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いいえ ,:‘. +
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’‘ .; 死んでも一緒だわ
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元スレ
めぐ「死が二人を別つまで…?」
http://jfk.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1227880257/
めぐ「水銀燈……私ね、あと一ヶ月の命だって……」
水銀燈「は……?」
めぐ「パパがね…毎日来てこう言うのよ『これからはずっと一緒だ』『お前が望むことはどんなことだって叶えてやる』」
水銀燈「……」
めぐ「おっかしいよね、今までろくに来もしなかったのに余命幾ばくかって分かった途端にこれなんだから」
水銀燈「めぐ……」
めぐ「最後だから哀れんでる? いいえあの人は自分に陶酔してるだけ ”ああ、なんてかわいそうな娘なんだろう…それを悲しむ私はもっとかわいそうだ”ってね」
水銀燈「めぐ!!」
めぐ「……ごめん……私…」
頬を伝う涙は白いシーツにひとつふたつと染みを作っていった
水銀燈「めぐ……」
めぐ「……あれだけ死にたかったのに……何でだろう……怖いの……」
水銀燈「……」
めぐ「……あと一ヶ月もすれば、このベッドに私はいない……口うるさい看護士達も……手間のかからない子が減って助かるわ……なんて会話をしているかしら……」
肩を震わせ消え入りそうな声で呟きの速度を増していく
めぐ「……このまま消える……最初は望んでた……でも、でも……」
水銀燈「……めぐ」
めぐ「……ねえ……水銀燈……あなたも……私を……忘れちゃうの……」
水銀燈「私は……」
めぐ「そんなの嫌! 離れたくない……もっと一緒に居たい……共にありたい…………死にたくないの……」
喉の奥が乾いていく感覚に息が詰まりそうになる水銀燈
水銀燈「……(声が出ない……)」
めぐ「何か言ってよ!……水銀燈……」
めぐの呟きは叫びへと変わり涙は止め処もなく流れた
水銀燈「はぁ……はぁ……はぁ……」
気づけば病室の窓から飛び出していた
水銀燈「なんで……なんで……めぐが……消えちゃうなんて……」
流れ落ちる涙をそのままに、沈む夕日に向かって水銀燈は飛び続けた
水銀燈(……人間が自分達と同じ時間を過ごし続けるのが無理なんて最初から分かってたことじゃない)
水銀燈(目を背けては駄目……私はめぐが…………好き)
水銀燈(あの子の命が燃え尽きてしまうというなら……私が……傍に……)
水銀燈(最後まで……)
めぐ「あっ……水銀燈……」
一夜過ぎた病室は暴風が吹き荒れたかのようにぐしゃぐしゃだった。
おそらくめぐが暴れたのであろう。か細い手には無数の傷がついていた
水銀燈「昨夜は……ごめんなさい……」
水銀燈を見て安堵の笑みをこぼすめぐ
めぐ「ううん……いいのよ。戻ってくれてありがとう……私、あのまま水銀燈が居なくなっちゃうかと思って……」
再び肩を震わせるめぐ
水銀燈「安心して……これからずーっと一緒よ……健やかなる時も…」
めぐ「病める時も…私はずーっと病みっぱなしって…これ前にも言ったね…ふふっ……」
水銀燈「ふふっ…」
水銀燈&めぐ「死が二人を別つまで」
めぐ「私ね、一度でいいから水銀燈と一緒に外を見て回りたいの」
水銀燈「そんなのいつでも付き合ってあげるわよぉ、一度と言わず何度でもね」
めぐ「ふふ…ありがとう。でもね病室から出ることも出来ないし、何よりここから出たらすぐに死んでしまうかも」
水銀燈「め、めぐ……」
めぐ「冗談よ……でも私、水銀燈が傍に居てくれるなら死んでもいいかも……ねぇ連れ出してくれる?」
水銀燈「……駄目よ」
めぐ「…………ごめんね……わがまま言っちゃって……」
水銀燈「……そういうことじゃ無いの。たった一回じゃ私が満足しないわぁ……」
めぐ「そうよね! 私も水銀燈といろんな所に行きたいの! 遊園地や動物園、お洒落なカフェでお茶を楽しんだりいっぱいい~っぱぁいしたいことがあるの!」
水銀燈「ふふふ……よくばりさんねぇ、めぐは」
めぐ「まだまだ足りな……ゴホッ……ゴホッ……」
水銀燈「めぐ! 大丈夫!?」
めぐ「ご、ごめんなさい……ちょっとはしゃぎ過ぎちゃったかも……」
水銀燈「……」
めぐ「そんな顔しないで、大丈夫よ水銀燈……ホント…時間があればいろんな所に行きたいね……」
水銀燈「めぐ……」
水銀燈「……いいわぁ、あなたの願い…私が叶えてあげる」
めぐ「えっ……でもどうやって……病院には看護士達が見張ってるし……」
水銀燈「私はローゼンメイデン第一ドール、水銀燈よ。この程度の願い、どうとでもなるわ」
めぐ「本当!? じゃ外出用の服を用意しなきゃね……パパにねだればきっと……」
水銀燈「そんなことしなくいいわ」
めぐ「え?」
水銀燈「あなたは何も心配しなくていいの……ただ楽しい夢を思い浮かべながら待ってればいいの」
めぐ「……そうよね……天使様だものね」
水銀燈「ふふふ……待ってなさぁい。だから今日は休みなさい」
めぐ「……水銀燈……行っちゃうの?」
水銀燈「言ったでしょ……私はいつまでもあなたの傍に居ると」
めぐ「……すぐ戻ってきてね……」
水銀燈「えぇ……」
―――nのフィールド―――
翠星石「……こんな所に呼び出して……相変わらずアリスゲームをやろうというですか……」
蒼星石「呼び出されたのは翠星石だけど僕も同行させてもらったよ、大事な姉を危険な目にあわせられないからね」
水銀燈「……今日は違うわぁ……頼みたいことがあって……」
蒼星石「頼み?」
水銀燈「えぇ…ある人間の夢に入らせてほしいの……」
翠星石「へぇ~人間嫌いな水銀燈が人間の夢にですか」
蒼星石「翠星石、茶化すのはやめよう……今日の水銀燈は様子が違う……」
水銀燈「……お願い! もう時間が無いの……」
蒼星石「……理由を聞かせてくれるかな? 夢とはいえその人間の心を傷つけることだってできるんだ。安易に承知するわけにはいかないよ」
水銀燈「……り、理由……」
翠星石「なんですか? やぁ~っぱり翠星石達には言えないやましい魂胆があるですね! 帰るですよ、蒼星石」
水銀燈「待って! い、言うわ……その代わり真紅には黙ってて……」
蒼星石「……内容にもよるけど……いいよ、話して」
水銀燈「実は……」
――――――
翠星石「うっ…うっ……、外にも出られず部屋の中でなんてかわいそう過ぎるですぅ……」
蒼星石「……事情は飲み込めたよ……協力する」
水銀燈「ありがとぉ……」
翠星石「で、でもなんで真紅には言えねぇーですか? 真紅ならきっと力になってくれるですよ!」
水銀燈「それは……」
蒼星石「翠星石……真紅と水銀燈の間には僕らも知りえない事情があるんだよ、ここは僕達だけで協力しよう」
翠星石「……分かったですよ……そうと決まればさっさとめぐの部屋に案内するですよ!」
水銀燈「えぇ」
―――病室―――
水銀燈「ここよ……」
めぐ「……」スー…スー…
蒼星石「綺麗な人だね……」
翠星石「丁度眠ってるし夢に入るには好都合です」
水銀燈「えぇ……」
蒼星石「……言っておくけど僕らの力でも病巣を取り除いたり癒すなんてできないからね……」
水銀燈「わかってるわぁ……今更めぐを治せるなんて思ってないし、今は数少ない生を充実したものにしてあげたいだけ……」
翠星石「そんなこと言うもんじゃねえです。心の樹が癒せれば体も影響されるもの……めぐの心もばっちり癒してあげるです」
水銀燈「……ありがとぉ……」
翠星石「それじゃ行くですよ」
蒼星石「準備はいいね?」
水銀燈「ええ、お願いね……」
三体のドールは病室の天井に扉を開き、その中へ飛び込んでいった
――――――
病院の廊下のような暗い暗い通路の真ん中でめぐは一人立ち尽くしていた
めぐ「ここは……!?」
翠星石「まぁーったくチビ人間といい、最近の人間はどいつもこいつも暗い場所が好きですね」
めぐ「!? だ、だれ、あなた……?」
翠星石「人に尋ねるときはまず自分から……まぁいいです。翠星石はローゼンメイデン第三ドール翠星石ですぅ」
めぐ「ローゼン……? あなた水銀燈の知り合いなの?」
翠星石「知り合いもなにも水銀燈は翠星石の姉なんです……」
めぐ「まあ……水銀燈にこんなかわいい妹がいたなんて……水銀燈ってあまり自分のことを話さないから……」
翠星石「……(かわいい…ま、まあ悪い人間じゃなさそうですねぇ)」
廊下の奥から二体のドールが翠星石達に歩み寄ってきた
水銀燈「めぐぅ!」
めぐ「水銀燈!? ここは一体……」
蒼星石「お待ちしておりました、めぐ様。ここは我等が主、水銀燈があなたと過ごすために作られた世界です。」
大仰な被りを振って演技を始める蒼星石
水銀燈「!?」
めぐ「まあ、そうなの! ありがとう…水銀燈、さっきの約束を……」
翠星石「ちょ、ちょっと何を…」
蒼星石は何かを言いかける翠星石の口を塞ぎ、廊下の途中の空いた一室へ連れ込んでいく
翠星石「むっむっむぐ……っぷはぁー、いっ一体何を言い出すですか!」
蒼星石「なんでも真実を言えばいいってもんじゃないよ。翠星石……まさか君、ここが夢の世界だなんて言ってないだろうね」
翠星石「うっ……い、言ってねぇーですよ……(実はちびっと言いかけたですよ……)」
蒼星石「……そう。ねぇ…翠星石……例え偽りの記憶でもそれは当人にとって”思い出”になるんだ。だから…」
翠星石「蒼星石の言いたい事が分かったですよ……」
蒼星石「さすが僕の姉だ。もう残り時間も少ないかもしれないけど、いい思い出を作ってあげたいよね」
翠星石「本当によく出来た妹ですぅ……」ボソッ
蒼星石「え…何か言った?」
翠星石「何でも無いです。分かったから早く水銀燈達の元へ戻るですよ」
蒼星石「うん」
めぐ「あの二人どうしたのかしら」
水銀燈「そ、そうね……(蒼星石ったら一体何のつもりぃ……)」
水銀燈の元へ戻ってくる二体のドール
蒼星石「お待たせしました、めぐ様。存分に水銀燈との時間をお過ごし下さい」
蒼星石は水銀灯に向かってウィンクをし、その意図を水銀燈も汲み取ったようだ
