友「そうそう、春休みも暇だしさぁ。見に行かね?」
男「お化け屋敷って……ただの金持ちの家だろ?」
友「いや、違うね。あそこには幽霊がすんでんだよ」
友「夜には窓からあかりがちらほらと……」
男「普通に人が住んでるんだよ」
友「でも、その住人を誰も見たこと無いらしいぜ?」
男「はいはい」
友「小さい頃からよく噂になってたじゃないかー。お化け屋敷」
男「昔、何度か見に行っただろ。家の前」
友「だからさぁ、今度は入るんだよ。家の中に!」
元スレ
男「近所のお化け屋敷?」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1393682126/
数日後
喫茶店
男「なんだよ。急に呼び出しやがって」
友「行くぞ」
男「どこに」
友「今日だ!今日行くんだ!」
男「だから、どこに」
友「例のお化け屋敷だよ!この間、話したろ?」
男「行かない」
友「なんで!?」
男「中に入るとか言う話だろう?それ、犯罪だから」
友「かー!!わかってねぇ!わかってねぇなー!」
友「そういうのがスリルあっていいんじゃねーかー」
男「何がスリルだよ」
先輩「ほう、あの屋敷へ行くのか。はい、コーヒーふたつ」コトン
友「あれ、先輩。今日はバイト入ってたんすね」
先輩「まぁな。そんなことよりもだ。何やら面白そうな話をしてるじゃないか」
男「先輩、止めてくださいよ。警察沙汰になるのは御免です」
先輩「俺も行きたいんだがなぁ……何せここのバイトが」
男「先輩!?」
先輩「俺の分も楽しんできてくれ。それで、面白いみやげ話を聞かせてくれよ」
友「任せてくだい!」
男「……」
友「よーし!そんじゃ、今から行くか!」
男「まだ、昼前だぞ?」
友「だって、夜は怖いじゃん。ただでさえ不気味なのにさぁ」
男「はぁ……」
住宅街
友「いやー。すっかり暖かくなったなー!」
男「おう」
男「それにしても、なんで今更、あの屋敷に行こうって思ったんだ?」
友「そうだなー」
友「思いつきだよ。思いつき」
男「?」
友「春休みが終われば俺らも三年、本格的に受験勉強しなくちゃいけないだろう?」
男「お前、大学目指すのか?」
友「……一応な。ていうか、なんだよ!その言い方!」
友「まぁ、そういうわけでだ。ぐーたらできるのも今のうち!思い出つくりも今のうちってな!」
男「……普通に旅行でも企画してくれ」
友「いいじゃねーか。こういうありふれた日常を一変させる何かを探すのってわくわくするじゃん?」
男「昔、よくやってた探検ごっこ思い出すな」
友「そうそう!そういう感じ!」
友「ついた…ぞ」
男「やっぱ立派な家だよなー」
男「うちにもこういう庭がほしいよ」
友「よし、さっそく入るか……」
男「ちょっと待て」
友「な、なんだよ」
男「とりあえず、インターホンを」
男「……」
友「ねーじゃねーか」
男「すいまーせーん!」
シーン
友「ごめんくださーい!」
シーン
男「誰も……いないようだな」
友「……入るか」
男「……お、おう」
扉の前
友「」コンコン
シーン
友「やっぱり、誰も住んでないんだ」
男「でも、夜は明かりが」
友「やっぱ!幽霊なんだよ!」
ガチャッ
屋敷内
男「ごめんくださーい」
友「誰も住んでないわりに綺麗だな……」
男「本当だ。棚の花瓶も埃ひとつ付いてない」
男「ていうか、普通に人住んでるだろ……」
友「……やっぱ、まずいか?」
男「まずいだろ!」
友「お、こっちはリビング?」
男「おい、あまり奥へ」
男 友「」
少女「」スヤスヤ
友「なぁ、そこの椅子に持たれて寝てる女の子さぁ」
男「あぁ」
友「……お前にも見えてるよな」
男「当たり前だ」
友「て、ことはだ。これはつまり」
男「やっぱり……人住んでたんだよ」
友「やっべ!!さっさと退散すっぞ!!」グイッ
男「ちょ!お前!」ツルン
バタッ!!
