――――――
???『……こんばんわ』
???『まどかに…伝えたのね。あなたのことを……』
???『……あなた、まどかのことが…好きなのね……?』
???『心に流れてきたあのまどかへの気持ちは…そういうことなんでしょう?』
???『あなたは私と契約したわね。まどかを救う覚悟の契約を……』
???『まどかを守れるのなら…救えるのなら、自分の命など安いものだ、と』
???『本当に…そう思っているのかしら?』
???『美樹さやかも、佐倉杏子も…自分と向き合い、本当の自分を認めたわ』
???『なら…次はあなたの番よ、暁美ほむら』
???『まどかをどう思い、まどかとどうなりたいのか。本当の自分と向き合いなさい』
???『もう時間は残ってないわ。答えは、次会ったときに…聞かせてもらうわ』
???『……頑張って』
――――――
ほむら「……っ!」
ほむら「……今のは…何……?夢……?」
ほむら「魔女の…夢……?契約って何のこと……?」
ほむら「まさか…私にも、魔女が……?」
ほむら「……いえ、それよりも今の魔女の話……」
ほむら「まどかとどうなりたい…か……」
ほむら「……まどか、私……」
ほむら「……今はそれよりも、目の前のことに集中しないと」
ほむら「もう…今日、なのね……」
ほむら「……支度…しないと」
私の夢に現れたあの魔女。あれは恐らく、もうひとりの私なのだろう
私が心に押し込めたまどかへの気持ちについて、一言助言を言いに出てきたのだろうか
本当の自分と向き合っても…きっと結果は変わらない
私とまどかは友達。それ以上でも、それ以下でも……
そんなことを考えながら、今日の準備をする
魔法少女となって戦うだけだが…学校の制服に着替え、簡単な朝食を済ませる
何の気なしにテレビをつけると、ニュース番組のキャスターが見滝原近隣住民に避難を呼びかけていた
それから程なくして、みんなが私の家へとやって来た
だが、どういうわけかその中にまどかの姿があった
ほむら「……どうしてまどかがここに?」
マミ「それがわからないのよ。何も話してくれなくて……」
さやか「まどか、家族と避難するんじゃなかったの?」
まどか「……1人暮らししてる友達がいて…心配だから、様子を見に行って…そのまま避難するって言ってきた」
杏子「それなら…まぁ……」
ほむら「私たちに何か用でも……?」
まどか「わたし、ほむらちゃんと一緒に戦えるわけじゃない。それはわかってる……」
まどか「ワルプルギスの夜はすごく強いって聞いてるから…何だか怖くなっちゃったんだ……」
ほむら「昨日言ったでしょう?私に任せてほしいって……」
まどか「そうなんだけど…ほむらちゃんにもう会えなくなっちゃう気がして……」
ほむら「……大丈夫。ワルプルギスの夜は…絶対に倒してみせるから」
まどか「……違うの。ほむらちゃんが死んじゃうんじゃないかって…そう思っちゃって、いてもたってもいられなくなって……」
まどか「わたし…怖いの。ほむらちゃんがいなくなることが…死んじゃうかもしれないってことが……」
ほむら「そんなこと……」
まどか「ほむらちゃんのことだから…きっとわたしを守れるのなら、自分の命も顧みないんじゃ…って……」
ほむら「……っ」
まどか「ほむらちゃんがわたしを守ってくれるのは…すごく嬉しい。でも…それがほむらちゃんの命と引き換えなんだとしたら……」
まどか「……わたしは…そんなの望んでない」
ほむら「……」
まどか「ほむらちゃん…お願い。絶対…無茶なこと、しないで。絶対、生きて…帰って来て……!」
恐怖のせいか、まどかの体はカタカタと震えていた
まどかがそこまで私を思ってくれているなんて…私は幸せ者だ
無論死ぬつもりなんてない。だが、文字通り死力を尽くして戦うのだ。どうなるかはわからない
それでも、今のまどかに不安にさせるようなことは言えない。まどかを不安にさせないよう、私は言葉を選んでまどかに話しかけた
ほむら「……大丈夫よ。私たちは何も、死にに行くわけじゃないわ」
ほむら「ワルプルギスの夜を倒して、誰1人欠けることなく帰って来るから。だから、信じて待っていて」
まどか「本当…だよね……?」
ほむら「えぇ、本当。言ったでしょう?まどかに嘘なんて言わないって」
まどか「……うん。わたし、待ってるから……」
ほむら「それと…これはみんなにも聞いてもらいたいことなのだけど」
さやか「何?どうかしたの?」
ほむら「えぇ。今朝…夢に魔女が出て来たの」
さやか「魔女が?それって、あたしの奴と……?」
マミ「私は魔女の夢を見たことはないけど…美樹さんのときと同じく、召喚の時が近いのかもしれないわね」
ほむら「だといいのだけど……」
杏子「それで、自分に何を言われたんだ?」
ほむら「……励まされたのよ。これからのことについて。それよりも……」
ほむら「どうやら私はそのもうひとりの自分と何か契約をしたらしいの」
マミ「もうひとりの自分と契約……?どういうことなのかしら」
杏子「心の奥で思ってることを言われるならともかく、契約って何だ……?」
ほむら「……その様子だと心当たりはなさそうね。何か知ってるかと思ったけど」
杏子「あぁ…すまねぇ」
さやか「でもさ、魔女の夢を見たのなら案外もう召喚できるようになったんじゃないの?」
ほむら「それは…魔女の名前もわからないままだし……」
杏子「どの道ワルプルギスの夜は結界を持たねぇんだ。召喚はできねぇと思うぞ」
さやか「それもそうなんだけど……」
マミ「美樹さん、何か気になることでもあるの?」
さやか「根拠も何もないんですけど…ほむらの魔女があたしたちの切り札になるような気がするんです」
杏子「切り札…ねぇ……」
マミ「暁美さん、何かあったらすぐに言って。いいわね?」
ほむら「……えぇ」
ほむら「……さて、そろそろ時間よ」
杏子「だな。……んじゃ、行くか」
ほむら「まどか…あなたは……」
まどか「……わかってるよ。避難所に…行くよ……」
ほむら「さやか、マミ、杏子…準備と覚悟はいいかしら?」
さやか「もちろん」
マミ「いつでもいいわ」
杏子「用意できてる。行けるよ」
ほむら「そう…それじゃ、向かいましょうか」
ワルプルギスの夜が現れる時間が迫り、移動しようかと立ち上がる
そんなとき、誰かに服を引っ張られたような気がした
さやか、マミ、杏子の3人は私の目の前にいる。つまり、私を引っ張っているのは……
引っ張られている方へ視線を向けると、まどかが涙目になりながら私の制服の裾を握っていた
ほむら「まどか……?どうしたの?」
まどか「……」
ほむら「そろそろ行かないとだから…離してほしいのだけど……」
まどか「……」
ほむら「……ごめんなさい。先に行っててもらえないかしら」
さやか「そりゃいいけど…大丈夫なの?」
ほむら「えぇ。まだ多少は時間はあるはずだから」
マミ「……わかったわ。美樹さん、佐倉さん、行きましょう」
杏子「あ、あぁ……」
まどかが離してくれるまで全員ここにいるわけにもいかないので、さやかたちには先に行ってもらうことにした
みんなが出て行ったあと、一体どうしたのかとまどかの方へ向き直ろうとしたとき
私は、まどかに背後から思いきり抱きしめられた
ほむら「まどか……?」
まどか「……ないで……」
まどかが何かを呟いたらしいが、よく聞き取れなかった
何を言ったのか聞き返すと、消え入りそうな涙声で私に訴えかける
まどか「行かないで……!お願い…行っちゃ…嫌だよ……!」
ほむら「それ、は……」
まどか「……わたしのわがままだってことくらい、わかってる…でも……!」
まどか「ほむらちゃんに…行ってほしくない……。ほむらちゃんと離れたくない……!」
ほむら「……それは、さっきの…私ともう会えなくなるかもしれないから?」
まどか「うん…もう会えなくなるかもしれない…わたし、それが怖くて…耐えられないの……!」
ほむら「そう思ってくれるのは嬉しいけど…どうしてそこまで私のことを……?」
まどか「それは…わたし…わたし、ほむらちゃんが……!」
まどか「ほむらちゃんのことが、好き…大好きだから……!」
ほむら「……え?」
まどかの言葉が理解できなかった
間違いなく聞こえていたはずだが、頭が理解することを拒んだのだろうか
確認の為に再度まどかに問いかける
ほむら「まど、か……?今……」
まどか「わたし…ほむらちゃんが好き…大好きなの……!」
ほむら「それは…友達として……?」
まどか「……違うの。わたしは…ほむらちゃんに恋をしたの。ほむらちゃんに恋愛感情を…持っちゃったの」
ほむら「……そう…だったの」
まどか「最初は友達として好き…だったの。でも…ほむらちゃんと一緒にいたいなって…そういうことは思ってたんだ」
まどか「少し前…さやかちゃんのトラブルがあった頃に、ほむらちゃんへの好きは他のみんなへの好きと違うって…気づいた」
まどか「それから…ほむらちゃんがわたしのために戦ってくれてるって聞いて…わたしのことが大事だって言ってくれて…すごく嬉しかった」
まどか「きっとそのときに…ほむらちゃんを好きになったんだと思う」
まどか「でも…わたしもほむらちゃんも同じ女の子…これが普通の恋じゃないことくらい、わかってる……」
まどか「ごめんね…ほむらちゃん……。わけ…わかんないよね……」
まどか「気持ち…悪いよね……」
ほむら「そんなこと……」
まどか「だけど…それでもわたしは…ほむらちゃんのことが好きだから……!」
ほむら「……」
まさかこんなことになるとは思ってもみなかった
まどかが私のことをそういう意味で好きだったなんて……
まどか「こんなときに…ごめんね。でも…返事、聞かせてほしいんだ……」
まどかは私に告白の返答を求めた
私だって…まどかのことが好き。どれだけ取り繕って、誤魔化しても…それが私の本心
……ただ、今それを伝えるわけにはいかなかった
私には…まだ成すべきことがある。ワルプルギスの夜を…倒さなくては
ほむら「……ごめんなさい。今は…それに返事をすることはできないわ」
まどか「……そっか……」
一言、そう呟いたまどかは、私を抱きしめていた手を離す
私はまどかの方へ向き直ってから、まどかの両肩に手を添える。そして
まどかの頬に、キスをした
まどか「ほ…ほむらちゃん……」
ほむら「私には…やるべきことがある。だから…今はこれで許して」
まどか「……絶対に…帰って来てね」
ほむら「……えぇ。そろそろ私も行かないと…まどか、あなたは……」
まどか「……うん。ちゃんと避難するよ」
ほむら「それじゃ…行って来るわね」
私はそう言い残し、家を後にした
ワルプルギスの夜が現れる直前だと言うのに、頭は全く違うことを考えてしまっている
まどかのことは…好き。まどかが告白してくれたことは、本当に嬉しい
だけど、それを受け入れる覚悟が私には…ない
何より、私がまどかを幸せにできるとは…到底思えなかった
ふと、夢で言われたことを思い出す。私は…まどかとどうなりたいのだろうか
あれこれ考えているうちに、いつの間にか合流地点の目の前までやってきてしまった
まどかの告白…どうするにせよ、まずはワルプルギスの夜を倒してから。全ては、それからだ
まどか「……行っちゃった…な……」
まどか「ほむらちゃん…何度も、何度も…大丈夫だって、言ってくれたよね。でも……」
まどか「どうしてだろう…全然、大丈夫って気にならないよ……」
まどか「……何もできずに、ただ待ってるだけが…こんなに辛いなんて……」
まどか「ほむらちゃんが好きだから…余計に辛いよ……」
まどか「……ねぇ、ほむらちゃん…わたし、決めたよ」
まどか「もし…もし、わたしが戦わなければならなくなったら、そのときは……」
まどか「……わたし、みんなを…ほむらちゃんを守ってみせる」
『その想い…本当?』
まどか「え……?」
――――――
ほむら「ごめんなさい、遅くなったわ」
杏子「お、来たな。まだ現れてねぇから大丈夫だ」
ほむら「そう…それじゃ私は先制攻撃の準備に入るわ」
遅れてみんなと合流し、手早く準備を始める
私が攻撃の準備をしていると、横からさやかが声をかけてきた
さやか「……ねぇ、ほむら」
ほむら「何?準備があるのだけど」
さやか「しながらでいいよ。……あのさ、まどかに何か言われた?」
ほむら「……特に何も」
さやか「……へぇ」
ほむら「……」
さやか「……本当?」
ほむら「……えぇ」
さやか「ふーん…まぁほむらが何でもないって言うんなら、無理には聞かないけどさ……」
さやか「ひとつだけ言わせて。……誰かに好きだって言ってもらえるのは…すごく幸せなことだと思うんだ」
さやか「もちろんほむらがまどかをどういう風に見てるかはわからない。でも…きっとほむらとまどかの想いは通じ合ってる」
さやか「初めての恋が同じ女の子だから戸惑ってるんだろうとは思うけど…でも、お互いが好きだったなら…そんなの関係ないよ」
さやか「だから…まどかには、ほむらの本心…本当の気持ちを伝えてあげて。恋愛に関しちゃ、あたしの方が先輩なんだから」
さやか「……んじゃ、あたしは向こうで待機してるよ。……絶対、ワルプルギスの夜を倒して…まどかのところに帰ってあげなさいよ」
ほむら「……ありがとう、さやか」
ほむら「……これでよし…と」
マミ「暁美さん、終わった?」
ほむら「えぇ。今終わったところよ」
私の準備も完了し、後はワルプルギスの夜が現れるのを待つのみとなった
私たちがワルプルギスの夜の出現を待ち構えていると
背後から忌々しい声が聞こえてきた
QB「やぁ、みんな。不安と恐怖で震えてると思ったけど、案外平気そうだね」
ほむら「……今更何の用かしら」
QB「決まってるだろう?戦いを見届けに来たんだ」
ほむら「……お前が何を企んでワルプルギスの夜を召喚したのかはわからない。でも……」
ほむら「そんなことはどうだっていい。目の前に迫った災厄から…大事なものを守る為に戦う。それだけよ」
QB「……本当に君たちが勝てるとでも思っているのかい?」
さやか「感情のないあんたには到底理解できないだろうけどね…勝てる勝てないじゃない。勝つのよ」
杏子「過去に出現したワルプルギスの夜もテメェが召喚したって話だったな。……ここで倒せば、もう現れなくなるってことだからな」
QB「……そうかい。マミ、君も戦うんだろう?」
マミ「……当然よ。このままワルプルギスの夜が現れたら…街が壊され、人が死ぬ……」
マミ「私たちの街を…地獄にはさせないわ」
QB「君たち人間の感情というものは本当にわけがわからないよ。勝てるはずのない相手に戦いを挑むなんて」
ほむら「だからお前は愚かなのよ、インキュベーター。魔法少女は不条理を覆す存在……」
ほむら「魔法少女の…人間の底力、思い知らせてやるわ」
QB「何を言われても僕には理解できないことだよ。それよりも……」
QB「そろそろ用意した方がいいんじゃないかな?」
インキュベーターの言葉とほぼ同時に、辺りの空気が変わった
見えない何かに押さえつけられているような、重苦しい空気
私たちは各々武器を構え、出現に備える。そして
QB「さぁ…幕開けだ」
ワルプルギスの夜の出現予測地点にカウントが表示される
カウントダウンが始まり、5…4…3…と表示される数字が小さくなっていく
カウントの数字が0になったその瞬間
空間が割れ、その合間からワルプルギスの夜が姿を現した
杏子「……あれがワルプルギスの夜…なのか」
さやか「バカでかいコマに見えるんだけど……」
マミ「コマというより、何かの装置みたいね……」
ほむら「お喋りはそれまでにして。今までの魔女とはケタが違うわよ」
QB「ワルプルギスの夜と戦って、生きて帰った者はいないんだからね」
QB「精々、足掻いてみるといい。この狂宴の中、君たちはどこまでやれるのか」
QB「僕は君たちの戦いを見届けさせてもらうよ」
インキュベーターは私たちを挑発するが、それに構っている暇は無い
奴のことなどどうでもいい。それよりも今は、ワルプルギスの夜と戦うことに集中しなければ
だが、ワルプルギスの夜の様子が変だ。こちらを伺っているような……
何をしているのかわからず、手を出せずにいたときだった
QB「薔薇園の魔女。性質は不信。その力の全ては薔薇の為に……」
杏子「何を言ってやがる、テメェ……!」
さやか「待って、ワルプルギスの夜が……」
マミ「何、あれ…ワルプルギスの夜の腕が……?」
ワルプルギスの夜の腕が変質していく。腕部の袖のようなものの中から出て来たそれは
どこかで見たことのある、植物の蔓のようなものだった
ほむら「何が…どうなってるの……?」
QB「ワルプルギスの夜は最強の魔女、絶望を総べる魔女だ。それ故に、普通のグリーフシードでは召喚することはできない」
杏子「普通のグリーフシード……?」
QB「そう。この世には普通のグリーフシードと、特別なグリーフシードの2種類が存在する」
QB「魔女の元となるグリーフシード、そしてワルプルギスの夜を呼び出す為に必要な特別なグリーフシード……」
QB「そうだね…因果を持ったグリーフシードとでも言うべきかな」
ほむら「じゃあ…お前が積極的に集めていたグリーフシードは、全て……!」
QB「そうさ。それらは全て因果を持ったグリーフシードだ」
QB「そして、ワルプルギスの夜は召喚に使われたグリーフシードの魔女の力をその身に宿している」
QB「消費した数だけの魔女の能力を、オリジナルとは比べものにならない程強力になって、ね」
ほむら「ワルプルギスの夜が人であったり空飛ぶ要塞であったりするのは……!」
QB「召喚される度に使用されるグリーフシードも違うからね。その時その時の魔女の能力が発現していたせいだよ」
マミ「じゃあ…あの植物の蔓みたいなものって……」
QB「君が倒した、薔薇園の魔女の力さ」
さやか「その…因果を持ったグリーフシードがいくつ使われたのか、わかんないけど……」
さやか「あいつは一体、どれだけの数の魔女の力を持ってるの……?」
QB「そう多くの数を使ってるわけじゃないはずだから、ひとつずつ倒して行けばいいと思うよ」
QB「勿論、それができればの話だけどね」
別の魔女の能力…つまり、このワルプルギスの夜は元々の能力に加え、更に別の魔女の力を行使するということか
ここまで来て、そんな面倒なことになるなんて……。だが、既に戦いの幕は上がっている。選択肢はひとつだけだ
ほむら「それが何だと言うの?……さやか、マミ、杏子…行くわよ!」
ワルプルギス「アハハハッ!」
準備が整ったのか、ワルプルギスの夜の笑い声が辺りに響き渡る
……今まで、何度も、何度も敗れてきたワルプルギスの夜。だが
今回は…絶対に負けるわけにはいかない。私の為にも…まどかの為にも
マミ「行くって言ったって…作戦は!?」
ほむら「作戦変更よ。何が何だかわからないけど、今のアイツは別の魔女の力を行使している。……つまりは手を抜いて戦ってるに過ぎないはず」
ほむら「私の作戦はあくまで本来のワルプルギスの夜と戦うことを想定して組み立てたもの。だから、今はまだ……」
さやか「でも、あんなデカブツ相手にどうしろってのさ!?あたしと杏子、近接なんだよ!?」
ほむら「とにかく、攻撃を。私とマミは砲撃、さやかと杏子は…あの蔓を叩き切って」
杏子「簡単に言いやがって…ま、他に刃が通りそうかと言われると…な」
マミ「美樹さん、佐倉さん…ごめんなさい。危険な役を押し付けてしまって……」
さやか「お、押し付けるだなんて…あーもう、あんな蔓すぐに叩き切ってやる!」
杏子「お、おいさやか、待て!……マミ、ほむら、援護は頼んだ!」
ほむら「……さて、こちらも用意するとしましょう」
マミ「えぇ。……それで暁美さん、あなたの魔女のことなんだけど……」
ほむら「……駄目ね。特に何か変わったこともないし」
ほむら「何より、魔女の名前もわからない…召喚のしようがないわ」
マミ「そう…何となく、気になるのよね。暁美さんの魔女が私たちの切り札になるって美樹さんも言ってたし……」
QB「君が今魔女の召喚を行えるようになっても無駄なことさ。君程度の素質なら、なおさらね」
ほむら「……私たちはお前と話をしているわけじゃない。そこで黙って見ていなさい」
QB「……」
ほむら「……さて、そろそろ始めましょう」
私はマミにそう言うと、盾の中からロケット砲を引っ張り出す
マミも私の言葉を聞いて、マスケット銃を多数召喚し、展開させる
ワルプルギスの夜に狙いを定め、射線にさやかと杏子がいないことを確認してから
私たちは攻撃を開始した
――避難所――
まどか「……」
詢子「お、まどかー、こっちだ」
まどか「……」
詢子「……?おい、まどか?」
まどか「……あ、ママ……」
詢子「どうしたんだ?何かボーっとしてるみたいだけど」
まどか「……何でもないよ。何でも……」
詢子「そうか?それで、1人暮らししてる…ほむらちゃんだったか?その子は大丈夫なのか?」
まどか「う、うん…入り口で別れちゃったけど、ちゃんと……」
詢子「何だ、別に連れて来てもよかったんだぞ?まどかも誰か友達と一緒にいた方が安心できるだろうしな」
まどか(一緒、か……。ほむらちゃん…大丈夫だよね……?)
詢子「……まどか、本当に大丈夫か?何かあったんじゃないのか?」
まどか「……ううん、大丈夫」
詢子「ならいいけど。……っと、何だ、アタシの携帯か…ちょっと出てくるから、荷物頼んだよ」
まどか「うん……」
まどか(さっきの声…結局何だったんだろう……?あれっきり何も聞こえなくなっちゃったし……)
まどか(まさかとは思うけど、もうひとりの自分…わたしの魔女……?ううん、そんなわけないよ)
まどか(だってわたし、魔法少女じゃないし…空耳?幻聴?)
