…どちらかといえば温室育ち。
私の家は田舎とはいえ、大きな家に、お花が沢山咲いた庭。
そう。いうならば…お金持ちの生まれだった。
小さい頃から何かと大切にされてきたけど
大人になるにつれ、そんな楽な生活よりも
私は一人で自立したいと考えるようになっていった。
元スレ
女剣士「冒険者の喫茶店で働く事になりました」
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1390819964/
そして、16歳の誕生日を迎えたとき、親にその旨を伝えると
意外にも、母も父も揃って快諾してくれた。
そして私は…
誕生日から数日後に田舎町から都会の"中央都市"へ足を運んで――…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 中央都市 】
女剣士(ってなわけで、これから私の自立した新しい生活が始まる…)ドキドキ
トコトコ…
女剣士(ずっと親に世話になってたけど、やっとこうして自立できる)
女剣士(最初のアパートは親のお金だけど、いずれ一人前の冒険者になって…!)
パカラッ…
馬車商人「…ん?」
女剣士「…」
パカラッパカラッ…
馬車商人「…おい、危ないぞ!こっちを見ろ!」
女剣士「えっ?」クルッ
パカラッパカラッパカラッパカラッ!!
女剣士「きっ…きゃああっ!」
馬車商人「ま、間に合わない…!うりゃああっ!」グイッ
ギュルンッ!!…ズザザザザ、ドシャアッ……
馬車商人「っつ…!いてて…」
モクモクモク…
馬車商人「お、女の子は…」ハッ
女剣士「ごほっ、ごほごほ…」
馬車商人「!」
女剣士「い、今のは…」ゴホゴホ
馬車商人「生きてたか!大丈夫かい?…手を」スッ
女剣士「はい。ありがとうございます…い、一体何が…?」グイッ
馬車商人「僕の馬車とぶつかりそうになったんだよ。避けたと思ったけど、少し吹き飛ばしちゃったみたいだね」
女剣士「え…」
馬車商人「…君の歩いてた所は物資を運ぶ用の道だから気をつけて。一歩間違えてたら死んでたよ」
女剣士「そ、そうだったんですか…ごめんなさいです」
馬車商人「知らなかったのかい?」
女剣士「はい…。今日から中央都市に越して来たばかりでわからなかったんです」
馬車商人「あ~…なるほどね。じゃあ仕方ないか」ポリポリ
女剣士「本当にすいません…」
馬車商人「まぁ!僕も人殺しにならなくてよかった」ハハハ
女剣士「で、でも、商人さんが運んできた物が…。アレ、ですよね?」チラッ
馬車商人「えっ?」チラッ
グチャッ…
馬車商人「ああぁっ!だ、旦那の荷物がぁぁ!」
女剣士「…」オロオロ
馬車商人「あちゃ~…」
女剣士「だ、大事なものだったんですか?」
馬車商人「この先にある喫茶店の旦那に届ける荷物だったんだけど、久々の良い材料だったからなぁ」
女剣士「ど、どうすればいいでしょう…」
馬車商人「女の子に払える金額じゃないし、僕から直接謝っておくよ」
女剣士「…うぅ」
馬車商人「馬はまぁ大丈夫みたいだな…それじゃ、これから気をつけるんだよ」
女剣士「あ…はい…」
パカラッ…パカラッパカラッパカラッ…
女剣士「…最初からこんなボロやって、私大丈夫なのかな…」ハァ
女剣士「…」
女剣士「やっぱり、私も謝りに行かないとダメだよね…」
女剣士「行こうっ」
タッタッタッタッタ…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 喫茶店 】
タッタッタッタ…
女剣士「ここがさっき言ってた喫茶店かな…?」
…ボソボソ
女剣士「あ…中からさっきの人の声が…」
馬車商人「ってな訳で…申し訳ありませんでした」
マスター「そりゃ災難だったな」
馬車商人「…」
マスター「…」
馬車商人「…」
マスター「500万ゴールド。今回の依頼させたお金だ」ピクピク
馬車商人「存じてます」
女剣士(ごごご、500万ゴールド!?)
マスター「はぁ…ま、お前と俺の付き合いだ。500万ゴールドで許そう」
馬車商人「旦那、全然サービスされてませんぜ…」
マスター「当たり前だろっ!500万だぞ500万!!」
馬車商人「一応保険もありましたから、半額は下りると思いますが…」
マスター「なら、それも含め250万…いや、特別にサービスして200万だな」
馬車商人「200万ですか…。自分のせいですし、仕方ないですね」ハァ
マスター「ま、返せる時で良い。お前も苦しいのは知ってるからな」
馬車商人「はは…感謝します」
コンコン…
マスター「ん?」
馬車商人「こんな朝早くからお客さんですか。商売繁盛してますね」
マスター「まだオープンしてねーっつーの。朝早く、誰だ?」
トコトコ…ガチャッ
マスター「はいはい、どなたですかー…」
女剣士「…あの」チョコン
マスター「っと…お客さんかい?まだ開店時間じゃ…」
馬車商人「あっ!」
マスター「ん?お前の知り合い?」
馬車商人「さっきのお嬢ちゃん!」
女剣士「その…すいませんでした…」
マスター「あ~、この娘が原因の?」
馬車商人「そうなりますね。別に良いって言ったのに…着いてきたのかい?」
女剣士「はい…着いてきました。しっかり自分で謝らないといけないって思って」
馬車商人「謝ってどうこう出来る事じゃないから、良いって言ったんだよ」
女剣士「逃げたら、もっとダメだと思います」
馬車商人「そりゃそうなんだが…」
マスター「…謝りにきてくれた勇気は買うさ。よく来てくれたね」
女剣士「…」
マスター「でも馬車商人の言った通り、君にどうこうできる問題じゃないんだよな」
馬車商人「ですね」
マスター「金額が金額だしなぁ…」
女剣士「500万ゴールドですよね…。お、親に言えば…」
マスター「…」
馬車商人「…」
マスター「ま、まぁそりゃ確かに連絡を言ってもらって、お金は払ってもらえればが嬉しいが…」
馬車商人「いや…旦那、僕がここはお金を出しますよ。必ず」
女剣士「商人さん、だけどそれじゃ…」
マスター「…お前さ、どうしてそんなにこの娘に入れ込んでんの?」
馬車商人「そ、それは…」
マスター「お…一目ぼれか!?」
馬車商人「ち、違いますよ!自分もこうして、一人手で中央に来ましたし。共感したというか…」
女剣士「!」
馬車商人「今の自分なら200万なら払えない金額じゃないですし、僕も前方不注意でしたし。いいかなって」
マスター「そういやお前も、この位の娘の時から、ずっとこの店に来てくれてたもんな」
馬車商人「ですね。ですから、これからの夢を持ってる人を潰しちゃいけないと思いまして」
マスター「昔から妙にやさしいよなぁお前は」
馬車商人「優しいですかね?」ハハッ
女剣士「…あの」
馬車商人「うん?」
女剣士「でもやっぱり、自分のせいは自分のせいです。何とかして、お金はお返しします」
馬車商人「だからそれじゃ…」
マスター「一人身で来てるんだろう?さすがに無茶というもんだ」
女剣士「だ、だったら…ココで働く…とか」
マスター「え?」
馬車商人「え?」
女剣士「…だ、ダメですよね!ただ思いつきで言ってみただけです!」
マスター「いやまぁ…確かに人手は欲しかったところだが…」
馬車商人「あ~…普通の喫茶店なら良かったんですけどね」
マスター「だなぁ…」
女剣士「普通の喫茶店なら良かった…ですか?」
マスター「ここはちょっと特殊でね。普通の女の子には少し向いてないというか」
女剣士「それってどういう…」
馬車商人「ちょっと待って。君はやりたいことがあってこの中央に来たんだろ?」
女剣士「あ、はい」
馬車商人「だったら、そっちを諦める事にもなっちゃうかもしれないんじゃないのか?」
女剣士「そうなっちゃいます…かもしれません」
馬車商人「…だったらそっちの夢も諦めたらダメじゃないのか?」
女剣士「そ、そうかもしれませんが…」
マスター「…君のやりたいことって何だ?」
女剣士「冒険者です。一人前の…立派な冒険者になることです」
マスター「!」
馬車商人「!」
女剣士「女で珍しいと思うかもしれませんが、母もそうだったので…私も決心しました」
マスター「冒険者…か」
女剣士「これでも技術には自信はあります。ですから、中央で募集される軍の募集に参加しようと」
マスター「へぇ…なるほどね」
馬車商人「旦那、これはちょっと事情が変わりましたね。いいんじゃないですか?」
マスター「…かもしれん」
女剣士「え?」
馬車商人「いやー…さっき、この喫茶店は普通じゃないって言ってたじゃないか?」
女剣士「ですね」
馬車商人「なぜかっていうとね。この喫茶店は…」
マスター「世界を走る、"冒険者の集う喫茶店"なんだよ」
That's where the story begins!
――――――――――――――――――――‐
【女剣士「冒険者の喫茶店で働く事になりました」】
――――――――――――――――――――‐
Don't miss it!
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女剣士「冒険者の集う喫茶店、ですかっ!?」
マスター「自然とそうなっちゃったっていうかね…」ハハ
女剣士「どういうことですか?」
マスター「元々俺は冒険者でね。引退後にここに喫茶店を開いたわけ」
女剣士「ふむふむ」
マスター「だから、彼らの憩いになる物を知ってた。最初は身内だけで賑わっていたんだ」
馬車商人「気がつけば類が友を呼び、あっという間に冒険者の喫茶店として有名になったわけ」
女剣士「な、なるほど…」
マスター「俺も冒険者の話を聞けて楽しいし、元同業者で新人の相談に乗ったりね」
馬車商人「手伝ってくれる人探しても、いっつも雰囲気で辞めますもんね皆さん」
マスター「そうだったんだよ…」ハァ
女剣士「な、なら…私が手伝います!」
マスター「働くならきちんと給金も出すよ。月で15万程度しか出せないけどな」
女剣士「いりませんっ!」
マスター「いやいや。お金払わなかったら国に逮捕されちゃうから」
女剣士「でもそれじゃ、損害額をカバーできませんし…」
マスター「つってもなぁ…」
女剣士「なら、月10万でいいです。5万は損害の返済にお願いします」
マスター「200万返済するとして、40ヶ月…。4年近く働くことになるぞ?」
女剣士「よ…4年…」
マスター「無理しなさんな。まだ若いんだろう?大切な時間を棒に振ることはないよ」
女剣士「…」
馬車商人「そういえば歳は?名前も聞いてなかったね」
女剣士「名前は女剣士です。歳は16歳になったばかりです」
マスター「16歳…ね」
馬車商人「まだまだ本当にこれからじゃないか…。今回の件については本当に関わらなくてもいいんだよ?」
女剣士「いえ…。私がやったことは私がやったこと。きっかりお返しします」
マスター「…」
馬車商人「ですって…旦那」
マスター「あ~…。どうするかなぁ…」
女剣士「…」
マスター「うし…わかった…。わかった、雇ってやる」
女剣士「!」
マスター「ただし…条件がある」
馬車商人「まさか、いたいけない16歳の少女を…」
マスター「違うわ!」ゴツッ
馬車商人「痛いっ!」
女剣士「わ、私…な…何でもします!」
マスター「…お前も、中央で無闇やたらに何でもしますとか言うんじゃない」ギロッ
女剣士「す、すいません」ビクッ
マスター「条件は1つ。副業に付き合ってもらう。それで返済も早くなるだろう」
馬車商人「副業って、マスターのアレですよね」
マスター「この娘も冒険者になりたいっつーし、丁度いいんじゃないかってな」
馬車商人「確かにそれはそうですが」
女剣士「それで…副業って、何をするんですか?」
マスター「何、簡単だ。たまに遠出して、魔物の討伐やらで素材を入手する。冒険者の生業に近いな」
女剣士「えっ!…マスターさん、冒険者は引退したんじゃ?」
マスター「本格的なのは無理だが、副業の趣味としてやってるんだ」
女剣士「なるほど…」
マスター「コレについてこれば、冒険者を目指すお前の基礎のレベルアップにもなる。いいだろう?」
女剣士「…ぜ、ぜひ…お願いしたいです!」
マスター「ん。交渉成立な。一応届け出とかあるから、書類持ってくるわ」
トコトコ…ガチャッ…バタンッ
馬車商人「…ゴメンよ。俺のせいで色々と」
女剣士「いえ…。でも、実力を磨ける機会が得られたのは嬉しいことです」ニコッ
馬車商人(ええ娘やっ…!)
女剣士「実際は私が…本当にご迷惑おかけしました」ペコッ
馬車商人「あ…いや、いいよ…」
…ガチャッ
マスター「何だ、馬車商人まだいたのか」
馬車商人「…もう行きますよ!次は気をつけて運んできますからね」
マスター「当たり前だ。じゃあな」
馬車商人「んじゃ、女剣士ちゃんも頑張ってな」
女剣士「あ…はいっ!」
馬車商人「では旦那、また」
ガチャッ…バタンッ…
マスター「んーと…必要な書類はこんな感じ。必要なのはココとココと…ココね」ペシペシ
女剣士「はい」カキカキ
マスター「…」
女剣士「…」カキカキ
マスター「…」
女剣士「…」カキカキ
マスター「なぁ」
女剣士「はい?」
マスター「住む場所はどうするんだ?」
女剣士「一応アパートを借りてます。ここから少し遠いですが」
マスター「なるほど」
女剣士「はい」
マスター「…」
女剣士「…」カキカキ
マスター「…なぁ」
女剣士「はい?」
マスター「さっき親が冒険家だったって言ったが、どういう冒険家だったんだ?」
女剣士「母は軍の冒険部に勤めてたらしいです。父も軍出身っぽいですけど、よく分からないです」
マスター「へぇ…」
女剣士「どっちも凄い強いんですよ。組み手やら、模擬戦やらで勝てたことないんです」
マスター「まさに冒険家のハイブリッドって感じか。お前自身は何になりたいとかあるのか?」
女剣士「一流の冒険者…ですかね」
マスター「ん~…その定義も曖昧だろう。何か発見したいとか、強い魔物を討伐したいとか」
女剣士「そうですね…う~ん…」
マスター「…」
女剣士「…女性の冒険家として強い魔物を討伐して、勇敢な女性冒険家として有名になる…とかですかね」
マスター「ふむ…悪くない」
女剣士「でもまだ曖昧ですよね…」
マスター「うん…ま、それも含めて中央に来たって事だろう。ゆっくり探せばいいさ」
女剣士「はいっ♪」
マスター(…最近の子は、立派になったもんだ)
女剣士「はいっ。書き終わりました…これでいいですか?」ペラッ
マスター「ん~…大丈夫だ。あとは届けて受理されてからだな。割と早めに受理されると思うぜ」
女剣士「私はこれからどうすればいいですか?」
マスター「とりあえず明日の朝9時に来てくれ」
女剣士「わかりました」
マスター「…後はそうだな…。今日は一旦アパートにも挨拶に行くんだろ?」
女剣士「ですね」
マスター「なら今日はこれまで。明日から色々教えながらやるつもりだから、今日は休んだりしてくれ」
女剣士「はいっ」
マスター「別に明日からいきなり大変なことはさせないから、気軽にな」ニカッ
女剣士(あ…マスターさんの笑顔…!)
