上条「約束したよな?例え地獄の底でも、お前を ――― 」【前編】
上条「約束したよな?例え地獄の底でも、お前を ――― 」【後編】
一方通行「いい子にしてたかァ?」【1】上条編(前編)
一方通行「いい子にしてたかァ?」【2】上条編(中編)
一方通行「いい子にしてたかァ?」【3】上条編(後編)
一方通行「いい子にしてたかァ?」【4】小話編
一方通行「いい子にしてたかァ?」【5】過去編(前編)
一方通行「いい子にしてたかァ?」【6】過去編(後編)
一方通行「いい子にしてたかァ?」【7】エピローグ
440 : ◆d85emWeMgI - 2011/06/30 21:55:28.53 CYSBTQJX0 745/791こんばんは。ちょびっとだけ投下します。
とある路地裏の打ち放しのコンクリートのマンション。
その五階の一室を改築した事務所に『それ』はあった。
あるときは学園都市に巣食う人非人に泣かされた弱者の涙を拭い。
あるときは日々をただ懸命に生きる無辜の人々を食い物にする外道を引き裂き。
そして、自らを悪党と嘯く捻くれ者達。
そこは、そんな不器用で少しだけ粋な連中の溜まり場―――……
「超暇なンですけどォ~」
「超止めて下さい!!開口一番に私のパクリは……てかダラダラしないで下さい」
「コーヒーうめェ」
「聞け!!」
部屋の窓際に位置する机にだらしなく寝そべる白髪頭の青年を、呆れたように見下ろす少女。
ふんわりとカール気味のショートボブの髪の少女は机に腰掛けている。
角度的には青年の目の前に晒された健康的な太腿。
そして、その間からはパンチラが惜しげもな ―― いようでいて、絶妙な角度でガードが施されている。
そう、彼女こそが対アグネス最終兵器、絹旗最愛だ。
「依頼人は来ねェしよ。コンボイの謎はクリアしちまったし」
「依頼人が来ないのは貴方が黒翼でハッスルしすぎたからで……って超スゲェ!!コンボイノーミスクリアですか!?」
事務机の上には画用紙を三角に折り曲げただけのものに『所長』と書かれただけの投げやりな仕様。
白い髪の青年は片膝を立てて椅子に座りながらプレイしていたのは昔懐かしのファミコンである。
37型の液晶画面にレトロ。これが所長である一方通行の最近のトレンドだ。
尚、一方通行というのはくまでもペンネーム的なものであり、実際には鈴科という純和風の名がある。
下の名前は漢字三文字らしいので、十九郎とか総一郎とか海老蔵とか適当に想像すれば良い。
「オイ!!私にばかり雑用押し付けて呑気にだべってんじゃねぇ!!」
「なンだよ声デケェよボンバー」
「昼食は出来たんですか?超ボンバー」
「ボンバー言うな!!黒夜海鳥だ!!」
「わかったわかった、黒……ボンバー」
「ゴメンなさい黒夜―――ボンバー・海鳥(嘲)」
「何で言い直すんだよ。今言えたじゃん!それと絹旗ちゃん、お前後で屋上な」
真っ直ぐな黒髪を、料理の邪魔にならないようにとポニーテールに結んだ少女が地団駄を踏む。
イルカ柄のエプロンを身に着けた少女はそれでも手にしたフライパンを投げ出すことは無い。
華麗にトマトソースに絡んだパスタとウインナーが何度も宙を舞う。
一方通行の机に腰掛けていた絹旗は露骨に顔を顰める。人、それをうんざりと言う。
「ウッセェなァ……じゃあもう面倒だから……“ペス”でいいだろ」
「何でペスになった!?」
「小さくてキャンキャンうるせェから犬みてェなモンだろォが」
「ぶふっッ!!ぺ、ペスて……ぷぷぷ……超犬です、調教されるんですか?」
「ち、ちょうきょ……」
何を想像したのか、黒夜の顔が茹で上がったように赤くなる。
「な、何超その気になってるんですか!!もしかしてマジで超ドMなんですか!」
「ど、どどどどど、ドMちゃうわ!!」
「大体料理って言ってもまたナポリタンじゃないですか。芸の無い奴ですね。得意料理がパスタですっていう女は超信用できないから一方通行、ちゃんと気をつけて下さいよ」
「パスタすらまともに出来ない女が何もっともらしいこと抜かしていやがる!!」
「ホント、ペスは超馬鹿ですね。台所に立てばキッチンが爆発する。カレーを作れば異界の生物が生まれる。ヒロインというものは料理が超下手だと相場は決まってるんですよ」
「うるせぇよ!女としては無能だってこと何誇らしげに言ってるんだよ」
「無能!?料理が女のスキルとか何年前の話ですか!!それを言ったらお前は無乳じゃねェのかァ!」
「テメェだってそンなに変わらねェだろォが!!私はスレンダー系だからいいンだよ!!」
「スレンダーwww超便利な言葉ですねェ~~」
「ウルセェパンチラ要員。知ってるかァ?パンチラの軽い女はなァ……サブキャラなンだよ」
いよいよキャットファイトに突入かという矢先に、一方通行の声が間に滑り込む。
「オイ、じゃれ合いはそこまでだ。今駄犬から連絡があった」
携帯の着信を二人に見せる。『着信:20000号』
その表示に、二人の表情が瞬時に切り替わる。
緊張感と高揚感を秘めた不敵な笑みに。
「さっさと行くぞ愚妹共。―――…… 仕事の時間だ」
「超了解です」
「フン。精々ウサ晴らしでもさせてもらおうかな」
探偵事務所『N3』 ――― そこは学園都市で最も危険な奴等の住処。
これは学園都市の最深の闇を自由気ままに、奔放に『遊び場』にするタフでデンジャラスな奴等のロクデモない物語である。
譲れない信念が故に、不器用な男達はわかりあえない。
