part1 【前編】 【後編】 part2 【前編】 【後編】 の続きです
元スレ
一方通行「イヤだ」part3
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一方通行「!?」
証を片手に教室の出口に向かおうとした一方通行は、思わず息を呑む。
音も光も無く、唐突にソレは現れ、彼の行く手を塞いだ。
一方通行「テメエ……」
「見つけたわよ……おイタが過ぎたわね……」
ショタコン、再臨
完全に意識を飛ばしていたはずの結標淡希が、肩で息をし、血塗れになりながらも
再び一方通行の前に立ちはだかった。
一方通行「チッ、変態の生命力ってやつはこれだから……」
結標「うふふふ、イタズラな坊やにはお仕置きが必要よね……」
目を輝かせ手をわきわきと動かしながら、彼女は恐怖感を煽るかのように少しずつ一方通行に迫る。
しかし今度は先程とは状況が違う。彼は、どこまでも冷静だった。
彼女の動きを手で制すと一方通行はコホンと咳払いをし、真剣な眼差しで結標を見つめながら口を開く。
一方通行「お姉ちゃん大好き(裏声)」
結標「ッッッ!!!」
渾身のショタボイスであった。その言葉が脳に届いた瞬間、
結標は鼻から、口から、目から、耳から、あらゆる場所から血を噴き出し、
恍惚の表情を浮かべながら膝を付く。
もはや誰の目から見ても勝負がついたのは明らかでだ。しかし、一方通行は容赦しない。
彼はその手に握られた物を、容赦なく彼女に叩き付ける。
数珠繋ぎになった帝凍庫クンは多節鞭のごとくしなり、非力で細腕な彼を以ってしても
十分すぎる程の威力で結標の顔面に炸裂した。
ビターン!!
結標「あ゛あ゛ぁぁぁ!!!」
一方通行「もう一発だオラァ!!」
流石に快楽に変換できるレベルではなかったらしく、結標はゴロゴロと転がりながら痛みに喘ぐ。
そんな彼女に、駄目押しとばかりにもう一発、無慈悲な一撃が振り下ろされた。
ビターン!!
結標「ぶべッ!!!」
短い悲鳴を上げ、しばらく悶絶していた結標だったが、その動きは徐々に小さくなり
ついにはビクビクと意思とは無関係に痙攣するだけになった。今度こそ決着である。
結標「」ビクンビクン
一方通行「瞬殺完了だぜ」
『一方通行、あなた暴力は振るわない主義だったのでは?とミサカは今更ながら疑問を口にします』
満足気な様子で帝凍庫クンの群れを纏める一方通行に、一部始終を見ていた11111号から
校内放送でつっこみが入る。本当に今更ではあるが。
一方通行「正当防衛だ、やらなきゃヤられてたンだから仕方ねェだろ」
『まぁそれはそうですが……』
一方通行「不満そうだなァ、そンなに俺がヤられるところが見たかったンですかァ?」
『はい見たかったです、とミサカは当然のように頷きます』
一方通行(えェー……)
『過ぎたことは仕方がありませんね、ところで一方通行……』
一方通行「あァ?」
『もう一回ショタボイスで「お姉ちゃん大好き」って言ってみ?今度はもうちょっと恥じらいながら
とミサカはレコーダー片手に一方通行に懇願します』
一方通行「死ね 懇願の意味を100回調べて死ね」
『いやいやあの声はやばいですって、ショタコン以外にも絶対高く売れますからもう一度……』
一方通行「死ね……っ!?」
軽口を叩き合いながら教室から出ようとしていた一方通行を、突如強烈な悪寒が襲う。
滝のような冷や汗が流れる。心臓が飛び跳ねる。頭痛がし、吐き気にふらつく。
アウトコールも耳に入らず、気を抜くと一瞬で意識を刈り取られるほどのプレッシャーを彼は背後から受けた。
一方通行「な、なンだってンだ……!?」
振り向いた一方通行の目に飛び込んだのは、とどめを刺され、今度こそ完全に
脳の働きを遮断されたはずの結標がゆっくりと立ち上がる場面だった。
一方通行「ば……馬鹿な」
ものを思うは脳ばかりではない
臓器にも記憶は宿る
筋肉とて人を恨むのだ
純情な乙女心を弄ばれたショタコンが、思考能力を奪われながらも
本能だけで叫び声を上げ、牙を剥いた。
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―Aグループサイド
垣根「……よし、大丈夫みたいだな、行くぞ」
美術室の中から廊下を窺っていた垣根が、後ろにいる二人、御坂と麦野に声をかける。
上条へのお仕置きは既に終わっているようで、教室の外は静かなものだった。
戦闘の巻き添えを喰らう恐れはとりあえず無いだろう。
御坂「黒子も回収されてるし、戻る時は脅かし役が待機してるって考えた方が良さそうね」
麦野「もう走って一気に行っちゃう?」
垣根「走る気力なんざありゃしねえよ、歩いていこうぜ……」
白井が突き破った美術室のドアの残骸をまたぎ、三人は垣根を先頭にしてゆっくりと教室から外に出る。
廊下の壁や天井には大きな穴が開いており、コンクリートの破片が散らばっている。
先程まで行われていた戦闘―というか一方的な虐殺の、生々しい傷跡が刻まれていた。
垣根「派手に暴れやがったな第七位の野郎……」
麦野「まぁ、それだけのことをやったわよあのウニ頭は」
御坂「黒子大丈夫かな……」
垣根「死んでさえいなけりゃなんとかなるだろ、学園都市なら」
麦野「生きてんのかねぇ、アレで……そこ、何か人型の染みが出来てない?」
御坂「ちょ、ちょっと怖いこと言わないでよ!」
麦野の指差した方を見ると、そこには確かに人の形にも見える黒い染みが出来ていた。
特に目を引くのは頭部に相当する部分で、ツンツンとウニっぽい形状をしている。
余計な事を言う麦野に御坂が抗議している横で、
垣根は「俺も下手したらあぁなってたのか」などとぼんやり考えていた。
麦野「んー、あ、ほらあそこにも……」
御坂「そ、そう言えば美術室には仕掛けが少なくて良かったわよね!」
更に余計な物を見つけようとしていた麦野に、御坂は話題転換を試みる。
あまりにも強引で脈絡の無い話題提示に垣根と麦野の二人は一瞬唖然としながらも
かわいそうなくらい狼狽している彼女を哀れんだのか、その話題に乗ってあげることにした。
麦野「あー運良くヒント貰えたし、気付かない所にもっと仕掛け用意されてたんじゃない?」
御坂「そっか……木山先生に感謝しないとね」
垣根「しかしあの絵、目付き悪かったなぁ」
麦野「まだ絵だと思ってんのかよ……」
御坂「アレは隣の部屋から顔出してただけだってば……」
垣根「は?何言ってんだオマエ」
御坂「え?」
垣根「構造的にあそこに隣の部屋なんてあるわけねえだろ」
御坂「え……?」
麦野「言われてみれば隣接する教室なんて無いわね」
御坂「う、嘘……じゃあアレは……」
冷静に考えれば何か種があるのだろうが、雰囲気に呑まれている御坂の脳裏には
よからぬ想像ばかりが過ぎり、彼女は半ばパニックとなる。折角話題を逸らしたというのに逆効果だ。
御坂「そんな……木山先生……」
木山「よかった、まだここにいたんだな。忘れ物だぞ」
御坂「イヤアアアアアア!!!」
木山「!?」ビクッ
そんな彼女に、美術室の中から普通に現れた木山が声をかける。
結果はご覧の通り、御坂は混乱し、窓ガラスが震えるほどの音量の悲鳴を上げ、
近場にいた垣根の肩を掴みガクガクと激しく揺さぶった。
垣根「や、やめろ御坂……脳がシェイクされ………」ガクガクガク
御坂「幽霊!幽霊があああ!!!」
デデーン♪
『御坂、アウトー』
木山「幽霊……私のことか?この通り生きているが」
御坂「嘘よ!そんな暗い雰囲気で怖い目して存在感の薄い人が生きてるわけないわ!!」
垣根「御さk……離s……首、絞まっ……」
木山「……」
麦野「……ごめんなさいね?」
木山「いいんだ、自覚はしていたよ……ただ無性にそこの窓から飛び降りたくなってきたな」
麦野「……そういえば忘れ物って何?」
木山「ん?あぁ……これ、君達のだろう?」
本当に死人のような表情をしながら、木山は一枚の写真をポケットから取り出し麦野に手渡す。
麦野「グッ」
やはりというか何と言うか、それは先程の浜面の全裸写真であった。
デデーン♪
『麦野、アウトー』
麦野「浜面ああああああ!!!!!」
叫びつつ、麦野はその場で写真をビリビリに引き裂き
それを御坂に首を絞められ白目を剥いている垣根の、半開きになった口の中に押し込んだ。
垣根が何をした。
バチーン!!
御坂「うひゃあぁ!!!」
麦野「があああぁぁ!!!」
木山「とにかく、忘れ物は返したし私は戻るよ」
麦野「二度と来んな!!」
身を翻し美術室の中へ消えていく木山に麦野が罵声を浴びせる。
その背後で、ようやく開放された垣根が口に押し込まれた写真を吐き出しながら咳き込み、
御坂は目を覆いながら「怖くない怖くない」と呟き続けていた。
酷い絵面である。
麦野「オラ垣根、いつまでそうしてんだ。美琴も行くわよ」
垣根「半分はテメエのせいだろうが……」ゲホゲホ
御坂「大丈夫、もう大丈夫……」
麦野「垣根、先頭に立っていざという時私達の盾になれ」
垣根「俺酷い目に会い過ぎじゃね?どっちか代われよ……」
御坂「えー、私達かよわい女の子だし」
垣根「かよわい女の子は死ぬ直前まで首絞めたりしねえよ!!」
麦野「美女二人守って死ねるんなら本望だろ」
垣根「シチュエーション的には悪くねえがこんなショボい所で死ねるか!!」
御坂「まぁまぁ細かいことは気にせずに……」グイグイ
垣根「おいコラ押すんじゃねえ!」
麦野「愚痴愚痴うっせえんだよ、キリキリ歩け」グイグイ
垣根「わかった、わかったから押すな!ちゃんと歩くから!!やめろ馬鹿力!おい待てそろそろ階段……」
麦野「何か言った?」ドン
垣根「あ あ あ ああぁぁぁぁ…………」ゴロゴロゴロ
デデーン♪
『御坂、麦野、アウトー』
御坂「……随分アクロバティックに転がり落ちていったわね」クスクス
麦野「リアクション芸人になれるわよアイツ」ゲラゲラ
バチーン!!
御坂「あいったぁぁぁ!!!!」
麦野「ぐううぅぅぅ!!!」
御坂「垣根さん大丈夫ー?……あれ?」
麦野「いない……?」
階段を転がり落ちていった垣根を追いかけた二人だったが、彼女達が階段を下りきった時
彼の姿は既にそこになかった。いったい何処に行ったのかと周囲を見回すが行方はわからず
手掛かりになりそうな物もない。忽然と姿を消してしまった垣根を、二人は心配そうに探し回る
御坂「どこ行っちゃったんだろ垣根さん……」
麦野「マズイわね、アイツに証持たせてたから早く見つけないと……」
彼の心配ではなく、彼の持っていた証の心配である。
―近くの教室
「垣根、垣根、超大丈夫ですか?」
「結局、まさか階段転げ落ちてくるとは思わなかったわけよ……」
「大丈夫だよかきね、私は情けなくすっ転んだかきねを応援してる」
垣根「転んでねえよ!麦野のバカに押されたんだよクソ」
アクロバティックな動きで階段を転げ落ちた垣根は、偶然そこにいたアイテムの面々に保護されていた。
どうやら彼女達も脅かし役として待機していたらしく、その手には様々な獲物が握られている。
垣根「つーか何で俺を介抱してんだ?オマエ等脅かす役だろうが」
絹旗「垣根に超姿見られちゃったからですよ」
フレンダ「結局、麦野達に私達が隠れてるってバラされたくなかったのよ」
垣根「あー、別に俺の身体を心配してくれたわけじゃねえのな……」
滝壺「心配はしてるよ?はまづらと同じくらい」
垣根「それようするに全く心配してないってことだよな?」
滝壺「うん、まぁ」
垣根「認めちゃったよこの子」
絹旗「それでですね、私達の姿を超見られたからには垣根にも超協力してもらいます」
垣根「あぁ?」
フレンダ「垣根にも麦野達を脅かす手伝いをして欲しいわけよ」
垣根「おいおい、この企画中アイツ等二人と俺は運命共同体なんだぞ?
それ抜きにしても二人とも結構付き合いの長い大事な仲間だ。悪いがその提案には乗れねえな」
滝壺「かきね、本当にそれでいいの?」
垣根「いいも何も……」
絹旗「超正直になっていいんですよ?私達は今まで垣根が超どんな扱いを受けているか見てきました」
垣根「見られてたのか……」
フレンダ「言っちゃ悪いけど、結局浜面レベルの扱いだったわけよ」
垣根「そこまで悪かった!?」
滝壺「むぎの、仲間のはずの垣根に散々暴力振るってたよ?」
フレンダ「第三位もね……少しくらい仕返ししちゃってもいいんじゃない?
もちろん垣根がこっちと接触してることはバレないようにするし、悪い話じゃないと思うけど」
垣根「ぐ……」
絹旗「このまま第二位の垣根が、第三位と第四位の尻に超敷かれ続けてていいんですか?」
滝壺「それでも協力してもらえないんなら仕方ないね。むぎの達にある事無い事吹き込んで……」
垣根「………わかったよ。俺は何をすればいい?」
フレンダ「さっすが垣根!頼りになるわけよ!それで計画の内容なんだけど……」
絹旗「このフレンダお手製の超クマちゃんを持って何食わぬ顔で向こうに戻ってください」
垣根「待てやコラ」
フレンダ「頃合を見計らってぬいぐるみの中に仕掛けた罠を遠隔操作で発動させるってわけよ」
垣根「おいそれ普段フレンダが使ってる爆弾だろ!!ふざけてんのか!?」
滝壺「ふざけてなんかないよ、かきね」
垣根「サラっと死ね宣言された!?なにこれイジメ?俺実はオマエ等に疎まれてたの?」
絹旗「そうじゃなくてですね、それ超普段使ってるやつとは別物なんです」
垣根「そうなのか?」
フレンダ「中に入ってるのは爆弾じゃなくて閃光弾、そっちが合図出してくれたら起爆するから
それなら垣根は驚かずに済むでしょ?」
垣根「なるほどなぁ……だけどこれ見よがしにぬいぐるみ持って帰ったら怪しすぎるだろ」
絹旗「その辺は垣根のアドリブに超期待です」
垣根「投げっぱなしときたか」
滝壺「かきねは第二位だから頭良いんだよね?なんとかできるよね?」
垣根「チッ、なんとかしてみるか……で、他には何かないのか?」
フレンダ「結局垣根にやってもらえそうなのはその位ね。後は私達のこと黙ってればそれでいいわけよ」
垣根「はいよ。さて行くかな、ここでこうしてるの見つかってもめんどくせえし」
滝壺「はい、これがぬいぐるみだよ気をつけてね」
フレンダ「ちょ、それッ」
垣根「ん、絹旗が抱えてるやつじゃなかったのか?まぁいいか、それじゃ行ってくるわ」タッタッタ
絹旗「あぁ!か、垣根!!滝壺さん超どういうつもりですか!?」
滝壺「え?」
フレンダ「あ、あのぬいぐるみは……」
垣根「おーいオマエ等ー」
御坂「あ、垣根さんだ」
麦野「どこほっつき歩いてたんだこの馬鹿は」
垣根「もう少し心配してくれてもいいんじゃねえか?」
麦野「うっせーよ、隠れて私達を脅かそうとでもしてたんじゃねえだろうな?」
垣根「違えよ、トイレだトイレ」
御坂「無事でよかったわ(証が)……あれ、何持ってんの?」
垣根「このぬいぐるみか?トイレの前に転がってたからつい持ってきちまった」
麦野「何で持って来るの!?どう考えても罠じゃねえか!」
垣根「どうもこいつのメルヘンな面が気に入っちまってな……」
麦野「メルヘンなのはテメエの頭と能力だけにしとけ」
御坂「あ、でも本当にかわいいわよこの子。ほら、麦野さんもよく見て」
麦野「ん……仕方ないわね、どれどれ」
垣根「相変わらず御坂には何か優しいのなオマエ」
垣根(よし、二人とも顔を近づけた!今しかねえ、やれフレンダ!!)サッ
絹旗「うわぁ、超合図送ってきてますよ……超どうしましょう?」
フレンダ「どうしようもこうしようも……とりあえず何もせずに、後で謝るのがベストでしょ……」
滝壺「ふれんだ、起爆ボタンってこれだったよね?」ポチ
絹旗「滝壺さぁぁぁぁん!!!!」
滝壺「え?」
ぬいぐるみ<ブルブルブル
麦野「何かこれ震えてない?」
御坂「わ、動く機能とか付いてるやつなのかな?」
垣根「(来た来た……)って熱!何だこれあっちぃ!!!」
突如高熱を帯びたぬいぐるみを、垣根は思わずその場に取り落とす。
床に落ちたぬいぐるみはしばらくカタカタと震え続けたが、やがてその動きはピタリと止まる。
偶然か必然か、動きを止め仰向けに倒れたぬいぐるみと、見下ろしていた垣根の目があった。
垣根「あ?」
御坂「え?」
麦野「ん?」
次の瞬間、ぬいぐるみから一瞬閃光が漏れる。しかし三人がそれを知覚するよりも先に
ぬいぐるみは爆ぜ、轟音を巻き起こしながら、校舎の一角を吹き飛ばした。
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―Bグループサイド
一方通行「な、なンだァ?今の爆発は……ックソが!もう追いついて来やがったか!!」
フレンダお手製のぬいぐるみが校舎の廊下を吹き飛ばしていたその頃
一方通行はひたすらショタコンから逃げ続けていた。
幸いなことに、まともに脳が働いていない結標の歩みは極めて遅く、
思考もまともに出来ない状態のようだが、しかしどのような仕組みか、どれだけ距離を離しても
どこに隠れても、確実に彼の位置を補足し追いかけてくるのだ。
身体を引き摺るようにして歩く血塗れの女から逃げ続ける一方通行の姿は、
さながらゾンビ映画のワンシーンのようであった。
一方通行「ハァハァ、クソ、何処だここ……」
がむしゃらに、結標から距離を取ることだけを考えて逃げていた一方通行は、
気付けば校舎から外に飛び出していた。位置を把握しようと周囲を見渡すと、
夕方使用したプール(風呂)が目に入る。
一方通行「チッ、こンなとこまで来ちまってたのか」
舌打ちをし、一人呟く。現在地を確認できたのはいいが、校舎からは随分離れてしまっている。
一方通行(ともあれ、なンとかショタコンゾンビは撒けたか……)
辺りに結標の気配がない事を感じ取り、彼はほっと胸を撫で下ろす。
いくら追いつかれる心配が無いほど動きが鈍くても、
あの状態の彼女に追いかけられ続けるのは精神衛生上とてもよろしくない。
今まで散々馬鹿にしてきたゾンビ映画の登場人物達にごめんなさいをしなければならない。
あんなものが複数で襲ってきたら、パニックになって理に適わない行動を取っても全くおかしくないだろう。
一方通行(ほとぼりが冷めるまでこの辺に隠れとくかァ)
フッと身体の力を抜き腰を下ろした彼の頭上を何かが通過する。
もし偶然腰を下ろしていなければ、それは確実に一方通行に直撃していただろう。
一方通行「な、なンだ!?」
突然の攻撃に狼狽しながらも、一方通行はその場から飛び退きながら周囲を確認する。
見ると、今しがたまで自分のいた場所のすぐ真後ろに、
いつの間にか現れた結標が歪な笑みを浮かべながら立っていた。
結標「だぁめよぉ、逃げちゃぁ」クスクス
一方通行(喋っただと!?コイツ、思考が戻りつつあンのか!)
