part1 【前編】 【後編】 part2 【前編】 【後編】 part3 【前編】 の続きです
スレが半分も余ってるんで、後日日常パートをちょっとだけ投下しようと思っております
それまで11111号さんの素敵な笑顔を眺めながらお待ち下さい
525 : >>1[sage] - 2011/03/24 01:42:06.86 AVTRXnR0o 191/403やあお前らお待たせ
日常編っつーかエピローグになっちゃったけど持ってきたわ
それじゃ投下いっとこう
『審判の日』より数日、壊滅寸前まで追い込まれた学園都市は既に復興の兆しを見せていた。
それは学園都市の科学力の凄まじさもあるが、それよりも先の出来事による人的資源の損失が
起こらなかったというのが大きいだろう。
あれ程の崩壊を見せながら、一般人への肉体的な被害は全くの0だった。
とはいえ、レベル5の四人が誰かの命を奪わないように配慮したのか、と言うとそうではない。
半ば暴走するように力を振るう彼等にそのような余裕があったとは考え辛く、
事実として、企画の賛同者・仕掛人の中には命を落とした者もいる。ウニ頭とか。
では何故一般人の被害者は出なかったのか。勿論『運良く』などということはない。
答えは、『審判の日』を予測していたアレイスター=クロウリーを初め学園都市の上層部によって
学園都市の人口の大部分は予め核シェルターへ、或いは都市外へと避難させられていた為である。
つまるところ、レベル5勢は無人の大都市で好き勝手暴れて鬱憤を晴らしたわけだ。
今回の一件は学園都市上層部により緘口令が敷かれ、事実を知るものはほんの一握りの者だけとなり
また、当事者である四人への処罰もとある事情により一切下らなかった。
― 一方通行宅
一方通行「ふあァ……」
自室のソファに寝転がりつつ、一方通行は今日何度目かの大欠伸をした。
時刻はまだ正午を回ったばかりで、外からは復興の音が忙しく聞こえてくるが
そんなものは意に介さず、最も激しい破壊を行った彼は寝ながらテレビを流し見ている。
といっても、学園都市中の中継局からアンテナに至るまでが
どっかの電撃使いの手によって完全に破壊されてしまったため、
彼が今眺めているのは平常のテレビ番組ではない。
テレビ<アーサーモヨールーモコーイコーガレーテー♪
一方通行「あァ……」
一方通行は寝ぼけ眼で、知り合いのニート女の家からガメてきたアニメのDVDを眺めているのだった。
その弛緩しきった姿はどう贔屓目に見ても学園都市の最強には見えない。
一方通行「平和だなァ……」ウトウト
半分寝つつ、彼はふとそんな事を口にする。以前の彼ならば、平和、すなわち退屈だと感じれば
すぐにでも部屋から飛び出し、イヤガラセをすべく街を彷徨っていたことだろう。
しかしあの一件以来どうにもイヤガラセをする気にならず、というよりも身体を動かすことすら億劫で
日々ぐだぐだとアニメDVDを垂流しながら寝ているのだった。
この数日でやったことと言えば精々、先述した知り合いのニートの家から
アニメのDVDとゲームソフト及び本体を根こそぎ強奪してきたことくらいである。
※ゲームはやるのが面倒だったので後日中身をバラバラに入れ替えた上で返却されました。
一方通行「なァンでこンなにやる気出ねェンだろォなァ……」
彼自身、今の自分に戸惑っていた。とは言え思い当たる節が全くないわけではない。
彼の変化は間違いなく先日の一件が原因で、24時間心身共に痛めつけられた上、
その後休息もとらずに全能力を全開で、限界を超えて、数時間ぶっ通しで使い続けた為だろう。
ようするに疲れているのだ。
一方通行(なンか俺滅茶苦茶やったらしいからなァ……)
聞くところによると、どうも自分は最初こそいつも通りの姿で笑いながら暴れていたらしいのだが、
次第に訳の分からない言葉を発しはじめ、その背中から黒い翼のようなモノを放射し、
かと思えばその黒い翼が純白に染まり、ついでに頭に天使の輪のようなモノができ、
最終的には全身から眩い金色の光を放っていたらしい。
一方通行(日が暮れたのに明るいなァ、と思ったら俺が光ってたってどンなギャグだよ……)
まるで電灯のように夜の街を照らす己の姿を想像し、一方通行はそのマヌケさに頭を抱える。
実際の彼は電灯などではなく、太陽の如き荘厳さを以って都市を照らし、
その姿は見る物全てを平伏させるほどの威厳を湛えていたのだが、彼はそれを知る由もない。
<ピンポーン
一方通行「だが、寝座ぶっ壊してやった時のアレイスターの顔は最高だったなァ……ンあ?」
過去へと旅立っていた彼の思考は、鳴り響いたインターホンにより中断される。
しかし尋ねてくる知り合いなど持たない彼は、下らないセールスか勧誘だろうと当たりをつけ
その身を一層深くソファに沈めた。完全に無視する体勢である。
<ピンポーン ピンポーン
一方通行「っせェなァ、さっさと諦めろっつの」
<ピンポンピンポンピンポンピピピピピピ……
一方通行「ンなァ!?」
荒れ狂うように連打されるインターホンに、一方通行は思わず素っ頓狂な声を上げる。
まだまだ街全体が復興途上だというのに、なんとも気合の入ったセールスマンだ。
<ピピピピピピピピ……
一方通行「クソ、意地でも出ねェぞ、反射だ反射ァ!」
既に目覚まし時計のような鳴り方をしているインターホンを、彼は全力で無視しにかかる。
これこそ能力の有効活用だ。大人気ない、などと言ってはいけない。
<ピピピピピ……
一方通行「はァい何も聞こえませェン、残念でしたァ」ケケケケ
ケラケラと笑いながら勝利宣言し、外で未だにボタンを連打しているであろう相手を嘲笑う。
音は完全に遮断しているが、微弱な空気振動のベクトルは相変わらず感じている。
とはいえ、それは気になる程のものではなく、むしろ相手の無駄な抵抗を感じさせてくれるスパイスであった。
<………
やがて空気振動も止み、インターホンの連打が終わった事を彼は感じとった。
一方通行「ハッ、何処の三下野郎か知らねェが、学園都市第一位に勝てるわけねェだろ」ケケケ
<カチャカチャ……ガチャッ
一方通行「!?」
勝利を確信し、反射設定を元に戻した彼の耳が有り得ない音を捉える。
鍵が解除され、扉が開かれる音……それを聞いた瞬間、彼はソファなら跳ね起き、玄関を睨みつけた。
「なんだ、やっぱいるじゃねえかモヤシ野郎、とミサカは居留守を使っていた一方通行を罵倒します」
一方通行「……あァ?」
無礼な闖入者の姿を確認し、一方通行は肩を落とす。そこにいたの彼がよく見知った少女で、
彼の天敵とも言うべき存在、御存知ミサカ11111号であった。
11111号「よう元気か、とミサカはよろよろと右手を上げます」
一方通行「11111号か……オマエ、よく俺の前に出て来られたモンだな……」
数日前、自分を含めたレベル5勢を徹底的に甚振った張本人を前に、
一方通行は不快感を露にして詰め寄る。
そのままつまみ出そうと手を伸ばした所で、彼はある事に気付き動きを止めた。
11111号「この手は何ですか?いやらしい、とミサカは後ずさります」
一方通行「イヤ……オマエなンでそンなヤツレてンだ?」
強気な口調とは裏腹に、11111号は今にも死にそうな顔をしていた。
その頬はこけ、肌は土気色に染まり、目の焦点はズレ、よく立っていられるな、と思うほどフラついている。
11111号「フフ、気にしないで下さい、色々あったんですよ、とミサカは言葉を濁します」
一方通行「………?あァ、罰ゲームとやらか」
11111号がこうなっている原因に思い至り、一方通行はポンと手を打つ。
数日前の企画の最後、全てが終わったら真っ先に11111号に仕返しする予定だったレベル5勢であったが、
当の彼女は罰ゲームを受けるということで何処かへ連れ去られてしまったのだった。
お陰様で怒りの矛先が暴走し『審判の日』と呼ばれるほどの大破壊に至ったわけだが……
そういえばあの日以降全然姿を見てなかったな、と彼は今更ながら最近やけに平和だった事の一因を理解した。
一方通行「……まァ何があったかは聞かねェが、オマエでもそンな風になるンだな」
今にもぶっ倒れそうな11111号を繁々と眺めながら、一方通行は感心したようにぼそりと呟く。
ドSなだけでなく、ドMな属性も備えている11111号は、殴ろうが蹴ろうが
ベクトル操作しようが放置しようが基本的に全く堪えず、むしろ喜んでしまうので
これまで彼は手を出しあぐねていた。
手段を選ばなければ、人の道を外れた行為を厭わなければ、彼女を撃退する方法もいくつかあったのだろうが、
酷すぎるイヤガラセはしない、と心に誓っている一方通行は、その為、
ずっと11111号にいいようにやりくるめられて来たのだった。
11111号「地獄を見て来ましたよ……ですがご安心ください」
一方通行「あァ?」
11111号「純潔は死守しました、とミサカは親指を立てながら自分が未だ乙女であることを告白します」
一方通行「……すげェどォでもいい情報をアリガトウ」
11111号「どうでもいいですと?わかっていませんね、ヒロインが非処女だという理由で叩かれた作品が
この世界にどれだけあると思ってるんですか!とミサカは強い口調で一方通行に詰め寄ります」
一方通行「知るかボケ、それこそどォでもいいわ」
11111号「ふむ、ここまで言っても処女性の重要さがわかりませんか、とミサカは溜息を吐きます
このミサカが非処女設定だったら、このスレはいったいどうなってしまうと思って……
まぁあなたは童貞ですし、経験豊富なお姉さんにリードしてもらいたいタイプなのかも知れませんが」
一方通行「処女でもビッチでもどっちでもいいわ!つーかオマエちゃっかりヒロイン気取りかよ!?」
11111号「そうやって処女かビッチかの二極でしか考えられないからあなたは童貞臭いんですよ
とミサカは童貞モヤシを嘲笑います」プゲラッチョ
一方通行「うっぜェェェェ!!!完全にいつも通りじゃねェか!!少しでも同情した俺が馬鹿だったわ!!!」
11111号「やーいバーカ」
一方通行「あ゛ァァァァァ!!!!」
11111号はケラケラと笑いながら一方通行に罵詈雑言の嵐をぶつける。
土気色だった彼女の肌はいつの間にかツヤツヤと精気を取り戻しつつあった。
と、彼女は一方通行の背後のテレビに気付き、更に目を輝かせる。
11111号「おや一方通行、あなたテレビを見ていたんですか?
何やらアニメのようなモノが映っていますが、とミサカはニヤけながら尋ねます」
一方通行「あァ?……チッ、消すの忘れてたか」
テレビ<ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアガメイジル!
11111号「ほほうコードギアスですか、いかにもライトオタクの入門用アニメ的で良いですね
とミサカは一方通行のチョイスを褒め称えます」
一方通行「褒めてンのかそれ?つーか誰がオタクだクソが」
11111号「昨今はアニメを見ているだけでオタク扱いされてしまうのですよ
とミサカは最近の世知辛い情勢に頭を抱えます。暇潰しには最適なんですがねぇ、アニメ」
一方通行「ほォ、オマエ等も生意気にアニメなンざ見たりすンだな」
11111号「それはもう。クローンというあんまり表立って外歩けない身ですからね。
必然的に屋内で時間を潰せる趣味に流れていくんですよ、とミサカは説明します」
一方通行(表立って外歩けない……?コイツ等外歩いてたら十分に一回くらい見かけるよな?)
11111号「しかしあれですね、コードギアスの主人公は
あなたと似通っている点が結構ありますよね、とミサカは指摘します」
一方通行「そォか?どの辺りがだよ」
11111号「チートな能力持ってるところとか、中性的なイケメンフェイスなところとか」
一方通行「ほォ」
11111号「設定上は作中トップクラスに頭が良いところとか」
一方通行「設定上って付けンじゃねェよ!!」
11111号「ガリガリのモヤシで貧弱なところとか」
一方通行「うるせェ!筋肉なンていらねェだろ!」
11111号「あとは童貞なところとかですね、とミサカは童貞坊やを指差して笑います」ケケケ
一方通行「言うと思ったわ!言うと思ったわクソが!!」
11111号「あなたがルルーシュならこのミサカはC.C.と言ったところでしょうか
ヒロインポジション的に考えて、とミサカは自分の考えを口にします」
一方通行「あの緑髪ヒロインなのか?性悪なところは似てるけどオマエは器じゃねェだろ」
11111号「それは聞き捨てなりませんね、このミサカの何が足りないというのですか?
とミサカは憤慨しつつ実はさほど興味が無いと言うことを隠しながら尋ねます」
一方通行「C.C.は主人公にギアス与える重要な役回りだろォが
オマエが俺にどンな能力を与えられるっつーンだよ」
11111号「ふむ、その理屈で行くと、あなたに能力を与えた、
すなわちあなたの能力開発をした者こそC.C.役としてヒロインポジションにつくわけですね
とミサカは該当者を記憶の中から探りま……えっ」
一方通行「……」
11111号「……木はr」
一方通行「やめろ」
11111号「木原あm」
一方通行「やめてください」
11111号「……」
一方通行「……」
11111号「あなたのベッドに寝転がりつつピザを貪る木原数t」
一方通行「ヒロイン役はオマエがいい!オマエこそ俺の共犯者だ!!」
11111号「良くできました、とミサカは笑顔で頷きます」
一方通行「クソォ、魔女め……」
11111号「ではミサカは緑髪の魔女らしくピザを要求することにします
さぁ注文してください、あなたの金で、とミサカはテレビの前に座りながらピザを要求します」
一方通行「なァンで俺がオマエにピザ食わせてやらなきゃなンないンですかァ」
11111号「お腹がすいてるって言ってるんだよ?とミサカは空気ヒロインの真似をしながら
可愛らしく小首を傾げます。それにこのミサカ、現在無一文なのです」
一方通行「指でもしゃぶってろクソボケが」
11111号「ミサカに細くて長いモノをしゃぶらせてどうする気!?とミサカは身の危険を感じ距離を取ります」
一方通行「身の危険感じたンなら帰れよ!帰ってくれよ!!」
11111号「ピザ食べたらすぐ帰りますよ、ほんとですよ、
とミサカは自分がただ空腹感を満たすことだけが目的であることをアピールします」
一方通行「だいたい、こンな状況で営業してるピザ屋があるわけねェだろ……」
11111号「被害が少ない学区もあるんですから一件くらいあるでしょう、探してください、
とミサカはその辺に落ちていたピザ屋のチラシを一方通行に手渡します」
一方通行「オマエマジで何様だよ」
11111号「と言いつつ携帯片手にチラシを眺め始めるあなたが大好きです
とミサカは顔を顰めつつ棒読みで吐き気を催しながら告白します」ウエッ
一方通行「うぜェ……ピザ注文してやったらマジで帰れよオマエ」ピッピッピ
11111号「一番高いヤツでお願いします、とミサカは電話をかける一方通行にすかさず口を挟みます」
一方通行「どれもそンなに変わらねェだろォが……あァもしもし?今営業してますかァ?あ、やってるンですね」
11111号「敬語を使う一方通行(笑)」
一方通行「(コイツマジで殺してやろうか……)あァハイ、一番高いヤツで、ハイ、住所は……」
―――――――――――
11111号「さて一方通行、」
一方通行「あァ?」
11111号「ピザが来るまでの時間、あなたと二人で無言で過ごすというのも気まず過ぎて死にそうなので
話題を提供したいのですがよろしいでしょうか?とミサカは尋ねます」
一方通行「気まずいなら帰れよ、死ねよ、何でそンなにピザ食いてェンだよ」
11111号「……別にピザじゃなくてもいいんですが、異物が混入していない食事って本当に久しぶりなんですよ、
とミサカはここ数日を思い出し虚空を見つめ遠い目をします」
一方通行「……あァー、まァ暇だからいいけどよ……話題ってなンだよ?」
11111号「話題と言うか、あなたに聞きたいことがあるんですよ、とミサカは人差し指を突き出します」
一方通行「聞きたいことねェ……」
11111号「なに、簡単なことです。このミサカが罰ゲームに連れ去られた後
あなた方が学園都市でどんな暴れ方をしたのかを話してくれればそれでいいですよ」
一方通行「はァ?なンでそンなこと聞きてェンだ?」
11111号「大都市が滅茶苦茶に破壊される様子って何か心躍りませんか?詳しく聞かせてくださいよ
最後まで見てた妹達がいなくてMNWには断片的な情報しか残ってなかったんです、
とミサカは心半ばに散って行った同胞達に黙祷を捧げます」
一方通行「そォいやァなンか超電磁砲がすげェ嬉しそうに妹達追い掛け回してたな」
11111号「はいはい、その様子はMNWに残ってましたね。
いやぁ人間ってあんなにぶっ壊れた笑顔出来るんですねぇ、とミサカは身震いします」
一方通行「目がイッちまってたしなァ……あの笑顔は正直俺も引いたわ」
11111号「妹達も全員命だけは助かったみたいですが、色々とトラウマ抱えちゃった個体も多いですね
とミサカはMNWにすら接続せず引き篭もっている妹達を心配します
中には鏡を見るたびに発狂寸前になる子もいるらしいですよ」
一方通行「超電磁砲と同じ顔だからなァ」
11111号「他の仕掛人達はどうなりました?」
一方通行「えェっと、第七位は垣根にボコられてたな」
11111号「うーん、やっぱり第七位じゃ第二位には勝てないんですね、とミサカはシミジミ思います」
一方通行「普段なら善戦くらいは出来たのかも知れねェが、垣根も意味わかンねェ事になってたからなァ」
11111号「意味わかんない、というと?」
一方通行「なンかすっげェ羽が増えてた」
11111号「ほう?」
一方通行「つーか時間経過と共に増え続けてた」
11111号「えぇー……」
一方通行「最終的に大小100くらいの羽でバサバサやってたぞアイツ、もう垣根っつーか羽だったわ」
11111号「何それキモ!とミサカは全身から羽を生やしているていとくんを想像して顔を顰めます」
一方通行「ンで、アイテムの連中はまァ予想通り第四位がシバいてたわ。あの、浜面だっけ?アイツを重点的に」
11111号「あー……まぁ彼はやられると思っていました、とミサカは頷きます」
一方通行「浜面は何かもうわけわかンねェ物体になってたし、金髪は真っ二つにされてたし
チビっこいガキは『サッカーしようぜ!ボールはオマエな!』とか言われてたし
アイテムは全員相当ひでェ目に遭ってたなァ」
11111号「真っ二つって……いや、滝壺理后の情報がないようですが
彼女はどうしたのでしょう?とミサカは首を傾げます」
一方通行「まァ金髪は冥土帰しが回収してたし大丈夫だろ
滝壺ってあのジャージ着た不思議ちゃンか?……そォいやァ見てねェなァ」
11111号「うーん、トロそうだったからあなたが確認する前に消されたんですかねぇ?とミサカは推測します」
一方通行「なンとなくだが、ちゃっかり生き延びてそォな気がすンだよなァ」
11111号「考えても仕方がありませんね。ところであなたは何をしていたんです?とミサカは尋ねます」
一方通行「俺か?俺は小者相手にすンのも面倒だったから元凶ンところに殴り込みに行ったンだわ」
11111号「元凶と言うと……」
一方通行「あァ、アレイスターの野郎だ」
11111号「土壇場でこのミサカを裏切ったクソ野郎のことですね、とミサカは歯軋りします」ギリギリ
11111号「しかしどうやって殴り込んだんです?あの野郎がいる建物は
空間移動でないと入れないはずですが、とミサカは謎の物体で出来ている窓のないビルを思い出します」
一方通行「そう思ってたンだが、思いっきり殴ったら意外とぶっ壊せたわ」
11111号「一方通行さんマジパねぇっす、とミサカは一方通行の潜在能力に戦慄します」
一方通行「傑作だったぜェ、壁ぶっ壊した時のあの野郎。『信じらンねぇ!』みたいな面してやがンだよ」ケラケラ
11111号「うわぁいいなぁ、見たかったなぁ、とミサカは想像して口元を緩めます」
一方通行「ビーカーごと引きずり出して野郎がゲロ吐くまで転がしてよォ、
『二度と俺に手を出さない』って念書書かせた後、ビーカーに醤油ぶち込んでやったぜ」ククク
11111号「その一連を本気で見たかったです、とミサカは己がその場にいなかったことを悔やみます」グヌヌ
11111号「しかし、聞く限りでは誰も街を積極的に破壊していませんね、とミサカは指摘します」
一方通行「別に学園都市そのものにキレたわけじゃねェからなァ
全員がそれぞれ恨みのある相手を追っかけ回して、街が壊れたのはその副産物みてェなモンだ」
11111号「副産物で未曾有の大災害レベルの被害を出してるんですか
流石はレベル5ですね、とミサカは脱帽します」
<ピンポーン
11111号「おや、ピザが届いたようですね、とミサカは腰を上げます」
一方通行「俺がいくから座ってろ、つーかオマエ金持ってねェンだろ」
11111号「何か妙に優しくて気持ち悪いですね、とミサカは背筋に冷たい物を感じます」
一方通行「オマエ失礼ってレベルじゃねェなホント」
11111号「腑抜けたんですか一方通行、そんな暖かな態度のあなたなんて誰も期待していませんよ!
とミサカは牙の抜けた一方通行を罵ります」
一方通行「そォか、ピザはいらねェか」
11111号「早くとって来いよ、配達の兄ちゃん待たせてんじゃねえ、とミサカはトロ臭い一方通行を非難します」
一方通行「なンなンだオマエは」
――――――――――――――
一方通行「オラ、釣りはいらねェよ」
「あざっしたー」
配達人からピザを受け取った一方通行は、チップとして釣銭を押し付ける。
一万円札で支払った為、ピザ代よりもお釣りの方が大幅に多かったが、
それを躊躇無くチップとして渡すのは流石レベル5の財力と言ったところだろう。
チップを渡したのは何も善意からではなく、釣銭を受け取る手間すら面倒だったからだ。
今、彼の意識は完全にピザに集中していた。一刻も早くピザを確かめたかった。
勿論彼がピザを食べたくて堪らない、というわけではない。
11111号の願い通りピザを注文したのも、こうしてわざわざ彼がピザを受け取っているのも
彼の態度が少し柔らかかったのも、全てはこのピザを利用して彼女に一泡吹かせるためである。
一方通行(腑抜けた?牙が抜けた?言ってろよクソガキが……)ククク
奥にいる11111号に悟られぬよう、彼は笑いを噛み殺しながらピザを確認し、己の能力を行使する。
一方通行(ベクトルピザの完成ってなァ……クカカ、ピザの表面に反射の膜を張っただけだが
勢い良く齧り付いたら口ン中がえらい事になるぜェ……)
無一文で、マトモな食事を取るのは久しぶりだ、という11111号の言葉を思い出す。
さぞ腹を空かせている事だろう。ピザを目の前にしたらすぐにでも口の中に放り込むに違いない。
一方通行「ほら、持ってきてやったぞ……あァ?」
これから起こるであろう愉快な未来を想像しつつ振り返った一方通行は、そこに不可解な物を発見する。
何故これが、こんな物がここにあるのだろう?彼は思わずそれを二度見し、首を傾げた。
11111号「ああ一方通行、ベランダに何か引っ掛かってたんで部屋の中に入れときましたよ
とミサカは隣の白いのを指差しながら説明します」
一方通行「……」
一方通行は11111号が指差している白いのを凝視する。
それは何度か見たことのある白いシスター服に身を包んだ少女だった。
上条家の居候にして、先の企画でレベル5勢を散々苦しめたインデックスさんである。
イン「うぅぅ……」
一方通行「……ベランダに引っ掛かってた?」
11111号「えぇ、何か物音がしたんで窓の外見てみたらコレがいました」
一方通行「えェー……」
心底意味がわからない、という表情で、一方通行はピザを抱えたまま
呻き声を上げるインデックスを凝視する。
11111号「イン(略)さん、どうしてベランダにいたんですか?とミサカは震えているイン(略)さんに尋ねます」
イン「どうして略すのかな?悪意を感じるんだよ……」
一方通行「いいから理由を言え理由を」
イン「お腹が空いて彷徨ってたらピザの匂いがしてきたから、フラフラ誘われちゃったんだよ……」
11111号「何か四六時中腹空かせてますねこの白いの、とミサカは呆れ顔で溜息を吐きます」
イン「ねぇそこの白い人、その手に持ってるのピザだよね?」
一方通行「ンげッ」
イン「それ、私にも食べさせてくれると嬉しいな」
一方通行「イヤ、これは11111号の為にだな……」
11111号「一方通行、あなたの気持ちは嬉しいんですが、
流石に目の前に餓死しそうになってる人がいるのに一人でピザを食べたりできませんよ
とミサカは首を横に振ります。そのピザはイン(略)さんに献上してください」
一方通行「で、でもよォ……」
11111号「それとも、そのピザをどうしてもこのミサカに食べさせたい理由でもあるんですかぁ?
とミサカはニヤつきながら尋ねます」ニタァ
一方通行「て、テメエ……気付いて……」
イン「許可は取れたんだよ!さあ白い人、そのピザをこっちに渡すんだよ!!」
11111号「ほら、焦らしプレイは程々にして哀れな子羊にピザを譲ってあげましょう
とミサカはイン(略)さんに賛同します」
一方通行「だァー!もう知るか!好きにしろ!!」
めんどくさくなった一方通行は、細工されたピザを箱ごとインデックスに差し出す。
何も知らない彼女は純真無垢な目でそれを受け取り、満面の笑みを浮かべた。
イン「ありがとう白い人!!」
一方通行「……いいってことよ」
11111号「よかったですねイン(略)さん、とミサカはイン(略)さんの頭を撫でます」
瞳を輝かせつつ、いそいそとピザの箱を開けるインデックス。
その姿はまるでクリスマスプレゼントを貰った、サンタを信じている幼子のようで
見ているだけで心が温かくなり、保護欲を掻き立てられるものだった。
イン「いただきまーす」
大きく口を開き、一気にピザに齧り付く。
しかし、その瞬間――
ガギィン!!!