「テメェもいい加減わかってンだろ。ジャッキーはいつだって俺達を楽しませる精一杯のアクションをしてきた。ただそれだけなンだ」
「ジャッキーは最高……わかってるさ俺にだって。けどよ……それでも俺は許せねぇんだよ第一位」
「垣根……」
「許せるわけねぇーだろ!!あんなもん、俺達の冴羽さんじゃ…リョウちゃんじゃねーだろ!!」
嘗ての仲間の、否、嘗ての仲間だからこそ、少女はその弱さを許すことが出来ない。
「平成ガンダムはとりあえず批判しておけば超にわか通ぶれる。種をメタ糞に言えば超敵は作らないで済む……」
「結局それが賢い処世術って訳よ……」
「フン、だから超三下だっていうんですよフレ / ンダ。どうして種すら楽しもうと思わなかったんですか?」
愛ゆえに、たった一つの真実から少女は目を背け続ける。
「オイ、ペス」
「ペス言うな」
「いい加減そのプリン頭直してこい。今なら俺しか気付いてねェから ―――」
「ファッションンンンンンンンンーーー!!!これ、ファッションンンンンンンンンンンーーーーーーーーーーー!!」
男の言葉が女の心を貫く時。物語は新たな局面を迎える。
「ロッキーって1とファイナルさえあればいいよな」
「一方通行、超表に出てください」
次スレ⇒ 【一方通行「探偵事務所!」絹旗「超!!」海鳥「N3!!!」】
不器用な奴等が交差する時、タフでロックな物語はスタートする。
まぁ、嘘なんですけどね。
番外編で本編の後日談はするつもりは無いのですが、その後どうなったかくらいは書いておこうと思います。
一方通行
厨二設定満載のラノベから料理本に至るまで幅広いジャンルに渡り執筆活動を行う。
結婚後いつの日か息子が生まれたらキャッチボールをするという密かな夢のためリハビリに励む。
その甲斐あって歩くだけなら杖無しでも可能に。
けど相変わらずのインドア。
鈴科の姓にいい思い出がないので躊躇なく御坂姓に。
御坂美琴
相変わらず研究に没頭しては旦那に叱られている。
想が小学校に入学後双子の女児出産。
母親譲りの容姿は御坂遺伝子の強さを改めて周囲に認識させる。
ただし目付きの悪さだけ父親譲りのため、プチワーストな外見に。
更に三年後に長男出産。
六年間の反動のようにお盛んなんです。
待望の男の子ゆえ末っ子溺愛。
たまに息子に注がれるあわきんの視線のガチさと、
娘達の中の自分のヒエラルキーの低さが頭痛の種。
御坂想
父親との仲は相変わらず良好。
先例から学んだのか、中学に上がっても反抗期知らずの甘えん坊。
短パン?ちょwマジ受けるんですけどw
とのたまう彼女はスパッツ装備。
ファザコンをこじらせてブラコンも併発した。
祖母の遺伝子は母親をスルーして受け継がれたらしい。
絹旗最愛
相変わらず可愛い。
肩凝りが悩み。
御坂一家とは仲良し。
忙しい美琴に代わり一方通行とは子供たちを挟んでたまに出かけます。
新しい恋を見つけたのかどうかは―…
打ち止め
大学卒業後は保育士に。
御坂家の末っ子の面倒を見るうちに、あわきんの気持ちがわかるような気がする今日この頃。
番外個体
筋ジストロフィー治療の子供達のリハビリに従事。
開き直ったかのように義兄にべったり。
20000号
駄犬にしてある意味勝ち組。
指を鳴らせば飛んでくる。
手を叩いてもやってくる。
最近は末っ子が転んだ時に膝小僧をぺろぺろ消毒してあげるだけの簡単なお仕事に就いてる。
正直これって天職…とか思ってたりする。
453 : ◆d85emWeMgI - 2011/06/30 22:08:53.09 CYSBTQJX0 756/791以上で投下を終えます。ねーちん話はもう少し待って下さい。
それではまた。 ノシ
475 : ◆d85emWeMgI - 2011/07/04 22:30:54.96 FCmzOer80 757/791番外編を投下致します。
よろしくお願い致します。
「はぁ……」
神裂火織は身体中の憂鬱が収まりきらなくなったかのように深々と溜息を吐いた。
その後ろ姿は凛然とした普段の彼女から考えられない程弱々しい。
アンティーク調の椅子に腰掛け、目の前の丸テーブルには小さく愛らしいクッキーやスコーン、マフィンが並んでいる。
さり気無くお菓子が乗せられた食器もシンプルながらセンスの良いものが多いのはこの教会の主の趣味である。
アフタヌーンティーに似つかわしくないウエスタンスタイルの神裂とは対照的なのは、彼女の対面に座る女である。
薄桃色の修道服に、日の光を浴びてプラチナに輝く腰まで伸びた銀色の髪の女。
白磁のようなシミ一つない肌に抜けるような青空に、僅かな憂鬱を込めた碧い瞳を微かに細め、目の前の神裂を気遣わしげに見つめる姿を見て、果たして誰がわかろうか。
この教会の、否、このイギリスという国の魔術サイドの頂点に君臨する女だと。
迷える子羊たちの悩みを受け止め、一条の光を示す敬虔なシスターにしか見えない彼女こそ、二代目ローラ・スチュアート ――― 最大主教と呼ばれる現:魔術サイド最高権力者、
嘗て“インデックス”と呼ばれていた少女である。
実年齢に対して些か熟した感のする神裂と、実年齢に対して幼い外見の最大主教は、さながら年の離れた姉妹のようにも見える。
ちなみに実年齢と比べて、熟してるという事について言及するのは必要悪の教会において最大の禁句とされている。
「かおり、どうしたの?元気が無いんだよ」
普段は「神裂」と呼び、口調も改めている彼女が思わず素の言葉遣いになってしまう程今の神裂の憔悴ぷりは甚だしい。
