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美琴「一日でいいの」
寮に戻ると、寮監が立ち塞がっていた。仁王立ちってやつ?
うわー、こえー。一方通行より迫力があるんじゃないかしら。
「御坂、話がある。部屋で話そう」
ぐえー。お説教だ。
さんざんインデックスにお説教されてきて、明日も続きがあるっていうのになぁ。
「紅茶でいいか?」
意外と優しげな声。いったいどうしたんだろう?
寮監は私を座らせると、淹れたての紅茶の入った二つのカップを目の前のテーブルに置いた。
「あの少年が帰って来たそうだな。良かったな、御坂」
えっ? なんで知ってる訳?
「あの、寮監、何故その事を」
「当たり前だ。寮生が行方不明、帰って来たら沈み込んでで学校に行かなくてもいい。
そんな事を言われて、はいそうですかと納得できるわけが無かろう」
寮監は、事情を詳しく聞かない以上は指示に従うわけにはいかないと統括理事会に怒鳴り込んだそうだ。
怒鳴り込んで事情を聞き出して来るあたり、この人も並みの人間では無かったという訳か。
そして、状況の変化も逐一報告させていたそうだ。
「それで御坂、明日から通常通り学校に通う、でいいんだな」
「いえ、もう少し今のまま様子を見ようと思ってます」
寮監の顔が少し険しくなった。
「何故だ。お前の心配事が消えたというのに無為にこのまま過ごすなんて認められん」
「分かってます。もちろん無為に、という訳ではありません」
先だって終結したように見える第三次世界大戦。
首謀者は、学園都市に住む自称無能力者に撃破された。
だが、世界は魔術と科学の間のしこりを残したまま混沌としている。
実際にアレイスター=クロウリーとローラ=スチュアートが健在な今、何も起こらない筈が無い。
当麻に外に出るのかと聞いた時に、目を逸らしたのも見逃してない。
であれば、私はその時に備えて鍛え上げていきたい。
そう語って聞かせた。
「しかし、それは大人のする仕事だ。学生のお前の出る幕じゃないのではないか」
「いえ。少し前、私の事を『綺麗事を言う奴』と言った男がいました。
しかし、綺麗事ってのは正しい事ではないかと思うんです。
その綺麗事を成す事ができる実力のある者が、何も成さずに手をこまねいているのは罪だと思います」
少し考え込むような素振りを見せて、寮監は一口紅茶を啜った。
「言いたい事は分かった。お前は頭が良くて真っ直ぐで正義感が強い。
しかし、まだ子供だ。その正義は偏った正義かもしれん。
そういう間違いを正してやるのは我々大人の仕事だ。
お前は今までのように一人で何もかも抱え込まず、信頼できる大人を作って相談するようにしろ」
そうでなければ簡単にお前の言う事を認めるわけにはいかん、と付け加えた。
もっともだな、と思った。
アイツに何もかも抱え込むなって言った私が、その言葉を無視する訳にもいかないだろう。
「はい、それも分かってるつもりなんです。一人だったら私は間違えてしまうかもしれない。
でも私の好きになった男は、偏った正義を正すような、そんな男なんです。
もし私が間違えそうになっても、アイツがいる限り正してくれると思ってます。
でも、これからは寮監にも相談するようにします。ありがとうございます」
そうか、あの少年も信頼されてるな。お前の期待を裏切らない男なんだろう。
自分もそういう男に巡り会ってみたい、と目を細めた。
間違いは起こすなよ、と言われて大丈夫だと胸を張った。
「大丈夫、か。ならば問おうか。お前、自分を苛めるように自慰に耽っていただろう」
口に含んでいた紅茶をぶーっと吹き出してしまった。
ぎゃー! 何を言い出すんだこの人は!
「ちょ、え? えっと、その、そんな事は、あの」
「分かってる。お前が苦しんでて、自分の身の置き場が無かった事もな。
だからそっとしておいた。介入してどうにか出来るのならば即介入したが」
泣いている私を見に行けと、何度も寮生に詰め寄られたと言って苦笑していた。
そして、以前お前や白井が何度も夜に抜け出していた事も知ってて、見逃していたとも言った。
子供が間違いを犯しそうならば殴ってでも正す。
しかし、やんごとなき理由があって、それは自分達で解決せねばならぬ事である場合は見守るのが大人の務めだ。
でも助けを求めて縋って来るならば全力で助ける。
これからはちゃんと言え、言わなければ助けの手も伸ばせん、とたしなめられた。
自慰に耽って大声を出していたのを知られていたのは恥ずかしかったが、大人の本気の優しさに触れて少し目頭が熱くなった。
が、それからは苛めのようにズバリと私の行動を読まれて絶句した。
「お前、あれだけ求めていた男が帰ってきて、自分が間違いを犯さずにいられる人間だと思ってるのか?
