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≪あらすじ≫
「童貞くん、君の肉親を私ぁどんどんおみまいしてくぞぉ。実家か? それとも共和国か? スポンジが腐らないうちにいくぞ私ぁ」
元スレ
女騎士「私は最初っから最後までクライマックスだぜえ!!」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1386173838/
女騎士「ありがたく思え。絶滅タイムだ」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1387555249/
妹「どいつもこいつも……絶対許さねえ……一列に並べて全員ぶち殺してやる……くっそがぁぁ……!! あああ、痛ェェ……」
ウルスラグナ「まあ、なんと過激な……普段の穏やかなあなたにお戻りください、マスター」
妹「(骨董品の癖にベラベラ鬱陶しい奴……! 天使に化けるわ、鞘に収まってるのに喋りかけて来るわ……!!)」
ウルスラグナ「まだ痛みますか? お可哀想に、この寒さも堪えるでしょうに……」
妹「あんたみたいな幽霊国宝に……マスター呼ばわりされるイワレは無くってよォ……!!」
ウルスラグナ「しかし……このウルスラグナの現在のマスターは貴女でございます。これも教皇庁、ひいては我らが父のお導き……」
妹「私のオシャカになった左手指の事もカミサマのお導きィ……? クソッタレがぁ、なぁにがカミだ、手首ぶった切ってやりますわァ」
ウルスラグナ「まあまあご安心を……主はあなたの運命にも等しく慈愛を与えてくれる事でしょう、その為のこの私にございますよ」
妹「魔王軍と教皇領を行ったり来たりのナマクラがあ……今度は私を食い物にする気ですのねェ、わかってますのよ!?」
ウルスラグナ「まさか……あまりこうした事は言いたくありませんが、持ちつ持たれつという事でもありましょうや」
妹「はあぁ?」
ウルスラグナ「おや、雷帝閣下からこのウルスラグナが持つ天威をお聞きにはならなかったのですか」
妹「天威ですってェ……孫の手にもならないナマクラが聖遺物気取りィ? 生憎私はそんなオカルト信じませんのよぉ」
ウルスラグナ「今すぐに、とは言いません。主は信ずる者すべてをお救いになられます……私の天威は、必ずや貴女を幸福へ導くでしょう」
妹「(連合の豚どもがァ……ちょこーっとミスっただけでこんな目付け役持たせやがってぇぇ……
平民が数十万くたばったからって何だってんですのぉ……? 黙っときゃバレやしないのに、あの雷帝とかいうチビガキめぇ……!!)」
ウルスラグナ「我が天威は『勝利』。マスターの人生という名の旅路に、常勝という花道を捧げましょう……」
妹「ちっ……押収倉庫にそれらしいものは無し……事実上は連合が牛耳ってる東帝施設にないとすると、後は共和国か……」
ウルスラグナ「魔王軍が回収しておれば、教皇領の耳にも入るでしょうからね。まだどこにも渡っていないと考えられましょう」
妹「……あのネキリでブッ飛んだって考えるのが普通では無くて?」
ウルスラグナ「仮にもこの私と同じ聖剣であるバルムンク、主やそれに近しい存在のチカラを借りた魔術現象で滅ぼす事はできますまい」
妹「すると、配置したカケラと同じようにどこぞに転がっていると? ああウゼェ……」
ウルスラグナ「部下の方々にも捜索を命じられたようですが……その後はどうなのです?」
妹「北西や共同体へのご機嫌取り……もとい、くだらん救援活動に人手が割かれてますのよお?
まったく、怪我人の捜索なんか無駄無駄、72時間なんかとっくに過ぎたというのに、ご苦労な事ですわねぇ……」
ウルスラグナ「また……強がることはないのですよ、素直に祈っていると告白してもよいのです」
妹「(あー死ね、みーんな死ね死ねカス)」
ウルスラグナ「普通に考えれば、保持者の最後にいた場所の近辺を探れば近道にはなりましょうね……」
妹「あなた、スゴイ聖剣なんだったら同類の転がってる場所くらいわからないんですの?」
ウルスラグナ「お言葉を返すようで申し訳ないのですが、マスターは御兄弟の居場所を千里眼が如くぴたりと見つけられるのですか?」
妹「はぁ!? 使えないガラクタですわね、このクッソ寒い冬空の下に放り出されたか弱くも美しく気高い淑女に対して
衛生観念なんぞ微塵もない物乞いヤクザジャンキーどもの間を潜り抜けつつ自称聖剣のクズ鉄穴兄弟を粉塵とスモッグにまみれて当てもなく探せとぉ!?」
ウルスラグナ「ご心配なく、私にお任……」
妹「冗ぉぉー談じゃあーりませんわ……くだらねぇーくだらねぇーくっだらねぇー!! ザコどもザコどもザコどもがぁー!!