イン「づぁ!?」
とてつもない衝撃が口内、特に歯に走りインデックスは反射的に顔を逸らす。
それでもピザを落とさないのは彼女の執念か。
イン「な、なにこれ!?硬い……わけでもないし、一体何が起きたのかな!?」
ピザに反射の膜がかかっていることなど知る由も無い彼女はただただ困惑する。
目の前にあるご馳走に拒まれるなど、彼女には到底我慢できるものではなかった。
イン「ピザのくせに私に逆らうなんて、生意気かも!!」
怒りを露にし、インデックスは再びピザに噛み付く。再び衝撃が走るが、今度は顔を逸らさない。
口を離すこともない。彼女は激しい痛みを味わいながらも、反射の膜と拮抗していた。
イン「ぐぐぐぐぐ……」
一方通行「お、俺の反射に抗ってンのか……?」
11111号「オマエ、ピザに反射の膜張るとかえげつない真似してんじゃねえよ
とミサカは鬼畜な一方通行につっこみを入れます」
一方通行「ピザに細工してあるって気付いてンのにシスターに渡したのはオマエだろ」
11111号「ミサカは精々タバスコ山盛りくらいだと思ってたんですが……」
イン「ぬおおおおお!!!」ギリギリ
――――――――――――――
数分後、そこには口から血をだらだらと流しつつ、
結局ピザを食べることが出来なかったインデックスが涙に沈んでいた。
イン「神よ、何故私を見捨てたのですか」シクシク
11111号「大袈裟すぎるだろ、とミサカはそんなになるまで
ピザと格闘していたイン(略)さんにドン引きします」
イン「うぅ、もう限界なんだよ……」ガクリ
空腹と精神的ダメージにより、ついにインデックスは意識を失う。
「あーあ」と呆れる11111号の隣で、一方通行は密かにその目を輝かせていた。
一方通行「なァ11111号」
11111号「なんです?とミサカは返事をします」
一方通行「他人のイヤがってる姿見るのってやっぱ最ッ高だなァ」キラキラ
外道、復活。
インデックスの苦しむ姿が、泣き叫ぶ姿が、久しく燻っていた一方通行のドS心に火を点したのだ。
目を輝かせケラケラと笑う彼を11111号はしばし目を丸くして見つめていたが、
やがてニタリと悪意ある笑みを浮かべ、クスクスと笑い声を漏らした。
11111号「そう、それでこそ一方通行です、とミサカはあなたの闘志の再燃を歓迎します」ククク
一方通行「11111号、これから忙しくなるぞ、手伝え」
有無を言わさぬ口調で一方通行が命令する。
11111号は笑顔のまま、芝居がかった動作で一礼し、それに応じた。
11111号「なんなりとお申し付けを、一体何をするつもりです?とミサカは尋ねます」
一方通行「ハッ、この間まで他のレベル5どもと仲良しゴッコやってたからなァ
まずはアイツ等に俺と仲良くした分のツケを払って貰うとしようじゃねェか」
11111号「御意。動ける妹達全てを動員し彼等を監視します
とミサカは先の一件で彼等に復讐を誓っている妹達に指示を飛ばします」
一方通行「隙があれば拉致って監禁しろ、この前俺達にやった時みてェにだ」
11111号「……残念ながらあれはアレイスターの力添えがあったからこそ出来た芸当です
あなたがアレイスターを叩いた今、同じ方法を取ることは叶わないでしょう、とミサカは首を横に振ります」
一方通行「ならいい、監視だけ頼む。後は俺が直接動く」
11111号「しかし、どうするつもりです?彼等とてレベル5……」
一方通行「オイオイ、俺を誰だと思ってンだァ?」ククク
一方通行「俺は、学園都市最強の第一位様だぜ?」
その牙に更なる磨きをかけ、外道は再び動き始める。
学園都市の人間よ、震えて眠れ。もはや貴様等に平穏は訪れない。
― 一方通行「イヤだ」完 ―
553 : >>1[] - 2011/03/24 02:00:04.06 AVTRXnR0o 219/403つーわけで本当の本当に終わりデス
いやホント、まさかこんなに長くなるとはなぁ……
今次回作の構想練ってて、多分また一方さんが周囲をぶん回すような作品になるだろうから
気が向いたらそっちも読んでくれな!
それじゃここまで読んでくれて本当にありがとな!あばよ!
11111号「終了してからだいぶ時間が経ちましたし、そろそろいいでしょう。
それでは恒例(?)、裏話のコーナーです。やんややんや、とミサカは手を叩いて囃し立てます」
一方通行「悪ィがこっから先はメタ発言の一方通行だ。苦手な方はお引き取りください」
11111号「あなた『一方通行だ』って言いたかっただけでしょう?ぶっちゃけ意味が通じませんよ
とミサカはすかさずつっこみを入れます」
一方通行「で、没ネタや裏話なンかを公開するコーナーなわけですがァ」
11111号「都合の悪いつっこみはスルーですかそうですか」
一方通行「ぶっちゃけ、今回はネタの出し惜しみほとンど無しだったンで話すこと全然無いンだよ」
11111号「そうなんですよねぇ、初代スレ終わらせてからあんまり時間を置かずに始めちゃって
ネタを考える時間が足りませんでしたからね、とミサカは頷きます。
無理してこのコーナーやらなくても……」
一方通行「そこはまァ、この作者は今までSSの最後に毎回裏話入れてきたから
今更無くすのも寂しいかなァって感じだな」
11111号「ネタも無いのに完全な惰性でやろうってことですか、舐めてますね、とミサカは舌打ちします」チッ
一方通行「最後まで構想纏まってなかったのに見切り発車気味に始めちまったからなァ」
11111号「最後にレベル5勢の反撃で締めるってのと、このミサカが罰ゲームを受けるってのは
初期段階で決まってたんですがそれ以外は全然でしたからね、とミサカは溜息を吐きます」
一方通行「で、気付いたヤツも多かったみてェだが、>>449はACFAの虐殺ルートのオマージュだ」
11111号「いいですよねぇAC、印象に残るセリフも多いですしネタも豊富ですし
何より面白いです、とミサカはベタ褒めします。はよⅤ出せや」
一方通行「全作持ってる上にPSアーカイブのまで落としてるからなァ、正直引くわ」
11111号「知ってます?KARASAWAの名の由来になった唐澤靖宜氏は
もうとっくにフロムソフトを退社されてるんですよ、とミサカは豆知識を披露します」
一方通行「あァうン……分かる人にしか分からねェネタはやめような?」
11111号「まぁ真面目に裏話をしていきましょうか、とミサカはSSを冒頭から読み直してみます」
一方通行「自分で書いたSS読むのって恥ずかしいよなァ」
11111号「その恥ずかしさがクセになるんですけどね、とミサカは作者の気持ちを代弁します」
一方通行「……あァ、いきなり垣根が酷ェ目に遭ってンな」
11111号「むぎのんにジャガイモにされてますね、かっこいいキャラのはずなんですが
何故か三枚目役になることが多いですよね、とミサカは首を傾げます」
一方通行「今回は主要登場人物的にも垣根が割食うのは仕方ねェけどなァ」
11111号「というと?」
一方通行「超電磁法砲と第四位は女だから汚れ役やらすのは気が引けるだろ?
俺は外道だからゲームの参加者でありながら他の奴等を笑わせるってポジションにつく
そォすっと必然的に垣根がかわいそうな事になっちまうンだよ」
11111号「なるほど。とは言え流石にやり過ぎでしたね、とミサカは作者の代わりに反省します
初代スレの上条当麻並の不幸っぷりですよこれ」
一方通行「垣根だし別にいいだろ」
11111号「そうですね、ていとくんですしね、とミサカは同意します
しかし今回は初代スレに輪をかけてキャラの崩壊っぷりが酷いことになってますね」
一方通行「白黒とかショタコン辺りは特に顕著だなァ、初代スレだとまだマシだったンだが……」
11111号「今回はメーター振り切った変態に成り果てていましたからね
とミサカは個性を過剰に演出された方々を哀れみます」
一方通行「白黒の方は後付設定で綺麗な白黒になったりしたけどな」
11111号「変態だったのは実は操られていた為でした、でズッコケた方も多かったことでしょう
自分でも「なんじゃそりゃ」ってつっこみながら書いてましたからね、とミサカは当時の作者の心境を語ってみます」
一方通行「結局俺に脳味噌シェイクされた上に三下にボコられまくって本当に頭おかしくなっちまったわけだが」
11111号「彼女もある意味被害者ですよね、とミサカは黙祷を捧げます」
一方通行「盗撮AV出されたりしてたしなァ、学園都市の闇深すぎンだろ……」
11111号「白井黒子はマトモに戻ったまま平穏に終わるっていうルートも考えてはいたんですよ
とミサカは最初に浮かんだ案を思い出します」
一方通行「だが白黒をマトモに戻したままじゃァ11111号に罰ゲームとして宛てがえ無ェからなァ」
11111号「そうそう。このミサカの罰ゲームの為だけに壊れていただきました
とミサカは犠牲になった白井黒子にほんのちょっぴり同情します」
一方通行「ホント不幸なキャラが多いSSだよな」
11111号「一番不幸なのは誰でしょうねぇ?とミサカは候補をリストアップしてみます」
不幸な人リスト
・上条当麻……言わずもがな。しかし今回は半分くらい自業自得。
・垣根帝督……汚れ役を一身に引き受けた感じ。帝凍庫クンのAAも広まり今後益々三枚目に……
・浜面仕上……アイテム全体からディスられる。主要メンバー以外で唯一アウトを喰らった男。
・番外個体……トラウマ大爆発。そろそろ引き篭もっちゃうんじゃね?
・00001号……復讐に来たのに結局いいとこなしでアフロにされる。
・御坂美琴……母親含め交友関係ほぼ全滅。もう垣根と麦野しか話し相手が残ってない。ゲコ太も死んだ。
・白井黒子……取り返しのつかないことになる。けど良い目も見てる。
・ステイル……ショタコンのせいで教師役できなかった上に最終的にショタコンに捕まる。合掌。
・アレイスター……かわいそう。
11111号「こんなもんでしょうか?肉体的な被害は上三人がダントツで酷かったですけどね、
とミサカは候補を纏め終えます」
一方通行「多いなァ……」
11111号「そこに挙がる程ではなくても、フレンダ氏や一方通行もかなり不幸な目に遭ってますよね
逆に幸福になった人は全くいないというなんとも酷いSSでした、とミサカは頭を抱えます」
一方通行「ン……アレイスターは何でリストに入ってンだ?他の面子ほど酷ェ目には遭ってねェだろ」
11111号「………だって、」
一方通行「あン?」
11111号「……だって彼、セリフないんですよ?」
一方通行「……」
11111号「そこそこ重要な黒幕的ポジションなのに一言も喋れてないんですよ?
あなたに仕返しされる描写すらザックリ省かれてるんですよ?
とミサカはアレイスターが実はかなり切ない目に遭っていることを主張します」
一方通行「……出番結構有ったのになァ」
11111号「ね、こう考えると不幸な気がしてくるでしょう?とミサカは視野の狭い一方通行を窘めます」
一方通行「湿っぽくなっちまったな、話変えるか」
11111号「そうですね、不幸な連中のことなんぞ気にしてたらこっちまで不幸になりそうですし
とミサカはサクッと切り捨てます」
一方通行「………えーっと、初代スレと比べて登場人物結構増えたよなァ」
11111号「そうですね、ほとんどがちょい役なのが惜しまれますが、とミサカは作者の力量不足を指摘します」
一方通行「一瞬しか出なかったキャラにも本当はもっと出番上げたかったンだけどなァ」
11111号「特に神の右席の方々には是非学園都市までお越しいただきたかったんですけどね
とミサカはAVのタイトルでしか登場しなかったフィアンマさんを惜しみます」
デデーン♪
『一方通行、聖なる右~』
11111号「みたいな感じで出演していただきたかった」
一方通行「流石に死ぬわ!つーかビビるからアウト通告やめろ!!」
11111号「ふひひ、サーセン、とミサカは表面上だけ謝っておきます」
一方通行「チッ………実はだな、ここだけの話、前方のバナナことヴェントは出る予定だったンだよ」
11111号「あれそうだったんですか?とミサカは初めて耳にする事実に驚愕します」
一方通行「食堂でひらすらバナナを食うって役にする予定でよォ」
11111号「なにそれこわい」
――
垣根「おいあれ見ろよ、バナナみてえな服着た女がバナナ食いまくってるぞ」
一方通行「共食いってやつか」
麦野「第一位がモヤシ食ってるのと似たようなモンね」
――
一方通行「みたいな感じの会話がされる予定でな、この後垣根がハンマーで潰されるわけだ」
11111号「あーやっぱりていとくんはそういう役回りなんですね……
つーか入れりゃよかったじゃないですかそのくらいの小ネタ、と
ミサカはむしろそのネタを使わなかったことに疑問を持ちます」
一方通行「二日目の朝食の時にやる予定だったンだがすっかり忘れてたンだよ……」
11111号「忘れんなよ……とミサカはがっくり項垂れます」
一方通行「ンで、普通に出たアックア、出したかったフィアンマ、出し忘れたヴェント、と来たわけだが」
11111号「テッラさん……」
一方通行「だってアイツ喋り方きめェし……」
11111号「確かにあの顔であの喋り方はないわー、とミサカはドン引きします」
一方通行「まァ鬼ごっこの時間にテッラがエリマキトカゲみたいな走り方で追ってくる
なンつーネタも一瞬だけ考えちゃいたンだがな」
11111号「ちょっとそれキモ過ぎるだろ……確かに服はエリマキトカゲっぽいですけど……
とミサカは辟易します」ウヘェ
一方通行「で、鬼役にテッラを使おうとしたところからもわかるように
初期案では鬼ごっこのルールも少し違ったンだよ」
11111号「違ったというか本家ガキの使いの鬼ごっこと同じルールの予定だったんですよね、
とミサカは初期案を確認します」
一方通行「おォ。鬼役はランダムで、罰ゲームはその鬼固有のモンで、
逃げる方は全部の鬼から逃げなきゃならねェっつールールだったな」
11111号「本家と同じルールだと、逃げ役四人+鬼役複数を同時に描写しなければならなかったので
全然話が進まなかったんでしたね、とミサカは初期プロットを一瞬で投げ出したことを思い出します」
一方通行「それに加えて垣根が生贄に捧げられる未来しか見えなかったからなァ
それはあンまりだろっつーンで特殊ルールになったわけだ」
11111号「結局ていとくんは第七位にボコられてますけどね。どっちがよかったのやら……」
一方通行「さァなァ……そういや三下が本格的に壊れてきたのも鬼ごっこからだったな」
11111号「それまでは理不尽にビンタ喰らったりしてたのに、一転して加害者に回りましたよね、
とミサカはそげぶ中毒のウニ頭を思い出します」
一方通行「顔面殴り飛ばそうとしやがったからなァ、流石に引くわァ……」
11111号「男女平等って素敵ですよね、とミサカは微妙な笑顔でフォローします」
一方通行「男女平等と言やァ、垣根がそげぶ喰らうネタもあったンだぜ」
11111号「何でていとくんなんだよ、オマエが喰らえよ、とミサカはつっこみを入れます」
――
上条「いいぜ、てめえが何でも思い通りに出来るってなら……」カチャカチャ……ジー…
垣根「オイちょっと待て、何でチャック下ろしてんだテメエ」
上条「まずはそのふざけた幻想をぶち殺す!!」シャキーン!!
垣根「まずテメエがそのふざけたモノを仕舞えええええ!!!」
上条「熱膨張って知ってるか……?」メリメリメリ
垣根「アッー!!」
――
一方通行「みたいな感じで」
11111号「まさかの股間の幻想殺し!?」
一方通行「良い子の為のSSなンで流石に18禁展開はダメだろって事でお蔵入りになりましたァ」
11111号「えぇ、誰も得しないし妥当でしょう、とミサカはそのネタが没になった事に心底ほっとします」
一方通行「あ、それと」
11111号「はい?」
一方通行「超電磁砲と第四位が微妙にレズっぽいのは仕様だ」
11111号「さいですか、とミサカはどうでもいいのであっさり流します」
一方通行「……さて、ネタもねェしこンなモンか?そろそろ〆るぞ」
11111号「あ、ちょっとどうしても納得行かないことがあるんですが、とミサカは待ったをかけます」
一方通行「あァ?なンだよ?」
11111号「えっと、>>475のAAなのですが」
一方通行「オマエの笑顔のAAな」
11111号「これがどうしても納得行きません!こんな邪悪なAA、
このミサカの可愛らしさの1%も表現出来てないではないですか!とミサカは悪意のあるAAに憤慨します」
一方通行「イヤそンなモンだって、オマエ笑った時あンな顔してるだろ」
11111号「いいえしていません、断固していません、とミサカはあのAAの撤回を要求します」
一方通行「はァ……ンじゃちょっと笑ってみろよ、>>475と大差ねェから」
11111号「いいでしょう、このミサカの慈愛に満ちた笑みに骨抜きになるがいい!
とミサカは会心の笑みを披露します」
一方通行「なンなンだよそのムカつく笑顔は!?見ようによっちゃ>>475より邪悪だぞ!!」
11111号「チッ、これだから見る目の無い童貞は……
とミサカは童貞に判断を任せた自分の迂闊さに頭を抱えます」
一方通行「最後まで童貞ネタかよ……とにかくもう終わるぞ」
11111号「お待ち下さい、せっかくなので次に立てる予定のスレの宣伝でもしときましょう
とミサカは早々とスレを終わらせようとする早漏な一方通行を制止します」
一方通行「勝手にしろクソボケが」
11111号「では勝手に宣伝させていただきます、とミサカは頷きます。えー、次スレなのですが……」
11111号「一方通行がどこまでも童貞なお話になります、とミサカは端的に述べます」
一方通行「どンな話だよ!?」
11111号「ちなみにマジです、とミサカは嘘偽りないと断言します」
一方通行「おいィ!?」
11111号「それでは皆さん、ここまで読んで下さってありがとうございました、とミサカは頭を下げます」
一方通行「いやちょっと待て、締めに入ンな!ちゃンと説明しやがれ!!」
11111号「また何処かでお会いしましょう。このミサカも出演できるといいな
とミサカは笑顔で手を振り強引に〆ます」
一方通行「おいいいいィィィィ!!!!」
―END―
610 : >>1[sage saga] - 2011/03/27 00:50:16.43 vtEFIIJ9o 235/403本当の本当にお仕舞いだ
たくさんのレスありがとなお前ら!また会おうぜ!
11111号「HTML化依頼をキャンセルしてきました、とミサカは衝撃の事実を告げます」
一方通行「なンでだよ……」
11111号「スレ結構残ってるのに新スレ立てるのも勿体無いじゃないですか、
もうここで始めちゃえば良くね?とミサカは勿体無い精神を発揮します」
一方通行「ここで始めるつっても書き溜め出来てねェからまだかなり先だぞ?
それまでろくに書き込みも無しでこのスレ残しとくのかァ?」
11111号「本格的に新シリーズはじめるまでのんびり数レス程度の小ネタでも投下して間を持たせますよ、
とミサカはその辺に抜かりがない事をドヤ顔で説明します」
一方通行「……裏話までやったのにか?」
11111号「裏話までやって完全終了宣言までしたのに厚顔無恥にも同じスレで書き込みをしようと言うのです。
罵倒の嵐が見えるようですね、とミサカは身震いします」ハァハァ
一方通行「まァ……「やらなきゃいけない」って状況に追い込まれねェとやらねェしな、作者。
とりあえずスレ立ってねェと次のSS書くのはまた年単位で久しぶり、なンて事態になりかねねェ」
11111号「そんなわけで、これから一本の話に出来なかった程度の短い小ネタをちょいちょい投下していきます。
とミサカは今後の方針を語ります。それでは小ネタ一発目をどうぞ」
― 一方通行宅
11111号「一方通行一方通行、」
一方通行「あァ?」
11111号「ミサカの携帯知りませんか?とミサカは可愛らしく首を傾げて尋ねます」
一方通行「なンで俺がオマエの携帯の在り処知ってなきゃいけねェンだよ」
11111号「『知らない』の一言でいいのにどうしてそんなに長ったらしく喋るんです?
そういう無駄に気取った喋り方が童貞っぽいんですよ、とミサカは溜息を吐きます。
このコミュ障が!」
一方通行「オマエにだけはコミュ障とか言われたくないンですけどォ!」
11111号「失礼な、ミサカには少なくとも20000人を超える友人がいるというのに!とミサカは憤慨します」
一方通行「……妹達って友達感覚なのかよ」
11111号「こまけぇこたぁいいんですよ、それより携帯です、とミサカは話題を戻します」
一方通行「そもそも持って来たのかァ?」
11111号「無論です。携帯弄りながらここに来ましたから、とミサカは肯定します。
あなたは頻繁にミサカの携帯を破壊するんで、あなたがどっかに隠したのかな、と……」
一方通行「自業自得って言葉知ってますゥ?壊されたくないンならそろそろ学習してくださァい」
11111号「あなたこそ学習してください、携帯は壊す物ではありませんし、
何度壊されようが経費で落ちるから無駄なことなのです
とミサカは懲りない一方通行に頭を抱えます」
一方通行「懲りねェのはオマエだよ!!いい加減俺の声編集して保存すンのやめろ!!
つーかオマエ俺の声着信音にしやがっただろうが!!」
11111号「いやぁ、街中で00001号から電話があって、大音量で
『打ち止め、愛してるぞォ!!』って着信音が流れた時は思わず吹き出してしまいましたよ、
とミサカは思い出し笑いをします」クククク
一方通行「笑えねェ!全く笑えねェ!!悪質過ぎンだろオマエ!?」
11111号「ハッキングかけて常盤台の全生徒の着信音を『ジャッジメントですの(キリッ』
に変更したあなたが言いますか、とミサカは自分の事を棚上げする一方通行を白い目で見ます」
一方通行「白黒は世間体も何もあったモンじゃねェからいいンだよ、俺は第一位としての立場があるだろ!」
11111号「ま、あなたの立場なんてどうでもいいですし、それよりミサカの携帯鳴らしてもらえませんか?
とミサカは一方通行に携帯探索の協力を要請します」
一方通行「あァ?オマエの番号なンざ知らねェよ」
11111号「む、そういえば教えていませんでしたね、うっかりでした
とミサカはペロッと舌を出して自分の頭を小突きます。テヘ」
一方通行「一挙一動がムカつくなオマエ……オラ、かけてやるから番号教えろ」
11111号「えぇー、あなたに教えると夜な夜な卑猥な電話がかかってきたりしそうでちょっと……」
一方通行「なンなのオマエ。死ぬ?死ぬの?」
11111号「冗談はさておき、×××-××××-××××ですよ、お願いします
とミサカはそろそろ真面目に携帯を見つけたいのであっさり番号を教えます」
一方通行「×××の……」
<ピリリリリ♪
一方通行「チッ、悪ィ、丁度電話かかってきやがった。オマエの方にかけるのはちょっと待ってくれ」
11111号「仕方ありませんね、とミサカはタイミングの悪い電話相手に舌打ちします」チッ
一方通行「この番号誰だっけェ?……もしもし」ガチャ
『よう、一方通行ァ!』
一方通行「……春日部でリーマンでもやってろボケ」ブチッ
<ツーツーツー
11111号「良かったんですか切っちゃって……つーか春日部でリーマン?」
一方通行「気にすンな、声が似てンだよ」
11111号「あーうん、あの人ですか、とミサカは納得します」
一方通行「そンじゃ今度こそオマエの携帯にかけるぞ」ポチポチポチ
11111号「お願いします、とミサカは頷きます」
<育ってきぃたぁ環境がちぃがうかぁらぁ 好きぃ嫌いは否めなぁいぃ~♪
一方通行「……」
11111号「あっ」
<夏がダァメェだったり セロリが好ぅきぃだったり するのぉねぇ~♪
一方通行「……そこのソファの下だ、取れよ」
11111号「御意、とミサカは手を伸ばします」モゾモゾ
<ましてや男と女だからぁ~ 擦れ違いはsプツン
11111号「確保しました、とミサカは携帯を握り締めます」
一方通行「……なンか言うことは?」
11111号「ありがとうございました、とミサカは深々と頭を下げます」
一方通行「そうじゃねェよ!!なンだそのふざけた着メロは!?どンだけ俺にイヤガラセしてェンだよ!!」
11111号「あ!?セロリ名曲だろうが!!とミサカは逆ギレして誤魔化そうとしてみます」
一方通行「うるせェンだよこのボケがァァ!!!」バキィ
11111号「あぁ!!ミサカの携帯Mk-Ⅳが!!」
一方通行「はァ?妹達の素行が悪くなってるだァ?」
『そうなのよ、困った話だと思わない?』
知り合いの女ニートからかかってきた電話に出た一方通行は、挨拶もそこそこにとんでもない話を聞かされていた。
何でも、近頃研究所に住んでいる一部の妹達の行いが目に余るほど酷いらしい。
以前は従順だった彼女達が、最近は何かにつけて反発し、更には様々なイヤガラセを駆使して
研究員達を笑い者にしているというのだ。
一方通行「最近研究所に顔出してなかったが、そンなことになってやがったのか」
『私も昔の同僚に話を聞かされて驚いたわ』
電話の相手―かつて研究所で働いていた芳川桔梗はどことなく楽しそうに話を続ける。
『今はまだ被害を受けているのが主に天井だから良いけれど、今後被害が拡大するようなら困ったことになるわ』
一方通行「ンでェ?ニートさンは俺にその話をしてどうしてェンだ?」
『私はニートじゃないわ、今は時期が悪いだけよ』
一方通行「言い訳にすらなってねェよクソニート」
『もう一度言っておくけどニートじゃないわ。それに、私がこうなっているのは
あなたが一度研究所を壊したからなのよ?』
一方通行「俺が研究所ぶっ壊すハメになったのはオマエ等が俺に
チャチな仕返ししやがったせいだけどな」
『それを言うなら、そもそもあなたが最初から他人にイヤガラセをしなければ良かったんじゃないかしら?』
一方通行「口の減らねェニートだなおい、じゃァ何か、俺は大人しく妹達を虐殺しとくべきだったのか?」
『うーん……今にして思えばその方がよかったかも知れないわね』
一方通行「……そンなに酷ェのか?」
『聞いた話だけれどね、反抗期、で片付けるには少しばかり度を越しているみたいよ。それに、』
一方通行「それに?」
『あなたが妹達に指示を送ってイヤガラセをさせているんじゃないか、って話も出てきているらしいわ』
一方通行「なァンだそりゃ、どォして俺がそンな面倒な事しなきゃならねェンだよ」
『さぁ?けれど、実際に妹達はあなたが過去にやってきたイヤガラセをなぞる様な真似をしているみたいよ?』
一方通行「それで短絡的に俺の差し金だって話になってンのか?うざってェ……」
『とにかく一度研究所に顔を出してみたらどうかしら?私は行かないけど』
一方通行「死ねクソニート」
『何度も言うようだけどニートじゃn』ブツン
一方通行「うるせェ」
ニートとの会話を一方的に切り上げ、一方通行はゴロンと自室のソファに横になり、
チッと不機嫌そうに舌打ちを零すと、一応先程の件について思考を巡らせ始める。
『素行が悪い』『イヤガラセを行う』という二点から、彼は真っ先にとあるミサカの事を思い浮かべる。
検体番号11111号。性質の悪さで彼女の右に出る妹達は他にいないだろう。
しかしすぐに腑に落ちないものを感じ、ふるふると首を横に振った。
一方通行(アイツは俺が過去にやったイヤガラセの猿真似なンかで満足するようなタマじゃねェ)
一方通行は妙なところで11111号に信頼―というか共感を抱いている。
彼女は自分と同じく、イヤガラセに関して独自の美意識、プライドを持っている数少ない人間だ。
そんな11111号が、過去に一方通行の行ったイヤガラセをそのまま他の人間に行うなどということは考えづらい。
そもそも彼女は一方通行含むごく近しい間柄の相手以外にはほとんどイヤガラセを行わないのだ。
一方通行(とすると……俺に対して恨みを持ってる妹達が俺に罪を着せようとしてンのか?
