・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・
・・・
・・
・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【次の日・スミス鍛冶工房】
コンコン…
スミス「はい、どうぞー」
ガチャッ
竜騎士「失礼します」
女武道家「お邪魔しまーす!」
スミス「お、来たか。もう、昨日話してた人は来てるよ」
竜騎士「あ、待たせてしまってすいません」
スミス「いやいや。少し早いくらいだよ、そこのイスに座って待っててくれるかな」
…タッタッタ
竜騎士「はい」
女武道家「わかりましたっ!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
女武道家「わああっ…」
竜騎士「こ、こりゃ見事だ…」
ホカホカ…グツグツ…
スミス「紹介するよ。こちら、料理師のコック、だ」
コック「初めまして」
女武道家「た…食べていいんですか…」ジュルリ
コック「それは挨拶代わり。どうぞ」
竜騎士「…いただきます」
…モグッ
竜騎士「!」
女武道家「!」
竜騎士「う…うまっ!何だこれ!」
女武道家「このシチュー、口の中でとろけます…。このお肉もホロリと崩れて…」
竜騎士「このサラダ、自然そのものって感じだ!ドレッシングがマッチして、シャキシャキしてる…」
スミス「ははは、気に入ってもらえたようだね」
コック「…」ペコッ
竜騎士「それで…、コックさんが依頼したいことがあるんですか?」
スミス「まずは、腕を見てもらいたかった。美味しいだろう?」
竜騎士「絶品ですね」
女武道家「こんな美味しいもの、久しぶりに食べました!」
スミス「だがな…」
コック「この料理、もうすぐ出来なくなるかもしれん」
竜騎士「なぜですか?」
スミス「コック…いいか?」
コック「もちろんだ、これを見てくれ。丁度、痙攣が始まった」スッ
…ブルブル…
女武道家「右腕に…締め付けられたような跡…?」
竜騎士「これは…絞蛇症!」
女武道家「こうじゃ…しょう…?」
スミス「さすがだ。よく知ってるね」
女武道家「何ですかそれ?」
竜騎士「そのまんまだ。蛇に絞め付けられたように、痕が現れる。その痕の部分が麻痺する病気だ」
女武道家「!」
竜騎士「その絞めつけは、やがて全身に広がる。それが首、胸、頭のいずれかに広がった時、それは…」
コック「わかってる」
スミス「こいつは頑固でな。気づけばもう、僧侶や薬剤師では手の施しようがない所まで来ているんだ」
竜騎士「…」
コック「だが一つだけ方法があると聞いた」
竜騎士「蛇苺、ですね」
スミス「そうだ…」
竜騎士「だが、この周辺にヒュドラどころか、まともな魔物がいるとは思えないのですが」
女武道家「え、ヒュドラ?…一体どういう事ですか?」
竜騎士「蛇苺という、絞蛇症の妙薬…食べ物があるんだ。ヒュドラの卵のことなんだけどな」
女武道家「卵…」
スミス「まぁ…実は、ヒュドラの巣がある」
竜騎士「…あるんですか?」
スミス「君たちが見たウィスプのいる深部の更に奥。そこに沼があるんだ。そこが巣…ってとこだな」
竜騎士「なるほど、そういうことでしたか」
スミス「…危険だが、頼めるか?」
竜騎士「請け負いましょう」スクッ
女武道家「ちょっ、わ、私は無理ですよ!死んじゃいます!」
竜騎士「さすがに危険だからな。伐採をして稼いでてもいいぞ?」
女武道家「そ、そう言われると…行きたくなりますね!」フンッ
竜騎士「…あのな」
スミス「はは…それで、報酬の話だ。コック、持ってきてたよな?」
コック「あぁこれだ」
…ドサッ
竜騎士「これは?」
コック「30万ゴールド。それと今後の料理の面倒を見る」
竜騎士「料理の面倒?」
コック「素材があるなら俺に言え。何でも無料で作ってやる」
竜騎士「!」
コック「もちろん、必要とあらば俺の店でも安く食わせる。どうだろうか」
竜騎士「…わかりました。充分すぎる報酬です」
コック「ありがとう」
竜騎士「んー、今…何時ですか?」
スミス「もう12時を過ぎて…13時前だな」
竜騎士「深部の更に奥か…。ウィスプから巣までどのくらいですか?」
スミス「恐らくすぐ、だ」
竜騎士「ところで、その"巣"の情報の出所は?」
スミス「…」スッ
竜騎士「!」
女武道家「!」
スミス「俺、自身だ」
竜騎士「腕全体に絞蛇症の痕…」
スミス「若い頃、発症したことがある。その時に何度かヒュドラの巣でお世話になっているんだ」
竜騎士「…なるほど。何よりも信頼できる情報です。少しの間、待ってください」
スミス「あぁ…頼んだぞ」
コック「頼んだ」
女武道家「竜騎士さん…、少しだけ待っててくださいってことは…」
竜騎士「戻って準備だ。すぐに出発する」
女武道家「やっぱり…ですよね…」アハハ…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【2時間後・森の深部】
ガサガサ…
女武道家「またすぐ来る事になるなんて…」
竜騎士「どの道、あの奥に進む運命だったってことだな」
女武道家「はぁ…」
竜騎士「ところで、お前は一応武道家だよな?」
女武道家「そうですよ?」
竜騎士「何で武道家なんだ?」
女武道家「父親、爺ちゃん、曾爺ちゃん…まあ、一族全てが武道家一家なんですよ」ハハ…
竜騎士「血統書付きか」
女武道家「そうなりますね。私の代で、一人っ子だった上に父親が病で倒れて…」
竜騎士「なるほどな」
女武道家「竜騎士さんみたく、バリバリではないですが…一応その辺の戦士くらいは戦えると思いますよ!」
竜騎士「よし、その実力を認めて、アーヴァンク討伐クエストを与える!」キリッ
女武道家「嫌です」ニッコリ
竜騎士「…」
女武道家「あれは愛玩動物です!」
竜騎士「…はは」
女武道家「ふーんだ」
竜騎士「は、はは…、お!いたいた、ウィスプだ」
…フヨフヨ…
ウィスプ『…』
女武道家「魂…。確かに言われてみれば…そう見えますねぇ」
竜騎士「よし、行くぞ」ガサガサ
女武道家「えっ、そんな大雑把でいいんですか!?隠れながらとか…」
竜騎士「まぁ通らないといけないし、向こう側から攻撃してくることもないだろう」
ウィスプ『…』フヨフヨ
トコトコ…
女武道家「…本当だ。こうしてみると、ただの光の玉って感じで…触りたく…」ソーッ
竜騎士「あ、でも故意に触ったりするなよ。体にたまたま触れるのはいいが、あまり触りすぎると怒るぞ」
女武道家「はっ!気をつけます」ビクッ
竜騎士「…よいしょ…、ツタが邪魔だ…」
…ザシュッ…ザシュッ…
竜騎士「一応、ナタとか持ってきてよかったな。案の定だ」
女武道家「虫がいっぱい…蚊に刺される~…」
ザシュッ…ザシュザシュッ…
竜騎士「…うしっ。道が開け…お!」
女武道家「何ですか?」
竜騎士「しっ、静かに」
女武道家「?」
竜騎士「あった。沼だ…確かに何かの気配を感じる」
女武道家「ヒュドラですか?」
竜騎士「わからんが、恐らくそうだな」
女武道家「ところで、ヒュドラってどういう魔物なんです?」
竜騎士「動物でいうところの、蛇だ…が…」
女武道家「が…?」
竜騎士「昔は最上位の魔物と呼ばれたこともある。今は力を失った子孫がこうやって群れを成してるしてるんだ」
女武道家「へぇー…」
竜騎士「絵本読んだ事あるんだろ?ヒュドラとの戦いが出ただろ?」
女武道家「覚えてません!」キッパリ
竜騎士「…」
女武道家「…と、とりあえず、行きましょうよ」アハハ…
竜騎士「問題は何匹いるか、だ。巣というくらいだからな…その辺を聞けばよかった」
女武道家「昔の話なのに、今も存在してるんですかねぇ?」
竜騎士「今のヒュドラ寿命は160年くらいじゃないか?」
女武道家「わぁー…長生き…」
竜騎士「とりあえず、慎重に進むぞ」
女武道家「はいっ」
…ガサ…ガサ…
竜騎士「一歩…一歩…」
女武道家「…」
竜騎士「…んー…、気配はあるんだが…」
女武道家「…むむ」
…シュルンッ!!
竜騎士「!」
女武道家「今のは…」
竜騎士「いた…あそこだ…沼の近く」
女武道家「うわぁ…毒々しい…」
竜騎士「目視で1、2…3匹か。腹が膨らんでるな…、子持ちだ…ビンゴ」
女武道家「…なんか、可哀想ですよね」
竜騎士「この世は食うか、食われるかだ」
女武道家「…でも、なんだか納得できないんですよねぇ…」
竜騎士「お前は少し優しすぎるな」
女武道家「…そうですかね?」
ヒュドラ『シュルッ…カラカラカラ…』
女武道家「何ですか、あの音…気持ち悪い」
竜騎士「あれでヒュドラ同士のコミュニケーションをとってるとか聞いたことがある」
ヒュドラ『カラカラ…』
…ガサガサッ!!
