ほむらがワルプルギスを撃退できたループのSSです。
題名にはバイトとありますがぶっちゃけあんまりその話は出ません。
過去にVIPで書いた二作
ほむら「アルバイトしたいわ」杏子「そうだなー」
http://ayamevip.com/archives/32753467.html
ほむら「アルバイトやめるわ」杏子「それがいいよ」
http://ayamevip.com/archives/32817867.html
の続編となります。
まずはこちらに目を通して頂ければ幸いです。
こちらでスレ立てるのは初めてなのでいろいろ勝手は分かりませんが、よろしくお願いします。
元スレ
ほむら「新しいバイトしたいのに杏子が行方不明だわ」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1381544268/
ーー魔女結界
杏子「よし。ちょろいもんだぜ」
杏子は消滅した魔女の残影からグリーフシードをすくうと、もう一人の少女の方に向き直る。
杏子「おいあんた。大丈夫か?」
???「うんおかげさまで。ありがとう、キミは私の恩人だね」
杏子「やめろよ。ただヒマだったから助けただけだ」
本来なら杏子はさやかと二人で魔女退治にあたるはずだった。
しかし今日、さやかはその恋人恭介とデートの約束があり、その妨害をするほどの無粋を杏子は持ち合わせてはいなかった。
また、魔女を一人で狩ることなど杏子にとっては朝飯前であり、現在のほむら、マミ、さやかのいずれかとタッグを組んで挑むということ自体彼女にとってはぬるま湯の様に感じられてならないのである。
つまるところ、今日の杏子単独での魔女狩りは半分さやかを気遣ってのことであり、また一方で、彼女の久々にひとりで魔女と戦ってみたいという欲求に起因するものだった。
しかし、結局彼女は彼女の思うまま暴れる事が出来なかった。
それは杏子の隣のこの黒い少女が魔女結界に迷い込んでいたためだ。
まったく、世の中ってのはよほどあたしと相性が悪く出来ているらしい。
生まれてこの方、あたしの思い通りになったことなんてありゃしねえ。
杏子は内心毒づきながらも、形だけは黒い少女を気遣うのだった。
???「おや。キミは恩人じゃなくてヒマ人だったのか。なら礼は言わないよ」
黒い少女は無邪気に笑う。
杏子は自身の考え事のせいでこの少女とどんなやりとりをしていたのかしばしの間思い出せなかった。
が、ヒマだったから助けただけだ、という自身の照れ隠しの発言を思い出すと顔をしかめる。
普通、こーゆー時はあたしの照れ隠しを汲み取って礼を言うのがスジじゃないかねえ。
どこか釈然としない物を感じつつ、
杏子「そうかい。じゃあヒマ人はこれでお暇するよ」
杏子はそそくさと立ち去ろうとした。
ところが。
???「待ってよヒマ人。それじゃあ私の気が済まない。どうか恩返しさせておくれ」
くるくるくねくねと黒い少女は杏子にまとわりつく。
杏子「ああ、うぜえ!じゃあありがとうって一言言えよ!それでチャラにしてやる」
???「分かってないなあヒマ人。プレゼントっていうのは意外性があって初めてありがたみが出るんだよ」
???「指定された物を渡すだけなんて、ただのおつかいじゃないか」
???「だから私はヒマ人に、とっておきのサプライズをプレゼントしよう」
杏子「あ?」
???「シネ」
次の瞬間、杏子に六つの鉤爪が襲いかかった。
しかし、鉤爪が切り裂いたのは直前まで杏子がいた空間だけで、当の杏子は大してサプライズした様子もなく、大きな宙返りでそれを回避していた。
杏子「はッ!どうもあたしは恩を仇で返される星の下に生まれついちゃったらしいね」
???「仇?とんでもない!私はただ魔法少女というシステムを理解出来てない哀れなヒマ人を救おうとしただけなのに」
杏子「おあいにくさま。それ、あたしもう知ってんだ」
???「本当かい?驚いた…。それを知ってなお、魔法少女を続けているなんて。よほどの酔狂とみえる」
杏子「否定はしないさ。これでも、いまは生きてるのがそれなりに楽しいんだ。あんたのプレゼントは完全に的外れだったよ」
???「そうそう!そーいや、ヒマ人はなんで私のプレゼントを避けれたんだい?後学のために教えてよ」
杏子「ああ?魔女結界の中であんたみたいに冷静を保てる一般人はいねえだろ」
杏子「だからあたしは派手に暴れられなかったんだ」
杏子「あんたが敵だったなら、魔力を温存しなくちゃいけないからね」ニッ
???「そういうことか。よし!次からはもっと取り乱す事にするよ」
…「次」ということは、あたし以外にもターゲットがいるのか?
どっちにしろ狂人の類だ。関わりたくはなかったけど、ここまで首を突っ込んでしまっては仕方ない。
杏子「おいあんた。あたしはひとつ質問に答えたんだ。次はあたしの質問に答えてもらうよ」
杏子「あんた一体何者だ?どこで魔法少女のシステムを知った。そしてなぜあたしを殺そうとした」
???「ヒマ人は欲張りだね。私はひとつしか質問しなかったのに」
???「答える質問はひとつだけ。私は呉キリカ。それ以外は教えない。教えても意味がない!」
キリカ「あんたはここで死ぬんだからッ!!」
魔法少女に変身したキリカが杏子に迫る。
杏子「へえ。面白い!かかって来なよ呉キリカ!ぶちのめして洗いざらい吐かせてあげるからさッ!」
杏子の槍とキリカの鉤爪が交差した。
やべえ寝落ちしてたー続きあります
キリカ「うわっ!」
当初は杏子と互角に切り結んでいたキリカが吹き飛ばされる。
杏子の槍は多節槍であるが、その本質を現した、ムチの様にしなる槍、その末端にキリカの頬の肉が削られたためだ。
キリカ(くっ!あんな攻撃も出来るのか。ヒマ人は意外と強いね!)
だがその程度で狼狽えるキリカではない。
すぐに杏子と向き直る。
すでに彼女は追撃せんと、猛然とキリカに迫っている。
キリカ(だけど、今度はヒマ人が私を甘く見た番だね)
キリカ(速度低下!)
キリカの固有魔法、速度低下は、予め陣を張った領域内での全領域、あるいは特定の空間の速度を低下させる。
周到なキリカは、この魔女結界に迷い込んだ(ふりだが)時に、魔女結界全体に陣を張ってある。
魔女結界そのものが、キリカのフィールドに等しい。
この時キリカは正面の杏子の周りに速度低下をかけた。
しかし。
キリカ(ヒマ人の速度が落ちない!?)
杏子はそのままの速度でキリカとの間合いを詰め、キリカが狼狽しているのを知ってか知らずか絶妙のタイミングで槍を投擲した。
キリカ「くっ!」
すんでの所で槍を回避するも、そこには既に新たな槍を構えた杏子が肉迫していた。
杏子「終わりだよ!呉キリカ!」
キリカ「っ!うわっ!」
杏子の鋭い連撃にキリカはもはや反撃の暇もなく後退を強いられている。
キリカ(なんだこいつ!?速度低下が効かないなんて!私と相性が悪すぎる…!)
キリカ(それにこの槍撃…!おかしいよ!私達はあくまで元は中学生。ここまで槍の扱いに練達してるなんて、あんた武人か何かか!?)
だが、キリカとて百戦錬磨の魔法少女。
そのプライドと、何よりキリカの唯一絶対の友、織莉子の期待を裏切れない。
その思いからキリカは奮起する!
キリカ(負けられない!負けたくない!)
そして杏子が大振りな攻撃を仕掛けようとした瞬間、キリカは攻撃に転ずる。
キリカ「ああああ!!」
攻撃のリズムを崩された杏子は、キリカに反応することが出来ない…!
キリカの爪は、杏子の胸のソウルジェムを正確に砕いた。
…はずだった。
しかし実際は、爪は杏子の体をすり抜けてしまう。
キリカ(なんだこれ!?どうなってる!?)
人間とは、体に新たにかかる負荷をあらかじめ予想して体重移動を行うものだ。
例えば、階段をもう登り終えているのにもう一段あると錯覚していた時、人はそのように体重移動をしてしまう。
結果、もう一段あるという予想と体重移動を裏切られ、無様に転んでしまう。
その際にスネを打つ痛みは人類共通のもののはずだ。
キリカもこの時、杏子という階段を踏み外し、無様に転んでしまった。
そしてその眼前にはさっきすり抜けてしまったはずの杏子の姿が。
杏子「悪いね。チェックメイトだ」
キリカ(…ッ!!)
キリカは全てを悟る。
キリカ(こいつ…!こいつの固有魔法は、恐らく幻覚の類!)
キリカ(私の速度低下は、実体のある物にしか効かない。ヒマ人の幻覚になんか効くはずがなかったんだ!)
キリカ(恐らく、私が最初に吹っ飛ばされたタイミングで幻覚と入れ替わった。あとは私の独り相撲…!)
キリカ(あの大振りでスキを見せたのもワザとだ。私がこうして這いつくばっている所までを予想していた!)
杏子が槍を振り下ろす。
だがその一瞬で、キリカの頭はとんでもない速度で回っていた。
それは彼女の固有魔法によるものではない。
生物という生物が持ち合わせる、防衛本能!
キリカ(待てよ。ならこいつには。実体のあるこいつには、効く!私の速度低下が効くんだ!)
キリカ(いや待て。いま槍を振り下ろすこいつも幻影だったら?だったら、避ける必要はない!実体がないんだから!)
キリカ(やれるぞ、呉キリカ!)
杏子「なにっ!?」
勝利を確信していた杏子の槍は空しく宙を切る。
前を向くと、そこには無傷のキリカが。
杏子「へえ。土壇場でパワーアップなんて。あんた主人公に向いてんじゃん?」
速度低下魔法の大きな利点として、その特性が敵に悟られにくい、ということが挙げられる。
速度低下魔法を受けたものは、大抵自分の速度が低下しているのではなく、キリカの速度が上昇したように感じる。
事実、杏子はそう感じていた。
キリカ「いや。私は脇役だよ。主役は織莉子。脇役が私。それ以外、なにも要らない。全部舞台裏に捨ててやる」
キリカ「まずはヒマ人、あんたを捨てよう!そうしよう!!」
キリカはおぞましい殺気とともに爪を構える。
彼女のドス黒い殺気にあてられたのか、光の爪が黒く変色してしまっている。
だが杏子はそれを見ても怯まない。
それどころか、薄っすら笑みすら浮かべている。
彼女のチャームポイントの八重歯が目立つその笑みは、彼女をとても幼く印象づける。
だがこの無邪気な笑みを浮かべる少女は、自分に殺意を向ける相手と対峙している。
そして、その展開を少なからず面白いと感じている。
その笑顔と状況は、とても不釣り合いだった。
キリカ「いくよっ!」
キリカが突っ込む。
だが杏子はこの時、とんでもない事を考えていた。
杏子(ロッソ・ファンタズマは使わないでおこう…)
なんと自信の幻影魔法の封印を考えていたのである。
それも、魔力の節約だとか、トラウマだとか、そういったものに起因するのではなく、ただ
杏子(そっちの方が面白そうだ…!)