えぁぁぁぁぁー、寒ィィィと思ったら雪ですわ!! うっぜーなザケやがってぇ、私が外歩くときは降るんじゃあねー!!」
市民「うわぁ……」
市民「軍人さんかしら……?」
市民「マッチはいかが……マッチはいかが……」
妹「見てんじゃありませんわ愚民どもぉ!! 散れぇ!! ぶち殺されたいんですのぉ!? 私を誰だと思ってましてぇ!?」
モヒカン「ヒャッハー配給だぁー!!」
肩パッド「2週間ぶりの肉だぜぇー!!」
スキンヘッド「ヒャッハーお湯だお湯だぁー!!」
妹「……」
ウルスラグナ「どうかいたしました?」
妹「不愉快ですわ……不愉快極まりないですわ……なぜ私が……こんな腐臭の漂うドブの底みたいな場所に……」
ウルスラグナ「この国境線沿い、以前までは6年前の停戦からこちら、東西交流の盛んな都市が多く点在していたと聞きますが……」
妹「汚らしい……私がこのポストに就く以前からこんなでしたわよ、そこらじゅう立ちんぼのバカ女とラリパッパでいっぱいでしたわ……!!」
ウルスラグナ「これが民の生活の実態……一刻も早く、教皇領も動き出さねばなりません、多くの人を愛で癒してやらねば」
妹「(大概こいつら含む教皇領の坊主どもも胡散臭いですわね……)」
モヒカン「ヒャッハー一列に並べ並べー!!」
肩パッド「慌てんじゃねーぜ嬢ちゃん!! しっかり全員ぶんあるからよぉー!!」
スキンヘッド「良かったなーババア!! 今日は固形燃料があるぜえ!!」
ドスッ
妹「……あ痛」
モヒカン「おっとぉ!! 悪ぃなおねーちゃん、怪我はねえかい!!」
妹「……」
妹「ひのふのみ……しけてますわね、ブランド財布ちらつかせておいて中身はカラとかヒトをバカにしてますわ……」
ウルスラグナ「」
ウルスラグナ「何という事を……いけません、今すぐあの方に返してくるのです」
妹「うるっさいですわねー、あんたはガヴァネスですの? 糞尼どもが夜な夜なナニに使うような張形の癖に文句言うんじゃありませんわ」
ウルスラグナ「よろしいですか、マスター。お遊びで他人のものをくすねてはいけません……人間は徳を重ねる為に日々を生きねば……」
妹「くすねたなんて、人聞きの悪い、死ぬまで借りるだけですわ。返す気はあるからそこまで悪質に見られるなんて、
アンタの方が下世話で愚鈍で卑劣で淫猥で無知蒙昧の品性愚劣で矮小なディルドもどきなのに、何様のつもりでしてぇ?」
ウルスラグナ「とにかくお返しなさい、今すぐに飢えて死んでしまう程にお金に困っているわけではないでしょう。
荒れ狂う海の上、小さな木の板にしがみつく二人……一人を見捨てねば二人ともがおぼれ死ぬ、そんな時でなければ」
妹「ほーお!! そんじゃ私がゴミ法廷のクソ法曹にそうやって説得すれば済む事ですわね!
お財布落として飢え死にしそうだったんで、やむを得ず生きていても酸素の無駄にしかならないモヒカンクズ男から、
淑女のたしなみを忘れずに同意を得た上で死ぬまでお財布を借りたと証言すれば私の勝ちィー、聖剣さんがそう言ってましたァー!!」
ウルスラグナ「何という事を……このウルスラグナ、悲しいです……」
モヒカン「おれっちの財布がねぇ!! ねぇぞぉ!?」
肩パッド「おめぇはドジだからなぁー、どっかに落としたんじゃあねーのかぁ!?」
スキンヘッド「しょうがねぇなぁー、おめぇら二人でちょっと探してこい!!」
モヒカン「おっかしいぜぇ、向こうから来たさっきのねーちゃんなら知ってるかなぁー……」
妹「」
肩パッド「あれだけ身なりのいい服を着てるねーちゃんだ、きっと警察に届けてくれているはずだぜ!」
モヒカン「入れ違いになってもまずいな!! しっかり礼を言えるように今から追いかけよう!!」
妹「」
モヒカン「」
妹「」
ウルスラグナ「おお我が主よ……」
妹「へ、へへ……お、起き、起きなさい……ちょ、ちょっとぉ……な、なぁにしてんですのぉチンピラぁ」
モヒカン「」
妹「ちょっぴり、さ、先が刺さったくらいで……しし、死んだふりなんかしないでくださいまし、ねえ……ねーえ?」
モヒカン「」
ウルスラグナ「マスター……そこまで不安と衝動に揉まれていたのですね……ウルスラグナ、気づいてさしあげられなくて申し訳がないです……」
妹「起きろクソ男がぁ、さっさと起きろぉ、起きてあれだろォ? 治療費と慰謝料請求するんだろォ……?