女剣士「はいっ!」
マスター「あと、何か聞きたいことはあるか?」
女剣士「あ、そうだ。えっとですね…マスターさんって呼んでて大丈夫ですか?」
マスター「マスターさん…ね。いいぜ」
女剣士「わかりましたっ」
マスター「んじゃ混む前に役所に提出しておくかな。途中まで一緒に行くか」
女剣士「でも、お店は…」
マスター「少しくらい遅くオープンしたって問題ないさ」ゴソゴソ
女剣士「そうですか…?」
マスター「適当がうちの流儀なんだよ」ハハハ
女剣士「あ…あはは…」
マスター「よっしゃ、ただいま外出中のプレート出しとけば何とかなる。行くか」
女剣士「はいっ」
カランッ…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(これからどうなるのか…)
(不安だけど、少しだけ楽しみな…)
(私の新しい日常はこうして幕を開けた)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
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・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
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・・・・
・・・
・・
・
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・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 次の日 】
ピピ…
ピピピピピ…!!!!
女剣士「…目覚まし…うるさい…」
モゾモゾ…バンッ!!!
女剣士「もう朝…」ムニャッ
スクッ…モゾッ…
トコ…トコトコトコ…
女剣士「…顔、洗わなきゃ…」
グイッ…ジャー……バシャッ…
女剣士「…今日から色々始まるんだ。頑張らないと」
…ピンポーン!!
女剣士「とと…こんな朝早く誰だろう…はーい?」
ガチャッ…バチンッ!!
マスター「んお、チェーンかかってたか」
女剣士「あれっ、マスターさん。今開けますね」パタパタ
カチャカチャッ…ガチャッ!!
マスター「さっき朝早く役所に呼ばれて、仕事の受理がされた。帰り道の途中だったし届けに来たんだ」ペラッ
女剣士「そうだったんですか…ありがとうございます」ペコッ
マスター「…」
女剣士「…」
マスター「あの、さ」
女剣士「はい?」
マスター「一応女子なんだから…な?いや…朝早く来た俺も悪いんだが」
…チラッ
女剣士「あっ!」
マスター「さすがにその薄着みたいな服で出られては、我が喫茶店としても困るというか」
女剣士「わーっ!わー!わー!」
タタタタタッ…ドタドタ!!
マスター「…はは」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 数分後 】
女剣士「…さあ、喫茶店に行きましょう!」フンッ
マスター「準備が早いようで何よりです」
トコトコ…
マスター「今日からの仕事、簡単だが覚える事はあるぞ。大変だけど頑張れよ」
女剣士「どんなことするんでしょうか。ウェイターさんですよね」
マスター「俺がウェイターもしているようなもんだが、まぁそうなるな」
女剣士「わかりました」
マスター「あとクセのある人間が多いから…な」
女剣士「クセですか?」
マスター「冒険家ってのはなぁ…まぁ色々いるんだよ」
女剣士「…?」
マスター「気にするな。あとで分かる。んで後は、料理とかも覚えさせていこうかなと思ってる」
女剣士「料理ですかっ!」
マスター「お?」
女剣士「得意ですよ!一応、父に色々教わってきました」
マスター「父親?母親じゃなくてか?」
女剣士「どっちかというとお父さんのほうが料理うまかったので」
マスター「へぇ…」
女剣士「たぶん、基本的なことなら出来るとは思います」
マスター「そりゃ結構だ。ところで、コーヒーなんかは飲めるのか?」
女剣士「飲めますよもちろんっ。子ども扱いしないでくださいっ!」
マスター「そうか。うちのウリは美味しいコーヒーだからな」
女剣士「冒険者の喫茶店で美味しい一杯…素敵ですね」
マスター「はは…そうか?」
女剣士「ですよっ」
マスター「ま…とりあえず追々教えていくさ」
女剣士「よろしくお願いします」
マスター「ん。今日から改めて、よろしくな」
女剣士「はい♪」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 喫茶店 】
マスター「えーと、基本的に開店は基本的に朝9時からだ」
女剣士「曖昧なんですね」
マスター「個人稼業だからな。地元の店もそういうのあっただろ?」
女剣士「あ~…ありました」
マスター「似たようなもんだ。とりあえず、開店の前準備の仕方を教える」
女剣士「はいっ」
…スッ
マスター「台ふきん。これでまずは目に見える埃を落とす」
女剣士「はい」
マスター「まぁ分かるだろうが、カウンターだとか、客席とかだ」
女剣士「わかりました」
トコトコ…ゴシゴシ…
マスター「うちは客席も少ないし、大きい訳じゃないから楽だけどな」
女剣士「だからこそ、キレイにするんですよね」
マスター「そう。よく分かってるな」
女剣士「えへへ」
マスター「ん。まぁ今日は軽くでいいぞ」
女剣士「はいっ。じゃあ次はどうしますか?」
マスター「仕入れと食材の仕込みだ。ほら、昨日も会ったが商人のやつが来ただろ?」
女剣士「そうですね」
マスター「朝早く、今日の料理やらに使うのを持ってきてくれるんだ」
女剣士「新鮮なものを使うってことですか?」
マスター「出来るだけ美味しいものを、って思ってるからな」
女剣士「素敵な考えですね」
マスター「そこは少し俺も誇ってるんだぜ」
女剣士「食材ってどうやって決めてるんですか?大体一緒でしょうか」
マスター「どういう素材が入るかは、中央にある貿易センターに行かにゃならん」
女剣士「え?…じゃあ今から行くんですか?」
マスター「はは、まさか。前の日の夕方とか夜に、次の日に運んでもらう素材は決めてくるんだ」
女剣士「なるほど!」
マスター「だから、女剣士のやった事故は食材と…ちょっとした高価な物を仕入れた時に運悪くなったってことだな」
女剣士「あう…ごめんなさい」
マスター「謝らなくてもいいさ。もう済んだことだ」
女剣士「うう…」
マスター「その辺は、慣れたり希望があったらそのうち連れて行くからな」
女剣士「は…はい。色々体験してみたいとは思ってます」
マスター「素材が届いたら、あとは仕込みと…。ああ、あとコレね」
ゴソゴソ…スッ
女剣士「…これはっ!いよいよお店っぽいものが…」
マスター「はは、そうそう。注文書ね。忙しい時は、これに注文書いて出してもらうんだ」
女剣士「ふむふむ」
マスター「一応注文書は席に置いてあるから、注文書を書いたって言われたら持ってきて」
女剣士「わっかりました!」
…コンコン!!
マスター「ん。どうぞ」
ガチャッ…
貿易商人「こんにちわ~貿易商人です。ご注文の品、お届けに参りました」
マスター「ありがとさん」
貿易商人「こちらに置きますね。ご確認下さい」ゴソゴソ
…ドサドサッ!
マスター「…これと、えーと…うん。よし、全部あるね」
貿易商人「では、こちらにサインをお願いします」ペラッ
マスター「…」スラスラ
貿易商人「…」
マスター「…よし、はいよ。いつもご苦労さん」
貿易商人「いえいえ。では、失礼致します」ペコッ
ガチャッ…バタンッ…
マスター「…と、見てた?」
女剣士「はい」
マスター「今のが受け取りの一連の流れ。たまにやってもらうかもしれん」
女剣士「分かりました」
マスター「それと、これが今日の使う食材だ」
女剣士「えーと…わぁっ!お魚ですね!」
マスター「西の港の直送品だ。新鮮で旨いぞ」ニカッ
女剣士「へぇぇ…」
マスター「冒険者共は舌も肥えてるからな。喫茶店つーより小料理店みたくなっちまってるが」ポリポリ
女剣士「いいじゃないですかぁ♪」
マスター「んじゃ、まずは仕込みからかな。手伝ってもらおうかね」
女剣士「わかりました!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 朝9時・オープン 】
マスター「よっし…仕込みも終わり。んじゃ、表のプレートとこの本日のオススメ看板出しといて」
女剣士「はい」
トコトコ…カチャカチャ…
女剣士「"OPEN"プレート…と」
マスター「…」
女剣士「…よしっ。置いてきました」
マスター「ご苦労さん。これが一応、朝の一通りの動きになるな」
女剣士「はい。思ってたよりは楽な感じですね」
マスター「…しかし驚いたぞ」
女剣士「何がですか?」
マスター「予想以上に掃除やら、軽い力仕事にも動きが機敏だし、何より仕込みの速度…手馴れているな」
女剣士「あ、お料理に仕込みですね?」
マスター「そう。本当に得意だったんだな」
女剣士「ですねぇ…。そのうち、私もメニュー考えたりしたら楽しそうです」
マスター「ん。考えておこう」
女剣士「♪」
マスター「…あ、そうだ。忘れるところだった」
トコトコ…ゴソゴソ…
女剣士「どうしたんですか?」
マスター「ほい、これ。どうせまだお客も来ないだろうしな」スッ
女剣士「これって…」
マスター「朝に作ったサンドイッチ。それとコーヒー淹れるからカウンターにでも座れ」
女剣士「…いいんですか?」
マスター「朝飯もまだだろ?寝起きだったみたいだし」
女剣士「あう…」
マスター「だから朝飯分と、少し休んでもらう事と…雰囲気を知ってもらおうと思ってな」
女剣士「雰囲気…?」
マスター「客目線でどんな感じだとか、そういうのも知って損はないだろう?」
女剣士「なるほどっ」
マスター「じゃ、カウンターの席についてくださいお客様」
女剣士「…なんだか恥ずかしいですね」
トコトコ…ストンッ
マスター「…」
ゴソゴソ…カチャカチャ…
コポッ…コポコポ…
女剣士(あ、コーヒーの豆とか焙煎するとか、そこはさすがに手伝えないか…)
マスター「…」カチャカチャ
女剣士(やるなら手伝えることは手伝いたかったなぁ…)
マスター「…そのうちな」
女剣士「えっ!」
マスター「少しこういうのもやりたいんだろ?そんな物欲しそうな目してるんだもんな」
女剣士「え、えっ!そ、そんなにバレてましたか!?」アセッ
マスター「そんなキラキラして見てたらな。まずは色々流れや基本覚えたら教えるさ」
女剣士「そ、そうですか…えへへ…」
マスター「さて…じゃ、こちらがコーヒーだ。遠慮なくどうぞ」
スッ…カチャンッ
女剣士「あ、は…はいっ。頂きます」
マスター「…」
女剣士「…」スッ
…クピッ…
女剣士「!」
マスター「…」
女剣士「お…美味しい…」
マスター「そりゃ良かった」
女剣士「な、何ですかこれ…こんな美味しいコーヒー飲んだことないです」
マスター「…へえ?」
女剣士「砂糖ですか?甘みがあって…でも香りも強くて…。苦味が少なくて…素朴っていうんですかね」
マスター(…ほう)
女剣士「後味が香りに包まれてます。食べ物と一緒っていうよりコレだけで楽しみたいっていうか…」
マスター(…面白いな)
女剣士「で、でもこれはマスターさんの腕が上手いからこそですよねっ!」
マスター「そいつはプレミアムマタリ。中々良い豆なんだ。腕も必要だが、豆も結構いいもんなんだ」
女剣士「良い豆なんですか…?」
マスター「南側で摂れるかなり労力のかかってる豆だ。味わうといいぞ」
女剣士「へぇ…そんな良い豆なんですかぁ…美味しいです」ゴクッ…
マスター「…そのうち色々と飲ませてやるさ。サンドイッチも食べておけよ」
女剣士「あ、は…はいっ」
モグモグ…
女剣士「サンドイッチも美味しいです♪」
マスター(さてさて…ここまでは良い感じだ。お客が来てからどうなることやら)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 午前10時 】
ガランガランッ!!
