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≪あらすじ≫
キュートでファンシー、ビビッドなお茶目さが魅力でお馴染みの女騎士ちゃんがめっちゃ活躍した。
女騎士ちゃんは果たして薄汚い魔物どもを一匹残らず根絶やしにする事ができるのか。
元スレ
女騎士「おばあちゃんが言っていた。世界はこの私を中心に回ってる」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1385483711/
秘書「ひえ……ひええええ」
エルフ騎兵「あ、デブ……いえ、ぽっちゃり秘書殿。重役出勤ですか」
エルフ近衛兵「大将がいたら養豚場のブタを見る目でニラまれるところでしたね」
秘書「だ、だってだって……こんな史上類を見ない大虐殺に加担ささささせられるなんて……」
エルフ騎兵「史上をもうちょっとさかのぼれば、いくらでもこれ以上の虐殺はあるだろうけどなぁ」
エルフ近衛兵「オレの傭兵だったじいさん、旧魔王軍のムラやマチをいくつ燃やしてどれだけ女を犯したか嬉々として語ってたからな」
秘書「野蛮っ! こわいっ!!」
エルフ近衛兵「当時としたら、れっきとした『魔物退治』だったわけじゃないですか。美徳ってのは歴史とともに変わるもんですよー」
秘書「……やっぱりエルフさんとこで働くのは無理があります……おうち帰りたい……」
エルフ騎兵「おうち帰ったって、どうせ親のスネかじってぷくぷく肥え太るだけじゃないですかー」
エルフ近衛兵「どんな倫理が正しいのかわかりゃしませんが……あの大将の下ほど働きやすい職場はないですよー?」
秘書「うそでしょ!?」
エルフ騎兵「近衛だけじゃなくて、オレ達みたいな末端の兵の名前まで覚えててくれるしー」
エルフ近衛兵「充実した福利厚生に軍属時の税率緩和……まあ、軍国主義傾倒と捉えられてる面もありますが。
それでいて金払いはいいですし……基本的にアルヴライヒ連邦は武装中立を貫いています、仕事はちゃんとしなきゃいけませんが」
エルフ騎兵「外国人部隊の設立は、教皇領のハト派では賛否分かれているみたいですけど。
でもまあ、トップが形態で雇用の差別をしないってのは大きいですよ。味方も増えますし、何より戦術規模での作戦行動が柔軟になる」
秘書「(まさかの上司にしたい人材ナンバーワンだった)」
エルフ近衛兵「どうです、このまま外務省から軍部の広報担当にでも」
秘書「うーん……大将イケメンだし、お給料いいし……でも、でもなぁ……
あの怖いブロンド美人さんのお財布ってのが心配なんですよねぇ……」
エルフ騎兵「大丈夫大丈夫、カネなんてウチの銀行に預金するアホ富豪から利息ふんだくればいいんですから」
エルフ近衛兵「副業の銃器製造も、帝国や北西に次いでずいぶん軌道に乗ってきましたしねー。
なかなか贅沢というのは個人レベルではしないもので、国庫は昔に比べて潤ってるくらいですよ、はっはっは」
秘書「(あーこれ知ってるー、死の商人ってやつだー)」
エルフ騎兵「もっとも、今じゃ銃は国外の子会社から逆輸入しなきゃいけないわけですからね」
秘書「わざわざ外国で作らせてるんですか? こっちの軍も、規模は小さいわけじゃない筈なのに」
エルフ騎兵「自国の常備軍で扱う兵器こそ国内の造兵廠で客車とまとめて製造してますけども、
輸出で外資に変える為の商品が兵器では特定国家への肩入れととられてしまいます。中立(笑)になってしまいます」
エルフ近衛兵「銃器部門だけ遠い遠い北西にあったりしますからね。現地で大将みずから人材をヘッドハンティングしてますし、
品質はどこの国にも負けない自信があるとかないとか。」
秘書「大将働きますねー……」
エルフ騎兵「どこぞのピザニート女数千万人分の働きですねえ」
秘書「」
エルフ近衛兵「そうむくれないでください、本当に丸パンみたいですよ」
エルフ騎兵「連合や共和国の粗悪銃を使わずに済むのも、帝国内でのM&Aにも積極的な大将のおかげなんですからー」
エルフ近衛兵「あなたに支給されてる大口径のガバメントモデルだって、ものすごく信頼性の高い傑作なんですから。
ガワは北西のガンスミスが組み立ててはいますが、企画設計は国内企業のアルヴアームズ社で行われたんですよ」
秘書「え、これ?」
エルフ近衛兵「バカですかやめてくださいよ!! 何でこっちに銃口向けるんですか!!」
エルフ騎兵「うわ、ピッカピカの新品だ……」
秘書「だって、拳銃の講習なんてお役所の一回きりしか受けてないんですから……」
エルフ近衛兵「ブタに真珠だった」
女騎士「うーん、本当にここはいい場所だ。小鳥のさえずりにここちよい風、そしてすこし体を起こすと広がる焼野原」
秘書「……こげくさい」
女騎士「ふぁー、ねむい……天気もいいし、最高のハンモック日和だ……そういや、あの騎士くずれはどこだ?」
秘書「えっと……奥の方で……」
騎士ほ「命の尊さと素晴らしさを私たちで教育してやっている最中ですわ……手始めに新しい命を孕ませるところからです……」
女騎士「そもそも私とあんたは祖霊さんの文句のつけようがないくらいの母親だからなぁ。
『私の』繁栄の為に尽力してる私がガタガタうざがられるイワレなど無い。ははははは」
リンドヴルム「……」
女騎士「よぉー、どんな気分だあ? 旦那様よお」
リンドヴルム「それがキミの望みであるなら……あの子達の為になるのなら、仕方あるまい……」
女騎士「レイプ魔」
リンドヴルム「……」
女騎士「返事はどうしたァ? 強姦魔。シカトしてんじゃねぇよてめぇ、おいコラ!!」
リンドヴルム「……すまない」
女騎士「エルダーってその程度だもんなァ。北西でシャシャってるとかいう高等竜種? バカくせぇ。
バカの極みだが、その中でもひときわ目立つ強姦嗜好の反社会的思想を持つ最低最悪、ドブネズミにも劣る古竜の恥」
リンドヴルム「……」
女騎士「それがテメェだあ。わかってるよな? あ? わかってんな? わかってんならハイエルフのメスども孕ませてきな」
リンドヴルム「」
女騎士「嫌なのか? そっか、嫌か……嫌ならしょうがないよな……責任持つって聞いたのになあ。
強姦魔のクソドラゴン、エルダーの風上にも置けないウジムシはウソまでつくのか。死ねよ、消えちまえ」
リンドヴルム「……」
女騎士「どこに出しても恥ずかしい旦那で困ったもんだあ。年中股倉をいきり立たせていやがる」
騎士ほ「お姉様を謀り、害なした邪竜ですわ」
女騎士「違いねえ。まあもっとも、私の心は太陽の如く輝く清浄な気を今でも放ち続けておる」
騎士ほ「その通りですわ……」
女騎士「……あのヤブ医者はどうした?」
騎士ほ「先ほど『ジョワユーズ』なる単語をようやく口にいたしました。これまでの曖昧模糊かつ抽象的でイライラする供述と合わせれば、
騎士様がかつて1年を過ごした……現在の焼け跡方面に、何かしらの手掛かりがあると考えられます」
女騎士「あー、想像つくな。これからガリアの田舎者どもには帝国語を標準語とする、ここの現地語はムカつくからな。
書いたら罰金。喋ったら罰金。口答えしたら罰金、現地語で口答えしたら死刑。決めた、今決めたからな」
騎士ほ「仰せのままに」
女騎士「ふん……ジョワユーズねえ。何だろうな」
騎士ほ「継承権の正当性を主張出来うる……現在の主要国のパワーバランスをひっくり返せるようなものとなると、共和国憲法の草案……?」
女騎士「えー何それツマンナーイ、もっと面白いモンがいいー」
騎士ほ「ええと……それではやはり教皇領のご機嫌取りに使える聖遺物……」
女騎士「ツマンネェなあ、もっとあんだろぉ?
