【第1話】 の続きです。
54 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 00:01:30 .PohWtZ. 48/754


8月14日 午前9時 某銭湯


コナン「おじさん待って! ロッカーの鍵抜くの忘れてるー!」

小五郎「お、おう。すまんな」


――8月6日に発生し、蘭が巻き込まれた事件から、早1週間。

俺に、ようやく『本人』のところ見舞いに行く許可が出た。


事件を起こした『本人』は、7日の4時に保護された。

それから、しばらく『本人』の意識は朦朧としていた状態で、その意識がはっきりしたのが9日の夕方。

『本人』に対する警察の取調べが始まったのが、10日の午後からだ。


『本人』が大滝警部に魔術を使い、錯乱した大滝警部に殴られるトラブルが発生したのが、11日の午前。

『本人』は、再度昏倒し意識不明になった。

今度も2日眠り続け、目が覚めたのがきのう(13日)の午後。

大滝警部の方も、魔術を食らって10分後から、猛烈な吐き気に襲われ、丸々一昼夜ゲーゲー苦しんだらしい。

55 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 00:02:02 .PohWtZ. 49/754


かくして、俺の面会は延び延びとなった。

何しろ、本人の意識が無いのだから仕方がない。

きのうの夕方の段階で『本人』が『コナンくんに会いたい』と言ったことが決め手となり、今日ようやく病室に行けることになったのだが――


見舞いに行ったことが決まった直後の、きのうの夜。

突然、探偵事務所の風呂場が壊れた。

『病院に向かうのは、銭湯に行ってからにしよう』という流れになり、俺とおっちゃんは近所の銭湯に居る。

56 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 00:04:11 .PohWtZ. 50/754


??「あの、毛利小五郎探偵じゃないですか!?」

小五郎「!! ……すいません、どちらさまで?」

??「あ、いえ、たぶん初対面だと思います。貴方と同じく探偵をしているものです。

     事務所が東京ではないですし、貴方ほど有名ではないのですが」

小五郎「ほう、探偵の方ですか? お名前は?」

??「ああ、すいません。星威岳 吉郎(ほしいだけ よしろう)と申します。

     いや、とても嬉しいです。貴方みたいにドンドン事件を解決される方は、私にとっては憧れですから」

小五郎「え? そうですか? ……そんなこと無いんですがね。

      ところで、星威岳さんはお仕事でこちらに?」

星威岳 吉郎(以下、吉郎)「ええ、昔していた仕事の関係でこちらに来ています。

                    毛利さんが活動される少し前になりますが、私もここで短期間だけ東京で暮らしていたので」

小五郎「ほー……」

吉郎「ええ、本当に短期間でしたが、ある探偵のかたの助手でした。

     私が引っ越した後に有名になった貴方の話は、少し気になっていたんです」

57 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 00:06:36 .PohWtZ. 51/754


小五郎「それでは、どなたの助手だったんですか?」

吉郎「あ、……いえ、もう亡くなられた方なんですけど、すいません。

     それでは失礼します」

小五郎「(何だ? 訳ありか……?)」

コナン「(…………)」

58 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 00:07:50 .PohWtZ. 52/754


午前10時30分 東都警察病院 703号室の前


コナン「(……この階は、病室のドアのそばに見張りの警官が立ってるんだな……

      蘭の病室の前にも婦警が立ってるし……)」

英理「良いこと? コナンくん。

     ……『あの子』は変わってしまったから、違和感は感じると思うの。覚悟は決めておきなさいね?

     きのう昏睡状態から目覚めてから、また何か、様子が変みたいだし……」

コナン「うん、分かったよ、おばさん……」


コンコン ……ガラッ


英理「失礼します」

コナン「しつれいしまーす」


蘭?「あら、おはよう。よく来たね。……『はじめまして』と言うべきかな? それとも『お久しぶり』と言うべきかな?

     江戸川コナン君」

59 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 00:09:49 .PohWtZ. 53/754


コナン「(……確かに、声が少し低くなったな。話し方も、『以前の蘭』と比べて、違和感がある)

      ……僕、『貴女』の事をどう呼べばいいのかな? 今の『貴女』に、僕のことについての記憶はあるの?」

蘭?「……そうだねぇ。

     『サキュバス』と『蘭』の、両方の記憶が、今の『わたし』にはあるからね。

     両方の記憶が混ざったうえで出来たのが、今の『わたし』の人格なんだよ?

     『蘭』の記憶は引き継いでいるから、確かに君のことは覚えてるはずだ、……と、信じたいなぁ」

コナン「そう……」

蘭?「今の『わたし』をどう呼ぶかは、君の判断に任せよう。

     以前の通りの『蘭姉ちゃん』でも『サキュバス』でも、君の好きなようにすると良い」

コナン「……『貴女』が望む呼び方はあるの?」

蘭?「特に、希望は無いかなあ?

     見た目はまるっきり『蘭』の見た目だけど、記憶が両方あるから、

     ……『蘭』とも『サキュバス』とも、どっちで呼ばれても『わたし』自身には違和感は無いからね」

コナン「そうなんだ。ちなみに、他の人達は、どう呼んでるの?」

蘭?「うーん、……そこにいる『お父さん』と『お母さん』は、『蘭』って呼んでるね?」

60 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 00:13:03 .PohWtZ. 54/754


コナン「そうなの?」

小五郎「……そうだな」

英理「その通りね」

蘭?「まあ『お父さん』も『お母さん』も、そして警察の人達も、

     ……『サキュバス』が起こした事件の事を聞くときは、『蘭』とは呼ばないけど。

     意識してるのかどうかわからないけど、みんな『サキュバス』か『貴女』だよね、その話題の時は。

     事件を起こしたのは『サキュバス』だから、当たり前の話ではあるけどね」

コナン「そう……。(事件を起こした自覚はある、か)

      じゃあ、僕も同じにする。普段は『蘭姉ちゃん』って呼ぶことにするね」

蘭?「うん、分かったよ『コナン君』」


コナン「……ところでさ、その上で『サキュバス』に質問していい? 事件とは関係なしに、気になってたことなんだけど」

小五郎英理「「!?」」

蘭?「え? 何?」

61 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 00:15:22 .PohWtZ. 55/754


コナン「えっと、うまく言えるか分からないけど……、『サキュバス』っていうのは『貴女』だけを表す名前なのかな?

      『貴女』自身には、名前は無いの?」

蘭?「……ええっと、どういう事かな?」

コナン「えっとね、例えば、僕たちみんな『ホモ・サピエンス』ではあるよね?

      でも、人ひとり呼ぶのに『ホモ・サピエンス』とは呼ばないよね? それぞれ、ひとりひとりに名前があるから。

      『サキュバス』っていう呼び方も、『ホモ・サピエンス』と一緒で、えっと、『種族の名前』じゃないのかな、って」

英理「なるほど。『サキュバス』じゃなく、個人の名前が別にあるんじゃないか、と」

コナン「うん、ずっと引っかかってたんだ。

      ファンタジーのゲームなんかで、『エルフ』とか『ドワーフ』とかいるでしょ?

      そういうキャラに呼びかけるときは、『エルフ』や『ドワーフ』じゃなくて、別々の名前だから」


蘭?「……ははは、流石に探偵だねえ!

     警察の人がこれまで聞いてこなかった点を突っついてくる。

     言う通りだよ。

     『サキュバス』は種族名だから、別に親からつけられた名前がある。名乗ることは、まず無いだろうけどね」

62 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 00:18:00 .PohWtZ. 56/754


小五郎「……そうなのか? 何で?」

蘭?「名づけの仕組みがこっちとは違うから。

     フルネームが『誰々の孫の、誰々の娘の、誰々』なんだよね。

     それも、全部父方を辿っていく名前でさ、私を示す『誰々』の部分を命名したのも父だし。

     正直な話、名乗るだけでもすごくイヤ」

コナン「あー……、そうなんだ。

      父親とすごく揉めてたって書いてたね、掲示板に」(※作者註 >>38参照)


蘭?「……まあ、『揉めてた』どころじゃないんだけど、ね。

     今、この世界に『サキュバス』が複数居るならともかく、そんなことも無いみたいだしね。

     だから、個人名を呼ばなくても『サキュバス』で間に合ってた。召喚者のところに居た頃からね」

コナン「へー……、あのさ、やっぱり、警察の人は召喚者の事を突っ込んで聞いてくるの?」

英理「ちょっと! コナン君…… そのことは」

63 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 00:20:07 .PohWtZ. 57/754


蘭?「いや、構わないよ『妃弁護士』、『サキュバス』として答えよう。

     ……当たり前だよ、そのことに警察は突っ込んでくる。

     あの人のことについては、『サキュバス』ですら分からないことが多いし、分かることについても、話すべきでないと思ってるけども」

コナン「どういうこと?」

蘭?「『サキュバス』が使った魔術について、あるいは召喚者が使った魔術については、

     『サキュバス』も召喚者も、かなり広い範囲で秘密を守らなきゃいけない義務がある。

     世界に対する守秘義務、と言って良いかも知れないね」

コナン「義務……」

蘭?「だから、召喚者の事をしゃべらないのも、その一環」

コナン「そうなんだ……」


蘭?「まあ、召喚者の事を喋らない理由は他にもあるよ? 君には教えられないけれどさ、推理はしてみると良い」

コナン「え?」

小五郎英理「「??」」

64 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 00:22:20 .PohWtZ. 58/754


蘭?「ヒント1つ目、【『わたし』が悩み始めたのは、きのうの夕方に覚醒してから】

     2つ目、【『サキュバス』としてはよくあること、高校生としては有り得ないものを見た】

     3つ目、【人の名誉に関わること】

     4つ目、【コナン君には何もないから楽だ】」

コナン「どういうこと?」

蘭?「今から事情を考えてみると良いよ、たぶん絶対に分からないと思うけど。

     実は人生に関わるくらい真剣に悩んでてね、『お母さん』に相談しようと思ってたんだ。

     ……男の人には言いづらい内容なんだけど」

英理「え? そうなの?」

蘭?「『お母さん』が頼んだ別の弁護士さんがもうすぐここに来るんだよね?

     その人が来たら、『お父さん』と『コナン君』には席を外してもらえないかな?

     『お母さん』と弁護士さんに相談したいことがあるから」

小五郎「え? ……そうなのか?」

蘭?「うん。ここ病院だから、自販機とか、探せばあるでしょ?