水銀燈「えぇ、ありがとぉ……」
水銀燈「さぁ、行きましょ。めぐ、ここではあなたでも走る事もできるし、望めば飛ぶことさえ可能なのよ」
めぐ「本当!? 素敵! 水銀燈って魔法も使えたんだ……天使様だものね」
水銀燈「いいえ、ここからが本当の魔法の時間よ……どこに行きたいの? めぐ」
めぐ「あのね……私…私……」
翠星石「本当に嬉しそうですね」
蒼星石「うん……あんな顔の水銀燈始めて見たよ」
翠星石「……めぐも可哀想ですけど…水銀燈も可哀想ですぅ……愛する人との時間が残り少ないなんて……」
蒼星石「寿命がくるのは人間にとって避けられない事だよ……ただ今は幸せな時間を過ごしてほしい……そう願うのみだよ」
翠星石「だとしたら今は翠星石達が出来る事をするだけです!」
蒼星石「うん……探そうか……めぐさんの樹を」
病院らしき建物から抜け出し歩き出す水銀燈とめぐ
水銀燈(めぐの夢ってどこも暗い場所ばかりね……)
めぐ「ねぇ……水銀燈」
水銀燈「なぁに? めg…」
水銀燈が返事をしたと思った瞬間、水銀燈の体はめぐに抱きかかえられていた
水銀燈「ちょ、ちょっとぉ……」
めぐ「ふふふ……一度こうやって水銀燈を抱っこして散歩したかったの……大丈夫よ、今はとても気分がいいもの」
水銀燈「めぐ……」
少し恥ずかしながらも、胸の居心地の良さにそっと微笑みを浮かべる水銀燈
めぐ「このままこの時間がずっと続けばいいのにね……」
水銀燈「……そうね」
涙を必死に抑えながら潤んだ瞳を見せまいと、めぐの胸に顔を埋める水銀燈
めぐ「私ね……最後に……」
水銀燈「やめて!」
めぐ「す、水銀燈……」
水銀燈「……ごめんなさい……でも最後だなんて言わないで……私とめぐは……まだ……これからなんだから……」
めぐ「そう……ね」
翠星石「これがめぐの樹ですか……」
蒼星石「……根が変色し始めている……枝の先はまだ青々しく先に先に伸びようとしているのに……」
翠星石「この子の叫びが聞こえるです……生きたい……生きたいって……」
蒼星石「涙を拭いて…翠星石……。僕達には出来るだけの事をするだけ……」
翠星石「……です…………スィドリーム……」
袖で涙を拭うと緑に輝く光球から如雨露を取り出す翠星石
翠星石「私の如雨露を満たしておくれ あまーいお水で満たしておくれ 健やかに~伸びやかに~」
如雨露から流れる水霧は木漏れ日の光で綺麗な虹を作っていた
めぐ「あっ……」
水銀燈「どうしたの? めぐ」
めぐの視線の先にまるでおとぎの国のような眩い光を放つ建物があった
めぐ「あれ……遊園地よ。ねぇ…水銀燈……遊園地よ!」
水銀燈は涙を拭いめぐと共に輝く建物を見つめた
水銀燈(あれは……めぐの楽しかった頃の記憶ね……ありがとう……翠星石……蒼星石)
蒼星石はまるで身の丈ほどありそうな大きな鋏を器用に扱いながら、めぐの樹の不要な枝を取り去っていった
翠星石「そ、そんなに斬っていいですか……?」
蒼星石「悲しい事や辛い記憶は後にいい思い出に変わることもあるけど……それは時間という肥料が必要……今はいい思い出だけで十分さ……」
そう言うと再び不要な枝の断裁に移る蒼星石。その翠と紅の眼は水で濡れたように深い悲しみの色を表していた
めぐ「私この遊園地知ってる! 見て! 水銀燈!」
水銀燈「そんなに大声出さなくても聞こえてるわよぉ……」
めぐ「あっ……ごめんなさい……」
水銀燈「ふふっ……本当に嬉しそうね……」
めぐ「だって遊園地にきたのなんて何年ぶりかしら……おまけに大好きだった遊園地だなんて……」
水銀燈「……見ているだけで満足?」
めぐ「そんな訳ないじゃない! ほら行くわね」
水銀燈「ええ……っちょ…」
水銀燈を抱えたまま走り出すめぐ
水銀燈「ちょ、ちょっと…めぐぅ……遊園地は逃げ出したりしないわ」
めぐ「だって……待ちきれないもの!」
嬉しそうに駆け出すめぐの胸で、水銀燈は笑みをこぼしていた
めぐ「これ、このメリーゴーランド……小さい頃……あれ?誰かと一緒に乗ってたような……」
水銀燈(楽しい記憶と、悲しい記憶が混じってるのね……)
めぐ「うーん……いいわ。乗りましょ! 水銀燈」
水銀燈「ええ」
メリーゴーランドの馬に跨るめぐと水銀燈
めぐ「うふふ……この格好…私が王子様で水銀燈がお姫様みたいね」
水銀燈「あら? あなただってお姫様にふさわしいと思うわよぉ」
めぐ「駄目よ…だって王子様がいないんだもの、あはは」
水銀燈「めぐがお姫様なら私がさらいに行くわぁ」
めぐ「あはっ…それじゃ悪い魔法使いよ」
水銀燈「それもそうね……ふふふ」
めぐ「次は観覧車よ」
水銀燈「元気ねぇ、めぐ」
めぐ「なんだか胸の中が暖かくなる感じで……そう、楽しいことしか考えられないというか……」
水銀燈(本当にあの子達はよくやってくれるわねぇ……)
めぐ「どうしたの? 水銀燈」
水銀燈「何でもないわ、早く乗りましょ」
翠星石「健やかに~伸びやかに~」
蒼星石「翠星石はりきりすぎだよ……それ以上水をやりすぎると根が……」
翠星石「そんなことないですよ。よく根元を見るですぅ!」
蒼星石「あ、新しい芽が……!? そんな馬鹿な……」
めぐ「わぁ~高っか~~い。見て見て水銀燈、さっき私達が居た所があんなに小さく…」
水銀燈「ふふふ…」
めぐ「もう~~水銀燈ってばもっと感動してよっ……って水銀燈は飛べるんだったね……退屈?」
水銀燈「ううん…めぐと一緒ならどんな所だって楽しいわぁ……」
めぐ「あはっ、私も水銀燈と同じ……ずぅーっと一緒よね…私達」
水銀燈「えぇ……一緒よ…」
蒼星石「ありえないよ……心の樹は一人にひとつだけの筈……成長することはあっても生え変わるなんて……」
翠星石「翠星石に不可能はねぇーですよ! このままチビ芽を成長させてめぐを元気いっぱいにしてやるですよ」
蒼星石(水銀燈の思いが奇跡を起こしたっていうのか……でも……)
翠星石「それにしても、このチビ芽は元気のねぇー色をしてるですね。早く早く成長して立派な樹になるですよ~ 健やかに~伸びやかに~」
蒼星石「ちょっとまって……やっぱりおかしいよ……」
翠星石「まぁ~だ疑うですか……素直になれないのは蒼星石の良くない所ですぅ」
蒼星石(それは翠星石の事じゃ……)
二人の周辺を黒い闇が徐々にではあるがじわじわと範囲を広げ始めていった……
めぐ「あのね……水銀燈……」
水銀燈「なぁに?」
めぐ「水銀燈が欲しい物やしたい事って何?」
水銀燈「……私はめぐの傍にいられるだけで満足よぉ……」
めぐ「そういう事じゃなくって……私が走りたい…とか遊園地で遊びたいみたいな事よ」
水銀燈「……そうねぇ……お父様に会いたいわぁ……でも今となっては……」
めぐ「パパに……?」
めぐ「……私、前に言ったよね……水銀燈に私の命を吸って欲しいって……」
水銀燈「めぐ……今その話は……」
めぐ「いいえ、聞いて水銀燈……私…私…水銀燈とひとつになりたいの……」
水銀燈「だから今その話h…なっ、何よこれ……!?」
観覧車の周りを黒い闇が覆い始めていた
水銀燈「これは一体……!?」
めぐ「水銀燈、お願い! 私の命を吸って……それであなたの願いを……」
水銀燈「その話は後よ……今はここから出るのが…」
めぐ「お願い! もう時間が無いの!!」
水銀燈「時間って……めぐ!? あなた……」
めぐの体は爪先から黒く染まっていき、まるで めぐの夢を覆う黒い闇のようであった
めぐ「お願い……私の命をあなたの中へ……」
水銀燈「め、めぐぅ……」
黒い闇は観覧車を覆い隠し、眩い光の遊園地はいまや闇の底へ沈みつつあった
めぐ「お願い……」
観覧車は闇の中へ溶け込み、今にも二人は取り込まれようとしていた
水銀燈「めぐ!」
咄嗟にめぐを抱きかかえ滑走するように地面へ降りて行った
翠星石「ひゃぁああああああ! な、なんですかこれは!?」
蒼星石「これは……夢が崩壊しようとしている……」
翠星石「な、なんでですか!? 心の樹はまだ枯れて無いというのに……」
蒼星石「今は水銀燈達の所へ行くしかないよ……ここにいたら僕達だって……」
翠星石「ま、待ってです!」
蒼星石「何を!? 早く、翠星石!!」
心の樹の新芽に顔を近づけていく翠星石
翠星石「ごめんなさい……まだ途中だというのに……でも…きっと無事でいるですよ……」
そっと新芽に口づけする翠星石…潤んだ瞳には心の樹とそれに寄り添う新芽が写っていた
水銀燈「めぐ! めぐ! めぐぅ!」
めぐ「……水銀燈……私の命を……」
爪先から始まった闇の侵食は体の半数を覆い、今や顔と胸部周辺を残すのみとなった
水銀燈「そんな……こんな急にだなんて……」
めぐ「私ね……最後に水銀燈……」
水銀燈「嫌よ…最後だなんて言わないで……まだこれから……これからだっていうのに……」
めぐ「お願い……水銀燈は……私の願いを叶えてくれたわ……だから私も……」
水銀燈「嫌よ! 嫌よ! 嫌よ! そんなの……」ポロポロ
大粒の涙をこぼしながら闇に染まるめぐにしがみつく水銀燈
翠星石「あっ…あそこに水銀燈達がいるです!」
蒼星石「……様子がおかしい……? め、めぐさんが……」
翠星石「なんてことですか……夢の崩壊がめぐの……終局の為だというのですか……」
水銀燈「めぐぅ…めぐぅ……」
めぐ「すい…ぎん……う……」
翠星石「めぐ……」
蒼星石「水銀燈……」
水銀燈「……石」
翠星石「え……?」
水銀燈「……翠星石……最後のお願いをしてもいいかしら……」
蒼星石「何を言ってるんだ! 早くここから逃げないと僕達だって……」
水銀燈「お願い!!」
蒼星石「!?」
翠星石「……分かったですよ……でも…その願いの報酬は……一緒にここから出ることですよ……」
水銀燈「……分かったわぁ……」
蒼星石「それで……そのお願いというのは……?」
水銀燈「……真紅を……真紅を呼んで頂戴……」
翠星石「真紅を……?」
水銀燈「えぇ……」
蒼星石「どうして真紅を……」
水銀燈「……それは……あの子にしか……真紅にしか出来ないことがあるの……」
翠星石「……分かったですよ。それまでめぐを……持ち応えさせるですよ……ここで終わりだなんて翠星石が許さんですぅ……」
水銀燈「えぇ……こんなに思われて幸せね……めぐぅ……」
蒼星石「……」
