1 : ◆nE9GxKLSVQ[sag... - 2011/01/22 13:27:53.80 SumbvhkS0 1/338コンセプトは「上琴のポリネシアン的な一夜を考える」
作中で一部性描写があります
(内容的には至ってノーマルです)
元スレ
美琴「週末は アイツの部屋で しっぽりと」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1295670473/
二月初旬の、とある土曜日。
暦の上では立春を迎える学園都市は、まだ寒風が肌を撫でていく真冬の只中にあった。
この時期は受験や学期末試験といった、学生達の神経を擦り減らす行事を間近に控えており、
街中ですれ違う若者達は誰もが冷えこむ気候に身を縮め、暗澹とした表情をして歩いている。
しかし、買い物袋を携えた御坂美琴(みさか みこと)はその辛気臭い雰囲気を物ともせず、
太陽のように燦々と輝く笑みを浮かべ、一人軽やかな足取りで歩いていた。
午前中で授業を終えて昼食を食べ終えた頃から高ぶる気分を抑えきれず、
今日の逢瀬に思いを巡らせてほんのりと惚けている。
対向する者はその幸多そうな表情にあてられ、みな怪訝な顔をしながら道を譲っていく。
「アイツの家に泊まるのも、今日で五度目かぁ」
小さなメモリアルが、心躍る美琴の高揚ぶりに拍車をかけている。
手にした袋は食材でギチギチに満ち、少女の手に食い込むほどの重さだが、
二人の幸せな食卓を作ることに思いを馳せると、羽が生えたように軽やかだった。
御坂美琴が、上条当麻(かみじょう とうま)と恋仲になって早二ヶ月が経つ。
両想いの恋を始めてから、美琴は自分の知らない一面を多く知り始めた。
付き合い初めは上条と手を繋ぐ事すらおぼつかないほどウブだったのが、
自分は尽くす事で幸せを感じるタイプなのだと知るや
程なくして通い妻の真似事を始め、やがて週末に上条の部屋へ入り浸るようになる。
寮監や同居者の目を避けながら、既に四度もの外泊を重ねていた。
一度目の夜は二人が同じ部屋で一晩を過ごすだけで頬が赤くなり、
二度目の夜は初めて同じベッドに枕を並べて一晩を過ごし、
三度目の夜はお互いを抱きしめ口付けあいながら眠りに落ち、
四度目の夜は―――
「……私、アイツと……しちゃっ、たんだよ、ね……。
アイツったら逞しくて、優しくて、でも荒っぽくて……ああぁぁ」
先週の夜の出来事を思い起こすと、美琴は熟したトマトのように顔を赤らめてしまい
正常な思考ができなくなってしまう。
男女の一線を越える事を受け入れたのに、心は生娘のままだ。
「また、するのかなぁ」
憶測ではなく願望を口にしている事を自覚して、顔が赤らみのぼせてしまう。
出立前にわざわざ下着を厳選してきた自分の心に嘘はつけない。
「……玄関前に茹でダコがいるぜよ」
それが男子寮の前で惚けたまま立ちつくしている自分を指した声だと気付くと、
美琴は慌てて体面を整え、声のする方へと振り返った。
「あ、つ、土御門のお兄さん……こんにちは」
「およっ、常盤台のお嬢さん。今週も来たのかい?」
「あ、え、えっと、はい。土御門さんはこれからお出掛けですか?」
「舞夏と待ち合わせて買い物に行くとこですたい」
「兄妹仲が良いんですね」
「そちらさんほどじゃないにゃあ~」
美琴は恋人の友人であり、友人の兄でもあるこの男、
土御門元春(つちみかど もとはる)がどうにも苦手だった。
能天気な言動の裏側に、決して他人に心掴ませぬ刃を秘めているように見える。
人を値踏みするような視線を隠すサングラスと、季節にそぐわないアロハシャツ、
それに加えて気色の悪い口調―――その全てがうさん臭かった。
「ああ、カミやんなら今さっき禁書目録と一緒に出掛けたみたいぜよ」
「知っています。あの子の事、担任の先生に預けに行ったんですよね」
「小萌先生もつくづく面倒見のいいことだにゃあ」
上条の同居人インデックスの存在は、美琴にとって一番デリケートな問題である。
上条と恋仲になった今となっては彼女個人と確執を設けるつもりはないのだが、
三人を取り巻く環境が危ういバランスの上にある事も理解していた。
「だから今はカミやんの部屋には誰もいないぜよ」
「大丈夫です、これを預かっていますから」
美琴は懐から合鍵を取り出し、土御門に見せつけるようにかざす。
本心としては、この鍵を使って一刻も早く上条の部屋に逃げ込みたかった。
「ぬかりないねぇ」
「それでは」
早々に会話を切り上げると、美琴は駆け上がるようにして階段を上っていく。
その背中を見送った土御門は、羨望に満ちた顔でいながら心は懸念に満ちていた。
「カミやんは幸せもんだにゃ~。
それにしても……幻想殺しに禁書目録、そして妹達《シスターズ》の源、超電磁砲か。
つくづく皮肉な巡り合わせだぜぃ」
---
[13:18]
先週、上条から部屋の合鍵を手渡された美琴は、この小さなアイテムに
彼の信頼と愛情が詰まっている事にすっかり舞い上がっていた。
恋人同士を象徴するやりとりに、美琴はおろか上条も顔を赤らめていた事を思い出す。
美琴はこの鍵を一週間肌身離さず持っていたが、さっそく行使の好機を手に入れた。
(こういう時にこそ使っていいのよね)
上条の部屋の前に辿り着いた美琴は、少しの背徳感と大きな期待感を胸にして
鍵穴に恐る恐る鍵を差し込み、錠を開く。
愛の巣。ふと如何わしい単語が思い浮かび、またも顔から熱気が吹き出そうになる。
「お、おじゃましまーす……」
上条の在宅中なら何度か訪問経験はあったが、無人の家に上がるというのは緊張感が違う。
美琴は後ろ手に内鍵を掛けると、落ち着かない心境を宥めるために
家事の算段を思い巡らせた。
(まずは、アイツが帰ってくるまでに夕御飯の準備をしなくちゃ。
鍋は火を通したらすぐ食べられるように仕込みしといて、炊飯もタイマーしといて、
掃除と洗濯は明日するわけだから、料理の下仕込みさえ終わらせておけば……)
買い物袋と一緒に手にしていたデイリーバッグを床に下ろすと、
常盤台の制服姿を汚さないための、カエル柄のエプロンを取り出して身に着けた。
丁寧に手と喉をゆすぎ、買い物袋の中身を台所に並べていく。
材料を買う時から夕飯の主献立はクリームシチューと決めていた。
「ま、いっちょ腕を振るってやりますか!」
自分の味を彼氏にインプリンティングする事に喜びを覚える美琴は、
初々しい願望に頬を赤らめつつ、威勢よくジャガイモの皮を削ぎ始めた。
---
[13:42]
インデックスを飼い猫ごと月詠家に送り届け、帰り道にドラッグストアへ立ち寄った上条は
コーナーの一角に大きく張り出されたポップの文字をまじまじと見つめていた。
今日は美琴と外で待ち合わせをせず、先に家へ向かわせたのには理由がある。
インデックスが不在の今しか入手できない、とある品物を購入するためだった。
『新発売! 極上の安心と快楽をあなたに!
極薄0.01ミリ! サ○ミオリジナル 6つ入 税込¥1480』
信頼と安心を標榜する避妊具の最新製品を前にして、上条は葛藤していた。
記憶喪失に陥った直後の上条は、自分の財布にしまい込まれていた1枚のスキンの存在を
本来の自分が持っていた虚栄心、或いは男子としてのエチケットと推測していた。
今日に至るまで、かつての自分と肉体関係を結んでいた事を示唆する女性は現れておらず、
上条当麻が童貞であった事に疑いは持っていない。
しかしそのスキンも先週、己の目的を正しく果たし、その役目を終えていた。
(ううう、やはり男女のお付き合いは健全であらねばならぬと思うのですが、
つい男の本能に従ってしまったばかりに、上条さんは遂に、遂にっ、
女子中学生と身体を重ねたロリコン高校生になってしまったっっ。
こんな事が青髪や土御門に知られようものなら、今度こそ上条さんはリンチ死ですよ!
でもなぁ……あいつも嬉しそうだったしなぁ)
性欲自体に抗うか否かの激しいジレンマは、先週の時点でとっくに通り過ぎていた。
愛する恋人との逢瀬を再び求めるならば、せめて最上のスキンを用意するのが
男子の器量だろうと上条は思い込んでいる。
ポップから目を逸らせば求めやすい価格のスキンが幾つも棚にあるというのに、
もはや上条の心には「極薄」の魅力的な二文字が力強く彫り刻まれていた。
しかし己の財布を開くと、そこにあるのは千円札が一枚とわずかな小銭のみ。
「無い袖は振れないんだよな……はぁ、不幸だ」
財布を振っても逆さにしても、どう合算しても1480円には届かない。
謳い文句に惹かれる本能と健全な理性がせめぎあう戦場に、予算という名の
絶対的な調停者が舞い降りたため、上条は心の中で両手を上げ降伏を決意した。
(『徳用スキン50枚入り980円』これならギリギリで……
いやしかし安物をこんな大量に買い込んだらあいつに引かれそうだな、ってか俺も引く!)
味気ないパッケージに手を伸ばそうとして、再びくだらない葛藤に束縛される。
ふと悩める視線を横に向けると、ドラッグストアの法被を着た女性販促員が
店内に黄色い声を響かせながら試供品を配布している光景に目を奪われた。
試供とか試食とか、無料提供を連想させる言葉に惹かれがちなこの少年が
ふらふらとキャンペーンコーナーに近付いて来る様子を見つけた女性販促員は、
営業用のスマイルと共に、薄赤色のビニールで包装された試供品を彼に手渡した。
「よろしかったらどうぞお試しください! 彼女さんを大切にしてあげてくださいね!」
(なんで俺に彼女がいるって分かったんだ、この人?)
店員が何を配っているのかも理解しないまま、庶民感覚だけで試供品を受け取った上条は、
ビニールに包装されているそれの正体に気付くと細かいツバを噴き出した。
『極薄0.01ミリ! サ○ミオリジナルスキン 3つ入 ※これは試供品です』
「ブ―――ッ! こッ、これはッ、さっきのスキンではありませんかぁぁ!?」
上条は慌てて店を出て、周囲の視線を気にしながらビニール袋を開梱すると
そこには3枚の試供スキンと1冊の小冊子が入っていた。
帰り道に足を向けると、スキンをこっそり懐に忍ばせつつ冊子を開く。
その冊子のタイトルは、おおよそ公共の場で口外できる代物ではなかった。
『実践!メイクラブ完全マニュアル ~若い恋人達の幸せのために~』
「なにが実践だよ。学生だらけの学園都市でこんなもん配っていいのかあ?」
上条は街のモラルを皮肉ったが、学園都市が抱える性問題は思いのほか根深い。
この都市では学問と能力開発ばかりを熱心に教え、性に関わる情報は強く統制している。
しかし、淫らなポルノを街から排除しても学生達を健全に育て上げるとは限らないらしく、
冊子には近年の学生達の中絶率が上昇の一途である事がグラフデータで示されていた。
避妊具や妊娠検査薬がストアで公然と売られている点を見るに、都市としても
異性交遊の実情に対して妥協せざるを得ない部分があるのだろう。
「デートDV? そんなのがあるのかよ、恋愛相手に暴力とかありえないだろ。
中絶の悲惨な実態? ……うげぇ、こんな生々しい写真は見たくないな」
知識も心身も未熟な少年少女達に不可欠なバイブルを目指して作られているようだ。
上条の性知識も決して豊かではなく、大切な恋人ができた以上、
ポルノ以外の健全な教材があるのならば頼ってみたいという心理もある。
いつの間にか冊子の記述にのめり込んでいた上条が特に目を惹かれたのは、
冊子の最後に乗っていたセクシュアルな記事だった。
『スローセックスとは―――射精や絶頂を目的とした男性本位のセックスに対し、
ゆっくり時間をかけ、男女が互いをいたわりながら肌を重ねる時間を楽しむ性行為です。
前戯10分・交接5分のインスタントセックス、欲望の処理を第一目的としたセックス、
相手を無視した自分勝手なセックス、激しい運動に終始するセックス、
これらは全てジャンクセックスと呼び、スローセックスはその対極をなすものです。
セックスは神様からの最高のプレゼントであり、人生に喜びと幸福をもたらす崇高な行為。
最高のエクスタシーを体感し、最高の喜びを共有し合うためには
正しい性知識とテクニックをマスターしてこそ実現できるものなのです』
「……なんだか宗教じみてんなあ」
故あって近頃、宗教間抗争に多く関わっている上条の第一印象だった。
しかし学生向けに作られた記事は明快かつ明瞭で、知能指数の決して高くない
上条にも読みやすい文章でまとめられていた。
激しい動作とフェチズムばかりを重視し、売り上げを至上命題とするポルノとは
一線を隔す現実的な情報が、上条の目には貴重かつ新鮮なものに映る。
「要するに、アレを突っ込んだら激しく腰を振るばかりじゃなくて、
相手の様子を見ながら沢山触ったりキスしたりする方を重視しろって事か。
ううっ、この間の事を考えると、俺にそんな冷静に対処できる自信はねえぞ」
初体験の事を思い起こすと、上条は気恥ずかしいやら情けないやらで悲しくなる。
一糸纏わぬ姿の美琴がいとおし過ぎて、スキンを身に着けて身体を重ねた後は
一心不乱になってしまい、挿入から射精まで3分と持たなかったのだ。
たった一枚のスキンを使い終えた直後に、激しい後悔に襲われた事を思い出す。
(あれがジャンクセックスってヤツか。確かにあんな行為じゃ相手にも良くねえよなぁ。
初体験だから仕方ないって、心のどこかで言い訳していたのかもしれねえ。
そういや美琴も初体験だって言ってたし……なんかすごく申し訳ない気がしてきたぞ。
……いいぜ、あんな体験を二度としたくないって思うのなら、まずはこの内容を記憶する!)
紆余曲折を経て、御坂美琴という可憐な少女と恋仲になったのだ。
自分がいくら不幸な男でも、そのために彼女まで不幸にする事は絶対にあってはならない。
そう誓う上条は、帰寮するまでの道程に冊子を隅々まで熟読する事にしたのだが、
途中で迂闊にも野良犬の尻尾を踏んでしまい、執拗に追いかけられる憂き目に遭った。
「ふっ……不幸だァ―――!!」
---
[14:27]
「アイツ、遅いなぁ。また何かに巻き込まれてなきゃいいけど……」
美琴は大鍋に仕込んだクリームシチューをかき混ぜながら、玄関と鍋に交互に視線を向けつつ
新婚の夫を待つ新妻のように上条の帰宅を待ち焦がれていた。
料理は一通り完成したのだが、これが夕食として口に入るのはだいぶあとになる。
しかし調理を終えると無人の上条宅で手持ち無沙汰になってしまうため、
なんとなくお玉から手を離せないでいた。
(も、もしアイツが帰ってきたら、やっぱりアレを言ってあげるべきなのかしら。
お風呂にしますか? ご飯にしますか? そ、それとも―――)
ガチャッ、ガタンッ!
静寂を打ち破るようにドアノブを回す音が鳴り響くと、
美琴は反射的に肩を震わせ、家主の帰還に戸惑った。
(か、帰ってきちゃったの!?
だってお風呂なんてまだ沸かしてないし、夕ご飯には早すぎるし、だ、だからって
こんな時間から「それとも……私?」なんて言えるわけないじゃないのよぉ!)