そんで、そんでそんで華奢な私を仲間と共に組み伏せて、この路地裏で不衛生な性的発散に勤しむんですのよねぇ……?」
モヒカン「」
妹「わ、わ、ワザとじゃあないですわぁ、こ、この大男が……不穏にもこの私に近づいてくるからですわ……」
肩パッド『おうい兄弟!! そっちにはあったかー!! おねーちゃん見つかったのかー!?』
妹「」
肩パッド「」
妹「こ、こ、今度は……せせせ、正当防衛ですわぁ……クキキ……ひひ……」
ウルスラグナ「……」
妹「ねえナマクラァ!! わ、私から、あああ、あなたを払い落とそうとしたんですもの……あなたは大事な備品ですもの、抵抗もしますわよぉ」
ウルスラグナ「おお、哀れな子羊よ……そんなにも、そんなにも主の救いを求めていたのですね……」
妹「いやいやいや……それにしたって……いやー、私って強い、マジ強いですわぁ……ヤバい強いですわよねぇ」
ウルスラグナ「……」
妹「考えてみりゃあ……天威ってぇのが私には着いてるんですのよねぇ……『勝利』の天威……糞うまいですわぁ……」
ウルスラグナ「わかりました、ウルスラグナは何があっても、貴女のお傍にいる事を誓います……
大丈夫、懺悔ならいつでも聞いてさしあげます……いつかは、いつかは貴女もおこないを悔いる事があるでしょう……」
妹「勝利……そう、そうですわぁ……そもそもぉ、私が誰かに負けるなんてありえませんもの……
その気になりゃあ連合にも魔物どもにもエルフにも、小姉様にだって負けやしない……そう、ぜぇんぶ上手く行きますの……」
ウルスラグナ「……」
妹「ごほっ、げぇぇっ……えっ、ぇぇっ……ぐっ、くっく……くくく、わた、私の敵になった事が運の、つつ、尽きですわぁ……」
ウルスラグナ「限定A解放……起動制限解除、権利クリア……」
妹「最後に勝つのは私でしてよぉ……私が、負ける筈なんてありませんのよぉ……くっく、くくっしょい!!」
ウルスラグナ「……」
妹「クッソ寒ィ……ちくしょうめ……!!」
妹「あぁぁぁー、寒っぶ……さぶい……」
ウルスラグナ「雪の勢いが増してまいりましたね……」
妹「……」
妹「(ぎぼぢわるい……さ、さっき路地で吐いてから、何だって言いますのォ……
頭の……脳みその裏側に、真っ白い長方形がぶわっと広がってるような感覚ぅ……)」
ウルスラグナ「とにかく、どこかでいったん休んではいかがでしょう……」
妹「……」
ウルスラグナ「マスター?」
妹「……こっち、ですわぁ」
ウルスラグナ「はぁ……本当に大丈夫ですか?」
妹「こっち、こっちの道……こっちに、何だか……お、おでこのこの辺でむずむずしてる何かがいますの、何かが」
ウルスラグナ「……」
妹「街道沿い……ここから直進、路地裏通って階段昇って階段下ってパン屋の屋根裏、まっすぐ進んで左折して直進して直進して
右折してまた右手から路地裏通って酒瓶蹴っ飛ばして酒屋の裏口から出て街道突っ切ってまっすぐ進んだその先……その先ぃ……」
妹「その、先にはぁ……」
エルフ三男「なっ……!?」
姉「あらぁ……?」
エルフ三男「(こいつ確か……騎士様の妹ッ!? い、今コイツ……どこから降りてきた、上の窓か! 五階相当の窓だぞ!?)」
姉「あら、あらぁ。お久しぶりねぇ、あなたぁ……お名前は何て言ったかしらぁ。わたしたち、お買いものしにねぇ」
妹「……バルムンク、見ぃぃぃーっつけたぁぁー」
エルフ三男「こいつ……!?」
パンッ
姉「きゃあ……か、閣下ぁ?」
エルフ三男「……」
妹「う、う、うはははは……あ、当たったら、当たったらどうしてくれるんですのぉ、死んじゃいますわよぉぉ!!」