舌足らずではあったが、結標の口から意味の通じる言葉が出てきたことに、一方通行の焦りは更に増す。
先程までは本当にゾンビのように意味を持たない唸り声を上げるばかりだったというのに
どうやら逃走劇を繰り広げている間に、彼女は少しずつ回復していたようだ。
一方通行(コイツはやべェ、あっちがマトモに動けるようになっちまったらまず逃げ切れねェぞ……)
幼女にすら走り負けたのだ、普通の女性に勝てる道理が無い。
一方通行「クソ!!」
疲労でボロボロの身体に鞭打ち、一方通行は身を翻して再び逃げ始める。
向かう先は校舎―玄関。『驚いてはいけない学園都市』の開始地点であり、終了地点。
一方通行(癪だが、アイツがこれ以上回復する前に肝試しを終わらせて後処理を妹達に頼むしかねェ)
結標「ほぉら待ちなさぁぁい」
一方通行(チィィ!やっぱりさっきよりもスピードが上がってやがる!!このまま逃げ切れるのか……?)
彼は岐路に立たされる。このまま一直線に玄関を目指すか、出た時と同じよう裏口から校舎に入るか。
普通に考えれば一直線に玄関を目指すべきである。今にも追いつかれそうな絶体絶命のこの状況
わざわざ裏口に回る必要など全く無い。ただの時間の無駄である。
そう、本来それは選択肢にすら入らないものなのだ。しかし、この時一方通行は
何故か無性に裏口が気になっていた。全くの勘なのだが、そこにある何かが
自分を救ってくれるような気がしているのだ。
一方通行(真っ直ぐ玄関目指せば、このペースなら追いつかれるよりも先に到着するはず……
だがアイツの回復速度が俺の予想を上回るようなら危ねェ……賭けて、みるか……ッ!)
彼は賭けに出た。玄関目指して走っていたのを方向転換し、近くにある裏口から校舎内に滑り込む。
その先で、彼は見た。壁にもたれかかり、気だるそうにタバコを吹かしている赤髪の大男を――
一方通行は、己が賭けに勝ったことを確信した。
一方通行「良い所にいてくれたなァァァステイルくゥゥゥゥン!!!」
ステイル「き、君は!?」
突如大声で名を叫ばれ、ステイルは驚き咥えていたタバコを落とす。
かつて自分にトラウマを植え付ける原因となった真っ白い男が彼をめがけて突っ込んできていた。
ステイル「なるほど決着をつけようというわけか!!いいだろ…うおぉ!?」
只ならぬ様子に、自分と戦いに来たのだと勘違いしたステイルはルーンを取り出すべく
懐に手を突っ込む。しかし一方通行はわき目も振らず彼の元へ突進し、彼が臨戦態勢に入るよりも早く
擦れ違い様に足払いをかけ、彼をすっ転ばせたかと思うとそのまま振り返りもせずに走っていった。
ステイル「いたたた……クソ、アイツ何の真似だ?」
見事に尻餅をついたステイルは、腰を擦りながら一方通行が消えていった方角を睨みつける。
彼は、まだ気付いていなかった。
ステイル「……?なんだこの臭いは……何かが腐ったような………」
背後から迫り来る恐怖に。
ステイル「………誰かいるのかい?」
彼はまだ知らなかった。しかしこれから知る事になる
ステイル「あ、あぁぁ……き、キミは……あぁ……」
対峙しただけで心の臓腑が凍りつき、一切の挙動が出来なくなる程の恐怖を――
ミ ィ ツ ケ タ
―Aグループサイド
麦野「美琴、生きてる?」
御坂「なんとか……麦野さんこそ大丈夫?」
麦野「こっちもなんとかね、でも危なかったわ」
御坂「ほんと、もうダメかと思ったわよ」
麦野「とっさに垣根を盾にしてなかったらまとめて吹っ飛ばされてたわね」
垣根「」プスプス
※良い子の豆知識……小型の爆弾が爆発しそうな時は誰か一人が爆弾の上に覆いかぶさると
被害をある程度抑える事が出来るぞ!その一人は漏れなく二階級特進コースだけどな!
御坂「それにしても一体なんだったの?ぬいぐるみが爆発したみたいだけど」
麦野「ごめん、多分うちの身内だわ。あの馬鹿、肝試しの限度超えてるわよこれ……」
額に手を当てため息を吐く麦野を、アイテムの面々は物陰からじっと見ていた。
一先ずリーダーである麦野が無事だったことに安堵し、
それから彼女達はプスプスと煙を上げている垣根に黙祷を捧げる。
絹旗「垣根……超安らかに眠ってください……」
フレンダ「結局、麦野怒ってるわよねあれ……」
滝壺「怒られちゃうね、フレンダ」
フレンダ「えぇぇ!!何で私!?」
滝壺「だってあの爆弾、フレンダのだよ?」
フレンダ「そうだけど!そうだけど渡したも起爆したのも私じゃないわけよ!!」
絹旗「超滝壺さんですよね、爆弾が詰まったぬいぐるみ渡して超起爆ボタン押したの……」
滝壺「でもアレ、フレンダのだよ?むぎのもフレンダの仕業だと思ってるよ?」
フレンダ「そうだけど違うじゃん!私じゃ……」
滝壺「大丈夫だよフレンダ、私は濡れ衣を着せられてむぎのにお仕置きされちゃうフレンダを応援してる」
フレンダ「結局応援じゃなくて誤解といて欲しいわけよ!!」
滝壺「だってそうしたら私が怒られちゃうし」
絹旗(滝壺さん超こええ……)
麦野「フレンダは後でオシオキ確定として、垣根は生きてる?」
御坂「息はあるみたい……よかったぁ」
麦野「こいつが持ってた証は無事?」
御坂「ちょっと待ってね、えーっと……」ゴソゴソ
垣根「オイコラ俺より証が心配かこの野郎、ポケット漁ってんじゃねえよ」
御坂「うひゃ!もう動けるの!?」
垣根「ゲホッゴホッこの位ならなんとかな……第七位にブン殴られまくった時の方がきつかったわ」
御坂「流石、常識が通用しないって豪語するだけのことはあるわね……」
麦野「ミスター非常識って呼んでもいい?」
垣根「常識が通用しないのは俺の能力であって俺自身は常識人だ!!少なくともテメエ等よりはな!!」
麦野「ハイハイ、じゃあ常識人の垣根くン、証はちゃんと守ったかにゃーん?」
垣根「……」イラッ
絹旗「よかった、垣根も超生きてましたよ……」
フレンダ「何で生きてるの……」
滝壺「でもこっちの方凄い目で睨んでるね」
絹旗「そりゃまぁ……私達垣根を超嵌めたみたいなもんですし……」
フレンダ「あ、ははは……結局、第二位と第四位同時に敵に回す事になるなんて……」
滝壺「倍怒られちゃうね、フレンダ」
フレンダ「だから何で私だけ!?ちょっと絹旗も何とか言ってやってよ!」
絹旗「……私は、あのぬいぐるみに爆弾が入ってるなんて超知りませんでした」
フレンダ「……絹旗?」
絹旗「私は超何も知りませんでした!!超全部フレンダのミスです!!」
フレンダ「絹旗ぁぁぁぁ!!!!」
絹旗「超わかってください!もうフレンダ一人に超責任を押し付ける以外アイテムが生き残る道は……」
フレンダ「皆で!皆で生き残る道を探して!!」
「あ、お前等こんな所にいたのか!」
滝壺「あ、はまづら」
絹旗「超遅かったですね……ちょっとイケメンになってません?超血塗れですけど」
浜面「マジで!?彫刻刀効果か!!って、いやいやそうじゃなくて、
さっきの爆発はフレンダか?ちょっとやり過ぎだろ……」
フレンダ「(彫刻刀……?)やっぱ客観的に見ると私がやらかしたように見えるのね……」
浜面「違うのか?」
フレンダ「結局色々事情があるわけよ……あ、」
浜面「ん?」
フレンダ「全部浜面の指示!全部浜面が悪い!!」
浜面「へ?」
絹旗「フレンダ、流石にそれには超無理が……」
フレンダ「結局あの二人は浜面という生餌を差し出せばまずはそっちに喰い付いてくれるわけよ」
浜面「な、なんか物騒な話してねえか?」
絹旗「ふむ、なるほど……超浜面を超強引にでも生贄に捧げてしまえば、
二人の怒りは超収まるかも知れませんね」
フレンダ「仮に収まりきらなくても、浜面にぶつけた分私達に対する怒りは薄れるはず」
絹旗「超完璧ですね!これで誰も犠牲にせずにアイテム全員が超生き残れます!!」
浜面「ちょっと待って!よくわかんねえけど、どう考えても俺犠牲になってるよな!?」
滝壺「大丈夫だよはまづら」
浜面「た、滝壺……優しいのはお前だけだよ……」
滝壺「立派なお墓を建ててあげるからね」
浜面「滝壺おぉぉぉぉぉ!!!!!」
御坂「……?何かあっちの方で声がするわね」
垣根「あぁ御坂、行かなくていい。俺等が行く」
御坂「へ?」
麦野「獲物を取るなっつってんのよ」
御坂「え?え?」
垣根「麦野、半々だからな?」
麦野「構わないけど、フレンダは貰うわ」
垣根「あぁ?俺の方が被害受けてんだ、アイツは俺がやるのが筋だろ」
麦野「ハ?ぬいぐるみ持って来やがったのはテメエだろ、自業自得だそんなもん」
垣根「そりゃそうだが……半々くらいで手を打たねえか?」
麦野「半々ね……まぁいいわ、それじゃ上半身貰うわよ」
垣根「下半身ね、悲鳴の一つも上げてくれねえとつまんねえが、その位は妥協しといてやるか」
麦野「さて、どう料理しようかねぇ」クククク
垣根「落とし前はキッチリつけさせねえとな」ケケケ
デデーン♪
『垣根、麦野、アウトー』
垣根「あっ」
麦野「あっ」
御坂「何やってんの二人とも……」
バチーン!!
垣根「ぬああぁぁぁ!!!」
麦野「あ゛あぁぁ!!!」
絹旗「うわぁ超怒ってる……このままじゃフレンダ、超真っ二つコースですよ……」
フレンダ「げげ、浜面をスケープゴートにしただけじゃ足りないかも……」
浜面「俺が生贄に捧げられるの確定!?」
滝壺「大丈夫、応援してる」
浜面「すっごいめんどくさそうに色々端折られながら応援された!?」
絹旗「あの、今のうちに超この場を離れませんか?ほとぼりが冷めるまで超何処かに潜っておくのが得策かと……」
フレンダ「結局絹旗の言う通りね」
滝壺「うん、逃げよう」
絹旗(元を辿ると滝壺さんが超全部悪いはずなんですが、何故か言い出せませんね……)
浜面「でもどこに隠れるんだ?下手なところに逃げてもすぐに……」
フレンダ「あー、結局その心配には及ばないわけよ」
浜面「何でだ?」
絹旗「だって浜面は超ここに残るんですよ?」
浜面「えっ」
絹旗「滝壺さん、超準備できましたか?」
滝壺「うん、大丈夫。これではまづらは動けないよ」
浜面「え、あれ!?いつの間にか手錠と足枷付けられてる!?」
フレンダ「それじゃ浜面、達者でね」
絹旗「超お元気で」
滝壺「ばいばい」
浜面「待って!待って!!マジで置いて行くのかよぉぉぉ!!!」
必死に声を上げるが彼の思いは届かない。彼女達はさっさと行ってしまった。
そして物陰に放置された浜面の元に、カツカツと二人分の足音が近付いてくる。
彼は、まるで自分が十三階段を上っているかのような錯覚に陥った。
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―Bグループサイド
一方通行「クソ、いったい何処行ったンだァ……?」
結標の脅威から逃れた一方通行は顔を顰め、ブツブツとぼやきつつ、
自分の歩いたルートを思い返しながら校舎をうろついていた。
ショタコンとの鬼ごっこの最中に、証である帝凍庫クンの群れを何処かに落としてしまったのだ。
結構な大きさのモノなのですぐに見つかるだろう、と思っていたのだが、
心当たりのある場所を片っ端から探しても一向に発見できないでいる。
足でも生えてどこぞへ歩いて行ったのか、或いは――
一方通行「誰かが拾って持ち去ったか、だなァ」
可能性が高いのは後者だろう。というか流石に自立歩行までされて堪るか。
一方通行「つーか一回ちゃンと見つけたンだから現物無くてもいいだろォが」
『そうは行きません、目的は証を「取ってくること」ですから
とミサカは妥協しない姿勢を示します』
一方通行「チッ……ホント何処行っちまったンだアレ……」
分かっていた事だが、やはり11111号に温情は期待できないようだ。
一方通行はがっくりと肩を落とし、再びトボトボと帝凍庫クンの所在を探し始めた。
(ぎゃはははは、困ってる困ってる……)ニヤニヤ
そんな彼を、気付かれぬように付かず離れずの距離を保ちつつ、
ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべながら見つめている少女がいる。
第二次黒子ショックから立ち直った番外個体だ。
彼女の手には、一方通行が探している帝凍庫クン達が握り締められていた。
番外個体(あの情けない顔ったら……うひゃひゃひゃ、今にも倒れそうになってやんの!)
11111号(番外個体、程ほどにしといてくださいね。あのモヤシ我慢弱いですし……
それにこの企画終わらせないとミサカ達も休めませんよ)
番外個体(今までミサカのこと散々コケにしてくれた仕返しだよ!
あ、躓いた!あひゃひゃひゃ!ほらほらもっと無様に探し回れー)
11111号(聞いちゃいねえよこの愚妹)
MNWを通じて窘められようが全く意に介さず、番外個体は笑いを堪えながらストーキングを続行する。
一方通行はと言うと、やり場の無い怒りと疲労が限界に来ているのか、
先程から何度も舌打ちをしたり乱暴に己の髪を掻き毟ったりしている。
その様が番外個体の目にはとても滑稽に映り、彼女は何度も噴き出しそうになった。
一方通行「だあァァクソ!!見つからねェ!!!」
番外個体(……ッッと危ない、危うく噴き出しちゃうところだったよ)クククク
ついに彼は廊下のど真ん中に座り込み、がっくりと肩を落とす。
その情けない第一位の姿を、番外個体は目を輝かせながら心のフォルダに保存した。
番外個体(そろそろトドメ、行っちゃおうかなー☆)
十分に一方通行の萎れた姿を堪能した彼女は、そう思いつつこっそりと彼の背後に近寄る。
トドメ、と言うがそれ程大したモノではない。ただ後ろから軽めの電撃と共に大声を出して脅かすだけだ。
心身ともに疲弊しきっている一方通行は、きっとそれだけの事で声を上げ驚くだろう。
その様を思い浮かべるだけで、もう番外個体は笑いを堪えきれない。
驚愕し慌てふためく彼の醜態をMNWで共有してやるのだ。
彼女は笑みが漏れぬよう、片手で口を押さえながら
一方通行に気取られること無く、彼の真後ろに立った。
番外個体「わッッ!!!!!」バチバチ
一方通行「!?」ビリビリ
大声と共に、彼に電撃を浴びせる。加減されているとは言え背後から不意打ちで電撃を喰らったことで、
座り込んでいた一方通行はビクンと弾ける様に飛び上がり、その場に立ち尽くす。
その一連の動きがまた滑稽で、番外個体はゲラゲラと大声で笑った。
番外個体「ぶひゃひゃひゃひゃ!!何今の動き!?電気流されたカエルみてえ!!」ゲラゲラ
一方通行「……」
番外個体「あ、どうしたの?どうしたの?驚いて声も出ないとか?
ひゃひゃひゃひゃ!第一位様は随分肝が小さいんだねー」ゲラゲラゲラ
一方通行「……」
番外個体「ねえねえ、あなたがずっと探してたモノ、ミサカが持ってるんだよ。欲しい?欲しい?
土下座して頼んでくれれば返してあげてもいいかなー、ぎゃははははは!!」
一方通行「……」
番外個体「どうしたの?だんまり決め込んじゃってさ、頑張って無視しちゃってんの?
