――翌日――
ほむら「……結局、来なかったわね」
まどか「……さやかちゃん、どうしたんだろう」
マミ「ちょっと心配ね……」
翌日になってもさやかは姿を見せなかった
休み時間にさやかの携帯へ電話をかけてみたが、電源が切られているのか繋がらなかった
ほむら「昨日の今日でこれだから…上条恭介への告白が原因だと思うけど……」
まどか「うん…さすがに上条君にさやかちゃんの告白をどうしたのかなんて聞けないし……」
マミ「美樹さんがいないって聞いたあと、佐倉さんに街で見かけたら教えてと伝えておいたけど……」
ほむら「……とにかく、今日の放課後まで待ちましょう。さやかを待つにしても、探しに出るとしても」
マミ「そう…ね……」
まどか「さやかちゃん……」
――放課後 マミの家――
マミ「……美樹さん、やっぱり来ないわね」
まどか「マミさん、杏子ちゃんは?」
マミ「多分まだ美樹さんを探してくれてるんだと思うわ……」
まどか「そうですか……」
ほむら「……私たちも探しに出ましょうか」
まどか「うん…そうだね」
ほむら「マミは杏子と合流して。まどか、あなたはさやかの自宅に……」
いつまでも待っていても仕方ない。こちらからさやかを探しに出ようとしたとき
杏子から連絡が入った
杏子(マミ、ほむら…聞こえてるか?)
ほむら「杏子……?」
まどか「ほむらちゃん?どうかした?」
ほむら「杏子から連絡が……」
マミ(佐倉さん?美樹さん、見つかったの?)
杏子(いや、そうじゃねぇが…魔女の結界を見つけた。一応、教えといた方がいいと思ってな)
マミ(魔女の……?こんなときに……)
杏子(……魔女はマミとほむらに任せる。アタシはさやかを探すよ)
ほむら(こうなった以上、仕方ないわね。さやかのこと、頼んだわよ)
杏子(あぁ…わかってる)
まどか「杏子ちゃん、何だって……?」
ほむら「残念だけどさやかを見つけたということじゃないの。魔女の結界を見つけたみたいで……」
マミ「私たちは魔女を倒しに行くわ。なるべく早く倒して美樹さんの捜索をしたいところね……」
ほむら「さっきも言ったけど…まどかはさやかの自宅を見てきて頂戴。そのあとはあなたの判断に任せるわ」
まどか「わかったよ。……ほむらちゃん、気をつけてね」
ほむら「えぇ、わかってる。……マミ、私たちも行くわよ」
マミ「佐倉さんに場所を聞いておいたわ。行きましょう」
――――――
ほむら「……あった、あれね」
マミ「今日は時間がないの……。最初から全力で行かせてもらうわ……!」
ほむら「確かに急ぎではあるけど、焦っては駄目よ」
マミ「わかってるわ。焦らず、迅速に……!」
ほむら「わかってるのならいいわ。……あら、あれ……」
杏子の言っていた結界が見えてきた
だが、その入り口の前に見慣れた人物が佇んでいた
さやか「……」
マミ「美樹さん!」
さやか「……あ、マミさん…ほむら……」
ほむら「さやか……」
さやか「今日は…ごめん。多分心配かけちゃったと思うし……」
マミ「美樹さん…一体何が……」
ほむら「話は魔女を倒してからにしましょう。さやか、手を貸して」
さやか「……うん」
マミ「美樹さん、大丈夫?」
さやか「大丈夫…だと思います……」
マミ「本当に大丈夫なのね?……じゃあ、行きましょう」
――結界内――
さやか「てりゃっ!」
使い魔「!!」
さやか「ふぅ……」
ほむら「後ろよ、さやか!」
さやか「え……」
使い魔「!!」
さやか「あ…ありがと、ほむら……」
ほむら「……あなた、本当に大丈夫なの?これで3度目よ?」
さやか「……ごめん」
さやかにも手を貸してもらったが…今の彼女ははっきり言って足手まといだ
注意力が散漫になってるのか、使い魔に何度も背後から攻撃されてしまう
その度私やマミが援護してはいるが……
マミ「……魔女のところまで来たけど」
ほむら「さやか、あなたは下がってなさい」
さやか「え…でも……」
ほむら「……目の前のことに集中できないのなら、大人しくしてなさい」
ほむら「……その調子で戦ってたら…最悪、死ぬわよ」
マミ「私も暁美さんに賛成よ。今の美樹さんには戦わせられないわ」
さやか「……わかりました。だけど、2人が危ないようだったら…あたしも戦いますから」
ほむら「そのときはお願いするわ。そうならないように注意はするけど……」
マミ「それじゃ…行きましょう」
魔女「……」
マミ「あの魔女…何かを祈ってるのかしら」
ほむら「そう見えなくもないわね。……魔女が何を祈ってるかなんて知ったことじゃないけど」
マミ「そう…ね。じゃあ美樹さん、あなたは後ろに下がってて。いいわね?」
さやか「……はい」
ほむら「私とマミ、どちらかが援護に回った方がいいかしらね」
マミ「なら、私がやるわ。……行くわよ、キャンデロロ!!」
ほむら「……わかったわ。援護は任せたわよ」
提案したあとで思ったが、私が援護に回った方がよかったような気がした
私の銃器で果たして倒せるのだろうか……
最悪、射線を確保した上でマミに砲撃してもらうという手もあるが
とにかく考えていても仕方がない。私は盾から機関銃を引っ張りだすと、マミに目で合図を送る
それと同時に私は魔女へ向かって突っ走った
触手のような使い魔が私を捕らえようと四方八方から向かって来る
だが、そのほとんどは私に届く前にマミとキャンデロロによって次々に撃ち抜かれていった
ほむら「さすがマミね…正面以外を気にしなくて済むのは助かるわ」
使い魔「……!」
ほむら「正面は自分で薙ぎ払えば……!」
マミの位置からは死角になっている自分の前方に残っている使い魔に機関銃の銃口を向け、引き金を引く
私の邪魔をしていた使い魔が一瞬で蜂の巣となり、消滅する
まだいくらか使い魔が残っていたが、全ての相手をするつもりはない
残りをマミに任せ、私は魔女へと向かって使い魔の群れの中を走り抜けた
ほむら「抜けた……!あとは魔女を倒せば……!」
魔女「……」
ほむら「これでも…食らいなさい!」
使い魔の群れを抜けた私は機関銃を盾へ戻し、ロケット砲を引っ張り出す
そして、魔女へと狙いを定め、ロケット砲を発射した
発射された弾頭は魔女へ向かって飛んで行き、命中、爆発した
ほむら「どうかしら……?」
今の一撃で倒せたとも思えない。使い魔は姿を消しているが……
銃を構えて警戒していると、不意を突いて爆煙の中から魔女の触手が伸びてくる
咄嗟に銃の引き金を引くが撃ち落とせず、右腕を絡め取られてしまった
ほむら「……っ!そうだった、コイツも……!」
さやか「ほむらが……!」
マミ「まずいわね…私が行くわ。美樹さんはここを動かないで」
さやか「で、でも……」
マミ「いいから、私に任せて。……暁美さん、今行くわ!」
さやか「あ…マミ、さん……」
さやか(あたし…あたしは……)
さやか(あたし…何やってんだろ…仲間が危ないっていうのに……)
さやか(それに…覚悟したはずじゃない…見返りを求めないって。でも……)
さやか(恭介……)
ほむら「く…この……!」
絡め取られたのは右腕だけだったのは幸いだ。多少は時間稼ぎができるはず
だが、このままではいずれ全身を拘束され、影に引きずり込まれてしまうだろう
それだけは絶対に避けなければならない。何かいい手はないかと思案していると
マミがこちらへ向かって走って来る。だが、先ほど使い魔が現れた辺りの地面が妙だ
何か影のような……
マミ「暁美さん!もうちょっとだけ頑張って!」
ほむら「あれ、まさか…マミ、踏み込んじゃ駄目!」
マミ「え?なっ……!」
悪い予感は的中し、マミの周囲から多数の使い魔が姿を現す
そして、マミ目がけて一斉に襲いかかった
マミならあの程度、大丈夫だと思うが…これでは私の救助に来ることはできそうもない
自分で何とかするしか……
さやか「マミさん…ほむら……」
さやか「……あたしが…やらなきゃ。助けて…あげなきゃ……!」
さやか「ここであの2人を…仲間を助けられなきゃ…それこそ、あたしは……!」
さやか「あたし自身の問題で…あの2人に迷惑なんてかけたくない。だから……」
さやか「お願い…力を貸して……!」
さやか「……オクタヴィア!!」
マミ「……暁美さんを助けないといけないのに…邪魔よ!」
使い魔「……」
マミ「倒しても倒しても…キリがない……!」
さやか「マミさん!今助けます!」
マミ「美樹さん…それにオクタヴィアも……」
さやか「邪魔…だっ!」
オクタヴィア「……!」
使い魔「!!」
マミ「凄い…一太刀で……!」
さやか「あとはほむら…あたしが助けないと……!」
マミ「美樹さん!待って、私も……!」
魔女「……!」
ほむら「う…ぐ……!」
魔女に絡め取られながらも何とか抵抗していたが、それもそろそろ限界だ
時間停止を使っても魔女が私に触れてしまっている以上、それは無意味だった
そんな中、私を呼ぶ声が聞こえる
振り返ってみると、マミと魔女を従えたさやかがすぐそこまで来てくれていた
その足元には再び黒い影。そこへ踏み込むと、再度使い魔が姿を現した
さやか「また……!」
マミ「美樹さん、あなたは暁美さんを!ここは任せて!」
さやか「マミさん…わかりました!」
使い魔「……!」
マミ「させないっ!」
使い魔「!!」
ロロ「……」
マミ「あなたたちの相手は私よ。……さぁ、かかってきなさい!」
さやか「ほむら!今、助ける!」
魔女「……!」
さやか「邪魔を…するなっ!」
さやかの接近に気付いた魔女が彼女へと触手を伸ばす
だが、さやかは自身の魔女…オクタヴィアの両手の剣でそれを片っ端から切り落としていく。
そして、私を絡め取っていた触手をさやかの剣が断ち切った
ほむら「さやか…助かったわ、ありがとう」
さやか「お礼なんて…あたし、2人に迷惑かけちゃったし」
ほむら「……その様子なら、もう大丈夫そうね。行ける?」
さやか「もう大丈夫。あとはあたしに任せて」
ほむら「なら…あの魔女、真っ二つにしてやりなさい。もしものときは援護するわ」
さやか「……うん。行くよ、オクタヴィア……!」
オクタヴィア「……」
さやか「魔女…あんたは、あたしが…斬る!」
魔女「……!」
さやか「うわ、枝…かな……?だけど、そんなもの……!」
さやか「オクタヴィア!!」
オクタヴィア「……!」
魔女「!?」
魔女は向かって来たさやかを迎撃しようと枝を伸ばすも、オクタヴィアが一刀の下に斬り捨てる
そしてそのまま一気に魔女の懐へと潜り込んだ
さやか「これで…トドメだっ!」
魔女「!!」
オクタヴィアの大振りの剣が一閃する
次の瞬間には、魔女は真っ二つに両断されていた
さやか「ハァ…ハァ…」
ほむら「さやか…よくやったわ」
さやか「あ…あたしが、魔女を……?」
ほむら「えぇ。あなたが倒したのよ。見事だったわ」
さやか「そ…っか。あたしでも…ちゃんと魔女、倒せるんだね……」
さやか「杏子から色々教わってたけど…なかなか上手く行かなくて…あたしじゃダメなんじゃないかって……」
ほむら「さやか……」
マミ「暁美さん!大丈夫!?」
ほむら「えぇ。さやかのおかげで助かったわ」
マミ「そう、よかった…それよりも美樹さん、待っていてって言ったのに……」
さやか「あ…す、すいません……」
マミ「……ふふ、冗談よ。私と暁美さんを助けてくれてありがとう、美樹さん」
さやか「これで…あたしも2人の役に立てるかな」
マミ「えぇ。これから頼りにさせてもらうわ」
さやか「……!は、はい!頑張ります!」
マミ「それじゃ、戻りましょうか。……あ、そう言えばグリーフシード……」
ほむら「それなら私が回収しておいたわ。それよりも早くまどかと杏子に連絡を……」
マミ「結界を出たら連絡しておきましょうか」
――――――
QB「やぁ、お疲れさま」
マミ「キュゥべえ…どうしてここに?」
QB「魔女の反応があって、来てみたら君たちがもう中で戦ってたみたいだったからね。ここで待ってたんだ」
マミ「そう……」
QB「それよりも、グリーフシードを渡してくれないかな」
ほむら「……ほら」
QB「ありがとう。それじゃ早速……」
QB「……影の魔女、性質は独善…か」
さやか「……前々から思ってたんだけど、その食べたグリーフシードはどこに行くのさ」
さやか「あんたの中に詰まってるわけでもなさそうだし」
QB「そうだね…詳しく話してもきっとわからないだろうから簡潔に言うと、別の場所に転送されてるんだよ」
さやか「転送…ねぇ……」
QB「……さて、僕はそろそろ行かないと。それじゃ、また魔女を見つけたらよろしくね」
インキュベーターはそう言い残すと、私たちの前から去って行った
私たちも帰ろうとしたとき、マミがインキュベーターの行動について疑問を投げかける
マミ「……それにしても、キュゥべえはどうしてグリーフシードを集めてるのかしら」
さやか「あ、今聞けばよかったですかね…まぁ、次会ったときでいいかな」
私の知っているインキュベーターと比べると、この時間の奴は多少は友好的に思える
だが、どこまで行っても奴らはインキュベーター。自身の都合と利益の為ならこちらを利用するような連中だ
あの態度の裏に何が隠されているかわからない。特に魔法少女に関したことは……
さやか「……おーい、ほむらー」
ほむら「……あ、何かしら」
さやか「どうかした?今、すごい顔してたよ。眉間に皺寄せちゃってさ」
ほむら「……何でもないわ」
さやか「ならいいけど。それよりも、まどかに連絡してあげてよ。あたしを探し回ってるんでしょ?」
ほむら「そうだったわね…杏子にはマミかさやかが……」
さやか「今マミさんが連絡してるよ。だからほむらはまどかに電話してあげて」
ほむら「わ、わかったわ……」
ほむら「……えぇ。だからもう切り上げてもらっても大丈夫よ」
ほむら「ありがとう、まどか。それじゃ、またね」
マミ「暁美さん、終わった?」
ほむら「えぇ、今終わったわ」
さやか「まどか…なんだって……?」
ほむら「とても心配していたわ。さやかからも謝っておくことね」
マミ「もちろん佐倉さんにもよ。今日はずっと美樹さんを探していてくれていたのだから」
さやか「……うん。ちゃんと謝っておくよ」
マミ「……さて、私たちも帰りましょう」
――――――
ほむら「……さやか、ちょっといいかしら」
さやか「うん?何?」
帰り道の途中で、私はさやかに声をかけた
本当は聞かない方がいいのだろうが…そういうわけにもいかなかった
ほむら「今日は…どうしてまたこんなことを?」
さやか「こんなこと…って……」
ほむら「学校を無断欠席したり、集中しきれていなかったり……」
ほむら「昨日あんな話をしたあとだから、そのことだと思うのだけど……」
さやか「……マミさんとほむらには話しておこうかな。えっと……」
さやか「昨日…あのあと、恭介の家まで行って…恭介とちょっと外に出たんだ」
さやか「それで…恭介に告白したんだ。あたしと付き合ってください、って」
マミ「そ、それで……」
さやか「……見事にフられちゃいました」
ほむら「それで今日はそんな調子だったの……」
マミ「美樹さん…大丈夫なの?」
さやか「もう大丈夫ですよ。このくらいでへこたれるあたし…じゃ……」
そう言いかけたところで、さやかの顔が青ざめていく
さやかの視線の先を見ると、そこには
上条恭介と、彼に寄り添って歩く志筑仁美の姿があった
さやか「恭…介……」
マミ「美樹さん……」
さやか(……わかっては…いるよ。もしあたしがダメなら…仁美が告白するってことは……)
さやか(だからきっと…恭介は仁美と…付き合うことになるんだろうって……)
さやか(仁美は友達だから…嫌いになるつもりも、嫌われるつもりもない。……でも、だけど……)
さやか(ねぇ、恭介…やっぱり、あたしなんかより…仁美の方がいいの……?)
