魔物娘「わ、私はそんな……」フルフル
男「え、あ? ゴメンゴメン」
魔物娘「えっ?」
男「いや、この森に最近人を襲うモンスターが出たらしいんだけどさ、それで聞きたいことが―」
魔物娘「わ、私じゃない」フルフル
男「うん、そうだよね。ちょっと聞きたいことがあって、声をかけてみたんだけど、驚かせてしまったみたいだ、悪かった」ペコリ
魔物娘(こ、この人間私のこと嫌じゃないのかな……)
元スレ
男「人を襲うモンスター……」魔物娘「……ち、ちがう」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1379861784/
男「森近くの旧道で何人も襲われたって聞いてね、それで調べに来たんだ」
魔物娘「……」
男「何か知ってる?」
魔物娘「……」フルフル
男「なかなか良い森だよね、何かちっさい動物もいっぱい住んでるし」
魔物娘「……」
男「人間はあんまり足を踏み入れないらしいけど。君はそこの家に住んで長いの?」
魔物娘「……」コクリ
男「魔王が倒れたのはいいけどさ、まだ各地に暴れているモンスターはいて」
魔物娘(み、見つかったときはどうなるかと思ったけれど)
男「そのモンスターはなかなか手ごわいらしい」
魔物娘(この人間、良い人なのかしら)
男「正体もまるで掴めていない。ついにはギルドが賞金かけてね」
魔物娘(それにしても、一人でよく喋る人ね)
男「それはそれとして、今晩泊まらせてくれない?」
魔物娘「……!?」
魔物娘「い、今何て……?」
男「モンスターまだ見つからなくてね、一晩泊めてくれない?」
魔物娘「え」
男「駄目かな? 金は払うからさ! 安心して大丈夫!」
魔物娘「え、え」
男「もう暗くなってきたし! ほら、夜の森って危険じゃない?」
魔物娘「え、え、え」
男「どうだろう、困ってて、泊めてくれたらありがたいんだけど」
魔物娘「で、でも……」
魔物娘(ど、どうしよう……)
魔物娘(たしかに最近、森も変な感じがするし)
魔物娘(言ってること、嘘じゃないのかしら)
魔物娘(おばあちゃんは困っているものは助けてあげなさいって言ってたけど)
男「どうか、お願い、この通りっ」フカブカ
魔物娘「……」
魔物娘(わ、悪い人じゃないかな?)
魔物娘「……」
男「なかなかいい家じゃない」
魔物娘(あまりにも強引だから思わず了承しちゃったけど)
魔物娘(そういえば、久しぶりに人間見るな)
魔物娘(魔物に泊めてもらおうとするし)
魔物娘(変な人間)
魔物娘(……)
魔物娘(もしかして、私が眠ったあとに、あの大きな剣でグッサリ…)
魔物娘(わ、私こんなこと考えちゃって、悪い子だな……)
魔物娘(でも、人間は私のこと恐ろしいって……)
男「うめえ。めっちゃうめえ」パクパク
魔物娘「……」モグモグ
男「夕飯まで出して貰っちゃって、何だか悪いね」
魔物娘(私だけ食べるわけにもいかないでしょー)
男「この焼き魚が特にうまい。うまい」パクパク
魔物娘(毒が入ってるかも、とかちょっとは疑わないのかしら)
魔物娘(そりゃ私は入れないけどさ)
魔物娘(でも……)
魔物娘(……)
魔物娘(久しぶりにご飯美味しいって言われたな)
男「くぅ~すぴぃーむにゃむにゃ」ZZZ
魔物娘(……思いっきり寝てるし)
魔物娘(寝てる間に私があの大きな剣でグッサリさすかもーとか考えないのかしら)
男「薬草高すぎるよーむにゃむにゃ」ZZZ
魔物娘(けっこうガッシリしてるのね)
魔物娘(……)
魔物娘(こ、こんなに近くで男の大人の人見たの初めてだな)
魔物娘(ち、ちょっとだけ触っても大丈夫かな)ソロリソロリ
魔物娘(ちょ、ちょん)ツン
男「んなっ!? ただし魔法は……むにゃむにゃ」ZZZ
魔物娘(……)
魔物娘(……ふふっ。変なの)
魔物娘(結局夜遅くまでつついてたなんて、反省ものね)
男「ふわあああ。やあやあ、おはようなぎ」
魔物娘「……お、おはようございます」ボソボソ
魔物娘(うなぎって何なのよ、うなぎって。人間のあいだでは流行ってるのかしら)
男「いやあ、ぐっすり寝ちまったよ」
魔物娘(そりゃあんだけ幸せそうだったらぐっすり眠れたでしょうね)
魔物娘(私はあなたのせいでぐっすり眠れなかったわ)
魔物娘(……)
魔物娘(も、もしかしたら、私自身のせいかもしれないけど)
男「じゃ、世話になったな」ガチャ
魔物娘(何事もないかのように行ってしまったわ)
魔物娘(まったく! 何て迷惑な人間だったのかしら)
魔物娘(あ……宿の代金貰ってないし)
魔物娘「ふんっ」
魔物娘(……でも、悪い人間じゃ……)
魔物娘(いいえ)
魔物娘(もう会わない人のことを気にしても仕方ないの、そうよ)
魔物娘(普段通りの生活に戻るだけなの)
魔物娘「……」
男「いやいや、人を襲うモンスターってのが見つからなくってさ」
男「この森で会う魔物って皆良い奴ばかりじゃないの」
男「ってことで今夜もできればよろしく!」
魔物娘「あ……え……は、はぃ」
魔物娘(ふ、二晩も! 乙女の住居に泊まりこむなんて、なんて図々しい男かしら!)
魔物娘(わ、私を軽く見てるのだわ!)