アーヴァンク『キュイ!』
女武道家「あ…!あれは昨日のアーヴァンクちゃん!」
竜騎士「…」
女武道家「ちょっ、大丈夫なんですかあれ!」
竜騎士「いや…あれは…」
ヒュドラ『カラカラッ…!』クワッ!!
シュルシュルッ…!!バクンッ…!!
アーヴァンク『キュ…ッ』ビクンッ
女武道家「あ…あぁぁぁ…」
竜騎士「…やはりヒュドラは腹を減らせてるか」
女武道家「あ、アーヴァンクが…」
竜騎士「あれが弱肉強食で…まずは毒を与えて獲物を…って、お、おい!」
…スクッ
女武道家「こらああ!そこのヒュドラ!アーヴァンクを離しなさい!!」ビシッ
竜騎士「おまっ!」
ヒュドラA『カラカラカラ…』ピクッ
ヒュドラB『…カラッ』クルッ
ヒュドラC『…シュルシュル』ギロッ
…シュルシュルシュルシュル…
竜騎士「こっち来ちゃったじゃねーか!あいつら毒持ってて噛まれたら命に関わるんだぞ!」
女武道家「噛まれなければいいんですよね」
竜騎士「そりゃそうだが…って、待てっ!」
…ダッ!!
女武道家「敏捷化!」パァッ
…ビュンビュンッ!!…
ヒュドラA『カラカラッ!』クワッ
女武道家「衝撃波ァッ!」
…バキィッ!!グシャッ!!
竜騎士「お…おおぅ…強烈な」
女武道家「あんな可愛い子をイジめるヒュドラ…許しませんよ!」スッ
ヒュドラB『シュルッ…』
ヒュドラC『シュルシュル…』
ヒュドラB『カァッ!』クワッ
…ヒュッ!!
女武道家「その速度じゃ私には当たりません!」
ヒュドラB『シュルシュル…』
女武道家「こっちの番です、掌底波ァッ!!」
バキィッ!!!…グラッ…ドサッ
ヒュドラB『』
女武道家「あと一匹…っ」
ズルッ!!
女武道家「…っ、沼に足をとられ…!」ドシャッ
ヒュドラC『…クァッ!!』クワッ
女武道家「きゃああっ…!」ギュッ
…ガシィッ!!
ヒュドラ『…クカッ!』
女武道家「…へ?」パチッ
竜騎士「勝手に突っ走るんじゃねーよ…作戦が台無しじゃねーか」ハァ
女武道家「竜騎士さん!」
竜騎士「…おらよっ」ビュッ
…ドシュッ…ドサッ
ヒュドラC『』
竜騎士「さーて、卵は腹の中から取り出して~…。肉も売れるか持ってくか」
女武道家「そ、それよりっ…!」ダッ
竜騎士「ん?」
女武道家「あ、アーヴァンク…」
アーヴァンク『キュイ…』ブルブル
女武道家「…生きてる!竜騎士さん、アーヴァンク生きてますよ!」
竜騎士「あー…噛む力は弱いからな。毒が回ってるようだし…もう、ダメだろうな」
女武道家「そんな…何とかならないんですか…」
竜騎士「弱肉強食っていうのはそういうことだろう」
女武道家「…それじゃ、私が毒を吸い出します!!」
竜騎士「ばっか、やめろ!毒の吸出しは、本当にやると虫歯やら雑菌やらで、吸い出した本人も毒にやられるんだ!」
女武道家「で、でも、でもっ…!」グスッ
竜騎士「…はぁ~…、こういうときの女の涙って、本当にズルいよな…」
ゴソゴソ…スッ
竜騎士「ほれ」ポイッ
女武道家「これは何ですか…」
竜騎士「ヒュドラ対策用に一応持ってきた解毒薬。アーヴァンクに効くかは知らんけどな」
女武道家「は、はいっ!」
カポッ…ヌリヌリ…
アーヴァンク『キュ…!』ズキンッ
竜騎士「貴重な薬を…。ま、俺はヒュドラの解体の続きだ」
…ザクザク…ビリビリッ…トントン…
ズルッ…ズルズル…
竜騎士「ふむ…女武道家ぁー」
女武道家「は、はいっ?」
竜騎士「…ヒュドラの肉、食う?」
女武道家「いりません…ってか、何してるんですか?」チラッ
ヒュドラだったもの『』
女武道家「い、いやぁー!何してるんですか…うっ…」
竜騎士「何って…解体だ。魔物を売るって、こういうことだぞ?」
女武道家「私…そういうのダメです…気持ち悪い…」
竜騎士「…うーむ」
アーヴァンク『…キュ』ブルッ
女武道家「!」
アーヴァンク『…キュイ…?』パチッ
女武道家「あ、あ…!」ブルブル
アーヴァンク『キュ…♪』
女武道家「竜騎士さん!竜騎士さん!」
竜騎士「何だよ!」
女武道家「アヴァちゃん、元気になりましたよ!!」
竜騎士「あー…薬効いたんだな。つーか、アヴァちゃんって何だ…」
女武道家「アーヴァンクだから、アヴァちゃんです!」
竜騎士「犬だから、ワンコちゃん?」
女武道家「よくある名前ですね?」
竜騎士「お、おう…そうだな…」
アーヴァンク『キュッ!』ピョンッ
女武道家「あっ」
ベタァッ…
竜騎士「うわっぷ」
アーヴァンク『キュ…♪』ペロッ
竜騎士「…何だこいつ、人懐っこいな」
女武道家「違いますよ、助けてくれたのをわかってるんですよ!」
竜騎士「…そうかぁ?」
アーヴァンク『♪』
竜騎士「まぁいいか、女武道家、抱き上げてやれ」
女武道家「あ、はいっ」ダキッ
アーヴァンク『…キュウ……』スヤッ
女武道家「寝ちゃった…本当に可愛いなもうっ…」
竜騎士「こっちも解体は終わりだ。内臓は猛毒だし、沼に捨てておくか」
ボチャボチャッ…
女武道家「それじゃ、帰りますか?ちゃんと、手洗ってくださいよ」
竜騎士「わかってるっつーの!蛇苺も取れたし、肉も取れたし、皮も剥げたし、こりゃ売れそうだ」
女武道家「商魂逞しいというか…」
竜騎士「お前がなさすぎるんだよ!そろそろ帰るぞ!」
女武道家「はーい…」
竜騎士「それと、そのアーヴァンクは昨日の場所あたりで、降ろしておけよ」
女武道家「飼っちゃだめですか…?」
竜騎士「養えるくらい、稼げるようになったら考えてもいいかもな?」
女武道家「そ、そしたらいいんですね!」
竜騎士「ま、今の女武道家じゃまだまだ難しいかな?」
女武道家「いえ…わかりました…稼ぎます!頑張りますよ!」
竜騎士「はは…本当に頼むぞ」
女武道家「はいっ!」
竜騎士「それじゃ、スミスさんの家に戻るかぁ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【スミスの鍛冶工房】
コンコン…ガチャッ
竜騎士「スミスさん、戻りました」
スミス「おぉ、かなり早かったね!」
竜騎士「もうすっかり夜になっちゃいましたけどね」
スミス「コックー!こっち来い!」
トコトコ…
コック「とれたのか?」
竜騎士「…どうぞ」スッ
…コロン…キラッ
スミス「おぉ…これはまさしく…!」
コック「蛇苺だ」
竜騎士「どうですか」ニカッ
スミス「でかした…でかしたぞ、竜騎士くん!」バンバン
竜騎士「あいたた…ありがとうございます」
女武道家「やりましたね!」
スミス「こっちはなんだ?」ゴソッ
竜騎士「あー…そっちはヒュドラの肉と皮です、売れないかと思って持ってきました」
スミス「コック、ヒュドラの肉は食えるのか?」
コック「俺なら最高の料理に仕上げられるはずだ」
竜騎士「!」
コック「痙攣も今は治まっている。卵を含め、料理を振舞うつもりだったが…どうする?」
竜騎士「…売るつもりでしたが、最高の料理が気になりますね」ハハ
コック「じゃ…」
竜騎士「預けます。最高の料理、お願いしますよ」
コック「あぁ任せてくれ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
トントントン…ジューッ…
スミス「後はコックの料理に任せておこう」
竜騎士「はい。でもよかったんですか?料理までさせるなんて…」
スミス「彼が報酬のほかに、料理でお礼をしたいって言ってきかないからな。是非食べてってくれ」
女武道家「はぁ~…大変だったけど、無事に帰ってこれてよかったです」
スミス「…竜騎士くん、本当にありがとう」
竜騎士「いえいえ」
スミス「彼は俺の長年の友人でね。本当なら、俺が助けるべきなんだろうけどね…」
竜騎士「…何か、理由が?」
スミス「昔、魔物との戦いでやらかしてね。それ以来、長い時間の戦いが出来ないんだ」
竜騎士「そうなんですか…」
スミス「それでも、戦いの道を止めることは出来ず、こうやって武器や色々作って過ごしてるわけさ」ハハハ
竜騎士「なるほど…」
スミス「だから、君たちに出会えて心の底からよかったと思ってる。こうして助けてくれたんだからね」
竜騎士「勿体無い言葉です。スミスさんは、もし俺たちがいなかったらどうするつもりだったんですか?」
スミス「…まさに、自分が蛇苺を採りにいこうとしてた途中だったんだ」
竜騎士「そうだったんですか…」
スミス「あぁ。困ったことがあったら、言ってくれよ。俺も力になってやるからな」
竜騎士「はい」ペコッ
女武道家「スミスさん、スミスさん」
スミス「ん?」
女武道家「そういえば、スミスさんは鍛冶場で…どんな物を作ってるんですか?」
スミス「俺の作品かぁ…えっとな」
ゴソゴソ…ドンッ!!!