さやか(あたし…ずっと恭介を想って…お見舞いに行ってたんだよ……)
さやか(見返りを求めないって…バイオリンが聴ければ十分だって言ったけど…やっぱり、あたしは……!)
さやか(恭介のケガ…治したのはあたし…なのに、あんたは仁美を選ぶの……?)
さやか(そんな…そんなのって……)
ほむら「……さやか?」
さやか「……っ!ご、ごめん…あたし、先に帰る。それじゃ……」
マミ「あ、ちょっと、美樹さん!」
そう言うと、さやかは走り去ってしまった
好きな人に告白を断られ、その直後に別の誰かと一緒にいるところを見てしまったのだ。無理もない
ただ、こればかりは私は何も言えない。誰かに恋したことのない私には……
ただひたすらにまどかを守る、まどかを救うと…まどかのことだけを考えてここまでやってきた私には……
ほむら「……好きな人…ね」
マミ「暁美さん?今、何か?」
ほむら「……何でもないわ。私たちも帰りましょう」
マミ「え、でも美樹さんは……」
ほむら「さやかも帰ると言っていたし…家に帰ったのよ。……私たちから逃げ回るつもりもないでしょうし」
ほむら「……それに、私たちが何か口添えしても…最終的にはさやか自身がどうにかしなければならない問題だと思うわ」
マミ「それは…そうだけど……」
ほむら「まどかにも念の為に連絡しておくわ。……今日のところは帰りましょう」
マミ「えぇ……」
本来なら、さやかの魔女化だけは絶対に阻止しなければならない問題だった
だが、この時間は魔女になることはない。……インキュベーターの話を信じればの話だが
奴らの性質が変わっていないのだとしたら、絶対に何かを隠している
ソウルジェムが濁り切っても、それが直接の死因になることはない。……でも、何故か酷く嫌な予感がする
さやかのソウルジェムが濁り切る前に何とかしなければ
私の中の何かが、そう告げていた
――――――
???『……お久しぶり。また会ったわね』
???『それにしても…まずいことになってるみたいね』
???『美樹さやかが姿を見せず、ソウルジェムの状態もわからない……』
???『彼女を救うのであれば、急がないと手遅れになるわ』
???『彼女のソウルジェムが濁りきる…その前に手を打たないと』
???『……非常に厄介なことになるわよ』
――――――
ピピピピピピピピ
ほむら「う…ん、朝……」
ほむら「……何か夢を見ていたような……?」
ほむら「……駄目、全然思い出せない…最近変に多いわね、思い出せない夢が」
ほむら「別に夢だから覚えてなくても問題はないんでしょうけど……」
ほむら「……そろそろ支度しないと」
――数日後 マミの家――
ほむら「……それで、さやかから連絡は?」
まどか「……今日も何もないんだ…ごめんね、ほむらちゃん」
ほむら「……まどかが謝ることじゃないわ」
マミ「でもどうしたら……」
あの日以来、さやかが学校に来ることはなかった
上条恭介と志筑仁美が何日も姿を見せない彼女を心配してか色々と聞きに来たりするが……
ほむら「……帰り、いつも通り様子を見に行ってあげて」
ほむら「それと、もし余裕があれば…念の為ソウルジェムの様子も見てきてほしい」
まどか「うん…わかった」
あの日からさやかは、ずっと家に籠ってしまうようになった
さやかはきっと、あの2人が付き合うことになるのが怖いのだろう
実際は私たちも聞いたりしていないのでわからない
さやかも了承していたはずだ。自分の後に志筑仁美が告白することは
だが、その結果を知りたくない。そんな風に思って、家に籠ってしまったのだと思う
ほむら「あまり気が進まないけど…あの2人がどうなったのか、聞いた方がいいんじゃないかしら」
まどか「それはそうなんだと思うけど……」
マミ「えぇ…仮にあの2人が本当に付き合うことになっていたら、どう説明したらいいか……」
ほむら「……私、恋なんてしたことないからわからないのだけど…そんなに辛いものなのかしら」
マミ「そうね…相手を想っていればいるほど、それが実らなかったときの苦しみは計り知れないものだと思うわ」
マミ「届かない想いが心で渦を巻いて…身も心も引き裂かれて……」
まどか「……今、ちょっと想像したんだけど……」
まどか「もし…もしだよ?わたしがほむらちゃんに告白して、それを断られて……」
まどか「そのあと、別の誰かと一緒にいるのを見ちゃったとしたら、やっぱり…悲しくて、苦しくて、辛くて……」
まどか「きっと…耐えられないよ、わたしは」
ほむら「ま、まどか?急に何を言って……」
マミ「あらあら、鹿目さんは暁美さんが好きなのね」
まどか「え?……あ、いや、そういうわけじゃ……!」
マミ「でもその割には具体的な想像だったじゃない。素直に言った方が楽になるわよ」
まどか「そ、それはただわたしが1番好きなのがほむらちゃんで、好きな人を取られちゃうのってどうなんだろうって……」
マミ「やっぱり好きなんじゃない。よかったわね、暁美さん」
ほむら「えっと…あ、ありがとう……?」
まどか「あ…う……」
とんでもないことを口走ってしまったまどかは真っ赤になって俯いてしまった
まどかの好きがどういう形の好きかは、わからないし…今は怖くて聞くこともできない。でも
彼女に好意を寄せられていると思うと、少し顔が熱くなった
まどか「……それじゃ、わたしはそろそろ帰りますね」
ほむら「さやかのこと…頼むわね」
まどか「うん、わかってる。……じゃあ、おじゃましました」
そう言って、まどかは部屋を後にした
まどかが出て行って少ししてから、マミが私に問いかけてきた
マミ「暁美さんは鹿目さんのこと、どう思ってるの?」
ほむら「……さっきの話の続き?」
マミ「えぇ。何だか気になってしまって」
ほむら「……別に、ただの仲の良い友達だと思うけど」
マミ「そう…じゃあ、鹿目さんに本当に告白されたら、どうする?」
ほむら「何を…大体、私もまどかも女同士よ?いくら何でもそんなこと……」
マミ「ないとは言いきれないと思うわ。あんな想像の話をするくらいだもの」
マミ「きっと…心のどこかであなたのこと、そういう風に見てるんじゃないかしら」
さっきの話に影響されたのか、マミまでそんな話をしてくるとは……
まどかのことは勿論好き。もっと言えば、他の誰よりも。私にとって、まどかは特別な人だ
だけど、それが恋愛対象として好きかと聞かれると…答えられなかった
ほむら「……もし仮に、まどかが本当に私が好きで、告白してくれたら…それは嬉しいと思うけど」
ほむら「今はまだそれに応えることはできないと思う。私の目的…ワルプルギスの夜を倒すまでは……」
マミ「本当にこの街に現れるの?ワルプルギスの夜が」
ほむら「えぇ。間違いないわ」
マミ「どうもいまひとつ信じきれないのよね…心の準備だけはできているつもりだけど……」
マミとそんな話をしていると玄関のチャイムが鳴る
まどかとさやかではないだろうし、私とマミはここにいる。そうなるとやって来たのは杏子だろう
マミ「あら…佐倉さんかしら。ちょっと出てくるわ」
恐らく杏子であろう来客の対応へと、玄関に向かって行った
ワルプルギスの夜まであまり時間がない。だが、今は待つことしかできそうもない
少しばかりの焦りを感じながら、まどかを信じて連絡を待つことにした
――――――
まどか「……」
まどか(えっと、わたしのやること…まずさやかちゃんを元気づけること。それと……)
まどか(ほむらちゃんに頼まれた、ソウルジェムの状態を見てくること)
まどか(さやかちゃんのことはわかるけど、ソウルジェムのことってどういうことなんだろう……?)
まどか「……ほむらちゃんのことだし、何か考えがあるんだと思うけど…それよりも……」
まどか「さやかちゃん…出て来ないなぁ……。どうしたんだろう……」
まどか「うーん、どうしよう…鍵かかってるだろうし、入れるわけ……」
まどか「……あれ、開いてる……?何で……?」
まどか(何だろ…何か嫌な予感がする……)
まどか「さやかちゃん、いる?鍵、開いてたから入るよ?」
まどか「さやかちゃん?さやかちゃん、どこ?」
まどか「さやかちゃんってば!返事、してよ!」
まどか(さやかちゃんからの返事がない…あと探してないのはさやかちゃんの…自室……)
まどか(大丈夫…だよね。ただ、部屋で寝てるだけ。そうだよね、さやかちゃん……)
まどか「……さやかちゃん。部屋、入るよ?」
まどか「……いない…どこ行っちゃったの……?」
まどか「あれ、これ…置き手紙……?何が書いて……」
まどか(え…何、これ…嘘、だよね……?)
まどか(でも…現にさやかちゃん、いないし…どうしたら……)
まどか「……とにかく、ほむらちゃんに連絡しないと……!」
――――――
ほむら「まどか!」
まどか「ほむらちゃん!」
まどかからの連絡を待っていたら、何やら慌てた様子のまどかから連絡が入った
何を言っているのかよくわからなかったが、肝心な部分は聞き取れた。さやかが家からいなくなった、と
ほむら「さやかが消えたってどういうことなの!?」
まどか「さやかちゃんの部屋に…これが置いてあったの」
そう言って、私はまどかから何かメモのようなものを受け取る
手渡されたのはどうやらさやかからの置き手紙のようだ
『まどかへ』
『この手紙を見つけたってことは、心配で部屋まで見にきてくれたんだろうね。ありがと、まどか』
『あたしは、恭介のバイオリンが聴きたくて魔法少女になった。それは間違ってなかったと思う』
『そして、見返りを求めないという覚悟をした。……夢でだけど、もうひとりのあたしともその覚悟を交わした』
『もちろん最初はそのつもりだった。バイオリンが聴けるなら、それでいい…はずだった』
『だけど…今はもう、自信がない。見返りなんていらないって…はっきりそうだと言いきれない』
『仲間と友達…それに、この街を守る…それが自分の使命だって思ったのに…そう誓ったはずなのに』
『その誓いも守れそうにないよ』
『この間の…恭介と仁美がいるところを見て、恭介を仁美に取られちゃうって感じて…それで……』
『あたしはどうして仁美を助けちゃったんだろうって、そんな風に考えてしまった』
『見返りを求めないはずだったのに、ケガを治してあげたんだから、あたしと付き合ってほしいって思ってしまった』
『マミさんに憧れてたはずなのに…まさか自分の友達をそんな風に思っちゃうなんて…最低だよね、あたし』
『結局のところ、覚悟が足りなかったんだろうね。……だけど、もう何もかもがどうでもよくなってきちゃったんだ』
『いつだったか、マミさんが言ってたよね。自分で自分を制御できなくなったとき、魔女は暴走を引き起こすって』
『今のあたしは魔女を暴走させない自信はない。だから、あたしは消えるよ。みんなに迷惑かけたくないから』
『最後に…まどか。ほむら。マミさん。杏子。ありがとう。ごめんなさい』
ほむら「これは……」
その内容に目を通して、絶句した
さやかの胸の内が綴られた手紙を握りしめ、停止しかけた思考を巡らす
さやかはどこへ消えた?これからどうするべきか?自分の制御ができなくなり、暴走すると何が起きる?
とにかく、まずはさやかを見つけるのが最優先だ。マミと杏子にも手を貸してもらおう
そう考え、私はマミの携帯に連絡を入れた
まどか「ねぇ…さやかちゃん、大丈夫だよね……?」
ほむら「私にも…わからないわ……。だけど……」
ほむら「……早く見つけて何とかしないと…きっと取り返しのつかないことになるわ」
まどか「そんな……!」
ほむら「……あ、マミ?杏子もまだそこにいるわよね?実は……」
まどか(さやかちゃん…どこに行っちゃったの……?)