     席外したついでにミルクティーとか買ってきてもらえたら有り難いかなあ?」

65 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 00:24:07 .PohWtZ. 59/754


小五郎「……英理、どうするんだ?」

英理「蘭。

     言うとおりにするけど、……自販機の飲み物飲めるかどうかは、お医者さんに聞いてからね」

蘭?「うん、……それで良いかな」


コナン「何度もゴメン。最後に、ひとつ質問してもいい?」

蘭?「たぶんもうすぐ弁護士さんが来るけど、……質問がひとつだけなら、大丈夫だと思う。訊きたいことは何かな?」

コナン「えっと……、何度も何度も、『サキュバス』が掲示板に書き込んだことを読んできたんだけど……

      『サキュバス』は、知性体に対する態度で看取ってもらう事を望んでいたよね?

      万が一のことがあった時、化け物扱いされるのは嫌だ、って、書いてたよね?」(※作者註 >>30参照)

蘭?「……あんな面倒な書き込み、よく読んでるねぇ、君は。確かにそう書いたね」

コナン「化け物扱いされることって、本当に嫌なことなの?

      そういう扱いが宗教的にダメとか、文化的にダメとか、そういう理由があったから、ああいう風に書いたの?

      事件を起こしたとき、掲示板に自白の書き込みと事情の説明をしなければ、たぶん完全犯罪になってたよね。

      『化け物扱いされないこと』って、そんなに大事なことだったのかな?」

66 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 00:26:11 .PohWtZ. 60/754


蘭?「うーん、……文化とか宗教とか、そういう理由は無いかなあ。

     強いて言うなら、単純に化け物扱いされることが怖かったから、かなあ?」

コナン「……そう」

蘭?「少なくとも、あの掲示板への書き込みで、『サキュバス』に知能があるのは一目瞭然だよね?

     仮にあの魔術が中途半端な成功になったとしても、よっぽどのことが無い限り、化け物として抹殺されるより、

     今後の衣食住は保証されながら、取り調べを受ける方向に進むだろうって、踏んでたのさ。

     現に今、そうなってるでしょ?」

小五郎「……確かに、な」


コンコン ガラッ


看護師A「失礼します、……毛利さん、検温です」

英理「あの、すいません」

看護師A「はい?」

英理「娘が『自販機のミルクティーを飲みたい』って言ってるんですけど、飲ませて問題ないでしょうか?」

67 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 00:28:03 .PohWtZ. 61/754


看護師A「確か、娘さんには食べ物・飲み物に制限はなかったと思いますよ、……念のため先生に確認しますけど

       あと、この階は自販機は無くて、買うとしたら、1つ下の階の談話室まで行かないと買えないですよ」


コンコン ……ガラッ


コナン「(また誰か来た?)」

英理「あなた、蘭。私が依頼した弁護士さんよ、少年事件専門の」

小五郎「おお、そうですか。よろしくお願いします」

??「はじめまして。弁護士の七市 里子(ななし さとこ)と申します。

     こちらも同じく、うちの事務所の弁護士で、神代 杏子(かみしろ きょうこ)です。

神代 杏子(以下、杏子)「はじめまして、神代です、よろしくおねがいします」

蘭?「……はじめまして」

コナン「(中年の女性と、若い女性。……弁護士事務所のボスと、その事務所の若手ってとこか?)」


蘭?「よかったです、弁護士さんがふたりとも女性で。男の人には言いづらい事で、相談事があったから」

七市 里子(以下、里子)「あら、そうですか?」

68 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 00:30:55 .PohWtZ. 62/754


小五郎「ええ、そのようで、……私と坊主はとりあえず外に出ておこうかと。

      ……英理、話が終わったら携帯に連絡頼む。下の階にある談話室で時間潰すから」

英理「ええ。分かったわ」


看護師A「あの、先生に伺ってきました。

       『飲み物に特に制限はないから、ミルクティーは飲んでも構いませんよ』だそうです」

蘭?「そうですか、良かった」

コナン「じゃあ僕達、『蘭姉ちゃん』が話している間に、下の階でミルクティー買ってくるね」

69 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 00:33:13 .PohWtZ. 63/754


午前11時 東都警察病院 6階 談話室


小五郎「ミルクティーは冷たいのにしとけよ」

コナン「……うん、分かってる。って言うかおじさん、この時期は冷たいのしかないよ?

      (一応被疑者でもある者に、温かいのは渡せないか。中身ぶちまけて周囲が火傷したりすると困るし……)」


看護師が話した通り、6階には談話室があり、その談話室の奥のほうに自動販売機があった。


そこまで広くは無い部屋だった。

4人掛けのテーブルが2つと、部屋の隅に予備の椅子がいくつかと、自動販売機があるだけの空間だ。

中に居る人も、テーブルの上に突っ伏して眠る人がひとり居るだけで……


コナン「(あれ? この匂い……)」

俺はその眠っている『ように見える』人の隣の椅子に上り、その人の腕を取った。

小五郎「お、おい坊主、何やってんだ?」

コナン「(これは……!!) おじさん! この人、脈が取れない!」

70 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 00:35:05 .PohWtZ. 64/754


小五郎「!! 何だと!! ……本当だ!!」

コナン「看護師さん呼んできて!! すぐに!」

小五郎「お、おう!!」

コナン「大丈夫ですか! おじさん! 僕の言葉、分かりますか! (くそ、応答が無いし、身体も冷たい……)」


一縷の望みをかけて、心臓マッサージや人工呼吸をすべく、その人の顔を、可能ならば身体ごと動かそうとして、被っている毛布を払いのけた。

そこで、その人の顔の下に血が広がっていること、更にその人が背負っているリュックが、変な形をしていることに気付く。


コナン「まさか……」


リュックの上から軽く手を触れ、その形に、『あるもの』を想像した。

71 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 00:37:02 .PohWtZ. 65/754


看護師B「……大丈夫ですか! お客さん!」

コナン「看護師さん、この人のリュック、形がおかしいんだ!」

看護師C「ええ?」

コナン「まるで、背中にナイフが刺さっているみたいなんだ!」

小五郎「何だと?」


おっちゃんが慌てて、リュックを脱がしに掛かり、看護師2人が息をのむ。

その人の背中には、俺が言う通りの物が、まっすぐに刺さっていた。

72 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 00:39:05 .PohWtZ. 66/754


午前11時 東都警察病院 703号室


里子「……では、改めて。

     はじめまして、『毛利 蘭』さん。七市法律事務所の弁護士、七市 里子(ななし さとこ)です」

杏子「同じく、神代 杏子(かみしろ きょうこ)です。よろしくお願いします」

蘭?「……一応、『毛利 蘭』って名乗っていいのかな? とにかく、これからよろしくお願いします。

     えっと、まず質問良いですか?」

里子「何でしょう?」

蘭?「『サキュバス』が起こした事件について、念のため確認したいことがあって」


英理「……」

蘭?「今の『わたし』は、『蘭』と『サキュバス』の2つの記憶を、……自覚する限り、大した欠落とかは無しに持ってる、はずです。

     その前提で、質問しておきたいんですが、……ふたりとも、『お母さん』が依頼した弁護士さんで、

     『わたし』がどういう経緯でここに入院したのかはご存知、ですよね?」

里子「ええ、もちろんです」

73 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 00:41:03 .PohWtZ. 67/754


蘭?「『サキュバス』がネットの掲示板に書いたことも、ふたりとも全部読んでいる、と考えて良いですか?

     その前提が無ければ、ちょっと相談できないことなんです」

杏子「もちろん、読ませていただきました」

蘭?「そうですか、……もうひとつ質問です。

     『サキュバス』の事件は、どれだけ報道されていますか?

     坂田さんの、大阪のゲテモノ料理屋さんでの事件は、当日、結構大きめに報道されたのは確認してるんですが、

     そこから先はあまり追いかけて無くて……」

里子「それは、……結構報道されていますね、掲示板に書いた内容が内容ですから」


蘭?「では、坂田さんと沼淵さんが殺された件は公開されているとして、『毛利 蘭』の名前や身元は、報道では出ているんでしょうか?

     『サキュバス』を召喚し人は、『報道されるかは未知数だ』って言ってましたけど」

杏子「ええっと、……」

里子「……現在のところ、貴女の年齢と性別は公開されていますね。

     本名は当然伏せてますし、ご両親の御仕事や、お住まいも非公開で、高校名もマスコミには流れていないようです。

     個人的な感触ですが、警察も相当迷っているように見えますね。色々な意味で前代未聞のケースですから」

74 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 00:43:02 .PohWtZ. 68/754


蘭?「そうですか。

   ……それで、相談したいことなんですけど、実はきのうの午後から悩んでいることがあって」


RRRR RRRR……


英理「ごめんなさい、お父さんから電話みたい。……どうしたの、貴方? え!? 何ですって!?」

杏子「何かあったんですか?」

英理「『蘭』、ここの6階の談話室で、人が殺されたって、……お父さんとコナン君が第1発見者になったみたい」

里子「ええっ!?」

英理「『ミルクティー買うどころじゃないからちょっと待っててくれ』って、お父さんが。

     ……『これから、警察の捜査に協力しないといけないから』って」

蘭?「それは仕方ないなぁ。

     『とりあえず今日の昼ごはんのついでになるくらいまでは待つから』って、お父さんとコナン君に伝えて」

英理「分かったわ」

杏子「……えらくあっさりしてますね、毛利 蘭さん」

蘭?「慣れてますから。うちの父、しょっちゅう事件に遭ってるんです」

75 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 00:45:12 .PohWtZ. 69/754


午前11時15分 警視庁 捜査1課


松本「今連絡が入った! 東都警察病院で殺しだ!」

佐藤「管理官、警察病院ですか?」

松本「ああ、そうだ! 6階の談話室で、男性が背中を刺されて死亡していたそうだ。

     第1発見者は、……毛利小五郎と、江戸川コナン君だと」

高木「毛利探偵とコナン君ですか?