女武道家「わっ!」
竜騎士「でかっ…なんじゃこりゃ!」
スミス「トゥハンドソードの1種だ。俺のオリジナル、どうだ?かっこいいだろ?」
竜騎士「でっけー…持ってみても?」
スミス「いいが…重いぞ?」
スッ…
竜騎士「おぉ…、いい剣ですね」ブンブンッ
スミス「軽々と…どんな腕力してるんだお前はっ!」
竜騎士「はは、本部にいた時は色々やりましたからね。他にはありますか?」
スミス「んー…今出せるのは…」
ポイッ…ガシャンッ…ポイッ、ポイポイポイッ…
スミス「カットラス、バルディッシュ、クリス、サーベル、モーニングスター…」
ポイポイポイッ…
スミス「トライデントに、ハルパー、ショテル…」
竜騎士「ち、ちょっと…どんだけ作ってるんですか」
スミス「戦士を引退した後は暇でなぁ、ついつい」ハハハ
竜騎士「ついついって…」
スミス「竜騎士くんの武器は、立派な槍だな」
竜騎士「えぇ、軍の佐官用の支給品ですが使いやすいんです」
スミス「…このトゥハンドソードに持ち替えてみないか?」キラッ
竜騎士「はは…折角ですが剣は性にあわないので遠慮しときます」
スミス「ぬぅ、残念だ」
竜騎士「今度、機会があったらお願いします」ハハ
スミス「あぁ、そうだな。…ところで」
竜騎士「はい?」
スミス「ヒュドラの肉があったということは、内蔵もあるはずだが、持っているのか?」
竜騎士「え、あー…あれは危険なので捨てておきました」
スミス「なんだそうか…、武器に塗ればヴェノム武器として使えたんだが」
竜騎士「ヴェノム…、毒の武器ですね」
スミス「折角だから作ってやろうとしたが、ないならしょうがないな」
竜騎士「先に言われれば取っておいたんですけどね」
スミス「そうだなー、ところで…内臓はちゃんと火魔法で処理したか?」
竜騎士「へ?」
スミス「俺も昔捨てたことがあるんだが、沼に捨ててな。毒が強力過ぎるのか、内臓から溶け出して周囲の自然枯らしちまったんだ」
竜騎士「…あの、まさに…それです」
スミス「捨てちまったのか?」
竜騎士「沼にぼちゃぼちゃっと…」
スミス「まじか…、どのくらいの量を捨てたんだ?」
竜騎士「平均的なサイズのヒュドラを3匹分ほど…」
スミス「あー…うーん、まぁそのくらいなら大丈夫か…」
竜騎士「一応引き上げてきますかね?」
スミス「あぁやめておけ、もう時間がたちすぎてる。とっくに毒は流れ出してるはずだ」
竜騎士「そうですか…やっちまったな…」
スミス「ま、仕方ないさ。今度、毒性のものが手に入ったら持って来るといい。ヴェノム武器に仕上げてやるからな」
竜騎士「はい…」ハァ
スミス「そこまで落ち込むなって」ハハハ
竜騎士「はい、元気出します…」
トコトコトコ…
コック「何してるんだ。料理できたぞ」
女武道家「…待ってました!お腹すいちゃって!」グゥゥ
竜騎士「お前はもうちょっと本当に、粗相というものをだ…」
女武道家「粗相でお腹が膨れますか!正直になりましょう!」
竜騎士「…本当にその性格が羨ましくなるよ」
スミス「ははは、とりあえず、頂こうか」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
キラキラ…
コック「俺が考えたフルコースだ。食べてくれ」
女武道家「ど、どれも美味しそうですぅ…!」
竜騎士「見事すぎる…どれを食べればいいやら…」
コック「それじゃ、新鮮なこれとかどうだ」
女武道家「…これですか?」パクッ
モグモグ・・・
女武道家「何ですかこれ…、噛めば噛むほど、味が出てくる…。肉のようなのに、軽い食感で…」
竜騎士「ん、これは…」
女武道家「え?」
竜騎士「俺がさっき一緒に持ってきた、ヒュドラの肉じゃないか」
女武道家「えーーーっ!」ブーッ
コック「旨いだろ?ヒュドラのソテーだ」
竜騎士「俺は最高だと思いますよ」モグモグ
女武道家「く…くく…」
竜騎士「どうした?」
女武道家「悔しいけど…旨いです…」
竜騎士「なんだよ悔しいって…」
モグモグ…グビッ…カチャカチャ…
竜騎士「あー…これも美味しい…コックさん、さすがです」
コック「あぁ」
竜騎士「それで…卵は…?」
コック「これだ。卵焼きにしてみた。これは俺も食べる」スッ
竜騎士「…是非、食べてください」
女武道家「ヒュドラの卵の卵焼きって…」アセッ
竜騎士「一応な、蛇苺は美食家の中でも有名な食材なんだぞ?」
女武道家「で…でも、あのヒュドラの卵ですよね…」
竜騎士「お前、ヒュドラ自体食っちまったじゃないか」
女武道家「ううー…」
コック「うぐっ…」ブルッ
スミス「!」
コック「また痙攣…か」ブルブル
竜騎士「コックさん、早く食べてください。食べればきっと、治るはずです」
コック「あぁ。頂く」
カチャッ…パクッ…
モグモグモグ…ゴクンッ
コック「…」
竜騎士「どう…ですか?」
コック「…」
ブルブル…ブル……
竜騎士「…」ゴクッ
女武道家「苦労して取ってきたんです、きっと治ります…!」
コック「く…」ブルブル
スミス「蛇苺は即効性がある。きっと治るはずだ、もう一口、食べてみろ!」
コック「わかった…っ」
カチャッ…モグモグ……ゴクンッ…
コック「…」
ブル…ブル………
女武道家「…あ!」
コック「…」
ブル………ピタッ………
竜騎士「!」
女武道家「!」
スミス「!」
コック「…震えが止まった」
スミス「治ったのか…!」
コック「感覚が戻っていく…まだ俺は、料理を作り続けられるのか…」
スミス「あぁ…そうだ…!」
竜騎士「はは…、さすが蛇苺。良かったですよ…コックさん」ニコッ
コック「…ありがとう。本当にありがとう、竜騎士、女武道家」
竜騎士「いえ、そんな…」
女武道家「本当によかったですっ…!」
スミス「俺からも改めて礼をいうよ、ありがとう」
竜騎士「…」ニコッ
スミス「だが、この料理以外にも卵はあるんだろ?定期的に食べるんだぞ?再発防止のためにもな」
コック「わかってるさ。それより」チラッ
竜騎士「?」
コック「今晩は大盤振る舞いだ。どんどん食べてくれよ」
竜騎士「えぇ、食べつくす勢いで頂きますよ!」
コック「望むところだ」
竜騎士「さぁて、俺も蛇苺を…」
女武道家「この蛇苺…すっごい美味しいですね!!」
…カラッ…
竜騎士「お、女武道家さん…、俺の…蛇苺は…?」
女武道家「…食べないと思って」テヘ
竜騎士「うおおおっ、妙に静かだと思ったら…お前のその手前の皿、全部よこせぇ!!」
女武道家「いーやーですー!!」
スミス「はっはっは!」
コック「はは」
竜騎士「くっそ、今度採ったら全部俺が独り占めだからな!」
女武道家「私が食べます!」
竜騎士「食わせるかっつーの!」
ギャーギャー…!!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・
・・
・
【8月12日終了時点での収支】
■収入
・木材販売4万ゴールド
・コックのクエスト報酬30万ゴールド
■支出
・食事代6万ゴールド
・土地代(月末支払い)20万ゴールド
■収支合計
・プラス8万ゴールド
■月末までの目標金額
・500万ゴールドまで、後492万ゴールド
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【次の日、8月13日・支部】
…バタンッ
竜騎士「遅いぞ、おはよう」
女武道家「仕方ないじゃないですか…疲れてたんですよ…」フワァ
竜騎士「まぁ、魔物との戦いもあったしな」
女武道家「それ以上に、あの料理の数々…まだ食べたりません」ジュルリ
竜騎士「…ま、同意見だ。本当に絶品だったな」
女武道家「特に、ヒュドラの卵が旨いこと旨いこと…」キラキラ
竜騎士「…そう、ですね!」
女武道家「なんで怒るんですかぁ!」
竜騎士「怒ってませんよ、全然、ぜーんぜん!」バンバン
女武道家「こわいぃ!」
竜騎士「…」フゥ
女武道家「…」
竜騎士「…」
女武道家「…ね、竜騎士さん」
竜騎士「なんだ?」
女武道家「私、いいこと思い浮かんだんですけど」
竜騎士「…言ってみな?」
女武道家「支部の前に、庭があるじゃないですか?」
竜騎士「庭というか、荒れた草むらだが」
女武道家「どうせなら、畑やりません?」
竜騎士「畑?」
女武道家「新鮮な野菜も手に入るし、手入れで体力もつくし…お金もかかりませんし」