ほむら「……えぇ、それじゃお願いするわ」
まどか「ほむらちゃん、マミさんは……」
ほむら「マミと杏子も捜索に当たってくれるそうよ」
まどか「よかった…ありがとう、マミさん、杏子ちゃん……」
ほむら「……さて、私たちも行きましょう」
まどか「う、うん。わたし、さやかちゃんが行きそうなところ、行ってみるよ!」
ほむら「頼んだわ。私は向こうを探してみる」
そう言ってまどかは走って行った
さやかにとってこの現状は酷く辛いものなのだろう。だが
何としてでも、立ち直らせてみせる
――――――
さやか「……」
さやか「……あたしは…どうなるんだろうね」
さやか「……相当参ってるみたいね、あたしは。ソウルジェム、真っ黒になってる……」
さやか「……そう言えば、魔女の暴走ってどういうことなんだろ……?」
さやか「……でもまぁ、そんなことどうでもいいか。どうせあたしにはもう関係のないことだし」
さやか「……さて、と。そろそろ行こうかな」
ほむら「どこに行くつもりなのかしら」
さやか「……ほむら…みんな……」
みんなで手分けして探したが、一向にさやかを見つけることができなかった
ふと、手紙に書いてあった文…私たちの前から消えるという部分
もしかしてこの街から消えるという意味ではないだろうかと思い、急いで駅へとやってきた
そこでベンチに座り、虚空を見つめているさやかを見つけたときには、辺りはすっかり暗くなってしまっていた
ほむら「探したわよ、さやか」
さやか「……別に頼んじゃいないでしょうに。まぁ、心配してくれたことは…ありがと」
マミ「美樹さん…手紙、読ませてもらったわ。あれは…本当なの……?」
さやか「……そうですよ。あたしはもう…マミさんと一緒に戦う資格なんてないんです」
さやか「ほんの一瞬でも、友達を助けたことを…後悔してしまうような奴は……」
杏子「だけどよ、だからって……」
さやか「……杏子、初めて会ったとき、言ってたよね。自分以外に魔法を使うとろくなことにならないって」
さやか「もう少し早く出会って、それ、言ってくれてたなら…こうはならずに済んだのかな……」
杏子「さやか、お前……」
まどか「ねぇ、さやかちゃん…そんな死んじゃうようなこと、言わないで……!」
さやか「死ぬ…か。案外、そうなるんじゃないかな……」
まどか「え……?」
さやか「魔女が暴走したら…どうなるかはわからない。だけど、案外死ぬだけで済むんじゃないかなって……」
まどか「死ぬだけって…そんなこと言わないでよ!」
さやか「……のよ……」
まどか「さやか…ちゃん……?」
さやか「だったら…どうすりゃいいのよ!?ねぇ、教えてよ!!」
さやか「確かに、あたしは恭介のケガを治す願いで契約したよ!!見返りなんていらないとも言った!!」
さやか「だけど、あたしがケガを治したばっかりに、仁美が恭介を……!恭介のお見舞いにも、ほとんど来なかった仁美に……!」
さやか「ケガを治したから付き合ってくれなんて言うつもりなんてない!!だけど、こんなじゃ…言いたくもなるよ!!」
さやか「……もう、どうでもいいんだよ。何もかも……!」
まどか「さやかちゃん……」
精神が不安定になっているせいか、やけに攻撃的になってしまっている
自分が駄目だったから、志筑仁美が付き合うのだろうという思いが不安と猜疑心を煽り
どうして怪我を治してあげた自分じゃなく、彼女なのかという思いが怒りと憎しみを掻き立てる
そんな負のスパイラルに陥っているのだとしたら…非常にまずい。これ以上悪化させてしまうと、魔女が暴走してしまうのではないか
さやか「だからさ…あたしのことはもう、放っておいて」
ほむら「……そうはいかないわ。私たち…仲間でしょう」
さやか「仲間…ね。今のあんたの仲間って言葉…ちょっと信用できないのよね」
ほむら「……」
さやか「隠し事の多いあんたのことだから、どうせまだ何か大事なことを隠してるんでしょ?」
さやか「そんな奴のこと、信用できるわけないでしょ」
まどか「さやかちゃん、ほむらちゃんを責めないで。教えてくれるまで、待って……」
さやか「……まどか、あんたもあたしにはついてくれないんだね」
杏子「さやか…お前、何を言って……」
さやか「そりゃそうだよね…はは、もうあたしの味方はいないんだね……」
さやか「……あたしって…ほんとバカ」
『あんたって、ほんっとバカだよねぇ』
さやか「え……?」
マミ「何……?どうなってるの……?」
杏子「さやかが……」
まどか「2人に……?」
どこからか声が聞こえる。その声の主を探し辺りを見回すと、さやかのすぐ側に誰かが立っている
どういうわけか、その人物はさやかとうり二つの姿をしていた
さやか?「どうも、はじめまして」
ほむら「あなた…まさか……」
さやか?「そう。あたしはもうひとりの美樹さやか。さやかの影とでも言うべきかな」
唐突に姿を現したもうひとりのさやか
一体何故姿を見せたのかと考える
あのさやかの影はもうひとりの自分。魔女もまた、もうひとりの自分
そのもうひとりの自分が表に出て来た、ということは……
さやか「……それで、あたしに何か言いたいことでもあるの?」
さやかの影「言いたいこと…まぁ、そうなるのかな」
さやか「……はっきり言いなさいよ。一体、何しに出て来たっていうわけ?」
さやかの影「……まさかあんたがここまでバカだったとは思わなくてね」
さやか「……何だと?」
さやかの影「マミさんに言われたはずでしょ。恭介のケガを治してどうしたいのかって」
さやかの影「答えの出ないうちに契約して、できもしない覚悟なんかしちゃってさ」
杏子「オイ、さやか…何を……」
さやかの影「杏子は黙ってて。これはあたし自身との話だから」
さやか「あたしは…覚悟してた。そのつもりで……」
さやかの影「だけど結局、あんたは見返りを求めた。ケガを治してあげたのはあたしなんだから、って」
さやかの影「そして、あんたは仁美を憎んだ。恨んだ。よくも恭介を奪った、と」
さやか「そんな…そんなこと……!」
さやかの影「嘘を言ったってムダだよ。言ったはずさ、あんたはあたし、あたしはあんただって」
さやかの影「あんたが心の奥底に押し込めてるものはあたしには筒抜けなの」
さやか「う、嘘だ!あたしはそんなこと、思ってない!」
さやかの影「もっと言っちゃおうか。あんたは後悔してる」
さやか「後悔……?」
さやかの影「そう、後悔。あんたは魔法少女になったことを後悔してる」
さやか「な…そんなわけ……!」
さやかの影「……いや、違うか。魔法少女なったことじゃなくて、契約の願いのことだね。恭介の指のケガを治してほしいという願い」
さやかの影「あんな願いで契約してしまったから、恭介を仁美に取られてしまった。そう考えてる」
さやか「違う…あたしは……」
さやかの影「あんな願いでなければ、恭介は今もまだ入院してる。ずっと自分が恭介の側にいられた」
さやか「違う…違う……!」
さやかの影「あの状態だったなら、時間はいくらでもあった。ゆっくり時間をかけて、自分を意識させ、告白したらきっと成功してた」
さやかの影「あんたは今、あの状況を望んでる。病院で恭介と2人きりになれるから、って」
さやかの影「そして、それと同時に後悔している。あの願いによって恭介を退院させてしまったから、仁美に恭介を取られてしまった、と」
さやか「そんなこと…あたしは、後悔なんて…仁美のことだって……!」
さやかの影「了承したはずだよ?仁美の条件をさ。あんたのあとに告白するって」
さやかの影「その結果を認めたくないっていうのは、こうなってしまったことを後悔してるってこと。違う?」
さやか「それ、は……」
さやかの影「でもまぁ、仁美に取られたというのなら、話は簡単じゃない。取り返せばいい」
さやか「あんた…何を……」
さやかの影「今から恭介のとこに行って、両手足を潰してやればいいのよ。動かなくなるまでね」
さやか「な…っ……!」
さやかの影「そうすれば、あんたはまた恭介の側にいられる。ゆっくりと、あんたなしじゃ生きられない体にしてやるのよ」
さやか「ふざけないで!そんなこと、できるわけないでしょ!?」
さやかの影「なら、あたしがしてあげる。遠慮はいらないよ、これも自分の為だしね」
そう言うと、さやかの影は魔法少女へと変身した
もうひとりの自分なのだから当然だが、武器から衣装まで、同じ姿をしていた
自分の影の凶行を阻止すべく、さやかも魔法少女へと変身する。そして
さやかは自分の影に切りかかった
さやか「絶対に…行かせるもんか……!」
さやかの影「邪魔しないでよ。あたしはあんたが思ってることをやろうとしてるだけ」
さやか「あたしは…そんなひどいことなんて、考えてない!」
さやかの影「あんたは確かに思ったさ。恭介が入院したままだったなら…2人きりでいられたらってね」
さやか「違う……!こんな、こんなの……!」
さやかの影「違わないよ。あんたが心のどこかで思っていたことだ」
さやか「違う…違う、違う、違う!!」
胸の内に秘めていたことを容赦なく浴びせられる。それも、自分自身に
だが…いくら後悔しているとは言え、さやかがあんな酷いことを考えているはずはない
あの影は自分が思ったこと、感じたことを大幅に誇張して攻め立てているのだろうか
さやかの影の語ったことより、今はその影の凶行を止めなくては。私たちもさやかのところへと駆け寄る。だが
その増大された怒りと憎しみを孕んだ言葉に耐え切れなくなったさやかは
自分自身を否定した
さやか「違う!あんたは…あんたみたいな奴はあたしじゃない!!」
さやかの影「はは…あたしはあんたじゃない、ね……」
マミ「何……?様子が変よ……」
さやか「あんたが…あたしのわけない!!あんたは、あたしじゃない!!」
さやかの影「自分自身にヒドいこと言うね。だけど、あんたはあたしを否定した。だから……」
さやかの影「あたしはもうあんたじゃない。なら、あたしのこの怒りと憎しみの元を…破壊してやる!!」
さやかの影がそう叫ぶと、腹部のソウルジェムが形を変えていく
何が起こっているのかはわからない。だが、ただひたすらに嫌な予感がする
まどか「ねぇ、ほむらちゃん…一体何が……」
ほむら「わからないわ……。とにかく、まどかはさやかと一緒にいて。杏子、2人をお願い」
杏子「あぁ、わかった……!」
さやかの影「仁美と恭介…2人の前に、あたしの邪魔をするあんたたちを…始末させてもらうよ!」
形を変えたソウルジェムを手にする。その手に握られていたのは
紛れもなく、グリーフシードだった
そのグリーフシードから結界が広がっていく。そして
私たちはあっという間に結界に飲み込まれてしまった
マミ「……みんな、いる!?」
ほむら「えぇ。杏子、そっちは?」
杏子「まどかもさやかも大丈夫だ!」
さやか「あたし…あたしは……!」
まどか「さやかちゃん……」
さやかの影「あたしはもう美樹さやかじゃない。……そろそろ行かせてもらうよ」
ほむら「……!ちょっと待って、あの影はもうひとりのさやか…つまり、アイツは……!」
さやかの影「さすがはほむら、よく気づいたね。……だけどもう、手遅れだよ」
さやかの影「……あたしも、あんたたちもね」
そう言い残し、彼女は黒い炎に包まれていった
その黒い炎を飲み込み、グリーフシードが宙へと浮いていく。そして
グリーフシードを中心に、魔女の身体が構築されていく
さやかの…人魚の魔女、オクタヴィアの巨体が私たちの目の前に姿を現した
魔女「……」
マミ「ちょっと…何であんなに大きいのよ!?元々美樹さんの魔女だったはずでしょ!?」
ほむら「恐らく…あれが魔女の暴走という奴じゃないかしら」
マミ「あれが……?」
ほむら「あなた、知ってるんじゃなかったの?」
マミ「魔女が暴走するというのは知ってるけど、実際どうなるかまでは……」
ほむら「……とにかく、今はあの魔女を何とかしないと……」
さやか「あんな奴が…あたしの中に……」
杏子「た、確かにあの魔女はお前の魔女だけどよ…でも、あんなバカでかくなかっただろ?」
さやか「あんな…化け物があたしの中にいたんなら…そりゃ、狂っちゃうわけだよ……」
まどか「……違うよ」
杏子「まどか……?」
まどか「わたしにだってわかるよ。あの魔女…今はさやかちゃんじゃない」
まどか「きっと…怒りと憎しみでおかしくなっちゃってるだけなんだよ」
さやか「まどか…何でそんなこと……」
まどか「……何となくだけど、わかるんだ」
魔女「……!」
ほむら「マミ、来るわよ!」
マミ「わかってるわ!……行くわよ、キャンデロロ!!」
ロロ「……」
機関銃を構え、マミに注意するよう声をかける
マミも魔女を召喚し、砲撃戦の用意をする。その直後、魔女が攻撃を仕掛けてきた
魔女「……!」
ほむら「……今よ、散開!」
魔女の巨大な剣が振り下ろされると同時に散開する。そして
魔女へ向けて、機関銃の引き金を引いた
まどか「ほむらちゃん…マミさん……」
杏子「……すまねぇ。アタシも手を貸してやりたいけどよ……」
杏子「今のアタシが行ったところで、足手まといにしかならないからな……」
まどか「ううん、気にしないで。それに、ほむらちゃんとマミさんならきっと大丈夫だよ」
杏子「……ありがとよ、まどか。だけどよ、こっちは今魔女を召喚できるのはマミだけなんだよな……」
杏子「さやかのはあそこで暴れてるし、アタシとほむらは召喚自体が……」
まどか「……大丈夫。杏子ちゃんも、自分と向き合えば…覚悟を決めたのなら、きっとまた……」
杏子「まどか……?」
まどか「あ…ごめんね、魔法少女でもないわたしがこんなこと言って……」
杏子「……いや、別に気にしてねぇよ」
杏子(自分と向き合う…覚悟、か……)
さやか(……あたし、また…またみんなに迷惑かけて……)
さやか(前の魔女のときだって…あたしがだらしないせいで、マミさんとほむらに迷惑を……)
さやか(今回もまた…それも、今度ばかりは完全にあたしのせい……)
さやか(……あたしのせいで、こんなことになっちゃったんだ……)
さやか「……」
まどか「さ、さやかちゃん……?」
さやか「……オクタヴィア!!」
さやか「……オクタヴィア!出てきてよ、オクタヴィア!!」
杏子「落ち着け、さやか。……お前の魔女はあそこで暴れてるだろ。だから…今はお前の中には……」
さやか「あたしの中にいないって…やっぱり、あいつは……」
杏子「……」
さやか「でも…それでも、認めるもんか……!あいつは、あたしじゃない!」
杏子「あ、おい!待て、さやか!」
まどか「さやかちゃん!」
杏子「クソ…アタシまでここを離れるわけには……!」
まどか「さやかちゃん!戻って、さやかちゃん!」
杏子(アタシが…召喚さえできれば……!)
魔女「……!」
ほむら「く……!マミ、大丈夫!?」
マミ「えぇ、何とか…ただ、正直余裕はないわね……」
遠距離からの銃による攻撃に対し、魔女は車輪を飛ばして反撃してくる
マミはともかく、その車輪を貫いて魔女まで届く攻撃手段を有していない私は思うように戦うことができなかった
ほむら「車輪ごとあなたの砲撃で吹き飛ばせない!?」
マミ「できないことはないと思うけど……!」
魔女「……!」
ほむら「……車輪のせいでそれも難しいってわけね……!」
マミ「えぇ…どうしたものかしら」
近接型でない私たちが接近戦を挑んだところで、剣を持った魔女には敵わない
ならばと遠距離での戦いを選んだが、こっちはこっちで決め手が無い
時間を止め、マミに直接魔女を狙ってもらうべきか考えていたときだった
さやか「うあああぁぁぁぁっ!」
ほむら「ちょっと、さやか!?戻りなさい!」
さやか「あいつは…あたしが倒す!あたしの偽物は、あたしが……!」
マミ「偽物って、あれは美樹さんの……」
さやか「違う!あいつは…あたしの偽物だ!偽物でなけりゃ、あんなこと……!」
さやか「あたしを…騙るな!」
マミ「美樹さん!」
魔女「……!」
さやか「そんなもの…当たるもんか!」
突っ込んでいくさやかに対し、魔女は無数の車輪を召喚する
さやかはその車輪の隙間を縫うように走って行く
そして、魔女の目の前まで近づいたところでさやかは思い切り飛び上がった
魔法陣を足場にして、魔女へと向かって突撃する。しかし
それを予見していたのか、魔女はさやかへ向けてその巨大な剣を振るう
さやかは自身の剣でそれを防ぐも、大きさが違いすぎる
そのままさやかは大きく吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた
さやか「……っぐ…う……!」
ほむら「さやか!」
さやか「……まだ、だ……!あたしはまだ…戦える!」
そう言って、さやかは再び魔女目がけて突っ走った
先ほどと同じように、車輪をすり抜け、魔女へと飛びかかる
だが、全く同じ手が通用するはずもなく巨大な剣により吹き飛ばされ、叩きつけられる
私たちの制止も聞かず、さやかは何度も立ち上がり、走り、吹き飛ばされ、そして叩きつけられた
杏子「さやか…あのバカ、今のお前1人じゃ……!」
まどか「さやかちゃん!もうやめて!」
杏子(アタシには…何もできないのか……?)
杏子(アタシはアイツを…さやかを失いたくねぇ……!)
杏子(こんな短い間にも、アタシには…友人も、仲間もできた。もう、2度とできるはずもねぇと思ってた…だからこそ……)
杏子(もうたくさんだ…大切な誰かをを失うのは……。だから、アタシは……!)
杏子「……まどか、すまねぇ。アタシに行かせてくれ」
まどか「杏子ちゃん…うん、わかった。さやかちゃんを…助けてあげて」
杏子「……あぁ、任せろ!」
杏子(待ってろ、みんな……!)