男「いたたた……いきなり、引っ張るな!」
友「だって、早く逃げないとまずいだろ?」イタタ
少女「……あの」
友 男「は、はい!!」
少女「どちら様?ですか?」
男「え、い、いやぁ」アセアセ
友「チラシをもって参りました!」
男「は?」
友「ここの近所の喫茶店なんすけど」
友「最近、キャンペーンを初めまして」
男「お、おい」ヒソヒソ
友「なんだよ」
男「なんだよ、チラシって」
友「こういうこともあるだろうと先輩に渡されたんだよ」
男「なるほど」
少女「?」
男「すいません。郵便受けも無かったようなので直接お渡しできればと思ったのですが」
友「そうそう!そんで!呼んでみたけど返事がなくて」アセアセ
少女「そうでしたか!すみません!わざわざ!」ペコペコ
男「いえいえ!謝らなきゃいけないのはこっちの方でして」
友「わかってもらえればいいんすよ~」ハッハッハ
少女「ちょっと一息つこうと椅子にこしかけたのですが」
少女「あまりに日差しが気持ちよかったものでうっかり寝てしまいまして」
男「はぁ」
友「んじゃぁ、俺達はこれで」クルッ
少女「あ、待ってください」
男 友「」ビクッ
少女「せっかくですからお茶でも」
男「いえいえいえ!!お気遣いなく!」
少女「そ、そうですか?」
友「そうそう!他の家にもチラシ配らなくちゃいけないし」
少女「すみません。えへへ、何せ久々のお客様でしたので」
男 友「……」
男「では、一杯もらっていきます」
友「ちょうど、どこかで休憩しようと考えてたところだし」
少女「そうですか!では、そちらにお掛けになってお待ちください!」
少女「すぐご用意しますので!」スタスタ
男「」
友「」
男「てめぇ、何がお化けだ!幽霊だ!ふざけるな!」
友「ま、まぁいいじゃねぇか!不審者扱いされなかったわけだしさぁ!」
男「よくねぇ!!」
少女「おまたせしました」
友「あ、どうも」
男「……」
友「……」
少女「」ニコニコ
少女「ご近所に住んでいらっしゃるのですか?」
男「え、えぇ。まぁ、それなりに」
少女「そうですか!」
友「ていうか、近所に住んでんなら顔くらい」
少女「そうですね」エヘヘ
少女「私はずっとこの家の中で過ごしてますから」
男「それは勿体無い。ここ最近は暖かくて天気もいい。絶好の散歩日和だと思いますよ」
少女「はい、部屋に入り込む日差しでわかります。きっと外はとても気持ちが良いのでしょうね」ニコッ
友「まぁ、あれでしょ。インドア派って奴」
少女「そういう感じでしょうか」ウフフ
男「お茶ごちそうさまでした」
少女「おかわりはいかがですか?」
男「いえ、長居するのもあれなんで」
友「お茶美味しかったよ!」
少女「そうですか、良かったです」ニコ
男「さ、チラシ配りの続きだ~」
友「お邪魔しました~」
少女「あ、あの」
男「?」
友「なんすか?」
少女「よろしければ……また、遊びに来てください」
少女「その……私、インドア派なものでして」
少女「友達がいないんです」
男「えぇ、よろこ」
友「もっちろん!喜んで!そんじゃ、また明日にでも来ますよ!」
少女「明日ですか!?お待ちしております」
帰り道
友「いやぁ!可愛い子とお友達になれて!らっき~!!」
男「そうだな」フフッ
友「ついでに良さそうな溜まり場も見つけたし!」
男「おい、どれだけ通うつもりだよ」
友「いいじゃん。俺達が行ってやればあの子も喜ぶって」
男「彼女は良いかも知れんがご両親に迷惑だろう」
友「あ、そうか」
男「そうだよ」
友「共働きなのかなぁ。家にはあの子一人だったみたいだし」
男「確かに。俺達が初めに呼びかけた時も誰も反応しなかったしな」
友「結局、寝てたあの子だけがおもてなしかぁ」
男「それに」
友「あ?」
男「彼女はずっと家から出ていないって言ってたろ?」
友「だから、インドア派だろ?」
男「まぁ聞けよ。あの家は住居人を誰も見たことがない事からお化け屋敷と噂されていた」
友「結局、お化けはいなかったけど」
男「そう。お化けはいなかったが代わりに女の子がいた」
男「そして、その女の子は家からずっと出ていないらしい」
友「何が言いたいんだよ。周りくどい話はよしてくれ」
男「彼女の発言の意味を俺たちは少し履き違えているのかもしれない」
