~~魔王城にて~~
魔王「それでは、お前達はこの城に残るというのだな?」
獣族娘「はっ、私の忠義は魔王様と勇者殿に捧げております」
魔王「頼もしい言葉ではないか。なぁ、勇者よ?」
勇者「……お前、最初から企んでたな?」
魔王「何の事だ? 企むなどと勇者の言葉とは思えんな」
勇者「……ふん」
魔王「まあいい。お前には手伝ってもらいたい事がまだ山ほどあるからな」
勇者「まだ俺に何かやらせるつもりか!」
獣族娘「ご安心ください。私も微力ながら勇者殿のお手伝いをさせていただきます」
魔王「聞いたか勇者よ? 健気な娘ではないか」
勇者「うるさい!」
獣族娘「や、やはり私などが一緒では、ご迷惑なのですね……」
勇者「い、いや、お前に言ったんじゃなくて……」
※前スレ
魔王「これからも宜しく頼むぞ勇者よ!」勇者「あぁ、こちらこそな」
元スレ
魔王「これからも宜しく頼むぞ勇者よ!」勇者「あぁ、こちらこそな」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1330174273/
獣族娘「では!」
勇者「……もう勝手にしてくれ」
骸骨「うんうん。微笑ましい光景ですね、魔王様」
魔王「ふん。馬鹿騒ぎも程々にして欲しいな」
勇者「お前が言うな!」
魔王「僕と勇者の利害は一致しているはずだ。そうだな?」
勇者「くっ、それはそうだが……」
魔王「それに、僕には勇者の力が必要なんだ」
勇者「……急にしおらしくなるなよ」
魔王「悔しいが、今の僕の力だけでは、な」
勇者「わかったよ。但し、道に外れるような真似は困るぞ?」
魔王「これからも宜しく頼むぞ勇者よ!」
勇者「あぁ、こちらこそな」
~~翌日 魔王城 執務室にて~~
獣族娘「では、この地図に記されている近隣の村々で、毒虫の発生を確認すればよいのですね?」
魔王「そうだ。お前達の村で虫が発生したという事は、他の村でも同様の可能性があるからな」
獣族娘「流石は魔王様です。その慈悲深いお心を知れば、民も一層の忠節を尽くしましょう」
魔王「……ふん、だといいのだがな」
獣族娘「は? ど、どういう事でしょうか?」
魔王「上手く対処が出来れば、僕に感謝もするだろうが……」
勇者「何も問題がなければそれで当たり前、対応が遅ければ恨まれる。そう言いたいんだろ?」
魔王「その通りだ。よくわかっているではないか」
獣族娘「そういうものなのでしょうか?」
勇者「城からなかなか人が派遣されず、お前達はどう思っていたと俺に言った?」
獣族娘「そ、それは……その……」
魔王「良い良い。勇者のお前が虐めるものではないだろう?」
勇者「そうだな……意地の悪い事を言ってしまった。すまない」
獣族娘「い、いえ……」
獣族A「ところで、勇者殿も我らと一緒に行かれるんですかね?」
魔王「勇者には、別にやってもらいたい事がある。だからお前達とは別行動だ」
獣族娘「そ、そうですか……」
魔王「そうがっかりするな。お前達と一緒でないから、勇者殿も機嫌が悪いようだな?」チラッ
勇者「はぁ?」
魔王「先程、お前に対して意地の悪い言葉を投げたのも、機嫌が悪いせいだ。許してやれ」
獣族娘「そ、そうでしたか……///」
獣族B「それなら仕方ないですね、若君」
獣族C「えぇ、我らだけで頑張りましょう!」
骸骨「全く、勇者殿も大人げのない事で」
勇者「お、おい! お前達、何を勝手な事を……」
魔王「あーわかったわかった。機会があれば一緒の任務が出来るよう善処してやる」
勇者「こ、こいつら……」
魔王「まぁ、大人げない勇者は一先ず放っておこう。おい、あれを持ってこい」
骸骨「はっ……」
獣族娘「……これは?」
骸骨「魔王様の巡察隊である以上、その格好のままでは示しがつきません」
魔王「魔王軍の獣族用制式鎧だ。巡察に行く時はこれを身に着けて行くがよい」
骸骨「獣族が戦闘体勢を取った時、筋肉で体が一回り大きくなりますので、それを考慮した設計になっております」
勇者「うん……革の部品を革紐で繋いで……ほう、急所には金属片を縫いこんであるのか」
魔王「急に生き生きとしおって。まさか、お前が興味を持つとは思わなかったぞ」
勇者「命に係わる事だからな。こういう物を見るのは嫌いじゃないんだ」
魔王「即物的な理由だな。つまらん奴め」
獣族C「こ、これを我らが身に着けるんですか?」
魔王「そうだ」
獣族B「ま、魔王軍の鎧だ……凄ぇ」
骸骨「君達が標準的な体型なので、微調整をするだけで済みました」
獣族A「い、今着けてもいいですか?」
獣族娘「馬鹿者、魔王様の御前だぞ!」
魔王「良い良い。今でも後でも好きにしろ」
獣族A「こ、これはどうやって着けるんだ?」
獣族B「それはここから腕を通すんじゃないか?」
獣族C「え、えっと……」
獣族娘「それは、その留め金を留めるんだ」
―――十分後―――
獣族娘「い、如何でしょうか?」
勇者「初めてにしては、なかなか様になっているじゃないか」
骸骨「はい、先程までとは見違えましたね」
魔王「革紐で各部品を繋いでいる分、強度は落ちてしまうが、動きを妨げないように工夫してある」
獣族A「本当だ!?」
獣族B「あぁ、これなら邪魔にならないな」
獣族C「しかも軽いな、この鎧は」
魔王「そうだろう、僕の自信作だぞ」
勇者「お前が考えたのか、この鎧?」
魔王「そうだ。以前の物は動きを妨げると、獣族から不満の声が出ていたからな」
魔王「何だ。その呆れた顔は?」
勇者「呆れたというか、凄いなと思ってな」
骸骨「魔王様は武具の他にも農耕具や生活用品など、様々な発明、改良をされていらっしゃいます」
魔王「まあ、僕の趣味の一つとでも思ってくれ」
勇者「へぇ……」
魔王「使い難(にく)いものを、そのまま使い続ける方のは、馬鹿でも出来る事だ」
勇者「まぁ、確かに…… だからといって、すぐに改良出来るもんでもないだろう」
魔王「当たり前だ。だが、それを考えるのが面白いのではないか」
勇者「ふーん、そういうものなのか」
骸骨「これで格好だけでも体裁は整いましたか。具合は如何ですか?」
獣族娘「はい! ますます身の引き締まる思いです」
勇者「いや……そういう事を聞いているんじゃないと思うぞ……」
魔王「そうか……では、お前達が任務にあたる前に、確認しておきたい事がある」
獣族娘「な、何でしょうか?」
魔王「そう畏(かしこ)まるでない。気を楽にしろ」
魔王「お前達は今後、僕の手足となって働いてもらう。それでよいのだな?」
獣族娘「はい、仰せの通りです!」
獣族達「は、はいっ!」
魔王「では、僕がこれからする話を、よく心に刻んで欲しい」
勇者「えーと、俺は?」
魔王「良ければ聞いておけ。勇者もあながち無関係とは言えん」
勇者「あぁ……」
魔王「……さて、続けようか。お前達の忠義が厚い事、それは僕もわかっているつもりだ」
獣族娘「はい」
魔王「だが、日々の生活が平穏に保たれなければ、民の心は移ろう」
魔王「移ろった末、怨嗟(えんさ)の声は為政者……王へと向けられる。どうしてだかわかるか?」
獣族A「お、おい、ど、どうしてだ?」
獣族B「さ、さぁ?」
獣族C「うーん……」
獣族娘「え、偉いからでしょうか?」
魔王「そうだな。偉いからというのは間違いではない。では、偉いとはどういう事だ?」
獣族娘「え、えっと…… も、申し訳ありません。私には少し難しいです」
魔王「偉いというのはな、お前達のような民が偉いと思ってくれているから偉いのだ」
獣族達「う、うん?」
魔王「では、わかりやすい例を出してやろう」
獣族娘「お、お願いします」
魔王「例えばだ。一人の王しか住んでいない国があるとするな?」
獣族娘「王が一人だけ住む国、ですか?」
魔王「そうだ。その王は、はたして偉いと言えるか?」
獣族A「お、王様は偉いもんじゃないでしょうか?」
魔王「敬う者が誰もいないのに、どうやって偉いと確認するのだ?」
獣族B「う、うーん……」
魔王「その王が、自分の事を偉いと思うのは勝手だ」
獣族C「は、はい」