さやか「ぐあ…ッ……!」
ほむら「さやか!もういい加減にしなさい!死ぬわよ!?」
マミ「あの車輪さえなければ、リボンで縛ってでも止められるのに……!」
さやかが突っ込んでは弾き返されている間、魔女の標的を変えさせようと攻撃を仕掛ける
だが、魔女は私たちに見向きもせず、さやかに狙いを定めていた
ほむら「とにかく、奴の狙いを私かマミへ向けさせないと……!」
さやか「あいつは…あいつはあたしが倒す……!余計なこと、しないで!」
ほむら「待ちなさい、さやか!」
杏子「……ちょっと待て、さやか」
さやか「杏子……」
ほむら「杏子…まどかは?」
杏子「まどかには許可もらってる。……それよりも、さやか」
杏子「あの戦い方は何だよ。ただがむしゃらに突っ込んだって無意味だ」
さやか「杏子には関係ないでしょ……!あいつはあたしが倒さなきゃダメなんだ……!」
杏子「……何がどうなってアイツが現れたのかはわからん。だけど、さやかはそれに責任感じちまってるんだろ?」
さやか「……」
杏子「だからって、全部お前1人で背負い込む必要なんてないだろうが。何の為にアタシらがいると思ってんだ」
さやか「何のためって……」
杏子「1人で倒せないのなら、力を貸す。……そう言ってんだよ」
杏子「……アタシはな、さやか…お前が羨ましかったんだ。誰かの為に戦えるお前が」
杏子「アタシにはもう…そう思える、大事な家族も、仲間も…いなかったから……」
さやか「杏子……?」
杏子「……だけどよ、お前らと一緒にいて、思ったんだ。また、アタシにも仲間ができたんだって」
杏子「アタシは…1度は大切なものを失っちまった。だから…その分、大事だと思える人を守ろうって……」
杏子「誰かを失って、そのせいで悲しむ奴が生まれてほしくない。……少なくとも、アタシの周りでそんなことは起こさせない」
杏子「アタシは…覚悟を決めたよ。本当の自分と向き合うって。仲間を守るんだって」
杏子「もう1度…アタシは戦う。自分の為じゃない、仲間の為に…戦う」
ほむら「杏子……」
マミ「佐倉さん……」
杏子「マミ、ほむら…アタシも力を貸すよ。さっさと大暴れしてるあのさやかを止めてやろうぜ」
ほむら「え、えぇ…でも杏子、あなた…戦えるの?」
杏子「大丈夫だ。相棒もまた力を貸してやるって言ってくれてるからな」
マミ「佐倉さん…それじゃ……!」
杏子「あぁ。……行くよ……!」
杏子はそう言うと右手を翳す
その掌の中には、胸に輝く宝石と同じ真紅のソウルジェムが浮かび上がっていた
そして、それを握りつぶすと同時に、魔女の名を叫んだ
杏子「出ろ!オフィーリア!!」
オフィーリア「……」
彼女の背後に現れたのは、槍を構え、馬に跨った騎兵のような姿の魔女
武旦の魔女、オフィーリア。もうひとりの杏子がついにその姿を現した
マミ「……佐倉さん、もう大丈夫ね」
杏子「長い間、迷惑かけちまったな。……でも、もう大丈夫だからよ」
さやか「杏…子……」
杏子「……行くぞ、アイツを倒しに」
さやか「……うん!」
ほむら「そうは言っても…何かいい手でも?」
杏子「あぁ。……さやか、お前…オフィーリアに乗れ」
さやか「……はい?」
杏子「さやかをオフィーリアに乗せて突撃、そのあとさやかが飛び出して魔女を斬る。これでどうだ」
さやか「ちょ、ちょっと待ってよ。あたしは……」
杏子「何だ?あれだけ自分で倒すとか言ってたじゃねぇか。それとも倒す自信がねぇのか?」
さやか「な…いいよ、やってやろうじゃん!」
杏子「なら決まりだ。ほむら、マミ、もしものときの援護、頼んだ」
マミ「えぇ、わかった。任せて」
杏子「……さやか、準備できたか?」
さやか「な、何とか」
結局、さやかはオフィーリアの背中にしがみつく形で同乗した
無理にさやかが倒す必要もないのだろうが…それがさやかのけじめのつけ方なのだろう
もしものときの為にいつでも時間を止められるように盾に手をかけ、成り行きを見守る
杏子「そんじゃ、行くぞ!」
オフィーリア「……!」
さやか「うおあっ!?」
さやかを乗せたオフィーリアは魔女目がけて駆け出した
それを迎撃しようと車輪を召喚するが、オフィーリアはその巨大な槍で片っ端から叩き落としていく
なおも魔女へ接近すると、射程内に入ったのか魔女が剣を構える
だがその剣を振るうよりも速く、オフィーリアが懐へと辿り着く
手にした槍が閃いた次の瞬間には、槍が魔女の身体を貫いていた
魔女「……!?」
杏子「今だ、さやか!やれ!」
さやか「わかってる!」
そう言うとさやかは剣を構え、飛び上がった
先ほどまでなら、また吹き飛ばされていただろう
しかし、槍で貫かれ、もがき苦しんでいる魔女にそうするだけの余裕はなかった
さやか「これで…どうだああぁぁぁっ!!」
魔女「!!」
がら空きになった魔女の胴体へと突っ込んでいく。そして
魔女の左胸に、その剣を深々と突き立てた
さやか「これで倒し…え……?」
崩壊した魔女の身体の中から、グリーフシードが現れる
そのグリーフシードから黒い炎が燃え上がったかと思うと
炎の中から、もうひとりのさやかが姿を現した
さやかの影「……まさか、あたしが負けちゃうなんてね」
さやか「……当然でしょ。美樹さやかはあたし」
さやか「あたしを騙った偽物なんかに…負けるはずない」
さやかの影「偽物…ね。あたし、何度も言ったよね。あんたはあたし、あたしはあんただって」
さやか「……」
さやかの影「確かに、あんたはあたしほど強い悪意を持ってるわけじゃない。だけど……」
さやかの影「恭介や仁美に抱いた、ほんの少しだけの嫉妬や恨めしい気持ち…それは間違いなく、あんたの本心」
さやか「黙れ!あたし…あたしは……!」
ほむら「……いい加減、認めたらどうかしら。目の前にいるあなたも…自分自身だって」
さやか「……頭じゃわかってるよ。こいつもあたしなんだって。だけど……!」
さやか「だから、余計に認めたくないんだよ!恭介や仁美に、あんなこと思っちゃうなんて……!」
さやかは、目の前にいる自分の影が許せないのだろう
自身の感情が大きく誇張されていたとは言え、想い人と友人に少なからずそういった気持ちを持ってしまった
きっとその事実が、さやかを苦しめているのだと思う
どうさやかを説得するべきか悩んでいると
背後から、まどかの声が聞こえた
まどか「……さやかちゃん」
さやか「まど…か……」
まどか「さやかちゃん…自分が許せないんだよね……」
まどか「上条君と仁美ちゃんに…ほんの少しでも、変なことを思っちゃったことが……」
さやか「……」
まどか「でも…わたし、それが普通なんだと思うよ」
さやか「……普通?」
まどか「うん。きっとさやかちゃんは…仁美ちゃんに嫉妬しちゃったんだよ」
まどか「上条君に対しても…仁美ちゃんを選んだことを、ほんのちょっとだけ恨めしいって思っちゃったんじゃないかな」
さやか「……どっちにしろ、友達にそんなこと思っちゃうなんて」
まどか「……仕方ないよ。だって…それが恋ってことなんだと思うし」
まどか「さやかちゃんと仁美ちゃんみたいに、同じ人を好きになっちゃったら…どっちも断られちゃうこともあると思うけど」
まどか「どちらかが選ばれたのなら…もう片方の人は、選ばれた人、好きになった人、両方に嫉妬して、どうしてって思っちゃう」
まどか「だから、さやかちゃんがそう思っちゃったことは…おかしくなんてない。わたしは…そう思うよ」
さやか「あんたに…まどかに何がわかるってのよ……!恋なんてしたことのないまどかに……!」
まどか「……少しだけど、わかるよ。恋として好きかはわからない。けど……」
まどか「わたしにだって、好きな人…いるから」
さやか「まどか…あんた……」
まどか「その人にふられて…誰かと一緒にいるのを見ちゃったら…わたしだって、きっとさやかちゃんと同じこと思っちゃうよ」
まどか「……さやかちゃん、もう…自分自身を許してあげて。認めてあげて」
まどか「このままだと、さやかちゃん…心が壊れちゃうよ。そうなっちゃったら…もう取り返しがつかなくなっちゃう」
さやかの影「……」
さやか「あたしはあんたで…あんたはあたし、ね……。全部ひっくるめてあたしってことか……」
さやかの影「……うん」
さやか「……恭介と仁美に…嫉妬したのは事実。それでも…あたしは恭介が好き。仁美が好き。だから……」
さやか「2人を守るために、あたしは戦う。……それがあたしの覚悟」
さやかの影「……今度こそ、信じてもいいんだね?」
さやか「……うん。もう迷わない」
さやかの影「……わかった。あんたを信じるよ」
さやか「あんたはあたしなんでしょ?……自分を裏切るようなマネ、もうしないよ」
さやかの影「じゃあ…あたしは帰るよ。あんたの中に」
さやか「うん。また、戦いのときは…よろしく」
さやかの影「わかってるよ。……今後とも、よろしく」
さやかの影はそう告げると、その身体が光に包まれる。そして
その光はさやかのソウルジェムへと向かっていき、ソウルジェムの中へと消えていった
濁りきっていたはずのさやかのソウルジェムは、一点の曇りもなく煌めいていた
さやか「……」
ほむら「……さやか」
さやか「……うん。もう大丈夫だから。みんな、ありがとう」
さやか「それと…ごめん。迷惑かけちゃって……」
マミ「気にしないで。私たち、仲間で…友達じゃない」
さやか「マミさん……」
杏子「その…何だ、悪かった。アタシが告白しろだなんて言っちまったから……」
さやか「……杏子が背中を押してくれなかったら、きっとあたし、何もしないで後悔してたと思う」
さやか「だから…ありがと、杏子」
杏子「……おう」
まどか「さやかちゃん……」
さやか「まどか…ありがと。まどかのおかげで、あたし…自分と向き合えた」
まどか「わ、わたしは何も……」
さやか「それでも…ありがと、まどか」
さやか「……それはそれとして、まどかの好きな人って…一体誰のことなの?」
まどか「……え?」
さやか「さっき言ってたじゃん。好きな人がいるんだーって」
まどか「わ、わたし、そんなこと言ってた……?」
さやか「うん」
マミ「そう言えば……」
杏子「そんなこと言ってたな」
まどか「う、嘘…さやかちゃんの説得に必死で、全然覚えてない……」
まどか「あ……!ほ、ほむらちゃん!ほむらちゃんはそんなの、聞いてない…よね……?」
まどかが私に聞いてくるが…正直に言えば、私も聞いてしまっている
どう答えたものかと少し考えたが答えは出ず、まどかから視線を逸らしてしまった
まどか「や…やっぱり聞こえちゃってる…よね……」
まどか「……どうしよう。ほむらちゃんに聞かれちゃった……」
顔を真っ赤にしたまどかが何かをボソボソと呟いていたが、何を言っているかは聞き取れなかった
そんなまどかを見てさやかが何かちょっかいを出したらしく、まどかの顔はさらに真っ赤になってしまった
マミ「結界も消滅したみたいだし…そろそろ戻りましょう」
杏子「そうだな。さやかも無事に確保できたことだしな」
さやか「結局まどかの好きな人は誰だったのか聞けなかった……」
まどか「うぅ……」
さやか「……まぁ正直もう目星はついてるんだけどね。いやー、まどかも難儀な相手を……」
そう言ってさやかは私へと視線を向ける
さやかのその視線は、まどかの好きな人は私だと物語っていた
……まさか。さすがにそれはあり得ない。さやかの思い過ごしだろう
まどかの抱く私への好きは、さやかたちへの好きと同じもの。そう思っていると
以前にも感じた、妙な胸への違和感。だけど
その違和感は以前に増して大きくなり、私の胸を締め付ける
確かに私はまどかを好きだと言ったことはある。だけど、あれはそのつもりは……
まどか「……らちゃん。ねぇ、ほむらちゃんってば」
ほむら「……え?」
まどか「もうここに用事もないし、そろそろ帰ろうよ」
ほむら「え、えぇ…そうね……」
まどか「……?ほむらちゃん、どうかした?」
ほむら「え?い、いえ、何でもないけど……」
何だか変にまどかのことを意識してしまう
別にまどかは私が好きだと決まったわけでもないのに、どうして私は……
ただ、まどかの好きな人が私であれば、と考えてしまう
そんなことを考えていると、暗闇から白い生き物が姿を現した
QB「……やぁ、みんな」
マミ「あら、キュゥべえ。どうしたの、こんなところに」
QB「……この辺りで魔女の反応を確認してね。様子を見に来たんだけど」
ほむら「……それはさやかの魔女の暴走によるものだと思うわ」
QB「……それはどういうものだったんだい?」
さやか「あたしがひどく落ち込んで、何もかもどうでもよくなって……」
マミ「美樹さんのそばにもうひとりの美樹さんが現れて、美樹さんがそれを自分じゃないって否定したら……」
杏子「そのままさやかの魔女が巨大化して現れた、って感じだったな」
QB「……うん。それは間違いなく魔女の暴走だね」
さやか「うわ、やっぱりそうだったんだ……」
QB「……だけど、見る限りさやかは無事に見えるけど」
さやか「うん、みんなが必死になってあたしを助けてくれたから……」
さやか「おかげさまで何とか無事に……」
QB「……さやかが生きてここにいるのはそういうことだったんだ。全く、余計なことをしてくれたようだね」
さやか「え……?」
QB「……率直に言わせてもらうよ。さやか、君はここで死ぬべきだったんだ」
マミ「……キュゥべえ?一体どういうこと?」
QB「どういうつもりかって?それは……」
QB「さやかが死ねば、高純度のエネルギーが得られる。それだけだよ」
マミ「な……」
さやか「あたしが…死ねば……?」
杏子「テメェ…何を言って……!」
QB「さやかはここで死ぬべきだったんだよ。僕の…僕たちの目的の為にね」
ここに来て今までそれなりに友好的だったインキュベーターの態度が一転する
今までと違っても、やはりインキュベーターはインキュベーターということなのだろう
恐らく、ソウルジェム…魔法少女システムにも、私たちに隠していることがあるはずだ
こうなった以上、その全貌を聞いておくべきだ。口論をやめさせてから、インキュベーターに問いかける
ほむら「……キュゥべえ。私、以前聞いたわよね?ソウルジェムの真実を話せと」
QB「確かに訊かれたね。だけど、ただ漠然と真実を語れと言われても、何のことかわからないからね」
ほむら「なら…お前はソウルジェムや魔女のことで隠していることがある。……そういうことね?」
QB「訊かれた以上は答えるよ。確かに僕はソウルジェムや魔女のことについて、隠していることがある」
ほむら「以前に聞いた…あれで全てではないの……?」
QB「あれは君の質問に答えただけだよ。現に、君の言う肉体操作なんてしてないじゃないか」
QB「それにソウルジェムが濁りきっても、それが直接の死因にはならない。……そう、直接の死因にはね」
ほむら「……どういうことかしら」
QB「……君はどうやら全てを知りたいみたいだ。ここじゃ何だし、マミの家にでも行くことにしよう」
QB「そこで全てを話してあげるよ」
――マミの家――
QB「……さて。暁美ほむら、君は僕に何を訊きたいんだい?」
インキュベーターが隠している、ソウルジェムの真実。今までの時間と違う以上、どんな話が飛び出して来るかわからない
ここはまず私だけで話を聞くべきか……
ほむら「……まず私が話を聞かせてもらうわ。みんなは別室に……」
杏子「いや…アタシたちも聞かせてもらう。自分たちのことでもあるしな」
さやか「どうしてあたしがあんなことになったのかも…知っておきたいし」
マミ「変に隠されるよりも…その方がマシよ」
ほむら「……」
まどか「……ほむらちゃん、きっと大丈夫だよ」