ハンデのつもりなのだ。
杏子は先ほどまでの幻影とキリカの戦いを眺めて、キリカの実力を測っていた。
そして彼我の戦力差を検討し、それが妥当なハンデと判断した。
これについては一応注釈する。
普段の彼女であったら、このような愚行には走らなかっただろう。
だが久々の単独での魔女狩りによって彼女は興奮していた。
さらに、彼女は思う存分暴れられることを期待していたのに、キリカのためにそれが裏切られた。
彼女の疼く闘争本能が欲求不満に陥っていた時にこの戦闘が始まったのだ。
少しでも実力を拮抗させ、ギリギリの所を楽しむ。
そういう事を企んでも、彼女を責められまい。
ただひとつ読み違えたのは、キリカの実力だ。
先ほどまで杏子が圧倒していたのは、速度低下が効かないというキリカの狼狽のためだ。
しかしキリカはそのカラクリに気づいた。
キリカは杏子の固有魔法を暴き、その上での攻撃を計画するはずだ。
だが杏子はキリカの速度低下を知らない。
この差はあまりに大きく、もはや形勢は逆転したと言ってもよい。
それなのに杏子は自身の固有魔法を封印しようとしている。
要するに杏子は酔っていたのだ。
驕りという、強者にのみ許された最悪の美酒に。
ーーそして。
杏子は、キリカに敗北することとなる…。
ーーとある廃ビル
マミ「いったわよっ!暁美さん!」
ほむら「ええ!」
私は身を翻してハンドガンのトリガーをひく。
かわいた発砲音とともに魔女が吹き飛ぶ。
ほむら「…!や、やったわ!全部命中したわよマミさん!」
マミ「ええ。いまのは上出来よ」
マミ「あとは、これが実戦で出来るかね」
マミさんは私の撃った魔女ーーの、絵が描かれた空き缶を拾いながら微笑む。
私たちはいま、とある廃ビルにいた。
ここはマミさんが魔法少女を初めたての頃、魔法の練習をしていた場所らしい。
なんでも、ここでマミさんのマスケット銃を使う戦術は生まれたとか。
あと、ティロ・フィナーレも。
ワルプルギスを撃退して以来、私はここでマミさんに魔法の修行をつけてもらっていた。
時間停止を失った私に残された魔法は、左手の盾に備わっている四次元ポケットのような能力だけ。
私の今までの戦い方は、あまりに時間停止に頼りすぎていて、正直戦闘力はさやかに次いで低いと言える。
いえ、ポテンシャルで言えばさやかにも劣っているわね。
とにかく、今のままでは仲間たちに迷惑をかけかねないし、下手をうてば魔女に負けてしまうかもしれない。
だから私はこうして修行をつけてもらっているのだ。
時間の止められない場合の魔女との戦い方を…。
マミ「いい?暁美さん。時間が止められた頃はほぼ全方向から来る使い魔からの攻撃にも対処は簡単だったでしょう」
マミ「でも今は違うわ。いまやっているように、様々な方向に向き直りながら正確に射撃を浴びせなければならない」
マミ「この訓練はやり過ぎて困ることはないわよ」
いま私が特訓しているのは、体の向きを素早く変えて正確に射撃すること。
私が目をつむっている間にマミさんが魔女(空き缶)をいくつか適当に放り投げ、それが地面に当たった音がしたら特訓開始。
私は目を開けて、自分の周囲の魔女を出来るだけ素早く狙撃していく。
この時、体を翻すのが私が苦手だった。
まあ、時間停止が出来た頃は必要のないスキルだったので仕方がない。
最初はてんでダメだったこの特訓も、マミさんに転身のステップを教えてもらい、最近ではずいぶん上達していた。
事実、さっきもマミさんの投げた五つの魔女を銃弾五つきりで全部撃ちきることが出来た。
出来なかったことが出来るようになるのは、やっぱり嬉しい。
ほむら「今日もありがとう。文化祭の準備で忙しいでしょうに」
マミ「いいのよ。私の役は通行人Cだから。むしろ最近あまり付き合えなくてごめんなさいね」
ほむら「仕方ないわ。都合が合わないんだもの。それより通行人Cって…」
マミ「学活の時間テトリスしてたら勝手に決まってたのよ…」
ほむら「その、開き直るのにも限度があると思うわよ」
マミ「クラスメイトには迷惑かけてないから大丈夫、だと思うわ」
ほむら「………」
時々、マミさんの学校生活が心配になる。
ほむら「それで、杏子はまだ帰って来ないの?」
マミ「ええ。もう3日よ。さすがに連絡もなしにこれだけ家を空けるのは珍しいわ」
ほむら「まったく、何をしているのかしら。杏子がお化け屋敷がいいってゴリ押ししてたのに、当の本人がいないんじゃ盛り上がらないわ」
マミ「まったく、無責任ね」
ほむら「ほんとだわ。いつもあの子は本能の赴くままに行動するんだから。ふと気付くとぶらりとどこかに消えてるし」
マミ「探すと大抵高い場所にいるのよね」
ほむら「そうそう!それで探したのよって文句を言うと、うるせえなーってあくび混じりにこう言うのよ」
ほむら・マミ「腹減った」
ほむら「やっぱり!」クスクス
マミ「佐倉さんってブレないわよねえ」クスクス
ほむら「こう言ってると、なんだか杏子って猫に似てる気がしてきたわ」
マミ「それ、つねづね私も思ってたのよ!」
ーー本当に、杏子は猫みたいだと思う。
どうせ今回も、ぶらりと帰って来てくれるのだろう。
そして彼女は、今回の冒険談をマミさんのケーキを頬張りながら得意げに話してくれるのだ。
マミさんにお行儀悪いわよって注意されながらも、それでなーって興奮した面持ちで語り続ける杏子が目に浮かぶ。
なんやかんやで話し上手な杏子の体験談で、お茶会は盛り上がるのだ。
あれでけっこう、杏子は語り部に向いているのかもしれない。
いつも通りの、それでいてかけがえのない時間。
そう。いつも通りに戻って来てくれるーー。
そう思いたいのに、何故か今回は嫌な胸騒ぎがする。
猫は自らの死期を悟ると、飼い主の元を離れて独りで死ぬという。
杏子が猫に似ていると言うなら。
ひょっとして、どこかで…?
そんな悪い想像が胸をよぎっては振り払う。
大丈夫だ。杏子が魔女なんかに遅れをとるはずがない。
帰ってきたら、まずは死ぬほど文句を浴びせてやろうと決意して、私は帰路につくのだった…。
ーーほむら宅
私の日課は、学校の宿題と読書、音楽鑑賞、それとお手製の爆弾制作。
特に最後の爆弾制作は欠かせない。
対魔女戦における私のメインウェポンだからだ。
みんなの武器みたいに魔力で作る必要がないから、魔力節約にもなるし大抵の魔女は数発で粉砕できる程度の威力はある。
ハッキリ言って自信作なので、みんなにも何度か勧めたのに、結局あまり普及しなかった。
特に同じ中~長距離タイプのマミさんにはぴったりの武器のはずなのに、なぜか一番強く断られてしまった。
曰く、魔法少女はマジカルに戦わないといけないのだそう。
私の存在が全否定された瞬間だ。
あんまり使う機会のなさそうな杏子でも、せっかくだからと苦笑いしながら一個受け取ってくれたのに。
理不尽だわ。
さて、そんな大事な日課も、今日は杏子のことが気になってあまり手につかなかったわ。
マミさんによるとまだ帰宅してないそうだし、そろそろ本気で心配になってきたから。
しかし杏子のケータイは充電が切れてるみたいだし(これだけ長く外出してれば当然だけど)、結局こちらから打てる手はない。
というわけで、私はまどかに電話して気を紛らせていた。
ほむら「それでね、今日はじめて空き缶を5個ともうち抜けたのよ」
ほむら「これってすごく難しいのよ!」
まどか「ティヒヒ。おめでとう、ほむらちゃん!」
まどか「なんだかその特訓してるほむらちゃん見てみたいなあ。西部劇みたいで格好良さそう」
ほむら「うーん、きっとまどかが想像してるのと違うわよ?場所、廃ビルだし…」
ほむら「それに、まどかがさやかを引きつけておいてくれないと、バレそうで不安だわ」
まどか「秘密にすることないのにー。さやかちゃんだってバカにしないと思うよ?」
ほむら「私の問題なのよ…。まだまださやかには先輩風を吹かせていたいんだから。マミさんに特訓してもらってるところなんて見せられないわ」
まどか「そっかぁ。うーん、ほむらちゃんって結構…」
ほむら「分かってるわよ…。意地っ張りだって言いたいんでしょう?」
まどか「それは…うーん、ティヒヒ」
ほむら「…否定してよまどかぁ」
ほむら「でも…そうよね、ダメよね。私が勉強も運動も魔女との戦いも出来てたのは全部ループのおかげ」
ほむら「いい加減、ダメな私と向き合わないとね」
まどか「そ、そんなことは全然ないと思うよ?!ほむらちゃんは全然ダメじゃない」
まどか「みんなの見えない所で頑張るのって大変だし、それに魔女狩りまでしてるんだからほむらちゃんは立派だよ!私も見習わなきゃ」
ほむら「まどか」
まどか「それにみんなには意地っ張りなのに、私にだけは弱気な所を見せてくれるほむらちゃん、とっても可愛いなって」
ほむら「ま、まどか!やっぱりバカにしてない?///」
まどか「してないよぉー。ほむらちゃんが相談してくれてるの、私うれしいんだから」
ほむら「…ふん。今度からまどかにも意地はろうかしら」
まどか「ああっ!ほむらちゃん拗ねないで!ほむらちゃーん!」
まどか「あ、そういえばほむらちゃん。文化祭の準備進んでる?この前みんなで買い出しに行った時は吸血鬼の衣装買えなかったけど…」
ほむら「ええ。大丈夫よ。自分の配役の分くらいはどうにかするわ」
まどか「わぁ。よく手に入ったねぇ」
ほむら「ふふ、私には奥の手があるのよ」
まどか「それは…なんだか聞かないでおくね」
ほむら「助かるわ」
ほむら「まどかの方は大丈夫そう?」
まどか「うん!というより、私と仁美ちゃんはコンニャク買うだけだから…」
まどか「いまは男子の段ボールの方を手伝ってるよ」
ほむら「中沢が張り切ってるアレね。私も衣装出来たし、明日から手伝うわよ」
まどか「うん!ありがとう」
まどか「あれ、でもほむらちゃんはセリフとかあるし、そっちの方をやった方がいいんじゃないかな?」
ほむら「だってほら、総監督の杏子がいないじゃない」
まどか「そっかあ」
まどか「…杏子ちゃん、大丈夫かな」
ほむら「……大丈夫よ。心配ない。杏子ほどの魔法少女が遅れをとるなんて、それこそワルプルギスくらいだわ」
まどか「…そうだよね」
ほむら「それより聞いてまどか!マミさんに杏子の部屋調べてもらったら、まだ台本も作ってないらしいわよ!」
まどか「ええ!それは大変だよ!もうあと一週間しかないのに!」
ほむら「あたしに任せとけって言ったのにあの子は…!」
まどか「最悪私たちだけで作らないとね」
ほむら「ええ。それも視野に入れるべきね」
まどか「ああ…。テストもあるのに」
ほむら「文化祭のすぐ一週間後にテストなんて狂ってるわ…。私たちを忙殺する気よ」
まどか「ほむらちゃん。勉強、教えて…」
ほむら「ごめんなさいまどか。正直最近忙しくて全然勉強出来てないわ」
ほむら「文化祭終わったらみんなで勉強会ね」
まどか「そうだねえ…」
まどか「あっ!そうだ、今度駅前にね、話題のパンケーキ屋さんの屋台が来るらしいよ!」
ほむら「そう。それは要チェックね。…!」
ほむら「ごめんなさいまどか。急用が出来たわ。今日はこれで」
まどか「そっか。うん。また明日ね、ほむらちゃん」
ほむら「ええ。また明日」
ほむら「まったく、私はまどかとの電話で忙しかったのに。よほどの用なんでしょうね」
ほむら「インキュベーター」
QB「やあ暁美ほむら。夜分遅くにすまないね」
ほむら「似合わない挨拶はいいわ。用件を言いなさい。わざわざ私のところにきたからには余程の用があるのでしょう」
QB「話が早くて助かるよ。暁美ほむら。いや、君とその仲間たちに重大な頼み事がある」
QB「『魔法少女狩り』が始まった。これを君たちに止めて欲しい」
ほむら「ま、魔法少女狩り…!」
QB「心当たりがあるみたいだね。真っ先に君のところに来てよかった」
QB「君の旅した時間軸でも、何度か同じことがあった。そうだね?」
ほむら「その通りよ。私はその事件の犯人から動機までを、恐らく知っている…!」
QB「良かった。本当なら一刻も早く情報を交換し合いたいところだけど、今日はもう遅い。僕はこれでお暇するよ」
ほむら「…そう。」
QB「明日、マミとさやかを集めてくれ。そこで情報を共有しよう」
ほむら「ま、待ちなさい!」
なぜ、いま杏子の名前がなかった…?
まさか。
まさか……!
ほむら「杏子は?杏子は呼ばなくていいの?」
QB「呼ばなくていいもなにも、彼女はいま行方不明ってことになってるじゃないか」
QB「それにまあ、隠しても仕方がないことだから言うけど、恐らく杏子は魔法少女狩りの被害にあった。残念ながらね」
まあ、憶測の域を出ないけどね…。
そう付け足すあいつの言葉は、まるで水中から聞いたかのようで。
それは、いま私は深い混乱に溺れているんだな…と、逆に自覚させてくれていた。
ーー翌朝・まどか宅前
まどか「おはよう!ほむらちゃん!ごめんね、待たせちゃって」
ほむら「大丈夫よまどか。さ、学校行きましょうか」
まどか「…?ほむらちゃん、なんだかやつれてる?」
ほむら「やっぱり分かっちゃうかしら。実は昨日あんまり眠れなくて…。シャワー浴びてきたから多少はマシになったかと思ったんだけど…」
QBの話を聞いた後私は、すぐにまどかに連絡した。
いま見滝原には危険人物がいる。
しかもそいつは恐らくまどかを狙っているから、明日からは登校時私がまどかの家まで迎えに行く、と。
まどか「それでほむらちゃん。その、危険人物はなんで私のことを狙ってるのかな…?私、誰かに恨まれてる…?」
早速聞かれてしまった。
まあ、さやかと仁美さんと合流する前じゃないと出来ない話だし、妥当なタイミングだ。
それに、自分が誰かに狙われていると聞かされれば当然気になるだろう。
…正直、迷っていた。
ありのままを話すべきか、否か。
昨日は迷った挙句、ぼかした表現しか使わなかった。
結局、答えは出ていない。
魔法少女関係の話だと分かれば、杏子失踪の件も絡んでいると考えるのが普通だろう。
もし、そう聞かれたら。
応えなくてはならない。
昨日、QBから聞かされた現実を…。
QB『隠しても仕方がないことだから言うけど、恐らく杏子は魔法少女狩りの被害にあった』
ほむら「ぅ…」
QBの言葉が蘇る。
喉がつまる。手汗が止まらない。胃がむかむかする。口の中に酸っぱいものがこみ上げる…!
まどか「だ、大丈夫!?ほむらちゃん!具合悪いの?」
ほむら「大丈夫よ、寝不足のせいで…立ちくらみしただけだから」
駆け寄ってくるまどかをしかし手で制する。
心配をかける訳にはいかない。
…涙目なのがバレてなければいいのだけど。
ほむら「ごめんね、守るって言った私がこんな体たらくで」
そうだ、しっかりしろ。暁美ほむら。
いまこの瞬間にも呉キリカや美国織莉子がまどかを狙っているかも知れないのよ…!
