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≪あらすじ≫
「おまえたちの言う『丘の向こう』なんざ、とっくに私が焼いてやったわ!!」
元スレ
女騎士「私は最初っから最後までクライマックスだぜえ!!」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1386173838/
騎士ほ「……いやですわ、ディナダン卿。私が……テロリスト? まさか、そんな事が……」
ディナダン「そんな事はない、潔白だと……できれば信じてあげたいけれどねえ……」
騎士ほ「……」
ディナダン「先日……外務省が大々的に指名手配していた男と、偶然知り合いになってしまってねえ。
容疑は……6年前のテロ事件の被害に遭った重要参考人への傷害……殺人未遂」
騎士ほ「(連合の、あの恥知らずめッ……まだ生きているか……!!)」
ディナダン「そして、河川で発見された変死体。これについては、特に妖精族や科捜研が力を入れて捜査していた……」
騎士ほ「……」
ディナダン「幕府側も、あわよくば自分達の思い通りに事が運べばと思っていたみたいでね……各地に捜査員を派遣していたわね。
そして、指名手配犯……いえ、重要参考人へとたどり着き……アジ=ダハーカの懐へついに潜り込んだ」
騎士ほ「(6年間……お姉様不在の間……ずっと疑ってやがったのかッ……このババアッ……!?)」
ディナダン「共和国内のワイナリー占拠、都市部郊外に居を構える犯罪組織の隆盛……所属不明の翼竜の目撃情報もあったと聞きます。
人の口に戸は立てられないとは言うけれど……お金をいくらばらまいても、不自然さは完全には拭えないものなのよねぇ」
騎士ほ「……」
ディナダン「他国でのドラグーン部隊の育成など、未だ本国内で議論が重ねられている議題であるにもかかわらず……
先のドワーフゲットー襲撃に始まる一連の事件、どれにも所属不明のドラグーン部隊が参加していたとの事。
中でも、政庁が陥落する寸前……魔王軍戦力と、あろう事か虎の子のペンドラゴンの姿があっただとか」
騎士ほ「(情報部のゴキブリを追い払った直後かッ……あの下っ端から漏れたのか……!!)」
ディナダン「ワイバーンの養殖。我々円卓、ひいては近衛軍の沽券に係わる大問題と言えましょう。儀典局はカンカンですよ」
騎士ほ「……」
ディナダン「本国でも、エルダーや女王陛下より賜りし翼竜を大陸に横流ししていた不埒者を血眼になって探しています。
円卓では……そうね、血の気の多くて若い子が犯人探しでわあわあ騒いでいるわねえ」
騎士ほ「卿は、私がその不埒者……ですと?」
ディナダン「……さあて。これまでの物証から推測した結果ですよ、早いところ自白した方がいいっていう老婆心です」
騎士ほ「フクク……私が? 私一人で、そんな大それたことができると思って? 買いかぶり過ぎですわ」
ディナダン「何も、役職にある人間が揃ってシロとは思っていませんよ。円卓から一人や二人……クロが出てもおかしくはない」
騎士ほ「……」
ディナダン「組織の自浄作用に期待しようにも、そういったものとは無縁だからねえ……円卓って」
騎士ほ「よほど卿の円卓への期待は薄いようで」
ディナダン「だってえ、究極の縁故採用組織ですもの。何の期待ができましょうか!
騎士ほ「……今日は、私を捕らえて……その縁故採用団体への手土産にするおつもりですか?」
ディナダン「そんな事になれば、あなたはおろか竜騎兵長にまで責任を負って路頭に迷う羽目になるわねぇ」
騎士ほ「然るべき場所で糾弾するのが先では? 正統な裁きにならば、私は従いますわ」
ディナダン「……」
騎士ほ「(……身一つでエクスキャリバーに挑むわけにはいかんか。このババアの首を取る為には……!!)」
ディナダン「そう警戒しないで……仮にあなたが事件の当事者だとして……
そうね、責めるなというのは難しいけれど……できるなら、波風を立たせずに事を収束させたいとは思っています」
騎士ほ「(なに……?)」
ディナダン「……」
鴉「……あの黒髪……本当にヤツが、先の戦乱の首謀者に繋がっていると?」
木の葉「騎兵奉行の彼女からの報告が事実ならな。陰陽寮の連中や松山の鬼どもは、まんまと寝返ったようだが」
鴉「また京の鞍馬坊の胃に穴が空くな。関東の我らと同じく、天狗として人に尽くしてきたと思えば、今度は鬼に手を噛まれると来た」
木の葉「それで……首謀者ってのは、どんなヤツだったのかね」
真神「……ひどく……前向きで……どうしようもなく……どうしようもないヤツであったな……」
鴉「まだ頭に星でもちらついてやがるのか。せっかくオレ達本隊が遥々来てやったというのに」
木の葉「……エルフに鬼……松山の狼藉者を公の場から叩き出すに相応しい場が既に用意されていたわけだな」
鴉「ちょうどいいじゃあねえか。オレ達のオカッパ御大を取り返したら、えるだーとかいう連中と一緒にブッ潰してやろうぜ」
木の葉「それも、円卓のディナダン卿の立ち回り次第、だな」
騎士ほ「正気……でして?」
ディナダン「まだ耄碌してはいませんよ。どういたします?」
騎士ほ「……」
ディナダン「ここで身元を明かすリスクを負って、より戦力を強めるか……それとも、私からの誘いを蹴るか」
騎士ほ「(わざわざ私に直接接触して来た事を考えれば……卿は、私が円卓の騎士と結託している事は断定できても、
メンバーのうちの誰かというところまでは探れていない筈。ワイバーンとヴォーパル鋼を流しているのがモルドレッド卿という事は、まだ……)」
ディナダン「さ、どうなんです?」
騎士ほ「……それは、アジ=ダハーカを……連合王国の自浄に協力させるという事でしょうか?」
ディナダン「……」
騎士ほ「幕府の案を呑み、エルダーを完全に平定、服従させる……アジ=ダハーカの持つ影響力を使って……!」
ディナダン「……アジ=ダハーカの一団は、エルダーに対抗しうる力を有しています。適材適所と言いましょうか」
騎士ほ「いかにこれまでの電撃戦には勝利しているとしても……相手は神格、それも神竜に匹敵する存在も確認されていましょう……!」
ディナダン「それをどうにかできうる力が、そちら側にある……そう聞いていますが?」
騎士ほ「……?」
ディナダン「五柱の勇者に、聖剣デュランダル。アジ=ダハーカ本人が、現在は有しているとか……」
騎士ほ「お姉様がッ!?」
ディナダン「……」
騎士ほ「(し……しまったッ……!!)」
