――横浜・桜木町 AM11:15
「結構さむいなぁ…」
「待ち合わせまであと15分か――」
垣根帝督は白い息を吐き、ちらと時計を見る。
(いや、俺が勝手に待ち合わせ時間より早めに来ただけだ…考えすぎだろ…)
今日はクリスマスイブ。12月24日。
街は赤、緑、白、さまざまなネオンに彩られキラキラしている。
街を行く人々は寒そうにしているが、街の雰囲気がそれを温かくしてくれているような気がする。
AM11:28
(こねぇ…いや、後二分…)
そんなことを考えていると、ひっそりと幽霊少女が垣根の後ろから近づいてきていた。
垣根は気付かない。
「かきね」
とんとんと垣根の肩をたたく少女。
「うお!びびった!」
「遅れてごめん。横浜きたの初めてだからまよっちゃった。あと町田駅で警備員に外出理由を聞かれて少し遅れちゃった…ごめん」
「いやいや、いいさ。きにしてねぇって!今日はほら、たのしもうぜ?せっかく理后ちゃんの外出申請も取れたんだしさ」
「うん」
垣根は以前学園都市の暗部に所属する人間でしかも学園都市第二位の「未元物質」の使い手として名を馳せていたが、それも過去の話。
今はアイテムをかげながら支える構成員として活躍中だ。
そんな垣根はゲレンデで知り合った滝壺理后に好意を抱き、ゲレンデから帰ってきて数週間、つめりクリスマスイブに滝壺をデートにさそったのだ。
「今日はどこにいくの?」
「そうだな…理后ちゃん、おなか減ってる?」
「たいやき食べたいな…」
滝壺がかわいらしいペイズリー柄の手袋で指をさすと、タイ焼き屋さんが。
「たいやき…」
「いいぜ、それ以外になんかあるか?たいやきだけじゃおなかいっぱいにならないだろ?」
「たいやきたべたらシェーキーズでピザ食べたいな」
「いいぜ、理后ちゃんが食べたいもの食べよう」
二人は取りあえずたいやき屋さんに並ぶ事に。
「クリームたいやき下さい」
「あー、俺もそれ一つくれ」
「あいよー!」
滝壺がカパンと開かれる鯛焼きの鋳型を興味深そうに観察している。
そしてそんな滝壺をじーっと見ている垣根。
(へぇ…理后ちゃん、結構私服かわいいじゃん…遊ぶ前に浜面から聞いた話でジャージしか着ないって聞いたけどよ…)
滝壺なりに気合いを入れて来たのだろうか。
コンバースのソールが白で上部が黒の定番スニーカーにTOMMY GIRLのだぼっとし
たジーンズ。
上着は白いシンプルなタートルネックのセーター。
アウターにはロキシーのピンクメインのかわいらしいカレッジ風スタジアムジャケット。
ニット帽は白が基調のペイズリー柄をチョイス。
手袋は先述したとおりだ。
手には小さい小物が入る程度のアディダスのバック。
(理后ちゃんぱねぇな。スタジャンとか着るんだなー。しかもピンクのスタジャンなんかみたことねぇわ)
「なにちらちら見てるの?かきね」
「え?あ、いやー今日はジャージじゃなくてジーンズとかスタジャンとかきてて雰囲気違うなーって」
「ジャージの方がいい?」
「……………いや、ジャージもいいけど、今日の私服の方は本当に…」
(正直ヤバイマジでかわいい。今すぐ抱きしめたい)
「本当に…なに??」
「か、か、か、かわいいです…///」
(クッソ恥ずかしいじゃねぇか…!!)
「…あ、ありがとう///」
(麦野たちに私服考えてもらってよかった…かきねにかわいいていわれちゃったしかも真剣な顔だった…)
ボーイッシュのようなで且つ、滝壺の好きなピンク色を使った今回のコーディネート(byアイテム)は大成功のようだ。
もちろん垣根も今回は気合いを入れて来た。
暗部時代と冷蔵庫時代、白馬の「未元」時代の潤沢な資金を活かし、分相応な範囲で買えるものをかった。
レッドウィングのブーツにトゥルーレリジョンのブーツカットジーンズ、茶のスタッズベルトにバックルはシンプルに銀色の楕円形。
ノーブランドの白シャツ。
その上にはバーバリーのジップアップブルゾンを着用。
アウターにはネイビーブルーのモンクレールのダウンジャケットを着用している。
バックはEA7のミニボストンバッグだ。
ここまでハイブランド品で武装しておきながらも決してブランドを安っぽく見せない。
垣根の品の良さ、容姿端麗、清潔さなどがうかがえよう。
「へい!クリーム鯛焼き二つお待ち」
店員が勢いよく垣根たちに鯛焼きを渡す。
それを受け取り、ぱくり。
「おいしいね」
「甘くてうめぇ」
一口つまむと二人は近くのベンチに座って鯛焼きを食べる事に。
二人がかじったところからもくもくと湯気が立ちのぼる。
「露店だからってナメてたけど、こりゃうめぇわ」
「うん。おいしいね」
寒空の中、ベンチに座る二人。タイ焼きが虚空をにらんでいる。
「あ、理后ちゃん。ちょっと動かないで」
え?と滝壺が反応した時には垣根の人差し指が滝壺の唇の端に手が伸びていた。
「クリームついてたぜ」
(理后ちゃんの唇にさわっちまった…!)
垣根はぴっとクリームを拭い、ハンカチで手をふく。
「じ、じぶんでも出来たのに…」
赤面する滝壺。垣根もちょっといたずら心が働いたのだろう。
それでも滝壺はぷいっと怒ることなく、タイ焼きにかぶりつく。
「…こんどは自分でちゃんととるから///」
天候は概ねくもり。
日は陰り、風は寒い。
天気予報によれば、午後に曇りから雪になるようだ。
「さむいね。かきね」
「あぁ、食べたらさっき理后ちゃんが言ってたシェーキーズにいこっか?」
(夜ごはんは予約したお店があるけど、それ以外はあんまり調べてないんだよなー。横浜は夜景がきれいだから歩こうとは思うんだけど)
本日の元冷蔵庫プロデュースのデートプランは大体こんな感じだ。
(シェーキーズでお昼御飯→適当に映画→適当にぶらぶら→歩いて予約した飲食店へ→プレゼント渡す→告白…!)
(告白できっか?いや、やるしかねぇ!わざわざ今日という日に俺が理后ちゃんを誘って、応えてくれてんだ…!ちゃんと言うぞ!)
すなわちゲレンデから帰ってきてすぐに、垣根は滝壺にクリスマスイブを開けてもらうように頼み込んでいた。
(ありゃ、緊張したぜ…ったく…)
垣根は緊張した面持で滝壺にクリスマスイブのデートを持ちかけた。
対して滝壺は落ち着いた感じで(ホントはちょっとドキッとしたが)、垣根に応えた。
学園都市にクリスマスが近づき、街全体があの言い知れぬ熱気に包まれ始めていたあの時。
――アイテムの仕事が終わり12月の夜の学園都市を二人であるいていた。
浜面の車が迎えに来るまでの少しの間に滝壺が垣根に言われた言葉。
「クリスマスイブ、理后ちゃん、あいてるよな?俺と横浜いこーぜ?」
言うことはちゃらちゃらした様な感じに聞こえるが、表情は真剣そのもの。垣根は緊張でガチガチに強張っていた。
滝壺が見たあの時の垣根。
いつもは高飛車でプライドの高そうな元学園都市第二位の男がさっと軽くあたまを下げた。
垣根を知る人が見たら卒倒しそうな光景だ。
滝壺が見たあの時の垣根。
いつもは高飛車でプライドの高そうな元学園都市第二位の男がさっと軽くあたまを下げた。
垣根を知る人が見たら卒倒しそうな光景だ。
「うん。いいよ。でも、かきね?」
「ん?なに?」
「言ってることとやってることが全然かみあってないよ?」
いかにもちゃらちゃらしたような表情だが、ぺこりと頭を下げてデートの確約をしようとする垣根。
その背反した様な光景があまりにもおかしくて滝壺はクスリと笑ってしまった。
「あー…はは。これはまぁ、ちょっと俺もマジってことなんだわハハハ…」
「そっか。じゃ、その日はちゃんとあけておくね」
滝壺がそう答えると、数秒間を置いて、よっしゃ!と声が聞こえてくる。
垣根がスリーポイントをたたきこんだ三井寿のようにガッツポーズを組んでいる。
(誘われちゃった…。クリスマスイブ…プレゼントどうしよっかな…)
もし垣根がクリスマスイブに誘ってこなかったら自分から言おうとした滝壺。
滝壺もホントは嬉しかった。
滝壺の返答を聞いて、数秒。
間を置いて、よっしゃ!と声が聞こえてくる。
垣根がスリーポイントをたたきこんだ三井寿のようにガッツポーズを組んでいる。
「ありがと。理后ちゃん」
滝壺の言葉を聞き、垣間見せる笑み。そしてすこし赤くなった頬。
(あんな真剣な表情のかきね、はじめてみた)
滝壺は思い出し、誰にも気づかれないように少しだけふふっと笑う。
実際、垣根と滝壺はクリスマスイブを迎えるまでに何度か遊んだ。
しかし、それはあくまでアイテムの皆で行った健康ランドやボーリング、カラオケ大会などで皆で仲良くわいわいという感じである。
なので垣根が望んだ様な二人きりで遊ぶというのは実はこれがゲレンデ以来初めてだったりする。
(…もう中途半端な関係はおしまい。付き合いを前提に友達をやってるっていういびつな関係は終わりだ)
垣根は確たる覚悟を決め、今日のデートに臨んでいる。
滝壺も垣根の純粋な気持ちに気付いて(もとからそういう関係を前提にした友人関係)いる。
故に、出来レースの様な気もするが、友人か恋人かの線引きをしっかりしなければいけない事は二人は理解していた。
垣根はそれに決着をつけようとしている。
滝壺もそれに応えようとしている。
二人の純粋な気持ち。それをこの日、この場所で確かめよう。
ガールズトーク。
服やお化粧、下ネタ、いろいろ。その中でもっとも話題にでるのはやはり恋の話だろう。
滝壺も今から数日前にアイテムの男衆(浜面、垣根)がいない時、垣根にデートを誘われた事を吐露した。
そして、どうすればいいのかと思い、アイテムの女性陣に相談というか、報告した。
滝壺が相談すると開口一番、麦野達はついにきたわね…と勝手に納得してうんうん頷いている。
アイテムのメンバーは滝壺が期待したようなまともな助言はしてくれなかった。
むしろ、当日に垣根がなんと言って告白するか賭けようとか、くだらないこといろいろ。
フレンダに至ってはおめでとうとか、クリスマスだからって変な所に行かないように!とか謎の警告を発していた。
茶化してくるアイテムのメンバー程ではないが、聖夜の前日という日程。
いまどきの若い男が女を誘うのに、ただの遊びな訳があるだろうか。
さすがに、か弱いウサギちゃん系の滝壺ですら、垣根がクリスマスに誘ってくるということの意味は重々理解していた。
おそらく垣根から何かしら言われるであろうことは想像がつく。
自分もそれには肯定的な答えを出そうと思っていた。
ただ、もしも垣根がそのような事を言わなかった場合、自分から言う勇気はあるか。
いや、自分は垣根が言わずとも垣根にしっかり自分の気持ちを伝えられるかどうか。
いやそもそも、垣根は私の事がホントに好きなのだろうか。
確定している出来レースにも不安は存在する。
事実は小説より奇なり。という言葉があるほどだ。
滝壺がいざその時になるまであらゆる可能性を考えてしまうのは暗部で培った悲しいサガなのだろうか。
それは垣根にもいえた。
滝壺がもし俺の事を振ったらどーしよう。
また冷蔵庫に戻るか…。
いや、ゲレンデに戻るか?
浜面から早く告白しちまえよと何度も茶化された。
確かにゲレンデの時より二人で話すことは多くなったし、会話自身も結構弾んでいる(はず…!)。
(いやー…らしくねぇ…。ここまで来たらもう俺の気持ちだって筒抜けだし、腹くくるしかねぇなわな…)
滝壺に振られる可能性を全て排除した未元物質の使い手はそれでも若干の恐れを抱きつつ、タイ焼きを一口頬張る。
しばらくして垣根と滝壺がすっと考えるのを辞めて、お互い目があう。
恥ずかしさから耐えきれずに顔をそらす二人。
二人はたいやきを食べ終わる。
取りあえず、映画まで時間がある。
「さっき言ってたシェーキーズ行こっか」
垣根は滝壺がタイ焼きを食べ終わると立ち上がった。
「おう。いこうぜ、理后ちゃん」
滝壺もたちあがり、二人は歩き出す。
手はまだつながないけれど、ゲレンデの時よりも二人の距離はもっと近付いている気がする。
今日こそ二人マンツーマン。
重なる聖なる時間、空間
どんな話をしよう
かたい話はなしとしよう
垣根はクリスマスイブ定番のチューンを思い出す。
「いらっしゃいませー」
(あぁ、帰ってあまんちゅ読みてぇ…)
聖なる日の前日にアルバイトをしているかわいそうな店員さんが、入店した垣根たちを満面の笑みで迎えてくれる。
リーズナブルな値段設定でかつおいしいピザが食べられるシェーキーズは様々な年齢層から人気だ。
とりわけ今日は幅広い年齢層でのカップルや夫婦が目立つ。
店内には軽快なジャズやソウルミュージックが流れている。
ちなみに今流れているのは「Through The Fire」というChaka khanの名曲だ。
さて、そんな音楽の話はどうでもいいとして、まずはお昼ご飯だ。
実は彼ら、朝ごはんを食べていない。
それは彼らの能力と暗部という肩書ゆえに外出申請が面倒で時間がかかる事に起因している。
滝壺も垣根もアイテムという暗部組織に籍を置いている。
故にアジトがあてがわれるのだが、先日からはお互い別のアジトで過ごしていた。
垣根は第七学区の立川駅周辺。
滝壺は多摩センター周辺の地下第23学区のアジト。
お互い、横浜からは遠い。
それを見越して二人とも早めに出たのだがアンチスキルに外出理由を詳しく聞かれたようだ。
さて、そんな音楽の話はどうでもいいとして、まずはお昼ご飯だ。
実は彼ら、朝ごはんを食べていない。
それは彼らの能力と暗部という肩書ゆえに外出申請が面倒で時間がかかる事に起因している。
滝壺も垣根もアイテムという暗部組織に籍を置いている。
故にアジトがあてがわれるのだが、先日からはお互い別のアジトで過ごしていた。
垣根は第七学区の立川駅周辺。
滝壺は多摩センター周辺の地下第23学区のアジト。
お互い、横浜からは遠い。
それを見越して早めに出たのだがアンチスキルに外出理由などを詳しく聞かれたようだ。
大能力者の滝壺は日本の境界線である町田でアンチスキルに引っかかったのは先述した。
早めに出たにも関わらず、クリスマスをデートして過ごそうとする学生達を嫉妬する警備員たちの半ば茶化しの様な誘導尋問に巻き込まれたのだ。
垣根も南武線を利用して横浜に向かったので、やはり矢の口駅で警備員に取り調べを受けた。
こちらの方は相当早めに出たこともあり十分まにあった。
しかし、待ち合わせに間に合った対価(?)として朝飯抜き、外出申請で時間がかかったのでいかんせん、腹が減った。
たいやき一匹だけではおなかがいっぱいになるはずもない。
((おなかへったな…))
ぐーっと、おなかがなる二人。
「かきね、おなかなったよ」
「理后ちゃんもなったぜ」
「ばれたか…」
二人は案内された卓からたちあがり歩き出す。
ふたりは荷物を置き、貴重品をポケットに入れるとピザを取りに行く。
こじゃれた店内の雰囲気とわいわいがやがやしている客たちの喧騒に垣根と滝壺も入り込んでいく。
――上野駅、AM11:05
かつては東北方面から上京してくる人たちの受け入れ口となった上野駅。
現在でも上野の街は都市整備で整理されつつも上京してくる人々を受け入れていた当時の趣を遺している。
かつては大きな蒸気機関車が走っていたこの街は今では東京23区をぐるっと一回りする山手線、京浜東北線等のもろもろの列車を受け入れている。
そんな所に一人の男が降りる。
プシュー…と電車のドアが開き、乗車している客に押されつつ降りていくのは浜面仕上。
待ち合わせ時間に少し遅れて上野駅に着いた彼はまずは何口に降りればいのか?と考え、駅の表示をキョロキョロみている。
(えーっと…待ち合わせは確か上野の森美術館があるほうだから…あっちか!)
