ハハ
少年「はは! あ、そうだ! 明日彼女にあやまらなくちゃ!!」アセアセ
父親「なんだ…? 喧嘩したのか?」
少年「うん。僕が間違ってたって、きちんとあやまるんだ!!」
―――
―
「!!」
ガバ!
少年「ここは!? 父さん! 父さんが!!」バッ
少女「落ち着いて! まだ終わってない!!!」グイ
少年「!!」「少女! どうして一緒に戦ってくれなかったんだ!」
少女「馬鹿なこと言わないで! 街の惨状を見たでしょう!? 私たちが敵いっこない!!」
少年「嘘だ!! きみの魔法があれば、街は守れた!!」
パシ!!
少女「まだ終わってないって言ってるでしょ!! いい加減にして!!」グ
少年「う…、うう。ぐそ! ぢきしょう!!」ガン!
ドン!
少女「!? まずい!」
少年「くそ! 俺が相手になってやる!!」ジャキ
少女「待ちなさい!!」グイ
ドカッ!! …バタン!!
少年「ひ…!!」ガタガタ
「大丈夫か!? 助けにきたぞ!!」
少年「!? 父さん!」
少女「待って! 違う!!」
兵士4「良かった! 2人とも無事だったか!! もう大丈夫だ! 魔物は去ったぞ!」
少年「なんで…? 父さん、父さんは!?」
兵士4「……! 君の父親から教えてもらったんだ。さあ…、今ならまだ間に合う。急ぐんだ!」グイ
少年「え!? どういう意味…」ゾク
少女「……っ! 行きましょう!!」ダッ
―――
―
兵士長「…ぐふ! ま…魔物は去ったのか…?」ハア…ハア…
兵士2「はい! 隊長! あなたの…あなたのおかげです!!」ゼエ…ゼエ…
兵士長「…そうか、息子は…息子は生きているのか…」
兵士2「今、探しに行っています! だから、だからまだ死んではいけません!!」ググ
兵士長「ふふ……、俺にも焼きが回ったな…」ハア…
兵士2「……しっかりしてください! 隊長…隊長!! う、うう…!!」グス
パシュ!
「―さん!」
兵士2「!? なっ!!」ビク!
少年「父さん!? あ、ああ…うわーーーーーー!!!」ガク!
兵士4「落ち着け! まだ生きてるんだ!!」グイ
少年「少女! 少女!! 今すぐ回復を!!!」
少女「わかってる!!!」バッ
キュイー…
兵士2「これは…!? 回復魔法!?」
兵士4「な!? なぜこんな子供が!?」
少女「黙ってて!! 集中できない!!」ブイン
キュイーン!
少女「?! …なんで!? なんで治らないのよ!!」ググ
少年「父さん! どうして!? 少女!!」
少女「うるさい!! 全力でやってるわよ!!」グ!
パアアアア!
兵士長「……ぐふ! もういい…、やめてくれ…」ハア…ハア…
少年「なんで!? 父さん! 喋っちゃだめだ! すぐ治るから!!」
少女「お願い…! 治ってよ!!」グス
兵士長「……切られたところから…呪われたんだ…。術者を倒さない限り…駄目だ…。
きみのその魔法は…、傷を塞ぐことはでき…ても…呪いまでは治せないんだ…」ハア…
少女「そんな…、そんなわけ…!」ググ
兵士長「いい…んだ。ありがとう…」ニコ
少女「うう…、うわーん!!」ブワ!
少年「父さん…! いやだよ…!! 死なないでよ!!」グイ
兵士長「すまない…、ごめんな…。お前を…、少女を…また1人にしてしまう…」
少年「うわーーー!!」
兵士2「隊長…! …うああ!!」グス
兵士4「ちくしょう! なんで…、なんで隊長が!!」ガンガン!