まどか「ほむらちゃん、具合悪いならムリしないで。私なら大丈夫だから」
ほむら「………」
ほむら「大丈夫じゃないわ」
まどか「え?」
ほむら「事態はそんなに甘くない」
ほむら「聞いてまどか。いまからあなたを狙っている人物のこと。狙われている理由。全て話すわ」
いまのまどかの言葉を聞いて、私はやはり本当のことを打ち明けた方がいいと判断した。
それはきっと、まどかを傷つけるだろう。
しかし、いま私がどんなに言葉を尽くしたとして、きっとまどかにはこの事態の重さは伝わらない。
だったら、私は話そう。
例えまどかを傷つけてでも、私はまどかを守らなくてはならない。
だって、それが私が魔法少女になった理由。
このまどかを守れなかったら、私がかつて数え切れないほど見殺しにしてきた幾多の魔法少女達に顔向けが出来ない。
ーーーー
ーーー
私は話したわ。
呉キリカと美国織莉子という魔法少女がまどかのことを狙っているであろうこと。
それは、美国織莉子がまどかが最強最悪の魔女になることをその固有魔法によって予知し、それを防ごうとしてのことであり、まどか本人には怨みはおろか面識すらないであろうこと。
そして、そのまどか殺害の準備段階として魔法少女狩りを行い、QBの目をまどかから逸らそうとしていること。
……杏子が、恐らくその被害にあってしまったこと。
まどか「そんな…そんなのってないよ…。わ、私のせいで杏子ちゃんが…」
ほむら「違うわまどか!それは断じて違う!悪いとしたら私が悪いの」
ほむら「私は他の時間軸で二人の危険人物のことを知っていたのに、それをみんなに話していなかった!」
ほむら「ワルプルギス襲来の後に美国織莉子が行動を起こすパターンだって予想出来たはずなのに…!」
まどか「ほむらちゃん…。でも」
ほむら「…元気だして、まどか。考えてもみて。あの杏子が簡単にやられるはずないじゃない」
ほむら「きっとうまくやり過ごしてるに決まってるわ」
まどか「うん…そうだよね。杏子ちゃんなら、きっと」
…嘘だ。こと情報に関して、QBほど信用できるやつもいない。
なぜならあいつには感情がない。
つまりそれは、誰よりも客観的にものを見ることができるということ。
さらに、こうして相手を気遣うこともない。
そのQBが、杏子はやられたと言ったなら、それは事実だ。
ただそこまでをまどかに伝えられるほど、私には勇気がなかった。
ごめんなさい、まどか。
そして杏子。
私はずるい人間です。
でも、その代わりに。
ほむら「心配しないでまどか。私は必ず織莉子たちを倒して、あなたを守ってみせる」
私は、必ずあなたを守りぬく。
ほむら「そうしたら、またみんなで遊びましょう。大丈夫よ、すぐに元の日常に戻るわ」
これ以上、一人の犠牲を出さずに…!
その後、さやか達と合流するまで私達は何気ない話をしていたが、やはり雰囲気は暗いままだった。
しかしさやか達と合流してしまえば、さやかの底なしの明るさに引きずられて自然と私達もいつも通りのテンションになることが出来たのだった。
さやか「あ、ほむらも寝不足なのー?実はあたしもでさー、え?何でかって?」
「いやー、恭介のやつと長電話しちゃってさー!ほんと時間って溶けるっていうか?気づいたら4時でねー。あははは!で、朝までちょっとでも寝とこうと思ったんだけどさ、なーんか目が冴えちゃって。で、ケータイのデータフォルダでさ、いろんな写メ見てこんな事あったなーって懐かしがってたらなんか外明るいの!鳥とかないてるし!こりゃヤバイ!ってなって30分だけ寝たのよ!で案の定起きれなくてお母さんが起こしに来てさー!昨日遅かったからあとちょっとだけ寝かせてーって言ってもダメ・却下・起きなさいのトライアングルアタックよ!でもここでさやかちゃんの伝家の宝刀が炸裂!その名も『ごめーん!勉強してたら遅くなってたのー!』この攻撃にはお母さんも耐えられず、見事さやかちゃんはもう15分のボーナススリープタイムをゲットできたのでしたー!」
…ちょっとイラっとしたけど。
ーー放課後・マミ宅
放課後、QBの言う通りに、私、マミさん、さやか、そしてまどかの四人にQBを加えて、魔法少女狩りについての対策会議を開いていた。
さやか「…許せない!杏子を酷い目にあわせて、その上まどかまで狙ってるなんて!」
さやか「ほむら、マミさん!絶対にそいつら倒しましょう!」
早速さやかは興奮している。
まったく単純なんだから。
でも、彼女のこういう仲間のために義憤に駆られるような、強くて優しいところはなんだかんだ言って私は好きだし尊敬している。
さやか「名前も面もほむらのおかげで割れたし、これ以上はあたしが黙ってないよ!美国織莉子の学校に乗り込んで果たし状叩きつけてやる!!」
ただ、ちょっと周りが見えなくなるのと手段がアレだけど。
ほむら「さやか落ち着いて。その気持ちはここにいる誰もが持ってるけど、美国織莉子と呉キリカは無策で突っ込んでも勝てるとは限らないわ」
QB「そうだね。杏子がやられた事も考えると、それなりの実力者だと覚悟して臨んだ方がいい」
マミ「それに私達の目標は全員無事で彼女達を倒すこと。例え勝てたとして、それがピュロスの勝利では意味がないわ」
QB「幸い、ほむらのおかげで情報は出揃った。あとは僕が君たちに有利なフィールドに織莉子達を誘導すればいいわけだ」
その通り。私は、魔法少女狩りの犯人が恐らく美国織莉子達の仕業であること。
また、その動機や目的は知っている。
ただ知らないのは、織莉子たちの居場所。
逆にQBは、織莉子たちが犯人だということは知らなかったが、犯人が織莉子たちとわかってしまえばその所在は簡単にわかるらしい。
皮肉にも、私とQBが協力することで織莉子たちと有利に戦える。
まどか「でも、なんだか意外だな。QBが協力してくれるなんて」
さやか「たっしかーに!なんか裏があんじゃないのー?」
QB「なにを言っているんだい?流石の僕も、魔法少女が殺されてるのは見過ごせないよ」
さやか「ふーん…。あんたもまあそこまでの外道じゃないってことなんだ」
QB「ずいぶんな言いようだ」
さやか「あ、ところでさ!QBって魔法少女の居場所は全部把握してるの?」
QB「全部把握している、というのは正確ではないね。ただ、探せばわかるというだけだ」
さやか「探せばわかるって…それじゃあたしたちと変わらないじゃん!」
QB「君の思うような非効率的な方法ではないから安心してくれ。やろうと思えばいまから数秒で特定できるよ」
ほむら「あなたの神出鬼没っぷりはそういうことね」
QB「そういうことだ」
マミ「話を戻しましょう。こちらから積極的に仕掛けられるなら早い内にやってしまいましょう。その子の固有魔法って予知なんでしょう?」
マミ「こちらが動くとわかってるなら、相手もじっとしててはくれないわよ」
ほむら「そうね。先手必勝。先に奇襲できた方が圧倒的に有利よ」
さやか「でも、敵は未来予知できるんでしょ?あたし達がこうしてるのも予知されてるかも!」
まどか「確かに…。私達がいま、今すぐ戦おうとか、明日にしようとか話し合ってても、その答えは最初から織莉子さんに筒抜けだったら…」
ほむら「その予知に関してなんだけど、恐らく織莉子の予知能力は『可能性を見ることができる』というものであって、『決まっている未来』は見れないのだと思う」
QB「なるほどね。面白い考えだ」
ほむら「織莉子は『人類最悪の敵』を予知して、その結果まどかの魔女を見たと言っていたわ」
ほむら「そして、私を見て『あなたはあの場所にいたあなたなのね』と驚いていた」
ほむら「これはつまり、別の時間軸の光景を見ていたということにならないかしら」
マミ「美国織莉子の能力は、あらゆる可能性、つまり時間軸の中から、指定した光景を見ることができることってことかしら」
ほむら「確証はないけれど、多分そうよ」
さやか「なーんだ!未来予知なんて言うからどんな恐ろしい敵かと思えば、そんなに大した敵じゃないんだね」
ほむら「いえ、美国織莉子の能力は厄介よ。特に戦闘面では、私の時間停止を駆使した攻撃をことごとく避けてみせたわ」
マミ「戦闘では正確な予知ができる…?」
ほむら「違うと思う。美国織莉子は近い未来ほど正確に予知できるんじゃないかしら」
QB「話を聞く限りそうだろうね。風が吹けば桶屋が儲かると言うし、出来事というのは様々な遠因が絡まりあって起こる物だ」
QB「カオス理論的に見ても、遠い未来ほどノイズが大きくなるのは当たり前だ」
QB「だがそうなると、やっぱり奇襲は難しいんじゃないかな。奇襲しようとする時期が近づけば予知されるだろう。完璧な不意打ちとはいかないよ」
ほむら「いえ、もう一つ。美国織莉子の能力には穴があるわ。それは光景しか見れないこと」
ほむら「例え、自分達が奇襲される光景を見ることができても、そこから得られる情報は限られているわ。その正確な時間や場所まではわからない」
マミ「なるほど。なら奇襲する場所は考えないとダメね。なるべく普遍的な場所でないと」
ほむら「いずれにしろ、行動は早い方がいいわ。例え正確な時間や場所は分からずとも、奇襲される事がわかっているなら、時間を与えれば与えるほど迎撃準備をされる」
さやか「じゃあ、ぶっちゃけあんまり結論は変わらないね!出来るだけ早く、美国織莉子と呉キリカを叩く!」
まどか「ただし、予知されても簡単には正確な場所が特定されにくいところで、だよさやかちゃん」
ほむら「そこに誘導するのはあなたの役目よ、QB。こう言うのもなんだけど、頼りにしてるわ」
QB「ああ。任せてくれ。まさかこんな日が来るとは思わなかったが…」
QB「共同戦線といこうじゃないか」
さやか「なんだか燃える展開じゃん!よーし!さやかちゃんの正義の剣で悪の魔法少女を裁いてしんぜよう!」
ほむら「あと、さやかの役目なんだけど…。」
さやか「なになに!?ワルプルギスの時みたいにトドメ役!?」
ほむら「まどかの護衛をお願いしたいわ」
さやか「えっ?」
ほむら「敵の最終目的はまどかの殺害よ。なら、私達との戦いから逃げて直接まどかを狙うかもしれない」
ほむら「しかも呉キリカの固有魔法は速度低下。一度逃げられたら二度と追いつけないわ」
ほむら「その時、まどかがフリーだったらゲームオーバーなのよ。奴らは本当になんの躊躇もなく一般人のまどかを殺す」
さやか「えー、でも2対3の方が有利じゃない?2対2で戦って、例え勝ってもどっちかが、し…死んだりしてたら…あたし、自分を許せそうにないよ」
QB「それならいい方法がある!僕を護衛に残せばいい。いざとなれば、まどかが魔法少女になって自衛すればいいだけの話さ!」
ほむら「…ね?あなたが残るしかないのよ、さやか」
まどか「そうだねぇ…」
マミ「美樹さん、お願いできる?」
さやか「そっか…。うん!よし!わかったよみんな!」
QB「なんでみんな僕の素晴らしい提案に乗らないんだい?これが最も勝率が高いだろう」
ほむら「本末転倒だからよ」
QB「わけがわからないよ」キュップイ
ーーーー
ーーー
マミ「じゃあ、今日はこれでお開きね」
さやか「決行はあしただよね」
ほむら「ええ。手はず通りにね、さやか」
さやか「わかってるよ!明日はまどかと二人でほむらん家に隠れてる」
マミ「織莉子達がそっちに向かったら連絡するわ」
さやか「うん!あたしはまどかを例の場所に隠したら、ほむらん家のいろんなマジカルギミックを使って迎撃」
ほむら「私達が合流したら一気に挟撃・殲滅」
さやか「りょーかい!なんかワクワクするね、まどか!」
まどか「不謹慎だけど、そうだね」ティヒヒ
マミ「二人とも。これが佐倉さんの弔い合戦だってこと、忘れちゃだめよ」
さやか「そ、そっか…」
まどか「ごめんなさい…」
ほむら「さやか。まどかのこと…頼んだわよ」
さやか「ほむら…。うん。任せて。だからそっちも、気をつけてね」
ほむら「ええ。ありがとう」
まどか「二人とも…。私、なんだか恥ずかしいよ」
マミ「みんなあなたのことが大事なのよ」
さやか「あ、そういや今晩は誰がまどかの護衛する?」
ほむら「交代制にしましょう。私はこの後もマミさんと具体的な戦闘の作戦を煮詰めるから、最初はさやかにお願いしていい?」
さやか「わかった!ほむらかマミさんが来たら交代?」
マミ「そうね。もし、万が一織莉子達が攻めてきたらすぐに私達を呼ぶのよ?」
さやか「りょーかいです!」
さやか「じゃあ、今度こそ私達は帰りますねー!また明日ー!」
まどか「二人ともまた明日!」
ほむら「ええ。また明日」
マミ「気をつけて帰るのよー」
QB「さて。二人は帰ったことだし、もう会話に気を遣わなくていいね」
マミ「そうね。そろそろ私達らしい…生々しい話をしましょうか」
ほむら「……」
マミ「とにかくまずは確認させて。この件に関してはQB、あなたのことを味方と考えていいのよね?」
QB「当然だ。魔法少女狩りなんてエネルギーの芽を摘む行為は、僕にはとても容認できない」
QB「一刻も早い解決を望むよ」
ほむら「私達も同じ。魔女がいなければ私達は生きられない。そして何より奴らは杏子を殺し、まどかをも手にかけようとしている仇敵。絶対に仕留めるわ」
QB「利害は完全に一致している。僕に君たちを裏切るメリットはないだろう」
マミ「ええ、そうね。ちょっと警戒し過ぎたわ」
QB「まあ、それはどうでもいいさ」
QB「それよりも、僕から解決手段について一つ、リクエストがある」
マミ「わかってるわ。彼女達は必ず殺す」
ほむら「…QB、あなたは私達が美国織莉子を仲間に引き入れることを恐れているのね」
ほむら「でも、その心配はいらないわ。杏子を手にかけた以上、どこまで行っても彼女達は敵よ」
QB「さやかを外したのはなんでだい?彼女を護衛に残さずとも、美国織莉子を足止めする方法ならあるだろう」
マミ「純粋に不安だからよ。といっても、戦闘面じゃないわよ。最近の美樹さんはかなり腕を上げたわ」
マミ「何が不安かと言えば、今回の相手が魔女でなく、魔法少女ってことね」
マミ「あの子はまだ正義のために剣を振ってる気でいる。そんな子が躊躇いなく人を殺せるかしら」
ほむら「殺し合いでは、一瞬の逡巡が命取りになる。悪いけどさやかはきっとそこまで割り切って剣は振れないでしょうね…」
マミ「それに、人を殺したという事実は確実に美樹さんの心を蝕むわ。そんな十字架を彼女に背負わせたくないもの」
ほむら「まあ、そんなところかしら」
QB「…考えがあってのことならいいんだ」
QB「健闘を祈るよ。必ず仕留めてくれ」
ほむら「ええ。あなたとの契約も反故にしたくはないし、せいぜい頑張るわ」
QB「…わかっているならいいんだ」
QB「じゃあ、僕もそろそろ行こうかな」
QB「明日の準備に取り掛かりたいからね」
ほむら「そう。ならどこへなりと行きなさい」
QB「そうしよう」
私達はその後も遅くまで対美国織莉子・呉キリカ戦に備えて作戦を練っていた…。
ーー???
