プシュー
「……」
「遅かったわね、またバックれたのかと思っちゃった」
「呼び出した理由は?」
「勿論、作戦の為」
「……どんな内容でしょうか」
「今夜、ある実験が行われるの。私たちはそのバックアップね」
「なんですか、これ……そんな。いきなり……」
「どうもこうも、見たとおりよ」
「一方通行の更なる進化の為の実験。未元物質がせっかく生き残ったんだしまた使ってやろうって魂胆でしょうね」
「……一方通行と未元物質をまたぶつけるっていうんですか……」
「勝敗は明確。あの人は一度死んだイレギュラーなんだからいてもいなくても同じ。
その犠牲で進化できれば御の字ってところでしょ」
「……」
「垣根……」
垣根帝督のとある一日 その5
ピピピピピ
ピピピピピ
垣根「……」コツン
垣根「……あん?」モゾ
麦野「……」スースー
垣根「……チッ」
垣根「てめえのベッドで寝やがれっつうの……」モゾモゾ
垣根「……」
麦野「んんー……」ムニャムニャ
垣根「あー……ったく」
垣根「……先に起きっかぁ」ゴソ
―――
垣根「くあー……」
垣根「昼過ぎまで寝ちまったな」
垣根「何すっかな……」
ピリリリリ
垣根「……お?」
カチャ
垣根「あいつが俺にメールなんて珍しいな」
垣根「なになに……?」ピッ
垣根「……!」
〈一方通行の能力進化実験。
実験日は○月○日。
開始時刻は2000。
どちらか一方の戦闘不能を以て終了とする。
広域戦闘が予測される為、場所は学園都市全域とする。
実験対象者は一方通行、その相手は元第二位、垣根帝督。
尚、彼が従わないことが予測されるので学園都市第三位を〉
垣根「……えらい省かれてんな」
垣根「つうか途中で切れてやがるし。それになんであいつがこんな情報知ってんだよ」
垣根(ドッキリなんてこたぁねえよな)
垣根(……あいつがんなことする訳ねぇ)
垣根「……」
垣根(沈利をどうする気だ?)
垣根(なーんて……人質しかねぇよなぁ)ハァ
垣根「ま、大体は分かった」
垣根「……」パタン
垣根(俺と一方通行の戦闘……か)
垣根「ったく、くだらねえこと考えやがる」ポイッ
垣根「……久々にムカついたぜ」ガリガリ
垣根「どうすっかな、これ……」
垣根「ん?」
垣根(宛先がもう一つ……?)
垣根(えらく懐かしい名前じゃねえか。あいつも絡んでんのか?)
垣根(一発電話でも……)
ピンポーン
垣根「……あ?」
垣根「何だよ誰だよ、人がムカついてるときに」スタスタ
ガチャ
垣根「はいはい、垣根ですけどー?」
滝壺「こんにちは、かきね」ペコリ
垣根「……」
垣根「おう、入れや」スッ
パタパタ
滝壺「かきね?」トテトテ
垣根「なんだよ」ピタ
滝壺「どうしたの?すごく怖い顔してるよ?」
垣根「……」
垣根「なんでもねえよ」
―――
…
……
プルルルル
オカケニナッタデンワバンゴウハ……
垣根「チッ」ピッ
垣根「やっぱなんかゴタゴタしてるみてぇだな」
垣根「……」
垣根「お、いいところに」スタスタ
垣根「おいそこのグラサン」
ピタ
土御門「俺になんか用かにゃー?……ってお前か」
土御門「何の用だ」
垣根「聞きてぇことがある」
土御門「……いつになくシリアスモードじゃないか」
垣根「うるせぇ」
土御門「それで?聞きたいことって何だ?」
垣根「ああ……っと、場所を変えるか」
土御門「……ああ、少し歩こう」
…
……
土御門「で、なんだ」
垣根「今日、一方通行の能力進化実験があるそうなんだが……知っているか?」
土御門「何だと?」
垣根「……その様子だと聞いてねえか。実験開始は20時だそうだぜ」
土御門「少し待て」ゴソゴソ
土御門「……場所は?」ピッピッ
垣根「学園都市全域」
土御門「……」
土御門「何?」ピタッ
垣根「この都市全部だ」
土御門「待て、そんな広域に設定する程なのか」
土御門「そんな相手は……」
垣根「ああ、俺しかいねぇよなぁ」
土御門「……お前はそれでいいのか」
垣根「良いも悪いも乗るしかねえんだよ、俺ぁ」
土御門「……」
垣根「自分の女を盾にされてんだ。従わねーとまたあいつを巻き込んじまうことになる」
土御門「……成程。実験終了条件は分かるか?」
垣根「俺かあいつ、どちらかの戦闘不能だとよ」
土御門「そうか」ピッピッ
土御門「……一ついいか?」
垣根「んだよ」
土御門「何故突然一方通行の進化実験が行われるか分かるか?」
垣根「……さてな」
垣根「死んだと思ってた超能力者が生きてた」
垣根「でもそいつは自分らに一度牙を剥いたような奴だ」
垣根「だからそいつはもういらない。なら始末ついでに一方通行の進化も試みよう……ってところじゃねえか?」
垣根「俺の利用価値なんてそんなもんだろうさ。ゴミだよゴミ」
土御門「……」
土御門「ところで……あいつと戦って勝算はあるのか?」
垣根「負ける気はねえよ」
土御門「……」
土御門「万一に備えて病院への交通手段を用意しておく」
垣根「ああ?なんでだよ」
土御門「何がだ」
垣根「てめえがそこまでする理由だよ」
垣根「そんなことする義理はねぇだろうが」
土御門「そうだな……ただの気まぐれだと思ってくれていい」
垣根「はいはいそうかよ」
垣根「ったく勝手にしやがれ。一方通行に死なれちゃ困るもんなぁ」
土御門「なんとでも言え」ピッピッ
垣根「……」チッ
垣根「とにかく、てめえらは関与してねぇってことだな」
土御門「ああ、この件に俺たちは一切関わっていない」
土御門「後はこちらからも探りを入れておく」
垣根「なら頼んだ。じゃあな」ヒラヒラ
スタスタ
土御門「……」
土御門「……お前はゴミなんかじゃないさ」ピッピッ
パタン
土御門「心配してくれる奴がいるんだ。ゴミを心配する奴なんていないだろう?」ピッ
プルルルル
土御門「あー、結標か?少し頼まれて欲しいことがあるんだが……」
―――
麦野「ん、んー……?」モゾモゾ
滝壺「……」
麦野「…………」サワサワ
滝壺「……どうしたの?」
ガバッ
麦野「ていとくぅ……」ギュー
滝壺「……」
スッ
滝壺「残念でした」ボソ
麦野「……あ、あれー?……なんか感触が……」スリスリ
麦野「って、滝壺!?何してんの!?」バッ
滝壺「それは私も聞きたい」
麦野「……」
滝壺「……」
麦野「ごめん、寝惚けてた」
滝壺「うん」
麦野「ところで帝督は?」
滝壺「ちょっと前にフラフラと出て行っちゃった」
麦野「ったく、あのバカ……一緒に買い物行くって言ってたのに」
滝壺「……」
滝壺「私が一緒に行ってもいい?」
麦野「いいけど……家の食料品の買い出しだから面白くないと思うわよ?」
滝壺「ウチも色々買っておかなくちゃいけないから」
麦野「あ、そうか。浜面と同棲始めたんだっけ」
滝壺「うん」