そして、それは彼女達の傍らに控えていた天草式の面々も同じ意見であった。
戦乙女の肩書きを持つ(乙女というには少々年がアレだが)彼女の立ち振る舞いから掛け離れた姿に天草式の面々は心配気な表情を浮かべる。
気軽に声をかけることが出来ないのは、ひとえに自分達と女教皇である神裂との立場を慮ってのことだ。
勿論、そんなことを気にする神裂ではない。
「いえ、そのようなことはございません最大主教」
「そう」
勿論、神裂のそれは強がりだということなどインデックスは十分に承知している。
しかし、敢えて彼女が口にしないことに自分がとやかく問い詰める必要は無い。無邪気な女学生同士であればそれも良いのかもしれないが、今の二人には互いに立場というものがある。
それでも大切な親友であり、姉のようにも思っている神裂が自分に訳を話してくれないことが面白いはずも無い。
少し不機嫌そうに唇を尖らせるとインデックスはスコーンの一つを手に取り杏のジャムをたっぷりと塗ると、それを小さな口を開けてゆっくりと食べていく。
陽光を浴びながら、優美な調度品に囲まれて可愛らしくお菓子を頬張る姿は、それだけで見る者の心を蕩かす。
男も女も問わず。しかし、食べ方こそ上品になったものの、スコーンは気が付けばインデックスの手の中か消え失せている。
最も単に食いしん坊なのではなく、膨大な魔道書を内包する彼女の要するカロリーは高いからこそインデックスは多くの食事を必要とするのだ。
決して食いしん坊だからではない。
二つ目のスコーンに塗るジャムをインデックスが迷っていると、テーブルの上に置かれた白い携帯が小刻みに震えた。
かたかたとテーブルを鳴らす震動にインデックスの手が止まる。その表示を見て、インデックスの表情が花が咲くように綻んだ。
ぎこちない手付きで携帯を開くと、そっとボタンを押す。
彼女の瞳が携帯の画面に注がれる。神裂の位置からではわからないが、メールが送られてきたのだろうということはわかった。
インデックスならばメールの文面など一瞬にして覚えてしまえるというのに、宝石のような碧眼は何度もメールの文面の上をなぞる。
誰からのメールで、どのようなことが書かれているかなど、薔薇色に染まった白い頬ですぐにわかる。
インデックスの瞳が携帯と神裂の間を行き来する。幼い頃、おねだりをする時に見せた表情と同じだと思うと、神裂の頬が自然と緩む。
「もし宜しければ、お電話されたら如何ですか?お茶でしたら後で御自室に持って行かせますから」
「え、でも」
「私も鍛錬の予定が入っていたのをすっかり忘れていましたから」
勿論、それは神裂の咄嗟の嘘である。
インデックスにもそれはわかっている。わかっているが、神裂の気遣いもわかる。
結局迷った末にその厚意に甘えることにした。
「最大主教可愛いですね」
「ええ、あんな笑顔されてしまっては大概のことを許してしまいますよ」
小さなコンパスを懸命に回転させるようにパタパタと足早に駆けて行く可愛らしい主の後ろ姿を見ながら五和が微笑ましげに言う。
紅茶のおかわりではなく、濃厚な色の緑茶の注がれた湯のみを置く。
白い湯気から懐かしくも香ばしい香りが鼻腔をくすぐる。
「相手、上条さんですよね」
正確には神浄であるが、今は見知った人間しかいない。
五和の気の緩みを咎めるつもりもなく、神裂は五和の淹れてくれたお茶を啜る。
良い茶葉を使っているのであろう、苦くも青々とした爽やかな味わいが広がっていく。
「過保護というか、どうせ呆れるくらい甘ったるい愛の言葉でも記したのでしょうね」
「ああ、上条さんクサイ台詞とか結構好きですものね」
くすくすと五和が笑う。おそらく何か思い出して笑えてきたのだろう。
魔術の世界では誰もが名を聞くだけで震えあがる男が、己の主であり伴侶である銀髪の少女に対してだけは骨抜きであることは公然の秘密だ。
そのことを笑いの種にしても、胸に痛みが走らないくらいに、神裂も五和もそれぞれ嘗て抱いていた恋心は良き思い出になっている。
特に、一途でいつまでも想っていそうなイメージのあった五和の割り切りの早さには神裂は当時驚いた。
「吹っ切るまでに時間が掛かるが、吹っ切ってからは一切引きずらない性質なのよな」とは建宮斎字の言葉だが存外的を射ている。
というか、何となくいつの間にかフラグが立っていたという切欠が切欠なだけに、圧し折れるのも早かっただけと言ってしまえばそこまでの話だ。
吊り橋効果ではないが、ピンチをカッコよく助けてくれたことを理由に惚れた場合、情けない普段の姿を見て幻滅することが多い。
五和が、インデックスと上条のあれこれとしたゴタゴタを知って彼にすっかり幻滅したのかどうかは此処で記す必要は無いことである。
「ところで女教皇様はメールしなくてもよろしいんですか?」
「え?」
「溜息の原因……それじゃないんですか?」
五和が指さしたのは、テーブルに置かれた青色の携帯。
神裂が溜息を吐く度に向けられていた視線の先にあるものだ。
「な、何を根拠に……」
「あれ?女教皇様が学園都市で運命の出会いを果たしたって聞いてるんですけど」
「誰に!?」
「土御門さんとか。斎字さんも言ってましたよ?『女教皇様に春が来たのよな!!』って嬉しそうにしてましたけど」
「誤解です!!そんなものありません!」
「結構良い感じで、メールアドレスも交換したって……」
「べ、べべべ、別に削板とはそのような関係では」