QB「…やあ。久しぶりだね」
QB「織莉子」
織莉子「インキュベーター…」
織莉子「何の用?魔法少女の裏事情を知った以上、必要以上にあなたと関わる気はないの」
QB「まあそう邪険にしないでくれ。寂しいじゃないか」
QB「ともすれば、君『達』がやましいことをしているんじゃないかと勘ぐってしまうよ…?」
織莉子「………」
QB「警戒しなくてもいい。今日は君達に有益な情報を持ってきたんだ」
QB「織莉子。出来るだけキリカと離れ離れになってはいけない」
織莉子「一応聞いておきます。なぜなの…?」
QB「君達を殺そうとしている魔法少女達がいるからさ」
ーー翌日
マミ「ここなのね、QB」
QB「ああ。あとは君たち次第だ。うまくやってくれるのを祈っているよ」
私たちが美国織莉子たちとの戦場に指定したのは、魔女結界。
最初は広い公園なども視野にあったが、それでは織莉子に予知された時に渡してしまう情報が多すぎる。
特に、空の明るさで時間の特定が容易という点が問題だった。
しかし屋内では、私もマミさんも射撃タイプなため既存の建造物を破壊してしまう恐れがある。
それは一般人を巻き込まないという私たちのポリシーに反する。
また、今度はどうしても場所の特定が容易になってしまうだろう。
結局、時間も場所も特定されにくく、また魔法少女として必ず訪れなければならない場所ということで魔女結界の中に決まった。
今度は使い魔や魔女という不安要素が出てしまうけど、仕方ないわ。
それに、織莉子とキリカが魔女と戦っているところを不意打ちできると考えれば、そうマイナスばかりでもない。
織莉子たちの入った魔女結界をどう特定するか、という問題はQBが解決してくれたわ。
実はQBは魔法少女だけでなく魔女の居場所もサーチできるらしく、本来は禁止されているらしいけど(誰に?)、織莉子たちが入りそうな魔女結界の情報を横流ししてくれたから。
ほむら「しかし、私の知ってる美国織莉子は魔女狩りも魔法少女狩りも呉キリカに任せていたわ」
ほむら「なぜ今回に限って二人で魔女狩りに来たのかしら…」
マミ「そうなの?なら今回は見送った方が無難かしら。各個撃破が理想だわ」
QB「それは違うだろう。むしろ、もう君たちの襲撃は予知されたと考えるのが自然じゃないかな」
QB「襲撃は魔女結界内ということしかわからない。なら、魔女狩りは二人で行うようになるのは当たり前だろう」
QB「だから攻めるなら早い方がいいよ。躊躇えばそれだけ準備時間を与えてしまう」
マミ「………」
ほむら「…そうね。そう考えると筋が通っているわ。ありがとうQB。やはりあなたが味方にいると心強いわ」
QB「感情のない僕にお世辞とは。本当に君たち人間は理解し難い」
QB「でもまあ、今回の件は僕としても必死だからね。…変な話だが、頑張ってくれ」
QB「大丈夫、君たちは僕の知る中でも選り抜きの魔法少女だ。相手が誰だろうと負けないさ」
マミ「まったく、調子いいんだから」
ほむら「それじゃあ、行ってくるわ」
ーー魔女結界内
キリカ「さてと!魔女のやつも動けない程度には刻んだし、あとは件の魔法少女たちが現れるのを待つだけだね!」
織莉子「そうね。あまり時間はかけすぎないようにしましょう。私達に時間は残されてないわ」
キリカ「どーゆーことだい?なにが私達の時間を奪うんだ」
キリカ「そんなもの許さないよ!私と織莉子の時間は誰にも邪魔させない!」
織莉子「ありがとう、キリカ。時間がないと言ったのは、救世を成し遂げられるか否かということよ」
キリカ「鹿目まどかかい?あんなの、QBの目さえそらせてれば千切るだけで終わりじゃないか」
織莉子「そのQBよ。恐らくQBは魔法少女狩りの正体を私達だと特定しつつある」
織莉子「目をつけられてしまった以上、私達の本命が知られるのは時間の問題」
織莉子「鹿目まどかが契約してしまえば、もうどうしようもない。彼女のポテンシャルなら、戦いに慣れていなくても私達くらい簡単に倒せるわ」
キリカ「じゃあ、この戦いが終わったらすぐに鹿目まどかを刻まなくちゃね!」
織莉子「そうね。それともう一つ、急がなくてはならない理由があるんだけど…まあとにかく、この戦いにあまり時間はかけられない、という結論は変わらないわ」
キリカ「っていうかさ、こんな所で律儀に敵さん待ってないでとっとと鹿目まどかを殺そうよ!」
織莉子「いいえ。それはダメよ。今度の敵は普通の魔法少女ではないわ」
織莉子「QBの話では、あなたの殺した赤い魔法少女の弔い合戦のため私達を狙っているということだったわ」
キリカ「うん、まー自然なんじゃない?私だって織莉子がやられたら、なりふり構わずそいつのことぶっ殺すし!」
キリカ「ソウルジェムも肉体も全部シュレッダーいきさ!その挽肉でハンバーグを作って織莉子にお供えしても私の怒りは収まらないよ!」
織莉子「QBはこうも言っていたの。彼女たちは私達の魔法も知っているから注意した方がいいって」
キリカ「…へえ」
織莉子「明らかに今度の敵は知りすぎているわ」
キリカ「そうだね。面識も何もない私達の魔法のこと。魔法少女狩りの犯人…。あ、ひょっとしてそいつらQBの尖兵だったりして!」
織莉子「だったら、もっと彼女たちに有利な戦場を提供するんじゃないかしら?」
キリカ「そっかぁ」
織莉子「とにかく彼女達は得体が知れないわ。今回にしても、QBを利用して私達に近づく算段だったんでしょうけど、あいにくQBは味方ではなかった」
織莉子「恐らく彼女達はQBにとってもあまり好ましくない存在なんでしょうね」
織莉子「QBの情報がなければ私達は奇襲されていた。この場をスルーして、次も対等な勝負ができるとは限らない」
織莉子「いえ、こんなチャンスは恐らくないわ。彼女達は、この場で殺す!」
キリカ「そうか。まあ織莉子が言うなら私は従うよ」
織莉子「!…結界が乱れたわ」
キリカ「いよいよお出ましってことだね!」
織莉子「いい?キリカ。最初は…」
キリカ「わかってるよ織莉子!」
キリカはうなずくと、懐から赤い宝石を取り出した…。
ほむら「まさか待ち構えているなんてね…」
マミ「ええ。予知されていたのかしら」
ほむら「会戦ってことね。ならこちらに利はないけれど、不利もない」
マミ「なに言ってるの。待ち構えてるってことは、トラップを仕掛けてる可能性もあるのよ」
ほむら「いえ、私の知る彼女達はそういうタイプではないわ」
マミ「そう…。でも、常に不測の事態に備えておいて損はないわよ?実際、こうして二人で待ち構えていること自体、不測の事態なんでしょう?」
ほむら「それもそうね。…気をつけるわ」
キリカ「ねえねえお二人さんっ!復讐に来たって割には消極的だねえ!」
キリカ「二人でボソボソ喋ってないで、もっと私達に言うことないかなー!?啖呵きるとかさあっ!」
キリカ「昔の武士みたいに、やあやあ我こそは何々なり~!みたいなやりとりしてみたいのに!!」
ほむら「やあやあ我こそは、暁美ほむら。あなたにやられた仲間の復讐に来たわ」
マミ「同じく、巴マミ。楽には殺さないわ。覚悟なさい」
織莉子「キリカ。満足?」
キリカ「ぜんっぜんだよ!あいつらは余程、感情に身を任せる楽しさをしらないみたいだ!」
キリカ「復讐者だってのに、まったく迫力を感じない!もっと私をゾクゾクさせてほしいよ!」
織莉子「じゃあ、啖呵のきり方を教えてあげなさい?」
キリカ「うんっ!そうしよう!」
キリカ「ねえ二人とも!運動会とかでさ、よーいドンのピストルあったよね?」
キリカ「私達の決闘にもあーゆーのが欲しいんだ」
マミ「お望みなら、銃を貸しましょうか?」
キリカ「いやいや!それには及ばないよ!不肖このキリカ、自前の合図を準備してきたんだ」
キリカ「ただピストルじゃなくて、くす玉?に近い趣きなんだけどね、私達の決闘にはぴったりの合図だと思うよ!」
キリカ「話は変わるけど、私は殺した魔法少女のソウルジェムを集めるのが趣味なんだ」
キリカ「武士も手柄を首級を持って帰って誇ったって言うしね!私も魔法少女の体をメチャクチャに引き裂いたら、ソウルジェムを首級としていただいてるのさ」
キリカ「そこでさ、このソウルジェム。だ~れのだ?」
ほむら「っ!それは…!」
その赤い宝石は…!!
キリカ「嬉しいよ。当たりみたいだね」
キリカ「じゃあ、決闘開始の合図を出すよ」
キリカ「きっと、いい音するから聞き逃さないでね?」
キリカは、そう言うと。
杏子のソウルジェムを高々と放り、それを
光の鉤爪で
砕いた。
ほむら「っ!!呉…キリカあああああっ!!!!」
何をどう動かしたのか覚えていない。
私の意識がハッキリした時には、キリカ目掛けて拳銃を片手に突っ込んでいた。
キリカ「そうだ!その殺気!!ゾクゾクするよ!」
眼前のキリカが満面の笑みで私を迎え撃つ。
殺す!!この女だけは、どうあっても殺さないと気が済まない!!!