まどか(……でも、はっきりと聞こえた。その想い…本当?って)
まどか(……わたし、魔法少女でも何でもない。何の力も持ってない。だけど……)
まどか(もし、わたしに力があるのなら…ほむらちゃんを…大好きな人を助けたい。守ってあげたい)
まどか(ほむらちゃんがわたしにそうしてくれるように…わたしもほむらちゃんを……)
詢子「ただいま、っと。会社から避難したかどうかの確認の電話だったよ」
まどか(ほむらちゃん……)
詢子「……おーい、まどかー?」
まどか「……あ、な、何?」
詢子「……やっぱ何かあるんだな。話してみなよ」
まどか「……ママは大事な人が危険な目に遭ってたら…どうする?」
詢子「大事な人がか?そりゃ助けに行くさ」
まどか「自分には何の力もない…何の役にも立たないとしても……?」
詢子「まどかが何を聞きたいのかわからないけど…少なくとも、アタシはその大事な人のところへ行くよ」
詢子「それに、助けに行くのにそんな気持ちじゃダメさ。自分には大事な人を守れる力がある。そう思わなきゃな」
まどか「……ママはすごいよ、即答できるんだもん。わたしは…ダメだよ。とても自分にそんな力があるなんて……」
詢子「……まどか、誰か助けたい人がいる。そうなんだな?」
まどか「……」
詢子「それは…まどかの言う、ほむらちゃん…なんだろ?」
まどか「……うん」
詢子「……アタシ、まどかの周りで何が起こって、どうしてそう思ったのかは…わからない。でもね……」
詢子「何か大変なことになってるんじゃないかくらいの想像はつく。それにほむらちゃんが立ち向かって行ってるのだとしたら」
詢子「きっとまどかの力が必要だと思うんだ。他の誰でもない、まどか…お前の力が」
まどか「わたしの…力……?」
詢子「まどか…お前の力は誰かを想ってやれる強さだ」
詢子「誰かが喜んでいるときも、悲しんでいるときも…その人のことを想い、行動できる」
詢子「それが、まどかの力だ。ほむらちゃんが苦しんでいるのなら、まどかが手を差し伸べてやらなきゃ。大事な人なんだろ?」
まどか「……うん。わたし、ちょっとほむらちゃん探してくる」
詢子「あぁ。……しっかしパパとタツヤはいつ帰って来るんだ?そんな混んでるのか……?」
まどか(……ママ、ありがとう。少しだけ、自信がついたよ)
まどか(でも…今回ばかりはそれだけじゃ何の役にも立てないんだ)
まどか(……わたし、どうしたらいいんだろう。ほむらちゃんのために、戦う力がほしい。だけど)
まどか(魔法少女になるわけには…それはほむらちゃんの努力を無駄にしちゃう……)
まどか(わたし…は……)
『大丈夫。わたしがいるから』
まどか「え…また聞こえた……?」
――――――
さやか「これで…どうだっ!?」
ワルプルギス「アハッ!」
さやかがワルプルギスの夜左腕の蔓を切り落とす
それに対し、右腕の蔓をさやかへ向けて思いきり振るう
だが、その攻撃がさやかへ届くことはなかった
杏子「余所見してんじゃねぇよ!その蔓、もらった!」
蔓がさやかへと到達するその前に
杏子が右腕の蔓を切り裂いた
ワルプルギス「アアアッ!」
ほむら「効いてる…のかしら?」
マミ「みたいね。両腕の蔓を斬ったら、少し苦しそうにしてるわ」
ほむら「ならいいのだけど…それより、次は私たちの番……」
私たちが攻撃を行おうとした、そのとき
ワルプルギスの夜の腕が再び変質していった
ほむら「また何か違うものに変わるみたいね…さやかと杏子を退避させて」
マミ(美樹さん、佐倉さん、一旦下がって!)
杏子(わかってる!今そっちに戻ってる!)
連絡をしたすぐあと、2人が戻って来た。ワルプルギスの夜がどう変化するのか、様子を伺っていると
インキュベーターが、再び口を開いた
QB「お菓子の魔女。性質は執着。暴食の口は全てを食らい尽くす」
ワルプルギスの夜の両腕から、巨大な蛇のようなものに大きな口がついた何かが現れる
どうやらあれは、病院に現れたお菓子の魔女の能力なのだろう
マミ「あいつ…確か病院に現れた……!」
さやか「あいつがあのときの……」
薔薇園の魔女、お菓子の魔女と立て続けに私のよく知る魔女の力を行使するワルプルギスの夜
召喚に使用されたという因果を持ったグリーフシード。初めのうちはまるでその意味が理解できなかった
だが、おぼろげながらその正体が見えてきたような気がする
因果を持ったグリーフシード。それは恐らく、私が繰り返してきたこの1ヶ月の間、この見滝原に現れた魔女のグリーフシードのことだろう
もしかしたら、他の地で回収した物もあるのではないかとも考えた
だが、ワルプルギスの夜がこの地に現れることを考えると私の推測は正しいはずだ
答えを知っているはずの張本人…インキュベーターにその推測をぶつけてみた
ほむら「インキュベーター。因果を持ったグリーフシードと言うのは、全てこの地に現れた魔女の物。そうでしょう?」
QB「よく気が付いたね。その通りだよ」
ほむら「そう……。なら、その数は5…いえ、さやかのは含めないから4体。それを全て潰せば、本当のワルプルギスの夜と戦えるってことね」
QB「あのワルプルギスの夜が偽物というわけでもないんだけど…そういうことになるね」
ほむら「……念の為に聞くわ。今の話に間違いや嘘は無いでしょうね?」
QB「僕は嘘を言わないよ。訊かれないから答えないだけさ」
ほむら「そう…ならもういいわ。黙ってなさい」
今の話が本当なのだとしたら、これからの変質にも対応できる
今発現しているのはお菓子の魔女の力。この地で出現した残る魔女は…箱の魔女、影の魔女…さやかの人魚の魔女、オクタヴィアは数には入らないだろう
あと3体の特性を潰せば…本当のワルプルギスの夜と戦える。私はインキュベーターから聞いた話を全員に伝達する
ほむら「みんな、よく聞いて。ワルプルギスの夜は、今のお菓子の魔女を含めてあと3体分の特性しか持っていない」
ほむら「それを全部潰してやれば、本当のワルプルギスの夜になるはずよ」
さやか「何だかよくわかんないけど…要はあの腕から出てくるものを片っ端から潰していけばいいってこと?」
ほむら「全てが腕から出てくるとは限らないわ。最大限の注意を」
杏子「わかってる!援護は任せたぞ、2人とも!」
マミ「えぇ、任せて!」
杏子「よし、そんじゃ行くぞ!」
さやか「うん!」
さやかと杏子は再びワルプルギスの夜へと向かって走って行った
薔薇園の魔女はともかく、ここからは一層注意を払う必要がある
コイツの場合は、頭を持っていかれないように……
ほむら「……またあんなことが起こらないといいけど」
マミ「あんなことって…あ、あぁ…あのことね……」
ほむら「もしものときは私が行くわ。あなたは突っ込まないで」
マミ「も、もうそんなことしないわよ……」
ほむら「ならいいけど。……一応、火力支援の用意だけはしておきましょう」
ワルプルギス「アハハッ!」
さやか「うおっと!」
杏子「気ぃつけろ!食らいつかれたら持ってかれるぞ!」
さやか「わかってる!……それにしても、厄介だね」
杏子「右か左、どっちかを先に仕留めた方がよさそうだな。両方まとめて相手するとヤバそうだ」
さやか「それじゃ…先に左腕の恵方巻きを何とかしよう」
杏子「左腕だな、わかった。まずアタシが行くから、さやかはその隙に真っ二つにしてやれ」
さやか「了解。……杏子、気をつけて」
杏子「わかってる。……先に行くぞ!」
ワルプルギス「アハッ」
杏子「テメェの相手はアタシだ!食らいつけるモンなら食らいついてみやがれってんだ!」
ワルプルギス「アハハハハ!」
杏子「遅いよ、ノロマ!そんな攻撃、食らうワケ無いだろ!」
杏子「これはお返しだよ……!多節槍、展開!」
ワルプルギス「ア……!」
杏子「捕まえた……!さやか!今だ!!」
さやか「わかってる!行くよ……!」
ワルプルギス「ア、ハ……!」
さやか「これで…どうだっ!!」
ワルプルギス「……!」
さやか「よし、まず1本……」
杏子「ひとまず少し下がるぞ!次のはそれからだ!」
さやか「わかった!」
ワルプルギス「……」
さやか「……あれ?もう1本の恵方巻き、引っ込めちゃったよ?」
杏子「……この辺なら大丈夫か。何をするにしたって、ここなら……」
ワルプルギス「アハハハハッ!!」
杏子「……ッ!さやか、逃げ……」
さやか「うわ……」
ズドォォォォォン
さやか「うおっ!?爆発!?」
ほむら「2人とも、大丈夫かしら」
さやか「ほむら…ごめん、助かった!」
私の危惧していた通り、2人が食らいつかれそうになってしまう
それを視認した私は時間を止め、急いで2人の下へと向かった
2人の目の前にまで迫った大口の中へ爆弾をいくつか放り込む
そして、爆風の被害が無いところへ退避してから時間停止を解除した
杏子「話には聞いてたが…すげぇもんだな、時間停止って奴は」
ほむら「……私にはこれしかないだけよ。それよりも、今は無駄話をしている場合じゃないわ」
さやか「うん…あ、まだ倒しきれてないよ!」
ほむら「まだ食らい足りなかったのかしら。それならこれで……」
ほむら「止めよ!」
腹の中で爆弾が炸裂したお菓子の魔女…のようなワルプルギスの夜の一部
私の爆弾によってダメージを負ったその部分へ止めの1発とばかりにロケット砲を撃ちこむ
ロケット砲の直撃を受け、お菓子の魔女…のような部分は完全に吹き飛んだ
ワルプルギス「アア…ア……!」
ほむら「これで2つ目…あと2体分ね」
マミ「美樹さん、佐倉さん!大丈夫!?」
さやか「大丈夫です。すいません、心配かけて」
杏子「……で、何でテメェまでいやがる」
QB「言ったじゃないか、戦いを見届けるって。ほら、それよりも次の魔女が出てくるよ」
インキュベーターの言葉を聞き、ワルプルギスの夜へ視線を戻す
次に出てくるのは箱の魔女か、影の魔女か。順番から言うと恐らく箱の魔女だろう
しかし、特にどこかが変質しているらしい部分は見当たらなかった
ほむら「変ね…どこも変わってないと思うのだけど……」
マミ「そうね…腕も特に変わった様子はないし……」
QB「箱の魔女。性質は憧憬。思い起こせ、己の過ちを」
ほむら「……ッ!」
杏子「クソ…何だ、コレ……!」
マミ「これが…箱の魔女の能力よ……!またこんな…精神攻撃を……!」
ワルプルギスの夜に何の変化も見られないと思った矢先、箱の魔女の能力、精神攻撃を受けてしまう
私の脳裏にありとあらゆる見たくない、思い出したくない映像が浮かび上がる
考えまいとすればする程、そのことを考えてしまう
思い出したくない映像を容赦なく叩きつけられた今、戦闘を続行することができなかった
やがて立っていることができなくなった私は、その場に蹲り頭を抱えた
さやか「う…あ……!」
QB「君たちが何を見せられているかはわからない。でも、その調子じゃ戦えないだろう?」
QB「もう全て諦めてしまったらどうだい?」
さやか「こんな…もので、諦めるわけ…ない!」
QB「……!」
さやか「誰にだって、思い出したくないことも、考えたくないことだってある!それでも……!」
さやか「あたしは自分に誓ったんだ。もう迷わないって。自分への誓いは、信念だ……!」
QB「……ならば君はその信念とやらで戦っているというのかい?」
さやか「そうだ。信念が…覚悟があるから、戦える。感情のないあんたには…一生わからないだろうけど」
QB「別にわかろうとも思っていないよ、そんなわけのわからないものは」
さやか「……それに、思い出したくないことだって、あたしの一部だ」
さやか「いいとこも悪いとこもひっくるめて…美樹さやかという、あたしなんだ!」
QB「……」
杏子「……アタシだって、自分と向き合ったんだ。家族のことは…目を逸らして、考えないようにしてた……」
杏子「だけど、今はもう違う。逃げたって何も変わらない。自分のせいであの悲劇が生まれたのだとしても」
杏子「……アタシはそれを受け入れる。受け入れて…アタシは変わる……!」
さやか「杏子…大丈夫なの?」
杏子「……あぁ。いつまでも逃げ続けるワケにもいかねぇしな。それに……」
杏子「お前が頑張ってるのに、アタシがダウンしてるワケにもいかねぇからな」
QB「……まさか精神攻撃を打ち破るとはね」
さやか「あたしたちは自分を認め、全部受け入れたんだ。もうそんなもの、効くもんか」
QB「だけど…あの2人は苦しんでいるみたいだよ?」
ほむら「ぐ…う……!」
マミ「私…そんなつもりじゃ……」
さやか「そんな…何で……?」
QB「簡単な話さ。2人は君たちのように自分を認め、受け入れることができていないんだ」
杏子「んなワケあるか!アタシらにできて、何で2人にできねぇんだ!」
QB「そんなこと僕に訊かれたってわかるはずないじゃないか。それだけ2人には認めがたい何かがあるんだろう」
さやか「とにかく何とかしないと…杏子はマミさんをお願い。あたしはほむらを……」
ほむら「……私は、大丈夫だから…2人はマミを……!」
さやか「で、でも…とても大丈夫には見えない……」
ほむら「いいから……!自分のことくらい…自分で何とかする……!」
さやか「……わかった。絶対、負けないでよ」
さやかは私にそう言うと、マミのところへと向かって行った
だが、自分で何とかするとは言ったが何をどうすればいいのか、まるでわからない
それに、まどかの最期の映像が頭の中に流れ続けているせいか碌に頭が働いてくれない
魔法で遮断することもできず、最初の時間のまどかから、ひとつ前の時間のまどかの死を延々と見せつけられる
私は、まどかを救う為に戦ってきた。だが、実際はどうだ。一体、何人のまどかを犠牲にしてきた?
私のしていることは、ただまどかを苦しめ、死なせているだけではないのか
認めるどころか、否定的なことばかりが浮かんでくる。私ではまどかを守れないのか。そう、思ったとき
誰かに呼ばれたような気がした。何の声も聞こえないが、確かに私を呼んでいる
その呼びかけに気づいたとき、私の視界にテレビの砂嵐のようなノイズが走る
ノイズは徐々に大きくなっていき、そして
私の意識は、どこかへと落ちていった
――――――
ほむら「……ここは…時間遡行の……?」
ほむら「どうなってるの……?私は確かワルプルギスの夜と戦って…まだ時間遡行をした覚えは……」
『待っていたわ』
ほむら「……!お前は…魔女?」
魔女「えぇ。でも私は、あなたの知る魔女とは少し違う魔女」
ほむら「そう…つまり、お前は……」
魔女「えぇ。私は、あなたの中の自分。もうひとりの暁美ほむら」
目の前の魔女が、私にそう告げる。自分がもうひとりの暁美ほむらである、と
黒い三角帽子のようなものを被り、黒いマントを羽織っていた
これが、もうひとりの私……
ほむら「……それで、私を呼んだのはあなたかしら?」
魔女「えぇ。あなたに言いたいことがあってね」
ほむら「言いたい……?」
魔女「あなた、さっき…自分ではまどかを守れないのか。そう、考えたわね?」
ほむら「それは……」
魔女「嘘を言ったって無駄よ」
ほむら「……そうよ」
魔女「あの程度の精神攻撃で惑わされてるんじゃないわよ。まどかとの約束を守るのでしょう?」
ほむら「……」
魔女「確かに、今まで数多くの時間で失敗し、その度まどかを辛い目に遭わせてしまったことは事実。だけど……」
魔女「あなたは覚悟したはずでしょう?何度繰り返すことになっても、まどかを救ってみせると」
魔女「何より、あなたは私との契約を反故にしようとした。それが気に食わないの」
ほむら「契約……?」
夢の中でも聞かされた、自分との契約。だが、私には何のことかさっぱりわからない
自分との契約のことについて、聞いてみることにした
ほむら「悪いけど…私、その契約というものに心当たりがないのだけど」
魔女「あなたは、確かに私と契約を交わしたわ。前回から今回への時間遡行の途中で」
ほむら「……時間と時間の狭間でのことだったせいかしら、全く記憶にないわ」
魔女「……それは予想外だったわ、ごめんなさい。でも、契約をしたことは事実。ちゃんと契約書に署名をしてもらってるわ」
そう言ってもうひとりの私は懐のような部分から何かの紙を取り出し、私に差し出した
見たこともない文字で読むことのできない契約書に、私の筆跡で暁美ほむらと名前が書かれていた
ほむら「……確かに私の字ね」
魔女「言ったでしょう?契約は事実だと」
ほむら「……それなら、私はあなたと一体何の契約をしたのかしら?」
魔女「……まどかを救い、まどかを守る。その、覚悟の契約」
魔女「それが、私とあなたが交わした契約よ」
ほむら「まどかを…守る……?」
魔女「そう。まどかを守れるのなら、その命を賭けられる。自分はどうなろうとも構わない」
魔女「何が何でもまどかを守り抜く。それが自分の存在理由」
魔女「あなたは、私にこう言ったわ」
ほむら「私…本当にそんなことを……?」
魔女「えぇ、言っていたわ。間違いなくね」
ほむら「……わからなくなってしまったの。私のしていることが正しいのか」
ほむら「もう…自信がない。私にまどかが守れるのか……」
魔女「あなたがやらなければ、まどかは確実に魔法少女となる。そして、凄惨な最期を迎えることになるわ」
魔女「それに、今回までの数多くの失敗は今回の成功に繋がるはず」
ほむら「それでも…私がまどかを殺してきたことに変わりはない。直接的にも、間接的にも……」
魔女「……そうやって自分を責めるのはやめなさい。まどかはそんなこと、望んでないはずよ」
ほむら「……何故、そう思うの?」
魔女「簡単なこと。まどかがあなたのことを好きだからよ」
魔女「まどかが望んでいるのは、あなたが自分で自分を責めることじゃない。隣で笑っていてくれることじゃないかしら」
ほむら「隣で…笑って……?」
魔女「そう。あなたが隣で笑っていてくれる。まどかにとって、それが1番の幸せだと思うわ」
魔女「……それに、まどかに告白されたのでしょう?」
ほむら「……」
魔女「まどかには…あなたが必要よ。そして、あなたもまどかを必要としている」
魔女「美樹さやかも言っていたでしょう?あなたたちの想いは通じ合っている、と」
ほむら「想いだけで…何ができるというの……。私じゃ、まどかを幸せには……」
魔女「……そう。あなたがそう言うのなら、きっとまどかは一生幸せにはなれないわね」
ほむら「何を……」
魔女「言ったはずよ。隣であなたが笑っていてくれる。まどかにとってそれが1番の幸せだって」
ほむら「あ……」
魔女「まどかは…誰よりもあなたが好きで、誰よりもあなたを必要としてくれている」
魔女「そう想われてるあなたが幸せにできないのに、誰がまどかを幸せにしてあげられるというの?」
ほむら「私は……」
まさか自分にこうも励まされるとは思いもしなかった
でも、こうして自分と話をして…自分の気持ち、自分の想いを再確認することができた
私の心の奥底に押し込んでいたまどかへの想い。ここに来て、私はようやく自分の本当の気持ちと向き合えた
魔女「夢であなたに聞いた、まどかとどうなりたいのか。ここで、答えを聞かせてもらうわ」
まどかとどうなりたいか。答えなんて、もう決まっている
私は少し考え、言いたいことを纏めてから自分の答えを伝えた
ほむら「……私、自分で勝手に諦めていた。まどかの隣に私は相応しくない、と」
ほむら「まどかの隣で手を繋ぐには…私の手は血に塗れているから、と」
ほむら「私ではまどかを幸せにしてあげられない…と」
ほむら「それに…私もまどかも女同士。だから、叶うわけないと思ってた。でも……」
ほむら「それでもまどかは…私を好きだと言ってくれた。私が言えなかったことを、まどかは言ってくれた」
ほむら「本当は…ずっと胸の内に秘めておくつもりだった。でも、今なら言える。私は……」
ほむら「まどかのことが好き。大好きよ」
魔女「……それが、あなたの本心?」
ほむら「えぇ。私はまどかが好き。……ううん、愛してる」
魔女「……それは取り繕った表面だけの言葉じゃないわね?」
ほむら「この気持ちが嘘か本当か…あなたならわかるはずでしょう?」
魔女「……ふふ、それもそうね」
ほむら「……もう大丈夫よ。本当の自分と…あなたと向き合えた今……」
ほむら「私の心に…迷いは無いから」
魔女「そう…それなら、あなたとの契約のことも大丈夫ね」
ほむら「契約……」
まどかを守り、救う覚悟。その覚悟は当然あるが、契約をした記憶が私にはない
それならと、私はもうひとりの私にこう持ちかけた
ほむら「……私と、もう1度契約してほしい」
魔女「契約書はもう頂いてるから形だけになるけど…いいかしら」
ほむら「……構わないわ。これは、私の覚悟の再確認。そして……」
ほむら「自分との契約をこの身に刻む為よ」
魔女「そう…そういうことなら、あなたに再度問うわ」
魔女「まどかを守れるのなら…その命、賭けられる?」
ほむら「……命を賭してまどかを守る。勿論、死ぬつもりなんてないわ」
魔女「まどかを救えるのなら…自分はどうなろうと構わない?」
ほむら「……人であることを捨てたはずなのに、この時間は何故だかソウルジェムが本体なんてことはなくなってた」
ほむら「何にせよ、魔法少女である以上…今更どうなろうと構わないと思ってた。だけど……」