それとも放心中で喋れないとか?ねぇねぇ今どんな気持ち?どんな………?」
爆笑しつつ矢継ぎ早に言葉を浴びせていた番外個体は、ここに至りようやく異変に気付く。
どす黒い何かがまとわり付くような不愉快な感触、心臓を直に握られているような圧迫感
そして咽元に刃物を突きつけられるような冷たい敵意―
それらは全て、目の前で無防備な背を晒し続けている男から発せられていた。
番外個体(な、なんだよこの気持ち悪い感じ……)ゾクリ
一方通行「……ヒャッ」
番外個体「え?」
ようやく、一方通行から声が発せられる。
一方通行「ヒャヒャ、ヒャヒャヒヒヒャハヒッヒャヒャヒャ
ヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャハハハヒヒャヒヒャヒヒャ
ハハヒヒャヒヒハヒャヒヒヒャヒヒヒャヒャヒヒャヒヒャヒヒヒヒ!!」
身体を仰け反らせ、突如彼は狂ったように笑い始める。否、狂ったようにではない
客観的に、この笑い声は完全に狂人のソレであった。
番外個体「な……っ!?」
そして動揺する番外個体を余所に、一方通行はゆっくりと振り返る。
その双眼はほぼ真円になるほどに見開かれ、その口は口角が切れ血が滴るほどに裂け
意味を成さない狂った笑い声が、止め処なく溢れ出ていた。
番外個体「う……あ……」
恐怖で身が竦む。見知ったはずの男の顔がまるで何かに取り憑かれたように、
突如として変貌したのだ。焦点の合わぬ視線を中空に漂わせ、
ガクガクと首を左右に振り乱しながら、一方通行は笑い続ける。
逃げなければ、攻撃しなければ、危機を察知した番外個体の脳が全力で彼女の身体に指令を送る。
しかし彼女の身体は凍りついたように、ピクリとも動かない。完全に、恐怖に囚われている。
一方通行「ヒャハ、ヒャヒャヒャ、ヒヒヒヒャハヒャヒャヒャヒャ……ヒャ……」
番外個体「ひッ」
あちこち彷徨っていた一方通行の視線が、彼から目を離せないでいた番外個体の視線と絡み合う。
少しの間笑いを止め口を噤み、ジッと彼女を見つめた一方通行は、しかし次の瞬間に
これまでより更に大きく口を裂き、嬉しそうに彼女に掴みかかる。
一方通行「ワァァァァァストォォォォォォォ!!!!!!」
番外個体「うひゃあぁぁぁぁあぁ!!!!」
番外個体の意識は、そこで途絶えた。
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一方通行「あァクソ、顔痛ェ……」
舌打ちをしつつ、一方通行は無茶な表情の連続で痛めた己の顔をぐにぐにと揉み解す。
その彼の眼前で、番外個体は泡を吹いて倒れていた。
一方通行「ケッ、生まれたばっかのガキが俺を脅かそうなンざ100年早ェンだよ」
完全に気を失っている番外個体を一瞥し、その手に握られている数珠繋ぎの帝凍庫クン達を回収する。
彼は本気でどうにかなったわけではなく、彼女を脅かすために狂った振りをしていたのだ。
げに恐ろしき演技力である。
『一方通行、ちょっとやり過ぎです、とミサカは新しいトラウマが出来てそうな番外個体に合掌します』
一方通行「あァ?俺に立て付いたンだ、当然の報いだろォが」
『しかしですね、MNWを通じて様子を見ていた妹達の実に半数が今ので気絶しちゃったんですよ
とミサカは衝撃の事実を告白します』
一方通行「俺のビビる姿見たさに番外個体と感覚共有してたクソったれどもだろォが、いい気味だボケ」
『特に上位個体がヤバいです。帰ってこないかも知れません……とミサカは十字を切ります』
一方通行「……マジでか」
『えらくマジです。後で目覚めのキスでもしてあげてくださいロリコン野郎
とミサカは加減を知らない一方通行を罵ります』
マジかよ、と一方通行は頭を抱える。妹達が気絶したのは半ば自業自得であると言えるが、
それでも命の危機にまで瀕するのは流石に行きすぎだ。死なれでもしたら後味が悪い。
彼は珍しく、自分の行いを少しだけ反省した。
『それと頭抱えてるところ悪いんですが』
一方通行「あ?」
『当然演技中に笑った分もアウトカウントさせていただきます、とミサカは容赦なく通告します』
一方通行「……覚悟の上だ、好きにしやがれ」
『自分の身を犠牲にしてでも番外固体に反撃したかったんですね
とミサカは負けず嫌いの一方通行をニヤニヤ笑いながら見つめます』
一方通行「うるせェンだよ、アウトとるならさっさとしやがれ」
『で、ソレなんですけどね、』
一方通行「ン?」
『先程も言った様に妹達の多くが昏倒しているので、そちらに派遣するのがきついんですよ』
一方通行「おい待て、何かデジャブ感じるぞ」
『それでですね、何度アウト取ればいいかわからないほど笑ってたことですしー』
一方通行「待て、それはダメだろ、待て……待て」
デデーン♪
『一方通行、すごパー』
一方通行「ふざけンなァァァァァ!!!!」
『一発でチャラにしようと言うんです、ありがたく思いなさい
それに覚悟はしていたのでしょう?とミサカは第七位に指令を送りながら言い放ちます』
一方通行「第七位が来るなンざ予想外に決まってンだろ!!今すぐ取り消せ!!おい聞いて……!!!」
叫び声を上げる一方通行を宥めるように、その肩に背後から手が置かれる。
カタカタと震えながらそちらに顔を向けると、眩しい笑みを浮かべた第七位、削板軍覇がそこにいた。
一方通行「ま、待て落ち着け、話し合いって大事だと思わねェか?」
削板「拳での語り合いこそ漢の本分!!根性注入してやるぜ第一位!!!」
一方通行「やめろ、やめろやめろやめろ!!!」
削板「すごい……」ググ
一方通行「ヤメロォォォォォォ!!!!」
削板「パ ー ン チ!!!」
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―玄関
11111号「はーい皆さん、お疲れ様でしたー、とミサカは集まった一同を労います」
削板「おう!!」
一方通行「」グッタリ
垣根「何で第七位がいんだよ、それも一方通行抱えて……」
麦野「第一位、死人みたいになってるわね。正直肝試しより怖いわ」
11111号「ちょっとお仕置きやり過ぎちゃったんで運んできてもらったんですよ
しかし、お二方は対照的にやけに血色よくなってますね、とミサカは首を傾げます」
麦野「ちょっとだけだけど、色々発散できたからねー」
垣根「ずっと抑圧されてたからな、スッキリしたぜ」
御坂(あの時物陰で何してたんだろ……)
11111号「それでは証を渡してください、とミサカは手を出します」
垣根「ほらよ、この紙切れだろ」
11111号「はい確かに。ちょっと焦げてるのが気になりますが……」
麦野「事情があんだよ」
御坂「下手したら私達が焦げてたわよ……」
垣根「俺は焦げたけどね」
11111号「さて次に削板軍覇、一方通行が抱えている物をこちらによこしてください
とミサカはていとくんから渡された証をくしゃくしゃに丸めながら指示を出します」
垣根「おい、ただの紙なのはわかるがその扱いはねえだろ」
削板「お、抱えてる物ってこれか?」ズルズル
デデーン♪
『垣根、御坂、麦野、アウトー』
御坂「ちょ、ちょっと何よそれ!」
麦野「何匹つながってんだよ……」
削板「ハハッ面白え顔してんなコイツ、第二位にそっくりじゃねえか!」
垣根「全部終わったらオマエだけは絶対に殺す。マジで殺すからな」
バチーン!!
垣根「づおあぁぁ!!!」
御坂「あうっ!!!」
麦野「いっつぅ!!!」
削板「いてえ!!!」バチーン!
垣根「ブフッ」
御坂「コフッ」
麦野「カハッ」
削板「何故俺まで殴られたんだ!?」
デデーン♪
『垣根、御坂、麦野、アウトー』
麦野「意味がわからないわ……なんで第七位まで殴られてんだ……」
11111号「根性注入ですよ、とミサカは眼を逸らしながら誤魔化します」
削板「根性じゃ仕方ねぇな!!」
垣根「あ、こいつ馬鹿だ。知ってたけど馬鹿だ」
御坂「もうやだぁ……」
バチーン!!
垣根「ぐがぁ!!!」
御坂「やああぁぁ!!!」
麦野「あいっったぁぁ!!!」
11111号「さて、それでは本日のプログラムはこれにて終了です
教室に布団を用意していますので、戻ってお休み下さい
とミサカは今日の分が無事終了したことにほっと胸を撫で下ろします」
麦野「無事じゃねえよ」
御坂「今日だけで一生分は叩かれたわよ……」
垣根「俺は一生分死にかけたわ」
削板「おい、第一位はどうすんだ?まだ意識戻ってねえぞ!」
11111号「あー、削板軍覇、そのまま保健室まで運んであげてもらえますか?
とミサカは両手を合わせてお願いします。多分すぐに意識戻るでしょう」
垣根「しかしようやく寝れるのか」
開放感から、垣根はぐっと背伸びをする。
途端、今日一日で痛めた体がミシミシと軋み、彼は思わず呻き声を零した。
垣根「ぐあぁ、全身痛え!主に尻だけどそれ以外のところも滅茶苦茶痛え!!」
麦野「アンタは全身殴られたりビンタ喰らったりしてたからねぇ」
御坂「何割かは麦野さんがやったんだけどね」
軽口を叩きながら踵を返し、教室に向かって歩き始める三人の背後で、11111号の眼が怪しく輝く。
11111号「……夜はまだまだ長いのですよ、とミサカは意味深な独り言を呟きます」ククク
誰もいなくなったその場所で、11111号はニタリと悪意ある笑みを浮かべると
次の準備をすべく動き始めた。夜は、まだ終わらない。
垣根「こんだけ一日が長く感じたのは始めてだぜ……」
御坂「貴重といえば貴重な体験だけどさ……一生に一度あるかないか、くらいの」
麦野「こんな体験する必要ないし、したくもなかったけどねぇ」
他愛無い会話をしながら三人が教室に戻ると、既に机や椅子は隅に片付けられており、
今はいない一方通行の分も含めた四人分の寝具が準備されていた。
垣根「おぉ、本当に布団敷かれてるな」
御坂「教室の床に、直に布団敷かれてるってのも酷い光景よね……」
垣根「それは言うな……」
麦野「なぁアレ、一個だけ妙なのが混ざってないか?」
疲れた顔をしている垣根と御坂の隣で、奥の方に置かれている
妙な寝具を目敏く見つけた麦野が顔を引き攣らせる。
御坂「あれって……」
垣根「ダンボール……だと……」
布団に混じって、さも当然のようにダンボールと新聞紙が鎮座していた。
用意されている布団は三つだけ、つまり誰かがホームレスのごとく
ダンボールで寝なければならないというわけだ。
御坂「……どんまい垣根さん」
垣根「何がどんまいだよ!!俺がダンボールで寝ること確定してんのか!?」
麦野「アンタはそういう役でしょ?」
目だけで笑いながら、女性陣は小馬鹿にするように垣根の肩にぽんと手を置く。
損な役回りを全部押し付けようとする彼女達に、垣根は慌てて抗議した。
垣根「ふざけんなよ!!せっかく一方通行いねえんだからダンボールはアイツに回せばいいだろ!!」
御坂「んー、でも誰がどの寝具使うか決まってるみたいよ?」
垣根「んだと?」
麦野「本当ね、布団に名前書いてあるわ」
一番手前の寝具に目をやると、確かに、少々分かりづらいが掛け布団に名前が刺繍されていた。
ちなみにその布団には『御坂』と刺繍されており、
これで御坂はダンボールを使うハメにならずに済んだというわけだ。
垣根「マジかよ……わかったよ、どうせダンボールには俺の名前が書いてあんだろチクショウ……」
御坂「一応確認してみる?ひょっとしたら一方通行の名前かもしれないわよ」
これまでの自分の役回りを思い出し、垣根は諦めたように肩を落とす。
そんな彼を、既に安全牌の御坂は笑いを堪えながら慰めた。
垣根「そうだな、一応な……万が一ってことはあるからな……」
他の布団には目もくれず、三人は一直線にダンボールに向かう。
とはいえ、どうせ『垣根』と書いてあるのだろう、と彼等は確認に近い予想を立てていた。
しかしダンボールを拾い上げた三人はその身を硬直させ、己の目を疑う。
そこに刻まれていた名は――
【麦野沈利】
麦野「はぁ!?」
デデーン♪
『垣根、御坂、アウトー』
垣根「ぶふっククク、ひゃひゃひゃひゃ!ざまあねえなぁ!!!」ゲラゲラ
御坂「おふ……ど、ドンマイ麦野さん……」クククク
麦野「垣根ぇぇぇぇ!!!笑いすぎなんだよテメエはぁぁぁ!!!」
垣根「クケケケケ、八つ当たりしてんじゃねえよ!」
バチーン!!
垣根「あっだあぁぁぁ!!!」
御坂「うあッッ!!!!」
一方通行「ったく、外まで馬鹿笑いが聞こえてきやがったぞ。何やってンだオマエ等……」
お仕置き係の妹達と入れ違いに、一方通行が呆れ顔をしながら教室に戻ってくる。
肝試しの時間にあれ程の仕打ちを受けたというのに、虚弱体質な彼にしては驚異的な回復力の早さと言えよう。
垣根「もう戻りやがったか、随分早かったじゃねえか」
御坂「ほんと、アンタのことだから寝た振りしたまま一晩保健室で過ごすと思ってたわよ」
麦野「むしろ帰ってこないで欲しかったんだけどね」
一方通行「うるせェ、起きざるを得ねェ状況だったンだよクソ」
垣根「何があったんだ?」
一方通行「第七位に人工呼吸されかけたンだよ……」
御坂「プフッ」
麦野「コポッ」
デデーン♪
『御坂、麦野、アウトー』
一方通行「馬ッ鹿オマエ等、笑い事じゃねェぞ!」
御坂「いやいやいや、笑い事でしょ……」プククク
麦野「未遂に終わったってのが残念ね」ケラケラ
垣根「あーうん、俺は同情するぜ?」
バチーン!!
御坂「あぎゃぁ!!!」
麦野「ういっだあぁぁ!!!」
一方通行「いや、冗談抜きで笑い事じゃねェンだこれが」
麦野「あぁ?」
御坂「どういうこと?」
一方通行「アイツに口付けされるのが気持ち悪ィとかの前に、
アイツの肺活量で酸素送り込まれたら最悪内側から爆発する可能性すらあンだよ……」
垣根「どんだけだよ!?」
麦野「そりゃ流石に大げさだろ」
一方通行「大げさじゃねェって、アイツ予行練習とか言いながら
トラックのタイヤチューブ破裂させやがったンだぞ」
垣根「規格外にも程があるだろ!?」
御坂「肺活量ふざけすぎでしょ……」
麦野「第七位なら普通にやりかねないって思えるのが怖いわね」
一方通行「ケツにストローブッ刺されたカエルの気分を味わったぜ……」
垣根「……ま、生きててよかったじゃねえか」
一方通行「まァな……ところで第四位はどォしてダンボール抱えてンだ?」
麦野「うるせえボケが」
御坂「えっと、誰がどの布団を使うかが決まっててね」
一方通行「第四位の布団だけ何故かダンボールでした、ってことか」
垣根「そういうこった」
一方通行「……」
麦野「……なによ」
一方通行「……ププッ」
麦野「ッッ!!」
デデーン♪
『一方通行、アウトー』
麦野「笑ってんじゃねえぞモヤシがあああ!!!」
一方通行「いやァ一人だけ特別な布団で羨ましィなァ、よォくお似合いですよォ」ゲラゲラ
バチーン!!
一方通行「ンがァァァ!!!」
麦野「……でも、本当にダンボールで寝るのかぁ」ハァ
垣根「何もないよりはマシだろ、諦めろ諦めろ」
御坂「あ、あの麦野さん、よかったら私の布団一緒に使う?」
麦野「え……でも悪いわよ」
御坂「気にしないで、麦野さんにはお世話になってるし、
それに意外と布団大きいから、くっつけば二人くらい寝れそうよ?」
麦野「美琴……ありがとう、アンタは優しいのね。……それに比べて男どもは……」
一方通行「……」
垣根「……麦野、一緒に寝るか?(キリッ」
麦野「死ねよ」
一方通行「キメ顔キモ過ぎだろオマエ」
垣根「ひどくねぇ!?」
御坂「今のは酷くないでしょ……」
垣根「軽い冗談じゃねえか……」
一方通行「軽くねェな、吐きそうになったぜ」
麦野「控え目に言っても死ねしか出てこねえわ」
御坂「ちょっとその冗談は生理的に受け付けないかな……」
垣根「ちくしょう……」
一頻り垣根を馬鹿にして場が和んだところで会話は止まり、必然的にそろそろ寝ようかという空気になる。
大きく欠伸をし、軽く身体を伸ばしながら自分の布団に向かった一方通行は、しかしその途中ある事に気付いた。
一方通行「……おい超電磁砲」
御坂「何よ?」
彼に声をかけられ、小声で麦野と立ち話をしていた御坂が振り向く。
一方通行はそんな彼女を見向きもせず、ただ彼女の寝具を見つめながら言葉を続ける。
一方通行「なンかオマエの布団、変に膨らんでねェ?」
御坂「へ?……あぁ!ホントだ!!」
指摘され、布団をじっくり観察してみると、確かに彼女の布団に人一人分ほどの膨らみが出来ている。
むしろ何故今まで気付かなかったのか……
御坂「え、えー……これってさぁ……」
麦野「中に多分、いるわよねぇ」
垣根「あぁ……アレか」
一方通行「ジャッジメントですの」
垣根「うるせえ黙れ」
四人の脳裏に一人の変態淑女の姿が、彼女の決め台詞と共に鮮やかに浮かび上がる。
垣根「ん、でもほら、肝試しの時に殴られて正常に戻ってなかったか?」
御坂「そ、そのはずよね」
麦野「でもあんだけ殴られたら逆にぶっ壊れるんじゃない?」
御坂「う……」
一方通行「正常だろォがそうでなかろォが、事実として今超電磁砲の布団が膨らンでンだろ」
そう、例え白井が正常であろうと異常であろうと、或いは中にいるのが白井以外の何者かであろうと、
現実問題として、御坂の布団が妙に膨らんでいるというのは誤魔化しようのない事実なのである。
膨らんだ布団を前に、彼等はさてどうしようかと思案し、小声で会議を始める。
垣根「このまま布団ごと窓から投げ捨てるか?」
御坂「ちょ、私の布団がなくなるじゃない!」
窓の方を指差しながら垣根が提案するが、布団がなくなってしまうため却下。
一方通行「試しに垣根が布団の中に入ってみるとかどォだ?」
垣根「おい」
御坂「それもちょっと……その後布団で寝なくちゃいけないんだし……」
垣根「おい」
冗談半分の一方通行の案は垣根が触れた布団を使いたくないという理由で却下。実に黒い中二である。
麦野「死なない程度に布団の上からボコればいいんじゃない?」
一方通行「加減が難しそォだな。それに血やら体液やらで結局布団使えなくなるンじゃねェか?」
ペキパキと拳を鳴らしながら麦野が出した提案も、やはりその後布団が使えなくなりそうな為却下。
布団越しではどうしたって有効な解決策が浮かんでこない。
御坂「やっぱり掛け布団引っぺがすしかないのかなぁ……」
垣根「誰か一人が布団剥いで、他の三人で間髪いれずに取り押さえる、くらいが妥当なんじゃねえか?」
一方通行「垣根くンにしちゃァやけに常識的で普通な案だなァ」
垣根「オマエは俺を何だと思ってやがるんだ」
麦野「でも布団への被害を最小限に抑えようと思ったらそれ位しかなさそうね」
御坂「うん……じゃあ一方通行、アンタ布団剥ぎ取る係ね」
一方通行「何で俺なンだよ……」
垣根「非力なテメエじゃ取り押さえるのに向いてねえからだろ」
麦野「そもそも布団を剥ぎ取ることが出来るのかどうか疑問ね」
一方通行「舐めてンのかテメエ……まァいいか、一番楽そォだし布団剥ぐくれェやってやンよ」
スッと一方通行が布団に手を伸ばし、それを合図に他の三人も布団の周囲を取り囲み、目の色を変える。
一方通行「準備はいいな?」コソコソ
垣根「あぁ」
御坂「うん」
麦野「いつでも」
一方通行「せェのォッ!」
力を込め、一気に布団を剥ぎ取る。しかしその瞬間、四人がそこに隠れていたモノを確認するよりも先に、
彼等の視界は突如真っ白に染まる。どうやら布団を剥ぐと同時に発動する罠が仕掛けてあったようだ。
一方通行「おォ!?」
垣根「クソ、煙幕だと!?」
御坂「ケホッケホ、何よこれぇぇ!!」
麦野「く……まだそこにいる!捕まえるわよ!!」
目を凝らすと、確かにそこにはまだ黒い人影が横たわっている。三人は必死の形相でそれに掴みかかった。
垣根「取ったぁ!!」
御坂「捕まえた!」
麦野「逃がさないわよ!!」
煙幕のせいではっきりとは見えなかったが、彼等は確かに人影を捕まえることに成功した。
しかしここで予想外のことが起こる。御坂が頭に相当する部分を、麦野が胴に相当する部分を、
垣根が足に相当する部分を掴み、それぞれ思い思いの方向に力を込め引っ張った結果……
ブチブチブチィ
垣根「んな!?」
御坂「えぇ!?」
嫌な音を立てながら、彼等の捕まえた人影は三つに分断された。
御坂「え、ち、ちぎれ……え、死……えぇぇぇ!?」
垣根「いや、この感触は……」
麦野「人間じゃない……?」
困惑する御坂を余所に、垣根と麦野は違和感を感じ、己の手の内にあるものを確かめる。
視界がほとんど真っ白なので正確にはわからないが、感触的にも輪郭的にも、人間のそれとは違うようだ。
御坂「へ?に、人間じゃない……?ホントだ……」
遅れて御坂も、自分の持っているモノの感触を改めて確かめ安堵する。
御坂「なんだろこれ……生き物じゃなさそうだけど」
垣根「悪質な事しやがる……ちぎれた時は一瞬マジで焦ったぞ」
麦野「ごわごわしてるわね、ぬいぐるみか何かじゃない?」
首を傾げながら、各々自分の手に抱えられた物を確かめる。
麦野の言う通り、ごわごわと柔らかいその触感はいかにもぬいぐるみ的だ。
と、姿は見えないが少し離れた位置から一方通行の声が聞こえてくる。
一方通行「おい、窓開けたからそろそろ煙幕晴れるぞ」
麦野「あら気が利くわね」
垣根「喋らねえと思ったらそんなことしてやがったのか」
御坂「うん、晴れてきた晴れてき……た……?」
あっという間に煙幕は薄まり、視界が開ける。しかし御坂は、徐々にはっきりとしていく、
自分の持っている物体の正体に絶句する。
御坂「嘘……」
彼等三人が捕まえ、勢い余って引きちぎってしまったモノ、
柔らかい、ぬいぐるみ的な触感を持つその正体は――
御坂「げ……ゲコ太あああああ!!!!」
人間大ほどの大きさはあろうかという、超巨大ゲコ太ぬいぐるみであった。
その超巨大ゲコ太は、今や『ゲ/コ/太』とでも言うべき無残な姿になっている。
デデーン♪
『一方通行、アウトー』
御坂「何笑ってんのよ!!ゲコ太が、ゲコ太が!!!」
一方通行「『ゲコ太が』じゃねェよ、自分でやったンだろォが」ケラケラ
バチーン!!
