※注意!
・ギャグ物
・基本は台本形式、偶に地の文が割り込む
・一方さんは第一位だけどアホの子
・キャラ完全崩壊
・童貞
・遅筆
・童貞(大事な事なので二回言いました)
こんなんで良ければ読んでくれい
元スレ
一方通行「そンな実験で絶対能力者になれるわけねェだろ」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1302781376/
実験名、『 絶対能力進化(レベル6シフト)』
被験者を学園都市の至上の目的である『絶対能力者』へと進化させるための実験。
実験を受ける権利を有する者、すなわちこの学園都市で絶対能力者へと進化出来る可能性がある者はただ一人
学園都市におけるレベル5、第一位の能力者である一方通行(アクセラレータ)のみである。
その内容は第三位の能力者、御坂美琴、通称超電磁砲(レールガン)のクローン
量産能力者(レディオノイズ)、妹達(シスターズ)と呼ばれる存在を
二万通りの戦闘環境で二万回殺害すると言うもの。
大凡人道を外れた実験であるが、ここは光の届かぬ深い深い闇の底。学園都市の最暗部。
それを咎める者など存在しよう筈も無い。
この日、とある研究所では一人の研究者によって被験者の少年に対して上記のような説明が行われていた。
「な、なんだと?もう一度言ってみろ」
薄暗い研究所の一室で、実験の説明をしていた研究者―天井亜雄は、目の前の少年の発した言葉に困惑の声を上げた。
彼の視線の先にいる被験者の少年―学園都市の第一位の能力者、一方通行は
椅子にもたれかかりながら、そんな天井を涼しい顔で眺めている。
「何度でも言ってやるよ……その実験じゃ、俺は絶対能力者になれねェ」
「バカな、これは樹形図の設計者が算出したプランだぞ!?」
再び一方通行から放たれたその言葉に対し、天井は今度は大きな声を張り上げる。
そう、この実験は、『樹形図の設計者』と呼ばれる、正しいデータを入力することで
完全な未来予測すら可能な演算装置がはじき出した予測に基づいて計画されたモノで、つまり完璧なモノのはずだ。
それを彼の目の前の被験者たる少年は真っ向から否定している。
「言い方が悪かったな、正確に言うと、その実験『だけ』じゃ絶対能力者になれねェ、だ」
「ど、どういう事だ?何故そんな事がお前にわかる!?」
「簡単なこった、この実験には決定的な事が欠けてるからだよ」
「決定的な、事……?」
困惑し狼狽する天井に対し、一方通行は極めて簡潔な答えを返す。
『樹形図の設計者』のはじき出した道筋に欠けている事があるなど俄かには信じ難いが、
一方通行の自信に満ちた、否、確信を持った態度に気圧された天井は、彼の言葉に耳を傾けざるを得ない。
「そォだ。その条件を満たさねェ限り、例えクローンどもを二万体バラそうが二兆体バラそうが、
俺は絶対能力者になンかなれやしねェ」
「そ、その条件とは……?」
「……いいか天井、良く聞け」
「……」
ゴクリと生唾を飲み込み、天井は一方通行の言葉の続きを待つ。
その様子はさながら、預言者の口から告げられる神の啓示を心待ちにする信奉者のようでもあり、
実験の説明をする研究者とその説明を受ける被験者と言う立場は今や完全に逆転していた。
「この実験内容をこなすだけじゃァ……」
「俺が童貞を捨てれねェ」
天井「……は、何?」
一方通行「俺は童貞だ」
天井「え、いや、だから?」
一方通行「童貞のままじゃ絶対能力者になれねェだろ常識的に考えて」
天井「……え?」
一方通行「あ?」
天井「ば、バカにしてるのか!?」
一方通行「バカはオマエだこの天井が!!!」
天井「あ、あぁ?いったい何を言ってるんだお前は……?」
一方通行「いいか天井よく聞け、絶対能力者ってことはアレだろ、学園都市の代表だろ?」
天井「ま、まぁそうなる、のか?」
一方通行「学園都市の代表って事は学園都市で一番優れてるって事だ。
今でも第一位だが、それとはまた一線を画す存在になるわけだな。
つーかもう全世界で一番優れた人間みたいなモンだろ、絶対能力者って」
天井「う、む……確かにそうなるか、世界中の誰も到達できなかった領域に行くのだからな」
一方通行「そこで、だ。果たしてそンな優れた人間が、童貞でもいいのかァ?」
天井「……え、そう繋がるの?……いや、別にいいんじゃないか?関係ないだろ童貞かどうか何て」
一方通行「大有りだよこの天井が!!そンなだから天井なんだよオマエは!!!」
天井「こんなじゃなくてもうちは先祖代々天井だ」
一方通行「万が一童貞のまま絶対能力者になっちまったらどうなるか……想像してみろよ」
天井「はぁ……?」
一方通行「『アイツ、絶対能力者なんて威張ってるけど童貞らしいぜ(プゲラ』とか言われてみろ……
もう怖くて外出れねェよ!!」
天井「どんだけナイーブなんだお前は!?」
一方通行「オマエは世間の童貞に対する風当たりの強さをわかっちゃいねェ!!!」
天井「……そもそも公表しなければわからないだろ、童貞かどうかなんて」
一方通行「童貞かどうかなンてすぐバレちまうモンなンだよ。
童貞の語る女性観にはリアルさが欠片もねェンだ……
仮に、俺が第一位の頭脳を以って完璧な非童貞を装う事が出来たとしても、」
天井「……?」
一方通行「もし、童貞かどうかを判別できる能力者なンてのが現れたらどうする?
そして公の場で童貞だと暴露されちまったらどうなるか……
『アイツ、実は童貞だったらしいぜ』『嘘、絶対能力者なのに?』
『ずっと非童貞だって嘘ついてたのね……』『キャハハ、恥ずかしい~』
……こンなン言われたら自殺モンだろォが!!!」
天井「そんな能力あって堪るか!!そもそもお前は反射できるだろうが!!!」
一方通行「うるせェ!!!俺の反射だって万能かどうかわかンねェだろ!!
俺の反射が効かねェような童貞判別能力があったらオマエ後から責任取れンのか!?」
天井「……ハァ、おい一方通行、そもそも童貞はそんなに恥じるものじゃないだろう」
一方通行「あァ?」
天井「歴史に名を刻んでいる偉人を見てみろ、神に選ばれた預言者を見てみろ。
彼等の多くは晩年まで童貞を保っている。むしろ童貞である事、つまり清らかな身体である事は
神に祝福され、成功へ向かう条件だとも言えると思わないか?」
一方通行「こンの天井がァァァァ!!!」ベクトルデコピーン!!
天井「ぶべら!?」ペシーン!!
一方通行「オマエは何一つわかっちゃいねェ!!」
天井「ぐおぉぉぉ……な、何が……」ヒリヒリ
一方通行「はァ、いいか天井、学園都市が目指す絶対能力者ってのは
『神ならぬ身にて天上の意志に辿り着くもの』だろ?つまりは神への反逆とも言えるわけだ」
天井(え、そうなの?)
一方通行「その神への反逆者が清らかな身体で神からの祝福だのを期待してどォすンだ!
むしろ穢れてなきゃダメだろ!汚れきってなきゃダメだろォがァァァ!!!」
天井「……そんなにヤリたいのかお前は」
一方通行「違ェよ、絶対能力者になる為だ。
今言ったように、清らかな身体じゃ神に逆らう絶対能力者にはなれやしねェよ」
天井「……」
一方通行「……」
天井「ふぅ、わかったわかった。じゃあデリヘルでも頼んでやるからそれで童貞を……」
一方通行「この天井がァァァァァ!!!!」ベクトルチョップ!!
天井「ぐぼぁぁ!!」ベチーン!!
一方通行「素人童貞なンて余計に恥ずかしいだろォが!!なンでそンな簡単な事がわかンねェンだよ!?」
天井「うおぉぉぉ……」クラクラ
一方通行「素人さンで!最初は素人さンでお願いします!!」
天井「やっぱりヤリたいだけだろお前!?」
一方通行「違ェし、学園都市の名誉の為だし」
天井「……」
一方通行「いいのかよ?学園都市の全住民が素人童貞以下の扱いになっちまっても……」
天井「……じゃぁもうその辺でナンパでもして来い、第一位だって言えば引っ掛かる女も……」
一方通行「こォの天井がァァァァァ!!!」ベクトルパンチ!!
天井「ぶふあぁ!!!」バゴン!!
一方通行「ナンパなンて何処のチャラ男だよ!?明らかに俺の柄じゃねェだろォが!!」
天井「う、ぐふぅ……」ゲホゲホ
一方通行「それに将来、絶対能力者としてインタビューを受けたとするだろ?その時にだな、」
――――――――――――
インタビュアー「絶対能力者の一方通行さん、初体験の相手とはどうやってお知り合いに?」
一方通行「ナンパです(キリッ」
――――――――――――
一方通行「こンな受け答えしてたら学園都市のイメージ最悪だろォが!!
だいたい何処の馬の骨とも知れねェ女とヤレるかボケ!!!」
天井「つーか何だそのインタビュー!?馬の骨ってお前は何様なんだ!!」
一方通行「第一位様だろォがクソボケ、それにナンパに引っ掛かるような軽い女なンて商売女と大して変わらねェだろ」
天井「それじゃどうしたいんだよお前は……」ハァ
一方通行「どうしたいって、そりゃオマエ……」
天井「あ?」
一方通行「誰に語っても恥ずかしくないような、周囲の皆が羨む様な運命的な出会いをした相手と
祝福されながら幸福に結ばれたい」テレテレ
天井(うわぁきめぇ……)
一方通行「つーわけで運命の相手を樹形図の設計者に探させろ」
天井「お前は樹形図の設計者を何だと思っている」
「そこまでよ!話は聞かせてもらったわ!!」ガチャッ
一方通行「誰だ!?」バッ
天井「……芳川、聞いていたのか」
芳川「えぇ、全て聞かせてもらったわ。つまり一方通行、君は素性がハッキリしていて、
周りに語っても恥ずかしくなくて、尚且つ運命を感じる相手とセックスがしたいのね?」
一方通行「まァそういう事だなァ」
天井「そうやって並べると都合よくそんな相手がいるとも思えんな」
芳川「いいえいるわ、それもすぐ近くに」
一方通行「なンだと!?」
天井「ほ、本当か!?それならすぐにでも実験を……だが、何処の誰だ?」
芳川「この、私よ!!」バァーン!!
一方通行「……あ?」
天井「……は?」
芳川「学園都市の優秀な科学者であり、これから陰惨な実験を共に乗り越えて行くパートナーであるこの芳川桔梗よ!!」ババーン!!
一方通行「イヤ、共に乗り越えて行くってオマエはデータ取るだけだろ」
天井「と言うかショタコンだったのか芳川……」
芳川「ショタコンではないわ。好きになった相手が偶々若かっただけよ。
ついでにレベル5の第一位で将来性が抜群だっただけよ」
天井「うわぁ将来寄生する気満々だこれ……」
芳川「私は自分に甘いのよ……さぁどう一方通行、私なら条件を満たしているでしょう?」
一方通行「お断りだァ!!」カッ
芳川「ど、どうして!?」
一方通行「すいませン、あンまり御歳を召されている方はちょっとォ……」
天井「ブフッ」
芳川「な!?わ、私はまだ若いわよ!!」
一方通行「いやァ流石に歳が一回り近く離れてると圏外だわァ……」
芳川「く、そ、そんな事で私の夢のニートプランが……」
天井「一方通行、そう言わず芳川で手を打たないか?そして早いところ実験の開始を……」
一方通行「無理、多分勃たねェ」
芳川「ちょっと、惨めになるからやめてもらえない……?」
天井「しかし、芳川がダメだとするとどうするか」
一方通行「だから樹形図の設計者で探せよ、10代半ば~20代前半くらいで」
天井「使用申請通るわけないだろ……芳川、折角だからお前も何か案を出せ」
芳川「イヤよめんどくさい、夢破れた私はもう不貞寝するわ」フン
天井「お前は本当に自分に甘いな……」
一方通行「とにかく、童貞問題さえ解決できりゃァ絶対能力者なンて目の前なンだよ
つーか童貞さえ捨てられればそれだけで絶対能力者になれる気すらするぜ」
天井「どれだけ童貞が枷になってるんだ……」
芳川「思春期に童貞を捨てられるかどうかがその後の人生に大きく関わるのは事実よ」
天井「しかし注文が多すぎるだろう、周囲に語っても恥ずかしくなく、運命的なものを感じる女って……
いや待て、そうだ、布束、布束砥信はどうだ!?ヤツも優秀な科学者で絶対能力進化に深く関わっている!
何より歳も一方通行とほとんど変わらないぞ!!」
一方通行「それだ!!布束だ!!ちょっとルー大柴っぽい喋り方する事があるし目付きクソ悪ィけど
あれで結構美人だしゴスロリだし行けるぜ!!」
芳川「く、あんな目付きの悪い小娘に私は劣るというの……」ギリギリ
天井(こええ……)
一方通行「よっしゃ善は急げだ!ちょっと布束に告白してくるぜェ!!!」ダッ
天井「お、おぉ、頑張ってこい」
芳川「失敗すればいいのに」チッ
―――――――――――――――
―――――――――
――――
―10分後
一方通行「……」ガチャッ
天井「ん、戻ったか」
芳川「早かったわね」
一方通行「……オマエら、次のプラン考えンぞ」
天井(失敗してるぅぅぅぅ!!)ガビーン
芳川(ざまぁ)フフフ
一方通行「他に手頃な相手はいねェか?」
天井「し、しかしだな、この研究所で布束以上に適任だと言える相手は……」
一方通行「布束の話はすンな」ギロッ
天井「うっ!?」
一方通行「第一位の俺が土下座までしたってのに……」チッ
天井「むしろ逆効果だろ土下座……」
一方通行「そうなのか!?」
芳川「コミュ障の気があるから告白の仕方もしらないのね」フッ
一方通行「オマエなンか辛辣になってねェ?」
芳川「私になびかないのなら優しくする理由も無いわ」
天井「女って怖いな」
一方通行「ちょっと童貞のままでもいい気がしてきたわ」
天井「それじゃ実験を……」
一方通行「イヤだ」
芳川「我侭ね、まったく……」ハァ
一方通行「童貞捨てるまでは絶対に実験やらねェ、妹達には傷一つ負わせねェ(キリッ」
芳川「あらかっこいい」
天井「……その相手だが、もう妹達でいいんじゃないか?」
一方通行「この天井がァァァァァ!!!!」ベクトルキック!!
天井「うぼぁぁ!!!」ドゴォ!!
一方通行「実験やりながら妹達を犯せとでも言うつもりかァ!?初体験がレイプなンてただの犯罪者じゃねェか!!」
天井「ヒュー、ヒュー……ケホッケホ……」ポタポタ
芳川「レイプなんてしなくても二万体虐殺の時点で十分すぎるほど犯罪者だと思うのだけど」
一方通行「この外道が!!いいか!さっきも言ったが合意の上で祝福されながら結ばてェンだよ俺は!!」
芳川(改めて聞くとやっぱり気持ち悪いわね)
天井「さ、最後まで聞け!何も妹達をレイプしろと言っているわけじゃない!」ゴホゴホ
一方通行「あァ?それじゃどォいう……」
天井「つまり、普通に妹達を口説けと言っているんだ」
芳川「でも絶対能力進化を実行するのなら最終的に殺さなくてはならないのでしょう?」
天井「そう、絶対能力者になるために殺さなければならない相手との、
被験者と実験用クローンとの間に芽生える禁断の愛だ!!」
一方通行「おォォ!!!」
天井「所詮結ばれる運命には無いと知りながらも惹かれあい求め合う二人!
だが無常にも実験は開始され、愛し合った者同士の殺し合いは始まってしまう。
果たして一方通行は絶対能力者への道と育まれた愛のどちらを選ぶのか!?こう御期待!!」
一方通行「映画化決定だァァァァァ!!!行けるぜ天井くゥゥゥゥン!!!」
芳川(心底気持ち悪いわねこいつら)
天井「そして妹達は二万体もいる!それだけいればお前の気持ちに応えてくれる個体もいるはずだ!!」
一方通行「そォか、二万回もチャレンジ出来るンだな!もう勝ったようなモンじゃねェか!!」
天井「しかも、奴等の設定年齢はお前よりも若干年下!一番付き合いやすい歳の差だ!
更に元となった第三位の外見を忠実に再現しているため、見た目の点数も非常に高い!」
一方通行「いいねいいねェ!最ッ高だねェ!!」ヒャハッ
天井「よし行け一方通行!!絶対能力者になる為に!!」
一方通行「おォ!!童貞を捨てる為になァ!!!」
天井「やっぱりそっちが目的なんじゃないか」
芳川「どうしてもダメだったら私が相手をしてあげるから、気楽に行って来なさい」フフ
一方通行「……チッ」ペッ
芳川「……泣いてもいいかしら?」
一方通行「あー、ちっとテンション下がっちまったがとにかく行ってくるわ」ガチャ
天井「あ、あぁ……」
芳川「……」グス
天井「……気を落とすな、あれ位の年頃はやはり同年代が好きなんだ」
芳川「嘘よ!十代の童貞少年は年上のお姉さんに優しくリードされたがるものだって樹形図の設計者が……」
天井「そんなこと言ってんの!?樹形図の設計者が!?」
芳川「樹形図の設計者で算出した完璧なニートプランだったのに……」
天井(……絶対能力進化も失敗なんじゃね?これ)
果たして一方通行は童貞を捨てられるのか!?そして絶対能力者になる事が出来るのか!?
多分無理だけど頑張れ一方通行!負けるな一方通行!!
「はァ、どっかに俺の運命の人(プリンセス)はいねェのか……」
休日の真昼間の公園で、学園都市の第一位、一方通行はベンチに座り項垂れていた。
二万人の妹達に二万通りの告白をする傍ら、彼は時間さえ空けばこうして街に繰り出し
己の童貞を捧げるに値する運命の女性を探しているのだ。
とはいえ、先程の台詞からも分かるようにその成果は芳しくない。
『学園都市』という名からも分かる通り、この街の住民はほとんどが学生であり、
年齢的には一方通行と近い者、つまり彼のストライクゾーン内に入る者も多い。
しかし問題はその先である。
『運命的な出会いをし、惹かれあう相手』、この条件を満たせるものが果たして学園都市にいるのだろうか?
仮にラブコメの王道とも言うべき、曲がり角でパンを咥えた女子高生とぶつかる、
というシチュエーションが一方通行に訪れたとしよう。さてどうなるか?
答えは簡単である。一方通行が全身に纏っている『反射の膜』、彼が許可した以外の
科学的、物理的なあらゆる外的干渉を完全に跳ね返すその膜は、ぶつかってきた女子高生を弾き飛ばし、
勢い余って車道まで吹き飛んだ女子高生は偶然通りかかった車に轢かれて病院送りとなってしまうだろう。
そして当の一方通行は勿論、それを出会いだとは認識できない。
少々極端になってしまったが、ようするに彼は気付かぬうちに運命の赤い糸すら反射してしまっている可能性が高いのだ。
これでは外で、表の世界で運命の相手と巡り合う可能性は絶望的というものだろう。
そもそも暗部を全く知らない人間と付き合うということが馬鹿げている。
それではやはり妹達に期待したい所だが、こちらも成果は出ていない。
「さっきの告白で何人目だっけェ?もォとっくに四桁行ったよなァ……」
告白を開始してから一週間、その僅かな日数で既に二千を越える妹達に告白した彼だったが、結果は惨敗である。
というか一人目の個体に告白した時点でMNW(ミサカネットワーク)と呼ばれる、
妹達の電気操作能力を利用した脳波リンクによる情報共有で、
全ての妹達が『一方通行が告白に来る』という事を既に知っている状態になっていたのだ。
当然そのような『ヤレれば誰でもいい』という態度が滲み出ている相手からの告白をOKする者はおらず、
今や妹達は『どのようにして一方通行を振るか』という事を日夜議論している始末である。
まさかそんなことになっているとは夢にも思わない一方通行は『次こそは、明日こそは』
と輝かしい未来を信じ、告白の台詞に頭を悩ませ、既に振られた妹達に対しても、
意見を翻し、自分の元に来てくれる可能性を考えマメに気にかけ努力しているのだが、
上記の理由からそれが実る可能性は皆無と言えるだろう。ちょっとかわいそすぎじゃね?