ほむら「まどかが私を必要としてくれている…私の帰りを待っていてくれているのだとしたら…こんなにも嬉しいことはないわ」
ほむら「だから…何が何でもワルプルギスの夜を倒して…そして、まどかの下へ生きて帰る」
ほむら「……これが、私の覚悟よ」
魔女「……あなたの覚悟、確かに受け取ったわ。それにしても…変わったのね、あなたの覚悟」
ほむら「えぇ。きっとまどかのおかげよ」
魔女「あなた…記憶が……?」
ほむら「断片的にだけど。以前は…まどかに対してそういう気持ちがなかったから、守れるのならそれだけでよかった」
ほむら「でも、今は違う。まどかを守って、私も生きて帰る。そして、直接まどかに伝えるわ」
ほむら「……まどかが好きだって」
魔女「そう……。もう、大丈夫みたいね」
ほむら「手間をかけたわね。……私は戻るわ。戻って、ワルプルギスの夜と…戦う」
魔女「……時は全ての物事に結末を運んでくる。例え目と耳を塞いでいてもね」
魔女「そして、その多くは確定された結末…運命となる。あなたが見てきた結末のように」
ほむら「そんな運命、私が変える。変えてみせる。私は…時を操る魔法少女、暁美ほむらなのだから」
魔女「あなたが戦うというのなら、私も力を貸すわ。私だってあなたなのだから…まどかを守りたい気持ちは一緒よ」
ほむら「……ありがとう」
魔女「言ったでしょう?私はあなた、あなたは私だって。……それよりも、早く戻りなさい」
ほむら「えぇ、わかってるわ」
魔女「それじゃ、向こうで。……あ、私の名前は」
ほむら「大丈夫、わかってるわ。……じゃあ、向こうで」
私はそう言うと静かに目を閉じる。そして、次に目を開いたときには
私の意識は再び現実へと戻って来ていた
――――――
ワルプルギス「アハッ、アハハハッ!」
マミ「違う…違う、違う……!私、そんなつもり……!」
さやか「マミさん!マミさんってば!」
杏子「クソ…このままだとヤバいぞ!」
さやか「わかってるよ!マミさんは精神攻撃受けてるし、ほむらは意識がないみたいだし……」
QB「君たち2人じゃどうしようもないだろう?もう諦めたらどうだい?」
杏子「うるせぇ、引っ込んでろ!……マミ!ほむら!いい加減…目ぇ覚ましやがれ!」
現実に戻ってきた私が最初に聞いたのは、杏子の怒鳴り声だった。あれからどれだけの時間が経ったのだろうか
私はその場に立ち上がり、2人に声をかけた
ほむら「さやか、杏子……」
さやか「ほむら!大丈夫なの!?」
ほむら「えぇ…迷惑をかけたわね」
杏子「よし…あとはマミを叩き起こすだけ……」
ほむら「その必要はないわ」
さやか「ほむら……?それ、どういう……」
ほむら「……私1人で戦う。あなたたちはマミをお願い」
杏子「はぁ!?」
ほむら「戦える私たちが全員ここに残っても仕方ないわ。なら、私1人だけでもワルプルギスの夜に攻撃を加えるべきよ」
杏子「だがよ……!」
ほむら「……議論している時間はないわ。マミを頼んだわよ!」
私は伝えるべきことを伝えると、ワルプルギスの夜へ向かって走り出した
結界が無い以上、召喚はできない。だけど…力を貸してくれるはず
自分の心にそう問いかけてから、盾からロケット砲を引っ張り出し、ワルプルギスの夜へ向けて引き金を引いた
マミ「わ、わた、し……」
さやか「マミさん…やっぱり、ワルプルギスの夜…というより、箱の魔女の特性を倒さないとダメなのかな」
杏子「……」
さやか「ほむらみたいに、自分の中で結論を出せればいいのかもしれないけど……」
QB「まさかほむらが復帰するとは思わなかったよ。本来の魔女ならともかく、能力がケタ違いのワルプルギスの夜の精神攻撃のはずなのに」
QB「だけど、マミは駄目だろう。彼女は元々精神面は強くないからね」
さやか「そんなわけあるか!杏子も何か言って……」
杏子「……」
さやか「……杏子?」
杏子「……マミ、顔上げろ」
マミ「……」
杏子「……上げろっつってんだろ!」
さやか「ちょっ!?杏子!?」
杏子「よく見やがれ!精神攻撃食らって、意識まで飛んでたほむらが…立ち上がって、1人で戦ってるんだ!」
杏子「意識飛ぶほどキツいモン見せられて、それでもなおアイツを倒そうとしてるんだ!」
マミ「あ……」
杏子「アタシもさやかも…ほむらだって、自分を受け入れて、乗り越えたんだ!お前にできねぇワケねぇだろ!?」
杏子「お前は……!魔法少女、巴マミだろ!?アタシとさやかが憧れた…正義の魔法少女だろうが!!」
マミ「あけ…み、さん…みき…さん…さくら、さん……」
マミ「わた、し…私…私は……」
マミ「私は…魔法少女……!魔法少女、巴マミよ!!」
QB「……!」
さやか「マミさん!よかった……!」
杏子「……手間かけさせやがって」
マミ「2人とも、ごめんなさい。私が弱いばかりに……」
マミ「私…精神攻撃で両親に責められていたわ。どうして自分たちを助けてくれなかったのか、って」
マミ「実際…あのとき自分だけでなく、両親も助けていればって…心のどこかでそう考えていた」
マミ「だからこそ…あんなものを見せられてしまったのでしょうね」
さやか「マミさん……」
マミ「私が両親を助けられなかったのは事実。だからこそ私はそれを認め、受け入れないとなのに…それができなかった」
マミ「でも…美樹さんと佐倉さんの声を聞いて、暁美さんの戦う姿を見て…勇気が出てきた」
マミ「みんなは自分を受け入れられているのだから…私だけいつまでもそれを引きずっていられないって」
マミ「でも…本当は少しだけ、思っちゃったの。生きることを諦めて、両親の元へ行こうかな…って」
マミ「おかしいわよね…魔法少女となって、生きることを選んだのは私のはずなのに」
杏子「オイ……」
マミ「心配しなくてももう大丈夫。それに、私…決めたの」
マミ「例え何があっても…生きて、生きて、生き抜いてみせるって。それがきっと、両親が望んでることだと思うから」
さやか「マミさん……!」
QB「……全く、想定外だよ。心の弱いマミはもう立ち上がれないと思っていたんだけど」
マミ「……いつまでも弱いままの私じゃいられないのよ。目を逸らしていたことを見せつけてくれたことは、ある意味感謝してるわ」
QB「……」
杏子「それよりもお前ら、駄弁ってる暇ねぇぞ!ほむらの援護に……!」
マミ「美樹さん、暁美さんの現在位置は?」
さやか「え?えっと…あ、いました!あのビルの屋上です!」
マミ「あそこね…なら大丈夫。影響はないわね」
さやか「ま、マミさん?一体何を……」
マミ「結果としてよかったのかもしれないけど…よくもあんなもの、見せてくれたわね……!」
杏子「大砲!?ちょっと待て、アレって魔女がいなけりゃ撃てなかったはずじゃ……」
マミ「言ったはずよ?いつまでも弱いままの私じゃいられないって。心も、戦う力も。今の私なら、魔女がいなくとも……!」
さやか「きょ、杏子!一応ほむらにそこ動くなって伝えた方がいいんじゃない!?」
杏子「あ、あぁ!アタシが伝える!」
マミ「これはろくでもないもの見せてくれたお礼……!食らいなさい!」
マミ「ティロ・フィナーレ!!」
ワルプルギス「アハッ!アハハッ!」
ほむら「チッ……!」
何本目かのロケット砲を撃ちきり、次のロケット砲を引っ張り出そうと盾の中へ手を伸ばす
薔薇園、お菓子の魔女と違い明確な弱点がわからず、本体へ向けて攻撃を続けるが一向に特性が切り替わる様子はない
それに、ワルプルギスの夜の近くにいるせいか精神攻撃の影響を強く受けている気がする。心が何かに蝕まれている感じがした
早くコイツを倒さなければ。そう思っていたとき、杏子からのテレパシーが聞こえてきた
杏子(ほむら!そこを動くな!いいな!?)
ほむら(杏子……?動くなってどういうこと?)
杏子(いいから!動くんじゃねぇぞ!)
テレパシーの内容は一言、動くなということだった
何が何だかわからないが、攻撃を止めるわけにもいかない。盾から引っ張り出したロケット砲を発射しようとした、その瞬間
マミが放ったと思しき砲撃が、ワルプルギスの夜に直撃した
ほむら「今のはマミの……!どうなって……?」
ワルプルギス「ウア……!アアッ……!」
ほむら「……!」
マミ(暁美さん!一旦戻ってきて!)
ほむら(マミ?大丈夫なの?)
マミ(えぇ、心配かけてごめんなさい。もう大丈夫よ)
ほむら(そう…とりあえず、1度そっちへ戻るわ)
ダウンしているはずのマミからテレパシーが届き、少し驚いたが大丈夫そうだ
私はマミのテレパシーに従い、1度みんなのところへと戻った
ほむら「ふぅ……」
マミ「暁美さん、大丈夫?」
ほむら「えぇ。それよりもさっきのアレはやっぱりあなたの……」
マミ「私のティロ・フィナーレよ。今の私なら、魔女がいなくてもこのくらい……」
マミ「それよりも…ごめんなさい。あなただって辛いものを見せられたはずなのに、1人で戦わせてしまって」
ほむら「……気にしないで。それにあなたの心が弱いのも、知っていたから」
マミ「他の時間の私もそうだったの…迷惑かけっぱなしね、私。……でも、もう今までの私とは違うわ」
ほむら「そう…頼りにしてるわ」
マミ「えぇ、任せて」
さやか「……!みんな、見て!また形が変わってくよ!」
QB「影の魔女。性質は独善。全ての生命に平等な死を」
インキュベーターがそう言うと同時に、ワルプルギスの夜の腕部が変質する
枝のようなものが生い茂り、その根元には引きずり込もうとする影らしき黒い靄のようなものが見える
枝で絡め取り、影に引きずり込む魂胆なのだろう
杏子「あの枝を全部切り落としてやればいいんだな?」
ほむら「根本にある影に引きずり込まれたら終わりよ。気をつけて」
さやか「わかった!」
マミ「私たちは?」
ほむら「効果があるのかはわからないけど、ワルプルギスの夜本体に攻撃を」
マミ「わかったわ。生まれ変わった私の力、見せてあげる!」
ワルプルギス「アハハハッ!」
杏子「アタシは右腕に行く!さやかは左腕を頼む!」
さやか「了解!それじゃ、また後で!」
杏子「死ぬんじゃねぇぞ!」
ワルプルギス「アハハッ!」
杏子「……何も強くなったのはマミやさやかだけじゃねぇ……。一瞬で刈りつくしてやる……!」
杏子「行くぞ……!ロッソ・ファンタズマ!!」
さやか「でぇい!」
ワルプルギス「アハ……!」
さやか「細かいのはどうでもいい…大元をぶった斬ってやれば……!」
さやか「枝の大元は…あそこか……!」
ワルプルギス「……!」
さやか「そんな枝程度に、あたしが捕まるもんか!」
さやか「……あの黒いのに引きずり込まれるとヤバいって話だったから、この辺で……」
さやか「これで…どうだああぁぁっ!!」
杏子「おらっ!」
杏子「このっ!」
杏子「でりゃっ!」
杏子「はっ!」
杏子「……何だ、本当に一瞬で刈りつくしちまったな。さて…残るは大元……」
杏子「……コイツの次が、本当のワルプルギスの夜…だったか。それなら……」
杏子「さっさとその正体…見せやがれってんだ!!」
マミ「……!暁美さん、見て!」
ほむら「大丈夫、見えてるわ。……無事にやってくれたみたいね」
ワルプルギスの夜の変質した腕から生えた影の魔女の枝が左右ほぼ同時に切り落とされる
それと同時に、ワルプルギスの夜の苦しそうな笑い声が聞こえた
これで前哨戦…前座は終わりのはずだ。……ここからが本当の戦い。そう思っていると
辺りの空気が一変する。今まで以上に重苦しい空気が漂い始めた
マミ「……何、この嫌な感じ……」
杏子「マミ!ほむら!」
さやか「何だか嫌な感じがしたから戻ってきたんだけど…何がどうなってるの……?」
ほむら「……出てくるわよ。本当のワルプルギスの夜が」
QB「舞台装置の魔女。性質は無力。この世の全ては彼女の戯曲……」
ワルプルギス「アハ…アハハッ……!」
ワルプルギス「アハハハハハハッ!」
杏子「野郎…本性現しやがったな」
さやか「あれが…本当のワルプルギスの夜……!」
マミ「見た目は変わっていないはずなのに…威圧感がとんでもないわ……」
ほむら「わかってるわね?ここがスタートラインよ。……まず、私から行かせてもらうわ!」
私は周囲に多数のロケット砲を展開させ、そこで時間を止める
停止した時間の中で私は、ロケット砲を片っ端からワルプルギスの夜目がけて発射した
そして、最後のロケット砲を撃ったあと、時間停止を解除する
止まっていた弾頭が一斉にワルプルギスの夜へ向かって飛んで行き、着弾、爆発した
ほむら「……次!」
ワルプルギスの夜が現れる前に用意しておいた迫撃砲を作動、発射させる
出現位置からほとんど動かなかったことが幸いし、全ての砲弾はワルプルギスの夜に直撃した
それを確認してからタンクローリーを魔法操作し、橋の欄干からワルプルギスの夜へとぶち当てる
その途中でタンクローリーから飛び降り、川の中に隠しておいた巡航ミサイルを発射。ワルプルギスの夜ごと、最終地点へと飛んで行った
最後の仕上げにと、無数に設置した爆弾を起動。次の瞬間、耳を劈く轟音とともに地面が揺れ、巨大な火柱が噴き上がった
ほむら「……」
マミ「あ、あの…暁美さん……?」
杏子「……これさ、木端微塵に吹っ飛んでるんじゃねぇのか?」
さやか「銃やら何やらはまだいいんだけど、さすがのさやかちゃんもこれにはドン引きですよ……」
ほむら「……ごちゃごちゃ言ってる暇ないわ。この程度でくたばるような奴じゃないわよ」
爆炎の向こうから、ワルプルギスの夜が姿を現す
その身体には、私の砲撃、爆撃によるダメージは殆ど見受けられなかった
さやか「ウソでしょ…あんだけドッカンドッカンやってたのに」
マミ「魔力を介していない攻撃だからかしら…とにかく、まだ生きているのなら私たちが……!」
杏子「魔力を介した攻撃を叩き込んでやればいいってワケか……!」
マミ「そういうことよ。……さぁ、行きましょう!」
ほむら「ワルプルギスの夜…今度こそ、倒してみせる……!」
――――――
まどか「……」
ズドォォォン
まどか「わっ…何?爆発音……?」
まどか「……きっとほむらちゃんたち…だよね」
まどか(あれから時々誰かの声が聞こえるけど…これってやっぱり魔女なのかな……)
まどか(でも、わたしは魔法少女じゃないから召喚できるわけないし……)
まどか(わたし、ほむらちゃんを守るって決めたのに…わたしには何をすることもできない……)
まどか(ただこうして、ほむらちゃんが無事帰って来るように…祈ることしか……)
まどか(……悔しいなぁ。わたし、ほむらちゃんに守られてばっかりで…ほむらちゃんに何もしてあげられないなんて)
まどか(ほむらちゃんは…わたしに戦ってほしくない。でも、もしほむらちゃんたちが負けちゃうと…次の時間に行ってしまう)
まどか(わたし…そんなの嫌だよ……。わたしの、告白の返事…まだ聞いてないんだから……)
まどか(それに…これ以上、ほむらちゃんに苦しんでほしくない。魔法少女だから、戦わないわけにはいかないのかもしれないけど……)
まどか(でも、この地獄みたいな…終わらない1ヶ月から、一緒に未来へ進んで行きたい)
まどか(ほむらちゃんをこの1ヶ月に閉じ込めちゃったのは…私。だから、せめてわたしがほむらちゃんをここから連れ出したい)
まどか(だけど…何をどうしたらいいのか、何も……)
『大丈夫。心配しないで』
まどか「……!」
『あなたには力がある。全てを救済する、その力が』
まどか「誰なの……?あなた、一体誰なの?」
『わたしはあなた。あなたはわたし。こう言えばわかるよね?』
まどか「それじゃ、やっぱりわたしの……?」
『あなたの中にある、膨大な魔力を使ってこうして話しているの。だけど、そう長くは持たないと思う』
『だから、大事なことだけを聞くね。……あなた、ほむらちゃんを助けたい?』
まどか「も、もちろんだよ!」
『ほむらちゃんを守れるのなら…その命、賭けられる?』
まどか「え……」
『命を賭けてほむらちゃんを守る。……その覚悟があなたにはある?』
まどか「わ、わたし、そんなつもりは…ただ、ほむらちゃんと一緒に……」
『それはあなたの希望でしかないよ。わたしは覚悟を聞いてるの』
『魔法少女でもないあなたがほむらちゃんを守る。それを成すには、相応の覚悟が必要になる』
まどか「わたし…は……」
『……もう少しだけ時間はあるから、よく考えてみて』
まどか「……」
――――――
ほむら「く……!」
さやか「こ…のっ!」
杏子「クソ…数が違いすぎる……!」
ワルプルギス「アハハハハッ!」
視線の先で、ワルプルギスの夜が今の私たちを見て笑う
私の爆撃のあと、ワルプルギスの夜は使い魔を召喚した。自身のものに限らず、発現した魔女の使い魔の姿もある
ワルプルギスの夜が召喚した大量の使い魔への対処のせいで、武器の残りも心許なくなってきてしまった
なるべく強力な火器は残そうと今は両手に持った拳銃で凌いでいるものの、このままでは使い魔の圧倒的な数に押しきられてしまう
もう悠長なことを言ってはいられない。右手に握っていた拳銃を放り、盾の中の機関銃に手をかけたときだった
マミ「こうなったら…私が直接ワルプルギスの夜を狙うわ……!」
ほむら「あなたが……?」
マミ「使い魔が多すぎてワルプルギスの夜のところまで辿り着けないのなら…ここから直接攻撃するしかないでしょう?」
ほむら「……わかった、任せるわ」
マミ「えぇ。使い魔の方は…お願いね!」
使い魔「……!」
ほむら「させない……!」
杏子「テメェらの相手はこっちだ!」
さやか「マミさんの邪魔、するなっ!」
ワルプルギスの夜へ攻撃しようとしてることを察知したのか、使い魔たちが一斉にマミへ攻撃を仕掛ける
私とさやか、杏子はマミへ向かっていく使い魔を片っ端から叩き落としていく
攻撃準備の整ったマミは、ワルプルギスの夜へと砲口を向けた
マミ「行くわよ……!ティロ・フィナーレ!!」
マミが放った砲撃は、使い魔たちを薙ぎ払いながらワルプルギスの夜へ向かって一直線に飛んで行く
だが、ワルプルギスの夜に直撃はしたもののダメージを与えられたようには見えなかった
ワルプルギス「アハハッ」
マミ「冗談…でしょ……?ティロ・フィナーレが当たったのに……」
杏子「マミ!呆けてる場合じゃねぇぞ!」
必殺の一撃でも目に見えたダメージを与えられなかったせいか、ほんの少しの間マミは呆然と立ち尽くしてしまう
だが、それを見逃す程甘い敵ではない。無防備になっているマミへと、破壊された建物の残骸を放った
さやか「マミさん!危ない!!」
マミ「あ……」
ほむら「……ッ!」
盾の砂時計は既に砂が落ちきっていた。もう、時間停止は使えない
それに、考えている時間もない。私たちの身体より遥かに巨大な残骸が飛んで来ている
咄嗟に私はマミの前に出ると、盾を構え防御魔法を展開する
しかし、私の防御魔法では防ぎきれるはずもない。防御魔法を貫き、残骸が私に激突した
ほむら「う…ぐ……!……ゲホッ」
さやか「ほむら!!」
杏子「おい、しっかりしろ!!」
ほむら「……だい…じょうぶ、よ…この、くらい……!」
マミ「あ…ああ…私…暁美さんを…私のせいで……」
防御魔法のおかげでだいぶ激突時の衝撃を減らすことはできたが、それでも深刻なダメージを負ってしまった
あちこちの骨が折れ、特に左腕の損傷が酷い。内臓のどこかを痛めたのか、口からはとめどなく血が溢れ出す
私はすぐに全身の痛覚を遮断し、身体を動かせる程度までの修復を始めた
ほむら「私のことはいいから…ワルプルギスの夜を倒すことだけ、考えなさい……!」
マミ「……もう、無理よ。私のティロ・フィナーレでも…全然効果がないのよ……?」
杏子「誰も1発で倒せるなんて言ってねぇだろ!?1発でダメなら2発、3発…倒せるまで叩き込んでやれば……」
さやか「杏子!また使い魔が来てるよ!」
杏子「クソ…こんなときに……!」
ほむら「あなたは…もう諦めるというの?何もかもを……」
マミ「諦めたいわけ…ないでしょう……!だけど……!」
マミ「私たちだけじゃ…勝ち目がない……!」
ほむら「自分を見失ったら…それこそ、インキュベーターの思う壺よ……!」
ほむら「相手がどれだけ強大でも…強大だからこそ、心を強く持ちなさい……!」
ほむら「戦闘中に…安定性を欠いたり、暴走なんてしてみなさい…そこで、全て終わってしまう……!」
マミ「でも……!」
ほむら「なら…あなたはそこで見ていなさい……!私は、絶対に…諦めない……!」
ほむら「例え、ありったけの血を流そうが、心臓が破れようが…まどかを守る。守ってみせる……!」
そうは言ってみたものの、こちらの状況は圧倒的に不利だ。確かに、私たちだけでは勝ち目はないのかもしれない
そんなとき、どこからか声が聞こえてきた
『私はあなた、あなたは私……』
ほむら「……!」
ほむら「……えぇ、そうね。あなたと一緒なら…何が相手でも……!」
その声を聞いた瞬間、私は確信した。ここは結界内ではない、言うなれば現実の世界。召喚などできるはずはない
頭ではそう思っているはずなのに、私の心は正反対…ここで召喚できると信じていた
損傷の酷い左腕も動かせる程度には回復した。私はその場に立ち上がり、残骸との激突の際に手放してしまった拳銃を拾い上げる