一方通行「はおォォォ!!!」
御坂「ごめんね、ごめんねゲコ太……私……」
生首状態のゲコ太に御坂は半泣きで謝る。その光景に居た堪れなくなった垣根と麦野は、
そっと上半身と下半身に相当する部分を近くに添えた。
垣根「御坂……オマエの責任じゃねえよ、そう気に病むな。それにほら、見てみろ」
御坂「な、何?」グスン
垣根「こうやって頭と胴と下半身並べて置くと意外と違和感ないだろ?ゲッターロボの三身合体みたいでよ……」
デデーン♪
『一方通行、麦野、アウトー』
御坂「ふざけてんのアンタ!!!?」
麦野「余計なこと言いやがって……そもそもフォローになってねェェんだよバ垣根がァァ!!!」
一方通行「ここでゲッターが来たかァ……」
垣根「ゲッターロボかっけぇだろうが!!何が不満なんだテメエ等!!!」
バチーン!!
一方通行「ぐあァァァ!!!」
麦野「があぁァッッ!!!」
御坂「ゲコ太、ゲコ太……」グスグス
麦野「ほら美琴、もう泣き止みなって……」
垣根「おぉそうだ、気晴らしに枕投げやろうぜ枕投げ」
一方通行「だから何でオマエはこの状況を楽しもうとしてンだよ……」
グスグスと泣く御坂とそれを慰める麦野、そんな二人を枕投げに誘う垣根。
流石の一方通行も垣根の脳天気さに顔を顰めた。
麦野「枕投げね……いいわよ」
一方通行「おい第四位……」
御坂「む、麦野さん?」
垣根「話がわかるなぁ麦野、それじゃ早速ルールの確認をsぶほぁ!!!!」
垣根が喋り終わらぬ内に、麦野が投げた枕が彼の顔面を直撃する。
それはたかが枕であるにも関わらず、十分過ぎる程の速度と重さを以って彼を襲い、
抜群の殺傷能力を発揮して彼の意識を粉砕した。
垣根「」ビクンビクン
麦野「はいしゅーりょー」
一方通行(今のホントに枕か……?)
麦野「ほら美琴、あの馬鹿みたいに痙攣してる垣根を見て落ち着きなさい」
一方通行「落ち着くわけねェだろ」
御坂「うん、ちょっとだけ落ち着いてきたわ」
一方通行「落ち着いちゃったのかよ……」
―――――――――――――――
―――――――――
――――
―なんやかんやで就寝タイム
垣根「そろそろ電気消していいか?」
一方通行「俺は構わねェよ」
麦野「オッケー、消しちゃって構わないわ」
御坂「……」
麦野「美琴?」
御坂「あ、うん、私も大丈夫よ、早く消して」
垣根「あん?まぁ消すぞ」パチン
御坂(……同じ女なのにこの差は何なのよちくしょう)
麦野「どうしたの?やっぱり同じ布団だと狭い?」
御坂「あ、いやそうじゃなくて……気にしないで……」ハァ
麦野「んー?」
―――――――――
垣根「一方通行、まだ起きてっか?」
一方通行「……なンだようっせェな」
垣根「こうよ、真っ暗でお互いの顔が見えねえ状況だとぶっちゃけた話とかしたくならねえ?」
一方通行「ならねェよ。何なンだ今日のテメエは、青臭ェ青春にでも憧れてンのか?」
垣根「……物心付いたばっかの頃からずっと実験付けで、今は暗部にいて、だからな
普通に学校行って普通に青春してって生活に憧れてねえかって聞かれると、そりゃ憧れてるさ
こういう状況で普通の友人なんてもんがいたら、一体どんな事話すんだろうなー、なんてな」
一方通行「チッ……馬鹿に素直じゃねェか」
垣根「言ったろ?真っ暗だからだ」
一方通行「フン……仕方ねェな、少しだけオマエの下らねェ青春ゴッコに付き合ってやらァ」
垣根「マジで?いいのか?」
一方通行「俺の気が変わらねェ内にさっさと話題振りやがれメルヘン馬鹿が」
垣根「いや言ってみるモンだな、まさか乗ってもらえるとは……それじゃ一方通行、一個だけ聞くぞ」
一方通行「……おォ」
垣根「……オマエさ、好きな人とかいるのか?」
デデーン♪
『一方通行、御坂、麦野、アウトー』
一方通行「小学生かテメエはァァァァ!!!!」
御坂「か、かきねさん……」ケラケラ
麦野「まさかそう来るとは思ってなかったわ……」クククク
垣根「な、何だテメエ等、起きてやがったのか!?」
バチーン!!
一方通行「ぐがァァァ!!!」
御坂「うきゃああぁ!!!」
麦野「あだッッ!!!」
垣根「クソ、馬鹿にしやがって……こういう時の定番じゃねえのかよ!?」
一方通行「小学生のガキまでだろそンな事マジで聞くの……」
御坂「私中二だけどそんな話はしない」
麦野「いちいち中二って言わなくていいわよ美琴……調子に乗りすぎると怒られるから」
垣根「もういい俺は寝る!ちくしょう……」
麦野(垣根の癖にちょっと可愛いじゃない……)
『……あーあー、これもう聞こえてるの?喋っていいのか?』
一方通行「何だァ?」
垣根「こんな時間に校内放送か?勘弁しろよ……」
御坂「この声……」
麦野「あのツンツン頭?生きてたのね」
『あー……』
一方通行「?」
『その幻想をぶち殺す!!』
垣根「グハッ」
御坂「ブフッ」
デデーン♪
『垣根、御坂、アウトー』
垣根「意味がわかんねえんだよ!!!」
御坂「何よ、何なのよ!?」
バチーン!!
垣根「うぼぁ!!!」
御坂「あいったああ!!!」
『その幻想をぶち殺す!!その幻想をぶち殺す!!』
一方通行「クソ、誰か止めろよ……」
垣根「眠れねえぞこれ……」
麦野「酷い騒音ね」
『その幻想をぶち殺す!!その幻想を……ぶち殺ォォす!!』
デデーン♪
『一方通行、垣根、麦野、アウトー』
一方通行「溜めンな!!!」
垣根「伸ばすな!!!」
麦野「巻き舌やめろ!!!」
御坂「ハァハァハァ……セーフセーフ……」
バチーン!!
一方通行「あ゛ァァァァ!!!」
垣根「はぐあぁぁ!!!」
麦野「つあああァ!!」
『その幻想をぶち殺す!!その幻想をブ・チ・コ・ロ・ス!!』
一方通行「クッ…緩急つけるンじゃねェよ!」
麦野「マジで誰か止めてこい……」
御坂「アイツこんな性格だったっけ……?」
『その幻想を………』
垣根「また溜めか?」
一方通行「もォ笑わねェぞ」
『………』
御坂「長いわね」
麦野「ネタ切れなんじゃない?」
『……熱膨張って知ってるか?』
デデーン♪
『全員、アウトー』
垣根「だから意味がわかんねえんだよ!!!」
一方通行「イヤなモン思い出させやがって……」
御坂「熱膨張がどうしたのよ!?」
麦野「まぁ熱膨張くらい知ってるけどさ……だから何よ?」
バチーン!!
一方通行「いってえェェェ!!!」
垣根「おぐあぁぁ!!」
御坂「いきゃあああ!!!」
麦野「いたあああぁぁ!!!」
『その幻想をぶち殺す!!』
一方通行「もォいい、ホントもォいいから……」
垣根「寝させてくれよ……」
『ずっと待ち焦がれてたんだろ、こんな展開を!
英雄がやってくるまでの場つなぎじゃねえ!主人公が登場するまでの時間稼ぎじゃねえ!
他の何者でもなく!他の何物でもなく!
テメエのその手で、たった一人の女の子を助けてみせるって誓ったんじゃねえのかよ!
ずっとずっと主人公になりたかったんだろ! 絵本みてえに映画みてえに、
命を賭けてたった一人の女の子を守る、魔術師になりたかったんだろ!
だったらそれは全然終わってねえ!! 始まってすらいねえ!!
ちっとぐらい長いプロローグで絶望してんじゃねえよ!!
――手を伸ばせば届くんだ。いい加減に始めようぜ、魔術師!』
デデーン♪
『全員、アウトー』
一方通行「長ェンだよクソがァァァァ!!!!」
垣根「本気で意味がわからねえ……なんで吹いたんだよ俺は……」
麦野「よく分からないけど聞いてて恥ずかしくなってきたわね」
御坂「もうホントにやめて欲しい……」
バチーン!!
一方通行「あがァァァ!!!」
垣根「くふぁッ!!!」
御坂「やああぁぁ!!!」
麦野「あつううぅぅ!!」
『……ゴメン』
御坂「え?」
垣根「あぁ?」
麦野「お、終わった……?」
『俺、強くなるから。もう二度と、負けねぇから。お前をこんな風に扱う連中、
全部残らず一人残らずぶっ飛ばせるぐらい、強くなるから……待ってろよ。
今度は絶対、完璧に助け出してみせるから』
デデーン♪
『一方通行、垣根、アウトー』
一方通行「クソ、クソ、終わりじゃねェのかよ!!!」
垣根「こいつ、こんだけ早口で喋ってて一回も噛まねえのかよ……」
バチーン!!
一方通行「おがァァァ!!」
垣根「ぬっふぁぁ!!!」
『ハァハァハァ……おい、そろそろ交代しようぜ』
『おう、俺の番だな』
一方通行「あァ?声が変わった?」
麦野「……この声浜面だろ」
『コホン』
垣根「浜面の野郎……余計な事言いやがったらマジで死なすぞ……」
『だったら……アンタを待ってる人はどうするんだよ。
今までだってそんな風に生きてきたんだろ。
俺やディグルヴ達を助けてくれた時のあれは、アンタにとって特別な事だったんじゃない。
アンタはずっと、そんな風に生きてきたんだろ!! そういうヤツは絶対に孤独なんかじゃない。
アンタが考えていなくたって、アンタの後ろには多くの人達がついてきてる。
そういう人達はどうするんだよ!! 世界も守って死にました。他人を庇って倒れました。
そんなんで納得すると思ってんのかよ!! そんな訳ねえだろ!!
アンタが掲げる『戦う理由』ってのは、
アンタを待つ人達の泣き顔を見て笑みを作るようなくだらねぇもんなのかよ!!』
一方通行「ク……」
御坂「これはまた……」
垣根「いつからこんな饒舌になりやがった……」
麦野「はーまづらぁ……」
『立てよ、ヒーロー。立てエエエエエ「うるさいのである!!死ね!!」ぐぶふぁ!!!』
デデーン♪
『全員、アウトー』
―一日目、終了―
―早朝、教室
11111号(おはようございます、とミサカは監視カメラに向かって独り言を呟きます)
11111号(今、このミサカの前ではレベル5の四人が熟睡しています
とミサカは見たままの状況をお伝えします)
11111号(まさに、眠り姫だ……とミサカは某ガンダムストーカーの上級大尉の名言を借りてみます)
11111号(さて、ミサカが何をするかもうお分かりですね?そう、寝起きドッキリです
とミサカは頷いて見せます……さて、誰に何をしてやりましょうか……)
11111号(むむ、お姉様とむぎのんが同じ布団に……なんと破廉恥な!とミサカは顔を覆います)
11111号(これは懲罰モノですね、間にこの『昨日から意識が戻らない白井黒子』を押し込みましょう)
白井「」
11111号(むぅ、流石に一つの布団に三人目は入りませんね……
仕方ありません、ちょっとむぎのんを引っ張り出しましょうか
とミサカはむぎのんが起きないように薬品を染み込ませた布を宛がいつつ彼女を引っ張り出します)
麦野「んう……うぐっ」ガク
11111号(そして変わりにこの白井黒子を押し込んで……)グイグイ
白井「……オネエサマオネエサマオネエサマ」カクカクカク
11111号(こいつ、動くぞ!?……まぁいっか、とミサカはお姉様を諦めます)
11111号(さてお次は引っ張り出したむぎのん……はもういいか
ダンボールの上に転がってる姿が哀愁出まくりですし、とミサカは生暖かい目で見つめます)
麦野「」
11111号(順当に行って、次はていとくんですね、とミサカは気持ち良さそうに寝ている彼を眺めます)
垣根「zzz」スヤスヤ
11111号(爆睡しやがって、こちとらほとんど寝てねえってのに、とミサカは舌打ちします
枕の下に心理定規の写真を仕込んでやりましょう、悪夢をみるがいい!)ゴソゴソ
垣根「zz……う……ぐあぁ、やめろ、やめろぉぉ……zzz」
11111号(苦しんでる苦しんでる、とミサカはほくそ笑みます)
11111号(これだけではつまらんので帝凍庫クンの群れを布団の上に設置してみましょうか
とミサカは総勢十体の小型帝凍庫クンをていとくんの布団に乗せてみます)
垣根「zzz……な、なんだこいつ、増えただと……?な、まだ増えるのか!?や、やめ……zz」
11111号(ハハッワロス さて、次はいよいよ我等が白モヤシこと一方通行の番ですね
とミサカは高鳴る胸の鼓動を必死に抑えます)
一方通行「クークー……」
11111号(こうやって見ると邪気のない可愛らしい顔をしてるんですがねぇ
とミサカは起きてる時の一方通行の外道っぷりを思い出して身震いします)
一方通行「ン……」ニタァ
11111号(前言撤回、微塵も可愛らしくなどありゃしねえ、とミサカは薄気味悪い笑顔にドン引きします
ていうかこれアウト取って良いよね?取っちゃいますよ?)
11111号(……落ち着け落ち着け、アウトを取るのはまだ尚早です。
暢気に寝ているモヤシにイヤガラセの一つでもしてやらねば……とミサカは懐から油性ペンを取り出します)
11111号(とりあえず額に『肉』は基本だよねー、とミサカは油性ペンのキャップを外しつつ……)
一方通行「……あァ?」パチ
11111号「……」
一方通行「……」
11111号「おはようございますこのKY白モヤシが、とミサカは舌打ちしながら挨拶します」チッ
一方通行「なンで寝起きにテメエの不愉快な面ドアップで拝まされた上に罵倒されなきゃなンねェンだよ
……つーかテメエ何しようとしてやがった」
11111号「気にすんな、いいから黙って目ぇ閉じとけ、とミサカは男らしく言い放ちます」
一方通行「最低限手に持ってるペンを隠してから言いやがれ!」
11111号「……ふむ、こうなっては仕方がありませんね、とミサカは最終手段に出ます」
一方通行「はァ?」
デデーン♪
『一方通行、アウトー』
一方通行「ハァァァァ!?ふざけンな!!どンだけ権力乱用してンだテメエ!!!」
11111号「いえさっき笑ってましたから、極めて妥当な判断です
とミサカは自分に非がないことをアピールします」
一方通行「記憶にねェぞ!どうせ寝てる時だろォが!!」
11111号「問答無用!やりなさい裏方妹達!!とミサカは目で合図します」
一方通行「馬鹿、やめろ!!」
バチーン!!