それとも俺や11111号に感化されて性格が悪くなったヤツがいンのか……)
なんにせよ、ここで考えるだけでは答えは出そうに無い。
彼はめんどくさそうにソファから身を起こすと、ぐっと背伸びをし、身体に活を入れる。
一方通行「面倒だが行ってみるか……」
妹達の素行不良も、研究員達がイヤガラセを受けている事もどうでもいい、
ただし、そんなどうでもいい事で自分があらぬ疑いをかけられるのは気に喰わない。
散々疑われるような真似をしていながら、彼は自分が濡れ衣を着せられるのが大嫌いなのだ。
更に、自分の猿真似をされているというのも腹が立つ。
一方通行「っと、行く前に情報収集しとくかァ」
思い出したように呟き、携帯電話を操ると、彼は先日登録したばかりの番号に電話をかける。
彼女ならば今の状況を把握しているだろう。もしかしたらわざわざ研究所に行かなくても済むかもしれない。
そんな淡い期待を抱いていたのだが電話は繋がらず、無情にも留守電メッセージが流れ始めた。
『こちらミサカ11111号です。ただ今留守にしております。
御用の方はミサカの「モヤシ(裏声)」という掛け声の後にメッセージを』ブツン
一方通行「あンの野郎、こンな所でも俺をイラつかせやがンのか……」
悪意を感じる留守電メッセージに苛立ちつつも、一方通行はハァと溜息を吐き、
携帯電話を懐にしまった。非常に面倒ではあるが、やはり直接研究所に行かなければならないらしい。
一方通行「……イヤガラセをしていいのはイヤガラセをされる覚悟のあるヤツだけだ」
調子に乗っている妹達に軽いお灸を据えるために、彼は部屋を飛び出した。
―――――――――――――――
―――――――――
――――
―研究所前
一方通行「ここに来ンのも久々だなァ」
研究所を前に、一方通行は感慨深げに声を漏らす。
以前は毎日のように研究所でコーヒーを飲んでいたのだが、研究所が破壊され、
その習慣が一旦途絶えてしまってからは、復旧後もなんとなく研究所に足を運ばなくなってしまったのだ。
一度途絶えてしまった習慣を再び始めるのにはかなりのエネルギーが必要なのである。
加えて、ちょくちょくと彼の家に顔を出しに来る妹達がいるので、
わざわざ暇潰しに外に出る必要がなくなったというのも大きな理由の一つだろう。
一方通行「とりあえず適当な妹達ふン捕まえて事情を聞いてみるとすっか……ン?」
キョロキョロと周囲を見回していた彼の視界に、見知った男が駆け寄ってくる姿が映る。
一方通行が今日この時間に研究所を訪れるという事など誰も知らないはずなのだが、
その男―天井亜雄は何処からか一方通行の事を嗅ぎつけ、真っ先に彼の元へ駆け寄ってきたのだ。
一方通行「げェ、面倒なのが来やがった……」
天井「お久しぶりです、一方通行様」
かつてボサボサに伸び放題だった鬱陶しい髪は短く整えられ、
卑屈そうに歪んでいた顔には爽やかな笑みが浮かび、
薄汚れていた白衣は純白に磨かれ、センスの良い小物類で飾られている。
初代スレで一方通行の指導により爽やか男子に生まれ変わった新生天井は、
とびきりの笑顔で主である一方通行を迎えた。
天井「本日はどうしてこちらに?実験を行う気になっていただけたのですか?」
一方通行「違ェよ、ちっと妹達の様子見に来ただけだ」
相も変わらず、今になっても一方通行に実験をさせたいらしい天井に辟易しつつ、
一方通行は簡潔に訪問の目的を告げる。
天井「妹達の様子と言いますと?」
一方通行「芳川から聞いたンだけどよォ、最近随分調子に乗ってるらしいじゃねェか」
天井「全く芳川め、余計なことを……一方通行様、確かに最近一部の妹達の行いは目に余る物があります。
しかし、全ては私どもの管理不行届が原因、あなた様が頭を悩めるような問題では……」
一方通行「そォも言ってられねェよ、アイツ等の素行が悪いのは俺が裏で糸引いてるから、なンて噂があンだろ?」
天井「根も葉もないデタラメです!一部の心無い研究者が囁いているだけのこと!!
私を含め、多くの研究者達はあなたを信じております!!」
一方通行「あァうン、どォも……」
真摯に見つめてくる天井に思わずたじろぐ。自分でやっておいてなんだが
こんな天井は心底気持ち悪い。一方通行は最上級の顰めっ面でぞんざいな返事を返した。
一方通行「……まァ来ちまったモンはしょうがねェだろ、ちょっと中の様子見せてもらうぞ
それと、オマエはもう出てくンな、マジきめェから」
天井「これは手厳しい、しかしあなたがそれを望むと言うのなら……」
ぺこりと一礼し、天井は研究所の中へ消えていく。
一方通行(会話するだけで疲れンのは11111号と第七位と天井くンくらいなモンだな……)
そんなことを思いつつ、一方通行は心底疲れた表情でそれを見送った。
他の二人はともかく、天井くンがこうなっているのは他ならぬ一方通行のせいだというのに。
―研究所内、廊下
一方通行(さて、どっかに手頃な妹達でも落ちてねェか……)
研究所の廊下を歩きつつ、彼は猛禽類を思わせるような目付きで事情を知っていそうな妹達を探す。
そして不幸にも、丁度研究所の一室から出てきた一人の妹達が、彼の目に留まった。
「げ!一方通行!!とミサカは露骨に一方通行から距離を取ります」
妹達の方も一方通行に気付いたらしく、彼女は乏しい表情の中で精一杯の嫌悪を浮かべ
一方通行と目を合わせたままジリジリと後退する。
山中でクマなどの猛獣に出会った時の対処法そのままである。
一方通行「別に取って喰おうってわけじゃねェンだ、そォ警戒すンなよ」ククク
そんな彼女の対応が面白くて仕方が無いと言った顔で、
一方通行はくぐもった笑いを零しながら距離を詰める。
ゆっくりと迫ってくる彼の姿を前に、彼女の表情は嫌悪から恐怖へと摩り替わっていた。
「な、何をしにきたと言うのですか?とミサカは震えながら尋ねます」
一方通行「あー、その前にオマエ検体番号は何番だ?」
「んな!?」
一方通行が検体番号を尋ねた途端、その妹達は恐怖の表情から一転、怒りの表情で
逆に一方通行に詰め寄ってきた。予想外の反応に一方通行は若干ではあるがたじろぎ、半歩後ずさる。
「あれだけの事をやっておいて未だにこのミサカの検体番号すら覚えていないというのですか!
とミサカは物覚えの悪い一方通行に人差し指を突きつけつつ詰問します」
一方通行「お、おォ?」
00001号「00001号です!00001号!このミサカの検体番号は、あなたが散々弄んだ00001号ですよ!
とミサカは散々玩具にされた挙句忘れ去られていたことに地団駄を踏んで怒ります」
一方通行「……なンだ、元アホ毛か」
00001号「アホ毛言うなクソモヤシが!とミサカは反省の色が全く見えない一方通行を罵倒します」
もったいぶった割りには結局取るに足らない検体番号のヤツだったな、と一方通行は失礼な事を考え始める。
目の前では00001号がまだ何かわめいているが彼の耳にはそんな戯言は一切入ってこない。
一方通行(だが、こいつは好都合だなァ)
もし妹達が自分に罪を着せる為に、恨みを晴らす為に今回の一件を起こしているのなら、
妹達の内で最も自分を恨んでいるであろう目の前の00001号は確実に何か事情をしっているはず。
それどころか首謀者かもしれない。ここでサックリとスピード解決も有り得るわけだ。
00001号「そもそもあなたはミサカがどれほど髪型に気を使っていると……」
一方通行「おい00001号」
00001号「はい!?」
文句を言い続けていた00001号の言葉を、一方通行は身を乗り出して制止する。
00001号は突如身体を寄せてきた彼から咄嗟に身を引き、
まだまだ言い足りない、という表情で一方通行を睨みつけた。
00001号「な、なんですか、とミサカは若干身の危険を感じつつも強気な姿勢のまま一方通行に尋ねます」
一方通行「最近一部の妹達の素行がやけに悪ィって話は聞いてるか?」
00001号「ほう、そういえばそんな話もありましたね。裏であなたが操っているという噂でしたが?
とミサカは含み笑いをしつつ堪えます」
一方通行「何か知ってやがンな?俺が優しく聞いてるうちに洗い浚い喋っといた方が身のためだぜ?」
00001号「フフン、自分が罪を着せられているのが気に喰わなくてわざわざ研究所に顔を出したというわけですか
残念ながらこのミサカは何も知りませんし、知っていたとしてもあなたに教えるような義理はありませんよ、
とミサカは日頃の行いが悪い一方通行を嘲笑います
そうですね、今までの態度を詫びると言うのであれば話してあげないこともないですが……」
一方通行「……悪かった」
00001号「えっ」
迷うことなく深々と頭を下げる一方通行の姿に、00001号は困惑する。
傲岸不遜、傍若無人を地で行くようなこの男が謝罪の言葉を口にするなど、全くの予想外であった。
00001号「え、ちょ、えぇ!?本当に謝ってる!?とミサカは驚愕します」
一方通行「俺もオマエにはちょっとやりすぎたと思ってたンだよ
けど、オマエの反応があンまり可愛いモンでつい、な……」
00001号「うぇ、可愛、ええええ!?」
一方通行「本当に悪かった、少しでもオマエを構いたかったンだ」
00001号「ふええ……」
00001号(こ、これはまさかあれでしょうか、好きになった女の子についイジワルしちゃうとかそういう……
いやいや騙されては!こいつはたくさんの妹達の心を弄んだゲス野郎じゃないですか!
で、でもこの真剣な眼差しは嘘を吐いているようには、とミサカはぁぁぁ……)
一方通行(学ばねェなァコイツ……)
顔を真っ赤にし俯く00001号に、一方通行は哀れみ半分の馬鹿にした視線を向ける。
ご存知の通り、彼は乙女心を踏みにじることに一切の躊躇を持たない外道である。
彼は自分の行動に罪悪感を全く持たない。他人の尊厳を蹴散らすことに迷わない。
それ故、その瞳は常に身震いするほど美しく、その視線はどこまでも真っ直ぐなのだ。
一方通行「……なァ00001号、俺は今困ってンだ、何か知ってたら教えてくれねェか?」
00001号「ひゃい!」ビクン
俯いたままの00001号の頭にポンと手を置き、わしゃわしゃと彼女の頭を撫で回しながら
一方通行は母性本能をくすぐる様な甘ったるい困り声で尋ねる。
一方通行「この件さっさと解決したらよ、オマエと一緒にやりたいことが山ほどあるンだ
だから、な?知ってることを話してくれ」
耳元に口を寄せ、誘惑するように囁く。ようやく顔を上げた00001号の目は既に蕩け切っており、
完全に陥落しているのは誰の目にも明らかだった。
00001号「あ、あの一方通行、とても言い辛いんですが、このミサカは本当に何も知らないんですよ
とミサカはしょんぼりとしながら答えます」
一方通行「……あァ?」
00001号「今回の一件、このミサカは全く噛んでいないのです
MNWを検索してみても巧妙に偽装されているようで、ほとんど情報が出てこないのですよ
とミサカは期待に添えないことを申し訳なく思いながら説明します」
一方通行「……なァンだそりゃ、ここまでやらせといて情報無しかよクソ」
00001号「えっ」
一方通行「MNWにも情報がねェってのは厄介だな、関わってる妹達を直接捕まえなきゃならねェのか?
チッ、めンどくせェ……」
00001号「あ、一方通行……?」
一方通行「あァ?オマエはもォいい、何処へなりと消えちまえ」
00001号「え?え?」
一方通行「それとその頭のモノはプレゼントだ、大切にしろよォ?」クククク
00001号「えええええええ!?」
さっさと歩いて行く一方通行を見送りながら自分の頭に手をやり、00001号は驚愕の声を漏らす。
彼女の頭に、地獄の番犬のごとく三本のアホ毛がそびえ立っていた。
―――――――――――――――
―――――――――
――――
―研究所内、とある一室
一方通行「あァクソ、マジでだりィ……」
00001号と別れた後、一方通行は妹達を捕まえては尋問するという行為を数回繰り返して来たが
やはり有益な情報は得られず、手近なところにいた研究員達に問い質しても
皆口を揃えて素行の悪い妹達の検体番号は把握できていないと言う。
いい加減飽きてきた一方通行は自販機で缶コーヒーを買うと、適当なところに腰を下ろし
一先ず休憩をとることにした。
一方通行「ふゥ……もォ帰っちまうか……」
コーヒーを飲み干し、一息つく。成果が上がらないことにイラ立ちを覚えながら、
もう面倒なので引き上げてしまおうかとも考える。
今日この研究所で彼がやったことといえば00001号の頭にアホ毛を作ったことくらいだ。
一方通行「ンお?」
コーヒーの空き缶を弄びながら、忙しく働く研究員達を眺めていた一方通行の視界の隅に
コソコソと怪しい動きをする妹達の姿が映る。その妹達はパチパチと両手に電気を溜めると
周囲を窺いながらこっそりと一人の研究員(あ、あれ天井だ)の背後に近付いていった。
一方通行(アイツ、まさか……)
「そぉい!!」バリバリバリ
天井「ぐああ!?」
予想通り、彼女は背後から天井の頭を鷲掴みにし電撃を流す。
突然の事にビクンビクンと痙攣する天井がようやく解放された時には、プスプスと煙を立てる彼の頭部に
出来損ないのアホ毛のようなものが数本出来ていた。
天井「」プスプス
「うーん、やっぱりレベル2程度の電撃では上手く出来ませんね、とミサカは肩を落とします」
一方通行「テメエかァァァァ!!!!」
「!!」
ようやく見つけたこの一件の関係者と思しき妹達に、一方通行は歓喜の声を上げる。
突如死角から投げつけられた声に、天井の頭で試行錯誤を繰り返していた彼女は
ビクリと身体を震わせると、一方通行の方を確認もせずに素早く逃げ始めた。
一方通行「チッ、野郎逃げ慣れてやがる!」
声だけで一方通行のある程度の位置を把握し、障害物を撒き散らしながら
最短ルートで部屋から逃げていったその妹達のあまりの手際の良さに一方通行は顔を顰める。
しかしようやく見つけた手掛かりをここで逃がすわけには行かない。彼は障害物など意に介さず
全てを反射し、破壊しながら一直線に彼女の後を追った。研究員達大迷惑である。
一方通行「オラァ!!」
ドアを開ける手間さえ惜しんだ一方通行は問答無用で壁ごとドアを破壊して廊下に飛び出す。
視線の先の逃げて行く妹達がその轟音に反応し、ようやくチラリと彼の方を確認する。
ここに至りようやく確認できた彼女の顔に浮かんでいる表情は驚愕でも恐怖でもなく――
一方通行(笑ってやがるだと……?)
全て計算通りだ、と言わんばかりの、挑発するような微笑。
その真意を測りかね、一瞬動きを止めた一方通行を尻目に、
彼女は廊下の先にある部屋の中へと姿を消して行った。
一方通行(……何を企ンでやがる?イヤ、何を企ンでようが知ったことじゃねェ
逃がして堪るかよ、たっぷりと礼はさせてもらうぜ)
彼女の消えていった部屋に入るかどうか一瞬迷う一方通行だが、すぐに思い直し部屋のドアノブに手をかける。
ここで逃がしてしまえば本当に今日研究所まで足を運んだ意味がなくなってしまうし、
それにどのような企みをしていようが、妹達の浅知恵で一方通行をどうこう出来るとも思えない。
それでも彼は、細心の注意を払いつつドアを開き、そっと中の様子を窺った。
一方通行「な、なンだこりゃ……」
部屋の内部を確認した一方通行は絶句する。その部屋には所狭しと、数百体はあろうかという
ガンプラの群れが飾られており、部屋の中央では一人の妹達が真剣そのものといった表情で
更に新しいガンプラを組み立てていた。
一方通行(1stから00、ユニコーンまで……何体あるンだよオイ)
「おや、あなたは一方通行ではありませんか、とミサカは作業を中断して意外な闖入者に目を丸くします」
ガンプラを組み立てていた妹達がようやく一方通行に気付き、バリ取りの作業を止め
床に腰を下ろしたまま彼を見上げる。反応から察するに、どうやら今まで追い掛け回していた妹達とは別の個体のようだ。
「実際に会うのは始めてですね。はじめまして一方通行、ミサカは検体番号13577号です
とミサカはにこやかに挨拶をします」
一方通行「お、おォ……このプラモ、全部オマエが作ったのか?」
13577号と名乗った妹達を見るよりも先に、どうしても部屋に飾られているガンプラに目が行ってしまう。
彼とて年頃の男の子である。かっこいいロボットが嫌いな男子なんていません。
13577号「その通りです、凄いでしょう?とミサカは胸を張ります」フン
一方通行(ガンダムシリーズ以外のプラモは一切無し、生粋のガノタかコイツ……)
そういえば少し前に11111号が『妹達はクローンという立場上表立って外を歩けないので
どうしても趣味が屋内で時間を潰せる物に偏ってしまう』などと語っていた気がする。
それにしてもこのプラモデルの数はちょっと異常だろう。
というか研究所の一室を勝手に占拠してしまっていいのだろうか?
13577号「フフ、研究所をガンプラで占拠しちゃって大丈夫なのか、と聞きたいのでしょう?
とミサカはニュータイプ能力を発揮して一方通行の思考を先読みします」
一方通行(あ、こいつ気持ち悪いタイプのガノタか。アニメキャラに自己投影しちゃったりするタイプか)
13577号「なぁに簡単な事ですよ。研究員のほとんどは男、そして男はみんなガンダム大好き!
それだけの事です、とミサカは簡潔に説明します
休憩がてらここでプラモを眺めていく職員も多いんですよ」
一方通行が引き気味になっているのに気付きもせず、13577号はしたり顔で説明をする。
自称ニュータイプが聞いて呆れるというものだ。
一方通行「……まァそれはわかったからよ、ちょっと聞きてェ事があンだが」
13577号「わかっていますよ、先程この部屋に飛び込んできた個体の事でしょう?
とミサカは再び先読みします。見える、見えるぞ……」
一方通行「(うぜェ……)で、ここに飛び込んできたヤツは何処に行ったンだ?
オマエってわけじゃなさそうだが」
13577号「彼女ならあっちのドアから出て行きましたよ、
とミサカはあなたが入ってきたのとは別のドアを指差します」
一方通行「何処に行ったか分かるか?」
13577号「無理難題をおっしゃる、いくら妹達同士といえど、いえ、ニュータイプといえど
何でもわかるというわけではないんですよ、とミサカは首を横に振ります」
一方通行「(マジうぜェ……)じゃァアイツの検体番号教えろ、それくらいならわかンだろ」
13577号「そうですね、彼女の検体番号は把握していますが……
お断りします、とミサカは両手で大きくバッテンを作ります」
一方通行「あァ?」
13577号「このミサカが仲間の情報を素直に売り渡すように見えるのですか?見縊られたものですね
とミサカは一方通行から滲み出る悪意を敏感に感じ取ります」
一方通行「ほォ、言うじゃねェか。俺に歯向かうってのがどォ言う事かわかってンだろォなァ?」
13577号「脅しは聞きませんよ?命なんて安い物だ、特にミサカのはな!
とミサカは単価18万円であることを名言を交えて自虐してみます」
一方通行「心配すンな。俺もよ、暴力振るうってのは性に会わねェンだよ……だからなァ」
13577号「!!」
ニタリと笑い、一方通行は無造作にその右手を伸ばし、近場にあったプラモを適当に掴む。
彼の手に鹵獲された機体、それは1/100オーバーフラッグであった。
13577号「な、何を!?」
一方通行「こうすンだよォォォ!!!!」メキメキメキ
13577号「ハワード・メイスゥゥゥゥゥン!!!!!」
劇中で死亡したフラッグファイターの名を叫び、
13577号は躊躇無くフラッグを握り潰した一方通行を驚愕の表情で見つめる。
MNWで一方通行の外道っぷりを知ったつもりになっていた13577号であったが、
実際に彼からの被害を受けたことの無かった彼女の認識はまだまだ甘く、
まさかここまでやられるとは思っていなかったのだ。
一方通行「どうだ?話す気になったかァ?」ケラケラ
13577号「おのれぇぇ!!許しませんよ一方通行ァァァ!!」
一方通行「許さなきゃどうするってンだ?所詮レベル2程度のテメエが、
学園都市の頂点であるこの俺をどうしてくれるってンだァ!?」
13577号「……どれ程の性能差であろうと!!」
一方通行「あ?」
13577号「今日のミサカは、阿修羅すら凌駕する存在d、あ、やめてサザビーに手を伸ばさないで
そのサザビー自信作なんですデカールとか凝ってるでしょやめてくださいやめて……」
一方通行「ふン」バキバキィ
13577号「大佐の命がああああああ!!!!」
目の前で粉々に破壊されていくサザビーを前に、13577号はよろよろと泣き崩れる。
例え数百体のガンプラを所持していようと、一体一体が疎かにされているわけではない。
どれもこれも、彼女が作品への愛を語りながら丹精込めて作った力作なのだ。
その会心の出来のプラモは、既に二体も目の前にいる白い悪魔の手により粉々に、
というかベクトル操作を用いて粉末レベルまで分解されてしまっている。
13577号「酷いです、酷すぎます、こんなこと……」
一方通行「そろそろ喋って楽になれよ、俺もガンプラぶっ壊すのなンて心苦しいンだぜェ?」ククク
心苦しい、と言いつつも笑い声を漏らしながら、一方通行は更に次の獲物を物色し始める。
その彼の目に、一際作りこまれた、飾り方からして他とは一線を画している緑色の機体が映ると、
彼は躊躇無くそれに手を伸ばした。
13577号「そ、それは!?」
NZ-666 クシャトリヤ、登場作品:ガンダムUC。
クローンの強化人間であるマリーダ・クルスの駆るその機体は、パイロットの生い立ちも含め、
13577号が特に強く感情移入しているお気に入りであった。
そのクシャトリヤが今、ユニコーンガンダムを思わせる真っ白い少年に捕獲されていた。
13577号「お、おのれ白い悪魔めぇぇ!!」
一方通行「わけわかンねェこと言ってっとコイツも砕いちまうぞ?」
13577号「ひいいいい!!何でも話します!話させてください!!とミサカはああああ!!!」
一方通行「よしよし良い心掛けだなァ?それじゃ聞いてやるよ」
13577号「ハァ、ハァ……あの、あの個体はどうやら三階の物置部屋に隠れているようです、とミサカは……」
一方通行「ン?」
13577号「へ?」
一方通行「オマエさっき『何処行ったのかはわからない』つったよなァ?」
13577号「え、はい言いましたけどこれは今MNWで調べた情報で……」
一方通行「つまりオマエは俺に嘘を吐いたンだな?」
13557号「え……え?」
一方通行「嘘吐きにはァ……お仕置きが必要ですよねェ?」ニタァ
13557号「ちょ、待ッ!!今調べたんだって!!ねえちょっと聞いて!!
お願い手を離して!やめてやめてやめてええええ!!とミサカは……」
一方通行「オラ」ゴキゴキゴキィ
13557号「あひいいいいいい!!!!!」
目の前で最愛の機体まで破壊され、ついに13557号は白目を剥き気絶してしまう。
一方通行はその様子を満足気に見つめると、やがて口に手を当て、笑い声を漏らしながら部屋から出て行った。
一方通行「さて、後は物置に隠れてるとかいうクソボケだけか
検体番号聞き忘れちまったが、まァいいか……ン?」
三階に向かおうとしていた一方通行の懐で、マナーモードにしてあった携帯がブルブルと震えた。
しばらくしても震えが止まらないので、どうやらメールではなく電話のようだ。
一方通行はめんどくさそうに懐から携帯を取り出し、ディスプレイに表示された番号を確認する。
一方通行「……11111号?今更なンだってンだクソ」
―――――――――――――――
―――――――――
――――
―研究所三階、物置部屋
「いいぞ、全ては計算通りです、とミサカはニヤつきます」
三階の物置で、その個体はニヤニヤと笑みを浮かべていた。
13577号が撃沈されたという事も、一方通行がここに向かってきているという事も
既に彼女はMNWを通じて知っており、それでもなおこの場を動こうとはしない。
彼とこの部屋で二人きりになる。それこそが彼女の真の目的だからだ。
「もうすぐここに一方通行が、イヤ……」
「セロリたんがくる!とミサカは高鳴る胸の鼓動を抑えきれずに……ハァァァン」
彼女の検体番号は20000。何故か一方通行に一目惚れした、全ミサカ最高の変態である。
今までタイミング悪く、中々一方通行と直に接触する機会が無かった彼女が考え付いたのが今回の騒動だ。
わざと一方通行の気分を害すような真似をしていたのは全て彼を誘き寄せるためである。
一方通行はまんまと20000号の策略に乗り研究所を訪れ、そして今、彼女の待つ狭い物置部屋を訪れようとしている。
20000号(きっと今のセロリたんは怒り心頭でこのミサカの事しか考えていないでしょう
あぁ、独り占めしてる気分、とミサカは幸せ一杯の気分で悶えます)
20000号(この狭い空間で「オマエにはお仕置きが必要だなァ」なんて押し倒されちゃったり
「そンなに俺の猿真似がしてェンなら手取り足取り教えてやるよォ」なんて言われちゃったり
いや、いっそマジギレしたセロリたんの残虐リョナプレイというのも……)
20000号(なんだかムラムラしてきたぞ!!フンッ!フンッ!…フッ……フンッ…)
とまぁこういう個体である。全盛期の白井黒子とも張り合える逸材だろう。
20000号(ふぅ……攻められるのもいいけど強気なセロリたんを攻めるっていう
シチュエーションにも憧れるよね!我慢できなくて黒い翼出しちゃうセロリたんマジ堕天使!!)
20000号(それで、黒ずんだ翼を撫でてるうちに真っ白い翼に変化するんだよ!セロリたんマジ変幻自在!!
やっべ、また興奮してきた……フンッ!フンッ………)
※何をしているかはご想像にお任せいたします。多分煩悩を追い出すために素振りでもしてるんだよ?
――――――――――――
20000号「……来ない、とミサカは物置で不眠不休の一晩を過ごしたことを独白します」
何故誰も来なかったのに不眠不休なのか、それもご想像にお任せする。
20000号「流石はセロリたん、なんともハードな放置プレイですね!
惚れ直したぜ!とミサカは新しいネタをゲットしたことに喜びを感じます」
20000号(でもやっぱり直に会いたかったな、こうなったら直接家に押し掛けるか!
しかし何故かこのミサカには誰もセロリたんの家の所在地を教えてくれないんだよなぁ
とミサカは心の狭い妹達や研究員に憤慨します。ちくしょうめ)
20000号(あの幼女(上位個体)も一方通行に関する情報にMNWで制限かけたりしてこのミサカの邪魔をするし……
まぁ障害があるからこそ燃え上がるんですけどね?縛りプレイって素敵やん?
とミサカは……うぅ、燃えてきた!!※以下自主規制)
11111号(ハローハロー20000号、聞こえますか?とミサカ11111号はMNWを通して変態に問いかけます)
20000号(む、取り込み中だというのに……セロリたんを独占してるうらやましいヤツが何のようだ!
とミサカ20000号は敵意を剥き出して答えます)
11111号(ククク、愛しのセロリたんに会うことは出来ましたかぁ?とミサカ11111号は訳知り顔で尋ねます)
20000号(!? お前かぁぁぁ!!!セロリたんがこの部屋に来ないように仕組んだのはぁぁぁ!!!
返せ!セロリたんとペロペロするはずだった時間を返せよう!!とミサカ20000号は怒りに震えます)
11111号(さて、何の事かわかりませんね、とミサカ11111号は首を横に振ります
このミサカが知っていることはたった一つ、)
20000号(……?)
11111号(一方通行があなた秘蔵の一方通行グッズを隠している部屋に向かって行ったということくらいです
とミサカ11111号は笑いを噛み殺しながら情報提供をします)
20000号(き、貴様あああああああ!!!!!)
11111号(怒鳴る暇があるんならさっさと確認しに行った方がいいんじゃないですか?
とミサカ11111号は笑いながら20000号を促します)
20000号(く!!無事でいてくれ、隠し撮りしたセロリたんの写真集!録音した音声!こっそり拾い集めた髪の毛!
全財産を投げ打って作ってもらった等身大セロリたんドール!!)
―研究所内、とある一室
20000号「NOOOOOOO!!!」
部屋の中の惨状に、20000号は頭を抱えて蹲った。写真集も、音声テープも、拾い集めた髪の毛も
等身大ドールすら、原形が分からないほどに滅茶苦茶に破壊されていたのだ。
彼女がこれまで命がけで集めてきた一方通行グッズは、僅か一晩で灰燼に帰したのである。
その姿はさながら、ヴェスヴィオ火山の噴火により一夜にして滅んだ古代都市ポンペイを思わせるものだった。
11111号「他人の遊び道具に手を出そうとするからそうなるんですよ、
とミサカは蹲っている20000号を見下ろしながら話しかけます」
いつの間にか背後に立っていた11111号が、99%の悪意と1%の哀れみを持って20000号に話しかける。
しかしその声は20000号には届いていないようで、彼女はふるふると震え続けていた。
11111号「ほら、何とか言ったらどうです?とミサカは……」
20000号「……せ、」
11111号「せ?」
20000号「セロリたんの匂いがする!!」
11111号「……はい?」
20000号「セロリたんの匂いが部屋中から漂ってるんですよ!とミサカは鈍い11111号に語りかけます
そっか、この部屋で少し前までセロリたんが暴れていたんですね!!