そして、その銃口を自分の頭に押し当てる。この時間で過ごしたまどかとの思い出が浮かんでは消えていく
その最後に、まどかの優しい笑顔が見え、私に言ってくれた告白の言葉が聞こえた気がした
私は意を決すると薄く笑みを浮かべ、銃の引き金を引く
それと同時に、私の分身の名を紡いだ
ほむら「ホムリリー!!」
さやか「あれは……!」
杏子「ほむらの…魔女……?」
マミ「ここは…結界の外のはずでしょ……?」
ホムリリー「……」
私の背後に現れた魔女は、私が見たときと同じ姿をしていた
黒い三角帽子を被り、黒いマント羽織った私の魔女。これがもうひとりの私、ホムリリー……
マミ「暁美…さん……?どうして魔女を……」
ほむら「……話は後にして、まずは使い魔を片付ける。……ホムリリー、時間停止」
ホムリリー「……!」
砂が落ちきって時間停止が使えなくなった私に代わって、ホムリリーが時間停止を行使する
時間の止まった世界で私は盾から多数の機関銃を取り出し、魔法で辺りに展開させる。そして
ほむら「……撃て!」
私の号令と共に、全ての機関銃の引き金が引かれ一斉に火を噴いた
しばらく銃撃を続けたあと、もう十分と判断した私は銃撃を止め、機関銃を盾に収納し時間停止を解除する
解除した瞬間、周囲を埋め尽くしていた使い魔は1匹残らず消滅した
さやか「あれだけいた使い魔が…一瞬で……」
杏子「すげぇ……」
ほむら「……」
QB「そんな…有り得ない、現実世界で魔女の召喚を行使するなんて……」
ほむら「言ったはずよ?魔法少女は不条理を覆す存在。人間の、魔法少女の底力を思い知らせてやる、と」
QB「……」
ほむら「……さぁ、ここから反撃開始よ。あなたたちも魔女の召喚を」
マミ「え……?」
ほむら「魔女の召喚に必要なのは…覚悟。あなたたちにだって、心に決めた覚悟があるはずでしょう?」
さやか「そ、そりゃ……」
ほむら「なら、できるはずよ。何より、私にだってできたのよ?あなたたちにできない道理はないわ」
杏子「……わかった、やってみるよ」
さやか「杏子?」
杏子「ほむら1人に戦わせるワケにはいかねぇだろ?……それに、アタシたちだって魔法少女。だろ?」
さやか「……うん!」
マミ「先輩の私がこんなことで折れてちゃ駄目ね……。私も…頑張るわ」
杏子「……それじゃ、やるぞ」
杏子の言葉を合図に、3人は目を閉じ、集中する
3人なら必ずやってのける。そう信じ、見守る私にインキュベーターが話しかけてきた
QB「……君は別の時間からやって来た魔法少女だそうだね。それなら僕に君との契約の記憶がないことも理解できる」
ほむら「……それが何か?」
QB「……君はこの時間の存在ではない、イレギュラーだ。君にできたからって、彼女たちにできるとは限らないはずだよ?」
ほむら「私にできてみんなにできないはずはない。そう言ったはずだけど?」
QB「そんな簡単な言葉だけで片付けられるわけがないだろう?」
ほむら「片付けられようが何だろうが…私はそう信じてる」
QB「……やれやれ、わけがわからないよ」
ほむら「誰もお前に理解してもらおうなどと思ってないわ。……それに、どうやら私が正しかったようね。みんなの右手、見てみなさい」
QB「……!」
3人の翳した右手の上にソウルジェムが浮かび上がる
次の瞬間、3人はソウルジェムを握りつぶし、自分の分身の名を叫んだ
マミ「キャンデロロ!!」
さやか「オクタヴィア!!」
杏子「オフィーリア!!」
3人の背後に各々の魔女が姿を現す
私だけでなく、みんなも召喚に成功したようだ
ほむら「無事に召喚したみたいね」
マミ「えぇ。本当に出来るなんて、思ってもなかったけど」
さやか「あたしも…だけど、これで全力で戦える。今のあたしたちなら……!」
杏子「あぁ。ワルプルギスの夜に…勝てる!」
ほむら「私たちは…ワルプルギスの夜を倒す。そして……」
ほむら(そして…まどかに本当の気持ちを……)
さやか「ほむら?」
ほむら「……何でもないわ。行きましょう」
私たち魔法少女が4人に、魔女が4体
マミとキャンデロロ、さやかとオクタヴィア、杏子とオフィーリア。そして、私とホムリリー
私たち全員が力を合わせれば、絶対に勝てるはずだ
そんなことを思いつつ、私たちはワルプルギスの夜へ向かっていった
QB「……行ってしまったみたいだね」
QB「まさかここで魔女の召喚をするなんて…全くの想定外だよ」
QB「もしかしたら君たちなら、真のワルプルギスの夜を引きずり出せるかもしれないね」
QB「何も知らないから、君たちはワルプルギスの夜に立ち向かって行けるんだろう。だけど……」
QB「……ここで諦めた方が、君たちの為でもあったんだけどな」
QB「その方が、僅かな希望すら抱かずに済むだろうし……」
QB「……まぁ、君たちが戦うことを選ぶのなら、僕はそれを見届けるだけさ」
ワルプルギス「アハハハッ」
ほむら「ご丁寧にこちらを待ってるなんてね…その余裕、いつまで続くかしら?」
杏子「ほむら、どうする!?」
ほむら「まず私が仕掛ける。……ホムリリー、クロックダウン!」
私はワルプルギスの夜へ向けて時間操作能力を応用した魔法、クロックダウンを行使する
時間を止めることしか出来なかった私がこんなことができるようになるとは、思いもしなかった
きっと正反対の魔法も使えると思うが、今はこれだけでいい。私の魔法にかかったワルプルギスの夜は、目に見えて挙動が遅くなった
ほむら「今のうちに攻撃を!そう長くは持たないわ!」
杏子「わかった!さやか、準備できてるか!?」
さやか「できてるけど、何でまたあたしがオフィーリアに乗らなきゃいけないのさ!?」
杏子「黙ってろ、舌噛むぞ!……行け、オフィーリア!」
さやか「ちょっ!?うわ……!」
杏子の号令を合図に、さやかを乗せたオフィーリアはワルプルギスの夜へ向かって走り出した
オフィーリアを迎撃しようと行動を始めるも、私の魔法が効いているせいで上手く動くことができないようだ
杏子「ここなら……!跳べ!」
さやか「よっし…行くよ、オクタヴィア!」
ワルプルギスの夜に接近したオフィーリアは奴目がけて飛び上がる
さらにその馬上からさやかが飛び出した
さやか「その腕、もらったああぁぁっ!!」
杏子「食らいやがれっ!!」
ワルプルギス「ア……!」
オクタヴィアの巨大な剣がワルプルギスの夜の右腕を切り落とす
それとほぼ同時に、オフィーリアの槍が左腕を貫いた
杏子「どこ殴ればいいかわかんねぇが、これならどうだ!?」
マミ「私が仕上げを……!佐倉さん、美樹さんに退避指示を!」
マミ「……ロロ、やるわよ!」
ロロ「……!」
マミがそう言うと、キャンデロロの両腕が大砲へと形を変える
それに加え、周囲に無数の銃を展開させる。マミの周囲に現れたそれは、全て必殺の一撃の為の大砲だった
夥しい数の大砲の砲口がワルプルギスの夜へ向けられ、そして
マミ「ティロ・フィナーレ!!」
キャンデロロの砲撃を皮切りに、多重展開させた大砲が次々に火を噴いた
動きの鈍っているワルプルギスの夜にこの集中砲火を避けることなどできはしない
発射された砲撃の嵐が、ワルプルギスの夜に降り注いだ
マミ「私の本気、わかってもらえたかしら?」
杏子「いや…うん、ほむらも大概だったけどさ、マミはマミでおっかねぇよ……」
さやか「戻ったよ。今の集中砲火、マミさんのでしょ?すごいですよ、マミさん!」
マミ「本当は素敵な名前をつけたかったのだけど、時間がなかったのよね……」
ほむら「……待って。ワルプルギスの夜はどうなったの?」
杏子「あれだけ撃ち込まれたんだ、今度こそ……」
ワルプルギス「アハッ…アハハハハッ!」
さやか「ウソ…でしょ……?何で…効いてないの!?」
杏子「アタシとさやかがやった腕も…再生してやがる……!」
マミ「そんな…それじゃ、どうしろって言うのよ!?」
さやかと杏子に両腕を破壊され、マミに何十発と砲撃を浴びせられたというのに、まるでダメージがない
それどころか、破壊した腕が即座に再生してしまっている
いくらワルプルギスの夜が強力な魔女だとしても、有り得ない
もしかしたら、何か見落としがあったり見当違いのことをしているのではないか
そう思ったとき、ふとインキュベーターの言葉を思い出した
アイツは確かワルプルギスの夜のことをこう言ったはずだ。舞台装置の魔女、と
もし…もし、ワルプルギスの夜が舞台装置なのだとしたら、攻撃を加えるべきは下の人間の部分ではない
ほむら「人形を破壊しても舞台装置は止まらない…ということかしら……」
さやか「ほむら?」
ほむら「……みんな、聞いて。恐らくだけど…ワルプルギスの夜の弱点がわかったわ」
マミ「弱点?」
ほむら「えぇ。狙うべきは人形部分じゃない。スカート部の、あの歯車よ」
さやか「歯車?」
ほむら「インキュベーターは奴のことを舞台装置の魔女だと言っていた。それなら、歯車を破壊して舞台装置を止めてしまえば……」
杏子「ワルプルギスの夜を倒せる…ってのか?」
ほむら「……確証はないわ。だけど、他に思いつくようなこともない」
さやか「確証がないのなら、試すまでだよ」
杏子「あぁ、そうだな。ダメならダメで、またそのとき考えればいい。だから、今は……」
マミ「あの歯車の破壊だけを考えましょう?」
ほむら「……えぇ、そうね」
杏子「狙うべき部分がわかったんだ。全員でかかればきっと……!」
さやか「よし…それじゃ、行こ……」
ワルプルギス「アハハッ!」
話が纏まり、ワルプルギスの夜へと向かおうとした、丁度そのとき
ワルプルギスの夜が再び使い魔を召喚した
先ほどと比べて数は少ないようだが、それでも私たちの妨害には十分すぎる数だった
さやか「あいつ、また……!」
ほむら「懲りないわね…私が散らして……」
杏子「……いや、大丈夫だ。アタシに任せてくれ」
マミ「佐倉さん?何か考えが……?」
杏子「あぁ。お前ら、用意はできてるよな?」
ほむら「いつでも大丈夫よ」
杏子「了解。……行くぞ、オフィーリア!!」
さやか「杏子?ここで召喚して、何を……」
杏子「言ったろ、任せとけって。……よ、っと」
何か考えがあるらしい杏子はオフィーリアを召喚し、人部分の前方に乗り込んだ
そして、そのままの状態で杏子は自身の魔法を発動させる
杏子「ロッソ・ファンタズマ!!」
オフィーリアに乗った状態で魔法を発動させたからか、杏子と一緒にオフィーリアの数も増えていく
その数はどんどん増えていき、大規模な騎馬軍団となっていた
杏子「どうだい、即席の騎馬軍団は」
さやか「す、すごい……」
杏子「このままワルプルギスの夜まで突撃するぞ!使い魔はアタシたちに任せろ!」
マミ「こっちはいつでも行けるわ!」
杏子「よし、行くぞ!しっかりついて来いよ!」
そう言うと、杏子とオフィーリアの騎馬軍団はワルプルギスの夜へ向かって一斉に突撃を開始した
それを阻止しようと使い魔が向かって来るが、ただの1匹の撃ち漏らしもなく杏子とオフィーリアの槍の餌食となっていった
杏子「抜けた……!」
さやか「今から使い魔召喚を始めても、もう遅いよ!これなら……」
杏子「アタシの攻撃…まだ終わっちゃいないよ……!」
杏子は自身の分身を全て消し、魔力を集中させる
そして、ワルプルギスの夜に向かって跳び上がると、魔力を解放し、最大級の攻撃を放った
杏子「食らい…やがれええぇぇ!!」
魔力を解放した瞬間、オフィーリアの巨大な槍が更に大きな槍へと姿を変えた
巨大化した槍を構えたオフィーリアは歯車に向かって突っ込んでいく
そして、歯車にその巨大な槍を思いきり突き立てた
ワルプルギス「ア…ガッ……!」
マミ「……!暁美さん、効果が……!」
ほむら「えぇ、わかってる!どうやら当たりのようね……!」
さやか「あの歯車を破壊すれば……!先に行くよ!」
マミ「暁美さん、私たちも行きましょう!」
ほむら「えぇ……!」
先行したさやかの後を追い、私とマミもワルプルギスの夜へ攻撃を仕掛けるべく接近する
歯車を狙うに都合のいい建物を探し、その屋上に着地した
マミはすぐにキャンデロロを召喚し、砲撃態勢に入る。私の視線の先に、さやかがオクタヴィアを召喚し、歯車に攻撃を仕掛けるのが見えた
さやか「これで…どうだっ!?」
オクタヴィア「……!」
さやか「ぐっ……!硬い…でも!」
さやか「怯んでなんていられない!斬れないってんなら……!」
さやか「この剣を…突き立てるまで……!やって、オクタヴィア!」
オクタヴィア「……!」
さやか「こんのおおおぉぉぉっ!!」
ワルプルギス「アガアアアッ!?」
ほむら「さやかがやったみたいね。次は……」
マミ「次は…私の番よ!これで決めてみせる……!」
その言葉を聞いてマミの方へ振り返ると、マミとキャンデロロが大砲を構え、歯車に狙いをつけていた
先ほどのような多重展開はせず、確実に狙いをつけられる自分とキャンデロロの2発に絞ったのだろう
マミ「多重展開は狙いが逸れる…無駄撃ちなんてしていられない……」
マミ「それなら、私とロロの攻撃で…歯車を撃ち抜く……!」
マミ「食らいなさい……!ティロ・フィナーレ!!」
マミとキャンデロロが放った2発の砲撃は途中でひとつとなり、歯車へと向かって飛んで行く
ひとつとなったことでより威力を増したマミの一撃が歯車に突き刺さった
ワルプルギス「アハ…ハッ…ガアッ……!」
マミ「あれでも駄目だなんて……!」
さやか「ほむら!マミさん!」
杏子「どうすんだ?あともう少しだと思うが……」
ほむら「……後は私がやるわ」
マミ「あ、暁美さん!?」
ほむら「……大丈夫よ。これで全て、終わらせてみせるから」
みんなにそう伝えると、私はワルプルギスの夜へと向かって行く
私の接近に気付いたワルプルギスの夜は火炎を飛ばして反撃してくる
辺りに浮かぶ建物の残骸を利用し、攻撃を掻い潜る。そして
ワルプルギスの夜の最上部、歯車の上に降り立った
ほむら「……さすがにここまで攻撃は飛んでこないみたいね」
歯車にはマミとキャンデロロ、さやかとオクタヴィア、杏子とオフィーリア…みんなの攻撃によって無数のヒビが入っていた
あとは私がこの歯車を破壊して…それで、全て終わりだ
ズタボロになった弱点…歯車の上で大爆発を引き起こしてやれば、倒せるはず
ほむら「……それじゃ、始めましょう」
私は盾の中から先ほど使った弾の切れた銃を取り出し、自分の頭に突きつける
そして、目を閉じ、集中する。魔女を喚び出すのに必要なのは、覚悟
どうしてあの3人と私ではこうも召喚方法が違うのかはわからない。だが
私にはうってつけの召喚方法だ。まどかを撃ってしまった私にとっては……
それに、命を賭けてまどかを守ると覚悟したのだ。この程度のことに臆してなどいられない
自分の命を賭ける覚悟はしたが、それは何も死ぬ覚悟ではない。上手く言えないが、2つは全く違うものだ
私は命を賭してまどかを守る。これまでも、そしてこれからも。覚悟はとうにできている
私は目を見開くと同時に銃の引き金を引き、ホムリリーの名を呼ぶ
私の背後に、召喚されたホムリリーが姿を現した
ほむら「……これで最後よ。ホムリリー、時間停止」
私がそう言うと、ホムリリーの帽子に見える何かが作動し、時間が止まる
時間の止まっている間に、私は盾から残る全ての爆発物をその場にぶちまける。爆弾から手榴弾、ロケット砲……
最後に、爆発物の山へ向かって起動させた時限爆弾を放った。私の手を離れた時限爆弾は山なりの軌跡を描き、その途中で停止した
それを確認してから、歯車の上から離れる。さやかたちを見つけ、その側に着地してから、時間停止を解除した
マミ「……あ、暁美さん!ワルプルギスの夜に攻撃をするんじゃ……」
ほむら「えぇ。攻撃は全て時間停止中に行って、ここで時間停止を解除しただけよ」
さやか「攻撃終了って…まだ歯車は壊れてないけど……」
ほむら「……大丈夫よ。これで全て…終わりだから」
杏子「……そうか」
ほむら「そう…これで全て終わり。……くたばりなさい、ワルプルギスの夜……!」
私がそう呟いた直後、歯車の上で爆発が起こる
最初に放った時限爆弾の小さな爆発のあと、ありとあらゆる爆発物を巻き込んだ大規模な爆発が巻き起こる
爆発が収まってからワルプルギスの夜へと視線を向ける。その上部の歯車には、ここから視認できる程のヒビが入っていた
そのヒビ割れは見ている間にもどんどん広がっていき、そしてついに耐えられなくなったのか
ガラガラと音を立てて、歯車は崩壊していった
ワルプルギス「アア…ア……」
マミ「歯車が…崩れて……」
さやか「……ということは…あたしたち、勝ったの……?」
杏子「勝った…勝ったんだよ、アタシたちは!」
さやか「やった…やりましたよ、マミさん!」
マミ「えぇ…やったわ、美樹さん、佐倉さん!」
QB「……まさか本当に歯車を砕いてしまうなんて」
不意に背後からインキュベーターの声が聞こえた
振り返ると、インキュベーターが尻尾をゆらゆら揺らしながらこちらを見ていた
ほむら「……今更何の用?」
QB「用というほどのことじゃないよ。それよりも、君はどうして歯車が怪しいと思ったんだい?」
ほむら「お前が自分で言ったのでしょう?ワルプルギスの夜は舞台装置の魔女だと」
ほむら「その舞台装置の部品…歯車を破壊すれば倒せる。そう思っただけよ」
QB「……そうかい」
ほむら「お前が何の目的でワルプルギスの夜を召喚したかは知らない。知りたくもない」
ほむら「でも、そのワルプルギスの夜も私たちが倒させてもらったわ。……残念ね、目論見が上手く行かなくて」
QB「残念?何を言うんだい、むしろ願ったり叶ったりだよ。なんせ……」
QB「君たちはこの場で死ぬのだから」
ほむら「……今、何と言った……?」
QB「君たちはワルプルギスの夜によって殺される。そう言ったんだ」
杏子「何フザけたこと言ってやがるんだ?ワルプルギスの夜は……」
QB「もう勝った気でいるのかい?ワルプルギスの夜はまだ生きているというのに」
さやか「まだ生きてるって…どういうことよ!?」
QB「言葉通りの意味さ。ほら、見てごらん?」
ワルプルギス「フ…フフフフ……」
歯車を破壊し、倒したと思ったのも束の間、インキュベーターからまだ生きていると告げられる
そのワルプルギスの夜は歯車を失いはしたものの、今もなお空に浮かんでいた
何をするでもなく、気味の悪い笑い声を響かせていた
マミ「そんな…あの歯車は弱点ではなかったと……?」
QB「いや、歯車が本体だというのは本当さ。……ただ、本体のひとつと言ったところかな」
マミ「それじゃあ…まだ本体が残って……?」
QB「そういうことになるね。歯車が破壊された今、あの人形を破壊すれば倒せるはずだよ」
杏子「何でそんな面倒な……!」
QB「僕だって詳しいことは知らないよ。でも、ワルプルギスの夜は舞台装置の魔女だから……」
QB「歯車が舞台装置で、人形は演者…もしくは観客のどちらかを表しているんだと思うよ」
QB「歯車を破壊して舞台装置を止め、人形を倒して演者か観客がいなくなれば戯曲は終わる…ということなんじゃないかな」
ほむら「破壊した腕がすぐ再生したのは…舞台装置が生きていたからかしらね。でも、今なら……!」
さやか「もう歯車はぶっ壊したんだ……!今すぐあの人形を叩き斬って……」
QB「それは不可能だよ。言っただろう?君たちはワルプルギスの夜によって殺されるって」
杏子「苦戦はしたが勝てない相手じゃねぇ。魔女のいる今なら……」
QB「……君たちはワルプルギスの夜がどうして逆さまになっているのか、気にならないのかい?」
さやか「え?……そりゃまぁ、少しは」
QB「簡単なことだよ。魔法少女が2人3人集まったところで、ワルプルギスの夜は逆立ちしてたって勝てる」
QB「つまり、君たちはワルプルギスの夜に遊ばれていただけさ。……歯車を破壊されるまではね」
QB「歯車を破壊された瞬間、ワルプルギスの夜は君たちの認識を遊び相手から敵へと変える。君たちを戦うに相応しい相手だと認めたってことだ」
ワルプルギスの夜が反転している理由。私は単にそういう魔女なのだろうという程度の認識で戦っていた
もしかすると、今まで戦ってきたワルプルギスの夜も……?いや、今はそんなことはどうでもいい。それよりも……
ほむら「……今までの、戦う気のない状態であの強さだったのよ?私たちを敵と認識した、ということは……」
QB「君の思っている通りさ。全力で敵魔法少女…君たちを倒しにかかってくるだろう」
QB「ワルプルギスの夜が全力を出した以上、君たちに勝ち目は無い。……君たちだけならね」
ほむら「……」
QB「だけど、まどかが魔法少女になったのだとしたら話は別さ。まどかほどの素質なら、例えワルプルギスの夜が全力であろうと相手にならない」
QB「これ以上街を破壊させたくない。戦って死にたくない。そう思っているのなら、今のうちにまどかを連れて来ることを勧めるよ」
ほむら「……何をふざけたことを言ってるのかしら。まどかを契約させる?……私がそんなことさせるわけないでしょう?」
QB「……現に君たちはもう限界のはずだ。他に手段があるとも思えないけど」
ほむら「つくづく愚かな奴ね、インキュベーター。……どうして私たちの限界がお前にわかるというの?」