王家の紋章的なのが刻まれた台座、そこにぶっささる名剣!! それを抜く事を許されたのは英雄の血筋にある者のみ!!」
騎士ほ「フクク……いやだ、お姉様ったら」
女騎士「」
騎士ほ「」
エルフ騎兵「聖堂跡地の地下にこんな空洞が……」
騎士ほ「い、入口付近のカタコンベにしても、かなり歴史的価値がありそうなものですが……ま、まさか……こんなものが……」
女騎士「王家の紋章的なのが刻まれた台座にピッカピカの剣が刺さってやがる……」
騎士ほ「……ふむ。おい、ハイエルフ。貴様が先に通路を歩け」
ハイエルフ医師「ひい……」
騎士ほ「何してる。背筋をただし直立しろ」
ハイエルフ医師「あ、あ、足の……指まで砕かれて……ム、無理なんだ……許してくれ……」
騎士ほ「直立『しろ』と言ったんだ。頼んだわけじゃあない、こちとらは貴様に命令しているんだぞ? 見苦しいから立て」
ハイエルフ医師「うっ……うぐう……」
騎士ほ「そのまま通路を抜けて剣を抜いて来い」
ハイエルフ医師「だ、ダメだ……で、伝承では……あれは、ジョワユーズは……・選ばれし英雄のみを愛する聖剣、ハイエルフのオレでは……」
騎士ほ「抜いて来いって言ったんだ。同じことを二度言わせる気か?
貴様ら汚らしいハイエルフが下品な罠でも仕掛けていないとも限らんだろ。そんな通路をお姉様に歩かせる気か?」
ハイエルフ医師「ひ……ひい……」
騎士ほ「四肢を叩き斬られて放り込まれたくなかったら早くしろ。
お姉様はともかく私は気が短いのだ、早く!早く早く早く早く早く早く早く!!」
ハイエルフ医師「ぬっ……抜くなんて無理だァ、手指だって……」
騎士ほ「……通路そのものは大丈夫そうですわね」
女騎士「横からヤリでも突き出てくりゃあおもしれえのになぁ」
ハイエルフ医師「お、お願いだァ……ち、治療をさせてくれェ」
騎士ほ「ご苦労だったな、ハイエルフ。貴様の役割はもうおしまいだ」
ハイエルフ医師「は……」
騎士ほ「次の貴様の勤務地はメリフェラだ。元気なインセクトリアンのゆりかごとなって愛されるがいいさ」
ハイエルフ医師「な、何だ……何だそれッ、やめ……」
エルフ騎兵「はーい撤収ー」
ハイエルフ医師「やめろ……ヤメロッ、離せ!! 離してくださいッ、やめてくれええええええええええ」
女騎士「地下で響くんだから騒ぐんじゃねーよボケ」
騎士ほ「ともあれ、それらしい収穫があって何よりですわ……」
エルフ近衛兵「すぐに回収しま……ん……? ぬ、抜け……ねぇ……」
騎士ほ「そんな馬鹿な。接合部で錆びているんですの……ふっ……!」
女騎士「おーい、ここまで来てそりゃねぇだろー。早く抜けよー」
騎士ほ「くはっ……おかしいですわね、これでは台座を破壊するほか……」
女騎士「抜けねーわけがねぇだろーがよぉー、どきな!!」
スポンッ
騎士ほ「」
女騎士「」
エルフ近衛兵「」
女騎士「……抜けたじゃねーか」
騎士ほ「そう……ですわね」
女騎士「うん、まぁ……綺麗な剣じゃねーの」
エルフ近衛兵「まさしく中世初期の法具と呼ぶにふさわしい……」
女騎士「これが勇者をぶっ殺してくれるスゲー剣なのかぁ? 柄はキンキンで派手だけどよぉー」
騎士ほ「教皇庁の認定が得られれば、正式な聖遺物にはなりましょうが……」
女騎士「鞘は……壁にかかってるコレか。なんか拍子抜けだなー、遠出してこれじゃあ遠足と変わんねーじゃん」
騎士ほ「ま、まあ……無駄足ではなかったわけですし」
女騎士「ちっ……あー、コレ邪魔だし重いから持っといてよ。おねがい」
エルフ近衛兵「御意おぎゃあああああああ重ぇぇぇぇぇ」
女騎士「」
騎士ほ「」
エルフ近衛兵「肩が折れたあー!!! 痛えええええええ」
女騎士「じょ、冗談やめろよ……こええだろ……」
騎士ほ「……お、重い……本当に……も、持ち上がりませんわ……」
女騎士「やめろって……もういいよ、コレきもちわりいから置いてこうぜ……とんだガラクタじゃねぇか……キッモ……」
騎士ほ「で、でもお姉様は抜いた張本人ではありませんか」
女騎士「やだよこんなきもちわりー剣……エルフとはいえ軍人の肩ぶっこわす程重いんだろ……」
騎士ほ「しかし、さきほどお姉様は高々に振り上げていたではありませんか」
女騎士「それは……その……あれだろ、遠心力とか……振り子の原理的なアレだろ……?」
騎士ほ「もう一度……持ってみてもらえますか?」
女騎士「筋肉モリモリマッチョマンの変態のお前が持てねえ物を私が持てるわけねえだろうが……」
騎士ほ「ものは試しでございます、持って帰れるに越した事はありませんわ」