「削板さんですか。斎字さんに教えてあげよう」
「五和!!」
「冗談ですって、女教皇様可愛い」
口に手を当てて、ころころと笑う五和にようやく自分が盛大にからかわれていたことに気付く神裂。
何だろう、段々この子彼氏に似てきてるんじゃないだろうか、とか、女教皇様への敬意とかぶっちゃけ無いよねとか、そういうことを思ったかはわからない。
そんな神裂の心境を知ってか知らずか、知ったこっちゃないのか、五和は神裂の携帯と彼女の顔を見比べる。
「連絡取ってるんですか?」
「メールを一回……」
「一回……それ以降は?」
「し……してません」
尻すぼみに小さくなっていく神裂の声に五和は初々しくて可愛らしいなと思う反面、二十台後半でこの初々しさはどうだろうとも思う。
手を繋いだら、それだけでショートするのではないだろうかこの女教皇は。
冗談抜きで心配になってくる五和は、駄目もとで尋ねる。
「電話とかは?」
「してません。というか出来ません」
「どうして?」
「絶対嫌われてます。っていうか引かれてます」
神裂の言葉に違和感を覚えたのか、五和は眉を潜める。
メールを一回したっきり恥ずかしくて連絡できないとばかり思っていたが、どうやら話が違うようだ。
したくても出来ない。相手が自分を嫌ってると思っている。どうして。
「女教皇様……何かやらかしちゃったんですか?」
結局、それしか理由は無かった。
「つ……」
「つ?」
「つ、つち」
搾り出すように神裂が声を上げる。
「口車に乗ってしまって……お酒が入ってたとはいえ、幾らなんでも、アイツに相談して、あまつさえあのような」
支離滅裂な言葉の切れッ端かを五和は自分の為に淹れたお茶を啜りながら頭の中で組み立てていく。
「酔った勢いでよりにもよって土御門さんに相談した挙句、口車にのってとんでもないメールを送ってしまったということですか?」
こくんと無言で頷く神裂。
「どんなメール送ったんですか?」
「え、でも……絶対引きますよ?」
「引きませんよ。同じ恋する女の子なんですから、笑ったりしませんから」
女の子というのは些か語弊があるが、まぁ、神裂の場合身体的に乙女なのだから間違っていないだろう。
本人が聞いたら確実に魔法名を名乗られることを思いながら渋る神裂の手から半ば強引に携帯を奪う。
とんでもないということは、相手が引いてしまうくらい大胆なメールを送ったということであろうか。
罵倒じゃないならそうなるだろう。
しかし、神裂のような美貌を持ち、凶悪なスタイルを誇示する女に多少大胆にアピールされたぐらいでは男は引いたりしないようにも思える。
携帯の送信ボックスから、『削板』の苗字を探していくと、すぐにそれは見つかった。
神裂に一応目で了解の合図を貰ってから、五和はメールを開く。
レよз~軍覇。元気ιτナニ?'人'糸音戈レよね、正直元気ナょレヽカゝナょ。
ナニ″っτ軍覇レニ全然会ぇナょ<τ寂ιレヽωナニ″もω。軍覇カゞ居ナょレヽー⊂言周孑も出ナょレヽ。今日も手カゞシ骨っτぅっカゝ丶)ゥ二豆頁レニ七閃ιちゃっナニ、〒∧ッ☆。
'人'糸音戈っナニら朮・/├レニ├″゙/″ナニ″ょね。
ね─ね─、今度レよレヽ⊃会ぇゑ?一目τ″もレヽレヽカゝら軍覇レニ会レヽナニレヽょ。
ぁ~ぁ、軍覇カゞ'人'糸音戈@イ貝リレニレヽτ<れナニらナょ。ξぅιナニら'人'糸音戈元気百倍。〒∠ス″マ|zo㌫ナょ@レニ。
軍覇カゞレヽナょレヽー⊂'人'糸音戈ナょωτ馬太目女孝攵皇。ぅぅω、ξれ以下。ナニナニ″@セ・/勺─ゥ─マ・/ナニ″ょ。
っτ、]″乂・/ね、小青レナナょレヽ⊇ー⊂レよ″カゝ丶)言っτ。
⊇れι″ゃぁ、木艮小生無レヽっτ軍覇レニ怒られちゃぅね。
τ″も、木艮小生入れナょぉιτゃゑ!!っτ軍覇カゞ馬区レナ⊃レナτ<れゑωナニ″っナニら木艮小生無ιτ″もレヽレヽカゝナょ……
ナょ─ωτね。ゥ`/ゥ`/。冗言炎ナニ″ょ。
ξωナょ⊇ー⊂言っτナニら軍覇レニ女兼ゎれちゃぅもωね。
τ″も、会レヽナニレヽ@レよ朮・/├@⊇ー⊂。ゥ廾″ィ孑ナょωτ思ゎナょレヽτ″ね。
軍覇@⊇ー⊂考ぇゑー⊂'人'糸音戈レヽ⊃も⊇ぅナょっちゃぅ@。
ξれι″ゃ、ξзξзξっちレよ夜ナニ″зぅカゝらぉゃすゐね。
「……うわぁ…………」
五和は引いた。
「やっぱり引いた!!引いたじゃないですか!!」
「ひ、ひひひひ、引いてませんって」
「今『……うわぁ…………』って!!三点リーダー六つも使って引いた!!」
「肩こりが最近酷くて思わず呻いちゃったんですって。っていうかギャル文字とか、いつの時代のですか!?これじゃあ元がまともな文章でも引きますよ」
「やっぱり引いたんじゃないですか!!」
最早涙目になりながら神裂が携帯を五和の手から奪い返す。
羞恥心と怒りと、自己嫌悪が4:3:3という絶妙なる混合比によって神裂の顔は最早トランザムだ。
ドン引きの限界を超え、小刻みに震えつつも五和は辛うじて微笑を浮かべる。
敬愛する女教皇の黒歴史を黙ってスルーしてやるのが恐らく自分の役目だからだ。
それでも、五和の中の一欠けらの好奇心が、ぽろりと口から出た。
「原文の方を送り直したらいいんじゃないですか?」
要は、原文を見たいということだ。
神裂はヤケクソ気味に携帯を押し付ける。
勝手に見ろということだろうか。そっと携帯を開く。
はろ~軍覇。元気してた?火織はね、正直元気ないかな。
だって軍覇に全然会えなくて寂しいんだもん。軍覇が居ないと調子も出ない。今日も手が滑ってうっかりウニ頭に七閃しちゃった、テヘッ☆。