竜騎士「ふむ…畑か…」
女武道家「どうでしょう?」
竜騎士「つったってなぁ…、半年や、野菜って普通、1年周期で見るようなものしか作れないだろ?」
女武道家「時間がかかりすぎますかね?」
竜騎士「うーん、悪くない考えだが…俺もよく野菜や栽培のことは知らないんだよ」
女武道家「コックさんに聞いてみませんか?」
竜騎士「あ、いいかもな。早くに収穫できる野菜があれば、やっといて損はない」
女武道家「そういや、コックさんってどこで、お店経営してるんでしょう…」
竜騎士「聞いてなかった…。まだ、スミスさんのところにいればいいんだが…」
女武道家「行ってみます?」
竜騎士「そうだな、ついでに書類も届けないといけなかったし…丁度良い」
女武道家「書類?」
竜騎士「軍への依頼書と、完了報告書。これにサインがないと、軍としての活動にならないんだよ」
女武道家「なるほど…」
竜騎士「とりあえず、行くか」
女武道家「はいっ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【スミスの鍛冶工房】
コンコン…ガチャッ
スミス「はいよー…って、竜騎士くんたちか。どうした?」
竜騎士「コックさんって、まだいますか?」
スミス「あー…今朝早く、自分の店に戻ったよ」
竜騎士「一足違いか…、お店って遠いですか?」
スミス「いや、それほどじゃない。商店街の一番端だ」
竜騎士「なるほど…そういや、まだあそこは挨拶回り忘れてたかも…」
スミス「一体どうしたんだ?」
竜騎士「いや、ちょっと…畑でもやろうかなと思いまして」
女武道家「すぐに作れる野菜とかあったらなー…とか、思ったんです」アハハ…
スミス「ふむふむ、なるほど。良い心構えだ」
竜騎士「じゃあ、コックさんに聞きに行ってみるか…。ありがとうございました、スミスさん」
スミス「あ、待て」
竜騎士「はい?」
スミス「畑なら、あいつより俺のほうが詳しいぞ?」ニタッ
竜騎士「…へ?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
女武道家「わっ、広い!」
竜騎士「広っ!向こう側まで、スミスさんの畑なんですか!?」
スミス「俺も鍛冶だけじゃ稼ぎがない時があるからね。一応こうやって毎年作ってたんだ」
竜騎士「しかし、スミスさんの家の近くにこんな拓けた場所があるなんて」
スミス「で、どんな野菜がご所望だったかな?」
竜騎士「あ…えと、出来るだけ早い段階で収穫できるものがほしかったんですが…」
スミス「ふむ…早い段階か」
竜騎士「大きなものが採れないのは知ってますが、それなりのものは欲しいなと」
女武道家「あくまでも家庭菜園だけど、きちんと採れるような感じがいいですよね」
スミス「それなら…こっちだ」
トコトコ…
スミス「これ。どうだ?」
竜騎士「これは…」
スミス「二十日大根。聞いたことないか?」
女武道家「聞いたことあります!」
竜騎士「…聞いたことはありますが…これがそうなんですか?」
スミス「そのまんまだ。20日から30日で収穫ができる大根だ。夏場はちと遅れるがな」
竜騎士「大体、欲しい目安で丁度ですね!」
スミス「まぁ、早いといえども、手入れはきちんと必要だぞ?」
竜騎士「手入れはもちろん、しっかりやります!」
スミス「じゃ、コックを救ってくれたお礼に、種をあげよう」ゴソゴソ
竜騎士「ありがとうございますっ!」ペコッ
女武道家「ありがとうですっ!支部に戻ったら、早速耕さないといけませんね~」
竜騎士「農耕具…せっかくの報酬で浮いたお金から使うのか…」
女武道家「必要投資だと思えば…」
竜騎士「まぁ…そうだな」
スミス「はいよ。あと…ついでにコレも持っていくといい」
女武道家「これは…?」
スミス「サニーレタスの種だ。こっちも聞いたことくらいはあるだろ?」
女武道家「まぁ、聞いたことは…」
スミス「こっちも1ヶ月程度、具合によっては20日程度で食べれるようになるぞ」
竜騎士「ありがとうございます、本当に助かります」
スミス「芽が出やすい、収穫しやすいといっても…どっちも面倒は見ないとすぐにダメになるからな?」
竜騎士「はい、心得てます」
スミス「聞きたいことがあったら、適当に来てくれれば答えるから、気軽に来てくれ」
竜騎士「はいっ」
スミス「しかし、畑まで始めるか。完全に自給自足生活みたいなもんじゃないか」
竜騎士「はは…俺も数日前まで、こんなことになるなんて…」
スミス「技術や、知識は持ってて損することはないからな。どんどん吸収するといい」
竜騎士「そうですよね、色々とがんばっていきたいと思います」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 支部・庭 】
…ジージージー…ミーンミンミン…
ザスッッ…ザスッ…
竜騎士「暑い…、思った以上に庭の土が硬い」
女武道家「ふんふん♪」
竜騎士「君は楽しそうだな」
女武道家「家庭菜園みたいなもんじゃないですか。女性のたしなみですよ」フンフン
竜騎士「たしなみ…か?」
女武道家「たしなみ、です」
竜騎士「そ、そうか」
…ザスッ…ザスッ…
竜騎士「ふぅー…ちょっと水飲んでくる…」
女武道家「あ、それならこれ使ってください」スッ
竜騎士「水筒?」
女武道家「水魔石を入れてあるので、冷たいですよ」
竜騎士「おお…ありがとう」
グビッ…グビッ…
女武道家「はー…それにしても、きちんと耕せましたね」フキフキ
竜騎士「農耕具に数万ゴールド支払った価値はありそうだな」
女武道家「お金ばっかり目をやると、足元すくわれますよ?」
竜騎士「そういうのに目をやらなくても、足元すくわれますので」
女武道家「あはは…」
竜騎士「あとは種を蒔いて、きちんと育つのを待つだけだ」
女武道家「水やりとかはどうするんでしょう?」
竜騎士「土が乾いたのを目処に、やりすぎず乾きすぎずを保つこと…かな?」
女武道家「なるほど、任せてください!」
竜騎士「うむ…不安だが」ボソッ
女武道家「今、何て言いました…?」
竜騎士「気のせいだ気のせい。よし、後は種を蒔くか」ウーン
女武道家「終わったらどうしますか?」
竜騎士「すぐに野菜が出来るわけじゃないし、やろうと思えばやることは沢山あるんだが…」
女武道家「また探索ですか?」
竜騎士「一番いいのはそれだろうな」
女武道家「…んむむ、そうだ、残りの家に挨拶に行くってのはどうですか?」
竜騎士「あー…そういえばまだ挨拶してない家があったな。町外れに数軒残ってたか」
女武道家「ですね、行きましょう」
竜騎士「うむ、泥落としにシャワー浴びてからだな」
女武道家「はい~っ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【町はずれ】
町民「はいよ、これからよろしくね」
竜騎士「はい。これで失礼します」ペコッ
ガラガラッ…バタンッ
竜騎士「ふー、あと何軒だ?」
女武道家「そうですね…と、あそこの家で最後です」ビシッ
竜騎士「…随分ボロい家に見えるが。住んでるのか…?」
女武道家「さぁ…私、あまり町外れには来ませんし…」
竜騎士「とりあえず行ってみるか」
トコトコトコ…
竜騎士「ん…看板?」
女武道家「ベーカリーショップ…、パン屋じゃないですかここ?」
竜騎士「こんな場所にパン屋ぁ?」
女武道家「パン屋ぁ?じゃなくて、パン屋ですよ!看板に書いてありますし!」
竜騎士「…こんな町外れにか?」
女武道家「私も知りませんでした。とりあえず、挨拶しましょうよ」
竜騎士「潰れてるんじゃないかね…」
コンコン…コンコン……
竜騎士「…」
コンコン…
竜騎士「…」
シーン…
竜騎士「返事がない。やっぱ潰れてるんだって」
女武道家「人の気配もないですねぇ…、やっぱり潰れてるんでしょうか」
竜騎士「困った時のスミスさん、じゃないか?」ハハ
女武道家「またですか、迷惑になりますよ?」
竜騎士「だよなぁ、ま…いいか…」
トコトコ…
???「あれ、何やってるんだ」
竜騎士「え?」
女武道家「え?」
コック「お前らここで何してるんだ?」
竜騎士「コックさん!」
女武道家「コックさんこそ、どうしたんですか?」
コック「いや、ここ俺の家ね」
