王様「…ふむ」
側近「王、最近の我が国は財政難。速急に対策を打たねばなりません」
王様「…側近、いい案はあるか?」
側近「案…ですか。おい財務大臣、何か意見はないか?」
財政大臣「我輩ですか。なら、いい案が」
王様「ふむ…申してみよ」
財政大臣「…このところ、我が国では兵力が余っており――…」
元スレ
騎士長「王宮をクビになってしまった」
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1393667841/
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 王宮都市・演習広場 】
…ビュンッ!!ビュンッ!!
王宮騎士「やぁっ!!」
王宮兵士「たぁぁっ!」
王宮戦士「おうっ!」
騎士長「いいぞ…その調子だ!腕の振りが甘いぞ!」
王宮騎士「はいっ!」ビュンッ!
騎士長「よし、そうだ!」
王宮騎士「ありがとうございます、いつもながら的確な指示ですね」
騎士長「当たり前だ、俺を誰だと思っているんだ」
王宮騎士「いやはや…さすがですよ。貴方がいれば王宮都市の未来も安泰だ」
騎士長「俺が魔物や、賊からこの国を救うさ」
王宮騎士「本当にご立派です。見習わなければなりませんね」
騎士長「ははは、誉めても何も出ないぞ」
王宮騎士「はははっ!」
…カツ、カツ、カツ
???「どーも、今日も演習場から元気な戦士達の声…頼もしいですなぁ」
騎士長「む…」クルッ
側近「やぁやぁ、今日も精が出ますね騎士長殿」ニコッ
騎士長「側近殿でしたか…。いえ、それほどでも。いつ蛮族が襲うやもわかりませんし、いつも本気で取り組みますよ」
側近「それはいい心がけですね」
騎士長「この王宮、王国に務めて早10年…。少年時代よりお世話になった事をいつも感謝してます」ハハハ
側近「…」
騎士長「…」
側近「…」
騎士長「…側近殿?」
側近「その事なのですが、少しお話がありまして」
騎士長「…お話、ですか?」
側近「はい…実はですね…」
…………
………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 近くの酒場 】
…ドンッ!!!
騎士長「…だってよ、笑えるだろう!?」ハハハ
店主「…お前が"クビ"、ね」
騎士長「はぁ~…何でだよぉ!!」グスッ
店主「それにしても、どうして急にクビなんだろうな。お前程、王国に捧げた奴もいないだろうに」
騎士長「この歳で、俺は高給取りの立場だったしな…」
騎士長「最近は王国が財政難っつーだろ?それに最近は平和だし…、高給取りの騎士はいらないんだろうよ!」グビグビ
店主「だからって、お前をクビ切りか…最近、王国の様子も大分変わったよな」
騎士長「店主は、今の一代前の王のことを知ってるんだろ?どんな感じだったんだ?」
店主「あの頃の王様は優しくてなぁ…、この酒場にも飲みに来てたんだぜ」
騎士長「うっそぉ!?この汚い酒場に!?」
店主「お前、そのビールの値段2倍な」ピクピク
騎士長「うっそぉ!?ぼったくりだぞこの店はみーなさーん!!」
店主「うっせぇよ!今は昼間だから誰もいねぇよ!…まぁ、それより前の王は、本当にいい王だったよ」
騎士長「へぇ…何で交代したんだ?」
店主「前王が病になって、当時のナンバー2が指揮をとって…そのままズルズルだな」
騎士長「羨ましい話ですわ、全く」グビッ…
店主「それからはキツイったらありゃしない。税は増えるわ、変な輩が城に出入りするわ…」ハァ
騎士長「変な輩…あぁ、最近王室に出たり入ったりしてたな」
店主「治安が良いとはお世辞にもいえねえな。まぁ…そんな王国、見切られて良かったんじゃねえの?」
騎士長「…何だかなぁ」
店主「それよか、お前はこれからどうするんだよ。まだ23だろ?若い出世だったのにな」
騎士長「あ~…どうしよう。魔物退治とかでいい依頼出してる所とか知らない?」
店主「うちの酒場も一応、そういう紛いの依頼受付だのの事はしてるが…」
騎士長「いい依頼ないよな、ここ」
店主「やかましい!」
騎士長「どれどれ、何があるんだーっと」ガタッ
トコトコ…ペラッ
騎士長「ふむふむ、どぶさらい…、迷い猫探し…、掃除…」
店主「…」
騎士長「ぷっ…はーっはっはっはっは!!漫画かよ!!」
店主「うるっせぇぇ酔っ払いが!!お前今日の代金3倍だからな!!」
騎士長「うっそぉ!?ぼったくりですよみーなーさーん!!!」
店主「昼間だから誰もいねえし、同じこと繰り返してるんじゃねーよ!」
店主「ったく…まだ昼間なのに出来上がってるんじゃねーっつーの」ハァ
騎士長「他の客なんざいないんだから、騒いだっていいじゃねーかぁ!」
店主「ま…気持ちは分かるけどよ」
騎士長「だろう!?もっと酒もってこぉ~~い!!」
店主「ったく、仕方ねえなあ…ん?」
…コンコン
店主「…また客か?昼間から珍しい」
騎士長「俺がドア開けてあげますよぉ~っと」ガタッ
フラフラ…
店主「お、おいおい!他の客だったら迷惑かけないでくれよ!」
騎士長「わかってるってぇ~」
ガチャッ…ギィィ…
騎士長「はーい!いらっしゃいまー…せ…?」
女の子「…」
騎士長「客、なの…?」
店主「ん…お、女の子…?」
女の子「…」キョロキョロ
騎士長「店主、アンタの知り合いか?」
店主「まさか!見たこともないぜ」
騎士長「ふむ…」
騎士長(黒髪…薄らとした褐色気味の肌…。砂漠地方の出か…?)
女の子「…」
騎士長「おい、お母さんとお父さんはどうした?」
女の子「…たい」
騎士長「あん?」
女の子「聞きたい事がある。ここなら依頼を受けてくれるのか?」
騎士長「あ…?」
店主「お嬢ちゃん、今何て言った?」
女の子「ここで、依頼を受けてくれるのかと聞いた」
店主「そりゃ受けてるが…」
女の子「どうすればいい」
店主「そ、それなら、この紙に書いてもらえればいいが…」ペラッ
女の子「わかった」
トコトコトコ…
騎士長「な…何なんだ一体」
店主「さぁ…」
トコトコトコ…ピタッ
女の子「…」ジー
店主「…」
女の子「…」ジー
店主「…どうした?書かないのか?」
女の子「高くて届かない」
騎士長「…お嬢ちゃんに、カウンターはまだ高いか。ほらよっ」ヒョイッ
女の子「!」フワッ
騎士長「ここに座れば届くだろう。ほら、これで書けるだろ」
女の子「…ありがとう」
騎士長「いんや、礼するほどじゃねえよ」
女の子「…」
騎士長「…」
女の子「…」ジー…
騎士長「…こ、今度はどうしたんだ?」
女の子「…私は字が書けないんだった」
騎士長「…」ハァ
騎士長「仕方ない、俺が変わりに書いてやるよ、ペンを貸せ」
女の子「…色々ありがとう」
騎士長「だからそれくらいイイっつーの。で、内容は?」
女の子「"お父さんを殺して"」
騎士長「はいよ、お父さんを殺してっと…」カキカキ
騎士長「…」
騎士長「…何て言った、今」
店主「おい、今このお嬢ちゃん…何て言った…?」
女の子「聞こえなかったか?"お父さんを殺して"と言った」
騎士長「お前…」
…ガチャアン!!!
傭兵「どこだコラァ!!」
奴隷商人「ここに逃げたのは分かってるんだからな、出て来い!!」
店主「こ、今度は何だ!」
傭兵「アンタがここの店主か?聞きたい事がある…ここに子供が逃げ込まなかったか?」
騎士長「こいつのことか?」ヒョイッ
女の子「わわっ」
傭兵「そうそう、そのくらいの…って、ソイツだコラァ!!!」クワッ
騎士長「やかましいー奴だなー」
店主「お前が言うな」
傭兵「そいつをおとなしく渡せ。そいつはうちの奴隷なんでね」
騎士長「…お嬢ちゃん、奴隷だったのか?」
女の子「…」
奴隷商人「そいつはうちの大事な品物なんだよ。早く返してくれるか」
女の子「…」
傭兵「…早く戻って来ないと、また鞭で打つぞコラァ!!」
女の子「!」ビクッ
騎士長「まぁ…待てよ。この子は砂漠地方の出だろ?あそこは奴隷の扱いを禁止してなかったか?」
傭兵「…うっせぇ!お前には関係ないだろう!」
騎士長「お前がうるせぇよ。で、お嬢ちゃん・・・どうして奴隷になったか聞かせてくれないか?」
女の子「あ…あの連中が…、村を襲った…」ビクビク
騎士長「…ははーん」
傭兵「そ、それがどうしたんだコラァ!」
奴隷商人「そうだぞ、そいつはもううちの商品なんだからな!」
女の子「…」ブルブル
騎士長「…」
店主「…騎士長、店は気にするな」
騎士長「あん?」
店主「…俺もあいつらはちょっとムカつくからな」
騎士長「いいのか?」
店主「やっちまえ」
騎士長「…恩に着るぜ」ニカッ
傭兵「いいからさっさと、こっちに寄越せっつうんだよコラァ!!」
奴隷商人「早くしないと、この傭兵が店を壊すぞ?」
女の子「…」ビクビク
…ポンッ
女の子「…え?」
騎士長「おい、お嬢ちゃん…名前は?」
黒髪幼女「く…黒髪幼女…」
騎士長「そっか、じゃあちょっと…店主にジュースでも貰ってな!」
黒髪幼女「じゅ…ジュース…?」
ゴソゴソ…コトン
店主「はいよ、オレンジジュースお待ちー」スッ
黒髪幼女「あ…ありがとう…?」
騎士長「んじゃ、黒髪幼女がのんびりしてる間に…ちゃっちゃとやりますかぁ!」ウーン
騎士長「あとで依頼の話…きちんと聞かせろよ?」
黒髪幼女「わ…わかった」
傭兵「…やる気か?お前に得はないんだぞ…素直に子供を渡せ」
騎士長「これでも王宮に仕える平和の騎士!だからね」
店主「元な」ボソッ
騎士長「うるっせ!」
傭兵「お前のような青二才が俺に勝てると思っているのか?」
騎士長「いいから、やってみようぜ。ほらかかってこい」クイクイ
奴隷商人「…やっちまえ、傭兵!!」
傭兵「おうよ!!」
騎士長「どの道そうなるんだから、早くかかってこいよ」
傭兵「俺の技の前にひれ伏すがいい…どりゃあああっ!!!」クワッ
傭兵「…食らえ!究極奥義、昇天撃ィィィィ!!」グググッ
…ビュオンッ!!!
騎士長「…」ヒュッ
傭兵「へっ?消え…」
…バキィ!!!!
傭兵「…がっ!?」
騎士長「…長い名前の割りに、俺の普通のパンチより遅いのな」
傭兵「み、見えなか…」グラッ
騎士長「これでも騎士なんだけど、お前に武器使うまででもなかったわ」
傭兵「ぬ…が…」
…ドサァッ…ズズゥン…
騎士長「…弱っ!!」
店主「さすがだな」
騎士長「それより、黒髪幼女に美味しいオレンジジュースは出したんだろうな」
店主「いきなりそっちの心配かよ。お前が殴る前に出してただろ」
黒髪幼女「あ…うん、オレンジジュース貰った…」
騎士長「ここは飲み物は美味いからな、好きなだけ飲め」
奴隷商人(話しに夢中になってる今なら…逃げられる…)
…コソッ
黒髪幼女「う、うん…ジュースありがとう…」
騎士長「おう」
店主「まったく、お前は勝手なことばかり…って!後ろ後ろ!」
コソコソコソ…
奴隷商人「!」ビクッ
騎士長「おっとっと、奴隷商人さ~ん…。聞きたい事があるから、ちょっと…来てくれるかな?」ニコッ
奴隷商人「は…はい…」
店主「じゃあ俺はちょっと、王宮のほうに警備隊を呼びに行ってくるか。拘束してもらうんだろ?」
騎士長「頼んだ。俺はこいつとジックリ話をさせてもらうさ」ギロッ
黒髪幼女「…」
奴隷商人「…はは」
That's where the story begins!
――――――――――――――――
【騎士長「王宮をクビになってしまった」】
――――――――――――――――
Don't miss it!
38 : ◆qqtckwRIh. - 2014/03/01 20:33:46 l.WyCDxE 28/739皆さま、早速の沢山のコメント有難うございます。
前作というのは、過去に多数の作品を書かせて頂いているので、その繋がりがあるかという事だと思いますが、
今回のは完全な新作としてやらせて頂いております。
よろしくお願いします。失礼致しました。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ギュッギュ…グイィ…
騎士長「よし、これでお前の自由は奪われたわけだ」
奴隷商人「こんなキツく縛らなくてもいいじゃねえか…」
騎士長「ははは、まぁまぁ。で、聞きたい事がある」
奴隷商人「…」
騎士長「お前…この子の村を襲ったのか?」
黒髪幼女「…」
奴隷商人「…さぁな」プイッ
騎士長「…」ギロッ
奴隷商人「うっ…。ちっ、そうだよ…」
騎士長「何故そこを狙ったんだ。砂漠地方は奴隷を禁止したあと、非常に厳しく罰するはずだが」
騎士長「そこまでのメリットがあったっていうのか?」
奴隷商人「…村がだいぶ小さく、比較的地方にあったってのもあるが…」
騎士長「…」
奴隷商人「村人を全員、奴隷として売る代わりに、更に見返りをくれるっつーやつがいたんだよ」
騎士長「…はぁ?」
奴隷商人「笑っちまうよな。こっちとしては…高く売れる砂漠地方の人間を奴隷にする協力だけでも、有難いんだけどよ」
奴隷商人「更に、別途に報酬もくれるっつーんだよ」ハハハ
騎士長「…そいつは誰だ?」
奴隷商人「さぁな。その村に住んでる様子の男だったぜ」
騎士長「知らないのか?知らないふりをしてるんじゃないのか…」ググッ
奴隷商人「う…ぐっ、本当に知らないんだよ…!」
黒髪幼女「…さん」ボソッ
騎士長「…ん?」
黒髪幼女「それ、私のお父さん。お父さんが、そこの人と話しをしてるの聞いたの」
騎士長「…何?」
黒髪幼女「そのせいで…みんな、仲良かった子もバラバラになった。全部、お父さんのせい!!」
黒髪幼女「全部…お父さんのせい!!!」
騎士長「ま…待て、落ち着け。な?」
黒髪幼女「…っ」
騎士長「話を整理させてくれ。奴隷商人、お前は村に住んでる男に村人を奴隷として売るようにお願いされたんだな?」
奴隷商人「そうだ」
騎士長「その男は黒髪幼女の父親…そうだな?」
黒髪幼女「…うん」
騎士長「…奴隷商人、お前は…その親父に何故、村人を襲うように言われたか聞いてないのか」
奴隷商人「何も聞いてねえよ。俺らの世界はイエスかノーか…条件がよかったらイエスだけだ」ククク
騎士長「…」
黒髪幼女「…」キッ!!
奴隷商人「…ん?」
黒髪幼女「み…みんなを…村に戻してよ!!友達を…返してよぉ!!」
奴隷商人「友達…?あぁ、あのガキどもか。うるさかったからな…仕方ねえだろ」
騎士長「お前…何をしたんだ?」
奴隷商人「俺がやったんじゃねえが、傭兵は子供はあんま好きじゃないらしく…な?」
騎士長「まさか…」
奴隷商人「それといらないと判断した奴らもだ。どうせ奴隷を積む馬車にゃ限界があるからな」
騎士長「…貴様っ!!」グイッ
奴隷商人「ぐっ…!」
黒髪幼女「…」グスッ
騎士長「…こいつの親父はどこにいるんだ」
奴隷商人「さ、さぁな…。襲うまでの手伝いはしてくれたが、あとはそれっきりだ…」
騎士長「貴様には、まだまだ話して貰うことがありそうだな…」ググッ
奴隷商人「うぐっ…、く、苦し…」
コンコン…ガチャッ!!