エルフ三男「(剣なんかに……弾かれた!? ウソだろ!?)」
姉「ね、ねーえ閣下ぁ」
妹「あらー、お久しぶりでございます大姉様ァ、お得様がお呼びですわよぉぉ?」
姉「おとくいさま……あの子のところぉ? おじさん達じゃないのー?」
妹「ええ、ですからすぐにお戻りくださいな……私と一緒に来てくださいな」
エルフ三男「動くな、次は額に当てるッ!!」
妹「当てられるもんなら当ててみやがれぇ、ホネカワスジのヒョロガリエルフがよぉー!! 撃てよ、ほらぁ、やってみるがいいですわぁ!!」
エルフ三男「(さっきも殺すつもりだったんだよトンチキがッ!!)」
妹「手癖が良くありませんわねぇー、仮にも貴族の一人である大姉様を攫って逃避行ですのぉ? そういうのは良くない、実に良くありませんわぁ」
エルフ三男「(目的を察するに、十中八九この女が有していた聖剣……! しかも、あいつが手にしている妙な光を放つ剣もまた聖遺物か……!)」
姉「か、閣下ぁ……ねえ、閣下ってばぁ……どうするのぉ、どうすればいいの?」
エルフ三男「……たった一つだけ、残った策がある」
姉「さくぅ?」
エルフ三男「とっておきのヤツがな。あの女の脚を見ろ、マヌケな事に飛び降りた際にどっかしらへし折ったらしい、
気味の悪い事に、徐々に治癒していっているのが分かるが……そこが付け目だ」
姉「ねね、ねーえ……そ、それってなんなのぉ」
エルフ三男「こっちも足を使う」
姉「足ですって! 足をどうやってぇ!」
エルフ三男「逃げるんだよォ!! クソビッチィィーーーッ!! どけーっヤジ馬どもーッ!!」
エルフ三男「クソッ、クソッ、クソッ、クッソォォッ!!」
姉「ひやああああ」
エルフ三男「(連合の差し金か!? 東帝の機関まるごと掌握しているであろう事は予想していたが……
聖剣担いだ刺客、しかもあのダメ妹を向けてくるか!? 何度か東帝の憲兵から聴取は受けたが、そのすぐ次がこれか!!)」
姉「か、閣下ぁ、閣下ぁぁ」
エルフ三男「(あのデュランダルを持つ勇者がどうだか知らんが、今回のヤツの場合は負傷を瞬時に回復する能力を持ち合わせているッ!
自衛能力そのものも脅威ではあるが……ブチ込めばとりあえずダメージは与えられるらしい……隠れ家を悟られぬようにせねばッ!!)」
姉「ひゃ、ひゃ、ひゃうっ」
エルフ三男「買い出しの包みを捨てろっ!! 穴でも空いていれば事だ、ヤツに居場所を教えちまう羽目になったら悔やみきれんぞ!!」
姉「はっ、はっ、はぇい!!」
エルフ三男「(たまに外に出ればこれだっ!! 完全に裏目った!! ちくしょうめっ!!)」
姉「まっ、ま、待ってぇ閣下ぁぁ、手、手ぇ繋いでぇ」
エルフ三男「きさっ、貴様このクソ女!! 僕のトレンチコートの袖にクリームソースなんぞひっつけよってからに!!」
姉「ふぇぇぇ」
エルフ三男「(やってらんねぇやってらんねぇやってらんねぇ……!!
先週はハルマゲドンもびっくりな大災害、直後に聖剣ひっさげたクソ野郎に追い回され、今日はこれかよォ……!!)」
姉「あうー、おててべとべとー」
エルフ三男「なんて日だ!! 今日はなんて日だ!!」
エルフ三男「(考えろ、考えろ考えろ考えろっ……!!)」
姉「ふぁふっ、ふぁふっ、ふぁふっ」
エルフ三男「(時刻は日没後まだ1時間弱……街道沿いは先の隕石による被害を受けているとはいえ、
復旧作業員や現地民は表通りでごった返している筈……だが、雪が先ほどから降り始めた……早急に人ごみに紛れるしか……)」
姉「はふっ、はふっ、はむっ」
エルフ三男「(しかしそれも不安か……! この女……どれだけタッパがある!? 騎士様より背丈はあるぞ、2m近いのか!?