ディナダン「聖剣デュランダル、司るは『不滅』。使い手を阻む障害全てを斬り払う魔剣……」
騎士ほ「しかし……それは、それは勇者が……魔王軍の手にあるものなのでは?」
ディナダン「つい先日だったかしら。共和国でのデモ中に発生した騒動……そこに居合わせた勇者本人と、アジ=ダハーカ……
あなたの『おねえさま』が、その騒動を制しデュランダルを手に逃げおおせた。当事者からの、確かな情報です」
騎士ほ「お姉様が……」
ディナダン「五柱の勇者が魔王軍の側にいる以上、エルダーの討伐は不可能。
しかし、どの勢力からも敵視され、そして黙認されている都合のいい勢力ならば、或いは……」
騎士ほ「(お姉様が……ジョワユーズに加え、あのデュランダルまで……!?)」
ディナダン「とはいえ、『おねえさま』本人に先陣を切ってもらう事は……まあ、一部を除きないでしょう。
あくまでも、平和的に……エルダーを屈服させる事が出来ればよいのですから……」
騎士ほ「……容疑を認めろ、と。フックック……これはこれは、たちの悪い老害ババアですこと……フクククク……!!」
司教「どうもぉー!! こーんにーちはー、あなたの街のステキな正教会からやってまいりましたー!!」
秘書「ひゃあ」
エルフ騎兵「めんどくせぇ……」
エルフ近衛兵「生憎、今大将いねェから払えるものも払えねェっすよ。帰ってどうぞ」
司教「えーっとぉー、でもでも、お得意さんにお呼ばれされちゃったんですけれどもぉー」
秘書「お、お得意さん?」
エルフ騎兵「あの黒髪でモリモリの人ですよ」
エルフ近衛兵「とりあえず、騎士様に話通してみますんで……例の剣の事ですよね。その辺の地べたでも舐めて待っててください」
秘書「ど、ど、ど、どなたですか、どちらからいらしたんですか……!」
エルフ騎兵「教皇領の回し者ですよ、どこにでも現れやがる」
エルフ近衛兵「今日はどうせあれでしょう、被災地支援の為の投機口座の中身に手でも突っ込みに来たんじゃないですか」
秘書「横領っ!! あの人シスターでしょ!?」
エルフ騎兵「来るたんびに何かせびっていきやがる……魔王軍にも連合の駐屯部隊にも似たような事してるって聞きますからね」
秘書「」
女騎士「ぶらんぶらーん」
司教「あれ、ゴキブリ喪女は……」
女騎士「上司にお呼ばれされてたから今日はいねぇよー」
司教「ちっ……呼びつけておいてこれかよ、あのクソ女……」
女騎士「そんなカッカすんじゃねーよ生臭坊主ー」
司教「失礼……して、例のモノはいずこに?」
女騎士「んー……ん?」
司教「騎士様が手に入れられたという、あの聖剣でございますよ」
女騎士「どこやったかなー……覚えてねぇなー……」
司教「」
女騎士「……ハンモック降りたくねぇんだけどなあ。誰かー!! だーれーかー!!」
娘『はーあーいー』
女騎士「あの剣! あの剣持ってきてー! だーれーかー!!」
娘『はーあーいー』
司教「(ダレてんなぁー)」
レギンレイヴ「いたいっ!! いたいですっ!! な、縄……縄ほどいてッ、ひきずらないでッ!!」
娘「はい、おかあさま。これ?」
司教「」
女騎士「あー、そうそう、このきもちわりー剣だよ、これこれ……それで、何やってたの? お母様のお部屋が血腥くなっちゃうけど」
レギンレイヴ「ひいいいい」
娘「えっと……こ、この前、そのまま逃げられるのもあれだし……共和国のはの字さんとちの字さんにつかまえてもらったんです。
敵前逃亡と命令無視で身柄を拘束されてたらしくて、そこを……」
レギンレイヴ「お母様でいらっしゃいますか!? お子様の教育が実に高水準でわたくし感心してしまいます、つきましては我々北部神族の」
女騎士「ウザッ、早く持って帰んなさい」
娘「はあい」
司教「(何度来てもここのメンツは濃いなあ……にしても……)」
女騎士「スポーンとか抜けたし、あんま聖剣っぽくねえよなあ」
司教「ジュワユーズ……これが……」
女騎士「そうだ、そんな名前だ。古くせえなりに、私に流れる高貴なる血のチカラに呼応したのかどうか知らんが……
にっくきあのクソ勇者を捌いてくれおったわ、やはり正義は勝つわけだなぁ」
司教「……重ッ、これ……持ち上がらない……!!」
女騎士「みんなそう言うんだよー、そういう冗談まじでやめて欲しいのに……きもちわりーな、まったくよー」
司教「そ、そういえば……さ、さっきのガキ……こ、これ……片手で持ってきてましたよね……」
女騎士「親目の前にしてガキとはいい度胸じゃねえか尼さんよぉ」
司教「えっ」
司教「使い手を剣の側が選ぶという、逸話通りの現象……まさしく、この剣は伝承の聖剣であるとお見受けいたしますわ……」
女騎士「マジか……マジモンか……」
司教「評議会での認定が得られれば、間違いなく聖遺物の現物として崇められる代物ですわ……騎士様の威光もようやく……!」
女騎士「……じゃあさ、じゃあさ、これもそうなん? これこれ」
司教「……?」
女騎士「この剣もそうなん? 見てみてよ、ほら」
司教「うわっ、ちょ……な、投げないでください、危ないオギャアアアアアアアアア肩があああああああああ」
女騎士「うるせーな、大げさに騒ぐんじゃねーよお!」
司教「痛っ、いたい!! 肩っ、肩折れたっ!!」
女騎士「後で病院連れてってやるから!! 今はこれ見ろこれ!! 勇者の奴からぶんどってきてやったもんなんだが……」
司教「ゆゆ、ゆ……ゆうしゃ……!? で、でで、では、これが……これが、デュ、デュランダル……ですか……?」
女騎士「おいおい、察しがいいな。そこは私がジャジャーンって感じで暴露したかったのに」
司教「(ンなもんちょっと見りゃわかるわ……! 今さっき魔王軍のケツ叩いてきたばっかりだからな!!)」
~今さっき~
将軍丙「失礼……お待たせいたしました、資料の請求に手間取りまして」
司教「失礼だって思うんなら待たせないでくださいよォー、私もヒマじゃあないんですからぁー」
ティタニア「申し訳ない……」
司教「あーあーあー、もういいですよぉ……そんな下っ端に書かせたであろう便所紙なんか見ないでもわかりますんで。
おたくんとこのバカの不祥事で重役が死亡……民間人にも被害が出る結果にあらあら相なってしまいましたとさ、とほほ」
ティタニア「言葉も出ないわぁ……」
司教「挙句の果てに!! 不滅の聖剣デュランダルを損失!? なぁぁぁぁぁぁーーーーーーにやってんですかねぇーーー!?」
将軍丙「……」
司教「魔物さん魔物さん魔物さぁーん。あなたの頭はどうしてスカスカなのぉーーーーー!?