女騎士「うぇー、きもちわるい……」
騎士ほ「……」
女騎士「……そんなスゲー重いわけじゃねえな。私をバカにしてんのか?」
騎士ほ「め、滅相もございませんわ! 私どもにはまともに保持する事すらできない聖剣、という事は……」
女騎士「えーヤダ何それ怖っ!! 私のお前らと一緒がいいんだけど! なんだこの剣きもちわる!!」
騎士ほ「……とりあえず、持って帰ってみましょう」
女騎士「ジュンジュワーだかジョビジョバだか知らねえが……ほんときもちわりいなガリアって……最悪だわ……」
女騎士「ペッ!! ホコリっぽい地下の真上は不毛の焦土ときた。あーもう最悪、お風呂入りたーい」
息子「お帰りなさい、お母様!」
娘「宝物はあったんですか……?」
女騎士「えっと……コ、コレ……」
息子「剣?」
娘「すごい……骨董品かなあ」
女騎士「なんか気持ち悪くて……ずっと頭蓋骨に囲まれてたようなものやし……」
娘「ずがいこつ」
息子「お墓にあったんだ……」
女騎士「欲しけりゃあげるわ、ほい」
騎士ほ「!? ス、ストッ……!!」
息子「で、でも……せっかく見つけたのに……」
娘「わあ、すごくきれいな刀身。見て、お兄ちゃん」
女騎士「気に入ったんなら持って帰んなさいな」
息子「ほ、本当!?」
騎士ほ「(カタコンベに安置されていた聖剣……帝国の大学を調べてみる価値はありそうですわね)」
息子「あ、騎兵さん! これも収容しておいてくれますか」
エルフ兵「はいはい、了解です若様おぎゃああああああああああ重ぇぇぇぇぇぇぇ」
娘「」
姉「おなかすきましたわぁー」
エルフ三男「……そっすね、今食ったばっかっすね」
黒服「……」
エルフ三男「おい君」
黒服「はい」
エルフ三男「……少ないけど、これ」
黒服「は……は?」
エルフ三男「あーっと……これで息抜きでもしてきたらどうかな? 連日護衛で疲れてるでしょうに」
黒服「し、しかし……」
エルフ三男「いいから……じゃあもう五万付けよう。彼女に何かいいもの買ってあげなさい」
黒服「……で、では……少しだけ……一服してまいります」
エルフ三男「はい、いってらっしゃい」
姉「いってらー」
エルフ三男「……」
姉「うふふー。うふふー」
エルフ三男「あーあ……どうすっかな、帰りてぇ……」
エルフ三男「……あ、このラザニアうめぇ」
チバラキ「たいしょー!」「こうかんど」「かせがねぇのかー?」
エルフ三男「稼いでどうするんですか、そんなもん」
姉「あらー、妖精さん? かわいいわねぇー」
チバラキ「おっす!」「おら」「いばらき!」
姉「おーっす」
エルフ三男「……はぁ」
チバラキ「きゅうびの」「おねえからの」「しれいはー?」
エルフ三男「今までファックした中で二度と会いたくない種族は、だったっけ……さすが妖怪、頭おかしいよあんたら」
チバラキ「よくおぼえてたなー」「どうだったー?」
エルフ三男「もう目の前でバレてっから……」
姉「オーガの男の子とはもうしたくないわねぇー、うふふ。おなか裂けるかとおもったぁ」
エルフ三男「帝国のジャガイモはうめぇな……」
妹「くきききwwwwwwwwww何も知らずにメシを貪ってやがるなwwwwwwww」
妹「クソビッチ小姉様のセフレこと、エルフの御大将wwwwwwwwwwwwwクソッタレめwwwwwww」
妹「このままネキリで吹き飛ばしてやるwwwwwwwwwwwwwwwうひぇひぇひぇひぇwwwwwwwwwwwwwww」
妹「クソボケがwwwwwこの私を差し置いてあんなイケメンをキープだなんて言語道断wwwwwwwブッ殺してやりますわぁwwwwww」
敵兵「マジかよ……退くわ……」
妹「」
敵兵「あんたそこまで腐ってたのかよ……」
妹「どどどどど、どうしてここが……というか、あなた……! ガリアとやらに行ったんじゃないですの!?」
ブラウニー「その態度の悪さであなた、監視がつかないとでも思ってるんですか」
ピクシー「まったく……」
敵兵「伝承にしか残ってないような聖地の割り出しが半月そこらでできるわけないだろ、当分は東西領の国境で足止めだよ」
妹「知ってましたわ!! このロクデナシ、試しただけでしてよ!!」
敵兵「やっぱりあんたがネキリをブン取ったのかよ、どんな手を使ったんだか知らねえが、早いとこ魔王軍に返しなよ」
妹「いやですわねぇ……先見の明がない末端のザコは。これは外交を円滑に進める為の手段のひとつでしてよ、連合にも良い顔をせねば」
敵兵「ったく……先のテロから、東帝では旧帝国の機関はあんまり好かれてないのは分かってるだろ?