堂々と大丈夫ですなどと言って胸を張るんじゃない。
あんなになってたお前の事だ、好いた男が戻ってきたら何が何でも手に入れようとするだろうが」
うう、ごめんなさい、既に間違いを犯した後なんです。
何も言えずに俯いてしまった。
しかし、何も言わない私を見て全て察してしまったみたい。
寮監はこめかみに指を当てて首を数回振った。
「今のお前にそれを止めろと言っても絶対聞かない事は分かってるつもりだったが。
もう既に、か。遅かったかもしれんな。しかし昨日の今日とは。
御坂、避妊はちゃんとするように。
妊娠してはお前の望む正義を振りかざすチャンスは失われるぞ。
それに、お前の歳ではまだ妊娠、出産は危険だ。それは分かるな?」
勘弁してください、寮監。
性行為を推奨? されても困りますって。してないか。
なんだか何でもお見通しだって言われてるみたいで、やりにくくなっちゃう。
私は顔を真っ赤にして俯いているだけだった。
「言いたいことはそれだけだ、さがっていいぞ。 こちらでも世界の動向と学園都市の出方は探っておく。
問題が無くなった時は速やかに復学するように。いいな、御坂」
もちろんです、よろしくお願いしますと言って退室した。
自分の部屋についても耳まで染まった赤は醒めなかった。
おっねえっさまー♪
相変わらずの黒子が首っ玉に飛びついてきた。
お風呂上りなのか、髪も結ってなくて少し湿っている。
「まぁお姉様! まぁまぁお姉様! いったいその真っ赤なお顔はどうなさったんですの?
ま、まさかあの類人猿がお姉様に不埒な事を? 許すまじ類人猿、やはりこの鉄針の錆に!」
違うってば、と言って宥めた。
不埒な事を仕掛けたのは私だしさ。
「えーっとね、私、アイツとお付き合いする事になったの」
えっ? と言ったきり、劇画調の姿になって口に手を当て震えてる。
うーん、いきなりすぎたか。
「ままま、まぁ、そ、それはそれでお姉様がお元気になられるのでしたらこの黒子、いささかも異を唱えるものではございません。
とーーーーーっても不本意ではございますけどっ。
しかし、お姉様、今夜の匂いはいつものお姉様の匂いとは違う気がいたしますの。
あ、ま、ま、ま、まさかそんな、再会したばかりでそんな淫らな、違うと、違うとおっしゃってくださいお姉様!」
「ばばばばば、馬鹿な事口走ってるんじゃないわよ。きき、き、キス、そう、キスだけよ、うん」
「キスですってぇぇっぇぇぇえええ? もはやそこまで? お姉様の貞操は風前の灯になってしまいましたの!
早速今から殿方のお宅に怒鳴り込んで釘を刺して来なくてはなりませんのっ」
ちょ、待ちなさい黒子、ね、ほらそんな事はしない、うん、大人になったら考えるっていうか、ね?
しどろもどろになって、シャワー浴びてくるわね、とお風呂場に引っ込んだ。
「くーろこー、テレポートで突撃してこないでよー、来たらビリビリパンチだからねー」
そう釘を刺したが、大人しくしていてくれるかな?
もー、寮監といい黒子といい、なんであんなに勘が鋭いのかしら。
お風呂場は、黒子が入ったばかりだからか温かかった。
曇り止めのきいた鏡の前には先程大人の女になったばかりの全裸の少女。
「見た目じゃさっぱり分からないもんね」
そりゃそうだ。いきなり胸がでかくなったり毛が生えたりしたら驚くって。
肩までのシャンパンゴールドの髪から曲線で作られた流れるような体つき、そして細く伸びた足。
これが全部アイツのモノになった。
「すごかったな」
呟いて真っ赤になる。
ホントに凄かった。
あんなに乱れちゃうなんて。
嬉しいって言ってくれたけど、やっぱり少しは引かれたかもしれないな。
この唇にキスしてもらった。
この胸を揉んでもらった。
この先っぽも吸ってもらった。
この子供っぽい股間にも手を伸ばしてもらった。
初めて触ってもらったのに、もう既にとろとろに濡らしていたんだっけ。
指も入れてもらったし、そうして、そうして。
素晴らしい瞬間だった。
瞬間が永遠に感じた。
もう手放せない。
両の頬に当てた手が熱さを感じる。
思い出すと顔が火照っちゃう。
そのまま両手が首筋を撫でながら降り、胸を揉み、乳首を摘む。
ほぉっと溜息が漏れる。
そのまま両手は脇腹を撫でながら下がって、ついには尖った陰核を捉えた。
鏡に映った少女は我ながら美しいし艶かしい。
やはり、こう見ると少し変わったかもしれない。
濡れた陰核を両手の指で弄びながら、そのまま高みに登っていった。
降りてきてから見た少女の顔は、目が潤んですっかり大人の女の顔になっていた。
「もー。あんなに乱れた後だっていうのに。いやらしい子ね、アンタは」
鏡の中の少女にそう言ってやる。
抱かれて帰ってきたばかりなのに、もう抱かれたくなってる。
でも、アイツの隣に居場所は確保したし。
きっとまたすぐに抱いてもらえるわよ、と鏡の中の少女を説得してシャワーのコックを捻った。
――――――――――――――――――――
――――――――――
アイツと抱きあってから二日が過ぎた。
毎日アイツの寮に通っておさんどんしようと思っていたのに、ここ二日間は振られっぱなしだ。
あの私を追い払った黒服の仲間達が、昼から晩まで押しかけているみたい。
朝ごはんだけしか作らせてもらってないし、お昼前には追い返されちゃう。
アイツ、学校はどうするつもりなんだろう。まぁ私もサボりっぱなしなんだけど。
インデックスはいつ両親に会いに行くのかってうるさいけど、これじゃあ行けないわよねぇ。
朝ごはん食べて彼女のお説教を聞いてるだけで午前中が終わっちゃうし。