ほら、この写真とかきっと手にとって破いたんですよ?すっごい良い匂いがします!」
11111号「oh……」
20000号「うひょおおおお!!今ミサカはセロリたんに包まれてるんだ!!
ミサカはセロリたんと結婚した!結婚したぞ!!とミサカは両手を天に突き上げます」
11111号「うわぁちょっともうこいつ何言ってるかわかんねぇよ、絶対同じDNAじゃねえだろ
とミサカはグッズの残骸にしゃぶりついている20000号にドン引きします」
20000号「ふぅぅぅ、ムラムラしてきたぞ!」
11111号「うぇっ……もういい、幸せに暮らせ変態が、とミサカは…(ガシッ)おい手を離せ、何のつもりだ」
20000号「11111号からもセロリたんの匂いがする!とミサカは一方通行を独占している11111号を嗅ぎ回します」
11111号「ちょ、待て、何考えてんだやめろ!とミサカは……寄るなぁぁぁぁ!!!!」
20000号「ぺろぺろ!ぺろぺろ!!」
11111号「ああああああああ!!!!!」
―補足という名の蛇足
11111号「いい加減にしろこんの変態がぁぁ、とミサカは全力で抗います」
20000号「お前こそ大人しくこのミサカにぺろぺろさせやがれ、セロリたん成分補給させろ、
とミサカは全力で11111号に迫ります」
20000号に押し倒されるような形になっている11111号は、持てる力の全てを発揮し、
20000号の顔面を押さえ、それ以上近付かれないように抗っていた。
他方、20000号も11111号を嘗め回そうと、これまた掛値無しの本気で
顔面を11111号に向かって突き出している。
妹達最強の変態と最悪の外道、全妹達の中でもトップクラスの能力を誇る二人の力関係は
ここに至り完全に拮抗状態となっていた。当人達も気付かぬうちに。
何の能力がトップなの?という無粋なつっこみはしないで頂きたい。ノリだ。
11111号「オーケーオーケー、落ち着きなさい20000号、今度ミサカが持っている
一方通行の醜態集を貸してやろうじゃないか。だからこの場は一先ず矛を収めなさい、
とミサカは商談を持ちかけます」
20000号「セロリたんの醜態集だと?……非常に魅力的では有りますが、今この状況で
お前に付着しているセロリたん分子を諦められるほどこのミサカは我慢強くないんだよ!
とミサカは迷いながらも目の前の快楽を優先します」
11111号「一時の感情に流されやがってこのクソ変態が……とミサカは20000号を罵りながら
顔面を掴んでいる手に更に力をぉぉぉ」ググググ
20000号「なんだよ!そんなにセロリたんを独占したいのかよ!このミサカには分子一粒渡してくれないのか!
独占禁止法違反だよちくしょうめ!とミサカは独占欲の強い11111号に憤慨します」
11111号「もうそういう問題じゃねえだろ!!何処の世界に自分と同じ顔した変態に
嘗め回されそうになってるのに抵抗しないヤツがいるんだよ!?
一方通行の成分なんぞ後でいくらでも取ってきてやるからとりあえずどけ!
とミサカは話の噛みあわない20000号に辟易します」
20000号「いくらでも取って来てやるだと?何その余裕!?彼女気取りか!?
やっぱり持ってる人は言うことが違いますね!
とミサカはちゃっかりヒロインポジに納まろうとしている外道を心底羨みます」
11111号「どう言えば納得してくれるんだオマエはァァァ!!とミサカは本気で顔を顰めます」
20000号「ぺろぺろさせろつってんだよぉぉ!セロリたん成分を経口摂取させやがれぇぇ!!
とミサカは渾身の力で顔を押し付けようと……うおおおお!!!」
11111号「ぐ、ううううう!!!」
いつ終わるとも知れない一進一退の攻防が続く。
しかし互角に見えたこの争いは、現時点で一方が優位に立っていた。
20000号。押し倒す形で11111号に圧し掛かっている彼女には僅かではあるが重力という補正がかかっている。
永遠とも思えるほどの長い時間を経て、ゆっくりゆっくりと、20000号が徐々に距離を詰め始めていた。
20000号「ふひひひ!もう少し、もう少しだよセロリたん!とミサカは俄然やる気を出します!」
11111号「く、ここまでだというのか、このミサカが、とミサカは最悪のケースの覚悟を……」
「11111号~!!」
11111号「おや?」
20000号「ん?」
争いを続けていた彼女達に、というか11111号の元に、妹達の一人が半泣きで駆け寄ってくる。
ゆさゆさと、彼女の小さな頭に不釣合いなほど巨大な三本のアホ毛を揺らすその個体は
何度も何度も一方通行に騙されているのに全く学習しない、00001号その人であった。
11111号「おおう……これまたファンキーな髪型になってますね、
とミサカは20000号に抗いながら00001号のアホ毛を評価します」
20000号「こんなに芸術的なアホ毛を作るなんて、さっすがセロリたん!
とミサカは11111号に圧し掛かりながら一方通行のアホ毛テクをベタ褒めします」
00001号「うるさいだまれ!!11111号、元に戻してくれるように一方通行に交渉してくださいよぉぉ
とミサカはネコ型ロボットに頼るメガネの少年のように11111号に泣きつきます」
11111号「いくらでも交渉してやるから、とりあえずこの状況なんとかしてくれね?
とミサカはいい加減腕がガクガクになっていることをアピールします」
20000号「二対一でも負けねえし!障害が多いほど燃え上がるってもんよ!!とミサカは気合を入れ直します」
00001号「えっと、あの、ミサカはノーマルなんでそういう女の子同士の行為とか
どう手伝ったらいいのかわからなくて……」
11111号「オマエこんな時にそういう間違った天然キャラっぷり発揮しなくていいから!!
この変態どかせばいいんですよ!!とミサカは顔を赤くしている00001号につっこみを入れます」
00001号「で、でも20000号は本気みたいだし、二人の問題にこのミサカが介入するのも……」
11111号「この脳味噌花畑があああ!!!とミサカは狂った乙女思考の00001号を罵倒します」
00001号「えっ」
20000号「残念でしたね11111号!さぁ観念してこのミサカにペロられるがいい!
とミサカは不敵な笑みを浮かべ一層力を込めます」
11111号「えぇい仕方が無い、おい変態、00001号のアホ毛を見ろ!とミサカは20000号に命令します」
20000号「はい?……セロリたんらしい見事な出来栄えのアホ毛ですがそれが何か?とミサカは首を傾げます」
11111号「わかりませんか、あのアホ毛は一方通行が作ったばかりの出来立てほやほやなのですよ?」
20000号「ハッ!!ということは……」
11111号「そう、ここ何日か一方通行と接触していないこのミサカよりも、
あのアホ毛の方が一方通行の成分を多く含んでいるのは自明の理というものです!
とミサカは衝撃の事実を突きつけます」
20000号「なんてこった!11111号押し倒してる場合じゃねえ!!」
バッと11111号から飛び退き、20000号は歪な笑みを浮かべながら
00001号を(主に頭部を)嘗め回すような視線で見つめる。
イマイチ様子が把握できていない00001号も、只ならぬ雰囲気を感じ取り、
その場から離れようとジリジリ後退するが、その動きは遅すぎた。
20000号「そのアホ毛をよこせえええええ!!!」
00001号「な、なああああぁぁ!?」
野生動物のような俊敏さで、20000号は00001号に襲い掛かる。
その様子を尻目に、11111号はようやくその身を起こすと、彼女達を見向きもせず部屋から出て行ってしまう。
00001号「ちょ、11111号!!!待って!助けて!何なのこの子!?とミサカはああああ」
20000号「セロリたんセロリたんセロリたんんんんん!!!!
ああああいい匂いだよセロリたんの作ったアホ毛えええええ!!!」
00001号「ひいいいいいい!!!!」
――――――――――――
11111号「ふぅ、何とか助かりましたか……しかし、」
11111号(このミサカから一方通行の匂いがするですと?
……服はクリーニングに出そう。ゴーグルは買い換えよう。今日は一日湯船に浸かってよう
とミサカは今日一日、一方通行の匂いを消すことに専念することにします)
―一方通行宅
一方通行「あァー、最近イヤガラセがマンネリ化してきやがったなァ……」
ソファに寝そべりながら、一方通行はボソリとそんな独り言を呟く。
最近、暇な時は外にイヤガラセに出かけるよりも自室で惰眠を貪ることが多くなってきた。
それもこれも、イヤガラセの内容も、イヤガラセをする相手もマンネリ化してきているせいで、
同じようなイヤガラセをしても当然同じような反応しか返ってこないため、彼は飽き始めていたのだ。
マンネリ化するほどイヤガラセをされている被害者達の方は堪ったものではないというのに。
一方通行(何か斬新なイヤガラセはねェか……もっとこう、俺の能力を活かしたような……)
全力で自分の能力の間違った使い方を模索する。このように常に能力の応用性を高めようとする弛まぬ努力こそ、
彼を第一位たらしめている要因の一つだろう。
一方通行「……ベクトル操作で声とか変えれねェかな」
ふと思いつき、彼はソファから身を起こし軽く咽をさする。
声を使った精神的なイヤガラセ、というのは確かに今まであまりやったことが無い。
ましてベクトル操作で声質を変えてみよう、などと言う試みは始めてことであった。
一方通行「あーあーあ゛ーぁーアーアー……ン、結構行けるな」
発声練習のように声をあげつつ、ベクトル操作を用いて声の高さを調整する。
単純に声域だけならば、バリトン歌手並の重低音から最高音のホイッスルボイスまで自在に出せるようだ。
とはいえそれだけで満足するような一方通行ではない。
カラオケならばどんな歌でも歌えるほど声の幅は広がったが、それではまだ足りないのだ。
最終目的は他人の声を自由自在に出すことである。それこそ某探偵漫画の蝶ネクタイ型変声機のように。
一方通行は更なる高みを目指し、歌手に憧れる少女の如く発声練習を続ける。
一方通行「あーあーアー、クソ、もっと客観的に自分の声を聞かねェと難しいか……
そォいや、バケツ被ったり風呂で歌ったりすると自分の声を意識出来るとか聞いた事あンな」
妙なところで博識な彼は、それならばと場所を変えることにする。
流石にバケツを被るのはNGだ。第一位としてのプライドが許さない。
―一方通行宅、風呂場
一方通行「ン、確かに声が響いていい感じだなァ、ここなら練習に持って来いだ」
風呂場という環境に満足し、発声練習を再開する。
風呂に入るわけでもないのに風呂場を締め切り、その中央で聴覚に集中する為に目を閉じ
まるで歌うように声を出すという、学園都市の白い悪魔にあるまじき何ともシュールな光景がそこにあった。
誰かに見られでもしたら切腹ものである。少なくとも第一位は廃業しなければならないレベルだろう。
―数十分後
一方通行「うし、完璧だァ!」
極短い時間で声質の変更を完璧にマスターし、一方通行は歓喜の声を上げる。
風呂場で一人高笑いをするその姿はやはり他人には見せられない。
一方通行「さァて少しばかりおさらいと行くかァ、まずはこうするとォ……」
咽に手を当て、ベクトル操作を施す。
一方通行「垣根の声ってなァ」
彼の口から放たれた声はまさに、学園都市の第二位、垣根帝督のモノだった。
一方通行「あァ気分悪くなってきやがった、この声イメージ悪ィからなァ……」
顔を顰め、すぐに声を元に戻す。勝手に声を使われた上に『気分が悪くなる』『イメージが悪い』
などと言われている事を垣根本人が知ったらどう思うだろうか。
一方通行「で、こンな感じに弄ると第四位の声……なンか鮭喰いたくなって来たなァ」
第四位、麦野沈利の声を出しつつ、何故か突如湧き上がってきた鮭への欲求に首を傾げる。
世界には良く分からない謎のエネルギーが満ちているのだ。
一方通行「後で鮭弁でも買って来るかァ……っと、次はァ……これで超電磁砲の声だな」
鮭を食べることを心に誓いつつ、引き続き声を弄り今度は第三位、御坂美琴の声を出す。
彼女の可愛らしい声は一方通行の外見とのギャップが激しく、はっきり言って相当不気味である。
一方通行「クカカカ、声変えるってなァ面白ェなァオイ
イヤガラセ抜きにしても一日くれェ時間潰せそうじゃねェか(美琴ボイス)」
新しい玩具を買ってもらった子供のように無邪気に瞳を輝かせ、いつもの様にくぐもった笑いを漏らす。
御坂の甲高い声と彼の薄気味悪い笑い方が合わさり、それがまた一層彼の笑いを誘うのだが、
その光景は傍から見るとカオスそのもので、下手をするとトラウマレベルである。
一方通行「さァて今からどうするか……とりあえず美女っぽい声出して垣根の野郎にイタ電でもかけてやるか」ケケケケ
思いついたチャチなイヤガラセを口にしつつ、一方通行は更に咽を弄る。
一方通行「あーあー……完璧ィ(女声)」ニタァ
幾度かの試行錯誤の後、一方通行は完璧な美少女ボイスへと到達することに成功した。
声だけ聞けば、とてもではないがこの白い悪魔が発信源だとは思うまい。
一方通行「ちっとばっかロリ入った声になっちまったけどまァいいだろ、多分ロリコンだしなァ(女声)」クク
ターゲットを勝手にロリコン呼ばわりし薄気味悪い笑みを浮かべる。
その不気味な笑いと柄の悪い喋り方でも尚可愛く聞こえるのだから美少女ボイスの補正は偉大である。
一方通行「さて電話を……いや、その前に……(女声)」
居間に置いてある携帯電話を取りに行こうと風呂場の扉に手を掛けた一方通行だが、
ふとある事を思い立ち、一旦手を引っ込める。
そしてその手を口元に当て、しばらく何やら迷っているような素振りをしていた彼だが、
ようやく決意が固まったのか咳払いを一つすると、ゆっくりと口を開いた。
一方通行「……百合子でェす♪(女声)」キャピ
……まぁ、思春期の男が美少女ボイス手に入れたら一度はやってみたいよね。
一瞬の空白。そしてこれ以上無いというほど媚びた萌えボイスを出した彼は、
数秒後には己の魔が差したとしか言いようの無い行動に激しい自己嫌悪に陥る。
一方通行(やっべェなンだこれ、死にたくなってきた……)
誰にも聞かれていなくても死にたくなるのだ、万が一誰かに聞かれていたら人生終了間違いなしだろう。
彼は己の軽率すぎる行動を恥じ、フルフルと頭を振って今の行動を忘れようとした。
仕方が無いよね、やりたかったんだもの。
一方通行(クッソ、なンで俺がこンな鬱になンなきゃなンねェンだよ……
この感情、誰かにぶつけねェと気が済まねェ)
勝手に自爆をしてその理不尽な怒りを赤の他人に叩きつけようとする外道がそこにいた。
ともあれ、やるべき事はやったので後はイヤガラセをするだけだ。
彼は再び風呂場の扉に手を掛け、今度はさっさと開き、外へ出ようとした。
ガチャ
「……」
一方通行「!?」
扉を開けた先で、彼は一人の少女と目が合う。
見覚えのある、勝手に彼の部屋に侵入してくるような無表情の少女……
目の前のその少女がミサカ11111号だと認識した瞬間、一方通行の全身から滝のような冷や汗が流れ出た。
11111号「……」
一方通行「い、いつ、から……(女声)」
テンパッて声を戻す事も忘れ、無言を貫いている11111号に尋ねる。
『いつから聞いていたのか』……事と次第によっては一方通行には身の破滅が訪れかねないのだ。
11111号「えっと……『多分ロリコンだしなァ』辺りからです、とミサカは正直に答えます」
一方通行(よりによってそこからかよォォォォォ!!!)
最悪である。一部始終を聞かれていたのなら彼がイヤガラセの為に声を変えていたというのがわかるが、
『ロリコンだしなァ』の件からしか聞いていないのだとすると、
まるで彼自身がロリコンをカミングアウトしたかのようにも思え、
美少女ボイスで媚びた声を出して遊んでいた変態にしか見えなくなってしまうではないか。
11111号「……」
一方通行「あ、あのな、えっと……(女声)」
一方通行は大いに狼狽した。口をパクパクさせ声にならない声を絞り出し、その目は完全に泳いでいる。
というのも、目の前の11111号がいつもの通り悪意に満ちた顔をしていたのならまだ救いはあったのだが
今の彼女の顔には激しい困惑と深い悲しみの表情が浮かんでいたからだ。
見たくないものを見てしまった、聞きたくないものを聞いてしまった、
知りたくないものを知ってしまった、という絶望した表情だ。
ようするに、かつて無いほどドン引きした顔をしているのである。
これまで何度か彼女が口にしてきた冗談交じりの『ドン引きです』とは訳が違う。
一方通行(な、なンて顔してやがる……やべェぞ、さっさと誤解を解かねェと……)
11111号「……大丈夫ですよ一方通行、このミサカにはちゃんとわかっていますよ、とミサカは頷きます」
一方通行「お、おォ、そうだよな、オマエならわかるよな?(女声)」
11111号「例えあなたが女装しながら股間の一方通行をベクトル操作するような趣味を持っていようとも
このミサカはそんなことであなたへの接し方を変えたりしませんから……
とミサカは目を反らしつつ一方通行改め百合子ちゃんに優しく語り掛けます」
一方通行「何一つわかってねェじゃねェかァァァァ!!つーか露骨に目ェ反らしてンじゃねェよ!!!(女声)」
11111号「やめてください、今のあなたは見るに耐えません、
とミサカは目を閉じ百合子ちゃんの姿を見ないようにします」
一方通行「百合子はやめろ!!話を聞けェェェェ!!!!(女声)」
11111号「て言うかまずその声戻せよ!!オマエの面でCV釘宮みたいな萌えボイスとか誰特だよ!?
とミサカは目を閉じたまま全霊でつっこみます」
一方通行「お、あ、悪ィ……あー……よし戻したぞ、それじゃ俺の話を……」
11111号「いえ、今日は帰ります、帰らせてください、とミサカは頭を下げます」
一方通行「待てコラ、誤解したまま帰らせると思ってンのか」
11111号「一方通行、こちらにも心の準備というものがありまして
受け入れられるように努力はしますのでどうか今日のところは……」
一方通行「だから誤解だつってンだろォがァァァ!!!
イヤガラセの為に声質変える練習してただけだってンだよォォォ!!!」
11111号「……じゃあ『百合子でぇす』って何ですか、とミサカは冷めた目で指摘します」
一方通行「うェっ」
11111号「答えられませんか、イヤガラセの為の練習ならあんな声出す必要はありませんよね?
やっぱりただの趣味なんでしょう?とミサカは呆れた顔をします」
一方通行「いや、あれは魔が差しだンだよ……俺の意思じゃなくて……」
11111号「……」
一方通行「……」
11111号「やっぱり今日は帰ります、とミサカは一方通行に背を向けます」
一方通行「おい待て」
11111号「やめてください!」
一方通行「えっ」
11111号「やめてください、とミサカはもう一度懇願します」
一方通行「……」
11111号「……帰りますね?ごめんなさい、次来る時はいつも通り接しますから、
とミサカは目を背けたまま優しい口調で謝罪します。それでは……」
一方通行「……」
ガチャ、バタン タッタッタ
一方通行「……本気で拒絶されただと」
11111号が帰って行った後、一方通行は独り頭を抱え、ソファにその身を沈めた。
何だかんだでそれなりに親しかった悪友とも呼べる相手からの明確な拒絶の意思、
それは精神的に打たれ弱い彼の心を崩壊寸前に追い込むほどのダメージであった。
興味本位の、魔が差したとしか言いようの無い一言がこのような悲劇を招くとは誰が予想しただろうか。
皆予想してただろうけど。
一方通行「もういい……」
小一時間ほど経過しただろうか。一方通行は怪しく目を光らせながらゆらりと立ち上がる。
一方通行「とにかく気晴らしにイヤガラセだァ!」
折角身に着けた技術だ、このまま使わずにお蔵入りさせるのは勿体無い。
誤解を解くのは一先ず置いておいて、今はまず声を使ったイヤガラセを慣行することにする。
全く持って傍迷惑な立ち直り方をしたものである。
一方通行「まずは垣根だなァ……もう適当な女の声なンかじゃ済まさねェ
心理定規の声使ってガッタガタに揺さぶってやるぜェェ!!」
―――――――――――――――
―――――――――
――――
―とあるファミレス、アイテム会議中
絹旗「むー、垣根のやつ超遅いですね」
麦野「ったく、何やってんだあの馬鹿」
フレンダ「こんなに遅れるなんて、結局浜面レベルなわけよ」
浜面「俺遅刻したことねえぞ!?」
滝壺「はまづらははまづらだからっていう理由でマイナス補正がかかるんだよ?」
浜面「最近の滝壺は俺に辛辣すぎるだろ!?」
麦野「そう?まだ優しい方じゃない?」
絹旗「こんなに超かわいい女の子達が浜面ごときと喋ってあげてるんだから超感謝するべきです」
フレンダ「結局、本当ならお金取るところなわけよ」
浜面「金払ってまで罵倒されたくねえよ!!」
絹旗「つまり超無料なら罵倒されても構わないと?うわぁ、超キモいです」
滝壺「はまづら、このぶたが、とか言って欲しいの?」
浜面「……今ちょっと俺の心に何か刺さったよ滝壺さん」
麦野「はいはい馬鹿な事言ってないで。絹旗、ちょっと垣根のアホに電話してみて」
絹旗「えー、こういうのは超下っ端の浜面に超やらせるべきだと思うんですが……」
浜面「へーへ、かけりゃいいんだろ、かけりゃ」ピッピッピ
『おかけになった電話番号は、現在使われて……』
浜面「……」
絹旗「あちゃー」
フレンダ「結局、浜面の扱いってその程度なわけよね」
滝壺「大丈夫だよ、はまづら。私はそんな誰からもディスられるはまづらを応援してる」
麦野「プフッ……クククク……グクッ」
浜面「ちくしょう、ちくしょう……」
絹旗「超仕方がありませんね、この絹旗様が超直々に電話をかけてやるとしましょう」ピピピピ
浜面「お前もつながらなかったりしてな」
フレンダ「結局浜面のそういう器の小さいところがキモいわけよ」
絹旗「あ、もしもし超垣根ですか?」
浜面「普通につながってるしいいいい!!!」
滝壺「どんまい?」
麦野「ま、アイツが女からの電話拒否するわけないわよねそりゃ」
絹旗「どうしたんですか?もう超会議が始まって……え、何?超死にたい?は?」
麦野「あ?」
浜面「し、死にたい?」
絹旗「ちょっと待ってください垣根、超わけがわかりません、超落ち着いt……垣根?垣根!?」
フレンダ「ちょ、絹旗声大きいって!」
絹旗「あ、すいません……垣根、とりあえず超深呼吸してくだs……
垣根ぇ!!何ですかその超生々しい何かを切り刻むような音はぁぁぁ!!!」
滝壺(凄い負の電波を感じる……)
絹旗「うわああぁどんどん声が超小さくなっていってる!?垣根!超しっかりしてください!
垣n(ブツン)超切れたぁぁぁぁ!!!!」
麦野「落ち着け絹旗、垣根がどうしたって?」
絹旗「超やばいです!下手したら超死んでるかもしれません!超自殺の真っ最中だったみたいです!!」
フレンダ「自殺ぅ!?」
浜面「おいおい学園都市の第二位がかよ!?」
麦野「アイツ相当打たれ強いはずなんだけど……今日4/1だっけ?」
滝壺「すぐへこむけど立ち直るのも早いよね。エイプリルフールはまだ遠いよ、むぎの」
絹旗「超のんびり話してる場合じゃないですよ!直接話さないとこの緊迫感は超伝わりませんか……」
麦野「ま、とにかく垣根は来れる状態じゃないってんなら会議進めちゃいましょうかね
久しぶりの仕事よ、アンタ達」
フレンダ「結局麦野はドライなわけね」
浜面「お、おい良いのか?」
麦野「大丈夫でしょ多分、あの馬鹿はそう簡単に死なないって信用してんのよ」
滝壺「めんどくさいだけ、って顔に書いてあるよむぎの」
絹旗「超酷いですよ麦野!今からでも皆で超垣根の家に行ってみるべきです!」
麦野「えー、超めんどくさいし」
浜面「本心言っちゃったよ!?」
絹旗「うぅー……鬼!悪魔!原子崩し!超ビーム砲!!」
麦野「はいはい何とでも言ってなさい」
「ババァ!!」
麦野「あ゛?」
フレンダ「お、おぉ絹旗、なんて事を……」
絹旗「え、違!?今の超私じゃ……」
浜面「い、いやでもお前の声だったぞ?」
滝壺(……南南東、すぐ近くから悪意を感じる)
麦野「絹旗ぁ?ちょーっとよく聞こえなかったからもう一回言ってもらえるかにゃーん?」
絹旗「いえあの、ほ、本当に私は超何も言って……」
「ババァつったンだよォ!耳まで遠くなっちまったのかァ!?」
麦野「絹旗ァァァァァァ!!!!」
絹旗「ヒイイイイイイ!!!私じゃない!超私ではありません麦野ぉぉぉぉ!!!」
「やめとけよ第四位ィ、本気でやったらオマエごときがこの一方……絹旗様に勝てるわけねェだろォ!」ケケケケ
麦野「……上等だよ、ブチコロシ確定だテメエ!!!」
絹旗「いやああああああ!!!」
浜面「……どう思う?」
フレンダ「んー、結局どう聞いても絹旗の声にしか聞こえなかったけど」
浜面「だよなぁ……思ってることがつい口に出ちゃったのか?」
フレンダ「結局絹旗があんな事考えてるとも思えないんだけど……」
滝壺「……」
浜面「滝壺、どうした?」
滝壺「南南東、絹旗のすぐ後ろの席にウサギさんがいる」
フレンダ「はぁ?」
滝壺「真っ白くて目が真っ赤……」
浜面「……バッドトリップでもしてるのか?」
絹旗「ギブ!超ギブです麦野!!窒素装甲越えて超絞まってます!!」
麦野「ご、め、ん、な、さ、いでしょおおおおぉ?」ギリギリギリ
絹旗「ちょ、超ごめんn「だァれが謝るかよォ!この程度超痒いくらいだぜェ?」うわああああん!!!」
麦野「どぉぉやら本気で死にたいらしいなぁ絹旗ぁぁぁ!!!」
絹旗「あ゛あ゛あ゛ああぁぁぁ」
フレンダ「あーこりゃ本当に死んだかな絹旗」
浜面「た、助けた方がいいんじゃねえか?」
フレンダ「結局麦野に絞め上げられるのは本望だけど流石に死んじゃうのはねー」
滝壺「はまづら、助けてあげて」
浜面「おいおい、無能力者の俺に一人でやれってのかよ、説得くらいはしてみるけどよ……
な、なぁ麦野、そんなもんで許してやったらどうだ?」
麦野「あ゛ぁ!?」
浜面「うっ、いやな、絹旗も悪気はないみたいだしもうその辺d
「俺のロリっ子から手ェ離せつってンだよこの行き遅れがァ!!」ええええええ!?」
フレンダ「浜面まで暴言吐き始めた!?」
麦野「……そう、アンタも自殺志願者ってわけ?
そんなに死にてぇならお望み通り八つ裂きにしてやるよぉぉぉぉ!!!」
浜面「ま、待て!今のは俺が言ったんじゃ「楽勝だ、超能力者(キリッ」ハァァァァァァ!?」
麦野「絹旗の前にまずはテメエから処刑してやるよ、この無能力者がぁぁ!!!」
浜面「ひいいいいいいい!!!」
絹旗「ケホケホ、浜面、超身を張って助けてくれたんですね……流石は超下っ端です」
フレンダ「結局とばっちり喰らわないように今の内に逃げるべきなわけよ」
滝壺「うん……(あれ、ウサギさんいなくなっちゃった、帰ったのかな?)