女武道家「え!?」
竜騎士「パン…屋?」
コック「あがっていきな。お茶くらい出す」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コトンッ…
コック「はいよ」
竜騎士「ありがとうございます、コックさんの家だったんですね」
コック「もうほとんど使ってないけどな。昔、料理屋する前にここでパン屋やってたんだ」
竜騎士「なるほど」
女武道家「今のお家はどうしてるんです?」
コック「商店街の店と家が一緒で住んでる。ここはこうやって様子を見に帰るくらいだ」
竜騎士「へぇー…」
コック「お前らは何でここに?」
竜騎士「挨拶回りですよ。俺が支部に来たって報告です」
コック「あぁ」
女武道家「…」キョロキョロ
竜騎士「どうした?」
女武道家「いや、勿体ないなーと思って」
竜騎士「何が?」
女武道家「少し古いとはいえ、手放すのは勿体なくないですか?」
コック「そうだな。人が住まなくなった建物はすぐにダメになるしな」
女武道家「ですよねー」
コック「誰かこの空き店舗、使うやつがいればいいんだが」
竜騎士「スミスさんの鍛冶品を売るとか…?」
コック「うーむ、あいつはあの場所が好きだからな。動かないだろう」
竜騎士「はは、ですよね」
女武道家「私たちが、お金があって売るものがあれば、借りてそうですよね」
竜騎士「売るものねぇ…」
コック「でもな、立地条件が悪い。こうして町外れだから、人が来にくいんだ」
竜騎士「だから、商店街のほうに?」
コック「まぁな。本当はここで料理屋をやってもよかったんだがな」
竜騎士「なるほど…と、コックさん」
コック「なんだ?」
竜騎士「何か、やってほしい事とか、依頼をしたい人とかは知りませんか…?」
コック「ふむ」
竜騎士「とにかく報告書を積まないといけないので…」
コック「んー」
女武道家「どんな些細なことでもいいんです、よね?」
竜騎士「さすがにネズミ退治だとか、掃除とかは無理だけどな…」
コック「やはり、人や町の為になることじゃないとダメなのだろう?」
竜騎士「贅沢は言いたくないのですが、やはりそうなりますね」
コック「俺は今、不自由がないからな…どうしたものか。力にはなってやりたいんだが」
女武道家「やっぱり、今は自分らでやれることを考えたほうが良さそうですかねぇ」
コック「うーんむ…身内のバイトの子にでも聞いてみるか?」
竜騎士「ぜ、ぜひお願いします!」
コック「それじゃ、うちの店に来い」
竜騎士「え、今から…お邪魔しても?」
コック「俺の弟子が今の時間はやっている。バイトもいるし、丁度いいだろう」
竜騎士「すいません、お手数かけまして」
コック「命の恩人が何をいう。もっと大きく出ていいんだぞ」
竜騎士「はは…」
女武道家「コックさんの料理店…どんなところなんだろ♪」ウキウキ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【コックの料理店】
ガランガランッ!!
竜騎士「おぉ…」
女武道家「お洒落ですねっ」
竜騎士「女武道家さ、いつも思うんだけど、地元なのにあまり地元のこと知らないんだな?」
女武道家「そうですねぇ…買い物とかはもうちょっと大きい町行ったりしてますし…」
竜騎士「まぁ、そんなもんか」
コック「俺の店にいらっしゃいませ」
トコトコ…
バイト「あ、コックさんお帰りなさい」
弟子「お帰りなさい」
コック「んむ。こっちは竜騎士と女武道家だ」
竜騎士「よろしくな」
女武道家「よろしく~♪」
バイト「あなたたちが!?」
弟子「コックさんに話を聞いてます、師匠の病を治してくれたんですよね!!」
竜騎士「まぁ、そうなるな」
弟子「わぁぁ、一度お礼を言いに行こうと思ってたんです!」
バイト「本当にありがとうございました!」
竜騎士「うん、こっちこそ色々とね」
弟子「師匠の店に、料理を食べにきた…って雰囲気でもなさそうですね?」
竜騎士「うん、まぁ…何か君たちに依頼がないかなーって思ってね」
弟子「依頼ですか?」
竜騎士「めっきり仕事もない状況なんだけど、月末までに結果を出さないとクビになりそうなんだよ」
バイト「えぇっ!?」
弟子「クビですか…私たちにとっては痛い言葉ですね」ブルッ
コック「そうならないように精進しとけ」コツンッ
竜騎士「そうなんだよ。クビ回避するために…どうするかってね」
女武道家「お金のやりくりの為に、わざわざ畑で自家栽培まで始める状況ですもんね」
弟子「依頼…依頼かぁ…」
バイト「私は今はないかなー。不自由もしてないし」
竜騎士「そうなんだよ。この街は、魔物の被害もないから軍の役割がないんだよなー」
弟子「どんなことでもいいんですか?」
竜騎士「ドブさらいとか、ネズミ退治とか以外なら」
弟子「いや、その…、"コーラル"がほしいんですよ」
女武道家「コーラル…?」
竜騎士「幸せを呼ぶというサンゴのことだ。なぜそれを欲しいんだ?」
弟子「いやぁ、実は母親がもうすぐ誕生日でして。そのプレゼントに欲しいんです」
竜騎士「とはいっても、コーラルは高いだろう?」
弟子「だからこそ、です。近くに泉があるのはご存知ですか?」
竜騎士「あぁ、水晶の泉のことか」
弟子「そうです、そこをずっと辿ると、不思議な場所があるんですよ」
竜騎士「不思議な場所?」
弟子「汽水域みたいな、泉なのにサンゴや海魚がいる場所なんです。そこにコーラルがあるという話を聞きました。」
竜騎士「汽水域…難しい言葉を知ってるな。しかし泉の奥にそんな場所が?」
バイト「でも、あそこって地元の人も近づかないじゃん」
弟子「そりゃアイツらがいるから…」
竜騎士「あいつら?」
弟子「インプの群です」
竜騎士「なんと…、インプが泉に?」
弟子「そこの泉で魚やらを採って生活してるという話を聞いて、地元の人間は近づきません」
女武道家「あ…、私も聞いたことある。昔、結構あそこで町人が事故に巻き込まれてたって話」
弟子「はい。今は誰も近づきませんから、その分被害もないんですけど…」
竜騎士「なるほど、そこを殲滅して安全域を伸ばしつつ、弟子くんの依頼を完遂する…か。悪くない」
弟子「お願いできますか?」
竜騎士「うむ、任された」
女武道家「インプは…どのくらい強いんですかね?」
竜騎士「なぁに、小悪魔っていうものが相応しい程度だ」
女武道家「なるほど、それなら安心できます」
コック「おい、お前は報酬は用意してるんだろうな?」
弟子「え、あ、はい…報酬…」
竜騎士「んー、いい情報と引き換えということで、そこまでのはいらないぞ」
コック「これはきちんとした依頼だ。それに対しての報酬は出すんだ。それが社会というものだろう」
弟子「は、はい…。えと、コーラルの相場が今、15万ゴールドだったと思います」
竜騎士「まぁそのくらいはするだろうな」
弟子「なので…えと…10万ゴールドだと、厳しいでしょうか」
竜騎士「あぁ、いいぞ」
弟子「…ありがとうございますっ!」ペコッ
コック「ふむ、ついでに頼みがある」
竜騎士「はい?」
コック「そこで見かけた食べれそうなもの、持ってきた分に応じて値段をつけて買い取るぞ」
竜騎士「!」
コック「食べれない品でも、買うときは買う。コーラルみたいのがあったら飾りでも使えるしな」
竜騎士「わかりました、任せてください」
女武道家「俄然、やる気になってきましたよ!」
コック「出発はいつだ?」
竜騎士「水辺の距離など把握してないので、地図を確認しつつ明日の朝に出発しようと思います」
コック「なるほど、それじゃ出発前にうちに来い」
竜騎士「?」
コック「弁当くらい作っといてやる」
竜騎士「そ、それは嬉しいですが」
女武道家「い、いいんですっかぁ♪」
竜騎士「でも、そこまでお手を煩わせるわけには…」
コック「あぁ、そのくらいはな。気にするんじゃない」
竜騎士「すいません、本当に色々と…」
コック「何、本当に気にするな」
女武道家「よっし、それじゃ支部に戻って作戦会議してからですね!」
竜騎士「あぁ、一応資料があるかもしれないからな。それじゃ、失礼します」
コック「あぁ」
弟子「よろしくお願いします!」
バイト「また、来てくださいね」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【夕方・支部】