男「こんちわー」
マスター「いらっしゃいませ」
女剣士「…」
マスター「女剣士、いらっしゃいませ」ボソボソ
女剣士「ひゃっ!い、いらっしゃい…ま…」ボソボソ
男「あはは、聞こえないよ。新人雇ったの?マスター」
女剣士「あう…」
マスター「んむ…まぁ色々あってね。今日はいつもの珈琲でいいのか?」
男「うんお願い。それと…また少し離れる事になったからさ。飲み納めっていうのかな」
マスター「わかった。次はどこに行くんだ?」カチャカチャ
男「南部のエルフ族のところ。急にクエスト入っちゃってさ~」
マスター「なるほどな。今日来ると思ってなかったからいつもの豆は倉庫なんだ。待っててくれ」
男「ありがと」
ガチャッ…バタン…
女剣士(あ…行っちゃった…)
男「…」
女剣士「…」
男「…えーと?」
女剣士「ひゃいっ!」
男「新人サン…名前訊いてもいいかな?」
女剣士「女剣士…です」
冒険戦士(男)「そっか。僕は冒険戦士、よろしくね」
女剣士「よ、よろしくお願いします」ペコッ
冒険戦士「見たところ、僕と年齢一緒…くらい…?」
女剣士「えっ?私16歳ですけど…」
冒険戦士「あっ、先輩だったのか。僕15歳だから」ヘヘ
女剣士「えええっ!?」
冒険戦士「そ、そんなびっくりすること…?」
女剣士「本当ですか!?若いとは思いましたけど…私より若い子が実績のありそうな冒険者なんて…」ズーン
冒険戦士「そんなに落ち込まなくても…」アハハ…
ガチャッ…
マスター「そいつはお前と一緒みたいに、冒険者になる為に中央に来たんだよ」
女剣士「あっ、マスターさんお帰りなさい」
冒険戦士「そうなんだぁ。頑張ってね女剣士さん」
女剣士「あ、ありがとうございます…」
マスター「女剣士、気落とすな。世界は広い、こういうヤツは珍しくないんだ」
冒険戦士「こういうヤツだなんて、酷いなぁ」
マスター「お前は小さい頃から周りにサポートされて冒険者として生きて来ただろうが」
冒険戦士「そうそう。この間、やっと15歳になれて独り立ちが認められたんだよね~」
女剣士「この間って…、少し前まで14歳だった…ってこと…ですか」
冒険戦士「ずーっと独り立ちは夢だったから!」
女剣士「いいですねぇ。親御さんは反対しなかったんですか?」
冒険戦士「えっ…」
マスター「…」
冒険戦士「あ…う、うん。そりゃそうだよ!僕は普段から努力家だったし!」
女剣士「努力を見てくれた親が、わかってくれたんですね。うちと一緒ですね!」
冒険戦士「あはは…うん、そうだね」
マスター「あぁ~ん…?」ジー
冒険戦士「な、何だよマスター」
マスター「ウソこけ。ギルド長や仲間のサポートが優秀だったからだろうが。ミスばっかしやがってるくせに」ククク
冒険戦士「ちょ、ちょっとマスター!」
マスター「それにお前の話は良く聞くぜ?例えば独り立ちの試験だってミスで危うく大事故に…」
冒険戦士「ちょちょっ!それはナシだって!」
女剣士「…ギルドって…何ですか?」
マスター「ギルドを知らないのか?」
女剣士「は…恥ずかしながら」
マスター「まぁ言うなれば、冒険団ってとこだな。冒険者が集まって、依頼をこなしたりするんだ」
女剣士「へぇ~っ!」キラキラ
マスター「元々は冒険者の酒場が、依頼を仲介したのが始まりっていわれてる。世界には何箇所もあるんだぞ」
女剣士「歴史があるんですねえ。中央都市にはどれくらいのギルドがあるんですか?」
マスター「小規模なのは何個もあるが、基本的には東と西に1つずつ巨大なのが取り仕切ってるな」
冒険戦士「僕は東ギルドに所属してるんだ」
女剣士「へぇ~」
冒険戦士「まぁ…ね…うん」
マスター(…?)
女剣士「ギルド…冒険者の仲間かぁ」
冒険戦士「現役の冒険者ならほとんどどこかには所属してるよ」
女剣士「へぇ~…そうなんですか」
マスター「まぁとにかく、コイツはそのギルドの優秀な仲間に囲まれて育ったんだ。実績はあって当然だ」
冒険戦士「…僕だって頑張って実力を磨いたのに」
マスター「わかってるよ。死なない程度に、実力を少しずつ磨いてけよ。焦らずにな」
冒険戦士「わかってるって!」
女剣士「羨ましいなぁ…」
冒険戦士「お姉さんも、うちのギルドに来る?」ハハッ
女剣士「!」
冒険戦士「お姉さんみたいな人がいれば、もっとギルドもにぎわうかも?」アハハ
女剣士「楽しそうですね♪」
マスター「あ~ダメだダメだ。仕事のほうが忙しくて、そうそう顔出しはできないだろ」
女剣士「あ…で、ですよね」
冒険戦士「そっかぁ」
女剣士「…」ショボン
マスター「そんな顔すんな。それに、お前は俺と休みを使って副業するんだろ?」
女剣士「あっ、そうでした!」
マスター「そこでみっちり立ち回りは教えてやる。優秀なギルド様ほどにはいかないがな」
冒険戦士「副業って…マスターがやってる冒険稼業の?」
マスター「そう。もう"冒険ゴッコ"みたいなもんだが、まだその辺のヒヨっ子よりはまともな動き出来ると自負してるぞ」
冒険戦士「いやいやいや、ヒヨっ子とかじゃなくても…一般冒険者にも負けないでしょう」
女剣士「え?マスターさん、そんな強いんですか?」
冒険戦士「強いも何も、ドラゴン討伐に参加したり…軍からの討伐メンバーにお願いされるほどだよ」
女剣士「!」
マスター「昔の話だろ。それにもう俺は軍の仕事は断ってるし、簡単な依頼を受けてるだけだ」
冒険戦士「まだ現役でいけると思うんだけどなぁ」
マスター「無理だっつーの。つーかほら、コーヒーだ」スッ
冒険戦士「お~。これこれ…♪」
…ゴクッ…ゴクゴクッ…
冒険戦士「うん、美味しい。やっぱりこれを飲まないと遠出は出来ないよ」
マスター「それは有難うございますお客様」
冒険戦士「あはは…さて…。そろそろ行かないと」ガタッ
マスター「なんだ一杯だけでもう行くのか?」
冒険戦士「うん。また飲みにくるよ」
マスター「せわしないな。時間には余裕を持つもんだぞ」
冒険戦士「心がけるよ。それじゃあね」
マスター「ん。気をつけて行って来い」
女剣士「行ってらっしゃいです~」
冒険戦士「うん、行ってきます!」
ガチャ…バタンッ
女剣士「は~…凄いですよね本当に」
マスター「あの歳で冒険者ってことがか?」
女剣士「それもそうですけど、何ていうか…うん。何もかも凄いです」
マスター「羨ましがってたしな」
女剣士「それはそうです。私と一緒の人だって沢山いるはずですよ。妙に大人な感じでしたし」
マスター「…」フゥ
女剣士「?」
マスター「いいかよく聞け。だが、この話…俺がしたっていうのは内緒だぞ」
女剣士「は、はい…何ですか?」
マスター「あいつはな…孤児なんだ」
女剣士「え?」
マスター「あいつの所属するギルドのメンバーの1人が、別の町で赤ちゃんを保護した事がある」
女剣士「!」
マスター「親を魔物に殺され、助けられたのが冒険戦士だ」
女剣士「…」
マスター「ま…そういう境遇もあいつはもう気にしてないみたいだが」
女剣士「…」
マスター「冒険出来る事を羨ましがるなということじゃない」
マスター「ここに訪れる客は、当たり前の人生を持つ人より、そういう人が多いんだ」
女剣士「ごめんなさい…私…調子に乗って親だとか…」
マスター「何も言わなかった俺も悪いが、冒険者というのは…そういう境遇がいるってのも心がけておくことだ」
女剣士「はい…」ズーン
マスター「しかしまぁ…、その明るさで話かけるのはお前の良さだと思うぞ」
女剣士「良さ…?」
マスター「あんな風に、お前の無邪気な感じで話をするのはこの喫茶店になかった顔だしな」
女剣士「…」
マスター「お前はお前らしくでいい。だが、お客の奥に入り込むのは基本的にタブーだ」
女剣士「は…はい」
マスター「とはいえ、少しこういう接客業でいると仲良い奴も出てくる。その辺は臨機応変にな」
女剣士「はいっ」
…ガランガラン!!
マスター「っと…客だぞ。明るくな…いらっしゃいませ」
女剣士「はいっ!い、いらっしゃいませっ!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 17時30分 】
マスター「ありがとうございましたーっ」
女剣士「ありがとうございましたっ」
男「美味しかったよ、また」
ガチャッ…バタンッ…
マスター「…うしっ!」
女剣士「?」
マスター「表のプレートをクローズにして、看板しまってきてくれるか?」
女剣士「終わりですか?」
マスター「そっ。1日ご苦労さん」
女剣士「お疲れ様でしたっ!」
トコトコ…カチャカチャ…
マスター「さてと、今日1日が終わって何か質問があるか?」
女剣士「いえ特には」
マスター「そうか。あーえーと…」ゴソゴソ
女剣士「?」
マスター「ほら、これ持って帰れ」スッ
女剣士「これって朝の仕入れたお魚じゃないですか」
マスター「生ものだし、うちは毎日仕入れしてるんだ。勿体ないから食べていい」
女剣士「じゃあ…遠慮なく頂きますね。ありがとうございます」ペコッ
マスター「さて、最後のお客さんの皿洗いとか、掃除を軽くして…」
ジャー…カチャカチャ…
マスター「あとはもう帰って大丈夫だ。また明日よろしくな」
女剣士「わかりました。お疲れ様でした」
マスター「あいよ…夜は夜更かしせずしっかり休めよ」
女剣士「はい、失礼します」
ガチャッ…バタンッ…
マスター(ふむ…)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 夜・アパート 】
カポーン…ジャー…
女剣士(お風呂気持ちいい…。足、少し痛いな…)
女剣士(でも、色んな人とお話出来て楽しいや。ギルドっていうのも知ったし…)
女剣士(たまにもっと中央都市を歩いて、色々と見てみたいかも)
女剣士(でも、休みはマスターさんと冒険だもんね。頑張ろっ!)ザバッ!!
ゴソゴソ…ゴシゴシ…
女剣士「体拭いて~♪貰ったお魚はどうしよっかなぁ…、煮魚も美味しそうだし…」
女剣士「…うーん」
女剣士「…」
女剣士「…」
女剣士「あ…」
女剣士「そういえば、まだお母さんとお父さんに事情説明してないや…」
女剣士「手紙出そうかな…。でも、心配して私のところに飛んできそう…」
女剣士「…」
女剣士「…」ハァ
女剣士「心配かけたくないし…やっぱり言えないよね…」
女剣士「ごめんなさい…」
女剣士「うん。必ず自分の力で何とかして、マスターさんに色々教えてもらって…立派になるからっ!」
女剣士「は…はくしょんっ!寒…っ!お風呂入りなおそっ」
カチャカチャ…バタンッ…
・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・
・・・
・・
・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 次の日 】
ガチャッ…
マスター「ん、おはよう」
女剣士「おはようございますっ!」ペコッ
馬車商人「やぁ」
女剣士「あっ、馬車商人さん!」
馬車商人「話は聞いたよ、頑張ってるんだってね」
女剣士「それほどでもないですよ」エヘヘ
マスター「今日の分は無事に持ってきてくれて良かったわ」
馬車商人「ははは…旦那、その冗談はきついですよ」
マスター「とりあえずありがとな」
馬車商人「しかし珍しいですね、こんな"モノ"を頼むなんて」
マスター「まぁ、明日から女剣士と少し行こうと思ってな」
女剣士「どこにですか?」
マスター「あぁ、言ってなかったが明日は火曜日だからな。ここの喫茶店は毎週火曜日と水曜日は休みなんだ」
女剣士「…中途半端ですね?」
マスター「冒険者に合わせるとそういう休みになっちまったんだよ」
女剣士「なるほどです」
マスター「で、ほら」スッ
…ドサッ!