麦野「でもそれなら浜面と行った方が良いんじゃない?アイツ車持ってるし」
滝壺「今日はまづらはかみじょうと遊びに行ってる」
麦野「……上条っていったら、あのツンツン頭の男よね?」
滝壺「うん」
麦野「あいつって超電磁砲と付き合ってるんじゃなかったっけ?」
滝壺「そうだよ」
麦野「……なるほどね、何処の男も似たようなもんか」ハァ
滝壺「うん、そんなものだよ」
―――
プルルルル
オカケニナッタデンワバンゴウハ……
垣根「あのバカまだ出やがらねえ……」ピッ
垣根「……」チッ
垣根「あっちに電話してみっか」
ピッ
プルルルル
心理定規『あら、貴方から電話してくれるなんてどういう風の吹き回し?』
垣根「用があるから電話したんだよ」
心理定規『へぇ……それにしても久しぶりね』
垣根「おう。元気にしてたか?」
心理定規『ふふ、おかげさまでね。それで?何の用かしら』
垣根「単刀直入に聞く。今日の実験を観測する研究所は何処だ」
心理定規『何のことかしら?』
垣根「しらばっくれんな。ネタは上がってんだよ」
心理定規『……あの子ったら貴方にもあのメールを送ったのね。迂闊だったわ』
垣根「おお、途中で途切れてるメールが来やがったよ」
心理定規『まあいいか。私が連絡する手間が省けたしね』
垣根「……一応聞いとくが、あいつは無事なのか?」
心理定規『色々ゴタゴタはあったけど、多分無事よ』
垣根「……そうか」
心理定規『で、研究所の場所を聞いてどうするの?まさか研究所を潰す気?』
垣根「そうしてぇのは山々だが……俺は迂闊に動けねえ」
心理定規『やけに遠回しに言うじゃない?』クスクス
心理定規『手伝ってあげるわよ?』
垣根「……」
心理定規『実のところもう計画は立ててあるしね。最初からそのつもり』
垣根「マジか」
心理定規『マジよ。立案したのはあの子。張り切っちゃって一人で突っ走ってるわ』
垣根「……チッ、なんだってあいつはそう……」
心理定規『まあまあ。貴方の為にやってることなんだから少しは大目に見てあげて』
垣根「しゃあねえな……わかったよ」
心理定規『素直でよろしい』
垣根「うっせえ。絹旗のお守り、頼むな」
心理定規『ええ。貴方は貴方のすべきことをしてね。こちらは実験開始に乗じて研究所を制圧するから』
垣根「……ありがとよ」
心理定規『貴方の口からお礼が聞けただけで充分よ。それじゃあね』
垣根「……」ハァ
垣根「ったく。どいつもこいつも……」パタン
―――
ウイーン
麦野「ふー、これでしばらくは大丈夫かしらね」ガサガサ
滝壺「そうだね、一ヶ月位は」ガサガサ
麦野「……ありがとね、滝壺」
滝壺「うん?どうしたの?」
麦野「料理、教えてくれたじゃない?あれのお礼よ」
滝壺「気にしないで、友達を助けるのは当然」
麦野「……」
滝壺「むぎの?」
麦野「……その当然を出来るあんたはすごいよ」
滝壺「そう?」
麦野「そう。あー、本当いい女よアンタは。浜面には勿体無いくらい」ナデナデ
滝壺「ありがとう」
麦野「どう致しまし――」
麦野「…!」バッ
滝壺「どうしたの?」ボソ
麦野「あそこから誰かがこっちを見てた」ボソボソ
滝壺「……どうする?」
麦野(狙いは私?それとも滝壺?)
麦野(……どっちでもいいか)
麦野「捕まえれば早いでしょっ!」
滝壺「私も行く」ガサガサ
麦野「アンタはこれ持ってて!すぐ戻るから!」ガサッ
滝壺「あ、うん」ガサガサガサガサ
麦野(さて、捕まえて吐かせるとしましょ)ドシュン
…
……
麦野「お待たせー」タタタタ
滝壺「大丈夫?」
麦野「うん、20人程で待ち伏せしてたけど潰してきた」
滝壺「何か聞けた?」
麦野「下位組織の連中ばかりでさっぱり。あいつらのリーダーさえいれば話聞けたんだけど」ハァ
麦野「まー、一発脅し入れといたから暫くは大人しくしてるでしょ」
滝壺「脅し……」
麦野「ああ、脅しっていっても大したものじゃないわよ?」
麦野「ちょっと怖い顔して、千切った指で(ry……とか鼻削ぎ落として(ry……とか」
麦野「そんなレベルよ?」ニコ
滝壺「う、うん」
―――
ピッ
プルルルル
滝壺『もしもし』
垣根「おう、今何処だ?」
滝壺『買い物しに外に出てた』
垣根「沈利と一緒にか?」
滝壺『うん、さっきまで一緒だったよ』
垣根「今はどうしてんだ?」
滝壺『冷蔵庫に入れなくちゃいけないものもあるから私は一旦家に帰ってるよ』
垣根「そうか。一旦ってことはまた来んのか?」
滝壺『うん。今夜ははまづら外食だし』
垣根「何やってんだよあいつは……って俺も奴のこと言えねぇか」
滝壺『かきねはどうするの?』
垣根「俺も帰る……すっぽかしたこと謝んなくちゃならねえしな」
滝壺『ねえかきね』
垣根「あん?」
滝壺『さっき私達を見張ってる人がいた』
垣根「!」
垣根「見てただけか?なんにも無かったか?」
滝壺『ううん、むぎのが追いかけてやっつけたみたい』
垣根「……二人とも怪我は無かったんだな?」
滝壺『うん。大丈夫』
垣根「そいつぁよかった」
滝壺『それで、かきねは何か心当たりはない?』
垣根「悪いがねぇな」
滝壺『そう……』
垣根「もういいか?切るぞ?」
滝壺『うん』
垣根「じゃあまた、後でな」
ピッ
垣根「……」
垣根「さて、と」
―――
ピンポーン
垣根「……」
ピンポーン
垣根「……」イライラ
垣根「打ち止めー!いるかー?」ドンドン
シーン
垣根「……寝てんのか?」
垣根「打ち止めー!」ドンドンドン!ドンドンドン!ドンドンドンドンドンドンドン!
カチャリ
打ち止め「三三七拍子でドアを叩くのは誰?
ってミサカはミサカはドアの向こう側にいる貴方に問い掛けてみる」
垣根「俺だよ俺」
打ち止め「その声は帝督お兄ちゃんだね!
ってミサカはミサカは勢い良くドアを開けてみたり!」ズバン
ガン
垣根「……痛ってぇ」
打ち止め「あわわ!帝督お兄ちゃん大丈夫!?
ってミサカはミサカは反省してみたり」
垣根「……大丈夫だ」
垣根「っておい、お前以外誰もいねえのか?」
打ち止め「今日は皆帰りが遅いの。
ってミサカはミサカはしょんぼりしてみる」ショボーン
垣根「……」
垣根(好都合だな)
垣根「じゃあお前、今日飯どうすんだ?」
打ち止め「今日はあの人が買っておいてくれたコンビニ弁当をミサカは一人寂しく食べるの……。
ってミサカはミサカは真実を暴露してみたり……」
垣根「あのバカ野郎が……育ち盛り(多分)の子にんなもん食わせようとしてんじゃねぇよ」
垣根「良かったら家にこねえか?一緒に飯食おうぜ」
打ち止め「ほんとうっ!?いいの!?
ってミサカはミサカは予想外の展開にビックリ!」
垣根「よし、決まりだな」
―――
…
……
打ち止め「ごちそうさまっ!