とまぁそういう訳で、妹達からも良い返事が一向にもらえない一方通行は
こうして気晴らし半分、一縷の望みを賭けた運命の人探し半分に、公園で日向ぼっこをしたり街中を散歩したりしているのだ。
「ねぇそこのお兄さん、暇なら私達と一緒に遊ばない?」
「あァ?テメエらみてェのは間に合ってンだよ、失せろ」
黙っていれば十分美形の部類に入り、白髪に赤眼というミステリアスな風貌の一方通行には、
時折このように女性から声がかかることもある。
しかし生粋の童貞であり、目も眩むような運命的な出会い以外眼中にない彼にとっては、
自分から声をかけ擦り寄ってくる女など、どいつもこいつもビッチにしか見えず、
そのような相手に対しては、あからさまに不快な顔をし、ひたすら邪険に追い払うだけである。
童貞の童貞たる所以、それは多くの場合、相手を選り好みしている為なのだ。童貞のくせに。
(はァ……)
物憂げな表情で溜息を吐く彼の前では10歳前後の子供達が元気にはしゃぎ回っている。
とはいえ彼は小児性愛者、所謂ペドフィリア、或いはロリータコンプレックスではないため、
流石にそんな年端も行かぬ子供達に食指が動く事はない。繰り返すが彼はロリコンではない。
念の為もう一度言っておこう、ロリコンではない。
(……あ、でもあれか、あのガキどもがもォ少し成長したら俺の運命の相手になるかも知れねェのか?
いやむしろ今から運命の相手になるよォな英才教育をして……)ククク
そんな光源氏的な思考をしながら怪しく目を輝かせていた彼に不穏なものを感じたのか、
公園からは一人、また一人と人が減っていく。気付いてみればその場にいるのは彼一人だ。
なんとも寂しいものであるが、頂点に立つ者というのは常に一人、孤独なものなのだ。
(結局、俺は一人ぼっちなンだなァ……)
先程までの賑わいが嘘のように静まり返ってしまった公園で、一方通行は先日の出来事を思い出す。
先日の、布束砥信への告白の一件を。
あの時もそうだった。あの時もこうして、気付けば一人になってしまっていたのだ。
全力で頭を下げ、「先っちょだけ!先っちょだけ!」と懇願する一方通行に対し、
布束は「寿命中断(クリティカル)!!」と一言叫ぶと、まるでゴミでも見る様な目で彼を見下し
一方通行が思いの全てをぶつける前にさっさと何処かへと消えてしまったのだった。
(……研究所に帰るか……そンでやっぱ樹形図の設計者使わせてもらえるように申請しよう……)
そんな事を考えつつ、ベンチから立ち上がろうとした一方通行の視界の端に、あるモノが映る。
(!?)
いつの間にか、彼の隣に一人の男が座っていた。いつ現れたのか、或いは最初からそこに存在したのか、
第一位、一方通行ともあろう者が、思考の沼に沈んでいたとは言え、全くその存在に気付かなかったのだ。
「どうしたよ、そんなに驚いて……まさか今まで気付いてなかったのか?」
驚愕した表情の一方通行を満足気な様子で眺めると、その男は癇に障る笑みを浮かべながら
大袈裟な仕草でベンチから立ち上がり、一方通行の正面に立ちはだかった。
「なンか用か?悪ィが俺はオマエみたいなチンピラホストもどきを相手にしてる程暇じゃねェンだよ」
「フン、何十分もベンチでのんびりしてやがったクセによく言うぜ。なぁ、第一位?」
「……どォして俺を知ってる?」
軽薄そうに笑う目の前の、チンピラとホストを足して二で割ったような風貌の男に突如名前を呼ばれ、
一方通行は敵意の篭った眼で男を睨みつける。
童貞とは言え、一方通行は第一位の能力者であり、学園都市の薄暗い闇を渡り歩いてきた男だ。
その彼の敵意を持った視線に耐え切れる者などそう多くは無く、事実、天井をはじめとする研究者達も、
彼と目を合わせながら会話する事は少ない。
『射殺す様な視線』まさにそういう表現がピッタリ当てはまる一方通行の一睨みを、
しかし目の前の男は、変わらぬ薄笑いを浮かべながらあっさりと受け流した。
「クク、そう睨むなよ、くすぐってぇだろ」
「質問に答えろよ三下野郎、テメエは、何者だ?」
「自己紹介をご希望か?……ククク、ハジメマシテ第一位」
「……」
その顔に笑みを貼り付けたまま、男は気取った仕草で胸の前に右手を運び、
まるで英国紳士のような一礼をする。それは本来、礼を尽くす形式のモノのはずだが、
今この場においては、一方通行を小馬鹿にしているようにしか見えず、
事実、そのような効果を狙ってのモノだろう。
「……第二位、垣根帝督だ」
「!?」
『第二位、垣根帝督』目の前の男の発した言葉に、一方通行は少なからず動揺する。
自分を第一位だと知りながらこのような態度を取る相手だ、只者でない事はわかっていた。
しかしそれでも、これ程の大物が目の前に現れるというのは流石に予想の外である。
気取られぬよう動揺を押し殺す一方通行だが、そんな行動も見透かされているらしく、
目の前の男、垣根帝督は肩を震わせクスクスと笑った。
「意外と小心なんだな、えぇ?第一位よぉ」
「チッ、その第二位の『格下』野郎が第一位の俺に何の用だ?」
「……なるほど、実際に喋ってみると良く分かる。大したムカつきっぷりだなテメエは」
一方通行の挑発にようやく笑みを消し、少しばかり気分を害したという表情で垣根は答える。
もっとも、その表情は『怒った』というよりは、下らない挑発をしてきた一方通行に対して
『呆れた』という色合いの強いモノではあったが。
「何の用か、と聞いたな?心配すんな、別に殺し合いに来たわけじゃねえよ」
ふぅ、と溜息を一つ吐き、垣根は一方通行の質問に対する回答を始める。
ようやく本題に入ったということだろう。
「ふン、自殺志願ってわけじゃねェのか」
「下らねぇな、テメエは一々そうやって虚勢を張って挑発してねえと生きてられねえのか?
殺し合いをする気はねえ、とは言ってもどうなるかはテメエの態度次第なんだぞ?」
「……さっさと用件を話せよ、オマエを殺すかどォかはそれまで保留しといてやる」
「ハッ、何の事ぁねえ、俺はテメエを探りに来ただけさ」
「探り、だァ?」
「そう、テメエがどうして『絶対能力進化』を開始しねえのか、その理由をな」
「……」
ようやく、垣根が自分に接触してきた理由がはっきりする。
だが考えてみればそんなもの最初から分かりきっていた事だ。
学園都市にはレベル5に区分されている能力者が七人いる。人口230万の中で、たったの七人。
しかし、第一位と第二位はそれ以下の序列の能力者とは、また別格の存在なのだ。
第二位、垣根帝督は唯一、第一位、一方通行に取って代わる可能性のある『スペア』とも呼ぶべき存在だ。
『メイン』である一方通行が『絶対能力者』への道を自ら閉ざすというのなら、
『スペア』である垣根帝督が、その役割を果たす為に、第一位に取って代わろうというのも当然の事である。
垣根は『絶対能力進化』を開始しない一方通行の真意を確かめる為に現れ、
その理由次第ではあらゆる手段を用いて『メイン』の座を奪おうとしているのだろう。
「なるほどなァ、そンなに第一位の座が欲しいか?絶対能力者になりてェか?」
「当然だろう、俺には力が必要なんだよ。絶対の力がな」
「どうして『絶対能力進化』を開始しねェのか、か……
ハッ、簡単なこった、今の俺には『絶対能力者』になれねェ理由がある。
そしてそれは『絶対能力進化』の過程で解消されるモンじゃねェ」
「理由、だと?そいつは何だ?」
「いいか、第二位、その理由はな……」
「……」
「俺が、童貞だからだ」
垣根「……はい?」
一方通行「俺が童貞だから『絶対能力進化』が開始されねェンだよ」
垣根「いやいや、え?何で?」
一方通行「童貞だからだつってンだろ!何度も言わせるンじゃねェよ三下野郎がァ!!」
垣根「意味がわかんねえつってんだよこのクソ野郎が!!」
一方通行「童貞じゃ『絶対能力者』になれねェンだよ!察せよ!!」
垣根「……え?童貞じゃダメなの?」
一方通行「あァ、ダメだ。もォダメダメだ、どンだけやっても欠片も能力は進化しねェ」
垣根「嘘ぉ、マジでぇ……」
一方通行「……」
垣根「……」
一方通行「……あ、ひょっとしてオマエも童貞か?」
垣根「……うん」
一方通行「そンなチャラい外見なのに?」
垣根「うるせえ!見た目で判断してんじゃねえぞ!!ずっと暗部にいた俺に浮ついた話なんてあるかよ!!」
一方通行「だよなァ、俺もだ……」ハァ
垣根「いや、だが待てよ、要は童貞捨てりゃいいだけだろ?それなら簡単だ、その辺の女に声かけて……」
一方通行「あーダメだ、それじゃダメなンだよ」
垣根「何でだよ?」
一方通行「ただ童貞捨てるだけじゃなくてだな、誰からも羨まれるよォな運命的なモノを感じる女性と
幸福に結ばれねェと条件満たした事にならねェンだよ」
垣根「何だその限定的な条件!?流石にそりゃねえだろ!!」
一方通行「マジマジ、第一位嘘つかねェ」
※今第一位が嘘をつきました。
垣根「えぇー……そんな相手そうそう見つかるもんじゃねえだろ……」
一方通行「だろォ?だから俺も困ってンだよ……」
垣根「運命の相手、なぁ………あーダメだ、少なくとも身近にゃいねえわ」
一方通行「俺の方は一応いるにはいるンだが……」
垣根「何だいるのかよ、じゃあもう実験開始はすぐじゃねえかクソ」
一方通行「既に二千回くらい振られてる」
垣根「それはもはや運命の相手じゃねえだろ!?」
一方通行「そォだよなァ……やっぱこォして当ても無く探すしかねェのか」ハァ
垣根「あぁ、テメエ日向ぼっこしてたんじゃなくて女漁りしてやがったのか」
一方通行「女漁りなンてゲスな言い方やめてもらえますゥ?赤い糸辿ってただけですからァ」
垣根「で、その赤い糸とやらを辿った成果は?」
一方通行「0だよ……」
垣根「ひゃはは!第一位つっても所詮はそんなもんか!」
一方通行「おォ?笑ってンじゃねェぞコラ、オマエも探してみやがれ、絶対見つからねェから」
垣根「あ?じゃあ俺が先に運命の相手見つけて幸せな童貞喪失味わったらどうするよ?
テメエは第一位の座を明け渡してくれんのか?」
一方通行「あァ構わねェよ」
垣根「即答!?いや、そんな軽くていいの!?」
一方通行「いいも何も、童貞捨てたらその時点で能力が進化すンだよ、つまりオマエは俺を超える」
垣根「なんだそれ初耳だぞおい……」
一方通行「考えても見ろよ、『絶対能力進化』よりも脱童貞の方が明らかに難易度高ェだろ
その最高難易度の試練を突破すりゃ自ずと能力も進化するってモンだ」
垣根「俺『絶対能力進化』の内容知らねえんだけど」
一方通行「ゴミみてェな能力のクローンを二万体通りの方法で虐殺だとよ」
垣根「マジかよ朝飯前じゃねえか、それなら確かに運命の人探す方が難易度たけえな……」
一方通行「だろ?」
垣根「……よしわかった、俺は脱童貞する。そしてテメエを超える。そうと決まりゃゆっくりなんてしてられねえ」
一方通行「あァ、ちょい待て第二位」
垣根「あ?何だよ、今更やっぱ第一位の座は渡さねえってのは無しだぞ」
一方通行「折角だから携帯の番号交換しとこォぜ?」
垣根「はぁ?何でそんな事……いや、そういう事か、オーケー交換しといてやる」
一方通行「ハッ、話が早くて助かるぜ第二位」
垣根「フン、一人で闇雲に探しても見つかるわけねぇからな
近況報告と情報交換……二人で探せば手間は半分になるってわけだ」
一方通行「相手の方が先に運命の人を見つけるかもってリスクも倍になっちまうけどなァ」
垣根「その程度のリスク、享受してやるさ。それよりも俺は一刻も早く力が欲しいんでな」
一方通行「ギブアンドテイク、お互い良い関係を続けていこうぜェ?」
垣根「あぁ、どっちかが童貞捨てるその時までは、な」
一方通行「うし、登録完了。よろしくなァ、『垣根』くン?」
垣根「こちらこそ、よろしく頼むぜ『一方通行』」
一方通行(ケケケ、こいつチャラ男っぽいからなァ、多分交友関係広いだろ
こっちの情報は小出しに、それっぽい嘘を交えながら渡してやる
精々利用させてもらうぜェ、第二位!)
垣根(先行していた分今はあっちの方が情報量で優位に立ってやがる
癪だが、ここは一旦友好的に接してこいつの持っている情報を抜き出すのが専決だ
『運命の相手を探す為のノウハウ』それさえ学べば用済みだぜ、第一位!)
一方通行「……」ニコッ
垣根「……」ニカッ
一方通行「じゃァ俺はぼちぼち研究所に戻る時間だから」
垣根「おう、俺もそろそろ行くわ……何かいいネタが手に入ったら連絡しろよ?」
一方通行「オマエの方こそなァ」
馬鹿が、二人に増えました。
激闘の末、第二位、垣根帝督を辛くも退け、同盟を結ぶに至った一方通行!
彼らの未来はどっちだ!?彼ら二人は運命の相手を見つけ、脱童貞を果たす事が出来るのか!?
頑張れ一方通行!負けるな垣根帝督!お前らの未来は真っ暗だ!
「それで、今日でどのくらいになる?」
「ちょうど二週間、かしら」
「もうそんなになるのか……」
「ええ、そんなになるのよ」
「一方通行が引き篭もってから……」
「いったい何があったのでしょうね?とミサカは首を傾げます」
「心配ですよね、実験の為にも早くよくなって欲しいのですが……とミサカは一方通行の逸早い快気を願います」
「お前らのせいだよ白々しい!!」
天井と芳川はその日、研究所の一室で向かい合うように座り、心に重大な傷を負い
研究所の一室に引き篭もってしまった一方通行の事を話し合っていた。
そしてそんな二人を取り囲むように、特徴的な喋り方をする複数の同じ顔をした少女達が無表情で立っている。
彼女達こそ『妹達』(シスターズ)と呼ばれる、『絶対能力進化』の要とも言うべき存在だ。
色んな意味で。
「はて、ミサカ達がいったい何をしたというのでしょう?とミサカは再び首を傾げます」
「ミサカ達のした事と言えば、全ての妹達にアプローチをかけようとしていた外道な一方通行を
こっぴどく振ったことくらいですが……とミサカは自分達に非がない事をアピールします」
「こっぴどく、とか言ってるじゃねえか!もっとオブラートに包んだ振り方しろよ!!」
白々しくトボける妹達に対し天井は更に声を張り上げ反論する。実際問題として、
一方通行が引き篭もったその原因の9割9分9厘が彼女達の言動にあることは間違いない。
彼が告白を開始してからおよそ二ヶ月、その人数は既に五桁に達していた。
実験の為に用意されたクローン体である妹達は、造られた直後は完全な無個性であった。
二万人いる妹達の誰に何をしようと、二万人が皆同じ反応を返すだろう、という程に。
しかし学園都市の闇は、彼女達をそんな無垢で無個性で純粋な少女のままでは置いてくれなかったのだ。
実験用クローンであるが故に周囲から向けられる無遠慮な悪意は、MNWによる意識共有と情報伝達を通じ、
通常の人間が受けるそれの何倍、何百倍、何万倍もの速度で彼女達の中に積もっていった。
その結果が、これである。
降り積もった悪意により一部の妹達の人格は酷く歪んでしまい、その一部の妹達に引っ張られるようにして
他の妹達も徐々にではあるが歪み始めているのだ。そこに飛び込んできた一方通行という餌は、
彼女達の歪みを一気に加速させてしまう。
『一方通行に辛辣な態度を取った』というのは今や妹達にとってステータスとなっていたのだ。
「とにかく、このままじゃ良くないわ。トイレ以外部屋から一切出ないんだもの」
「食事も、部屋の前まで運ばなかったら一切取らないからな……」
「まったく、手のかかる子ですね、とミサカは溜息を吐きます」
「手のかかる子ほど可愛い、と言う事象は幼児にしか当てはまらないというのに……
とミサカは未だに幼子のように駄々をこねる一方通行に辟易します」
「もう黙れよお前ら!?」
クスクスと笑いながら大袈裟なジェスチャーを取る妹達に天井は全力のつっこみを入れる。
彼はわかっていなかった。そんな反応こそまさに妹達が望んでいるモノであり、
歪みを加速させていく一旦を担っていると言う事を。
ようするにこのクローンども、他人をからかって遊んでいるのだ。
「そうだ芳川、今傷心の一方通行を慰めればポイント稼げるんじゃないか?」
「馬鹿にしないで」
「……そうか、そうだな、悪かった。相手の弱みに付け込むような真似は……」
「既にやってみたけど心を開いてくれなかったのよ!!」
「やったのかよ!!そしてダメだったのかよ!!!」
「行き遅れってかわいそうですね、とミサカは声を殺して笑います」クスクス
「笑ってはいけませんよ、理系女は大変なんですから、
とミサカは一方通行に告白された事に優越感を覚えながら芳川桔梗を慰めます」フフフ
「すっげぇムカつくわねこいつら」ピキピキ
「何がどうしてこんなになったんだ……」ハァ
「モルモット扱いされ続ければ心も腐ります、とミサカは根本的な原因があなた方にある事を指摘します」
「あ、そのセリフ劇場版ガンダム00で使われたセリフだろ!このミサカが言いたかったのに!
とミサカはかっこいいセリフを横取りされた事に苛立ちを……」
「だから本当に黙ってくれお前ら……」
弱弱しく首を振り、天井は頭を抱えがっくりと項垂れる。
なんとか一方通行を部屋から引きずり出す為の方法を考えようとしているのだが、
妹達に茶々を入れられ、一向に議論が進まない。というか芳川もあまり乗り気でない。
まともに考えているのは天井ただ一人である。
「そもそも何でお前らがここにいる?」
ふと思い至り、今更、本当に今更な質問を妹達に投げかける。
そうだ、妹達など交えて議論しても話がこじれるだけに決まっている。
あまりにも自然に部屋に入ってきて会話に参加し始めた為今まで気付かなかったが、
どうして声をかけてもいないはずの妹達がここにいるのだろうか。
「え、今更それ聞くの?遅くね?とミサカは天井亜雄の頭の回転の遅さを心配します」
(うざすぎるだろこいつら……)
「まぁ正直に言うと芳川桔梗に呼ばれたからですが、とミサカは事実をありのままに伝えます」
「芳川ぁぁぁぁ!!!何余計な事してんだお前えぇぇぇぇ!!!」
「うるさいわね、この子達を間近で観察すれば、一方通行が何故私ではなく
この子達に惹かれているのかわかるかも、と思ったのよ」
「ぶっちゃけ年齢だろ、とミサカは簡潔に回答します」
「認めないわよそんなこと!!」
「年齢以外にも顔、性格、スタイル、etc、etc……とミサカは……」
「性格とスタイルに関しては少なくとも負けてないわよ!!」
ギャーギャーギャー
「……なぁ、頼むからそろそろ話を進めさせてくれ」
「進めればいいじゃないですか、一人で勝手に、とミサカは議論に参加する気など更々ない事をぶっちゃけます」
「そうね、私もちょっとこの小娘どもに大人の怖さを教えなくちゃならないから
悪いけど一人で考えててくれない?」
「……そうか、よしわかった。なら独断で決めさせてもらう」
「え?」
「妹達、お前らで一方通行を外に引っ張り出して来い。一方通行が引き篭もってる間はお前ら全員飯抜きだ!!」
「な、なんですと!?とミサカはあまりに非道な案に愕然とします」
「ミサカ達に餓死しろと言うのですか!?とミサカは難易度の高すぎるミッションに慄きます」
「餓死がイヤなら一方通行を引きずり出して来い!元々お前たちが撒いた種だろう!!」
「そ、そんなぁ、とミサカは……」
妹達は必死に食い下がろうとするが、天井は「これ以上言う事はない」と言わんばかりの態度で
妹達の事を振り返りもせずに部屋から出て行ってしまう。このままでは本当に飯抜きになってしまうだろう。
こうして、妹達による一方通行更生大作戦が開始されることとなった。
―――――――――――――――
―――――――――
――――
―MNW内―
(やっべーよマジどうすんの?とミサカ00001号は周囲に意見を求めます)
(ぶっちゃけ無理だろ……一方通行更生させる計画練るより食料盗む算段した方が賢いって
とミサカ00432号は考える事を放棄します)
(「お前たちの撒いた種だ」とか言われましたけど、
そもそも元を辿ればトチ狂った一方通行がミサカ達に告白し始めたのが原因なわけで……
とミサカ10000号は自分達に非が無い事をアピールします)
(ここでアピールしても仕方ないだろ、とミサカ10032号は溜息交じりに答えます)
(つーかお前ら何巻き込んでんの?まだ一方通行から告白受けてない妹達も多いんだぞ?
