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≪あらすじ≫
キュートでファンシー、ビビッドなお茶目さが魅力でお馴染みの女騎士ちゃんがめっちゃ活躍した。
女騎士ちゃんは果たして薄汚い魔物どもを一匹残らず根絶やしにする事ができるのか。
元スレ
女騎士「そうなったのは私のせいじゃないから謝らない」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1379703594/
女騎士「おばあちゃんが言っていた。世界はこの私を中心に回ってる」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1385483711/
ポニテ「おはようございます!」
秘書「……」
ポニテ「おはようございます! 今朝は素晴らしい天気ですよ!」
秘書「まだ5時半じゃあないですかぁ」
ポニテ「早起きして得する事こそあれ、損などいたしません。それとも、体調がよろしくないので?」
秘書「……ちょっと、カルチャーギャップをもよおして」
ポニテ「はあ……」
秘書「み、道行く女の人……み、みんなみんなすっごい太……ふくよかじゃあありませんでした?」
ポニテ「(お前が言うな)」
秘書「お尻も……む、胸もぷーっと膨れてて。そもそも、猿人の方が少ないってのもあるんですけど……」
ポニテ「節足人種の上位ワーカーは、そうした女性を好むと聞いております」
秘書「上位……?」
ポニテ「節足人種……現在のメリフェラにおける為政を司る蟻型形質人種の人種のひとつです。
種の代表として外界との接触を行う為に、隆盛している猿人にほど近く進化した上位種ですね。
基本的に、彼らは上位種にカテゴライズされる上流家系を除く下位ワーカーは生殖器官が未発達な為か、
同種族との間と公的な婚姻を結ぶ事は稀なのです。例外の上位種だけが猿人の形質を色濃く取り込んでいった結果……」
秘書「まさしく人並みに性愛を併せ持つようになったと……」
ポニテ「仰る通り。上位ワーカーの平均的な収入を見たらぶっ飛びますよ。
土地自体は非常に肥沃ですから、生産力はアルヴライヒに並びますし。田舎恐るべし、です」
秘書「玉の輿……でも虫さんのお嫁さんか……」
ポニテ「雄の上位ワーカーの美意識は、オークや一部のケンタウリと同じく豊満な雌に向けられるようです。
特に、ヒップが体幹からどれだけせり出しているか……彼らの女王に対する母性意識の表れと言えましょう」
秘書「……」
ポニテ「本気で玉の輿狙うなら、もっとお肉付けるべきですかね」
秘書「ね、狙ってないですし!!」
ポニテ「生憎、私のような身体つきではふられてしまいましょう。女王蜂のように、ふかふかの尾腹を持っていないと」
秘書「……」
外交官「おはようございます、昨日の疲れは取れましたでしょうか」
秘書「……」
外交官「騎士様はまだお休みで?」
ポニテ「はい、昨晩は遅くまでお客人と語らっていたようで」
秘書「……」
外交官「……何か?」
ポニテ「この人は女性ですよ」
秘書「マジでっ!?」
外交官「玉の輿ですか……こちらとしても願ったり叶ったりですね。後押しなしに我々の同胞が外界で生活基盤を構築するのは、極めて稀な事ですし」
秘書「いや、別にそんな……」
外交官「男たちは、やわらかくて手触りの良い房が、それはもう大好きです。子を為せなかろうが、そうした事に興味を持たない者はいません」
ポニテ「ワンチャンありますよ、この際もっと太ってみませんか」
秘書「博打にも程があります!!」
外交官「いやいや……猿人の方が羨ましいですわ。私のような枯れ枝では、そもそもモテませんしね。
我々ワーカーは、子供が産める体かどうかは、10歳前後で決まりますし。女王陛下と同じように子を孕めるのは雌雄ともに2割に満たないのです」
秘書「……はあ」
ポニテ「その為の借り腹……昨今、評議されている代理母産業の確立というわけですね」
外交官「はい。中央会議での可決と、教皇領からの許しが得られれば……私にも子供ができるかもしれません」
秘書「かりばら?」
外交官「旧魔王軍全盛時……我々の先祖の中には、他の生物の胎内に子種を植え付けて育てさせるという種もありました。
しかし、勇者様からもたらされた叡智の教義、そして我らが天にまします主との誓いによって、我々は貴き理性を手に入れました。
他の生物を、己の種の存続の為にのみ苗床のように扱う行為は、不義というほかにありません」
ポニテ「そこで、双方の同意の下で子を為す方法が思案されるようになった。
種の繁栄は生物の本能……いくら理性を育とうとも、それを押さえつける事はできますまい」
外交官「恥ずかしながら……この私にも、拙いながらも母性というものが備わっているようでして」
秘書「あのう、かりばらっていうのは……」
ポニテ「我々のお腹の中で彼らの卵を育てて、代わりに出産をしてあげるという事です」
秘書「」
ポニテ「そこ、ヒかない! 嫌そうな顔しない! 場所が場所なら差別でしょっぴかれますよ!」
秘書「ふぇぇ」
外交官「まあまあ……ここメリフェラでも、公の場ではタブー視されてきた議題ですので。お気持ちはわかります」
秘書「おおおお、オナカにたた、たまご……」
ポニテ「豊満な身体つきの女性ならば、それも不可能ではない。上位種の彼らの好みも、理にかなっていると言えますね」
外交官「女の私からも、そうした猿人やケンタウリの女性は魅力的に見えますわ」
秘書「借り腹って……しし、死んじゃったりしないんですか?」
外交官「残念ながら……死亡例は皆無とは言えません、しかし……」
ポニテ「ご謙遜を。インセクトリアン由来の薬品の質は、エルフのそれと引けを取らないほどに高い。
流行病や流れ弾、日常での事故で障害を負うよりよほど確率は低いでしょう」
秘書「……そういうもんなんですか」
ポニテ「まあ、身体器官の肥大に伴って自力での移動が困難になるという弊害もあるとは聞きますが」
外交官「それにつきましては、最大限のケアをさせていただく所存です。現在こうして議論される以前から
代理母出産という方法は行われていましたが、明文化の暁には国家レベルで支援をしていこうと考えています」
秘書「い……移動が……困難……ねぇ……」
外交官「ただ……やはり、母体の健康維持には少なからずコストがかかります。