翠星石を後ろで見送りながら水銀燈と蒼星石はめぐを闇の侵食が少ない病院内へ運んでいった
めぐ「ふふ…ふ、最後も…こんな所だなんて……」
蒼星石「しっかりして! めぐさん!! 真紅が来ればきっと……!」
水銀燈「……」
蒼星石「水銀燈……?」
蒼星石「水銀燈……」
水銀燈「……何かしら…蒼星石……」
蒼星石「君の……その…考えを聞かせてくれないか? 真紅を呼んでどうするんだい? こんな状況じゃ真紅だって……」
水銀燈「……」
蒼星石「水銀燈……黙ってちゃ分からないよ……」
水銀燈「私は……」
蒼星石「辛いのはわかるよ…でも姉妹を……危険に晒す訳にはいかないんだ……」
水銀燈「私は……めぐの願いを叶えてあげたいだけ……」
蒼星石「めぐさんの願い……?」
水銀燈「……」
めぐ「私の…私の命を……水銀燈に……それで…水銀燈はパパに……パパに会うの……」
蒼星石「!? ……水銀燈……まさか君は……」
水銀燈「……」
めぐ「お願い……お願い……水銀燈……」
蒼星石「そんな……」
一歩ずつ水銀燈から後ずさる蒼星石……だが水銀燈はそれを見逃すことはなかった……
翼から剣を取り出し蒼星石の胸元に突きつける
蒼星石「うっ……」
水銀燈「……お願い……今はあなたを傷つけたくないの……」
水銀燈「……」
蒼星石「こ、こんな事間違ってる……」
水銀燈「えぇ……間違っているわねぇ……」
蒼星石「なら…なんで……?」
水銀燈「……証が欲しいの……」
蒼星石「証……?」
水銀燈「そう……めぐの命で……私の…宿敵の……真紅の…ローザミスティカを……討ち取るの!」
蒼星石「そ、そんなのって……」
蒼星石「レンピカ! 翠星石達の元へ!」
水銀燈「!?」
蒼星石「これで、もうここへ真紅達が来ることは無いよ……」
水銀燈「……」
蒼星石「だからもうこんなことは……」
水銀燈「……関係ないわぁ……」
蒼星石「……え?」
水銀燈「……そんなの関係ないのよぉ……」
蒼星石「……なんだって?」
水銀燈「例えこれが罠だと分かっていても、あなたがここにいるという事実だけがあの子達を呼ぶ十分な素材なのよぉ……」
蒼星石「くっ……」
水銀燈「あなたをここでジャンクにして上げてもいんだけど……仮は…返すわ……」
蒼星石(来ないで……翠星石……真紅……!)
水銀燈「……どうやら来たみたいねぇ……」
真紅「蒼星石を離しなさい……水銀燈」
蒼星石「どうして……来たんだ……」
翠星石「蒼星石をほっとける訳ねぇーですよ!……それに水銀燈……こんなことは止めるですよ! こんなことしたってめぐは喜ばねぇーですよ!」
水銀燈「ごめんなさい……もう時間が無いの……文句は後で聞くわぁ……」
蒼星石を突き飛ばして真正面から真紅に向かっていく水銀燈
翠星石「ちょっ、ちょっ、ちょっ……止めるですよ、水銀燈!!」
蒼星石「止めるんだ! に、逃げて真紅!!」
だが真紅は動かない……自分に向かってくる水銀燈を真正面に見据えて、静かに右腕を胸の前に突き出した
水銀燈「あなたの命……貰うわ……私の中で生きて……めぐ!」
めぐ「……ありがとう…水銀燈……私の命は……あなたと共n…………」
真紅「……ローズテイル……」
真紅の右手から薔薇の花弁が螺旋を描くように腕の周りを舞い始めた
翠星石「ど、どうして逃げねぇーですか!?」
蒼星石「……逃げるなんて考えは無いんだ…真紅は水銀燈の…めぐさんの全てを受け止めようと……」
水銀燈「ありがとう真紅……あなたが相手なら…めぐも本望よ……」
背中の翼を大きく震わせて目の前の真紅に意識を集中する水銀燈
めぐの薔薇の指輪が眩い輝きを放ち、その光は水銀燈へ伝染するように光の翼となって現れた
めぐ「……綺麗……水銀燈……」
水銀燈「しぃんくぅうううううううううううううううううううううーーーーーーーーーーー!!!!」
真紅(ジュン…力を貸して頂戴……)
二体が交差した瞬間、周りは眩い光に飲まれていった……
――――――
ジュン「……指輪が一回り小さく!?」
ジュンの指にあった薔薇の指輪は以前のような大き目のサイズではなく一回り小さい最初のサイズに戻っていた
雛苺「うゆ? どうしたの、ジュン」
ジュン「なあ…真紅と翠星石を知らないか?」
雛苺「……」ビクッ
ジュン「……何か知っているんだな…」
雛苺「……駄目なの。真紅から言っちゃ駄目って言われてるの」
ジュン「なあ…雛苺。なにか知っているなら教えてくれ……あいつらの身に何かあったかもしれないんだ」
雛苺「……あのね、真紅が」
ジュン「真紅が……?」
雛苺「水銀燈と決着をつけに行くって……」
ジュン「何だって!? だって…あいつはアリスゲームなんて…姉妹で争うことは否定していたのに……」
雛苺「しょうがないの……蒼星石を助けるために……それに水銀燈のミーディアムを救うために……」
ジュン「水銀燈のミーディアムを……?」
雛苺「それに……ジュンだってもう分かってるはずなの……」
ジュン「……」
雛苺「そう……真紅が敗れてローザミスティカを取られたってことを……」
――――――
蒼星石「うっ……」
めぐの夢は崩壊しドール達はnのフィールドへ投げ出されていた
蒼星石「はっ…! 翠星石! 真紅! どこ? どこにいるの!?」
翠星石「あっ……つっ……」
蒼星石「よかった……無事だったんだね、翠星石……」
翠星石「……真紅はどうしたですか……?」
蒼星石「わからない……あの白い光と夢の崩壊が同時に起こって……」
ガラガラガラッ
瓦礫の中から右手にローザミスティカを携えた水銀燈が姿を現した
翠星石「す、水銀燈!?」
蒼星石「その手にあるのは……真紅のローザミスティカ……」
水銀燈「……」
翠星石「水銀燈……お前は酷い奴です…翠星石や蒼星石の気持ちを裏切って……あまつさえ真紅のローザミスティカを奪うなんて……」
水銀燈「……」
翠星石「聞いているですか! それに……お前は一番大好きな……めぐを……自らの手で殺めたんですよ!!」
水銀燈「……」ピクッ
蒼星石「待って、翠星石…… ねぇ…水銀燈、真紅のローザミスティカを返してくれないか」
水銀燈「…………駄目よぉ」
水銀燈「これはめぐの命なんだもの……」
翠星石「何を言っているですか……?」
水銀燈「最後の…めぐの命を貰って……そして得たローザミスティカだもの……」
蒼星石「それがめぐさんの望んだことだと……?」
水銀燈「ええ……あの子は願ったわ…最後に私の望みを……お父様に会わせたいって……」
翠星石「そんなことめぐは望んじゃいないですよ! めぐは…めぐは…お前と一緒に過ごしたかっただけに違いないですよ! そしてその思いを水銀燈が胸に抱き続けてくれれば……」
水銀燈「利いたふうな口を聞かないで!!」
翠星石「うっ…」
水銀燈「めぐは私の中で生き続けたいと言ったわ……だから私は証を…ローザミスティカに刻んだの……思い出とかそんな陳腐な言葉で語らないで欲しいわ!」
水銀燈「私はアリスになるわぁ……それがあの子と私の願いなのだから……」
蒼星石「……今日は引かせてもらうけど……いいね」
翠星石「そ、蒼星石何を言うですか! 真紅の敵も討たずに引き返せというですか!」
蒼星石「お互いボロボロだし、水銀燈も今は戦いを望んでないよ……」
水銀燈「相変わらずやさしいのね……あなたは」
翠星石「蒼星石がやらないというなら翠星石だけでもやるですよ!」
水銀燈「翠星石……」
翠星石「な、なんですか!? やる気になったですか!」
水銀燈「お願い……めぐに良くしてくれたあなたを 今、手にかけたくないの……」
翠星石「……」
蒼星石「……行こう…翠星石」
翠星石「……今日の所はめぐに免じて帰ってやるです……けど、きっといつか真紅のローザミスティカは返してもらうですよ!」
蒼星石「水銀燈、次に会った時は……」
水銀燈「えぇ……アリスゲームね……」
蒼星石「それじゃ……」
水銀燈「……ありがとぉ……蒼星石…翠星石……」
水銀燈「……うっ…うっ……めぐぅううーーーーーーーー」
nのフィールドに水銀燈の慟哭が響き渡った……
――――――
ジュン「そうか……真紅のローザミスティカは水銀燈に……」
蒼星石「ごめん…ジュン君……僕のせいで……」
翠星石「そ、そんな…蒼星石は悪くねぇーですよ……悪いのはみんな水銀燈が……」
ジュン「……そうだ、お前のせいじゃないよ…蒼星石」
蒼星石「ありがとう…ジュン君……あ、あの……」
ジュン「ん…なんだ?」
蒼星石「僕の……その……」
翠星石「はっきり言いやがれですぅ!」
蒼星石「……うん…あのね、ジュン君……僕の……」
蒼星石「マスターになって欲しいんだ」
ジュン「僕がマスターに……?」
蒼星石「……うん…今のマスターじゃ僕も全力を出し切れない…きっと次に戦ったときは敗れてしまう……」
翠星石「ど、どうしたんですか、蒼星石……今の……おじじはどうするんですか……」
蒼星石「翠星石……君も見ただろう、その水銀燈の決意を……自らのマスターを殺めることさえ厭わないあの意思を……」
翠星石「だ、だからチビ人間におじじの代わりをしろというですか!」
ジュン「……いいよ」
翠星石「ち、チビ人間も何を言うですか!」
蒼星石「……ありがとう、ジュン君…こんなこと頼めるのは君しかいないんだ」
翠星石「ちょっと二人とも落ち着いて考え直すです!」
ジュン「いいんだよ翠星石……蒼星石は僕の……真紅の敵を打ちたいっていう気持ちを汲み取ってくれたんだ……」
翠星石「だからって……そんな……」
蒼星石「……安心して……ジュン君の命を決して危険に晒したりはしない……それだけは守るよ……真紅に誓って……」
――――――
水銀燈「めぐ……」
以前の習慣からか、度々めぐの病室に来るようになっていた。
水銀燈「ふふふ……馬鹿ねぇ……めぐはもう居ないってのに……」
めぐが以前使用していたベッドは真新しいシーツに張り替えられ新しい主人を迎える体勢になっていた
廊下から人間の声が聞こえてくる……
水銀燈は咄嗟に無人のベッドの下へ姿を隠した
看護士A「まだ眠りから覚めないのかしら……」
看護士B「えぇ……急に容態が悪化したかと思えば症状もストップして死んだように眠り続けてるんですって……まるで仮死状態って言ってたわ」
看護士A「それじゃこの部屋を空けるわけにはいかないわねえ……」
水銀燈(何の話……?)