ってミサカはミサカは満面の笑みを浮かべてみる!」
滝壺「ごちそうさまでした」
垣根「ご馳走様」
麦野「ふふっ、お粗末様」
垣根「なあ」
麦野「うん?」
垣根「お前、すげえ料理美味くなったんじゃねえか?」
麦野「そう?ありがと、練習した甲斐があったわ」ニコニコ
麦野「さぁて、サクッと片付けちゃうわね」
垣根「手伝うか?」
麦野「いいっていいって、料理は片付けまでが料理なのよ」
垣根「そうか」
麦野「そそ、だから滝壺も帝督も座ってなさい」
垣根「そんじゃ、お言葉に甘えさせて貰うか」
垣根「……」ギィギィ
垣根(時刻は19時半)
垣根(少し早めに出るとすっかな)スッ
垣根(どうせあいつはもういるんだろうしな)
垣根「沈利ー!」
麦野「んー、なぁにー?」
垣根「俺、ちょっくら遊びに行くわー」
麦野「……しょうがないわね、日付が変わるまでに帰ってきなさいよ」
垣根「おう……ん?」
打ち止め「……」スヤスヤ
垣根「寝てんのか?」
滝壺「うん、お腹いっぱいになったら眠くなっちゃったみたい」
垣根「……」フッ
垣根「ガキだからなぁ。どれ、寝顔を一枚」パシャ
滝壺「かわいいね」ナデナデ
垣根「そうだな」
垣根「……」カチカチ
ピピッ
滝壺「……?」
垣根〈滝壺、沈利をここから出さねぇように頼んでもいいか?〉
滝壺〈うん。いいけどどうして?〉
垣根〈とにかく頼む〉
滝壺〈出来る限りやってみる〉
垣根「……」パタン
滝壺「……」パタン
垣根「……」チラッ
麦野「~♪」カチャカチャ
垣根「じゃ、行ってくるわ」ガチャ
滝壺「いってらっしゃい」フニフニ
打ち止め「ふにゅー……」
麦野「いってらっしゃーい」
バタン
垣根「さて――」
ピピッ
垣根「……あ?」
麦野〈私に寂しい思いをさせる罰として帰りにケーキを買ってくること!いいわね?〉
垣根〈わーったよ、めちゃくちゃうめぇの買って帰るから覚悟しとけ〉
麦野〈期待してる〉
垣根〈おう〉
麦野「……」ピッピッ
麦野〈いってらっしゃい〉
垣根「ちっ……」カチカチ
垣根〈いってきます〉
―――
垣根「……」ファサファサ
ヴイイイイン
垣根「……あ?」ゴソゴソ
カチャ
垣根「知らねー番号?」
垣根「……一応出とくか」
垣根「はいはいはいはいどちら様ですか間違えてねえですかってか誰だよてめえコラブッ殺」
土御門『土御門だ』
垣根「は?てめえに番号を教えた覚えはねぇんだが」
土御門『一方通行に聞いた』
垣根「ああ、成る程」
垣根「それで?その一方通行さんは何処まで知ってた?」
土御門『良く知らねぇし知りたくもねぇ……とか言ってたがあいつは当事者だ。ほとんど知ってるだろうな』
垣根「まあ当然だな」
土御門『ただ、人質に関しては知らないようだ』
垣根「どうしてそう言える?」
土御門『あいつはお前がこの実験に参加するとは思っていないようだった』
土御門『「あいつァ来ねェよ。部屋でババァといちゃついてるだろォさ」だとさ』
垣根「……」ハァ
垣根「……人の女をババァ呼ばわりすんなっつーの、あのクソボケが」ガリガリ
土御門『一応、注意はしておいた』
垣根「あいつは人の言う事聞くような奴じゃねえよ」
垣根「……それよりも一つ、頼まれてくんねぇか?」
土御門『分かってる。実験概要は把握した』
土御門『彼女は俺が見ておく』
垣根「……それも気まぐれか?」
土御門『好きなようにとってくれて構わん』
垣根「ひねくれてんなぁ」
土御門『お前にだけは言われたくない』
垣根「……ありがとよ」
土御門『気にするな』
垣根「今度メシでも食いに行こうぜ。俺の奢りでな」
土御門『ああ、期待して待ってる』
垣根「おう」ピッ
パタン
垣根「……」
ヴイイイイン
垣根「チッ……次は誰だよ」
カチャ
垣根「……あいつか」
垣根「おう、俺だ」
心理定規『時刻2000より研究所制圧開始。貴方が戦いを終える頃にはこちらも片が着きそうよ』
垣根「……お前ら二人だけにしちゃえらく早いな」
心理定規『嬉しい誤算があったからね』
垣根「そうか」
心理定規『……何か聞かないの?』
垣根「事が上手く運ぶんなら何でも構わねえよ」
心理定規『第二位よ、第二位』
垣根「聞いてねぇっつの」
心理定規『そ。ところで第三位ばかり気に掛けるのはいいけど、たまにはあの子も構ってあげなさいよ?』
垣根「ああ?なんで俺がんなこと……」
垣根「……」
垣根「チッ……善処する」
心理定規『あのねぇ、その返事はしないって言っているようなものよ』
垣根「うるせぇ。さっさと全部制圧しろっての」
心理定規『はいはい、こっちは大丈夫だから貴方は自分の心配をしなさい』
垣根「ハッ、そっくりその言葉を返してやる」
心理定規『へー、勝てるの?あの一方通行に』
垣根「当たり前だ。誰に言ってやがる」
心理定規『そう。頑張ってね』
垣根「ああ」ピッ
パタン
垣根「……よし」ファサッ
―――
―――
「よぉ」
「こねェと思ってたぜ」
とあるビルの屋上。
星一つない漆黒の夜空、そこに浮かぶ満月をバックに一方通行は佇んでいた。
軽い挨拶を交わして垣根は舞台へと上がる。
「本当にやンのかァ?」
これで良いのかと問いたげに彼は言う。
蘇るのはかつての戦い。
一方通行と未元物質……全力でぶつかってただで済むはずがない。
それは彼の垣根に対する気遣いのようなもの。
薄ら寒くなる程に似合わないその配慮に。
柄にもねえことを。垣根はそう吐き捨てるように小さく呟く。
「せっかくお膳立てしてくれたんだ、やらねぇってのは勿体無さすぎんだろ」
「……そォかよ」
僅かに怒りを滲ませながらの短い返答。
一方通行が知っているのはここで自分と未元物質が戦うことだけ。
垣根がこの実験に協力せざるを得ない状況に置かれているとは知る由もなかった。
「……全力でやれや?」
「ったりめェだろ」
その言葉には明らかな迷いがあった。
それは自分を傷付けたくないということで、彼としては喜ぶべきこと。
しかし、今日この場で勝負が出来なければ、実験が終わらなければまた麦野を巻き込んでしまうことになる。
それだけは御免だった。
彼女がそこらの奴に負けることはないとしても。
もう戦わせたくない。
死と関わらせたくない。
自分はどれだけ汚れようとも構わない。
だからどうか彼女だけは変わらぬままで。
垣根帝督が考えるのは麦野沈利のことだけ。
これがエゴだということは分かっている。
だが、それでも。
――アイツには綺麗な世界で生きてほしい。
そして彼はこれを滞りなく終わらせる為に切り札を使用する。
「何迷ってやがる。てめえには選択肢なんざねぇんだよ」
彼のポケットより取り出し開かれたそれは。
一方通行を無理矢理にでも戦わせる為の一つの手段。
「テ、メェ……まさか……」
その携帯電話のディスプレイに表示された一枚の写真により、一方通行の表情がみるみるうちに変わっていく。
それは、無防備な姿を晒す打ち止めの姿。
彼の最も大切な存在。たった一つの希望。
そして垣根はとどめを刺すように口を開く。
「そのまさかだ。やらねえってんなら最終信号を殺す」
「……」
淡々と告げられた言葉。
二人の間に静寂が訪れる。
本当に腐ったことしてやがんな、と垣根は自虐的に考える。
自分が置かれている状況もさして変わらないかと結論。
しかし一方通行は動かない。
この期に及んでまだ、こんなクソ野郎の身を案じているのだろうか。
「テメェのことちったァ見直してたンだがなァ……気のせいだったみてェだ」
杖を投げ捨てながら一方通行が溜め息混じりに呟く。
言葉は落胆、失望、見損なった。
言い方は色々。だが行き着く先は同じ。
認識が変わった。それだけのこと。
月明かりだけではその表情は窺うことは出来ない。
彼は一体どんな表情をしているのだろうか。
「俺は俺だ。てめえで勝手に見直して見損なってんじゃねぇよ」
「テメェはやっぱ……クソ野郎だなァ!!」
それが見えなくとも垣根は理解していた。
その行動は一方通行の怒りを買うのに充分過ぎるということを。
痛いほどによく分かっていた。
先程まで離れていた所に立っていた彼は、怒気を孕んだ言葉と共に瞬き一つするかしないかの間に垣根へと肉薄する。
「そいつはどうもありがとよ、クソ野郎っ!」
垣根が作るのは余裕の表情。