     病院にいらっしゃったのは、例のサキュバスの件の関係でしょうか?」

松本「おそらくそうだろう。

     ……ちなみに通報者は看護師だ。

     あの病院には普段から警官が何人も居るからな、そっちからも連絡が来ている。

     それでだ、目暮、佐藤、高木、お前達が現場に向かえ。捜査を頼む」

目暮高木佐藤「「「ハッ!」」」

76 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 00:47:36 .PohWtZ. 70/754


午前11時15分 東都警察病院 703号室


里子「それでは気を取り直して……、悩み事の話でしたね。

     『きのうの午後から悩んでいることがある』とのことでしたが」

蘭?「……どこからどう説明したらいいか迷うんですが、

     当然、今から話すことは、弁護士として秘密を守っておいてほしいんですけど……」

杏子「それは当然、守秘義務は守りますよ。弁護士ですから」

蘭?「……『お母さん』も、秘密は守ってくれる? 『お父さん』にもしゃべらないでいてくれるのかな?」

英理「え? ええ、もちろん、『蘭』が望むのならあの人にも言わないわ」

77 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 00:50:11 .PohWtZ. 71/754


蘭?「……良かった、じゃあ、話しますね。

     実は、先日、……魔術を使ったのが悪かったのか、錯乱した警察の人に殴られたのが悪かったのか。

     目が覚めた昨日の午後から、ある魔術が何故か常時発動状態になってしまって、その魔術がどうしても止まらない状況なんです。

     弱い魔術なんですけど……」

里子「……その魔術の内容は?」

蘭?「女子高生としては、分からなくてもいい内容の情報が見えてしまう魔術なんです。

     人に会ったとき、その人の直近の――」

78 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 00:52:00 .PohWtZ. 72/754


午前11時40分 東都警察病院 6階 談話室の前


高木「こんにちは毛利さん。……相変わらずの死神っぷりですね」

小五郎「いや、狙ってるわけじゃないんだがなぜか事件の方が寄ってくるんだよ」

佐藤「ところで、なぜコナン君とふたりでこの部屋に居られたんですか?」

コナン「『蘭姉ちゃん』のお見舞いなんだ! それで、『蘭姉ちゃん』にミルクティー買ってきてくれって頼まれたんだ。

      7階に入院中なんだけど、7階には自販機が無くて、ここに自販機があるって聞いて、この談話室に来たんだ」

高木「(……、やっぱりか)」

コナン「ちなみに、『蘭姉ちゃん』は今病室で、おばさんと、別の弁護士さんとで話し合いしてるよ。

      男の人には言いづらい内容の相談事があるんだって」

目暮「……ほう、そうなのかい、コナン君。(『蘭くん』が話し合いねえ……)

     ところで、通報したのはどなたかな?」

看護師B「あ、はい! 私です。

       部屋を飛び出してナースセンターに行って、先生に『人が刺された』と伝えて、そして通報しました」

79 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 00:54:07 .PohWtZ. 73/754


目暮「その先生は?」

医師D「私です。

     談話室で、あの男性の死亡を確認しました。……既に、死斑が出ていました」


目暮「死亡を確認したあとは?」

毛利「明らかに殺人ですから、……これ以上死体に触れないほうが良い、ということで遺体から離れました」

コナン「僕は上の階に、お巡りさん達を呼びに行ったよ! 見張りで何人も立ってるの、知ってたから」

目暮「なるほど…… (この病院の7階には、訳ありの患者が多いからな……)」

高木「……コナン君がそういう風に知らせてくれたから、そのお巡りさん達からも、警視庁に連絡が来たんだろうね。

     おまけに、そのお巡りさん達は、この談話室に誰も立ち入らないようにしてくれた、と」

毛利「ああ、そういう流れで間違いない」


目暮「毛利君とコナン君、それから看護師と医師の皆さんも、遺体を発見するまでの流れを、また細かく聞いてもよろしいかね?

     この廊下は人目があるし邪魔になるから、できれば場所を変えたいんだが……」

看護師C「……構いませんけど。

       ちょっと待ってくださいね、今、空いてる病室があったはずなんで、そこを使えないか聞いてみます」

80 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 00:56:25 .PohWtZ. 74/754


午前11時45分 東都警察病院 6階 602号室


目暮「すまないね。毛利君、コナン君、面倒だが、また最初から経緯を話してくれないかね?」

毛利「ええ、構いません警部殿。

     私達は、『蘭』から、ミルクティー買ってくるように頼まれていました。

     看護師さんから『自販機は6階の談話室にある』と言われ、あの談話室に向かったんです。

     自販機の前で、私が小銭を出して、コナンがミルクティーのボタンを押して、缶を取り出して、そうしたら、

     ……コナンが突然、テーブルに突っ伏していた、あの被害者の脈を取り始めたんです」

高木「え、何で?」

コナン「うっすらだけど、あの男の人の方から、血みたいな匂いを感じたんだ。

      あの人、自販機に背中向ける形で、椅子に座って、机に突っ伏してたよね?

      もしかしたら、具合悪くして、血を吐いているのなって思って」

毛利「それで、コナンが『脈が取れない』って騒ぎ始めて……」


(中略)

81 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 00:58:49 .PohWtZ. 75/754


佐藤「……それで、コナン君から呼ばれた警官が、談話室を立ち入り禁止にしたんですね?」

毛利「ああ、そういう流れだな」


コナン「あの人、間違いなく誰かに刺されてるよね? リュックには、背中に触れる面に、変な切れ込みがあったみたいだし」

高木「そうだろうね。

     誰かがあの人を刺して、ナイフの柄が嵌るような切れ込み入りのリュックを着せて、その上に毛布をかぶせて、

     ……突っ伏して眠っているように、細工したんだろうね」


目暮「オホン ……ところで、刺された男性がどこの誰なのかはご存知かな?」

コナン「僕たちは全く知らない人だよ? 朝、似てる人には会ったけど」

高木「似てる人?」

コナン「朝、おじさんと行った銭湯のロッカーで、すれ違った探偵さん。

      顔はすごく似てるけど、体格がまるで違ったから別人だってすぐ分かったよ」

82 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 01:00:38 .PohWtZ. 76/754


看護師C「あの人は、……あまりまじまじと見てないので自信がないんですけど、

       盲腸で入院している、星威岳(ほしいだけ)さんの、ご家族の方だと思います。

       ご高齢の患者さんだから、盲腸でも容態が良くなくて、夜は、長男さんと次男さんが付き添っていました。

       もっとも、患者さんの容態は朝になって落ち着いたんですけども。

       確か長男さんが名字が違ったと思うんですけど――、談話室で亡くなったの、その名字の違う長男さんのような気が……」

毛利「え? 星威岳?」

目暮「? 何か心当たりがあるのかね?」

コナン「銭湯のロッカーですれ違ったその人、探偵さんなんだけど、『星威岳』って名乗ってた。

      ……僕たち、案外、次男さんとすれ違ってたのかもしれないね」

高木「……有り得なくはないね。

     夜通し付き添って疲れて銭湯に行くのも、談話室で休むのも」

目暮「まあ、実際にその患者の家族の方なら、病院の方に連絡先の記録があるだろうから、それを見せてもらえますかな?

     連絡先の記録以外にも、監視カメラなどを確認させて頂くことになるでしょうな。

     その辺りの確認は、今、他の警官達に当たらせてますが……」

83 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 01:01:10 .PohWtZ. 77/754


毛利「警部殿、私は、……いつものようには、捜査には協力しない方が良いのでしょうかね?

     第一発見者ですし、それに……」

コナン「……!! (そっか、おっちゃんは、刑事事件の『加害者と融合した被害者』の父親だから……)」

目暮「…………。

     いや、『この件に関しては』協力を頼む、毛利くん。

     遺体発見直後に死斑が出ていたというのなら、君もコナン君も犯人ではないのだろう。

     ところでコナン君」

コナン「何? 目暮警部?」

目暮「手に持っているミルクティーは、『蘭』くんの物かな?

     今、持っていってあげなさい。……佐藤くんも、コナン君に付き添ってあげてくれ」

佐藤「? ……はい、分かりました」

87 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 21:07:53 .PohWtZ. 78/754


午前11時20分 東都警察病院 703号室


里子「……その魔術の内容は?」

蘭?「女子高生としては、分からなくてもいい内容の情報が見えてしまう魔術なんです。

     人に会ったとき、その人の直近の――」

杏子「直近の?」

蘭?「その、……人に会ったとき、その人の直近の性行為の情報が見えるんです。

     具体的には、えっと、セックスの相手の名前とか日時とか場所とかで、それがあんまり最近だと記憶まで見えるみたいで」

英理「……その、魔術がきのうの午後から発動しっ放しになってると?」

蘭?「そう。それで、ただでさえ残り少ない『わたし』の魔力が枯渇の危機で……

     『わたし』、たぶん今すごく命の危機に瀕してるみたい。

     魔力が完全に抜けきると、『蘭』も『サキュバス』も、人格が壊れるから。

     ……取りあえず、証明のために、『お母さん』も、弁護士さんも、どういう情報が見えるのか言った方が良いでしょうか?

     それ以外に魔術のことを証明する手段がないと思うんですが」

里子「…………。お願いします、教えて下さい」

88 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 21:10:00 .PohWtZ. 79/754


蘭?「えっと、七市弁護士に見える情報は……」


(中略)


英理「……たしかに、弁護士さんふたりと、私の分は正解みたいね。少なくとも魔術のことは信じるわ」

蘭?「良かった……。

     それで、警察の人に関して、ちょっと相談なんだけど……」

里子「何ですか?」

蘭?「ここの見張りの婦警さんが――(ヒソヒソ」

里子&杏子&英理「「「はぁ!?」」」

蘭?「……それで、苦情言うべきなのか、言うとしたらいつ言うべきなのか困ってるんです。

     あと、警察関係以外にも他に困りごとがあって――」

89 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 21:11:07 .PohWtZ. 80/754


午前11時57分 東都警察病院 703号室

コンコン ……ガラッ


佐藤「失礼します」

コナン「『蘭姉ちゃん』、ミルクティーだよ!」

蘭?「あ、ありがとうコナン君。……お久しぶりです、佐藤刑事」

佐藤「お久しぶりです。

     ……あの、私の顔に何か付いてますか?」

蘭?「いえ、ちょっと迷ってることがあって。

     一応、警察への苦情なんですけど」

佐藤「え?」

蘭?「男の人には言いづらいことなんです。

     弁護士さん通すべきなのか、今ここで佐藤さんに言うべきなのか……」

90 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 21:13:20 .PohWtZ. 81/754


『本人』はそう言って、考え込む。


――今、ここの見張りに立ってる婦警が、2日前におそらくはラブホテルで不倫をしていて。

婦警が視界に入らなくても、たまに婦警の記憶が『本人』の脳裏にちらついて困ってる、と、素直に言うべきか。

何しろ刺激が強いのだ、既婚の同僚二人を同時に相手にしている、いわゆる3Pの記憶だから。


今、苦情を言うとしたら、少なくとも常時発動している魔術のことも言わねばならない。

佐藤刑事が誰と何処でナニをしてたのかを、最低限、魔術の証明として喋ることになるが――

92 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 21:27:20 .PohWtZ. 82/754


杏子「……い、今ここで、言うのは、止めておいたほうが良いと思いますよっ。

     内容が、かなり繊細ですしややこしいですし、

     この刑事さんに言っても、上の人に報告するのに困るんじゃないですか?」

英理「そうよ『蘭』。

     この弁護士さん達と文面考えて、弁護士さん通して、正式に警察に言いましょう?」

蘭?「……そう、じゃあ、今言うのは止めましょうか」


佐藤「……(苦情って何なの? それに蘭ちゃん、声が少し変わった?)」

蘭?「佐藤刑事、あの、お願いがあるんですが……

     『私』の事件を担当している人達に、『苦情があること』だけ、伝言して頂いてよろしいですか?