火織ったらホントにドジだよね。
ねーねー、今度はいつ会える?一目でもいいから軍覇に会いたいよ。
あ~あ、軍覇が火織の側にいてくれたらな。そうしたら火織元気百倍。テレズマ120パーセントなのに。
軍覇がいないと火織なんて駄目女教皇。ううん、それ以下。ただのセンターウーマンだよ。
って、ゴメンね、情けないことばかり言って。
これじゃあ、根性無いって軍覇に怒られちゃうね。
でも、根性入れなおしてやる!!って軍覇が駆けつけてくれるんだったら根性無しでもいいかな……
なーんてね。ウソウソ。冗談だよ。
そんなこと言ってたら軍覇に嫌われちゃうもんね。
でも、会いたいのはホントのこと。ウザイ子なんて思わないでね。
軍覇のこと考えると火織いつもこうなっちゃうの。
それじゃ、そろそろそっちは夜だろうからおやすみね。
「うわ、キツ……」
五和は引いた。
五和はとても引いた。
「ちょっと首くくって来ますね……」
「待って!!待って下さい女教皇様!!落ち着いて。大丈夫大丈夫。まだ慌てるような時間じゃありません」
「明らかに引いてたじゃないですか!!もう終わりです。絶対向こうも引いてますって!!」
「いえ、ギャル語なんて解読できませんよ普通。だからどんなに痛い文章でも……」
「やっぱり痛いって思ってたんじゃないですか!!」
「ハッ!しまった……でも、ホラ、変なメール送ってゴメンね、みたいな電話する口実とか……女の子から電話くれるとそれだけで嬉しいって斎字さんも言ってましたし」
「うるっせぇんだよリア充が!!!余裕か?余裕なのか?センターウーマンだから駄目なんだとか思ってるクチか?」
「何でそんなに卑屈なんですか女教皇様!!」
五和は侮っていた。神裂火織という聖人の焦りを。
彼女は焦っていた。
アラサー間近であるというのに新品である自分に。
宗教上、それって当然じゃない?などと言う無かれ。結構それはそれ、これはこれと割り切っている修道女の多いこと。
というか、最大主教にしてそれを守っていないのだから、結構グダグダなのだイギリス清教は。
そして、そんなグダグダなイギリス清教に現在所属するクワガタ頭が、この場にノコノコとやってくる。
ここで断りを入れておくが、あくまで彼は善人であり、騒がしい物音を聞きつけて様子を見に来ただけである。
よって彼には何の非も無い。
非は無いのだが。
「何の騒ぎなのよ、五和」
「斎字さん!女教皇様が錯乱されて……」
「錯乱とな!?」
「出ましたねリア充の片割れ!!」
運も無い。
そして、この男その上、
「男の人にやらかしてしまって」
「女教皇様。男にフラれたからってそれが何だって言うんですかい?世の中の半分は男なんですよ。次がありますって次が」
「まだフラれてねーーんだよ!!!」
デリカシーも無かった。
髪を振り乱し刀の柄に手を伸ばす姿は錯乱というか殿中である。
最早その気迫は七閃どころか唯閃すら出し兼ねない程凄まじく、建宮と五和は互いを庇い合うように相対する。
「五和、何としても女教皇様を此処でお止めするぞ」
「はい!」
「ただし、無理はするな。お前さん一人の身体じゃねーのよさ」
「斎字さん……」
「だぁかぁらぁ~~~!!!そうやって見せ付けてんじゃねー!!!」
最早聖人を超え、一個の悪鬼と化した神裂火織。
その気迫、その闘気の強さは、全盛期の元聖人(現お色気担当)アックア隊長を遥かに上回るものだ。
余りにも般若の如き形相に、五和は
(『一怒一老、一笑一少』って言うのに……女教皇様、ますます……)
等とずれたことを考える。
人間余りにも凄まじい絶望的状況に立たされると返って冷静になるものだ。
というか、この五和相当良い度胸をしている。
いよいよ錯乱聖人の凶刃が振り下ろされんとしたその時、軽快な音、場違いな音楽が張り詰めた空間の中をするりと擦り抜けた。
これから不届きな背信者(リア充)に正義(と怒りと憎しみとルサンチマン)の刃を振り下ろそうとしていたところを水を差される形で中断された神裂。
とりあえず後回しという選択肢もあるのだが、生来の几帳面さから着信を確認する。
「!?」
刀を取り落とし、神裂は途端にオロオロとしながら携帯を両手に持ち右往左往する。
開いて、通話ボタンを押すという当たり前の動作がテンパった機械音痴の彼女には咄嗟に出来ないようだ。
それでもようやく、通話という行為に思い至った神裂は震える手でゆっくりと携帯を耳に当てる。
『オッス!!神裂、元気か!!!』
「お、お久しぶりですね、削板軍覇。あ、アナタこそお元気でしたか?」
電話相手には姿が見えないというのに、神裂は髪を手櫛で整え始める。
『俺はちょっと元気ねーかもなー!!根性が不足しちまってるな』
嘘付けと言いたくなる程に大音量の声は元気でなければ一体何だというのだろう。
しかし、神裂は言葉をそのまま受け止めてしまう。
眉を寄せ、心配そうに電話の向こうの削板に語りかける。
「アナタともあろう者がどうされたのですか?らしくもない」
『いや、お前がこの前送ってくれたメール読んだんだけどさ』
「はうッ!」
『何だかよくわかんなかったが、とりあえずお前が何故か元気ねーってのがわかって、どうやって元気付けてやればいいのかずっと考えてたんだ』
「削板」
『結局わかんなかったんだけどな。どうにも俺には根性が足りてねーみたいで、このまま根性無しにグダグダ考えてるくらいなら電話した方が早いだろってなった』