一方通行「あ゛あ゛あ゛ァァ!!!」
御坂「ふぁ……もう、朝から何騒いでんのよ、麦野さんも何とか………あれ?」
白井「オネェェェェサマァァァァ」
御坂「うぇぁ!?ななな、何でアンタがここにいんのよおおおお!!!」
白井「フヒヒヒヒヒヒヒ」
御坂「しかもまたおかしくなってるし!!ちょ、誰か!誰か助けて!!!」
垣根「何なんだようっせえな……あ?そうか、学校にいるんだったな……
ってなんじゃこりゃああぁぁぁ!!!布団の上に変なモンが大量に!?」
<常識ハ通用シネェ!常識ハ通用シネェ!常識ハ通用シネェ!常識ハ通用シネェ!常識ハ通用シネェ! 常識ハ……
垣根「うわぁぁぁぁ一斉に喋ったあああああ!!!!」
デデーン♪
『一方通行、アウトー』
御坂「笑ってないで助けなさいよおおお!!!」
一方通行「仲良さそうで何よりですねェ」ケケケケ
垣根「ちくしょう悪夢の続きか!?まだ目が覚めてねえのか俺は!!」
11111号「残念ながら現実です、とミサカは現実逃避を起こしそうなていとくんを引きとめます」
バチーン!!
一方通行「いってええェェ!!!」
―――――――――――――――
―――――――――
――――
11111号「はい皆さん、おはようございます、よく眠れましたか?とミサカは朝の挨拶をします」
一方通行「テメエが来るまではな」
垣根「最悪の寝覚めだよクソったれが」
麦野「頭クラクラする……薬か何か嗅がせただろテメエ」
御坂「そんなことより黒子が突然ピクリとも動かなくなったんだけど……」
11111号「さっきまでのは蝋燭が燃え尽きる直前の最後の輝きだったと言うことでしょうか……
まぁ生きてさえいるのなら問題ありません、こちらで回収します、とミサカは裏方の妹達に指示を飛ばします」
白井「」ズルズルズル
11111号「さて爽やかな朝の目覚めが終わったところでですね」
垣根「どこが爽やかだバカヤロウ」
麦野「吐き気がするくらい最悪な気分なんだけど」
11111号「ふむ、いったい何があったのでしょうね、とミサカは可愛らしく小首を傾げます」
御坂「アンタ数分前に自分が何やったかすら覚えてないわけ?」
11111号「数分前というと……一方通行に寝覚めのキスを迫られていた頃ですね、とミサカは手を叩きます」
一方通行「オマエから見た世界と俺が見てる世界は多分別物だな」
垣根「一方通行、オマエこんな性悪にキスなんて迫ったのかよ、童貞のくせに」
麦野「随分積極的なのね、童貞だけど」
一方通行「信じてンじゃねェよ!!あと童貞はやめろ!!!」
11111号「はーいそろそろ話を先に進めてもいいですかー?
とミサカは話の腰を折りまくるレベル5勢に尋ねます」
御坂「何で元凶のアンタが不機嫌になってんのよ……」
垣根「フリーダム過ぎるだろコイツ……」
一方通行「まァいいから早く話進めろ、そンで終わったらさっさと消えろ」
11111号「勝手なことをおっしゃいますね皆さん、とミサカは溜息を吐きます」
麦野「そっくりそのままテメエに返してやるよ」
11111号「えー皆さん、朝食の準備が出来ているので食堂に移動してください、とミサカは用件を伝えます」
一方通行「朝飯ねェ……」
垣根「いらねえからその分寝させてくれ」
11111号「そうは問屋が卸しません、朝食をとるのは決定事項です、とミサカは強引に押し切ります」
御坂「反抗しても無駄、よね……」
麦野「大人しく従ってさっさと終わらせるのがベストでしょ……」
11111号「理解しているのでしたら話は早い、さぁ行きましょう、とミサカは先導します」
一方通行「はァ、行くかァ……」
麦野「おい第一位、垣根、テメエ等絶対余計なことすんなよ」
垣根「一方通行はともかく俺は何もしねえよ!」
御坂「垣根さんはほら、存在自体が笑えるから……」
垣根「御坂どんどん俺に対して辛辣になっていってねえか!?」
麦野「垣根だし」
一方通行「垣根じゃ仕方ねェな」
垣根「……俺が何したってんだ」
11111号「ほらほら早く行きますよー、とミサカは手招きします」
―廊下
一方通行「もう少しでこのクソ忌々しい企画も終わりなンだなァ」
御坂「長かったわね……ホントに長かった……」
麦野「昨日この廊下通ったのがもう随分昔に感じるわよ」
垣根「そうそう、最初ここで校長の肖像見せらr……」
デデーン♪
『全員、アウトー』
一方通行「いつの間に六代目追加されてンだよ!?」
垣根「つーかアレイスターじゃなかったのかよ校長!!!」
御坂「それより何でアフロなのよおおお!!!!」
麦野「どうせテメエの仕業だろ第一位ィィィ!!!」
バチーン!!
一方通行「おおおお!!!」
垣根「ひゅあぁぁ!!」
御坂「ったああああ!!」
麦野「ぐぎァ!!」
一方通行「クソ、こンな最新ネタを盛り込ンで来るとはな……」
垣根「アフロは流石に可哀相だろ……もはや晒し者じゃねえかこれ」
御坂「もう食堂まで走って行かない?多分まだ何か仕掛けがあるわよ……」
「お前達!上履きはどうしたじゃん!?」
麦野「……遅かったみたいね」
声を無視して先に行こうかとも思ったが、いつの間にか現れた妹達が進路を塞いでいる。
四人はガックリと肩を落とし、仕方なく声のした方向に顔を向ける。
するとそこではジャージを着た女教師―黄泉川―が三人の男子学生を怒鳴りつけていた。
何時か何処かで見た光景である。
黄泉川「どうして上履きを履いてないのか、納得いく説明をしてみるじゃん?土御門、お前からじゃん」
土御門「義妹が俺の上履きがどうしても欲しいって言うから上げちゃったんだにゃー
近いうちに新しいの買うから見逃して欲しいぜよ」
黄泉川「はぁ、兄妹仲が良いのはわかったがもう少し自重するじゃん?行って良いぞ。次、青髪ピアス」
青ピ「可愛い女の子がいたから僕の上履きを嗅がせようとしたら投げ捨てられたんです
これって僕が悪いんかな?」
黄泉川「全面的にお前が悪いが同情の余地はあるじゃん、行ってよし。最後、上条」
上条「あの、大変言い辛いんですが上条さんは超がつくほど貧乏でして……上履きを買うお金g」バチーン
上条の言い訳が終わるより先に、彼の頬に黄泉川のビンタが飛ぶ。
比較的真っ当な理由であるにも関わらず、だ。やはり何処かで見た光景である。
上条「………」
黄泉川「どうして上履きを履いてないじゃん?」
上条「上履きを買うお金g」バチーン
黄泉川「どうして履いてない?」
上条「上履きを」バチーン
上条「貧乏d」バチーン
上条「お金が無k」バチーン
上条「上b」バチーン
上条「お金g」バチーン
黄泉川「こっち来いコラァ!!」
上条「うわあぁぁ不幸だあぁぁぁぁ!!」
その場に張り倒された上条は、頭を鷲掴みにされた上でズルズルと引き摺られて行く。
久しぶりに心から彼の口癖である「不幸だ」という言葉に同意できる事態だろう。
デデーン♪
『全員、アウトー』
一方通行「またアイツかよォォォォ!!!」
垣根「ほとんど昨日見たのと同じだったってのに……」
御坂「オチまでわかってたのに笑っちゃうなんて……」
麦野「これは仕方ないわ、何度見ようが耐えれる気がしない」
バチーン!!
一方通行「痛゛ァァ!!」
垣根「ずああぁぁぁ!!!」
御坂「きゃああぁあ!!」
麦野「ぎに゛ゃ!!」
黄泉川「ん、アイツは……おい上条、お前先に指導室に行ってるじゃん」
上条「え?」
ふと視界の隅にある人物の姿が映り、黄泉川は歩みを止め上条を掴んでいた手を離す。
開放された上条は地べたに這い蹲ったまま、さすさすと己の頭を撫で、涙目で黄泉川を見上げた。
黄泉川「もし逃げたら……わかってるじゃん?」
上条「は、はい」
黄泉川「よし、良い返事じゃん、行け。さて……おいそこのお前!!」
「あ?……げ、黄泉川!」
睨みを利かせ上条に脅しをかけると、黄泉川は視線の先の男に声をかけた。
振り向いた、いかにも小物のチンピラといった風貌のその男は、やはり彼女の良く見知った人物であった。
黄泉川「やっぱり浜面か!お前もどうして上履きを履いてないじゃん!?」
浜面「う、上履き?だって俺ここの生徒じゃねえし……」
黄泉川「言い訳するな!!」
バチーン!
浜面「へぶし!!」
浜面の正当な言い分を遮り、黄泉川のフルスイングビンタが彼を直撃する。脳筋万歳。
あまりの衝撃に浜面の身体は回転しながら宙に浮かび、その後顔面から地面へと落下した。
浜面「ぐふ……おぉ……」ピクピク
黄泉川「浜面ぁ!お前も指導室行きじゃん!!」
大声を上げ、彼女は意識があるかどうかも定かではない浜面の足首を掴み引き摺っていく。
まさに悪鬼のごとき所業である。この世に神はいないのか。
デデーン♪
『全員、アウトー』
垣根「浜面ァァァァァ!!!!」
麦野「アイツなんであんなに殴られる役が似合うのかしら」ククク
一方通行「チンピラ顔だからじゃねェか?」ケケケ
御坂「まさか追加が来るだなんて……」
バチーン!!
一方通行「おぶァ!!」
垣根「いがあああ!!!」
御坂「うきゃあぁぁぁ!!!」
麦野「いってええぇぇ!!」
11111号「皆さん、運動場をご覧下さい、とミサカは外を指差します」
御坂「見たくない」
11111号「ほう?」
垣根「わかった、見る、見るから竹刀構えたクローンどもは下がらせてくれ……」
一方通行「何か昨日より激しくなってねェか?……ン、あれは」
麦野「第七位と……昨日食堂に出た白いチビ?」
11111号に半ば強要される形で運動場を眺めると、そこには削板とインデックスさんが
向かい合って立っていた。随分と異色の組み合わせである。
白ランと白いシスター服が朝日を反射して実に眩しい。
垣根「あれ何やってんだ?」
11111号「運動部の朝練ですね、今から始まりますよ、とミサカは声が聞こえるよう窓を開けます」
麦野「運動部ねぇ」
御坂「あの白いのが運動出来るようには見えないけど……なに部なの?」
11111号「えーっと……カバディ部ですね」
垣根「ッ」
御坂「クッ」
※カバディ……南アジアで主に行われるスポーツ、インドの国技。1チーム10~12人で行われる。
攻撃側の一人が『カバディカバディ……』と叫びつつ守備側に特攻し、
守備側の誰かにタッチして自陣に戻ることが出来れば点が入る。
守備側はそれを捕まえるために皆で変な動きをしたりする。
守備側が攻撃者を捕まえる事が出来れば守備側に点が入る。
息が切れて『カバディ』と正確に言えなくなると攻撃終了。
視覚的な愉快さとは裏腹にかなりハードなスポーツである。
削板「いいか!!今度こそ全国制覇を目指すぞ!!」
イン「わかってるんだよ!優勝して賞金貰って美味しい物たくさん食べるんだよ!!」
削板「その心意気やよし!!イン(略)!お前が先行だ!見事俺に捕まらずにタッチしてみせろ!!」
イン「何故省略した」
削板「こまけぇこたぁいいんだよ!!こい!!!」
イン「よーし負けないんだよ!!うおおぉぉ!!!」
削板「は、はええ!?」
気合を込めた雄叫び声を上げると、インデックスは頭を抱え左右に高速移動を始める。
その速度たるや、削板ですら目を丸くするほどであった。これも10万3千冊の魔導書の成せる業だろうか。
削板「だがまだ甘いな!!その程度の速度で俺を振り切れると思って……」
削板「なに!?」
削板「加速しただとおおおお!?」
デデーン♪
『全員、アウトー』
一方通行「だからなンなンだよアイツの動きは!?」
垣根「カバディの時点で限界だったってのに……」
御坂「何が『トランザム!』よ!?全然意味がわからない!!!」
11111号「ちなみに後半『カバディ』と言えてませんから
結局インさんの負けですね、とミサカは失笑します」
麦野「余計なこと言わなくていいわよ!」
バチーン!!
一方通行「ぎィあァァァァ!!!」
垣根「あおォーッッ!!!」
御坂「ひゅっ!!!!」
麦野「ぐあぁぁぁあ!!!」
11111号「さて、それではそろそろ行きましょうか、とミサカは窓を閉め食堂を目指します」
一方通行「おォ……」
垣根「朝から重過ぎる……」
ようやく廊下での仕掛けは消化されたようで、11111号は鼻歌交じりに歩き始めると、
レベル5の四人は暗い顔をし、とぼとぼとそれに従った。
時間はもう残り僅か、彼等は耐え切ることが出来るだろうか。
―食堂
11111号「到着でーす、朝食を持ってくるので適当な席でくつろいでてください
とミサカは足取り軽く四人から離れていきます」
垣根「何でアイツあんなにテンション高えの?」
一方通行「睡眠時間少なくてハイになってンじゃねェか?」
麦野「どうでもいいわそんなもん、それよりさっさと座りましょ」
御坂「どの辺に座る?私達以外誰もいないみたいだけど」
垣根「隅の方行こうぜ、晩飯の時みたくど真ん中に座ってたら何があるかわかったもんじゃねえ」
一方通行「メルヘン馬鹿にしちゃァ良い判断だな」
垣根「オマエは何で一々俺を罵倒したがるの?俺だって傷つくんだよ?」
麦野「ぐだぐだ言ってないでさっさと行くわよ」
御坂「垣根さん早くー」
垣根「誰一人慰めてすらくれねえ、おかしいよな、俺と御坂と麦野は同志だったはずなのに」
一方通行「過去を引き摺るなよ、前だけ向いて生きて行こォぜ?」
垣根「そもそも全部オマエのせいな気がするんだけどもうどうでもいいわ……」
11111号「お待たせしました、朝ご飯ですよ、とミサカは四人の前に食事を並べます」
垣根「朝は和食か」
御坂「白い御飯に漬物、味噌汁、焼き鮭に焼き海苔かぁ、まさに日本の朝って感じね」
麦野「シャケがあるのは評価できるわ」
11111号「むぎのんは朝食に鮭食べないと死にますからね、とミサカはむぎのんの特異体質に頭を痛めます」
垣根「特異ってレベルじゃねえ」
一方通行「おいコーヒーはねェのか?」
御坂「和食にコーヒーってアンタ……」
11111号「残念ながらありませんね、醤油ならあるのですが……とミサカは代替案を提示します」
一方通行「何でコーヒーの代わりが醤油なンだよ!?飲み物ですらねェじゃねェか!!」
11111号「いいか白モヤシ、何本コーヒー飲んだところで黒くはなれないんだぞ
とミサカは一方通行を優しく諭します」
一方通行「前も聞いたわそのセリフ!!純粋にコーヒー好きなンだよ俺はァ!!」
11111号「えぇいうるさい、あなたはコーヒーが好きなんじゃなくて
コーヒーを飲んでる自分が好きなんでしょうが、とミサカはナルシストな厨二病患者に憤慨します」
一方通行「違ェから!俺のコーヒー愛本物だから!利きコーヒーとか出来るレベルだから!!」
11111号「それはそれで引くわぁ、とミサカはカフェイン中毒者から距離を取ります」
一方通行「テメエェェェェ!!!」
デデーン♪
『垣根、御坂、アウトー』
一方通行「あァ!?何で笑ってンだオマエ等!!」
垣根「利きコーヒーとか馬鹿だろオマエ……」
御坂「コーヒー愛って何よ!?」
麦野(コーヒーをシャケに置き換えたら全部納得できるわね……)
バチーン!!
垣根「ほあぁぁ!!!」
御坂「あうぅ!!」
11111号「とにかくコーヒーはありませんよ、そもそもこのミサカが
あなたの喜ぶ物を用意するとでも思ってるんですか?とミサカは学習能力の無い第一位を嘲笑います」プゲラ
一方通行「うっぜェ!知ってたけどコイツマジでうぜェ!!」
11111号「ハハッ褒め言葉です、とミサカは口元を綻ばせます
さてそれではごゆっくりと食事をお楽しみ下さい、とミサカは退室します」
一方通行「ちくしょォ……」
垣根「あーなんだ、ドンマイ」ポン
一方通行「うるせェ、触ンな」パシッ
垣根「そろそろ泣くぞ俺」
麦野「きめえからやめろ」
垣根「………」
御坂「あ、えっと、冷めないうちに御飯食べない?」
垣根「……そうだな、腹減ったな。それ以上に心が磨り減ってるけどな」
一方通行「ドンマァイ」
垣根「うぜえええええ!!!!」
御坂「い、いただきまーす!」
―――――――――――
一方通行「今回は味も見たまンまだなァ」ムシャムシャ
垣根「米が実はプラスチックの模型でした、くらいあると思ってたんだがな」モッシャモッシャ
御坂「食べ物ですらないじゃない……」モクモク
麦野「~♪」
一方通行「……オマエいつまで鮭の切り身と睨めっこしてンだよ」
垣根「恋する乙女みたいなキラッキラの目ぇしてやがる」
御坂「麦野さん、冷めちゃうわよ?」
麦野「シッ!黙ってて、今シャケと対話してるんだから……」
一方通行「タブッ」
御坂「クゥッ」
垣根「……さ、鮭は何て言ってる?」
麦野「……メメント・モリ(死を忘れるな)、ただ一言そう言ってるわ……」
デデーン♪
『一方通行、垣根、御坂、アウトー』
一方通行「流石の俺もよォ、コーヒーと対話しようとした事はねェぞ……」
御坂「おかしい、絶対におかしい……何で切り身と話せるのよ……」
麦野「死を忘れるな、だなんて、この子(シャケ)いったいどんな最後を迎えたのかしら……」
垣根「知ったこっちゃねえしどうでもいいわボケ!!」
バチーン!!
一方通行「なああァァァ!!!」
垣根「くあああああ!!!」
御坂「びいいいい!!!」
麦野「アナタの死は無駄にはしないわ」ムシャムシャ
垣根「ああうん、鮭もそんだけ想ってもらえれば本望だろうよ……」
御坂「私がゲコ太と会話するのとはレベルが違うわね……」
一方通行「その歳でぬいぐるみと会話っつーのもどォかと思うがなァ……あ、むぎのン醤油とって」
麦野「自分で取れクソセロリ」
垣根「オッフ」
御坂「…プフッ」
デデーン♪
『垣根、御坂、アウトー』
垣根「一方通行ァ……テメエ狙ってやがったなぁ……」
御坂「むぎのんはやめて、ホントにやめて」
麦野「おいセロリ、流石に次むぎのんって呼んだらキレるぞ」
一方通行「反省してまァす」
バチーン!!
