【少年剣士シリーズ】
少年剣士「冒険学校に入学します!」
少年剣士「冒険学校で頑張ります!」
少年剣士「冒険学校の休暇です!」
【幼剣士シリーズ】
幼剣士「待っていて下さい・・僕が必ず・・!」【前編】
幼剣士「待っていて下さい・・僕が必ず・・!」【後編】
幼剣士「僕には夢が出来ました」
青年剣士「運命ということ・・」【前編】
青年剣士「運命ということ・・」【後編】
上記作品のシリーズものですが、シリーズを読んでない方でも楽しめる作品(新シリーズ)でスタートします。
元スレ
冒剣士「…冒険酒場で働くことになった」
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/14562/1375843192/
冒険者というのは名ばかり。
実際は"冒険学校"を卒業しても、軍へと配属され、処理をさせられるだけ。
でも、そんな中で…英雄と呼ばれた男は、本当の"冒険"をしたという。
それが嘘か本当かは知らない。
小さい頃に、本の片隅に小さく乗っていた…わずかな記憶だけを頼っただけ。
現実を見ている僕は、有数国家である…中央国の有名な冒険学校への推薦を断った。
最近、冒険酒場と呼ばれる…宿も完備した初心者向けのクエストを配属してもらえる集会所があるらしい。
だから…僕は"冒険酒場"へと足を運んだ。
ここが僕の…スタートラインだと思うから…!
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……ガチャッ…ガランガラン!!!
店員「はい!…いらっしゃいませ」
冒剣士「…こんにちわ。ここが…冒険酒場ですか?」
店員「そうですよ。お客様…お若いですね、そのお歳で冒険者に?」
冒剣士「…えぇ。自分で言うのもなんですが、まだまだ子供だと思います」
店員「いえいえ、あなたのような冒険者の方も沢山おります。まずは、お掛けになってください」
冒剣士「はい…」
…スッ……ガタンッ
店員「…それで、お泊りですか?」
冒剣士「いえ…あの…、ここに来れば宿やクエストの面倒を見て頂けるって聞いたんですが…」
店員「あー…やっぱりそういう口ですか」
冒剣士「そういう…口?」
店員「専属冒険者、って知ってます?」
冒剣士「いえ…」
店員「やっぱりか…、"冒険酒場"が近年、世界各地に増えてきたのは知ってますよね?」
冒剣士「はい」
店員「冒険酒場の役割は、本来…軍で処理されるクエストまたは、国から出るクエストの中継です」
冒剣士「はい」
店員「で、その制度のせいで…軍が最近、人不足なんです。それを危惧した世界が、自由なクエスト受諾は禁止にしたんです」
冒剣士「なっ…」
店員「そこで登場したのが、専属冒険者、またその許可証っていうわけです。その酒場に対し、一定人数までしか冒険者を登録を出来ないようになりました」
冒剣士「ち、ちょっと待ってください。それだと…ていの良い、小さな軍みたいなもんじゃないですか!」
店員「はは…そう言われるとそうなんです」
冒剣士「そ、それじゃクエストは…?」
店員「うちは見ての通り、小さな酒場ですので。宿は同時経営してないし、登録人数も3人。それもイッパイです…申し訳ない」
冒剣士「わかりました…」ハァ
店員「あ、ここより東に行った所に、大型の冒険酒場があるので行ってみたらいかがでしょう?」
冒剣士「………どうも!」
…ガチャッ!!!!
……ガランガラン!!!
店員「うひゃっ…乱暴な人だ。全く、きちんと国も説明しないから…ああいう若者が増えるんだ…」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
…トコトコ…トコトコトコ…
冒剣士(一体どうしたらいいんだろう。どうせ大型の所いっても…無理だろうし…)ハァ
…トボトボ……
冒剣士(実家には大口叩いて出てきたし…帰れる訳ないもんなぁ…どうしよ本当…)
…ゴツッ…!!
冒剣士「うわっ!」ベチャッ!!!
…ベトベト……
冒剣士「転んで…昨日の降った水溜りに突っ込むし!最悪だぁぁぁぁぁっ!!!!」
…ザワザワ……
ナニ?アノコ……、シッ!ミチャイケマセン!!…
冒剣士「…」ハァ
???「大丈夫?」
冒剣士「…え?」
???「君だよ君。どうしたの…大丈夫?」
冒剣士「あ…」
…フワッ……
冒剣士「わっ…綺麗な人…」
???「えっ?」
冒剣士「あ、いえ!なんでもないです…あはは…」
???「ふふ、ありがとう。私の家、近くなんだ。夫も丁度…家にいるだろうし、その濡れた服、乾かそう?」
冒剣士「あ…、は、はい…」
…トコトコ……
冒剣士「あ…、あなたの名前は?」
吟遊詩人「私は吟遊詩人。こう見えても冒険者の1人なの…よろしくね」ニコッ
…ガチャッ
吟遊詩人「ただいまーっ聖剣士!」
聖剣士「お帰り…って、その子は?ドロドロじゃないか…」
吟遊詩人「そこの水たまりで転んじゃって…、家も近くだったし連れてきたの」
聖剣士「そっかそっか、いらっしゃい…えーと…」
冒剣士「あ、冒剣士といいます」
聖剣士「そっかそっか、ゆっくりしていくといいよ」ヨイショ
冒剣士「…ありがとうございます」
…キョロキョロ
冒剣士(居間に飾ってある防具、剣…、どれも本で見たことある高級品だ。もしかしたら凄い冒険者なのかな…?)
…タッタッタッタッタ……
吟遊詩人「はい、タオル。服は上だけ脱いで置いといて。乾かしておくから…ね?」
冒剣士「あ…何からなにまで…」
吟遊詩人「困った時はお互い様だから。気にしない気にしない」
冒剣士「…はいっ」
…ヌギヌギ……パサッ
冒剣士「…」
…トコトコ…
聖剣士「よし…よいしょっと、そこに座って冒剣士クン。これ、僕が作った新作のスープ。飲んで休んでよ」
冒剣士「…新作?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
…ゴクッ……ゴクゴクッ…
冒剣士「…わっ!美味しい!」
聖剣士「そうでしょー?魚介をふんだんに使って、西の港の鰹を贅沢に使った特製スープ!」
冒剣士「…体が温まります……本当に美味しい…」ホウッ
聖剣士「はは、そこまで喜んで貰えると嬉しいな。コストダウンさえ出来れば新作メニューにも出来るんだけど…うーん」
冒剣士「新作…メニュー?」
聖剣士「うん、僕は冒険酒場の料理を作ってるんだ。軍にも所属してるから、いつも…という訳にはいかないけどね」アハハ
冒剣士「冒険酒場…」
聖剣士「あれ?冒険酒場知らない?」
冒剣士「いえ…知ってますが…」ハァ
聖剣士「…どうした?」
冒剣士「いえ…、冒険酒場に夢を見て中央国に足を運んだのですが、どこもかしこも専属入りを断られてしまって…」
聖剣士「君…今いくつ?」
冒剣士「13歳です」
聖剣士「冒険学校のほうには入学しなかったの?」
冒剣士「いや何ていうか、結局は軍に入れられて、色々な処理ばかりさせられて、冒険という冒険が出来ないのが現実と聞いて…」
聖剣士「…」
冒剣士「だから、本当は特待学校に誘われていたのですが、それを蹴ってココへ訪れたのですが…」
聖剣士「うーん…、それは理屈であって、現実じゃない」
冒剣士「え?」
聖剣士「君は軍へ入った事があるのか?冒険学校を体験したのか?冒険というものは、何を意味するか分かっているのか?」
冒剣士「…い、いえ」
聖剣士「そうだろう。何もかも、食わず嫌いように体験もせず…愚痴を言い、夢ばかり見て足元をすくわれたんだ」
冒剣士「…」
聖剣士「だけどさ…、君は…もしかした強運を持っているかもしれないね…」
冒剣士「…えっ?」
タッタッタ…パサッ
吟遊詩人「はいっ、乾かしておいたからね♪」
冒剣士「あ、ありがとうございます」
聖剣士「あ、吟遊詩人。うちの冒険酒場って、何人か穴あったっけ?」
吟遊詩人「えー…どうだったかな。先週、1人が遠征部隊に参加するからって抜けたかも…」
聖剣士「なるほど…。じゃ、兄さんに頼んで、この子を専属にしてもらおうかな」
吟遊詩人「?」
冒剣士「……へっ?」
That's where the story begins!
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【冒剣士「…冒険酒場で働くことになった」】
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・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
……コンコン
???「はーいどうぞー」
……ガチャッ
聖剣士「あ、兄さん…、いたいた。よかった」
オーナー「…ん?聖剣士じゃないか…今日は休みだろ?どうした?」
聖剣士「いやー…実はこの子なんだけど…」
冒剣士「…ど、どうもです」
オーナー「お?誰だ?」
聖剣士「…ほら、先週さ、遠征部隊に参加するから1人抜けたっていったでしょ?その後釜の推薦」
オーナー「あー…そうだね。って、推薦…?聖剣士、その子の知り合いなのか?」
聖剣士「知り合いっていうか、知り合った」
オーナー「…?」
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聖剣士「…というわけ」
オーナー「なるほどね、そりゃ災難だったね冒剣士クン。俺はこの酒場のオーナー。そのまんまオーナーって呼んでくれればいいよ」
冒剣士「あ…は、はい」
聖剣士「何とかならないかな?」
オーナー「うーん…、何とかならないこともないけど…」
聖剣士「何か?」
オーナー「うちは宿も経営してるし、武器や防具、料理酒場、クエストも何でも請け負ってるけど…小規模でしょ?」
聖剣士「あー…まあ」
オーナー「人数によっていっぱいいっぱいで、手が空かなくなることも多かったから、専属人数1人減らそうかなって思ってたんだよ」
冒剣士(やっぱり…だめか)
聖剣士「じゃあ、クエストがない時は経営の手伝いしてもらえば?住み込みでもそれなら出来るんじゃない?」
オーナー「なるほど。それなら問題ないかな…?」
冒剣士「!」
オーナー「専属冒険者になって、住み込みでうちの手伝い。クエストが回れば一部回して、月払いで給料。休みの日は自由に冒険…ってのはどうだろ?」
冒剣士「…ほ、本当ですか!?ぜひお願いします!!」
オーナー「そんなに喜ばれるとは…はは、いいよ。ただし忙しい時は手伝いに集中してもらう事になるけど…いいかな?」
冒剣士「ぜ、全然大丈夫です!宿なし、先もなし、このまま泣きながら実家に帰るより…全然いいです!お願いします!」
聖剣士「よかったね」ニコッ
冒剣士「ありがとうございます!!」
オーナー「じゃ、宜しく!」
冒剣士「宜しくお願いしますっ!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
冒剣士「…基本業務は結構あるんですね」
オーナー「今日みたくさ、お客が少ない日はいいんだけど…基本的には、室内清掃、お客対応…、色々やってもらうよ」
冒剣士「沢山ありますね…、大変だ…」
聖剣士「時間があるときは、僕の厨房のお手伝いもしてもらおうかな。料理はできて損がないよ~」
冒剣士「は…はい」
オーナー「そうだね、料理だけは覚えといて損はないと思う。厨房担当は基本的に2人で賄ってるから」
冒剣士「2人?聖剣士さんだけじゃないんですか?」
オーナー「今は出かけてるけど、俺の嫁さんもここで働いてて、厨房も担当なんだ。吟遊詩人さんはたまに来て酒場のほうの接客をしてる」
冒剣士「へ…へえ…、いっぱい人がいるんですね」
オーナー「小規模だけど、業務だけは詰め込んでるからね…正直、人が増えてくれるのは嬉しいよ」
冒剣士「頑張ります」