我々ワーカーが自由に子孫を残す事ができるのは、まだ先の事になりましょう」
ポニテ「それを解消する為の、これでしょう?」
秘書「……? 何ですか、それ。はちみつ?」
ポニテ「似たようなものですが……お味見してみます?」
秘書「よろこんで!」
外交官「……」
秘書「……甘ッ!! あンまい!! 何これ!?」
外交官「ふふ、私達でも希釈して口にしますのに」
秘書「き、希釈ァ!? 何なんですかこれァ!?」
ポニテ「大将閣下率いる、アルヴライヒのスタッフが開発していた高熱量流動食です。今口にしたのは、スプーン一杯……
とすれば、成人男性5日分の熱量が摂取できたことになりますね」
秘書「」
ポニテ「6年前から臨床実験をまじえて、ようやくメリフェラ国内での試用が行えるまでになったと聞きます」
外交官「まさしく、我々にとっての命の糧と言えるものになり得ましょう。我々ワーカーは、その……あなた方に比べて燃費が悪いと言いましょうか」
ポニテ「(要は、これを売り込む為に大将は我々をメリフェラによこしたわけです。片手間の暇つぶしがお金を産むなら、これ以上の事は……)」
秘書「(それより私のこの体に取り込まれた元気いっぱいのカロリーはどうしてくれるんですかね)」
騎士ほ「……」
おかっぱ「……」
騎士ほ「……はぁ」
おかっぱ「……どうも」
騎士ほ「あら……あら、どうも……」
おかっぱ「あんたは……エルフと繋がってる口かな。あの騎士の……」
騎士ほ「そう言うあなたは、極東皇国の? フクク……こうして顔を合わせるのは初めてかしらね……」
おかっぱ「ああ、よろしく……」
騎士ほ「……」
おかっぱ「ずいぶん、疲れているようだが……資材の搬入なら、私やエルフの近衛に任せてもいいぞ」
騎士ほ「大丈夫でしてよ……ちょっと、昨晩……あっただけでして」
おかっぱ「昨晩?」
騎士ほ「……」
~昨晩~
女騎士「は? 何? ガリアうんちゃらって……あ、あそこだったん?」
騎士ほ「そこ以外にどこにあると思いまして……!? 」
女騎士「いや、なんかスゲー財宝があんだったらそんな事しねぇよ! 知ってたらぶんどってから燃やすって!」
騎士ほ「も、燃やしてはいけませんわ……!! 聖地が現存している事に意義があるのです……!! ああ、ああ……」
女騎士「知らねェよぉ!! あん時ゃああするしかなかったんだってばよ!!」
騎士ほ「モルドレッド卿……あの青二才をどうダマくらかせば……ああ、ああ……!! 円卓の座が……お姉様の座が……!!」
女騎士「ブツクサ狼狽えるんじゃねェーぞッ、オジャンになっちまったもんはしょーがねェーだろォー!?」
騎士ほ「大陸に二つとない伝説の法具が安置されているかもしれない聖地でしてよ!?」
女騎士「テメェ誰に向かって吠えてんだオラァ!? 珍しくガーガー吠えたと思ったら私に転嫁しやがってよォー!! たたっ殺されてぇか!?」
騎士ほ「ひいっ……ご、ごめ、ごめんなしゃい」
女騎士「円卓の老害どもダマすんならダマしゃいいだろが!! ブツがあろうがなかろうが、とりあえずあるように見せかけろ!!」
騎士ほ「そ、そんな事……いかに煮凝りのごとく腐りきった円卓でも、さすがにバレ……」
女騎士「バレねぇようなパチこきゃいんだよ!! バレてねぇウソは真実だ!! 私が命じた事だから真実だ!! いいな!! カラスは何色だ!!」
騎士ほ「く、黒……」
女騎士「虹色だ!! 今日からカラスはサイケなレインボー彩色だ!! わかったな!?」
騎士ほ「……は、はひぃ」
女騎士「ふん……とりあえず、もう一度そこに戻ってみる必要があるってわけだな。更地に何があんだか知らねェが……」
騎士ほ「……」
女騎士「おい、それよか秘宝ってなァ何だと思うよ? そのモル公はもっと他に言ってねぇのか?」
騎士ほ「……そ、それ以上に……情報はないのです……ごめんなさい、ごめんなさいお姉様」
女騎士「……」
女騎士「ほの字、ほの字、ほの字、ほの字よォ~~~、私はアンタを信じてるんだ。私がさっきアンタを怒った事なら『自信を持て』……
アンタの地位と名声は、その気になりゃあ何者にも負けねーモンじゃあねーか? そうだろ?」
騎士ほ「……」
女騎士「アンタが持ってきた『情報』はものスゴク怪しいんだ。ここが正念場だぜほの字! 私達は勇者どもを追い詰めてる!!」
騎士ほ「姉貴ィ!!」
騎士ほ「今からよくよく考えたら、何も解決してない事に気が付きましたの……」
おかっぱ「何があったか知らんが……大変だな」
騎士ほ「フクク……あなたこそ、わざわざ極東くんだりからこんなところまで来て」
おかっぱ「よく言われる」
騎士ほ「……真面目な人。東洋人は表情が探りにくいと言いますけれど、あなたはすごく勤勉そう」
おかっぱ「おだてても何も出んぞ」
騎士ほ「フックク……頑張りましょうね。大陸から、汚いものをすべて祓うまで……」
おかっぱ「(井戸から這い出てきそうな髪しやがって……)」
おかっぱ「……衛生面では、共和国の医療施設顔負けだな」
騎士ほ「メリフェラ王室からも、かなりの額が動いていると聞いています。
上位ワーカー主体の少子化対策は、国を挙げてのプロジェクトと言えましょう」
おかっぱ「子を為す為の、種の強化政策か……」
騎士ほ「子供は国の宝ですわ。国力を形作る根幹です」
おかっぱ「(あのボンクラ大将主導の計画も、たまには他人の役に立つという事か……?)」
騎士ほ「共同体と違って、メリフェラは内陸にも関わらず開発の手が及んでおりません。
森を抜けた以南には貧乏諸国、さらに南下したところで北西の痩せた植民地がズラリと並ぶくらい……」
おかっぱ「言いたいのは、共同体のケンタウリや巨人と違って大人しいから与しやすい、という事だろ?」
騎士ほ「フクク……猿人から見た目が遠ければ遠いほど、西欧会議でも教皇領を相手にした交渉でも、
やりようによっては心証は底抜けに良くなりましょう。バカな聖職者どもの頭の中には、当たり障りのない猿人しか住んでおりませんもの……」
おかっぱ「あまり田舎者から巻き上げるのは感心しないな」
騎士ほ「対当なビジネスというものですわ、あくまで対等なもの……こっちだって、非常にレアな被検体を提供するのですから……」
おかっぱ「北西を始め、列強に片っ端から不平等な条約を結ばされたこちらの心情も汲んでほしいものだ」
騎士ほ「フクク……御愁傷様……」
おかっぱ「(レアな被検体……? 内陸のエルダードラゴンでも捕獲していたのか?