魔物娘(……)
魔物娘(……)
魔物娘(今日は何作ろうかな)
男「うっ……こ、これはっ」
魔物娘「?」
男「この料理……! う、ウマイ! これすげえウマイよ!」
魔物娘(ふふん、私の最も自信のある料理よ)ドヤッ
男「いろんな国回ったけど、これほどのものは無かったぜ!」
魔物娘「……ふふっ」
男「毎日食べたいくらいだな!」
魔物娘「なっ……ま、毎日……!?」
魔物娘(何を言い出すのよいきなりなのよ気をつけなければいけない)「これがこの男の手なのよ」ブツブツ
男「何か声に出てるぞ」
魔物娘「なっ」
魔物娘(またお金貰うの忘れちゃった)
魔物娘「ふんぬっ」モチアゲッ
魔物娘(ふとん)
魔物娘「あ……」
魔物娘(あの人の匂いかしら)
魔物娘(……)
魔物娘(って何してるのよ私)
魔物娘(この森はかなり大きいから、今日も見つからないかもしれないわ)
魔物娘(そしたら、今日も来るのかしら)
魔物娘(無礼な人よね、おウチのこと宿屋代わりにして!)
魔物娘(そうよ。今晩は来ても断るわ! 野宿すればいいのよ!)
魔物娘(……)
魔物娘(もしも、泊めてあげても、ご飯は私の分だけにするの!)
魔物娘(おなかをぐーぐー鳴らした横で私は美味しく食べるのよ、いい気味よ!)
魔物娘(……)
魔物娘(遅い)
魔物娘(遅いわ。もう暗くなってるし)
魔物娘(もう帰ったのかしら……)
魔物娘(せっかく料理作ってあげたっていうのに!)
魔物娘(人を襲うモンスターっていうのに食べられちゃったのかもしれないわ)
魔物娘(ふふん、せいせいするわ! あんな男! 静かで慎ましい生活を脅かす存在はいなくなったの!)
魔物娘(……)ソワソワ
魔物娘(…………)ソワソワソワソワ
魔物娘(……………………)ソワソワソワソワソワソワソワソワ
魔物娘(ちょ、ちょっと外の空気を吸いに行くのよ)
男「ただいまんぼう」ガチャリ
魔物娘「あ」
男「いやあ、それらしい奴見つけたんだけど逃げ足が速くてさあ」
魔物娘「お、おかえり!」
男「……でさあ、何とそれが五万もするんだ、分かる? ぼったくりですよ」
魔物娘「……ん」コクコク
男「……で、急いで助けに行ったらそいつは実は前に別の国で、って大丈夫? つまらなくない?」
魔物娘「ん」フルフル
魔物娘「……おもしろい、ほんとう」
男「そっか。なら良かった。でさあ……」
男「ぐーすか」ZZZ
魔物娘「ふしぎなひと」
魔物娘(世界中を旅してきているのね……いっぱい面白い話)
魔物娘(私はこの森しか知らない)
魔物娘(他の場所を見たことがない)
魔物娘(世界ってどうなっているのかしら)
魔物娘(それに、こんな人間もいるのね)
男「むにゃあああ」ZZZ
魔物娘「ふしぎ」
魔物娘(で、でも、こんなに不躾な男は嫌いなのよ)
魔物娘(でも悪い人じゃないし、優しい目するし……)
魔物娘(……もしかして私……)
魔物娘(そ、そんなはずないっ何かの間違いよっ)ワタワタ
男「っ!?」シュタッ
魔物娘「きゃっ!?」
男「……」
魔物娘(跳ね起きたと思ったら固まってる……う、うるさくしちゃったかしら……)
魔物娘「あ、あの……?」
男「何か変な感じがしたんだが……」
魔物娘「へ、変?」
男「いや、どうも違ったみたいだ」
魔物娘(討伐しに来たって言うモンスターのことかしら)
魔物娘(そうね、この人はそのためにここに来たのよね……)
魔物娘(モンスターを……)
男「ん?」
ポツ ポツ
男「雨」
ザーザー
男「……」
魔物娘(怖い顔で外睨んでるわ)
男「気のせいか」
男「驚かして悪かったな……ん、そういや君はまだ寝なくて大丈夫なの?」
魔物娘「こ、こう見えても健康なのです。人間の半分くらいの眠りでだいじょうぶ……」
魔物娘(あ……)
男「そうなんだ? まあ、無理はするなよ。じゃ、おやすみぃー」ZZZ
魔物娘「おやすみ……なさい……」ボソ
魔物娘(そう……ね)
魔物娘(私は魔物で、この人は人間なのよ、分かりきったことだわ)
魔物娘(私は人を襲うモンスターじゃない……けど)
魔物娘(一部の魔物は魔王に率いられて、人間と争って、人間の国を次々と支配して)
魔物娘(それはモンスターと呼ばれて忌み嫌われて)
魔物娘(魔王は勇者様に倒されたって聞いたけど)
魔物娘(でも、魔物と人間は……)
ザーザー
魔物娘(雨が強くなって……)
ゴロゴロ
魔物娘(かみなり……)
魔物娘(……)
魔物娘(そう……人間は…)
ゴロゴロゴロ……ドーン
過去
ザーザー
ゴロゴロ
魔物娘(こっちで大きな音がしたけど……)
魔物娘(崖崩れが……ここのところずっと雨が続いてたから)
魔物娘(たいへん! 大きな馬車が倒れてる!)
『……ぅ』
魔物娘『きゃっ!?』
魔物娘(に、人間!? 馬車からここまで投げ出されたのね)
魔物娘(大丈夫かしら……!? 血、血だわ!? 大怪我してる!)