いくら人ごみに紛れたところで狙撃できるほど目立つぞ……フード付きのコートなどオマケではないか……!!)」
姉「はやっ、速いよう、閣下ぁー」
エルフ三男「(後方には……いない!? まさか、建物の屋根の上など走っていないだろうな。馬でも使って裏道から追跡……!!
いや待て待て、そもそもただの一人で尾けていたわけでもあるまい!? 情報部の連中で既に網を張っていると考えた方がいいか!)」
妹「うはははは、はははははっ、見えっ、見える!! すぅっげぇぇー見える!! 何でも見えちゃう、すっげーですわあ!!」
ウルスラグナ「確かに、確認しました……あの女性、バルムンクを所持していました……」
妹「さっきの白紙の長方形……頭の中で、時間を経るにつれて地図が組み上がって行きましたわぁ……
地図というより、同じ縮尺のこの都市が!! 道行く人々にドブ水で溺れる野良ネコまでしっかりくっきり見えちゃいますのよぉ!!」
ウルスラグナ「……さすがでございます、私のマスター」
妹「私っ、私すっげぇぇー!! 私TUEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!」
エルフ三男「(てっとり早い方法としては、聖剣を引き渡してさっさと逃げる事だな……
この女の事には口先で言及していたが、目的はこちらのバルムンクだろう……)」
エルフ三男「(……なぜこんなにも非合理的な事を? 他国に正式に嫁ぐ可能性のある、軟禁状態の入れ食い貴族に聖剣を持たせたのだ……
連合、ひいては東帝内……意思の統率と疎通が完璧ではないのか? 少なくとも、情報庁と東方正教は仲が良いわけではないだろうが)」
エルフ三男「(しかし、こうしてわざわざ回収しに来るという事は、やはり先の大災害は天災だったわけか?
国境線沿いで会食していた僕と彼女が巻き込まれるであろう事は明白……誰が好んで数十万人を犠牲にする自爆行為をするものか」
姉「ねっ、ねえっ! もぉ追いかけてこないよお、ねえー!」
エルフ三男「……」
姉「か、閣下ぁ……?」
エルフ三男「(バルムンクを引き渡してお帰り頂く? 何をばかな、聖剣引っ提げたヤツが、遥か格下である僕らに交鈔など持ちかけるものか。
こうして直接追って来ないのは……何か計画が別に存在するか、それとも愚かにもこの状況を遊んでいるかだ……!)」
パンッ
東帝憲兵「あばばばば」
姉「ひやあああああ」
エルフ三男「……ちきしょう、後者か。僕たちをキツネに見立てて楽しんでやがる!!」
姉「ひやあああ……閣下すごおい、一発で当てちゃった……」
エルフ三男「あークソ、死んじまった……弾薬だけ頂いて、引き続き逃げますよ。銃は扱え……」
姉「……」
エルフ三男「(ないよなぁ……箱入り娼婦だもんなぁ……)」
エルフ三男「いいですか、ここから国境線駐屯地……兵隊がいる所ならどこでもいい、そこに向かいます」
姉「も、元のおうちはどうするのぉ」
エルフ三男「戻ったところで袋のネズミ、もしくはもうすでにキャンプファイヤーです」
姉「そ、そんなあ……」
エルフ三男「……目下、僕たちを追っている連中に僕だけで対処するのは不可能です。
貴女はそもそもバルムンク……剣はおろか、ナイフや包丁すらまともに振るった事はありませんね?」
姉「こわいもん」
エルフ三男「つまり、逃げの一手です。しかし、一つだけ賭けられそうな望みがあります」
姉「ほ、ほんと?」
エルフ三男「ええ、本当。まずは、駐屯地から信号拳銃……煙弾や照明弾を入手し、国境線待機班に僕らの危険を知らせます」
姉「?」
エルフ三男「先日お話ししましたよね? 出入国制限が解除されるのを待っていたら何もできない、
アルヴライヒ側からドラグーンを派遣してここから出るという強硬策を採用したと。聞いてましたよね?」
姉「ご、ごめんね、むずかしい事、よくわかんなくて。ごめんね」
エルフ三男「……とにかく、まだ内部班は動いていませんが緊急事態です。
何らかの事態がこの国境線沿いで起こっている事を知らせなければいけません……信号弾の奪取と同時に、火事でも起こしてしまいましょう」
姉「あーうー」
エルフ三男「わかりました、なんにもわかってない事はわかりました」
妹「うくく……逃げてる逃げてる、逃げてるなぁ……無駄無駄無駄無駄、ぜぇんぶワカってんのに無駄なんですぅー!」
ウルスラグナ「マスター、我々も動かねば……」
妹「いいーんですわよぉー、上の者がチョロチョロ小間使いやって部下を甘やかしても良い事はないんでしてよぉー?