聖剣士「あ、専属冒険者のことに関しては?」
オーナー「あ…そうそう。専属冒険者はうちの規模で6人。僧侶戦士、武道家、聖剣士、吟遊詩人、筋肉僧侶さんていう人と、君」
冒剣士「へえ…吟遊詩人さんも、聖剣士さんもですか?」
聖剣士「一応ね。軍にも所属してるっていったけど、自由業に近い軍役のほうだから。メインはこっちでやってるんだ」
冒剣士「なるほど…」
オーナー「と、まあ色々詰め込んだけど大丈夫?」
冒剣士「大丈夫です。とりあえず、清掃と接客、厨房の手伝いですね」
オーナー「とりわけではそんな感じ。あと、うちは1級だから…専属じゃなくても、うちを訪れた冒険者にクエストをお願いすることはあるかな」
冒剣士「…え?専属じゃないとクエストって受けられないんじゃ…」
オーナー「え?それは2級酒場のところ。うちは1級酒場だから、俺が自由に冒険者にクエストを渡すことが出来るんだ」
冒剣士「は…?」
聖剣士「…ん?」
オーナー「…どうしたの?」キョトン
冒剣士「いえ、最初に行った酒場で、クエストは基本的に専属の証がないとダメだから自由は禁止だとか…」
オーナー「…いやいや、1級酒場なら自由契約できるよ?」
冒剣士「な…」
聖剣士「え、冒剣士くん、専属断られたって言ってたから、てっきり専属志願なのかと…」
冒剣士「な、なななな…」
オーナー「何やら食い違いがあったようだけど…、ま!これからよろしくね」ニコッ
冒剣士「なんでぇぇぇぇぇ!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
……ガチャッ…
…ドサッ
オーナー「よいしょ。2階の…ココが君の部屋。自由に使っていいよ」ニコッ
冒剣士「ありがとうございます」
オーナー「少し汚れてるな…きちんと掃除してもらわんとな…はぁ」フキフキ
冒剣士(結局、最初の酒場じゃ適当に断られたって事か…、せめて1級とか教えてくれれば良かったのに…酒場で働くことになっちゃったよ…)
オーナー「で、えーと…、何か聞きたいことはある?」
冒剣士「あ、は、はい!え、えー…働く時間と休憩とか、もう色々と…あはは」
オーナー「えっと、朝8時には昼食の仕込みの手伝い、朝10時に部屋の清掃。うちは部屋が少ないからすぐ終わると思う」
冒剣士「なるほど」
オーナー「11時になったら、その時にもよるけど…お客さんの対応。昼食やら宿泊客とかの対応だね」
冒剣士「ふむふむ」
オーナー「13時になったら14時まで休憩、午後は宿泊者が来たり、色々とお客さんが来るから清掃やら客対応はその時に応じて」
冒剣士「結構人くるんですか?」
オーナー「あはは、おかげ様でね。忙しいよ~?」
冒剣士「そ、そうですか…」
オーナー「そこから18時までで一応終了。夜は酒場がメインになるけど、そこはまだ子供だから…さすがに自由時間になるかな」
冒剣士「はい」
オーナー「君の門限は一応21時。…あ!親御さんに連絡してないや…連絡先わかる?働いてもいいのかなウチで?」
冒剣士「あ、問題ないです。元々、冒剣酒場でお世話になるために中央国まで行ってくると伝えてあるので」
オーナー「わかった。で、休みは毎週2日…といいたいんだけど、休日は忙しくなるから…」
冒剣士「あー…そうですよね」
オーナー「その時その時で、休みはあげることにするよ。一応休みは多くあげるし、慣れてきたらすぐにクエストを用意しよう」ニコッ
冒剣士「ありがとうございます!」
オーナー「あはは、それじゃ…何かあったら下に降りて来て。俺は酒場にいるから。町案内もするから、あとで身内を呼んでおくよ」
冒剣士「何から何までありがとうございます」
オーナー「いやいや、こっちこそ助かるよ。それじゃ…」
……ギィ…バタン…
ドサッ…ゴロン
冒剣士「…冒険に出るはずが、なぜか酒場で住み込みの働きをすることに……」
……ゴロゴロ
冒剣士「……あー…もう!一体僕は何をやってるんだ!」ゴロゴロ
…バンバン!…
冒剣士「確かに滑り込みみたいな形で入れたのはラッキーだけど、これじゃ冒険者というより…ただの冒険好きのバイト君だよ!」
…コンコン
冒剣士「んあ…、はーい?」
…ガチャッ
オーナー「や、ちょっと失礼」
冒剣士「お、オーナー!はい!」スタッ
オーナー「後で呼ぶつもりが、みんな来ちゃったから紹介するよ、1階に来てくれる?」
冒剣士「は、はい…?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
冒剣士「この方々が…?」
オーナー「そう。俺の嫁のえーと…、魔法使いと、それと従業員の女メイジちゃん」
魔法使い「君が新しい専属冒険者さんね?ふふ、よろしくね」ニコッ
女メイジ「…よろしく」
冒剣士「よ、宜しくお願いします」ペコッ
オーナー「一応、女メイジちゃんは一緒くらいの年齢だし、話も弾むかも?とりあえず、挨拶だけってことで」
女メイジ「…ちょっと、オーナーこっちきて」グイッ
オーナー「ん?わわっ、引っ張らないで…どこに…!」
冒剣士「…?」
オーナー「厨房に連れて来て…どうしたの?」
女戦士「なんなのあの子!私と一緒くらいなのに、専属を結ぶなんて…、そんなに強いの!?」
オーナー「いや…強さは見てないけど、専属希望だったとか聞いて、勢いで決めたんだけど…まだ書類も通してないし正式じゃないけどね」
女メイジ「む…むううう!なんでそんな簡単に決めるの!」
オーナー「な、何でって…、あの位の子を見ると、やっぱり放っとけなくなるっていうか…ね?」
女メイジ「むうう!オーナーはそんなんだから甘いって言われるのよ!」
オーナー「そ、そう…?」
女メイジ「見てて!私が判断してあげるんだから!」
オーナー「お、おい…」
……ダダダッ
冒剣士「あ、戻ってきた」
……ダダダダダッ!!
女メイジ「ちょっといい!?えーとあなた…冒剣士!私と勝負しなさい!」
冒剣士「はい、いいですよ……って、え!?」
女メイジ「今いいっていったわよね!よーっし、魔法使いさん!審判して!外で勝負する!」
…ドコツカンデ…ワァァ!!!ヒッパラナイデ!!……タッタッタッタ…!!
魔法使い「…な、なんで急に勝負……?」キョトン
…トコトコ
オーナー「…やれやれ、どうにも、俺があの子を勝手に迎えた事に納得いかなかったようだ」ハァ
魔法使い「あー…そういやあの子…あんたにホの字だし、ここの専属になるのが夢ですものね」ニヤニヤ
オーナー「俺は一応、妻子もちなんだけどな」ヤレヤレ
魔法使い「いつまでたっても若いってことで、いいんじゃないの?」クスッ
オーナー「俺は君と、息子、皆いれば充分若くいられると思ってるよ」アハハ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
女メイジ「よし…勝負っ!この武器を使って、ここにある擬似武器…あるいは魔法で一撃を入れたほうが勝ち!あなたは剣でいいわよね?」
冒剣士「いいよ…何がなんだか…と、とりあえず分かった」チャキッ
女メイジ「魔法使いさん!開始をお願いします!」
魔法使い「…わかったわよ…開始っ!」
女メイジ「…小火炎魔法っ!」ボワッ
…ドォン!!
冒剣士「うひゃっ!」
女メイジ「小水流魔法っ!…小風刃魔法っ!」バシャッ!!ビュゥン!!!
冒剣士「うわわわっ!」
女メイジ「逃げてちゃ勝負にならないでしょ!」
冒剣士「って、言っても…」ウジウジ
女メイジ「そんなんで、ここの専属冒険者になるなんて…百年はやぁぁい!中火炎魔法っ!」ボワッ!!
オーナー「中火炎…あれ、お前…教えただろ」
魔法使い「やー…なんのことだか…あはは…」
冒剣士「中級魔法!?うわっ!」
……ドゴォォン!!ベシャッ!!
冒剣士「うわっぷ!爆発で泥が…!」
女メイジ「隙ありぃ!小火炎魔法っ!」ボワッ
女メイジ「逃げてちゃ勝負にならないでしょ!」
冒剣士「って、言っても…」ウジウジ
女メイジ「そんなんで、ここの専属冒険者になるなんて…百年はやぁぁい!中火炎魔法っ!」ボワッ!!
オーナー「中火炎…あれ、お前…教えただろ」
魔法使い「やー…なんのことだか…あはは…」
冒剣士「中級魔法!?うわっ!」
……ドゴォォン!!ベシャッ!!
冒剣士「うわっぷ!爆発で泥が…!」
女メイジ「隙ありぃ!小火炎魔法っ!」ボワッ
オーナー「勝負あったかな?」
魔法使い「女メイジちゃんも結構強いところあるからねぇ」
…ギラッ
冒剣士「…負けない」
女メイジ「…へっ?」
冒剣士「はァッ!!!」チャキッ…ビュッ!!
……バキッ!!!
女メイジ「はぐっ!」
…………ドサッ…
冒剣士「…ふぅ」
オーナー「何っ!女メイジが吹き飛んだ!?」
魔法使い「何…今の?真横から円を描くように…物凄い速度の切り抜き…」
女メイジ「…ったぁい…」
冒剣士「だ、大丈夫?」スッ
女メイジ「…」ハッ
…バシッ!!
女メイジ「あんたの助けなんていらない!バカ!魔法使いさん、泥落とすからタオル借ります!」
魔法使い「ど、どうぞ~…」
……タッタッタッタ………バタン…
冒剣士「なんだよ、折角人の優しさを…」
オーナー「すごかったな今の。真横への切り込み、あんな速度の初めてみる。何かの技術か?」
冒剣士「あれは"居合い"です。本来なら、"鞘"が無ければ出来ないんですが…手で抑えをして無理やり…」
オーナー「居合い…?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
魔法使い「へー、冒剣士くんは東方出身なんだ」
オーナー「道理で見たことない技術だと思った。鞘ってことは、カタナってことだよね」
冒剣士「はい、鞘を滑らせるようにして加速をつけて、刃を円状…つまり弧を描きながら切り込むのが居合いです」
オーナー「なるほどね、冒険者としてのレベルは高そうだね」
冒剣士「高いかどうかは分かりませんが…」
オーナー「…簡単なクエストだけ渡そうと思ったけど、考えが変わった。それなりのクエストをお願いしてもよさそうだ」
冒剣士「本当ですか!」
……トコトコ…
女メイジ「ったく…か弱い乙女になんてことを…」
冒剣士「あ、さっきはごめん。大丈夫だった?」
女メイジ「大丈夫なわけないでしょ。見事に一撃入れられて…」
冒剣士「勝負っていうから…」
女メイジ「でもまあ…勝負は勝負。負けは…負け。認めるわ、あなたのこと」
冒剣士「あ、ありがとう」
女メイジ「…冒剣士…そんなに強いのに冒険学校には入らなかったの?」
冒剣士「うん。僕は最初から冒険酒場から何もかもスタートする気だったから…、君は冒険学校に通ってるの?」
女メイジ「いいえ?私は家が貧乏で、支払うお金がなかったの」
冒剣士「…そうなんだ」
オーナー「…」
女メイジ「だけど、冒険の夢を諦められなかった時、オーナーと知り合って、家にお金を入れながらクエストも出来る、冒険酒場の仕事をお願いされたのよ」
冒剣士「へえ…、それじゃ君もクエストを受けてるんだ」
オーナー「さっき分かったと思うけど、女メイジちゃんの実力は結構高いからね。俺も信頼して…それなりのクエストはお願いしてるんだ」
女メイジ「信頼なんて…そんな」ポッ
冒剣士(分かりやすっ!)
オーナー「だけど、これで仲間が出来たことになるんじゃない?今まで1人だったのも、2人ならもっと楽にクリアできるようになるし」
冒剣士「2人…?」
女メイジ「それって…」
オーナー「冒剣士と女メイジの2人で、パーティを組んだらどうだろう」
冒剣士「僕はいいですが…」
女メイジ「えぇぇ!嫌っ!私は私で一人で出来るから…このままでいいです!」
オーナー「うーん、2人だと実力も高まるし、上位クエストを委託できたんだけど…だめか」
女メイジ「やります!」
冒剣士(えぇ~!?変わり身はやっ!)