ほむら「まどか……?」
まどか「どんな真実が隠されていたって…みんなが一緒なら、絶対…大丈夫。だから……」
ほむら「……わかった。キュゥべえ、話しなさい」
QB「まず何から話そうか…そうだね、さやかの身に何が起こったか。そこから話そう」
QB「さっきも言った通り、もうひとりの自分が現れ、巨大な魔女となって襲ってきた。これは間違いなく魔女の暴走によるものだ」
ほむら「そもそも、魔女の暴走とは一体何なの……?」
QB「以前にマミから訊かされたはずだろう?自分で自分の制御ができなくなったとき、魔女は暴走すると」
ほむら「……お前の口から聞きたいのよ。全てを」
QB「やれやれ、仕方ないなぁ…魔女の暴走というのは、もうひとりの自分…つまり、自分の魔女を制御することができなくなった状態のことだよ」
QB「ソウルジェムの濁りというのは、君たちの精神を可視化したものだ。濁っていないときが良好な状態、濁っていればその逆というわけさ」
QB「怒りや憎しみ、迷い…そういったもので精神が不安定になったとき、ソウルジェムは濁り出す」
QB「そのソウルジェムが濁れば濁るほど、魔女の制御は不安定になっていく。不安定な精神ではとてもじゃないが魔女の制御なんてできるわけがない」
QB「ソウルジェムが濁りきったとき、もうひとりの自分は自分の影として姿を現す。そして、自分の心の奥底にあるものを、最大級に誇張して君たちを責め立てる」
QB「その自分を認め、受け入れることができれば、再び君たちの中へと戻る。でも、君たち人間はそう簡単にそれができないんだろう?」
QB「それに耐えられなくなり、自分で自分を否定したが最後。君たちの影は魔女として暴走する」
さやか「じゃあ…あたしは……」
QB「そうさ。その暴走は君が自分で引き起こしたことだ」
QB「自分で勝手に描いた理想の自分にはなれないと落胆し、僅かでも自分で思ってしまったことに悲観し、自分の願いに絶望する」
QB「そしてその最後に、自らを否定した。君の浅慮と弱さが招いたことさ」
QB「マミの言葉を借りるなら、覚悟が足りなかったということだね」
さやか「そん…な……」
マミ「……だけど美樹さんの魔女を倒したら、また元に戻っていったわ。あれはどういうこと?」
QB「君たち本人が生きていると、影はその宿主に引き寄せられる。多分、その魔女はさやかを狙っていたと思うけど」
杏子「そう言われりゃ確かに……」
QB「さやかに自分の影が戻ったのは、暴走した魔女を倒し、自分を認めることができたからだろうね」
QB「だけど、自分を認められない限りもうひとりの自分は何度でも魔女となり、襲いかかってくる」
QB「つまり、自分を認めることができなければ延々と自分自身と戦うことになる」
QB「……そう、死ぬまでね」
さやか「あたしも…一歩間違えたらそうなってたってこと……?」
杏子「テメェ…そんな大事なこと、何で黙ってた……!」
QB「訊かれなかったからさ。訊かれない以上、話す必要性はないだろう?」
ソウルジェムが濁るともうひとりの自分の制御が不完全になり、自分の中から現れる
その自分を認めることができなければ魔女となり、暴走する…ということか
だが、もうひとりの自分はどうして魔女の姿をしているのか、聞いていない
どうせインキュベーターのことだ。訊かれていないからと隠しているのだろう
折角だ。その理由について、話してもらうことにしよう
ほむら「……そのもうひとりの自分…どうして魔女という姿をしているのかしら」
QB「……全く、君は訊いてほしくないことを訊いてくるね」
ほむら「……答えなさい」
QB「仕方ない…君たちの心の自分がどうして魔女の姿をしているか。それは……」
まどか「……きっと、同じような存在…だから」
ほむら「まどか……?」
まどか「わたし…魔法少女じゃないからよくはわからないけど……」
まどか「みんなが召喚する魔女も、戦って倒す魔女も…同じような存在だから…じゃないかな……」
QB「まさかまどかに見抜かれるなんてね…その通りだよ」
ほむら「……もう少し詳しく話しなさい」
QB「簡単な話さ。もうひとりの自分も、倒すべき魔女も、同じ存在なのだから」
マミ「同じ…存在……?」
QB「君たちの操る魔女と、戦って倒すべき魔女。本質的に2つは同一の存在だ」
QB「ただ、君たちの精神の制御下にあるかないか…つまり状態の違いにしか過ぎないものさ」
マミ「待って…じゃあどうして、その魔女が私たちの中に存在しているの……?」
QB「どうして?それは君たちがそうなることを望んだからだよ」
マミ「私たちが…望んで……?」
QB「そうさ。魔法少女というのは、精神の奥底にいる君たちとは別の人格…もうひとりの自分を魔女へと変えた者のことだよ」
QB「精神の一部を魔女としているから、精神が不安定になると召喚も不安定になる…ということになるわけだ」
QB「願いによる固有魔法と、もうひとりの自分の魔女化。それが、魔法少女の契約さ」
マミ「……何よ、それ……!」
QB「精神に魔女を宿したが最後、魔法少女の呪縛から逃れることはできない。例え、杏子のように全てを放棄したとしてもね」
杏子「テメ……!」
QB「だけど本当に惜しいことをしたよ。さやかがあそこで死んでくれていれば、暴走したさやかの魔女は真の魔女として覚醒していたのに……」
杏子「真の魔女の覚醒…オイ、それって……」
QB「君たちが戦っている魔女、アレになるってことだよ。真の魔女として覚醒した瞬間、もうひとりの自分が内包した感情は大きなエネルギーに昇華する」
QB「その真の魔女が産み落とす使い魔もまた、人を襲い、やがて魔女へと覚醒する。その魔女を倒す為に君たちは戦っているわけだね」
QB「さっきも言ったことだけど、君たちの魔女と敵の魔女の違いは制御しているか否かしかない」
QB「君たちが死んで、本人との繋がりが切れたその瞬間、真の魔女として覚醒するんだ」
杏子「テメ…フザけたマネを……!」
まどか「キュゥべえ…何で…何でこんなことするの……?こんなのって…あんまりだよ……」
QB「僕たちの目的は君たちの感情をエネルギーに変え、宇宙の寿命を延ばすこと。その為にエネルギーを集めているだけさ」
まどか「宇宙の…寿命……?」
QB「無限とも思える宇宙だけど、寿命は存在する。それを延ばす為に、僕たちはこうしてエネルギーを集めているんだ」
QB「僕たちインキュベーターは感情をエネルギーにする技術を持っている。だけど、その感情というものを持っていなかった」
QB「そこで目をつけたのが君たち人間だったというだけさ」
さやか「あたしたちの…感情……」
QB「そう。とりわけ、君たちのような少女の感情は大きなエネルギーとなるんだ」
QB「人間は願いがひとつ叶うと言われれば、大抵の人は何かしら願うことがあるものなんだろう?」
QB「その願いの代償に、君たちは魔法少女となる。その内に魔女を住まわせ、いずれ真の魔女へと覚醒させる為にね」
さやか「だからあんたは…あたしたちを魔法少女に……!」
QB「勿論、もうひとりの自分を認め、魔女を飼い馴らすことができたのなら何も心配する必要はないよ」
QB「もっとも、そんなことは前例が無いけどね。魔法少女の辿る結末は2つにひとつ」
QB「敵の魔女と戦って死ぬか、暴走した自身の魔女に殺されるか。魔法少女になった以上、その運命からは逃れることはできないよ」
さやか「キュゥべえ……!あんた、最初からこのつもりで……!」
QB「自分への見返りがないのに、願いを叶え魔法少女にするわけないだろう?むしろ、僕には君の考えが理解できないよ」
さやか「あんたに何がわかるってのよ!?人の心を…何だと思ってんのよ!」
QB「本人でさえ自覚できていないもうひとつの人格を利用させてもらっただけじゃないか。何を怒っているんだい?わけがわからないよ」
杏子「それじゃ何か……?アタシたちはテメェらのために魔法少女になったってワケか……?」
QB「そうは言ったって、ちゃんと願いをひとつ叶えるという見返りの上で契約してもらってるじゃないか」
杏子「黙れ!アタシらは…テメェらの家畜じゃねぇんだぞ!!」
QB「いずれ君たち人間も宇宙へ進出するときが来る。そのときに枯れ果てた宇宙を渡されても困るだろう?」
さやか「あんたは…そんなことのためにあたしたちを騙してたっていうの!?」
QB「魔法少女はいずれ死して宇宙の為のエネルギーとなる。そうだとしても、君たちは叶えたい願いの為に魔法少女になったのだろう?」
QB「絶対に叶うことの無い願いを叶える為に」
さやか「それ…は……!」
QB「僕は言ったはずだよね。その願いは魂を差し出すに値するかい?って」
QB「それの肯定を以って、僕は君たちを願いの為に命を捨てても構わない少女と認識し、魔法少女の契約を行ったというわけさ」
さやか「あの言葉…そういう……!」
QB「人間というのは見えもしない魂というものを大事にするものなんだろう?その魂を差し出せるということは、即ち命を差し出せるということだ」
QB「だからこそ、魔女と化した精神を内包する宝石をソウルジェムと呼ぶわけだよ」
QB「それに、僕は君たちに自分の意思で魔法少女になることを確認しているじゃないか。僕が強制的に魔法少女にしたわけじゃない」
杏子「テメェ……!今ここで始末して……!」
ほむら「やめておきなさい。いくら殺したところで無駄よ」
QB「暁美ほむら…君はどうやら僕のことを知っているみたいだけど、どういうことなんだい?」
ほむら「……」
QB「……何にせよ、僕の話は以上だ。理解して貰えたかな?」
インキュベーターが、尻尾を揺らしながら全てを話し終えたことを告げる
今の話を聞く限り、この時間の魔法少女は魂を抜かれ、ソウルジェムに作り変えられてしまうという事実はなかった
だが、その代わりに精神の奥深く、自身でさえ認知できない人格を魔女に作り変えられてしまっているようだ
そして、その魔法少女が死した瞬間、制御を失った魔女は私たちが戦う魔女…真の魔女として覚醒する、ということか
魔女と戦う方は私たちが協力して戦えば問題は無いはず。問題はソウルジェムの濁りの方だろう
ソウルジェムを濁らせなければいい。そう言っても、グリーフシードで浄化することができないのが厄介だ
ソウルジェムが濁りきり、暴走してしまってもまだ助けるチャンスが残っていると考えれば。これで聞きたいことは全て……
……いや、まだだ。エネルギー云々の話は今聞いた。それよりも、グリーフシードのことだ
奴は何故、あれほどまで積極的にグリーフシードを集めていた?
これが最後の疑問。私はインキュベーターに向けて、その疑問を投げつけた
ほむら「……グリーフシードの使い道。お前が回収する以外に用途はないと言ったわね」
ほむら「キュゥべえ…いえ、インキュベーター。お前は何をしようとしているのかしら」
QB「……本当に君は訊いてほしくないことを訊いてくれるね。わかった、教えてあげるよ」
QB「ほむら、君は魔女が現れる瞬間を見たことがあるかい?」
ほむら「えぇ。病院に現れた魔女のときに。あと、さやかの暴走時にも見たわ」
QB「それなら話は早い。魔女はグリーフシードを中心に、その身体を構築して存在している」
QB「グリーフシードひとつで魔女1体。それなら、グリーフシードがたくさんあったらどうなるだろう?」
マミ「どうなるって…それだけの数の魔女が……」
QB「……違うよ。複数のグリーフシードをひとつのグリーフシードとして魔女を組成させる。これがどういうことか、わかるだろう?」
ほむら「……まさか……」
グリーフシードひとつで魔女1体。姿形は違えど、それが所謂普通の魔女
そのグリーフシードを2つでひとつとして魔女の核となれば、恐らくその強さは2倍では済まない
そして、インキュベーターが集めたグリーフシード、その全てを使ってまで召喚させようとしている魔女
それは、つまり……
QB「君の思っている通りさ。伝承に残る最強の魔女、ワルプルギスの夜。アレをこの世に召喚させる」
ほむら「……っ」
QB「ワルプルギスの夜の召喚には特別なグリーフシードが必要になる。でも、この間もらった分でようやく全てが集まったというわけだ」
マミ「じゃあ…今まで世界のあちこちに現れたワルプルギスの夜も……」
QB「全て僕たちが召喚させたものさ。姿形が違うのは…これは口で説明するより、実際に見てもらった方が早いね」
杏子「んなことさせるかよ!何があっても……」
QB「無駄だよ。既にワルプルギスの夜は召喚されたのだから」
さやか「え……」
QB「ただ、普通の魔女とはわけが違うからね。この世に現れるまでもう少しかかるだろう」
QB「でも、君たちにできることはもう何もない。……いや、ひとつだけ手段はあるね」
そう言ってインキュベーターは頭だけを動かして、まどかを見る
その真紅の双眸にまどかを捕らえ、お決まりの台詞を放った
QB「まどか、僕と契約して、魔法少女になってよ」
まどか「……ふざけないで。わたしは魔法少女なんかに……」
QB「もしかしたらもう聞いてるかもしれないけど、ワルプルギスの夜は今までの魔女とは比較にならないほどに強力な魔女だ」
QB「今までワルプルギスの夜と戦って、生きて帰った者がいないくらいにね」
まどか「それは……」
QB「だけど…まどか、君にはワルプルギスの夜を倒せるだけの素質がある」
まどか「え……?」
QB「そして魔女として覚醒したとき、そこらの魔法少女が束になっても敵わないほどのエネルギーになるんだ」
QB「だから、僕はお願いするよ。宇宙の為に死んでほしいんだ」
ほむら「インキュベーター……!」
QB「まどかを契約させた方が賢明だと思うよ。君たちがワルプルギスの夜に勝てるとは到底思えない」
QB「まどか1人が契約すれば済む話だ。敵わない相手に挑んで無駄死にすることもないと思うけど」
QB「まぁ、君たちが自分から宇宙の為に死んでくれるというのなら、止めはしないけどね」
まどか「……わたしは……」
1度は決意を固めたまどかだが、インキュベーターの言葉を聞いてその決意が揺らぐ
以前…ワルプルギスの夜のことを話したときも契約しようかと言っていた
あのときはワルプルギスの夜がまだ漠然とした不安程度だったからこそ、すぐ思い直させることができた
だが、今は違う。目の前に迫る、はっきりとした恐怖としてまどかの心に襲いかかる
お前はいつだってそうだ。まどかの優しさに付け込んで、彼女を契約させようとする
私はまどかを思い直させる方法をあれこれ考える
しかし、それを考えている間にまどかは魔法少女の契約に踏み切ろうとしていた
まどか「……やっぱりわたし、魔法少女に……」
ほむら「まどか…あなたが魔法少女になることなんて……」
まどか「……だけど、わたしじゃないと…ワルプルギスの夜に勝てないんでしょ……?」
ほむら「そんなの…やってみなければわからないでしょう。それに……」
ほむら「私、言ったはずでしょ?魔法少女にならずとも、まどかにはできることがあるはずだって」
まどか「それでも…ワルプルギスの夜を倒せるだけの力があるのに、見てるだけなんて…わたしにはできないよ」
まどか「……みんなを…ほむらちゃんを守れるのなら、わたしは……」
ほむら「……考え直してはくれないのかしら」
まどか「……」
ほむら「そう……」
こうなった以上、下手な説得ではまどかの考えを変えさせることはできない。どうしたら……
いや…もう、あれこれ考えるのはよそう。私はまどかに歩み寄り、まどかを抱きしめる
そして、私の思いをまどかに伝えることにした
ほむら「まどか……」
まどか「え…ちょ、ほむらちゃん……」
ほむら「……お願い、まどか。私の話、聞いて」