QB「……」
ほむら「それに、例え限界だったとしても…ワルプルギスの夜を倒すまで私たちは戦う。限界を超えてでも」
QB「限界を超える…だって?」
ほむら「感情の無いお前には理解できないでしょうね。覚悟や信念、執念と言ったものがどれほどの力を持っているのか」
ほむら「私は…命を賭けてまどかを守ると誓った。それは何もまどか本人だけじゃない」
ほむら「まどかの家族、まどかの友人知人、まどかの住む街…まどかの全てをこの手で守ってみせる」
QB「……君たちも同じ考えかい?」
マミ「当然でしょう。私たちの街と、そこに住む人たちを守る。……それが、魔女と戦える私の使命よ」
さやか「恭介に仁美を守る。それに、仲間のみんなの力になる。そう決めたから」
杏子「もう大切な誰かを失いたくない。アタシはアタシの大切な人を守るために戦う」
QB「……そうまで言うのならもう何も言わないよ。好きなようにやってみればいいさ」
ほむら「お前に言われるまでもないわ。戦って、勝つ。それだけよ」
QB「……」
ほむら「……みんな、もう少しだけ力を貸して」
さやか「あったりまえでしょ。あとはあの気色悪い人形を破壊すればいいんだよね」
杏子「魔力ももうあまり残ってないな…一気に決めようぜ」
マミ「ワルプルギスの夜を倒したら、またお茶会をしましょう。もちろん鹿目さんも一緒に」
ほむら「……ありがとう、みんな」
QB「……それなら、戦ってみるといいよ。全力のワルプルギスの夜がどれ程のものか」
QB「向こうもそろそろやる気になったみたいだからね」
インキュベーターの言葉を受けて、私たちはワルプルギスの夜へ視線を向ける
そこで目にしたのは、ワルプルギスの夜がゆっくりと反転していく姿だった
私たちがその姿を捉えたときには、もうそれを阻止するだけの時間は残っていなかった
そして、人形が上部へとやってくる。反転が完了したその瞬間、カチリと何かのスイッチが入ったような音が聞こえた気がした
それと同時に、ワルプルギスの夜の暴力的な笑い声が辺り一面に響き渡った
ワルプルギス「アハハハハハハッ!」
杏子「アレが本気になったワルプルギスの夜…ただひっくり返っただけかと思ったが……」
マミ「えぇ…ワルプルギスの夜の魔力かしら、酷く嫌な感じがする……」
さやか「空気が重すぎる…実際に押さえつけられてるような気さえしてくるよ」
ほむら「何にせよ…あの人形を潰せば、今度こそ倒せるのでしょう?」
QB「それは間違いないよ。歯車と人形、その2つがワルプルギスの夜を構築している核とも言える部分だからね」
さやか「嘘じゃないでしょうね……?」
QB「嘘じゃないさ。今までだって訊かれた以上は本当のことを話してきたじゃないか」
杏子「嘘じゃないってんなら…あの人形をブッ潰して、今度こそワルプルギスの夜を……!」
ほむら「あと少し…準備は?」
マミ「いつでも!」
杏子「大丈夫だ!」
さやか「あと一押し…頑張ろう!」
ほむら「……えぇ。この戦い…絶対に勝ってみせる」
ほむら「……みんな、行くわよ!」
私の言葉を合図に、私たちはワルプルギスの夜へ向かって走り出した
本気を出したワルプルギスの夜…恐らく、今まで以上に辛い戦いになるだろう
それでも…私は奴を倒す。必ず…倒してみせる
奴を倒せるのなら手段は選ばない。……例え、私の全てを投げ捨てることになったとしても
――――――
まどか「……っ!何…今の……?」
まどか「何だろう…すごく嫌な感じがする……」
『……もう、時間がないみたい。今のはきっとワルプルギスの夜の魔力』
まどか「ワルプルギスの夜の……?」
『うん。その魔力が急に大きくなったのを感じたんだ。今まで本気で戦ってなかったって感じなのかな』
まどか「本気になったってことは…そうだよ、ほむらちゃん…ほむらちゃんは無事なの!?」
『それは…わからない。でも、このままだと……』
まどか「そんな……」
『……魔法少女でもないあなたがほむらちゃんを守る。それを成すには、相応の覚悟が必要になる』
『……さぁ、答えを聞かせて。あなたの覚悟を』
まどか「わたしは……」
まどか(……ほむらちゃんは…わたしのためにずっと戦ってきてくれた。わたしを守ってきてくれた)
まどか(今ここにいるわたしだけじゃない…過去のわたしのことも全力で守ろうとしてくれてたんだと思う)
まどか(きっとどの時間のわたしも…ほむらちゃんに守られてばかりだったんだろうな……)
まどか(わたしには何の力もない。だから、自分は無力なんだって…さっき自分でそう思っちゃった。でも……)
まどか(もし…もしわたしに力があるのなら…大事な人を…ほむらちゃんを守れるのなら……)
まどか(……うん。迷うことなんて何もない。わたし……)
まどか「……もし、ほむらちゃんが危険な目に遭ってて…それを救えるのがわたしだけだとしたら」
まどか「わたしは…ほむらちゃんを守りたい。……全てを捨ててでも、ほむらちゃんを守ってあげたい」
『……そっか』
まどか「わたし…ずっとほむらちゃんに守られてきた。だけどそのせいでほむらちゃんをこの時間に閉じ込めちゃった」
まどか「ほむらちゃんを閉じ込めてしまったのがわたしなら…ほむらちゃんを未来に送り出すのもわたし」
まどか「何より…ほむらちゃんへの告白の返事、まだもらってないし、それに……」
まどか「……あれこれ理由を並べるより、この一言の方がわかりやすいよね」
まどか「わたしは…ほむらちゃんが大好きだから。大好きな人を何が何でも守ってみせる」
まどか「……それが、わたしの覚悟だよ」
『……わかった。あなたの覚悟、確かに受け取ったよ』
まどか「……それよりも、早く行かないと…ほむらちゃん……!」
『きっとワルプルギスの夜の近くにいるはず…わたしが案内するよ』
まどか「……うん、お願い」
『……言ったよね、わたしはあなた、あなたはわたしだって。わたしだってほむらちゃんを守りたいんだ』
『……急ごう。全てが手遅れになってしまう前に』
まどか「……うん!」
――――――
ワルプルギス「アハハハッ!」
杏子「クソ……!マミ、今ので何発目だ!?」
マミ「もう数えてないわ……。少なくとも10発以上は撃ち込んだはずよ……?」
さやか「10発以上…それだけ撃ち込まれてるのに、何で……」
さやか「何でダメージがないのよ!?」
杏子「キュゥべえの野郎…最後の最後で大ホラ吹きやがったか!?」
ほむら「……単純にこちらの火力不足ね。奴の装甲を撃ち抜けない……」
さやか「火力不足って…これ以上どうしろって言うのよ!?」
弱点さえわかっていれば必ず勝てると信じ、反転したワルプルギスの夜と交戦を続けるもそう上手くは行かなかった
それどころか、その圧倒的な強さに私たちは次第に追い込まれていった
吹き荒れる暴風は強さを増し、放ってくる火炎も規模が大きくなっている
何より、弱点と思われる人形に攻撃を集中させるもとてもダメージを受けているとは思えなかった
さやかと杏子が両腕を破壊できた反転前とは明らかに強さが違いすぎる
ワルプルギス「アハッ!」
さやか「杏子、炎が来たよ!」
杏子「わかってる!防御はアタシがやるから、マミは……!」
マミ「えぇ……!行くわよ、キャンデロロ!!」
ロロ「……」
マミ「ティロ・フィナーレ!!」
マミとキャンデロロの砲撃がひとつとなり、ワルプルギスの夜に直撃する
だがその攻撃も虚しく、未だ余裕といった笑い声をあげていた
マミ「これでも…駄目だなんて……」
さやか「くそ…あたしとオクタヴィアで直接攻撃を……!」
杏子「さやか、待て!……ほむら、どうすんだ!?」
ほむら「え……」
杏子「アタシらはアイツと戦ったことなんてないんだ!だから実際戦ったほむらが指示を出してくれ!」
ほむら「わ、私だってあの状態のワルプルギスの夜は初めてよ」
杏子「経験ゼロのアタシらよりかはマシだろ!?頼む!」
杏子にそう頼まれた私はこの現状を打破するべく策を練る
マミ、さやか、杏子の3人は魔力が残り少ないはずだ。私自身の魔力も、もう余裕はない
魔力が底を突く前に奴を倒さなければ。それができなければ…何もかもが終わってしまう
私はいくつかの策を考え、その中から最大のリターンを得られるものをみんなへ伝達する
ほむら「……以上よ、何か疑問点は?」
杏子「大丈夫だ!それで行くぞ!」
さやか「疑問があろうがなかろうが、やるしかないからね……!」
マミ「もう余裕はない…何としてもこれで決めましょう!」
杏子「あぁ、そうだな。……よし、さやか!行く……」
ほむら「……!待って!杏子、防御魔法を!」
杏子「あん?何を……」
ほむら「いいから!早く!!」
ワルプルギス「アハハハハッ!」
作戦が決まり、ワルプルギスの夜へ攻撃を仕掛けようとした、まさにそのときだった
ワルプルギスの夜の前方に魔力が集中し、黒い何かを形成し始める
それを何らかの攻撃と見た私は杏子に防御魔法を展開するように指示を飛ばす
杏子が鎖の防御魔法を展開した直後、集中させていた魔力が解き放たれた
解放されたワルプルギスの夜の魔力は衝撃波となり、私たちに襲いかかった
杏子「ぐ…お……!」
さやか「杏子!」
杏子「……ク…ソ、このままじゃ…オフィーリア……!!」
杏子「多重魔法障壁…展開……!」
オフィーリアを召喚した杏子は防御魔法を幾重にも張り巡らせる
杏子の展開した防御魔法をマミのリボンが繋ぎ合わせ、ひとつの巨大な防御魔法となり、衝撃波を受け止めた
できることが何もない私は、攻撃を受け止めている杏子をただ見守るしかなかった
次第に防御魔法を軋ませていた衝撃は緩くなっていき、やがて完全に消滅していった
杏子「ハァ…ハァ…ほむ、ら…助かった……」
杏子「あのとき…お前が、指示出してくれなかったら…直撃してたな……」
ほむら「杏子、しっかりして。魔力の残りは?」
杏子「もう…殆ど残っちゃいねぇな……。すまねぇ……」
ほむら「……いえ。助かったわ、ありがとう」
さやか「それよりどうするの?杏子、もう残りがヤバいんでしょ?」
ほむら「……3人で仕掛けるしかないわね。杏子が抜けた分、負担が増えるだろうけど…やるしかないわ」
マミ「佐倉さんは休んでいて。あとは私たちが……」
杏子「肝心なところで…ガス欠なんてな……」
さやか「大丈夫だって。あたしたちがあのキモい人形、ギタギタにして来るから」
杏子「……あぁ、頼む。それじゃ、防御魔法…解除するぞ……!」
ほむら「えぇ。……さぁ、行くわよ!」
私の言葉を合図に、杏子は防御魔法を全て解除する
それと同時に、私とさやか、マミの3人はワルプルギスの夜目指して突っ走った
だが、今のワルプルギスの夜には近づくことすらできなかった
ワルプルギス「アハッ!」
さやか「うぐ…っ……」
マミ「あ…う……」
ほむら「く…ッ……」
私たちが走り出した直後、身体を何かに抑え込まれるような感覚に囚われる
この重苦しい空気のせいだと思っていた。だが、そうではない
気持ちや空気の問題じゃない。実際に身体が重い。それがワルプルギスの夜の仕業だとわかったときには、もう手遅れだった
ワルプルギスの夜の魔力が私たちに圧し掛かる。重力負荷が何倍にも膨れ上がったような気がした
この程度のことに屈するわけにはいかない。ここで倒れるわけにはいかない
そう思っていたが、両隣にいたさやかとマミが崩れ落ちる。限界を迎え、圧し掛かる魔力に抗えなくなったのだろう
ほむら「さや、か…マミ……!」
さやか「行って、ほむら……!行って、ワルプルギスの夜を……!」
ほむら「でも…私1人では……」
マミ「まだ…倒せる可能性は残っているでしょう……?なら、行きなさい…暁美さん……!」
さやか「可能性が残ってるのなら…諦めるには、まだ…早いよ……!」
ほむら「……わかった…私は、アイツを……!」
2人の言葉を受け、私はワルプルギスの夜へと向かう。重圧により走ることは叶わず、1歩ずつ歩みを進める他なかった
だが、ワルプルギスの夜へ近づけば近づくほど、魔力による重圧は重みを増していく。身体中がギシギシと悲鳴を上げる
重圧が増した分だけ、私の歩みが鈍くなる。やがて、私の足は完全に止まってしまった
まだワルプルギスの夜は視線の先で笑っている。ここで立ち止まっている場合じゃない。足を動かせ
頭が前に進めと指令を出すも、これ以上進むことができない。そして
重圧に耐え切れなくなった私は、その場に倒れ伏した
ほむら「こんなところで…寝てる、場合じゃ……!」
ほむら「私…私は……!」
倒れても尚ワルプルギスの夜の魔力による重圧が私を襲う
身体が鉛のように重い。立ち上がろうとするも、指1本動かすことができなかった
それでもと襲い来る魔力に抗っていると、インキュベーターが倒れた私のすぐ目の前に座っていた
QB「これでわかっただろう?全力のワルプルギスの夜がどれ程のものか」
ほむら「インキュ…ベーター……!」
QB「自分たちは歯車を破壊した。だから全力のワルプルギスの夜が相手でも勝てるんじゃないか」
QB「君たちはそう信じて疑わなかったのだろう?遊びのつもりだったときでさえあれだけ苦戦していたというのに」
QB「それでも倒す手段があるのならと、僅かな希望を抱いて戦った結果がこれさ。君たちではどう足掻いてもワルプルギスの夜には勝てない」
QB「ワルプルギスの夜に敗れ去る。それが君たちの運命だ」
ほむら「……ッ!」
QB「どうせ最後になるんだ。ワルプルギスの夜を召喚した目的も教えてあげるよ」
QB「僕たちがワルプルギスの夜を召喚する目的。それは、まどかを契約させる為さ」
ほむら「まどか…を……」
QB「……いや、この言い方は正しくないね。正確に言うのなら、莫大な才能を持った少女を契約させる為、だね」
QB「莫大な才能を持った少女が真の魔女として覚醒したときに生まれるエネルギー量は、そこらの魔法少女とは比べものにならない」
QB「ワルプルギスの夜の召喚に必要なのは因果を持ったグリーフシードだと言ったよね。その因果と才能のある少女は引かれあうとでも言うのかな」
QB「同じ時期、同じ地に現れるんだ。まるで世界がそうさせているみたいにね」
ほむら「それで…契約、を……」
QB「街が破壊され、人が死ぬ。自分の周りが地獄と化せば、自然と願いは出てくるものだろう?」
QB「街を元通りにしてほしい。人を生き返らせてほしい。そういった願いがね」
QB「だけど、魔法少女になったが最後。魔女となり、エネルギーを生み出すしかないのさ」
QB「魔女と戦い、敗れ、命を落として真の魔女に覚醒する者」
QB「願いの理想と現実の乖離に気づき、自身を受け入れることが出来ず、暴走した自分の魔女に殺され、真の魔女に覚醒する者」
ほむら「お前は…何が言いたい……」
QB「簡単な話さ。君もまどかも、全て魔女となり、エネルギーになる。それが魔法少女の運命だ」
QB「過程は違えど、結末はみんな一緒だ。君たちは死によって終わりを迎え、もうひとりの君たちは死によって真の魔女となる」
ほむら「インキュベーター…貴様……!」
QB「いくら喚いたところで無意味さ。君にはもう何をすることもできない。だけど……」
QB「君にはその力がある。君ほどの才能があれば、彼女たちを救うことだってできる。だから……」
QB「まどか、僕と契約して、魔法少女になってよ!」
インキュベーターがまどかの名を呼ぶ。この場にまどかがいるということなのだろうか
地に倒れ、身体を動かせない私にはその姿を確認することはできない
このワルプルギスの夜の魔力による重圧の中、まどかがいられるはずがない
しかし、誰かが私の方へと近づいて来る。そんな気配を感じた
やがてその気配の人物は私のすぐ側で立ち止まる。そして
私はその誰かに抱き起こされた。私を抱き起こした人物。それは……
ほむら「まど…か……」
まどか「……」
ほむら「まどか…どうして、ここに……」
まどか「……ほむらちゃんを助けに来たの」
ほむら「私を……?」
QB「よく来たね、まどか。……契約して魔法少女となり、宇宙の為に魔女になる覚悟ができたのかい?」
まどか「……わたしは、ほむらちゃんを助けに来ただけ。魔法少女になんて…なるつもりはないよ」
QB「ほむらを守る?確かに君は契約したのなら、ワルプルギスの夜すら足元にも及ばない程の魔力を持っているはずだけど」
QB「魔法少女でない君はただの人間だ。自分の身を守ることすらできないのに、どうしてほむらを守れると言うんだい?」
まどか「それは……」
QB「君以外の魔法少女は全員再起不能だ。君を守ってくれる人はいない。その現状で、アレをどうするつもりかな?」
ワルプルギスの夜の放った火炎が私とまどかへと迫ってくる
まどかにアレをどうにかする力はない。私を置いて逃げろと言ってもそれを聞き入れる彼女ではないだろう
QB「さぁ、どうするんだい?このままだと2人まとめて丸焦げになってしまうよ?」
まどか「……っ」
まどかが火炎から庇うように私を抱きしめる。その間にも火炎はどんどん私たちに向かって来る
私はまどかに何をさせているのだろうか。魔法少女でもないまどかに庇ってもらっているなんて
私自身のことはどうだっていい。だが、ここにはまどかがいる。まどかがいるのなら…私はまどかを守る
友達だから。大事な人だから。……何よりも、私の好きな人だから。大好きなまどかを、何が何でも守ってみせる
私は左腕を伸ばすと、迫り来る火炎に向けて盾を構える。防御魔法と衝突した火炎は弾けて消滅した
QB「……!」
まどか「ほむら…ちゃん……」
ほむら「……まどかは…私が守る……。ここで私が諦めたら…全て終わってしまう……」
ほむら「私は…そんなの、認めない……!まどかを守る為にも…力を貸してくれたさやか、マミ、杏子の為にも……」
ほむら「ここで終わりにするわけには…いかない……!」
そう言うと私はワルプルギスの夜の重圧を跳ね除け、立ち上がる
まどかが来るまでは指1本動かせなかったのに、と自分でも立ち上がれたことに少し驚いた
きっとまどかが力を分けてくれたのだろう。勿論それが本当かどうかはわからないが、私はそう結論付ける
QB「そんな…有り得ない、君にはもうそんな力は残っていないはずなのに……」
ほむら「まどかの為ならば…私は何度でも立ち上がれる。この命を賭けて…まどかを守る……!」
QB「わけが…わからないよ。君は一体……」
ほむら「私は…暁美ほむら……。魔法少女よ……!」
QB「……何にせよ、ワルプルギスの夜を倒すなんてまどかが契約しなければできるはずはないよ」
QB「莫大な才能と因果を持った少女を契約させる為の魔女だ。君が勝てるはずが……」
まどか「ほ、ほむらちゃん、わたし……」
ほむら「……何も心配しなくていいわ。確かに私では…本気になったワルプルギスの夜には勝てないかもしれない。でも……」
ほむら「奴を葬る手段は…まだあるわ。……出なさい、ホムリリー!!」
今の私にはワルプルギスの夜を正攻法で倒す手立てはない。相手が全力であるのなら、なおさらだ
だが、ひとつだけ…上手く行けば私1人で奴を葬ることができる方法がある
ホムリリーを初めて召喚し、その能力が頭に流れ込んできたときに見つけた手段。正攻法で勝てるなら…使わずに済むのならそれに越したことはない
何より、もうひとりの私との契約を反故にしてしまうかもしれない。しかし、このままではきっとまどかは契約してしまうだろう
私の覚悟、私との契約…それも大事なものには違いない。ただ、私にとって何よりも大事なもの、守るべきものがある
それが、まどかを守ること。何よりも…私のことよりも優先されることだ
これを実行してしまえば、自分がどうなるかは検討もつかない。それでも、自分で言ったはずだ。命を賭けてまどかを守る、と
覚悟を決めた私は盾から取り出した弾の切れた銃で自分の頭を撃ち抜く
私の背後にもうひとりの私…ホムリリーが顕現した
QB「今更君の魔女を召喚してどうするつもりだい?ワルプルギスの夜を葬れるとは到底思えないね」
ほむら「そう思いたければそう思っていればいい。私は…ワルプルギスの夜を始末する。今度こそ」
QB「何度やり直したかは知らないけど、嫌という程には繰り返してきたんだろう?何度やっても同じ結末だ。それが運命というものさ」
ほむら「……時というのは全ての物事に結末を運んでくるわ。目と耳を塞ぎたくなる程に残酷なものだとしても」
ほむら「いくら変えたいと願っても、その多くの物事は変えることのできない結末…運命となる」
QB「そこまでわかっているのならもう気づいているはずだ。鹿目まどかが魔法少女となり、魔女となる。それが運命だと」
ほむら「私の話を聞いた上でその結論…インキュベーター、お前はどこまで愚かなのかしら」
ほむら「私は…時を操る魔法少女。時を操れるのなら、運命だって変えられる。まどかを苦しめる運命も因果も、私が全て葬ってみせる」
まどか「ねぇ…ほむらちゃん……」
ほむら「……まどかの運命を、こんなところで終わらせない。これで、全てに決着をつける」
まどか(何だろう…何か嫌な予感がする……。ほむらちゃん、もしかして……)
まどか(……もし、もしほむらちゃんがそう思ってるのだとしたら…そのときは、わたし……!)