     いつどういう形で、その苦情を警察の方に話すかは分からないんですが……」

佐藤「ええ、分かりました。

     『蘭さんが苦情があると言っていた』ことは、伝えますね」


コナン「って、『蘭姉ちゃん』、肝心のミルクティー貰い忘れてる! ほら!」

蘭?「あ、ごめん、ありがとうコナン君」

93 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 21:29:02 .PohWtZ. 83/754


午前11時55分 東都警察病院 602号室


小五郎「コナンを追い出して、看護師も先生も部屋から出して……私に何かお話ですか、警部」

目暮「いや、大したことではないんだよ毛利君。

     君も分かっていることについて、だ。

     我々も、今は取調べから外れているが、『サキュバス』の事件に関わったのでね」

小五郎「そうでしたな、警部。

      高木も、『サキュバス』相手に、あの掲示板に書き込んでいたようだしな」

高木「ええ」

目暮「『蘭くん』は、本当に気の毒なことだ。君は、今も大変だろう?」

小五郎「ええ、……本当に」


目暮「率直に言おう。

     捜査一課の人間は、特に強行犯係の人間は、みな探偵としての君の能力を評価しているし、

     正直に言って、これからも君には捜査には協力してもらいたんだよ、だが……」

94 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 21:31:42 .PohWtZ. 84/754


小五郎「……私は、『サキュバス』が融合した人間の、父親です。

      殺人事件の加害者の身内、……と、そういう風に扱わざるを得ない、と」

高木「……」

目暮「いや、単純にそう考えているわけではないんだ、『蘭くん』自身は被害者なのだから。

     ただ、これから事件に遭遇した時、探偵としてその事件に君が関わることを、今までほどは、喜ばない人間が出るだろう。

     ……そのことは、頭の片隅にでも入れておいてくれないかね?」


小五郎「おっしゃることはもっともです、警部殿。

      仮に、私が秘密を知り得る立場の刑事だったとしても、そういう態度になるでしょうな。

      ……御忠告、ありがとうございます」

95 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 21:34:06 .PohWtZ. 85/754


午後12時8分 東都警察病院 602号室


ガラッ

佐藤「目暮警部、ただいま戻りました」

コナン「(……おっちゃん、警部と何か話してたのか? 空気がちょっと重いな)」


目暮「ああ、ご苦労、佐藤君」

佐藤「警部、本庁の方に連絡入れたほうが良いかもしれないことがありまして……」

目暮「ん? 何かね?」

佐藤「今向かった病室で入院中の『本人』から、警察に苦情があるそうです。

     肝心の苦情の内容は濁されたんですが、……『弁護士を通して言うかもしれないから、事件を担当する者に苦情があることだけは伝えてほしい』と。

     正確には『本人』が私に苦情を言おうとして、弁護士さん達が必死に止めてました。

     繊細で、ややこしくて、上に報告するのに困るような内容の苦情だそうです」

目暮高木「「??」」

小五郎「何だそれは!?」

佐藤「……毛利さんも、内容は御存じないんですね」

96 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 21:35:17 .PohWtZ. 86/754


コンコン ……ガラッ

看護師C「失礼します、星威岳さんのご家族の連絡先をお持ちしました。

       入院時に書いて頂いた誓約書です」

目暮「ああ、どうも。見せて頂きますかな?」

看護師C「はい、どうぞ」

高木「……入院費用の保証人になったのは、長男の方と次男の方なんですね。

     長男が夢見 竜太郎(ゆめみ りゅうたろう)さんで、次男が星威岳 吉郎(ほしいだけ よしろう)さん、と。

     刺されたのは夢見さんでしたか?」

コナン「……! (次男の名前、銭湯で会った人と同じだ!)」

看護師C「御長男のほうが刺されたと思うんですが……、

       何分、患者さんはともかくそのご家族までは顔を覚えている自信が……」

佐藤「まあ、今分からなくても、この書類から、住所や御家族の連絡先をたどれますから。

     家族の方に本人だと確認してもらえればそれで大丈夫ですから。

     そこまで深く悩まれなくても良いですよ」

看護師C「……そうですよね、ありがとうございます」

97 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 21:37:13 .PohWtZ. 87/754


目暮「ちなみに、盲腸で入院中の星威岳さんには、遺体を確認してもらうことは難しいのですかな?」

看護師C「正直、無理だと思います。

       きのうの朝4時に、意識不明の状態で担ぎ込まれて緊急手術して、今はまだ意識を取り戻されていないんです」

目暮「……それなら、確かに無理でしょうな」

看護師C「それでは、失礼します」


ガラッ


佐藤「警部、次男の方に連絡を入れますか?」

目暮「ああ、もちろん、頼むよ佐藤くん」


ガラッ


警官E「警部、監視カメラを調べた結果なのですが……」

目暮「どうだったのかね?」

警官E「それが、……談話室内をそのまま映すカメラが無かったようです。

      廊下にはカメラが有り、部屋への出入りは全て撮れていました」

98 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 21:37:43 .PohWtZ. 88/754


佐藤「毛利探偵が入る前までに、何人出入りしていたの?」

警官E「被害者本人を含めて四名です」

99 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 21:39:16 .PohWtZ. 89/754


午後12時15分 東都警察病院 4階 廊下


コナン「この病院って、4階で監視カメラを見てるんだね」

小五郎「おおかた、患者が使わない部屋をこの階に集めたんだろう。

      この階は、機械室と倉庫と、守衛の控室が纏まってるからな、……って、何でお前が監視カメラの確認に付いて来るんだよ」

コナン「おじさんに付いていくのがダメなら、僕どこに居ればいいの?」

高木「えーっと、どこかで待ってるとかは?」

コナン「今、『蘭姉ちゃん』の病室は、弁護士さんが来て話し合ってるでしょ?

      6階の談話室は立ち入れるはずがないし……」

小五郎「『蘭』の部屋の前で、英理が出てくるのを待ってれば良いだろうが」

コナン「あの階、廊下にお巡りさんがいっぱい居るよ?

      僕が廊下に長々居たら、仕事の邪魔だと思うなあ」

小五郎「……テメエ、ああ言えばこう言いやがって」

100 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 21:39:48 .PohWtZ. 90/754


目暮「構わんよ毛利君、この子なら一緒でも」

小五郎「良いんですか? 警部殿」

目暮「コナン君、きみが事件に関わるのは今に始まった事でないからな、……今更な事だろう」

コナン「…… ありがとうございます、目暮警部」

101 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 21:41:12 .PohWtZ. 91/754


午後12時18分 東都警察病院 4階 守衛控室


目暮「監視カメラの映像はどうかね? 現場に、人の出入りが4人あったというのは聞いたが……」

警官F「はい、お伝えした通り、監視カメラに映っていたのは4人です。

      そもそも監視カメラが部屋までは覗かない配置になっていまして、

      部屋の出入りした人は分かるのですが、誰が加害者なのかまでは……」

コナン「(被害者は部屋の奥に座っていたからな…… そんな配置の監視カメラから見えるわけがないか)」


高木「4人が部屋に入った時間帯は?」

警官F「えっと、この画面に出していますが……

      まず、9時ちょうどに部屋に入って10分後に出た、この人が1人目です」

目暮「……どう見ても清掃員だな」

高木「でしょうね。手に持ってるのはモップとバケツでしょうか、これは」

102 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 21:44:02 .PohWtZ. 92/754


警官F「2人目は、10時16分に入って、10時27分に出たこの人です。

      ベビーカーを引いた女性のようですね」

目暮「脇に大荷物を抱えているようだな。この女性、凶器を持てない訳ではなかろう」


警官F「3人目がこちらの方で、10時22分に部屋に入っています。

      部屋を出た映像がありませんから、この人が被害者でしょう」

高木「毛布か何かを脇に抱えてますね。あの毛布、被害者の私物だったんでしょうか?」

コナン「でも、リュックが無いねー、発見された時、背負ってたのに」


警官F「4人目は10時29分に部屋に入って、10時35分に出たこの人です。

      片腕を吊った人でしょうか?」

目暮「だがこの人も、肩から大きめの鞄を下げている。完全に手ぶらで無い限り、無関係とはいえんよ」


警官F「そして、毛利さん達が部屋に入って発見したのが11時頃でしたね」

毛利「ああ、そうだったな坊主」

コナン「うん、そうだったよ!」

103 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 21:45:28 .PohWtZ. 93/754


目暮「当然の話だが、最初の清掃員は事件には無関係だろう。事情は無論聞くべきだろうが」

小五郎「そうでしょうな」

警官F「はい。そう思って、この病院の清掃を請け負っている業者に連絡をいれています。

      それから、残り3人の動きも、今追いかけている最中です」

高木「実質的に被疑者は2人ですね……」


RRRR RRRR……


目暮「目暮だ、どうした佐藤くん?