魔物娘(どうしようどうすればいいの)
魔物娘(……)スーハー
魔物娘(お、落ち着くのよ。おばあちゃんから手当ての仕方は習ったじゃない。人間にも効くって)
魔物娘(道具は家にあるから、急いで持ってくるのよ)パシャパシャパシャ
魔物娘『……つ、次はこれを噛むのよ』
『っ』モグ
魔物娘(これで痛みが治まるはず……)
魔物娘(消毒して……次はこの薬草を……)
魔物娘『初めちょっと沁みる……かも』ヌリヌリ
『っ……ぅ』
魔物娘『安心して大丈夫。ヒデン。皆に効果バツグン』ヌリヌリ
魔物娘(あとは、こっちの薬を飲ませて)
『……』ゴク
『……っぷはぁ』
魔物娘(これでとりあえずは……大丈夫なはず)
兵士『おーーーーーい、助けに来たぞおおおおおお』
魔物娘(!? 助けが……)
兵士『どこだあああ? 返事をしてくれえええええ』
魔物娘『……っ』
兵士『おーい!!』
魔物娘『こ、こ、こ、こっちでえーす!!』
兵士『! すぐ行くぞおおおおお』
魔物娘(良かった……これで……)
ザーザーゴロゴロ
兵士『そ、そ、その子どもから離れろ!!』
魔物娘『っ!?』
兵士『離れろと言っているんだ、バケモノめ!』
魔物娘(ばけもの……?)
兵士『く、喰い殺す気か。そうはさせんぞっ』
魔物娘『わ、私は……』
兵士『その子どもだけは、どうあっても死なせるわけにはいかないんだ!』
兵士『こ、この鋭い槍で突かれたくなければ、こ、ここから立ち去れ、モンスター!』ブンブン
魔物娘『ひっ』
兵士『お、おらああ』ブンブン
魔物娘『っ』
魔物娘『……ぅ』パシャパシャパシャ
ゴロゴロゴロ……ドーン
魔物娘『うっ……ひっく……』パシャパシャパシャ
ザーザー
ゴロゴロ……
魔物娘「……」
魔物娘(私はあのとき、お礼をしてほしくてそうしたわけじゃない)
魔物娘(だけど)
魔物娘(あんな、こと)
魔物娘(人間から見ると、やっぱり魔物は……)
ザーザー
男「まだ降ってるのか。さて、行くかな」
魔物娘「……」
魔物娘「……あ、あの」
男「?」
魔物娘「ご、ごめんなさい」ペコリ
男「え?」
魔物娘「……そ、その。も、もう、この家には、その……」
男「そっか、分かった。無理言ってすまなかったな。何泊もさせてもらって」
魔物娘「ごめんなさい……」
男「何言ってるんだ、謝るとしたら、むしろ俺のほうだろう?」
魔物娘「……っ」
男「そんな気にしなくていい。じゃあな。また、機会があったら」
魔物娘(……)
魔物娘(……これでいいの)
魔物娘(人間の男と仲良くなるなんてあってはならないこと)
魔物娘(……楽しかった。でも)
魔物娘(間違いで親しくなる前に、別れるのが正解なの)
魔物娘(私は魔物で、あの人は人間なんだから)
魔物娘(親しく、なる、まえに……)
魔物娘(もうすぐ夜になる)
魔物娘(あの人は、無事かしら)
魔物娘(……)
魔物娘(今晩のご飯は、要らないわ)
ガチャ
魔物娘「!? 帰って!?」
戦士「見つけたぜ~」
魔物娘「!!! ど、どなた……」
戦士「ひっひ。上手く隠れてたみてえだが、俺の目はごまかせないぜ」
魔物娘「!?」
魔物娘(あのモンスターには賞金が掛けられているって)
魔物娘「……ち、ちがう」
戦士「あん?」
魔物娘「……わ、私じゃなぃ」
戦士「ひゃはははは。だーれが信じるかよ、てめえみてえなバケモノの言うことをよ」
魔物娘「!!……や、やめて、くださ」
戦士「ん?」
戦士「んー発育がちょっと足りないが。んー」
魔物娘「……」フルフル
戦士「んふっふ。なかなか美味しい仕事じゃねえか」ジュルリ
魔物娘(怖いっ)
戦士「ま、とりあえず痛めつけてから頂くとすっかな」カチャ
魔物娘(に、逃げなきゃ)タタッ
戦士「おっとっと」ガッ
魔物娘「ひっ」
戦士「まあ、大人しくあきらめるこったな。へっへっへ」
戦士「すぐに―」
男「彼女から離れろ」
魔物娘「あ、あなたっ?」
戦士「んだてめえ?」
男「離れろと言っているんだ」
戦士「おいおい、俺が先に見つけたんだ、報酬は俺のもんだぜ」
男「依頼が出ていたのは彼女じゃない」
戦士「あ?」
男「そのコじゃない。討伐目標は別だ」
戦士「証拠あんの?」
男「さっきまで、俺が闘っていた。腕の傷はそのモンスターの爪あとだ」
戦士「んー、自分でつけた……って感じでもなさそうだな、それを見ると」
戦士「ちっ。っだよ、あーそりゃだりいな」パッ
魔物娘「っ」
戦士「そりゃ悪かったなあ。バケモノがいるって言うからよ、ついついなあ」
戦士「ま、聞いていた割りにはやたらと、か弱そうとは思ったがねえ」
戦士「でも、間違って斬った所で問題はねえだろう? バケモノの一匹や二匹」
男「……」
戦士「おっとっと。そう怖い顔すんなよ。へへっ悪かった、そういう趣味かよ、坊や」
戦士「じゃあ俺は、その討伐目標ちゃんを倒しに行きますかねー」
男「ここから西の方角だ。そんなに遠くない」
戦士「そいつはどうもー」
男「……」
戦士「あーところでよ」
男「?」
戦士「今気づいたんだけどよお」
戦士「ギルドの連中もさ、最近旅人を襲ってるバケモノってのが何か分からねえわけじゃん?」
戦士「っつーことはだよ?」