オーナー「そっかそっか、じゃあ後で色々と調整したり書類書いたりしておくよ」
女メイジ「私の足を引っ張らないでね!」
冒剣士「は…はは…」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【冒険酒場・夜の自室】
…ホー…ホー…
冒剣士(何はともあれ…僕の新しい生活が…始まったんだよね…。あと…)
…パサッ
"冒険酒場で働くために"
"接客の基本"
"誠意を見せて働く為に"
"流通とマネージメント"
"ストレス解消法!"
冒剣士(あの後、聖剣士さんが持ってきてくれた本…多すぎ!ゆっくり読んで、しっかり覚えないとなぁ…)ハァ
………ゴロン
冒剣士(ま、明日から仕事も始まるし……今日は寝よう…、おやすみなさい…)
・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・
・・・
・・
・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【午前9時】
オーナー「えー…おはようございます!」
4人「おはようございます!」
オーナー「今日は吟遊詩人、聖剣士、女メイジ、そして冒剣士と俺の4人でやっていきます」
4人「はいっ!」
オーナー「吟遊詩人はいつものフロア清掃のちに買出し、女メイジは吟遊詩人のお手伝い。冒剣士は聖剣士と料理の仕込みです」
4人「わかりました」
オーナー「あとは、それぞれに指示を出すので宜しくお願いします」
4人「宜しくお願いします!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【厨房】
聖剣士「よいしょっと、この白衣身に着けてね。安全第一、清潔第一!手もしっかり洗って!」
冒剣士「は、はい!」
聖剣士「えーっと…兄さーん!」
オーナー「んー!」
聖剣士「今日は何か仕入れモノあるー!?」
オーナー「冷蔵庫に、昨日安く入った豚肉と、果物が入ってると思うぞー!」
聖剣士「りょうかーい!」
冒剣士(何作るんだろ…)
聖剣士「それじゃ…えーと」
…ゴソゴソ
聖剣士「こりゃ上質な豚肉だね…、それとフルーツはりんごオレンジ、グレープフルーツと野菜が少し…、他の材料はあるとして…」
冒剣士(…)
聖剣士「今日のメニューは、"豚肉のりんごソース"と、果物ポークカレーにしよう」
冒剣士「な、なんて奇抜なメニューを…」
聖剣士「奇抜でもないよ?りんごは酵素を含んでて、肉をやわらかく仕上げるのに向いてるし…甘みがあって砂糖を使わずソースを作れる」
冒剣士「へえ…」
聖剣士「まあ、果物と合う豚肉だからこそ出来るっていうのもあるけどね」
冒剣士「…そうなんですか、牛肉だと出来ないと?」
聖剣士「牛肉だと、脂身が多かったりで…どちらかというと牛肉の味が強すぎて、果物と競争して難しいんだ。もちろん、出来ないわけじゃない」
冒剣士「…ふむ」
聖剣士「牛肉でも、おいしく仕上げることは出来るけど…やっぱり手間がね…、煮込み時間が長かったりで難しい」
冒剣士「なるほど!」
聖剣士「それじゃ…時間もないし早速作ろうか!」
冒剣士「はいっ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
……グツグツ…グツグツ…
冒剣士「暑いですね…」
聖剣士「あはは、火との戦いだからね。錬金術でガスの技術やら、冷凍技術が発展してない時はもっと大変だったから…だいぶ楽になったほうだよ」
冒剣士「それなら…文句もいってられませんね。頑張ります」
聖剣士「その意気さ」ニコッ
…グツグツ……ジリリリリリ!!!!!
聖剣士「とと、キッチンタイマーが…その鍋に少しだけ唐辛子を入れて」
冒剣士「はいっ」パラパラ
聖剣士「…うん」
冒剣士「わっ…、果物のいい香りが…、カレーと混じって凄い美味しそう…!」ジュルッ
聖剣士「はは…よいしょっと。はい、これ」スッ
冒剣士「スプーン?」
聖剣士「…さ、味見してごらん」
冒剣士「…」
…スッ…トロッ………パクッ…
冒剣士「……!」
聖剣士「…どう?」
冒剣士「…このまろやかで深い甘みと、後から来る…辛さが何ともいえない!美味しいぃ!」
聖剣士「はは、それは何より!」
冒剣士「…作る時は"うわっ"て思ったけど…」
聖剣士「これも…君のこの間の"食わず嫌いの話"と似ているってことだね。見た目や、噂、"これがこう"だからという概念…」
冒剣士「…」
聖剣士「それは、最後まで組み立てなければ分からない。実際にやらなければ分からない、料理だって…人生だって一緒ということだよ」
冒剣士「そう…ですね。料理に教えられた気分です…あはは…」
聖剣士「おっと、説教じみてしまった。ごめんごめん、それじゃ後は仕上げだけだから、冒剣士はオーナーに次の仕事を聞いてくるんだ」
冒剣士「いえ、教えていただけるのは有難いです。…はい、行ってきます!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
冒剣士(ここがオーナーの部屋だったかな…)
……コンコン
オーナー「はいどうぞー」
…ガチャッ
オーナー「おや、仕込みは終わったのか?」
冒剣士「はい、一応。それで次の仕事を聞いてこいと言われたので…」
オーナー「まだ買出し組みが戻ってないからなぁ…、戻ったら室内清掃の教えをしようとしてたんだけど…」
冒剣士「…」
オーナー「ま、丁度いいか。こっち来て、この書類にサインしてくれるかな?」
冒剣士「はい?」
オーナー「一応…国と繋がる事業をしてるからね。1人の専属が出たら、必ず報告しないと」
冒剣士「専属…僕ですね。サインはここに?」
オーナー「そう…そこ」
…スラスラッ……
オーナー「よし、ありがとう」
冒剣士「いえ、このくらい…」
オーナー「これで君も、正式に…うちの専属冒険者だ。これから宜しくね」
冒剣士「宜しくお願いします」
…コンコン
オーナー「おや、買出し組みが戻ってきたかな」
…ガチャッ
吟遊詩人「オーナー、買出し終わりましたよ」
女メイジ「疲れたぁ…」
オーナー「ありがとう、それじゃ次は清掃業務だけど…冒剣士にも教えながら頼むよ」
吟遊詩人「分かりました」
女メイジ「…足引っ張らないでよね、新人」
冒剣士「…は、はぁ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
吟遊詩人「……って感じ。基本的に、連泊のお客様の荷物は触ったりしちゃだめ。ベッドのシーツを入れ替える時、掃除の時のみ横にまとめること」
冒剣士「なるほど…入れ替えたシーツはどうすれば?」
吟遊詩人「部屋の廊下に、大きなリネンがあったでしょ?そこにまとめて、最後に締め上げて清掃室にまとめるの」
冒剣士「リネン?」
女メイジ「廊下にあった真っ白な大きな布のこと!そのくらい覚えておいて」
冒剣士「…聞いたことなかったから」
吟遊詩人「まあ確かにね…、宿泊施設では"リネンして"だけで通じるから…、私も教え不足だったのよ。ごめんね」
冒剣士「あ、いえ!自分も勉強不足でした!」
吟遊詩人「それと、お客様に会ったら必ず挨拶、"おはようございます"や"こんにちわ"くらいはすること」
冒剣士「なるほど」
吟遊詩人「男の子の君は、やっぱりベッドのシーツ入れ替えとか、机をどかして、きちんと掃除するとありがたいかな?」
冒剣士「分かりました、任せてください!」
……タッタッタ…グイッ!!
吟遊詩人「あ、いきなりベッドの間に指を入れると…」
…バチンッ!!!
冒剣士「あいたあっ!!」パッ
女メイジ「静電気にびっくりして手を離して…重いベッドが…」
…ドォン!!!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【1階・オーナー室】
…ドォン!!……パラパラ…
オーナー「…はは、やってるやってる。ベッド落とし…最初は俺も静電気に驚いて床が抜けそうになったっけ…」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【2階・客室】
冒剣士「あわわわ…ごご、ごめんなさい!」
女メイジ「…最後まで人の話は聞くの。ベッドの間に使われてる金属が、シーツと擦れて静電気を起こすわけ。だから、一応手袋をはめてから…」
冒剣士「…ごめんなさい」ショボーン
女メイジ「はぁ、私も最初同じことやったし、気にしてると次にいけないから…、失敗は次に生かすの。わかった?」
冒剣士「あ…あぁ」
吟遊詩人(…ふうん)クスッ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
冒剣士「はー…疲れた……、これで小規模なんですか?」
吟遊詩人「客室は全部で16部屋、全然小さいほうかな。大型宿泊施設が併設されてると、300部屋とか400部屋とかになるし…」
冒剣士「…僕、ここでよかったと思います」
女メイジ「その話聞くと、私もいつもそう思うわ…」
吟遊詩人「えーっと…もう11時30分か。それじゃ、オーナーの所にいこっか」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
…コンコン……ガチャッ…
吟遊詩人「オーナー、客室の清掃終わりました」
オーナー「お、ご苦労様。それじゃちょっと早いけど、休憩とってくれる?今日の12時30分から、予約がもう入ってるんだ」
吟遊詩人「わかりました」
女メイジ「ええ…、今日は何人?休みだから相当多そうだけど…」
オーナー「んと…宿泊が13人、9部屋。今いる連泊さんが4部屋で、もう13部屋で…いっぱいいっぱいだね」
女メイジ「冒険者?」
オーナー「一応冒険者たちかな。今回は"シルバープレート"の人もいるよ」
女メイジ「銀プレート!?やった!お話聞かせてもらおっ!」
冒剣士「銀プレート?」
女メイジ「えー…そんなことも知らないの…?とりあえず昼ごはん食べながら教えるから…早く!」
冒剣士「わかったよ…わかったから引っ張らないでえー!」
…ズルズル…ガチャンッ……
オーナー「……な、仲良しになってるようで良かった」
吟遊詩人「そ、そうですかね…」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
冒剣士「で、銀プレートって何?」モグモグ
女メイジ「あなたね…、本当に冒険者志願?プレートのことも知らないの…?」ゴクゴク
冒剣士「だから知らないって…。わ、カレー美味しい…」
聖剣士「談話しながら食べるのもいいが…ゆっくりしすぎて休憩時間終わらないようにな…」ハハ…
女メイジ「分かってますよ!」
冒剣士「善処します!」
女メイジ「それでプレートっていうのは、冒険者に付けられるランクみたいなものよ」モグモグ
冒剣士「ランク?」
女メイジ「軍の階級に近いかも。クエストとか、実績に反映して贈られる階級証みたいなものかな?」
冒剣士「ふむふむ、それで銀っていうのは凄いの?」
女メイジ「そりゃ…。白から始まって、青、赤、銅、銀、金。……銀といえば、かなりの場数を踏んだベテラン冒険者になるわね」
冒剣士「それじゃ、僕は昨日登録したばっかだから白かぁ」
女メイジ「私はもう赤だけどね~♪」
冒剣士「なんでっ!?」
女メイジ「なんでって…それなりにクエストをやってるし、軍事クエストについてった経験もあるし…」
冒剣士「…はーそっかぁ。でもまあ、スタートラインだし仕方ないか…」
女メイジ「1回、何でもいいからクエストを完了すれば青にはなれるしね」
冒剣士「うわー…かんたーん…」
女メイジ「大変なのはそこから。それぞれのプレートカラーには最低条件があって、それをクリアしないと次の段階にはいけないの」
冒剣士「でもさ、プレートって何のためにあるの?ただの証?」
女メイジ「そりゃ大事な証よ。クエストの中には、一定カラー以上じゃないと受けられないのもあるし…」
冒剣士「なるほどねー…僕も頑張ろう」
女メイジ「ちなみに、厨房の聖剣士と、吟遊詩人さんは銅色。オーナーも相当やり手っていうけど、登録してるのかは分からないわねー…」
冒剣士「ここの他の専属冒険者さんたちは?」
女メイジ「"僧侶戦士"さんが銀、"武道家"が銅。"筋肉僧侶"さんが銀…だったかな?」
冒剣士「へええ、うちの専属もかなり優秀なメンバーがそろってるんだ…」
女メイジ「みんな、本業は軍の仕事で…こっちは傍らで多くは難しいから、基本的に一般冒険者に自由委託で賄ってるのがうちのスタイルかな」
冒剣士「自由委託だけって…、それで採算というか…経営できるものなの?」
女メイジ「だからこそ、よ」
冒剣士「え?」
女メイジ「他の1級酒場とか、冒険酒場の多くは"専属便り"だけど、うちは"自由寄り"だから、一般冒険者の高位プレートが来てくれるわけ」
冒剣士「あ…あー!」
女メイジ「そもそも、冒険者っていうのはこんくらい自由なほうが良いんじゃないの?私だったらそっちのほうがいいし…」
冒剣士「あー…うん。確かにね、僕もそういうの目的で来てたってのあるし…」
女メイジ「でしょ?だから採算は取れるだろうけど、そもそも儲けの為だけにやってる場所じゃないのよここは」
冒剣士「なるほどなぁ…」
女メイジ「ご馳走様でしたっ!」
冒剣士「ご馳走様~」
聖剣士「はいよ~、そこに置いててくれれば片付けとくよ。オーナーに次何すればいいか聞いておいでー!」
冒剣士「はーい!」
……コンコン…ガチャッ
冒剣士「失礼します」
女メイジ「失礼します」
オーナー「おや少し早かったね。まだ休憩時間は少し残ってるけど…」
女メイジ「今日忙しいみたいだし、さっさと準備したほうがいいかなって」
オーナー「助かるよ。それじゃ、そろそろ接客のほうの準備お願いするよ」
女メイジ「冒剣士もですか?」
オーナー「一緒に教えてくれる?宿泊の他に、酒場の受付なんかのもやっといて損はなさそうだし」
女メイジ「わかりました」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
冒剣士「…ここ?」
女メイジ「そう…ここ。で、お客さんが来たら、宿泊の場合はここに、酒場のお客の場合はそっちのカウンターとか、席につくから」
冒剣士「宿泊対応は大体わかるけど、酒場の対応は?」
女メイジ「呼ばれたら行って、メニューを聞く。それを聖剣士に伝えればいいし、酒場のほうはオーナーも手伝うから楽だけどね」
冒剣士「わかった」
……ガチャッ
お客A「…ふぅ疲れた。思ったよりキレイなところだね」
お客B「商店街も近いし、滞在するには丁度いいかもねー」
冒剣士(ってもうお客さんきたー!)