騎士長「ん?」
ドタドタ…
王宮警備隊「取り込み中のようですが、失礼します!」バッ
王宮警備隊「こちらの店主殿から、族がいると聞いて…伺いました!」ビシッ
騎士長「…お。ようやく来たな…こいつがそうだ」
奴隷商人「ゴホゴホッ・・・!く、くそっ…」
王宮警備隊「貴様が奴隷商人だな、こっちに来い!」グイッ
奴隷商人「いてて…乱暴にするなよ…」ヘヘ
ドタドタ…ガチャッ…バタンッ…
王宮警備隊「あなたは…騎士長さんでしたか。この度は、ありがとうございます」
騎士長「あぁ。ところで、アイツの身柄はどうなる予定だ?」
王宮警備隊「しばらくは牢に入って貰うでしょうね。その後、砂漠街に引き取って貰います」
騎士長「そうか…奴隷に厳しくなった今、極刑も免れないかもな」
王宮警備隊「かもしれませんね」
騎士長「で、ちょっと聞きたいんだが…俺はまだ奴隷商人に少し用事があるんだ。あとで面会してもいいか?」
王宮警備隊「砂漠街では第一級の犯罪者。とてもじゃありませんが、面会はできないでしょう」
騎士長「…俺は王宮の騎士長だぞ?」
王宮警備隊「…元、ですよね」
騎士長「そ、そうか…」
王宮警備隊「申し訳ありませんが、これで失礼しますね」ビシッ
カツカツカツ…
騎士長「あ、ま、待ってくれ!もう1つだけ話がある」
王宮警備隊「…何ですか」クルッ
騎士長「こいつの親父の捜索と、こいつ自身の面倒を見てやってほしいんだ」グイッ
黒髪幼女「…」
騎士長「こいつの親父は、今回の騒動の犯人らしいし指名手配もあるかもしれんし…」
騎士長「あと、孤児としても黒髪幼女は成り立つはずだ。どうだ?」
王宮警備隊「…どっちも無理ですね。まだ犯人の目星が立たず証拠がないこと、子供の預かりはしてません」
騎士長「何だと?捜索は仕方ないとするが…、子供の預かりができないって?」
王宮警備隊「そんな施設はありませんよ」
騎士長「バカな事いうなよ!先代の王が立てた孤児院があるはずだろう!?」
王宮警備隊「何年前のことを。今はもう、孤児院はありません。当代が税の無駄だと潰しました」
騎士長「…!」
王宮警備隊「では、これで」ペコッ
カツカツカツ…ガチャッ、バタン…
騎士長「な…何てこったい…」
ガチャ…
店主「はぁ~、ただいま!事情聴取されて、時間くっちまった」
店主「見たところ、落ち着いたらしいな。良かった良かった」
騎士長「…でも、ないんだな」
店主「ん?」
騎士長「…」チョイチョイ
黒髪幼女「…」
店主「あ~…」
騎士長「孤児院が王国になくなったのは知らなかったぜ。どんだけ腐ってやがるんだ当代は」
店主「…そういう王だからな。黒髪幼女だっけか…、お前、これからどうするんだ?」
黒髪幼女「これから…?」
店主「そうだ。奴隷商人はいないし、移動手段もないだろう?親父もどこか行方不明だ」
黒髪幼女「…」
店主「…」
騎士長「…」
黒髪幼女「依頼を受ける人がいないなら、他のところへ行く。お父さんは…絶対に許せないから」
騎士長「…お前さ、例えばだが」
騎士長「依頼を受けてくれる人がいたとして、報酬は出せるのか?」
黒髪幼女「…」
黒髪幼女「報酬は…私」
騎士長「!」
店主「…」
黒髪幼女「私自身を報酬にする。また奴隷にでも何でも…なるから…」
黒髪幼女「…それで、お父さんを捕まえてくれる…殺してくれるなら…!」
店主「…おい、騎士長」
騎士長「見過ごせるわけ…ねぇよなぁ…」ハァ
黒髪幼女「…?」
騎士長「おい、わかった。その依頼…俺が受けてやるよ」
黒髪幼女「…本当!?」
騎士長「嘘は言わん。ここでお前を見捨てたら、王宮のエース騎士の名が廃るからな」
店主「元、だけどな」ガハハ
騎士長「うるせええー!」
黒髪幼女「じゃあ…、受けてくれるなら…私、あなたの言うこと聞く。何でもする」
騎士長「…」
店主「騎士長、頼むからこんな子供に」
騎士長「わかってるよ!!そんな物好きじゃねーから!!」
黒髪幼女「…」
騎士長「黒髪幼女、言うことは1つだ」
黒髪幼女「…」ゴクッ
騎士長「きちんと、俺を信じてついて来い。それだけだ」
黒髪幼女「…え?」
騎士長「これも何かの縁だろう。仕事をやめた日に、仕事が見つかるなんてな」ハハハ
黒髪幼女「…」
騎士長「酷いことはしねぇ、俺はお前の依頼を受けた以上、全力でお前に尽くす」
黒髪幼女「…」
騎士長「俺を信じてついて来い。俺は…強いからな」ニカッ
黒髪幼女「…!」
店主「…ほれっ」スッ
騎士長「あん?」
店主「俺からのサービスの酒だ。黒髪幼女の依頼を受けたら、砂漠街まで抜けないといけないだろ?」
騎士長「あ~そうだな。かなり遠いもんな」
店主「しばらくこの味も飲めないだろう」
騎士長「ふむ…確かにな。ありがとうよ」
店主「何をこれくらい」
黒髪幼女「…」
騎士長「さて…まぁ、黒髪幼女。お前の村にまず…案内してくれるか?つらいだろうがな…」
黒髪幼女「…うん」コクン
騎士長「おっしゃ、んじゃ先ずは馬車で港町だ。そこから船に乗って…ちょっとした旅になるなこれは」
黒髪幼女「…お金、あるの?」
騎士長「金なんざ腐るほどある。心配すんな、ハッハッハッハ!」
ワシャワシャ…
黒髪幼女「あう…」
店主「無駄に金は稼いだもんな、元王宮のエース騎士さん」ガハハ
騎士長「いちいち元つけんな!!」
黒髪幼女「…ありがとう」
騎士長「あぁん?礼なんていらねえよ、これも縁のある所だっつっただろ」
黒髪幼女「…」
騎士長(…笑顔のない子供…か)
店主「ま…頑張れよ」
騎士長「人ごとだと思って…。さ、行くか黒髪幼女!」クルッ
店主「ん?サービスの酒…いらないのか?」
騎士長「俺が無事に戻ってくるまで、その一杯はとっておいてくれ。きっと最高の味がするだろうからな」
…ガチャッ…バタンッ…
店主「…ふっ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
トコトコトコ…ガヤガヤ…
騎士長「ん~外はいい天気だが…お天道様がもう傾きかけそうだ。なぁ?」
黒髪幼女「…」
騎士長「…」
黒髪幼女「…」
騎士長「…」フゥ
騎士長「…黒髪幼女、旅っつーのは何か楽しむモンも必要だ。何か食べたくないか!?」
黒髪幼女「おなか、空いてない」
黒髪幼女「…」グゥゥ
騎士長「…」
黒髪幼女「…空いてない」
騎士長「はは…。馬車に乗る前に、俺が腹減ったから…たっぷり美味いモンでも食ってから行くか!」
黒髪幼女「…」
黒髪幼女「…」コクン
騎士長「はは、子供は素直が一番可愛いんだぜ?」
黒髪幼女「…」
騎士長(引き受けた以上、本気でやってやるさ。王宮の…騎士長としての責任だ)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
店主「元騎士長な」ワハハハハ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
騎士長「うるっせぇぇ!!」
黒髪幼女「!?」ビクッ
騎士長(…く、くそっ!)
…………
………
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 レストラン 】
…パクパクパクッ
黒髪幼女「…」ハムハム
騎士長「…」
黒髪幼女「…」モグモグモグ…
騎士長「…」
黒髪幼女「…」ゴクンッ!
騎士長「…美味かった、か?」
黒髪幼女「…」コクン
騎士長「顔ついてるぞ」ゴシゴシ
黒髪幼女「…んっ」
騎士長「よっぽど腹減ってたんだな。奴隷ん時…食べさせて貰えなかったのか?」
黒髪幼女「毎日…、パン、少しだけ」
騎士長「…ひでぇな」
黒髪幼女「泣くといつも怒られた。鞭で殴られて…ぶたれて…」
騎士長「…そうか」
黒髪幼女「…」
騎士長「なぁ…、辛いだろうが…どんな状況だったか教えてくれるか?」
黒髪幼女「…何が?」
騎士長「その、襲われた時の状況だとか…色々だ」
黒髪幼女「…わかった」コクン
騎士長「…」
黒髪幼女「夜、トイレに行きたくて目が覚めてね…お父さんがいないのに気づいて…」
騎士長「…」
黒髪幼女「そしたら、外でお話してる声がして…、窓から覗いたらお父さんとさっきの奴隷商人がいて…」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
父親「…手はず通りに頼む」
奴隷商人「くくく、任せてくださいよ」
父親「…手荒なことはしないでくれ。俺はもうここから離れなければならない」
奴隷商人「わかってますぜ。安心して、村を離れてください」ニタニタ
父親「…特に、俺の娘は特に大事にな」
奴隷商人「はいはい」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
黒髪幼女「そのあと、お父さんはどこかに行っちゃった。そしたら…、村で火事があって…」
騎士長「奴隷商人と、あの傭兵らが襲ってきた…と」
黒髪幼女「…」コクン
騎士長「だが…あいつらは親父との約束は守らず、お前を殴るは殺人はするわ…だったわけか」
黒髪幼女「…」
黒髪幼女「…」グスッ…ポロポロ…
騎士長「…悪かったな、辛いことを。…だが、一つ腑に落ちないことがある」
黒髪幼女「腑に落ちない…って何?」
騎士長「あ~…納得がいかないことがあるって事だ。お前の親父が村を襲わせる理由があったのかってことと…」
黒髪幼女「うん」
騎士長「手荒な真似をするなっていう事。襲わせる以上、別に気にしなくてもいいだろう?」
黒髪幼女「…」
騎士長(それとも、やっぱり同じ村の民だったし…裏切るのは心が痛かったってことか?)
騎士長(そもそも…売るだけなら親父に金が入るはず。なのに、逆に報酬を払ったって言ってたな…)
騎士長(つーことは、襲わせる理由があったはず。一体…)
黒髪幼女「…!」ハッ
黒髪幼女「…」ジー
騎士長「…ん?」
黒髪幼女「…な、何でもない」プイッ
騎士長「お前…何見てたんだ?」チラッ
"【北の大地の恵みを生かした…チョコレートパフェ!!大好評販売中!】"
黒髪幼女「…」
騎士長「…」
黒髪幼女「…」
騎士長「店員さーん!チョコレートパフェ1つ!」
黒髪幼女「!」
騎士長「遠慮するこたぁねぇ。食いたいなら食えばいい」
黒髪幼女「あ…ありがとう…」
騎士長「子供のうちから遠慮とか覚えなくていいぞ」ワシワシ
黒髪幼女「…」
騎士長「…あと、風呂入ろうか。砂漠地方に向かう前に…その汚れた服もなんとかしないとな…」
黒髪幼女「…」
騎士長「いまさら時間もたってるわけだし、急いでも無駄だろう。万全に整えたほうがよさそうだ」
黒髪幼女「…」
騎士長「陽も落ちてきたようだし、出発は明日にしよう。今日は俺の家で休んでから出発しようか」
黒髪幼女「騎士長の、おうち?」
騎士長「そうだ。そりゃ俺はこの国に住んでるからな」
黒髪幼女「わかった」
騎士長「意外と広いんだぜ?子供の服はないから…、途中で買っていくかぁ」
黒髪幼女「私、この服でも…」
騎士長「ボロボロなままはさすがに…な。そのくらい遠慮するな」
黒髪幼女「で、でも…色々…」
騎士長「お前は依頼者。お前の依頼は1つだけ…それ以外は俺に従え!」
騎士長「つーか、好きにしてって言ったのはお前だろ。だったら俺の言うことを聞けばいいんだよ」ハッハッハ
黒髪幼女「で、でもこういうの…いいの?」
騎士長「だから気にするなっつっただろう!…おっ、黒髪幼女…来たぞ!」ビシッ
黒髪幼女「え?」クルッ
カツカツカツ…
店員「お待たせしました、チョコレートパフェです」
…コトン
黒髪幼女「…!」キラッ
騎士長(おっ)
店員「では、ごゆっくり。失礼します」ペコッ
黒髪幼女「…いいの?」チラッ
騎士長「お前のもんだ。好きなタイミングで食えばいいよ」ハハハ
黒髪幼女「いただきますっ」
…パクッ
黒髪幼女「…」パァァ
騎士長(どんなに気が強そうに見えても…やっぱり女の子…。子供、だな)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 そして…騎士長の自宅 】
ガチャッ…
黒髪幼女「…お邪魔します」
騎士長「そんな固いこといいさ。それより、服…気に入ったか?」
黒髪幼女「うん、ありがとう」
騎士長「服屋の店員も、お前がどんな服も似合うから楽しそうにしやがってたな」
黒髪幼女「…?」
騎士長「着せ替え人形じゃねーっつーんだよな~」ポンポン
黒髪幼女「ん~…」
騎士長「それよか、風呂入るぞ。えーとタオルタオル…と」ゴソゴソ
黒髪幼女「…」
騎士長「あぁ、そこで座って待ってろ。準備するから」
黒髪幼女「うん」
トコトコ…ストンッ
騎士長「…寝る時の着替えは俺のでも…えーと…」ゴソゴソ
黒髪幼女「…」
黒髪幼女「…騎士長、さん」
騎士長「ん~何だ?騎士長でいいぞ」
黒髪幼女「き…騎士長、何でそこまで…してくれるの?」
騎士長「…ふむ」
騎士長「それはさっきも言った通り、俺が騎士…も、元騎士長だからとでもとっておけばいい」ピクピク
黒髪幼女「騎士長さん…だからなの?」
騎士長「まぁそれだけじゃなくて、俺の性格上の問題もあるんだろうがな」
黒髪幼女「…」
騎士長「子供を放っておけないっていうかな、縁ってのも信じるしまぁ…そうなったからそうなったんだ」ハハハ
黒髪幼女「そうなったから、そうなった…」
騎士長「俺も難しいことは分からん!」
黒髪幼女「…」
騎士長「まぁ今は、受けた依頼を完遂するまでさ。ほら、服を脱げ。シャワーで先に体洗いながら風呂をためるぞ」
黒髪幼女「そっか…。う、うん」
トコトコトコ…ガチャッ
黒髪幼女「…」
ゴソゴソ…パサッ…
騎士長(…本当に人形みたいだな。そして小さい…こんな子供に酷い思いを…。胸糞すぎるぜ…)
黒髪幼女「…脱いだよ」
騎士長「お、おう…って!!お前背中見せてみろ…!」グイッ
黒髪幼女「あうっ」
騎士長「…っ!」
黒髪幼女「…」
騎士長「何てキズ跡だ…。ひ、酷過ぎる…鞭で叩かれていたからか…」スッ
…ズキッ
黒髪幼女「…っ!」
騎士長「あっ、す、すまん。痛かったか」
黒髪幼女「ううん…大丈夫…」
騎士長(このまま風呂入ったら染みて痛そうだな…)
騎士長「ちょっと待ってろ、確か…」ダッ
タッタッタッタッタッタ…ゴソゴソッ…ガターン!!