魔王「しかし、その王を偉いと認める者がいなければ、本当に偉いかは確認出来ないとは思わないか?」
獣族娘「難しいですね……」
勇者「魔王、前から思っていたんだが、お前の話は少し概念的過ぎる」
魔王「そうか? 僕はこれでも、随分噛み砕いているつもりなんだが……」
勇者「そうだな……お前達、ある男が『俺は強い!』と言っているとするだろう?」
獣族A「はぁ……」
勇者「でも、その男は誰とも戦った事がない。何故なら、その男は一人ぼっちだからだ」
獣族B「誰とも戦った事がなければ、強いとは言えないんじゃありませんか?」
勇者「その通りだな。その男は本当に強いかもしれないし、本当は弱いかもしれない」
獣族C「弱い奴が、粋がっているだけかもしれませんね」
勇者「じゃあ、お前達の族長はどうだ?」
獣族娘「父上は強いに決まっております。それは村の全員が知っている事です」
勇者「その通りだ。村の者が全員が強いと認めている。だから族長は強い事が確認出来る」
獣族達「うんうん」
勇者「魔王が言いたい事は少し違うんだろうが……」
勇者「強いも偉いも他に認める人がいなければ、本当にそうなのか、わからないって事だ」
獣族達「なるほどなぁ……」
勇者「どうだ、わかったか?」
獣族A「そう言われると、わかる気がします!」
獣族B「あぁ、強いか弱いかなんて、誰かと戦ってみなけりゃわからないからな!」
獣族C「そうだな。一人で強いなんて言ってもなぁ」
獣族娘「偉いという事も誰かと比較し、誰かが認める事でわかる。同じ事なのですね」
勇者「うんうん」
魔王「……どうしてだ」
獣族達「……えっ?」
魔王「どうして僕の話が理解出来ず、勇者の話が理解出来るんだ……」
獣族娘「い、いえ、決して魔王様のお話がどうだという事ではなく、我らには少し難しかったというか……」
勇者「だから言っただろう、お前の話は概念的過ぎると」
魔王「勇者の話も概念的ではないか!」
勇者「だから、俺は聞く人が興味を持てる、例えを使って話をしたんだ。お前との違いはそこだ」
魔王「ぐぬぬぬぬ」
骸骨「魔王様、お話が脱線しております」
魔王「くっ……まぁ良い。では、偉いという事がどういう事かはわかってくれたな?」
獣族達「はいっ!」
魔王「では、民から偉いと認められるには、何をしなければいけないか……」
勇者「あんまり小難しく言うなよ?」
魔王「うるさい! 僕が話しているんだ。口を挟むな!」
勇者「はいはい、悪かったよ」
魔王「……ふん、これは簡単だ。国の平和、即(すなわ)ち民である、お前達の平穏な生活を守る事だ」
獣族娘「我らの平穏な生活ですか?」
魔王「そうだ。凶作に備えて食糧を貯え、洪水や旱(ひでり)に備えて堤防や溜池を整備する」
勇者「ふむ……」
魔王「街道を整備して交通の便を良くし、民の安全を守る為に治安を良くする」
勇者「先のように、代官を派遣して揉め事を解決するのもそうだな」
魔王「その通りだ。他にも挙げればきりはないが、民の力だけでは難しい事が中心になる」
獣族達「なるほど……」
魔王「為政者……即ち王は民が暮らしやすいようにしてやり……」
魔王「民は自分達が暮らしやすいようにしてくれる王を、良い王として偉いと認める訳だ」
獣族娘「はい。確かに我らが暮らしやすいようにしてださる王は、良い王だと思います」
魔王「ここまでは良いな?」
獣族達「はいっ」
魔王「よし、ではもう少し突っ込んだ話をする。難しいかもしれないが、心して聞いてほしい」
獣族達「は、はぁ……」
勇者「出来る範囲で俺が補足してやるから、もう少し気を楽にしろ」
獣族達「お、お願いします」
魔王「先ほど挙げたような、民が暮らしやすくする為に必要な事……」
魔王「これは、どれを行うにしても莫大な費用と労力が必要になる」
魔王「その費用と労力は、どこから捻出されるかわかるか?」
獣族A「えっと……王様が出してくれるんですよね?」
獣族B「そうだよな、俺達はそんな大金持ってないし」
獣族C「うーん、俺達が子供の頃に街道の補修工事があったよな? そん時はどうだったっけ?」
勇者(『時間がない時間が惜しい』とか言いながら魔王の奴……)
勇者(こいつらが自分達で考えるように、わざとこんなまわりくどい手法で、話をしているのか?)
獣族娘「確かあの時は……村の男手の半分が工事に借り出されたはずだ」
魔王「そうだ。幾ら偉いと認められた良い王とはいえ、一人の力には限界がある」
獣族達「はい」
魔王「だから、大掛かりな労力が必要となった場合、民に力を借りなければならない」
魔王「これは一般的に『労役(ろうえき)』と呼ばれるものだ」
獣族娘「我らの暮らしを良くする為に、我らが自分の力を振るう訳ですね」
魔王「そうとばかりも言えないのだが……その話は後でしてやろう」
獣族達「はぁ……」
魔王「労力の話はわかったと思うから、次に費用の話だ」
獣族達「はい」
魔王「お前。先程、金は王が出していると言ったな?」
獣族A「は、はいっ」
魔王「残念ながら、王が金を出している訳ではない」
獣族A「そ、そうなんですか!?」
魔王「うむ。王が金を出しているように見えるが、本当のところは違うのだ」
獣族B「それじゃぁ、どっからお金が出てくるんです?」
魔王「金を出しているのは王ではなく、お前達民だ」
獣族C「俺達がですか?」
魔王「うむ。お前達は毎年、収穫された産物の中から、決められた量を納めているだろう?」
獣族娘「はい。我らの村では父上や妖精族の長が取りまとめて、城に納めております」
魔王「そうだな。お前達の村では、小麦と獣の皮を城に納めてくれているな」
獣族娘「はい、その通りです」
魔王「お前達の村では物々交換が多いだろうが、都市や街に行けば通貨で商売を行っている」
獣族娘「そうですね。村は全員が顔見知りですから、必要な物があれば交換で済ます事がほとんどです」
魔王「街で商売をするには、許可が必要な事は知っておるか?」
獣族A「へ? そんなものが必要なんですか?」
獣族B「お前、知ってたか?」
獣族C「いや……」
魔王「商売に許可が必要なのは、二つの理由がある」
勇者(さっきは概念的過ぎると言ったが……)
勇者(獣族達も、段々と興味を持ってきたみたいじゃないか)
魔王「一つは通貨の流通量を管理しやすくする為……まぁこの話は今回はあまり重要ではない」
勇者(それにしても……骸骨の奴は身動き一つしないな)
勇者(こうして見ているとまるで置物か骨格標本の……)
骸骨「何か御用でしょうか?」クルン
勇者「い、いや!? 何でもない」
魔王「お前達、邪魔をするなら部屋から出て行け!」
勇者「す、すまない。大人しくしている」
骸骨「それでは、御用がありましたらお呼びください」スッ
魔王「全く……続けるぞ?」
獣族達「お願いします」
魔王「商売に許可が必要な、二つ目の理由だったな」
獣族娘「はい。一つ目は通貨の流通量の管理でしたか?」
魔王「そうだな。二つ目は商売によって得られた利益から、税金を徴収する為だ」
獣族娘「税金?」
魔王「そうだ。税金の使途目的としては、治安の維持や街道等の整備という事になっている」
獣族C「あ、あの……よろしいでしょうか?」
魔王「何だ、申してみよ」
獣族C「は、はい。商売を許可制にする事と税金を徴収する事が結びつかないんですが……」
魔王「良い所に目をつけたな。お前は見所があるぞ」
獣族C「あ、あはは、そうでしょうか?」
魔王「商売の許可だが、継続的に商売をしたいなら、許可を更新する事が決まりとなっている」
獣族B「更新……ですか?」
魔王「その通りだ。詳しいことは省くが、実績によって最長でも5年に一度の更新が必要だ」
獣族A「結構面倒臭いもんなんですね、商売をするのにも」
魔王「まあな。更新の際には手数料と、それまでの商売の利益に応じて税金を徴収している」
獣族娘「許可のない者が商売をした場合は、どうなるのですか?」
魔王「余り派手にやらなければ、とりたてて問題はない」
獣族A「それなら、わざわざ許可なんて取らない方が得なんじゃ……」
獣族B「おい! 魔王様に馬鹿な事を言うな!」