看護士A「はぁ……先生もまったく原因が分からないと言ってたし……」
看護士B「それに聞いてよ……ここの父親がね、余命一ヶ月って分かってからは毎日来るようになったのに、先が分から無くなったらまた来なくなったのよ。薄情なものねぇ……」
水銀燈(どこかで聞いたような……?)
看護士C「でも少しでも長生きしてくれるなら嬉しいわ」
看護士A「あら? あなたあの子に手を焼かされてたんじゃないの?」
看護士C「それでも死んで欲しいなんて思うわけ無いじゃない……あの子との付き合いは長いのよ……情だって移るわ」
看護士B「えっと……名前はなんていうんだっけ?」
看護士C「もう……あなたもそんな短い付き合いじゃないんだから名前くらい覚えなさい。めぐよ…柿 崎 め ぐ」
水銀燈「めぐぅ!?」
看護士A「な、何!? 今の声?」
看護士B「ベッドの下から……?」
水銀燈(いけない……)
水銀燈はベッドの下から這い出すと翼を広げて窓から飛び去っていった
看護士C「な、何……? 今の」
看護士A「カ、カラスじゃない?(子供に見えたなんていえないわ……)」
看護士B「そ、そうよね……(少し疲れているのかしら……)」
水銀燈「めぐが生きてた……生きててくれた……」
高鳴る胸を押さえながら晴天の青空を真っ直ぐに飛び続けていた
水銀燈「会いたい……早く会いたい……」
あの人間達の話からめぐがあの病院にいることは分かっていた。
水銀燈は溢れる感情を必死で押さえながら夜の時間が訪れるのを待った。
―――深夜―――
水銀燈はnのフィールドを通り、夜の病院への進入を済ませていた
水銀燈(どこ? どこなの…めぐ!)
待ちきれないといった様子でしきりに周りを見渡すが病院は広い……人気に注意しながら探索の足を進め始めた
水銀燈(めぐに会える……めぐに……)
多少浮ついた足取りであったが一室一室の確認をし、とうとうめぐの部屋を突き止めることが出来た
集 中 治 療 室
それがその病室の名前であった
ピーッ ピーッ
様々な計器が液晶に数字やグラフをを表示し患者の容態を記録し続けている
そして計器の囲まれるように美しい黒髪の眠り姫は中央のベッドで深い眠りについていた
水銀燈「めっ…めぐぅううーーーーーーーーーーーー!!」
だがその声に応えることはなかった……めぐの体は様々なパイプに繋がれ栄養…排泄…呼吸さえも機械任せになっていた
水銀燈「よ、よかったぁ……めぐぅ……私……あなたが死んじゃったとばかり……」
シュル…シュル…
めぐに語り続ける水銀燈の背後から白い茨が触手を伸ばすかのように迫っていた……
水銀燈「誰!?」
咄嗟に翼から剣を引き抜くと迫りくる茨を横に薙ぎ払った
―――「随分な挨拶ですね……黒薔薇の御姉様」
水銀燈「誰よ、あんたぁ……」
計器の上に白い衣装に身を包んだドールがその黄色い瞳を水銀燈に向けて真っ直ぐに見据えていた
―――「私はローゼンメイデン第七ドール…雪華綺晶です」
水銀燈「第七ドール……」
水銀燈(姉妹は七体いると聞いていたけど見るのは初めてだわぁ……でも…この面影…どこかで……)
めぐと第七ドールの斜線上を塞ぐ形でじりじりと移動する水銀燈
水銀燈(何としてもめぐは守らなくては……)
雪華綺晶「安心してください…黒薔薇の御姉様。今はあなたに危害を加える気はありません」
水銀燈「ふんっ! 信用できないわぁ……」
やれやれといった感じで手の平を上に向ける第七ドール
雪華綺晶「ふぅ……私があなたからそのミーディアムを守って差し上げたのですよ。少しは感謝をして貰いたいものですね」
水銀燈「……なんですってぇ……?」
雪華綺晶「あなたが無茶な力を使いミーディアムを死に至らしめようとしたじゃありませんか」
水銀燈「……なんであなたがそんなこと知ってるのよ……」
雪華綺晶「……この体に見覚えはありませんか?」
そう言うと、どこからとも無く赤いヘッドドレスを取り出し自らの頭にあてがうと水銀燈へ向かってにっこりと微笑んだ
水銀燈「し、真紅……!?」
水銀燈「な、なんで……」
雪華綺晶「大変だったのですよ。黒薔薇の御姉様のミーディアムを強制的に眠りにつかせ、なおかつミーディアムの病症を遅らせる……」
水銀燈「……」
雪華綺晶「あの時、御姉様は紅薔薇の御姉様を討ったとお思いでしょうがあなたの執念の一撃は届いていなかったのですよ」
水銀燈「な、なんですってぇ!?」
雪華綺晶「困るのですよ、勝手にミーディアムを死なせて貰っては……まああなたの代わりに私が紅薔薇の御姉様を討って差し上げたのですがね」
水銀燈「ふ……わよ……」
雪華綺晶「そのローザミスティカはこの体のお礼と思って受け取ってください。私には不用な物ですから」
水銀燈「ふざけんじゃないわよ!!」
雪華綺晶「あら?何か気に触ったことでも」
水銀燈「私とめぐの決意をあなたみたいなジャンクにおもちゃにされるなんて我慢ならないのぉ!」
雪華綺晶「おやおや、さっきまでミーディアムが生きてたことを無邪気に喜んでたのはどこのどなたでしたっけね?」
水銀燈「くっ……」
雪華綺晶「さっきの言葉そのままそっくりお返ししますわ。あなたみたいな配慮の薄い方こそまさにジャンクの名が相応しい…と」
水銀燈「お、表にでなさぁい!!」
雪華綺晶「くくっ…口に負えないとなったら武力行使ですか……本当、根っからのジャンク……出来損ないですね」
水銀燈「壊す!」
雪華綺晶「からかうのもこの位にしておきましょう……私があなたと戦っても特になることなんてありませんからね」
水銀燈「待ちなさぁい! 逃げる気なの!? 私が怖いのね!!」
雪華綺晶「いいえ…私が必要なのはドールの力の源ミーディアムのみ……幸いにも依り代は今の体をあわせて二つありますもの。わざわざジャンクを手に入れる必要もありませんわ」
水銀燈「くっ……」
雪華綺晶「だから……ミーディアムは頂いていきますね」
水銀燈「!?」
雪華綺晶「御機嫌よう……黒薔薇の御姉様……」
無数の茨でめぐの体を絡め取っていく
水銀燈「や、やめなさぁい!!」
剣を振るって茨を切り裂いていくが茨の量に剣速が追いついていかない
雪華綺晶「くくく……頑張りますね、御姉様。」
水銀燈「はぁ…はぁ…はぁ……」
雪華綺晶「ほぉら……もっともっと茨が増えますわよ。」
雪華綺晶の一言でさっきの倍の茨がめぐの体を鏡の中へ引き込んでいく……
水銀燈「!? や、やめてぇ!!」
雪華綺晶「力が及ばないと思ったら口で懇願ですか……本当に救えませんね……」
水銀燈「お願い! 止めてぇ!……私のローザミスティカをあげるから……めぐだけはお願い……許してぇ……」
雪華綺晶「くくっ……もっと抗って下さい。それでも長女なのですか?」
今にも鏡へ引き込まれるかという時、水銀燈は剣を捨ててめぐの体に飛びついた
水銀燈「めぐぅ!!」
雪華綺晶(かかった!)