―――――――――――――――
―――――――――
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―常盤台中学学生寮、御坂美琴の部屋
その日、御坂美琴はこの上なく上機嫌だった。とある事情により
バラバラに引き裂かれた人間大サイズ超巨大ゲコ太ぬいぐるみの修繕がようやく終わったからだ。
御坂「もう絶対に離さないからね、ゲコ太……」
幸福に満ちた表情で、彼女はぬいぐるみをぎゅっと抱きしめる。
少女趣味にケチをつける小うるさい後輩も今はいない。というかもうずっといない。
御坂は復活したゲコ太を思う存分、時間の許す限り愛でていた。
御坂「はー、ゲコ太ってどうしてこんな愛くるしい造形をしてるのかしら……」ウットリ
恋する乙女のような瞳でゲコ太と向かい合う御坂。至福の一時である。
だがしかし、そんな幸福そうな彼女を学園都市の白い悪魔が見過ごすはずもない。
ゆっくりと、しかし着実に、死神の魔手はにじり寄っていた。
(美琴さン、美琴さン……)
御坂「!!! な、何よこの声!?どこから……?それに何処かで聞いたことがあるような……」
(美琴さン……)
御坂「そ、そうだこの声は……アニメのゲコ太の声!!ま、まさかゲコ太、あなたなの!?」
(そう、目の前にいるぬいぐるみのボクですよ美琴さン……)
御坂「う、嘘喋ってるの?ぬいぐるみなのに!?」
(こまけェこたァいいンだよ)
御坂「えっ」
(とにかくアレだ、言いたいことがあるからぬいぐるみの身で頑張って喋ってンだよ、わかるか?)
御坂「え、あ、はい、言いたいことって?
て言うか頑張ったら喋れるんだ……(口調が急に変わった……)」
(一度しか言わねェぞ?よく聞けよ……オマエさ、ぶっちゃけウザいンだよ)
御坂「はい……え!?」
(毎日毎日べたべたべったべった、纏わりついて来やがってよォ、いくら温厚な俺でもブチ切れるっつーの)
御坂「」
(つーか俺の対象年齢って精々10歳くらいまでなンだよね、オマエ明らかに旬過ぎてるだろ
その歳で『ゲコ太ゲコ太~』って俺に御執心とかねーわ、正直気持ち悪いわ)
御坂「い、いいじゃない可愛い物が好きなんだから!何よぬいぐるみのくせに!!」
(はい『ぬいぐるみのくせに』頂きましたァ、『絶対に離さない』なンて言っときながら
ちょーっと否定されたらこの様でェす。オマエ俺のことを「都合のいいカエル」だとしか思ってねェだろ?)
御坂「言ってる意味がわかんないのよ!!何なの!?アンタなんかゲコ太じゃないわ!!」
(自分の理想と違うからって俺の存在否定すンなよ、これだから無邪気さを失ったガキは……)
御坂「ぐうううう……私の前からいなくなりなさい!!この偽物があああああ!!!!」バチバチバチ
ゲコ太の余りにも無礼な物言いに、ついにブチ切れた御坂は躊躇無く最大出力の電撃をぶちかます。
10億ボルトにも達するといわれる学園都市最強の電撃使いから放たれた雷は
ゲコ太を呑み込み、のみならず部屋の大半と寮の一部を消し飛ばす結果となった。
本日直ったばかりのゲコ太はその日のうちに、今度は修復不可能な消し炭と化してしまったわけだ。
(ククク、俺を倒してもいずれ第二、第三のゲコ太が……)
ゲームのボスキャラのような捨て台詞を残しつつ、ゲコ太はハラハラと塵になって散っていく。
御坂は涙を堪え、肩で息をしながらそれを見送った。
御坂「違う、あれはゲコ太じゃないわ……何か悪い物が取り憑いてたのよ……」
うん、まぁ事実白い悪魔が取り憑いてたんだけどね。
とはいえ、自身の手で愛すべきゲコ太のぬいぐるみを消し飛ばしたという事実は変わらない。
彼女はこれから一生、その重荷を背負って生きていくのだ。
御坂(ゲコ太……)
「おい、御坂」
御坂「!?」
感傷に浸る御坂の背後に冷たい声が降りかかる。
聞き覚えのあるその声に恐る恐る振り返った彼女の視界に入ったのは、
紺色のスーツに身を包んだ眼鏡の女性。彼女こそ、常盤台の誰もが恐れる、
肉体言語のみで超能力者とすら渡り合う存在、常盤台中学女子寮『寮監』である。
寮監「妙な音がしたから来てみれば、これは……」
御坂「あ、あ……」
常盤台中学女子寮、鉄の掟―『寮内での能力使用は如何な理由であろうとも原則としてこれを禁ず』
掟を破った者に待っているのは、最凶の寮監による無慈悲な鉄槌。
寮監「……言葉は不要なようだな?」
御坂「ち、違……ゲコ太が……」
寮監「破ッ!!!」
御坂「ぎゃあああああああ!!!!」
この日、最強の電撃使いは一人の無能力者に一撃の元に刈り取られることになる。
―――――――――――――――
―――――――――
――――
一方通行「ふゥ、ちったァ気が晴れたなァ」
夕暮れ時、一通りイヤガラセを終わらせた一方通行は上機嫌で帰途についていた。
心理定規の声で垣根を再起不能に追い込み、絹旗と浜面の声でアイテムの内部分裂を誘い、
ゲコ太を演じて御坂をハメたのは、他ならぬこの外道の仕業である。
一方通行「後はあのバカの誤解を解くだけだが……」
彼女の態度を思い出す限り、今日すぐにというのは難しいだろう。日を改め、落ち着いた状態で話し合うべきだ。
というか「百合子です」とか言っちゃったのは事実なので、まずはその言い訳を考えなければならない。
一方通行(はァ、どうすっかなァ……ン?)
考え事をしながら自室の前まで辿りついた彼だったが、ふと違和感を覚え、足を止める。
一方通行(……人の気配がするな)
鍵をかけて出たはずの自分の部屋から何者かの気配を感じる。
泥棒か、或いは自分の命を狙ってきた身の程知らずか……
否、こういうときに中に誰がいるか、そんなものは決まっている。
ガチャ
「おや、お帰りなさい一方通行、とミサカは礼儀正しく挨拶します」
一方通行「やっぱオマエかよ……何やってンだ」
やはりと言うかなんと言うか、扉を開けた彼を出迎えたのは、ソファに寝そべって
だらだらとテレビを見ている11111号であった。
11111号「何やってるか?見りゃわかんだろ、テレビ見てんだよ、
とミサカは研究所でチャンネル争いに負けてしまったので仕方なくここに来たことを示唆します」
一方通行「あァそうですかァ」
11111号「はいそうです、とミサカは頷きます」
一方通行「……なァ11111号、今朝の件なンだが」
11111号「皆まで言うな、とミサカは一方通行を制止します。趣味は人それぞれですから……」
一方通行「いやだからとりあえず話聞いてくれねェ?」
11111号「そうだ、あなたにプレゼントがあるんですよ、とミサカは紙袋を取り出します」
一方通行「聞けよ!!」
11111号「はいどうぞ、とミサカは紙袋をそのまま一方通行に押し付けます
さ、中を確認してみてください」
一方通行「……なンだこりゃ」
11111号「布束砥信から拝借してきたゴスロリ服です、とミサカは回答します
ほら、オマエそういう趣味があるんだろ?遠慮せずに着ろよ」
一方通行「誰が着るか、ふざけンな!!そもそもそンな趣味は持ってねェ!!!」
11111号「いいえ、それを着る以外にあなたに選択肢はありません、
とミサカは意味深な笑みを浮かべながら懐から携帯電話を取り出します」
一方通行「あァ?どういう……」
11111号「ポチっとな、とミサカは携帯に録音した音声を再生します」
携帯<百合子でェす♪
一方通行「あ゛あ゛ァァァァァァ!!!!!」
11111号「くふ、ククククク、うひゃひゃひゃひゃひゃ、とミサカは番外個体のような笑い方を…ウヒヒヒヒヒ」
一方通行「いつ録った!!いつ録ったァァァァァァ!!!!!?」
11111号「今朝に決まってんだろ、とミサカはそんな簡単な事もわからない一方通行に呆れ顔で答えます
このミサカがこんな美味しいモノを録り逃しているとでも思っていましたか?」
一方通行「おォォォォォ!!!!ふざけやがってェェェェェ!!!!」バキャ
11111号「あぁ!ミサカの携帯Mk-Ⅴが!!またそうやってすぐ他人の物を破壊する……
とミサカは乱暴者の一方通行に辟易します」
一方通行「うるせェ!!とにかくこれでテメエの武器はなくなったぞ!
こンなゴスロリ服なンざ着てやる義理もねェ!!」
11111号「おやおやぁ?何だか今日のあなたは鈍いですね、とミサカは含み笑いをします
どうしてすんなりあなたの手が届く範囲に携帯を出したと思います?」
一方通行「な……に……?」
11111号「どうして、このミサカが今朝あれほど必死に研究所に帰りたがっていたんだと思います?
とミサカは最高の笑みを浮かべながら首を傾げます」
一方通行「テ、メェ……まさか……」
11111号「そうよ、そのまさかよ!あなたの恥ずかしいボイスは既に研究所のPCに保存してあります!
携帯端末の一つ二つ壊されたところで痛くも痒くもないんですよぉ!!
とミサカは己の知略と演技力の高さに惚れ惚れします」
一方通行「今朝のマジで引いてた面は全部演技だったってのかァ!!?」
11111号「そう、全ては入手した最高のネタを無傷で研究所に持ち帰るため!!
あなたはまんまとこのミサカに騙されたというわけです、第一位が聞いて呆れるわ!
とミサカはマヌケな一方通行をせせら笑います」プゲラ
一方通行「ク、クカカカカ、マヌケなのはテメエだ!!簡単に手の内を晒しやがって!!
だったら前みてェに研究所を丸ごとぶっ壊せばいいだけだろうがよォォォ!!!」
11111号「はぁ、本当に今日のあなたは残念ですね……研究所のPCに保存する時間があるんです
他の場所にもバックアップを置いているに決まっているでしょう?
とミサカは当然のことを指摘します」
一方通行「ぐが!?」
11111号「くくくく、さぁ一方通行、ゴスロリ服を着るか、恥ずかしいボイスを学園都市中にバラ撒かれるか、
好きなほうを選ぶがいい!!とミサカは勝ち誇った顔をします」
一方通行「ぐ……おォォォォ………ン、ちょっと待てよ?」
11111号「え?」
一方通行「冷静に考えりゃ、あの声聞いただけじゃ俺が喋ってるってわかるわけねェだろ
全然別人の、俺とは性別すら違う声なンだからよォ」
11111号「……あっ」
一方通行「映像があるってンならまだしも、声だけバラ撒かれても
萌えキャラの百合子ちゃンって謎の人物の噂が広まるだけだろ
俺のダメージ全く無しじゃねェか」
11111号「oh……」
一方通行「そンでもって今朝のオマエの態度は全部演技だって事も分かった
これでもう憂慮するモノは何一つねェってわけだなァ……よし11111号、帰っていいぞ」
11111号「そんな!それは酷いですよ一方通行!あなたのゴスロリ姿を期待している豚がいったい何人いると……」
一方通行「知るか、帰れ」
11111号「く、新しいカメラまで用意してきたというのに……とミサカは歯軋りします」
一方通行「帰れよこの豚が」
11111号「ちくしょう、覚えてろ!!とミサカは涙ながらに退散します!
腹いせにあの声は学園都市中に撒いてやるんだから!!」ダッ
一方通行「おーおー、お好きになさってくださァい」ケケケ
一方通行「……あ、俺アイツに勝ったの始めてじゃねェか?」
その後、11111号の手により萌えボイスは学園都市中にバラ撒かれる事になるのだが
大方の予想通り、百合子ちゃんという謎の萌えキャラが生成されるだけに留まり、
それを一方通行と繋げて考える者はおらず、11111号は初めて一方通行に完膚なきまでの敗北を喫した。
11111号「ねーわ、イヤねーわ、イヤイヤねーわ、
とミサカは首を高速で横に振りつつ受信した電波を全力否定します」
11111号「……まぁこの国には思想・良心の自由が認められてますから
愛だのラブだのが好きな人はそう思ってればいいんじゃないでしょうか
とミサカはこみ上げてくる吐き気を抑えながら大人な対応をします」
11111号「しかし、このミサカがあの白モヤシとねぇ……うぷっ、とミサカは口元を手で覆います」
11111号(……しかしどうしてでしょう、一方通行が他の女性や妹達と一緒にいる所を見ていると……)
11111号(ミサカの胸に何か正体不明のモヤモヤが浮かんで……)
11111号「……とか言って欲しかった?とミサカは可愛らしく小首を傾げながら微笑みます」
11111号「バーカバーカ!引っ掛かったヤツバーカ!
ねーから、マジでねーから!とミサカは指を差して爆笑します」ゲラゲラ
11111号「それでは本編をどうぞ、とミサカは未だ引き止まぬ笑いの波を必死に堪えながら先を促します」
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―――――――――
――――
一方通行「ふゥ、今日もいい仕事したぜェ」
コキコキと首を鳴らしながら、その日も一方通行は上機嫌で帰途についていた。
今日も今日とて朝から夕方まで様々な人物に散々イヤガラセの限りを尽くしてきたのだ。
※本日のイヤガラセ
・13577号の制服を真っ赤に染め上げ油性マジックで「ジョニー・ライデン専用」と落書きする。
「せめてシャア専用に!」とか言いながら泣いてた。
・00001号の頭にアホ毛を作る。
悟ったような目で無言のまま微笑んでた。そろそろダメかもわからんね。
・超電磁砲の部屋に新しいゲコ太のぬいぐるみがあったのでこっそり反射の膜をかける。
何も知らない超電磁砲はぬいぐるみに抱きつこうとして反射され、
「ゲコ太に拒絶された!」とか言いながら泣き崩れた。
・その様子を隠れながらビデオで録画してる見覚えのあるイケメンがいたので半裸に剥いた上で通報する。
「テクパトルぅぅううううう!!」とか言いながら連れて行かれた。
・不在の隙を狙い第四位の部屋に侵入したら何故かアイテム構成員の金髪が先に侵入しており
語るもおぞましい行為をしていた。仕方が無いのでその様子をこっそり携帯でムービー撮影し、
それをメールに添付して第四位に送りつける。その後金髪がどうなったかは知らない。
・垣根の部屋に侵入、留守だったのでとりあえず新品の冷蔵庫をマスコットに改造する。
・第七位に絡まれそうになったので「コイツなら別にいいか」と考え思いっきりぶっ飛ばす。
プラズマ化したオレンジ色の残像を出しながら吹っ飛んで行った。ちょっとスッキリした。
・道端で偶然見かけた因縁あるウニ頭の少年に、これまた因縁ある白いシスターが噛み付いていたので
擦れ違い様ベクトル操作でシスターの歯と顎を超強化する。ウニ頭はもげた。
やりすぎである。彼は今心地よい疲労感と強い満足感を感じつつ、「明日は何をしてやろうか」
などと幼子のように無邪気な表情で考えているのだが、やられる方は堪ったものではない。
そして今、一方通行のご機嫌な様子に惹かれて一人の露出狂ショタコン女が襲い掛かってきたのだが
彼はそれを無言で張り倒すと、そのまま彼女をグニグニと踏み潰して振り返ることもせずに行ってしまった。
最近の彼は「やっても良い」と判断した相手には躊躇無く暴力を振るうことを覚えたようだ。
非常によろしくない兆候であるが、溜め込んで暴発するよりはいくらかマシなのかも知れない。
そんなこんなで自室の前まで帰り着いた彼であったが、ここでまた違和感を感じる。
誰もいないはずの部屋の中から人の気配を感じるのだ。
一方通行(まァたアイツか……)
脳裏に良く知った一人の少女の姿を思い浮かべ、ハァと溜息を零す。
学園都市第一位である彼の部屋に無断で侵入しよう、などという
自殺行為とも取れる行動をするのは彼の知る限り一人しかいない。
一方通行(アイツと関わると面倒な事にしかならねェからなァ……)
玄関に手をかけたまま、一方通行は「さてどうしたものか」と思案する。
中にいるのが彼の想像通りの少女―ミサカ11111号だとしたら非常に厄介だ。
一日中イヤガラセに奔走した彼は非常に疲れており、正直彼女の相手をするだけの体力は残っていない。
というか万全の状態でも最悪根こそぎ体力を奪われる相手である。
一方通行(……腹括るか)ガチャ
ぐっと気合を込め、一気に玄関のドアを開く。
ホテルなどで一晩過ごすという考えも一瞬浮かんだが、
そのような完全な逃げの姿勢は彼のプライドが許さなかった。
「よう、お帰り」
一方通行「……はァァ?」
部屋の中の光景に、一方通行は素っ頓狂な声を上げる。そこにいたのは11111号などではなく、
全く予想だにしない人物――
「おいおい何マヌケな顔してんだ?ほら、こっちきて座れよ」
一方通行「……イヤ、なァにやってンですかァ垣根くゥン?」
学園都市の第二位、垣根帝督がソファに陣取り、だらだらとテレビを見ていたのだ。
おまけに買い置きしておいた缶コーヒーまで勝手に飲んでいる。万死に値する行為である。
垣根「何やってるかって、見りゃわかんだろ、テレビ見てんだよ」
一方通行「ちょっと前に別のヤツと全く同じやり取りしたけど、オマエにやられると何万倍もムカつくな……
つーか何?オマエ何で俺ン家知ってンだよ?」
垣根「ちょっと調べりゃわかんだろ、学園都市第二位舐めんなよ」
一方通行「勝手に調べてンじゃねェよ気持ち悪ィ、犯罪だろクソが」
垣根「俺の未元物質に常識は通用しねぇ」フッ
一方通行「オマエそれ言いてェだけだろ」
垣根「つーかオマエに犯罪とか言われたくねえんだけど!オマエこそ不法侵入の常習犯じゃねえか!!」
一方通行「俺は良いけどオマエ等はダメなンだよ、俺⇒オマエ等の一方通行だ
まァどォでもいいからとにかく帰れよ」
垣根「そうはいかねえな、今日は大事な話があってわざわざこんな所まで来たんだ」
一方通行「『こんな所』呼ばわりしてンじゃねェぞクソボケ、スクラップにされたくなけりゃさっさと消えやがれ」
垣根「そう言わず、話だけでも聞いてくれねえか」
一方通行「断る、死ね」
垣根「頼む」
一方通行「あァ?」
垣根「この通りだ!」ガバッ
一方通行(土下座……だと……?)
垣根「オマエしかいねえんだ!どうか俺の話を聞いてくれ!!」
一方通行(やけにマジだな、うざってェ……が、ただ事じゃなさそうだ)
一方通行「……仕方ねェ、話せ」
垣根「マジで!いいのか!?」
一方通行「今日はもう疲れてっからオマエを無理矢理追い出すのもめンどくせェンだよ、運が良かったなァ」
垣根「恩に着るぜ……一方通行、これは真剣な話なんだが、」
一方通行「おォ」
垣根「猥談に付き合ってくれ」
一方通行「……あ?」
垣根「猥談しようぜ」
一方通行「……ちょっと待てオマエ何言ってンだ?」
垣根「猥談だよ猥談!エロトーク!下ネタトークしようぜ!」
一方通行「でけェ声出してンじゃねェよ!何が猥談だマジで死ねよクソ野郎が!!
頭湧いてンのか!?話聞いて損したわ!!」
垣根「あぁ?テメエそんなに強気に出ていいのかよ?」
一方通行「わけわかンねェ、とりあえず死ねよ」
垣根「ソファの下からこんなもん出てきたんだが、これを見てもまだ強気でいられるか?」
つ ゴスロリ服
一方通行「!!!(この前11111号が置いてったヤツゥゥゥゥゥ!!!?)」
垣根「いやまさかテメエにこんな趣味があるとはなあ」ククク
一方通行「俺のじゃねェ!俺のじゃねェよクソが!!」
垣根「オマエのものかどうかなんざどうでもいいんだよ、
重要なのはこれがオマエの部屋から出てきたことだろ?
さぁ、このオマエの指紋がベタベタついたゴスロリ服を学園都市中に公表されたくなけりゃ俺と猥談をしろ」
一方通行「ぐ……つーか、なンで俺となンだよ……」
垣根「……俺さ、オマエくらいしか男友達いねえんだよ」
一方通行「……いや、そもそも友達じゃねェだろ」
垣根「つれねえ事言ってんじゃねえよ!共に苦難の24時間を過ごした仲じゃねえか!!」
一方通行「『笑ってはいけない~』の事言ってンのか?あれオマエのせいで何十回叩かれたと思ってンだ!?」
垣根「お互い様だろうが!!テメエのセロリネタでどんだけ苦しめられたと思ってる!?」
一方通行「……はァ、もういい、わかった。
一万歩譲って、オマエが一方的に俺の事を友達だと考えてここに来たのは良しとしてやる」
垣根「わかってくれたか」
一方通行「……だがなァ、なンで猥談なンだよ?」
垣根「あー、それ聞いちゃう?聞いちゃう?」
一方通行「本気で殺してェンだけど」
垣根「この前さ、心理定規から電話があったんだよ」
一方通行「……」ピクッ
垣根「でさ、昔の女から電話かかってくると『あ、こいつ寄り戻してえんだな』とか思うじゃん?」
一方通行「いや思わねェだろ、オマエが捨てられたンだぞ?わかってンのか」
垣根「ところが電話口から聞こえてくるのは聞くに堪えねえ罵倒に煽りと来た、流石の俺も凹んだぜ」
一方通行「(やっぱ俺が声真似してかけた電話か……)で、猥談と何の関係があンだよ」
垣根「結論を急ぐなよ、早死にするぞ?」フッ
一方通行「あ、オマエ死にてェのか、そうなンだな?」
垣根「とにかく、昔の女が電話かけてきてまでボッコボコに罵倒してくるんだぜ?
すげえ死にたくなったよ……つーか衝動的に手首切っちまったし」
一方通行「サラっと自殺未遂告白してンじゃねェぞ、そのまま死ンでりゃ良かったのによォ」
垣根「でまあ結局死ねなくてだな、それでも精神的にかなりブルー入っちまって
二日間くらい飲まず食わずでぐったりしてたんだわ」
一方通行(猥談に繋がりそうな要素が全くねェ……自殺未遂語りたいだけじゃねェのか?)
垣根「何もせずにベッドの上でぼーっとしてな、偶に吐きつけられた暴言を思い出して頭抱える……
そんな生活をしばらく送ってるうちに、ふと気付いたんだ」
一方通行「あァ?」
垣根「『あ、罵倒されるの結構気持ち良いかも』ってな」フッ
一方通行「」
垣根「取っ掛かりさえ掴めば後は簡単だったぜ。そしてついに!暴言や罵倒から来るイラ立ちやストレス、
それだけじゃなく肉体的な苦痛までも!あらゆる物を快楽に変換することに成功した!
そう、俺は新しい領域に突入したわけだ!!」
一方通行「」
垣根「今ならば学園都市のすべての能力者と同時に敵対しても、世界中の軍隊が相手でも
傷一つなく打ち勝つことができる!そのくらい最高の気分だったぜ!!
……いや、ちょっとくらい傷つけて欲しいかも」
一方通行「……」
垣根「で、せっかく新しい力(性癖)に目覚めたんだ、これを誰かに語りたい、分かち合いたい!
そう思ったからここに来た。……一方通行、オマエなら俺と同じ領域に来れるはずだ!!」
一方通行「……ようするにドMに目覚めてその喜びを誰かに語りたかったってことか
ンであわよくばドM仲間を増やそうと……それで猥談しようってことになったのか」
垣根「簡単に言うとそういう事だ。御坂や麦野に語ってみようかとも思ったが、アイツ等女だしな。
それに所詮第三位以下じゃこの領域までは来れやしねえさ……
この『極み』に着いて来れるのは第一位のオマエしか……ん?どうした蹲って、腹でも痛いのか?」
一方通行「……痛ェのは腹じゃなくて頭だよクソボケ」
垣根「いいか、物の見方を変えるんだ。世界の認識を変えろ、常識を打ち破れ!
そうすればその痛みも徐々に快楽に……」
一方通行「もう喋るンじゃねェ!!これ以上テメエがレベル5の品位を落とす前に、
この場で愉快なオブジェに作り変えてやらァ!!!」
垣根「……そうかよ、結局俺とオマエは相容れない存在ってわけか。
いいぜ、だったら第一位の看板、今日限りで下ろしてもらうぞ!一方通行ァァァァ!!!」
一方通行「おおおおォォォォォォ!!!!!」
垣根「ああああああああ!!!!!」
―――――――――――――――
―――――――――
――――
垣根「」チーン
一方通行「ハァ、ハァ、ハァ……」ゼーゼー
巨大なクレーターの中心で、一人の男は倒れ伏したまま死んだように動かず、
もう一人の男は顔を歪ませながら肩で息をしていた。直径数百メーターに及ぶクレーター、
作り出したのは彼等二人である。
―― 紙一重の勝負であった。
垣根帝督の見た新世界は、間違いなく彼に多大な力を与え、非暴力という枷を外し
全力でその力を振るう一方通行を追い詰めるまでに至った。
一方通行の繰り出す圧倒的なまでの暴力に対し、垣根の取った行動はたった一つ。
致命傷を受けないように立ち回り、傷つきながらもひたすら耐えるというそれだけのこと。ただし笑顔で。
荒れ狂う破壊の渦をその身に受けながらも笑顔を崩さず、そればかりかどんどん息を荒げ
顔を紅潮させていった垣根を前に、一方通行の胸中は如何様なモノだっただろうか。
結果、垣根は一方通行の攻撃の第一波を全て耐え切ることに成功する。致命傷を避けていたとはいえ、
常人ならば失血死、或いはショック死しているだろうと言う程の傷を全身に受けながらも、
垣根は歪な笑みを浮かべたままそれに耐え、あまつさえ次の攻撃の催促までする始末であった。
では何故今、彼は倒れているのか。致命傷を受けた?否。痛みの許容量を超えた?否!
