あやめ速報-SSまとめ-

　　　　｢待てよテメェら……風斬をどうするつもりだっっ！！？｣


　　　　｢……オマエは……｣


　　　　｢……フン、幻想殺し……に、禁書目録か｣


　　　　｢ッ！！ 誰だ……俺達を知ってるのか……！？｣


　　　　｢さぁな、答える義理は無いが……今は邪魔だ、一般人は失せろ｣


　　　　｢とうま！！ 早くしないと……！｣


　　　　｢下がってろインデックス！！ コイツらを何とかしとかないと、風斬の所には行けない！！！｣


　　　　｢風斬……？ あの『天使』の名か｣


　　　　｢……見ろ、やっぱり何も知らないんじゃねぇか……ッ！！ 風紀委員だか何だか知らねぇけど、アイツは俺達が必ず止めてみせる！ だから頼む、お前達は下がっててくれ！！｣


　　　　｢とうま！！！｣


　　　　｢風斬は今泣いてるんだ……アイツは俺の……―――俺達の友達なんだよっ！！！｣


　　　　｢………｣


　　　　｢……はッ、だとよ……どうする？ 一方通行｣

―――翌日



結標｢……う、ん……｣ﾊﾟﾁ


…………シ―――ン…………


結標｢……みゅ？｣ｳﾄｳﾄ
(……何処かしら……見た事のない天井……？)


　　　　｢……随分と酷くやられたな、結標｣


結標｢っっ……ﾁｯ、最悪の目覚めだわ……｣


土御門｢はッ、ソイツぁ悪かったな……ならばもう一度眠りに着くか？｣


海原｢いえ、やめましょう……自分もアナタ方如きに時間を割いている程暇ではありませんからね｣ﾆｯｺﾘ

結標｢………｣

海原｢おや、何か？｣

結標｢……アイツは……？｣


土御門｢処分したさ｣


結標｢……っ｣

海原｢彼の能力も中々に厄介でしたが……我々二人を同時に相手するのは流石に無理があったようですね｣

結標｢……そう｣
(ゴメン、絶対等速……)

結標｢……で？ そろそろ私の処分でも決まったのかしらね｣

土御門｢処分など無いさ……が、お前も引き続き『グループ』として活動してもらう｣

結標｢……報酬は……？｣

土御門｢なに？｣

結標｢今回分の報酬よ……アンタ達に捕らえられた私の仲間を解放するって約束でしょ？｣

土御門｢……何てがめつい女なんだにゃー……｣ﾌｩ

結標｢うっさいのよ死ねグラサン！！ タダ働きなんて死んでもするもんですかっっ！！！｣

海原｢まぁまぁ落ち着いてください結標さん、そんなに大声出すと……｣


結標｢～～～～～～～～ッッ！！！｣ｽﾞｷｯｽﾞｷｯ


海原｢……ほら、また傷口が開きますからね｣ﾆｺｯ

結標｢く、くそぉ……っ！｣ﾌﾟﾙﾌﾟﾙ…
(この身体さえマトモに動けば、今すぐにでもコイツらを……ッ！)

土御門｢結局『残骸』はとある風紀委員の手によって破壊され、回収も修復も既に不可能……任務失敗だ｣

海原｢なので今回、アナタの活躍を考慮した結果……人質解放は一人だけと限定させて戴きます｣

結標｢ひ、一人……！？ たったの一人だけですって……！？｣

海原｢はい、これでもかなり良心的だとは思いますが……で、何か問題でも？｣

結標｢……一人……｣

土御門｢………｣

海原｢………｣


結標｢……ふ、フフ……そう、一人ね……｣ﾆﾔﾘ
(上等だわ……ッ)

―――冥土帰しの病院



初春｢ぇぐっ、ﾋｯｸ……！｣

一方通行｢………｣

初春｢ふえぇ……！ ぜ、ぜんばぁぁ～いぃ……！！｣ｸﾞｽｯ

一方通行｢いい加減に泣き止めよ……もォ泣かないって決めたンじゃなかったのか｣

初春｢だ、だってこんなの……ﾋｯｸ、こんなの……悲しすぎますよぉぉ……！｣ﾒｿﾒｿ

一方通行｢……ハァ｣


　　　　全てを終わらせ、俺がクソガキを連れて病院に駆け付けた時には…………眼鏡先輩はとっくに集中治療室に運び込まれた後だった


初春｢うぅ……！ ﾋｯｸ、くぅぅ……っ｣


　　　　俺が来るまでの間…………暗がりな手術室の前にあるベンチで、何時間も一人で泣きまくってる泣き虫風紀委員の姿だけがあったワケで…………

一方通行｢……心配すンな｣ﾎﾟﾝｯ

初春｢ふぇ……っ？｣

一方通行｢一七七支部の風紀委員長、固法美偉……俺達はあの人の行く道を信じて着いて来た｣

初春｢………｣

一方通行｢そして……それはこれからもだ、変わらねェ｣

初春｢でっ……でも、もし……もしですよ……っ？｣ﾌﾟﾙﾌﾟﾙ…

一方通行｢……大丈夫だっつってンだろ、先輩の怪我の具合は知らねェが……あのクソ医者が執刀してやがンならな｣

初春｢……っ｣

一方通行｢だから泣いてばっかじゃなくてよォ……あの人が目覚めた時、あの人が見てェのはきっと誰かの悲しンでる顔なンてなァ絶対違げェだろォからな｣ﾎﾟﾝﾎﾟﾝ

初春｢……うぅ……い、一通さん……！｣ｸﾞｼｸﾞｼ

一方通行｢ン？｣


初春｢……えへへ、一通さんのバカっ｣ｸｽﾝ


一方通行｢何でだよ｣

初春｢私……アホ毛ちゃんの様子見てきます、御坂妹さんに任せてるんですよね……？｣ｽｯｸ

一方通行｢……あァ、頼む｣

初春｢任せてください……『幻想御手』事件の時の、治療用プログラムのデータが私のパソコンにまだ残ってます……きっと、あの子の役に立つと思いますから｣ﾆｺｯ

―――自販機前



一方通行(気付けば日付が変わってやがる……どれ、コーヒー牛乳でも買いに……―――)ﾄｺﾄｺ

美琴｢………｣

一方通行｢……おっ｣ﾋﾟﾀｯ

美琴｢………｣

一方通行｢……何だ、来てたのか｣

美琴｢………｣


一方通行(……シカトかよ)ﾋｸｯ


美琴｢………｣

一方通行｢……ったく、中学生が何時までこンな所ほっつき歩いてンだっつの｣

美琴｢うっさいわね……別に良いじゃない｣

一方通行｢………｣

美琴｢いつも私の帰りを待ってくれてるヤツも、どうせ今は面会謝絶なんだしさ｣

一方通行｢……ﾁｯ、まァ程々にしとけよな―――……って、ン？｣ｺﾞｿｺﾞｿ

美琴｢………｣

一方通行｢………｣ｺﾞｿｺﾞｿｺﾞｿｺﾞｿ

一方通行｢………｣


一方通行(……財布落とした……)ｶﾞﾋﾞｰﾝ


美琴｢………｣

一方通行｢……な、なァ……悪りィけど一〇〇円貸して―――｣

美琴｢……ねぇ｣ﾎﾞｿｯ

一方通行｢……あ？｣

美琴｢………｣

一方通行｢……ンだよ｣


美琴｢……初めて人を殺した時って、どんな感じがしたの？｣


一方通行｢……っ！？｣

美琴｢……ゴメン、嫌味を言うつもりなんて無いの……でも、でも私……っ｣

一方通行｢……どォしたンだよ、オマエ｣

美琴｢……わっ、私……未元物質や先輩に止められてなかったら、きっと……きっとアイツを殺してた……！｣ﾌﾞﾙﾌﾞﾙ…

一方通行｢……アイツ……？｣

美琴｢第四位の『原子崩し』……固法先輩をあんな風にしたヤツよ……ッ！｣ｷﾞﾘｯ

一方通行(垣根のヤロウ……ンな話聞いてねェぞ)

美琴｢目の前に血塗れになった先輩がいて……嘲ってるアイツを見たら、頭に血が登って……それで……！｣

一方通行｢闘ったのか……でも殺しちゃいねェンだろ｣

美琴｢……そうよ、そうだけど……！ あの時の私は、相手を殺す事しか考えてなかったから……！！｣

一方通行｢………｣

美琴｢それならさっさと戦闘不能にでもして終わらせてれば良かったのに……これで、もしも先輩が手遅れだったら、私が……私が殺したも同じ―――！｣

一方通行｢やめろ｣

美琴｢……でも……っ！！｣

一方通行｢……やめよォぜ、こンな話はよ｣

美琴｢……うぅ、うぅぅ……っ！｣ﾌﾞﾙﾙｯ
(……さ、寒気が……！)

一方通行｢オマエが人を殺しちゃいねェってンなら、今はそれで良いだろ……余計な事まで考えてンじゃねェよ｣

美琴｢……でも｣

一方通行｢………｣

美琴｢………｣


美琴｢……そうよね、ゴメン｣


一方通行｢……ﾁｯ｣ﾎﾟﾘﾎﾟﾘ

美琴｢ねぇ、そういえばあの人……未元物質は？｣

一方通行｢さァなァ……『用事がある』つってどっかに消えやがった｣

美琴｢……そう｣

一方通行｢………｣

美琴｢あ……アンタもスゴいわよね、あれだけ戦っといて無傷で帰って来るんだから｣ｱﾊﾊ

一方通行｢………｣

美琴｢……はは……は……はぁ｣

一方通行(……気にすンなっつっても、そンなモンは無理……だよな)ﾁｯ

美琴(……先輩っ)ｼｮﾎﾞﾝ

―――それから一週間後



固法｢……ぅん……っ｣ﾊﾟﾁ

初春｢……あっ｣

一方通行｢おっ？｣

固法｢……あれ……？ わ、私―――うぅっ！？｣


　　　　むぎゅうううぅぅぅぅ…………！！


初春｢びえぇぇえええええええんせんぱぁああああいぃっっ！！！！｣ﾑｷﾞｭｰ

固法｢うっ、初春さたたたたたたたっ！！？ だ、ダメダメ痛い痛い痛いぃっ！！｣

初春｢ふえぇぇっ！！ ふぇっ、ふええぇぇぇぇ……っ！！｣ﾒｿﾒｿ
(よ、良がっだあああああああ！！！ 良かったですよぉぉ……っ！！)

一方通行｢分かったから離れろバカ、しばらくは安静だつってたろォが｣

初春｢あ……そ、そういえば……―――｣ﾊｯ


固法｢｣ｸﾞｯﾀﾘ


初春｢わ……わあぁぁっ！！？ す、すすすすすいませんです先輩ぃっ！！｣ﾜﾀﾜﾀ

固法｢あたた……｣

初春｢っとと、コレ……先輩の眼鏡です、はいっ！｣ｽｯ

固法｢ん、ありがと｣ｽﾁｬ

初春｢そ……それじゃ私、皆さんに伝えてきますね！！ 固法先輩が目を覚ましたって……！｣ﾊﾞﾀﾊﾞﾀ

一方通行｢……おゥ、転けンなよ｣


…………バタン


一方通行｢……ったく｣
(やっぱ何も変わってねェな……アイツ)

固法｢……一通くん、打ち止めちゃんは？｣

一方通行｢ひとまず大丈夫だ｣

固法｢……そっか｣ﾎｯ

一方通行｢……ﾁｯ、アンタもアンタだな……開口一番他人の心配かよ｣

固法｢でも良かったー……皆、ちゃんと帰って来れたのね｣ﾑｸｯ

一方通行｢お、おい……だからまだ起きるなっつの……！｣

固法｢へぇ……心配してくれてるんだ？｣ﾆｺﾆｺ

一方通行｢っ……あ、あのなァ……｣

固法｢それじゃついでに……横、座って？｣

一方通行｢……横？ 座ってンじゃン、今｣

固法｢ち、違っ……椅子じゃなくて……その、ﾜﾀｼﾉ……｣ｺﾞﾆｮｺﾞﾆｮ

一方通行｢は？｣


固法｢あ……あぁんもうっ！ 私の横にって言ってるの！！ 椅子じゃなくて早くベッドに座りなさいっ！！｣ﾌﾟﾝｽｶ


一方通行｢だッ……わ、分ァった分ァった……分かったから怒鳴ンなよなァ……｣ｽｯｸ

固法(も、もぅ……！)

…………ギシッッ


一方通行｢良いのか、これで｣

固法｢ん｣

一方通行｢ったく……何なンですかァー一体よォ｣

固法｢今は……独りぼっちにされるのは恐いから、かな？｣

一方通行｢？｣

固法｢な～んて……へへ♪ ありがと、やっぱり根は優しいよね……一通くんって｣ﾋﾟﾄｯ

一方通行｢うっ｣ﾄﾞｷｯ
(思ったより近い……！)

固法｢ぅん……何ていうか私、一通くんのそんな所に依存しちゃってるのかも｣

一方通行｢い、依存って言い方アレだな……｣

固法｢大覇星祭の時に話した事覚えてる？ 私……一通くんを自分の弟みたいに感じてたって｣

一方通行｢あァ……言ってたな、ンな事も｣

固法｢あはは、まぁ私に弟なんていないんだけど……でも実際にいたら、きっとこんな感じなんじゃないかなって……ホラ、一通くんって色々だらしないトコ目立つし、そこに世話焼きたがっちゃうみたいな？｣

一方通行｢………｣
(……だらしない、ねェ)

固法｢でもね、あの日を境に一通くんの事……弟なんかじゃなくて、一人の男の子として見るようになったのよ？｣

一方通行｢……へ？｣

固法｢あれから一通くんが一生懸命頑張ってるのは私、知ってるんだから……風紀委員の仕事もしっかりこなしてるし、それに私達に内緒でジムに通って身体鍛えてる事もね｣

一方通行｢げ、げェっ！？ ちょっ……何でアンタその事……！｣ｱｾｱｾ

固法｢ふふっ、実は黄泉川さんに相談されちゃってたのよね……『最近ちょくちょく行方不明になるじゃんから適当に尾行してきてくれー』って♪｣

一方通行(あンのBBAか……)ﾋｸｯ

固法｢あちゃー、見つかっちゃったぁ～｣ﾆｺﾆｺ

一方通行｢だークソ、ダセェとこ見せれっかっつの……！｣ﾁｯ

固法｢……ダサい？｣

一方通行｢あァ……まさかこの俺が汗水垂らしてバーベル担いでる姿なンてよォ｣


固法｢なッ……ばか、全然ダサくなんてないわよっ！！｣ｽﾞｲｯ


一方通行｢いィっ！？｣

固法｢一通くんが努力してるのは外見に気を遣う為なの……？ ……違う、そんな理由じゃないでしょ？｣

一方通行｢あ、当たり前だろォが……！｣

固法｢そうよ、自分だけの為じゃなくて……一通くんは全部大切な人達の為に頑張ってるっ！ そんな事は誰にだってできる事じゃない……だから、ちっともダサいなんて思わない……！｣ﾆｷﾞｯ

一方通行｢うっ｣ﾄﾞｷｯ
(て、手……！)


固法｢……っていうか女の子は……そ、そんなトコに惹かれちゃうんじゃないのかな……？｣


一方通行｢せ、先輩……？｣ﾄﾞｷﾄﾞｷ…

固法｢……いつも叱ってばかりだけど……本当はね、一番頼りにしてるっ｣

一方通行｢！！｣

固法｢……スッゴいスッゴい、頼りにしてるよ……？ 一通くんの事……っ｣

一方通行｢ォ……ま、マジか｣ﾃﾚｯ

固法｢……ぅん、だから……もっとカッコイイとこ見せて欲しいな……｣

一方通行｢……え？｣


固法｢―――っっ！！？/////｣ﾊｯ


固法｢って、な……は、恥ずかしいなぁもぅっ！！ いつもはこんな事絶対言わないのに……！｣ｱｾｱｾ

一方通行｢あ、あァ……だよな｣

固法｢あはは……ちょ、ちょっと緊張してるのかな……勢いで握っちゃったけど、実は男の子と手を繋ぐのも何気に初めてだったりして……/////｣ﾃﾍﾍ

一方通行｢……顔赤けェけど大丈夫か？｣

固法｢えぇっ！？ ゃ、やだ……嘘っ……！｣ｱｾｱｾ

一方通行(……ま、この人にはもっとダセェとこ色々見られてるワケだしなァ……情けねェ泣きっ面とか)ﾎﾟﾘﾎﾟﾘ

固法｢……ね、ねぇ｣

一方通行｢ン？｣

固法｢ぇと、もう少しだけ……私の傍にいてくれる？ まだ心細いっていうか……｣ﾓｼﾞﾓｼﾞ

一方通行｢……誰か呼ンで来るか？ 初春さンとか……｣

固法｢えっ！？ だ、ダメよそんな……！ 一通くんじゃないと……｣ﾜﾀﾜﾀ

一方通行｢……俺？｣

固法｢だ、だからその……！ い、一通くんともっと一緒に……―――｣


…………ガララッッ！！


美琴｢固法せんぱぁいっっ！！！｣ｻﾞｯ


固法｢わあぁぁあああああっっ！！？｣ﾌﾞﾝｯ


　　　　バキィッッ！！！


一方通行｢ぎゃァァああああああっっ！！？｣

固法｢あっ！？ ご、ゴメ……！｣
(殴っちった……)