     ……被害者の弟が来たのか? ああ、被害者の身元は看護師の証言の通りで間違いないと」

104 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 21:47:29 .PohWtZ. 94/754


午後12時24分 東都警察病院 6階 廊下


佐藤「はい、警部。被害者は、夢見 竜太郎さんに間違いそうです。

     看護師さんの証言の通り、501号室に盲腸で入院中の、星威岳 幻の銀次さんの御長男ですね。

     職業は俳優だそうです」

目暮「? それは、盲腸で入院中の父親が、そういう芸名の俳優なのかね?」

佐藤「いえ、今入院している父親の方は、変わった名前の方ですが無職です。

     被害者の、夢見 竜太郎さんが俳優ですね。

     弟の星威岳 吉郎さんが言うには、

     お兄さんから『仕事をクビになった後、伝手をたどって芸能事務所に入れてもらい、端役で出ている』と聞いていたそうです」

目暮「(リストラされた中年が、普通、伝手で俳優になるか?) それは本当なのか? 少々怪しいな……

     ところで、他に被害者に家族はいないのか? 弟さん以外にも確認は来てもらったほうが良いだろう」

佐藤「そうですね、聞いてみます」

目暮「あと、父親が入院してからの御兄弟の動きも聞いておいてくれ」

佐藤「はい、分かりました」

105 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 21:49:09 .PohWtZ. 95/754


佐藤「すいません、星威岳さん。

     申し訳ないんですが、お父さんが入院されてから今までの、貴方がた御兄弟がどうされたか教えていただけないでしょうか?」

吉郎「……まさか私を疑ってらっしゃるんですか?」

佐藤「いえ、そうじゃないんです。

     防犯カメラで誰がどこの部屋に行ったのかは分かりますけど、誰と何を話したのかは分からない場合もありますから。

     お兄さんがいつ犯人と接触したのか、手掛かりが無いかと思いまして」

吉郎「……それなら構いませんが、私の言うことは、力になれないかもしれませんよ?

     そんな風に記録しているカメラがあるなら分かるでしょうけど、私はこの病院に時々しかいなかったんです」

106 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 21:51:22 .PohWtZ. 96/754


午後12時28分 東都警察病院 602号室


佐藤「まず、お兄さんのご家族の構成を教えていただけませんか?

     場合によっては、ご家族のかたにも心当たりを聞かなければいけませんので」

吉郎「……兄は、5年前に、奥さんと娘さんと、あと義理のお母さんとお父さんをいっぺんに亡くしてます。

     兄貴以外が車に乗っているときに、事故があったそうで。

     だから、兄は婿に行ってましたけど、……婿に行った先がそういう事になったので、今は家族はいないんです」

佐藤「……そうなんですか、失礼しました」

吉郎「それで『家族亡くしてストレスで激太りして、それ以来体重が落ちてないんだ』って言っていました。

     で、うちの父が相当に心配しまして、父の隣の部屋に兄を住まわせていたんです。

     うちの父はアパートを1軒持っていて、そこの1階に住んでいますから」


佐藤「……お母さんや、星威岳さん御本人はどちらにお住まいなんですか?」

吉郎「母は、私が高校生の頃に亡くなりました。私は群馬で探偵をやっています」

佐藤「ということは、お兄さんの顔を見て確認できる御家族の方は、弟の星威岳さん、貴方だけということですね?」

吉郎「そうなりますね……、父は今、意識がありませんから」

107 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 21:53:29 .PohWtZ. 97/754


佐藤「では、お父さんが搬送された経緯などは聞かれてますか?」

吉郎「兄から聞いた話なんですが……

     きのうの夜中の3時半くらいに、父が兄に電話して、『耐えられないくらい腹が痛いから救急車呼んでくれ』と言ったらしいんです。

     慌てて兄が父の部屋に入って行って、兄が119番している最中に、父が意識を失ったそうです」

佐藤「それでは、お父さんが緊急搬送されて、お兄さんが付き添われたんですね?」

吉郎「はい。この病院に搬送されて、父が盲腸だと分かって、あれよあれよという間に手術になったと、兄から聞いています」


佐藤「星威岳さんは、手術をしている時に病院に来られたんですか?」

吉郎「いえ、私は、きのうの夕方の、手術がとっくに終わった頃に駆けつけました。

     それで、完全看護だから大丈夫だろう、ということで兄と一緒に病院を引き上げて、

     それから私は兄の家に泊まる、はずだったんですが」

佐藤「が?」

吉郎「風呂に入る直前に、この病院から電話が掛かってきて、

     『幻の銀次さんの容態が急変したから来てくれ』って言われたんです。

     また慌てて兄と一緒に病院に向かって、……結局朝になったら父の身体は落ち着きましたけど、私も兄も、夜は交代でしか眠れませんでした」

108 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 21:55:34 .PohWtZ. 98/754


佐藤「それから、朝になって、星威岳さんはどこに行かれたんですか?」

吉郎「病院を出て銭湯に行きました。きのうの夜、風呂に入ってませんから。

     ……人に会うなら小ぎれいにしようと思いまして」

佐藤「人に会われる予定があったんですか?」

吉郎「はい、父がこうなる前から、元々入っていた予定があったんです。

     昔東京に住んでいた時の仕事の関係で、午前10時に人に会うことになっていました」


佐藤「それで、どういった方に会われたのかお伺いしても?」

吉郎「ええ、警察の方に相談しようと思っていたことなんですが……」

佐藤「?」

吉郎「私は、1年ほど前までは東京で探偵の助手をしていたんです。

     私を雇っていた探偵の方が、廃業された直後に亡くなられまして、それを機に、私は群馬で独立して探偵をしているんですが」

佐藤「そうなんですか……」

吉郎「東京で助手だった頃の事務所に、私宛の脅迫状が届いているそうなんです。

     2週間くらい前から、差出人不明で何通も何通も」

109 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 21:57:31 .PohWtZ. 99/754


佐藤「脅迫状ですか? その事務所が廃業されたというなら、手紙は宛先不明で届かないのでは?」

吉郎「その事務所が廃業された後、同じ場所で、私を雇っていた方の甥にあたる方が、税理士事務所を開かれているんです。

     探偵の方も、甥の方も、同じ名字の、……金田(かねだ)という方でして、

     宛先の文面が、『○○番地3階 金田事務所』だから、拒否しようが無いらしいんです」

佐藤「……それは確かに拒否できないでしょうね。

     実際に税理士事務所宛ての手紙かも知れませんし」

吉郎「でしょう?

     『封を開けたら星威岳宛と分かる脅迫状が、何通も届いて気味が悪い。脅迫状の内容を見に来てほしい』と連絡を頂きまして。

     今日の午前10時に、その税理士事務所に行っていたんです」


佐藤「そうだったんですね。

     ……ちなみに脅迫状の文面はどんな感じでした?」

吉郎「『ホシーダケ! オマエのせいでオレのジンセイがメチャクチャだ! ブッコロシテヤル!』っていう内容でした。

     それがパソコンで打った文面で何通も何通も……」

110 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 21:59:57 .PohWtZ. 100/754


佐藤「内容はすべて同じだったんですか?」

吉郎「はい、すべて同じでした。

     ……正直、人の人生を壊すような心当たりは、全くないんですけどね」


佐藤「(……この人、被害者と顔はそっくりよね? その関係で、っていうのは有り得る……?)

     そうですか、後でその税理士事務所の方に、警察が脅迫状の確認に伺うかもしれません」

吉郎「……そうですか、お願いします」

佐藤「聴取に御協力頂き有り難うございました。

     これからまた何かお伺いすることがあるでしょうけど、その時はまたご協力をお願いします」

吉郎「分かりました。……えっと、ひとまず今は父の病室に居ますね」

佐藤「では、何かあった時はそちらに伺います」


RRRR RRRR……


佐藤「(警部から電話だ……)はい、佐藤です」

目暮「目暮だ、被害者の弟さんからは話は聞けたかね?」

111 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 22:01:49 .PohWtZ. 101/754


佐藤「はい、一通りは聞けました。

     被害者の遺体の身元が確認できる方は、弟さんだけのようです。

     お父さんが意識が不明の状態ですし、他の御家族は皆亡くなられているそうです」

目暮「そうか……。

     ところで佐藤くん、監視カメラの画像で分かった事だが、犯行可能な時間帯に談話室に入った被疑者が2人いて、そのうち1人は6階にいる。

     606号室に居るはずの、片手を包帯で吊った男性だ。

     検証中の者達を向かわせて足止めをさせているから、事情を聞いていてくれ」

佐藤「……! 分かりました」

112 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 22:04:22 .PohWtZ. 102/754


※登場人物まとめ(被害者家族編)※


夢見 竜太郎:被害者。警察病院6階の談話室で刺殺された。室内のテーブルに突っ伏して寝ているときに、背後から刺された模様。

         死亡推定時刻は14日の10時30分前後。

         5年前に婿入りした先の家族が全滅→激太り→父の隣に転居→(3~4年経過)→会社をクビになる→デイビデオの男優になる

         という人生を歩んでいた。


星威岳 吉郎:被害者の実弟。被害者と顔がそっくり。

         約1年前まで東京で探偵の助手をしていたが、雇い主が探偵事務所を廃業後死亡したため、今は独立して群馬で探偵をしている。

         2週間ほど前から、東京で助手だった時の事務所に、星威岳宛ての脅迫状が送りつけられていた。


星威岳 幻の銀次:被害者の実父。高齢者。都内で、自身が所有するアパートの1室に在住。

             13日の午前4時に盲腸で警察病院に担ぎ込まれ、緊急手術を受けている。

             以後、容態が悪化したり落ち着いたりしながら、501号室で意識不明のまま入院中。

113 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 22:06:53 .PohWtZ. 103/754


午後12時40分 東都警察病院 606号室


ガラッ

警官G警官H「「失礼します」」

??「……お巡りさん方、何か御用のあっとですか?」

警官G「(この片腕吊った老人、地方の人か?)