しかも、難民支援や少子化対策の為の高熱量流動食の関わる取引で……被検体など扱うものなのか?)」
エルフ看護師「さ、どうぞ。ご確認をお願いいたします」
おかっぱ「うっ……!?」
騎士ほ「……」
おかっぱ「何だ……何だ、これは……」
騎士ほ「私も、直接見るのは初めてですが……よくここまで大きくなったものですわね……」
おかっぱ「(このニオイ……悪臭というわけではないが……何だ? 例えるなら、異様な乳臭さ……!)」
騎士ほ「このカタマリこそが、メリフェラに明け渡す被検体……そう聞いておりますわ」
おかっぱ「被検体……まさか、まさかこれが……人間なのか!?」
騎士ほ「そうは見えませんけれども……ね」
エルフ看護師「そうです、れっきとした女の子なんですからね」
おかっぱ「……」
エルフ看護師「触ってみてあげてください。ああ、ちゃんと手袋はしてくださいね。雑菌がつくといけませんから」
騎士ほ「ぷよぷよのフカフカ……大きなクッションみたいですわね。あら、この垂れてるお肉は……」
おかっぱ「……」
エルフ看護師「いやですわ、それは……それ、おっぱいですよ」
騎士ほ「あら、ごめんあそばせ。なーでなーで」
おかっぱ「……まさか、あの……モップの先が乗っかったような、あれが」
エルフ看護師「ええ、お顔はここです。あ、おはよ。目が覚めた? もう少しでご飯だからね、いい子にしてようねー」
おかっぱ「(デタラメに肉が積み重なった……文字通りの肉塊ではないか……)」
エルフ看護師「ほら、お口あけるよ? 我慢してねー」
おかっぱ「(ああしてチューブで流動食を流し込むわけか……猿人による高熱量流動食の摂取、その結果がこれか)」
騎士ほ「……代理母の母体としても、最適らしいですわね」
エルフ看護師「はい、生理周期も安定していますし。血糖値の調整を怠らなければ、出産も可能だと思われます。
外交の方もたいへん喜んでおられましたよ。なんと美しい姿かとね」
騎士ほ「……温厚な方々ですけれど、美的感覚というのは千差万別と思い知らされますわね」
エルフ看護師「えーっ、可愛いじゃないですかぁ。ねー、女の子だもんねー」
おかっぱ「(あれが頭だとすると、あの大きな塊が腹の肉……牛でも詰まってるのか……?
そうすれば、左右に広がっているのは乳房……手足はそれぞれ肉に埋まってわからんか……)」
騎士ほ「(……反吐が出そう)」
おかっぱ「少し、その顔を見せてもらってもいいか?」
エルフ看護師「ええ、かまいませんよ。直接よじ登るのはやめてくださいね、傷がつくといけないから脚立で……」
おかっぱ「ああ、わかった」
おかっぱ「(首回りの肉が蛇腹になって……頭が埋まってしまっているな。悲惨なものだ……
顔も頬の肉で押しつぶされて……肌の血色が良いのが皮肉だな、健康そうだ……)」
騎士ほ「私、先に書類を外交の方に渡してまいりますわ。失礼いたします」
おかっぱ「(赤毛に、碧眼……その他身体的特徴がもっと知りたい……歯並びでも構わんのだが)」
エルフ看護師「あのう、どうかいたしました?」
おかっぱ「その……もっと顔を見てやりたくて。チューブを取ってやることはできるか? それとも、虫歯で顔が腫れてるか? なんてな」
エルフ看護師「あははは、虫歯だなんて。もう歯は全部抜いちゃってますよ」
おかっぱ「……そうか」
おかっぱ「(引き渡しの書類にも、役に立ちそうなものはなし……そりゃそうだ、あの大将が主導でやってた実験だからな)」
おかっぱ「(だが、城の城塞で知らされた情報とは合致する。飴色に近い赤毛、深い碧眼……旋毛の位置……)」
おかっぱ「(あの肉のカタマリ……見世物小屋にいそうな寝肥りだかヌッペフホフだかが……)」
おかっぱ「ゲホッ、げえっ!! うぇぇっ!!」
真神「ど、どうした……あまりの胸の無さに吐き気を催したか……」
おかっぱ「……生憎、もっと胸糞の悪い事を目の当たりにしたもんでな」
金長狸「胸糞……?」
おかっぱ「メリフェラに明け渡したあの肉塊が……話に聞いていた人物本人ならば……
あの大将、性根はあの騎士と勝るとも劣らぬほどに腐っているな……クソ、どうかしてる……!!」
金長狸「ね、ねえ……何があったの?」
おかっぱ「くそったれ!! どこまでも胸糞の悪い!!」
金長狸「ひぃ」
真神「お、大声を出すな、こわい……」
おかっぱ「魔王軍……勇者のヘイトを、事もあろうに……何の罪もないメリフェラの側に向ける気か……!?
それが理性ある人間のやる事か……ふざけるな……!!」
おかっぱ「こんなところにいられるか……一秒たりとも……」
真神「……」
おかっぱ「(出来る事ならあれを……彼女をあそこから出してやりたい。
魔王軍に身柄を移せば、クズどもを糾弾する手札にもなり得よう。だが、どうする?
あれほどの巨体だ、コンテナに詰めた上に滑車とワイヤを使ってやっと運ぶ事ができるというほどだ……)」
おかっぱ「(しかし、口頭で事実を伝えたとて、魔王軍が動くとは思えん。
ましてや、エルフを揺さぶるには諸国から多々の容疑がかかっている魔王軍ではいささか荷が勝ちすぎる。
非常に癪だが、旧帝国情報部や連合のガサ入れが必要だろうな。可能ならば、北西に査察を頼みたいところだが……)」
おかっぱ「(いや、待てよ。何も、魔王軍を構築するクランの連中を説得せずとも、勇者とやらの関心さえ引ければいいわけか。
それならば、発破をかけるのは幾分か楽になろう……頭髪の束でも切り取って物証にすれば、アクションを起こすはずだ)」
おかっぱ「(そこで気になるのは彼女の安否だが……メリフェラのインセクトリアンにとっては女神も同然、
さすがにあのクズどもも引き渡し直後に始末するとは考え辛い。まだ猶予があるとみていいだろう……)」
おかっぱ「(さて、ここからは推察……懸念にすぎんが、否定できるだけの材料はない。
アルヴライヒがメリフェラをトカゲのしっぽ切りに利用し、各国の憎悪のベクトルをメリフェラに向ける……
勇者の敵という明確な存在は少なからず国教徒に浸透し、ゆくゆくは西欧世界でのアドバンテージになり得る。
既にメリフェラ王室側からカネは流れていると考えれば、エルフにとってメリフェラはクズ騎士のスケープゴートでしかない……)」