開錠音と同時に、美琴は思わず玄関口に伏していた。
戸を開いて現れた上条は、その異様な光景をどう受け取ってよいものか迷ったらしく、
気まずい空気が玄関を取り巻く。
「ただいまーっと。……なにやってんだ、美琴?」
「おっ、おお、おか、おかえりなさい、あははは……!」
「お前、またなにかテンパってただろ。こんなメイドみたいな事しなくたっていいんだぞ」
「わ、私だって気が付いたらこんな姿勢だったのよ!」
「にしても、なんだかいい匂いがするな~」
「でしょ。夕ご飯はクリームシチューにしようと思って」
「そいつは夜が楽しみだ。美琴の料理は品が良くて旨いからなぁ」
「そ、そうね、夜はお楽しみよね、ね」
正座姿勢のまま、赤面して慌てている美琴の様子を見て
いつもの妄想癖がまた出たのかと思えるくらいには、彼女への理解も深まっている。
美琴の手を取って立ち上がるのを支えると、玄関の段差で二人の身長差が埋まり、
目線がちょうど水平に並んだ。
「あー、その、なんだ。お前のエプロン姿、可愛いな」
「あ、ありがと……そ、それとさ」
「なんだ?」
「こういう時に、する事があるでしょ」
「?」
「もうっ」
とはいえ上条の勘が鈍いのは相変わらずで、美琴は溜め息をつきながらも
自分からそっと上条に歩み寄り、顔を寄せて口付ける。
「……おかえりの、キスよ」
「あ、ああ」
「唇、冷たいね」
「外が寒かったからな。早く暖まりてえよ」
土曜の日中はデートするのが習慣になっていたが、今日の寒さでは気が進まない。
二人の思惑は細かい部分では異なるものの、家を出たくないという点は一致していた。
「夕ご飯まで時間あるけど、どうしよっか?」
「今日は寒いし、家でゆっくりしようぜ」
「そ、それがいいわね。とりあえず上がんなさいよ」
「ここは俺の家だぞ」
「分かってるわよ、玄関で突っ立ってるから気になっただけ」
「へいへい」
美琴は台所に入って鍋の火を止めると、調理器具の洗い物を始める。
ふと、リビングに入っていく上条の後ろポケットに折り畳まれた冊子を見つけると、
夏休み最後の日に上条が握り締めていた宿題用紙を連想した。
「そういえば、アンタ今週も宿題って出たの?」
「ああ、今週もたーっぷりと出されましたよ。期末試験も近いしな。
まぁそのお陰で小萌先生にインデックスの事をお願いできるんだけどさ」
小さな身でありながら、愛する生徒に対して人一倍熱心な担任の顔を思い浮かべつつ
上条は小さな溜め息をついた。愛の教鞭はいつだって彼に厳しい。
「あの子がいると勉強もはかどらなさそうよね」
「まぁな。二言目には『とうま、お腹減ったー!』だもんなぁ」
「分からないところは聞いてくれてもいいけど、なるべくは自分でやんなさいよ」
「ですよねー。こっちのセンセーも最近はすっかり厳しいこって」
「なによぅ、それがアンタのためなんだからね」
「嬉しくて上条さんは涙が出そうですよ」
上条は制服からトレーナーに着替え、制服のポケットからスキンを抜き取ると
堂々と美琴に見せる事のできないそれを、こっそり枕元に忍ばせる。
次に粘着ローラーを手に取り、インデックスの外泊する日だけ
家主が使うことの許されるベッドの上をコロコロと均していく。
飼い猫スフィンクスの毛と、インデックスの体毛を取り払うエチケットだ。
一通り掛け終えると、ちょうど台所の洗い物を終えた美琴も
エプロンをほどきながらリビングに入ってきた。
「ちょろっとーアンタ、帰ってきてから手洗いちゃんとしたの?」
「してねえ」
「しなさいよ! 風邪の流行る季節なんだから、ちゃんとうがいもするのよ」
「母親みたいな小言言うんだな」
「ひどッ! そーいう言い方する!?」
「悪い悪い、美琴ママの優しさには感謝しきりですよ」
「茶化すなっつーの」
美琴は尻を蹴飛ばす仕草で、上条を洗面所に送り出した。
上条はハンドソープを手に取りながら、ついでに歯磨きもしようと思い立つ。
美琴はベッドに腰掛けつつ待っていたが、ふと緊張で乾く口内を潤したいと思い
友人から貰ったアメ玉を懐に見つけ、これ幸いと舐め始めた。
(だ、大丈夫よね。来る前に歯も磨いたし、シャワーだって浴びてきたし、
私変な匂いとかしないわよね。し、下着だってちゃんと新品を下ろしてきたし……)
上条は美琴のファンシー趣味に共感はしないが許容はしている。
カエル柄の下着姿だって受け入れるだろうが、苦笑くらいはするだろう。
先週の外泊のあと、彼に魅せる下着姿を強く意識するようになった美琴は
年下の友人二人と相談のすえ、セクシーアピールできそうな下着を数点購入していた。
やたらと官能的なルームメイトの趣味だけは参考にしなかったが、
お陰で上条に笑われなくても済む自信はついたと美琴は考えている。
アメ玉を舐め終えた頃になって、ようやく上条が戻ってきた。
「ずいぶん丹念に洗ってたのね」
「ま、まぁな」
上条が美琴に寄り添うようにしてベッドに腰掛けると、室内に静寂が戻り
カチコチと無機質な壁時計の音だけが空間を支配する。
時刻は2時30分を回っていた。
「……明日のいつまでいられるんだ?」
「午後からは黒子達と遊びに行く予定があるの。だからお昼までかな」
「じゃあ昼飯はここで食べていけよ。多分インデックスもそれまでには帰ってくる」
「そうね、明日の分も作り置きしてあるから三人で食べましょ」
「ああ、助かる」
「そうすると、あと20時間くらいは二人でいられるのよね」
「そうだな」
「……」
会話が止まると、二人はどちらともなくお互いを見つめあい、瞳を瞬かせる。
美琴を求める事にまだ葛藤がある上条は、彼女の肩を抱き寄せようとする右手を
わきわきと動かし、肩に触れるか触れないかのところで留めていた。
(いいのか俺、こんなガツガツしていていいのか俺っ)
この一週間抑圧していた欲望が、上条のトレーナーの下腹部を
突き破らんばかりの勢いで押し上げている。
就寝の間際になだれ込んだ初体験とは違い、まだ日も明るい中で
美琴にどういう形で求めればいいのか分からず、先走る欲望に必死で抗う。
そんな上条の苦悶は、眼前の美琴にも丸分かりだった。
「あ、あのさ、多分だけどさ……同じ事考えてると思うの、私達」
「えっ?」
「私も……その、そうして欲しいから」
美琴も彼女なりに、あと一歩踏み出せない臆病な自分自身と懸命に戦っている。
上条に求められたい一心は強く持っているのだが、上手に表現する方法を持たず、
爆発寸前で震える風船のようであった。
「我慢しなくて……いいよ」
理性の糸が断ち切れる音を聞くより早く、上条は美琴の肩を抱き寄せて口付けていた。
柔らかい唇から、ほんのりと甘いレモンの香りと味が伝わってくる。
「なんだか甘い……」
「あ、アンタが手を洗っている間にアメ舐めてたの」
「だからか。もっと、味わってもいいか?」
「うん、いいよ……んふっ」
三度目のキスは、お互い待ちきれなかった舌を突き出し、絡み合わせる。
生暖かくて柔らかい舌の感触と、かかる鼻息のこそばゆさが心地よくて、
上条の意識がたちまち打ちのめされる。
不器用な少年も数度の経験を経て、美琴の好むついばみ方を覚えつつあるのか
上条は五感の全てを駆使して美琴を求めた。
(やーらけぇー、あったけぇー、いい匂いがする……)
(とうま……キス、うまくなってるぅ)
甘美な感触が、美琴の理性もとろとろ溶かしていく。
わずかに漂ってくる歯磨き粉の薬味も厭わず、上条を吸い求める。
告白を受けた日にファーストキスを交わして以来、美琴はこの行為にすっかり溺れていた。
これほど手軽に快感と幸福を味わえるのなら、もっと早くこの快楽に侵されたかったと本気で考えている。
「あぅん……もっとちゅーしてぇ、とうまぁ……」
「ああ、もっとしてやるよ、美琴」
舌を入れてキスを続けると、美琴の中にある「何か」のスイッチが切り替わることを
上条は経験上から確信していた。
スイッチが入ると美琴はツンケンとする自分を脱ぎ捨て、"少女"から"女"へと変態する。
声が一オクターブ上がって艶を増し、上条を下の名前で愛らしく呼ぶようになる。
学園都市で最高峰に君臨する超能力者《レベル5》として、気丈に振舞う姿の裏側に
こんなにも惚けた女の表情を持っている事を知っているのは上条だけだ。
分身にたちまち血が溜まって剛直するが、押し倒さんとする己の衝動はグッとこらえる。
(今日はまだまだ我慢だ、我慢。時間をかけて美琴に沢山触れてあげないとな)
『まずは、たっぷりと時間を掛けてディープキスをしましょう。
女性は性交以上にキスを好みます。ゆっくり時間を掛けて相手の心の扉を開くのです』
冊子の記述内容を思い起こしつつ、レモン味が消え果てるまで舌を絡め続けた。
抱きしめる腕の力を強めると、美琴からも求めてくる抱擁の力強さが愛おしい。
その瞳はトロリと潤み、上条にすっかり身も心も任せていた。
「なぁ、美琴」
「なにぃ?」
美琴の甘ったるい言葉には、上条がキスを中断した事への不満と、
続きをせがむ期待が合い混ざっていた。
上条とて、ここで止めるのは全く本心ではない。
「持ってるアメ玉って一個だけなのか?」
「ううん、初春さんから沢山貰ってるから、まだ5つくらいあるわよ」
美琴はいったん上条から身を離すと、ポケットから全てのアメ玉を取り出した。
上条はその隙に空調機のリモコンに手を伸ばし、設定温度を22度に設定し直す。
いささか肌寒い数値だが、身体を求め合うにはいい具合だろう。
「リンゴ味、パイナップル味、イチゴ味、オレンジ味、ブドウ味……ねっ、どれにする?」
「全部」
「ぜ、せんぶ舐めるの? 一個ずつ?」
「……ダメか?」
「ダメじゃない」
魅力的な提案に逆らう理由など何もない。
美琴はまずイチゴ味の包装を破ってアメ玉を口に入れ、目を閉じる。
イチゴ味の美琴も美味しそうだなと呟くと、上条は美琴の唇に強く吸い付いた。
---
[14:46]
アメ玉を二人で舐めると1つ当たり3分で消え果てる事を知った上条は、
美琴をベッドに押し倒しつつ、またしても舌を絡め続けていた。
唇以外を舐めようとするとアメの糖分でベタつくため、
二人は糖分が完全に磨滅するまで互いの口内をむさぼっている。
「……制服、シワになっちまうな」
「なんでもいいからぁ、続きしてぇ」
会話で意思の疎通を図るにはどうしても口を離さなければならないのだが、
美琴はほんの一瞬でも恋人の体温が離れる事に耐えられないらしい。
上条は唇が触れるか触れないかの位置まで口を寄せると、
小さな口をぱくっと開いて、餌をせがむ小鳥のように唇をついばんでくる。
「お前、キス好きだよな」
「すきぃ、とうまが好きぃ」
「スイッチが入ると急に素直になりやがるし」
「んふっ」
劣情にまみれた鼻息が扇情的で、背筋にゾクリとくる。
口内を舌でねぶられるのが余程やみつきになったのか、美琴の惚けた表情を見ていると
こんちくしょう今すぐ突っ込んでやりたいのを我慢してるのに、と思う上条は
自分が焦らしているのか焦らされているのかも分からなくなっていた。
唇でついばむキスを続けながら、上条は美琴へ完全に体重を預け、空いた手で美琴の耳たぶに触れる。
ビクリと身体を震わせる様子を見て、このままいじくり倒すのも面白いと思いつく。
「重くないか?」
「らいじょうぶぅ、口離しちゃやらぁ」
(完全にハマってるな。えーと、次は確か……)
『女性の肌に触れる時は「1秒間に3センチ」を意識しましょう。激しくこするのは禁物です。
優しくゆっくり撫でる事で、相手は貴方の存在を強く意識します』
冊子に記されたガイドのまま、上条は美琴の耳たぶをこすり始めた。
口付ける事と、性器をこすり合わせる以外の性交渉を知らない上条にとって
これが本当に快楽と直結するのかという不安はあったが、
「ふっ、ふぁぁっ、にゃあっ、うにゃあ!」
(なんつう声出すんだよ)
美琴には思いのほか効果があるようだ。
上条自身はまだ自覚していないが、美琴の嬌声を聞くたびに
下半身に血が滾っていくのも立派な前戯になっている。
潤んだ瞳と目が合うと、貪欲に求める女の本性が垣間見えた。
「それ、きもちいい……」
「美琴は耳も弱いのか」
「しら…なぁい…」
「もっと弱点探してやるよ」
「してぇ……」
左手は耳を撫で続け、右手をうなじに伸ばす。
こうして美琴に触れるのは、前戯のほかにも能力漏れを防ぐ意味合いもあった。
ペッティング中に感電したのでは笑い種にもならない。
美琴は顎を上げて手を受け入れ、後頭部の生え際をさすると、また舌を突き入れて絡める。
おとがいが唾でベトベトに濡れるのも気にせず、二人はすっかり行為に没頭していた。
「んふぅ、んふっ、んっふーっ、ふぅーっ、んっ、んっ、んふぁ…っ…」
(どこでも感じるんじゃねーか)
徐々に荒くなっていく美琴の呼吸に漂うアメの香りが
シャンプーの香料と混濁して、上条の鼻腔を執拗にくすぐる。
射精感がぞわぞわと湧き上がってくるが、心を無にして必死に抗った。
(3センチ、3センチ、3センチっと)
「んーっ、んぅーっ、とーまぁ……」
(あー、やべー、これだけで俺出ちまいそうだ。こいつ可愛いなー)
美琴の蕩けた思考には、もう上条と性感以外は何の情報も入ってこない。
一週間逢えなかった切なさや寂しさも、明け方の霧のように立ち消えていた。
好きな男に口内を、そして肌を撫でまわされ続け、淫らな一面を開発されていくことに
戸惑いも恐怖も感じず、ひたすら悦楽だけを感受していた。
(私……やっぱり当麻が大好き……)
その本心を認めるまでに掛かった月日、そして上条と恋仲になるまでの経緯の中で
二人は数々の苦難と試練に立ち向かってきた。
一つ間違えば命を落しかねない危機とて幾度もあった。
ほんの少しでも運命が不運に傾けば、二人は今頃冷たい骸になっていただろう。
今こうして生きて愛を育む事ができるのが、美琴にとっては何より幸せだった。
ゲコッ、ゲコッ、ゲコッ♪ ゲコッ、ゲコッ、ゲコッ♪
桃色の嬌声で満たされていた室内に、頓狂な着信音が鳴り響く。
唇を重ねたまま二人は目だけで意思疎通した。
(なんだ?)
(ごめん、私の携帯メール)
なんなのよもぅ、と愚痴をはばからず、美琴が身体をくねらせてポケットを探ると
上条は美琴に預けていた体重を取り戻し、いったん離れた。
相手の体温を喪い、一抹の寂しさが二人を襲う。
「……黒子からのメールだわ」
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【From】kuroko-shirai@tokiwadai-jh.ed.jp
【Sub】 ピンチですわ!
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お姉様、まさか今宵もお泊まりですの!?
寮監が勘付いてカンカンですのよ(ToT)
門限をごまかすにも限度があります、
せめて今宵は寮に戻ってくださいまし!
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無粋ながらも必然の成り行きであった。
美琴は憮然とした表情で、素早く返信を打つ。
上条はその間に自分の携帯を確認し、着信履歴がない事に安堵すると
サイレントモードに設定して卓上に戻した。
もし急用があれば固定電話に掛かるか、隣室の土御門が直接掛けつけて来るはずだ。
今日一日はなるべく誰の介入もなく二人だけの世界でいたかったのだが、
己の不幸な体質を考えると大きな期待を持ちづらい。
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【To】kuroko-shirai@tokiwadai-jh.ed.jp
【Sub】 Re:ピンチですわ!
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無理! なんとかごまかして!
明日なんでも奢ってあげるから!
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【From】kuroko-shirai@tokiwadai-jh.ed.jp
【Sub】 Re:Re:ピンチですわ!
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お姉様ぁ~(ToT)
このままでは黒子の首が270度回ります!
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【To】kuroko-shirai@tokiwadai-jh.ed.jp
【Sub】 Re:Re:Re:ピンチですわ!
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あと90度回してもらえれば元通りよ
頑張って
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【From】kuroko-shirai@tokiwadai-jh.ed.jp
【Sub】 首がちぎれますわっ!(ノД`)
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居場所は分かってますのよ!
どうせあの殿方のところでしょう!
お姉様、くれぐれも学生としての節度を!
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【To】kuroko-shirai@tokiwadai-jh.ed.jp
【Sub】 アンタなら大丈夫な気がするわ
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そ、そんな事あるわけないでしょ!
今夜は佐天さんの所に泊めてもらうのよ。
来週はちゃんと寮に居るようにするから。
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【From】kuroko-shirai@tokiwadai-jh.ed.jp
【Sub】 メールでどもってどうしますの…
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佐天さんと口裏を合わせてる事なんて
とっくにバレてますわよ!ヽ(`Д´)ノ
先週は固法先輩と、その前は初春とも!
四週に一度寮で大人しくされているのは
月のモノがあるからってだけでしょう!
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【To】kuroko-shirai@tokiwadai-jh.ed.jp
【Sub】 なんで私の周期を知ってんのよ!
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とにかく、これ以上は詮索しないで
じゃあまた明日ね
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【From】kuroko-shirai@tokiwadai-jh.ed.jp
【Sub】 (´;ω;`)ウッ…
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お姉様はもうあの類人猿に
身も心も委ねてしまわれるのですね。
今夜は下ろしたての下着を身に着けて
きっと一晩中エロエロなのですわね。
ああさようならお姉様の貞操、
黒子は無念ですわぁぁぁぁぁ!!
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【To】kuroko-shirai@tokiwadai-jh.ed.jp
【Sub】 無題
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バカッ!