今日は珍しく、帰り際にアイツの寮の外までインデックスが送ってくれた。
二人きりになってから、アイツがまた外に出るかもしれないと言った。
押しかけている連中との話の流れがそうなんだそうだ。
アイツを狙って魔術師が攻めて来る、か。アイツなら放っては置けないでしょうね。
アイツは私にちゃんと話してくれるだろうか。
言えない気がする。
言わないっていう事は置いて行くつもりだって事だ。
ふん、そうはいかないわよ。
ま、言わなかったら問い詰めるだけね。
いざその時が来て足手まといにならないようにしておかなくっちゃ。
あの子はどうするんだろうか。
ついて行くのか残るのか。
一緒に行きたいだろうけど、アイツが連れて行くとも思えないし。
アイツが言わない以上、私からインデックスに掛かっているであろう魔術の話を切り出すわけにはいかない。
でも、あの子を置いて私だけが無理やりついて行くっていうのもなんだか。
また抜け駆けするみたいで嫌だなぁ。悩むところだ。
ここ二日は午前中にインデックスのお説教を二人して頭を垂れて聞いているだけだった。
夜、寝る前に少し電話でお話するけど、ちょっと寂しいな。
けど、明日はデートしてくれるって。
インデックスが当麻の担任の先生に焼肉パーティへ誘われてお出かけなんだそうだ。
実は私と当麻も一緒に行きたいって言ったんだが、先生の部屋は先約の人達だけで満員になる狭さだそうだ。
外の焼肉屋さんでやろうよって言ったんだけどなぁ。
「満足するまでお肉を外で食べられるようなブルジョアばかりだと思ったら大間違いなんだよ。
お家でやれば、そんなにはお金はかからないかも」
と叱られてしまった。まぁ、あんたが満足できるほど食ったらそりゃ大金が必要でしょうけど。
先生が一緒なので「奢ってあげるわよ」とは言えないし。
そういった事情で、ぽっかり空いた明日の昼から夜までの時間帯。
なんとアイツからデートに誘ってくれたのだ。
何して過ごそうかなー。お昼を外で食べて、街をぶらついてショッピングなんかしたりして。
映画なんかもいいわね。夜もムーディなレストランとかでお食事して、その後、むふふな展開が待ってたらいいな。
もー、やーらしー子。えへへ。
そんな訳で、昨日と今日の空いたお昼の時間帯。
能力の開発訓練の他に、ちょっとした思い付きで日記をつけることにした。
アイツがいなくなってから帰るまでの私は酷かった。
でも、そんな私をアイツは優しく抱いてくれた。
初めてだっていうのにあんなに乱れてしまって。恥ずかしいなぁ。
でも、あれって経験者だって勘違いされちゃうんじゃないかしら?
それは困る、本気で困る。
やはり、どうしてあんなに感じる身体になってしまっていたのかを説明しなきゃならない時が来るわね。
アイツがいない間に何をしてたか、忘れないようにしなきゃ。
そう思い立ったのがアイツに抱かれて帰ってきた翌日、つまり昨日だ。
早速PCを立ち上げて日記を書き始めた。
ウェブ上に書いたりして、誰かに見られたら大変だ。
メモ帳に書いて鍵をかけたフォルダの中に入れておけば、黒子でも見ることは出来ないだろう。
アイツにあの惨状を告白しなきゃならなくなったら、これを見せよう。
口で言うのは恥ずかし過ぎるし。
日記と言っても、アイツがいなくなってから帰るまでにしてしまったオナニーの告白だ。
書いてる時はそうでもないけど、読み返すと耳まで赤くなるほど恥ずかしい。
昨日は、初めて電車の中で「痴漢をされてる所を設定」してイッた所までを書いた。
読み返していると、恥ずかしいのも恥ずかしいけどなんだか興奮してきちゃう。
アイツが帰ってきて以来、二人目の自分は完全に引っ込んでいる。
だから、他人に犯される妄想なんかもしなくなった。
そして、日記を読んでもその妄想自体では興奮する事もない。
じゃ、何に興奮するのか。
そう、苛められて人前でオナニーしちゃった自分自身の行為に興奮するのだ。
それと、誰かに見られてる自分に興奮する。
ホントに見られたい訳じゃなくって、見られちゃったらどうしようっていうのが催淫剤になるようだ。
確かに、誰にも見られないことを確認して外で全部脱いだ事もあった。
自分自身が二人だった時も思ったけど、私ってかなりのMだ。
ナルシストってのも混じってるかもしれない。
自虐的な行いは最も醜い自惚れである、という言葉を聞いた事がある。
あの時は平常な私ではなかったとはいえ、ぴったりくる言葉のような気がする。
このメモ帳をアイツに見せたら、自虐心と羞恥心に煽られてとても興奮するんだろうなと思える。
見せるの止めようかしら。
でも見せて苛めて欲しい気もする。淫らすぎるわよ、御坂美琴。
アイツはすっごく優しいけれど、苛められたら私は滅茶苦茶になっちゃうんじゃなかろうか。
初めての時も、イクと動きを止めてしまうアイツに故意にイクと告げずに責め続けさせた。
そうして苛められてるような状況を、わざわざ自分で作って失神するまでイキ続けたんだった。
だいたい、イクとその後は敏感になりすぎて辛い感じがしてくるのに続けるところも被虐的だ。
辛いし苦しいのに、続けるとすぐにやって来るより大きい絶頂感を期待して無理やり続けちゃうし。
苛められるのが大好きなんだなーって自覚する。
アイツに苛めて欲しいかもしれない。
とはいえアイツの性格からすると、絶対苛めてくるような真似はできないと思う。
苛める事で私が悦ぶって知ってくれたらしてくれるかも。
その為には、私がドMですって教えなくっちゃならない。言える? 無理かも。
