1 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2014/02/23 08:30:08 X8Svgfaw 1/34

「ええ、まったくの雪です」

「ほら、肩にも積もってる」

「あっ、すみません」

「途中、足元は大丈夫だったかい?」

「はい、おかげさまで」

「ちぇ」

「ご不満ですか」

「うん」

「転んでいたらどうしたんですか?」

「笑ってやろうとおもってた」

「む……」

「ふふ、冗談だよ」

元スレ
女「かなり降ってるみたいね」
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1393111808/

2 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2014/02/23 08:34:53 X8Svgfaw 2/34

「おみやげがあります」

「おっ、うれしいね。なんだい?」

「来る途中めずらしいものを見かけまして、つい」

「どれどれ……お、とうふだね」

「今どき豆腐屋なんて、めずらしいでしょう?」

「二丁目のあたりだろ?」

「なんだ、しってましたか」

「店主は色白の、ちょっとした美人だったはずさ」

「お知り合いですか?」

「小学のね。同級さ」

「はあ」

3 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2014/02/23 08:38:31 X8Svgfaw 3/34

「や、しかしいいものを持ってきてくれたね。ありがとう」

「いえ」

「ちょうどなにかもう一つほしいと思ってたんだ」

「そりゃあよかったです」

「あの子のとこのなら上出来だよ」

「今日はなんですか?」

「なんだとおもう?」

「鍋」

「ふふ、あたり」

「この雪ですからね」

4 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2014/02/23 08:40:10 X8Svgfaw 4/34

「よし」

「はい」

「わたしはこのとうふを切ってくるからさ。先に部屋でぬくもっていてくれ」

「すみません」

「こたつは入れてあるからね」

「はい」

「すぐいくからね」

5 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2014/02/23 08:42:04 X8Svgfaw 5/34

「うあー……」

「っと、おまたせ」

「あ、鍋、沸かしておきました」

「ありがとう……どうしたんだい? ひとりで唸ってさ」

「いえ、こたつのぬくさを噛みしめてました」

「ふうん」

「いいもんですねえ……」

「わたしとどっちがいいかな?」

「な」

「ふふ」

6 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2014/02/23 08:43:31 X8Svgfaw 6/34

「さ、飲もう」

「飲みましょう」

「かんぱぁい」

「乾杯です」

「……」

「……」

「……ふう」

「……いいあんばいですね」

「ああね」

「ええ」

7 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2014/02/23 08:50:30 X8Svgfaw 7/34

「君、菜箸を取ってくれないか」

「と、俺がやりましょう」

「すまないね」

「なんです? これ」

「鱈だよ君」

「こっちは春菊」

「あとは君のとうふだね」

「シンプルですね」

「歳をとるとね、こんなのがいいのさ」

「同意ですけど、まだそんな歳じゃないでしょうあなた」

「ふふ」

8 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2014/02/23 08:51:08 X8Svgfaw 8/34

「そろそろいいですか」

「うん。煮えたろう」

「いただきます」

「めしあがれ」

「……と、とと」

「…うん」

「……」

「……」

「…うまいもんですね」

「んむ。やはりこうでなくてはね」

「ま、一献」

「お、お」

9 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2014/02/23 08:54:22 X8Svgfaw 9/34

「……」

「……」

「む」

「ほれ」

「どうも」

「ん」

「……」

「……」

10 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2014/02/23 08:56:42 X8Svgfaw 10/34

「……」

「春菊ほしいな」

「はい」

「ありがとう……と」

「……はやくないですか?」

「煮過ぎるよかマシさ」

「ま、そうですね」

「……む、うまい」

11 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2014/02/23 08:57:29 X8Svgfaw 11/34

「……」

「……鱈はいいね」

「はい?」

「うまいじゃないか」

「はあ」

「身が白いのもいい」

「そうですね」

「噛むと、味がでるね」

「酒に合います」

「うむ」

「……」

「……やはりうまい」

「はい」

「うーむ……」

12 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2014/02/23 08:59:41 X8Svgfaw 12/34

「……」

「字もいいな」

「鱈ですか」

「うん。魚に雪と書く」

「えーと……ああ、そうですね」

「今日みたいな日にぴったりだ」

「雪の日」

「うん」

「……」

「雪じゃなくてもぴったりだ」

「……よほど鱈、好きなんですね」

「ふふ、惚れたら一途なのさ」

「はあ」

13 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2014/02/23 09:01:16 X8Svgfaw 13/34

「さ、今度は君がとうふ語りをしようか」

「なんですかそれ」

「好きだろ? とうふ」

「まあ好きですけど……」

「ささ、どうぞ」

「えーと、じゃあ豆腐はうまいです」

「うんうん」

「やらかいですね」

「そうだな」

「あー……白くていいですね」

「うん、とうふは白い。白いはウサギだ」

「……」

「……あふっはふっ」

14 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2014/02/23 09:01:48 X8Svgfaw 14/34

「……あの」

「ん、もうおしまいかい?」

「楽しそうですね」

「まあねえ」

「はあ…」

「ため息はいけないよ君。まま、こいつで飲み込みなさいな」

「…いただきます」

「ふふ」

15 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2014/02/23 09:04:00 X8Svgfaw 15/34