まどか「ほむら…ちゃん……?」
ほむら「私は…あなたを守る為に戦ってるの……」
まどか「わたしを……?」
ほむら「そう……。あなたを魔女から守り、魔法少女にさせない。それが私の使命……」
まどか「で、でも…ワルプルギスの夜が……」
ほむら「私たちが勝てないなんて誰が決めたの?そんなの、インキュベーターが勝手に喚いてるだけのことじゃない」
まどか「だけど……」
ほむら「……大丈夫。私が…私たちが必ずワルプルギスの夜を倒すから。だから…まどかは契約なんてしないで」
まどか「ほんとに…大丈夫なんだよね……?」
ほむら「えぇ。私がまどかに嘘を言ったこと、ある?」
まどか「……わかった。わたし…契約はしないよ」
ほむら「……ありがとう、まどか」
まどかを抱きしめている腕に、少しだけ力を込める
それに応えるように、まどかも私を抱きしめてくれた
必ず…まどかを守り抜いてみせる。まどかは、私が……
杏子「……お前ら、いつまでそうしてるつもりだ?」
まどか「……あ、や、あの、これは……」
ほむら「ご、ごめんなさい、まどか…急にあんなこと……」
まどか「き、気にしないで。別に嫌じゃないから」
さやか「それで、まどか……」
まどか「うん。……わたしは、ほむらちゃんの言葉を信じる。だから、魔法少女には…ならない」
QB「……本当にそれでいいのかい?後悔しても知らないよ?」
まどか「大丈夫。後悔なんて、あるわけないから」
QB「……まぁ、強制するわけにもいかないからね。仕方ない」
まどか「……それよりも、ほむらちゃん。ひとつだけ聞かせて」
ほむら「何かしら」
まどか「ほむらちゃんは…どうしてわたしを守ってくれるの?」
ほむら「……そのことね」
未だ伝えていない、私の本当の目的
さやか、マミ、杏子…そして、まどか
誰1人欠けることなく、ここまで来ることができた
……やはり、みんなに聞いてもらうことにしよう。私のことを……
まどか「……聞いちゃダメなこと…だった?」
ほむら「……いえ、そんなことはないわ。話してあげたいところだけど」
ほむら「今日のところはそろそろ帰った方がいいんじゃないかしら」
まどか「あ…うん、そう…だね」
ほむら「……明日、私の家へ来て頂戴。そこで話させてもらうわ」
杏子「明日、ほむらの家に行けばいいんだな」
QB「暁美ほむら…君が何を隠しているのか、どうやって魔法少女になったのか、気になるところだけど」
QB「ワルプルギスの夜を召喚した以上、もうそんなことはどうでもいいことだ。精々、頑張ることだね」
ほむら「お前に言われるまでもないわ。失せなさい」
QB「……まどか、契約したくなったらいつでも呼んでくれて構わないからね。きっと君は僕と契約してくれるだろうから」
ほむら「……聞こえなかったのかしら。失せろと言ったはずよ」
QB「……それじゃあ、僕は帰るよ。じゃあね」
自分の言いたいことを言って、インキュベーターは闇へと消えていった
インキュベーターがいなくなったのを確認してから、私はみんなに声をかけた
ほむら「……今日のところはこれで解散にしましょう。話の続きは明日、私の家で」
マミ「え、えぇ…それは構わないわ……」
さやか「マミさん…大丈夫ですか?顔が真っ青になってますけど……」
マミ「……ごめんなさい…ずっとキュゥべえと一緒にいたからかしら……」
マミ「キュゥべえはきっと…騙したとも、裏切ったとも…思ってないのよね……」
さやか「マミさん……」
杏子「……アタシ、今日は…マミと一緒にいてやる。今のマミは…あの時のアタシと同じ顔してるからな」
マミ「佐倉さん…ありがとう……」
さやか「じゃああたしも今日はこれで。まどかも早く帰ろう?心配してるよ、きっと」
まどか「あ…うん。連絡するの忘れちゃってたし…きっと怒ってるだろうなぁ……」
ほむら「まどかは私が送って行くわ。……杏子、マミをよろしく頼むわね」
杏子「あぁ、わかってる」
ほむら「さやかは…特に何もないわね。気をつけて帰りなさい」
さやか「うん。……今日は本当にごめん。あたしのせいで」
ほむら「気にする必要はないわ。あなたを助けられたのだから」
さやか「……ありがと、ほむら。じゃあ、また明日ね」
ほむら「えぇ。……まどか、私たちも帰りましょう」
まどか「うん。マミさん、おじゃましました」
――――――
まどか「ほむらちゃん、送ってくれてありがとう」
ほむら「えぇ…でも本当にここまででいいの?私も一緒に説明した方が……」
まどか「いいの。ほむらちゃんまで一緒に怒られることないと思うし」
ほむら「……わかったわ」
まどか「それじゃほむらちゃん、またね」
私にそう挨拶をすると、まどかは家へと歩き出す
私も早く帰って明日の準備をしよう。……全てを打ち明ける、心の準備を
このことはずっと…私の胸の内に秘めておいたこと
正直に言えば…この話をするのが怖い。言ってしまったら、何かが変わってしまうような気がして……
だけど、みんなに聞いておいてもらいたい。……誰かに背中を押してもらいたい
そんな風に考えていた私は知らず知らずのうちにまどかを追いかけ
まどかの手を握った
まどか「えっと…ほむらちゃん?どうしたの?」
ほむら「……」
まどか「な、何か言ってもらわないと、わたしもどうしたらいいか……」
ほむら「……少しだけ、こうさせてほしい」
まどか「そ、それはいいけど…ほんとにどうしたの?」
ほむら「……明日、私が話そうとしてること…本当に伝えてもいいのか、わからなくなって……」
ほむら「話しておきたいとは思ってる……。でも、話したら…何かがおかしくなってしまうんじゃないかって……」
まどか「……怖くなっちゃったんだね」
ほむら「……」
まどか「……わたしに勇気があるなんて、自分じゃそう思えない。だけど」
まどか「もし自分に勇気があるのなら…今こうして手を繋いでるほむらちゃんに分けてあげられてる気がするよ」
ほむら「……ありがとう」
しばらくの間、私はまどかの手を取り、自分の胸の前で握りしめた
まどかの手。小さいけど、強くて、優しくて、暖かい手
こうしてまどかの手を握っていると、胸の奥がじんわりと暖かくなってくるような気がした
まどかから勇気をもらった私は、もう大丈夫だと握った手を離す
顔を真っ赤にしていたまどかだったが、手を離すとき、何だか名残惜しそうな表情をしていた
まどか「そ、それで…もう大丈夫?」
ほむら「えぇ…迷惑をかけたわね。帰りを余計に遅くさせてしまって……」
まどか「き、気にしないでよ。わ、わたしもその…嬉しかったというか……」
ほむら「まどか……?」
まどか「と、とにかく、わたしでよければいつでもほむらちゃんの力になるから!」
ほむら「そ、そう…ありがとう、まどか」
まどか「そ、それじゃわたしは帰るよ!ま、また明日ね!」
まどかはそう言って早足で家へと向かって行った
まどかの手を握りしめた私の手と、勇気を貰った私の心がまだ熱を帯びている感じがした
だけど、それだけじゃない…何かもっと別の物も一緒に貰ったような気がする
何にせよ、まどかのおかげで覚悟を決めることができた。……もう大丈夫だ
家へと向かいながら、話す内容について考える。だが
さやかの魔女と戦い、インキュベーターの碌でもない話を聞かされた私は心身ともに疲れきっていた
家に帰って来たところで気が抜けたのか、急に睡魔が襲ってくる
考えが纏まる前に睡魔に負けてしまった私は、そのまま眠りに落ちていった
――翌日――
ほむら「……」
さやか「……えっと、ほむら?確か話があるんだよね?」
ほむら「……えぇ」
マミ「もう30分ほどこうしてるのだけど…そんなに話しづらいの?」
ほむら「……それもあるけど、昨日考えを纏める前に眠ってしまって」
杏子「それで、今その段取りを考えてるってワケか……?」
ほむら「……えぇ」
昨日、どうやら私は帰って来たところで眠ってしまったようだ。目が覚めたときには朝日が昇っていた
学校でも時間の許す限り考えてみたが結局時間が足りず、今もこうして段取りを考えている始末だ
まどか「それにしても…ほむらちゃんの家、久しぶりに来たけど……」
さやか「まさかこんな部屋があったなんてね……」
杏子「なぁマミ…この浮かんでる資料……」
マミ「恐らく…ワルプルギスの夜に関するものだと思うわ」
杏子「出現予測地点、行動パターン、使い魔の能力…これだけの情報、どこから手に入れたんだ……?」
マミ「それについても話してくれるそうだから、今は暁美さんの話を待ちましょう」
さやか「あーもー…段取りなんていいから、早く話して……」
まどか「さやかちゃん」
さやか「へ?」
まどか「ほむらちゃんの話…すごく大事な話なの。それをどう話そうか、今必死に考えてる」
まどか「だから、急かさないであげて。ほむらちゃんもこの話をするの、怖いって…そう思うくらいだから」
さやか「う、うん…あの、ごめん……」
まどか「……」
さやか「まどか……?」
ほむら「……ごめんなさい、待たせてしまって」
何とか考えが纏まったところで、待たせているみんなに声をかける
今になって思ったが、何のもてなしもせず、ただ座らせていただけとは…何だか悪い気がしてきた
まどか「ほむらちゃん、もういいの?」
ほむら「えぇ。ただ…あなたたちを待たせた上、短時間で纏めた付け焼刃の話だから何かおかしい部分があるかもしれない」
ほむら「気になった部分があったら言って頂戴」
マミ「わかったわ」
ほむら「えっと、それじゃ……」
杏子「……ちょっと待ってくれ」
話を始めようとしたところで、杏子がそれを遮る
一体何かと思っていると、杏子が話を続けた
杏子「……ワリぃ、ほむら。先にアタシの話をさせてもらえねぇか?」
ほむら「あなたの……?」
杏子「あぁ。……アタシの身の上の話。……それと」
杏子「どうして魔女が召喚できなくなったのかって話をな……」
ほむら「……構わないわ」
杏子「……ありがとよ、ほむら。じゃ、話させてもらうよ」
私の話の前に、杏子が自分のことの話をし始めた
教会の生まれで、父親の教義を聞いてほしい願いで魔法少女になり、そして……
杏子「……最後はアタシだけ残して、一家心中しちまったのさ」
私がいつか聞いたときと全く同じ内容の話をする杏子
いつもならここで終わる話なのだが、今回はまだ続きがあった
杏子「……アタシの願いが家族を壊しちまった。アタシの本心がどうあれ、結果は…な」
さやか「杏子…だから最初会ったとき、あんなこと……」
杏子「あぁ。……それで、家を飛び出したアタシは…行くアテもなく、フラフラしてたんだ。……呪いを撒き散らしながらな」
杏子「ずっと一緒だった奴がぱったり来なくなったのが心配になったマミがアタシを探してくれたんだ」
杏子「……アタシを見つけてくれたときは、ソウルジェムはもう真っ黒だった。今思えば、もうちょっと遅かったらきっと暴走してたと思う」
マミ「……」
杏子「それで、マミが親身に話を聞いてくれたおかげでそのときは事無きを得たんだ。だけどな……」
杏子「アタシが魔法少女なんかになったから、家族を失ってしまった。こうなったのは全て自分のせいだと…その時のアタシはそう考えてた」
杏子「もう自分のせいで大事な人を失いたくない。傷つけたくない。そう思って、アタシはマミの前から消えたんだ」
杏子「……次またそういったことになったら…アタシは確実に魔女を暴走させるだろうからな」
マミ「佐倉…さん……」
杏子「それからのアタシは…魔法少女であることを捨てた。戦うことから逃げた。魔女も使い魔も見て見ぬ振りをした」
杏子「……アタシにはもう、大事な家族も、仲間も…何もかも失ってしまったから」
杏子「そうしてるうちに…もうひとりのアタシに愛想を尽かされたんだろうな。召喚しようとしても、うんともすんとも言わなくなった」
杏子「そのあとは…お前らに出会い、今に至るってワケだ」
マミ「……私はその話、知っているけど…どうしてその話、ここでしようと?」
杏子「……お前らといるうちに、お前らのことが…大事な人になったんだよ」
杏子「大事な人を守りたい。そう思えたから、また魔女の召喚もできるようになったんだと…そんな気がするんだ」
マミ「……そう。よかった、また以前のような佐倉さんに戻ってくれて」
杏子「心配かけたな。……それと、まどか。ありがとな」
まどか「え……?」
杏子「昨日言ってくれただろ?自分と向き合えって。そう言ってくれたから、アタシは覚悟ができたんだ」
杏子「もし、あの言葉がなかったら…きっと今も、自分から目を逸らしてたと思う。だから、ありがとよ、まどか」
まどか「ううん、気にしないで。わたしたち、友達…でしょ」
杏子「……あぁ」
杏子「これでアタシの話は終わりだ。段取り崩して悪かったな、ほむら」
ほむら「……いえ、大丈夫よ」
さやか「それで、ほむらの話っていうのは……」
ほむら「……まず最初に言っておくわ。これから私が話すことは信じがたい内容になると思う。だけど……」
ほむら「私の話は全て本当のこと。それだけは信じて聞いてほしい」
マミ「……わかったわ」
ほむら「それじゃ……」
これから私が話すことについての了解を得てから、口を開く
だが、本当に話してもいいのかという思いが一瞬頭を過ぎる
ちゃんと話さなければ。頭ではわかってはいるが、心がそれを拒否しているのか言葉が出てこない
何も話すことができず、下を向く。膝の上で握った拳が、微かに震えていた
話せないのなら、無理に話すこともないのでは…そう思っていると、不意に私の手に何かが触れた
まどか「ほむらちゃん」
ほむら「まど…か……」
私の手に触れた何かは、誰かの手だった
私が視線を上げると、向かいにいたはずのまどかが私のすぐ側に座っていた
まどかは私の拳の上に手を重ねると、私に優しく語りかけた
まどか「……ほむらちゃん1人だと辛くて…怖いのなら……」
まどか「私が一緒にいるから……。だから、大丈夫だよ」
まどかが側にいてくれている。まどかが手を握ってくれている
ただそれだけのはずなのに、不思議と恐怖を感じなくなった
昨日と同じように、胸の奥が暖かくなってくる。まどかが一緒なら…もう何も怖くない
私は息を吐くと、今日話すべきことを語り出した
ほむら「……魔法少女になるには、キュゥべえと契約する必要がある。でも、奴にはその記憶がない。何故だか…わかる?」
さやか「え?……単純にキュゥべえが忘れてる…とか」
マミ「契約したあとで、何らかの方法で記憶を消した……?」
ほむら「簡単な話よ。……私はあのキュゥべえとは契約していないから」
マミ「あのキュゥべえとは……?それはどういう意味?」
ほむら「私は…この時間の人間ではないから。それが理由……」
杏子「……ちょっと待て。それじゃ、お前……」
ほむら「……えぇ。私は…未来から来た魔法少女……」
まどか「未来…から……?」
ほむら「そう。私のいた時間は…ワルプルギスの夜によって、全てが破壊されてしまったの」
ほむら「そのときに私はキュゥべえと契約して、魔法少女になったの。……ワルプルギスの夜によってもたらされた結果をやり直したいと」
ほむら「そして…私はその魔法によって、この1ヶ月を…何度も、何度もやり直してるの。……ワルプルギスの夜を倒す為に」
杏子「それじゃこのとんでもない量の資料は……」
ほむら「えぇ…その量の情報を集められるだけの時間を繰り返しているということ。私1人で倒せるようにと……」
まどか「ほむらちゃん…1人で……?」
さやか「ちょ、待って。その、ここじゃない時間にはあたしやマミさん、杏子はいないの?」
ほむら「……いるにはいるわ。でも…ある理由で、今のように協力することは容易じゃなかった」