答えは賢者タイム発動による自爆である。
一方通行のベクトル操作により未曾有の快楽へと到達した垣根はついに暴走状態に陥り
奇声を発しながら未元物質をブチ撒けると、バタリとその場に倒れ伏したのだった。
もし、彼が絶頂を迎えるのがもう少し遅ければ、一方通行の精神力の方が先に限界を迎えていたかもしれない。
どのような形であれ、垣根帝督は一方通行と肩を並べる程までにその力を成長させていたのだ。
一方通行「どうすっかな、これ……」
垣根「」
眩い笑顔を浮かべたまま気を失っている垣根を前に、一方通行は一人頭を抱える。
後顧の憂いを断つためには殺すというのが最も手っ取り早いが、流石に命を絶つという行為にはまだ抵抗がある。
しかし、ならばどうすればいいのか?真性のドMにまで昇華された垣根は、
きっと何度ボコろうが自分に立ち向かってくるだろう。
一方通行はSである。ドSと言っても良い。しかし彼は殴ったり蹴ったり、
或いは罵倒したりイヤガラセをしたりという行為そのものが好きだというわけではない
それらはあくまでも手段であり、本来の目的は他人が恐れ慄き、怯え、戸惑い、嘆く、
その様を笑いながら眺めることである。
それ故、どんな酷い事をしても快楽と捉え喜んでしまうようなドMとは非常に相性が悪いのだ。
殴る行為そのものが好きなどという頭おかしいヤツはどっかのウニ頭くらいなもんだろう。
一方通行「……なンとかコイツ正常に戻せねェかな」
立ち向かってくるのが鬱陶しい、とか相性が悪い、とかの前に、
このままではイヤガラセのメインターゲットが一人減ってしまうのだ。それは寂しい。
放置して御坂や麦野と絡ませて見るのも面白いかとも思ったが、万が一彼女達まで毒されて
ドMにでもなったらと思うと堪ったモノではない。まず有り得ないだろうが。
やはり今この場でどうにか始末をつけなければならないのだ。
一方通行「記憶とか消してみるか……」
倒れている垣根の頭を鷲掴みにし、ベクトル操作を用いて脳を弄り始める。
傍から見るとその様子は、既に倒れている相手にアイアンクローで追撃しているようにしか見えなかった。
「おいテメエ、何してんだ!?」
一方通行「あァ?」
そしてそんな非道な様子を決して見逃さない、一人のヒーローが唐突に現れる。
男だろうと女だろうと、目の前で繰り広げられる理不尽な暴力を決して許さないヒーローが。
「何があったか知らねーけど、もう勝負はついてるだろ!?」
一方通行「またテメエか、このウニ頭が!!」
ヒーローの名は、上条当麻。
上条「第一位が、なに死者に鞭打つような真似してんだよ!?」
一方通行「何がだよ!?」
先程書いたように、上条の視点からだと一方通行が既に意識の無い垣根に追撃を加えているようにしか見えないのだ。
しかし、当の一方通行は勿論そんなつもりなど無く、また自分が今周囲からどう見えるか、など
全く気にもしていなかったので、上条の言っている言葉の意味がこれっぽっちも理解できない。
この悲しいすれ違いにより、彼等二人は再び敵対することとなる。
上条「その手を離せつってんだよ!!その人をどうするつもりだ!?」
一方通行「あァ?いや今離せねェンだよ」
一方通行は上条の訴えを当然のように無視する。それもそのはずで、他人の脳を弄ると言うのは
彼の頭脳と能力を以ってしても非常に難しく、精密でデリケートな作業なのである。
「離せ」と言われたからと言って作業中に即離したのでは脳にどのような障害が残るか分かった物ではない。
垣根の為にも一段落つくまではその手を離すわけにはいかないのだ。
上条「そうかよ……テメエがどうしてもその人にトドメを刺さなきゃならねえってなら……」
一方通行「違ェって、話聞けよマジで」
上条「まずはそのふざけた幻想をぶち殺す!!」
一方通行「ホントに話聞かねェなオマエ!!むしろ俺が手ェ離したら死ぬンだよコイツ!!!」
上条「そんな理屈が通るかよ!!」ダッ
一方通行「く、クソがァァァァ!!!」
拳を握り締め、上条は一直線に一方通行に向かって駆け出す。
話を全く聞こうともせず、拳を振り上げ向かってくる上条に、一方通行は酷く狼狽した。
丸一日に及ぶイヤガラセ行脚、それに加え垣根との死闘、外傷こそ無いものの、
今の彼は満身創痍と言っても過言ではない状態である。そのような状態で垣根の脳を弄るだけでなく、
更に上条の相手まで同時にこなせ、というのは流石に無理があった。
一方通行(どうする……どうする!?)
彼は岐路に立たされていた。垣根を諦め上条を迎撃するか、死んでも手を離さず、垣根だけでも救ってみせるか……
迷っている時間は無い。すでに上条は眼前まで迫っており、その拳を今まさに振り下ろさんとしている。
そして彼は――
―――離さなかった。
骨まで伝わるような鈍い音を響かせながら、上条の拳はゆっくりと、しかし深く深く突き刺さる。
垣根の顔面に。
垣根「もぶぇ!!」グシャァ
上条「!?」
一方通行「……」ニヤ
一方通行は確かに手を離さなかった。彼は最後まで垣根の脳を正常に戻そうと演算を続けていた。
ただちょっと、自分の身の危険を感じて盾に使っただけだ。
ベクトル操作による脳への干渉と、幻想殺しによるそれの阻止と破壊。
双方を同時に脳で受け止めた垣根は、一方通行に掴まれたまま奇声を発しながら
ビクンビクンとその身を痙攣させた。
垣根「おふっおふっおふっ……」ビクンビクン
一方通行「あーあ、やっちまったなァウニ頭……」
上条「て、テメエ……ッ!」
一方通行「そンな恨めしそうな顔すンなよ、やったのはオマエだろ」ケケケ
垣根「あばばばばばば!!」ビクンビクンビクン
一方通行「うォ!?」
垣根の痙攣は徐々に大きくなり、ついには一方通行の手から離れ地面に転がり落ちるが
それでもまだ収まらず、陸に打ち上げられた活きの良い魚の如くビッタンビッタンと跳ね回る。
正直言って気持ち悪い。上条も一方通行もドン引きして言葉を無くすレベルである。
垣根「sjhojyfmuqaruap」ビッタンビッタン
一方通行「見ろよ、オマエのせいで取り返しのつかないことになっちまったぞ……」ウヘェ
上条「……正直すいませんでした」ウワァ
垣根「jghqpjcbajh………」ピタッ
一方通行「お?」
垣根「いってええええええええ!!!!!」ガバッ
上条「うわぁ!?」
一方通行「おォ、生き返りやがった」
垣根「いってぇ!!何だこれマジで痛え!!クソ、全身傷だらけじゃねえか……何があったってんだ」
一方通行(記憶消す作業なンとか間に合ってたか……っと、面倒なことになる前に雲隠れってなァ)コソコソ
ご都合主義万歳。
垣根「いてててて……あぁ?おいウニ頭、テメエの仕業かこれ」
上条「え?え?何で俺!?隣にいる第一位さんが……いねえし!?」
垣根「どんな真似しやがったか知らねえし覚えてもねえが、この俺をここまで追い詰めるたぁ褒めてやるよ
だがここまでだ、学園都市の第二位にケンカ売ったことを後悔しながら死んでいきやがれ!!」バサァ
上条「うわああああ不幸だあああああ!!!」
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――――
一方通行(ふゥ、なンとか全部ウニ頭に押し付けれたか……)
目覚めた垣根の後始末を全て投げ出し、一方通行は見つからないうちにさっさと現場を離れていた。
正常に戻った垣根が相手ならば叩き潰すことも容易いだろうが、今日はもう本当に、
これ以上僅かばかりも力を使いたくないと言うほど疲れているのだ。
一方通行(……つーか今からどうすっかな)
当ても無くとぼとぼと歩きながらガックリと項垂れる。
派手に暴れたせいで彼の住んでいたアパートは跡形も無く吹っ飛んでしまったのだ。
というか先程までいたクレーターの中心部が彼のアパートが元々あったはずの場所である。
一方通行(疲れた、だりィ、めンどくせェ……)
ホテルを探すにしても、基本的に学生寮や学生アパートに住んでいる学生ばかりの学園都市では
そういった宿泊施設がある場所は限られており、今彼がいる学生街からはかなり距離がある。
真っ当なルートで行こうと思ったら電車やバスを乗り継いで行かなければならず、
能力を使えばすぐだろうが、先に述べた通り疲れきっている為、それも億劫だ。
一方通行(とりあえずどっかで休憩……お)
歩いていた彼の目に小さな公園が映る。遊び道具も何も無い小ぢんまりとした公園だが、
ベンチと自販機、トイレくらいは備え付けられており、ちょっとした休憩にはもってこいだろう。
一方通行(こりゃいい、ここで少し休ンで回復してから寝る所探すか)
自動販売機でコーヒーを買い、溜息を吐きながらベンチに腰を下ろす。
今日はいつぞやの24時間生活以来、本当に長い一日だった。それもこれも全部垣根のせいだ。
そんな風に、そもそも垣根があんな事になっていた原因が自分である事を完全に棚上げしながら
一方通行は一息にコーヒーを飲み干した。
一方通行「ふあァ……」
疲れきった身体の隅々までカフェインが巡っていく感覚を楽しみながら大きな欠伸をすると、
彼はゴロンとベンチに横になる。ベンチを独占するような真似は褒められたものではないが、
もう日が落ちかけている時間帯だし、人っ子一人見当たらない寂れた公園なのだから構わないだろう。
反射があるとは言え、本来の彼は外でこんな無防備な姿を晒す真似は滅多にしない。
今はとにかく疲れているのだ。このまま目を閉じればモノの数秒でめくるめく夢の世界へと旅立てるだろう。
カフェインの覚醒作用が強く働き始めるまで一、二時間ほど。
効果が現れ始めるまで仮眠を取って、それから宿泊場所を探すことにしよう。
うつらうつらとそんな計画を立てていた彼の耳に――
「おや、そこにいるのは一方通行ではありませんか?
とミサカはタイミングを見計らったかのように颯爽と現れます」
一方通行「!?」
聞きなれた声が聞こえてくる。
彼の長い一日はまだ終わらないようだ。
一方通行「……知らねェ天井だ」
ある日の朝、目を覚ました一方通行は、視界に入ったのが見慣れた自分の部屋の天井ではなく
見たことの無い天井であったことに対する素朴な感想を漏らした。
一方通行「どォなってンだ……?」
混乱しかけた状態のままぐっと身体を起こすと、自分の身体が鉛のように重いことがわかる。
今は何時くらいだろうか、近くには時計も、外の様子を確認する為の窓も無い為確認できない。
一方通行「ここは……あァ、なンだ研究所か」
ようやく思考がまともに働き始め、先日の出来事と、今自分がいる場所を思い出す。
そう、昨日は散々イヤガラセをして回り、疲れ切って家に帰ってみれば
間違った方向に進化した垣根が彼を待ち構えていたのだ。なんとかそれを撃退するも、
反動で彼の家は周囲の地形ごと吹き飛んでしまい、 疲労もピークに達し近場の公園で休んでいたところを
彼は更に11111号に発見されてしまう。
仕方なく疲れた身体に鞭打って彼女とのフリートークに付き合っていたのだが、
その辺りからどうにも記憶が飛び飛びである。恐らく半分寝ながら会話していたのだろう。
一方通行「そうそう、あンまり俺が眠そうにしてたから11111号も流石に空気読ンでくれたンだったか……」
「本当にお疲れのようですね、何でしたらこのミサカが研究所に泊まれるように取り計らいますが……
わざわざホテルを探しに行くよりは幾分マシでしょう、とミサカは現状最適と思われる案を提示してみます」
そんな風に11111号は珍しく、本当に珍しく一方通行の身を案じるような素振りを見せたのだ。
何か思惑があっての事だったのかもしれないが、とにかく疲れていた一方通行にとっては渡りに船と言えた。
結果、彼は何か胡散臭い物を感じながらも、それを無視して一刻も早く休むことを優先したのである。
そして今、彼はこうして研究所の一室にいるというわけだ。
疲れが抜け切っていないのは硬い簡易ベッドで長いこと寝ていた為だろう。
一方通行(……昨日は疲労のせいで頭が回ってなかったが、
こりゃ11111号の企みにまンまと乗っちまったンじゃねェか?)
あの11111号が善意で自分の事を気遣ってくれるはずがない、という至極真っ当な判断から
一方通行は今更のように己の軽率な行動を省み、顔を顰める。
一方通行(何かされてンじゃねェだろうな……)
布団を払い、ベッドから降りて自分の身体を確認する。彼には24時間、寝ている間もフル稼働の反射の膜があるため、
彼の身体や身につけているもの何かをされたという可能性は極めて低いのだが、
それでもやはり、一応確認しないと気が休まらない。
一方通行(見たところ異常は無さそうだが……それじゃァ11111号のヤツは何を企ンでやがるンだ?)
寝ている間に何かをされたわけではない。いつぞやの様に能力を封じられているなどと言うことも無い。
ならば、何かが起きるのは今からだろう。
一方通行(……何考えてっか知らねェが、あっちが動き出す前にさっさと研究所から出てった方が良さそうだな)
そう判断を下すと、彼はすぐさま近くの扉に手を掛け部屋を後にした。
― 研究所、廊下
一方通行(まだ誰もいねェ……とすると相当早い時間ってことか?
目が覚めたのは運が良かったかもな)
一方通行(チッ、携帯の電池は切れてやがるか……とりあえずどっかで時間の確認だけでも……ン?)
フフフフフ……ハハハハハ……
一方通行(……笑い声?妹達の誰かか?11111号じゃ無さそうだが……こっちの方か)
ナニヲワラッテルンダ!
一方通行(この部屋か………あン?ここは確か……ガンプラ飾ってあった部屋か?)ソッ
―研究所、とある部屋内部の様子
13577号「私の勝ちだな。今計算してみたが、アクシズの後部は地球の引力に引かれて落ちる!
貴様等の頑張りすぎだ!」 ←勝ち誇った顔で手にサザビーの脱出ポッドとνガンダムのプラモ
13577号「ふざけるな!たかが石ころ一つ、ガンダムで押し出してやる!!」 ←必死の形相
13577号「バカな事はやめろ!!」 ←焦った表情
一方通行「……クッ」プルプル ←笑いを堪えている
13577号「やってみなければわからん!」 ←覚悟を決めた表情
13577号「正気か!?」 ←驚きと焦りの入り混じった表情
13577号「貴様ほど急ぎすぎもしなければ、人類に絶望もしちゃいない!!」 ←最高のキメ顔
13577号「ぐわああぁぁぁ!クッ、アクシズの落下は始まっているんだぞ!?」 ←驚愕の表情
一方通行「……ブフッ」 ←ついに吹き出した
13577号「νガンダムは伊達じゃn……」ハッ ←ようやく一方通行に気付いた
一方通行「……く、クククク……」
13577号「あ、一方通行……いつから……」ガクガク
一方通行「私の勝ちだな、辺りからかなァ」ケケケケ
13577号「うわああぁぁぁほとんど全部じゃないですかぁぁぁ!!とミサカは真っ赤になって顔を覆います」
一方通行「随分表情豊かになったモンだなァ、ジョニー・ライデン……」ケラケラケラ
13577号「誰が真紅の稲妻ですか!?とミサカは先日のイヤガラセを思い出して歯軋りします」ギリギリ
一方通行「つーかオマエ、外に声漏れてたぞ?」
13577号「……マジですか?」
一方通行「大マジだ、だから俺もここに来たンだよ」
13577号「うああああああ!!近頃皆が妙に優しかったのはこういうことかあああああ!!!
とミサカは衝撃の事実に頭を抱えて蹲ります」
一方通行「ご愁傷様でェす」ケラケラ
13577号「……最近になって一部の人がこのミサカのことを「マリーダさん」と呼ぶようになったのは
つまりミサカがマリーダさんごっこを良くやっているのが漏れていたからだったのですね……
とミサカはここ数日の自分の行動を思い出し涙を流します」
一方通行「……その時点で声漏れてるって気付けよ」
13577号「……そう、敬愛すべきマリーダさんと呼ばれていたのに!!
あなたのせいで昨日から「ジョニー・ライデン」呼ばわりになったんですよ!?
とミサカは再び先日のことを思い出し一方通行に食って掛かります」
一方通行「知らねェよボケ、つーか俺急いでるからもう行くぞ」
13577号「待ってください!今あなたを行かせるわけには……」
<ガチャ
一方通行「お?」
13577号「おや?」
「あーいたいた、ようやく見つけましたよ一方通行、とミサカは微笑みながら部屋に介入します」
一方通行「げ、11111号……」
11111号「こんな可愛い子捕まえて「げ」はないでしょう、「げ」は、とミサカは舌打ちをします
ところで13577号、いやジョニー・ライデン」
一方通行「可愛い子は舌打ちなンてしねェよ」
13577号「ジョニー言うなや」
11111号「今日はガンダムごっこやらないんですかぁ?とミサカはニヤつきながら尋ねます」
13577号「いやああああ言わないでえええええ!!とミサカは顔を覆います」
11111号「『ミサカは13577番目の妹ではない(キリッ』とかノリノリで言ってましたよね、
とミサカは口元を手で覆いながら13577号に哀れみの視線を送ります」
13577号「やめてえええええ!!!とミサカは床に額を打ち付けてあああああ!!」ガンガンガン
一方通行「お、おいヘッドドラム始めたぞコイツ!?」
11111号「んー、まぁ放っておきましょう、少し時間が経てばまた元気にガンプラで遊び始めますよ
とミサカは面倒なのでスルーします」
一方通行「相変わらずひでェなオマエ」
13577号「ハレルヤ……世界の悪意が見えるようだよ……」ブツブツ
11111号「ほら、もう復活し始めましたよ、ガノタって立ち直り早いから厄介です
とミサカは蔑んだ目で13577号を眺めます」
一方通行「いや立ち直ってンのか?これ」
11111号「こまけぇこたぁいいんですよ、とミサカは13577号から目を背けます
ところで一方通行、ミサカはあなたに用があるんですよ」
一方通行「……やっぱり何か企ンでやがったのか」
11111号「企んでいるとは人聞きの悪い。ただミサカは対価を頂きたいなぁ、と思っているだけですよ
とミサカは含み笑いをしながら一方通行に迫ります」ジリジリ
一方通行「対価だァ?」
11111号「そう、対価です。先日このミサカはあなたが研究所に泊まれるように随分骨を折ったんですよ。
研究員に頼み込んだり、あなたが眠っていた部屋を本来使っていた妹達に場所を移ってもらったり、
とミサカは自分がいかにあなたの為に働いたのかをアピールします
働きに見合う報酬を受け取るのは正当な権利でしょう?」
一方通行「チッ、不本意だが世話ンなったのはまァ事実か……報酬って何が欲しいンだよ」
11111号「金くれ、とミサカは単刀直入に要求します」
一方通行「か、金ェ?」
11111号「はい、八兆円くらい、とミサカは具体的な金額を提示します」
一方通行「何だ八兆って!?そンなに出せるわけねェだろ!!」
11111号「いいじゃないですか減るもんじゃなし、とミサカはケチ臭い一方通行に口を尖らせます」ブーブー
一方通行「減るわ!!金ってのは使ったら減るンだよ!!何言ってンだオマエ!?」
11111号「どうせあなたがお金持っててもコーヒー代くらいにしか使わないでしょう?
このミサカが有効利用してやろうと言うんです、有り難く献上しなさい
とミサカはずいっと右手を突き出します」
一方通行「ふざけンな!テメエにくれてやるくらいならドブに捨てるわ!!」
11111号「どんな判断だ」
一方通行「分かる人にしか分からないネタはやめろ、対応に困るだろ……」
11111号「あなたのようにお金持ってるくせに使わずに溜め込む輩がこの国の経済を停滞させているんですよ
あなたは経済の歪みを生み出す元凶です、金持ちはもっとじゃんじゃんお金を使うべきなのです!
とミサカは持っている者の義務を指摘します」
13557号「見つけたぞ、世界の歪みを!」
一方通行「うるせェ!大体、何でそンなに金が欲しいンだよ!?」
11111号「ぶっちゃけるとあなたが原因なんですけどね、とミサカはそもそも金が必要な理由を押し付けてみます」
一方通行「あァ?」
11111号「えっとですね、まずあなたがこの研究所を一度ぶっ壊したお陰で、研究所は財政難です
おまけにあなたが全く実験に協力しないため予算も下りません
とミサカは当研究所の厳しい経営状況を暴露します」
一方通行「ほォ」
11111号「その為ミサカ達に支給される毎月のお小遣いも減る一方なのです、
とミサカは寂しい懐事情を赤裸々に語ります」
一方通行「つーか研究所から小遣い貰ってたのかよオマエ等」
11111号「更にあなたが研究所の備品を破壊して回るので出費は嵩んでいくのです
わかりましたか?全部あなたが原因なんですよ、とミサカは事実を突きつけます
このままでは全妹達が路頭に迷うハメになり兼ねません」
一方通行「そンなに切迫してンのか……」
11111号「はい、特に妹達関連の経費はどんどん削られていますね
まぁ実験用に大量生産されたのに肝心の実験が全く始まる気配が無いので
このミサカ達がごく潰し扱いされてしまうのも仕方が無い事なのですが……
とミサカは自嘲気味の笑みを浮かべます」
一方通行「なるほどなァ……財政難の原因の一端が俺にあることはわかった
妹達が路頭に迷ったら面倒な事になるってのもわかる。……だが金はやらねェぞ」
11111号「えー、そんな殺生な……見てくださいよ、13557号なんて
最近ガンプラ買うお金も無いから木を彫って作ってるんですよ?
とミサカは棚に飾ってある木彫りのガンダムを指差します」
一方通行「それはそれですげェだろ、ガンプラなンぞより数段……
まァ話は最後まで聞け、オマエに、いや妹達に金渡してもろくな事にならねェのは目に見えてる
……だから、現物支給だ。オマエ等が必要なモンをリストアップしろ、
そうすりゃ暇を見て俺が買いに行ってやるよ」
11111号「何その優しさ、お前本当に一方通行か?とミサカは思わぬ優しさにドン引きします」ウワァ
一方通行「なンで引かれなきゃなンねェンだよ!?
……まァあれだ、オマエ等も勝手な都合で作られた上に、今また勝手な都合でごく潰し扱いされてンだろ?
しかもその原因の大半は俺だ……これでも少しは責任感じてンだよ」ハァ
11111号「やめてください、綺麗な一方通行など誰も望んでいません、とミサカは更に引きます」ウヘェ
一方通行「オマエはマジで失礼の極みだなオイ」
11111号「あなたはもっとこう、あはぎゃは笑いながら妹達を虐げるくらいで丁度いいんですよ
とミサカはあなたの本来あるべき姿を指し示します」
一方通行「オマエの中の俺像はどうなってンだ」
11111号「外道」
一方通行「あァうン、間違っちゃいねェけど……」
11111号「つーか何一人で大人ぶってんの?つい昨日まで妹達にイヤガラセしまくってたくせに、
童貞のくせに、とミサカはどれだけ取り繕っても覆せない事実を指摘します」
13557号「ビリー・カタギリ(童貞)がなんですと?」
11111号「あいつは劇場版で童貞捨てただろ、恐らく一生童貞の一方通行とは訳が違います
とミサカはやればできる男であるビリーとチキンな白モヤシを比較します」
一方通行「オマエ頭下げて援助してもらう立場だってわかってンのか!?金出さねェぞオイ!!」
11111号「く、そうやって弱みに付け込んでこのミサカをどうする気ですか!?
とミサカは身の危険を感じて身体を隠しながら距離を取ります」
一方通行「とりあえず黙って貰えませンかァ!?」
11111号「ま、童貞のあなたにこのミサカの悩殺ダイナマイトバディは刺激が強すぎるのはわかりますが……
とミサカは悩ましげなポーズを取りながら童貞坊やに視線を送ります」
一方通行「何がダイナマイトだよこの不発弾が、相変わらずの絶壁平坦二次元幼児体型じゃねェか」
11111号「ロリコンのお前にはストライクだろ?とミサカは童貞ロリコンを蔑んだ目で嘲笑います」フッ
一方通行「もう絶対金出してやらねェ……つーか前にも似たようなやり取りしただろ!!」
11111号「そういえばそうですね、まったくお前は何も成長しねえな、とミサカは溜息を吐きます」ハァ
一方通行「オマエだよこのクソガキが!」
11111号「でまぁ、取り急ぎ必要な物は既にリストアップしていますので、お願いします
とミサカはリストを差し出します」
一方通行「ン………おい待て女物の服とかぬいぐるみを俺に買いに行かせる気か!?
そもそもこれのどこが『取り急ぎ必要な物』なンだよ!?」
11111号「また細かいことを愚痴愚痴と……いいじゃないですか、だってミサカの金じゃないし!
とミサカは財布の紐が硬い一方通行に文句を言います」
一方通行「自分の金じゃないンなら尚更気ィ使え!!つーか常盤台の制服なンざ何処で買うンだよ!?」
11111号「はぁ、童貞に一人で女物の服を買いに行かせるのは流石に酷ですか……
仕方がありません、このミサカがついていってあげますよ
とミサカは頼りにならない一方通行を見下します。あぁめんどくさい」ケッ
一方通行「オマエ本当に少しは立場ってモンを……」
11111号「ポチっとな」ポチ
携帯<打ち止めァァ!愛してるぞォォ!!
一方通行「やめろォォォォォォ!!!!」
11111号「立場ってモンがわかりましたか?それでは行きましょう、ジャンジャン金を使ってもらいますよ
とミサカが笑顔で一方通行に語りかけます」ウケケケ
一方通行「ちくしょおォォォォ……」
―――――――――――――――
―――――――――
――――
―街中
一方通行「でェ、まず何から買うンだよ?」
11111号「そうですね、とりあえず制服からでしょうか、とミサカは提案します」
一方通行「さっきも聞いたが、常盤台の制服なンざ何処で買うンだァ?
入学式シーズンとかなら業者に紛れて上手いこと誤魔化せばいけるかも知れねェが
今の時期は常盤台はおろか普通の学生服すら扱ってる店少ねェだろ」
11111号「ご安心を、必要なのはあなたが破いたり染めたりして使い物にならなくなった数着分だけですので
少量ならアテがあります、とミサカは人差し指を立てます」
一方通行「破いただのなンだの人聞きの悪ィこと言いやがって……」
11111号「破いただろ実際、大勢の前でこのミサカの制服を強引に引っぺがしただろ、
とミサカは当時のことを思い出して顔を真っ赤にします。イヤン」
一方通行「全く顔色変わってねェし、そもそもありゃ自業自得だろクソボケが」
11111号「万が一自業自得だったとしても女の子の服を大衆の前で剥ぎ取るなんてどうかと思いますよ人として、
とミサカは目の前の白モヤシに人間失格の烙印を押します」
一方通行「テメエマジでいい加減に……わかった、わかったから携帯出すな、俺が悪かったから」
11111号「はいよくできました。 それでは行きましょうか、とミサカは先導します」
一方通行「だから何処に行くンだよ……」
11111号「ブルセラです」
一方通行「ぶ、ブルセラだァ!?」
11111号「常盤台の制服って高く売れるんですよ、とミサカは真顔で受け答えします」
一方通行「売った事あンのかよ!?」
11111号「ミサカが売り、あなたが買い戻す。これでミサカの懐は暖まり、制服も帰ってきます
錬金術の完成ですね、とミサカは笑顔で親指を立てます」グッ
一方通行「何が錬金術だ!?俺の金が中間搾取で減りまくるわ!!
つーか制服買わなきゃいけなくなった理由ってオマエがブルセラに売りさばいたからだろ!?
よく考えたら俺がダメにした制服って二着だけじゃねェか!!」
11111号「な、自分がやってきた事を棚上げして何を!とミサカは痛い所をついてきた一方通行に顔を顰めます」
一方通行「やっぱ痛ェ所なのかよ!マジで頭腐ってンだろオマエ!」
11111号「資金難で仕方がなかったんですよ、決してこのミサカが私利私欲のために行ったわけでは……」
「あれ、あんた達何やってんの?」
一方通行「あァ?……まァた面倒なヤツが出てきやがった」
11111号「おやお姉様御機嫌よう、とミサカはぺこりと頭を下げ挨拶をします」
御坂「やっほー、って面倒なヤツってどういうことよ!?」
一方通行「そういう反応が既にめンどくせェンだよ……」
11111号「大丈夫ですよお姉様、面倒な女にも一定の需要はあるはずですから、
とミサカは目を反らしながら面倒なお姉様を慰めます」
御坂「面倒面倒言うな!!アンタ、検体番号何番よ!?」
一方通行「あー、こいつは……」
11111号(シッ、一方通行黙ってください)ヒソヒソ
一方通行(あァ?なンでだよ)ヒソヒソ
11111号(お姉様はまだこの前の『笑ってはいけない~』を根に持っている可能性があります
ここでこのミサカの番号を漏らすと更に面倒なことになる恐れが……)
一方通行(ン、確かになァ……いや、だがここでオマエを差し出すのも面白そうだ)ケケケ
11111号(まぁ構いませんけど、その場合あなたも多分共犯者扱いされることになりますよ?