兵士長「ふふ…、俺はみんなに悲しんで貰えて…幸せ者だなあ…」ハア…ハア…
兵士2「こんな時にふざけないでください……」グス
少年「はは…、笑えないよ…」グス
兵士長「ほら…笑った…、最後にお前の笑う顔が見れた…」ニコ
少年「……ぐ! そんなものいつでも見゙れるよ…、最後なんていうな゙あ!!」
少女「…おじさま! …おじさま!!!」
兵士長「少女ちゃん…、いつも…息子を見守ってくれてありがとう…、君には…まだ、してあげたいことがたくさん…あったのに…、ぐ!!」
少女「!! もう…、もう喋らないでください!!」
兵士長「きみは…自分の才能に気づいているね…」ググ…
少女「!?」
兵士長「そして…賢い…。だから…、負けないで…くれ…。君の才能と…これから先の…運命に…」
少女「……っ! はい…! はい゙!!」グス
兵士長「…いい子だ…。そして息子よ…ハア…ハア…、なあ…、お前は…母さんの言葉…覚えてるか…?」
少年「こんな時に何言ってるんだよ…!」
兵士長「お願いだ…、答えてくれ…」
少年「…グス、そんなの父さんがいつも言ってるじゃないか! 自分の…、僕の好きなように生きればいいって…!」
兵士長「…そうだ…。だから…もう俺は何も言わない…。お前がどんな選択をしても…俺は応援するよ……ぐふ!」グラ
少年「父さん!!」グ
兵士長「だから…一つだけ約束してくれ…、絶対に…絶対に復讐は考えるな…!!」グイ!
少年「…なんで…? なんでだよ…? そんなの絶対無理だよ…」ブルブル
兵士長「いいか…、強く…なりたいのなら…憎しみは…捨てろ!」
兵士長「お前は今…大事な時だ…、今は…多くのことを…学ばなくてはならないんだ…」
兵士長「だから…復讐のために…視野を…狭めるな…! 復讐のために…生きるな!」
少年「わかった…、わかったよ父さん…。守る…父さんの約束は絶対守るから! お願い…だから死なないでよ!!」
兵士長「ふふ…、ありがと…な……。がふ!! …あ゙、ああ゙…!か、母さん…!見てるか…? こいつは…俺たちの息子は…本当に立派になった…!」ガクガク
少年「ああ…、だめだ…。父さん! だめだあ!!」ガッ
兵士長「愛…し…てる。愛……てる…よ。ああ…もっと…、もっと…おまえと……いた…か……の…に…」
ガク…
少年「いくなあ! 父さん!! いくなああああああ!!!!!」ガシガシ
少女「ああ…、ああああああああああああああ!!!」
兵士2「隊長ーーーーーーー!!!!」
兵士4「嘘だろ…? そんな……!」ガク!
少年「うわああああああああああああああああああああ!!!!!!」
―――――
―――
8年後――
コツ…コツ…
青年「いよいよ明日…だな」
婦女「…うん」
青年「…今までありがとう」
婦女「…こっちこそ」
青年「きみのおかげで、とても楽しくやってこれたよ」ニコ
婦女「…それはこっちのセリフ」クス
青年「懐かしいな…。長かったような短かったような…」
婦女「う~ん…、どうせならもう一度やり直す?」ポ
青年「え!? ついにそんなことまで…!?」ドキ
婦女「できるわけないでしょ。もう…引っ掛からないでよ」
青年「そりゃそうだよね…ハハ…」ガク
婦女「はあ…、相変わらず純粋すぎ…」
青年「ん? 何か言ったかい?」
婦女「…クス。なんでもない♪」ニコ
8年前…、魔王軍の襲撃をある一人の兵士が身を挺して防ぎきったことで、街は守られた。
多くの家が壊され、そして多くの犠牲者が出たが、それでも街が残ったことは奇跡に近かった。
兵士は英雄として称えられ。その街には国中から多くの支援が集まり、瞬く間に復興を成し遂げた。
兵士の息子は父の遺言どおり、成人になるまでに多くのことを学び、多くの経験を積んだ。
時には父の功績が称えられ、特例として入隊を許されたこともあったが、頑なに拒否をし、
そして8年後、その兵士の息子は父の後を追うべく、明日、入隊を迎える。
青年「ところでさ、気になってたことがあるんだけど…」
婦女「ん?」
青年「君は信託を受けたんでしょ?」
婦女「……うん」コク
青年「その…、もしかして…、嫌…だったの…?」
婦女「どうかな……。でも、そのときは魔法よりももっと先にやりたいことがあったのは確か」
青年「それって……」ゴク
婦女「ふふ、それももう十分ね♪」
一方、当時少年とともにしていた一人身の少女も、8年前を境に大きく変わった。
まず、人前で魔法を隠さなくなった。否、魔法を積極的に使うようになったのだ。
そして、まるで性格が変わったかのように、多くの魔法を学び始めた。
どの魔法も強力なものだったが、同時に術者にあまりにもの負担が掛かるため使用を封じられた禁術ばかり。