浜面が改札にいる人たちを足早にぬかしていく。
改札に切符を投入すると扉がバタンと開く。
競走馬のように勢いよくそこから飛び出る。そこには腕時計をみてちらちらと誰かを探している麦野がいた。
(うわー…五分遅刻しちまった…取りあえずあやまるか…お、いたいた)
「沈利!遅れてごめんな!」
「うわっ!びっくりした…!待ち合わせ時間から五分遅刻だよー!はーまづらぁぁぁ…!」
「へいへい。申し訳ない。あんまこっちの方来たことなくてさ。ってか上野とか子供の時以来初めてかもしんね」
「私もあんまり記憶にないかなー…。物心着いた時には学園都市に預けられてたし、わざわざ学園都市から出るほど買いたいものってあんまりないしねー」
そこで浜面と麦野は学園都市の整備された都市でクリスマスを過ごすと言うよりもむしろ二人で外で遊んでみたいということになり上野で遊ぶことに。
上野はアメ横という電車の高架下の周辺に発達した飲食店や装飾品などもろもろの店舗が並んでおり、じっくり歩いて回れば相当時間をかけて回れる。
アメ横に行きたいと言い出したのは浜面だった。
麦野は別にこれといってどこですごしたいという願望はなく、浜面と入れればどこでクリスマスイブを迎えてもよかった。
(浜面と一緒に入れればどこでもいいのよねー)
そう思っていたが、そんな麦野に大きな変化が訪れたのはクリスマスイブを数日前に控えた日だった。
TVのCMで上野の森美術館で開催される芸術展が開催されていると聞き、急きょ麦野も上野デートを希望したのであった。
「んじゃま、最初に沈利が見たいって言った美術館行きますか」
「浜面の言ってたアメ横っていうのは行かなくて平気なの?」
浜面が行きたがっていたアメ横は麦野の行きたがっている美術館からはすぐそばで歩いて五分ほど。
まだ午前中だし、時間にはまだまだ余裕がある。
「平気だよ。アメ横はこっから近くだし。ほら、沈利」
浜面がすっと右手をのばすと麦野もすぐに左手を出す。
付き合い始めて最初の内は緊張に次ぐ緊張だったが、今では手をつなぐことはお手の物のようだ。
「ねぇ。今日は一杯たのしもうね」
「あぁ。そうだな」
二人は入館引換券をもらい、白い壁に飾られているさまざまな絵画に目を通す。
自分の趣味が他人に知られるのが恥ずかしいと思う気持ちは誰にでもあるものだ。
少なくとも麦野沈利はそういう女だ。
彼女はゲレンデで浜面と交際関係を始める。
そこで浜面にアイテムの仲間であるフレンダ達も知らない様な趣味を持っていることを教えた。
それは石や音楽、そして今日の絵画。
浜面の前では自分の趣味を言えたり、実行できることがすごい心地いい。
別に隠しごとがいけない訳ではない。
けれど、麦野にとって浜面の前で『自分』をありのままにだせることが何より良い気分になれるのだ。
(できれば、私にもっといろいろ興味を持ってほしいな)
いつもは仕事で人を肉塊に変えるつまらない作業に打ち込んでいる彼女。その一面を自己否定するわけではない。
麦野自身、殺人を生業(なりわい)にしていて、そんな自分を受け入れているつもりだ。
こんな自分だが、自分をただの殺人鬼だと思わないでほしい。
浜面が麦野のことを『殺人鬼』と見ていないことはもちろん知っている。
大事にされている事も十分理解している。
けれど、不安で仕方ないのだ。時間が許す限り浜面に甘えたいのだ。
(もっと私を見てほしいな。…今日は浜面といっぱいたのしもう☆)
そう思いつつ、彼女は持参してきたデジカメで綺麗な絵画群をカシャっと一枚取る。
もちろんフラッシュは禁止なので、フラッシュはなし。
(うわー…これすごい綺麗…)
麦野が目を輝かせて見ているのはかつてイタリアで豪奢を誇ったメディシス家の女君主が十字教徒として神に召されるシーンを描いた作品だ。
(『マリー・ド・メディシスの生涯』…綺麗。大天使が何人も取り囲んで。ルーベンスの最高傑作ね…)
ここで言っておかなければならないが、麦野は取りたてて熱心な十字教徒ではない。ただの日本人だ。
そんな彼女が絵に魅せられたのは幼少期見ていたイコンの絵がきっかけだ。
麦野はこの後、ルーベンスの最高傑作の絵画を食い入るように見ていた。
マリー・ド・メディシスは決して名君であった訳ではない。むしろその逆。
しかし、天才的な画家ルーベンスに描かれたメディシスの絵は優美でルーベンスの実力をまざまざと見せつけている。
『ミネルヴァに扮したマリー・ド・メディシス』はそれを証明する最も最上のものであろう。
(すごい…こんなに繊細な…私も絵画は詳しくは知らないけれど、この絵を見るだけだえがいた人がすごかったて私でもわかる…)
麦野は中世絵画にすっきり魅せられたようだ。
「このメディシス王妃のシリーズはフランスの皇帝アンリ四世と一緒に映ってる作品もあるんだよ!けれど息子との争いでルーベンスは書けなかったんだよ!」
麦野は周りにいる見物客と一緒に添乗インの説明を食い入るように聞いていた。
たまにほうほうと軽く頷きながら説明を聞く素振りが浜面から見てめちゃめちゃかわいかったそうだ。
(沈利、説明めっちゃ聞いてるな)
浜面が一緒にいることを忘れているかのように熱心に説明を聞いている麦野。
その姿がたまらなくかわいい。
(あいつ、ホントに仕事の時とは違うなー)
浜面も持参したデジカメで麦野の事を隠し撮りする。
(熱心に絵画見てたり説明聞いてる沈利かわいすぎる…)
服もいつもお気に入りの黄色いコートとは違う。
麦野が絵画の説明を聞いている最中にちょっと今日の麦野のコーディネートを見てみよう。
浜面から今日はいろいろ歩く、と聞いていたのでお気に入りのピンヒールブーツは断念。
その代わりに牛革スエードの黒のロングブーツをチョイス。
麦野の美脚を魅せつつ歩きやすい格好に。
ジーンズはAbercrombie&Fitchのローライズデニムをブーツイン。
ベルトにはVivienne Westwoodの鮮やかなバックルのものをチョイス。
上着にはノーブランドで黒のタートルネック。
その上からINDIVIの黒ロングコートを着ている。
普段の麦野は黄色や赤、ピンクと言った色合いのものが好きだが、今日はちょっと地味だけれど麦野なりに大人っぽい格好にしてみた。
それが浜面には大受けのようだ。
浜面的には大人びたお姉さんという風の麦野を大変気に入ってる。
(ってかあの手袋やべぇよな…)
麦野の大人っぽい格好に惹かれている浜面をうならせたのは両手にはめられたファー付きの手袋。
(あれはガチでやばい。あれでほっぺたぺんぺんされたい)
確かに麦野の着用している手袋の破壊力はヤバイものがある。
最近二人きりになることがあまりないので手はつなげなかったが、ゲレンデでのあのか細い手…。
それは浜面仕上の頭の中の画像保存フォルダにしっかり保存してロックしてある。バックアップも十分だ。
(あぁ、麦野の手袋になりたい)
変態の極みである。
麦野は一通り写真を見終わると満足した用だ。二人は売店でホットココアを買って館内の売店にあるテーブルに座る。
「なぁ、沈利。今日の服装ふつーにやべぇんだけど」
「やばいって?どーゆーこと?」
「…いや、なんつうかめちゃかわいい」
「……あ、ありがと///今日はいつもと違って黒メインにしてみたんだ☆」
「すっげぇ似合ってるぜ?俺はそういうカッコの麦野も好きだな」
浜面がうんうんと頷きご満悦のようだ。麦野も自然と笑みがこぼれる。
「浜面の格好もかっこいいよ」
「あ、あぁ!ありがと!いつものジャージじゃないぜ?結構頑張ったんだぜ?」
そういうと浜面はダウンのファスナーを少しさげて左右に動き、麦野に向かって完全ドヤ顔。
はぁ、と麦野はため息をつく。
麦野が自分のあごに右手のてのひらを乗せてふふふ、と笑う。
ほら、一昔前にはやった電車男のへるめすとかあったろ。あれだあれ。
「おおおおおい!沈利!?ひどくね?なんかコメントしろよ!俺がアホみたいじゃねぇか。笑うんじゃねぇぇ!」
「だって浜面、アホじゃん。ふふ」
「全く言いかえせねー」
そんなアホな男浜面は今日はClarksの黒デザートブーツにダークユーズドのLevis503。
ベルトはDIESELのシンプルなベルト。
白のVネックシャツの上にVANSONの赤と黒のワークシャツ。
アウターにはAbercrombie&Fitchのネイビーブルーのダウンジャケットをチョイス。
三十分ほど雑談をしてまだ少し残ったココアとコーヒーをくいっと飲み干すと二人はゴミ箱に飲み終わったゴミをすてる。
館内を出ると遠くから聖歌が聞こえる。
上野公園ではまだ正午ちょい過ぎにも関わらずカップルがベンチに座っていちゃいちゃしている。
「あーあー、まだそんな時間じゃないでしょうに?」
浜面がいちゃいちゃしているカップルをぼんやりと見ながら呆れたようにコメントする。
「まぁクリスマスだしいいじんじゃない?ほら」
麦野がそういうと浜面に手を伸ばす。
「一人じゃ歩けないにゃーん☆」
つい数十秒前まで一人で歩いていた麦野はいきなり歩けなくなってしまったようだ。
やれやれと心の中でため息をつきつつ、浜面は手を伸ばす。
「ふふ。気付くの遅ーい!ちゃんと手ーつなげー!はーまづらぁ!」
「はいはい」
素手の浜面の手にフワフワした感触の麦野の手が手袋越しに繋がれる。
(ったく、二人っきりの時以外でこんな素振り見せないからなぁ。ま、このギャップが良いんだけどよ)
かつては手をつなぐだけで顔を赤らめていた麦野もいくらかましになったよう。
顔は赤いが、手をつなぐ時にいちいちショートしなくなった。
「ありがとう。わたしだけのヒーロー☆はーまづらぁ」
「いってて恥ずかしくねぇのかよ…///」
(か、かわええ…)
「えー?平気だにゃーん☆」
(ホントは恥ずかしいけど、浜面から手つなごうって言わないからだよ!)
二人はアメ横に向かう。
「もうくえねー!腹いっぱいだぜ」
「私もおなかいっぱい…休みたい」
「ってかピザにバナナのってるとか斬新だよな…。しかもうめぇ」
「えっ。まずかった?バナナのやつめっちゃ美味かったんだけど」
「えっ」
(あれはあんまりというかむしろ超絶まずかった気がする…)
「ま…!人それぞれこの好みは分かれるし…!ははは。あーバナナピザクソマジぃな」
(かきね。むりにあわせなくてもいいよ)
人それぞれと言っておきながら無理に滝壺に合わせようとする垣根帝督。
平気。それぐらいで滝壺のあんたに対する評価は落ちませんよ。
シェーキーズでたらふくピザを頬張った二人は椅子にどかんと座りドリンクを飲んでいる。
結構食べたので只今休憩中である。
「さーってこの後だけどさ、映画見ないか?映画」
(ってかここで断られたら俺のメイン=プランは崩壊する…!)
「映画はちょっと…」
「マジ?」
「じょうだん。いいよ映画見たい。何見るの?」
「いやー、俺、絹旗程じゃないけど映画好きなんだよね。んで、ワールドポーターズで名作映画の再放送やってんだわ。今日は『You Got Mail』だ」
「ゆーがっとめいる?」
「あぁ。俺もずいぶん前に一回見ただけなんだけどさ。メグ=ライアンとトム=ハンクス主演のはなし。知ってる?」
「知らないどんな話なの?」
「あぁ。老舗本屋と大手本屋の人のはなしだぜ。恋愛映画だな」
ほうほうと滝壺は垣根の話に聞き入る。
垣根から見た感じ、滝壺はいきたそうだ。
最初は滝壺が何を考えてるかよくわからなかった垣根も、次第に何を考えているのかわかるようになってきた。
(理后ちゃんは無表情じゃねぇんだよ…よっくみりゃ何考えてるかとか感情とかわかるんだぜ)
垣根もだんだんアイテムの一員としてなじんできているようだ。
「ワールドポーターズっどこにあるの?」
「あー、あの中にあるんだわ。ちょっと歩くけど良いか?」
今滝壺達がいる所からは地味に遠いワールドポーターズ。
垣根が窓越しからぴっとワールドポーターズを指さす。
今彼らがいるのは桜木町駅の近くのシェーキーズ(実際は桜木町駅前にありません)。
汽車道を通って映画館まで歩く道のりは10分~15分ほどかかってしまうようだ。
「いいよ。歩くのすきだから。あるこうか」
「そーこなくちゃ。外寒そうだけど歩きゃあったかくなるだろ」
シェーキーズは先にお会計を済ませるシステムなので彼らはバックを持って忘れ物が無いか確かめると外へ向かって歩き出した。
「ありがとーございました」
(うわー、帰ってガチであまんちゅ読みてぇ…)
店員の悲痛なお礼が店内に響き渡る。
「ねぇ、かきねって学園都市の人から戻ってきたことばれてないのかな」
「いや、ばれてるだろうな。アレイスターの野郎が何考えてっかわかんねぇけど、多分よく分からねぇ技術で監視されてんだろーな」
「なんか、電話の女もいつの間にかかきねが白馬から帰ってきたこと知ってたよね」
「あぁ。だから逆に考えたんだよ。学園都市は多分俺をもう必要としていない。アイテムに俺が入って学園都市の防諜部隊に入ってあっちは満足じゃねぇの?」
さらに垣根は喋る。
「学園都市第四位と第二位がいて大能力者と二人と火薬、爆薬の扱いに長けた人物が一人、機会いじりが趣味の無能力者が一人。こりゃ一個旅団並みの兵力だぜ?」
しかも垣根の親友のアウレオルス=イザードが学園都市に戻ってきているため、新生アイテムに喧嘩を売った場合、アウレオルスも援軍に駆けつける。
遠く白馬からはボードで知り合いになった闇咲さんや牛深さん、削(研)板も加勢する。
一気にここまで膨れ上がった広義の意味でのアイテムに喧嘩を売ろうなんて考える酔狂な輩はいないだろう。
「なんかひとのつながりってすごいね」
「だよな」
汽車道を歩きワールドポーターズに向けてゆっくり歩く二人。
二人で歩こうウキウキ、通り。
まわりには仲がよさそうに歩くカップル達。
垣根と滝壺もはたからみたらそんな仲の良い二人。
灰色な空から少しだけ陽が差す。
そしてすぐに雲に消えていく。
「さむいな…」
「うん」
シーン…。
会話の無い沈黙とは気まずいものとそうでないものが存在する。
今垣根たちが味わっているのはそうでないもの。
二人はそれぞれ違うところを見ていても取りたてて仲が悪いわけでないし、気まずい訳でもない。
(理后ちゃん、綺麗だな…)
(かきね、こっち見てる…///なんか照れる///)
ちょっと気まずいかも。
「ねぇ、あれ何?なんか赤茶のレンガ作りの小屋」
「あぁ?ありゃーえっと確か前に調べたぞ。確か赤レンガ倉庫だ」
「倉庫?どっかの会社の倉庫?それにしては一杯人いるよ?」
「いや、昔は企業の倉庫だったんだけど、今は飲食店とか雑貨店とかで占められてるらしーぜ?行きたいのか?」
「うん。映画終わったら行きたいな…いい?」
普段は滝壺から何かをしたいといいだす事は珍しかった。
垣根はそんな滝壺反応がちょっと嬉しく、直ぐに了承した。
「かきね、ありがとね」
「あん?どーしたよ。いきなり」
「ううん。わざわざクリスマス誘ってくれてありがとう」
「…おお!いや、俺こそな!ありがと!」
(いきなりどーしたんだ?理后ちゃん)
「私、自分の居場所、ここしかなかったから…」
「ここ?」
根が首をかしげる。
垣根は元々アイテムの初期構成員ではない。
むしろかつては垣根は学園都市の違う組織に身を置いていた。
なので滝壺の悩みを理解してやれることはできないのも無理はない。
「私は確かに大能力者だけど、体晶使わなきゃ能力が使えないんだよね。だから多少の無理をしても皆のために貢献したかった」
「なぜなら、自分の居場所がここしかなかったから。でもここ、そうアイテムは一杯人のつながりが出来て、私はアイテムにいてよかったて思う」
「俺もだよ。お前らが白馬「あうれおるす」にこなかったら俺はまだ冷蔵庫とか工場長とか言われてネタ扱いされてただけだ」
「俺自身もただのAI冷蔵庫で終わってたかもしれねぇ。それがここまで大きい人の集まりになって俺は嬉しいよ」
大きいといっても某説教学生のそれとは到底規模は違う。
それに比べたら小さいものかもしれない。
けれど、少なくとも垣根と滝壺は自分たちが身を投じているアイテムという組織は彼らの求めていた居場所になったのである。
人数は少ない。けれど、個人個人の繋がりは強固なものになっている。
「なぁ、理后ちゃん。俺がもっと本調子を取り戻せたら、俺がお前を補佐するよ」
「補佐?」
滝壺は首をかしげた。
何故なら滝壺は今まで麦野の照準補佐を行う役割を任されてきたから。
なぜ、私を補佐するのか?滝壺にそんな疑問が浮かび上がる。
垣根は灰色の空に向かって深呼吸をする。
「俺が完全に復活したら体晶を使わなくても、理后ちゃんがAIM追跡能力を使える未元物質を必ず生成するから。もう体晶で絶対に苦しませない」
「…うん。ありがとう。すごくうれしいし、なんかあったかいね」
ふたりはそう遠くない未来を創造した。
皆がお互いを助け合うアイテム。
いや、さらにその先。暗部がいつかなくなり、平和になった時の自分たちの姿を。
灰色の世界にひときわ輝く未来の光。そんな夢みたいな景色を見てみたいと思う。
「着いたぜ」
そんなこんなで二人はワールドポーターズに到着した。
「うわぁ、屋内あったかいね」
「外が寒かったから逆にあったかく感じるわな」
垣根はそんな会話をしつつ、館内の案内を見る。上映時間まであと三十分。とりあえずチケットを買いに行こう。
「もう二階上だ」
「うん」
エスカレーターに乗り、テクテク二階に進む。
映画館特有のチュロスの甘い香りが漂っている。
「今はチュロスのにおいかぎたくないかも…」
「俺もだ…」
バナナピザやデザートをいただいた二人にとって甘いにおいは禁物だった。
「ってか何も食べる気がしない…」
「こりゃ、おとなしく水だな」
垣根がチケットを二人分買っている最中に滝壺はちかくの売店で水を購入することに。
チケット売り場で自分の番が来るまでの間、垣根は滝壺がぴょこぴょこ歩いてる姿を目で追っていた。
(滝壺、かわいいってレベルじゃねぇな)
とその時、滝壺が小銭を落としてしまったようだ。
キョロキョロと周囲の床を見回している。
(おいおい、大丈夫か?)