     ……突然すいません、ちょっと貴方からお話をお伺いしたいことがあるのですが」

??「はぁ、オイに?」(※作者註 オイ=1人称)

警官H「今日の午前中、この階の談話室に立ち入られましたよね? 自動販売機とテーブルがある部屋なんですが……」

??「……あぁ、その部屋には行っとります」

警官G「その部屋で、先ほど、人が殺されてるのが見つかりましてね」

??「えぇ!?」

警官H「それで、今日、談話室に立ち入った方々に、事情を聞いて回ってるんです」

??「オイは人殺しとは違いますよ!! この病院、オイが来たの今日が初めてですもん」

佐藤「失礼します」

114 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 22:08:42 .PohWtZ. 104/754


警官G「あ、佐藤刑事!」

佐藤「突然すいません、警視庁の佐藤と申します。

     先ほど、そちらの談話室で人が殺されてるのが発見されまして」

??「そいはお巡りさんから聞きました。それで、その部屋に行った人に事情を聞いとんでしょ?」


佐藤「はい、……失礼ですが、お名前とお住まいをお伺いしても?」

??「オイは、霧島 権兵衛(きりしま ごんべえ)です。九州から、妹の見舞いに来てます」

佐藤「そうですか……、そちらのベッドで休まれてるの、霧島さんの妹さんなんですね」

霧島 権兵衛(以下、権兵衛)「ええ、10歳以上年が離れとりますけど、オイの妹です。

                      肺癌で、いつ死んでも不思議じゃ無かそうで、妹から目ぇ離したく無かとですけど」

佐藤「えっと、……妹さんが肺癌で、いつ死んでも不思議じゃ無いから、目を離したくない、と」

権兵衛「ええ、すんません、訛(なま)りが取れんで」

佐藤「いえいえ、おっしゃることは大体分かりますから。

     妹さん以外のご家族の方は、ここにはいらっしゃらないんですか?」

115 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 22:10:14 .PohWtZ. 105/754


権兵衛「妹の息子の嫁さんが、いっつも妹の面倒を見とるそうです。

      今日は、嫁さんは朝しか来てませんけど。

      『オイが妹を見とるから、貯まった家事でもやっとかんね』って言って、オイが、嫁さんを家に帰らせたんです。

      嫁さんは、昼の1時半に、またこの病室に来るそうです」

佐藤「そうですか。

     お嫁さんが来られるまで、ちょっとここで話を伺ってもよろしいですか?」

権兵衛「構いませんよ、人が殺されたんですもんね」


佐藤「今そこで横になられてる妹さんは、元気な頃は、お仕事はされてたんですか?」

権兵衛「妹は医者でした、……捕まるくらいのヤブ医者」

佐藤「え?」

権兵衛「オイはよう知らんのですけど、なんか医療ミスで患者さん死なせてしまって、警察に捕まってたって聞いてます。

      業務上なんとか罪で捕まって、しばらくして釈放されて、それから体調不良になって、調べたらかなり進んだ肺癌で、

      ……まだ地方裁判所の判決が出とらんけど、『たぶん判決前に亡くなって裁判打ち切りになるんじゃなかろうか』、って

      妹の家の嫁さんは言ってました」

116 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 22:12:04 .PohWtZ. 106/754


佐藤「そうなんですか……、妹さんのご家族もお医者さんなんですか?」

権兵衛「妹の息子はたしか医者ですよ。

      息子の嫁さんは、元看護婦で、妹の息子と結婚してからは主婦だって聞きました」

佐藤「だから、普段の世話はお嫁さんがされてるんですね?」

権兵衛「……そうでしょうねぇ」


佐藤「ところで、今日、あの談話室に入られたのは、いつだったか分かりますか?」

権兵衛「……確か10時半くらいです、オイがあの部屋に行ったのは。

      喉乾いて、この病室にはお茶置いてないから、自販機のを買おうと思って。

      看護師さんに聞いたら、『自販機はあの部屋に有ります』って言われて」

佐藤「それで、あの部屋に入られた?」

権兵衛「はい、こんな腕でも、お茶買う分には問題無かですから。

      財布から小銭出したり仕舞ったり、時間は掛かるとですけど」

佐藤「ということは、お茶を買われたんですか?」

権兵衛「ええ、ペットボトルのお茶買いました。……フタ開けるのにも、時間掛かったとですけどね」

117 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 22:14:50 .PohWtZ. 107/754


佐藤「その時、談話室の中には、誰か居ましたか?」

権兵衛「机に突っ伏してる方が、1人おられましたけど、他には誰も。

      誰か人が居れば、ボトルのフタ、開けてもらおうと思ったとですけど、……毛布被って寝とらす方を、起こすのもどうかと思って」

佐藤「……!! その人に、話しかけたり、触ったりしましたか?」

権兵衛「してません」

佐藤「その人の、寝息が聞こえたりはしましたか?」

権兵衛「……んー? 聞こえとらんと思います」

佐藤「寝てるその人と、霧島さん以外に、人はいなかったんですね?」

権兵衛「そのはずです。

      他におったら、ペットボトルのフタ、開けてくれないか頼んでたと思います」

佐藤「他に、部屋に人が入ってくることはありましたか?」

権兵衛「それも、無かったです」


佐藤「ところで霧島さん、腕にギプスつけておられますが、どんな御怪我をされてるんですか?」

118 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 22:16:26 .PohWtZ. 108/754


権兵衛「……これ、交通事故です。

      道歩いてたら、車のタイヤが飛んできて、慌てて避けたけど、腕にぶつかってきて……

      『ぶつかった先が胴体じゃなく、腕だったからまだ良かった』って、医者に言われとります」

佐藤「……それは、確かに。

     事故に遭ったのは地元ですか?」

権兵衛「はい、掛かっている病院も地元です」

119 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 22:18:25 .PohWtZ. 109/754


午後12時41分 東都警察病院 703号室


コンコン ……ガラッ

コナン「失礼しまーす……」

英理「あら、何かあったの?」

コナン「えっとね、小五郎のおじさんが警察に協力してるんだけど、僕が邪魔になるから、この部屋で待っておくように言われたんだ。

      ……僕、ここに居て良い? 音楽聞きながら部屋の隅っこで立っておくから、さ……」

蘭?「構わないよコナン君、昼ご飯食べながら、話したいことは大体話したから」

コナン「そう? 良かった……

      ところで『蘭姉ちゃん』、僕が持ってきたミルクティー飲んだ?」

蘭?「飲ませて頂いたよ、昼ご飯と一緒に。

     看護師さんが、昼ご飯の食器を回収するついでに、缶を捨ててもらったね、……!! ぁ!」


コナン「どうかしたの?」

蘭?「この部屋の見張りに立ってた婦警さんが、移動するみたいだね、……隣の病室の方に。

   高木刑事を含む何人かと一緒に」

120 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 22:20:47 .PohWtZ. 110/754


英理「ちょっと、『蘭』……!!」

コナン「え!? ここのドア閉まってるのに、何で分かるの?」

蘭?「や、ちょっと口が滑った、何でなのかは言えないなあ。

     ……当ててごらんよ? 最初に君がここに来たとき、『わたし』が出したヒントと密接に関わってるから」

コナン「……それは、召喚者のことを言わない理由の、ヒントの事? それと密接に関わってるの?」

蘭?「そうだね。

     探偵なら考えてみると良いさ、……『音楽』を聴きながら」


『本人』は、俺を見つめながら笑って告げた。


だから俺は、『本人』達から目を離さずにイヤホンを付け、思考に集中することにする。

俺がイヤホン越しに聞くのは、音楽ではなく、おっちゃんに付けた盗聴器から聞こえてくる会話なのだけど。

121 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 22:22:06 .PohWtZ. 111/754


午後12時43分 東都警察病院 705号室


コンコン…… ガラッ

高木「失礼します」

??「……何ですか?」

毛利「(監視カメラに映っていた通り、ベビーカーを連れた若い女性だな……)」

目暮「すいませんが、ちょっとお話を伺いたいことがありましてね……。

     先ほど、この病院の6階の談話室で、人が殺されているのが発見されました。

     その捜査の一環で、話を聞いて回っとるんです」

??「え!? 談話室って……、どこですか?」

高木「ジュースの自動販売機がある部屋です、ここの一つ下の階の」

??「ああ!! あの部屋ですか、あの部屋で人殺しが……」

目暮「ええ、そうです。

     監視カメラを解析した結果、今日、その部屋に入った人がいるのが判明しました。

     それで、入った人ひとりひとりに、まず事情を伺うことになりましてね」

122 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 22:24:09 .PohWtZ. 112/754


??「それで私のところに来られたんですね、刑事さん達が……

     私、あの部屋に今日は入ってますからね」

高木「はい、……失礼ですがお名前をお伺いしてもよろしいですか?」

??「蜜葉 鐘衣(みつば かねい)です」

高木「そちらの患者さんの御家族ですか?」

蜜葉 鐘衣(以下、鐘衣)「はい、……そこのベッドで寝てるの、私の主人です」

高木「では、そちらのベビーカーのお子さんは、蜜葉さん御夫婦のお子さんですか?」

鐘衣「ええ、娘です。1歳と1か月になります」


目暮「蜜葉さん、場所を変えてお話を伺いたいのですが」

鐘衣「事情が事情ですし、協力はします、けど……

     私の母がもう少ししたらこの部屋に来るので、それまではここに居ても構いませんか?

     母にこの子を預けてからにしたいですし、主人には誰か家族がついてた方がいいと思うし……」

123 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 22:26:05 .PohWtZ. 113/754


小五郎「御主人、体調が思わしくないんですか?」

鐘衣「あまり長くないそうです。クロイツフェルト・ヤコブ病っていう、難しい病気で、ええっと、

     ……狂牛病が人にうつった事例らしいです、日本では相当珍しいって聞きました」

高木「そうなんですか」

鐘衣「うちの主人、バカなんです。

     警察の方なら調べれば分かる事でしょうけど、体調おかしいのに病院行かずに、万引きして捕まって、裁判中に病気が分かって入院して」

高木「万引きですか……、窃盗罪ですね。

     御主人の、その窃盗についての判決は確定してるんですか?」

鐘衣「地裁の判決は出たけど、高裁の判決はまだだったそうです。

     ……盗癖持ってるくせして裁判ではみっともなく足掻いてるんだから、バカみたい」

124 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 22:28:03 .PohWtZ. 114/754


午後12時47分 東都警察病院 703号室


話したいことは大体話した、と言っていたはずだが、今はいったい何を話しているのやら。

俺がイヤホン越しに事情聴取の模様を聞いている間にも、弁護士3人と『本人』のやり取りは続いていた。

但し、やり取りと言っても、声ではなく筆談によるものだが。


『本人』が、きのうの午後の段階で、妃弁護士に日記用のノートと筆記具をねだっていたらしく、

俺が部屋に居る間は、そのノートを筆談用に転用して会話をすることになったようだ。

おかげで、俺からは『本人』と弁護士が何を話しているのかさっぱり分からない。


4人とも真剣な顔をしているから、真面目な話題なのは、ほぼ間違いなさそうなのだが……

125 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 22:30:34 .PohWtZ. 115/754


妃英理と、七市里子と、神代杏子の3名は、『本人』と、こんな内容の筆談を繰り広げていた。


蘭?:隣の病室に人があつまってるみたい 事情聴取か?