黒髪幼女「!」ビクッ
タタタタタッ…
騎士長「はぁはぁ…あったあった。キズがひどいのは背中と…首筋か。動くなよ」
黒髪幼女「?」
騎士長「生傷とかに効く薬だ。少し麻痺する成分が入ってて、水にも強くなる高い薬なんだぜ?」
騎士長「風呂に入っても痛くはなくなるだろう。さすがに思いっきりは洗えないだろうが」
ヌリヌリ…
黒髪幼女「…」
騎士長「すぐに効くと思うぞ。普段からキズばっか負ってる生活だったから、必需品なんだよ」
…パァァッ
黒髪幼女「あ…、痛みが…」
騎士長「なっ?さて、風呂だ風呂!」
黒髪幼女「…うんっ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ゴォォォッ…
騎士長「風呂気持ちよかったろ?これは風魔法を応用した、カラクリ用品だ。髪の毛が乾くのも早いぞ~」
黒髪幼女「少し温かくて気持ちいい」パサパサ
騎士長「風邪引くと困るしな」
ゴォォ…
騎士長「本当に最近、良いカラクリ用品がよく発明されてなぁ」
黒髪幼女「…カラクリ用品って何?」
騎士長「そうか、まだ余り出回ってない地域もあるんだな」
黒髪幼女「うん、聞いた事ない」
騎士長「魔法を封じ込める技術があるんだが、それを放出させる技術のことだ」
黒髪幼女「…うーん、わかんない」
騎士長「お前の住んでた所、夜の明かりはまだ火明かりだったか?」
黒髪幼女「うん。あと月が綺麗だったよ」
騎士長「じゃあ、今、天井に付いてる"電灯"からの明かりを見るのは初めてだろう」
黒髪幼女「うん…何でこんなに明るいの?」
騎士長「さっきの仕組みと一緒で、雷の魔力を溜めておいて、暗闇で放出させてるんだ」
黒髪幼女「…?」
騎士長「数日に1度、チャージする業者みたいなのがいてな…それが月の支払いがそれなりに大変で…」ハァァ
騎士長「自分の魔力もやれればいいんだろうが、普通は不可能で。それを可能にするのがカラクリの…」ブツブツ
黒髪幼女「…??」
騎士長「…まぁ、不思議な技術ってことだ!」
黒髪幼女「そうなんだ」
騎士長「…お、おう。風呂上がりだし…牛乳でも飲むか?」
黒髪幼女「うん」
騎士長「よーし、そこのソファで待ってろ。入れてくる」
黒髪幼女「わかった」
タタタタッ…ストンッ
騎士長「さーて、ミルク…ミルク…と」
ゴソゴソ…カランカランッ
トプトプッ…
騎士長(普段は俺一人だから、こういうのもなんか新鮮だな)
…ピチョンッ
騎士長「お、丁度1杯分か。うっし、黒髪幼女…牛乳飲め…」クルッ
黒髪幼女「…」スヤッ
騎士長「…あら」
黒髪幼女「…」スヤスヤ
騎士長「…ま、そうだよな。疲れてるもんな…、牛乳は俺が飲みますかーっと」
グビッ…グビグビ…
騎士長「ぷはっ。はぁ…さて、寝室に運んで俺は明日の準備でもしておきますかね…」
トコトコトコ…ヒョイッ
黒髪幼女「…」クゥクゥ
騎士長(…少しは、ゆっくり休めてるようで良かった。そうじゃなかったら寝るなんて事、ないもんな)
トコトコトコ…ギィィ…バタンッ…
騎士長(よいしょっと…)
…ゴロンッ、パサッ
黒髪幼女「ん~…」
騎士長(毛布もしっかりかけたし…俺は準備しに…)
…グイッ!
黒髪幼女「…」ギュ…
騎士長「んっ?」
黒髪幼女「…」スヤスヤ
騎士長「…服を、離して頂けませんかね黒髪幼女さ~ん」ボソボソッ
…グイッ…ギュゥゥ…
騎士長「…」
黒髪幼女「…」スヤスヤ
騎士長「…はは、仕方ない。準備は明日でいいか…」
…ゴロンッ
騎士長「お休み~…」
黒髪幼女「ん…」
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・
・・・
・・
・
…カーンカーン!!
「火の手が南側から!!」
「だ、誰かが村を襲ってるぞぉぉ!」
「逃げろ…うわあっ!」
「きゃあああっ…!」
バキィ!!グサッ…
「た…助け…」
ドサッ…ザッザッザッザッ…
「ふはは、やりがいのない仕事だと思ったが、中々快感だな」
…ゴォォォッ…パチパチッ…
「やべえ、俺らも燃やされる前に、早く奴隷車に村人つめろ!」
タッタッタッタ…ピタッ
「ん?…おい、そこに誰か隠れてるのか?」
黒髪幼女「!」
「なぁんだ、可愛い子だな…ほら、こっちおいで…」
…グググッ…
黒髪幼女「…っ!!」
「逃げるなよ…優しくしてあげるからほ~ら」
「おい、そいつはさっき俺らの仕事をくれたやつの娘だ、"少しだけ"丁重に扱ってやれ」
「あ、そうなんだな。じゃあ…少しだけ優しくしよう。少しだけな」ハハハ
スッ…
黒髪幼女「や…」
「ははは!さ~…捕まえたぜ…」グイッ!!
黒髪幼女「や…嫌…!」
…
……
………
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 次の日・朝 】
…ガバッ!
黒髪幼女「…嫌だっ!!」
黒髪幼女「…っ」ハッ
騎士長「…おはよう、黒髪幼女」
黒髪幼女「あっ…」ハァハァ
騎士長「怖い夢を見たんだな…。落ち着け…大丈夫だ、ここには怖い奴はいない」
黒髪幼女「あ…あう…」
騎士長「…」
黒髪幼女「…」ブルッ
騎士長「…黒髪幼女」
黒髪幼女「…なに?」
…グイッ…ギュウッ!
黒髪幼女「!」
騎士長「親父とは違うだろうが、抱きしめて…こうすれば少しは落ち着けるか…?」
騎士長「俺は…子供と遊ぶとか…付き合った経験がほとんどないから分からないんだ」
騎士長「だから、今…苦しむお前を見て…どうしたらいいか分からない。こうして抱きしめることしか…すまんな…」
黒髪幼女「な…何で…、騎士長が謝るの…?」
騎士長「さぁな…俺もよく分からん!」ハハハ
黒髪幼女「…っ」
騎士長「そうなるから…そうなったんじゃないか」ニカッ
黒髪幼女「…騎士長」グスッ
騎士長「ん?」
モゾモゾ…グリグリッ
黒髪幼女「ごめんなさい…もうちょっとだけ…」
騎士長「あぁ、気の済むまで…な」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
カチャカチャッ…ジャアアッ…
騎士長「美味かったか?俺のお手製の、朝ごはん」
黒髪幼女「うん、美味しかった」
騎士長「昨日のレストランのチョコレートパフェとはどっちが美味かった?」
黒髪幼女「えっ…えと…その…」モジッ
騎士長「はははっ、悪い悪い。チョコレートパフェのほうが甘くて美味しいよな~」
黒髪幼女「うぅ…」
騎士長「出発前の準備で食料も一応買ってくし、チョコレートなんかも買っていくか?」
黒髪幼女「ちょこれーと…買ってくの?」
騎士長「それか…チョコレート以上に食べたいのとかあるか?何でもいいぞ」
黒髪幼女「じゃあ…パ、パンとか…」
騎士長「…パン?」
黒髪幼女「私の住んでた所で、いつも焼きたてのパンと果物を合わせたみたいなの…食べてて…」
騎士長「…あ~…待て。ちょっと待て」
黒髪幼女「?」
騎士長「聞いた事あるぞ…確か…」
黒髪幼女「バスプーサ」
騎士長「バスプーサ」
黒髪幼女「!」
騎士長「だよなぁ…。そうだとは思った」
黒髪幼女「知ってるの!?」
騎士長「一応、知ってることは知ってるが…ありゃパンじゃないんだ」
黒髪幼女「え、パンじゃないの?」
騎士長「どっちかっていうとケーキだな。これに近いのはあるが…日持ちしないだろうな~」
黒髪幼女「そっか…」
騎士長「…なぁに、すぐに砂漠街で食べれるさ。確かバスプーサは砂漠地方の…有名な伝統のお菓子だったはずだ」
黒髪幼女「そうなんだ」
騎士長「そうさ。それまでは少しだけ、別ので我慢してくれな」ハハッ
黒髪幼女「うんっ」
騎士長「さて…そろそろ行くとするか?」
黒髪幼女「わかった」
騎士長「馬車でまず南側の港まで行って、船に乗って行こう」
黒髪幼女「お船…、私、来るとき…お船に乗ってないよ?」
騎士長「遠回りに通ってきたんだな。だけど、早いほうがいいだろうし、快適な海の旅を~ってね♪」
黒髪幼女「…うん」
騎士長「客船で一晩…いや、二晩くらいか。乗り物酔いとかは大丈夫か?」
黒髪幼女「うん」
騎士長「まぁここでウダウダ言っても仕方ない。…とりあえず出発しないことには始まらないか」
騎士長「んじゃ、まずは馬車乗り場に行くか」
黒髪幼女「わかった」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 馬車乗り場 】
パカッパカッ…
馬車乗り「おーい!こっちですよ!」
受付員「3番乗り場、発車いたしまーす!準備してください!」
ワイワイ…ガヤガヤ…
黒髪幼女「…!」
騎士長「はは、びっくりしたか?」
黒髪幼女「すごい人…」
騎士長「ここから世界へのあらゆる流通事業として展開してるからな。賑わってるだろ?」
黒髪幼女「よくわかんないけど…すごい人が多い」
騎士長「とりあえず、凄い所ってことだ」
黒髪幼女「凄い所なんだ…」
騎士長「俺らが乗るのは7番乗り場。南側の港まで直行便だ」
黒髪幼女「もう乗るの?」
騎士長「いや、近くに物販店があるから保存食とか食料品を少しだけ買っていく」
黒髪幼女「少しだけでいいの?」
騎士長「あとは港とか、砂漠街に向かう前に追々と買ったほがいいしな」
黒髪幼女「うん」
騎士長「ん~じゃあ、馬車の中で食う昼飯も何か買っていかないとなー」
黒髪幼女「…」
騎士長「バスプーサか…、さすがにこの辺じゃ売ってないだろうしなぁ」
黒髪幼女「何でもいい」
騎士長「バスプーサ…やっぱり砂漠地方まで作り手もいないだろうし…いつもの所で買うか。こっちだ」
黒髪幼女「うん」
タッタッタッタッタ…ガチャッ!
騎士長「おーい、いるかい」
弁当屋「はいよー…って、騎士長サンじゃないか」
騎士長「よっ、久しぶり」
黒髪幼女「知り合い?」
騎士長「度々、遠征に行く時はここを利用してたからな。顔なじみなんだ」
黒髪幼女「そうなんだ」
弁当屋「あれっ、騎士長さん!まさか…娘!?」
騎士長「違う違う、ちょっとした知り合い…みたいなもんだ」
弁当屋「なんだよビックリした。で、馬車乗り場って事はまた仕事かい?今回はどこまで?」
騎士長「ちょっと遠出なんだ」
弁当屋「そうなのかい。じゃあ、弁当は何にする?」
騎士長「ん~…日替わりだとか、オススメは?」
弁当屋「日替わりは焼肉弁当。オススメは少し前に新作で出した、ご当地弁当かな」
騎士長「ご当地…なんだそりゃ」
弁当屋「世界の食べ物を、2週間単位で限定でまわして販売してるんだよ」
騎士長「…ほう、今のご当地弁当はなんだ?」
弁当屋「今は北の大地の恵み、高級魚を使ったお魚弁当だね」
騎士長「なんだそうか…」
弁当屋「何か不満そうだね。どうかしたのかい」
騎士長「いや~実はな…」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
弁当屋「…え?砂漠地方のお菓子…バスプーサも含めた弁当はできるよ?」アッサリ
騎士長「何だって!」
黒髪幼女「!」
弁当屋「ちょうど、明日から入れ替えでね。砂漠地方の伝統料理をモチーフにしようとしてたんだ」
弁当屋「だから材料はもうあるし、今日の夜から作り置きしようとしてたしね」
騎士長「じ、じゃあ頼めるか?2つ。多少高くてもいいぞ」
弁当屋「ははは、やだな。別にいつもの値段でいいよ」
騎士長「よかったな!黒髪幼女!」
黒髪幼女「うん…!」
騎士長(少しずつだけど、元気にはなってきたかな)
弁当屋「じゃあ、2つでいいんだね?」
騎士長「頼んだ」
弁当屋「そうなると作り置きはないから…今から作るし、ちょっとだけ時間もらうよ」
騎士長「どうせ7番線の出発は2,3時間後だ。その間、近くの物販店をいろいろ見てくるさ」
弁当屋「はいよ~」
騎士長「んじゃまた後で」
弁当屋「ほいほい」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
トコトコトコ…
騎士長「良かったな」
黒髪幼女「うん」
騎士長「さて、時間もあるし…整えるものも弁当くらいだしなぁ」
黒髪幼女「装備…武器とかはいいの?」
騎士長「あぁ、どうせ使う機会も少ないだろう。今持ってる王宮の備品で充分だと思うぞ」
黒髪幼女「充分なんだ」
騎士長「ま~武器はいいとして…ん~…」チラッ
"ショップ・旅人ウェア"
騎士長「…よし!」
黒髪幼女「どうしたの?」
騎士長「こっちだ、お前にいい物を買ってやろう」グイッ
黒髪幼女「わ、私にいい物…?」
タッタッタッタ…ガチャッ!!ガランガランッ…
騎士長「ここだ」ニカッ
黒髪幼女「…服屋さん?」
騎士長「こういう乗り場では、洋服っつー珍しい服を扱っていてな。旅に行くならお洒落も必須だろ!」
黒髪幼女「で、でも…私、昨日…服買って貰ったよ?ほら…今着てるし…」
騎士長「そういうのじゃなくてなぁ」
黒髪幼女「?」
騎士長「えーっと…子供服コーナー…」キョロキョロ
黒髪幼女「…」
騎士長「あった、こっちだ」
トコトコトコ…
騎士長「見ろ!昨日よりも、可愛い服がいっぱいあるだろ!」
黒髪幼女「!」
騎士長「さぁ、好きなのを選べ!!」ハハハ
黒髪幼女「…え、えっ」アセッ
騎士長「…ないか?」
黒髪幼女「そ、そうじゃないけど…突然で…あの…」
騎士長「あ、あぁ…そ、そうだよな」
黒髪幼女「何で…急に服…なのかなって。それに、色々ここまでしてくれるなんて…」
騎士長「…」
黒髪幼女「…」
騎士長「…子供がそういう事を気にするなって言ってるだろ。それに、昨日説明したはずだが?」
黒髪幼女「で…でも…」
騎士長「お前はさ…今日という時に、こういうチャンスを得たってだけだと思うぜ」
黒髪幼女「チャンス?」
騎士長「この世はな、生きてる限り幸運と不運が付きまとう。わかるか?」
黒髪幼女「うん…なんとなく」
騎士長「生きている今、この瞬間も、お前には偶然だの…運命だの色々な事が渦巻いてる」
黒髪幼女「…」
騎士長「こんな事を言うのが気はひけるが…いいか?」
黒髪幼女「うん」
騎士長「お前が、奴隷にならなかったら…。この王国で、あの時間にあの酒場に来なかったら…この瞬間はなかった」
黒髪幼女「…」
騎士長「ま、まぁなんだその…俺が王国をク…クク…、クビにならなければ…」ピクピク
騎士長「お前は別の奴と会ってたのかもしれん。それこそ、お前を物としてしか見ない奴とかな」
黒髪幼女「…うん」
騎士長「その偶然が重なり、運命となって、今…お前はお洒落な服を手に入れる事ができるということだ!」
騎士長「人生ってのは、偶然に偶然で、それがチャンスを生む」
騎士長「確かに謙遜だのも大事だが、受け取れるものは受け取っておくのも…悪くないんだぜ?」ニカッ
黒髪幼女「…」
騎士長「だいぶはしょったが…難しいか?まぁこれは俺の人生論みたいなもんだしな」ポリポリ
黒髪幼女「とにかく今は…遠慮するなってこと…?」
騎士長「そうだぜ!」ハハッ
黒髪幼女「…」
騎士長「それにな…」スッ
…ナデナデ
黒髪幼女「んっ」
騎士長「俺だって、お前みたいな子の話を聞いて、元気にさせてあげたいとは思える大人なんだ」
騎士長「俺のワガママでもあるが、お前に少しでももっと元気になってほしいからさ」
黒髪幼女「…私に元気に…」
騎士長「…まぁ、大人の責任ってやつもある。子供は大人が引っ張らないで、どうするんだって話だ」
黒髪幼女「…」
騎士長「同じ大人として、お前の面倒を見る責任もあるってことさ」
黒髪幼女「色々助けてくれて、優しくしてくれるのは…それも、王国の"騎士長"だから…?」
騎士長「いや、ここまで来ると俺は単に面倒見がいいっつーか…人が良すぎるのかもしれんがな」ハハハ
黒髪幼女「…」
騎士長「ってなわけで、好きなのを選べ!目いっぱいお洒落しようぜ!」
黒髪幼女「…うんっ」
トコトコトコ…ガサガサ
騎士長「これなんてどうだ?フリフリで可愛いじゃないか」スッ
黒髪幼女「ピンクは派手だよ」
騎士長「む…そうか。ならばこっちはどうだ?最近ちまたで話題の"ゴスロリ"とかいうやつらしい」
黒髪幼女「なんか…凄い服だね」
騎士長「ぬぬ…、じゃあこれはどうだ!」スッ
黒髪幼女「紫色の蝶々の絵の服…だね。可愛いけど…」
騎士長「気に入らないか…う~ん、何色が好きとかあるか?」
黒髪幼女「…わかんない。騎士長が気に入ったのを選んでくれたら、うれしい」
騎士長「そうか。なら…これだぁっ!!」
トコトコトコ…バッ!!!