獣族C「そうだぞ、少しはわきまえろ!」
魔王「良い良い。そう思うのは当然の事だ。だがな……」
獣族達「……」ゴクリ
魔王「許可のない者が、商売をしているのを見つかれば、財産は没収だ」
獣族A「ぼ、没収ですか!?」
魔王「全て没収だ。それに盗難などの被害に遭って、被害品が見つかったとしても返還されない」
獣族B「全てっていうのは厳しいですね」
魔王「許可を持っている商人達を、保護してやる必要があるからな」
獣族C「なるほど……」
魔王「まだあるぞ。関所を通過する際に、商売の許可があれば通行税は免除される」
獣族娘「免除ですか? それなら許可があった方がいいですね」
魔王「その通りだ。取るだけでなく与えなければ、許可制にする理由が希薄になる」
魔王「今説明した以外にも、様々な場所で税は徴収されておるが、まぁ今は良いだろう」
獣族A「何だか知らない事ばっかりだ……」
魔王「どうだ? 自分の知らない事を、勉強するのは面白いだろう」
獣族B「はい。ちょっと難しいですけど……」
獣族C「少し世界が広がった感じがしますね」
魔王「うむ、良い事だ。まぁ、こうして税によって民から集められた金品を、為政者が管理をする」
獣族娘「それを我らの暮らしを良くする為、必要に応じて使って頂いてるのですね」
魔王「その通りだ。お前達はなかなか筋がいいな。時間があれば色々と教えてやりたいものだ」
獣族達「はい、お願いします!」
魔王「労役によって税の一部が免除されたりと、本当は色々とややこしい部分もあるが……」
魔王「こうして集められた金と労力を、王が必要応じて民の暮らし向きを良くする為に使っておる」
魔王「民の暮らしを良くするのは、王としての義務であり責務だ。無論、民の努力も必要だぞ?」
獣族娘「王様としての義務……責務……」
魔王「お前の父も族長という立場で、村での生活を良くする為に日々励んでいるだろう?」
獣族娘「は、はいっ!」
魔王「では、それがどれだけの大任か、お前にはわかるはずだな?」
獣族娘「はい。此度の事で父が倒れ……その任を代行し……」
魔王「うむ」
獣族娘「父がどれだけの大任を背負っているのか、また己の力不足を痛感致しました……」
魔王「良い経験をしたと思えばよい」
獣族娘「はっ……お言葉、畏れ入ります」
魔王「その大任の対価という訳ではないが……」
魔王「為政者はこのような城に住み、ある程度の贅沢を民から許されている」
魔王「……だが、王がその務めを果たさなければどうなる?」
獣族娘「務めを、ですか?」
魔王「そうだ。己の欲の欲するまま奢侈(しゃし)に溺れ、民の暮らしを顧みず、その務めを果たさなければどうなる?」
獣族A「えっと……」
獣族B「困るよなぁ、俺達?」
獣族C「あぁ、困るよな」
魔王「お前達が困るという事は……どういう状況になっている?」
獣族娘「魔王様が仰られていた、我らの平穏な暮らしが失われているという事ではないでしょうか?」
魔王「その通りだ。ここで僕が最初に言った話に戻る事になる」
獣族達「……」
魔王「僕の父さまである先代の魔王は、人間共の手に掛かりその命を落とした」
勇者「……」
魔王「僕はその後を引継ぎ、魔王としての責を果たそうとしているが……」
魔王「お前がそうであったように、僕も自分の力不足を痛感しているところだ」
獣族娘「魔王様も……ですか?」
魔王「そうだ。だがそれは為政者の……僕の都合だ。民には関係ない」
獣族A「いや……」
獣族B「でも……」
獣族C「しかし……」
魔王「では、お前たちに聞きたい」
魔王「王が責を怠った為に治安が悪くなり、野盗が横行しているとする」
魔王「そして、お前達の家族が野盗の犠牲に遭ったとして……お前達は仕方ないと納得出来るか?」
獣族達「そ、それは……」
魔王「そうだ。そんな不条理は、誰であれ納得など出来るものではない」
獣族達「は、はい……」
魔王「どんな理由であれ、王がその責を全う出来なければ、民の生活は荒んでいく」
魔王「自らの生活が荒めば、民は責を果たさない王を恨み、怨嗟の声を上げるのだ」
獣族達「…………」
魔王「お前達が各村を回った時、そんな民から怨嗟の声をぶつけられるかもしれない」
獣族A「……俺達が?」
魔王「だが、それはお前達が悪いのではない。本来なら、僕が受けなければならない声なのだ」
獣族B「魔王様がですか?」
魔王「そうだ。お前達が謂(いわ)れもなく受けるかもしれない怨嗟は、僕の力が足りない為だ」
獣族C「いや、でも……」
魔王「そこでお前達に頼みがある」
獣族娘「魔王様が……我らにですか?」
魔王「もし、そういった声を聞いたなら、全ての声を僕の下に届けて欲しい」
獣族娘「声を、魔王様にですか?」
魔王「そうだ。お前達は村々で罵声を浴びせられたり、石を撃ちつけられる事すらあるかもしれん」
獣族達「……」
魔王「だが、決して感情的にならず、全ての声を聞いてきて欲しいのだ」
魔王「そして、出来れば……僕の力不足を……僕に代わって詫びて欲しい」
獣族娘「わ、我らが魔王様の代わりになど、とんでもありません!」
魔王「虫のいい頼みだという事は承知している」
魔王「だから、僕はお前達に……こうして頭を下げて頼むしかないのだ」
獣族A「ま、魔王様!?」
獣族B「え? えっ!?」
獣族C「ちょ、ちょっと!?」
獣族娘「ま、魔王様!? わ、我らに頭を下げるなど!?」
勇者「なぁ……顔を上げてやれよ。困っているじゃないか」
魔王「うるさい! この者らが下げる必要のない頭を、僕の代わりに下げてくれと頼んでいるのだぞ」
魔王「これは魔王としての責の問題ではない。この者らに迷惑を掛ける僕個人の問題なのだ」
勇者「魔王……」
獣族娘「魔王様……顔をお上げください」
魔王「……」
獣族娘「魔王様の衷心(ちゅうしん)、我らしかと受け取らせて頂きました」
魔王「では……」
獣族娘「はい。必要とあればこの頭、幾らでも下げて参りましょう」
魔王「すまない……頼む」
獣族達「はっ!」
勇者(魔王は、本当に民の事を第一に考えているように見える)
勇者(俺の知っている王や領主達は、ここまで真剣に民の事を考えているだろうか?)
勇者(……いや、それよりも俺自身が、ここまで出来るだろうか?)
勇者(自らの力不足を認め、こうして頭を下げる……)
勇者(簡単なようで、なかなか出来る事じゃない……)
勇者(魔王の手助けをすれば、魔界は確実に良くなっていくだろう)
勇者(だが、本当にそれだけでいいのか? 俺には何か、他に出来る事がないのか?)
~~二時間後 魔王城 執務室にて~~
魔王「行ったか」
骸骨「行きましたね」
勇者「……それで、俺にやらせたい事とは?」
魔王「憶えていたか」
勇者「当たり前だ。その為に俺を残したんじゃないのか?」
魔王「では先程、野盗の話が出た事は憶えているな?」
勇者「確か、治安が悪くなって野盗がどうとか……」
魔王「ここから北の境にある街の関門で、商人達の荷が野盗共に奪われている」
勇者「関門には、兵が配置されているんじゃないのか?」
魔王「報告によれば……どうやら野盗の中に魔法の使い手がいるらしい」
勇者「魔法だと?」
魔王「ああ。魔法よって関門の兵達が無力化され、野盗共の好きなようにされている」
勇者「それを俺に何とかしろと?」
魔王「その通りだ。お前向きの仕事だろう?」
勇者「確かにそうだが……」
魔王「どうした? 不満があるならさっさと言え」
勇者「不満って訳じゃないが、どうして獣族達は別行動なんだ?」
魔王「あの者らは魔法への耐性が低い。だから一緒に行っても、あまり役には立たんだろう」
勇者「成る程……そういう事か」
魔王「そういう事だ。それにあの者らに任せた仕事も、早急の対応を必要としている」
勇者「毒虫による水の汚染の確認か……」
魔王「水は生き物が生きていく上で、必要不可欠なものだ」
勇者「確かに……その通りだな」
魔王「水の事がなかったとしても、城の周囲の民意はしっかりと抑えておきたい」
勇者「巡察なら、別にあいつらでなくても良かったんじゃないのか?」