あんたの身の安全の為にも、あんまりフラフラしてるんじゃない。さっさと情報庁に帰んなよ」
妹「……」
妹「(あー……うぜえ。こいつらもなんかウザくなってきたな……ちゃっちゃと小姉様をぶっ殺してくれると思ったら、てんで役に立ちゃあしねえ)」
妹「(やっぱりこの私が動かなきゃいけないんじゃん……私と大姉様がいなきゃどうにもならねえのに、何考えてんだか……)」
妹「(……決ーめた。皆殺しだ、みんなみんな死んじまえ……そうと決まりゃあ、範囲の外にスタコラサッサだぜぇ……)」
妹「(すんげぇ破壊兵器のネキリを要人暗殺のピンポイントな目標に用いるなんて、やばいな……私ってやっぱ天才かも……)」
妹「(アハトアハトで狙撃する、みたいな画期的な逆転の発想……くきき、バレやしねぇだろぉなぁ。
警察も共和国もネキリなんぞわかりゃしねぇ……魔王軍も連合軍も、好んで公の場でネキリの名なんぞ出さんだろうしよぉ)」
妹「(不義には鉄槌を、悪には正義の裁きを、ですわ……そう、このネキリは執行者たる私の手に渡るべくして渡ってきたのです……くききき……)」
妹「(予想効果範囲は……多く見積もって、半径500m。あの御大将さえブチ殺せればいいんです……大姉様は……ま、アドリブでどうにかしましょう)」
妹「(トリガーは地脈に対し法儀済純銀製の小刀を突き立てる事……連合もなかなかいい仕事をしてくれる……)」
妹「はいはい、わかりましてよ!! 帰りますから離してくださいまし!!」
敵兵「あっ、ちょ……待ちなよ! 共和国への同行だけど……こら、おいっ!!」
妹「きゃ……やめてくださいまし、ちょっと……きゃあッ!!」
カチン
僧侶「予定人員の輸送計画はこれ……ようし、完璧ですよ勇者様。勇者……さま?」
勇者「……ねえ、みんな。あれ……あれは……」
戦士「今……なんか光ったよな?」
将軍丙「え、ええ……何があったのかしら」
女騎士「んぁー……雷かあ?」
息子「何か、空で光りました……」
娘「雲一つない青空なのに? 見間違いよ、お兄ちゃん」
騎士ほ「湖の反射ではなくて? 目は大丈夫ですか、お姉様」
エルフ近衛兵「あれー?」
エルフ文官「どうしたよ」
エルフ近衛兵「いや……今の時間だと、山の間から帝国の宮殿の頭が見える筈なんだけど」
エルフ文官「スモッグで隠れてるだけだろ、あのへんは大気汚染がやべぇからな……それか、こうして昼間っから酒飲んでるからだろ」
エルフ近衛兵「ヘンだなあ……」
姉「きゃああー、なぁにぃー?」
女性「キャアアアー!!」
男性「な、何が起きてるんだッ!? うわああッ!!」
エルフ三男「クッ……立ってください!!」
姉「は、はぁい?」
エルフ三男「立て!! 死にたくなきゃ言う事聞け!!」
姉「はぁーいー」
エルフ三男「(ウィンドーが軒並み砕けた……爆破テロ? 魔王軍と連合、更には共和国が目を光らせるこの国境沿いで!?)」
姉「うう、すごい音……耳、きーんってしたぁ」
エルフ三男「手を離すな、騒ぐなよ女」
姉「はぁい」
エルフ三男「(ち……SPを撒いたのはミスったな。護身用の9㎜、武装したテロリスト相手には不安だが……行くしかあるまい)」
ウェイター「み、皆さん、机の下……カウンターに隠れて!! 早く!!」
女性「キャアアー、いやぁぁー」
エルフ三男「(……バカの一つ覚えみたく騒がないのは救いだな。そこはあの騎士様の血のおかげか)」
姉「あ、さっきのテリーヌ残ってる。これ食べていいの? ねーえー」
エルフ三男「」
敵兵「痛……っててて……」
ブラウニー「死ぬう、死んじゃうぅ……」
ピクシー「シールドが無ければ即死だった……」
敵兵「……な、何だ……爆弾……? あの情報部長さんは……」
ブラウニー「ううー、まだ頭クラクラするぅ」
ピクシー「爆弾テロ? あの部長さんが?」
敵兵「わからない、わからないが……大通りに出てみるしかないな……」
敵兵「……」
ブラウニー「あー……あーっと……」
ピクシー「……あ、阿鼻叫喚っていうんですよねぇ、東洋では……」
敵兵「いや……というか……何だろう、これ……これ、どうなってるんだ……」
ピクシー「どうもこうも、地面を力任せにえぐったようなこのクレーター……」
ブラウニー「どう見てもこれ……ネキリ、ですよね……でも、便宜的に敷かれた国境線代わりの鉄条網や壁は辛うじて残ってる……」
ピクシー「残ってるっていうか……不自然だよ!! どうして壁……境界だけ、綺麗とは言えないけど残ってるわけ。あのすごい爆発で!?」
ブラウニー「そもそもこれ……爆発が起こったわけ?」
敵兵「……規模からして、爆発なんか……火薬なんかじゃねぇよな……建物も何もかも……ととと、と、『東帝領』まるごと削られ……」
ブラウニー「」
ピクシー「」
ブラウニー「ば、ばかいってんじゃねーっすよ、混乱してるだけ、そっすよね?」
ピクシー「ちょっと待って、状況整理しましょ。さっきまで私達……あの御大将やふわふわ長女がいたのは東帝!」
敵兵「お、おう……」
ピクシー「私達は生きてる! つまり、東帝は無事!! オーケイ!?」
敵兵「おう……」
ブラウニー「……あははは、じゃあああやってクレーターになっちゃってるのは西帝かー。よかったー」
敵兵「おっきなクレーターだなあ」
ピクシー「……」
敵兵「シャレになってねぇ……せ、西帝、どうなっちまったんだ……? た、高台のここから地平線が見えるって……」
ブラウニー「ネキリ……ぜ、絶対ネキリよ!! あの女が、あの女がやったに決まってる!!」
敵兵「そんな事より救護活動!! もしネキリなら、クレーターの中心近くにはけが人が……!!」
ピクシー「あばばばばばばば」
敵兵「くそ……あの一族、ロクな事しやがらねぇ!!」
ゴーストアーマー「共和国東部国境警備隊から入電、付近の被害甚大、死傷者さらに増大するとの事!」
レプラコーン「北部北西諸島軍から入電、状況の説明を求められています……!!」
将軍丙「救助隊を編成、現場ではデュラハン常任理事の指示を仰いで!!」
戦士「ここ一帯、帝国分割線付近だけの被害だけじゃねぇのか!?」
僧侶「帝国中央付近からの応答、すべてありません!」
ティタニア「飛行隊、アテクシに続きなさい!! 被害状況の確認に向かうわぁ!!」
賢者「ま、待って! 万一ゲットーで使われた有毒ガスが撒かれでもしたら……!!」
ティタニア「待てない! 一刻の猶予を争うのよぉ!!」
勇者「地上部隊は僕とケルベルス常任理事に続いてくれ。部隊編成後、救護班と原因特定の為の調査班に分かれる」