「アナタという人は……」
あっさりと、事も無げに投げかけられた削板の優しい心遣いに神裂の頬が熱くなる。
勿論、気の合う友達に対する男臭い優しさでしか無いことは神裂にも十分わかっている。
しかし、ずっと考えていたという、削板のその言葉だけで神裂の頬は自然と緩む。
自分が悶々と削板のことを考えていた間、方向性は異なれど削板もまた自分のことを考えてくれていた。
そのことに都合の良い運命的なものを勝手に見出して神裂は嬉しく思ってしまう。
「そ、その……削板」
『おう』
「も、もしご迷惑ではなかったら、その、め、メールをまたしても宜しいですか?」
『めーる?うーん、それはやめようぜ』
「えっ……」
神裂の表情が一瞬にして奈落の底に落ちたように青白く、血の気が引いていく。
胸に秘めた淡い期待が事も無げに摘み取られた ――― と思う前に、削板のからっとした声が神裂を掬い上げる。
『どうせなら電話で話そうぜ。メールなんてチマチマ打つなんて根性のねぇことするよりかよ』
「それこそ、ご迷惑じゃ?」
『何でだよ?俺好きだぞ』
「すッ!?」
『お前の声。ビッと芯が通った根性のある声でよ』
「ああ……」
『それに綺麗な声だからな』
「きれッ!?あ、あう……」
『おい、神裂どうした?』
「な、何でもありません!!」
モジモジと髪を弄りながら、百面相を繰り広げる神裂は、耳どころか首筋まで赤い。
まるで女子中学生の恋愛のような微笑ましさに、建宮と五和が顔を見合わせてニヤニヤとする。
二人がそんな目で自分を見ていることにも気付かずに、神裂は暫し電話に夢中であった。
科学と魔術の世界の架け橋のような関係にこの二人がなるかどうかは、とりあえずはまた別の話で。
493 : オチ?何ですかそれ? - 2011/07/04 22:50:54.28 FCmzOer80 773/791投下終了です。やはりギャグは苦手です。
苦手というかヘタクソです。テンポ悪過ぎて無理矢理終わらせました。
これって「軍火」とか「削神」だったらカッコいいですけど、断然『そぎちん』ですよね。
建宮×五和要素は趣味です。個人的にお似合いだと思ってるだけです。
五和は上条の嫁!!という方で気分を害されましたらすみません。
それではまた。 ノシ
510 : ◆d85emWeMgI - 2011/07/07 20:01:01.71 jECoT9oj0 774/791もうちょっとしたら、番外編投下します。
ちょっと悪乗りですが、このスレ最後の投下ということでご容赦下さい。
そこはヨーロッパとアフリカに挟まれた忘れ去られた土地。
砂埃に塞がれた地の果てにある古代遺跡。
その更に奥深き地下において、ヨーロッパの、否、世界の命運すら左右する戦いがひっそりと行われている。
いや、行われているのではなく、もう既に、行われていたと言うべきだろうか。
戦いの決着は静かに付こうとしていた。
「おやおや、ザマァないな。所詮は君とて一人の人間。裸にされれば相応に屈辱を感じ、羞恥に頬を染めるわけか」
ラヅゲ・ヒ・ジヤオ大佐はサディスティックな笑みを浮かべる。
それもそのはず、幾度も彼の前に立ち塞がり、野望を悉く打ち砕いてきた憎き仇敵。
そして彼が手にするはずであった幾多のプレシャスを保護という名の名目で奪ってきた簒奪者が目の前にいるのだ。
それも、手足を拘束され、身包みはがされたあられもない姿で。
その哀れで蟲惑的な姿に、大佐の嗜虐心が刺激される。
仇敵は健気にも敵対を止めぬ瞳を向けてくるが、それが精一杯の抵抗であるということは大佐が一番知っている。
今までであれば、その視線に晒されるだけで足の震えがとまらず、少しばかり下着を濡らすこともやむなしであった大佐だが、今ばかりはその視線が心地良くすらある。
心地良過ぎて、すっかり反抗期を迎えていたご子息も素直に起き上がっているほどだ。
「ん?何か言いたげな目だな。言いたい事があるならはっきり言ったらどうだ?そら!」
普段ならば専ら戦場での指揮と部下への折檻に用いられてきた乗馬用の鞭を目の前の身体に叩き付ける。
剥き出しの体が苦痛にうねり、仰け反った喉が不自然に震える。
白い肢体にムカデのように生じた赤い痣をうっとりと指先でなぞりながら、大佐は初めて自分がこの目の前の敵を憎んでいるばかりではないことに気付いた。
そう、憎しみは愛情の裏返しとはよく聞くが、今己の抱いているこの劣情こそがなによりの証なのだ。
鞭の柄でそっとなだらかな曲線を描く胸を撫でていく。
屈辱に微かに震えるのが柄を通して伝わってくる。
「いい目だ。その目でもっと私を見てくれ」
白井黒子は唇を噛み締める。
屈辱に今すぐ叫び声を上げたいくらいだ。それはうら若き乙女には無理からぬことである。
裸体を晒すという特上の恥辱、舌を噛み切ってしまいたいくらい身もだえする程の怒りが彼女の中を駆け巡る。
しかし、それはサディズムの塊である髭面のこの外道を喜ばせるだけに他ならない。
だからこそ、白井は歯を食い縛るのだ。仲間を信じて。
今は怒りを溜め込む時なのだ。
じっと、堪えて怒りをエネルギーに、パワーに変えるべき時なのである。
幾度鞭を振り下ろしたのであろうか。
腕が疲労に痺れ、嗜虐心は満たされつつあり、大佐の胸には徒労感すら募っていた。
既に打ち据えられていないところなど何処にもないのではないかという無数の赤い傷痕を晒して尚、悲鳴一つ上げず。