黒髪幼女「!」
騎士長「…どうだ?派手過ぎず…中々いいと思うんだが」
黒髪幼女「うん、可愛いと思う…!」
騎士長「お前にぴったりだと思うぞ!」
黒髪幼女「そ、そうかな…?」
騎士長「試着室で着て来い。サイズもたぶん合ってると思うが一応な」
黒髪幼女「わかった」
タタタタタッ…
騎士長「よし…店員さーん!」
店員「はーい!」
騎士長「今のやり取り見てたかな?今、子供が着てたのと、子供用の下着とかもほしいんだがー…」
店員「はい、準備致します、えーと何着ご用意しますか?」
騎士長「下着は5もあればいいか?それと、さっきの試着させてた服も合わせて値段出してくれ」
店員「目安ですが、下着が2500ゴールドです」
騎士長「ふむ」
店員「それと、先ほどのお洋服…。お子様の服は"10万ゴールド"になります」
騎士長「わかった10万ゴールドな…って!何っ!?」
店員「10万ゴールドです」
騎士長「じゅ…10万ゴールド!?」
店員「あちらの布には、天然ものの魔物、"アラクネ"が生み出す最高級糸が使われております」
騎士長「は…はぁ…」
店員「いかがなさいますか?」
騎士長「ちょ…ちょっとそれは考え…」
ガラッ!!タタタタタッ…
黒髪幼女「…騎士長」
騎士長「んおっ」
黒髪幼女「服…ぴったりだった。可愛い…似合う…かな?」
騎士長「お、おう!似合うな!すっげえ可愛いぞ!」
黒髪幼女「そ…そうかな?ありがとう…、騎士長」ペコッ
店員「…いかがなさいますか?」
騎士長「…ください」
店員「毎度あり~♪」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
トコトコトコ…
騎士長「よかったな…く、黒髪幼女…」ハハ…
黒髪幼女「顔がなんか引きつってるよ…大丈夫…?」
騎士長「大丈夫大丈夫…それより弁当が出来たか見に行こうか…」
黒髪幼女「うんっ」
…ガチャッ
騎士長「おーい弁当屋~」
弁当屋「おっ、来たな。一応出来てるぞ」
騎士長「お、ありがとよ」
弁当屋「それとこれは…サービスだ。食べ歩き用のテイクアウトは普段やってないんだからな?」
スッ…ホカホカ…
黒髪幼女「ばすぷーさ!!」
弁当屋「祖国の味というわけにはいかないだろうが、だいぶ頑張った。食べてみてくれ」
騎士長「お前、この子が砂漠地方の出だってわかったのか?」
弁当屋「そりゃバスプーサだの、この子の薄く褐色がかった肌…。そして人形のような可愛らしさ」
弁当屋「逆に気づかないほうがおかしいと思うぞ?砂漠地方はアレで有名になった地域だしな…」
騎士長「…奴隷問題、か」
弁当屋「まぁな。ってなわけで、食べながら行けばいいさ。これはサービスだ」
騎士長「…ほら、黒髪幼女。出来立てで熱いから…気をつけて食べるんだぞ」
黒髪幼女「うん…ありがとう、弁当屋のおじさん」
弁当屋「うむ」
騎士長「準備はこれで終わったし、あとは馬車に乗るだけだな!」
弁当屋「気をつけてな」
騎士長「大丈夫だって。それじゃ、な」ハハハ
弁当屋「おう」
騎士長「さて…黒髪幼女。今度こそ、旅の始まりだ!」
黒髪幼女「うんっ」
騎士長「何があるかは分からん。しっかりと俺を信じて…着いて来いよ」
黒髪幼女「うん、わかったっ」
騎士長(さぁて…どんな展開が待ち受けるか!)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
2人は馬車に乗り
幾時間後の間、ユラユラと馬車に揺られて
港へと向かった――…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 港付近の道 】
パカッ…パカッ…
馬車使い「この度も、当王都馬車をお使い頂きましてありがとうございました」
馬車使い「まもなく…南港前ー…南港前ー…」
騎士長「…」パチッ
騎士長「…お、いかん…すっかり寝てた」
黒髪幼女「…」スヤスヤ
騎士長「黒髪幼女、黒髪幼女」
…ユサユサ
黒髪幼女「ん~…」パチッ
騎士長「起こして悪いな。もうすぐ着くぞ」
黒髪幼女「う~…うん…」ムニャッ
騎士長「…黒髪幼女、そこの隙間から外を見てみな」
黒髪幼女「?」
モゾモゾ…シャッ
黒髪幼女「えっ!?」ピクッ
騎士長「ははは、変わった形の木だろ。見たことあるか?」
黒髪幼女「ない…。何か、変な形…」
騎士長「ありゃこの辺が海に近いから、割と強い風が吹くから…それに準じた形になるんだ」
黒髪幼女「へぇ~…ぐにょぐにょ…」
騎士長「"マツ"だかなんだか、忘れたけどな」
黒髪幼女「へ~…」
…キラッ
黒髪幼女「…あの木の隙間から見えるのは…何?何か光ってる」
騎士長「あれが海さ。まだ遠いが、着いたら砂浜もあるだろうし出発まで見に行こう」
黒髪幼女「…凄い大きそう」
騎士長「大きいってもんじゃないさ。まぁ楽しみにしておけ」ハハハ
黒髪幼女「う、うん」
パカッ…パカッ…ズザザ…
馬車使い「え~…南港。南港に到着致します」
馬車使い「到着後、船に乗る方々はチケット売り場からどうぞ~…」
騎士長「おし…降りるぞ」
黒髪幼女「わかった」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 南 港 】
ガヤガヤ…ワイワイ…
黒髪幼女「わぁ~ここも人が多いね」
騎士長「この辺も一応、世界への貿易だの旅人が旅立つ場所だからな」
黒髪幼女「へぇ~…」
騎士長「海を見に行く前に、チケット売り場に行かないとな。えーと…」キョロキョロ
タタタタタッ…ドシンッ!!
騎士長「いてっ!」
男A「ああぁ、申し訳ありません!」
男B「ばか、何してんだ!」
騎士長「ってぇ…前をきちんと見てくれよ」
男A「はい、すいませんでした」
男B「バカなやつなんでね。早く行くぞ!遅れたらどうするんだ!」ダッ
男A「あ、待ってくれよ!」
タッタッタッタッタッタ…
騎士長「…何だあいつら?」
黒髪幼女「なんか急いでたみたいだね」
騎士長「まぁいいや、チケット売り場はこっちだな」
トコトコトコトコ…ピタッ
騎士長「おーい、すいません」
受付「はいどうぞ」
騎士長「砂漠街…砂漠港行きの船に乗りたいんですが」
受付「ただいま、砂漠港行きの船は出航済みです。次の出航は3日後となっています」
騎士長「何だって!?」
受付「申し訳ありません」
騎士長「そ、それなりに急いでるんだが…」
受付「砂漠港に直接往復はしませんが、本日出航するワールドクルージング船なら一時、補給に着港予定とはなっています」
騎士長「…高級船か?」
受付「交易ルートを借りて、高速でかつ快適に海を楽しむツアー船ですので…」
騎士長「一応、砂漠港でも降りられるのか?」
受付「可能ではあります。ですが、本来はそちらの予定ではないので、料金は非常に高くなりますよ」
騎士長「いくらだ?」
受付「乗船料がお一人15万、二等客室が8万、一等客室が15万になります」
騎士長「…」
受付「…」
黒髪幼女「…?」
騎士長「そ、それなら空いてる…か…?」ピクピク
受付「空きはございます。出航は本日…まもなくとなっています」
騎士長「わかった…二人頼む…一等客室でな!」
受付「わかりました。では、今チケットのご用意を致しますね」
黒髪幼女「…騎士長、大丈夫なの?」
騎士長「余裕だ。金だとか、色々なのは余裕なんだが…何か納得いかない展開が多くてな」ハァ
黒髪幼女「…?」
騎士長「はは、気にするな…ん?」
…ザワザワ
騎士長「なんかあっち側騒がしいな」チラッ
男A「…だからっ!」
男B「お前は…!!」
騎士長「あいつらはさっきの…、何騒いでるんだ…?」
黒髪幼女「さっきぶつかった人たちだね」
男A「…わかったよ」コクン
男B「ほら、行くぞ…」ダッ
タタタタタタッ…
騎士長「あ、どっか行った」
黒髪幼女「?」
騎士長「まぁ…気にする必要もあるまい。受付さん準備はできたかい?」
受付「それでは…こちらになります」
ゴソゴソ…スッ
受付「一等客室のご案内になります。ありがとうございました」ペラッ
騎士長「ありがとう。出航まで時間があるって言ってたな?」
受付「少しではありますが、ございます」
騎士長「海はあっち側でいいんだったよな?」
受付「そうですね」
騎士長「ありがとう。よし、黒髪幼女…海見にいくぞ!」ダッ
黒髪幼女「うんっ」ダッ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ザザーン…
黒髪幼女「…!!」
騎士長「いやー、海も久しぶりだな。潮風がいい香りだ」
黒髪幼女「お…お水がいっぱい…!」
騎士長「…ん?」
黒髪幼女「凄い…!!」
騎士長「どうした?…海、初めて見るのか?」
黒髪幼女「うんっ…!」
騎士長「ハハ、なら感動モンだろ。この広い湖は、どこまでもどこまでも繋がってるんだぜ」
黒髪幼女「そうなの!?」
騎士長(おっ、急に元気に食いついてきたな)
黒髪幼女「そうなんだ…、じゃあ私の村にも…繋がってるの?」
騎士長「あぁ、お前のいた大陸へも繋がってる。そして今から、この海を船で渡るんだ」
黒髪幼女「そっかぁ~…」
騎士長「…はは」
黒髪幼女「この少し…変な匂いは何?」ツン
騎士長「それが潮風っつーんだ。そのまんま、塩の匂いさ」
黒髪幼女「何で塩の匂いがするの?」
騎士長「そりゃお前、海が…」ハッ
騎士長「そうだ…黒髪幼女~…」ニタアッ
黒髪幼女「何?」
騎士長「ちょっと、そこの砂浜から…水に指をつけて舐めてみな」
黒髪幼女「飲めるの…?」
騎士長「そんな害のあるもんじゃないさ、少しだけな」
黒髪幼女「わかった」
ザッザッザッザッザ…ストンッ
黒髪幼女「…」ペロッ
騎士長「…」
黒髪幼女「う゛…う゛ぇ゛…!」
騎士長「はっはっはっは!」
黒髪幼女「しょ…しょっぱい…」
騎士長「悪かったな、海っていうのは凄くしょっぱいんだ。塩が溶けてるからな」
黒髪幼女「塩…って、あの塩?」
騎士長「そうだ。お前が普段から口にする塩も、この海から採れるもんなんだぜ?」
黒髪幼女「…何で、塩が海に溶けてるの?」
騎士長「えっ…さ、さぁ…」
黒髪幼女「わからないの?」
騎士長「そ、そこまでは…」
黒髪幼女「…」ウーン
騎士長「そ…そうなるからそうなってるんだよ!」
黒髪幼女「そ、そうなんだ」
騎士長「…おう!」
黒髪幼女「そっかぁ…そうなってるから…そうなんだぁ…」
騎士長(まぁ普通の人はそうそう知らないだろうし、それで良いんだそれで!)ウンウン
…ポォォォォ!!
騎士長「…あ」
黒髪幼女「今の…お船の音?」
騎士長「やべえ、道草食ってたら船に送れちまう!」グイッ
黒髪幼女「わっ」
騎士長「しっかり掴まってろ、走るぞ~っ!」ダッ
黒髪幼女「わかった」ギュー
タッタッタッタッタッタッタッタ…
………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 船の中・一等客室 】
ユラ…ユラユラ…
…バフンッ
騎士長「は~…一息つけた…」
黒髪幼女「お船の中なのに、広いお部屋」
騎士長「一等客室だからな~奮発したんだぞ」
黒髪幼女「いっとうきゃくしつ?」
騎士長「なんだその…凄いお部屋ってことだ」
黒髪幼女「そうなんだ」
騎士長「さっき聞いた話だと…天候にもよるが、早くて明日の夕方には到着するらしい」
黒髪幼女「うん」
騎士長「それまでは暇だな…船ん中色々あるらしいし、あとで探索してみるか?」
黒髪幼女「うん」
騎士長「だがちょっと色々慌ただしくて…疲れた…」フワァ
黒髪幼女「お昼寝する?」
騎士長「少しだけ…寝かせてくれ…」
黒髪幼女「わかった」
騎士長「その辺にお菓子とか、絵本みたいなのもあったから…適当に読んで…」
…ゴロンッ
騎士長「…」スヤッ
黒髪幼女「あ、騎士長?」
騎士長「…」スヤスヤ
黒髪幼女「…寝ちゃった」
黒髪幼女「お菓子…食べていいんだっけ…」
トコトコトコ…カサカサッ
黒髪幼女「…」パクッ
黒髪幼女「…」モグモグ…
黒髪幼女「…甘くて美味しい」ホウッ
黒髪幼女「…」
…コチ、コチ、コチ…
黒髪幼女「…」チラッ
騎士長「…」グーグー
黒髪幼女「…」
黒髪幼女「…」
スクッ…トコトコトコ…
黒髪幼女「こっちには、何があるんだろ」ガチャッ
黒髪幼女「トイレ…」
トコトコトコ…ガチャッ
黒髪幼女「…クローゼットに、お風呂場…」
トコトコトコ…ガチャッ
黒髪幼女「…こっちは廊下。後で騎士長と一緒に行くから部屋にいないと…」
黒髪幼女「あ…窓。海、見えるかな?」
トコトコトコ…
ギ…ギギ…ギィィィ…バタンッ!
黒髪幼女「うーん…窓が高くて見えない…。部屋で私も少し休もうかな…」クルッ
トコトコトコ…グイッ
黒髪幼女「ん、…えっ?」グイッグイッ
黒髪幼女「…あれ?」
黒髪幼女「んん…」ググッ…
黒髪幼女「あ…開かない…」
…カランッ
"オートロック"
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 同時刻・船の中 】
…ゴソゴソ…コソコソ…
男A「な、なぁ本当にやるのか?」
男B「いいじゃねえか、この船にバレずに忍び込めたのも天運だろうがよ」
男A「で、でもよ…」
男B「今更、何ビビってんだ!!」
男A「…だ、だよな…」
男B「簡単だろ、一等客室の奴をせしめて、金を奪うなんざよ!」
男A「でも、そう上手くいくかな。大体、この辺のは警備もガッチリしてるし」
男B「問題はそこなんだよな。オートロックだし、怪しい奴にはドアも開けやしねぇだろ」
男A「やっぱり計画に無理があったんじゃ…」
男B「うるせぇ!とにかく、一等客室には着いたんだ…あとは何かしらのチャンスがー…」
黒髪幼女「あ…開かない…」
男B「あったろ?」
男A「本当に…天運かも」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ゴソゴソ…ムクッ
騎士長「ん~…ふわぁ…」
騎士長「…」ムニャッ
騎士長「黒髪幼女~…待たせたな…。ちょっと、寝すぎたかね」
…シーン
騎士長「あれ?黒髪幼女~…トイレか?」
トコトコトコ…ガチャッ
騎士長「…いない」
トコトコトコ…ガチャッ
騎士長「風呂場にもいない…か。隠れるところは他にないし…」
騎士長「…ま、まさか…」ヒクッ
騎士長「…冗談だろ、外に出たらオートロックだぞ!」
ダダダダッ、ガチャッ!!
騎士長「…っ!」キョロキョロ
騎士長「いない、どこかに行ったのか!?」
騎士長「くっそ…何てこった!と、とりあえずロビーに!」ダッ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 客室ロビー 】
ダッ…ダダッ…
サポーター「…むっ」ピクッ
ダダダダダッ!!!
騎士長「うおおおおっ!」
ズザザザァ…!
サポーター「…、お客様。お走りにならないようにお願いします」
騎士長「はぁ、はぁ…。き、聞きたいことがある!」
サポーター「何でしょうか」
騎士長「このくらいの女の子…黒髪の薄ら褐色掛かった肌の子だ。見なかったか!?」
サポーター「迷子ですか?お預かりはしていませんが」
騎士長「そうか…クソッ!どこに行ったんだ!」
サポーター「船内放送で呼び掛けましょうか?」
騎士長「あぁ、頼む」
サポーター「わかりました、それでは」クルッ
騎士長「…」
騎士長「いや、待て!」ガシッ
サポーター「…はい?」
騎士長「もしこれが、万が一の事だったら困る!まだ呼びかけないでくれるか?」
サポーター「は、はぁ…」
騎士長「呼びかけるときは、もう1度来るから…それまではまだ呼びかけないでおいてくれ」
サポーター「か、かしこまりました」
騎士長「くっそ、黒髪幼女のやつ…どこ行ったんだ…甲板か…?」ダッ
ダダダダダッ…
サポーター「あっ、お客様!お走りにならないように…!」
サポーター「って、行ってしまわれたか…。はぁ…全く、最近のお客様はマナーの欠如がひどいですな」
トコトコ…
お客「…あの、お取込み中のようでしたが…ちょっといいですか」
サポーター「…はい、どうしましたか?」
お客「ちょっと、不審なお客が…」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
…ザザーン…ヒュウウッ…
騎士長「…甲板、廊下、物販所、2階から1階、最上階…どこにもいねぇ!!」
騎士長「あとは客室だが…まさか一部屋一部屋開ける訳にも…」
騎士長「クッソ…!!」
ピーンポーン…
サポーター"「事務局よりお知らせ致します」"
サポーター"「先程、迷子を捜しにいらっしゃった方、おりましたら客室ロビーまでお越しください」"
騎士長「あ…?」
騎士長「俺のことか…?つーか、あれほどアナウンスかけるなっつったのによ…」
騎士長「っち…仕方ねぇ、見つかったのかもしれんし…」ダッ
ダダダダッ…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
…ガチャッ!!