いつの間にか私を襲っていたワルプルギスの夜の魔力による重圧は消えて無くなっていた
私たちを行動不能に陥らせる、圧殺する…何が目的かはわからないが、それが果たせないと感じ、再度攻撃を仕掛けようとしているのだろう
何度叩き潰しても立ち上がる私が面白くないのか、もう笑うことをやめていた。辺りには気味の悪い魔力が渦巻いていた
ほむら「今になって攻撃準備に入ったところで遅いわ。お前は消えるのよ…私と一緒に」
QB「消える……?君の魔法は限定的な時間干渉…まさか……!」
ほむら「えぇ。きっと今お前が考えていることが正解よ」
QB「君は正気なのかい?そんなことをすれば、君自身がどうなるかわかったものじゃ……」
ほむら「元より、覚悟の上よ。ワルプルギスの夜を始末できる絶好の機会…逃すわけにはいかない」
まどか「ほむらちゃん…何を……?」
ほむら「……ごめんなさい、まどか」
まどか「え……?」
ほむら「……やるわよ、ホムリリー」
ホムリリー「……」
ほむら「これで…全て終わらせる……!時空間結界、展開!」
私の言葉を合図に、ホムリリーの羽織っているマントが変質する
変質したホムリリーのマントがバキバキと音を立てて周囲の空間を侵食し、結界を造り出していく
時空間結界は瞬く間に広がっていき、辺りの風景は嵐の吹き荒れる街から、時計のような意匠の施された結界内部へと変わっていった
ワルプルギスの夜が私に襲いかかるも、捻じ曲げた時空に囚われ何も行動を起こすことはできなかった
結界の展開がほぼ完了し、あとは私の後ろにある外への出口を塞ぐだけ
だが、その前に彼女を外へ出さなくては。私は自分のすぐ側に立っていた彼女へ声をかけた
ほむら「……まどか」
まどか「……」
ほむら「……まどか、結界から出て。その出口を…塞がないと」
まどか「……ほむらちゃんは…どうするの」
ほむら「私は…この結界の中に残る。誰かが魔力を供給しなければ、結界は消滅してしまうだろうから」
まどか「……この結界が完成して、ほむらちゃんが中に残る…それって、どういうことなの……?」
ほむら「……出口を塞いだ瞬間、時空間結界は今のこの時間から切り離され、時間と時間の間…時空の狭間を漂うことになる」
ほむら「恐らく…2度と元の時間には戻れなくなると思う……」
まどか「……嫌だよ…ほむらちゃんと会えなくなるなんて…そんなの、嫌だよ!」
まどか「ずっと…永遠にここでひとりぼっちになるなんて…死ぬよりも辛いよ……!」
ほむら「……お願い、まどか。ワルプルギスの夜を葬るには…もうこれしかないの」
ほむら「倒せないのなら…私と一緒に通常の時間から追放してしまえばいい」
まどか「でも…でも……!」
ほむら「私の目的は…あなたを魔法少女にさせず、生きてワルプルギスの夜を乗り越えること」
ほむら「ここでチャンスを逃せば…私はまた最初からやり直しになってしまう。だから……」
まどか「嫌だよ!ほむらちゃんのいない世界なんて…わたし……!」
ほむら「……」
まどか「それに……!ほむらちゃん、言ったはずだよ!生きて帰って来るって!」
まどか「生きて帰って…わたしに返事、聞かせてくれるって…言った…はずだよ……!」
まどか「ほむらちゃん、わたしに嘘なんて言わないんじゃなかったの!?あの約束、嘘だったの!?」
ほむら「……」
まどか「何とか…何とか言ってよ!ほむらちゃん!」
ほむら「……ない…じゃない……」
まどか「えっ……」
ほむら「嘘なわけ…ないじゃない……!私…私は……!」
ほむら「私は…まどかが好き、大好きよ!ずっと…一緒にいたいって…そう思ってる……!」
まどか「ほむら…ちゃん……」
ほむら「だけど…もう他に倒す手段が無い……。さやかたちは戦闘不能…あなたを契約させるわけにはいかない……」
ほむら「現状で唯一、奴を確実に葬れる手段は…これしかない。私の存在と引き換えに、時空の狭間に封印する」
ほむら「自分の言葉通り…命を賭けてまどかを守る。……まどかを守れるのなら、私は……」
まどか「わたしは…認めない……。ほむらちゃんが犠牲になるような方法なんて…認めない!」
ほむら「……これは犠牲なんかじゃない。まどかの…未来への道標。……もう、覚悟はできてるから」
まどか「そん…な……」
ほむら「まどか…ありがとう。こんな私を…好きだって、言ってくれて」
ほむら「その言葉だけで…私は十分すぎるほどに幸せよ」
ほむら「……さよなら、まどか」
まどか(わたし…結局何もできないの……?好きな人ひとり守ることも…できないの……?)
まどか(ほむらちゃんを守るって…全てを捨ててでも守ってみせるって…そう決めたはずなのに……)
まどか(ずっと…わたしを守るために戦って、傷ついて…辛い目に遭って……)
まどか(もう少しで…あとほんの少しで、やっと未来に進めると思ったのに……)
まどか(それがこんな結末なんて…わたしのせいで、死ぬより辛い目に遭わせてしまうなんて……)
まどか(そんなの…絶対に嫌だ。ほむらちゃんがわたしを守ってきてくれた分…今度はわたしがほむらちゃんを守ってみせる)
まどか(……ねぇ、聞こえてるでしょ?もうひとりのわたし)
まどか(わたしは…ほむらちゃんを守る。あなたもわたしって言うのなら……)
まどか(お願い、力を…力を貸して……!)
『わたしはあなた、あなたはわたし……』
まどか(……!うん、ありがとう……!)
ほむら「……」
まどかは結界を出ることなく、下を向いて何かを考えているようだった
力づくでもまどかを外へ押し出してしまおうかと考えていたとき、まどかが不意に顔を上げる
その真剣な眼差しに、私は少しだけ気圧された。まどかがこんな真剣な顔をするのは決まって同じ
自分の中で決めた何かをすると、意を決したときだけ
まどかは真っ直ぐに私に視線を向けると、こう問いかけた
まどか「……ねぇ、ほむらちゃん。さっき…わたしのこと、好きだって…言ってくれたよね」
ほむら「……えぇ」
まどか「あれって…その、どういう意味での好き…だったの?」
ほむら「……あなたと同じよ。私も…まどかに恋をしてる。恋の対象として…あなたが大好き」
まどか「……ありがとう、ほむらちゃん」
ほむら「こんな形での返事でごめんなさい……。でも、これでもう心残りは……」
私が言葉を言いきる前に、まどかが私の前へ歩み出る
結界を出るどころか、さらに踏み込んできたまどかの意図が読めず困惑する
だが、すぐにまどかが自分の中で決めた何かを知ることとなる
まどか「ほむらちゃん…今日までわたしのこと、守ってきてくれてありがとう」
まどか「きっとどの時間のわたしも…ずっとほむらちゃんに守られていたんだと思う。ほむらちゃんが、そう望んでくれていたから」
ほむら「まどか……?」
まどか「わたしね…本当のことを言うと、ほむらちゃんのこと…諦めてたんだ。わたしもほむらちゃんも…同じ女の子だから」
まどか「だけど…ほむらちゃんはわたしの想いに応えてくれた。わたしを受け入れてくれた。わたし…すごく嬉しかった」
まどか「ほむらちゃんがわたしを好きだって、そう想っていてくれるのなら…もう、何も怖くない」
まどか「わたし…決めたの。今までほむらちゃんが守ってきてくれた分、今度はわたしがほむらちゃんを守ってみせるって」
まどか「だから…わたしに任せて。わたしが…全てを救ってみせるから」
まどかが何を言っているのか、理解できなかった
まどかは魔法少女ではない。何かができるとは到底思えない
だが、今のまどかはその言動ひとつひとつに自信と、覚悟が溢れていた
何をするつもりかはわからないが、とにかくまどかを止めなければ。そう思っているはずなのに
私は身体を動かすことも、声を上げることもできなかった
まどかは息をひとつ吐くと、天に向かって手を翳す。そして
真なる彼女の名を、その口で紡いだ
まどか「クリームヒルト!!」
ほむら「なっ……!」
まどか「……ほむらちゃん1人が犠牲になることなんてないんだよ」
まどか「たとえそれで未来に進めたとしても…そこはほむらちゃんの存在しない未来。わたしは…そんなの、嫌」
まどか「そんな方法で守ってもらっても…わたしは、嬉しくないよ」
まどかが自身の魔女…クリームヒルトの名を口にした瞬間、凄まじい…それと同時に、暖かい魔力がまどかの内から流れ出る
私たちの魔女は精々自分より少し大きい程度のサイズだったが、まどかのクリームヒルトは私たちを遥かに上回る大きさだった
もしかすると、私が見て来たあのクリームヒルトと同じサイズなのかもしれない。しかし、そうなるとこの結界に収まる大きさではない
内側から破られてしまう…と思っていたが、クリームヒルトはその膨大な魔力を使い、私の時空間結界を急速的に広げていく
拡張が完了し、私は天を仰ぐ。ワルプルギスの夜すら玩具に思える程に巨大なまどかの魔女が、その全貌を明らかにした
ほむら「まどか…あなた、魔女を……」
まどか「……うん」
ほむら「どうして……?あなたは魔法少女じゃないのに……」
まどか「実際のところは…わからない。だけど……」
まどか「わたしのほむらちゃんへの想いと覚悟。それがわたしの魔法少女の素質…眠ってる魔力と結びついて、こうして形になって現れた」
まどか「わたしは…そう思ってる」
ほむら「……この際、何故魔女を召喚できたのかは問わないわ。それよりも……」
ほむら「まどか…あなたは一体何をするつもりなの……?」
今までのまどかの話を聞いていると、最悪の展開が頭を過ぎる
即ち、まどかが私の代わりとなり、この結界に残るということ。それだけは絶対にさせるわけにはいかない
まどかは私の問いかけに、はっきりとした声で答えた
まどか「ほむらちゃんはワルプルギスの夜をどこの時間でもない…時空の狭間に追いやって、そこに封印しようとしてるんだよね」
ほむら「……えぇ」
まどか「だけどそれは…ほむらちゃんも一緒に封印されちゃうってこと……。2度と私のところに…帰って来てくれなくなるということ……」
ほむら「……」
まどか「……何度も言うけど、わたしはそんなの…絶対に認めない。ほむらちゃんの犠牲の上の未来なんて…何の価値も、意味もない」
まどか「わたしが望むのは…わたしとほむらちゃん、2人で手を繋いで、一緒に歩んで行ける未来。そのためにも……」
まどか「わたし…この結界に残る。そして…ほむらちゃんを救ってみせる。絶対に」
ほむら「……そんなこと、まどかにさせられるわけないでしょう?あなたは…魔法少女ではない。それに……」
ほむら「言ったはずよ?元の時間には戻れないだろう…と。まどかをそんなところには…行かせられない」
まどか「もしかすると…戻れなくなるのかもしれない。だけど…そんなの、覚悟の上だよ」
ほむら「わかっているのなら…どうして!?どうしてまどかが……!」
ほむら「私は……!まどかを守る為に戦ってきた!こんな…私の身代わりになんて…させられるわけ……!」
私なんかの為に、自分が代わりとなる。まどかにそうまで想ってもらえていることは素直に嬉しい。だが
魔女を召喚できたとは言え、魔法少女でもないまどかをここに残すわけにはいかない
それでも、2度と戻れなくなると知った上で自分が残ると言っている
まどかの説得を試みるも、私の話を聞いているのかいないのか、まどかからの返事はなかった
魔女はもうひとりの自分。そのもうひとりの自分が肉体から長期間離れるとどうなるかわからない。それもあり、力づくで外へ追いやることもできない
私は…どうすべきなのだろうか。ここまで来て…また駄目だったのだろうか。そんな思いが頭の隅に浮かぶ。だが
不意に、私の身体が何か暖かい、柔らかいものに包まれた。何が起こったのか、すぐには分からなかった
気が付くと、私はまどかに抱きしめられていた
まどか「……ほむらちゃんがわたしのために戦ってきてくれたことは…すごく嬉しい。……本当にありがとう。ほむらちゃん」
まどか「だから…今までの戦いが全部無意味になっちゃうんじゃないかって…そう思ってるんだよね」
ほむら「私…ずっとまどかを……!」
まどか「……大丈夫だよ。今までほむらちゃんのしてきたことは…絶対、ムダになんてしない」
ほむら「まど…か……」
まどか「クリームヒルトを召喚したときに…能力って言うのかな。それが頭の中に流れてきたの」
まどか「わたしの魔女、クリームヒルトには…救済の力があるの。ありとあらゆるものを救う力が」
まどか「さっきのほむらちゃんの話を聞いて…わたし、考えたの。時間と時間の間からなら、過去、現在、未来…何処にでも行けるんじゃないかなって」
まどか「……わたし、決めたよ。全ての魔女…そして、魔女を宿してしまった魔法少女を…救ってみせる。わたしと、クリームヒルトで」
ほむら「どうして…どうしてそこまで……!」
まどか「……魔法少女のことで、もう誰にも悲しい思いをしてほしくない…っていうのもあるけど」
まどか「1番は…ほむらちゃんのためなんだ」
ほむら「私の……?」
まどか「うん。ほむらちゃん、きっと今までずっと傷ついて、苦しんで…地獄を見てきたと思う。だけど……」
まどか「ここから先の未来で…ほむらちゃんには辛い思いをしてほしくない。笑っていてほしい」
まどか「だからほむらちゃんを苦しめる原因…魔女と魔法少女を何とかしてみせる」
まどか「何よりも愛しくて、世界で1番好きな人を守るために…わたしは戦う」
まどかのその言葉を聞いた瞬間、私はもう堪えることができなかった
まどかを思いきり抱きしめると、堰を切ったように涙が溢れ出した
ほむら「私も……!私もまどかが…世界で1番大好きよ……!」
ほむら「だからこそ…あなたと離れたくなんてない……!」
まどか「ほむらちゃん……」
ほむら「まどか…私も一緒に……!」
まどか「……嬉しいけど、それじゃダメなの。ほむらちゃんは…ここに残ってほしいんだ」
ほむら「そんな…どうして……!」
まどか「わたし…ほむらちゃんとこれでお別れにするつもりなんて…ない」
まどか「全ての魔女と魔法少女を救ったら…必ず、ほむらちゃんのところに帰って来るから」
まどか「他の誰でもない…今ここにいる、わたしを好きだって言ってくれたほむらちゃんのところに……」
ほむら「そんなの…無数の時間軸の中から、私を見つけ出すことなんて……」
まどか「大丈夫。……少し時間がかかるかもしれないけど…でも、絶対にほむらちゃんを見つけ出してみせる。だから……」
まどか「わたしが帰って来るまで…これ、預かっててほしいんだ」
まどかはそう言うと、髪を結んでいたリボンを解く
そして、そのリボンを私の手に握らせた
ほむら「これ…あなたの……」
まどか「ほむらちゃんは…わたしの帰って来るべき場所。ほむらちゃんがそのリボン…持っていてくれたら」
まどか「わたしは…またここに戻って来れるから」
まどか「……優しくて、暖かい…ほむらちゃんの隣に」
ワルプルギス「ア、ガ…ギィ……」
まどか「……そろそろ行かないと。ワルプルギスの夜もまた動き出してしまうから」
ほむら「どうしても…行ってしまうの……?」
まどか「……うん。わたしとほむらちゃんの未来と、魔法少女のみんなを…救ってくるよ」
ほむら「……どう足掻いても…止められないのかしら」
まどか「もう覚悟したことだから。たとえほむらちゃんがわたしに銃を向けたとしても…わたしは行くよ」
まどか「それが…わたしの覚悟。そして、ほむらちゃんへの想いでもあるから」
私に銃を向けられたとしても…まどかはこの時間を離れる覚悟をしていた
覚悟を決めたときのまどかの強さはわかっている。……もう、私では止めることは叶わないだろう
ほむら「絶対…絶対に、帰って来るの……?」
まどか「……絶対、帰って来るよ。何があったって、必ず」
ほむら「嘘じゃ…嘘じゃないわよね……?」
まどか「嘘なわけないよ。わたしがほむらちゃんに嘘を言ったこと、ある?」
ほむら「でも……!あなたと離ればなれになるなんて…私……!」
ほむら「何より…私はもうあなたを…まどかを失いたくない!!」
ほむら「お願いよ…お願いだから…どこにも行かないで……!私の隣にいて!!」
ほむら「まどかと想いが通じ合ったのに…こんな…こんなのって……!」
まどか「……ほむらちゃん」
まどかは私の名を呼ぶと、両手でそっと私の顔を包む。そしてそのまま、まどかの方へと引き寄せられた
その途中で、まどかはぽつりと一言、私へと呟いた。私の聞き間違いでなければ、まどかの呟いた言葉は……
まどか「……ほむらちゃん…愛してるよ」
まどかは確かに…私を愛していると、そう言ってくれた。私も、と言おうとしたがそれはできなかった
私が言葉を発するよりも先に、まどかは私の唇に自分の唇を重ねた
ほむら「……っ」
まどか「ん…っ……」
今私の唇に触れているもの。それは紛れもなく、まどかの唇
まどかが…私の大好きな人が、キスをしてくれている。そう思うと、頭の奥が痺れ、胸の内が熱くなる
まどかが行ってしまえば、もうこうしてキスをすることもできなくなってしまう
いつまでもこの瞬間が続いてほしい。そう願ってみるも、それは叶わない願い
それから少ししてから、まどかは重ねた唇を離した
まどか「……ほむらちゃんの想い、受け取ったから。わたし…行くね」
ほむら「待って…まだ私の全部を伝えてない!私だって、あなたを……!」
まどか「ありがとう。でも…その続きは、わたしが帰って来たとき…伝えてほしいな」
ほむら「まどか……」
まどか「……それじゃあ、お別れだね」
ほむら「嫌…嫌よ、私……!まどかと離ればなれになるなんて……!」
まどか「……これを永遠のお別れになんてさせない。必ず…帰って来るから」
まどか「わたしは…ほむらちゃんの笑顔のために戦ってくるよ」
ほむら「私の…笑顔……?」
まどか「うん。ほむらちゃん、ずっとわたしのために戦ってきてくれた。そのせいで、長い間辛い目に遭わせちゃった」
まどか「だから…今度はわたしがほむらちゃんの笑顔のために戦う。わたしがほむらちゃんを…幸せにしてみせる」
まどか「ほむらちゃんの笑顔のためなら、わたしは戦える。奇跡だって起こしてみせる」
まどか「……次、逢えたときは…わたしもほむらちゃんも、きっと…最高の笑顔で笑いあえると思うから」
まどか「ほむらちゃんのために…わたし、行くよ」
そう言ってまどかは私に背を向ける
その声はどことなく、涙声になっていたような気がした
まどか「さよならは…言わないよ。……また、ね。ほむらちゃん」
ほむら「嫌…待って……!まどか!まどかっ!!」
まどか「……ホムリリー!ほむらちゃんを…お願い!」
まどかの声に呼応し、私の中からホムリリーが姿を現す
どうしてホムリリーが?私は召喚なんてしていない…そう思った次の瞬間、私はホムリリーによって捕らえられてしまった
ホムリリーに捕らえられた私は、そのまま時空間結界の外へと引きずり出されてしまう
結界の外で解放された私は、すぐに結界の入り口へ向かって走り出した
結界の入り口がどんどん閉じていく。恐らく、クリームヒルトが制御しているのだろう
ほむら「このままじゃ……!ホムリリー、時間停止!」
ホムリリー「……」
ほむら「ホムリリー!?早く時間を止めて!早く!!」
私がいくら叫んでも、ホムリリーが時間を止めることはなかった
そうしてる間にも、結界の入り口はみるみるうちに小さくなっていく
ほむら「私……!まどかのいない世界なんて嫌よ!方法なら他に考えるわ!だから……!」
ほむら「お願い……!早くその結界から出て!まどか!!」
私は入り口の向こうにいるまどかへと言葉を投げる
私の声が聞こえたはずのまどかは私の方へと振り返る。その目には涙が溢れ、頬を濡らしていた
ほむら「まどか!行っちゃ駄目よ!行かないで!!」
まどか「ほむらちゃん……」
ほむら「あなたが…まどかがいなくなったら、私は……!」
まどか「……大丈夫だから!わたし…絶対に帰って来るから!!」
まどか「わたしとほむらちゃんの未来の幸せのために…わたし、がんばるから!!だから……!」
まどか「どこにも…違う時間になんて行かないで!!この時間で…わたしを待ってて!!」
ほむら「時間操作魔法を扱える私が言ってるのよ!行ってしまったら…もう元の時間には戻れない!!」
まどか「ほむらちゃんがいれば…絶対に帰って来れる!!ほむらちゃんの隣がわたしのいるべき場所だから!!」
まどか「……お願い、ほむらちゃん!わたしを信じて、待ってて!!」
ほむら「でも…だけど……!」
まどか「わたし…信じてるから!ほむらちゃんはどこにも行かないって!ずっとわたしを待っていてくれるって!!」
まどか「それが、わたしが好きになった…わたしが愛したほむらちゃんだから!!」
まどか「ずっと…わたし、ずっとほむらちゃんのこと、好きだから!ずっと愛してるから!!」
まどか「だから……!ほむらちゃんもわたしのこと…好きでいて!!」
ほむら「まどかが好きだから…何よりも愛しいからこそ、あなたと離れたくなんてない!!」
まどか「想いが通じ合っていれば…必ずまた逢えるから!!それまで…少しだけ、待ってて!」
まどか「ほむらちゃん、わたし…行って、くるね……!」
ほむら「駄目…待って、まどか!!」
まどかへ向かって思いきり手を伸ばす。だが、その手はまどかを捉えることができず、空を切った
何も掴めなかった…それは、完成した時空間結界がこの時間を離れ、次元の狭間へと行ってしまったということに他ならない
手を伸ばしたときの勢いのせいでバランスを崩した私は2、3歩踏み出したあと、その場に倒れ込んだ
ほむら「まど…か……!」
あと少し…目と鼻の先というところまで迫っていたのに……。まどかへと伸ばした手を見つめる
自分が…ここまで無力だとは思わなかった。自分の好きな人ひとり守ることができないなんて
私を好きになってくれた、愛してくれたまどかを守れなかった。何よりも、それが悔しかった
最高の条件でここまで来たのに…また駄目だった。自分の情けなさに歯を食いしばり、拳を地面に打ち付ける。そして
ほむら「まどか……!まどかあああぁぁぁ!!」
喉が引き裂かれんばかりの声でまどかの名を叫ぶ
私の叫びがまどかに届くことは無く、辺りに虚しく響き渡るだけだった