頭はこうしてエモノの情報を逐次把握、手足は迅速に頭の指令を忠実に守って職務を遂行する……」
ウルスラグナ「……しかし、この地域であまり派手な作戦行動はとれないのでは?
三国の兵がどこにも駐在しております、情報部の指揮系統下にある憲兵団の行動はかなり制限されるかと……」
妹「ヒョロガリ一匹に乳ウシ一頭ひっ捕らえるのに、大の大人が四苦八苦。さすがにそこまで無能ではないでしょう」
ウルスラグナ「ですが、相手はアジ=ダハーカの庇護にあずかる悪鬼の手先……聖剣のチカラを持つマスターが出ねば……」
妹「……ふん、私ぃ? やっぱり私が出なきゃあダメぇ?」
ウルスラグナ「もちろんにございます。マスターには、この私が力をお貸しします……」
妹「あーーーー、そうですわよねぇーーー、使えない凡人どもには私がついてないといけませんわよねぇーーーー!!
でもいいのかなぁーーー? 人外のはんぱねー能力を凡人どもに使ってもぉー……ここはオトナの対応をしなきゃいけないと思いますわぁ」
ウルスラグナ「オトナの対応とは……?」
妹「私が本気出したらみんな驚きますわ、それはそれはびっくらこいちまいますわぁ。それであんまりビビらせるのも可哀想ですしぃ……
神に選ばれたる勇者であるこの私が!! 不必要にそういう騒動を起こす事も無いと思うんですの!! でしょ!?」
ウルスラグナ「なるほど!」
妹「実力は小出しに小出しに……我慢してちょびちょび使わないとぉ……何といいますの? カタルシスが得られないではありませんか!
そもそもぉ……このチカラを愚民どもが超速理解できるはずもございません……クズどもに合わせてやるのも大切なのですわぁ!!」
ウルスラグナ「さすがは私のマスターでございます……」
妹「あー困っちゃいますわぁー、私は平穏無事な生活を送りたいだけなのに、ある日突然血脈のせいで神のチカラを授かってしまって、
それでも謙虚に謙虚につつましく生きていくのは本当にもどかしくてつらいですわぁー、あーつれえつれえ!!」
騎士ほ「彩弾を確認、赤……中尉、どう思いまして?」
ポニテ「先ごろより共和国の駐屯兵の動きが慌ただしい……賊にでも入られただけにしては不自然すぎます。
そんな中、アルヴライヒに属する我々が指定した信号パターン……」
騎士ほ「向かう価値はありましょう、出ます」
息子「もしかして、大将でしょうか。まだ、指定の日時じゃあないのに……」
騎士ほ「何も無ければ御の字、何かあるならそのまま回収いたしましょう」
ポニテ「……では、雪風が強まる前に向かいましょう」
騎士ほ「了解。落ち着いてついてきてくださいまし、若様」
息子「はいっ」
ポニテ「戻る途中で吹雪かれなければいいのですが……ん、んん?」
騎士ほ「どうかいたしましたか」
ポニテ「……」
妹「悪ぃ子はぁーwwwwwwいねがぁーwwwwwwwwwははははははっ、ははははははっ!!」
ポニテ「屋根を人間が走っています」
騎士ほ「何をばかな」
ポニテ「走っています!」
騎士ほ「人間でも屋根くらい走れますわ、そんな事より若様がお風邪を召しては大変です。早く火元を確かめましょう」
ポニテ「」
エルフ三男「助けてください、追われているんです!!」
老爺「おやおや……訳ありのようですなあ」
老婆「あなた、ちょっとくらいはいいんではなくて?」
姉「あうー」
エルフ三男「悪漢が僕たちを執拗に……お願いです、匿ってください!!」
老爺「そうじゃなぁ……お若いエルフさん、お入んなさい。外は寒いでしょう」
老婆「あたたかいものを淹れまあべし」
エルフ三男「くっ!!」
老爺「こればあさん、どうしたというんじゃぁぽ」