美琴｢先輩っ！！ さっき初春さんと廊下ですれ違って……そ、それで私……！｣ﾊﾞﾀﾊﾞﾀ

固法｢み、御坂さん……！？｣

美琴｢わ、私……私……！！｣ｸﾞｽｯ

一方通行(顔面超痛てェ……)ﾋﾘﾋﾘ

美琴｢……っ｣ｼﾞﾛｯ

一方通行｢？｣


美琴｢っつーかアンタは何なのよ、今すぐ出てけオラァッ！！｣ｸﾞｲｸﾞｲ


一方通行｢な、何ィィィィィっっ！！？｣ｽﾞﾙｽﾞﾙ

固法｢あぁっ！？ い、一通くん……！｣

美琴｢せ～のっ、よいしょっ！！｣ﾎﾟｲｯ

一方通行｢どべっ！？｣ﾍﾞｼｬｯ

美琴｢……言っとくけど、絶っっっ対に覗かないでよねっ！！｣


…………バタンッッ！！

美琴｢ふぅ｣

固法｢も、もぅ……御坂さんったらっ｣ﾑｽｯ
(一通くんも鈍感すぎよっ！)

美琴｢……せ、先輩っ｣

固法｢ん？｣

美琴｢ぁの、その……｣ﾓｼﾞﾓｼﾞ

固法｢どうしたの？｣


美琴｢あのあのあのあのあのあのあのあのあのあのあのあのあのあ｣


固法｢落ち着いてっ！！？｣

美琴｢せっ……先輩、あのね……！｣

・
・
・
一方通行(……俺が何したってンだよ……)ﾎﾟﾂｰﾝ

一方通行｢……ﾌｩ｣


　　　　｢現在進行形で廊下の真ん中に寝転がらないでください｣


一方通行｢……っ、あァ？｣


御坂妹｢―――……と、ミサカはミサカのローアングルを凝視する第一位へと忠告します｣ｻﾞｯ


一方通行｢………｣ｱﾝｸﾞﾘ

御坂妹｢………｣

御坂妹｢そんな風に堂々とスカートの中を覗かないでください、妊娠してしまいます……と、ミサカはミニスカナースの裾を手の平で押さえます｣ｻｻｯ

一方通行｢はァ？ オマエの小汚ねェ下着なンかに興味あるかよ……俺が呆気に取られてンのはその格好だ｣ﾑｸｯ

御坂妹｢はぁ、ミサカの姿が……ですか？ ……と、ミサカはアホ面引っ提げた一方通行に確認を取ります｣

一方通行｢あァ｣


御坂妹｢ミニスカナースですが｣


一方通行｢だからそりゃ分かってるつってンだろ面倒くせェなオマエ｣

御坂妹｢ある日冥土帰しの医者は言いました……と、ミサカは人差し指を天におっ立てて昔々の昔々を打ち明けます｣ｽｯ

一方通行｢………｣


御坂妹｢―――『働かざる者、食うべからず』と｣


一方通行(……まァ、糞ニートを何人も養うわけにはいかねェわな)

御坂妹｢とまぁ冗談はこれくらいにして……と、ミサカは話題を本題へと仕切り直します｣

一方通行｢案外あのオヤジは冗談のつもりで言ったわけじゃねェのかもな｣

御坂妹｢ミサカがこの様な格好をしているのには理由があります、決して趣味などではありません……と、ミサカは一方通行の戯言を無視して話題をサクサクと進めます｣

一方通行｢………｣

御坂妹｢我々『妹達』が冥土帰しの医者に全面的に協力する事、これはお姉さまのご意志なのです……と、ミサカは先程と一変して凛とした表情に切り替えます｣ｷﾘｯ

一方通行｢……アイツが？｣

御坂妹｢はい、お姉さまはずっと一人で悩まれていました……目を覚まさない固法お姉ちゃんさまの手を握り―――｣

一方通行｢………｣
(何となく良い話に持って行こォとしてンのは分かるが、コイツの喋り方のせいで全てが台無しになるな)

・
・
・
美琴｢……ずっと考えてたんです、自分がどうするべきなのか｣

固法｢？｣

美琴｢あの日、未元物質に言われた事……私の能力は他人を救える能力だ、って｣

美琴｢……なのに、それなのに私……結局何もできなかった｣ｼｮﾎﾞﾝ

固法｢な、何言ってるの……！ 御坂さんが闘ってくれなかったら、あの場所にいた皆はきっと……｣

美琴｢……うぅん、先輩っ｣

固法｢え……？｣

美琴｢私決めたんです……もう一度この能力を、医療の為に役立てたいって……｣

固法｢！！｣

美琴｢……えへへ、ビックリしましたか？ でも一番最初に先輩に聞いて欲しくて……｣ﾃﾍﾍ

固法｢み、御坂さん……それはとても立派な事だけど……でもアナタは……｣

美琴｢ふふっ、一度騙されちゃってたのに……ですか？｣

固法｢……っ｣ｺｸﾝ

美琴｢大丈夫ですよ、今度は信頼できるリアルゲコ太の先生に私からお願いするつもりですし……ま、あの人が真の黒幕とかじゃない限りはきっと｣ﾀﾊﾊ

固法｢御坂さん……｣

美琴｢『能力者量産計画』……あんな事があったから私……他人を頼りにするのを、まだ心のどこかで怖がってたのかもしれません｣

固法｢………｣

美琴｢あはは、正直自惚れてたんですよね私って……！ 『残骸』の事も事前に知ってたハズなのに、誰にも相談しないで……｣

美琴｢……それがまさか、こんな事になるなんて……｣

固法｢………｣

美琴｢ご、ゴメンなさい……！ ホントは……先輩にも黒子にも、顔会わせらんないのに……！｣ﾌﾟﾙﾌﾟﾙ…

固法｢そんな事無いわ……巻き込みたくなかったのよね、私達を｣

美琴｢う、ぅん……うん……！｣ｸﾞｽｯ

固法｢ほらっ、だったらメソメソしてないで……もっとこっち寄りなさいってば｣ﾑｷﾞｭｯ

美琴｢ひえっ｣

固法｢つんつん♪｣ﾌﾟﾆﾌﾟﾆ

美琴｢ひえぇっ＞＜｣

固法｢……あの後ね、病院まで運ばれてる最中には意識なんて飛んでたと思うんだけど……それでも、ずっとアナタの声だけは聞こえてたの｣

美琴｢そ、そんな……｣

固法｢声……うぅん、あれは直接頭に呼び掛けるような不思議な感じで……｣

美琴｢………｣

固法｢アナタのこの手から流れる生体電流が……私の命を繋ぎ止めてくれたのかしら？｣ﾆｷﾞｯ

美琴｢……わ、私も……｣ｵﾄﾞｵﾄﾞ

固法｢？｣

美琴｢私も……ずっと先輩の手を握ってました、『死なないで、死なないで』ってお祈りして……だってもう、それしかできないから｣

美琴｢……私も先輩を感じてたんです、先輩の今までの思い出も、そしてこれからも……｣
(初春さんや黒子や一方通行、大事な仲間達の事……先輩の全部が私の中に流れ込んで来て……)

固法｢………｣

美琴｢……私は風紀委員じゃないですし、先輩達と一緒に戦う事はできないけど……でも、大切な人が苦しむ姿なんてもう二度も三度も見たくない｣

美琴｢だから今度は、私の意志で大切な人達を守りたい！！ だから私……！｣
(だって私も、何かを与えられる存在になりたいから……！)

固法(御坂さん……)


美琴｢―――……だから、見ててね……先輩っ｣


固法｢……うんっ｣ｺｸﾝ

美琴｢て、てへへ……何だか恥ずかしいですね、でも……｣ﾃﾚﾃﾚ

固法｢うぅん……ちゃんと頑張るのよ？ 折角アナタの意思で進むと決めた道なんだから｣ﾖｼﾖｼ

美琴｢ふにゃ……せんぱい/////｣

固法｢♪｣ﾖｼﾖｼ
(ホントにいい子……っ)


結標｢やっっっっッかましいのよさっきからカーテン越しにブツくさブツくさアンタ達はァっっ！！！ こっちは身体中に風通しの良い穴が幾つも空いてんのよッッ！！？｣ｼｬｯ


固法｢あ｣

美琴｢あ｣

結標｢あ｣

美琴｢……あ、アンタ……ッ｣ﾋｸｯ

結標｢あ、アハハハハハハハハ……！？ み、みみみ御坂さんどうしてアナタが此処に―――｣ｱｾｱｾ


麦野｢……うぅ～ん……騒がしいにゃぁ……｣ｺﾞﾛﾝ


固法｢！？｣

美琴｢！！？｣

結標｢……あら？｣
(あれって確か『アイテム』の……)

麦野｢……ﾑﾆｬ？｣ｳﾄｳﾄ

美琴｢ちょ、ちょっ……！？ フザけんじゃないわよっ！！ どうしてアンタ達がよりによって私の先輩と相部屋なわけ！！？｣

固法｢ま、まぁまぁ……｣

美琴｢答えなさいよぉぉおおおっっ！！！｣ﾋﾞｼｨ!

結標｢私達に言われても……ねぇ？｣

麦野｢ねーっ｣

美琴｢むぐぐ……！！｣ｲﾗｲﾗ
(な、何考えてんのよ……同じ部屋に運ぶなんて、幾ら何でも無神経すぎじゃない！？)

麦野｢っつーか意味分かんないのはこっちだっつーの……私生きてんの？ それに何なの？ この包帯グルグル……｣
(この感覚……まさか左腕くっついてる……？)

美琴｢……先輩、ナースコール貸してください｣ｺﾞｿｺﾞｿ

固法｢え？ どうして……｣

美琴｢部屋入れ替えて貰うに決まってるじゃないですかッ！！ こんなヤツらと一緒だなんて危険すぎます！｣

固法｢で、でも……｣

麦野｢……ハンッ、ようするにアンタが気に入らないってだけでしょーが｣

美琴｢えぇそうよ……！ 当然でしょうが！！｣

麦野｢私が憎いってなら殺しゃ良かったんじゃない……今なら身体も動かないんだし、『体晶』の使い過ぎで頭の中もグチャグチャで―――｣


美琴｢それができないから言ってんのよッ……！！ 私をアンタなんかと一緒にするなぁッッ！！！｣

麦野｢……っ｣

固法｢み、御坂さん……！｣

美琴(私はッ……人殺しじゃない……っ！！)ｷﾞﾘｯ

麦野｢………｣


麦野｢……はは、そうだよね……ゴメン｣


美琴｢……っ、なに……？｣

麦野｢だ、だからゴメンって……怒鳴らないでよ、本当に反省してる……私の今までしてきた事が、全部ただの我が儘だったって｣

美琴(な、何かコイツ……今までと感じが……？)

麦野｢アンタ達と闘って嫌って程に分かったんだ……『死ぬ』のが本当に恐いって事……｣
(痛くて、辛くて、苦しくて、哀しくて……)

麦野｢でも私は……これまで幾つもの敵を殺めて来たんだ、って……｣

美琴｢………｣

麦野｢……『置き去り』で暗部に利用されるだけの私には、失う物なんてもう無かったから……ずっと前から自棄になって、死に急いでたのかもしんない……｣

固法｢アナタは……｣

麦野｢……ゴメンね｣ﾎﾞｿｯ


麦野｢ご、ゴメンね……本当にゴメンねっ……！ 謝って済むハズないのに……！！｣


固法｢うぅん……良いの、反省してる人を責める気なんて私には無いから……｣

美琴｢っ！？｣

固法｢……でも一つだけ、これだけは約束して欲しい事があるの｣

麦野｢や、約束……？｣ｸｽﾝ

固法｢えぇ、もう誰かを殺めたりなんて事は絶対にしない……って｣

麦野｢……ぅ、うんっ……！ 約束する、約束するっ！｣

固法｢じゃあこんな話は終わりにしましょ、だから今度は聞かせてくれる？ ……アナタの話っ｣ﾆｺｯ

麦野｢ぅ、うんっ/////｣

美琴｢……ふーん｣ﾑｯｽｰ
(あんな惨状になっといて和解しようとするなんて……先輩ってばお人好しすぎ―――)


結標｢うんうん良かったじゃない、ちゃんと反省しなさいよね｣ｼｬｸｼｬｸ


美琴｢ってちょっと、何食ってんのよアンタ｣

結標｢何って……｣

美琴｢………｣

結標｢……ぇ、リンゴだけど？｣

美琴｢見りゃ分かるわよ！！ 何『知らないの？』みたいな顔してんのよ！？ ソレ、私が固法先輩の為に持って来たモンでしょうがあああっっ！！！｣

結標｢だって私だけ会話に置いてきぼりだし……それに何だか皮剥くの下手クソっぽいじゃない？ アナタって｣ｼｬｸｼｬｸ

美琴｢食す事前提かよっ！？ ってか食うなっつの！！ 食・う・なーっ！！｣ｷﾞｬｰｷﾞｬｰ

結標｢はぁ、胸だけじゃなく心の器まで小さいのねー……じゃあ分かったわ、ちゃんとその子に食べさせてあげれば良いんでしょ？｣ｽｯｸ

美琴｢は？｣

結標｢ハぁイこのりん、あ～ん♪｣ｽﾞｲｯ

美琴｢あっ！？｣

固法｢あ、あ～ん｣ﾊﾟｸｯ


美琴｢あぁっ！？｣

結標｢どう？ 私が剥いたげたリンゴっ｣ﾆｺﾆｺ

美琴｢なッ……何て事すんのよぉっ！！ それに今、このりんって……！｣ﾜﾀﾜﾀ

結標｢え？ これからしばらく同じ病室で過ごすんだし……仲良くなっておくのは当然でしょ？｣

美琴｢そ、そういう事言ってるんじゃなくて―――……って｣

結標｢このりんぎゅーっ♪｣ﾑｷﾞｭｯ

固法｢わわっ｣

美琴｢あぁっ！！｣

結標｢うーん……何だか私、誰かさんとは違ってアナタとはとっても素敵な関係が築けそうな気がするわ｣ﾆｯｺﾘ

美琴｢は、離れてよっ！！ 今すぐ離れなさいってば！｣ｸﾞｲｸﾞｲ

結標｢痛い痛い痛いぃっ！！ 痛いよこのりーん＞＜｣ﾋﾞｴｰｯ

美琴｢んなっ！？ そ、そんな大袈裟な……！｣ｱｾｱｾ

固法｢こら御坂さんっ、怪我人に乱暴しちゃダメでしょっ？｣ﾒｯ

美琴｢ひ、酷い……先輩まで……！｣ﾌﾟﾙﾌﾟﾙ…

固法｢……へ？｣


美琴｢うえええぇぇぇぇん！！！ 先輩のばかぁっ！！｣ﾀﾞｯ!!