ペラッ…
竜騎士「探すのには手間取ったが、情報はあったな」
女武道家「40年前の書類って…使えるんですかね」
竜騎士「使えないことはないだろう」
女武道家「地図によれば、泉は、川とぶつかってるところにインプがいるみたいですね」
竜騎士「泉自体から湧き水が出てると思ったが、河川から溜まった形なんだな…つか、なんで泉なんだ」
女武道家「結構広いですからね、湖といっても差し支えないかも?」
竜騎士「いや、そういうことじゃない。泉は、地下水がそこで湧き出て溜まった形のものをいうんだ」
女武道家「え?」
竜騎士「湖というのは、川から流れて出来ているものをいうんだ」
女武道家「たまたまじゃないですか?」
竜騎士「まぁ確かに、泉を湖と表記するとこも多いがな」
女武道家「そんな気にするほどじゃないですよ」
竜騎士「まぁ…いいか。で、歩いてどのくらいになりそうか…」
女武道家「近いですね、いつもの入り口から20分程度みたいです」
竜騎士「なるほど…もしインプを倒しきったら、魚釣りなんかもできるかもしれん」
女武道家「おぉ、魚釣り…♪」
竜騎士「なんだ、好きなのか?」
女武道家「昔、お爺ちゃんなんかとよく行ってましたから!」
竜騎士「感じにもよるが、潜って色々と金になるものが採れるかもしれんしな」
女武道家「潜るのは勘弁してください…」
竜騎士「もっと逞しく生きろよ!」
女武道家「頑張ってみます…」
女武道家「と、とりあえず…大体は憶測がつきましたね!」
竜騎士「そうだな。明日も朝早く出発する。一応釣竿道具なんか商店街から買っておくか?」ハハ
女武道家「…」キランッ
竜騎士「…まじで?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・
・・・
・・
・
【8月13日終了時点での収支】
■収入
・木材販売4万ゴールド
・コックのクエスト報酬30万ゴールド
■支出
・食事代・農耕具・釣具等16万ゴールド
・土地代(月末支払い)20万ゴールド
■収支合計
・マイナス2万ゴールド
■月末までの目標金額
・500万ゴールドまで、後502万ゴールド
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【8月14日・コックの料理店】
コック「それじゃ、昨日いった弁当だ」ガサッ
竜騎士「ありがとうございます」ペコッ
女武道家「コックさんのお弁当…」ジュルッ
竜騎士「…それじゃ、行ってきますね」
コック「あぁ気をつけろよ」
ガラッ…バタンッ
竜騎士「女武道家って、本当に欲望本能のままって感じだよな」
女武道家「そんな卑猥ですかね?」
竜騎士「そっちじゃねえよ!つか、そういう意味じゃねぇ!」
女武道家「ぬぅ…」
竜騎士「まぁ頑張るか」
女武道家「釣りのためにも!」
竜騎士「弁当食って、釣りに行くって…ただの遊びにしか見えないんだがな」
女武道家「立派な節約生活です!」
竜騎士「節約程度じゃ困るんだけどねー…」
女武道家「とりあえず、泉に向かいますか」
竜騎士「準備は整ってるし、ま…大丈夫か」
女武道家「ところで、インプってどんな相手なんですか?小悪魔だけじゃわかりませんよ」
竜騎士「ふむ」
女武道家「力が強いとか、魔法を使ってくるとか」
竜騎士「悪魔といっても、妖精の一種だ。主に魔法を使い、イタズラが好きなんだ」
女武道家「イタズラ…」
竜騎士「知性の高いものは人間の言葉をも使う。稀だがな」
女武道家「イタズラって、どういうのをするんですか?」
竜騎士「馬を水に引きずりこんだり、畑を荒らしたり、魔法で人を騙したりだな」
女武道家「最初のは洒落になりませんけど」
竜騎士「それと、インプには不思議な力があってな」
女武道家「不思議な力?」
竜騎士「腐った木を蘇らせて、再び果実を生らす、といった事も出来るらしい」
女武道家「へぇ、悪い子じゃないんじゃないですか?」
竜騎士「だがイタズラやら、人間に迷惑をかけるから…あまりよろしくないんだなこれが」
女武道家「そっかぁ…」
竜騎士「ま、それ以後の話は泉についてからだ」
女武道家「はいっ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 水晶の泉 】
トコトコ…
女武道家「情報によると、この辺のはずなんですけど」
竜騎士「だいぶ歩いたな。地図によるとそろそろ川が…」
女武道家「あっ、あれじゃないですか!」
竜騎士「…だな。川が見える」
サラサラ…ヒュウッ…
女武道家「ん~…この辺、涼しいですね」
竜騎士「流れがあるからな。汽水域みたいなのはこの辺だと思うんだが」キョロキョロ
女武道家「海の匂いもなければ、インプもいませんね」
竜騎士「もうちょい川に近づいてみるか」
ゴボ…ゴボゴボ…
竜騎士「ん?」
女武道家「…泡?」
竜騎士「なんだこりゃ」
ゴボゴボゴボ…ボコンッ……
インプ『プハァッ!』ザバァンッ!!
竜騎士「!」
女武道家「!」
インプ『…ン』
竜騎士「い、インプ!?」
女武道家「びっくりしたぁ…」
インプ『…何だお前ら」
女武道家「しゃべったー!?」
インプ『…うるさっ』キーン
女武道家「ちっちゃーい!何ですかこれ、愛玩悪魔ですか!」キャッキャ
竜騎士「お、落ち着け、とりあえず落ち着け」
インプ『うるさい女だな…何か用か』
竜騎士「あ、あぁ驚かせてすまなかった。君はインプか?」
インプ『まぁ…インプだが。種族であって名前じゃないだろ、それは。お前は人間という名前なのか?』ケケケ
竜騎士「…」イラッ
インプ『というか本当に何の用だ?人間がここに来るのは久方ぶりだな』
竜騎士「ここはインプの集落みたいなのがあるんだと聞いたんだが…」
インプ『仲間なんぞとっくに死んじまったよ。もう俺だけだ』
竜騎士「何?」
インプ『何?も、何もない。それだけか?」
竜騎士「いや、この泉の川とのぶつかる部分に不思議な場所があると聞いてやってきたんだ」
インプ『不思議な場所?』
竜騎士「泉なのに、海のものがあるという話だ。コーラルがほしくてな」
インプ『あぁ。なるほどな』
竜騎士「場所、よかったら教えてもらえないか?」
インプ『ないよ』
竜騎士「何?」
インプ『そんなもの、もうない。いつの話をしているんだか』ケケッ
竜騎士「どういうことだ?」
インプ『…』プイッ
女武道家「インプさん、よかったら教えて下さい」ニコッ
インプ『…』シーン
竜騎士「…」イライラ
インプ『何か、美味い食べ物をくれたらしゃべってやってもいいかな』ケケケ
竜騎士「この…調子に…!」
女武道家「わかりました、このお弁当で…どうですか?」スッ
竜騎士「お、おい…」
女武道家「必要な情報じゃないですか!」
竜騎士「…いいのか?」
女武道家「仕方ないですよ…食べたかったですが」ハァ
竜騎士(へぇ…)
インプ『ほー、これはイイ弁当だな』ガパッ
竜騎士「それでいいだろ、話してくれ」
インプ『仕方ない。簡単にいえば、仲間…つまり同胞がいなくなったからだ』
竜騎士「同胞?」
インプ『俺らの魔力で、俺らが住んでいた集落だけ海や河の生命を生んでいたんだよ』
女武道家「それって、もしかして腐った木に実を宿らせるっていう、生命の魔法ですか?」
インプ『よく知ってるな。同胞が失われて、その魔法もなくなったってわけだ」
竜騎士「参ったな…、それじゃコーラルも採れないか」
インプ『コーラルがほしいのか?』
竜騎士「あぁ、コーラルを欲しがってる人がいるんだがな」
インプ『…お前ら、強いか?」
竜騎士「まぁ、やれるほうだとは思うぞ」
インプ『…来い』
竜騎士「ん…お、おう…」
女武道家「何なんでしょうね?」
竜騎士「さぁな」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【水晶の泉の洞窟】
竜騎士「…ここは」
インプ『俺が今住んでる洞窟だ』
竜騎士「ほぉ」
女武道家「わぁ…ここは洞窟なのに湿気がなくて、過ごし易いですね」
インプ『ケケ、一緒に住むか?』
女武道家「そ、それはちょっと…」
竜騎士「で、何の用だ?」
インプ『まぁ待て。俺の宝コレクションから…』
ゴソゴソ…
竜騎士「…」
インプ『ほら、これだろう?』
スッ…キラキラッ…!!