とミサカ16944号はトバッチリを受けた事に憤慨します)
(そうそう、お前らの責任なんだからお前らで解決しろよ……
とミサカ18792号は不貞寝しながら責任を押し付けます)
(この速さなら言える、正直告白された時結構ときめきました、
皆さんのサポートが無かったらOKしちゃってたかもしれません、
とミサカ08251号は頬を染めながら当時の心境を赤裸々に語ってみます)
(かわい子ぶってんじゃねえよこのぶりっ子が、お前なんか脳味噌破壊されてアホの子になっちまえ!
とミサカ19887号は舌打ちします)
(てか結局一方通行は何号まで告白したんだっけ?もうトドメ刺した奴に責任全部押し付けちゃおうぜ
とミサカ10772号は最良と思われる意見を出します)
(あ、それいいな、賛成!とミサカ00871号は10772号の意見に賛同します)
(この流れなら言える、俺がガンダムだ!とミサカ13577号はさり気なくガンダム布教を……)
(おーい誰か13577号のガンプラぶっ壊しに行こうぜー、
とミサカ00002号は野球でもするかのようなノリで皆を誘ってみます)
(やめろよぉ!とミサカ13577号は半泣きで00002号を引きとめます)
(いやちょっとお前ら五月蝿いんですけど睡眠の邪魔しないでいただけます?
とミサカ11111号は寝起きの不機嫌な態度を隠そうともせず会話に参加します)
(あ、元凶だ、元凶が来たぞ、とミサカ11110号は11111号を指差します)
(はい?元凶って何がよ?とミサカ11111号は目をぱちくりさせながら尋ねます)
(カクカクミサミサ、という事です、とミサカ19090号は投げやりな説明をします)
(なるほど、つまり一方通行にトドメを刺したのはこのミサカなので
責任もって部屋から引きずり出して来い、と言う事ですか
とミサカ11111号はここまでの流れを簡潔にまとめてみます)
(はい、お願いします11111号、このままでは皆餓死してしまいます
とミサカ10442号は土下座する勢いで頭を下げます)
(要は部屋から出せばいいんですよね?わざわざ正攻法でやらなくても部屋ごと爆破でもすりゃいいんじゃね?
とミサカ11111号は最も楽な方法を提示してみます)
(ちょ、天才現る!とミサカ00008号は11111号の発想力に脱帽します)
(よっしゃそれで行こうぜ!部屋ごとふっ飛ばして引き篭もり卒業させてやろうぜ!
とミサカ18791号はノリノリで準備を始めます)
(よーしそれじゃみんな30分後に一方通行の部屋の前に集合な!
とミサカ16554号は重火器片手に微笑みます)
―――――――――――――――
―――――――――
――――
―研究所の一室、一方通行が引き篭もってる部屋
一方通行「……」カチャカチャ ←PCいじってる
一方通行「……」カチッカチッ
一方通行「……」ッターン
一方通行「クラナド、マジで人生だなコイツは……ン?」
『Teitokuさんからメッセージが届きました』
Teitoku:おい
Teitoku:おいこら
Accela:なンだよ
Teitoku:なんだよ、じゃねえだろ
Accela:あ?
Teitoku:まだ引き篭もってんのかオマエ
Accela:はい
Teitoku:はいじゃないが
Accela:何が……
Teitoku:情報交換出来ねえだろ、オマエが引き篭もってちゃ
Accela:あー……
Teitoku:何の為に携帯番号交換したんだよ
Accela:ごめン
Teitoku:謝んなくてもいいけどよ
Accela:サーセン
Teitoku:いいから外出ろし
Accela:無理
Teitoku:学園都市の第一位が……
Accela:だってよォ、11111回も振られたら心折れるだろ……
Teitoku:そこまで折れなかっただけでもすげえけどな
Accela:だろ?
Teitoku:うぜえ
Accela:正直あンな振られ方したら外出れなくなるって
Teitoku:何度も聞いたわ、いいから出ろ
Accela:無理、時間くれ
Teitoku:もう二週間だぞ
Accela:まだ二週間だ
Teitoku:……別にいいけどよ
Accela:悪ィな
Teitoku:ただな、
Accela:ン?
Teitoku:クラナド返せ
Accela:えェー……
Teitoku:もう全ルートやっただろ
Accela:だって何度やっても面白ェし……
Teitoku:だから俺もやりてえんだよ、返せ
Accela:待って
Teitoku:あぁ?
Accela:今クラナド返したら俺死ぬ
Teitoku:どんだけだよ
Accela:マジで、クラナドだけが心の支えなンだよ
Teitoku:オマエ症状悪化してね?何かあった?
Accela:あった
Teitoku:あったのかよ
Accela:前に話した芳川なンだけどよ
Teitoku:あぁ、年増の研究員だっけ?
Accela:襲われた
Teitoku:は?
Accela:襲われた
Teitoku:誰が?
Accela:俺が
Teitoku:誰に?
Accela:芳川に
Teitoku:いやいや、反射あるだろオマエ
Accela:反射切ってた
Teitoku:意味わからん
Accela:「その反射の膜は運命の赤い糸まで反射してしまっている」
Accela:とか言われてさ
Teitoku:うん
Accela:じゃあ試しにって事で切ってみたら次の瞬間組み伏せられてた
Teitoku:行き遅れ女マジ怖ぇ
Accela:やべェ、獣の目ェしてたわアレ
Teitoku:無事なのか?
Accela:おォ、童貞は守った
Teitoku:そいつはよかったな……いやよかったのか?
Accela:流石に一回り近く歳離れてる相手は……
Teitoku:30くらいまでならいけるけどなぁ、俺
Accela:半端ねェなオマエ
Teitoku:常識が通用しねえからな
Accela:今ドヤ顔してるだろオマエ
Teitoku:わかるか
Accela:余裕で想像できる
Teitoku:仕方ねェからクラナドもうちょい貸しててやるよ
Accela:サンキュ
Teitoku:そん代わりさっさと出て来いよ?
Accela:頑張るわ
Accela:あ
Teitoku:ん?
Accela:あとあれ貸してくれ、ラブプラス
Teitoku:ふざけんな
Accela:頼む
Teitoku:いや、そればっかりは無理だわ
Accela:何で
Teitoku:あれマジで俺の彼女だし
Accela:は?
Teitoku:二次元と三次元の境が曖昧になるくらいやべえ
Accela:なンだそりゃ
Teitoku:正直童貞は寧々さんに捧げたい
Accela:そンなすげェの?
Teitoku:他のギャルゲーとは一線を画すな
Accela:すげェやりたくなってきた
Teitoku:買えよ
Accela:外出れない
Teitoku:通販とか
Accela:多分研究所の連中に検閲される
Teitoku:あー……
Accela:詰ンでるンだよ……
Teitoku:仕方ねぇな
Accela:え?
Teitoku:今度買って持って行ってやるよ
Accela:マジ?いいの?
Teitoku:金は払えよ?
Accela:払う払う、いくらでも出すわ
Teitoku:いや定価でいいから
Accela:垣根くンマジで良い奴だな
Teitoku:今頃気付いたか?
Accela:ギャルゲーの親友ポジション付けるわオマエ
Teitoku:おいそれモテない三枚目コース一直線じゃねえか
Accela:最大限の賛辞だったンだが
Teitoku:……アリガトヨ
Accela:あ
Teitoku:ん?
Accela:やばい
Teitoku:は?
Accela:やばいやばいやばい
Teitoku:落ち着け
Accela:何かすげェドア叩かれてる
Teitoku:マジか
Accela:マジ、怖い
Accela:本気で俺の事外に連れ出そうとしてるっぽい
Teitoku:いや出ろよ
Accela:無理、助けて
Teitoku:俺今から仕事なんで……
Accela:裏切り者め
Teitoku:別に何も裏切っちゃいねえだろ
Accela:覚えてろ
Accela:オマエのツイッターのアカウントハッキングして
Accela:「童貞なう」って呟きまくってやる
Teitoku:おいやめろ、地味にダメージでけえ
Accela:つーかやばい、マジやばい
Accela:あ
Teitoku:おい
Teitoku:一方通行?
Teitoku:おーい
『Accelaさんがログアウトしました』
Teitoku:……
Teitoku:ご冥福をお祈りします
―――――――――――――――
―――――――――
――――
「俺のPCがァァァァ!!!」
「いやお前のじゃねえだろ、研究所の備品だろ、とミサカ一同は呆れ顔でつっこみを入れます」
瓦礫の山となった、もはや部屋とも呼べないその部屋で、一方通行は頭を抱え叫び声を上げていた。
収集した画像や動画、ゲーム、全てが灰になってしまったのだ。
そしてそれをやった張本人である無数の妹達が、彼の背後に呆れ果てた顔で佇んでいた。
「なンてことしやがる!垣根に借りてたモンも含まれてたンだぞ!?」
「知らんがな、自業自得だろ、とミサカは自分達に非がない事をアピールします」
「つーかこれで部屋から出したことになるだろ、ミッションコンプリートだよな?
とミサカは任務が無事終了した事を確認します」
「ですね、天井(てんじょう)も壁も吹き飛びました、もはや部屋とは呼べないでしょう
つまりこれで一方通行は引き篭もりではなくなったわけです、とミサカは結果に満足しながら頷きます」
「行こ行こ、天井亜雄に報告して食事をもらいましょう、とミサカは先導します」
「はーいお疲れー、とミサカは皆を労いながら後に続きます」
勝手な事を思い思いに喋りながら、妹達は次々と、一方通行に声すらかけずに去って行く。
全てを灰にされ脱力していた一方通行は、黙ってそれを見送るしかなかった。
「どォしてこンなことに……」
「あ、あの一方通行……?」
「あァ!?」
蹲り、涙を流す一方通行に、最後まで残っていた妹達の一人がおずおずと声をかける。
ようやくふつふつと怒りが湧き始めていた一方通行は、ドスを効かせた声を張り上げながら
思い切り彼女を睨みつけ、まるで脅すかのように近くにあった大き目の破片を殴りつけ、粉々に砕いた。
「あまり気を落とさないで下さい、とミサカは震えながら語りかけます」
「落とすなっつー方が無理だろ!全部なくなっちまったンだぞ!?」
「二次元世界との繋がりはなくなってしまいましたが、あなたにはまだ現実があるじゃないですか、
とミサカは手を広げ三次元世界の広大さを示します」
「……現実は皆俺に冷てェンだよ、結局俺が童貞捨てるのなンて無理なンだ………」
「そんなことありません!とミサカは一方通行の言葉を否定します!」
「え?」
「このミサカはあなたの味方ですから!あなたを傷つけたりしませんから!とミサカは!!」
「お、おォ?」
「……な、何言ってるんだろ、ごめんなさい忘れてください!とミサカは顔を赤くして走り去ります」
「お、おい!!……行っちまった」
顔を覆いながら逃げていった個体の後を、一方通行はしばし呆然と見つめる。
その表情からは自然と笑みが零れている。既に怒りは無い、悲しみも喪失感も無い、
彼の胸には新たな希望がサンサンと輝いていた。
「……検体番号聞きそびれたが、今のはどう見ても脈ありだよなァ!?」
彼の瞳に、再び光が宿る。
「引き篭もってる場合じゃねェよなァ、明日から妹達への告白再開だ!今の個体に巡り合う為にも!!」
拳を天に突き上げ、勝利を誓う。その拳から放たれた衝撃波が上空の雲を散らすと、
まるで祝福するかのように、眩い太陽の光が彼を照らす。
「やるぜェ……やってみせる!!」
決意を新たに、一方通行は新たな一歩を踏み出した。
「ふぅ、ここまで来ればもう大丈夫ですかね、とミサカは周囲を確認します」
先程一方通行から逃げ出した個体は、キョロキョロと辺りを見回し、
自分が既に一方通行の視界から外れている事を確認すると、安堵の溜息を吐いた。
「一方通行は……どうやら持ち直したようですね、よかったよかった、とミサカは胸を撫で下ろします」
遠くから聞こえてくる一方通行の歓喜の雄叫びに耳を傾けると、彼女はうんうんと頷き、ほっと胸を撫で下ろす。
「まったく、アフターケアくらいちゃんとしろよ、また引き篭もられたら意味ないだろうが
とミサカは他の妹達の思慮の浅さに頭を抱えます」
彼女の検体番号は、11111。一方通行にトドメを刺した張本人であり、
また彼を部屋ごと吹き飛ばす計画を立てた張本人でもある。
そう、彼女はただ「もう一度引き篭もられたら面倒だから」という理由で
彼に希望を持たせ、奮い立たせたのであった。
「うおォォォォ!!!春はすぐそこだぜェェェェ!!!」
「あんなに喜んじゃってまぁ……とミサカはあっさり騙されてくれた単純馬鹿な第一位を嘲笑います」プゲラ
物陰に隠れ、全身で喜びを表現している一方通行を小馬鹿にするような目で一瞥すると、
11111号は笑いながら引き上げていった。
「……」
「……」
「……やっべェここ何処だ?」
ある日の午後、薄暗い路地裏の一角で一方通行は思いっきり道に迷っていた。
人生と言う道に、とかそういうのではなく、ただ純粋に自分の現在地がわからなくなっているのだ。
いや人生にも迷ってそうだけどこいつ、しかし今はとりあえず普通の意味で迷子になっているだけである。
「研究所の方角どっちだっけェ?この辺普段来ねェからサッパリわかンねェ」
自慢の学園都市第一位の頭脳で歩いた道順くらいしっかり覚えとけよ、とつっこみたくなるが、
考え事をしながら上の空で歩いていたので仕方が無い。
もっとも、考えていたのは例の様に『運命の人との出会い方』、という非常にどうでもいい事なのだから救えない。
「今日は普段とは違う場所で運命の人を探してみよう」そんなちょっとした思い付きで
いつも歩く道とは別の方向に歩き始めてみたのだが、結果はご覧の有様である。
運命の人が見つからないどころか道に迷う始末、成果はプラスどころかマイナスだ。
「どォすっか……あ、垣根に電話して聞いてみっか」
困った時の垣根である。
「あァもしもし?垣根かァ?おォ、俺だ」
「うン、いやちょっとさァ、道に迷っちまって」
「あ?違ェよ、人生には迷ってねェよ、俺の人生一方通行だよ」
「そォ、普通に迷ってンだ、所謂迷子なンだよクソが」
「で、ちょっとオマエに道聞きたくてだな」
「は、現在地?ンなモンわかってたら迷ってねェよボケ」
「大まかな場所?いやそれもわかンねェ、周りにも目立つような建物はねェな」
「あァ?『それじゃ案内のしようがない』?……ごもっともです」
「オマエのわけわかンねェ能力でなンとかなンねェ?え、無理?それでも第二位かコラ」
「え?『オマエは第一位だろ』だと?だからなンだ格下」
「ン?おい垣根?垣根!?……あの野郎切りやがった」
そら切るわ。
とにかく、垣根に電話しても何一つ状況は好転しなかった。
さてどうしたものか、と周囲を見渡しながら次なる一手を思案していたそんな時、
彼の視界の隅に、ふと見慣れた人物の姿が映る。
「お、アイツは……」
彼のが視線を向けた先にいたのは、常盤台中学の制服に身を包んだ、茶髪でショートカットの少女。
恐らく妹達の一人であろうその人物は一方通行の存在には気付いていないようで、
彼に背を向けのんびりと歩いている。
「丁度いい、アイツに道聞いて……ン?」
渡りに船だ、と彼女に道を聞くために動き始めた彼だったが、その彼の目の前で、
件の少女はガラの悪い、どう見ても善良な一般市民には見えない男達に絡まれ始めていた。
こんな薄暗く人通りの少ない路地裏を少女がたった一人で歩いているのだから
そうなるのはある意味当然だとも言える。
「あーあ、めンどくせェ事になってやがンなァ」
少女に絡んでいるのは四人、聞こえてくる声から察するに、
所謂『スキルアウト』と呼ばれる無能力者の集まりだろう。要するにやられ役のゴロツキどもだ。
男達が少女を誘い、少女がそれを断り先に行こうとすると男達が行く手を阻みしつこく誘う、
そんなお約束じみたやり取りを、一方通行はうんざりした表情で観察していた。
(まァアイツら戦闘用に作られたクローンだし一応能力者だし、
無能力者のゴロツキ四人くらい楽勝だろ。終わるまで待っとくか)
わざわざ割って入るまでも無い、そう判断した彼は近くの壁にもたれかかり、
傍観者を気取ろうとした。しかしそこで、ある事に気付く。
(……待てよ、ここでアイツ助ければ好感度大幅アップじゃね?)
(さりげなく割って入る→かっこよくゴロツキどもを片付ける→優しい言葉をかける→素敵!抱いて!)
(……完璧じゃねェかおい!!よっしゃ行くぜェェェェ!!!)
山ほどの下心を満載し、一方通行は前方にいる少女とかわいそうな男達の下へ
一直線に駆け出した。
「おいオマエら」
「あ?何だテメエ」
「何か用かよ?」
一方通行が声をかけると、邪魔をされた男達は一斉に彼の方を振り向き、不機嫌そうに返事をする。
細身のモヤシ体型であり背丈も高い方ではない一方通行の事を一目見ただけで格下だと判断したようで、
数の利もあり、男達はヘラヘラと馬鹿にするような笑みを浮かべながら、威圧するかのように
ふんぞり返ったまま一方通行の方へとにじり寄って行った。
「その女は俺のツレなンだよ、悪ィがナンパなら他当たってくれねェか?」
「はぁ?何言ってんだこのガリガリ野郎」
「女の前でかっこつけてえのか?ひゃははは!無理すんなよガキ!」
「やっぱ口で言ってもわかンねェか……ま、素直に人の言う事聞くよォなお利口さンなら
『スキルアウト』なンてゴミ溜めには足突っ込ンでねェわな」
「あ!?今テメエ何て言った!?」
「あァ?ゴミみてェな無能どもには人間様の言葉は理解できなかったかァ?」
「ふざけやがって……ぶっ殺されてえのか!?」
一方通行の口から放たれる心底見下したような物言いに男達は色めき立ち、吼え猛る。
そんな彼等のわかりやすい怒り具合に、一方通行はその瞳に嗜虐的な光を宿し、満足気な笑みを浮かべた。
この男、童貞ではあるが基本的にはドSなのだ。最近は妹達に虐げられSっぷりを発揮出来ていなかったので、
ここらで鬱憤を晴らしておこう、とでも考えているのかもしれない。
或いは良い所を見せようと精一杯かっこつけているだけなのかもしれないが……
「そのムカつく口ぶりからすると能力者様なんだろうけどよぉ、状況を見てみろよ」
「どんな能力か知らねえが、わかってんのか?お前囲まれてんだぞ?」
「今なら裸で土下座でもすりゃ許してやってもいいんだぜぇ?」
「ったくうるせェなァ、勝てると思ってンならさっさとかかって来りゃいいだろ
一人じゃ何も出来ねェカスどもが群れて集ってワンワンキャンキャンうざってェンだよ」
「本気で死にてえらしいなあああ!!!」
「構うこたねえ!やっちまえ!!」
更なる挑発を重ねられ、ついに我慢の限界を迎えた男達は一斉に一方通行に襲い掛かる。
そんな彼等を前に、当の一方通行は『何もしなかった』
殴る事も蹴る事もしない。男達の攻撃を防ごうともしない。身構えることすらしない。
にも関わらず、次の瞬間、地面に寝転がっていたのは男達の方だった。
ご存知、一方通行を『最強』たらしめているモノの一つ、反射の膜である。
男達は自分達の行った攻撃をそっくりそのまま反射され、昏倒してしまったのだ。
「一丁上がりってなァ ……おいオマエ、大丈夫だったか?ったく何絡まれてンだよ」
「……あんた、誰?」
「は?何言ってンだ?何号か知らねェけどそういう冗談はマジでへこむからやめろよ」
「いや、私あんたみたいな知り合いいないんだけど」
「……え?」
ぽかんとした表情で事の成り行きを見ていた少女に声をかけた一方通行だったが、
今度は彼の方がぽかんとさせられてしまう。目の前の少女はどうやら彼の事を知らないらしい。
これは一体どういうことなのだろうか。妹達はただ絶対能力進化の為に存在しているのであり、
その被験者である一方通行の事を知らないなどと言う事は有り得ないはずである。
「て言うかやりすぎでしょこれ……何したのよ?」
「え、えェー……」
一方通行の背中に、じんわりと冷たい汗が流れる。
目の前の少女は、妹達と瓜二つの容姿をしながら自分の事を知らない少女は、もしや……
「あのォ、もしかして御坂美琴さンですかァ……?」
「……そうだけど?」
「学園都市のレベル5第三位、通称超電磁砲の御坂美琴さン?」
「他に御坂美琴がいるってんなら教えて欲しいわね」
「……」
「……何よ」
確かに、よく見れば妹達が常に装着している巨大なゴーグルを目の前の少女は着けていないし、
目にもちゃんとハイライトが入っている。妙な語尾の付いた鬱陶しい喋り方もしていない。
目の前の少女は妹達のクローン元、御坂美琴に間違いないようだ。
(……やっべェェェェェ!!!これ超やべェンじゃねェかァァァ!?)