騎士長「呼んだか?俺のことだろう」
サポーター「あ、いらっしゃいました。こちらのお客が、不審な人物を見たということで…」
騎士長「ん?」
お客「どうも」
騎士長「ど、どうも」
お客「一等客室の廊下で、1時間くらい前に…不審な人を見かけまして」
騎士長「不審な人だと?」
お客「乗る人数も少ないですし、大体は把握してるつもりだったんですが」
お客「その中で、どうも動きが怪しいというか…そういう人がいたんですよ」
騎士長「ふむ」
お客「それで、一応ご報告に…と」
騎士長「一等客室の…どのへんだ?」
お客「船頭側ですね」
騎士長「…俺の部屋の近くだ。そいつらに、女の子とか着いてなかったか?」
お客「いえ、ただの二人組みでしたよ。あ~…でも…」
騎士長「何だ?」
お客「"でっかい袋"を、男の1人が担いでましたよ」
騎士長「…何だと!」
お客「クリーム色のでっかいやつ…どっかで見たことある袋だったんだけどなぁ~…」
騎士長「思い出してくれ!もしかしたら、その中に俺の連れがいるかもしれないんだ!」グイッ
お客「むぐぐっ…!」
サポーター「ちょ、ちょっと落ち着いてください!」
騎士長「む…すまん…」
お客「ごほごほっ…!まってくださいよ…えーと…」
騎士長「…っ」
お客「どこで見たんだっけかなぁ…えーと…ん~…」
騎士長「そ、そもそもクリーム色の袋ってどんなのか想像がつかんがな…」
サポーター「…あぁ、それに似てるのならありますよ」
サポーター「クリーム色の袋だったら、例えばああいうのとかですよ」チラッ
騎士長「部屋の隅っこにあるのも確かにクリーム色とはいえるな」
お客「ん…?あ、あれだー!!」
サポーター「えぇっ!?」
お客「色っていうか、あの袋ですよ!」
サポーター「ですがあれは、船のメンテナンスやらに積む袋ですよ?」
お客「で、でもあれですよ。見たんだ間違いない!」
騎士長「…サポートさん」
サポーター「はい?」
騎士長「この袋は、普通…どこに置いてあるんだ?」
サポーター「船の動力源の、カラクリ整備室…ですが…」
………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 整備室 】
…ゴウン!ゴウン!
男A「整備室、うるさいね」
男B「でっけぇカラクリでこの船は動いてるからな。ま…いい隠れ家だろう。ほとんど人がこないしな」
男A「確かにいい案だとは思うけど」
男B「それより…袋、開けてみろ」
男A「あ、わかった」
ゴソゴソ…
黒髪幼女「…」ブルブル
男A「しっかり入ってるよ」
男B「ははははっ!天運、まさに俺らに有りだな」
男A「可愛い子だよね。どこの出身なんだろう」
男B「そりゃ砂漠地方の出だな。その種族の女自体に、すげー値打ちもあるんだぜ」
男A「そうなんだ。本当に…人形みたいだしね」
男B「まぁ、だからこそ砂漠地方で奴隷の売買が禁止されたんだけどな」
男A「どういうこと?」
男B「金持ち共が、その出身の美しい女や、子供、若い男性問わず奴隷狩りを行ってな。社会問題になったんだ」
男B「それを重く見た政府が、警備体制を固めて、発見次第重罰に処する法を打ち出したワケ」
男A「なるほど…じゃあ、俺らは結構やばいことやってるんじゃ…」
男B「誘拐した時点でやべぇな。だが、禁止されたことでその奴隷の価値は数百倍に値上がった」
男A「数百倍!?」
男B「覚えてるだけで末端価格は数千万ゴールドだ。それに…見ろ」グイッ
黒髪幼女「…っ」
男B「俺だって分かる。こいつぁ高くつくぜ…」ニタッ
男A「…ちょっと待って!俺ら、奴隷狩りしに来たわけじゃないでしょ!」
男B「あぁ…本当なら誘拐して金をせしめようとしたけど、やっぱり止めた」ニタッ
男A「えっ…まさか…」
男B「そいつを売った方が高いぜ。明日の夕方まで、ここで隠れてればわかりゃしないさ」
男A「で、でも…」
黒髪幼女(ま…また、奴隷に…なるの…?)
男B「何ビビってんだよ!!今更だろうが!」
男A「そ、そりゃそうだけど…」
黒髪幼女(嫌だ…もう、鞭で叩かれるのは…。殴られるのは…!)
男B「俺について来いよ。儲け話は尽きねぇぜ?」カカカ
黒髪幼女「…だ」
男B「…あ?」
黒髪幼女「嫌だっ!!もう、あそこには戻りたくないっっ!!!」
男B「!!」
男A「えっ!?」
黒髪幼女「騎士長…どこ!お父さん…どこなの…助けてよぉ!!」
男B「や、やべぇ…黙らせろ!!」
男A「ど…どうやって!?」
男B「その辺の縄とかで、口と両手…縛り上げろ!」
男A「わ、わかった!」
グイッ…グルグルッ…
黒髪幼女「いや…だぁ…」グスッ
男A「ちょっとだけでいいから、静かにしててね…」
黒髪幼女「う゛ぅ゛…」ムググ…
男A「ふぅ…びっくりした」
男B「…」ジッ
男A「…どうしたの?」
男B「ちょっと、お前に聞きたい事がある。首を振って答えろ」スッ
黒髪幼女「…っ」
男B「お前、さっき"戻りたくない"って言ったな。まさか…元、奴隷か?」
黒髪幼女「…」
男B「答えろっつってんだよ!」グイッ!
黒髪幼女「…」
男B「…無視か。無視なら無視なりに…無理やりでも分かる方法もあるんだが」
男A「ど、どうするの?」
男B「背中こっちに向かせるようにして、地面に倒せ」
男A「わ、わかった」
グイッ…ドサッ!
黒髪幼女「むぐっ!」
男B「…」
ビリッ…ビリビリビリッ!!
黒髪幼女「!」
男A「ちょっ、何してるの!」
男B「…やっぱり奴隷じゃねえか。っち…値下がるなこりゃ」
男A「え?どうしてわかるのさ」
男B「背中の傷だ。見ろ。これは鞭の傷跡だ」
男A「あ…」
黒髪幼女「…う…うぅ…」
男B「傷薬が塗ってあるか…、よっぽど大事にされる人間に"飼われた"らしいな」
男A「買われたって…」
男B「買われたじゃねえ、飼われただ」
男A「飼われた?」
男B「そうだ。よっぽどな物好きが、高値で買って一等客室で遊んでたんじゃないのか?」ハハハ!
男A「な、なるほど…こんな、いたいけな子を…」
男B「奴隷の存在意義なんて、女も、子供も全部そんなもんだ。若い男は主に労働用だがな」
男A「ま、まぁそうだけど…」
黒髪幼女(騎士長に買ってもらった…お洋服が…)グスッ…
男B「あ?何で泣いてるんだ」
男A「そりゃ、俺らが怖いからでしょう」
男B「今まで色々されてきたくせに、まだメンタルは弱いらしいな」ハハハ
男A「そりゃ子供だし…」
男B「だがまぁ…これでちょっと楽しめるな」ニヤ
男A「どういうこと?」
男B「俺らも遊ばせてもらおうぜ」
男A「え…」
黒髪幼女「…」グスグスッ…
男A「遊ぶって…」
男B「たまには趣向を変えてどうだ?どうせ何度も遊ばれてるんだろうよ」
男A「で、でもさ!」
男B「明日の夕方まで船はつかねぇ、目の前に遊び道具があるのに遊ばないで暇もつぶせないだろう」
男A「そ…そういうことじゃなくて…」
男B「まぁ、お前がやらないなら俺が遊ぶ。お前は見張りでもやってろ」
男A「…俺は遠慮しとくよ。見張りに回る」
男B「ちっ、根性なしめ。だがここじゃ声も漏れる。もう少し奥に運んでから…楽しく遊ぼうぜ…砂漠の子よ」ニタァ…
グイッ…トコトコ…
黒髪幼女「むぐ…むぐぅ~…!」ポロポロ
男B「別に泣く事じゃないだろうが。さ~て、どうやって遊ぼうかね~」ハハハハ
カツーンカツーン…カツーン…
………
…
男A「…はぁ」
男A「あの男の口車に乗せられて、加担はしたけどどうにも馬が合わないや…」
男A「お金を受け取ったらドロンして、新しい人生を歩もう…」
タッタッタッタ…ガヤガヤ…
男A「って…おや?外がやけに騒がしい…整備室の前に誰かいるのかなー…」
…ダァンッ!!!!ドゴォンッ!!
男A「ぬがっ!!」
騎士長「うおらああっ!!ココが整備室かコラァ!!」ハァハァ
サポーター「そうですが、こんなところに人なんか…」ハッ
男A「」グデン
騎士長「いたようだな。…こいつは、船員か?」
サポーター「いえ、見たことないですが…」
お客「そ、そいつですよ!さっき言ってた男!あと一人いるはずですが…」
騎士長「って事はビンゴだったか。奥にいやがるのか…?」ダッ
サポーター「あ、一人じゃ危険ですよ!」
騎士長「心配すんな!俺は王国のエース戦士、きし…元騎士長だ!」
サポーター「は…はぁ…」
騎士長「…っと、これは…」ズザザ…スッ
騎士長「黒髪幼女にプレゼントした服の切れ端じゃねえか…」
騎士長「…急がねえと、やべぇな…」ダッ!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ダダダダダダッ…
騎士長「くっそ、どこだ…。無駄に整備室も広くしやがって…!」
騎士長「…」キョロキョロ
騎士長「…むっ」ピクッ
男B「…」
黒髪幼女「…」
騎士長「いやがった…!黒髪幼女もまだ無事のようだな…よかった…」ハァハァ
騎士長「だけど…あんな下に…。遠すぎて道がわかんねぇ!くそ…どうするか…」
タタタタッ…ドテッ!!
サポーター「あいたっ!はぁ…はぁ…、騎士長さん…早いですよ…」
騎士長「いいところに。おい、あそこのでっけぇパイプの下の通路に、うちの連れと犯人がいるんだが、どうしたら行ける!?」
サポーター「あそこまではこの通路じゃ無理ですよ。戻って、別の通路を行かないと」
騎士長「…それじゃ、だめだ!」
サポーター「で、ですが…」
男B「…」ニタッ
黒髪幼女「…っ!」
騎士長「くそが…えぇい!なるように…なる!!」グッ
サポーター「え…ちょ、ちょっと!!」
ダッ…ダダダダダダダッ!!タァンッ……!!
サポーター「と、飛んだー!?」
男B「ははは…さぁて…」コキコキ
黒髪幼女(殴られる訳じゃないの…何するの…)ブンブン
男B「何、暴れているんだ。俺にも少し遊ばせてくれって事だろうがよ!」
黒髪幼女「?…??」
男B「さてと…楽しく遊ぼうか!」
ヒュウウウウウッ…
黒髪幼女「!」
騎士長「黒髪幼女ぉぉぉぉっ!!」
男B「ん?」チラッ
騎士長「ふんっ!!」ブンッ
…バキィッ!!!!…ドゴォン!!!
男B「ぐがっ!!」
ガコォン!!…ドシャアッ…
騎士長「っしゃあ!!」
ズザザザザ…クルクル…
騎士長「っと、あら…あららら…」
ドゴォン!!…パラパラ…
騎士長「あいてて…ててて…着地失敗…」
黒髪幼女「…むぐっ…!」
騎士長「おっと…黒髪幼女!」ダッ
騎士長「…縄で縛られてひでぇ事するぜ…」
タタタタッ…ギュッギュッ…
騎士長「よし…これで大丈夫だ。しゃべれるか?」
黒髪幼女「き…騎士長…」
騎士長「…すまなかったな。俺のせいで、こんな目に…」
黒髪幼女「騎士長っ!!」ダッ
ギュウウウッ…
騎士長「…」
黒髪幼女「うぅ…うううう…」ポロポロ
騎士長「本当に…悪かった」
騎士長(何もされちゃいないようか…良かった…本当に)
タッタッタッタッ…
サポーター「はぁ…はぁ…」
騎士長「おせぇぞ」
サポーター「貴方がおかしすぎるんですっ!」
騎士長「はは、そうか。つーか…これは一応さ、そっち側の不祥事…だよな?」
騎士長「確かに目を離してはしまったが、予定外の人を乗船させた罪は重いぞ」
サポーター「う…」
騎士長「それ相応のこと…頼んだからな」
サポーター「は、はい…。あと上司に相談致しますので、何卒内密に…」
騎士長「さあ~な。それは君たち次第…と、一ついいか?」
サポーター「は、はい」
騎士長「あとで、子供用の服…俺らの部屋までもってこいよ」
サポーター「かしこまりました…」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 騎士長の客室 】
ジャー…ゴシゴシ…
黒髪幼女「…」
騎士長「…ったく、本当に悪かったな。泥だらけになっちまって…体、しっかり洗おうな」
黒髪幼女「…」コクン
騎士長「…」
ジャアア…
騎士長(くそっ…いい感じに打ち解けてきたと思ってたのに…)
騎士長(これからって時に、こんな事…。俺せいだ…、何をやってるんだ俺は…!)
ゴシゴシ…!
黒髪幼女「き…騎士長、痛い…」
騎士長「あ、あぁ…すまん…」
黒髪幼女「…」
騎士長「…」
黒髪幼女「…騎士長」
騎士長「な…なんだ…?」
黒髪幼女「迷惑かけて…ごめんなさい…」
騎士長「…お前が謝る事じゃない。悪いのはあいつらなんだから」
黒髪幼女「でも、私が一人で外に出なかったら…こんなことに…」
騎士長「そ、それは…」
黒髪幼女「それと…お…お、洋服…ごめんなさい…」ブルッ
騎士長「えっ?」
黒髪幼女「折角買ってくれた…褒めてくれた…お洋服…破かれちゃった…」
騎士長「よ…洋服…?」
黒髪幼女「うん…」グスッ
騎士長「まさか…服を破かれた事も、怒ってるとか思ってたのか?」
黒髪幼女「う…うん…。それに…色々…」ポロッ…
騎士長「…」
黒髪幼女「あう、う…うぇぇん…。ごめんなさい…ごめんなさい…」ポロポロ
騎士長「…黒髪幼女」
黒髪幼女「…」グスグス
騎士長「俺はそんな事は気にしないし、迷惑だなんて思っちゃいないさ」
黒髪幼女「…」
騎士長「それより、可愛い顔が台無しだ。ほれっ!」ジャバッ
黒髪幼女「あうっ」バシャッ
騎士長「どんだけお前はいい子なんだよ!」ハハハ
黒髪幼女「き…騎士長?笑ってるの?」
騎士長「あぁ。俺は何も気にしちゃいないって言っただろ?」
黒髪幼女「で、でも…」
騎士長「あとで、船の中にレストランがあるらしいし…チョコレートパフェがあるかもしれんぞ!?」
黒髪幼女「…」
騎士長「一緒に食べようぜ。甘いモン食って、海眺めて…な?」
黒髪幼女「…」コクン
騎士長「はははっ!それでいいさ」
騎士長「だから…俺からは離れるなよ。俺も、お前を守ってやるからな」
黒髪幼女「…うん」
騎士長「よっしゃ、じゃあさっさと体も頭も洗って…船を冒険だ!」
黒髪幼女「冒険…?」
騎士長「そうさ。俺とおまえで、小さなパーティを組んで…船に宝物がないか探索しようじゃないか!」
黒髪幼女「宝物…!」
騎士長「ほら、ワクワクするだろ!早くしないと、誰かに宝が取られちまうかもしれん!」
黒髪幼女「!」
騎士長「目をつむるんだ!黒髪幼女隊員、頭からしっかりと洗って戦いに備えるぞ!」
黒髪幼女「う、うんっ」
…ジャアアッ!ザバァンッ!