女剣士「これは…?」
マスター「馬車商人に頼んで貰った冒険者用のバックパックセットだ」
女剣士「!」
馬車商人「女性用は少ないし、高級品なんですよ。体力に合わせて素材も軽くていいの使ってますし」
女剣士「じゃあ、高いんじゃないですか?」
マスター「気にするほどじゃない。装備は万全にしてくのが常道だ」
女剣士「…」
マスター「ところで、お前は自分の武器は持ってるんだろうな」
女剣士「え?あ、はい!もちろんです」
マスター「それと勝手に明日から少し遠出して、魔物狩りの準備は進めてたが…明日行けるのか?」
女剣士「当たり前ですよ!」
マスター「わかった」
馬車商人「では自分はこれで。頑張ってね」
女剣士「はいっ、ありがとうございました」ペコッ
ガチャッ…バタンッ…
マスター「さて…今日の仕入れ食材は、山林部の果物とかの山の幸か。何作るかな…」ブツブツ
女剣士「マスターさん」
マスター「ん?」
女剣士「その…ありがとうございます。準備して頂いて…」
マスター「俺が誘った手前もあるし、必要なことはさせてもらうさ。もちろん、そりゃ俺からのサービスだ」
女剣士「…」
マスター「ま、今はそれを端っこに置いて食材をどうするか手伝ってくれ」
女剣士「あ…はいっ!」パタパタ
マスター「今日の食材は北の山から取り寄せてるからキャベツだのなんだのなんだが」
女剣士「お肉があれば生姜焼きとかに合いますね~」
マスター「そうだな…ん?」
…ゴロンッ
マスター「なっ…何じゃこりゃ…」ビクッ
女剣士「なんですか?」
マスター「紫色の…何だこれ…。見たことないぞ…」
女剣士「おーっ!アケビじゃないですか!」
マスター「あ…アケビだって?」
女剣士「まだ割れてないですね、少し果実は甘みが少ないかもしれません」
マスター「女剣士はこれが何か知ってるのか?」
女剣士「東方で採れるフルーツですよ。お父さんが、何回か取り寄せてました」
マスター「…知らんなぁ。俺こんなの頼んだ覚えないんだが…」
女剣士「間違いだったんでしょうか」
マスター「ん~…。あ、そういや…昨日仕入れ頼んだ時にサービスで何かつけますって言ってたなアイツ」
女剣士「じゃあそれかもしれませんね」
マスター「つっても、俺は食べ方知らんぞ?中身を食べるのか?」
女剣士「皮が割れてませんからねぇ。中身はまだ少し淡白で、食べるにも苦いと思いますよ」
マスター「じゃあどうするか…」
女剣士「逆に皮を食べれます。中身は小鳥にあげるか、牛乳なんかと混ぜて飲むのもありでしょうが」
マスター「お前はこれを料理できるのか?」
女剣士「…甘味噌なんかがあれば」
マスター「もちろんあるぞ」
女剣士「台所使ってもいいでしょうか?」
マスター「ん、構わないぞ」
トコトコ…ジャバジャバ…
女剣士「じゃ、失礼します。手洗って…よいしょ」スッ
…サクッ…トントン…
女剣士「あけびなんか本当に久々に見ましたよ。これが中身です」ニュルッ
マスター「し…白いな」
女剣士「えーと…中の味は…」パクッ
ムニュムニュ…ゴクン…
女剣士「う、うえ…やっぱりまだ少し苦いですね。食べてみますか?」スッ
マスター「何だこれは…。少しだけな…」パクッ
ムニュ…ゴクン…
マスター「…」
マスター「…何ともいえんな。うん…」
女剣士「まだ中身は早い感じですしね。少し待つと美味しいんですが。とりあえず皮を料理してみます」
マスター「俺はわからないから頼んだ」
女剣士「皮を刻んで、サラダ油で炒めていきます」
トントン…パラパラッ…
カチッ、ジュー…
女剣士「…♪」
マスター「色々知ってるんだな。助かるよ」
女剣士「いえいえっ。楽しくて、ついつい覚えちゃうんですよね色々と」
マスター「いいことだな」
女剣士「しんなりしたら、軽くお酒をいれて…混ぜて。甘味噌を加えて…と」
ジャッジャッジャッ…!!ジュワア…
ジュウウ…
女剣士「良い匂いですね…お皿に移して、サっと完成です!」
ジュワア…トロトロ…
マスター「お…少し美味しそうじゃないか」
女剣士「では一口!」パクッ
モグモグ…
女剣士「うん…少しの苦味と甘味噌が合って美味しいです!」ゴクンッ
マスター「ほぉ?どれどれ」
ヒョイッ…モグモグ
マスター「!」
女剣士「どうですか…?」
マスター「うまいじゃないか…。だが喫茶店っていうより酒場のメニューだなこりゃ」
女剣士「あはは…確かにそうかもしれませんね」
マスター「ま、今日の一品としてランチに加えてみよう」
女剣士「♪」
マスター「調理担当は、お前にお願いするぞ」
女剣士「は、はいっ!」
マスター「さて…準備もできたし冒険喫茶のオープンだ!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 7時間後 】
冒険者「ふーっ…ご馳走様。美味しかったよ」
マスター「お褒めの言葉、ありがとうございます。またお越しくださいませ」
トコトコ…ガチャッ…バタン…
女剣士「今日のお食事、好評でしたね♪」
マスター「かなり好評だったな。そのうち定時メニューも悪くないかもしれん」
女剣士「アケビは結構、高級食材なんですよね。時期も限られますし」
マスター「む…ならちょっとキツイか。ま、考えておこう」
女剣士「それでえーと…明日はどこかに行くんですよね?」
マスター「あ、そうそう。明日は朝10時にココに集合だ。東部の街道に向かうぞ」
女剣士「わかりました。何をしに行くんですか?」
マスター「まぁ簡単な魔物掃除だな。いつもやってる事なんだが、とりあえず行けば分かる」
女剣士「はい。必要なものとかはありますか?」
マスター「自分の武具、それと必要なのはバックパックにある。1日中になると思うが大丈夫か?」
女剣士「大丈夫ですっ!」
マスター「ん。そんじゃ今日はしっかり休んでおけよ」
女剣士「わかりました、それじゃ失礼します」ペコッ
ガチャ…バタンッ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 アパート 】
ガチャガチャ…
女剣士「ただいま~…って誰もいないんだった…」
トコトコ…
女剣士「ふぅ…疲れた」
女剣士「お風呂先に入れちゃお…。あぁでもその前に明日の準備を…」
…モゾモゾ
女剣士「…」
女剣士「一人暮らしになると、独り言増えるもんなのかな。私だけなのかな…?」
女剣士「…」
…シーン…
女剣士「と、とにかく持ってきた剣を磨いて、お弁当なんかも作っちゃったりして…」
女剣士「…明日、楽しみだな…」
・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
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――――【 次の日(火曜日) 】
ガチャッ…
女剣士「おはようございます」
マスター「おっ、来たか。武器とかの準備はいいか?」
女剣士「大丈夫です」スチャッ
マスター「お、いい剣だな。俺も剣なんだが、コレだ」
…ズンッ!!!
女剣士「!?」
マスター「でかいだろう」
女剣士「な、何ですかこれ!っていうか、床に穴が!穴が!!」
マスター「あっ」
女剣士「ど、どうするんですかこの穴…」
マスター「まぁ大丈夫だろ。そのうち直る」
女剣士「ケガじゃないんですから!」
マスター「それより村までは馬車で行く。乗り場まで行くぞ」
女剣士「わかりました。私のバックパックはっと…」
マスター「あ、そこまでは俺が持つからいい。行くぞ」ヨイショ
女剣士「は、はいっ」
タッタッタッタッタ…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 馬車乗り場 】
ザワザワ…ガヤガヤ…
運転手「よろしくお願いします。前金は頂いているので、快適な旅に精一杯努めます」
女剣士「よろしくお願いします」ペコッ
マスター「ん、よろしくな」
運転手「足元にお気をつけてお乗りください」
女剣士「ん…よいしょ…」
ギシ…ギシギシ…
マスター「うし。よっこらせっと」ギシッ
…ストン
女剣士「馬車なんて久しぶりですよ」
マスター「酔ったりするほうか?一応、酔い止めは持ってきたが」
女剣士「あ、大丈夫です。もし酔ったら頂きます」
マスター「そうか。遠慮なく言えよ」
運転手「それじゃあ出発しますね。ハイヤッ!」パァン
ギシッ…パカラッ…パカッ、パカッパカッパカッ…
女剣士「~♪」
マスター「ずいぶん、嬉しそうだな?」
女剣士「そりゃそうですよ…。待ち望んでた事ですからっ」
マスター「ま、そりゃそうか」
女剣士「あ、ところでマスターさん。朝ご飯食べてきましたか?」
マスター「ん…いや、まだだが」
女剣士「良かったぁ。これ、どうぞっ!」
ゴソゴソ…スッ
マスター「何だこりゃ」
女剣士「お弁当です」フンッ!
マスター「そんな鼻息荒げる程の力作なのか」
女剣士「そういうこと言わないで下さいよっ!」
マスター「ま、有難うさん。お前の腕前なら美味いだろうしな」
…パカッ
マスター「お?何だこれ」
女剣士「この間もらったお魚が少し余ったので、マリネにしてみました」
マスター「ほう。いい香りだ…どうやって作った?」
女剣士「漬け汁はレモン汁、ワインビネガーとかを合わせつつ、香料をまぶしました」
マスター「ほう」
女剣士「風味があって美味しいと思います。あとは手製の簡単なのを詰めてみました」
マスター「じゃあ頂くよ」
女剣士「はいっ」
ヒョイ…パクッ
マスター「…」
女剣士「…」ドキドキ
マスター「…うん、美味いな。少しにんにくも入ってるな?香ばしさが良い」
女剣士「おいしいですか!?良かったぁ」
マスター「こっちも頂こう。…うん、料理美味いんだな本当に」モグ…
女剣士「趣味の1つですからね」エヘヘ
マスター「大したもんだよ。俺も料理には自信があるんだが、見習う所もありそうだ」
女剣士「そんな…。あ…それと、これをどうぞ」スッ
マスター「レトロな皮袋だな。何が入ってるんだ?」
女剣士「ぶどう酒ですっ。やっぱりこういうのには、ぶどう酒がつきものだと思いません?」フフッ
マスター「おま…、そういや酒とか普通に使ってるが未成年じゃないか」
女剣士「料理酒は別ですよぉ。そ、それとこれは余った物を合わせて手製にしてアルコールゼロに近いですから!」
マスター「んむ…じゃあいいか。しかし何だか…いたれりつくせりだな」
グビグビ…
マスター「うっ…?」
女剣士「!?」
マスター「こ…こりゃ…」
女剣士「だ、だめでしたか!?」アセッ
マスター「弁当に合いすぎる…う、美味いぞ…」ホワアッ
女剣士「な、なんだ良かったぁ…」ホッ
マスター「いやピッタリな飲み物だ。こりゃ食べるのも進む…」モグモグ
女剣士「えへへ、良かったです」
マスター「しかしこんなのまで作れるのか。お前、料理屋に勤めたほうが良かったんじゃないか?」
女剣士「それも考えましたけど、やっぱり親の背中を追いたいじゃないですか」
マスター「んーそんなもんか。それにしても、ここまで料理を覚えるってのは中々難しいぞ」
女剣士「お父さんの影響だけじゃないんですけどね」
マスター「ふむ」
女剣士「お料理を始めたのはお父さんですが、同じ町の料理店の方に教わったりもしまして」
マスター「ほう」
女剣士「凄い方で、今度中央にも支店を出すそうですよ」
マスター「へぇ…食べに行ってみるか。女剣士の師匠なら、さぞかし美味いんだろうな」
女剣士「まさに魔法のようなお料理ですから♪」
マスター「ふーん…」
女剣士「それに、戦いをする冒険者は…いつも最後の晩餐と思って美味い物を食べろって言ってました」
マスター「確かに、それはある」
女剣士「だから、冒険者になるなら手に職…って訳じゃないですが、料理を覚えておこうかなって」
マスター「いい心がけだな」
女剣士「えへへ、でも喜んで貰えてよかったです」
マスター「うんむ、美味い。自信を持っていい」
女剣士「やったっ」
マスター「さて、あとはのんびりと変わりいく景色でも楽しんでいくといい」
女剣士「そうしますっ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 2時間後 】
…パカラパカラッ…
マスター「…」
女剣士「…」
マスター「…」
女剣士「…」
マスター「…あーそうだ。聞きたいことがあったんだ」
女剣士「何でしょうか」
マスター「実践の経験、お前の実力は余り知らないまま連れて来ちまったんだが…」
女剣士「あ…」
マスター「お前はどこまで出来る?依頼の実践の経験は?」
女剣士「実践はお父さんやお母さん達と何度か。剣術はほぼ独学ですが」
マスター「独学?親父さんとかが剣士なんじゃないのか?」
女剣士「あ、いやそれは…」
ヒヒーン!!!
運転手「う、うわぁ!」
マスター「ん?」
女剣士「馬と運転手さんの悲鳴…どうしましたか?」
運転手「め、目の前に盗賊が…」
女剣士「えっ!」
マスター「またか…話の途中だっつうに。馬車の積荷狙いだろう…よくあるんだ」
運転手「ど…どうしましょう」
マスター「俺が対処するよ。女剣士はここで待ってろ」
女剣士「は、はい」
…ヒュウウ
盗賊A「積荷の物と、中に乗客がいるなら降りて来い!」
盗賊B「命までは取らん!金になるものだけ置いていけ!」
盗賊C「出てこい!」
モゾ…ストン
マスター「やれやれ、またか」
盗賊A「客か…。金と持っているものは全部置いていけ!命までは取らん」
マスター「嫌だっつーの。いいから実力行使で奪ってみろ」
盗賊A「…戦うっていうのか?」
マスター「お前らみたいな二流には、まだまだ負けんよ」
盗賊A「いい度胸だ。その腕、なくなっても知らんからな!」ダッ
マスター「大剣を使うまでもない」スッ
盗賊A「おらぁ!」ブンッ
マスター「盗賊のくせに攻撃が遅いって何事だよ」
ヒュンッ…ガシッ!!
盗賊A「へっ?」
マスター「…おらあっ!」ブンッ!!!
グルンッ…ズシャアッ!!
盗賊A「ぬあっ!」
マスター「必殺…背負い投げ。なんつって」
盗賊A「な、なめやがって…」
マスター「実力の差は分かっただろ。俺も見逃してやるから、さっさと通してくれないか」
盗賊A「ふふ…おい、あっちを見てみろ!」
マスター「ん?」チラッ
盗賊B「…こっちに、女がいたぜ!」
盗賊C「一丁前に剣なんて装備してやがる!寄越せ!」グイッ
女剣士「あっ、ちょっと!それ私の剣ですよ!」
マスター「…あらら」
盗賊A「へへ、お前のコレか?乱暴されたくなかったら大人しく金のものを…」
マスター「おい、そこの2人!!」
盗賊B「ん?」
盗賊C「何だコラ!」
マスター「そこの女に手出したら…お前らもこうだからな!」グイッ
盗賊A「へっ?」
ミシミシミシミシ!!!
盗賊A「あいぎゃああああっ!」
盗賊B「ぬおっ!」ビクッ
盗賊C「や、やめろ!」
マスター「…ん、おい…後ろ」
盗賊C「ん?」クルッ
女剣士「…盗賊さん、それ返して下さいよぉ!!」クワッ
女剣士「掌底波ぁっ!!」ブンッ
…バキイッ!!!
盗賊B「ぬがあっ!」
クルクル…ドシャッ…
マスター「!」
盗賊C「て、てめぇ仲間に何しやがる!」
女剣士「人の剣を返して下さい!それは大事なものなんです!」
盗賊C「よくも仲間を!このやろう!」ブンッ!!
女剣士「きゃっ!」ヒュンッ
…ズザザ
盗賊C「へへ…不意打ちなんてさせねーぞ。正面から切り裂いてやる」
女剣士「…、運転手さん!馬車に着いてるコレ借りますね!」ダッ
運転手「へ?それは護身用のただ槍…」
女剣士「…」スチャッ
盗賊C「武器がないからって、そんな咄嗟に取っても無駄だぜぇ!」ダッ
女剣士「…小突っ!!」ビュンッ!!