恐ろしいまでの速度で突き出された右手を避けるべくアスファルトを蹴り、飛翔。
柔らかく身体を包む風を烈風へと変換し、ぶつける。
衝突する悪と悪。
巻き起こる衝撃波。
突如舞い降りた二つの災厄は全てを飲み込み、暴虐の限りを尽くす。
「へェ……随分とご立派になったンじゃねェですかァ!?」
我が身に襲いかかろうとするそれらを難なく反射しながら皮肉混じりに一方通行が言う。
彼の目に映るのは数十メートルにも達する、光り輝く翼。
天使と呼ぶにはあまりにも大き過ぎる。
ここまでくると天使というよりも化物だ。
確かにメルヘンさは薄れたかもしれない。
昼間とはまた違った顔を見せる街の喧騒をBGMにしながら。
向けられた怒りを肌に感じながら。
珍しく風のない空を白で裂きながら垣根は思う。
自分の目的の為に、何もかもを犠牲にする。
その対象が第一候補になることから麦野沈利を守ることに変わっただけ。
結局、自分は最低の人間。
本質は何も変わっちゃいないのだと。
「逃げ回ってばかりで俺に勝てると思ってンのか!!おい!?」
「ハッ!これを逃げ回ってるって思ったんなら随分と老朽化したもんだなぁ!てめえの頭は!!」
ベクトルを操作し、地を蹴り壁を蹴り、時には信号機を蹴り、街灯を蹴り、街路樹を蹴る一方通行。
月明かりを回折し、路面やビルや標識など、彼が足跡を付けた物を尽く破壊していく垣根帝督。
そしてそれらはほんの一瞬の攻防。
何気なく彼らを見た人が異常に気付きもう一度見ようとした頃にはもう既に姿はないくらいに。
たった一呼吸の間にも目まぐるしく変化する戦場、移り変わる景色。
夜の都市を駆け抜ける1と2。
いつかと同じく。
人々は振動と音の合間に降り注ぐ純白の欠片に驚く暇などなく、
それらによってもたらされた破壊を受け入れ、ただ呆然と眺めるしか無かった。
「あァ、テメェに攻撃する手段は無かったンだっけかァ!」
「ほざけ、てめえ如きどうとでもなる」
ぶつかり合う超能力者と超能力者。
その都度消えていく街の明かり。
黒く塗り潰されていく街の色。
飛び交う衝撃波、爆発、光線。
まるで特撮を見ているかのような戦い。
紙でも破るかのようにガラスを破壊し、
皿でも割るかのようにアスファルトを割り、
ドミノ牌を倒すかのように街路樹を薙ぎ倒し。
彼らの破壊している物が玩具のような錯覚さえ抱かせる。
後に残るのは都市の残骸と人と残響と天使の忘れ物。
「ならやってみやがれッ!!いつまでもクソみてェに逃げ回ってねェでよォ!!」
「いちいちムカつかせる野郎だな。やってるっつーの」
「あァン、これがかァ!?酸素分解なんてコスいマネしてンじゃねェぞ!!」
垣根の後を追い、数十メートル飛び上がったりビルの側面を蹴って反対側のビルに飛び移ったりと
スーパーマンのような動きでビルの谷間を疾走しながら一方通行は考える。
こいつは空気中の酸素を未元物質によって変質させた何かで分解している。
巨大な翼のおかげで範囲は確かに広い。
しかしこの程度の息苦しさでは演算の妨害にまではならない。
ただ呼吸回数を増やせばいいだけのこと。
果たして何が狙いなのか。
奴が逃げながらそんなことをする理由は何か。
「はははははっ!……それじゃあてめえはそんなコスい手にやられる訳だ」
「うるっせェよ!死んどけ三下ァッ!!」
スクランブルの一角にあるビルの屋上に降り立った垣根を衝撃波にて吹き飛ばし、出入口へと叩き付ける。
通常では有り得ないくらいに瓦礫が飛散し、賑やかな音とともに一瞬にして崩れる。
こんなものではヤツは倒れない。トドメを刺さなければ、とそこに一方通行が着地した時だった。
いつもより大きく息を吸い込んだ途端に彼の頭がフラつき、ガクンと身体が揺れる。
小さく咳き込みながら自身の身体の異常を学園都市第一位は瞬時に理解した。
低酸素症じゃない、これは――
「……ぐっ……!」
「未元物質でダメージを与えられないなら、てめえを未元物質でダメージを与えられるような状態にしてやりゃあいい」
オゾンの急性中毒か。
恐らくこいつは酸素の分解で俺の呼吸を促したところで、未元物質を介して酸素からオゾンを作ったのだろう。
最優先に体内で急速分解をやっているが今すぐには治りそうもない。
尚も痛む目に小さく舌打ちを一つ。
――やってくれンじゃねェか。
未元物質の攻撃はもう通らないと些か甘く見ていたようだ。
「く……クク、いい、ねェ……やっぱ、テメェは……」
「最高だろ?」
屋上の入り口だった場所から出てくる垣根は無傷。
体内の物質をも操作出来る一方通行の動きを止められるのはほんの僅かな時間。
しかしその一瞬が命取りとなる。
それは垣根も一方通行も理解していた。
動かぬ一方通行、迫る垣根。
場にそぐわぬ軽い言葉を交わし、二人の男が交差する。
まるで何かが爆発したかのような音が響き、鮮血が飛ぶ。
しかし一方のではなく、双方の。
「……痛ってえ」
切り裂かれた左肩を一瞥、垣根は舌打ち混じりに零す。
やはり、こいつは一筋縄ではいかない。
殺すぐらいの勢いでやらないとダメだ。
そうしないとこちらが殺られる。
そう思い、頭のスイッチを切り替える。
――俺の持てる手を全て使い、こいつを……一方通行をぶちのめす。
「はは、そのインチキくせえ防御を捨ててまで攻撃するたぁな。意外だ。意外過ぎてムカつくを通り越して愉快だ」
振り返り、一方通行の右肩の傷を眺めながら面白そうに彼は言う。
ゆっくりとしたその動作や言葉は時間稼ぎのように、一方通行には感じられた。
そうだとすればいつ俺に制限があることを知ったのだろうか。
そこまで思考して第一位は考えるのをやめた。
フィルターの設定を変更して眼前の敵を見据える。
――そんなことは今はどうでもいい。こいつを……垣根帝督をブチ殺す。それだけだ。
もうあのときのような悲劇を繰り返してはならない。躊躇ってはならない。
再び立ちはだかった、光の姿をした闇を闇へ還す為に。
一方通行は悪に徹する。
「るせェよ」
その言葉の後、勢いを増した殺意。
向けられるそれをひしひしと感じながら垣根が笑う。
一方通行も、同じように笑う。
その二つの明らかに普通ではない笑い声は高らかに、何処までも、何処までも。
「テメェはやっぱクソと一緒に埋めてやるぜェ……」
「ハッ、やれるもんならやってみやがれ……」
「垣根帝督ゥゥゥゥゥううううううッ!!」
「一方通行ぁぁぁぁぁああああああッ!!」
口元には笑みを
双眸には殺意を
身体には意志を
全く同じものを持ちながら全く違う二人の男が吼える。
彼ら悪を突き動かすのは紛れも無く、光。
―――
麦野「……」ウロウロ
麦野「むー……」ウロウロ
滝壺「まだ30分しか経ってないよ、むぎの」
麦野「わ、分かってるわよ」ポスッ
滝壺(……かきね、戦ってる……?)カチャ
滝壺「……」
滝壺(念のため)カチカチ
滝壺(まだ、一緒にいるはず)カチカチ
麦野「どしたの?」
滝壺「メールだよ」カチカチ
麦野「へー、アンタがメールなんて珍しいわね」
滝壺「そうかな」スッ
麦野「だってメールしたらいつも電話してくるじゃない」
滝壺「私はメールよりも電話派だから」パタン
打ち止め「……」スヤスヤ
滝壺「むぎのは相手の声とか聞きたくならない?」ナデナデ
麦野「んー……あんまり気にしたことなかったなー」スッ
麦野「そう考えたらそうかもしれないわね……」プニ
打ち止め「ふにゅ」
麦野「やば、何この子。すごい可愛い……」フニフニ
滝壺「あんまり触ると起きちゃうかも」
麦野「うん」フニフニ
麦野「あ、滝壺。携帯光ってるわよ」
滝壺「ん」スッ
カチャ
滝壺「……」
〈分かった。今から向かう〉
滝壺「……」カチカチ
打ち止め「ん……あれ……?あの人のお家じゃない……?
ってミサカはミサカは寝ぼけ眼でふあぁ……」
麦野「あら、起こしちゃったかな?」
打ち止め「……沈利お姉ちゃん……?
ってミサカはミサカは……っ!」ガバッ
麦野「いきなり慌ててどうしたの?」
打ち止め「ミ、ミサカあの人のところに行かなくちゃ!
ってミサカはミサカは嫌な胸騒ぎに慌てて走り出してみる!」パタパタ
麦野「待って!何処行くのよ!」ガシッ
打ち止め「うううー!とにかく緊急事態なのー!