命乞いをする素振りすら見せぬ目の前の生贄に大佐は胸に期するものを覚えた。
唇を引き結び、殉教者の如き気高さに苛立ちと感動。
相反するはずの二つの感情に息を荒げながら大佐は戸惑う。
「……下らんッ」
大佐は己の感情から目を逸らすように吐き捨てると、懐から拳銃を取り出す。
汗と血により、白い裸体は背徳的な色香を放つ。
それに名残惜しさを覚えながらも振り切るように、撃鉄を上げた。
「私と君の因縁も、そろそろお終いにしよう。さようならだ」
銃口を突きつけられ、初めて獲物の顔に悔しげな表情が過ぎったことに、大佐は下卑た笑みを浮かべた。
白井は思わず瞳を閉じる。
能力さえ使えれば。一瞬仲間を信じながらも否定出来ない悔しさが込み上げた。
しかし、その時であった。
待ち侘びた瞬間がやってきた。
「な、何が起こった!?」
突如、腹の底から響きわたるような地鳴りがしたかと思うと、目の前にいた筈の獲物が姿を消した。
文字通り、煙のように掻き消えたのだ。
拳銃を手にしたまま、大佐は動揺を隠しきれずに辺りを見回す。
「何が起こったか?随分とお眠いことを仰るのですわね、大佐」
「貴様!!この神殿では能力が使えないはずでは……」
「確かに予想外でしたの。魔術も超能力も使えないとは。まさか、『アレ』を“あんな風”に配置することでアレなことになり、その副作用として能力が封じられるとは……
それも、『アレ』は、あの無数にある『他のアレ』と殆ど見分けの付かないアレだというのに。正直アナタ方に『あの』構築式を編み出せるような人材がいたことに驚きですの。
ですが、如何なる手品とてタネがわかってしまえば造作もないこと」
「解いたというのか!?アレを!?」
「私一人では無理でしたの。ですが、アックア隊は私と隊長だけではありませんの。アナタが戯れに残した『あの残骸』から導き出してくれましたの、私の仲間が」
「は、ハッタリを言うな!?あの残骸から一体何を……」
「黄金長方形……わかってしまえば答えは実にあっけないもの。アレを、ああいう按配でアレなことにするもの……イタリアで以前見た術式に近い発想ですのね」
白井は軽蔑の眼差しを隠そうともせずに、大佐に視線をくれる。
「獲物を前に舌なめずり……プロとしてはド三下なことをしてくださって本当に感謝してもしきれませんわ。おかげで時間が稼げましたの」
憔悴にやつれた表情は凛然さを際立て、乱れた髪は不思議な調和を見せる。
頬に張り付いた髪は、見苦しいどころか白井に獣の如き美しさを付加している。
目の前に立つ小娘が子猫などではないと人生の大半を戦場で過ごしてきた大佐には本能的にわかった。
目の前に立つ小娘は、小さくとも獲物にいつでも飛び掛ることの出来るしなやかな手足と、喉笛を食い千切る鋭い牙を持った雌豹なのだ。
「白井 ――― 黒子……貴様」
大佐が震える声でかろうじてその名を呟く。
屈辱、怒り、或いは恐怖によってその声は震えていたのかもしれない。
「嫌ですわ。そんなに怒らないでくださいまし。
―――――― 寧ろ腸が煮えくり返っているのはこちらですのよ?」
「ひッ!?」
数十倍に膨れ上がったプレッシャーに、喉を絞められた鶏のように大佐が耳障りな声を上げる。
白井は、傍らに抱き寄せた裸の ―――
―――― アックアにそっと自らのジャケットを着せてやる。
「白井……」
「お助けするのが遅れてしまって申し訳ありませんでしたの隊長。よくぞ、よくぞアレだけの責め苦を……」
言い切ることが出来ず、込み上げた嗚咽を噛み殺す。
白井はずっと物陰から様子を伺っていた。能力の使えない自分が駆けつけて一体何が出来るのだと、必死に己を律しながら仲間からの連絡を待っていたのだ。
尊敬し、慕う上官の(主に性的に)いたぶられる姿はアックア隊にとって風物詩と化していても黒子には屈辱だ。
しかもモザイク無しの筋肉質の裸体を晒されれば、乙女としてはどうして良いのかわからない。悶々とするし。
そんな白井の頭をそっとなでながら、アックア(白井のジャケットが小さ過ぎるのでパッツンパッツン)は優しい瞳を向ける。
「侮るなである。これでも幾度となく修羅場(辱め的な意味で)を潜ってきているのである。それに……信じていたのである仲間を」
「隊長……」
「そうだ、なぜだ!?何故……貴様等以外のメンバーなど物の数ではないであろう!!二ヶ月前の戦乱でアックア隊は隊長と副隊長以外は全滅したはず……
新米の雑魚共が……我等のアレをアレするあの術式を……」
「あら、雑魚とは一体どなたの事を仰っていますの?」
可愛らしく白井は小首をかしげる。
その仕草の可憐さ、上品さは、ここが薄暗い血と油の臭いのこびり付いた古代遺跡の地下であることを忘れさせる。
そう、あたかもパーティーで気の利かないエスコートに困惑する姫君のように白井黒子の仕草の全てに気品と余裕と愛嬌があった。
「私達アックア隊に、『雑魚』などという隊員はおりませんのよ?」
とびきりの軽蔑と優越感に満ちた華やかな笑顔に、一瞬だけ大佐は恐怖を忘れた。
「小娘が!!」
自分の三分の一を生きてもいない小娘にコケにされたことが、歴戦の戦士としての彼のプライドを著しく傷つけた。
屈辱が、怒りが、恐怖を凌駕する。
目障りな仇敵である小娘の眉間に銃口を向ける。
実戦から退いたとはいえ、元々叩き上げの軍人であった大佐の動作には一辺の澱みも無い。
まさしく一流の動きといえよう。
しかし ―――
「ぎゃああ!!!」
爆発音と共に大佐が片腕を抑える。