騎士長(…どうしたもんか)ハァ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 1時間後 】
サポーター「本当に、失礼致しました。今回の事、今後の課題として重く見させて頂きます」
重役「本当に申し訳ありませんでしたっ!」
騎士長「いいよ。で、俺が言ってたのは?」
サポーター「お連れ様の服…でしたよね。当船内のショップにある、サイズ…すべてご用意させて頂きました」
サポーター「…入ってください」
ガチャッ…
店員「こちらでございます。お好きな物を、お好きな数だけ…」
パァァァッ…!!
黒髪幼女「!」
騎士長「…へぇ。黒髪幼女、好きな服、好きなだけ取っていいってさ」
黒髪幼女「い…いいの?」
騎士長「あぁ。好きなモン全部取っていい。全部貰って、あとから何着るか考えるか?」ハハ
黒髪幼女「ま、待って。ちょっと見てみる」
トトトト…
騎士長「はは、やっぱり女の子だね」
サポーター「お気に召すのがあればいいんですが」
黒髪幼女「…」キョロキョロ
…スッ
黒髪幼女「…」パサッ
トトトト…スッ
黒髪幼女「…」スッ
黒髪幼女「…」パサッ
騎士長「どうだ?気に入るのはありそうか?」
黒髪幼女「…」キョロキョロ
騎士長「欲しくなりそうなのあったら、全部キープしといてもいいんだぞ~」
黒髪幼女「え…えっとね…」
騎士長「…」
黒髪幼女「あっ」
騎士長「お?あったか?」
タタタタタッ…スッ
黒髪幼女「…これがいい」
騎士長「…へ?」
サポーター「え?」
重役「え?」
店員「そ、それでございますか…?」
黒髪幼女「うん」
騎士長「何でそんな一番地味目な…」
黒髪幼女「…騎士長が買ってくれた服に、一番似てるから」
騎士長「何?」
黒髪幼女「だから…これがいい」
騎士長「…ははっ」
黒髪幼女「…ダメ?」
サポーター「し、しかし。自分たちとしては全部渡すつもりで…」
重役「そ…そうです。受け取ってもらっても宜しいのですよ?」
騎士長「こいつがいいって言ってるんだから、これでいい」
重役「左様でございますか…」
黒髪幼女「♪」
騎士長「じゃあ、みんな…撤収撤収!俺らはあと、船の冒険やらをするんだからな!」グイッグイッ
重役「おとと…、ちょ、ちょっと退散する前に…もう1つお話がありまして!」
騎士長「何だ?」
重役「これだけでは自分たちの気が済みませんので…」
騎士長「まだ何かしてくれるのか?」
重役「本船内に1つだけのVIPルームへの案内と、そのルームコースのお食事のご用意…させて頂きます」ペコッ
騎士長「…へぇ、案内してもらおうか」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 VIPルーム 】
重役「…こちらでございます」
ギィィ…
黒髪幼女「!!」
騎士長「おぉ…」
黒髪幼女「水槽にお魚が泳いでる…お菓子がいっぱい…!」
騎士長「黒の調和で、いかにもVIPらしい部屋だな」
重役「お気に召しましたら、非常に嬉しく思います」
騎士長「うんむ」
重役「それと…こちらを…」ペラッ
騎士長「何だこれは」
重役「我がワールドボートグループの、VIPルーム3年分の無料ご優待チケットです…」
騎士長「いいのか?」
重役「…何卒、ご内密にお願いします…っ」ペコッ
騎士長「有り難く受け取っておくよ。別に口外する気はないしな」
重役「誠に…感謝致します…」
騎士長「あとで、料理も運んでくれ。えーと…今は何時だ?」
重役「17時前になります」
騎士長「甲板から夕陽は綺麗に見えるか?」
重役「そりゃもちろん!」
騎士長「飲み物を2つ。甲板に頼む」
重役「…わかりました」ペコッ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ボォォォッ!!ザバァン!!
…ミャア、ミャア…ミャア…
黒髪幼女「わぁ~!」
騎士長「うおぉ、何て綺麗な夕焼けだ…。地平線にまるで絵が描いてあるようだ…」
黒髪幼女「凄い…」
騎士長「ほれ、黒髪幼女」
黒髪幼女「…ジュース?」
騎士長「俺のはワインだがな。夕焼けを見ながら、のんびり休もうか」
黒髪幼女「うんっ」
騎士長「そこの椅子に座って、海でも眺めてようぜ」
トコトコトコ…ストンッ
黒髪幼女「…」クピッ
黒髪幼女「ジュース、美味しい…」
騎士長「花より団子かお前は」
黒髪幼女「?」
騎士長「ははは、子供だもんな」
黒髪幼女「??」
騎士長「お前が少しでも楽しけりゃ、それでいいさ」
黒髪幼女「うん…ありがとう、騎士長」
…ザバァンッ…サァァッ…
騎士長「…」
黒髪幼女「…」
騎士長「…そういや、黒髪幼女」
黒髪幼女「何?」
騎士長「ずっと聞かなかったが…、お前、母さんはいるのか?」
黒髪幼女「ううん。会ったことないよ」
騎士長「会った事がない?」
黒髪幼女「うん。私が小さい頃に、死んじゃったんだって」
騎士長「…そうか、悪い事を聞いた」
黒髪幼女「何で謝るの?」
騎士長「いや…そりゃ…」
黒髪幼女「私は気にしてないよ。なるようになったから…そうなったんでしょ?」
騎士長「へ?」
黒髪幼女「騎士長の口癖」
騎士長「…そう、だが」
黒髪幼女「いいんだ。いいの…」
騎士長「…」
黒髪幼女「…」
騎士長「…よしっ。黒髪幼女、あとは中で豪華なディナーといこうか!?」
黒髪幼女「豪華なディナー?」
騎士長「そうだ、美味いものいっぱいあるぞ!」
黒髪幼女「!」
騎士長「さぁ、食べたら今度こそ冒険だ!行くぞぉ!」
黒髪幼女「あ、待って!」
タッタッタッタッタッ…
…………
……
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 夜 】
スヤスヤ…
黒髪幼女「…」
騎士長「…」
…ムクッ
騎士長「…」ハァ
トコトコトコ…キュッキュッ…グビッ
騎士長「…ぷはっ」
騎士長(…)
騎士長(今日の事は、俺の人生の中で最も恥じるべきだろうな)
騎士長(だけど、改めて分かった。俺一人という限界が…)チラッ
黒髪幼女「…」クゥクゥ
騎士長(助けられて、本当に良かった。もしもの事があったら…一生の傷になったな)
騎士長(俺にとっても、お前にとっても…)
黒髪幼女「むにゃ…」
モゾモゾ…
騎士長「…」
トコトコ…パサッ
騎士長「風邪、ひくぞ」
黒髪幼女「んん…」
黒髪幼女「…」スヤスヤ
騎士長「…もう一杯だけ水を飲んで寝るか」
トコトコトコ…グビグビッ…
黒髪幼女「…」
黒髪幼女「…あれ」パチッ
騎士長「…お?」
黒髪幼女「…騎士長?どこ…?」ムクッ
騎士長「あ、あぁすまん。ちょっと水飲んでたんだ」
黒髪幼女「そこにいたんだぁ…」
騎士長「いるぞ、どうした…大丈夫か?」
黒髪幼女「うん…」ムニャッ
騎士長「起こして悪かったな、寝ようか」
黒髪幼女「…うん」スヤッ
スヤスヤ…
騎士長(俺も、色々と疲れてきた。ほんの少しの…楽しみとか、ないもんかな…)
騎士長(でも今は…とにかく…黒髪幼女を…)
騎士長(…まも…って…)
………
……
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
それから、船は順調に航海を続けた。
予定外の天候の悪化で、多少の遅れになったものの
無事に砂漠港へと着港し―…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 砂漠港 】
ザッバァン…!!ザザーン…
騎士長「足元気をつけろよ」
黒髪幼女「うん」
ユラユラ…ストンッ
騎士長「やっと…、砂漠港についたぁぁ!」
黒髪幼女「ここが…砂漠地方の港なんだ」
騎士長「あぁ。お前の村も近いぞ」
黒髪幼女「…」
ジリジリジリ…
騎士長「そして…暑いな」タラッ
黒髪幼女「今日は涼しいほう」
騎士長「…うそだろ?」
黒髪幼女「まだまだ暑くなるよ。午前中だし、まだお日様も強くないから」
騎士長「…」
黒髪幼女「?」
騎士長「水だとか、この辺でしっかり備蓄して村を目指したほうがよさそうだな」
黒髪幼女「大事だと思う。村でも、たまに、その…倒れちゃう人がいたから…」
騎士長「地元の人間でもやられるのか。本気で気をつけないと危ないか」
黒髪幼女「うん」
騎士長「…さて、どうするかな。ここからどう行けばいいのやら」キョロキョロ
黒髪幼女「…普通ならラクダの乗り場があると思う」
騎士長「ラクダの乗り場?」
黒髪幼女「少し前に乗った、馬車みたいなやつ」
騎士長「へぇ、そんなのがあるのか」
黒髪幼女「少し遠いけど、あっち側にある旗…見える?」
騎士長「青とか、緑とか…随分遠くまで立ってるな」
黒髪幼女「あれがそれぞれの村とか町につながってる道標」
騎士長「…確かに、アレがなかったら砂漠で道に迷いそうだ」
黒髪幼女「あとやっぱり…ラクダを借りないと、遠くに行くときは倒れちゃうから…」
騎士長「港だし、乗り場ならあるだろ…適当に探すか。こっちとか行ってみようぜ」
黒髪幼女「うん」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
トコトコトコ…ピタッ
黒髪幼女「…あ、騎士長。ここ」
騎士長「看板に"ラクダステーション"…ここか!!雰囲気とか、王都でいう馬車乗り場にそっくりだな!」
騎士長「だけど…お客は少ないな。やっぱりこの辺はそんな旅人もいないのかねェ」
黒髪幼女「そうなのかな?」
騎士長「入りたいけど、なんか静かすぎて不安になるんだが…どうするかな」
…ガラッ
騎士長「お、ドアが勝手に開いた…」
ラクダ商人「いらっしゃい。人影が見えたから顔出ししたが…客かね?」ヌッ
騎士長「ま、まぁそうかな」
ラクダ商人「どこまでの希望だい?それによって貸し出し賃も変わるよ」
騎士長「随分とサクサク話が進むな」
ラクダ商人「そのほうが良いだろう?」
騎士長「そりゃそうなんだが…忙しいのか?」
ラクダ商人「忙しいように見えるか?」
騎士長「…見えないな」
ラクダ商人「単にせっかちなだけさ。早く、行き先を言いなよ」
騎士長「あ、えーと…黒髪幼女。お前の住んでた村の名前はなんだっけか」
黒髪幼女「砂漠地方村」
騎士長「だってさ、いくらだ?」
ラクダ商人「…へぇ、珍しい所に行くね。そんなお客…久しぶりだよ」
騎士長「久しぶりだって?やっぱり、地方だと行く人も少ないのか」
ラクダ商人「だねぇ。それに、あんまオープンな村じゃないんだよそこは」
騎士長「…どういうことだ?」
ラクダ商人「…まぁ、あまり気にしなくていいさ」
騎士長「気になるような言い方じゃないか。あんたも、この砂漠で長いんだろ?聞かせてくれよ」
ラクダ商人「別に面白い話じゃないしな。それに俺は他の出身者は嫌いなんだよ」
騎士長「ハッキリ言いやがるな…。情報はあって損はしないんだ。教えてくれ」
ラクダ商人「…ラクダは貸す。それ以外は話すことはない」
騎士長「…」
ゴソゴソ…スッ…キラッ
騎士長「王都の純正の金貨だ。…どうだ?」
ラクダ商人「…中に入りな。知ってる事しか話せないが、ちょっとした話になる」クイッ
騎士長「すまないな」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
…トンッ
ラクダ商人「冷たいお茶だ。お嬢ちゃんにはジュースでいいな」
騎士長「…」
黒髪幼女「ありがとう」
ラクダ商人「で…何について聞きたいんだったかな」
騎士長「さっき言ってた、砂漠地方村がオープンじゃない村ってことだ」
ラクダ商人「あぁ…そうだった」
騎士長「知ってる情報によっては、まだ"積む"からな」
ラクダ商人「…あそこの村が出来たのは今から数十年前」
ラクダ商人「まだ、街とかの概念がなかった…当時の俺らがまだ移牧民だった頃だ」
騎士長「昔は移牧民だったのか?…定住につかなかったってことだよな」
ラクダ商人「つかなかったんじゃなく、つけなかったんだ。砂嵐がひどくてなぁ」
騎士長「なるほど。それで?」
ラクダ商人「やがて、外部の技術が入ってきて、砂嵐に対抗しうる術を得た我々は…」
ラクダ商人「小さな、町、村、そして都市となる砂漠街を作り上げた」
騎士長「じゃあ、砂漠地方村もその1つだったのか」
ラクダ商人「そうだ。だが、あそこはちょっと変わっていてな…」
騎士長「何がだ?」
ラクダ商人「その村は、王都王国から来た人間によって作り上げられた村なんだよ」
騎士長「え…?全部、王都やら他の国の技術が入ってきたから、全部そうなんじゃないのか?」
ラクダ商人「…あぁ、言い方が悪かった」
ラクダ商人「"技術の譲渡"だけじゃなくて、"その王都出身の人間自身"が自ら作り上げた村なんだ」
騎士長「…どういうことかね。意味が分からないぞ」
ラクダ商人「他の町村は、都市の砂漠街以外、技術を会得した地元の人間が伝えるのが普通だった」
ラクダ商人「だが…その地方村に限り、王都の人間が直接"村民と取引"をして、全て直接指南したらしい」
騎士長「…何だ、その取引っていうのは」
ラクダ商人「さぁな。さすがにそこまでは知らねぇよ」
騎士長「それがオープンじゃない村の所以か?」
ラクダ商人「俺らにとってオープンじゃないって事さ。それから、余りにも遠い場所にある村だから関わり合いも少なくなったしな」
騎士長「…へぇ」
ラクダ商人「たまに、その王都の人間がこの港に遊びに来てたのも見たことある」
騎士長「そうなのか。どんな奴なんだ?」
ラクダ商人「見たまんま"いい奴"なオーラが出てるような人間だった。最近は全然見ないんだが…」
騎士長「…」
黒髪幼女「…」
ラクダ商人「ま、俺が知ってるのはその程度…。で、どうする?」
騎士長「ん?」
ラクダ商人「行くなら、ラクダ…用意するぞ」
騎士長「…当たり前だ。一番最高なのを用意してくれ」ニカッ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
…グイッ、グイッ!!
ラクダ『ブルルッ…』
騎士長「うおっ!?でっか!」
ラクダ商人「うちで、一番早くて乗り心地のいい奴だ。値段は張るぜ」
騎士長「…」ピンッ
クルクルクル…パシッ!