ってミサカはミサカは必死にアピール!」ジタバタ
麦野「き、緊急事態って何?」
滝壺「むぎの」
麦野「ん、どうしたの?」
滝壺「この子、用事があるみたいだから私送ってくるね」
麦野「滝壺、この子が何を言ってるか分かったの?」
滝壺「乙女の勘でなんとなく」カチカチ
滝壺〈ちょっと寄り道してほしい。〇〇地区××のマンションまで〉
〈なんだ?どうした?〉
麦野「……分かったわ。アンタはどうする?帰るの?」
滝壺「うん、そのまま帰る予定」カチカチ
滝壺〈とにかく来てほしい。お願い〉
麦野「そう、わかった。打ち止めちゃん、掴んじゃってごめんね?」パッ
滝壺「さあ、お姉さんと帰ろう?」スッ
打ち止め「慣れてるから平気だよー。
ってミサカはミサカは左手で理后お姉ちゃんの手を握りながら右手で沈利お姉ちゃんに手を振ってみたり!」ブンブン
麦野「うん、また来てねー」
滝壺「またね、むぎの」フリフリ
麦野「うん。気を付けて帰りなさいよー」ヒラヒラ
ガチャ
バタン
打ち止め「早くあの人を捜さないと!
ってミサカはミサカはダッシュ!」タタタタタ
滝壺「うん、早く行こう」タタタタ
カチャ
ピッピッ
〈着いたぞ〉
滝壺「……意外と早い」
打ち止め「?」
…
……
浜面「おーい、こっちだ!」ブンブン
滝壺「はまづら、早かったね」
浜面「この近くで飯食ってたからな。ほら、早く乗りな。緊急事態なんだろ?」
滝壺「ありがとう、はまづら。さ、乗ろう?」ガチャ
打ち止め「この人が送ってくれる訳だね。
ってミサカはミサカは理后お姉ちゃんに手を引かれながら車に乗り込んでみる」
上条「……よし、早く行こうぜ」イケメン
浜面「オッケー!滝壺、ナビ頼むな」
滝壺「うん」カチャ
クイクイ
打ち止め「ば、場所が分かるの?
ミサカはミサカはちょっとビックリしてみる」
滝壺「うん、だから安心してね」
浜面「行くぜ!舌噛むなよ三人とも!」
ブオオォォォォン
浜面「あと、あんまり近くまでは行けねぇから走る準備しとけよ!」
打ち止め「うん!
ってミサカはミサカは頷いてみる!」
上条「おう」
打ち止め「……」
上条「……」
滝壺「そこを右に曲がって」
浜面「わかった!」
ギャキキキキ
打ち止め「ありがとう……」
上条「ん?」
滝壺「どうしたの?」
打ち止め「あの人の為に……私の為に、ここまでしてくれて。
ってミサカはミサカは……嬉しくて……泣きそう……」ズズッ
ナデナデ
上条「友達が友達を助けるのは当たり前、だろ?」ニコ
上条「それに……もう一人、助けなくちゃいけねえ奴がいるしな」
打ち止め「?」
ポン
上条「俺の大切な親友だよ」
―――
「死ねやァ!!三下ァァァ!!」
破壊を撒き散らす二人の戦場は二転三転。
いつしか郊外まで進み、立ち入り禁止の札が入り口に掛けられた廃ビルの屋上。
コンクリートを踏み砕く音と共に下からガラスの割れる音がけたたましく響く。
垣根が彼の狙いに気付くよりも早く、二種類の破片が襲い掛かる。
「反射か、てめえ……」
垣根の目に飛び込んだのは飛来するガラスの破片に映る無数の一方通行の姿。
たった一瞬。だが、その一瞬で垣根は敵の姿を見失う。
その光景に忌々しげに呟くが、もう遅い。
場は彼に支配されつつあった。
「ひゃひゃひゃひゃひゃァ!!」
垣根帝督は内心で舌を打つ。
それは、今頃気付いた自分自身に対してのもの。
――飛んでくる速度がそれほど早くなかったのはそういう訳か。
聞こえた声も反射を利用されている為、位置を特定することは出来ない。
彼の放った弾を熱線で溶解させながら選択したのは動かずに迎撃することだった。
「残念、ハズレでしたァ!!俺の狙いはそこじゃねェンだなァ!!」
直後、何かが破裂する音と同時に何処から掛けられた声。
そして垣根を襲う、水と鉄の礫。
凄まじい勢いで迫ったそれは翼を貫き、彼の身体を切り裂く。
「ちぃっ……!」
一旦止まったその攻撃、垣根が反撃をするべく羽を広げたその瞬間。
「――何処見てンだよ、三下ァ」
背後にあったのは、学園都市最強の能力者の姿。
身体に受けたのは、とてつもない程の衝撃。
聞こえたのは、夜を引き裂く轟音。
何が起きたのか。
垣根にはそんなことを考える暇は無く、咄嗟に翼で衝撃の勢いを殺そうとする。
しかしあまりにも強かったそれは、何よりも早く垣根の身体を容赦なくフェンスへと打ち付ける。
やかましく鳴る衝撃音。
ひしゃげたフェンスに身体を預けたままずるずると滑り落ちる彼。
ぽたぽたと赤い雫が滴り、コンクリートを染めてゆく。
……――そして、静寂が訪れる。
「チッ……しぶてェ。身体だけは丈夫なんだなァ」
「くくっ……ははっ、なんかしたかよ?」
血を吐きながらも、流しながらも垣根帝督は立っていた。
その姿を受けてがりがりと頭を掻きながら一方通行が呆れたように言う。
勿論、容赦はしない。息の根を完全に止めるべく、上部の破裂した貯水タンクを今度は完全に破壊する。
舞い上がった無数の水の弾、その一つ一つが月光を受けて煌めきを放ちながら、垣根へと向かう。
「……ハッ!これで終わりだよ、テメェはなァ」
勝利を信じ紡がれたその言葉の後。
垣根が弾を打ち払ったのとほぼ同時。
一方通行が消失した。
超高速等の比喩では決してなく、本当に垣根の目の前から消えたのだ。
目に映るのは空中を漂う水の粒だけ。
「ったくコソコソコソコソと……第一位様は随分と隠れんのがうめぇなあ!!」
宙に浮かぶ水の光の反射を操作することによって姿を消した彼に、垣根が挑発する。
しかし辺りに響くのは笑い声だけ。
その間にも包囲の輪を縮めた水の弾が垣根の身体を守る羽を、垣根自身を削る。
当たったその弾丸は、傷と痛みだけを残して跡形もなく消えていく。
雨に打たれながら垣根帝督は既に一つの対抗策を見出していた。
「俺を殺してェならこンぐれェしろってこったァ!!」
「ハッ!てめえを殺すのにそこまで小細工する必要はねぇんだよッ!!」
口元を歪ませた垣根が翼によって周囲の水を消す。
しかしただ振り払ったのではなく彼はそれらを分解した。
翼を開いて防御が解けた今こそ、一方通行が一撃必殺を狙って攻撃を仕掛けてくる時だと垣根は踏んでいた。
「あァ!?聞こえねェよッ!!バッサバッサうるさくてなァ!!もっと喚いてみやがれェ!!!!」
「ムカつく野郎だ、てめえなんざこれで充分だっつってんだ!!」
彼の読み通り。
相も変わらずなやりとりの直後、一方通行が空気の弾を垣根の脇腹へと打ち込んだときにそれは突然起こった。
それは水の飛散していた場所を中心に起こった突然の爆発。
それは今まで防御に徹していたかのように見えた彼の反撃の狼煙。
「……っ……!」
酸素の燃焼。それの局地的な消滅。
一方通行だけではなく起こした彼自身にも効果はあるが、意図していただけに対応は万全だった。
ほんの僅かな時間。刹那。敵の演算の隙間を突いて。
よろめいた一方通行へと翼による打撃を打ち込む。
防御する術を失った彼は口から血を吹き出しながら、そしてその小柄な身体は衝撃に耐えられずに吹き飛んでいく。
「……良い所に落ちてくれたじゃねえか」
金属鋳造工場へと突っ込んだ彼を追いかけながら垣根は笑って言う。
彼のどちらのものかも分からない血に塗れた衣服の下、弾痕からごぽりと血液が溢れる。
それを一瞥して本日何度目かも分からない舌打ちをする。そこだけではなく、全身の痛みに対し。
――そろそろ急がねぇとヤバいか。
大きな落着音から少し遅れて工場内にアルミニウムの堆積粉塵が舞う。
一方通行の落下によって大きく口を開けた屋根からすぐさまその状況を把握した垣根は、月の光を回折。
熱線とし、まず一方通行の周囲を爆発させる。
次々と集塵用に置かれている掃除機を破壊、そこから舞い上がった粉塵を誘爆させ。
粉塵爆発を連鎖的に発生させていく。
地を揺らす程の轟音が間断なく響く。
そして工場に火が灯る。
最後の爆発が不発だったことから工場内に酸素が無くなったのだと推測。
一方通行の動きが止まるのは一瞬だけ。
ダメージを与えられる機会を逃す理由はない。