戦士「こいつの首持ってきゃ皆納得すんだろ……ってなあ!!!」ガッ
男「!」
戦士「おお、今のを避けるたあ、坊や自信持っていいぜ」
戦士「しかし、残念だねえ。せっかく持った自信も意味がなくてさあ」
戦士「坊やはここで、バケモノにやられてしまった可哀相な冒険者ってことになるからよお!」シュッ
男「っ」
ヒュン
戦士「!?」
戦士「ぐああああっ」ザックリ
戦士「がはっ……ば、あの大剣で俺より速い!? 」
男「……」ブツブツ
戦士「あっ!? ま、魔法? つ、使えるのか?」
炎「めらめら」
男「ここから立ち去るかそれとも灰になるか」
男「てめえで決めろ」
戦士「ひ、ひいいいいいいいぃぃぃ」バンッダダダッ
男「やれやれ」
魔物娘「……」
男「間に合ってよかったよ」
魔物娘「……う」
男「怪我はないみたいだな」
魔物娘「う……うぐっ…えぐっ」グスグス
男「怖かったな、ごめん」
魔物娘「うううううわああああん」
男「おーよしよし。安心して大丈夫だから」
魔物娘「こ、怖くて、凄く怖くて、わ、私もう駄目だと思って、だったらあなたに、でも、そしたら」
男「おうおうよしよし」
魔物娘「こ、これを」
男「え?」
魔物娘「初めちょっと沁みる……かも」ヌリヌリ
男「っ。これは……薬草?」
魔物娘「……」コクコク
魔物娘「安心して大丈夫。ヒデン。皆に効果バツグン」ヌリヌリ
男「……?」
魔物娘「どうか、した?」
男「あ、いや」
魔物娘「……」
魔物娘「……ごはん、食べてく?」ボソ
男「……それで洞窟を進んでいくと不思議な泉があって……」
魔物娘「……」キョウミシンシン
男「……その情報屋ってのが嘘しか言わないんだが……」
魔物娘「……」コクコク
男「……なんと船を動かしていたのは幽霊の乗組員で……」
魔物娘「……」ブルブル
男「……するとそこの国の大臣の正体ってのが、実は……」
魔物娘「……」ゴクリ
男「黄金の国むにゃむにゃ」ZZZ
魔物娘(結局泊めちゃったわ)
魔物娘(魔物と人間だけど。私……)
魔物娘(……)
魔物娘(この人、強いのね)
魔物娘(『彼女から離れろ』だって)
魔物娘「ふふ……」ツンツン
チュンチュン
男「ふぁ~。おはようなぎ」
魔物娘「……お、おはようなぎ」ボソボソ
男「をを、傷が……綺麗に治っている」
魔物娘「うふふ」ドヤッ
男「うーむ……」マジマジ
魔物娘「?……っ、……?」
魔物娘(どうしたの急になんで私見つめられているの何なの)
魔物娘「ど、どう……どう……かした?」
男「何というかこう……そんなこともあるのか」
魔物娘「???」
男「いや。しかし、あのモンスターは相当な強さだぞアレ」
魔物娘「……その、人を、襲うっていう?」
男「ああ。その上、もうほとんど正気がない。ダメージは与えたが……うーむ」
魔物娘(真剣な顔……)
男「あれは多分、……まだいるのか……」ブツブツ
魔物娘(考え込んじゃった)
魔物娘「……あ、あの、いい?」
男「あ、ごめん。何?」
魔物娘「き、聞きたいことあるんだけれど!」
男「うん?」
魔物娘「た、旅って……楽しい?」
男「どうかな。辛かったり、悲しかったりすることも多いから」
魔物娘「……そう、なんだ」
男「だけど、旅で得るものもまた多い。それが、他じゃ得られないものだったりする」
魔物娘「そ、そうなの」
男「ああ。だから俺は今でも旅を……ん? これは……」キュピーン
魔物娘「?」
男「面倒な予感がする」
騎士団長「ここが奴の言った場所か」
団員A「ええ、間違いないようですね」
騎士団長「確かに人目につきにくい場所だな」
団員B「疑わしい風体の戦士でしたけど、言ってた通り本当に隠れた場所に家があるようです」
騎士団長「よし、手順通り退路を塞げ」
団員C「へいっ、おいお前ら、配置につくぞっ」
騎士団長「皆油断するなよ。相当な腕の持ち主らしいからな」
団員達「「はいっ」」
男「騎士にお褒め戴くとは光栄だ」
騎士団長「!」
騎士団長「貴様が狂人か。想像していたより若いな」
男「狂人だなんて酷い中傷だね、まったく。にしても、ずいぶん大人数でゾロゾロと来たもんだな」
騎士団長「お前がここに棲みついたモンスターと共謀しているとの話だが、認めるか?」
魔物娘『……っ』
男「いや、宿泊させてもらっただけだよ、貧乏旅で金もなくてね」
男「それにここにいるのは、モンスターなんてまるで言いがかりの、かわいい魔物の女のコだよ」
魔物娘『……!!!!!』
魔物娘(なななにを言ってるのあの人は)
魔物娘(か、かわいいって。間違いなく言ったわ。間違いないわ。私聞いたもん)
魔物娘(私のこと……なのよね?)
魔物娘(か、かわいいのかな私。……あ、あの人から見て。そ、そ、そうなのかな?)
魔物娘(もし! ……もし。本当にそうだったら、私、私)
魔物娘「……」
魔物娘「……っ」
魔物娘「……と、」
魔物娘「とっても、嬉しい……」
魔物娘「……」
魔物娘「……ふふふ」
魔物娘(か、かわいいって……)
魔物娘(……)
魔物娘(……)
魔物娘(ってほ、惚けてる場合じゃないのよ!)
魔物娘(あの人は、とりあえず任せてって言ってたけど……)
魔物娘(きしだんってちょっと怖そう……大丈夫かな?)