――――――
まどか「……」
クリームヒルト「これで…よかったの?」
まどか「……わたしだってほむらちゃんと離れたくなんて…ないよ。本当は今すぐにだって帰りたい。でも」
まどか「これは…わたしにしかできないことだから。わたしが…全てを救ってみせる」
まどか「全て救って…ほむらちゃんの下に帰る。絶対に」
まどか「……もう、覚悟はできてるから」
クリームヒルト「そう…わかった。それなら……」
まどか「……?あれ、わたし……?」
クリームヒルト「そのあなたはわたしが作り出した分身。それよりも……」
クリームヒルト「あなたの覚悟が本当なら…その書類にサインしてほしいの」
まどか「何…これ?全然読めないけど……」
クリームヒルト「わたしとの…覚悟の契約。これからあなたが成そうとしていることは…想像を絶するもの」
クリームヒルト「その覚悟があるのなら…書類にあなたのサインを」
まどか「えっと…ここの空欄でいいんだよね?……鹿目まどか、と」
クリームヒルト「……あなたの覚悟、受け取ったよ」
まどか「それじゃ…そろそろ始めよう」
クリームヒルト「うん…そうだね」
ワルプルギス「ア…ハ……」
まどか「ワルプルギスの夜…まず、あなたから救ってみせる。……力を貸してくれるよね?」
クリームヒルト「もちろんだよ。全てを救うまで、わたしはあなたの力になる」
まどか「……ありがとう。じゃあ、行こう!」
まどか「……クリームヒルト!!」
――――――
ほむら「……まどか…私は……」
私は…何の為に戦ってきたのだろうか
まどかが犠牲となる結末…それを変えたくてここまで戦ってきたはず。だが、実際は……
ふと、もうひとりの私の言葉が脳裏を過ぎる
結局、私では結末を…運命を変えることなどできないのだろうか
それでも、諦めるわけにはいかない。次の時間へ行こうと、盾に手をかける
砂時計をひっくり返そうとしたまさにそのとき、背後から私を呼ぶ声が聞こえた
さやか「ほむら!」
ほむら「みんな……」
マミ「ワルプルギスの夜は…どうなったの?」
ほむら「……消滅したわ。この時間から」
杏子「つまり…倒したのか?」
さやか「やったじゃん!……それより、まどかは?」
杏子「まどかが来てたのか?」
マミ「えぇ…暁美さん、鹿目さんは?」
ほむら「まどかは…旅立ったわ。……全てを救う為に」
さやか「旅立った…って……?」
杏子「一体…何があったんだ?」
マミ「暁美さん…教えてくれるかしら」
ほむら「……えぇ。全て話すわ。何があったのか……」
私はまどかがやって来てから起こったことを全て話した
時空間結界のこと、私の存在と引き換えにワルプルギスの夜を封印しようとしたこと
そして、時空間結界の中でまどかと話したことを
私の話を聞いた3人は呆然とした表情をしていた
さやか「それじゃ、まどかは…ほむらの代わりに、その結界に残って……?」
杏子「時の彼方に行っちまったってことなのか……」
マミ「暁美さんを助ける代わりに鹿目さんが…ごめんなさい、私たちの力が及ばないばかりに……」
ほむら「気にする必要はないわ。……それじゃ、私はそろそろ行くわ」
さやか「行くって…どこに……?」
ほむら「……次の時間によ。私は…まどかを救えなかった。だから、またやり直す。それだけよ」
杏子「ちょっと待て。お前が行っちまったら、まどかはどうなるんだ?まどかはお前を信じて旅立ったんだろうが」
マミ「鹿目さんは暁美さんを信じているのに、暁美さんは鹿目さんを信じていないの?」
ほむら「それは……」
さやか「……ほむらが今時間を戻したら…あたし、あんたを許さない」
さやか「まどかは…絶対、戻って来るって言ったんでしょ!?あんたがそれを信じないでどうすんのよ!」
ほむら「さやか……」
さやか「あんた、まどかが好きなんでしょうが!そのまどかを裏切ってもいいって言うの!?」
さやか「まどかを信じて待つ……!それが、今あんたがするべきことでしょ!?」
ほむら「私の…するべきこと……」
さやかの言葉が私の頭を殴りつける。私がここで時間を戻せば…私はまどかを裏切ることになってしまう
握りしめたまどかのリボンを見つめる。まどかは何を思って、私にこのリボンを託したのか
まどかが私を信じているのなら…私もまどかを信じよう。まどかは、絶対に帰って来る
言っていたはずだ。私たちの想いが通じ合っていれば、必ずまた逢える、と
私とまどかの想いは同じ。それだけは自信を持って言える。それならば
私はここでまどかの帰りを待とう。そして、再び巡り逢ったら…私の全てを伝えよう
それが、まどかを好きになった私のするべきこと
ほむら「……駄目ね、私は。さやかに言われるまで、気づけないなんて」
さやか「ほむら……?」
ほむら「私…待つわ。まどかが全てを救い、私の下に帰って来る…その日まで」
ほむら「例えまどかが手の届かないところへ行ってしまっても…私の気持ちは変わらない」
ほむら「まどかが好きだからこそ…まどかを信じ、まどかを想い…帰りを待つ。この時間で」
マミ「そう…よかった……」
さやか「ご、ごめん、怒鳴っちゃってさ」
ほむら「気にしないで。……ありがとう、さやか。おかげで目が覚めたわ」
杏子「……好きな人と離ればなれになっちまったからな…きっと辛くなることもあるだろうけどよ」
杏子「もし辛くなったなら…アタシたちを頼ってくれよ。……仲間で、友達なんだからな」
ほむら「……えぇ。ありがとう、杏子」
QB「やぁ。どうやらみんな生きていたみたいだね」
ほむら「インキュベーター……!」
QB「あらゆる時間から隔絶された結界を造り、そこへワルプルギスの夜を封印する。……考えたものだね」
QB「でもそのせいでまどかを契約させることができなかった。彼女のような膨大な素質の持ち主と契約しないとまとまったエネルギーにならないのに……」
ほむら「……そう」
QB「それよりも、まどかは契約しなければ何もできないはずなのに、どうして行ってしまったんだい?」
ほむら「……まどかは全てを救う為に行ったのよ。魔女と、魔法少女を……」
QB「魔女と…魔法少女を?そんなこと、できるわけが……」
ほむら「まどかの素質を忘れたの?……まどかとクリームヒルトがいれば、必ず成し遂げられるわ」
QB「……どうやらまどかは未契約で魔女の召喚を成し遂げたみたいだね。それが本当なら…並大抵の素質じゃない」
QB「全ての魔女と魔法少女を救うとなると…きっと魔法少女に関わる全てのものの形が変わってしまうだろう」
QB「僕たちにそれをどうこうする力は無いから…受け入れるしかなさそうだ」
ほむら「……」
QB「……それじゃ、僕はそろそろ行くよ。世界がどう変革するか、見届けることにしよう」
QB「それに、万一を考えて次のエネルギーの候補を探さないといけないしね」
ほむら「……宇宙の存続の為に誰かを犠牲にするような方法は…いずれ綻び、破綻するでしょうね」
QB「もしまどかが本当に魔女と魔法少女に関する全てを書き換えたとしたら…そのときは違う方法を考えることにするさ」
ほむら「まどかはやるわ。必ず」
QB「そうかい。……じゃあ、僕はこれで」
ほむら「えぇ。さようなら」
インキュベーターはそう言うと、風に溶けるように消えていった
まどかがどういう救いをもたらすのかはわからない。だけど
きっとまた、奴とも会うことになるだろう
さやか「……さて、それじゃあたしたちも帰ろうか」
マミ「そうね。……街はだいぶ被害を受けてしまったみたいだけど」
杏子「ワルプルギスの夜相手にこの程度の被害だったら十分だろ。避難所は無事だったんだ、大丈夫さ」
ほむら「少し時間はかかるだろうけど、きっと元通りになるわ。……まどかが好きだった街に」
さやか「……それよりも、早く移動した方がいいんじゃないかな。嵐が収まったから、避難してた人も戻って来るだろうし」
マミ「それもそうね…家に戻る前に1度私たちも避難所に……」
杏子「ちゃんと避難してたってことにしといた方がよさそうだな」
マミ「そういうこと。それじゃ、行きましょう」
ほむら「……」
さやか「ほむら……?」
ほむら「……ごめんなさい。先に行っててもらえるかしら」
杏子「そりゃ構わないが…なるべく早く来いよ」
ほむら「えぇ、わかってるわ」
マミ「じゃあ、先に行ってるわね」
3人は避難所へ向かって歩いて行き、やがて見えなくなった
1人その場に残った私は、嵐が過ぎ去り、晴れ渡った青空を見上げる
ほむら「まどか……」
時間の壁の向こう…時の彼方へと旅立った、想い人の名を呟く
私を信じ、私を想い、私の為にと戦いに赴いた、彼女の名を
ほむら「また…逢えるよね、まどか……」
ありとあらゆる時間軸の中から、私のいるこの時間軸を見つけ出し、戻って来る
口で言うだけなら容易いが、それは最早奇跡と呼べるものだろう
だけど、私は信じてる。まどかはきっと、ここに帰って来ると
私とまどかの心が、想いが、魂が繋がっていれば、奇跡は起きる。絶対に
ほむら「……そう言えば、これ……」
ほむら「……私に似合うかしら、まどか……」
私は付けていたカチューシャを外し、まどかのリボンを頭に結ぶ
鏡があるわけではないので今の自分の姿を見ることはできないが、何故だか妙に馴染んでいるような気がした
この姿なら、きっとまどかにすぐ見つけてもらえるはずだ
あなたを信じ、あなたを想い、あなたの帰りを待っている、私を
全てを救う為に旅立ったあなたが、いつ帰って来るかはわからない。だけど
何日、何ヶ月、何年だって…私は待ち続ける。いつまでも、この時間であなたの帰りを信じてる
それが…私を好きになってくれたあなた、私が好きになったあなたが望んでいることだから
ほむら「……さて、私もそろそろ行きましょうか」
そう言うと、私はみんなと合流するべく避難所へと向かって歩き出す
少ししてから、ふと立ち止まってまどかの消えていった場所へ振り返る
そして、伝わるはずもないまどかへの言葉を呟いた
ほむら「……私、待ってるから。ずっと…まどかを好きでいるから」
ほむら「だから…絶対、帰って来てね。あなたが大好きな、私のところに……」
『うん。約束だよ、ほむらちゃん』
ほむら「……!」
ほむら「……約束、よ。まどか」
いるはずのない、まどかの声が聞こえたような気がした
まどかと約束を交わした私は、再び歩き出した
まどかに伝えることができなかった言葉を今ここで吐き出そうとも思ったが、その言葉を飲み込む
この言葉は…まどかと再び逢えたときに、まどかの顔を見て言うことにしよう
この言葉を伝えたとき、きっと私もまどかも最高の笑顔を見せられると思うから
私とまどかの最高の笑顔と未来の為に、どんなに辛くても私は待つ
あなたに逢える、その日まで
――――――
ほむら「……ん、ここは……」
ここは…どこだろうか。気が付くと私は真っ白な、だだっ広い部屋の中央に立っていた
辺りを少し見回すと、ここがどこかはすぐにわかった。ここは……
ほむら「私の家…ね。ワルプルギスの夜の資料を集めていた部屋……」
ワルプルギスの夜が消滅した今はもうこの部屋は使っていないはず
私はこの部屋で何をしていたのだろうと、再度辺りを見回す
ほむら「……?誰かいる……?でも…あれ、まさか……」
何もないはずの空間から、誰かが姿を現した
そこに現れた人物、それは……
まどか「……」
ほむら「まどか……?まどかなの……?」
まどか「……」
ほむら「何……?何が言いたいの?聞こえない……」
私の前に現れたまどかは何かを語りかけているようだが、私の耳には何故か何も聞こえなかった
少しして、全てを話し終えたのだろう。まどかは私を見ると、優しく微笑む
その直後、まどかの背後に時空間結界の入り口が口を開いた
まどか「……」
ほむら「あ…待って!まどか!」
ほむら「まどかっ!」
まどかへ向かって手を伸ばすが、到底届く距離ではない。近づこうにも、私の足は全く動いてくれなかった
私がもがいている間に、まどかは結界の中に入りその入り口をどんどん閉じていく。そして
結界の入り口が閉じきると同時に、私の意識もそこで途切れた
――――――
ほむら「……っ!」
さやか「お、やーっと起きた?もうホームルームも終わってるよ」
マミ「大丈夫?何だかうなされていたみたいだけど」
ほむら「……さやか…マミ…私、眠って……?」
さやか「うん、ホームルーム前からずっと」
ほむら「……そう」
さやか「それよりも、そろそろ離してあげなさいって。いつまで握ってんの」
ほむら「え…あ、ごめんなさい」
どうやら私は眠っていたらしく、自分の席で目を覚ました私をさやかとマミが心配そうに覗き込んでいた
夢の中で手を伸ばしたせいか、私の右手はマミの腕をしっかりと握っていた
ほむら「……そう言えば、どうしてマミが私たちの教室に?」
さやか「あぁ、先生に呼ばれたんだよ。あたしとほむら、それにマミさんに聞きたいことがあるって」
ほむら「先生って…早乙女先生に……?」
さやか「……うん」
ほむら「……この3人が呼ばれた…ってことは」
マミ「えぇ…きっと、ね。だから、あなたたちと一緒に向かった方がいいと思って」
さやか「さて…と。ほむらも起きたことだし、教務室行きますか」
ほむら「……わかってるとは思うけど」
マミ「誤魔化すしかないわよね…本当のことを話すわけにはいかないし……」
もし、呼び出された理由がまどかのことについてだったら…私は平静でいられるだろうか
万一のときのフォローを2人に頼み、どういう方向で話を誤魔化すかを話し合いながら教務室へと向かう
その足取りは、誰もが重いものだった
さやか「……失礼しましたー」
マミ「まぁ…当然と言えば当然よね……」
案の定、呼び出された理由はまどかのことについてだった
本当のことを話すわけにもいかないので、打ち合わせておいた内容で話を誤魔化す
さやか「ですねー…それよりも、ほむら…大丈夫?」
ほむら「え……?」
マミ「話の途中で声が震えてたし、今だって泣きそうな顔してるわよ……?」
長々とまどかの話をしていたせいか、私の脳裏にまどかの顔が浮かんでは消える
夢に見ていたことも相まって涙が零れそうになったが、何とかそれを堪えた
ほむら「……大丈夫よ。用事も済んだことだし、もう帰りましょう」
さやか「う、うん……」
――――――
さやか「さて、今日は何をー……」
さやか「……あれ。校門のとこにいるの、杏子かな」
学校の玄関を出ると、校門の前に赤髪の少女が立っているのが見える
どうやら杏子が私たちを待っていたようだ
お菓子を食べながら、時折生徒に声をかけられるも適当にあしらっているようだった
杏子は私たちに気づくと、足早にこちらへと向かって来た
杏子「もっと早く出て来てくれよ。さっきから声かけられっぱなしでウゼェったらねぇよ」
さやか「別にずっと校門前で待ってなくてもいいのに……」
杏子「そ、そりゃそうだけどよ」
さやか「あーうん、大丈夫だよ、言わなくても。早くあたしたちに会いたかっただけなんだよね」
杏子「……超ウゼェ」
マミ「はいはい。それじゃ、行きましょう」
杏子「……それでよ、今日はまた随分時間かかってたな」
さやか「あぁ…ま、ね」
杏子「……?何かあったのか?」
マミ「……鹿目さんのこと、先生に尋ねられて。それでちょっと……」
杏子「あぁ…普通の奴らからしてみりゃ、急に姿を見せなくなっちまったんだもんな……」
杏子「……あれから、どれだけ経ったっけか?」
ほむら「……少なくとも、数ヶ月…ね」
まどかがこの時間からいなくなってどれだけ経っただろうか
最初のうちこそ、1日、1週間、1ヶ月と数えていたが、2ヶ月を過ぎた頃から数えるのを諦めた
まどかがいなくなった日数を数えれば数えるだけ、辛くなってしまうだけだから
杏子「そ、か……。もう随分経っちまったんだな……」
さやか「うん……」
マミ「だけど…鹿目さんが頑張ってくれているおかげで、私たち魔法少女も、変わり果ててしまった魔女も…救われてるのよね」
ほむら「えぇ……」
まどかが旅立った少し後から、魔女が目に見えて少なくなった
魔女が減ったと言うよりは、新たな魔女が生まれなくなったと言うべきだろうか
魔女が新たに生まれなければ増えることもない。そして、あるときを境に魔女は完全に姿を消した
ただ、私たち魔法少女が戦うべき魔女は消滅したが、私たちの内にいる魔女はそのままもうひとりの自分として残ることになった
杏子「アタシたちが戦ってきた魔女がいなくなったのは助かった。……戦わずに済むようにはならなかったけどな」
マミ「そうね。鹿目さんの頑張りで、確かに魔女は消えてなくなった。だけど……」
杏子「その代わりなんだろうな、アイツらは……」
ほむら「……魔法少女というシステムがある以上、私たちが戦うべき敵の存在を世界が必要としているんじゃないかしら」
さやか「何にせよ、戦う相手が魔女からあいつらに変わったってだけ。あたしたちが戦って、倒す。そういうことだよね」
ほむら「……えぇ。まどかの帰って来るべきこの時間で好き放題させるわけないでしょう」
杏子「……で、そのまどかが帰って来るべき時間で、何好き勝手してくれてんだい?インキュベーター」
QB「……何だ、気づいていたのかい」
杏子「気がつかないワケがねぇだろ。……で、どのツラ下げて出てきやがった……?」
QB「杏子?何を怒っているんだい?」
さやか「あんたがあたしたちに何をしたか、忘れたっていうの!?」
QB「確かに君たちにあれこれしたことは事実だけど…今はまどかの力によりその全てが過去のものとなってしまったじゃないか」
QB「忘れてくれとは言わないけど、今そのことについて責められるのは心外だよ」
マミ「キュゥべえ……」
QB「それに、そのせいで今までとは比べものにならない程エネルギーの回収が困難になってしまったんだ。君たちも知ってるだろう」
杏子「テメェの都合なんか知ったことじゃ……!」
ほむら「……その辺にしておきなさい。言い合ったところで時間を無駄にするだけよ」
杏子「ほむら…だけどよ……」
ほむら「今のそいつらは割に合わないエネルギー回収を必死でこなす労働者。契約を取ってもリターンがごく僅かなんて…惨めなものね」
QB「いくら契約しても、魔女として覚醒しなくなったせいでエネルギー回収は大打撃さ。それでも、エネルギーの為に魔法少女が必要なのは変わらない」
QB「全く…精神の抑圧から外れた魔女を全て救済してしまうなんて……。さすがまどかと言うべきなんだろうけど……」
まどかの救済によって、戦うべき魔女は姿を消した
私たちの魔女が真の魔女として覚醒する前に彼女と、彼女の魔女、クリームヒルトが救済してくれる
それはつまり、インキュベーターたちがエネルギーの回収に私たちを利用することができなくなったということだ
従来の手段でエネルギーを得ることができなくなった彼らは、別の方法でごく微量のエネルギーを採取することとなった
ほむら「そう……。それで目をつけたのが『シャドウ』というわけね」
QB「シャドウ……?あぁ、確かマミがそう名付けたんだったね」
シャドウ。マミがそう名付けた、魔女に代わる存在
インキュベーターが言うに、あれは人から零れ落ちた心や感情の一部…らしい
そのシャドウが持っているほんの僅かな心と感情の欠片を、彼らは必死になって集めている
QB「シャドウが持っているのは誰かが落とした心と感情の欠片。それを倒しても無に帰すだけ」
QB「消滅するだけのものを僕たちが有効活用しているだけさ」
ほむら「えぇ。……でも気をつけなさい。お前たちが扱っているのは形は違えど、私たち人間の心と感情」
ほむら「それを悪用するようなことをしてみなさい。そのときは……」
QB「……わかってるさ。これ以上エネルギー回収が難しくなると大変だからね」
QB「それに、君たち人間がいる限りシャドウは途絶えることはない。感情がある限り、シャドウは生まれ続けるのだからね」
QB「……さて、それじゃあ僕はそろそろ行くよ。シャドウが現れたときはよろしくお願いするね」
杏子「テメェに言われなくてもわかってる。とっとと消えろ」
さやか「言っとくけど、あたしたちはあんたのために戦ってるんじゃないんだからね」
QB「……」
マミ「……また、気が向いたときでいいから…たまには遊びに来てね」
QB「……ありがとう、マミ。それじゃ、また」
インキュベーターはそう言い残し、私たちの前から消えていった
インキュベーターを見送ったあと、さやかが口を開いた
さやか「……シャドウ、か。人から零れ落ちる程の心と感情……」
杏子「不安や猜疑心、怒り、憎しみ…そういった負の感情が形を持って、人の心を貪る存在…だったな」
マミ「えぇ、そうよ」
さやか「……そう言えばマミさん、魔女がいなくなったあと、あたしたちの魔女の名前も変えようとしてませんでしたっけ?ペル…何とかって」
マミ「そう思ってたけど…やっぱり私たちのは魔女でいいかな、って……」
杏子「へぇ、そりゃまたどうしてだい?」
マミ「上手く言えないんだけど…元はキュゥべえが私たちの中に無理やり造り出した存在。だけど……」
マミ「この魔女も私の一部なんだって思ったら、ちょっとだけ愛着が湧いちゃってね」
マミ「魔女にはあまりいい思い出はないけど…それも含めて私なのだし」
杏子「さやかが言ってたっけな…いいも悪いも全部ひっくるめて自分なんだって……」
さやか「や、やめ、やめてって……」
杏子「何だ?珍しく照れてんのか?」
さやか「うっさい。……それじゃ、あたしたち魔法少女の方を変えたらどうですか?」
マミ「そうねぇ…魔法少女…自らの魔女を飼い馴らす…そうね、魔女使いというのは……」
杏子「……余計なこと言うなよ。また妙な名前つけられたらどうすんだ」
さやか「いやぁ、つい……」
そんな彼女たちの会話を聞き流しながら、通りかかった公園の方へと視線を移す
その公園の中に私の見知った人がいるのが見えた
ほむら「……ごめんなさい。私、ここで失礼するわ」
さやか「だからー…え?あ、うん。またねー、ほむら」
ほむら「えぇ。……それじゃ」
杏子「ほむらの奴、公園に何か用か?」
さやか「……あ…あれ、まどかの……」