あれさぁーーー、大事な大事なもんだってわかってるよねぇーーーー!? わかるぅ? 聖剣ってしってるぅ!? ねーえ!?」
ティタニア「今回の件は、完全にこちらに落ち度があるわぁ……各常任理事の方からも対応を……」
司教「イラネェーよそんなもん、大体どーしたんだおたくの魔王様は。風邪でもお召しになられましてぇーーー!?
上の者が尻拭いすんのは当然だと思うんですがねぇーーーーー!! 顔すら見せねぇで、組織としても三流ですわ三流!!」
将軍丙「陛下は……現在、本国で各氏族への対応の説明に当たっています」
司教「こうして6年前から面倒見てやってる私にワビの一つもねェーってのはどういう事だよ。あ!?」
将軍丙「す、すでに教皇領での会談は済ませておりますが……」
司教「あ、そう? そうなの? そんなんはどーでもいンだよ、おたくらの誠意が見たいんだよこっちは」
ティタニア「(このクソ尼……)」
司教「勇者様をしっかりサポートしてくださいねって、私言ったよォ? あんたら魔物に聖人を託したんだよォ?
恩をあだで返しやがって。どうしてくれんだこのダボが!! 連合にケツ振ったと思ったらこれだ!! 聞いてんのか、よお!!」
将軍丙「……」
司教「おい、どうすんだよ。どうすんだって聞いてんだよ!! どう落とし前付けんだ? お?」
将軍丙「取り……返します……」
司教「聞こえねェーーーよ!! ブン盗ってったアジ=ダハーカをどうすんだあ!? ブッ殺すのか!?
おーしいいだろ、今回だきゃ大目に見てやる。いいな、必ずだぞ。来期の西欧会議……じゃダメだ。
半年以内にデュランダル持って来い。勇者サマと揃えて、私の前に連れてきやがれ。いいか? わかったのか?」
ティタニア「……」
司教「わかったかって聞いてんだよ魔物野郎どもが!! 潔く絶滅しときゃよかった異教徒風情がなめやがってよお!!
テメーらなんかアタシらの温情がなきゃ大陸じゃ何もできねえゴミなんだよゴミィ!! 弁えて行動しろよボケどもがよぉー!!」
司教「(この女……マジにデュランダルかすめ取りやがったのかよ……しかも……)」
女騎士「おい見ろよー、これりんご剥けるぜー。しょりしょりしょり」
司教「(しかも……勇者の聖剣を振るってやがる……!! こんなバカの代名詞クレイジーブロンドビッチが……)」
女騎士「腋の毛とか剃れるかね。今度あの子に剃らせよう」
司教「(五柱の……勇者……!?)」
司教「(……この女が聖人とあらば……わざわざ魔王軍の方に嫁いでいったガキの面倒は見なくて済むわけか。
面倒だったなあ、6年もくっさいくっさい魔物どもの所まで出向いていっておべっか使って……うざかったー)」
司教「(だが……デュランダルをこの女に奪われたのは、恐らく連中にとっても相当なイレギュラーであった事は間違いない。
こちら……アジ=ダハーカ側も、小規模とはいえ戦力は侮れないものと言っていいわけだ)」
司教「(既に魔王軍側は焚きつけた……あのゴミども、躍起になってデュランダル探すんだろォなぁ……
片手間に災害支援で人手を割かれ、連合の蛮族には上から小突かれ……あーカワイソ、異教徒カワイソー!!)」
司教「(んまぁ……どっちが勝とうが負けようがどうでもいいんですけどねぇー……
魔王軍が勝ちゃ、勇者信仰は元通り……こっちが勝ちゃ新たな勇者が誕生……連合と北西の仲はどうなるか知らんけど……
少なくとも教皇領……こっちのハラは痛まねえ。向こう数十年は東西で小競り合いやっててくれるはずだからなァ……)」
女騎士「不滅の剣ねぇ……縁起はイイじゃあねーか、もらっといてやる」
司教「さいですか……いずれは持ち主と共に教皇領までご足労をお願いいたします」
女騎士「あいよ。そんでさ……こっちの剣にはそういうカッチョイー座右の銘みたいなのはねえの?」
司教「こっち……ジョワユーズですか?」
女騎士「そうそう、なんかねぇの?」
司教「ジョワユーズ……メシアを貫いた槍の逸話を引き継ぐものとして語られている聖剣と聞きますが」
女騎士「は?」
司教「……ここから先はオフレコでお願いしますね。教皇領の上層部にも、聖剣の存在を信じておらず、
その上権力だけを求めたがる不心得者はいます。そんな者にジョワユーズを知られぬ為にも。中には魔王軍の存在すらアヤフヤな者も」
女騎士「お、おう。私なんかはクソ敬虔だからジョワ公もデュラ公も愛してるぞ」
司教「……ジョワユーズの天威、それは『聖滅』でございます。能力の程度こそ不明ですが……」
女騎士「聖滅……?」
司教「メシアの昇天を拠り所にした伝承の通り、勇者を始めとした聖人……または、神性を有する神獣、
聖遺物に因る認識結界に対しても、絶大な効力を発揮する能力と言えます」
女騎士「スゲーの?」
司教「騎士様が勇者と打ちあって勝利したのは、その聖滅の能力の賜物かと」
女騎士「……」
司教「本来、聖剣と聖剣で打ちあうような事態は想定されていなかったのでしょう……
推測ですが、勇者が持つデュランダルの、使い手を守る自衛機能以外の能力は……聖滅に押し負けてしまったのだと思います」
女騎士「(ほんと尼ってキモチわりーな……長々とわけのわからねー聖書設定語り出しやがって……)」
女騎士「そうだ、ちょっと気になるところがあるんだけど」
司教「はい?」
女騎士「この聖剣ってやつはさあ、聖人しか持てねえって話やろ?」
司教「はあ……」
女騎士「高貴すぎて他の下賤の民がカマドウマに見えちゃうくらいの私が持てるのは当然だとしてよぉー……
このジョワ公が聖滅だっけか? お前らの信じるカミサマ由来のモノを一網打尽にできちゃうのはなんでだ?」
司教「なぜ……?」
女騎士「ジョワ公だって聖剣……伝承じゃカミサマ由来の一品なわけだろ?