ラクダ商人「…毎度」ニカッ
騎士長「商魂逞しい奴だぜ」
ヨジヨジ…
黒髪幼女「…よいしょっ」
ギュッギュッ…ストンッ
騎士長「おぉ!?黒髪幼女、一人で上まで登れるのか」
黒髪幼女「うん」
ラクダ商人「はっはっは、地元の人間ならそうさ。その女の子も地元の子だろう?」
騎士長「ま…そうだ。じゃあ、えーと…道はどこに行けばいい?」
ラクダ商人「こっち側の点々と設置してる赤い旗伝いに行けば着くようになってる」
ラクダ商人「それをラクダも理解してるから、寝てても目覚めれば地方村さ」
騎士長「じゃあ任せていいっていうことなんだな」
ラクダ商人「あぁ」
騎士長「…じゃ、出発するか」
ラクダ商人「お、おいおい!…ちょい待ち、あんたら食料や水は?」
騎士長「あ~そうか。はっはっは…危ねぇ!備蓄分をしっかり買ってから行かないと死んじまうよな」
ラクダ商人「くかか…だと思ったよ。横に結んであるのが水と食料だ。サービスさ」
騎士長「…わざわざ?」
ラクダ商人「商魂たくましいっていうのは、商人として上手いからこそだぜ?」
ラクダ商人「今後とも、ごひいきに」ニヤッ
騎士長「…全く、次も是非利用させてもらうさ。じゃ、今度こそ…」
騎士長「出発だ!」
黒髪幼女「うんっ」
ラクダ商人「お気をつけて…」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ジリジリジリ…パカッ、パカッ…
騎士長「あちぃ…」ダラダラ
黒髪幼女「~♪」
騎士長「随分と余裕そうですね、黒髪幼女サン…」
黒髪幼女「全然辛くないよ」
騎士長「そ、そうですか…」ハァ
黒髪幼女「やっぱり、こういうほうが見慣れてるし…」
騎士長「一面の砂とか、遠くに起こってる砂埃…熱い太陽とかか?」
黒髪幼女「うん」
騎士長「地元の人間にはかなわねーや…ハハ」
黒髪幼女「…」
騎士長「…」
黒髪幼女「…」
パカッ…パカッ…パカッ…
騎士長「ん~…黒髪幼女」
黒髪幼女「?」
騎士長「しばらく時間はあるし、何か俺に聞きたいこととか、話をしたいこととかあったら言っていいぞ」
黒髪幼女「聞きたいこと?」
騎士長「俺はお前に色々聞いたけど、お前は俺に何も聞いてないだろう?」
黒髪幼女「…」
騎士長「お話して、もっと仲良くなる大作戦だ。あ…言ったら意味ないか」
黒髪幼女「!」
騎士長「どうだ?何でもいいぞ」
黒髪幼女「ん~…じゃあ、何で騎士長は騎士長なの?」
騎士長「…いきなり核心をつくような質問だな」
黒髪幼女「何でもいいって言ったから…」
騎士長「ははは、そりゃそうか。えーとな…、魔物っていうのは知ってるか?」
黒髪幼女「うん。昔からいる、人に悪いことをするやつだよね」
騎士長「そうだ。最近じゃ、王国王都を筆頭にして各巨大国家の戦士育成とかで、随分と対策も進んでるんだが…」
黒髪幼女「うん」
騎士長「やっぱり黒髪幼女のような村を含む、地方に散らばる小さな町村には対抗する力がないんだ」
黒髪幼女「…うん」
騎士長「もちろん、魔物だけじゃなくて盗賊だの…その、奴隷商人だのと言った人が人に害を与える奴への影響もな」
黒髪幼女「…」
騎士長「俺は、そんな奴らに苦しんでる人達を助けたくて王宮騎士へと入った。元々親がいなかったからさ」
黒髪幼女「えっ、親がいない…?」
騎士長「そう。両親は共に、代々王宮に仕える立派な兵士だったらしいんだが…」
黒髪幼女「…」
騎士長「俺を生んで、遠征討伐に行ったまま…帰ってこなかった。本来なら孤児院に送られるはずだったらしいんだけど…」
騎士長「先代の王が、王宮で育てる事を決意してくれたんだと。そこからは俺もずっと王宮に仕えてきた」
黒髪幼女「そうだったんだ…」
騎士長「記憶はないし、先代のことも知らない。親も知らない。だけど、育ててくれた王宮に恩がある」
騎士長「だから一生懸命働いた。そして、俺のような魔物や賊による子供を二度と出したくないと思った」
騎士長「王室育ちで温い奴が…と思うかもしれないが、少なくとも親がいないっていう辛さは分かっている…つもりだ」
黒髪幼女「騎士長…」
騎士長「そうだなぁ、俺がもし大金を手に入れたら…世界中のそういった子供たちを集めて」
騎士長「世界で一番でかい孤児院でも作って、温かさってのを見せてやりたいかもしれん」
黒髪幼女「立派な…夢だね」
騎士長「夢…夢か。叶えるつもりはあるから、希望っていうのかもしれんぞ」ハハハ
黒髪幼女「…」
騎士長「ま、そんな感じだ。ほかに聞きたいことは?」
黒髪幼女「…うーん。じゃあ、海を見て思ったんだけど…、世界って広いの…?」
騎士長「広い。果てしなく」
黒髪幼女「果てしなく…う~ん…?」
騎士長「王国都市…王都。砂漠街から成る…砂漠地方」
騎士長「大海に浮かぶ島々で作られる島群都市に、氷の大地で形成される氷結大陸」
騎士長「魔法大都市、カラクリ王国、烈火山帝国…まだまだ行ったことのない国々や自然は沢山ある」
黒髪幼女「…凄い!」
騎士長「遠征で俺も何度か行った事ある場所はあるが、まぁ世界の1%も冒険はしてないだろうな」
黒髪幼女「それだけっ!?」
騎士長「そうさ。そして、その数だけ幸せと…孤児もいる。それを救いたいのさ」
黒髪幼女「…!」
騎士長「前に言った、チャンスって覚えてるか?」
黒髪幼女「うん…そうなったから、そうなった。すべては偶然と運命だって」
騎士長「さすがに全てを救うのは無理だろう。だけど、俺が生きているうちに…少しでもそのチャンスを一人にでも与えたい」
黒髪幼女「…」
騎士長「って、またそっちの話に持っていっちまった。まっ、そういうことだって覚えててくれ!」ハハッ
黒髪幼女「うんっ」
パカッ…パカッ…パカッ…
騎士長「しかし、無限の砂漠とは良くいったもんだ。旗がなかったら迷っちまうなぁ」
騎士長「でっけぇラクダがいてよかった。少しは寝たり、休憩しつつ向かえるな」
黒髪幼女「…」フワァ
騎士長「お、眠いか?」
黒髪幼女「少しだけ…」
騎士長「ほら、こっちに来い。抱っこしててやるから、少し寝ていいぞ」
黒髪幼女「いいの?」
騎士長「あー、もう!」
…ヒョイッ
黒髪幼女「!」ストンッ
騎士長「よいしょ…ほれ、ひざの上で少し硬いが枕代わりにもなるだろう?」ポンポン
黒髪幼女「…うん」
騎士長「あとで起こしてやるから、少し休め」
黒髪幼女「…うん」
騎士長「…」
黒髪幼女「…」
騎士長「…」
黒髪幼女「…」スヤッ
騎士長「…寝るの早いな」ハハ
黒髪幼女「…」クゥクゥ
騎士長「さて、ラクダさんよ。女の子が寝てるんだ…優しい運転で頼むぜ?」
ラクダ『ブルルッ!』
騎士長「おう、そうか!」
ラクダ『…』
パカッパカッパカッパカッ…
騎士長「月の~砂漠を~…遥遥と~…♪」
騎士長「旅の~ラクダが行きました~♪」
騎士長「金と銀との鞍を置いて~…二つならんで~行きました~…♪」
…………
………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 数時間後 】
…カキンッ!!ガキィン!!
黒髪幼女「…」
ズザザザ…ボォンッ!!
黒髪幼女「…?」ムニャッ
…ジャキィンッ!!
黒髪幼女「何の…音…?」ムクッ
キキィン!!ドスッ!!
黒髪幼女「…え?」
ズザザザ…グググッ…
騎士長「こ…の、ヒョロヒョロと動きやがって…!」
黒装束「…貴様こそ中々やるな。我が仲間を4人を倒すとは」
騎士長「なんだっつーんだよ…!あいつは俺の依頼主だっつってんだろ!」
黒装束「何を言おうと無駄だ。同族を助け出すのが我らがすべき使命」
騎士長「このやろうっ!」ブンッ!!
黒装束「ふん」ヒュンッ
タァンッ!…クルクルクル…ストンッ
騎士長「この…クルクルと…!サーカスみたいに、妙な動きしやがって…」
黒装束「…ふん」
黒髪幼女「な…何で騎士長戦ってるの…?」
騎士長「…黒髪幼女、悪い!目ぇ覚めちまったか!?」
黒髪幼女「騎士長、何で戦ってるの!ど、どうしたの…」
騎士長「分からん!こいつらがな…」
ブンッ…ガキィンッ!!
騎士長「ぬあっ!」
黒装束「大人しくあの子を渡せば貴様は見逃してやる。今すぐ立ち去れ!」
騎士長「だからそれは…さっきから出来ない相談だっつってんだろうが!」
黒装束「…どうしても聞き入れぬか」
騎士長「当たり前だろうがぁぁ!」
黒装束「残念だ…。はぁぁっ!瞬斬っ!!」ビュンッ!!
騎士長「…そのくらい、簡単によけ…」フラッ
騎士長(げ…!やば…暑さで足が…)
…ズバァッ!!
騎士長「ぬあぁっ!」
黒髪幼女「騎士長っ!!」
…ガクッ
騎士長「が…は…」
ポタッ…ポタッ…
黒装束「我が短剣は魔封じの一手。回復技など使わせぬぞ」
騎士長「…っ!」
黒装束「最初から素直に渡せば痛い目をみなかったものを」
騎士長(く…くそ…暑さで思うように動けん…!)
騎士長(そもそも一体こいつらは何なんだ…急に襲ってきやがって…!)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 ほんの少し前 】
パカッパカッパカッ…
騎士長「昼も過ぎて…日が上がってくると本気でヤバイ暑さだ…」
黒髪幼女「…」スヤスヤ
騎士長「よく寝てられるな…」
黒髪幼女「…」クゥクゥ
騎士長「はは、可愛い寝顔しやがって。今の癒しはお前だな」
騎士長「…」
騎士長「…むっ」ピクッ
ヒュウウウウッ…ヒュンッ!!
騎士長「…な、ナイフ!?」
騎士長「うらぁっ!」
ビュッ…カキィン!!
騎士長「な…何だ…!?」キョロキョロ
ザッザッザッザ…
黒装束「ほう、よく今のを避けたな」
騎士長「誰だ!」
黒装束「名乗る名前などない。我らの用件はただ一つ…、その子を大人しく渡せ」
騎士長「…あ?」
黒装束「聞こえなかったか?」
騎士長「てめぇら…4、5人か。何者だ!奴隷狩りの類だな!?」
黒装束「何?奴隷狩りだと…。我らをそのような奴らと一緒にするな!」
騎士長「…?」
黒装束「貴様がその奴隷狩りの面子だろう!」
騎士長「ま…待て。俺は奴隷狩じゃない。王宮都市の騎士長だ。訳合ってこの子を地方村まで一旦向かっているんだ」
黒装束「…地方村?」ピクッ
騎士長「そうだ」
黒装束「たわけ…地方村は既に奴隷狩の奴らに廃村となって誰も住んではおらぬ!」
騎士長「村のことを知ってるのか!?」
黒装束「…貴様がこれで嘘をついていることが分かった。その子を、意地でも奪わせてもらう!」ダッ
騎士長「ちょ、ちょっと待てー!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
騎士長(…こいつらの正体は…一体…)ゴホッ…
黒装束「…はぁっ!」タァンッ!!
…ストンッ
黒髪幼女「あ…」
騎士長「な、おい!人のラクダに乗って何をするつもりだ!」
黒装束「王宮の人間なら、この地方のラクダの特性を知らぬだろう」
騎士長「な、何?」
黒装束「この地方のラクダはな、我々一族しか知らぬ口笛に反応し…」ピュウッ!
ラクダ『ッ!!』ブルッ
黒装束「…さらば!食料は置いといてやろう、そのまま立ち去るがいい!」
ザッ…ザッザッザッザッザッザッ!!!
騎士長「な…早…!」
黒装束「ははは!安心しろ、我らの同族は我らといるのが一番なのだ!」
黒髪幼女「騎士長っ!!」
騎士長「黒髪幼女ぉぉ!!」
ザッザッザッザ…ザッザッザ…ザッサッ゙…
……ヒュウウウッ…
騎士長「な、何て速さだ…!!」
騎士長「何か手は…」
騎士長「…!」ハッ
騎士長「そ…そうだ!!俺が倒したアイツの仲間!あいつらを尋問して…!」クルッ
シーン…
騎士長「…逃げられた、か」
騎士長「…ははは」
騎士長「…っ」
騎士長「く、くそ…」クラッ
…ドシャアッ……
………
……
・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・
・・・
・・
・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 砂漠の小さな部落 】
パカッパカッパカッ…ズザザ…
部落人「…お帰りなさい、頭!」
部落人「今回の情報、どうでしたか?」
黒装束「ビンゴだ。あの砂漠港の親父、相変わらずいい情報を渡してくれる」
部落人「今回のは…その子ですか?生きてるんでしょうか」
黒髪少女「…」
黒装束「さっきまでずっと泣いていたが、泣き疲れたんだろう。眠ったよ」
部落人「…泣くほど、ひどいことをされてきたんですか」
黒装束「いや、ちょっと今回は違うらしい」
部落人「…と、いうと?」
黒装束「まぁ、あとでこの子から話は聞くが…」
部落人「ハハ、何があろうと俺たちは頭についていきますよ」
部落人「我ら砂漠の暗殺隠密部隊…アサシン様を筆頭にしたアサシン部隊がね」
アサシン(黒装束)「…ふっ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 夜 】
ゴォォ…パチパチ…
黒髪幼女「…!」ハッ
黒髪幼女「騎士長っ!」バッ!!
アサシン「よう、目が覚めたか」
黒髪幼女「…ひっ!」ビクッ
アサシン「まぁそう怯えるな。ここは我のテント…何もひどいことはせぬ」
黒髪幼女「き、騎士長を…攻撃した…!」
アサシン「仕方がなかったのだ。お主を救うためにはな」
黒髪幼女「全然救ってなんかいない!!」
アサシン「…それについてだ。さっきの騎士長とかいう奴とのお前の関係を聞かせて貰えないか?」
黒髪幼女「…」プイッ
アサシン「…はぁ、嫌われたものだな」
黒髪幼女「騎士長にひどい事をした…騎士長…に…」
黒髪幼女「…」ジワッ
黒髪幼女「騎士長ぅぅ~…」ポロポロ
アサシン「あぁぁ、な、泣くな泣くな!」
黒髪幼女「うぇえぇぇ~…」グスグス
アサシン「…仕方ない…おい!」
黒髪幼女「…?」グスッ
クルクル…パサッ…
アサシン「本当はあまり表に顔は出さないんだが。この肌と、この顔立ちで…どうだ?」スッ
黒髪幼女「え…、お、女の人…?」
アサシン「私の名前はアサシン…この隠密集団のリーダーだ」
黒髪幼女「あさ…しん…」
アサシン「先に説明をしてやろう。私たちは、奴隷狩を逆に狩る為に行動している」
黒髪幼女「…奴隷狩りを…狩る?」
アサシン「いくら政府が対策を打ち出したとはいえ、まだまだ奴隷狩りは横行しているんだ」
アサシン「私たちは、そんな奴らから同族…お前のような子供や女、奴隷から解放するために活動しているのさ」
黒髪幼女「…」
アサシン「だが、あいつはお前を意地になって守ろうとした。それに、依頼とか言っていたな?」
黒髪幼女「…」
アサシン「それと、お前が寝ている間に体を見させてもらった」
アサシン「殴られた跡もなければ、お前を奴隷とした扱いもない。逆にその真新しい服…大切にされているようだ」
黒髪幼女「騎士長は…奴隷だった私を助けてくれた…」
アサシン「…その事に関して、ちょっと詳しく聞かせてくれないか」
アサシン「いいな?」
黒髪幼女「…」コクン
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
黒髪幼女「…」
アサシン「なるほど、そういう事だったか。まさかあの村の生き残りだったとはね」
黒髪幼女「あの村の人たちは…今、どうなったの…」
アサシン「私の部下が必死に探している最中だ」
黒髪幼女「そっか…」
アサシン「…」
黒髪幼女「騎士長…死んじゃった…の…?」グスッ
アサシン「あぁぁ泣くな泣くな!死んではいないはずだよ!」
黒髪幼女「…え?」
アサシン「急所はついてないし、食料も残した。無事に今頃は砂漠港に戻ってるよ」
黒髪幼女「…もう、会えないの…?」
アサシン「心配するな。お前の依頼、代わりに私たちが請け負ってやろう」
黒髪幼女「…」
アサシン「…そんな顔をするな」
黒髪幼女「…」
アサシン「…悪いことはした。そこまでの事があると思ってなかったんだ」
黒髪幼女「…」
アサシン「だけどね…私たちも、その境遇から同族以外の人間は信用しないんだ」
黒髪幼女「…」
アサシン「まぁ…一人だけ…、騎士長と同じ王都の人間で信用できる奴はいたんだけど…ね」
黒髪幼女「…?」
アサシン「な、何でもない。それよか、腹減ってないか?何か食い物を持ってこよう」
黒髪幼女「…いらない」
アサシン「…」
黒髪幼女「何も食べたくない。もう、誰かを失うのは嫌だったのに…騎士長、優しかったのに…!」
アサシン「…はぁ、分かった。分かったよ」
アサシン「話を聞いてくれ」
黒髪幼女「…何?」
アサシン「もし…もしの話だぞ」
黒髪幼女「うん」
アサシン「お前を本気で守ろうって思っているなら、その騎士長ってやつを同族として扱ってやってもいいとは少し思う」
黒髪幼女「…どうしたらそう思ってくれるの」
アサシン「例えば、この部落に躊躇なく踏み込んで"お前を助ける"だの…」
アサシン「そんな強い思い…本気の思いがあればココまでは来るハズだろう?」
黒髪幼女「…」
アサシン「まぁ、そこまでの事は普通しな――…」
…ドォンッ!!!ドゴォンッ!!!
アサシン「!?」
黒髪幼女「!?」
アサシン「何の音だ!?外にちょっと行くよ!」グイッ
黒髪幼女「あうっ!」
ダッ…ダダダダッ…!!