だが。
突然私の体がリボンで包まれ、マミさんのところまで下げられてしまった。
マミ「暁美さん。怒りのまま突っ込んでは敵の思うがままよ」
ほむら「放して!殺すの!!あいつだけは、私が…!」
マミ「黙りなさい!!!!!」
ほむら「…っ」
マミ「暁美さん。あなたにはまだ、復讐者の戦いを教えてなかったわね」
マミ「復讐者はね、喋っちゃダメよ」
マミ「口を開けば、言葉とともに復讐のエネルギーは発散されてしまう」
マミ「エネルギーは、体に溜めるの。世の中への理不尽。不条理。それに対する怒り、憎しみ、悲しみ」
マミ「そして対照的に、頭は冷やして起きなさい」
マミ「燃え滾る体と、それを制御する冷えた頭。それが復讐者の理想の状態よ」
そう言ったマミさんは、普段の優しい面影はなく、冷たい殺気だけが充満していた。
その殺気は、矛先は私に向けられていないのに私が気圧されるほどで、それだけで切れるような迫力だった。
そのマミさんの殺気で、ようやく私の頭は冷静さを取り戻したのだった。
マミ「暁美さん。見せてあげるわ」
マミ「復讐者の」
マミ「戦いをっ!!」
言い終わるとともにマミさんは帽子を宙に薙ぐ。
すると背後にゆうに千は超えるであろうマスケット銃が展開される。
キリカ「…こりゃすごい」
織莉子「キリカ。私の後ろに」
マミ「行くわよ。私の可愛い弟子の、親友の、家族の」
マミ「魂を砕いた罪、その身に刻みなさい!!!」
QB「結界が大きく乱れている…。始まったね」
QB「どちら陣営も、高い実力を備えた魔法少女たちだ」
QB「恐らく正面から会戦といけば、双方タダではすまない」
QB「まさに僕の狙い通りだ」
QB「あの四人は全員魔法少女の真実を知っている」
QB「なおかつ、織莉子たちサイドは魔法少女狩りをして僕のエネルギー源を奪い」
QB「ほむらたちサイドはまどかという最高の魔女の種を孵化させまいと妨害してくる」
QB「まあ直接の妨害は禁じたが、ほむらたちがいては大差ない」
QB「そんな目の上のたんこぶ同士が勝手に潰しあってくれるなんて、最高の展開だ」
QB「そう仕向けたのは僕だけどね!!」キュップイ
QB「さて、どちらが生き残るか、高みの見物といこう」
QB「僕の見るところでは、織莉子たちが有利だろうけどね」
QB「魔法少女同士の戦いは情報戦だ」
QB「双方相手の固有魔法は知っている状態」
QB「違うのは、敵が自分の固有魔法を知っているかどうかの情報」
QB「ほむらたちは、織莉子たちに自分の魔法はバレていないと思っている」
QB「だが実際は僕が教えてしまった」
QB「対して織莉子たちは、自分の魔法がバレていると知っている」
QB「この差は、あまりに大きい」
QB「僕としては、織莉子たちが勝った方が後々の処理がしやすいからそう操作したわけだが」
QB「やっぱり一番は双方相打ちだね!」
QB「まあ、せいぜいお互い潰しあってくれ」
QB「どういう決着であれ、僕に損はないからね!」
ーーほむら宅
まどか「ほむらちゃん達、大丈夫かなあ」
さやか「大丈夫だよ、絶対。あのベテラン二人がやられるわけないじゃん!」
まどか「でも、杏子ちゃんは…」
さやか「……」
まどか「さやかちゃん。私ね、最初に杏子ちゃんがやられたって聞いても、正直ぜんぜん実感がなかったんだ」
まどか「でも、最近になって…ようやく、もう杏子ちゃんに会えないんだって思ったら…たまらなくなって」
まどか「これが…人が死ぬってことなんだね」
まどか「嫌だよさやかちゃん。杏子ちゃんともう遊べないなんて」ポロポロ
さやか「…まどか」
まどか「どうしよう。これでほむらちゃんやマミさんまでやられちゃったらどうしよう…!」
まどか「私、悔しいよ。どうして私はいっつも守られてばかりなの…」
さやか「…負けないよ。あの二人は負けない」
さやか「だって、あたしが加勢するから」
まどか「…え?さやかちゃん?」
さやか「ごめんまどか!やっぱりあたしも無理だ!あの二人が頑張ってるのにあたし一人だけ安全地帯にいるなんて耐えられない!」
まどか「いやでも…え?織莉子さんがこっちに来た時に備えて…」
さやか「うん、それについては絶対大丈夫!安心して!」
まどか「絶対ってそんな…それこそ織莉子さん次第じゃあ…?」
さやか「よし!そんなに不安なら、いまから根拠を見せるね!」
さやか「黙ってて悪かったけど、実は…」
まどか「ええぇ!?」
ーー魔女結界
マミさんの一斉射撃で、戦いの火蓋はきって落とされた。
やはり初撃は織莉子の予知で防がれ、一斉射撃と時間差で打ち込んだ対戦車バズーカも躱された。
マミ「やっぱり手強いわね」
と言いつつも、余裕の表情でマスケット銃を連射するマミさん。
ほむら「ええ。でも遠距離戦なら私達に分があるわ」
私も答えながらバズーカを数発打ち込む。
そう。遠距離戦なら圧倒的に私達が有利。
キリカが超近距離タイプのため、織莉子はキリカを庇いながら攻撃を受けるしかない。
そうなると織莉子に反撃の暇はないため、こうして私達が一方的に攻撃できるのだ。
しかし。
マミ「このままではダメね。私達がもたない」
その通り。
やはり予知能力を相手に正面から攻撃しても決定打にはなりえない。
いまは優勢に見えていても、魔力の消耗の激しいこちらがガス欠になれば(特に私は残弾というかなり現実的な数字がある)一気に形勢は逆転する。
つまるところ、いまの戦況を維持していても勝ちはない。
単発のチェックでは逃げられてしまう。
チェックメイトにはやはり二手先も三手先も読んで、逃げ道を完璧に塞いでからの一撃でないと及ばないだろう。
そして、そのための策は練ってある。
ほむら「ええ。私がスキを作るわ。あとは手筈通りに」
マミ「わかったわ」
あとは、この作戦が奴らに通るかどうか。
キリカ「もー!バカスカ撃ってくれちゃって!私にも攻撃させてほしいもんだよねえー!」
織莉子「まあまあ。私の魔法とキリカの魔法があれば死ぬことはないし」
織莉子「あとちょっとしたら、弾幕にスキができるわ」
キリカ「ほんとうかい!?ようやく私が踊れるんだね!」
織莉子「ええ…。私が合図したら、10時の方向に飛び出して。多少弾が飛んでくるけど、私がフォローするわ」
キリカ「りょーかいだよ織莉子!」
織莉子「…2、1…いまよ!キリカ!」
マミ「っ!来たわよ、暁美さん!」
私の空けた弾幕の穴から予定通りキリカが飛び出してくる。
まずは作戦通り。
その第一段階は、両者を分断すること。
そして、それを敵達にとってそれが最善手と思い込ませて行動「させる」。
これは完璧に遂行されたと言っていいだろう。
キリカが自ら突っ込んで来てくれた。
分断さえしてしまえば、あとは各個集中砲火で始末すればいい。
まあ、予知能力を相手にこの程度で詰められるとは思っていない。
これで始末できればよし、出来ずとも、私達にはこの後の本命がある。
迫るキリカに、私達は狙いを絞る。
キリカ「ムダだよっ!」
しかしキリカの周囲にはすでに織莉子の操る銀球が展開されている。
キリカに集中砲火を浴びせた弊害で、織莉子がフリーになってしまったために、キリカをフォローする余裕が生まれたのだろう。
私達の弾丸は、キリカに至る前にことごとく撃ち落とされてしまう。
やはり集中砲火は効かない。ならば。
マミ「暁美さん!本命を始めましょう!」
マミ「私がフォローするわ!キリカをお願い!」
ほむら「了解よ。予定通り、キリカをC地点に誘導するわ」
マミ「ええ。A、Cを対角線として、私達はB、D地点で攻撃よ」
ほむら「任せて!」
キリカ「また二人でブツブツ相談かい!?私も混ぜてよ!死に方の相談なら喜んで受け付けるよ!」
もうすぐそこまで肉迫したキリカに対して、マミさんはバックステップで距離をとる。
そしてマミさんとキリカの間に割って入り、キリカに立ち塞がるのは、私…!
ほむら「あなたの相手は私よ」
キリカ「なぁんだ!死ぬ順番を決めてたのかい!?なら勇気ある黒いの!キミはせめて安らかに千切ってあげるよ!!」
キリカの鉤爪が振り下ろされる。
しかしそれは私には届かない。
私の盾に弾かれたためだ。
私の盾は魔力を注ぐことで、瞬間的に前方をドーム状のシールドを展開することができる。
その防御力は、ワルプルギスの夜の波動を凌いだほどだ。
キリカごときの鉤爪でそれは破られはしない。
とはいえ、その衝撃は伝わる。
攻撃の反動で私は数歩の後退を強いられる。
さらにそこへ追撃を加えるべく、キリカが左右に身を振りながら迫ってきた。
身を振っている理由は、翻弄半分、私の銃の狙いをブレさせる半分だろう。
さすがはキリカだ。
一見狂っているように見えても、その戦闘は恐ろしく思慮に溢れていて、緻密だ。
だが私に肉迫した後の行動には、私が遠・中距離型のシューターであるというキリカの誤った前提意識が含まれていた。
なぜなら、キリカはとんでもなく大振りに振りかぶっているのだ。
恐らくキリカは、もう私のエイム・ファイアの手順よりも、自分の鉤爪の方が早いと確信しているのだろう。
確かにそれは、マミさんのような純粋なシューター相手なら正しい判断だ。
だが相手が私の場合、致命的なスキを生んでいる…!
キリカ「これでどうだっ!」
キリカが全身をひねった、渾身の斬撃を繰り出そうとした瞬間、私はキリカの懐に飛び込む。
キリカ「えっ!?」
そして、面食らうキリカに思いきり袈裟斬りを食らわせてやる。
キリカ「くっ!」
キリカはかろうじてそれを鉤爪で受けるも、大きく体勢を崩してしまう。
それを見逃す私ではない。
さらに返す刃で顔面に斬撃を放つ。
たまらずキリカは大きな宙返りで私と距離を取るも、そこも私の射程。
拳銃の弾が切れるまでキリカに連射してやった。
キリカ「黒いの。キミそんな武器も使うんだね」
傷こそ負ってないものの、キリカからは余裕の表情は消え、肩で息をしている。
ほむら「そうね」
そんなキリカに対し、私はあえてそっけなく返すと、右手の青いサーベルを構え直す。
これは言うまでもなく、さやかの剣だ。
さやかに頼んで、あらかじめ盾に収納しておいたのだ。
他にも、杏子の槍や、マミさんのマスケット銃も収納されている。
日頃からみんなの武器を盾に収納しておき、戦況に合わせて使い分けるオールラウンダー。
これが、いまの私の戦闘スタイルだ。
とはいえ、遠距離での射撃術ならマミさんに劣るし、中距離での槍術は杏子に及ばない。
無論、近距離での剣術ではさやかが勝るだろう。
つまるところ、私は仲間達の武装に加え、自前の爆弾や拳銃など、武器の多彩さで翻弄するしかないのだ。
キリカ「謝るよ黒いの。私はキミを見くびっていたようだ」
キリカ「だけど安心してほしい。これからは、一切の容赦なく、忌憚なく」
キリカ「あらゆる角度から計算し尽くして、キミのことをすり潰してあげよう」
ほむら「光栄ね」
そんなキリカの真横にマミさんが銃弾を送るも、それは織莉子の銀球に阻まれてしまう。
キリカ「いくよっ!!」
戦況は一変していた。
キリカと近距離で切り結ぶ私。
それを援護するマミさん。
その援護射撃を予知を駆使して、銀球で阻みつつ、マミさんにも攻撃を加えている織莉子。
この三点による三角形が、私とキリカを軸に平行移動している。
一種の膠着状態だった。
この状態から抜けるには、ふたつのパターンが考えられる。
ひとつは、私かキリカ、どちらかの敗北。
いまひとつは、マミさんが予知相手に読み勝って、キリカに攻撃を加えたことによる私の勝利。
または織莉子の攻撃がマミさんに通ってしまうことか。
一応、この状態は私達の描いたプランの上であることは明言しておく。
しかし、これではあまりにも個々の能力に頼りすぎていると、いまでは反省している。
どちらかの負けは、全体の負けに直結する。
だが、この状態にもってきてしまった以上、あとはマミさんと自分を信じて戦うしかないだろう。
キリカ「ほらほらァ!」
ほむら「…っ」
さっきは不意打ちがうまく決まったが、やはり近距離では圧倒的に私が不利だ。
攻撃もままならず、盾での防戦一方だ。
防戦一方でマミさんが織莉子に読み勝つのを待つという手もなくはないが、正直あまり期待出来ないだろう。
戦った私にはわかる。
あの予知はかなり厄介だ。
だから私がやられっぱなしでは勝ちはない。
なんとか攻めに転じなければ…!
ほむら「くっ!なめないで!」
大きめにバックステップをとり、キリカとの距離をあけると右手にサーベルを構える。
キリカ「おっ!やっとやる気になったみたいだね!」
嬉しげにキリカが迫る。
しかし。
ほむら「いえ、あなたのフィールドで戦う気はないわ、申し訳ないけれど」
言うなり私は、背中から回した左手の拳銃でキリカの足下を撃ち込む。
キリカ「わッぷ!」
構えた剣が死角となって、キリカは反応が遅れるが、かろうじてジャンプで回避する。
そこへ私は構えたサーベルで斬りかかる!
キリカ「くっ!」
後退したキリカに、時限爆弾をなげつけ、さらにそれをマスケット銃で撃ち抜きつつ、キリカにも連射を加える!
ーー爆炎でまだ見えないが、これで少しはキリカにもダメージが通ったろう。
マミ「暁美さんっ!上よ!」
ほむら「えっ?!わっ」
見上げるとそこにはすでに眼前に迫るキリカが。
間一髪盾でガード出来たが、マミさんの声がなかったら危なかった。
ほむら「…やるわね。あれで死なないなんて」
キリカ「キミこそ」
キリカ(コイツ、厄介だ)
キリカ(接近しても盾、剣、銃。カウンターが多彩すぎる)
キリカ(正面からじゃ攻めきれない。なにか搦め手が欲しい…)
キリカ(…そういえば、あの盾から展開される魔力のシールド。さっきだけはやけに収束が早かったな)
キリカ(違うことといえば…さっきは速度低下をかけてない!)
キリカ(そうか!いままでは、シールドの収束速度まで低下してたんだ!ふふふ…まさか敵に塩を送ってたとはね)
キリカ(でも…だからどうする?速度低下を切る訳にはいかない。どうにか、シールドに引っ掛けずに黒いの本体だけに速度低下をかけたい)
キリカ(…速度低下を集中?もしそれが可能なら…!)
ーーキリカに回し蹴りを放つ。
普段の彼女なら容易に回避できるだろうに、それはキリカの側頭部に当たり、吹っ飛ばした。
かろうじて受け身を取ったキリカを一瞥。
ほむら「どうしたのかしら。ずいぶんと動きが鈍いのね。間違って自分に速度低下をかけてしまったの?」
キリカ「心配には及ばないよ。ちょっと考えごとを…そう、織莉子とのお茶にピッタリなお茶請けを思案中だっただけさ」
キリカ「でもどうか安心して欲しい。お茶請けとキミの死は決まったから」
「さッ!!!」
どういうつもりかしら。
そう言いつつも、キリカの行動は再びこの戦闘中もう幾度も繰り返されている蛇行しながらの突進。
ほむら「芸がないのね」
私はそれに対して変わらぬ対応で受ける。
すなわち、シールドを展開しながらの衝撃を相殺するためのバックステップ。
その瞬間、キリカの目が怪しく光った気がした。
ほむら「っ!?!」
なに!?
バックステップ中に、突然左足が重くなる。
両足は完全に地面を離れていて、重心は後ろに傾いている。
唐突に起こった異常事態に、私は情けなく尻もちをついてしまう。
そして、目の前には隻眼の悪魔の姿が。
やられる。
私は直感した。
キリカ(私の魔法は、特定の空間の速度を低下させること。いままでは、人物の周囲をまるまる低下させてたけど)
キリカ(黒いのの左足周辺の空間に限定しての速度低下。こんな使い方もあるんだね)
キリカ(感謝するよ、またひとつ強くなれた)
キリカは、黙ったまま鉤爪を振り下ろす。
てっきり気の利いた、いえ狂った捨てゼリフとともに斬りつけてくるとばかり思っていたので、面食らう。
本気で殺しにきているのだ。
これは助からないーー。
ほむら「まどか…」
「暁美さん!」
だが振り下ろされるキリカの右手に、突如地面から生えたリボンが絡みつく。
キリカ「くっ!?なんだこれ!」
ほむら「マミさん…!」
まだ状況はうまく掴めないが、マミさんのリボンがここにあるということは、勝ったのだ。
マミさんは、この間一髪な奇跡的タイミングで、織莉子との読み合いに勝利したんだ…!!