白い茨はめぐの体と共に、水銀燈の体をも取り込んで鏡の中へ引き込んでいった
水銀燈(もう……離れないわ……めぐ……)
水銀燈(……これからもずっと一緒よ……)
――――――
蒼星石「……石」
蒼星石「……翠星石」
翠星石「えっ…え? 何ですか? 蒼星石」
蒼星石「どうしたの? 翠星石……心ここに在らずといった感じだったけど……」
ジュン「しょうがないさ……最近いろんなことがあったもんな……」
蒼星石「……雛苺が動かなくなってもう三日も経つんだね……」
雛苺が指輪から力の供給を断たれて動けなくなるのに数日もかからなかった。
ジュンと再契約しようにも真紅との契約が解かれておらず
ジュン達はただ雛苺が動けなくなるのを見守るしかなかった……
ジュン「真紅は一体どうしたんだ? 僕との契約は解かれたのに雛苺の契約が解かれないなんて……」
蒼星石「分からない……水銀燈との戦いの後、僕達は真紅の体を探そうと何度もnのフィールドを回ったけど何一つ真紅の物を見つけることは出来なかった……」
ジュン「真紅は生きてるっていうのか……?」
蒼星石「……ありえないよ、ローザミスティカを抜かれて動けるなんて……ローザミスティカは僕達の命そのものなんだ」
ジュン「だとしたら水銀燈が持っていったローザミスティカが別のドールの物だとか……」
蒼星石「……確かに直接真紅からローザミスティカが出るのを見た訳ではないけど……あれは間違いなく真紅のローザミスティカだよ……」
ジュン「そうか……」
翠星石「……翠星石はもう寝るですね……」
蒼星石「えっ……もう? まだ八時前だよ」
ジュン「疲れてるんだよ……おやすみ、翠星石」
蒼星石「そ、そうだね……おやすみ、翠星石」
翠星石「おやすみです……チビ人間…蒼星石……」ニコッ
精一杯の笑顔でジュンと蒼星石に笑みを向ける翠星石…だがその笑顔はどこかぎこちなかった
ジュン「お前も、もう寝たらどうだ? 最近気の休まることがないだろ……」
蒼星石「ううん……9時までは起きてるよ。ドールの活動時間は皆共通したものだしね……この時間はいつ水銀燈との戦いが始まったっておかしくないんだ……」
ジュン「……そうか…でもあまり無理はするなよ」
蒼星石「うん……ありがとう、ジュン君……」
水銀燈と真紅の戦いの後毎夜悪夢にうなされる翠星石であった……
その夢は決まって白い茨が翠星石の体を埋め尽くしていき、最後には白い薔薇となってしまう……
翠星石(はぁ…はぁ……翠星石の体は一体どうしちまったですか……)
翠星石(真紅と……チビ苺が……翠星石を呼んでいるですか……)
翠星石(助けて……蒼星石……助けて……ジュン……
―――深夜―――
ジュン(……トイレ)
ジュンはベッドから体を起こし階下のトイレへ向かう…途中ドールの鞄が開いてたとも知らずに
用を足し終えると二階へ向かい始めるジュン
ジュン(ん……? 物置の扉が開いてる。のりが閉め忘れたんだな……しょうがないなあ)
扉に手をかけるジュンを暗闇の中から翠と真紅のオッドアイが静かに見つめていた……
翠星石「……ジュン……」
ジュン「!? なっ…なんだ…翠星石か……脅かすなよ……」
翠星石「……怖いんです……寂しいんです……」
ジュン「……気持ちは分かるけど今は蒼星石がいるだろ……こんな所にいたらもっと怖いじゃないか。さあ僕の部屋に戻ろう……」
翠星石「……傍に来てほしいんです……翠星石の傍に……」
そう言うと、いつもnのフィールドに使う鏡の横でちょこんと座り込む翠星石
ジュン「お前なあ……何もこんな物置じゃなくても……」
翠星石「……お願いです……ジュン……」
ジュン「はぁ……」
やれやれといった感じで翠星石を抱きかかえようとするジュンに
翠星石は見たこともないような笑顔でこう呟いた
「迂闊ですね……蒼薔薇と翠薔薇のマスター……」
ジュン「!? お、お前……!!」
身を引いた瞬間、鏡の中から無数の茨がジュンの体を絡め取っていった
ジュン「うわぁあああああああああああああ!!」
蒼星石「ジュン君!?」
蒼星石「あの声はジュン君…一体どこから……翠星石、起き……鞄が開いてる……」
蒼星石「…今はジュン君の方が先だ!」
蒼星石は鞄から飛び出すと声のする方向へ駆け出していった
ジュン「う、うぁああああああああああああ……」
翠星石「……さすがに動く人間は取り込むのが難しいですね」
ジュン「お、お前……翠星石じゃないな……」
雪華綺晶「始めまして……蒼薔薇と翠薔薇のマスター……私はローゼンメイデン第七ドール…雪華綺晶です」
ジュン「き……ら…きしょう……?」
蒼星石「ジュン君どこ! 返事をして!」
ジュン「うっ……そ、蒼……む、むぐぅ……」
茨が顔に絡みつきジュンの口を塞いだ
雪華綺晶「少しお静かに……蒼薔薇と翠薔薇のマスター」
人差し指を口元にあてて”しー”というポーズをジュンへ向ける
蒼星石「ジュン君! ジュン君!」
翠星石「どうしたですか……蒼星石……」
蒼星石「す、翠星石……!」
翠星石「こんな夜中に騒いではいかんです……」
蒼星石「翠星石はジュン君の声が聞こえなかったの……?」
翠星石「翠星石は起きてたけどそんな声は聞こえなかったですよ……」
蒼星石「そんな馬鹿な……? で、でもジュン君はベッドにいなかったよ……」
翠星石「きっと外に散歩にでもいったですよ……」
蒼星石「こんな深夜に?」
翠星石「まったくしょうがないですね……」
翠星石は蒼星石の手を取るとゆっくりと物置の部屋へ向かい始めた
蒼星石「は、離して…翠星石」
翠星石「……どうしてですか? 蒼星石は翠星石に手を引かれて歩くのが好きだったじゃないですか……」
蒼星石「す、翠星石……?」
翠星石「それともぎゅうっとした方がいいですか……」
蒼星石「……き、君は……誰だ!?」
翠星石「誰だとは随分おかしなことを聞くものですね……あなたの姉…翠星石じゃないですか……」
蒼星石「違う! 翠星石はジュン君の身に何かあれば、こんなに落ち着いていられるほど冷たい子じゃないんだ!!」
翠星石「……そうですか……」
翠星石の腕から白い茨が伝い、握られた蒼星石の手にも茨が這い始めた
蒼星石「うっ…うぁああああああああああああ……」
蒼星石「レ、レンピカ……」
蒼い人工精霊が大きな光を放ち、光の中から庭師の鋏が姿を現した
蒼星石「くっ……」
庭師の鋏を翠星石の姿をしたものに向かって振り下ろした
翠星石「……斬るんですか? 実の姉を……」
ピタリと庭師の鋏をとめる蒼星石
蒼星石「……違う……君は…翠星石じゃない……」
翠星石「くくっ……確かに……でも器は本物だといったらどうですか……」
蒼星石「なんだって……?」
翠星石「この茨に見覚えはありませんか? 蒼薔薇の御姉様……」
蒼星石「茨……?」
翠星石「よく思い出してください……黒薔薇の……水銀燈のマスターの……夢の世界での出来事を……」
蒼星石「あっ…あっ……
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
蒼星石「これは……夢が崩壊しようとしている……」
翠星石「な、なんでですか!? 心の樹はまだ枯れて無いというのに……」
蒼星石「今は水銀燈達の所へ行くしかないよ……ここにいたら僕達だって……」
翠星石「ま、待ってです!」
蒼星石「何を!? 早く、翠星石!!」
心の樹の新芽に顔を近づけていく翠星石
翠星石「ごめんなさい……まだ途中だというのに……でも…きっと無事でいるですよ……」
そっと新芽に口づけする翠星石…潤んだ瞳には心の樹とそれに寄り添う新芽が写っていた
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
蒼星石「あの時の新芽……」
翠星石「ふふふ……あの時はお世話になりましたね……」
蒼星石「……君があの時の新芽だというのか……」
翠星石「えぇ……おかげさまで黒薔薇のマスターの……柿崎めぐの命を救うことができました……」
蒼星石「かきざき……めぐ!?」
蒼星石「めぐさんが生きてるっていうのか……」
翠星石「はい……今は黒薔薇の御姉様と共にnのフィールドで眠って頂いてますわ」
蒼星石「す、水銀燈……」
翠星石「残るは黄薔薇の御姉様……私の……アリスになる夢までもう一歩です」
蒼星石「き、君もローゼンメイデンなのか……」
雪華綺晶「これは申し遅れました……私はローゼンメイデン第七ドール…雪華綺晶……
雪華綺晶「いえ……アリスと呼んでいただきましょうか……」
蒼星石「ふっ…ふふっ……君がアリスだって…笑わせないでくれるかい……」
雪華綺晶「……こんな状態で強がりを言うのですか……」イラッ
蒼星石「だってそうじゃない……君は目的を完遂する前に計画を話してしまっている……とても完全な少女とは言えないね……」
雪華綺晶「……あなたがこの状況を打開できるとは思え……いえ出来るはずがない」
蒼星石「そうかい? まだ、僕の手には庭師の鋏がある……」
雪華綺晶「……虚勢を張るのは止めて下さい。あなたに姉の姿の私が撃てるというのですか……」
蒼星石「……君は翠星石じゃない……ただの狂った人形さ……」
雪華綺晶「……蒼薔薇の御姉様……いい加減に抗うのは止めてください!…右手から侵食が進みませんわ!!」
蒼星石「……君の読み通り全て事が運ぶと思わないで……」
蒼星石は大きく被りを振って庭師の鋏を打ち下ろした
バギィイイイイイイイイイイ!!!