騎士団長「ふむ? で、お前は何者なんだ?」
男「通りすがりの旅人」
騎士団長「その旅人が何の理由でこの森にいるのか?」
男「貴女たちと同じさ。モンスターの討伐だ。もっともこっちは懸賞金目当てだが」
騎士団長「なるほど。実に怪しいな」
男「それは否定できない」
騎士団長「通りすがりの旅人だと? 貴様からはどこか常人ではない匂いがするよ」
男「結構水浴びとか気にしてるんだけどね」クンクン
騎士団長「……そういうことではない!」
男「さいですか」
騎士団長「貴様……騎士を愚弄するか?」
男「まさか。団長は居られないのか?」
騎士団長「私だ」
男「お前が?」
騎士団長「女が務めていることが珍しいか」
男「それもそうだが……、いや、先達は引退されたのか?」
騎士団長「そうだ。既に隠居して今団長を務めているのはこの私だ。前任を知っているのか」
男「勇名を馳せた槍士だろう? この国の者なら誰でも知っているほどだ」
騎士団長「ふん……まあいい。貴様らにはついて来てもらう。詳しい話は本部で聞こう」
男「誤解を解くためにそうしたいところだが、あいにくできない事情があってな」
騎士団長「何?」
男「分からないか、この森に漂う異様な感覚が」
騎士団長「お前が何を言っているのかが分からないな」
男「今やそのモンスターは狂気の中にいる。次に眠りから覚めれば、見境なく命を奪うだろう」
騎士団長「それは大変なことだ。ぜひ話の続きを本部で聞かせてくれ」
男「話の分からないお姉さんだな。真面目は美点だが行き過ぎると窮屈だぜ」
騎士団長「ふっ……旅人にお褒め戴いて光栄だ」
男「可愛げのない……。ったく、前の団長は臨機応変な対応をされる方だったぞ」
騎士A「あ……」ボソ
騎士B「やってしまいました」ボソ
騎士C「おやっさんと比べるのはお嬢には禁句だ……」ボソボソ
騎士団長「っ。前任を知っているようだが、貴様にそこまで言われる筋合いはないっ」
騎士団長「どうしても来ることができないというのなら、強制的にでも来てもらおうか!」シャキン
魔物娘『!』
男「やめてくれ。貴女達と争うつもりはないんだ」
騎士団長「争う、だと? 少しは腕に自信があるようだが、騎士団に敵うとでも思っているのか?」
騎士団長「争いにもならんよ」
魔物娘『……っ』バタン
男「!」
魔物娘「ま、待ってくださいぃぃ!」
騎士団長「!」
魔物娘「私が行けばいいんですか!」
魔物娘「そしたら、その人連れて行かなくても!」
魔物娘「い、いいんですかああぁぁぁ……」
騎士団長「……」
騎士達「「……」」
騎士団長「……確かに、彼女が人を襲うとは考えにくいな。だが、これも規則だ」
男「規則がそんなに大事か?」
騎士団長「私たちは秩序を守るためにいるのだよ」
男「もう少し余裕を持てば女性としても魅力的になるだろうに、もったいないなあ」
騎士団長「な、何を戯言を!」
男「……それとも、立派な騎士団長であろうとして焦ってるのか?」
騎士団長「!! くっ……こ、こいつっ!!」
騎士団長「もはや問答無用だ!!! 二人とも来てもらう!」
男「困ったな」
騎士団長「抵抗するなら容赦はしない。全員構えろ!」
魔物娘「!」
騎士C「ニイチャン、悪いんやがちょっとの間我慢してもらうで。怪我はさせる気ないから大丈夫や」ジリッ
男「ちっ。しょうがない……切り札を出すか」
騎士団長「何?」
男「あんまり気は進まんが……コレは取って置きだぜ」
騎士団長(こいつ……やる気か!)
男「あれれ? おっかしーな。ここに入れといたはずなんだけどなあ」ゴソゴソ
騎士団長「……」
男「確かこの前洗濯物干すときに重しにして……」ゴソゴソ
騎士団長(何なんだコイツは……)
男「あ、あったあった。ようし者ども、控えおろう!」
騎士団長「!?」
男「これが切り札―いや、待てっ」キュピーン
騎士団長「今度は何だっ!?」
男「タイミングがいいのか悪いのか……来た」
騎士団長「は? 何を言って―」
「くっくけけけけけけけけけけけけけええええええええええええええ」
魔物娘「……」ブルブル
騎士団長「な、何だ、あれは!?」
騎士達「「……っ」」
男「例のモンスターだよ」
騎士団長「あれが……? あんなモンスターなんて、見たことがない……なんて、醜悪な……」
男「生き残りだ、魔王の側近のな」
騎士団長「ま、魔王……!?」
男「魔王が死んで、その力と組織が失われて。残ったのは憎悪と死の恐怖による破壊衝動。それが積もり積もって理性も失くしたらしい。それが姿に顕れたんだ」
男「そこいらのモンスターとは訳が違う。全員下がってろ」
騎士団長「!? 待て、私達騎士に任せるんだ!」
騎士団長「貴様らを疑ったこと、悪かった。詫びよう」
騎士団長「しかし、ここからは我らの本分だ」
男「お前ね、他人の忠告は聞きなさいよ」
騎士団長「怯むな、全員構えい! 戦闘だ!」
騎士達「「おおおおおっ」」
男「馬鹿っ、この石頭集団めっ……ったく」
魔物娘「……」
男「安心して大丈夫だ、そんな顔しなくていい。守ってみせるよ」
魔物娘「……」
「しゅう……しゅう……しゅう……」
騎士A「なんて、気味が悪い……多すぎる手足と眼球、何よりあの笑み……」
騎士B「き、気持ち悪いです……うっ」
「ちっちっちっちっちっちっち……」
騎士C「舐められてるで……気ィしっかり持ち」
「んーんっんっんっんっんっんっんっんっんっんっん」
騎士団長「我らは騎士だ。その誇りを思い出せ。恐れることはない」
騎士団長「……かかるぞ!」
騎士A「……フッ!!」シュッ
「あぁっ?」ガシッ
騎士A「つ、掴んだ!?」
「くっくっくくけけけけけけけけけぇぇぇぇぇぇっ」ドガッ
騎士A「が、がはっ……ゴホッゴホッ」
騎士団長「だ、大丈夫か!?」
騎士B「でしたら!」ブツブツ
騎士B「燃えなさいっ」
炎「ぼわああああ」
「かかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかっ」アーン
騎士B「嘘でしょ……私の炎食べ……」
「ぼおおおおおおおおおぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
騎士B「あ」
男「っと」ヒョイ
男「ボサッとするな。こんがり焼かれる気か」
騎士B「っ……え? あ!?……た、助かったの……」
男「けど、まさか炎を喰って吐き出すとは思わないか……生き物からずいぶんと遠ざかってるな」
「んががががががががががっががっがっがががががっが」
騎士C「ふんっ!!!!」ヒュッ
「んっんっんんんんん」スチャッ
騎士C「この距離の矢を掴むやて……」
騎士団長「怯むな! この人数で押せば勝機はある!!」
騎士達「「……っおおおおおお!!」」
ザンッガキンッ シュッ ボウッ
騎士団長(……いける! 確かに強敵だが、この数ならば!)