おかっぱ「お前達、いいか。一度しか言わん、よく聞け」
真神「な、何だ……保険を付けてくれ……二回言ってくれ……」
おかっぱ「ふざけろ」
金長狸「どうしたの、さっきから……顔色わるいよお」
おかっぱ「……クズどもを叩き潰す第一歩を今から踏み出す。死にたくなかったら言う通りにしろ」
金長狸「ま、まじで? いや、さすがに……どうしょもないとは思ってたけどさあ。こ、心の準備が」
おかっぱ「メリフェラが魔王軍、それも勇者の妾をかどわかした上にあんな肉塊にされたなど国際的に吹聴されてみろ。
クズどもが増長し、今度はメリフェラを内包する共和国に連合がなだれ込むぞ。わかるか?」
真神「それは……困るな……連合にこれ以上勢いづかれては……」
おかっぱ「アタシらはエルフの味方をしに来たんでも、連合の侵略を手助けしに来たんでもない。
大陸のうつけどもを、一神教なんつうくだらん哲学モドキから脱却させてやりに来たんだろうが」
金長狸「あうう……」
おかっぱ「……連合の蛮族どもに、これ以上でけえ顔されても困んだろォが。ここらが潮時なんだよ」
真神「そう、か……」
おかっぱ「この数か月で、有力な証拠はある程度集まった。致命的な暴露にはつながらんだろうが、
そこは魔王軍のテコ入れで奴らを殺せるまでに研磨していけばいい」
金長狸「そうねえ……」
おかっぱ「京の鬼どもとも、これでおさらばだ。目に余る暴虐の数々……二度と皇国の土が踏めると思うなよ……!!」
エルフ看護師「あら、忘れ物ですか? みなさん、もうホテルへ戻られましたけれど」
おかっぱ「ああ、忘れ物だ。すごく大事な忘れ物なんだ」
エルフ看護師「まあ……どこかで落とされにゃ」パンッ
おかっぱ「……今、けっこう銃声響いちまったな」
エルフ看護婦「ひゃあ……ああ……」
真神「問題……ない。今のところは……」
おかっぱ「搬入してからまだ1時間弱……メリフェラの連中が然るべき場所に持ってくまで猶予はある。
ああ、にゃんこ。そこのお姉ちゃん黙らせろ。証人だ、しっかり連れてく」
金長狸「がってん」
おかっぱ「……うわ、ごっつい錠前揃ってやがんな。これ、外してくれよ」
エルフ看護婦「い、嫌ああ、無理っ、無理!! あ、あなたなんなのよォ!! 外務省だとか近衛だとかの人じゃあ……」
おかっぱ「あんなゴミどもと一緒にすんじゃねぇや。さっさと開けておくれよ、そんで頼みたい事があるんだ」
エルフ看護婦「は、はあ?」
おかっぱ「そこにあるハサミでもメスでも使って、彼女の髪の毛をちょっとばかし切ってほしいんだ。それだけでいい」
エルフ看護婦「いや……いやあ、助っ……」
おかっぱ「頼むってばよ、こうしてわざわざブチ殺さないでお願いしてやってんだからさぁ。すげぇシンプルなお願いだろ?」
エルフ看護婦「ひ……は、はい……」
おかっぱ「……それと、この辺の書類も貸しておくれよ。使った早急に返却するから」
真神「(人相が日を追うごとに悪くなっていくな……)」
エルフ看護師「こ、これで……いいの……?」
おかっぱ「はぁい、ありがと。そんじゃあ次はだな……」
真神「……まだ余裕はある……なるべくメリフェラ側には……波風は立てたくないものだがな……」
おかっぱ「真神。アンタは彼女を連れて、共和国沿岸に駐留している『幕府の』本隊に合流しろ。
いいな? 間違っても、京のカスどもや松山に戻るな。アタシの本隊に戻るんだ」
真神「」
おかっぱ「必ず旧帝国領を経由してからだ。わかるな? 鉄道の使い方は教えた通りだ」
真神「ま、待て……こ、こわい」
おかっぱ「旧帝国領には現在、魔王軍が心証良くするために必死こいて警察活動を行っている。
勇者サマや魔王サマの息のかかったモルダヴィア……もしくは妖精族の連中に助けを乞え。そのまま駐屯地まで護衛でも頼み込め」
真神「……マジでか」
おかっぱ「できれば魔王軍預かりになった方が安全ではあるが……連中のバックには連合がいる。
都合のいい便利屋としては扱いづらい、まだ北西の方がマシだ。敢えてここは欲をかく、幕府本隊まで何としても戻れ」
真神「も、もう一度言ってくれ……」
おかっぱ「そして金長。アンタはアタシと東帝へ向かう。今手に入れた頭髪を始めとする物証だけは、魔王軍……
勇者へと渡さねばならん。郵送もダメだ、一度でもアルヴライヒを経由する物流にのればアタシ達の負けだ。直接運ぶ必要がある」
金長狸「は、はえええ……カ、カレと一緒に本隊へ戻るんじゃダメなのん?」
おかっぱ「本日中か、それとも明日一番か……いつアルヴライヒの大将がメリフェラを切るかわからん。
時は一刻を争うぞ、何としても北西や魔王軍に、早急に動いてもらわねばならん」
真神「それでは連合に貸しを作ってしまうのでは……」
おかっぱ「そうならない為にアタシ本人が行くんだよ。あのクソ騎士を刺し殺す為だけに集まった連中のもとにな」
おかっぱ「……上手く共和国の人間の顔つきに化けたな……よし、アホ犬の方は大丈夫そうか」
金長狸「わ、私らも列車に乗らないと……けっこう時間推してますよ、早く」
おかっぱ「わかっている。ここから東部方面行きに乗り込み、共和国のいずこかで南部行きに乗り換え……」
金長狸「……」
おかっぱ「ちっ、実際の時刻表から20分もずれているではないか。大雑把な大陸人め……ダイヤグラムの美しさを知らんのか」
金長狸「あのう、マナイタさん?」
おかっぱ「尻尾でも切ってやろうかこのやろう」
金長狸「……」
おかっぱ「少し時間を遅らせてでも、魔王軍の領有地まで急ぎたい……くそ、待つしかないか」
金長狸「……ちょおっと、いいですかねえ」
おかっぱ「うるさいな!」
おかっぱ「……何だというのだ、手短に話せ」
金長狸「できるだけ目線を動かさんでくださいな。こうしたまんま……そう、そうです。たまにニコッと笑って談笑してるように」
おかっぱ「……」
金長狸「改札から15メートル、ベルを持った初老の駅員の位置から10メートル。我々からざっと40メートル」
おかっぱ「……」
金長狸「……茨木の奴が、手ぐすね引いて待ち構えております」
おかっぱ「なに……!?」
金長狸「田舎とは言え、まだ正午までまだ時間がある。この駅舎の人混みはまだ解消しますまい、手を出さないのはそれが理由かと」