「……」

「さーよなら三角、また来ーて四角」

「なつかしいですね」

「四角はとうふ、とうふは白い」

「……」

「白いはウサギ、ウサギははねる」

「……」

「ウサギははねる」

「…はねるはカエル」

16 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2014/02/23 09:04:33 X8Svgfaw 16/34

「カエルはあーおい」

「あーおいいは葉っぱ」

「葉っぱはゆーれる」

「揺れるはローソク」

「ん? おばけじゃないか?」

「おばけですか?」

「ふーむ」

「地方差ですかねえ」

「そうだねえ」

「……」

「……」

17 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2014/02/23 09:06:48 X8Svgfaw 17/34

「ごちそうさまでした」

「うん、おそまつさまでした」

「んー、いい感じに酔いが回ってます」

「でも、まだ飲むだろ?」

「ええ」

「ふふ、今夜は寝かさないよ」

「いっつもあなたが先に寝るんですよ」

「ちがいない」

18 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2014/02/23 09:07:45 X8Svgfaw 18/34

「……」

「……お、やんでる」

「…いつのまに」

「うーん、積もったねえ」

「電車が止まらないといいのですが」

「その時はもう一泊していくんだろ?」

「そうですねえ」

「よし。電車がとまりますように…」

「呪いをかけないでください」

「ささやかなお祈りくらいいじゃないか」

「はあ」

20 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2014/02/23 10:25:24 X8Svgfaw 19/34

「……あ」

「空いたね」

「もう一本いきますか」

「うん。お燗つけよう」

「いいですね」

「ふふ」

21 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2014/02/23 10:31:16 X8Svgfaw 20/34

「……」

「うーん」

「どんな感じですか?」

「どんな感じがいい?」

「ぬる燗と熱燗のまんなかくらいが好きです」

「上燗だね」

「そんな名前なんですか」

「人肌燗、ぬる燗、上燗、熱燗、飛び切り燗というね」

「へえ」

「ん、こんなもんだろ」

22 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2014/02/23 10:32:33 X8Svgfaw 21/34

「さ、どうぞ」

「はい」

「……」

「あっ、そのくらいで…」

「まあまあ」

「……」

23 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2014/02/23 10:42:33 X8Svgfaw 22/34

「じゃ、乾杯」

「乾杯」

「……くう、いいねえ」

「ご機嫌ですね」

「わたしも回ってきたかな」

「ええ、顔がほんのり赤いです」

「これは照れてるだけさ」

「嘘おっしゃい」

「ふふ」

24 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2014/02/23 10:44:30 X8Svgfaw 23/34

「……」

「……ん」

「ねむいんですか?」

「んーん」

「……」

「んふふ」

「……」

「……」

25 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2014/02/23 10:47:17 X8Svgfaw 24/34

「……」

「……」

「……」

「ね」

「なんですか?」

「雪が見たいな」

「どうぞ」

26 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2014/02/23 10:48:31 X8Svgfaw 25/34

「そうじゃなくてさ」

「外は寒いです」

「酒があるだろ」

「そこの縁側で我慢しませんか?」

「ちぇ。ま、いいか」

「移りますか」

「連れてってくれよ」

「このくらい、自分で歩いてください」

「やなこった」

「……つかまってください」

「わあい」

27 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2014/02/23 10:56:01 X8Svgfaw 26/34

「縁側の雪、掃きますね」

「うう、寒いな」

「だから言ったでしょう」

「ま、こうしてりゃいいか」

「……」


「ぬくいだろ?」

「ええ」

28 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2014/02/23 10:56:39 X8Svgfaw 27/34

「……」

「……」

「白いなあ」

「ええ」

「……」

「……」

29 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2014/02/23 11:00:19 X8Svgfaw 28/34

「……」

「静かですね」

「うん」

「……」

「雪は音をけしてしまうというね」

「ええ」

「……」

30 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2014/02/23 11:01:18 X8Svgfaw 29/34

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

31 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2014/02/23 11:02:03 X8Svgfaw 30/34

「……」

「あ、月」

「……え?」

「ほら、あの雑木のうえ。雲のすき間」

「ああ」

「下弦だね」

「もう二月もしまいですか」

「そうだねえ」

32 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2014/02/23 11:03:09 X8Svgfaw 31/34

「……」

「雪見酒に月見酒かあ」

「贅沢ですね」

「雪月花のとき、最も君をおもう」

「なんですか? それ」

「白居易」

「はあ」

33 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2014/02/23 11:05:13 X8Svgfaw 32/34

「ま、花はないけどねえ。我慢しようじゃないか」

「そんなことないです。ちゃんと揃ってますよ」

「え? どこだい?」

「……」

「……」

「……きれいですねえ」

「…ちぇ、らしくないこと言いやがって」

「すみませんね」

「ふふ、ま、悪い気はしないね」

34 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2014/02/23 11:06:24 X8Svgfaw 33/34

「む、ちょっと冷えたな」

「中に」

「うん」

「窓、しめますよ」

「おおさむ」

「こたつ潜りましょう」

「んー……」

「はい?」

「あったまるなら、人肌がいいやね」

「……はいはい」

「ふふ」

「……」

「ん……」

「……」

「……」

35 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2014/02/23 11:08:47 X8Svgfaw 34/34

めでたしめでたし

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