垣根が見ていることに気付いたのか、不安げな表情を浮かべながらも滝壺が垣根の方を向き、首をかしげる。
(ないよーかきねー><)
もっとも周りを見ろよ!と垣根がきょろきょろする素振りをする。
滝壺はもう一回床を見る。
あった。滝壺が落とした小銭をキラーンと親指と人差し指にはさみ、垣根に見せる。
嬉しそうだ。
滝壺が両手に買った水を持ってこちらに走ってくる姿に垣根は数秒の間魅せられていた。
(…かわいい…かわいすぎるよ理后ちゃん…!)
「あのー…すいません…お客様?」
映画館のチケット購買員がマイクで何度目かの呼びかけを行って垣根は我に戻った。
「では高校生二名になりますね…三千円になります…」
(うわーリア充やん。帰ってベルセルクよみてー)
さぁ、『You’ve Got Mail』を見よう。
まだ携帯電話が発達してない時。
チャットで恋に落ちていく二人の物語り。
結末?
当然ハッピーエンド。
シアターに入ると予想通りと言うべきかかなりの人がいる。
列のど真ん中のベストポジションに二人は陣取る。
再発行されたパンフレットを購入した垣根はパラパラと流し読みしていく。
(トップガンといい、この時のメグライアンはやばいな。かわいい)
垣根がそんな事を考えていると滝壺のじとーとした視線を感じる。
「…」
「なに?理后ちゃん?」
「そんなにパンフレットばっかみてて…かきねはそんなにきんぱつがいいの?」
「いや、そーゆー訳じゃねぇって」
「そっか。……私もきんぱつにしよーかな」
「えっ」
映画館の中ということもあり小声のやり取りに。
滝壺はそんな中メグライアン(きんぱつ)に軽く嫉妬してしまったようだ。
「理后ちゃんは今のままが一番いいよ」
「///」
垣根が頭をやさしくなでる。すりすり。
滝壺からぽっとランプが点いたような効果音が聞こえたようだった。彼女のほっぺたがほのかに赤くなる。
「ふにゃあ」
滝壺は意味不明な事をのたまい、くにゃーと座席に脱力する。
(メグライアンにかったぁー)
ちょっぴり優越感を味わう滝壺であった。
ブー、ブザーがなり上映前のCMが始まる。気違いじみたカメラ付きの男がくるくる回っている。
映画の盗撮厳禁である事を伝える役割があるそうだ。
(うわーこの動きやべぇWW)
そのフィルムが終わりしばらくすると映画の本編が始まる。
メグライアンとトムハンクスのラブストーリー。
(理后ちゃん…映画見てるかな)
垣根がちらと滝壺の方を向いてみる。真剣な眼差しで映画を見ている。けれど姿勢はだらーんと。
垣根も脱力した姿勢なりにだらーんとする。
(ははっ。リラックスしてるねー。あれ?)
その時ぺたりと垣根の手になにかあたる。脱力して手を下ろした直後だ。
((?))
((手?))
うん。手。
二人はお互いの手に触れた事に気付く。
「」
声にはならない。映画館で声を出したらダメ。
二人はビクリとしつつも手を退けない。
いや、この言い方には語弊があるな。
滝壺は正直動揺して手をはなそうとした。
ただの接触だと思った。映画館は暗いしね。
けれど垣根が離さなかった。
垣根の手は最初はぎこちなく、けれど手だけまるで別の生き物のように動く。
(理后ちゃん。いいよな?)
垣根が自分の指の部位と滝壺のそれをまさぐりながら確認してゆく。
(かきね?手繋ぎたいのかな…///)
自分の指が垣根にされるがままにいじられている。でも強引な訳ではない。
いやなら滝壺が手を引けばいいだけだから。
二人は飽くまで映画に集中している――ふりをしている。
まるで誰かにばれてはいけない。スリリングなゲームの様。
静まり返った映画館内で二人、手を握りあおうとする。
滝壺の左手は垣根の右手に、やみくもに、けれど次第にからめとられていく。
そう、まるでクモの巣に嵌まってしまった哀れな虫のよう。
(つかまっちゃった)
滝壺はついに垣根にその左手を征服されてしまった。
二人とも言葉は発しない。
飽くまで静かに、闇の中の不埒なグレートゲームの軍配は垣根に軍配があがった。
(…かきね緊張してるの?)
垣根の手は少し汗ばみ、震えていた。クモならそうはいくまい。彼はもちろん人間だ。
(理后ちゃん、怒らねぇのか?いいのかよ)
垣根はここまであっさり。とは言わないが取り立てた苦労も無く、滝壺の手を握れた事に驚いていた。
(……なんで何もいわねーんだ?いや、それとも俺を受け入れてくれたのか?)
垣根は混乱していた。滝壺がどうして欲しいのかわからない。
前に彼女が大体何を考えているかわかるとおお見得きったはいいが…。
それでも垣根は思う。
離したくない。怒られてもいい。
一度掴んだ滝壺の手を絶対に話すもんか。
無理矢理でもいい。滝壺を手に入れたい。
そう思うと自然に力が強くなる。ぐっ、と汗ばんだ右手に力がこもる。
その時、垣根は滝壺がこちらを見ている事に気付く。
だらりと脱力しながら映画を見ている二人は後ろの観客からは見えないし両隣の観客から見てもリラックスしている様に見える。
「―――――――――――――――――――」
(え?)
滝壺が垣根になにか言った。
よく聞こえない。
「………なに?」
手を繋ぎながら垣根は滝壺の方を向き、小声で答える。
「かきね、ちょっといたいよ」
「……ワリィ」
二人以外誰にも聞こえない声でやりとりをする。
恐る恐る垣根が滝壺の左手を握っていた力を緩めていく。
垣根はまるでここで万が一手を離したらもう永遠に手を握れないんじゃないかと恐れているような。
ゆっくりゆっくりと力を緩めていく。
滝壺と垣根の手は一旦離される。
じとりと垣根の手から発汗している汗。
(かきね…すごい緊張してたんだね…こんな私に…うれしいな…)
そんな滝壺の心情は垣根の耳には入らない。
(…り、理后ちゃん?)
垣根が滝壺と手を離したことで動揺する。対して、滝壺はさも当たり前の様に映画をみている。
その時、垣根は感じた。滝壺の細くて薄い手を。
垣根よりも一回り小さい滝壺の手。
でも滝壺のそれは温かく、やさしく垣根の右手を握り返してくる。
垣根は滝壺の手をはっきりと知覚した。
そして繊細なガラス細工を扱う職人の様な手つきで慎重に滝壺の手を優しく、同じ程度の力で握り返す。
(かきねの手…おっきぃなぁ)
わいわい、がやがや。
「うわー…人ヤバっ!はーまづらぁ」
「なんで俺の名を!?いやーガチで人がゴミのようだ…」
浜面達は上野の森美術館を出てアメ横の猥雑な通りに入り込んでいく。
アメ横には平日、休日問わずそれなりに人がいる。
クリスマスのそれはデートや買い物等の客でごった返していた。
「ゲレンデの時みたいにはぐれんなよ?」
「は?あんたが勝手に滑りに行ったんでしょー!?」
「あー?そーだったけ?」
そうですよーと麦野が悪態をつきながら応える。
二人が話すたびに口から出てくる白い息。
今年はどうやら相当寒い冬らしい。
そこで二人は何か温かいものを食べたいと思い、京浜東北線と山手線の高架下のモツ鍋屋に入る。
「いらっしゃいー!あれ?おまえらいつぞやの」
店内で出迎えたのは頭にねじりタオルを巻き、半そでで店内を動いている削板軍覇だった。
「あれ?おまえら、何でこんな所にいるんだ?」
「いやいや、研板さんこそ。ゲレンデでバイトしてたんじゃないんすか?」
浜面と麦野はうんうんと頷き、再度削(研)板をみる。
「あー、ここは牛深のおっさんの知り合いの諫早(いさはや)さんが切り盛りしてる老舗店舗なんだわ。んで俺モツ好きじゃん?」
(しらねー)
「んで、ここに呼ばれたって訳だ」
「「ふーん」」
削板が麦野達と歓談をしていると他のお客さんに呼ばれてそちらへ向かっていった。
行く際に削板が麦野達を案内するように、香焼とかいうまだ絹旗と同い年くらいの子に頼んだ。
「えーっと、店の中は人大杉なんで、外でもいいっすか?」
「構わないわよ?ねぇ、浜面」
「あぁ、別にどこでも構わないぜ」
「あざーっす」
そう言うと香焼は一度店内に入った浜面達を外に出るようにやんわり促す。
狭い店内から一度出る。ビニールの簡素な屋根越しに屈折した灰色な空。
今にも雪が降ってきそうな気配だ。
「あー、寒いっすよね?今暖房持ってくるんで待ってて下さい」
そういうと香焼は店内の奥から一基暖房を引っ張り出してきた。
レトロなタイプで真っ赤に燃えているヒーター部分が見える。
「学園都市じゃこんなレトロなやつないわよねー…」
「あー、そうだなぁ…なんか技術は学園都市の暖房の方が断然いいんだけどな…なんか」
「うーん、言いたいこと大体分かるわ。なんかこっちの方があったまる感じがするわよね」
学園都市製のヒーターは赤外線で人体を感知し、その部分に熱を放射し体を温めるといった優れ物だ。
無駄がなく、すぐにあったまれるというのが売りだった。
確か日本本国にもノックダウンして売られていたはずだ。
金額は確かそうとう高額。
けれど、それよりもむしろ、この風景になじんでいるこのおんぼろヒーターの方が浜面達はなぜかあったまれる気がした。
「へーい、お待ち!待たせたな!」
削板がどかんとモツ鍋と塩ダレ味の焼き鳥を持ってくる。
「おいしそうー!」
麦野は割り箸をパチンと割り、礼儀正しくいただきますというとモツ鍋の肉をパクンと一口。
「おいしー!浜面、これめっちゃめちゃおいしいよ!」
「マジで?じゃ、いただきまーす!……うんめぇ!」
麦野は今までこういう雑多な雰囲気の中で食事をしたことはほとんどない。
むしろ、こういう所でご飯を食べるのは想像もしてなかったし、食べようとも思わなかった。
(最初はこういうところで食べたくないって思ってたけど、これはこれでありね…!)
(これも、浜面と付き合えたからこそ出来たこと。まだ今日は長いし、いろいろ楽しまなきゃね)
寒さに負けないように一杯食べた二人はその後しばらくそこから動けなかった。
さて、舞台は再度ベイサイド横浜。
時間は17時半を回ってもうすぐ18時に。
浜面達が食事をしている時間帯よりも少し先の時間になるが垣根と滝壺を見てみよう。
「映画よかった…」
「あの最後のほのぼのとした終わり方がいいよな。ってか俺も着信音『You've Got Mail』にしようかな」
二人は今映画館を出ておそらく日中よりも冷え込んでいるであろう外へ向かう。
映画館でつないだ手はそのまま。
まるで接着剤でぴったりくっつけてしまったように離れなかった。
「理后ちゃんがさっき言ってた赤い煉瓦の所行ってみようか?」
「うん。あの赤い倉庫は気になる」
そう言いつつ二人はエスカレーターを降りていく。
そしてウィーンと自動ドアが開く。外はすでに薄暗くなっている。
「「うわぁ…!」」
滝壺と垣根は我を忘れて声を出していた。
桜木町駅からワールドポーターズに向けて歩いてきた二人が来た汽車道を振り返る。
日中はただの木だったのに、夜になって発光モールをくくりつけられていたそうで、鮮やかに光っている。
ベンチや芝生にはカップルが思い思いにクッソ寒い中座っておしゃべりをしている。
発行モールのさらに後ろには大きな観覧車が鮮やかに光っている。
時より観覧車のゴンドラから見えるフラッシュはおそらくデジカメで横浜のベイサイドを撮影しているカメラの光芒だ。
「綺麗だねー…」
「あぁ、ホントに綺麗だ」
横浜から桜木町、ベイブリッジ、みなとみらい…。一緒くたになり織りなす夜景に垣根たちは目を奪われていた。
「あの赤い所も綺麗だね!いこうよ!かきね!」
「おう!っておいおい!走るなって!」
垣根の手をひっぱって少し離れた赤い倉庫まで走る滝壺。
その彼女の手に完全に引っ張られる形になりつつも歩調を整えて滝壺についていく。
(理后ちゃん、楽しそうだな…!よかった!)
垣根は滝壺の楽しそうな姿を見てほっと胸をなでおろす。
二人が向かっている、赤レンガ倉庫はもう目と鼻の先だ。
「はぁはぁ…理后ちゃん、走るのはやいぜ…」
「…ごめん。ついコーフンしちゃって…」
滝壺は途中、あまりにも垣根が遅かったので手を離して先に行ってしまった。
ちなみに二人が今いる所は赤レンガ倉庫が二棟ありその真ん中。
広々とした空間の先にはコンクリ壁に叩きつけられたさざ波の音が聞こえる。
「ね、あっちも行ってみよー」
「お、おい、ちょっと待ってよ?」
垣根は走り慣れていないらしく、相当疲れている。
一見無口で静かな様に見える滝壺だが、興味の惹くものに関してはがむしゃらになる所があるようだ。
垣根は先が海になっていて行き止まりの事を考え走らずゆっくり歩いていく。
滝壺は一つあいていたベンチに座って足をぱたぱたさせていた。
「ここだよ。かきね」
ほれほれと手を振る滝壺。
その横に座る垣根。
先ほどまで走っていて熱くなっていた体が急に冷えていく。
体が寒い。自然と二人の肩がくっつく。
「さむいなぁ…あ、なんか飲む?あそこに自販機あっから俺買ってくるよ」
「えーっと、カフェオレホット欲しいな」
「あいよ」
垣根が戻ってくると手袋を着けている滝壺の手を煩わせないように、事前にタブを開けたカンを渡す。
「ありがとう」
(あったかーい)
「あいよ」
(ほっとれもんうめぇ…)
ふぅー…とドリンクを飲む。白い息が口から出ていく。
滝壺の息と垣根の息が虚空で一つになっていく。
「なぁ…理后ちゃん」
垣根が口を開く。
長らく夜景に魅入ってから発せられた一言。
それに反応し、おもむろに滝壺は垣根を見る。
「なに?かきね」
「俺、理后ちゃんの事が大好き」
「うん」
こういう時、なんて言えばいいのだろう。
相手に自分の気持ちを伝える最良の方法は?