賢者「ゆ、勇者くん……!」
ケルベルス「たまに帝国に顔を出してみればこれだ……飛行隊、ティタニア理事の指揮下に入れ。救援物資搬送急げ」
ハーピィ「了解であります!」
レギンレイヴ「我らも動くぞ、媚を売るチャンスだ」
ブリュンヒルデ「死神が救援活動するなんて、世も末よねぇ。ラグナロクも近いわこりゃ」
ラーズグリーズ「けが人に死人のみなさーん! 北部神族、皆さまの安心をお約束する北部神族をよろしくどうぞぉー!!」
将軍丙「情報部を張らせていた彼から連絡は?」
レプラコーン「ありません……南部王国森林駐屯地から入電、こちらも被害多数!」
勇者「……時間が惜しい。今は救助を最優先にすべきだよ」
ティタニア「同感だわぁ……ああもうっ、ガリアの場所もはっきりわかってないってのに!!」
ティタニア「言葉が出ないわぁ……」
ハーピィ「さ、さっきまであった建物が……軒並みなくなっちゃった……!!」
ティタニア「この被害の有様……先日のネキリと恐らくは同じもの……!! 強烈な閃光、その跡には鉄屑が散乱するのみ……」
ハーピィ「てっきりすぐそこに爆心があるのかと思いましたけど……どうなってるんですか……?」
ティタニア「きりがないわぁ、降下しましょ……辺りを飛行した程度じゃ、被害の全容なんかわかりゃしないわぁ」
ブラウニー「この小刀……多分、あの女が魔術に使ったものですよね……!」
敵兵「くそ……ネキリの起動で確定かよ!」
ピクシー「お、おかしくないですかあ!? ネキリって、囲ったその中だけを……ばばーんって攻撃するんですよね?」
敵兵「そう、とは聞いているけど……」
ピクシー「それじゃあ……こ、ここが爆心じゃないとおかしくないですか? 私たちが木っ端微塵になってないと、おかしくないですか!?」
ブラウニー「……確かに、理屈に合わない……よねぇ」
敵兵「何か、目標が別にあったか……彼女とは別口の方法でネキリを起動させ、行使しただとかか?」
ピクシー「それか……」
ブラウニー「……暴発……とか?」
勇者「皆さんっ、御無事でしたか!!」
敵兵「お、おかげさまで……!」
ピクシー「死ぬかと思いましたよォ、もぉー」
勇者「……例の彼女は?」
敵兵「め、面目ない……逃げられました。小刀の一本を残して……」
勇者「小刀?」
ブラウニー「これですよぉ、これこれ。多分……ネキリの欠片を加工して作った、カタナの模造ですよね?」
勇者「連合がいきなりネキリを嗅ぎ付けてきたのは、彼女が内通していたからという事ですか」
敵兵「恐らくはそれで確定かと……それで、それでこんな事に!!」
勇者「……今はとにかく人手が足りません。旧首都……西帝全土から応答がない状況です、救援活動に協力してください」
敵兵「それはもう……!」
勇者「これは……恐らく、今世紀……いえ、旧魔王軍との戦乱に匹敵する規模の死傷者に昇る災厄です。
国土の半分が、一瞬にして人知を越えた巨大な力に蹂躙されたのです……! 災厄……いや人為的な事件……!!」
敵兵「史上最大……ここ、こ、国土の……はんぶん……」
エルフ三男「すみません、何があったのですか!?」
巡査「爆破事故かもしれないしそうじゃないかもしれないし、
危ないのは確かだけど断言はできませんので後ほどの上司からの公式な応答をお待ちください」
エルフ三男「使えん!!」
姉「みんな大騒ぎねぇー、たいへぇん」
エルフ三男「(狙われる謂れは……いくらでも思いつく、しかし三国にもケンカを売る事になるこの強引な行為……
正気とは思えん、宗教極右派の特攻か? そこに理知的な思考は介在しておらんとはいえ……!!)」
姉「あうっ、あうっ、走るの速いぃ」
エルフ三男「(邪魔な女め……!)」
姉「はふー、つかれたー」
エルフ三男「(……いや、少し自意識過剰すぎるな。何も僕をピンポイントで狙ったものではなかろう。
僕は殺すのならもっと有効な手段がある筈だ、こんな情報部OBと会食しているところをわざわざ狙うバカもおるまい。
そんな博打を打つ奴がいるものか、公安や連合側に即座にマークされる……)」
姉「あー、あれ何ー? キモチわるいよぉ」
エルフ三男「……うっぐ……!?」
エルフ三男「(鉄条網に引っかかっているもの……なんだ、あれは……建物のドアほどもある鉄屑……
そこから……猿人が……鉄屑の表面から……生えているのか? 埋め込まれているのか……!?
どんな技術を用いれば、あんな有様になる!? 何が起こったんだ!?)」
姉「うう、かわいそぉですねぇ」
エルフ三男「(痙攣してはいるが、長くはあるまい……鉄と肉が癒着して、ところどころからは出血している……
鉄と肉が癒着? 我ながら何を言っているのか……おかしくなりそうだ……!!)」
エルフ三男「アルヴライヒ連邦の施設へとひとまず向かいます、構いませんね!? 後で文句言わんでくださいよ!」
姉「うん、わかったー。わたし、エルフさんの国はじめてー!」
エルフ三男「(非常に興味はあるが、長居は無用! まずは状況を把握しなければ……! 圧倒的に情報が足りない!)」
姉「ふぅ、ふぅ、ふぅ……ふぅっ?!」
エルフ三男「(ク、クソッ!! 街道は使えないッ!!)」
姉「ん……どうしたんですかぁ? いきなり路地に引っ張り込んで……」
エルフ三男「(畜生……何故だッ……なぜ、魔王軍……それも、勇者どもがこんな国境線にいる!?)」
勇者「……」
ケルベルス「勇者、どうした。防護服がじきに到着する、すぐに着用できるように……」
勇者「野暮用ができた」
ケルベルス「野暮用……何だそれは、ふざけている場合か? 冗談は聞きたく……」
勇者「デュランダルを使う、書類認証をよろしく頼む。すまない」
ケルベルス「勇者ッ、おい!!」
勇者「(エルフの総大将……!! 姿を隠したつもりか? 後ろめたい事があると見た……
あの女に内通している事、どれだけ繕おうが無駄だ。洗いざらい、知っている事を吐いて頂く……!!)」
エルフ三男「チクショウッ、チクショウチクショウチクショウ、チクショウッ!!」
姉「ちくしょうー」
エルフ三男「(いくら僕でも、この状況での申し開きは、負けはせんでも少なくとも一方的に勝てはしないだろう……!!
奴らのバックには連合がいる、メリフェラやあの被検体について追及されれば非常にまずい!!)」
姉「はふっ、はふっ、はふっ、つかれたー」
エルフ三男「(この女を人質に……イヤ、それもダメか!? この状況ならいくらでも死などでっち上げられる!