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ふうと一息ついて、美琴はルームメイトとの不毛なメール合戦を終えた。
カエル型の携帯をサイレントモードに設定し、上条の携帯の横に置くと
二人の携帯電話に結ばれているストラップのゲコ太とピョン子が並んで
微笑ましく感じられる。
自分と上条もそうありたいと美琴は願っていた。
「なぁ」
「なによ」
「白井がなにか言ってきたのか?」
「別に、いつもの通りよ」
「つーか外泊したらマズイんだよな、常盤台の寮って。
おっかない寮監がいるって言ってたじゃねーか」
「なによ今更。……帰ってほしいの?」
「そんな事は思ってねえけど」
「じゃあいいじゃない」
黒子と諍いしている間にスイッチがまた切り替わったらしく、
ツンケンとしたいつもの態度に戻っている。
ほんの15分前の、舌を突き出して絡みついてきた姿とのギャップが
上条の不純な心を惹きつけた。
「今夜もし帰ったら、きっと白井がイチャイチャしてくるんだろな」
「嫌よそんなの! あの子の事は好きだけど、そういうんじゃないんだから!」
「じゃあ、帰らないんだな?」
「いじわるっ」
美琴はブレザーを脱ぎ捨てると、上条の懐に飛び込み猫のように擦り付く。
気丈な少女は自ら本性を晒し、甘えまくる所存になったらしい。
「……実は分かりやすいヤツなんだな、お前って」
「今頃気付いたの? 鈍感なやつ」
今度は美琴が上に覆いかぶさって、上条の唇を奪う。
上条はなすがまま押し倒されながらも、淡い優越感を感じていた。
---
[15:24]
「ん…んふ、ちう…れろっ…ぷちゅ…ちゅ…とーまぁ……」
「んっ、れろれろ…んっんっ…ちゅっ…はぁ…みことっ……」
二人はベッドの上でお互いの身体を抱きしめながら
幾度もお互いの位置を入れ替えつつ、延々とカクテルキスに興じていた。
意識が溶けかけている美琴に比べ、襲い来る衝動に耐えている上条は
まだ幾分理性が働いているが、このままでは下着の中で射精しかねないほど
自制心が崩壊しかけている。
ちらりと壁時計に視線を移すと、優に1時間はキスだけで過ごしていた。
そろそろキスを止めて次のステップに移ろうと考えるが、
すかさず美琴が口寂しそうな表情で訴えかけてくる。
「……やめちゃうの?」
「やめねーよ」
かくいう上条も欲望が切迫しているのだが、美琴にもっと尽くしたい気持ちもある。
上条は唇をそっと美琴の頬に押し付け、次に鼻、額、瞼へと優しく口付け始めた。
「んっ、なっ、なに?」
「気持ちわりいか?」
「そんなことない……」
上条も美琴も口唇と乳房、性器以外の場所に触れる愛撫を詳しく知らない。
らしからぬ繊細なアプローチに最初こそ戸惑ったが、
いとおしそうに口で触れてくる上条の様子に、美琴の顔もつい綻んだ。
「これ、なんだか幸せかもしれない」
「そう言ってもらえると上条さんは頑張りますよ」
探りを入れるように唇を這わせていく上条にとって、
美琴が好意的に受け止めてくれているなら喜ばしいことだ。
化粧っ気のない歳相応の柔肌は、唇とは違った意味で
吸い付いて離れたくなくなる魅力を秘めていた。
「ぷるぷるしてるよな、お前の顔って。男にはヒゲとかニキビとかあるからなぁ」
「女にだってヒゲもニキビもあるわよ」
「お前そういうの全然ねーじゃんか」
「日頃のケアの賜物ってやつじゃない?」
「そういうところはしっかり女してるんだなぁ」
「当たり前でしょ。……吹き出物なんて作って、好きな人に嫌われたくないもん」
至近距離で見つめあいながら言うには恥ずかしすぎるのか、
美琴はそっぽを向きながら上条への好意を口にする。
形のいい左耳が目に飛び込んできて、上条の興味はそこに移行した。
「そんな事しねーよ」
「ひぁっ……!」
耳たぶを舐められた驚きと感触に、思わず美琴の身体が跳ねる。
耳穴に吐息が吹き込まれ、舐める舌の熱い感触に耳朶を侵されて
美琴はふるふると身を震わせた。
「やだぁ、くすぐったいよぉ!」
「嫌か? やめるか?」
「やめちゃやだぁ……」
美琴のこういうところがわかりにくいんだよなぁ、と上条は心の中で呟いたが
わからないからわかろうと挑む事を交際と呼ぶのかも知れない。
まずは、今腕の中でなすがままにしている少女の身体を知る事に専念する。
(左耳に10分、右耳に10分くらい掛けてやるか。
……3センチだの1時間だのと結構頭使うんだな、セックスって)
数字を意識して頭を働かせると、暴走的になりがちな性衝動を少し押さえ込めるので
これはこれで理に適っているのかもしれないと上条は結論付けた。
---
[15:51]
「れろっ、れろれろっ、かぷっ、れろっ、れろんっ、ちゅっ、ちぅぅ、はむっ……」
「やぁー…ーっ…とーまぁー…ーっ…」
たっぷり時間を掛けて、耳がふやけるほど舐めつくすと
美琴は身悶えしつつ、間延びした嬌声をあげ続けていた。
上条は、美琴の耳が右と左で感度が違う事と、耳の味は少し粉っぽい事を知る。
後者は瑣末な情報だが、右の耳は息を吹きかけるだけでも
身をよじらせる事が分かったので、今後もたくさんいじくり倒してやろうと画策した。
「あ、アンタやりすぎなのよっ! ちょっと出そうになったじゃない!」
「出るってなにが?」
「い、言えるわけないでしょっ!」
「……ああ、おしっk」
「言うなぁぁーーーーーーッ!!」
「うるせえっての。隣に聞こえるぞ」
上条は慌てて美琴の口を右手で塞ぎ、はしたない怒声に制止を掛けた。
こんな声がうっかり土御門兄妹の耳にでも入ろうものなら、不埒な噂の流布に怯えて
二人の週明けは気が重いものになるだろう。
血は繋がっていなくとも、あの兄妹の性質は実によく似ている。
「ああ、土御門のお兄さんならさっき玄関で会ったわよ。今日は出掛けるんだって」
「だったら少しは安心なんだけどな。
でも隣の部屋からも、それっぽい声が聞こえてきた事は何度かあるんだぜ」
「え、あの二人ってそうなの!?」
「たぶん……」
美琴は相当面食らった。舞夏が近親関係をネタにした漫画を好むのは知っていたが、
実践行為までしているとなると今後の接し方も少し考え直さなくてはならない。
「まぁ、あんまり深くは意識しないようにしてるけどな」
「私もそうしよっかな……」
窓から差し込む光が緋に染まり、外の世界は早くも夕暮れが訪れていた。
気が付けば1時間半も睦み合っていたにも関わらず、お互いまだ
服も着たままで、汗ばんだ身体を持て余している。
美琴の携帯のLEDがチカチカと点滅していたが、二人して黙殺していた。
「……時間が経つのって早いわね」
「まだまだ沢山あるさ。ブラウス、脱がせていいか?」
「うん」
上条は美琴の上半身だけ抱え起こすと、彼女の背に回り込んで
抱え込むようにして抱きしめながら、ブラウスのボタンに手を掛けた。
後ろから抱き寄ると、鼻腔をくすぐる洗髪料の匂いが甘ったるくて仕方がない。
「美琴って、何処のブランドのシャンプー使ってんの?」
「ブランドっていうか、その……」
「甘いミルクっていうか、まるで赤ちゃんみたいないい匂いがするんだよ」
「そ、そうなのかな」
上条が女性の身だしなみについて訊ねること自体が珍事なのだが、
ケロヨン型の小児用シャンプーを使っているという真実はつい言い淀んでしまう。
せっかく下着は決めてきたのに、こういう部分で美琴は己の本質を変えられない。
もっとも上条とて、その甘い香りに性欲がそそられるなどと直言はできないのだが。
ブラウスのボタンを3つ外したところで、美琴の控えめな膨らみを包む
白いレースのブラが露わになった。
「あっ」
「……可愛らしいの着けてるんだな」
「あ、アンタに多分見られるだろうと思って、その……ありがと」
美琴としてはパッドで押し上げて、エアで膨らませた補正下着との組み合わせで
外勢を張りたい気持ちもあったが、それは友人達に強く反対されていた。
『ダメです御坂さん、勝負下着は男の人が喜ぶものを着けるべきなんですっ。
押し上げて見栄を張ったって、脱いだら絶対バレちゃうんですから!』
『そうですよ、その慎ましい胸のままだっていいじゃないですか!
御坂さんの彼氏さんならきっと受け入れてくれます!』
(佐天さんも初春さんも、なんであんなに熱心だったんだろ……。
まぁ、スケスケ趣味の黒子よりかは役に立つアドバイスだったけど)
女の友情は時に厚く、時に薄く、時には興味本位が全てである。
だが友人達の真意は、美琴の下着趣味が小児向きから脱した時点で半分達成されていた。
一方の上条は、女性の下着の色や柄形に対するこだわりは薄いものの、
見られる事を意識して下着を身に着けてきた美琴の性格が愛しいと感じている。
ブラウスから手を離し、両手で下着の上から乳房をそっと包み込んだ。
「こうすると手の平にちょうど納まるな」
「う……」
胸のサイズの事を言われると、美琴としては羞恥より面目のなさが先に立つ。
上条としてはなんら含みのない言葉であり、むしろ自分の掌にちょうど納まる感触に満足していた。
手に余るサイズを揉むのは男の夢だが、今こうして愛しい彼女の胸に触れている事は
夢にも願望にも勝る現実だ。
「ごめん……私の胸、やっぱ小さいよね」
「? なんで謝るんだ? なにも悪くねえよ」
「だって、アンタの周りには大きい人たくさん居るじゃない」
「いや、いるにはいるけどさ」
女性の身体的な特徴に対して執着の薄い上条には、話の本質が全く見えてこない。
上条から伺えない美琴の表情は、いつからか翳りを帯びていた。
「……どうして私を選んでくれたの?」
「だから、なんの話なんだよ」
美琴は上条の手に自らの手をそっと添え、自身の体温と心を伝えようとする。
その手は小さく震えていた。
「だって、告白してくれたのはアンタの方だもん。
私、結局自分からは踏み出せなかったから、あの時はすごく、すごく嬉しかった。
寮に帰ってから一晩中喜び悶えて、黒子に不審な顔されたって気にならなかった。
それだけ嬉しかったけど……理由が全然わかんなかったの」
「……」
「だってアンタの傍にはいつもあの子がいるし、他にも修道女とか巫女さんとか
包容力の豊かそうな人が回りにたくさんいて、私から見ても魅力的な人達だもの」
「あー、姫神は別に巫女さんってわけじゃないぞ」
「まぜっ返さないで。……だからさ、どうして私だったのかなって。
私より綺麗な人だって、スタイルのいい人だって、料理の上手な人だって、
優しい人だって、強い人だって、積極的な人だっているじゃない。
私はスタイル良くないし怒りっぽいし優しくないし年下だし素直じゃないし……
アンタの好みと掛け離れてるって事くらい、自分でもよくわかってるのよ」
「美琴、おまえ……」
美琴は今、背反する二つの感情に苛まれていた。
最上級の幸福と同時に手に入れた最大級の恐怖。
それはようやく両想いになれた上条との仲を喪う事に他ならない。
しかし美琴の言葉は止まらず、自身の幸福感を自らおびやかしていく。
「それに、妹達だって私と同じ姿かたちをしてるのに、私よりおしとやかだし素直だし、
私みたいに嫉妬やワガママのためにビリビリもしないから、ずっと接しやすいじゃない。
私……自分自身のクローンにも劣等感を感じるこの性格が、時々すごく嫌になるの……。
せっかく恋が叶ったのに、あれから毎日のように見えない不安に怯えてるのよ。
だからせめて胸が大きくなって、料理がもっと上手くなって、怒る事をしなくなれば
アンタの好みに少しは近付けるんじゃないかって思ったから……」
名門校の模範生であり、学園都市きっての能力者という高みにありながら、
美琴は誰よりも大きなコンプレックスを抱えていた。
それは時に孤独、劣等感、嫉妬といった形となって彼女を苦しめている。
上条は美琴の吐露を聞きながら、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていたが、
自分を追い詰めて身を震わせている美琴を強く抱きしめた。
そして、己の中に生まれた爆発的な感情を整理しつつ、ゆっくり言葉に表す。
「それは……なんか色々と違うだろ。お前はお前だからこそいいんじゃねえか。
自分を作り変えちまったら、お前は御坂美琴じゃなくなっちまう」
「えっ?」
「お前……3つほど誤解してるみたいだから、この際ハッキリ言うぞ。
まず1つ、俺は俺の周りにいる人達をより取りできるような立場なんかじゃねえ」
「勘違いなんかじゃないわよ、みんなアンタに好意を寄せてる女の人ばかりじゃない。
あ、アンタがその気にさえなれば、交際してくれるって人は山程いるわよ」
「青髪や土御門じゃあるまいし、お前まで俺の事をフラグ建築士とか思ってるクチか!?」
「思ってる。しかも父親譲りの遺伝能力よね」
「かーっ! あのなぁ、それは俺が『上条当麻』らしく行動した結果の一つであってだな」
「確かにアンタの信念は老若男女関係ないみたいだけどさ。でもさ」
上条の正義感は美琴のみならず美琴の父母や友人にも働き、
また様々な局面で多くの人を不幸から救い、その生き様は影響を広げている。
そんな上条の周囲を囲う人の輪の中には、彼を男性として恋い慕う女性達も多い。
「それを言ったら、お前だって色んな人達に囲まれて、その人達に慕われてるだろ?