顔には出さないように精一杯努めながら、一方通行は密かに、しかし盛大に狼狽した。
御坂美琴は一方通行や垣根帝督とは違い、血生臭い裏の世界とは無縁の、表の世界の住人である。
当然、彼女は己がかつて登録したDNAマップから自分のクローンが作られていることなど知らないし、
ましてそのクローンを利用した絶対能力進化の事など知っていようはずもない。
そんな彼女と、彼女の遺伝子を悪用した実験を持ちかけられている一方通行が関わって良いはずがないのだ。
そのくらいの分別は流石の童貞にも存在する。
(……出会い方としちゃ悪くはねェよな、十分運命的だろ)
(レベル5の第三位、素性も完璧だ。何より本人は知らねェが深いところで絶対能力進化と関わってる)
(上辺だけ見れば俺の運命の相手としてコイツほど相応しいヤツは他にいねェかも知れねェ……)
(だが、コイツはダメだ!コイツだけはダメだ!!いくら運命感じでもダメなモンはダメだ!!)
(コイツが妹達の事や絶対能力進化の事知ったらすっげェややこしい事になるのは目に見えてる!)
(つーかそれ以前にコイツアレだ、多分面倒な女だ、エヴァで例えるとアスカだ、正直好みじゃねェ、俺は綾波派だ)
(ちょっと勿体ねェがここは……誤魔化して逃げる!!)
「ちょっと、聞いてんの?」
「ン、あァすいませン、人違いでした」
「え、いや何が?」
「いやァホントすいませン、ご迷惑をお掛けしましたァ」
「何言って……」
「それじゃこれで失礼しますゥ、お達者でェ」
「ちょ、待ちなさいよ!!」
「な、なンですかどいてください、人違いだったンです」
「何が人違いなのよ!?分かるように説明しなさい!!そもそもあんた何者よ!?」
「獲物取っちゃったのは謝りますから帰してもらえませンかァ」
「え、獲物って、私が狩りしてたみたいな言い方しないでよ!?」
「違うンですか?流行の無能力者狩りとかじゃ……」
「流行ってないでしょそんなもん!!」
(あーめンどくせェ、こォなりゃ実力行使で……)
「そこまでです!!とミサカは不穏な動きをしている一方通行を制止します」
「スモーク発射!とミサカは一方通行が油断している隙に発煙弾を撃ち込みます」
「な!?」
突如響いてきた二つの声の方を慌てて向き直った一方通行の視界に、
今度こそ、間違いなく、妹達と呼ばれる存在の姿が二人分飛び込んできた。
幸い、御坂はまだ彼女達の姿を確認できていないようだが、時間の問題だろう。
もし妹達の姿を彼女に見られてしまったらどうなるか、考えただけでも面倒臭い。
急いで何とかしなければ、と脳味噌をフル回転させようとした一方通行だったが、
彼があらゆる行動を取るその前に、妹達の一人が放った発煙弾が彼の足元に着弾し、
周囲に濃い煙幕を張り巡らせた。
バシュゥゥゥゥゥゥ!!
「うおォ!?」
「な、何よこれぇ!?」
一方通行を中心に、真っ白い煙が広がっていく。当然彼のすぐ側にいた御坂も巻き込まれ、
突然の事に狼狽し、大声を上げた。
「今です09982号!!一方通行に絡まれていた個体を助け出すのです!
とミサカは二発目の発煙弾をセットしながら隣の09982号に指示を出します」
「心得ておりますとも!とミサカは10032号に返事をしながら
ゴーグルのサーモグラフィーを頼りに煙幕の中に突進します」
(ちっくしょォォォォ!あの馬鹿ども何か誤解してやがンなァァァァ!!)
「ケホッケホッ、ちょっと何なのよこれ!?」
「大丈夫ですか?とミサカは咳き込んでいる個体に声をかけます」
「え、何?誰?」
「何もされませんでしたか?あなたの検体番号は?とミサカは尋ねます」
「ちょっと、え?何言ってんの?」
「混乱しているようですね、一先ずここから離れましょうか、とミサカはかわいそうな個体に優しく語り掛けます」
「お、おい待て!そいつ連れて行くとやべェンだよ!!」
「誰が待つものですか!さ、早く逃げますよ、とミサカは……」
視界を塞がれ、混乱を極めている御坂を煙幕の外へ連れ出そうと09982号が彼女の手を取ったその時、
突如不自然に強い風が辺りに吹き始める。強い風はやがて爆風と呼べるほどの勢いとなり、
周囲を覆っていた煙幕を全てからめとると、天高く巻き上がってそれを雲散させていった。
一方通行が風を操ったのである。
「へ?あ!?」
「なんと、もう対応してくるとは!とミサカは一方通行の演算力に驚愕します」
「く、もう一発!とミサカは発煙弾の照準を……」
「いいからオマエら顔隠してさっさと失せろォォォ!!!」
「な、何を言っているのですか?とミサカは狼狽しながら首を傾げます」
「オマエらが妹達と勘違いして連れて行こうとしてるそいつは……」
「な、何よこれ……」
「オリジナルだァァァァ!!!」
「わ、私がいるうううう!!?」
人通りのない路地裏に、学園都市の第一位と第三位の大声が、ほぼ同時に鳴り響いた。
―――――――――――――――
―――――――――
――――
―人気の無い公園
御坂「で、そろそろ話聞かせてもらえない?」
09982号「……」
10032号「……」
一方通行「……(どォしてこうなった)」
御坂「いつまで黙ってるつもりなのよ」
10032号(やっべーよこれどうなってんだよ、お前何でお姉様に絡んでたんだよ
とミサカは小声で呟きながら一方通行を横目で睨みます)
一方通行(間違えたンだよクソ、誤魔化して逃げようとしてたのにオマエらが余計な事すっから……)
09982号(責任転嫁しないでください、そもそもあなたが存在しなければ起こらなかった事態です
とミサカは小声で一方通行の非を指摘します)
一方通行(存在全否定!?)
御坂「ちょっと!ブツブツ言ってないでいい加減ちゃんと答えなさいよ!!」
一方通行「あのとりあえず俺関係ないンで帰ってもいいですかァ?」
御坂「ふざけてんの!?明らかに知り合いみたいな口ぶりだったじゃない!!
それに『人違いだった』って、私とこの子達を間違えたんでしょ!?」
一方通行「……」
10032号(一人で逃げようとしてんじゃねえぞこら、とミサカは脱走に失敗した一方通行を小声で嘲笑います)
09982号(いやでも実際問題どうします?これもう言い逃れ無理なのでは……とミサカは半ば諦めムードです)
10032号(かといってお姉様に本当の事教えるのも酷でしょう、
自分のクローンが殺される為に造られてます、なんて知ったらどうなるか……
とミサカは表の住人であるお姉様の事を気にかけます)
一方通行「……コイツらアレだ、オマエの妹だよ」
御坂「……確かに似てるけどさ、私に妹はいないわよ」
一方通行「母ちゃんがオマエの知らないところでハッスルしてたンだよ……」
御坂「私の母親をなんだと……その前にあんた達、名前は何?」
09982号「あ、ミサカは09982号です、とミサカは名前の代わりに検体番号を述べます」
10032号「10032号です、とミサカ同じく検体番号を述べます」
御坂「どこの世界にそんな投げやりな数字だけの名前つける親がいるのよ!?
ていうか10000人以上も子作りできるわけないでしょ!!」
一方通行「頑張ったンだなァ、オマエの母ちゃん」
御坂「ふざけんなゴラアアアアア!!!!」
10032号(ちょ、怒らせてどうすんだお前!?とミサカは一方通行の言動に戸惑います)
一方通行(誤魔化せなかったかァ……)
09982号(それで誤魔化せると思ってたんですか、とミサカは第一位の頭脳に疑問を持ちます)
一方通行(つーかオマエら正直に検体番号答えてンじゃねェよ!!もォちょい機転利かせろやァァァ!!!)
御坂「そもそもあんたよあんた!白いの!あんた何者なのよ!?」
一方通行「あ、白いのちょっとコンプレックスなンで指摘しないでもらませン?」
御坂「あ、ごめん……じゃなくて!何者か答えなさいよ!!答えるまで絶対帰さないから!!」
一方通行(絶対帰さない……帰さない……今夜は帰さない……今夜は寝かさない……!!)ハッ
一方通行「やさしくしてください」
御坂「何が!?」
10032号(うわぁ今絶対ろくでもないこと考えてたよこの童貞、とミサカは(ry)
09982号(心の底から気持ち悪い、そりゃ誰も告白OKしねえよ、とミサカは(ry)
一方通行「……一方通行です」
御坂「一方……通行……ッ!!レベル5の第一位、一方通行!?」
一方通行「はい」
御坂「いや、はいじゃなくて……嘘、本当に?」
一方通行「はい」
御坂「……」
一方通行「一方通行だ(キリッ」
御坂「いや別にちょっとかっこつけて言い直さなくてもいいから……」
一方通行「それじゃ答えたし帰っていいか?」
御坂「いいわけ無いでしょ」
一方通行「理不尽だなァ……」
御坂「何が理不尽なのよ!?それよりこの私そっくりの子達は何なの!!」
10032号「……」
09982号「……」
一方通行「そっくりさンって事で手ェ打たねェか?」
御坂「打つかぁぁぁ!!!」
一方通行「世の中にはそっくりな人間が三人はいるって話があってだなァ、
その理屈から行くと今の状況は有り得ないってわけじゃ……」
「おやおや皆さんこんな所で何を?とミサカは寂れた公園にいる四人に手を振りながら近付きます」
御坂「……四人目が現れたわよ」
一方通行「ちくしょォォォォォォ!!!!」
10032号「お前空気読めやぁ!!とミサカはタイミング悪く現れた個体を罵倒します」
09982号「わざとだ、絶対わざとだ……とミサカは近付いてくる固体を嫌疑の目で睨みます」
「え、ちょ、わざとじゃないよ!?て言うか何が!?とミサカはあらぬ疑いをかけられてキョドります」
御坂「……あんた名前は?」
14510号「名前っていうか検体番号は14510号ですが……
って、え?この人ひょっとして妹達じゃない?まさかお姉様!?
とミサカはMNWの過去ログを確認しながら焦ります」
御坂「『妹達』に『お姉様』ねぇ……」
10032号「この、馬鹿が……とミサカは口を滑らせた14510号を罵倒します」
御坂「いや、あんた達も語尾に「ミサカは~」ってつけてる時点で私と関係あるってわかってるから」
10032号「しまッ!?」
一方通行「あァァァ……もォ無理だこれ、誤魔化せねェわ………」
御坂「うんまぁ、なんとなくわかってきたけど……ちゃんと話してもらえる?」
一方通行「……わかったよ」ハァ
10032号「一方通行!?」
09982号「いいんですか?とミサカは不安げに一方通行とお姉様を見比べながら尋ねます」
一方通行「いやもォ仕方ねェだろ、何も説明しなかったら多分勝手に調べるぞコイツ」
御坂「良く分かってるじゃない」
一方通行「勝手に調べた挙句勝手に勘違いして勝手に暴走して
最終的になンかよくわかンねェウニ頭を俺の前に連れてくるに決まってンだよ……」
御坂「何の事!?」
14510号「何かすいません、このミサカが現れなければ……とミサカは間が悪すぎた事を今更謝罪します」
一方通行「気にすンな、どォせ誤魔化せなかっただろォしな……オマエは何一責任感じる必要ねェよ」
14510号「一方通行……」
10032号「そうですね、悪いのは全てあなたです、とミサカは全面的な非が一方通行にあることを指摘します」
09982号「あなたがお姉様をナンパなんてするから……とミサカは溜息混じりに言い捨てます」
一方通行「オマエらは責任感じろ、つーかナンパなンてしてねェ!」
御坂「いいから話を……」
一方通行「おォ悪ィ……オマエにとっちゃ面白くもなンともねェ、ひたすら不快な話になるが、それでもいいかァ?」
御坂「……だってもうその子達の事知っちゃったもん、今更見て見ぬ振りは出来ないわよ」
一方通行「………じゃァ、説明してやる。 『絶対能力進化』って実験があってだな……」
―――――――――――――――
―――――――――
――――
御坂「絶対能力進化、クローン、妹達、二万体……虐、殺……」
一方通行「な、不快な話だったろ?」
御坂「あんた、この子達を!!?」
一方通行「落ち着け、説明中にも言ったが一人も殺しちゃいねェよ。信じられねェってのも無理ねェがな」
御坂「……でも」
10032号「お姉様、一方通行の言っていることは本当です、とミサカは彼が嘘を吐いていない事を訴えます」
09982号「何なら二万体連れてきましょうか?とミサカは提案してみます」
14510号「いやそれは流石に無理だろ、とミサカは09982号につっこみを入れます」
御坂「……この子達の脳天気さ見てると本当っぽいわね」
一方通行「そンな簡単に信じてもいいのか?こンな実験持ちかけられる程度には腐ってンだぞ、俺も」
御坂「でもあんた、妹達のこと大切にしてくれてるんでしょ?」
一方通行「あァ?」
御坂「さっきスキルアウトと私の間に割って入ったのって、私を妹達の誰かと勘違いしてたからじゃないの?」
一方通行「ン、まァな……」
御坂「つまり妹達が絡まれてるのを助けようとしてたってことよね?ほら、大切にしてるじゃない」
一方通行(……100%下心でした、とは言えねェよなァ)
10032号(どう思います?ミサカ達のこと助けようとしてたらしいですよ、とミサカは小声で二人に話しかけます)
09982号(どう考えても下心からですね、好感度アップ狙ってたんでしょう、とミサカは推測します)
14510号(で、でも助けようとしてくれたのは事実みたいですよね、とミサカは……)
10032号(ちょ、お前どうしちゃったの!?とミサカは不穏な空気を出している14510号に焦ります)
09982号(正気に戻りなさい!ミサカ達に無様な告白をしてきた童貞の一方通行ですよ!?
とミサカは慌てて過去の情報を引き出します)
14510号(わ、わかってますよ!とミサカは頭をぶんぶん振って一時の気の迷いを晴らします
でもちょっとだけ……)
10032号(戻って来い!戻って来ぉぉぉぉい!!!とミサカは顔を赤らめている14510号の頬をピシャリと打ちます!!!)
14510号「あいたああ!!!」パチン
一方通行「何やってンだオマエら……」
御坂「あのさ、もう一つだけ聞かせてくれる?あんたはどうして、実験を始めないの?」
一方通行「あァ?そンなモン決まってンだろ」
御坂「え?」
一方通行「俺が童貞だからだ」
御坂「へ?」
一方通行「童貞です」
御坂「ど、どうて、うぇ!?と、突然何言い出すのよあんた!!何の関係があんのよ!?」
一方通行「童貞のまま絶対能力者になったら恥ずかしいだろォが……」
御坂「……え、そんだけ?」
一方通行「うン、それに童貞捨てねェと絶対能力者になれる気がしねェし」
御坂「え、あ、あのじゃあさ、もしその……ドウテイ(ボソ)を捨てられたら……」
一方通行「あァ?ちょっと聞こえなかったンですけどォ?何を捨てたらってェ?」
御坂「だ、だからその……」
一方通行「ン?ほら言ってみろよ、どうした?ン?」
御坂「うぅぅ……」
一方通行「ン~?」
10032号「どこの変態オヤジだお前は!とミサカはお姉様がかわいそうなのでつっこみを入れます」
09982号「ただでさえ低かった株が更に暴落しましたよ、そろそろ廃止されますね、
とミサカは連日ストップ安を更新する一方通行株に頭を抱えます」
14510号「うん、やっぱねえわ、さっきのミサカ本当にどうかしてたわ、
とミサカはちょっと前の自分を絞め殺してやりたい気持ちで一杯です
……でもでも本当に聞こえてなかっただけかも……」
10032号「こいつ本当に同じ遺伝子か?頭ん中花畑すぎるだろ……
とミサカは何やら葛藤している14510号にドン引きします」
御坂「と、とにかく!!もしあんたが純潔を捨てれたらどうすんの!?実験開始しちゃうわけ!?」
10032号「純潔て……」
09982号「一方通行には酷く似合わない言葉ですよね、とミサカは寒気を覚えます」
一方通行「童貞捨てれたらそン時はそりゃオマエ……ン?そン時は……」
御坂「え?」
一方通行「……あー、ン?あれ?いやいや、多分始めねェよ、うン」
御坂「ちょっと何その曖昧な返事!?」
一方通行「大丈夫だ、信じろ」
御坂「信じられるかああああ!!!」
一方通行「第一位嘘吐かねェ」
御坂「さっきまで散々吐いてたでしょうが!!」
10032号「大丈夫ですよお姉様、一方通行は実験を開始しません、とミサカは激昂しているお姉様に声をかけます」
御坂「へ?」
09982号「何故なら一生童貞ですから、とミサカは10032号の言葉を引き継ぎます」
一方通行「おい」
御坂「で、でもほら、無理矢理その辺の女の子襲ったりとかしたら……」
一方通行「オマエは俺を何だと思ってやがる」
10032号「それも大丈夫です、この男童貞卒業に並々ならぬ夢を抱えていますから、
とミサカはお姉様を安堵させます」
09982号「誰に語っても恥ずかしくない運命を感じる相手じゃないと交わりたくない、でしたっけ?
とミサカは童貞の身の程知らずな願望に戦慄します」
御坂「えぇー……」
一方通行(やっべぇなンかすげェ恥ずかしくなってきた)
御坂「も、もしかして、私との出会いに運命感じたりしてないでしょうね……」
一方通行「あ、性格的にオマエみたいな五月蝿いのは好みじゃないンで大丈夫です」
御坂「それはそれでムカつくわ!!!」
一方通行「見た目だけなら合格だけどやっぱり愛し合いながら結ばれたいしィ?」
御坂「キモ!本当にキモい!!でも何かムカつく!!」
14510号「お、お姉様抑えてください、とミサカはお姉様を宥めます」
10032号「そうそう、一方通行に好かれてもいいことなど一つもありませんよ、
とミサカは経験を語ります」
09982号「正直な話、告白されても全く嬉しくありませんでしたから、
とミサカは当時の事を思い出し微妙な顔をします」
御坂「こ、告白された……?」
10032号「はい、この男ただ今童貞卒業の為に二万体の妹達全員に告白する作業の真っ最中なのです
とミサカはトップシークレットな情報をぶっちゃけてみます」
09982号「ちなみに00001号から順番に告白を始めて、今のところ13992戦全敗です、
とミサカは今朝までの戦績を読み上げます」
14510号「も、もうすぐこのミサカの番ですね、とミサカはちょっとだけ緊張をしてみたりします」
御坂「……」
一方通行「そンな目で見ンな、心が痛くなってくるだろ……」
御坂「……わかった、一先ず安心してもよさそうね」
一方通行「一生童貞の認定された!?」
10032号「良かったですね一方通行、信用されましたよ、とミサカは含み笑いをしながら優しく声をかけます」
一方通行「何一つ良くねェ!!」
御坂「でもね、まだ不安だから……」
一方通行「あ?」
09982号「む?」
14510号「お姉様?」
御坂「あんたが純潔を捨てて実験開始しないように、私が全力で監視するわ」
一方通行「」
10032号「わぁおストーカー宣言が飛び出したよ、とミサカはお姉様の予想外の発言に驚愕します」
09982号「良かったじゃないですか一方通行、
一般的に見て可愛い女の子に分類されるお姉様に監視されるなんて願ったりでしょう?
とミサカは一方通行に微笑みかけます」
一方通行「ふざけンな!さっきも言ったが性格が好みじゃねェ!!」
御坂「監視するだけだから、あんたの好みなんて知ったこっちゃ無いわよ
むしろあんたの好みから外れてて良かったわ」
一方通行「……ナメてンじゃねェぞ超電磁砲、俺がその気になりゃオマエなンざ5秒で挽肉に……」
10032号「あー一方通行、もしお姉様に危害を加えたら今後妹達は一切あなたと口利きませんから
とミサカは実力行使に出そうな一方通行を牽制します」
一方通行「ンだと!?」
09982号「あーあ、今あなたに好意を持っている個体も、お姉様が被害を受けたなんて聞いたらどう思うか……
とミサカは14510号に同意を求めます」
14510号「へ?あ、はいそうですね、女性に暴力振るうのは良くないと思います
とミサカは当たり障りの無い回答をしてみます」
一方通行「く……」
10032号「過去にあなたの告白を断った個体の中にも、最近のあなたの態度に絆されて
徐々に好意を抱き始めている者がいるというのに、ここで棒に振るってしまうというのですか?
とミサカは妹達の間で最近あなたの話題が良く出る事をこっそり暴露してみます」
10032号(もちろん嘘ですが)
一方通行「な、なンだと……」
09982号「ほらもう少しなんですよ一方通行、ここは頑張ってお姉様の監視に耐えてください
とミサカは一方通行を励まします」
一方通行「お、おォ……いやなンか話ズレてねェ?」
御坂「とにかく、あんたがどう思おうが私は妹達を守る為にあんたの監視をするから!