でも、抱かれてたら言っちゃうかもしれないな。つくづくいやらしい子になっちゃった。
アイツに抱かれてるところをちらっとでも思い出すと、すぐに身体が疼くようになっちゃったし。
まーあれだ、私はアイツ専用淫乱娘になってしまった訳だ。
そんな淫乱娘ってば、アイツに受け入れて貰って抱いて貰って大満足なくせに、あれから毎日欠かさずオナニーしてる。
アイツに抱かれて帰ってきた後にしちゃうんだから重症ね。
そして昨日、日記を読み返して興奮して、アイツに抱かれた時の事を思い出して我慢できなくなった。
それで大失敗してしまったのだ。
「御坂、出掛けないなら午後から留守番を頼めないか?」
朝、訪ねてきた寮監がそう言ってきた。
「昼前に帰るかどうか分からないんですけど。どうしてもですか?」
寮監は、そうか、ならいいと言って去っていった。
一人風邪をひいて休んでる寮生がいたからあいつに頼むか、とかぶつぶつ言っていた。
ところが残念な事に昼前にはアイツの寮を追い出されて帰ってきてしまった。
寮監がまだ出掛けてない事を確認し、留守番を引き受けた。
そして日記を書くことを思いついて、初めて自慰をした時の事から初めて電車内でした事までを書いたのだった。
その後に日記を読み返し、アイツを思い出してしたくなったのはまだ昼の二時だった。
寮には誰もいないはず。能力を使って調べた。やはり誰もいない。
私は全部脱いでベッドに潜り込み、布団をかけて能力の手でアイツにしてもらったようにしてみた。
めちゃくちゃ興奮したけど、やはり実際に抱かれてる感じの半分くらいの興奮度。
でも、それでもやっぱり気持ちいい。今までのオナニーの中では一番だ。
指でイカされ、入れて貰ってイカされ。
そうして、失神するまで突かれた時を再現してまたイッた。
快感は失神するほどではなかったけど、背が反って声が我慢できない。
反った背が戻ると、布団の中に籠もったいやらしい匂いがふわっと顔にかかって興奮が増した。
誰もいないからいいか、と、寮にア行の高い声をいろいろ変えて響かせながら繰り返し果て続けた。
気持ち良すぎて涙が溢れ、反った背が元に戻らない。
身体が揺すられる感触がする。
誰かが遠くで私の名を呼ぶ。
気持ちいい、気持ちいい、もっと突いて、当麻、大好き、愛してる。
あれ?
身体が揺すられてる? 名前を呼ばれてる?
「御坂さま! 御坂さま! 大丈夫ですか!?」
げぇっ!
なんで? どうして?
完全に覚醒した私は、布団を剥がれたら大変だとそれの上の部分を鷲づかみにして焦る。
「先程からノックして、悲鳴が聞こえたけど大丈夫ですか? 泣いてみえるんですか?
そう声を掛けたんですが、お返事が無くてずっと泣いてみえたものですから、心配になってしまって」
「だ、だだだだだだ、大丈夫、大丈夫。ちょ、ちょっと悪い夢見てただけだから」
そう言ってぶるぶる震えていた。
気持ちよすぎて涙が出ていたのと、震えていたのとが幸いした。
そうですか、安心しましたとあっさり引き下がってもらえた。
よかったー。イク、とか叫んでなかったわよね。
布団めくられたら裸だし、シーツには染みができてるし、言い訳のしようがなかった。
能力の手で弄る事ばかりに集中しすぎて、他に全く能力を回していなかった。
大失態だ。
そう言えば休んでる子がいるって寮監が呟いた気もする。
私が調べた時はお出かけしていたのだろう。
どこに行ってたのかなと思ったが、問う気も失せてシャワーを浴びた。
これじゃ留守番になってないじゃないの。
もう二度と寮で全精力を使って自慰に耽るのは止めようと誓った。
さて、今日は朝からのお説教の後にデートの約束を取り付けたし、とっても気分がいい。
日記の続きを書こうかな。
そう思って、書き始めたんだが何か違和感。
AVに出演したのを想像したところまで書いた。
次は学校だったっけ。
授業中、突然講堂に全校生徒が招集された。
集まると、壇上に二十人ほどの男達が生徒数人と先生、それに何故かアイツに拳銃を突き付けて上がってきた。
「御坂美琴、壇上に上がれ」
そう命令されて、人質の救助と犯人の目的を知る手段をあれこれ考えながら指示に従った。
「学園都市の広告塔が地に落ちる瞬間を中継させていただこうと思ってな」
なるほど、学園都市を貶める事が目的か。
でも人質が多すぎて反撃の機会が掴めない。
壇上に上がらされて、脱げ、と命令された。
私は手を震わせながらシャツのボタンに手をかける。
ぐずぐずしていたら、早くしろと急かされた。
シャツを脱ぐ時は羞恥で手が震えたがブラを外したら開き直った。
スカートを落とし、パンツを抜いて靴下だけの姿で全校生徒の前で直立した。
友人達の哀れむ目が突き刺さって痛い。
男達は寄って来ず、アイツを含めた人質達を羽交い絞めにして頭に拳銃を突きつけたままだ。
「そのままいつもやってるようにオナニーして見せろ。
こっちのカメラでちゃんと撮って中継してやるからよ」
私は羞恥で赤くなった身体が、これから来るめくるめく快感への期待で震えてくるのが分かった。
と、ここまで書いて違和感の原因に気がついた。
次は映画館で襲われて生上映されるシーンだ。
やっぱり私って全部「誰かに見られる」妄想をしてる。
そして、一番あさましい自分を必ずアイツに見てもらってる。
絶対に見られたくない、けど見て欲しい、いや、見られちゃったらどうしようって羞恥で興奮する訳だ。
なーるほどねー。恥ずかしいのが大好きっ子なんだ。
羞恥系Mってヤツ?