女メイジ「いらっしゃいませ」
冒剣士「え、あの…い、いらっしゃ…」モゴモゴ
お客A「おやおや、どうしたんだい緊張して。新人クンかい?」
女メイジ「あ、あはは…慣れてないもので」ゲシッ
冒剣士「あいたっ!…い、いらっしゃいませ!」
お客A「ははは、ゆっくり慣れればいいと思うよ」
女メイジ「えー…と、お泊りのお客様でよろしいですか?予約の場合は、予約用紙のご提示をお願いします」
お客A「そうです…えーと…、この紙かな…」
…パサッ
女メイジ「あ、ご予約頂いていた方ですね。ありがとうございます、少々お待ちください…」ゴソゴソ
お客A「…」
お客B「酒場いい雰囲気じゃん、今日のメニューはフルーツカレーだってよ!」
お客「へえ、お昼食べてないし荷物置いたら食べようか?」
お客B「店員さん、フルーツカレーは美味しいのか?」
冒剣士「え、あ!僕ですか…えっと、フルーツの甘さとカレーの辛さがマッチして…かなり美味しいと思います!」
お客A「げ、元気だね…そっか、美味しいならすぐ食べにくるよ」
お客B「先に準備とかしてて貰えるのかな?」
冒剣士「え、えーと…」チラッ
女メイジ「…」ボソボソ
冒剣士「…わ、わかった」
お客A「…」
冒剣士「えーと、大丈夫です。準備し、席もご用意しておきますので、荷物を置いたらどうぞ足をお運びください」
お客A「わかった、ありがとう」ニコッ
冒剣士「へへ…」
女メイジ「…それでは、こちらが連泊の証明書です」スッ
お客A「ありがとう。それでは後また来るよ」
女メイジ「はい、お待ちしております」ペコッ
……トコトコ…
女メイジ「あんたも頭下げるの!」ボソッ
冒剣士「あ、そうか…」ペコッ
女メイジ「…」
冒剣士「…」
女メイジ「頭上げて、よし」
冒剣士「ふう、大変だね接客のほうも」
女メイジ「お客さんの前じゃなかったら、色々と言いたくなるような態度だったけどね…」
冒剣士「色々言ってたくせに…」
女メイジ「全然言ってないほうよ…お客さんの前で、大声…じゃなくても怒ったり、色々言うのはマナー違反なの」
冒剣士「そ、そっか…」
女メイジ「…ま、最初にしては良いんじゃないの?これからもっと忙しくなるから、ちゃんと慣れてね」
冒剣士「わかってるよ、足引っ張らないように頑張るよ」
女メイジ「よーろしぃ!」
……コソッ
聖剣士「えーと…昼食の注文があったら、一言来てくれると嬉しいんだけどな…はは」
女メイジ「あっ」
冒剣士「あっ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【午後4時】
…ガヤガヤ……
冒剣士「ふうー…」
女メイジ「酒場のほうも賑わってきたわねー…」
冒剣士「あの後、一気に予約客が来るとは思わなかったよ」
女メイジ「珍しくないんだけどね、お疲れさま」
冒剣士「お疲れ…、でも酒場にいる冒険者さんたち…強そうだなあ…」
女メイジ「そうねぇ…」
???「おーい、そこの子供!2人!こっちに来いよ!」
冒剣士「僕たち?」
女メイジ「そうみたい…こういうのも珍しくないから、行こっ!」
冒剣士「う、うん…」
トコトコ…
孤高騎士「よーよー、俺は孤高騎士。孤高とでも呼んでくれ…」
女メイジ「孤高さんいつも同じことばっかり」クスッ
冒剣士「知り合い?」ボソッ
女メイジ「酒場の常連」ボソッ
孤高騎士「ところで…そっちの男の子は新人クンか?」
女メイジ「あ、そうです。一応専属冒険者になっちゃって、住み込みで働いてたりしてますよ」
冒剣士「よ、よろしくです」ペコッ
孤高騎士「専属だぁ!?俺ですら断られたのに…お前強いのか?」
冒剣士「いえ、言うほどでは…」
孤高騎士「よく専属に入れたな…、たまたま穴があったとかか?」
冒剣士「そうらしいです。先週に穴が開いた所に、僕が滑り込む形で入ったとか…」
孤高騎士「なんだ羨ましいやつだな…」
女メイジ「全くですよねー!」
冒剣士「あはは…」
孤高騎士「冒剣士だったか…お前のプレートは?」
冒剣士「まだ白です」
孤高騎士「白で専属かよ、何とも言えねぇな…」
女メイジ「孤高さんは赤でしたよね?」
孤高騎士「ん?……んっふっふ…」ゴソゴソ
女メイジ「プレートはきちんと着けておきましょうよ…」
孤高騎士「これを見よっ!」スッ
…キラッ
女メイジ「わっ、ブロンズ…銅色!上がったんですか?」
孤高騎士「おう。軍事クエストを規定回数終わらせてな…、やっとこれで単独での国家クエストの受諾件を得たぜ」
冒剣士「軍事とか、国家…単独?」
女メイジ「あー…って、そこまで知らないわけ…?」
冒剣士「なはは…せん越ながら…」
孤高騎士「冒険者なら勉強も必要だぞぉ?しゃあないな、俺が教えてやろう!」
冒剣士「お、お願いします」
孤高騎士「クエストは、民事、軍事、国家の3段階に分かれてるわけだ。それぞれの順で難易度が変わって、国家クラスになると危険度も非常に高い」
冒剣士「なるほど、単独というのは?」
孤高騎士「例えば、俺が国家を受ける場合は銅プレだから一人からの受諾が可能だ。それに加えて、仲間、つまりパーティを組んで受諾を出来る」
冒剣士「ふむふむ」
孤高騎士「その場合、俺がリーダーとなって下位プレートも連れて行ける。そうすれば下位でも国家クエストに参加したという記録が残るわけだ」
冒剣士「えっ!じゃあ、何もしなくても…それだけでプレートカラーが上がっちゃうってことですよね?」
孤高騎士「クエスト受諾の時点でリーダーの決定とメンバーカラーが記録されるから、そこまで直接評価には繋がらん」
冒剣士「あー…なるほど」
孤高騎士「それに、きちんとクエストでの行動は報告式だからな」
女メイジ「…孤高さんにお願いして今度、国家クエストに着いて行こうかなぁ~♪」
孤高騎士「うはは、みんなで行こうか。冒剣士クンも、謙遜してるがそれなりの腕はあるんだろ?」
冒剣士「あ、あはは…」
女メイジ「そこまで気になるなら、擬似試合やってみたらどうです?なーんて…」
孤高騎士「おっしゃ、やろう!」ガタッ
冒剣士「え、えぇ!」
女メイジ「オーナーに言ってくる!」
……タッタッタ
冒剣士「言ってくるって、仕事中じゃ…」
孤高騎士「こういうのも、冒険酒場の自由の心!諦めて…、戦うぞ!」ニヤッ
冒剣士「えええ…」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
オーナー「面白いことになったな!孤高さんと戦うなんて」
冒剣士「オーナーまで…」
オーナー「そうそう、昨日さ、"カタナ"ほしがってただろ?擬似武器、仕入れといたぞ。試合用の」
冒剣士「!」
オーナー「それなら、少しは本気でやれるんじゃないか?」ハハ
冒剣士「ええ、そうかもしれません」
女メイジ(あいつの本気か…面白そう)
孤高騎士「みんなぁ!試合だ試合、見たいやつは外に出ろぉ!」
……ワァァ!!
お客A「お?試合だってよ!」
お客B「醍醐味だな!誰と誰だ…、お!あの新人クンじゃないか!」
お客C「いいぞー!やれやれー!」
冒剣士「あああ、何か大事に!」
孤高騎士「いいじゃねえか、こういうの大好きなんだよココの連中は!」
オーナー「あはは…よし、みんな特別な催しモノだ!」
聖剣士「へえ、孤高さんですか。いい勝負するかなー」
吟遊詩人「さー…、彼も相当やり手だからねー…」
……ワァァッ!!!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
……スチャッ
孤高騎士「試合は相手に一撃を与えるまでの試合形式。それでいいな?」
冒剣士「大丈夫です」
孤高騎士「しかし珍しいモン使うな。カタナなんて、一方方向からしか判定ないのによ」
冒剣士「使いやすいだけですよ」ハハ
孤高騎士「ま、人の得物にケチつける気はない。俺はこの長槍でいくぜ!」ブンブン
冒剣士「いいですよ!」スッ
オーナー「お…、あの構えは」
聖剣士「女メイジが吹き飛ばされたって言ってた…"居合い"ですね」
オーナー「範囲、経験的には孤高騎士が絶対有利だけど…どう出るか」
女メイジ「試合…はじめっ!」
孤高騎士「…」スチャッ
冒剣士「…」
お客達「…」ゴクッ
孤高騎士「おりゃあああっ!"小突"っ!」ビュッ
冒剣士「…早い…けどっ!」
…ヒュンッ
孤高騎士「避けられた!?」
冒剣士「…はぁっ!!」
…ビュンッ!!……キィン!!!
孤高騎士「ぬああっ!重いっ!」ズザザッ…
冒剣士「居合いが弾かれた!?」
孤高騎士「ふぬっ…、思ったよりもやるじゃないか!」
冒剣士「…そちらこそ!」
…シャキン
オーナー「ほう、また刀身を鞘に納めるのか」
孤高騎士「変わった戦い方で、やりにくいぜ…」
冒剣士「あはは…、鞘を滑らせて戦うのが抜刀術ですから…」
孤高騎士「へえ、"抜刀術"か。面白い名前つけるな」
冒剣士「東方由来の業ですからね」
孤高騎士「"術"ってことは、居合い以外もあるって事だろ?」
冒剣士「まぁ…」
孤高騎士「見せて…みろっ!」
…タタタタッ
孤高騎士「大突っ!!」
…ビュンッ!!!!