おかっぱ「……アルヴライヒであの大将を押さえる役を買って出た事は、ハナから偽りだったわけだ。
下衆な鬼どもの気まぐれか、それともどこかであの大将が鬼どもを飼い馴らしたか……くそ、最悪だ!!」
金長狸「それと……あんまり嗅ぎたくない匂いも、ちょっとばかし感じるんですがねぇ」
おかっぱ「匂い……? まさか」
金長狸「ワンコには劣りますが……人さまよりかは鼻は利くもんで。そのまさか、芥子に近い硫黄臭……」
おかっぱ「出所不明の有毒ガス……!? 鬼どもが持ち込んだわけでもあるまいに……」
金長狸「さあ、そこまではわかりませんで……ここでガスなんか本格的に撒かれ始めたら……」
おかっぱ「……」
金長狸「ど、どうしましょう……メリフェラ側の警察機関に知らせなきゃあ」
おかっぱ「事情聴取で何時間も費やせるほど、アタシ達はヒマを持て余してるのか!?」
金長狸「で、でも……」
おかっぱ「……ああクソ……! 仮にガス流出が真実なら、鉄道各駅で駅舎の不審物捜索でも始まるだろうよ。
最悪、上下線ともに停まっちまう。ふざけんじゃねぇ……人質に加えて鉄道まで停めてくる気か……!?」
金長狸「ああ、あうう……どうしよう、どうしよお!! 停まっちゃったら、わんわんの方も足止め食らっちゃいますよぉ!!」
おかっぱ「共和国領の一部はクズどもの息のかかったマフィアが占めている……そこで締め出されればおしまいだな。
ああクソ、仮に我々が運よく魔王軍に保護されたとしても、いくつか問題が浮上するか。
ドワーフゲットーを壊滅させたガスの持ち主はエルフ……となれば万々歳だが、京の鬼の仕業となると我々まで疑われる……」
金長狸「ガ、ガスを止めようにも……ムリだよお、絶対ムリ!」
おかっぱ「……」
金長狸「だって……わ、私たちだけで茨木の相手するとか……無理……っていうか不可能でしょお……?」
おかっぱ「……マジに最悪な事態に陥ったら、あの鬼とやりあう可能性も無きにしも非ずだな」
金長狸「」
おかっぱ「あーははは、あーチクショウ、泣きたくなってきた。やってらんねぇよ……」
金長狸「そ、そうだ! 翼竜、ワイバーンでも探せば……」
おかっぱ「それぞれある程度の距離を単独飛行できる節足人種たちの領内にそんなものがあるものか。
そもそもメリフェラでは酪農や畜産は土地を活かしての輸出分の最低限しか行われておらん、主産業は穀物だ。
更に平地や森林が多く、家畜は山羊や羊止まり。肉食竜を運用するには致命的に向いていない」
金長狸「……」
おかっぱ「……共和国までの森林を馬で突っ切るしかないな。一か所で留まる事にもリスクが伴う、その都度馬を乗り換える必要がある」
金長狸「あーうー」
おかっぱ「……善は急げだ、適当に馬を奪って逃げるぞ」
金長狸「ガ、ガスは……」
おかっぱ「うっせーなあ!! これ以上アタシにどうしろって言うんだ!? どうにもなんねェーだろぉーがよォ!!」
金長狸「ひ……」
おかっぱ「こちとらテメェらみてーなオモシロ動物じゃねェーンだよ!! 撃たれりゃ死ぬし刺されても死ぬ!
アタシは無謀な自己犠牲なんざごめんだからな!! 虫どもとガスで燻られて心中だなんてまっぴらだ!!」
金長狸「……」
おかっぱ「絶対に死んでたまるか……絶対にだ!!」
金長狸「ああ、御免よう、御免よう。大事なお馬さん借りていきますねえ」
おかっぱ「生きて戻れたら金一封渡してやろうぜ」
金長狸「馬に乗るタヌキとはこれいかに」
おかっぱ「自分で言うかね」
金長狸「はて、実に面妖な光景也。面白き事は善き事也」
おかっぱ「(帝国製9ミリ拳銃二丁にカットラス。鬼斬りの逸話でも持つ名刀の一本や二本欲しいところだ、こんなんじゃどうにもならん……)」
金長狸「……」
おかっぱ「純銀弾と一緒に一丁渡しておく、鬼の餌になりたくなかったら使え」
金長狸「うああああいやだあああああもお四国にかえりたいよおおおおおおお」
おかっぱ「お前から神様に祈ってくれるとかはしてくれんのか」
金長狸「おじい様ぁぁぁ、ひいおじい様ぁぁぁ、胃袋に収まって京の都の行脚なんて嫌ですううううう」
おかっぱ「うるせーよ!! こっちも泣きてーくらいなんだよ!! びーびー騒ぐな!!」
おかっぱ「後方、どうだ! 何か追ってきているか!」
金長狸「い、今のところは何も……! ガスの匂いも流れてこないし、ドラグーンっぽいのも来てない!」
おかっぱ「わかった。このまま森林部に入るぞ」
金長狸「あー、なんか記念碑みたいなの立ってますね」
おかっぱ「ここから南部王国領まで森続きだ、ところどころでペースを落とさねば馬が潰れるな」
金長狸「そ、そんなに広いんですか……」
おかっぱ「帝国にまたがる巨大森林地帯に北東側で繋がっているからな、帝国内で入り込んだら生きて出られんぞ」
金長狸「」
おかっぱ「(なんで狸に猿人のアタシが山林の怖さを説いてるんだ)」
金長狸「……」
おかっぱ「タヌキの癖に……」
茨木「ナマイキこの上ありんせん……四国の社ごと焼き払ってあげんしょか」
おかっぱ「四時方向! 茨木だ、構うな!」
金長狸「ひやああああああ」
おかっぱ「くそったれ、馬に追いついてくるんじゃあないぞ……!!」
金長狸「と、飛ばしすぎると危ないし! 木にぶちあたって死んじゃったら目も当てらんないし!」
おかっぱ「この馬上で銃も使えんか……軍馬でもない馬で発砲でもして転倒されたら敵わん!」
金長狸「色即是空空即是色、全てこの世は夢幻よ、目を覚ませばすべて解決っ、喝ーッ!!」
おかっぱ「現実逃避をやめろっ!! 縁起でもない、この世は夢でも幻でもないわ!!」
金長狸「一介の豆タヌキに鬼退治だなんてそんな大それたことができるわけないでしょうが!!」
おかっぱ「気を削ぐような事を言うでないわ!! いいか、あの木を越えたら二手に分かれるぞ!!」
金長狸「ふふ、二手に……?」
おかっぱ「いいな、手筈通りに! 楔と杭の使い方も頭に入っているな!?」
金長狸「は、は、は、はひっ!!」
おかっぱ「あくまで保険だ! 私とて命を捨てる気はない! 祭祀の巫女は私が担当する、わかったな!?」
茨木「……」
茨木「(状況だけ見れば……木に激突して重症。いくら小柄だとて、まず助かるまい……
馬は……そのままか。発砲でもして、馬の神経でも逆撫でしたか?