固法｢あぁっ！？ み、御坂さん……！｣

…………ガララッッ！！


一方通行｢お？｣

美琴｢うぅ……！｣ｸﾞｽｯ

一方通行｢ちょ、ちょっ……オマエ、何で半泣き―――｣

美琴｢うわああぁぁぁん＞＜｣ﾌﾞﾝｯ


　　　　ドゴッッ！！！


一方通行｢ぐほァっ！？｣ｹﾞﾌｯ

御坂妹｢………｣

美琴｢うわああぁぁぁん……！！｣ﾀﾞｰｯ

一方通行｢｣ｶﾞｸﾝｯ

御坂妹｢………｣


御坂妹｢……以前にも増して女難の相が目立つ様ですが……と、ミサカは床に突っ伏した第一位のおケツを木の枝で突っつきながら問い詰めます｣ﾂﾝﾂﾝ


一方通行｢……ほっとけや……｣

―――隣の病室



フレンダ｢そ、そっか……結局今日だっけ、退院するの｣

削板｢応ッ！！ 今回ばかりは流石にヤバかったけどよ、いつまでも布団の上じゃあ身体が鈍っちまうからな！｣ｶﾞﾊﾊ

フレンダ｢じゃあ……アンタとこうして話せるのも今日で最後かもね｣ｷｺｷｺ

削板｢………｣

フレンダ｢んしょっと｣ﾊﾟｶｯ

削板｢……サバ缶、か｣

フレンダ｢うん、食べなさいよね｣ｽｯ

削板｢……くッ｣

フレンダ｢……何よぅ、私のサバが食えないっての？ 最初はあんなガツガツ貪ってたクセに｣ﾑｽｯ

削板｢いや、入院してから毎日毎日朝昼晩のおやつ時まで延々サバ缶食わされ続けたからな……根性以外にも色々と鍛えられた気がす―――もがっ！？｣ﾓｶﾞ…

フレンダ｢つべこべ言ってないで食いなさいっての、出された物は残さず食べる……結局それこそが真のや、ヤマトダマシイ……ブシドー、だっけ？ ってわけなのよね｣

削板｢お前、結構マニアックな日本語知ってるな｣ﾓｼｬﾓｼｬ

フレンダ｢………｣

削板｢？｣ﾓｼｬ…

フレンダ｢……結局私、アンタには感謝してる｣

削板｢………｣ｺﾞｸﾝ

フレンダ｢アンタがいなかったらって、アンタと出会えてなかったらって思うと……結局今でもゾッとしちゃうわけよ｣

削板｢でも俺は……俺の拳でナンバーフォーを止める事はできなかった｣

フレンダ｢あれ、まさか見えてなかったと思ったの？ これでも私、動体視力には自信あんのよね……ま、アンタよりは実戦こなしてるわけだし当然っていうか？｣ｴﾍﾝ

削板｢………｣

フレンダ｢……って、良く考えたら全然胸張れるような事じゃーないわけだけど……でもさっ｣ｽﾞｲｯ

削板｢おぉっ｣

フレンダ｢あの場の何人が気付いてたのかなんて知らないし、どうでも良いけど……私だけは理解してる、アンタはちゃんと麦野を救ってくれたって｣


―――『どッッ……ォ ォ ォ お お おおおあああああああッッ！！！！』―――


フレンダ｢……だって最後のあの瞬間、アンタが麦野を突き飛ばしてくれなかったら……あの『黒い壁』に飲み込まれてたのは、結局麦野の方だったと思うわけだから｣

削板｢……そうか｣

フレンダ｢……だ、だからさ……アンタには感謝してもしきれないっていうか……その、結局何が言いたいかっつーと……｣ﾓｼﾞﾓｼﾞ

削板｢？｣

フレンダ｢……ちょ、ちょっと顔貸しなさいよね……！｣ｸｲｯ

削板｢お、おい……―――｣


…………ﾁｭｯｯ


フレンダ｢……っ｣


削板｢｣


フレンダ｢……♪｣ｸｽｯ
(……アンタと出会えて、本当に良かった……)

削板｢｣

フレンダ｢ぁ……こ、これは私なりの精一杯の感謝の気持ちっていうか……い、言っとくけど勘違いしないでよねっ！！ わ、私の国じゃキ、キキキキス？ なんて挨拶みたいなモンだし！？ だ、だから私は別にアンタの事なんか―――｣


削板｢結婚しよう｣ﾆｷﾞｯ


フレンダ｢　　　　｣

フレンダ｢……な、なななななななな！！？ い、いいいいきなり何言っちゃってるわけよアンタはっ！！！｣ﾜﾀﾜﾀ

削板｢だってお前さっき俺にチューしたじゃねーか！ や、ヤバい！！ 子供ができてしまう！！｣ﾜﾀﾜﾀ

フレンダ｢ちゅ、チューってアンタ……っつーかそもそも頬っぺにキスしたくらいで子供なんてできるわけないでしょ！？ アンタの頭の中は一体どうなってんのよー！！｣

削板｢……なに？ チューしたくらいじゃ赤ん坊はできないのか？｣

フレンダ｢当たり前よっ！！ ｣


削板｢……じゃあどうやったら子供は産まれるんだ？｣ｷｮﾄﾝ


フレンダ｢ほ、ほえぇ……？｣
(まさかコイツ、底無しの馬鹿……？)

削板｢な、なぁお前は知ってんだろ？ だったら今すぐ俺に教えてくれ……！ 本当の子作りの方法ってのをっ！！！｣ｽﾞｽﾞｽﾞｲｯ

フレンダ｢ちょ、ちょちょちょ……/////｣ﾀｼﾞ…
(ま、まさかコイツ……今此処で私とセッ……し、したいっての！？ む、むむむ無理無理無理っ！ だって私達には早すぎるしそれに此処病院だし！！)


削板｢頼むッッ！！！｣


フレンダ｢く、くううぅぅぅ……/////｣ｶｱｧ…
(な、何て純粋な眼―――ってかコイツ、実は知ってて言ってんじゃないでしょうねっ！！？)


　　　　｢お姉ちゃん見～つけたっ！｣


フレンダ｢ぃっ！？｣ﾋﾞｸｯ

削板｢お？｣

フレメア｢………｣ｺｿｺｿ


削板(ちっちゃい……フレンダ？)

フレンダ｢ふ、フレメア！？ どうしてアンタ……！｣

フレメア｢……大体尾行ごっこ、にゃあ｣ﾆｬｱ

フレンダ｢び、尾行ごっこって……アンタねぇ｣ﾋｸｯ

削板｢おぉそうか、コイツが前に言ってたお前の……｣

フレメア｢……？｣ｼﾞﾛｼﾞﾛ

削板｢おっ？ おぉーしゃおしゃおしゃ恐くないぞーこっち来いこっち来いソギーさんだぞー｣ﾊﾟﾝﾊﾟﾝﾊﾟﾝ

フレンダ｢犬かっつの｣

フレメア｢………｣

削板｢………｣ﾆｺﾆｺ


フレメア｢……誰？｣


削板｢｣

フレンダ｢にゃはは……コイツは削板よ削板っ、ほら呼んでみなさい？ 千切れんばかりに尻尾振って汚ったない涎ダラッダラ垂らしながら喜ぶから｣

削板｢犬かっつの｣

フレメア｢そぎー……？｣ﾑﾑﾑ

フレンダ｢Let's one more ！ そ・ぎ・い・た・♪｣


削板｢応ッ、根性だ！！｣ﾆｶｯ


フレンダ｢全然違うじゃない！！｣

フレメア｢こんじょー？｣

削板｢応ッッ！！！｣

フレメア｢こんじょー……大体ヤマトダマシイ、だね！｣ﾆｺｯ

削板｢ガハハ、流石はフレンダの妹……立派な日本男児になるぞ！｣ﾆｶｯ

フレンダ｢女だっつの｣

フレメア｢ねーねーそぎーた遊んでよー｣ｸﾞｲｸﾞｲ

削板｢おっと、中々の甘えんボーイだな……最近フレンダに相手されなくて淋しかったか？｣

フレンダ｢ちょっ……！｣

フレメア｢うん……でも大体仕方ないもん、お姉ちゃんいっつもお仕事だから｣

削板｢……そうか｣

フレメア｢駒場のお兄ちゃんも『勉強する』とか言って最近ずっと遊んでくれないし｣ﾑｽｯ

削板｢……駒場？ 誰だそりゃ｣

フレンダ｢さぁ？ 何かフレメアと時々遊んでくれてた人がいたらしいのよね……ま、私だって顔も見た事ないわけだけど｣

削板｢ふーん……でももう大丈夫だぞ、その分今から俺達が根性捻り出して散々遊び呆けてやるからな！！｣

フレメア｢ホント！？｣

削板｢応ッ！！ 俺も最近動けなくて身体中鈍っちまったからな……もう腰も立たないぐらい再起不能になるまで遊び倒してやるぜ！｣ﾆｶｯ

フレンダ｢それって駄目じゃないの？｣

…………ガララッッ！！


削板｢そうと決まれば『漢』削板！！ 外の世界への水先案内人は任せろ！！｣ｻﾞｯ

フレンダ｢ってちょっとちょっと！？ そこ窓よ！ まさかアンタ―――！！｣


削板｢とうりゃっ｣ﾋﾟｮﾝｯ


フレンダ｢って結局飛び降りるわけ！？｣
(この部屋何階だと思って……！)

フレメア｢わぁっ！？ かッ……かーっくいぃーっっ！！｣ｷﾗｷﾗ…!


　　　　｢オーイ！！ お前達も早く降りて来いよーっ！！！｣


フレンダ｢できるかっ！！ も、もうアイツの脳筋ぶりは―――！？｣ﾊｯ


フレメア｢んしょ、んしょ……｣ﾖｼﾞﾖｼﾞ


フレンダ｢ってぎゃーっ！！？ ふ、フフフフレメア何真似しようとしてんのよーっ！？｣ﾜﾀﾜﾀ

フレメア｢えーっ｣

フレンダ｢えーっ、じゃないっ！！ アンタまでアイツみたいに馬鹿にならないでよっ！！ も、もう……！｣

フレメア｢でもお姉ちゃん、そぎーたってヒーローみたいだよねっ♪｣ﾆｺﾆｺ

フレンダ｢……ヒーロー？｣

フレメア｢うんっ！ 学校の男の子が言ってたもん、ヒーローってスッゴい強くてカッコ良くてジャッジメントっていうらしくて……―――｣

フレンダ｢……あ……｣ﾊｯ
(……私、この子のこんなに笑ってる顔って……)


フレメア｢……お姉ちゃん？｣ｷｮﾄﾝ


フレンダ｢……っ！｣ｸﾞｽｯ
(ひ、久しぶりに……見たかも……！)

フレメア｢……どうしたの？｣

フレンダ｢ぅっ、うぅ……！ な、何でも……ﾋｯｸ、何でもない……から……！｣ﾌﾟﾙﾌﾟﾙ…


―――『お前は幸せになりたかったから……！！ 自分の運命を変えたかったからこの街に来たんじゃなかったのか！！？
』―――


フレメア｢お姉ちゃん……｣

フレンダ｢……ヒーロー……そうね……フレメア｣ﾑｷﾞｭｯ
(ずっと……無理だって諦めかけてた……！！)


―――『だったら俺が変えてやる、お前の世界も運命も……俺がこのまま！ 簡単に終わらせはしない！！』―――


フレンダ｢結局アイツはね……お姉ちゃん達の世界を変えてくれた……―――ヒーロー、なのよっ｣ﾆｺｯ

―――その病室前の廊下



一方通行(……ンだよこの部屋……根性だとか大和魂だとか騒がしすぎンだろ)ﾄｺﾄｺ

絹旗｢嫉妬ぱーんち｣ﾌﾞﾝｯ

一方通行｢おっと｣ﾋﾗﾘ

絹旗｢あ、あれっ？｣

一方通行｢………｣
(来やがった……)

絹旗｢も、もおぉ～！！ どうして私だけ避けちゃうんですかぁっ！｣ﾌﾟﾝｽｶ

一方通行｢逆に何故殴ろォとする！？｣

絹旗｢何故って……他の女性方はお兄ちゃんに全力アタックしてるのに、私だけ殴れないのは超不公平じゃないですか？｣


一方通行｢俺が知るかァっっ！！！｣

絹旗｢ﾎｯ、そうなんですか……おかげで超安心しました、私てっきりお兄ちゃんは殴られて興奮するような浜面並みの超変態だと勘違いしちゃう所でしたよっ♪｣ﾃﾍ

一方通行｢俺は今オマエを殴りたいけどな｣

絹旗｢あーんダメです超ダメです！ まだリハビリ中で『窒素装甲』が仕事しないので今殴られたら死んじゃいますよーっ＞＜｣ﾑｷﾞｭｯ

一方通行｢………｣

絹旗｢でへへ～っ♪｣ﾃﾞﾚﾃﾞﾚ
(と言いつつどさくさ紛れの腕に抱き付き作戦超成功で―――)


一方通行｢……嘘吐け、クソ医者が言ってたぞ……オマエとっくに快復してンだろ｣


絹旗｢……ぇ、え～っ？ 何の事でしょうか、でも能力が上手く発動しないのは超本当の事ですしぃ～……｣ｱｾｱｾ

一方通行｢ついでに言うと記憶が戻ってる事もな｣

絹旗｢ギクッ！？｣

一方通行｢……で、実際今のオマエはどォなンだ？ 敵意はあンのか、そこンとこハッキリしろ｣

絹旗｢やっ……｣ﾌﾟﾙﾌﾟﾙ…

一方通行｢あの後色々調べたけどよ、俺を恨ンでンのか……あの実験は―――｣


絹旗｢やめてくださいッ……！！ 恨んでなんていませんからっっ！！！｣

絹旗｢会った事も無いアナタの事を勝手にお兄ちゃんだって呼んだり……わ、私の超恥ずかしい所や黒歴史を全部見られて……私だってもう後には引けないんですよっ！！｣

一方通行(つまり開き直ってるわけか)

絹旗｢私は『置き去り』で友達もいなくて……あの超過酷な実験を生き延びる為には、優秀な結果を出し続けるしか方法が無かったんです……！｣

一方通行｢……それが木原流だ、優秀な材料にだけ手を伸ばし、それ以外は全てポイ……木原数多、オマエもアイツの世話になったンだってな｣

絹旗｢……木原？ す、すいません……研究員一人一人の名前なんて一々覚えてなくて……｣

一方通行｢ﾁｯ……気にすンな、番外個体が言ってたから俺も気になっただけだ｣ﾎﾟﾘﾎﾟﾘ

絹旗｢でも今なら分かります、あの顔に刺青を超彫ってた男の事ですよね？ あの男だけは……黒夜がもしかすると｣

一方通行｢……黒夜？｣ﾋﾟｸｯ

絹旗｢……黒夜海鳥、あの木原一族に興味を示してたのは覚えてますが……成績は常にナンバーツー、一方的に私を勝手に超妬んでいた小さい女です｣

一方通行｢……ソイツも今『アイテム』に？｣

絹旗｢いえ、彼女は途中で計画をリタイアしました……現在の行方など知りません、生きているのかさえも｣

一方通行｢リタイア……って事ァ｣


絹旗｢……卒業を掛けた最後の試験中……能力の暴発で自身の両腕を超フッ飛ばしたからです｣


一方通行｢……っ、そォか｣


―――『えー、フツーにやってもつまんないんでぇー……―――今から卒業生の皆さんには殺し合いでもしてもらおッかなあァァっっ！！！！！？』―――


絹旗｢……はい、しかしあの試験は……｣ﾎﾞｿｯ

一方通行｢……？｣

絹旗｢いえ……それでも、そんな生き死にを掛けたクソッたれな実験でも私の支えとなってくれたのが……映写室で適当に並べられてた、外の世界で撮られた超Ｃ級映画と……―――｣


…………ﾑｷﾞｭｯｯ


絹旗｢私の中の『自分だけの現実』で見つけ出した、たった一人の家族……私だけの理想的なお兄ちゃん｣ｽﾘｽﾘ

一方通行｢………｣

絹旗｢えへへ……ただの現実逃避だってのは分かってます、それに本当のアナタは超素っ気なかったんですけど……｣


絹旗｢……それでも、これからも『お兄ちゃん』って呼ばせて戴きます、せめてそれぐらいの責任は取ってくださいねっ！｣ﾑｷﾞｭ


一方通行｢……はァ、迷惑じゃねェって言えば一〇〇パー嘘になるが……まァ、良いンじゃねェかな｣

絹旗｢え……｣


一方通行｢……心の拠り所を見つけるぐらいはよ｣


絹旗｢……うぅ……お兄ちゃん……！｣ｸﾞｽｯ

一方通行｢っ！？｣ｿﾞｸ…

絹旗｢ありがとうお兄ちゃーん！！｣ﾑｷﾞｭー!


　　　　ゴキボキボキボキボキィ…………ッッ！！


一方通行｢うおァァァあああああああああっっ！！！｣ﾍﾞｷﾍﾞｷﾍﾞｷ

絹旗｢おっとと……喜びの余り『窒素装甲』も超復活したみたいですね、流石は私の超お兄ちゃんです/////｣

一方通行｢｣

絹旗｢むむむ……！？ そ、そういえば私の超ライバル、初春さんの姿はありませんね！？ さっき見かけたんで超咄嗟に隠れたんですが……｣ｷｮﾛｷｮﾛ

一方通行｢｣

絹旗｢何せ今の私は彼女に会わせる顔がありません……大口叩いておきながら、彼女との約束を守る事ができませんでしたから……｣ｼｮﾎﾞﾝ

一方通行｢｣

絹旗｢でも次に会う時にはきっと……きっとアナタに頼らずとも、アナタに代わって私があの子を……だからその日まで｣ﾊﾟｯ

一方通行｢｣ｶﾞｸﾝｯ


…………ドサッッ


絹旗｢―――……さよなら、大好きなお兄ちゃんっ♪｣ﾆｺｯ


一方通行(……あァ……さよなら、俺)ﾌｯ

―――隣の病室



…………ガララッッ！！


一方通行｢おいババァ、見舞いに来たぞー｣ｻﾞｯ

初春｢えぇっ！？ い、一通さん……！｣ﾋﾞｸｯ

一方通行｢……ン？｣


黒子｢………(半裸｣


一方通行｢ﾟO ﾟ｣


　　　　ゴ　ゴ　ゴ　ゴ　ゴ　ゴ　ゴ　ゴ　ゴ　ゴ　・　・　・　・


黒子｢……ッ(遠い目｣


一方通行｢お、おォ……悪りィ、着替え中だったか……今すぐ出てくからよ｣ｱｾｱｾ

黒子｢……い～いえぇ別に構いませんの、着替えも今終わりましたし……では初春｣

初春｢はいです｣


黒子｢そこの食器に置いてあるフォークをお持ちなさい｣


初春｢はいです｣ｽｯ

一方通行｢待て待て待て待て！！！ そのフォークで一体何するつもりだァ！？｣


黒子｢ご心配なさらず、痛いのは最初だけですの｣


一方通行｢その後は！！？｣

黒子｢はぁ……ま、冗談ですの、アナタのような愚人に裸体を見られた程度で怒りを露にする程私は小さい女ではありませんの｣ﾌﾝｯ

一方通行｢………｣

初春｢でも女性の部屋にいきなり入って来るなんて……一通さんってばデリカシーが無いですよー！｣ﾌﾟﾝｽｶ

一方通行｢……オゥ｣

黒子｢……？ 何ヘコんでんですの？｣

一方通行｢……もォ良い｣

黒子｢っていうか来るのが遅いんですの、このセロリ｣ｺﾞｿｺﾞｿ

一方通行｢あァ？｣

黒子｢初春はすぐ全クリできるようなクソゲーしか持って来ませんし、お姉さまともお会いできませんし……黒子は毎日が退屈すぎて暇死にしそうでしたのー｣ﾋﾟｺﾋﾟｺ

一方通行｢……クソゲーとか抜かしながら絶賛プレイ中じゃねェか｣

初春｢いえいえ、クソゲー扱いされたのはアレですケド……でも実際私が貸したゲームはこの数週間で殆ど消化しちゃいまして……今度は終わりの無いソーシャルゲームにハマっちゃったんですよね、白井さん｣ﾀﾊﾊ

黒子｢………｣ﾋﾟｺﾋﾟｺ

一方通行(……コイツ意外とゲームの才能あるンじゃねェの？)

初春｢でもこっからが酷いんですよ聞いてください一通さん！ 白井さんがやってるゲーム……ニンジャ＆ドラゴンズ、略して『ニンドラ』っていう基本無料のゲームなんですけど、白井さんってば財力に物を言わせて既に一五万円以上も課金しちゃってるんです！！ これはもう大問題ですですよー！｣ﾊﾞﾝｯ!