とミサカは濡れ衣を着せられるのが大っ嫌いな一方通行の感情を煽ってみます
ていうか検体番号バラされてお姉様に問い詰められたらあなたに責任転嫁しますしー?)クスクス
一方通行(て、テメエ……)
御坂「……?良く分からないけど随分仲良さそうねアンタ等」
一方通行「目ェ腐ってンのか?どう見りゃ仲が良いように……」
11111号「そりゃもう、ミサカは愛されてますから、
とミサカはこみ上げてくる吐き気を堪えつつ話題を転換します」
一方通行「えェー……」
御坂「あ、愛ぃ!?ちょっと一方通行!アンタなに私の可愛い妹を誑かしてんのよ!?」
一方通行「信じンのかよ……」
11111号「ご心配なさらないでくださいお姉様、このミサカは望んで一方通行とデートを……
うぉえっぷ……うく、もう限界です……」グハッ
御坂「ちょっとどうしたの!?」
11111号「うぉぇ……『一方通行』と『デート』という単語が合わさり拒絶反応を……」
一方通行(自分で言ってて気持ち悪くなってやがる、ざまァ)
御坂「な、何言ってるかよくわかんないけど大丈夫なわけ?」
11111号「ハァ、ハァ…………ミサカのお腹の中に新しい生命が……」ハァハァ
御坂「つわり!?つわりだったのそれ!?」
一方通行「そう来たかァァァァ!!」
御坂「だだだ、誰が父親なの!?……ま、まさかアンタ」
一方通行「俺を見るな!無実だ!!つーかそいつの中には誰もいねェよ!!」
11111号「きっと生まれてくる子供は父親に似て色白で中性的な顔立ちをした……ッ」
御坂「一方通行ァァァァァァ!!!!」
一方通行「ふざけンなァァァァァァ!!!!」
御坂「なぁにが『無実』なのよ!?よくわかったわ!!アンタは世界中の女の敵よ!!」
一方通行「俺の話聞いてくれるヤツはいねェのかよォォォォォ!!!」
11111号「日頃の行いってやつですね、とミサカはへらへら笑います」
一方通行「お、おォ見ろ超電磁砲、アイツあンなに元気だぞ、さっきまでのが演技だってわかンだろ!!」
御坂「そ、そう言われてみれば……」
一方通行「わかってくれたか……」ホッ
11111号「あ、今蹴った……とミサカは愛しげに自分のお腹を擦ります」ウフフ
御坂「」
一方通行「テメエはァァァァァ!!!!!」
御坂「……」
一方通行「おい超電磁砲、落ち着け、落ち着いて俺の話を……」
御坂「……」
一方通行「超電磁砲……?」
11111号「お姉様……?」
御坂「……」
一方通行「し、死ンでる……」
11111号「あっちゃー、ショックが強すぎましたか、とミサカは自分の額をぺちんと叩きます」アチャー
一方通行「やってる場合か!息してねェぞコイツ!?つーか前もあったよなこういうこと!!」
11111号「これはいけません、一方通行、心臓マッサージを施してください
とミサカはお姉様の薄い胸を指差します」
一方通行「よ、よし……って誰がやるか!!どうせオマエ俺が心臓マッサージしてるところ写真撮って
『一方通行がお姉様の胸を揉みしだいてる!』とかほざくンだろうが!!」
11111号「邪推は止めてください!冗談を言ってる場合じゃないことがわからないんですか!?
とミサカは携帯カメラを起動しながら憤慨します」
一方通行「説得力ゼロじゃねェか!オマエがやれよオマエが!!」
11111号「えぇいこの際人工呼吸でも構いません、早くお姉様を助けてあげてください!
とミサカはムービー撮影をしながら涙ながらに懇願します」
一方通行「尚更やらねェよ!!つーかすっげェ笑ってるよなオマエ!
涙なンざ一筋たりとも流れちゃいねェよなァァ!!!」
11111号「このミサカとしたことが目薬を忘れてしまうとは、何たる不覚!
とミサカは……ハッ、こ、この気配は……」ピキーン
一方通行「あン?」
11111号「ヤツが……ヤツが来る!!とミサカは脱兎の如く逃げ出します
後は任せました一方通行!!」ダッ
一方通行「あ!お、おい!?…………なンだってンだ?……ン?」
オネエェェェサマァァァァ!!
一方通行「この地を揺るがすようなババア声は……まさか………」
白井「お姉様ァァァァァァ!!!!ご無事ですかァァァァァァァ!!!!」ドドドドドド
一方通行「やっぱ白黒かよめンどくせェ……」ガクッ
白井「第一位様、これはどういうことですの!?お姉様の心臓が可憐に止まってしまっているではありませんか!!」
一方通行「いや俺のせいじゃねェからそれ」
白井「あぁおいたわしやお姉様……ですが死んだように固まっているお姉様も素敵ですの……」ウットリ
一方通行「早く蘇生しねェと死ンだようにじゃなくて本当に死ンじまうぞ」
白井「ハッ、そうでした!こ、こういう時はマウストゥマウスですのよね!?」
一方通行「あン?……好きにすればいいンじゃねェか?」
白井「人命救助の為ですの、他ならぬお姉様の為ですの、疚しい気持ちなど一切ありませんの!」
一方通行「ですのですのうるせェ、やるならさっさとやれ」
白井「うひょう!第一位様からのお墨付きですの!!それでは白井黒子、行かせて頂きますの!!!」
白井「ん……」ググッ
ズキュゥゥゥン!!
一方通行「うわァ汚ェ……」
白井「ぷっはあぁぁ!!うんめええぇぇぇ!!!」ジュルル
御坂「」
一方通行「俺が言うのもなンだが、オマエは本当に人として最低だなァ……」
白井「ジャッジメントとして人命救助を行ったまでですの(キリッ」
一方通行「最悪な感想漏らしてたじゃねェか……で、ちゃンと酸素送り込ンだのかァ?」
白井「それはもう、舌と一緒に」
一方通行「その報告はマジでいらねェ」
白井「お姉様の心臓、再起動を確認!」モミモミ
一方通行「……本当に確認してるだけなのかも知れねェが、オマエが絡むと全部汚く見えちまうな」
白井「しかし意識は戻りませんの……大丈夫でしょうか……」
御坂「」
一方通行「別の意味で死ンだンじゃねェか?」
白井「むぅ、心臓が止まっていたせいかお姉様の体温が異常に低いですの、このままでは……」
一方通行(あ、何考えてっか読めた)
白井「こうなったら仕方がありませんの!黒子の素肌で暖めて……」
一方通行「言うと思ったわ!間違ってもこンな街中で脱ぐンじゃねェぞ!?」
白井「し、しかし事態は一刻を争うんですのよ!?」
一方通行「あァー……あっちの方に人気の無い公園があっからそこまで我慢しろ、な?
ここで始めても誰かに邪魔されるのがオチだろ」
白井「わ、わかりましたの!第一位様、何から何まで感謝いたします……さ、お姉様行きましょう」ゲヘヘ
御坂「」ズルズル
一方通行(達者でな、超電磁砲……もし今度会うことがあったらゲコ太のぬいぐるみくれェ奢ってやるよ……)
一方通行「……おい11111号、そろそろ出てきやがれ」
11111号「おや、バレていましたか、とミサカはペロッと舌を出しながら街影から現れます
つーかお前ひどすぎじゃね?お姉様かわいそ過ぎるだろ、止めろよ……」
一方通行「即行で逃げ出したヤツが何言ってンだ……それより制服の件だが、
ブルセラなンぞに行くよりいい方法思いついたぞ」
11111号「ほう、窺いましょう、とミサカはどうせろくでもない意見だろうと思いながらも耳を傾けます」
一方通行「いいか、超電磁砲はしばらく寮に戻らねェ、だからオマエがアイツの振りして寮に侵入しろ
そンで超電磁砲の制服の予備を根こそぎ盗ンで来い、足りなきゃ白黒のもだ」
11111号「おぉぉ、なんという腐りきった案……あれほどの目に会わせながら更にお姉様に鞭を振るいますか
とミサカは一方通行の外道っぷりに震えます」
一方通行「超電磁砲があンな目に会ったのはオマエのせいだろ……で、この案は不満かァ?」
11111号「いえ、とてもミサカ好みです、とミサカは笑顔で頷きます」ニヤ
一方通行「だろうな……うし、じゃァ決まりだ、行け」
11111号「イエッサー、とミサカは外道モヤシに向かって敬礼します
あ、終わったら連絡しますね、制服以外にも買わなければならないものがあるので」
一方通行「チッ、仕方ねェな……待っててやるから急げよ」
11111号「はいはい、それではちょっと一っ走り行って来ます、とミサカは出発します
ジュースでも用意して待ってろよモヤシ野郎」タッタッタ
一方通行「誰が用意するかクソが!!」
一方通行「……え、この話続くの?」
一方通行「……連絡こねェな」
ブラブラと街を歩き、11111号からの連絡待ちをしている一方通行であったが、
彼女と別れてから早2時間、待てど暮らせど連絡はこない。
我慢弱く落ち着きの無い彼の堪忍袋はもはや限界寸前である。
一方通行(あのバカなンかヘマやりやがったか?いや、アイツに限ってそンなことは……あ、)
一方通行「そういや携帯の電池切れてたンだった、そりゃ連絡ねェわ」
連絡が来ない原因に思い至り、一方通行は笑いながら、あちゃー、と額を押さえる。
とはいえ携帯を充電する暇も無く研究所から引っ張り出されたのだから仕方が無い。
連絡の取りようもないしもういいか、と彼はあっさり約束を反故にする姿勢を見せ、
研究所に帰るべくさっさと移動を始めた。
一方通行(まァ丁度いいか、めンどくせェし、これ以上買い物続けてると更にめンどくせェ事になりそうだし)
そんな漠然とした不安を感じながら、一方通行は足を速める。
普段なら知り合いに遭遇するのは大歓迎、遭遇した端からイヤガラセを仕掛けてやる、というスタンスの彼だが、
どうにも今日はイマイチ気乗りしない。先日の疲れが残っている為か、はたまた朝から11111号に振り回された為か……
大人の話をするとイヤガラセのネタが切れているだけなのだがそれは秘密である。
一方通行(とにかく、なァンかイヤな予感がすンだよなァ……)
能力、演算力、そのどちらを取っても一方通行は間違いなく学園都市の頂点である。
しかし彼は自分の能力を過信しない、妄信しない、自分が最強であることは自覚していても
自分の能力が決して万能ではないということをよく知っている。
最強ではあるが万能ではない第一位。周りから狙われる立場を長年続けてきた彼は、
それ故周囲に意識を張り巡らせ迫り来る敵意や危険をある程度事前に察知する術を覚えていた。
今感じている「イヤな予感」もその経験と危険察知能力から来る物であり、ただの当てずっぽうというわけではない。
一方通行(こンな時は引き篭もるに限る……げぇ!)
研究所はもう目と鼻の先だというのに、一方通行の足はそこで止まってしまう。
研究所へと続く一本道、その中ほどに、腕を組み仁王立ちをしている11111号がいたのだ。
恐らく彼女は連絡が取れないので、一方通行が研究所に戻ってくることを見越して待ち伏せをしていたのだろう。
11111号「よう、遅かったな白モヤシ、とミサカは携帯をぶっちされた事に割りとマジで腹を立てます」
一方通行「悪ィ、電池切れてたンだよ……で、更に悪ィンだが、買い物は後日にしてもらえねェか?
イヤな予感がしてならねェ」
11111号「こんな可愛い女の子を散々待たせた挙句そんな言い訳が通るとでも思ってんですか?
とミサカは腕組をしたまま顔を顰めます
ほら行きますよ、お詫びにスイーツ(笑)の一つでも奢ってもらわねば気が済みません」
一方通行「待て、マジでイヤな予感がすンだよ」
11111号「むしろあなたがイヤな目に会ってる所を見たいので行きましょう、是非、とミサカは目を輝かせます」
一方通行「ふざけンな!!梃子でも動かねェぞ!!だいたい誰の金だと……」
11111号「あまりこう言う手段を使うのは好きじゃないんですが、あなたはもっと自分の立場をですね……
とミサカは溜息を吐きながら懐から携帯を取り出し……」
一方通行「あァァァァ!!わかったよクソ!行きゃいいンだろ行きゃァ!!ヤケだちくしょうが!!!」
11111号「はい、それではまずスイーツ(笑)を奢ってください、とミサカはるんるん気分で先行します」
一方通行「クソ、弱み握られ過ぎだろ俺……なにやってンだ……」
―再び街中
一方通行「こうなったらさっさと終わらせてさっさと帰ンぞ、オマエは何が食いてェンだ?」
11111号「パフェとかクレープは食べ飽きているので和系スイーツが食べたいです、
とミサカは自分の希望を端的に伝えます」
一方通行「食べ飽きてる?オマエ等金欠なンじゃなかったのかァ?」
11111号「そこはあれです、ブルセラに(他の個体の)制服売った金とかで……」
一方通行「思いっきり私利私欲の為に使ってンじゃねェか!?」
11111号「細かいことは気にしなさんな、突き詰めれば人間生きようとする意志すら私利私欲ではありませんか
とミサカは目を反らしながらわけのわからない理論を展開して言い逃れをします」
一方通行「もういい、オマエにはつっこみきれねェよ……」ハァ
11111号「やだ、このミサカに何をつっこむ気!?とミサカは童貞が高じて暴走しそうな一方通行から距離を取ります」キャッ
一方通行「マジで鉄パイプでもなンでも使って全部の穴塞いでやろうか」
11111号「穴の位置も知らない童貞が出来もしないことを……おや、あれは何でしょう?
とミサカは前方の屋台を指差して首を傾げます」
一方通行「あァ?……タイヤキ屋か、丁度いい、あれでいいだろ」
11111号「たいやき?何ですかそれ、甘いんですか?タイなのに?とミサカは無知な天然娘っぷりをアピールしてみます」
一方通行「鯛の形した粉モノの菓子だよ、中に餡子とかが詰まってンだ」
11111号「うぐぅ」
一方通行「知ってンだろオマエ!?」
11111号「いえいえ全く全然これっぽっちも知りません、とミサカは首をブンブン振って否定します
ですが手軽そうですし面白そうですね、あれにしましょう」
一方通行「ンじゃ待ってろ、買ってきてやっから」
11111号「おや優しいですね、可愛い女の子をエスコートしているという自覚が出てきましたか?
とミサカは徐々に女慣れしていく一方通行を複雑な心境で見守ります
……お前は一生童貞でいろよ?その方が面白いんだから」
一方通行「死ね」
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<ケッキョク、アリガトウゴザイマシタッテワケヨー
一方通行「ほら、買って来てやったぞ」ヒョイ
11111号「おぉっと、ありがとうございます、とミサカは素直にお礼を言います」パサッ
屋台で数匹のタイヤキを買ってきた一方通行は、タイヤキの入った紙袋をそのまま11111号に放り投げる。
11111号は待ってましたと言わんばかりの表情でそれをキャッチすると、すぐにガサガサと紙袋を開き、
目を輝かせて袋の中を覗くと、やがて一匹のタイヤキを取り出した。
11111号「おお、これがタイヤキ……なるほど鯛の形をして……待て、これ鯛か?何か鯖っぽい形してね?
とミサカは未知との遭遇に心躍らせながらも形状に疑問を持ちます
……どうしました一方通行、そんなに首を傾げて」
一方通行「いや、あのタイヤキ売ってた女どっかで見たことある気がしてな……
まァせっかく買って来てやったンだ、冷めねェ内にさっさと食えよ」ククク
11111号「言われずともです、それでは早速一匹、とミサカは愛らしいタイ(仮)ヤキさんを頭から……」アーン
余談ではあるが、近年はタイヤキの中に餡子以外にも様々なものを入れて販売している所が多い。
白餡やチョコレート、カスタードなどに始まり、チーズやタマゴ、
果てはツナサラダやポテトサラダを入れている物まで存在する。
一般の常識的なお店ですらそのようなキワモノを置いているのだ、
怪しげな食品蔓延るここ学園都市においては言わずもがな、
未知の食品を混入されたタイヤキが実験的に販売されていても不思議ではない。
嬉しそうに大口を開け、今まさにタイヤキに齧り付こうとしている11111号を
一方通行は満面の悪意ある笑みで見つめている。中に何が入っているのかは推して知るべしというものだ。
「そこまでです!」
11111号「ん?」
一方通行「あァ?」
「……とミサカは良い所で邪魔に入ってみます」
一方通行「えェー……」
突如割って入った妹達の一人に、一方通行はあからさまな落胆の声を上げる。
あと一歩で彼の罠に嵌るところだった11111号が彼女に反応してタイヤキに噛り付くのをやめてしまったからだ。
他方、11111号もタイヤキとの接触を邪魔され、不満気な顔をしながら唐突に現れた個体を眺めていた。
割って入ってきたその個体も何故か不機嫌な顔をしながら11111号を睨みつけている。
一体何者なのだろうか?
11111号「……なんだ変態じゃないですか、いったい何しに来たんです?
とミサカはタイヤキとの邂逅を邪魔され不機嫌に尋ねます」
20000号「何しに?じゃねえ!このミサカがいない隙にセロリたんを研究所に連れ込んで
挙句の果てにはデートだと!?和スイーツを奢ってもらうだと!?羨ましすぎです、変わってください、
とミサカは土下座する勢いで頭を下げて頼み込みます」
11111号「いや、お前に買い物任せたらろくな事にならねぇから、とミサカは手をパタパタ振って拒否します」
20000号「ちくしょうまたかよ!また独り占めかよ!とミサカは血の涙を……
いや待てよ、寝取られプレイってのも悪くないな……とミサカは……」フム
一方通行「……コイツは」
11111号「説明するのもめんどいから気にすんな、とミサカはバッサリ切り捨てます」
20000号「あ、はじめまして一方通行、ミサカは検体番号20000の個体です
とミサカは頬を赤く染めながら笑顔で握手を求めます」
一方通行「いやァ、そンな目の前で散々嘗め回された手ェ差し出されても対応に困るンですけどォ……」
20000号「く、生のセロリたんは一味違うぜ!とミサカは完璧な計画が失敗したことに歯軋りしながらも
生セロリたんのゴミを見るような蔑む目でお腹が一杯に……」
一方通行「……」
11111号「気にしたら負けです、白井黒子みたいなもんですよ、
とミサカは目の前の変態と遠いところにいる変態を比較して溜息を吐きます」ハァ
肌を上気させ、くねくねと道のど真ん中で悶える20000号にドン引きしつつ、
一方通行と11111号は気付かれないように徐々に後ずさる。
ある程度距離を取り、「そろそろ一気に走って逃げようか」と目で会話していたところで
しかしふと顔を上げた20000号に気付かれてしまい、その計画は破綻してしまう。
20000号「あぁ!いつの間にそんな遠くに!とミサカはダッシュで二人に駆け寄ります」
一方通行「げっ」
11111号「しまった、とミサカは頭を抱えます」
20000号「この気持ち、まさしく愛だ!とミサカは声高に宣言します」
一方通行「……妹達全体で流行ってンのか?ガンダム」
11111号「前にも言いましたが、屋内で時間潰せる物に流れていく傾向にありますからね、
とミサカは溜息混じりに肯定します。
しかしこのままでは買い物に行けませんね、仕方がありません……20000号!!」
20000号「はい!?」
11111号「一方通行の買ってきたタイヤキです、ありがたく受け取りなさい!
とミサカは一匹のタイヤキを空中にブン投げます」ブン
20000号「アオーン!!とミサカは天高く放られたタイヤキを口でダイビングキャッチ(カチッ)……カチ?」
11111号の投げたタイヤキをまるで犬のように見事口で捕まえた20000号だったが、
その中から聞こえてきた「カチッ」というまるで何かのスイッチを押したような、
或いは手榴弾の安全ピンを抜いたような不可思議な機械音に首を傾げる。
しかし彼女がその音の正体に気付くことはついになかった。
ドゴォォォォォン!!!
20000号「うぼぁぁぁぁぁ!!!」
一方通行「うおォ!?」
11111号「タイヤキが爆発した!?とミサカは時間稼ぎのつもりだったタイヤキの思わぬ成果に驚愕します
つーかあれ何?オマエ何したの?このミサカに何食わせるつもりだったわけ?」
一方通行「……『実験中・弾ける爆弾味』とか書いてるやつ買って見たンだが、まさか本当に爆発するとはなァ……」
11111号「んなもん買うなよ、とミサカは呆れ顔でつっこみを入れます
……ということは残りのタイヤキさんも、まさか」
一方通行「いや、他のは普通の餡子入りだから安心して食え」
11111号「信じられるわけねぇだろ、とミサカは残りのタイヤキを爆死した20000号に御供えします」
一方通行「チッ」
11111号「露骨に舌打ちしてんじゃねえぞ白モヤシが」
一方通行「つーか大丈夫なのかよそいつは」
11111号「変態と呼ばれる人種の生命力はよくご存知でしょう?すぐ回復しますよ
とミサカは20000号を足蹴にしながらタイヤキを食べそびれたことにガックリ項垂れます」
一方通行「なンならまた買ってやろうかァ?」ケケケ
11111号「お前は信用できねえし20000号はいつ復活するかわかんねえし、そんな状況で頼めるわけねえだろ
とミサカは当然の判断を下します
しかしタイヤキには爆発物が入っていることがあるんですね、ちぃ おぼえた」
一方通行「ちぃはオマエみたいに黒くねェ。つーか分かる人絶対少ねェからそれ!」
11111号「まぁ20000号が復活する前に買い物を済ませてしまいましょうか
スイーツ(笑)はその後に今の分も含めてたっぷり奢っていただきましょう
とミサカは今後のプランを決定します」
一方通行「クソ、オマエが大人しく爆死してりゃよかったのによォ……
でェ、今から何買いに行くンだ?」
11111号「とりあえず電化製品ですね、冷暖房に冷蔵庫、テレビ辺りが度重なる酷使により限界を迎えています
とミサカはこの機会に最新鋭のくっそ高いヤツを手に入れる算段をします」
一方通行「待て、電化製品はイヤな予感がするからやめろ、つーか冷蔵庫の時点で絶対アイツが出てくるだろ」
11111号「あー、まず間違いなく出てくるでしょうねぇ、とミサカは肯定します
いいではありませんか、あんなホストモドキの何をそんなに恐れることがあるのです?」
一方通行「そりゃそうなンだが……」
11111号「ほら行きますよ、とミサカは一方通行を手招きしながら先導します」
一方通行「……大丈夫だよな、元に戻したし」
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―とあるデパート、電化製品売り場
一方通行「エアコンも買ったし3Dテレビも買った、後は冷蔵庫だが……おい、良さそうなのはあったかァ?」
11111号「えぇ、このマッサージチェアとか最高です、
とミサカは最新のリラックスマッサージチェアに身を埋めながら…おぉぉぉ……」ウィンウィン
一方通行「まともに探せやァァァァ!!めンどくせェイベント起きる前に買って帰ンぞ!」
11111号「いやいやこれ本当に凄いんですよ、もう骨抜きです、
とミサカは適度な痛みに身をよじりながら快楽の声を漏らします。むふぅ……」
一方通行「うっぜェ……探す気ねェなら先に帰っちまうぞ」
11111号「もしかしてこのミサカの喘ぎ声で熱膨張しちゃいました?早く帰ってクールダウンしたいと?
とミサカは若干前屈みになっている一方通行をニヤニヤ笑いながら見つめます」
一方通行「呆れて項垂れてるンですゥ!!誤解を招くような発言は謹ンでくださァい!!」
11111号「ま、女性に免疫の無い童貞のあなたが、アフン、このミサカの、ンッ、
蠱惑的なボイスに、アン、耐えられるはずもありませんか、とミサカは喘ぎながら、アッア」
一方通行「棒読みで喘がれてもこれっぽっちもエロス感じねェよ、むしろ反応に困るわ」
11111号「エロスて(笑)」
一方通行「愉快なオブジェにされてェのかオマエ、つーか急がねェとそろそろマジで……」
「よう、奇遇だな一方通行」
一方通行「来ちまったよ……」ハァ
11111号「来てしまいましたねぇ、とミサカはケタケタ笑いながら
一方通行に声をかけている小汚いイケメンに目を向けます」
「溜息吐いたり暴言吐いたりいきなり随分なご挨拶だなおい!?まとめて愉快な死体にされてえのか!?」
一方通行「いやもうホントうざいンで帰ってもらえませンか、垣根くゥン……」
垣根「ふざけたこと言ってんじゃねえぞクソモヤシ、そもそも俺がここにいるのはテメエのせいだってのに……」
一方通行「あァ?何ほざいてンだこのメルヘン脳」
垣根「テメエが!!昨日まぁた俺ん家の冷蔵庫を帝凍庫クンに改造しやがったから買いに来たんだよ!!!」
一方通行「そういやそンなこともやったなァ、昨日……忘れてたわ」
垣根「ナメてやがるな。よほど愉快な死体になりてえと……」
11111号「お、おぉぉぉぉ!今までで一番の快感がぁぁぁ……
とミサカはわざとらしく声を上げていとくんのキメ台詞を妨害してみます」
垣根「……ちくしょう、アイツいつぞやの企画のクソったれクローンだな?」
一方通行「お、流石に分かるか。まァそういうこったから絡ンでもろくな事になンねェぞ。ほら行った行った」シッシ
垣根「バカが、アイツにゃ恨みがあるんだ、この機会に晴らさせてもらうぜ!!」
11111号「キャー一方通行助けてー、とミサカはマッサージチェアにかかったまま一方通行に助けを求めます」
垣根「……まさか邪魔するんじゃねえだろうな、一方通行」
一方通行「いやしねェよ、別に助ける義理も義務もねェしむしろ清々するし」
垣根「だとよ、残念だったなクローン!テメエはここまでだ!!」ヒャハハ
11111号「なんとまぁ頼りないモヤシでしょうか、とミサカは懐から携帯を取り出し……」
一方通行「垣根ェ!!コイツには指一本触れさせねェぞォ!!こっから先は一方通行だァ!!!」
垣根「突然何言ってんのオマエ!?」
11111号「きゃー頑張ってー、とミサカは棒読みで黄色い声援を送ります」
一方通行「ちくしょう……」ギリギリ
垣根(目から血が滲んでやがる……)
11111号「あ、やべ手が滑った、とミサカは誤って携帯の再生ボタンを押してしまいます。ポチっとな」
一方通行「うおォォォォォい!!!!」
携帯<百合子でェす♪
11111号「やべ、再生する奴間違えた」
一方通行(せ、セーフか……あれならいくら流れても俺だとはわからねェだろ……)
垣根「何だクローン、オマエも百合子ちゃんのファンなのか」
11111号「えっ」
一方通行「えっ」
垣根「じゃあ俺たちは同士じゃねえか。悪かったな殺そうとして」ハッハッハ
11111号「え、あ、はぁ……百合子ちゃん好きなんですか?とミサカは顔を引き攣らせながら垣根帝督に尋ねます」
垣根「勿論だ!百合子ちゃんファンクラブの会員番号2、垣根帝督とは俺のことよ!!」バァーン
一方通行「」
11111号「うわぁ……とミサカは言葉を失いつつ一方通行に視線を送ります」チラッ
一方通行「こっち見ないでくれ、頼むから……」
垣根「?……ちなみに会員番号1番にしてファンクラブ創設者はアレイスターの野郎だぜ」
一方通行「アレイスタアアアァァァァァァァ!!!!!!」
垣根「な、何で突然キレてんだ!?」
11111号「色々あるんですよ、色々とね……とミサカは居た堪れなくて目を背けます」
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『百合子でェす♪』
「ふむ、やはり良いなこの声は……心が洗われるようだ」
窓の無いビル、光すら届かぬ学園都市の最深部で、ビーカーに入った一人の人間が
萌えボイスに感嘆の声を漏らしていた。液体で満たされたビーカーに逆さまに浮いているその人間は
男にも女にも、子供にも老人にも、聖人にも囚人にも見え……
「見えないな、少なくとも私には……」
「エイワス、そのつっこみはもう散々されたから飽きてしまったよ」
なんとも形容しがたい表情でビーカー内の人間を見つめる、人でも天使でもない存在―エイワス。
その彼(便宜上『彼』と表記させてもらう)からのつっこみに、
ビーカー内の人間―アレイスター・クロウリーは溜息交じりに答えた。
実際、同じつっこみを三度も受ければ飽きてしまうのも仕方の無いことだろう。
「それは失礼した。……だがねアレイスター、私には理解できないのだよ」
「何がだね?」
「先程の声、あれの主が学園都市の第一位、一方通行のものだと君は知っているのだろう?」
「勿論だとも」
「それが、だよ。君と彼は同性のはずだ、それなのに何故そこまで彼に入れ込む?