友「え?」
『私はずっとこの家の中で過ごしてますから』
男「引き篭もりだとかインドア派とかそういう意味じゃないんだよ。きっと」
友「じゃぁどういう意味だよ」
男「彼女の言葉の通り。一度もあの家から出たことがないんじゃないのか?」
友「……な。んなことあるか!!」
男「相当、苦手なんだろうな外が」ウンウン
友「だから、んなことあるか!」
男「なんでだよ」
友「家に引き篭もってるから誰も住んでないと思われお化け屋敷だなんて言われる」
友「お前はそう言いたいんだろ?」
男「そうだ。俺が一つのミステリーを解決してやったんだ」
友「解決どころじゃねぇよ!さらにミステリー生んでるよ!」
男「あ?」
友「お前の話だとなぁ!」
友「両親も同じ引き篭もりか!そもそも、いないってことになるじゃねぇかよ!」
男「!?」
男「家族揃って引き篭もりか。いや、ないな」
友「……あの家がお化け屋敷って言われるようになったのは俺達が生まれる前からだ」
友「母さんが子供の頃からそう言われてたからな」
男「夜中にこっそり出入りしてたんだろう」
友「あの子は?どう見ても俺たちとそう年齢は変わらないぜ?」
友「だけど、あそこに女の子が住んでることすら誰も知らなかった!」
男「……」
友「おかしいだろ。子どもが住んでいるならさすがにお化け屋敷なんて噂……」
男「仮に彼女がずっとあそこにいたとしても誰が彼女を育てたのかもわからん」
男「ていうか、出入りが無ければあの家に彼女以外いるはずないんだよ」
友「わかった……あの子は泥棒なんだ。それも最近、住み着いた」
男「はぁ?」
友「もともと誰も住んでいなかったあの家を気に入って最近住み着いたんだよ!」
男「なるほどな。誰も住人の顔を知らないことを上手く利用したわけか」
次の日
喫茶店
先輩「なるほど……あの家は乗っ取られていたのか」
友「そうなんすよ!可愛いからってなんでもしていいわけないっす!」
先輩「それで、今日も行くんだろ?」
友「まぁ、泥棒でも一応、友達になったし……」
男「俺は乗り気しないけど」
先輩「俺も行こう!!!!」
男「先輩!?」
――
―
先輩「というわけで、ごきげんよう」
男「高校の先輩です」
少女「初めまして」
友「で、何するよ」
先輩「時間も時間だ。夕飯のつくろう」
少女「え?」
先輩「安心したまえ食材は持ってきている」ガサッ
男「先輩!?」
先輩「キッチンはこっちで良いのかな?」
少女「えっと、はい。ですが、私がお作りしますよ?」
先輩「ふむ、では手伝ってもらおうかな」
少女「は、はい!」
男「何考えてんだあの人は……」
友「みろよこれ」
男「なんだよ」
友「チェスのやつだろこれ」
男「どっから持ってきた!」
友「そっちの棚から」
男「戻しとけ!」
先輩「うまいなぁ。君」
少女「料理は私の仕事ですから」エヘヘ
男「コマ並べたけどさ」
友「知らないよ。俺もチェスのルールなんて」
男「……」
友「やっぱり、片付けようか」
少女「あら?」スタスタ
男「すみません!勝手に」
少女「いえ、そのチェス盤が懐かしくて」フフッ
友「できるんですか?チェス」
少女「はい」ニコッ
少女「2階にはもっと大きな、チェステーブルもあるくらいですから」
先輩「ふむ」
少女「いい匂いがしてきました!」
先輩「うちの喫茶店のメニューにもなっているシチューだ!」
先輩「さぁ!後は盛り付けだけだ!」
少女「はい!」
男「それにしても何か高そうだよな。この駒」
友「ルールもわかんねぇし眺めることしかできねぇ」
全員「いただきまーす!」
少女「美味しい……すごく!美味しいです!」
少女「誰かに料理を作ってもらったのは初めてです!」
先輩「はっはっはっは!そうかそうか!」
友「う、うまいなぁ。先輩」
男「さすがっすね」
友「食べ終わったらさ。チェスのルール教えてよ」
少女「はい!」
――
―
少女「チェックメイトです」
友「……」
少女「さぁ、もう一度!がんばりましょう」フフ
友「いや、俺はもう」
先輩「楽しそうで何よりだな」
男「はい」
男「なんか昨日と少し印象が変わりました」
先輩「ふむ、と言うと?」
男「もっとお固い人なのかなって思ってましたから」