一方通行｢お、オゥ｣

黒子｢おだまり初春、お金なんて使い所を見極めてパーッと放出しないと永久に貯まる一方なんですのっ｣

一方通行(……そォいえばコイツ、これでもお嬢様だったな)

黒子｢規制の厳しい常盤台に在籍してる以上お洋服にお金を掛けても無駄ですし……仮に機会があったとしても、どうせ本家から贈られて来るお召し物しか着る事など許されませんし……｣ﾌﾞﾂﾌﾞﾂ

初春｢てか一通さん、さっき廊下で断末魔の悲鳴が聞こえてましたけど……｣

一方通行(オマエは聞こえてたなら助けてくれよ、頼むから)

初春｢何だったんです？ アレ｣

一方通行｢……あァ、アレは絹旗の野郎に脊椎砕かれかけてだな……｣ﾁｯ

初春｢っ……絹旗さんが？｣

一方通行｢………｣
(……あれ、言って良いンだっけコレ……)

初春｢絹旗さんがこの病院にいるんですか……？｣ｶﾞﾀｯ

一方通行｢ちょ、ちょっと待て、何かアイツは今オマエに会いたくねェだとか……！｣ｱｾｱｾ

初春｢そ、そんなの……絹旗さんの事情なんて知りませんよっ！！｣ﾀﾞｯ!


…………バタンッッ！！


一方通行(……もォ知らン)

黒子｢………｣

黒子｢……ﾌｩ｣ﾎﾟｲｯ

一方通行｢どォした｣


黒子｢飽きましたの｣ｹﾛｯ


一方通行｢……自由だなオマエ｣

黒子｢自由……？ うふふっ、アナタには私が自由に映って見えてるんですの？｣ｸｽｯ

一方通行｢……？ 怪我の事言ってンのか？｣

黒子｢さぁどうでしょうねぇ……ま、セロリさんには白井家の家庭の事情なんてのは関係ありませんしっ｣ｺﾞﾛﾝ

一方通行｢ﾁｯ……で、どォなンだよ……怪我の方は｣

黒子｢む、この程度先輩と比べれば大した怪我じゃないですの……このご時世、自分のDNAから細胞を作って移植してしまえば大概の傷は綺麗に埋まりますしね｣

一方通行｢……そォか｣

黒子｢ま、それでもしばらくは松葉杖を突く不便な生活が続きそうですケドっ｣ｳﾍﾍ

一方通行｢……その割りには気持ち悪りィぐらい嬉しそォだな｣


黒子｢だって見ましたのセロリ！？ 妹さまのあの恰好ですの！ これからの病院生活は毎日がパラダイス……否、それ即ち 酒 地 肉 林 ッ ！！ いえ、それだけに留まらず我が愛しのお姉さままでもがミニスカナースをお召しになる可能性が微レ存―――ッ！？｣ﾊｯ


一方通行｢……っ｣


黒子｢……冗談ですの、あからさまにドン引きしないでくださいまし｣

一方通行｢チィ……つっても、不便になンのもそりゃ自業自得だろォが……オマエも大分無茶しやがったからな｣

黒子｢えぇ、その通り……全ては私の未熟さ、故の過ちですの｣

黒子｢……ですからセロリさん、私はもっと高みへと……もっと強くならなければいけないんですの｣

一方通行｢………｣

黒子｢Lv4の空間移動系能力者としてだけではなく、精神的にも……この、小さな肉体的にも｣

一方通行｢……あァ、だからっつって無茶しやがンのだけはもォ勘弁だぜ？ 勇敢と無謀を履き違えンな｣

黒子｢………｣

一方通行｢オマエには昔の俺とは違って……頼れるヤツらが何人もいてンだからよォ｣ﾎﾟﾘﾎﾟﾘ

黒子｢……っ｣ｸｽｯ

一方通行｢ってオイ、何が可笑しい？｣

黒子｢べ、別に……可笑しくて笑ってるわけではないですのよっ？｣ｸｽｸｽ

一方通行｢……ﾁｯ、答えろよババァ……眼鏡先輩が言うには、自分がヒーローかどォかってなァ全て他人が決める言葉らしい｣


―――『勿論アナタがこれまで助けて来た人々だって……きっとアナタをヒーローだって認めてる』―――


一方通行｢―――……俺は今……オマエらのヒーローやれてンのかよ｣

黒子｢……ふむ、そうですわね｣ｼﾞﾛｼﾞﾛ

一方通行｢………｣


黒子｢……ふふっ♪ まぁ……今回はやれているという事にしておきますの……―――半分程度は、ねっ｣ﾆｯｺﾘ


一方通行｢オゥ……半分か｣

黒子｢あら、何かご不満でして？｣

一方通行｢……いや、充分だろ｣ﾆｯ


…………バタンッッ！！


青ピ｢くゥゥゥゥゥゥゥゥろこちゅわァァああああああああんっっ！！！！｣ｺﾞﾛｺﾞﾛｺﾞﾛ


　　　　ｺﾞﾛｺﾞﾛｺﾞﾛｺﾞﾛ…………ドカアアァッッ！！！！


青ピ｢ごっ、がァァああああああああああああッッ！！？｣


黒子｢ひっ！？｣ﾋﾞｸｯ

一方通行｢ッ！？｣

青ピ｢あ痛たたたたたぁ……い、勢いつけすぎてもた……！｣ﾖﾛﾖﾛ

一方通行(……コイツ、しょっちゅうババァに支部まで連行されて来る常習犯じゃねェか)

黒子｢あ、青髪ピアスさん……？｣

青ピ｢ッ！！ ぶ、無事なんか黒子ちゃーん！！？｣ｽﾞｽﾞｽﾞｲｯ

黒子｢ひゃわわわわわっ！！？ せ、セロリ！！ 見てないで早く私を助けなさいですのー！｣ﾜﾀﾜﾀ

青ピ｢お、おおお大怪我でキミが入院した聞いて飛んで来たんや！ キミが辛い思いしてる思てボクは……ぼ、ボクはぁ……っ！！｣ﾆｷﾞｯ!

黒子｢ぇ、そ……そうなんですの？｣

一方通行(……何だ、どさくさに紛れて手ェ握ってっけど案外良いヤツじゃ―――)


青ピ｢キミが早く元気になる思て、お見舞いにボクの大事な御坂美琴グッズをこれでもか言うぐらいに持って来たんや！｣ｶﾞｻｺﾞｿ


黒子｢んほぉぉおおおおおおおおおっっ！！！｣


一方通行(……ねェな、ダメだわコイツら……)

青ピ｢……ん？｣ﾋﾟｸｯ

一方通行｢………｣


青ピ｢やや、これはこれは一通くん……いつからそこに？｣


一方通行｢最初からいただろォがァっ！！！｣


青ピ｢あ、そうそう……ボクんトコのパン屋さん今度リニューアルオープンする予定なんよー、完成したらまた皆で買いに来てな！！｣ﾋﾞｼｯ


一方通行｢………｣

青ピ｢………｣


一方通行(……宣伝かよ……)ﾋｸｯ

―――中庭



　　　　サアアアァァァァ…………


絹旗｢……風が超気持ち良いですねっ｣ﾌﾌｯ

絹旗(『アイテム』が壊滅的な打撃を受けてから仕事も回って来ませんし……思ってみれば、こんなにのんびりできるのも超久しぶりです)ﾃｸﾃｸ


　　　　｢絹旗さぁぁあああああああああんっっ！！！｣


絹旗｢っ！？｣ﾋﾞｸｯ


初春｢はぁ……はぁ……！｣ｻﾞｯ


絹旗｢……う、初春さん……！？｣
(ど、どうして……！)

初春｢き、絹旗さん……待ってください｣ﾊｧ…ﾊｧ

絹旗｢………｣

初春｢絹旗さんどうして……どうして何も言わずに―――｣


絹旗(超ダッシュ！！)ﾀﾞｯ!


初春｢ってあれえぇぇぇっ！！？ だ、だからどうして逃げるんですかぁっ！！｣ｶﾞﾋﾞｰﾝ

絹旗(だ、だって私は……！)ﾀﾀﾀ…

初春｢ま、待ってくださぁ～い！｣ﾊﾋﾊﾋ

絹旗(アナタの友達である資格なんて―――！)


初春｢ぅげっほげほっ！？ さ、叫びながら走るのってぐ、苦゛じ……げほっ！！ め、メチャクチャ苦し……！｣ﾖﾛﾖﾛ


絹旗｢………｣

初春｢……ふ、ふえぇ～っ！ お願いですから逃げないでくださいよぉ～！！｣ｳｴｰﾝ

絹旗｢も、もおぉ～っ！！ 仮にもアナタは風紀委員なんですから、追われる側に情けを掛けられてどうすんです！？ 超しっかりしてくださいよっ！｣ﾌﾟﾝｽｶ

初春｢てへへ、でも何だかんだ言いながらちゃんと戻って来てくれるんですね｣ﾀﾊﾊ

絹旗｢はっ！ ま、まさかこれもアナタの作戦……！？｣

初春(……前にも白井さんバージョンでこんな事あった気がしますケド)

初春｢……ところで酷いですよ絹旗さん、どうして私を避けるんですか｣ﾑｽｯ

絹旗｢うぅ……｣

初春｢私……ずっと心配してたんですよ？ 絹旗さんの事……｣

絹旗｢だ、だって……私はアナタとの約束を守れなかったじゃないですか……｣

初春｢え……？｣

絹旗｢あの第三位のクローンを連れ戻すと言っておきながら……あっという間に返り討ちにされて、せっかく初春さんに戴いたハイビスカスも散らしてしまって……｣

絹旗｢……おまけに、彼女が目の前で殺されるのをただ見てるだけしか私にはできませんでした｣ｼｮﾎﾞﾝ
(……超三下です、三下以下です)

初春｢そ、そんな……！ そんな事で私は怒ったりなんてしません！！ 確かに番外個体さんの事は残念ですよ、残念ですけど……！｣

絹旗｢……？｣


初春｢でも……それで絹旗さんまでいなくなったら……私、そんなのとっても悲しいですよ……｣ｼｮﾎﾞﾝ

絹旗｢………｣

初春｢それに……例え何があっても、お互いに許し合って……励まし合って、理解し合えるのが本当の友達なんじゃないですか……？｣

絹旗(……友達……)

初春｢……だ、だから……｣

絹旗｢でも……でも、私の素性を知ったら……きっと初春さんは超幻滅します｣

初春｢そんな事無いですっ！｣

絹旗｢初春さんより先にお兄ちゃんを奪っちゃうかも……｣

初春｢そ、そんな事無いですっ！！｣

絹旗｢………｣

初春｢………｣


絹旗｢……ふふっ♪｣ｸｽｯ


初春｢え、えへへ……｣

絹旗｢……初春さん、アナタの心は超純粋で……きっと優しさだけでできてるんですね｣ﾌﾌｯ

初春｢そ、そんな……私はただ皆さんに笑顔でいて欲しいだけで……それに、頭の中までお花畑だとか良く言われちゃいますし｣

絹旗｢いぃ～えっ、それがアナタ自身の持ち味なんだって私は思いますよ？｣
(アナタのそんな優しさに救われる人達だって、私以外にもきっといるハズですから……)

初春｢そ、そう……ですかね/////｣ﾃﾚﾃﾚ

絹旗(だからこの先……必ず私が守ってみせます、アナタの傍で……)


…………たった一人の、大切な友人として…………


絹旗｢―――……宜しくお願いします、飾利っ｣ﾆｺｯ


初春｢ふえぇっ！？｣ﾄﾞｷｯ

絹旗｢おや、どうかしましたか？｣

初春｢か、飾利だなんてそんな……て、照れくさいですよぉ……！｣ﾜﾀﾜﾀ
(佐天さんですら名前で呼ばれた事無いのに……！)

絹旗｢ふむ、照れくさいですか……｣


初春｢……じゃ、じゃあ私も……さ、最愛……ｻﾝ、なんちて/////｣ﾃﾍﾍ


絹旗｢はい、何ですか？｣ﾆｺﾆｺ

初春｢……っ｣ﾑｽﾞﾑｽﾞ


初春｢……ふ、ふえぇ～！ やっぱ無理ですぅ～っ！！｣ｸｽﾝ


絹旗｢ふふっ、アナタが超無理して呼ぶ必要はありません……私が呼びたいからそう呼ぶだけですからねっ｣ｴﾍﾝ

　　　　ぐぎゅるるるるる…………


初春｢！？｣ﾋﾞｸｯ

絹旗｢……むむ、何ですか？ 今の超情けない音は……｣

初春｢あわわ……あ、安心したら何だか一気にお腹空いてきちゃって……最近全然食事が喉を通らなかったんですよね｣ﾃﾍﾍ

絹旗｢じゃあお昼ご飯ご一緒しませんか？ いっぱい食べて女子力を超磨かないとお兄ちゃんは振り向いちゃくれませんからねっ｣ﾆｯ

初春｢は……はいっ！ 私、美味しいお店たっくさん知ってるんです……早く行きましょうよ絹旗さんっ！！｣ﾆｷﾞｯ


　　　　サアアアァァァァ…………


絹旗｢……そういえば飾利と交わしてた約束の内に……破らずに守れてたのが一つだけ超残ってました｣ﾀﾀﾀ…

初春｢？｣


絹旗｢『無事でいろ』と言われたのでご期待に沿ってみたんですけど……超迷惑でしたかね？｣ﾆｼｼ

―――屋上



美琴(いいもんいいもん先輩のばか！！ ブラックサンダー両手にヤケ食いしてやるんだからっ！)ﾌﾟﾝﾌﾟﾝ


　　　　｢……此処にいたのかい？｣


　　　　｢……テメェかよ、タヌキオヤジ｣


美琴｢もぐもぐもぐ……む、むむ？｣ﾋﾟｸｯ
(話し声……？)


　　　　｢まったくだ、顔くらい見せたらどうなんだ……皆が心配してるのは知っているだろう？｣


　　　　｢……テメェには関係ねぇだろ｣


美琴(……誰だろ？ 私以外に誰かいたんだ)ﾋｮｺ


冥土帰し｢ﾌｩ……変わらないね？ キミは｣

垣根｢はッ、どうだかなァ……｣

冥土帰し｢……そうだね、少し落ち着いた……かな？｣ﾌｯ


美琴(ゲコ太先生に……ダ、未元物質っ！？)

