関連記事
女騎士「いやだ!死にたくない、仲間の居場所でも何でも話すから!」(第1部、第2部)
女騎士「絶対に死んでたまるか!!絶対にだ!!」(第3部)
女騎士「いやだ!死にたくない、仲間の居場所でも何でも話すから!」 第4部 女騎士決戦編
女騎士「いやだ!死にたくない、仲間の居場所でも何でも話すから!」 第5部 序
女騎士「私が死ぬと思ってるの? バカなの? 死ぬの?」(第5部 破)
女騎士「近くにいたお前が悪い」(第5部 ⑨)
女騎士「近くにいたお前が悪い」(第6部)
女騎士「近くにいたお前が悪い」 (6.5部)
≪あらすじ≫
キュートでファンシー、ビビッドなお茶目さが魅力でお馴染みの女騎士ちゃんがめっちゃ活躍した。
女騎士ちゃんは果たして薄汚い魔物どもを一匹残らず根絶やしにする事ができるのか。
元スレ
女騎士「私の事を好きにならない人間は邪魔なんだよ」煮込み6杯目
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1377080897/
秘書「本当なんです、信じてください!!信じてェェ!!」
警察官「あーはいはい、わかったから落ち着いて」
秘書「そこもそこもそこも、そこも施錠してください!!お願いよォ、早くしてえ!!」
班長「またその子か」
警察官「そうなんですよ、住所だとかが割れてるのが救いですね」
班長「首都で政治家の腰巾着やってたエリートが可哀想なもんだな……」
警察官「今日もやっぱり勝手に家の敷地から出てきちゃったらしいですからね」
母親「ああもうこの子は……すいません皆さん、申し訳ございません」
秘書「嫌ァァ、離してェ、あの家はダメよ、見られてる!!監視されてるのぉぉ!!」
警察官「……」
母親「この子ったら、仕事にあぶれて帰ってきたと思えばこんな調子で……誰に似たのかしら、ほほほ」
警察官「は、ははは……」
秘書「……北西の……黒幕が……スパイが……」
班長「早く良くなると良いですな……」
母親「本当にもう……」
秘書「……」
警察官「誰に迷惑かけるわけじゃないんで、まだいいんですがねぇ」
班長「あそこの党は嫌いじゃないかったんだけどな、こええこええ」
警察官「連合の宗教か何かに毒されちまったとか?」
班長「……気の毒に」
母親「大丈夫だった?どこか怪我だとかもしてないかしら?」
秘書「そんな事どうだっていい!!嫌、嫌!!あそこには、あそこには帰りたくないのお!!」
母親「そんな事って……お願いよ、そんな事は言わないの」
秘書「助っ、助けて……助け……」
母親「今朝にはせっかくあなたを党の方が訪ねて来てくださったのに……」
秘書「党……誰、誰の事……?」
母親「小さな女の子を連れた女性の方よ。あなたがお手伝いしていた方の後任……じゃないかしら?」
秘書「後……任……お嬢さんの後任……」
母親「ブルネットで色白の……たぶん、外国の人だわ。とても礼儀正しくて人当たりの良い……」
秘書「……ひ……」
騎士ほ「お久しぶり……フクク……」
秘書「」
ほ子「……こんにちは」
騎士ほ「ハイ……よくご挨拶できました……いい子ね……」
ほ子「……」
騎士ほ「……とは言っても、そんな何か月も経ってないのだけど。どうかしら……元気してた?」
秘書「嫌ぁぁぁぁぁッ、やめてえええええ、嫌ぁぁぁぁ!!」
騎士ほ「うるさいわ……もう少し落ち着きなさいな。自分の家のリビングに脳ミソぶちまけたくないでしょう」
秘書「ひ……いや……やだ……こ、ころさないで……」
ほ子「母上……」
騎士ほ「そうね……情けない女だわね……あなたはこうなってはいけないわ、ああいう女は反面教師になさい」
ほ子「はい……母上」
騎士「……別に、殺す気だったらこうしてわざわざ顔合わせなんかしませんわ……家ごと蜂の巣にいたします」
秘書「……」
騎士ほ「あなた……なかなかいい経歴の持ち主ではないですか。人間性は置いておいて」
秘書「……」
騎士ほ「大学なんて、北西諸島に出向いて4年も留学なさっている……勉強が本当に身になっているかはさておき」
秘書「……ひぅ」
騎士ほ「まあ……ギリッギリで足切り免除という事にいたしましたわ……それなりに使えそうですし……」
秘書「つ、使え……る……?」
騎士ほ「あなた……上手い事、心神耗弱を盾に刑事追求をあの女におっかぶせて逃げ切りましたわねぇ」
秘書「わ、わたしは……そんな、して、ません……うぅ……」
騎士ほ「この卑怯者、人間のクズね……フクク……」
秘書「……」
騎士ほ「そんな……大便製造機のあなたを……とりあえずは小間使いとして採用してやろうと言っているんです……」
秘書「採……用……?」
騎士ほ「ええ……今、あなた無職でしょう?それ以下ですわよね?キの字を装ってぶらぶら街を練り歩いている……
Not in Education, Employment or Training……労働もせず学校にも行かず職業訓練も受けないクズ……」
秘書「……」
騎士ほ「フクク……人類に、あなたほど名誉ある人間はいたかしら……いえ、きっといませんわ……いるわけありませんもの。
ああ、羨ましい……妬ましい……今のこのポストが無ければ、あなたの代わりに私がそこに就いていますのに……」
秘書「な、何……な、な、何……ですか……」
騎士ほ「元エリートの、情報だけは持っているであろうクズを……お姉様の側近にしてやると……そういう事ですの……フクク……」
秘書「採用……そ、側近……?」
騎士ほ「明後日の便で帝国西部へ……そこを経由してエルフ勢力国家……アルヴライヒで別命あるまで待機なさい……」
秘書「ちょ、ちょっと……」
騎士ほ「二日後……ああ、待ってました……待望の御対面……お姉様と合流の日……」
秘書「あの……わ、私は……」
騎士ほ「詳しい事は……軍属のエルフに聞けばいいですわね……もう二十過ぎたいい大人ですからね……」
秘書「……」
騎士ほ「あら……不満そうな顔……嫌なのかしら……何が嫌なのかしら……ちょっとわからないですわね……」
秘書「あ、安全……なんですか、大丈夫なんですか……死んだりしないですか、変な事には……」
騎士ほ「多分……あなたがヘンな事しなければ……きっと大丈夫……」
秘書「……」
騎士ほ「選択肢、あなたにあるんでしょうか……このまま親の遺産を食いつぶすゴクツブシ……