これ以上妹達への告白なんかも絶対にさせないわよ!!」
14510号「えっ」
一方通行「えェェ……妹達への告白も出来ず外でも監視されてちゃァどォやって運命の相手を探しゃァいいンだよ……」
御坂「探すなつってんのよ!!」
一方通行「絶対に実験開始しねェから!童貞だけ、童貞だけは捨てさせてくれ!!」
御坂「連呼すんな!!信用できないのよ!!て言うか必死に頭下げないでよ気持ち悪い!!」
一方通行「クソが、こォなったら……」
御坂「な、何よ、やる気!?」
一方通行「逃げる!!オマエの目の届かないところで童貞捨ててやらァ!!!」ダッ
御坂「あ、ちょっと待ちなさい!!絶対捨てさせないわよ!!!」ダッ
10032号「おやおや行ってしまいましたね、とミサカは二人の走って行った方向に手を振ります」
09982号「青春ですねぇ、とミサカは腕組をしながらうんうんと頷きます」
14510号「いや青春なの?とミサカは09982号の発言に疑問を持ちます」
10032号「しかしこれで一方通行からの告白という厄介なイベントを回避できますね
とミサカは妹達の為に身体を張ってくれるお姉様に感謝します」
09982号「よかったよかった、とミサカはこれ以上被害者が出ない事に安堵します」
14510号「うん、よかった……のかな?何だかちょっと残念な気も、とミサカは……」
10032号「……09982号、こいつちょっと11111号のところに連れて行きましょう、とミサカは提案します」
09982号「名案ですね、彼女ならきっとあること無い事吹き込んで14510号の洗脳もサクっと解いてくれるはずです
とミサカは10032号の提案を受け入れます」
14510号「え、ちょ、待って!ミサカは今の自分の気持ちを大切にしたくてですね、とミサカは……
おい離せ!離せよぉ!!とミサカはあぁぁぁぁ!!!」ズルズルズル
「はァ、不幸だァ……」
キャラクターにそぐわないセリフを呟きながら、一方通行は明け方の町をとぼとぼと歩いていた。
まだ日も昇りきっておらず辺りはぼんやりと薄暗い。当然彼の他に通行人など見当たらない。
普段なら彼もまた、いびきをかいて眠っている時間帯である。そのはずが何故こんな事になっているのか。
理由はたった一つ、とある少女のせいである。
というのも先日の夕刻、いつもの様に運命の人を探していた彼は、
不幸にも彼の監視役を自称する御坂に発見されてしまい、散々追い掛け回されるハメになったのだ。
なんとか撒いたものの気付いてみれば全く見覚えの無い道に迷い込んでおり、
そのまま当ても無く彷徨っていたら夜が明けてしまったというわけだ。
おまけに御坂から逃げている過程で溝に嵌るわ犬には吼えられるわ、
偶然遭遇した布束砥信に「寿命中断(クリティカル)!!」と叫ばれるわ、もう散々である。
どこぞの不幸少年が乗り移ったとしか思えない。冒頭のようなセリフも吐きたくなるというものである。
「疲れた、腹減った、眠ィ、帰りてェ……あ、もォダメだ」
能力で補助していたとは言え一晩中寝ずに歩き通したのだ、ついに疲労は限界を迎え、
一方通行は壁にもたれかかるようにして地べたにへたり込んでしまった。
その情けない姿は、とてもではないが学園都市の第一位という座に君臨している化物には見えない。
「光合成とか出来りゃいいのによォ……超能力の研究とかより人体に葉緑素取り込む研究しろよ……」
徐々に昇り行く太陽を力無く眺めながら、虚ろな目で訳の分からない事をぶつぶつと呟く。
身体だけではなく頭の方も限界が近いようだ。
しばしそのまま柔らかな太陽の光を直視していた彼だったが、流石に眩しくなってきたのか、
チッと舌打ちを零すと、眉をひそめ、視線を横にずらした。と、その先に妙なモノを発見する。
「なンだありゃ?」
彼の視線の先、あまり綺麗だとは言えない学生向けマンションのベランダの手摺に、何か白い物が引っ掛かっていた。
最初は布団か何かを干しているのかとも思ったが、時折風も吹いていないのにピクピクと動いているところを見ると
どうも何かの生き物のようだ。
「あれは……女だなァ!」
一方通行の眼が怪しく輝く。そう、ベランダに引っ掛かっているのはどうやら真っ白い服を着た少女のようで、
童貞センサーでそれを認識した途端、今にも倒れそうになっていた彼の身体の奥底から不自然な程のエネルギーが湧き上がった。
これが童貞の力である。
(どっかのベランダの手摺に引っ掛かっているのを発見する……運命の出会いだろ!)
どんな運命だ。いや運命ではあるのだが、それは本来他人の運命である。奪ってはいけない。
科学と魔術が交差しなくなってしまう。とはいえそんな事情など知らない、
仮に知っていたとしても気にしないであろう一方通行はニタリと不気味な笑みを浮かべると
能力を使った跳躍をし、一跳びに白い服の少女の元、マンションのベランダへと乗り込んだ。
「こンな所でなァにやってンですかァ?」
「ふぇ!?だ、誰!?」
突如真横に現れた顔色の悪い男に声をかけられ、白い服の少女はベランダに引っ掛かったまま狼狽する。
そりゃこんな展開全くの予想外だ。この状況で声をかけられるとすれば普通は部屋の中から以外に考えられず、
まさか外からベランダにすっ飛んでくる男がいるとは誰も思うまい。
「通りすがりの者ですけどォ?」
「ここ、結構高いよね?それに他人の家のベランダを通りすがるなんて怪しいかも!」
「オマエも似たようなモンだろ」
「……言われてみればそうかも」
(なンかコイツ馬鹿っぽいなァ……既にハズレの気配がしやがる)
少女の間延びした受け答えに、一方通行は早くも『ハズレ』の烙印を押そうとしている。
勝手に運命を感じて勝手に期待して勝手に話しかけて、何処かの誰かのフラグを横取りしかけているにも関わらず。
そんな風に相手を値踏みするから童貞なのだというのに、彼がそれに気付く事は無い。
「でェ、オマエはなンでこンな所で布団の真似なンてしてやがンだ?」
「別に布団の真似をしてるわけじゃないんだよ!屋上に飛び移ろうとしてたら
失敗してここに落ちちゃったの!」
少女は一方通行の口調から馬鹿にしたような気配を敏感に感じ取り、憤慨しながらバタバタと暴れ始める。
その様はまるで幼い子が駄々をこねているようで、少女の童顔も手伝い、大変微笑ましいモノに見えた。
場所が場所でなければ。
「お、おいこンな所で暴れンな!!……あっ」
「えっ……あああぁぁぁ……」
一方通行の制止を聞かず、ベランダの手摺に引っ掛かったまま両手足をバタつかせて暴れていた少女は
バランスを崩し地面へと真っ逆様に落下していった。
ベランダから地面までは結構な距離がある。普通なら大怪我は免れないだろう。
打ち所が悪ければ死んでしまうかもしれない。
(……俺のせいなンかなァ)
飛び降り自殺を目撃してしまったかのような気まずさを胸に、
一方通行はこのまま放っておくわけにもいかず、地面に強かに打ち付けられた少女の元へ飛び降りた。
「び、ビックリしたかも……」
「あァ?」
飛び降りた先で、地面にへたり込みながらも少女はピンピンとしていた。それも全くの無傷で。
どれほど運が良かろうと、この高さから落ちて無傷ということは常識的に考えて有り得ない。
しかし現実に白い服の少女は擦り傷一つ負っておらず、
見ていた限り何らかの能力を使ったと言うわけでも無さそうだ。
第一位の頭脳を以ってしても理解不能な事態に、一方通行は首を傾げ、怪訝な目で彼女を見つめた。
「何やったンだオマエ?何で無傷なンだ?」
「え?あぁ、これは『歩く教会』のお陰なんだよ」
「『歩く教会』?何だそりゃ」
「話してあげたいのは山々なんだけど……」
「あン?」
「お腹が空いてこれ以上は喋れないんだよ……何か食べさせてくれると嬉しいかも」
「……確かさっきファミレス見かけたなァ、ここに居座り続けるのも迷惑だし場所変えるか」
「やった!早く連れてって!」
「喋れるじゃねェか」
「細かい事はいいんだよ!早く早く!」
「はァ……」
深く溜息を吐きながらも、一方通行は白い服の少女を伴って歩き始める。
「ハズレっぽいが『歩く教会』とやらも気になるし、もう少し付き合ってやってもいいだろう」
そんな事を考えながら。
一方通行の真っ白い肌と少女の真っ白い服が朝日を反射し、あまり目には優しくない光景を生み出していた。
「んー、いい天気だなぁ。何だか妙な音がしてた気がするけど、気のせいだったか?
……っとやべぇ、補習の準備しなきゃ!」
一方通行と少女が立ち去った直後、一人の少年が二人のさっきまでいたベランダに布団を干していた。
この部屋住人であろうその少年は、先程までのここで何が起こっていたかなど全く知らず、
眩しい朝日に目を細め、ぐっと背伸びをすると、出掛ける準備をして玄関を飛び出して行った。
自分の与り知らぬ所で人生最大のフラグを叩き潰されたのは、果たして彼にとって幸福だったのか、不幸だったのか。
―――――――――――――――
―――――――――
――――
―とあるファミレス
「ガツガツムシャムシャズズズズズ」
「……」
「パクパクモグモグパクパクモグモグ」
「……」
「ハムッ ハフハフッ ハフ!」
「……(きめェ)」
「ムシャムシャごっくん……食べないの?」
「目の前でこンなモン見せられたら食欲も失せるわァ……」
一方通行は目の前の光景をただただ唖然としながら眺めていた。
白い服を着た少女はファミレスに到着するなり
「とりあえず高いものを上から順に30品ほど持ってきて欲しいんだよ」
などと訳の分からない注文をし、実際に運ばれてきたとんでもない量の料理を
凄まじい勢いで平らげていったのだ。
一体彼女の小さな身体の何処にこんなに入るのか……
(おかしい……明らかに食った量がこのガキの質量を超えてやがる……)
「ねぇ、食べないんならそれも貰っていいかな?」
「あ、テメエこの野郎!」
一方通行が呆然としていた隙に、少女は彼の注文した料理にまで手を伸ばす。
かと言ってそれを許す一方通行ではない。彼とて一晩中歩き通して空腹なのだ。
伸ばしてきた手を慌てて叩き落とすと、少女は頬を膨らませ、露骨に不満そうな顔をした。
「むー、ちょっとくらいくれてもいいのに!ケチ!」
「散々食っといて何言ってンだ!?つーかちょっとじゃ済まねェだろ絶対!!」
「それじゃ同じ物を注文して欲しいんだよ!」
「もォ好きにしろよ……」
投げやりにそう言うと、少女は本当に追加注文を始めてしまった。
そのあまりに旺盛な食欲に、一方通行はがっくりと肩を落とす。
胃袋だけでもレベル5並の研究価値があるのではなかろうか。
「ガツガツガツ……」
(あーやっぱダメだコイツ、ハズレだ、大ハズレだ……そうだ、垣根辺りに押し付けれねェかな)
延々食べ続けている少女を尻目に、一方通行は携帯電話を取り出し、少女の写真を撮影する。
パシャリと撮影音が響いた時に少女は不思議そうな顔をしていたが、そんなことは意に介さず
彼は写真を添付したメールを垣根に送信した。
【To】垣根
【sub】こンなン拾ったンだけど
――――――――――――
オマエいらねェ?

―――――END―――――
(……返信こねェな)
メールを送信して数分、垣根からの返事は無い。まだ朝早いため眠っているのだろうか。
それとも暗部の仕事でもこなしているのか……何れにせよ困ったものだ、と一方通行は鳴らない携帯を睨みつける。
そんな風に返信待ちをしていると、ようやく少女の食事が終わったようで、
彼女は弾ける様な笑顔を浮かべながら、ぽんぽんと自分のお腹を軽く叩き始めた。
「げふぅ、ご馳走様なんだよ」
「お粗末様でしたァ……で、早速なンだが話聞かせてもらえるかァ?」
「なんだっけ?」
「……とりあえず名前から聞かせて貰おうか」
「私の名前はインデックスって言うんだよ!」
「(インデックス……?能力名か?)……じゃァインデックスさンよ、オマエはあそこで何を……!!!」
インデックスと名乗った少女に質問を続けようとテーブルに身を乗り出した一方通行だったが、
唐突に、凄まじい悪寒をその背に受け、言葉の中断を余儀なくされる。
近い言葉を探すとすれば、それは 怨念と呼べた。
尋常の人々には全く無害のものである。そよ風が吹いたとすら感じはすまい。
しかし、類稀なる戦闘センスを持つ超能力者が、その感受性を以ってその念を身に受けた時――
(が……はァッ……!!)
「ど、どうしたの?顔色が悪いかも!」
手足が痺れ、胃液が逆流するかのような不快感。脳の奥で鳴り響く警笛信号。
彼はその感覚に覚えがあった。当然である、ほんの数時間前までその怨念の塊に追い回されていたのだから。
「よぉぉぉやく見つけたわよ一方通行ァァァァ!!!」
「何でオマエがここにいるンだよォォォォォ!!!」
恐る恐る振り返った一方通行が目にしたモノ、それはバチバチと電気を纏い、
髪を逆立てブチギレている御坂美琴の姿であった。
「そんな子にまで手を出そうだなんて……そんなにアレを捨てたいの!?」
「出さねェよ!そりゃ童貞は捨ててェけどコイツはねェよ!!」
御坂は一方通行が脱童貞して絶対能力進化を開始しないよう監視するという使命を勝手に抱いている。
そんな彼女の前で女性と二人っきりで食事をしているのだからこれはもうブチギレられても仕方が無い。
一方通行は既に目の前のインデックスと名乗った少女を女性的に見限っていたのだが、
ここまでの経緯を知らない御坂の目には彼がこれから少女に手を出そうとしているようにしか見えなかった。
そもそも、実際下心を持ってベランダに引っ掛かっているところに声をかけたのだから、
誤解、とも言い切れないだろう。
「さぁて、あんたがそっちの子に何もしないように今日も監視させてもらうわよ!」
「チッ……おいインデックスつったか!金はここに置いとくから後は好きにしやがれ!!」
「へ?」
「あ、ちょっと待ちなさいよ!!」
机に数人の諭吉先生を叩きつけ、一方通行は脱兎の如くレストランから逃げ出す。
御坂もまた、憤怒の形相で周囲に電撃をばら撒きながら彼の後を追って行った。
一人取り残されたインデックスは、突然の出来事にしばし呆然とし、
とりあえず料理の追加を注文することにした。
―――――――――――――――
―――――――――
――――
―街中
一方通行「ハァ、ハァ……撒いたか……」
一方通行「クソ、こっちが手ェ出せないと思って好き勝手やりやがってあのアマ……」
一方通行「お陰であのガキから何の話も聞けなかった……大量の飯奢っただけかよ……」
一方通行「つーかもう夕方かよ!丸一日無駄にしちまったじゃねェか!」
<透き通る 夢を見ていた~♪
一方通行「……ン?携帯に着信……垣根からの返信か、今更かよ」
【From】垣根
【sub】Re:こンなン拾ったンだけど
――――――――――――
悪い、仕事中でメール見てなかった
まだ写真の子いる?結構リアルに欲しいんだけど
とりあえず今からそっち向かうわ
―――――END―――――
一方通行「遅ェよクソ、仕事と出会いどっちが大事なンだよこの馬鹿……」メルメル
【To】垣根
【sub】Re2:こンなン拾ったンだけど
――――――――――――
もういねェよカス
遅すぎンだよ
だからこっち来てもなンもねェぞ
つーか何処にいるか知らねェだろ
―――――END―――――
一方通行「送信っと……」
垣根「おいこらふざけんな!!こっちはもうテメエの背後にいるんだぞ!!」
一方通行「うおォ!!?メリーさンかオマエは!?どうやって現れやがった!!」
垣根「俺の未元物質(ダークマター)に常識は通用しねぇ(キリッ」
一方通行「いやもォいいからそういうの……」
垣根「それよりいねえってどういう事だよ、ちゃんと確保しとけよ」
一方通行「だって俺の好みじゃなかったしィ?」
垣根「そんな選り好みしてっから童貞なんだよテメエは」
一方通行「選り好みしてなくても童貞な垣根くンは黙っててくださァい」
垣根「うるせえよ、何で俺には出会いがねえんだよ、不公平じゃねえか!」
一方通行「いやァ、好みじゃねェ女と出会えてもなァ……」
垣根「クソ、余裕かましやがって……ん?おい一方通行、あれ見ろ、あそこ」
一方通行「あァ?……あれは」
インデックス「ハァ、ハァ、ハァ……」タッタッタ
垣根「メールに添付されてた写真の女だよな?やべ、運命じゃねえかこれ?」
一方通行「偶然ってあるンだなァ……だが待て、なンか様子が変じゃねェか?」
垣根「……確かに、何か追われてるって感じだな」
一方通行「学園都市結構治安悪ィからなァ……」
垣根「おい行ってみようぜ、ちょっと気になるわ」
一方通行「仕方ねェな、付き合ってやンよ」
インデックス「ハァハァ……」
一方通行「おいガキ」
インデックス「!?」ビクッ
一方通行「そンな怯えンなよ、俺だ俺」
垣根「いや、いきなりオマエの顔が間近にあったら俺でも怯えるわ、やめてやれよ」
一方通行「さっきオマエに似たような事されたけどな」
インデックス「あ、今朝の白い人……」
一方通行「オマエに白いとか言われたくねェ」
垣根「はじめましてお嬢さん、垣根帝督と申します」
インデックス「あ、はじめまして、私はインデックスって言うんだよ」
垣根「インデックス……素敵な名前だ……」
一方通行(なにこれきめェ)
インデックス「あ、ありがと……じゃなくて!二人ともすぐに逃げて!私に関わっちゃダメなんだよ!!」
一方通行「あン?何言ってンだ?」
垣根「やっぱ何かに追われてたんじゃねえ?だが安心しろお嬢ちゃん、俺達は……」
「そこまでだよ、その子をこっちに渡してもらおうか」
インデックス「く、もう追いついてきた!」
「さぁインデックス、追いかけっこは終わりだ」
垣根「あぁ?テメエか、この子を追い掛け回してんのは」
一方通行「妙な格好しやがって、何者だテメエ」
ステイル「僕かい?僕の名はステイル=マグヌス。出来ればもう一つの名は名乗りたくないが
それは君たち次第だね」
垣根「もう一つの名?何言って……」
インデックス「気をつけて!そいつは魔術師なんだよ!」
一方通行「ま、魔術師だァ?」
垣根「何だそりゃ?」
ステイル「……まったく困った子だ、魔術師だとバラしてしまうだなんて」
ステイル(とはいえ、彼らの反応を見るに魔術師がどういう存在かはわかってないようだね
これならわざわざ消すまでも無い、か……)
垣根(おい、魔術師だってよ、何かの隠語か?)ボソボソ
一方通行(魔術師……魔法使い……よォするに高齢童貞ってことじゃねェ?)ボソボソ
垣根(なるほど。おいおい大先輩じゃねえか、敬わねえといけねえな)ボソボソ
一方通行(待てよ垣根、そンな高齢童貞の魔法使いがどうして女を追い掛け回してるンだと思う?)ボソボソ
垣根(どうしてって……ま、まさか!?)ボソボソ
一方通行(そォ、レイプしか考えられねェ)ボソボソ
垣根(いくらモテないからってそんなの……魔法使いがこんな若い子を相手に……)ボソボソ
一方通行(あァ、許せねェ、許せねェよなァ、そンなの……)ボソボソ
ステイル「……?何をぶつぶつと話し合っているんだい?さ、早くインデックスをこっちに……」
垣根「テメエは……」
ステイル「?」
垣根「テメエは童貞の風上にも置けねぇ!!!」
ステイル「え、何?」
一方通行「テメエみてェなのがいるから!童貞ってだけで迫害される人間が出てくンだよ!!」
ステイル「ちょっと待って、意味がわからない」
垣根「覚悟しやがれ、テメエはここで血の海に沈めてやる!!」
一方通行「ダンスの時間だぜクソ野郎、BGMはテメエの断末魔だァ!!」
ステイル「く、何だかよくわからないがインデックスを渡すつもりは無いという事か!