     お父さんと、目暮警部と、高木刑事と、ここの見張りに立ってた婦警と、あと男女各1名←夫婦?

     ↑少なくともこれだけ私の術に引っかかってるっぽい?


英理:あなた、それだけ分かるの? 術の有効範囲は?


蘭?:となりの病室までは分かるみたい。集中すれば

     でも集中しても、術自体を止めることは出来ないっぽい? なんでか常時発動状態が止まらない


杏子:まるでレーダーですね


蘭?:つうかレーダーそのものだと思う。非処女と非童貞限定で引っかかるだけで

     →だからそこにいるコナン君が、魔術では感知できないんだけど むしろ感知出来たら困る


里子:それはそうですよね、小学生ですから

126 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 22:32:12 .PohWtZ. 116/754


蘭?:まあこの術も万能じゃないよ

     ヤッた相手の名前は分かっても、その人本人の名前が分からないことが多いから


英理:??


蘭?:例えば、夫婦で、旦那の方を魔術で調べた時

     直近でヤッた人=奥さんの名前はわかる、ヤッた場所、日時も

     でも、旦那本人の名前は分からない事が多い←記憶が覗ける場合で、ピロートーク中に、奥さんが名前を呼んでない限り


英理:なるほど、じゃあ何で隣の部屋に誰々が居るって分かるの?


蘭?:お父さん→今日もう会った人、どんな情報が見えるのか確認済み→『~~な情報の人』=お父さんと判断

     目暮警部→蘭は、警部の奥さんの名前を元々知ってた→直近でヤッた相手の名前が、奥さんと同姓同名→目暮警部?

     高木刑事→ドアの前を歩いて行ったとき、記憶が一瞬見えた。先月ラブホで佐藤刑事とヤッてたみたい

     婦警→術の範囲内に居続けてるから、場所は自然に判明

     男女各1名→ヤッた相手の日時場所が同じ、名前も名字が一緒、『蜜葉』姓の夫婦? 記憶は見えないけど

127 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 22:34:00 .PohWtZ. 117/754


英理:ありがとう

   このノートのこのページ、私達が切り取って持ってたほうが良いわね

   看護師さんに見られたら、書かれた人の名誉が……


蘭?:それもそうだね、こういう情報、プライバシーの最たるものだし

   お願いします

128 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 22:36:07 .PohWtZ. 118/754


午後12時47分 東都警察病院 705号室


目暮「では、お母さんが来るまでに、ここで少々話を伺ってもよろしいですか?」

鐘衣「それなら、構いませけど、……でも、この子がグズった時は中断させてくださいね。

     今はお昼寝中だから大丈夫だと思いますけど」

目暮「……ああ、そうですね、それは必要な事でしょうから、構いませんよ」

鐘衣「ありがとうございます」


高木「我々は、廊下の監視カメラを調べたんですが、……蜜葉さんは、今日、あの談話室に入られてますね?

     そして談話室を出てから、まっすぐこの病室に戻られて、今に至っている」

鐘衣「そうですね、その通りです」

高木「どんな用事であの部屋に入られたんですか?」

鐘衣「ええっと、自分用の飲み物を忘れていたので、自販機でお茶を買って飲もうと思って。

     そしたら、娘がグズりかけたので、抱っこでなだめて、……あの部屋には結構長く居たと思います」

129 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 22:38:13 .PohWtZ. 119/754


※登場人物まとめ(容疑者編)※


霧島 権兵衛:容疑者その1。九州在住の高齢者の男性。左腕の怪我でギプスを着けている。10時29分~35分に談話室に立ち入っていた。

         年の離れた妹が、肺癌の末期でいつ死んでもおかしくない状態で、606号室に入院中。

         その妹は医師なのだが、医療事故を起こし、業務上過失致死で地裁判決を受けるはずだった(死ねば裁判が打ち切りになる見込みだが)


蜜葉 鐘衣:容疑者その2。都内在住の若い女性。赤ちゃんを連れている。10時16分~10時27分に談話室に立ち入っていた。

         夫が705号室に入院中。病名はクロイツフェルト・ヤコブ病。たぶん寿命はそこまで長くない。

         夫は万引きの常習犯で捕まっており、高裁判決前に病気が判明し、入院している。夫との間に赤ん坊の娘が1人いる。



※登場人物まとめ(弁護士編)※


七市 里子:少年事件専門の弁護士。自身の弁護士事務所のボス。中年の女性。703号室で『本人』と筆談中。


神代 杏子:少年事件専門の弁護士。七市弁護士の事務所に勤務している。若い女性。703号室で『本人』と筆談中。

130 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 22:41:11 .PohWtZ. 120/754


午後12時50分 東都警察病院 705号室


高木「娘さんと談話室にいた間、部屋には他には誰か居ましたか?」

鐘衣「最初は、誰もいませんでした。

     ……途中から、毛布を持った男の人が部屋に入ってきた、と思います。

     その人は、太ってて、……黙ってテーブルの上に突っ伏して眠り始めたんです。少しビックリしたのを覚えてます」

高木「他に、誰か入ってきましたか?」

鐘衣「えっと、もし忘れてたらすいません、……居ないと思いますけど、他には」


高木「部屋に居た時、何か記憶に残った事はありますか? 何でもないことでもいいんですけど」

鐘衣「え!? そうですね……

     最初にあの部屋の自販機を見た時、『温かいお茶は無いのかー』って思ったくらいでしょうか。

     この季節は、冷たい物しかないんですね」

高木「では、冷たいお茶を買われたんですか?」

鐘衣「ええ」

131 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 22:43:54 .PohWtZ. 121/754


目暮「その時、買ったお茶は今もお持ちですか?」

鐘衣「?? ……はい。カバンの中に有ります」

高木「すいません、カバンごと見せていただくことは出来ますか?」

鐘衣「え? ……構いませんけど、……あ!!」

目暮「……どうかされましたか?」

鐘衣「男性に見せるのはちょっと困る物もあって……、ビニールや袋に分けて纏めてるので、いったん選り分けさせてください」

目暮「え、ええ、そういう事なら構いませんよ。

     見ての通り婦警も居るので、その分はそちらで……、君、頼めるかね?」

婦警I「はい!」

132 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 22:45:04 .PohWtZ. 122/754


午後12時54分 東都警察病院 705号室


鐘衣「……えっと、この袋と、この袋は婦警さんにお願いします」

婦警I「はい」

鐘衣「他の物は男の人でも大丈夫です」

目暮「すいませんね、蜜葉さん」

鐘衣「いえ、警察の方もこういう事がお仕事でしょうし、殺人を疑われるのは嫌ですから。

     ……私を疑ってないと、こういう調査はしないでしょう?」

目暮「……何にせよ、捜査に協力していただけるのは有り難い事です。この件は重大な事件ですからな」

鐘衣「でしょうねぇ……、

     まさか警察病院で男の人が刺されて殺されるなんて」

目暮高木小五郎「「「!?」」」

小五郎「(この位置なら、ベビーカーは守れるな……)」

133 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 22:47:48 .PohWtZ. 123/754


小五郎「……奥さん、我々、この病室に来てから、誰がどうやって殺されたのか、意図的に全く喋っていないのですが……

      何でご存知なんですか?」

鐘衣「…………

     あ……!!」

134 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 22:49:41 .PohWtZ. 124/754


午後12時56分 東都警察病院 703号室


コナン「……」


俺は、おっちゃんと警部達が、被疑者を追及する様子を聞いていた。

被疑者は、今はアウアウ言うだけで、まともな言葉を発していない。

殺人犯は誰なのか、もう分かったも同然だった。

135 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 22:51:30 .PohWtZ. 125/754


午後12時57分 東都警察病院 705号室


鐘衣「…………

     この事件ではよく考えるんですね、犯人を捕まえるために、……刑事さん達も探偵さんも」

婦警I「……貴女が、犯人なんですか?」

鐘衣「あの探偵のせいだと思ったんですよ。

     あの探偵と助手が、私の義理の兄を推理ミスに巻き込んだせいで、主人は仕事を失って、盗癖を再発させて……」

高木「? 一体、何があったんです?」


鐘衣「……私の主人と、主人のお兄さんは、兄弟で同じところに勤めてました。

     去年の春、その勤め先の社長が急に亡くなったんです。

     それで、金田っていう探偵と星威岳っていう助手が首を突っ込んできて……」

小五郎「……」

136 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 22:53:10 .PohWtZ. 126/754


鐘衣「あいつらの推理ミスで! お兄さん、殺人犯だと思われて一時期捕まってたんです!

     それから警察の捜査で推理ミスが分かって、自殺って結論になったけど、社長の奥さんは受け入れてくれなくて……

     主人もお兄さんも、あの職場をクビになったんです!

      謝罪要求しようと思って金田の探偵事務所に行ったら、親戚の人の税理士事務所になってて……

     笑える話ですよね!

     ……あの探偵の行方を聞いたら、謝罪もしないで、体調を理由に事務所を畳んで、その翌週に亡くなってたんですって!」


目暮「それで、何故あの人の殺人に結びつくのかね?」

鐘衣「お兄さんはともかく、主人は仕事が見つからずにストレスで万引きして、逮捕されて、

     挙句の果てに病気でここに入院する事態になって……

     あの探偵はもうこの世にはいないから、あの助手に手紙送りつけて気味悪がらせようと思って……」

高木「(手紙? 何の事だ……?)」

鐘衣「……そうしたら、きのう、この病院であの助手を見つけたんです!

     6階のあの部屋でジュース買っているところに居合わせて、同じエレベーターに乗って、

     5階の『星威岳』って名札のある病室に入っていくのを見て、……運命の巡り会わせだと思いました」

137 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 22:56:03 .PohWtZ. 127/754


高木「それで、今日あの談話室で殺したと?」

鐘衣「ええ。

     ……いつか殺す機会があると思ってました。

     それが今日になるとは思ってなかったけど……」


目暮「何をやっとるのかね! アンタが殺したのは別人だ!」

鐘衣「……え?」

目暮「刺し殺された被害者の名前は、夢見 竜太郎!