オーナー「大突…本気かっ!」
聖剣士「い、いや!冒剣士は動いてない!」
冒剣士「…」スッ
孤高騎士(なぜ動かない!)
………スッ
オーナー「体を捻って避けた!?」
聖剣士「孤高さんの脇がガラ開きに!」
冒剣士「燕返しっ!!」
…ビュッ!!!!
オーナー「カウンター!!あそこからの居合いかっ!」
聖剣士「入ったか!?」
冒剣士(入った!)
孤高騎士「…んぬああああっ!」
…ガシィ!!!!
冒剣士「なっ…!」
お客A「うおおおお!?」
お客B「…膝と肘で刃の部分を挟んで止めやがった……」
冒剣士「う、動かない!」
グッ…グイッ…
孤高騎士「ここまでだ…おらあっ!」ビュッ
冒剣士「…小火炎魔法っ!!」ボワッ
孤高騎士「んなっ、魔法かよ!うおおおっ!」
……ドォン!!!
…パラパラ……
女メイジ(す、凄い…)
冒剣士「はぁ…はぁ…つ、強い……」
孤高騎士「お前も相当なもんだぜ、生半可な技術じゃない。どこでそんな技術手に入れやがった?」
冒剣士「…小さい頃から、剣術に楽しみを覚えていたので」
孤高騎士「ははっ、上等!」
……ポツッ…
…ポツッ……ポツッポツッポツッ…
孤高騎士「ん?」
冒剣士「雨が…」
……サァァァッ………ザアアアアアア!!
孤高騎士「うひゃっ!大降りになってきやがった、今日は止めとこう!」
冒剣士「そ、そうですね!」
オーナー「皆さん!酒場のほうでタオルを出すので、早く中にはいってくださーい!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
女メイジ「はい、タオル」ポスッ
冒剣士「あ…ありがとう」
…ゴシゴシ
女メイジ「驚いた、冒剣士…凄い強いんだね。孤高さんと打ち合うなんて…」
冒剣士「あの人も本気じゃないよ。まだまだ余裕を隠してた」
女メイジ「…」
オーナー「おーい!冒剣士、お客さんたちが呼んでるぞ!こっちにこーい!」
冒剣士「あ、はーい!じゃ、タオルありがとう!」
女メイジ「あ…うん」
…タッタッタッタ……
女メイジ("あの人も"本気じゃないって、冒剣士も本気じゃなかったって事か…)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
……ガヤガヤ…
お客A「よー来た来た!」
お客B「冒剣士だっけ、すげーじゃんお前!最高だぜ!」
お客C「孤高があんなにボロにされてんの久々に見たぜ!」
孤高騎士「んなっ、俺が本気じゃないだけだっての!」
お客D「ははは、まあまあ。冒剣士、こっちこいよ!」
冒剣士「こ、これは…」
オーナー「ここは冒険者の酒場だ。あんな熱い戦い見せられたら、みんなお前の事を気に入るさ」
冒剣士「そ、そうなんですかね?」
オーナー「あぁ。もう時間も時間だが、みんなの所で話聞いておいで」ニコッ
冒剣士「は、はい!」
……タッタッタッタ…
…オオキタキタ!!ボウケンシ!!
コンドマタヤロウナ!!……ノメノメ!!
オーナー「やれやれ、1日目で人気になっちゃったな」
聖剣士「しかし、思った以上の強さですね…」
吟遊詩人「実力もあって、人を惹きつける何かも持ってる。ここの冒険酒場には充分すぎる逸材になりそうですね」
オーナー「ああいうの見ると、色々と思い出すよ」
聖剣士「はは…兄さんはまだまだ現役なんだから、年取ったこと言わないで」
オーナー「そうだといいんだけどね、よし!ほらほら、注文きてるぞ!」
聖剣士「わわ…、作ってきます!」
女メイジ「…」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・
・・・
・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【夜・酒場】
オーナー「それでは、冒剣士くんの初日の仕事終わり、仕事デビューを祝し…乾杯っ!」
魔法使い「かんぱーい!」ガシャッ
聖剣士「かんぱいっ!」
吟遊詩人「乾杯!」
女メイジ「乾杯」
冒剣士「なはは…そんな…」
オーナー「ま、初日お疲れ様。どう?大変だったでしょ?」
冒剣士「清掃やら接客でしたが、人と話すのは嫌いじゃないので…苦ってほどじゃなかったです」
オーナー「そっかそっか、それは何より」ゴクゴク
吟遊詩人「戦い見てたよ、凄かったね。あれが"カタナ"の戦闘術なのかな?」
冒剣士「あー、僕がやってるのは鞘を使った"抜刀術"です。他にも、一刀術とか、二刀術とか、鞘を使わないのもありますね」
オーナー「なるほど。いくつかの"流派"ってことか」モグモグ
冒剣士「いうなればそうです。小回りが利きにくいのが弱点なので、物理同士のぶつかり合いが一番楽です」ゴクゴク
魔法使い「まだ13歳くらいだっけ?」
冒剣士「…です」
魔法使い「そっかー、若いのに強いんだねー」ゴクッ
女メイジ「ふーん、どうせ私は魔法くらいしか…」ブツブツ
冒剣士「ん?」
女メイジ「な、なんでもない」
オーナー「…」
魔法使い「ま、今日は飲んで食べてよ。明日も忙しいだろうけど、週末には紹介できそうなクエストがあるんでしょ?」
冒剣士「本当ですか!?頑張ります!」
オーナー「あ、そうだったね。…うん、それまで頑張ってね」ニコッ
女メイジ「…」ハァ
オーナー(…ふむ)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・
・・
・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【深夜】
サワサワ…ホー…ホー…
…ガチャッ……バタン…
女メイジ「雨…すっかり上がってる。虫の声が心地いいかな…」
オーナー「さて…と、どうしたのか話を聞くよ?」スッ
女メイジ「きゃあっ!お、オーナー!?」
オーナー「さっきの試合の時、食事の時、妙に元気がなかったのは……」
女メイジ「そ、それは…」
オーナー「わかってる、冒剣士くんのことだろう?」
女メイジ「…」
オーナー「ひょっこり出てきて、専属になって、あっという間に人気者になって…。立場の問題…かな」
女メイジ「…」
オーナー「…ごめんな、色々気遣ってやれなくて。大事な仲間なのに…」
女メイジ「そそ、そんな…気にしないでください…」
オーナー「…うちの冒険者の専属枠、さっきもう1つ申請してきた。多分、通るはずだ」
女メイジ「専属枠…?」
オーナー「女メイジ、うちの専属冒険者になってくれるかい?」ニコッ
女メイジ「え、わ、私が!?」
オーナー「俺も昔から、年下に甘くてね…、状況が状況だとすぐ抱え込んじゃうんだよ」アハハ
女メイジ「…」
オーナー「だから、トントン拍子に今回の冒剣士クンのことも決めちゃったから、本当は先に君に専属をするべきだった」
女メイジ「知ってます、オーナーがそういう風に優しいところ…。冒剣士のことも、そう分かってました」
オーナー「…」
女メイジ「だけど、努力もしてきたつもりだったから…、それが自分の中で納得いかなくて…」
オーナー「…本当にごめんな」
女メイジ「…いえ、やっぱりオーナーは優しい人です。ありがとうございます」ペコッ
オーナー「そうか…明日から、また宜しくね」
女メイジ「はい!」
…コソッ
冒剣士(…僕が邪魔になってたんだよね。ごめんなさい、女メイジさん。明日、謝ろう…)ハァ
・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・
・・・
・・
・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
―――【次の日・冒険酒場】
オーナー「…と、いうわけで。今日も宜しくお願いします」
聖剣士「よろしく!」
魔法使い「よろしく~」
女メイジ「宜しくお願いします」ペコッ
冒剣士「よろしくです」
オーナー「と、1つ報告があったんだ。今日から女メイジが、うちの専属になってもらったよ」
聖剣士「…!」
魔法使い「え、本当!?でも何で急に…?」
女メイジ「…」
オーナー「まあちょっと色々あってね」
魔法使い「まぁ何でかは大体分かるけど…」
オーナー「はは…でしょ?そういうこと。それじゃ、仕事にはいろっか」
女メイジ「皆さん改めてよろしくお願いします!」
聖剣士「うん、おめでとう」ニコッ
冒剣士「あ…そうだ、女メイジ…」
女メイジ「…何?」
…コンコン
オーナー「ん?こんな朝早くからお客…?」
…ガチャッ
孤高騎士「ちっす」
オーナー「孤高さん…いらっしゃいませ。朝ごはんでも食べにきましたか?」
孤高騎士「はは、そうそう。聖剣士の朝ご飯を…」
オーナー「仕方ないですね、用意してください」
孤高騎士「って、違うわ!クエスト受けにきたんだよ!」
オーナー「あ、なるほど」
孤高騎士「どんだけ俺が食い意地はってる人間なんだよ…、で。いいクエスト入ってるのか?」
オーナー「国家はないですが、軍事レベルのクエストならば」
孤高騎士「オーケー。で、相談なんだが…」
オーナー「はい?」
孤高騎士「パーティも選別したい」
オーナー「パーティ…といっても、今は冒険者たちはまだ…朝早いのでいませんが…」
孤高騎士「いるだろ…?新人クンと女メイジちゃんが」ニカッ
女メイジ「え?」
冒剣士「ん?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
オーナー「こちらが今回のクエスト内容です。北部の猛雪山の調査ですね。洞窟の探索です」パサッ
孤高騎士「ほほう。すると、イエティ関連だな…女メイジはイエティ討伐の経験あるか?」
女メイジ「ないですね。ただ、それと同位のゴーレムなら遠征討伐に参加した経験が」
孤高騎士「上等。冒剣士はどうだ?」
冒剣士「いえ、ないです…が、あの…」
孤高騎士「なんだ?」
冒剣士「なんで僕なんですか?女メイジは経験があるとはいえ、僕はまだ白プレとやらですし…」
オーナー「あ、忘れてた、プレート渡すの…はいっ」スッ
冒剣士「あ、ありがとうございます」
孤高騎士「簡単な理由だ。手合わせして実力が分かった。擬似武器じゃなく、使い慣れた得物ならもっと戦えるんだろ?」
オーナー「…」
冒剣士「そ…それはそうですが……」
孤高騎士「…お前さ、冒険者になんだろ?」
冒剣士「え?」
孤高騎士「何で冒険のパーティに誘われてるのに、喜べないんだ?1日、2日の宿の仕事で、安定した職に就きたくなったのか?」
冒剣士「い、いやそういうわけじゃないんです」
孤高騎士「じゃあどういう訳だ?」
冒剣士「あの、何ていうか…実感がないというか…」
孤高騎士「あー…確かにな」
冒剣士「それに、オーナーの了解を得てませんし…」チラッ
オーナー「ん…了解?」
冒剣士「専属とはいえ、僕はここの従業員ですよね…?」
オーナー「あぁ。従業員だけど、専属冒険者。パーティに誘われた冒険者を、むげには出来ないよ」
冒剣士「そ、それじゃ?」
オーナー「うん、もちろん行ってきていいよ。ただし、安全には最善の配慮を…、ね?孤高さん」
孤高騎士「はっはっは、わかってるさ。俺の実力も知ってるだろ?」
オーナー「付き合いは長いですからね」アハハ
冒剣士「よ、よろしくです!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
冒剣士「準備はこれでいいんですか?…重いですね」ヨイショ
オーナー「猛雪山はかなり天候が激しいから準備万端で望まないとね」
孤高騎士「防寒具、食料、武器のメンテ具、サブ武器…」
冒剣士(考えたら、本格的なクエストはこれが初めてだ。ドキドキしてきた…)ワクワク
オーナー「洞窟の前に、確か山小屋があるはずです。そこは結構広いし、他の冒険者が多いから中継地点にするといいですよ」
孤高騎士「あーあったな」
女メイジ「山小屋があるって…オーナーは猛雪山に登ったことがあるんですか?」
オーナー「うん、あるよ。もう25年も近く前になるかな…、冒険者としてね」アハハ
孤高騎士「へえ…そういや、オーナーって何歳なんだ?だいぶ若く見えるが…」
オーナー「俺?俺は今年で41になりますよ」
孤高騎士「はー!?見た目は20台なのになあ…」
オーナー「はは、よく若いって言われます」
魔法使い「私より、旦那さんが若いっていうのも…悲しい気分なんだけど…」