じゃあ何か? カミサマはケンカさせる為にジョワ公を遣わしたのか?」
司教「(そんな事私が分かるわけねーだろボケ)」
女騎士「お前、聖剣同士でぶつかるケースは想定してないって言ってたよなぁ。じゃあこいつの持ってる聖滅って何だよ?
ほんとにジョワ公って聖剣なのか? なんかキモチわりーモンでも詰まってんじゃねーだろうな」
司教「……」
女騎士「(ガリア=ベルギガなんつーパンドラの箱、その一番奥のカタコンベ。そんなところにあるもんが聖剣だあ?
そんなもんが聖剣だったら、このバカどもの信じてるカミサマは何様だってんだよきめぇ。このアマ、何か知らねえのかよ?)」
司教「(聖書の設定なんか真に受けてんじゃねーよ低能クソビッチが……誰かがそう決めたからそうなんだろ……)」
騎士ほ「……」
ほ子「お、おかえりなさい……」
息子「騎竜での長旅、御疲れ様です……どうかなさいましたか?」
騎士ほ「何でもございませんわ、若様……そうだ。あなた達、後で湯浴みでもどうかしら……」
ほ子「みんなで……?」
魔子「わ、みんなでおふろですよ! わかさま!」
息子「ぼ、僕は一緒には入れないでしょう……」
騎士ほ「フクク……ご心配なく。私が見つけた浴場は混浴でして」
ほ子「お母様……おふろ、好き?」
騎士ほ「ええ、それはもう……あなたのひいおじい様は南部の人間なのよ。それはもう、肩まで浸かる浴槽が好きな民族で……」
息子「南部……そのすてきなブルネットも、きっとおじい様からのものですね」
騎士ほ「フクク……肌こそ帝国人の父のものですけれどもね……それでは、準備を整えたら向かいましょう。若様も、ほら」
息子「は、はい……」
騎士ほ「御背中、きれいにお流しいたしますわ……」
ほ子「おながしいたします」
息子「だ、だから……男女で分かれてますよね?」
騎士ほ「正教の布教以前の形態を忠実に再現した浴場ですのよ……アルヴライヒの奔放さならではの混浴形式ですわ、ささ……」
息子「」
女騎士「北西にケンカ売れってのか?」
騎士ほ「は。エルダーとの交渉に介入して欲しいとの要請が入っております。作戦には共同体と北部神族の戦力が……」
女騎士「……何でそんな事をせにゃならん? 見返りは何だ」
騎士ほ「……」
女騎士「ほの字よぉ……ダンマリはなしだぜ、懇切丁寧にお話しなさい」
騎士ほ「……斯く斯く然々、そうした状況にございまして」
女騎士「……」
騎士ほ「円卓内の古き慣習を一掃するとの名目で、女王に並ぶ高等竜種を為政の座から引きずり下ろす……
正確には、北西の片半分にケンカを売る事になりましょう」
女騎士「ベットする時点でヤケドしそうだな。クソババァ、私らを脅しに来たってわけか」
騎士ほ「……無碍に断れば、ドラグーン隊の維持が困難になるほか、共和国内でのガサ入れが行われる恐れがあります」
女騎士「ウゼーな……証言からして、魔王軍とも繋がってそうなところがますますうぜえ」
騎士ほ「お姉様……」
女騎士「ブッ殺す」
騎士ほ「……」
女騎士「エルダーぶっ殺す。皆殺しだ。恨みはねえが、人間様相手にでけえツラしてんのが気に入らん、棲家まるごとガリアのようにしてやる。
次にババァをぶっ殺す。魔王軍とまとめて焼き殺してやる。くだらねえ回り道させやがって……魔王のヤツを殺さにゃならんのに……!」
騎士ほ「お姉……様……」
女騎士「最後にはあの童貞殺さな……何だよぉ」
騎士ほ「お姉様っ、私は……私とあの子を見捨てないでくださいましっ、お願いでございます、お願い……
お姉様から見れば、私はあの青二才のモル公とクソババァどもと同じ穴の貉……疑うに足る不審人物でございます、しかし……」
女騎士「お、おう……」
騎士ほ「私は潔白にございます、確かに6年前……お姉様には内密のまま北西に渡りましたが……
それはお姉様への忠義から来る行為なのでございます、信頼を勝ち取らんが為に、こうして北西の技術を……」
女騎士「お、おう」
騎士ほ「恩着せがましいと、ぜひぜひ非難を浴びせてくださいまし……私は浅ましく卑しい下賤なお姉様の妹でございます……
しかし、私は……お姉様からの寵愛と加護、そして信頼を得る為になら、何を犠牲にしても受け入れる所存でございます……
ああ、ああ……ああ、ほら……ご覧になって……お姉様に付けて頂いた焼印……まるで聖痕のように、じくじくと燃え上っておりますわ……」
女騎士「(キモいキモいキモい血がキモい、何でだよそれ10年以上前の根性焼きだろ)」
女騎士「わかった、わかったから……床やらシーツやら血だらけじゃねえか、よせよせ」
騎士ほ「も、申し訳ございません……ですが、ですがお姉様……」
女騎士「いーから、もういいってば……チビッ子と浴場にでも行くんだろ、ちゃんと止血してから行けよ」
騎士ほ「はい……」
女騎士「あー、なんだ。少なくとも……私の場合は、血のつながった妹があのザマだからな。あれよりかは信用してるぜ」
騎士ほ「!!」
騎士ほ「(ああ、ああしかし……わたしは、わたしは……6年間……そう、この6年間……)」
(何てザマだ、肝心な時に側にないで)
(それでお姉様の妹?)
(お姉様の所在すらわからず)
(これでお姉様の竜騎兵?)
否
妹 失 格 ! ! !