織莉子「甘いわ」
マミ「うっ!」
だが、その儚い幻想はマミさんのうめき声と鈍い音でかき消された。
マミさんの方を見れば、織莉子の銀球で吹っ飛ばされている黄色い影が。
私は、すべてを把握した。
マミさんは、自分の防御を捨てて、私の方にリボンを放ったんだ…。
そして正面を見れば、左手でリボンを千切るキリカが不敵な笑みを浮かべている。
だが一瞬。
そのリボンを千切る一瞬があれば、まだ私は戦える!
なめないで欲しいわ呉キリカ。
私は暁美ほむら。
幾多の時間軸を旅した時間の魔法少女。
諦めの悪さなら誰にも負けはしない!
ほむら「いけるわマミさん!予定通りC地点に網を!」
マミ「っ!わかったわ!」
キリカ(まだ小細工するつもりか!)
キリカ「させないっ!さっさと死ね!」
その返事の代わりに私は固く目をつむると、微笑んだ。
そして、左手を高く振り上げる!
左手の盾からこぼれた物が、ひと呼吸おくと、光の嵐を巻き起こした。
と、思う。
キリカ(閃光手榴弾!こんなものまで隠し持ってたのか!)
頃合いを見計らい目を開けると、そこには目を押さえて悶えるキリカがいた。
その背後を見やると、同じく目を押さえる織莉子の姿がある。
キリカほど至近距離じゃなかったためか、少し苦しそうにしているにとどまっているが。
キリカ「くそっ!私を甘く見ないでほしいね!」
キリカは眼帯を投げ捨てた。
まさかこんな形ですぐ戦線復帰するとは…!
しかし一瞬遅かった。
私は杏子の多節槍を取り出し、すでにその鎖でキリカの片足を縛っている。
あとは、この槍を一本背負いの要領でキリカごと投げ捨てればいい。
マミさんのリボン網の中へと!
ほむら「マミさん!」
マミ「ええ!いくわよ暁美さん!」
C地点へとキリカがたどり着くと、マミさんの網がキリカを何重にも絡めとる。
それはさながら、黄金のマユだ。
いくらキリカの鉤爪でも、あれはすぐには破れまい。
織莉子「だめ!やめなさい!!」
織莉子がキリカの周りに銀球を展開させようとするが、もう遅い。
私達の銃口は同時にキリカを捉えた。
そして。
キリカ「違う!待って織莉子!こいつらの狙いは…!」
キリカに発砲すると見せかけて、軽やかにステップを踏んだーーああ、マミさん。本当にこのステップは練習しておいて良かったわーー私達は、真の標的へと構え直す。
すなわちそれは、美国織莉子!!
私達の作戦は、各個撃破。
ただ、その標的は最初から厄介な魔法を持ち合わせる織莉子だった。
そのための伏線として、あえて私達は終始キリカを集中砲火していたのだ。
私達がキリカから倒そうとしていると誤認させるために。
そして、織莉子を攻撃する場所にもこだわった。
キリカをC地点に誘導と言ったが、このCとは四角形ABCDのCだ。
Aに織莉子、Cにキリカを置き、B・Dどちらかに私かマミさんという配置。
要するに、対角線の先にお互い味方がいる形ね。
この形を目指した理由は、私とマミさん両方の射線上に、同時にキリカと織莉子を捉えるため。
絶体絶命の状態でキリカをC地点に追い込み、私達が銃口を同時に向ける。
そうすればきっと織莉子は自分の防御を捨てて、キリカのフォローに入る。
織莉子は前提として私達の狙いがキリカだと誤認しているから、予知を使うまでもなく(と言うよりはそのヒマがあれば)一刻も早くキリカを助けようとする。
自分も私達の射程内だとも気づかずに…!
私達の作戦は、カンペキに遂行された。
あとは織莉子を撃ち抜くのみ!
ステップを踏み軽やかに織莉子の方に向き直ると、私の盾の中でも最強最大の武装を取り出す。
その名はーー!
キリカ「逃げるんだ織莉子!!」
マミ「ティロ!」
ほむら「フィナーレ!!」
二門の巨砲が、火を噴いた。
ティロ・フィナーレによるクロスファイア。
その火力の前には、どのような魔法少女も無力だろう。
例え、予知能力を有する織莉子でも。
爆炎が煙になったころ、すでに織莉子は…
キリカ「織莉子ぉおお!!」
人の形を保ってはいなかった…。
いくら杏子の仇のひとりとはいえ、そのぶすぶすと音をあげる真っ黒なソレには、さすがに若干の同情を禁じ得ない。
改めて私は思い知る。
これが魔法少女として生きるということ。
他の魔法少女たちを殺して蹴落として、その命をつないでいる呪われた存在が、私達だ。
マミさんを見ると、やはり彼女も複雑な表情をしていた。
安堵と謝罪と自己嫌悪の入り混じったその表情は、まさに私の心情を映したようだった。
ーーこれで決着だろう。
あとは縛ったキリカを始末すれば。
ほむら「マミさん。キリカは」
どうしましょう。
そう言いかけた瞬間。
私は背後から謎の衝撃を受けた。
熱い。あつい。あつい…!
背中が燃えたぎるように熱い。
なんだこれは。
うろたえながらも私は背中を探る。
ぐちゃりとした感覚。
生暖かいなにかが私の背中を覆っている。
その正体を知るべく私は自らの手に視線を落とす。
するとそこには…。
ほむら「な、なによこれ…」
どろどろした、赤黒い液体がべっとりと私の手からしたたっていた。
ほむら「…ぅっ」
間髪入れずに私の口からもなにかが溢れだす。
それは鮮やかな赤い色をしていた。
ごとりと鈍い音がした。
しばらく何が起きたのかわからなかったが、泣きそうなマミさんの顔が横向きになっていたので、私は倒れたのだとわかった。
視界が赤く染まってゆく。
ーーようやく現状を把握できてきた。
私は血の海の中にいる。
なによこれ。
なぜ私はこんな目に…。
少し遠くが見える。
そこは本来キリカが拘束されていた場所。
だが、そこにはキリカの姿はなく、無残に千切れたリボンの残骸があるだけだった。
そこでようやく私はすべてを悟る。
ああ、私はキリカにやられたんだ。
なぜキリカが拘束から脱出できたのかという問いは、もはや真っ黒な織莉子が説明してくれるだろう。
彼女は、自分が助からないと悟るや、キリカを助けることに自分の少ない人生のすべてを賭けたのだ。
織莉子の怨念の銀球が、キリカの拘束を解いた。
そして、そのキリカにやられて無様に這いつくばっているのが、私。
真っ赤な視界が暗転していく。
私の最期は近い。
消える寸前の光景は、マミさんとキリカの戦闘だった。
ああ、マミさん。ごめんなさい。
不甲斐ない相棒で…。
せめてあなただけは、助かってほしい。
そう祈ると、視界が完全にブラックアウトした。
何だったのかしらね、私の人生って。
初めて友達ができて、そしてその友達はみんなを守るために命を落として。
その友達を救いたいと祈った時から、苦労の連続…。
何度も傷ついて、打ちのめされて、それでもまどかを救うために歯を食いしばって頑張ってきた。
その末の、このループ。
やっと私は辿り着いたのに…!
ずっと夢に描いてきた世界をようやく謳歌できるはずだったのに!
ずるいわよ。
こんなの、あんまりだわ。
すべてはこれからだったのに…!
一方で、私らしい死に様かな、とも思う。
繰り返す時間の中で、どんどん擦り切れていった私はずいぶんと酷いこともやってきた。
盗みに始まり、いまはしれっと仲間と呼んでいるメンバーを見殺しにしたり、あまつさえさやかはこの手で殺そうとしたこともあった。
まどかを殺した時は心が壊れそうだったわね…。
とにかく、数え切れないほどの罪を犯したこの身に、まだ相応しい罰は与えられていない。
人間にはバレるような手段ではなかったから、人に裁かれることはなかったが…。
ならばこれは、世界からの裁きだろう。
志半ばで無様に死に、この魂はこれからいじめ抜かれるのだ…。
ほむら(それも悪くないわね…)
ふっと笑みが漏れる。
いずれ彼女達には贖罪をと思っていた。
思ったより早くなってしまったが、もう私は時間に追われることもない。
ゆっくりと、のんびり彼女達への罪に思いを馳せるとしよう。
…あの戦いはどうなったのかしら。
マミさんとキリカの戦いは…。
マミさん。願わくば、勝っていてください。
私はもう干渉できないけれど、せめて応援させてもらいます。
どうか、あなたは生き残って。
「…むら!」
「ほむら!!」
ああ、お迎えの声が聞こえるわ。
さやか「ほむら!!」
この声はさやかね…。
………こういう時って、空気を読んでまどかの声、じゃないのかしら。
まあいいわ。
まずはあなたにあやま「起きろほむらー!!」
…やかましいわね。
ほむら「言われなくても…いま行くわよ、まったく」
さやか「ほむら?寝ぼけてる?」
ほむら「…ん?」
さやか「お、やっと起きた?」
ほむら「……私、生きてるの?」
さやか「うんもーバッチリ」
周囲を見ると、先ほどまで戦闘を繰り広げていた魔女結界の中だとわかる。
また、私の服は真っ赤に染まっているので、怪我をしたのも事実だろう。
ほむら「…ありがとう。助けに来てくれたのね」
さやか「まーねっ!びっくりしたよー!ほむらもマミさんも血まみれで倒れてるんだもん」
ほむら「あなたが来てくれて本当に助かったわ。半分死にかけてたもの」
さやか「そう?ごめんなさいとか変な寝言言ってたからほむらは大丈夫かなーって思ってたんだけど」
ほむら「………」
さやか「なんでそこで赤くなるのさっ!?相変わらずミステリアスですなー」
ほむら「……」
ほむら「え!?待ってマミさんも倒れてたの!?」
さやか「ん?大丈夫だよ、マミさんも治したから」
ほむら「そうじゃないわ!まだキリカが生きてるのよ!」
ほむら「あなたはまどかを守ってないとダメじゃない!!」
さやか「わー!ちょっと落ち着いて!それも大丈夫だよ!」
ほむら「なにが大丈夫なのよ!早くまどかのところに行くわよ!」
ほむら「うっ」
さやか「もう!まだ完治してないんだから無理に動いちゃダメだよ」
さやか「大丈夫。キリカはまだあそこにいるから」
ほむら「えっ…?」
さやかの指差す先を見ると…確かにキリカがいる。
と、もうひとり?