それはお前が、みんなを守りたいって信念を持って戦ってきたからじゃねーのかよ。
白井は一際変わり者だけど、あいつだってお前の事を慕ってるからああなんだろうし」
「そうだけど、恋愛は別だもん。私はずっとアンタだけを見てた」
「……そうストレートに言われちゃうと、グゥの音も出ないな」
「それを素直に言えなかったのは、私が全面的に悪いんだけどさ……」
「いや、俺もあとから聞くと相当鈍かったみたいだし、お互い様だろ」
上条が美琴の不器用なアプローチの正体に気が付いたのは、交際を始めてからだ。
だからこそ自分達には、向かい合って本音を晒す勇気が必要なのだと考えている。
上条は抱きしめる力をいっそう強めて話を続けた。
「そりゃまあお前が言うように、普通は顔とかスタイルとか趣味とか、
料理上手だとか、話してて面白いとか、そういうのが恋人を選ぶ条件かもしれねえ。
でもそういう基準で相手をえり好みできるような上等な人間じゃねーよ、俺は。
右手以外にはなんの取り柄もねえ、学の低い無能力者だしな」
「そんな事ないわよ……」
「それに、俺はみんなの中から一番魅力的な人を選んで、お前に告白したってわけじゃない。
いや、あの、別にお前が魅力的じゃないとかそういうんじゃなくてだな、その」
「……そこは気にしないから、続けて」
上条の口から恋愛感情に関わる言葉を聞く事は少ない。
これは希少な機会(チャンス)なのだと美琴は察知し、身体の震えを押さえて話の続きをせがんだ。
「俺は、お前を選んだんじゃない。……初めからお前だけしかいないと感じてた」
「それって、どういう……?」
身体の震えがぴたりと止まり、美琴の胸の中に暖かい期待が生まれた。
鼓動が高鳴り、頬が赤らむ。
「小萌先生が前に授業で言ってたんだけど……すまん、ちょっと話が飛ぶかもしれねえ。
先生が言うには『常盤台中学の御坂美琴は、幼少の頃からのたゆまぬ努力によって
レベル1からレベル5に上り詰めた、学園都市きっての模範生』なんだってさ。
でも俺はそれを聞いた時、つい鼻で笑っちまったんだ。
自販機に回し蹴りを入れるような、あのふざけたお嬢様が学園一の模範生なのかよ、ってな」
「わ、悪かったわね!」
「でも、この街の多くの人にとってはそういう特別な存在らしいんだよな、お前って。
だけど俺の中で、お前のことを特別とはどうしても思えないんだ。
普通とか平凡ってのとも違うけど……なんていうか、一緒なのかなって」
「いっしょ?」
「そう、俺とお前は一緒なんだって思えるんだ。
超能力者と無能力者が一緒だなんて聞いたら、おかしいか?」
「ううん、笑わないわ。私もその言葉がしっくり来るって思うもの」
能力の発現過程から養育状況に至るまで、二人の育ってきた境遇は大きく異なる。
上条が体質にかこつけてカリキュラムにあがく一方、美琴は必死に努力を重ねてきた。
そんな二人に共通する点は、誰よりも義に厚く情に脆い性格にある。
それは二人が上条当麻と御坂美琴で在り続けるために
絶対に曲げる事のできない、唯一最大のアイデンティティだ。
たとえ上条の右手から幻想殺し《イマジンブレイカー》の力が奪われても、
美琴から電撃使い《エレクトロマスター》の能力が失われたとしても、
二人は信念に基づいて戦う事を絶対に諦めはしない。
その真理に気付いた日、美琴は上条に愛という感情を初めて自覚した。
「それが……十月のいつだったかな。瀕死なアンタの姿を見て、私は私の本心に気付いたの。
あの時、止める事だって一緒に戦う事だってできたのに、私はどちらもできなかった。
アンタが貫こうとした思いも、自分の中に生まれた想いも抑えられなかったから……」
(もしかして、アックアと戦った時の事かな)
「……でもホントはね、もっと前からアンタの事、気になってた。
初対面の時だってアンタは、見て見ぬ振りをしてる学生達をかき分けてやって来て、
か弱く見えたらしい私を庇いながらスキルアウト達に突っ張ってたもん。
頼みもしないのに渦中に突っ込んできて、助けるために力を振るうアンタの姿を見た
あの時から多分、私は独りじゃないんだって思えたのよ」
「……あーすまん、その時の事は」
「そうよねぇ、覚えてないのよねアンタってば」
「俺の記憶だと、自販機を蹴っ飛ばすハチャメチャなお嬢様と、
そのお嬢様と瓜二つの双子が現れたって印象が強かったんだよなー。
ちょうど、一方通行(アクセラレータ)と殴り合った日の前日だったっけ」
軍隊すら蹂躙する最強の能力者との、操車場を血に染めた死闘を
「殴り合った」で済ませてしまう上条の感性に呆れて嘆息する。
しかしそのような度量の持ち主だからこそ、どんな大きな脅威にも立ち向かえるのだろう。
妹達《シスターズ》と自分を救ってくれた事は、美琴にとって大恩の一つだ。
「アンタに出会ってなかったら私は今頃、物言わぬ死体になってた。
妹達と見分けも付けずに投げ捨てられて、死んだ事にすら気付かれてなかったと思う」
「そんなもしも話はやめようぜ。お前も妹達も、しっかり今を生きてるんだからさ」
「うん……」
「だから涙ぐむんじゃねーよ。お前は、笑ってていいんだ」
「ありがとう。私が今笑っていられるのは、アンタのお陰よ……」
上条は美琴の顎に左手を添え、右に振り向くよう誘導する。
涙で溢れた瞳と視線が重なると、少しの罪悪感と大きな愛情を込めて唇にそっと口付ける。
美琴は目を閉じてそれを受け入れ、涙を零れ落とした。
(……底抜けに優しいとこも、好き……)
もっと受け入れたい、求めたいと思い直した美琴は
上条の腕の中で強引に姿勢を変え、彼に向き直った。
上条は美琴の両脚を腰に回させると、対面座位の姿勢を取ってギュウと抱きしめる。
身体の触れ合う部分の全てが、熱を帯びて汗ばんでいく。
「それと2つ目。あの時もそうだったけど、
お前、切羽詰ると自分の価値を貶めるような事言うの、やめろよな」
「あ、あの時はあれしか妹達を助ける手がないと思ったからだし、それに今のは……」
「御坂美琴は俺の大切な恋人なんだよ。その悪口を言うヤツは、たとえお前自身でも許さねえ」
「あ、アンタ……!」
「お前は可愛いし強いし賢いし料理もこなすし、それに本当は
誰よりも優しくて面倒見がいいんだって、白井のヤツも鼻を高くして言ってたぞ。
今はもう俺の方が沢山魅力を知っちまってるけどな。だから自分を恥じるなって」
告白やピロートークとは別の意味で恥ずかしい台詞を
力いっぱい抱きしめられながら耳元で語られ、美琴は顔が熱くなる。
心の不安はすっかり吹き飛び去っていた。
「最後に3つ目。俺は……お前みたいに小ぶりでも、か、形のいい胸が一番好みなんだ」
「なんかどもってるんだけど」
「ちょっと大っぴらに言いづらいだけだっ」
「そんな優しいウソ言わないでよ……男はみんな大きい方が好きって言うじゃない」
「男にだって色々いるのですよ。俺は、お前のがいい」
「ふふっ、ホントに?」
「ホントだって」
「じゃあ……触ってみる?」
「……みる」
「なら……、……いいよ」
上条の愚直な言葉につい笑いを誘われた美琴は、身体半分ほど後ろに下がって
ブラウスの残りのボタンを自ら外し、脱ぎ捨てた。
手を背に回してブラを外すと、上条の言う小ぶりなバストが姿を現す。
夕暮れの室内でも端正な体つきが見て取れた。
「こ、こう見えても、付き合い始めてからちょっとは大きくなったんだからっ!」
「だからそこは気にするなっての。つーか、実際目の前にすると、なんていうか」
「なんていうか?」
「……止まんなくなりそうだ」
「痛くさえしなかったら……あ、アンタのしたいようにして、いいわよ」
「美琴っっ」
上条は衝動のタガが外れそうになる前になんとか踏みとどまり、冊子の存在を思い出す。
美琴と唇を重ねつつ、慎ましくも張りのある双丘にそっと両手を添えた。
『成長期の女性の胸はデリケートに扱ってください。乳首をつねるなど論外です。
乳房全体を手の平全体を使ってゆっくりと揉み、先端は撫でるように触れましょう』
(真面目な話でテンション下がっちゃったからな。またスイッチ入れてやるか)
「んふっ、れろ、ちゅっ、ちゅるっ、れろっ、ちゅぱっ、ちゅっ……」
(今日はねちっこいくらい、一杯キスしてくれる……)
美琴の口内を舌で堪能し終えた後、上条はもう一度問いかけた。
「もっと沢山触っても、いいか?」
「うん……なにしてもいいよぉ、とうまぁ……」
愛ゆえに全てを許した女の微笑みが、そこにあった。
---
[16:58]
科学技術の先端を行く学園都市でも、冬の落陽は暦通りに訪れる。
上条の部屋も夜の暗闇に包まれつつあったが、二人のほてる感情は燻り続けていた。
上条は美琴をベッドに組み敷いて、まるで味の違いをテイストするかのように
左右の乳房を交互に、そして入念に舐めつくしている。
ツンと自己主張する先端はすっかりふやけ、美琴の荒い呼吸に合わせて浮沈していた。
「あ、アンタ……やっぱり、胸が好き、なんじゃない……!」
「美琴が好きなんだよ」
「今日のアンタ、ちょっと、大胆すぎ、でしょ……!」
「聞こえねーな。ちゅ」
「ひゃっ!」
右の乳首を口に含み、吸ったり舐め転がしたりと小技を駆使しながらも、
空いた左の乳首を右手で優しく撫でる事も忘れない。
二つの愛撫を同時にこなすのは存外難しいが、労苦を掛けて上条は体得していく。
感度のいい美琴の喘ぎ声が、カンフル剤となって彼の心を盛り上げる。
「あぁっ…ひゃっ、ひぅっ……やらぁ、いじりすぎぃ……んぅっ、んああっ」
(さすがに時間掛けすぎたかなぁ。もうじき夜じゃねーか)
官能に正直な本能と、時間経過を冷静に判断する理性を両立させ続けるのも難しい。
舌を駆使しすぎたせいか緊張のためか、ツバの渇きを感じ始めた。
ここで休憩を取ると、盛り上がりに水を指す気がするので止められないが
どのみち夕食の時間までには一区切りをつけなくてはならない。
美琴の愛情がこもったシチューも、今日の楽しみの一つなのだから。
「美琴」
「なに?」
「暗くなってきたし、電気付けてもいいか?」
「えっ、あっ、明るくするの?」
「だってもう暗いぜ」
「は、恥ずかしいし、眩しいからいい!」
組み敷かれる女にとって天井灯は眩しすぎるが、かと言って上条の部屋に
サイドランプのような小洒落た品物はない。
暗闇に包まれた室内で、二人の携帯のLEDだけが存在を過度に主張していた。
いつまでも着信を無視するのは気が引けるが、今はまだ手を伸ばせない。
「暗いと色々困るだろ。明かり、付けるぞー」
「……わかった」
ベッドから降りて電灯のスイッチを入れると、二人はベッドの縁に座りながら
眩しさに慣れるまで幾ばくの間、目を瞑った。
上条がちらりと横目で伺うと、桜色に染まった美琴の肌と、
Bカップの慎ましい胸が明かりの元に晒される。
暗闇の中でまさぐるのとはまた別の興奮が芽生えた。
「ちょ、ちょっと、なにそれ!」
明かりに慣れた美琴が、上条の下腹部を見て恐れおののく。
いきり立った怒張がトレーナーを突き上げ、その先端部分には先走った腺液が染み出していた。
「や、これは、なんていうか、その」
「……ひょっとして、だ、出しちゃったの?」
「違う、まだ出してない! これは違うんだっての、ああもうっ」
ここでカウパー腺液の性質を詳しく語るのは恥を上塗る気がしたが、
男も女と同じように濡れるのだと、淡い性知識に基づいて簡潔な説明をする。
初体験を暗闇の中で行ったためか、お互いに新発見な事が数多くあった。
「もう俺も脱いじまうからさ、お互い全部脱ごうぜ」
「ぬ、脱いじゃうのっ? 全部っ?」
「ああ」
既にスカート一枚のあられもない姿でありながら、美琴はその言葉に狼狽した。
一度は許した身体であるし、今日は彼に全て許容しようと心では思っているのだが、
スイッチが戻るとどうしても恥じらいの感情が強く現れてしまう。
そんな美琴を促す意味も含めて、上条は悠々とトレーナーを脱ぎ捨てる。
下着を脱ぎ捨てると、天に向かって突き伸びる男のシンボルが顕現した。
(あ、あわわわっ……初めて見ちゃった! 遂に見ちゃった!
男のあそこってあんな形なのね……)
(うう、見られてちょっと硬さを増してる上条さんは、人としてどうなのでせう)
ギンギンに張り詰め、臨戦態勢を整えている代物を見た美琴は
それが上条の欲望の正体だと知るや、グルグルと目を回し始めた。
(でもこれって、私のこと強く求めてくれてるって事なのよね。
私、さっきからアイツに一方的にしてもらってばっかりだし、
あんなに沢山愛してくれたんだから、私もなにかしてあげなくっちゃ。
で、でもナニかって……たとえば手とか口とか、あとは……あうううう)
(……さてはまたテンパってるな)
「あ、あのその、それっておち……」
「ん?」
「おち……んち……ん……なのよね?」
「ぶぷっ、カワイイ言い方するんだな」
「え、言わないの?」
「言わなくもないけど、どっちかってと子供向きの言葉じゃねえか?」
「そうなの? アンタはなんて呼んでるの?」
「うーん、男同士だとチンポって言うのかな。普段はそんな単語滅多に口に出さねえけど」
「ち、ちんぽ!?」
(ビクンッ)
淫猥な単語が美琴の口から飛び出たのに合わせ、上条のシンボルがいっそう反り上がった。
知る限りで最も卑猥な口調の金髪女を思い出したが、彼女の言葉を聞いても
今の美琴に感じたような気持ちには少しもならなかったものだ。
性欲は愛と累乗されるものだと実感する。
「そ、それってさ……もし私が口とか手で刺激したら嬉しいものなの?」
「ああ、きっとメチャクチャ気持ちいいと思う。
でも今それを美琴にされたら、多分カミジョーさんジュニアは一瞬で昇天してしまいますっ」
「えええ!?」
「……色々ギリギリなんだよ、言わせんな、恥ずかしいから」
(そっか、当麻ったら我慢してるんだ)
未知なる器官を目撃した事により、脱ぐ話題をすっかり忘却してしまった美琴を促すため
上条はそっと彼女に近寄りベッドから立つように促す。
美琴はなすがまま立ち上がり、上条と並び立った。
「つーか俺だけ脱がせる気かぁ? 早くしないと俺が脱がせちまうぞー」
「わ、わかったわよ!」
つい気を張った美琴は、慌ててプリーツスカートに手を掛けて脱ぎ取った。
幸か不幸か、女子の脱衣シーンに遭遇してしまった事は幾度もあるが、
それを本人公認のもとでガンと見つめていられるのは初めてだ。
本能的にどうしても胸や下腹部へ目が行ってしまう。
右腕で胸を隠そうして、全く隠しきれていない美琴の恥じらい方も可愛いが、
スカートの下に短パンを残してる辺りもまた彼女らしいと上条は思った。
「……ぷっ」
「なっ、なにがおかしいのよっ!」
「いや、その、美琴らしいよなぁって思ってな」
「だって、その、無いとどうしても落ち着かないし、
彼氏ができたって思ったらなんかますます脱げなくなって……
ねぇ、こういうのってやっぱり履かない方がいいと思う?」
「そのままでいいと思うぜ。脱がせる物が一枚増えるくらいどうってことねえし。
この時期だとあれだ、毛糸のパンツみたいなものだと思えば」
「やっぱりアンタ、バカにしてんでしょーっ!」
「だから騒ぐなっつうの。また口塞ぐぞ?」
「……その右手で?」
「手以外になにで塞ぐんだよ」
「……」
「?」
美琴は短パン姿のまま上条に近付いておとがいを上げる。
表情はしっかり怒っているが、瞳はキラキラと輝いて期待に満ちていた。
上条は苦笑しながら左腕で美琴を抱き寄せ、鼻がぶつからないよう首を傾けて口付ける。
(ほら、これでいいのか?)
(うん……)
超至近距離で見つめあう視線だけで思慕を交わし、どちらともなく舌を絡め始める。
上条は美琴の目を見つめたまま、右手で短パンのジッパーに手を掛けると
いやに湿っぽい感触が指先に触れた。
「おまえ……ひょっとして」
「なっ、なによっ」
「やっぱり漏らs」
「しっっ、してないわよっっ!」
「それにしては随分とだなぁ」
「だって……アンタが沢山してくれたから……私……」
(だーっ、クソ可愛いなぁこいつ)
湿り気の正体が、先程の自分のそれと同じである事に気付いた上条は
ニヤニヤと厭らしい笑みを隠す事ができないでいる。
時間を掛けて美琴を慈しんだ甲斐はあったのだ。
一方で、男としての欲望はいよいよ我慢ならないところまで昇ってきている。
(もっと美琴に感じてほしい)
(今すぐ美琴の中で射精したい)
両立しがたいこの欲情になんとかして折り合いをつけなければ、
どちらも叶わないうちに美琴の眼前で放出してしまいそうだった。
頭の中に、欲に忠実な悪魔と、愛を尊ぶ天使の言い争う光景が浮かんでくる。
(ゴムは3つもあるんだし、ここでまず一回出したっていいと思うにゃー)
(いや待てダメだァ、まずは恋人の身体をいたわってやンねェとなァ)
(あのお嬢さんの顔を見てみろよ、もう今すぐにでもブチ込まれたがってるぜい)
(ここまで丁寧に愛撫したってのによォ、慌てるソーローは女を傷つけるぜェ)
何故か悪魔は土御門元春の、天使は一方通行の口調なのが気になって仕方がない。
(お前らどっちも悪魔じゃねえか! 俺はやっぱり欲に負けそうですトホホ……)
いずれにしても短パンを脱がさない事には状況が進まない。
上条はジッパーを下まで落とすと、腰から削ぎ落とすようにして脱がせる。
またぞろカエル柄の下着が現れると思っていたが、短パンの下では
ブラに合わせた純白色の紐パンツが、美琴の愛液でぐっしょりと濡れていた。
「ごめん、我慢しようと思ったんだけど、自分じゃどうにもならなくて……」
「いや……むしろ嬉しいかも」
小用や射精と違い、女性の身体構造で押さえ込める代物でない事は上条も知っている。
だからこそ美琴の本音がダイレクトに伝わってくる。
セックスは終始上条のリードで続いているのだから
この状況をいっそう盛り上げるのも、盛り下げるのも全ては上条次第だ。
(俺はまだ我慢できる。もっと美琴に触れていたいんだ!)
(それでいいンだよ上条ォォォ!)
(お前が天使配役は無理があるだろ……)
鉄の芯がこもったように硬く、我慢の限界に耐えているペニスからはいったん意識を離し、
上条は下着の上からそっと下腹部に触れ、濡れそぼる部分に優しく指を押し付ける。
同時にくふっ、と美琴の口から小さな吐息が漏れた。
(3センチ3センチ3センチ……ふにふにしてやわらけえな、美琴のここ)
「くっ…ふぅっ…んっ…」
指の腹を使って、上下にゆっくりと擦る。
行為自体は二度目なのだが、一度目のそれは激しく余裕がないさまだった事を思い出す。
美琴を愛するがための所作ではなく、挿入ありきの準備行為だったのではないか。
(それじゃ足りねえんだ。どこをどう触れば美琴が悦ぶのか、覚えなきゃな)
にちゃにちゃと小さな水音を立てて、美琴の秘部が優しく蹂躙されていく。
未成熟な少女の性器にとって、上条の愛撫は限りなく正解に近い感覚だった。
(今日はすごく丁寧に触ってくれてる……。気持ちいいけど、優しすぎて怖いかも)
上条の性格はオンオフが激しく、良くも悪くも一直線に進むのが持ち味である。
普段は少女のナイーブな心の機微を拾い上げられるような性分ではないのだが、
今日は御坂美琴の肉体を知り、悦ばせる事にひたすら没頭している。
(右手で触ってるから……幻想じゃ、ないのよね)
熱でどろどろに崩れ落ちているはずの、美琴の理性の最後の一欠片。
それを維持していられるのは、優しすぎる態度にほんの少しだけ違和感を覚えているからだ。
「みこと……」
「とうまぁ……」
お互いの名を呟きながら唇を重ね、擦り合わせる。
唇というのは内胚葉、つまりは内臓の一種に当たるのだが
同時に性的なシンボルの一つでもある。
無意識にそれを擦り合わせ、真に求めている行為の予兆を示す。
「これも、脱がすぞ」
「……うん」
上条は美琴の瞳を見つめたまま、両手で同時に下着の両端の紐を引っ張り上げると
愛液の重さを抱えてべちゃりと床に落下した。
これでお互い一糸纏わぬ姿となり、身も心も裸に成り果てる。
可憐な少女の裸身を見つめながら、上条は過酷な試練が始まる事を予感していた。
---
[17:20]
普段ならそろそろ空腹感が脳裏を支配し始める時刻なのだが、
今の上条と美琴の頭を占めているのは、飢餓にも似た性欲だけである。
しかし、理性の衣の最後の一枚を脱ぐまいとあがいている上条と
最後の一枚を脱げないでいる美琴は、似て異なる状態であった。
今お互いに慌てて衣を脱ぎ捨ててしまえば、全てが破綻しかねない。
ゆっくりと優しく、お互いの手でお互いの衣を脱ぎ取る必要があった。
「美琴、ベッドの上に座ってくれるか?」
「い、いいけど……」
いつだって自分はされるかままだ。
声をかけど気をかけどスルーされ続けていた時期を思えば
上条が自分を構ってくれる今は幸せに違いないのだが、
未知の領域、いや既に一度踏み込んだはずの領域に再度大きく踏み出す事に
美琴はかすかな不安があった。
(どうして……今日はそんなにも優しいの?)