―ほの字の忠誠心は、その強さゆえの脆さを併せ持つ。絶対的な理想が先にあり、修正が利かない―
息子「(み、みんなといっしょ……ほんとに混浴なんだあ)」
騎士ほ「フクク……フク……ククク……クフフ……」
息子「(……具合が良くないのかなあ)」
騎士ほ「お姉……わたしを……信用……クフフフ……嬉……」
息子「あ、あのう……体調、だいじょうぶですか」
騎士ほ「は、はい、若様。何でしょう」
息子「のぼせちゃったのかな、だとか……思ったんですが……」
騎士ほ「ああ……心配してくださったのですね、お優しい若様……すてき……ああ……」
息子「……」
騎士ほ「さあ、次は前を向いてくださいまし……恥ずかしがらないでえ……」
息子「は、はい……」
騎士ほ「はぁ……可愛……肌……クフフ……綺麗……お姉様……」
息子「(すっごい腹筋……かっこいいなあ……ふっくらした三角筋、盛り上がった上腕二頭筋……広背筋から繋がる腋窩……)」
騎士ほ「はい、ざぶーん……おしまいでございます……湯船をどうぞ……さあ、お嬢様の番ですわ……」
息子「(……もどかしい)」
ディナダン「おこんばんはー」
敵兵「うげゃあ」
ピクシー「ババアが窓から!!」
ブラウニー「この夜更けにババアが窓から!!」
ディナダン「お邪魔致しますね、よっこら」
鴉「失礼いたしまする」
木の葉「この度は我々幕府の人材を迎え入れてくださる事、真にかたじけのうございます」
ピクシー「トリ頭だ!!」
ブラウニー「トリ仮面だ!!」
敵兵「お願いしますから正門から入ってきてくださいよァ!!」
ディナダン「上手い事建造されてるものねえ、要塞聖堂の塔からここまで簡単に伝って来れましたわ」
木の葉「ご老体とはとても思えぬ見事な跳躍でございました」
鴉「天空を自在に飛行する我らに引けを取らぬ迅速さ、感服いたしました」
敵兵「」
ディナダン「その後はどうかしら、何か進展はあって?」
敵兵「進展……と言える進展は、今のところはないですね……」
ブラウニー「私ら下っ端が目に見える進展に携われるわけでもなし」
ピクシー「かーなーり不利な立場にいるのは明白なもんで……皇族奪取から向こうずっとこうですから」
ディナダン「加えて……例のカレがおいたをしてしまったと」
敵兵「……さすが、もうそちらの耳に届いていますか」
ディナダン「数年とはいえ、稽古をつけてあげた愛弟子でもありますから……確か、現地で二人を殺めてしまったと」
敵兵「こればっかりはもみ消しに尽力するほかありませんからね……まさか、あんな街中であの女とかち合わせるなんて」
ブラウニー「……市街地における突発的特別戦闘行為時に発生した死傷者として処理するしかないわけです」
ピクシー「ただですねー、公にはウヤムヤにしていようが、今回の件で元老執務室から常任氏族理事会まで大荒れなのですよー」
ブラウニー「表沙汰にはなってないんですが、氏族代表がおひとり犠牲になってます。
理事会には次回よりハデス閣下が奥方を連れてわざわざいらっしゃるようで……拝火神族がどう不手際を処理するか様子を見に来るんでしょう」
ディナダン「でもまあ……あの亡きグレンデル王が乱心するよりかは荒れずに済むのではなくて?」
ブラウニー「……そ、それ城塞の外でいったらめっちゃ反感買いますよ」
ディナダン「うふふ……いやあね、私達年寄なんてアヴァロンに片足突っ込んでるようなものなんだから。
ある程度生きたら、すっぱり未練は断ち切ってリタイアするのが筋じゃないかしらねぇ。巨人族もいい加減乳離れを……」
敵兵「(どっか怖いんだよな、このばあちゃん……)」
ブラウニー「更に、ガリア遠征に幻獣族と北部神族の一部が無許可で随伴していた件も蒸し返されているようで」
敵兵「あのガラの悪いワルキューレと……でっかい犬さんか……」
ディナダン「あわよくば勇者くん……拝火神族の弱みを握ろうと画策していたとでもいうのかしら」
ピクシー「レギンレイヴ理事は共和国施設より逃亡、ケルベルス理事はお亡くなりに……」
ディナダン「よその事を言えた義理ではないけど、一枚岩どころじゃあないのね。まあ大変」
敵兵「……で、我々は西帝への支援活動の合間を縫って、先の事件の火消しに東奔西走。
ガリア捜索どころでは正直なくなってしまったわけですよ……ネキリの調査もありますし」
ディナダン「して、勇者くんはどちら? こちらにまだいるのでしょ、共和国に置いておくわけにもいかないでしょう」
敵兵「え、ええ……そ、そもそも卿はこんな遅くに何を……」
ディナダン「そうねー、とりあえず愛弟子にお説教というのが一件。もう一件はー」
鴉「鬼を討ち果たした我らが頭目を引き取りに参上仕った次第であります。が……」
敵兵「頭目って……お、おたくら幕府の人……ヒトって言うか、ハーピィ……鳥人……?」
木の葉「皇国幕府陸軍飛行隊から参りました、我らは天狗の氏族の血統にある集団で構成されている戦隊であります」
ディナダン「魔王軍と同じように、幕府も松山と仲がいいとは一概に言えたものでもないらしいのねえ。
幕府の天狗さん達は、こうして同胞をわざわざ連れて帰りに来るというのに」
敵兵「連れて帰るとは言っても……彼らは知っているんですか、彼女の容体を……」
鴉「一連の事実については存じております、女を連れて共和国へ逃げのびた犬ころからメリフェラの事も」
木の葉「……金長から、京の茨木に何か術を施された事も聞いておりますゆえ」
ディナダン「それをどうにかできないかと思ってねえ。これを持ってきたわけ」
敵兵「これ……これって……」
ピクシー「……これってあれですよね、あのまじすごい……エクスキャリバーって剣……?」
鴉「何かの丸薬を飲まされた、そうして頭目は奇怪な変貌を遂げるに至った」
木の葉「変化の忌憚というものは、極東でもそう珍しいものではございません。鬼の連中がその手を使うなど、常道と言っていいでしょう」
ディナダン「あれ以降は実際に会ってないからどうとは言えないけれど……担当医からの資料を斜め読みしてね、
運が良ければどうにかなるんじゃないかなーって。レプリカとはいえ聖剣、このエクスキャリバーならー」
ブラウニー「アバウトですなあ」
敵兵「ちょ……ちょっとあの……あの、エクスキャリバーって……そ、そんな伝承の剣が……」
ディナダン「真横で勇者くんがデュランダル振るうのを何度か見ているでしょう? そんなに驚く事かしら」
敵兵「い、いやっ、それ以前に……あの、あの容体が何とかなるって言うんです!? その、エクスキャリバーで!」
ディナダン「さあ……試してみない事には始まらないし。鴉の彼との推察で産まれた空論でしかないのよお」
鴉「そうですな……ぴんと来たのは、排泄物……ひいては分泌成分の変容です。
身体の穴という穴から分泌される液体が、総じて無色透明の、いわば麻薬にほど近いものに変化している事。
きつい刺激臭を伴い、味はこれまたノドが焼けつくような甘味。神経系に後遺症が残る程の刺激を伴う劇薬とも言えましょう」
ピクシー「……あの、あのオカッパ頭のおチビさんの事ですよね……そんな事になっちゃってるんです?」
敵兵「……」
鴉「性的興奮を喚起させる甘露を垂れ流すあやかし。しかし、穿って見るならば……頭目の、彼女の中の秩序が乱された事に拠る現象と言えましょう」
敵兵「秩序?」
木の葉「我が国のみならず、建国神話には混沌へ秩序を与える事で歴史が開拓されてゆくという逸話が数多く存在します。