オーナー「そんなことないさ、まだまだキレイだよ」ニコッ
魔法使い「…もー」
孤高騎士「歳とっても仲いい夫婦か、素晴らしいことだと思うがね…」
女メイジ「…」ブスーッ
冒剣士「あ、あのー…それでいつ出発を…」
孤高騎士「あ、悪い悪い。それじゃ、出発するかあ…オーナー、大切な従業員、預からせて頂きます」ペコッ
オーナー「うむ!よろしくお願いします」
魔法使い「いってらっしゃいな!」
オーナー「気をつけてなー」
聖剣士「行ってらっしゃい!」
3人「行ってきます!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
…トコトコ
孤高騎士「歩いて7日くらいだな…」
冒剣士「結構遠いですね」
女メイジ「……ゲートを使えれば楽なんですけどね」
冒剣士「ゲート?」
女メイジ「冒険の扉のこと」
冒剣士「…何それ」
女メイジ「…」
孤高騎士「簡単に言えば、ワープゲートだ。軍の支部同士を繋いでいる、瞬間移動装置のことだ」
冒剣士「へええ、そんなものあるんですね。一般人は使えないんですか?」
孤高騎士「なんだったかな…、生活に著しく影響を与え兼ねないから、一般公開は抑えてるとか聞いたぞ」
冒剣士「そんな影響与えますかね?」
女メイジ「…たとえば」
冒剣士「?」
女メイジ「その技術、それが一般普及したとして…、今"商人"をやっている人たちはどうなると思う?」
冒剣士「あ…」
女メイジ「それと、あれを設置するには相当数な魔石が必要になるの。だから、作られる場所も限定される」
孤高騎士「多大な魔力の影響は、周辺にも色々及ぼすからな」
女メイジ「そうですね。それを悪用してしまう人が現れてしまうかもしれませんし」
冒剣士「なるほどなー…」
女メイジ「それと、60年くらい前にも起きた魔王軍の侵攻…、20年前の塔の暴走とか…、そういう対応に関するところもあると思うけど」
冒剣士「いわゆる天災みたいなやつ?なんで?」
女メイジ「普段から多数の一般人が出入りしちゃうと、軍の緊急出動が対応できなくなるでしょ」
冒剣士「…そうだね」
女メイジ「ちょっと考えればわかるでしょ」
冒剣士「う…、そうだね……」
孤高騎士「はは、まぁまぁ。旅は長いんだ、仲良くいこうや」
女メイジ「…そうですね」
冒剣士「…はい」
孤高騎士(やれやれ、パーティはこんなピリピリした空気だと痛い目みるぞ。若いってことなんだろうが…ね)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
―――【6日後】
孤高騎士(あれか歩き続けて6日。もうすぐ着くし、少しは良くなると思ったが…)
女メイジ「…」
冒剣士「…」
孤高騎士(相変わらずの無言か…、きっついなー。リーダーとしても…)シクシク
女メイジ「あの…」
孤高騎士「ん?」
女メイジ「今回の調査は、どういった内容なんですか?"調査"としか聞いてないので…」
孤高騎士「ああ、猛雪山の山小屋から歩いて数キロの場所に洞窟が発見されたんだ。それの内部調査だよ」
女メイジ「なるほど…、イエティの巣だったりしません?」
孤高騎士「猛雪山はイエティの巣窟だからねえ…、猛雪山の裏側、裏山のほうはアイスタイガーが住んでるけどね」
女メイジ「アイスタイガー…か。洞窟は危険じゃないんですかね?」
孤高騎士「どうだろう。表側の猛雪山は、長年にわたってイエティ程度しか確認されてないから、軍事レベルなんだと思うよ」
冒剣士「軍が調査するわけにはいかなかったんですかね?」
孤高騎士「そうだなー…、正直"探索"は軍の処理じゃないからな。イエティの掃除とかなら軍処理になるんだろうけど…」
冒剣士「そうなんですね」
孤高騎士「明日にはふもとの町に着くし、そこで一旦休憩だ」
冒剣士「わかりました」
女メイジ「わかりました」
孤高騎士「それじゃ、もうすぐだからさっさと行くか」
2人「はいっ」
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・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【ふもと・雪降町】
…ワイワイ……ガヤガヤ…
孤高騎士「おー、久々だなこの町も!」
冒剣士「さ……寒い、この時期に雪を見るなんて思わなかった…」
孤高騎士「東方出身だったな、あっちは暖かいんだろ?」
冒剣士「いえいえ、四季があって春はサクラが咲いたり、そりゃまあ見事な…」
孤高騎士「サクラかあ、桜花っていうんだっけか?一度見てみたいんだよなぁ」
冒剣士「あはは…、それで、これからどうするんです?」
孤高騎士「ここにも冒険酒場があるからな、そこで宿泊する。出発は明日の朝だ」
冒剣士「今13時くらいですし、だいぶ時間ありますね」
女メイジ「孤高さん…だめ、ちょっと寒すぎる…」
孤高騎士「あー…やっぱり持ってきた防寒具だけじゃ無理だったか…俺は大丈夫なんだがな…」
女メイジ「防寒具売ってますよね…買ってきます…」
孤高騎士(あー…そうか)チラッ
冒剣士「?」
孤高騎士「よしっ!お前らっ!……」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
…トコトコ…
女メイジ「…」
冒剣士「…」
…トコトコ
女メイジ「…」
冒剣士「…」
…トコトコトコ…
女メイジ「…」
冒剣士「…」
…トコトコ
冒剣士(き…気まずい!しかしなんで…)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
孤高騎士「お前ら!荷物預かっておくから、2人で近くの店で買い物してこい。俺は飲んでる」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
冒剣士(むっせきにんだなぁ…、女メイジに謝りそびれてから何て声かければいいか分かんないし…)
女メイジ「…」
冒剣士(こういう雰囲気苦手なんだよな…どうしたらいいんだろ…)
女メイジ「ねぇ…」
冒剣士「!?」ビクッ
女メイジ「私、何かした?この間から、距離感も微妙だし…」
冒剣士「へっ?あ、いや…」
女メイジ「確かに日は浅いとは思うけど、あからさまに避けられてるような気がするんだけど…私のこと嫌いなの?」
冒剣士「ち、違うよ!」
女メイジ「じゃあ何で?」
冒剣士「そのー…えっとさ…、出発する前の日…実は…、トイレに起きて…聞いたんだよ…」
女メイジ「何が?」
冒剣士「僕のせい…なんでしょ?女メイジが悲しんだ理由って…」
女メイジ「…あぁ、あのこと……」
冒剣士「だから、謝ろうと思ってたんだけど、中々いい出せなくてさ…」
女メイジ「あのね…、あの…冒剣士…バカなの?」
冒剣士「バ…なんで!?」
女メイジ「確かに冒剣士のせいかもしれないけど、それは実力の世界でしょ。私だって冒険者なの…それくらいは理解してる」
冒剣士「…」
女メイジ「逆にそんな事されたら私怒ってるわよ?なんで負けた相手に情けをかけられないといけないんだって」
冒剣士「…」
女メイジ「だからそういうのは気にしないで。わかった?」
冒剣士「わかった…ごめん」
女メイジ「また!そうやってすぐ謝るクセ、やめたほうがいいよ?」ハァ
冒剣士「うん、気をつけるよ…ごめん」
女メイジ「…」
冒剣士「……あ、ああ!また間違った…ごめん!」
女メイジ「あなたのクセ、治りそうにないってのは分かった…」
冒剣士「う~ん…気をつけてみるよ…ごめん」
女メイジ「………それじゃ、さっさと服買って戻りましょっ。寒くてしょうがないの…」ブルブル
冒剣士「そ、そうだね…」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
…ガチャッ
…ガヤガヤ…
孤高騎士「お、帰ってきたか」
冒剣士「うひゃ、酒場のほう凄いお客さんですね」
孤高騎士「まーな、一応ここは観光としても有名な町だし、山岳を登る人らの中継地点だからな」
女メイジ「えーっと…」ゴソゴソ
…ドサッ
孤高騎士「ん?これは?」
女メイジ「孤高さんの服も一応買ってきました…よいしょ」
孤高騎士「お、おぉ…ありがとよ」
冒剣士「安く売っててよかったよね」
女メイジ「ほーんとに…」
孤高騎士(お、仲良くなってるじゃねーか。少しはこれでパーティとしても…いい感じだな)
冒剣士「よしっと…これで後は明日、本格的に洞窟に向かうだけですね」
孤高騎士「そうだな、酒場の連中にも今の情報を聞き出したかったからな…、おい、アンタ聞きたいことがある」
???「ん?俺か?」
女メイジ「……?どっかで聞いたことある声…」
???「あ…あぁ…?なんで、女メイジがここにいるんだ?」
女メイジ「あーっ!」
冒剣士「な、何なに?」
孤高騎士「知り合いか…?って、あなたは!」
僧侶戦士「……お前ら、なんでここにいるんだ?」
女メイジ「なんでって…こっちのセリフですよ!」
僧侶戦士「いやいや…、ここ俺の実家あるし…」
女メイジ「あ…そういや雪降村っていってましたね…」
僧侶戦士「久々に親にも顔出しにな」
冒剣士「えーっと…」
僧侶戦士「ん?なんだそいつ」
女メイジ「オーナーのところの新しい専属冒険者です。今回は孤高さんのクエストに同行してます」
僧侶戦士「あー…なるほどな。その少年を見ただけで大体どんな事があったか分かるわ…」
女メイジ「たはは…」
僧侶戦士「えーと一応挨拶しておくか。俺は僧侶戦士だ、よろしくな」
冒剣士「えっ!…あの、うちの冒険酒場の専属の…?」
僧侶戦士「ああ、まあ一応な。っていうか、"うち"ってなんだ?」
孤高騎士「女メイジ、教えてやってもいいんじゃないの?」ハハ
僧侶戦士「面白そうだな、話聞くぜ。変わりに、一杯奢ってやるよ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
冒剣士「…っていうことがありました」
僧侶戦士「ははは、なるほどな。アイツらしいな」
孤高騎士「僧侶戦士さん、お聞きしたいことがあります」
僧侶戦士「なんだ?」
孤高騎士「この辺に新しい洞窟がありますよね?その調査に訪れたのですが、何か情報とか知りませんか?」
僧侶戦士「洞窟なぁ…んー…」
女メイジ「何でも些細な情報があればいいんですが…」
僧侶戦士「って言っても、俺もここにずっといたわけじゃないし…」
孤高騎士「そうですよね…」
僧侶戦士「ちょっと待ってろ、白魔道ーっ!」
白魔道「…はいはーい!」
僧侶戦士「白魔道、お前だったらずっとここに住んでるし…洞窟の噂って聞いたことあるだろ?」
白魔道「洞窟…、あ~!山小屋から少し離れた場所にあるやつですね?」
僧侶戦士「この3人がその事について聞きたいんだってよ、教えてやってくれないか?」
白魔道「ええ、いいですよ」ニコッ
孤高騎士「それじゃ…えーっと、洞窟ってのは広いのか?」
白魔道「広いらしいですよ。周辺にイエティも見られますし、イエティの巣なんじゃないかって話もあります」
孤高騎士「内部に入った人は?」
白魔道「私です」
孤高騎士「えっ?」
冒剣士「へっ?」
女メイジ「ん?」
僧侶戦士「な…に…?」
白魔道「私がここでパーティを集ってイエティ討伐に行った時、見つけたんですよ」
孤高騎士「そ、それは話が早い!」
白魔道「って言っても、入ったのは入り口付近までですけどね」
孤高騎士「内部はどんな感じだった?」
白魔道「普通の洞窟となんら変わりませんが…魔石の宝庫ですよあそこ」
孤高騎士「魔石の?」
白魔道「原石の数が尋常じゃなかったです。あそこら辺は開発も進んでなかったですし、もしかしたら鉱脈があるのかもしれません」
冒剣士「鉱脈かあ…」
白魔道「そうですね、奥まで行ってないので何ともいえませんが」
孤高騎士「魔石の種類は?」
白魔道「氷属性です。かなり寒いですよ、普通の防寒着じゃ厳しいかもしれませんね」
女メイジ「だから新しいの買っといてよかったじゃないですか!ね?」
孤高騎士「はは…、そうだな。他に何か注意することはあるか?」
白魔道「特にないんじゃないですかね…、ただ…」
孤高騎士「ただ?」
白魔道「今まで、あんな近くに鉱脈があった、入り口があったのが発見されなかったというのが不思議ですね…」