上条当麻が優しくない人間などとは微塵も思っていない。
不器用で鈍感ながらも優しすぎる少年であり、美琴もその部分を強く愛している。
しかし上条当麻は男であり、男とは性に対して貪欲で獰猛な生き物という思い込みがあった。
身体を許すと男は豹変するという噂も聞いたし、実際初体験の時の上条はあらぶる獣に似ていた。
故に今日も少し強引なセックスを想像していたのだが、随分と落ち着き払っているように見える。
美琴は上条に誘導されるままベッドに腰掛け、両足を閉じたまま身を乗り上げると同時に
上条はベッドの横で膝を立てて座り、美琴の両膝に手を置く。
室内灯に照らされた状況で、両足を開いて美琴の性器を直視しようとしているのは明白だった。
「……あんまりジロジロ見ないで」
「いや、見る」
「バカァ、こういう時だけは正直なんだからぁ!」
今日の上条は何かがおかしい。それを内心悦んでいる自分も同じくおかしい。
そう思い美琴は紅顔しながらも、足を閉じる力を徐々に抜いていく。
合わせて上条が膝を持ち上げるように足を開くため、バランスを崩した美琴は
とっさに両手を後ろにつき、分娩台に乗せられた産婦のように大きく股を開いた。
(はっ、恥ずかしすぎて死にそうッ!
こんな格好させられて……アンタじゃなかったら絶対殺してるッ!
でも……アンタだから許しちゃってるんだよ、私……)
(……ゴクリ……!)
上条は初めて、女性の性器を目の当たりにした。
衣服の上からでも大きさが分かる胸と違い、他人と比較できる知識をまったく持たず、
それが一般的にどのような形状なのかは知らなかったが、美琴のそれは端整だと感じた。
うぶ毛のように薄く生え揃った陰毛、桃のようにぷっくりと膨らんだ大陰部、
桜色に輝く小陰部、小指の先のようなサイズで自己主張している陰核、
そういった未知の情報が次々と脳裏に刻み込まれていく。
未通の処女のように端麗で、少しでも乱暴に扱ったら美のバランスが崩れそうだと思ってしまう。
「だからジロジロ見んなぁぁぁ!」
「……大丈夫、綺麗だから」
「あ、あああぁぁぁ……」
美琴は恥ずかしさのあまり、もはやまともな言葉を紡ぎ出せなかった。
美琴自身も他の誰かと自らの性器を見比べた事がある訳ではない。
男と違い、女は自分自身の性器の形状には左程興味が無いものだ。
白井黒子なら喜んで見せてくるかも知れないが、色々弊害も生じそうで御免こうむる。
胸のように、上条が誰かと見比べて落胆する事があったら
どうしようかという不安もあったが、上条は綺麗と言ってくれた。
世辞でも嬉しいが、彼は小器用な気遣いのできる男でもない。
バカ正直な男の、正直な感情だった。
「きれい……?」
「ああ」
「他の人より?」
「他は見たことねーよ」
「なのに?」
「綺麗だよ、そう思う」
じわり、とお腹の奥で何かが染み出した。
美琴は真っ赤に染めた表情で、自分の秘部をまじまじと見つめる上条の様子を伺う。
嬉しそうで、愛おしそうな彼の表情は美琴を安心させた。
男性器の進入を赦すのとはまた異なる悦びが、美琴の心を包み込む。
「……さっきの質問のお返しだけど、女の子はココのことなんて呼ぶんだ?」
「え、えっと……どうだろ」
「常盤台のオジョーサマはそんな事も知らないのかぁ?」
「知らないわよっ! 黒子みたいなのをスタンダードと思わないでよね!」
男と違って、女は性について話題に上がる事が極端に少ない。
猥談という文化もあるが、美琴はその話の輪に気軽に入っていけるような立場でもない。
とどのつまり、本当に知らないのだ。
「じゃあ男はなんて呼ぶのよぅ」
「マンコとか、おまんことか、関西だとオメコ、九州だとボボとか言うらしいぜ」
「なんでそんなに詳しいのよ! ヘンな記憶だけ残ってんじゃないわよ!」
「俺が学んだわけじゃねえ! 身の回りにこういうのに異常に詳しいのが一人いるんだよ!」
「それ誰よ……ま、まさかあの子なの!?」
「違う違う、青髪っていうアホな友達のことだ」
「ああ、土御門のお兄さんとアンタといつも一緒にいる……類は友を呼ぶのね」
「どーいう意味だっ」
時々気の抜ける話題を挟む上条のせいで、室内の雰囲気がエロス一辺倒にはならない。
それは二人の心に適度な緊張と緩和を生み出して、美琴の張り詰めた心にも余裕を生む。
睦言とは質が違うが、これはこれで楽しい会話に思えた。
「……舐めても、いいか?」
「えっ、ウソっ、やだっ! そんな事されたら……」
「イヤか?」
「イヤじゃないけど……おかしくなりそう」
「なっちまえよ。見てみたい」
「あ、アンタ自分は断っておきながら……!」
「なるべく優しくするから」
その言葉は信用できる。信頼もしている。しかしそれでは断る理由がなくなってしまう。
どうして今日の上条はこうも奉仕的なのか、一物をギンギンにしながらも
必死に我慢しているらしき理由が美琴にはまだ分からない。
己の陰部に顔を寄せようとするツンツン頭を制止できず、美琴はそっと目を閉じた。
「ちゅ」
「ふ、ふああっ!?」
性器に直接作用した刺激は、唇や胸から感じる感覚とは一線を画していた。
陰核に軽く口付けられただけで、美琴は反射的に仰け反ってしまう。
そして、自分の最もデリケートな身体の一部に口付けてくれる上条が
誰よりも特別な存在だという事を改めて思い知る。
この少年で良かったのだと心から思う。
(ちょっとしょっぱいんだな)
上条にとって、愛液の味は濃い汗のようだと感じた。
興奮した荒い吐息が美琴の敏感な部分をかすめ、ゾクゾクと鳥肌を立たせた。
「だめ……そこ綺麗じゃないから……」
遠慮がちな声で伝えても今の上条には届かない。
いかにして美琴の小さな蕾を、舌で優しくなぶってやろうかと算段している。
押し付けるのか、撫で回すのか、包み込むのか、吸うのか、それとも―――
(迷うくらいなら全部試せばいいじゃねーか)
聞いただけで美琴が達しそうな決意を込めて、上条はもう一度口を押し当てた。
美琴の視点では、黒いツンツン頭が自分の股間を陵辱しているようにも見える。
それを望んでいる自分を、あと少しで全てさらけ出せそうだった。
(お願い、私の本当の姿を見つけ出して……なにしてもいいからぁ……)
『クンニリングスの注意点は舌の使い方です。
舌は柔軟に硬度を変えられるため、力を入れすぎると相手の性器にとって凶器と化します。
絶対に舌を堅くせず、軟らかい状態を維持したまま触れてあげましょう』
上条の決して賢くない記憶能力は、冊子の肝要な部分をまだ忘れてはいない。
帰り際に、凶暴な野良犬に追いかけながらも暗唱した甲斐がなくては困る。
とにかく舌を堅くしなければいいと強く意識し、上条は舌を駆使し始めた。
「くっ、くふっ…んふ、ふぁっ…いぅんっ…あは…ん―――っ」
口の周囲を美琴の愛液でベタベタに濡らしながら、陰核と小陰部を慎重に舐め上げ、
いたわるように美琴への愛撫に専念する。
腰をヒクヒクと動かす仕草と、脳髄に突き刺さる甘美な嬌声が
上条の理性を打ちのめすが、つたない技巧に打ち込む事で耐え忍ぶ。
時折、焦らすように太腿を舐め上げ、臀部を舐め回す。
「こんなに細くても太腿って言うんだな」
「んぅっ……アンタなに言ってんのよぉ」
「いや、単にしょーもない疑問が浮かんで」
「細いのって、おかしいと思う?」
「いんや、美琴たんは健康的でスレンダーなのがいいんじゃないか」
「たんとか言うな、ひゃぁんっ!」
膣の入り口に舌を突き入れられ、美琴の声が一段と高く跳ねた。
上条の顔に小飛沫が散ったが、それが潮だと認識できる知識は彼にない。
ただ、美琴の悦ぶ声が嬉しかった。
「んふっ! アンタあとで、覚えといてひぃっ! んくぅ……ふひゃぁぁ」
「今はお前が気持ちよくなる番だ。それしか考えてねえ」
「ばかぁ……いつからそんなに尽くすタイプになったのよぉ」
「上条さんだってこのくらいの事はできるんですよ」
男としての矜持か、上条は頑として自分のリードを譲ろうとしない。
それは、射精という一線を越える事で自分の欲望が変貌する事と、
美琴のほてりを冷ましてしまう事を危惧しているからだ。
現状を維持するためには攻めの姿勢を崩す事ができない。
一方で、美琴が口で慰めてくれると言った言葉も脳に焼きついて離れない。
ちょうど、ドラッグストアで極薄の文字を見た時のように。
(本気で欲丸出しになったら、美琴を傷つけちまうだろ……。
今こうしてるだけでも信じられねえくらいなのに)
恋人を大切にしたいのも本心であり、そこに抵触する欲望は抱きたくない。
許容できるギリギリのラインが極薄の避妊具であり、週一のお泊まりだった。
これを破る事は避妊の放棄を意味するうえ、
インデックスから御坂美琴との関係を疑われる事態になりかねない。
それでは幻想ではなく現実を破壊してしまう。上条にとって最も恐れる事だ。
淫靡な舌使いをしながらも、タガをはずし切れない。
「ぷちゅっ、ちゅう、れろっ、ずずっ、ぺろっ、れろっ、ちゅ……」
「いやあぁぁ、あ、アンタ今すすったでしょっ!?」
「……しょっぱいけど、お前のだから飲める」
「ばかぁあぁ!」
美琴は身体を支えていた両手で顔を隠し、背中をベッドに預けた。
その勢いを借り、上条が美琴の両腿をぐいっと持ち上げて屈脚させると
秘部はおろか臀部まで丸見えになる。
股をはしたなくM字に広げられた美琴の姿が、加虐心を強く煽った。
「ひっ!?」
「こうすると、美琴のが全部見えるな」
「もうやだぁぁぁぁばかぁぁぁぁ!」
上条の進入を待ち焦がれてひくつく秘裂を見て、腰を押し込まずにいられようか。
愛しい彼女のあられもない姿に、上条の屈強な理性もいよいよ侵食されていく。
美琴も口から出る言葉こそ罵倒しているが、上条が自分の身体に行う行為に対して
なんら拒否行動を示していない。
むしろ、その手で理性の衣を剥ぎ取ってもらう事を待ち望んでいる美琴は
心の中でようやく半歩踏み出して、両手を使って膝を抱え上げた。
ツンと険しい表情でそっぽを向いているが、身体は受け入れる準備をありありと見せている。
「お願い……あんまり焦らさないで」
「美琴……」
「……もう、入れていいよ」
頭が煮えたぎりそうなほどの恥辱に、美琴の顔が赤らむ。
恋仲になってからというもの、彼女のリアクションは一々明瞭すぎて
他人の心の機微にうとい上条にも伝わりやすい。
美琴の言葉は、ときに本心と裏腹の表現を示す事はあるが、行動で嘘をつく事は皆無だ。
恥ずかしがりながらも膝を抱いて上条を受け入れようと望むその姿は
あらゆるポルノより刺激的で、魅惑的だった。
「……じゃあ、入れる、ぞ」
「うん」
美琴の双眼がうるっと潤み、願望が満たされる瞬間を待ちわびている。
上条はいよいよ出番を迎えたスキンの存在を思い出し、そっと枕の下に手を伸ばすが
上条をまっすぐ見つめている美琴には一目瞭然の動作だった。
「……それって、避妊具?」
「あ、ああ。つけなきゃな」
「だ、だよね……」
上条が不慣れな手つきで、自身にスキンを取り付けるのをぼんやりと見つめながら、
美琴は先週の夜、彼が暗闇の中でモゾモゾしていたのはこれだったのかと思い至る。
どことなく残念な表情を浮かべるが、上条はスキンの開封に気を取られて気付いていない。
美琴とて避妊が不要と考えている訳ではないのだが、スキンの装着は雰囲気を盛り上げないし
双方の快楽を多少なり阻害する要因ではないかと疑うのだ。
避妊方法について一定の知識を持っていれば、多少なり選択肢も広がる。
「でもそれってゴム臭くなったりしない?」
「いや、これはゴムじゃなくてポリエステルで作ったものらしいぞ。
ゴムより薄くて頑丈で、体熱を伝えやすい素材なんだとさ」
「……やけに詳しいし」
「全部添付の説明書に書いてあったんだっつーの」
「そういうのにはちゃんと目を通してるのね、偉い偉い」
「そいつは上条さんをバカにしすぎじゃありませんか?」
「ごめんごめん」
予習という概念が彼にあったのかと感心するが、さすがに上条の自尊心を少し傷つけたようだ。
装着が済むと、上条はゴクリとツバを飲む。ここからが正念場だ。
(このまま突っ込んで腰を動かしたら、たちまちイッちまいそうだな。
……したいけど、むしろ超してえけど、それじゃ美琴が満たされないだろ)
自分の射精感を満たすためだけに動いたのでは、冊子に書かれていた
“ジャンクセックス”そのものに該当してしまう。
辛辣なニュアンスを含んだこの言葉は、上条の大切な恋人を
粗末に扱っているかのように響き、どうしても許容しがたい。
身をもって美琴に幸せを与えようとする、上条なりの必死の体現だった。
「……する、ぞ」
「う、うん……」
極度の緊張と期待を込めて、上条は己を美琴の小陰部に押し付け、少しずつ挿入した。
熱を帯びつつねっとりと濡れる膣は、いきり立つペニスをギチギチと締め付けつつも
しなやかな柔軟性を持ち、進入の阻害はしてこない。
七割ほど入ったところで上条は挿入を止めた。
「……ぜんぶ、入った……の?」
「いや、全部は入れねえ。それより痛くないか、美琴」
「ちょっと異物感みたいなのはあるけど、痛くはないわ」
「そっか。この間は少し痛がってたもんな」
処女喪失の痛みの個人差は大きい。美琴の場合は出血がほとんどなく、
また挿入に極度の困難があった訳でもない、穏やかな通過儀礼だった。
肉体的な充足は少なかったが、思い慕っていた少年と一つになれたという
精神的充足で満ち足りていたため、美琴にとって不満の残る結果ではなかった。
むしろ肉体の快楽など二次的で、上条が自分一人にかまける部分を好ましく思っている。
「もう大丈夫だから……いっぱい動いてもいいよ」
「でもその体勢のままだと辛いだろ? ちょっと姿勢変えようぜ」
「えっ?」
「ほら、俺の首に腕を回せ」
「えっ、えっ!?」
このまま激しく挿入を繰り返されるものと身構えていたところで、
上条は美琴の腕を自分の首に回すように誘導した。
すると上条は左手でベッドに手を付き、右腕一本で美琴を背中から持ち上げる。
身体が浮く感覚に戸惑っている間に、上条もベッドに乗り上がった。
「えっ、ど、どうするの?」
「俺と向かい合わせになって座れるか?」
「やってみるけど……」
対面座位を取ろうとして、体躯のわりに身軽な美琴を誘導する。
ますがまま、美琴は上条と向かい合うようにして彼の両腿に座した。
両脚を上条の腰に回すと、ペニスがいっそう深く挿入されていく。
最後に上条が美琴を抱き寄せ、四肢を使ってお互いに抱きしめあう体勢になった。
「これだと辛くないだろ?」
「う、うん……でもアンタ動きにくくならない?」
「いや、密着できる方がいい」
「そうなんだ」
「あとはこうやって……っと」
情事の勢いでベッドの隅に追いやられていた掛け毛布をたぐり寄せると、
抱きしめあった自身と美琴をちまきのように見立て、全身を包んだ。
少しばかり室温が肌寒いと感じていた美琴にとっては実に心地よい気配りだ。
(今日のコイツ本当になんなのよおぉーーー!?)