多くは、殺害された地神の遺骸が豊穣の土地、稲や芋、穀物へと転じていったというようなものです。
これは手の加えられていない山野に、人々の知恵からなる秩序が混ざり合った結果、稲作や畑作と言った法則性……
無秩序に食物を排泄するという原初的混沌が叡智によって改められ、人間による作物の計画的生産が実現された」
鴉「この場合の混沌とは、彼女に投与された何か……茨木の奴が拵えた黄泉の逸物。それに蝕まれた彼女そのもの」
ディナダン「それならば規則性……叡智を与えてやればいい。この秩序の具現たるエクスキャリバー……役不足ではないでしょう?」
ディナダン「エクスキャリバーに用いられているヴォーパル鋼、精錬法冶金法諸々はドワーフや魔王軍が専門だけれど……
聖書の定める成聖……叡智の布教の概念に近い効力を発揮するというのが、技術省の公式見解。
純度の低い騎竜鎧でさえ、じゃじゃ馬のワイバーンやペンドラゴンをあそこまで慣らす事ができるのだもの。使えそうでなくて?」
ピクシー「……はあ」
敵兵「そ、その……エクスキャリバー、一体……どう使うって言うんです?」
ディナダン「もちろん一気に突き刺します。メシアの昇天のごとく……もちろん、死なないようには配慮しますが」
敵兵「」
鴉「採血を何度か行ったらしいのですが、白い薄皮一枚隔てて、先ほど説明した透明の劇薬がぱんぱんに詰まっているそうで。
触ればゴムのように柔らかく、針を突き立てれば劇薬が看護師にしぶく……」
木の葉「言うなれば昆虫の蛹。繁殖と理性がないまぜになったあやかしもどき……」
敵兵「……」
ディナダン「打つ手もほとんどなし、被害が出る前に強硬策を施す事にしたの。おわかり?」
ブラウニー「(さすが聖人もどき……ぶっとんでますなぁ)」
敵兵「上手く行ったらお慰み、ですか……ですが、どうしてそこまで卿が彼女に入れ込むのか……」
ディナダン「んもう、わかっているくせに。ひとつしかありませんでしょう?」
ピクシー「あーそっか、ひとつしかないですよねー……」
敵兵「(やっぱり……ネキリの正確な運用方法目当てか……!)」
クシャスラー「おや、お久しぶりでございます、ディナダン卿」
ディナダン「……ごきげんよう」
クシャスラー「二人は……そう、そこの突き当りを曲がった医療棟です。どうか、勇者様を元気づけてあげてくださいましね」
ディナダン「ええ、そのつもりでここまで足を運びましたので」
クシャスラー「いやはや……御疲れ様でございます。何年ぶりですかな、先の東西戦争ではお会いになれませんで……」
ディナダン「ほほほ、そちらは私がひよっ子の頃からまったくお変わりがないようで」
クシャスラー「拝火の天使が老いさらばえては仕方ありません……卿は老いてなおお美しい」
ディナダン「ふふふ……」
クシャスラー「そうだ。ヴォーパル鋼はお役に立っているでしょうか、あれから6年ですが……」
ディナダン「おかげさまで、ドラグーン実用化から儀典局のご機嫌取りに労力を割かずに済んでおりますわ……」
クシャスラー「それは良かった……秩序を育み真魔を滅する自律の輝き……これからも、あなた達を導く事でしょう」
ディナダン「……」
ディナダン「……面会謝絶ぅ? あら、ついてないわぁ。ねーえ、運が無くて困ってしまうわあ」
魔王「……」
ディナダン「ふふ……どうでした? 勇者の彼の具合は」
魔王「……」
ディナダン「一命は取り留めた、されど心的負荷の影響で心身ともに不安定に、だとか」
魔王「非のない三人を殺したと言っていた。自分は、もう秩序の内にいるべき人間ではないと言っていた」
ディナダン「しばらく見ないうちに、ませた事を言うようになって……」
魔王「アジ=ダハーカを殺したら、自分もまた死ぬべきだ……そう言っていた」
ディナダン「……」
魔王「こうして生き長らえているだけで辛い、消えてしまいたいとな。私には語ってくれた」
ディナダン「おガキ特有の心の病気ねえ。客観的にものごとを考えきれていない、まだどこかで自己中心……
やっぱり、あなたは勇者だって突きつけてはいけないわね。未熟な少年の理性を不完全なかたちで偶像化させてしまう」
魔王「……利用しているという自覚はいつもあった、しかし……彼のこうした姿を見るのは、やはり辛いものだ……
なぜ、彼が苦悶の中にいる時に、そばにいてやれなんだか……まだ幼い彼の傍に……」
ディナダン「(少なくとも……共存を謳う二人が一緒にいたら、今より惨い結果になっていたでしょうねぇ)」
魔王「……」
ディナダン「まあ、会えないなら仕方ありません……日を改めてまた参りますわね。
次に会うときは……そうですね、少しは周囲を慮れる人間になっている事を祈りますわ。もちろん、あなたも含めて」
魔王「私も……?」
ディナダン「あなた達は責を負っている。魔王軍という括りに属する全ての生命に対して共存を掲げた。
……一人二人を手にかけたからどうだと言うのです。旧魔王軍とは行かずとも、6年前に何人が東西戦争で命を落とした?」
魔王「……」
ディナダン「金より軽いと言われる人間の命、それに固執して身を滅ぼしてはしょうがありません。
身体に刃が刺さったままで目標が達成できますか? 邪魔する者は踏んで砕く以外にありますまい」
魔王「何度もそれは言われてきた……内外から、こんにちまでずっとな……」
ディナダン「あなた達の人柄に惹かれて仇敵が改心してくれるなら、苦労はしませんでしょうねぇ。
実際どうなんでしょう、あなたの前にアジ=ダハーカが現れたとしたらどうでしょうか?」
魔王「私の……」
ディナダン「血まぶれの手を持つアジ=ダハーカを、あなたは懐柔できますか?」
魔王「……」
ディナダン「共和、共存とは受動的なものでは無い。相互理解を伴う能動的なものでなければ意味がありません。
受動的な共和とは、いわば制圧であり征服。さて、それではこれに拠らぬ共栄とはどうすればよいでしょう?」
魔王「……」
ディナダン「それもやはり、障害を排除した上で実現するほかあり得ない。武力を伴わぬ達成はありません。
手放しに褒められはしないものの……少しは彼の主張を汲んでやるのもひとつの手段だと思いますわ」
魔王「アジ=ダハーカの……討伐……」
魔王「……」
魔王「(すまない……本当にすまない)」
魔王「(私の思想を押し着せ、適切な指導を行う事も出来ず……ただ、走る事だけしか教える事が出来なかった……)」
魔王「(見捨てないでくれと言ったな……見捨てるものか、見限るものか……私だけは、最期まで勇者の味方だ……)」
魔王「(……賛同してやれなくて、本当にごめんなあ……勇者……)」
妹「あばばばばばば……いててて」
雷帝「……」
妹「……まっ、ったく……嫌ですわねぇ、魔王軍の魔物どもは乱暴で。人の事を容疑者扱いして、何様だって話ですわぁ!!」
雷帝「ふ、ふふふ」
妹「重要参考人扱いしろって言ってもナシの礫……連合の物事への慎重さを知ってしまうと、やはり所詮は野蛮な獣に見えてしまいますわねぇ」
雷帝「……ネキリの欠片は既に回収いたしましたよ……このままロストしてしまっては事ですので……ふふふ」
妹「やっぱり情報庁は有能でいらっしゃいますわ……さ、早く貸してくださいまし」
雷帝「……」
妹「今度はあの魔王軍ども……白の城塞ごと破滅させてやりますわ、覚悟おし!!」
雷帝「貸……す……?」
妹「そうですわよ!! 私は悪い事なんかさらっさらしてませんのよ!? どぉお思いですかぁ?