先輩「俺は昨日を知らんからなぁ」
先輩「俺の印象は明るい無邪気な子どもだな」
男「こども、ですか?」
先輩「あぁ、子どもだ」
帰り道
男「それにしても、先輩」
先輩「なんだ」
男「いきなり、料理作るとか言い出して驚きましたよー」
友「ほんとっすよ。土産でも持ってきたのかと思えば全部食材だなんて」
先輩「……」
男「?」
先輩「あの少女……本当に幽霊なのかもしれないな」
友「ちょっと先輩、冗談はやめてくださいよ~」
先輩「無かったんだよ。冷蔵庫がさ」
先輩「いや、冷蔵庫は問題じゃない。あの家に食べ物がまるで無かったんだ」
男「まさか」
先輩「キッチンはいろいろ確認したがなかった」
友「に、2階にあるんじゃないっすか?倉庫みたいなのが」
先輩「あぁ、なるほど」
男「絶対そうっすよ。家から出ない子なのに食料がないって。こんなご時世に餓死しますよ」
先輩「誰が買ってんだろうな。その食料」
男「え」
数日後
男「あぁ、春休みに宿題なんてうちだけだろー」
友「だまれだまれ!せっかく集中してたのによ!」
少女「お茶入りましたよ」
男「ありがと」
先輩「俺の差し入れだ」
少女「わざわざすみません」
先輩「いや、いいんだ。それで、今日も晩御飯作ってやろうと思うのだが」
少女「いえいえ!何度も悪いです」
先輩「まぁ、そう遠慮するな」
――
―
お化け屋敷に住む女の子。
彼女は謎だらけで、こうして話をしている今でも本当に幽霊なのかもしれないと思っている。
だが、幽霊かどうかなんて今の俺達にとってはどうでもよかった。
友や先輩と話をしてチェスをして
楽しそうに笑う彼女を見るのを心地よく感じるようになっていた。
男「」
友「お前、何にやついてる」
少女「何かいいことでもありましたか?」
男「えっ//いやぁ!別に!」
男「なんか//あったっかい笑顔だなと」
先輩「正直だな。お前は」
少女「私?ですか?」
友「確かに、なんか子供っぽい笑い方だよな」ハッハ
少女「そうでしょうか……」
友「いやぁ!!悪口とかじゃなくて」
少女「暖かくなんかないですよ。私は……」ボソッ
先輩「そうか?俺はあつすぎるくらいだと思っているのだが」ハッハッハ
少女「そ、そんな」
少女「そうでしょうか」ニコッ
更に数日後
男「春休みももう残すは3日!」
友「そこでだ。お花見をしようと思う!」
先輩「いいな。確かここの近所に良さそうな場所あっただろう」
少女「お花見、ですか?」
男「そう、桜の下で馬鹿騒ぎだ!」
少女「桜の木」
先輩「で、いつ行く」
友「明日!」
男「君も来るよね?」
少女「え?えっと」
先輩「外が苦手なら無理しなくてもいいんだよ」
少女「ええと……」
少女「行きます!!行きたいです!お花見!!」
帰り道
男「以外だったね。彼女の返答」
友「まぁ、いいじゃないか。来てくれないもんだと思ってたんだから」
先輩「あの様子じゃぁ花見もしたことないんだろう」
男「幽霊だからねぇ」
友「そうそう」ハッハッハ
先輩「明るく元気な幽霊だな」
次の日
屋敷内
少女「お待たせしました」
男「本当にいいの?外は苦手なイメージなんだけど」
少女「いえ、大丈夫です。もう大丈夫なんですよ」ニコッ
気のせいだろうか。彼女の瞳が少し光って見えた。
少女「あの、よろしければなんですが//」モジモジ
男「な、なに?」
少女「みなさんに手を引いてもらいたいんですが//」
友「そうかそうかまだ、外が怖いか」ハッハ
男「おいこら」
男「いいよ」ニコッ
少女「ありがとうございます」ニコッ
先輩「俺が戸を開けよう」ガチャッ
男「さぁ、行こう」ギュッ
少女「はい!」
手を引かれて扉の外へ出ると同時に
彼女は春の暖かく優しい陽の光を浴びて
糸の切れた人形のように地へ崩れ落ちた。
男「お、おい!!」
友「どうした!?」
何処からか漂ってきた桜の花びらが一枚彼女の髪の上にのった。
地に座りこみ動かなくなった彼女を見て初めて気付いた。
彼女は人ではなく幽霊でも無かった。
男「おい!しっかりしろ!」
少女「」カラカラ
男「救急車!呼ばないと!!」
友「……」
先輩「こんなことが……」
男「何してんだよ!!早く誰か助けを!!!」
先輩「よく見てみろ。お前が抱えてる彼女を」