     アンタが殺したのは、アンタが狙った探偵の助手でなく、その助手の実のお兄さんだ!」

138 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 22:57:46 .PohWtZ. 128/754


午後1時2分 東都警察病院 703号室


警部が犯人に事実を告げ、そして説教する声が、俺の耳に入ってくる。

――1歳の子が居るのならば、まずその子のことを考えなかったのか、と。

警部が言う事はもっともだろう。

父親がいずれ死ぬことが確定的なのだから、母親がこんな風な事をするべきではなかった。


仮に、あの談話室の前に監視カメラが無かったとしても。

警察は、被害者の家族関係を調べるだろうから、星威岳探偵が助手だった頃の因果から、犯人を見つけ上げていたはずだ。


犯人を連行するのだろう、その705号室で、誰かがドアを開けたらしい音が聞こえ……

同時に、この703号室で筆談に夢中だった『本人』が、顔を上げた。


蘭?「隣の部屋、……話し合い、終わったみたいだね」

コナン「(何で、隣の部屋の動きが分かるんだ?

      俺はおっちゃんに盗聴器付けてたけど……、隣の部屋のドアの音は、こっちまで響いてこないはずだよな?)」

139 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 22:59:02 .PohWtZ. 129/754


言いながら、『本人』は、筆談していたノートのページを破き、七市弁護士に渡す。


蘭?「弁護士さん、これ、……誰かに読まれたら不味いから」

里子「ああ、……そうですね」


ガラッ


コナン「あ、おじさん!」

小五郎「あー……、こっちの事件はほぼ解決したんだが、……そちらの話し合いはどんな感じで?」

蘭?「『わたし』が話したいことは大体終わった、……弁護士さん達は?」

里子「そうですねぇ、……今日話すことはほぼ終わったと見ていいかと。

     明日またたくさん話したいことがありますが」

杏子「ですね……」

英理「ということで、今日の弁護士さんとの話し合いは終わりね」

小五郎「そうか。

      ……ところで、何のノート持ってんだ?」

140 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 23:01:17 .PohWtZ. 130/754


蘭?「日記だよ、まだ何も書いてないけど」

コナン「さっきまでそのノートで弁護士さん達と筆談してたよ! おまけに書いた紙、破いて弁護士さんに渡してた!」

小五郎「……え?」

蘭?「男の人に読まれたら困る内容なんだよ、内容は『お父さん』でも見せられないなぁ」

英理「……そうね」

里子「でしょうね……」

小五郎「……まあ、弁護士さん方がそうおっしゃるなら、筆談の内容は追及しませんが……」


里子「ともかく、今日は、私と神代はここで失礼しますね」

蘭?「そうですか」

英理「今日は有り難うございました、明日もよろしくお願いします」

杏子「はい、明日も、お願いします」

小五郎「本当に、……よろしくお願いします」

141 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 23:03:05 .PohWtZ. 131/754


蘭?「で、……『お父さん』」


弁護士が出ていくなり、『本人』の表情が真面目なものに変わった。


蘭?「家族だけになったところで真面目な話をしたいんだけど」

小五郎「……何だ?」

蘭?「今後の『わたし』の人生のことについて」

コナン「(おい、えらく突然な話だな)」

蘭?「今の『わたし』の状態で、……『サキュバス』と『蘭』が混ざった今の人格の状態で、

     もし仮に『わたし』が何か人生に関わる決断をしたとして、……『お父さん』は、その決断を応援してくれるのかな?」


小五郎「……内容によるな。

      娘の人生を左右するものなんだから、それこそ無条件に応援するとは言える訳がないだろう」

蘭?「……

     ははは……、そっか、……そーだよねぇ、『父親』なら、『娘』が大事なら、そういう答えが当たり前なんだよねぇ……」

小五郎「お、おい! 泣きかけてないか?」

142 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 23:03:45 .PohWtZ. 132/754


蘭?「いや、大したことないよ、『サキュバス』の記憶が、余計に惨めになってね」

英理「え?」

蘭?「『サキュバス』の父親、ロクな親じゃ無かった、から。

     あっちの文化的に近親相姦もタブーなのにね、アイツら、私が父の子を産んでから死ねって財産目当てで押し付けてきて!

     そんな、そんな『サキュバス』がボロボロになるたくらみに、一番乗り気で意見を押し付けてきたのが父親だった、から……」

コナン「(あー なるほど……)」

小五郎「おい大丈夫か、……『サキュバス』」

蘭?「大丈夫だよ『毛利探偵』、……むしろ吹っ切れた」

小五郎「え?」

蘭?「たぶんこれから、……『わたし』は、色んな決断をすると思う。

     その決断に、貴方が賛成するかしないかは分からないけども、……ただ」

英理「……ただ?」

143 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 23:05:41 .PohWtZ. 133/754


蘭?「ただ、その決断がどれだけ馬鹿馬鹿しいものに見えたとしても、それは『わたし』が考えて考え抜いた末のことなんだ、

     ……って、それだけは頭に入れておいてほしい、なぁ」

小五郎「……ああ、分かった。

      それだけは覚えておこう」

144 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 23:07:00 .PohWtZ. 134/754


午後9時45分 毛利探偵事務所


服部「何やそれ! 結局その被害者は、人違いで刺し殺されたんか?」

コナン「ああ、……兄弟で顔がそっくりだったからな、太ってるかどうかの違いはあったけど。

      殺された方は、酷いとばっちりだよな。

      生き残った弟の星威岳探偵も大変だろう、犯人は探偵がきっかけで殺意を持ったわけだし、それに……」

服部「それに、何や?」

コナン「今日、夕飯食べている最中に、ここの事務所に星威岳探偵が電話してきたんだけど……

      盲腸で入院中だった星威岳探偵の父親も、今日、亡くなったそうだ」

服部「……つまり、その星威岳探偵は、実の兄貴が刺殺された後に、父親を盲腸で亡くした、と。

     それは、……確かに大変そうや。てか、何でその探偵がそっちの事務所に電話してくんねん」

コナン「……ああ、それは、単にお礼の電話を掛けてきただけだ。

      おっちゃん、その談話室での殺人事件の第1発見者になった上、警察の捜査に協力したから。

      その事を、星威岳探偵は警察から聞いて、初めて知ったんだとさ」

服部「そうか……」

145 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 23:09:30 .PohWtZ. 135/754


コナン「警察の聴取でおっちゃんの事を聞いてびっくりしていたら、父親が危篤になって病院に呼び出され、病院に戻った直後に父親に死なれて、

      霊安室で葬儀社の車待っている最中に、おっちゃんへのお礼を言ってないのを思い出して、携帯で事務所の番号調べて電話したんだと。

      『……ひょっとしたら、次から次から色んなことが起こったから、星威岳探偵は混乱してるのかもしれない』って、

      おっちゃんがボヤいてた」

服部「……そりゃそうやろ」

コナン「俺も同感だ」

服部「……話変わるけど、入院中のねーちゃんはどうやったんや?」

コナン「ああ、そのことなんだけど……、悪ぃ、誰か来た、切るぞ」プチッ


ドタドタドタドタ…… バタン!!


小五郎「おい坊主! まだ寝てないよな!?」

コナン「? どうしたの、おじさん?」

小五郎「今連絡があった! ……『蘭』が病院から消えた!!」

コナン「え!?」

146 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 23:11:19 .PohWtZ. 136/754


小五郎「急で悪いが、お前は、ここで留守ば、……いや、博士の家に泊めてもらえないか頼んでくれ!

      これから、俺が何時に帰って来れるかは分かんねえんだ!」

コナン「……待ってよおじさん! 僕も病院についてく! 僕、この格好で今すぐ出れるから!」

147 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 23:13:35 .PohWtZ. 137/754


午後10時10分 東都警察病院 703号室


入院患者が突然消えたために、鑑識を始め多数の捜査員が出入りする室内。

【どこで】消えたのかと、【どうやって】消えたのか、が推測できるが故に、鑑識は、病室のある場所を執拗に調べていた。

それは、個室であるこの病室の、トイレである。


監視カメラの記録を見る限り、廊下の監視カメラは正常で、かつ、患者本人が部屋を出入りする様子は映っていなかった。

一方、病室のトイレは、壁が変色しており、床が砂まみれであり、

そして何より、『本人』が書いたと思われるノートが、蓋を閉めた洋式便座の上に広げてあった。


トイレの壁の変色は、かつて『毛利 蘭』が保護された時の、魔法陣が展開された後の床の変色に似ており、

トイレの床の砂は、同様に『毛利 蘭』が保護された時、床が砂まみれであったことを思い出させるものだった。


そして便座に広げてあったノートの文面を見れば、ここで『誰が』『何を』したのかが一目瞭然であった。

148 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 23:15:33 .PohWtZ. 138/754


――ふたつの人格が混ざった、今の、わたしの決断です。

    ひとまず今は、サキュバスを召喚した人の元へ向かいます。

    だから、ここからまた、召喚の陣を開いて向かいます。


    これから更に決断するために、必要な知識を探しに行きます。

    いつ戻るのか分からないけれど、いつか蘭は戻ってくるでしょう。


【第2話完 第3話へ続く】

149 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/03 23:24:39 .PohWtZ. 139/754

ということで、第2話完です。

第2話は読者の方からお題を募集した三題噺でした。

お題は、「名前」「推理ミス」「記憶」でしたが、お題の入れ方はそこまで丁寧ではないですね。


同様に、今から投稿する第3話も読者の方からお題を募集した三題噺で、

「楽器」「電気ウナギ」「元太の過去」がお題となります。

まず安価を取りますね。

↓1~3くらいまで
 事件に出てくるモブの名前を決めます。名字と名前をそれぞれ一つずつどうぞ。適当に組み合わせて出します。

150 : 以下、名... - 2013/11/04 00:49:26 L7RVIWGM 140/754

大山 桜子

151 : 以下、名... - 2013/11/04 01:00:49 RtkmDGHg 141/754

一 一(にのまえ はじめ)※漢字表記で日本一短い名前
野田 江川富士一二三四五左衛門助太郎 (のだ えがわふじひふみしござえもんのすけたろう)※漢字表記で日本一長い名前

152 : ◆oJG7c/xJmM - 2013/11/04 14:07:46 upBDBSBU 142/754

>>150-151
安価どうもです。

↓1 冒頭のシーンをどこから始めるか決めます。
   『警察病院』か『召喚者の居る所』か『その他』から選択して下さい。『その他』の場合は希望する場所の記載をお願いします。

153 : コバトン - 2013/11/04 14:35:07 yMGWfuq6 143/754

召喚者のいるところ

【第3話】【前編】 へ続く。

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