なんだかなー。
そっか、じゃぁこのメモ帳はいらないや。
直接アイツに話した方が、絶対恥ずかしいはずだもん。
いつかアイツにこれを言葉に出して伝えるのか……
身体がぞくっと震えた。
メモ帳をフォルダごと削除してから、PCの電源を落とした。
真っ黒になった画面に自分の顔が映る。
「アイツにあれを話すのか・・・・・・」
呟くとさっきのぞくぞくがあわ立つように全身に広がる。
机の上のPCに映った自分の顔を見ながらパンツの中に右手を突っ込んでしまった。
少し弄っただけで、陰核が期待して膨らんでくる。
若干濡れた中心部から体液を指に補給させて転がす。
硬くなった陰核は指から逃げ回り、追いかける中指がせわしなく動く。
ふっ、と声が出そうになって、左手で口を塞ぐ。
PCの画面に映るその姿がなんだか淫靡に感じて興奮が増した。
やっぱりナルシストなのかな。
十分も転がしていたら、切羽詰ってきた。
パンツの中はどろどろになってる。
もうすぐ来ちゃいそう、と思って指の動きを止めた。
指を引き抜いて見ると、てらてらと濡れて光っていた。
臭いを嗅ぐと、興奮でぶるりと身体が震えた。
黒に映った自分の顔が、もっとしてって言ってるように見える。
そうだ。前にオナニーしてる時、果てるのが惜しくなって絶頂を引き伸ばした事があった。
ちょっとやってみよう。
もう一度、指で陰核を転がす。
もう既に頂点手前まで届きそうになっていた身体は、一直線に天辺を目指す。
届きそうになる瞬間に指を外すと、あそこが名残惜しそうにひくひくと動く。
黒い画面に映った、左手で口を覆った顔がいやいやをしてる。面白い。
イキそうになって引き返す、そんな事を一時間も続けていたら、もうどうにも我慢ができなくなってきた。
目の前にアイツの顔を映し出す。この前見た、アイツのイッてる顔。
やっぱりこの瞬間はアイツの顔を見ていたいし、見ていて欲しい。
とうとう我慢するのを放棄して、陰核を押しつぶしながら頂点に登った。
山から降りてきて、パンツの中がすごい事になってるのに気がついた。
立って確かめてみると、スカートにも染みができていた。
「うわー、いやらしい」
もー、またしちゃった。
でも、焦らして焦らして、そうしてから来た頂点はかなり高いところだった。
我慢するってのもいいかもしれないなー、なんて思いながらシャワーを浴びに行った。
――――――――――――――――――――
白井黒子は嫉妬している
お姉様ったら、あの殿方が帰ってみえてからというもの、目の玉ハートマーク、頬はピンク色。
彼の帰ってみえた翌日には交際宣言なさるし、キ、キスなんて事まで……きーっ!
思い出したくも御座いませんのっ!
しかしまぁ、あのお姉様がここまでデレデレになってしまわれるとは。
惚気っぷりは目も当てられないほどだし、頬を赤くして思い出し笑い、と言うか思い出しニヤケが気味悪いくらい。
まさかとは思うけど、もうすること済ましちゃってるんではないんですの、と言いたくなるほどのニヤケっぷり。
「お姉様の素肌に触れるのは、電撃パンチと引き換えに得られるわたくしの特権でしたのに」
もう、悔しいと言うか切ないと言うか、この心のもやもやをどうにかしてくださいませお姉様!
しかも、しかも! お姉様の貞操の危機がすぐそこまで近付いてきてる気がする。
昨日、お買い物デートしましょ、と放課後に誘われた先はランジェリーショップだった。
そして、上下お揃いのピンクとか白とかのレースのついた、今までのお姉様では考えられないような下着を!
なんと十着も購入されて、またニヤニヤ。
わたくしから言わせれば、まだまだお子様な下着と言えるのですが、それにしても。
両側を紐で止めるようなタイプのストリングビキニが三着も混じってたのは見逃してはおりませんの。
だーれーにーそーのーひーもーをー解かせようと言うんですの、お姉様!