この間僅か数秒、垣根帝督は燃え始めた建物内へと突入する。
「ガッ……」
一方通行は苦しんでいた。
何が起きたか。
それは理解した。
しかし。演算が、呼吸が出来ない。
先程の水素爆発とは比較にならないほどの酸素の欠乏。
もう少し。あともう少し耐えれば。
しかし彼はそれを許さない。ヒラヒラと落ちてくる純白の羽根がそれを示していた。
舞い上がる爆炎と黒煙の中から舞い降りた垣根。
一呼吸もせずに一方通行へと接近、斬撃を叩き込む。
「ぐがァッ……!!」
一撃。
「ごぼっ……!!」
一撃。
「ガハァッ……!!」
それは一方通行の周りに酸素が戻るまでの、垣根が着地するまでの極々短時間の一方的な攻撃。
繰り返される音と吐き出される声と共に彼の身体に刻まれていく線。
華奢な身体にラインを三つ描いたところで一方通行を隣接する建物へと吹き飛ばし、垣根はそれを追って燃え盛る工場を後にする。
「は……はァっ……!」
「やっぱ俺の相手はてめえじゃなきゃ駄目だな」
壁に開けられた大きな穴の向こう側。
まだまだ余裕を感じさせる垣根帝督の声の先に辛うじて、一方通行は立っていた。
傷は深いが、出血は殆ど見受けられない。
それは彼が血流を操作しているから。
蓄積したダメージにそれほどの差はないとしても出血量の差は明白。
もうそれほど時間に余裕は垣根にはない。
場内の壁に掛けられた時計をちらりと横目で確認する。
針は始まりから然程動いていない。
それの時を刻む音が今になって大きく感じた。
そんな音を掻き消すかのようにポツリポツリと当たり始めた雨。
そしてそれはすぐに勢いを増して行く。
耳に届くのは万物へと等しく降り注ぐ雨の音。
一つ一つが異なる音を鳴らし、心落ち着かせる音色を奏でる。
――雨は、嫌いじゃない。
そして、垣根はこの雨を最後の雨にするつもりはない。
第一位を完膚なきまでに叩きのめし、このくだらない実験を終わらせる。
雲により月光が遮られようとも、風がなくとも、今の一方通行を倒す方法など、彼には幾らでもあるのだ。
「は―――ひゃはハははハはハハははははッ!!」
そんな垣根の思考を中断させるように突然。
淀んだ空気で肺を満たし、一方通行が狂ったように笑い始める。
濁りきった真紅の目を見開いて。
「はハははァッ……!ブッ殺してやらァ……!!」
「やってみな、三下ぁ!!」
押し迫る彼を軽くいなしながら垣根が言う。
その目が見るのは敵である一方通行の姿ではなく、この建物。
射し込む月明かりと翼の微光に照らされた屋内の至るところに溜まった埃から、ここが密閉された空間なのだと把握する。
この瞬間、垣根帝督は勝利を確信した。
思い出すのはいつかの光景。
この目で見た、一方通行の弱点。
「おいおいィ!いい歳して鬼ごっこですかァ!?こちとら傷だらけでしンどいンですけどォ!!」
「心配すんな、もう終わる」
その言葉の直後、怪訝そうに眉を顰めた一方通行の思考がブツリと遮断された。
それは垣根帝督が酸素と反応し磁気を発生させる物質を生成して散布。
建物内部に強力な磁場を構成し、一方通行の命綱とも言えるネットワークの電波を妨害したからだった。
「……殺さねえよ、バーカ」
どしゃりという音だけを立てて倒れ伏した彼を見下ろし、垣根は言う。
殺そうと思えばいつでも殺せる。しかし、殺さない。
先程から何度も迎えた終わりのチャンスを全て放棄していた理由はこれまでに彼が感じたこと、得たものから考えた結果。
それは、どちらかが勝つことではなく。
両者が生き残ること。
これこそが垣根の考えた最善の選択。
「勝負しろとは言われたが殺せとまでは言われてねえからな」
彼は垣根帝督の中では友人という認識。
そんな友人を手に掛ける程、元第二位の垣根帝督は非情になれなかった。
既に勝負はついた。
このままここにいては演算機能が停止した一方通行が死んでしまう。
研究所制圧の方は上手くいっただろうか。
マンションで自分の帰りを待つ麦野も気に掛かる。
……とにかくこの場に留まる理由はない。
「さて、雨も降ってっしさっさと帰るとすっか」
それだけを言って意識のない一方通行の細い腕を担ぎ、磁場の無い場所へとひとまず向かう。
辺りは先程までの戦闘が嘘のような静寂に包まれている。
一方通行も自分も傷だらけ。まず向かうべきは病院だろうか。
そんなことを考えながら彼が、先程攻防を繰り広げた今にも倒壊しそうなビルの屋上へと降り立ったそのときだった。
一台の車の停車音と同時に。
「dawqrhliysgduyhgjnfltzッ……!!」
「なッ……!?」
すぐ側から聞こえたのは言葉にならぬ音。
直後、何かの圧力を受けて身体が宙を舞う。
虚を突かれながらもすぐさま展開した翼によって衝撃を殺す。
それでもその力は凄まじく、垣根はフェンスを飛び越えて人通りのほとんどない通りへと落下する。
地上から上空を見上げ、自分を吹き飛ばしたモノが何かを理解した彼の前に。
「チィッ……」
音もなく悪魔が舞い降りた。
街灯の明かり一つない道は、終わりの見えない迷路のよう。
彼にはまるでこの世界に自分と一方通行の二人だけしかいないようなそんな風に感じられた。
周囲に響くのは雨音だけ。
重く暗く沈む空が零すその涙の意味は、果たして。
「igrwgbsbcdszmpasqljlkhwmxvnyy!!」
一方通行の開いた口から飛び出したのは耳を塞ぎたくなるような音。
聞くだけで呪われてしまいそうな、そんな呪詛のような声を張り上げる。
その背中から吐き出されるのはあの時と同じ、漆黒の翼。
垣根の翼とは対照的な力に溢れた禍々しい、邪悪の象徴。
それにより集中されたベクトル。
詳細不明。
不可視。
回避――
不能。
ごしゃ。
「ごッ……!ぐが……!」
それは何の前触れも一瞬で訪れた。
何よりも速く、全てを破壊する。圧倒的な暴力。
以前と同じく、ヒトが蚊を叩き落とすかのように簡単にアスファルトに叩き伏せられる。
垣根帝督は対策を講じていない訳ではなかった。
つい先程も動きを止めようとやオゾンや二酸化炭素等の発生や酸素の調整も試みたりもした。
しかし、気体の流れを変えているのか彼の動きには全く変化がない。
みしみし、べきべき。
ただ一つ計算外だったのは、それを受けたのは半身だけであるということ。
しかし彼にはそれが何故かなどと考える余裕など無く。
あるのは想像を絶する痛みだけ。
いくら半分といえど半身が潰れてしまえば人間は死ぬのだ。
咄嗟に翼をクッションにして和らげたものの、それはほとんど意味を為さず。
ただ苦しむ時間が長くなるだけであった。
めきめき、ぐしゃぐしゃ。
自身の身体が潰れていく生々しく嫌な音に包まれながら、
――悪党に相応しい終わり方だな、と。
自らの死を悟った垣根帝督は笑う。
「がはっ……今度は、ちゃんと……殺せよ……?」
くそやろう
「一 方 通 行……」
口の中に広がっていた血を吐き出して、なんとか紡ぎ出した言葉。
果たして彼に届いたのだろうか。
そんなことを考えている間にも、アスファルトに身体を沈められていく。
頭が段々と歪み、割れ、陥没する。
右腕が、右脚が折れ、潰れ、ちぎれる。
降り頻る雨に打たれて後は冷えきるだけの身体を包むのは、自身から溢れ出た生暖かいモノ。
段々と暗く沈んでいく意識。
その微かな温もりの先に待つ確実な死。終わり。
そんな状況において垣根帝督の頭を埋め尽くすもの。
それは――
……そういやケーキ買わなくちゃいけねぇんだっけか……。
二色しか無かった自身の世界に色を注ぎこんでくれた、たった一人の顔。
麦野沈利の笑顔が最期まで焼き付いて離れなかった。
―――
繰り返されようとしている虐殺。
今まさに鉄槌を振り下ろさんとする一方通行の前に、立ちはだかったのは一人のヒーローの姿。
名は――
「止まれッ!!一方通行!」
上条当麻。
そして黒翼の一撃を腕一本で止める彼の影から現れたのは、最後の希望。
この場にそぐわぬその姿にほんの一瞬、一方通行の動きが止まる。
「もう、大丈夫だから!止まって!