あなたが職を探そうがどうしようが……まあ、この先きっといい結果は訪れないでしょう……あなた、クズですもの。
不思議な横槍だとか、不思議な言いがかりだとか……不思議な圧力があなたを襲うでしょうねぇ……」
秘書「何よ、それぇ……」
騎士ほ「おいしい職場を追われた不幸な末路ですわね……フクク……」
騎士ほ「断ったらどうなってしまうのかしら……ああ、怖いですわ怖いですわ……」
秘書「……」
騎士ほ「きっと……あなたが考えている事が全部まるごと……現実になってしまうのでしょうね……」
秘書「……」
騎士ほ「フクク……捨てる神あれば……拾う神あり……いいではありませんか、当面は生活の保障も私がいたします。
それでそれなりの収入があるなら、万々歳ではありませんか……ああ、みんな幸せ……」
秘書「……うう」
騎士ほ「ほら……御覧なさいな……あらあらあらあら、こんなおなかになるまで怠惰にだらだらして……
無駄な脂肪がふっくらついて、不健康に肥えた自分の肢体……だらしがないですわ、どうしようもありません……」
秘書「やめて……」
騎士ほ「お仕事がないと……人間、こうして堕ちていくのですね……衣食住が例え保障されていても……フククク!」
モルドレッド「どうだった?オッケーしてくれた?」
騎士ほ「ええ、それはもう……二つ返事で快く受けて頂きましたわ」
ほ子「……」
モルドレッド「キミもお母様のお手伝い、ご苦労だったね」
ほ子「……ありがとう、ございます」
騎士ほ「フクク……この子、相変わらず私と卿以外には目も合わせませんのよ……」
モルドレッド「慎重で繊細なのさ」
ほ子「……」
騎士ほ「それで、卿の用事は済みまして?」
モルドレッド「まあ、上々だね。ケイ卿にヒモでつながる共産主義者……おおよその質と数は掴めた。
ここ共同体領内、連合と地続きな事もあって思想汚染が著しい……おぞましい事だ」
騎士ほ「思想の汚染とは、よく言ったものですわね……かの魔王軍のお家芸……フクク」
モルドレッド「似た者同士……6年前の事件、やはりあれは連合と魔王軍が共謀して実行したと、キミも思うのかい」
騎士ほ「さあ、どうでしょう……」
モルドレッド「ぶくぶくと肥大を未だに続ける連合、歪な啓蒙主義を掲げる魔王軍……
神が与えたもうた、我々が越えるべき障害としてはあまりに醜悪だ。吐き気がする」
騎士ほ「(青くせえ円卓のクソのうちの一人がいけしゃあしゃあと言う……)」
騎士ほ「西部諸国同士の命綱の改定、その下準備に、こんなに骨が折れるとは思いませんでしたわね」
モルドレッド「連盟会議までの時間はまだ一年……なに、その内にこちら側の連合支持者は一掃できるだろうね」
騎士ほ「(欧州連盟会議……北西諸島や共同体の議題の中心となるのは、恐らく分割された帝国の統治……
税率制定、帝国領内における派兵、帝国技術省の保持するパテントの扱い……そして、連合への反抗の意思確認……
ここぞとばかりに帝国を食い物にする気なのは明白だな、これまでの6年は連合を刺激しない為の仕込み……)」
モルドレッド「魔王軍や連合が、どこまで会議に噛んでくるのかは予想できないな。円卓の側でも圧はかけているが」
騎士ほ「まともに自軍の維持もできない魔物どもなど、出席したとて会議の内容がわからないのでなくて?」
モルドレッド「違いない、連中の頭にはやはりクソが詰まっているに違いあるまい。
聞いたかい、先月もまた南部王国で決起があったそうだ。統一運動にかこつけ、いたずらに戦乱に火を注ぐ……」
騎士ほ「(南部王国……帝国にことごとく統一の芽を潰されてきた過去を持っている野蛮人どもの吹き溜まりだな。
ここで纏めて滅んでもらっても構わんが……焼き払うには、一度大きく膨れてもらった方が何かとラクか……
完全な統一など、お姉様の君臨以外にあるものかよ……魔物に与する存在など、マフィアにも劣るネズミのクソだ)」
モルドレッド「僕は明日の便で本国に戻るが……キミ達はどうする」
騎士ほ「私は……そうですわね。しばらく半島から共和国まで回ってみようかと思っておりますの」
モルドレッド「なるほど、その為の休暇申請か。初めての母娘旅行だものね」
ほ子「……」
騎士ほ「この子には、なるべく色々と……それはもう、色々と見て育ってほしいもので」
モルドレッド「わかった。団長には僕から口添えをしておく、時間がかかりそうだと」
騎士ほ「……ありがとう、ございます」
ほ子「ありがとーございます」
モルドレッド「(……母娘旅行、ねえ。共和国へ、海輸で自分の騎竜を周到に用意して……楽しい旅行だこと)」
騎士ほ「(何が会議……連盟だ。身を割かれ、地に伏した帝国の遺骸にたかるハゲタカ……蛆……蝿……!!
所詮は北西諸島も、共和国も、共同体も……すべて一様に滅ぶべき掃き溜めでしかない。
その為にも……何としても、帝国の半身に息を吹き返して貰わねばなるまい……お姉様の息吹によってなあ!)」
秘書「……」
エルフ三男「騎士様、騎士様、ハンモックからお降りくださいまし」
女騎士「無理に゛ゃのぉぉぉぉ、ハンモックなしじゃ生きていけないのぉぉぉ」
エルフ三男「新しいオモt……パシr……側近の人間の調達ができましたよ」
秘書「(綺麗な人……だけど、ハンモックで丸まって何やってんだろ……)」
エルフ三男「起床は5時、細かい業務はそこらの人に聞いてください。じゃあ、よろしく」
秘書「ごっ、5時!?そこらの人って……」
エルフ近衛兵「……」
エルフ騎兵「……」
秘書「(やだ……カッコいい……イケメン揃いだわ……)」
エルフ近衛兵「閣下!何ですかこのデブは!」
エルフ騎兵「こんな豚と同じ職場になりたくありません!」
秘書「」
エルフ三男「おやめなさい!閣下パワハラは許しませんよ!!」
エルフ騎兵「そんな事言って自分だけ騎士様と遊んでるんでしょう!」
エルフ三男「何が悪い!!」
敵兵「えっ、今日は三食全部食っていいのですか!」
料理長「ああ……しっかり食え」
ゴブリン「おかわりもあるぞ!!」
敵兵「……」
給仕「さ、差し入れでございます、勇者様から……」
敵兵「ふおっ!!キ、キンッキンに冷えてやがる……あ、あ、ありがてえ!!」
料理長「すげえ食いっぷりだ……」
ゴブリン「今まで何を食べて生きてきたというのだ、この人は……」
敵兵「涙が出るっ……犯罪的だァ……ぅうますぎる……!!