垣根「のおおおおぉぉ!!!」
御坂「ひゃいぃ!!!」
垣根「なあ、もうマジで身内同士で争うのやめようぜ……ほら一方通行、醤油だ」
一方通行「サンキューていとくン」
御坂「ク……あとちょっとなんだからさ、協力していきましょ?」
麦野「私は別に笑わせるつもりなんて一切無かったんだけど……」
垣根「鮭と対話してたのは素かよ……ん?」
御坂「どうしたの垣根さん」
一方通行「馬鹿、聞くな」
垣根「……俺の焼き海苔、ただの黒い紙なんだけど」
一方通行「……」
御坂「……」
麦野「……」
―全員、セーフ―
垣根「……」
一方通行「……」
御坂「……」
垣根「……」パクッ
一方通行「!?」
垣根「……」ムッシャムッシャ
御坂「ク……」
垣根「グッ!?ゲホゴホッ み、水……」ゲホゲホ
麦野「ツッ」
デデーン♪
『一方通行、御坂、麦野、アウトー』
一方通行「紙食ってンじゃねェよ!!!」
麦野「山羊かテメエはァァァァ!!!」
御坂「身内同士で争うのはやめようとか言ってたくせにいいい!!」
垣根「み、水、いいか、ら水……ゴフッ」ケホケホ
バチーン!!
―――――――――――――――
―――――――――
――――
11111号「はい皆さん食後のお茶はいかがですかー?
とミサカは四人分の湯飲みを載せたトレーを運びます」
麦野「ちょっと遅かったわね、さっきまで垣根の息があったんだけど……」
垣根「」
一方通行「紙を咽に詰まらせて窒息たァなァ……そこまでして俺達を笑わせようとしたのは認めてやるが」
御坂「垣根さん、安らかに眠ってね……」
11111号「おぉっとこれは大変、すぐに紙を流し込まねば
とミサカは熱々のお茶をていとくんの口にぶちまけます」ジャバジャバ
垣根「おごあああああああ!!!!!!」
デデーン♪
『一方通行、麦野、アウトー』
垣根「熱゛!あッ!!あづああああ!!!」
一方通行「い、意識が戻って良かったじゃねェか」クククク
麦野「元気になったようで何よりね」ケラケラ
御坂「流石にちょっとかわいそうになってきたわ……」
11111号「今頃になってかよ、とミサカはすかさずお姉様につっこみを入れます」
バチーン!!
一方通行「ぐああァァァ!!!」
麦野「ういいぃ!!!」
垣根「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……マジで臨死体験したぞクソ、三途の川の向こうで浜面が手振ってやがった」
一方通行(死ンだのかあのチンピラ……)
11111号「さて、ていとくんも元気になったところで次の企画に行きますよ、
とミサカはパンパンと手を叩いて皆さんの注目をひきます」
垣根「元気にはなってねえよ、口んなか大火傷だクソったれ」
麦野「自業自得だろバ垣根」
11111号「それでですね皆さん、次はいよいよ最後のイベント、卒業式ですよ
とミサカは長かった24時間がもうすぐ終わることを示唆します」
一方通行「よォォやく終わりかァ」
御坂「長かった、本当に長かったわ……」
麦野「まだ気は抜けないけどね」
11111号「楽しかった学園生活も終わり、皆さんは晴れて一人の人間として学び舎から旅立つのです
とミサカは遠い目で思い出を振り返ります」
垣根「あー、俺等が送り出される側なのな」
一方通行「イヤ、楽しかった学園生活なンざ全く心当たりがねェンだが」
11111号「こまけぇこたぁいいんです。もうすぐにでも始める準備はできていますが
皆さんはとりあえず更衣室に向かってください。
そこに着替えを用意してありますから、とミサカは指示を出します」
垣根「めんどくせえな、何で着替えなきゃならねえんだ」
11111号「最後の式くらいは正装をするべきでしょう、とミサカはラフな格好の四人を見回します」
麦野「正装って言われてもねぇ」
御坂「学生服とか?」
11111号「えぇ、そんな感じです。男子には学生服、女子にはセーラー服を用意していますよ
とミサカは頷きます」
垣根「セーラー服……麦野、大丈夫か?」
麦野「どういう意味だ」
垣根「……無理はするなよ?」
麦野「オマエちょっと表出ろ」
11111号「ご心配には及びません、その辺もちゃんと考えております
とミサカは抜かりが無いことをアピールします」
麦野「おい」
一方通行「ンじゃさっさと行くかァ」
垣根「そうだな、この下らねえ戦いに終止符を打つとしようぜ」
御坂「無駄にかっこいい言い方されても……」
麦野「……」
―――――――――――――――
―――――――――
――――
―男子更衣室
一方通行「何度来ても嫌な予感しかしねェなァ……」
垣根「正装を用意してるつってたが、額面通り受け取らねえほうがいいだろうな」
昨日から数えて三度目になる更衣室のロッカーを前に、一方通行と垣根は顔を顰め固まる。
11111号曰く『学生服』が用意されているらしいが、二人はそんなもの端から信用していない。
体育の時間に用意された白タイツのように、風呂の時に渡されたブーメランパンツのように、
こちらを笑わせる為の特殊な衣装が用意されているに決まっている。彼等はそう当たりをつけていた。
一方通行「……垣根、オマエからロッカー開けろ」
垣根「またかよ!?順当に行って次はオマエの番だろうが!」
しばしの硬直の後、一方通行は垣根にロッカーを開けるよう促す。
体育の時間も先行をやらされた垣根は当然の如くそれに反発し、一方通行を睨みつけた。
そんな態度をとる彼に、一方通行は「やれやれ」とでも言いたげに頭を振り、
やがて高圧的な口調で垣根に語りかける。
一方通行「いいかァ垣根、俺は第一位、オマエは第二位だろ?」
垣根「だからどうしたってんだ」
一方通行「目上の人間には従え」
垣根「ふざけろ!!オマエが開けるまで絶対開けねえからな!」
一方通行「チッ、このチキン野郎が……」
垣根「テメエだテメエ!!」
わけのわからない理論を展開された上に自分のことを棚上げし罵倒してくる一方通行に、垣根も声を荒げる。
「常識は通用しない」と言いつつも比較的常識人である彼は、
極めて自己中心的で唯我独尊を地で行く一方通行に振り回される一方だ。
一方通行「仕方ねェな、ジャンケンで負けたほうが先に開けるってことで手を打たねェか」
垣根「いや、だから……」
一方通行「あァ?勝ちゃいいだけだろォが、それともオマエはジャンケンすら俺に勝つ自信がねェのか?」
垣根「……上等じゃねえか、吠え面かかせてやるよクソ野郎が」
一方通行の軽すぎる挑発に、垣根はあっさりと乗ってしまう。この辺の思慮の足りなさというか短絡さが
彼が一方通行に次ぐ第二位という立場でありながら弄られ役に回される最大の要因であろう。
一方通行「いいねェ、そうこなくっちゃなァ……覚悟はいいかァ?」
垣根「いつでも来いよ………見えるぜ、数秒後にテメエが情けなく這い蹲ってる姿がなあ!!」
一方通行「……」ジリジリ
垣根「……」ジリジリ
両者とも額に汗を浮かべ、ジリジリと間合いを計る。その表情は真剣そのもので、
その眼光は一睨みで一般人を射殺せるのではないかというほど殺気が込められている。
ただのジャンケンではあるが、これは男のプライドと序列を賭けた真剣勝負なのである。
一方通行「ジャン!」
垣根「ケン!」
「「ポン!!」」
一方通行:グー
垣根:チョキ
垣根「ば、馬鹿な……俺の約束された勝利のVサインが……」
自分の出した手を見つめつつ、垣根はゆっくりと沈んでいく。
その姿に、一方通行は心の底から嬉しそうに勝鬨を上げた。
一方通行「ひゃははは!まァそういうこった!!テメエは所詮二番手止まりなンだよォ!!」
垣根「あ、おい」
一方通行「ン?……あっ」
デデーン♪
『一方通行、アウトー』
一方通行「やっちまったァァァァ!!!」
垣根「試合に負けて勝負に勝ったってのはこういうことを言うんだろうな」
バチーン!!
一方通行「ぎゅあああ!!!」
垣根「ま、負けは負けだから俺から開けてやるよ、感謝しとけ」
一方通行が尻をシバかれるのを見て溜飲を下げた垣根は、余裕綽々の態度でロッカーに手をかける。
他方、一方通行は勝利の余韻に水を差されたことであからさまに不愉快そうな顔をし、舌打ちを零した。
一方通行「ドヤ顔やめろ、マジうぜェ」
垣根「フン、もっと余裕を持ったらどうだ『勝者』さん?……よっと」ガチャ
垣根「ッッ!!」
一方通行「!?」
ドヤ顔でロッカーを開けた垣根はドヤ顔のまま硬直し、後ろで見ていた一方通行もまた言葉を失う。
少々の間が開き、俯き肩を震わせる二人から徐々に押し殺した笑いが漏れ出してきた。
デデーン♪
『一方通行、垣根、アウトー』
一方通行「ネクタイとレスリングパンツしか入ってねェときたか」クククク
垣根「何なんだよこいつは……思わず笑っちまったよ……」
バチーン!!
一方通行「っとあああァァ!!」
垣根「ぶあッッ!!!」
垣根「……え、マジでこれ着るの?ダメだろおい、どこが正装なんだよ」
怒鳴り声を上げるよりも先に、垣根の口からはただ困惑の声が溢れ出る。
先日のブーメランパンツの時とは違い、今回は風呂に入るから、という大義名分もないのだ。
正当な理由も無く、パンツとネクタイだけを身に付け大勢の前に出る。
それが社会的な死を意味することは誰の目にも明らかだろう。
一方通行「あァー……ネクタイあるから大丈夫だろ」
ネクタイがあれば……一方通行は事も無げにそういい放つが、実際はそう簡単なものではない。
というかこの状況のネクタイなど変態性を際立たせる効果しか持っていない。
ノーネクタイ禁止の高級レストランに全裸にネクタイだけを締めて行ったら通報されるのと同じである。
いや違うか?
垣根「ネクタイあってもパンツ一丁は誤魔化せねえだろ!!どこの変態紳士だよ!?」
一方通行「まァなンだ、ご愁傷様でェす」
必死で笑いを堪えながら、一方通行は手をひらひらと振り垣根を挑発する。
ようやく怒りが困惑に追いついてきた垣根は、怒声を上げロッカーを殴りつけ、
その後一方通行を睨みつけると、彼に対して恨み言を吐き捨てた。
垣根「クソが!!そんな風に余裕ぶっこいてられるのも今のうちだ!!
テメエのロッカーにはもっとえげつないモンが入ってるに決まって……」
一方通行「あァハイハイ」ガチャッ
垣根の大声を遮り、さっさとロッカーを開く。そこにあったのは、一方通行の予想通り、
そして残念ながら垣根の思いとは裏腹に、極々平凡な黒の学ランと学帽であった。
一方通行「普通の学ランしか入ってねェな」
垣根「ちっくしょおおおおおお!!!!!」
垣根は泣いた。わき目も振らず泣いた。
人は泣きながら大人になるのだ。この一件はきっと、後に垣根の成長を大きく後押しするだろう。
一方通行「さァてさっさと着替えて行くとしようぜェ?」
垣根「………」
ロッカーから学ランを取り出し、一方通行は項垂れている垣根の肩にポンと優しく手を置く。
非常に優しげな手つきであるが、勿論悪意からの行動であることは言うまでも無い。
一方通行「人間諦めが肝心だぜ垣根くゥン?」
垣根「………いいぜ……見せてやるよ!!俺の生き様ああああ!!!」
叫び声を上げ、今まで着ていた服を下着を、破るように脱ぎ捨てる。
舞うように優雅に、しなやかに、それでいて目にも留まらぬ程の速度と力強さで
垣根はネクタイを締め、彼の心境を表しているかのような漆黒のパンツを装着する。
もはや垣根帝督という存在はそこにはなく、彼は一個の修羅と化していた。
垣根「どうだ!?」
完全装備で、修羅と化した垣根帝督は一方通行の方へと向き直る。
しかしそれと同時に、否、彼が向き直るよりも僅かに早く、一方通行はその身を翻し、垣根に背を向けていた。
姿を見てしまえばその時点で何かが、決定的な何かが終わってしまう……
数々の修羅場を潜り、生き残ってきた彼の本能がそう判断したのである。
学園都市の第一位が、格下であるはずの第二位に、完全に気圧されていた。圧倒されていた。
垣根「どうした?見ろよ……オマエが望んだ事だぜ?俺を見ろよ第一位ぃぃ!!!」
一方通行「ッッッ!!!!」
狂ったように吼え、垣根は一方通行の肩に手をかける。
このまま彼を振り向かせ、強制的に自分の姿を見せ付ける気だろう。
腕力での実力行使で出られれば、非力な一方通行に為す術などありはしない。
もはやここまで……一方通行は心底悔しそうに歯軋りし、死を覚悟する。
11111号「ヘーイまだ着替え終わらないんですかぁ?とミサカは痺れを切らして更衣室に突撃しま……」
絶体絶命の危機に、女神が舞い降りた。
男子更衣室の扉が開け放たれ、退屈していた11111号が室内に踊りこんで来たのだ。
その彼女も、現在の垣根の姿を見て絶句する。彼の服を用意したのは他ならぬ彼女自身だというのに
彼女は今起きている状況を全く想定していなかったのだ。
まるで時が止まってしまったように凍りついた空間の中で、
11111号は目を見開きながらゆっくりとその口を開く。
11111号「……まさか本当にそれを着るとは思いませんでしたよ、とミサカはドン引きします」ウワァ
垣根「ちぃぃっっくしょおおおおおおおおお!!!!!」
本日二度目の大号泣であった。
デデーン♪
『一方通行、アウトー』
―女子更衣室
麦野「く……」
御坂「ねえ麦野さん、まだ?」
麦野「……もうちょっと待って」
更衣室にて、麦野沈利は真剣な表情でロッカーに入っていたモノを睨みつけ、思い悩んでいた。
11111号の言った通り、確かにロッカーにはごく普通のセーラー服が入っていたのだが
普通であるが故に、彼女の迷いは深刻な物になっている。
麦野(着て、大丈夫なのか?)
客観的に見て、自分が実年齢に対して少々大人びた風貌をしているのは自覚している。
(断じて老けているのではない、大人びているのだ)
それ故に、彼女は自分がこういった、あざとさすら感じるほどの
正統派なセーラー服が似合わないであろうことは容易に想像できた。
何せこのセーラー服ときたら現役中二の御坂が着るとピッタリ似合うようになっているのだ。
同じ物を自分が着る?考えられない。御坂という比較対象がいるのだから尚更に。
ならば着なければいい、今の服装のまま卒業式に出ればいい、そうも考えるのだが
それはそれで、自分がセーラー服を着るのが無理だと認めてしまうことになるし、
「あぁやっぱりセーラー服は着れなかったんだな」と周囲から生暖かい視線をぶつけられることは目に見えている。
つまるところ、彼女はちっぽけなプライドを抱えて思い悩んでいるのだ。
麦野(いっそネタに走った服を準備しててくれりゃここまで悩まずに済んだってのに……)
そんなことを考えつつ、何度目かになる溜息を吐く。
ネタに走りすぎて突き抜けた服を装着した垣根が近くの部屋で涙しているのだが、
そのようなことを彼女は知る由も無い。
麦野「ねえ美琴、着ても大丈夫だと思う?」
プライドを少しだけ削り、既に着替え終えている御坂に意見を求める。
問われた御坂は一瞬キョトンとするがすぐに持ち直し、麦野の方へと歩み寄った。
御坂「麦野さんスタイルいいし、何着ても似合うと思うけど……」
麦野「や、でもこれは……自分で言うのも何だけどコスプレみたいになりそうじゃない?」
御坂「コスプレでも似合う人は似合うって、昨日の私のカエルの着ぐるみも似合ってたでしょ?」
麦野「いや、あれは似合うとかどうとかいうもんじゃないだろ……」
御坂「いいからいいから、とりあえず着てみて。きっと似合うわよ」
麦野「ん、んー……わかった、そこまで言うんなら着てあげるわよ」
御坂に押され、渋々ながらセーラー服を着るという選択肢を選ぶ。
渋々ながらと書いたが、それでもほとんど抵抗無しにセーラー服に着替え始めたところを見ると
単に背中を押してもらいたかっただけ、というのも大きかったのだろう。
麦野(このリボンどうやって結ぶんだ……?)
御坂「……」
100%の善意で麦野に着替えを促した御坂だったが、着替えが進むにつれ段々とその顔を引き攣り始める。
もはやコスプレどころの話ではない。麦野は着替えも半ばだというのに、
既に如何わしいお店のソレ的な雰囲気を放ち始めていた。
御坂(これは、想像より遥かに……ッ)ギリッ
麦野「こんな感じか……どう美琴?」
御坂「う、うん……」
あれだけ「似合うはずだ」と連呼した手前、今更「マニア向けの店で客取ってそうっすね」とは言えない。
とはいえ下手に「似合う」と言っても彼女に恥をかかせてしまうことになるだろう。
なんと声をかけるべきか、御坂はすっかり答えに窮してしまった。というかその前に腹筋がやばい。
御坂(ど、どうしよう……何か声をかけるも何も、まず口開いたら噴き出しちゃうわよこれ……)
麦野「どうしたの俯いて……美琴、聞いてる?」
御坂(く、ち、近付いてきた……)
もし噴き出してしまえば、いくら御坂にだけは優しい麦野といえどもブチ切れるだろう。
能力無しの現状で麦野と敵対してしまえばどうなってしまうか、分かりやすく言うと垣根である。
口を噤んでもそれは所詮時間稼ぎでしかなく、ひたひたと笑いを堪える限界がすぐそこまで迫っていた。
麦野「美琴ちゃぁん、言いたいことがあるんならはっきり言ってみようかぁ?」
御坂(ああああヤバイヤバイヤバイ!!)