良い日本語が思いつかない。
それでも垣根の唐突だけど真剣な問いに自分の答えを出そう。
「理后ちゃんと付き合いたいんだけどいいかな」
「うん」
午前中に滝壺が気にしていたあらゆることが氷解して行くよう。
そんな錯覚に陥る。いや、錯覚ではない。
「さっきかきねが私のこと補佐するって言ってくれたこと覚えてる?」
「あぁ」
「すっごい嬉しかった。でも、もっともっと今よりもーっとかきねの事必要になっちゃうよ?」
滝壺も麦野と同様に自分を信用できないタイプの人間だ。
誰かに頼る事は恥ずかしくもなんでもないのに。
「それに、それに…私、こんなにひよわだし…迷惑かけ…あ」
滝壺の言葉がなぜ途中で遮られたのだろうか。
答えは簡単だ。
彼女たちは世のカップル達がごく当たり前のようにする、キスをしている。
いや、正確に言えば垣根がいてもたってもいられなくなり、滝壺のファーストキスを奪った。
「俺が理后ちゃんの事好きってことはどーゆー意味だか分かるか?」
「………」
「俺は理后ちゃんがどんなに俺に迷惑かけてもそれすら迷惑って思わない」
「だから理后ちゃんの欠点とかそーゆーの全部ひっくるめて好きって言ったんだぜ」
「これで付き合う事を前提の友人っていういびつな関係は終わりでいいよな?」
「うん」
「うん」
今まで他の人から見た二人はさながらカップルの様だった。
けれど二人は厳密にはそう言えない関係だった。
何故ならお互いの事を完全に知らないし、理解していなかったから。
今もまだホントにお互いがお互いを理解してるっていえるだろうか。わからない。
けれど、ゲレンデの時よりも遥かに深く、優しい心で二人はお互いの事を想っている。
ゲレンデからアイテムの皆で戻ってきて、三週間。
やっと彼らは結ばれた。
「だいすきだよ。ていとく」
「おいおいおいおい!『かきね』から『ていとく』か嬉しいぜ」
「知り合いを名前で呼んだのはじめてかも」
「マジで?っつうことはだ」
垣根は考えた。
――もしかしたら理后ちゃんは初めての彼氏が俺?
そう大当たり。滝壺は初めて彼氏が出来たのだ。
「なに?ていとく」
(なまえで呼ぶのってすっごい緊張するんだ…)
「俺が理后ちゃんがの初めての彼氏ってこと?」
「…//」
無言。けれど、眠そうにしながらも赤面させてこくんと頷く滝壺の姿。
その容姿に垣根は頭をくしゃくしゃかき、身悶えている。
「ありがとな!ホントに」
垣根はそういうと滝壺の頭をなでる。
(それずるい…)
自分の頭をかく動作とはまたずいぶん違う。いたわるようにやさしく。
「かきねは今まで付き合ったことあるひといるの?」
当然滝壺の事を聞いといて、垣根だけ応えない訳にはいかないだろう。
(ていとくは私が付き合うの初めての人なのかな)
「はっはっは。愚問を!はっはっは!」
(ヤバイヤバイ。普通に初めてだって!チャラチャラしてるのは口だけっす!後は…雑誌とかのまねで…)
垣根はなーんか明言しようとしない。
いや、むしろ冷や汗でてますけど?
「ねぇ?ていとく、もしかして私が初めて付き合う人?」
こんな空気に耐えきれなくなったのだろう。
白状しよう。垣根は初めて付き合った女は滝壺だ。
「…………………はい。理后ちゃんが初めてです」
「ちょっと安心した」
「え?マジ?」
今まで彼女がいますよ、アピールを続けてきた垣根はいつしか引くに引けなくなっていたのだ。
「ていとくも初めてなんだよね?その…さっきのきすが初めてのきす?」
「…うん」
「ほうほう。なんか慣れてるような感じだったから、もしかしたら他の女の子と経験済みなのかと…」
「いえ、違います。ホントはドキドキでした。すいません」
「ふふ…」
滝壺が手袋をはめた手で口元を押さえながら笑う。その素振りがかわいい。
「なんだよ…理后ちゃん…」
「ていとく、今までのプライド高いていとくじゃないみたいだよ。なんかこう…」
「そっちがホントのていとくなのかもね」
そうなのかもしれない。
恋愛で今まで正直な素振りをしたことはあったか?
付き合ったことがないまでも、好きになった人くらいはいる。その人の前でも今みたいに正直になれていたか。
いや、おそらく出来ていなかったに違いない。
カッコつけて振ったり、カッコつけて振られた気持ちを紛らわしたり。
ホントは年相応に少年の様な男なのだ。垣根帝督は。
それを周りに指摘されるのがいやでどうしても大人の様な素振りを見せてしまう。
「わりぃかよ…俺は初めて彼女が出来たし、それが理后ちゃんでホントによかったよ。こんな俺じゃ駄目か?クールになんでも知ってるような素振りをする垣根帝督の方が好きか?」
「ううん。そのていとくだったら私は付き合ってなかったよ。だんだん私と話して素直になっていくていとくに私は好意をもったんだから」
「へっへへ。ありがとな」
垣根は安心した。自分のありのままの姿を出せる相手を見つけることが出来て。
二人はベンチを立ち上がり歩き出す。
長らく停泊している戦時病院船の氷川丸を左手に見つつ、二人は大桟橋へと向かっていく。
横浜のベイサイドを見よう。
――上野界隈
「ありがとうございましたー!!」
店員が礼儀よく会釈する。
店の奥から削板が手を振っている。
麦野と浜面はモツ鍋を堪能し、アメ横界隈を歩きだす。
料理の量が少ないので彼らはおなかいっぱいになるまで食べず、他の店に行くことに。
食べ歩きだ。
客引きの為にアメ横に立っている人たちは皆寒そうにしながらも精いっぱいの掛け声で歩く人々を呼びとめようとしている。
お昼時が少し過ぎ、夕方へと移行しつつある時間帯。
街はいよいよにぎやかだ。
「いいねぇ…この雰囲気」
「ね…初めて上野に来たけど、この雑多な感じが案外いいわね」
二人は手をつなぎながらまだ満たされない空腹感を満腹中枢で満たそうとし、次なる店を探していた。
そんな二人の歩の内、麦野がぴたっと止まる。
ブーツのコツコツとした音が消え街は人の喧騒が支配する。
「どうした?沈利」
「ねぇ…この店入ってみない?」
麦野が指さした店は御徒町方面へと抜けていく高架下のオールドアメリカン風のアクセサリーショップだ。
なんだか怪しいファンキーな店員がこちらを見ている。
学園都市にいる常盤台専属の美容師にそっくりな風貌だ。
「おいおい、なんかあやしくねぇか?」
「え?いいじゃん浜面、はいってみようよ!」
結局麦野に手を引っ張られる形で入店していく浜面。
(おいおいおいおい、まってくれー!)
(クリスマスプレゼントがネックレスなんだよー。ここでおそろいのネックレスでも買おうなんて言い出したらまずいって><)
ちょっと考えすぎの浜面をしり目に麦野は浜面の方を見る。
「ね、ね!あれなんかどうかな??」
黒いファー付き手袋が指すその先には…おそろいのペアリング。
(ほ、よかったー…値段も良い感じだし、買ってもかまわねぇな)
一気に安堵する浜面。
「いいぞ。沈利ちょっと着けてみろよ」
「はぁーい」
ふたりは付き合い始めて三週間ほどたっているが、まだペアリングを買っていなかった。
クリスマスに二人で買おうと決めていたのだ。
ちなみに麦野が今日渡そうとするプレゼントはシンプルに黒の手編みマフラーと手袋だ。
世界で一つの麦野が大好きな人に渡すもの。
それらは大事にバックにしたためてある。
左手の手袋をはずす麦野。
口で手袋の中指の先をかぷりと咥えてはずす。
その素振りがどうしようもなく妖艶に見えた。
手袋越しの麦野の手もさることながら、きれいな素手。
程良くのびた爪はネイルサロンでこの日の為だけに装飾した。
「沈利、指めっちゃ綺麗だな」
(なんか青いぞ。ターコイズを意識したのかな)
「えへへ。そう言ってもらえるとうれしいかな…☆」
そういうとファンキーな店員がショーケースに飾られた指輪を出す。
「どうぞ…お付けしてみてください…!」
「じゃ、失礼します…」
麦野が丁寧に左薬指に指輪をはめていく。
指輪は半分ほどはシンプルな銀色。残り半分の面は三つのハートが一つのラインで描かれたようなデザインになっている。
「綺麗…」
麦野が顔の前に右手をかざし、自分の手に深くはまった指輪に魅入っている。
「ペアリングお買い上げでしたら無料で名前も刻印できますよ?」
「いいじゃん。沈利。俺もこのデザインいいと思うぞ?」
「うーん。これがいいかも。他のやつだとシンプルすぎるし…後は男女でペアリングにするにはちょっとって感じのやつが多いし…」
「OK。沈利がこれでいいなら、これにしようか?」
「ううん。これ が いい!」
(ハートがさりげなくって感じで目立たないし、男が着けても問題ないわよね?)
「浜面、ちょっと着けてみてよー」
そういうと浜面は持参したバックを肩によいしょと持ってきてバックを抑えながら指輪をぎこちない動作ではめる。
「おおー。展示用のやつでサイズもピッタシだな。鏡、鏡」
鏡に映る麦野と浜面。その指にはおそろいの綺麗な銀のトリプルラヴィングハートのペアリング。
二人はにっこりと笑う。
(やっとペアリングかえたぜー!)
(浜面とおそろ…///)
二人はペアリングに刻印する名前を店員が渡したメモ帳に記帳する。
――三十分後
「大変お待たせしました!」
店内でいろいろな商品を仲良く見ていた二人。
どうやら寒いので店内から出なかったようだ。
店員の掛け声に反応し、二人はレジ前でペアリングを受け渡してもらう事に。
「この様な感じですがどうでしょうか?」
パカリと開けられるふた。そこには二人分の指輪が。
丁寧に磨きあげられた二人だけがつけることを許された指輪。
「きれい…ありがとうございます」
一度見ると丁寧に梱包しているケースの蓋を閉じる。
会計を済ますと二人は外へと出ていく。
「ありがとうございましたー!」
「やっとかえたね!浜面」
「あぁ。これでやっとおそろいのペアリングかえたな!」
また外の寒い上野の街を歩きだす二人。
「ねぇ…浜面、指輪すぐつけたい」
「着けたいな。っていってもこんな所でつけたくなくね?もっと落ち着ける場所がよくね?」
「…どっかあるの浜面?」
(…二人きりになれる場所って言ったら…)
先ほどの店内では二人で指輪をつけることはできなかった。二人だけで、大切な指輪を着けたい。
麦野も浜面も絶対に二人になれる所を知っていたが、どうしてもそれは言えない。
もしそこに行こうものなら理性がどうにかなてしまいそうだから。
「ねぇ、浜面。私とえっちなことしたいって思う?」
「?????いきなりどうした!?!?!?」
麦野の唐突な質問の答えに窮する浜面。
指輪からあまりにも話が飛躍しすぎて、ついつい動揺してしまった。
「指輪つけるだけ…って絶対無理だよ…二人っきりになれる所なんて、その…そうゆう所しかないもん」
漫画喫茶があるとかカフェがあるとかカラオケがあるとかそういう野暮な事は言うな。
興が殺がれる。
「はっきり言うけど、そうゆう所ってホテルってことだよな」
(麦野はいいのかよ…)
「うん…」
(いいのかな…浜面は)
手をつなぎながら歩く二人。
下を向きながら歩く麦野は表情こそ確認できないが、耳まで赤く染まっている。
彼女がどうなっているかは推して知るべきだろう。
「ついたぞ…」
(がー!ガチで来ちまったよ…ラブホテル。避妊具一応買っといてよかったー!垣根のおかげだな)
すまない。ここまで読んでくれている諸兄なら分かると思うが、念の為に言わせてくれ。
垣根は童貞だ。例の通り、カッコつけて浜面に「ゴムくらい持ってけよ!?」とドヤ顔で言った彼の顔を想像してくれ。
さて、そんなことはどうでもいいとして…。
浜面と麦野は一旦コンビニでお菓子やジュースを買って後、ラブホテルの前まで来ていた。
麦野沈利の心臓は取れそうだった。
いや、もうなにがなんだか覚えていない。
上野のアメ横から歩くこと数十分。
二人は赤面したまま近場のちょっと高そうなラブホテルに来た。
(どーやってはいんだ?取りあえずはいってみっか…)
浜面が恐る恐る、足を踏み入れる。
そのうしろから引っ張られるようにしてはいっていく麦野。
(わわわわ…わたしきょう浜面とそういうことしちゃうの?????)
動揺して、心の整理がつかないままホテルへ。
ホテルに入るにおいて心の整理が必要というのも変な話だが。
「いらっしゃいませー」
無機質な機械の声。
「「え?」」
二人は驚く。まさか機械が案内してるなんて…。
浜面はてっきりフロントの人にニヤニヤ笑われながら部屋に入っていく様を想像していた。
ちらと横を見ると大きな電光掲示板の様な所に各部屋の写真が掲載されている。
暗くなっている部屋の写真の個所は只今使用中だそうだ。
明るくなっている場所は只今ご利用可能という訳だ。
(はまづらぁ…///はずかしいよぉ…///自分でふたりっきりになりたいとはいったけど…><)
指輪をはめるために二人きりで落ち着ける空間へ。その結果がラブホテル。
否が応でも指輪を着ける以外にも何かしそうな雰囲気だ。
(一応化粧セット一式は持って来たケド…)
「テキトーに…ここでいっか」
ぽちっとボタンを押すと部屋のライトが消える。
使用中を示す。浜面が押した部屋へと向かう二人。
会話も少なに二人はエレベーターに乗り込む。
カチャ
カードキーで開錠し、二人はそれぞれ靴を脱ぎ、部屋に入った。
「…おじゃましまーす」
別に誰かいる訳でもないのに、挨拶をする浜面はリビング兼ベッドルームへと足を運ぶ。
ロングブーツの為、脱ぐのに手間取った麦野が若干遅れて浜面のいる部屋にくる。
「うわー…結構広いんだ」
(ベッドがあるよぉ…しかもおっきい枕二つ…)
「初めてきたけど、案外広いんだな…もっとこう…雑な感じをイメージしてたわ」
(うぉぉぉ…ベッドあるぅぅぅぅぅ)
浜面は空調の暖房を入れ、風呂場の方へ行く。
「風呂はジャグジー付きだぞー!」
(ジャグジーとか、どうでもええええええ)
浜面は初めてのラブホテルという事でテンションあがったりのようだ。
「沈利…ひょっとしてこんな所来たくなかった?でよっか?」
風呂場から戻ってきた浜面は麦野がリビングにあるソファに沈みン込んで下を向いているのを見て隣に座る。
「ううん。出なくていいよ。ただ、ちょっと考えすぎちゃって…ははは」
「それはおいといてさ。取りあえず、沈利。指輪つけようぜ?」
「あ!そうだった!」
麦野は今後の展開を予想することに全演算能力を傾注していたあまり、すっかり初期の目的である指輪をつけることを忘れていたようだ。
さぁ、今こそ二人だけがつけることが許されるペアリングをつけよう。
そのあとどうするかはその時ふたりできめればいい。
パカリ
ペアリングの入ったケースをあける。
ふたりは10センチ四方程の水色のケースから指輪を静かにとろうとする。
「浜面が私の薬指に指輪入れてよ」
「あぁ。じゃ、沈利が…俺の薬指指に指輪…」
ソファーに座る二人。
「「……」」
南国のラウンジでよく目にするプロペラの様な空調機の風切り音がひゅんひゅん
と響く。
「じゃ、つけるぞ?」
「うん…」
麦野が左手をゆっくり広げる。ソファーで向かい合う。
ただの指輪をつけるだけの動作なのに、異様にドキドキする。
(浜面にこれをつけてもらったら、ホントに私は浜面のものになる…)
麦野の頭の中では超能力者(レベル5)の自分が下部構成員で無能力者の浜面の彼女になり、ペアリングを嵌める事に言い知れぬ感情を覚えた。
麦野がそんな事を考えている間にスポリとはまる指輪。
「ありがとう…すごいうれしいよ。つぎは私が浜面に指輪する番だよ」
「あぁ。頼むわ」
麦野がよいしょ、といい浜面の方に身を寄せる。
(沈利と同じ指輪…ホントこんな美人で俺思いのひとに巡り逢えてよかった)
「はい☆でーきた」
「ありがとう。沈利」
「えへへ、どういたしまして☆浜面だーいすき☆」
麦野は指輪がはまった左手を掲げ、子供の様に目をキラキラさせる。
「俺も大好きだぞ。沈利」
浜面はそう言うとハンガーにアバクロのダウンをかける。
バンソンの赤と黒のチェックシャツ姿になる。
麦野も部屋の中でコートを着続けるのはおかしいと思い、ハンガーにコートをか
ける。
二人は向き合う。
左手を固く繋ぐ。
浜面が余った右手で麦野を引き寄せる。
「きゃっ」
浜面に途端に引き寄せられた麦野は上擦った声をあげる。
コートを脱ぎ、ボディラインが浮き出ている黒のタートルネック姿の麦野の姿は
そこらの二流モデルが束になっても勝てないプロポーションだ。
両手が上がっていた麦野だが、浜面の強引なハグに徐々に力が抜けていくような
感覚を覚える。
(もう、浜面になら何されたっていい)
一時の感情の波に飲み込まれそうだ。けどそれでいい。
(浜面なら私を守ってくれる。そう信じてる)
浜面も理性という支柱が今にも崩れそうだった。
みずみずしい唇、薄くチークを塗ったピンクの頬。さらにことある事に赤面する顔、トリートメントの程よい香りと香水の香り、他にもあげたらキリがないだろう。
浜面は麦野のそれらの要素に骨抜きにされていた。
「愛してる」
「うん。わたしも愛してるよ」
「ずっと一緒にいような」
「うん。一緒にいる。約束するよ」
浜面の指が麦野の唇をなぞる。
「グロス、手についちゃうよ?」
「いいんだ…」
浜面が麦野の唇から指をはなした瞬間、麦野の唇にぴたりと浜面の唇がふれる。
今までにない濃厚なキス。
コートをかけるところで演じたその情事をベッドに写してしようとする。
「…ぷはぁ…沈利、こっちきてくれ」
「…ふぁ、なぁに?」
二人は一旦キスをやめる。
浜面ががばっと麦野を抱える。まぁ、あれだいわゆるお姫様抱っこ。
「ちょ!?えっ!?コラ!重いよ?私。最近幸せ太りしたでしょってフレンダ達にいわれるし…あっ」
そうこう言ってる間に麦野は優しくベッドの上に下ろされる。
ベッドはふかふかしていて気持ちいい。
「わりぃ、沈利。隣いくぞ」
(え?ちょ、ちょっと?え?)