魔王「初任務としては手頃だろう? それにあの者らにも、現状をよく認識してもらいたいからな」
骸骨「彼らにも徐々に慣れてもらう必要がありますゆえ。それにしても……」
勇者「……何だ?」
骸骨「いえ。勇者殿は、やけに彼らの事を気に掛けていらっしゃると思いまして」
勇者「心配して何が悪い? 理由はどうであれ、あいつらをここに連れてきたのは俺だ」
骸骨「左様でございますか」
勇者「奥歯に物が挟まったような物言いだな」
骸骨「いえ。ご気分を害されたのでしたら、お詫び致します」
魔王「どうした、やけに機嫌が悪いじゃないか。あの者らと一緒でないのが、そんなに不満か?」
勇者「そういう訳じゃないんだが……」
魔王「骸骨よ。貴様も勇者を試すような物言いはやめろ」
骸骨「申し訳ございません。僭越でした」
勇者「いや、こいつは悪くない。俺の方こそ突っ掛かって悪かった」
魔王「勇者よ。思っている事があるならここで言え。任務に支障を来(きた)されると僕が困る」
勇者「……あいつらを、心配しているのは本当なんだ。慕われるのだって悪い気はしてない」
魔王「ふむ……」
勇者「だが、あいつらの平穏な日常を奪ったのは俺なんだ」
魔王「……お前が父さまを討ち取った事を言っているのか?」
勇者「そうだ。俺は魔界の勇者なんかじゃない。それがあいつらを騙しているようで……」
骸骨「左様でございましたか。それで先程から、様子がおかしかったのでございますね」
勇者「お前に当たったのは、ただの八つ当たりだ。本当にすまない」
骸骨「いいえ。魔王様が仰られた通り、私の僭越でございます。申し訳ございません」
魔王「はぁ……全く面倒臭い奴だな。そんな事で悩んでいたのか」
勇者「お前にとってはそんな事でも、俺にとっては重要な事だ」
魔王「お前のした事は、確かにあの者らの平穏な日常を奪ったのかもしれん」
勇者「……」
魔王「だが、お前は自分の信じた正義の為に、父さまを討ち取ったはずだ」
勇者「ああ……」
魔王「だが、父さまを討ち取った事で、魔界の秩序は混乱し……」
魔王「結果、お前達も僕達も平穏を失ってしまった」
勇者「その……通りだ」
魔王「そして、お前は自分の振りかざした正義が、必ずしも正しくない事を知った。そうだな?」
勇者「……そう、だ」
魔王「自分が正しくない事を知った時、どうするべきか? 答えは簡単だ」
魔王「誤ったのなら正せばいい。幸いな事に、お前にはまだその機会が与えられてる」
勇者「機会が……俺に?」
魔王「そうだ。平穏を失ったとはいえ、魔物も人間も滅んだ訳ではない」
勇者「……」
魔王「過ちを犯した時、やり直す機会を与えられる事は多くないぞ?」
魔王「その機会を、生かすも殺すも自分次第だという事を覚えておけ」
勇者「俺に出来ると思うか?」
魔王「そんな事は僕は知らん。お前が自ら考えて、悩んで、苦しんで、行動して、その答えを出せ」
勇者「……そうだな」
魔王「器からこぼしてしまった水も、壊れてしまった物も元には戻らない」
魔王「だが、こぼしてしまったのなら、水を汲み直せばよい」
勇者「汲み直す……」
魔王「壊れてしまったのなら、新しく作ればよい。何もしないのが一番の罪だ」
勇者「何もしないのが一番の罪……」
魔王「そうして呆けている暇があるなら、さっさと北の関門に向かえ!」
~~一時間後 魔王城 執務室にて~~
骸骨「勇者殿に教えなくて良かったのですか?」
魔王「行けばわかる事だ。現状を認識してもらいたいのは、勇者も同じ事だからな」
魔王「……何か言いたそうだな?」
骸骨「魔王様は勇者殿に対して、甘いのか厳しいのかよくわかりません」
魔王「僕には、馬鹿者を甘やかす余裕などない」
骸骨「では、何ゆえ勇者殿の心を、お慰めするようなお言葉を掛けられたのです?」
魔王「あれが慰めているように見えるのなら、お前の目は節穴だな」
骸骨「穴が開いておりますゆえ、節穴と言うのは間違っておりません」
魔王「……あれはな」
骸骨「はい」
魔王「勇者は迷っているだけなのだ」
骸骨「迷っている、ですか?」
魔王「そうだ。己の信じた正義という標(しるべ)を失い、道に迷っている」
骸骨「随分と大きな迷い子ですね」
魔王「貴様は勇者がなぜ勇者足りえるか、その理由を知っているか?」
骸骨「さて? 何か特別な理由があるのでしょうか?」
魔王「二つの理由があると、僕は考えている」
骸骨「お聞かせ願えますか?」
魔王「一つは他者を惹きつける力だ」
骸骨「それでしたら、魔王様にもおありではありませんか?」
魔王「僕の場合は、代々の魔王としての積み重ねがあるだけだ」
骸骨「積み重ねですか?」
魔王「そうだ。あの者ら……獣族達を見たであろう?」
骸骨「はい」
魔王「幾ら事件を解決したとはいえ……」
魔王「勇者に会ったばかりのあの者らが、わざわざこの城まで着いてくる理由にはならない」
骸骨「確かに」
魔王「貴様とて、勇者の事は悪くは思っていないだろう?」
骸骨「先代様の件を置いておくなら、勇者殿に他意はございません」
魔王「言葉では説明出来ない他者を惹きつける力、あれは僕にはないものだ」
骸骨「もう一つの理由は何でしょう?」
魔王「もう一つは、信念を持った時の行動力だ」
骸骨「ふむ……信念ですか?」
魔王「迷う事なく己の信念を貫く為の行動力、それは貴様もよく知っているだろう?」
骸骨「先代様と戦われた時の事ですね」
魔王「正直、僕は父さまが負ける事など、微塵も想像しなかった」
骸骨「それは私とて同じ事です」
魔王「次々と仲間が倒れる中、一人父さまに立ち向かい、ついには己の信念を貫き通したのだ」
骸骨「敵ながら天晴れと言わざるを得ません」
魔王「あの行動力……いや爆発力と言ってもいい。あれも僕にはないものだ」
骸骨「魔王様と勇者殿は違います。比べる必要などありません」
魔王「そんな事はわかっている。だが、僕の持っていない力を持つ勇者を、正直妬ましく思う……」
魔王「それ故、それだけの力を持ちながら、愚図愚図と燻っている勇者が許せないのだ」
骸骨「魔王様……」
魔王「勇者が再び信念を持ち、迷う事なく動き出せば……」
魔王「多くの者を巻き込んで、事態は先へと進んでいくだろう」
骸骨「魔王様は、それを利用されようとお考えなのですか?」
魔王「言い方は悪いがその通りだ。そして、勇者の力で物事が変わる事に期待もしている」
魔王「だが、今のあいつは勇者であって勇者ではない」
骸骨「信じる物が揺らいでしまったからですね」
魔王「そうだ。だからこの僕が、勇者に信じる物を与えてやろうというのだ」
骸骨「それで、勇者殿を手元に置かれようとお考えになったのですか?」
魔王「何か問題でもあるか?」
骸骨「いえ。それが魔王様のお考えなら、私はそれに従うのみです」
魔王「そうか。……僕は仕事に戻るぞ」
骸骨「はい。御用があればお呼びください」ガチャッ
骸骨(……しかし、お気づきですか魔王様)
骸骨(どんな理由であれ、御自身が勇者殿に、何かを与えようとされているのは……)
骸骨(それは、魔王様が勇者殿に惹かれているという事に他なりませんか?)
~~三日後 北の関門街近郊にて~~
勇者(騎獣の行軍で3日……まともに歩けば8日は掛るか?)
勇者(それにしても……)
勇者(街道沿いに、やけに粗末な小屋が目立つな……)
勇者(いや……小屋とも言えないような物が多い……あれは住居か?)
勇者(街に近づくつれて、数も増えているようだが……)
勇者(小屋の側にいる者達の身に着けている着衣も……)
勇者(……まともとはお世辞にも言い難い)
勇者(そして何より……)
勇者(……目に生気がない)
勇者(魔王の奴は何も言っていなかったが、一体何が起きているんだ?)
勇者(…………)
勇者(街に行って、状況を確認するのが一番早いか?)
勇者(急ごう!)
~~午前 関門街 指令所にて~~
関門長「確認した。この命令状は確かに魔王様の手によるものだな」
勇者(流石に鬼族……でかいな)
勇者(俺も取り立てて背が低い訳ではないが、その俺より頭二つは上か?)