……少なく見積もっても、時速四十は出ていた。あの速さなら、頸部は粉々……)」
茨木「(あの阿波のタヌキも……撒いたか。幕府の雇い主を見捨てて……)」
茨木「(にしても、大将の推察通りこんなに早く尻尾を出すとは。喧嘩っ早いというか、我慢が足りないというか……
火事と喧嘩は江戸の華? 思慮の足りないボンクラ……所詮は下民の産まれ……幕府も、こんな娘を我らを並べるなんて……)」
茨木「(あの肉玉の世話人を襲い、何らかの証拠を掴んだうえで、魔王軍かに亡命……
世話人はどこぞで始末されているか? 何にせよ、張っていたこの茨木には気づかなかったようだが)」
茨木「(……念には念を入れるべきだな、刻んで埋めておくくらいは)」
茨木「……運に見捨てられんしたね、お気の毒にぃ」
おかっぱ「」
おかっぱ「……死ねっ、クソ鬼ぃ!!」
茨木「!?」
茨木「……少し驚きんしたけど……もう少し足りんせん……。
不純物の混じった安物の銀弾でおすものを……やぁやわぁ」
おかっぱ「くっそ……てめぇ……離っ、せ……」
茨木「好かんわぁ……いい人ぉの為に、わっちらを冷やかして回る旅人衆は……」
おかっぱ「(片足首っ……斬り飛ばしてやったのに……三発はぶち込んでやったのにっ……!!)」
茨木「さあさ……首の骨ぇが今度こそばらけるまで、きちんと話しておくんなんし」
おかっぱ「い……いや……いやだ……」
茨木「……」
おかっぱ「や、やだ……じ、じにだくない、じぬのはいやだ……」
茨木「そうやって心配せんでも、幕府の世ももう御仕舞……老中も将軍も、先逝くあんさんと一緒でありんす」
おかっぱ「な、何でもっ……何でも話す……何でも……すっからぁ……」
おかっぱ「アタ、アタシは悪くねェんだよォ……ぜ、全部ぅ……あ、あの大将がやれって言ったんだァ」
茨木「はあ?」
おかっぱ「きょ……極東が……京と幕府で分裂してるのを知ってェ……ア、アタシに持ちかけたんだよォ……」
茨木「……」
おかっぱ「離……離してくれェ……大将のところに……幕府の部隊がいるのは知ってんだろォ……人質なんだよォ……」
茨木「(命乞い……? 出まかせにしか思えんが……)」
おかっぱ「アタシらだって……京とケンカしてえわけじゃないんだよォ……下野国までネキリを取りに行ったのだって……
あんたら鬼と戦争するつもりなんかじゃなかったんだ、開国に向けて……み、帝に大政を返す気でいるんだよォ……
ア、アタシが帰らないと……また極東が荒れちまうんだよォ……」
茨木「ネキリ……?」
おかっぱ「そう……さぁ、ネキリの太刀の杭……今は、あの狸がこの周囲に配置して回ってるはずだ」
茨木「!?」
おかっぱ「(手が……緩んだ!!)」
おかっぱ「お前らしみったれた怪異の住まう根の国までを両断する為に誂えられた陣術なんだけどさあ……」
茨木「こんガキ……!!」
おかっぱ「アタシに構ってていいのかなあ……ネキリの欠片で囲った範囲内がそのまま術の範囲になるんだぜ。
どうしてタヌキの方を追わなかったのかなぁ……エルフの大将に植えられた先入観かぁ?」
茨木「(陣術……大陸の魔法円……円陣を陰陽寮の連中が皇国龍脈を通じ組み替えたものだが……!?)」
おかっぱ「ほれ、さっさとタヌキを潰さねえと、アタシと心中する事になるぜ。
テストの回数は悲しいくらいこなせてないが、魔王軍のヴォーパル鋼での改修は受けている。どうなるかはさてさて御立合い……」
茨木「せっかく手に入れた物証まで消えてしまう事に……」
おかっぱ「物証まるごとタヌキが持っていたとしたら? テメェはまんまと引っかかっちゃったバカって事になるなあ」
(引っかかれ……追いかけろ!! 範囲はここから半径200m前後、コイツがダマくらかされてる間に範囲から出れば……!
茨木「って顔してんす、ねっ!……」
おかっぱ「がうっ!!」
茨木「ちびタヌキ!! 死なないように刻みながら鍋にしてやる、そこで怯えながら待ってろ!!」
おかっぱ「(利き腕……ちくしょう、砕かれたっ……!!)」
おかっぱ「いぎゃあああっ、痛、痛っ……」
茨木「年増の癖にぃ、童みたく騒ぐんじゃあありんせん。わっちが片腕持って行かれた時よりかは……」
おかっぱ「示談……和解案にしちゃあ……乱暴だな……」
茨木「和解ィ? 冗談言いなんし、わっちがぬしら幕府と対等だと?」
おかっぱ「そうだよなあ……対等……なんかじゃあねえよなあ……」
茨木「ち……ぐだぐだ言わんでも、命までは取りんせん」
おかっぱ「ありがたい事で……できれば、もう……殴ったりしないでほしいが……」
茨木「ただ……皇国に凱旋する時には、ぬしのノドは焼き潰れて使い物にならなくなっているやもしれませんなあ」
おかっぱ「……」
茨木「……ドブタヌキ!! 今こそ雇い主に報いるべきじゃあないのかあ!?
屋島の老いぼれも悲しむだろう、次代を担う若狸がはらわた散らして腐ってゆく様を見てなあ!!」
おかっぱ「(くされ鬼め……!!)」
茨木「お雇い主も、さっさと折れてくださいませんと……」
おかっぱ「んぐ……っ!?」
茨木「ん……ちゅ……」
おかっぱ「(こいつっ……き、気持ち悪ィ……離せ、離せえ……し、舌を入れて……やめろお……)」
茨木「……」
おかっぱ「がっ……げほ、ごっほ……てめ……てめえ……な、何……呑ませやがった……この野郎っ……!!」
茨木「……その様子を見ると、ああ、なんて初心な年増だこと!」
おかっぱ「……」
茨木「なに……毒だとかそうしたものじゃあありんせん。我々松山も、魔王軍と同じく開国を受けての実験をいくつか行っているだけで」
おかっぱ「実……験……?」
茨木「大陸の勇者の五柱……既にアニマ、アニムス……そして、未確認ながらも、シャドウやグレイトマザーまでが顕現していると聞いとります。
北西にこれ以上借りを作るわけにはいきんせん、こちらも態度で示さんと……」
おかっぱ「オカルト連中は……やっぱりオカルトに惹かれるもんなんだなあ!それじゃあ、勇者が五人いるみてえじゃあねえか……!」
茨木「逆にお聞きしたいんでありんすが……聖人に匹敵する勇者がたった1人だなんて、それこそ思い込みなのでは?」
おかっぱ「……?」
茨木「もっとも……」
おかっぱ「(……答える気はねえか……頃合いか……!)」
茨木「あんたはもう仕舞いや、大人しく江戸の長屋で客でもとっとれ、この婢僕が」
おかっぱ「猶予二十、範囲指定術士依存、起動確認! そこから離れろっ、金長!!」
茨木「(タヌキは後ろ……八時か!?)」
おかっぱ「『ネキリの杭』、反転許可……さあて、どうなるもんかね……!」
金長狸「うわ……うわ……やっべ……くそやっべ……」
金長狸「(で……でーっかい毛玉が広がって……かーっと森じゅう光って……
木が力任せに薙ぎ倒されて……マナイタさんだいじょぶかな、まじで……死んじゃったりしてないかな……)」
金長狸「(それに、馬だって……私の馬はともかくさあ……今のってやっぱり……魔王軍と企んでた『魔術』でしょお……?