エルフ三男「扉を閉めろ!! 狙ってる!!」
姉「ふあい」
エルフ三男「(咄嗟にじじいばばあを盾にはできたが……このボロ家にずっと籠城してはおれんだろうな……
いよいよ表で本格的に銃を使い出した、まずいぞ……!!)」
姉「閣下、閣下ー。おむかえ、いつ来るのお。いつ?」
エルフ三男「もうすぐだ、もうすぐ来る……20分とかからんはずだ」
姉「そっかー……」
エルフ三男「これは……北西の散弾銃か。なかなかいいものを持っていやがる、老後の備えにしては過ぎたものだな」
姉「閣下、閣下ー」
エルフ三男「緊急事態だ、使わせていただく。こっちは……」
姉「閣下ってばあ、閣下ぁ」
エルフ三男「うるさいっ、クソアマ!! ちゃんと家まで帰してやるからおとなしくしてろっ!!」
姉「はあい」
エルフ三男「建屋の屋外から最後に彩光弾を撃ってから10分。早めに見つけてもらいたいところだが、迂闊に窓から顔は出せんな……
あの聖剣かついだバカが暴れまわってくれているおかげで、三国はいらぬ警戒を強いられているようだが……」
姉「さむぅいー、閣下ぁー」
エルフ三男「……何ですか」
姉「寒いねぇ、こごえちゃうねぇ」
エルフ三男「暖炉の前でまるまっていなさい、毒ガスでも注入されない限り表には出られませんで」
姉「閣下は寒くないのお?」
エルフ三男「寒い。もういやだ。帰りたい。僕は差別と寒さと不衛生が何よりも嫌いなのです」
姉「じゃあね、じゃあね、閣下はわたしがぬくぬくしてあげるの。ぎゅうーしよ、ぎゅうー」
エルフ三男「頼むから黙っててくれ、戻ったら抱いてやるから喋るな」
姉「はあい」
エルフ三男「……」
妹「ウラヤマシー、ウラヤマシーですわーこりゃあー!!」
エルフ三男「(……もう嗅ぎ付けてきやがったッ!! 階下からかッ!?)」
妹「童貞精液搬送機の分際でぇぇぇ、なかなか頑張るじゃああーりませんかぁぁー!!
いますわよねぇー、ここにいますわよねぇー!! くそ強い私にはっ倒されるべきチビガキはここにいますわよねぇー!!」
エルフ三男「もうお手上げ、勘弁してください……ほんと、もう……」
妹「おやぁ、おやおやおやおや、どうしたんですかぁ、どうしたっていうんですかぁ」
エルフ三男「先日も聖剣引っ提げた勇者様に散々追いかけ回されたんです、もう怖いのはうんざりなのですよ」
妹「拍子抜けぇ!! 何ですのそれぇ、そうじゃないでしょう、もっともっともっと騒いでくださいましぃ。
騒ぐだけ騒いだら、その詭弁を私が説教に硬軟織り交ぜてじっくり諭してさしあげますからぁ!!」
エルフ三男「弁解させていただけるのなら助かります……そもそも、貴女の目的は何なのですか」
妹「剣です。御存知のはずですわぁ、あの乳ウシと毎晩寝ていたあなたならぁ……」
エルフ三男「お渡ししたら、帰って頂けますか?」
妹「ぷりーず」
エルフ三男「帰って頂けますか?」
妹「ください」
エルフ三男「帰って頂けますか?」
妹「よこせ」
エルフ三男「帰って頂けますか? お帰り頂けないなら、乳ウシの頭は吹き飛びます」
姉「ちちうしー?」
妹「……」
エルフ三男「(やっとホルスタインに利用価値が出てきたぞ……この妹、聖剣と同時に持ち主の回収まで命じられていたらしい……!)」
エルフ三男「(あの勇者とのやりとりで確信した……! この女が携えていたのはまさしく真の聖遺物!
手放すのは惜しいが、ここで始末されるのは癪だ。コイツのバックにいる連合が何を腹に抱えているか知らんが、乳ウシが役に立つとは……!)」
妹「(ふっっっっざけんじゃあねーぞぉぉ……くそくそくそくそがぁぁぁ!!