ストレスによる関節痛と不衛生な倉庫生活での息苦しい体に、半年ぶりの黒ビールっ……
しみ込んできやがる……身体に!!と、溶けそうだ!!うう、あああっ!!」
勇者「……」
将軍甲「あの女の側近……亡命者ってところか」
勇者「常に見張りを二人以上張らせている、文句はないだろう」
将軍甲「俺は別に、悪態突きに来たわけじゃあないぜ」
勇者「わかってる。牽制であり護衛だ、彼にとってもぼく達にとっても利のある事だ。それに……」
将軍甲「……」
勇者「アジ・ダハーカに過敏になっているのは、あなただけじゃあない。慎重になるに越したことはない」
将軍甲「(……ふん、一切は杞憂だったわけだ。ずいぶん頼れそうな風格が出てきたな、このガキは)」
勇者「ずいぶん血色が良くなってきましたね。お加減はどうですか」
敵兵「いや、あの……おかげさまで。その、ほんとにオレ、カネ持ってないのにいいんですか、こんなに良くして貰って」
勇者「人一人養えない程、ぼく達は逼迫していません。今日の午後には自由行動の許可も下りるでしょう、城塞を案内しますよ」
敵兵「かたじけない……」
勇者「そう卑屈にならないで。あなたはぼくや彼女……魔王の恩人なのです、胸を張って頂きたい」
敵兵「……」
勇者「あなたが正しいと思ってやった行為が、ぼく達の現在へと繋がっていた。この絆に恩を感じぬ人間などおりましょうか」
敵兵「うう……ああ……ま、まともな返答がかえってくる……」
勇者「……はあ」
敵兵「も、もっと話をしてください、お願いします……人と会話がしたい……!!」
ゴブリン「(どうしてこうなってる)」
料理長「(城塞にいる純粋な猿人なんか数えるくらいなんだがなあ……)」
敵兵「オレなんかに……勇者のあなたがくっついてていいんですか、いい顔しない人もいるでしょうに」
勇者「問題ありません。この白の城塞、元来は旧魔王軍時代に絶壁を拓いて建造されたもの……
帝国南部と火薬庫の南部王国内海に面するこんな場所に、そうあなたに過敏に反応する連中はいません」
敵兵「はあ……」
勇者「ぼくは……正確には勇者ではありませんから」
敵兵「はい?」
勇者「勇者信仰における『勇者』という称号を持つ人間は、ぼくの遠い先祖……そのただ一人です」
敵兵「……そんな。勇者の末裔なんですから、勇者には違いないじゃないですか。聖人ですよ、聖人」
勇者「生ける人間は、聖人たりえませんよ。ぼくは単なる勇者の末裔。共和国や帝国領を探せば、100人程度は見つかるうちの一人です」
敵兵「ご謙遜を」
勇者「いえ……そうだ、勇者信仰については、どの程度御存知ですか?」
敵兵「え。そりゃあ……共和国に生を受けた勇者が、天使の神託に基づいて魔族相手に大立ち回り……ですとか」
勇者「国から国へ、時には海を越えての大冒険……魔王の住まう城塞目指しての英雄譚」
敵兵「……実際に、オレがその魔王の末裔にもお会いできるとは思ってませんでした」
勇者「そう囃さないで……彼女たちも、我々猿人と同じく理性ある存在であると同時に、偉大なるカミなどではないのですから」
敵兵「はい……」
勇者「……それでは、その英雄譚の救世主が魔王を討伐してから……そこから先については御存知ですか?」
敵兵「そこから先ってそりゃあ、魔族の王を屈服させて万々歳……あの、こんな話ここでしていいんですかね」
ゴブリン「いいんじゃないっすかね」
料理長「過去は顧みぬ主義だ、そこまで興味もないしな」
勇者「だそうです」
敵兵「ふぐうううううううういい人たちだああああああああああ」
勇者「現共和国領にかつて存在した小国に産まれた『ガリア・ベルギガの勇者』……他の歴史的事象と同じように、
決してその英雄譚は華々しいだけのものではなかったようなのです。むしろ、類を見ない程に質が悪く血腥い」
敵兵「(ガリア・ベルギガ……確か、6年前の演説やテロ事件が起こった地区からそこまで離れてないんだったか)」
勇者「帝国主導のレコンキスタを始めとする国教戦力と魔族の衝突や、新旧教同士の宗教対立……東西の摩擦など、
人魔の諍いを差し引いても、中世の歴史は血と暴力に覆い尽くされていた。勇者の故郷であるガリアも同様、諸国の緊張に引きずられていたに違いありません」
敵兵「……」
勇者「当時のガリアは、その立地から常に二大強国である帝国と現共和国の脅威に晒されていました。
度重なる継承戦争によって、月単位で使用する金銭や言語が変化していたとも聞きます」
敵兵「継承戦争なんて……やっぱり、十中八九そりゃ帝国がふっかけていたんじゃ」
勇者「ええ、持参金未払いを口実に隣国へ攻め込みたい……そんな腹積もりがどこからも見え見えだったのではないでしょうか。
ガリアは、言うなれば大規模な消耗を伴う全面戦争……会戦を回避する為の係争地にされていたのです」
敵兵「……」
勇者「やがて南方から魔王軍が北部への侵攻を強めていくと……徐々に帝国も、西部へ割く手勢が衰えてきます。
そうなると、ガリアの土地を欲しがるのは共和国……便宜的に、ここでは第一共和制と呼称しましょうか」
敵兵「大規模な革命前の共和国って事ですか」
勇者「はい。第一共和制は、かなり隣国である帝国の封建制を意識した改革を施していました、
自国にかつて存在していた第一帝政を貶め、国民の信頼を共和政府に集約しようと躍起になっていたわけですよ」
敵兵「のちにそれが仇になって第二帝政に……でしたか」
勇者「その通り……ですが、今はスポットを勇者に置きましょうか」
敵兵「天恵の祝福を受けた勇者……連合でも聖人扱いですからね」
勇者「実のところは、帝国体制に包囲された小国の悪あがきだったようです。魔物相手に神経をとがらせる大国への煽りと言いますか」
敵兵「何それ怖い」
勇者「あまり褒められた政策とは言えないでしょうね……とはいえ、当時のガリアの政治事情を鑑みればわからなくもないですが。