アサシン「音はこっちから…」
ガヤガヤ…
アサシン「あそこだ!誰か立ってる…、同族が囲んで…誰かを捕まえたか」
黒髪幼女「…何、どうしたの?」
ズザザザ…
アサシン「!」
…ザワザワ、ガヤガヤ…
騎士長「うおおおっ、黒髪幼女どこだぁぁぁ!!」
部落人「静かにしろ!」
ブンッ…バキィッ!!
騎士長「いってぇなっ!こ、この野郎…さっきのラクダの足跡…ここへ通じていたのは分かってる!」
部落人「一体何のことを…!」
騎士長「黒装束の奴がここにいるはずだ、出せぇぇ!」
部落人「静かにしろといっているんだ!!」
騎士長「黒髪幼女、助けに来たぞぉぉぉ!失敗して捕まっちまったが!!」
部落人「今、頭を呼んでくるから…待っていろ!!」
騎士長「…ぬううっ!!」
ガヤガヤ…ギャーギャー…
アサシン「…」
黒髪幼女「アサシン、あれで…認めてくれるの?」
アサシン「はぁ~…。認めざるを得ないね、約束だから」
黒髪幼女「!」
アサシン「それにしても、ここが戦闘部落だって知らないで突っ込んでくるとか…怖い男だね」
アサシン「後先考えず行動しすぎだよ、あの男。早死にするね」
黒髪幼女「早く、騎士長を助けてよ!」
アサシン「…わかったよ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
騎士長「…」
黒髪幼女「…」
アサシン「…」
部落人「…」
アサシン「って訳だ。約束は守っただけさ」
騎士長「まぁ、お前らがそのつもりなら俺も暴れるつもりはない」
アサシン「話を早く分かってくれて助かる」
騎士長「いや、お前らにもお前ららしい理由があるのに、俺がどうこういう立場じゃないってのが分かった」
騎士長「黒髪幼女を奪われたのは腑に落ちないが、ここは納得するさ」
アサシン「そうか、ありがとう」
騎士長「だが、黒髪幼女の面倒は俺が見させて貰うからな」
アサシン「…あんた、そこまでこの子に入れ込んでるのか?」
騎士長「ま…そういう事に近いかな。縁ってやつは大事にするんでね」
アサシン「その為だけに命かけるなんて…バカな男だ」フフ
騎士長「うるせえ」
黒髪幼女「…」
トトトトト…ギュウッ
騎士長「んっ…どうした?」
黒髪幼女「傷…大丈夫?痛くないの…?」
騎士長「ははは、心配してくれるのか?傷薬でなんとかなった、大丈夫さ」
黒髪幼女「よかった…」
騎士長「お前は優しい奴だよなあ本当に」ワシャワシャ
黒髪幼女「…あう」
アサシン「…改めて紹介させて貰おうかな。私は隠密部隊を取り仕切る…アサシンだ」
騎士長「も…元、王国都市の王宮軍に属する騎士長だ。よろしく」
アサシン「さっき5人であんた襲った時、まさか仲間4人もやられるなんて思わなかったよ」
騎士長「あんな奇襲、二度とごめんだ」
アサシン「ははは、私には敵わなかったようだが」
騎士長「お前、女だったんだな。全然気づかなかったぜ」
アサシン「…まあね」
騎士長「それと、昼間は暑さにやられてボロボロだったが、今ならしっかり動けるぞ?」
アサシン「…私と戦いたいのかい?」
騎士長「いや、負けは負けだ。次の機会があったら…ってことにしておくよ」ハハハ
アサシン「…」
アサシン「潔い男だね」
騎士長「まぁな」
アサシン「…さて、そろそろか。着いてきな」クルッ
騎士長「ん?どこに行くんだ」
アサシン「折角だ、今日の晩餐は豪華に行くよ。新しい同族と認めた男…祝わずになんとするってね」
騎士長「…どっちが潔いヤツだか、わからんな」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
部落人「…」
部落人「…」
部落人「…」
部落人「…」
アサシン「よ、みんな集まってるみたいだね」
騎士長「うおっ、こいつらは?」
アサシン「さっきアンタを襲った時の面子。うちの幹部みたいなもんだ。一番右側の奴が幹部長の砂漠剣士さ」
騎士長「なるほど。改めてよろしくな」
砂漠剣士「よろしく」
アサシン「さて、座ってくれ。お願いしてた料理と、彼女らを呼んでくれたか?」
部落人「呼んであります。おい!入れ!」
…ガラッ!!
騎士長「…ん?」
タッタッタッタ…
踊り子たち「失礼いたします♪」
アサシン「うちの保護した女たちさ。元踊り子で、仕事先が改めて決まるまでココで面倒を見ているんだ」
騎士長「…言うに聞くは、その美しさ…か」ホウ
アサシン「可愛いし、綺麗だろう。自慢の子たちだよ」
騎士長「俺なんかの為に、いいのか?」
アサシン「元々もうすぐ部落を離れて、仕事が決まりそうだし…その見納めってのもある」
騎士長「なるほどな」
砂漠剣士「…音楽!」パチンッ
タァンタタタンタァ~ン…♪…♪♪
踊り子「♪」
騎士長「…!」
アサシン「ふふ…」
黒髪幼女「わぁ!」
砂漠剣士「料理を今、運ばせます」パチンッ
トコトコトコ…カチャカチャ…
アサシン「うむ。騎士長、傷を与えた侘びだ…好きなだけ楽しんでくれ」
騎士長「楽しませてもらうさ。黒髪幼女、ほら…食べようぜ!」
黒髪幼女「うんっ」
パクッ…モグモグ…
騎士長「おぉ…うまいっ!」
黒髪幼女「美味しい…」
アサシン「はは、そりゃよかった。どんどん運ばせるよ」
踊り子「~♪」
モグモグ…カチャカチャ…ゴクッ
騎士長「…料理はうまいし、踊り子は美しい。至れり尽くせりだな」
アサシン「気に入ってもらえれば嬉しいよ」
騎士長「これで満足しない人間なんていねえさ」
黒髪幼女「…」ハムハム
騎士長「おいおい、黒髪幼女落ち着いて食べろよ。喉にひっかけるぞ」
黒髪幼女「…私のお家の味みたいで美味しいから…」モグモグ
騎士長「あ~そうだな。本格的な砂漠地方の料理を食べるのは久々だったか。たんと食べろ」
黒髪幼女「うんっ」
アサシン「…」
騎士長「…」モグモグ
アサシン「…そうだ、騎士長」
騎士長「何だ?」
アサシン「あんたたち、地方村に向かってるんだったな。それはこの近くだ」
騎士長「本当か!?」
アサシン「あの砂漠港の親父はな、うちらの部落人の一人だったんだ」
アサシン「あんたみたいな奴隷狩の可能性がある人間や、砂漠人を連れてる人間の情報を私らに伝える」
アサシン「それで、その情報を受けた私らが賊狩りをしたり、保護をしてるってわけさ」
騎士長「あ…あのクソ親父め…金貨なんて渡すんじゃなかった」
アサシン「ははは!災難だったね」
騎士長「まぁいいか…で、地方村は…どうなったんだ?」
アサシン「…」
アサシン「あとででいいかい?あとで、私のテントに来な」
騎士長「後で?何でだ?」
アサシン「…」チラッ
黒髪幼女「~♪」モグモグ
騎士長「…それほどって事か」
アサシン「今は、この楽しい雰囲気に酔ってるこの子に、まだ現状を教えたくないんだ」
騎士長「…わかった」
アサシン「それじゃ、今はとにかく食べて飲んで!さぁさぁ踊り子たち…もっとテンポあげていこう!」
音楽隊「テンポアップ!」
踊り子「はぁい!♪」
タタタン…タンタン…♪♪
アサシン「お前たちも食べていこう!飲め!今宵の遠慮はいらぬ!」
部落人「はっ!」
騎士長「黒髪幼女、いっぱい食べて、いっぱい楽しめよ」ニカッ
黒髪幼女「うんっ!」
………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 夜中・アサシンのテント 】
騎士長「…失礼するぞ」
…ガサッ
騎士長「約束通り来たぜ。すぐ隣の借りたテントで黒髪幼女は寝たようだ――…って!!」
アサシン「…あぁ、きたか。ちょっと待ってくれ身体を今拭いてた所なんだ」ゴシゴシ
騎士長「うおい!」
アサシン「そのくらい気にしないよ。ちょっと待っててくれ」
騎士長「まぁお前が言うならいいけど。見てるわ」
アサシン「…意外と図太い精神してるんだね」
騎士長「そうか?」
アサシン「そうじゃなかったら、普通出てくだろ。ていうか図太くないと部落に攻め入る事なんて出来ないか」ハハハ
騎士長「そうかもな」
アサシン「…」ゴシゴシ
騎士長「…!?」
騎士長「…おい」
アサシン「ん?」
騎士長「お前…ちょっとよく見せてくれ」ガタッ
…トコトコトコ…グイッ!
アサシン「何だ…私の美しさに欲情でもしたか?強気だな…お前のような男は嫌いじゃないぞ」ハハ
騎士長「違う…この背中の傷は…!」
アサシン「…」
騎士長「お前も…まさか…」
アサシン「…ふふ。そう…私は元奴隷だよ」
騎士長「…」
アサシン「昔、奴隷狩りに捕まってね。なまじ歳が若くて、使い勝手がいいと言われ…何度も売買を繰り返させられた」
騎士長「…何事もなかったように淡々と話すんだな」
アサシン「今更さ。私自身の気も強くないと、こんな賊狩りはやってられないからね」
騎士長「…そうか」
アサシン「何か言いたげな目だね。遠慮なく言っていいんだよ」
騎士長「…いや、いい」
アサシン「遠慮することはないさ。何だ?私の境遇か?」
騎士長「…」
アサシン「…座りなよ。私も今日は久々に酒に酔って…ちょっと話をしたい気分なんだ」
騎士長「いいのか?」
アサシン「私が話しをしたいって言ってるんだ。いいから座りな」
騎士長「わかった」
トコトコ…
アサシン「どこに行くんだ。こっちだよ」グイッ
騎士長「あ?だから椅子に…」
…ボスンッ!
騎士長「うおっ」
アサシン「私の隣でいい」
騎士長「服を着ろよ」
アサシン「まぁいいじゃないか。それより…何から話をしようか」
騎士長「任せるよ」
アサシン「…私はね、さっき言った通り元奴隷。捕まった時の事は良く覚えてる」
騎士長「ふむ」
アサシン「まだ遊牧民だった私たちの一つのグループに、夜…"アイツら"はやってきた」
騎士長「…」
アサシン「武力も持たない私たちは一瞬で散り散りになった。母親は、今どこで何してるか分からない」
アサシン「父は目の前で殺された。そして私は…地獄のような日々が始まったんだ」
騎士長「…どうなったんだ」
アサシン「私を捕まえた奴らは、私が奴隷市場に売るまでに毎日…ね」
アサシン「そして、そこからは何度も売買されて、ひどい…ものだった…本当に…」
騎士長「…」
アサシン「恨んだよ。後から分かった事だったんだが、その面子は王都の出身のヤツらだったんだ…」ギリッ
騎士長「…っ」
アサシン「この地獄はいつまで続く気がした。だけどね…ある日のこと」
アサシン「次の"飼い主"が決まった時。彼は来たんだ」
騎士長「…彼?」
アサシン「私たちを含む、奴隷狩りで奴隷になってた面子を助けに来てくれた…ヒーロー様だよ」
騎士長「…ほう」
アサシン「奴隷車に乗せられてた私たちを解放してくれたんだ。その人も…王都出身だった」
騎士長「…皮肉だな。襲った面子も、助けた面子も王都出身だったのか…」
アサシン「…ふふ。だけどな」
騎士長「ん?」
アサシン「私の同族を必死になって守ろうとしてくれた、お前も王都出身だろう?」
騎士長「そうだな」
アサシン「私はどうも、王都と繋がりを持つ人生らしいな」ハハハ
騎士長「そうなのかもしれないな。それと…謝るよ」
アサシン「何故謝る?」
騎士長「俺らの出身者の先輩だろうが、暴力を振るったのには変わらない。だから…同じ出身者として謝りたい」
アサシン「よしなよ。どうせ、謝ったところでキズは…癒えないんだから…」
騎士長「…すまん」
アサシン「はは!で、話は続く。それから1年後…何と私はその、助けてくれた人間と再び出会うんだ」
騎士長「ほう!」
アサシン「格好良かったよ。初めて、人を好きになるってことを覚えたんだ」
騎士長「そうだろうな」
アサシン「そして…私はその人と恋に落ちた。彼も私を受け入れてくれたんだ。傷だらけの私をだよ?」
騎士長「本当にいいやつだったんだな」
アサシン「やがて…その人の子を授かった。周りからは反対されたねぇ…」
騎士長「仮にも助けてくれたとはいえ、王国都市出身者だもんな…」
アサシン「だけどそこは頑固な私。子供を産んだんだ」
騎士長「お、おい…待てよ…」
騎士長「お前、いくつなんだ?子供を産んだって…まだ若いだろ?」
アサシン「奴隷になったのは14歳。子供を産んだのは21か…22歳。今は28歳だよ」
騎士長「…そうなのか。随分と若いとは思ってたが」
アサシン「嬉しいことを言ってくれるね!」バンッ
騎士長「はは…」
アサシン「ま、子供を産んだ後に夫と私は周りの反対に結局負けて、押し切られた」
アサシン「私たちは遠く離れた村へ。夫は別の村に散り散りになってしまった」
アサシン「そこからは詳しくは知らないけど、これ以上の犠牲は出さないとこうして発起してアサシン部隊を作り上げた」
騎士長「…壮絶波乱な人生だな」ハハ
アサシン「あんたね、普通は大丈夫?とか励ますもんなんじゃないのか?」
騎士長「お前自身、励ますほど弱くはないと思ったからな。それよか、笑い飛ばしたほうが性に合ってるんじゃないかと思ってさ」
アサシン「くくく…面白いヤツだ」
騎士長「そうか?空気読めない奴だってのは良く言われたが」
アサシン「…」
アサシン「酒って怖いねやっぱり。ここまで話すつもりはなかったんだけど」
アサシン「それとも、アンタが話しを聞くのが上手いのかね」フフ
騎士長「さぁな。こんな俺でも、話をしてくれて良かったぜ」
アサシン「…ねぇ」
騎士長「ん?」
アサシン「酒の勢いに任せて…いいか?」
騎士長「何がだ?」
アサシン「…」グイッ
…ドサッ!
騎士長「うおっ!」
アサシン「…今日の一件で、あんたに興味を持った。こんな女じゃダメか?」
騎士長「興味を持っただと?」
アサシン「敵地だとも知って省みず、本気で救いにくる姿勢。そしてその淡々とした雰囲気にね」
騎士長「…お前、随分と潔いというか…割り切る人間なんだな」
アサシン「所詮人間も動物さ。いい男がいたら…、ただの男女に成り下がるんじゃないか」
騎士長「…本気か?なら…」
騎士長「女に主導権を握られるのは、俺の趣味じゃないんでね。俺と逆になってもらうぞ!」グイッ
アサシン「え…?きゃあっ!」
グルンッ…ドサッ!!
騎士長「!」
アサシン「あ…」
騎士長「くくく…」
アサシン「い、今のは忘れてくれ…」カァァ
騎士長「…お前がいいなら、俺はいいぞ?こんないい女に、イエスといわれて断る理由もない」
アサシン「…少し、冗談のつもりだったんだけどね。あんたも、傷だらけの女でもいいのか?」
騎士長「それで、お前が少しでも満たされるなら。それは男の仕事だろう」
アサシン「…」
アサシン「助けに来た所も…。そのセリフも…」
騎士長「ん?」
アサシン「な、何でもない!」プイッ
騎士長「…女を想い、断るだけが優しさじゃないことは分かってる」
騎士長「これが正解なのかも分からんが、今はこれで良い気がしただけさ」
アサシン「…!」
騎士長「ま、お前が冗談だって言ったなら別に止める。ただ…俺もお前が気に入っただけだ」
騎士長「傷だらけとか気にはしない。その潔さ、その姿勢、生き様…」
騎士長「たまたま気に入っただけ…それ以上でも、それ以下でもないっていうのは言っておく」
アサシン「…やっぱり、その強さだけじゃなくて…イイ男だよ」
アサシン「酒に飲まれてようと、今日の一瞬のやり取りでアンタのことを、私も気に入ったんだ」
アサシン「男と女…分かりあうのも一瞬で充分だと私は思う」
騎士長「…そうかもな」
アサシン「…来てよ」ニコッ
騎士長「あぁ…」
………
……
・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
【 中編 】 に続きます。