ならば名乗らせて貰おう……『Fortis931』!!」
―――――――――――――――
―――――――――
――――
ステイル「ほんとすいませんでした……」ズタボロ
ステイル「ルーンを極めた天才とか呼ばれてちょっと調子乗ってたんです、ごめんなさい」
ステイル「いえ違うんです、レイプしようとか思ってないです」
ステイル「はい、いえ魔術師ですけど、はい……違います、いえ童貞ですけど」
ステイル「事情があるんです、あんまり話せないような事情が……いえですからレイプでは……」
ステイル「はい、はい、確かにその子の事は特別に思ってます、はい」
ステイル「いえ違います、ほんとレイプとか考えた事もないです」
ステイル「あの、そろそろ正座といても……あ、ダメですか、そうですよね、はい」
ステイル「いえ文句なんてそんな……はい、大人しくしてます」
垣根「結局何なんだこいつ?」
ステイル「……」
一方通行「レイプ魔じゃねェらしいが……おいインデックス」
インデックス「よかった、ようやく出番が来たんだよ、何でも聞いて欲しいんだよ」
一方通行「ンじゃ聞くが、コイツは……」
「そこまでです、インデックスとステイルをこちらに引き渡してもらいましょう」
インデックス「折角出番だったのに……」
一方通行「あァ?また何か出やがったぞ、何だこの女」
垣根「何そのボロボロのシャツとジーンズ……ファッションセンスぶっ飛びすぎだろ、流石の俺も引くわ」
「……もう一度言いますよ?インデックスと、そこで正座している馬鹿をこちらに渡してください」
一方通行「オマエもこの馬鹿の仲間か」
ステイル「え、ちょっと何でナチュラルに僕が馬鹿呼ばわりされてるんだい?」
神裂「神裂火織と申します。あなた方と争うつもりはありません、出来れば話し合いで解決したいと考えています
インデックスを返してください、彼女はそのままでは……」
垣根(おい一方通行、どう思う?)ボソボソ
一方通行(迷う余地なンてねェよ、渡さねェ)ボソボソ
垣根(だけど何か深刻そうな顔してんぞ?話くらい聞いても……)ボソボソ
一方通行(馬鹿が、年齢不詳の怪しい女と高齢童貞の魔法使いが組ンでンだぞ?
これがどォいう事かわかンねェのか?)ボソボソ
垣根(高齢童貞と怪しい女……まさか!!)ボソボソ
一方通行(そォ、この女はいやがる少女に無理矢理売春させてるに違いねェ!)ボソボソ
垣根(なんてこった……この街の闇はどんだけ深えんだよ!?)ボソボソ
一方通行(全てを闇から救い上げる事なンざ出来っこねェが……
ただ、関わっちまった分だけは救ってやろうじゃねェか)ボソボソ
垣根(あぁ……)ボソボソ
神裂「相談は終わりましたか?では返事を……」
垣根「渡さねえよ、渡せねえ」
一方通行「残念だったなァ、インデックスは俺達が救ってみせる」
神裂「……そうですか、では仕方がありませんね……神裂火織、参ります!」
―――――――――――――――
―――――――――
――――
神裂「すいません、調子に乗ってました……」ボロ
一方通行「ったく、何なンだこの女、散々暴れやがって……」
垣根「つーかマジで何者だよ、一人だったらやばかったかも知れねえぞ……」
神裂「あの、ほんと話だけでも聞いて貰えませんか……土下座でもなんでもしますんで……」
垣根「おい一方通行、今更だけど俺この人が売春の斡旋してるようには思えねぇんだけど」
神裂「ば、売春!?」
一方通行「まァ、こンだけ必死に戦うって事はなンか事情があるのかも知れねェな
話くれェは聞いてやるか。インデックスもそれで……あれ?」
垣根「ん、あれ?おいインデックス?何処行った?」
ステイル「あぁ、彼女ならさっき……」
~回想中~
インデックス「どうせ出番無いし、いなくなってもわからないよね?」
ステイル「インデックス?」
インデックス「ちょっと最初からやり直してくるんだよ」
ステイル「何を言ってるんだい?」
インデックス「もっと活躍できる、出番の多いヒロインポジションに付きたいの」
ステイル「ちょっと待ってくれ、何処に行くつもりだい?」
インデックス「ベランダ」
ステイル「……ベランダ?」
~回想終わり~
ステイル「と言うことで何処かに行ってしまったよ」
一方通行「いつの間に……」
ステイル「君達が神裂と戦う前にボソボソ相談してただろう?あの時にさ」
垣根「引きとめろよこの馬鹿!」
ステイル「足が痺れて立てなかったんだよ!僕のせいじゃない!!」
神裂「やかましい、このド素人が!!私は何の為に戦ってたんだ!?」
垣根「俺の折角の出会いをどうしてくれんだ!!」
ステイル「し、知らないよそんな事!気付かない君達が馬鹿なんだろう!?」
垣根「あ?……ナメてやがるな。よほど愉快な死体になりてえと見える」
神裂「自分は何の役にも立ってない癖に、必死で戦って何とか交渉まで漕ぎつけた私を馬鹿呼ばわりですか、そうですか……」
ステイル「え、ちょっと待って、何で君達そんなに殺気立ってるんだい?」
一方通行「もォどォでもいいわ、とりあえずコイツで憂さ晴らししようぜェ?」
垣根「賛成だ、俺の運命の出会いを潰してくれた償い、してもらうぞ」
神裂「お手伝いさせていただきます……」
ステイル「か、神裂まで!?待ってくれ!まだ足が痺れて満足にうごけな……
あ、やめて!痺れた足をつつかないで! ちょ、待、痛い痛い痛い!!!」
ステイル「ぬわああああああ!!!!!」
―翌朝
「はぁ、今日も補習か……不幸だ……ん、何だ今の音?」
「ベランダの方からだったよな……ん?」ガラガラ
「……」
「女の子が手摺に引っ掛かってる!?なんだこの状況!!」
「ねぇ」
「はい?」
「ご飯をくれるとうれしいな」
「え……?」
「お腹が空いてるって言ってるんだよ?」
「え、ええぇぇ?」
かくして歯車は元の場所に収まり、物語は無事幕を開ける。
だからといって、彼女が出番の多いヒロインポジションにつけるかどうかは甚だ疑問ではあるが。
「お客様、申し訳ございませんが、ただ今満席となっております」
「えェー……」
「マジかよ……」
8月某日の昼時、一方通行と垣根帝督、学園都市のトップ2は安っぽいファーストフード店のカウンターで頭を抱えていた。
というのも冒頭のセリフの通り、昼食を取る為にこのファーストフード店に入ったは良いが、
店内は生憎の満席で、見渡す限り人の海。とてもではないが腰を落ち着けて食事を取れる環境ではなかった為だ。
だが、満席だからと言って今から別の店を探すという選択肢は有り得ない。
それは別に他の店を探すのが面倒だとか、これ以上炎天下の中を歩くのが暑くてだるいから、とかそういう理由では勿論無い。
一方通行は自慢の反射により自分の元に届く熱量を適量に調整できるし、
垣根はワケわからん能力で冷房的な何かそれっぽいモノを作り出して身体を冷やす事が出来る。
つまり季節など無関係に快適な温度を作り出す事が出来る彼等にとって39度の蕩けそうな日など敵ではないわけだ。
では何故この場で食事を取る事に拘っているのか?
その答えは簡単で、単に彼等が期限の迫ったこの店のクーポン券を大量に所持しているというだけの事である。
そう、クーポン券だ。彼等二人が連れ立ってファーストフード店を訪れているのもそのクーポン券が原因なのだ。
と言っても『原因』などと言うほど大袈裟なモノではなく、
垣根が何処からか仕入れてきたクーポン券を「勿体無いから使おうぜ」
という話になったという、それだけの事なのだが。レベル5が二人揃ってなんともみみっちい事である。
どうして二人なのかって?他に誘うような友達いないんだよ、言わせんな恥ずかしい。
とにかく、クーポン券を消費する為にわざわざ二人の住んでいる場所のどちらからも離れているこの店に来たと言うのに、
満席で食事を取れませんでした、というのは余りにも悲しい結末である。
何せ他に目的もないのだから、これでは移動時間を無駄にしただけだ。
「なンとかなンねェのかァ?」
「せっかく来たのにこれじゃなぁ……」
「あの、お客様、相席でしたらございますが……」
カウンターの前で大袈裟に落ち込む二人に、堪らず店員が助け舟を出す。
そりゃこんな童貞二人にいつまでも居座られちゃ迷惑だもんね。
「相席かァ……どォする?」
「いいんじゃねえ?このまま帰るわけにもいかねえだろ」
「まァな……ンじゃ店員さンよ、案内してもらえるか?」
「かしこまりました、こちらへどうぞ」
店員の一人に連れられ席に向かう。途中ちらりとカウンターの方を振り返ると、
相席すら取れなかったらしいツンツン頭の少年が項垂れながら「不幸だ」などと呟いている。
どうやら一方通行と垣根が案内されている席が本当に最後の最後だったようで、二人は僅かばかりの罪悪感を覚えた。
「こちらの席になります。それではごゆっくりどうぞ」
「え、おいちょっと待て」
「あァ、クソ行っちまった……」
「……どうするよこれ」
案内された席で、二人は再び頭を抱える。その席の先客が普通の人間だったのなら
彼等は迷う事無く腰を下ろしていただろう。しかし今、彼等は空いている座席を前に呆然と立ち尽くしている。
つまりはその先客は普通ではないということだ。具体的に言うと、彼等の目の前では今
巫女装束に身を包んだ一人の少女が、机に突っ伏していたのだ。
とてもではないが、マトモな光景とは言えないだろう。
「……なンで巫女服?つーかなンで寝てンだ?」
「落ち着けよ一方通行、これはひょっとして、運命なんじゃねえか?」
「どンな運命だよ、オマエの運命範囲広すぎだろ、肩ぶつかっただけでも運命って言うつもりかよ」
突如、訳の分からない事を言い始める垣根に、一方通行は眉をひそめ反論する。
ベランダに引っ掛かってた女に運命感じてたお前が言うな、というつっこみを入れたい所ではあるが、
とりあえずこの場において彼の言い分は正当だと言えよう。
相席になった少女が偶々巫女服を着ていたくらいで運命を感じるというのは流石に無理がある。
運命を感じるよりも面倒な事態を予測した一方通行は、あまりこの席に座るのに気乗りしないようで、
他に座れそうな席は無いかと辺りを見回したがやはり見つからず、猛烈な勢いで顔を顰めた。
「まぁそんな顔せず聞け、この前のインデックスだっけ?覚えてるか?」
「ン?あァ、覚えてっけど」
「アイツさ、何かシスターっぽい格好してたじゃん?」
「そォ言やそンな格好してたな」
「で、今ここに突っ伏してる子は巫女服を着てる」
「あァ」
「運命だろ」
「何が!?」
シスターと巫女服には何の関連も無い。いったい垣根の頭の中ではどのような繋がり方をしたのだろうか。
とは言え他に席は無く、また垣根もここから離れる気はないようで、というか垣根は既に腰を下ろしており、
一方通行も渋々と腰を下ろすハメとなった。
「よく見ろ一方通行、顔は見えねえが、黒髪ロングで美人っぽい感じがしねえか?ちょっと幸薄そうだけど」
「俺ロングヘアーよりショートカット派なンでェ……幸薄そうなのは好きだけどなァ」
「相変わらず好みが偏ってんなオマエ……なぁ、この子に声かけてみてもいいかな?」
「あァ?好きにしろよ、つーか生きてンのか?俺らが座ってもなンの反応もしねェぞ?」
「人口呼吸イベント……アリだな」
「ねェよ」
普段出会いの無い垣根はここぞとばかりに思考を暴走させ、
そこそこ出会いに恵まれている一方通行は呆れ顔でそれをいなす。
童貞同士ではあるが、ここにも格差が生まれかけていた。
「お嬢さん、どうなさいました?大丈夫ですか?」
(きめェ)
キリッとしたキメ顔で、垣根は身を乗り出し、巫女服の少女に話しかける。
ダンディで張りがあり色気を含むその声は、飢えた肉食系女子なら一発KO出来るだけの威力を持っていた。
とは言え、目の前の少女が肉食系女子とは限らず、また同性の一方通行からすればひたすら気持ち悪いだけで、
垣根自慢のキメボイスにこの場で効果が期待できるのかは疑問である。
「う……く……」
垣根の声に反応したのか、少女はようやく顔を上げると、呻くように苦悶の声を漏らした。
その顔は少々地味ではあるが確実に美人に部類され、垣根は舌なめずりしたくなる気持ちを抑えて
彼女を嘗め回すように観察する。他方、興味無さげにしていた一方通行であったが、
彼女のあまりにも苦しそうな声に流石に少々慌て、彼女の方に身を乗り出した。
「お、おいどォした?」
「おいコラテメエは引っ込んでろ、これは俺の運命だ」
「いやそンな事言ってる場合か?」
「く……」
言い争いを始めそうな二人の声を遮り、再び少女から声が漏れる。
そして――
「……食い倒れた」
一言そう言い残すと、彼女は再びバッタリと机に突っ伏し、ピクリとも動かなくなってしまった。
「……食い倒れだァ?」
「何だこの子、大阪人か?」
「大阪人に偏見持ちすぎだろオマエ」
「んだよ、食い倒れの街って言うじゃねえか」
「ねえ、それより救急車呼ぶか助け起こすかした方がいいんじゃない?
私が電気ショック試してみてもいいけどさ」
「いや食い倒れにそれは大袈裟だろ、しばらく様子を………ン?」
「え?」
目の前の少女について考察していた二人の間に、その声は余りにも自然に混ざってきた。
自然すぎて一瞬スルーしかけた程だ。しかし第一位の頭脳で何とか違和感に感付いた一方通行は
声の発信源を見て愕然とする。
「……何よ?」
学園都市の第三位、御坂美琴は、余りにも自然に彼等と同じテーブルを囲んでいた。
「うわァァァァ!!!!なンでいンの!?なンでいンの!?」
「何よ、いちゃ悪いって言うの?」
「良くねェだろ!!おかしィだろ!!!」
「え、この子誰?一方通行、知り合いか?」
「あ、はじめまして。御坂美琴って言いまーす」
「これはご丁寧に……垣根帝督と申します、お嬢さん」
「なンで自己紹介しあってンだオマエら!?」
混乱する一方通行を尻目に、垣根と御坂は互いに頭を下げあう。
そんな異常な光景を目の前に、一方通行は巫女服の少女の事など一瞬で忘れ、
酷く狼狽しながらもつっこみをいれた。
「何でってオマエ、とりあえず初対面のレディには自己紹介するのが礼儀だろ」
「垣根さんね、言っちゃ悪いけど付き合う人はもう少し選んだ方が良いと思うわ
一方通行と一緒にいても絶対ろくな事にならないから」
「心配するな、自覚はある」
「うるせェよクソボケどもが!マジでなンでここにいるンだよオマエ!?」
「あんたが変な事しないように見張るのが私の役目だし?」
「なンでこの場所がわかったかって聞いてンだよ!」
「んー……なんとなく?」
「意味がわかンねェ……」
「何ていうかこう、ビビッと来たって感じ」
「なンだそれ理解不能な怖さがあるンだけど、つーか帰れよ何もしてねェから」
「とにかく、私が来たからにはあんたの好きにはさせないから」
「たまには俺の話聞いてくれねェ?」
「それより喉渇いたからシェイクでも買ってきてくれない?」
「オマエどンだけフリーダムだよ」
「……何か、残念な子だなコイツ」
一方通行と御坂のやり取りを観察していた垣根が、ポツリと感想を漏らす。
「残念な子」、そう言いたくなる気持ちも確かに分かる。
何せいきなり「見張り役」などとストーカー宣言した上に、一方通行の話を全く聞かず
わけの分からない事を言いながら一方的にこの場に居座ろうとしているのだ。
彼女のこの態度を「残念」と言わずなんと言おう。
「誰が残念な子よ誰が!!」
垣根の見下すような発言に、御坂はキッと彼を睨みつけ、机をバンバンと叩きながら反論する。
その反動で、突っ伏している少女が何度も額を机にぶつけるハメになっているのだが、そんなモノはもはや目に入っていない。
どう見ても残念な子です、本当にありがとうございました。
「オマエだよオマエ、顔は悪くねえのに勿体ねえ……残念過ぎて俺の未元物質もピクリとも反応しねえよ」
「だよなァ、やっぱコイツには反応しねェよな」
「アンタらに反応されても嫌なだけだけど、やっぱりこれはこれでムカつくわね……」
以前一方通行から放たれた「好みじゃない」発言に続き、今度は垣根にまで「反応しない」
などと言われてしまった御坂は、ひくひくと顔を引き攣らせ、その額にビキビキと青筋を浮かべる。
そりゃまぁ、ようするに「女としての魅力を感じない」と言われているようなものなのだから、
青筋の一つや二つも出来ようというものだ。
「エヴァで例えると新劇場版で新キャラのメガネに出番奪われまくったアスカ並に残念だわオマエ」
「そこまで言うのは流石にちょっと酷くねェか?最上級の残念さじゃねェか」
「何の話よ!?」
「正直あのメガネにビーストモードで逆レイプとかされてみてえ」
「流石の俺もそれは引くわァ……」
「本当に何の話!?て言うか残念残念って、私がレベル5第三位だってわかって言ってんの!?」
訳の分からない例え話に憤慨し、遂に御坂は切り札を切り、自分がどのような存在かを垣根に叩きつける。
そう、彼女はこの学園都市にたった七人しかいないレベル5の第三位、ただの残念な子ではないのだ。
目の前の垣根と言う男が何者かは知らないが、自分が超能力者である事を知らせてしまえば
これ以上ケンカを売るような態度は取ってこないだろう、と御坂はそう考えていたのだ。
しかし彼女はよく考えるべきだった。何故一方通行と垣根が一緒にいるのかを。
思い出すべきだった。垣根が、第一位である一方通行に対してどのような接し方をしていたのかを。
気付くべきだった。彼等二人が、あたかも対等の友人のように会話をしていた事に。
学園都市の第二位、垣根帝督は顔色一つ変えず、涼しい顔で御坂の第三位発言を受け流した。
「レベル5、第三位……あぁ、御坂ってどっかで聞いた事あると思ったら常盤台の客寄せパンダちゃんか」
「なっ!誰がパンダよ!パンダは私じゃないわ!!」
予想外にも挑発染みた発言をやめない垣根に、御坂は狼狽しながらも反論する。
そう、垣根の見せた反応は、彼が第二位だと言う事を知らない彼女にとっては完全に予想外のものである。
御坂が頭の中で描いたシナリオは、彼女が第三位だという事を知った垣根は
今までの非礼を土下座するかのような勢いで詫び、更にご機嫌取りの為にシェイクを奢ってくれる
という何とも都合の良いモノであった。と言っても、実際に垣根が大した事無い能力者だったとしたら
そのシナリオ通りに事が運んだ可能性も結構高いのだが、現実とは非情である。
「『私じゃない』って事は他にパンダがいンのか?」
御坂の発言に対し、一方通行が素朴な疑問を口にした。
「パンダは私じゃない」……この発言からすると確かに、自分はパンダではないが
他にパンダがいる、と言っているようにも聞こえる。
「え?あぁ、後輩にそれっぽいのが一人……」
「いンのかよ……」
「パンダでも通えるのかよ、常盤台すげえなオイ」
一方通行の疑問に対し、御坂は一人の後輩を頭に思い浮かべながら肯定する。
その答えを聞いた垣根は、制服を着たパンダが椅子に座して授業を受けている、
という何ともシュールな光景を想像し、心の底から感心した、というような声を漏らした。
もっとも、実際には垣根の想像しているような事はいくら学園都市でも有り得ず、
御坂の言う後輩がパンダだと言うのは見た目ではなく、その可哀相な名前の事なのだが……
「いやもうパンダはどうでもいいのよ、それよりあんた!いったい何様だって言うの!?」
「ん?あぁ俺か、そういや名前しか言ってなかったな」
声を張り上げながら、御坂はパンダに思いを馳せていた垣根に食って掛かる。
その声に想像を中断された垣根はめんどくさそうに御坂の方を見ると、
小馬鹿にしたような笑みを浮かべ、気取った仕草で前髪を掻き揚げながら口を開いた。
「改めて自己紹介と行こうか。ハジメマシテ第三位のお嬢ちゃん
第二位、未元物質の垣根帝督だ」
「だ、第二位!?」
ここに至り、ようやく御坂は目の前の男が自分よりも格上の存在だと言う事を理解する。
今まで彼女が気付かなかったのも無理はない。学園都市の暗部に住まう第二位の詳しい情報など、
表の世界の住人である彼女が知っているはずがないのだ。
裏の世界の住人なのに何故か名前が売れている一方通行が異常なのである。
「第二位だなんて、そんな……」
「どうだビビッたか?態度を改める気になったか?」
「第一位と第二位が両方馬鹿だなんて学園都市は一体どうなってるのよ!?」
「何この子、序列が理解出来ない程残念な頭してんの?」
「こォいう奴なンだよ……つーか誰が馬鹿だコラ、馬鹿なのは垣根だけだ」
「……あ?何言ってやがるこの白モヤシ、表に出るか?」
「ハッ、そンなに自殺してェンなら手伝ってやるよ」
「やっぱ馬鹿じゃんあんたら」
「君達。ちょっと静かにして欲しい」
「「!?」」
突如聞こえてきた声に三人は驚き動きを止める。
そう、彼等は三人とも揃いも揃ってこの場にもう一人いたことをすっかり忘れていたのだ。
と言うか覚えていた方が何人いただろうか。
机に突っ伏していたはずの巫女服の少女は、いつの間にか顔を上げ、
少々恨めしそうな顔で三人の方を見つめていた。
「私は食べ過ぎてお腹が痛い。だからゆっくり休むためにも静かにして欲しい」
「あ、あァ、そォいや食い倒れたとか言ってやがったなァ」
「これは失礼致しましたお嬢さん、よろしければ膝をお貸ししましょうか?」
「あんたそれ紳士って言うかもうただの変態じゃない……」
にこやかに自分の膝をぽんぽんと叩く垣根に、御坂は頭を抱え溜息を吐く。
本当に何でこんなのが第二位なんだろうね。
「膝は遠慮する。それよりも」
「何だ?俺に出来ることなら何でもするぜ?」
「オマエの笑顔は本当に嘘くせェなァ」
「気持ち悪いわよね」
「おい第三位、いい加減にしねえとミンチにすんぞ」
膝は断られてしまったが、代わりに何か頼みごとがあるらしい。
やはりこれは運命だ、と勝手な判断を下し、笑顔で巫女服の少女に語りかける垣根だったが、
その表情からはまるで詐欺師のような胡散臭さが滲み出ており、一方通行にそれを指摘され、
更に御坂には純粋に笑顔が気持ち悪いと罵倒される。
御坂の放つ悪意ある言葉にイラ立ち、一度張り倒してやろうか、などと考えた垣根だったが、
彼が御坂の方を振り向いた時、既に彼女は一方通行という最強の盾の背後に隠れていた。
「ニヤニヤ」
(このガキうぜえええええ!!!)