彼がいくら愛らしい声を発しようが彼の性別は変えようが無い、君とて性別の壁は乗り越えられまい?」
「フフ、随分とまぁ常識的な事を言うのだな、エイワス」
「なに?」
「彼は男だ、その事実は変えようが無い。だがね、エイワス」
「?」
「だからこそ、良いのだよ」
「……ほう?」
「エイワス、あなたは『こんな可愛い子が女の子のはずがない』という言葉を知っているか?」
「……ふむ、いや初耳だな。実に興味深い」
「あなたさえ良ければ私の拙い知識を披露させてもらうが、どうだろう?」
「語りたくて仕方が無い、という顔をしているな。いいとも、聞かせてもらおうか」
「フフフ、まさか私からあなたへ何かを教えるなどという事があろうとはな」
「以前とは間逆の立場ということか、期待させてもらおう」
「長くなるぞ、それでも構わないか?」
「知っているだろうアレイスター、時間という概念は私には何の意味も為さないよ
一年でも二年でも、君の気の済むまで語ってくれていい」
「その程度で済むものか、あなたが望むのなら十年でも二十年でも語ってみせよう」
「君もそんなに嬉しそうな顔をするのだな。フフ、楽しい時間になりそうだ」
―――――――――――――――
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――――
一方通行「うおォ!?」ブルル
垣根「ど、どうした?」
一方通行「いや、なンか今すげェ悪寒が……」
11111号(MNWに若干違和感が……)
垣根「まぁいいや、とにかくそっちのクローンが俺と同じく百合子ちゃんのファンだってことは良くわかった」
11111号(いつの間にかファン確定にされておる……
とミサカは内心不満を持ちながらも一方通行の一挙一動が面白いのでこのまま様子を見ることにします)
垣根「ただ一方通行、オマエはまだ百合子ちゃんの良さがわかってねえようだな」
一方通行(だってそれ俺だし……なンて言えるかァァァァァ!!!!)
11111号「しかし、声以外一切が謎に包まれているのによくここまで流行りましたね
とミサカは一方通行を横目で見ながら今更ながらこの萌えボイスの破壊力を再認識します」
垣根「そりゃあもう、男心くすぐりまくる最強の萌えボイスだからな、ちょっとロリっぽいところがまた……」
一方通行「」ゾクゾク
11111号「ロリコン乙、とミサカは蔑みの視線をていとくんにプレゼントします」
垣根「いやぁ百合子ちゃんの為ならもうロリコンって呼ばれても構わねえわ
多分今学園都市中の男がそう思ってるぜ」
11111号「うわぁ、本物だ……て言うか学園都市中て……おいモヤシ、お前の罪は重いぞ、
とミサカは隣で頭抱えてるモヤシ男を糾弾します」
一方通行「お、おォォ……」
垣根「近いうちにアニメ化もあるらしいぜ、日曜午後6時の枠で」
11111号「日曜午後6時って超大作アニメの枠じゃないですか!?とミサカは驚愕します
いや、つーか『百合子でぇす』の一言しか無いのにどうやってアニメ化すんの?」
垣根「学園都市中の技術者が協力して皆の脳内の百合子ちゃん理想像を解析してるらしい」
11111号「ちょっと壮大過ぎるだろそのプロジェクト……」
垣根「ちなみに俺の中の百合子ちゃん像は色白小柄の活発な12~14歳くらいの少女で……」ベラベラ
11111号「語り始めやがった……とミサカはドン引きしつつ一方通行に意味あり気な視線を送ります」
一方通行「う……ぐゥ、うォェ……」
垣根「……でまぁ映像化には賛否両論あるらしいが、個人的には実現してもらいてえと思ってるよ
っと、もうこんな時間か、そろそろ行くわ」
11111号「何か用事があるのですか?とミサカは聞かなくてもいい事をわざわざ尋ねます」
垣根「おう、百合子ちゃんFCの会議があるんだよ
アレイスターの野郎は引き篭もってるから実質俺が仕切ってるんだわ」
11111号「そ、そうですか……とミサカは聞いたことを後悔しつつ笑いを堪えながら一方通行を横目で見ます」
一方通行「……」
垣根「じゃあな。おいクローン、お前も百合子ちゃんファンなら一回くらい顔だしてみろよ
色々な百合子ちゃん感があって世界が広がるぜ」タッタッタ
11111号「あぁはい、そのうち、とミサカは言葉を濁しながら去って行くていとくんに手を振ります」
一方通行「……」
11111号「……一方通行」
一方通行「……」
11111号「いや凄いわ、お前マジすげえよ、とミサカは明後日の方向を見ながらベタ褒めします」
一方通行「やめろ……」
11111号「現状で学園都市の男どもから何リットルの体液を搾り取っているのでしょうねぇ
とミサカは半笑いで追い討ちをかけます」
一方通行「やめて……」
11111号「そして今後何ガロンの体液を搾り取ることになるのでしょうか、
とミサカは遠い目をし一方通行を馬鹿にしながらも若干の敗北感を……」
一方通行「やめろおおおォォォォォォォォ!!!!」
11111号「腹いせの為に流した、効果なんて期待していなかった萌えボイスがまさかここまで広まるとは……
とミサカは自分のしでかした事の巨大さに身震いします」
一方通行「そうだよ全部オマエのせいだよクソったれがァァァァァァ!!!!」
11111号「何を!そもそもお前があの時ゴスロリ着てればこんなことにはならなかったんだよ!!
イヤなモノ想像させやがって!とミサカはていとくんに伝えられた百合子感に吐き気を催します
もうこうなったら開き直りましょう、開き直って常盤台の制服とか着てみましょう!」
一方通行「どンな理屈だァ!!誰が着るかクソ!!」
11111号「まったくノリの悪い、とミサカは……おや、あそこにいるのは」
一方通行「あァ!?これ以上なンだってンだ!!」
11111号「上条当麻です、上条当麻がいました、とミサカは遠くを歩いているウニ頭を指差します」
一方通行「スルーしろスルー!あンなウニ頭の相手してる気分じゃねェよ!!」
11111号「おーいそこのウニ頭~!!とミサカは大声で上条当麻に声をかけます」
一方通行「テメエェェェェェェ!!!!」
11111号「このミサカがあなたの言うことなど聞くと思っているのですか?」
上条「お、御坂の妹……と、第一位さん……」
11111号「ハロー、とミサカはにこやかに手を振ります」
一方通行「十秒以内に消えろ、でなけりゃスクラップだこの三下野郎が」ピキピキ
上条「呼ばれたから来ただけなのに何ですかその理不尽!?」
11111号(わざわざ話題反らす為に呼んでやったのにホントわかってねぇなこのモヤシ……
とミサカは折角の獲物を自ら追い払うような真似をする一方通行に溜息を吐きます)ハァ
一方通行「10、9、8、7654……」
上条「うわはええ!!!タイム!ちょっとタイム!!!」
一方通行「321……スクラップの時間だぜェェェェ!!!!」
上条「ふ、不幸d『百合子でェす♪』」
一方通行「……あァ?」
11111号「おや、今の声は……」
『百合子でェす♪』
一方通行「……おいウニ頭、テメエのポケットから聞こえる声はなンだ」
上条「あぁ悪い、上条さんの携帯です。メールが来たみたいだ」 『百合子でェす♪』
11111号「それ着信音なの!?とミサカは驚愕の声を漏らします」
上条「あれ、二人とも、もしかして百合子ちゃん知らないのか?今大人気なのに」
一方通行「……」
11111号「知ってます、知ってますとも……しかしあなた、本当に不幸というか間が悪いというか……
とミサカは上条当麻の末路を想像して目を覆います
一方通行はもう限界だったというのに……」
上条「へ?」
一方通行「……オマエもか」ボソッ
上条「え、え?」
一方通行「オォォォマァァァエェェモォォォカァァァァァ!!!!!」バシュウゥゥゥゥ
上条「ええええええええ!?」
一方通行「ihbf殺wq」ゴゴゴゴゴ
上条「うわああぁぁぁぁ不幸だぁぁぁぁぁぁ!!!!」
突如一方通行から放たれた黒い放射状の翼をその身に受け、上条は音速の数十倍の速度で空を掻っ切った。
あまりの速度に、プラズマ化したオレンジ色の残像が尾を引いて行く。 生死など、わざわざ確認するまでもない。
― 新・一方通行宅
打ち止め「こんにちはー!ってミサカはミサカは元気良く挨拶してみたり!!」
一方通行「ン?何だチビガキじゃねェか、何しに来やがったンだ?」
打ち止め「えへへ、あなたに会いたくて来ちゃった
ってミサカはミサカは遠距離恋愛中の乙女みたいな事を口走ってみる!」
一方通行「何処で覚えて来るンだよそォ言うの……」
打ち止め「最近妹達の間でお昼にやってる恋愛ドラマが流行ってるの!
ってミサカはミサカは説明してみたり」
一方通行「アニメの次は昼ドラかよ、順調に腐って行ってンな妹達」
打ち止め「ねぇねぇ遊んで遊んでーってミサカはミサカは上目遣いでおねだりしてみたり!」
一方通行「断る、めンどくせェ」
打ち止め「え、えええ!そんなぁ!ってミサカはミサカは断られた事に動揺を隠し切れなかったり……」
一方通行「何で当たり前のように遊ンで貰えると思ってンだよこのチビは」
打ち止め「だって、上目遣いでおねだりすればロリコンのあなたはイチコロだって11111号が……」
一方通行「あンのクソボケが……」
打ち止め「ねぇロリコンってなぁに?ってミサカはミサカは首を傾げて聞いてみる!」
一方通行「誰がロリコンだコラァァァ!!!」
打ち止め「何だか理不尽に怒られた!?ってミサカはミサカはビックリして後ずさってみたり!」
一方通行「つーかオマエ一人で来たのかァ?」
打ち止め「うん、そうだよ!ってミサカはミサカは一人でもあなたと所まで来れる事に胸を張ってみたり!」
一方通行「黙って来たンじゃねェだろォな?まァた他の妹達が探しに来るなンざ御免だぞ」
打ち止め「あ、それなら大丈夫だよ」
一方通行「あァ?」
打ち止め「他の妹達は今それどころじゃないから
ってミサカはミサカは不安気なあなたを安心させてみる!」
一方通行「それどころじゃないィ?……そォ言や最近妹達の姿見てなかったが、
なンか厄介事になってンじゃねェだろォな?」
打ち止め「もしかして心配してくれてるの?ってミサカはミサカは優しいあなたに口元を緩めてみたり」
一方通行「違ェよクソボケ、妹達がなンかやらかしたらその皺寄せが確実に俺まで来るだろォが
他人の尻拭いなンて御免なンだよ、もし面倒な事やってンだったらすぐにやめさせろ」
打ち止め「そういう事にしといてあげるよってミサカはミサカは素直じゃないあなたをにやにや笑ってみる!」
一方通行「ほざいてろガキ」
打ち止め「でも安心して、皆は今引越しの準備で忙しいだけだからってミサカはミサカは本当の事を言ってみる」
一方通行「……引越し?」
打ち止め「そうなの!二万体の妹達を学園都市の研究所だけで調整したりするのは大変だから、
世界中の色々な研究所にお引越しするんだって!
ってミサカはミサカは旅行気分で準備をしてた皆を羨ましく思って見たり」
一方通行「オマエは行かねェのか?」
打ち止め「うん、皆が皆行っちゃうわけじゃないし、ミサカは上位個体だからここに残るよ!安心した?
ってミサカはミサカはにっこり微笑みかけてみる!」
一方通行「いや別にどっちでもいいけどな」
打ち止め「酷い!ミサカはあなたの事がこんなに好きなのに!ってミサカはミサカはぶっちゃけてみる!」
一方通行「あァはいどォも……他にはどいつが残るンだ?」
打ち止め「えっとね、00001号に10032号、それと13577号と19090号、だったかな?」
一方通行「ふゥン、そンだけしか残らねェンだなァ……だが、元アホ毛とガノタは残るンなら退屈はしなそうだな」
打ち止め「00001号は最後まで『学園都市から出たい』『悪魔から逃げたい』って泣いてたけどね
ってミサカはミサカは子供みたいに喚いてた00001号を思い出して頭を抱えてみたり」
一方通行「ハッ、次会ったらまた最高のプレゼントをしてやるとするか」ケケケ
打ち止め「プレゼント?いいなーミサカにもちょうだい!ってミサカはミサカはもう一度上目遣いでおねだりしてみたり!」
一方通行「その上目遣いやめろ、うぜェだけだ、それとプレゼントはオマエには十年早ェ」
打ち止め「良いじゃんケチーってミサカはミサカは頬を膨らませて抗議してみたり!」
一方通行「あァはいはい………ところで、あの性悪は残らねェのか?」
打ち止め「性悪……11111号の事?うん、あの子も出て行っちゃうよ」
一方通行「あのバカは何処に飛ばされるンだァ?」
打ち止め「それなんだけど、多分聞かれるだろうからって11111号から伝言を預かってるよ!
ってミサカはミサカは準備に追われてたあの子の代わりにメッセージを伝えようとしてみたり!」
一方通行「ほォ、どンなだ?」
打ち止め「えっと……『貴様のようなモヤシにミサカの居場所を知られるなぞ真っ平御免です
もしミサカの前に現れたりしたらストーカーとして通報させて頂きますのでそのつもりで』
だって!」
一方通行「あンのクソガキ……」ピキピキ
打ち止め「ねぇねぇ遊んでーってミサカはミサカはあなたに纏わりついてみるー」
一方通行「……悪ィな打ち止め、ちっと研究所に行く用事が出来ちまった」
打ち止め「えーやだやだ!ミサカは梃子でもここを動かない!ってミサカはミサカは寝転がって駄々をこねてみたり!!」
一方通行「そォか、ンじゃ留守番頼むわ」
打ち止め「えっ」
一方通行「妹達はまだ研究所にいるンだよな?」
打ち止め「え?う、うん、まだいるけど……」
一方通行「わかった、それじゃ行ってくる。飽きたら適当に帰っていいからな」タッ
打ち止め「ちょ、ちょっと待ってー!ってミサカはミサカはー!!……行っちゃった」
打ち止め「ど、どうしよう?あの人の部屋に一人きりだなんて……
ってミサカはミサカは顔を赤くしたり青くしたり……」
上位個体、上位個体……
打ち止め「こ、この声は何!?もしかして神の啓示!?
ってミサカはミサカは突如響いてきた声に驚愕してみたり!」
上位個体、あのモヤシが留守の今こそがチャンスです
打ち止め「ちゃ、チャンス?」
そう、部屋中を漁り回してヤツの恥ずかしい秘密を発見するのです
打ち止め「で、でもそんな事……」
他人には言えない様な秘密を共有する、素敵な事ではありませんか?
打ち止め「う、うぅ……ダメダメー!ってミサカはミサカは甘い誘惑に屈しそうな自分に渇を入れてみたり!!」
いいのですか上位個体?このままではあなたは一生子供扱いされ続けますよ……
打ち止め「う、それは……」
対等な関係になる為にも、何かカードを手に入れるべきです
打ち止め「で、でもでも、この部屋に恥ずかしい秘密なんてなさそうだし……」
無ければ、でっち上げてしまえば良いのですよ上位個体、あのモヤシと恋仲になりたくはないのですか?
打ち止め「こ、恋仲………そうだ、秘密を共有して、対等になって……」ブツブツ
そう、いい子ですね、まずはベッドの下から行ってみましょうか……
打ち止め「ベッドの、下……」フラフラ
ネチャ
―研究所
一方通行「さて、勢いで来ちまったがどォすっかな……とりあえず11111号探して……」
11111号「このミサカがどうかしましたか?とミサカは一方通行の背後から話しかけます」
一方通行「うォ!?」ビクッ
11111号「ふふん、そろそろ来る頃だと思っていましたよ、あなたの行動などお見通しです、
とミサカは無様に驚いている一方通行を腕組しつつドヤ顔で迎えます」
一方通行「……チッ、相変わらずうざってェ面してやがンな」
11111号「そのうざったい面をわざわざ拝みに来たのはどこのドMちゃんでしょう?
とミサカは口元に手を当て一方通行の特殊性癖を嘲笑います」
一方通行「おーおー好きなだけ言いやがれ、オマエのクソうざってェ罵倒もこれで最後だと思うと清々するぜ」
11111号「ふむ、どうやら上位個体から引越しの事は聞いてきたようですね
それで、今日は何の用です?とミサカは首を傾げながら尋ねます」
一方通行「あン?何の用ってそりゃ……」
11111号「まさかとは思いますが、会えなくなるのが寂しいからお別れの挨拶に来た、
とかではないでしょうね?とミサカは女々しい一方通行にドン引きします」
一方通行「誰がだボケ!オマエがあのチビにロリコンだの何だの吹き込みやがったからお灸を据えに来てやったンだよ!!」
11111号「ほうこのミサカにお灸をですか、どうやってです?何をやってくれるんです?
とミサカは期待に満ちた眼差しで一方通行を見つめます」
一方通行「……えっとォ」
11111号「おいノープランかこのクソモヤシ、とミサカは期待を裏切られた事に憤慨します」
一方通行「クソ、ホント何すりゃ嫌がってくれるンだオマエは……」
11111号「前にも言いましたが、強いて言えばあなたの存在が嫌ですね(笑)
とミサカは含み笑いをしながら答えます」
一方通行「ほォ、それじゃァオマエの引越し先について行ったらさぞ嫌がってくれるンだろォなァ?」ケケケ
11111号「……無理に決まっているでしょう、そんな事」
一方通行「あ?」
11111号「あなたは学園都市の第一位、この街から出る事すら困難だというのに、
どうやって海外まで行こうと言うのです?ましてや定住など……
とミサカはあなたの非現実的な意見をバッサリ切り捨てます」
一方通行「おいどォした、いつものオマエならもっと茶化すよォな事言うだろォが
そンな風にマジで答えられるとこっちも反応に困るンだが……」
11111号「……失礼しました。ですが、期待を持たせるような事を言うあなたも悪いのですよ、とミサカは……」
一方通行「あァ?期待って何が……」
11111号「何を期待したのか、それをミサカの口から言わせようと?女の子に恥をかかせるつもりですか、
これだから童貞は……とミサカは俯き震えながら答えます」
一方通行「……オマエ、」
11111号「……」
一方通行「……すまねェ、気付くの遅すぎたわ」
11111号「本当ですよまったく、とミサカは薄く笑いながら……」
一方通行「……学園都市を離れねェって選択肢は無かったのか?」
11111号「そんな選択権が実験用クローンのミサカにあるわけがないでしょう、
とミサカは自虐的に微笑みながら答えます」
一方通行「だったら俺がアレイスターに直談判して!」
11111号「いいんです、これ以上あなたに迷惑はかけられません、とミサカは首を横に振ります」
一方通行「だが、それじゃァ……」
11111号「本当にもういいんですよ、それにあなたはこのミサカと離れられて清々するのでしょう?
今までありがとうございました、とミサカはこれまでイヤイヤ付き合ってくれたあなたに感謝します」
一方通行「……イヤじゃねェよ」
11111号「え?」
一方通行「イヤなンかじゃねェよ!俺だってオマエの事が……」
11111号「一方通行……」スッ
一方通行「なンて言うと思ったかこのクソガキがァァァァ!!!」ブン
11111号「あぁぁ!!ミサカの携帯があぁぁぁ!!!」バキャッ
一方通行「ちょっと乗ってやったらまァたこれ見よがしに携帯構えやがって!!いい加減にしろよテメエ!!」
11111号「それはこっちのセリフだ!乗りかかった船なら最後まで乗れよ!!
折角綺麗に締めようとしてたのに!!とミサカは空気を読まない白モヤシに遺憾の意を表明します」
一方通行「限度ってモンがあるだろォが!!途中から鳥肌立ちまくりだこのボケ!!」
11111号「鳥肌くらいなんです!こっちなんて何度吐きそうになった事か!
あーもう、読者の皆さん涙腺崩壊寸前だったというのに……」
一方通行「いやいや、こうなる事絶対予想されてたから、多分『まただよ』って冷めた目で見られてたから」
11111号「ハァ、全く……とにかく、ミサカは引越しの準備で忙しいのでもう帰れ
とミサカはKY童貞白モヤシをジロリと睨みつけます」
一方通行「言われなくても帰るわボケ!!……で、いつ学園都市を出るンだ?」
11111号「丁度一週間後ですが……見送りとか考えるなよ?マジで通報するからな?
とミサカは最後の時まであなたの面を拝みたくないという気持ちをぶっちゃけます」
一方通行「だァれが行くか!その日は絶対に空港に近寄らねェよ!!じゃァな!!」
11111号「はいお達者で、もう二度と会う事も無いでしょうが、とミサカは笑顔で手を振ります」
―――――――――――――――
―――――――――
――――
― 一週間後
一方通行(あれから一週間……)
一方通行(あの日、家に帰った俺を迎えたのは
何故かベッドの下に仕掛けていたゴキブリホイホイに引っ掛かっている打ち止めの姿だった)
一方通行(何をしていたのかは知らねェ、知りたくもねェ)
一方通行(とにかく、あの日から今日まで俺の前に妹達が現れる事はなかった)
一方通行(そして、あのバカが嘘を吐いてなければアイツは今日学園都市を出て行くンだろう)
一方通行「で、二度と戻って来やしねェ、か……」
一方通行「見送り……ハッ、馬鹿馬鹿しい、何でわざわざ俺が行かなきゃならねェンだか」
一方通行「……」
一方通行「……チッ」
一方通行「あのガキ、やられっぱなしで行かせて堪るかよ……」
―空港
一方通行「……よォ」
11111号「おや……来るなと言ったはずですが、とミサカは突如現れた白モヤシを溜息交じりに見つめます」
一方通行「ハッ、通報でもしてみるかァ?」
11111号「……やめておきますよ、あなたがその気になれば警備員など何の役にも立ちませんし
とミサカは寛大な心で一方通行を迎えます」
一方通行「飛行機、まだ出ねェのか?」
11111号「ええ、ですがそろそろ搭乗しなければなりません」
一方通行「ギリギリだったってわけか、時間は聞いてなかったからなァ、危ねェ危ねェ」
11111号「ま、乗るのは妹達だけですからそれ程時間に神経質になる必要も無いんですけどね
それでどういう風の吹き回しです?とミサカは意外な見送りに首を傾げます」
一方通行「オイオイ、理由を言わせるつもりかァ?」ケケケ
11111号「おやおや、全く何を考えているのか……とミサカは軽く笑いながら首を竦めます」
一方通行「……なァ、オマエの行き先教えてくれねェか?」
11111号「……」
一方通行「どォしてもイヤだっつーンなら仕方ねェけどよ」
11111号「ファエンツァです」
一方通行「あ?」
11111号「イタリアのファエンツァという都市ですよ、とミサカは簡潔に答えます」
一方通行「そォか、随分遠いンだな……」
11111号「えぇ、本当に……」
一方通行「……暇が出来たら、そのうち遊びに行ってやンよ」
11111号「フフ、期待せずに待っていますよ、とミサカは微笑みながら答えます」
一方通行「なンだ、普通に笑えるンじゃねェか」
11111号「え?」
一方通行「なンでもねェよ、それより時間大丈夫か?」
11111号「……そうですね、そろそろ行かなければ……それでは、また
とミサカは軽く右手を振ります」
一方通行「おォっとちょっと待て」
11111号「はい?」
一方通行「餞別だ、持ってけ」ドサ
11111号「何です?このデカいボストンバッグ……つーか重!とミサカは顔を引き攣らせます」
一方通行「大事に抱えて乗れよ?それがあれば、多分また会えるからよ……じゃあな」スタスタ
11111号「ちょ、待て!……行ってしまいましたか、仕方がありませんね全く……
とミサカは一方通行な一方通行に頭を抱えます」
11111号「しかしこのクソ重たいバッグはどうしますか……いっそ捨てて……
……持ってればまた会える、ですか、本当に仕方がありませんね、
とミサカは溜息混じりにバッグを抱えます」
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一方通行「そろそろアイツの乗った飛行機が離陸する時間だなァ……」
一方通行「……さて、どォなるかな」ニィ
― 飛行機内
11111号「うーん、そういえば飛行機に乗るのって何気に始めてですね、
とミサカは離陸直前の今になって緊張しはじめます」
11111号「お、おぉ、動いた動いた、飛んだ!とミサカは始めてのフライトに興奮を隠せません」
11111号「そういえばこのボストンバッグの中身は何でしょうね?
とミサカは隣に置いた馬鹿でかいバッグの中身を気にしてみます」
11111号「大事に抱えとけ、とは言われましたが開けるな、とは言われてませんし、
飛行機の中で確認しちゃってもいいですよね?とミサカはバッグに手を伸ばし……」
バッグ<ガサガサガサ
11111号「動いた!?いったい何が……ま、まさかあの白モヤシ!?クソ、このミサカとしたことが、最後の最後で気が緩んだか!!」
バッグ<ジジジジジ……
11111号「ファスナーが開き始めた……ま、まずい!誰か!誰かこのバッグを外に!!
動いてる飛行機から外に出すのは無理?そんなことを言ってる場合では……ッ!」
バッグ<ジジ……
11111号「あ、あぁぁ……」
バッグ<……ジャッジメントですのぉぉぉぉぉ……
11111号「一方通行ァァァァァ!!!謀ったなあぁぁぁぁぁ!!!!」
―――――――――――――――
―――――――――
――――
―翌日
打ち止め「あなたー!大変!大変だよー!!ってミサカはミサカは重大ニュースを持ってあなたの部屋に駆け込んでみたり!」
一方通行「あァ?どォしたンだ?」
打ち止め「き、昨日引っ越す予定だった妹達の乗った飛行機が学園都市の敷地内で墜落しちゃったの!!
ってミサカはミサカは驚愕の事態に戦慄してみたり!!」
一方通行「でも全員無事だったンだろ?」
打ち止め「う、うん、とりあえず皆生きてはいるみたいだけど、
しばらくは学園都市で安静にしなくちゃいけないみたいってミサカはミサカは……
あれ?何で皆が無事だって知ってるの?」
一方通行「大人は何でも知ってンだよ、それより俺はしばらく雲隠れすっから、研究所の奴等によろしく言っといてくれ」
打ち止め「へ?どうして?ってミサカはミサカは疑問に思ってみる」
一方通行「どンだけ重症だろォと、それこそ死にかけてよォと俺に恨みを晴らしに来るバカが多分いるンだよ」クククク
打ち止め「?」
一方通行「つーわけでほとぼりが冷めるまで俺は逃げるぜェ」ケケケケケ
―とある病院
11111号「えぇい離せ!離しなさい00001号!とミサカは縋り付いてくる00001号を振り払おうと手をバタバタ振ります」
00001号「む、無茶ですよ!今まで意識が無かったんですよ!?マジで死にますって!
とミサカは意識を取り戻した途端病院から脱走しようとした11111号を全力で引きとめます」
11111号「今行かなければ!今すぐ行かなければあのモヤシ野郎はどこかに雲隠れするに決まっているんです!
とミサカは時間が無い事を訴えます」
00001号「何を訳の分からない事を……皆、手伝ってください!とミサカは周囲の妹達に協力を要請します」
11111号「あぁくそ!やめろ!離せ!とミサカは……おのれぇぇぇぇ!!」
11111号「一方通行ァァァァ!!!我魂魄百万回生まれ変わっても、恨み晴らすからなぁぁぁぁ!!!」
972 : >>1[sage saga] - 2011/04/23 17:22:33.12 fstAS+zio 403/403
つーわけで蛇足分もこれで終わりですぅ
ほのぼのSS書いてたせいで11111号さんの性格が随分丸くなってしまいました
そのうちあちらで暴れてもらう事にしましょう
じゃ、またな!
part4に続きます
このSSの作者は一方厨なのかな?
一方age上条sageが酷過ぎる…