当たり前と言えば当たり前なのだが、慣れない麦野は動揺。
浜面も我慢出来ずに半ば強引な感じだ。
(浜面…ちょっとこわいよ…)
麦野の横に浜面が添い寝してくる。
一気に麦野の体温が上昇する。
「私服きたままだよ?」
「いつも裸で寝てるのかよ。お前は」
「違うわよ!けど、浜面ちょっと怖いよ…私が緊張し過ぎててカチカチに固まっちゃってるからいらいらさせちゃったのかな?なら謝るから、ゆっくりさ?ね?」
浜面は、麦野のその語りかけでハッと我にかえる。
正直、ハンガーにダウンを掛けた時点で理性のタガが外れていたのかも知れない。
「わりぃ…お前がほんっとにかわいかったから…頭がおかしくなっちまいそーになって…とにかく、怖いおもいさせちまってすまん」
「ううん。うれしいよ。私みたいなので無我夢中になってくれる浜面がいてくれて」
「ふぅ」
浜面が深呼吸をして一旦ベッドからでる。首から下を潜り込ませてる麦野はキョロキョロと浜面を見る。
「沈利、俺風呂入るわ。なんか変な汗かいちまったわ」
「あ、うん!じゃ、ここでまってようか?」
「いっしょに入ろーぜ?」
「ええええええ?……あわわ…」
(えらいこっちゃ…)
「だめか?」
「み、み、み、み、みずぎないよ」
「いらねーだろ、んなもん」
「そうだよね…あはは…が、がんばるわ///」
(つ、ついさっき冷静になったんじゃなかったのかにゃーん?)
先程の様に浜面は焦っていないし、冷静さに欠ける訳でもない。
むしろ、純粋(?)に一緒に入りたいと思ったのだ。
それは目の前にいる麦野が浜面の目を見ればわかることだ。
「とりあえずお湯張りますか」
浜面がバスルームに消えていく。
その直後にザババババと水がほとばしる音が聞こえてくる。
(ひゃあ…ホントに入るのかな…)
麦野はベッドの中で足をもぞもぞさせている。
あぁ、こんなことになるならここ数日イスラム教徒よろしく、ラマダーンを実行すればよかったといまさらながら後悔する。
(ってちょっと待ちなさい待ちなさい。私なんでもう浜面と入る気満々なのよ?)
(俺はなんて事を言ってしまったんだ…一緒にお風呂入ろう、なんて…)
(でも…付き合ってたらいずれは…裸のお付き合いをする訳で…!ええい!)
麦野がいるところからは見えないが、浜面の服を脱ぐ音が聞こえる。
一拍置いてザバーンと湯船につかる音が聞こえ、麦野はベッドにもぐりこむ。
(今、今!浜面がお風呂に入りました!)
誰も聞いていないし聞こえていない!
一人実況をする麦野。
ベッドからそーっと顔を出し、そのタイトなアバクロのローライズジーンズが床にピタッと触れる。
彼女はそーっとバスルームの方を見てみる。
乱雑に放られた浜面の衣服、ドア越しに聞こえる浜面の声。
「ぷはー…気持ちいいなー。おーい沈利ー?」
「な、ななによ…?」
「なにって、はやくこいよー!外寒かったからマジですっきりすんぞ?」
「え?でも、浜面はその…もうすっぽんぽんな感じなのかな?」
「あー、わりぃが生まれた時と同じ姿だな。あ、でもなんだ…大事な所にタオルは巻いてるぞ?」
「そう…」
(やばいあややばいやびあやび)
麦野、落ち着け。
「沈利、やだったらホントに無理しなくて良いぞ?」
(いや、すいません。ホントは入りたいっす。一緒に)
「浜面ずるいよ…さっきは一緒に入りたいって行って、今は入らなくてもいいなんて…そりゃ、入りたいに決まってるじゃん…」
麦野はすとんとバスルームの前に座る。背中越しに伝わるバスルームの熱気。
この数センチの浴室ドアの先に浜面がいる。
浴室ドアからでは肌色のかたまりが動いているくらいにしか見えない。けれど、その先にいるのは浜面。
私の彼氏だ。いこう。遅かれ早かれいずれ裸になって一緒になって、肌を重ねることになるのだから。
「今から私もそっちいくから…」
「おまたせ…」
麦野はホテルのバスタオルを巻き、栗色の髪は髪止め用のゴムでまとめ、頭のてっぺんでお団子になっている。
浜面と麦野を隔てていた浴室ドアをおもむろにあける。
そこには当たり前なのだが、肌色のかたまりではなく、浜面がいた。
「…おう。こっちきなよ沈利…」
バスタオルで全てカバーできるはずがない、豊満な麦野のボディライン。
よくて胸の谷間の上のあたりから太ももの半ばまでしか隠せていない。
「あんま見ないでよ…太ってるし…その…あの…恥ずかしいし…」
ぽちゃ。
大きい湯船に左足から入る。
あったかい。
「こっちこいよ」
麦野が湯船の端っこにいこうとするが、呼び止められる。
ほんの数十センチの距離なのだが、一センチ近付くたびに心拍数が早くなる気がした。いや、事実早くなってる。
浜面の右手が麦野の背中にまわされる。
水を吸収して重くなったバスタオルが自然と取れる。
「あっ…」
気付いた時にはもう遅かった。
生まれた時の姿と同じ。つまり全くの裸になってしまった麦野は浜面に抱かれかっこうになった。
「タオルがないと恥ずかしいよ…」
(浜面の胸板…ごつごつしてる…)
「もう丸見えだぞ?麦野…すっげぇ綺麗だよ」
(胸ででけぇええええ。どんくらいあるんだ?ってか俺の胸板にあたってますけど?)
「ありがとう…えへへ。こんなカッコ人前でするの初めてだよ…」
「安心しろ、俺もだ。ましてや同年代の異性の子にこんなカッコ見られるなんてな」
「ねぇ、浜面」
「ん?なんだ?」
浜面がおでこに噴き出た汗を拭う。
麦野は浜面に抱きつかれている状態から一旦抜ける。
距離を置いて、あらわになった麦野の乳房に浜面は完全にみとれてぽかーんとだっらしのない表情になっている。
「浜面の事大好き。私あんた以外に絶対にこんな姿みせない。だから、私をみだらな女だと思わないでね」
「あぁ…当たり前だろ。俺はお前以外、誰も見てない。興味がない」
「ありがとう浜面。あなたと一緒にいれて幸せだよ」
「俺もだ」
そう言うと二人はもう一度強く抱き合う。
互いを強く求める。決して離さないように。
二人の舌が少しでも、少しでも奥へ行きたいと主張する。二人のとろとろにからまった唾液が湯船に水滴のように落ちていく。
出来れば、麦野のなにもかもを知りたいと思う。出来れば、浜面の全てを知りたいと思う。
お互いの口をおかしていく舌は激しくからみあい、二人の息は徐々に早くなっていく。
(あぁ…幸せだわ…大好き)
(コイツだけは絶対に離さない)
麦野のグロスがほとんどなくなってしまう頃、やっと二人は我に帰る。
「じゃ、体軽く洗いますか」
ざばん!と風呂からあがる浜面。
腰のあたりに巻かれたタオルは下腹部のあたりでなぜか山のようにそそり立っている。
(これが…その…浜面の…)
初めてみた。いや、まだタオル越しだが。
男のいちもつをこんな超至近距離で見ることになるなんて。一体、予想できたであろうか?
「あ…わりわり…!あはは!いや!あっらー…おさまりませんねぇ…あはは」
浜面は気まずそうに頭をかく。
麦野はじーっとソレを見ている。
(視棺されてるッ?)
違います。興味津津なだけです。
「ねぇ…浜面、私タオルとったよ?浜面も取ってよ?」
「あ…あぁ…。いいのか?」
「うん。こわいけど…いいよ」
両手で顔を覆う麦野。しかし、よく見れば指と指は離れており、そこからチラーっと覗き込んでいる。
ぽろり。
「はい!こんなんですよ!すいません!あー死にたい死にたい」
(浜面の…)
まぁ、こんな状況になっててめぇのモンがおったたねぇ方がおかしいだろう。
浜面はむしろ男としての生理現象に忠実なだけだ。
顔から両手を下ろす。
麦野はそんな興奮していきり立ってしまった浜面のモノを直視して思った。
「私の事考えてあそこまでその…たっちゃてるの?」
「あぁ…そうだよ。俺のジュニアがどうしてもおさまらないのは沈利のせいだぞ!」
「こんなわがままな処女の体みてたっちゃてるのかにゃーん?このジュニアは?」
「はう!その通りです…」
浜面は風呂用の椅子に鎮座しつつ湯船でリラックスしている麦野に応える。もちろん浜面のジュニアはカッチカチにたったまんま。
「嬉しいよ。こんな私の事考えて、浜面がそんなに興奮してくれるなんて」
麦野も湯船から出る。もう二人を覆い隠すものは何もない。
シャワーから出るあったかい水。そこから出る湯気。
麦野は浜面の前にすとんと座る。
「浜面、体洗うよ?」
「…お願いします」
まずは首の下から。麦野はアメニティで完全滅菌消毒されていたボディタオルを手に取り、ボディソープを垂らしていく。
首の後ろから、ゆっくりと前の方へ。のどぼとけまでゆっくりと包み込むように。
「なんか、そのあたってるぞ…麦野。お前の胸…」
「だめ?レベル5の大サービスよ?」
(わざとだにゃーん☆)
先ほどまで素人丸出しだった麦野は途端に大人びたよう。
一方、浜面はあらわになっている麦野の胸に見とれている。
優しく体を洗っていくその所作もさることながら、麦野の大きく膨れた胸が浜面の上半身を滑っていく感覚は彼をおかしくさせそうだった。
麦野の浜面手洗いツアーが腹筋のあたりまで来る。いよいよ、下半身か?浜面は期待する。
しかし、麦野はくるりと浜面の背中に回り込む。
「まずは背中からだにゃーん☆」
(しまったー。あのジュニアはどう洗えばいいのかしら?)
背中はタオルで丁寧に洗い流していく。
途中背中に胸を当てて、浜面に抱きつき、素っ頓狂な声を出させたりもした。
(さて、いよいよ下半身ね…)
下半身。いや、違うな。正確に言えば麦野は浜面の男性器をどう洗うか。それに逡巡する。
「あ、おい沈利。下は俺があらうから平気だぞ?」
「だーめ」
(とは言ったものの…あ…確か前に絹旗達と見たギャル系の雑誌の特集で…!)
彼女たちがかつて見たのは『SEX特集・これで男もあなたにめろめろ』とかいう訳のわからないもの。
けれど、今は心底その特集を読んだ自分に感謝した。
(あぁ…たしか、こうこするんだっけ?)
浜面の背中からずいっと伸びてくる麦野の両手。
手には大量のボディソープ。
「おいおい?なに触ってんだ?おい!」
「えへへ。洗ってあげるにゃーん☆」
「うわ…おい!…くっ!…わり…めっちゃきもちい…」
「浜面、気持ちいいのかな?よかった…」
浜面は完全に麦野の事を舐めていた。
彼女は確かに処女だが、浜面を喜ばせようと必死に研究していたのだ。
(こう、こする感じで…上下に…こんな感じかな?)
しゅしゅとしごかれていく浜面のそれ。
麦野は背中越しからそれをみる。
(浜面の大きい…こんなの私の中にはいるのかな…?)
ここまでやってしまえばおそらくこの後ベッドに戻った時に…。
それでもいい。むしろそうありたい。
二人は意志疎通はできなくとも、同じくそう思った。
「沈利…ごめん。ちょっとヤバイ。ストップ」
「あ、ごめん…!」
(これがイクってやつなのかな??よくわからないわね…)
「今度は俺が洗うよ。いいだろ?」
(あーやべー。一人でする時よりも全然早かったわ…!)
「え?マジ?私、ふとってるし…そのだめだよ…きたないよ…?」
自分が洗われることは全く考えていなかったようだ。
「汚くない。沈利の体…その…綺麗だから…!」
「うん。ありがとう…///じゃあ、お願いします…」
麦野が風呂用の椅子にすとんと座る。
攻守交替だ。
「あんまり見ないでね…」
「いまさら何言ってんだ?お前だって俺の裸みたくせに」
そう言いながらまっぱの二人。
今度は浜面が麦野の体を流す番だ。
「じゃ、俺は背中から…」
(いきなり前の小高い丘二つは無理です><)
浜面はボディソープをボディー用のタオルにしみこませて泡立たせていく。
「じゃ、いくぞー」
栗色の髪はおだんごになって結われている。
あらわになっているうなじからゆっくりと首の回りを洗う。
首の前の部分を当たる時にしっかりキスをする。
「…あぁ」
麦野は浜面の不意なキスに一気に襲われて、目がうつろになる。
(はう…うしろからいきなりはずるいよ…)
キスをかわした後は浜面は背中を優しくさするように洗ってやる。
(背中、綺麗だな)
素人目にみても麦野の肌は丁寧に手入れされている事がわかる。
彼女は暗部の仕事がない日によくエステに出かけているらしい。
「さーって、背中は完了しましたよ?前いいか?」
(沈利のおっぱい洗う…これはヤバイ)
「うん。その…優しくね?」
麦野の背中側に位置している浜面。
「はいよ。じゃ、ちょっと両脇に手通すぞ?」
(これしか良い洗い方が思いつかなかった…)
「ひゃう?ちょっと?浜面?」
麦野が焦るのも無理ない。
何故なら麦野の両脇からにょきっと浜面の手がつき出てきたからである。
浜面の手には大量のボディーソープ。
おわかりだろうが、彼は麦野の胸を洗うと言うよりも、むしろ揉むことに主眼を置いているそうだ。
「ちょっと、そんなにボディソープ使って何する気なのよ?ひゃあ!」
浜面は黙々と麦野の豊満な胸を揉みしだく。
手にボディソープをつけていることもあり、麦野の胸はぬるぬる滑りつつも、相当気持ちがよさそうだ。
「あ…ひゃ…ちょっと…やめ……き…いい…から!」
「やだ、やめないよ。さっき俺のジュニアをいじめた罰だな、こりゃ」
(あえいでる沈利最高にかわいいな…)
浜面のぬるぬるボディソープによる麦野の上半身流しはもはや、胸にだけ集中したただのペッティングとなってしまったようだ。
「は、はまづらぁ…だいすきぃ…」
声が出るのを抑えようともしない麦野。
その中途半端に開かれた口に浜面はもう一度後ろからキスをする。
しっかりと舌を絡ませる。ねっとりとした二人の唾液があわさる。
浜面は自分の唾液を少しでも麦野の体を構成する物になってほしいという願いから。
麦野も同じ考え。二人は生成されて直後の口腔にある唾液を供給していく。
キスをしつつ、浜面は麦野の恥部に手を伸ばそうとする。
熱い口づけを交わしている麦野は気付いていないようだ。
「いいか?沈利?」
浜面の声でやっと気付く。
「…ここ、いちばんきたないよ?いいの?」
「きたなくない」
「じゃあ、浜面がしたいならいいよ?」
そう言うと少しだけ、麦野は両足の力を広げ力を抜く。
ちょっとこわい。目をつぶる。
(いたいのかな?)
「ねぇ…浜面?その…浜面の指はいっちゃうの?」
「そんな感じかな。なんか一日でいろいろなことしすぎかな?俺ら」
確かに。高校生の性のステップアップは一日ではなくて段取りを踏み行っていく傾向がある。
そんな人たちに比べてみても彼女たちは一気にお互いを求めるようになっていったのだ。
「ううん。いいのそれは。ただ、私がちょっとだけこわくて…今日何度も言ってるけど、ホントに優しくしてね?」
「あたりまえだろ?沈利。…ちょっとリラックスしてみ?」
麦野が薄く眼を開けると穏やかな表情の浜面がいる。優しく左手で頬をなでる。
一方で右手は麦野の両足のさらに深淵へと向かっていく。
「いたかったりしたら言ってな?」
(今までエロ本とか、バニーAVで研究しといてよかった…!)