OBのこいつに人質としての価値は期待できん、女ごとダルマにされて連行されちまう……!!)」
勇者「大将閣下!! アルヴライヒ連邦陸軍大将閣下!! いるのでしょう、ご協力していただきたい!!」
エルフ三男「(夢想家のクソガキが……)」
姉「閣下ぁ?」
エルフ三男「ああクソ……!!」
チバラキ「おーおー」「苦しんでるねー」「つらそうだねー」
エルフ三男「やめろ……今、お前達と遊んでいる暇はない」
チバラキ「嬉しい限りだよー」「さいっこーだねー」「人の不幸はえくすたしー」
エルフ三男「な……!?」
チバラキ「ものすごい憎悪」「あの勇者はかかえてるよー」「幕府のガキが下準備してくれたからねー」
エルフ三男「ハッ……お前ら、僕の破滅を狙ってたってのか?」
チバラキ「うぬぼれんなよー」「われらにとっちゃ」「誰の破滅でもかまわねーんだよー」「ぼけー」
エルフ三男「この……クソ野郎どもがぁ……!!」
姉「閣下、どしたの?」
エルフ三男「クク……僕を駒……役者の一人に見立てていた? ふざけるな……身の程知らずの魑魅魍魎どもめ……
自惚れているのはどっちだ、たかが島国のド田舎で、田ゴ作相手に威張りくさって税に入ってたくされ神が……!!」
姉「閣下、だいじょぶだよ、あんしんして」
エルフ三男「コマはお前達なんだよ、依然変わりなく……コマがプレーヤーに意見してんじゃあねぇぞ……!!」
チバラキ「いせいがいいなあ!!」「ふぬけのさむらいにみせてやりたいもんだ」「大将はこっから抜け出せると?」
エルフ三男「僕がクソガキ相手に小便たれながら命乞いすると思っているのか? そう言うのが見たいなら余所に行っちまえ……!!」
姉「おしっこしたいの? 閣下、閣下ぁ」
エルフ三男「うるせぇぞクソアマ……! 今考えてんだよ、頭スポンジのテメェがどうにかできる事はねぇぞ……!!」
姉「でもぉ、でもわたし、閣下のフィアンセだもん。閣下が心配だもん」
エルフ三男「喋るな、黙れ……! 黙れよ……」
勇者「(……威嚇すら、もうしてこない。弾切れか? 重火器の類などは持っていないか。完全に単独……?)」
勇者「大将閣下。やっとお話ししていただけますでしょうか?」
エルフ三男「……」
勇者「……ごきげんよう、閣下。手を煩わせないでいただきたいものですが」
エルフ三男「魔王軍は躾がなっていませんね、ガキの口の利き方がなっていない」
勇者「失礼いたしました、このテロリスト野郎。人道的な扱いをして欲しかったら、頭の後ろで手を組め」
エルフ三男「とんだワルガキだ、救いがない」
勇者「手を組め、そして……人質をこちらに引き渡せ」
姉「はぇ……」
エルフ三男「見逃してくれませんかね。彼女とランチを楽しみに今日は来ただけですんで」
勇者「これまでの僕らへの行いを忘れたのか? 誰がお前達の虚言を信じるのだ」
エルフ三男「先の騒動で生き残った仲じゃないですか。若いくせに頭の固いガキですね」
勇者「頭の固い老害に言われたくないな。また鬼に助けでも乞うのか?」
エルフ三男「……」
勇者「それとも見捨てられたか? 妖魔にすら愛想を尽かされるとなると、いよいよ悪辣だな」
エルフ三男「やはり、口の利き方に何のある勇者様だ……!」
勇者「(顔を突き合わせるまでに、あの朱天とかいう鬼と相対するとは思ったが……護衛が本当にいないのか?)」
エルフ三男「もしや、先の爆発……僕が仕組んだ事だと言いたいのですか?」
勇者「おや、何か後ろめたいことがあるので? 僕には見当がつかないが……」
エルフ三男「この状況でわざわざ僕を追ってくるという事は、そちらには何らかの手掛かりがあると考えられますが」
勇者「とんでもない。前科者の総大将に当たりをつけてきただけですよ」
エルフ三男「(ウソだな。チビの茨木による僕への何らかの誘導作用はあったにせよ、このガキが僕を追う事にした決め手は他にある筈だ)」
勇者「(連合を通し、あの女がネキリを誤作動……それが本当に誤作動かどうか、今は確かめるすべはない。
理由なき災厄を振りまくのがアジ=ダハーカの常道……内通するこの男が関与していないとも考え辛い。
そもそも、放置しておく理由もない……ここで殺してしまっても、別段大きな問題はなかろう。あの邪魔な巨人のように……!!)」
エルフ三男「それでは、今回はなんの確定材料もなく僕を追ってきたので? ひどい話だ」
勇者「自分が今まで何をしてきたか思い出してみるんだな」
エルフ三男「はて……愛する女性の入浴を覗いたのは一回きりです。命を取られるほど重い罪なのですか?」
勇者「そうさ。あの女を愛しているなんて、どうかしている。あの女に毒されてしまったんだ、あなたは。もう手遅れだよ」
エルフ三男「ああひどい、なんと傲慢な。大勢の怪我人を尻目に、ノゾキの罪しかないの断罪を優先するのですか」
勇者「価値があるのは未来だ。善き未来の為には、禍根を断ち切るために努力する必要がある。
僕の仕事は、お前達という大陸の癌を斬り殺す事なんだよ」
エルフ三男「まるで、先の爆発は僕を殺す為にあったような言い草ですねぇ」
勇者「あれに巻き込まれていてくれれば、大勢の怪我人の下に迎えたんだ。手を煩わせるなと言っただろ?」
エルフ三男「あなたも大概クソッタレなようだ、ロクな死に方しませんよ」
勇者「(ネキリの事は……知っていると思っていいな。鬼どもとつるんでいて、知らない筈はない……)」
エルフ三男「(自意識は過剰な方が丁度いいのか? まさか、ネキリとやらを本当に僕にぶつけるつもりだったのか?)」
勇者「それでは……何か、言い残す事は?」
エルフ三男「(デュランダル……勇者の聖剣か……)」
勇者「(出資者兼ブレーンを潰せば、残るは死に体も同然。アジ=ダハーカに向けてのチェックメイトだ……秩序に刃向う屑どもが!!)」
エルフ三男「何が救世の勇者だよ、ざけんじゃねぇぞボケナス。僕にとっての光を愚弄した時点で、テメェはオレにとっての悪魔なんだよ。