(よし、これで体勢は取れたと。……気を抜くとホントに出しちまいそうだ)
毛布に包まって暖を取るのはロシアでの経験以来だが、あの時は
こうして美琴と懇親を深めるために行う事になるとは想像だにしていなかった。
じんわりと汗を帯びた彼女と密着すると、性感とは異なる満足感がもたらされる。
(すごく華奢で痩せ身なのに、体つきは柔らかくてフニフニで、
そっと抱きしめていたら離れていきそうで、でも強く抱きしめたら折れそうで。
御坂美琴はこんなにもデリケートだったんだな)
(あったかい……当麻の優しさが、あったかいよぉ……)
無言のまま目を瞑り、お互いに抱きしめあう力を同時に強める。
心の奥で願っているものが一緒だと知り、二人は破顔一笑した。
「……きもちいい」
「俺もだ」
愛しい人との抱擁に愉悦を覚えながら、美琴はくらくらと陶酔している。
体勢が整ったので、上条は冊子の内容を今一度暗唱した。
『前戯に最低1時間以上掛け、また陰茎を膣へ挿入したあと最低30分はピストン運動を行わず、
恋人への抱擁や愛撫だけに留めましょう。
ただし男性側に勃起力がなくなりそうな時、女性に性感がなくなる時だけ動きが必要です』
(さて、どこまで耐えられんのかなー俺)
上条の行動は、俗に言う”ポリネシアンセックス”の実践に限りなく近い。
激しいピストン運動がセックスの象徴とばかり思い込んでいる二人にとって、
ここからは未踏の領域へ踏み込んでいく事になる。
---
[18:14]
都市の完全下校時刻を過ぎ、善良な学生達の姿は街から消えていた。
冬の静かな一夜が過ぎていこうとする中、上条の部屋だけは甘美な嬌声に溢れている。
上条は美琴の眼前にいながら、その唇にはキスをせず
頬や額、首筋への口付けに留めていた。
もちろん美琴は幾度も舌でのキスをねだったが、上条は有耶無耶にかわしつつ
美琴の上半身のあらゆる部分に唇と手を這わせていく。
「やぁん…んくぅ…んぁ―――っ! ……キス、してよぉぉ」
「まだまだ、上条さんのターンは終わりませんの事よ」
「アンタ…じらし…すぎぃ…おかしくっ、なるぅぅ……ひぃん!」
今のところ一から十まで上条のなすがままになっている美琴は、
一転して技巧的になった彼のテクニックに翻弄され続けていた。
上条はかれこれ4時間近くも集中して触れ続けていたため、美琴自身も知らない
彼女のウィークポイントを幾つも発見する事ができた。
右耳、喉、左鎖骨、うなじ、両瞼、肩甲骨の裏筋、左乳首、へそ、そして陰核。
いずれも、今後も沢山触れる機会があればいいと願ってやまない。
一見余裕で攻めている上条も、きゅうきゅうと締め付けてくる膣の刺激と
美琴が耳元で囁く甘い嬌声には相当心狂わされている。
客観的にはイーブンと言ってもいい。
「美琴は首周りが特に弱いんだなー」
「アンタ、舐め過ぎなのよぉ……ひぁっ!」
「手だって沢山使ってるだろ?」
「手は…んぅーっ…ずっと胸ばっかり触ってるじゃない!」
「だって離したらお前寂しがるじゃねーか」
「さ、寂しがるとかありえないわよ!」
「あっそう、じゃあもう触んない」
「あっ、やだっ……ごめん……」
「素直じゃねえなぁー美琴さんは」
「ん……っ、んふっ……」
上条が優しく揉みしだく手を離すだけで、美琴は憂き目に遭ったような表情を浮かべ、
再び手の温もりを伝えると安心して身を委ねてくる。
美琴もまた感情のオンオフが激しく、その様子が愉快で、愛おしく感じられる。
自分が鈍い事を百も承知だからこそ、美琴の喜怒哀楽はっきりとした性格が好きなのだ。
「くぅんっ……あ、アンタがいっぱい揉んでくれたら、もっと大きくなるのかなぁ」
「美琴さーん、それまだ諦めてなかったんですかー? ってか俗説だろ、それって」
「本当は性的な興奮によってホルモンバランスが刺激されて、
女性的な部分の成長促進に繋がるんだって。
だから、直接胸を揉むのも選択肢としてはあながち間違ってないけど、
好きな人にあれやこれやされてるのを想像するだけでも効果はあるって聞いたわ」
「好きな人にあれやこれやを想像、ねえ……それが本当なら白井なんて今頃は」
「言わないであげて。女にも色々とあるの、色々」
「お、おう……こ、個人差ってあるもんな」
普段は適当にあしらっている子だが、AAカップである事を気にしている部分は
先輩としてしっかり擁護してあげなければと美琴は思う。
かく言う自分も、せめて年下の佐天涙子(さてん るいこ)は超えたいとは願っているが。
上条は、ふくよかな胸を持つ周囲の女性達が皆そうだとは思いたくないので、
やはり俗説は俗説のまま埋没していくべきだと感じていた。
「それとも、同性同士だと効果ないもんなのかな」
「だから言わないであげてってばぁー!」
睦言を楽しむのも情事の一部分だが、こうして雰囲気がコミカルに振れていくと
上条はほんの少しだけ腰を動かして美琴に注挿する。
快活な少女の面影が、一瞬で淫靡な女のそれになった。
「あんっ、んぅっ…は…あっ……また、ちょっとだけなの?」
「ああ、少しだけだ」
「どうして? キスもしてくれないし、意地悪してるの?」
「違うって」
「もう……私のカラダに飽きた、の?」
「全然違うっての。むしろ魅力的過ぎて勿体ぶってるんですよ」
「ホントに……?」
「本当だから、小動物みたいな顔して泣きそうになるなって。
女の身体にも色々あるように、男の身体も色々あるんだよ。
お前は心も身体も魅力的だから。それは間違いないから」
「散々焦らしてる癖に、言葉だけはド直球なんだからもう……」
でも嬉しい、と耳元で小さく呟き、美琴は抱きつく四肢の力を強めた。
毛布に包まれた二人の身体は汗で蒸れていたが、それを脱ぎたいとは考えなかった。
むしろこのまま一つになって融けていくのではないかと思える程に心地が良い。
誰も邪魔しない、何も意図しない、時間も気にしない、二人だけの空間。
しんと静まり返った室内で、快楽に溺れた吐息だけが時を刻んでいく。
「キス、したいか?」
「したいのっ、トロトロになるまでしてぇ」
唇が触れないうちに、美琴のスイッチが入りかけている。
或いはまた別のスイッチがあるのかも知れない。
どちらにしても、美琴の小さな口からちろちろと突き出されて
魅惑してくる舌は、上条の理性のスイッチにも直結している。
もう一度舌を絡めたら、二人の欲望は臨界に達するだろうと予感した
上条はようやくここで布石を明かす。
「じゃあ、これからキスするからさ、そしたら二人でイこうぜ」
「えっ?」
「意味、わかるだろ?」
「ぜ、絶頂に達するって意味でしょ? エクスタシーとか、オーガズムとか」
「なんか医学的だな」
「違うの?」
「違わねえけど、一般的にはイクって方がわかりやすいな」
「でも……私イッた事ないからどういう感覚かわかんないかも」
「わかるさ。今日はずっと時間を掛けて美琴を観察してたからな。
なんていうか、確信があるんだよ。美琴をそういう風に導けるって」
(なんで凛々しい顔でそんな事言うのよぉコイツ~ッ!)
上条の真顔が、美琴の期待に膨らんだ心をいっそう刺激した。
本心を強引にあばかれる事を望む、マゾヒスティックな願望で満ち満ちていく。
愛されたい、犯されたい、弄られたい、尽くされたい、求められたい、感じたい……
内側に有り余っていた感情の全てを吐き出すように、美琴は懇願した。
「うん……キスしてくれたら絶対イクからぁ……だからぁ……!」
「わかった。俺も、もう限界が近いんだ」
「いいよっ、当麻のせーえきぃ、一杯出していいからぁ!」
(焦らしすぎてエロくなっちゃったなぁ……俺もなんかスイッチ入っちまいそうだ)
いよいよ激しく動くのだと予期して、美琴は期待に身を震わせたが
反して上条は少しも腰を動かさず、最後の一滴まで忍耐を搾り出す。
美琴の裸身をぐぐっと力強く抱き寄せ、唇ではなく左耳に口を寄せると
ありったけの想いを込めて告白した。
「……美琴。俺、お前に出会えて本当に良かったよ」
「え……えっ?」
完全に意表を突かれた美琴は、つい間の抜けた声が出てしまう。
上条の声色は落ち着き払っていた。
「俺は、自分が記憶を喪った事を誰にも気付かれたくなくて、
できるだけ『上条当麻』っぽく振舞ってきた。
不幸だってよく口走ってるけど、それは『上条当麻』がそういう口癖だったから
それっぽく振舞おうとしてるだけで、ホントは少し無理してたのかもしれねえ」
「え……なに!?」
それはよりによって今のタイミングで言うべき事なのだろうか。
美琴には状況が理解できていない。
だが上条の姿勢は真剣そのもので、絶対に聞き逃してはならないと直感した。
「でも……不幸ってなんだろうって時々考えるんだ。
確かにこの半年間、とんでもない災難にばかり巻き込まれてきたけど
いつもなんだかんだ言いながらも結果オーライに纏まってさ、
不幸にならないで済んだ人の顔を沢山見ることができたんだよ。
今の状況から逃げたいとも思わないから、結局俺には
『上条当麻』の生き方が性に合っちまってるんだな」
「……」
「だから俺は、『上条当麻』らしさを貫く事しかできない。
それしか自分が満たされるやり方を知らないのかもしれねえ。
正直、普通の恋愛に憧れるところもあったんだけど、
俺みたいな無謀で夢見がちなヤツには縁遠いものだと思ってしまってたんだな。
……でもそんな俺のことを、ずっとずっと懸命に追いかけてくれてた女の子が居た。
ちょっと口やかましいけど、本当は誰より強くて優しくて素直で真剣な……
俺、そいつと結ばれたいって願望を持っちまったんだよ」
「あ……!」
「それが、美琴、お前なんだ」
ゾクリゾクリと、美琴の背筋に強烈な快感が走った。
一瞬、己の超能力が逆流したかと誤認するほどの絶大な刺激だったが、
それすらも大きな到来物の余波でしかないように思えた。
頭の中でチカチカと眩しい光が弾けはじめる。
能力の発現とは異なる、まったく見知らぬ感覚だった。
「ひょっとしてお前となら、俺の甘っちょろい夢を叶えるために
同じ歩調で歩いていけるんじゃないかって、そう思っちまったんだよ」
「アンタの夢って……あの時の……?」
『誰一人欠ける事なく、何一つ失う事なく帰るってのは、俺の夢だ。
だからそれが叶うように協力してくれよ』
「ああ。夢なんて言葉、普段は恥ずかしくて絶対言わねえけど、
あの時、死ぬしかないと言ったお前をほっとけなくて、つい言っちまったっけ。
でも『上条当麻』でいようとする俺にとってその夢は、どうしても必要なものなんだよ。
俺は誰も失いたくないし、みんなに笑っていて欲しい……それだけなんだ」
「うん、私も……私もアンタと同じ夢をずっと見ていたい。
誰も傷つかないで、みんなで笑っていられる世界がそこにあるなら、それが一番いいことじゃない。
どんなに現実が厳しくたって、甘っちょろい夢見たっていいじゃない!」
「……そんな風に言ってくれるのはお前だけだよ。
他のみんなは、立場とか任務とか使命とか信心とか教義とか、他に立派なものを沢山持ってる。
だからみんな俺に忠告してくるんだ。現実は甘くない、ド素人が勇気と無謀を履き違えるなって。
俺だって怖くないわけじゃない。戦う時はいつだって足が震えるし、怖気づいちまう。
……でも夢を語り合えるお前となら、どんな時も一緒に立ち向かっていける気がするんだ」
美琴の頭の中で弾ける光がいっそう力強くなる。もう光などという生易しい代物ではない。
ダイナマイトのように強烈で、高電離気体《プラズマ》のように甚大で、
美琴の強固な”自分だけの現実《パーソナルリアリティ》”を完全に破壊するかのように。
二人の想いが、爆ぜた。
「美琴……愛してる!」
「わっ、わたしもっ、私もっ……んむぅっ!
……ひあっ……! ……ああっ! あああぁぁぁァァァッッッッ!!!
イくっ、イクゥゥゥゥゥッッッッッッッ―――!!!」
上条が赤心を推して、勇気を振り絞った告白の言葉。
愛する者と一体感を得られる甘美な恍惚を覚え、上条と唇を重ねた途端、
美琴は狂気にも似た歓喜の声を放ちながら、熾烈なオーガズムに到達した。
性器だけではなく身体中を突き刺すような快楽が襲い来る。
電気にうたれたように全身を震わせ、だらしなく涎をたらし、声にもならない嬌声をあげる。
「みっ、美琴っ、くっ、くぅぅぅ~~~ッッッ!」
およそ平常ではない美琴の様子を気遣う暇もなく、上条にも強烈なオーガズムが訪れる。
それは瞬間的な射精感ではなく、失禁にも似た開放感だった。
「やぁぁっ、ふぁぁぁッッ、ふにゃあぁッ、アアアアアァァァァ―――ッッ!!!!!」
「ぐっ、ぐぅぅっ、うあああ―――っっ!」
(うああっっ、すごすぎるだろコレ……!
精液がおしっこみたいにびゅるびゅる出てやがる……!)
(とーまぁ、とーまぁ、とーまぁ、とーまぁぁぁ……やぁぁぁァァァアアァァ!)
注挿などしなくとも、既に二人は強烈な絶頂に達していた。
上条は粒感のある精液が、尿道をこじ開いて込み上げてくる感覚に痺れあがる。
びゅるるると擬音が聞こえるほどの放出は、スキンを突き破るかと思う程の勢いに達していた。
「ううっ……すげぇ出た……」
上条の射精は30秒ほど続き、果てしないほどの放出がようやく終わる。
初体験の時以上の、常識を飛び越えたと断言できる程の快楽は
これで全て終わった訳ではないことにふと気付いた。
(やべえ、ちょっと姿勢動かしただけでもまたイキそうだ……!)