ぷちゅり。
右手の中指がゆっくりと麦野の膣にはいっていく。
「…はっ…あ…やぁ…」
「いたいか?」
首をフルフルと振り、否定の素振りをする麦野。
(痛くないよ…むしろきもちいいくらいだよ…///)
浜面の右手の薬指が上下に動く。
そのたびに水の音とはまた別の、蜜とでもいおうか。
それらの音と麦野の嬌声が二人っきりのバスルームにくちゅくちゅと響きわたる。
「は…ま…づらぁ…ぁ…」
(へんになっちゃいそーだよ…)
「どーした?沈利?」
(俺の指でこんなになってるなんて嬉しいな…)
「こえ…でちゃ…ぁ……から、はずか…しぃょ…ん…!」
「…いいよ。もっと沈利の声聞きたいから出していいぜ?」
「…ばか///」
麦野の恥部には気付けば二本の指が挿入されていた。
浜面の中指と人差し指だ。
麦野は拙いながらも必死に指をつかって気持ち良くさせようとする浜面を見て、嬉しかった。
(ありがとう浜面…すっごく気持ちいいよ)
浜面も麦野が自分の指でここまで気持ち良さそうにしている姿を見て同様な気持ちを抱いていた。
「ねぇ、ぁん…!は…ま…ぁ…ぃや…ちょとたんま…」
「ん?どーした?」
麦野の膣をまさぐっていた浜面の指がぴたりと動きを止め、話しかけてくる。
「あ……いや、気持ちいいんだけど少し寒いから一旦湯舟はいろうよ?」
「それもそうだな。夢中で寒さとか考えてなかったわ。わるい」
「…いいよ、浜面」
二人は立ち上がり、キスをかわす。
いやらしく舌と舌が交差し、絡み合う音。
二人の性器はお互いを求める様。
彼のそれはそりたち、いきり立っている。
彼女のそれはくぱっとひらいており、浜面の事を思い甘い蜜を流している。
二人は立ち上がり、ディープキスをしていると麦野の下腹部に浜面の性器が触れている事を知覚する。
麦野のお腹の先には命を育む子宮が。そこが浜面を求めるようにじんじんと熱く疼いている様だ。
(浜面のがあたってお腹があつくなっちゃってる…)
しばらくキスをすると、二人は冷えた体を労るようにゆっくり湯舟につかる。
「あぁ、あったかいわねー」
「そうだなー。少し温いけど、イイ感じだな」
浜面が蛇口をキュキュっと絞ったり、開けたりしてお湯を入れ、温度を調節する。
二人はもうお互いに裸でいる事に抵抗がないようで、普通に話しをしている。
お互いを求める気持ちは依然健在で広い湯舟の真ん中辺りに二人はいる。
浜面があぐらをかき、麦野が対面しながらその上にのり、足を浜面の脇腹に向け
てだらーんと延ばしている。両手は浜面の首の辺りにからめている。
(浜面のすごくおっきい…こんなの入るのかな?)
麦野はこの後で浜面のモノが自分の恥部に挿入されるとは考えられなかった。
(絶対痛いに決まってるわ…!)
浜面も不安だった。
(おいおい。俺のジュニア痛いくらいに立っちまってるが…実際いれるときに緊張
して立たなくなったらどーしよー?)
初体験とは緊張するものだ。
そうでない人もいるかも知れない。けれど、二人は様々な不安を抱えつつ、緊張していた。
二人が一つになろうとする意志を拒む程の緊張や不安ではないのだが。
「ねぇ…浜面」
「なんだ?沈利」
「浜面のコレが私の中にはいるんだよね?」
「あ…あぁ…。そうだな」
「痛くて、私上手くできないかもしれないけど…怒ったりしないでね……?私…はじめてだから…」
今日だけで麦野から何度も聞かされた浜面に対する謝罪と懇願。
浜面はつくづく麦野という女と付き合って良かったと思った。
ここまで健気な姿を見たのはおそらく学園都市では唯一、いや、世界でただ一人、浜面だけであろう。
けれど浜面はむっとした。
『それは怒らないでね』
という彼女のフレーズに反応しての事だった。
「ばかか、お前…」
「はぁ?なによ?こっちが真面目に言ってるのに…ひどくない?」
浜面の唐突な馬鹿発言に麦野は理不尽だと思い少し怒る。
しかし、それは麦野の思い違いだった。
「…俺も初めてだし…怒れる権力ないから。それに沈利の事大好きだから…優しくしないわけないだろ」
「そっか…変なこといってごめんね。私、今浜面と付き合えてホントによかったって思うよ…」
「嬉しいぜ。けど、それはその…全部終わってから言ってほしいな」
浜面が照れながら後頭部をかく。麦野はぎゅっと浜面に抱き着く。
「うん。わかった…」
麦野の声がバスルームに響く。
その後、二人は順にバスルームからザバッと出る。
ゴォーン。
麦野が濡れた髪を乾かすためにドライヤーを使っている。
浜面は先にでてベッドでソフトドリンクを飲みながらごろごろしている。
(よっし…ゴムOK、枕の下に配置完了!)
ぴたりと髪を乾かすドライヤーの音が消え、麦野がバスルーム前の鏡で一度メイクし直した姿でこちらにくる。
麦野の真っ白いバスローブ姿で完全に化粧をし直した究極美形の麦野に浜面はごくりと生唾を飲みこむ。
淡い香水のにおい、長くすこしカールした栗色の髪、すらっとした四肢。ほんのりと塗られたチーク。
「時間かかっちゃった…ごめんね?」
「あぁ、いいよいいよ!ほら、こっちきなよ」
「…うん///」
同じくバスローブ姿の浜面がベッドをがばっとあける。麦野はバスローブ姿のまま中にはいっていく。
麦野が浜面がいるベッドに入った瞬間。
――でぃーぷきす
麦野は浜面の上に馬乗りになる感じに。強引に引き寄せられて、むさぼる様に唇を奪われた。
「沈利、すっげぇ綺麗、めっちゃかわいい、だいすき」
「うん。うん!私も大好き」
キスをしながら浜面は麦野のバスローブの腰の横あたりで出来たリボン結びの結び目をシュルシュルと解く。
胸の谷間と恥部までの直線ラインがあらわになる。
すると麦野も浜面のバスローブに手をかける。
舌を絡ませながら、手探りで浜面のバスローブを脱がしていく。
ぷちゅり…ぺちゃ…くちゅ…
キスを交わす二人。
二人は気付けばバスローブをはおるだけの姿に。浜面の熱い胸板には麦野の柔らかい胸が押しつけられている。
「…月並みなことしか言えねぇけど…愛してる」
「うん。私も…」
栗色の髪の毛、シャワーで髪を洗ってしまったからいつものトリートメントのにおいはしないが、ほんのりと香る香水のにおいが浜面の鼻腔を刺激する。
もう駄目だ。これは誰の思考?浜面か、麦野か。おそらく二人のものだ。
頭がよくわからない。いや、この言葉の意味がわからない?
体が熱い。どうにでもなれ。いや、でもこの瞬間の言葉や行った行為の一つ一つはしっかり記憶しておきたい。
――大切な人との初めての日だから。
麦野は浜面にキスをされながら胸もいじられている。気付けば二人の位置は逆転し、浜面が今度は麦野の上に乗っかる形に。
童貞だから仕方ない。まだ力の加減もわからない。
胸を揉む力が少し強い気がするけど、それくらいでちょうどいい。
浜面の両手はすっと麦野の胸に伸びている。体を起こされ、胸をもみしだかれた麦野は気持ちよさのあまり、小さく嬌声をあげる。
浜面が純白のシーツを見遣ると麦野の恥部のあたりから何か溢れている様な。
部屋のうす暗い明かりがついているのでそれは容易に確認できた。
「沈利もう濡れてるんだ」
「…はぁ…はぁ…うん…」
麦野の答えを待つ前に浜面はベッドにもぐりこむ。
「なに?浜面?」
麦野は胸のあたりを毛布で抑えながら浜面の次なる行動を予想できないでおろおろしている。
(え?まさか…ねぇ?ひゃ…ぁ…ぃゃ!)
麦野の足を広げる浜面。彼の舌が麦野の恥部に接触する。
そして、ずぶずぶと浜面の舌が麦野の中に入っていく。
毛布を軽くめくると茶髪に染めあげた浜面の髪が。
麦野の恥部を必死に舐める浜面の表情。
「あ…いやぁ…はま…づらぁ…そ…こぃぃの…ぁ…」
浜面は麦野の恥部の少し上で突起している小高い丘にある突起部を見つけ、そこを重点的に舐めた。
麦野の表情は恍惚(こうこつ)としており、口は半開きのまま。
彼女の口の端から軽く唾液が垂れる。こんな表情、絶対他の誰にも見せられない。
そんな背徳感のような、自分と浜面だけの秘密を共有したような。
ああ、もうどーにでも、なんでも、めちゃめちゃにして。
「ぁぁ…もうだめ、浜面…イっちゃいそうだよ…」
部屋の中のライトはイルミネーションに設定しているようで、うす暗い部屋を色々な色が弱い光で照らしていく。
そんな中、麦野は無意識だろうか、浜面の後頭部を優しく掴み、一番快楽に浸れる所へと誘っていく。
それは先程浜面が舐めていた小高い丘の上。
突起部の上を丸ごと包み込む様に。
「浜面…そこ…舐めて?」
麦野の指示は伝わったのだろうか?
浜面は無言で頷く。どうやら伝わったようだ。
彼女が浜面の後頭部を優しく掴んだまま浜面は無言でそこを舐める。
その後一、二分して無麦野の体ががくがく震える。
「くあ…ほんとやばいかも…ちょっとすとっぷ…ねぇ…浜面?」
「いやだ」
「ひゃ、だ、だめ…ほんっと、おかしくなっちゃいそーだよ」
「いいよ、おかしくなっちまえ…!」
あぁ、もう何にも考えられない。何かが近づいてくるような、頭ん中が真っ黒になるような、真っ白になるような。
ふわふわ浮くような。形容できない感覚が麦野に近づく。
「イっちゃうよ…はまづら…だぃ…しゅき…だいす…き!」
びくん!と麦野は背中をのけぞらせ、果てる。
麦野が絶頂に達して暫くしてもぞもぞと動き始めた。
「私も…はまづらにするー…」
「いや、いいよ。俺の汚いジュニアなんて別に気にとめるもんじゃねーって、マジで」
「へぇ…私の中に入ろうとしてるモノは汚いんだ…」
やばい。失言だ。浜面は思った。
(だけど汚いって言わない以外だったらなんて言えば麦野は俺のジュニアを……その…しごいたり、なめないようになるんだ?)
浜面は思考のふかみに嵌まりつつあったが、麦野はずいっと近づいてくる。
「いや、その初めてなのにさ、初っ端からこんな俺のジュニアにその……なんだ、ほら」
「なめちゃだめなの?浜面だけずるいよ…私だって浜面に何かしてあげたいって思うのはダメなの?」
否定できない。ウッとまずいところを突かれた浜面。
浜面は自分の性器を麦野がいじることを不純だと思っていたのだ。
けれどそれはあくまで浜面の頭の中が作り出した幻想(麦野)だった。
(私は処女のクソガキだよ…けれど、浜面のために何かしたい。されるだけじゃイヤ)
「私が浜面のなめる番だよ」
浜面は麦野の奉仕の気持ちを断る事が出来ない。
その場で今度は浜面が横になると麦野は背中にあった枕を渡す。
枕で高さが上がったことによって、麦野の表情が少し見える。顔を赤らめてむむむとジュニアと睨めっこしている麦野の姿は滑稽な感が否めない。
だが、今から初めて愛する人の性器を口にくわえようとしている彼女になんの落ち度があろうか。
寧ろ、その崇高な愛を形にした行為を讃えるべきであろう。
つい先程までバスルームで彼のジュニアをしごいた。
(けれど、口にいれるなんて……出来るかな?)
どんな味がするのか、どれほどまで口に入るのか、様々な懸念が麦野の思考を支配していく。
「下手くそだと思うケド、がんばるから…!……あむ」
片耳に栗色の髪をかける。浜面が麦野に返事をよこす前にジュニアをくわえる。
浜面のジュニアに髪がふわっとなびく。くすぐったい。
じゅぶじゅぶ ちゅぽ ぺちゃぺちゃ ちゅぽ
「きもひいい?」
「あぁ…やべぇ…!」
「うれひぃわ」
口に浜面の性器をくわえているので上手く発言できない。けれど麦野の全力をあげての口淫はたしかに浜面に快感という信号で伝わったようだ。
(浜面が気持ち良くなってくれて嬉しい…ちょっと奥まで…苦しいケド…やってみよ…!)
麦野は勇気を振り絞り、浜面のモノを口の奥まで一気にくわえてみる。
吐き気が一気にこみ上げてくる。むせそうだ。
けれど、絶対にその気を浜面に悟られないように。優しく、包み込む様になめる。
原動力は浜面に対しての奉仕の気持ちと愛。
間も無く、浜面に変化が見られた。
「し、沈利っ?それは気持ち良すぎ!……やばいって!」
「えへへ…げほっ、げほっ」
(やばい…ちょっとむせちゃった…)
「おい、大丈夫かよ?」
「へいひはから」
(がんばる!)
(歯を立てないように。前にフレンダ達と見た雑誌に載ってたっけ)
(難しいな。だってこれやるとほんとおバカな表情になっちゃうし。ってかなってるんだろうな。今の私も…)
麦野はそんな事を考えながら、ちらっと浜面の表情を見ようと上目遣いで見てみる。
すると、気持ち良さそうに脱力している浜面が見えた。
それだけでこのちょっとした苦しさとかそーいった何か雑念のような物が吹き飛んで行くような感覚を覚える。
喉の奥にもっと、もっと。そうすれば喜ぶ。
(浜面が私にしてくれた時もこんな気持ちだったのかな。だったらうれしいな)
麦野の期待した通り、浜面は誠心誠意、全力で麦野の恥部をなめた。
当の麦野はその答えをしるよしも無い。
しかし、今日一日で何度愛のささやきを二人はかわした事だろうか。
それだけで十分彼女達の純粋な奉仕の気持ちを証明出来る。
「沈利、俺結構やばい。いれていいか?」
きた。私の初体験の相手を決定づける運命の一言。
否定する理由は全然ない。
こくんと口淫しつつ頷く。
「ぷはぁ…」
麦野は一旦、口から浜面のいきり立ったそれをはなす。
ぬらぁと麦野のよだれがまとわり付いた浜面のモノに一度口づけをする。
麦野の口には大量のよだれが。それに気付いた浜面が手近にあるタオルで拭き取り二人は口づけをかわす。
そのさなか、浜面が麦野の膣に指を二本挿入する。うっと麦野がふるえながら抱き着いてくる。
麦野の膣口が溢れんばかりに濡れているのを浜面が確認するとベッドの枕のあった位置にある避妊具をとる。
「よいっと。こーして、こーして、こうだ」
「やけに手慣れてるわね」
「一人でするときにたまに着けながらやってたからな…ハハハ。っておい、ドン引きすんなや!」
「……ホント?実はあんた私に合わせてドーテーとか抜かしたんじゃないでしょーね?」
冗談の様に言うが眼がマジです。麦野さん。
「ちげーよ。断定できる」
「ま、あんたを信じるわ。…………はやく、いれないとまた初めからになっちゃうよ?」
見た目は、言い方は悪いが生の男性器そのまま。けれど、そこにはほんの数ミリのうすい壁が。
「ちゃんと避妊しねーとな」
「…うん。結婚したら……その、その……」
「その?」
「……そのままいれていいから…///」
あー。浜面の理性が飛びそうになるのを必死に抑える。
そしておもむろに浜面がベッドに仰向けになる。
「初めては女の子が上になったほうが良いって聞いたぞ?」
「…そうなんだ。わかった…!やってみるね」
浜面の胸板に手をつき、おそるおそる麦野は浜面の上に乗ろうとする。
足が震える。こわい。
(痛いのかな…こわいよ…)
この後、どんな痛みが押し寄せるのだろうか、どんな快感が押し寄せるのだろうか。
麦野の心の中で不安と期待が入り交じる時、二人の関係は始まる。
「沈利、怖いのか?」
「うん…こわいよ…」
薄暗い部屋のベッド。
浜面の上に腰を落としている麦野。正確に言えば、浜面のゴツゴツした筋肉でコーティングされた太もものあたり。
目の前にはそそり立つ浜面のそれがある。
「浜面…手、つないで?」
浜面はまるで死体の様にだらーんと手足を伸ばしている。そんな彼に麦野は静かに、そして緊張した面持ちのまま言う。
「いいよ」
浜面が麦野に両手をさしだす。
お互いが手を伸ばしあい、二人は固く手をつないだ。
麦野はゆっくり、本当にゆっくりだが、少しずつ浜面と一つになろうとし、腰をおろしていく。
お互いの先端部分が触れる――
「…ぁ」
麦野の嬌声。そして肩が少し震える。
ぎちぎち めりめりと麦野の中にゆっくりとしかし確実にはいってくる浜面のモノ。
(…なにこれ?こんなのホントに入るの?)