『ガリア王国』を存続させる為に、新教の勢力が旧教にアドバンテージを握る為に行われた、王族ぐるみのヤラセと言いましょうか」
敵兵「ヤ、ヤラセ……?」
勇者「第一共和政への併合を何よりも恐れるガリアには、威信をかけて『実在する聖人』を作らねばならない立場にあったわけです」
敵兵「……」
勇者「貴族や王族が莫大な宣伝費をかけて、勇者誕生を国民に知らしめました。唯一神の使役する天使からの祝福を受けた幼子ですとか、
聖痕を持つメシアの生まれ変わりですとか……もっとも、当時の書類が現存するほどの力の入れようだったにもかかわらず、
諸国へのロビー活動は、北西諸島などの強国には『小国のイカれた高揚政策』としか見てもらえなかったそうです」
敵兵「そりゃあなぁ……実際、当時の人にしたら勇者って何だよって話ですもんね」
勇者「当の勇者というのは……辺境のある貴族の子の一人。領民総出で出産が悦ばれたそうですが……
こうして今考えると都合のいい神輿……国威高揚の為のイケニエと言っても過言ではないでしょう」
敵兵「えげつねえ……」
勇者「十数年後の旅立ちこそ、それはそれは盛大だった。仲間を連れて、行く先々で持て囃された。
勇者一行が魔物を追い払ってくださる……事実、ガリアほどの辺境に生息する魔物などたかが知れています。
まだクマやジャッカル、キツネの方が危険なくらいだったと聞きます」
敵兵「ああ、何だかコミカルなモンスター君たちが浮かぶ……」
勇者「そんな勇者一行も、ガリア国境から一歩踏み出してから……大陸の現実を思い知らされる羽目になります。
蔓延する疫病、枯れ切った土壌、死体だけがなお残る村落……また、ここから徐々に本国の支援がおざなりになってきます。
当然です、一過性の高揚策の寿命などたかが知れている……自国から勇者が旅立ったという事実さえあれば十分ですから」
敵兵「うええ……」
勇者「勇者、魔術師、戦士、賢者。四人の旅路は、日を重ねるにつれて過酷なものになっていきました。
元々のガリア通貨の価格下落に加え、諸外国の戦時価格統制……ガリアから離れるに従い、路銀に困るようになってくるわけです」
敵兵「衣食住くらいは、本国がもってやってもいいんじゃあ……」
勇者「体面だけの金銭的支援は行われていたようですが……ガリアは当時、恐慌寸前のデフレに見舞われていました。
挙句、彼らの手に実際に渡るまでに中継地点である銀行機関によってピンハネされていたようですので……」
敵兵「サイフに入る額は……ガキの小遣い程度にしかならないってわけですか」
勇者「現存する手記にも、旅立ってから三ヶ月経たずに賢者どのが軽度の栄養失調で倒れたと記されています。
また、戦士どのが発熱した際にも自然回復を待っていた事から、現地の教会による支援も滞っていたと考えられます」
敵兵「……」
勇者「地獄の沙汰も金次第とはよく言ったものです。救世主と囃し立てたのは、ほんの最初だけだったわけです」
勇者「しかし妙です。ろくな支援も受けられない、小隊以下の四人組がなぜ鬼神……聖人たりえる存在となったのか」
敵兵「……そ、そうですね。昔の事だからって……魔法だかが本当にあったからとか、ですか?」
勇者「当たらずとも遠からず……でしょうか。勇者一行を構成するメンバーには、特別な資質があった。
それは、他の命を屠るたび際限なく身体能力が向上するという資質。資質というよりも……ライセンスと言いましょうか」
敵兵「ラ、ライセンス……!?」
勇者「こればかりは、ぼく達では説明のしようも……御しようもない現象です。
高次元の存在が勇者たちに与えたるライセンス……見えざるカミが介在した突然変異と称する者もいます」
敵兵「(ついてけねえ……)」
勇者「だからこそ、巨木のような大きさの魔族にも立ち向かって行けたのです。
だからこそ、極限状況にあっても尚、強靭な自我で窮地を耐える事が出来たのです」
敵兵「うへぇ」
勇者「仮想敵も同然の帝国や第一共和政の領内で生き延びる事ができたのは、その特質のお蔭でしょう。
前線へ進むに従って強力になっていく魔王の軍勢と渡り合う事ができたのも……」
敵兵「……」
勇者「やがてガリアから旅立って二年……ついに、デュランダルを携えた勇者は魔王を討ち取ります。
魔族の軍をたった数人で押しのけ、城塞すら陥落させるに至った一行は、ここから信仰される事となる……」
敵兵「はずですよね……?」
勇者「……当初は、前線の兵士たちの歓声を浴びる事が出来ました。それだけです。ただの、それだけ。
戦場から離れれば、勇者たちのような異物は魔族と変わりありません、そんな事は誰だって分かる事。
それでも、彼らは故郷であるガリアを目指した。白眼を向けられながら、険しい道のりを北上します」
敵兵「……」
勇者「その最中。立ち寄った帝国のとある都市で彼らは身柄を拘束され、ほうぼうに軟禁される事となります。
国教会の墨付きの判書を携えた憲兵によって、四人が再び出会う事が無いように……」
勇者「天使から授かり、ドワーフから託されたデュランダルすら、人々にとっては忌むべき魔剣でしかありません。
人の姿をした人外の恐怖は、ガリアの宣伝より円滑に……深々と蔓延していきました」
敵兵「救われねえ……」
勇者「それでは、ガリアはどうなったのか……おおよその予想はつきましょう、旅立ってから1年ほどでガリアは消えてなくなりました。
第一共和制と帝国に割かれ、独立はおろか現状維持すらままならなかった……小国の哀れな末路です。
王自ら粗悪銀貨の回収などしなければ、最悪の事態は避けられたとの声もあったようですが……後の祭りですね」
敵兵「」
勇者「さて、当の勇者はと言うと……結果的には、ガリアの想定していた筋書きにほど近い英雄譚が国教会によって広められました」
敵兵「それが、大陸に広まる現在の勇者像……」