雪華綺晶「ば、馬鹿な……!?」
蒼星石「ジュン君!」
物置で捕われていたジュンの茨を断ち切って、そのままジュンと共に目の前の鏡に飛び込んでいった
雪華綺晶「……後一歩というところで……クソッ! クソッ! 壊す! 壊してあげますわ!! 蒼薔薇の御姉様!!!!」
ジュン「お前……その腕……」
蒼星石「……ううん…いいんだ……これが最良の選択だったんだよ……」
蒼星石の左腕は肘から先が無くなっていた
蒼星石「ジュン君……分かったよ。今回の水銀燈の一件……」
ジュン「ああ…全てあの第七ドールが裏で糸を引いていたんだな……」
蒼星石「……うん」
ジュン「必ず助け出すぞ……翠星石を…」
蒼星石「待ってて……翠星石」
―――草笛家―――
金糸雀「雛苺……あなたは最後にどんな思いで眠ってしまったのかしら……」
雛苺の体は水銀燈の一件以来、草笛家に預けられていた。無論ローザミスティカも一緒に
家の場所を知られていないという理由で匿うには最適という蒼星石の判断だった
金糸雀「カナは……アリスになりたいけれど姉妹との戦いは望まないかしら……教えて雛苺…カナはどうしたらいいの?」
雛苺「」
金糸雀「ふふっ……妹に頼るようじゃローゼンメイデン一の策士失格ね……」
雛苺「…の」
金糸雀「え……?」
金糸雀「……空耳かしら?」
雛苺「……し…い…の……」
金糸雀「空耳じゃない! これは雛苺の声……でも雛苺は眠ったまま……」
雛苺「「……た…す…け…て…ほ…し…い…の……」
金糸雀「これは……雛苺のローザミスティカ!?」
雛苺の体から光の結晶が飛び出し、その周りを桃色の光球が寄り添うかのように飛び交っていた
金糸雀「ベリーベル……?」
雛苺RM「……助けて欲しいの…金糸雀……」
金糸雀「ひ、雛苺なの……?」
雛苺RM「……お願い……真紅を……今、真紅の体はお留守なの……真紅と契約したヒナには分かるの……」
金糸雀「真紅が……」
雛苺RM「……ヒナと一緒に来て……金糸雀……」
金糸雀「……一体どこへ……?」
雛苺RM「……nのフィールド…夢の世界なの……」
―――nのフィールド―――
金糸雀「とりあえず着いて来てしまったけれど……みっちゃんに書置きくらいしておけばよかったかしら……」
雛苺RM「……んもぅ、金糸雀ってば往生際が悪いの!……」
金糸雀「……ところで真紅の体がお留守っていうのはどういうことかしら? 真紅はローザミスティカを抜かれて只のお人形になったんじゃ……」
雛苺RM「……あのね…真紅の体には別の誰かが入っていたようなの……」
金糸雀「別の……?」
雛苺RM「……そう…誰かは分からないけれど、その誰かは体を別に持っていて自由に行き来してるみたい……」
金糸雀「……で、その誰かが今はお留守っていう状態なのね」
雛苺RM「……うぃー、その通りなの! 金糸雀……」
金糸雀「真紅を取り戻すなら今のうち……という訳かしら」
金糸雀「場所は分かってるの? 雛苺」
雛苺RM「……うぃー! 道案内はヒナに任せて欲しいの!!……」
金糸雀「……随分元気なローザミスティカかしら……」
雛苺RM「……道に迷ったの……」
金糸雀「かしら~~~~~」
金糸雀「お馬鹿苺! 大口を叩いて置いてこの様は何かしら!」
雛苺RM「……そんなことを言ってもnのフィールドは広すぎるのー……」
金糸雀「はぁ……」
雛苺「……あっ……」
金糸雀「……何かしら……雛苺…道でも思い出したのかしら?」
雛苺「……あそこの人に聞いてみるといいのー……」
金糸雀「お馬鹿! こんな所に人が……居 た かしら……」
―――別のnのフィールド―――
ジュン「大丈夫か…蒼星石?」
蒼星石「うん大丈夫だよ、ジュン君。大分痛みも引いたみたい…それよりも……」
ジュン「あぁ…分かってる。翠星石の気配は、はっきりと感じるよ……」
蒼星石「……雪華綺晶が翠星石とジュン君の契約を破棄してないって事は……罠だね、これは」
ジュン「でも行かない訳にはいかない……」
蒼星石「うん……大丈夫だよ。僕がどんなことがあってもジュン君を守るから……」
ジュン「……おい、僕だってちょっとはお前の役に立てるつもりだぞ」
蒼星石「あはは……ごめん ……頼りにしてるよ……マスター……」
ジュン「ん…何か言ったか?」
蒼星石「……ううん、何でもないよ。」
――――――
雪華綺晶「いよいよですわ……私がアリスになってお父様に会える日が目の前に……!」
雪華綺晶「でも……その前にやるべきことが……」
雪華綺晶「あの忌々しい蒼薔薇の御姉様を、この双子の姉の体で直々にスクラップにして差し上げますわ……」
雪華綺晶「ふふふ……楽しみですわ……是非御姉様も特等席からご覧になって……」
雪華綺晶「……黒薔薇の御姉様……」
水銀燈「……」
――――――
雪華綺晶「お待ちしておりました。蒼薔薇の御姉様とそのマスター!」
ジュン「……僕はおまけかよ……」
蒼星石「……相変わらず美しいね、雪華綺晶……」
雪華綺晶「ありがとうございます、蒼薔薇の御姉様……あなたは酷い有様のようですけど……」
蒼星石「美しいのは当たり前だよ、僕の姉の体なんだもの……それよりも君は体をコロコロ替えられるなんてまるでカタツムリだね。君の本体はナメクジなのかもね」
雪華綺晶「……」イライライラ…
ジュン「……(カタツムリとナメクジは別物だろ……まあわざと言ってるんだと思うけど……)」
蒼星石「……さあナメクジじゃないってことを証明したいのならその体から出てきて本当の姿を見せてよ」
雪華綺晶「……そんな安い挑発には乗りませんわ……」ピクッ…ピクッ…
蒼星石「……やっぱり乗ってこないか……ジュン君最初通りの打ち合わせでいくよ!」
ジュン「あぁ!」
雪華綺晶「……何を企んでいるかは知りませんが無駄なことです。おとなしくスクラップになって下さい」
蒼星石「無駄かどうかはやってみないとね……むしろ君の存在自体が無駄なんだけど……」
雪華綺晶「……」ブチッ
ジュン「お、おい…あんまり煽ると……」
雪華綺晶「……ふふ…ふふ…」ピクッピクッピクッピクッピクッ
ジュン「……何だか様子がおかしいぞ……?」
蒼星石「そう? おかしいのがもう一度おかしくなったら一周して丁度よくなるんじゃないかなあ?」
雪華綺晶「……壊す! 壊す! 壊す! 壊す! 壊す! ブッ壊してやるぅううううううううううううううううううう!!!!!!!!!」
蒼星石「やれやれ……淑女とはいえない言葉遣いだね。こんなのがアリスになったらお父様がお嘆きになるよ」
雪華綺晶「壊してやるぅううううううううううううううううう!!!!!!!!」
雪華綺晶は茨の鞭を振り回しながら蒼星石に突っ込んでいった
―――雪華綺晶に接触する少し前―――
ジュン「……どうやって戦う? 雪華綺晶の体は翠星石だ……庭師の鋏は使えないぞ……」
蒼星石「簡単なことだよ……本体を叩けばいいんだ」
ジュン「本体? 翠星石の体に入ってるのが本体じゃなくてか?」
蒼星石「ジュン君……雪華綺晶は用心深い……きっと本体は別にあると僕は思うんだ」
ジュン「……つまり霊体の器……アストラルの発生源があるってことか?」
蒼星石「うん…僕の予想が正しければ……雪華綺晶の本体はね、めぐさんの心の樹の……新芽だ!」
ジュン「ということはめぐさんの夢に入らなきゃいけないってことか」
蒼星石「その入り口なんだけど……あの雪華綺晶のことだ、きっと自分の視界に入るところにあると思うんだ」
ジュン「……厄介だな」
蒼星石「それでね…僕が雪華綺晶の注意をひきつけるから、ジュン君がめぐさんの夢の入り口を探して欲しいんだ」
ジュン「お、お前…囮になるっていうのか?」
蒼星石「幸い、雪華綺晶は僕に怒り……いや殺意を持つ程に執着している。囮にはうってつけさ」
ジュン「で、でもそんな腕じゃ雪華綺晶と対等には……それに相手は翠星石の体だぞ……」
蒼星石「……大丈夫、僕には秘策があるんだ……」
――――――――――――――――――
ジュン(大丈夫かな…あいつ……)
蒼星石が雪華綺晶をひきつけてるうちに、ジュンは雪華綺晶が居たであろうフィールドへ侵入していた
雪華綺晶「ブッ壊してやるぅううううううううううううううううううう!!!!!!!!」
蒼星石「うわっ……(思ったよりも動きが素早い……)」
紙一重で攻撃をかわす蒼星石
雪華綺晶「はぁ…はぁ……ちょこまかと逃げ回るんじゃないわよ!!」
蒼星石(少し冷静さを取り戻し始めてるかな……でも…ジュン君を視界にいれさせやしないよ!)
蒼星石「力を貸して……翠星石…… スィドリーム 」
雪華綺晶「それは……翠薔薇の……」
蒼星石「いくよ……翠星石……」翠星RM「……えぇ…蒼星石……」
庭師の如雨露から水が拡散し辺り一体は霧に包まれた……
雪華綺晶「くっ……視界が……」
蒼星石「やぁああああああああああああ!!」
蒼星石&翠星RM(ジュン君は絶対に守る ですぅ!)
――――――
ジュン(早くめぐさんの夢を探さなきゃ……)
ジュン(だけど、こんなに広いんじゃあ……すぐには……)
ジュン(いや……弱気になっちゃ駄目だ……あいつは僕を信用して戦ってるんだから……)
「……っと……」
ジュン「だ、誰だ!?」
「……ちょっとぉ…」
ジュンの前には茨に捕われた水銀燈の姿があった
ジュン「す、水銀燈!?」
水銀燈「ふふふ……奇遇ねぇ…真紅のマスター……こんなところで会うなんてぇ……」
ジュン「お、お前……」
水銀燈「ふんっ……私も声なんてかけたくなかったんだけど……この子がうるさくってねぇ……」
ジュン「この子?」
真紅RM「久しぶりね……ジュン」
ジュン「し、真紅か……!?」
真紅RM「ええ……」
ジュン「……よ、よかった……もう一度お前と話が出来るなんて……」ポロポロ
真紅RM「……私の為に泣いてくれるの……ジュン」
ジュン「ばっ…馬鹿、これは目にゴミが……」
水銀燈「……感動の対面もいいんだけど……ここから出してくれないかしらぁ……」
茨を掻き分けて水銀燈を解放するジュン
ジュン「……悪かったな……」
水銀燈「……何が?」
ジュン「お前が真紅を倒したかと思ったんだ……僕はずーっと真紅の敵を撃つことを考えて……」
真紅RM「ジュン……」
水銀燈「……ふんっ…馬鹿じゃなぁい? 結果がどうあれ私が真紅を倒そうとしたことは事実なのよ……」
ジュン「……」
真紅RM「ジュン、今はお喋りをしている時じゃなくって……?」
ジュン「あ…あぁ……、真紅…水銀燈……協力して欲しいんだ……」
真紅RM「何でも言って頂戴」
水銀燈「……まあ…聞くだけは聞いてあげるわぁ……」
ジュン「夢の入り口を……めぐさんの夢を探して欲しいんだ」
水銀燈「め……ぐ……」
――――――
雪華綺晶「どうしました? 蒼薔薇の御姉様……逃げ回ってばかりじゃ私に触れる事さえ出来なくって?