麦野は今自分のしている行為そのものが何かトチくるっている行為なんじゃないかと一瞬思った。
それもそのはず。
今まで他のいかなる異性と性交渉を重ねたことのない女性の膣口というものはとても狭い。
初めては入りにくいし、痛い。
「…すっごく痛いよ…浜面…まだ全部はいってないの?」
「…まだ半分もはいってないぞ?」
「え?」
(あー…そんなのうそでしょ?ありえないわ…)
麦野はちらりと自分と浜面が一つになるであろう結合部位を見ようとする。
浜面のモノはまだまだ全然入っていない。
「痛かったら今日はあきらめて他の日にするか?今日じゃなくてもいいぞ?」
浜面は麦野のあまりに痛がる姿を見てこのまま続けることを躊躇する。
けれど、麦野はすんなりと辞めますとは言わなかった。
「…それはいや」
「ん?」
「私、頑張るから…ね?」
「お。おう…!」
動揺を隠さない浜面を見つつ麦野はもう一度、ぐっと力を入れていく。
痛い。相変わらず麦野の膣口からは愛液が出ているもののそれでもだ。
「沈利、俺に抱きつけ」
「え?ちょっと…なにいってんのよ?あんたが上に乗った方がいいって言ったのに抱きついたら駄目じゃない?」
「俺が沈利の肩、ゆっくり押してやるから、それでいれてみよーぜ。俺、男だから痛いとか分からないけど、沈利が一人で苦しんでるなら助けてあげてぇ」
「…こわいよ…痛そうだし…でも…それしかないわよね……………わかったわ…」
浜面はこのまま彼のジュニアをゆっくり先っぽだけ入れて痛がるよりもむしろ、一気にいれてしまった方がいい。
そう考えた。麦野もその点合意の様だ。
「じゃ、いくからな…!?」
「うん…」
結果的に見えてこれは成功だったのかもしれないが、浜面がジュニアをはやく麦野の中に挿入したいという身勝手な欲望が発動した感も否めない。
ともあれ、この浜面の補助が二人の『初めて』になるのである。
「沈利、準備いーか?おいおい、そんな肩震わすなよ…。緊張してるの?」
「……うん」
「ほら深呼吸してー?すってー、はいてー」
「「すーはー、すーはー」」
二人は裸で密着しながら深呼吸。ちょっとおかしいけど、二人は仲良く、笑いながら、目を合わせて。
「沈利――」
「うん。――浜面きて」
麦野の膣口にあてがわれたそれが深く沈み込んでいく。
刹那、浜面の股間の辺りに少量の血が散る。
「…うっ!」
少し苦しそうに顔をゆがめる麦野。けれど、苦しそうな表情の中、目を潤ませて笑っている。
「大丈夫か沈利?」
(は、入ったのか…!)
「………!!―――!!」
(いったーい…!)
麦野は声にならないけれど、くーっ!っと痛そうな表情を浮かべている。
彼女の恥部の入り口から出ている赤い血は彼女が破瓜(はか)した事を証明している。
「…は、入ったよ………ねぇ、浜面」
「ん?何だ?」
「このままキスして?」
二人は正真正銘、一つになったまま唇を重ねる。
暫くして二人のキスは終わる。
気づけば麦野の両目からは嬉しさの余りに涙がこぼれているではないか。
それに気づいた浜面がハグしていた腕を一旦ほどき、優しく彼女の目尻にある涙を摘み取ってやる。
「なに泣いてんだよ。沈利」
「へへ。だって痛かったし、嬉しかったし、なんかよく分からなくて…あはは…滅多に泣かないのになぁ…」
「そっか…その…今もこーして繋がっちゃてる訳なんだけど、俺、動いて良いかな?めっちゃ狭くて、きもちいーっす…」
「あ、ごめん!その…動きたいよね?もう、ほんっとじぶんかってなんだから…」
麦野の口調は怒っているけれども、決して本気ではない。あくまで冗談だ。
麦野は浜面の上に乗りながらふふふと笑う。痛みをこらえて、少しでも浜面に気持ちよくなって欲しい、その一心で。
手は勿論つないでいる。固く、離れないう様に。
「沈利、一旦寝てみてもらっていいか?」
「うん…なんだか恥ずかしいな…」
一度浜面が麦野の膣から自分の性器を抜く。
麦野の愛液と破瓜によって流れ出た微量の血が付着した避妊具を装着した浜面のそれが麦野の前に晒される。
そして麦野が今度はごろんとベッドに仰向けに。
「沈利、さっきは痛かったっぽいけど、もう平気かな?」
「うん。多分平気かな。さっきはメチャメチャ痛かったけど…」
「そっか」
そういうと浜面は麦野の膣にゆっくりといたわるように自分のモノを入れていく。
先程まで苦痛に顔をゆがめていた麦野の表情はまだ少し痛そうな感じだが、それほど苦しんではいないように見えた。
「はいった」
「うん――浜面が私の中にいる…なんだか変な感じ…」
「なんかその言い方照れるなぁ…じゃ、動くぞ?」
「――きて、浜面」
今度は麦野がベッドに寝るポーズで浜面が上にくる。いわゆる正常位というやつである。
浜面はゆっくりと目の前で顔を赤らめて自分が来るのを待っている人に自分の性器を挿入していく。
ゆっくりといたわりながら麦野の膣に挿入されていくそれ。
麦野は正常位の体勢で少し起き上がり、背中に毛布と枕をくるめておいてある姿勢になっているので見えた。
二人が性器を動いてこすりつけあうたびに、淫靡なあえぎ声が聞こえて、それらで部屋が満ちて行くようだった。
「ぁ!…あぁ!はまづら!!いま…いっしょ…///だいしゅき…だいすき…!」
「沈利…!沈利…!しずり、俺もしずりのコト大好き…うぁ…やべぇ…」
二人は普段なら出さないであろう嬌声をここぞとばかりに出し、お互いを褒めちぎり、さらに愛の言葉を惜しげもなくささやく。
麦野は背もたれのようになっている枕と毛布に背中を任せ、浜面にガチリと抱きついている。
「…ずっと…ハァ…!…いっしょ…だぞ…ハァ!」
「…うん、…う…アァ…うん!」
浜面の腰を振るスピードがじょじょに早くなる。
二人の嬌声に紛れて、麦野の恥部から愛液がこぼれ出てくる。
彼女の愛液は浜面が着用しているゴムにべったりとまとわりつき、腰を振ってピストン運動を繰り返す度にぺちゃぺちゃ ぬちゃぬちゃといやらしい音を立てていく。
さらにその音に連動して、ぱんぱんと二人の接合している部分から音が聞こえてくる。
「ハァ…な、なんかはずかしー…ハァ…けど…」
「…グッ…なんだよ…?沈利…マジで…やべぇな」
「く…あぁ!…きもちいい…っよ…ハァ」
(まだ、ちょっと痛いけど…浜面が喜ぶ顔もっとみたいから…)
麦野がまだ膣無い全体に残るぼんやりとした痛みを知覚しつつ、体全体からあふれ出るような幸福感とにわかに感じ始めている快感に身を任せる。
(浜面…そんなに必死に動いちゃって…)
(私もきもちよくなってきて声だしてるから人のコト言えないけど…イヤ…きもちいい…)
(あぁ…浜面と一緒になれてホントによかった…)
んな考え事を浜面の腰が振られる合間合間に考えていると右耳に何かにふさがれたような感覚に陥る。
「ちょっと…!?ひゃ…そこ…だめぇ…やばい…」
「ひーじゃんひーじゃん」
浜面は麦野の左耳を口に入れ、その裏側をぺろぺろと犬のように舐めていく。
むにむにと柔らかい浜面の舌がねっとりと唾液を出し麦野の右耳を包んでいく。麦野はそのまま耳が溶けてしまいそうな感覚を覚える。
「ぁ…ひゃぁ…浜面、みみほんっと…だ…めぇ…ぁ」
麦野の叫びは浜面には全く届かずにむなしく部屋にこだまするだけ。
外は寒くて雪が降り出している。そんなコトとは無縁のふたりは体を重ね、汗をかく。
「ひふり…はいすき…!はいすき…!」
「うん…!もっと言って?」
右耳から一度口を離す。そして正常位で腰を振り、おでこに浮かび上がる汗をぬぐいもしないで。
「大好き、沈利、愛してる」
「嬉しい。私も愛してる、もっとぎゅってして?」
ぐっと麦野の背中に手を回して挿入されたままの麦野を抱き起こして固く、離れないように抱く。
浜面はその姿勢のまま器用に腰を動かす。
あは、と麦野はわらう。
「…ごめん…ちょっとやばいな…でちゃいそう…」
「いいよ?私いっぱいきもちくしてもらったし…なんかよくわかんないけど…もーなんでもいい」
いくら麦野が処女と言っても何が出ようとしてるにはわかる。
避妊具越しに出す。それだけが少し心残りだが。自分の中で果てようとしている浜面、彼の表情は真剣で何かとてもかわいくて。
麦野は最後に強引にぐっと強く抱きしめられ、きゃっと叫び声を上げる。
「…うっ。だめだ…沈利っ!愛してる、愛してるっ…!ぐっ!」
「いいよ。きて、浜面、愛してる、だいしゅき…」
「…うっ、くっ、ひゃっ…なんかあったかいよ…やっ…!」
「イっちゃった…俺…」
ともあれ二人の『初めて』は大成功だった。
「ねぇ…浜面…渡したいものあるんだけど…」
「ん?なんだ?沈利?」
行為が終わった二人はシャワーを浴び終わり、ベッドへ。
浜面と麦野はベッドから頭だけ出して話している。もちろん、裸だ。
「今日、クリスマスだよね…その…私プレゼント渡したいんだけど…」
「お?マジで?何?」
浜面が目を輝かせながらがばっとベッドから起き上がる。
「じゃ…ちょっと目つぶってて…」
「おう!なんだ?なんだ?」
(なんなんだろう?)
麦野がベッドからそのすらりとしたなまめかしい美脚を出す。
そしてカーペットにぺたり。
持参したバッグの中からがさごそ。
クリスマスを意識して作った赤と白の包装箱には緑色のきらきらしたテープでリボン結びされている。
「おーい、目あけていいか?」
「うん☆いいよ!はい!」
麦野はまたベッドに戻る。今度は下半身だけベッドに入っているが豊満な乳房は丸見えでちょっと恥ずかしいケド。
浜面はゆっくりと目を開ける。そこにはサッカーボールほどの大きさの箱を両手で持った麦野の姿が。
「おー!なんだこの箱?あけていい?」
「うん☆あけて!」
麦野は浜面の右肩に寄りかかり、腕に両腕を回す。浜面は丁寧にラッピングテープをとっていく。
「おお…!マフラーと手袋か…?これ手作りだろ…?」
綺麗に包装された箱の中に丁寧にたたまれたマフラーと手袋が。
「…うん。どうかな…。その…気に要らない?」
「なわけねぇよ!これ…やべぇ…手袋もかわいいな…」
「浜面、ちょっと体格良いし、そのギャップというか…その…」
(おいおい、いつも敵を殲滅する麦野さんと今のギャップの方がすごいっすよ…!)
浜面はマフラーと手袋を取り出すと底に手紙があることに気づく。
「これ…手紙だろ?読んでいーか?」
「うん///恥ずかしいけど…いいよ」
麦野は恥ずかしさからか下を向きつつもちらちらと浜面を見る。
「じゃ、お言葉に甘えて…」
浜面が包装した箱の底から取り出した、海外に送るエアメール用のシンプルな手紙。
それに目を通しつつ、にやける浜面。
『めりーくりすます☆浜面
今日はこんな私と一緒にいてくれてありがとね。
こんな…とか言ったらまた怒られちゃうかな?ははは。
プレゼントは…私の独断と偏見で勝手にチョイスしちゃったけど、気に言ってくれたら幸いです。
ってか、絶対付けてよね?そこら辺の市販のヤツより絶対あったかいから!
仕事の時は私がたくさん無茶な指示するコトあるけど…それで嫌いになったりしないでね。
私はいつでも浜面のコト大好きだから。これからも我がままな私をよろしくお願いします!
最後に…私も名前で呼べるように頑張ります!
あなたの沈利より』
「これは永久保存だわマジで」
「恥ずかしいから…絶対フレンダ達に言わないでね」
(あいつらに見られたら…どんなコトになるのやら…想像しただけでぞっとするわ)
いわねーよ、と返し浜面は麦野をその大きく厚い胸板の中へと抱き寄せてやる。
「じゃー…俺もわたさねーとなぁ…」
「へ?プレゼント?嬉しい!」
「そんなお高いもんじゃねぇし…気にいるかどうかわからねぇけど…」
「ううん。浜面が真剣に選んでくれたものなら何でもいいわよ!」
「じゃ、渡すよ…でもその前に服着ようぜ?ちょっと寒くなってきちまったわ」
あ、それもそうね、と麦野はベッドからゆっくりる。浜面もソファの近くにある私服を着る。
暫くして二人は着替えが終わる。ベッドに腰を落として麦野の着替えを待つ浜面。
その手には先程麦野が浜面に渡した箱の三分の一ほどの大きさの袋が。
「ごめん!ちょっと待たせちゃったかな」
「あぁ、へーきへーき。はい!コレ!」
麦野は本当に大切なもの受け取るように両手で浜面が差し出したそれを受け取る。
袋の中をのぞき込むと筆箱ほどの長さで幅がそれの半分ほどの大きさのケースが。
(なんだろう?ネックレスかな)
麦野はわくわくしつつあける。
「うわぁ…きれい…」
麦野がかぱりとふたを開けてみる。そこにはハートキーチャームのネックレスが。
ハートには流麗な筆記体で「 i love you 」と刻印されている。
ハートから伸びる一本の鍵の部分には「SS」と突起している。
「SS」はShizuri と Shiage からとったそうだ。
「俺…石とか良くわかんねぇから…結局ベタなネックレスになっちまった。すまん。何か芸がないような…」
「さっき私言ったよ?しししし仕上が選んでくれたものならなんでもいいって。それにこれ、世界に私だけが持ってるネックレスだよね?」
(仕上って呼べたわ!)
「いや、これは一つだけじゃないんだよ…」
(仕上って呼ばれた!!)