勇者「亡国の英雄、大陸に覆う暗雲を祓い救世を為す……過剰なほどヒロイックな要素が封建国には受けたのでしょう。
帝国側がこの勇者を……勇者の血を欲しがりました」
敵兵「うわ……」
勇者「察しの通り……救世の英雄の血脈を巡って、諸国は魔族抜きでの緊張状態へ突入したわけです。
やがて、勇者たちも悟りはじめます。勇者という存在は、世界にとっての劇薬でしかない事を。
勇者がヒトの子に戻る事などできない、勇者は君臨する事しか許されないのです。武器なき世界では、覇王になるしかありません」
敵兵「」
勇者「……頭の中は、付け焼刃の知識しかなかったでしょうからね。勇者といえど……いわゆる『田舎者』なわけです。
国教会に持て囃される救世主というメッキをはがせば、一介の少年少女でしかありません」
敵兵「それじゃあ……もう……」
勇者「もう、飼い殺されるほか選択肢がない。血は薄まって行けども、戦禍は尚も広がり続ける……
中世期の戦乱は、勇者の血の争奪戦でもあったという事ですね……」
敵兵「あなたも、その遠い血族に……」
勇者「ぼくの家系を辿ると……幸か不幸か、ベルギガの貴族に行きつくようです。
比較的、帝国や北方に散った他の血族に比べて勇者の血は濃いようですけど……」
敵兵「(初代勇者は種馬ってわけかよ……)」
勇者「……ぼくがこうして魔族と共に歩んでいる理由も、そこにあります」
敵兵「魔族における革命の機会を与えた血脈だから……ですかね」
勇者「ええ。表沙汰にはなっていませんが、ぼくの暮らしていた片田舎では、魔王軍の部隊が長期間駐屯していましたしね」
敵兵「……」
勇者「出来る事なら……ぼくの故郷の風景が大陸全土に広まればいいと、そう考えています。出来る事ならね」
敵兵「その一歩が、魔王軍による啓蒙……」
勇者「もっとも、今は停滞していますがね。幸いにも、連合……帝国東部側とは穏便な関係が結べていますが」
敵兵「東部側……」
勇者「『勇者の血脈』においては、勇者本人のスペックが分散して広まっている……そう魔族は分析しています」
敵兵「スペックの分散……?」
勇者「識者の発表ですので、具体例などはあいまいなままにされていますがね。戦闘能力や、当事者の持つ影響力……
『聖人』としての勇者の持つチカラが、血縁にある人間には多かれ少なかれ備わっている、との事です」
敵兵「じゃあ……あなたなんか、本当に生き写しじゃあないですか。ドラグーンとも剣で渡り合う上に、カリスマだって!」
勇者「おだてても、何も出ませんよ。ぼく一人だけが勝ち星を挙げても、何の意味もありません」
敵兵「……でも、あの魔王がいるんだったら」
勇者「共に歩んで……その結果がこのザマです。いやはや、お恥ずかしい……」
敵兵「(6年前……6年前……あの6年前、あのクソ野郎……全部あいつのせいだ……!!)」
勇者「……」
勇者「恩人である、あなたにだけは言っておきます」
敵兵「は、はあ」
勇者「アジ・ダハーカ……あの女を殺さなければ、ぼくらに未来はありません。
ぼくは、あの女を殺します。何があろうと、何を言われようと、この方針を変える気はありません」
敵兵「……!!」
勇者「ふふ、聖人らしからぬ発言でしたか?」
敵兵「いや、そんな……」
勇者「魔王軍の主張と矛盾している……そう蔑まれても構わない、むしろぼくがそう後ろ指を指されるだけなら結構」
敵兵「う……」
勇者「矛盾……望むところだ。あの女を殺す為なら、ぼくは『飢えて』みせましょう。
あの女が何もかもを脱ぎ捨てて逃げる事ができるなら、ぼくはその首を叩き折れるほど近づく事ができなければならない」
敵兵「……」
勇者「6年前の二の舞には、絶対になりません。『優先順位』を手に入れたぼくに、敗北は許されない。
必ず、あの騎士を殺します。活かしていただいたあなたに誓って、ぼくは絶対に奴を、この大陸から消してみせる」
敵兵「」
敵兵「よろしくおねがいしまあああああああああああああああああああす!!!1!!!111」
幼女「うるさいのう!大声だすでない、クソガキ!」
敵兵「わ!!」
勇者「なに……!?」
幼女「ゆっくり美声を耳にまどろんでいたところを……だみ声を出すな、迷惑な奴!」
敵兵「(な、何……誰!? 誰この子!? 魔族!? すげえ可愛いけど……と、東洋人……!?)」
勇者「……」
幼女「ふん……『誰だ?』って聞きたそうな顔しても無駄じゃぞぉ、儂はおせっかい焼きじゃないからの」
勇者「どこから何をしにここへ来たのか、簡単に教えてはくれないかな」
敵兵「(すげえキモ座ってる……さすが勇者様)」
幼女「そのガキにの、髪の一本を潜り込ませて来ただけじゃ。なあんもする気はないぞお」
敵兵「か、髪の毛?」
勇者「……彼を尾けてきたというのか?」
敵兵「げえッ!?」
幼女「んー。どうじゃろなぁ、そうかもしれんなぁ」
敵兵「(ウソだろ…ウソだウソだウソだ、やめてくれ……やめろ……!!)」
幼女「オモチロイ顔するのう、土気色が緑色になったり、忙しい顔色だのう」
勇者「どうなんだい、場合によっては……」
料理長「……」
ゴブリン「……」
勇者「ぼくが相手をする事になるが」
料理長「イヨッ!!勇者さん!!」
ゴブリン「さっすが勇者さん!!」
幼女「物騒な小僧じゃ、美人が台無しじゃ。そう眉間に皺を寄せるでない。悶着を起こす気などないでな、もっと年寄は労われい」
敵兵「な、何なんだよ……お前は」
幼女「んふー、最も、貴様ら小僧どもと闘りあっても、少なくとも負ける気はせんでな」
勇者「……」
幼女「そこの童相手なら、割かし楽しめそうじゃなあ」
敵兵「(勘弁してください変な事しないでくださいやめてお願いします)」
幼女「怯えるでないぞぉ。脅かしすぎてしまったかの……心配せずとも、儂は嘘は言わん……言えんのじゃぞ、機嫌なおせ。な?」
敵兵「え……」
幼女「ほら、アメちゃんじゃ。舐めて機嫌治せ」
敵兵「……」