肩を震わせていたのがバレてしまったのか、何かに感付いた麦野の言葉は明らかに怒気を孕んでいた。
御坂(も、もう……)
11111号「いくらなんでも時間かかりすぎです、まだ着替え終わらないんですか
とミサカは更衣室の扉を蹴りあけます」ガチャン
限界を迎え決壊寸前になっていた彼女の元に、救世主が現れた。
麦野「おい勝手に入ってきてんじゃねえぞクローン!!」
御坂「ハァハァハァ……た、助かった」
麦野が11111号に詰め寄り視界から外れた為、御坂は何とかクールダウンすることに成功する。
ギリギリの勝負であった。あと一秒、11111号の突入が遅ければ命はなかったかもしれない。
11111号「いやいや時間押してるんですよ、急いで出てきてください、
とミサカは時計を確認しつつ急かします。ハリーハリー」
麦野「うるせえっつの、女の癖に早漏かテメエ?もうちょっと待ってろ」
11111号「もう着替えてるじゃないですか、よくお似合いですよ、とミサカはむぎのんを褒め称えます」
麦野「え、そ、そう?似合ってる?」
11111号「はいそれはもう。イメクラみたいでナイスです、とミサカは笑いを堪えつつ賛辞を送ります」
麦野「テメエ今なんつったあああ!!!」
御坂(よく言ったわ!)グッ
笑う11111号にブチ切れる麦野。その背後で、御坂は笑いを堪えながら11111号に親指を立てていた。
11111号「聞こえませんでしたか?マニア向けの如何わしいお店で客を取ってるような雰囲気ですね
と言ったのですよ、とミサカはお姉様の気持ちを代弁します」
御坂「ちょっと何私のせいにしてんのおおお!!!」
麦野「テメエ等あああああああ!!!!」
11111号「さあさあそれでは時間も無いことですし行きましょうか、とミサカはむぎのんの腕を引っ張ります」
声を張り上げる麦野の虚をつくように、11111号は彼女の腕を取り更衣室の外へ引きずり出そうとする。
どこまでもマイペースである。
麦野「ちょ、待て!着替えさせろ!!引っ張んな!!」
11111号「ほらほら男共も待ちくたびれてますよ、とミサカは渾身の力を込めてむぎのんをうおりゃぁぁ!!」
麦野「ちょ、うわ!!」
満身の力を以って、11111号は麦野の腕をちぎらんばかりに引っ張り、
反動で麦野は転がるように更衣室から飛び出していった。流石は軍用クローンといったところだろう。
更衣室から半ば投げ出された形になった麦野はそのまま床につっぷし、
既に外で待っていた一方通行と、普通の学ランに着替えなおした垣根の二人に無様な姿を晒すハメになる。
しかもセーラー服で。
麦野「いってぇ……クソ、あのクローン……ん?」
一方通行「ゴフッ」
垣根「ウグッ」
デデーン♪
『一方通行、垣根、アウトー』
麦野「あぁぁぁぁ!!!そんなにこの服装がおかしいかテメエ等ァァァ!!!!」
一方通行「え、何?イメクラ?イメクラですかァ?」ケラケラケラ
垣根「クソ、あれ程無理すんなつったのに……」
バチーン!!
一方通行「ヴァァァァ!!!」
垣根「へぶぁ!!!」
11111号「ほらお姉様も行きますよ、とミサカは影の薄いお姉様をエスコートします」
御坂「え?あ、うん……影薄い?」
何はともあれ、四人は着替え終わったわけだ。
今、彼等の前には体育館の扉が地獄の門の如き威厳を放ちながら立ちふさがっている。
最後の戦いのはじまりである。
―体育館
『それではただ今より、卒業証書授与式を始めます、とミサカは開幕の挨拶をします』
垣根「泣いても笑ってもこれで最後だな……」
一方通行「できれば笑いたくはねェなァ」
御坂「同感ね……」
麦野「これがまたクッソ長いんじゃないでしょうね?」
一方通行「あァ第四位、ちょっと俺の視界に入らないように半歩後ろに下がってもらえねェか?」
麦野「ブチコロスぞモヤシ」
一方通行「そンな格好で凄まれてもこれっぽっちも怖くありませェン」
麦野「後で覚えとけ……」
『プログラム一番、校歌斉唱』
校内放送でプログラムが告げられ、四人は顔を見合わせる。
それもそのはずで、そもそもこの高校の正式名称すら知らないのだ。
当然校歌など知っているわけがない。どうやって歌えというのだろうか。
垣根「なぁ、誰か校歌知ってるか?」
御坂「知らない……ていうか校歌なんてあったのね」
麦野「いったいどんな音楽が……」
―BGM Madonna - Material Girl
http://www.youtube.com/watch?v=tUadW2eWsKg
一方通行「!?」
突如流れ始めた聞き覚えのあるBGMに、彼等は一斉に顔を顰める。
昨晩、このBGMと共に踊り狂った老婆に散々な目に会わされたのだから、それも当然だろう。
Some boys kiss me, some boys hug me I think they're O.K.♪
垣根「おいおいおい、まさか……」
麦野「笑わねえ、何が来ても笑わねえぞ私は……」
彼等の目の前、体育館のステージに、ゆっくりと一人の人物が現れる。
ステージの端から、軽やかに腰を振りながら現れたその女性は
やはり学園都市統括理事会が一人、親船最中その人であった。
曲に合わせた官能的な腰使いを披露しながら、親船最中はステージの端から端へと消えていった。
デデーン♪
『全員、アウトー』
一方通行「無理だこれ」
垣根「ああ無理だ、清々しいまでに爆笑したわクソ」
御坂「何かもう、仕方ないわよね」
麦野「昨日の今日だって言うのに元気な婆さんね」
バチーン!!
一方通行「っだあああァァ!!!」
垣根「くおおぉ!!!」
御坂「んああああ!!!」
麦野「いってええ!!」
『えー、改めまして、校歌斉唱』
一方通行「今度こそか」
麦野「校歌……口パクでいいわよね?知らないんだし」
―BGM Madonna - Material Girl
http://www.youtube.com/watch?v=tUadW2eWsKg
垣根「!?」
御坂「……」
再び流れ始めた狂気のBGMに、ある者は天を仰ぎ、ある者は地を睨んだ。
ある者は必死の形相で口を噤み、ある者は大口を開けて嘆いた。
それぞれが思い思いのリアクションを取っているが、彼等の予想している未来は全く同じ物である。
予想の通り、先程消えて行ったステージの端から親船最中は再び現れ、
情熱的に腰を振り乱しながら、元のステージ端へと消えて行った。元気なバアちゃんである。
デデーン♪
『全員、アウトー』
一方通行「ババアァァァァ!!!」
垣根「まさか返す刀で来るとは……」
麦野「これが燕返し……」
御坂「なんであんなに元気なのよぉ……」
バチーン!!
一方通行「ぐがああああ!!!」
垣根「ぬおおぁぁぁ!!!!」
御坂「いぃったあ!!!」
麦野「うに゛ゃッ!!」
『気を取り直しまして、校歌斉唱』
一方通行「気ィ抜くなよオマエ等……」
垣根「大丈夫だ、例えもう一回来ても笑わねえよ」
御坂「さ、流石に三度目は……」
麦野「笑わねぇ、絶対にもう笑わねぇ……」
―BGM Madonna - Like A Virgin
http://www.youtube.com/watch?v=OI-LFxf9oB0
「「!?」」
鳴り響く軽快な音楽に、四人の顔は絶望に染まる。
もし、流れてきたのがもう一度Material Girlだったのなら耐え切ることもできたかも知れない。
ようやく慣れつつあったというのに、心の準備をしていたというのに……
そんな彼等を嘲笑うかのように、無常にもBGMは変更されてしまっていた。
I made it through the wilderness♪
垣根「こいつは……」ギリッ
麦野「Like A Virgin……ッッ」
一方通行「……ハッ、同じマドンナの曲じゃねェか、耐えるぞオマエ等ァ!!」
御坂(何で皆洋楽詳しいんだろう)
歯を食い縛り、親の敵を見るような目でステージを睨みつける。
いやもうステージから目を離せよ、などという無粋なつっこみは受け付けられない。
これは彼等のプライドを賭けた戦いなのだから。
I was beat incomplete♪
I'd been had, I was sad and blue♪
一方通行「……こねェな」
垣根「フェイント、か……?」
待てど暮らせど、親船はその姿を現さない。こちらの気が緩むのを待っているのだろうか?
御坂「ふぅ、出てこないわね」
麦野「焦らされるのはあんまり好きじゃないんだけど」
ステージを凝視し続けることに疲れた御坂はふと視線を遊ばせ、周囲を見回す。
御坂「!?」
そこで彼女は見た。見てしまった。
御坂「あ、あれ……」プルプル
一方通行「あァ?ゴハッ」
垣根「ブヘァッ」
麦野「オフッ」
御坂の指差す方向に視線を向けた三人は一斉に吹き出す。
御坂の見たモノ、見つけてしまったモノ、それは――
ひっそりとステージの脇から下ろされ、担架で運ばれていく親船最中の姿であった。
デデーン♪
『全員、アウトー』
一方通行「ち、くしょォォォォ!!!」
垣根「腰か、やっぱり腰が持たなかったのか」
麦野「あの歳であんな動きしてりゃああもなるわ……」
御坂「ごめんねごめんね、私が見つけなければ……」
バチーン!!
一方通行「いってええェェ!!!」
垣根「ぬへああああ!!!!」
御坂「いたああああ!!!」
麦野「っつううううう!!!」
『さて続きまして、学校長挨拶』
御坂「校歌終わり!?」
麦野「結局マドンナの曲流しただけじゃねえか!!」
垣根「なるほど最初からこのつもりだったわけか……」
一方通行「確かにこれなら校歌知らなくても問題ねェからな……」
今更ながら、校歌に関して何も教えられていなかったことの真相を理解し愕然とする。
そして学校長挨拶ということは恐らく、アレが出てくるのだろう。
この学園都市の最高権力者であるはずの、アレが……
『校長先生が入場されます、皆さんステージに注目してください』
校内放送とともに、ステージの端から台座に乗った巨大なビーカーが運ばれてくる。
ビーカー内は何かしらの液体で満たされており、その中には一人の人間が逆さまの状態で浮かんでいた。
その人間は、男にも女にも、子供にも老人にも、聖人にも囚人にも見え……
一方通行「だからタダの馬鹿にしか見えねェっつってンだろォが!!!」
垣根「……昨日クレーン壊れたから台座で運ばれてんのか?」
麦野「今回はBGM流れないのね」
御坂「ちょ、ちょっと二人とも余計なこと言わないで」
唖然とした表情の四人を、ビーカー内の人間―アレイスター=クロウリーは満足気に眺める。
その彼の表情を見て、御坂はますます学園都市を出ようという誓いを固めるのだった。
ビーカーがステージの中央に到着し、満を持してアレイスターは口を開こうとした、まさにその時
「あいたー、とミサカはわざとらしくすっ転びます」
アレイスター「!?」
台座を押していた妹達の一人が、どこぞの国会議員のようにわざとらしくすっ転ぶ。
というかビーカーに向かってダイブする。
妹達に激しくぶつかられたビーカーは反動で台座から転げ落ち、そのままの勢いで
ゴロゴロと転がりながらステージの端へと退場していった。
『……えー、続きまして、』
デデーン♪
『全員、アウトー』
一方通行「校長の話終わりかよ!?」
垣根「やりたい放題だなクローンども……」
御坂「長々話されるよりはいいけどさ……」
麦野「何話されてもどうせ聞こえやしないしね……」
バチーン!!
一方通行「はおォォォ!!!」
垣根「ぐおあああ!!!」
御坂「あっつうぅぅぅ!!!」
麦野「びゃッッ!!!」
『いよいよお待ちかね、卒業証書授与になります。
名前を呼ばれたら返事をしてステージに上がり、証書を受け取ってください、とミサカは説明します』
説明と共に、ステージ上に一人の合法ロリ―月詠小萌―が現れた。
皆忘れているだろうが、彼女は一応担任と言う設定である。
小萌「皆さん、元気よくお返事をして卒業証書を受け取りに来てくださいねー」
一方通行「あの合法ロリに証書渡されるのか」
御坂「こういうのって普通校長の役よね?」
垣根「校長さっき転がって行ったからなぁ」
麦野「そもそもビーカーに引きこもってるおっさんがどうやって卒業証書渡すんだよ」
『一方通行』
一方通行「はァい」
小萌「声が小さいですよセロリちゃん!!」
一方通行「はァい!!!」
小萌の指摘を受けた一方通行はヤケクソ気味に声を張り上げ、ステージへ駆け上った。
下手に抵抗しても状況は悪化するだけだ、ということは疾うに理解している。
何が何でもこの企画を五体満足で生き延びなければならない彼は、
プライドをかなぐり捨ててでも全てに従う心積もりであった。
小萌「卒業証書、一方通行。右の者、当高校の全課程を修了したことをここに証する」
一方通行「……どォも」
『垣根帝督』
垣根「はい!!」
小萌「口でクソ垂れる前と後に『サー』と言うのです!!!」
垣根「Sir, Yes Sir!!!」
デデーン♪
『一方通行、御坂、麦野、アウトー』
一方通行「垣根ェェェェ!!!」
御坂「ちょっとおおお!!!」
麦野「ふざけてんのかああああ!!!」
垣根「俺は悪くねえ!!指示に従ったまでだ!!」
バチーン!!
一方通行「ぎィがァァァァ!!!」
御坂「うああああ!!!」
麦野「いぃっだああぁぁ!!!」
小萌「卒業証書、垣根提督。以下同文」
垣根「何で俺の卒業証書こんなにグシャグシャなの?」
デデーン♪
『一方通行、御坂、麦野、アウトー』
垣根「笑うなよ!!ちょっと悲しいんだぞこれ!!!」
一方通行「やっぱいじめられてる設定なンだろオマエ」ゲラゲラ
麦野「お似合いよお似合い」ケラケラ
御坂「どんまい垣根さん」プークスクス
バチーン!!
『御坂美琴』
御坂「はい!」
小萌「……」
御坂「あ、あれ何もなし?」
小萌「卒業証書、御坂美琴。右の者、当高校の全課程を修了したことをここに証する」
御坂「あ、はい……こっちも何もなし?」
『麦野沈利』
麦野「はーい」
御坂「え、私の番本当に終わり?」
小萌「卒業証書、麦野沈利。右の者、本大学の全過程を修了したことをここに証する」
麦野「おいコラ、大学つったろ今」
デデーン♪
『一方通行、垣根、アウトー』
麦野「笑ってんじゃねえぞテメエ等ァァァァ!!!!」
バチーン!!
『続きまして、在校生送別の辞。在校生代表、海原光貴(仮)』
「はい!!」
御坂「げっ」
一方通行「誰だ?」
垣根「しらね」
麦野「誰?」
御坂「あーほら、廊下で腰振ってて、アイツ……ツンツン頭にぶん殴られてた奴よ」
麦野「あー、あの無駄なイケメン」
一同が海原が何者かを認識すると同時に、ステージの端からその彼が悠然と現れる。
キラキラと少女漫画のように光を纏うイケメンフェイスに、高い身長、引き締まったその身体。
海原光貴は威風堂々とステージの中央に立った。
白ブリーフ一丁という出で立ちで。
デデーン♪
『一方通行、垣根、麦野、アウトー』
一方通行「なンなンだよコイツはァァァァ!!!!」
垣根「何で脱いでんだよクソがあああ!!!」
麦野「イケメンでもその格好は許されねえよ!!」
御坂「笑うより先に気持ち悪いのが来たわ……」ウエッ
バチーン!!
一方通行「おっふァァァァ!!!」
垣根「ぬぐあぁああ!!!」
麦野「ぎゃああァァァ!!!」
『それでは海原光貴(仮)、お願いします、とミサカは促します』
海原「はい!……レベル5の皆さん、とくに御坂さん、ご卒業おめでとうございます。
本日、この校舎を巣立って行かれる御さk……皆さんを前に私達在校生の脳裏には……」
垣根「何か事あるごとに御坂を強調してんな」
一方通行「愛されてますねェ」
御坂「マトモな愛が欲しい……」
麦野「あのツインテールの後輩といい、ろくなのに好かれないわね」
海原「……自分のこの想い、百万の言葉にしても伝えきれる物ではありません。
ですので……一曲、歌わせていただきます!」
一方通行「グッ」
垣根「ツゥ……」
御坂「ウゥ……」
麦野「クソ……」
突如「歌う」と言いつつブリーフの中からマイク(性的な意味ではない)を取り出した海原。
そんな彼の常軌を逸した行動に、四人は唇を噛み、拳を握り締め、必死に笑いを堪える。
海原は拳から血が滴るほど必死に耐えている彼等を、というか御坂を舐めるような視線で見回し、
やがて、マイクに向かってシャウトを始めた。
海原「放て!心に刻んだ夢を 未来さえ置き去りにして!
限界など知らない 意味無い!このチカラが光散らす その先に遥かな想いをー♪」
デデーン♪
『全員、アウトー』
一方通行「意味がわからねェンだよォォ!!!」
垣根「その曲で俺等に何を伝えたいんだ!?」
御坂「私のテーマ曲をよくも……」
麦野「無駄に良い声してやがる……」
海原「Looking!The blitz loop this planet to search way.
Only my RAILGUN can shoot it. 今すぐ!!!」
御坂のテーマ曲とも言うべきonly my railgunを海原は魂を込めて歌う。
激しく、狂おしく、情熱的に、官能的に、ブリーフで。
しかし燃え上がった彼の心はそれだけで収まるはずも無く、彼の身体は音楽に合わせて揺れ始め、
徐々にそれは強くなっていき、ついにはジャニーズ張りの激しいダンスへと移り変わって行った。
勿論ブリーフ一丁で、である。
海原「放て!心に刻んだ夢を 未来さえ置き去りにして!
限界など知らない 意味無い!」
デデーン♪
『全員、アウトー』
限界を知らない海原を前に、四人の限界が先に訪るのは自明の理であった。
バチーン!!