お姉様ったら
「なーに言ってんのよくーろこー、あんたが私に下着の趣味を考えろって言ったんじゃなーい」
と取り合っても貰えない始末。
しかも終始頬をピンクに染めてのニヤケ顔。
バレバレですわよ、お姉様。
はー。もう学校も風紀委員もブッチして監視していたい気分になってきましたの。
――――――――――――――――――――
さぁ、今日は待ちに待った初デートだ。
昨夜からウキウキワクワクドキドキしてあんまり眠れなかった。
途中のベーカリーで朝一番焼きたてのバケットを二本買って、と。
お野菜たっぷりとベーコンにソーセージ、ツナ缶にパスタを買ったら結構な大荷物になってしまった。
インデックスがお出掛けするまではいつも通りだし、今朝もごはん作りに行かなくっちゃ。
昨日は黒子と新しい下着も買いに行ったし。
万が一むふふな展開が待ってたって大丈夫! なーんちゃって、えへへ。
でも、デートする暇があったら両親に挨拶に行けってインデックスに言われちゃうかな。
別に行くのはいいんだけど、絶対いじられそうな気がするしなぁ。あの母だけはなぁ。
それに、戦争後のゴタゴタが終わらないと落ち着かないし。
ゴタゴタか。
この混沌とした世界の紛争の結末はどう付くんだろう。
全てが終わったらインデックスはどうするんだろう。
アイツが、彼女の敵であるはずのイギリスに帰すとは思えないし。
あの狭い寮で若い男女が二人暮らし、っていうのも何だかなぁ。
そうだ! お互いの両親に挨拶に行く時、インデックスも一緒に行って貰おう。
そうして、アイツと私とインデックスの関係とか事情とか説明して分かって貰って。
卒業したら三人で住むことを了承して貰おう。
まずはアイツとインデックスを説得するのが先よね。
バラ色の未来に期待を寄せて、アイツの部屋の呼び鈴を押した。
「おっはよー」
扉を開けてくれたアイツに荷物を預けて、背を向けて部屋に入るアイツの背中に顔を埋めて匂いを嗅いでやる。
うーん、いい匂い。幸せ匂い。
「こーらー、みこと、人前でいちゃつくなんてどういう了見かな」
「えへへー、ごめんごめん、すぐ朝ごはん作るから待っててね」
「いったいぜんたい、みことは毎朝のお説教をどう聞いているのかな」
だからごめんってばー、と言いながら台所に引っ込んだ。
だってさ、アイツの近くに居られるだけで嬉しくってしょーがないんだもん、とは言わなかったけど。
今朝のメニューはたっぷり野菜のシーザーサラダ、カリカリベーコンにポーチドエッグとバケットのトースト。
塩コショウで炒めたソーセージ、それとツナとスライスオニオンのパスタ。
そしてポットにたっぷりのロイヤルミルクティー。
ゆうに六人前はあるかな。
「ねー、インデックスは何時に出かけるのー?」
「二時過ぎにこもえのアパートに集合なんだよ。その後みんなでお買い物に行くんだって」
そっか、じゃあお昼をレストランでっていうのはキャンセルね。
ツナと玉ねぎ、レタスとトマトとベーコンを残して、と。後は卵は買い置きがまだあるしミルクもある。
お昼はBLTサンドとツナサンド、ふわふわオムレツサンドにでもしましょうか。
アイツに手伝って貰って、出来上がったごはんをテーブルに運んで貰う。
いやん、新婚さんみたい。きゃー。
いただきますがつがつがつ、って感じの相変わらずなインデックス。
美味いな、いい嫁さんになるぞなんてアイツに言われて真っ赤になる。
相変わらずの旗男。旗は回収して貰ったって考えていいのかしらねー。
「そういえば、とうまとみことはいつご両親にお付き合いの報告に行くのかな」
やっぱり来たか。
「あ、その事なんだけどさ」
今のゴタゴタが済んだら、一緒に行かないかって彼女を誘った。
きょとんとして「なんで?」と小首を傾げる姿がたまらなく可愛い。
アイツも目を細めているし、ちょっと妬けちゃうかも。
当麻もちょっと聞いてくれる? と話を切り出した。
「あのさ、インデックスにとって私ってどういう人間? 友達?」
「家族、かな」
即答。まだ恋敵って認識ではないみたい。でもそう言ってくれると嬉しいし、先の話もしやすい。
「当麻はどう?」
「恋人、じゃないのか? そう思ってるけど」
そこは家族って言いなさいよ。
ほら、彼女の目が少し険しくなってる。
「ありがと。で、当麻とインデックスはお互いどう思ってる?」
「家族、だな」
「うん、家族かも」
ですよね。
「ならさ、インデックスもそう思ってくれてるんだし、その家族の中に私も混ぜて欲しいのよ」
そして、今すぐは無理としても、卒業したら一緒に住みたい。
その為にも、お互いの家族にインデックスを紹介したい。
そう思ってるんだけど、と言って二人の顔を上目遣いに窺った。
「わたしは賛成かも。みことのごはんは美味しいし」
ごはんですか、やっぱりそこかよ。
「うーん、でも色々と問題があるんじゃねぇか?」
「例えば?」
「まずは未婚の男女が、しかも高校生同士で一緒に住むってヤバくないか」
却下。じゃ、インデックスと同居してるのはどう言い訳するのよ。
「それに、そうなると結局家事とかお前に押し付ける形になりそうで。お前だって学校その他で忙しいだろうし」
却下。家事は手伝ってくれたらいいし、一人暮らししてたって家事はやらなきゃならない事だし。
「家賃はどうするんだ。俺には学生寮以外で生活できる甲斐性はないしな」
「そんなのルームシェアと一緒で出し合えばいいのよ。家族って言うなら財布は一つでもいいし。
収入に比例して出し合うって形でもいいわ」
「そうすると、お前に頼る割合が増えるしなぁ。そこを頼るっていうのは男としてどうかと思うぞ」
み-ずくさーい。よし。
「ねー、私達ってずーっと一緒にいるのよね? そこを借りだと思うなら将来返してくれればいいじゃない。
私はもう既にアンタ達に幸せってものを貰ってるから、借りなんて思って欲しくもないけど。
それか、家族だって認めてくれるなら財布は一つ、でいいと思うんだけどな」
アイツは「でも」とか「しかし」とか、煮え切らない態度。
これは卒業するまで説得し続けるしかないかなぁ。
「まぁさ、どっちにしたって将来の話なんだし、今すぐに結論出そうって話でもないしね。
でも、インデックスの事は両親にも知って貰っておいた方が良くない?