幼女「うむうむ! いい子じゃな、泣きやんだの! 強い男(おのこ)じゃな!」
勇者「何を……」
幼女「何じゃあ? 貴様もアメちゃん欲しいのか? 儂のアメちゃん欲しいのか? このイヤしんぼめ!」
幼女「だからそうやって睨まんでな。本当に単なる興味本位じゃて。魔王軍と勇者、誰だって見たいじゃろ?」
勇者「……ここへは入って来られたくなかったんだけどね」
幼女「何じゃあ? 壁に耳あり障子に目ありじゃぞ、隠し事なんかするものでない、何事も正直者が一番じゃ」
勇者「……」
幼女「カカカ……おすまし顔も綺麗なものじゃな! 西洋人は天狗のような顔ばかりと聞いていたが、可愛げがあるのう!」
敵兵「ば、幕府の……松山機構だかの奴か」
幼女「そいやァ、近々そんなのができたらしいのう。最近は丹波から出る事も少なかったもので、流行には疎いでな」
勇者「……本当に、目的は散歩……単なる散策……なのか?」
幼女「しつっこいのう。そうじゃと言うておろうに、疑り深いガキじゃのう」
敵兵「……」
勇者「出身はどこだ」
幼女「丹波国は伊吹のお山じゃ。だいたい儂はおるでな、茶くらいは出してやらんでもない」
勇者「名前は。真名が言えるか」
幼女「伊吹朱天の名で奉られておる。こーやって、いつもは御簾の奥で能面かぶっておるぞぉ」
敵兵「イブキシュテン……?」
勇者「本当に……ウソを言っていないのか……?」
勇者「名のある精霊なのか」
幼女「大陸人の指すセイレイが何かは分かりかねるが……帝の御前には常に控えさせていただいておるぞ」
勇者「他に随行している者は……」
幼女「儂がくっついてきただけじゃ。大獄と茨木にだけ諸国漫遊を満喫されるのもシャクだしの」
敵兵「オオタケに……イバラキ……!!」
勇者「……どういたしましたか」
敵兵「マジに……マジに、ウソを言ってない……ほ、本当に……極東の魔族……!!」
幼女「髪の一本でも媒介があれば、目にも耳にも鼻にもなる。ちょいと貴様には運び役になってもらっただけじゃ、他意などない。
あじだはーかに報告する気もないでな、好きにするとよいぞ」
敵兵「まじでかやったー」
勇者「……」
幼女「姑息なマネなどせずでも、喧嘩で負ける気などせんしのう。ま、喧嘩すると決まったわけではないが」
勇者「ここで切り伏せたとて、本体にはなんのダメージもないと?」
幼女「クカカ……江戸っ子のようにカッカするでない、小僧。こちとら毛一本とて、童なんぞに勝ちはくれてやらんぞ?」
勇者「試してみるか? ヴォーパル鋼について、知らないわけではあるまいに」
幼女「うんにゃ、わざわざ持ってこさせるのも煩わしいしのう。またの機会にお願いしたい。それよか……」
勇者「……?」
幼女「もっとその童貞に話はせんのか? 目覚ましついでに儂も聞いていってやろう」
敵兵「……」
幼女「そうじゃな……たとえば、来年の連盟会議に向けての活動とかが望ましいんじゃが」
敵兵「や、やっぱりあのクズと内通してんじゃ……!!」
幼女「知的好奇心じゃ。ひねくれたガキじゃな、何度も言わせるでない」
敵兵「(ガキって……こいつ何歳だよ……)」
勇者「得体の知れない者相手に、そういった案件をべらべら喋れるほど無神経じゃない」
幼女「ケツの穴が小さいのう。旧帝国領土の量り売り……その中で上手い事売り込んで回りますよ、
そう言えば済む事じゃろ。ちいとばかし細かい事を肉付けしてくれりゃあいい」
勇者「……」
幼女「貴様らが担いでる魔王とやらが傀儡なのは、後発の儂でもわかるくらいじゃぞ?
実質的に動いているのは頭取じゃあない……そんな事は百も承知じゃ」
勇者「それで結構。彼女は居てくれるだけで価値がある。彼女が居るだけで、ぼく達は戦う事ができる」
幼女「素敵な心がけじゃの。感動的じゃの。だが無意味じゃけぇのう」
勇者「……」
幼女「虚言に含みを持たせたとて、そんなものが実へ昇華する由もない。正直が一番だと言った筈じゃぞ。
虚構と虚勢が張り巡らされた貴様の主張……本当に悲願がかなうものかのう」
勇者「なに……?」
幼女「小童がわかったような事ばかり並べよって、虫唾が走るわ。なぁにが優先順位かね、片腹痛いわ。
たかだか盥の湯に生れ落ちて十数年のひよっ子が、他人様を騙しとおせるウソなんぞつけるものかよ。
無駄に力だけを蓄えた、頭でっかちのクソガキが、自分が井の中の蛙と気づくのにはあと何百年必要かね」
敵兵「(あーこれあれだわ、どっかの誰かと同じように口喧嘩しちゃいけないパターンだわ)」
幼女「ウソは嫌いじゃ。情報の伝達を妨げる忌み深き業じゃ。今生の理になんの益ももたらさぬ」
勇者「どうかな」
幼女「もたらすものかい。開戦が遅れでもしたらどう責任を取るつもりじゃ」
敵兵「……は?」
幼女「情報伝達の齟齬で、楽しみにしておる真打が遅れては困るでな。余興は余興でサッサと終わらせてくれんと」
敵兵「開戦って……何ですかね」
勇者「この女……コイツの言葉に耳を貸してはいけません」
幼女「儂は鬼じゃぞ? 戦乱を、戦争を、戦禍を、人の世の災いを楽しみにして何が悪い、何がおかしい?」
勇者「……ここで全部聞いたら、楽しみがなくなるぞ。いいのか」
幼女「……んふー? それも、そうじゃなぁ……ん? そうか? そうなのか?」
敵兵「(頭いいんだか悪いんだかわかんねえな……)」
幼女「んふー……うんにゃあ、やっぱり待ちきれんのう。勇者とやらの血脈がどうなるか、それだけは本当に楽しみじゃあ」
敵兵「血脈……?」
幼女「んふふwwwwwwwwwwwwwwwwwクカカカカwwwwwwwwwwwwww」
敵兵「……」
敵兵「ああ……ベッドも布団もフッカフカだあ……」
敵兵「身体が臭くない……石鹸のにおいがする……」
敵兵「あったけえ……」
敵兵「……けど、寝れないな」
敵兵「あの……イブキシュテンだとかいう奴が言ってた……」
敵兵「勇者の血脈がどうとか……どういう事なんだよ……」