暴発した銃と共に、毛深く太い指が飛び散る。
「愚かですのね。申しましたわね。獲物の前で舌なめずりはド三下だと」
白井黒子は超一流であった。
「私が何も考えず放課後ティータイムのごとく実のないおしゃべりをするとでも?既に下拵えは整っていましたの。ですからアナタがその引鉄を引く時がまさしく――― 」
白井は指に挟んだ矢をくるんと回し、大佐の眉間に突きつける。
「チェックメイトですの」
『ウチの可愛い想にそんじょそこらのランドセルなンざ背負わせてテメェは平気なのかァ?』
そういったのは、白井にとって女神に等しき敬愛する女性の傍らにいる資格を得た男。
超えるべき壁であり、同時に信頼できる兄とも呼べる男だ。
その男の言葉に、何度目になるのかわからない天啓をを受けた白井黒子は、敬愛と、僅かな淡い想いを抱く上官に連絡を取った。
『究極のランドセル?やっぱりドラゴンの革じゃね?である』
その言葉に導かれるままに戦いに再び身を投じて半年。
10枚から一枚抜いたら生まれた欲望の魔神達を再び封じ(その際紫のメダルが体内に八枚程残ったのであるがレントゲンには写らないので白井は気付いていない)、
旧世界を焼き尽くした巨神を巡る戦いに巻き込まれ(今度は早過ぎなかったので大層厄介であった)、
ファンシーな生き物に詐欺紛いの契約を結ばされそうになっているロリを救出し(その際謝ってアックアが契約してしまったのだが、何とかなった)、
そうして、今、世界を焼き払う古代兵器の設計図の描かれた神殿での戦いを終えた。
国連軍によって護送ラヅゲ・ヒ・ジヤオ大佐と、彼の右腕であるゲマルハ・ツ・ルピカ中佐の背を見ながら、白井は憂鬱な溜息を吐く。
ようやく戦いが終わったという安心感はそこにはない。
「どうしたのであるか?白井」
「隊長」
白井の肩の上に逞しい手がそっと乗せられる。
敬愛する隊長(ピーチ姫ポジション)を見上げながら、白井はその手を取る。
温かく、硬い逞しい手に、少しだけ安堵する。
「あの言葉が気になっていたのであるか?」
「……バレてましたのね」
「白井のことなら何でもわかるつもりなのである」
アックアの男臭い笑みに、つられるように笑みを浮かべる。
大佐達を拘束し終えたヘリが砂埃を巻き上げながら離陸していくのを見上げながら白井は思い出す。
拘束される直前に呟いた大佐の言葉。
『あの術式は我等が構築したのではない。アレを我等に授けたのは ――― 』
白井は拳を握り締める。
安堵などできるはずが無い。戦いはまだ終わっていないのだから。
ここ一連の戦いの元凶であるあの男。『恐怖の帝王』という呼び名に、決して劣らない力を持ったあの男。
「一人で背負い込むな白井」
「ですが……あの時私が逃がしさえしなければ……」
「だったら今度は逃がさなければいいのである。一人では勝てないなら二人で立ち向かえばいい。二人でも敵わないなら三人がかりでもいい。
お前には仲間がいる。エーカーももうすぐ退院するのである。仲間を頼るのである白井。仲間がお前を頼り、お前が仲間を頼る。
互いに背を預けあって戦うのがチームなのである」
「……はいですの」
裸にひん剥かれて、鞭で叩かれていただけのアックア隊長(ジャケットは黒子に返したので全裸)。
彼の何かよさ気な言葉に白井は瞳を潤ませる。
お前はもっとがんばれですの、とか、そういう無粋なツッコミはしないのが白井黒子なのだから。
決して淡い恋心でフィルターが掛かってるとかそういうのではない。
二人はオリオン座輝く星空を見上げる。
究極のランドセルを見つけ出す光明はまだ見つからない。
しかし、仲間達とならば、決して不可能ではないと、あまりにも眩しい星空に、何となく流されながら白井は根拠無く確信した。
アックア隊の戦いの日々はまだまだ終わらない。
その後、白井黒子はそれまでの功績を讃えられ、異国の人間、それも女でありながら英国から『騎士』の位を与えられる。
その授与式の際、英国第三王女直々に抱擁と『この泥棒猫』というお言葉を頂戴する。
関連作品529 : ◆d85emWeMgI - 2011/07/07 20:41:52.36 jECoT9oj0 791/791以上で投下を終えます。
最後の投下なのでレスを思い切り無駄使いしました。
このスレの最後がこれというのもどうかと思いましたが、本編にずるずる後日談つけるよりもいいかなと。
次スレの予定は今のところはありません。着地できる目処がぼんやりと立ったら立てたいと思います。
多分、次はゆるくてだらだらとした小難しくない話にすると思います。
もし、またスレを立てた時は読んでやってくれると嬉しいです。
それではまた会う日まで。 ノシ
上条「約束したよな?例え地獄の底でも、お前を ――― 」【前編】
上条「約束したよな?例え地獄の底でも、お前を ――― 」【後編】
一方通行「いい子にしてたかァ?」【1】上条編(前編)
一方通行「いい子にしてたかァ?」【2】上条編(中編)
一方通行「いい子にしてたかァ?」【3】上条編(後編)
一方通行「いい子にしてたかァ?」【4】小話編
一方通行「いい子にしてたかァ?」【5】過去編(前編)
一方通行「いい子にしてたかァ?」【6】過去編(後編)
一方通行「いい子にしてたかァ?」【7】エピローグ
一方通行「いい子にしてたかァ?」【8】番外編


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