マミ「ある理由……?」
ほむら「えぇ。これが1番大事なところ。それと同時に、私が魔女召喚を知らなかった理由……」
私は以前までの魔法少女と魔女についてを話した
グリーフシードの能力、ソウルジェムの正体…そして、魔法少女の末路
今の時間とは違う魔法少女と魔女の話を、みんなは真剣な表情で聞いてくれた
グリーフシードが必要だからこそ生まれてしまう魔法少女同士の対立
隠されていた真実を知ってしまったときの絶望、仲間殺し
私が全てを話し終えると、話を聞いていた4人は呆然とした顔をしていた
さやか「……その…今の話、本当…なんだよね……?」
ほむら「……えぇ。全て事実。私がこの時間にやって来るまで、幾度となく経験してきたこと」
杏子「そんな世界があったなんてな……」
マミ「……佐倉さん、ごめんなさい…私、あなたを……」
杏子「……気にすんな。今のお前はそんなこと、しないだろ?」
マミ「あ、当たり前よ!」
杏子「なら、それで十分だ。それに向こうのアタシは随分とグレちまってたみたいだな……」
さやか「今のあたしは何とか助かったけど…向こうのあたしも魔女になってるんだ…ダメじゃん、あたし」
まどか「ねぇ…わたしはどうなったの……?」
さやか「そう言えばまどかは全然話に上がらなかったような……?」
ほむら「……私が契約を妨害していたわ。まどかが魔法少女になっても…いいことはないから」
まどか「そうなんだ…ありがとう、ほむらちゃん」
ほむら「……礼を言われることじゃないわ。私がここにいるということは、それだけの数の時間で失敗を重ねて来たということだから」
まどか「ほむらちゃん……」
ほむら「……それよりも気になるのは、私はこの時間で魔法少女になったわけじゃない。なのに……」
ほむら「どうしてこの時間の魔法少女と同じ姿に変わったのかしら……」
杏子「……そればかりは考えても答えが出そうにはないな」
さやか「それにしても、絶望したら魔女化ねー…その辺は今の時間の方がマシだよ」
まどか「……そう…かな……」
さやか「……まどか?」
まどか「今までの時間は…絶望したら魔女化…それで、今は…自分を認められないと暴走…最悪、殺されちゃう……」
まどか「どっちも…残酷だと思う。……今の時間のことしか知らないけど……」
まどか「自分を認めるのって、すごく…大変なことだと思う。それこそ、覚悟と呼べるくらいに……」
まどか「魔法少女になって…願いとか色々あって、自分がわからなくなって…それで、自分を認められなくなって……」
まどか「それが理由で自分に殺されて、もうひとりの自分も魔女として覚醒する…そんなの、絶対おかしい。……わたしは、そう思うよ」
ほむら「……そうね、おかしいとは思う。でも…こればかりはどうにもならないことだから……」
まどか「……」
ほむら「大丈夫。今までと比べたら、随分と楽になったわ。現にここまでやって来れたのだから」
まどか「……うん」
ほむら「とにかく、私の話はこれでおしまい。何かわからないことはあるかしら?」
杏子「……いや、ない。ないけど…頭がまだ話を飲み込めてねぇよ」
マミ「私も…暁美さんのことだけでも驚いたのに、今とは違う魔法少女だなんて……」
さやか「あたしは自分に腹が立ってきたよ……。ゾンビだからって何も絶望することなんてない…はずなのに」
まどか「わたしも…大丈夫だと思う」
ほむら「そう…なら、そろそろ本題を話させてもらうわ」
マミ「本題……?」
ほむら「私のこと、以前の魔法少女のこと…今話したことはあくまでおまけ。私が話したいことは……」
杏子「……ワルプルギスの夜についてか?」
ほむら「……その通りよ。ワルプルギスの夜についての話」
昨日インキュベーターが言っていた、ワルプルギスの夜の召喚
出現に少し時間がかかると言っていたが…恐らく、今までと同じ日に現れるに違いない
もうあまり時間は無い。ワルプルギスの夜を倒す為、私は3人に協力を仰いだ
ほむら「……恐らくワルプルギスの夜は数日後に現れるわ」
杏子「それも…経験してきたこと、ってワケか」
ほむら「えぇ。キュゥべえ…インキュベーターが何の目的でワルプルギスの夜を召喚したのかはわからない。だけど」
ほむら「私の目的はただひとつ。ワルプルギスの夜を打ち倒すこと。……その為に、力を貸してほしい」
マミ「もちろんよ。この街を守るために、力を貸すわ」
さやか「あたしだって。マミさんには及ばないけど…あたしが全部守ってみせる」
杏子「もう目の前で大切な誰かを失いたくない。……アタシも戦うよ」
ほむら「……ありがとう、みんな」
相手は最強の魔女、ワルプルギスの夜。どれだけ辛い戦いになるかわからない
それでも、3人は私に力を貸してくれると言ってくれた。これであとは、ワルプルギスの夜を倒すだけだ
ほむら「ワルプルギスの夜への対策の話もしたいけど…また別の日にした方がよさそうね」
さやか「そうして…もういっぱいいっぱいだよ……」
ほむら「なら、今日のところはこれで解散にしましょう」
マミ「それじゃ私はこれで。……佐倉さん、行きましょう」
さやか「あれ?杏子、マミさんとどこに?」
マミ「昨日、佐倉さんには迷惑をかけてしまったから…何かお詫びをと思って」
杏子「アタシは別にいいって言ってんのによ……。あのときの借りを返しただけさ」
マミ「それでもよ。何かお礼をさせて。ね?」
杏子「……ったく」
さやか「へー…あたしもついて行っていいですか?」
杏子「おう、来い来い。その方が詫びって感じでもなくなりそうだしな」
マミ「佐倉さんがそうまで言うなら…あ、鹿目さんもどうかしら?」
まどか「えっと、わたしは……」
ほむら「ごめんなさい。まどかは残ってもらえないかしら」
まどか「え?う、うん。……ごめんなさい、そういうわけで」
マミ「えぇ、また別の機会に。……それじゃ2人とも、行きましょうか」
さやか「あ、はい!……ほむら、またねー」
杏子「んじゃ、またな」
マミはさやかと杏子を連れて部屋を後にした
それから少しして、玄関の扉が開き、閉まる音が聞こえた
今この場にいるのは、私とまどかの2人だけ
急に残ってほしいと言ったせいか、少しだけ困惑したような顔をしていた
まどか「……ほむらちゃん、どうしたの?わたしだけ残ってほしいなんて」
ほむら「……あなたに話しておきたいことがあるの」
まどか「わたしに……?」
ほむら「えぇ。……さっきの私についての話。その、真実を」
先ほどの私の話。当然嘘は何も言ってはいない。だが
私が意図的に伏せていたことがある。……私とまどかのことだ
隠すつもりはない。でも…この話は、まずまどかに聞いてもらいたい。そう思い、さっきは話さなかった
……私の話を聞いて、まどかはどう思うだろうか。私には見当がつかない
それでも、伝えなければ。何より…まどかに隠し事はしたくない
私は意を決し、まどかに全てを打ち明けた
ほむら「……さっきの話で言ったわよね。私は未来から来た、って」
まどか「うん。ワルプルギスの夜を倒すために魔法少女になって、何度もやり直してるって……」
ほむら「……私が魔法少女になったのも、ワルプルギスの夜を倒そうとしてるのも…私の目的の為」
まどか「ほむらちゃんの…目的……?」
ほむら「えぇ……。私の目的、それは……」
ほむら「……まどか。あなたを守ること」
まどか「え……?」
ほむら「……これだけ言っても何のことだかわからないわよね。……最初から話すわ」
ほむら「私が契約した時間。私にとって始まりの時間で…私とあなたは友達だったの……」
ほむら「魔女の結界に迷い込んだ私を、魔法少女のあなたが助けてくれた。それがきっかけで、私はあなたと友達になったの」
ほむら「何をやっても駄目だった私に、あなたは手を差し伸べてくれた……」
ほむら「あなたと友達になって…世界が変わった気がした。あなたが隣にいるだけで、世界が輝いて見えた……」
ほむら「ずっとあなたと一緒にいれたら…そう思ってた。でも…あの日、災厄が現れたの……」
まどか「……ワルプルギスの…夜……」
ほむら「えぇ…マミ亡き後、あなたはたったひとりでワルプルギスの夜に立ち向かって行った。そして……」
ほむら「……あなたも、死んでしまった……」
まどか「……」
ほむら「私は…認めたくなかった。あなたが死ぬ結末なんて…だから私は、キュゥべえと契約したの」
ほむら「……まどかとの出会いをやり直したい。まどかに守られる私じゃなく、まどかを守れる私になりたい」
ほむら「それが…私の願いよ」
とうとう話してしまった。誰にも話したことのない、私の願いを
私の話を聞いたまどかは僅かに目を見開き、そして俯いてしまった
少し待ってみるも、まどかは顔を上げてくれない。話はきっと聞いてくれているはずと、私は話を続ける
ほむら「それから何度かやり直して…私とあなた、2人で何とかワルプルギスの夜を倒せたの。……だけど、お互いソウルジェムはもう限界だった」
ほむら「さっき説明した今とは違う魔法少女の世界だから…グリーフシードがなければ魔女化を待つのみ。でも……」
ほむら「私はあなたに助けられた。最後のひとつで、私のソウルジェムを浄化してくれたの……」
ほむら「時間を巻き戻せる私に、あなたはこう頼んだ。……キュゥべえに騙される前のわたしを助けてあげてほしい、と……」
ほむら「私はそれを引き受けてから…あなたのソウルジェムを撃ち抜いた。……あなたを…手にかけた……」
まどか「……っ」
ほむら「あなたとの約束の為に、私は数えきれないほどの時間を渡り歩いた。そして……」
ほむら「今までとはまるで違う、私の知らない魔法少女が戦うこの時間に辿り着いた、というわけ」
ほむら「……これで私の話はおしまい。もう何も隠していることはないわ」
残りの話の間も、まどかは1度も顔を上げてくれなかった
俯いてしまっているので、まどかの表情はわからない。だが、きっと泣いているのだろう
話の途中から、まどかの嗚咽が漏れ聞こえていた
それからしばらくして、まどかは顔を上げ、口を開いた
まどか「……今の話、全部…本当なんだよね……?」
ほむら「……えぇ」
まどか「わたし…どう言ったらいいか全然わからなくて……」
ほむら「無理もないわ…こんな話じゃ……」
まどか「だけど…わたし、自分が許せないよ……」
まどか「わたし、ほむらちゃんと、友達…だったのに……」
まどか「ほむらちゃんのこと…忘れてたなんて……!」
ほむら「……それは仕方ないわ」
まどか「でも……」
ほむら「そのことは気にしないで。ね?」
まどか「……うん。それじゃほむらちゃんは、わたしのために……?」
ほむら「……えぇ。あなたを守る為に戦ってるの。あなたとの約束の為に……」
ほむら「それに…ひとつ前の時間のあなたにも頼まれたの」
ほむら「さやか、マミ、杏子…みんなを助けてあげて、と……」
まどか「そんな大変なこと頼んじゃうなんて…わたし……」
ほむら「どれだけ大変で、辛くても…あなたとの約束だもの。あなたとの約束の為に戦う。それが私の存在理由」
ほむら「……でも、ね。さやかたちを助ける約束はした。でも……」
この先は言うべきじゃない。だけどもう、感情の制御ができなかった
私はまどかを抱きしめると、自分の想いをぶちまけた
ほむら「私が…私が1番守りたいのは…まどか、あなたなの……!」
ほむら「あなたのことが…何よりも大切で…どんな犠牲を払ってでも守りたいの……!」
まどか「ほむらちゃん……」
ほむら「あなたとの約束に…順位なんてつけたくない……。でも、それでも……!」
ほむら「私は…まどか、あなたが1番だから……!」
まどか「ほむらちゃんは…わたしのこと、特別だって…そう、思ってくれてるんだよね……?」
ほむら「……えぇ」
まどか「……嬉しいな。ほむらちゃんがわたしを、そう思ってくれてるなんて」
ほむら「でも…私……!」
まどか「……ほむらちゃん、みんなを守るのに…手を抜いてたりする?」
ほむら「……そんなことないわ」
まどか「それなら大丈夫だよ。ほむらちゃんは…わたしのことも、みんなのことも、全力で守ろうとしてくれてる」
まどか「それがたまたま、わたしを特別だって思っちゃっただけ。でも、それは人間なら…仕方ないと思うよ」
ほむら「……ありがとう、まどか……」
まどか「……えっと、自分で自分が特別に思われてるなんて言うと恥ずかしいけど、そういうことじゃないかな」
ほむら「私…まどかが大事。誰よりも、何よりも……」
まどか「誰よりも、何よりも、か……。嬉しいな、そう言ってくれて……」
まどか「……わたしだって、さやかちゃんたちよりも、ほむらちゃんのこと……」
ほむら「まどか……?」
まどか「……ごめんね。なんでもない」
そう言ってまどかは私の胸に顔を埋めた。そう言えば、いつの間にかまどかも私のことを抱きしめていた
まどかに抱きしめられているせいか、鼓動が速くなる
お互いに抱きしめあって密着しているのだ。きっと、まどかに気づかれているだろう
でも、それはまどかも同じことだ。まどかの早鐘のように高鳴った鼓動が、私に伝わってくる
私の鼓動とまどかの鼓動。その2つが不思議と心地いい。ずっとこうしていたい
だが、それも長くは続かなかった。まどかに離してほしいと言われたので、私はその手を離した
まどか「あ、あの、えっと…ご、ごめんね。何だかよくわかんないけど…とにかくごめんね」
ほむら「だ、大丈夫よ。むしろ私が謝るべきよ。先にしてしまったのは私だから……」
まどか「で、でもわたし、ほむらちゃんに思いっきり抱きついちゃったし……」
ほむら「い、いいのよ。まどかがそうしたかったのなら」
まどか「そう言ってくれるのは嬉しいけど……」
ほむら「こ、この話はもうやめましょう」
お互いに相手を気遣う言葉の投げ合いになってしまったので強制的に切り上げる
強制終了したせいで会話が途切れてしまった
何を話したものかと考えていると、先にまどかが口を開いた
まどか「……さっきの…ほむらちゃんとわたしのこと…みんなにも話すの?」
ほむら「……えぇ。ワルプルギスの夜が来る前に…話しておくわ」
まどか「もし、1人で話すのが辛かったら…わたしも一緒にいてあげるから……」
ほむら「……ありがとう」
まどか「うん。……じゃあ、今日はこれで帰るね」
ほむら「引き留めてしまってごめんなさい。……ありがとう。話、聞いてくれて」
まどか「わたしの方こそ、ありがとう。話してくれて。……それじゃ、また明日ね」
ほむら「えぇ、また……」
まどかの見送りをと、玄関まで一緒に向かう
玄関先で再度、さよなら、と挨拶を交わして、まどかは私の家を後にした
私のあの…わけのわからないような話を真剣に聞いてくれて…ありがとう
まどかへの感謝もそこそこに、頭を切り替える。さやかの魔女化を乗り越えることができた
今までとは違う時間でも、結局はアイツはアイツ。最後は魔女になる手順の違いでしかない
だけど、問題を抱えていたさやかも杏子も、自分と向き合い、自分を受け入れられた
あとはみんなと協力して、ワルプルギスの夜を倒すだけ。だが、その前にやらなければならないことがある
ひとつはワルプルギスの夜の情報を伝え、戦闘方法の話し合いをすること
もうひとつは…私とまどかの話をすること。もちろん、意図的に言わなかったことも謝ること
長い間戦ってきたが、4人でワルプルギスの夜に当たれることはほとんどなかった。恐らく時間がかかることだろう
何にせよ、もう残り時間は少ない。明日からが勝負だ
そう思い、私は拳を握りしめた
――数日後――
ほむら「……それじゃ、これで決まりね」
まどかに私の真実を伝えてから数日
対ワルプルギスの夜の話し合いが思うように進まず、3人には未だに本当のことを話せないでいた