どうしてそんな魔法を片田舎で習得できるのか…、一人を除いて、街の住民は不思議に思うしかなかった…
そして次に、攻撃魔法。火炎魔法は地獄の獄炎と化し、氷結魔法は絶対零度へと昇華させた。
当然、その魔法の才能の噂は外の世界へと広がり、国から招集の命令が下されるほどだった。
国の魔術士養成施設への編入を命令された少女だったが、なかば強引ともいえる取引を少女は提示し、成立させてしまう。
それは、施設への編入を約束するが、少年が成人を迎えるまでは絶対に拒否するというものであった。
それでも一人の子供のわがままに国が応じた理由は、彼女も成人までの間に全力で魔法の勉学と習得にあたると約束したためだ。
半年に一度の査察があったが、そのたびに査察団を驚異的な魔力で圧倒し、時には同族の魔術師が絶望し引退してしまうほどであった。
そして再び時は動き出す――
……コツ
婦女「…ねえ?」
青年「うん?」
婦女「ひとつ言いたいことがあるんだ」クル
青年「……うん」
婦女「私ね……、あなたのこと……ずっと好きだったよ///」
青年「……」
青年「知ってた」
婦女「はは。ばれてた?」ニコ
青年「いつから…なんて聞かないよ。それに……、君だって気づいてたはずだ」
婦女「ん? なんのこと?」シレ
青年「とぼけたって無駄だよ……。気づいてたくせに…。僕も…君のことが好きだったんだから」ガシ
婦女「あ…れ…? おかしいな…いつものきみじゃ…ない…よ?」///
青年「……そういわれると、恥ずかしいな…」ギュ
婦女「ふふ…。だって、私の予定だと立場が逆のはず…だったから///」
青年「ごめん…、きみのこと…絶対に忘れたくなくて…」
婦女「苦しいな……、でも…あったかい…」ギュ
青年「遅かったかな…?」
婦女「全然…、きみにしては早かったよ」クス
―――――
―――
さらに数年後、秀でた剣術により戦士となった少年は、魔王討伐の一員として勇者とともに旅に出る。
旅の途中、高名な賢者と出会い、そして類まれなる魔術と英知を兼ね備えた魔法使いを仲間に加えた。
時には、魔王軍の罠にはまり仲間と離れ離れになったり。あるときには呪いに冒された魔法使いを救うため、戦士が命がけで呪術士と戦った。
数多くの困難と窮地を乗り越え、勇者は魔王のもとに辿りつく。そして、死闘を繰り広げたのち、ついに魔王を討ち果たすのであった。
伝説となった勇者の仲間の物語はここで終わり…
否、
運命は自分で決めるもの。終わりなどない、ましてや始まりも。
僕達は自由だ。何にも束縛されず、自分で選んで生きる権利がある。
今は父の言葉が良く理解できる。
――現在
僕は僕の意思で兵士長になる道を選んだ。今はあの街で皆から隊長と呼ばれている。
魔物はだいぶ大人しくなったけど、今度は人と人との争いが目立つようになってきたんだ。
争いはいつの世の中にも残るらしい。
これが父さんの望んだ未来なのか、時々不安になる。
でも、この世界を守ることはとても大切なことなんだって、あの旅で学んだから
僕は今できることをしようと思う。
彼女とは結婚したんだ。僕に似合わないくらい美人で賢くて、そして優しい女性になったよ。
今度一緒にお参りに来るから、それまで待っててくれるかな。
そういえば、彼女は魔法を使わなくなったんだ。
簡単な炊事でも一から火を起こすし、洗濯も井戸から水を引いて行っている。
でも、そんな彼女の顔をみると、とても生き生きとしてて、何より幸せそうなんだ。
だから僕は何も言わないよ。彼女の人生だもの。
でも、やっぱり国は国だね。この街に魔法学校ができたんだ。
あの時はめずらしく怒っちゃって、諭すのが大変だったんだよ本当に。
でも結局、講師として生徒に学術を教えているんだけど、まんざらでもなさそうだ。
それと、勇者ともう一人、賢者がたまに遊びに来るんだ。
勇者のことは知ってるよね? あいかわらずやんちゃだよ。旅の間はいつも僕が宥める役さ
賢者はとても良い子なんだ。彼女と同じくらい賢くて、なによりも優しさに溢れた女性かな。
ときたま、トラブルもあったけどね…。まあ、ここで語るのは止めるよ。
兎にも角にも、僕は今幸せだよ。だから―父さん、母さん、これからも見守っていてください。
――
クシャ
「…さて、帰ろうか」
ポ…
パシューン!
――――
――
ガチャ
「ただいま」ガチャン
「おかえりなさい。あなた」ニコ
短かったけど、以上です。誤字脱字は見逃してください。
25 : VIPに... - 2014/04/15 22:56:37.89 GWCklSwAO 25/25こういうサイドストーリー的なものもいいね
乙でした