敵兵「……」
敵兵「……確か……勇者の血脈を巡っての争いもあったって言ってたな……」
敵兵「帝国が一番に勇者のチカラを欲しがって……」
敵兵「ドが付くほどの封建国家の帝国が、勇者の血を……」
敵兵「貴族かどこかが、勇者の血……を……」
『そもそもお前ら一体何者なんだよ……お前みたいなのが少佐相当官だったり……』
『お分かりの通り、貴族様だ。崇めろ』
『私の家系はいわゆる譜代、中央議会と各軍幕僚に対し優越権を有している由緒ある貴族だ。
地方部の公安活動は、我々と情報部、その下の警察で真面目に頑張ってきたんだからな』
『情報部が警察活動に足を突っ込んでるのはお察しの通り、組織的・結社活動を封殺する事にある。領地にお前らを呼び寄せたかなかったからな』
敵兵「」
敵兵「いやwwwwwwwそれはねーよwwwwwwwwwwまさかなwwwwwwwww」
敵兵「まさかなwwwwwwwwwwwwwまさかな……」
敵兵「……」
アスモデウス「グレンデル王がやられたようだな」
ティタニア「あのヤリチン、性欲で言えばアテクシたちの中では最強……」
ジャヒー「人間風情にやられるとは、我ら魔族の面汚しよ」
レギンレイヴ「ウッソまじー? まじご冥福ー」
デュラハン「口を開けば『俺の首をカッ切ってみろ』とか抜かしてた、あのグレンデル王が……」
ケルベルス「バカだからな」
レギンレイヴ「巨人なんかがアタシ達のリネージに所属してる時点で胡散臭かったしィー、アタシらからすればせいせいしたっつぅかァ」
セベク「……」
敵兵「(何この人たち怖い)」
セベク「命の生き死にを茶化すものでない、貴様とて死神ワルキューレの一柱だろうに」
レギンレイヴ「なンだぁ、ドラグーンどものワニ革サイフがアタシに話しかけてんじゃねーぞ。今のアタシに言ったんだよなあ?」
セベク「……ゲス女が。北部神族の威光もここまで落ちたか」
レギンレイヴ「お、やんのか? やんのかクソワニ、まじで皮剥いで東洋の土人どもに叩き売んぞ?」
ティタニア「ケンカはやめてぇ~wwwww二人を止めてぇ~wwwwwwwwww」
ケルベルス「ほっとけ、バカどもだ」
敵兵「(濃いなぁ……)」
勇者「(……どうしました、傍聴席はまだ空いていますよ)」
敵兵「(ここ、この人……人達も、魔王軍の……)」
勇者「(正確には、先々代の魔王を中心に構築された共同体に所属する氏族の代表……言うなれば、魔界の有力者たちでしょう)」
敵兵「(すげえプレッシャーなんですけど……頭がワニだったり……でけえ犬そのまんまだったりも……)」
勇者「(鰐頭の彼は……北西諸島の侵略により植民地化の危機にある、『申命の園』のセベク。
そして、あの白銀の巨大な犬の彼はケルベルス。ケンタウリに属さない有脊椎動物の長、その秘書官)」
敵兵「(……じゃあ、あのスッゲーガラの悪い女性二人は)」
勇者「(『妖精』……身の丈50㎝に満たぬ彼女ティタニアは、『エルフよりもカミの側に傾いた』存在である妖精の女帝)」
敵兵「(あの……身なりはしっかりしてるのに、めちゃ口悪い美人は……?)」
勇者「(レギンレイヴ……流氷の地、現在の北方半島の地に属する神族の使い走りです。
国教会の布教以前の影響力は、現在の魔王の血脈に勝るとも劣らぬものであったと聞きます)」
敵兵「(クビがトんでるのもいますが……)」
勇者「(デュラハン。実体を持たぬが故、主に被造物に憑依して活動する……まあ、ゴーストともエーテルとも呼称されます)」
敵兵「(ついに幽霊まで出て来ちゃったかー、そうだよなー、ここ魔王軍のド真ん中だもんなー)」
ティタニア「勇者様? 召集の理由は、やっぱりあのグレンデルの長の殺害……さしずめ、その犯人探しと言ったところなのかしら?」
勇者「……さてね」
ケルベルス「犯人探し、なあ」
敵兵「(ちょっと待って、誰が誰だかまだよくわかんないですけど)」
勇者「(大丈夫、なんとなく聞き流していればいいですから)」
敵兵「(ふぇぇ)」
ティタニア「(グレンデル……大陸の巨人族を統べる血族の頂点に君臨する王(アウルゲルミル)……)」
レギンレイヴ「ンなもん決まってんじゃん、あのバカどもついに革命やりゃあがったんだ。くそ人間のマネでもしたんだよ」
デュラハン「革命……?」
ケルベルス「貴様のように一概に革命などと決めつける気もないが……
あの巨人の王を討つとなると、生半可な手段では返り討ちにされるのが落ち。となれば、巨人どもの中に内部犯がいるとも考えられるか」
レギンレイヴ「図体の割に脳みそちっせーから、王様の死体もその辺に転がすだけだったとか……巨人ってなほんと惨めな頭してるわよねえ!」
セベク「何にせよ、穏やかではないな。6年前の氏族合意からの共存公約、それに反発する者の犯行か……」
ティタニア「(その線も考えられなくもない……オーガ・トロール・グレンデル族の全体的な思想形態は『反体制』……
基本的に、魔王軍の意向や連合の融和姿勢に対し強気に好戦を匂わせる主戦派……)」
レギンレイヴ「いいんじゃないのぉ? でけぇうぜぇくせぇの三拍子揃ったクソ巨人いなくなってさァ。
代表会談に誰も差し向けやしねえ、どうしょもない部族だわね。いっその事、魔王サマも軍門から外しちまいや……」
デュラハン「いけません。人魔共栄を前に、どうしてそんな事ができましょうか……」
ケルベルス「……たかがワルキューレが、随分偉くなったものだなあ。このクソアマ、胸糞悪ィから黙れよ」
レギンレイヴ「クク……」
ティタニア「(北部神族……オーディン王が公の場に姿を現したのも数百年前……
お使いに参上するのがこんな小娘では、協調において彼らを当てにするのも期待できないか)」
敵兵「……」
勇者「(とりあえずは……魔王軍、いわゆる魔族は多種多様のクランによって構成されている事は……
まあ、何となくは把握できると思う。この場に集った彼らは、魔王軍の中でも大規模な氏族集団、そのトップに君臨する者達だ)」