「やァ――――――……ううゥ――――――……いぃ……ーっ……あは……っ!」
反して美琴は、弓なりに背を曲げながら震え、いまだ絶頂感に支配されている。
オーガズムの最高潮に達した彼女は、ポルノビデオの女優などとは全く違う様相を晒していた。
どこか遠くの空を漂っているらしい今の美琴にそれをするのは気が引けたが
絶頂に達した上条にはもはや、本能を止める理性など残っていない。
動かさないと決めていたはずの腰を動かし、激しい注挿を始めた。
「やぁっ、ふぁっ、あっ、アアアァァァァァァアアアアアアッッッッ!!」
「みことッ、みことッ、みこうああぁぁおああアアああっッっっッ!!」
キュンキュンと力強く締め上げてくる膣の感触に翻弄され、
上条は野獣のように吠えながら、全身を使って美琴を突き上げる。
射精を終えた直後の、じんわりとした快感を残した亀頭が刺激されると
再びペニスが剛直し、美琴の子宮を求めて新たな射精が始まった。
美琴はもはや現状を理解できず、惚けたままイキ狂ってしまっている。
「うヴ――――――ッ―――! イぐううぅぅ―――ゥ―――……―――ッッッ!!」
「ああっ、ううッッ、美琴ォ、みことォォッ! うあああっ!」
「トッ、うう―――ぅヴぅ、とぅっ、イクぅぅッ、とうまっぁ、アアァァァアア―――ッッ!!」
「すまねえッ、でもッッ、すげえッ、気持ちいいンだッッッ!」
「ああ゛あああ゛あ゛ああ゛ぁぁッッ、うンッ、んゥッッ、ンクゥ―――ッッ!!」
快楽に犯されて狂乱しながらも、美琴は上条の腰に回した足をいっそう強く絡め、
上条の吐き出す欲望の全てを受け入れようとしていた。
同時に、上条の下腹部にじんわりと生暖かい感触が広がる。
おそらく美琴が失禁したのだろうと頭の片隅で認識はしていたが、
この破壊的なエクスタシーの真っ只中においては、限りなく瑣末な出来事だった。
終末の様相をみせた絶頂劇によって、御坂美琴が築き上げてきた強固な
“自分だけの現実《パーソナルリアリティ》」”は完膚なきまでに破壊されたが、
それに代わる新たな世界が、美琴の中で急速に再構築されていった。
(あ―――……。……わたし……本当の自分……見つけちゃっ、たぁ……)
---
[19:18]
二人の世界観を変えるほどの快楽の奔流は、数分ののちようやく治まった。
上条は失神した美琴と結合したままベッドに倒れ、心配そうに体調を伺っているが
呆けていた美琴の意識は徐々に現世へと戻ってきたらしく、
上条と目を合わせると無垢な笑顔を浮かべた。
「大丈夫か!?」
「……めちゃくちゃイッちゃったぁ。当麻ったら、張り切りすぎぃ……」
「すまねえ……最後の最後に全部ブっ飛んじまった。辛くなかったか?」
「ううん、大丈夫。でも腰が抜けたかも……」
「すまねえ……」
二言目にはすまねえと口走りながら、右手で美琴の頭を何度も撫でる。
怒った美琴をなだめ落ち着かせる時の癖だ。
その優しさが心地よくて、美琴は喉を鳴らして甘えた。
「ふにゃー……」
「ははっ、無事そうで良かった」
「当麻こそ、ちゃんと気持ちよくなれた?」
「なりすぎてちょいと大変なことになりました……」
上条は欲望を吐き出しすぎて、膣内でスキンを破っている可能性だけが気掛かりだった。
美琴の呼吸が落ち着いたのを見計らって、そっと美琴から身を離し
濡れそぼった膣からしおれた陰茎を抜き取る。
その先端には、小さな水風船のように膨らんだスキンが装着されたままだった。
どうやら損傷はないらしい。液がこぼれないようにスキンを取り外そうとするが
美琴のとろとろとした愛液で包まれていて、手が滑ってしまい思うように取れない。
「あはは、ちっちゃくなってるー。かわいー」
「可愛いとか言われるとそれはそれで情けない……」
「ずいぶん一杯出たのね」
「上条さんは摩訶不思議な人体の神秘にオドロキですよ。
これって4、5回分くらいの量はあるんじゃねえかな」
「それだけ気持ちよかったってこと?」
「正直、病み付きになりそうだよ」
「んふふー」
スキンの口を縛る作業をぼんやりと眺めながら、美琴は妖しく笑った。
それは母の御坂美鈴が酔って絡み付いてくる時の表情によく似ていて、
親子なんだな、と上条は苦笑する。
---
[19:26]
美琴は上条に指摘されるまで、自分が失禁した失態にまるで気付いていなかった。
上条の身体とベッドを汚してしまった事を平謝りしたが、染みた部分からは
アンモニアの匂いが少しもせず、二人は再び人体の神秘を垣間見てしまう。
首を捻っていると不意に、ググゥと上条のお腹から大きな音が鳴る。
同じ人体の神秘でも、こちらはだいぶ明け透けな願望だ。
「アンタ欲望に正直すぎよ」
「いや、その、この時間になったら当然の事だろ」
「そうね、すっかり食事の事忘れてたわ」
美琴は小さく笑いながら、空腹感という感覚を思い出していた。
時計を見上げた美琴は、かれこれ5時間近くも情事にふけっていたのだと知る。
時間を忘れて没頭するとはまさにこの事だ。
生涯忘れられない記憶の一つになるかも知れないし、
ひょっとすると毎週の恒例になるのかも知れない。
どちらにしても頬が緩むほど嬉しい美琴は、
両頬を平手の指先で持ち上げながら妄想の世界に浸っていた。
「よし、じゃあご飯にしましょうかね。
俺はシーツ替えておくから、美琴は今のうち風呂入ってきた方がいいぞ」
「う、うん、わかった」
バスタオルは上条宅の品を借りているが、自身の着替えやバスアメニティは
持ち込んだデイリーバッグに一通り収めている。
上条は裸身のまま室内の整頓を始め、美琴も同じく裸身のままバッグを開き、
就寝用のゆったりした下着を選び出す。
お互いが裸でいることに対する抵抗感は、いくらか薄くなっていた。
風呂場に入ると、美琴は湯沸かし器を点火する。
常盤台の施設と違って電化されていない古い機構にもようやく慣れ、
少しずつ彼に近付いている事を実感できる部分の一つだ。
(汗と、大事な部分だけ軽く洗い流しとこっと。
それ以外はあとで、アイツと二人で一緒に入ってから洗えばいいわよね。
あれだけ愛してもらったんだから、今度は私が沢山してあげなくっちゃ)
美琴は二人きりの今夜だけは、本心をツンとした態度で照れ隠す事をやめ、
上条に尽くす女になりたい、いやなってみせるのだと決心を固めていた。
一方、上条はベッドのシーツを替える前に、先程からチカチカと明滅して
気を散らしてくる携帯のLEDを見過ごせず、ようやく自分の携帯を開いた。
入っていたのはメールが3件。友人の青髪ピアスから2件と、土御門元春からだ。
青髪はともかく土御門の連絡は、時に見過ごせない大事の場合がある。
メールの着信はいずれも16時台。だいぶ時間経過している事が気になった。
(まさか、必要悪の協会《ネセサリウス》絡みじゃないだろうな……)
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【From】Aogami-all-attribute@toaru-hs.ed.jp
【To】 Motoharu-Tuchimikado@toaru-hs.ed.jp
【Sub】 ビッグニュースや!
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遂に例の裏ビデオが手に入ったんやぁ~!
今度こそ無修正でアハンウフンが満載やで!
巫女さんパツキン、そして巨乳のOLまで!
ここだけの話、二人にこっそり見せまっせ~!
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(はぁ、一瞬スパムメールかと思ったぞ……
まぁこいつの場合こんな話題ばかりだけど。しかも土御門にも一緒に送ってるのか)
クラスメイトには普段から3バカと揶揄されているが
こんな連帯感を持っていればさもありなんと、上条は肩を落とした。
今となってはポルノなど歯牙にも掛からないはずなのだが、一昔前の自分なら
巨乳OLの響きに多少興味を抱いたかもしれない手前のサガが悲しい。
こんな事だから美琴が事あるたび胸の発育を気にするのだろうと、上条は自省した。
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【From】Motoharu-Tuchimikado@toaru-hs.ed.jp
【To】 Aogami-all-attribute@toaru-hs.ed.jp
【Sub】 Re:ビッグニュースや!
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今俺はそれどころじゃないんだぜぃ~!
「事実は創作より奇なり」ってことだにゃ~
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【From】Aogami-all-attribute@toaru-hs.ed.jp
【To】 Motoharu-Tuchimikado@toaru-hs.ed.jp
【Sub】 なんやそれ~!
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土御門クン随分な事言うてくれますな~。
この大ニュースを無視するほどの
なにがあるんか是非教えてえな~!
ところでカミやんはどないや? いる?
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(なんだ? 意味のわからないやりとりだな……。
舞夏と外出してるらしいけど、あいつなにかやってるのかな。
まさか、あいつも舞夏と……いやそこは考えない事にしよう、うん)
そっけないように取れる土御門の返信には理解が及ばなかったが、
いずれにしても緊急性のある用件ではなさそうなので
捨て置いていいだろうと判断し、片付け途中のベッドに意識を戻す。
今しがた無修正のアハンウフンをたっぷり堪能していた舞台は
汗と体液にまみれ、爛れきった情交の様をまざまさと示している。
心底、あの二人にだけは知られたくない様相だった。
まずは大量の汗を吸った毛布を洗濯網に入れて籠に投げ入れ、
次に枕を上げると下に敷いてあった残りのスキンが姿を現す。
「あー……あと2枚もありましたか」
帰宅した時は3枚とも使いたいと内心息巻いていたが、
いったん射精してしまうとどうしても性欲は減退してしまう。
一度目の行為で十分に満たされ、疲弊していた上条は
性交は数を撃てばいいものではないなと痛感する。
余ったならまた財布にでも入れておけばいいと軽く考え、
シーツを手早く取り替えると、再びスキンを枕の下に戻した。
次に自分の脱ぎ捨てたトレーナーを回収して身に着け、美琴の制服を拾い上げると
形崩れしないようハンガーに掛け、自分の制服の隣に吊り下げる。
恋人の制服に当たり前のように触れられる関係になったとはいえ、
濡れた下着と短パンはなるべく見ないようにして洗濯籠に投げ入れた。
---
[19:37]
洗濯機の蓋を閉じた上条は、わずか数分で風呂場から出てきた美琴の姿に驚く。
髪を洗った様子もないし、身体も十分温まってないように見えたからだ。
だがバスタオルを胸に巻いている艶姿は、裸身とは違った情欲を醸して上条を惑わせる。
いつもなら痛烈なしっぺ返しが飛んでくるアンラッキーイベントに成り果てるはずなのだが、
身も心も受け入れあった少女からそのような脅威は何一つ襲来してこない。
来るはずが、ない。
(そういや俺、美琴の裸を見て殴られた!なんて経験はないような気が……)
「あ、あれ!? もう終わったのか美琴? 早くないか?」
「うん、軽く流しとくだけにしようと思って。アンタもそうしなさいよ」
「あぁそっか、ご飯食べた後にまたゆっくり入りたいってことか」
「そういうこと。私だってお腹空いてるんだから。
その間に鍋温めておくから、長風呂なんてするんじゃないわよ」
「へいへい」
ほんの少し機転を働かせれば、鈍い上条が美琴の算段に気付く道理はないらしい。
上条と入れ違いに脱衣場を出た美琴は、バスタオル姿のまま台所に入ると
シチューを作った大鍋を温め直し、副菜として作ったサラダと冷奴を
冷蔵庫から取り出してラップを剥がす。
18時にタイマーセットしていた炊飯器も程よい具合に炊き上がっている。
下仕込みが功を奏して、手際よく夕食にありつけそうだ。
「あとは、シチューが温まるのを待つだけね。
……アイツの口に合うといいなぁ」
何もしなくとも三食満たされる常盤台の寮生活は気楽で贅沢だが、
自分で作り出す行為も食べてくれる人がいると幸福に感じられる。
リビングに戻った美琴は、ベッドと自身の着替えが片付られている事を確認すると、
バッグから花柄の寝間着を取り出した。
夏頃に一目惚れして購入したのだが、ルームメイトには鼻で笑われたため
ならば彼氏とのお泊まりにと持ちだしてきた珠玉の一着だ。
(アイツなら笑わないでくれるわよね。ってか気付いてくれるかな……。
覚えてないかも知れないけど、買う前に身体に合わせたのを目撃されてたっけ)
普段は微細な変化にうとい男だが、今日の彼にはかすかな期待を持ってしまう。
寝間着に着替える途中、ふと壁に掛けられていた上条の制服を見上げると
スラックスのポケットに刺さっている冊子が目に留まった。
「なにこれ?」
昼に目撃した時には気に留めなかったが、どうにも勉学用のテキストには見えない。
興味に釣られて冊子を抜き取ると、表紙に踊る強烈なタイトルに目を奪われた。
『実践!メイクラブ完全マニュアル ~若い恋人達の幸せのために~』
「なっ…なっ…ナニよコレぇぇ!?」
既に実践済みとはいえ、こうして字面にされると改めて小恥ずかしさに見舞われる。
美琴は慌てふためきながらも、パラパラとめくってその内容を覗き見た。
「あのバカ、道理でなんだか不自然だと思ってたけど、
はっはーん、つまりそーいうことですかぁ。ふぅん、へえぇ、ほほぉ……」
美琴は電撃使い《エレクトロマスター》として最高位の能力を持ち、
あらゆる演算を高速に処理する思考能力の一環として、高い洞察性と記憶力を持っている。
冊子にほんの十数秒目を通しただけで、美琴は状況の全てを理解した。
(要するに、今日のアイツの行動はこの冊子の影響ってわけか。
なんかこう、ある種の安心感というか、やっぱりこんなオチかー的な落胆も感じるけど、
でもちゃんと避妊してくれているし、行為中に告白しろなんてここには書いてないから
あの言葉はアイツの本心に間違いないよね……。
多分アイツの事だから、実技部分だけを参考にしたってくらいの動機なのかな)
およそ的確な憶測に辿り着き、美琴は朗笑した。
上条とて徹頭徹尾この記述に従った訳ではなく、自己流アレンジは利かせている。
「ま、別に怒るようなことでもないのよね。
『若い恋人達の幸せのために』って書いてあるから見たんだろうし、さ。
アイツもちゃんと、二人で幸せになる事を意識してくれてるんだ……ふふっ」
冊子には男子だけでなく女子の技法についても詳しいガイドが載っている。
マンガ本やファッション誌を起源とした、偏った情報しか知らない
美琴にとっても一助となりえる内容だった。
行為のハウツーに限れば、美琴とて知識量はそう豊かではなく、
正しい性知識を補うための冊子として有益なことは認めざるを得ない。
しかも上条は男子側のテキストを熟読するのが精一杯で、女子側には全く目を通していない。
美琴は格好の好機を得て艶かしい笑顔を浮かべた。
「尽くされるだけなんてかっこ悪いもの。何事も対等でなきゃ、ね」
---
[19:49]
上条が風呂場から上がると、寝間着姿の美琴が食卓に食器を並べていた。
シチュー鍋はまだ温まりきっていないが、それ以外の配膳は済ませてある。
相変わらず手際がテキパキしているなと上条は感心した。
「おっ、今日はまたずいぶんキュートなパジャマ着てるんだな」
まさかの第一声で食いついてくると思わなかった美琴は、
くるりと首だけ振り返って、つい上ずった声で歓喜を表した。
「ほ、ホント!? 可愛いって思う!?」
「そういうパジャマを選んで着てるお前が可愛いよ」
「……ちょろっとニュアンスが違うじゃないのよー」
「えッ、上条さん褒め方間違えましたか!?」
「まぁいいわ。ちゃんと気付いてくれただけでも嬉しいし。
黒子なんて一目見て『まぁ~相変わらず幼児趣味ですのねお姉様ホホホホ』と来たもんよ。
あの子、私の事どう思ってるのやら時々疑問だわ……」
「パジャマくらい好きなの着たらいいじゃねーか。
白井も少し言い過ぎだけど、お前もしょげるなって。
それよりなにか飲もうぜ。喉がカラカラだ」
「そうね。ホワイトソース用に買ってきた牛乳と水くらいしかないけど、いい?」
正直牛乳と水だけでは物足りないが、風呂上がりの身体で寒中に買出しに行くのも億劫だ。
何より食事を並べて待っている恋人を置いて行くのは気が引ける。
上条は冷蔵庫を開けて牛乳パックを取り出し、二人分のグラスを食器棚から取り出して
それぞれに注いでいると、美琴も鍋の様子を伺うため台所に入ってきた。
「つくづくムサシノ牛乳が好きだよなお前……」
「わ、悪かったわね!」
「鍋の方はもう少し掛かるのか?」
「んー、もうそろそろオッケーかな。アンタは先座ってていいわよ」
「おう」
冷蔵庫にペットボトルを戻し、二つのグラスを持ってリビングに戻る。
食卓のベッド側が上条の席、その向かい側が美琴の席だ。
それぞれにグラスを並べるとベッドに背もたれて一息つく。
「もうじき8時かぁ。道理でお腹ぺっこぺこだぁ」
「はいはい、お待たせしたわね」
美琴が二人分のスープ皿を食卓に置くと、ようやく夕食が全て並んだ。
クリームシチューのふんわりとしたミルクの香りが上条の食欲をそそる。
「久しぶりに作ったからちょっと不安なんだけど」
「そこは美琴ママの腕を信用しているのでございますよ~」
「美琴ママって言うな! それ誰の口癖よ、まったく……」
上条の身の回りには変わった語尾で話す人間が多いのか、いらぬ影響を発揮している。
さておき二人は掌を合わせ、食事の挨拶と感謝の心を欠かさない。
「んでは、いっただきま~す!」
「どうぞ召し上がれ」
上条は早速スプーンを手に取りシチューに挿し入れ、最初に食べる具材を選定している。
美琴は涼しい表情でグラスに口をつけつつ、上条の反応を伺っていた。
スプーンは鶏肉とジャガイモを掬い上げ、上条の口の中に入っていく。
(……どきどき……)
「お! 美味しいなーコレ!」
「ほ、ホント!?」
「ソフトでミルキィな口当たりに上条さんは大満足です」
柔らかく煮込まれたジャガイモは歯の上でたやすく崩れ、
味の染みた鶏肉は舌の上でホワイトソースの味と共に解け果てていく。
専門料理店が繰り出してくるような本格的な出来栄えには一歩及ばないが、
上条の貧乏舌でも分かるほど品が良くて味わい深かった。
そして、手料理の評価を気にして胸躍らせている彼女が可愛らしくも思う。
上条の評価に気を良くして、ようやく美琴もシチューの味にありついた。
「ブロッコリー、にんじん、玉葱、マッシュルーム、あと鮭と白菜も入ってるのか」
「冬の料理には白菜が欠かせないわよね。鍋料理向きって感じだし」
「鍋もいいなぁ。良かったら来週にリクエストしてもいいか?」
「そうそう、来週の事を話しておかなきゃなんだけど……私来週は泊まらないから」
「あ、そ、そうなのか……」
美味によって盛り上がった雰囲気がたちまち急降下してしまう。
上条が激しく落胆している様子は、期待の裏返しとも取れて喜ばしくもあった。
「遊びに来ることはできるけど、来週は門限前には帰るわね。ごめん」
「仕方ねえさ。いつも無理して来てもらってるようなもんだからな。
そう何度も外泊してると寮監さんにも厳しく目を付けられちまうだろうし」
「でも、その……」
美琴の願望を阻む要素は多角的に存在している。それが口惜しい。
スプーンを握り締めたまま、何か言いたそうに逡巡していた。
「泊まってもいいんだけど……来週はきっと女の子の日だと思うの」
吹寄制理(ふきよせ せいり)がどうかしたか?と尋ねられて拳骨を食らわせた思い出があるため、
上条にはこのような表現で月経の周期を教える事にしている。
「あ、ああ、あー……そういうことでしたか。
でも美琴、別にそういう事するだけが付き合い方ってわけじゃねえしさ。
天気が良かったら街に出て、そうじゃなかったら家で遊んでもいいじゃねえか」
「でも来週の週末はアンタの誕生日に一番近いじゃない。だから気になってて……」
「……そういう日の存在をすっかり忘れてました」
「アンタねえ!」
水瓶座であるところの上条当麻の誕生日は、バレンタインデーの直前にある。
非常に祝いにくい"不幸な"タイミングだが、もちろん無視するつもりはない。
また恋人として、バレンタインもしっかり祝ってあげたいと美琴は画策していた。
「世間ではバレンタインデーってのも間近に控えてるんだけど、その辺はご承知?」
「そういうのもあるのか。どっちもまだ迎えた事ないからなぁ、当日はなにがあるのやら」
「あ、そ、そっか、そうよね……」
上条にとって、知識があることと経験があることは全く別の事象だ。
記憶喪失を煩っている彼に迂闊な発言をしてしまったと美琴は悔いてしまう。
しかしそんな事情は露知らず、誕生日に上条を祝いたいとか
チョコを送りたいと願う人は少なからず彼の周辺に現れるだろう。
各自バラバラに動かれるよりは、いっそ自ら場を設けて律した方が恋人として安心できる。
「だ、だったらさ、来週はアンタの誕生会にしましょうよ!