僧侶戦士「まぁ確かにな。不思議だよな」
白魔道「天然洞窟ですし、何があるかは分かりません。専門装備ももしかしたら必要になるかもしれませんよ」
孤高騎士「まあ、危ないと思ったら一旦引き返すよ。情報ありがとう」
…ゴゴゴッ
冒剣士「…ん?」
女メイジ「なんか揺れ…」
…ゴゴゴッ!!!グラグラグラッ…
孤高騎士「地震か!」
白魔道「ああ、あわてなくても。最近多いんですよ」
…グラグラ……グラッ…
………
白魔道「ね?おさまりました」
孤高騎士「地震なんて久々だ…」
冒剣士「びっくりしたー…」
女メイジ「中央国のほうはあまり地震なんてないから…」
白魔道「こっちも最近多いっていうだけですからねえ…」
僧侶戦士「そういや、地震だけじゃなくて最近は山にも異変があったな」
白魔道「融解地区ですね…」
孤高騎士「融解…地区?」
白魔道「えぇ、万年雪山とも呼ばれた猛雪山ですけど、最近頂上から離れた部分に雪が解けて露出した部分があるんです」
孤高騎士「猛雪山に?そんなバカな」
白魔道「バカなも何も…実際あるんですから…」
孤高騎士「原因は?」
白魔道「不明です。その調査も行う予定ですが、一種の天候変化だろうと言うだけで、実際に調査はされていません」
孤高騎士「まぁな、寒い地区が暑くなったり…雪が降る地区に雪が降らないことだってあるわけだし…」
白魔道「ま、そうですね」
僧侶戦士「ふむ…」
孤高騎士「よしっと…では、情報ありがとうございました」
僧侶戦士「ああ、気にするな」
白魔道「また何かあったら、お気軽にどうぞ~♪」
孤高騎士「…今日はしっかり休んで明日に備えるか。部屋少なくてな、2人は一緒の部屋とっといたぞ」ニカッ
女メイジ「…え!?」
冒剣士「えええ!?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【部屋】
女メイジ「べ…ベッドがひとつ…」
冒剣士「ど、どうしよっか…」
女メイジ「一緒に寝るなんて嫌ーーっ!あなたは床で寝てよ!」
冒剣士「ええ!?」
女メイジ「レディーファーストでしょ!」
冒剣士「半分ずつ使って寝ればいいじゃないか!」
女メイジ「それは一緒に寝るっていうの!!」
冒剣士「むぅ…」
女メイジ「こ、こうなったらあれよ…」
冒剣士「あれだね…」
女メイジ「…」ググッ
冒剣士「…」ゴクリッ
女メイジ「ジャーン…!!」
冒剣士「…ケーン!!!」
「ポンッ!!!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
冒剣士「さ…さむっ!」ブルブル
女メイジ「うっさい!寝れないでしょ!」
冒剣士「っていっても、床は冷たすぎるよ…」ブルブル
女メイジ「勝負に負けたら文句いわないの!」
冒剣士「ぐぬう…」ブルブル
女メイジ「…」
冒剣士「…」
女メイジ「…」
冒剣士「…」
女メイジ「ねぇ…」ボソッ
冒剣士「ん?」
女メイジ「冒剣士は…さ、夢とかあるの?」
冒剣士「夢?」
女メイジ「うん」
冒剣士「夢かぁ…、そりゃやっぱり英雄って呼ばれる事かな?」
女メイジ「ぷっ…」
冒剣士「…何がおかしいのさ」ムッ
女メイジ「ううん、立派な夢だと思うよ…」
冒剣士「…そういう女メイジの夢は何?」
女メイジ「私はね…オーナーのお嫁さんになること…とか…?なーんて…」
冒剣士「もうオーナーには魔法使いさんがいるじゃないか…」
女メイジ「夢っていうのは夢だからいいの!」
冒剣士「そりゃそうだけど…」
女メイジ「…」
冒剣士「…」
女メイジ「寂しくは…ない?」
冒剣士「えっ?」
女メイジ「冒剣士は遠い…、東方から来たんだよね?その…寂しくないのかなって」
冒剣士「あぁ…どうだろう…、僕は冒険したい一心で中央大陸…、中央国に足を運んだから…」
女メイジ「そっか…」
冒剣士「女メイジは、寂しい?」
女メイジ「…んーん全然?私も冒険したい想いのほうが強いかな…」
冒剣士「…そっか」
女メイジ「…それに、みんな良い人ばっかで…」
冒剣士「みんな、本当に良い人ばっかりだよね」
女メイジ「うん…」
冒剣士「…」
女メイジ「…」
冒剣士「…」
女メイジ「…」
冒剣士「そういや、女メイジはどこの出身なの?」
女メイジ「…」
冒剣士「…ん?」
女メイジ「…」
冒剣士「…?」ムクッ
……トコトコ…
女メイジ「…」スゥスゥ
冒剣士「なんだ、寝ちゃったのか…」
女メイジ「…ん~……」パサッ
冒剣士「ああもう、寒いのに布団避けて…、きちんとかけないと風邪ひくよ」ハァ
女メイジ「…」
…グイッ
冒剣士「うわっ!」
……ドサッ…
冒剣士「寝ぼけてる…?ちょ、この状況は色々とまず…」
女メイジ「お母さん…」
冒剣士「…」
女メイジ「…」ギュッ
冒剣士「…」
…スッ
冒剣士「……、僕も寝よう…。おやすみ、女メイジ」
……トコトコ…パサッ…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
・・
・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
……ガヤガヤ…
孤高騎士「よっ、おはよう!」
冒剣士「…」ムニャムニャ
女メイジ「おはようございます!」
孤高騎士「なんだぁ、冒剣士眠そうにして…きちんと寝てないのか?」
冒剣士「いえ…朝にちょっと弱いだけです…」
孤高騎士「これから雪山登るんだからしっかりしろよ!」
冒剣士「…ふぁい……」ムニャッ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
孤高騎士「よし、装備は確認したか?」
冒剣士「大丈夫です」
女メイジ「防寒着もばっちり!」
孤高騎士「よっしゃ、それじゃ…出発だ!」
「オーッ!!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【猛雪山・二合目】
…ヒュウウゥゥ……
…シャクッ……シャクッ…
女メイジ「はぁ…はぁ……」
冒剣士「…はぁ…はぁ…」
孤高騎士「思ったよりも天気が荒れてきてるな。お前ら、脚大丈夫か」
女メイジ「アイゼンが重くて…少し辛いです」ハァハァ
孤高騎士「四合目まで登れば山小屋がある。このペースでいけば14時には着けるはずだ」
冒剣士「思ったよりも遠いですね…」
孤高騎士「山は目に見える場所は近いが、実際の距離は半端じゃなく遠いんだ」
女メイジ「空気も薄くなってきてる感じ…」
孤高騎士「もう相当な高さだからな、本当に辛い時は言えよ。仮拠点を張る」
女メイジ「あはは…全然大丈夫ですよ…!」
孤高騎士「…いい覚悟だ。一気に突っ切るぞ!」
冒剣士「はい!」
……ブォォォォォ!!!!!
孤高騎士「…ん!?」
冒剣士「今の音…、なんですか?」
女メイジ「遠吠えみたいな…」
…ブオオオオォォォ!!!!!!!
孤高騎士「ち…、イエティだ…」
冒剣士「どこに!」
女メイジ「吹雪がひどくてよく見えない…」
イエティ『…』
孤高騎士「…正面にいるぞ!みんな、一旦屈め!!」
冒剣士「!」
女メイジ「はいっ!」
…スタッ!
イエティ『…ブォォォ!!』
…ブゥン!!
…チッ!……
冒剣士「うわっ!かすった!」
女メイジ「くっ…!」
孤高騎士「そのまま屈んでろ!」スチャッ
イエティ『…ブォォ!』
孤高騎士「おりゃあああっ!大突っ!」ビュッ!!!
…ドシュ…!!!
イエティ『ガッ……』
…ドサッ
孤高騎士「もういいぞ、顔あげろ」
冒剣士「危なかった…」ハァ
女メイジ「イエティ大きすぎ…」
孤高騎士「今のは奇襲されたが、本来は動きが遅くて弱い魔獣だ。しっかり見切れば簡単に倒せる」
冒剣士「一応、武器は用意しといたほうがいいですよね」チャキッ
女メイジ「…」スッ
孤高騎士「準備も何も…」
…ブオオォォォォ!!!!!!!
冒剣士「は、はは…。もしかして、吹雪の向こう側にいる影…」
孤高騎士「2…3…4…、数え切れねえなあ?集団でやってきやがるとは…」
女メイジ「…こんなところで……絶望的…?」
孤高騎士「冗談、こんなの練習相手にすらならないぜ…しっかり着いて来いよ!お前ら!」
冒剣士「もちろんです!」
女メイジ「…はい!」
…ダダダダッ!!!!
……………………
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【四合目・山小屋】
冒剣士「はぁはぁ…」
…ガチャッ……
女メイジ「つ…着いた……」
孤高騎士「ふぅ、とりあえず休憩はとれるな」
冒剣士「女メイジ、大丈夫…?」
女メイジ「なんとかね…」
孤高騎士「しかしお前ら、ケガ一つないっていうのは中々だぞ」
冒剣士「当然ですよ…」
女メイジ「あんなのにやられるわけないですよ…」
孤高騎士「はは、そうだな。よし…えーと…開いてる部屋は…」キョロキョロ
冒剣士「思ったより人少ないですね。猛雪山は冒険者も多いって聞いたのに…」
孤高騎士「そりゃ尾根だからなこっちは。新しいルートが開拓されてから、こっちの尾根ルートはほとんど人がいなくなっちまったらしい」
冒剣士「昔はいたんですか?」
孤高騎士「冒険学校のクエストにも使われたり、裏山へ抜けるのはこの道しかなかったからな。商人なんかも多かった」
冒剣士「へぇ…」
女メイジ「それより…腰を降ろしたいんだけど…」
孤高騎士「とりあえず部屋探してくるから待っててくれ」タッタッタ…
女メイジ「山登りなんて久しぶりだから…疲れたぁ…」
冒剣士「足がジンジンするよ…」
…タッタッタ
孤高騎士「部屋は空いてるみたいだったな。とりあえず今日はここで休んで、明日の朝早く出発するぞ」
冒剣士「まだ時間ありますが、向わないんですか?」
孤高騎士「あほ、山舐めるな。それに吹雪が遮って、普通よりも離れたルートを行くと危険なんだ」
女メイジ「それに体力もだいぶ削られちゃったし、今行ったら死ににいくようなものでしょ…」
冒剣士「なるほど…」
孤高騎士「さて…、冒険の前の豪華な晩餐だ!」
女メイジ「?」
冒剣士「?」
…ゴソゴソ……ドサッ
孤高騎士「高級フィレ肉、猛雪山の雪解け酒、調味料とか調理道具は山小屋にあるのを借りてやるぞ!」
冒剣士「わっ、どうしたんですかこの食材…」
孤高騎士「バーカ、こういう時こそ旨いもん食って、力つけて、後悔のない戦いをするんだ」
冒剣士「…?」
孤高騎士「……俺らはな、生死が関わる稼業をしているんだ。戦いの前は景気づけするのが普通なんだ」
冒剣士「…そう、でしたね……」
孤高騎士「女メイジ、あそこにある調理器具持ってきてくれ」
女メイジ「あ、はい」
…タッタッタ……カチャカチャ…
孤高騎士「明日の夜にはもうこの世にはいないかもしれない、もう二度と戦えない体になっているかもしれない…」
冒剣士「…」
孤高騎士「っと、まぁ怖いことばっかじゃないんだが…、とにかく戦いの前夜、冒険の前夜には旨いもん食っておくってのが良いんだ!」ニカッ
冒剣士「は、はい!」
女メイジ「お待たせしました、これでいいですか?」ドンッ
孤高騎士「おおう上等上等、ありがとよ。それじゃ、旨いモン食わせてやるからな!」
…カチャカチャ……
……ボワッ………
女メイジ「火…あったかいね」
冒剣士「…うん」
女メイジ「…」
冒剣士(…本当に、僕の全てが始まったんだ…!がんばるぞ…)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・
・・・
・・
・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
……モゾモゾ…
冒剣士「…」
……
冒剣士「…」ハッ
…ガバッ
冒剣士「…」キョロキョロ
女メイジ「…」スゥスゥ
孤高騎士「…」グー…グー…
冒剣士「…今、何時だろ…」
…コチコチ…
冒剣士(午前4時か…、折角だし、朝の山景でも見るか…)
…スッ
……ギシ……
トコトコ……ガチャッ……バタン
……ヒュウウゥゥ…
冒剣士(寒っ…、陽は出てるけど…完全に風がとろんだ訳じゃないみたいだね…)
…ガタッ……
冒剣士(ん?)チラッ
………シーン
冒剣士(今何かいたような…、気のせいかな?)キョロキョロ
…シーン………
冒剣士(気のせいか…)
…ガチャッ
冒剣士(ん?)