敵兵「(まさしく各国首脳会議……ですかね)」
勇者「(ぼく達人間とさして変わらないでしょう)」
敵兵「(一枚岩じゃない所まで変わらないってか……)」
勇者「(正式氏族〈オフィシャルクラン>は『妖精族』『巨人族』『幻獣族』『申命の園』『北部神族』『モルダヴィアの墓標』
そして魔王の属するリネージである『拝火』が存在する……ああ、覚えなくていいですよ、楽にしていいです)」
敵兵「(はあ)」
勇者「(その中でも、殺害されたグレンデル王の統べる巨人族や北部神族は保守派……
旧魔王軍のプライドを捨てきれずにいる主戦派として活動していました。すなわち……ぼくやあなたを憎く思っている派閥ですね)」
敵兵「(それじゃあ、他の派閥は……)」
勇者「(魔王支持者……とは、一概には断ずることはできません。『モルダヴィア』や『幻獣族』は現在の方針を迎合していますが、
例えば幻獣族などは北部神族と共に、国教会によって排斥、零落させされた過去を持つ事から……)」
敵兵「(えっと……とにかく、全集団仲良しってわけじゃあないんですね)」
勇者「(……はい。特に、巨人族がこうしたショッキングな案件で取りざたされる事は……少し、まずいかもしれませんね)」
敵兵「(……)」
勇者「(かつての勇者による『叡智の教義』がもたらされた事で、魔物に理性が芽生えた。大陸フォークロアのどこにでも存在するストーリーです。
当時の『魔物』とは、それはもうピンからキリ。猿人やケンタウリを凌駕する頭脳を持つ者もいれば、
家畜以下……生殖本能のみで活動したり、または生理現象で人間を捕食する植物までも魔物にカウントされていました)」
敵兵「(ふむ……)」
勇者「(巨人族や北部神族、妖精族などは、言うなれば『ピン』。コミュニティを構築し、他族間との交流によって繁栄していく事のできる種族)」
敵兵「(もしかして、人間と交配できるか否か……なんて事は)」
勇者「(対して、死霊や幻獣の場合は純然たる『魔物』と言ってもいい。コミュニケーションすらとれなかった彼らを、
勇者は同じテーブルに着かせる事に成功した。これが『魔物』を『魔族』に昇華させた、革命と呼ばれる所以だ)」
敵兵「(スルーですか……さいですか)」
勇者「(さて、そこでちょっぴり軋轢が生じる。今まで格下に見ていた死霊や獣が、対等に言葉を理解するようになった。
数百年前の昔話、それだけならまだしも、更に現代の魔王ときたら近代化政策に人権確立を掲げて動き始めたではないか)」
敵兵「(……)」
勇者「(面白くないのは、先ほどの『ピン』部族のどれか……そう、巨人族が保守体制を強め始めた)」
敵兵「(うわぁ……)」
勇者「(帝国や北方共同体でのケンタウリによる権利回復運動などによって、形態が猿人に酷似しているオーガなどが
そのままクランを抜けて帰化していくケースが増加してきた。王やその側近たちは、こうした状況を押さえつける為に、協調に反対していたのだと思われます)」
敵兵「(それじゃあ、巨人のグレンデルの王様が殺されたっていうのは……)」
勇者「(かなり端折って説明いたしましたが……諸々の状況から推察して、ぼくは内部分裂説を支持します)」
敵兵「(……やっぱりかぁ)」
ティタニア「あらあらあらあらぁ、勇者様。魔王サマがいらっしゃる前からヒソヒソ? アテクシも混ぜてえ」
勇者「大した事じゃあない、彼に状況をかみ砕いて話していただけだ」
敵兵「(ち、ちっせえ……妖精、まじもんの妖精だ……!〉」
ティタニア「あらぁ、ごきげんよう。仲良くしてくださいまし」
敵兵「ど、どうも」
ティタニア「ねーえ、アナタはどう思われますぅ? カワイソーな王様の事」
敵兵「え、あ、オレ?」
ティタニア「はあい。あのグレンデル王、やっぱりヤったのは自分が治める種族のうちの誰かかしら?」
敵兵「い、いや……オレなんかは、まだまだ疎いんで。でもやっぱり、聞いた話から考えるとやっぱり……」
ティタニア「ふうん……そう、そっかあ。じゃあやっぱり悲惨だわねえ、アテクシだったら泣いちゃうわあ」
敵兵「(チョロチョロちかちかして鬱陶しいな……目が……)」
ティタニア「(そっかそっか……彼に情報を伝えた『勇者』は、そう伝えたわけだ)」
勇者「……」
ティタニア「(時代遅れの脳筋種族……アテクシからすれば、魔王軍の膿……癌……足枷……
旧魔王軍時代の功績を振りかざし、無所属の魔族を煽って足並みを乱れさせる……)」
ティタニア「(とはいえ、北方共同体のオーガとの繋がりはバカにできたものではない……
表立って批判するには要素が今一つ足りない上、どの陣営にとってもリスクに見合わない……)」
ティタニア「(東西戦争停戦の際、魔王軍もまたテロの件を揉み消すために、不可侵の意を国際的に明示した。
恣意的な手の施された、明らかなるカピチュレーション……国際社会に魔王ありと主張するには、受け入れざるを得ない条約をも許容した)」
ティタニア「(この連合への形式的勝利……共同体の反連合意識もあり、巨人族内で反クラン・リネージ気風が高まっていた、
今回の事件もその延長……そう、そう考える事もできよう。そう片づけるのが妥当……)」
ティタニア「(だが……)」
ティタニア「本当にそうだと思いますかぁ? どうなんですかねぇ」
勇者「ぼくも、早急に犯人が確保されるのを願っているよ」
ティタニア「それはアテクシも同感にございますが……」
勇者「……」
ティタニア「(アテクシがイの一番に疑ったのは……アナタの事なんですよねェ、勇者様)」
第7部 帝国奪還編 序
┼ヽ -|r‐、. レ |
d⌒) ./| _ノ __ノ
第7部 帝国奪還編 破へ
ー- 、 ー-、``/
_, ' ._, ' \
-------------------
制作・著作 NHK
今回女騎士ほぼいないし…