アンタのご両親が突然この寮に訪れる事だってあるかもしれないんだし、その時に言い訳を考えたってしどろもどろになるわよ。
だったら全部事情を知ってもらっておいた方がお得よ」
「あー、まぁそれはそうかもしれないな。インデックスはそれでいいか?」
「わたしは構わないかも。わたしには両親の記憶が無いから、そういうのにはあこがれるし」
あ、しまった。そうだった。
アイツも両親との記憶が消えてる。
迂闊だった。二人を傷つけたかも。
「そうだな。うちの両親や御坂の両親がインデックスの親になる訳か。いい話じゃないか」
助け舟が出てほっとする。
コイツ、私が一瞬ひるんだのが分かったのかしら。
「じゃ、決定ね。今のゴタゴタが済んだらみんなで出かけましょう」
自分で振った話題だけど、微妙な問題に気が付いて打ち切ってしまった。
当麻の機転に感謝する。
こういう機転が利く人じゃなかったはずなんだけど、どうしちゃったんだろ。
この前から、私にだけは気が利くし優しい。
愛されてるから? だけどそれだけじゃない気がするな。
でも、とりあえずは今日ここを出る事は無くなった訳だし。
デートの事に頭を切り替えましょう。
お昼を食べて片付けて、朝干した布団を取り込んでからアイツの先生のアパートに三人揃って向かった。
アパートに着くと、玄関先で灰皿を抱えた幼女がタバコをふかしていた。
「あ、小萌先生、今日はよろしくお願いします」
アイツが幼女に声を掛けた。
え? 先生? どう見ても小学生だけど?
学園都市には謎が多い。
「そちらにみえるのが御坂美琴さんですかー? 先生にも上条ちゃんの初めての彼女さんを紹介して欲しいのですよー」
「御坂美琴です、はじめまして」
え?
なんか彼女って言わなかった?
「あー、すまん御坂。昨日電話で焼肉パーティーに彼女と参加したいって言っちゃったんだ」
ひゃー! か、彼女って紹介されちゃった!
うー、嬉し恥かし、ね。ううん、すごく嬉しい。
「上条ちゃん、御坂さんと言えば常盤台の超電磁砲と呼ばれるくらいの凄い人じゃないですかー。
いったいどうやってたぶらかしたのですかー?」
「あ、いえ先生、私がコイツに先に惚れて追っかけてたんです」
そう私が口を挟んだ。
「え? そうなのですかー。こう言ってはなんですが、上条ちゃんって結構なおバカさんなのですよー。
御坂さんに釣り合うとは思えないのですけどねー」
あれ? ちょっと棘がある?
「あら、御坂美琴じゃない。この前の険しい顔とは大違いね。乙女な顔もできるんじゃない」
「あの上条君を。篭絡するとは。独占は許さない」
あれ? あれ? 囲まれた?
なんで? 結標淡希? こっちの人はたまに当麻と一緒にいる黒髪美人じゃない。
「上条ちゃんはこう見えて人気者なのですよー。みんな御坂さんのライバルなんですねー。
油断大敵なのですー」
はー。旗男体質の犠牲者どもだったか。
「負けませんから」
天使の笑みを返してやる。
「おいおい、先生まで、そんなにからかわないでくださいよ。さぁ、挨拶が済んだら行こうぜ」
アイツが割って入ったのを期にインデックスの傍まで逃げた。
こっそりと「ライバルがいっぱいね」と囁くと、とうまは気がつかないから大丈夫と言われた。
ふーん、気がついたらどうなるんでしょーねー。
「これ、持って行きなさい。自分の食べる分くらいは払うのよ」
影でこっそりマネーカードを渡して、アイツの元に駆け寄り、二人して頭を下げてそこを辞した。
「モテモテじゃないの、やっぱし」
「ちげーよ。からかって喜んでただけだって」
相変わらず女心の欠片もわかんないヤツ。
でも私には優しいよね。
少し顔を曇らせるだけで気がついてくれるし。
どうしちゃったのよ、アンタ。
それから、街をぶらついて時間を潰した。
というか、手を繋いでうろうろしているだけで楽しすぎて、時間の過ぎるのを忘れてしまった。
アクセサリーとかの小物を売ってるお店では、髪留めをプレゼントしてくれた。
アイツからの初めてのプレゼント。
小躍りするくらい嬉しくて、少し涙が滲んできちゃった。
アイツにお願いして付けて貰った時は、ホントに一筋涙が溢れてしまった。
「夕食、どうしようか。美味しいお店、知ってるけど」
「あー、俺にはそんなに高いお店は似合わないしなぁ。それに、予算もさ」
いいのに、そんなの。財布は一緒、じゃなかったの?