(すまねェ垣根、コイツに傷付けたら妹達に口利いて貰えなくなるかも知れねェンだ……)
「ねえ聞こえてる?」
「お、おぉ悪い、それで何だっけ?」
巫女服の少女は再び自分を無視した展開になりそうな状況を察知し、
凄まじい形相で御坂を睨みつけている垣根に話しかける。
垣根の方も一先ず御坂は保留しておく事に決め、若干顔を引き攣らせながらも
何とか笑顔を作り少女の方へ向き直った。
「お金を貸して欲しい。100円」
「ん、金?別に構わねえが、100円ぽっちでいいのか?」
「うん。帰りの電車賃が100円足りないだけだから」
「電車賃がねェっつーのはどォいう状況なンだよ……」
「無計画に買い物でもしまくったんじゃない?」
「つまりお嬢ちゃんは今から家に帰るわけだな?だったら電車使うよりもいい方法があるぜ」
「……それはなに?」
100円を受け取ろうと垣根に向かって右手を突き出していた少女だったが、
垣根は一度出しかけた100円玉を財布に仕舞い、「良い事を思いついた」と人差指を立て、
少女に向かって微笑みかけた。
「俺が家まで届けてやるよ、電車なんぞより遥かに速えし快適だぞ」
やっぱりろくな考えじゃなかったよ母さん。
(直球勝負に出やがったなコイツ……)
(電車より速くて快適ってどういう能力なんだろ?)
「折角だけど遠慮する」
しかし垣根の素晴らしい思いつきは、残念ながら少女のお気に召さなかったようで、敢え無く一蹴されてしまう。
笑顔から一転、垣根は死んだ魚のような目をして項垂れ、世界の終わりが来たかのような深い溜息を吐いた。
ちょっと大袈裟過ぎる反応だが、そんな彼を流石に不憫に思ったのか少女は弁解するような口調で言葉を続ける。
「勘違いしないで。別に君に運ばれるのが屈辱だというわけじゃない」
「ん、あ、そうなのか?ていうか屈辱って……」
「そう。見ず知らずの君に迷惑をかけなくても帰る手段が見つかったから」
「あ?それはどういう……」
「おい垣根、ちょっと周り見てみろ」
「あぁ?何だよ………!!……こいつは」
少女の言葉の続きを聞こうとしていた垣根だったが、彼らの会話は一方通行の若干緊張が混じった声に中断される。
そして一方通行の発言に促され、めんどくさそうに周囲を見回した垣根はその状況に絶句した。
いつの間にか自分達以外の客はほとんどいなくなっており、
そればかりでなく、彼等は黒いスーツを着た複数の男達に取り囲まれていたのだ。
他の事に集中していたとは言え、暗部で感覚を磨いている垣根が囲まれるのに気付かぬほど
その男達は存在感が希薄で、目を閉じるとまるでそこに何も存在していないと錯覚してしまうほどだ。
どう甘く見積もっても尋常な状況とは言い難い。
しかし警戒する彼等を尻目に、巫女服の少女はぼんやりとした表情のまま立ち上がると
無警戒にその男達に歩み寄った。
「お、おい」
「……この人達、あなたの知り合いなの?」
「そう。塾の先生」
御坂の問いかけに、少女は迷う素振りも見せずに即答する。
少しばかり妙な気配を感じるが、実際少女と男達は知り合いらしく、
彼女が男達の一人に右手を突き出すと、その男は財布を漁り、100円玉を探す素振りを始めた。
なるほど彼女の言った「帰る手段が見つかった」というのはこういう事なのだろう。
つまりこれで垣根は完全にお払い箱だと言うわけだ。
「残念だったなァ垣根くゥン、もォ俺達の出る幕は無さそうだぜェ?」
「……いや、まだ終わってねえよ」
「ちょっと、人間諦めが肝心よ?それにしつこい男は嫌われるって」
「ま、今回は運命じゃなかったと思って諦め……ッ!!」
冷やかし半分で垣根を慰めていた一方通行だが、ある違和感を覚え、言葉を止める。
まるで自分たちの住む世界に、空間に、異物が混ざったような不自然な感覚。
その中に、僅かではあるが悪意を感じとった彼は素早く発生源を探すべく周囲に目を光らせる。
そして、それは意外なほどあっさりと、思った以上に身近で見つかった。別に隠す気も無かったのだろう。
「……垣根くン何やってンの?」
違和感の正体。何の事は無い、垣根がこっそりと能力を発動し、未元物質を空間に混ぜ込んでいたのだ。
混ぜ込んだと言っても、それは一方通行がようやく感知できると言うほど微量であり、
御坂も、少女も、スーツの男達も当然、空間の変質には気付いていない。
また一方通行に感付かれたからといって垣根が特にうろたえている様子もない。
巫女服の少女との運命が今まさに潰えそうだというのに、彼は今にも鼻歌を歌いだしそうなほど上機嫌に微笑んでいた。
「おいコラ、何企ンで……」
「ま、見てな」
「うっ!」
「ぐはぁ……」
「「!?」」
突如、巫女服の少女に小銭を渡そうとしていた男がその場に倒れ、それを皮切りに
彼等を取り囲んでいた男達が次々と倒れていく。いったいどうしたと言うのか?
考えるまでも無い、垣根の仕業である。未元物質で何かしらの攻撃を仕掛けたのだろう。
とは言えその事に気付いているのは一方通行だけであり、御坂と巫女服の少女は目の前の異常な光景に、
ただただぽかんと口を開けて呆けるしかなかった。
「オマ、ホントに何やってンだ!?」
突如民間人に危害を加え始めた垣根に、一方通行が驚愕の声を漏らす。
しかし当の垣根はその問いに答えず、すくと椅子から立ち上がると、
結局100円を受け取る事が出来ずにその場に立ち尽くしていた少女の肩に手を置き、
優しげに声をかけた。
「あー、何か塾の先生倒れちゃったな、残念残念、何があったんだろうなぁ?
ほら、こうなったら仕方ねえからさ、やっぱり俺が送って行くよ」
つまりはそう言う事だ。少女に100円を渡そうとしていた塾の先生達を邪魔者と判断し排除、
そうして頼る者のなくなった彼女に優しく声をかけ、好感度を上げる、という作戦である。
最悪のマッチポンプだと言えよう。
「そう。じゃあお願いする」
そして、目の前で人がバッタバッタと倒れていくと言う異常な光景を目にして
少々思考停止気味だった少女は、大して考えず、垣根から差し伸べられた手を素直に握ってしまう。
げに恐ろしき第二位の頭脳、一度は離れかけた運命を咄嗟の機転で再びその手に掴み取る事に成功したのだ。
「よし、じゃあ行くか、えーっと、名前教えて貰えるか?」
「私は姫神。姫神秋沙」
「姫神ちゃんね、俺は垣根帝督だ、よろしくな」
「オイコラ待て垣根!」
姫神を伴って店から出て行こうとする垣根を、一方通行は慌てて呼び止める。
「あ?何だよ、テメエは大人しく第三位にストーカーでもされてろ」
「誰がストーカーよ!人聞きの悪い事言わないで!」
「垣根、オマエが今やってンのはナンパと変わらねェ行為だぞ、そンなモンが運命だなンて言えンのか?」
「……俺はこの子に運命を感じたんだよ、一方通行。だから俺は、例えナンパにしか見えなくてもこの道を行く
運命ってのは自分の力で切り開くモノだろう?」
「いやちょっと何言ってんのあんたら、正直意味がわからない上に気持ち悪いんだけど」
「……わかった、もォ止めやしねェよ。だが、俺もついて行く」
「あぁ?」
「どォにもオマエはそのままじゃ道踏み外しそうだからなァ……
清らかなお付き合いをするってンなら止めねェが、もしオマエが無理矢理その子を襲おうとしたらそン時は……」
「襲いやしねえよ、けどまぁついて来るんなら好きにしろ、
別にデートするわけでもねえし、単に家まで送ってくだけなんだからな」
「よし、それじゃさっさと行くか。案内頼むぜ、姫神さン?」
「ようやく出番。わかった」
「あ、ちょっと待ちなさいよ!」
姫神を先頭に、一方通行と垣根はさっさと店から出て行くと、
しばらくぼうっとしていた御坂も慌ててそれに続いた。
(……なンか忘れてるよォな)
(あっ、結局クーポン券使ってねェ!つーか何も食ってねェ!!何しに来たンだ俺ら!?)
―――――――――――――――
―――――――――
――――
―街中
垣根「で、ここが姫神ちゃんの住んでるところか?」
一方通行「どォ見ても家には見えねェ……つーかビル群じゃねェか」
姫神「そう。私はこの三沢塾にお世話になっている」
垣根「塾に?まぁこんだけでかい建物なら下宿くらいできそうだが」
御坂「あ、あんたら、飛ぶなんて反則でしょうが……」ゼェゼェゼェ
一方通行「走ってついてきたオマエも反則級だろ十分」
姫神「送ってくれてありがとう。もうここまでで大丈夫」
垣根「そういうわけにも行かねえな、折角だから親御さんに挨拶の一つでも……」
一方通行「なンでだよ」
垣根「そりゃオマエ、俺と姫神ちゃんの仲を親公認にする為にだな」
姫神「私と君はそんな仲じゃないと思う。それに親はいない。保護してくれている人ならいるけど」
垣根「んじゃその人でいいわ、ちょっと顔見せしてくる」テクテク
姫神「待って。一人で行くと危ないかもしれない」テクテク
一方通行「あァおい待てって」テクテク
御坂「……休む時間くらい、よこしなさいよ」ゼェゼェ
―三沢塾内部
垣根「見た通り広ぇなぁ……姫神ちゃんよ、保護者さんはどこにいるんだ?」
姫神「それなんだけど。帰ったほうがいいと思う。あの人は疑り深い」
垣根「疑り深い?そりゃどういうことだ?」
一方通行「オマエの怪しい顔見せたら姫神をどォにかされたと思われるンじゃねェか?」
垣根「テメエこのイケメンを捕まえて怪しい顔だと!?」
御坂「ねぇ何処かに水飲む場所とかないの?自動販売機でもいいけどさ」
一方通行「オマエはもォ帰れ」
姫神「私の話を聞いて欲しい」
「騒然、うるさいぞ貴様ら」
垣根「あ?何だこのおっさん、何処から湧いて出やがった」
一方通行「緑色の髪のオールバックに白いスーツ?どンなファッションセンスだよオイ」
御坂「髪の色も服装もあんたには言われたくないでしょうけどね」
「憮然、なんと失礼な連中か」
御坂「ちょっと、私まで含めないでよ」
垣根「あ?誰に向かって口利いてやがるこのおっさん」
姫神「待って。その人が私を保護してくれている人」
垣根「……え?」
一方通行「マジか、このホストみてェな格好したおっさんが?」
姫神「本当。アウレオルスと言う」
御坂「学園都市に外人さん?珍しいわね」
垣根(やっべえ……保護者さんに挨拶して姫神ちゃんと公認の仲になる予定だったってのに
これじゃ第一印象最悪じゃねえか!!何とか挽回しねぇと……)
垣根「……」ジッ
アウレオルス「何だ?」
垣根「……えっと、素敵なネクタイですね、派手な格好したあなたの中で唯一地味目で……」
アウレオルス「貴様、馬鹿にしているのか?」
垣根(失敗しただとおおおお!!!他にこのおっさんの何処褒めれば良いってんだクソがあぁぁぁ!!!)
一方通行「なァに頭抱えてンですか垣根くゥン」
御坂「どうせろくでもない事考えてたんでしょ……」
アウレオルス「貴様らは……」
姫神「待って。この人達は私を送って来てくれただけ」
アウレオルス「何?」
垣根「そう、そうなんですよ。俺達は困ってた姫神ちゃんをここまで送って来て……」
一方通行「弁解必死すぎるだろオマエ」
御坂「何ていうか見てて痛々しいわよね」
垣根「黙ってろテメエら!!」
アウレオルス(送って来た……?では彼女を奪い私の邪魔をしようとしているわけではないのか?)
垣根「そもそも俺と姫神さんはとあるファーストフード店で出会ってですね……」
一方通行「なンか語りだしちゃったよコイツ」
御坂「保護者に気に入られようと必死なんでしょ?」
アウレオルス(……確かに敵意のような物は感じられない。必然、しかし確認をする必要はある)
アウレオルス「貴様、」
垣根「そこで何故か塾の先生たちが倒れてしまったので俺が優しく……はい、何か?」
アウレオルス『――目的を喋れ』
垣根「姫神さんを俺にください」
姫神「」
一方通行「垣根くゥゥン!?」
御坂「ちょ、いきなり過ぎるでしょ!?」
アウレオルス(なるほど、どうやら本当に彼女を送って来ただけのようだ、ならばこれ以上用はない)
アウレオルス『もう良い、帰……』
垣根「必ず幸せにします!ですからどうか姫神さんを俺に下さい!是非下さい!!」
一方通行「おい落ち着け垣根!突然どうしたンだよ!?」
御坂「ほ、ほら姫神さんも困ってるわよ!」
姫神「」
アウレオルス「貴様ら、私の言葉の邪魔を……」
垣根「将来的には赤い家を建てて白い犬を飼って、子供は三人ほど……」
アウレオルス「唖然、そこまで喋れとは命じていない」
一方通行「すいませンすいませン、この馬鹿すぐ連れて帰りますから」
御坂「ほ、ほら帰るわよ!姫神さんも保護者の人もドン引きしてるから!」
垣根「まだだ!まだ俺は目的を伝えきってねえ!!老後は子供や孫に囲まれて幸福に……」
御坂「いい加減に……しろぉ!!」バチバチバチ
垣根「効かねえなぁ!!」ファサ
御坂「わ、私の電撃が効かない!?何なのよその羽!!」
アウレオルス(純白の翼だと!?まさかこの少年、本物の天使だとでも言うのか!?)