冥土帰し｢……タバコ、吸わないのかい？｣

垣根｢……辞めたんだよ｣ﾁｯ

冥土帰し｢うむ、それはとても良い事だね？｣ﾆｯｺﾘ


美琴(あの二人ってやっぱり知り合いだったんだ……もぐもぐ)ﾓｸﾞﾓｸﾞ


冥土帰し｢キミとこうして話をするのも随分と久しぶりだね？｣

垣根｢……俺は余りテメェと話はしたくないんだがな｣

冥土帰し｢……フフ｣

垣根｢………｣

冥土帰し｢随分と嫌われちゃってるんだね……キミには｣

垣根｢………｣


冥土帰し｢キミと初めて出会った大雨の日……確かに、僕はキミの患者を救えなかったね？｣


垣根｢……過ぎた話だ｣

―――『アンタ医者なんだろ……！？ 助けてくれ……！！』―――


垣根｢トドメを刺した本人が一番分かってんだよ、テメェに診せた時にはもう……全てが手遅れだった事にはな｣


―――『……頼むッ……！！ 助けてやってくれ……っっ！！！』―――


垣根｢『未元物質』……俺以外の耐性の無い人間が、ソイツに脳まで侵蝕された時……一体どれ程おぞましい反応を示すのかが……ッ｣ｷﾞﾘｯ

冥土帰し｢………｣

垣根｢過ぎた事だ……だが、どうしてもあの時の光景だけは……未だ脳裏に焼き付いちまってんだよ｣

冥土帰し｢……まだ続けるのかい？｣

垣根｢……何を｣

冥土帰し｢復讐だよ｣

垣根｢……復讐、か｣

冥土帰し｢………｣


垣根｢……ははっ、生憎それどころじゃなくなったんだ｣ﾆｯ


冥土帰し｢……ﾌｩ｣

垣根｢だが落とし前はつけさせて貰うさ……俺自身の手でな｣

冥土帰し｢……分かった、次はいつでも来ると良いね？｣

垣根｢テメェは俺の保護者かよ｣

冥土帰し｢いやいや、だってキミは僕の患者だろう？｣

垣根｢身に覚えがねーんだよ……っつか、テメェの世話になる程俺の肉体はヤワじゃないんでな｣

冥土帰し｢……フム、そもそも僕にキミが治せるか……そこが問題だがね？｣

垣根｢はッ、今の俺は無敵だ……無駄に気を遣い過ぎるとますますハゲるぞ｣ｻﾞｯ

美琴(わわっ、こっち来る……！？)ｱｾｱｾ

垣根｢……ん？｣ﾋﾟｸｯ

冥土帰し｢む？｣

美琴｢……ゲ、あ、違っ……えーと、別に盗み聞きするつもりじゃなかったんだけど……｣ｱﾊﾊ


垣根｢よぉ、常盤台の『黒い雷神(ﾌﾞﾗｯｸｻﾝﾀﾞｰ)』｣


美琴｢誰がよ！！！！！｣

冥土帰し｢……キミか｣

美琴｢ぁ……ど、どもです｣ﾍﾟｺﾘ

垣根｢はー……盗み聞きたぁ中々に趣味が悪りぃのな、最近の中坊ってのは｣ﾔﾚﾔﾚ

美琴｢だから違うっつの！！ しかも今の発言、私を含む全ての中学生に謝りなさいよ！！！｣ﾌﾟﾝｽｶ

垣根｢っつかお前……｣

美琴｢な、何よぅ……！｣


垣根｢……マジで何やってんの？｣


美琴｢あーもぅうるさい皆して私を虐めてっ！！ っつか未元物質、私はアンタに訊きたい事が山程―――！｣ﾋﾞｼｯ


垣根｢……未元物質じゃねぇ、垣 根 帝 督 だ……二度と間違えんなよ、お嬢さん｣

美琴｢む、むぐぐ……！｣
(何よ、ちょっと強いからって偉そうにっ！！)

垣根(まぁ仕方ねーか……色々と騙されるは利用されるはコイツもかなりムカついてるだろ)ﾎﾟﾘﾎﾟﾘ

垣根｢……ところで一つ訊くが、あの時から少しは気分も落ち着いたか？｣

美琴｢ふぇ？ そ、そりゃあ……｣


垣根｢だったら今夜付き合え｣


美琴｢………｣

垣根｢………｣

美琴｢な……何、もしかして誘ってんの？｣ﾀｼﾞ…

垣根｢っ……アホか、お前の疑問を全て解消してやるって言ってんだろーが｣

冥土帰し｢……待った、彼女をどうするつもりだい？｣

垣根｢ﾁｯ、悪い事には使わねーよ……ただな、真実を知る為にはコイツの能力が必要になる……それだけだ｣ﾆﾔﾘ

美琴(……ものすっごい嫌な予感しかしない)ﾌﾞﾙﾙｯ

―――第七学区　とある個室サロン



原谷｢ありあっしたー｣

原谷｢………｣

原谷｢……はぁ｣
(暇だな……)

原谷｢………｣ｷｮﾛｷｮﾛ


…………シ―――ン…………


原谷｢……ｺﾎﾝ｣
(……誰もいないし、やっとくか)


原谷(今この店のカウンターでバイトをしてるのは何を隠そうこの俺、『禁書界眼鏡が似合うランキング』堂々上位に君臨する原谷矢文……以前黒ずくめの謎の男達に集団レイポされかけた所をとある風紀委員に救われ、何やかんやあって今に至るわけだが)

原谷(……しかし今宵も月明かりが眩しいな……フッ、俺の悪い癖だ……こんな日はいつもこうだ、嫌な過去を振り返り少しダンディでトレンディな気分に―――)


　　　　ガ―――ッッ


原谷｢らっしゃーせー｣


心理定規｢～♪｣ﾄｺﾄｺ


原谷(おっ……おっっっぉぉおおおおおおおお超絶美人ｋ・ｔ・ｋ・ｒ！！！ やっべやっべぇスゲー綺麗なドレス着てるし化粧も歩き方も完璧だしでボンドガールかよマジやっべぇ！！)

心理定規(―――だとか考えてるんでしょうねぇ……童貞クンはホントちょろいんだから)ｸｽｯ

原谷｢ご、ごごごごぐょご用件は何を……｣ﾄﾞｷﾄﾞｷ…

心理定規｢ふふっ、一九時に三〇八号室の予約を取っていたと思うんだけど……｣ﾆｯｺﾘ

原谷｢は、はひっ！ しゃ、しゃしゃしゃんしゃしゃしゃ……！！｣ｵﾀｵﾀ
(って何を詠唱してんだ俺っ！！ 不完全ゴーレムでも召喚する気か！！？)

心理定規｢ノン、焦らないでゆっくり確認してね？ 眼鏡の素敵なお兄さんっ｣ﾌﾌｯ

原谷｢ッ！？｣ﾊｯ
(向かい合って見れば分かる……ま、まさか歳下……だと！？)

心理定規｢………｣
(……そんな事どうでも良いから、さっさと済ませて欲しいわ)

原谷｢……あれ？｣ﾋﾟｸｯ

心理定規｢？｣

原谷｢あ、あの……俺達、もしかすると何処かで会った事―――｣


心理定規｢大丈夫、気のせいよ｣


原谷｢っ……は、はは……ですよねー｣ﾀﾊﾊ
(やっべ、うっかり大恥かいちまったか！？)

心理定規｢………｣ｼﾞﾛｼﾞﾛ
(何処かで会った……私と？)

原谷(だー、そりゃそうだよなー……こんなキラキラ光輝いてるキラキラちゃん、一目見たら忘れるわけないよなぁ……)ﾎﾟｹｰ

心理定規(ッ、まさかあの時『猟犬部隊』に襲われてたｍｏｂキャラくんかしら……)

原谷｢｣ﾎﾞｹｰ

心理定規｢……っ♪｣ﾆﾔﾘ

心理定規｢そうそうお兄さん……私、こういう者なんだけど｣ｽｯ

原谷｢へっ？ め、名刺……個人、カウンセラー……？｣

心理定規｢えぇ、でも此処だけの話……｣ｽﾞｲｯ

原谷｢はうあ！？｣ﾄﾞｷｯ


心理定規｢―――……モグリ、なんだケドねっ｣ﾎﾞｿｯ


原谷｢も、モグリ……！？｣

心理定規｢ノン、声が大きいわよ？｣ﾒｯ

原谷｢うぐっ！///// で、でもどうしてそんな事俺に……！｣

心理定規｢そうね……何だかお兄さんの事見てると、放っとけないっていうか……｣

原谷｢ほ、放っとけない……って？｣

心理定規｢カウンセラーとしての勘……ってヤツかしら？ お兄さんってば、何か悩みを抱えてる気がするわ｣

原谷｢っ！？｣

心理定規｢まぁ……この街の住人ならば誰もが一度は自分の能力について悩んだ事があるとは思うんだケド｣

原谷(た、確かに俺は以前『幻想御手』に手を出した事もあったけど……で、でも今は―――)


心理定規｢あっ、それとも……恋事情、かしら？｣ｸｽｯ


原谷｢！！？｣

心理定規｢ふふっ、実は今から仕事なの♪ 今日みたいに個室を借りて、マンツーマンでじっくりと……ね？｣ﾆｯｺﾘ

原谷(み、密室……二人っきり……)ﾓﾝﾓﾝ

心理定規｢あ～っ、お兄さんってば……もしかして今、スッゴいいやらしい事想像したんじゃない？｣

原谷｢し、ししししてないしてない断じてしてない！！！｣ﾌﾞﾝﾌﾞﾝ

心理定規｢もぅっ、一応言っておくけど……お触りなんてＮＧよ？ 相談だって言うのなら別だけど……私、そういうテのはあまり得意じゃないの｣

原谷(そ、それは逆に嬉しいですッ！！)

心理定規｢それでも良いなら……ふふっ、いつでも電話して欲しいわ♪ それにお兄さんって優しそうだから、そんな心配も無さそうだしね……？｣ﾆｺﾆｺ


原谷｢キラキラちゃん……｣


心理定規(……はい、心の距離三〇を切った……金蔓ゲットね、お得意様がまた増えちゃったかも)

―――廊下



心理定規｢えーと、三〇八……三〇八号室……っと｣ﾄｺﾄｺ
(今日のお相手はお喋り好きなタクシーの運転手……)


…………ザリッッ


心理定規｢……此処ね｣ｺﾎﾝ

心理定規(お客さん……もとい、礼儀が必要な相手に対するノックは四回……覚えておくと良いわ)

心理定規(それ以上の回数は狂気を意味する……気を付けなさい、それはノンよ)ｺﾝｺﾝ


…………ガチャ


心理定規｢こんばんは、お待たせ―――｣


垣根｢やあ！｣ﾆｺﾆｺ


心理定規｢ん、な……ッ！？｣


　　　　バチイィィッッ！！！！


心理定規｢ぎいぃっ！？｣ﾋﾞｸﾝｯ!


…………ドサッッ！！

心理定規｢ぐ、ぐー……！！｣ﾋﾞｸｯﾋﾞｸﾝ
(う、動けな……！)

垣根｢よぉ、会いたかったぜーハニー｣ﾆﾔﾆﾔ

心理定規｢か、垣根……帝、督ッ……！？｣
(そ、それに……今の電気ショックは―――！)


美琴｢『入って来たヤツに好きなだけ電撃浴びせろ』って言ってたけど……本当にコイツで間違いないの？ 垣根さん｣ｻﾞｯ


心理定規(御坂美琴……常盤台の『超電磁砲』が……！！？)


美琴｢ふーん……それにしても黒幕だって言うからさ、もっととんでもなくヤバいヤツだって勝手に想像してたんだけど｣ｼﾞﾛｯ

垣根｢あぁ、だからといって油断はするな｣

心理定規(ま、マズい……この状況はマズい……！)


垣根｢―――コイツの戦闘力はアテにはならんが……話術と交渉術だけは大したモンでな｣ﾆｨｯ

心理定規｢あ、あら……私ったら、もしかして部屋を間違えちゃったのかしら……？｣

垣根｢い～や、そんな心配は無用だぜ心理定規……本来この場では行われる予定だったさ、テメェの『小遣い稼ぎ』がな｣ｻﾞｯ

心理定規｢く……ッ！｣

垣根｢俺は以前言ったよなぁ？ テメェはこうやってコソコソ学園都市の要人と密会してやがると……それが馬場芳郎であったり、結標淡希であったり、統括理事会であったり……｣ｻﾞｯｻﾞｯ

美琴(っ、コイツが……結標と？)

垣根｢……そして、今夜のクライアントがこのオッサンだった｣ﾊﾞｻｯ


運転手｢｣ﾋﾟﾖﾋﾟﾖ


心理定規｢っ！？｣

垣根｢俺も『まさかコイツが……？』とも思ったが……残念ながらそうじゃない、コイツはただの一般人……そこらへんにいるタクシーの運ちゃんだ｣ﾁｯ

心理定規(な、何て事を……その人は私の中でも上客だったというのに……！)

垣根｢さて、そんじゃ一緒にお浚いしようか……これまでの出来事についてよ？｣ﾎﾞﾌｯ

美琴(垣根さんって何だか大っきいソファ似合うなぁ……)

垣根｢九月三〇日、俺達は確か素粒子工学研究所へ空き巣に入ったな……『滞空回線』解析の為には『ピンセット』をかっさらう必要があったからだ｣

垣根｢だがその同日……御坂にメールが送られて来たんだってなァ……？ 宛名は『スクール』と書かれてな｣

心理定規｢っ｣ﾋﾟｸｯ

垣根｢さっき俺も見させて貰ったが、中身は『残骸』についての添付資料と……結標淡希ら『科学結社』がソイツを狙っているという内容だった｣

心理定規｢メール……？ さぁね、何の事かしら｣

垣根｢……おいおい、まさかこの期に及んでシラを切るつもりか？｣

心理定規｢そんな事言われてもねぇ……知らないものは知らな―――｣ﾊｯ


美琴｢………｣


心理定規(ッ……し、しまった……！ まさか、彼がこの場に御坂美琴を同行させた理由は―――！？)

垣根｢気付いたか……テメェが幾ら巧みに誤魔化しを利かそうが、コイツにとっちゃ全て無意味だってコトがよ？｣ﾆﾔﾘ

美琴｢そうよ、私の能力は他の誰よりも多種多様に応用が利く……アンタの脳波を伝って真偽を見抜く事もね｣

心理定規｢………｣

美琴｢分かってよ、私だって好き好んで他人の中を覗き込んだりしたくない……気分が乗らないからそうしない、ただそれだけ｣

心理定規｢……そう、どうやら此処までのようね｣ﾌｩ
(でもまだ……きっとまだ、突破口が……！)

垣根｢結標淡希は己の能力にコンプレックスを抱いていた……テメェはそこに付け入り、『残骸』を手に入れさせる為に外部組織『科学結社』を紹介したわけだ｣

心理定規｢えぇ｣

垣根｢一〇月八日……俺は風紀委員へ潜伏し、テメェとヘッドギアの二人は『科学結社』から『残骸』の強奪作戦を実行……結標と御坂の手を掻い潜り、漁夫の利で『残骸』は無事『スクール』の手に渡る｣

美琴｢………｣

垣根｢まぁ此処までは良いとしよう……Lv4とLv5が相手だろうが、しっかり作戦立てて奇襲掛けりゃ物を奪うぐらいテメェらならやってのけるだろ……例えば、突入前にあらかじめ警備員に通報しとくとかな｣

美琴｢……そっか、あの時妙に警備員の来るタイミングが良いと思ったら……アンタの自作自演だったわけね｣
(私もとっとと逃げるしかなかったし)

心理定規｢………｣

垣根｢そして翌日……一〇月九日、テメェは『スクール』をあっさりと裏切りやがった……『残骸』を出汁に、『アイテム』の連中にヘッドギアの野郎を始末させるよう誘導してな｣

―――『アナタ達には悪いケド……｢残骸｣は私達｢グループ｣が戴くわね？』―――


垣根｢んで、『残骸』を取り戻しに俺達の前に現れた結標は自分を『グループ』だと名乗っていたんだが……何故だと思う？｣

心理定規｢何故って……そんなもの知らないわ、『残骸』さえ手に入れば彼女は既に用済みだったし｣

垣根｢あぁそうだ、仲間を潰され孤立した結標程度なら警備員にソッコー捕まるとでもテメェは思ってたんだろうが……口封じにしては随分と詰めが甘かったな｣


　　　　　　　　ゴ　ゴ　ゴ　ゴ　ゴ　ゴ　ゴ　ゴ　ゴ　ゴ　・　・　・　・


垣根｢裏切り者の『スクール』には上層部からの情報など入って来ないが……―――色々と話してくれたさ、『グループ』の連中がよ｣ﾆﾔﾘ


心理定規｢っ！！！｣

美琴｢……？ なに、どういう事？｣

垣根｢御坂、お前が倒した結標の仲間は全員警備員に取り押さえられたがな……結標だけはその能力で難を逃れたらしい｣

美琴｢そこで結標を拾ったのが『グループ』って連中だった……ってコト？｣

垣根｢正解｣

美琴｢ぃよっし｣ｶﾞｯﾂ

垣根｢ならばヤツらは当然結標の経緯を尋問するだろう……そこでヤツらから面白い情報が手に入ってなァ……？｣ﾆﾔﾆﾔ

心理定規(しまった……こ、これは……！)


垣根｢外部に位置する『科学結社』は九月三〇日に既に壊滅していたんだよ……それも『スクール』と名乗る者達によってな｣

美琴｢……ん？ でも垣根さん達はその日、素粒子工学研究所にいたって……｣

垣根｢あぁ、さっきも言ったが『科学結社』は学園都市外部に位置する組織……どうやっても俺達が辿り着けるハズがない、実際は『スクール』という名の皮を被った別の部隊だろう｣

心理定規(やられた……ッ)ｷﾞﾘｯ

美琴｢『科学結社』の本拠地を知っているのはコイツだけだから……つまり、コイツにはまだ仲間がいる……って事！？｣
(まだ『科学結社』を潰させた仲間が残って―――！)


垣根｢あぁ……だが、重要なのはそこじゃない｣


美琴｢……えっ？｣

垣根｢そもそもだ……何故コイツは苦労して手に入れた『残骸』を簡単に手放したと思う？｣

美琴｢それは……さっき言ってたじゃない、『アイテム』を利用する為だって｣

垣根｢三つの内の、一つはそうだ｣

美琴｢ぇ、三分の一？｣

垣根｢あぁ、一つは『残骸』を巡ってLv5同士を争わせ、その死体を回収する事……結果的に見るとな｣

美琴｢し、死体っ！？ どうして……！｣

垣根｢答えは第三次世界大戦に備え、戦力を確保する為だよ｣

美琴｢！！？｣
(せ、戦争……っ！？)