「……んーんーんーんーんーんーんーんーんーんーんーんー」
騎士団長(動きが止まった? ……よし!)
男「!!!!! 皆、ヤツから離れ―」
騎士団長「この化け物めっ!! こっちだ、私を見ろっ」ダンッ
男「ちぃっ」ダッ
ドォォンッ
男「不用意に飛び込みすぎだ」
騎士団長「ば、馬鹿な……まさか、あんな、魔法まで……う……」
男「幸いそこまで傷は深くない。あとは引っこんでろ」
騎士団長「……っ」
騎士団長「……嫌だ」
男「え?」
騎士団長「わ、私は騎士団長だ。ほ、誇りを、守らなくていけない、いけないんだ……!」
騎士団長「そうしないと、私は、私は……」
男「……」
男「そう自分で自分を追い詰めるな」
男「立派に職務は果たしているさ。真面目で凄いヤツだ。責任感もある」
男「皆もそう思ってるさ。じゃないとここまで付いてこない、だろ?」
騎士団長「だ、だけど」
男「よし、さっきのは撤回しよう。女性としても充分に魅力的だ」
騎士団長「な、何を急に……」
男「それに、これは俺の仕事だ」
騎士団長「仕事だと?……うっ」ズキッ
男「無事か?」
魔物娘「……」コクリ
男「頼みがある」
魔物娘「なに?」
男「家で騎士達の手当てを頼む」
魔物娘「わかった」コクリ
魔物娘「でも、あなたは……」
男「安心して大丈夫だ。なんせ、俺は強いからな!」ダッ
「いひひひっひいいいひひひっひいひひひっひっひひっ」
騎士A「ぐっ……嘲笑っていやがる……っ」
騎士B「つ、強すぎますっこのままだと全滅ですよおっ」
騎士C「……せめてお嬢とあいつ達は何とか逃がさなきゃあな……」
「ひひひひひひひひひひっひひひ……ひ?」
男「後は任せてくれ」シュタッ
男「あなたたちは負傷している仲間を家に。団長もそこだ。あのコが手当てしてくれてる」
騎士A「し、しかし……!?」
「がああああああああああああああああっ」シュッ
男「っ」ガキン
騎士B「なっ……あれを防いだ!」
騎士C「……! 従うぞお前ら、急ぎ負傷者を回収しろ!」
男「頼む、任せた。騎士殿」
男「……」
「うっ? うううううううううううううう! っししっしあああっあぁぁ」
男「記憶を完全に失くしたってわけではないのか……覚えているのか?」
「ぐううううううううううううううう」
男「随分と醜い姿になったもんだ」
「ぐああああああああああああああああ」
男「いや、姿じゃないな。精神だ」
「ぼおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
男「っ」
騎士団長「く、くう、私が行かねば……」
魔物娘「動いちゃ駄目」
騎士団長「お、お前……何を……」
魔物娘「……大丈夫」ヌリヌリ
騎士団長「う、こ、これは……?」
魔物娘「安心して大丈夫。ヒデン。皆に効果バツグン、だから」ドヤッ
騎士団長「お前……」
魔物娘「皆、大丈夫なの」
騎士団長「どうして、だ。私たちはお前にひどい言いがかりを……」
魔物娘「……」
魔物娘「そう、よ」
魔物娘「わ、私は魔物で、人間とは違う。……でも、分かったの」
魔物娘「……仕方がないのよ」
騎士団長「仕方がない……?」
魔物娘「……」
魔物娘「だって」
魔物娘「相手が、誰でも、どんな人でも関係ないのよ」
魔物娘「私がそうしたいって思ったから、仕方がないの」
魔物娘「そう、思ってしまったから。この人ならって。だ、だから。私はそうする」
魔物娘「そうしたいの」
魔物娘「私が、そうしたいのよ。その人のために」
魔物娘「だ、だから……」
騎士団長「……お前は……」
魔物娘「……よ、よし!」
魔物娘「安心して大丈夫!」
騎士団長「っ……し、しかし……」
魔物娘「……おばあちゃんが教えてくれた、魔法の呪文なの。優しさをあげたい人に言えば、いっぱい効くって!」
魔物娘「だから、『安心して大丈夫』!」
騎士団長「……」
騎士団長「……そう、か」
魔物娘「うん!」
魔物娘(……)
魔物娘(……これで、皆助かるわ)
魔物娘(……皆、安心して大丈夫よ)
魔物娘(だから)
魔物娘(……だから、)
魔物娘(お願い。だから、どうか、お願い。あの人が……)
魔物娘(無事に……っ。お願いっ)
「ぐうううううううううううううううううっっっ」
男「っっっ」
男「は、……はああああああっっ」シュッ
「ふ、ふふふううううひひいいいいいいっ」ピョン
男「くっ……避けるのは早い……」
「ひひっひひひひひひひひひひっひっ」
男「……カッコつけて啖呵切ったものの、さ、さすがに一人だと厳しかったかな?」
「あひゃひゃひゃひゃっひゃっひゃっひゃひゃっひゃっひゃああああ」
男「……でも、安心して大丈夫だぜ」
「ぐ、ぐうううううう?」
「ふ、ふふふふふふふふふ」
男「どうした、何だ?……っ」
「ぼ、ぼぼっぼぼおぼぼぼおおぼぼおぼぼぼぼぼぼぼぼおぼぼおおおお」
炎「ぼや……、ぼやぼやぼやぼやぼやぼやぼやぼや」
男「お、おいおい、この炎の量………この森自体を焼き払う気か!?」
「う、へへへへへ。ひゃひゃひゃ? ひゃひゃひゃひゃひゃ?」
男「……」