勇者「差し支えなければ、命令状には何と?」
関門長「一文だけ『この命令状を持参した者と共に、野盗を討伐せよ』と」
勇者「……それだけか?」
関門長「ああ。魔王様らしいといえば魔王様らしい簡潔な命令だ」
勇者「関門長は魔王……様の事を存じ上げているのか?」
関門長「うむ、俺が城にいる時に何度かな」
勇者「元々は城におられたのか?」
関門長「そうだ。あとはここの関門長に任命された時に、お声を掛けて頂いているが……」
勇者「うん?」
関門長「気難しいが、お心の優しいお方だ。あのお方なら、先代様にも負けぬ魔王になるだろう」
勇者「……そうだな」
関門長「それにしても、まさか親衛隊を派遣して貰えるとは思わなかったぞ」
勇者「どうして?」
関門長「親衛隊といえば、魔王様の私兵だからな。その行動は何人(なんぴと)にも妨げる事は出来ん」
勇者「へぇ、それは凄いな」
関門長「おいおい、あんたがその親衛隊だろうが」
勇者「い、いや、俺は人間の世界に派遣されていたし、親衛隊になって間もないから」
関門長「人間の世界に? 大方何か下手でも打ったのだろう?」
勇者「ま、まぁ、そんなところだ」
関門長「それが親衛隊っていうんだから、大した出世じゃないか」
勇者「あ、あぁ。それにしても、何人っていうのは少し大袈裟じゃないか?」
関門長「大袈裟なもんか。各領地の領主や将軍ですら、親衛隊の行動に是非を問えんのだ」
勇者「領主や将軍も?」
関門長「おいおい、しっかりしてくれよ。そんな事も知らないで親衛隊をやっているのか?」
勇者「す、すまん」
関門長「人間世界に飛ばされるだけあって、抜けた所のある奴だな……ってこりゃぁ不敬罪になるのか?」
勇者「いや、俺が物を知らないだけだ。気にしなくて構わない」
関門長「そう言ってもらえると助かるぜ。どうも堅っ苦しいのは、昔から苦手でな」
勇者「俺も得意な方ではないから、その方が気楽で助かる」
関門長「そうか。ならあんたも楽にやってくれ」
勇者「ああ、そうさせてもらおう」
関門長「では、そろそろ状況を説明しようか」
勇者「いや、その前に教えてもらいたい事がある」
関門長「うん? どうした?」
勇者「街の外のあれは何だ?」
関門長「街の外?」
勇者「街の外だけじゃない。街に入ってからも、多くの貧しい者達が目についた」
関門長「あぁ……魔王様からは何も聞いてないのか?」
勇者「いや、特には何も……」
関門長「そうか……北の状況は知ってるか?」
勇者「いや、それもよくは……」
関門長「呆れたな。本当に何も知らないのか」
勇者「す、すまない」
関門長「はぁ……もしかして、説明を俺に押し付けたのか。あの方らしいといえばあの方らしいが」
勇者「?」
関門長「骨のねーちゃんにでも、やらせればいいだろうに」
勇者「骨のねーちゃん?」
関門長「ん? 魔王様のお側にいただろう? 何だ?もしかして、くたばったのか?」
勇者「さぁ? 執事服を着た奴ならいたが……」
関門長「あぁ! それだそれ!」
勇者「は?」
関門長「それが骨のねーちゃんだ。元気にしてたか?」
勇者「はぁ!?」
関門長「……もしかして、あれが女だって知らなかったのか?」
勇者「はぁぁぁ!?」
関門長「そっかそっか、元気にしてるのなら何よりだぜ」
勇者「まさかあいつが女だったとは……」
関門長「昔の事を知らない奴が見たら仕方ねぇのかぁ……あれは元々魔王様の侍女だったんだ」
勇者「あの骨が……」
関門長「面倒見がいいのはいいんだが、細かい事にうるさい奴でなぁ……」
勇者「確かに細かい所に気のつく奴だとは思ったけど……まさか女とは……」
関門長「城に戻ったら、俺が宜しく言ってたと伝えてくれ」
勇者「わ、わかった」
関門長「それじゃ、話を戻すとするか」
勇者「あぁ、頼む」
関門長「何から説明したもんか……おい、地図を持ってきてくれ!」
関門兵「へい、お頭!」
関門長「お頭は止めろと言っただろ!」
関門兵「す、すんません!」
勇者「え、えっと……」
関門長「あぁいや、みっともない所を見せちまったな」
勇者「い、いや」
関門長「この関門に詰めている連中は、俺が引っ張ってきた奴らも多くてな」
勇者「関門長がわざわざ?」
関門長「ああ。元々は難民でガラの悪い連中が多いが、信用は出来る」
勇者「難民?」
関門長「そうだ。街の中に溢れているのも、外にいる連中も、北から流れてきた難民だ」
関門兵「お持ちしました!」
関門長「おう、ご苦労だったな。下がってていいぞ」
関門兵「へい」
関門長「では、この地図を見てくれ」
勇者「これは……周辺の地図か?」
関門長「あぁ、この街を中心とした地図だ。ここが魔王様の城で……」
関門長「この街の北にある領境(りょうざかい)から北が、大公殿の領地だな」
勇者「大公殿?」
関門長「先代様の弟君だな。魔王様の叔父御に当たられるのか」
勇者「そんな方がいるのか?」
関門長「正確にはいらした、だな」
勇者「どういう事だ?」
関門長「先代様が人間に討たれた時に、先代様を守ろうとして、人間の手に掛かってしまったからな」
勇者「…………」
関門長「純粋な武力だけ見れば、先代様よりも力をお持ちだったとの噂だったんだが……」
勇者(もしかして……玉座の間を守っていた、あいつがそうだったのか?)
関門長「気性は激しいが、公明正大なお方でな。領内をよくまとめられていたようだ」
勇者「それが北から難民を生む理由と、どう関係あるんだ?」
関門長「うーん、大公殿には三人の御子弟がおられてな」
勇者「ああ」
関門長「大公殿亡き後、上の二人が跡目を巡って争われている」
勇者「なぜ争う必要がある? 普通は長子が跡継ぎになるだろう?」
関門長「普通ならそうだ」
勇者「普通じゃない事情があるのか?」
関門長「俺なんかが、上の方々の事情を口にするのもどうかと思うんだが……」
関門長「大公殿の長子は側室の御子で、下のお二人は正室の御子なんだ」
勇者「そういう事情か……」
関門長「ああ。大公殿が跡目を決めず、お亡くなりになられたのも痛い」
勇者「……」
関門長「領内も自分の支持する方を跡目にしようと、二分されていてな」
勇者「大公殿の末弟はどうされているんだ?」
関門長「どちらにも組せずらしいが、それ以上の話は聞こえてこないな」
勇者「そうか……」
関門長「そういう訳で北の領内は、跡目を巡る内戦状態だ」
勇者「それじゃあ、ここにいる難民は、戦火を逃れて……」
関門長「その通りだ。北の領内の民が戦火を逃れる為に、魔王様の直轄領へ次々と集まってきている」
勇者「……」
関門長「これがこの街に、難民が溢れている理由だ」
勇者「魔王様が仲介すれば、内乱を治める事も可能じゃないのか?」
関門長「魔王様も何らかの手は打たれているんだろうが、内戦が治まる気配はないな。それに……」
勇者「うん?」
関門長「大公殿が率いていた北の兵は、魔王軍の中でも精鋭部隊だ」
関門長「現状で手持ちの兵力に乏しい魔王様が、武力で介入する事も難しい」
勇者「そうなのか……」
関門長「だからといって、他の領国から兵を送るとなると、色々と利権が絡んでくる」
勇者「難しいんだな」
関門長「魔王様も頭の痛い所だろう。それにな、ここだけの話なんだが……」
勇者「?」
関門長「大公の子弟が野心を持っていた場合、魔王様に取って代わろうとする可能性もある」
勇者「なんだと!」
関門長「ここだけの話だと言っているだろう。大きな声を出すな」
勇者「す、すまない」
関門長「まぁ、あくまで可能性の話だ。直系ではないといえ、先代様とも血の繋がりはある訳だしな」
関門長「……この話はこれぐらいにして、次は難民の話だ」
勇者「頼む」
関門長「難民については、全て受け入れて保護するように魔王様から指示は出ている」
勇者「そうなのか?」
関門長「難民に配る為の食糧も、非常用の倉を解放してこちらに送ってくれているし……」
関門長「街に定住を希望する者には住居と仕事を与えているが……」
勇者「それでも、この状況なのか?」
関門長「そうだ。北からの難民が予想以上に増えている。それだけ内戦が悪化してるって事だろう」
勇者「……」
関門長「この街の広げる計画もあるようだが、もうちょっと先の話だな」
勇者「そうか……」
関門長「それでこの難民が、今回の野盗騒ぎとも関係あってなぁ……」
勇者「もしかして……」
関門長「あぁ、あんたの想像通りだ」
関門長「食い詰めた一部の連中が徒党を組んで、野盗と化しちまったんだよ」
勇者「難民に食糧は分け与えているんだろう?」
関門長「配給はしているが、この人数だ。十分な量とは言い難い」
勇者「しかし……」
関門長「飢えへの不安は、自制心や道徳心を捻じ曲げるのには、十分過ぎる理由になっちまう」
勇者「話し合いで解決出来ないのか?」
関門長「難しいな。襲撃に成功して味をしめた連中に、言葉が届くとは思えない。それに……」
関門長「連中を処罰しなければ、苦境を我慢をしてくれている連中に示しがつかん」
勇者「……」
関門長「厄介な事に、連中は戦利品を餌に難民を集め、徐々に数を増やそうとしてやがる」
勇者「人数はどれぐらいなんだ?」
関門長「把握しているだけで……約50と言ったところだな」
勇者「そんなに多いのか!?」
関門長「だからこそだ! このまま看過すれば、大規模な暴動に発展する可能性もある」
勇者「討つしかない……のか」
関門長「そうだ。徹底的に叩いて壊滅させる。それが俺とあんたの仕事だ」
勇者(これも……俺のせいなのか?)