マミ「……いつまでも見てるのも悪いし、私たちは行きましょうか」
さやか「……そうですね」
ほむら「……こんにちは」
公園に入り、ベンチに座っていた女性に声をかける
女性はこちらを見ると、笑顔で私を迎えてくれた
詢子「お、ほむらちゃんじゃないか。どうしたんだい、こんなところで」
ほむら「いえ…公園の外から詢子さんが見えたので……」
詢子「そうか…さやかちゃんにマミちゃん、杏子ちゃんは元気にしてるかい?」
ほむら「……はい。さっきもしょうもない話で盛り上がってました」
詢子「子供はそれでいいのさ。友達とどうでもいいくだらない話で盛り上がって、笑い合って……」
ほむら「そう…ですね……」
詢子「……さやかちゃんたちのことより、アタシはほむらちゃんのことが心配だよ」
ほむら「私の……?」
詢子「今のほむらちゃんは…何だか無気力というか、生気がないというか…そんな感じがするんだ」
詢子「ほむらちゃん…最後に笑ったの、覚えてるか?」
ほむら「……」
最後に笑ったのは…いつだろう。もう、随分長い間笑っていないような気がする
まどかは必ず帰って来る。そう信じていることは事実。だけど……
まどかに会えないのが辛い。まどかの声が聞けないのが苦しい。まどかの笑顔が見れないのが耐えられない
まどかのいないこの世界が、全て灰色に見えてしまっていた
その灰色の世界では…笑うということができなかった
詢子「……まどかがあんなことになっちまったんだ…そうなるのも仕方ないと思うけど……」
ほむら「……ごめんなさい。私が弱いせいで、まどかを……」
詢子「……これはあの子がほむらちゃんを想ってしたことだ。ほむらちゃんが謝ることはないよ」
詢子「それに、アタシたちも信じてるからさ。……まどかが帰って来るのを」
まどかが旅立った後、私たちはまどかのご両親に全てを説明した
魔法少女と魔女のこと。そして、まどかが全てを救う為に旅立ったことを……
詢子「学校の方にも、まどかが帰って来るまでは何とか誤魔化すって決めたからね。大丈夫だよ」
ほむら「帰って…来ますよね……」
詢子「……当たり前じゃないか。まどかは好きな相手を残したままにするほど薄情な子じゃないよ」
ほむら「そう…ですよね……」
詢子「あぁ。ほむらちゃんとまどかのこと…聞かされたときはやっぱり驚いたけどさ」
詢子「今はまどかの相手はほむらちゃんしかいないって思ってるよ」
詢子「もう何度も聞かされたと思うけど…ほむらちゃんとまどかが想い合っていれば、必ずまた逢えるさ」
ほむら「……ありがとうございます」
詢子「……話し相手くらいにはなってあげられると思うから、辛くなったらいつでも来ていいんだからね」
ほむら「……はい」
そうしてしばらく詢子さんと話をしていると、聞き覚えのある男性の声が聞こえた
声のした方へ視線を向けると、まどかのお父さん…知久さんと、まどかの弟…タツヤくんが私たちの方へと向かって来ていた
知久「暁美さん、こんにちは」
ほむら「こんにちは……」
挨拶をすると同時に、タツヤくんにぐいぐいと手を引っ張られる
どうやら、どこかに連れて行きたいようだ
手を引かれるがままについて行くと、先ほどまで遊んでいたと思しき場所へとやって来た
ほむら「どうしたの……?私と遊びたい…のかしら」
タツヤ「まろか!まろか!」
ほむら「え……?」
そう言って、タツヤくんはしきりに地面を指差す
そこには、1人の少女の絵が描かれていた。それは、紛れもなくまどかの絵だった
ほむら「これを…私に見せる為に……?」
タツヤ「ほむ、げんき、らして!」
ほむら「……うん。ありがとう」
どうやら私はタツヤくんにも心配されてしまっていたようだ
幼いタツヤくんなりに、私を元気づける方法を考え、この絵を見せてくれたのだろう
私は絵を見せてくれたお礼を言って、頭を優しく撫でる
そのお返しにと、屈託のない笑顔を私に向けてくれた
詢子「タツヤー、そろそろ帰るぞー」
タツヤ「あー、ママー!」
詢子「おー、これはまどかか?タツヤは絵が上手いなー!」
タツヤ「えへー」
詢子「さて、と。それじゃ、アタシたちはこれで帰るよ。ほむらちゃんはどうするんだい?」
ほむら「私は…もう少しここにいます」
詢子「そうか。……ほむらちゃんならいつでも歓迎するから、家にも遊びに来ておくれよ」
詢子「きっと…まどかも喜んでくれると思うからね」
ほむら「……はい。ありがとうございます」
詢子「それじゃ、またね」
帰って行く詢子さんたちを見送り、1人その場に残った私はタツヤくんの描いてくれたまどかの絵をじっと見つめる
近くに木の棒が落ちているのを見つけると、それを拾い上げてまどかの絵の隣にもう1人、人物を書き足した
まどかの絵と手を繋いでいる、私自身の絵を
ほむら「……こんな感じかしら」
あまり絵を描いたりしないせいか、やたらと時間がかかってしまった
公園内にまばらにいた人たちも、今はもう誰もいなくなってしまったようだ
地面に描かれた私とまどかの絵を見ているだけなのに、何故か涙がこみ上げてきてしまう
ほむら「……ねぇ、まどか……。私、あなたの帰りを待つって…そう決めたわ。だけど……」
ほむら「私…もう耐えられない……!あなたのいないこの世界に……!」
私はその場に膝をついて、まどかの絵に向かって胸の内を吐き出した
まどかが旅立ったあの日から、1日たりとまどかを想わなかった日など無い
まどかに逢いたい。1日も早く、逢いたい
決意とは裏腹に、まどかに逢いたい想いが日に日に大きく膨らんでいく
結んでいたまどかのリボンが解け、はらりと地面に落ちる
ほむら「まどか…いつ帰って来てくれるの……?早く…早く帰って来てよ…まどか……!」
溢れ出した涙は頬を伝って流れていく。そして
ぽたり、と涙のひとしずくがまどかの絵を濡らした
ほむら「……ッ!」
私の涙が落ちた瞬間、地面に魔法陣と思しき紋様が浮かび上がった
円と線で描かれた魔法陣。その中心部は、どうやらこの私とまどかの絵のようだ
私は解けて落ちたリボンを拾い上げ、魔法陣の上から退避すると魔法少女に変身し、盾から魔女召喚用の弾の入ってない銃を取り出す
この魔法陣はシャドウによるものなのだろうか。正体が掴めず、成り行きを見守る
円と線が繋がり、魔法陣が組みあがっていく。そして、魔法陣が完成するとその中心部が眩い光を放った
あまりの眩しさに私は目を覆った。それからしばらくして、次第にその光は弱くなっていき、やがて完全に消え去った
ほむら「……シャドウの仕業というわけでもなさそうね。一体何が……」
先ほどまで誰もいなかったはずの魔法陣の中心に、誰かが立っていた
現れた人物の姿を見た瞬間、私は大きく目を見開き、息をのむ
握っていた銃が手をすり抜け、カシャンと地面に落ちた
まさか…本当にそうなのだろうか。私は目の前の少女へ恐る恐る声をかける
ほむら「……まど、か……?」
私が名前を呼んだ少女はゆっくりと目を開く
その桃色の瞳で私を真っ直ぐに見つめ、問いかけに答えた
まどか「……うん」
ほむら「本当に…まどかなの……?」
まどか「……うん」
ほむら「あなたは…私が大好きな…まどか……?」
まどか「……うん。わたしは、ほむらちゃんのことが…大好きなわたし」
ほむら「じゃあ…本当に、あなたは……!」
まどか「……うん。ただいま、ほむらちゃん。ずっと待たせちゃって…ごめんね」
ほむら「まどか…まどかっ!!」
まどかが言葉を言い終わるよりも早く、私はまどかへと走り出す
そしてそのまま、まどかの胸に飛び込んで彼女を思いきり抱きしめた
ほむら「まどか…まどかぁ……!」
まどか「ほむら…ちゃん……」
ほむら「馬鹿…ばかぁっ……!私が…どんな思いでいたか……!」
ほむら「私……!あなたに逢いたかった……!声が聞きたかった……!笑顔が見たかった……!」
ほむら「何より…寂しかった……!寂しかったよ…まどか……!」
まどかの柔らかい感触が、温もりが、優しい匂いが、まどかの全てが私を包んでくれる
間違えるはずがない。私が愛した、あのまどかだ
まどかをきつく抱きしめ、溢れ出した涙が次から次へと流れていく
膨れに膨れ上がったまどかへの想いを、まどかは何も言わずただじっと聞いていてくれた
だが、まどかも我慢ができなくなったのか私へ向けてその胸の内を吐き出した
まどか「……わたしだって…寂しかった……!ほむらちゃんに逢いたかった!」
まどか「ほむらちゃんのためだって思って…がんばった……!でも……!」
まどか「このまま、ただ魔女と魔法少女を救うだけの存在になっちゃうような気がして…怖かった……!」
まどか「もう2度とほむらちゃんに逢えなくなるような気がして…辛かった……!」
まどか「それでも…こうしてまた、ほむらちゃんの下に帰って来れた……!だから……!」
まどか「わたしは…もうどこにも行かない!!ずっと…ずっと、ほむらちゃんの隣にいるよ!!」
まどかは目から大粒の涙を零しながら私の背中へと手を回し、本当の想いを打ち明ける
私だけじゃない。まどかも私と同じ想いだったなんて……
そのまましばらく、私とまどかは涙を流しながらお互いに抱きしめあった
――――――
ほむら「……まどか、落ち着いた?」
まどか「うん。ほむらちゃんも、もう大丈夫みたいだね」
落ち着きを取り戻した私とまどかは近くにあったベンチに並んで座る
思いきり泣いたせいか、まどかは真っ赤な目をしていた。きっと私も同じことになっているだろう
ほむら「えぇ。まどかを前にしたら、何だかあなたへの想いが溢れてきて……」
ほむら「本当は笑顔で迎えようって思ってたのに…何だか締まらない迎え方になってしまったわね」
まどか「そんなことないよ。ほむらちゃんに思いっきり抱きしめてもらって…嬉しかったから」
ほむら「そう…ならよかった」
まどか「……それにしても驚いたよ。戻って来たと思ったら、目の前にほむらちゃんがいるんだもん」
ほむら「それは私も同じよ。まさかまどかが目の前に現れるなんて、夢にも思わなかった」
まどか「……本当はね、少しだけ諦めてたんだ。元の時間に帰れないんじゃないかって」
ほむら「え……?」
まどか「でもね…ほむらちゃんがわたしを呼ぶ声が聞こえたような気がしたの」
まどか「その声を追いかけてきたら…ここに辿り着いたんだ」
ほむら「きっと…想いが通じ合っていたからだと思うわ。心と、想いと、魂が繋がっていたからこそ…奇跡が起きたんじゃないかしら」
まどか「わたし…言ってたっけ。想いが通じ合っていれば、また逢えるって」
ほむら「えぇ、言ってたわね。私もまどかも同じ想いだった。……私は、それが何より嬉しいわ」
まどか「……うん。わたしも嬉しいよ」
ほむら「……そう言えばまどか。あなた、契約無しで魔女を召喚していたわね」
まどか「うん。結局何が理由かは今もわからないままだけど。……それがどうかしたの?」
ほむら「私たちは今、シャドウと戦ってるの。それで……」
まどか「ほむらちゃん、シャドウって……?」
ほむら「え?……あぁ、マミがそう勝手に名付けたんだけど…魔女の代わりに現れた奴らのことよ。どういうわけか、仮面をつけているの」
ほむら「キュゥべえの話だと、私たち人間から零れ落ちた心や感情の欠片がシャドウとなるみたい」
まどか「わたしがいない間にそんなことが……」
ほむら「きっとまどかが魔女を救済して世界が変わったからかしら。私たち人間の感情の行き先が魔女からシャドウに変わった…のだと思うわ」
まどか「そっか…魔女を救えば全部うまくいくと思ったんだけどなぁ」
ほむら「まどかのおかげで私たちは十分に救われたわ。……それよりも、シャドウは魔女を召喚できる者を襲うから、まどかも……」
まどか「……わたしにはもう…魔女を召喚する力は残ってないよ」
ほむら「え?それってどういう……」
まどか「ほむらちゃんの時空間結界に魔女…魔法少女の敵として存在する魔女が生まれる前に救済する術式を組み込んできたの」
まどか「その術式に…クリームヒルトを通して、わたしの素質と因果、クリームヒルトの能力……」
まどか「全部置いてきたから。だからきっと今のわたしには…キュゥべえも見えなくなってると思う」
ほむら「そう…でも私としてはその方が嬉しいわ。……あなたをもう、戦わせなくて済むから」
まどか「ほむらちゃん……」
ほむら「私…1度はあなたを守り抜くことができなかった。でも、これからは…ずっと私があなたを守る。何があっても」
まどか「……うん」
まどか「ねぇ…ほむらちゃん。今のわたしを見て…どう、かな」
ほむら「……最初、あなたを一目見たときから気になってたんだけど」
ほむら「まどか…その髪……」
まどか「うん…向こうにいる間は何も食べたりする必要はなかったんだけど、何でか髪だけは伸びちゃって」
以前はそれほどでもなかったまどかの髪。今は私と同じか、それ以上にまで長く伸びていた
こんな髪型のまどかは初めて見るせいか、その姿に少しだけ見とれてしまった
まどか「今までのも好きだったけど…長いままにしておこうかな……」
ほむら「あら、どうして?」
まどか「ほむらちゃんとおそろいだなって、そう思って…やっぱり変かな」
ほむら「……全然変じゃない、素敵よ。でも……」
ほむら「……このリボンを結んでいるあなたの方が…もっと素敵」
私はずっと預かっていたまどかのリボンでその長髪を結ぶ
以前と同じ結び方にしてあげたが、髪が伸びたせいか随分と印象が変わっていた
まどか「ほむらちゃん…これ……」
ほむら「あなたから預かったリボン…確かに返したわ」
まどか「ずっと…持っててくれたんだ……」
ほむら「当然じゃない。まどかに預かってほしいと頼まれたし、それに……」
ほむら「私がこのリボンを持っていれば、また私のところに帰って来れるって…まどかの言葉を信じてたから」
まどか「ほむらちゃん…ありがとう」
ほむら「リボンもそうだけど…私、あなたにまだ伝えてないことがあるの」
まどか「え?」
ほむら「あの日…言ったでしょう?まだ私の全てを伝えてないって」
まどか「あ…うん。帰って来たら伝えてほしいって言ったんだよね」
ずっと…ずっとまどかに伝えたかった、私の想い、私の全て
今日まで伝えられずにいたこの言葉。もう伝えられないのではないかと思ったこともあった
だが、それももう終わり。まどかは目の前にいる。私のところに帰って来てくれたのだから
それなら、もう堪える必要なんてない。私はまどかをそっと抱き寄せると、私の全てをまどかへ伝える
ほむら「私…ずっとまどかに逢えなくて…まどかに伝えたいこと、たくさんあるの」
ほむら「でも、それだと何が1番伝えたかったことかわからなくなるわ。だから、一言だけ……」
ほむら「……まどか、私…私ね……」
ほむら「あなたを愛してる。誰よりも、何よりも……」
まどか「……ありがとう。ほむらちゃんからその言葉、言ってもらえたってだけで……」
まどか「がんばってきてよかったって…そう思えるよ」
ほむら「まどか……」
まどか「わたしも…ほむらちゃんを愛してるよ。誰よりも、何よりも」
まどか「だから…えっと、その…あとはほむらちゃんから…お願い……」
まどかはそう言うと、私の眼前で目を閉じる
これは…つまり、そういうことなのだろう。まどかが私をこんなにも求めていてくれるなんて
私は辺りを見回し、人がいないのを確認してから
まどかの唇に、自分の唇を落とした
ほむら「ん……」
まどか「……」
私の唇に、まどかの柔らかい唇が触れている。そう思うと、こうしているのがとても気持ちいい
何より、私の心も、魂も、幸せでいっぱいになっていくような、そんな気がした
前回のように…まどかがしてくれるのも悪くはない。でも、やっぱり私がまどかにしてあげたい
その方がきっと…私もまどかも幸せだと思うから
ほむら「……ふぅ…これでよかったのかしら……?」
まどか「……うん。あのね、わたし…1度はほむらちゃんに逢えないかもって、諦めかけてた」
まどか「だけどこうして、ほむらちゃんの下に帰って来て…ほむらちゃんにキスをしてもらって……」
まどか「わたし…今、最高に幸せだよ」
ほむら「私だって…あなたにもう2度と逢えないんじゃないかって、そう思って……」
ほむら「あなたが旅立った直後…時間を戻そうともしてしまった……」
ほむら「でも…もう逢えないかもと思ってたあなたが帰って来てくれて…あなたに触れて、あなたにキスができた」
ほむら「今まで感じたことないくらい…幸せよ」
まどか「……今まで辛い目に遭わせちゃった分…今度はわたしが、ほむらちゃんを幸せにしてみせるよ」
ほむら「それは…少し違うわ。どっちが幸せにするとかじゃない。2人で一緒に幸せになる。……でしょう?」
まどか「そっか…そうだね。ほむらちゃんと一緒に幸せになった方が、もっと幸せだもんね」
ほむら「……えぇ、そうね」
今日まで逢えなかった空白を埋めるようにまどかと話をしていたが、随分と長い間話をしてしまっていたようだ
いつの間にか辺りは真っ暗になり、空には月が浮かんでいた
正直私もまだ全然話し足りないのだが、これ以上話していると中学生が出歩くには適さない時間になってしまう
それにもう、話そうと思えばいつでも話せるのだから。私は話を切り上げ、帰ることを提案する
ほむら「……さて、そろそろ帰りましょうか」
まどか「帰る…って……」
ほむら「勿論、あなたの家によ。さぁ、行きましょう」
まどか「う、うん…でも、みんな怒ってる…よね。急にいなくなったりしちゃったし……」
ほむら「まどかに起こったことは私が説明しておいたわ。それに……」
ほむら「みんな、あなたの帰りを待ち望んでいるわ。……帰りましょう、まどか」
まどか「……うん。じゃあ…帰ろっか」
私とまどかは話し込んでいたベンチから立ち上がる。その直後、まどかは私の手を取り、指を絡めて手を握った
まどかのその行動に少し驚いた私はまどかの方へと視線を向ける
そんな私を余所に、まどかは私へ言葉を向けた
まどか「ねぇ、ほむらちゃん」
ほむら「何?」
まどか「ほむらちゃん…わたしのこと、ずっと好きでいてくれて…ありがとう」
まどか「ほむらちゃんがわたしを好きでいてくれたから…こうしてほむらちゃんの隣で、手を繋いでいられるんだと…そう思うから」
ほむら「まどか……」
まどか「わたしね…ほむらちゃんのことが、世界で1番…大好きだよ」
その言葉を聞いた瞬間、まどかの私への想いが私を包んでくれたような気がした
まどかの方へ振り向くと、私の隣で笑顔を見せてくれていた
その笑顔は今まで見たことが無い程に素敵で
最高の笑顔だった
ほむら「……まさかまどかにそうまで言ってもらえるなんてね」
まどか「ほむらちゃんはわたしのこと、どう思ってる?」
ほむら「そんなの、わかりきってることじゃない」
まどか「気持ちは言葉にしなきゃ伝わらないんだよ。ほむらちゃん、教えて?」
ほむら「……そうね。じゃあ、言わせてもらうわ」
ほむら「私もまどかが…世界で1番、大好き」
まどかがいない間、私はずっと笑うことができなかった。私は、上手く笑えるだろうか
だけど、私が待ち望み、恋い焦がれたまどかが私の隣にいる。私にとって、それが何よりの幸せだった
最高の幸せを感じている今、笑うなというのは無理な話だ。自然と頬が緩み、笑みが浮かぶ。そして
今、まどかに向けている笑顔。それは、今までに見せたことのない、最高の笑顔だった
ほむら「じゃあまどか、帰りましょう。……あなたの家へ」
まどか「うん。……ほむらちゃん、これからはずっと一緒だよ」
ほむら「……えぇ。ずっと…一緒よ」
そう言って私とまどかは手を握ったまま、まどかの家へと向かって歩き出す
まどかが無事、私の下に帰って来てくれた。これで、私の戦いにも幕が下りる
そして、今日ここから新たな戦いが幕を開ける。まどかを一生守って行くという、新たな私の戦いが
私が心から愛し、私を心から愛してくれている、あなたを守る為の戦い。あなたが隣で笑っていられるように、私は戦う
私とまどかが勝ち取ったこの未来。2人の想いが通じ合っていたからこそ手繰り寄せることのできた、奇跡の未来
もし、何かがひとつでも欠けていたらこの結末に辿り着くことは無かっただろう
まどか…私を好きになってくれて、ありがとう
あなたが私を好きになってくれなかったら、きっと私はまだあの1ヶ月を彷徨っていただろうから
1度は離してしまったこの手。だけど再び繋ぐことができた今、この手は2度と離さない
私の隣にあなたがいて、あなたの隣に私がいる。それが、2人が想い描く最高の幸せだと…そう思うから
私とまどかの未来はここから始まる。どんな形の未来が待っているのか、私にもわからない
でも、まどかと一緒なら恐れることは何もない
鈍色のような明日でも、絶望の未来でもない…私とまどか、2人の最高の未来へ
ねぇ、まどか……。私、今…とても幸せ
だって、またあなたに逢えた。触れられた。声が聞けた。抱きしめられた。キスができた
何より、あなたとこんなにも愛しあえているのだから
まどか…私の隣に帰って来てくれて、ありがとう
おかえりなさい、まどか……
Fin
758 : ◆SjWXMdM6SY[sag... - 2013/12/14 00:01:10.17 EzKkwllTo 628/629これで完結です
最後まで読んでいただき、ありがとうございました
768 : ◆SjWXMdM6SY[sag... - 2013/12/15 21:24:55.96 fS8rtr2po 629/629読んで下さった方、感想頂けた方、本当にありがとうございました
今回まどほむが甘かった気がする…次回はもっと頑張ります…
・次回予告
まどか「最悪のクリスマスイブ、最高のクリスマス」(仮) 季節ネタ
ほむら「まどかと過ごす1日」 短編
ほむら「あなたを守りたい私と私を守りたいあなた」 長編
叛逆公開したし叛逆ネタのも書きたいけどあんなんどう調理したらいいのか…
もう何作か長編は本編再構成になりそう…
また見かけましたらよろしくお願いします
盛り上がる要素は多々あるのに、冗長な展開。
結末も設定の重さの割には拍子抜けしました。
多くの要素を詰め込みすぎて消化出来なかった感が拭えませんでした。