盗賊C「!」
マスター「!」
ドスッ…
盗賊C「ぬぐ…」
女剣士「ごめんなさい、でも先端は刺さらないようにしたので…」
盗賊C「てめ…剣使いじゃ…ねえ…のかよ…」
…ドシャッ
盗賊A「よ、よくも俺の仲間を!」
マスター「お前ちょっと黙ってろ」
ゴツッ!!…ドサッ
盗賊A「」
女剣士「あ、マスターさんもやった!」
マスター「…」チラッ
盗賊B「」
盗賊C「」
マスター(女剣士…盗賊をどっちも一撃で沈めてやがる…)
運転手「お…」
運転手「おぉぉぉ…す、凄いですね!お二方!!」
トコトコ…グイッ
女剣士「全く、人の物を取っちゃダメですからね。返していただきます」チャキンッ
マスター「…お、おい」
女剣士「はい?」
マスター「お前…剣士じゃないのか?」
女剣士「剣士ですよ?」キョトン
マスター「…武道術、槍術。どっちもありゃ趣味でやれる技のキレじゃないぞ」
女剣士「あ…」
マスター「一体どこで覚えた?剣術はそれ以上に長けてるのか?」
女剣士「あ…じゃ、じゃあ馬車に戻ってから説明しますよ。さっきもそれを言いかけたんです」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
マスター「独学?親父さんとかが剣士なんじゃないのか?」
女剣士「あ、いやそれは…」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
マスター「そうだったか。分かった、戻ろう。聞かせてくれ」
女剣士「はいっ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 馬車の中 】
パカッ…パカッ…
マスター「で…どうしてだ?」
女剣士「実は、私のお父さんは騎士で、お母さんは武道家だったんです」
マスター「…お前は、どっちかを目指さなかったのか?」
女剣士「親がこうなら、私はこうだ!って思ってて…気づけば剣の道に進んでたって感じです」
マスター「…」
女剣士「最も、小さい頃は父も母をマネしてたのでそっちの基本も身についちゃったようなんですが」エヘヘ
マスター「剣術の方は完全に独学なのか?」
女剣士「さっき言った料理の人みたく、実は知り合いに剣術を知ってる人がいたので基本は教えて頂きました」
マスター「ふむ」
女剣士「基本だけで、あとの発展の型は独学ですからまだまだ弱いですけどね」
マスター(基本が最も難しいんだが…槍術も武道術もキレが半端じゃないぞ…)
マスター(よく見れば、素晴らしい肉体だ。しなやかに伸びる筋肉…、咄嗟の反応速度…)
マスター(何より、相手にひるまずに向かって行く勇気。思ったよりもこの娘は…)ジー…
女剣士「…?」
マスター「…!」ハッ
女剣士「そ、そんな見つめてどうしましたか?何か変なところでも…?」
マスター「な…何でもない」プイッ
女剣士「…でも、"あぁいう事"があると少し落ち込むんですよね」
マスター「あぁいう事?」
女剣士「やっぱり武道術とか、槍術とかのほうがしっくりくるんですよ。血筋だから仕方ないんですが」
マスター「…」
女剣士「だから自分の道を見つけてやろうと意気込んでも…、こういう事が度々あって…あはは…」
マスター「…」
女剣士「やっぱり剣士の道って私じゃ厳しいのかもしれませんね」
マスター「…まだ若いからな。これから何があるか分からん。もっともっと悩んで考えることだ」
女剣士「…悩む、ですか?」
マスター「自分の道に悩むのは当然だ。誰でもあることだし、それは悪い事じゃない」
女剣士「…」
マスター「むしろ、悩まずに答えを出すほうが間違いだ。俺との日々が、その答えに近づければ嬉しいと思うぞ」
女剣士「マスターさん…」
マスター「まぁ極端な話、オールラウンダーっていう手もなくはない」
女剣士「オールラウンダー…ですか?」
マスター「ウェポンマスター…いや、バトルマスターといった感じか。全ての武具、武術を扱える戦士なんかもいるんだぞ」
女剣士「へぇ~…」
マスター「時間はある。早い答えを求めるな。そして努力は怠るな…。それだけは言っておく」
女剣士「…はいっ」ニコッ
マスター「村までは少し時間がある。休んでおけ」
女剣士「ありがとうございました」ペコッ
マスター「…んむ」
女剣士「…♪」
マスター「…」
女剣士「…」
………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 夕 方 】
…ゴトン…ゴトン…ズザ…
運転手「お二方、着きました。"街道村"です」
マスター「…ん、ご苦労様。ふわぁ…いつの間にか寝てたか…」ンー
女剣士「…」スヤスヤ
マスター「おい、女剣士」
女剣士「…」クゥクゥ
マスター「…」
運転手「どうしますか?」
マスター「仕方ない…背負ってくよ」
グイッ…ギュッギュ…
運転手「背負ってくって…そのバカでかい剣に2人分の荷物に…」
マスター「このくらいどうってことないさ。それより…運賃は?」
運転手「2万9000ゴールドになります」
マスター「3万ゴールドで釣りは結構だ。またよろしくな」
運転手「はい、ありがとうございました」
トコ…トコトコ…
マスター「…」
女剣士「…」スヤスヤ
マスター「…」
女剣士「…」ユラユラ
マスター「…」
女剣士「何か揺れる…」パチッ
マスター「お、目が覚めたか?」
女剣士「はい…って!マスターさんっ!?」バタバタ
マスター「お、おい!暴れるな!」
女剣士「で、でも背負って貰ってって…あれ!?馬車にいたんじゃ…」
マスター「とっくに着いたよ。歩けるなら歩くか?」
女剣士「そ、そりゃもちろんです!」
ズザッ…
女剣士「ご…ご迷惑おかけしました!」
マスター「構わんよ。と…あれが今回の目的の街道村だ」
女剣士「あうぅ…あっ!入り口が見えますね…もう夕方ですし、一泊ですか?」
マスター「そうなるな。…って言ってなかったか?」
女剣士「はい」
マスター「あ~…そうか。着替えとかはないか?」
女剣士「一応とは思って持ってきました」
マスター「お、準備いいな。なら、とりあえずいつもお世話になってる宿場に行くぞ」
女剣士「はい~」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 宿 場 】
…ガラッ!!
宿番「いらっしゃ…あっ、マスターさんじゃないですか」
マスター「今日も世話になるよ」
宿番「わかりました…って、後ろの女性は…もしかして!」
マスター「違うっつーの。俺の…えーと…まぁ、弟子みたいなもんだ」
女剣士「よろしくお願いしますっ」ペコッ
宿番「よろしくね。じゃあマスターさん、部屋はどうします?」
マスター「あ…あ~。考えてなかったな…いつもの部屋代で3000ゴールドだろ?」
宿番「そうですね。二人で5000ゴールド分にしますが。マスターさんのも元々2人部屋なんですがね」
マスター「いやさすがに色々マズいだろ。2部屋頼むわ」
女剣士「ノーサンキューですよ!」ビシッ
マスター「はい?」
女剣士「2部屋なんてノーサンキュー、1部屋で大丈夫ですっ!」
マスター「いやお前…」
女剣士「そんなお金かける必要ありませんよ。私は平気ですから」
マスター「んむ…」
女剣士「…大丈夫です」
マスター「まぁ…お前がいいなら…いいんだが…」
宿番「じゃあ一部屋でいいですね」
女剣士「大丈夫です」
宿番「ではえーと…101号室の鍵です。利用料金はいつも通り後払いで大丈夫です」
マスター「いつも世話かけるな」
宿番「いえいえ、ごひいきにしていただき感謝してますよ」
マスター「んじゃ女剣士、こっちの部屋だ」
女剣士「はいっ」
トコトコ…
宿番「マスターさんも隅に置けない人だな」ククク
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 101号室 】
マスター「ふぅ、荷物は適当でいいぞ」
女剣士「って言っても、マスターさんが全部持ってるんですけどね」
マスター「んお、そうだったな。よいしょ…っと」
…ドサッ
マスター「さぁて…と」
女剣士「これから、どうするんですか?」
マスター「んーとな…俺がここでやることをザックリ説明するぞ」
女剣士「はい」
マスター「この村は俺が現役時代からの馴染みの村でな。若い頃から世話になってたんだ」
女剣士「へぇ~」
マスター「んで、付近に魔物ないし魔獣が多く生息しててな。度々ここら辺の生産物に害を与えるんだ」
女剣士「ふむふむ」
マスター「それで、俺は休みを使って隔週だとか、繁殖するシーズンになると討伐に動くわけだ」
女剣士「なるほど」
マスター「戦いは基本的に夜。終わり次第、寝て次の日の朝に帰るって感じだ」
女剣士「あれ?ってことは、クエストの依頼を受けてるわけじゃないんですね」
マスター「ん…まぁな。休みたいだろうが、準備してちょっと山のほうに行くぞ」
女剣士「余裕ですよ。いつでも大丈夫です」
マスター「バックパックは背負って、さ…向かうぞ」
女剣士「はいっ!」
ゴソゴソ…
マスター「うし、出発だ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 山 道 】
ザッ…ザッ…ザッ…ザッ…
マスター「…」
女剣士「急に暗くなってきましたね。陽が落ちるのは早いなぁ」
マスター「…何だか不思議な気分だよ」
女剣士「え?」
マスター「いつもは一人だからな。こういうのも久々だ」
女剣士「久々って…前は私みたいな人がいたんですか?」
マスター「現役の頃は、パーティで行動してたからな…ちょっと懐かしくなる」
女剣士「マスターさんの仲間はどんな感じだったんですか?」
マスター「良い奴らだったよ。陽気な戦士に、博学だった僧侶…とか色々だ」
女剣士「今は皆さんは引退したんですか?」
マスター「たまにだが、うちにコーヒーを飲みに来る奴もいる。今度紹介しよう」
女剣士「楽しみです♪」
ザッザッザッザ…ピタッ
マスター「さて…」キョロキョロ
女剣士「?」
マスター「ここからは魔獣の縄張りだ。やはり少しずつ生息域を伸ばしてきてるか…見ろ」
女剣士「…!」
マスター「木に付いてる爪傷…相当な数がいそうだ」
女剣士「この辺の一帯、よく見ると傷だらけですね…」
マスター「去年まではもうちょい山奥だったんだが、年々村に近づいてるんだ」
女剣士「討伐してるのに増えるんですね?よく魔物たちは少なくなってるって聞きますが」
マスター「そりゃ中央都市付近とか、軍がきちんと動いてる所だ。こういった田舎はまだまだ処理されていないんだ」
女剣士「そうだったんですね…」
マスター「だからまだまだ"俺たちみたいな冒険者"が生業として生活できるんだが」
女剣士「!」
マスター「あ…ち、違うぞ!?俺は引退した身だからな?」
女剣士「分かってますよ」クスッ
マスター「さ、さぁこっちだ!きちんと着いて来いよ!」
女剣士「はいっ♪」
…ザッザッザッザ……
…………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 山の深部 】
ホー…ホー…
ガサガサ…サワサワサワ…
マスター「…」
女剣士「…完全に日が暮れちゃいましたね」
マスター「まだ月明かりが頼りになる分、今日は楽だ」
女剣士「…」
マスター(さすがに疲れたり、少し怖くなったか?)
女剣士「楽しいですね、こういうの」
マスター「お?」
女剣士「こういった本格的なのは中々ないので楽しいです」
マスター「ふっ…」
女剣士「♪」
…ガサッ!!
マスター「!」ピタッ
女剣士「!」ピタッ
マスター(ほう…いい反応だ。俺と同時に足が止まるとは)
女剣士「何か…いますね」スチャッ
マスター「…」スチャッ
ガサッ…ガサガサ…
マスター「気配は小さい。…が」ブンッ!!
…ズシャアッ!!!
???『ギャアッ!!』
女剣士「!」
マスター「この辺にいるってことは、やっぱり…ワーグだな」
女剣士(茂みの中の相手に当てた…?大剣とはいえ、今のどうやったんだろう!)
ガサガサ…ヌッ
ワーグ『グ…グル…』ギロッ
女剣士「ワーグ…、魔狼ですか!これが村を荒らす原因なんですか?」
マスター「まぁこいつもだ。あとはケルピーなんかもいるな」
女剣士「魔物のパラダイスですね…」
マスター「悪く思うなよっ」グッ
ブンッ…グシャアッ…
ワーグ『ギャ…』
マスター「さぁて、女剣士」
女剣士「は、はい」
マスター「本当なら、女剣士に基本から少しずつ叩き込むつもりだったが…気が変わった」
女剣士「え?」
マスター「お前の実力とその勇気を、俺が過小評価をしてたらしいと今日気づかされた」
女剣士「…?」
マスター「つまり…こういうことだな」チラッ
女剣士「?」チラッ
ガサガサッ!!…ガサッ…
ワーグの群『…グルルル』
女剣士「ワーグの…群!」
マスター「このくらいなら着いて来れるだろう?」
女剣士「…できます」スチャッ
マスター「危ない所はフォローしてやる。存分に暴れろ」
女剣士「…はいっ!」
ワーグ『グゥアッ!!』ダッ
ダッ…ダダ…ダダダダッ!!!
女剣士「えやああっ!小斬っ!!」ブンッ
…ブシャアッ!!…ドサッ…
マスター(やはり思った通り、剣術の基本も見事なものだ…)
女剣士「次っ!」
ワーグ『グガッ!!』クワッ
女剣士「おっとっと…そう簡単に当たりませんよ!」ヒュンッ
マスター(避ける動きも最小限か。よっぽどな鍛錬を積んできたのが良く分かる)
女剣士「…小火炎魔法っ!」ボワッ!!
…ボォンッ!!
ワーグ『ギャンッ!』
マスター「!」
女剣士「えへへ、どうですか…びっくりしましたね!」
マスター「魔法の練りも早い!魔法まで…扱えるのか…!?」
女剣士「いえ…私、魔法はお父さんににて苦手なんです」
マスター「いや…今の魔法はかなりのものだったぞ?」
女剣士「お父さんもだったんですけど、こういう簡単な魔法しか扱えなかったんです」
マスター「…ふむ」
女剣士「そこも似ちゃったので、だったら使えるものは使えるものだけで精一杯練習してきました」
マスター「…いいぞ、その心構え」
ワーグ『グルアアアッ!!』ダッ!!
ワーグ『グアアッ!』ダッ!!
マスター「お前は本当に、俺が思っていた以上の素質、努力家のようだな!」ブンッ!!