蒼星石(……早く……ジュン君……)
翠星RM「蒼星石……翠星石の体を気遣うことはねぇーですよ……庭師の鋏を……」
蒼星石「……駄目だよ……」
翠星RM「で、でもこのままじゃ……」
蒼星石「……今は信じよう……ジュン君を……僕達のマスターを……」
雪華綺晶「出てこないというなら……」
茨の棘を掌サイズまで巨大化させ自分の頬に押し当てる雪華綺晶
ズッ…ズブッ……
雪華綺晶「くっ……」
蒼星石「……何てことを!!」
翠星RM「……これは罠ですよ……出て行っては駄目ですぅ…蒼星石……大丈夫です……翠星石は大丈夫ですから……」
雪華綺晶「……まだ、かくれんぼを続けるつもりですか……いいでしょう……」
ルビーのような紅の瞳に、棘を近づけて蒼星石達の出方を伺う雪華綺晶
雪華綺晶「体の代わりは幾らでも作れますからね……この体も私好みにデザインさせていただきましょうか?」
ゆっくりと棘を瞳に押し当てていく
蒼星石「やめろ!」
翠星RM「……なっ…なんで出ちまったですか……」
雪華綺晶「……くくっ……分かりやすい性格ですね……蒼薔薇の御姉様……」
蒼星石「……君の性格は最悪だけどね……」
雪華綺晶「……もう挑発には乗りません……そう…まずは鼠のように小賢しい足から頂きましょうか……」
そう言うと蒼星石の足を茨に絡めとり、ギチギチと軋む音が聞こえる程締め上げていく
蒼星石「うっうぁああああああああああああ……」
翠星RM「蒼星石!!」
――――――
水銀燈「……駄目よ……めぐの夢は……」
ジュン「何か知っているのか!?」
真紅RM「お願い……水銀燈、ジュンを助けてあげて……」
水銀燈「……別にこんな人間に頼らなくったって、あの末妹とは決着をつけるつもりよ……ただ……」
水銀燈「……めぐの夢の入り口はここに在って、ここに無いのよ……」
ジュン「……どういうことだ?」
水銀燈「正確にいえばここに夢の入り口が現れるのは確かよ……」
真紅RM「ということは……」
水銀燈「……めぐは夢を見ていない……」
ジュン「そ、そんな……」
水銀燈「……おそらく…めぐは、この広いnのフィールドで強制的に眠らされている……」
真紅RM「……なんの手がかりも無しに探すなんて不可能に近いわ……」
ジュン「……いや…手掛かりならあるよ……水銀燈…お前の指輪だ」
水銀燈「……薔薇の指輪……」
ジュン「なんとかそれで気配を探れないか……」
水銀燈「駄目……」
ジュン「どうして!?」
水銀燈「……私にも分からないの……めぐ…めぐぅ……」
真紅RM「水銀燈……」
――――――
蒼星石「うっ…あっ……がぁああああああああああああ……」
翠星RM「そ、蒼星石!!」
雪華綺晶「ふふふっ……もっと、もぉっと、いい声で鳴いてくださいまし……蒼薔薇の御姉様……」
蒼星石(……ジュン君……まだ……)
翠星RM(……ジュン……何をやっているですか……)
雪華綺晶「くくっ……今ならあなた達の考えてることが手に取るように分かりますわ……」
雪華綺晶「おそらく……”私達のマスター…早く夢の扉を見つけて”……といったところですかね?」
蒼星石&翠星RM「!?」
雪華綺晶「うふふっ……本当に分かりやすい……」
蒼星石「……なっ…何故……? 分かってて僕達を泳がせた……と」
雪華綺晶「あはっ!……その顔ですよ! 私が見たかったのはぁ!! 常に冷静なあなたが絶望の色に染まったその表情を見せるのが!!!!」
蒼星石「……あそこに夢の扉は無いと……」
雪華綺晶「こんな時でも詮索ですかぁ?……まぁいいでしょう……あなたの読みは正しかったです…ただその扉が開くことは無いですがね!!」
蒼星石「……開か……ない……?」
雪華綺晶「さぁ……質問もここまでです……蒼薔薇の御姉様……あなたの全てが気に入らなかったですけど、鳴き声だけは私のお気に入りですよ……」
蒼星石「うっ…うっ…うぁああああああああああああああああああああああああ…………」
――――――
金糸雀「な、何でこんな所に人が……」
雛苺RM「……うゆ…箱の中に入っているの?……」
金糸雀「……雛苺、これは水晶っていうかしら……。それにしても巨大な水晶……」
雛苺RM「……綺麗な黒髪なの…眠っているの?……」
―――「……だ…れ……?」
金糸雀「ま、まだ他にも居たかしら~~~」
―――「……ローゼン…メイデン……?」
雛苺RM「……人間じゃない…ドール?………」
金糸雀「……何者かしら!?」
―――「……私は……ローゼンメイデン……第七ドール……薔薇水晶……」
金糸雀&雛苺RM「ば…薔薇水晶……?」
薔薇水晶「……この……人間に……近づくものは……全て……排除します……」
金糸雀「……ちょっちょっちょ~~~と待つかしらぁ~~!」
雛苺RM「……金糸雀…この子、ロボットみたいなの……」
金糸雀「ろ、ロボット? 」
雛苺RM「……そう……この子の中に意思も…ローザミスティカも感じられないの……」
金糸雀「……ということはローゼンメイデンじゃない?」
薔薇水晶「……排除……します……」
水晶の破片が砕け散り金糸雀達に降り注いでいく
雛苺RM「……きゃぁあああああああ……」
金糸雀「雛苺! 私の中へ隠れるかしら!!」
雛苺RM「……あ、ありがとうなの……」
金糸雀「……例えロボットであろうと雛苺に手を出すなんて許せないかしら!」
薔薇水晶「……排除……します……」
金糸雀「あなたは妹じゃない……ただのイミテーションかしら!……ピチカート!」
黄色の光球からバイオリンが現れ、演奏する体勢に移行する
金糸雀「この、ローゼンメイデン第二ドール 金糸雀がお相手するかしら!!」
金糸雀「沈黙の鎮魂歌……」
旋風が金糸雀の周りを舞いフィールドをメロディで染めていった
金糸雀「終わりのない追走曲!!」
バイオリンから奏でられる旋律が衝撃波となって薔薇水晶の頭上に降り注いでいく
薔薇水晶「……」
ガギィイン!
薔薇水晶の目の前に巨大な水晶がせり出し、衝撃波は水晶を砕いて相殺されてしまった
金糸雀「くっ……」
雛苺RM(……あの人形……どこかで……)
金糸雀「クレッシェンド!!」
薔薇水晶「……無駄……です……」
ガシャァーーーン!!
旋律の衝撃波はことごとく水晶の盾によって防がれていった
金糸雀(正面が駄目なら……)
金糸雀は一際大きな水晶の上に乗り薔薇水晶を見下ろす形で前口上を述べ始めた
金糸雀「ローゼンメイデン一の頭脳派 金糸雀がロボットじゃ成し得ない知略戦を見せてあげるかしら!!」
金糸雀「野ばらの前奏曲!」
金糸雀「攻撃の円舞曲!」
金糸雀「追撃の輪唱!」
金糸雀「沈黙の鎮魂歌!」
高速で奏でられる旋律が薔薇水晶の四方の水晶に反射して中央の薔薇水晶にダメージを与えていく
薔薇水晶「……うっ……」
金糸雀「これが…水晶の反射を利用した……高速多重曲想かしら!!」
薔薇水晶「……あぅ……」
衝撃波が薔薇水晶を追い詰めていき、がっくりと膝をつく薔薇水晶
金糸雀「これで……最後かしら……」
ブチッ
金糸雀「げ、弦が……」
高速演奏に耐え切れなくなった弦が限界を超えてしまった
薔薇水晶「……詰めが……甘い……」
ゆっくりと体を起こすと巨大な水晶を金糸雀へ放つ体勢を作っていた
金糸雀「ひぃいい!? あんなのがきたら避けられないかしら……!」
雛苺RM「……金糸雀…ヒナの力を!……」
金糸雀「これは……苺わだち……」
苺わだちがバイオリンに絡みつき弦の変わりとなった
金糸雀(…ありがとう……雛苺……あなたは…私の……誇れる妹かしら!)
金糸雀「終わりのない追走曲!!」
再び旋律が衝撃波となって薔薇水晶の四方から降り注いだ
薔薇水晶「……なっ!?……」
金糸雀「これで終わりかしら……クレッシェンド!!」
薔薇水晶「……あああああああああ……」
四方の水晶は砕け散り薔薇水晶は後方へ弾き飛ばされた
金糸雀「はぁ……はぁ……やったかしら……」
雛苺RM「……金糸雀すごいのー……」
金糸雀「……えっへへー、照れるかしら……これもみんな雛苺のおかげかしら♪」
雛苺RM「……えへへ……うぇ?……」
金糸雀「どうしたのかしら?」
雛苺RM「……あのドールの……薔薇水晶から…真紅の気配を感じるの……」
金糸雀「ええええええ!?」
――――――
雪華綺晶「……うっ……」
蒼星石「……?」
雪華綺晶(……私の移し身が……薔薇水晶が……)
――――――
水銀燈「あっ……」
真紅RM「……どうしたの水銀燈……?……」
水銀燈「……感じるの……」
ジュン「おい、どうしたんだ?」
水銀燈「感じるの……めぐの……めぐの気配を感じるの!」
――――――
水銀燈はめぐの気配の方向へ弾丸のように飛び立っていった
水銀燈「めぐっ…めぐっ…めぐぅううーーーーーーーー!!」
真紅RM「……ちょっ…ちょっと水銀燈!?……」
ジュン「……おっ…おい! 水銀燈! 真紅!……」
雪華綺晶「……あれは……黒薔薇の御姉様……させませんわ!!」
雪華綺晶は水銀燈の後を追うように白い茨を体に纏って飛び立った
蒼星石「うっ…うっ……?」
翠星RM「……蒼星石! 蒼星石!……」
ジュン「おいっ…大丈夫か!!」
蒼星石「うっ…うっ……ジュン…君……」
翠星RM「……馬鹿! 馬鹿! 馬鹿! 馬鹿! 何で早く夢の扉を見つけねーですか! そのために蒼星石は…蒼星石は……」
ジュン「……ごめん……」
蒼星石「……やめて……翠星石……君だって…分かってるでしょ……? 僕達は……雪華綺晶の罠に……嵌められたんだって……」
ジュン「……今、水銀燈と真紅がめぐさんの所へ向かってる……間もなく夢の扉は……開く!」
蒼星石「そう……、ごめん…ジュン君……僕を抱っこして……扉の前へ連れて行って……」
ジュン「お前…そんな体で……」
翠星RM「……蒼星石! これ以上無理をしたらお前は……」
蒼星石「いいんだ……僕は…庭師として……悪い芽から……心の……樹を守るのが役目なんだから……」
ジュン「蒼星石……」
――――――
金糸雀「その体が真紅って本当なのかしら……?」
雛苺RM「……ほらっ! この指輪が確かな証拠なの! ヒナの案内は間違ってなかったの!……」
金糸雀「……よく言うかしら……っと…さっきの水晶の女の子は大丈夫かしら……?」
雛苺RM「……金糸雀が水晶を全部ぶっ壊しちゃったの……」
金糸雀「う、うるさいかしら……ほら真紅の体は大丈夫そうだし、あの女の子を介抱しに行くかしら!」
雛苺RM「……うぃー……」
雛苺RM「……綺麗な黒髪なのー……」
金糸雀「……薔薇の指輪を着けているという事はドールのミーディアムかしら?」