関門長「さっきのあいつのように、難民の中から使えそうな連中を選抜しているが……」
関門長「それでも、難民への対応で手が回らんのが実情だ」
勇者「だから、魔王様に応援を頼んだのか?」
関門長「まさか、あんた一人だけとは思わなかったがな」
勇者「すまん」
関門長「なぁに、親衛隊といえば一騎当千の兵(つわもの)だ。頼りにしているぜ」
勇者「……野盗の中には、魔法を使う奴がいると聞いたが?」
関門長「そいつが厄介でな。それさえなければとっくに解決してるはずだったんだが……」
勇者「どんな魔法を使ってくるんだ?」
関門長「『昏睡の雲』だ」
勇者「なに!?」
関門長「こいつで関門の兵達が無力化されちまってる」
勇者「『眠りの雲』の上位魔法じゃないか!? そんな高位の術を使う奴が野盗にいるのか!?」
関門長「だから厄介だと言ってるんだ」
勇者「確かに……それは厄介だな」
関門長「術に抵抗出来そうなのは、あんたと俺……後は正規兵でも数えるぐらいのもんだ」
勇者「そうか」
関門長「もう一つ気になる点がある」
勇者「何だ?」
関門長「連中の動きが、妙に組織だっている」
勇者「野盗なのにか?」
関門長「そうだ。数が多いとはいえ元々は難民だ。組織だった動きが出来るとは考えにくい」
勇者「もしかして、野盗の中に正規の訓練を受けた奴がいるんじゃないのか?」
関門長「その可能性が高いな。大方、そいつが指揮を執っているんだろうよ」
勇者「……」
関門長「どうだ、何とかなりそうか?」
勇者「魔法の解除は難しいが、兵達の抵抗力を上げる事ぐらいなら何とか」
関門長「それだけも有り難い。組織だっているとはいえ、相手は所詮難民だ」
勇者「そうだな。襲撃された時に動ける者が多ければ、何とかなるだろうが……」
関門長「よし! それじゃあ早速出てもらえるか?」
勇者「俺は何をすればいい?」
関門長「地図を見てもらえばわかるが、この街には南北に一つづつ関門がある」
勇者「それじゃあ、どちらかの守備に俺も加わればいいかの?」
関門長「そうしてくれ。野盗共は関門で荷を検(あらた)めている時を、狙ってくる事が多いからな」
勇者「どちらの守備に就けばいい?」
関門長「そうだな……北の関門を頼めるか? 俺は南の関門に就く」
勇者「北の関門だな。わかった」
関門長「よし、北の関門まで誰かに案内させよう」
勇者「ああ、頼む」
関門長「……あぁ、ちょっと待て」
勇者「……何だ?」
関門長「その親衛隊の装束は目立つな……連中に警戒される虞(おそれ)がある」
勇者「これを脱いでも、目立つ事には変わりないぞ?」
関門長「何だそりゃ……って、かぁーっ、何だよその派手な鎧は!?」
勇者「どうする? こいつも脱ぐか?」
関門長「そういう訳にもいかんだろう」
勇者「ははっ、そう言ってもらえると助かるな」
関門長「全く、悪趣味な鎧を着やがって」
勇者「ほっておいてくれ」
関門長「まぁ、あんたの趣味だから、俺がとやかく言う事じゃないが……」
勇者「何か上から纏(まと)うものはないか? それでこいつを隠すしかないんじゃないか?」
関門長「そうだな……こっちで襤褸(ぼろ)を用意させよう」
勇者「なぁ……」
関門長「何だ? 襤褸ぐらいは我慢してくれよ?」
勇者「いや、その話じゃない」
関門長「あぁ?」
勇者「……本当に穏便に解決は出来ないか?」
関門長「それはさっきも言ったはずだ。道を守って、我慢している他の連中はどうなる?」
勇者「そうだな……わかった」
~~午後 北の関門にて~~
勇者「四班の二小隊……警備にしては物々しいな」
守備兵長「状況が状況ですからね。本来ならもう少し人員を充てたいところなんですが」
勇者「そうだな。賊の数は約50人。こちらは俺とあんたを入れて、およそ半分の24人」
守備兵長「何を仰いますか。親衛隊のあなたが千人力なら、1000と23人です」
勇者「そこまで期待されても困る」
守備兵長「そんな弱気では困りますよ」
勇者「やるだけはやるさ。では、段取りを確認しようか」
守備兵長「はい、襲撃があるまでは通常通りの仕事をし、あなたは脇に控えている」
勇者「そうだ。襲撃があれば、俺も出て魔法に対抗する術を使う」
守備兵長「あとはこの発信弾を使って応援を呼ぶ」
勇者「そして、襲撃してきた野盗共を討伐する。こんなものかな?」
守備兵長「奴らはいつ襲ってくるかわかりませんから、これぐらい簡単な方が良いでしょう」
勇者「その通りだな。では宜しく頼むぞ」
守備兵長「こちらこそ頼りにしています、親衛隊殿」
~~夕刻 北の関門にて~~
勇者(今のところ、北門には賊の襲撃の気配はない)
勇者(南門からも、賊襲撃の合図である信号弾は上がっていない)
勇者(ちなみにこの信号弾。魔王が花火を改良して考案したらしい)
勇者(信号弾に着火すると、音と煙を出しながら、空に向かって飛び上がるそうだ)
勇者(娯楽の為に使う花火を、こうして軍用に転用する辺り、発明好きの面目躍如といったところか)
勇者(…………)
勇者(半日の間に北の領国から、複数の商隊以外や難民達がこの北門にやって来た)
勇者(関門長が言っていたように『北の戦火から逃れてきた』という理由でだ)
勇者(直接の原因は、内戦の戦火から逃れる為だが……)
勇者(内戦の間接的な原因を作ったのは、魔王や大公を倒した俺達だ)
勇者(魔物に殺された家族の復讐を誓い、王に言われるがまま魔王や大公をこの手に掛けた……)
勇者(信じていたんだ。魔王を倒せば平和な世界が訪れると……)
勇者(魔王『誤ったのなら正せばいい。幸いな事に、お前にはまだその機会が与えられてる』)
勇者(正す……何を正せばいい?)
勇者(魔王『過ちを犯した時、やり直す機会を与えられる事は多くないぞ?』)
勇者(これがその機会だというのか?)
勇者(魔王「そんな事は僕は知らん。お前が自ら考えて、悩んで、苦しんで、行動して、その答えを出せ」)
勇者(本当に答えなんてあるのか?)
勇者(魔王『何もしないのが一番の罪だ』)
勇者(だからこうしてここに来た)
勇者(あいつらは……)
勇者(戦士、僧侶、賢者はどうしているだろうか?)
勇者(あいつらなら……どうする?)
勇者(…………)
守備兵長「……親衛隊殿」
勇者「うん? 来たのか!?」
守備兵長「いえ、あと半刻程で閉門の時間ですが……ご気分でも悪いのですか?」
勇者「大丈夫だ、何でもない」
守備兵長「そうですか。随分と顔色が悪かったので……」
守備兵長「城からいらして、すぐさまここの警備ですから。疲れでも出たのかもしれませんね」
勇者「いや、少し考え事をしていた。すまない集中しよう」
守備兵長「考え事ですか?」
勇者「ああ、半日ここにいただけだが、結構な数の難民が来たと思ってな」
守備兵長「今日はまだ少ない方ですね。多い時は倍近く来る事もありますよ」
勇者「そんなにか?」
守備兵長「はい。限られた人数の中、関門長も動いてくださってるお陰で……」
守備兵長「兵達の士気も落ちずに済んでおりますよ。人使いは荒いですがね」
勇者「関門長は、魔王様直々にこの関門を任されたのだろう?」
守備兵長「そう聞いております。北の要所という事で、魔王様から是非にとのお話とか」
勇者「そうか。信頼されているのだな、魔王様に」
守備兵長「ははっ、本人は『押し付けられた』と文句を言っていますがね」
勇者「……あんた達も信頼しているんだな」
守備兵長「頼もしいのは間違いないですよ。無理矢理、酒をつきわせる癖さえなければ」
勇者「関門長は酒が好物なのか?」
守備兵長「……お好きですね。あればあるだけ飲んでしまいますので」
勇者「あるだけか……それは凄いな」
守備兵長「それでも、賊の襲撃が起きてからは、控えられているようです」
勇者「ああ、楽しく飲める状況ではないからな」
守備兵長「ですから、賊を片付けたら、関門長につきあってあげてください」
勇者「あんた達は飲まないのか?」
守備兵長「下手をすると朝まで続きかねませんので……我々は別の所で楽しませてもらいます」
勇者「では、そう出来るよう、もう一頑張りするか」
守備兵長「えぇ。兵達に気を引き締めるよう……うん?」
商人「はぁはぁ……なんとか閉門に間に合った」
兵士1「止まれ止まれ! 積荷を検めるぞ!」
兵士2「かなりの荷物だな」
商人「家財道具も含めて、荷物をまとめて参りましたもので」
兵士3「それはまたご苦労な事だな」
商人「はい。北は戦(いくさ)が激しく、あれでは商売など出来ませんから」
兵士1「そんなに北は酷いのか?」
商人「それはもう! ある街などは戦場になってしまい、廃墟同然ですよ!」
兵士2「それは酷いな!?」
商人「よくも飽きずに殺し合いをするもの……っ!? 申し訳ありあせん、失言でしたな」
兵士3「気にするな。荷物を検め終わるまで、しばし待て」
商人「はい、宜しくお願いします」
勇者「……街が廃墟か」
守備兵長「これから、更に難民が流れ込んでくるでしょうな」
勇者「為政者が務めを果たさなければ、民の生活は荒れる……か」
守備兵長「は?」
勇者「いや、魔王様がそう仰られたのだ」
守備兵長「跡目を継ぐ為に御兄弟で戦を始められ……」
勇者「民を顧みずに殺し合いを続ける」
守備兵長「嫌な世の中になったものです」
ヒュン!ヒュン!ヒュン!
兵士1「うぎゃぁ!?」ドサッ
兵士2「な、何だ!?」
兵士3「ぞ、賊が出たぞ!?」
商人「な、何事でございますか!?」
勇者「来たな!」
守備兵長「弓で不意打ちとは……賊が来たぞ! 信号弾を上げろ!」
兵士4「は、はいっ!」
勇者「お前は関内に逃げろ!」
商人「は、はひっ!」
守備兵長「次射、来るぞ!」
勇者「固まるな! 的にされるぞ!」
ヒュン!ヒュン!ヒュン!