ってミサカはミサカは貴方に抱き着いてみる!」
「こっの……やめろって言ってんだよぉぉぉおおおッ!!
違うだろ!!その力は友達を殺す為のもんじゃないだろッ!!」
少年は垣根を圧し潰しているであろう黒き翼を幻想殺しで食い止める。
少女はその持ち主である一方通行へと駆け寄り、優しく抱き締める。
しかし、彼の声も彼女の想いも届かない。
再開された暴力。
絶対的なその力は幻想殺しですら抑えきれずに彼の身体を少しずつ押していく。
少女の脳裏に浮かんだのは最悪の結果。
そんな思考を振り払い、こみ上げてくる涙をぐっと堪えて。
打ち止めが黒翼の前に立とうと一方通行から離れたとき――
「っ!?……う、うそ……?
って……ミサカは、ミサカは……」
英雄が笑った。
少女の方を見て。
――心配すんな。と。
確かにこう言った。
「……いい、ぜぇぇえええ……!てめぇが友達を殺すことも躊躇わないってんならぁぁぁあああああッ……!!」
そして英雄は、一歩ずつ。前進し始める。
打ち止めはただ固唾を飲んで見守る。
足や腕は震え、とっくに限界を超えているはずなのに。
その歩みは止まらない。寧ろ段々と早くなっているようにすら感じる。
一体何が彼を、上条当麻を突き動かしているのか。
答えは出ないまま、雨の音と匂いと破壊が支配するこの場所に、
魂の叫びが響き渡る。
「そのっ……ふざけた幻想をぉぉぉおおおおッ!!ぶち壊すッ!!!!」
距離は僅か1メートル。消えかかっている羽、大幅に弱まったその圧力。
その力より開放された上条は振りかぶった右の拳を一方通行の頬に叩きつける。
「あわわわわっ!
ってミサカはミサカは慌ててこの人をキャッチ……きゃああああ!」
上条の渾身の一撃を受けて吹っ飛んだ一方通行と、それを慌てて支えようとして共に倒れる打ち止め。
そんな少女と彼の様子を見てホッと胸を撫で下ろしながら、上条は背後に倒れているであろう垣根へと振り返る。
そこに、いつものように軽口を叩くその人の姿があることを想像しながら振り返る。
しかし。そこにあったのは――
「なんとか、なったか……。……おい垣根、大丈……」
その姿に絶句する。
思わず目を覆いたくなるような光景。
彼にはこの惨状を説明出来るほどの言葉は持ち合わせていない。
それでも言葉にするというのなら、酷い。
その一言に尽きる。
上条の瞳が映すのは右側が潰れた垣根帝督の姿。
腕や脚は千切れ、原型が分からない程に潰れている。
「かき、ね……」
胸中にはやるせなさと、悲しみと、自分に対する怒り。
拳から血が滴るのも構わずに、握り締めた手。
やり場のない拳をコンクリートに叩きつける。
「くそっ!俺は……俺は彼女に……どんな顔して、謝ればいいんだよ……っ!!」
そんな上条当麻の悲痛な叫びを受けて、身動ぎ一つ「一方通行」がゆっくりと目を開ける。
そして、自身を包む温もりの正体に表情を驚愕へと変える。
「ラスト……オーダー……?テメェ……攫われてたンじゃ……」
「ううん、さらわれてなんかないよ……。
ってミサカは……ミサカはぁ……」
「そう、こいつは第三位を盾に脅されてたって訳」
いつの間にか打ち止めのすぐ側にいた結標淡希が補足する。
皆、どうしてここにいる、などとは聞けるような状況ではなかった。
そして、一方通行は彼女たちの言葉で全てを理解した。
垣根帝督の言葉が虚言であったことを。
彼が自分自身の為ではなく、守るべきものの為に戦っていたのだということを。
打ち止めに支えられながら歩いていく。
自らの手で倒した、彼の元へと。
その前で一方通行は叫ぶ。
「テメェ……テメェェェェェェェェっ!!」
心を埋め尽くす言葉には到底出来ないこの感情。
それほど垣根帝督とは接点は無かった。
正直興味も無かった。
だが、この数ヵ月間における彼とのやりとり。
自身と彼の変化。
自分達のいた立場、以前の関係すら忘れそうになる程の、くだらない会話。
それでも一方通行は存外今の関係が気に入っていた。
友人だと思っていた。それなのに、
「土御門に言われて来たはいいけど……これは生きてるのかしら?」
緊張感に欠けた様子で結った髪を揺らしながらひょい、とアスファルトに深く刻まれた亀裂を飛び越えて垣根を覗き込む彼女。
その口から出た言葉に答えられる者は誰一人としてこの場にいなかった。
しかし諦めた者も、誰もいなかった。
「それでも、それでも可能性は0じゃないだろ!?」
「いいから……早くコイツを連れてけってンだよ!!クソババァ!!」
「ミサカからもお願い!
ってミサカはミサカは頭を下げてみる」
二人の少年と一人の少女が結標に詰め寄る。
対する彼女はにこりと微笑む。
「言われなくてもそのつもりだから安心しなさい」
…
……
結標淡希の能力によって消えた垣根帝督とその残骸。
取り残された三人の少年少女たち。
雨が奏でるオーケストラの中でそのうちの一人、上条当麻が空を仰ぎながら口を開く。
「助かると、良いな……」
返事はない。もう一人の少年と少女は寄り添いながら俯いたまま。
上条はそれ以上は何も言わなかった。
そんな中、突然建物を殴りつける音が響く。
他の二人はそれが何かは分かっていた。
だから、何も聞かない。
「ちく、しょォ……ちくしょォォォおおおおおおおッ!!悪党気取ってンじゃねェぞこの三下がァァァァァァッ!!!!」
雨音を掻き消すほどに大きなその声は。
「友人」を罵倒する彼のその声は、どこまでも悲しく響き渡った。
―――
―――
ガチャ
一方「よォ」ヒラ
土御門「おう」
結標「あら、一方通行じゃない。傷はもう完治したの?」
一方「テメェに心配されるほどヤワじゃねェよ」
一方「ンで……奴の件はどうなった?」
土御門「死亡したってことにしといた。これでもう問題ないだろう」
一方「おォ、実験の方は?」
土御門「研究員は何者かによって全滅、データは根こそぎ消されてて一つもなし。綺麗さっぱりなかった事になったそうだ」
一方「そォかよ」フッ
土御門「という訳でこれ、よろしくな」ピラッ
一方「あァ?……ンだよこ……れ……」
一方「はァあああああ!?なンで俺に請求が回って来るンですかァ!?」
一方「しかもなンだよ!このテレポート料金ってのはァ!意味わかンねェぞ!!」
結標「あら、大事な大事なお友達を救ってあげたのに出し渋る気?」
一方「うるせェババァ、黙ってろォ」
結標「へぇ、0をもう一つ増やしてあげてもいいんだけど?」
一方「チッ……!ショタコンがァ……」
結標「だっ!?だだだだっだ誰がしょしょショタコンよぉっ!」アタフタ
一方「テメェだよ。ク・ソ・バ・バ・ア」
結標「きー!ロリコンのくせにぃぃいいい!!」ダンダン
一方「……で、なンでなンだよ」
土御門「実験が無くなったんだ、研究所負担の金がお前に回るのは当然だろ?」
結標「無視すんなぁぁぁ!!」ギャーギャー
一方「いィや、そこじゃねェンだよ。俺だけってのが納得いかねェ」
土御門「そりゃあなあ……」
土御門「死人に請求する訳にはいかないだろ?」ニコ
―――
…
……
コンコン
垣根「おう」
一方「入ンぞォ」ガチャ
垣根「んだよてめえか」
一方「……」チラッ
麦野「……」スースー
一方「邪魔だったかァ?」
垣根「いいや、んなこたぁねぇよ。入れや」
一方「分かった」スタスタ
垣根「で、どうしたんだよ」
一方「あァ?」ギシッ
垣根「なんか用があったんじゃねえのか?」
一方「ねェよ」
垣根「ああ?」
一方「用がねェのに来ちゃ悪ィかよ」
垣根「いや、悪くねえよ?」ププ
一方「ンだよ、なンで笑ってやがる」
垣根「はは、少し意外だっただけだ」
一方「テメェ……」ガタッ