お貸ししてくれたら、また大姉様を差し出しましてよ!! ちょっと、聞いてまして!?」
雷帝「自分、立場わかっとんのかワレェ」
妹「」
雷帝「……シャバに出してやってすぐにその口の利き方たぁ、どういう教育受けてきたんじゃボケェ!!
数十万人をブチ殺した戦犯の下手人がナメたクチ利きよって、ここでくびり殺してやってもええんやぞォ!? あァ!?」
妹「は……は?」
雷帝「オメェみてぇなチンピラ一人を魔物どもからカキ出すのにも結構な額使っとんじゃ、
本来やったら両の指ィぜーんぶツメさせてもまだ足りひんのに、言うに事欠いて何様のつもりや!?」
妹「だ、だから……あれは、あれはじ、事故……」
パンッ
妹「ぎゃはっ!!」
雷帝「なーにーさーまーのつもりじゃ言うとんのやボケがぁ!! ここでたたッ殺すぞダラズぁ!!」
パンッ パンッ パンッ パンッ
妹「だうっ……あぎいっ!! ぎゃ、あああああ!!」
雷帝「……大体何が大姉様や。今のオメェにあの人の居場所がわかるんか?
なんもかんもをみーんなまとめて焦土にしくさりよって、お? わかるんか? わかるんかァ!?」
妹「あぐぐぐぐ、あああああ痛っつつ……」
雷帝「年甲斐もないままにサカりよる坊主どもが、よりにもよってバルムンクまで持たせよったんやけどなァ……
オメェのドジに巻き込まれてくたばっとったら、どんだけウチがマイナス被るかわかっとんのかァ?」
妹「バ、バ、バ……バルムンク……?」
雷帝「最低限バルムンクだけは回収せなどうしようもないやろ、聖剣いうくらいやからな。
国境沿いから共和国まで、草の根ぇわけて探す必要あるわけやなぁ」
妹「……」
雷帝「……手ぇ上げぇや、私やりますぅけじめつけますぅくらい言えやドアホ!!」
妹「ひ、ひい!!」
雷帝「こんガキィ、肩書の他ぁなーんも持っとらんのに使うてやっとった恩も投げくさりよって……
どうする、探すんか!? やるんか、やらんのか!? バルムンク探すんか!? どーすんのや!?」
妹「ささ、さが、探っ、探す!! やり、やります、大姉様……さ、探しますう!! やりますう!!」
雷帝「……」
妹「……」
雷帝「はっ……よかろ、チャンス一回だけやろうやないかい。ただ……」
妹「は……」
雷帝「こんだけ人さまにメーワクかけさせといて、何のケジメもナシ言うんは……示しつかへんなぁ……なあ?」
妹「……」
雷帝「……指の一本や二本ツメんと……もらえるチャンスももらえへんよなぁ?」
妹「」
妹「かか、勘弁……勘弁してくだしゃいまし……あ、足……脚ぃ、こんだけ血ィ出てますのよぉ……?」
雷帝「あ?」
妹「すっご……痛いんですぅ、病院、病院連れてってェ……」
雷帝「撃った弾の当たる先にオメェがいたのが悪いんやろが、アタシに非がある言うんかァ?」
妹「は……あ、あううう……」
雷帝「……これや、これ。立派な小刀やろぉ? 前に貸してやった刀とおんなじもんや」
妹「う、ううう……」
雷帝「どや、綺麗やろ? よっく切れんねや、躊躇うと余計辛いでえ」
妹「い、い、やだ、やだ、やだやだ……かんにんして、ゆるしください……」
雷帝「許してやる言うとるやろ? さっさとせぇ」
妹「はっ、はっ、はふっ、はふぅ……うう、うう、無理、無理っ、無理ぃ……」
雷帝「……」
雷帝「……誰かァ、だぁれかー。この子、お医者様に連れて行ってあげてくださいましー。誰かぁー?」
司教「うあー、痛そうだったなぁ……おおこわいこわい」
雷帝「まったく……頭も要領も悪い、何一つ使いどころのないクズですわ」
司教「雷帝閣下をここまでかちキレさせるとは……しかし、これで心を入れ替えてくれることでしょうや」
雷帝「だといいんですがねぇ……」
司教「一応は、あのアジ=ダハーカの実妹です。使いようはありましょう」
雷帝「ククク……あの小刀を持って歩ける事だけは評価の対象です。あれがなかったら……ねえ?」
司教「ハム抜きのハムエッグですわねぇ」
クシャスラー「はあ、あまり血を見るのは好きではありません。ましてやあのような形でなど」
司教「そうぼやかないで……あれで少しはマシになったでしょう、まっとうな人間には程遠いですが」
クシャスラー「ふむぅ……」
雷帝「バルムンクだけは確保したいところです。なるべく、旧帝国側の圧力という体でね。エルフどもに嫌われるのも面白くない」
司教「それで彼女に大仕事を任せるのは、なかなか勇気がいりますねェ」
雷帝「しかし、教皇領からすればデメリットはないでしょう? バルムンクが回収できれば、勇者にもアジ=ダハーカにも劇薬を与える事ができる」
司教「……ククク」
クシャスラー「さて……私はそろそろ行きましょうか。血統だけは確かなようですし、ほんのちょっぴり期待できるのが救いですね」
雷帝「頼みますよお、拝火の天使クシャスラ=ワルヤ……いえ、聖剣ウルスラグナさん?」
ウルスラグナ「わかっております……これもすべては、我らが主の定めたる秩序の為……この身が滅びるまで、ヒトに尽くしてゆく所存ですゆえ」
ダキニ「……」
魔子「きつねさん、こんにちは!」
ほ子「こ、こんにちは……」
娘「ごきげんよう、おきつねさま」