雛苺RM「……!?……」
金糸雀「どうしたの? 雛苺」
雛苺RM「……姉妹達がこっちに向かってくるの……」
金糸雀「今頃来ても遅いかしら~ まったく……みんなにカナの活躍を見せたかったかしら!」
雛苺RM「……あの黒いドールは水銀燈っぽいの……」
金糸雀「か、かしら~~~~~」
水銀燈「めぐ! めぐ! めぐぅ!」
金糸雀「や、やる気かしら~~~」
金糸雀の前を素通りしてめぐに歩み寄る水銀燈
金糸雀「……」
雛苺RM「……金糸雀…怖がりすぎなの……」
水銀燈「めぐぅ~~~~~~~~~~~」
水銀燈は大粒の涙を零しながらめぐの胸にすがりついた
雛苺RM「……水銀燈のマスターみたいなの……」
金糸雀「水銀燈のあんな姿……始めて見るかしら。よっぽど大事なマスターなのね……カナのみっちゃんのように……」
真紅RM「……カナ…金糸雀!」
金糸雀「し、真紅!?」
真紅RM「……金糸雀、あそこにあるのは私の体じゃなくって?……」
金糸雀「……そ、そうかしら……」
真紅RM「……何であんなにボロボロなの?……」
金糸雀「……それは……」
真紅RM「……ここにいるのは動けない水銀燈のミーディアムとあなただけよね?……」
金糸雀「……」
真紅RM「……まあ、いいわ……私を体に戻して頂戴……」
金糸雀「……はい……(お、おうちに帰りたいかしら~~~~)」
真紅「まったく……こんな格好じゃ乙女の名折れだわ……」
金糸雀「……(ローザーミスティカを戻した途端、殴られたかしら……)」
雛苺RM「……真紅ぅ~~~~……」
真紅「……雛苺!?……ごめんなさいね……私が不甲斐無いばかりに……」
雛苺RM「……いいの! 真紅が無事なだけでヒナ嬉しいの!……」
真紅「待ってね……すぐに戻ってあなたの体を元に戻してあげるから」
雛苺RM「……うん!!……」
水銀燈「めぐ…めぐ…めぐぅ…うっ…うぅ……」
真紅「……水銀燈……ミーディアムの様子は……」
水銀燈は涙を袖で拭い、泣き顔を見せまいとうつむき加減で返事をした
水銀燈「……大丈夫よ……もう普通の眠りについたみたい……間もなく夢の扉が……」
真紅「……そう。 あちらはジュンに任せれば大丈夫ね……」
雪華綺晶「……そうはいきませんわ……御姉様方……」
真紅「き……薔薇水晶!?」
水銀燈「……雪華綺晶……」ギリィ…
雪華綺晶「まったく……黄薔薇の御姉様……」
金糸雀「な、なにかしら……?」
雪華綺晶「……取るに足りない相手だと思ってましたのに……まさかこんな形で私の計画を無茶苦茶にして下さるとは……」
雛苺RM「……ヒナも頑張ったの!……」
金糸雀「そうかしら! ローゼンメイデン一の策士の力 思い知ったかしら!!」
雪華綺晶「……この場が片付きましたら……………………念入りに虐めてさしあげますわ!!!!」
金糸雀「ひ、ひぃいいいいい~~~~~~~~」
雪華綺晶「……黒薔薇の御姉様……ミーディアムをこちらにお渡し下さい……」
水銀燈「嫌よ!」
真紅「何を言い出すかと思えば、まだ自分の状況が分かってないのね……」
雪華綺晶「……分かってないのは御姉様方です。いいですか…そのミーディアムは私の力無くしては数週間も生きられないのですよ」
真紅「なっ……!?」
水銀燈「……」
雪華綺晶「私が水晶の結界で守ってあげられたからこそ、そのミーディアムはここで永久に生きることが出来るのです……」
雪華綺晶「……さあ……黒薔薇の御姉様……ミーディアムと……柿崎めぐと一緒に生きたくはないのですか……」
真紅「水銀燈……」
水銀燈「……めぐ……」
めぐ「うっ…うっ……」
水銀燈「め、めぐ!?」
めぐ「……いいのよ……水銀燈……」
水銀燈「めぐ……あなた今までのことが……」
めぐ「うん……なんだか水銀燈の考えてることが分かるの……」
真紅「薔薇の指輪……ね」
水銀燈「でもぉ…でもぉ……」ポロポロ
めぐ「水銀燈……健やかなる時も……」
水銀燈「!? うっ…うっ……や、病める時も…」
水銀燈&めぐ「……死が二人を別つまで……」
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真紅「……ということよ……雪華綺晶……死を持ってさえもこの子達の絆は断ち切れない……あなたの負けね……」
雪華綺晶「な、なにが絆よ! 黒薔薇の御姉様! 考え直しなさい!!死は永遠の別れなのですよ!!!!」
水銀燈「めぐぅ……」
めぐ「……水銀燈……」
雪華綺晶「ふぅざぁけるなぁああああああああああああああああ!!!!」
雪華綺晶「ふざけるな! ふざけるな! ふざけるな! こんなことで私のアリスになる道が断たれる? そんな馬鹿なことがあるか!!!!」
真紅「見苦しいわよ……雪華綺晶。たとえあなたがアリスになったとしてもそれは不完全なアリスなのだわ」
雪華綺晶「お前らのようなジャンクに私のことが分かってたまるか!!」
真紅「だれにも理解されない人が完璧な存在アリスになれると思ってるの?……哀れな子……」
雪華綺晶「うるさい! うるさい! うるさい! うるさい! みんな壊れてしまえぇええええええええええええ!!!!!!!!」
真紅「……せめて最後は姉妹の手で……金糸雀!」
金糸雀「ひゃ、ひゃい?」
真紅「金糸雀……あなたの力なら翠星石の体を傷つけずに雪華綺晶を払うことができるわ……」
金糸雀「……わ、わかったかしら! ピチカート!」
バイオリンを携え静かに演奏を開始する金糸雀
金糸雀「沈黙の鎮魂歌……」
雪華綺晶「や、やめ……」
演奏する手を早めていくごとに雪華綺晶の呻きは大きくなっていく
雪華綺晶「あ、あぁ……うぁあああぁあああ……」
金糸雀「……クレッシェンド!!」
雪華綺晶「い、いやぁあ嗚呼あああああああああああああああああああああ……」
雪華綺晶…いや元雪華綺晶であった翠星石の体は、人形のように力なく崩れ落ちた
真紅「終わったわね……」
金糸雀「えぇ……」
雛苺RM「……でも……水銀燈達……かわいそうなの……」
水銀燈「めぐ……」
めぐ「水銀燈……」
――――――
ジュン「……これがめぐさんの心の樹か……」
心の樹の周りには白い茨が成長を妨げるかのように絡みついていた
蒼星石「降ろして……ジュン君……」
ジュン「あぁ……」
蒼星石「……聞こえてるんでしょ?……雪華綺晶……」
白い茨「……」
蒼星石「……まあ……いいや……レンピカ……」
庭師の鋏を取り出すと白い茨を伐採すべく隙間に刃を潜り込ませていく
白い茨「や、やめて……!」
白い茨「お願い! 止めて! 斬らないで!!」
蒼星石「……聞こえてるなら、最初から返事をしなよ……樹だから喋れないかと思ってた……」
白い茨「お、お願い! 蒼薔薇の御姉様……今までの事は謝ります……だから…どうか…ご慈悲を……」
蒼星石「……君が喋るのを確認したかったのは、弁解を聞くためじゃないんだ……」
白い茨「……へ?」
蒼星石「……ジュン君……悪いけど夢の外へ…出てくれないかな……?」
ジュン「……あぁ……」
蒼星石「……雪華綺晶……君は一体どんな声で鳴いてくれるのかな……それによっては君の事を好きになるかもしれない……」
白い茨「……えっ? いっ…いやぁぁあああああああああああああああああああああああ……………」
そして……心の樹に纏わりついた茨はひとつ残らず刈り取られた
――――――
翠星石「あぁ…蒼星石…なんて姿に……」
蒼星石「いいんだ…いいんだよ……それよりも…水銀燈、これ……」
水銀燈「え……? これは……ローザミスティカ……」
真紅「……雪華綺晶のね……」
蒼星石「うん……ジュン君に教えてもらったんだ、めぐさんの病気は今の医療技術じゃ治らないけど未来なら治せるかもしれないって……」
真紅「……雪華綺晶の結界を使うというわけね……確かにあれなら半永久的に仮死状態でいられる事が出来る……でもそれは現在の家族や友人に別れを告げることに……」
水銀燈「……」
めぐ「……いいわ」
水銀燈「めぐ!?」
めぐ「……私…水銀燈が一緒ならどこでも…どの時代にいっても悔いはないわ……」
水銀燈「めぐ……」
真紅「水銀燈……あなたは?」
水銀燈「そんなの決まってるじゃない! 私もめぐと一緒よぉ」
金糸雀「……ちょっちょっと妬いちゃうかしら……」
蒼星石「じゃあ僕達とはしばしの別れになるね……」
翠星石「思い人と一緒になれるなんて幸せな奴ですぅ……」
雛苺「きっと未来は薔薇色なのー! だから安心して眠るといいの! 寝すぎたらヒナが起こしてあげるからね!」
めぐ「ふふふ…みんなありがと……」
――――――
ジュン「お、おい……めぐさん達は……?」
翠星石「もうnのフィールドへ旅立ったですぅ……来るのが遅すぎるです」
ジュン「なんだよ……せっかくいいニュースを持ってきてやったっていうのに……」
真紅「あら…ジュン? いいニュースってなんのことかしら?」
ジュン「めぐさんの病症だけどな……海外で治療の兆しが見えたっていうニュースがあったんだ」
雛苺「本当!?」
ジュン「あぁ…それで詳しいことを調べて教えようって思ってたんだけど……」
蒼星石「近い将来ならあえて教えることもないよ……だって…寄り添う二人はとても幸せそうだったから……」
金糸雀「そうかしら! 短くなるのが残念だけど今は二人の時間を満喫させてあげるかしら!」
―――nのフィールド―――
水銀燈「めぐ……怖くはなぁい?」
めぐ「水銀燈が一緒だもの……怖いことなんてないわ」
水銀燈「……そう、じゃ眠りに……」
めぐ「待って! 眠る前に…お願い……」
水銀燈「はぁ……本当に好きねえ……」
めぐ「そんなこと言って…水銀燈も好きなんでしょ……?」
水銀燈「な…何を言うのよぉ……もぅ……しょうがないわねぇ…一回だけよぉ……」
めぐ「うん!」
めぐ「……健やかなる時も……」
水銀燈「……病める時も……」
めぐ「死が二人を別つまで…?」
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END
487 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2008/11/30 16:46:41.11 vU3L21RG0 161/161駄文にお付き合いいただきありがとうございました~
誤字脱字の文法間違いのオンパレードで申し訳ありません。
それでは~
やはり銀めぐは良い………!
数多存在するローゼンメイデンのSSの中でも登場人物が全員輝いてる数少ない良作………!
まとめ乙です!!本当にありがとうございました!!