男「え……」
男「に……人形?」
少女「」
男「……ど、どういうこと?」
友「わかんねぇよ……」
先輩「……とにかく、家に入れてやろう」
――
―
少女「」
友「……俺達はずっと人形と話してたのか」
男「……」
先輩「ちょっと、2階に上がってみるか」
男「やめましょうよ……」
先輩「いいじゃないか」
友「先輩……いくらなんでも」
先輩「なんだよ!!!!!!!!」
男「!」
先輩「知りたくないのかよ!彼女のこと!!なんで動かなくなったのか!」ウルウル
先輩「また動くかもしれないだろ!?」
先輩「俺達が殺したんだろ……あの子を」ウルウル
男「……」
友「俺達が……外へ無理やり」
2階
男「……どの部屋も鍵がかかってる」
先輩「こっちだ」
友「この部屋、扉が開いたまんまだ」
先輩「きっとあの子の部屋、なのかもしれない」
男「机の上、なんだろ」
友「ノートか?」ペラッ
男「誰の絵だろう?ここの家の人?」
先輩「……彼女が描いたものかもな」
男「このページ……」
友「俺達じゃん!」
男「写真みたいに上手いな」
友「多分、初めて会った日だろう」ペラッ
男「あ、先輩」
先輩「これは俺が料理してる姿じゃないか」
男「これ、チェスしてる時のか」
先輩「……よほど楽しかったんだろう」
男「もしかしたら、ずっと一人ぼっちだったのかもな……」
友「俺の母さんが生まれるずっと前にここの最初のページに描かれてた人、死んでてたんだろうな」
先輩「人形だから歳をとらない、か……」
『暖かくなんかないですよ。私は……』
男「……だから、あの時」
先輩「せっかく、友達になれたというのに……俺達は」
先輩「なんてことを……」
男「なぁ、最後のページ見てくれよ」
友「桜?ここに描いてるのって俺たち?」
先輩「それにそこに広げてある本。植物図鑑じゃないか?」
友「桜を見たこと無いからわざわざ絵を見て写したのか」
男「……」
男「あの子は全部わかってたんだよ……」
先輩「扉から一歩前に出れば自分がどうなるか…」
友「……動かなくなる前に先に思い出を描いておいたのか」ウルッ
『本当にいいの?外は苦手なイメージなんだけど』
『いえ、大丈夫です。もう大丈夫なんですよ』
男「……」
友「でも、どうして……外にさえ出なけれなあの子は」
男「ずっと変わらない日々を過ごさなくちゃいけなかった」
男「人形の彼女に寿命なんて……ないから」
友「だからって!」
『いいじゃねーか。こういうありふれた日常を一変させる何かを探すのってわくわくするじゃん?』
友「ありふれた日常を一変させる何か……」
先輩「彼女はそれをずっと探し続けてんだよ。家の中で」
先輩「でも、それがこの家にないことに気付いた」
男「扉の一歩その先……一歩だけでよかったんだよ……たった一歩でも」
男「連れて行ってあげよう。お花見」
友「そうだな。絵日記が嘘になっちまう」
少女「」
男「さぁ、行こう」ニコッ
――
―
少女「明日はお花見……」
少女「桜の木がわからなくて描けない……花びらがピンク色なのはしっているけど」
少女「そうだ!書斎に確か」タッタッタ
――
―
少女「ふぅ、やっと描けた」
少女「……」
少女「……外に出るのちょっと怖いな」
少女「やっぱり、痛いのかな」
少女「だめだめ!弱気になっちゃ!」
少女「明日って決めたんですから!」
――
―
少女「(やっぱり、ちょっと怖いなぁ)
少女「あの、よろしければなんですが//」モジモジ
男「な、なに?」
少女「みなさんに手を引いてもらいたいんですが//」
友「そうかそうかまだ、外が怖いか」ハッハ
男「おいこら」
男「いいよ」ニコッ
少女「ありがとうございます」(ご主人様……友さん、先輩さん、そして男さん)
先輩「俺が戸を開けよう」ガチャッ
男「さぁ、行こう」ギュッ
少女「はい!」(今までありがとうございました)
少女「」フラッ
少女(……力が抜けていく)
少女(ふふ、ほんとうに絶好のお散歩日和ですね)
その時、私は眩しい陽の光の中に桜の花びらを見つけました。
無数の花びらが粉雪のように宙を彩り
それは本格的な春の訪れを私達に優しく伝えているように見えたのです。
少女(人形にも天国があればいいな)ニコッ
おわり