竜騎士「!」
女武道家「うわあ~!凄いきれい…これがコーラル…」
インプ『欲しいんだろう?』
竜騎士「くれるのか?」
インプ『冗談いうな。これは同胞らの魔力と引き換えた、宝だぞ』
竜騎士「…」スチャッ
インプ『お、おい!』
女武道家「ちょ、竜騎士さん!武器なんか構えちゃだめですよ!」
竜騎士「どの道、害を成す魔物だろ。倒して奪ったところで…」
インプ『や、やめろって!俺がいないと、泉が死んでしまうんだぞ!』
竜騎士「泉が死ぬ?」
インプ『泉が見てないのか!あそこまでキレイなのは、俺が魔力を出してるからだ!」
竜騎士「それは不都合だな」スッ
インプ『…なんてやつだ』フゥ
女武道家「竜騎士さん、血の気多いですよ…」
竜騎士「ちょっと態度にイラついてしまった…すまんすまん」
インプ『で、商談といこうじゃないか』ケケッ
竜騎士「商談だ?」
インプ『お前は…えーと、名前は」
竜騎士「竜騎士だ」
女武道家「女武道家です」
インプ『そう、竜騎士。お願いがある」
竜騎士「なんだ」
インプ『この洞窟から歩いてしばらくしたところに、無人の家がある。そこにいるやつを倒して欲しい」
竜騎士「…無人の家?」
インプ『昔は人が住んでたんだが、そこの主人が死んで空家になった。それから俺たちの地獄始まった」
竜騎士「地獄だと?」
インプ『そこに次に住み着いたのは、厄介なことにグレムリンだったんだ』
竜騎士「グレムリン…お前らの子孫みたいなもんじゃないか」
インプ『あんなやつが子孫?やめてくれよ…、あいつは同胞を次々と襲い、食ったんだ…』
女武道家「た、食べた…?」ゾクッ
竜騎士「共食いか。悪魔同士じゃ、力を得るためによくある話だが」
インプ『生き残ったのは俺だけになってしまった。だから、あいつに復讐をしたいんだ』
竜騎士「はぁ…悪魔の依頼を受けることになるとはな」
インプ『だめか?』
竜騎士「コーラルのためだ。仕方ない、受けてやろう」
インプ『お…おぉぉ…』
竜騎士「ただし、きちんとコーラルはよこせよ?」
インプ『も、もちろんだ!』
竜騎士「うし、女武道家、いくぞ」
女武道家「は、はいっ」
インプ『…頼んだぞ、竜騎士』
竜騎士「おう、期待して待ってろ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【水晶の泉の廃墟】
ヒュウウウッ…
竜騎士「と、ここか」
女武道家「廃墟ですねぇ。グレムリンってどういうやつですか?」
竜騎士「最近確認された、いわば新種の悪魔だ。悪魔族の子孫ともいえるが、イタズラ性質は変わらん」
女武道家「いつまでたってもイタズラっ子ってことですね」
竜騎士「どの道、あまり強くはない。ヒュドラといい勝負ってところだろうよ」
女武道家「それなら安心ですね」
竜騎士「だが…気になることもあってな…」ウーン
女武道家「何ですか?」
竜騎士「悪魔同士の共食いによる、力の吸収だ。下手すれば上位魔物に匹敵する力もあるかもしれん」
ギシ…ギシ…
女武道家「埃が…」
竜騎士「相手もこちらに気づいているな…?」
女武道家「いつも思うんですけど、よくそういうの分かりますよね」
竜騎士「慣れ、か。何となしに分かるんだよ」
女武道家「なるほど…便利なものです」
竜騎士「それより、慎重に進むぞ、声はできるだけ出すなよ」
女武道家「は、はい」
竜騎士「そこの部屋…入ってみるぞ」
…ギィィィ…
女武道家「ど、どこにいるんでしょう…」
竜騎士「左側、右側…違う…正面、…どこだ…」
…ポタッ
女武道家「ひゃああっ!何ですかこれ」ベトォ
竜騎士「大声だすなって!」ボソボソ
女武道家「で、でも何かベトっとしたものが…上から…」ベトベト
竜騎士「…上から?」
…チラッ
グレムリン『ガァァッ!!』クワッ
竜騎士「上だ!!よ、避けろぉ!」ガバッ
女武道家「きゃああっ!」
ズザザ…ドォンッ!!
竜騎士「危なかった、天井に張り付いてやがったのか!」
グレムリン『グゥゥ…』ギロッ
女武道家「ぜ、全然可愛くない…、怖い…」
竜騎士「か、可愛くないって…どんなの想像してたんだよ」
女武道家「名前からして、何か可愛いと思ったんですよ!」
竜騎士「…」
女武道家「でも、実物はただの獣じゃないですか!話が違うぅ!」
竜騎士「た、頼むから少し黙っていてくれるかな」
女武道家「うぅ~…」
竜騎士「まぁ…こんなでっかいグレムリンは見た事がない…やはり力を…」
グレムリン『…ウゥゥ』
竜騎士「…」スチャッ
女武道家「どど、どうするんですか!?」
竜騎士「どうって、倒すんだよ。準備しろ」
女武道家「もーいやぁー!」スチャッ
グレムリン『ガァッ!!』バッ
竜騎士「見える、遅いぞ!龍突っ!」
ビュンッ!!!…ドシュッ!!
グレムリン『グゥッ!』
ズザッ…ドシャアッ…
女武道家「や、やった?」
竜騎士「浅い。あれじゃ効いてない」
グレムリン『グゥ…』ペロッ
女武道家「…」ブルブル
竜騎士「隙は与えない、龍突っ!!」ビュンッ!
グレムリン『!』ヒュンッ
女武道家「よけられた!」
竜騎士「ちっ…あんまり魔力を使うのは得意じゃないんだが…」
女武道家「どうするんですか?」
竜騎士「小火炎魔法っ!」
ボワッ!!…ボォンッ!!
グレムリン『グガァッ!!』
竜騎士「今だ、一瞬のひるみを逃さん、攻撃を叩き込むぞ!」
女武道家「え、えぇぇっ!」
タァンッ!!!…スチャッ…
竜騎士「高さから無理やりねじ込んでやる…龍落ッ!」ヒュウウウッ!!
女武道家「も、もー!なすがままです、掌底波ぁぁ!」グワッ!!
ブシュッ…ドゴォッ…!!!
グレムリン『~…ッ!』ビクビクッ
竜騎士「まだまだ!突き抜けろぉぉぉ!」
…ズブズブッ…ズブシャッ…!!
女武道家「うえぇん…ち、血がぁぁっ」
…ポタ…ポタポタ……
グレムリン『…』ユラッ
竜騎士「…っ」
女武道家「もう嫌です、倒れてくださいぃ~…」
グレムリン『…』
ドシャッ…
竜騎士「…おし、おっし!」
女武道家「よ、よかったぁぁ」ヘナヘナ
竜騎士「ま、終わってみりゃ一瞬だったか」
女武道家「もうこんな相手はこりごりです…服がグレムリンの血に染まっちゃってます…」
竜騎士「そのくらい」ハハハ
女武道家「支部に戻ったらお洗濯しなきゃ」
竜騎士「…水が真っ赤に染まりそうだな」
女武道家「とりあえず、報告しにいきますか?」
竜騎士「まぁ待て。こんあ大物のグレムリン、金になるぞ」
女武道家「え…え、え、え?まま、まさか…まさかですよね?」
竜騎士「…」スッ
女武道家「な、ナイフを取り出してどうするつもりです…か?」
竜騎士「…」ニコッ
女武道家「わ、私は外にいますからね!見ませんよ!!」
竜騎士「いや、君はこの家…廃墟の中に使えるものがないか調べてくれないか?」
女武道家「使える、ものですか?」
竜騎士「もう気配もないし、安全だろう。埃っぽのが辛いが…」
女武道家「わかりましたっ!」タッタッタ
竜騎士「ここから離れられると思って、にこやかに去っていきやがった…」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
タッタッタ…
女武道家「竜騎士さん!」
竜騎士「予想以上にでかくで時間かかるな…ノコギリでも持ってこればよかったか」
ゴリゴリ…
女武道家「ひぃぃ…き、気持ち悪いぃ…」
竜騎士「ん、どうした?」
女武道家「ううう…、面白いもの見つけましたよ…」
竜騎士「面白いもの?まさか…っ!」ゴクリッ
女武道家「見てください、この土地の歴史本ですっ」バッ
竜騎士「なんだ…前の住人の日記か何かと思ったぞ」
女武道家「よくある小説じゃないんですから…」
竜騎士「まぁたしかに、自分の住んでる土地の馴れ初めとか、実は知ってる人は少ないか」
女武道家「ちょっと面白そうですよね。戻ったら読んでみましょうよ」
竜騎士「そうだな…よし、とりあえず解体は大体済んだし…持ってくぞ」ガサガサ
女武道家「どうするんですかそれ…、本当に売るんですか…?」
竜騎士「インプに証拠として見せて、あとは売るだろう」
女武道家「売れるんですか…ね」
竜騎士「さぁ…わからんが、とりあえず持っていこう」ヨイショ
女武道家「はいっ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【水晶の泉の洞窟】
ザッザッザ…
竜騎士「おーい」
女武道家「インプさーん!」
インプ『!』
竜騎士「帰ったぞ、ほらよっ」ポイッ
…ドサッ!