バスッ…ズシャッ!!!…ドサドサッ
マスター「よく俺の動きも見て、それも吸収するといい。まだ甘い部分を教えてやる」
女剣士「…是非っ!」
マスター「遅れるなよ、しっかりついて来い」ニカッ
女剣士(あ…)ドキッ
マスター「ん?」
女剣士「あ、いや!何でもないです!」
マスター「…ふっ。行くぞ!」ダッ
女剣士「はいっ!」ダッ
・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 次の日・宿(水曜日) 】
チチチ…チュンチュン…
女剣士「…」スヤスヤ
マスター「おい、朝だぞ」
女剣士「…むにゃ…」
マスター「もしもーし」
女剣士「!」ハッ
マスター「昨晩は疲れたか?帰ってきてすぐに眠りに落ちたみたいだしな」
女剣士「お…おはようございます」カァァ
マスター「…どうしたよ」
女剣士「いえ、こうして男の人に寝顔を見ながら起こされるのは少し…恥ずかしいですね」アハハ
マスター「だから他の部屋も借りると」
女剣士「い、いえいえいえいえ。いいんですっ」
マスター「…んーむ」
女剣士「それより、昨日はいろいろ教えていただいてありがとうございました」
マスター「当然だ」
女剣士「結局、相当数のワグナー狩りでしたね」
マスター「よく着いてきたな。正直驚いたぞ」
女剣士「あの後、どこかへ行ったようでしたがどこか行ってきたんですか?」
マスター「また村長のところだ。今回の報告にな」
女剣士「なるほど」
マスター「そうして狩をした分の報酬をもらう。本来なら首とか爪とか証拠を持ってくんだが…」
女剣士「マスターさんは持ってってませんでしたよね。一箇所に集めただけで」
マスター「俺の場合は村長の計らいで村の者がその場所に行くんだ。それからの後払いってことになってる」
女剣士「さすがにあの数は運べませんもんねぇ」アハハ…
マスター「少ない数しか狩れない駆け出し冒険者ならまだしも、俺の場合はあれが普通だからな…」
女剣士「さすがですよ」
マスター「だが今回はかなりの数の討伐だったし、数えるのも難しいかもしれんぞ」
女剣士「あはは…」
マスター「いつもなら、そろそろ宿番が報酬金を持って来るはずなんだがー…」
…コンコン
マスター「噂をすれば…来たか。どうぞ」
ガチャッ…
宿番「お疲れ様です。村長から昨日の報酬にと…いつものを預かってます」スッ
マスター「あぁご苦労様。えーと…」
ゴソゴソ…キラッ
マスター「これはいつもの礼だ。それと、もう帰る宿代もここから抜いて…と。これだけ渡すぞ」チャリッ
宿番「はい…確かに。いつも有難うございます」
マスター「いや、こっちこそいつも部屋を用意してもらって悪いな」
宿番「いえいえ、マスターさんには村全体が助けられてますから。では失礼致します」ペコッ
ガチャッ…バタンッ
マスター「それとな…」ゴソゴソ
…チャリチャリッ
女剣士「これは?」
マスター「これがお前の取り分。宿代は別にしとくから取っておけ」スッ
女剣士「えっ!?いやいや、いいですよ私はっ」
マスター「…んなわけにいかないだろ。お前もきちんと仕事はしたわけだし」
女剣士「借金もありますし、そっちは別に…」
マスター「お前、公式で活動するのはコレが初めてなんじゃないのか?」
女剣士「そうですけど…」
マスター「その初めてに報酬がなくてどうする。これは借金とかは別だ」
女剣士「む、むぅぅ…」
マスター「それに謝礼はきちんと受け取れ。俺らは慈善団体なんかじゃないんだぞ?」
女剣士「じゃ…じゃあ…」ペコッ
マスター「生活費の足しになるくらいは渡す。別途、借金の差し引きはそこからさせてもらうから安心しろ」
女剣士「はい、じゃあ頂きます」
スッ…チャリチャリンッ…ペラペラ…
女剣士「…えっ」
マスター「ん?」
女剣士「ええええぇっ!?」
マスター「ど…どうした?」
女剣士「これ間違えてますよ!4万ゴールドっておかしいでしょう!」
マスター「言いがかりは寄せよ…。きっかりと借金分の半額差し引いてるぞ?あとは196万ゴールドだ」
女剣士「少ないとかじゃなくて、逆です!…ちょっと、1日分でこれなんですか?」
マスター「ここの特産品は世界に輸出されるもんでな。田舎とはいえ年単位ではかなりの方なんだ」
マスター「それを潰されないように俺みたいのが度々活躍すりゃ、20万も30万も寄越すだろう」
女剣士「太っ腹なんです…ね?」
マスター「それはちょっと違う」
女剣士「?」
マスター「お前は冒険者の立場だからそう思うだけだ」
マスター「例えば、自分の事を命を張って守ってくれるボディーガードを1日3万や4万で雇うとして、希望者が来ると思うか?」
女剣士「いえ、さすがにそれは安いような気が…」
マスター「じゃあ俺らがやった、一般人の年間死者数のトップに割り込む"魔物"の退治は1万や2万でやれるか?」
女剣士「あ…」
マスター「そういうことだ」
女剣士「むぅ…。じゃあ、実力が高ければ高いほどやっぱり仕事も多いってことなんですね」
マスター「実はそうも行かなくてな。ドラゴン退治をするような奴が、こういう仕事をすると思うか?」
女剣士「あ~…」
マスター「そもそもそういう奴を雇うのは数十万…いや、数百、数千万単位が必要になることだってある」
女剣士「ええっ!」
マスター「まぁ金を積まれたらやる奴はいるだろうが…」
マスター「報酬の支払いもドラゴンなんかと比べたら安いしやりたくないだろうな」
女剣士「ふむふむ…」
マスター「それと自分で言うのもなんだが…」
マスター「上級魔物を討伐してきた俺みたいなのが、こういう仕事を請負うのは珍しいんだぜ」
女剣士「むむむ…」
マスター「それとな…冒険者は体が資本だ。稼ぐときに稼ぐ。冒険者のケガは一生モンになりがちなんだ」
女剣士「勉強になります」
マスター「まぁ話は長くなったが、その報酬は普通ってことと、貰えるものは貰えってことだ」
女剣士「はいっ!」
マスター「元気のいい返事でよろしい」
女剣士「じゃ、じゃあ…その討伐とかで、今までで一番稼いだ人ってどれくらいなんでしょうね」
マスター「結構前だが、数兆円ゴールドを稼ぎ出したのがいるらしいが」
女剣士「えええっ!凄い!」
マスター「ま、夢物語だよ。俺らは一歩…まず一歩だ。それを忘れるな」
女剣士「はいっ」
マスター「んじゃ、そろそろ宿出るか」
女剣士「あ…そうでした改めて言いたい事があったんです」
マスター「ん?」
女剣士「昨日、今日は本当にお世話になりました」ペコッ
マスター「はは…おいおい」
女剣士「はい?」
マスター「いつもそんな頭下げてたら持たないぞ?これから教えられる事は教えるつもりだからな」
女剣士「あはは…でも、お世話になる人にはきちんとお礼をいいますよ♪」
マスター「行儀のいいことで…」
女剣士「えへへー!」
マスター「…さて、忘れものはないな。中央に帰るぞ」
女剣士「はいっ!」
ガチャッ…バタンッ…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・
・・・
・・
・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
―――――【 次の日(木曜日) 喫茶店 】
コチ…コチ…
マスター「…」
コチ…コチ…
マスター(9時20分…か。まだ女剣士は来ない…と)
マスター(今日は営業日…)
マスター(ふっ…そりゃ当然か。眠気覚ましの一杯も淹れておくか)
ダダダダッ…ガチャッ!!
マスター「お…」
女剣士「すすす、すいません~!遅刻しましたぁ!」
マスター「わかってるよ」
女剣士「寝坊しちゃって…って、わかってる…?」
マスター「まだ客も来てないし、落ち着け」
女剣士「全然疲れてないと思ったんですけど、気づけばこんなに寝てしまってて…」
マスター「目に見えない疲れほど怖いものはない。自分の体をもっと知ることだな」
女剣士「はい…」
マスター「と、本来なら叱る所だろうがそれは仕方ない。やや遠征に近いものもあったしな」
女剣士「あうう…」
マスター「予想通り、こうなるとは思ってた。だから店も…ほれ」チラッ
女剣士「え?」クルッ
マスター「"CLOSE"だ」
女剣士「マスターさん…!」
マスター「ほら、休んでる暇はないぞ」
女剣士「はいっ!早速掃除からしますね!」
マスター「頼むぞ…と、その前に。今日から奥にお前の仕事着を用意したからな」
女剣士「えっ、仕事着ですか?」
マスター「エプロンだけでは寂しいだろうと。やっぱり華には美しくあってもらおうと思ってな」
女剣士「華だなんて♪」
マスター「奥で着替えてこい」
女剣士「は、はいっ!」
タッタッタッタッタ…
マスター「…」
マスター「…」
マスター「…」
女剣士「…ってマスターさぁん!」
マスター「何だ!」
女剣士「こ…これはちょっと…」
マスター「せっかく用意したんだから、着てみてくれ!」
女剣士「は…はいぃ…」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
キラキラ…!フワフワ…!
女剣士「メイド服だとは…思いませんでした…」プルプル
マスター「不服か?カフェといったらそういう制服が一般的だと思ったんだが」
女剣士「いえ…可愛くていいとは思うんですが少し恥ずかしいなって…」アハハ…
マスター「そうか?よく似合ってるし可愛くていいと思うぞ」
女剣士「あう…で、でもですね。ちょっと短すぎません…?」パサッ
マスター「そのくらいが普通だと思うんだがな。嫌なら別にいいんだが」
女剣士「い、いえいえ!」
マスター「じゃあ着てくれるのか?」
女剣士「え…えーと…それは…」モジモジ
…ガチャッ!!
女剣士「!」
マスター「おや」
常連「クローズだったけど、中にいるの見えたから入ってきちゃったけど大丈夫?」
マスター「もうオープン時間の予定だったので大丈夫ですよ」
女剣士(うわあ、うわあ~っ!お客さん来ちゃったよ~!!)カァァ
常連「お、メイド服かい」
女剣士「あ…あはは…」テレッ
常連「若くて可愛いじゃないか。マスター、いつものコーヒーね」
マスター「かしこまりました」
常連「そうそう、今日はこれを持ってきたんだ」
ゴソゴソ…キランッ
マスター「メロディディスクですね。いつもの曲ですか?」
常連「うん、それで頼むよ」
マスター「女剣士、メロディディスクのかけ方は分かるか?」
女剣士「め…メロディディスクって何でしょう」
マスター「その黒いディスクを、あそこのボックスの隙間に入れて、右側の丸いつまみを回すんだ」
女剣士「あ、はい…わかりました。それじゃあお預かりしますね」
常連「頼んだよ」
トコトコ…ゴソゴソ…スゥゥ…
女剣士(えと…これで入ったかな…?)
マスター「そう…そしたらつまみを回して。音量があがるから」
女剣士「は、はいっ」クルッ
ジャジャジャ…
女剣士(あ、音楽が鳴り始めた♪)
…ジャアアアアアン!!!!!!ビリビリビリ!!!!
女剣士「!?」
マスター「!?」
常連「!?」
ジャジャジャ…ジャアアアアアアアン!!!!
マスター「そりゃ左…のつま…だ!み…だ、…側!」ジャンジャン!!
女剣士「えっ!き…聞こえません!」
マスター「だか…が…だ!」ジャアーン!!!!
ジャジャジャジャジャ…!!
トコトコ…ポンッ
女剣士「!」
常連「メイドさん、落ち着いて。こうするんだよ」
トコトコ…クルンッ
ジャジャジャ~…♪タララ~…♪
常連「ははは、びっくりしたよ。確かにたまにこういうこともあるよ」アハハ
女剣士「ほ…本当にごめんなさいです…」
マスター「それの使い方もきちんと教えてなかったからな、俺のせいでもあります。申し訳ありません」
常連「いいよいいよ。仕方ないことだし、叱らないであげてな」ハハッ
マスター「そうですか、お気遣いありがとうございます」
女剣士(失敗しちゃった…はぁ…)
マスター「…」
女剣士(もっとしっかりしないとなぁ…はぁ…)
マスター「女剣士」
女剣士「は、はい」
マスター「お客様の前だ。ため息とか、暗い顔をするんじゃないぞ」
女剣士「あっ…」
マスター「失敗するのは当然のことだ。それを責めたりはしないが、暗い顔はダメだ」
女剣士「はい…」
常連「おお、怖いねえマスター」
マスター「はは…」
女剣士「…本当に申し訳ありませんでした」ペコッ
マスター「いいさ。一歩ずつ覚えていけばいい」
常連「そうそう!失敗は成功の母だよ」
女剣士「は…はいっ」
常連「あ~…そういや、マスター」
マスター「はい?」
常連「マスターってまだ冒険家業続けてるんだったよね?」
マスター「趣味のようなものですけどね」
常連「じゃあ、あの話は聞いたかな?」
マスター「あの話…?」
常連「最近、ギルド同士の争いごとが絶えなくなってるらしいよ」
マスター「…聞いたことないですね、詳しく聞かせて頂けますか?」
常連「中央の東ギルドと、西ギルドで共同クエスト請け負ってたのは知ってるかい?」
マスター「少しだけなら聞きました」
常連「それで、その共同クエスト中に東ギルドの失敗で西ギルドで死者を出してしまったらしいんだ」
マスター「…ふむ」
常連「そこから本格的な争いだってさ。かなり荒れてるみたいだよ」
マスター「それはちょっと…冒険者の端くれとしては聞き捨てなりませんね」
常連「ここも冒険者の喫茶店の名目なんだから、少しは気をつけた方がいいかもしれないよ」
マスター「ご忠告感謝致します。肝に銘じますね」
女剣士「マスターさん」ボソボソ
マスター「ん?」
女剣士「ここに飲みにくるギルドメンバーってどっち側の面子が多いんですか?」
マスター「この間の冒険戦士も含めて、まぁほとんど東ギルドだな」
女剣士「この店も東側ですものね」
マスター「心配することはないさ。いくらギルドメンバー同士のケンカだからって、一般市民を巻き込むような…」
…ガチャンッ!!!