根々斬りの太刀の伝承を使った陣術……もぉ、何なのぉ。おうち帰りたい……もうやだ……)」
おかっぱ「……お疲れー、やっべーくそやっべ……くそ疲れた。前が見えねえ」
金長狸「ひやああああああ」
おかっぱ「ネキリ……アンタが生きてるって事は……範囲限定は上手く行ったんだなあ……」
金長狸「うひゃあああああ」
おかっぱ「クソ鬼……体中の皮膚撒き散らして、その辺にぶっ倒れてんだろ……ざまぁ……」
金長狸「だ、大丈夫すかぁ……だ、大丈夫じゃないよねえ……」
おかっぱ「……逃げ遅れた。片腕台無しになっちまったっぽい、自分でもよくわからん」
金長狸「び、病院! お医者!! モルヒネ!!」
おかっぱ「さっき打った……泣くほど痛いもんで、喉焼けちまった。つれえ」
金長狸「(ちょっと……ネ、ネキリって何なの……ほんと、何なの……もうやだ辞表出す帰りたい)」
金長狸「あ、あの……そ、その辺の転がってるの……ととと、等身大のお人形じゃあないですよねえ……?」
おかっぱ「知らん……気づいたら、辺りでケイレンしてやがって……アタシが知るか……」
金長狸「(まじもんの死体……いや、ほとんど動かないけど生きてる……?
ネクタイ締めたフォーマルな格好の男もいれば、下着だったり薄着の若いのも……
それに……おっきな鉄の塊だったり、連合の戦車みたいなのだったりも……)」
おかっぱ「……」
金長狸「(……で、そのど真ん中で……多分、あの鬼? 仰向けになって痙攣してる……
あのう……これは一体、どういう状況なんでしょうかね……)」
おかっぱ「……さみい」
金長狸「うぇぇぇーん」
金長狸「だぁれかぁー、だれかぁー、たすけてくださぁーい……」
金長狸「うぇぇぇーん!!」
ティタニア「南部王国外務省から。あちらが保護した東洋人と……イヌ型妖精は、例の幕府の子達だという事が判明したわぁ」
敵兵「ほ、保護……」
ピクシー「あー、なんかバレちゃったんですかねー」
ブラウニー「ちょっとマズいんじゃないですかー……エルフの側にいらん刺激を与えちゃった感が……」
ティタニア「……先の情報部の彼女の二の舞だけは避けたい所ねぇ。あの女将軍もピリピリしてるし。
モルダヴィアあたり……デュラハン女史の部隊と共同で、彼女達を魔王軍領へ護送するのが最善かしらねぇ」
敵兵「何事もなければいいんですが」
ティタニア「それがー……タヌキちゃんの方はきゃんきゃん騒げるくらい元気らしいの。ただ、オカッパ頭ちゃんの方がねぇ……」
敵兵「……」
ティタニア「アテクシも専門じゃあないんだけどぉ……右前腕、右手骨を複雑骨折、きわめて重度の筋損傷を併発。
また、左腕部は上腕部まるごと切断。鎮痛が切れた搬送直後なんかは阿鼻叫喚だったとかぁ」
敵兵「マジですか……」
ブラウニー「あのお澄ましムッツリチビがねえ」
敵兵「(吐きそうだ……)」
ブラウニー「っていうかサァ、水さして悪いんですけど。板についてきましたよねー、この職場」
敵兵「は、はあ」
ピクシー「なんか抵抗とかないんですか? 私ら妖精と働くこの職場ぁ」
ブラウニー「世の中には、私らとまぐわりたがる趣向をお持ちの男性もいるとかいないとか」
ピクシー「死にゃしないでしょうがねぇ、性の世界は奥深いですわねぇ。本番専門でお仕事してる私の友達いるんですけどぉ」
敵兵「……」
ピクシー「……」
ブラウニー「うわぁ、空気読めてなさすぎー……このタイミングで夜の話題とかマジないわー」
ピクシー「あなたに言われたくないんですがー」
敵兵「いやもう……デスクワーク主体の職場がここまでラクとは思わなかったもので……ありがたいです」
ピクシー「(気持ち悪い)」
ブラウニー「(ボケろよ東方人)」
デュラハン「ご苦労さまでございます。迅速な対応、痛み入ります」
将軍丙「初動が遅れると厄介でしょうからね。ただでさえ共和国と南部王国の国境にほど近い森林が現場ですもの、早めに着いて良かったわ」
デュラハン「……まだ、エルフとアジ=ダハーカの勢力からの表明はないのですか」
将軍丙「まだ確認していないわ。このまま知らぬ存ぜぬで通すのか、それともどこかに擦り付けるつもりなのか……」
デュラハン「その重症の東洋人の方は、エルフの側に潜り込んでいたスパイだと聞いておりますわ。
公式に動きを見せるとは……考え辛いかと。そもそも、彼女に傷を負わせたのは本当にアジ=ダハーカの勢力だったので?」
将軍丙「タヌちゃんからの話によれば……同じ極東からやってきたイバラキの追撃に遭った……だとか」
デュラハン「……仲間割れ?」
妹「ハッ、極東の土人はやっぱり愚かですわねぇー。ろくに統制も取れない家畜ですわね、家畜」
将軍丙「(うわぁ……)」
デュラハン「……」
ゴーストアーマー「(誰だよこいつ検証に連れてきた奴)」
レプラコーン「知るかよ」
ゴーストアーマー「(お前ら妖精どもじゃねぇのかよ)」
スプリガン「(勝手に着いてきたんでしょ)」
妹「で、なんかオモチロイものはありまして? ねえちょっと、教えなさいな」
ゴーストアーマー「(こっちくんな)」
妹「うっひゃあ。何なんですのぉ、森の中でここ一帯だけゴミ捨て場みたいな有様じゃあありませんかぁ」
ブラウニー「なに勝手に入ってきてるんですかあの人!!」
妹「よくわからない鉄くずがゴロゴロ……ここでやっぱり何かあったんですわねぇ!!」
敵兵「ちょ、ちょっと!! 部外者でないにしても……そのカッコは何ですか!?」
妹「新色のオーダーメイドでしてよ、あなたの月収何か月ぶんかしらぁ?」
敵兵「そんなヒラヒラフリフリで現場検証来るなァ!!」
デュラハン「発見した蹄鉄の跡からも、やはりここで陣術が起動したのでしょう。それでこのような惨状に……」
将軍丙「……」
ティタニア「確か……あのチビ子ちゃんが接触して、ヴォーパル鋼を少し見繕ってあげたのよね?」
将軍丙「ええ。幕府……皇国の持っている冶金技術はこちらとしても魅力的だった。
勇者くんや魔王……様が有している魔術兵装の改修に有用だと」
ティタニア「……そう、天使どもが吹き込んだわけ?」
デュラハン「クシャスラーにアスモデウス……本当に信用できるので?」
将軍丙「仮にも拝火神族を古来から支えてきた存在よ。教皇領にもある程度顔が利く……愛想良くしておいて損はないはずよ」
デュラハン「そうして完成したのが、この陣術……ネキリの杭、と」