竜騎士「グレムリンの死体だ。証拠になるだろ、どうだ」
インプ『こ、これは確かに…』ゴソッ
竜騎士「…どうだ?約束通り、コーラルをもらおうか」
インプ『…ほらよ』スッ
竜騎士「確かに、頂いた」ゴソッ
インプ『…』ジッ
竜騎士「なんだよ」
インプ『ケケ…、人間にもいい奴がいるもんだな』
竜騎士「ふん、それじゃあな」クルッ
インプ『お、おい待てよ!』
竜騎士「何だ?まだ何かあるのか?」
インプ『その、あのな。ウソついてたことがあるんだよ』
竜騎士「ウソだ?」
インプ『…俺は最後の生き残りなんかじゃない』
竜騎士「何だと?まだ他に生きてるやつがいるのか?」
インプ『い、いやそうじゃない』
竜騎士「?」
インプ『お、俺は…、もう…生きていない…』
竜騎士「どういうことだ?」
インプ『…』パァッ
竜騎士「お、おい、お前体が透けて…」
女武道家「…!」
インプ『俺らは全員グレムリンに食われちまった。グレムリンの胃の中で、同胞が俺に魔力をかけてくれた』
女武道家「魔法…?」
インプ『生命の魔法だ。俺は確かに死んだはずだったが、目が覚めると、ここにいたんだ』
竜騎士「ばかなっ!いくら生命の魔法といえども、生物が死から再び目覚めるなど!」
インプ『ケケケ…俺だって信じられなかったよ。だけど、こうやっていたのが真実だ』
竜騎士「…っ」
インプ『だけどな、恨みが晴らされて…もう俺は…ようやく皆のもとへ行けるようだな』パァッ
女武道家「…」
竜騎士「幽体っ…!」
インプ『俺が消えたら、そこにあるコレクション…持ってっていいぜ。泉は心配するな、あれもウソだ』ケケケ
竜騎士「はっ、面倒なウソ、ありがとよ」
インプ『…じゃあな』
竜騎士「あぁ、またな」
女武道家「インプさん!!」
…パァァァッ……シュウウウンッ……
竜騎士「…」
女武道家「いなくなっちゃい…ましたね」
竜騎士「いけすかねぇやつだったけど、仲間のことを思えるスゲーやつだった…と思う」
女武道家「ですねっ!」
竜騎士「ま、あいつの言った通り、あいつの貯めてたモノ貰うとするか」ゴソゴソ
女武道家「…本当に逞しいですね」
竜騎士「…お、おぉ…、すげえ…、いいものが沢山あるな…と、思ったが…2つくらいしか使えそうなのがない」
女武道家「どんなのですか?」
竜騎士「天然の水の魔石に銀の細工のピックハンマー!」
女武道家「銀の細工のピックハンマー?」
竜騎士「洞窟、つまり鉱石の採掘道具だ。銀の魔力が込められてて、力を入れずとも簡単に鉱石を掘れるんだ」
女武道家「へぇぇ、よくわかりませんが…売れるんですか?」
竜騎士「売る…うーん、少し古いから売れるかわからん。新品だと60万ゴールドはくだらないんだが」
女武道家「それじゃどうするんです?」
竜騎士「ま、持って帰るだけ持って帰ろう」ゴソッ
…バシャッ!!
竜騎士「ん…?」
女武道家「泉のほうですよ」
竜騎士「何の音だ、まさかあのインプ、生きてたり…」
トコトコ……、バシャッ!!…パシャパシャッ…
竜騎士「!」
女武道家「い、泉に魚が沢山…」
竜騎士「魚って…ま、待て。あれ海魚だぞ!」
女武道家「えっ?」
竜騎士「インプのやつ、最後に魔力を使ってこの辺一帯の性質を変えやがったんだ。魔力の痕跡がある…」
女武道家「実は凄いインプだったんじゃ…?」
竜騎士「そうは信じられないが…実際あるしなぁ…」ポリポリ
女武道家「あ、釣り道具ありますよ♪」
竜騎士「しゃーねー…ちょっとだけ世話になるか」ゴソゴソ
女武道家「ですね!」
竜騎士「手間かけさせてもらった分…楽しませてもらうからな!」ビュッ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【夕方・コックの料理店】
ガランガランッ!!
女武道家「ただいまーです!」
弟子「…竜騎士さん!」
コック「お、戻ったか。どうだった」
竜騎士「コーラルはもちろん、買い取ってもらえそうなもの…持ってましたよ」ドンッ
コック「ほぉ、見せてくれ」
竜騎士「まずはコーラル、これでいいか?」
ゴソゴソ…ドサッ
弟子「でっかーー!!え、こんなの採れたんですか!?」
竜騎士「まぁな。お気に召したか?」ハハ
弟子「は、はい!すぐにでも、約束のお金、持ってきますね!」タタタッ
コック「立派なもんだな。で、売れそうなものを見せてもらおうか」
竜騎士「天然の水魔石、大型グレムリンの肉と皮、それと海の幸ですね」スッ
コック「大型グレムリン?」
竜騎士「泉から少し歩いた場所にある、無人の家に住み着いていた悪魔です。ついでに退治してきました」
コック「そんな話聞いたことないな」
竜騎士「ちょっとした面倒な状況で、そういうことになりました」ハハ…
コック「そうか。ふむ…天然の水魔石は料理にも使えるし、海の幸はこの辺じゃ珍しいから買い取れるが…」
竜騎士「やっぱりグレムリンはいらないですかね?」
コック「うーんむ…さすがにこれは…料理したことない上に相場もわからんな」
竜騎士「生肉ですから、中央の商人にお願いしようとすると腐っちゃいますが、勿体ないですよね」
コック「…ちょっと味を見ても?」
竜騎士「あ、どうぞ」
…ペロッ
コック「…っ!!」
竜騎士「ど、どうですか?」
コック「しょ、しょっぱ…すぎる…何だこれは」ゴホッ
女武道家「え、しょっぱい?どれどれ」
スッ…ペロッ
女武道家「ひ~~っ!しょっぱいぃ!」
コック「…ゲホゲホッ!」
竜騎士「あー…使えませんかね」
コック「これは…さすがに…」パァッ
竜騎士「ん?」
コック「お」
女武道家「え?」パァッ
…パァァッ!!
竜騎士「これは…生命の魔力の光だ」
女武道家「な、なんだか力がみなぎって来ましたよ!」
コック「なんだこの体の奥から熱くなるような力」
竜騎士「そ…そうか。コイツはインプの力を吸収していたから、生命の魔力を宿していたのか!」
女武道家「ふわあー!力がみなぎってますぅー!!」モリモリ
竜騎士「だが…少々強すぎるようだな…」
コック「ふむ面白い。大体の値段で買い取らせてもらってもいいか?」
竜騎士「え、買い取ってくれるんですか?」
コック「滋養強壮として使えそうだ。凍結させれば長く持ちそうだしな」
竜騎士「ありがとうございます!」
コック「海鮮物が5万、水魔石が25万、グレムリンは100万でどうだ?」ゴソゴソ
竜騎士「いいんですか、そんな高値で!」
コック「まぁ滅多に出回らないような品だからな。受け取ってくれ」スッ
竜騎士「…」ペコッ
女武道家「あははー!」ブンブン
タッタッタ…
弟子「竜騎士さん…お待たせしました、約束の10万ゴールドです!」スッ
竜騎士「あいよ、確かに」チャリンッ
女武道家「あいっ、ありがとうございますっ!」ブンブンッ
弟子「…どうしたんですか?女武道家さん…何か様子が…」
竜騎士「元々ああいう気質があったんだ。優しく見守ってくれ」ポンッ
弟子「は…はい…?」
竜騎士「それじゃ、これで失礼しますね」
コック「あぁまたな」
弟子「ありがとうございましたっ!」ペコッ
トコトコ…
女武道家「ばいばーい!」ブンブンッ
竜騎士「お前はいい加減テンション落とせ」ゴツッ
女武道家「いたいっ!うへへ…」
竜騎士「…」
ガランガランッ…バタンッ…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
【8月13日終了時点での収支】
■収入
・木材販売4万ゴールド
・コックのクエスト報酬・アイテム販売130万ゴールド
・弟子のクエスト報酬10万ゴールド
■支出
・食事代・農耕具・釣具等16万ゴールド
・土地代(月末支払い)20万ゴールド
■収支合計
・プラス138万ゴールド
■月末までの目標金額
・500万ゴールドまで、後362万ゴールド
【後編】に続きます
竜騎士「田舎に飛ばされ自給自足生活」【後編】