いつ話そうかとまごまごしているうちに、ワルプルギスの夜が現れる前日になってしまった
マミ「えぇ。……でも、本当に大丈夫かしら……」
杏子「今から弱気になってどうすんだよ」
マミ「そうは言っても、ワルプルギスの夜に結界はないのよ?それだと魔女の召喚は行えない……」
マミ「つまりティロ・フィナーレが撃てないってことじゃない……」
さやか「魔女の召喚ができないのはみんな同じですよ。あたしと杏子もサポートしますから」
マミ「美樹さん…ありがとう」
さやか「いえいえ。……それよりも、いよいよ明日か……」
杏子「作戦は決まったし、あとはアタシたちが全力で戦うだけだな。……まぁ、魔女が使えないってのは不安だけどよ」
マミ「でも、魔女が使えなくても戦えないわけじゃないわ。暁美さんだって魔女なしで戦っているのだもの」
ほむら「武器に不安があるのなら言いなさい。適当なものを見繕ってあげるわ」
マミ「大丈夫よ。ティロ・フィナーレが撃てなくても戦えるわ」
ほむら「そう……。私が言うのも何だけど、魔女が召喚できない程度で私たちが負けるわけない。絶対に勝てるわ」
杏子「ずっと魔女なしで戦ってきたほむらが言うんだ。間違いないだろうよ」
マミ「……絶対に、ワルプルギスの夜を倒しましょう。この街を守るために……」
さやか「この街と、大事な人を守るんだ。そして……」
さやか「……恭介の横っ面、張り飛ばしてやるんだ」
杏子「……何言ってんだ、お前」
さやか「……あのですね、この間、あたしは魔女を暴走させてしまいましたよね?」
マミ「えぇ……」
さやか「原因は…ご存じの通り、恭介を仁美に取られる…と思ったから、だったんですが……」
杏子「……なぁ、まさか」
さやか「……はい。恭介、仁美とは付き合ってないらしいんです…今はバイオリンだけで手いっぱいだからって」
杏子「なんだそりゃ……。お前、自分の勝手な思い込みで勝手に暴走したってのか」
さやか「その通りです…ほんと、ごめんなさい……」
杏子「まぁ…アレがあったから、アタシも魔女が再び召喚できるようになったんだ。よしとするか」
さやか「杏子……」
杏子「そのかわり、その恭介…だっけか?何が何でも物にしろよ?」
さやか「……うん。仁美には絶対に負けない」
マミ「……さて、そろそろ教えてくれないかしら。どうして鹿目さんがあなたの隣にいるのか」
ほむら「……」
さやか「話してる間、ずっと気になってたんだよね。まどか、魔法少女じゃないからいても仕方ないのに」
まどか「……うん。ちょっと、ね」
杏子「まだ何かあるのか?まどかを契約させる、とか言い出さないよな?」
ほむら「そんなことさせるわけないでしょう。……少し、話を聞いてもらいたいの」
マミ「話……?」
ほむら「えぇ。その前に、まず謝らせてもらうわ。……ごめんなさい」
さやか「ちょ、ちょっと…どういうことなのさ」
ほむら「……この前話した、私のことの話…あったでしょう?」
杏子「あぁ…ほむらが未来から来た魔法少女だった…って奴か」
ほむら「……あの話、あなたたちに隠していたことがあるの。意図的に伏せていた、本当のことが……」
マミ「……一応聞かせて。どうしてあのときは伏せていたの?」
ほむら「あなたたちに話す覚悟がなかったのと…最初はまどかに聞いてもらいたかったから」
さやか「まどかに……?」
ほむら「えぇ。……あなたたちにも聞いてほしい。私の本当のこと…それと……」
ほむら「私とまどかの関係を……」
私は先日まどかに話したことと同じ話を3人に話した
まどかと友達だったこと、まどかとの約束のこと、まどかを守る為に戦っているということ
私が話をしている間、まどかはずっと私の手を握ってくれていた
全てを話し終えると、マミとさやかは涙を流し、杏子は驚きと悲しみの混ざったような複雑な顔をしていた
1度話を聞いているはずのまどかも、その目には涙が浮かんでいた
ほむら「えっと…大丈夫、かしら……?」
マミ「……ごめん、なさい…私……」
さやか「何で…何でもっと早く言ってくれなかったのさ……!」
杏子「……仕方ねぇだろ、以前が以前だったんだ。信じろってのが無理な話だ」
杏子「……でも、今話してくれたんだ。それで十分だろ」
ほむら「……ごめんなさい。話すのが遅くなってしまって」
杏子「気にするなって。……別の時間のアタシたちのことは…ほむらの話を聞いた分でしかわからねぇ。でもよ……」
杏子「今、この場にいる…アタシも、さやかも、マミも…みんなほむらのこと…信じてるからよ」
ほむら「……ありがとう。私も、あなたたちを…信じる」
杏子「あぁ。……さやかにマミ、いつまで泣いてんだ、しっかりしろって」
さやか「ほむらぁ…ごめん…ごめん……!」
マミ「暁美さん…私……」
ほむら「……気にしないで。以前までの話だから」
さやか「でも…でも……」
杏子「ほむらも気にすんなって言ってんだろ。あぁもう、泣くなって」
まどか「……ほむらちゃん、よかったね」
ほむら「えぇ。この時間のみんなとは…ずっと協力してきた。だけど……」
ほむら「今、この話をして…やっと仲間になれた。……そんな気がするわ」
まどか「……うん」
ほむら「それよりも…いつまで手を握ってるの?もう離してくれても……」
まどか「いいの。わたしがこうしていたいから」
ほむら「……まぁ、まどかがしていたいのなら」
話をしているときはそれどころではなかったから気が付かなかったが
まどかが手を握っていると意識すると、胸の奥が熱くなってくる
ここ最近、まどかといると何だか変だ
手を握られたり、抱きしめられたり…まどかに触れていると特にそう感じてしまう
まどかのことは…誰よりも、何よりも大事な人。つまり、好きな人ということだろう
まどかのことが好きだから、まどかに触れていたい。そういう理屈なのだと思う
だけど、自分のこの好きという気持ち…どういう形なのだろうか。友情か、それとも……
……もし、もし仮にそうだとしても…それは伝えるべきじゃない。私もまどかも、女同士なのだから
確かにまどかには、私の隣にいてほしい。でも、それはそういう意味では……
まどか「……ほむらちゃんってば」
ほむら「……え、あ…な、何かしら」
まどか「どうしたの、ほむらちゃん?ずっと何か考えてたみたいだけど」
ほむら「……何でもないわ。それで、何?」
まどか「うん。話も終わったし、これからどうするのかなって」
ほむら「そうね…準備は終わったから、各自自由に過ごして頂戴」
杏子「最後の日常…ってか」
マミ「……最後になんてさせないわ。絶対に」
さやか「そうだよ。あたしたちみんなで、ワルプルギスの夜を倒すんだから」
杏子「……それもそうだな。今日1日貰えるのなら…アタシ、ちょっと向こうに行って来る」
マミ「佐倉さん…向こうって……」
杏子「……アタシの家…教会に行って来る。ケジメ、つけないとだからな」
マミ「……私も行くわ」
さやか「あたしも」
杏子「……ありがとよ。でも、大丈夫だ。アタシ1人で行くよ」
マミ「そう…じゃあ、私の家で待ってるわね」
杏子「あぁ、わかった」
マミ「それじゃ美樹さん、佐倉さんが来るまで話し相手になってもらえる?」
さやか「いいですよ。……まどかはどうする?」
まどか「わたしは…ほむらちゃんと一緒にいるよ」
さやか「……わかった。んじゃ、あたしらはこれで」
ほむら「明日は朝に私の家に。わかってるわね」
マミ「えぇ、大丈夫よ。……それじゃ、また明日」
ほむら「……また明日」
私とまどかを残し、3人は部屋を後にした。図らずも、先日と同じ展開になってしまった
ただ違うのは、困惑しているのが私だということ。まどかは何を思ってそんなことを?
まどかが何をしたいのかわからず戸惑っていると、まどかの口からさらに困惑してしまうような言葉が飛び出した
まどか「……ほむらちゃん、好きな食べ物ってある?」
ほむら「え?」
好きな食べ物。ないことはないが…どうして今そんなことを……?
そんな風に考えていると、まどかは次から次へと私に質問を投げかけてきた
まどか「じゃあ、好きな動物は?好きな色、好きな音楽とかは?」
まどかの質問はどれもこれも、私の好きなものを尋ねる内容のものばかり
わけがわからなくなってしまった私は、1度まどかを制止する
ほむら「ちょ、ちょっと待って。そんなにあれもこれも聞かれたって答えられないわ……」
まどか「……あ、ごめんね」
ほむら「えっと、どうして私の好きなものなんかを……?」
まどか「……ほむらちゃんはわたしのこと、すごくよく知ってるんだよね」
まどか「きっとわたしが秘密にしてるようなことも、別の時間のわたしから聞いたことがあるんじゃないかな」
ほむら「……確かに、あなたのことはよく知ってるわ」
まどか「でも…わたしはほむらちゃんのこと、何も知らない。ほむらちゃんの好きなものすら……」
まどか「知ってるのは…魔法少女で、わたしを守ろうとがんばってること。それと、とても優しいってことだけ」
ほむら「……」
まどか「だから、わたし…もっとほむらちゃんのこと、知りたいんだ」
ほむら「そう…だったの……」
まどかの話を聞いて、漸く質問の意図を理解できた
思い返せば、私のことをまどかに教えたことなどほとんどなかった
だけど、今のまどかには私の過去…私とまどかのことを話している
それもあって、私のことをもっと知りたいと思ったのだろうか
まどか「それでほむらちゃん、好きな食べ物って何?」
ほむら「そうね…ここ最近はずっとカロ○ーメイトばかり食べてるわ」
まどか「えぇー…大丈夫なの?それ……」
ほむら「食事する時間があったら、あなたを守る為に行動した方が有益よ」
まどか「そ、そう言ってくれるのは嬉しいんだけど……」
ほむら「でも…ひとつだけあるわ。私の好きな食べ物」
好きな食べ物…こういうときは母親の手料理だったりするのだろうが、それはもう思い出すことができなかった
でも、これだけは…どれだけ時が流れようと、忘れるわけがない
ほむら「私の好きな食べ物は…まどかの玉子焼きよ」
まどか「え?わ、わたしの?」
ほむら「……以前、今みたいに私が碌なものを食べてないってまどかに知られたことがあってね」
ほむら「次の日に、私にお弁当を作って来てくれたの」
まどか「で、でもわたし、そんな料理は得意じゃ……」
ほむら「そうね、特別上手だったわけじゃないわ。……でも、誰かの手料理なんてとても久しぶりだったから」
ほむら「それに、あなたが私に作ってくれたんだと思ったら…もう、涙が止まらなくなってしまって」
ほむら「それ以来、あなたの玉子焼きが好きになったの」
ほむら「……まぁ、そのとき以来食べたことなんてないのだけど」
まどか「……じゃあ、今度わたしが作ってくるよ。玉子焼き、いっぱい詰めたお弁当」
ほむら「私ね…ワルプルギスの夜を倒したら、やりたいことがあるの」
まどか「やりたいこと?」
ほむら「学校の屋上で…まどかの作ってくれたお弁当を、まどかと一緒に食べること」
ほむら「ずっと…まどかとそんな風に過ごしてみたかった。だから…そのときは私の願い、聞いてもらえる?」
まどか「もちろんだよ。……そのときは、わたしとほむらちゃん…2人だけでね」
ほむら「えぇ。……でも、それって何だか恋人みたい…ね……」
まどか「ほむらちゃん?」
ほむら「……何でもないわ。まどか…私と友達になってくれて…ありがとう」
ほむら「あなたは…私の最高の友達よ」
まどか「最高の友達…嬉しいな、そう言ってくれて」
口ではそう言うまどかだったが、その顔はどこか残念そうに見えた
それよりも、まさかあんなことを口走ってしまうなんて……
まどかには聞こえていなかったらしく、それ以上は何も言ってこなかった
まどか「……まぁそれはそれとして、ほむらちゃんのこと、もっと教えてよ」
ほむら「そうね…それじゃあ……」
それから私はまどかに自分のことを話してあげた
私の好きなものだったり、過去のまどかとのやり取りだったり、可能な限り色々な話を話した
時が経つのも忘れ、まどかとの会話に夢中になる
気が付いた頃には、辺りはすっかり暗くなってしまっていた
ほむら「……もうこんなに暗くなっていたなんて」
まどか「全然気づかなかったよ……」
ほむら「まどかとの話が楽しかったからかしらね」
まどか「わたしも楽しかったよ。ほむらちゃんのこと、色々知ることもできたし」
ほむら「そう…それはよかったわ」
まどか「うん……」
ほむら「……」
まどか「……明日…なんだよね」
ほむら「……えぇ」
まどか「……大丈夫…だよね」
ほむら「……えぇ。あなたは家族と一緒に避難して」
まどか「……うん」
ほむら「……あなたも、あなたの友達も家族も、あなたが住むこの街も……」
ほむら「あなたの大事なものは…私が全て守ってみせる。不安も恐怖も、全部私が払ってみせる」
ほむら「だから…私に任せて、待っていて」
まどか「……うん。ありがとう、ほむらちゃん」
まどか「……ほむらちゃん、わたし…ほむらちゃんのこと……」
ほむら「まどか……?」
まどか「……ううん、何でもない。じゃあ…そろそろ帰るね」
ほむら「それじゃ、送って行くわ」
まどか「大丈夫だよ。今日はゆっくり休んで」
ほむら「……わかったわ」
まどか「じゃあ…またね……」
ほむら「えぇ…また」
まどかは一瞬寂しそうな顔を見せるも、それ以上は何も言わずに帰って行った
1人になった私は早めに夕飯を済ませ、ベッドに潜り込んだ
明日…ワルプルギスの夜が召喚され、この世界に姿を現す
できる限りの対抗策は講じた。仲間を集め、対ワルプルギスの夜の作戦を立てた
ただ気になるのは、ワルプルギスの夜が人の姿だったり、巨大な要塞だったりと、私の知らない話が含まれていることだ
その不確定要素が何を意味しているのかはわからない。だが、例え何が起こったとしても私が成すべきことはひとつだけ
ワルプルギスの夜と戦い、奴を打ち倒す。それが私の悲願
まどかのことを考えたせいか、ふと今日のやり取りを思い出す
まどかの作ったお弁当を屋上で2人で食べる…まさに恋人同士のようなことだ
でも、まどかには聞こえなかったとは言え、あんなことは言うべきではなかった
まどかが私をどう思ってるかなんて、わからないのだから
下手をすればせっかく仲良くなれたのに…気持ち悪いと思われ、嫌われてしまうだろう
この時間でワルプルギスの夜を倒したとしても、まどかとはずっと友達でいた方がいい。そう思っているはずなのに
私の胸は何かに締め付けられ、ズキズキと痛み出す。まるで荊で締め上げられているかのように
ここ数日まどかに対して感じる、様々な想い。胸が熱くなったり、触れていたかったり、締め付け、痛み出したりするこの気持ち
私は…きっとまどかのことが好きなのだろう。友達としてではなく、恋の対象として……
今まで恋をしたことがないので、これがそうだという確証はない
ただ、まどかを想えば想うほど膨らんでくるこの想い。十中八九、そうなのだろう
だけど、私もまどかも女同士…同性だ。私の気持ちは…きっと正しくない
まどかには伝えない方がいい。今まで通りでいるのが正しい。そのはずなのに
胸に絡みついた荊が今まで以上に私を締め付ける
まどかを守れるのなら、それでいい。今まではそう思っていた。でも
今は違う。まどかを守り…私の隣にいてほしい。そう思ってしまっている
まどかとどうなりたいか、今の私には答えは出せない。どちらにせよ、今はワルプルギスの夜を倒すことだけ考えればいい
私はまどかへの想いを全部纏めて心の奥へと押し込んで蓋をして、何とか眠ろうと目を閉じる
9時にはベッドに入っていたはずなのに、私が眠ったとき時計は天辺を指し示していた
【後編】に続きます。