孤高騎士「おお、寒い寒い」フゥッ
冒剣士「あ、孤高さん…もしかして起こしちゃいましたか?」
孤高騎士「ん?あぁ違う違う、単に早起きなだけだ」
冒剣士「そうですか、それならよかったです」ハハ
孤高騎士「お前も早いじゃないか…」
冒剣士「ちょっと眼が冴えてしまって…、あはは」
孤高騎士「しっかり休むことも冒険者、戦士の基本なんだがなあ」ジロッ
冒剣士「うっ…す、すいません…」
孤高騎士「ま、仕方ねーわな」フゥッ
冒剣士「…」
孤高騎士「…」
冒剣士「…」ジー
孤高騎士「……ん?どうした?」
冒剣士「いえ、孤高さん、かっこいいなって何か…」ヘヘ
孤高騎士「…そうか?ありがとよ」フッ
冒剣士「…孤高さんって、孤高って感じ、しませんよね」
孤高騎士「ん?あぁ……コリャもともと俺自身がつけた名前じゃないからな」
冒剣士「そうなんですか?」
孤高騎士「あぁ。ま…いいじゃねえか、気にするな」
冒剣士「…」
孤高騎士「…」
冒剣士「…は…はい」
孤高騎士「…はぁ、参ったね。そんなに気になるのか?」
冒剣士「不本意…ながら」
孤高騎士「ん~…。じゃあ一つだけいえば、この名前は俺のキズ、みたいなもんだ」
冒剣士「キズ…」
孤高騎士「すまねえな、それ以上はまだ言う気にならないんだ」
冒剣士「いえ…、キズだなんて…。訊こうとした僕も浅はかでした…」
孤高騎士「はっは、気にするな。ま…、そのうちふっと言うさ」
冒剣士「はいっ」
…ヒュウウッ!!!
孤高騎士「お…風がまた少し出てきたな」
冒剣士「…ちょっと寒くなりました。まだ時間がありますし、僕はもう一眠りしてきます」ペコッ
孤高騎士「ああ、時間になったら起こす。ゆっくり休んどけ」
冒剣士「はい、また後でです…」
…ガチャッ…バタン
孤高騎士「…」
…ヒュウウウウッ……
孤高騎士「……キズ、だよな」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
孤高騎士「おはよう、諸君!」
女メイジ「おはようございます、いよいよ今日ですね」
冒剣士「不謹慎ながら、ちょっと楽しみな気がしてきました」ワクワク
孤高騎士「はは、不謹慎じゃないさ。探索…冒険することは、俺たちの血、元気の源だ!」
冒剣士「…」ウズッ
孤高騎士「生死の問題っていうのは、昨日は重く言ったが、あくまでも"一つのエンディング"っていうだけで、本質は戦う事、冒険することにある」
冒剣士「そうですよね!」
孤高騎士「結構重く受け止めすぎないか心配してたが…、心配無用だったみたいだな」
冒剣士「あったりまえですよ!」
孤高騎士(ま、そういやさっきもそんな様子はなかったしな…)
女メイジ「それで、どうしますか?もう出発します?」
孤高騎士「えーと…、外の風も穏やかになってるしな。出発だ!」
冒剣士「はいっ!」
女メイジ「はい!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【猛雪山・洞窟前】
…ザッ…ザッザッザ…
冒剣士「ふぅ、思ったより遠かったですね」
孤高騎士「だから言っただろ?遠いんじゃなく、雪に足を取られて…山の傾斜やらで体力を奪われるんだ」
女メイジ「それで…ここが洞窟なんですね…」
…オォォォォ…
女メイジ「暗っ…、全然中が見えない…」
冒剣士「雰囲気もなんか怖いね…」
孤高騎士「まぁな、"白坊主"だっけ?あの女が入り口付近まで入った以外、未踏の地だからな。何が出るか分からないワケだ」
冒剣士「白魔道さんです…。女性ですよあの人…」
女メイジ「未踏…か」
孤高騎士「君ら、そして俺はこの未開の洞窟の…第一探検者になるわけだな!」
冒剣士「第一…探検者!」
女メイジ「…」ドキドキ
孤高騎士「よし、いざ出発だ!魔力の消費を抑える為に、ランタンを使って進むぞ」
冒剣士「…わかりました」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
冒剣士「…」
女メイジ「…」
孤高騎士「…」
ザッ…ザッ…ザッ…ザッ…
冒剣士「心なしか、外より寒い気がします」ブルブル
女メイジ「ぼ、冒剣士も…?私も…」ブルブル
孤高騎士「いや、気のせいじゃないな」
冒剣士「え?」
孤高騎士「これを見てみろ…」スッ
…ガリガリ……キラッ…
女メイジ「わっ…小さな石が光ってる…?」
孤高騎士「…明かりを消すぞ。周りを見てみろ」
…フッ………
冒剣士「わあ…」
女メイジ「っ…!」
……キラキラ…
ピカッ……サァァ…キラッ…
冒剣士「洞窟の中全体が…小さな輝きが…」
女メイジ「これって…もしかして…」
孤高騎士「白坊主が言ってた氷の魔石の原石だ。岩肌に隠れてるが、巨大なもんがゴロゴロしてやがる」
女メイジ「それで冷気を放って…寒いんだ…」
冒剣士「白魔道さんです…」
孤高騎士「まだ裏側に隠れてるからいいが、表に突起し始めたら、さすがに"抵抗魔法"の展開がないと進めなくなるな」
冒剣士「とりあえずゆっくり進んで状況を見ましょう」
孤高騎士「ああ、そうだな」
…ザッザッザッザ…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
…ズルッ!!
冒剣士「うわっ!」ドテッ
女メイジ「ちょっと、大丈夫?」スッ
冒剣士「いてて…ありがとう」ギュッ
孤高騎士「大丈夫か…って、うおっ!」ズルッ
女メイジ「孤高さんまで…って、きゃあ!」ズルッ
冒剣士「この辺…よく滑るね…」
孤高騎士「んー…?…確かにこの辺がぬかるんでるな…」ヌルヌル
女メイジ「おかしいですね…」イタタ
孤高騎士「そうだな…」
冒剣士「何がおかしいんです?」
女メイジ「あのね…さっきあった氷の魔石の冷気がここにはないのよ」
冒剣士「あ、あーー!」
孤高騎士「…もう1度明かりを消すぞ」
…フッ……
冒剣士「あっ…!」
孤高騎士「…みろ!」
女メイジ「冒剣士が転んだ辺りから、途切れたように魔石の輝きがない…」
孤高騎士「鉱脈が途切れてるのか…?」
女メイジ「…」スッ
ガリガリ…ヒョイッ…
女メイジ「いえ…、原石の魔力が失われてるだけみたいです。これ…原石ですよね」スッ
孤高騎士「天然の魔力が失われるだと…?どういうことだ?」
冒剣士「天然の原石が失われることって、珍しいことなんですか?」
孤高騎士「少なくとも、有り得ないな。原石は、魔力を溜め込むのが普通だ。放出なんて聞いたことないが…」
女メイジ「…」
冒剣士「あ、そういえば白魔道さんが"雪が解けて露出してる部分がある"って、これが原因なんじゃないですか?」
女メイジ「そういえば言ってた!」
孤高騎士「ハハーン…ってことは、万年雪山になっている原因は、この大量の原石たちってことか…」
女メイジ「でも何で放出が…?」
孤高騎士「難しい問題だな…だが、雪山の問題の1つになっていた"謎の融解地区"っていう原因は分かったわけだ」
冒剣士「こういうのを、報告していくのが僕らの役割でもあるんですね」
孤高騎士「ま、そうだな」
女メイジ「探索での成果はまずは少しだけ挙げれたかな…」
孤高騎士「しかし…放出か…原石が…。そういや、魔石の特性で、強制的に魔力が失われた石は、もろいって聞いたが…」
ググッ……ボロッ…
孤高騎士「っ!?」
冒剣士「握ったら…石が砕けた!?」
女メイジ「ってことは…もろい…石?」
孤高騎士「はは…おいおい、洒落にならないぞこりゃ…。…何かが、原石の魔力を奪い取ったんだ…」
冒剣士「何かがって…何がです?」
孤高騎士「分からないな、少なくとも入り口からココまでは原石の魔力が残っていた」
女メイジ「と、すると…逆ですね」
孤高騎士「そう…、この魔力の失われた原石が続く道の先に…何かがあるってことだ」
冒剣士「…」ゴクッ
女メイジ「…どうします?」
孤高騎士「危険かどうかは全く分からないが…、ここからは慎重に進もう」
冒剣士「…はい」
…ザッ……ザッ…ドロッ………
…………………………………
…ザッ…ザッ…ドロッ……ドロッ…
孤高騎士「下へ向ってるな。深いぞ…」
女メイジ「さっきより道のぬかるみが酷い…完全に氷の魔力が失われてるんですね」
孤高騎士「…」
……ドロッ…ドロッ…
冒剣士「…」
…ドロッ…ドロッ…
女メイジ「…」
ドロッ…ドロッ………ザッ…ザッ…
女メイジ「あれ?道のぬかるみが…」
孤高騎士「ん?また道が凍り始めてるな」
冒剣士「融解地区を抜け…うわっ!」ツルッ
…ズザザーッ!!
冒剣士「ちょ!急に氷が…すべ…うわああああっ!」
女メイジ「冒剣士!!」
孤高騎士「おい!そこ穴になってるぞ!!落ちちまう…早く止まれ!」
冒剣士「って言ってもつかまる場所がないですうぅ!」
女メイジ「このロープに捕まって!」ビュッ
…ビューン…ガシッ!!
冒剣士「たすかっ…」グイッ
…ドサッ
冒剣士「どさっ…?」
女メイジ「ちょっとおお!強く引っ張ったから転んじゃったじゃない!」
…ズザザザザーッ!!!
冒剣士「女メイジまで滑ってきたー!?」
孤高騎士「お、お前ら…」
2人「穴に落ちるーーーーっ!」
…スポッ……ヒュゥゥゥ…
…ウワアアアアアアッ!!
…キャアアアアアッ!!!
孤高騎士「って、見てる場合じゃねえな!今行くぞ!!」ダダダッ
…ズザザッー!!!
……スポッ………ヒュウウウ!!!
【後編】 に続きます。