男「さすがに……だぜ。さすがに、寛大さを売りにしている俺もムカつくぜ」
「くひゅひゅひゅひゅひゅひゅひゅひゅひゅひゅひゅひゅひゅ」
男「その魔法を放つのはやめてもらおうかね!!!!!」ダッ
男「……う、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ」
ドンッ
「く……、くけっっっ!? かかっかっっっかああああ!?」
男「っは、はああああああああああああああああああああああああああああああああ」シュンシュンシュンシュンシュンッ
男「ああああああああああああああああああああああああああああ!!!??」ドガドガドガドガッ
「ぬ、が、ががあああああああああああ!!!!!!!」
男「があああああああああああああああああああっっっっっ」
男「は、はははは……っ」ゼエゼエ
「ぐ、ぐう……っっっっっっっ、が、がはあああああぁぁぁぁっっ!?」ザックリ
男「へ、へへへ」
男「……俺にも意地があってな。この森にはね、とんでもない恩があったんだよ、ガキの頃にね」
男「つい今朝まで。それだけのことをしっかり忘れていたっていうのが、自分でも情けないが……」
「ぬ、ぬうううううううううううううう……うううううううう?」
男「……」
男「来いよ。守るものがなくて、守りたいものもなくて、羨ましくなったか?」
騎士団長(な、なんて)
騎士団長(戦いだ……)
騎士団長(なんて、ことだ……)
騎士団長(我々とは、まるで戦いそのもののレベルが違う……)
騎士団長(ここから、眼で追うことすら、厳しい……)
騎士団長(あ、あいつは……何者だ?)
「がっがががががっっ!!!!」
男「はあああああああああああっっっ」ドドドドド
「が!? っがあああああああぁぁぁっ!?」グワン
男「くうぅっっ!!!!」ガキンッ
「ぐっ!?」
男「いい加減しぶとい……こうなりゃ奥の手!!」
「?」
男「……」ブツブツ
ゴロゴロゴロ
「…………………………ぁ?」
男「喰らいやがれ!!!!!!!!!」
ドーンッ
「ぐうっ!? ぐうおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!?」
魔物娘「かみなり……!」
騎士団長(!!!!!!! あ、あの魔法は!?)
騎士団長(昔、父さまに聞いたことがある……あれが使えるのは、限られた人のみ)
騎士団長(それに、あのモンスターが魔王の側近だと知って……?)
騎士団長(魔王、その側近を倒すのが仕事……)
騎士団長「ま、まさかあいつ……、いや、あの方は……」
男「……」
「ぐおぉぉおお、こ、こぉすころして……ゃ……る」
男「力と引き換えに人間を捨てた、その末がこれか……」
男「もう、終わりだ」
「ゆ、ゆうぅぅぅぅぅぅしぁああああああああああぁぁぁぁ」
男「……」
ヒュン
「あああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………………」
騎士団長「こ、こ、こ、この度は、そうとは知らず、数々のご無礼をい、いたしまして―」
騎士A「も、申し訳がたたないことを……っ」
騎士B「すいませんすいませんすいませんっ」
騎士C「指一本でどうか―」
騎士達「「ざわざわざわざわ」」ペコペコペコペコ
男「まったくだ。俺は偉いのだ。敬って諂え。がっはっは」
男「しかし許そう。何せ寛大さを売りにしているからな」
魔物娘(どうしてあの人急に偉そうになったのかしら?)
魔物娘(いくらあの恐ろしいものを倒してすごい!……とは言っても、彼女たち極端なのよ?)
騎士団長「そ、そんなことが……」
男「そうそう。その戦士、下衆だから厳しく取り調べしておいて」
騎士団長「不審な点もありましたので、身柄は押さえてあります! お任せください!」
男「それから、ここの後処理についてだけど、」
騎士団長「騎士の誇りにかけましても、きちんとやります!」
男「元団長によろしくと、」
騎士団長「はっ。了解しました! 父にはよろしく伝えておきます!」
男「……」
騎士団長「他に何かご指示はありますでしょうか!?」ズイッ
魔物娘(よく分からないけれど、あの女の人すっごく嬉しそう)
男「……騎士の相手は肩がこる」ボソ
騎士団長「肩おもみしましょうか!?」ズイッ
男「いや、いいです……」
騎士B「あ、あの!」
男「?」
騎士B「よ、良ければなんですけど、握手してください。私。その、ずっと憧れてて―」ゴニョゴニョ
男「えっ? ……ああ、もちろん。君みたいなコに―」キリッ
騎士団長「なっ!? いかん、いかんぞ。いち騎士が恐れ多くも手を取っていただくなど……そこはだな、つまり、礼儀を慮って、長である私からだな―」
騎士B「だ、だんちょー。ズルいですよ。こういうのは、早い者勝ちですから!」
騎士団長「そんな規則など知らん! なかった!」
騎士A「だ、だったら俺も―」
騎士C「ニイチャン、助かったやで」ギュウ
騎士団長「あっ!? あーーーーーー! 私より先に! ひどい!」
騎士達「「やんややんや」」
男「……」
魔物娘(何をやっているのかしら……?)