鍋とかケーキを用意してさ、アンタのクラスメイトとかあの子と一緒になって、
みんなでお祝いしてあげるわよ!」
「え、いや、それって……いいのか?」
「いいに決まってるじゃない。それだったらみんな一斉に帰れるわけだし。
私達、クリスマスは二人きりで過ごせたし、年末年始は家族ぐるみで一緒だったし、
なら誕生日は友達みんなと一緒に過ごしてもいいんじゃない?」
「じゃあ、話の流れ的には美琴にお願いすることになるのかな」
「任せておきなさいって! アンタは親しい友達に声掛けしといてね」
二人きりの一夜は諦めざるを得ないが、決まった以上は会として盛り上げたいとも思う。
しかしこの時美琴は、寮部屋に入りきらないほどの大人数が誕生会への
参加希望を求めてくる事態になろうとは想像だにしていなかった。
「誕生日ねえ……あまり喜ばしい実感はないんだけどな」
「なに言ってるの。アンタの誕生日はアンタが喜ぶためにあるんじゃないわ」
「え!? 上条さんには歳を重ねる自分を喜ぶ権利もないってのかぁ!?」
「アンタが生まれてきたことに『みんなが』感謝するための日なのよ、当然でしょ」
「俺が生まれてきたことに、みんなが感謝……?」
誕生日とは自分が歳を重ねる事に一喜一憂する日だと思っていた上条には、
全く考えの及ばない解釈だった。
「アンタが生まれてきてくれてありがとうって感謝してる人達が、自分達の幸せを祝う日なのよ。
生まれつき異能を打ち消す特別な力があるとか、別にそういうんじゃなくて、
アンタみたいな鈍感でドジでスケベで要領の悪いやつでも、みんな大切に思ってるの」
「ドジでスケベは少し言い過ぎではないでせうか」
「あはは、ごめんして。もちろん私にとっても幸せだからさ……祝わせて」
「美琴……」
「その後にはバレンタインもちゃんと実施するわよ。
アンタのためだけに、気合の入った本命手作りチョコを作ってあげるんだから!」
「う……!」
ここまでストレートに言われては、流石の上条でも誤解を挟み込む余地がない。
美琴とて交際する前にはとても彼の目を見て言えるような台詞ではなかったのだが、
今はスルーも曲解もされないよう、明確で大胆なアプローチを強く意識していた。
「だから、ちゃんと受け取ってくれると嬉しい」
「ああ、いいぜ。でもなんかむず痒いな、本命チョコが貰えるって前もってわかるのは」
「付き合ってる恋人同士なら当たり前の事でしょ?」
「そっか。そうかもな」
上条は無意識に微笑みを浮かべていた。
その時感じた内なる感情がなんなのか、彼にはまだ自覚が薄かったが
不幸とは縁遠いものであるという事だけはおぼろげに理解している。
「ところで美琴」
「なに?」
「シチュー、おかわり」
「えっ!? アンタもう食べちゃったの?」
「もうって……お前がずっと手止まっちゃってるだけだろ。
あ、やっぱりいいや自分でよそってくる。美味すぎて待ちきれねえ。
せっかく美味しいんだから、お前も冷めないうちに食べちまえよ」
(口に合ってよかった。美味しいって言ってもらえるの、すごく嬉しい……)
言うな否や、上条は自分のスープ皿を手にとって立ち上がり台所へ向かう。
美琴は冷めかけていた自分のシチューに口をつけつつ、不思議と身体が熱く感じられた。
正直な言葉で語る事はできるようになったが、聞かされるとなるとまた別の恥じらいが生まれる。
先程の情交のほてりが、再び肢体の中で燻りだした。
「ふにゃー」
「ぎゃ―――!!」
リビングでバヂバヂバッヂィィンという心臓に悪い音が炸裂したため、
慌てて上条は踵を返し、右手を突き出して美琴に触れた。
---
[20:31]
「ごちそうさまでした」
「どういたしまして」
動転するような事態が一つあった事を除けば、とても満喫できたと上条は思う。
シチューは美味しかったし、熱くほてる舌を冷ますサラダや冷奴の付け合せ方も良かった。
残りはまだまだ大鍋に余っているので明日も味わう事ができる。
週末様々、美琴様々だ。
「ねえー、そろそろお風呂入れといてくれるー?」
「そうでしたそうでした、沸かしておかないとな」
美琴は洗い物をしながら、タイミング的には今が頃合だろうと
首だけを振り返って上条にお願いを掛けた。
普段は先に入る美琴のためにぬるめに入れ、あとに入る上条が5分追い炊きしている。
満腹感で落ち着いている彼に、美琴の小さな企みに気付く様子はない。
「ところでさ、さっき冷蔵庫に見慣れないヨーグルト瓶が一つ入ってたけど、
あれってお前が買ってきたのか?」
「そうよー。学舎の園の中だけで売ってる、特製ホワイトミルクプリン。
ヨーグルトとプリンの中間みたいな食感と味がすんごく美味しいの」
「ふーん」
上条はベッドにだらりと背もたれ、性と食の欲に満ちた身体を休ませている。
一瓶しかないので美琴の取り分と思い、関心がいま一つ薄いらしい。
「このプリンの原料って、ムサシノ牛乳と同じ生産地の生乳から作ってるんだって」
「またムサシノ牛乳……お前どれだけ豊胸説信じてるんだよ」
「ぐ、偶然よ、偶然ッ! 偶然に決まってんじゃない!」
「お前の偶然は計算づくなことが多いじゃねーか」
「っさいわねえ! 美味しいんだからそこはいいでしょ!?」
「はいはい、そーですねー」
「せっかくアンタにも食べさせてあげようと思って買ってきたのにぃ」
「それ一瓶だけだろ? お前は食べないのか?」
「? 私も食べるわよ」
「じゃあ食べたらいいじゃねえか」
洗い物を終えた美琴が、陽気な笑顔と共にその瓶を持ちリビングに戻ってくると、
上条の口調が拗ねているように感じられた。
美琴は上条の足の間に割り込んでいき、彼に背を向けてもたれ掛かる。
「こらー」
「なによぉ。甘えたいからこうさせて」
「いいけど……」
やけに素直な物言いだと上条は思ったが、この位置では美琴の表情を伺う事ができない。
甘い物を食べる時のホクホクとした表情も好きなのに、どこか行き違いの感があった。
美琴は瓶の蓋を開くと、何故か左手にスプーンを持って中味を掬う。
「ほーら、あーん」
「え?」
「これ、すごい人気商品でさ。これが最後の一瓶だったの。
今度見つけたら二瓶、ううん三瓶買ってきてみせるから、今日はこれで許してよ」
美琴が右肩に顔を置いている上条の口に向かってスプーンを差し出してきて、
ようやく上条にも話の合点がいった。
三瓶目とはインデックスの取り分の事だろう。
美琴の優しい気遣いを知り、デザート一つに大人気なかった自分を恥じた。
口を突き出して一口頂くと、艶やかなプリンの触感が舌の上で踊り、
上品なヨーグルトの甘味と酸味が口の中にふわりと広がる。
「……うまい!!」
「でしょっ」
「さすがお嬢様達は舌が肥えてらっしゃいますな」
「授業が終わった直後に行っても、いつも完売しちゃってる人気商品なのよねえコレ。
買ってる子達、みんなちゃんと授業受けてんのかしら……」
優秀な女生徒達だけが買い占め、男子は滅多に口にする事のできない
レア商品を入手するために美琴は骨を折ったのだろうか。
こう見えて甲斐甲斐しいところがあるからそうかも知れない。
そんな思いが募ってくると、自分の足の間に座っている少女が益々愛おしく感じる。
ふた口目は自分で口にした美琴を、後ろからそっと抱き寄せた。
「んーおいし……ひゃっ!」
「イヤか?」
「全然。でも脇の下は触っちゃダメよ、私そこ弱いんだから」
「じゃあこうしようぜ」
美琴から小瓶とスプーンを取り上げると、掬って彼女に差し与えた。
美琴も素直に口を差し出し、プリンの味と上条の奉仕を堪能する。
「半分食べたら交代しような」
「うん」
後ろから抱き寄せられて餌付けされる奇妙な感覚にも、美琴はすぐに慣れた。
しかしこれでは先程から尽くされ通しになってしまう。
そろそろ反転攻勢を掛けたい美琴にとってこのプリンは橋頭堡だ。
半分を食べ終えたところで180度身体の向きを変え、餌付け役に向き合う。
「じゃあ、今度は私が食べさせてあげる」
「あ、ああ」
一度受け入れた事に二度目で逆らう理由はない。
上条は違和感なくそれを受け入れ、美琴の差し出すがままプリンを味わった。
次の一口を待つ上条のしおらしい態度が、雛鳥のようで可愛いらしい。
食べさせ合いを楽しむうち、小さな小瓶の中味はあっという間に無くなり果てた。
「美味かったー。買ってきてくださってありがとうな、上条さんはこれも大満足です」
「味わってもらえてよかった」
「やっぱりコンビニのプリンやヨーグルトとは味のランクが違うよな。
でも……お高いんでしょうなぁ」
「全然。ホットドッグより安いくらいよ」
「2000円の品と比較されても……」
文字通り、美琴の金銭感覚はケタが一つずれている。
もっとも美琴は生来世間知らずのお嬢様などではなく、高所得層の家に生まれた娘であり、
今は超能力者《レベル5》の奨学金ランクに見合った浪費をしているに過ぎない。
贅沢なデザートを食べ終えると、上条は再び美琴を抱き寄せた。
カチコチと鳴り響く時計の秒針と、風呂場から湯を張る水音だけが聞こえる。
時間はまだ21時前。寝間着ごしにほんのりと伝わってくる体温を感じながら、
二人はまだ逢瀬の楽しみが時半ばである事を再認識していた。
「ねえ、ご飯食べたんだから歯を磨きましょ」
「え、あ、そうだな……」
美琴の方から味気ない提案を受けて上条は戸惑ったが、
躾に厳しい部分はブレていないんだなと、妙な感心を寄せる。
上条がのっそり立ち上がって洗面台に入って行くのを見届けながら、
美琴は彼に悟られないよう、そっと枕の下に手を伸ばした。
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[20:51]
二人揃って洗面台に向かうと、風呂場の水音がいっそう大きく聞こえてくる。
歯を磨き終える頃には程よい水位まで溜まるだろう。
上条は自分の歯ブラシを、美琴はアメニティバッグから取り出した愛用の
カエル形歯ブラシを手に取り、二人で鏡台に向かい合って磨きだした。
「シャカシャカシャカ……おはへはほんほふへはいほふぁー」
「……なに言ってるかわかんないわよ」
「ガラガラッ、ペッ!……お前はほんとブレないよなぁ」
「カエルグッズに満たされてて悪かったわねっ!」
「そこじゃねーよ。内側の話」
「シャカシャカシャカ……ふひははー(うちがわー)?」
「改めてさ、お前はしっかり者だなーって思って。
ご飯の事とか生活態度の事とか、お前がいると俺もしっかりできるんだよ」
「シャカシャカ……ほんはほ、ほーへんのほほへひょーふぁ(そんなの当然の事でしょうが)」
「確かに当然の事なんだけどさ。なんかこう……」
「シャカシャカシャカ……」
「きっと同棲生活ってこんな感じなんだろうな」
「ぶぶほぉぉっっっ!? ごほっごほっ、ごほっ!」
はしたなくも、美琴は鏡台に向かって盛大に泡を噴出した。
しかも泡の一部が器官に入ったらしくむせ込んでしまう。
上条は自分の発言が起因である事を理解せず、慌てて美琴の背中を擦る。
「おいおい、大丈夫か」
「あ、あ、あっ……アンタがこっ恥ずかしい事言うからでしょおお!?」
「俺のせいですかぁ!?」
「どっ、どどどっ、同棲とか言うからぁ!」
「あー」
美琴の心境にこういう初々しさが残っている事がどうにも嬉しい。
スイッチが戻り、こうして素の姿に戻っても彼女は魅力に満ちていた。
「ズルいのよあんたは。……あの子とだって毎日歯は磨いてるでしょ?」
「いつもは俺がお前みたいに口うるさく言ってる感じかな。
だから誰かにこうして気遣われるのが新鮮なのかもしれねえ。
なんていうか、嫁さん的な部分持ってるんだよなー美琴は」
「あ、ああぁ……!」
これ以上乙女に対して過激な発言は控えて欲しいと切に思うのだが、
その破壊力を無意識に繰り出している上条には被害の程が伝わらない。
ただ錯乱している様子は伝わっているのか、右手で背中を擦られているので
能力が迸るような事態にはならないで済んでいる。
学園都市の学生として、能力を制御できず放出してしまうだけでも恥ずかしいものを、
痴話に舞い上がって恋人を感電させたなどと噂が立とうものなら
超能力者《レベル5》にとっては恥辱の極みだ。
「私、能力を打ち消せるアンタ以外とは付き合えない体質なのかも……」
「かもな、ははっ。でも言うじゃねえか、割れ鍋に綴じ蓋ってさ」
「それあんまりいい言葉じゃないと思うんだけど」
「そうか?」
「でもそれでいいわ、もうアンタの傍から離れる気にはなれないもの。
こうなったら二人でグツグツ温まってやろーじゃない!」
「美琴……」
吹っ切りの良さも美琴の魅力の一つだと上条は思う。
あらゆる幸運や加護を打ち消し、運命の赤い糸すら断ち切ると伝えられる
幻想殺し《イマジンブレイカー》ですらも、この想いを断ち切りはしないらしい。
神なんて得体の知れない者が授ける幸運よりも、美琴の笑顔を守るための道を選ぶ。
上条にとっては比べるまでもない選択だ。
「ねえ、お風呂のお湯もう溜まったんじゃない?」
美琴が口を濯ぎながら促すと、上条が風呂場の扉を開いて中を伺う。
湯は浴槽の7分目の水位まで満ちていた。肩まで湯に漬かるにはいい具合だが、
浴室を覗いた美琴はほんの少しアテの外れた表情をしている。
「お、ちょうどいい頃合だぜ」
「んー、ちょっと時間経ちすぎたかも。二人で入るにはちょっと多めじゃない?」
「いっ?」
上条は一瞬の空耳だと思った。同時にとても魅惑的な幻想だと感じた。
慌てて右手を振りかざし、自分の勘違いを正そうとする。
猜疑心が働いた時の悪い癖だ。
「いやいや違う違う、どうせ俺のいつもの勘違いだ、カンチガイ……」
「なにも勘違いじゃないわよ。このまま二人で入りましょ」
「ええっ!?」
「当麻の身体、私が洗ってあげるからさ」
(……ゴクリっ)
無邪気な笑顔で提案してくる美琴は、どう見ても幻想ではなく現実だ。
既に美琴は自らの意思で、自分の中にあるスイッチを切り替えている。
照れ隠しに電撃を発する性質に辟易していた美琴自身が、新たに身に着けた適応術だった。
「な、なんだ!? ナニが起きているんでせう!?
美琴サンちょっとアナタなにをおっしっているんでしょうかァァァ!?」
「私も、当麻の手で洗ってほしいなぁ」
美琴の突拍子もない提案に激しく心揺さぶられながらも、
上条は素直に首肯を示していた。
---
【後編】に続きます


デレッデレの美琴可愛いわ
だけど、んふっの台詞で某超能力者を思い出して萎えるw