兵士2「ぐはっ!?」ドサッ
守備兵長「くそっ!? 今まで弓での襲撃などなかったぞ!」
勇者「連中も馬鹿じゃないって事だ。突っ込んでくるぞ」
守備兵長「信号弾、まだか!」
ヒュ~~~~~ドン!
守備兵長「よし、上がったな!」
野盗達「うぉぉぉっ!!!」ドドドドドッ
勇者「気をつけろ! 連中が来る前に昏睡の魔法が来るぞ!」
兵士3「は、はいっ!」
勇者「くそっ、こっちも!」
―――パァァァ
守備兵長「か、体から光が!? 親衛隊殿か?」
―――ジワッ……
兵士5「魔法、来ますっ!!」
―――フワッ
兵士6「く、雲が!?」
勇者「気を強く持って魔法に耐えろ!」
兵士3「ひ、光の障壁に当たって雲が消えていく!?」
守備兵長「何人持っていかれた!? 被害状況を報告しろ!」
兵士4「お、およそ半数!」
勇者「くそっ! 思ったより被害が大きい!」
守備兵長「残っている者は固まれ! 混戦になれば範囲魔法は飛んで来ないはずだ!」
野盗達「ひゃっはぁ!!!」ドドドドドッ
勇者「敵の数は多いが、一度に攻撃出来る数は限られるはず。無理せず防衛に専念しろ!」
守備兵長「わかった! お前達、応援が来るまでの我慢だ! 絶対に死ぬなよ!」
勇者(指揮官を倒せば……相手の士気も落ちるはず!)
野盗1「死ねぇ!」
兵士3「くそっ!」ガキン
勇者(どこだ? どこにいる?)
守備兵長「くらえ!」シュッ
野盗2「ぎゃぁぁぁ!?」ドサッ
兵士4「えいっ!」
野盗3「う、うわっ!?」ガキン
頭目「囲め囲め! 囲んで押し潰せ!」
勇者(あいつか!)ヒュン!
野盗4「げふっ……」ドサッ
勇者「俺が敵の指揮官を抑える。あいつを倒せば烏合の衆になるはずだ!」シュッ!
野盗5「かはっ!」ドサッ
守備兵長「お願いします!」シュッ
野盗1「ぐげぇっ……」ドサッ
野盗3「こ、こいつら……」
兵士4「いつまでも調子に乗るなよ!」ガキン
野盗6「お、お頭! いつもより数が多いですぜ!」
勇者(やはり素人の集まりか……数が多いだけで大した事はないが……)ドスッ!
野盗3「ぎゃっ!?」ドサッ
勇者(何人か訓練された奴らがいるな……どういう事だ?)
勇者「気を抜くなよ?」
兵士4「た、助かりました。ありがとうございます」
頭目「何をしている! 数ではこっちが勝(まさ)っているんだぞ!」
野盗6「し、しかし……やけに強い奴が一人……」
頭目「俺様が相手をしてやる! どけっ!」ドカッ
野盗6「げふっ!?」
勇者(うん? 自分から来てくれるとは好都合だ)スパッ!
野盗7「うがっ……」ドサッ
頭目「俺様がぶっ殺してやる! 死にやがれっ!!」ビュン
勇者(くっ!? この太刀筋、こいつも素人じゃない!?)ガキン
勇者「お前が指揮官だな!」シュッ!
頭目「うおっ!? こ、こいつ……」ガキン
勇者「その太刀筋は訓練された兵のもの。お前は一体何者だ!」チャキッ!
頭目「はっ!? 死んでいく奴には関係ねぇよ!!」ビュオン
勇者「そうか……なら!」ヒョイ シュパッ!
頭目「な、なかなか……ぐわっ!? ば、馬鹿なっ!?」グサッ ドサッ!
野盗6「お、お頭ぁぁぁ!?」
勇者(おかしい……)
野盗8「お、おい……」
野盗9「お、お頭が……」
勇者(魔法の使い手は……どこだ?)
守備兵長「よし、賊共が混乱している今が機会だ! 討ち取れ!」
兵士達「おうっ!」
勇者「ま、待てっ!?」
―――ヒュォォォ……ゴウッ!!!
野盗達「ぎゃぁ!?」バタバタ
兵士達「ぐぉっ!?」バタバタ
勇者「だ、大丈夫か!?」
守備兵長「か、風の範囲攻撃魔法……だと?」ガクッ
勇者「み、味方まで巻き込むなんて……」
??「全く使えない奴らだなぁ。せっかく人数を集めたんだよ?」
勇者「誰だっ!」
??「誰でもいいじゃない? そこに寝転がっている無能じゃないけど、どうせ死ぬんだしさ?」
守備兵長「か、影の妖精族!?」
影妖精「ほんと、こいつらが弱いせいで、もう滅茶苦茶だよね?」グリグリ
野盗6「ぁぁぁがががぁ!? ぃたひぃぃぃっっっ!?」
勇者「き、傷ついた仲間を踏みつけるなんて……」
影妖精「へぇ……それって魔王親衛隊の装束だよね? そっかそっか。さすがに相手が悪かったって事?」
勇者「止めろ!」
影妖精「ん~もう飽きたから、止めてもいいよ?」ドスッ
野盗6「あがっ!?」ガクッ
守備兵長「み、味方を手に掛けるなどと……」
影妖精「嫌だなぁ~? こんな雑魚を味方って思われちゃ。使い捨ての駒だよ、駒?」
勇者「貴様っ!」
影妖精「動いたら、また魔法を撃ち込んじゃうよ?」
影妖精「君は大丈夫かもしれないけど……他の皆はどうかなぁ?」
勇者「ぐっ……」
影妖精「そうそう、それが賢明な判断だと思うなぁ?」
守備兵長「わ、我々には構わず賊を!」
勇者「…………」
守備兵長「し、親衛隊殿!?」
勇者「幾ら賊を討つ為とはいえ、あんたらを見殺しになんか出来るか!」
守備兵長「我々が力ないばかりに……申し訳ありません……」
影妖精「……ねぇねぇ? 茶番はもう済んだ?」
勇者「お前は難民ではないな? 一体、何が目的でこんな事をしている?」
勇者(関門長『連中の動きが、妙に組織だっている』)
影妖精「『何が目的』って聞かれても困っちゃうよねぇ?」
勇者(勇者「野盗なのにか?」)
守備兵長「何だと?」
影妖精「あっははは♪ 事情をぺらぺら喋るなんて、三流の悪役みたいな真似する訳ないじゃない?」
勇者(関門長『数が多いとはいえ元々は難民だ。組織だった動きが出来るとは考えにくい』)
勇者(この距離では相手の魔法の発動の方が早いか? こちらも回復魔法で……)
影妖精「怖いなぁ? 絶対に何か企んでる目だよね、それ?」
勇者(勇者『もしかして、野盗の中に正規の訓練を受けた奴がいるんじゃないのか?』)
勇者(関門長『その可能性が高いな。大方、そいつが指揮を執っているんだろうよ』)
勇者「……お前が首謀者って事でいいんだな?」
影妖精「もぅ! 内緒って言ってるじゃない? 人の話ちゃんと聞いている?」
守備兵長「抵抗しても無駄だぞ! 間もなく応援も駆けつける」
影妖精「あぁ~そういえば、何か合図をしてたっけ? 応援が来ると流石に困っちゃうなぁ?」
勇者「そうだ、だから諦めて投降しろ」
影妖精「投降しても、どうせ殺されちゃうんでしょ? それも困っちゃうなぁ?」
守備兵長「当たり前だ! 徒党を組んで盗みを働き、民を苦しめた罪は重い!」
影妖精「それが仕事だからねぇ~……っていけね」
勇者「……仕事?」
影妖精「今の話はなしって事で、宜しく?」
勇者(……どういう事だ? それに、こいつの余裕は一体?)
影妖精「……おっと? 応援が来たみたいだね?」
勇者(応援が来て、普通に考えれば逃げられないはず……)チラッ
守備兵長「これでお前も終わりだ!」
勇者(さっきからのらりくらりと……こっちに攻撃してくる気配もない……)
影妖精「うん。それじゃぁ、今日は終わりにさせてもらうね?」
勇者(時間稼ぎ!?)