垣根｢脳さえ機能停止してなけりゃソイツの能力自体はどうにでも復元できる可能性があると聞いた事がある……まぁ、肉体(ﾊｰﾄﾞ)の方は間違いなくオシャカだろうがな｣

心理定規｢………｣

垣根｢『一方通行』に『未元物質』、少なくともこの二人の能力者は学園都市の意志に反している……何とか超能力者達の手綱を握っておきたかったんだろ｣

美琴｢で、でもそんな……そんなの……！｣

垣根｢……実際、過去の実験で俺が提供した『未元物質』を利用し、今だって幾つもの殺人兵器が研究されている｣

美琴｢………｣

垣根｢……御坂、分かってるとは思うが……ヤツらはヒトの命なんざぁ虫ケラ程にも思っちゃいない、特に他人のはな｣

垣根｢お前や俺達が闘ってるのはそういう相手だって……それを確かめたかったんだろ？｣

美琴｢……っ｣ｺｸﾝ

垣根｢……まぁ心配すんな、第三位以降の優先順位は恐らく低い｣
(……むしろ、一番ヤバいのはこの俺だろうからな)

垣根｢そんじゃ話を戻すが、今俺が話したのは『学園都市側』が得をする話だっただろ……ならば、心理定規は一体何の為に暗躍していたと思う？｣

美琴｢……そんなの訊かれても分かんないし｣ﾑｽｯ

垣根｢コイツが俺を殺して得する事っつったら一つしかねぇだろ｣

美琴｢だ、だからそんな身内ネタ分かんないって―――！！｣


　　　　｢……欲しかったのよ、アナタの持つ『滞空回線』のデータがね｣


美琴｢……へ？｣

心理定規｢………｣

垣根｢……やっと口を開きやがったか｣

心理定規｢負けたわ……アナタがそこまで辿り着いてるのなら、これ以上は黙っていたって仕方がないもの｣ﾌｩ

美琴｢『滞空回線』……｣
(……それが最後の三分の一)

心理定規｢『滞空回線』には学園都市を揺るがす程の最暗部の情報が詰まっているの……『残骸』など霞んでしまうような代物よ｣

心理定規｢『ピンセット』から抜き出された『滞空回線』のデータは一つのUSBメモリに移され、それは彼が肌身離さず持ち歩いている……だから奪う必要があったの、どんな手を遣ってもね｣

垣根｢遣うにしても徹底的に自分の手を汚さずに……ってか？ ホント良い性格してるよな｣

心理定規｢………｣

垣根｢……だが言ったハズだぜ、『滞空回線』には俺達では解析できないようなブラックボックスが多すぎる……学園都市を脅すには心許ねぇってな｣

心理定規｢……イジワルね、『グループ』と接触した今のアナタなら知っているんじゃなくて？｣

垣根｢……あぁ、テメェは既に切札を所持している……『残骸』どころか、『滞空回線』まで霞んじまうような大層なお宝をよ｣

心理定規｢………｣

美琴｢……お、お宝？｣

垣根｢名は『素養格付』っつーデータベース……ソイツを使えば、対象の人物が将来的にどこまで成長できる可能性を秘めているのかを調べる事ができるらしい｣

垣根｢例えば『素養格付』の結果でLv1と判定された人物は、どんなに血の滲むような努力をしようが将来Lv1までしか成長しないだろうとされ……学園都市はその生徒には不必要なカリキュラムを受けさせず、Lv1に見合ったカリキュラムのみを受けさせるってわけだ｣

美琴｢！！？｣
(ひ、酷い……！)

垣根｢……逆に『素養格付』でLv5になり得る可能性を秘めていると判定された者には、それに見合ったカリキュラムを受けさせる……御坂、Lv1から伸し上がったお前のようにな｣

美琴｢………｣

垣根｢いや、お前には元々才能があった……伸し上がったように錯覚させられた、と言った方が正しいかな｣

美琴｢……そ、そう｣

美琴(……認めたくなかったけど……やっぱりあったんだ、そんなシステムが……)ｼｮﾎﾞﾝ

垣根｢勿論『素養格付』の存在も極秘事項だが……『グループ』の話によれば、そのプログラムは九月三〇日以前にダミーに摩り替えられていたらしい｣

美琴｢ふ……ふーん、また盗まれちゃったんだ｣
(内も外も敵だらけね、学園都市って)

垣根｢……って事で間違いないな？｣

心理定規｢えぇ、でも私は学園都市の最高機密レベルを突破できるような技量を持ち合わせていない……だから協力して貰ったのよ、あの馬場芳郎にね｣

垣根(……馬場芳郎か)

美琴｢誰それ｣

垣根｢とりあえずスゲェやつがいたって事だけ覚えとけ｣

美琴｢むぅ……｣ﾑｽｯ
(軽くあしらわれた……)

垣根｢成る程な、『素養格付』の在処を知っているのはテメェと馬場芳郎本人のみ……『メンバー』を始末した後、姿が見えねぇなと思えばテメェは馬場の死体を漁りに行ってたわけか｣

心理定規｢……そうよ、全ては本当に上手くいっていた……｣
(『素養格付』を手に入れる事でアレイスターとの直接交渉権を獲得し、後は『滞空回線』のブラックボックスを問い詰めるだけだったのに……！！)

心理定規｢やはり殺しておくべきだった……まさか結標淡希から此処までの綻びが生まれるだなんて……ッ｣ｷﾞﾘｯ


垣根｢……それは違うな｣


心理定規｢っ、なんですって……？｣

垣根｢テメェは結標を殺さなかったわけでも、殺せなかったわけでもない……―――殺すわけにはいかなかった、だろ？｣

心理定規｢ッ！！｣

垣根｢何故なら結標は窓もドアも無いビルへのルートを知る唯一無二の案内人……ヤツが消えれば、幾らアレイスターに脅しを掛けようとしてもテメェの声がヤツに届く事はない｣

垣根｢つまり……分かるな？ そんな事は当然ヤツも最初から承知の上……テメェは最初から踊らされていただけだという事だ、アレイスター＝クロウリーという魔術師の掌の上でな｣

心理定規｢ぐ、く……ッ｣ﾋｸｯ

垣根｢……さぁ、分かったら『素養格付』を寄越せ、アレはテメェが持ってても意味のねぇモンだ｣

美琴｢え、今持ってるの？｣

垣根｢当然だ、自分以外は何者も信用しないコイツの事……必ず『素養格付』を持ち歩いているだろうよ｣

美琴｢ふーん……｣

垣根｢何ならお前の能力で探っても良い……ドレスの中だろうが下着の裏だろが、肉の内側だろうがなァ……？｣

心理定規｢フ……その必要は無いわ……だってコレが『素養格付』だもの｣ﾌﾟﾁｯ

美琴(ICチップ……？ コイツ、ロング手袋の生地に埋め込んだりして……)

心理定規｢……本当よ、これこそ紛う事なきオリジナル……垣根帝督、アナタが欲した『第一候補』と形は違えど、同等の価値のある……ね｣

垣根｢………｣

心理定規｢ところでどうするの？ この私から直接交渉権を奪った後……まさか本気で学園都市を脅すつもり？｣

美琴｢なっ！？ そ、そんな事……！｣

心理定規｢やるわよ、必ずね……だってそれこそが彼の目的なんだから｣

心理定規｢アレイスターとの直接交渉権を求め、嘗ては学園都市を手に入れようと画策した……それが私達『スクール』なの、彼も私と同類なんだから｣


垣根｢……そうだな｣


美琴｢垣根さんっ！！？｣

垣根｢確かに俺個人としては今すぐにでもあの野郎を蹴落としてやりたい所だが……今となってはそれも無理な話だ｣

心理定規｢……は？｣

垣根｢『グループ』のグラサン野郎……俺に情報を提供する代わりに、『滞空回線』のデータを全て寄越せと言ってきやがった｣

心理定規｢ッ！？ ま、まさか……！！｣

垣根｢あぁ、俺の手元にはあのUSBメモリは既に無い……脅す為の物的証拠が無ければ、突き付ける事も不可能だ｣

心理定規(な、何て事を……私が欲した物を、そんな簡単に……！！)

垣根｢それに俺は暗部から足を洗った身……俺達では解明できなかった『滞空回線』のブラックボックス、『ドラゴン』という存在も……裏方の仕事は全て『グループ』に任せれば良い、俺は犠牲の出ない一番の方法でコツコツやって行くさ……あのお人好し達とな｣ﾌｯ

美琴｢垣根さん……｣

心理定規｢……そ、そう……結局それが最終的にアナタが出した答えなのね｣

垣根｢あぁ｣

心理定規(……私は、アナタの考えだけはずっと読めない)

心理定規(……そういうトコが……大っっ嫌いなのよ……ッ！！)


…………ドクンッッ！！


心理定規｢うぅっ！！？｣ﾋﾞｸﾝｯ

美琴｢……っ、え？｣


心理定規｢ぁ……！？ あ、がッ｣


垣根｢これは……―――！｣ﾊｯ


垣根｢探れッッ！！！ 手遅れになるぞ！！｣


美琴｢ぇ、え……！？ け、結局こうなっちゃうのっ！？｣ﾊﾞｯ
(他人の中を覗くのは嫌だって言ってるのに……！)

心理定規｢あっ……！？ ああああぁぁあぁぁあああああッッ！！！｣ｶﾞｸｶﾞｸｶﾞｸｯ

美琴(こ、これって……！？)

垣根｢どうした……？｣

美琴｢こ、こんなのあり得ない……！ じ、人格が……二つ―――！？｣


…………ﾌﾞﾂｯｯ


心理定規『アハハハハハハハハっっ！！ キャハハハハハハハハッッ！！！』


美琴｢いっ！？｣ﾋﾞｸｯ

垣根｢……っ！？｣

心理定規『危ないわねぇ心理定規ったら……まさかこんなヘマを踏んじゃうなんて』ﾑｸｯ

美琴｢ちょ、ちょっ……勝手に動くんじゃ―――！｣

垣根｢……待て｣

心理定規『ふふ……っ♪』ﾆﾔﾆﾔ

垣根｢心理定規……？ いや、違うな｣


垣根｢―――……誰だ、テメェは｣


心理定規『私達は「新入生」……学園都市に仇なす新勢力に対抗する為、結成されし者也』

垣根｢……『新入生』だと……？｣

心理定規『それにしても甘いわよねぇ御坂美琴……アナタがさっさとこの娘から情報を抜き取っていれば、全てを知る事ができたというのに……この私の正体もね』

美琴｢……は？ 甘い甘くないの問題じゃないわよ、ヒトとしての越えちゃいけない最低のラインでしょうが｣

心理定規『キャハハっ☆ 良いわねぇ御坂さん、とっても怖いわぁその表情……♪』ｸｽｸｽ

美琴｢……ッ｣ｷﾞﾘｯ


心理定規『でもぉ……アナタのそのくッだらないこだわりが、後々多くの血を流す事に直結していても？』ﾆｨ…


美琴｢……反吐が出るわね、他人の中に平気で潜り込むようなアンタに言われたくない｣ﾊﾞﾁ…ｯ

心理定規『ぷー、そんな事言われてもしょうがないじゃなぁい？ 私だって普段はこんな事しないわよぉ』


心理定規『―――な～んて思ってたケド……案外クセになっちゃうのよねぇ、他人のカラダを使ってプライベートを自分勝手に満喫しちゃうのもっ♪』ｷｬﾊｯ


美琴(下衆が……ッ)

心理定規『そーねぇ、でもこの娘のカラダも正直そろそろ飽きてきちゃってたしぃ……ふふっ、また新しい器に乗り換える頃合いなのかしらぁ……？』


垣根｢ンな事ぁどうだって良いんだよ、コラ｣


心理定規『……あらぁ、イライラしてるわねぇ垣根帝督』

垣根｢……答えろ、この『素養格付』はホンモノなんだろうな？｣ｽｯ

心理定規『酷いわねぇアナタ……心理定規の事なんて割とどうでも良いって感じ？』

垣根｢あぁ、何故なら実際にどうでも良い……それよりテメェが同系統能力者である心理定規の精神をも乗っ取れるレベルの能力者ならば、気付かぬ内にこの『素養格付』を摩り替える事も容易いだろうが｣

心理定規『ノン、それこそ「どうでも良い」ってカンジじゃなぁい？ そんな物は後々取り返せば済む話……今私が出て来たのはぁ、心理定規を伝って我々の情報が漏洩してしまうのを恐れての事よ』

垣根｢………｣

心理定規『うふふっ、そういうワケだからぁ、私はそろそろおいとまさせて戴こうかしらぁ？』ｸﾙｯ

美琴｢……待ちなさいよ｣ｶﾞｼｯ

心理定規『……あらぁ？ どーしたのぉ御坂さん』

美琴｢な、嘗めてるの……？ このままアンタを正面からみすみす逃がすわけないでしょうが……ッ！｣

心理定規『……そ、だったら仕方ないわよねぇ……』


　　　　ゴ　ゴ　ゴ　ゴ　ゴ　ゴ　ゴ　ゴ　ゴ　ゴ　・　・　・　・


心理定規『それじゃやっぱりこの娘の記憶は消すしかないかしらぁ……綺麗さっぱり、ね☆』ﾆｯｺﾘ

垣根｢っ！！｣

美琴｢なっ……！？｣


心理定規『では、ごきげんよう「卒業生」の諸君……―――世に、平穏のあらん事を』


美琴｢ま、待っ―――！！｣


…………バシュンッッ！！


心理定規｢うぅっ……｣ﾖﾛ…ｯ


…………ドシャッッ


美琴｢あ……｣

心理定規｢｣

垣根｢……っ｣ﾁｯ

美琴｢ど、どうしよ……？｣ｵﾛｵﾛ

垣根｢……探ってみろ、無駄かもしれねぇけどな｣

美琴｢ぅ、うん……｣ｽｯ


…………シ―――ン…………


心理定規｢｣

美琴｢……な、何も感じない……本当に、真っ白で……｣

垣根｢………｣

美琴｢………｣

垣根(これは一体……)

美琴(……まさか……)

―――翌日　とある丘の上



垣根(……心理定規は何者かによって操られていた……いや、鎖を繋がれていたと考えた方が正しいのか)

垣根(あの夜の戦利品は『新入生』というキーワード、そして……―――)ｺﾞｿｺﾞｿ


…………ﾁｬｯｯ


垣根(心理定規から取り上げた、『素養格付』のデータのみ……)

垣根｢……チィ｣ｺﾞﾛﾝ
(心理定規の記憶を消された事でヤツらを追う手掛かりも無くなった……これでまた振り出しに戻ったわけだ)

垣根｢……だが、ヤツらは必ずこの『素養格付』を奪い返しに現れる……その時までは―――)


　　　　｢てーいーとさんっ♪｣


垣根｢……んぁ？｣

初春｢えへへー｣ﾆｺﾆｺ


垣根｢……お前らか｣ﾌｩ

固法｢久しぶりね｣

黒子｢ですの｣

垣根｢はいはい、見つかっちまったなら仕方ねぇわな｣ﾑｸｯ


一方通行｢おいコラていとくン、こンなシケた場所で黄昏てンじゃねーぞカス｣


垣根｢……うるせーカス、テメェは黙っててくださいカス｣

一方通行｢あ？｣ｷﾞﾛｯ

垣根｢おォ？｣

初春｢はいはいはい！！ 怪我人がいるんですから暴れないでくださいよっ！｣ﾊﾟﾝﾊﾟﾝﾊﾟﾝ

垣根｢怪我人か……っつか、何てザマだよお嬢さん方は｣

黒子｢………｣

垣根｢一人は松葉杖に｣ﾁﾗｯ

固法｢………｣

垣根｢……車椅子委員長か｣

固法｢……んー……｣

黒子｢……うふふ、それはだって……ていとさん？｣ﾆｯｺﾘ

垣根｢？｣


　　　　ビシビシベシバシベシベシベシ！！


黒子｢だーれーのーせーいーだーとー思ってるんですのー？｣ﾍﾞｼﾍﾞｼﾍﾞｼ

垣根｢あー痛い痛い分かったから肩を切り落とすように杖で殴るな痛い｣ﾊﾊﾊ

初春｢その割りには全然効いてなさそうですけどねー｣ﾀﾊﾊ

黒子｢はぁ……もう呆れ果てて若干賢者モードですの、こんな輩に命を救われたなどと白井黒子一生の不覚……｣ﾔﾚﾔﾚ

垣根｢っ……何の話だ｣

黒子｢あら、結標淡希との一戦の後……アナタと初春が来てくれなければ、私はあの『妹達』に間違い無く消し飛ばされていましたのよ？｣
(んまぁ『妹達』に殺されるなら割りと本望ですケド)