西ギルド員A「…東ギルドの馴染みの店ってのはココか?少し…暴れさせてもらうぜ」
西ギルド員B「これも東が悪いんだ。文句なら東のやつに言いな!」
女剣士「…そうもいかないみたいですね」
マスター「…」ハァ
西ギルド員A「…東のやつが使ってるって割りには結構いい喫茶店じゃねえか!」
常連「…あんたら西ギルドの?」
西ギルド員A「そうさ。締め上げた東の面子から、よく集まるのはここだって聞いたからな!」
西ギルド員B「ケガしたくなかったら外に出てることだな!」
マスター「やれやれ、噂をすれば何とやらってやつか。恨みますよ常連さん」
常連「相変わらず酷い言われようだな」ハハハ
マスター「いつものことですよ」フッ
女剣士「ふふ…ふ、二人とも落ち着いてますけど…これってかなり危ない状況なんじゃ!」
西ギルド員A「…お?何だ可愛い娘いるじゃん!」
西ギルド員B「メイドだっけか?うっわ何この衣装!西ギルドに興味はない?」ハハハ
西ギルド員A「ほらほら…そのスカートめくっちゃうぜ~」グイッ
女剣士「きゃー!きゃー!!」
西ギルド員A「うはは!」
マスター「はぁ…」
常連「助けてあげなくていいのかい」
マスター「心配いらないですよ。ほら…」
女剣士「そういうことは…やめてくださぁぁいっ!」ブンッ!!!
バキィッ!!!ズドォン…!!!パラパラ…
西ギルド員A「」
西ギルド員B「…へ?」
女剣士「ふーっ…ふーっ…。もー!」
マスター「いい速さだな。ただ店をキズつけるのはやめてくれよ?」
女剣士「で、ですけどこの人たちがスカートを引っ張るからですよぉ!」
マスター「まぁお前もパンツの1枚や2枚くらいサービスで見せてやったらいいんじゃないか?」
女剣士「な、何てこと言うんですかぁ!」
西ギルド員B「てめ、よくも俺の仲間を!」グイッ
女剣士「も…もぉ!変なところばっかり触らないでくださいってば!」ビュッ
ゴツゴツゴツッ!!!…ドサッ
西ギルド員B「」
常連「おぉ!瞬殺…、さすがマスターのところのメイドさんだ…」
女剣士「あ…掌底波の連弾出しちゃった…。ご、ごめんなさい!大丈夫ですか!」
西ギルド員A「」ポケー
西ギルド員B「」ピクピク
マスター「そうなると思ったからサービスで見せてもいいなじゃないかって思ったんだよ、なんてな」
女剣士「あうう…」
マスター「はぁ~…そのままにも出来んし警備隊呼んで拘束してもらうか」
マスター「何やら厄介なことになってるようだしな」
常連「…となると、今日は店じまいかな?」
マスター「…すいません」
常連「いいよいいよ」ガタッ
トコトコ…
常連「あ、そうそう。女剣士ちゃん」
女剣士「は、はい」
常連「そのメロディディスクは預けておくよ。次に来るまでにきちんと覚えててくれよ?」ニコッ
女剣士「あう…はいっ!あ、ありがとうございました」ペコッ
ガチャッ…バタン…
マスター「さて…警備隊呼んだら今日は店はちょっと休みだ。東ギルドに行く」
女剣士「えーと私はどうすれば…?」
マスター「ちょっと一緒に来い。東が顔なじみとか関係はない。詫びは入れてもらう」
女剣士「は…はい」
トコトコ…ピタッ
マスター「…あっ」
女剣士「…どうしました?」
マスター「ちょっと先に外に出てろ。すぐ行く」
女剣士「…は、はい」
ガチャッ…バタンッ…
女剣士(…どうしたんだろ?)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 20分後 】
マスター「お待たせ。少しだけ時間かけすぎてしまったな」
女剣士「結構長かったですね…何してたんですか?」
マスター「ちょっと、な。そうならなければいいんだが…」ハァ
女剣士「…?」
マスター「まぁなったら、なった時に言うさ」
女剣士「わ、わかりました」
女剣士(どうしたんだろ?)
マスター「さて、東ギルドの本部に行くか」
女剣士「はいっ!」
トコ…トコ…
………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 中央都市・東ギルド本部 】
ヒュウウッ…!!
女剣士「わぁぁ!大きいですねえ!」
マスター「変わらんな…」ボソッ
女剣士「…今、なんて…」
マスター「何でもない。でかくて当然だ…東ギルドは中央都市で一番でかいからな」
女剣士「何人くらい所属してるんですか?」
マスター「確か200人…ないし300人近かったはずだ」
女剣士「すごい!」
マスター「所属してる人からは報酬金の一部をギルドに入れる。そりゃここまででかくなるわな」
女剣士「本当にすごいですねえ」
マスター「人数分の泊まる部屋もあるし、一般開放する食事処もある。至れり尽くせりだ」
女剣士「冒険戦士さんはこんな所に所属してるんだぁ…」
マスター「とにかく中に入るぞ。今回のことをギルドマスターに話をつける」
女剣士「あ、はいっ」
ガチャッ…ギィィィ…
女剣士「…!」
ザワザワ…ガヤガヤ…
冒険者「…でさあ、今回の討伐が…」
冒険者「はぁぁ!?俺なんてさあ…」
受付「待機番号46番の方~!準備ができましたので応接室までお願いしますー!」
ギルドリーダー「今回の北方討伐任務に参加証を受け取った奴は午後から会議室Bだぞ!」
冒険者「ギルドリーダー、アイツは少し遅れるそうですよ~」
ザワザワ…!!
女剣士「わぁぁぁ…」キラキラ
マスター「相変わらず賑やかなところだ」
女剣士「凄いですね、凄いですねえ!これが中央都市の最大のギルド…!」
マスター「まぁな。とりあえずえーと…受付だ。こっちだったな」クルッ
スタスタスタ…
女剣士(凄い凄い、冒険者さんたちがこんなにいっぱい…!)
スタスタスタ…ピタッ
マスター「さて…受付さん」
受付「はい?あ、何かご用事があるなら一旦そこの予約名簿に名前を書いてお待ちください」
マスター「…何?」
受付「ただいま3時間待ちになってます。用事別で名簿にあるので、そちらを参照に番号を…」
マスター「面倒なのはいい。とりあえずギルドマスターに合わせろ」
受付「…はい?」
マスター「いいから、ギルドマスターに合わせろ。別に下っ端に用事があるわけじゃない」
受付「ギルドマスター様は多忙ですので、3ヶ月前からの予約が必要になります」
マスター「…いいから早くしろ。喫茶のマスターが来たって言えばわかる」
受付「承れません。予約をきちんとしてから…」
マスター「早くしろって言ってるんだが」
受付「…分からないなら、ガードマンを呼びますよ?よくそういう方がいますので」
マスター「呼ばないなら、力づくでも行くが?」
…トントン
マスター「ん?」
ギルドリーダー「どうかしましたか?」ニコッ
女剣士(あ、この人さっきギルドリーダーって呼ばれてる人だった…かな?)
女剣士(凄い筋肉…きっと強いんだろうなぁ)
マスター「お前は…ギルドリーダーだったか?リーダー程度には用事がないんだが」
ギルドリーダー「とはいえ、ギルドを預かる身の1人ですので。用事があるなるなら承りますよ?」
マスター「下の人間には用事がないんだ」
ギルドリーダー「下ともいえないんですがね。これでもトップ5に入りますので」
マスター「それじゃ意味がないんだな」
ギルドリーダー「ギルドマスターは多忙です」ニコニコ
マスター「下には用事がないって言ってるだろう」
ギルドリーダー「ギルドマスターは多忙ですよ」ニコニコ
マスター「もう1度言う、喫茶店のマスターと言えば分かる」
ギルドリーダー「無理です」ニコニコ
女剣士「…あわわ」オロオロ
マスター「…」
ギルドリーダー「…」ニコニコ
マスター「…」
ギルドリーダー「…こちらも暇ではないので、本当に力づくで出てって頂きますよ?」
マスター「お前みたいな下っ端に出来ると思うか?」
ギルドリーダー「下っ端下っ端と余り言わないで頂きたい。これでも気の短いほうなので」ニコ…
受付「いけない、お嬢さん!」ボソボソ
女剣士「は、はい?」ボソッ
受付「ギルドリーダーさんは怒ると暴れて手が付けられないんです!」
女剣士「えっ!」
マスター「その浮き出た血管。気が短いやつは、いつまで立っても上には上れないぞ?」
ギルドリーダー「だからこれでもトップに組み込む程の実力はありますよ?」ブルッ…
マスター「くくく…そう自分で言う所が…下っ端なんだろうが」
…ブチッ!!
ギルドリーダー「うるせぇな!!!下っ端下っ端と…呼ぶんじゃねええ!!」クワッ
受付「あ…」
女剣士「!」
ザワッ!!ザワザワ…
ギルドリーダー「お前ら離れてろ!少しコイツに分からせる必要があるらしいからな…」ググッ
マスター「…」
女剣士「マスターさん!」
マスター「大丈夫だ、そこで見てろ」
女剣士「は、はいっ!」
ギルドリーダー「随分余裕だなぁ…?うぉぉぉっ!攻撃増大魔法っ!」パァッ!!
ビキ…ビキビキッ…
受付「り、リーダーさんやめてください!また本部が壊れてしまいます!」
ギルドリーダー「うるせえええ!」
マスター「お前を倒したらギルドマスターに公認で会わせてくれるのか?」
ギルドリーダー「出来たら…なっ!」ブンッ!!!
…ズドォォン!!!ミシミシミシッ
ギルドリーダー「はっは!一撃で沈んで…んおっ!?」
クルクル…スタッ
マスター「そんなのに当たるかよ。しかし驚いた…本当に見た目通りの"パワー馬鹿"だったとはな」
ギルドリーダー「何だと!!」クワッ
フオ゙ンッ!!…ズドォン!!ドォォォン!!!
パラパラパラ…
ヒュッ…ヒュンヒュンッ!!
マスター「どうした、全然当たらないぞ?」
ギルドリーダー「おのれちょこまかと…!」
マスター「あぁ、そうだ…女剣士」
女剣士「は…はい」
マスター「こういう力馬鹿の相手は一撃でこっちも大ダメージになる。すぐに突っ込むのは間違いだ」
女剣士(こ、こんな時に指南ですか!?)
マスター「速度のある立ち回りを生かして、相手を見る。そうすると自然と隙は見えてくるからな」
女剣士「は、はい!」
ギルドリーダー「ぶつぶつと…さっさと吹き飛べやコラァ!!」
ブンッ…バキャアアンッ!!!
受付「きゃああっ!」
冒険者「ギルドリーダーさん、暴れすぎたらまた本部がめちゃくちゃになっちまう!」
ギルドリーダー「こいつを吹き飛ばすまではやめねぇよ!!」
マスター「まぁこいつほどイージーな相手はいないけどな」
ギルドリーダー「…戯言を!!」
マスター「戯言じゃないって事を見せてやるよ…ふんっ!」ダッ!!
ギルドリーダー「!?」
女剣士「えっ!?」
ビュッ…バキィッ!!!!
ギルドリーダー「ぬがっ…!」
女剣士(一瞬で…リーダーさんの場所まで…。早すぎて見えなかった…!それに…)
マスター「自慢の筋力は防御面じゃ微妙だったんじゃないか?」
ギルドリーダー「てめぇ…一体何者…」
グラッ…ドサアッ…
女剣士(空気を振るわせるほどに分かった…あの一撃の威力…!)
マスター「とまぁ、こんな感じに隙さえあれば幾らでも一撃で狙えるわけだ」
女剣士「…っ!」
マスター「今後、連戦になるような依頼だったら改めて隙の突き方は教えるけどな」
女剣士「は…はい!」
ザワ…ガヤガヤ…
冒険者「何だあれ…リーダーがやられるなんて…」
冒険者「っていうか一撃!?やばくねえか」
冒険者「…っていうかギルドマスターに用事あるとか…知り合いなのか…?」
女剣士「なんか雰囲気が…」
マスター「あ~…少し暴れすぎたか…」ポリポリ
女剣士「どうしましょう…」
…カツーン…
マスター「…ん?」
カツン…カツン…カツン…
ギルド長「随分と騒いでると思ったら…、懐かしい顔ですね」
マスター「…久しぶりだな、ギルド長」
女剣士「ぎぎ、ギルドマスターさんですか!?って、久しぶりって今…」
ザワ…!!