麦野は、は?と怪訝な表情になる。
「ほら、これ」
浜面が自分の胸板をVネックのシャツを少し下ろし見せる。そこには全く同じネックレスが。
「ユニセックスだから俺も買っちまった…。ペアネックレスとペアリングだな」
浜面が世界に一つしかないネックレスというくだりを否定したのは、彼自身が同じものをもう一つ持っているというコトだったのだ。
「もう…驚かせないでよ…ばか…あんた以外の誰かが持ってるものだったらって考えるといてもたってもいられないわ」
「わりわり、驚く沈利の顔も見てみたかったからさ…ははは」
「浜面のいじわるぅ…」
まだ簡単には名前で呼べないけれど、少しずつ名前で呼べるように努力していこう。
麦野はそう思いつつ、大事にネックレスを浜面に渡す。
「つけてよ☆浜面」
そう。あのゲレンデと全く同じようにネックレスをつけよう。
あのときは麦野のおきにいりのネックレスを一時的に紛失してしまい、それを見つけた。
けれど今日はネックレスが違う。
――浜面から貰った世界に一組だけのネックレス。
お互いの名前がキーの突起部にあてがわれ、ハートには i love you の文字が。
恐らくオーダーメイドで結構根が張ったであろうそれを浜面は優しく受け取る。
腰を下ろしているベッドに浜面がぐいっと上がっていく。そして麦野の後ろに回り、ゆっくりと手を回していく。
「ゲレンデ思い出すね…浜面」
「あぁ…。あんときはじめてキスしたんだよな」
「うん。また…キスして?あのときみたいに」
麦野の栗色の髪をあげ、右手でぐるっとネックレスをかける。
光を反射してきらきら輝く銀色。
ぱちんと止めたことを確認する。
今日、何度この言葉を言ったことか。何度確かめ合ったことか。
そして二人は一言、全く打ち合わせ無しで思ったことを口にする。
だいすき
「いらっしゃいませ!ご予約して頂いた垣根様でしょうか?」
「あぁ。二人で頼んだ垣根だ」
さて、浜面達が濃厚な情事を繰り広げているうちに垣根と滝壺は仲良く手をつなぎながら赤レンガ倉庫前から中華街に移動した。
そこで垣根が予約したハンバーグ屋に入店したのだ。
値段はそこまで高くないが、美味しいとネットの情報を鵜呑みにし、その勢いで予約した店がここだった。
店内はカウンターテーブルと普通の座席に短い通路で分かれている。
垣根達はそのカウンター側に案内された。
「なんか、雰囲気すごいね…」
スタジャンを着た滝壺はカウンターの上方にある綺麗に整い、逆さに置かれたワイングラスを見て感嘆する。
奥には沢山の種類のお酒が鎮座しており、色とりどりど言った感じ。
暫くすると店員がメニューを持ってくる。
ぱらぱらと二人で一つのメニューに目を通していく。
「これやばそうだな」
「うん」
二人の目をひいたのは十二月二四日、二十五日限定ディナーセットとかいう三千円ほどのもの。
写真を見ると美味しそうなステーキにポテト、ピザ、サラダ、ポタージュスープ、白米、そして食後のパフェと至れり尽くせりのセットが格安価格だ。
メニューの走り書きには
『本来の価格から大幅ダウン!どうぞご賞味あれ、クリスマス限定ディナーセット!』
とあり、二人はお腹を空かしていたので迷うことなくコレに決定した。
少々お待ち下さい…そう言い残して手書きの伝票にセットを二つチェックを付けて店員はキッチンに消えていった。
「理后ちゃん…今日は一緒に入れて楽しかったぜ」
「わたしも。あ…!プレゼント渡して良い?」
「ぷぷぷ。プレゼント?マジで?ホントに?」
「うん。受け取って欲しいな…」
滝壺が今日持ってきた小さいバックから取り出されたもの。
麦野が浜面に渡したように自分で包装した小さい箱。それを垣根に渡すとおそるおそるあける。
垣根の反応を見ようとわくわくしする滝壺。
「これは…小銭いれ?」
(ピンク色で理后ちゃんらしい配色だな)
「うん。千鳥格子の生地で作ってみたの。裁縫は苦手だけど、頑張って作ってみたんだ」
普段は口数が多い方ではない滝壺が心情を吐露する。
それほど熱心に作ったし、垣根に吟味してもらいたいのだ。
千鳥格子の中は白と黒、そのほかの生地がピンクだ。
「ほら…ていとく能力使うと結構激しい運動するから…仕事が終わってすぐジュース買えるようにって思って小銭いれにしてみたんだけど…」
「まずその発想ががヤバイ。普通にかわいい」
「へ?///」
「これは絶対肌身離さず持ち歩くわ。財布捨てて小銭入れだけ使うわ」
それはちょっと無理だぞ、垣根。カードとかもろもろ全部入る訳ねーだろ。
ともあれ、滝壺のハンドメイドの小銭入れは垣根に大いに受けたようだ。
垣根は店内の目も気にせず財布から小銭の移送作業を始めた。
「じゃ、俺も渡さなきゃダメだな、こりゃ」
「ていとくも何かあるの?」
垣根は足元に置いてあるバックに手を延ばす。
「俺、センスないから…わりぃ、何かったらいいかわからなかった…こんなんで満足するかわからねーけど…理后ちゃん、はい!」
がばっと滝壺に差し出すそれはラッピングされていてわからない。
しかも未元物質のラッピングなのでキラキラ七色に光っている。
「ていとく…これ学園都市外でやったらまずいんじゃ…?」
「かまわねーよ、こんくらい」
滝壺が平気かな?と首を傾げつつ垣根から未元物質で輝く箱のような物を受け取る。
さわるとフッ…と光が消えていく。滝壺の両手には気付けば黒ベースの綺麗な懐中時計が。
カチコチと時を刻む音が聞こえてくる。
「動力と素材は未元物質で作ったわ。俺が死ななきゃ壊れねぇ代物だ、よけりゃ受け取ってくれ!」
がばっと頭を下げる垣根。
時刻を表す文字盤はピンク、緑、青、赤…と計十二色で彩られており、フェイスの一部がスケルトン使用に。そこを覗くと未元物質がひゅんひゅんと旋回している。
「…きれい」
フェイスの蓋をぱかりと閉めると滝壺のイニシャルの『R.T』の文字が小さくふちに彫られている。
「理后ちゃん、気に入ってくれたかな?」
「大事に使うね。ていとく、すごい…」
滝壺はもう一度蓋をカチと外し、ハンドメイドの懐中時計にまじまじと魅入っている。
フェイスから延びているチェーンは大き過ぎず、小さすぎずといった感じでどんなシーンにもしっくりくる。
色は時計本体と同じクローム系の黒。店内のライトと光を合わせるときらきらひかっている。綺麗だ。
(あー、魅入ってる姿がまじやばい。かわいい。あぁー未元物質が出ちまいそーだ。メルヘン姿になりたい)
「大変お待たせしましたぁー」
バーのマスターの様な品の良い店員がクリスマス限定のセットメニューを次々とカウンターテーブルに置いていく。
気づけば垣根達の前のカウンターテーブルは料理でいっぱいだ。
お互いプレゼントをしまい、ナイフとフォークを手にとる。
「うわー、美味しそう!」
「へへへ、理后ちゃんにそう言って貰えると嬉しいぜ」
別に垣根が作ったわけではないけれど、ちょっと嬉しい。
「「いただきまーす!」」
じゅわーと鉄板にのせられたステーキ、湯気を立てている温かそうなポタージュスープ。
その他諸々のご飯を一瞥し二人はクリスマスイブのディナーを楽しむ。
「あぁー、帰るか」
「そうねー、フレンダ達も待ってるだろーし。ほらパーティーするって言ってたじゃない」
ちょうど垣根達が美味しく夕飯をいただいている時、麦野達はラブホテルで時間ぎりぎりまで雑談を楽しんでいた。
しかし、時間は有限。そろそろチエックアウトだ。
二人は荷物をまとめて最後にドアの手前で長いキスを交わしてアジトへ向かう。
ホテルを出て暫く歩き、上野の雑踏の一部になった二人。
二人は一路学園都市と東京の境界である武蔵境まで電車で向かい、そこから浜面の購入した中古セダン「アリスト」でアジトへ向かう。
「さみーなー。沈利、手つなごーぜ」
「うん☆」
二人は今日一日楽しんだ上野の猥雑な通りにさよならを告げると駅へと向かっていく。
駅の喧噪に二人は消えていった。
『武蔵境ー、武蔵境ー、学園都市へ向かう方は警備員のセキュリティチェックを受けた後、反対ホームの車両にご乗車下さい』
終点に到着したが浜面と麦野は爆睡。
残業で疲れたリーマンの様にすやすや寝ている。起きる気配はない。
「全く…クリスマスだからといってこの二人は何をしてたんだか…大増員でかり出される風紀委員の身にもなってほしいものですの」
クリスマスから年末までの一連の一週間、学園都市から実家に帰省したり、デートとか遊び云々でこの時期の電車は異様に混み合う。
そこで教員だけで構成うる警備員だけでは足りず、猫の手も借りたい状態になった警備員はやむなく学園都市の風紀委員を狩り出したと言うわけだ。
その狩り出されたうちの一人である白井黒子。
彼女はさながら映画カサブランカのような、バーバリーのベージュのオーバーコートを着て、警備とは名ばかりの終点駅で寝ている客や酔いつぶれている人の介護業務を泣く泣くこなしていた。
ツインテールのつややかな髪の少女はコートの腕の部分に風紀委員の腕章をはめている。
下には常盤台中学の冬服を着ている。
「ほら、おきてくださいましー」
(お姉様はあの類人猿とどこかへ行ってしまいましたし、朝から警備員の手伝いとは…とほほですの)
心身ともにホントにけだるそうにその常盤台の風紀委員は浜面と麦野に声をかける。
電車のドアは開いているため、外気がそのまま入ってくる。常盤台の風紀委員、もとい白井黒子の口からため息と同時に白い息が吐き出される。
(ほんっとにこんなに寄り添って仲良く爆睡なんて…どんだけ疲れてるんですかね、この二人は)
風紀委員の少女は改めて爆睡している二人をみる。すると男の方が呻きはじめた。
「うーん…あれ?さっきまで新宿?あれれ?」
浜面が眠気眼をこすり起きる。程なくして麦野も起きる。
「浜面ー、まだ寝たいー、ってかさむっ!」
「沈利、もう武蔵境着いたっぽいぞ?」
「えー」
そんな二人の茶番劇を目の前で見ていた白井はわざとらしくはぁ、とため息をつく。
「どなたか存じませんが、もう武蔵境ですの、この電車は回送になりますので下車の準備をはやくお願いしますの」
白井はクリスマスという事もあり苛立っていたのだろう、憮然としたトーンで話す。
浜面は、あ、すいませんと言いバックをもち降りようとする。
反対に自分より年下だと判断した麦野はいたずら心が働いたのだろう、降りようとした浜面の腕につかまる。
「まってにゃーん☆」
「ったく、なんなんだよ?沈利?」
「うまくあるけないにゃーん><」
どーってことはないただの情事。
しかし、今日はクリスマス。独り身の常盤台の風紀委員にとっては目の前でこれをやられると正直腹が立つ。
(この二人のバカップルぶりはなんなんですの?朝からお姉様の電撃を喰らいかけるし、寮官には叱られますし、警備員の業務補助に狩り出されますし…不幸ですの…)
「お勤めごくろーさまー☆」
(がんばってねー、常盤台の女の子☆)
麦野がひらひらと手を振り彼氏の浜面とかいうやつと仲良く下車していく。
はぁ、もう一度白いため息をつき白井は次の寝ている客を起こすために次の車輌へと移動していく。
「ほらーお客さーん、起きてくださいましー」
(今日は帰ったらひそかに買った梅酒を飲み干してやるんですの!)
何時に上がれるのだろうか。時計はちょうど22時を指していた。年端のいかない子供を働かせていい時間はそろそろ終わりだ。
けれど彼女は一向に上がれそうにない。
「はぁ…初春ー!早くこっちにきなさーい!嘔吐した乗車客がいますのー!」
(聖夜に吐くなんて…この人も哀れな人ですの…)
「はいはーい!今そっちにいきまーす!こら!アホ毛ちゃん!モヤシ!おきてー!」
とある風紀委員の電車警備(パトロール)の夜は長い。
同じ頃、横浜から各駅停車町田行に乗車した垣根達はお喋りしながら取りあえず町田駅に向かっていった。
かなりの乗車数だ。何せ横浜から学園都市の町田方面、即ち学園都市の北端へと向かう列車はこの横浜線しかないからだ。
目が死んだリーマンや和気藹々のカップル、その他諸々で車内は温暖化だ。
そんな車両の端っこに滝壺と垣根の二人はいた。
「ほら、あそこ!理后ちゃん!夜景きれいだね!」
「うん、あれどこ?」
たしかー…ベイブリッジだったか?東神奈川駅から大口駅へ向かう一瞬、みる事ができた景色。
それらがまたすぐ無機質な高層ビル郡に消えていく。
「ねぇ、ていとく。私眠いかも…」
「…俺もねみぃ…ただ、立ち乗りは厳しくないか?」
「………zzz」
(おいおい?理后ちゃん?)
滝壺は立ったまま寝ていた。垣根の胸元に深く沈み、懐中時計を大事に持っている。
左手で吊り革を掴み、右手で滝壺を抱く。
(町田まで約30分か…んでそっから乗り換えだからまだまだかかるなー)
適当に考え事に思考を巡らせるが垣根も立ったままうとうとしてきて、最終的に睡魔におそわれ、眠りにおちていった。
「第七学区ー、立川駅ー。お降りのお客様は気をつけてお降り下さいー」
「ふぁぁ…理后ちゃん、ついたよ!第七学区だぜ?」
立川から二人は眠すぎたので二人で割りカンにしてタクシーに乗り込む。
横浜を出てから二時間半ほどたち、滝壺達は第七学区の共同アジトに到着していた。
フレンダと絹旗の提案で今日の夜はパーティーだとか。
「ありがとうございましたー」
二人は聖夜も変わらず働き続けるタクシーのドライバーに向かって律儀にお礼をし、アジトの目の前で降りた。
既に浜面は達は到着しているようで、彼のセダン「アリスト」が共同アジトの前にどうどうと止まっていた。
滝壺はIDカードを通し、アイテム最大の共同アジトのドアをこんこんとノックする。
「おーい、みんなぁー」
ガチャリとドアがあく。ドアを内側からあけたのはフレンダ。いつも私服にエプロン姿。ベレー帽は被っていない。
奥のリビングからは甘い香りが漂ってくる。
「おそーい!二人とも!ささ、手あらって!クリスマスパーティーって訳よ!」
「お、フレンダ、気が利くじゃねーか」
「だろー?ってあんたの何なんだ私はー!」
フレンダと垣根の会話のやり取りをしている最中に滝壺はコンバースのスニーカーを脱ぐ。
ふと下を向くといつもよりも沢山の靴が。
瀟洒なイタリアの白革靴、豪快な長靴、ナイキのエアフォースの日彰プリントモデル、シンプルな黒の革靴。普段浜面がはかない様な男ものの靴が綺麗に置いてあった。
また、少しサイズは小さいが茶色のミネトンカのブーツが一つ。これも普段あまりみかけない。
「あれ?誰かきてるの?フレンダ」
「にしし…なんと今日はあの人たちが着てるのよ!」
「あの人たち?」
滝壺は首をかしげる。自分にこんなに多くの知り合いはいただろうか?はて?
「ったく誰読んだんだよ…フレンダ。お前こんなに男の知り合いいたっけ?ってかこのミネトンカ誰のだよ」
「にしし、リビングに行ってみなさい。結局、あんたが知ってる人って事よ、ね絹旗?」
「はい、その臭そうなブーツさっさと脱いで足洗ってリビングに来て下さい」
「は?くさくねーよ!ほら!ほら!」
「ひえー!超マジデ止めて下さい!」
そんなくだらない会話はリビングに聞こえたようで、扉越しに垣根達を呼ぶ声が聞こえてくる。
「垣根か!はやくこっちにこい」
「全く。女を連れ回してやっと帰宅か。冷蔵庫上がりが」
「おー、垣根、今日はゲレンデはバイト達に任せてうちらがきてやったぞー!」
「根性ねぇ声がきこえたぞー!!!」
声の主はアウレオルス、闇咲、牛深、削板だ。
さらに御坂女将がゲレンデ御坂シスターズを代表してアイテムの共同アジトにきていた。
ミネトンカのブーツを履いていた女性の正体はどうやら彼女のようだ。
「この人達から一緒にクリスマスパーティーやろうって言われてひそかに超計画してたんですよ」
なんで秘密にするのかは謎だが、垣根にとってはサプライズパーティーになった。
「じゃ、超お腹減ったんでいっぱい食べましょう。浜面達もまってますよ?」
「はいよ」 「うん」
「おーい、かきねー!どーだったよ?滝壺とは付き合えたのかよー?」
浜面が唐突に垣根に質問する。
垣根と滝壺に集まる一同の視線。顔が赤くなる二人。
「つきあったよ。わたしとていとく」
おー!上がる歓声。
ってか垣根なんか言え。赤面すんな。
「むぎのたちは?」
「自然、そちらもどうなったか聞いてみたいな」
滝壺とアウレオルスが麦野達にふりむくとやはり同じように二人に視線は集中する。
「麦野の事だからどーせ愛してるーとか言って甘えまくったに違いないですよ」
「ばっ!こら!きぬはたぁ///」
今度は滝壺の返す刀の質問に矢継ぎ早に質問攻めに会う浜麦カップル。
「ま、夜は長い事ですし、そこらへんはこれからたっぷり聞き出しましょう、とミサカはキムチ鍋を突きながら提案します」
「結局、夜は長いからねぇ…朝からずっと仕込みしてた私と絹旗の事を思えばどんな質問にも答えてくれるって信じる訳よ!」
「だー!わーった!答える答えるって!」
「では、自然、乾杯を交わそうではないか、『アイテム』のリーダー麦野沈利よ」
げっばれてる?そう思い麦野は辺りを見回す。するとフレンダが舌をぺろりと出している。
「ふ・れ・ん・だー!おしおきかくていね」
麦野は冗談混じりに言うと、缶チューハイのタブをキュポンと開ける。
御坂女将が注ぎますよ、と言い手ちかにあるジョッキを麦野に持たせて並々缶チューハイを注ぐ。
「ほら、ハリーハリーハリー!アイテムのリーダーお願いしますよとミサカは乾杯の音頭を催促します」
「ったく、あの忌ま忌ましいクモ女モドキのクローンと親睦を深めるなんて思いもしなかったわ」
「あー、オリジナルですか、他は知りませんが私はあんまりあーゆー馴れ合いみたいなの気に入らないんで。ほら、みんなこちらをみてますよ」
思えばここ数週間で色々な事があった。趣味の幅が広がり、恋人も出来たし、こうして新たな知り合いもできた。
アイテムのメンバーも増えた。
それらを思い返しぐっと麦野はジョッキを持ち上げる。
皆麦野のカンパイコールを待っている。
「おほん。では、カンパーイ!!」
カンパーイ!!!!!!
カチーン!と勢いよく鳴るジョッキ、徳利、缶。
夜はこれからだ。これからもアイテムは存続するだろう。
カップルはさらに親睦を深める。
白馬『あうれおるす』の面々ともさらに仲良くなるだろう。
この後一同暴露大会や、浜面のテクニックはうまいかとか、アウレオルスがロリコンかどうかとか、フレンダと絹旗は今日一日ホントは何をしていたかとか…
今日は夜が更けるまでそれらを色々語り尽くしていくコトになる。けれどそれはまた別のお話。
これらの人の出会いに最高の感謝を込めてここらで物語りの筆をおきたい。
おしまい。


てか、スノボだけで終わっときゃいいのに