垣根「おっと、ここは病院だぜ?そして俺は患者だ」
一方「……」チッ
ギシッ
一方「……で、調子はどうなンだ?」
垣根「ん?ああ、なんとか歩けるようにはなったぞ」
一方「ならよかった」
垣根「……」
垣根「ああ、右腕が痛いよー。右足も痛いよー」
一方「……ッ」
垣根「どうした?」
一方「なァ……その冗談はやめてくンねェか?キツい」
垣根「もうないから痛くねえんだけどな、ハハハ」
一方「やーめろっつゥの。すげェ申し訳なくなンだよ」
垣根「罪悪感なんてらしくねぇっつっただろうが」
垣根「お前は謝った。俺は許した」
垣根「それでいいじゃねえか」
一方「……」
一方「……だがなァ」
垣根「うっせえボケ」ビョイーン
一方「……」
垣根「……」
一方「なンだそりゃあ」
垣根「見て分かんねえか?ロケットパンチだよ」ウイーン
一方「俺が聞きてェのはなンで義手にそれを実装したのかってことなンだが」
垣根「カッコいいだろうが」バビョーン
一方「……」
一方「……分かったぜェ、テメェはそうやっていつまでも俺の良心をチクチクと突付くつもりだなァ!?」ガタッ
垣根「へええええ、てめえに良心なんてあったんですかあああ!?」ウイーン
麦野「……ん、んー……?」モゾモゾ
一方「っと、ヤベェ」ギシッ
垣根「……沈利は寝起き悪いからな。今起こしたら大変だ」スッ
麦野「……」スヤスヤ
一方「……」
垣根「……」
一方「……しっかしすげェ量の見舞いだなァ」
垣根「そうか?」
一方「この花束は誰からだァ?」
垣根「初春って子から」
一方「なンか……これはどうなンだろうな」
垣根「頭に花が咲いてたからその中身も花畑なのかもな」
一方「この大量のフルーツはァ?」
垣根「上条夫妻から」
一方「はァああ?もうあいつら結婚したのかァ!?」
垣根「ちげぇけど仲いいからもう夫婦みてえなもんだろ」
一方「……だなァ。四六時中乳繰り合ってやがるし」
一方「……じゃあこの如何にも怪しげな薬はァ?」
垣根「それは佐天って子から」
一方「飲まねェのかよ」
垣根「ま、そのうちな。捨てるのは悪ぃし」
一方「……おい、このでけェ鉢植えもかァ?」
垣根「ああ、それは白井って奴から」
一方「悪意しか感じねェンだが」
垣根「俺が散々からかってやったからな」
一方「あァ……被害者かァ」
一方「じゃあこの…………コレはァ?」
垣根「誰かなんて聞く必要はねぇと思うんだが」
一方「……土御門の野郎かァ」
垣根「当たりだ。商品としてそれをくれてやろう」
一方「いらねェ」
垣根「いいから持ってけ」
一方「いらねェ」
垣根「それが視界に入る度に沈利がすげえ嫌な顔すんだよ……!」
一方「知るかァァァ……!」
垣根「お前それでもロリコンかよ……!」
一方「俺ァただ眺めてるだけでいいンだ……!こういう直接的なのはいらねェんだよ……!」
垣根「チッ、根性なしが」
一方「なンとでも言え」
垣根「……クソが」
一方「……この明らかにフライングしちゃいました的なモンは誰からだァ」
垣根「そりゃ絹旗って子から」
一方「どうしたンだろうなァ」
垣根「早く退院しろってことじゃね?」
一方「あァ、成程」
一方「……」
垣根「……」
一方「ところでよォ」
垣根「なんだ?」
一方「……この妙に存在感のある謎の物体はなンだ?」
垣根「それは滝壺から。つうか浜面夫妻からだな」
一方「なンなンだろうな、こりゃあ……」
垣根「俺もさっぱりだ」
一方「なンだろうなァ……すげェイライラする」
一方「コレ殴ってもいいか?」
垣根「壊すなよ?」
一方「……」スッ
ブニョン
一方「!?」
一方「……やめとくわァ」
垣根「おう、そうしろ」
一方「こンなモンかァ」
垣根「ああ、そうだ……」
一方「ンだよ」
垣根「これ土産」ボスッ
一方「……」
垣根「……」
一方「コレは俺がテメェにやったやつだろうが」
垣根「悪いがこれだけは受け取れん」
一方「なンでだ」
垣根「ウルトラマンになる趣味はない」
垣根「つーかなんでTシャツなんだよ」
垣根「それもこの柄」
垣根「勘弁してくれ」
一方「テメェェェェェ!!」ガシッ
垣根「ぎゃー!殺されるううう!!」
ガッ
麦野「おいてめぇ」
一方「おォ、起きたのかァ」
麦野「起きたのかぁ、じゃねえんだよ」
麦野「帝督に何してくれてんだこの野郎」
一方「いやこいつが「出てけ」
麦野「で・て・け」
垣根「沈利」
麦野「ん?どうしたの?」ニコ
垣根「こいつも悪気があったわけじゃないんだ、許してやってくれ」
麦野「うん、あなたがそう言うなら……」
パッ
一方「おいおいおいおいィ!なンで俺が悪ィみたいになってンですかァ!」
麦野「ああ?」
一方「……」チッ
一方「帰るわァ」スタスタ
垣根「おい、待て」
一方「あァ?ンだよ」
垣根「そいつは俺のだ。置いてけ」
一方「さっきいらねェっつったろうが」
垣根「気が変わった。着てやるよ」
一方「……」
一方「しゃ、しゃあねェなァ」
一方「そこまで言うなら置いてってやンよ」ドサ
垣根「ああ、ありがとよ」
一方「……」フッ
一方「じゃあなァ」ヒラ
垣根「おう、また来いや」ヒラ
ガチャ
バタン
垣根「……ふー」
麦野「ふふっ」
垣根「なんだ、どうした?」
麦野「ホントに仲良いわね」ギシッ
麦野「殺し合いしたなんて……嘘みたい」
垣根「……」スッ
垣根「何度も言うがあの件に関しては誰も悪くねぇ」
垣根「だから沈利、あいつのこと責めねえでやってくれ」
垣根「一番気にしてんのはあいつ自身だからよ」
麦野「わかってるよ」ギュ
麦野「……それよりも、腕と脚を一本ずつ失くしてそんなこと言えるあなたが凄いわ」
麦野「本当に、死んじゃうかと思ったんだからね……」
垣根「俺の器のデカさを思い知ったか」ギュ
麦野「笑い事じゃない……」
垣根「……」
垣根「……心配掛けて悪かった」
麦野「ホントよ、ばか……」
垣根「……」
麦野「……」
チュッ
麦野「……」
垣根「……」
麦野「……手、冷たいね」スッ
垣根「ん?おう……」
麦野「調子はどう?」
垣根「もう慣れた。後はリハビリだけだ」
垣根「……これが一番長いんだけどな」
麦野「ゆっくり行きましょ?時間はたっぷりあるんだから」
垣根「そうだな」
小さく頷き、笑みを零して窓から空を見上げる。
そこには連日の雨なかったかのような青い青い、見る者の心すら染めてしまうほどに綺麗な空が何処までも広がっていた。
…
……
――これにより幕を閉じることとなった垣根帝督の物語。
また……
その裏で彼を支えた一人の少女の活躍があったということは、また別のお話。
「ちょ……ちょ……」
「超くしゅんっ!」
コンコン
「あ、はーい!」
垣根帝督のとある1日
完
284 : VIPにかわりましてGEPPER... - 2010/06/12 00:10:26.32 ONK84nwo 566/569自分でもこんなに長くなるとは思わなかった
当初は3位で終わる予定だったからなぁ
286 : VIPにかわりましてGEPPER... - 2010/06/12 00:14:36.82 eZOQU0Q0 567/569まじ乙!
また別のお話、が書かれるのを楽しみにしてる!
288 : VIPにかわりましてGEPPER... - 2010/06/12 00:22:07.43 ONK84nwo 568/569言えない単純に一方通行VSていとくんが書きたかっただけなんて言えない
293 : VIPにかわりましてGEPPER... - 2010/06/12 01:43:20.60 d0W3ZtMo 569/569おもしろかったよ
バトルシーンも考えられてたな