冒険者「ギルドマスターさんが出てきた!?」
冒険者「本当に知り合いみたいだぞ…、一体何者なんだ…」
ギルド長「ふむ…ここでは少し人目につきますね。こちらへどうぞ」
マスター「ありがとよ。少し暴れちまったが大丈夫だろ?」
ギルド長「問題ありませんよ。昔からじゃないですか」
マスター「ふん…」
女剣士(ギルド長さんとマスターさんは…知り合いなの…かな?)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【特別ギルドルーム】
ギルド長「どうぞお掛けになってください」
マスター「言われなくても」スッ
女剣士「失礼します」スッ
ギルド長「で、僕に何か用事があるようでしたが」
マスター「面倒だから単刀直入に聞くぞ。お前ら、一体何をした?」
ギルド長「…どうか致しましたか」
マスター「俺の店に、西のギルド員が乗り込んで暴れたんだ」
ギルド長「…」
マスター「挙句の果てに、うちの店員が恥辱な目に合わされた」
女剣士「!」
マスター「スカートをめくられ、男どもの手によってそれはもう欲望の…」
女剣士「ちょっとちょっとちょっと!!そんな事まではされてませんから!」
マスター「む、そうか。まぁそういうこともあった訳だ…まずは謝ってくれ。こいつにな」
ギルド長「…ご迷惑をおかけしました。申し訳ないです」
女剣士「…」
マスター「今まで西とのいざこざはあったが、店に乗り込んでくるとは異常だぞ」
ギルド長「…」
マスター「一体…何をしたんだ。噂ではお前の所の失敗で、西のギルドメンバーを死なせたと聞いたが」
ギルド長「…」
マスター「…」
女剣士(空気が重い…私がいるような場所じゃないと思うんだけど…)
ギルド長「隠しても無駄でしょうし、お話します」
マスター「当然だ」
ギルド長「事件の発端は…少し前、冒険戦士くんの独り立ちの試験を考えてからです」
マスター「ふむ」
ギルド長「その際、試験を考案した時に西ギルドにも試験を行う人がいると声をかけられました」
マスター「…それで」
ギルド長「こちらも実力試験を行いたい面子が数人いたので、共同クエストという事である討伐を決めました」
マスター「何だ?」
ギルド長「"オルトロス"の討伐。属に言う上位討伐ですが、東西で8人ずつの16人での出発を決めました」
マスター「…」
ギルド長「そして冒険戦士くんには、これが成功した暁に独り立ちちさせる…と」
女剣士(どどど、どうしよう!何を言ってるのかさっぱり分からない)グルグル
ギルド長「こちら側でも実力充分の面子でしたし、向こう側も同様でした」
マスター「…それから」
ギルド長「討伐は順調に進んだそうです。ですが…」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
オルトロス『…ガアアァッッ!!』ボワッ!!
西ギルド員「…血を流しすぎ…て…動けない…ごほっ…」
冒険戦士「危ないっ!」バッ
…キィンッ!!!ズドォォンッ!!!
西ギルド員「あ…ありがとう」
冒険戦士「当たり前ですよ。それより次!」ハッ
オルトロス『…カァッ!!』ボワッ!!
ズドォン!!…パラパラ…
冒険戦士「くっ!」
西ギルド員「もうオルトロスは討伐寸前、先に攻撃を仕掛けてください…!」
冒険戦士「ですがそれでは貴方が野ざらしになってしまう!」
西ギルド員「大丈夫です、私は聖職ですよ?自分の身は自分で守れます」
冒険戦士「…わ、わかりました…」
ダッ…ダダダダダダッ!!
冒険戦士「うああああっ!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ギルド長「それで無事に倒すことはできました…」
マスター「…」
ギルド長「しかし西のギルド員は実際魔力が尽きており、置き去りとなった事でオルトロスの配下の魔物に…」
マスター「…何だそりゃ」
ギルド長「…」
マスター「とんだ言いがかりもいいもんだ。そんなの戦況下だったら当然の判断だろ」
ギルド長「一般ギルド員だったら…ですよね」
マスター「何?」
ギルド長「亡くなったのは、西ギルドでとても慕われている幹部だったんですよ」
マスター「…は」
ギルド長「そんな所に送る時点でどうかとは思いましたが…結果は結果です」
マスター「そんなの自業自得じゃないか…それで東と西のいざこざか?」
ギルド長「そうなってしまいました」
マスター「はぁ~…何やってるんだか…」
ギルド長「…」
マスター「ん?てことは…冒険戦士がこの間、依頼を受けに行ったっていうのは…」
ギルド長「という名目の逃がしですよ。冒険戦士は今、非常に危険な状態ですから」
マスター「俺が話しで聞いたのは、冒険戦士がミスで独り立ちの試験を失敗しかけたってだけだったが」
ギルド長「という噂を流したんです。冒険戦士くんの気を多少楽にするのと、東ギルドの格を落とさない為に」
マスター「俺が信じてた分、その効力はあるな」
ギルド長「…それは何よりです」
マスター「しかしまぁ…何てこったい。これからどうするつもりなんだ」
ギルド長「西との話し合いの場を設けます」
マスター「取合ってくれるか?仮にも攻撃を仕掛けてくる相手だぞ」
ギルド長「僕の東ギルドの尊厳にかけても」
マスター「…信じるよ」
ギルド長「はい、お願いします。それと…この度は迷惑をかけて本当に申し訳ありませんでした」
マスター「早い解決を望むぞ」
ギルド長「…もちろんです」
マスター「とりあえず分かった。あとは勝手にやってくれ」スクッ
女剣士「帰るんですか?」
マスター「もう全貌が分かった以上、話はない。ギルド長、冒険戦士のやつはしっかり守ってやれよ」
ギルド長「当たり前です」
マスター「ん、よし。んじゃ帰るぞ」
ギルド長「…あ、そうだ」
マスター「まだ何かあるのか」
ギルド長「万が一ですが…、僕に何かあったら…」
マスター「それ以上言うな」ギロッ
ギルド長「…」
マスター「お前はここのギルドマスターだ。弱みを見せるな。そう…ずっと言い聞かせてきたはずだが」
ギルド長「…はいっ」
マスター「じゃあな。行くぞ女剣士」クルッ
女剣士「あ、はい」
ギルド長「有難うございました…先輩…」ペコッ
ガチャッ…バタンッ…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
トコ…トコ…
マスター「本当に東と西のいざこざか。参った事になってるな…」ポリポリ
女剣士「ま、マスターさん」
マスター「ん?」
女剣士「マスターさんって一体…。東のギルド長さんが先輩って…」
マスター「あ~…」
女剣士「もしかして本当に凄い戦士さんだったんじゃ…?」
マスター「あいつは俺が現役で東ギルドの所属だった時代に、後輩だった奴なんだがー…」
女剣士「!」
マスター「今じゃすっかり俺は衰え、あいつは現役のまま。まぁ先輩風を吹かせてるだけだ」
女剣士「…」
マスター「それより、んー…どうするか…」
女剣士「?」
マスター「いや、さすがに店が危険になるっていうのはどうかと思ってな」
女剣士「マスターさんがいれば大丈夫じゃないですか?」
マスター「いや…」チラッ
女剣士「…?」
マスター「だから…」チョイチョイ
女剣士「わ…、私ですか!」
マスター「ギルドメンバー吹き飛ばしちゃったし、西のやつに店は完全に目付けられただろ」
マスター「だから喫茶店の方の営業をどうするか迷ってるんだ」
女剣士「きっと大丈夫ですよ」
マスター「そりゃそうだといいんだが、万事には備えたいんだ」
女剣士「むぅ…」
マスター「強いとはいえ、お前は女子だから万が一って事もある。それが心配なんだ」
女剣士「う…」
マスター「…だが店を休みにして、コーヒーを淹れない日々ってのも俺としては暇になるし…」ンー
女剣士「店を離れて、冒険しちゃう…とか」ヘヘ
マスター「そりゃお前の願望だろっ!」
女剣士「うぅ、すいません」
マスター「はぁ~ったく…本当にどうするか…」
女剣士「どうしましょうか…って、あれ?」
ガヤガヤ…
マスター「なんか妙にざわついてるな」
女剣士「何かあったんでしょうか。お店の方角ですよね?」
マスター「…」
女剣士「マスターさん?」
マスター「どうやら、"そう"なってしまったかもしれん。急ぐぞ!」ダッ
女剣士「"そう"なってしまった?」ダッ
マスター「本部に行く前に言っただろ!そうなってほしくはないって!」
女剣士「あ…」
マスター「急げ!」
女剣士「はいっ!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
タッタッタッタ…ズザザ…
マスター「…!」
女剣士「あ…あぁぁ…!」
マスター「…やっぱりか」
女剣士「そ、そんな…何で…」
ゴォォォ…パチパチ…ボォン!!!
ジャアアッ…
消火員「水魔隊!足りないぞ!早くしないと燃え移る!!」
消火員「自分らでは限界です!」ググッ
マスター「…っ」
女剣士「お店が…燃えて…」
マスター「っち…」
女剣士「どうして…」
消火員「くっそ、火魔法にどんな魔力使いやがった…火が消えん!」
消火員「ダメです!隣に燃え移ります!」
ボォォォ…!!ボォン!!!バチバチ…
女剣士「え…ど…どうして…」
マスター「…」
女剣士「あう…」グスッ
マスター「泣くな…こうなることは少し予想してた。ちょっとココにいると危険だ…こっちに来い」グイッ
女剣士「え…ど、どこに…」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
タッタッタッタ…
マスター「もう少し先だ」
女剣士「一体…どこに行くんですか…?」
マスター「あそこの小屋だ」
タッタッタッタ…ガチャッ、ギィィィ…
…モワッ
女剣士「ごほっ、ごほごほ!埃が…」
マスター「…見ろ。さっき、出かける前にコレを準備してたんだよ」
女剣士「!」
…キラキラ…
マスター「…燃やされるのまでは予想外だったがな。商売道具は生きてる」
女剣士「お店にあった珈琲豆とか珈琲メイカーですよね…これ!」
マスター「さすがにメロディボックスは持ってこれなかったが、常連さんのディスクは無事だ」スッ
女剣士「…」
マスター「しっかし…こうなると俺もしばらく身を隠したほうが良さそうだな」ハァ
女剣士「…」
マスター「まぁ…それと、その、女剣士」
女剣士「…何ですか?」
マスター「すまないが、もう借金の件はいい。これ以上、見ず知らずの人間を巻き込む訳にはいかん」
女剣士「で、でも…」
マスター「これ以上一緒にいれば危険には違いないからな」
女剣士「…」
マスター「もし東西のいざこざが落ち着いて、店が再開したら飲みに来てくれればいいさ」
女剣士「…」
マスター「俺はとりあえず久々の休暇っていう考えもある」
女剣士「…」
マスター「とりあえず、店は休業。お前も借金を気にせず、自分の道を改めて目指してだな…」
女剣士「…嫌です」ボソッ
マスター「…あ?」
女剣士「嫌ですよ。せっかく、マスターさんとの冒険や学べる事が、楽しみになってきたところなんですからっ!」
マスター「いやそう言っても…」
女剣士「私は足手まといになりません。もっと色々教えてくださいよ…!」
マスター「つってもなぁ…だが俺はもうここから離れるつもりだし」ポリポリ
女剣士「離れるって…どこに行くんですか?」
マスター「とりあえず、離れる。いざこざに巻き込まれるのはゴメンだからな」
女剣士「うぅ…」
マスター「だからお前は一旦地元に戻るか、別の発展してる町に移るとかー…」
女剣士「…あっ!」パンッ
マスター「ん?」
女剣士「じゃあ…こういうのはどうでしょうか」
マスター「何だ?」
女剣士「その道具を背負って、旅をして、その場その場で珈琲店を開くとか…!」
マスター「…」
女剣士「その名も青空珈琲店!…冒険もしたりして、一石二鳥っていうか…」アハハ…
マスター「…何だそれ」
女剣士「だ、だめですかね?現地の豆なんかも直接農家さんから仕入れたりとか…」
マスター「何だよそれ」ブルッ
女剣士「や…やっぱりダメですよね~…」
マスター「お…面白そうじゃないかよ!」
女剣士「!」ピョコン
マスター「悪くない考えだ…確かに俺は珈琲豆を原産だとか、世界中の人に…」ブツブツ
女剣士「じゃ、じゃあそうしましょうよ!!」
マスター「ん~…その前に、お前さ…」
女剣士「はい?」
マスター「何でそんなに少しだけ知り合った俺に固執するんだ?もっと自由に生きていいと思うんだが」
女剣士「…」
女剣士「…何ででしょうね」
マスター「…」
女剣士「自分がいい子でありたいのかも…しれないです」
マスター「ふむ」
女剣士「私のせいで馬車商人さんや、マスターさんが被害を受けたのは事実ですし…」
マスター「確かに、別に良いっていうのに引き下がらなかったな」
女剣士「そこから逃げたら、心残りになってしまいますから。最後まで努めたいんです」
マスター「…」
女剣士「っていう思いの中で、きっと心の奥底では自分が良い子でありたいって事なのかもしれません…」
マスター「…」
女剣士「で、ですが!逃げたくないって気持ちとか、マスターさんに冒険の心得を教えてほしいのは本当です!」
マスター「…どっちだよ」
女剣士「あ…」
マスター「…」
女剣士「その…」
マスター「…」
女剣士「あの…」ショボン
マスター「…」
マスター「…く」
女剣士「…?」
マスター「く…ははは…はははっ!」
女剣士(マスターさんが…笑った?)
マスター「はぁ…お前のその性格、どうにかならんのか」ハハハ
女剣士「うぅ…」
マスター「逃げたくない気持ち、俺から教わりたい気持ち。充分に伝わったよ」
女剣士「…じゃ、じゃあ!」
マスター「いつまでココに戻れるか分からんし、収入も町毎のギルド発行のクエスト頼りで安定しないかもしれんぞ?」
女剣士「…大丈夫です。頑張りますから!」
マスター「…何を言っても、無駄か。ほら…そっち側の珈琲メイカーを持ってきてくれ」ククク
女剣士「じゃ、じゃあ…!」
マスター「いいぜ。ただし、お前が決めた事だ…何も文句を言うんじゃないぞ?」
女剣士「当たり前です!」ピョンッ
マスター「じゃあ…うん。当面は、東部側を目指す。慣れてる街道村から少しずつ進んでいこう」
女剣士「はい。私は一旦自分の部屋に戻って、持っていけるものを準備してきますね」
マスター「親に連絡はどうするんだ」
女剣士「あ…それは、きちんと手紙で伝えます。全部…」
マスター「そうしろ」
女剣士「はい…。出先で手紙を書いてすぐに出すつもりです」
マスター「よし。それじゃ…」
女剣士「出発ですか!」
マスター「冒険者の喫茶店もとい…"青空珈琲店"。本日より営業開始だっ!」
女剣士「…おーっ!」
…そういやお前、ずっとメイド服だけど普通の服は?
あーっ!お店にあったはずだから一緒に燃えて…
アパートまでメイド服で戻るのか…
恥ずかしすぎる…しかもあれお気に入りだったのに…うぅ…
はは…
で、でも…元気出していきますよっ!
…………
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
【 第二章 】 に続きます。