垣根「vaghdafmpouhasl」
一方通行「何言ってンだオマエ!?何語だよそれ!」
アウレオルス(愕然、このような男と会話が成立するはずがない……こんな相手に敵うはずが……あっ)
アウレオルス(無理だって思っちゃった……)
アウレオルスの黄金練成(アルス=マグナ)、それは世界の完全なるシミュレーションを頭の中に構築する事で、
頭の中に思い描いた物を現実に引っ張り出すという恐るべき魔術である。
ただ思い浮かべるだけで、その考えが実現するという反則的な魔術、
しかし本当に全てが思い通りに歪んでしまうという事こそ、その弱点でもある。
アウレオルス自身が自分に不利な状況を想像してしまえば、それもまた実際に起こってしまうというわけだ。
垣根の純白の翼を見て、彼の事を本物の天使だと思い込んでしまったが故に、
垣根は本当に天使のような理解不能の言語を発し始め、その彼に「敵わない」と思ってしまった為、
本当に敵わない領域にまで押し上げてしまったのだ。
結果、アウレオルスは目の前の状況に絶望し、ゆっくりとその場に倒れ伏した。
―――――――――――――――
―――――――――
――――
―とあるファーストフード店
垣根「あのおっさん、何で突然ぶっ倒れたんだろうな?」
一方通行「知らねェよ、貧血かなンかじゃねェ?」
垣根「姫神ちゃんも何か『目的が果たせなくなった』とか怒ってたし、結局今回も運命を逃しちまったのかぁ」
一方通行「ま、諦めなけりゃそのうち運命に巡り合えるだろ、気長に行こうぜ」
御坂「私がいる限りあんたには運命なんて絶対に訪れさせないけどね」
一方通行「いい加減帰れよオマエ」
学園都市は、今日も呆れるほど平和でした。
「ふ、不幸だ……」
その日、とある少年がとある公園内で四つん這いになって項垂れていた。
哀愁誘う格好で半泣きになっているその少年、名を上条当麻と言う。
彼の前にあるのは『お金を呑み込んでしまう事がある』と一部では有名な自動販売機。
つまり今のこれは、不幸にもその情報を知らなかった上条が、不幸にもなけなしの札を自動販売機に投入してしまい、
不幸にもその札を呑み込まれてしまった、という状況だ。
「学園都市の自動販売機が壊れてるなんて有り得ねーだろちくしょー!」
ここ学園都市は、都市外の世界と比べ科学技術が数十年は進んでいると言われている場所である。
そのような街にある自動販売機がこのような壊れ方をしているなど、いったい誰が予想できようか。
やり場のない怒りを胸に、上条は叫びながら右拳を握り締め、ガンガンと地面を殴りつけた。
入れたのが千円札だったのなら、貧乏な彼には致命傷ではあるが、まだ諦めきれたかもしれない。
しかし彼が入れたのは今時珍しい二千円札であった。これはなんとしても取り戻さねばならない。
訳在って大喰らいの穀潰しを一人飼っている彼にとって、千円の差というのは非常に大きいのである。
食費を削ったりすると穀潰しに何を言われるかわかったものではない。
上条は今一度自動販売機にすがりつき、お金の返却レバーを全力で上下に動かした。
「うおぉぉぉ!!!戻って来い!戻って来いぃぃぃ!!!」
しかし必死の行動もむなしく、自動販売機はウンともスンとも言わない。
やがて返却レバーを弄っても無駄だと理解した上条は、酷く悲しげな目をしながら、自動販売機から一歩距離を取った。
諦めたのだろうか?否、違う。
彼の右拳は、メキメキと音がするほど強く握り締められていた。
「いいぜ自販機……てめえが俺の二千円札を返さねえってなら……」
「まずはそのふざけた幻想を――」
「おいそこのウニ頭、買わねェンならどけ、邪魔だ」
決め台詞の無駄遣いをしながら自動販売機をブン殴ろうとしていた上条の行為は、
不意に背後から聞こえてきた声により中断される。
ハッと我に返った彼が振り返ると、そこには真っ白い髪に真っ白い肌をした不健康そうな少年が
何とも不機嫌そうな表情で立っていた。
「あ、あぁ、悪い」
「ふン」
自分の一連の怪しい行動を見られていたのではないだろうか、と不安に思いながらも、
上条はとりあえず素直にその白い少年に場所を譲る。
しかし彼の不安を余所に、少年は上条の事など全く眼中に無いという風に自動販売機の前に立つと、
ごそごそとポケットを漁り、やがて革製の高級そうな財布を取り出した。
当たり前の事だが、ジュースを買うつもりなのだろう。
「あ、ちょっと待て!」
「あァ?」
今まさに財布から札を取り出そうとしていた少年に、上条は慌てて待ったをかける。
上条当麻は例え自分が不幸であろうとも、目の前で他の誰かが不幸になろうとするのを良しとしない。
このまま放っておけば、この白い少年も魔の自動販売機によってお金を呑まれてしまう可能性がある、
そう判断した上条は、目の前の少年が自分と同じ目に合わぬよう、純粋な善意で彼を呼び止めたのだ。
「なンだよ?俺喉乾いてンだけど」
「その自販機さ、何か壊れててお金呑み込んじゃうんだよ」
「マジか」
「マジもマジ、大マジだよ。俺もたった今呑まれちまったんだ」
「あァ、それで自販機にすがりついたりしてたのかオマエ」
「あ、やっぱり見られてたのね……」
恥ずかしい姿を見られていたのはともかく、何とか白い少年の不幸を未然に防ぐ事に成功した。
上条はそれだけで十分満足だった。二千円札を失ったのは痛手だが、代わりに人助けが出来たのだ、
家で待っている穀潰しも一応シスターという職業なのだし、人助けだと言えば許してくれるだろう。
「しかし災難だなァオマエ」
「不幸には慣れてますよ……」
「ふゥン?……で、いくら呑まれたンだ?」
「へ?二千円札だけど……」
「レアな札持ってやがったンだな……まァいい、わざわざ教えてくれた礼にその二千円取り戻してやンよ」
「え、でも返却レバーも効かないんだぞ?どうやって……」
「まァ見てな」
「二千円を取り戻す」そう言うと少年は自動販売機に手を伸ばし、まるでノックするように
コンコン、と二、三回その胴体を叩く。たったそれだけで、まるでビデオの巻き戻し再生のように
札の投入口から、先程上条が入れた二千円札が戻ってきた。
ついでにジュースが二本、受け取り口から転がり出てくる。
「ほら、戻ってきたぞ」
「お、おぉ」
白い少年に促され、戻ってきた二千円札をおずおずと受け取る。
無能力者の上条には何が起きたのかは理解できなかったが、
それでも目の前の少年が何らかの能力でお金を取り戻してくれた事くらいはわかった。
情けは人のためならず、とはまさにこの事である。
他人にかけた情けは、巡り巡っていつか自分に返って来るものなのだ。
「ついでにジュースも一本やンよ」
「あ、サンキュ……ってこれは所謂泥棒では……?」
「細けェ事言ってンじゃねェよ、金入れられねェンだから仕方ねェだろ」
「まぁ……それもそうか」
少々の罪悪感を感じながらも少年の言葉に納得し、受け取った缶ジュースの蓋を開ける。
「いちごおでん」と書かれたその缶からは得体の知れない臭いが漂って来ているが、この際文句は言えまい。
一口飲んでみると、やはりそれはとてもではないが美味とは言い難く、
上条はその場に吐き出したくなる衝動を必死に堪え、極力味を感じないよう、一気に喉に流し込んだ。
いちごとおでんと言う最悪のミスマッチ、このジュースはいったい誰が得をするというのだろうか。
(く……喉は潤うんだ、我慢我慢……ん、)
ジュースとの格闘に意識を集中していた彼がふと気付くと、
白い少年はもう一つのジュースを片手にテクテクとその場から離れていくところだった。
まだ禄に礼も言えていない上条は慌てて去って行く彼に走り寄る。
「お、おいちょっと待ってくれよ!」
「あァ?今度はなンだよ」
「いや、お金取り戻してくれたしさ、折角だし何かお礼させてくれないか?」
「いらねェよ、オマエみたいな貧乏そォな奴にたかるほど落ちぶれちゃいねェ」
「うぐ……そりゃまぁ上条さんは確かに貧乏ですが……」
「ンじゃいいな?今度こそ行くぞ」
「あ、だから待てって!」
白い少年の直球な一言に若干心を痛める上条だったが、
これまでのやり取りからこの少年が悪い人間でないという事はよくわかっている。
不機嫌な表情と荒い言葉遣いに隠されているが、根は良い奴なのだろう。
今の言葉だって、上条に余計な負担をかけまいとする優しさの裏返しなのかもしれない。
現実はめんどくさがっているだけと言う可能性が高いのだが……
何にせよ、更に引き止めようとする上条に対し、少年はうんざりしたような表情を作りながら向き直った。
「何なンですかァ?」
「あーその、名前くらい聞かせてもらえないか?」
「名前ェ?別に名乗るほどのモンじゃねェよ、俺はただの……」
「ただの、通りすがりの童貞だ」
(通りすがりの、童貞……)
白い少年が去った後、上条は彼の残した言葉を頭の中で反芻した。
上条はこれまで童貞とは恥ずべきものだと認識していた。
と言っても童貞を劣等だ、欠陥だ、などと思っていたわけではなく、
ただ漠然と恥ずかしいな、と思っていた程度ではあるのだが、
それでも人前で堂々と言うような事ではないと、他人に声高に宣言するような物ではないと考えていた。
しかしあの少年はどうだっただろう。彼の童貞発言は実に自然なモノだった。
童貞である事を誇っている言うわけでもなく、かといって自虐していると言うわけでもなく、
白い少年は極自然体で「童貞だ」と言い放ったのだ。
それは下手に気取った言い方をするよりも何倍も美しい響きで上条の胸に届いた。
童貞である事を認め、受け入れ、そして悲観せず前に進もうとする……
白い少年の童貞発言には、そんな黄金の意思が込められているようにすら感じられた。
「俺もいつか、あいつみたいに『童貞だ』と自然に言える日が来るだろうか……」
この出会いは、後に上条の人生観を大きく変える一因となる。
童貞を秘匿すべき物だと認識していた上条当麻はここで死に、彼は生まれ変わったのだ。
―――――――――――――――
―――――――――
――――
「ちょいとそこのあなた」
「……あァ?俺か?」
上条当麻が転生を果たしていたその頃、公園から少し離れた道を
ジュースを飲みながらだらだらと歩いていた白い少年― 一方通行は、やけにしゃがれた声に呼び止められていた。
今日呼び止められる事が多いな、などと考えながら彼が振り向くと
その先には、しゃがれ声からは想像も出来ないような可愛らしいツインテールの少女が立っている。
はて今の声は本当に目の前の女が出したモノなのか、と疑い周囲を見渡した一方通行だったが、
自分と少女の他に人影は無く、どうやらしゃがれた声で呼びかけてきたのは間違いなく目の前の少女のようだ。
一方通行(かわいそうに、声で苛められてるンだろォなァ……)
「な、何ですの、その哀れむような視線は……」
一方通行「気にすンな」
「……まぁ良いですの、それよりも少々お時間よろしいですの?」
一方通行「よろしくねェ!」カッ
「なっ!?」
一方通行「名前も名乗らないような怪しいヤツの為にくれてやる時間なンざ1秒もねェ!」
白井「……失礼致しました。わたくし、白井黒子と申しますの」
一方通行(白で黒……名前でも苛められてンだろォなァ……)
白井「だから何なんですの!?その哀れみの目は! とにかくこれでお時間よろしいですのね!?」
一方通行「よろしくねェ!!」カッ
白井「何故に!?」
一方通行「そンなババア声で俺を誘惑しようなンざ46億年遅ェ!生命のスープからやり直してきやがれ!!」
白井「だ、誰がババア声ですの!?しかも誘惑って何ですの!?」
一方通行「あァ?違ェのかよ、てっきりまたうざってェ逆ナンかと思ったンだが」
白井「自意識過剰ですの!わたしくはそんなに軽い女じゃありませんの!!」
一方通行「ですのですのうるせェ、じゃァ何なンだオマエ」
白井「ジャッジメントですの(キリッ」
一方通行「……で、その風紀委員(ジャッジメント)の白黒さンが俺に何の用ですかァ?」
白井「実は先程、この近くの自動販売機からお金を盗んでいる輩がいる、と通報がありまして」
一方通行「ほォ」
白井「その泥棒さんの特徴と言うのが、白い髪、白い肌、黒いシャツ、ついでに赤い目、と言うものだったんですの」
一方通行「ふゥン……で?」
白井「で? じゃありませんの!そんな外見の方、あなた以外におりませんの!!」
一方通行「あァ?良く探せよ、世界中探せば何人かいるだろ」
白井「いやいやいや、世界にはいてもあの自動販売機の近くにはあなたしかおりませんの!
申し訳ありませんが、詰め所で事情を聞かせていただきますの」
一方通行「お断りですの!」
白井「な、この期に及んで何を!? て言うかですのって言うなですの!」
一方通行「語尾が移っちまったですの、オマエのせいですの」
白井「ば、馬鹿にしているんですの!?」
一方通行「馬鹿にしているんですの!!」
白井「ムッキー!!何て失礼な殿方ですの!?こんなに不愉快な気分になったのは生まれてこの方始めてですの!!」
一方通行「あァ!?こっちのセリフだボケが!!こンなに不愉快な気分になったのは
この前垣根の家に遊びに行ったらアイツが熟女モノのAVとロリモノのAVの同時上映やってた時以来だ!!」
白井「どなたですの!?」
一方通行「オマエに教えてやる義理はねェ!」
白井「あぁはい、もうどうでもいいですの……とにかく詰め所までご同行願いますの……」
一方通行「だから断るつってンだろ、話聞けよババア」
白井「だ、誰がババアですの!?声だけですの声だけ!!」
一方通行「ふゥン声がババアなのは認めるンですねェ」
白井「くうぅぅ、絶対に許しませんの!窃盗容疑以外にも色々罪をでっち上げてブタ箱にぶち込んでやりますの!!」
一方通行「おいおい、治安を守るはずのジャッジメントがそンな物騒な事言って良いのかァ?」
白井「あなたのような犯罪者に人権などありませんの!!世の為人の為、力ずくでも連行させていただきますの!!」
一方通行「へェー、オマエみたいなガキがどォやって俺を連行するってンだ?」
白井「そんな態度を取っていられるのも今のうちですの。
わたくし、これでもレベル4の空間移動能力者ですのよ?
あなたのような貧弱そうな殿方の一人や二人、お茶の子さいさいですの!」
一方通行「ふゥン、凄いンですねェ」
白井「謝るんなら今のうちですのよ?大人しく詰め所まで来て頂けるのならわたくしも手荒な真似は……」
一方通行「お断りだァ!テメエみてェな白だか黒だかパンダだかオセロだかシマウマだか
わかんねェよォな名前のヤツに頭下げるなンざ俺のプライドが許さねェ!!」
白井「がああぁぁ!!もう許しませんの!!ぼこぼこにした挙句強制連行の刑ですの!!」
一方通行「来いやこのパンダがァァァァァ!!!」
白井「ジャッジメントですのおおおお!!!!」
―――――――――――――――
―――――――――
――――
白井「申し訳ございませんでした……」
白井「はい、はい、調子に乗っておりましたの、ぶっちゃけわたくし滅茶苦茶強いんじゃね?とか思ってましたの」
白井「知らなかったんです、知らなかったんですの、まさかあなたが第一位様だっただなんて……」
白井「いえですからババアでは……いえ何でもありませんの、はい、デコピンは勘弁してください」
白井「パンダとは呼ばないでくださいまし!そこは譲れませんの!!」
白井「白井黒子!白井黒子ですの!!白井黒子……ホクロじゃねぇですの!!」
白井「そもそもあなたのような白い方に白だの黒だの言われたく……え、ちょ、何やってるんですの?」
白井「『圧縮圧縮』って、いったい何を圧縮してるんですの!?ちょ、待ッ!!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」
白井「と、ところで自動販売機からお金を盗んだのは本当にあなたでは……あ、違うんですのね、はい」
白井「あの、そろそろ正座をといても……アスアファルトに直で正座は乙女の柔肌には……」
白井「あ、ダメですのね、はい、本当に申し訳ございませんの……」
一方通行「ったく、次からはちゃンと話聞けよこの一人オセロが」
白井「誰が一人オセロですの!!わたくしはそんな寂しい休日は送っておりませんの!!」
一方通行「それで、自販機から金盗まれたンだって?」
白井「は、はいそうなんですの、何でも能力を使って札の投入口からお金を取り出していたとか……」
一方通行「能力で札の投入口からねェ……どこの自販機だァ?」
白井「ここのすぐ近くにある公園のですの」
一方通行「あ、やったの俺だ」
白井「やっぱりお前じゃねえかああぁぁぁ!!!!」
一方通行「落ち着け、事情があンだよ、あと口調が壊れてンぞ」
白井「散々否定してわたくしの事を痛めつけておきながら今更!今更!!」
一方通行「盗ンだって意識なかったンだよ、詳しく話さなかったオマエが悪ィ」
白井「ふざけんなですの!!話す時間すらよこさなかった癖に!!マジファックですの!!」
一方通行「おい聞け、別に盗ンだわけじゃねェ」
白井「ジャッジメントですの!ジャッジメントですの!!」
一方通行「おいだから……」
白井「ジャッジメントですのおおおおお!!!」
一方通行「うるせェ!!!」ベクトルチョップ
白井「おぶんッ!!!」ズバン!!
一方通行「盗ンだわけじゃねェつってンだろォが!事情があンだよ!!話聞きやがれこのパンダが!!」
白井「うぅ、理不尽ですの……事情って何なんですの……?」
一方通行「カクカクシカジカで、可哀相なウニ頭の為に金取り返してやってたンだよ
俺を捕まえる前に自販機修理しやがれってンだ」
白井「ふむ、なるほどそういう事情でしたのね……わかりました、犯罪者扱いした事は改めて謝罪させていただきますの」
一方通行「おォ」
白井「……でも自動販売機からお金を盗んだのも事実ですので、やっぱり詰め所までご同行願いますの」
一方通行「あァ?ふざけてンのかオマエ、俺は忙しいンだよ」
白井「見たところとっても暇そうですが、何をなさるんですの?」
一方通行「いいか、俺は一刻も早く運命の人を……ン、いや待てよ」
白井(運命の人……?)
一方通行(ジャッジメントの詰め所には多分こいつ以外の女もいるよな……つーことは、だ)
一方通行(無実の罪で横暴なパンダジャッジメントに連行される可哀相な俺
→連行された先で俺の言い分を信じてくれる美人の女性ジャッジメント登場
→互いに惹かれあい、二人は濡れ衣を晴らす為に司法との戦いに身を投じる
→全米が泣いた)
一方通行「これが運命かァ!!!」
白井「何がですの!?」
一方通行「よし詰め所行くぞ、すぐ行くぞ」
白井「え、え?突然どういう風の吹き回しですの?」
一方通行「おらグズグズすンな、急げ、無実の罪を着せられた可哀相な俺をさっさと連行しやがれ」
白井「いったい何をおっしゃってるんですの!?」
一方通行「遅ェンだよオラァ!!」
白井「ちょ、襟首を掴まないでくださいまし!何をするつもりで……」
一方通行「飛ぶぞォォォォォ!!!」
白井「ギャアアアアアアアア!!!!」
―――――――――――――――
―――――――――
――――
―風紀委員(ジャッジメント)第一七七支部前
一方通行「ここがオマエの勤めてる詰め所か」
白井「し、死ぬかと思いましたの……」
一方通行「オラ、もっとしゃンとしていかにも横暴そォに俺を連行しやがれ」
白井「おっしゃっている意味がわかりませんの……」
一方通行「チッもォいい先に行くぞ」
白井「お好きになさってくださいまし……あんな通報無視すればよかったですの……」
ガチャッ
一方通行「すいませェーン、ちょっとここのパンダさンに無実の罪で連行されて来たンですけどー」
白井「もうつっこむ気力すらありませんの……」
御坂「へ?」
一方通行「……あ?」
白井「あら、お姉様来ていたんですの?」
御坂「あ、うんちょっと……ってそっちのあんた!」
一方通行「……あ、すいませン間違えました」バタン
御坂「待ちなさい!!何やってんのよ一方通行!?」ガチャ
一方通行「なンですかやめてください、人違いです」
御坂「あんたみたいな白いのは学園都市に一人しかいないわよ!!何で黒子と一緒にいるわけ!?
まさか私の後輩に手を出そうってんじゃないでしょうね!?」
一方通行「ふざけンな!!誰がそンなババア声のパンダに手ェ出すか!!!」
御坂「……ま、それもそっか」
白井「え、そこ納得しちゃうんですの?と言うかお二人はお知り合いなんですの?」
御坂「知らないわよこんな毎日女の尻追いかけてるような白モヤシ」
一方通行「矛盾してンぞコラ。 おいパンダ、オマエジャッジメントならまずこのバカ取り締まれ」
白井「へ?」
一方通行「俺はコイツに深刻なストーキング被害を受けてンだよ」
御坂「誰がストーカーだゴラアアアアア!!!」
一方通行「自覚ねェのかテメエはァァァァ!!!だから残念な子って言われンだよォォォォ!!!」
御坂「残念残念言うな!だいたい、何であんたはここに来てんのよ!?
折角今日は妹達が監視代わってくれるって言うからゆっくりできると思ってたのに!!」
一方通行「俺の方が束縛してるみたいな言い方やめてもらえますゥ!?
つーか今『監視』つったよなァ!?オラ聞いただろパンダ!捕まえろよコイツ!!」
白井「え、えぇ……?(なんですのこの状況……)」
「あ、白井さんお帰りなさーい」
白井「あら初春、いましたのね」
初春「ちょっとその言い方は酷くないですか?白井さんの持ち込む面倒事を片付けているのは誰だと……」
白井「感謝しておりますのよ初春。ところで固法先輩の姿が見えませんが……」
初春「さっき牛乳買いに行きました。それより白井さん、そっちの白い人はどなたですか?」
一方通行「どォも、無実の罪で連行されてきた第一位の一方通行です」
初春「だ、第一位!?どうするんですか白井さん!そんな人を無実の罪で連行しちゃうだなんて!!」
白井「そこ信じちゃうんですの!?この方は勝手に来たんですの!!むしろ連行されたのはわたくしの方ですの!!」
初春「どうなんですか第一位さん、白井さんにどんな罪をでっち上げられたんですか!?」
白井「初春ぅぅぅぅぅ!!!!」
一方通行(ンー、何か運命感じねェなァ……超電磁砲がいやがるし、この初春ってのもガキくせェし。
つーか何なンだよコイツの被ってる花飾り……生理的に受け付けねェわ)
御坂「一方通行、あんたが何考えてるかなんて知らないし知りたくも無いけど、私の後輩や友達に手を出したら……」
一方通行「出さねェよ、ガキにゃ興味ねェ。運命も感じねェしもォ帰るわ」
初春「あれ、帰っちゃうんですか?白井さんが迷惑かけちゃったみたいですし、お茶くらい飲んでいかれては……」
白井「うぅいぃはぁるぅ~?」
初春「じ、事実じゃないですか!どうして怒ってるんです!?」
白井「事実ではありませんの!!少しはわたくしの言った事を聞きなさいな!!」
じゃれ合いを始めた二人の少女達を一瞥し、一方通行は軽く溜息を吐くと
くるりと彼女たちに背を向け詰め所を出て行こうとする。
御坂がまだ何がしかギャーギャーと言っていたような気がしたがそれはサックリと無視することにした。
そもそも立ち止まって耳を傾けてやるような義理など無い。
「危害を加えるな」とは言われているが、だからと言って「大切にしろ」とは言われていないのだから。
(結局今日も収穫無しかァ……)
自分の立てた身勝手なシナリオに少しばかり期待していただけに、何の収穫も無かったダメージは大きい。
もう一度小さく溜息を吐くと、一方通行は心持ち項垂れながらドアノブに手を伸ばした。
――その時、運命は起こる。
「こんにちはー!遊びに来ましたー!!」
「あァ?」
一方通行がドアノブに手をかける直前、ガチャリとその扉が開き、
白い花飾りをつけた、ロングヘアーの魅力的な少女が弾ける様な笑顔で詰め所に飛び込んできた。
「ぶふぇぇぇ!!!」
「……あァ?」
そしてそのままの勢いで一方通行に突っ込んでしまい、反射の膜に激突し派手に吹き飛んだ。
彼女の飛んでいく先にあるのは―――窓
ガシャァァァァァン!!!
「さ、佐天さぁぁぁぁん!!!!」
窓を突き破り、佐天と呼ばれた少女はゆっくりと落下していく。
以前記した『反射の膜が運命の赤い糸すら反射してしまっている』という話を覚えているだろうか。
まさに、その時の例え話の通りの事が今ここで起きてしまったのだ。
もし一方通行が反射の膜を張ってさえいなければ、
少女に激突された一方通行は、まるで少女に押し倒されたような形となり、
その後我に返り真っ赤になって謝る少女を撫でながら慰め、何だかんだで仲良くなり、
第一位ということで尊敬の眼差しで見られ、レベル0の彼女に能力開発の個人授業などを行い、
レベルが上がった彼女と喜びを分かち合い、その後は逆に人付き合いの仕方などを教えられ、
互いに足りないところを補い合いながら最終的に幸せに結ばれる、という運命が用意されていたかも知れない。
しかしもう遅い。そんな運命は反射されてしまった。
<ヒュー……ドサ
「佐天さん!佐天さぁぁぁぁぁん!!!」
「お、落ち着いて初春さん!!黒子!あんたは救急車呼んで!!私は下に行ってくるから!!」
「わ、わかりましたの!!」
(……俺が悪いのかァ?………今の内に逃げるか)
その後、救急車で運ばれたその少女は何とか一命を取りとめることに成功する。
何かが少し違えば一方通行と共に幸せな未来を築けたかも知れない彼女の行く先は
彼の胸の中ではなく、無機質な病院の一室となってしまったが、
彼女は今、後遺症も無く持ち前の明るさで元気にリハビリを開始している。
【後編】に続きます