垣根｢はああぁぁぁ？ どんだけ都合の良い解釈だよそりゃ……どう見ても俺はお前らを助けるつもりなんて無かったし、お前だってそもそも利用されてただけじゃねーか｣

黒子｢そりゃそうですけど、命拾いをしたのは確かですし……それに一応言っておきますケド、私はアナタに対して感謝の気持ちなどはこれっぽっちも感じてないですの｣

垣根｢………｣

固法｢アナタはずっと他人を救えない事に苦しんでいたけど……知ってるかしら？ ヒトが何か行動を起こした時には、自然とそれが誰かの為になっているって事｣

初春｢うんうん｣

固法｢……ふふっ、人間なんてそんなものよ？｣ﾆｺｯ

垣根(……そんなもの、か……)

垣根｢……それなら言っとくがな、俺だって詫びるつもりなんかねぇぞ……俺は俺の正義が正しいと思って行動しただけだ、お前らみてぇにな｣

一方通行｢そォですねー間違ってませンねー、まァその苦しい言い訳こそが女々しいていとくンには相応し―――ェ゛っ！？｣ﾒｷ…ｯ


　　　　ドカアァッッ！！！！


垣根｢上等だコラ｣ﾎﾞｶｽｶ

一方通行｢ご、ごほッ……！ 手ェ出しやがったなァ……！？ 一発は一発だぜ垣根ェ！！｣ﾎﾟｶｽｶ


　　　　｢誰が女々しいっつった……！？ テメェに言われたかねぇんだよ泣き虫野郎がッ！！！｣


　　　　｢あァ！？ だったらオマエはアレだ、その……死ねっっ！！！｣


初春｢結局こうなっちゃうんですねー｣ﾀﾊﾊ

黒子｢くだらなさすぎて目が腐りますの｣

固法｢まぁまぁ、男の子同士は夕日に向かって拳で語り合うものだ……っていうじゃない？｣

黒子｢え、この二人に限ってそんな青春要素は皆無だと断言しますケド……｣
(っていうか色々混ざっちゃってますの)

初春｢そ、そんな事ないですよっ！ 一通さんにもていとさんにも、今まで本気で殴りあえるような存在なんていませんでしたから……｣

黒子｢似た者同士……って事ですの？ では初春的にはこれがベストな組み合わせだと？｣
(殿方という生物は本当に意味が分からんですの……)

初春｢そうですよー、一〇月九日の悪夢だって……私達だからきっと此処まで上手くやれたんじゃないかって私は思ってます｣

固法｢ん？｣

初春｢一通さん、固法先輩、白井さんにこの私……バラバラになってたパズルのピースがそれぞれの役割を担い、絶妙に繋がり合ったからこそ私達の今があるわけで……｣

初春｢一通さんは不器用な人ですけど……いえ、他の誰でもない一通さんだったから……ていとさんも真っ当な道に戻ってくれたんです｣

初春｢そう、他の誰でもない……だ、だから私は……ｿﾉ｣


初春｢ぇ、えと……/////｣ﾄﾞｷﾄﾞｷ…


　　　　｢―――……大好きです｣


黒子｢うん？｣

固法｢むぅ……｣

初春(今はまだ……アナタと向かい合っては言えないけれど……―――)


一通・垣根｢あ゛ァっ！！？｣


初春｢ひいいいぃぃぃぃ……！｣



…………そして時は経ち、新たなる物語が始まる…………―――！！

―――冥土帰しの病院　廊下



浜面｢……で、『アイテム』再結集っすか｣ｻﾞｯ

絹旗｢ついにこの日が来ましたね、滝壺さん｣

滝壺｢うん｣ｺｸﾘ

浜面｢……ところでよ、なして集合場所が此処なの？｣

絹旗｢そんなの決まってるじゃないですか、この扉の奥には彼女が居るからですよ｣

浜面｢あー……やっぱり？｣

絹旗｢彼女がいないと私達は『アイテム』ではありません｣

フレンダ｢そう……結局、あの眠れる獅子を目覚めさせないといけないわけよ｣ｽｯ


…………ガチャ


麦野｢にゃんにゃん麦にゃんっ、麦にゃんにゃ～ん♪｣ﾃｷﾊﾟｷ


滝壺｢………｣

フレンダ｢あ、あれ……何やってるわけ麦野｣

麦野｢何って……退院の準備よ、片付けてんの｣

フレンダ｢え、でもまだ完治したわけじゃ……｣

麦野｢それを言うならあの二人だって……このりんもあわきんも退院しちゃったし、私だけ病室に取り残されてもつまんないもんね｣ﾃｷﾊﾟｷ

絹旗｢あの～……麦野、それで超早速なんですが｣

麦野｢むぎ？｣

絹旗｢いつものノーパソに我らが制御役様からの通信が入っています｣ｶﾊﾟｯ


制御役『いよぅ、愛すべきクソッタレ共ーっ=ﾟωﾟﾉ』


麦野｢うわーい早速殺してぇ｣

制御役『……おや？ おやおやおやおや～ん？』

麦野｢……何よ｣


制御役『はっはー、麦ちゃんってば病み上がりですっかり痩せ細ってんじゃんこいつときたらっ！ ざっっっまぁーないわよねえええぇぇぇぇぇん＾Д＾9ｍ』ﾌﾟｷﾞｬｰ


麦野(……果てしなくうぜぇ……)

制御役『ぶひひっｗ んまぁーそれでもぉー？ 入院費でスッカラカンになったアンタ達に朗報、今日からまた楽しい楽しいお仕事が再開しちゃうのよーん♪』

絹旗｢………｣

制御役『アンタ達が休んでる間に仕事が溜まっちゃって溜まっちゃってさぁー？ そんでこれは今しがた流れてきたビッグバン級ミッションにょ！！ ……ったーくアンタらさー、この私の慈悲深さに感謝しなさいよねこいつらときたらっ！』ｷｬｯﾎｲ

フレンダ｢……ふッ｣ﾌﾟﾙﾌﾟﾙ…

制御役『てなわけで今すぐ二三学区に直行よん、元「迎電部隊」のテロリスト共が―――』


フレンダ｢ふっっっっッざけんじゃないわよおぉぉッッ！！！！｣ﾄﾞｯｶｰﾝ!!


制御役『ひ、ひえぇぇっ！！？』

浜面｢フレンダが爆発した｣

フレンダ｢良い……？ 耳ン中かっぽじって良く聞きなさいよッ！！ 私はアンタなんかのアホな命令受けて死ぬのはゴメンだし、結局もう人殺しだってしたくないわけっ！！！｣

制御役『だ、誰がアホよこいつときたらっ！！ ふ、ふーんだ……調子づいてんじゃないわよ密入国者め！！ 所詮アンタなんて、私がいないと姉妹揃って優雅且つお粗末なブレックファーストタイムすら堪能できないくせにっ！』

フレンダ｢う、うるさいっ！！！ とにかく私はアイツと約束したの、こんな暗い場所にいても結局幸せになんて絶対なれない……―――もう、『アイテム』なんて抜けてやるんだからーッッ！！！！｣

制御役『なあぁぁーっ！！？』ｶﾞﾋﾞｰﾝ

絹旗｢良く言いましたフレンダ｣ﾊﾟﾁﾊﾟﾁ

滝壺｢おめでとう｣ﾊﾟﾁﾊﾟﾁ

フレンダ｢ふー……っ｣

制御役『そ……そんな簡単に暗部抜けを認めるわけないでしょこいつときたらっ！！ せ、制裁よ制裁っ！ 麦野、早く制裁しなさいよこんなヤツうぅっ！！』

麦野｢オッケー、『原子崩し』｣ﾎﾞｯ!!


　　　　ボ　ン　ッ　ッ　！　！　！　！


フレンダ｢ぶわーっ！？｣

浜面｢ノーパソが爆発した｣

　　　　ブシュウウウゥゥゥゥ…………


フレンダ｢げっほげほっ！！ む、麦野いきなりやめてよげほっ！｣ｹﾞﾎｹﾞﾎ

麦野｢だー悪い悪い……はい、んじゃあこの産廃片付けといて｣ｽｯ

滝壺｢うん｣


　　　　ｐｒｒｒｒｒｒｒｒｒｒｒ！！！


麦野｢んー？｣

絹旗｢あ、すいません私のケータイです｣ﾋﾟｯ


制御役『何ぁぁぁぁぁぁぁぁにすんのよおおおおおおおおおおおおおおっっ！！？』


絹旗｢どひーっ！？｣

制御役『あぁぁぁぁぁぁぁぁんもおおおおおおおおおおこいつときたらァァああああああああああああッッ！！！！ 何でアンタはいつも私の言う事が聞けないのよっ！？ ねぇ何で、何で何で！！？』

麦野｢っつーかさ、アンタ言ってたじゃん｣

制御役『はいィっ！？』


麦野｢『残骸』取り戻せなきゃ私達全員クビだって｣


制御役『ん……んんんんにょもぁぁあああああああああっっ！！！！ そんなモンはアンタらのケツに火を着ける為に言っただけでしょうがあぁぁぁぁぁぁぁぁｌｈ◎ｗｍｐ♂ｖｇｗっっ！！！』

麦野｢てなわけで制御役様にこれ以上の迷惑を被るわけにもいかないので……役立たずの我々は、今日限りで『アイテム』を辞任させて戴く所存であります｣

制御役『って話を聞けぃこいつときたらっ！！ 私を裏切ったらどうなるか分かってんのアンタ達！？』

麦野｢………｣

制御役『……ちょ、ちょっと待ってよ黙んないでよお願いだからっ！！ これじゃ上から制裁食らうのは私の方―――』


麦野｢よいしょっ｣ﾊﾞｷｮｯ


フレンダ｢あ｣

絹旗｢なるううううううっっ！！？｣ｶﾞﾋﾞｰﾝ
(わ、私のケータイがぁ……っ！！)

滝壺｢逆パカだね｣

麦野｢しょーがないじゃん、ヤツらとの関係を断ち切るならこれでもまだ足りないくらいよ｣

絹旗｢くうぅぅ……！ 粘りに粘ってようやくお兄ちゃんのアドレスをゲットしたのに……こ、これじゃ三〇分置きにラブコールできません！｣ｼｸｼｸ

浜面｢怖えーよ｣

絹旗｢怒鳴り散らされるまでは三分置きだったんですよ？｣ｸｽﾝ


浜面｢怖えーよっっ！！！｣


麦野｢それにガラケーなんて古いのよ、今の時代はやっぱスマホよねースマホスマホっ♪｣

浜面｢あれ、でもお前ら身分証どころか戸籍自体無いんだろ？ 支給されたケータイ破壊しちゃってるし、『アイテム』まで解散しちまったらこの先生きのこ―――｣

麦野｢……っつか、おい浜面｣

浜面｢？｣

麦野｢テメー何でいんの？｣

浜面｢お、おぅ俺か？ 俺はまぁ……守りたいヤツがいるっていうかよ……｣ﾍﾍｯ

絹旗｢ま、守りたい人ぉ……？｣

麦野｢………｣

フレンダ｢………｣

絹旗｢………｣

滝壺｢………｣


滝壺｢………、誰？｣ｷｮﾄﾝ


浜面｢うおおぉぉぉい！！？ お前だよオっ・マっ・エぃっ！！ 浜面パートのヒロインである自覚持ってくださいよ滝壺さん！！｣

絹旗｢浜面パート……？ そんなものがあったんですか？｣

麦野｢世紀末帝王ＨＡＭＡＤＵＲＡ様()お得意の妄想でしょーよ｣

絹旗｢でも滝壺さんはアレですよねー｣

滝壺｢うん｣

絹旗｢馬面が何かボヤいた所で、当の本人は垣根帝督が超本命らしいですけど？｣

滝壺｢/////｣

浜面｢わ、わーってんだよンな事は！！ でも俺にだってな、アイツに負けてねートコがきっとあるんだよっ！！｣ｹｯ

麦野｢浜面が垣根より勝ってるトコ……って？｣

絹旗｢むーん……｣

フレンダ｢頭の悪さじゃない？｣

浜面｢！？｣

絹旗｢あぁ、だったら顔のブサイクっぷりも超勝ってますね｣

フレンダ｢脚の短さもかな｣

浜面｢！！？｣

絹旗｢あ、あと近付かれると超クサいです｣

滝壺｢大丈夫だよはまづら、私は洗ってない犬のニオイがするそんなコーギーはまづらを応援してる｣

浜面｢｣

麦野｢良かったじゃん浜面、思ってたよりいっぱいあるってよ？｣ﾎﾟﾝｯ

浜面｢誇れる要素が一つもないよ！！？｣

絹旗｢だって所詮浜面ですし｣

フレンダ｢うん、まぁ……結局浜面だからね｣ﾔﾚﾔﾚ

浜面｢が、がーっっ！！！ 確かに俺はクズで雑魚だけどな！！ そ、それでもお前らよりマトモな人間である自信はあるぞ！？｣ﾋﾞｼｨ!


麦・フ・絹「「「 あ゛？ 」」」


浜面｢´；ω；｀｣ｳｯ

滝壺｢でも、また居場所無くなっちゃったね｣ｼｮﾎﾞﾝ

フレンダ｢結局は制御役の言った通りなのよねー……貯金も無いし、『アイテム』のアジトも使えなくなるわけだし｣
(フレメアも学校行けなくなっちゃうかも……)

絹旗｢そう考えたら病院生活は超楽でしたねー……｣ﾎﾞｹｰ

滝壺｢ベッドはフカフカだし｣

フレンダ｢室内はとっても温かいし｣

絹旗｢いっそのこと、ず～っと此処に留まるのもアリかもしれませんね｣ｴﾍﾍ

浜面｢おいやめろ｣

絹旗｢……っ｣ｼﾞﾛｯ


浜面｢やめてください´；ω；｀｣

麦野｢ったくアンタ達、そーやっていつまでもシケた面してんじゃないわよ｣ﾊﾟﾝﾊﾟﾝ

滝壺｢むぎの｣

麦野｢それに言ったじゃん？ 自分の居場所ってのは、誰かに提供されるモンじゃなくて……｣


フレンダ｢―――自分の手で掴むもの、でしょ？｣ﾆｯ


麦野｢……そういうコトっ、何だ……ちゃんと覚えてんじゃん｣

滝壺｢………｣

麦野｢っ♪｣ﾙﾝｯ

滝壺｢……むぎの、スッゴい良い表情してる｣ｸﾙｯ

絹旗｢そりゃーあれだけ『体晶』を超使いまくったんです、後遺症で色々な場所がある意味『崩壊』しちゃったのかもしれませんね｣

麦野｢はいはい、そんじゃ行くよっ！ まずは今夜の宿探しってね！！｣

浜面｢だから金もねぇのにどうやって―――｣

麦野｢あーそうそう浜面……私、野宿なんて死んでも無理だから｣

浜面｢結局俺に無茶ぶりかよっ！！？｣

フレンダ｢あ……だ、だったらさ……私、実は心当たりがあるんだけど……｣

―――風紀委員第七七七支部



削板｢休日の昼間っからごろごろ～ごろごろ～｣ｺﾞﾛﾝｺﾞﾛﾝ

削板(あー……暇すぎて死にそうだぁー)ｺﾞﾛｺﾞﾛ


削板(……平和だ、平和すぎんぞ学園都市ッ！！ )ｺﾞﾛﾝｺﾞﾛﾝ


削板(……ﾊｯ、まさかこれは学園都市が俺に与えた不屈の根性を鍛え上げる為の試練なのでは……？)