二十年も生きてねえガキが、チャチな正義感振りかざして万人の哲学に潜り込んでどうこうできると思ったら大間違いだ。
人の信仰に口出しするヤツァ、神でも救世主でも勇者様でも何でもねえ。ブッ殺すべきケンカ相手に過ぎねえんだよ」
勇者「……」
エルフ三男「信じる者は救ってやる、信じないお前らは死ね。この枠組みを取っ払ったような虚言で民衆をだまくらかしやがってよぉ。
もう一度言ってやるぞ、他人の教義にドロかけたテメェは勇者様でも何でもねえただのクソガキだ! 死ねバーカ!」
勇者「耳長のクソジジイが死に際に調子こいた事言ってんじゃねぇぞ!! 老害のくせに声がでけぇんだよ!!」
エルフ三男「……!?」
エルフ三男「がふっ!!」
姉「か、閣下ぁ……閣下、閣下、ねえ……」
勇者「あの女に関わると、そこまで厚かましくなるのか……お山の大将とはいえ、今まで社会的な生活を送れていた事を不思議に思うよ」
エルフ三男「ゲホッ……ガホッ……」
勇者「この老害が……世紀をまたいだ老人にはろくな奴がいない。状況もわかってねぇくせに、自分の物差しが絶対だと信じ込んでいる。
井戸の底から空を見上げて、それが世界の全てだと豪語している。哀れを通り越して殺意を覚えるよ。老人はクズだ」
エルフ三男「クク……ガキがいきってんじゃねェや」
勇者「劣化したテメェの脳細胞が処理できるように簡単に言ってやる。ろ・う・が・い。
役に立たない、周りを腐らせる、足並みをわざと乱れさせる、すすんで他人の嫌がる事をする社会のゴミだ」
エルフ三男「(本気で……みぞおち蹴っ飛ばしやがって……!!)」
勇者「おい老害、死ぬ前に愚痴らせろよ老害。おい老害。聞いてんのか老害。まだ死ぬんじゃねェぞ老害。
若いうちから老害のおつかいばっかりさせられてさぁ……ウンザリなんだよ、老害に持ち上げられても嬉しくねぇしよぉ」
エルフ三男「ガキは……大人の言う事聞くもんだ、クソガキ」
勇者「自分達の気持ちわりい皺だらけのツラの代わりに、勇者の僕を顔役に使うんだ。
まわりは枯れた老害だらけ、会う先々でも老害老害。こうしてそれなりの立場に就いても、老害の世話は続く。
何が旧魔王軍だクソが……何が勇者だよバカバカしい!! ザッケやがってよぉー!!」
エルフ三男「産まれの……不幸を恨むんだな、勇者様よお」
勇者「枯れ枝風情が!! 僕に、指図、するんじゃあ、ない!!」
エルフ三男「がっ、がほっ」
勇者「挙句の果てには、アジ=ダカーハ。僕と魔王の邪魔をする悪鬼に与するのもまた老害のお前だ。
忌々しい、忌々しい、忌々しい……一族を断絶させてやっても気が済まん、ヤツの末代まで殺し尽くしてやる……」
エルフ三男「(まさか……こ、この女も殺す気か……!?)」
姉「あのぅー、怒ってるの? 閣下、勇者さんを怒らせちゃったの?」
勇者「……」
エルフ三男「逃げろ女!! 殺されるぞ、走れ!!」
勇者「声のでかい老害は嫌いだと言ったはずだ」
エルフ三男「ぎっ!?」
勇者「……アジ=ダハーカの……血縁……大将閣下、これはやはり……」
エルフ三男「(肩が……外された……!!)」
姉「ど、どぉして? わわ、わたし、こ、殺されちゃう? ごめんね、たぶん私が悪いの。わたし、頭あんまし良くないから」
勇者「癪に障る喋り方だ。中身を伴わせるのは無理だろう、少しは魔王のように聡明に喋ってみろ」
姉「ん……なあに?」
勇者「あの女の猫撫で声にそっくりで不愉快だ……耳障りなんだ、よっ!!」
姉「ぎゃっ!!」
エルフ三男「(この男……!!)」
姉「ふ、ふぇぇん、ど、どおしてこんな事するのぉ、痛、痛いぃ、お顔痛いぃ」
勇者「そうやって何人の罪のない人を誑かしてきた? お前もそこで床舐めてる老害と一緒だな、クソアマめ」
姉「やだ、やだぁ。へんな事しないでえ、乱暴なのはやあ、やなのお」
エルフ三男「バカ……女……!!」
姉「たすけてぇ……たすけてぇ、バルムンクさぁん……こわいぃ……」
勇者「な……!?」
勇者「……僕に、何した?」
姉「ふぁぁぁ、いやぁ、やめてくださぁい……かんにんしてぇ」
エルフ三男「(女の提げている剣がひとりでに抜けた……!? そのまま、柄頭でガキを突き飛ばした……!)」
勇者「バルムンク……? そう言ったのか、答えろよ!!」
姉「ひい……も、もう嫌……たすっ、たすけて、バルムンクさん、お願いぃ……」
エルフ三男「女、剣を抜けッ! そいつは……そいつはお前の御守り神だ!!」
姉「お、おまもり? バルムンクさんが?」
エルフ三男「こわいものからお前を守る御守り神だ!! 抜け!!」
勇者「バル……ムンク……五柱の……勇者の……?」
姉「わ、バルムンクさん、きれい……」
エルフ三男「(黄金の柄……群青の宝玉……そして、あの輝く刀身……模造品ではない、この凄み……本物の聖遺物!?)」
勇者「お前が……五柱……!? お前みたいな老害が……」
エルフ三男「バカが!! 引っかかりやがって、テメェみてえなケツの青いガキなんざ、デュランダルぶらさげてようが勝ち目はねぇんだよ!!」
勇者「この……!!」
エルフ三男「それとも演説で想像力がオシャカか!? この路地じゅうにオレが逃げてる最中に買収した浮浪者がいて、
テメェの暴露の証人になってるだとか考えも及ばなかったのか? オレを脅した時点でテメェの負けだ、この殺人未遂犯がよぉ!!」
勇者「デタラメ言ってんじゃねぇーぞ!!」
エルフ三男「なにも浮浪者じゃねぇかもしれねえ、テメェが知らねえだけでオレの部下がいるかもしれねえなあ!!
おっと、また暴言だ!! 一字一句書き取らせてるからなぁ、救援活動ほっぽって、ご趣味の殺人に励んでおられましたってなあ!!」
勇者「ぐ……!!」
エルフ三男「彼女はいわば保険だよ保険、キの字に刃物とはよく言ったもんだ、
デュランダルなんつーあぶねえもん振り回したバカ相手する為の保険だよ! まだ因縁つける気か?