真紅のフレアドレスのような衣装を見に纏うその魔法少女は…。
ほむら「き、杏子…!?」
そこには、信じられないことに死んだはずの杏子がいた。
ほむら「な、なんで…?杏子はあいつらにソウルジェムを砕かれて…」
さやか「ごめんねほむら、黙ってて。杏子は死んでないよ。あたしが治したから」
ほむら「………」
ほむら「許ざない」グズ
ほむら「なによ…!私達がどれだけ心配したと思ってるの?ふざけてるわ」グズグズ
さやか「ごめんってば…。泣かないでよほむら」
ほむら「泣いてないし、許さないわ!」
ほむら「ふたりとも帰ったらソウルジェムみそ汁ファイアーの刑なんだから。覚えてなさい!」
さやか「…あはは。それは勘弁したいな」
ほむら「ねえ。どうやって杏子は切り抜けたの?QBですら死んだと勘違いしてたし、第一私は杏子のソウルジェムが砕かれるところを」
さやか「ごめん、それは後で話すね。これからあいつらの戦いが始まるわけだし」
そうだ…!まだキリカとの決着はついていない。
さやか「頼むよほむら。杏子はまだ本調子じゃないから。あいつには手を出すなって言われてるけど、いざとなったらあたし達も加勢しなくちゃ」
さやか「あたしはマミさんをもうちょっと治したいから、悪いけどほむらはあと自分で頼むね」
さやか「なんとか戦えるところまで回復しといて…」
ほむら「…わかったわ」
私は自分のソウルジェムを握り締めつつ、にらみ合う杏子とキリカの方に視線をやった。
いつでも加勢できるように。
杏子「…よう。久しぶりだな」
キリカ「織莉子を返せ」
杏子「ああ。このソウルジェムな」
杏子「返すわけねーじゃん。これは大切な人質だぞ」
どうやら杏子は織莉子のソウルジェムをキリカより先に回収したらしい。
…というより、まだ織莉子のソウルジェムは無事だったのね。
体を盾にしてかばったんでしょうけど、よくあの一瞬で…。
さすが織莉子というかなんというか…。
キリカ「返せよ…」
キリカがうなる。
まずい。あの子はキレると手がつけられない。
お願いよ杏子。
変にキリカを刺激しないで。
だがキリカの反応は予想外だった。
キリカ「か、返してくれ…。返してよ。織莉子は私にとって、すべてなんだ」
なんとキリカは杏子に跪いて懇願し始めたのだ。
キリカ「ソウルジェムさえ無事なら、肉体はあんなことになってもまだ大丈夫なはずなんだ」
キリカ「後生だ…!頼むよ、私はどうなってもいい。織莉子を、どうか…」
杏子「うるせぇよ」
杏子「あたしはムカついてんだ。よくもあたしの仲間に手ぇ出してくれたな」
杏子「しかも聞けば、お前らまどかを殺そうとしてるらしいじゃねーか」
杏子は跪くキリカに容赦無く槍を突きつける。
杏子「立てよ、クソ野郎。この落とし前は高くつくぞ…!」
キリカ「………」
キリカ「……ふん。こっちが下手に出たら調子に乗っちゃって。いいよ。そっちがその気なら私は力ずくで奪ってやる!」
キリカはその場から飛び退くと、猫の威嚇のように腰を高くした四つん這いで鉤爪を展開させる。
戦闘の開始を予感させる、ピリピリした緊張感が場に充満した。
杏子「さやか!」
杏子「ちょっとこいつ預かっててくれ!」ブン
さやか「え!?わッと!」
ほむら「それは…?織莉子のソウルジェム?」
さやか「うん、そうみたい…ってなにこれ。ただの市販の白いパワーストーンじゃん」
ほむら「でもこれ、遠目で見る分にはソウルジェムにそっくりね」
さやか「あいつ、これで脅してキリカの逃げの手を封じたんだ…。なんかコスイ手だなあ」
ほむら「…!そう。そういうことだったの」
さやか「ん?なにが?」
恐らく、キリカも私達に同じ手を使ったんだ。
最初にキリカが砕いたのは、杏子のソウルジェムに似たなにか…。
それで私達を焚きつけたわけね。
さやか「ねー!なんなのさー!」
ほむら「後で言うわ。あなたはマミさんの治療に専念するんじゃなかったの」
さやか「むっ!なんだよせっかく」
その時、金属の弾ける音がした。
ほむら「始まったわ!」
さやか「えっ!本当だ!」
これまで暁美ほむらの視点から物語を見ていたが、この杏子とキリカの戦闘に限り視点を宙に飛ばすことをお許し願いたい。
_____
_______
槍と鉤爪が交差する。
まだお互いの固有魔法は使っていない、あいさつ代わりのような衝突だ。
だがその一回のやりとりで、双方は相手が手負いであることを悟った。
キリカ「…くそっ!」
杏子「どうしたよ!そんなモンじゃねえだろ」
だがふたりの表情は対照的だ。
挑戦的な表情に、挑発を重ねる杏子。
それに対してキリカは苦しげだ。
すでに一度敗北に近いものを味わい、自らの失態で織莉子に瀕死の重賞を負わせたという失意。
それに織莉子を失うかもしれないというプレッシャーも加われば、キリカの戦意が奮わないのも無理はないであろう。
だが杏子にしてみれば、キリカの戦意のなさは拍子抜けを通り越して落胆に近い心情にさせるものだった。
なぜなら、杏子はひとつの決意をもってこの戦いに挑んでいる。
杏子は、この戦いを人生の節目にしようと目論んでいるのだ。
節目の戦いが味気なかったら、つまんねえ。
ということなのだろう。
この節目の意味については後述する。
杏子は、自らの死を偽装すると独自にキリカの目的を探っていた。
自らの死を偽装したのは、キリカの標的が自分なのかどうかが不明であったため、自身は死んだことにした方が動きやすいと判断したためだ。
そして杏子は自身の調査や、さやかから伝え聞いたほむらの話を聞くことで彼女たちの目的を知るに至った。
救世。
ということらしい。
そしてそれを、自らの友人・まどかの殺害で為そうとしている。
ふざけんじゃねえ。
杏子は憤慨した。
まどかに、あたしの友達に手ぇあげようなんていい度胸じゃねえか。
ーーという憤りと、もうひとつ。
キリカ「なんでだよ…。なんでお前たちはジャマするんだ。私はただ、織莉子と救世を成し遂げたかっただけなのに」
杏子「それだよ」
キリカ「なにがさ」
杏子「それが気に食わないんだよっ!」
杏子が吠えると同時に鋭い斬撃がキリカを襲う。
キリカ「くっ!なんなんだよお前!訳が分からない!」
杏子「なにが救世だ!!そんなの、簡単にできるはずねえだろ!!」
杏子が荒れるのも無理はない。
なぜなら杏子は知っている。
杏子「あたしの親父はな!!その半生を賭けてこの世界を救おうとしたんだ!!」
平和を愛し、世界を愛し、人間を愛し、そして自分を愛してくれた。
そしてそれが故に救世を志し、ついにその志半ばで自分の娘に裏切られ、失意の中で死んでいった不遇の男を知っている…!
杏子「あの人はな!!誰よりも優しい人だったんだ!どこの世界に新聞ニュースながめて自分のことみたいに頭抱えて嘆くやつがいる!?」
杏子「その親父ができなかったんだぞ!!」
だから杏子は我慢ならない。
魔法少女などという胡散臭い力に酔い、救世を為そうという傲慢が、父の半生を冒涜された心持ちにさせるのだ。
杏子「しかもその救世はあたしのダチを殺すことだと!?調子に乗るんじゃねえよ!!」
杏子「救世ってのはな!魔法少女なんて汚い力で為していいモンじゃねえんだ!」
杏子「キレイな奴が、その一生を賭けて戦い抜いて!届くか届かないかの遥かな理想なんだぞ!!」
杏子「お前らごときが気安く口走っていい言葉じゃねーんだ!!」
杏子「舐めんじゃねぇええぇえっ!!!」
杏子の怒りの咆哮が槍に乗り、キリカを吹き飛ばす。
あのキリカが、真正面からの攻撃を受け切れず、どころか受け身すらろくにとれないまま転がっていく。
杏子の怒りの大きさがうかがえる。
その怒りの源泉を考えれば妥当ではあるが。
だがその怒りの矛先が向けられているのは、キリカ達だけではない。
杏子(まったく、ムカつくぜ…)
杏子(まるで昔のあたしじゃねえか…!)
杏子はキリカの影に、過去の自分を見ているのだ。
ーー『魔法少女の力でみんなを幸せにしたい』
ーー『親父は表から世界を救って、あたしは裏から世界を救うんだ!』
魔法少女などという都合のいい奇跡にすがりつき、その力で人を救おうとした。
傲慢だ。
杏子(この力は、そんなキレイなモンじゃない)
杏子(確かに、魔女から人は守れる。そこは間違いない)
杏子(あたしもマミに助けてもらったもんな…)
杏子(でも)
杏子(どこまで行っても、この力は所詮は歪なモンなんだ)
杏子(条理にそぐわない過ぎた力は世間に持ち込むべきじゃない)
かつての杏子はそれがわからなかった。
そしてそれは、父のプライドを、矜持を踏みにじった。
矜持とは、人間のあり方、いわば核の部分だ。
ここを砕かれた杏子の父は、当然だが壊れてしまった。
その結果、杏子は愛する家族を失ったのだ。
杏子(バカだよな、昔のあたし…)
だが同時に、過去の自分を見たことで思い出したこともある。
杏子(でも…!昔のあたしは、目標があった。信念があった。)
杏子(確かに、あたしはその手段は間違えた)
杏子(だけど…!)
杏子(親父と一緒に夢みた目標まで失ってどーすんだよ…!!)
それはかつての自分の、希望だ。
杏子(ざまぁないよな…。ほむらと会って、さやかと会って。…マミと仲直りして)
杏子(このあたしが…目標も持たずに仲間内でぬるま湯につかってダラダラしてるなんて)
杏子(あいつらとつるんでるのは心地いいし…これからもあいつらと仲間でいられたらとは思ってる)
杏子(でも…!それが全てになっちゃだめだ!ちゃんと目標を、信念を掲げてないと)
杏子(そんなの、死んでるのと一緒だ!!)
前述した、杏子の決意とは。人生の節目の意味とは。
杏子(悪ぃ…。ずいぶんと長風呂だったけど、ようやく目が覚めたよ)
杏子(あたしは、あんたの遺志を継ぐ。この手で、救世を為してやる!)
杏子(今度は魔法少女の力なんてズルはしない。あたし自身が努力して身につけた、キレイな力だけで勝負だ)
杏子(それまであたしは生きてなきゃならないから…この汚れた方の力は、生きるためだけに使うよ)
杏子(どこまでやれるか、わかんないけど。もうあたしは立ち止まらない。この魂が砕けるまで戦い抜いてやる!)
杏子(だからさ…。見ててよ、父さん)
つまり杏子は、かつての自分の面影を感じるキリカを倒し、
魔法少女の力に酔っていたころの自分とも違う、信念を失い、日々を溶かしていたころの自分とも違う、新しい佐倉杏子になろうとしているのだ。
つまるところ、独り相撲である。
付き合わされるキリカははた迷惑この上ないであろう。
いや、少なくとも、この瞬間まではそうであった。
だが、キリカにも戦う理由ができてしまう。
キリカ「…ばかにしたね」
キリカ「私と織莉子の夢を、赤いの。お前はばかにした」
キリカ「許さない…!」
杏子「赤いのじゃねーよ。あたしには佐倉杏子って名前があんだ。お前のニワトリ頭でもそれくらいは覚えられんだろ?」
キリカ「いらないよ、そんな情報。私は私の認めたものしか覚えない。織莉子以外の何者も私の頭には立ち入れない!」
杏子「…そうかよ」
キリカ「……死んでもらうよ、赤いの」
キリカにしては、短いセリフだった。
だが短いからこそ、キリカの心情のすべてが込められている重い言葉であった。
キリカ(どうせ、勝ちはない)
キリカにとっての勝ちとは、生き残ることではない。
織莉子を助け出すことだ。
キリカ(例えこいつを倒せても、織莉子を取り戻すにはあの三人も殺さなくちゃならない)
キリカ(だけど、もう…)
そんな体力も魔力もない。
杏子との戦闘ももつか怪しいところだ。
戦えば、死ぬ。
だが速度低下を用いれば、あるいは逃げるだけならば叶うかもしれない。
しかし逃げてしまっても、キリカは死ぬ。
肉体は死なずとも、織莉子を見捨てたならばそれはもはやキリカではない。
キリカでなくなったナニカはその後の人生を、死んだように過ごすのであろう。
あるいそれは、死よりも残酷かもしれない。
だからこそ、キリカは戦わなければならない。
どうせ死ぬならば、せめて最後に自分の生き様を世界に、杏子達に知らしめよう。
自分たちの夢を貶した敵に一矢報いて死のう。
その悲壮な覚悟を瞳に灯し、キリカは杏子の前に立った。
このふたりにとってのこの戦いは、対極に位置するかもしれない。
杏子は言うなれば、自らの信念を、矜持を取り戻すために戦う。
対してキリカは、自分を貫くため、矜持を守るために戦うのだ。
ただひとつ共通するのは、互いに友人のために戦うという点である。
友人を狙い、傷つけた罪を償わせるため。
友人を傷つけ、その友人と夢見た理想までも傷つけた罪を償わせるため。
終わりと始まりを意味する戦いが、ようやく本格的に始まろうとしていた。
しばしの間、両者はにらみ合っていた。
はたから見れば、ただ威嚇し合っているようにしか見えないだろう。
だが、実態は違う。
それは、戦いに身を置く者にしかわからない心理戦だ。
パチパチと弾けさせられているふたりに挟まれた空間で、すでにふたりは戦っている。
自分と相手の動きをシミュレートし、自らの決め手である攻撃から、勝ちにつながる初手を逆算しているのだ。
この作業を早く終わらせた方が、当然戦いを有利に進めるだろう。
主導権を握れるといっても過言ではない。
だが、焦るあまりこの作業を疎かにして攻めを急げば、それはあまりにも手痛い急所になり得る。
だからふたりは緻密に入念にシミュレーションを行う。
すでに何十、何百もの空想の杏子とキリカが火花を散らせていた。
キリカ「……!」
はたして先手をとったのは、杏子であった。
彼女の初手は、悠然と歩くことだった。
槍を肩に回し、不敵な笑みを浮かべた杏子が大股に歩みよってくる。
杏子の行動は、戦闘中の行動としてはあまりに不適切だった。
戦闘は、人間を常に気を張らなくてはならない極限状態へと追い込む。
そんな戦場で、杏子は風呂上がりにミルクを取りに冷蔵庫へ近づくような不敵さでキリカに迫っているのだ。
普通の神経を持ち合わせる者ならば、まず狼狽える。
だがキリカの口角は上がっていた。
そしてキリカも放胆にも歩き出す。
決して無策ではないだろう。
キリカは感情家だが、戦闘に関してはこれ以上ないほどリアリストだ。
そんな彼女が、ただの意地だけで杏子の真似をするはずもない。
一瞬一瞬が、互いの命を左右させる重い時間だ。
行動を起こしたのは、またしても杏子だった。
体を伸ばして歩いている状態から、一気に腰をかがめ、そして全身のバネを使ってキリカに飛びかかる。
急に行動のリズムを変えたので、それは一瞬消えたのではないかと思われるほどの素早さに感じられた。
幻惑の魔法少女は、その魔法を使わずとも人を惑わすことに優れているようだ。
間合いは、詰められた。
杏子の先制で始まった肉弾戦は、いまはキリカが押していた。
杏子(なんだ、こいつ!死ぬのが怖くねーのか!?)
攻撃は、敵の応手まで考えて繰り出すものだ。
ただ金将で玉を一マス一マス追っていっても永久に勝負はつかない。
だから攻撃はその時の気分で繰り出す単発のものであってはいけない。
攻撃とは、それに対する相手の応手、さらにその先の先まで読み、相手の逃げ道を塞ぐように繰り出すものだ。
だから杏子は攻撃をする時、ある程度キリカの行動を予測している。
だが、キリカはことごとくその予測とは違う行動をとるのだ。
明らかに杏子に有利な局面で、キリカは突っ込んでくる。
そのため、いったん退くと予測していた杏子はたじろいでしまう。
自分の行ったシミュレーションとは違う展開は、先が見えず危険だ。
杏子は有利な局面を捨てて、退くしかない。
キリカが戦闘を支配するのも無理はなかった。
死兵という概念がある。
死兵は、その目的を生存だとか、恩賞といった物にもっていない。
彼らの目的はただひとつ、死ぬために戦うのだ。
一人でも多くの敵を巻き添えに死ぬことを望む死兵たちの攻撃力は凄まじい。
それはひとつには、行動が予測しづらいことにも起因する。
死ぬことを恐れないため、どんな不利な状態でも突撃してくるのだ。
予測とは結局、相手の立場に自分を投影する作業のことだ。
ならば生存を最上の目的とする者が、死兵の立場に自身を投影したところで予測が食い違うのも無理はない。
彼らは死ぬことが目的なのだ。
まず根本の行動原理が違うのである。
まともな将軍なら、敵が死兵と悟ればまず撤退する。
相手にしていてもいたずらに損害が広がるだけだからだ。
いま、キリカはまさに死兵である。
何度めかの衝突で、ようやく杏子はそれを理解した。
杏子(…そうか。お前、死にたいんだな)
だが、杏子に撤退は許されない。
ここで退けば、今度こそ杏子は自分を見失ってしまう。
杏子(なら、あたしがお前と互角にやり合うには…)
だから杏子も覚悟せざるを得なかった。
杏子(死ぬのを恐れてちゃだめだな…!)