小姉様の右腕!! 小姉様の頭脳!! 小姉様の竿役がここにいながらぁぁぁッ!!)」
エルフ三男「どうします? 僕もみすみす殺されたくありません、生きて帰りたいのです」
妹「(骨董品!! 何か手はないんですのぉぉ!! 勝利の聖剣のくせにボケーッとしてるんじゃありませんわ!!)」
ウルスラグナ「(やはり、ここで貴女のお姉様まで殺害してしまうリスキーな選択は避けるべきです……
条件を呑んで、マスターの方はのちのち日を改めて回収するほか……)」
妹「(こんな砂場に捨てられた生ゴミにタカるフナムシみたいな連中にぃ、超TUEEEEEE私が交換条件で手を打つんですのぉ…・・・!?)」
ウルスラグナ「(……)」
妹「……わ、わかりましたわ。バルムンク……そちらの聖剣で手を打ちましょう」
エルフ三男「(やけに早く折れたな……しかし、こちらも細工や仕掛けを施す余裕がないのも事実、僥倖と考えるほかあるまい)」
妹「(ああもう……もうもうもう!! 難しいコマかい事はめんどくさいですわぁ!! あの小姉様に聖剣が渡るなんて、あってはならない事ですし……
もう、もうあの雷帝閣下に怒鳴られるのもごめんですわぁ……聖剣だけでも回収した実績があれば、あとはきっと連合も分け前をくださる筈ですわ!!)」
ウルスラグナ「(そう、そうです……今の最優先事項はバルムンク。バルムンクだけを優先なさい、マスター……)」
エルフ三男「……」
姉「あーうー」
エルフ三男「(あれだけ仰々しく憲兵を引き連れてきたかと思えば……もう帰って行きやがった)」
姉「さむぅいぃ……」
エルフ三男「(あの勇者サマよりかは与しやすいバカだったのが救いか……また寿命が縮んだわ……
何にせよ、もう二度とあんなカスどもに関わるものか、聖剣のマスターなんぞ頭が腐りきったアリもハエもたからんバッファローの下痢便よ……)
姉「……おなかすいたー」
エルフ三男「(しかしバルムンク……あれを逃したのは本当に痛いッ……!! あれを手に入れられたなら、守銭奴の糞尼も黙らせられたものを!!)」
姉「……」
エルフ三男「やめだやめだ……生きて騎士様の寵愛に預かれる事を悦ぼう……おお、我が麗しの騎士様、愛しております」
姉「おお、わたしも閣下すき! あいしてる!」
エルフ三男「……」
雷帝「それで、おめおめと聖剣だけ受け取って戻ってきたと。ああ情けない、なっさけなぁぁぁい」
ウルスラグナ「……」
雷帝「……ま、生きていらしたのが分かって良かったですわぁ。ああ良かった良かった良かったぁぁ」
ウルスラグナ「彼女……アジ=ダハーカの実姉の事ですか?」
雷帝「ええ……『敬慕』の天威を有する聖剣バルムンクの現マスター、正教会のお気に入り……」
ウルスラグナ「本国や軍部には、バルムンクさえ確保できていれば文句は言われないでしょうに」
雷帝「そう納得できればどんなにラクか……もう、私には無理なのでしてよ。もう、私はバルムンク……彼女の虜なのですから」
ウルスラグナ「なるほど、貴女を彼女へ傾倒させる『敬慕』の天威であり……永く保持していた帝国を堕落へ導いた『腐敗』の呪い」
雷帝「これを『腐敗』と解釈されるのは非常に不愉快ですわねえ……いくら教皇領の貢物兼回し者とはいえ、言葉が過ぎましてよ」
ウルスラグナ「これは失礼」
雷帝「大体、私が彼女を慕う事に何の問題がありまして?」
ウルスラグナ「……」
雷帝「バルムンクの後継者……彼女の実の娘であるこの私が。わが愛しき母を慕ってどこがいけないのです?」
ウルスラグナ「重ねて、お詫び申し上げます」
雷帝「あのカスがネキリをしくじりやがった時には、本当に肝を冷やしました……共和国のエクレアが2ダースしかノドを通らなかった。
しかし、彼女は生きていた……バルムンクの加護が彼女を救ったのですわ。なんてすばらしい……さすがは……私のお母様」
ウルスラグナ「そのしくじった当の本人を、けじめという形で登用するとは……」
雷帝「そんな事言ったってぇ……私の調べで、聖剣を手にする事ができるのは勇者の血統にある人間。
こればかりは、ある程度頭が弱くて、その直下にはいくらくたばっても文句を垂れられない人材が揃っていた方が好都合ですもの」
ウルスラグナ「実にピンポイントな登用だったわけで」
雷帝「うふふ……ともあれ、バルムンクは私のものでございます。その証拠に……」
雷帝「ほらぁ、うふふ……ごらんなさい。剣はこんなにも軽々と鞘から抜く事ができる。
バルムンクもまた、私を愛してくれている……私の身体を流れるお母様の、勇者の血潮を愛してくれている!!」
ウルスラグナ「お美しゅうございます、雷帝閣下」
雷帝「……聖剣を抱くに相応しいのは、この雷帝以外に存在しません。でしょう、ウルスラグナ……クシャスラ=ワルヤ?
本国だろうが情報庁だろうが……誰にも文句は言わせません……全て等しく、聖剣の主に跪くべきなのです……」
第9部破 プリン編
第9部窮 二つは野沢菜って言ったじゃねぇか!
ここまで風呂敷広げてんのは他にないわ