削板(良いぜ……ならばこの削板、その挑戦を真っ正面から受けてやる！ 徹底的に退屈を持て余してみせるぜ！！)ｺﾞﾛﾝｺﾞﾛﾝ


…………ガチャ


削板｢お？｣ﾋﾟｸｯ


麦野｢へー、以外と片付いてんじゃん｣ﾄﾞｶﾄﾞｶ


削板｢｣


絹旗｢いやいや……これは片付いてるというか、家具が無さすぎて超殺風景ってだけじゃないですか？｣ﾄﾞｶﾄﾞｶ


削板｢　　　　｣


滝壺｢広い｣

浜面｢あらやだ、何このデジャヴ｣

削板(……ど、どういう事なの……？)ﾎﾟｶｰﾝ

フレンダ｢ご、ゴメンね削板っ！｣ｱｾｱｾ

削板｢ってフレンダじゃねぇか、もう少しで風紀委員呼ぶ所だったぞ｣

フレメア｢あっ、そぎーただーっ♪｣ﾄﾃﾃ


　　　　ドゴオオォォォッッ！！！


削板｢ぐっはあぁぁっ！！？ ナ、ナイスタックルだぞフレメアァァあああああああっっ！！！｣ｺﾞﾛｺﾞﾛｺﾞﾛﾝｯ


フレンダ｢大袈裟すぎるでしょーよっ！！？｣ｶﾞﾋﾞｰﾝ

フレメア｢そぎーた此処に住んでるの？｣

削板｢応ッ！ そーだぞー、根性溢れてるだろー｣ﾎﾞﾀﾎﾞﾀ…

フレンダ｢まずはそのおびただしい出血を止めなさいっての｣ﾌｷﾌｷ

削板｢おーすまんすまん、んで……どうしたんだ？｣ｸﾙｯ

フレンダ｢わとと……ば、ばか……近いっつの｣ﾄﾞｷﾄﾞｷ…

絹旗｢……ふーん｣

フレンダ｢……っ、な、何よ？｣

絹旗｢っへー、この人が噂に聞くフレンダの旦那さんですか｣

削板｢？｣

フレンダ｢ちょ、ちょっ……！？ 絹旗アンタ何勝手言ってんのよーっ！！？｣ﾜﾀﾜﾀ

絹旗｢まぁ良いんじゃないですか？ 男性の魅力としてはお兄ちゃんに到底及びませんケドねっ｣ｴﾍﾝ

削板｢おー何だ嬢ちゃん、兄貴がいるのか｣

絹旗｢むふふ、そうですよ？ ちなみにお兄ちゃんはあの第一位です｣ﾌﾝｽ

削板｢すげええええええええええええええええええ｣

絹旗｢むむ///// 流石ですね、中々話が分かる人じゃないですか｣

削板｢んで、嬢ちゃんは名前なんていうんだ？｣

絹旗｢絹旗最愛です、宜しくお願いしますね削板さん｣ﾌﾝｽ


削板｢超モアイ？｣


絹旗｢どーやったらそんな間違え方するんですかーっ！！！｣ﾌﾟﾝｽｶ

削板｢じゃあ俺の事もアニキと呼べ！！｣ﾌﾝｽ

絹旗｢あ、アニキ……？｣

滝壺｢あにき｣

フレメア｢あにきー｣

削板｢応っ、アニキってのは……良い、実に良いよな！！ 最ッ高の響きだぜっ｣ｳﾝｳﾝ

絹旗｢でも私のお兄ちゃんは一人だけ―――｣


削板｢お兄ちゃんじゃねぇよ！！ アニキだっつってんだろーッッ！！！｣ﾌﾟﾝｽｶ


絹旗｢ごめんなさい、やっぱりフレンダは男を見る目超無いです｣ｸﾙｯ

フレンダ｢放っといてよっ！！｣

麦野｢……で、騒がしいトコ失礼だけど……そろそろ本題に移りたいんだけどさぁ｣ｺﾎﾝ

削板｢おっ、久しぶりだなナンバーフォー……―――って、んん？ ちょっと痩せたか？｣

麦野｢あぁ、まぁ……やつれた、かな｣ｱﾊﾊ

削板｢そうか……お前達の事情は大体分かってるぞ、泊まってけ泊まってけー！ っつーか、どうせなら今日から皆で一緒に生活しちまおうぜ！｣

麦野｢っ！？｣

フレンダ｢！！？｣

フレメア｢えっ、ホント？｣

削板｢応ッ！ 俺だってこんなだだっ広い部屋じゃ根性出しても使い切れねーし、寂しさを加速させるだけだしな｣ｶﾞﾊﾊ

フレンダ｢ちょ、ちょっ……でもそんな……！｣ｱｾｱｾ

削板｢心配すんなフレンダ、貝継のじーさんにゃ俺から言っといてやっからよ！ この一家の大黒柱に任せとけ！！｣ｶﾞﾊﾊﾉﾊ

浜面｢おぉ……｣


浜面｢んんんんんんぅおぉぉおおおおおおおおふおおおおおおおっっ！！！！｣


絹旗｢超うるさいですよ馬面｣

麦野｢AV男優みたいな声出してんじゃねーよ｣

フレンダ｢うるさいかキモいかのどっちかにしろっつの｣

浜面｢い、良いヤツじゃねぇか……！ 何だよコイツ、すっげぇ良いヤツじゃねぇかよっ！！ だ、だっで……今まで俺の周りのヤヅらばざぁ……！｣ﾌﾟﾙﾌﾟﾙ…

絹旗｢………｣

麦野｢………｣

フレンダ｢………｣


浜面｢ｸﾞｽｯ、ごッ……！ ごんな酷っでぇヤヅらど忍者じがいながっだがらざぁ……！！｣ﾎﾞﾛﾎﾞﾛﾎﾞﾛ…


麦野(泣くなよ……)

フレメア｢こんじょーが足りないね｣

削板｢おうおうおう泣くんじゃねぇよ浜面仕上！！ 男が廃るぜ？｣ｶﾞﾊﾊ

浜面｢お、おうそうだな……って、何で俺の名前知ってんの？｣


削板｢ん？ 勘｣


浜面｢すげえええええええええええええええええ｣

麦野｢………｣ｼﾞﾛｼﾞﾛ

削板｢ん？ どうしたナンバーフォー｣

麦野｢……アンタはやっぱり不思議なヤツよね｣

削板｢そうか？｣

麦野｢だってそうでしょ……いきなり大勢で押し掛けたのに、迷惑がる所かむしろ全員受け入れちゃうなんてさ｣

削板｢それって不思議なのか……ま、実際嬉しいんだから良いんじゃねーかな！｣ﾆｶｯ

麦野｢ふーん……｣
(嬉しい……か)

麦野｢………｣

麦野｢……私は、さ｣

削板｢ん？｣

麦野｢『嬉しい』って思える感覚すら、長い間忘れてたかもしんない｣

削板｢………｣

麦野｢私は今まで誰かに叱られた事なんて一度も無かった……お父さんにも、お母さんにも……Lv5になった途端、皆が私を恐怖して……｣

麦野｢……でもアンタは違った、真っ直ぐ私の目を見て……私が間違ってるって事を本気で気付かせてくれた｣

麦野｢あの時は意地になって否定しちゃったけどさ……本当は初めて浮かばれた気がしたんだからね｣ﾆｼｼ

削板｢……綺麗になったなー、お前｣

麦野｢へ？｣

削板｢いやいや……俺って怒ってるお前しか知らねーわけじゃん、やっぱ落ち着いた感じだとすっげー別嬪さんだと思うぞ？｣

麦野｢……ぅ｣

削板｢ん、どした？｣

麦野｢あ……アンタってさ、所々で気の利いた台詞突っ込んでくるわよね｣ｺﾎﾝ

削板｢？ 俺は思った事をそのまま口に出してるだけだぞ｣

麦野｢だ、だからそーいうのが……！ ……って｣

削板｢え？｣

麦野｢むぐぐ……｣
(本当に何も考えずに言ってるのは分かるけど……)


麦野｢……む、むぐぐぐぐぐぐぐぅぅぅ……/////｣ｶｱｧ…
(だ、だって男に綺麗だなんて言われたのも初めてだし……！)

浜面｢む、麦野さん……？｣

絹旗｢あちゃー、麦野はこういう直球タイプに超弱いんですか｣

フレンダ｢ちょっ……そ、削板アンタ麦野に何言ったのよっ！？｣

削板｢ま、待てよ俺は別に何も……！｣ｱｾｱｾ

フレンダ｢何も？｣ｼﾞﾛｯ

削板｢そうだよ何も言ってねぇよ！！ 俺はただ一言綺麗だって……そしたら急に茹でダコみたいになっちまって……｣

フレンダ｢……ぬ……｣ﾌﾟﾙﾌﾟﾙ…

削板｢へ？｣


フレンダ｢ぬがーっっ！！！｣ﾄﾞｯｶｰﾝ


削板｢ぬわーっ！！？｣

浜面｢フレンダが爆発した｣

フレンダ｢な、何よそれ何よそれーっ！！ 私には結局一度だってそんな気の利いた台詞言ってくれた事無いくせにぃっ！！｣ﾌﾟﾝｽｶ

削板｢え？ え！？ え！！？｣ｵﾛｵﾛ

フレメア｢だめー、大体そぎーたは私が一番好きだもん｣ﾑｷﾞｭｯ

フレンダ｢な、何いぃ……！？ フレメア、アンタいつからそんなませた台詞言うようになったのよーっ！！｣ﾑｷｰｯ

フレメア｢やーっ！？ 助けてそぎーた、お姉ちゃんが苛めるーっ！｣ｻｻｻｯ

絹旗｢超大人気ないですよフレンダ、小学生相手にヤキモチ妬かないでください｣

フレンダ｢ぬなっ！？ や、ヤキモチじゃないし……！！｣ｱｾｱｾ

絹旗｢まったまた～、そうやって意地張ってツンデレやってると削板さんなんてちょちょいのちょいで超奪われちゃいますよ？｣ｺｿｺｿ

フレンダ｢っ！？｣

絹旗｢折角これから共同生活するんですしー、最近は夜も超寒いんですよ？ 此処は一発、一緒のお布団で温め合っちゃうってのも良いんじゃないですかねぇ～？｣ﾆﾔﾆﾔ

フレンダ｢く、くうううぅぅぅぅ～……っ/////｣ﾌﾟﾙﾌﾟﾙ…
(だ、ダメに決まってんじゃない！！ 最近アイツは子作りの方法に興味持ってるってのに……！)

浜面｢おいおめーら、あんまり軍覇をいじめんなよ｣

滝壺｢あにきは大変だね｣

削板｢応っ、流石アニキだぜ！！｣ｶﾞﾊﾊ

フレンダ｢ガハハじゃないわよっ！ け、結局アンタはどうなわけ？ 言っとくけどフレメアに手ぇ出したら―――｣

削板｢どうって言われてもなー……皆可愛い、今はそれで良いじゃねぇか！｣ｶﾞﾊﾊ

フレンダ｢/////｣

麦野｢/////｣

浜面｢/////｣

滝壺｢………｣

フレメア｢にゃあ｣

絹旗(……浜面超キモいです……)

・
・
・
黄泉川｢それじゃ事情徴収はこれぐらいでオッケーじゃん、後は―――｣

絶対等速｢おい警備員｣

黄泉川｢じゃん？｣

絶対等速｢何だこれは……確か俺はオマエとガキ二人を逃がす為に謎の能力者と対峙したハズだ｣

黄泉川｢そうじゃんねー、正直あの時はお前の勇姿を見て黄泉川さんシビれちゃったじゃん、ビビビーって｣

絶対等速｢あぁそうだろ……ならば説明しろ、何故俺は今こんな場所にいる｣



―――第一〇学区　少年院



絶対等速｢……そして一度は解放されたはずのこの俺が、何故再び小汚い牢屋へとカムバックしているのか？｣

黄泉川｢……ぅお～い鉄装｣

鉄装｢はーい何ですか先輩｣ﾄｺﾄｺ

黄泉川｢……奴さんに説明してやりな｣ｸｲｯ

鉄装｢えーと、一〇月九日に無事釈放された絶対等速くんですが……同日、郵便局でATM機器を得意の能力で根こそぎ奪い去っている映像が防犯カメラで……｣

絶対等速｢あ、忘れてた｣

黄泉川｢………｣

鉄装｢さらにその際、傍に停めてあった一般車両を一台パクっていますね……これも立派な犯罪です｣

黄泉川｢そんな野郎がケツの穴に長ネギぶっ刺して警備員の詰所の前で放置されてりゃこういう事にもなるじゃんよー｣

鉄装｢きゃっ＞＜｣

絶対等速｢変態を見る目を向けるなっっ！！！ アイツらにやられたんだよ、お陰で秋風に吹かれても風邪引かずに済んだわファック！！｣ﾋﾞｼｯ

黄泉川｢はいはい分かったじゃんイコスピ、私の新車をブッ壊したあの優男だって直ぐにとっ捕まえて相部屋にしてやっから……てめーはそこで頭冷やしとくじゃんよ｣ｸﾙｯ

鉄装｢あっ、待ってくださいよ黄泉川先輩！｣ｻﾞｯ


　　　　カツ、コツ、カツ、カツ　カツ　カツ…………


絶対等速｢……クソが……｣ｹｯ
(この世は不条理すぎる……何故俺だけがこんな目に遭わねばならんのだ)

絶対等速(……こんな事になるなら、やっぱり人助けなんてするべきじゃなかったな)ｺﾞﾛﾝ

絶対等速｢………｣

絶対等速(……黄泉川が無事だったという事は……あのガキ共も、ちゃんと治療を受けられたという事だ)

絶対等速｢………｣

絶対等速｢フン……まぁ、今の俺には関係の無いコトか｣


　　　　｢あら、気になるの？｣


絶対等速｢へ？｣



　　　　ド　ッ　ッ　ガァァァアアアアアアアアッッッ！！！！


絶対等速｢な、なるうううううううううううっっ！！？｣ｺﾞﾛｺﾞﾛｺﾞﾛﾝｯ

　　　　｢うっわ、スゴい威力ね……もしかして死んじゃった？ 絶対等速｣


絶対等速｢お、俺の名を知っている……！？ 誰だ……！｣ｹﾞﾎｹﾞﾎ
(まッ、眩しい……外から差し込む光が……ッ！)


…………ザリッッ


結標｢……私よ｣


絶対等速｢ッ！？ オマエは……―――！｣ﾊｯ


土御門｢俺もだ｣ｻﾞｯ


絶対等速｢オッ……！？｣


海原｢自分もです｣ﾆｯｺﾘ


絶対等速｢帰れェェえええええええええええ！！！｣

海原｢シッ、此処にも直ぐに人が駆け付けます……急ぎましょうか、土御門さん｣ｷﾘｯ

絶対等速｢な、何を言ってるんだオマエらはぁ……ッ！｣ﾌﾟﾙﾌﾟﾙ…

土御門｢んにゃ？｣

絶対等速｢見晒せッ！！ 牢屋の壁を外からハデにブッ飛ばしやがって……これでは脱獄の意志があるとみなされ、あと何年刑期が延びるか分からんぞ！！！｣ﾋﾞｼｯ

結標｢それはコレよ｣ﾁｬｷｯ

絶対等速｢……何だその棒は、トンファーか？｣

結標｢撃ち込んだ対象を内部から破壊する成型炸薬式射突兵器……普段はトンファーとして使える私の新武器よ、下部組織に作らせたの｣
(白井さんと闘って軍用ライトじゃ武器としても心許ないって分かったし)

絶対等速(パイルバンカーを持ち歩く女子高生……)ｺﾞｸﾘ


絶対等速｢―――って訊いてねぇんだよンな事ああぁ！！！｣ﾄﾞｯｶｰﾝ!!


結標｢な、何よっ！ 折角このクサい部屋から出してあげようって言ってるのに……！｣

絶対等速｢なんだと……？｣

結標｢良く聞きなさい……私の嘗ての仲間は、この留置場とも呼べる少年院に放り込まれているの……その子達は私の暗部での功績によって順次解放される予定になっている｣

絶対等速｢………｣

結標｢そして感謝しなさい絶対等速、私は借りは返す女よ……『グループ』と交わしたこの条件、最初の一人は敢えて捕らえられているアナタを指名するわ｣ﾋﾞｼｯ

結標｢そして私の為に馬車馬の如く働くのよ、全ての人質が解放されるまで永遠にねぇ！！｣ﾎﾎﾎ

絶対等速｢……何を勝手に決めてるんだこの女は(白眼｣

海原｢まぁまぁ……貸し借り云々と言ってましたし、彼女なりの恩返しのつもりなんでしょう｣

絶対等速｢フンッ、ヘラヘラとしやがって……誰のお陰でこうなったと思ってる｣


海原｢自分の知ったコトではありませんから｣ﾆｯｺﾘ


絶対等速｢クソがッ！！｣

土御門｢悪態吐いてる場合じゃーないぜいイコスピの旦那……警備員が来る、そろそろ決断の時間だ｣

絶対等速｢……っ｣

土御門｢オレにしてもお前にしても、『グループ』のメンバーは全員その存在が表に出ただけで問題になるような連中ばかりだ……そういう人間ばかりを選んで作られた『グループ』に、抜け穴(ｺﾞｰﾙ)なんてモノは無い｣

絶対等速｢……何が言いたい｣

土御門｢統括理事会が決めたルールに従っているだけじゃヤツらは出し抜けないって話だ……ならば、勝つには一体どうすれば良い？｣

結標｢………｣

土御門｢ルールの抜け穴を探すか、それともチェス盤をひっくり返して暴れるか……そういう考え方で動くしかないんだよ｣

絶対等速｢フン、オマエ達もこのまま終わる気は無いと……何故それを俺に話す、俺は俗に言う出来損ないだぞ｣

土御門｢だからこそだよ絶対等速……そんなお前がカードになるかもしれないからだ｣ｽﾞｲｯ

絶対等速｢なに？｣

土御門｢ベクトル操作系能力、『絶対等速』……あの第一位に実力は届かずとも、お前の能力にはそれを凌ぐ可能性がある……宝の持ち腐れで終わるのは勿体ねーだろ？｣

絶対等速｢………｣

土御門｢手を結ぼうぜ絶対等速……こっちでの生き方はオレが教えてやるから、お前は簡単に死ぬんじゃねぇぞ｣ﾆﾔﾘ

絶対等速｢ﾁｯ、オマエ達ガキ共に促されるのは癪だが……今すぐ此処から出られるのなら利用しない手は無いだろうが｣


絶対等速｢……俺も、不平等不条理なこの世界をブチ壊してやりたいと思っていたトコだしな｣


結標｢……決まり、ね｣

海原｢これで四人揃いましたか｣ﾆｯｺﾘ


絶対等速｢『グループ』か……良いだろう、早く連れてけよ｣


土御門｢フッ……ついてこい、そろそろ『上』に反撃しようぜ｣ｽｯｸ