リスクでけぇよなぁ、五柱の勇者同士でやりあうのはよぉ!! どうすんだ? やんのか、やんねぇのか!?」
勇者「この……このゲス野郎ォォがッ!!」
勇者「すまない。作業に合流する」
ケルベルス「どこで何をしていた、しかもデュランダルを使うとは……」
勇者「大した事じゃあない、結局デュランダルも使わなかった。崩れたがれきから声がしたかと思って」
ケルベルス「……なら、いいんだが。いつまでもガキのつもりでいるな、お前はもうクラン内でも相応の責任を持っているんだぞ」
勇者「申し訳ない。今後は気を付ける、本当にすまなかった」
ケルベルス「オレからとやかく言うつもりは無い、引き続き救援の指揮にあたれ」
勇者「ああ、押しつけてしまって本当に悪かった」
ケルベルス「……」
ケルベルス「『デュランダルは使わなかった』ねえ……」
ケルベルス「こちらとしても、全部を容認しておくわけにはいかねェんだよ……」
ケルベルス「信じてやりてぇのはヤマヤマだが、ウソつくならばれねえウソついてくれよなぁ……
オレ、言ったよなぁ。オレの側からも飛行隊を出すってよォ。どうしてあの切れ者が見えてねえとでも思ったんだか……」
エルフ三男「(うおおおおおおおおおおお)」
姉「ふぇぇぇん、ふぇぇぇぇん」
エルフ三男「(ヤッベェェェェ、マジで死ぬかと思った、マジで。500年で五本の指に入るくらいヤバかった)」
姉「閣下ぁ、閣下おきてぇ、閣下ぁ、肩がいたいの? 肩? おんぶしてあげるからぁ」
エルフ三男「(三国による開発が盛んな国境線沿いに浮浪者なんているわけねぇ、いたとしてもジプシーくらいのもの、
食うに困る程に飢えた路上生活者なんざ飢饉が起きた時くらいにしか出ねえ……あのガキの土地勘が無かった事が幸いした……)」
姉「閣下ぁ、閣下ぁ」
エルフ三男「(オマケにごく少数の近衛の付き人も駅前で待機、SPも離れさせてる状況……
完璧にハッタリだハッタリ、孤立無援で、しかも無能オブジイヤーのクソ女しかいなかったんだからな……)」
姉「ねえ、閣下ってばぁ」
エルフ三男「痛い! いたいいたい!! そっちの肩ですそっちの肩!!」
姉「あーうー」
エルフ三男「(……疲れた……200年は寿命縮んだ……あークソ、でもまだ爆発……ネキリの騒ぎは収まってねぇのか……ちくしょう……)」
妹「オギャッ!!」
ティタニア「動くな。抵抗をやめろ」
妹「ひ、ひやあああああ、ひ、ひでえ事しやがってよぉぉー、ふ、ふくらはぎに穴あけやがったァァ……」
ティタニア「取り押さえろ」
ゴーストアーマー「はっ!」
オーク騎兵「はーいはい、大人しくしろなー」
妹「痛ッ、痛ぇぇッ、やめ、離せえ!! あ、足にクロスボウの矢がブッ刺さってんだぞッ、乱暴すんじゃあねえッ!!」
ティタニア「16時20分、容疑者を確保……」
妹「ハァ!? よ、容疑者……何言ってんですかぁ、私、何かしたって言うんですかぁ?」
ティタニア「東方連合国憲法修正第五条。ひとつ、あなたには黙秘権がある。ひとつ、これからの供述は、
法廷であなたに不利な証拠として用いられる事がある。ひとつ……」
妹「話を聞きなさいなァ!!」
ティタニア「あなたには弁護人の立会を請求する権利がある。ひとつ、自ら弁護士を立てる事ができなければ、公選弁護人を付ける権利がある」
妹「だ、黙れ……黙れえッ、うるせーぞッ、ハエ女がッ、私を誰だと思ってんだ!! 私は……」
ティタニア「北西では必ずやってる警告なのよぉ、良心的でしょお?」
妹「私はアジ=ダハーカの血縁だぞォ!? どうなるかわかってんだろうなぁ、てめぇら皆殺しだぁ!! 離せ、離しやがれ!!」
ティタニア「あらそー、怖いわねぇー。お話しはブタ箱で聞きましょうねぇー」
敵兵「……」
妹「ど、ど、童貞中尉よぉー、こっち見ただろテメェ!! テメェなら小姉様の怖さは知ってんだろ、こいつらやめさせろォ!!」
敵兵「ああ、そうですね……」
妹「ふざっ、ふざっけんな、ザコども……あ、あたし知らねえ、あたしゃあ何もやってねェーぞォ!?
あたしゃ悪くねぇ、あたしじゃなけりゃアジ=ダハーカだ!! あのクズ女がやったんだ、そうに違いねえ!!
離せ離せ離せ、離せよ痛ぇぇんだよ!! あたしゃ悪くねぇ、あたしを誰だと思ってやがる!! ざけんじゃねーぞ魔物どもがあ!!」
リンドヴルム「……」
女騎士「ふぁー」
息子「ふぁー」
娘「ふぁー」
ほ子「ふぁー」
騎士ほ「はぁ……女神と天使たちが、まどろみのなかでする欠伸……美しいですわ、可愛らしいですわ……」
エルフ近衛兵「ほんっといい所ですよねー、ここ。あったかいし空気もおいしいし」
騎士ほ「ハイエルフどもも一掃したし、避暑地にはもってこいですわね……別荘でも建てようかしら……」
エルフ近衛兵「いいお考えですな! 共和国もこんな僻地が観光地に相応しいとは夢にも思いますまい!」
騎士ほ「フクク……おうい古竜!! 寝たふりしてるんじゃあない!!」
リンドヴルム「む……」
騎士ほ「どうだね! 愛する妻と子供を、その軽やかな体毛で抱きとめる快感は!!」
リンドヴルム「……」
騎士ほ「フククク……! 貴様は彼女に認められつつあるんだよ、この私が保証してやろう!!
6年にわたる献身、私の目から見ても天晴なものだぞ! 彼女の罵倒は愛情表現でもある、わかるな!!」
リンドヴルム「……」
騎士ほ「どうした、恥じる事などないぞ!! 幸福だと、一言でいいから言ってみろ!!
紆余曲折あれど大した事ではない、ちっぽけな人間だとしても人生とは山あり谷ありなのだ!!」
リンドヴルム「わた……わたしは……」
騎士ほ「愛する者への注力は、生物の本能に基づく尊ぶべき美徳(ウィルトゥース)だ!! それを咎めるカミなぞ信じるな!!
貴様の愛する者こそがカミなのだ!! ガリアという苔生した僻地に縛られるほど、エルダーは矮小な存在ではないだろう!!」
リンドヴルム「認……める……認めるよ……」
騎士ほ「さあ古竜よ、高らかに愛を叫ぶがよい!! そして……」
リンドヴルム「わたしは今……幸せなのだ……」
騎士ほ「そして……お姉様の為に、これからも馬車馬のように働き続けよ……フクク、フククククク……!!」
第8部 ガリア=ベルギガ編 死
第8部 ガリア=ベルギガ編 誤へ