そう拗ねてみせても、でもなー、やっぱりなー、とぶつぶつ言ってる。
「じゃ、当麻の良く行くお店に行きたいな。外のどこにいつも行ってるのか知りたいし」
「ええっ? でも俺の行く店なんてお嬢様の出入りするような場所じゃねえぞ」
「いいの。それに私はお嬢様なんかじゃないし。私はね、当麻のか、彼女なんだから、ね」
「お、おお、そうだな。ちょっと歩くけど、学生の晩飯を安く出す店があるんだ。
焼肉定食五百円、御飯と味噌汁おかわり自由、って店なんだけど行ってみるか?」
「うん、行ってみたい!」
そう言って腕を取って、街中を歩く。端から見たら恋人同士っぽいかな。
我ながらだらしない顔してるのが分かる。ずっとこうしていたい。
でも、きっとコイツは行ってしまう。やっぱり連れて行かないつもりなのかなぁ。
「ところでさ、インデックスにかかってる魔術、どうする事にしたの?」
思い切って聞いてみた。
これを聞けば、もしかしたら外に戦闘に出るかもって教えてくれるかもしれない。
「いろいろ考えたんだけどな。完全に平和になるまでは今のままがいいと思う」
「でも、あの子だって、知ったらきっと力になりたいって言うわ」
「まずは聞いてくれ」
とりあえず、魔術がかかってるかどうかも分からない。
解いたらどうなるのかも分からない。
調べる為には、強力な魔術師の協力が必要だが、自分の知り得る協力してくれそうな魔術師はイギリス所属だ。
もしも魔術が使えるようになったら、引き戻されるだろう。
それに、そんな強大な力を持った魔術師が生まれたらどうなるか。
もしかしたらインデックスは世界中の魔術師を敵に回してしまうかもしれない。
科学側も黙ってないかもしれない。
現状でそんな危険な賭けは犯せない。
真剣な顔でそう語った。
理解できる。コイツは大事な人を危険に晒す事を一番嫌う。
私もそうかもしれない。
戦場に行けば、個人戦なら絶大な能力を持つテレポーターである黒子。
連れて行けるか、と問われたら行けないだろう。
以前ハッキングした時に私を撃退した守護神。
あれは多分、初春さんだろう。
戦場の情報戦では、私と並んで強力な武器になる。
連れて行けるか? 行ける訳ない。
コイツに連れて行って欲しいと思ってる自分は、コイツと同じように連れて行けない人だった。
やっぱりコイツに連れて行けというのは我侭なんだろうか。
戦場に送り出して、無事を祈って待ってるのが正解なんだろうか。
それは無理ね。
守るって決めたんだし、こいつの傍からはもう離れられない。
「そう、分かった。それが一番かもしれないわね。
でもさ、もしも戦いに出るならちゃんと私には言ってよね」
ちゃんと言うから大丈夫、と笑うけど。
嘘吐きめ。
言えないでしょ、アンタは。
私と一緒だもん。
夫婦は長く一緒にいると似てくるって言うけど、私達はもう既に似てるわね。
そう思ったらなんだか今は許せる気がした。
「ずっと三人でいられたらいいね」
そう言ってアイツの先を歩く。ああ、そうだなと言うアイツが愛しい。
でも、どれだけ頑張ってもあと百年も一緒にいられない。
人生って長いように今は見えるけど、歴史の流れの中ではほんの一瞬。
なんだかそう考えると少し寂しくなる。
「アンタは最後なんだからね。私達は絶対アンタのいない世界をもう二度と経験したくない」
頑張って生きてね、と笑いながら振り向きざまにアイツの胸にパンチ一発。
分かってるって、と言うあいつの胸に飛び込んでぎゅーっと抱きつく。
安心するなあ、この厚くて広い胸。
いい匂いがする。ちゅーしたくなっちゃう。
「お、お、ねえ、さま? まー! お姉様! 往来のど真ん中でなんてふしだらな!」
きゃっ! 黒子だ!
逃げるわよ、とアイツの手をつかんで走り出す。
「くーろこー、テレポートで追いかけて来たら電撃だからねー。寮監にはもう少し遅くなるって言っておいてねー」
「お姉様ー! わたくしの顔を見て逃げるなんてあんまりですのー!」
ごめんねー、今度埋め合わせするからー、そう言って後ろに向かってひらひらと手を振る。
くすっ。遅くなるんだってさ。ね、アンタ、どうして遅くなるって言ったか分かってる?
私達は笑いあいながら手を繋いで走り、夕闇の迫りつつある街に消えていった。
214 : ◆lCKg0rpFuc[sag... - 2011/11/23 11:03:21.48 ZT28//0P0 136/136
おしまいです
なんとか前作に続く流れができたかな
読んでくださった皆様に感謝しつつ、HTML化依頼を出してきます
もしかしたら新約三巻が出た後に何か考えて投下するかもしれません
その時は別スレ立てますので、またお会いできたら幸いです
リグレットの作者らしいけど、さすがというべきか