ダキニ「うむ、こんにちは。挨拶のできる利口な童だな」
魔子「えへへー」
ほ子「ふくく……うくくく……」
ダキニ「……」
女騎士「あ……なんか……えらいデカくなったなぁ、なんかあったん?」
ダキニ「……フフ、世には人の思いもよらぬことなどいくらでも」
女騎士「は?」
バキッ
ダキニ「あ痛!! 痛った!!」
女騎士「『おめえになんか教えてやんねー』で済む事をもったいぶるんじゃねーぞイヌモドキがよぉー、
私はそういう喋り方は大っ嫌いなんだよ、覚えとけコンチクショーが。今度はスネ蹴っ飛ばすだけじゃ済まさねぇからな」
ダキニ「……」
ダキニ「やっぱり人間……人間って素晴らしい……ああ、もっともっと……もっと愛してやりたいものだなぁ……」
女騎士「……は?」
ダキニ「いや……いや失礼、つい……感極まってしまってな……はぁぁ……」
女騎士「デカくなったと同時に脳みその容量が反比例してノータリンになっちまったのか」
ダキニ「……あぁ……いいぞお、もっと……もっと妾に話しかけてくれ、妾に構ってはくれんか?」
女騎士「……まじで気持ち悪い、やめて」
ダキニ「フフフ……ウフフフ……」
女騎士「大体よぉー、お前ら極東の妖怪ってぇのは魔物どもと似たようなもんなわけだろ?
役に立つとはいえよぉー、あんま調子こいて私らなめてっと聖剣さんキレるよ? 聖剣さんかちキレるかんな」
ダキニ「なめる……ああ、頬ずりして舐めてやりたい、それくらい好きだ。大好きだ。
昔はたっくさん、それはもうたくさん妾と遊んでくれたのだ。民草揃って、妾の相手をしてくれたし……
妾もたっくさん、それはもうたくさん人間の為に……すこしばかり、豊作を与えてやった。そうすると、それはもう……」
女騎士「はあ……そうですか」
ダキニ「だがなぁ……列島が武将に統一されて、大陸人との貿易が盛んになって、幕府ができて……
……大陸の教会の言う神を信じる教義が流れてきて。そのうち、妾たちの暗闇はガス灯にかき消されていってしまった」
女騎士「自然の摂理だ、滅びてどうぞ」
ダキニ「ああん、汝はつれないなあ……だがなぁ、そうして妾を認識して構ってくれる事自体が、妾にとってこれ以上ないくらい……」
女騎士「(極東ってのはオカシイ奴ばっかり揃ってやがるな……)」
ダキニ「妾とて、鬼どものように人間をいじめ尽くす事が嫌いなわけではない……
だが、だがなぁ……苦悶に歪む顔よりも、快楽で理性が決壊したとろけ顔の方が……可愛らしいではないか」
女騎士「(プリン食べたい)」
ダキニ「秩序というものはだな……隣人の背に刃を突き立てない、そんな程度のタガでいいのだ……
欲望を押しこめて、それで憎悪と悲哀が膨れては仕方なかろう……禁欲主義は悪魔の囁きぞ……」
女騎士「あ、そうですか……」
ダキニ「……もう少し話を聞いてくれたら、このカルメ焼きをくれてやろう」
女騎士「……」
騎士ほ「……北西出向まで一ヶ月弱。それまでに、できればあの大将に戻ってきていただきたいところですわね」
エルフ騎兵「部隊編成は既に完了しています、残るはそれだけですな」
エルフ近衛兵「……まだ西帝国境線の出入国制限が解除されていないのがネックです。やはり、こちらから迎えに行くしか」
騎士ほ「幸い人材には余裕がありますし、それも手ではありますわね。私がクロウクルアッハで出ても構いませんが」
エルフ騎兵「では、早速そのように……ところで、騎士様は……」
エルフ近衛兵「あそこ」
女騎士「……」
エルフ近衛兵「デスクの裏側のハンモック」
エルフ騎兵「……」
エルフ近衛兵「チビっ子とカルメ焼きとかいうお菓子に魅せられて脳みそとろけてるんだと」
騎士ほ「……」
秘書「(筋肉が機嫌悪いですね……)」
エルフ騎兵「(お前人の事そう呼んでたのかよデブ)」
エルフ近衛兵「(最悪ですねデブ)」
秘書「(いや……だってなんか……)」
エルフ近衛兵「(せっかく前日から仕込んでたおやつのバケツプリンがカルメ焼きに負けたから機嫌悪いんですよデブ)」
エルフ騎兵「(察しろデブ、だからデブなんだよデブ。脂身食ってろデブ)」
秘書「(解せぬ)」
息子「あぅ……こ、こんにちは」
娘「こんにちは、ごきげんよう」
騎士ほ「あら……フクク、ごきげんよう。調子はいかがです?」
息子「はい、僕たちは大丈夫です。僕が捜索班、妹は国境線待機班で……」
騎士ほ「では、私と若様が大将閣下をお迎えに上がるのですね……」
息子「えっ……ぼ、僕が……?」
娘「二人きり……?」
騎士ほ「フクク……頑張りましょうね、若様……」
息子「はい……」
息子「……あの、それ……なんですか?」
騎士ほ「……ああ、その……これは……プリンですわ」
娘「プリン……」
騎士ほ「よければ、召し上がってくれませんか? このまま捨ててしまうのも……」
息子「も、もったいないです! す、すごく美味しそうなのに……い、いただきます!」
娘「……いただきます」
娘「(……なんだか、おもしろくない)」
娘「(ほの字さんはすごくいい人なのに……かっこいいのに……つまんない……)」
第9部序 カルメ焼き編
第9部破 プリン編へ