騎士団長「で、では! 後ほど城までお立ち寄りください! 必ずですよ! 待ってますからね!」
男「はっはっは。任せたまへ」
男「……」
男「……」
男「なーんて、ね☆」
騎士団長『絶対ですからね!』
男「あんな遠くから……」
魔物娘「な、何か。あの人達、凄く恐縮してたけど……」
男「人違いしてたから悪いと思ったんだろう。騎士って律儀な人たちだよな」
魔物娘(そ、そうなのかしら……にしては随分と嬉しそうだったような……)
魔物娘(でも、勘違いはされたけど、悪い人たちじゃなかったな)
魔物娘(あのあと私にもすっごい謝るし―ちょっと困るくらいに)
魔物娘(そもそも、この森の、あんな恐ろしいものを倒しに来てくれたんだよね―この人も)
魔物娘(……)
魔物娘(この人がもう、この森にいる理由もないの)
魔物娘(私、私はこの森が好き。大好き。でも……)
男「にしても、良かった」
魔物娘「……?」
男「君のおかげで助かった。手当てまでしてくれて。本当に」
男「ありがとう」
魔物娘「……ぁ」
魔物娘(ありがとうって)
魔物娘(感謝のことば。お礼のことば)
魔物娘「……ど、」
男「?」
魔物娘「どういたしまして……!」
男「さて、と。次はどこ行くかな」
魔物娘「!」
魔物娘(やっぱり、すぐに違うところに行っちゃうんだ)
魔物娘(私、私は―)
魔物娘(……)
男「あ、そうだ」
男「君に言わなければならないことが―」
魔物娘「……代金」ボソ
男「へ?」
魔物娘「と、泊めてあげた代金まだ貰ってないのっ」
男「そ、そう言えばそうだったな。い、今、いくらあったかなあ」ゴソゴソ
魔物娘「お、おまけにおウチの周りもめちゃくちゃだし!」
男「そ、それも俺のせい……か。雷まで落としたしな……」
魔物娘「そ、そう! あなたがいけないの!」
男「あ、そうだ。今からでもギルドにかけあえば、あのモンスターの報酬が貰えるかも―」
魔物娘「そんなんじゃ足りない、ぜんっぜん足りないの!」
男「ど、どうすればよろしいので?」
魔物娘「……」
男「あの、お嬢さん?」
魔物娘「わ、私は、薬草とか使えます」
男「へ?」
魔物娘「こう見えても、案外体力はあります」
男「は、はあ」
魔物娘「料理は、ちょっと自信があります」
男「そうですね」
魔物娘「もしかしたら、魔法がつかえるような気がします」
男「もしかしたらって」
魔物娘「この森大好きですけど、他の場所も見てみたいなあ、なんて、つ、常々思っていました」
男「……」
魔物娘「だ、だからその」
男「……」
魔物娘「その……あなたと。い、いっしょに行けたらなあ」
男「……」
魔物娘「な、なんて、思って……」
男「……っ」
魔物娘「や、やっぱり迷惑? だ、だったら別に……」
男「……くっくくく、あははははははははは」
魔物娘「わ、笑うなぁぁぁ……」
男「いや、ゴメンゴメン」
魔物娘「え……」
男「真っ赤になるのがかわいくてね」
魔物娘「か、かわわわわわわ……?」
男「どうやら、俺には君に大きな借りがあるらしい。本当に大きな借りがね」
魔物娘「あ……それは……その」
魔物娘「めちゃめちゃにされたことは怒る……、でも……そ、そこまで怒ってない、というか……この森にいた、あんなのを倒してくれたんだし……、でも、」
男「いや。アレに関して言えば、元はと言えば俺の過失も大きいからな。あんなのを見逃してたなんて」
男「でも、それじゃないんだ、君に対しての大きな借りってのは。もう少しだけ昔のことで、俺がまだ子どもだったころの話だ」
男「昔、子どもだった俺はこの森で君に……」
魔物娘「……???」
男「……」
男「ま、この先はいいか」
魔物娘「……え」
男「旅の道中、話す時間なんていくらでもあるからな」
魔物娘「……え?」
男「何より、パーティを組むのが懐かしくなってきたころなんだ」
魔物娘「……」
男「薬草を使えて、体力に自信があって、魔法も使えるような気がしてて」
魔物娘「……っ」
男「旅をしたい人がいい」
魔物娘「……!」
男「一緒に旅をしてくれないか?」
魔物娘「はいっ!」
おわり
おまけ
男「……へ?」
魔物娘「だ、だから、その。旅の目的で、いろんな場所を見てみたいってのもあるけど……」
魔物娘「それとは別に」
魔物娘「ゆ、勇者様に会ってみたいの」
魔物娘「勇者様が男の人なのか女の人なのかも知らない、けど」
魔物娘「き、きっと。凄い立派な人なんだろうなあ、って思う……」
男「そ、そうか。でもまあ、勇者といえど一人の人間なんだし、結構だらしないとこもあるかもしれんぞ」
男「例えば酔っ払って外で寝て風邪ひいちゃうとか、伝説の剣をカタにしてギャンブルするとか」
男「商人に騙されて多額の借金を背負わされるとか、勇者の証を洗濯物の重しにするとか」
男「それに、案外人魔問わずのカッコつけ女好きむっつりスケベかもしれない」
魔物娘「そ、そんなことはないです! せ、世界を救った勇者様です!」
魔物娘「そんなことしません! ば、ばかぁ……」
男「は、ははは……そうだな……勇者はそんなこと、しないよな……」
魔物娘(どうしてこんなこと言うのかしら。何か理由が……勇者様を……?)
魔物娘「!」きゅぴーん
魔物娘(もしかして……まさか……この人……?)
魔物娘(ううん、そんなことはあり得ないわ。でも……)チラッ
男「うーん」
魔物娘(まさか……)
魔物娘(し、嫉妬してる……とか?)
魔物娘(きゃー、きゃー、きゃー。な、何を考えているのよ、私ったら!)
魔物娘(まだ会って数日なのにそんなことになるわけないじゃない!)
魔物娘(落ち着くのよ。そんなわけないじゃない。……で、でも私は会って数日なのに、この人に……)
魔物娘(きゃー、きゃー、きゃー)バタバタ
男「勇者様かあ……」
おわり