勇者「転移魔法で逃げる気だ!」ダッ
影妖精「せいか~い。そんじゃ、またね?」シュン
勇者「ま、待てっ!」
―――――
関門長「大丈夫か! お前達!」
守備兵長「も、申し訳ありません……」
関門長「いいから動くな! おい、早く怪我人の手当てを!」
勇者「すまない。一人逃がした」
関門長「気にするな。見たところ、こっちの被害も最小限に済んでる。あんたのお陰だ」
勇者「大丈夫か?」
守備兵長「親衛隊殿のお陰で助かりました。ありがとうございます」
勇者「じっとしてろよ……」
―――パァァァ
守備兵長「い、痛みが引いて……」
勇者「これで動けるだろう」
守備兵長「先程の光の障壁といい、今の回復魔法といい……あなたは一体?」
勇者「…………」
関門長「おぉ!? なかなか便利なもん使えるじゃねぇか。他の連中も看てやってくれ!」
勇者「……わかった」
守備兵長「関門長……」
関門長「お前達を助けてくれた恩人だ。あいつが何だろうが知った事か」
守備兵長「……そうですね」
関門長「おい! 死体は後だ! 先に息のある奴を縛り上げて、連れて行け!」
~~翌朝 関門街 指令所にて~~
勇者(あれから、息のある野盗から隠れ家を場所を聞き出し……)
勇者(兵を率いて、山間(やまあい)にある隠れ家に向かった)
勇者(隠れ家には粗末な小屋が並び、中には野盗の家族と思われる女子供達が隠れていた)
勇者(女子供達は一先ず関門街に連行する事にし……)
勇者(隠れ家に残されていた略奪品は、後日街に運び込む事となった)
勇者(男達が捕まった事を聞き、泣き出す者もいたが……)
勇者(大半は抵抗らしい抵抗もせず、大人しく俺達の指示に従った)
勇者(女子供達の全てを諦めたような表情は……)
勇者(俺が関門街に来た時に街の外で見た、難民達と同じものだった)
勇者(…………)
勇者(襲撃に直接参加した男達は全員処刑……)
勇者(女子供は希望する者には、兵舎で下働きの仕事と住居を与え……)
勇者(そうでない者は、北へ放逐する事になった)
勇者(女子供達に厳しい処罰を与えなかったのは、関門長の温情だ……)
関門長「おう。もう戻るのか?」
勇者「あぁ、魔王様に報告しなきゃならんからな……あれ、あんたは確か?」
商人「昨日はありがとうございました」
勇者「野盗の襲撃に巻き込まれた、商人じゃないか」
商人「はい。親衛隊殿のお陰で、命も積荷も無事でございました。ありがとうございます」
勇者「しかし、なんであんたが指令所に?」
関門長「こいつの積荷を全部買い上げたんだ。丁度、日用品が足りなくなっていたからな」
商人「商品どころか、家財道具も買い上げて頂けるものは、全てお買い上げいただきまして」
勇者「おいおい。それじゃあ、あんたが困るんじゃないのか?」
商人「何を仰います! 売れる物なら家財だろうが何だろうが、命以外でしたら何でも扱いますよ」
勇者「流石に命は扱わないんだな」
商人「奴隷など命を扱う仲間もおりますが、知らず知らずに恨みを買いかねませんからな」
勇者「ああ、そうだな」
関門長「じゃぁ、さっき渡した書類の内容で頼むぞ」
勇者「うん? 商人に何か用でも?」
商人「実は御用商人に取り立てて頂けるとの事で、日用品などの仕入れを仰せつかりました」
勇者「へぇ、そりゃあ良かったじゃないか」
関門長「街はこの状態だからな。食糧もそうだが、日用品は幾らあっても困るもんじゃない」
商人「私も命掛けで商売を北で続けるより、こちらでお世話になった方が安心して商売が出来ますからな」
関門長「頼んだ物以外でも、食糧などは全て買い上げるからな。頼むぞ」
商人「はい。お任せください」
勇者「逞しいな、あんたは」
商人「それでは、仕入れに向かいますので、私めはここで失礼させていただきますよ」ニカッ
―――――
関門長「では、魔王様と骨のねーちゃんに宜しくな」
勇者「あぁ、関門長も頑張ってくれ」
関門長「まぁ、やれるだけやるさ。壁は高い方が壊し甲斐があるってもんさ」
勇者「……壊すのは駄目だろう」
~~三日後 魔王城 執務室にて~~
魔王「では、その影妖精が難民達を唆(そそのか)して、野盗に仕立てあげたと?」
勇者「ああ、取り逃がしたので、目的も何もわからないが……」
魔王「首謀者を取り逃がすなど、全く使えん奴だな」
勇者「それについては言い訳出来ないな。すまなかった」
魔王「……まあ良い。お前のお陰で兵達の命も助かった。感謝するぞ」
勇者「へぇ……」
魔王「何だ、その驚いた顔は?」
勇者「いや、まさかお前に褒められるとは、思わなかったんでな」
魔王「僕を一体何だと思っているんだ?」
勇者「魔王」
魔王「おい骸骨よ! この馬鹿につける薬を持って来い」
骸骨「関門長殿はお元気でしたか?」
勇者「あぁ、元気にやってたよ。魔王とあんたに宜しくと託(ことづ)かっている」
魔王「おい! 僕を無視するとはいい度胸だな!」
勇者「なぁ……」
骸骨「何でしょう?」
勇者「あんた、女だったんだな?」
骸骨「ご覧の通り女ですが?」
勇者「……ご覧の通りって骨じゃないか。それに男の格好してるしているからてっきり……」
骸骨「ひらひらとした着衣より、こちらの方が動きやすいもので。それが何か?」
魔王「骸骨が男か女か何て関係ないだろう? それともお前は男女差別をするのか?」
勇者「そういう訳じゃないんだが……」
魔王「こいつがいて僕は助かっている。それ以上に重要な事などない」
勇者「そうだな。つまらん事を聞いて悪かった」
骸骨「魔王様……」
勇者「そういえば、獣族達はどうしている?」
魔王「ああ。あいつらも上手くやってくれているぞ」
骸骨「昨日一度、城に戻って、状況の報告はしてくれています」
魔王「やはり、他の村でも毒虫の発生があったようだ」
勇者「他の村でもか?」
骸骨「先代様が対処してこの数百年、毒虫が大量発生する事などなかったのですが……」
魔王「……人為的に発生させた可能性も考えられるな」
勇者「人為的?」
魔王「北の関門街の野盗騒ぎもそうだ。お前が取り逃がした影妖精がいただろう?」
勇者「あぁ……」
魔王「普通に考えれば、わざわざ野盗騒ぎを起こす理由など見つからん」
勇者「あいつが難民って可能性は?」
魔王「馬鹿かお前は。訓練された兵がいたのだろう? なら誰かの差し金に決まっている」
勇者「一体誰が何の為に?」
魔王「それはこれからの調査になるな。大方僕が魔王なのが気に入らない連中の仕業だろうが」
勇者「どうしてそう思うんだ?」
魔王「直轄領内で問題ばかり発生し、それに対応出来ないようなら……」
魔王「魔界を統べる資格などないと言いたいのだろう」
勇者「それだけの為に……」
魔王「そうだ。それだけの為にだ。それだけ魔王という地位が重いという事だ」
勇者「……」
魔王「どうした?」
勇者「一度……人間界に帰ろうと考えている」
魔王「……帰ってどうするつもりだ?」
勇者「短い間だったが、俺なりに魔界の置かれている現状を見てきたつもりだ」
魔王「それで?」
勇者「実際に目の前に困っている奴がいて、それを助ける奴もいる」
勇者「人間も魔物も同じで、それぞれの生活をして、それ自体には善も悪もないと思う……」
魔王「……」
勇者「俺がお前の父を討った事で、魔界は混乱し、更には人間界にもその余波が来ている」
魔王「そうだな」
勇者「俺に責任がある事はわかっている」
勇者「偽善なのはわかっている。それでも、俺のせいで困っている奴がいたら、助けたいと思うのはおかしな事か?」
骸骨「尤(もっと)もな事ではないでしょうか?」
勇者「でも、俺一人の力じゃ、出来る事なんかたかだか知れている……」
勇者「それはお前も言っていたよな? 『一人の力には限界がある』と」
魔王「ああ、言ったな」
勇者「だから俺の仲間や王に事情を説明して、協力を仰ごうと考えているんだ」
魔王「……そんな事が出来ると思うのか?」
勇者「正直、どうなるか俺にもわからない。頭でも狂ったのかと思われるかもな」
勇者「魔界も人間界も、切迫した状況なのは確かなんだ。何とか出来るなら何とかしたい」
骸骨「勇者殿……」
勇者「俺一人では駄目でも、人間界と魔界が協力すれば、上手く出来るんじゃないかと思うんだ」
魔王「お前が決めたのなら勝手にしろ。僕にお前を止める権利はない」
骸骨「魔王様、宜しいのですか?」
勇者「……いいのか?」
魔王「止めたところで、お前は人間界に戻る気なんだろう?」
勇者「ああ、もう決めた事だ」
魔王「なら、無駄な事に時間は使いたくない。お前の好きにしろ」
勇者「お前ならそう言ってくれると思った。ありがとう」
魔王「礼などいらん。ただ一つ約束しろ」
勇者「何だ?」
魔王「必ず僕の所に帰って来い。お前にはまだ、やってもらわなければならない事が山程ある」
勇者「……山程か?」
魔王「そうだ。お前を慕ってこの城について来た獣族達への責任もある。だから帰って来い」
勇者「そうだな。あいつらにも会いたかったが……」
骸骨「もう行かれるのですか?」
勇者「ああ、早い方がいいだろう。余裕のある状況とはいえないからな」
骸骨「わかりました。くれぐれもお気をつけて」
勇者「あいつらの事、頼む」
骸骨「お任せください」
魔王「約束を忘れるなよ」
勇者「ああ、任せろ」
おわり
ご覧頂いた方、支援して頂いた方、ありがとうございました
流れは最後まで考えていますが……なるべく早くに上げられるよう頑張ります