自らも死兵となり、キリカと同じ土俵に立つことを。
杏子(おもしれえ!)
そしてそのことに、杏子は少なからず興奮を覚えていた。
生来、闘争本能の強い性質なのだろう。
杏子「おらぁっ!!」
キリカ「っ!!?」
今度は杏子が押す番だ。
キリカもまた、杏子が自身の予測と食い違った行動に出ることに少なくない動揺を受ける。
だが、杏子よりは早く相手の状態を察した。
キリカ(そうか…!キミも、この戦いに命を賭けるんだね)
キリカ(これは、面白くなってきた!)
キリカにとってはチャンスである。
この戦い方は、あまりにリスクが大きい。
要は己のリスクを無視し、ただレートの高さのみを重視して賭けに出るということだ。
当たれば大きいが、外せば一回の負けで死に至る。
つまり敵が同じ土俵に乗ったなら、運が良ければ一回の賭けで勝ちもあるのだ。
このノーガードの殴り合いに、キリカもまたゾクゾクとした高揚を抑えられない。
キリカ(いいねぇ!やっぱり戦いはこうでなくちゃ!)
やはり、このふたりは根本の部分で似通っているようだ。
お互いの行動原理が一新された以上、もはや最初に行ったシミュレーションは役に立たない。
純粋な戦闘技術と、機転のせめぎ合いだろう。
戦いは激化する。
キリカの攻撃を避けて大きく後退した杏子は、体制を立て直すと、右に逆手持ちの手槍を、左に長槍を掲げて間髪入れずに再度突撃する。
左右に飛び跳ねながらキリカに接近する杏子が、ある地点からブレ始める。
そして、気づけばついに二体の杏子が互い違いに交差し始めていた。
キリカ(ついに出たな…!)
この戦いで初めて固有魔法が使用された瞬間だ。
そして二体の杏子は、右手の手槍を投擲する。
迫る二本の槍のどちらかが幻覚なのは間違いない。
だが、それを判別するヒマはない。
両方回避するため、キリカは後退する。
そのキリカの注意が杏子から槍へ移っている一瞬で、杏子「達」は一気に距離を詰める!
そして、キリカの目前でまた左右に交差すると、キリカの背後に展開して着地した。
手のひらで例えれば、手首の位置にキリカが体に向かって立っている。
その背後、ちょうど親指と小指の位置に杏子達が着地した状況だ。
人間の視界は、ちょうど200度である。
いまの杏子達の立ち位置は、人間の視界ではギリギリ同時に捉えきれない、絶妙のスポットだ。
さらに、跳躍。
左右から、全体重をかけた渾身の槍撃がキリカを襲う。
あわててキリカは左右に向けて鉤爪を防御にまわすも、杏子の一撃を片手で受けきれるはずもない。
キリカ「くぁっ…!」
キリカの左肩に衝撃が走る。
左の杏子が実体だったらしい。
衝撃に身を任せて自ら吹っ飛び、その場を緊急離脱し、体勢を整える。
キリカ「ぐっぅ」
改めて左肩を見ると、傷は思ったより深い。
キリカ(まずったな)
さらに、周囲から殺気を感じる。
はっと見渡すと、今度は三人の杏子が同時に空中に存在している。
そして、すでに攻撃の体勢は整っているのである。
杏子「「これで、トドメだっ!!」」
エコーのかかった杏子の声が自らの勝利を宣言する。
だが、左肩の痛みはかえってキリカを冷静にさせた。
キリカ(待て!確か、こいつの幻覚に私の速度低下は効かない!なら…!)
三人の杏子が「同時」にキリカに攻撃を繰り出す。
しかし、キリカは避けようともせず、ただ立ち尽くすのみである。
そして、三方向から槍を浴びたキリカは、
無傷でそこに立っていた。
キリカの速度低下は実体のあるものにしか効かない。
三体の杏子の同時に速度低下をかけたにもかかわらず、それらが同時に襲ってきたならば、それらはすべて幻覚であることの証左だ。
杏子「なにっ!」
そして、完全に死角からの接近であったにもかかわらず、背後の本物の杏子に、通常ではあり得ない速度でカウンターを食らわす!
杏子「くっ!」
常人離れした反応速度で杏子は身をよじってかわそうとするも、キリカの鉤爪は杏子を逃がすまいと追尾するように伸びる。
使えなくなった左の鉤爪を消して、その分を右の鉤爪に上乗せすることで、鉤爪の射程を伸ばしたのだ。
そして、光の鉤爪は、杏子の顔面をばりばりと嫌な音を立てながら引き裂いた。
杏子「ああああっ!」
杏子は鉤爪で裂かれた顔の右側面をおさえる。
ぼたぼたと滴る血がそのダメージの深さを物語る。
さやか「杏子っ!!」
ほむら「交代しなさい杏子!あとは私達で…」
杏子「手ぇ出すなっ!!」
杏子「これは、私の戦いなんだ」
杏子「なあ?呉キリカ」
キリカ「ふん」
両者の顔は血と汗でどろどろだったが、それでも自らの勝利を疑わない不敵な笑みは健在だ。
杏子はすぐに魔力で止血すると、再びキリカへと突っ込む。
その右目は潰れているようだった。
…楽しい。
ダメージを負ってなお、杏子はこの戦いを楽しんでいた。
杏子(ほんと、どーしようもねえな、あたし)
杏子(なんだかんだ言っても、あたしはこんな汚い感情に支配されてる)
杏子(父さん。そしてあたしは、この気持ちが良いか悪いかさえわからないんだ)
杏子(あいつらの気持ちも分かるんだ。なにか、諸悪の根源みたいな…巨悪がいて、そいつさえ倒せばハッピーエンド、なんて)
杏子(簡単だし、他の誰を恨む必要もない…)
杏子(でも、現実はそんな単純じゃねえんだよな…)
杏子(きっと、誰だってこんな黒い物を持ってるんだ。こう、うまく言えないけど、こういう黒い物がうまーく絡み合って、世の中の悪いことって起こってるんだよな)
杏子(でも、黒い物を持つななんて言えない。真っ白な人間なんているはずないし、事実あたしだってこんなに汚い)
杏子(だからって開き直ってもダメだよな。真っ白になりたいと祈り続けてないと、人は簡単に真っ黒になれる…)
杏子(昔、荒んで真っ黒になったあたしだからわかる。白くなろうとがんばるのをやめちゃだめだ)
杏子(ああもう。訳わかんねえや。救世なんて言っても、この世界は漠然とし過ぎてて…)
杏子(目の前に無限に広がる黒い海を、青くしたいって言ってるみたいだ)
杏子(あたしは、何と戦えばいいんだ…)
ーー『杏子。憎むべきは人ではない。人の悪しき心だ。忘れてはいけないよ』
杏子(父さん…?)
ふと、父の教えが浮かんだ。
杏子(…へへ。ありがとう)
なぜかずっと忘れていた。
このタイミングで思い出したのは、父に背中を押してもらえたようで。
ごく自然に、杏子は感謝の念を天の父へと送った。
ーー憎むべきは、人ではない。
そう思えば、目の前の敵も理解できる気がした。
ただ、愛する者を失って、その悲しみをぶつける相手も存在せず、暴れているだけだ。
ああ、これが。
これが、他者を理解するということか。
こんな殺しあうような相手でも、理解することはできる。
もしみんながもっと、いやほんのちょっとだけ、他者を理解しようと思えたなら。
杏子(その海は、きっと青い)
杏子の槍は、もはや憎しみを乗せてはいなかった。
しかし、負けるつもりもない。
あるのは、純然たる闘志だけ。
迷いを捨てた杏子の槍は純粋だった。
雑念というサビを打ち払い、杏子の心はいま、闘志という刀を磨き上げていた。
本能のままの闘志ならこうはいかないだろう。
もっと無骨な、打製石器のような趣のないシロモノだったに違いない。
だが、杏子は違う。
自分と向き合い、敵を理解できる度量をもった彼女の心が磨き上げた刀は美しかった。
相変わらず、激しい打ち合いは続いている。
肉を削ぎ、骨を軋ませ、血で血を洗いあうようなその光景は、思わず目を背けたくなる凄惨さであった。
ほむら「っ!」
マミ「見てられないわ。私達も…」
ほむらと、目を覚ましたマミはもはや正視することも堪えない様子だ。
だが。
さやか「だめですよ」
さやか「こんなすごい戦いを邪魔しちゃったら…」
見る者が見れば、それは美しい光景であった。
杏子の闘志にあてられて、キリカもその闘志を磨き始めていた。
もはや、両者はなぜ戦っているかも覚えていないだろう。
目の前の敵を打ち倒す。
ただそれだけのために武器を振るっている。
杏子の言う通り、この世界の真理とは図り難い。
だがひとつ言えることは、純粋なものとは、その善悪を問わず美しい。
杏子もキリカも、その衝突の度に萎えるどころか、ますます闘志の純度をあげていく。
ふたりの表情だけ見れば、まるでサッカーボールを奪い合うような無邪気さだ。
ただふたりが奪い合っているものが互いの命だというだけで、戦いの本質という点では両者にそう違いはない。
もちろん、万人にそれが伝わるわけではない。
現に、ほむらもマミもただその光景を残酷なものとしか捉えていない。
それは戦い自体には意味を求めず、戦いとは目的のためにあるものであり、恐怖の象徴である、というふたりの価値観に起因する。
むしろこちらの方が一般の感覚に近いであろう。
生物の生存本能という観点から見ても、この気質の方が一般的だと言える。
だが、戦い自体に意味を求める、杏子達のような気質の者達も存在する。
さやかもこの気質に近いものを持っているため、杏子達の戦いに感銘を受けている。
これは私見だが、本能に逆らい、行為そのものに意味を求めるこの気質は、より人間的なのではないだろうか。
もちろん、善悪は別である。
ひとつの現象をとってみても、見る者次第でこうも印象が変わる。
ーーみんなが理解し合えたら、その海はきっと青い。
杏子の前途は多難に満ちているだろう。
だが、杏子にもはや迷いはない。
杏子は、この戦いを橋頭堡とすることに見事に成功していた。
キリカの鉤爪が触手状に伸びる。
杏子は幻覚をコンパクトにまとめ、槍先だけを分裂させる。
今度はキリカが速度低下を一点集中で使う。
対する杏子は魔法の鎖でキリカを拘束しようとする。
ふたりは次々と応用技を繰り出すも、どれも決定打には至らない。
もはや両者は常に血煙の中で戦っているような様相だ。
ところが無限に続くかに思われた戦いは、唐突に終わりを告げた。
そしてその決定打とは、何気ない投擲による手槍だった。
空中から放たれたそれは、キリカの胸を貫通し、地面に刺さった。
キリカは「く」の字に身体を反らせた状態で地面に縫い付けられている。
終わってみれば、あっけないものである。
キリカは苦しそうにもがくも、もはや助からないと悟ったのか、だらりと両腕から力を抜いた。
そんなキリカに、杏子は歩み寄る。
杏子とて、無事とは言い難い傷を負っているため、その足どりは心もとない。
さっきまでキリカと死闘を演じていたとは思えないほどだ。
戦いが終わったことで、身体中に巡るアドレナリンが切れてしまったのだろう。
そうして、杏子はキリカのすぐ正面に立った。
そして、勝者が敗者にかけた言葉は。
「くうかい?」
キリカはその言葉とともに差し出されたリンゴに面食らうが、ふっと微笑むと答える。
キリカ「……いただくよ」
そして、もはや力が入ることはないと思われた右腕でリンゴを掴むと、頬張った。
しゃくしゃくと、咀嚼音だけが空間を支配した。
杏子「……うまい?」
キリカ「うん。美味しいよ」
キリカ「織莉子の作ったケーキの次の次くらいには」
杏子「へっ。可愛くねえの」
キリカ「ふふ、それが私さ」
杏子「お前さ」
杏子「このまま魔女になれよ」
杏子「お前のせいでソウルジェムが濁って困ってんだ」
杏子「最後にあたしの役に立って、そんでくたばれ」
普段の、いやかつての杏子ならこの場面ではこう言ったろう。
だがいまの杏子が発したのは、真逆の言葉だった。
杏子「それ、食い終わったらさ。お前のソウルジェム、砕くからな」
キリカ「…ありがとう」
救世の志を取り戻し、他者を理解することを知ったいまの杏子が死闘を演じた敵に抱いた感情は、惜しみない賞賛だった。
そしてその相手の魂を救う手段は、もはやこれしかないと悟った。
キリカ「…不思議な気分だよ。いまの私はカラッポだ」
キリカ「織莉子を失った痛みも悲しみも怒りも」
キリカ「負けた悔しささえない」
キリカ「あるのは、ただ…。そう、爽やかさ」
キリカ「私は全てを出し切った。その末にお前に負けたんだ」
キリカ「未練は、ない」
キリカはリンゴの芯を落とした。
杏子「………」
杏子「じゃあ、いくよ?」
キリカ「ああ。ひと思いにやってくれ」
杏子は槍を構える。
キリカ「ふふ…」
「またね。佐倉杏子」
「…ああ。きっと、そんなに待たせない」
「地獄で会おうぜ、呉キリカ」
【 後編 】 に続きます。