一方通行「どあァァァ!!!」
垣根「ぎええええ!!!」
御坂「いっだ!!ああぁ……」
麦野「うぎいぃ!!!」
海原「ハァ、ハァ、ハァ……御坂さん!!」ダッ
感極まった海原は、ついにマイクを投げ捨て走り出す。
愛しい女性の元へ、一直線に、純白のブリーフを揺らしながら、
彼は己の思いの丈をぶつけるため、わき目も振らず御坂の元へと疾走した。
御坂「いやあああああ!!!こっち来たああああああ!!!」
デデーン♪
『一方通行、垣根、麦野、アウトー』
御坂「笑ってないで助けてよおおおお!!!誰かあああああ!!!!」
御坂の悲痛な叫びも虚しく、汗だくのイケメンブリーフは既に彼女の眼前まで迫っていた。
海原「御坂さあああ……ッッ!!!!」
彼女に抱きつこうと両手を大きく広げた海原は、しかしその体勢のまま顔を強張らせ、その身を硬直させる。
彼の視線は御坂ではなく、彼女の背後、体育館の入口に向けられている。
そこには一人の、特徴的なツンツン頭をした少年が鬼の形相で立っていた。
「おい、今すぐ御坂から離れろ」
海原「上条……当麻……」
上条「離れろっつってんだよこの三下野郎が!!!」
ヒロインのピンチに最高のタイミングで現れる、それこそがヒーローの絶対条件である。
卒業式に遅刻して現れた上条当麻は目の前の異常事態に臆することなく、大声で吼えた。
海原「いいえ離れません!自分の気持ちを伝えるのはもう今日を置いて他にないんです!!」
海原も負けじと声を張り上げる。引かない、今日だけは引けない
そんな強い思いが彼の目には宿っていた。
上条「どうしてだ……オマエは、見守るって決めたんじゃなかったのかよ!?」
海原「そう、そのつもりでした……ずっと、それでいいと思っていました、そうしてきました」
上条「……」
海原「でもダメなんです、あんなに何度も御坂さんがお尻を叩かれている場面を見せられたら……
もう自分のトラウィスカルパンテクウトリの槍は限界なんです!!!」
その目に涙が滲むほど力強く、最低な告白が為される。
海原「あなたには悪いと思っています、御坂さんも、きっと傷つけることになるでしょう……」
※現在進行形でトラウマが形成されています。
海原「それでも、それでもこの思い!ぶつけずにはいられないんです!!!」
自分を偽り続けてきた男が初めて発する、嘘偽りの無い心からの叫び声であった。
本当はずっとこうしたかったのだろう。見守る、ではなく側について守りたかったのだろう。
立場に縛られ自分にも周りにも嘘を吐き続けた海原は、全てを投げ捨て、今この瞬間に全身全霊を賭けたのだ。
海原「例え殴り倒されても立ち上がります。この命を絶たれようが、魂で叫びます。
邪魔は、しないでください……」
静かに、しかし有無を言わせぬ強い意志を持って、海原は上条を見据える。
※ここまでブリーフ。
上条「……わかった」
上条は理解する。例え何度殴り倒したとことで海原は止められないだろう。
決して折れぬ、自分の行動を何一つ恥じること無いという強い信念を、今日の海原は持っていた。
しかしそれでも、それだけの信念を見せ付けられながらも、上条は一つだけ納得いかないことがあった。
上条「オマエの気持ちはよくわかった。ずっと、吐き出したかったんだな……だがな」
海原「……え?」
上条「オマエはどうして、まだ自分を偽ってるんだ?どうして全部曝け出さないんだよ!!」
海原「!?」
見透かされている……海原は戦慄し、後ずさる。そう、彼は未だ最後の嘘を吐き続けていた。
海原光貴という、自分ではない誰かの仮面を被り続けている。
最後の最後のところで、結局彼は自分の立場を捨てきれないでいたのだ。
海原「これを、捨てろと……海原光貴の顔を……」
震えながら自分の顔に手をかける。最後の勇気が、どうしても出ない。
彼は今まで、例え御坂に嫌悪されようと、それは所詮他の人物の顔だから、という保険をかけていた。
そんな打算など捨て、素顔を曝け出してぶつかれ、上条はそう言っているのだろう。
海原「し、しかし、これは……」
勿論、素顔を出さない理由は薄汚い打算だけではない。自分の正体を公開すること、
それは自分だけではなく、他ならぬ御坂にまで累を及ぼしてしまう可能性があるのだ。
それ故、彼は決断できないでいた。
上条「自分の素性を明かすことで御坂にも危険が及ぶ、そう考えてんのか?」
海原「……」
上条「守ってやれよ!!見守るだけじゃなく、どんな危険があっても全力で、身体張って!!」
海原「……!?」ハッ
上条「いいぜ……それでもまだテメエが勇気が出せないってなら……」
上条「まずはそのふざけた幻想(ブリーフ)をぶち殺す!!」
海原「……え?」
上条「うおおおおお!!!」
雄叫びを上げ、上条はポカンとしている海原へ一気に近付くと、彼の最後の砦に手をかける。
海原「……えぇ!!そっち!?曝け出してないってパンツの方!?全裸になれと!?」
上条「その幻想(ブリーフ)をぉぉぉぉぉぉ!!!!」グッ
海原「ちょ、やめ、うわあああああ!!!テクパトル、テクパトルぅぅうううう!!!!」ビリビリ……
上条「ぶち殺す!!!!」ビリィ!
海原「アッー!!!」ボロン
デデーン♪
『全員、アウトー』
―――――――――――――――
―――――――――
――――
『えー、大変お見苦しい物をお見せ致しました
とミサカは上条当麻と海原光貴の残骸を処理しながら謝罪します』
麦野「これが原因で美琴が男ダメになったらどうすんのよ……」
御坂「」カクカクカク
『そん時は白井黒子とよろしくやればいいんじゃないですかね、とミサカは他人事のように言い捨てます』
垣根「腐ってんなコイツ……」
一方通行「あァ、知ってた」
『それではこれを以って卒業証書授与式を終了いたします。卒業生、退場してください』
―体育館外
麦野「何か、意外とアッサリ終わったわね」
垣根「アッサリか!?短時間で何発シバかれたよ!?」
御坂「うぅ……気持ち悪い……」
一方通行「とにかく、これで晴れて自由の身ってかァ?」
11111号「いいえまだ終わっていませんよ、とミサカは油断しているレベル5勢に声をかけます」
体育館の外でぐだぐだと会話をしていた四人に、11111号は背後から声をかける。
「まだ終わっていない」という一言に、彼等は心の底からイヤそうな顔をした。
一方通行「終わってねェってどォいうことだよ?」
11111号「校舎の敷地内から出るまでが『笑ってはいけない学園都市』です、とミサカは解説します
それにほら、見てください。可愛い後輩達が卒業する皆さんに最後の挨拶をしにやってきますよ」
「あなたー!!」
一方通行「あン?どォしたチビ。つーか生きてたンだな」
打ち止め「あのね、あなたの第二ボタンが欲しいなーってミサカはミサカは上目遣いでおねだりしてみたり!」
一方通行「ボタン?なンでそンなモン欲しがンだよ?」
11111号「在校生は好きな卒業生に制服のボタンやセーラー服のスカーフをねだる風習があるのですよ
とミサカは無知な一方通行に説明します」
垣根「よかったなアクセロリータ」
麦野「流石ねアクセロリータ」
一方通行「ブチコロスぞ」
打ち止め「ねえくれないの?ってミサカはミサカは涙目になってみたり……」
一方通行「あァめンどくせェ、ホラやるよ」
打ち止め「わーいやったー!ってミサカはミサカは嬉しさのあまり小躍りしてみたり!」
11111号「相変わらず何故か上位個体には優しいですね、とミサカはロリコンモヤシにドン引きします」ウヘェ
御坂「流石の私もこれは引くわ」
一方通行「さっさとこのクソ企画終わらせる為に決まってンだろ!!」
11111号「でも00001号が第二ボタンを要求してきたら?」
一方通行「アフロ引き千切る」
11111号「ですよねー、とミサカは頷きます」
「お姉様!」
御坂「げぇ!黒子!!」
白井「お姉様、ご卒業おめでとうございます」
御坂「え?あー、うん、ありがとう……よかった、マトモな状態なのね」
白井「あ、あの、もしよろしかったら、記念にお姉様の制服のスカーフをいただけないでしょうか?」
御坂「うん、今のアンタになら上げてもいいかな……はい、大切にしてね」
白井「うっひょおおおお!!お姉様のスカーフですのおおおお!!!」ムシャムシャムシャ
御坂「ちょっとおおおおおお!!?」
デデーン♪
『一方通行、垣根、麦野、アウトー』
一方通行「食いやがった!?」
垣根「手口が狡猾になってやがる……」ククク
麦野「躊躇無く口に含んだわね」ゲラゲラ
バチーン!!
一方通行「なああァァァァ!!!」
垣根「ほああああ!!!!」
麦野「にゃああああ!!!」
「麦野―」
麦野「フレンダァァァ!!アンタよくも私の前に姿を現せたわねぇぇぇ!!!」
フレンダ「ま、まだ怒ってる!?結局、あれは全部浜面が悪いわけよ!!」
麦野「……一万歩譲ってそれはいいとして、アンタ何しにきたわけ?
まさかトチ狂って私のスカーフでも貰いに来たのかにゃーん?」
フレンダ「んーん、違うわよ」
麦野「あ?」
フレンダ「更衣室に置いてた麦野の着替え全部貰ったから一応伝えておこうと思って……」
麦野「ハァァァ!?」
フレンダ「それじゃ麦野またね、結局貰った服は大事にするわけよー」タッタッタ
麦野「フレンダァァァァァ!!!!!」
デデーン♪
『垣根、御坂、アウトー』
垣根「フレンダの野郎、良い仕事するじゃねえか」クククク
御坂「む、麦野さんセーラー服で帰らないといけないのね」クスクス
一方通行「まァ大丈夫だろ、風俗の客引きだと思えばそンなに違和感は……」
麦野「ブチ殺されてぇのかクソモヤシがァァァ!!!」
バチーン!!
垣根「ぐおおおおぉぉ!!!」
御坂「いったあああ!!!」
11111号「さて、一段落したようですしそろそろ行きましょうか、とミサカは歩き始めます」
垣根「……あれ、俺には後輩こねえの?」
11111号「そのようですね、とミサカは頷きます」
垣根「こんなにイケメンなのに!?」
11111号「どんだけイケメンでも中身がそれでは……とミサカはNo thank youをつきつけます」
垣根「なん……だと……」
一方通行「どォンまァイ」
麦野「ま、アンタにふさわしい扱いね」
御坂「いや、私や麦野さんに来たようなのが来るよりはマシでしょ……」
垣根「……ちょっと憧れてたんだよ、可愛い後輩に第二ボタン渡すってシチュエーション」
一方通行「オマエ、マジで普通の学校生活に憧れてンだなァ」
11111号「おや待ってください、向こうから歩いてくるのは
もしかすると、ていとくんの後輩ではありませんか?とミサカは指差します」
垣根「なに!!」
11111号の言葉に反応し、俯いていた垣根は勢い良く顔を上げる。
彼女の指差した先で、白ランを着た男が超スピードでこちらに近付いてきていた。
削板「第二位!!ボタンを貰いに来てやったぞおおお!!!」ドドドドド
垣根「なんでだああああああ!!!!!」
デデーン♪
『一方通行、御坂、麦野、アウトー』
削板「さあよこせ!第二ボタンと言わず全部よこせ!!」
垣根「ガチホモだったのかよテメエ!?誰がやるかクソがああああ!!!」
削板「そんなわけがあるか!!誰にもボタンを渡せないお前があんまりかわいそうだったから
俺が根性出してもらってやるって言ってるんだ!!!」
垣根「マジでいらねえよその気遣い!!逆に悲しいだろうが!!!」
削板「つべこべ言わずによこしやがれ!!」
垣根「やめろおおおおお!!!」
ボタンを渡そうとしない垣根に、痺れを切らした削板は実力行使に打って出る。
己の全生命を賭けて抵抗する垣根であったが、能力を制限されている彼と
万全状態の第七位では勝負になるはずもなく、垣根は次々とボタンを引き千切られていく。
更にそれだけに留まらず、燃える漢・削板はついに上着ごと剥ぎ取りにかかった。
垣根「ちょっと待て何で上着脱がそうとしてんだテメエエエエエエ!!!!」
削板「ボタンを取るのがめんどくさいからだ!!!!」
垣根「そこで根性出せよおおおお!!!!!」
―数分後、そこには上着ばかりかズボンまで剥ぎ取られ、
パンツ一丁で泣き崩れる垣根帝督の姿があった。
垣根「ちくしょう、ちくしょう……」シクシク
デデーン♪
『一方通行、御坂、麦野、アウトー』
―――――――――――――――
―――――――――
――――
―正門前
11111号「皆さん、いよいよ終わりです、本当にお疲れ様でした、とミサカは四人を労います」
垣根「くそう、くそう……」シクシクシク
御坂「ほら、もう泣かないで垣根さん」
麦野「更衣室に着替え残ってたんだからいいだろうが」
垣根「そういうことじゃねえ、そういうことじゃねえんだよ……」
一方通行「これで終わるンだ、ゆっくり復讐してやりゃァいいだろ」
11111号「さて、正門を出ればいよいよこの企画は終了し、皆さんの能力も元に戻るのですが……
まだすべき事が残っています、とミサカは人差し指を立てます」
御坂「すべき事って……あ!」
麦野「最初の説明の時に言ってた……」
11111号「そう、罰ゲームです、とミサカは頷きます」
11111号が頷くと同時に、大勢の裏方の妹達が彼女の背後に現れる。
そのうちの一人が、一枚の紙を片手に11111号へと近付いた。
「アレイスター=クロウリーから預かってきました
この紙に罰ゲームを受けるべき人物の名が書かれています、
とミサカは11111号に折り畳んだ紙を差し出します」
11111号「ご苦労様です、とミサカは紙を受け取ります
さて、このミサカもまだ誰が罰ゲームを受けるのか知りません
誰だと思います?誰だと思います?とミサカは四人のレベル5を煽ります」ケラケラ
一方通行「……チッ、マジでうざってェなテメエ」
垣根「いいからさっさと発表しやがれ!」
11111号「そう死に急ぐこともあるまいに、とミサカは嘲笑します
まぁいいでしょう、とくと見るが良い、これが罰ゲームを受ける人物の名です!!」バッ
喋りつつ、先程手渡された紙を全員に見えるよう勢いよく開く。
そこに書かれていた名は――
11111号「……え?これは……!?」
呆然としている11111号が動くよりも先に、彼女の背後に待機していた妹達が
一斉に彼女に飛びかかる。地面に押し倒された11111号は苦痛に顔を歪め、呻き声を上げた。
11111号「こ、これはどういうことです!?とミサカは裏方の妹達に尋ねます!!」
11111号は憎々しげに自分を取り押さえている妹達を睨みつける。
妹達の一人は、その彼女を哀れむように口を開いた。
「11111号、アレイスター=クロウリーからの伝言です……『やりすぎ』以上
とミサカは伝言を告げます」
11111号「ば、馬鹿な!彼の全てに従ったはずです!!
そりゃちょっとクレーンに細工してビーカーが落ちるようにしてみたり
そのまま体育館に長時間放置してみたり、プールに投げ捨てたり、
裏方の妹達にビーカーにタックルするように指示を出したりしましたが……」
一方通行「全然従ってねェじゃねェか」
11111号「黙りなさいこのモヤシ!!そもそも『尻を一番多くシバかれた人が罰ゲームを受ける』
というルールはどうしたのですか!?とミサカはルール違反を指摘します!!」
「……アレイスター=クロウリーはこうも言っていました……『俺がルールだ』、と。
行きましょう、とミサカは取り押さえている妹達に指示を出します」
11111号「お、おのれアレイスター!!!謀ったなああああ!!!とミサカはぁぁぁぁ……」
叫び声を上げ続ける11111号は、そのままズルズルと何処かへ引き摺られていく。
はしゃぎすぎた悪魔に天罰が下った瞬間であった。
垣根「………終わりか?」
御坂「多分……」
麦野「終わったのね……」
一方通行「審判もいなくなったし、もう笑ってもいいのか?」
安心感からか、彼等の彼等の口元に自然と笑みが浮かぶ。
しかし耳障りなアウトコールはどこからも聞こえてこない。
長い長い、永遠にも思えるような24時間はついに終わったのである。
垣根「よっしゃあああ!!!終わったああああ!!!」
御坂「後は能力ね、正門から出ればいいんだっけ?」
一方通行「長かったなァ……」
麦野「ホント、色々あったわね……」
垣根「……なあ」
一方通行「あァ?」
垣根「俺、意外と楽しかったぜ?もう一回やれっつわれたらそりゃイヤだけどよ」
一方通行「どンだけドMなンだよオマエは」
御坂「とか言いつつ、アンタも結構楽しんでたんじゃない?私も……うん、悪くはなかったと思う」
麦野「……そうね、こんな風に馬鹿なことやって笑って、なんて今までやったことなかったし」
一方通行「……チッ、まァつまらなくは無かったンじゃねェか」
垣根「素直じゃねェなテメエは」ケケケ
一方通行「うるせェ!!!」
麦野「あっれー、顔赤いわよ第一位」ケラケラ
御坂「色白なのも考え物ね」クスクス
一方通行「クソッ!」
今まで見せたことのないような笑顔で会話しつつ、四人は正門へと近付いていく。
長く苦しい戦いではあったが、同時に彼等はえも言われぬ充足感を感じていた。
垣根「せーの、で同時に正門から出ようぜ」
一方通行「あァ?また下らねェ事を……」
御坂「いいじゃない、やりましょうよ」
麦野「それじゃ行くわよ……」
「「せーの!!」」
不思議と満たされた感覚を楽しみながら、彼等は笑顔のまま、正門を潜って行った。
笑うという行為は本来攻撃的なモノであり
獣が牙をむく行為がその原点である。
餌を前にした肉食獣は、攻撃を前に決して吼え猛ることなく、唸ることもなく
驚くほど穏やかで満たされた目をするのだ。
―この日、学園都市はたった四人の少年少女の手により深刻な被害を受けることとなる。
学園都市二十三区のうち、実に十三区もの学区が灰燼に帰すこととなったこの一見は後に「審判の日」と呼ばれ、
超能力者の、レベル5の恐怖を全世界に知らしめた。
― とある高校、地下室
11111号「あーちくしょう、まさかこんなことになるとは……とミサカは薄暗い地下室で独り言を呟きます」
11111号「何故かMNWがつながらないので外の様子はわかりませんが、きっと今頃大惨事でしょうねぇ
見たかったなぁ、とミサカは外の光景に思いを馳せます」
11111号「しかし罰ゲームって何なんでしょうね?殴られようが蹴られようが
電撃浴びせられようが、このミサカにはご褒美なのですが……」
11111号「……ひょっとして、これはミサカが巻き込まれて命を落とさないように
というアレイスターの粋な配慮なのでしょうか?とミサカは思いつきます」
11111号「そうとわかれば、外の様子は後でMNWの録画を見せてもらうとして
一先ず惰眠をむさぼらせてもらいましょう、とミサカは横になります」
扉<ガチャ
11111号「おや、誰か来ましたね、ようこそ安住の地へ、とミサカは手を差し伸べ……」
「ジャッジメントですのおおおおおおお!!!!!」
11111号「oh……」
「ふひひひひ!好きにしていいんですのね!?このゴーグルのお姉様を黒子の好きに!!」
11111号「嗚呼、罰ゲームってそういう……」
「いただきますですのおおおおお!!!!」
11111号「……これが死か」
451 : >>1[] - 2011/03/21 18:20:55.68 D3x7qcAUo 189/403笑ってはいけない学園都市、完結
いやいや思ったより長くなっちまったよ
1スレ目の500くらいまでに終わらせるつもりではじめたってのにどうしてこうなった
改めて思ったけどギャグSSって難しいねぇ
それじゃここまで読んでくれてありがとな、お前ら!!
一応ここでで完了ですが、後日談とおまけが【後編】に続きます。
ギャグはそこそこ面白いンだけど上条sageが露骨過ぎてどうもなァ…
つーかもうコレ完全にオリジナルだね…