将軍丙「正直言って、状況だけ目の当たりにしても……」
ティタニア「何がどうなってるかワカンナイわねぇ。椀状にクレーターができてて、その上には妙な服を纏った男女の遺体、
そこここに転がる見た事も無い鉄屑……そのイバラキを屠る為にやむを得ずこれを起動したとして、これは一体どういう事なの?」
デュラハン「神格に対抗する為の御業……字面では叡智の教義にほど近いもののようには感じますが」
将軍丙「……見当もつかないわ」
ゴーストアーマー「(あの青肌将軍ってあんまり頭良くないんじゃないかな)」
妹「なになになになんですのぉ? ネキリ? の? クイ? 詳しく聞かせなさいな、私は情報部長ですのよ?」
デュラハン「それぞれ配布した資料にはすでに記載が……」
妹「あんな長い文なんか読めやしませんわ!! 端的に要点だけ教えなさいな、だるい連中ですわね!!」
ティタニア「ちょ……あなた、手ぶらで来たわけぇ?」
妹「御冗談を! 避妊薬にコンドーム、チョコにクッキーにビスケット、エクレアにタルトに……」
デュラハン「書類は……」
妹「捨てましたわよあんなの! 私、三行以上の長文は読む気しませんの!!」
ティタニア「確かにクセが強くてクドイ文章だったけど、それはあんまりに非常識よぉ」
敵兵「」
妹「わかってませんわね、私が常識に従う? ナンセンス! 常識は私の歩いた後に芽吹くものでしてよ? 私が最初にナプキンを取るのです!」
敵兵「(俺の文ってそんなにクドイのかな……)」
デュラハン「いいですか、ネキリというのはお教えした通り……」
妹「あ、おなかすきましたわ! お湯をくださいまし!」
敵兵「(あの首がない人……よくブチ切れないなあ……)」
金長狸「……ひいっ!! やだ、やめて!! わたしに乱暴する気でしょ! 春画みたいに!!」
デュラハン「乱暴なんかしません、しませんから……」
ティタニア「あなたと幕府の方が用いたネキリの杭について、聞きたい事があるのよぉ」
金長狸「は、はぇ」
ティタニア「銘は不詳……シモツケノクニのネネキリ、そんな剣を媒介に使用したのよねぇ?」
金長狸「そ、そう……し、下野はわかります、根斬りそのものも……た、ただ……
何が起こったかなんて、私もよくわかんないです、ほんとです。茨木から逃げるのに必死で必死で」
妹「はぁ~? つっかえない証人ですわねぇ、ひっぱたきますわよぉ?」
金長狸「ひやあああああ」
デュラハン「お、おやめなさいな! 怖がっていますでしょう」
妹「ひゃっwwwwwwひゃっwwwwwひゃwwwwwざっこwwwwwwwwwwwwww」
ティタニア「……続けてくれるぅ?」
金長狸「はい……えっと、あのう……さっき言ったように、も、森に入って、二手に分かれて……
それで、その……根斬りの太刀の欠片を……配置したんです。森の中に、陣を敷くように……こんな円になるように、ええと」
妹「うらーwwwwwwwwww」
金長狸「ひやあああああ」
ティタニア「つまみ出しますわよぉ!?」
妹「あばばばばばwwwwwwwwwwwwwww」
ティタニア「剣の欠片ってこれよねぇ? クレーターの周囲を捜索して発見したものだけどぉ」
金長狸「は、はい……間違いないです、私が地面に刺したの……」
デュラハン「現場付近に放られていたカットラスとも異なる金属で精製されています。
極東諸島に伝わる玉鋼……それに、折り返しの鍛練手法を用いた、カタナと呼ばれる刀剣ですね」
金長狸「……わ、私……もう帰りたいです、四国のふるさと帰りたい……」
妹「んまあwwwイヌモドキの住めるような山も森もないでしょうねえwwwwwきっと開発で潰されてますわwwwwご冥福ぅwwww」
ティタニア「しばきますわよぉ!?」
妹「おおwwwwwwwwwこわいこわいwwwwwwwwwwwwww」
敵兵「(まったく、これじゃあの姉貴の方が……)」
敵兵「……」
ブラウニー「あー……クズだなぁ、あの情報部長。倒木に潰されて死ねばいいのに」
敵兵「ゲボッ、オェェェェェェッ!!!!」
ピクシー「童貞中尉がリバースですわ!!」
ブラウニー「現場汚さないでくださいよ!!」
敵兵「(一瞬……一瞬でも、あのクズの方がマシと思ってしまった……だと……?)」
勇者「……」
将軍丙「タヌちゃんと、幕府の彼女が命を賭して持ち帰ったものよ」
勇者「……そうか。手間をかけさせて、ごめんね」
将軍丙「私も、ここまで来たらもうドロップアウトなんてまっぴらだわ。西欧でやるべき事ができたもの、手間だなんて」
勇者「……」
敵兵「あ、あの……あの髪の毛って」
将軍丙「……」
敵兵「勇者さんとこの……お、幼馴染……」
勇者「……ふふ、腐れ縁です。何と言ったららいいかわかりませんが……
とりあえずは……『生きていてくれて良かった』とでもしておいてください」
ティタニア「タヌ子ちゃんの言う通りなら……何だかもう、底抜けに趣味が悪い連中よねぇ……エルフってぇ」
デュラハン「メリフェラを利用して、国際社会での心証を有利な方向に向かわせる気だったと……?」
将軍丙「状況証拠だけしか揃ってないとはいえ、あのアジ=ダハーカが背後にいると考えれば、何があってもおかしくはないわ」
勇者「……ありがとう。ネキリの杭についても、引き続き調べておいてくれるかな」
将軍丙「え……ええ。それはもう、本国へメカニズムの解明は申請してあるわ」
勇者「助かる。今はアジ=ダハーカの最大戦力を僕たちのみで抑えられるだけの確定材料が欲しい」
デュラハン「イバラキを屠ったネキリの杭の実戦運用……ですか?」
勇者「勝てる可能性があるなら、使わない手はない。無論、当面は抑止として運用するべきだとは思うけどね」
ティタニア「(ま、当然よねぇ……あんな榴弾何百発ぶんの威力を持つようなもの……クランの間でも反感を買うでしょうねぇ)」
勇者「……」
妹「榴弾何百発ぶん……鬼をも殺せる超兵器……ネキリの杭……」
妹「くききwwwwwwwwww小姉様もそんなん持ってねェーだろォーなァーwwwwwwwwwwwwwwざっこwwwwwwwwwざっっっこwwwwwww」
妹「あーwwwwやっべwwwwww欲しくなっちったなぁーwwwwwwwどーしょっかなぁーwwwwwwwどーやってぶんどろっかなぁーwwwww」
第8部 ガリア=ベルギガ編 弐
第8部 ガリア=ベルギガ編 惨へ
女騎士と比べて何もない